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羅針盤戦争〜轟雷

#グリードオーシャン #羅針盤戦争 #グリードオーシャン大海戦

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#羅針盤戦争
#グリードオーシャン大海戦


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 猟兵達がこれまで探索した海域、蒼海羅針域《コンキスタ・ブルー》内のある島に住む人々はそれを聞いた。
 空を揺るがすような遠くからの音は雷鳴だ。誰もが知っている。異常気象が常のこの世界において、それは珍しくもない環境音だ。
 だが、
「……!?」
 今日は違った。雷鳴が止まらないのだ。
 誰もが音源の方へ意識を向けた。蒼海羅針域の外、まだ未開の海域に存在していたのは必然、雷を運ぶ黒雲だ。しかし、必然を見たからこそ人々は余計に混乱した。
「何で海の上に雲がある!? しかも、異常な範囲だ」
「それにアレ、動いて――」
 と、そこで誰かが、否、と言葉を否定した。
 動いているのではない。
「蠢いている……!」
 遠くの海から、雷鳴が多重に轟いた。


「“羅針盤戦争”……。グリードオーシャンの命運を賭けた“戦争”は、各所で行われています」
 猟兵たちの拠点、グリモアベースでフォルティナは言う。言葉と共に広げるのは海図だ。中央に渦潮を配置したそれは、蒼海羅針域の海図に他ならなかった。
「我々が探索した蒼海羅針域の外から、オブリビオン達が迫っていますの。どうやら連中は蒼海羅針域の中央にある渦潮を狙っているようですわ。この渦潮を破壊されてしまえば、我々猟兵はもうこの世界に来ることが出来なくなってしまいますものね」
 海図中央を指示しながら、言葉を続ける。
「皆様にはこれを阻止して欲しいのです。敵は蒼海羅針域の外から、すなわち全方位からやってきますわ。大軍勢と言える数と、グリードオーシャンのあちこちで戦うことになりますの」
 それはつまりどういうことか。
「戦場が、海上や鉄甲船上になるということですわ。異常気象や悪天候が常のこの世界、戦闘は一筋縄ではいかないと思われますの」
 無論、そういった戦いの方が慣れている方もいらっしゃるかもしれませんけれど、と言いながら、フォルティナはさらなる資料を出した。
 画像資料に描かれていたのは、黒い流線系の身体を持ったオブリビオンだった。
 雄々しい牙と鋭い眼、紫電を纏うその姿は黒龍だ。
「名をカミカミドラゴン。皆様に撃破して貰いたい相手は、このオブリビオンですの。
 このオブリビオンはある神に仕えるドラゴンでしたが、この世界へ切り離されたために理性を失って凶暴化。今では何にでも噛みつく暴れ者になりましたわ。この黒い姿、実は身体が髪の毛で構成されているんですの。一本一本独立した髪ですので水中を抵抗無く進み、水上に上がれば髪同士の摩擦によって非常に強力な電気が生じる……。と、水中・水上共に強力な相手ですの」
 そんな龍が大量に迫っているのだ。
「現場では水中に沈んだ個体もいれば、それらの上に乗って乾いたまま帯電する個体も……。そうやってオブリビオン同士が折り重なった立体的な様子は、波ではなく雲が海の上にあるようだと形容されていましたわ」
 さあ、と。
「船上や海上で紫電纏う龍とどう戦うか……。皆様のご武運を祈ってますの」


シミレ
 シミレと申します。TW6から初めてマスターをします。
 不慣れなところもあると思いますが、よろしくお願いいたします。

 ●目的
 ・敵オブリビオンの撃破。

 ●説明
 ・グリードオーシャンで戦争イベントが始まりました。蒼海羅針域の外に潜むオブリビオン・フォーミュラ他の元へ到達するため、猟兵達は戦っています。
 ・逆に敵は、蒼海羅針域を破壊するために中央の渦潮を狙ってきました。これを破壊されると猟兵達はグリードオーシャンへ来ることが出来なくなってしまいます。
 ・渦潮の破壊を阻止するため、猟兵達は迫り来る大軍勢を迎え撃ちます。

