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誰がために旗は舞う

#デビルキングワールド

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#デビルキングワールド


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 旗の色は黒と白。
 翻るそれは吹き抜ける風のためか、はたまた、観客の熱気のためか。
 ――いいや、違う。
 それは栄えある勝者のためにこそ。
 ばさりばさりと音立て振るわれる旗の下、堂々たる姿を見せつけて勝者が過ぎ行き、ゆるりと止まった。
 歓声、歓声、歓声。
 レースを勝ち抜いたただ一人へと向けて降り注ぐそれは、観客たる悪魔達の支持そのもの。
 高揚感、優越感、特別感。
 勝者にこそ許された空間が、そこにはあった。
 そして、それこそが勝者/オブリビオンの望む――。

「皆さんはぁ、カーレースに興味ありますぅ?」
 集まった猟兵達の前で、ぴょこりと揺れた兎耳。ハーバニー・キーテセラ(時渡りの兎・f00548)が、間延びの声をその下より響かせていた。
「あ、カーレースと言うのはですねぇ、デビルキングワールドで開かれるものなのですけれどもぉ」
 デビルキングワールドと言えば、最近になって発見された世界だ。
 そこでは、カーレースを始めとして、ボートレースや競馬、競輪等と様々なレースが開催されており、人気を博しているのだとか。ただ、それだけであれば、他の世界でも見るようなことではある。しかし、この世界では少しだけ趣が異なるところもある。それこそが――。
「デビルキング法の関係でぇ、妨害行為が大推奨されているのですよぅ」
 悪事を推奨するその法律の関係で――レースに限った話ではないが――悪魔達はこぞって『悪そうな事』をしようとするだろう。
 だが、妨害行為推奨とは言え、レースはレース。そこに猟兵が関わるような話があるとすれば、だ。
「オブリビオンがですねぇ、このレースに参加するのですよぅ」
 それしかないだろう。そして、悪事という点で言えば、オブリビオンは悪魔達の羨望を集めやすい。ここでレースに勝利させてしまい、更なる名声を与えてしまえば、それは決して好ましいことにはならない。
 故に、猟兵達へと求められるのはレースへの参加であり、オブリビオンの勝利を阻止することである。
「とは言えですねぇ、いきなりのとびこみ参加では悪魔やオブリビオン達に分があるかもしれませんのでぇ、まずは情報収集からしてみてはどうでしょ~」
 参加申し込み後、レースが始まるまでには準備期間が存在するのだとハーバニーは言う。
 その間にコースの下調べをするもよし、参加者の情報を調べるもよし、必要なしとしてショッピングなどデビルキングワールドの日常を過ごすもよし、その期間をどう過ごすかは猟兵達次第だ。
「妨害ありのレースともなれば、波乱も待ち受けていることでしょう。ですが、皆さんが誰より早くチェッカーフラッグの下を駆け抜けると信じていますよ」
 ――それでは、いってらっしゃいませ。
 銀の鍵が虚空に差し込まれ、カチリと音立て扉が開く。
 扉を潜れば、そこはきっともう別世界。


ゆうそう
 オープニングへ目を通して頂き、ありがとうございます。
 ゆうそうと申します。

 今回の依頼内容は悪魔達とのカーレースです。
 ただ、題目としてカーレースとはしていますが、車に限らず、キャバリアや箒、果ては自分自身で走るなど、なんであってもレーシングカーと言い張れば通ります。
 むしろ、その強弁を通す姿を悪魔達は褒めたたえすらするかもしれません。
 皆さんの思うモノでご参加ください。
 以下、補足となります。

 ●第1章
 こちらは日常シーンとなります。
 オープニングでも触れたように、コースの下調べをして情報を得るもよし、デビルキングワールドでの日常を過ごすもよしです。
 情報を得るための方法は、皆さん次第です。

 ●第2章
 レースが始まります。
 レースの前半部分に該当し、悪魔達と走り抜けてもらいます。
 事前に得られた情報などあれば、断章で開示する予定です。

 ●第3章
 レース後半戦。
 オブリビオンが乱入してきますので、それを抑え、先にゴールを目指して下さい。
 オブリビンより先にゴールすることで、オブリビオンが名声を得られないように出来れば成功ですので、討伐しなくとも構いません。勿論、討伐を目指しても構いません。

 以上となります。
 それでは、皆さんのプレイング・活躍を心よりお待ちしております。
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第1章 日常 『賄賂を贈ろう!』

