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たとえカミソリの味がしても

#UDCアース #感染型UDC

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●たとえカミソリの味がしても
 SNSに書かれた嘘、裏掲示板のランキング。そんなのはどうだっていい。
 こそこそ笑われたって構わない。だって僕には絵があったから。
 描きたいものがどんどん溢れて、新品のノートはすぐに白紙がなくなった。

 だけどある日、なんにも浮かばなくなって泣きたくなって。
 開いたノートの上で手首を切ろうとした時、みしろちゃんが声をかけてくれた。

「その子、かわいいね」

 最後に憧れのイラストレーターをお手本に描いた女の子を見て、みしろちゃんは笑った。

「私も絵がすきだったの」

 みしろちゃんは僕をわかってくれたから、僕はこうして生きている。
 夕焼けがとろりと降りてくる、やわらかいオレンジ色だ。
 みんなに伝えなきゃ、僕みたいに泣いてるみんなに。
 この夕焼けが、みんなを守ってくれるって。

 ――指先の赤い切り傷からは、カミソリの味がする。

●もしも涙が海水じゃないなら
「やあ、ちょっと面倒なことになってね。地方都市のある街に現れた感染型UDCの対処をお願いしたいんだ」
 手伝ってくれるかな、と揺歌語・なびき(春怨・f02050)が声をかければ、集まった猟兵達が彼の話に耳を傾ける。ありがとう、と礼を告げたグリモア猟兵は事件の説明を始めた。

「まず感染型UDCっていうのは、人の噂で増殖する新種のUDCのこと。それを見た人間、それを噂話やSNSで広めた人間、その広まった噂を知った人間全ての精神エネルギーを餌にして、大量の配下を生みだしちゃう……厄介だよねぇ」
 こういうのって本当に対処に困っちゃうんだ、と苦笑しつつ、人狼は続ける。

「とはいえ、そのUDCも第一発見者を操るつもりはなかったみたい。そのUDCには敵意がないんだ。けど、第一発見者の彼は結果的に噂を伝染させることになった。いじめられてた学生の男の子でね、UDCに救われたらしい。その存在を、自分と似た環境に置かれた友達や、SNSのコミュニティーに書き込んだ」
 結果、噂は静かに急速に広まったということらしい。
「噂を聞いた一般人を捕らえる、黄昏の世界が大量発生してる。彼もその黄昏の中に囚われているから、まず一般人の救出と彼を探してほしい。アユムくんって言う名前で、ぽっちゃりとした子だよ」
 一刻も早くUDCを撃破したいが、その為にはアユムの捜索は必須。
「アユムくん以外にも、捕らわれている人達はなにかしら心に傷を負ってる。あまり厳しいことは言わないであげてほしいけど……まぁ、そこまでのケアはしなくてもいいかな。それどころじゃなくなるかもしれないし」

 不思議な付け足しが入って、猟兵の一人が首を傾げる。
「アユムくんからUDCの目撃場所を聞いたら、すぐにその場所に向かってほしい。けど、既に怪奇現象でおかしなことになってる。時空や場所が歪んで、自身の強い記憶の中でループを繰り返すんだ」
 恐ろしい思い出、幸せな出来事、猟兵達はそんなものに取り込まれてしまう。他人にとってはその程度で、と思うような記憶が、別の誰かには重要な意味を持つこともある。それぞれの方法で元凶を排除し、ループを突破しなくてはならないと人狼は言った。
「それがトラウマであれ幸福であれ、きみ達の記憶を辿る幻だ。ループを潜り抜ける鍵は、必ずきみ達の中にあるよ」

 最初に言った通り、面倒でしょ。なびきはゆるく困った笑顔のまま、依頼の最も重要な部分に触れる。
「ループを抜けたら感染型UDCとの戦いだ。見た目は女子高生、自分の意思に関係なく誰かをユーベルコードに巻き込んでしまう。……本当に、敵意は感じられなかったんだ。どちらかというと恐怖、かな。怯えているし、悲しんでる。けど、友好型UDCではない以上、彼女を必ず殺してほしい」

 転移の支度を始めて、ぽつりとグリモア猟兵は呟いた。
「こんな季節だけど、皆に行ってもらう街は雪があんまり降らないんだ。でも、冬の黄昏はきっと綺麗だろうねぇ」
 血桜があかく降り始めて、ひゅるりと冷たい風が吹く。真昼に夕闇が招かれる。


遅咲
 こんにちは、遅咲です。
 オープニングをご覧頂きありがとうございます。

●成功条件
 オブリビオンを撃破する。

●2章『ループ』
 それぞれの記憶について、またループの元凶の撃破方法を書いてください。
 絶望などのトラウマ、抜け出したくない楽しい思い出、どんなものでも構いません。
 よほど過激な内容の場合は、ぼかすか不採用とさせて頂きます。

 ※プレイング受付は12月日()朝8時31分以降から。
 【グループ参加は2名様】まで。

 どの章からのご参加もお気軽にどうぞ。
 再送のお手間をおかけすることがあります。
 皆さんのプレイング楽しみにしています、よろしくお願いします。
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第1章 集団戦 『黄昏』

POW   :    【常時発動UC】逢魔ヶ時
自身の【黄昏時が進み、その終わりに自身が消える事】を代償に、【影から、影の犬などの有象無象が現れ、それ】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【影の姿に応じた攻撃方法と無限湧きの数の力】で戦う。
SPD   :    【常時発動UC】誰そ彼時
【破壊されても一瞬でも視線を外す、瞬きを】【した瞬間に元通りに修復されている理。】【他者から干渉を受けない強固な時間の流れ】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
WIZ   :    【常時発動UC】黄昏時
小さな【懐古などの物思いにより自らの心の内】に触れた抵抗しない対象を吸い込む。中はユーベルコード製の【黄昏の世界で、黄昏時の終わりを向かえる事】で、いつでも外に出られる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

シビラ・レーヴェンス
露(f19223)。

露を攻めの軸にして私はその露のサポートに専念しよう。
全力魔法と属性攻撃を付与し高速詠唱で【白炎の矢】を行使。
術の効果に範囲攻撃と貫通攻撃も追加で付けておこうか。
露が進もうとする方向を確認し援護射撃として術を放つ。
見切りと第六感や野生の勘を駆使し回避を行おう。

そういえば一般人と第一発見者の救出も仕事だったな。
術を彼ら彼女らに当てないように注意をしておかないと…。
とりあえず露にも注意を促す。私も術を行使する前に確認を。

ふむ。発見したとしても私だと言葉がきつくなってしまうな。
ここは露に任せよう。あの子ならばなんとかするはずだ。
「露。囚われている子達は任せた…」


神坂・露
レーちゃん(f14377)と。
うん!あたしが前に出て突っ切るわ♪
早業と2回攻撃と武器受けダッシュで【銀の舞】よ!
あ。オーラ防御と見切りに野生の勘で回避対策もするわー。
レーちゃんの魔法でサポートしてくれるから心配なく進むわよ。

…とと。囚われてる子達がいたんだっけ?えっと…アユム君も。
じゃあじゃあ、相手の動きをよく見切って判別しよーと思うわ。
え?囚われてる子達は傷ついてるから任せた?うん!任せて♪
うーん。一人一人傷ついてることって違うと思うからなぁ~。
あ♪じゃあじゃあ一人ずつ抱きしめてあげればどうかしら♥
抱き締めてる時はレーちゃん魔法の援護をお願いね。
あたしは大丈夫よ~。多分攻撃されないと思う。



 蜂蜜よりも深い橙彩が、世界を包んでいる。黄昏の中で微睡む人々の眼は、ただぼんやりと遠くを見つめていた。
 夜が降りてくることもなければ、昼間が帰ってくることもない。そんな黄昏時に、いつまでも浸ってなんていられない。わかっていても、誰もがそのことに気付いていないふりをしたようだった。
 ぽつんと座り込む痩せぎすの少年を見つけて、居た、と言葉を発する誰か。彼に近寄ろうとした二人の幼い少女達の前に、大きく伸びた影の犬が、群れを成して実体化を始める。
「そう簡単に帰しはしないか……露」
「うん、レーちゃん!」
 シビラ・レーヴェンスの呼びかけに、ヤドリガミの娘が応える。身を低くして駆けだした姿は、とろり優しい夕闇の中で銀彩の疾風と化す。一気に影の群れを切り裂く神坂・露の膚を、彼らが対抗して食い千切ることのないよう、シビラは魔導書の頁を捲る。まじないの言葉を瞬時に紡げば、巨大な魔法陣が宙に展開された。
 魔法陣から喚ばれる、夥しい数の青白い焔の矢群が一気に犬達の頭上に降り注ぐ。轟々と燃ゆる彩は、黄昏の世界では異質な明かりを燈していた。
 火焔の中を突っ切る露は、火の海をくぐり抜けた犬を相手に刃を振るう。月色の閃光も、永遠に夜の来ないこの夕焼けには不釣り合い。まるでふたつのひかりは、この世界そのものを切り裂いて、燃やし尽くして、終わらせてしまおうとしているように見えて。
 けれどその焔も刃も、決して少年に牙を剥くことはない。卓越した魔術の使い手として、シビラは細かく矢群を操りながら、友人にも注意を促す。
「露、絶対に攻撃を当てるなよ」
「もちろん♪」
 あえて口にせずとも、ちいさな魔女は友人が一般人をうっかり傷つけることなどありえないと知っている。それでも言葉にしておくことで、二人の連携は確かなものになっていく。
 青白焔の援護を受けた露がまっすぐに突っ切った先、凄まじい戦火の中でもこちらを視ていない少年の表情が、彼女には気になった。
「レーちゃん、魔法の援護引き続きお願いね」
 その言葉が何を意味しているのか、シビラにはわかる。自分では言葉がきつくなってしまうから、一般人の保護は友人に任せると決めていた。それでも、ダガーを降ろすことになる露に短く声をかける。
「平気か」
「あたしは大丈夫よ~。多分攻撃されないと思う」
「ん、任せた……」
 そうしてシビラは、影犬の群れを火焔の海原へと溺れさせる。友人の行く道を拓いて、青年と彼女の周囲に炎の壁をつくりあげて。シビラの援護を受けて、露は武器を降ろして少年に呼びかける。
「こんにちは」
 制服を着た少年は、中高生程度だろうか。件のアユムではないとしても、この黄昏に囚われているのは、傷を抱えているということ。露のやわらかい声に、ようやく少年が意識を向ける。
「……だれ?」
「あなたをこの夕焼けから連れ出しに来たの。此処から抜け出すのは、嫌かもしれないけど」
「……わかってるなら、ほっといてくれ」
 色よい返事は来ないことくらい承知している。一人一人、傷ついている理由なんて違うのだから。それを根掘り葉掘り聞くのは、露には余計に彼を苦しめる行為に思えた。
 だから、そうっとちいさな体が、痩せた学生を抱きしめる。
「此処から帰りたくないのよね。けど、帰らなきゃいけないこともわかってるのよね」
 ――あなた、とっても頑張っていたんだわ。
 しろい膚のぬくもりは、少女の言葉のようにほんわりとあたたかい。この黄昏の世界のぬくもりと同じように溶けていく体温に、冷えきった学生の体が震える。
「わかってるんだ、本当は。帰らなくちゃいけないことくらい。けど、あっちじゃ俺の頑張りを、誰も認めてくれなかったんだ」
 ほろほろと零れる言葉に、露は相槌をうつ。自分には出来ない友人の行為を見つめながら、シビラは焔矢の雨を降らすのを止める。
 もう、影の犬は居なくなっていた。黄昏の中、二人の少女と一人の少年の影が伸びる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

臥待・夏報
インターネットに蔓延る美談に縋る人たちは後を絶たない
真っ赤な嘘かもしれないって、心のどこかでわかっていたとしてもね
それが、別の意味での『本物』に当たっちゃうなんて……運が良いんだか悪いんだか

別に責めてるわけじゃないよ
そう言って、見つけた女子高生に笑いかける
僕の傍から離れないで
君も……たとえ死にたかったとしても、犬に噛まれて死ぬのは嫌でしょう

あとは銃やフックワイヤーを駆使して、湧いて出る影の獣たちを排除することに集中するよ
ここでの時間を長く過ごせば、段々と対処にも慣れるでしょう
余裕ができたら傍らの彼女に情報収集をかけてみよう
噂の出どころ……絵を描いていたアカウントの子について
君は何か知っている?