 ●プレイングボーナス
 以下に基づく行動をプレイングに書いていただければ、プレイングボーナスが発生します。

 プレイングボーナス……海上戦、船上戦を工夫する(海上では飛行や転移が阻害されています)。

 ※プレイングボーナスとは、プレイングの成功度を複数回判定し、最も良い結果を適用することです(詳しくはマスタールールページをご参照下さい)。

 ●他
 皆さんの活発な相談や、自由なプレイングを待ってます!!(←毎回これを言ってますが、私からは相談は見れないです。ですので、なおのこと好き勝手に相談してください。勿論相談しなくても構いません!)
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第1章 集団戦 『カミカミドラゴン』

POW   :    雷神・雷怒紫(かみなりおこし)
【激しく暴れ回り、摩擦によって生まれた電撃】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    暴君・八噛(やっかみ)
【目に付く全てに対して鋭い噛みつき攻撃】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    連獅子・髪縛維(かみしばい)
自身からレベルm半径内の無機物を【自身の身体の一部として髪の毛】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 鉄甲船や自前の船に乗り込んだ猟兵達は、それを見て、聞いた。
「――!!」
 正面、水平線の向こうから迫る黒雲と、そこから生まれる絶叫という雷鳴をだ。
 蠢く黒をよく見ればひとつひとつがカミカミドラゴンであった。
「……!!」
 狂える龍は最早敵味方の区別なく、互いが互いに貪っている。荒れ狂うようなその様子は無秩序に見えて、しかしたった一つの動きを常に有していた。
「渦潮に向かっている!」
 最短ルートを狙った、直進だった。
千頭・定
冬!海!戦争!
海に浮かれる素敵な世界を脅かすとは人類の敵。
髪の毛増し増しなドラゴンとは侮れません。
正々堂々真っ向から迎撃してみせましょう。

鋼糸を駆使して移動しますよう。
ロープワークで糸を船上のマストや備品に引っ掛けて、バランスを崩さないよう移動していきます。
海上戦に対しては適宜糸を組んで足場にする、もしくは船上へ糸を繋げて対応しましょう!命綱!

ドラゴンさんの髪の毛に対しては、予め周囲に鋼糸を張って拠点防御。
糸に触れたのを感じたら、そのまま手繰って切断します。

海に浮かれてる自覚はありますので。
上手く髪を切れなかったら申し訳ありませんよう…

(アドリブもろもろおまかせです)




 風を切って進む船の上、定はそこにいた。
「……冬! 海! 戦争!」
 自分を囲むシチュエーションはそんなところだと、改めて思う。五感として解る。
 風の勢いは強く、刺すような冷えを寄こす。耳の中で轟音が唸り、荒れ狂う波に浮き上がった船は、次の瞬間に海面へ叩きつけられ、
「――しょっぱい! そして冷たいですよう……」
 寒いの苦手なんですけどね、と思わず笑う。波の雫ひとつひとつが氷のようだったからだ。口の中に入ったのも含めて、触れた傍から身体が強張りそうになるが、強張っては駄目だ。
「戦争ですからね! しかし敵は、海に浮かれる素敵な世界を脅かすとは……」
 またもや波で浮き上がった船の上で、正面の黒雲を視界に収める。
「あの黒い姿が髪の毛増し増しなドラゴン? 侮れません!」
 次の瞬間、船は再度海面に叩きつけられた。
 波の飛沫が上がる。先ほどよりも大きい飛沫は、散弾のように甲板へ降り注いできた。
 だが、その頃にはもう定は今までの場所にいなかった。
「――正々堂々真っ向から迎撃してみせましょう!」
 行動を開始したからだ。


