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【猟書家】過去との遭遇

#アリスラビリンス #猟書家の侵攻 #猟書家 #マーダー・ラビット #時計ウサギ

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「は〜い、こっちですよ。アリス御一行様! あ、暗いんで足元には気をつけてくださいね~!」
 アリス達を真っ暗なウサギ穴から別の国へと案内する、陽気な時計ウサギ。
 光の刺さない真っ暗な道を歩きながら、次の国にこそ、アリスさんの自分の扉があればいいですね! なんて先行する時計ウサギは楽しげに言うが、一行の口数は多くない。
「……本当に、早く見つかればいいのに……」
 はあ、と溜息を吐くアリスの少女。どこか思いつめているようにも、焦っているようにも見えるアリスの背を、同行していた花の妖精が優しく撫でる。
「焦っても仕方ないだろ? 次の国にはあるかもしれないんだし」
「それは、そうだけど……」
 途中から同行してくれたオウガブラッドの少年の言葉にも、アリスの少女は不安げな表情を隠さない。
 前の国に、自分の扉は無かった。だから、別の国に行かなければ、自分の世界に帰る扉を見つけられない。

 ――早く、早く帰らなきゃ。
 早く帰って、お姉ちゃんに……。

「え……?」
 思考の海に沈んでいたアリスの前で、いきなり歩を止める時計ウサギ。
 何かあったのか? とアリス達が不思議そうに思うも、眼前に立つ時計ウサギは笑顔のまま。
「色々ありましたけれども、そろそろ皆様ともお別れの時間となりました!」
「……は?」
 アリス達へ向けて言い切った言葉に、一行はぽかんとなる。
「意味がわからない?」
 訳がわからないといったアリス達に、くすくすと楽しげに笑うと時計ウサギは続ける。
「いやいや、僕って時計ウサギじゃないですか? ウサギ穴って、僕らが先導しないと通れないんですよ」
 何を今更と言わんばかりに解説する時計ウサギに、アリス達は訝んだ表情を浮かべる。
「じゃあ逆に、今みたいなウサギ穴のど真ん中で、時計ウサギが居なくなったら、一体どうなると思います?」
 ニィ……っと悪い笑みを浮かべながら問う時計ウサギ。
 その答えに行き着いたのか、アリスが慌てて時計ウサギに目をやれば、楽しげに笑った時計ウサギ――マーダー・ラビットは、暗闇の中その姿を消していく。
「正解は『骸の海の藻屑と化す』でした〜! てなわけでばいばい! でもいちおう穴の出口で待ってるから、出てこれたらご褒美に殺してあげるね〜!」
 残虐な言葉を楽しげに言い放つと、マーダー・ラビットの姿は完全に闇の中へと消え去った。


「また、猟書家に会ったのか……」
 グリモアに浮かぶ映像を見ながら、コーダ・アルバート(無力な予知者・f02444)は一つ息を吐くと、集まった猟兵に向き合って口を開いた。
「集まってくれてありがとう。アリスラビリンスで猟書家の一人、マーダー・ラビットが動いたのを予知した。皆にはその事件の解決を頼みたい。……猟兵によっては、彼女に会うのは二度目かもしれないしな」
 二度目? と不思議がる猟兵達。こくりとうなずくと、コーダは言葉を続ける。
「マーダー・ラビットが生み出したウサギ穴の中に閉じ込められてるのは、かつてホワイトアルバムによって記憶を無理やり思い出させられた、あのアリスだ」
「!」
 その言葉に、一部の猟兵が反応する。
 かつてホワイトアルバムに、双子の姉に捨てられたという記憶を無理やり引き出され、オウガへと変貌しかけたアリスのテラ。
 猟兵達に救い上げられ、姉に会って真実を知るために、自分の扉を探してアリスラビリンスを旅する少女。
「前に居た国に扉はなかったみたいで、別の国へと渡ろうとした時に猟書家マーダー・ラビットに声をかけられ、案内されたウサギ穴の中に取り残されたようだ」
 時計ウサギの居ないウサギ穴の中は、不安定に時空の歪む異世界と化している。早急にアリス達一行を助け、ウサギ穴から出なければ、骸の海の藻屑となってしまう。
「アリス達が落ちた国は一面の花畑に覆われ、花の香りはその国に入った者の過去を思い出させる。そこでアリスは、探していた双子の片割れに遭遇する」
 それが過去の具現でしかなくても、その国にいるテラには分からない。
 探していた姉に会えた。それだけでテラは歩を止めてしまえる。
 歩を止めてしまえば、ウサギ穴から出ることもなく、待つのは世界の崩壊に巻き込まれ、骸の海の藻屑となることだけ。
 だからテラに声をかけ、目の前の姉が幻であること、本当の姉に会うために先を目指そうと励ますことが大事になってくる。
「だが……この国の花畑の効力は、猟兵にも影響を及ぼす。誰にでもあるつらい過去、何より幸せだった過去が、足を止めさせようと襲ってくる。……それでも、それらは過ぎ去った過去だ。これから得られるはずの未来を捨ててまで手にするものでも、足を止めるものでもない」
 コーダはグリモアから転移の魔法陣を展開する。
「アリスを励ましてウサギ穴から脱出し、穴の出口で待ち構えているマーダー・ラビットを倒してほしい。この件、よろしく頼む」


早瀬諒
 オープニングを読んで頂き有難うございます。早瀬諒です。
 二度目のアリラビシナリオ、前回助けたアリス(「たいせつだったもの」参照)の旅の続きですが、OPの通りなので知らなくても大丈夫です。

 今回のシナリオは猟書家の幹部・マーダー・ラビットが相手となっております。

 第一章は過去に囚われたテラの目を覚まさせ、崩壊する世界から脱出しましょう。
 なお、この国の過去は猟兵にも該当します。どんな過去が襲ってくるかをプレイングに書いてください。

 第二章はマーダー・ラビットとの戦いになります。
 この戦いにはアリス御一行も手伝ってくれます。どんな風に手伝って欲しいのか声掛けをすればその通りに動きますが、放っておいても勝手に手伝ってくれます。

 このシナリオにはプレイングボーナスが付きます。

『プレイングボーナス……アリス御一行にも手伝ってもらう』

 一章のプレイングは6/8(火)断章公開後から受付を開始いたします。
 それでは、皆さんのプレイングをお待ちしております。
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第1章 冒険 『思い出の囚われ人』

POW   :    根性論で過去に打ち勝つ

SPD   :    過去にはない今が持っている経験で過去に打ち勝つ

WIZ   :    当時は動揺していたが、今なら冷静に知識をもって過去に打ち勝つ

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 マーダー・ラビットの真っ暗なウサギ穴から落下していく様な感覚に、アリスはいずれどこかに叩きつけられるだろう恐怖から、ぎゅっと目を瞑った。
 けれど、いつまで経っても衝撃は体を襲わず、それどころか優しい花の香りが鼻孔をくすぐった。
「……?」
 不思議に思ったアリスがそっと目を開けば、そこには視界一面に広がる、色を持たないモノクロの花畑。
「う、わぁ……」
 風に揺れる花を見ながらアリスは感嘆の声を上げる。
 初めて見るはずの景色は、どこか見たことあるような懐かしさを覚えて。
「アリスー」
「大丈夫か?」
 花の妖精が心配そうに見上げてくる。視線を上げれば、オウガブラッドの少年も心配そうにアリスを見ていた。
 心配そうな二人を見て、アリスは笑顔を浮かべた。
 ここがどこだか分からない。けれど、あの時計ウサギはここから出れる可能性を示唆していた。
 それならばと、アリスはむんと気合を入れる。
「大丈夫だよ。早くここから出て……」
『テラ』
 帰らなきゃね、と続けようとしたアリス――テラの背後から響く、聞き覚えのある声。
「え……?」
 呼ばれた声に、テラは反射的に振り返る。
 振り返った先に居たのは、テラによく似た少女。
『テラ』
 優しく微笑みながらテラの名を呼ぶ少女の姿を見て、テラの瞳から涙が溢れる。
『テラ、ここで何してるの? ダメだよ、無理したら』
 そっと近寄って頭を撫でようと手を伸ばす少女。差し出されたその手を、テラは迷うことなく受け入れる。
 熱を帯びたやさしい手が、テラの頭を撫でる。
「シエロ……お姉ちゃん……」
 触れた手のぬくもりに、その手が本物なのだとテラはより涙を零す。名を呼んだテラの言葉に、少女はにこりと微笑んで。
『泣いてるの、テラ? 大丈夫、ずっと一緒にいるから。ずっと、テラと一緒にいるから』
「っ……うんっ」
 自分を抱きしめる腕の温もりを感じながら、テラはそっと目を閉じた。

