2

銀河帝国攻略戦⑤～宇宙を駆けるモノ～

作者：遭去

　慌ただしいグリモアベース内でチャーリー・ライドゴー（ぶらり自転車週末紀行・f03602）は集まった猟兵たちに頭を下げ口を開く。

「まずは皆さま『ヘロドトスの戦い』お疲れさまでした。そして、この戦いによってスペースシップワールドは大きな動きを見せています」
　先の戦いでミディア・スターゲイザーは失われた技術『ワープドライブ』を獲得。これにより今まで銀河帝国のみが行使していたスペースシップワールドでのワープ能力を手に入れることができた。
　この吉報とミディアと猟兵の声を聴き、多くの勇士が解放軍に加わろうと数多の宇宙船でミディアの元へ向かっている。
「しかし、銀河帝国がそれを見逃すはず程彼らは甘くはありません。
　既に銀河帝国は帝国戦艦を派遣し、宇宙船が解放軍に加わるのを阻止しようとしています」
　このままだと帝国戦艦の圧倒的火力によって宇宙船は撃破され、勇士たちは解放軍に加わる前に命が宇宙に消えることになるのは想像に難くない。

「もうお分かりかと思いますが、この帝国戦艦を撃破することが目的です。
　今から皆様にはここから敵の戦艦内に転移し、敵の撃破を行っていただきます。これは小規模とはいえ敵の拠点に入って行動するので、気を付けて挑んでください」
　この船にいるのは『デルタ・ファイター』という複数の戦闘機。
　コアの周りに三本の翼が展開しており、その姿は正面から見ると三角形の姿をとっているのが特徴だ。そしてそのフォルムとコアの背後部にあるエンジンによって宇宙空間での優れた機能性、航行性を誇る。
　この敵に宇宙船が見つかってしまったら逃げることは難しいだろう。
「『デルタ・ファイター』は貫通性のある機銃弾を使った攻撃がメインとなります。
　攻撃こそ機銃弾のみですが、追い詰められると理性を捨てた高速航行モードに移行して耐久力と攻撃力を増したり、増援を呼び出すなどの多彩な機能を有しており決して油断はできません」
　猟兵ならば倒せない相手ではないが、数が多いので注意して戦ってもらいたい。と彼が補足する。
「敵を掃討しましたら戦艦を破壊し、脱出してください。もし可能ならば脱出を先にしてその後破壊してもらっても構いません。
　破壊の方法は力任せに心臓部を破壊したり、プログラムをハッキングして自爆させたり……皆様が考えた方法で破壊してください」
　
　説明を終え、一息つくとチャーリーは猟兵たちの顔を改めて見て、また口を開く。今度は説明ではなく、激励の言葉を添えて。
「それでは気をつけて。帰りもお待ちしていますよ」

第1章 集団戦 『デルタ・ファイター』

POW   :    増援要請 自身が戦闘で瀕死になると【増援飛行隊 】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。 SPD   :    帝国軍の栄光のために！ 【制御不能の高速航行モード 】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。 WIZ   :    対宙銃撃 レベル×5本の【貫通 】属性の【機銃弾】を放つ。 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●駆ける物を狩る者
　帝国軍艦の某所。そこには一寸の狂いもなく整列するデルタ・ファイターの姿があった。
『出撃を許可。総員、対象を殲滅せよ。』
　無機質な音声が流れるとコアが青い光を纏うと思い体が浮き出す。銀河皇帝の命に従い、目標を宇宙の灰塵に変えるべくデルタ・ファイターがカタパルトから1体、2体と宇宙へと飛んで――
「そうはさせないわ」
　凛とした声が響くと同時、カタパルトの入り口に黒で塗りつぶしたような空間が現れる。入口に近い機体数体はいきなりの事に対処できず空間にぶつかり鈍い音を鳴らす。
　機体達が内蔵カメラを回すと船内から銀のポニーテールを靡かせるレイ・アイオライト（潜影の暗殺者・f12771）と同じく銀の髪の龍統・光明（千変万化の超越者・f02421）の姿を見つけた。
『――艦内に侵入者を確認。排除する』
　敵を見つけた彼らの判断と行動は早かった。航行態勢から戦闘態勢へと移行し、二人を殺さんと襲い掛かる。