 急げ……!
 定は船上を文字通り縦横に駆けていた。
『……!!』
 強風を押し退けてカミカミドラゴンの咆哮が聞こえてくる。音の圧から、敵との距離が先ほどよりも縮まっていることは明白だった。
「急げ急げ……!」
 思考と言葉、そして行動が一致していく。今、定は船の端から端まで駆けて、ある“準備”を行っているのだ。
「――――」
 手に持った鋼糸を駆けることで風に流しながら、船の至る所に張り巡らせていく。荒波と強風で揺れる船の上で動き回るなど、暗殺を稼業とする一家の出でも油断はできない芸当だが、マストや船の貨物などに糸を回して身体を支えれば安定していく。
「よっ、と……!」
 後は船の挙動に逆らうのではなく、沿うように身体を動かしていく。船が沈めば落ちるように加速し、船が波で押し上げられれば、
「跳躍! ……ッ!」
 甲板を蹴って、跳ね上がる。突風で吹き飛ばされそうになるが、既に糸は十分張り巡らされている。
 マストに留めた糸を頼りに、そのマストの上部へ取り付いていく。そうやって高い視界を得ると、敵の様子がよく解った。
 龍が密集したことで出来た黒雲の中で、紫電とは別の光が怪しく光っていた。
 龍の眼だ。
『――!!』
 十分に船へと接近したオブリビオンが、マストの上部という目立つ場所に猟兵がいることを認めたのだ。
 今まで仲間で噛みつき合うほど荒れ狂っていた龍らが一転、船目がけてラストスパートをかけてくる。
 すわ激突か、そう船上にいた全員が思ったその時。
「――今です!!」
 定は、身体を支える糸を持った手とは逆の手を引き絞った。今まで手繰っていたのが移動のための糸であれば、逆手に握られているのは何か。
「防御のための糸ですよう!」
『!?』
 船体と激突する寸前、全てのカミカミドラゴン達が見えない壁に阻まれたようにその進軍を押し止められた。
 否、
『……!?』
 進軍を“寸断”された。
 船体に噛みつくために開けられた顎をスタートとして、龍の身体が次々に断たれていくのだ。
 船の外周に張り巡らされた鋼糸のカウンターによるものだった。
 突進の勢いが強ければ強いほど、龍は身体の大部分を断たれ、勢いが足りなくても後続に押しつぶされ、やはり鋼糸に断たれていく。
 まるで船体自体が刃になったようだった。迫る黒龍を断って、外へ捨てていく。
「よし! 海に浮かれてる自覚はありましたが、意外にいけましたね……!」
 結果を見届けた後、定はマストから飛び降りた。予想外のカウンターに戸惑ったカミカミドラゴン達がたじろいでいる今、向かうのは船の外側。外壁と言えるような部分だ。
 マストの糸を命綱に外壁へ足を着ければ、己の身体の両側は海と空になる。
「この調子でいきますよーう!」
 さらに鋼糸を張り巡らせるため、定はそこを駆けていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

マレア・ソレッタ
海の上での戦闘だね!
よっし、ボクに任せておいて!

Como el vientoでの【サーフィン】で波を捉えて敵群へ接近。
荒れ放題の波だけど、この程度乗りこなしてこそのオーシャンハンターだよ!

水中から近づく敵もいるようだから、敵が近くなったらそっちへの警戒を重点的に。
迫ってきたところで波を使ってジャンプ、水上へ誘い出す。
後は最初から水上にいた敵もろとも、群打ちの銛で一網打尽にするよ!

もし水中に引き込まれた場合は、マチェットで絡みつく髪を斬り、自由になったところで群打ちの銛を纏めて叩き込もうかと。




『……?』
 蒼海羅針域へ向けて進むカミカミドラゴンたちは異変に気付いた。荒れ狂う海の上ではあるが、だからこそその異変は目を引いた。
 見る。
 中央の渦潮を目指して進む自分達の視界にあるのは、猟兵が迎撃のために用意した船舶だった。
 それはこちらの進撃にとって妨害であり、何より目障りだった。だから噛み砕こうと顎を開いて突進していったとき、それに気づいた。
『――――』
 ほんの一瞬も休まることなく荒れ狂う波の上で、何かが動いていたのだ。
 別の船かと思ったが、それはあまりにサイズが小さかった。
 近づいてくる。
『――!』
 警戒と威嚇の吠声を放ったことで、周囲の波飛沫が散っていく。果たして、飛沫の向こう側にいた正体を知れた。
 猟兵だ。
 波に乗って、やって来ている。