「……アリスー?」
「どうしたんだよ、おい」
 急にうずくまって泣き出したテラの姿を見て、花の妖精とオウガブラッドの少年が声をかけるも、二人の声はアリスには届いていなかった。
アン・アイデンティファイ
WIZに挑戦。冷静というか、私は今日も平常かな。「影の追跡者」をつかいマーダー・ラビット(出口)を追跡させてみよう
嗚呼、参った。私には過去がないし、さしあたり現在も定かじゃない

あなたがそれを姉と認識するのなら私には否定のしようもない。人は現実にのみ生きるものでもないからね。けれどそうだな、あなたはかつて猟兵に助けられた。私の言葉はまだしも、これからあなたに掛けられる言葉をもう一度、彼らをもう一度信じてみればいい

人生が音楽劇ならば、キャストは多いほうが良いはずだ。リオの――そこの歌姫さんの声は目覚ましにするには贅沢なものだよ? 私も微力ながら、あなた達が歩くレッドカーペットくらいは用意しておこう


リオ・ウィンディア
テラ?どうしてここに・・・?
記憶の混濁、過去との遭遇
私にとっては姉?妹?
えぇとあなたは、アン
そう、前から知ってるわ
魂の友
記憶はこれから作ればいいのよ

亡霊のレコルダールを取り出して灯りを
記憶の整理、現在の姿
テラは、私のお姉ちゃんの名前でもあるの
奇遇ね貴方と同じ名前
ここにいちゃだめだよ、テラお姉ちゃん
会いたい人に会えるのは嬉しいけれども
それは過去の囚われ
まだここは檻の中

外へ行きましょう
アン連れてって、私を
私たちを新しい世界へ

さぁ行進曲を奏で愉快な仲間も交えて出発よ
夢を見ているのも素敵だけれども♪
あたらしい世界はきっともっと素晴らしい世界♪
涙を拭いて 勇気を出して♪
マルシュアスを奏でて、励ますわ




 グリモア猟兵によって転移した先、視界一面を覆うモノクロの花弁が舞う花畑。
 過去を見せる香りがもやの様に辺りを漂う花畑の中に姿を見せた、アン・アイデンティファイ(デザイン・ベイビー・f33394)。
「……リオ?」
 もやの中を目を凝らすように周囲を見渡し、共に転移してきたはずのリオ・ウィンディア(Cementerio Cantante・f24250)の姿を探す。
 けれどもその周囲には、探し人の姿はなかった。
「……冷静というか、私は今日も平常かな」
 姿が見えなくても、アンの心は動じない。姿が見えなければ探すだけと、アンは落ち着いたままユーベルコードを発動する。
 アンの呼び出しに応じ、召喚される影の追跡者。リオとマーダー・ラビットを追跡していく影の追跡者の視界に、もやの中混乱しているようなリオの姿が映し出される。
「リオ、見つけた」
 その映像が、五感を共有したアンの視界にも映る。この世界に来た目的であるアリスと会う前に、まずはリオと合流しよう。
 そう思い動き出した途端、ふわりと浮き上がったもやが、アンの前で人の姿を取った。
『何処へ行く?』
 見覚えのある白衣と、聞き覚えのある声。過去がないと思っていたアンの前に現れたのは、自分を造り出したであろう一人の研究者。
 けれどどこかで見たことがあるはずの姿は、記憶の彼方に追いやられたまま出てこない。どこかで聞いた様な声も、何処で聞いたのかを思い出せない。
 現在の記憶すら定かではないアンにとって、その研究者が何者なのかなど、どうでもいい事だった。
 現れた過去に背を向けて、アンは視界に映ったリオの元へ向かおうと動き出す。
『何処へ行く?』
 再度問われる問い。この研究者の「造った者に、自分に従え」という無言の圧をアンは無視した。
「リオの元へ」
 向かう先など決まっている。問われた言葉に軽く言葉を返して、アンは走り出す。
 すべきは別にある。過去になど捕らわれている暇はないのだ。
 アンは纏わり付くようなもやを振り払いながら、見えた視界の先のリオの元へと急ぐのだった。


 モノクロの花畑の中、一人佇んでいたリオは目の前に現れた幻影に絶句した。
『どうしたんだ? リオ』
「貴方は……テラ? どうしてここに……?」
 困惑するリオの眼前で、にこりと笑う幻影にかすれる声で問いかけるリオ。
 花粉が舞うもやの中でリオの前に姿を現したのは、ここに居るはずのない姉の姿をしていて。
『なんだよ。リオが困ってるのに、おれが助けないわけないだろ?』
 楽しげに笑いかけてくる姉。けれどもその姿は、記憶している現在の姿よりもどこか幼く見えて。
 錯乱していく記憶。かすかに残る過去の残滓。ずっと探していた「妹」は、現世においては「姉」として生まれていたはずなのに。
 それでも今目の前に居るのは、記憶の中にしか存在しない、ずっと探していたかつての妹の姿で……――。
「私にとっては姉? それとも妹?」
 この花畑では、過去が現れると言っていた。それでは、ここに居る「姉」は、かつての「妹」なのだろうか?
 錯乱していくままに、ぼんやりとした口調でリオが呟けば、目の前の姉はふはっと笑った。
『どっちだっていいさ。おれたちが家族で、姉妹なことは変わらないんだから』
 いつもと変わらない明るい笑顔を浮かべる姉。そっと頭を撫でてくるぬくもりに、リオも目を閉じる。
「そうね、どちらでもいいわ。どちらにしても、私の大切な姉妹である事に変わりは……――」
「リオ!」
 目の前の愛しい温もりを抱きしめようとしたリオの肩を、アンが強い力でぐいっと引き留める。
 引き留めた相手の姿を認めて、リオは混濁した記憶の中からその名を思い浮かべる。
「……えぇと。あなたは、アン」
 アンの名を呼ぶ事で我に返るリオ。けれど何故ここに居るのか、ここには何をしに来たのかと考えた時、考えが纏まらない思考に気がついた。
「ああ……過去に呑まれていたのね……」
 色々思考を巡らせて、混乱したままの記憶に思い至り、リオは亡霊のレコルダールを取り出し、火を灯した。
 足を止めるために花畑が見せる甘い罠。姉妹の懐かしい姿に乱された記憶を落ち着けさせようと灯を眺めれば、混沌とした記憶は徐々に落ち着きを取り戻していった。
「大丈夫?」
 淡々とした声でアンはリオに声を掛ける。落ち着きを取り戻したリオは、アンの言葉にこくりと頷いた。
「もう大丈夫よ、アン。ちゃんと覚えてる。前から知ってるわ、魂の友」
 ちゃんと言葉を返すリオに、アンもほっと胸を撫で下ろした。そんなアンがふと気になって、リオはそっと声をかけた。
「アンこそ大丈夫だった?」
「私には過去がないし、さしあたり現在も定かじゃない」
 リオの言葉に、アンは淡々と答える。何かに会った気はするが、それさえもう虚ろだとアンが告げれば、リオはくすりと笑みを浮かべた。
「それこそ大丈夫。記憶はこれから作ればいいのよ」
『リオ』
 アンと話して自分を取り戻したリオは、傍でじっと自分を見つめてくる姉の幻影へと視線を向ける。
 かつて守るべき存在であった妹。今では姉として傍に居てくれている大切な姉妹。
『おれを置いて、何処に行くんだ?』
 泣きそうな顔で問われた言葉に、リオは苦笑を浮かべる。
 置いていかないでと訴えかける瞳に、それでもリオは優しく微笑んだ。
「テラと同じ名前の少女を救いに」
 リオはそれだけ告げると、アンと共に進みだす。
 行かないでと、泣きながら後を追ってくる姉の姿に、心は痛むけれど。
 今、本当の姉は、自分の帰りを待っていてくれているはずだから。
 過去に守るはずだった妹と別れて、リオはここへ来た目的を果たすため、前へと歩き出した。


