羅針盤戦争~飆雷混鮫狂渦
●今日の天気――竜巻発生率100%、雷危険度大、時々サメも飛ぶでしょう
――グリードオーシャン。
どこまでも広大な海が広がる世界。
猟兵達はサムライエンパイアから持ち込んだ鉄甲船に乗って、この広い海で他の世界から落ちてきた島を探索してきた。
そうせざるを得なかった。
グリードオーシャンの大半を占める海は、その異常気象でか、グリモアの予知が阻害されてしまうのだから。
「『アレ』は、そんな異常気象の最たる例と言っていいんじゃないかな」
ルシル・フューラー(ノーザンエルフ・f03676)が海上に停泊中の鉄甲船の上から、荒れた海の向こうを指さした。
海と空が繋がっている――と言う光景を。
繋いでいるのは、竜巻だ。遠目にもわかる程に巨大な。
しかも、やはり遠目にもわかる程に、何か光っている。
「雷だよ。雷光。アレは『電撃の竜巻』だ」
竜巻が雷を伴う事は、他の世界でも起こり得る事ではある。
だが、渦巻く風も纏う雷も、規模があまりにも異常だ。
「アレは『電光の羽衣』と言うメガリスによって起こされた現象。そしてそれを起こしているのは、『すきゅりん』なるコンキスタドールだ」
メガリス。
この世界にいくつも存在する、呪いの秘宝。
その力を得られればユーベルコードを得て海賊となるが、力に飲まれれば死してコンキスタドール――オブリビオンとなる。
今回の竜巻を起こしているのは、後者である。
「本格的に攻めてきた『七大海嘯』の手下なんだろうね」
七大海嘯――その名の通り7体存在する、コンキスタドールの首領格。
未だその拠点は不明だが、この海の何処かにいる。
拠点を見つける為には、謎の予兆で蒼海羅針域(コンキスタ・ブルー)と呼ばれていた猟兵達が探索した海を広げる必要がある。
つまり。
あの『雷撃の竜巻』を、越えていかねばならないのだ。
「普通に超えるのは無理だよ。鉄甲船でも吹っ飛ばされる」
ならばどうするか。
「簡単ではないけどシンプルだ。異常気象を起こしている者がいるのだから、その者、つまりすきゅりんを叩けば、竜巻は消える」
巨大竜巻を指さしたまま、ルシルは告げる。
成程。で、すきゅりんはどこに?
「あの中」
……。
「あの中」
広がった沈黙に負けず、やっぱり竜巻を指さしたままルシルは告げる。
鉄甲船でも吹っ飛ばされる竜巻って、つい今しがた言ったのは誰だろうか。
「鉄甲船はダメでも、猟兵ならきっと何とかなるよ。何しろ、巻き込まれたサメが生存しているくらいなんだから」
うん、今なんと言った?
「あの竜巻の中には、サメがいる。鋼鉄人喰ザメがね」
なんだそれ。
「鋼鉄人喰ザメは、鋼鉄人喰ザメだよ」
どうもルシルも生態を良くわかってない様子だが、多分、噛まれたら痛いじゃすまないヤツだろう。
鉄甲船でも吹っ飛ばされる竜巻。
その中と外で荒れ狂う雷。
そして竜巻の中に何故かいる鋼鉄人喰ザメ。
その3つを何とか突破して、中心にいる術者を叩く。
成程。簡単ではないが、やる事はシンプルだ。
「誰かひとりが越えられれば、充分だよ。すきゅりん本体は弱いから。届きさえすれば一撃で倒せる程にね」
泰月
泰月(たいげつ)です。
目を通して頂き、ありがとうございます。
竜巻の中は、サメの生息域。うん、何もおかしくない。
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、『羅針盤戦争』の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
今回は、敵コンキスタドールが起こす『雷撃の竜巻(サメ付き)』を突破して、その中にいる敵を倒すお仕事です。
戦争シナリオ定番と言えるプレイングボーナスが、今回もあります。
今回のプレイングボーナスは、『竜巻と電撃に対抗する』です。
術者である敵コンキスタドール『すきゅりん』自体は、弱っちいのです。OPにあります通り、誰かが竜巻を突破して一撃加えられれば、倒せます。そして竜巻も消えます。
つまり竜巻突破=勝利確定。
そう言う事です。
プレイングは、今回は公開時点から受け付けます。
執筆が2/3(水)からになりますので、2/3の正午頃までは受け付けに出来ると思います。戦争シナリオですので、再送にならない範囲で書ける限りの採用になる予定です。
ではでは、よろしければご参加下さい。
第1章 冒険
『電撃の竜巻で封鎖された海域を突破する』
|
POW : 竜巻に巻き込まれた凶暴な「鋼鉄人食い鮫」の襲撃から身を守りつつ、すきゅりんのいる中心に向かいます
SPD : 絶え間なく発生する稲光をかわして、すきゅりんのいる中心に向かいます
WIZ : 竜巻の風に逆らわず、強風の流れを見切って、すきゅりんのいる中心に向かいます
👑7
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
片桐・公明
【SPD】
バイク『赤兎』に海戦対応拡張パック『江東の虎』を装備して海域に突入する
障害はUCを使用して見切り回避を行う
稲光は装備している誘導弾を撃つことで避雷針代わりにする
サメは銃撃で攻撃し撃退する
竜巻は近寄らないよう努めるが、捕まったら出力に任せて振り切る
速度と遠距離攻撃を駆使して一気に中心部に向かう
「ぶっつけ本番だけど仕方ないわね。」
「天下に名馬数入れど、赤兎馬にかなう名馬無し。ってね。」
「その名を継いだからには、それだけの力を発揮なさい『赤兎』!!」
(絡み、アドリブ歓迎です。)
ベルベナ・ラウンドディー
相変わらず滅茶苦茶な説明ですね
…つまり無茶苦茶やれって受け取ります
●肉体改造・化術・環境耐性
鋼鉄サメに化けましょう
遺伝子操作で肉体変化は自由自在、こういう時は便利ですね
宇宙でも風速ウンmの惑星とかありますし竜巻くらいなら多分私ならイケる、知らんけど
サメさん達も仲間と誤認して襲わないでくれる、知らんけd
電撃とかサメさん生きてられるから大丈夫、知ら(ry
サメ的ハンサムなら身を挺して守ってくれるファンの一尾くらいいるはず
知(ry
そうだよヤケクソだよ悪かったな!
みんなサメになったな!いくぞお!
…すみません突破の暁にはその触手食わせてください(尾鰭ビチビチ
疲れて死にそうになってるはずです
リーヴァルディ・カーライル
…私は異世界の事に関しては不勉強だから詳しくないけど、
この世界には鮫魔術なんて珍妙な物もあるぐらいだし、
鮫が雷の竜巻を泳ぐぐらい普通なのでは?
…え、違うの?
