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ブレード・レゾンデートル

#サムライエンパイア #猟書家の侵攻 #猟書家 #『刀狩』 #妖剣士

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●刃の意味
 我が子が尋ねたことを思い出す。
 今何故、それを思い出すのかは理由もわからない。けれど、思い出すのだ。
「父上。刀は何故物を斬らねばならないのでしょうか。何かを切るのであれば、刀でなくても包丁だっていい。鋏であってもいい。なのに何故、刀は存在しているのでしょうか」
 その疑問を己は感じたことがなかった。
 それ故に己は、己が如何に何も考えずに刃を振るっていたことを恥じた。
 己は妖剣士である。
 呪われし武器を我がものとし、己の精神修養、鍛錬によってこれを抑え、誰かを護るために戦ってきた。

 ただ、振るえば絶大な力を発揮するから己は妖刀を手にした。
 そこに何故存在しているのかという理由すら考えていなかった。ああ、確かにと己は思ったのだ。
 あの時応えられなかった答えが己の中にある。
 呪われし妖刀。そんな物がなくても己は誰かを救う事ができる。
「――ああ、そうだ。己が真に剣士であるのならば、刀は要らない。だが、刀が存在する意義はある。己の悪しき心を断ち切るためだ。容易く他者の生命を奪ってしまえる力。けれど、それを持って己の心を戒める、そのために刀は存在してるのだ」

 だが、その言葉は永遠に届かない。
 己の目に前には惨殺された我が子の遺骸があった。
 何故。
 何故。何故。何故。
 ぐにゃりと視界が歪む。わからない。一体何が起こったのか。わからない。血に濡れた妖刀を手にした己が震える。
「――私は、何を――」
 答えようとしたのだ。
 あの日の答えを、得た答えを、我が子に伝えようと。

「そんな答えなどつまらないじゃない。刀は血と殺戮を生み出すために存在する。啜りましょう。その血潮を。全てを糧にしましょう。より多くを、より強き者の血を啜りましょう」
 震える己の手にした妖刀からささやく声が響く。

 ――『凶刀』絶姫。

 それが己がこれまで振るってきた刃。その妖刀がささやくのだ。もっと強き者を。目の前に転がる弱き者ではなく、もっと強き物を斬りたいと。
 妖剣士『吾嬬』は絶望とともに己の顔をかきむしった。皮膚が裂け、己のしてしまった所業に対する後悔と怒りがないまぜとなって、『鬼』の仮面を身に着けた姿へと変貌させていく。

「ええ、それでいいのです。貴方は『鬼』にして剣の鬼。私を使って、あらゆる強者を斬りましょう。そうすることが糧になるのです。それこそが、刃の存在意義――」

●悟りの戦い
 グリモアベースに集まってきた猟兵たちを迎えたのはナイアルテ・ブーゾヴァ(フラスコチャイルドのゴッドハンド・f25860)であった。
「お集まり頂きありがとうございます。今回はサムライエンパイアに現れた猟書家『刀狩』の意志を継ぐオブリビオンが引き起こした事件を解決していただきたいのです」
 彼女の瞳はふせられていた。
 グリモアによって見た予知。そこで見た光景は凄惨なる状況であった。
 一人の妖剣士『吾嬬』によって、彼の子、そして周囲の親しい者たちが彼によって惨殺されてしまったのだ。

 凄まじい精神修養と鍛錬を欠かすことのなかった妖剣士『吾嬬』が何故、そのような凶行に及んだのか。
 それは言うまでもなくオブリビオンの仕業である。
 彼の持つ妖刀にして、『凶刀』絶姫。その刀にオブリビオンが宿り、彼の正気を喪わせ、親しい者たちを皆殺しにさせたのだ。
 彼の絶望は図り知れず、その絶望は彼を『鬼』へと変貌させてしまう。
「既に起こってしまった惨殺を阻止することはできません。ですが、『鬼』と化した妖剣士『吾嬬』さんを正気に戻すためには、彼が使う刀を手から落とすだけでいいのです」

 しかし、言うことは簡単である。
 常に鍛錬を重ね、精神修養をも納めた妖剣士『吾嬬』。彼の剣技の技量は凄まじいものである。さらに絶望に塗り固められた彼の体はさらに強化されている。
 となれば、その彼から武器を手から落とさせるだけでも途方も無い難しさであることは窺い知れよう。
「……オブリビオンの目的は優秀な妖剣士を洗脳し、残酷な虐殺を行わせ、完全に心を殺して己の傀儡とすること。彼の正気を失わせることこそが、オブリビオンの作戦なのです」
 猟書家『刀狩』は討たれているが、『クルセイダー』の目論む『江戸幕府の転覆』を実現するために、その意志を引き継ぐオブリビオンが現れたことは看過できない。

「……妖剣士『吾嬬』さんを説得することはほぼ不可能でしょう。ただ、彼に言葉を掛けることは、正気を喪った彼の心を引き寄せることはできるかもしれません。それを隙と呼ぶにはあまりにも綱渡りな手段ではあると思うのですが……」
 それでもやらなければならない。
 圧倒的な技量を誇る妖剣士から武器を取り落とさせるという至難の業。けれど、為さねばオブリビオンに正気を失わされ、虐殺の手駒として使われてしまうことになる。
 それはあってはならぬことだ。

「どうか、お願いいたします……妖剣士『吾嬬』さんを……もう戻らぬ生命があれど、それでもこれ以上、彼の手を血に塗れさせぬため、彼を止めてください」
 何もかも喪ってしまった妖剣士。
 その心が散々に打ちのめされてしまったことは言うまでもない。喪われてしまった生命を戻す術を猟兵は知らない。

 オブリビオンに誰かの心を弄ぶ権利などない。
 彼の心を救うこともできないかもしれない。それでも、猟兵たちは戦わなければならない。
 絶望と後悔が続く人生がこれから彼に待ち受けているのだとしても――。


海鶴
 マスターの海鶴です。どうぞよろしくお願いいたします。
 今回はサムライエンパイアにおける猟書家『刀狩』の意思を継ぐオブリビオンとの戦いになります。
 舞台はある武家屋敷。
 妖剣士『吾嬬』が突如として乱心し、子や親しい者たちを斬殺した直後、俄に正気を取り戻した彼が心砕かれ、『鬼』へと変貌したところから始まります。
 彼を止め、彼の持つ妖刀に憑依したオブリビオンを打倒するシナリオとなっております。

 ※このシナリオは二章構成のシナリオです。

●第一章
 ボス戦です。
『鬼』と化した妖剣士との戦いです。
 呪われた武器、オブリビオンが憑依した武器を手に、『鬼』となる以前から積み上げてきた才能と鍛錬による超絶為る剣技でもって皆さんを斬り殺さんとしています。
 説得は不可能です。
 ですが、言葉を掛けることは無駄ではないでしょう。
 彼から武器を取り落とさせることで、彼は正気を取り戻します。皆さんは、彼から武器を取り落とさせるために彼と戦わなければなりません。

●第二章
 ボス戦です。
 妖剣士『吾嬬』が取り落した妖刀から猟書家『刀狩』の意志を継いだオブリビオンが出現し、決戦となります。
 また正気を取り戻した妖剣氏は、己の武器を手に取り、およそ人間のそれとは考えられない程の怒りにかられてオブリビオンに襲いかかります。
 その強さは、猟兵にも匹敵するものですが、彼だけではきっとオブリビオンは倒すことはできないでしょう。
 皆さんの力が必要なのです。

 ※プレイングボーナス(全章共通)……正気に返った妖剣士と共に戦う(第2章)

 それではサムライエンパイアにおける残酷なる物語を引き起こした猟書家の意志を継ぐオブリビオンとの戦いの物語の一片となれますよう、いっぱいがんばります!
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第1章 ボス戦 『仮面の武僧』

POW   :    末世読経
予め【読経を行う】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
SPD   :    狛犬噛み
自身の身体部位ひとつを【狛犬】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
WIZ   :    金剛力士の招来
戦闘用の、自身と同じ強さの【金剛力士(阿形)】と【金剛力士(吽形)】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。

イラスト:水登うみ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 妖剣にして絶刀。
 それが己の手にした呪われし武器である。最初に求めたのは力だった。
 理不尽に奪われないための力。
 それがこの刀であった。
 斬れればよかった。
 己の剣技は冴え渡り、己の天賦の才能も合わさって自身は敗けることのない妖剣士へと成長した。
 けれど、恐ろしくなったのだ。

 己が誰かを斬るということは、きっと誰かの大切な者を切り捨てる者であると。
 それから己は心を鎮めるためだけに刀を振るった。
 自身の心の中にある悪しきを斬る。
 いわば、刀は飾りでしかなかった。
 心の中に刀を持っていれば、何も恐れることなどない。
 その結果が目の前に広がる血の海である。

 問うた我が子をも手にかけた。
 駆けつけた親類縁者も斬り棄てた。
「ええ、これは弱者。斬った内には入らないわ。こんなのつまらない。もっと強き者を。もっと」
 ささやく声が聞こえる。
 だが、もうそれもどうでもいい。

 己は『鬼』に成る――。
御前・梨
いやぁ…おっかない物ってのは何処にでもあるもんなんすね。 しかも武器と来た。

――本当恐ろしい、人を取り込む凶器(狂気)なんてのは

相手は格上の剣士、俺みたいなトーシロの剣使いじゃとてもじゃないすけど、切り結ぶなんて無理無理

…正面からやりあうって前提ならね

傘の状態で攻撃を【受け流し】つつ、適当に声掛けてみますかね。

風の噂で聞きましたけど剣士てのは武士ってのは心が、信念を曲げないらしいじゃないですか?

――今のアンタ、どうなんです?

それで一瞬でも動きが止まったならすかさず記憶消去銃での【咄嗟の一撃、不意打ち】で相手の動きを更に止め、指定UCで相手の力を、刀を落とす

信念か、こんな言葉言えるんだな俺って



 其処は血の海であった。
 斬り捨てられた残骸は、遺骸にして嘗ての誰かの大切な生命であったもの。
 すでに生命はない。
 一人立つは妖剣士『吾嬬』。
 その表情は知れない。鬼面に覆われた顔に下にあるのは理性無き剥き身の刃のみ。
 手にした刀から滴り落ちる血だけが、彼の凶行を伝える。
「……」
 ゆらりと揺らめくように構える姿。
 そこに一切の隙はない。それだけの技量。天賦の才、たゆまぬ鍛錬。それらが磨き上げた技巧と重圧は凄まじきものであった。

「いやぁ……おっかない物ってのは何処にでもあるもんなんすね。しかも武器と来た」
 ああ、と溜息をつくように、御前・梨(後方への再異動希望のエージェント・f31839)は『鬼』と化した妖剣士『吾嬬』と対峙する。
 ――本当に恐ろしい、人を取り込む凶器、狂気なんていうのは。
 心の中でつぶやく。
 相対しているのは格上の剣士。自身のような素人の剣使いではとてもではないが切り結ぶ事はできない。
 それはわかりきっていたことだった。
 手にした仕込み剣傘をくるりと回し、梨はおどけるように肩をすくめながら『鬼』と化した妖剣士へと声をかける。

「風の噂で聞きましたけど、剣士てのは武士ってのは心が、信念を曲げないらしいじゃないですか?」
 心に信念を宿すからこそ、振るう刀は暴力とは一線を画する。
 誰しもに宿るものではない。
 それは己がこれまで経験してきたこと、出逢った人、語り合った言葉。それらが形成していくものだ。
 一日で信念が積み上げられることはない。
 連綿と紡がれてきた重みがあるからこそ、人はそれを信念と呼び尊ぶ。
 曲げることのない、折れることのない信念が、他者の生命を容易に殺めることのできる力を律することができるのだ。