「……アリスー?」
「どうしたんだよ、おい」
 過去を振り切り進みだしたアンとリオの耳に、誰かの声が飛び込んできた。
 声を頼りに二人が進んだ先では、アリス一行とみられる花の妖精と、オウガブラッドの少年が居た。
 そして、二人の視線の先にうずくまって泣いているアリスの少女も。
「ひっく……お姉ちゃん」
 嗚咽と共に漏らされる悲痛な声。ボロボロ涙を零しながら泣いているアリスに困惑している花の妖精とオウガブラッドの少年の傍に、そっと二人は近寄っていく。
「! だ、誰だ!」
 不意に現れた猟兵の姿に二人は警戒を見せる。
 けれども猟兵の来た目的がアリスの救出だと告げれば、一度猟兵に会っている花の妖精はそれで警戒を解いてくれたようだ。
「ここは、私に任せてくれませんか?」
 何が起きているのか分かっていない花の妖精とオウガブラッドの少年にそう告げれば、二人は一度顔を見合わせてから、リオの提案に頷いた。
 うずくまって泣きじゃくるテラの傍で、リオが膝をつく。
「……テラお姉ちゃん」
 驚かせないようにそっとアリスの名を呼べば、俯いていた顔は上がり、涙で滲んだ瞳がリオを捉えた。
「……誰?」
「私はリオ。テラは、私のお姉ちゃんの名前でもあるの」
 奇遇ね、貴方と同じ名前なんて。軽く戯けながらリオが笑いかければ、顔を上げたテラも涙を拭った。
「私と同じ名前のお姉ちゃんが居るんだ」
「そう。ねえ、ここにいちゃだめだよ、テラお姉ちゃん」
「どうして?」
 だめだと言われた言葉に、テラはぎゅっと手を握る。テラにだけ見える、傍に居る姉の手を握りしめているかのように。
「会いたい人に会えるのは嬉しいけれども、それは過去に囚われてるだけだもの」
 まだここは檻の中。決して会いたい人に会えてるわけじゃないと言葉を続けるリオに、テラは首を横に振る。
「過去じゃないよ。シエロは、お姉ちゃんはここに居るもん」
 テラは、手を握りしめながらその言葉を否定する。
 シエロはここに居る、傍に居ると涙を浮かべながら子供のようにイヤイヤと首を振るテラを見て、アンが口を開く。
「あなたがそれを姉と認識するのなら、私には否定のしようもない。人は現実にのみ生きるものでもないからね」
 仕方ないと告げたアンの言葉に、テラは俯く。
 テラとて、目の前に居るのが実の姉ではないことは、うすうす気が付いているのだろう。
 それでも会ってしまった。会いたくて会いたくて仕方なかった姉が目の前に居るのに、その手を振り払うだけの勇気が、テラにはまだなかった。
「けれどそうだな、あなたはかつて猟兵に助けられた。私の言葉はまだしも、これからあなたに掛けられる言葉をもう一度。彼らをもう一度信じてみればいい」
「信じる……」
 かつて猟兵に救われた記憶が頭をよぎったのか、テラはその言葉を反芻する。
「外へ行きましょう? さぁ行進曲を奏で、愉快な仲間も交えて出発よ」
 うずくまるテラの手を取り、リオはそっと立ち上がる。
「人生が音楽劇ならば、キャストは多いほうが良いはずだ」
 リオの――そこの歌姫さんの声は目覚ましにするには贅沢なものだよ? 
 そんなふうにアンも励まして。 
「私も微力ながら、あなた達が歩くレッドカーペットくらいは用意しておこう」
「夢を見ているのも素敵だけれども♪ あたらしい世界はきっともっと素晴らしい世界♪ 涙を拭いて 勇気を出して♪」
 リオの励ますような歌に、テラも涙を拭う。
 先へ進まなければ本当の姉には会えない。頭ではそう思っても、手を握って笑いかける姉を見れば、決意は簡単にしぼんでしまう。

 猟兵の手を取り、姉を置いて先に進む勇気は、テラにはまだなかった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

水無瀬・旭
芯の無い俺に。仲間や恋人、信念…支えてくれる何かを求めて彷徨う俺には。
…俺の中にいる君は恐怖であると共に、憧れでもあったよ。ハガネ。
…いや、己を超える『絶対正義』という答えを求め、『時代の絶対悪』を目指した者…玉鋼。

君は俺であり、俺は君。…故に、目の前の君は幻だ。
これからも後悔はする。君の信念に劣る『悪』を重ねていく。それでも…星を見つけるために、足だけは止めない。

…だからテラ。君には君の星があるだろう。誘蛾灯の如き甘い光に惑わされてはいけない。
離れられないならば、彼女も共に、出口を探しに行こう。共に脱出するためにも、足を止めてはいけない。
彼女が真に血を分けた姉ならば。君の滅びなど願うものか。




『何をしている』
 モノクロの花を踏みしめ、花畑の中に転移してきた水無瀬・旭(両儀鍛鋼ロード・ハガネ・f25871)の背後から、突然掛けられた冷たい声。
(ああ……やはり現れたのか)
 この花畑は過去を映し出すと、転移する前に聞いた。そうであるならばきっと、自分の前に現れるのはこの男だろうと思っていた。
 振り返った視線の先に居たのは、想像していたとおり焦げ茶色のコートを羽織り、口元を黒いマフラーで隠した一人の男の姿。
 かつて「悪を以て悪を討つ」という信念を掲げ、「時代の絶対悪」を目指した男。
「ロード・ハガネ……」
 自身の中に抱える、闇の部分の具現化した姿。眼前に立つ男の名を旭はぽつりと呟いた。
「こうして君に相対する日がくるなんて思わなかったな……」
『答えろ、旭。何をしている?』
 ギロリと鋭い眼光が旭を捕らえる。その手にある禍々しく波打つ刃は、旭の回答が気に入らなければ即座に振るわれるのだろう。
 絶対の自信と強い意志を感じさせる、強烈な蒼が自身を突き刺すように睨みつけている。
「……己の信念を貫きに」
『フン、何が信念を貫くだ。お前の中に、どれだけの芯がある。力を持って悪を誅するだけのお前に、何が出来る?』
「っ……」
 ロード・ハガネの言葉に絶句する旭。苛烈な正義感故に、正義という名の暴力を振りまいていた時代も確かにあった。
 けれどもそんな過去はとうの昔に恥じているし、今では己が意志で「正義と言う名の悪」を貫くと決めた。
 だからこそ伝えたい。自分の思いを、自分の意志をこの男に。
「……ハガネ」
 ポツリとその名を呼ぶ。絶対的な意志と力を兼ね備えるこの男に、どれだけの言葉が届くだろう。
 それでも伝えなければ、伝わることはない。旭はまっすぐに男の冷たい目を見据えた。
「……芯の無い俺には。仲間や恋人、信念……支えてくれる何かを求めて彷徨う俺には。……俺の中にいる君は恐怖であると共に、憧れでもあったよ。ハガネ」
 力不足から、一度はその闇に身を堕としたこともあった。それでも堕ちきれなかったからこそ、今の自分が居る。
「君は俺であり、俺は君。……故に、目の前の君は幻だ」
『だからどうした? 後悔ばかりのお前に何が出来る。俺の絶対悪で救えるかもしれない人間を、救うだけの悪を貫く気概もないお前に』
 断言する旭の言葉を意に介さない男は、これでもかと反論する。そして、それは旭にも分かっている。
 それを認めた上で、旭は言葉を紡ぐ。
「そうだな……俺はきっと、これからも後悔はする。君の信念に劣る『悪』を重ねていく。それでも……星を見つけるために、足だけは止めない」

 絶対悪を掲げ、悪を以て悪を討つ。「不殺」の意志を「殺戮」を是とする意志に変えて戦う。
 絶対的で強い信念を信じ、後悔など微塵も感じない男からしたら、後悔を続ける旭の意志や信念など軽いものだろう。
 けれど、それが「水無瀬・旭」という人間なのだと眼の前の男に突きつける。
 守るべきものを見つけた今、大切なもののために戦っていくのだと、旭はもう一度男に告げた。

『…………』
「だから、俺の中で見ていてくれ。俺の信念を、最期まで貫き通す所を……!」
『弱い信念ではどうせ折れるだけだ』
 旭の決意を、冷たい声が遮る。ぐっと言葉に詰まりながら、それでもと続けようとした旭に、男は背を向けた。
『故にまた折れるのなら、『俺』がもう一度その体を奪ってやろう』
「ハガネ……?」
 その言葉の意味を理解できずに居る旭を置いて、男はもやの中へと消えていった。
 男らしい激励だと理解した旭にも笑みが浮かぶ。
 きっと認めてもらえたのだろう。
「ありがとう、ハガネ。……いや、己を超える『絶対正義』という答えを求め、『時代の絶対悪』を目指した……――ロード・玉鋼」
 消えた男の正しい名前を告げ、旭は歩を進める。
 この世界に来た目的を果たすために。