 女の灰髪が、夕橙に染まる。見知らぬ黄昏の街を歩く姿に恐れはなく、ただ散歩の途中に知り合いを見つけたような仕草で立ち止まった。
「やあ」
 公園でブランコを揺らす女子高生は、髪を明るい茶に染めて、学生にしては濃いめの化粧。小柄な女が軽やかに話しかけると、ひどく嫌そうな視線を向けた。
「何?」
「君も、SNSでこの夕暮れを教えてもらったクチかと思ってさ。インターネットに蔓延る美談に縋る人たちは後を絶たないものだから。真っ赤な嘘かもしれないって、心のどこかでわかっていたとしてもね」
 棘のない口調で、いきなり少女を串刺しにする台詞を投げかける。少女が口を開くよりも先に、臥待・夏報は言葉を続けた。
「それが、別の意味での『本物』に当たっちゃうなんて……運が良いんだか悪いんだか」
「あんたにそんなこと言われる筋合いなんて、あたしにはない!!」
 がしゃんと音を立ててブランコから降りた少女がまくし立てるのを見て、夏報は穏やかな笑顔を向ける。それはまるで、この黄昏によく似ていた。
「別に責めてるわけじゃないよ」
「じゃあなんでっ」
 言いかけた少女を制止するように、しぃ、と人差し指で自らの唇を押さえる。そっと目配せすれば、遊具の群れから伸びる黒い影が実体を生みだしている最中。
「僕の傍から離れないで」
 女が少女にそう語る間も、影の群れは犬の形をして溢れていく。それらに気付いた少女の体が震えるのを見て、夏報は穏やかに言葉を紡ぐ。
「君も……たとえ死にたかったとしても、犬に噛まれて死ぬのは嫌でしょう」
 ブランコの周りに立てられた柵は、少女を守るにはちょうどいい。ある程度は持久戦になるだろうけれど、あちこち逃げ回るよりはずっと対処しやすい。
 飛びかかる黒犬に、ぱん、と銃弾を一発。次にワイヤーを投げてフックを別個体に引っかければ、それだけで仮初の肉に毒が廻る。一度の攻撃で霧散する影の体力は、霞程度のものらしい。
「とはいえ、こうも次々湧いてこられるのは面倒だなぁ」
 大勢で一気に襲いかかってこないのはありがたい。それに不思議と影の群れは、少女に対して敵意を向けてはいなかった。代わりに、夏報は周囲の影は勿論のこと、それ以上に傍らの剥き出しの敵意に苛まれている。
(ま、ちゃんとこっちの言うことを聞いてくれるんだから、それでいい)
 そう、それでいい。ラスト・ダンスにはちょっぴりの憎悪くらいがスパイスになる。
 単純作業のように影の犬を駆逐していくと、パターンを読み取れるようになった女にも余裕が出る。視線を敵の群れから逸らすことなく、傍らの少女に尋ねた。
「ねぇ。もし知ってるなら教えてほしいな、噂の出処」
 無言を貫く少女の代わりに、発砲音がまた鳴り響く。
「僕は誰かを罰したりするつもりはないよ。君のこともね。たとえ君が何か知っていて、それを黙っていたとしても」
「……すごくうまい絵をアップするアカウントがあって、少しだけ仲良くなったの。オフで何人かと一緒に遊んだこともある。その子が教えてくれた」
 夏報はそれがアユムだと確信して、そう、とちいさく返す。影の犬の数が減っているのを確かめて、女は彼女と何を話すか考えていた。
 この黄昏時が、終わるまで。

成功 🔵​🔵​🔴​

花菱・真紀
黄昏時。夕陽が綺麗だ…。
その中に溶けてしまいそうなほど。
捕われてる人を連れ戻さないと…

UCで情報収集

UDCが心が傷付いた人を助けたのは偶然だったんだろうけど…そうやって救われたた体験を同じような傷を持った人達に広めるのは…そして広がっていったのはある意味仕方のない事だと思う。

誰だって癒されたいし救われたい。
人の心は意外と脆い。
…俺自身が自分で体験したからね。

逃げてもいい。目を背けたっていい。
心が壊れるくらいなら
それは決して悪い事じゃない。

俺は口達者ではないからうまく言えないけど。
けれど口先だけの言葉は紡ぎたくないから…。
望んだ言葉じゃなかったらごめんね。



 綺麗だ、と思わず青年は呟いた。世界の彩がとろりとやわらかく、あたたかな黄昏時の中で溶けてしまいたくなるようで。ふるりと首を横に振って、花菱・真紀はスマートフォンを開く。
『誰も傷つけない黄昏時の噂、知ってる?』
 複数のSNSに、同じ言葉の十八文字を投稿する。ぽつりぽつりと灯るいいねとリツイート。見慣れたアイコンのフォロワー達からの返事が少しずつ集まって、それらは見知らぬ人々へも繋がっていく。
『何それ』
『初めて聞いた』
『また新しい都市伝説?』
『聞いたことない』
『知ってる』
 ――居た。
 真紀は素早くその四文字にあわいハートを灯す。君の言葉を見てるよ、と言いたくて。橙に染まる街の隙間のどこかしらに、この言葉を吐いた誰かが居るのだろう。
 UDCが心の傷ついた少年を助けたのは、恐らく偶然だったのだろう。けれど、彼が救われた体験を同じ傷を抱える誰かに広め、静かに広がっていったのは仕方のないことだと思った。
「ねぇ、あんたは」
『――どこに居るの?』
 その七文字を入力して、返信ボタンを押す。途端に電波伝いに溢れる願いは、膨大なネットの海の中でたった一人に辿り着く。真紀の目の前には、ランドセルを背負った小柄な少年が佇んでいた。
「誰」
「多分、俺のことは知らないと思うよ。俺もきみを知らないから。けど、」
『見つけた』
 四文字のダイレクトメールを送れば、少年のスマートフォンから通知音が鳴る。あ、とちいさく声をあげた彼に、こわがらないで、と青年は告げる。
 誰だって癒されたくて救われたい。おとなだろうとこどもだろうと、おとこだろうとおんなだろうと、そうでなくとも――人の心は意外と脆い。
 ようく知っている。だってそれは、真紀自身が自分で体験したことだから。
 橙彩とビルの影の中で、少年の顔はよく見えない。代わりに真紀の顔は、斜陽に照らされてよく見えていただろうから。
「逃げてもいい。目を背けたっていい。心が壊れるくらいなら、それは決して悪い事じゃない」
 派手なヘアピンとネクタイだけが自己主張しているようで、それ以外はいたって普通の、そういう青年の顔をしている。きっと真紀の姿は、少年にとって恐ろしいモノには映らなかった。
「俺は口達者ではないから、うまく言えないけど」
 そう前置きして、真紀は眉を少しだけ下げて笑う。
「口先だけの言葉は紡ぎたくないから……」
 望んだ言葉じゃなかったら、ごめんね。告げた自分が、どうしてだか泣きだしそうになったのは、この夕焼けのせいだろうか。
 青年の持つスマートフォンから、通知音が鳴った。
『逃げていいの』
『いいよ』
 五文字に、三文字を返す。少年のスマートフォンに通知音が返る。
「……ボクが逃げたら、お母さんが悲しむんだ」
 ようやく口を開いた少年に、うん、と真紀が頷く。
「だれもあいつからお母さんを守ってくれないから、お母さんはボクを守ってくれるんだ」
「うん」
「ボクが逃げたら、お母さんは死んじゃうかもしれない」
「うん」
「でも、ボクもずっと痛かったんだ」
「そっか」
 教えてくれてありがとう、と言葉にしようとして、先に涙がこぼれた。ふいに、夕陽が少年の顔を照らす。
 ――ちいさな彼の頬にも、ひとすじ涙が伝っていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

シン・クレスケンス
【WIZ】

アユムさんも勿論ですが、一般の方が巻き込まれているとあっては、放っておく訳にはいかないでしょう。
闇色の狼の姿のUDC「ツキ」と梟の姿の精霊「ノクス」を伴って向かいます。

アユムさんの特徴はなびきさんから伺っているので、影の中に潜む「眼」を召喚し探させます。(【指定UC】)
「眼」は影や闇を伝って移動するので、その過程で他の方々も探してその場に急行します。

「俺の眷属を勝手に使うな、と何度言わせる」
ツキは不機嫌そうですが。

発見した方を驚かせないよう飽くまで穏やかに話し掛けます。話を聞いて受け止めてあげることしか出来ませんが。
ツキ、あなたは言葉がきつい時があるのでおとなしくしていてくださいね。



 いつまで経っても夜は降りてきやしない。かといって、太陽が再び昇り直すこともなく、黄昏が白雲を橙に染めあげている。
 青年の着こなすグレーのスーツに彩がついて、焦茶の髪が照った。世界の隙間をゆく影は、一人と一匹と一羽。シン・クレスケンスに従う闇彩の狼はその色を宿したまま、梟は星空の翼を羽ばたかせていた。
 アユムは勿論のこと、他にも一般人が巻き込まれているとなれば放っておく訳にはいかない。何処かで彷徨う彼らを見つけるため、青年は自身の足元で軽く踵を慣らす。すると、夕暮れに伸びていく影の中、ぎょろりと大きな丸い眼が見開かれた。
 グリモア猟兵から聞いたアユムの特徴を眼に伝えるシンに、狼は不機嫌そうに鼻息を荒くする。
『俺の眷属を勝手に使うな、と何度言わせる』
「勿論、この借りはきちんとお返しますよ。骨付き肉でもどうですか」
『魔力じゃねえのかよ』
 つまらなそうな狼と微笑むシンの傍で、梟は不思議そうに首を傾げた。三者三様の反応で送り出された追跡者の眼は、陽を避けるように影と闇の合間を縫って黄昏の世界を駆ける。そうして青年の五感に伝わる、もうひとつの感覚。
 住宅街、坂道、街路樹、裏道。生き物の気配は確かに在るのに、誰もがどこにも居ない。自分以外誰も居なければ、誰かに傷つけられることもないのだろう。ふと、シンはそんな風に思った。
 その代わりに、いつしか誰とも繋がりを持てなくなってしまう――そう、思いもするけれど。
 夕暮れを奔る眼の感覚が、違和感を捉えた。ようやく見つけた、確かな人の気配は揺らぐことなく本物であることを示している。
「ツキ、ノクス」
 使い魔達の名を呼んで、眼の待つ場所へと急行する。たとえ自分が必要とされていなくとも、独りでこの黄昏時を泳ぐ誰かに寄り添いたかった。
 辿り着いた先、ベンチに横たわるセーラー服の少女が居た。一瞬眠っているように見えたものの、その瞳はただぼんやりと何処か遠くを見つめている。
「こんにちは、お嬢さん」
「……はい」
 青年が穏やかに話しかけると、少女は驚く様子もなく静かに唇を動かす。シンはしゃがみこんで、横たわったままの少女に目線を合わせる。
「あなたも、この黄昏時の噂を聞いたんですね」
「……はい」
「どうして、此処に来たいと思ったのですか?」
「それを貴方に話して、私の病気はよくなりますか?」
 急に少女の口調が冷めたものになって、青い瞳に黒い瞳がかち合う。
「私は病気なんです。父がそう言いました。母も悲しんでいます。皆が皆そう言います。兄は同じ病で死にました」
 淡々と、けれど口走るように言葉が突いて出ていく少女に、狼が何か言いたげに唸る。それをそっと遮って、シンはやわく尋ねる。
「医者にはかかりましたか?」
「いいえ。父も母も、医者を嫌います。兄を助けてくれませんでしたから」
 ずき、と僅かに痛む胸を隠して、黄昏時に眠りに就こうとする少女に呼びかける。その意識が、途切れてしまわぬように。
「もう少しだけ、あなたの話を聞かせてくれませんか?」
「私の話ですか?」
「ええ。すきなもの、嫌いなもの、得意なもの、苦手なもの」
 なんでも、と微笑むシンに、少女は横たわったまま呟く。
「――兄のことは、すきでした」

大成功 🔵​🔵​🔵​

結・縁貴
俺の好みは信念の折れない者、だけど
まァ偶には好い
人心掌握するのも久々だなァ
犬は【御縁】を切って俺達の認識を阻害して
囚われ人に声をかける

眉を下げて問おう、何を抱えて此処に来たか
貴方は悪くないと、努力と研鑽を柔らかに肯定しよう
ここに来たきっかけの情報を聞けたら
よく頑張ったね、と幼子にするように撫でて

バチン!
話を聞いて存在が確かになった【執着】の御縁を斬る
…なにが、辛かったんだっけ?
覚えてない?そうだろうねェ
あの夕焼け、麗しい朱だね
他になにも感じない?
…そう。あれは麗しい化け物の口だから
食べられたくないなら、お帰り