 マレアは波の上にいた。
「海の上での戦闘だったら、ボクに任せて!」
 サーフボード“Como el viento”。たったそれだけで、荒れ狂う海面の上に立っているのだ。
 雨や飛沫がカミカミドラゴンらの咆哮で消し飛ばされたのも僅かな間だった。すぐに周囲で波と波がぶつかり合い、水飛沫が立ち上がって周囲が霞み、判然としなくなる。
 突風で吹きすさぶ飛沫によって、マレアはまるで吹雪の中にいるようだった。
 ただ解るのは、霞の向こうで蠢く黒雲の影と足裏でのたうつ海の波の感触だけだ。
 しかしマレアは迷わなかった。
「この程度乗りこなしてこそオーシャンハンターだよ!」
 周囲の遠近すら狂いそうな状況だが、バランスを狂わせず“Como el viento”でしっかりと足下の波を捉えた。
「おぉ……!」
 波の流れを読み、そこに身体を持っていくのだ。引き波に乗り、逆に波が寄せてきたら逆らわずにそのまま推進する。ボードとマレアは一心同体だった。重心を細かく移動させ、荒波に振り回されずに乗りこなしていく。
 その時だった。
「――――」
 突然、波の反応が変わったのにマレアは気付いた。今までも不規則で無秩序な波だったが、今のは違う。
「……!」
 既存の波を押し退けて急激に迫る気配だった。その正体は何か。
「――やっぱり!」
『……!』
 直感に従い、波に乗って空高くジャンプした直後。今まで自分がいた場所を貫くように、海中から龍が突き上がって来ていた。
 海中に潜んでいたカミカミドラゴンだ。牙を打ち鳴らし、しかし不発だと知った龍は怒りの咆哮を嵐の空にぶち上げる。
「海の中にもいるとは聞いてたけど……!」
 事前情報としても知っていたし、“波の気配”でも解っていたので回避は成功。だが、
「まだまだいるよね!」
『――!!』
 眼下の海面のあちこちが揺らぎ、そして一斉に割れた。他のカミカミドラゴンが飛び出してきたのだ。跳躍で回避した後、空中で身動きが取れないところを狙った第二波の攻撃だった。
 視界の中、矢のように海面から飛び出して来たカミカミドラゴンの数は優に十を超えている。
「――でもみんな纏めて獲っちゃうよ!」
 言って、片腕を振り上げた。その手には長柄の得物が握られていた。銛だ。
「いっけーっ!」
 マレアはそれを上空から眼下へ、一気に投擲した。迫り来るオブリビオンらに目がけてだ。
 投じた瞬間から銛は無数に分裂し、視認していたカミカミドラゴンすべてに突き刺さっていった。銛の穂先によって髪の身体は断裂していき、千切れた髪束が風に散っていく。
「うわっ!?」
 すると、髪束の向こうから一体のカミカミドラゴンがこちらに髪を伸ばしてき、マレアの身体を捕らえた。
「まず――」
 次の瞬間、海に引きずり込まれていた。
「……!」
 息が出来ず、暴れ狂う勢いそのままに海中を振り回される。だが水中に引きずり込まれることも想定していたマレアは、愛用の銛を握った手とは別の手がすぐさまマチェットを抜き放ち、
「――!」
 身体に纏わりつく髪束を一気に断ち切った。
 離脱する。フリーになった身体を、水中で一回転、二回転と回転を重ね。
「……!!」
 その反動で、未だ海中に潜んでいたカミカミドラゴン達へも銛を全力で投じた。
 海中で、威力が炸裂した。

成功 🔵​🔵​🔴​

龍・雨豪
ここの世界に来れなくなるなんて戦略的敗北もいいとこね。
水上・水中でも戦える私がこっちに加勢してあげるわ。

しかしその龍も可哀想にねぇ。帰れないばかりか自分すら見失って。
境遇も私と似てる気がするし、他人事とは思えないから介錯してあげましょ。

この辺は何故か飛べないみたいだから泳いで行くわ。
ある程度近づいたらオーラを飛ばして互いを繋いで、手繰り寄せてから殴り飛ばしてやりましょ。
オーラで繋いだ奴を振り回して、他の奴にぶつけてやった方が早いかもしれないわね。遠心力も乗るし……。

雷を纏ってるみたいだけど、積乱雲の中じゃそんなのいつもの事だから慣れっこよ。
あなた達同様、耐性持ってるんだから!




