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羅針盤戦争〜オペレーション・ラプター

作者：バートレット

●クレマンソー級航空母艦
「これは小耳に挟んだのだがな」

　ネルソンは出撃準備を行う中で、副官を務める天使の一人に語りかける。

「制空権、という言葉がある。それまでの海戦では制海権を巡って争っていた。これを空にも適用しようというのだ」

　つまり、戦場が空へと移ろうがやることは変わらんわけだ、と説明する。

「しかし、制海権を握ったとしても制空権が握られていれば、上空から攻撃されるリスクがあるということですか」
「そういうことだ。そして、飛ぶ鳥を落とすというのは困難を極める。制空権を奪い返すには、同じく翼持つものでなければならん」

　ネルソンはそう言うと、現在自分が立つ甲板の持ち主である船を誇るように、手を広げた。

「そして、制約で縛られた海からお前達翼持つものを解き放つのが、この艦だ。カタパルトで上空へと撃ち出し、さらにその魔力と加速力を得た天使は──」

　絶対的制空権を手に入れる。

　マーシャラーの天使がゴーサインを出し、次々と天使がカタパルトから撃ち出される。

「エグリゴリ1、エグリゴリ2、発艦完了。続いてエグリゴリ3、エグリゴリ4はカタパルトへ」
「この海は、そしてこの空は我ら『舵輪』が頂く」

　ネルソンは不敵な笑みを浮かべ、空に向かって手を広げるのだった。

●オペレーション・ラプター
「さて、今回のミッションは七大海嘯の一人、『舵輪』の頭目であるネルソンとの戦いになります。……初めに彼の座乗感について説明させてください。皆さんにはちょっと退屈な話になるかもしれませんが」

　同刻、グリモアベースにて、ネルソンと同様のことを集まった猟兵たちに説明するのはグリモア猟兵、ジェイミィ・ブラッディバック。
　予兆でネルソンが空母を所有していると把握した彼は、早速持ち前の軍事知識を総動員して空母の艦種を特定、集まった猟兵たちにその情報を開示する。

「ネルソンが所有するクレマンソー級航空母艦。UDCアースおよびヒーローズアースにおいて、1960年代初頭から2017年にかけてフランスおよびブラジルで運用された攻撃空母です」

　速力32ノット、基準排水量は24200トンを誇る大型空母だ。アメリカ以外で初めて建造された攻撃空母として鳴り物入りで登場し、レバノン紛争や湾岸戦争などの、20世紀後半における主要な紛争で活躍した。
　飛行甲板は全長257メートル。着艦帯を斜めに設けるアングルド・デッキが導入されており、発艦作業と着艦作業が互いに干渉することなく行える。即ち、カタパルトによる発艦を行いながら損傷した艦載機の着艦を同時に行えるのだ。
　カタパルトは艦首甲板とアングルド・デッキにそれぞれ1基ずつ用意され、蒸気式が採用されている。戦闘機であれば110ノットまで加速した状態で発艦させることが可能だ。

「さらに防御機能として、100mm口径の単装砲が4基、8連装の短SAM発射管が2基、6連装SAMの発射機が2基用意されています。CIWSの類はありませんね」

　それで、とジェイミィは画面を切り替える。

「この2基のカタパルトから天使を発艦させ、グリードオーシャンにおいて飛行を阻む異常気流をその初速と天使本来のスペックで強引に突破したようです。現在、ネルソンが展開する海域の制空権は完全に握られていると言って良いでしょう」

　先制攻撃は免れません、とジェイミィは告げる。

「まずは対空戦闘を行うことになります。敵の攻撃を可能な限り対処し、然る後に反撃です。制空権の奪還、ネルソンの座乗艦の撃破、あるいはネルソン本人への直接攻撃。ネルソンは甲板上で直接指揮をしているため、上手く甲板へと取り付けば撃破は容易でしょう。ただし、天使からの攻撃やSAM、単装砲からの攻撃を掻い潜る必要があります」