「……」
 妖剣士『吾嬬』は答えない。
 元より答える気などないのかもしれないし、答えられないのかも知れない。彼の中に今理性はない。
 オブリビオンによって喪われた理性。
 それを取り戻すためには、その手にした武器を手から離さねばならない。言葉は感じられることがなければ、ただの言葉だ。
 けれど、感じる心が未だ残っているのなら。

「――今のアンタ、どうなんです?」
 一瞬の隙。
 ゆらりと揺れた妖剣士の体。残影を残すほどの速度で踏み込んでくる妖剣士『吾嬬』の姿を梨は見た。
 手にした記憶消去銃の銃口が向けられる。
 だが、それすらを読んでいたかのように『吾嬬』の肩が狛犬の頭部に変形し、記憶消去銃に食いつく。
 たまらず手を離す。
 だが、それはフェイントだ。言ったはずだ。己は素人だと。切り結ぶことなどできやしないと。

 本命はこちらである。
 剣傘を広げ、『吾嬬』へと投げ放つ。視界を覆われてしまえば、次なる梨の一手はわからないはず。どこから攻撃が来るかもわからぬのならば、『吾嬬』は動くことなど出来ないはずだった。
 けれど――。

 それを超えるのが妖剣士の超絶為る技巧。
 一閃の後に広げられた傘が斬り捨てられる。さらに飛び込むようにして『吾嬬』の身体が梨の身体をも両断せんと迫り、その姿が其処にないことを知る。
「――!」
「本命が傘だと思いました? いえいえ、それもまた嘘なんすけどね。騙し、騙し、騙して、――相手を討つ(カレニトッテノニチジョウ)、それが俺のやり方なんすよ」
 悪いね、と梨は手にした細い刀身の一撃でもって、『吾嬬』の持つ刀、『凶刀』絶姫へと叩きつける。

 刃がぶつかり、火花散る衝撃が手に応える。
 ああ、と梨は思い、至る。
 これが信念の重み。狂い、理性を喪って尚、妖剣士の体を支えるもの。
「信念か、こんな言葉言えるんだな俺って」
 けれど、まだ武器を落とさない。
 その信念故に落とすことを許されない彼の心。歪んでしまった信念。
 オブリビオンが為した凶行。
 戻らぬ生命ばかりである。けれど、梨は立ち向かう。
 目の前の妖剣士が信念に溢れるのならば、それらの裏の裏側までかくのが己である。

 ならば、オブリビオンを止めるのは、己の領分にして仕事なのだ――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

外邨・蛍嘉
「」内クルワ台詞
武器は、私は藤色蛇の目傘、クルワは妖影刀『甚雨』

「ワタシとしては、他人事ではナイノデス」
鬼だものね、クルワ。
「ソウデス。…ソレニ、まだ間に合うノデスカラ」
うん、間に合う。間に合わせてみせるさ。

二人がかりのUCさ。第六感も駆使して、極力、相手を近づけないようにする。
近づかれたら、蹴りでも使ってだまし討ちさ。

「アナタは、まだ間に合いマス。鬼に成りきっていないノデスカラ」
そう、この惨劇を仕組んだやつがいるんだよね。…そいつを討つためにも、あんたには戻ってもらわないと!


クルワは人から鬼になった存在です



 重たい剣戟の音が響き渡る。
 一面見下ろせば血の海と遺骸ばかり。此処が地獄かと問われれば、それは間違いであるけれど。
 けれど、この惨劇を引き起こした妖剣士『吾嬬』にとっては正に地獄であったことだろう。
 彼の顔色はうかがい知ることはできない。
 今まさに彼は『鬼』となっている。鬼面をつけ、その手にした『凶刀』絶姫を振るい、何もかも鏖殺せしめんとする。
 だが、その理性を喪っても尚、その剣閃は美しい。
 それは人が練磨と才能を持って磨き上げた、当代だけにもたらされる至高のものであった。

「ワタシとしては、他人事ではなナイノデス」
 外邨・蛍嘉(雪待天泉・f29452)に宿る別人格であるクルワが言う。かつては人であった。
 だが、今は違う。
 嘗てありし人の残滓があるのだとすれば、それが己であるのかも知れない。
 代わりに蛍嘉が言った。
 クルワと呼ばれた人格は鬼であると。それは変えようの無い事実である。鬼をその魂に封じる一族。
 それ故に人格として共存しているのだ。彼女たちにどのような来歴があるのかはわからない。
 けれど、確かな事がある。
 今目の前に対峙している『鬼』、妖剣士『吾嬬』は放っては置けない。他人事ではないのだ。

「ソウデス。……ソレニ、まだ間に合うノデスカラ」
「うん、間に合う。間に合わせてみせるさ」
 その瞳がユーベルコードに輝く。
 斬撃舞台:雨剣鬼(ハゲシキアメノオニ)。
 その体に二つの人格を有するのであれば、そのユーベルコードは別人格を召喚するものである。
 二人の姿がうつし世に現れる。
 雨剣鬼クルワ。人を守る稀有なる『鬼』。

 なればこそ、絶望と共に『鬼』へと至らんとしている妖剣士を救う理由は十分であった。
 二人は一斉に駆け出す。藤色蛇の目の傘と影のように黒く、蒼い光を放つ妖刀を手に。
「―――ッ!」
 妖剣士『吾嬬』の咆哮がほとばしる。
 それは己がしてしまった凶行と、己が今まで何をしていたのかを忘れさせるものであった。いや、忘れたいとさえ思っているのだろう。
 もうどうでもいい。
 何もかも喪ってしまったのだから、もはや取り返しは付かない。
 本来であれば、即座に自害するものであった。
 だが、それすら許されない。

 懊悩すらもオブリビオンによって奪われた。
 それはあまりにも惨たらしい仕打ちであった。戦力がいる。幕府を転覆させるために。そのためだけに妖剣士『吾嬬』はオブリビオンに狙われた。
 手駒とするためだけにだ。
 二人は挟み撃ちにするように己の武器を振るう。
 刃と刃が交錯し、妖剣士『吾嬬』の肩から狛犬の頭部が現れ、蛇の目傘へと食らいついていく。

『鬼』と化したことで、逆に妖剣士としての力が、技術が十全に使えなくなっていることは、皮肉であった。
「アナタは、まだ間に合いマス。鬼に成りきっていないノデスカラ」
 クルワが言う。
 己のようにはなっていないのだと。
 その心に信念が宿る限り、『吾嬬』は鬼にはなれない。誰かの掌が、そっと彼の心を未だ支えているから。
 それは、クルワにとって護るべきものであった。
 喪われてしまったものだからこそ、『吾嬬』の心を未だ守っていると知る。

「そう、この惨劇を仕組んだやつがいるんだよね……そいつを討つためにも、あんたには戻ってもらわないと!」
 蛍嘉の振るった蛇の目傘が、『吾嬬』の手にした武器を振り落とそうと叩きつけられる。
 ビリビリと重たい衝撃が二人の体に伝わる。
 これほどまでの攻撃を重ねても、未だ武器から手を離そうとしない。
 その技量、鍛錬、練磨。
 それが為せる業であると二人は実感していた。だが、同時に二人は確信していた。今までの攻防でわかったことがある。

 彼の心に自分達の言葉は届いていないのかもしれない。
 けれど、彼の心には未だ自分達以外の心が、彼を守っている。それは『鬼』に為さしめようとするオブリビオンの目論見を砕く一縷の希望であった。
 それを手繰り寄せるために二人は戦う。
 消耗させ、後に続く者たちのために。
「ソノ心に在る者の声を聞いてクダサイ! あなたはまだ『鬼』じゃない。『人』なノデスカラ!」

 その言葉は届かない。
 届かないのかも知れない。けれど、それでも届いている。いつだってそうだけれど、人の心は弱い。弱いけれど、敗けるようにはできていない。
 それが人の持つ強さであり、愛おしいものであると知っているからこそ、クルワは人のために戦い続けるのだ――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エピテ・ミュアー
感じます
邪悪な全てを殺し尽す享楽の欲望
ですがその奥に灯るかすかな欲望
神よ
消えようとするかの欲望に光あらん事を

欲は自由であるべきです
貴方が縛らんとする欲を私は解放します

下半身のラスボスアーマーで敵の攻撃を受け止め◆カウンターの◆怪力で身体に接触
その中から吾嬬の欲望想念を探します
『理不尽に奪わせない』そして『心を鎮める』
消えようとするこの想念を引きずり出し
刀と鎧の形にして下半身体に装着
特殊効果で理不尽たる凶刀への特攻効果と剣技の模倣
そして鎧から心を鎮める波動を放ち悲しみに満ちた吾嬬様の心を鎮めます

思い出してください
貴方が刀で求めた物は強者を斬る事ではありません
貴方の欲した物を、思い出して下さい



 欲望を否定することなかれ。
 あらゆるものに欲望が宿るのであれば、その欲を否定することは存在を否定することに値しよう。
 故に、エピテ・ミュアー(欲を崇める教徒にしてボス・f31574)は、その異形なる姿を持って、己の信仰を布教する。
「感じます。邪悪な全てを殺し尽くす京楽の欲望」
 それは溢れんばかりの欲望であった。
 目の前は地獄のような血の海。
 何処に目を向けて転がるのは生命の残骸。斬り捨てられた遺骸の中で猟兵たちと斬り結ぶは妖剣士『吾嬬』。

 その姿はもはや『鬼』であった。
 言い逃れの出来ないような惨劇。その渦中に在りて尚、その姿は荒々しいものであったが、言葉を発すること無く、あるのは咆哮のみであった。
「―――ッ!!」
 裂帛の気合とも取れる咆哮が、エピテの体を震わせる。
 その咆哮を受けてエピテは確かにうなずいた。
「えすが、その奥に灯るかすかな欲望。神よ。消えようとするかの欲望に光あらんことを」

 読経は響かない。
 それを紡ぐことを『鬼』と化した『吾嬬』が望んでいないということでも在った。そこにエピテは微かな消えてしまいそうな欲望を見た。
 捕らえられていると彼女は感じていた。
「欲は自由であるべきです。貴方が縛らんとする欲を私は開放します」
 一瞬の間。
 たったそれだけの瞬間に妖剣士『吾嬬』は戦場を一直線に駆け、エピテへと迫る。
 手にした凶刀『絶姫』を振るい、彼女を両断しようと迫るのだ。

 だが、その剣閃は彼女の下半身とも言うべきラスボスアーマーの腕によって防がれる。
「私の中に蓄えし欲望、今この時力となりて此処へ。では、欲望の力をお見せ致しましょう」
 手をのばす。
 彼女がわずかに感じた消えかけた欲望。 
 それこそが妖剣士『吾嬬』の欲望。生きることを諦めぬ欲望であった。彼は精神修養と鍛錬によって、その練磨を剣鬼の如き圧倒的技量にまで高めていた。

 それは何故か。
 それをもうエピテは理解している。手をのばす。彼女が伸ばすのは欲望想念。妖剣士『吾嬬』が抱えていた『理不尽に奪わせない』こと、そして『心を鎮める』ための刃を持つことへ手をのばす。

 そのユーベルコードの輝きは、地獄のような光景広がる戦場に在りて、圧倒的な輝きを放っていた。
「思い出してください。貴方が刀で求めた物は強者を斬ることではありません」
 わかっているはずだ。
 エピテは手にした輝きを抱えるようにして、己の下半身体へと満たす。
 それは刀と鎧。
『不理不尽に奪わせぬ』ための鎧。そして、『心を鎮める』ために己の心に浮かぶ悪しきを斬る刀。