一晩経てば【執着】を思い出すだろう
思い出して舞い戻ってくるなら
それが心の在り方の形だね



 果てのない、けれどいつかは終わってしまう赫が燃ゆる。まだ明かりの点かない街灯の下、ヒトの形をした瑞獣は黄昏の世界を見渡す。
 自分の好みは信念の折れない者、だけど――まァ偶には好い。
「人心掌握するのも久々だなァ」
 立派な虎の尾をゆらゆらと、結・縁貴は軽い足取りで街並みをゆく。
 騶虞が通りすがった横断歩道に突っ立っている信号機。もしも彼がそれに目を遣れば、永遠に赤を示したままの信号に気付いたかもしれない。けれど、たとえ気付いたとして。縁にはあまり関係のないこと。
 車道を抜けて住宅街に入り込めば、斜陽に染まる長い長い石畳の階段を下りていく。その先に視えた影が、ぐんぐんと伸びて。
 影彩の犬の群れは、何かを隠すように、あるいは守るように騶虞の前に立ちはだかる。多少の神格を持った瑞獣からしてみれば、この程度の群れなど蹴散らすことも可能だけれど。
 ばちん。無から喚びだした鋏を手にとり、ふいに縁がなにかを断った途端、影の犬達は無言の威嚇を止める。うろうろと何かを探し始めた集団の中を軽々とくぐりぬけて、彼らが隠していたものと出会う。
「此処に居たんだね」
「う……あ……」
 階段に座り込み、うずくまったままの女性はまだ年若い。二十歳そこそこに見える彼女よりも下へくだって、瑞獣は視線を向かわせる。眉を下げて問うた声は、あくまでもやわらかい。
「貴方は、何を抱えて此処へ?」
「わ、わた、私はっ」
 半狂乱で震える娘に、大丈夫、と微笑む。
「落ち着いて――俺を見て。ゆっくりでいい、息を吐いて、ゆっくり吸うんだ。そう、上手」
 さァ、貴方のことを教えて。そう唱えた淡翠緑の彩は、この黄昏の中でも輝いている。騶虞の貌と言葉に魅入られるように、娘は呼吸を整えた。
「私、先輩を愛してるの。だからバイトも頑張ったし、友達との縁だって切った。でも、もう無理。駄目なの。勉強は追いつかないし、このままじゃ退学かもしれない。でも先輩は借金があって、私が居ないと返せないって。わ、私を、連れてくしかないって。私、行きたくない、そんな所……!」
 とめどなくこぼれた言葉を、獣の耳は拾いあげていく。そうして、そっと頭を撫でた。
「貴方は悪くない――だってこんなにも彼を愛して、尽くしたのだから」
 よく頑張ったね。告げられた肯定の言葉に娘が涙した瞬間、
 ばちん!
 再び鋏がなにかを断った時、さっと娘の意識が変わる。
「……あれ、私」
「ねぇ、貴方は……なにが、辛かったんだっけ?」
 目の前に佇む青年に問われて、娘は不思議そうな顔をした。先程流した一筋の涙も、あっという間に乾いている。
「あの夕焼け、麗しい朱だね」
 長い長い階段で、二人眺める夕焼けは美しい。こくりと頷いた娘に、他になにも感じないか尋ねれば、再び同じように頷いた。縁は、そう、と返して微笑む。
「あれは麗しい化け物の口だから」
 ――食べられたくないなら、お帰り。
 ふらり、娘が立ち上がる。彼女の黄昏時が終わりを迎えるのを見送って、騶虞は断った執着を想う。
 一晩立てば思い出してしまうそれを頼りに、もしも彼女が舞い戻ってくるのなら。
「それが、心の在り方の形だね」

成功 🔵​🔵​🔴​

天星・零
暁音と参加

臼氷・みしろ…。
あの時の女子高生か。

彼女は絵が好きだった。
彼女が死ぬ1週間前、初めて会った時も絵を描いてた。

二人(指定UCのオブリビオンと指定してないUCのオブリビオン)とも彼女の絵のオブリビオンの君達としてはあまりいい気はしないだろうね。

そういえば、彼女は僕と会う前僕をみて何か描いてたけどなんだったんだろう。あの時の僕は笑えなかったから何か描いててもつまらないだろうに

(と、少し指定UCと可能ならもう一体のバベル(目玉にシルクハットのオブリビオンのUC)(非戦闘なので人形のようなサイズで)と話しつつ、暁音と探索)

(辺りを歩きつつ、周囲を見渡しや記憶力を駆使して、情報収集しながら、一般人を助ける。アユムを見つけたら手を差し出し)

君がアユムくん?
僕は天星 零!こんにちは!
(彼が警戒してるなら心に傷を負ってるならその話を真摯に受け止めて否定しないで聞きます。その上で会話の流れでUDCの目撃場所が聞けるように会話を誘導します。勿論、できる限りの言葉で彼を傷つけないように)

アドリブ歓迎


天星・暁音
【天星零と参加】
ああ…あの子か…
こうなってしまった以上は解放してあげるしかないね
まあ、先ずはアユムくんとやらを見つけないとだね
とにもかくにも、助けられる人は助けるために、クレインで捜索して、邪魔者は塵に分解して、探していこうか…
誰も彼もが傷ついて…か
痛い…なあ…
でも、誰の、何の痛みも…受けとめると…決めているのだから…
貴方たちの痛みにせめて寄り添えますように


アユムさん、あなたのお話を聞かせて



 どこまでも永く、ながく続く夕暮れ模様。ふたつの銀と金が陽の光に照らされる。きらきらと反射する髪の彩は軌跡のように流れて、少年達は黄昏時を歩いていた。
 ――臼氷・みしろ。
「あの時の女子高生か」
 天星・零がそう呟いた隣、ひとまわりちいさな背丈の少年は、俯きがちにこの街を見つめている。零の言葉には思い当たるふしがあって、ああ、あの子か、と天星・暁音もこぼした。
「こうなってしまった以上は、解放してあげるしかないね」
 オブリビオンとなった少女は猟兵達に殺される度、骸の海に何度でも連れ戻されてしまう。沈んで、戻って、溺れて、浮かんで、泣いて、それから、またずっと。けれど――零と暁音なら、その輪廻を終わらせることが出来る。
 橙色のグラデーションがつくる黒の陰影をゆく。グリモア猟兵によれば、この黄昏を喚んだのはどうやら彼女らしい。なら、みしろもこの夕焼けに浸っていたかったのだろうか。
 彼女は絵がすきだった。それは彼女が死ぬ一週間前のこと、零が初めて彼女と出会った時も絵を描いていたっけ。
「二人とも……彼女の絵のオブリビオンの君達としては、あまりいい気はしないだろうね」
 零がどことなく寂しげに笑った背中に、ずるりと這い出る巨大な霊体。骨の身をカタカタと揺らして、首狩り女王は淡々と語る。
『……私がお前達に自らの感情を吐露としたとして、変わるものがあるか?』
 ふと、暁音の頭へちょこんと乗っかるものがある。シルクハットを被った眼球は、ただ黙ってくるくると、その身を少年の頭上で転がしていた。
 そういえば、と零はもうひとつ少女との記憶を思い出す。それは思い出と呼べるものではなかったけれど、零と話をする直前まで、みしろは彼を見つめて何かを描いていた。
「あれ、なんだったんだろう」
 あの時の僕は笑えなかったから、たとえ僕を描いてもつまらなかっただろうに。
「聞けたらいいね。答えてくれるかはわからないけど」
 その時、あの子が何を描いていたのか。暁音がそう返すと、零はもう一度笑ってちいさく頷く。
 住宅街を抜けて、遊具のない広場に出る。街並みがよく見えるその場所は、やけに広いような気がした。
「ここなら、きっと探しやすい」
 ――特殊兵装、展開。
 幼子の言葉に従うように、微小なナノマシン群が溢れでる。一斉に動き出したマシンの群れは、いっておいで、と手を振る主に見送られて、黄昏の世界に飛び立っていく。
 美しい夕焼けに散っていくマシンを見つめて、暁音はこの中で微睡むアユム達を想う。誰も彼もが傷ついて、たどり着いたのがこの行き止まりの世界。誰も居ない、寂しいけれどぬるま湯の夕暮れ。
「痛い……なあ……」
 ぼんやりとした噂にしか頼れず、此処に来るしかなかった彼らの心が痛むように、それを感じとった少年の心はずきずきと抉られる。
「暁音、」
 気遣うように声をかけた零に、大丈夫、と幼子は笑む。どんな誰かのどんな痛みも、受けとめると決めているから。
 ふと、暁音の五感に奔る違和感。マシンと共有した知覚が、彼の存在を知らせてくれた。二人揃って駆け足で広場を去って、夕焼け小焼けを抜けていく。
 整備された小川の土手に座り込んで、制服姿の少年がノートにペンを走らせている。ふんわりと体格のよい彼が探している本人なのだとわかって、零は声をかけた。
「君がアユムくん?」
「……だ、誰」
 ぎゅっとノートを抱えて警戒するアユムの前であったから、霊達の姿は既に隠してある。怖がられぬよう、二人は朗らかに名乗った。
「僕は天星・零! こんにちは!」
「暁音、だよ。大丈夫、貴方を傷つけたりしない――ただ、お話が聞きたいんだ」
 近付きすぎず、けれど遠くならないよう。彼の顔と声が、此方に正しく届く距離を保つ。不安そうなアユムは、唇をぎゅっと噛み締めていた。
「君が何に傷ついているのか、君が誰に傷つけられたのか。言いたくないなら、言わなくたっていい。でも僕達は、君を絶対に否定しない――君を、受け止めたいと思ってる」
「アユムさん、貴方のお話を聞かせて」
 二人の真摯な想いが伝わったようで、少年の噛んだままの唇がほどける。
「僕は、絵がすきなだけ。絵が描きたいだけ。絵を描いていたいだけなんだ」
「君の絵を、見せてくれる?」
 零が尋ねると、アユムは首を横に振る。
「いいんだ、笑われても。みしろちゃんはわかってくれた、僕のために泣いてくれた。だからみんなも、夕焼けに守られるべきなんだ」
 訴える少年の瞳がうるむ。そうか、と零は呟いて、よかった、と笑った。
「……彼女は、君のことを救ってくれたんだね」
「みしろちゃんを、知ってるの?」
 少年の問いに、暁音が頷く。アユムの心の痛みが反射されて、幼子の全身を苛んでいることなど、傍目にはわからないほど真剣な表情で。
「僕達は、貴方達とあの子を助けたい」
 見開かれたアユムの眼を、零のふたいろの瞳が優しく捉えた。
「君のことも、君が助けたいと思った誰かのことも、僕は知りたい。君と出会った、みしろのことも」
 再び口を噤んだアユムが、そっと二人の傍へ歩き出す。手渡されたノートのページを開けば、ああ、と零は笑った。
「……すごく、いい絵だね」
 そこには、優しく微笑む女子高生の絵が描かれていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『ループ』

POW   :    ループを引き起こしている元凶を排除する

SPD   :    ループが起きる条件を満たさぬよう切り抜ける

WIZ   :    ループが起きる法則を見極めて潜り抜ける

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 嘘偽りの黄昏時が消え去って、アユムは猟兵達にとある中学校の名を告げる。

「みしろちゃんは泣いたんだ。僕のために、泣いてくれたんだ」

「だから僕も、みしろちゃんのために泣きたかったのに」

 ――探している人が居るから、もうさよならなんだって。

「みしろちゃんを、見つけてあげて。みしろちゃんを助けてあげて」

 未だ晴天の青空の街並みの中、猟兵達はどこの街にもあるような中学校にたどり着く。
 今日は休校日であるからか、校内への侵入は簡単だった。
 あの子は屋上に居る、と教えてくれたアユムの言葉通り、屋上への道を進んだ――はずだった。

 ぐにゃり、歪んだ先。瞬いた視界が目にしたのは、懐かしい記憶。忌まわしい思い出。
 それは憎らしいものであって、それは美しいものであって。

 ――君達を、いつまでも離さない。
花菱・真紀
「姉ちゃん」と思わず呟く

繰り返すのは姉との幸せな記憶。
オカルトの話を真剣にして
ホラー映画やゲームではしゃいで
無くした後に気付いた大事だった時間。

相変わらずだなと苦笑する。
相変わらず…
『シスコンだなぁ』
自分から漏れた同じはずで違う言葉
懐かしく呟いたはずのそれはからかいを含んでいて。
紡。最近生まれた俺の中の人格。
かつての宿敵の形をした人格。