 雨豪は浸っていた。今、彼女がいるのは戦場に近い島の沿岸だ。波に浸っているのは足首までだが、しかし浸っているのは身体だけではなかった。
「……あの龍も可哀想にねぇ。帰れないばかりか自分すら見失ってるだなんて」
 雨豪の視界の先にいるのは海面に浮かぶ黒雲だ。夥しい数のオブリビオンが密集して出来たその黒雲は、ひとつひとつがカミカミドラゴンという黒龍の集合体なのだと知っている。
 曰く、元は神に仕えるドラゴンだったが、この世界へ切り離されたために理性を失って凶暴化したと。
 グリードオーシャンという世界の特性だ。この世界の島々は、他の世界から“落下”してくる。元の世界から切り離され、最早戻る事が叶わないのがほとんどなのだ。土地が“島”となるならば、その上に住む者達はどうなるか。己にとって得難い存在から急に切り離されれば、人は、神はどうなるか。
『――!』
 黒雲から、嵐の海を突き抜けて咆哮が聞こえてきた。
「…………」
 龍の咆哮は風として身体を押す程の圧を持っていたが、雨豪は構わず足を進めていく。
 海へ、足を沈めていく。
「でもまあ、ここの世界に来れなくなるなんて戦略的敗北もいいとこよね」
 雨豪は思う。己ならば、水上・水中でも戦える。ならば自分が行くべき戦場は“ここ”だと。
 だからそうした。
「……!!」
 砂浜を蹴って、海へ飛び込んだのだ。
 行く。


『……!?』
 蒼海羅針域中央へ向かっていたカミカミドラゴン達は驚愕し、動揺していた。
 何故かと、思考しても何も解らなかった。何も解らないことばかりだったからだ。
 何故、自分達はこの世界にいるのか
 何故、自分達は憤怒しているのか。
 何故、自分達は進軍しているのか。
 何故、その進軍が今、止まっているのか。
 何故、自分達は足を止め、驚愕し、動揺しているのか。
 そして、
「――他人とは思えないのよね」
『!?』
 何故、自分達の巨体が、猟兵一人に殴り飛ばされていくのか。
 何もかもが理解の外だった。


 雨豪は力を振るった。沿岸から一直線に距離を詰め、カミカミドラゴンの群れに近づくないなやユーべルコードを発動したのだ。
 ユーべルコード“ドラゴニアン・チェイン”。ドラゴンオーラが命中した対象を爆破するユーべルコードだが、効果はそれだけではない。
『!?』
 爆炎の後、そこに残るのはカミカミドラゴンへ繋がれた鎖だ。龍は突然の拘束に戸惑い、無意識というか荒れ狂う意識そのままに戒めを振り千切ろうと身を暴れさせるが、
「力比べかしら? ――それ」
『……!?』
 雨豪が腕を振るうだけでその巨体が引き寄せられた、否、身体だけではない。海の上なのだ。身体が引き寄せられれば自然、波も遅れてついてきて、大波として雨豪を押し流そうとするが、
「――他人とは思えないのよね」
 もう一度、先ほどと同じ言葉を呟いた。まるであらゆる水は己の抵抗とならないかのように大波には影響されず、むしろその衝撃で彼女は海面から跳ね上がっていった。
 正面、雨豪はそこに鎖で引き寄せられた黒龍の顔を見た。
 次の瞬間にはその顔面を拳で打撃していた。
 強打だった。
『――!?』
 怒りと痛苦、そして驚愕が混じった絶叫が雨豪から離れていき、再度黒雲の元へ衝突していった。
「そう、境遇も私と似てる気がするし、介錯してあげましょ」
 空中で拳を引き戻しながらその光景を見ていた彼女は、そのまま着水し、潜水。尾の振りで水を打つと、その勢いで直進していく。狙うは水中の敵だ。
 水中の敵にもドラゴンオーラをぶつければ、海中でやはり爆発が発生し、それによって生じた衝撃波に乗って雨豪は再び海面へ躍り出た。鎖で繋いだカミカミドラゴンも一緒だ。引き上げ、
「せぇ、の……っ!」
『……!?』
 引き上げた勢いそのまま、勢いよく振り切った。まるでハンマー投げのようにカミカミドラゴンが海の上を振り回され、遠心力が乗った巨体で他の龍を吹き飛ばしていく。
 と、
「あら?」
 雨豪の周囲からカミカミドラゴンがいなくなっていた。ハンマーを振り回した分だけ、敵が吹き飛んだ結果でもあるが、
「それだけではなさそうね」
『――――』
 雨豪を中心として、カミカミドラゴン達が海上に包囲陣を敷いていた。
 そして円形に取り囲んだ黒龍たちが、暴れ回って互いの身体をこすり合わせればどうなるか。
『――!!』
 “雷神・雷怒紫”。増幅された紫電が包囲陣の内部に炸裂した。