 その鎧と刀の輝きを前に妖剣士『吾嬬』は言葉無くとも怯んだように、後ずさった。
 そう、相対するものがなんであれ彼はためらわなかったことだろう。 
 だが、エピテが示したのは、彼自身の中にあった欲望想念そのものである。見せられているのは鏡写しの姿でしかない。
「貴方の欲した物を、思い出してください」
 相対する刀と刀がぶつかる。
 模倣された剣戟。火花散り、互いの刃が重たい衝撃を放つ。エピテの鎧が放つ心を鎮めるための波動が、妖剣士『吾嬬』の体を打つ。

 それは打倒するためのものではなかった。
 ただ、その心を鎮めるためだけのもの。
 エピテは知っている。欲望とは、生きるために必要なものだ。求めるからこそ、生命は絶えず。
 故に欲を否定することはない。
「たとえもう、貴方が欲したものが戻らないのだとしても」
 それを求めることは間違いなんかではないのだと、エピテはほほえみながら何度でも妖剣士『吾嬬』の放つ剣戟を受け止め、その心を鎮めるためだけに彼女の力を振るい続ける。

 否定はしない。
 打ち合えば打ち合うほどにわかるはずだ。
『吾嬬』が求めているのは、強者との戦いではない。
 だからこそ、エピテは全てを受け止めるようにユーベルコードの輝きに満ちたまま、その祈りを持って己の信仰を持って悲しみを一身に背負うのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

才堂・紅葉
まったく……こう言う堂々の立ち合いは好みじゃないんだけどね
六尺棒を回し、相手に柄だけ見せて、その間合いを見せない杖術の脇構えを取る
稀代の妖刀に対し、アルダワ特殊鋼とは言え棒の一本で相手にするのは多少の不安もあるが
まぁ、こう言うのは【気合】だ
杖の強みを活かし、リーチと千変万化の変化による【早業】で渡り合いたい

「戦争屋の私には理解出来ませんが、刃に意味を求める事が貴方の求めた道の筈」
「あなたの斬るべきは、外と内のいずれにあるのですか?」

剣戟の最中の問いで剣士の矜持をはかる
狙い目は棒を妖刀に切断されたタイミング

「疾ッ!!」
切り返しの剣の柄に、蹴りを合せ弾き飛ばしを狙う【カウンター、貫通攻撃、衝撃波】



 妖剣士『吾嬬』の構えは正眼。
 未だその手に在りし妖刀を落とす気配はない。これまで猟兵達に絶えず攻撃を与えられていても尚、その手にした武器を落とさないのは見事であったことだろう。
 それは彼がこれまでたゆまぬ鍛錬と精神修養によって磨き上げた天賦の才が為せる業であった。
「――」
 だが、その彼をしてオブリビオンが憑依したことによる虐殺の凶行を止めることは叶わなかった。
 己の手で、己の磨き上げてきた技術でもって己の親しい者たちを斬り捨てた。正気ではないのはもちろんのことである。
 それが猟書家『刀狩』の目論見であることは言うまでもない。

「まったく……こう言う堂々の立ち会いは好みじゃないんだけどね」
 脇に差すように構えた六尺棒をゆらりと回しながら、互いの距離を測るのは、才堂・紅葉(お嬢・f08859)である。
 彼女の手にした六尺棒はアルダワ特殊鋼によって作られたガジェットギミックを有する棍であった。
 対する妖剣士『吾嬬』が構えるのは凶刀『絶姫』。
 稀代の妖刀使いを前にしている自覚がある。六尺棒だけで相手取るには多少の不安もある。

 彼我の間合いは、一足一刀の距離。
 お互いに出方を伺っている。すり足が音もなく距離を詰める。紅葉は知っている。こういう時に物を言うのは気合である。
 臆したほうが敗ける。
 それは勝負の常であり、技量の差を埋めるためには必要なものであった。互いに得物が違えばこそ、見える物がある。
「戦争屋の私には理解できませんが、刃に意味を求める事が貴方の求めた道の筈」
 その言葉を紡いだ瞬間、紅葉の間合いに『吾嬬』が入る。
 手にした六尺棒の柄を剣戟に合わせて回す。紅葉の目的は『吾嬬』の打倒ではない。
 あくまで彼の武器を取り落とさせることだ。

 ただそれだけで『吾嬬』は正気に戻る。けれど、それが途方もなく難しいのだ。これまで猟兵たちが武器を取り落とさせようとしてきた。
 確実に彼の握力を削いでいるのだが、それでも手放さない。
「あなたの斬るべきは、外と内のいずれにあるのですか?」
 紅葉にとって、その言葉は如何なる意味を持っていただろうか。
 神武不殺(シンブフサツ)。
 それは彼女のユーベルコードである。その瞳が輝いている。恐るべき早業で斬りかかる『吾嬬』の剣戟を六尺棒でいなし、また躱す。

 互いの視線は交わらない。
 己の言葉は届いているかわからない。説得すら届かないところまで『吾嬬』の心は引きずり降ろされている。
 オブリビオンが必要であったのは、彼の剣技だけである。
 だから、心は要らない。
 高められた技量、意志の力こそが邪魔なのだから、それを留める物を殺し尽くしてしまえばいい。
「―――ッ!!!」
 咆哮がほとばしる。
 それは烈火の如き怒りでもあった。己に対する怒り。生まれてこの方、一度もそんな激情のままに刃を振るったことはなかっただろう。

 それが紅葉にとっては決定的な揺らぎであった。
 ああ、と紅葉は嘆息する。やはり、彼の刃は己の心の中に住まう悪しきを斬るためにあるのだと確信する。
「安心しました。まだ、貴方の中には貴方がいる――」
 振り下ろされた斬撃が一瞬のうちに切り上げられ、紅葉の持つ六尺棒を切断せしめる。

 切り上がる刀。その煌きは正に絶技。
 息をつかせぬ二連撃。しかし、紅葉はわかっている。これがただの二連撃ではないことを。
「疾ッ!!」
 そう、三撃目が在る――!
 彼の超絶為る剣技を推し量ることができたからこそ、わかる横薙ぎの連撃。放たれた紅葉の六尺棒が、妖刀の腹を叩く。
 衝撃波が彼の体を突き抜けていく。

 よろめくようにして紅葉から距離を取る『吾嬬』。
 その瞳は未だ狂気に彩られている。けれど、紅葉は見ただろう。その狂気の奥底に在る理性の刃の煌きを。
 一手交えたが故にわかる。
 人は敗けない。
 敗けるようにはできていない。紅葉は、その言葉を胸に刻み、相対する妖剣士『吾嬬』の矜持を確かに瞳の奥に見たのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フィア・シュヴァルツ
「そこの妖剣士よ。
呪われし妖刀などなくても誰かを救うことはできる――。
それに気づいたというのに、このザマとはな。
仕方あるまい、我が引導を――え、殺しちゃダメ?」

ええい、まだるっこしい!
ならば、我の魔法で刀を取り落とさせてやろう!

「妖剣士よ、今、我が証明してみせよう。
妖刀などに頼らずとも、誰か守ることができる、と」

話しながら【魔力増幅】で魔力を増幅し……

「そう、我が強大なる魔法があればなぁっ!」

不意打ちで【極寒地獄】を発動!
内部にいるものを凍りつかせる迷宮!
これで凍ったところを、強引に刀を取り上げてくれよう!

「くくく、金剛力士を呼ぼうとも、迷宮内で我に辿り着く前に本体が凍りつくぞ!」(邪悪な笑み



 夥しい血の海の中に生命の残骸が転がる。
 目の前にいるのは『鬼』と化した妖剣士。手にするは凶刀『絶姫』。ゆらりと揺れる体捌きはこれまでの鍛錬と天賦の才が合わさり、磨き上げられてきたことを知らしめるには十分であった。
 その動きは確かに美しく。
 けれど、十二分に残酷であった。

 護るために手に入れた力も、悪意の前には歪み朽ち果てる運命でしかない。
 オブリビオンによって正気を喪わされた妖剣士『吾嬬』の慟哭の如き咆哮が戦場に響き渡る。
 幾度も猟兵達によって手にした刀を取り落とされようとしても尚、その手から凶器は落ちない。
「そこの妖剣士よ。呪われし妖刀などなくても誰かを救う音は出来る――。それに気づいたというのに、このザマとはな」
 フィア・シュヴァルツ(漆黒の魔女・f31665)は嘆息した。呆れ果てていた。真理に近づいたからこそ、その手にあるのは武器ではなく真理へと到達した証であるはず。
 だというのに、フィアの目の前にいる『鬼』と化した妖剣士の姿は哀れであった。

「仕方あるまい、我が引導を――」
 見るに堪えない姿であったからこそ、フィアは妖剣士の生命に終わりを告げようとして、思いとどまった。
 殺してはダメであった。あの手にした妖刀を取り落とさせれば、妖剣士『吾嬬』は正気を取り戻すのであった。
「ええい、まだるっこしい!」
 そう忌々しげに言うフィアの前に現れたのは二体の金剛力士像であった。

『鬼』と化した妖剣士が呼び出した二体の金剛力士像がフィアに迫る。
「妖剣士よ、今、我が証明してみせよう。妖刀などに頼らずとも、誰か護ることが出来る、と」
 その瞳が魔力を帯びる。
 ユーベルコードの輝きと共に顕現するは、極寒地獄(コキュートス)。
 戦場に氷壁の迷路が生み出されていく。それは即座に金剛力士像を取り込み、彼らを徐々に凍りつかせていく。
 どれだけ力があろうとも彼女のユーベルコードの前には意味をなさない。
 動きは鈍くなってき、壁を壊そうとしても強度が在るゆえに金剛力士像たちの運命はすでに取り込まれた時点で決まっていたのだ。

「そう、我が強大なる魔法があればなぁっ!」
 絶大なる魔力の前には如何なる技量をも氷漬けにされてしまう。
 だが、今目の前にするのは連綿と紡がれてきた絶技を振るう妖剣士。手にした妖刀が煌き、己を氷漬けにしようとした氷壁を軋みながらも切り刻んでいく。
 二度呼び出された金剛力士像たちも意味をなさない。
「くくく、金剛力士を予防とも、迷宮内で我にたどり着く前に本体が凍りつくぞ!」
 邪悪な笑みを浮かべながら、己のユーベルコードを展開し続けるフィア。
 その力は絶大。

 しかし、それでも尚、妖剣士『吾嬬』は武器を落とさない。
 力に執着があるわけでもない。
 けれど、確かに意志を持って、その武器を握りしめ続けている。
「ええい、強情な!」
 強情にもほどが在る。フィアにとって、これで詰めであったはずだ。けれど、それでも妖剣士『吾嬬』は妖刀を握りしめたままだ。

 なんという執念。
 いや、精神修養によって得られた強靭なる精神とでも言えばいいのだろうか。果てのない迷宮の中であってさせ、その手は刃を落とさず。
 いっそ見事であった。
 ユーベルコードの効果が切れるまで、フィアはその凄絶なる剣技を前に消耗戦を強いるしかなかったのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カイ・オー
あんたが本当に鬼になったのなら、俺はあんたを斬らないといけない。
だが、まだ人でいられるなら生きて罪を償わせるぜ。力ずくでもな。

刀を構えて対峙する。【加速能力】で高速化。
目や表情、筋肉の僅かな挙動から【情報収集】【読心術】で相手の次の動きを読み、攻撃を【見切る】事で【カウンター】を仕掛ける。太刀筋に、横から斬撃を合わせる事で武器を撥ね飛ばす刀落としの剣技。落とせなくても重ねれば腕を痺れさせる事は出来るだろう。

刀を合わせれば分かる。あんたはまだ鬼に堕ちきってはいない。
ならばあんたに犯行を行わせた「真犯人」がいる。唆す声に覚えはないか?
そいつに報復しろ。それがあんたの償いであり、刃を持つ者の義務だ。