『まぁ、トラウマを繰り返すんじゃなくて良かったじゃないか』
そのトラウマは確実にそいつが起こした事だと言うのに。俺を庇って死んだ姉ーー。

ぎゅっと唇を噛み締めれば血が滲む。
自らの手で幸せな記憶を薙ぎ払って。
「俺は…前に進まなきゃ」



 たとえば、ダムに沈んだはずの村が実は生き残っていて。電話ボックスから村人の声が聴こえるだとか。
 とある立体パズルを組み合わせ続ければ、地獄への扉に続いていて。そのパズルは実は近くの古びたおもちゃ屋に売っているんだとか。
「ねえ、真紀はどう思う?」
 真剣なまなざしで語った彼女に、少年は同じくらい本気の面持ちで自分の考えを口にする。
 恐ろしい大蛇に下半身を喰われた巫女が、注連縄で綴られた結界の中で蠢いている話は? リゾート地のちいさな民宿に潜む母親の狂気については?
 あらゆる場所に散らばる都市伝説が、二人の好奇心を刺激する。けれど、それを本当に調査しにいこうとは思わない。姉弟は二人でこの話をすることが楽しくて、それだけで十分だったから。
 B級映画だとしても、ホラー映画をきちんと真夜中に見る作法は徹底していた。並んで座ったソファがふわりと沈む感覚はいつまでも変わらない。B級どころかZ級のくだらなさだったとしても、チョコのかかったポテトチップスのあまじょっぱさが、つまらなさを上回る。
「怖くなさすぎて、逆に笑えてきちゃった」
 腹を抱えて涙を流す彼女の隣で、少年はひぃひぃ喉を枯らす。なんでこんなの借りたんだっけ、サメ映画を見たほうがまだ有意義だったな、なんて笑い合って時間を無駄にする。
 ドアをこじ開けようとする女の幽霊があまりにも物理的な攻撃で、はやくはやくと彼女が急かせば、待ってよ今やってる、と少年は慌ててコントローラーを操作する。主人公の精神力はどんどん低下して、しまいには窓を割られて侵入されてゲームオーバー。
「そんなパターンある!?」
 嘘だろ、と呆気にとられた弟と一緒にぽかんと口を開けてから、なにこのゲーム、と彼女は笑いを溢す。
 オートセーブ機能がないから、あんな所から再開しなくちゃいけないなんて。がっくり肩を落とす少年に、どんまい、と肩を叩いてジュースが入った二本目のペットボトルの蓋を開ける。
「さ、もっかいやり直そ。夜までまだまだ時間あるし!」
 ふくふくした笑顔がやわらかくて、とても懐かしい。だから、
「姉ちゃん」
「なに?」
 思わず呟いた花菱・真紀に、間違いなく彼の思い出の中で生きる彼女が尋ねた。
 相変わらずだな、と苦笑したのは自分自身。相変わらず、
『シスコンだなぁ』
 真紀の唇からもれた、同じ声彩に違う言の葉。懐かしさを滲ませて呟いたはずのそれは、明かなからかいが含まれている。
 ――紡。つい最近生まれた、俺の中の人格。かつての宿敵の形をした人格。
『まぁ、トラウマを繰り返すんじゃなくて良かったじゃないか』
 にんまりわらう、もう一人の指した内容は、彼が引き起こした事件に他ならない。真紀を庇っていのちを落とした姉の姿が、目の前で微笑む彼女と重なる。
「真紀?」
 不思議そうに問うた姉を見つめて、ぎゅっと噛み締める。そうだ、カミソリの味がする。あかいあかい、鉄の味が滲む。
 空気をかきわけるように、青年は自らの手で記憶を薙ぎ払う。
「俺は……前に進まなきゃ」
 だってもう、姉ちゃんを置いて大人になってしまったから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シン・クレスケンス
兄のことはすきだったという少女の言葉のせいか、家族を思い返す。

僕の両親は自動車事故でまだ幼児だった僕を庇って亡くなった。

折れたミラーに映る現在の自分と黒狼の姿を見て、我に返る。

その後僕を引き取った養父も僕を庇う形で亡くなった。
それ以来一人で生きてきた。

家族が僕の所為で居なくなるという自分を縛る心の呪縛。
けれど、今はそれを引き摺ってでも前に進む。探し出さなければならないものがあるから、記憶の世界には居られない。

お前の所為だと苛む影達を断ち切って。
大丈夫。これは本当の父さん達じゃない。

さっさと進むぞ、と急かすツキに苦笑を返す。
ツキも身近な存在だけれど、彼もいつか傍から居なくなる。僕が送還するから。



 ――兄のことは、すきでした。
 そうこぼした少女の言葉が離れなくて、思い返したのは家族のこと。
 カーステレオから流れてくる童謡に合わせて、車内に響き渡る歌声。後部座席に幼子と一緒に並んで座って、手遊びをする女性の朗らかな笑み。決してハンドルから手を離さず、視線はまっすぐ道路を見つめながらも、妻と息子へ楽しそうに話しかける男性の優しさにあふれた言葉。
 途端、突っ込んできたのはトラックだったか、タクシーだったか。
 避けきれないと悟った男性が、妻と息子の為に自分の犠牲にしたことも。母親が最後の力を振り絞って、我が子に覆いかぶさって絶命したことも。悲劇のニュースは地方新聞の片隅に載って、テレビで数回放送されては、ああ可哀想に、なんて訳知り顔で語る人々の海に消えていった。
 遠くから聴こえる救急車のサイレン、動かない血まみれの大人達。両親を呼ぶことも出来ない幼子が、折れたミラーに映る。
『おい』
「あ……」
 吠えるように呼びかける黒狼と、両親の年齢に近付いた青年の姿。シン・クレスケンスが我にかえれば、事故現場は夜闇の渦にかき消える。
「シン、」
 懐かしい声が聴こえて振り返れば、だいすきな愛おしい人がそこに居る。引き取ってくれた養父はあの頃と変わらぬ姿のまま、おいで、と手を広げては微笑んでいる。彼とて、僕を庇って命を落としたのに。
 駆け寄ってもいいのだろうか、抱きついてもいいのだろうか。迷ってしまった彼の目の前で、養父はぐずぐずと形を崩していく。びしゃびしゃと液体が飛び散る音がして、あとに残った血だまりは赤黒い。ずるりと黄昏に置いてかれた影の群れが無数に伸びる。
 ――いい訳がないだろう。誰も彼もが、お前のせいで死んだんだから。
 聞こえてきた責める声は、父に似ていた。母のような気もする。養父だったかもしれない。そんなはずはないのに、家族が自分のせいで居なくなったのは本当のことだから。
 心の呪縛はいつまで経ってもほどけやしない。それでも今は、引き摺ってでも前をゆく。探し出さなくてはいけないものがあるから、
「僕は、此処には居られない」
 ほんの少し息をのんでから、呟いた青年へと影の群れが畳みかける。
「お前のせいなのに?」
「生まなければよかった」
「まさに死神だよ」
 唸る黒狼が影の群れを払う。世話が焼けると言いたげに、その瞳は青年を見上げて。
「……大丈夫」
 これは、本当の父さん達じゃない。寂しげに黒狼へと微笑んで、再び影へと向けた眼差しは凛々しく在った。闇彩の剣が一気に影の群れを断てば、その先にひかりがもれている。
『さっさと進むぞ』
 急かす黒狼の姿に、わかってるよ、と思わず苦笑を返す。
 この身近な存在の獣とも、いつかは別れる時がする。傍から居なくなるのは、シン自ら送り還すのだから。
 それまでは、傍に寄り添ってくれるだろうか――尋ねるのは、やめておいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

天星・暁音
【零と参加】
…そういうものだと、分かってはいても、気分はよくないなあ
零…大丈夫だよ。俺がずっと傍にいるよ
                      
「零…怒ってくれるのは嬉しいけど…俺は大丈夫だよ。零が居るから…そっちばっかり見ないでよ」

何度も見せられるモノに心配そうに零を見つつ、最初は寄り添うように傍にいます
見せられ続ける内に、我慢しきれずに零を庇いに入りターゲットが自分に移ったことに、少しだけ安心してしまい、攻撃を避け損ねてしまいます
零の元凶への対応に、暴走し始めていることに気づいて、大丈夫だからと抱きしめて静止して落ち着かせます
意味的にはそいつらに構う必要ないよという感じです

アドリブ歓迎


天星・零
暁音と行動

小学校でのイジメ
教師は見て見ぬ振り、机などの落書き
周囲のクラスメイトと思われる子供に暴力などを受けている
彼らは基本的に零をターゲットにするが、暁音が零を守ろうとした瞬間に標的が暁音に変化
基本的に彼らは零が嫌がることをしてくる
(零の1番の嫌なことは暁音が傷つくこと)
場所は学校、外など特に決まりはなく
暮らしていた街全体でやられていた
-

『この程度?あんたたちは変わらないね。』
昔はずっと泣いてたが、今は対抗できるだけの精神力と力があるので
とりあえずループを抜け出すために手段を探して、悪態をつきつつも
相手にやられつつ

暁音がターゲットにされるのを見たら

『暁音!!!!』

そこで零は【情報収集】能力でクラスメイトだった人達が自分が一番してくることから元凶だとわかるのでそれを殺す
目の前で大切な人が傷つけられてるので悪霊の姿を晒し暴走気味に相手を惨たらしく
(https://tw6.jp/gallery/?id=156946

悪霊時の喋り方は……のみ
そこに!や?をつけて感情を表現

武器
虚鏡霊術

アドリブ歓迎



 カラフルな色紙で飾られた教室。掲示板に書かれた標語は『みんなで仲良くしましょう』。キンコンカンコン、軽やかにチャイムが鳴っている。
 少年の机はこどもじみた罵倒の殴り書きで埋められて、空き瓶に菊に似せて黄色い花が飾られていた。何も言わずに座った彼の耳に届く笑い声は嘲りに満ちている。
 休み時間になれば、ボクシングの練習という名の一方的な暴力が振るわれた。成長期にしては小柄な彼にとって、同級生達の体格はどれもが大きく立ちはだかる。掃除の時間が始まれば、バケツに入った雑巾を絞った後の水を派手に浴びせられ、着替えるための体操着は見当たらない。
 見て見ぬふりの教師の視線はひどくきょろきょろとしていて、チャイムの音色はだんだんと歪みだしていく。
 学校から帰れば安全なんてことはなく、なんとか自室に閉じこもるまでが、幼い彼にとって生きるか死ぬかの勝負。たとえば道すがら偶然に出会ってしまえば、公園の隅で土や虫を食べろと強要される。家族ですらあてにはできなかったから、安全地帯は何処にもない。
「この程度? あんたたちは変わらないね」
 かつての幼さで嗤い返しながら、少年は何度も繰り返される私刑に耐え忍ぶ。泣いてばかりのあの頃とは違って、今は対抗できるだけの精神と能力を手にしている。この世界から抜け出すためのきっかけが、必ず何処かに潜んでいるから。
「そうやって好きなだけ、みじめでつまんない心を満たせばいい。僕よりあんたたちのほうが、おそろしく恥ずかしい姿だってことを晒し続けろよ」
 殊勝に煽ってみせれば、繰り出される腹部への蹴り。なんだ、同じパターンじゃないか、と、思い出の群れをせせら笑う。
 ――そういうものだと、分かってはいても。
「……気分はよくないなあ」
 大切な人の惨たらしい地獄を見守りながら、天星・暁音は全身に走る激痛を抑え込む。今すぐにでも駆けだして、独りぼっちで戦う彼に寄り添いたい。
 けれど彼に寄り添えば、何かが変わってしまうだろうか。変わったとして、彼を助けることになるのだろうか。
 まだ、彼は暁音の存在に気付いてはいない。
 ずきずきと痛みを訴える身体と、大切な人のために警報を鳴らす脳が限界を知らせる。もう、見ていられない。我慢なんかできなかった。
「零!」
 蹲る小柄な少年よりも、もっとちいさな暁音は走りだす。残虐な彼らの前で少年を遮れば、彼を見ていた視線が一気に暁音へと注がれる。ああ、よかった、と幼子は少しだけ安心してしまったから、普段なら絶対に躱せるはずの突き飛ばしをまともに食らう。
 暁音、と呟いた少年が聴いたのは、暁音が地面に転がされる音だった。次に視界に飛び込んできたのは、大切な人が踏みつけられようとする姿。
「暁音!!!!」
 目の裏があかく染まって、ざぁっと怒りが燃えあがる。パターンは同じ、彼らは自分が嫌がることを執拗に続けるだろう。僕が本当に嫌なことは、目の前で大切な人が傷つけられること。
 あははは、といくつもの笑い声が響いて、それが己の最も憎む者共から発せられているのがわかった時、天星・零は双眸をとじた。
 ――眼がひらく。無数の翼の眼がひらく。
 夥しい数の鏡の破片が散りばめられて、ひとりのこどもの首を掻っ切る。次は隣に居たこどもの胴を刃が貫通。臓物が出る、うるさかった笑い声はもう聴こえない。血の涙は、きっとカミソリの味がする。
「……! ……!!」
 漂うあかい匂いに瞳を開けて、暁音はひとりの悪霊を見た。一言も言葉を発さず、ただ止まらない反撃を続ける彼に、ああ、とひと息もらしてすぐに立ち上がる。当然の惨劇にため息なんてもらさない。その姿がかなしくて、うれしくて、さびしく思えただけ。
「零」
 あわくやさしい声色で、幼子は大切な人の名を呼ぶ。途端、ぴたりと虐殺をやめた悪霊にそっと近寄って、彼に抱きついて。
「……?」
「零……怒ってくれるのは嬉しいけど……俺は大丈夫だよ。だって零が居るから」
 ――だから、そっちばっかり見ないでよ。
 こんなくだらない連中に、こんないつかの残骸に、今の君が構う必要なんてない。どうかどうか、僕を見ていて。
 暁音、と呟く声がして。暁音がそうっと見上げれば、ふたいろの眸が彼をはっきりと見ている。
「大丈夫だよ、俺がずっと傍にいるよ」
「……うん」
 こくり、零が頷く。よかった、と今度は安堵が口をついて、暁音は微笑った。
「こんなところ、もう出ちゃお。あの子が俺達を待ってる」
「……うん」
 ぱきり、世界が割れる。転がる肉塊も、踏み潰された蟻の骸も、いびつなチャイムも消えていく。
 きらきら眩しくひかりが揺れて、鏡面がすべてはじけて飛び散った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シビラ・レーヴェンス
露(f19223)
年中吹雪く故郷の冷えた古城で親を呼び泣く小さい私。
自称叔父に忌み子だと告げられ一族の恥だと言われた私。
別の仕事ではあるが何十回とみた私の子供の頃の記憶。
知った露に慰められた記憶。
…ふん。
私自身は興味のないことでどうでもいいと思ってはいたが…。
私は。私はもしかすると心のどこかでショックだったのか?
自問自答するがわからん。そして出生や呪いはどうでもいい。
さて。
私の過去などよりこの『繰り返し』をなんとかしないとな。
何度も過去を聞くのは不快だが見極めるまで観察してみようか。
必ず映画のフィルムのように繋いでいる部分があるはずだ。
そこを【黒き腕】で刺激してみよう。脱出できるかわからんが