「アリス―……」
 聞こえてきた声に導かれるように旭は歩を進めていく。
 花畑に埋もれるように座り込んでいたアリス・テラの姿を見つけて、そちらに向けて進んでいく。
「……あ」
 旭の存在に気付いた花の妖精が驚いたように声を上げた。
「また、きてくれたの? おねがい、アリスをたすけて」
 以前ホワイトアルバムから助けたのを覚えていたのだろう。花の妖精に導かれるまま、旭はテラの傍へと近寄った。
 俯き座り込んでいたテラだったが、泣いてはいなかった。ぎゅっと握りしめている手はどこか不自然で、きっとテラにだけ見えているシエロの手を握っているのだろうと旭は推測立てた。
「テラ」
 そっと声を掛ける。驚いたような反応を浮かべるテラだったが、旭の姿を見てホッと息を吐いた。
「あ……前に会った……」
 ホワイトアルバムと対峙した時のことをテラも覚えているようで、見覚えのある旭に軽く笑みを浮かべた。
 テラの緊張が和らいだところで、旭は言葉を続ける。
「先へ進まないのかい。お姉さんに会いに戻るんだろう?」
 不意に放たれた旭の言葉に、怯えたように体を震わせるテラ。
 はくはくと口を開閉し、ふいっと旭から視線を逸らした。
「シエロは、ここに居るもん……」
 ぽつりと呟くテラ。旭には見えないシエロがここに居る、とぎゅっと手を握りしめる。
 視線を逸らしたのは、本当はテラも分かっているから。
 ここに本物のシエロは居ない。それでも、その姿を見てしまえば、拒絶など出来ようもなくて。
 分かっていても離れがたい。そんな心境を慮りながらも、旭は息を一つ吐くと口を開いた。
「……テラ、君には君の星があるだろう。誘蛾灯の如き甘い光に惑わされてはいけない」
「っ」
 かつて助けられた旭の言葉に、テラの顔が強ばる。
 他の猟兵にも言われた言葉。ここに居るのは、ただの幻影なのだと。
「でも、でも、シエロはここに居るの。ここに、居るんだよ……」
 それがたとえ過去の姿だとしても、ただの幻影だとしても、シエロはここに居る。それを否定しないで、と泣き出すテラ。
 ずっと離れ離れになっていた姉に会えた。その姉は偽物だから別れろと言われたところで、テラは頷きはしないだろう。
 大切な存在を失って、今も探し求め彷徨う旭にもテラの気持ちは痛いほどわかる。
 離れたくないと泣き出してしまったテラに、旭は優しく声を掛ける。
「離れられないならば、彼女も共に、出口を探しに行こう」
「え……?」
 足を止めてしまえば、この世界はいずれ崩壊する。崩壊すれば、二度とテラはシエロに会えなくなってしまう。
「共に脱出するためにも、足を止めてはいけないよ」
 それを阻止するためにも、今は前へ進まなければ。そんな思いからテラに声をかければ、テラはきょとんとした顔で旭の顔を見上げた。
「シエロも……一緒でいいの……?」
 どこか不安げなテラに、旭は笑みを浮かべる。
「もちろん。彼女が真に血を分けた姉ならば。君の滅びなど願うものか」
 そうだろう? と声をかければ、テラはこくんと頷いて、差し出した旭の手を取った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

テラ・ウィンディア
(過去の依頼を確認

…なんつーか
運命みたいだな

もしシルがおれの為に…

ああ
行くとしようか

迫る過去
おれと姉のシルにとって母代わりでもあった姉の幻影

セレス姉…
判ってるんだ…幻だって
でもさ…また会えて嬉しいよ(涙笑顔

…でもさ…シルとリオが待ってるから…

…ん?(リオを思い出したらなぜか目の前の姉がブレた気がした

それじゃ…おれはいくよ…おれと同じ名前の女の子を助けないとな

少女に
お前はなぜ姉に会いたいと思ったんだ?

聞きたい事があるんだろう?
お父さんとお母さんにも

だから…此処で止まっている訳には…いかないよな?

中々優しくて残酷な罠だ
だけどお前はとっても強い奴だ
だから…こんな罠に負けてる場合じゃないだろ?




 猟兵たちが次々に現地へと転移していく中、テラ・ウィンディア(炎玉の竜騎士・f04499)は一人グリモアベースに残って、前回の事件の報告書を確認していた。
 何も知らなくても問題はなくても、知っていたほうが役に立つ事もあると思い、テラは報告書を読み進めていく。
(……なんつーか)
 報告書を読み終わったテラは、ふぅと息を吐いた。
 記されたアリスの記録は、どうにも他人事に思えない。まるで運命みたいだな、と思う。

 アリスラビリンスに召喚されたアリスのテラ。双子の妹として育ち、姉に守られながら育った少女。
 自分と同じ名前で、同じように双子の姉を持つテラには、報告書に記された少女の生い立ちが、どうしても他人事には思えなかった。
(もしシルがおれの為に……)
 もし双子の姉が、自分を守るために自身を犠牲にしたのなら。
 そしてそのまま、二度と会うことができなくなったとしたら。
 想像しただけでも、テラの背中をぞくりと冷たい何かが走り抜けた。
 息もできないほどの絶望が胸中を占め、そんな中で、幻だとしても会いたかった姉に会えてしまったのなら。
「きっとおれでも、離れるのは無理だよな……」
 報告書を片付けて、ひとりごちる。
 このアリスの気持が分かってしまう。分かってしまうが故に、テラは躊躇した。
 テラにも「会いたかった姉」が存在する。そしておそらく、その世界に転移したのなら、現れるのは間違いなくその姉だろうと、確信を持って断言できる。
 それでも行かなければ、自分と同じ名前のアリスを救うことは出来ない。
「…………」
 僅かな躊躇を経て、テラは覚悟を決めてグリモア猟兵の前に立った。
「……行くのか?」
「ああ」
 分かったと言ったグリモア猟兵の力で、件の花畑へと転移していくテラ。

 行くとしようか。同じ名前の少女を助けに。


 猟兵にも効果があると言われた思い出の花畑。
 花粉なのだろうか、甘い香りとともに視界を遮るもやに包まれながら、テラがこの地に転移するとともに現れたのは、想像通り一人の女性の姿。
 にこりと微笑みながら手を差し伸べてくる女性。
 この世界に来るときに覚悟はしたはずだった。
 それでもその姿を見れば、どうしたって惹かれる想いはやまなくて。
「セレス姉……」
 その名を呼べば、ふわりと微笑んでくれる。差し出された姉の手が、テラの頬に触れる。
 そのぬくもりに崩れそうになる心を叱責しながら、眼前に立つ姉に視線を向ける。
 自分と双子の姉にとって、母代わりでもあった姉の幻影が、まぎれもなくそこに居た。
『テラ』
 優しく微笑み、笑いかけてくれる姉の幻影。頬に触れていた手が頭を撫で、二度と呼ばれることのないはずの声で名を呼ばれる。
 ただの幻影だと分かっていても、ぬくもりを感じる。聞きなれた声が鼓膜を揺らす。失われたはずのそれを感じて、テラの頬を涙が伝った。
「判ってるんだ、幻だって。でもさ……また会えて嬉しいよ」
 ぽろぽろと涙を零しながら、精一杯の笑顔を浮かべるテラ。
『ここに居れば、ずっと一緒よ?』
 誘いかけてくる甘い誘惑。手を広げて、おいでとテラが飛び込んでくるのを待っている姉。
 ただの幻影だって分かっているのに、昔みたいに抱きつきたくなる衝動を抑えながら、テラは溢れる涙を拭った。
「おれは……一緒には居れないよ。シルとリオが待ってるから……」
 もしも他の姉妹が居なければ、差し出されたその腕の中に飛び込んでいたかもしれない。
 けれど実際には、大事な双子の片割れと、大切な妹がいる。
 甘い言葉で誘ってくる姉の言葉に、テラは首を横に振った。目を閉じて思い浮かべるのは、ここには居ない双子の姉と妹の姿。
 かつて姉に自分が守られてきたように、今は同じように妹を守る側だから……。
「……ん?」
 気のせいだろうか。妹の姿を思い浮かべた途端、ノイズが走るように姿がブレる幻影の姉。
 けれどもそれは一瞬で、目の前の姉は先程と同じく佇んでいた。
「それじゃ…おれはいくよ…おれと同じ名前の女の子を助けないとな」
 会えて嬉しかった。その気持ちに嘘はないが、それだけが全てではない。
 双子の姉が居て、妹が居る。帰るべき場所を知っているテラは、姉の幻影に背を向けた。