　制空権をネルソンに握られた状況では、猟兵側としては圧倒的な不利を免れない。だからこそ、ネルソンを討ち、制空権を取り戻す必要がある。

　先制攻撃を掻い潜れば、こちらも低高度ではあるものの飛行ができるようになる。天使とのドッグファイトも選択肢の一つに挙がるだろう。上空に展開する天使を撃墜し、制空権を確保できれば、空母の攻略は容易い。

「只今より、当作戦を『オペレーション・ラプター』と呼称。グリードオーシャンの空をネルソンの手から解放することが本作戦の目標です」

　説明は以上です、とジェイミィはブリーフィングを終えた。

「それでは、皆さんの健闘を祈ります。空をこの手に取り戻しましょう」

　ポータルが開き、猟兵たちは作戦海域へと向かう。

　　──羅針盤戦争、作戦コード「オペレーション・ラプター」、開始。

第1章 ボス戦 『七大海嘯『舵輪』ネルソン提督』

POW   :    天使の行軍 【カタパルトで加速射出された天使の】突進によって与えたダメージに応じ、対象を後退させる。【他の天使】の協力があれば威力が倍増する。 SPD   :    天使による高高度爆撃 【天使達が投下する爆雷】で攻撃する。また、攻撃が命中した敵の【位置と予測される移動範囲】を覚え、同じ敵に攻撃する際の命中力と威力を増強する。 WIZ   :    武装天使隊 召喚したレベル×1体の【透き通った体を持つ天使】に【機関砲や投下用の爆雷】を生やす事で、あらゆる環境での飛翔能力と戦闘能力を与える。 イラスト：シャル 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

●空と海を駆ける鉄騎達
「せいくーけん……？」
「簡単に言えば、上空を完全に支配して好き放題してしまうんです」
「つまりはそうやって空を自分たちの好きにして、この世界の皆を殺したり困らせたりしちゃうんだね！」
「あぁ、その理解で大丈夫だと思いますよ」

　首を傾げるリンゴ・スターアップル（魔法少女スターアップル・f19739）に、終夜・日明（終わりの夜明けの先導者・f28722）が解説している。
　すでに上空はネルソンの放った天使たちで埋め尽くされていた。まずはこの攻撃への対処が必須となる。

「こうして見ると壮観だね……」
『セリカ、敵を褒めても現実逃避にならないわよ』
「うん……いやどうしたもんかなーって」

　クレマンソー級航空母艦から飛んでくる天使たちの数に呆然とするセフィリカ・ランブレイ（蒼剣姫・f00633）。相棒であり、面倒見の良い女性の人格を持つ魔剣シェルファは呆れたように声をかけ、セフィリカを現実に引き戻す。

「さて……来ますよ、キャバリア部隊の皆さん」

　日明は愛機のコックピットから空を見上げ、目つきを鋭くした。上空を埋め尽くす天使たちが次々と襲いかかってくる。

「任務了解……攻撃目標、七大海嘯『舵輪』頭目ネルソン。攻略優先度高……ただちに対象を破壊に向かいます」
「よーし、頑張ろうなヘカテ！」

　シーミャ・ルザリーニ（首輪付き・f31904）、テラ・ウィンディア（炎玉の竜騎士・f04499）がこれに応じる。天使たちの襲来に、5機のキャバリアはそれぞれのやり方で対応を始めた。

　リンゴの愛機、アヴェンジアリスはまだ飛行機能を搭載しておらず、海上に結界術で足場を作り、その上を飛び移っていく。

「エグリゴリ6からエグリゴリ12、エンゲージ。対地攻撃開始」

　天使たちが次々と機関砲や爆雷を投下するが、アヴェンジアリスはこれを察知して上方に結界を展開、これを阻んでみせる。アリスラビリンスでその生命を散らしたアリスたちの遺志が宿るアヴェンジアリスは、攻撃意思を完治することに長けているのだ。