 カミカミドラゴン達はそれを見た。何もかもが雷撃という圧倒的な光で埋め尽くされる光景をだ。
 莫大量の光を一気にぶちまけたことで、包囲陣の内部はただ白と黒の色だけが存在する空間となった。激しい光が全てを白く照らし、形あるものは影の黒として残るのみだ。
 白々しく照らされる海面に残る影は、一人の猟兵だった。そこに目がけて雷撃が連続着弾していく。
 いった。
『……!!』
 炸裂し続ける雷撃によって大気の破れる大音が連続し、最早無音に等しい空間の中、カミカミドラゴン達は勝利の咆哮を挙げた。
 自分達の勝利を確信したからだ。しかし、
『――――』
 影が、動いていた。
 雷電迸る度に明滅するコマ送りのような視界の中、影は雷撃をものともせず動き出している。
 その姿を見てやっと、カミカミドラゴン達は相手がただの強力な人間ではなく、自分達と似た存在なのだったと知った。
 雷が降りしきる中であっても悠々と身を泳がせる存在を何というか。
「――――」
 大音で全ての音が覆われている中、相手が何と言ったのかなどカミカミドラゴン達には聞こえなかったが、そんなことを考えている暇も無かった。
 瞬間だったからだ。コマを飛ばされたのかと思うほど刹那に、手近な一体へオーラが着弾。
「――!!」
 打撃音が、嵐の海に響きわたった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ビードット・ワイワイ
海に居りし強力なりし龍よ
この海にて最も強力なりし者が誰か知れ
これより来たるはただの亀にあらず

海であれば負けるはずなし
我が姿は亀に変ずる
この硬度貫き傷つける事出来るか?
たとえ傷つけたところで水があれば全て癒えよう
砲門生成し来たる者を全て薙ぎ払う
我が身の総ては海中でこそ発揮する

その怒りその力全て無為と知れ
全て些末な事である
ここで終える者には無意味である




 それにまず気づいたのは、カミカミドラゴンの中でも海中に潜むもの達だった。
『……?』
 自分達以外にも海中を動き回る存在がいる。そのことに気付けたのは海の中に痕跡が残っていたからだった。
 荒れ狂う海だ。水が削られたことを示す白い泡の痕跡は、“それ”が無論魚などではなくもっと巨大で強烈な存在だということを示していた。
 泡の軌跡は海中から、海面へ柱のように伸びている。
 敵が、この一瞬で既に海上に上がったということだった。