 姉と別れ振り返った先に、自分と同じ名前のアリスのテラがこちらを見ていた。
「あ……」
「えっと……」
 互いに立ち尽くして見つめ合う二人のテラ。姉との別れのシーンを見ていたらしいアリスのテラが、何かを言いたそうにテラを見つめてくる。
「あの……今話してたのって……」
「ああ、おれの姉だよ。もう居ないから二度と会えないって思ってたんだけど……」
 アリスのテラの言葉に、テラは淡々と答える。その言葉にアリスのテラは驚いた顔をして、俯いてしまった。
「そう、なんだ……」
 俯き呟いた言葉の裏に、どうして姉と別れることが出来たのかという疑問が見えるも、テラは何も言わずに、アリスのテラの様子を眺めていた。
 アリスのテラは何も言わない。沈黙だけが過ぎ去って行く中で、世界が揺れるような感覚がテラを襲う。
「なあ……お前はなぜ姉に会いたいと思ったんだ?」
「何故って……」
 これ以上の沈黙は無駄だとして、テラはアリスのテラに問い掛ける。
 答え自体は報告書で読んで知っている。自分を捨てた姉がどんな気持ちで出ていったのかを聞くために、元の世界へ帰ろうとしていたのだから。
「聞きたい事があるんだろう? お父さんとお母さんにも」
「…………」
 何も言わない両親がどんな気持ちで姉を家から出して、どんな気持ちで自分の傍に居たのか。
 それを聞くためにも、ここには居られないだろう?
 アリスのテラにそう告げれば、こくんと頷いた。
「だから……此処で止まっている訳には、いかないよな?」
「っ、うん……」
 アリスのテラの瞳からぽろぽろと涙が溢れる。けれどもそれは、先程までの別れを悲しんでのものじゃない。
 やるべきことを思い出し先へ進むために、姉との別れを決意した涙だ。
 泣き出したアリスのテラを見ながら、テラも背後を振り返る。
 先程と同じく優しい瞳で自分を見守る姉の姿が、テラの視界に映し出される。

 ――ああ、本当に、この世界は。

「中々優しくて残酷な罠だ。だけどお前はとっても強い奴だ。だから……こんな罠に負けてる場合じゃないだろ?」
 報告書に記されていた、アリスのテラ。
 ホワイトアルバムにもまっすぐ立ち向かっていった少女は、どれだけ辛い真実が待っていても、それを受け止めると宣言した。
 家族に会って真実を聞き出す。そのためにオウガの蔓延る世界を旅してきたのだから。
「うん……帰らなきゃ。シエロに会って、ちゃんと話を聞かなきゃ。――だから」
 テラの言葉にアリスのテラは涙を拭いながら、視線を横に逸らした。
「ちゃんと会いに行くから。……その時はちゃんと話を聞かせてね?」
 お姉ちゃん、と告げたアリスのテラの言葉を聞いて、テラにも笑みが浮かぶ。
「アリス―!」
「大丈夫かよ、お前!」
 立ち直ったアリスに寄ってくる花の妖精とオウガブラッドの少年。
 アリスはもう大丈夫だろう。けれど立ち直るまでに時間がかかりすぎた。
 世界の崩壊はもう始まっている。
 躯の海の藻屑となる前に出口を見つけ辿り着かなければと、一行は急いで走り出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メラニー・インレビット
その声、そのお顔…どれもはっきり覚えております。
わたくしめが猟兵となる以前に出会ったアリスの皆様…
わたくしめに力が無かったばかりに、皆様がオウガどもの餌食となるのをただ見ている事しかできず…
その事実はどんなに優しい言葉でも、決して消えはしない。
だからわたくしめは、この先も皆様の分まで多くのアリス様をお助けすると決めたのです。

アリス様も、わたくしめには計り知れない痛みを抱えていらっしゃるのでしょう…
過去は決して変わりませんが、未来は変えられます。
だから辛くとも、今はその為に歩きましょう…

時計ウサギのわたくしめがここに居る以上、このウサギ穴は大丈夫でございます。
落ち着いて出口を目指しましょう




 世界が揺れる。地面に亀裂が走り、崩壊を始めたウサギ穴の中の世界。
 世界のバランスが崩れ、骸の海へと還ろうとする世界の崩壊を止めるべく、一人の時計ウサギが世界へと舞い降りた。
 他の猟兵に遅れながら花畑の中に姿を現したメラニー・インレビット(クロックストッパー・f20168)は時杖クロノスを掲げ、崩壊するウサギ穴に自分の存在を主張した。
「この穴は、わたくしめが管理します!」
 ウサギ穴は時計ウサギの存在がなければ維持できない。
 逆を言えば、時計ウサギがウサギ穴へと舞い降りれば、その穴は維持されるのだ。
 メラニーが現れたウサギ穴は、安寧を取り戻して元の姿へと戻っていく。
「これで大丈夫でございますね」
 崩壊を始めた世界が修復されるのを見て、ふぅと息を吐くメラニー。
 これでこの世界の崩壊は食い止めた。後はアリスと合流して、ゆっくりと出口を探して進めばいい。
「アリス様は出口へ向かうのを迷われていたご様子。ですが、わたくしめが居ればどれだけ悩まれても、この世界は維持できます。アリス様が前へ進めるよう、わたくしめが力を……」
『……どうして?』
 この世界に落とされたアリスを探してさくさくと花畑を進むメラニーの耳に、誰かの声が響く。
『どうして、助けてくれなかったの?』
 ゆらゆらと蠢くもやが、人の形を取った。泣きながら責める少女の姿に、メラニーはハッとした。
『どうして……』
『痛かったよ……怖かったよぉ……』
「ああ……その声、そのお顔……。どれもはっきり覚えております。わたくしめが猟兵となる以前に出会ったアリスの皆様……」
 苦しげに泣き叫ぶ少女たち。その誰もがメラニーが猟兵になる前に出会い、メラニーの目の前でオウガに蹂躙され、殺されたアリスの少女たちだった。
 うめき声を上げる人の姿を取った幻影のアリスたちに、メラニーは恭しく頭を垂れた。
「申し訳ありません……。わたくしめに力が無かったばかりに、あの時は皆様がオウガどもの餌食となるのをただ見ている事しかできず……」
 どれだけ謝罪しても、眼前のアリスたちは救われることはない。どれだけの言葉も、救えなかった彼女たちに届くことはない。
 頭を下げたまま、メラニーは時杖クロノスを強く握りしめる。
「だからわたくしめは、この先も皆様の分まで多くのアリス様をお助けすると決めたのです」
 頭を上げて、アリスの影たちに自分の思いを告げる。これ以上、アリスをオウガに殺させないために。

 そのために、あらゆる命の時間を終わらせる者……「インレビット」の名を名乗っているのだから。


 アリスの幻影に背を向けて走り出すメラニー。
 世界の崩壊を止めたとしても、アリスを励ましてこの世界から脱出しないことには、なんの解決にもならない。
 走っていく中で、花畑の中にうずくまるアリス一行の姿を見つける。
「ああ、ここにいらっしゃったのですね。アリス様」
 一行が怪我もなく無事で居るのを見つけて、ほっと胸を撫で下ろすメラニー。
 どこか不安そうにしているアリスの顔を見て、宥めるように優しく笑みを浮かべるメラニー。
「落ち着いてくださいませ。ゆっくりでも大丈夫ですので、出口を目指しましょう」
「で、でも……」
 先程まで世界が崩壊していく中に居たからか、どこか怯えたようなアリスに、メラニーは不安を解消するために手にした時杖クロノスと自身の頭から生える耳を強調して、アリスに笑いかける。
「時計ウサギのわたくしめがここに居る以上、このウサギ穴は大丈夫でございます」
 時計ウサギ、と聞いてアリス一行の中に動揺が走る。
 この世界に落ちる原因になったのも時計ウサギのせいだと考えれば、仕方がないのかもしれないが。
 それでも時計ウサギが居れば、世界の崩壊は免れる。それを聞いてアリスはようやく、落ち着きを取り戻したようだ。
「……ごめんなさい。私が悩んでばっかりだったから……」
 それでも、世界が崩壊するまでこの地に留まっていた原因が自分だと理解しているアリスは、罪の意識からメラニーに頭を下げる。
 そんなアリスに優しく微笑んで、メラニーはアリスに顔を上げさせる。
「アリス様も、わたくしめには計り知れない痛みを抱えていらっしゃるのでしょう……」
 猟兵になってから救ったアリスたちにも、元の世界において様々な辛いことがあったと聞いている。
 だからと思い声をかけたけれど、他のアリスと違って記憶の戻ってしまっているアリスには、それこそ色々なことがあったのだろう。
 それを思い出したのか、アリスは涙を浮かべながらこくりと頷いた。
「過去は決して変わりませんが、未来は変えられます。だから辛くとも、今はその為に歩きましょう……」
 励ますようにアリスの手を握るメラニーの言葉に、アリスはうん、と頷いた。