 氷雪のユーベルコードが煌き、妖剣士『吾嬬』を迷宮へと飲み込み、そして、その効果が切れるまで凄まじい消耗に晒されているのにも関わらず、未だその手にある妖刀は取り落とされることはなかった。
『鬼』と化した妖剣士から武器を取り上げる。
 ただそれだけのことであるというのに、これほどまでに手こずるとは誰も思わなかったかもしれない。

 けれど、猟兵達は対峙して初めて分かるものがある。
 目の前の妖剣士は正気を喪っていても、彼の体に刻まれた修練の痕は決して消えないのだと。体に染み付いた技術は、それをして絶技と言わしめるに十分であった。
「あんたが本当に鬼になったのなら、俺はあんたを斬らないといけない」
 カイ・オー(ハードレッド・f13806)は無名の刀を構え、その瞳をユーベルコードに輝かせる。
 すでに最初から全力でいかねば、あの超絶為る技巧を持つ妖剣士には追いつけないと判断してのことだった。
 その判断は正しい。
 加速能力(サイコアクセラレーション)。それがカイのユーベルコード。思考速度、反応速度、及び全身の筋肉の伸縮速度を加速させることによって得られる超強化。

 そこまで己の能力を底上げしても、対峙する妖剣士『吾嬬』とは五分。
「だが、まだ人で居られうなら生きて罪を償わせるぜ。力ずくでもな」
 たとえ、その罪がオブリビオンによるものだとしても。
 それでも生きているのなら。やり直せる。仕切り直せる。終わってしまった生命を取り戻すことは出来ない。
 誰にだってわかることだ。
 けれど、まだその心が『鬼』に堕ちていないというのであるのなら、カイは瞳にユーベルコードを輝かせながら手にした刀を持って、彼を助けると決めたのだ。

『COMMAND:ACCELERATION:ENTER』

 それは一瞬の交錯であった。
 火花が散るように互いの刀と刀がぶつかり合う。
 妖刀にして凶刀『絶姫』。対するカイの刀は無名なれど地獄の鬼の持つ棍棒から打たれたという刃。
 強度に些かの劣りなどない。
 打ち付けられる度に火花が散り、互いの剣戟が耳を打つ

 鬼の面に染まった妖剣士『吾嬬』の表情は伺い知れない。
 けれど、カイは彼の腕や足、五体の全てが雄弁に語っていることを知る。僅かな筋肉の動き、皮膚の張り、その下にある血管の脈動。
 その全てがカイに教える。
 今目の前に在るのは絶技の剣士であると。
「刀を合わせれば分かる。あんたはまだ鬼に堕ちきってはいない」
 言葉よりも雄弁に太刀筋が語っている。
 その鬼面の奥にある表情はきっと憤怒なるものであろう。対する己ではなく、己の体を使って親しい者たちを斬殺せしめた者への怒り。

 それをカイは読み取るからこそ、言う。
「ならばあんたに犯行を行わせた『真犯人』がいる。聞こえているだろう! 唆す声が!」
 斬撃の煌きがカイを上段から両断せんと振り下ろされる。
 しかし、その一撃をかわし、カイは刀へと横合いの斬撃を加える。カイの目的は『吾嬬』を切り捨てることではない。
 あくまで彼の武器を取り落とさせることである。

「そいつに報復しろ。それがあんたの償いであり、刃を持つ者の義務だ」
 重たい衝撃が二人の間に炸裂するように広がっていく。
 言葉は届かないかも知れない。
 聞こえていないかも知れない。
 けれど、カイは知っている。目の前の絶技を持つ剣士の心を。その技巧は肉体的な修練だけでは至れぬ境地であると知る。

 だからこそ、カイは言葉を紡ぐ。
 目の前に在る者を斬るのではなく、その心に住まう悪しきを斬れと。
 そうすることができる者であるとカイは知るからこそ、叫ぶのだ。
「――あんたはそれができる男だ。剣を合わせたからこそわかる。そこまでの境地に至るまで、どれほどの艱難辛苦が在ったのかを。だが、これもまたその一つだ。あんたの人生の最後に、あんたを玉にするかを決める、ひとつ」
 カイは刀を振るう。
 決して手放さない手。
 それは同時に猟兵としてカイが彼を見捨てぬ一つの理由だったのだ――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メンカル・プルモーサ
……妖刀に呑まれている……まさしく剣鬼と言ったところか……
…覆水は盆に戻らないけれど……まだ止めることは出来る、か…

…【神話終わる幕引きの舞台】を発動…降り注ぐ鍵剣で金剛力士や吾嬬を攻撃すると共に妖刀の呪い、即ちオブリビオンの影響を多少なりとも薄れさせて…
…術式組紐【アリアドネ】を突き刺さった鍵剣に引っかけながら繰って一時的に動きを封じよう…
…これを言うのは厳しいとは思うのだけど…それでも『逃げるな』と言うよ…
…妖刀の声に身を任せ…己から逃げるな、と…
…声が届いて一瞬でも動きが止まったら術式装填銃【アヌエヌエ】で刀を狙撃して弾き飛ばすとしよう…



 人の心に陰と陽があるのならば、強弱があるのもまた事実である。
 悪しき心を斬る刃を心に持つ強靭なる精神を持っていた妖剣士『吾嬬』でさえも、正気を失うほどの絶望。
 それに晒されてしまえば、人の心である以上傷つくのは当然のことであろう。
 妖刀にして凶刀『絶姫』。
 それこそが彼の手にした妖刀に憑依したオブリビオンの名である。

「―――ッ!!!」
 声なき声が、咆哮となって迸る。
 悔やんでも悔やみきれぬ斬殺の痕が、そこかしこに残っている。
 それがまた彼の心を苛むのだ。
「……妖刀に呑まれている……正しく剣鬼と言ったところか……」
 メンカル・プルモーサ(トリニティ・ウィッチ・f08301)が対峙する妖剣士『吾嬬』は『鬼』と化している。
 それは己への憎悪。
 そして、目の前に広がる凶行の痕がどうしようもなく彼の心を散り散りにする。

「……覆水は盆に戻らないけれど……まだ止めることは出来る、か……人知及ばぬ演目よ、締まれ、閉じよ。汝は静謐、汝は静寂。魔女が望むは神魔の去りし只人の地」
 メンカルの前に迫るは二体の金剛力士像。
 これまで数多の猟兵たちの攻撃を受けて尚、妖剣士『吾嬬』は止まらない。
 凄まじ剣技と『鬼』と化したことによって得たユーベルコードが、彼を救わんとする猟兵たちを阻むのだ。

 確かに覆水盆に返らず。
 喪われてしまった生命は戻らない。どんなに願っても、ユーベルコードを用いたとしても生命は戻らない。
 だからこそ、彼の絶望が伺い知れるだろう。
「それが呪いだというのなら……呪詛だというのなら、それだけでも変えてみせる」
 メンカルのユーベルコードが輝く。
 世界法則を改変する数多の鍵剣が降り注ぐ。世界法則を改変する力であっても、喪われた生命は戻らない。

 けれど、それでも。
 メンカルの放った鍵剣があらゆる加護と呪詛を減退させる結界を張り巡らせる。
 それは呪詛の如きオブリビオンの憑依した妖刀にすら影響を及ぼす。
「神話終わる幕引きの舞台(ゼロ・キャスト)は整った……」
 瞬間、メンカルの放った術式組紐『アリアドネ』が妖剣士『吾嬬』を捕らえる。鍵剣が組紐と合わさり、強靭なる力で妖剣士『吾嬬』の動きを封じる。
 けれど、それが一時的な拘束にしかならぬことをメンカルは悟っていた。
「―――ッ!!!」
 声無き咆哮。
 それは怨嗟か。それとも憤怒か。

「……これを言うのは厳しいとは思うのだけど……それでも」
 それでも。
 メンカルは真正面から『吾嬬』を見据えて言う。
「『逃げるな』。妖刀の声に身を任せ……己から逃げるな……」
 それは彼がこれまでの生涯において、一度もしたことのないことであったことだろう。いや、辛く逃げ出したく為るほどの経験もあったことだろう。
 しかし、彼は逃げなかった。
 一度も逃げなかったからこそ、その身に宿した絶技がある。

 ぎりぎりと術式組紐が軋む音が聞こえる。
「克己すること。それがあなたが精神修養の果てにたどり着いた領域。その心に宿した刀が斬るのは、悪しき心」
 だからこそ、彼は答えを得たのだろう。
 動きが止まる。
 そこへ打ち込まれるはメンカルの放った術式装填銃『アヌエヌエ』の弾丸であった。

 鈍い音がして妖刀の刀身へと叩きつけられる弾丸が重たい音を立てる。
 それでもなお、手放さない。
 その強靭なる意志が、彼自身を縛り付けている。どうしようもないほどに悲しく残酷な世界。
 たとえ彼が生き延びたのだとしても後に続くは地獄ばかり。
「けれど、それでも」
 それでも、逃げるなとメンカルは言う。
 どれだけ目をそらしたとしても、地獄は必ず追いかけてくる。だからこそ、立ち向かえ、逃げるなとメンカルは銃弾と共に『吾嬬』へと己の思いを叩きつけるのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

サージェ・ライト
お呼びとあらば参じましょう
私はクノイチ、世に潜み、空気を読んで今日はここまで!

あんまり奇襲とかも効果なさそうですしね
正面から搦め手といきましょう!

ハリケーンスラッシュカタールを両手に
残像を駆使して攻撃を仕掛けますよ!
ヒット&アウェイな感じで!

攻撃を仕掛けながら言葉アタックも

刀とて道具
使う者次第で吉にも凶にもなり得るのが事実
刃に心と書いて、忍(シノビ)と読みます
貴方も私も刃と心を律してこその存在なのです
さあこのままその名を汚したまま果てますか?
そんな、死した者にすら誇れない身となり果てますか!?

一瞬の隙で十分です
【電光石火】で捉えます!

あなたの生はあなたが決めるものですよ?