POW   :    奮発して高価な物を贈る

SPD   :    丹精込めて作成した手作りの物を贈る

WIZ   :    相手の欲しい物を推理して贈る

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ライカ・ネーベルラーベ
走るのは好きだよ、ぶっ壊すのも好き
だからまぁ飛び込みでレースに行っても良かったんだけど
「まぁ、コースを知っておくのは無駄じゃないかな」

ぶらぶら散歩がてら道を確認していこう
なんだっけ、イメージトレーニング?なんかそんな感じ

なんでもアリアリのレースならわたしも妨害できる準備をしておこうかな
工具箱とか燃料満載のドラム缶とか置いておいたら、レースの資材だと思ってスルーされるかも

あー、そういえば他の猟兵もいっぱいレースに出るんだよね
よし、他の猟兵にもレースで勝つのを目標にしようか
「そうと決まれば、もっと妨害の仕込みを仕掛けておこう。うん」
わたし、走るの好きだけど……まっとうな走り屋魂なんて持ってないんだ



 空白のままに飛び込むというのも、らしさではあったのかもしれないけれど。
「まぁ、コースを知っておくのは無駄じゃないかな」
 その『らしさ』に頓着しないのもまた、ライカ・ネーベルラーベ(りゅうせいのねがい・f27508)だ。
 ざりと靴底がアスファルトを噛んで音を立てる。
 ライカが拠って立つその大地こそ、後日に開催されるであろうレース会場の一部に他ならぬ。
「ふーん……思ったより、結構広い」
 ざっと見渡しただけでも、整備されたサーキット会場の内に留まるでなく、遠く見える山間に道が呑み込まれていく様子が見て取れた。
 ぶらぶら散歩がてらに道を確認していこうかと思っていたライカであったが、これは散歩どころでなく、ウォーキングにでもなりそうな気配だ。
「なら、先にこれを下ろしとこうか」
 道を確認するにせよ、荷物を多くと持って歩くも辛かろう。
 大荷物をヨイショと下ろし、ズラリとお目見えするは工具箱にドラム缶、レース会場にであればあっても不思議ではない道具の数々。
 何に使うのか。決まっている。
「このレースがバーリトゥードって言うのなら、わたしもそのための準備をしておこうかな」
 郷に入っては郷に従え。
 何でもありというのなら、ライカもまたそれに倣って仕掛けを準備するだけ。
 走るのはライカも好むところだ。だけれど――。
「まっとうな走り屋魂なんて、持ってないんだよ」
 彼女は生粋のレーサーではないのだ。だから、そこに躊躇いというものはない。もしあったとしても、それは混濁する記憶の向こう側に置いてきたに違いないのだから。
 鼻歌交じり――ではなく、淡々と、手際よくとライカは己の仕掛けをサーキットのあちらこちらに仕掛けていく。その顔にいい笑顔が浮かぶとすれば、その仕掛けが十全に機能し、破壊と妨害を撒き散らせ時か。
 だがしかし、順調に動き回っていたライカの手がはたと止まった。
「……あー、そういえば他の猟兵もいっぱいレースに出るんだよね」
 知古ではないとはいえ、同じ猟兵。それをも巻き込みかねない妨害に気が咎めたのか。
「もっと分かりにくく、周到に仕込んでおこう。うん」
 否。そうであろう筈がなかった。ライカにとって、他の猟兵達もまた、レースにおける競争相手であるのだから。そして、ライカ自身も猟兵であるが故に、只人向けの仕掛けで猟兵相手に妨害の効果を発揮しきれるかは怪しい。そのように、彼女は理解したのだ。最悪、仕掛けを除去されるまでもあり得る、とも。故に、ライカは気を取り直して仕掛けを用心深く、周到にと仕掛け直すのだ。
「こんなところかな」
 ゴソリと作業を終えれば、掌パンと打ち払う。それじゃあ、あとは。
「いけるところまでいってみよう」
 機を伺い合うスタート地点。最後の死力を振り絞るゴール地点。その両面を併せ持つこの基点への仕掛けはもう十分だ。仮に、他の猟兵達の手によって幾つか無力化されることがあったとしても、その全てを無力化されることはないだろう。
 だから、次はコースの下見。会場を抜け出て山間へと続く道は果てしないけれど、なに、まだ時間はあるのだから。
「――なんだっけ……ああ、そうそう、イメージトレーニング。イメージトレーニングとか、なんかそんな感じ」
 違ったかな。まあ、別にいいか。違っても違わなくても、どっちでも。ライカ自身がその行動の意味を理解していればいいのだ。
 口の中でもごりと言葉を咀嚼しながら、ライカは長き道への一歩をようようと踏み出していく。
 だが、誰思おう。このコースが全長にして20km程度あろうとは。そして、そのかしこにある障害――他参加者の妨害ではなく――馬力を要求されるような上り坂、横風が奈落に誘う崖の道といった自然も待ち受けていようとは。
 全てを歩き終えた時、気を付けるべきは他参加者の妨害だけでないことをライカはその記憶に刻み、如何に走るべきかをその脳内でイメージするのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オブシダン・ソード
【狐剣】
とりあえず二人で買い出しを
レースは長丁場になるかも知れないからね、おやつ買おう、おやつ
僕は飴ちゃんが気になる