　光明が長刀に手をかけながら目視で部屋に存在する敵を確認する。敵の種類はデルタ・ファイターのみ。この場にいる数は数十体といったところか。
　デルタ・ファイターが機関銃の銃口を向ける。
　光明の身に弾が到達する前に長刀の銀の刀身が輝く。弾があらぬ方向に飛んでいくのを尻目にそのまま機体に距離を詰め一刀。
　一瞬の間を置いてデルタ・ファイターのコアが前後にずれそのまま爆発する。
「しかし、数が多いな」
　話は聞いていたがとにかく数が多い。時間が長引けば不利になるだろう。さらに――
『敵の脅威度ＢからＡへ変更。高速航行モードに移行する』
『了承』『了承』『了承』『帝国軍に栄光あれ』『銀河皇帝に勝利を』
　数体の同胞が猟兵に屠られたことに危機感を抱いたか。彼らは理性と制御を捨てれば今までよりも速度を持って襲いかかる。

　前方から突進してきた1体を袈裟斬りで一刀。そのまま遠心力に任せて後ろに横凪すれば2体が爆発する。
　遠方で銃口を向ける物がいればまるで雷に打たれたかのように急に動きを止める。
　いかな状況からでも必殺の軌跡を繰り出す一刀と、雷を纏い縦横無尽にかける糸の共演は戦場をかけていく。一体、また一体。だがその間にも増援が増えていく。　
「……ねぇアンタ、このポンコツ達をあそこへ集められる？」
　そんな時、レイの刀の切っ先が部屋の隅を指す。
「……やってみよう」
　光明が息を整え氣を練り上げ長刀へ。刀に纏った氣は徐々に大きなうねりとなり輪郭を作り出す。
「我が意に応えて暴れろ――九頭龍顕現」
　そのまま振り下ろせば100近くの九頭竜の咢が現れ、デルタ・ファイターに襲い掛かる。
　ある一体は炎の咢に飲み込まれた。ある一体は突風に吹き飛ばされ別個体に激突。ある一体は引力の尾に押しつぶされる。数多の災厄の暴虐に襲われる。
　弧を描くように現れたその咢はやがて部屋の角まで追い詰める。
　すると部屋が一瞬で薄暗くなる。レイが部屋の照明を落としたのだろう。
「あたしは影。あたしは闇」
　どこからか聞こえるレイの声。闇と同化したその声は先ほどよりもさらに冷たく、暗い。
「アンタを喰らう、暗黒の黄昏――！」
　紅い光が見えた。
　刹那、四方八方から無数の黒影の刃が襲い掛かる。数多の竜と黒い結界に阻まれ逃げるはおろかロクな身動きもできずデルタ・ファイターの群れは翼を、エンジンを、コアを刃に突き刺されて鉄くずへと姿を変えていった。

『エマージェンシー、エマージェンシー。ポイントＤにて侵入者発見。至急きゅうえｎ――』
　けたたましい救援信号をあげる最後の個体をレイの刀がコアを抉る。
「また来るわよ。気を付けて」
　コアから刀身を抜くとすぐさま次の増援に備える。
「またか……まぁいいさ」
　呼ばれた増援が姿を現すのを見つけると、光明は不敵な笑みを浮かべ再び長刀へ手をかける。
「どんな奴でも、邪魔するヤツは喰い散らかすよ」

●
「破壊！ 単純明快で至ってシンプル！　最終的に全部ぶっ壊すんだからどれだけ暴れても大丈夫だよね？」
「ええ、ですが攻撃が三千院様に当たらない様に気を付けないと……」
　三千院・操（ネクロフォーミュラ・f12510）が楽し気な声をあげる横で鳥渡・璃瑠（ドリ子おじょうさま・f00142）は少々緊張した声で答える。
「大丈夫、おれも瑠璃ちゃんに当たらないように気を付けるから！」
「……ええ！」
　操の顔を見つめると瑠璃は己の顔を数回叩く。そこには自信の満ちた表情が浮かんでいた。
「さて、それじゃあ行くよ――開け、ラジエルの書架」
　古びた魔導書を開く。ページをつづれば古代の記憶、もう一つの人格、ラジエルが目を覚ます。