※アドリブ連携OK



 銃弾が何度も妖刀の刀身へと叩きつけられる。
 けれど、妖剣士『吾嬬』は未だ妖刀を取り落とさない。それほどまでに鍛え上げられた握力であるのだろう。
 精神修養と鍛錬を欠かさなかった妖剣士を前にして、武器を取り落とさせるということだけが途方も無い労力を猟兵達に強いていた。

 だが、それも全てが無駄ではない。
 彼らの言葉が、行いが、全て妖剣士『吾嬬』の正気を喪わせたオブリビオンの目論見を徐々に楔を撃っていく。
「お呼びとあらば参じましょう。私はクノイチ、世に潜み、空気を読んで今日はここまで!」
 サージェ・ライト(バーチャルクノイチ・f24264)はあまり奇襲の効果は無いと踏んで正面から搦手でゆくことにしていた。
 カタールダガーを両手に構え、妖剣士『吾嬬』と真っ向から打ち合うのだ。
 こちらは二刀。対する『吾嬬』は一刀のみ。
 それも猟兵達によって消耗させられている。だが、それでもその剣技の冴え渡ることは言うまでもない。

 サージェもまた歴戦の猟兵である。
 これまで何度も激戦をくぐり抜け、経験を積んでも尚、目の前の妖剣士の放つ重圧は凄まじいものであった。
 残像を切り裂く『吾嬬』の剣。
 残像を駆使していなければ、おそらくサージェは一撃目で胴を膾切りにされていただろう。
「――ッ!!」
 声無き咆哮もまた弱まってきている。
 おそらく、『吾嬬』自身の意志とオブリビオンによる正気を失わせる力が拮抗してきているのだ。

「刀とて道具。使う者次第で吉にも凶にも成り得るのが事実。刃に心と書いて、忍び(シノビ)と読みます」
 サージェはカタールダガーでの連撃をつなげながら、妖剣士と打ち合う。
 確かに手数でサージェは圧倒していたが、一歩間違えれば次の瞬間に切り伏せられるのは己であると実感していた。

 それほどまでに『吾嬬』の斬撃は重たいのだ。
 下手に受ければ、カタールダガーごと両断されかねない。
「貴方も私も刃と心を律してこその存在なのです。さあ、このままその名を汚したまま果てますか? そんな、死した者にすら誇れない身と成り果てますか!?」
 サージェの激情が言葉となって走る。
 人の心を、過去を歪めるのがオブリビオンであるというのならば、こんなに酷いことはない。

 たとえ正気を取り戻したのだとしても、妖剣士『吾嬬』の親しい者たちは戻っては来ない。
 どんなに願っても、ユーベルコードを極めても、失われた生命は戻らない。戻らないからこそ、サージェは叫ぶ。
「あなたの生はあなたが決めるものですよ?」
 それを忘れないで欲しい。
 どんなに辛いことがあったとしても。
 くじけて倒れ、起き上がれない事実が襲ってきたのだとしても。
 それでもサージェは言う。

「これまでもそうであったように。これからも。仕切り直せない人生なんてないんです!」
 一瞬の隙。
 これまで猟兵たちが紡いできた行いの全てが集約する。

 放たれるはユーベルコードの輝き。
 一瞬の明滅。
 電光石火(イカズチノゴトキスルドイザンゲキ)。
 それは雷鳴すらも彼方に置き去りにするほどの神速なる一撃。サージェの放った一撃は、妖剣士『吾嬬』の手にした妖刀を確かに弾き飛ばした。

 刃が風切り音を立てて空中で回転し、重たい音を立てて地面に突き刺さる。
 それは、この場に居合わせた全ての猟兵たちが紡いだ、オブリビオンの目論見を打倒する最初の一歩なのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『『凶刀』絶姫』

POW   :    遊んであげましょう
【凍てつく炎】【修羅の蒼炎】【呪詛の黒炎】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
SPD   :    貴方、斬るわ
【殺戮を宣言する】事で【剣鬼として最適化された構造の躰】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    私は刀、刀は私
【刀、又は徒手での攻撃】が命中した対象を切断する。

イラスト:奈賀月

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠四辻・鏡です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 猟兵たちが紡いだ一撃一撃が為したのは、妖剣士『吾嬬』から手にした妖刀を手放させることであった。
 言葉にすれば簡単なことであったが、それを為すにはあまりにも途方も無い行い出逢ったことは言うまでもない。
 風切り音と共に妖刀が地面に突き刺さる。

 その妖刀からなにか憑き物が落ちるようにして現れたのは、一人の女武芸者というにはあまりにも美しい黒髪の姫の如き姿のオブリビオンであった。
 名を、凶刀『絶姫』。
 かの妖刀の名であり、同時に過去の化身オブリビオンである。
「あら……なんとも酷いことを。正気に戻すだなんて。たとえ、正気を取り戻したとしても、彼の家族は戻らないというのに」
 から、から、と笑う『絶姫』。
 その姿は儚くも美しい。
 まるで刃の波紋のようになめらかで、それでいてつややかであった。真に化生の者であると確信できる美しさを保ちながら、けれど、醜悪に笑ったのだ。

「あのまま正気を失わせて『鬼』になっていれば、後悔も無念も何も感じなくてすんだはず。猟兵とは残酷なものですね。また、私が忘れさせてあげないといけないではないですか。彼の剣技は失われるにはあまりにも惜しい」
 妖剣士『吾嬬』は顔を上げない。
 己の手がしたことを、己の刀が何をしたのかを、彼ははっきりと覚えている。
 これまで猟兵たちが告げた言葉も、受け止めていた。

 だからこそ、彼は動けない。
 その姿を見て『絶姫』はまた嗤った。今度こそ本当に、嗤った。
「おかしいわ。自分で殺しておきながら、その手に残る感触は本物だったはず。今まで貴方が斬り捨ててきたものと同じ肉の感触と同じ血の色でしょう? 親しい者だから斬れない。なんてことあるわけないじゃない。或るのは、強者か弱者か。ただそれだけ」
 オブリビオン、凶刀『絶姫』は己の刀を抜き払い、そのオブリビオンたらしめる力、蒼い炎を噴き上がらせながら猟兵たちと対峙する。

 もはや、あの『吾嬬』は立ち上がってくることはないだろうと判断したのだ。
 だが、人を見くびることなかれ。
 たとえどれだけ打ちのめされたのだとしても。
 殺されてしまうのだとしても。
 それでも人は敗けない。敗けるようには出来ていない。
「――ああ、そうだとも。何も変わらない。変えられない。あるのは、私が我が子を斬り殺したという事実のみ」
 その言葉は『吾嬬』の唇からこぼれ落ちた。

 しかし、見よ。
 その瞳は燃え盛る紅蓮のように。
「故に……私は私の為すことを為そう。即ち、お前を斬る。我が心の悪しきものがお前だというのなら、私がお前を切り捨てる――!」
 妖剣士『吾嬬』は妖刀を再び手にし、立ち上がる。きっと彼だけではオブリビオンに勝つことはできないだろう。

 だが、猟兵達は知っている。
 彼の怒りを、悲しみを、そして、それさえも凌駕して為さねばならぬことがあることを――。
御前・梨
成る程、あれが噂の猟書家。この件の首謀者すか。

…これはまた恐ろしいくらい――美しい方ですねぇ。

流石妖刀のヤドリガミって言ったところすかね

人を魔性の美しさで鬼へと誘う、そんな――ろくでもない美しさ

絶姫さん、でしたっけ?強者か、弱者。切る相手か、切らない相手か、成る程、確かに貴女のおっしゃる通りだ。世の中、切ったら全て同じ。それには同意ですよ俺

ですが


それを決めるのは貴女じゃなくて、持ち主

つまり

――物は黙って持ち主に従えって事だ






敵の攻撃を傘で受け流しつつ、吾嬬さんの動きを確認。彼が大技、ひいては攻撃を仕掛けようとするなら、指定UCを発動し、敵の動きを遅くし援護。

勝手に動く物にはお仕置きが必要っすよね



 オブリビオン、凶刀『絶姫』。
 その姿は洗練された美しさがあった。研ぎ澄まされた怖気も走るほどの美しさ。触れれば斬れる。ただ、それでも彼女の美しさは、どこかいびつなものであったことだろう。
 数多の世界を見る猟兵達は知っている。
 普遍たる美しさと不変たる美しさは違うものであると。
「……これまた恐ろしいくらい――美しい方ですねぇ」
 御前・梨(後方への再異動希望のエージェント・f31839)はおどけるようにして言った。
 あれが此度の首謀者にしてオブリビオン。
 妖剣士『吾嬬』を狂気へと落し、その正気を失わせ親しい者たちを斬り捨てさせた者。

 彼女の元がヤドリガミであったかどうかはわからない。
『吾嬬』の妖刀に憑依していたことからして、縁の浅からぬことであったのだろう。
「人を魔性の美しさで鬼へと誘う、そんな――ろくでもない美しさ。『絶姫』さん、でしたっけ? 強者か、弱者。斬る相手か、斬らない相手か……成程、確かに貴女のおっしゃる通りだ。世の中切ったら全て同じ。それには同意ですよ俺」
 彼は一定の理解を示した。
 どんな高潔なる人間も、どんあ汚濁に塗れた人間も、斬ってしまえば生命は失われる。
 変わらぬ生命。
 平等なる生命。
 何処まで行っても、価値は平等であり、同時に無価値でもある。

 これまで何度も見てきたのだろう。
 彼が属するUDC組織で起こる事柄。あらゆる事柄。目をそむけたくなるようなこともあっただろう。
 だが、同時に彼は見てきたはずだ。同じくらい目もくらむほどの輝きを放つ人間の意志を。
「あら、話のわかる猟兵もいたものね? ならば、わかるでしょう? 全ては等しい。等しく価値があって、等しく無価値であると。全ては力ある者の前にひれ伏すが必定であると」
 から、から、と凶刀『絶姫』が笑う。
 しかし、梨は頭を振った。
「ですが」

 そう、どれだけ理屈が正しく思えたのだとしても。
 梨の背後には、はっきりとその意志の輝きを感じる。どれだけ手ひどく打ち据えられたとしても立ち上がってくる人の意志を。
「それを決めるのは貴女じゃなくて、持ち主。つまり――物は黙って持ち主に従えって事だ」
 梨は皮肉げに嗤った。
 結局の所、彼が目の前に相対するオブリビオンは刀が姿を変えた存在にしかすぎない。

 ならば、その意思決定こそ持ち主の心の在り方次第である。
「――貴方、斬るわ」
 笑みが消えた。悍ましいほどの殺気。
 けれど、梨は些かもひるまなかった。何故なら、彼の背後に立つ妖剣士『吾嬬』の放つ剣圧の方が味方でありながら、恐ろしいほどに研ぎ澄まされているのを感じていたからだ。

「はっ、そんな脅したって無駄ですよ。あゝ、言っておきますがね……貴女、さっきのように『吾嬬』さんを操っていたときの方がよほど――」
 怖かったですよ、と梨は嘯いた。
 次の瞬間、梨の背後から凄まじき勢いで『吾嬬』が駆けた。
「時は皆、平等にあり、平等に――終わる。(トキヲウバイシモノ)……ええ、そうでしょうとも――さあ、仕事の時間だ。■■■・■■■■。これより奴の動きを、時を――命を止める」
 それは発音できぬ名。
 けれど、梨には近くできる名。生命を代償にして発現する名を発することも憚られるクラスS級UDC名を告げる。

 瞬間、オブリビオン、凶刀『絶姫』を捉えるのは梨の放った剣の衝撃波であった。
「この程度で―――ッ!? な、に、こ、れ――、は?」
 動きが鈍る。
 それは致命的なものであった。対するは絶技を持つ妖剣士『吾嬬』。
 その剣技の前に己の動きが鈍るのはどうしようもないものであった。

「勝手に動くものにはお仕置きが必要っすよね」
 征け、と梨は小さくつぶやく。
 彼の瞳に映っていたのは、妖剣士『吾嬬』の振りかぶった最上段の斬撃が凶刀『絶姫』を袈裟懸けに切り裂く姿であった。

 ああ、と思う。
 あれこそが美しいものであると。魔性の美しさを塗りつぶすような人の石の輝き。
 それこそが梨にとって眩いものであったことだろう。
 倒れても、くじかれても、打倒されても。
 それでも立ち上がる人の意志の輝きを影から支える。それが己の仕事なのだからと、彼は目を細めるのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

外邨・蛍嘉
クルワとしての行動。蛍嘉は内部で眠る。
削る寿命はクルワのみ。

吾嬬サン…。共に戦いマショウ。雨剣鬼として、相手に
は許せマセンシ。

妖影刀『甚雨』を手にUC発動。雨の属性をのせ、相手と切り結びマショウ。
ワタシも妖剣士デスカラ、同じことデキマスヨ。
それと、ワタシだけに鬼をとられてる場合ではアリマセンヨ?