「…………」
 ビードットは海上にいた。荒れる波に流されない程度に推進器へ出力を送るだけで、ただ波間に揺れている。揺れながら、言葉を発した。
「海に居りし強力なりし龍よ」
 正面、出現に気付いたカミカミドラゴン達が咆哮を放ち突撃して来るが、ビードットはその時になってもやはり回避も攻撃も選択しなかった。
「この海にて最も強力なりし者が誰か知れ」
『……!』
 巨体が波を蹴散らし、嵐の中を突っ切ってくる。大口を開けた龍の瞳すらもはっきり見える程だった。
 そして激突する直前、
「これより来たるはただの亀にあらず。――“実行仮想破滅・悪意のみ知る大亀よ”」
 ビードットがそう呟いただけで、戦場の状況は一変した。
『!?』
 突撃を敢行した黒龍のうち、海中も含めたどの個体も等しくそれを果たすことが気無かった。
 衝突の瞬間、突如として生じた壁へぶち当たったからだ。
 突如として付き立った壁の構成要素はただ一種、海水のみであり、それはビードットの周囲で生じた膨大なエネルギーによって巻き上げられたものだった。
 進軍を阻む水の壁によって黒龍の牙は触れるどころか、接近すらも拒絶され、押し退けられた。
 否、
『……!?』
 弾き飛ばされた。
 上空、カミカミドラゴンらの驚愕の叫びがそこから聞こえたのも束の間、すぐに海面へ叩きつけられる轟音が順次響く。が、そんな音ですら別の大音にかき消されていく。
 水の壁が崩壊する音だった。空高く立ち上がった水の壁はただ単に巻き上げられたものであり、それ自体が何かの能力で作られたものではなかったのだ。
 ただの副次効果の産物はつまるところ物理現象の結果だった。水の壁が崩れるにしたがってその全貌が明らかになっていく。
「――――」
 ビードットが、巨大化していた。
 姿は全長にして三百メートル。一瞬にしてそれほどまで巨大化した結果、大気も海も、一気に押し退けられて周囲に跳ね上がったのだ。
 怒涛の勢いで降る海水はビードットの新たな装甲を濡らしていく。変化したのはサイズだけでなく、姿もだった。厚く、山のような装甲を背負った四足のシルエットは、先ほどビードットが言った言葉通りだった。それは、
「ただの亀にあらず」
『……!!』
 泰山のような相手にカミカミドラゴン達は再度の突撃を実行した。先ほどの突撃と違う点は、密集し、互いに身体をこすり合わせて押し寄せていく事だった。
 一塊となったカミカミドラゴン達の周囲で紫電が激しく迸っている。その威力が尋常でないことは一目瞭然だった。
 衝突。
『……!』
 雷光がビードットの装甲を爆撃した。カミカミドラゴンの数だけ増幅された雷撃は、その高熱で装甲を溶解していく。
 装甲は抉れ、焼損していくが、しかしそれまでだった。
「どれほど穿とうと、どれほど傷つけようと、無意味である」
 ビードットが浮かぶ周囲から海水が彼に流れ込み、傷ついたそばから修復していく。装甲は補修され、そしてその上に新たな武装群を形成した。
 武装群は大小様々な砲台だった。その全てが周囲のカミカミドラゴン達に砲口を向けられていた。
「斉射」
 次の瞬間、戦場を砲撃の爆圧が埋め尽くしていった。
『……!!』
 迫る黒龍が砲弾に貫かれ、放火は雷撃でもっても止められるものではなかった。
 放火の中、ビードットは言う。
「その怒りその力全て無為と知れ。全て些末な事である。
 ――ここで終える者には無意味である」
 龍の絶叫が、戦場に響いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

レン・ランフォード
戦争開始で龍退治、また大変な話ですね
いいじゃねぇか、開戦は派手に行くもんさ
そうそう…だから、忍者らしく…行こう?

船の上だと下からこられると厄介ですね…なので
忍者らしく、海上を走り回ります!
「水上歩行」「ダッシュ」「足場習熟」

「残像」を残して錯乱誘導
「殺気」を「第六感」も合わせて「見切り」回避しつつ
走りながら手投げ魚雷をばらまきます

狙いをつけなくても向こうから口を開けて来ているのもありますが
【憑式・水神切】により「誘導弾」と化した魚雷が確実に龍の顎を砕くでしょう
「式神使い」「爆撃」

たまに走らせた魚雷に乗って休んだりしながら頑張って走り回ります
…たまには交代してくれてもいいんですよ?
任せる任せたー




 荒れる海、そこに浮かぶ船の上にレンはいた。
「戦争開始で早速龍退治って、また大変な話ですね」
 蓮だ。
 波飛沫が激しく立つ海の向こう側の黒雲を視界に収める。
 と、そこで声が来た。実際の音としてではなく、頭の中にだ。
 ――いいじゃねえか。開戦は派手に行くもんさ。
 己の別人格、レンの声はどこか気楽で、“自分”としては思わず動作として溜息を吐いてしまう。そして、
 ――そうそう……。だから、にんじゃらしく……いこう?
 また別の声だ。二人目の人格、れんだった。
 一人目も二人目も、彼女らは“自分”と随分性格が違うが、見た目以外にも共通する部分は勿論ある。そのうちの一つが、今れんの言ったことだ。
「忍者らしく、ですね」
 そう呟いた後、レンの姿はもう甲板の上にはいなかった。
「――!」
 船縁に足を掛け、そのまま船の胴、外壁とも言えそうな部分を駆けていった。
 下へ。海面に向かって駆け降りていく。
 レンは思う。今、己の状況は異常だと。何しろ舩の腹を床として駆ければ海が壁となり、そして今、己は壁に向かって“落ちている”のだ。
 船もことらさ大きいわけではない。海面なんてすぐに迫り、あと数秒で正面激突コース。
 だが、
「――――」
 己は歩数を見切り、自然な動作で足を海面に着けると、次はそちらを“床”にした。
 荒れる波を靴裏で捉えたのだ。
 ――すごい……まるでにんじゃだ……!
 ちょっと静かにしててくれませんかね。ともあれ、後はどうするか、
「――行きます!」
 駆けていった。海上を。