大鎌の刃に時間属性攻撃の魔力を溜めUCを発動
自身の周囲を停滞のオーラで防御して嵐の勢いを弱め、
怪力の脚による早業の踏み込みで停滞した海上を踏破する
…どちらにせよ、こんな力業は長続きしない
…ならばこそ全力全開、出し惜しみ無しで行くわ
第六感を頼りに電撃の兆候や鮫の殺気を暗視して襲撃を見切り、
呪詛を纏う大鎌をなぎ払い鮫や雷を気合いで切断し嵐の中に切り込む
…お前にも吸血鬼狩りの業を教えてあげるわ、スキュリン
…発音が違う?すきゅりん?……何でも良いわ
ビスマス・テルマール
電撃竜巻と鮫のコンボとは達が悪いですね……なら。
●POW
『早業』でUC発動
電撃竜巻には
『オーラ防御』に『属性攻撃(ゴム)』を込め、万が一に備え『電撃耐性』と『激痛耐性』で備え
『空中戦』で『推力移動』で加速し『第六感』で『見切り』して『残像』回避
鋼鉄人食い鮫達は
電撃で消えてしまわない様に
或いは食われても『時間稼ぎ』
も出来る様に
『属性攻撃(ゴム)&電撃耐性』を込めた『一斉発射』の『砲撃』を『範囲攻撃』の『弾幕』も含めて放ち、可能なら『地形の利用』もし『盾受け&ジャストガード』しやり過ごし
その隙を掻い潜り突破を
すきゅるん発見後〈なめろうフォースセイバー〉で『切り込み』一閃
※アドリブ絡み掛け合い大歓迎
トリテレイア・ゼロナイン
(水中用装備を装着し●水中戦能力を高め海中を進み)
これまでこの世界の大きな戦いに備え装備を用意し、実戦を重ねてきたのです
故郷の星の海と同じように渡り切ってみせましょう
少し深く潜れば津波という現象は水中に影響は少ない物
電撃も水面で拡散しますし自前のECM対策の●電撃耐性もあります
そして最後の懸念の水中の鋼鉄鮫ですが…
水中装備の誘導魚雷(●誘導弾)で包囲を牽制しつつ
●水中戦用に調整したUCでの突撃で魚群ごと粉砕し突破
攻撃はランスのバリアの●盾受けで防いでゆきましょう
件のすきゅりんなるコンキスタドールの元に辿り着ければ最上ですが…
他の味方の支援として鋼鉄鮫への陽動となれば幸いですね
バルタン・ノーヴェ
POW アドリブ・連携、OKデース!
「ふーむ。……とりあえず近づいてみマスネー」
何も考えずに突っ込んでもいいかもしれマセンガ、無茶を何度もしては身が持ちマセーン。
船から降りて『水上用滑走靴』で荒れ狂う海を進みマース。
元気な鮫が鮫が泳ぎ回ってマスネー。雷が当たっても平気なのデショウカ……?
オー。閃きマシター! ちょうど襲ってくる鋼鉄人食い鮫の口に向かって、チェインハンマーを投げつけて、鎖で縛り付けマース!
「ハイヨー!」シャークライドであります!
この状態で、鮫を護る防具としてUC《金城鉄壁》を展開!
これでワタシも無事、鮫も無事(強制)、ウィンウィンデース!
という訳で、鮫を駆って竜巻を突破しマース!
浮世・綾華
【千遊】
うおぉ、すげぇ…
暴風…ってか、竜巻…
で、サメ――おぉ、まじでいるじゃん
っし、あの子らの力、借りちゃおっか
UCに願いを込める
風に巻き込まれていく花びらを見送って
ネ、俺らに協力してよ
お前らも雷に打たれんのは嫌でしょ
お邪魔しまぁすとサメの上
ほら、オズ。前!
撫でるオズを見て目を細め
はいはい、しゅっぱーつ
扇振るい、軌道を変えたり勢いを弱めたりしながら
竜巻を利用しつつ進む
雷を除けようとするケド光に思わず目を瞑る
っ――あれ…だいじょうぶだった
目を開ければ
サメ…のがじぇっと?
避雷針か。ないす!
サメさん、もうちょっと頑張ってくれよ
すきゅりんのとこまでどうにか進むぞ…!
ん、オズのサメさんもな?
オズ・ケストナー
【千遊】
すごい、ぐるぐるだ
すきゅりんはあの中なんだものね
どうしよっか
花びら見たら
アヤカのやりたいことに気づいて
たのしそうに見守り
わあ、のせてくれるのっ?
前と言われたら座る
わたし、サメさんにのるのはじめてっ
よろしくね
背中を撫で
しゅっぱーつっ
帽子が飛ばないように抑えながら
ぴかぴかだ
かみなり、かみなり
どうしようかな
歌うようにガジェットショータイム
銀色に尖ったミツクリザメのガジェットたちが低空飛行で離れていく
あれ、どうしたんだろう
ピシャーンと落ちたら
わあっ
ひらいしん?
そっか、かわりにうけてくれたんだねっ
今のうちにすすもうっ
サメさんおねがいっ
うんうんっ
アヤカもサメさんもいるから
だいじょうぶだよ
そうだねっ
泉宮・瑠碧
鮫と聞くと…
ルシルが、思い浮かぶのですが
…それは兎も角
弱いとされても…
すきゅりんが、頑張っているのは、偉いと思います
竜巻と電撃は
雷と風の精霊に頼みます
通り道の分の風を緩めて欲しい事と
雷がその周囲を通らない様に
鮫は、動物と話すで勧告はします
近付いたら自衛で凍らせますので
嫌なら離れてください
あと…
餌代わりに、干し肉を竜巻の中に放ります
僅かでも、お腹の足しになれば、良いのですが
それでも来るなら
申し訳無いけれど…近付く順に凍らせていきます
移動自体は緩くなった竜巻の上昇気流に乗ったり
水の精霊に願い
海面の歩行を可能にして
波でうねっていても、足が着く一瞬を跳んで行きます
到達出来れば
ごめんなさいと、安らかにを
フェルト・ユメノアール
鉄甲船が吹き飛ばされる竜巻じゃ普通に突破するのは無理だよねぇー
ボクの【光の拘束鎖】を利用すれば吹き飛ばされないように体を固定する事は出来るかもしれないけど……
待てよ、それを更に応用して移動に活用すれば!
ボクは手札から【光の拘束鎖】を発動!
狙いは……竜巻の中に平然といる鋼鉄人食いザメ!
それを拘束鎖で捕まえ、鎖を口に咥えさせて手綱のように騎乗
この竜巻を乗り越える唯一の方法、それは鮫を『動物使い』で調教してそれに乗って移動するコトだ!
雷撃は『トリックスターを投擲』する事で誘導、回避
そのまま風に乗り、猛スピードですきゅりんのいる竜巻の中心部へ
さあ、行くよ!必殺の!シャーク・トルネード・スラッシュだ!
兎乃・零時
アドリブ絡み歓迎
海と空が繋がってる…雷撃の竜巻
よぉし…やってやろうじゃん…!
UC!指定する属性は光!
グリッター
物体変質〖輝光〗!
装甲を半分
攻撃回数を五倍に!
迫ってくる鮫は光【属性攻撃】の輝光閃…光線の魔術で時に薙ぎ払い一斉発射しつつ制圧射撃!
此方に来させやしねぇよ!
それに雷撃の竜巻だとしても…その現象そのものを、魔力に変える(生命力吸収)!
そうして魔力溜めつつ一直線にすきゅりんの元へ!
さぁ、覚悟は良いか!すきゅりん!
全身に渦巻く暴風と雷撃の力、そして自前の光の力…水の魔力も練り、一纏めっ!
体が悲鳴を上げようが捨て身の一撃!ぶちかます!
〖限界突破×全力魔法〗
グリッターレイ
輝光閃!!
フィア・シュヴァルツ
「ほう、竜巻に雷に鮫だと?
くくく、不老不死にして漆黒の魔女たる我の行く手を、その程度で阻めるとでも?」
ここは我の華麗な箒さばきをみせてやろう。
ウィザードブルームに乗って空を飛び、竜巻と雷と鮫を乗り越え、嵐の元凶へとたどり着いてみせよう!