　一方、日明は敵の方角を探る。最初に投下された爆雷をひらりと避けると、愛機オルトロスのコックピット内でコンソールのキーボードを叩き、天使の飛来方向と速度から空母の正確な位置の算出を開始した。その中で、策を一つ講じる。

「被弾でこちらの位置と予測移動範囲を記憶するならばそれを逆に利用できますね……」

　そのためにも、空母の正確な位置を探ることは必須条件だ。日明のコンソール操作を行う手に力が籠もる。

　セフィリカは天使の猛攻を耐えることを選んだ。

「被弾は避けられないなら、逆転の発想……ジェネレーター全出力、防御フィールドへ展開！　6分間の制限時間を全て防御に使用する！」
『スプレンディアを捨てる気！？』
「今回はあくまで鎧として運用するわ。もちろん攻め手は残してある！」

　本来は過剰な高出力が原因で引き起こされる機体の自壊を防ぐための防御フィールドを全て敵の攻撃を耐えるために使う。それは即ち、愛機スプレンディアを単なる防御手段として使い捨てることを意味していた。だが、セフィリカにとってはこれが最善手なのだ。

「ネフィリム1、エンゲージ。ネフィリム隊は我に続け。標的は足を止めている機動兵器だ。飽和攻撃を開始せよ」
「ネフィリム2、コピー」
「ネフィリム3、コピー」

　天使たちの飽和攻撃が防御フィールドを揺るがすが、スプレンディアを、そして搭乗するセフィリカには一切攻撃が通らない。それだけ防御フィールドが強固になっている証であった。

　攻撃を耐えることを選んだのはシーミャも同様だった。搭乗するオブリビオンマシンの背面に装着された推進飛行ユニット「憎悪の涯」にジェネレータ出力を回し、エネルギーを過剰供給。盾として展開し爆雷や機銃攻撃を防ぐ。直接攻撃を仕掛ける天使に対しては両腕のフュージングウィップが炸裂し、その体躯を切り裂いてみせた。

「さて……対空戦闘と行くか！」

　テラはヘカテイアの武装を展開して迎撃を開始する。自律砲台群のガンドライドを展開、ブラックホールキャノンを装備して爆雷を天使もろとも撃ち落としていく。積極的に攻勢に出ることを好むテラらしい戦術と言えるだろう。

「敵艦の位置を割り出しました！　座標共有します！」

　日明の演算が完了、データリンクによって5機のキャバリアはネルソンの座乗艦の位置を示す空間座標を共有する。

「一番近いのはリンゴさんです！」
「はーい！　まっかせてー！」

　背中にバーサークパピヨンウィングが展開され、天使たちを狂わせていく。そこかしこで同士討ちが始まった。

「エグリゴリ3、FOX2」
「エグリゴリ5よりエグリゴリ3、ブルー・オン・ブルー！　こちらは味方だ……！」

　さらに空母もジャミングによってSAMが機能不全に陥った。

「精神攻撃に加えてジャミングだと……！？　く、だがそれでも航空優勢は揺るがない！」

　ネルソンは機能不全に陥っていく自軍の状況に歯噛みしつつも、精神攻撃を免れた天使たちにキャバリアへの迎撃を命じる。しかし、アヴェンジアリスはそんな中で敢えて空中に足場を作り、高度を稼いでいく。

「ギロチン展開……落とすよー！」

　空中に現れた断頭台が天使たちを次々と斬首刑に処していく。首なしの骸と化した天使たちは次々と海中にその姿を没していくのだった。

「おれは星の竜騎士！　空を奪わせはしないぞ！！」

　続くテラはヘカテイアの武装を一斉射しながら低空から空母上空に展開する天使たちに肉迫する。両手には槍と剣を持ち、次々と天使を屠っていく。天使たちも機銃で応戦するが、ヘカテイアの装甲を抜くには至らない。