神坂・露
レーちゃん(f14377)

夕焼けの世界からは無事抜け出せたみたいね。わーい♪
あの男の子が前を向けるキッカケになったかしら?
あれ?レーちゃんが居ないわ。そして男の子もいない。
??隣に居たレーちゃんが居ないわ。あれれ?

代わりあたしの最後の所有者の『あの人』が立ってて。
あれ?…なんで貴方が?貴方は…もういないはずなのに。
何度も何度も話しかけても返事してくれなくて。
ただ石のあたしを慈しむように手入れして…あれ?手入れ?
あ。これってあたしの記憶だわ。うーん…。
なら【月狼】でこの空間を破壊しちゃうわ。

ごめんね。あたし男の子との約束を果たさないと♪
抜けたら女の子をきゅぅーって抱きしめてあげちゃうわ♪



 轟々と、がなるように白い風が吹雪いている。冷たい古城はちょっとした隙間風ですら痛くてたまらず、幼い少女の痩せた手足には耐えがたい。父と母を呼ぶか細い声は、長い廊下に響き渡ってそれっきり。
 叔父を名乗る男に忌み子と告げられ、味気ない食事と読書、つめたいベッドで眠る毎日の繰り返し。寂しさのあまり再び親を呼ぼうと泣き叫べば、黙れと頬をぶたれかねない。
「一族の恥め」
 幾度となく投げつけられた罵倒の言葉を、意味もわからず受け止めたあの頃。知識を覚えて、その意味をただしく識ってしまったそれからのこと。
 ひゅうひゅうと音を奏でて、ガタガタと部屋を揺らして、吹雪は永遠に古城を包む。以前、何十回と見た幼い頃の記憶。
 ――そうして、それを知った友人に慰められた記憶。
「……ふん」
 シビラ・レーヴェンスは、鼻でわらったつもりだった。かつての思い出など興味のないことで、どうでもいいと思っていたはずの少女は、目の前で繰り返される映像を見送る。
 けれど――私は、私は。
(もしかすると、心のどこかでショックだったのか?)
 自問自答する魔女は、今の姿よりも幼い姿を淡々と傍観している。そんなつもりで居るけれど、微笑む友人の姿がひどく目を惹いていく。
 黄昏の街で隣に居た彼女と寸分たがわぬ記憶の少女は、シビラの知っている彼女と同じ。
「……どうでもいい」
 どうでもいい、己の出生や呪いなど。けれど、いつもうざったいくらい傍から離れたことのない君のことは。
「さて」
 今はこの繰り返しを終わらせてしまおう。何度も過去を見聞きするのは不快であるものの、見極めるまでは観察が必要だと結論に至る。今更同じ罵倒を繰り返されたとしても、同じ泣き顔を見せられたとしても。
 暫くして、視界に広がる世界の端に、いびつな罅がわずかに見えた。その地点をきっかけに、ぐるぐると同じ映像が巡り続ける。
 古い映画のフィルムのような繋ぎ目に近付く度、古城にこつんこつんとシビラの足音が響く。
「一族の、」
「私は忙しいんだ――黙ってくれないか」
 叔父の顔をした男にそう言い放ったと同時、黒く染まった腕が罅に触れる。途端、フィルムが破けて、明かりが届く。

「無事抜け出せたみたいね、わーい♪」
 夕焼けの世界から脱出したことを改めて喜んで、少女は抱きしめた少年のことを想う。あの子が前を向くきっかけになれたなら、それはとても嬉しいことだから。
「でしょ、レーちゃん」
 親友にそう声をかけたはずだったのに、いつものクールな返事はかえってこない。あれ、と隣を見れば、彼女は何処にも見当たらなかった。
「レーちゃん、レーちゃんが居ないわ」
 あれれ、と小首を傾げてあちこちを見渡せど、自分とお揃いの目立つ銀髪が見つからない。なんだか急に不安が押し寄せてきて、ほんの少しおろおろと彼女の名を呼んでみる。
 かえってこない呼び声に、どうしよう、と少女が困り顔を見せた時。彼女が瞬きした途端、目の前に居たのは随分と懐かしい人だった。
「あれ……なんで貴方が……?」
 神坂・露が、神坂・露ではなかった頃。彼女はたったひとつの青い虹宿す、白い石だった。広がる壮大な草原、心地よい風吹く空、何処までも遠い世界の境界線。少女の眼前には、石の最後の所有者が居る。
「どうして、ねえ、だって貴方は」
 もう、居ないはずのに。思わず何度も呼びかけてみても、その人が露を視ることはない。ただその眼差しは一心に、月光浴びる石を慈しむように手入れを続けている。
(あれ? 手入れ?)
 あ、と少女は納得する。これってあたしの記憶だわ。なぁんだ、と何処か胸を撫でおろして、うーんとちょっぴり考え込む。
 これが記憶の繰り返しなら、やることはたったひとつだけ。すぐに、鈍色に染まった腕が青空に振るわれる。
「ごめんね。あたし、約束を果たさないと♪」
 すごく、抱きしめてあげたい女の子が居る。それに、今は貴方より逢いたい人が居る。
 彼女は一人でも大丈夫かもしれないけれど、自分は彼女が居ないとさみしいから。

「あ、レーちゃん居た~♪」
 よかったぁ、と、いつも通り抱きつく露に、シビラはいつも通り怪訝な表情。
「さっさと行くぞ。この先が屋上だろう」
「はーい♪」
 お互いに、何を見たかは言わない。その話をするのは、いつでもいいのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

結・縁貴
眼前の光景に笑みが消えた

華やかで麗しい宝物庫
俺にとっては優美な檻
…操(クソ)だなァ

「おいで、愛らしい虎の仔」
其れは色情で濡れた眼

「獣らしく這って請え」
其れは傲りで満ちた顔

「好い目だ、啼かせたいね」
其れは欲で染まった手

俺は上級の教育を課された
理と知と美しい所作、人に近しい自我と思想を得て
…反応を愉しめど、だァれも俺を人と扱わない

屈辱より、何故俺に教養を与えたかと憤りが勝つ
知らなければ、自尊を踏み躙られていることすら気付かず
俺は外を夢想することもない獣だったろう!

バチン!
異能の鋏を振るう
纏わり付く物の対処なんて何時だって同じだ
粘つく欲が絡むのに、容易く斬れる御縁の糸
その程度の執着も、異能を使わねば避けられない

けれど俺はもう檻の外

翠の眼が輝くのが分かる
嗚呼、これが理の埒外の力か
高揚する
哄笑する
理性が薄れる

ねェ、嬡(お嬢さん)
嬡の、御縁、執着、感情…
其れは強い?
俺が斬れない程、強い?
ずっと、すぐ斬れる御縁に飽いていた

嬡の、この世界に存在する御縁は、なかった!
…斬れないなら、俺を好きにしてもいい!



 それまで浮かべていた笑顔が、すぅっと消える。眼前に現れた光景は、瑞獣のよく知る豪奢ないつか。
 金銀砂子で輝く骨董品、高名な芸術家が描いた掛け軸。何に使うかもわからぬ、螺鈿で彩られた文箱に、硝子製の筆。無数に咲いた宝石の花々。
 あやふやな価値を確かなものだと見出され、たからものとして大切に仕舞われた美しい容の群れ。
 華やかで麗しい宝物庫は、今もかつても結・縁貴にとっては優美な檻だった。ふいにもれた言葉こそが、彼の本心でしかない。
「……操(クソ)だなァ」
 ふいに背中が粟立つような、いくつもの嫌な気配の群れ。振り向くのも反吐が出るのに、そうせざるを得ない気がするのは何故だろう。その理由を、瑞獣は知っている。
「おいで、愛らしい虎の仔」
 其れは色情で濡れた眼。どことなくうっとりとした、艶ある声が彼を呼ぶ。それに応えるように近寄れば、はぁ、と熱を帯びた吐息がかかる。
「獣らしく這って請え」
 其れは傲りで満ちた顔。ひどく偉ぶって見下した、恐怖すら感じる笑い声。言われるがままに四つ脚で見上げれば、やたらと満足げな表情が在る。
「好い目だ、啼かせたいね」
 其れは慾で染まった手。幼いなにかを呼び起こそうと動く、不気味な動作。逃げようにも異様な手つきが、ひくりとこの身をひきつらせる。
 すべてのおぞましい気配が、まだいとけない仔を囲んでは退路を奪う。眼が、声が、笑みが、手が、いのちを宿してまだ十にも満たない心をこれでもかと辱める。
 幼子は、瑞獣にしては上級の教育を施されていた。理と知と美しい所作を覚え、人に近しい自我と思想を得て――そうして片手で手鞠のように投げられぶちこまれた先は、おぞましい群れのど真ん中。
(ああ、そうだ)
 ようく知っている、美しさとは程遠い感情の有象無象が再びこの全身につき纏う。何度も何度も何度も何度も。
 此方の反応を愉しめど、だァれも俺を人と扱わない。
 ケダモノの群れに放り出された身体は幼いまま、思考は真っ赤に染まりゆく。屈辱よりも、もっと激しい憤りが彼を襲う。何故俺に知識を、思考を、知性を、教養を与えた。
 与えられた賢さが憎らしかった。すべてを覚えてしまう自分が腹立たしかった。
 知らなければ、愚かなままであれば、自尊を踏み躙られていることすら気付かずに生きていられた。俺は、外を夢想することもない獣だったろう!
 バチン! 刃と刃の触れる音。聞き慣れた、えにしを断ち斬る音色。
 異能の鋏を振るうこの身は、精神と同じく十七の齢を経た姿。纏わりつくものの対象は、何時だっておんなじ。粘つく慾が絡みついては離れないような彩をしている割に、容易く斬れる御縁の糸。その程度の執着も、この異能を使わねば避けられない。
 ――けれど、俺はもう檻の外。
 それは激昂で、憤怒で、激情で、憎悪で、悔しさで、咆哮だった。ぎらぎら翠の眸がひかる。輝く彩によって、世界が異様に瞬くように感じられる。
「嗚呼、これが理の埒外の力か――」
 わきあがる高揚感に震えあがって、止まらない哄笑を止めるつもりもなく。賢くあった知性が、理性が、霞のように薄れていく。それが何故だか、心地よかった。
 この無限地獄の幻を生みだしたのは少女だという。あの少年は彼女に救われたのだと言っていたけれど、まだ見ぬ彼女に獣は尋ねる。
「ねェ、嬡(お嬢さん)。嬡の、御縁、執着、感情……其れは強い?」
 ――俺が斬れない程、強い?
 問いかけに応じる声はなく、けれど獣は続けた。ずっとずっととっくの昔に、すぐ斬れてしまう御縁なんかには飽いていた。
「嬡の、この世界に存在する御縁は、なかった!」
 斬れないなら、俺を好きにしてもいい! 爛々とひかる瞳を宿す笑顔と共に、そう宣言してみせた獣の踏みしめる地面が揺れ動く。
 音を立てて墜ちる宝物(ガラクタ)の群れ、砕け散る金銀砂子。罅割れていく檻の夢。
 ――全部全部、こわれてしまえ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

臥待・夏報
階段の先は、ボロボロの木造アパート
2階の突き当たりが彼女の部屋だった
下の兄貴と喧嘩して……初めて泊まりに行ったのは、高1の秋だっけ

ゴミ袋だらけの廊下、物置みたいになった台所
布団の代わりに毛布しかない六畳一間
そこに得体の知れないオカルト雑誌を散乱させて、春ちゃんは楽しそうに暮らしていた

……親は?
「お母さんは山のほうに住んでるの」
「わたしは特別な子供だから、お父さんは最初からいないんだって」
……信じてるのかよ、お前、その話
「うん?」
「ね、そんなことより星の話をしようよ」
「いつか神様のお迎えが来て――」
いつもの馬鹿みたいな話を、眉をひそめて聞き流す
それでいいと思ったんだ
深入りして、あの子の口からありきたりで現実的な不幸を聞くことのほうが怖かった

冷蔵庫を開けると、缶ジュースばかりで固形物がない
「お前今日風呂入れる?」と訊くと
「お風呂入れないときがあるの?」と返ってくる
……それ本気で言ってる?
高1でしょう、春ちゃん、普段何食べてるの

あの日言えなかった疑問を口にする
暁月眠春
お前は……何者だったんだ?