えっこのトゲトゲでラメラメで無駄にベルトいっぱいついててジャラジャラの服?
逆三角形のグラサンも?

後はそうだね
ワルと言えばやっぱり罠
基本はマキビシじゃないかな

…なるほど、賢いねいすゞ
地味な嫌がらせを考えさせたら君の右に出るものはいないよきっと
びっくりさせるために花火やかんしゃく玉も買っていこうね

アイデアがポンポン出てきてすごいよ君
この世界向いてるんだねぇ…

購入理由を聞かれたらレースに出場することを宣伝して根回し
いえーい皆応援よろしくー
よかったら皆も合わせて花火を発射してね。僕以外に


小日向・いすゞ
【狐剣】
へぇへぇ
普段からどの世界でも
センセは飴を気にしてるじゃないっスか

めちゃ悪そうな服も買わなきゃっスね
ほらほらコレなんてどうっス?
あっしは悪いアンタに惚れてる役なンスから
キャーだーりん素敵~

しかしマキビシじゃ
センセみたいにきゃばりあ乗りにゃ効かないっスよ
やっぱり投網にとりもちも定番じゃないっスかね

それに車乗りが一番嫌がる事と言えば…
デビル硬貨を指の股に挟んで素振り
こうっス!
えんぶれむだってこうっスよ
素振り

いいっスね~
目潰し、煙幕…あとは色水…
アレできないンスか
丸ノコがでてきてシャーってやつ

それ本当に褒めてるっス?

手を振り
センセの走りは惚れ惚れするっスよォ
なんたってセンセは大悪党なンスから!



 がやりがやりと街の声。
「レースは長丁場になるかも知れないからね、おやつ買おう、おやつ。僕は飴ちゃんが気になる」
「へぇへぇ、普段からどの世界でもセンセは飴を気にしてるじゃないっスか」
「いやいや、これも思い出を形にってやつだよ」
「ははぁ、あっしとの思い出が飴のように甘いだなんて、センセも粋なことを言うっスね」
「え?」
「え?」
 がやりがやり。
 その喧騒に紛れて、オブシダン・ソード(黒耀石の剣・f00250)と小日向・いすゞ(妖狐の陰陽師・f09058)が姿もちらり。
 人波の中を泳ぎ、街中を歩く姿はまるで物見遊山のようにも見える。だが、それがそのためのものでないことは、彼ら彼女らこそがよく知るところ。
 認識の違いは今後埋めるとして、思わずお見合いしてしまった状況を仕切り直すよう、といすゞはウィンドウ越しの商品の数々へと視線を移す。
「この世界のれーすに参加するンスから、めっちゃ悪そうな服も買わなきゃっすね」
 ほらほら、コレなんてどうっスか。なんて、にこやかにココンと指差さされた窓越しの一つ。
 オビシダンもその指し示されるに従って視線を移せば――。
「このトゲトゲでラメラメで無駄にベルトいっぱいついててジャラジャラの服?」
「とっても悪そうっスよォ」
「そりゃこんな衣装ならそうも見えるだろうけれど、えっ、逆三角形のこのグラサンも?」
「髪型も合わせて変えてみるとかもどうっス?」
「ノーコメントで」
「えー、あっしは悪いアンタに惚れてる役なンスから。キャーだーりん素敵~」
 オブシダンとしても、コンコンコンと楽し気に笑ういすゞの姿を見るのは悪い気もしない。しないけれど、やっぱり。
「前向きに善処するよ」
「それは言うだけのやつっスよね」
「いやあ、いすゞがもう少し気持ちを込めて素敵って言ってくれたらなあ」
 フード越しにチラリチラリ、期待の眼差し。
「前向きに善処するっス」
 すげない返答であった。
 そんな、いつもと違う世界の、いつもの日常がそこに。