「行きますよ、セフィリカさん、シーミャさん！」
「了解！　タイミングバッチリ合わせましょう！」
「承知……シーがやるです」

　日明はオルトロスに爆雷の攻撃を敢えて一発受けさせることで、上空の天使に位置を記憶させる。そして、コンソールにパスコードを入力し、オルトロスを急加速させる。セフィリカは役目を終えたスプレンディアから脱出。空中で二本の槍を携えた飛行型ゴーレム「黄槍の飛竜」を呼び出し、その背に飛び乗る。シーミャはそれまで防御に回していたジェネレータ出力先を推力に切り替えた。

　3機は一気にネルソンが座乗する空母の懐へと入り込んだ。まずはオルトロスを狙った爆雷が降り注ぐが、機動力の上がったオルトロスを捉えることができず、続々と空母の甲板上に降り注いでいく。続いて黄槍の飛竜が甲板上で迎撃体制を整えようとした天使の機先を制し、次々と二本の槍の錆へと変えていった。

「射撃兵器を少しだけ無力化するです……ちょっとだけ我慢してください」

　ディアボロから放出された骸の海が戦場を包み込むと、その場の射撃兵装が無効化されていく。天使たちは機銃を封じられ、母艦へと向かうディアボロをただ見送ることしかできなかった。母艦へと乗り込むと、甲板上のネルソンを狙った攻撃を加える。

「ぐっ……！　直接私を狙うか……！」
「頭を潰せば……残り物はゆっくり壊せ(食べれ)ます、よね？」

　そして、最後の仕上げはテラが請け負った。

「厄介なのはあのSAM……後続の皆のためにも一気に潰すぜ！」

　ガンドライドとブラックホールキャノンの一斉射が、8連装SAM発射管とネルソン本人を狙って放たれる。甲板に移乗したキャバリアが離脱する中、重力波とレーザーの雨によって引き起こされた誘爆の焔が、ネルソンが座乗する空母を飲み込んでいくのだった──。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

●天使飛べども……
「天使とはなんぞや」

　馬県・義透（死天山彷徨う四悪霊・f28057）はともすれば哲学的とも言える問いを投げかける。

「確かに、オラトリオの方々とは違うのでしょうか……まぁ、オラトリオならオラトリオということで、様々な世界の要素が集まるのはこの世界ならではと言えるのでしょうが」

　その問いに然りと頷くのはトリテレイア・ゼロナイン（紛い物の機械騎士・f04141）。

「ただ、故郷のこの世界で戦争……うーん、未だに実感がわかない」

　安里・真優（巨人の冒険商人・f26177）は自身の故郷で巻き起こった戦争で、故郷を守るべく立ち上がったは良いものの、まだその実感がないようだ。

「……さて、そろそろ戦闘だ。来るぞ」

　そんな3人に、上空への傾注を促すのはアルトリウス・セレスタイト（忘却者・f01410）。彼は空を睨むと、空母で待ち構える「舵輪」の頭目に向けて呟く。

「確かに天使は飛べるようだが……お前自身はどうなのだろうな？」

　その言葉を耳ざとく聞きつけた真優が挙手する。

「あの、私にいい考えがあります」
「む？」

　爆雷を「再起」の原理で相対距離を実質無限遠として落着させない策を取ったアルトリウスは、真優の提案に耳を傾ける。

「そも、天使とは何故飛ぶのでしょうか」

　真優の口から放たれるのは、義透の先刻の台詞と同様の根源的で哲学的な問い。

「それは……羽が生えているからだと思うのだが」
「えぇ……生物学的な観点だと、空に獲物がいるとか、空を飛ぶことで外敵から身を守るとか、そういう理屈で飛ぶんでしょうけれども」
「トリテレイアの言うとおりだ、そういう原理を理由に飛んでいるんだろう」