 よくある学校の階段を登った先。踏み出せば、そこはぼろぼろの二階建ての木造アパート。セーラー服のスカートを揺らして、錆びついた剥き出しの階段をもう一度登って、二階にあがる。
 突き当たりの一番奥が、少女のよく知る彼女の住む部屋。
 臥待・夏報が初めて泊まりに行ったのは、高校一年生の秋。下の兄貴との喧嘩なんてしょっちゅうだけど、この日はどうやったって同じ屋根の下で過ごせなかった。
 二、三度押してみたインターホンは音が鳴らない。一応ノックを三回して、お邪魔しますと馬鹿丁寧に挨拶をしてから部屋に入った。
 眼に見える数の羽虫がわくゴミ袋だらけの、ぎぃぎぃ軋む廊下を通ると、わずかな大きさの台所が在る。コンロは古びた段ボール箱に圧し潰されて、辛うじてシンクの蛇口が見えたから、台所だとわかった程度。とはいえ埃まみれのガラクタであったものが積み上がって、物置小屋にしか見えない。それらをちらりと横目に、六畳一間の真ん中の人物と目が合った。
 少女は布団代わりの薄汚い一枚の毛布にくるまって、得体の知れないオカルト雑誌を無数に散乱させている。
 部屋中に漂う異臭と掃き溜めみたいな空間の中で、春ちゃんは楽しそうに暮らしていた。
 夏報だって大して自分の髪の手入れはしていない。面倒だから、適当に長い灰の髪をおさげみたいに二つ結びにしているだけ。けれど春ちゃんの髪はずっとぼさついていて、なのに髪の脂が逆に艶を出していた。
「どこでも座って、かほちゃん」
 にこにこと笑う彼女に勧められた通り、ふけやら髪やらで汚れた畳の上に座り込む。壁に二つだけ掛かったハンガーには、夏報とおんなじセーラー服の夏服と冬服がそれぞれ着せられている。その制服だけが、夏報も想像できるよく知る日常に見えたから、この異常な部屋についてつい尋ねずにはいられなかった。
「……親は?」
「お母さんは山のほうに住んでるの」
 わたしは特別な子供だから、お父さんは最初からいないんだって。当たり前のように春ちゃんが答えたから、夏報は不機嫌そうないつもの顔をさらに歪ませる。
「……信じてるのかよ、お前、その話」
 うん? 冷たくこぼれた夏報の言葉に、部屋の主は不思議そうに小首を傾げる。いたいけな幼子にも似たその仕草のまま、春風じみたやわさでふわりと笑う。
「ね、そんなことより星の話をしようよ。火星なんかより遠くの星だよ、知ってる?」
「知るかよ」
「じゃあ教えてあげる」
 夢見るような眼差しで、春ちゃんは楽しそうに自分で見て聴いて知った話を紡ぐ。ラップかなにかでぐるぐる巻きにした着せ替え人形が、彼女の傍で眠っている。
「いつか神様のお迎えが来て――」
 いつもの馬鹿みたいな話を、眉をひそめて聞き流す。それでいい、
(それでいいと思ったんだ)
 何も考えずに深入りして、あの子の口からありきたりで現実的な不幸を聞くことのほうが怖かった。そういう意味で、夏報はごくありきたりな怖がりの少女だった。
 冷蔵庫を開けると缶ジュースばかり。オレンジ、ホワイトサワー、メロン、スポーツドリンク。固形物がひとつもなくて、冷蔵庫の中だけが異臭のしない空間だった。
「お前今日風呂入れる?」
「お風呂入れないときがあるの?」
「……それ本気で言ってる?」
 高一でしょう、春ちゃん、普段何食べてるの。夏報の男めいた口調が外れても、春ちゃんは微笑んでばかり。
 愛らしいマスコットキャラクターのノートに書かれたオレンジ色の文字は、あの子が見て聴いた言葉と、夏報が適当に想像した世界の専門用語が綴られている。
 六畳一間のふたりぼっちで、眼鏡を外して夏報は口にする。あの日、言えなかった疑問。
 暁月眠春、
「お前は……何者だったんだ?」
 女を見る少女の眼差しは、落胆と、哀しみと、ぬるま湯と、優しさと。
 燃え盛る焔の中で、暁のような黄昏が夏報を包んでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『臼氷・みしろ』

POW   :    虚色の破片-赤-
【自分の意思に関係なく過去を体験させる事】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【傷害事件の刃物で刺された被害者役にする事】で攻撃する。
SPD   :    虚色の破片-藍-
【自分の意思に関係なく何も無い場所】から【水流】を放ち、【溺れさせる】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ   :    虚色の破片-黒-
自身が【何かの感情や想い】を感じると、レベル×1体の【意思を持つ刃が刺さり赤い絵具が垂れた絵画】が召喚される。意思を持つ刃が刺さり赤い絵具が垂れた絵画は何かの感情や想いを与えた対象を追跡し、攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は天星・零です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 どれだけの時間が経ったのか。晴天の空はすっかり夕暮れの天に満ちていて、まるでまだ黄昏時に閉じ込められているようだった。
 けれど、今度は正しい時の流れによる天の移り変わり。
 屋上でぽつんと立っている少女は、此方へと振り返った。

「……来ないで」

「私、あなた達を傷つけたくない。ただ、探してるだけなの」

「お願い、来ないで」

「――このまま、私に彼を見つけさせて」

 涙を溢して、討伐対象『臼氷・みしろ』はそう言った。
花菱・真紀
こないでと言われても歩みを止めることは出来ない。
君がUDCである限り戦わなくてはいけないから。
…見つけたい人が見つかればいいねなんて無責任には言えないんだそれで何が起こるかも未知数だし…
言い訳ばかりだな…けど君達の気持ちをきちんと突き止められるほど俺は強くないから。
…だからこうして戦うことを選んだよ。

独白をしながら【だまし討ち】で【先制攻撃】
UC【匿名の悪意】

【狂気耐性】と【呪詛耐性】で敵UCを受け止める。



 眸を潤ませた少女の願いを、花菱・真紀は首を横に振って断った。来ないでと言われても、青年が足を止めることはない。
「君がUDCである限り、戦わなくてはいけないから」
 見つけたい人が見つかるといいね、なんて。無責任に言えるほど、真紀は気楽な生き方をしてはいない。たとえばそれで見つかったとして、何が起こるかも未知数で。
「ああ、くそ」
 がしがしと頭を掻く。溢した言葉も思いも、全部が言い訳ばっかりだ。いつからこんなに大人になってしまったんだろう。頭によぎるのは、だいすきだったあの人の笑顔。泣いていた、ランドセルの男の子。
「けど、君達の気持ちをきちんと突き止められるほど――俺は強くないから」
「何を言ってるの……近付かないで、ねぇ、お願い」
 まっすぐに此方を見つめて歩を進める青年の姿に、みしろは動揺を隠せずに居る。ぶわりと彼女の空気が変わる前に、真紀が手にしたスマートフォンはいびつな通知音を鳴り響かせた。
『あの子ビッチだよ、かなりの人数と浮気してるもん』
『うっざ、消えろよなまじ』
『これだからあの国の人間は』
『優等生ぶって先生に媚び売るのが気持ちいいんだろうなぁ』
『クソホモじゃん、きもすぎ』
 少女の脳内に滑り込む文字の羅列は、哀れにも言葉として成立する。おぞましくて愚かしい罵詈雑言の数々に、ひゅ、と息を呑む音がした。
「やだっやめてっ! なにこれ、いや、う、うぁ」
「うん、嫌だろうな」
 俺も嫌だ、とは言わない。真紀はあくまで、みしろに対して加害者でなくてはならない。みしろが代わりに泣いてあげた彼らにとっての、加害者でなくてはならない。
「なんでこんなひどいこと言えるの、ねぇ、なんで? わかんない、私も皆も、なにもしてないのに。なんにも、悪いことしてないのに……ッ!!」
 宙から、藍色があふれる。虚色から噴き出す凄まじい激流は真紀を襲って、青年はごぶりと水を飲む。
(溺れてたまるか)
 ずぶ濡れになりながら、手にした電子の凶器を少女へ向ける。此処で溺れてしまえば、みしろは被害者ではなくなってしまう。それが真紀にとって出来ることで、せめてもの優しさだ。
 こんなつまらない悪意の犠牲なんて、本当はひとりだって生みたくない。けれどこのウィルスを扱い続ける限り、自分は加害者で在り続ける。
 これでいいなんて思わない。だけど、彼が選んだのは一方的な攻撃だった。
『大人なんてみんな一緒だ』
『嫌い、キライ、きらい』
『死んでほしい』
『死にたい』
『しにたくない』
『いきたいよ』
 脳に畳みかけられる言葉はとめどなく、少女の頭をかき乱す。悲鳴をあげて崩れ落ちるみしろの姿から、真紀は一度も目を逸らさなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

シン・クレスケンス
【POW】

襲ってきた刃物を右手で受け止め、左手に持ち替えた詠唱銃で攻撃。
何があっても対応出来るよう左手で銃を扱う訓練も行っていますので、問題ありません。
ツキが刃物の持ち主を攻撃して、気を逸らしてくれたことで助かりました。
「いくら右腕は怪我の回復が早いと言っても、躊躇い無しかよ」
と呆れるツキに、咄嗟でしたので、と苦笑を返し。

そのまま詠唱銃をみしろさんに向けて。
敵意はないとは言え、一般の方を巻き込んでしまう以上討伐するしかありません。
一般の方を護ることがUDCエージェントである僕の使命です。

みしろさんの魂もいつか救われるよう【祈って】、【破魔】の魔力を込め【指定UC】で攻撃。



 蹲った少女を眼にした瞬間、シン・クレスケンスの感覚が否応なく奪われる。
 夕陽色の中でけたたましく鳴るチャイム。休み時間中に一斉に走り出す生徒達の雑踏。罵詈雑言だらけの落書きに満ちた机に座ったみしろが、こちらを視た。
 ああ、とこぼれた青年のため息は、彼女を想ったものだった。これが、みしろの過去のひとかけら。蹲ったままのオブリビンである少女とは別の、記憶の中の幻。
 途端、いつの間にか距離を詰めた幻のみしろが、シンめがけてカッターナイフを振りかざす。ひと吠えした闇色の狼が幻の右脚へと喰らいついて、傷害事件の犯人は意識をそちらへ持っていかれた。
「……っ」
 カッターナイフは右手で受け止められたものの、刃を握った掌は革手袋を裂かれて赤色が染みている。けれど青年は淡々と、左手に持ち替えた白銀の詠唱銃の引き金をひく。胸元に一発、二発。幻のみしろは赤色を咲かせて掻き消えた。
「助かりました」
『いくら右腕は怪我の回復が早いと言っても、躊躇い無しかよ』
 礼を述べた主に対して呆れた様子の狼に、咄嗟でしたので、とやわらかく苦笑を返す。
 惨劇を見ていなかったオブリビオンのみしろが、ゆっくりと顔をあげる。そこには物腰の柔らかな青年が一人と、真っ暗闇の毛並みをした狼が一頭。
 シンがその場に落とした血だらけのカッターナイフが音がして、ひゅっと呼吸をとめたようなかすれ気味の声がわずかに届く。
「どうしよう、私、また……っ」
 本当に、敵意がないのだ。この少女にあるのは、恐怖と哀しみと怯え。だからこそ、震える声が青年に尋ねた。
「――あなたも、私を傷つけるの?」
 視線は確かにこちらに向けられているから、シンは静かに頷く。敵意はないとは言え、一般人を巻き込んでしまう以上は討伐するしかない。白銀の銃をみしろに向けて、確固たる言葉を告げる。
「一般の方を護ることが、UDCエージェントである僕の使命です」
「私だって、普通の高校生なのに! エージェントってなに? わかんない、なんで、やだよ」
 あの時あの子を刺したから? そう呟いて泣きだす少女に胸が痛む。だけど、やりきれないなんて一言で片づければ、みしろの魂が救われる訳でもない。ただ、依頼された仕事のひとつが終わるだけ。
 それ以上の言葉は要らない。だって誰より痛いのはみしろだ。引き金をひけば、祈りときよらなおまじないは銃弾に変わった。
 言葉は要らない、けれどシンはいくらだって願ってしまう。
 ――いつか、あなたの魂が救われますように。

成功 🔵​🔵​🔴​

結・縁貴
悪意なく手を差し伸べていたような
強い意志などなさそうな
其処に居たのは、俺の眼には嘆くばかりの子供だ
例え強い力があっても、俺が斬れない意志の強さは無さそうだ
…興醒めだなァ

真綿で首を締めるにように終わらせてやろうか
笑って、鋏を振るう

バチン!