「なにせ……
敵はタコゆえな!」
(扉絵の方を向いて、よだれをじゅるり。なお、たぶんタコじゃない)
竜巻と雷と鮫に守られしタコ……
きっとタコ焼きの具にしたら美味いことだろう。
刺し身でもいけるやもな。
「というわけで、邪魔な竜巻や雷、鮫は、我の魔術で吹き飛ばしてくれよう!」
【竜滅陣】の魔法を放ち、爆発で生じた間隙をすり抜けるように箒で飛んでいくぞ。
(落下オチ大歓迎)
シェフィーネス・ダイアクロイト
アドリブ可
自然災害を自発的に引き起こせるメガリス
其れも強力な類
…是が非でも手にしたいが先ずは、
竜巻を全て消し飛ばす力は無いにしろ
一瞬でも路が拓ければ良い
赤衣餓狼で竜巻を斬る
真っ二つに割れた所、メガリスの眼鏡で視認
鮫に向かって二丁拳銃でUC使う
オウガの蒼炎が込められた呪殺弾を使用
場所は選ばず
数多く当てるのが目的
後に毒(のろい)は回る
竜巻の中に鮫が居るならば
雷耐性は不明だが
彼奴の特性を利用すればあの中を往くなど造作も無いだろう
もっと楽な方法を取る猟兵も居そうだが
他猟兵の力も利用
鮫を仕留め
身を覆える程の鋼鉄の船を手に入れる
即席の鮫の船を使って竜巻の中を進む
舵切りは得意
雷は回避
本体捉えたら銃で貫通攻撃
●埒外の現象
「そろそろ! 近づける! 限界! です!」
鉄甲船の甲板の上で、船員が張り上げた声が風に流されていく。
まだ充分な距離があるというのに、そうでもしないと声が聞こえないほど、轟々と風の音が鳴り続けていた。
遠目にもわかった竜巻は、近づくにつれ、風の塔と言っても過言でなさそうな迫力を持って、猟兵達の前に吹き荒れ続けている。
「うおぉ、すげぇ……暴風……ってか、竜巻……」
「すごい、ぐるぐるだ」
その迫力に思わず息を呑む浮世・綾華(千日紅・f01194)の横で、オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)は青い瞳を楽しそうに輝かせていた。
「すきゅりんはあの中なんだ――」
ピシャーンッ!
オズが言いかけた言葉を、巨大な竜巻から迸った稲光と音が遮った。
多くの場合、竜巻はスーパーセルなどと呼ばれる大型の積乱雲を伴っている。故に、竜巻の周りで雷が発生するという事は、特段珍しくはない。
だが竜巻の中で雷光が瞬き、竜巻の中から外に電撃が迸るとなれば、それはもはや常識的な物理学の外のものである。
「わっ! アヤカ、今の見た? 見た?」
「おぉ、雷もすげぇな……」
雷から真横に迸るという雷と言う超自然的な現象にますます目を輝かせるオズに、綾華は内心の驚きを隠して頷く。
綾華が驚いたのは、雷だけではない。
雷光が瞬いた瞬間、その光で見えたのだ。
竜巻の中にいる、特徴的な大きな背びれを持つ魚影が。
「サメ――まじでいるじゃん」
竜巻、雷、サメ。
実際に目の前にしてみると、中々に非常識な光景である。
「電撃竜巻と鮫のコンボとは、質が悪いですね……」
そんな超自然的な現象を実際に目にして、ビスマス・テルマール(通りすがりのなめろう猟兵・f02021)は呻くように呟いていた。
「――え?」
そんな中、リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)だけ、首を傾げていた。
電撃の竜巻に対してではない。
電撃の竜巻に対する他の猟兵達の様子や反応が、思っていたものと違ったのだ。
「この世界には鮫魔術なんて珍妙な物もあるぐらいだし、鮫が雷の竜巻を泳ぐくらい普通なのでは? 違うの?」
違う。
「いやいや。あれ、かなり滅茶苦茶な事になってますよ」
「そう……違うのね」
ベルベナ・ラウンドディー(berbenah·∂・f07708)の言葉に、リーヴァルディは素直に頷いた。
「……私はダークセイヴァー以外の世界の事に関しては不勉強だから詳しくないの」
リーヴァルディは、猟兵である以前に、吸血鬼狩りである。
猟兵達がダークセイヴァーと呼ぶ世界の支配者。リーヴァルディが狩る敵は、それらだけであった。
今でこそ、そんな流儀を曲げて他の世界で戦う様にもなったが、それでも、ダークセイヴァー以外の異世界については詳しくない。
だから、たまに誤解が生まれる事もある。
「まあ、とにかくですね。説明も滅茶苦茶だったので――」
甲板の上を海の方へ進みながら、ベルベナが告げる。
「こっちも無茶苦茶やれって、そういう事だと私は受け取りましたよ」
そう言うと、ベルベナは鉄甲船の縁に足をかけた。
「――疲れるんですよ、これ」
ぼやくような言葉を残して、ベルベナの姿が船の上から消えた。
●驚きの吸引力
空中に身を躍らせたベルベナの姿が変わって行く。
変竜回路変則起動――マルチプルエヴォリューション。
肉体の一部から全身まで、任意の対象に変異させる業で、鉄甲船から海まで落ちる僅かな間に、ベルベナの姿は変わっていた。
鋼鉄のサメに。
何故?
「宇宙でも風速ウンmの惑星とかありますし。竜巻くらいなら多分、サメになった私ならイケますよ」
そのままサメよろしく背びれだけ海上に出して、ベルベナは竜巻で荒れた海をスイスイと泳いでいく。
「ここでこうしてても、仕方ないデスネー。ワタシも行きマース」
サメになって泳いでいくベルベナを見送っていたバルタン・ノーヴェ(雇われバトルサイボーグメイド・f30809)も、鉄甲船の縁に手をかけた。
「バルタン、あんま無茶するなよ!」
背中に聞こえた覚えのある声に振り向けば、いつの間に来たのか。兎乃・零時(其は断崖を駆けあがるもの・f00283)が立っていた。
「俺様もすぐ行くからよ!」
無茶するなら呼べ――2人の間にそんな話があったのは、記憶に新しい。
「HAHAHA! 大丈夫デース!」
笑って告げて、バルタンは鉄甲船から海に飛び出した。
空中で態勢を変え、足から海に――飛び込むのではなく、靴底が水面に着いた瞬間、バルタンは沈むことなく『水上用滑走靴』の力で水面を滑るように進み出した。
「とりあえず、近づいてみるだけデース!」
メイド服のスカート翻し、バルタンは波間を縫って滑って行く。
「くくく、竜巻に雷に鮫だと?」
一方、船の上ではフィア・シュヴァルツ(漆黒の魔女・f31665)が大きな箒を手に、不敵な笑みを浮かべていた。
「不老不死にして漆黒の魔女たる我の行く手を、この程度で阻めるとでも?」
よくわからないが凄い自信である。
もしかしたら、竜巻を破る術でも持っているのだろうか。
「ここは我の華麗な箒さばきをみせてやろう」
だがフィアが次に取った行動は、箒――ウィザードブルームに乗って竜巻に向かって飛んで行くという、実にシンプルなものであった。
「竜巻と雷と鮫を乗り越え、嵐の元凶へとたどり着いてみせよう!」
しかも自信に満ち溢れている。
もしかしたら、ここから竜巻を破る術が――。
自然に発生する竜巻と呼ばれるものは、渦巻き状の上昇気流である。陸地、或いは海から空へ、竜巻の根本にあるものは巻き上げられ、上へ上へと飛ばされる。
そしてその周囲の流れは、竜巻に向かって吸い込まれる流れになるのだ。
竜巻に向かって飛んで行くフィアの長い黒髪が、竜巻の方に流れているのが、風の流れを証明していた。
そして強い竜巻と言うものは、小型の船程度、難なく巻き上げる。
特に今回のは、近づけば鉄甲船だって吹っ飛ばされると言われていたのだ。
「む……むむ、この風……強……あ、ちょ、待ぁぁぁぁぁぁぁ!」
箒に乗ってのこのこ飛んでったフィアが、電撃の竜巻に吸い込まれていく。
そればかりではない。
「おお? 海ごと身体が浮いて……あ、これ吸い込まれるやつデース!」
「誰ですか! サメになったイケるなんて言ったの! そうですよ私ですよ!」
海面を滑っていたバルタンも、海中をサメになって泳いでいたベルベナも、海水ごと巻き上げられて、電撃の竜巻に吸い込まれていった。
●光の鎖
成す術なく、3人の猟兵が竜巻に吸い込まれた。
約1名は、自ら吸い込まれに飛んでったと言う気もしないでもないが。
「鉄甲船でさえ吹き飛ばされる竜巻って、そういう事かぁ」
その吸引力を目の当たりにして、フェルト・ユメノアール(夢と笑顔の道化師・f04735)が思わず息を呑んでいた。
鉄甲船でさえ、吸い上げられて吹っ飛ばされるという事なのだろう。
「あれじゃ、普通に突破するのは無理だねぇー」
どうしたものかと、フェルトは腕を組んで思案する。
「ボクの【光の拘束鎖】を利用すれば、吹き飛ばされないように体を固定する事は出来るかもしれないけど……」
問題は、何に身体を固定するかだ。
鉄甲船なら十分固定できるだろうが、近づけないのは明白。
「出来れば竜巻の中でも耐えられる――待てよ?」
そこまで言いかけて、フェルトは気づいた。
いるではないか。うってつけの存在が。あの竜巻の中に。
「カウンタースペル、光の拘束鎖を発動!」
腕部装着型のデバイス『ソリッドディスク』に、フェルトがカードをセットする。
次の瞬間、フェルトの周囲の空間に開いた虚空の穴から、先端に楔のついた光の鎖が幾つも飛び出した。竜巻へ向かって。
鎖がこすれる音もなく、光の鎖は伸び続ける。
どんどん伸びて、伸びて、伸びて――グンッッッ!