　他の3人は顔を見合わせて首を傾げる。

　ちなみにトリテレイア、義透、真優もそれぞれのやり方で天使を迎撃していた。義透は速度を活かして突っ込んでくる天使に対して槍を突き出すことでこれを返り討ちにする。トリテレイアもそれに倣って、突っ込む天使に長剣の切っ先を向けていた。儀礼用とは言え切れ味はないではなく、天使はもろに長剣を腹に突き刺されてぽとりと落ちる。真優はペットに迎撃を任せていた。ダコタンがタコ墨で天使を撃ち落とし、カメゴンが何故か自身に備わっていた念動力で天使をふっとばし、マンボンが火を吐いて爆雷もろとも天使を焼き尽くす。天使を迎撃しつつも4人はこの後にどう攻撃を仕掛けるかについて会話をするだけの余裕があった。

「確かにそのとおりです。天使が空を飛ぶ理由、それは空に適応しているからです。裏を返せば……海に適応していないから飛ぶんです！」

　真優の発言に、あ、とトリテレイアが何かに気づく。

「つまり環境を変えるつもりですか？」
「その通りです！　天使たちがいる空間が深海になればどうでしょう」

　真優のその提案に、ふむ、とアルトリウスが頷く。

「やってみる価値はあるか。空母も深海に潜るわけではない」
「ではその方向で攻めてみるとするか……時間稼ぎは任せておけ」

　義透も同意し、かくして方針は固まった。

　まずは義透が低空を飛行しながら稲妻を放って天使の動きを止める。さらに防御用の結界を張り、天使からの攻撃と環境の変化に備えた。
　トリテレイアは装着した水中戦用の装備を活かして海中に潜り、天使たちの攻撃をやり過ごす。そのまま空母へと肉薄する構えだ。
　アルトリウスは因果・破壊・循環の原理を戦場全体に適用し、空間を支配する。

「よし、準備はできた。やってくれ」
「お任せください！　さぁ、ダコタン。GO！！」

　ダコタンが空中に向けて特殊なタコ墨を放つ。アルトリウスの原理に支配された空間に、さらにダコタンのタコ墨が合わさって、一帯の環境が深海そのものに塗り替えられた。

「私は深海に適応していますから問題ありません。巨人の肉体を舐めないでください」
「こちらは原理によって空間を支配している、環境の変化の影響はない」
「予め深海に潜っていましたので私も問題ありませんね……そもそも、このあたりの水深は排水量24200トンの空母が行動するに十分以上の水深があるわけですから」
「わしも結界のお陰で問題はない……やれやれ、此度の戦は慣れぬことを多くするの……」

　つまり、と深海と化した上空を見上げる4人。そこには、海中に適応できずに溺れる天使たちの姿があった。

「……制空権を環境を書き換えることで無意味とするか」

　ネルソンは溺れる天使たちを見て舌打ちする。まさかそんな突破方法を実行されるとは。

　破壊の原理を循環し続けるアルトリウスが天使や空母を無限に攻撃し続ける。

「ちっ、鬱陶しい攻撃をこうも循環させるとは……」
「万象一切を終わらせる破壊の原理に例外はない。俺の認知範囲外へ逃れれば生き延びるかもしれんが、果てしなく遠いぞ。その空母、まだ動くとは限らんが」

　アルトリウスのその言葉を裏付けるべく、トリテレイアは泳いでスクリューに取り付く。

「小惑星爆砕用特殊削岩弾発射装置……兵器ですらありませんし、騎士らしくない戦法ですが……まぁ、我慢しましょうか……」

　はぁ、とひとつため息をつきながら、トリテレイアは削岩弾発射装置をスクリューやラダーにぶつけて空母を航行不能に陥らせる。

「……どうやら現実に動けなくなったようだな。さぁ、諦めるが良い」
「やってくれたものだ……全く、称賛に値する」

　対峙するアルトリウスとネルソンはにらみ合いを続ける。環境と原理を支配される中で、ネルソンは己の不利をひしひしと感じずにはいられなかった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