「……まあ、衣装についてはまた要相談として。後はそうだね。ワルと言えばやっぱり罠だよね」
「なんでもアリってことっスから、こっちも何かしら用意しといて損は無さそうっスかね」
 言葉のじゃれ合い――いや、ある意味では本気だったのかもしれないが――は、さておきとして、いよいよもっての本題はこちら。オブシダン達もレースにおける攻めの一手を用意せんとしての。
「となると、基本はマキビシじゃないかな」
「せおりーってヤツっスね。しかし、マキビシじゃ、センセみたいにきゃばりあ乗りにゃ効かないっスよ」
 キャバリアと語って、二人の脳裏に思い出されたは過日の記憶。
 とんでもない大きな買い物――きっと値段的にも、勿論サイズ的にも――をしてきたオブシダンといすゞのにこやかな家族会議。そして、その後の。
 それを思い出し、二人の瞳に笑みも浮かぶが、今ばかりはそれも少し横において。
「うーん、じゃあ、他に何があるかな」
「やっぱり投網にとりもちも定番じゃないっスかね」
「……なるほど、賢いねいすゞ」
 確かに、それであれば誰であろうと、何であろうと、絡めとることが出来ようと、感心をぽつり。
「いやあ、それほどでもないっスよ」
「いやいや、謙遜なんて」
「褒めても何も出ないっスからね」
「やっぱり、地味な嫌がらせを考えさせたら」
「ん?」
「君の右に出るものはいないよきっと」
「それ本当に褒めてるっス?」
「褒めてる褒めてる。他には何かない?」
 いすゞの胡乱な眼差しもオブシダンは柳に風と受け流し、フードの奥から催促を飛ばす。
「車乗りが一番嫌がる事と言えば……」
「言えば?」
「こうっス!」
 ひらり閃く白魚の。
 だが、オブシダンは確かに見ていた。オブシダンの眼前を閃いたいすゞの指先、そこに捕まれていたモノを。
「――硬貨?」
「そうっス! このデビル硬貨を指の股に挟んで、装甲だろうが、えんぶれむだろうが、こうっスよ」
「なんてことを……!」
 それは俗にいう10円キズなる。
 すれ違いざま、さりげなさを装われて一度付けられれば最後、その車の持ち主に与えるであろう心理的ダメージは計り知れない。そして、懐への打撃も。
 その恐ろしさに、車ではないが愛機たるキャバリアを持つオブシダンも思わずと身震いを抑えられなかった。
「びっくりさせるための花火やかんしゃく玉とかが思い浮かんでたけれど、すごいね君」
「センセのそれもいいっスね~。あとは目潰し、煙幕……色水なんてのも。あ、アレとかできないンスか? 丸ノコがでてきてシャーってやつ」
 立て板に水の如くとすらりすらり。
 いすゞの内より湧いて出たアイディアの数々に、オブシダンも驚きを隠せない。
「すごいよ君。この世界、向いてるんだねぇ……」
「それ本当に褒めてるっス?」
 二度目の問い掛けに、オブシダンはにこやかな笑顔で答えるのみであった。沈黙は金なのである。