 カミカミドラゴン達は猛進していた。今、猟兵はわざわざ船から降り、自分達と同じフィールドまで来た。
 海、海上、海面。呼称は様々だが、そこを“戦場”として考えると一筋縄ではいかないと自分達は知っている。何しろ刻一刻と姿形を変えるのだ。決して平坦が連続しない。
 波で押し上げられ、まるで丘に立ったような景色を得たかと思えば、次の瞬間には自分が立っていた位置が谷のように下がる。アップダウンが激しい。それに突風だって吹き荒れており、横方向への揺さぶりもある。
「……!」
『――!』
 そんな戦場で、猟兵はこちらと戦っていた。自分達が咆哮すると、猟兵の衣服が風とは別に揺れるほどに互いは接近していた。
 見る。
「――――」
 波がアップした際は見晴らしが良いので猟兵は波の上に立って偵察するが、見やすいのはこちらからも同じだ。
 視認する。なので波がダウンしている間に自分達は猟兵へ接近し、もう一度アップした時にはもう、先ほどまでの位置にもいないし、姿も見せない。
 何処か。
「下……!」
『――!!』
 海面下へ沈み、猟兵の下側へ一気に迫るのだ。向こうが気配が悟るころにはもう遅い。次の瞬間には顔面が飛び出し、海水ごと猟兵の身体を砕く。
 砕いた。
「――――」
 顎によって天高く押し上げられた猟兵の身体は、潰され、砕かれ、しかし、
『……!?』
 仕留めた個体の牙から漏れたのは、海水だけだった。
 血が無い。
 何故。
 そう思った時には、
「――!!」
 自分達がいる場所とは別の方向で、爆発音がした。そちらへ視線を向ければ、水柱が立つほどの一撃の下、今仕留めた筈の猟兵が健在していた。


 レンは疾走していた。歩みを止めず、速度を緩ませず、ただただ海面を駆けていく。そうすることで海上のあちこちに残像を残していくのだ。
『……!?』
『――!?』
 船を中心とした周囲でカミカミドラゴン達が残像に惑わされ、混乱している。そしてそんな隙だらけな所を己は狙った。
「憑式・水神切……!」
 取り出した三十センチメートルほどの手投げ型魚雷に式鬼を憑依させ、投じるのだ。
 鎌首をもたげてこちらを探している個体には、まず一投して胴に当てることで身体を崩し、海面に伏したタイミングで顔面狙いの二投目だ。
『――――』
 二連撃で顎を砕かれたカミカミドラゴンが、力なく海中に沈んでいった。
 式鬼で強化された魚雷は投じる度、海面に豪快な水柱を上げる。残像で翻弄しながらといえども、そんな風に派手に立ち回っていればこちらの正確な位置を察知してくる個体もいるが、
「――大口開けてきてくれるなら、それはそれで結構ですよね」
 顎狙いの一投で片が付くからだ。
 付いた。
「ふう、ちょっと休憩……」
 水柱を立ち上げたのはこれで何本目か。背後の轟音を聞きながら、今自分が投じた魚雷の上に“乗って”、少し足を休める。
 普通であればこのサイズの魚雷に乗ることなど不可能だが、これは己が持つ技量によるものだ。
「つまり“私達”共通で出来ることなんで、これ。たまには交代してくれてもいいんですよ?」
 ――任せる。
 ――まかせたー。
「…………」

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年02月05日


挿絵イラスト