●敵の策を利用しない手はない
「他の世界なら兎も角……」

　猟兵たちの猛攻や奇策の数々を受けるも未だ健在の空母を見て、エメラ・アーヴェスピア（歩く魔導蒸気兵器庫・f03904）は嘆息する。

「グリードオーシャンで空母と戦う事になるとは思わなかったわ。世界の制限を受けそうな物なのによくやるわね……」
「飛べない空をカタパルトで無理矢理飛ぶとか、敵ながら無茶苦茶だね！」

　そんな状況下でも快活な笑顔を崩さないのはニィナ・アンエノン（スチームライダー・f03174）。おもしろーい、とニコニコ笑っている。

「しかし、敵に上を取られているというのは致命的です。圧倒的優位を崩すには少々損害を覚悟しなければならないかと……」

　難しい顔をして考え込むのはノア・クレムリィ（海駆ける鋼鉄の竜騎兵・f30572）。空からの脅威は故郷の世界でひしひしと実感しているだけに、その言葉は重い。

「あ、それならアレだよ！　無理やり飛べば良いんだよ、こっちも！」
「無理矢理飛ぶと言われましても……」

　ニィナの言葉にノアは頭を振るが、一方でニィナの言葉を聞いたエメラははっと顔を上げた。

「それよ」
「え？」
「無理やり飛べばいいのよ！」

　あっけにとられる2人を前に、エメラはいたずらっぽい笑みを浮かべた。

　エメラの提案した策に乗る形で、3人は戦闘を開始する。
　まずは上空から襲い来る天使たちに対抗しなければならない。ニィナはバイクに板を取り付けることで即席の水上バイクを作成、サーフィンの要領で波に乗る。一方のノアは乗機「ガンド」を防御型に換装する。手数が減少するものの、爆雷からは身を守ることが可能だ。エメラは騎乗鎧に乗ると、対空砲や機銃を装備群から選択して搭載、弾幕を張ることで爆雷を迎撃した。

「さぁ、行くわよ！」
「「了解！」」

　エメラの号令に合わせて、ニィナとノアが動く。エメラが用意したのは魔導蒸気カタパルト砲。これを天使たちに向けることで対空戦闘を行うことが可能なのだが、加えて今回の策の要でもある。まず、ノアがガンドをジャンプさせ、蒸気カタパルト砲に自らを乗せる。

「やってください！」
「了解、急加速するわよ、舌を噛まないよう注意して……！」

　カタパルト砲からガンドが撃ち出される。空中で急加速したガンドは砲の照準をジャミングで妨害しながら空母へと吶喊する。

「次はにぃなちゃんね！　さぁ、爆雷こーい！」

　ニィナは爆雷の投下位置を予測、落着地点の付近で待機する。爆雷投下と同時に魔力シールドを展開、爆風とそれによって巻き起こる波を受けて一度大きくジャンプ。エメラのカタパルトに飛び乗った。そのままエメラのカタパルトから射出され、さらに天高くニィナのバイクが舞い上がる。

「目標、射程範囲全部ろっくおーん！　全弾発射ーっ！」

　次の瞬間、ニィナのバイクから無数のミサイルが天使の集団目掛けて放たれた。

「レーダー照射！　ブレイク！　ブレイク！」
「ネガティブ！　ミサイルが近い……っ！」

　必死のマニューバ虚しく次々とミサイルに撃墜され、海面へと墜ちていく天使たち。2人を射出した後、エメラはカタパルト砲で対空戦闘を行ったこともあり、空域を埋め尽くさんとしていた天使たちはあちこちで落下に伴う水柱を上げていた。