絶姫。確かにアナタは強いデショウ。デスガ、アナタは忘れてイマス。
…人は、簡単には負けマセン。正であろうが負であろうが、思い持つ分、強くなれるノデス。



 妖剣士『吾嬬』の放った斬撃の一撃が、オブリビオン、凶刀『絶姫』の体を袈裟懸けに切り裂いた。
 吹き荒れるように血潮が溢れ、その斬撃の深さを教えることだろう。
 けれど、それでもまだ過去の化身たるオブリビオンは倒れない。あの凄まじき剣閃を受けて尚倒れぬ力は、確かにオブリビオンであるところを知らしめていた。
「っ、――ああ、やっぱり。素敵。強者との戦い。なんて心地よいのでしょう。なんて心躍るのでしょう。血を喪っても尚、私は生きている。これが生きているということよ」
 凶刀『絶姫』は笑う。
 何処までも笑う。どれだけ己が追い詰められようとも、彼女の心にある悪しきものは消えない。薄れない。
 何処までも過去に歪んでいるからこそ、己の欲望を抑えること無く、力を振るい続けるのだ。

「吾嬬サン……」
 外邨・蛍嘉(雪待天泉・f29452)の身のうちに宿るもう一つの人格である人から鬼へと変じたクルワが渾身の一太刀をオブリビオンへと浴びせた吾嬬の隣に立っていた。
「共に戦いマショウ。雨剣鬼として、相手には許せマセンシ」
 手にするは妖影刀『甚雨』。
 影のように黒い刀身が蒼い光を放つ。それはユーベルコードの輝きであり、妖剣解放によって解き放たれた妖刀の怨念であった。
「――……君たちの声が助力となったこと、かたじけない……私一人ではあの妖に勝つことはできない。今の一太刀でわかった。私の太刀はあれを追い詰めることができても、倒すことは出来ない」
 だから、と続ける『吾嬬』の言葉にクルワは静かに頷いた。

「ワタシも妖剣士デスカラ、同じことを思いマス。そして、同じことデキマスヨ」
 クルワと共に『吾嬬』が戦場を掛ける。
 互いに踏み込みは凄まじいものであった。
 雨の属性の乗ったクルワの斬撃が凶刀『絶姫』の太刀筋を限定させていく。手数で優れば、相手の刀はこちらの攻撃を受け止めるほか無い。

 そこへ『吾妻』の絶技たる斬撃が振り下ろされれば、凶刀『絶姫』は防戦一方になるほか無い。
「貴女、邪魔ね。鬱陶しいわ。まるで霧雨のように肌にまとわりつくようで――」
 忌々しげに剣戟の音を響かせながら、クルワの剣閃を躱す凶刀『絶姫』。
 彼女の太刀筋はもはやクルワにとって、読みやすいものでしかなかった。
「絶姫、確かにアナタは強いデショウ。デスガ、アナタは忘れてイマス」
「何を? 何を忘れているというのかしら!」
 凄まじい剣圧がクルワを圧倒する。
 振り下ろされた刃を『吾嬬』が受け止め、凶刀『絶姫』を吹き飛ばし、再び間合いを離すのだ。

「……人は、簡単には敗けマセン。正であろうが負であろうが、思い持つ分、強くなれるノデス」
 それはクルワにとって十分に知ることのできたものであった。
 人を見た。
 人を見た。
 あらゆる人を見てきたのだ。
 この瞳に映る人という生命は、いつだって二面性を抱えている。誰ひとりとして同じ者はおらず、同じ思いを抱える者はいない。

 生と死があり、陰と陽がある。
 矛盾を抱え、生きている。だからこそ、敗けることはない。そのようには出来ていないのだ。
「クルワ殿!」
『吾嬬』の声が響く。
 凶刀『絶姫』の斬撃を下段から切り上げ、跳ね上げさせた瞬間クルワが間合いの中へと踏み込む。
 恐れはないのか。いや、ある。
 けれど、それ以上にクルワは今に全霊を傾ける。振り下ろされた刀の切っ先が己の鼻先に迫る。

 けれど、それでも逃げない。
 振るった刀の一撃は、己の鼻先を掠めるより早く、凶刀『絶姫』を捉え、その斬撃を持って、人の強さを教えるように彼女の体へと癒えぬ傷跡を刻み込むのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

宴・段三郎
綺麗なやや子じゃ、きっと凶悪な妖刀になるに違いないのう…

【行動】
(絶姫、妖刀に取り憑くというのは周りくどかろう。
なればおんしが妖刀になれば全て丸く収まる。
だがそれにはまず、もっと怨恨憎悪を生んでもらわねば)


吾嬬殿、その刀だけでは負けるゆえ、これを使え(号『無声慟哭』を貸与する)二刀流じゃ。
こやつを使用する代償は大きいが、奴を斬れれば満足じゃろう


わしは号『化生炉』と号 『他化自在天吉法師』を融合させ、一振りの火炉と鎚を用意しようかのう
火炉の熱は刀にとって蕩けるほど心地よいしのう
地国炉開闢で更に火力をあげ
姫が死ねば妖刀になるように細工させてもらおうか

戦闘系技能は全て使用。

刀鍛治『地国』、鍛えて参る



 袈裟懸け。横一文字。
 オブリビオン、凶刀『絶姫』に刻まれた斬撃の傷跡はどれも深いものであった。人であれば絶命せしめているであろう太刀傷。
 されど、その身は過去の化身オブリビオンである。
 故に彼女は未だ死に絶えることなく、骸の海へと還ることなく顕現しつづけているのである。
「いいわ、とてもいい。強者との戦い。弱者を切り捨てるだけでは得られなかった高揚があるわ!」
 彼女の姿は見目麗しいものであったが、その性根にあるものは他者の血を啜りたいという欲望だけであった。

 己が刀であるという自負、己の技量を高めるために他者を斬り捨てることに一切の良心の呵責もない存在。
 それが凶刀『絶姫』であった。
「綺麗なやや子じゃ、きっと凶悪な妖刀になるに違いないのう……」
 宴・段三郎(刀鍛冶・f02241)の瞳に映るオブリビオンは如何なる存在のように映っていただろうか。
 その瞳が捉えるのは、ただ刀を鍛えるという一念においてのみ。

「吾嬬殿、その刀だけでは負ける故、これを使え」
 段三郎は手にした一振りの刀を妖剣士『吾嬬』へと投げ放つ。
 その号を『無声慟哭』。
 即身仏を用いて鍛えられたと言われる刀であるが、刀のみを破壊せしめる力こそ、凶刀『絶姫』に相応しいと言えた。
 手にした一振り、そして投げ渡された刀を持って『吾嬬』は即座に二振りの重みに対応していた。

「刀が一本増えたところで!」
 凄まじい剣風が二人を襲う。凶刀『絶姫』の超絶為る剣技は妖剣士『吾嬬』そのものであった。
 確かにあのままでは『吾嬬』は負けるだけであったことだろう。
 だが、二振りの刀を振るって己の写し身の如き斬撃をいなし続ける。
 その姿を観察しながら、段三郎は、その視線でもって己の心の中に浮かぶものを見つめる。
 妖刀に取り憑くことで他者の理性を破壊し、手駒とする凶刀『絶姫』。
 そのやり口はあまりにも回りくどいものであった。
 段三郎にとって、全てが丸く収まることは、彼女を本物の妖刀へと為り変わることである。

 だが、そのためにはまず、もっと怨恨憎悪を産んでもらわねば困るのだ。
「――奴を斬れれば満足じゃろうと……そう思っていると思ったが……中々どうして」
 妖剣士『吾嬬』の二刀の乱舞は見ごたえのあるものであった。
 怒りを紅蓮の炎のように燃やしながらも、その剣技は流麗なるものであった。
 段三郎が手にするは、号『化生炉』と号 『他化自在天吉法師』。融合することによって一振りの火炉と鎚へと変える。

「鍛刀――刀鍛冶『地国』、鍛えて参る」
 互いの剣閃が交錯する。
 煌めく火花は不純物を廃するように瞬き、周囲に飛び散っていく。その儚さを瞳に写しながら、段三郎は火炉の熱を上げていく。
「刀にとって蕩けるほど心地よかろう」
「生き血よりは劣るものね。私は生きた地を啜りたいのよ。圧倒的な熱量を持った強者の血を!」
 斬撃が飛ぶ。
『吾嬬』と段三郎の刀へと衝撃波となって彼らの得物を吹き飛ばさんとする。『吾嬬』もまた貸し与えられた『無声慟哭』を吹き飛ばされ、風切り音を立てて、地面へと突き刺さる。

 けれど、止まらない。
 二人は止まらない。たったそれだけのことで歩みを止めるのならば、地獄の如き鍛錬も、煉獄の如き熱も、その前に容易く歩みを止めてしまっていただろう。
 だが、彼らは止まらなかったのだ。
「ならば、甘やかなる煉獄の炎を持って、化生としての一生を終えるがいい」
 放たれる斬撃と化生炉の炎がまるで彼女を飲み込む竜の顎のように凶刀『絶姫』を飲み込み、その身を焼き尽くさんとばかりに煌々と燃え上がる。

 それは夥しい血の海、その命の残骸をも昇華するほどの熱量となって凶刀『絶姫』の体を覆っていくのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

才堂・紅葉
「呆けている場合ですか、吾嬬さん。お子さんが誇れる父であろうとする事が、今の貴方に出来る事なのでは?」
厳しい言葉をかけておく

「そして、あんたは潰すわ」
真の姿の【封印を解く】と、空手で奴の前に出る

方針は、奴の三種の炎に対し、纏う超重力力場を活かした回し受けで捌く【ジャストディフェンス、グラップル、オーラ防御】
もっとも余裕を持って出来る防御ではないので、相手が気を取り直す前に接近戦だ
刃は体捌きと峰部分を【受け流し】、超重力を纏った打撃技で殴り倒しにいこう

相手が白兵距離を嫌って遠のけば、すかさず片手を翳し超重力力場に【捕縛、属性攻撃、結界術】捕えたい
その隙で、彼の一太刀位は間に合うだろう

「お見事!」



 燃え上がる煉獄の炎。
 その炎は確かにオブリビオン、凶刀『絶姫』の体を焼く。だが、それでまだ。まだあのオブリビオンは霧散し骸の海へと還ってはいない。
 その炎を妖剣士『吾嬬』は見ていた。
 瞳に在るのは喪った我が子への思いであったのかもしれない。
「呆けている場合ですか、吾嬬さん。お子さんが誇れる父であろうとすることが、今の貴方に出来ることでは?」
 才堂・紅葉(お嬢・f08859)は叱咤するように吾嬬の背を言葉でもって叩いた。

 未だ仇は討ててはいない。
 あのオブリビオンは『まだ』やるつもりだ。
 此処で仕留めなければ、彼女は『吾嬬』と同じように誰かを犠牲にしていくだろう。己の手駒とするために。
 徒に死を撒き散らす。
 妖剣士『吾嬬』は理不尽に誰かに奪わせないために己の力を奮ってきた。オブリビオン、凶刀『絶姫』の行うそれは、真逆なる行い。
「あははは! こんな炎で! 私が燃えるわけがないでしょう? 炎はいいわね、不純物を燃やしてくれる。私の炎は今、純化したわ。今度は貴方達を燃やして上げましょう」
 噴出する炎。蒼き炎と黒炎が吹き上がる。

 それこそが凶刀『絶姫』のユーベルコードである。
 だが、その炎を前にして怯む者は、此処にはいなかった。
「そして、あんたは潰すわ」
 紅葉の手甲にハイペリアの紋章が輝く。
 ユーベルコードの輝き。ハイペリアの姫(プリンセス・オブ・ハイペリア)たる紅葉を超重力の力場が包んでいく。
 それは彼女の真の姿。
 手甲に輝く紋章は、その背に負う。
「やってみなさいよ、猟兵! それができるというのなら!」
 手にした刀を振るい、黒炎と蒼き炎を噴出させながら凶刀『絶姫』が戦場を駆ける。互いの視線が交錯する。