「かかったっ! 多分!」
その勢いが、何かに引っ張られるように急激に強まった瞬間、フェルトの手が光の鎖を掴む。何かに引っ張られる鎖と共に、フェルトの姿が竜巻の方へ消えていった。
●それぞれの路は海の上と中に
ドルンッと排気音を響かせて、片桐・公明(Mathemの名を継ぐ者・f03969)の乗る赤いオフロードバイクが鉄甲船の上から海へ向かって飛び出した。
舗装されていない道でも走り易いのがオフロードバイクだが、それでも海の上は走れる筈がない。普通ならば。
だが公明の乗るバイクは、そのまま海の上を走り出した。
まるで、水の上に見えない路があるかの様に。
そんな事を可能にしているのは、赤いバイクにつけられた、一般的なバイクにはついていないパーツの性能にだ。
江東の虎――強い水軍を有していたとしてUDCアースの古代中国史に名を遺す国を興した者の父祖の字と同じ名を持つ、海戦対応拡張パック。
「ここまで荒れた海なんてぶっつけ本番だけど、仕方ないわね」
四方全てから波飛沫を浴びながら、公明はバイクの速度をさらに上げた。
バイクで海に飛び出した公明に続いて、泉宮・瑠碧(月白・f04280)が、やはり生身で鉄甲船から海に躍り出た。
ふわりと縁を飛び越えた瑠碧は、空中で祈る様に両手を組む。真っすぐ伸ばした足から海に落ちていき――ぱしゃん。
そんな小さな水音だけ響かせて、瑠碧は海の上に立った。
(「ありがとう。水の精霊」)
常に寄り添う精霊の力を『清閑輪』に通して水面を足場に変えた瑠碧は、海の上を駆け出そうと――。
ドボンッ!
何か大きく重たいものが落ちたような水音が響いた。
瑠碧が背後を振り向けば、水面に大きな波紋が生じている。
「……大丈夫でしょうか?」
「すっごい勢いで飛び込んで来たけど……」
思わず波紋の中心を瑠碧が覗き込むと、公明もバイクを寄せてくる。
「驚かせてしまいましたかな?」
そこに、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)が海の中からにゅっと顔を出した。
「心配御無用。私はその様に水面に立つ芸当も、そのバイクの様な水上走行も出来ませぬ故、このまま水中深くを潜って進みますので」
3m近い巨体を誇るウォーマシンであるトリテレイアの機体では、ヒトの様に力を抜いても水に浮かぶというものではないだろう。
だからこそ、トリテレイアは準備してきた。
いつかこの海洋世界で大きな戦いが起きた時、水中深くを進めるように。水の上には立てなくとも、水の中で戦えるように。
「では、失敬――お二方もご武運を」
そう言い残すと、トリテレイアは今度は静かに、海の中へ潜行していった。
「……行こうか」
「そうですね」
水中深くを潜る。水の上に車輪の轍を刻む。水の上を足場と駆ける。
それぞれの道と進み方で、3人は電撃の竜巻を目指して進み出した。
●海賊の欲
「此れ程の自然災害を自発的に引き起こせるメガリスか」
シェフィーネス・ダイアクロイト(孤高のアイオライト・f26369)が呟く。
メガリス中でも、強力な類であろうと思われる。
――是が非でも手にしたい。
胸中に生まれた欲はおくびにも出さず、シェフィーネスは鉄甲船から自分の海賊船に乗り移ると、荒れた海へ漕ぎ出して行った。
●極めし輝光
「よぉし……やってやろうじゃん……!」
鉄甲船の舳先に立って、零時がパシンッと拳と掌を打ち鳴らす。
海と空が繋がって見える規模の、雷撃の竜巻。それを前に、零時は昂っていた。最強を目指すのなら、そんなものに怯んではいられない。ましてや、杯を交わした仲間が吸い込まれたとなれば、なおさらだ。
(「バルタンなら大丈夫だろうけど――すぐ行くって言ったしな!」)
零時の藍玉の瞳が水色の輝きを放つ。
「我が身 我が魔 我が力 我が名を此処に
果て無き道は踏破され
積まれし歳月は実を結ぶ
改変し
変質せよ
我が手によって変革を為せ」
零時の全身を、魔力が覆っていく。
それはとある魔導書に記された変革の力。己を変えてでも、道を拓くための力。
「マテリアルモデュヘケイション・グリッター!」
――物体変質〖輝光〗。
宝石の髪から愛用の魔法帽子に至るまで、自身の存在自体を光属性の魔力に変えた零時は、青い光となって雷撃の竜巻へ飛んで行き――吸い込まれるように消えた。
●おひさまの花
「んー……あんな吸い込むなら、ここからでも届くかな」
零時が飛び立つのと入れ替わりに、綾華が鉄甲船の舳先に立つ。
「アヤカ?」
「なあ、オズ。あの子らの力、借りちゃおっか」
何をするのかと首を傾げるオズに悪戯っぽい笑みを返して、綾華は片手を掲げて竜巻の方へと真っすぐ伸ばした。
その袖口から、蒲公英と向日葵の――おひさま色の花弁が幾つも飛び出し、ふわりと風に包まれて、竜巻の気流に乗って飛んで行く。
「ふふ、そういうことね」
綾華の意図に気づいて楽しそうに見守るオズの前で、おひさま色の花弁は次々と飛び出してはふわりと浮かんで、竜巻の方へ流されていく。
Blumen für dich――オヒサマイロノセカイ。
いっしょに遊びたい、楽しみたいという願いを籠めて、蒲公英と向日葵の花弁を放つ綾華の業。咲き溢れるまでにはせず、花弁に留めた綾華だが、その効果は程なくして、向こうの方から2人の前にやってきた。
――竜巻の方から、何かが2人の方へ向かってきた。
「お、来た来た」
ニマリと笑みを浮かべて舳先から下がる綾華の目の前に、それはちょこんと降りた。
鋼鉄人喰いサメが。
「――ね、綺麗でしょ。俺らに協力してよ。お前も雷に打たれんのは嫌でしょ」
竜巻から飛び出してきたサメに、綾華が恐れる事無く語り掛ける。
「お邪魔しまぁす」
願いを籠めたおひさま色の花弁は、戦おうという意思を削ぐ。綾華と敵対する意思を削がれたサメは、綾華が背中に乗るのを首を垂れて許していた。
「ほら、オズ。前いいぜ!」
「わあ、わたしものせてくれるのっ?」
楽し気に駆け寄ったオズは、サメの背びれと綾華の間にいそいそと乗り込む。
「わたし、サメさんにのるのはじめてっ」
よろしくね、とサメの背中を撫でるオズの背中を、綾華が目を細める。この位置からではオズの顔は見えないが――どんな顔をしているか、目に浮かぶというものだ。
「はいはい、しゅっぱーつ」
「しゅっぱーつっ」