 時計ウサギのメラニーに導かれるように進んでいけば、先程置き去りにされた穴の中へと周囲の景色が変わっていく。
「やっと戻ってこれたな!」
 薄暗い洞窟へと周囲の景色が変貌して、どこか嬉しそうな声を上げるオウガブラッドの少年。
 この穴を通りきれば、新しい世界。
 今度はちゃんとした時計ウサギの案内だと気の緩む花の妖精とオウガブラッドの少年を見て、メラニーは警戒の意志を込めてアリスに声を掛ける。
「アリス様、油断はしないでくださいね」
「え……?」
 警戒を緩めないメラニーの声に、不思議そうな声を上げるアリス。
「お忘れですか? 皆様をここに閉じ込めた時計ウサギ……『マーダー・ラビット』が出口で待ち構えているのを」
「あ……」

『でもいちおう穴の出口で待ってるから、出てこれたらご褒美に殺してあげるね~!』

 メラニーの言葉に、マーダー・ラビットのウサギ穴に置き去りにされるときに聞いた言葉を思い出す。
 それを思い出したのか、アリスはぎゅっと細剣を握り締める。
 オウガブラッドの少年も、それを忘れていないからか殺気を顕にする。
「わたくしめらがアリス様をお守りします。ですからアリス様は……」
「私も戦うよ。もう、守られてばかりは嫌だから」
 アリスの身を案じたメラニーの言葉は、最後まで告げる前にアリスに否定された。
 アリスの言葉を肯定するように、お供の花の妖精もオウガブラッドの少年もこくりと頷いた。
「……はい、アリス様の仰せのままに」
 アリスたち一行の意志を確認して、メラニーも恭しく頭を下げた。

 戦うか覚悟があるのなら、自身の役目はただアリスを守るだけ。
 この世界を脱出したとしても、まだ終わりではない。元の世界に戻るまで、アリスの旅は終わらない。
 ウサギ穴を進む先に光が見える。あそこが穴の出口だろう。
 出口の先には、アリスを穴の中に残した倒すべき敵が待っている。
 一度、出口の前で顔を見合わせる。皆の目は、戦う覚悟に満ちていた。

 マーダー・ラビットを倒すため、元の世界に帰るため、この戦いに決着をつけるため、一行は光の中へと飛び込んだのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『マーダー・ラビット』

POW   :    きす・おぶ・ざ・です
【なんとなく選んだ武器】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    ふぁんとむ・きらー
【糸や鋏、ナイフ等】による素早い一撃を放つ。また、【使わない武器を捨てる】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ   :    まさくーる・ぱーてぃ
自身の【殺戮への喜びによって瞳】が輝く間、【自身の全て】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠終夜・嵐吾です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

琥珀川・れに(サポート)
※アドリブ好き過ぎて全てお任せ


「貴族たるもの余裕を忘れてはいけないな」
「やあ、なんて美しい人だ」

ダンピール貴族
いかにも王子様っぽければねつ造歓迎さ
紳士的ジョークやいたずらも好きかな

敵も味方も性別か見た目が女性ならとりあえず一言は口説きたいね
ナンパではなくあくまで紳士的にだよ?

実は男装女子で
隠しはしないが男風源氏名レニーで通している
その方がかっこいいからね

戦闘スタイルは
・剣で紳士らしくスマートに
・自らの血を操作した術技
が多い
クレバーで余裕を持った戦いができれば嬉しいよ
早めに引くのも厭わない

説得系は
キラキライケメンオーラやコミュ力で
相手を照れさせてみせよう




 ウサギ穴の出口が目前となった時、琥珀川・れに(男装の麗少女 レニー・f00693)がちらりとアリスの様子を見れば、どこか緊張したように細剣を握りしめていた。
「大丈夫ですよ」
「え……?」
 緊張していたアリスに声を掛けるれに。その緊張を解くように、強張った手に触れる。
「貴女は僕が守りますから」
 力強く握りしめた指を解くようにその手をほぐしながら、れには優しく言葉を続ける。
「え、あの……?」
「ああ、僕のことは『レニー』とお呼びください」
 れにがにこりと微笑めば、かぁっと顔を赤くするアリス。
 言葉とともに、れには緊張していたアリスの手に触れる。
(……うん、もう大丈夫だろう)
 アリスの手から緊張が抜けているのを感じる。ある程度の緊張は大切だけれども、極度の緊張はいい結果をもたらさない。
(貴族たるもの、余裕を忘れてはいけないからね)
 れにの顔をちらちら見てくるアリスに、れにはにこりと微笑んで紳士的にその手を取った。
「さあ、行きましょう。貴女が元の世界に戻るためにもね」
「っ、うん!」
 れにの言葉に目的を思い出したのか、アリスはぎゅっとれにの手を握り返した。
 決意の表情を見届けて、一行は光の中へと飛び込んだ。


「おかえりなさい。まさか本当に出てくるとは思いませんでしたよ」
 光を出た先で、木に寄りかかりながら楽しげに声をかけてくるマーダー・ラビット。
 くすくすと楽しげに笑うマーダー・ラビットに、れには剣を突きつける。
「いたいけな女性に対する仕打ちとはとても思えないな」
「おやおや、お気に召しませんでしたか?」
 れにの言葉も意に介さず、マーダー・ラビットはくすくすと笑い続ける。
「でもまあ、約束でしたからね。『無事に出てこれたら殺してあげる』……とね」
 ニヤリと笑いながら放たれた武器を、れには手にした剣で叩き落とした。
「さあ、始めましょうか。ちゃんと約束は守りますからね~」
 楽しそうに言い放ちながら、マーダー・ラビットは猟兵へと飛びかかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

メラニー・インレビット
約束だと?
アリス様を故意にウサギ穴に置き去りにするような輩がそんな殊勝な言葉を知っているとは驚きだ
しかし生憎その約束が果たされる事はない…
何故なら、その前に我がお前を殺すからだ!

さっさと逃げただけあって、素早さには自信があるらしいな。
その攻撃を[第六感]を頼りに予想したり、懐のウサギ時計で[盾受け]する事で受けるダメージを減らす。
そして奴の攻撃の瞬間は我にとっても好機。
反撃と共に「時兎の刻印」を刻み付ければ、急激な老いが奴を襲う。
こうなればじきに満足に動く事もままならなくなる。
そうしたら、奴の時間を終わらせるとしよう。
アリス様への仕打ちの数々…楽に死ねると思うなよ…!