　瑠璃を一歩下がらせると操――ラジエルは力ある言霊を呟く。
「零を一に、一を零に」
　言霊から溢れるは電磁波。自然界には電磁波を出す物がある。太陽もその一つだ。　
　しかしデルタ・ダイターは宇宙を縦横無尽に駆ける戦闘機。太陽から放出される程度の電磁波対策は万全を期している。デルタ・ダイター自身は作戦に支障はない、そう思っていた。
　突如機体が傾くまでは。
『－－！緊急事態発生。右翼操作不能。通常航行不能」
「ふふっ、普通の電磁波とは違うのです」
　電磁波に籠められた属性は酸。酸を纏う電磁波は金属の体を持つ彼らを確実に蝕み、動きを阻害していった。
　電磁波の奔流が途切れ、敵の動きが鈍くなったところで瑠璃が動く。正確には彼女ではなく彼女の髪がである。
　金のドリルヘアーが小さなドリルヘアーに分かれるとデルタ・ダイターを串刺しにしていく。
　何本かは避けられ打ち抜かれるドリルヘアーを見てラジエルはふと沸いた疑問を口にする。
「髪、大丈夫なのですか？」
「大丈夫でしてよ……それに、は、禿げるわけではないですし！」
　ちょっとお手入れ大変になりますけれど！　攻撃に使う以上仕方が無いとはいえ、乙女の髪を乱暴にされて瑠璃はぐぬぬとドリルを握る手に自然と力を入るのだった。
　　
　残りはあとわずか。電磁波から逃れた一体が理性をかなぐり捨てた捨て身の特攻をラジエルに仕掛ける。
　それをひらり。瑠璃が横から跳躍、手に持ったドリルで機体を壁に縫い付けた。
　そのまま力をこめコアを破壊しようとすると、別の機体が目標を固定、銃口を向ける。
「なっ…」
　銃弾が無慈悲に彼女を貫通する直前、二人の間に何かの影かが割って入る。
　何が起こったのか。瑠璃も撃ったデルタ・ファイターも、そして割って入り撃たれたデルタ・ファイターも何が起こったか分からず一瞬場が膠着した。
（これは……糸？）
　庇った機体をよくよくみると、糸が機体に巻き付いていた。
「瑠璃、油断はいけませんよ」
　盾にされ爆発する機体を横目にラジエルは彼女に銃口を向けた機体へ再び電磁波を放つ。青く輝くコアが色を失い、床に無残な音を立てて墜落した。

「さて……おわったねー！　お疲れ瑠璃ちゃん！」
「ええ、お疲れ様です三千院様」
　一帯の敵を倒し終わったことを確認すると、ラジエルもとい操は無邪気な表情を見せ、瑠璃もつられて笑みを浮かべる。
「さっき電磁波を出したときにハッキングしたんだけどね、この船の構造わかっちゃったよ！」
「まぁ！　それならば弱い所をついて壊してしまいましょう……だいじょうぶ。わたくしこれでもメカニックには心得がありましてよ？」
「じゃあさっそく！」
　操が立ち上がり廊下を走っていけば少し休みませんこと！？とワンテンポ遅れて瑠璃も操を追いかけていくのだった。　

●
『銀河皇帝ばんｚ――』
　解放軍に合流する宇宙船を殲滅すべく派遣されたデルタ・ファイター。
　最後の一体はレイの一刀を食らい役目を果たすことなく機能を停止した。
「さて、ここがこの船の心臓部ね」
「……はぁ、さぁてここを壊せばいいのか？」
　先の戦闘を終えたばかりの光明が息を整えながら心臓部にあたる部屋を覗く。
　部屋の真ん中に大きな機械が鎮座し、そこから数多のケーブルが壁側の機械へとつながっている様子が見えた。
「そうですわね……その中央のがコアですわね。これは壊さないけないですが、このケーブルに繋がっている機材も壊す必要がありますわ」
　これ壊さないとうまく自爆しないのですわ、と瑠璃は床の数本のケーブルをつまんで説明をする。
「よっし、それじゃあ壊しちゃおうか！」
　明るい声で操が声をかけ自身が操るグローブを手にはめ直す。
　それに応えてレイが、光明が、瑠璃が各々の得物を握りコアを、ケーブルを、機材を粉々に破壊する。
『警告。本船は60秒後に爆発する。総員、退避せよ。繰り返す――』
「目的は果たしたわ。皆、戻るわよ」
　けたたましい警報が鳴り響くと同時に船内のあちらこちらから爆発音と振動が鳴り響く。
　目標を果たした猟兵たちはその戦艦が終わる音を背に帰還するのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2019年02月08日