2人を乗せた鋼鉄サメ(人喰い取れた)は、電撃の竜巻を目指し、鉄甲船から海へ飛び出して行った。
●なめろう鎧装
「ますます質が悪いですね」
迂闊に近づけば、猟兵でも飲まれる竜巻。
それを見たビスマスが今必要だと感じたのは、その勢いに負けない力。
『Namerou Hearts tuna! banana! Avocado!』
鉄甲船の上に、機械音声が響き渡る。
迂闊に近づけば、猟兵でも飲まれる竜巻。
ならば必要なのは、その勢いに負けない力。
「生成(ビルド)! ナメローズマバア!」
赤、黄、緑。三種三色の鎧装が一つの全身鎧装となって、ビスマスの身体を覆う。
トリニティ・ナメローズマバア。
マグロ、バナナ、アボカド――ビスマスのソウルフードであるハワイアンなめろうの素材3つを合わせた鎧装を纏ったビスマスは、鉄甲船の甲板から、凄まじい勢いで電撃の竜巻めがけて飛び出した。
●サメの生態体験コーナー
「さて、あっさりと竜巻に飲まれてしまったわけですが」
サメに変異したまま、ベルベナは竜巻の中で思案していた。この姿でも、思っていたようには泳げていない。だが、何とかして抜けださなければ。
「まあ、考える時間はありますよね。サメさん達も仲間と誤認して襲わないでくれる筈ですから」
時間はある――そう思っていたベルベナに、予想外の痛みが走る。
「いったぁぁぁぁぁっ!?」
見れば、ベルベナのサメの尻尾に、鋼鉄人喰いサメが噛みついていた。
「何でですか!」
強引に振り解いたベルベナは、尾びれで叩いてサメを吹っ飛ばす。
「おかしいですね……サメ的ハンサムなら、噛みつくどころか身を挺して守ってくれるファンの一尾くらいったぁぁぁぁぁぁっ!?」
よくわからない事を言っていたら、再び尾に痛みが走った。
やっぱり尾びれに、サメが噛みついている。
「だから何でですか!」
叩いた程度じゃ足りなかったかと、ベルベナは再び強引に振り解くと、お返しにガブッと噛みついてやった。
それでやっと、鋼鉄人喰いサメは這う這うの体で逃げていく。
「……今のサメさんが、ちょっと気の短いサメさんだったのでしょう。きっとそうです。そうに違いな――」
ピシャーンッ!
心を落ち着かせようとするベルベナに、今度は雷が落ちた。
「うん。思った通り。電撃とか、サメさん生きてられるから大丈夫」
ここはベルベナの予想通り。
鋼鉄のサメの姿なら、雷もものの数ではない。
だが問題は――。
「おや? サメさん達、何故私を見てるんです?」
次に遭遇した鋼鉄人食いサメの群れも、ベルベナに視線を向けて来た事である。
※サメは共食いする事もあります。
「ああ、くそ! みんなサメになったな! いくぞお!」
ひとりサメの姿のベルベナと、サメの群れの戦いが竜巻の中で始まった。
●サメの食性体験コーナー
鋼鉄人喰いサメに特に襲われているのは、ベルベナだけではなかった。
いやまあ人喰いサメと言うくらいなのだから、大抵は襲われる。襲われるのだが、特に襲われているのがもう1人いた。
「どういう事ですかー!?」
ビスマスである。
纏った鎧装の飛行能力のおかげで、襲い来る鋼鉄人喰いサメを躱すのは難しくない。
「わたし、ビスマス結晶ですよ!? 食べても美味しくないですよ!?」
だがサメを避け続けるビスマスの表情は、元々青い顔がさらに青くなっていた。ひっきりなしにサメに襲われ続けるというのは、猟兵と言えど中々精神に来るものだ。
ビスマスがここまでサメに襲われているのは――その鎧装にあった。
繰り返しになるが、ビスマスが纏う鎧装『ナメローズマバア』は、マグロの力を持っている。マバアの『マ』はマグロの『マ』なのだろう。
そのマグロ成分が、ビスマスが襲われている要因であった。
マグロ。大型の回遊魚。大きいものは3m4mにもなる。
だが――サメと言う魚の多くは、肉食性である。
海の食物連鎖の中でも上位存在であると言えよう。
大抵の魚は、サメにとってはエサだ。マグロだって、エサだ。
つまり鋼鉄人喰いサメにとっては、カモがネギ背負ってきたならぬ、エサがエサ背負って(着込んで)やってきた、という事である。
「どういう事かさっぱりわかりませんが、ただで食われるつもりはありません! ここで時間稼ぎさせて貰いますよ!」
降ってきた鋼鉄人喰サメの噛みつきを、ビスマスは盾で受け流す。
そのまま群れの方に押しやると、ビスマスは飛行速度を上げて鋼鉄人喰いサメの群れから少し距離を取り、鎧装の肩にある固定砲台をサメの群れに向ける。
「ナメローズマバア・ブレイカー!」
固定砲台から一斉に放たれたゴム弾が、迫りくる鋼鉄人喰いサメを次々と撃ち抜いて、その場で昏倒させていった。
●サメの言い分は(喋れない)
「さて、どうしたものデショウ」
バルタンが竜巻に吸い上げられ、飲み込まれてからどれほど時間が経っただろう。
まだ数分程度な気もするが、常人なら数分も持つまい。
猟兵だから、耐えていられるのだ。
まあ――どんな環境でも、適応した生物と言うのはいるものだ。
「元気な鮫が泳ぎ回ってマスネー」
竜巻の中に、バルタンの呑気な声が響いて流れていく。
バルタンの周囲にも、鋼鉄人喰いサメはぐるぐる泳いでいた。或いはタイミングを伺っているのかもしれないが、今すぐ襲ってくるという事はなさそうだ。
それよりも、いつ来るかわからない雷の方が警戒が必要である。
「鮫は雷が当たっても平気なのデショウカ……?」
バルタンの疑問の答えを示すかの様に、ピシャーンッと雷がサメの1尾に落ちた。
だが――。
直撃したにも関わらず、サメはけろっとした様子で泳いでいる。
「オー。閃きマシター!」
それを見たバルタンの脳裏に、この状況を打破するアイディアが閃いた。
そこに、雷に打たれた憂さ晴らしなのか、ちょっと焦げた鋼鉄人喰いサメがバルタンに襲い掛かって来る。
「グッドなタイミングデース!」
その口に向かって、バルタンはチェインハンマーをぶん投げた。
『!?』
元はキャバリア用だった鉄球が、巨大なサメの口にすっぽりと嵌る。
「ハイヨー!」
バルタンは鎖を引き寄せると同時に、滑走靴で風を蹴った。水の様に滑るとは行かないが、僅かに推進力を得る事は出来る。
その勢いと引き寄せた勢いを活かして、バルタンは鎖をサメにぐるぐる巻きつけた。
「シャークライドであります!」
そして、その背に降り立った。