「約束だと? アリス様を故意にウサギ穴に置き去りにするような輩がそんな殊勝な言葉を知っているとは驚きだ」
 飛びかかりながら突き出してきたマーダー・ラビットの鋏がアリスに届く前に、二人の間にメラニー・インレビット(クロックストッパー・f20168)が割り込んだ。
「殺してあげる約束くらいなら覚えていられるからねぇ」
 割り込まれたことなど気にも留めないように突き出したマーダーラビットの鋏を受け止めるように、メラニーは懐からウサギ時計を取り出した。
 突き出された鋏の先端を時計で受け流せば、キンッと軽い音を立て弾かれるマーダー・ラビットの鋏。
「へぇ……」
 楽しげに笑うマーダーラビットは、崩された体勢をくるりと回転しながら立て直す。
 新しいおもちゃを見つけたかのように、マーダー・ラビットは手にした鋏の矛先をメラニーへと向ける。
「しかし生憎その約束が果たされる事はない……」
 再び突き出される鋏を、第六感を頼りに躱すメラニーは、そのまま接近してきたマーダー・ラビットの懐へと飛び込んだ。
「何故なら、その前に我がお前を殺すからだ!」
 至近距離まで迫ったマーダーラビットへ向けて、メラニーは手にした時杖クロノスを叩きつけた。
 殴りつけるように叩きつけた時杖クロノスがマーダー・ラビットを捉えた感触を感じるとともに、メラニーはユーベルコードを発動する。
 時兎が使う死神の刻印を叩きつける事で、急速に進んでいくマーダー・ラビットの時間。
「ぐっ……」
 急激な時間の変化を感じ取ったのか、マーダー・ラビットは即座にメラニーから距離をとった。
「ふ……さっさと逃げただけあって、素早さには自信があるらしいな」
 自身から離れていったマーダー・ラビットへと距離を詰め、再び時杖クロノスを振るうメラニー。
 ユーベルコードの効果範囲に入って、反射速度の衰えを見せるマーダー・ラビットへと笑みを浮かべる。
「動きにくくなってきたか? それなら貴様の時間を終わらせるとしよう」
 飛び退く速さが遅くなったマーダー・ラビットを前に、メラニーは時杖クロノスを振り上げる。
「アリス様への仕打ちの数々……楽に死ねると思うなよ……!」
 怒りを込めたメラニーの重い一撃が、動きを鈍らせたマーダー・ラビットを強く叩きのめした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

水無瀬・旭
テラ。俺の名を…ロード・ハガネの名を呼んでくれ。君の願い(せいぎ)を貫く刃となろう。

テラの命令(ねがい)を受諾し【指定UC】を発動。
【救助活動】と無敵の鎧でテラと仲間たちを敵の攻撃から守ろう。君たちは散らばらず、敵の動きを注視して欲しい。
護りやすいし、動きが追える様になったらサポートを頼みたい。

速いが、君の攻撃は糸であれ、刃物であれ、接触する事によって成立する。
糸なら糸を伝って鈍化の【呪詛】を流し込み、接近してくるなら攻撃の瞬間を捕らえよう。
【属性攻撃】で黒焔の火力を上げ【焼却】する。

幻を見るのは、思いが強いからさ。
大丈夫、君は前に進んでいる。立ち止まりそうになったら、また俺の名を呼べばいい。




 他の猟兵がマーダーラビットの足止めをしている間、水無瀬・旭(両儀鍛鋼ロード・ハガネ・f25871)は戦況を見守っていたアリス一行へと近寄る。
 マーダーラビットの動きが見えていないのか、アリスのテラは怯えたようにキョロキョロと視線を彷徨わせていた。
「テラ」
 どこか挙動不審なテラへと声をかければ、不安が滲む瞳が旭へと向けられる。
 そんなテラを落ち着かせようと、旭は視線を合わせて優しく声を掛ける。
「君に望むことがあるのであれば、俺は君の願い(せいぎ)を貫く刃となろう」
「私の、願い……?」
 旭の言葉を反芻するテラに旭は頷く。
 テラがここまで来た目的はただ一つ。元の世界に帰ること、生き別れた姉に会って話を聞くこと。それ以外にはないはずだ。
 それを言葉にしてほしいと旭が告げると、テラの表情はゆっくりと悲しみに彩られていった。
「私は……本当に望んでるのかな?」
 旭から視線を逸らし、俯きながらポツリと零された言葉に旭は首を傾げた。
「何故そう思う?」
「だって……シエロに会うって決めたのにシエロの幻に囚われて……本当のシエロのこと……」
 俯いたテラの頬を伝う涙と共に溢れる言葉。
 幻でも良かったんじゃないか。双子の姉の優しい幻でも、構わなかったんじゃないか。
 そう呟くのを聞いて、旭は苦笑する。俯いたテラに視線を合わせるように屈んで、旭は口を開いた。
「幻を見るのは、それだけ思いが強いからさ」
 それだけ、テラがシエロのことを思っている証拠だ。
 そうでなければ、ただの幻なんかに心を動かされたりはしない。
「でも……」
 そう告げる旭の言葉にもまだ言いよどむテラに、背中を押すように旭は言葉を続ける。
「大丈夫、君は前に進んでいる。立ち止まりそうになったら、また俺の名を呼べばいい」
 そうしたら、君の願いを貫くために、俺はまた力を貸すから。
 そう告げれば、テラはようやく涙を拭った。
 旭を見上げるテラの瞳に力強い意志を感じて、旭はもう一度問うた。
「君の願いは?」
「帰りたい……シエロに会いたい!」
 旭の問いに、今度は力強く答えるテラ。その答えに旭は満足げに頷いた。
「ああ……確かにその声を聞いた。その願いを聞いた。ならば……このロード・ハガネ、君の『正義』に味方をしよう」
 テラの願いを受けて、旭のユーベルコードが発動する。
 無敵の装甲が旭の姿を覆い尽くす。燃え盛る、黒く揺らめく焔が、装甲に包まれた姿をより禍々しく見せた。
「はは、そんな所で何をしてるんだい?」
 旭の変貌に気付いたマーダー・ラビットが、他の猟兵から離れ、鋏を手に飛びかかる。
 手にした鋏は旭の装甲の継ぎ目を狙って突き出された。
「効かないな」
 ガキンと、金属の割れる音が周囲に響く。継ぎ目を狙い装甲を貫かんとしたマーダー・ラビットの鋏は、装甲の強度に負けて折れ曲がった。
「へぇ……」
 旭に鋏の攻撃が効かないと知って、マーダー・ラビットがくすりと笑う。
 その視線が旭の背に隠されたアリス達一行へと向けられ、視線が絡み合って、びくりと怯えたように反応するオウガブラッドの少年の姿が旭の視界の隅に入る。
 少年の姿を、マーダー・ラビットの視界から隠した旭は、そっと少年に声を掛ける。
「君たちは散らばらず、敵の動きを注視して欲しい」
 必ず守るから安心してくれと告げれば、こくんと頷くオウガブラッドの少年。
「敵の動きを追えるようになったらサポートを頼む」
 声を掛けながら手にした鐵断・黒陽を振るう。間合いを取るために振るったのだが、想定通り風を切る音とともに振り回された獲物から距離を取るように、マーダー・ラビットは飛び退いた。
 使えなくなった鋏を投げ捨て、更に加速しながら旭の周囲を飛び回るマーダー・ラビット。
「はは、そんなので僕の動きについてこれるのか?」
 掛けられる声と共に放たれる、マーダー・ラビットの鋼糸がぐるぐると旭に絡みつく。
「確かに速いが、君の攻撃は糸であれ、刃物であれ、接触する事によって成立する」
「何を言って……」
 嘲笑するようなマーダー・ラビットから放たれる糸を、旭はぐっと握り締める。
 どれだけ動きが早かろうとも、接触してしまえばこちらのもの。旭は握り締めた鋼糸に鈍化の呪詛を流し込む。
「な……」
 鋼糸を通してマーダー・ラビットに流し込まれる呪詛はその効力を発揮して、空を駆けるように飛び回るマーダー・ラビットを地に縫い付けた。
「俺の名はロード・ハガネ。彼女の願い(せいぎ)を貫く刃だ!」
 テラの願いを叶えるため、眼前の敵を焼き払わんと、旭から放たれた黒焔がマーダー・ラビットを包みこんだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

テラ・ウィンディア
リオと合流希望

リオも来てたんだな
うん、なんだかほっとするよ

…ああ、知ってるぞ
兎の中でも牙が鋭すぎて首さえはねるやべぇ兎が居るってな
そして残念だよ
お前はあまりおいしそうじゃなさそうだ

【戦闘知識】
敵の動きと癖の把握
そして何よりこれまでとこの戦いで彼が放った斬撃を記憶に刻み込む
【属性攻撃】
炎属性を剣太刀に付与
【見切り・第六感・残像・空中機動・武器受け】
空中を飛び回り彼の猛攻を残像を残しながら回避しつつ
リオやアリス達の攻撃
特に斬撃は記憶に刻む
【二回攻撃・早業・串刺し・貫通攻撃】
二刀による連続斬撃や刺突による貫通攻撃も交え

戦いながら斬撃濃度が高まり切った所で
消えざる過去の痛み発動
過去の兎は過去に帰れ


リオ・ウィンディア
お利口な兎さんね
でもその約束は破棄させてもらうわ
一方的な押し付けを約束とは言わないの
テラお姉ちゃんこれは「守らなくていい約束」よ

可能であればテラねぇと合流
ダガーの早業と第六感で攻撃

一つ。呪うはあの人の憎い恋人
二つ。呪うは私のことを見向きもしない男
三つ。呪うは、オウガに身を墜とした自分自身

数え歌に呪いを込めて傷口に呪詛を塗る
幼女の姿では攻防は互角かそれ以下にも見えるが、しかし
呪歌を詠唱としてUC発動
鬼気迫る圧倒的霊的質量で巻き返す

アリス一行に手伝ってもらうのは呪いの言葉
こんなところで殺されるのはごめんでしょう?