「人の心は容易く折れる。それこそなまくらのようにね。だから、私は心から壊す。貴女の心はどれほどのものかしら?」
 斬撃が紅葉を襲う。
 その剣技は確かに壮絶なるものであった。だが、及ばない。
 遠く及ばないのだ。
 先刻刃を交えた妖剣士『吾嬬』の放った剣閃には遠く及ばない。完全に模倣しているのだろう。だが、軽いのだ。
 徒手空拳にて紅葉は振るわれた斬撃を手の甲で刀の腹を叩くようにして受け流す。
 超重力をまとう彼女にとって、斬撃は無意味である。

 どれだけ早く振るわれようが、今の彼女には届かない。
「この程度……この程度の剣技でよくもまあ、ほざいたものです」
 そう思うだろう。貴方も、と紅葉は『吾嬬』を見た。同じ剣技を持つ者。模倣された者と模倣した者が相まみえる。
「――紅葉殿。貴方の言葉は確かに。父たる私が此処で立たねば、我が子に示しがつきませぬ」
 故に、その業を持って応える。

 瞬間的に、凶刀『絶姫』は悟ったのだろう。
 この間合に居ては、『吾嬬』に斬られると。だから、下がった。それを紅葉は見逃さなかったし、戦いにおいて後ずさるものに得られる勝利などない。
「――逃さない。言ったはずよ、潰すと」
 超重力を纏った手が凶刀『絶姫』へと向けられる。
 その力場は彼女の体をはたき落とすように、後ずさる動きを止める。

「こ、の! 私を、私の動きを止めるなど――!」
 たった一瞬。
 けれど、それで十分な間合いであった。
 神速の踏み込みで妖剣士『吾嬬』が一足一刀の間合いに詰め寄る。
 紅葉は知っていた。たった一瞬。その隙で十分『吾嬬』の一太刀は間に合うだろうと。
 信じていたのだ。

 彼の強さを。これまで積み上げ、研鑽してきた心と業を。
 彼女の言葉に答えるように妖刀の斬撃が再び凶刀『絶姫』へと振るわれる。ほとばしる血液は炎のように宙にゆらめき、その斬撃の鋭さを教える。
 それを見上げ、紅葉は感嘆の声と共に喝采する。
「――お見事!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

サージェ・ライト
なるほどなるほど
『或るのは、強者か弱者か』ときましたか
じゃあ貴女はただの鈍(なまくら)ですね
だって今この場で誰を斬れましたか?
斬れない刀なんて包丁より役に立たないですよ?(笑顔で挑発)

後は刃で語るのみ!
ハリケーンスラッシュカタールを構えて
「ふふ、私はクノイチ、サージェ、逃げも隠れもしませんよ!」
【威風堂々】としながら
【電光石火】で仕掛けます!
「この一撃は信念の一撃! 参ります!」
どっちが早いか勝負!

と、みせかけてー!
交差した瞬間にダメージ覚悟で絶姫に隙を作って
本命は吾嬬さんお願いしまーす!
私ごとやっちゃってくださーい!

逃しませんよ!
人間(ひと)の想いを思い知れー!

※アドリブ連携OK



 弱肉強食の世界。
 それは世界に在りて普遍的なものであろう。強きものは弱きものを喰らう。けれど、果たして世界はそんなにも単純であったことだろうか。
 弱き者ばかりが淘汰されていく世界であるというのならば、世界に強者はたった一人であるし、強き者が君臨し続けているであろう。
 だが、現実にはそうはならない。
 強き者が隆盛を極めるように、頂点に至った瞬間から衰退が始まる。
 それは如何なる世界に置いても変わらぬ事実である。

「どれだけ刃を私に叩き込もうとも私には届かない。私の真芯に届かないのよ」
 オブリビオン、凶刀『絶姫』が血まみれになりながら嗤う。
 彼女にとって強者との刃を交えることこそが、成長の糧にして、存在する糧である。人であればとうに致命傷となって動くことも敵わない傷を追いながらも未だ存在し続けるのは、過去に歪みしオブリビオンであるからに他ならない。
「弱者がどれだけ群れようが意味がないのよ。私が強者である限り、貴方達は弱者に他ならない」
 現に己を倒しきれていない。

 だが、その言葉にサージェ・ライト(バーチャルクノイチ・f24264)は鼻で嗤うように言葉を告げる。
「なるほどなるほど。『或るのは、強者か弱者か』ときましたか」
 その態度はあまりにも凶刀『絶姫』を挑発するものであったし、見え透いていた。けれど、今の凶刀『絶姫』には、それを堪えられない。
 度重なる猟兵たちの攻撃を受け、本来であれば絶命していても仕方のない傷を追っているのだ。
 冷静のように見えて、冷静ではないのだ。

「じゃあ、貴女はただの鈍らですね。だって今この場で誰を斬れましたか? 斬れない刀なんて包丁より役に立たないですよ?」
 にこりと笑顔でサージェは言い放った。
 完全なる挑発。冷静なるものであれば、精神修養を重ねた者であれば、聞き流す程度の挑発。
 だが、今対峙するのはオブリビオン、凶刀『絶姫』である。
 彼女の剣技は確かに超絶為る妖剣士『吾嬬』のものであるが、それは模倣でしかない。彼の研鑽を重ねた精神までも模倣することは出来ない。

「――貴女、斬るわ」
 殺気があふれかえる。
 凄まじい殺気の重圧が戦場を包み込む。手にした刀が軋むほどに握りしめられ、その憤怒の度合いを知らしめるだろう。
 だが、サージェは些かも堪えていなかった。
「ふふ、私はクノイチ、サージェ。逃げも隠れもしませんよ!」
 両手に構えたカタールダガーを交錯させ、駆け出す。
 勝負は一瞬。
 互いに速度を誇るのであれば、どちらの剣が先に届くかで命運が変わる。

 対する絶技は妖剣士『吾嬬』のもの。
「この一撃は信念の一撃! 参ります!」
 電光石火(イカズチノゴトキスルドイザンゲキ)の如くサージェと凶刀『絶姫』が交錯する。
 サージェの肌が切り裂かれ、血潮が飛ぶ。
 けれど、凶刀『絶姫』には傷跡さえ残っていない。
「――おおげさなことをいって結局はこの程度! 忍び程度が私を! 『吾嬬』の剣技を超えられると――!?」
 思ってなど居ない。
 何故なら、サージェの目的はそれではないから。ダメージを覚悟しながら飛び込んだけれど、胴が泣き別れになることはなかった。
 大げさに覚悟を決めて損をした気分だった。

 カタールダガーが凶刀『絶姫』の足に突き立てられている。
「本命は『吾嬬』さんです。私ごとやっちゃってくださーい!」
 彼女の背後にあるのは鬼神の如き技量を持つ妖剣士『吾嬬』。手にした刀が振るわれる。太刀筋に迷いなど無く。
 けれど、それを見て『絶姫』は足を犠牲にしてでも逃れようと体をひねったが、それをサージェに組み付かれ阻止される。
「逃しませんよ! 人間の、人の想いを思い知れー!」
 背後から羽交い締めにした『絶姫』が暴れても離す気はない。

 結局の所、技量を模倣できたとしても。
 その思いまでは模倣できないのだ。サージェがそうであるように、思いに形はない。何一つ同じ思いはない。
 概念の集合体であるサージェであるからこそ、知ることの出来る思い。
 その思いの結実の如き『吾嬬』の斬撃が、今再び、『絶姫』へと振るわれ、その血潮を迸らせるのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メンカル・プルモーサ
…他者を操りながらその者の存在意義を語るとはね…
…だいたい、斬り殺させたのはお前だろうに…

…まずは『吾嬬』の援護かな……【再起する不倒の英雄】を『吾嬬』に付与…多少の傷はこれでなんとか…
…あとは『吾嬬』の隙を埋めるように術式装填銃【アヌエヌエ】で刀を弾いたり腕を狙ったりで攻撃自体の妨害をして援護…
…【再起する不倒の英雄】で『吾嬬』への強化がある程度乗って互角に打ち合えるようになったら……
…隙を見て重奏強化術式【エコー】により効果を高めた転倒術式で絶姫を転倒させようか…
…オブリビオンに言っても仕方ないけど…強者を斬りたいのであればそれこそ『吾嬬』ときちんと話し合えば別の道もあったろうに…



 オブリビオン、凶刀『絶姫』へと振るわれた妖剣士『吾嬬』の斬撃はどれも渾身の力を振り絞ったものばかりであった。
 けれど、それらの渾身を受けても尚、凶刀『絶姫』は立っている。
 未だ骸の海へと還らない。
「私はまだ終わらないわ。まだ斬り足りないもの。まだ強者を斬ってないもの。だって、もっともっと、啜りたいの。私の身を流れる血潮が絶えるその時まで。強者とは弱者を淘汰する存在よ? わかるでしょう?」
 彼女は血まみれになりながら凄絶に嗤う。
 他者を弄び、人の思い、心こそが邪魔であると排斥しようとしていた。

 その邪悪さは言うまでもない。
 惨たらしいというほか無い。
「……他者を操りながらその者の存在意義を語るとはね……だいたい、斬り殺させたのはお前だろうに……」
 メンカル・プルモーサ(トリニティ・ウィッチ・f08301)は、オブリビオン、凶刀『絶姫』の傲慢なる物言いに嫌悪を抱いたことだろう。
 すでに妖剣士『吾嬬』は限界を超えているだろう。
 激しい怒りは彼に力を与えてはいるが、それでも彼の肉体は悲鳴を上げている。どれだけ肉体の限界を越えようとも、いつかは終わる。
 怒りとは凄まじい力をもたらすが、持続性はない。

 それが悲しいことであるとは知っているけれど。
 それでも人は怒りを覚えずには居られないのだ。理不尽に奪われる悲しみは怒りでもって塗りつぶすしかない。
「抗う兵よ、起きよ、鍛えよ。汝は克復、汝は再来。魔女が望むは加護を宿す不壊なる体」
 メンカルのユーベルコードが詠唱される。
 肉体の限界を超えた『吾嬬』の体は悲鳴を上げていたが、彼女のユーベルコードによって断裂した筋繊維が復元されていく。
「かたじけない……!」
『吾嬬』は立ち上がる。
 何度でもきっと立ち上がるだろう。メンカルはそれがよくわかっている。

「何度やっても無駄よ。私は生きている。こうして生きているもの。私は刀。刀は私。刀が在る限り私の存在は不滅なのよ」
 互いに交錯する。
 超絶為る剣技は全て『吾嬬』のもの。
 彼の剣技を模倣している凶刀『絶姫』は、オブリビオンである。技量が同じであれば、先に限界が訪れるのは人の身である『吾嬬』だ。

 けれど、終わらない。
 鳴り止まぬ剣戟の音。
 肉体はとっくに限界を超えて、動けなくなっているはずなのに『吾嬬』は斬撃を繰り出し続ける。
「……援護なんて、いらないのかもしれないけれど」
 それでもメンカルは術式装填銃で『吾嬬』を援護し続ける。
 同時に彼女の発動させたユーベルコードが未だ効果を終えていない。彼女のユーベルコードは、『吾嬬』の限界を超えた活動を補助し続けている。

 その肉体は徐々に強化され、その剣は重たくなっていくのだ。
「こ、の……! 模倣は完璧だったはず! なのに、何故、私が圧される……!」
 煩わしいメンカルの銃撃。
 刀で弾けないわけではないが、鬱陶しいのだ。そう思い、凶刀『絶姫』が放たれた弾丸を煩わしそうに振り払おうとした瞬間、銃弾がこれまで以上に重いことをしる。