嬡(おじょうさん)は何が大事だった?

執着
記憶
感情

記憶が消し飛ぶほど強く、ひとつひとつ斬ってやろう
喜悦だね!俺は今日調子が好いんだ!
よォく見えるよ、嬡が大事だったろう御縁がさ!

法も倫理もない場所で、何が強いか知ってる?
力だよ
武力が全て
嫌なら俺に勝てばいいんだよ、嬡
嗚、もう…保てないかなァ?
じゃあこれにて閉幕だ

御縁しか斬れないはずの異能の鋏が、少女の喉笛を切り裂いた



 そこに居たのは、騶虞の期待していた存在ではなかった。破魔の銃弾を腹部に受け、泣きわめく少女がひとり。
 悲しむ誰かに悪意なく手を差し伸べていたような、何者かを誑かせるほど強い意志などなさそうな。
 結・縁貴の眼には、どう見たって嘆くばかりの子供にしか思えない。
「ひっ、ぐす……うぅ、痛い、痛いよぅ……」
 どれだけ強い力であろうと、瑞獣が斬れないほどの意志の強さはなさそうだった。
「……興醒めだなァ」
 自分でもどうかと思う程、ひどく冷えきった落胆の声が出る。あんなものを見せておいて、なんて弱い――そんな本音があからさまだった。
 ましろの口から、ひ、とかすかな悲鳴がもれる。己がどんな顔をしているのかわからなかったけれど、騶虞を見つめる彼女の表情は恐怖に満ちていた。
(だったら、ゆっくり終わらせてやろうか)
 まるで真綿で首を絞めるように。口の端が動いた時、彼の感覚が奪われる。
 チャイムの音が鳴り響いて、そこは見知らぬ体育館の陰。ずたずたに引き裂かれた体操服と、ずぶ濡れになった自分の身体を抱きしめる少女。無数のわらいごえがけらけら踊って、みしろの過去は泣いている。
 ふぅん、と。どうでもよさそうに思い出を眺める少年は、それ以上の感想を持たない。期待外れの記憶を流されたって、なんにも沸きやしなかった。
 ふいにひかった刃に対して、鋏が振るわれる。カッターナイフを手にした傷害事件の犯人は、少女と瓜二つの姿をしている。
 バチン!
 わらった騶虞が、あらん限りの縁を断つ。バチン、バチン、バチン。
「嬡(お嬢さん)は何が大事だった?」
 執着、記憶、感情。チャイムの音が途切れる、体育館が壊される、痛みを伴って悲しみが破かれる。その記憶全部が消し飛ぶほど強く、ひとつひとつ斬ってやろう。
「喜悦だね! 俺は今日調子が好いんだ! よォく見えるよ、嬡が大事だったろう御縁がさァ!!」
 震えるほどに笑みを浮かべた瑞獣は屋上へと引き戻されて、縁をめちゃくちゃに断たれるみしろが泣き叫ぶ。
「やめて、やめてよ! 私、私の、だめ、返して……ッ」
「ねぇ、嬡。法も倫理もない場所で、何が強いか知ってる?」
 鋏の音が途切れて、ふいにやわらかく少年が尋ねた。へ、と声をあげる彼女に、彼はまた冷えた言葉を放つ。
「力だよ、武力が全て。嫌なら俺に勝てばいいんだよ、嬡」
 そんなの、と涙を流して自然と足が後ろに下がる少女は幼い。だからもう――飽きた。
「嗚、もう……保てないかなァ?」
 じゃあこれにて閉幕だ。突如飛びかかった騶虞の、縁しか斬れぬはずの異能の鋏が、少女の喉元を狙う。
 その時瑞獣の脳裏に届いたのは、見知らぬ幼い少年と、彼を見て微笑むみしろの姿だった。
(これが嬡の、一番つよい御縁かァ)
 黄昏に、赤が飛び散る。

大成功 🔵​🔵​🔵​

臥待・夏報
この世界には不幸なんてありふれていて
それは悲劇なんて呼べるほど大袈裟なものじゃなくって
誰か一人を選んで助けたいだとか……烏滸がましいことなんだろうね
あの子の絵は一人を救ったりはしないだろうけど
不特定多数の誰かを慰めていたよ

君は……そんな彼を選ばないんだね
たった一人を探しにいくんだ?
素敵だな

さ、もちろん僕は君を選んで助けたりしない
容赦するなって話のお仕事だからさ

指定UC
彼女が何かの感情や想いを語るより先に
全力の呪詛の炎で焼却する
要らん感傷なんて捨てて、いっそ開き直ればいいんじゃないか
選ばなかった全てを踏み潰して、たった一人を選ぶんだ、って

いつまでもそれができないから
僕らは呪われたままなんだろうな



 ゆうやけこやけの屋上で、飛び散った赤が反射している。それを少しだけ目に映して、臥待・夏報は喉と腹から血をこぼす少女に声をかける。
「痛そうだね」
「ひどい、ひどいよぅ……私、私は、」
「うん、そうだね。ひどいね」
 淡々とやわらかく、女の声はべそをかくみしろを包むように届いている。それがつめたくなくて、むしろやさしい色をしていたから、みしろは喉を抑えながら夏報を見た。
「この世界には不幸なんてありふれていて、それは悲劇なんて呼べるほど大袈裟なものじゃなくって。誰か一人を選んで助けたいだとか……烏滸がましいことなんだろうね」
 なんのこと、と少女が喉を震わせる。その度にごぷりと血がこぼれて、少女の周囲に違和が起きる。みしろを囲うように、ざっくりと刃の刺さった絵画の群れが現れた。絵画からは赤い絵の具が滴り落ちて、ああそういうモチーフか、なんて夏報は思った。
「覚えてる? 君が一緒に泣いたあの子。絵がすきなアユムくん」
 みしろをたすけてほしいと乞うた少年の名を口にすると、少女はおぼろげな瞳を緩める。
「あの子の絵は一人を救ったりはしないだろうけど、不特定多数の誰かを慰めていたよ」
「アユムくんも、皆も……なんにも悪くなかった。人を傷つけた私と違って、だから」
「君は……そんな彼を選ばないんだね」
 言葉の続きを遮られても、こくりと頷くましろのブレザーは赤黒い。ぼんやりとした思考の中で、彼女は忘れられないたった一人を探している。
「――素敵だな」
 夏報の言葉は偽物ではなかった。嘘っぱちを吐くことはいくらでも出来るけど、そんなものでは誰も救えやしない。本物だって、救えやしないのだけど。
「ふふ、」
 ふいに女が笑みをこぼしたのが合図だった。途端に燃え盛る呪詛の焔が、みしろを守っていた絵画を一斉に焼き尽くす。
「え……?」
「もちろん僕は君を選んで助けたりしない。容赦するなって話のお仕事だからさ」
 燃え盛る炎は黄昏の天の下でぎらぎらと焼きついて、火焔の向こう側で恐怖に怯えるみしろが居る。今度こそ夏報はにこにこと笑って、どこか晴れやかな表情すら見せた。
「要らん感傷なんて捨てて、いっそ開き直ればいいんじゃないか!」
 ――選ばなかった全てを踏み潰して、たった一人を選ぶんだ、って。
 悲鳴をあげながら焔の海に揉まれるみしろは、崩れ落ちることなくその場から動かない。まるでそうすると決めたように。
 涙を流して夏報を見る眼は、まるであの頃の約束を絶対に守ると決めた誰かのようだった。
 うん、と女は心の中で頷く。春風じみた笑顔を想う。
(いつまでもそれができないから、僕らは呪われたままなんだろうな)

大成功 🔵​🔵​🔵​

神坂・露
レーちゃん(f14377)

この目の前に居る女の子が『みしろちゃん』かしら。
彼女が言う『彼』って誰のこと?知り合いさん?
うーん。うーん。この女の子に敵意ないみたいだし…。
「じゃあじゃあ、あたし達も手伝うわ~♪ うん!」
あ…れ?いい案だと思ったんだけど…何か違うかしら?
倒すにしても未練が残ってるのは不憫な気がするわ。
理由?だってだって。
この子はっきりと敵意ないって言ってるし。実際ないし。
未練とか心残りがあったら『海』に還れないじゃない?
…ってレーちゃんに相談してみるわ。
…もし。もしもレーちゃんも同意してくれたら…。
その『彼』の姿を聞いてみるわ。探すのに必要よね。
それから女の子と一緒に探し回ってみるわよ。
勿論。勿論レーちゃんも協力してくれるわよね?ね?

戦う時はあたしの剣の腕が鈍らないようにしなくっちゃ。
じゃないと女の子を余計に苦しませちゃうわ。…うん…。
でも刃の部分じゃなくて峰の部分で攻撃するわね。
相手の攻撃は2回攻撃の早業で武器受けで弾くわ。
見切りと野生の勘で回避と武器弾きの助けにするわよ。


シビラ・レーヴェンス
露(f19223)

ふむ。問答無用で襲ってくると思っていたのだが。
探し人が気になるところだが感染を止めなければな。
…しかし現時点で力を行使していいものかどうか…。
考えあぐねていたら露らしい提案をされ思わず苦笑。
ふふ…。私も露と似てきたのかもしれないな…。
即同意はしない。露の意見を聞いてから同意しよう。
「…ということだが、君もそれでいいだろうか?」
私達の意見が纏まったら『少女』にも聞く。

露と『少女』と三人で『少女』の目的の人物を探す。
探しながら生まれた疑問を『少女』へ問う。
「『彼』を発見したら、その時はどうする?」
いや。なに。素朴な疑問だ他意はない。
「…見つかるといいな。その『彼』」

戦闘は『彼』との時間が終了した後で行おう。
『彼』と語らう時に私達は一時場を去ろうと思う。
悔いの残らないようにするがいい。私達は待つ。
十分に時間を与えられるかわからないが。
「ごゆっくり、な」