だからその言葉をお借りするわ
貴方達が生きようとするその思いがこの兎にとっては呪いの鎖




「ぐおぉぉ……!」
 黒焔に包まれ燃え盛るマーダー・ラビットを前に、リオ・ウィンディア(黄泉の国民的スタア・f24250)はアリスたちを背に庇いながらダガーを手に身構える。
 燃え盛るマーダー・ラビットがいつ動き出すかわからない中、リオはじっとその動きを注視していた。
「あ、リオも来てたんだな」
 前方に意識を集中させていたがために反応が遅れたリオは、背後から迫った声に慌てて振り返る。
 けれどそこに居たのは、リオにとって見慣れた黒髪の少女……リオの姉であるテラ・ウィンディア(炎玉の竜騎士・f04499)だった。
「テラねぇ!」
 その姿を見て嬉しそうなリオに、テラもふにゃりと表情を崩す。
「うん、会えてなんだかほっとするよ」
 さっきはすれ違ったみたいだもんな、と言うテラの言葉にリオも頬を緩ませて。
 和やかな空気の中で、ピリッとした殺気が二人に向けられる。
「僕の前で、随分余裕だねぇ……」
「油断なんかしてねえよ。知ってるぞ、兎の中でも牙が鋭すぎて首さえはねるやべぇ兎が居るってな」
 炎を消し、不愉快そうに告げたマーダー・ラビットの言葉に、テラも不快を隠さずに告げる。
 握りしめた剣に炎を纏わせると、テラは残像を残しながら空中へと身を翻した。
「約束を守れるなんてお利口な兎さんね」
 テラの剣戟を受けながら、ナイフを突き出すマーダー・ラビットの隙を潰すべく、リオもまたダガーを手に斬りかかる。
「でもその約束は破棄させてもらうわ。一方的な押し付けを約束とは言わないの。……だからね」
 ダガーで応戦しながら、リオはちらりとアリスへ視線を送る。
「テラお姉ちゃん、これは『守らなくていい約束』よ?」
 一方的に告げられた約束なんてものは存在しない。互いがそれを受け入れて、守ろうとするから約束なのだ。
 それを視線に込めてアリスへと届ければ、それを受け取ったアリスもこくんと頷いた。

 テラが炎を纏った剣で斬りかかり、空中で回避する隙を埋めるようにリオがダガーで斬りかかる。
 マーダー・ラビットの矛先がリオに向こうものなら、テラが手にした二本の剣でマーダー・ラビットを貫いていく。
 姉妹ならではの連携に、最初はマーダー・ラビットを追い詰めているかに見えたが、何度かの攻防を繰り返すうちにマーダー・ラビットの表情には笑みが浮かぶ。
「ははっ、君らの攻撃なんてその程度かい?」
 マーダー・ラビットは手にしたナイフでテラの剣をいなし、迫るリオのダガーを弾き飛ばす。
「そろそろ遊びは終わりにしようか。さあ、アリス。約束を果たすときが来たようだよ」
 体勢を崩したテラの体を回し蹴りで吹き飛ばし、リオのダガーを遠くへと蹴り飛ばす。これで邪魔者は居なくなったとばかりに、悠々とアリス目掛けて歩を進めるマーダー・ラビット。
「……一つ。呪うはあの人の憎い恋人」
「え……?」
 迫るマーダー・ラビットに恐怖の表情を浮かべるアリスの耳に、リオの歌が響く。
「二つ。呪うは私のことを見向きもしない男」
 呪歌を歌いながら懐から取り出した別のダガーに呪詛を纏わせて、リオは余裕を見せるマーダー・ラビットへと斬りかかる。
 マーダー・ラビットの傷口に呪詛を流し込みながら、歌に呼応するように召喚されてくる、首無し幽霊を乗せた巨大な一つ目。
「三つ。呪うは、オウガに身を墜とした自分自身」
 まるで剣舞のように舞いながら、リオはダガーをマーダー・ラビットへと突き立てた。
 リオの呪歌に導かれるままに次々と現れる首なし幽霊を乗せた一つ目たち。喚び出された首無し幽霊から、あらゆる呪いが幾重にも重なった無数の触手が放たれ、マーダー・ラビットへと襲いかかる。
「チッ、こんなもの……!」
 迫る触手を鋼糸で斬り捨てながら進むマーダー・ラビット。
 今のままでは止められないと思ったリオは、背後で怯えるアリスに優しく声を掛ける。
「ねえ、こんなところで殺されるのはごめんでしょう??」
 唐突に告げられた言葉に、何を言いたいのかが分からないといった感じのアリスに、リオは言葉を重ねる。
「貴方達が生きようとするその思いが、この兎にとっては呪いの鎖……」
 だからその想いを、その言葉を貸して?
 リオの言葉に、アリスはこくりと頷いた。
 そうしている間にも、召喚されていた首なし幽霊を乗せた一つ目たちは、マーダー・ラビットに消されている。
「「「一つ。呪うはあの人の憎い恋人」」」
 思いを重ねて、リオの呪歌にアリスたちも同調する。
 再び召喚される一つ目達。アリスたちの念をも喰らい呼び出されたそれは、今までの比ではない数の力で、マーダー・ラビットを蹂躙する。
 数え歌に合わせて姿を現す一つ目達。思いの強さに惹かれ呼び出される首無し幽霊たちが戦場を埋め尽くす。
 それを鋼糸で斬り裂き、ナイフで斬り捨てるマーダー・ラビット。
「……そろそろだな」
 戦場を埋め尽くした幽霊に隠れるようにして、マーダー・ラビットの斬撃を記憶に刻み込んでいたテラも、二本の剣をぎゅっと握り締めて走り出す。
「っ、いい加減に……」
「なあ。ウサギ肉って食えるの、知ってたか?」
 眼前の触手を斬り捨てたマーダー・ラビットの背後を取って、テラが声を掛ける。
「でも残念だよ。お前はあまりおいしそうじゃなさそうだ」
 だから要らないなと、テラは至近距離でユーベルコードを発動する。
 虚空から、空間に刻まれていた斬撃が一斉に具現化した。
 リオが空間に刻んだ斬撃が、テラがその場に残した斬撃が、マーダー・ラビットが触手を斬り捨てるために起こした斬撃が、数多の猟兵がマーダー・ラビットへと向けた斬撃の全てが。
 一斉にその場所に存在したマーダー・ラビットを切り裂いていく。
「過去の兎は過去に帰れ」
 無数の斬撃に見舞われ、細かな肉片と成り果てたマーダー・ラビットは、そのまま元の姿を取り戻すことなく骸の海へと還っていった。


「えっと……また助けてくれてありがとう」
 マーダー・ラビットの姿が完全に消え去ってから、アリスの少女は助けてくれた猟兵たちに向けて、ぺこりと頭を下げた。
「幻でも、お姉ちゃんに会えた事で足を止めてしまったこと、本当に後悔しています」
 しゅんと落ち込んだアリスだったが、それでも先へ進むことはやめないのだろう。
「でも、これからはもう迷いません! 元の世界に帰るまで、何があっても足は止めませんから」
 落ち込んだ顔から一転して笑顔を見せるアリスに、猟兵たちも頷いた。
「それじゃ、失礼します!」
 猟兵たちに背を向けて、アリスたち一行は進んでいく。
 アリスの様子を見るに、この世界にも自分の扉は無いのだろう。
 それでも、今のアリスなら大丈夫だろうと思う。
 迷いのない足取りで進んでいくアリスの背中を見送って、猟兵たちはグリモアベースへと帰還するのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年06月21日
宿敵 『マーダー・ラビット』 を撃破!


挿絵イラスト