だが、バルタンの本当の狙いは――ここからだ。
「からの――六式武装展開、金の番!」
バルタンの全身がバラバラに変形して、サメの全身にまとわりついた。
金城鉄壁――インバルナラブル。
全身を誰かが装備できる防具に変える業。
本来は状況に適した仲間の為の防具に変わる業を、バルタンは半ば強制的に『サメを仲間』と認識して、サメの為の防具になったのだ。
「これでワタシも無事、鮫も無事。ウィンウィンデース!」
『!?!?!?』
何が起きたのかわかってなさそうなサメを外から操作して、バルタンは竜巻の中を突破口を探して泳ぎ出した。
●光であるが故に
バルタンが全身バラバラになってサメにまとわりついていた頃。
「ぐっ……ぐぅっぁぁぁ!」
零時は、全身がバラバラになりそうな衝撃に襲われていた。
己の存在を光属性の魔力に変えた零時に、物理的な攻撃は効かない。だから、サメは幾ら群れようが、零時にとって脅威足り得なかった。
零時に苦悶の呻きを上げさせているのは、この竜巻そのものだ。
電撃の竜巻は、敵の持つメガリスで起こされたもの。
自然に発生したものではない。
人為的に起こされたものであり――その力は、物理的なものではなかった。
風や雷自体は物理現象でもある。だがその中に混ざる力が、零時の身体に絶えず衝撃を与え続けていた。
「装甲半分は、ミスった……かもな……」
身体がバラバラになりそうな衝撃を耐えながら、しかし零時は口元に不敵な笑みを浮かべていた。
「魔力的なもんだってんなら……雷撃も風も全部、俺様の魔力にしてやる」
今の零時は魔力そのものでもあり、その身体は触れた全てを己の魔力へと変える事が出来る。風だろうが、雷だろうが。
「待ってやがれ、すきゅりん……」
この中で、零時は耐えていればいい。ただそれだけで、魔力を高める事が出来る。
物体変質の術を維持さえ出来れば。
終わりの見えない根競べの、始まりだ。
●猛獣使いへの一歩
「うわっぷ!」
何かに引っ張られる光の鎖と共に、フェルトは電撃の竜巻の中に吸い込まれた。
しばらくは風の勢いで目も開けられなかったが、次第にそれも慣れてくる。
ゆっくりと瞼を開くと、フェルトは視線を光の鎖の先に向けた。そこには、期待した通りのものがかかっていた。
――鋼鉄人喰いサメが。
「よしっ!」
フェルトは追加で光の鎖を放ってサメに巻き付け、サメと自分の距離を縮めていく。
「乗せて貰うよ」
そしてついに、フェルトはサメの背に乗った。
「これがボクがこの竜巻を乗り越えられる唯一の方法。鮫を『動物使い』で調教してそれに乗って移動するコトだ!」
馬の手綱の様にサメの口に通した光の鎖を、フェルトは両手でしっかりと握る。
あとは、サメを操れるようになるだけ。
そしてそれは、高い動物使いの技術を持つフェルトにとっては、この竜巻の中であっても難しい事ではなかった。
●精霊と干し肉
轟々と吹き荒び渦巻く風の中を、瑠碧は膝を抱えて揺蕩っていた。
その周囲だけは、風が緩やかになり、雷も届いていない。
雷と風の精霊に願った結果だ。
メガリスの力によって起こされた竜巻の中では、精霊の力の瑠碧の周囲にしか届かなかったが、身を守るには充分な力だ。
「ありがとう。しばらくこのまま、よろしくね」
あとはこのまま、機が動くのを待てばいい。
――だからサメさん! 噛まないで!
何処かから、他の猟兵の声と思しきものが響いてきた。
渦巻く風の音がうるさいのと、その渦のせいで反響して声の主がどこにいるのかは、瑠碧にもよくわからない。
(「鮫と聞くと……ルシルが、思い浮かぶのですが」)
瑠碧は胸中で、鉄甲船までの案内役をしていたエルフの事を思い浮かべていた。
彼もその内、サメに変化したりするのだろうか。
――するかもしれない。
そんな事を考えていると、瑠碧に影が差した。
見上げると、鋼鉄人喰いサメの巨体が迫っていた。
「……近付いたら自衛で凍らせますので、嫌なら離れてください」
少し意識して声音を冷たくして、瑠碧は迫るサメに告げる。
万が一の時には咄嗟に氷を放てる程度に、魔力を掌に集めながら。
だが瑠碧の言葉を信じていないのか、その魔力に気づいていないのか、サメはゆっくりと周囲を泳ぎながら、少しずつ距離を詰めてきていた。
「どうしてもお腹がすいているなら……干し肉ならありますけど」
瑠碧は取り出した干し肉を手放すと同時に、風の精霊に願って、サメの方へ勢い良く飛ばしてもらう。
「僅かでも、お腹の足しになれば、良いのですが」
瑠碧の心配を他所に、サメは目の前を飛んで行った干し肉を追って、ぐりんっと勢い良く回頭して、泳ぎ去って行く。
遠ざかる背びれが見えなくなったところで、瑠碧はほぅと息を吐いた。
だが――切り抜けた安堵と同時に、別の心配事も瑠碧の中に生まれていた。
「干し肉……足りるでしょうか」
●長い顎は何のために
「よっ、ほいっと」
「わあ、わあ! すごい!」
右へ左へ、綾華が扇を振って渦巻く風を捉えれば、サメの進む向きも変わる。サメのジェットコースターの様なスリリングさに、帽子が飛んで行かない様に抑えるオズの目がキラキラと輝いていた。
(「どうすりゃ出れるんだここ」)
一方、綾華は内心、少し焦りを感じていた。オズ楽しそうだからいい――と思っていたのも束の間。やがては腕も疲れるし、サメも疲れるだろう。
そんな心配が浮かぶほどに、風の壁は厚い。
「あ! ぴかぴかだ」
そこに、オズが声を上げた。
2人を乗せたサメの前で、たまった雷がバチバチと放電している。今にも雷となって、迸りそうだ。
「避けきれっかな?」
「かみなり、かみなり♪ どうしようかな♪」
眉根を寄せて扇を構え直す綾華の前で、オズが歌う様に声を上げた。
その傍らに、どこからともなく飛んで来たガジェットが、形を変える。
「サメ……のがじぇっと?」
その形を見た綾華が首を傾げたのも、無理もないだろう。
ガジェットは確かにサメに似ていた。
だが、2人が乗っているサメとは、一部が決定的に違う。
頭部の一部が尖って伸び出ているのだ。ミツクリザメ――或いはテングサメや、ゴブリンシャークとも呼ばれるサメに酷似したサメ型ガジェット。
「あれ?」
しかしサメ型ガジェットは、完成するなり2人を乗せたサメの下に回り込み、そのまま離れていった。
「どうしたんだろ――」
ピシャーンッ!