 それはあまりにも遅い判断だった。
 弾丸が刀身にぶつかった瞬間、凶刀『絶姫』の身体が傾ぐ。
 転倒しなかったのは褒めてやるべきであったかもしれないが、メンカルにとってはどうでもいいことだった。
「……オブリビオンに言っても仕方ないけど……強者を斬りたいのであれば、それこそ『吾嬬』ときちんと話し合えば別の道もあったろうに……」

 たとえ、話し合ったとしても。
 再起する不倒の英雄(ヒーローズ・リターン)たる『吾嬬』には届かなかったことだろう。
 何故なら、間違いを犯したからだ。
 触れてはならぬ人の業に触れた。
 それは決して許されぬことである。メンカルの弾丸が凶刀『絶姫』の体制を崩し、其処へ繰り出されるのは、『吾嬬』の限界を超えた斬撃。
 とっさに構えた刀を滑るように刃同士が火花をちらしながら、彼女の片腕を叩き切り、その一撃を持ってメンカルと『吾嬬』は奪われた生命への手向けとするのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フィア・シュヴァルツ
「やれやれ、ようやく正気を取り戻したか、妖剣士よ。
我の魔術に抗するだけの実力があるならば、そのような凶刀の誘惑などに負けるでないわ」

さて、敵は近距離戦タイプか。
魔術士である我とは相性の悪い敵だな。

さっき放った極寒地獄の魔法のせいで、魔力使い果たして腹が減ったしな。
大魔術はあと一発が限界というところか……

「妖剣士よ。
己の心の弱さの化身があの凶刀の女だというなら、自身の手でそれを斬ってみせよ!」

【ミゼリコルディア・スパーダ】により無数の魔剣を召喚。
敵の周囲を飛び回らせよう。

「妖剣士よ。
魔法で作り出せし、これらの魔剣もまた刀。
凶刀を持たずとも自身の力のみで勝てることを見せてやれ。
数なら用意してやる」



 妖剣士『吾嬬』の斬撃は凄まじいものであった。
 肉体の限界を超えて振るった刀は、オブリビオン、凶刀『絶姫』の片腕を切り落としたが、彼の技量、そして膂力に妖刀自体が耐えられなかったのだ。
 半ばから折れた刀であったが、それでも『吾嬬』は戦うことをやめないだろう。

 その姿は強く、気高いものであり、美しいものであるようにフィア・シュヴァルツ(漆黒の魔女・f31665)は思えた。
「やれやれ、ようやく正気を取り戻したか、妖剣士よ。我の魔術に抗するだけの実力があるならば、そのような凶刀の誘惑などに負けるでないわ」
 憎まれ口を叩いてしまうのは、もはや性分のようなものであった。
 妖剣士『吾嬬』を正気に戻すために使用した極限なる魔法のためか、フィア自身に残る魔力は底を尽き掛けていた。
 どうにも緊張感のない腹の虫が鳴るのは、恥ずかしいものであったが、魔力残量から考えて大魔術は後一発が限界と言ったところであった。

 だが、フィアは何も案ずることはなかった。
 恐怖すらしなかった。
「呪いの類を手繰る術士がいたところで!」
 未だ隻腕になっても凶刀『絶姫』は戦意を損なうことはなかった。
 むしろ、その瞳は未だ爛々と輝き、狂気を帯びた笑みを浮かべていた。どこまで言っても彼女はオブリビオンであることを証明していた。
 己の欲望、己の願望を叶えるためだけに世界すらも滅ぼしてしまう存在。彼女の目的は強者との戦い。

 今の鎬削るような戦いこそが、彼女の願望であったのだろう。
 もはや、猟書家の意志であるとか、目論見であるとか、そういったものは彼女の中には介在していなかった。
「――哀れな」
 妖剣士『吾嬬』は強者を求める凶刀『絶姫』を哀れんでいた。あれはきっと、もしかしたら在り得たかも知れない己の姿であると思えたからだ。

「妖剣士よ。己の心の弱さの化身があの凶刀の女だというなら、自身の手でそれを斬ってみせよ!」
 フィアの瞳がユーベルコードに輝く。
 それは複雑な幾何学模様を描き飛翔する膨大な数の魔法剣の群れ。それらが『吾嬬』に随伴するように宙を飛ぶ。

 凶刀『絶姫』を取り囲むように飛び交う魔法剣は、しかして彼女を攻撃することはなかった。
 妖剣士『吾嬬』はフィアの意を汲んで、折れた刀を投げ捨て、魔法剣を手に取る。
「――心遣い、感謝いたします」
 それは僅かな間に満たない感謝の意。
 けれど、フィアはそれを確かに感じていた。

 魔法剣の強度は妖刀には劣るであろう。
 一合打ち合えば、きっと砕け散る。現に今も打ち合った瞬間か砕け散っている。
 けれど。
「妖剣士よ。魔法で作り出せし、これらの魔剣もまた刀。凶刀を持たずとも自身の力のみで勝てることを見せてやれ」
 征け。
 征け、征くのだとフィアはその瞳に妖剣士『吾嬬』の背中を移す。

 その剣閃は美しかった。
 あれだけの怒りと悲しみを内包しながらも、その剣閃の煌きは何物にも代えがたいものであった。
 あれこそが生命の輝き。

 己の生命を賭してでも為さねばならぬと決意した者の剣技。
 故に、フィアはつぶやく。
「数なら用意してやる。一人の魔女として敬意を。その覚悟に」
 魔剣が飛び交う中、次から次に折れる剣を変えながら、『吾嬬』は魔力の破片舞い散る戦場を駆け抜ける。
 どれだけオブリビオン、凶刀『絶姫』が強大なる存在であったとしても関係ない。

 彼には覚悟がある。
 フィアは魔力が底をついたが、それでも、その人の業が生み出す生命の輝きををまぶしげに見つめながら、彼の行く末を見守るのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カイ・オー
吾嬬の援護を行う。
奴を斬るのはあんただ。そうでなければ、この物語は完成しない。

吾嬬の後方に立ち【属性攻撃】。「火の手」で召還した地獄の炎を放ち絶姫を攻撃し牽制。斬り込む為を隙を作る。

この戦術だけでは倒しきれないなら切り札を使う。【霊媒探偵】。吾嬬に斬られた被害者達の魂に呼び掛け、この事件を解決する為の力を借りる。
【結界術】【捕縛】。炎の結界で戦場を包み絶姫の動きを封じる。同時に吾嬬の肉体に力を注ぎ【限界突破】させる。

本来、意に添わず手を下した者の前で使うUCじゃない。だが、彼がこの先自分を受け入れる為には禊が必要だ。
彼を鬼に堕とさない為に俺が鬼になる。彼等の力を受け入れて絶姫を斬り伏せてくれ。



 物語が在った。
 それは残酷なる世界の美しさを伝える物語であった。
 妖刀の力を精神修養と鍛錬、そして身に宿した天賦の才によって研鑽した妖剣士の物語。
 本来であれば、その名はサムライエンパイアにおいて剣術無双にして神月円明として語り継がれるものであったかもしれない。
 けれど、そうはならなかった。
 ならなかったのだ。

 オブリビオン、凶刀『絶姫』。それは妖剣士『吾嬬』の妖刀に憑依した者の名であり、彼の親しい者を斬殺させた張本人である。
「ああ、なんて残酷なのでしょうね。貴方が妖刀を手にしなければ、貴方が天賦の才を発揮しなければ、もしくは『誰かのために』と戦いさえしなければ、きっと失われる命もなかったでしょう」
 凶刀『絶姫』が嗤う。
 その姿はもはや人の形を止めているだけであった。
 度重なる猟兵と妖剣士『吾嬬』の斬撃によって、消耗しきっていた。未だ霧散せずに消えぬことが並のオブリビオンではないことを物語っている。

 彼女の言葉は理屈もなければ、正論でもない。
 だというのに、散々に『吾嬬』の心を抉るには十分だった。
 カイ・オー(ハードレッド・f13806)は、それを理解していた。『吾妻』の後方に立ち、革手袋から現出させた地獄の炎を放ち、凶刀『絶姫』を牽制する。
「――そうかもしれない。確かにお前の言う通りかもしれない」
 妖剣士『吾嬬』は怒りと悲しみがないまぜになった震える声を紡いでいた。だが、それでも、その震える手は妖刀を手放さなかった。

 力を求めなければ、確かに失われる生命はなかったのかも知れない。
 けれど、時はさかまかない。失われた生命は戻らない。
「奴を斬るのはあんただ。そうでなければ、この物語は完成しない」
 カイは言葉を紡ぐ。
 己の言葉では彼の背中を押すには足りない。
 わかっている。けれど、カイの切り札は、彼の心を再び抉るだけかもしれない。
 それでもと、何度でも言おう。

「人は敗けない。わかっているはずだ、あんたにもそれは!」
 この事件は必ず解決してみせる。どんな手を使っても、とカイはこころを決めた。『吾嬬』の心を抉ることになるとしても。
 それでも解決してみせる。それが、霊媒探偵(ラストリゾート)である。
 カイの瞳がユーベルコードに輝く。

 揺るがぬ決意が呼び寄せるのは、『吾嬬』に斬られた被害者たちの魂。
 呼びかける。
 この事件を解決するために、あの猟書家の意志を継ぐオブリビオン、凶刀『絶姫』を討たんとするために。
『父上。刀は何故在るのですか――』
 その言葉は、きっと幻聴であったかもしれない。
 呼び寄せ魂は、其処に在るだけだ。言葉は発さない。本来、彼のユーベルコードは意に添わず手を下した者の前にものではない。

 だが、カイは信じている。
 これが彼がこの先自分を受け入れる為に必要な禊であると。通過儀礼であると。
 彼を鬼に堕とさないために己が鬼に成ると決めたのだ。
「――ああ。わかっているとも。答えは既に得た。貴方には心苦しいことをさせた」
 怒りと悲しみを湛えながら、それでも『吾嬬』は申し訳無さそうにカイに微笑んだ。
 これから向かうは死地であるというのに、地獄の炎の結界の中で彼は微笑んでさえいた。
 あれが己の心を律し、妖刀の力を引き出し振るう妖剣士の姿。
 カイは願った。
「彼らの力を受け入れたか。ならば、絶姫を斬り伏せてくれ。そのためにあんたはいる。俺の力はこのためにあったんだと」
 誇らせてくれ。
 カイの言葉を受けて、押されるように『吾嬬』が手にした刀を振り上げる。
 最上段。
 捨て身の構え。しかし、最速にして最大なる一撃を放つ構え。

「――バカね。どれだけ綺麗事を並べても! 貴方が斬り捨てた魂が貴方を許すことなんて」
 追い詰められた『絶姫』が叫ぶ。
 カイの操る炎による結界は彼女を逃さない。何処へも行かせない。
「黙れ。彼らの魂が叫ぶ声が聞こえないか。悪しきを斬れと。己の心にさえ住まう悪しき、弱気を断ち切れと叫ぶ声が――!」
 カイが叫んだ。
 それは脆弱なる人の紡いだ想いの結実であったことだろう。
 妖剣士『吾嬬』の振るった剣閃は一文字に結ばれる。最上段から振り下ろした斬撃は、確かに魂の一撃。

 その太刀に斬れぬものなどない。
 きっと『絶姫』は己が滅んだということさえわからぬままに霧散したことだろう。 悲鳴も、苦痛にあえぐ声さえも上げず。
 怨嗟も、憎悪も全て断ち切って『吾嬬』は残身と共に刀を納めた。
「かたじけない」
 その言葉はカイに向けられた言葉であった。
 カイは見ただろう。
 地獄の炎が鎮まり、犠牲となった者たちの魂が立ち上っていくのを。『吾嬬』の斬撃は、彼らへの手向けのように。

 そして、知るだろう。語るだろう。

『刀の存在意義』を――。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年01月24日


挿絵イラスト