「馬鹿な……全く同じ戦術だと！？」
「一度見てしまえば模倣は楽よね」

　自身の策をそっくりそのまま返されてしまい、ネルソンは驚愕に目を見開く。カタパルトは猟兵も持っていたというのか。エメラは意趣返しだ、とばかりに鼻を鳴らす。そして、ネルソンの頭上にはガンドが迫っていた。

「我ら海龍、空母すら屠ってみせます」

　爆雷「モーニングスター」が空中から投射され、ネルソンの驚愕の表情は爆風の中に掻き消えていった──。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●猛禽と神盾
　エドゥアルト・ルーデル（黒ヒゲ・f10354）とイザベラ・ラブレス（デカい銃を持つ女・f30419）は揃って忌々しげに空を見上げる。

「もう抑えた気でいやがる……空が誰のものか教育してやるか」
「同感。私達のやり方ってのを見せてやりましょう」

　2人は奇しくも同じ発想であった。即ち。

「「現代兵器には現代兵器をぶつけんだよォ！！」」

　エドゥアルトがユーベルコードで呼び出すのは21世紀における最強の制空戦闘機、否、「航空支配戦闘機」、その名もF-22ラプター。ステルス性能とスーパークルーズを兼ね備えた第5世代戦闘機にして空戦の王者だ。
　イザベラが召喚するのはアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦とタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦からなるミサイル艦隊。いずれも空の敵に対する鉄壁の守りを実現する艦載兵器システム、「イージスシステム」を搭載している。

　予めエドゥアルトがばらまいたUAVが天使たちの気を引く中、ラプターは空へと舞い上がる。

「そう、短距離で即離陸を実現する、そのためのSTOL機、そのための高推力双発エンジン！」

　一方のイザベラはアーレイ・バーク級の艦首にキャバリア「マイティ・バリー」を搭載。輪形陣による艦隊運動を行わせつつ、艦対空ミサイルSM-2やCIWSの弾幕による強力な防空網を形成。近寄る天使がSM-2の直撃を食らって爆ぜ、CIWSに蜂の巣にされていく。ここにマイティ・バリーのガトリング砲も加わり、天使はうかつに近寄れなくなってしまった。

「馬鹿な……制空権は確保できていたはずだ！」
「制空権を取られていてもこの防御力、これが神盾の名を冠したイージス艦の実力よ！」
「イージス……！」

　ネルソンは兵器のさらなる進歩を前に膝から崩れ落ちる。

　一方のエドゥアルトはラプターを駆り、猛禽の名に恥じぬ戦いを繰り広げていた。直掩の天使たちはAMRAAMによってまとめて撃墜され、上昇旋回戦を挑まれた天使はM61A1によって空中で死のジグ・ダンスを踊る。

「FOX3！　さぁーて、そろそろ仕掛けますぞ！」
「了解！　艦隊の全艦に告ぐ！　ハープーン発射用意！」

　ラプターが低空で侵入して空母の甲板をかすめ、SAMのロックを回避してみせる。その風圧を受けながらも、飛び去っていくラプターを呆然としながら眺めるネルソン。その一方で、イージス艦隊はハープーン対艦ミサイル発射機が続々と起動する。

「今だ！　これが制空権を超えた……航空支配でござる！！」
「てーっ！」

　ラプターからは爆弾GBU32が投下され、JDAMによって落下コースを誘導されながら甲板の識別記号目掛けて落ちていく。そして、タイコンデロガ級、アーレイ・バーク級からは一斉にハープーンが発射され、空母めがけて飛んでいく。

　迫る自らの最期を悟り、ネルソンは瞑目した。

「イージス、そして制空権を超えた航空支配……なるほど、俺にはまだ、空は遠いな……」

　見上げる青空は高く、遠く。ミサイルと爆弾の爆風の中でその身を四散させながら、ネルソンは最期まで、自らが手を伸ばし、そして届かなかった空を眺め続けていたのだった……。

　──羅針盤戦争、作戦コード「オペレーション・ラプター」、完遂。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2021年02月05日