オズが言いかけたそこに、雷鳴が轟き、雷撃が迸る。
「やべっ――!」
避けきれない。間に合わない。そう悟った綾華が思わず眼を瞑り――しかし予想した衝撃は、まったく感じられなかった。
「っ――あれ……? だいじょうぶだった?」
綾華が恐る恐る目を開けると、たまった雷が爆ぜる直前に離れていったサメ型ガジェットが、バチバチと帯電していた。
「避雷針か。ないす!」
「ひらいしん?」
わしっと綾華に頭を撫でられながら、オズがその言葉が判らず首を傾げる。
「オズのサメが、代わりに雷を受けてくれたってことだ」
「そっか、かわりにうけてくれたんだねっ」
綾華の説明で得心が行って、オズは笑顔で頷いた。
「今のうちにすすもうっ」
「ああ、そうだな」
オズと綾華の言葉が届いたか、二人を乗せたサメが再び動き出す。
「サメさんおねがいっ」
「サメさん、もうちょっと頑張ってくれ。すきゅりんのとこまでどうにか進むぞ……!」
●海賊は奪うもの
「竜巻を全て消し飛ばす力など、私にはない」
赤錆の妖刀『赤衣餓狼』を構え、シェフィーネスが海賊船の上で呟く。
「だが、一瞬でも路が拓ければ良い」
甲板を蹴って跳ぶと、シェフィーネスは竜巻めがけて妖刀を振り下ろした。
ザァッと風が割れて、路が拓ける。
とは言え、竜巻全体からすれば微々たる隙間に過ぎない。渦巻く流れが止まったわけではない。この隙間も、すぐに修復されて繋がってしまうだろう。
だからそれまでの時間にすべきことをすべく、シェフィーネスは眼鏡をかけなおすと隙間に顔を入れて、竜巻の中を見回した。
――glasscope。
見た目はお洒落なスクエア型眼鏡にしか見えないが、かなりの望遠機能を備えた眼鏡型メガリスが、シェフィーネスに遠くを泳ぐ鋼鉄人喰いサメの姿を見せた。
「ふむ。存外に少ないが――まあ足りるだろう」
それを確認したシェフィーネスが、古びた小銃と銀の海賊銃を構える。
「──Loose lips sink ships」
金葩の禍――ロジック・クラック。
二丁の銃から、弾丸が立て続けに放たれる。一見当てずっぽうに撃っている様に見える撃ち方だが、シェフィーネスの目には『glasscope』が見せた鋼鉄人喰いサメの位置がはっきりと残っていた。
位置さえわかれば、当てるだけなら難しくない。
そして――シェフィーネスには、それで充分なのだ。
「蒼炎と言う名の毒(のろい)は後に回る」
シェフィーネスの言葉を示すかの様に――数分も待てば、蒼炎に焼かれ中核から生えた棘に内から貫かれ力尽きたサメが、竜巻の中から落ちてきた。
「貴様らの特性、利用させて貰うぞ」
仕留めたサメを集め、束ねて、シェフィーネスは即席のサメの舟を作り上げた。屈めるほどの深さを作ったので、屈めば雷から身を守る事も出来る。
「竜巻の中にいた彼奴らの特性を利用すれば、あの中を往くなど造作も無いだろう」
確かに、竜巻に対する強度と言う点では、申し分ない舟である。
動力源が、シェフィーネスの人力と言う事になりそうな点を除いては。
●光届かぬ深海でも騎士として
シェフィーネスがサメの位置を探るべく竜巻の中を伺った時に感じた、存外にサメが少ないという違和感。
それは、水中で1人の――1機の猟兵が奮闘した成果であった。
話は少し遡る。
「く、こんなに流れがあるとは……!」
水中を深くを進んでいいたトリテレイアを、予想以上に強く渦巻いている潮流が阻んでいた。竜巻の影響が、思った以上に深くまで届いていたのだ。
「考えてみれば、海中を無防備にしておく筈もないですね」
竜巻と言う自然現象ではあるが、自然に発生したものではない。
術者がいて、人為的に起こされているものだ。
そして術者であるすきゅりんが竜巻の中にいるのは、そこが一番安全だからだ。
であるのなら、海中と言う足元を放っておく筈もない。
それを実感する一方で、トリテレイアは深く潜るにつれて竜巻の水中に対する影響力が弱くなっている事も察していた。
完全に予想通りとはいかなかったが、電撃の竜巻であっても、水中に対する影響力には限界がある。
予想と違ったのは、その限界がトリテレイアが思っていた以上に深くまで届いていると言う、その1点のみ。
そして電撃は、トリテレイアの予想通り、水中深くまでは届いていない。
ならば、この流れを越える事だけを考えればいい。流れを突っ切る推進力を得るか、より深く、影響が消えるまで深く潜行するか。
「これ以上深く……この装備で行けるでしょうか――む?」
胸中に僅かな逡巡が生じたトリテレイアが、顔を上げて周囲に視線を巡らせる。いつの間にか、トリテレイアを鈍色の魚影が囲んでいた。
――鋼鉄人喰いサメの群れだ。
「成程、ここが生息域でしたか」
トリテレイアは、巨大な機械の突撃槍をサメの群れに向けて構える。
「暴れ馬ならぬ暴れ槍ですが……御してみせましょう」
その穂先から、傘状の光が展開された、次の瞬間。
トリテレイアが、凄まじい勢いで飛び出した。
艦船強襲用超大型突撃機械槍――ロケットブースターランス・ウォーマシンカスタム。
宇宙船の外壁を破壊・突入する為に、帝国軍強襲部隊が用いていた業の再現。
その突撃は、水中でありながら鋼鉄サメに反応すらさせず、その群れの一角を吹き飛ばし、突き抜け、穴を穿つ。
しかし群れを突破したトリテレイアは、そのまま進まず、そこで反転した。
「ここでサメを阻めば、竜巻に飲まれるサメも減る筈。お味方の支援になりましょう」
ロケットブースターが再び火を噴いて、トリテレイアはサメの群れに向かって行った。
●時を蝕む呪い
術者がいる竜巻。
であるならば、電撃の竜巻は術者の行動の結果と言えよう。
ならば、リーヴァルディには打てる手がある。
「……吸血鬼狩りの業を馳走してあげる」
海の上に立ったリーヴァルディは、大鎌『グリムリーパー』を振りかぶる。
過去を刻み未来を閉ざす黒い大鎌を、リーヴァルディは電撃の竜巻をめがけて振り下ろした。刃で竜巻を切り裂ける筈もない。
一瞬途切れた風も、またすぐに渦巻き繋がって行く――筈だった。
だが、リーヴァルディが一太刀入れた周囲で風が止まり、竜巻全体の速度も幾らか、しかし確かに和らいだ。
吸血鬼狩りの業――時澄の型(カーライル)。
その刃は吸血鬼狩りの奥義の一つ。
時間属性の呪いを纏う刃。呪いは、周囲の時の流れを遅くして停滞させる。
リーヴァルディが海の上に立っていられるのも、その力をグリムリーパーに溢れんばかりに溜め込んで、自身の周囲にまで広げているからだ。
足元の波すら、停滞させる。
そんな力業が長く続く筈もない――そんな事は、彼女自身が良くわかっている。
「全力全開、出し惜しみ無しで行くわ」
呟いたその言葉が真実だと示すように、リーヴァルディは電撃の竜巻をも駆けあがってみせた。
リーヴァルディの呪いは、次第に電撃の竜巻全体の動きを遅くしていく。
それは速さの変化で言えば小さな変化だったが、規模から言えば大きな変化である。
その恩恵は、遥か上空まで吸い上げられた猟兵にも届こうとしていた。
●魔女の食欲
「諦めぬ! 諦めて――なるものか!」
箒に乗って飛んで行くという、誰よりも高い位置で竜巻に吸い込まれて飲み込まれたフィアは、誰よりも高いところまで巻き上げられていた。
だが――フィアはまだ、諦めていない。
「なにせ……敵はタコゆえな!」
じゅるりと緩んだ口元を拭う。
「竜巻と雷と鮫に守られしタコ……きっとタコ焼きの具にしたら美味いことだろう。刺し身でもいけるやもな」
フィアの脳裏に、色々なタコ料理が浮かぶ。
今のフィアを支えているのは、食欲の2文字に他ならない。空腹が魔力の枯渇につながるフィアらしい、シンプルな欲求。
故に迷いなく、動ける。
「というわけで、邪魔な竜巻や雷、鮫は、我の魔術で吹き飛ばしてくれよう! 漆黒の魔女の名に於いて!」
掲げたウィザードブルームに、魔力が集められる。
「我が前に立ち塞がりし全てを消し去ろう――竜滅陣!」
竜滅陣――ドラゴン・スレイヤー。
ドラゴンすら消し飛ばす大規模破壊魔法が、上空部分の竜巻内部で――爆ぜた。
その時、竜巻の根本では、リーヴァルディが大鎌を振り下ろしていた。
●名馬の名を継ぐもの
海と空を繋いでいる竜巻。
公明はそれに飲まれない距離を保ったまま、海の上でバイクを走らせていた。
海上戦闘に耐え得る走行性能を持っているとは言え、鉄甲船をも吹っ飛ばすという竜巻にオフロードバイクで挑むのは流石に無謀と言うものだ。
だから公明は待っていた。
そう遠くなく訪れるであろう、その機を。
時の呪いで竜巻全体が遅くなり、上空で大きな爆発が起こる。
竜巻が――崩れ出す。
そう察した瞬間、公明は走り出した。
「その名を継いだからには、それだけの力を発揮なさい『赤兎』!!」
赤いバイク――赤兎の車輪が猛然と回転する。
赤兎。その名もまた、UDCアースの古代中国史に残る名だ。巨躯を誇る猛将を乗せて日に千里をも駆けたという名馬の中の名馬とされている。
その名に恥じぬ速力で、赤いバイクが竜巻の表面を登って行く。
だが、竜巻はまだ消えたわけではない。その中から、公明の行く手に雷光が迸る。バイクの下には、サメらしき影も見えた。
「――忌々しい」
ハンドルから片手を放し、公明は父の異名と同じ名を持つ銃『Mathem842』を構える。
「忌々しいけど、美しい」
タァンッ。
軽い反動を示す小さな銃声と共に放たれた弾丸が、空中でくいッと曲がる。それを追いかけて雷が向きを変えるよりも僅かに早く、公明は逆方向にハンドルを切っていた。
――殺人鬼の最適解。
最適な殺戮経路を算出する事で得られる、予測回避の業。
どれだけ速力があっても、それを活かすは乗り手次第。それは馬もバイクも同じ事。故にその速度を活かす為に――公明は宿敵と同じ力を行使する。
それに、この竜巻の殺戮経路を導き出すのは、今となっては簡単だ。一手当てればいい急所は判っていて、そこまで届き得る傷は既に刻まれているのだから。
「天下に名馬数入れど、赤兎馬にかなう名馬無し。ってね。鮫に負ける気はしない」
そちらを見もせずに撃ち込んだ弾丸で鋼鉄人喰鮫をひるませておいて、公明は一気に速度を上げて、サメを置き去りに竜巻を駆けあがり――傷口に飛び込んだ。
●終焉――すきゅりん、フルボッコ
『え? は? な、なんで……』
破れる筈がなかった竜巻が。
自分が中にいる限り、永遠に続く筈だった竜巻が崩れていく中心で、すきゅりんが呆然と目を丸くしていた。
『はっ! そ、そうだ。もう一度……もう一度、竜巻を起こさないと』
我に返ったすきゅりんだが、それはもう、遅かった。
崩れゆく竜巻に残る風の道を駆け降りて来る、真っ赤な機体。赤兎を駆る公明が、猛スピードで駆け下りてきて、すきゅりんの真横で急停止する。
『え、ちょっと――』
勢いで巻き上げられた海水が、すきゅりんに浴びせられた。
ざんっ!