戦闘時は【氷凍蔦】を行使しよう。
余り苦しまないように全力魔法と属性攻撃を付与。
場合に寄り封印を解きパフォーマンスと限界突破を。



 炎の海が消えたあと、ほろほろと泣くみしろの姿が神坂・露の心にはひどく痛かった。
「あなたがみしろちゃんかしら」
「待て、露」
 こくりと頷いた彼女に思わず近寄ろうとした時、シビラ・レーヴェンスの鋭い声が飛ぶ。少女本人に敵意はなく、問答無用で襲ってくるとは思えなかった。けれど宙からごぼごぼとナニカが噴きだす音がしたから。
「駄目……ッ」
 みしろが止めようとしても、虚無から現れた水流は勝手に露とシビラを飲みこもうと屋上中を暴れまわる。素早く後退した露が野生の勘を働かせ、激流がちいさな身体にぶつかる寸前で躱す。
 距離を保っていたシビラの唇が素早く動いて、氷の呪文を唱えた。ぱきぱきと地を這う凍てつく蔦が激流に巻きついて、水の流れそのものを押し留めていく。みるみるうちに凍りついた激流のオブジェを露が素早く切り崩していけば、黄昏が照り返す屋上は氷の欠片が反射してきらめいている。
「これ以上近付かないで、私はあなた達を傷つけたくないの」
 喉元と腹部から血を噴いて、火傷で肌がすこしだけ爛れてしまった少女の言葉に、露は首を横に振る。
「だってあたしは、あなたのことを放っておけないわ。あなたのいう『彼』って誰のこと?」
 知り合いさん? そう微笑んだ露の雰囲気は、迷子になった幼子と接するようにやわらかい。口ごもるみしろを見て、うーん、うーんと露なりに考える。
「ねぇレーちゃん。やっぱり、みしろちゃんには敵意はないわよね」
「……ああ。グリモア猟兵が言っていた通り、防衛反応としてユーベルコードが勝手に発動しているのだろう」
 探し人も気になるとはいえ、これ以上の感染は止めなくてはならない。グリモア猟兵は彼女を殺せと告げている。けれど、友好型UDCではなくても、本人に敵対の意思がなければ? 自分達より圧倒的に弱者に見える彼女に、力を行使していいものなのか。
 考えあぐねていたシビラに、ぱっと何か思いついたらしい露が告げる。
「じゃあじゃあ、あたし達もその人を探すの手伝うわ~♪」
 うん、それがいい。まるで一番素敵なお茶会を提案したような口ぶりであったから、みしろはそれまでで一番驚いたような顔をした。
「なん、で……」
「……露、君という奴は」
 あれ、ときょとんとした様子の露が二人の顔を交互に見る。きらめく氷の破片が、時折三人の顔にプリズムのようにエフェクトをかけている。
「いい案だと思ったんだけど……何か違うかしら?」
 倒すにしても、未練が残っているのは不憫な気がする。未練や心残りがあったなら、骸の海に還れないかもしれない。もしかしたらその未練がなくなれば、骸の海ではない本当の天国に行けるかもしれない。
「ね、レーちゃん。いいでしょう?」
「……ふふ」
 おそるおそる露が尋ねてみれば、シビラが珍しく笑みをこぼす。けれど、すぐに同意はしない。きちんと露がそうすべきと考えた理由を聞いて、それが一番よい筋道であると納得できるならば、その時ようやく同意すべきだから。
(私も露と似てきたのかもしれないな……)
 静かに友人の意見を聞いて、魔女は頷きみしろを見る。
「……ということだが、君もそれでいいだろうか?」
「みしろちゃん、そうしましょ♪ 大丈夫、きっと見つけられるわ」
 ああ、と小さく声をもらしたみしろが、泣きだしそうな顔で笑う。そっと手を伸ばす露へと近寄ろうとした時だった。
「……っ」
 狼により近い鋭敏な感覚が、露に違和を伝える。けれど彼女はそのまま、みしろの手を取ることを選ぶ。どばどばと噴き出る赤色の液体が、露に降りかかる。全身に激痛が走るのを耐えて、親友が自分の名前を呼ぶのを耳にした。
「露!!」
 シビラの眼前には、みしろを中心に円を描くように、無数の絵画が宙に展開されている。刃の刺さり真っ赤な絵の具が滴り落ちるそれが、友人をみしろから引き剥がすように膨大な赤色と刃の群れで痛めつけている。
 再び唱える魔法の言葉が、氷の蔦を呼ぶ。凍蔦の群れが赤色を薙ぎ倒せば、みしろの悲鳴が聴こえた。
「いやああ!! ごめんなさい、ごめんなさい……っ」
「――大丈夫よ、みしろちゃん」
 大丈夫。何度もそう告げた露の全身は、切り傷と赤色に染まっていた。けれど、幼い見目は変わらぬ笑みを浮かべたままで。
「あなたが悪いんじゃないもの、ね♪」
 このままでは埒があかない。けれどみしろの願いも、露の想いも遂げさせてやりたかった。どうすれば、と歯噛みするシビラの背後、屋上の扉が開く音がする。
「――見つけた。みしろお姉ちゃん」
 泣き喚いていたオブリビオンの眼が、彼の言葉で見開かれる。それだけで、露には誰が来たのかわかった。
「……よかったぁ、ほんとによかった、みしろちゃん」
 ふっと友人の意識が途切れる寸前、シビラが露を抱き留める。
 この結末は必ず見届ける。彼女が起きた頃には、きっとみしろがわらっているはずだから。
「ごゆっくり、な」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

天星・零
暁音と参加

最後にあったのは僕が10歳の時
あの時、死ぬのがわかってた
でもこの眼(死神の瞳)で見えた終りの刻は変えられない
だから、助けられなかった
それは今も決まってる

拒まれても、手を伸ばす
今はダメでも次の人生がいいものになるように

宿敵の攻撃は虚鏡霊術や武器を用いて攻撃を避けるか受ける
『決意の心』の不生不滅の継戦能力を活かして

起こしてしまった事件のこと
水の中で苦しんだこと
彼女が自分のことを思い出してくれるまで彼女を傷つけずにいなしながら
攻撃するのは彼女の周りにある絵達
(可能であれば全UC体験)

『みしろお姉ちゃん…』

思い出してくれれば実は過去にあった時に事情を知って助けようとしたこと、自分も同じ境遇だったこと

今度は幸せになってほしいけどみしろお姉ちゃんになりたい?と聞いて指定UC
彼女が浄化される時ディミオスとバベルも可能なら一緒に行きます
3人にお別れをして、暁音に笑って
泣いてるのバレそうだけど

後日談の絵のタイトル
ー『虚鏡ノ夢』(零のUCの名前と同じ)
絵を見た後、暁音に笑って
『いこっか』

アドリブ○


天星・暁音
零と参加

世の中…どうにもならないと分かっていても…だね
貴方達の新たな旅が、より良いものになりますように、祈りを…

ふふ、零、帰ろうか、それとも何処かに寄っていく?
大丈夫、何処でも俺がずっと一緒だよ
どんな時でも、いつまでもね

泣いてる零を黙って優しく見守ります

零と共に手を伸ばしつつ、基本的には二人を優しく見守ります
何か旅立つ前に描きたいものはある?
何でも見せてあげるよ
何かを描きたいというならUCにより、その風景や物を幻影で作り上げてあげます
満足するまで幾らでも付き合うつもりです

後日談が可能ならみしろのいたアトリエに行って零の笑ったのを想像して描いた絵画を見つけたいです

戦闘は幻影の騎士で行います



 本当の黄昏時の空の下。見つけた、と口にした少年は、泣き喚いている少女に呼びかける。
「みしろお姉ちゃん」
 そう名を呼んだ天星・零は十五歳の姿をしている。最後に彼女と会ったのは、オブリビオンがただの臼氷・みしろという女子生徒であった頃のこと。十歳の少年の姿しか知らずとも、顔立ちには確かな面影があるはずだった。けれど、あなたは、と唇を震わせたみしろは、ずたずたの己の身体を抱きながら顔を歪める。
「痛い、痛い、痛い……! あなたのこと知ってる、でも誰なの、わかんない、ねえ……!」
「僕だよ、零だ。みしろお姉ちゃんは、いつも絵を描いてたでしょ」
 死神の瞳を宿している彼には、彼女の最期がわかっていた。終わりの刻は変えられなくて、どうしたって助けられなかった。それは今もおんなじで、死のさだめはどうやって変えられない。
 けれど、今の零にはみしろにできることがある。そっと少女の元へと歩み寄る彼の視界を遮った暗闇が、歪んだチャイムを響かせる。
 トイレに流された勉強道具、知らんぷりの学校教師。上履きどころかローファーも見つからなくて、靴下で帰宅しても両親には無理矢理笑顔を見せる。痛いのがもう何処なのかわからなくなった少女が、自分の部屋の扉を閉めた。
 途端、零の背中に突き立てられるカッターナイフ。憎悪に満ちた泣き顔の真犯人のずさんな攻撃を、避けることも受け流すことも出来たのに、少年はそれをしなかった。
「零、」
「いいんだ、これくらい平気だよ」
 思わず呼びかけた天星・暁音に、零はわらって応える。幼子は、彼がきっと彼女の痛み全てを受け止めるつもりでいるのを知っている。彼がただ何もしない、なんてことはないはず。だけどカッターナイフが刺さったままの背中が、無茶をするような気がしてならなかった。
 虚空から膨大な水流が溢れだす。激流が生み出す大洪水を防ぐのは、暁音に呼ばれた幻影の騎士の掲げた星色の盾。零の織りあげた鏡の零術が網のように広がって、自らを犠牲に二人を守る騎士に力を与えた。
「ありがとう、暁音」
「世の中、どうにもならないと分かっていても……だね」
 幼子にだって、みしろにできることがある。大切な人とのささやかな繋がりを持った少女に、よりよい旅路の可能性があるならば。
「わかんない、思い出せない、やだ、やだよう」
 ぽろぽろと涙をこぼして蹲る少女を、無数の絵画が取り囲む。刃の刺さったそれが赤く滴り落ちる液体をこぼすさまは、みしろを守っているというより、彼女を責め立てているようだった。
「みしろお姉ちゃん、思い出して」
 そしたら、僕は君に次の旅路の支度をしてあげられる。今はだめでも、次の人生がいいものになるように船をつくってあげられる。
 静かに呼びかける零に反応したのは彼女が先か、絵画の群れが先だったか。一気に噴きだす赤色と刃の群れを騎士が全て受け止め霧散する。行こう、と声をかける暁音のやさしさを胸に湛えて、零は幼子と一緒に駆けた。
 手を伸ばした先が刃に触れて痛い。不生不滅を抱いた決意の心が容を成している。共にみしろへと手を伸ばす暁音もきっと痛いだろうけど、いつものように微笑みをくれるから。
 耐えきれずに起こしてしまった傷害事件。諦めてしまって、自ら溺れた水の中のつめたさと苦しさ。全部がみしろの痛みだから、零は寄り添いたかった。
「君はもう、自分を許していいんだよ!」
 鋭利な鏡の刃の群れが、絵画の群れを裂いていく。血のどしゃ降りじみた赤色が、黄昏の屋上に激しく降って、陰惨な絵画達がかき消えた。
 蹲ったままのみしろを、血の雨からかばうように二人は少女を抱きしめる。ふいに、少女の唇が動いた。
「……れい、くん?」
「うん。零だよ、みしろお姉ちゃん。久しぶり」
「ああ……私、君に、会いたくて」
 彼女が流しはじめた涙は、今はひどくあたたかい彩をしている。あのね、と言葉を続ける零の彩もやわらかいまま。
「あの時、みしろお姉ちゃんがつらそうだったのを、本当は知ってたんだ。僕も同じだったから。でも僕はなにもできなくて」
「うん……私もね、知ってたよ。だから、零くんともっと話したかった。会いたかったの」
 少しずつ、ぼろぼろの少女の手足の端が粒子に融けていく。ねぇ、と零はみしろに尋ねる。
「僕は君に幸せになってほしいんだ。みしろお姉ちゃん、なりたい?」
 少年の問いにこくりと頷いたみしろに、それじゃあ、と暁音がわらう。
「みしろさん、旅立つ前に描きたいものはある? なんでも見せてあげる。スケッチブックもあるんだよ」
 幼子が差し出したスケッチブックと十二色セットの色鉛筆を、みしろは震える手で受け取る。すこしだけ考え込んでから、なら、と唇が動いた。
「……星空が描きたいの。綺麗な、星空」
 控えめに伝えられたお願いに、任せて、と暁音は幻想曲を紡ぐ。夕焼けの世界に、ふわりと夜が降りてくる。夢幻の瞬く星空が広がって、みしろの双眸が輝いた。同時、零の手から生み出された原稿用紙の束がはらはらと、少女の人生を綴りだす。
 静かに夢中で手を動かし続ける彼女の身体が、随分と融けはじめた頃。スケッチブックに描かれた星空は、十二色すべてを使って鮮やかな天に。原稿用紙には、みしろのそれまでの人生がいちからじゅうまで書き記されていた。
 零が船を呼ぶ。輪廻転生を促す棺は、星の彩に満ちていてあざやかだった。綺麗ね、と見惚れた彼女が棺に触れて、それが出航の合図。
 骨の首狩り女王と、ひとつめの帽子屋はみしろに黙って寄り添う。君達も行くんだね、と確かめる零に、ふたつの作品は何も告げはしなかった。それが答えだと思ったから、今度こそお別れを捧げる。
「さようなら、みしろお姉ちゃん。大丈夫だよ」
 君は君のままでいいんだから。
 とびきりの笑顔を見せたみしろとふたつの作品が、棺と共に光に消える。黄昏時には、随分と本物の夜が近付いていた。
「ふふ、零、帰ろうか」
 それとも何処かで寄っていく? 冗談めかして笑った暁音には、目を赤くしている零のことがわかっている。
「大丈夫、何処でも俺がずっと一緒だよ。どんな時でも、いつまでもね」

 それからしばらくして、とある少女の居たアトリエに二人の少年が辿り着く。
 幼い誰かの笑顔を想像して描かれた絵画は、やさしい彩をしていた。キャンバスの裏に書かれた絵のタイトルは『虚鏡ノ夢』。
「いこっか」
 絵画によく似た少年が、ひと回りちいさな幼子にわらう。


 窓から見える夕焼けを見ながら、僕は絵を描いている。
 みしろちゃんは、自分のために泣いてくれる人を見つけられたらしい。

 それだけで、もう少しだけ生きてみようと思えた。

 絆創膏を巻いた指先は、じんわりと赤色が滲んでいる。
 たとえカミソリの味がしても、僕らはまだ、僕らのままで生きていけそうだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年02月04日
宿敵 『臼氷・みしろ』 を撃破!


挿絵イラスト