ずぶ濡れになったすきゅりんの目の前で、残っていた竜巻の残滓が切り裂かれる。
雷撃を躱し、サメは噛みつかれる前に大鎌で切り払って。文字通り、竜巻の中を切り抜けてきたリーヴァルディが悠々と姿を現した。
「……お前にも吸血鬼狩りの業を教えてあげるわ、スキュリン」
黒い大鎌を振りかぶり、リーヴァルディが静かに告げる。
『スキュリンってなによ!』
何かが気に入らなかったのか、すきゅりんがリーヴァルディに食って掛かる。
『そんな硬い発音じゃなくて、すきゅりんって柔らかく言って欲しいわね』
「……発音が違う? すきゅりん?」
すきゅりんの言い分に、リーヴァルディは胸中で首を傾げて――。
「……何でも良いわ。他に言い残す事がないなら――」
リーヴァルディの構えた大鎌が、雲間から刺した光を浴びて怪しく輝く。
「君が、すきゅりんですか」
そこに、瑠碧の声が降ってきた。
風の精霊に導かれ竜巻の崩壊から飛び出した瑠碧が、すきゅりんの前に降り立つ。
「すごい竜巻でした。頑張ったのは、偉いと思います」
『……本当? 頑張ったって、わかってくれる?』
「はい」
縋るようなすきゅりんの視線を真っすぐ受け止めて、瑠碧が頷く。
『じゃあ見逃して?』
「それは……ごめんなさい」
直球なすきゅりんの要求に、瑠碧は目を伏せて首を左右に振った。
「どうか安らかに」
瑠碧には自ら手を出さない事と、祈る事しか出来ない。他の猟兵達が見逃す筈もないのだから。
ばしゃんっ。
そこにサメが落ちてきた。
「つ、疲れた……」
まだサメの姿のままの、ベルベナである。
あちこちに着いたサメの歯型が、激闘を物語っている。
「やっと見つけましたよ、すきゅりん!」
続けて崩れる竜巻の中から飛び出してきたのは、ビスマスだ。
やっぱり、鎧装のあちこちにサメの歯型がついている。
「……」
「……」
互いに相手の歯型に気づいて、ベルベナとビスマスは無言で視線を交わした。
お前も苦労したんだな……的な空気が、2人の間に流れる。
ばしゃんっ。
そこにもう一匹、ほぼ無傷のサメが落ちてきた。
サメから剥がれだした何かが立体的に組み合わさり、人の形になって行く。
「鮫を駆って竜巻突破作戦、ほぼ無傷で成功デース!」
元通りのメイドさん姿に戻ったバルタンが、ぐっとガッツポーズを取った。
「おかしい……」
「何故……」
サメに噛まれてなさそうなバルタンの様子に、ベルベナとビスマスが思わず呻く。
「こうなったら、突破の暁にその触手、食わせてください!」
ビチビチしながら、ベルベナはすきゅりんに向かって告げる。
「待て待て待てー!」
そこに、空から声が降ってきた。箒に乗ったフィアだ。
「そこのタコは、私のものだ!」
「疲れて死にそうなんです。一本くらい、良いじゃないですか」
どちらがすきゅりんのタコ足多く食べるか、争い勃発!
『…………』
抗議の声を上げても良さそうなすきゅりんだが、黙りこくっていた。2人とも目が本気なのが判ったのだろう。
「ちょっと待って貰おうか」
そこに、サメを束ねた舟に乗ったシェフィーネスも現れる。
「タコ足はどうでもいいが、彼奴のメガリスは私が貰うぞ」
『…………何この人たち怖い』
ぽそりと呟いて、すきゅりんが後ずさる。あわよくば逃げてしまおうというのか。
だが、その背中が何かにぶつかった。
『……?』
恐る恐るすきゅりんが振り向くと、そこには数匹のサメを貫いたままの巨大な槍を担いだトリテレイアが、いつの間にか海の中から現れていた。
しかも、サメの返り血塗れである。
『……』
「数で囲むなど騎士らしくはないですが、逃がすわけにはいかないのですよ」
怯えるすきゅりんに、トリテレイアが静かに告げる。
「見つけたぁ!」
そこに、フェルトの声が響き渡った。
僅かに残る竜巻の残滓を破って、鋼鉄サメに乗って飛び出して来る。フェルトの手が鋼鉄サメに巻き付いた鎖を引くと、鋼鉄サメはくるりと向きを変えた。
完全に、サメを乗りこなしている。
その後ろに――青い光が飛んで来た。
「さぁ、覚悟は良いか! すきゅりん!」
零時の声が、静かになった海に響く。
「全身で浴びた渦巻く暴風と雷撃の力、海の水の力に、自前の光の力も併せて――渾身の輝光閃(グリッターレイ)ぶちかましてやるぜ!」
『あわ、あわわわわ……』
全身に衝撃を浴び続けた零時の剣幕と、その身体に蓄えられた魔力量の恐ろしさを感じて、すきゅりんのタコ足がカタカタ震えだす。
――そんな光景を、綾華とオズもサメの上から眺めていた。
「ねえ、アヤカ」
「んー?」
オズの声に、綾華が緩んだ声で返す。
「わたしたち、なにかすることあるかなぁ?」
オズも感じているのだろう。
もう、大勢は決したと。
「――ないな!」
だから綾華は、爽やかに言い切った。
これ以上はオーバーキルも良いとこである。
「折角だし、もう少しサメさんに乗せて貰って泳ごっか」
「うん、サメさん、よろしく!」
サメに乗ったまま、鉄甲船の方へ帰りゆく綾華とオズの後ろで――。
『みぎゃぁぁぁぁっ!』
青い光に撃たれたか、黒い大鎌に斬られたか、はたまた赤い妖刀にか、乗りこなしたサメの牙にやられたか――すきゅりんの悲鳴が、海に響き渡った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