「毎度あり」
 結論から先に言えば、準備は出来た。
 デビルキング法が制定されてより、悪事の推奨されるこの世界だ。ならば、悪戯やらなんやらに転用の容易な撒菱やらかんしゃく玉やらは、普通にお店に並んでいたのだ。
「あるもんだねぇ」
「こういう世界っスからねェ」
「なあ、あんた達。ここらじゃ見ない顔だが、レース参加者か何かかい?」
「レース参加者だって、わかるものなんだ」
「そりゃ、この時期にうちの商品を買い込んでいくともなりゃ、レース妨害か何かだろうからなあ」
「なるほど」
「で、実際のとこ、どうなんだ?」
 両手いっぱい買い込めば、どう使うのかと気にもなるのは人情ならぬ、悪魔情というもの。購入されたものがどのような悪事――妨害に使うのかと、店主の瞳が興味津々と輝いていた。
「そうだね。レースに参加するのはその通りだよ」
 フードの奥でオブシダンの口元が弧を形作る。それはまるで、物語の悪役が勿体つけるように。
 店主の喉がその返答を待ちわびるようにごくりと鳴った。
「でも、簡単に教えるのは面白くないから秘密」
 口元に一本人差し指をピンと立てて。
「かー! 勿体つけるたあ、あんたも悪いねえ」
「そうっスよォ? センセはなんたって大悪党。走りも惚れ惚れするンスから!」
 ワルの雰囲気を醸し出すオブシダンの隣で、いすゞも煽るようにいい笑顔を浮かべていた。それらは三人の話に傍耳を立てていた悪魔達の興味を引くには十分で。
「ああ、あんたらがどんな悪いことをするのか、是非とも見に行かせてもらうぜ」
「いぇ~い、皆、応援よろしくー。あ、そうそう。その時は、よかったら花火でも持ってきて景気づけしてみてね。僕以外へ」
「よろしくっスー」
 二人は応援の声に手を振り振り愛想撒き、そして、さりげなく自分達の妨害行為への加担を唆す。
 いつの間にか集まっていた店主以外の悪魔達も、悪事の気配を敏感に悟り、二人への応援のボルテージを一層とあげるのであった。
 きっと、レース中においてはオブシダンやいすゞの合図一つで、花火の弾丸が競争相手へ襲いかかることになるであろう。
 悪魔達の応援を背に受けながら店を後にする二人。その顔にはワルい笑顔が浮かんでいたとかいなかったとか。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シン・フォーネウス
悪魔たちにとっちゃ超人気の催し物だもんな。なんでもありってところに凄まじいワルを感じるが、まさか参加できるとは思わなかったぜ。

となると、ある程度の情報収集はしとかねぇとな。コースの下見、そして隙あらばデッキブラシでコースを『掃除』だ。

一応コース上に存在する罠とかあからさまなワルな仕掛けを見ておくぜ。で、引っかからないようにオレの下僕たちの『ソロネ』『エーギル』『カーリ』で掃除(物理)しとくわ。

……これあれだな。ばれないように罠の位置ちょっとずらして、仕掛けたやつが逆に巻き込まれるようにするのも良さそうだ。

われながら結構ワルなことできてんじゃねぇか?(ドヤ顔)

(アドリブ等お任せ)



 妨害、イカサマ、なんでもアリなカーレース。
 それはデビルキング法のあるこの世界においては、多くの注目を集める大会となることは想像に難くない。
「悪魔たちにとっちゃ超人気の催し物だもんな」
 かく言うシン・フォーネウス(水竜の従者・f31485)もまた、その悪魔が一人。
 彼の宿す概念は『死』という剣呑さを宿すものではあるが、その内面はやはり『悪魔』らしいもの。
「まさか参加できるとは思ってなかったが、参加するからにはある程度の情報収集もしとかねぇとな」
 悪魔特有の生真面目さがそこに。
 期日まで遊び歩くことも選択肢の一つではあったのだろうが、なんやかんやと真面目なシンはこうしてコースの下見に足を運んできたのである。その片手に、デッキブラシを手にしながら。
「しっかし、全長20kmとはねぇ。随分な長さだ」
 整備されたサーキット場を抜け、小高い山へと昇り、下り、そして、また帰ってくるそのコース。
 それを丁寧に見ていくとなると、随分な作業となることだろう。
 だがしかし、だ。
「一つ一つやってきゃ、いつかは終わんだろ」
 コースの下見をすると決めた以上、それを放り投げることは悪魔としての矜持が許さない。
 気合を入れ直すようにと両の頬を軽くと叩き、シンは長き道へと挑みかからんとするのである。

「――と、まあ、歩いちゃみたが。随分なモンだな」
 運営側か、はたまた、参加者が仕掛けたかは分からないが、少し歩いただけでもあるわあるわ。
 コーナーにはスリップを誘発するような油膜に、木立に紛れて設置された火炎弾を吐き出す装置も。果ては、玄人仕事な爆発物まで。
「なんでもありってところに凄まじいワルを感じるぜ」
 だが、それも先んじて気付いてしまえば、どうとでもなるもの。こういったものの『掃除』も、シンは最初から想定していたのだから。
 ぶんと得物のデッキブラシを手の中一廻し、こいつはなんとも掃除し甲斐がありそうではないか。
「ソロネ、エーギル、カーリ」
 呼び声に応え、シンの影よりずるりひたりと音立てて這い出す其はヒトの姿に非ず。
 如何なるをも吸い込まんとする大口は轟々と音を立てる。
 水を帯びて吐き出されるブレスは頑強なるをすら削り落とす。
 その身体の内にて取り込まれれば最後、内にて巻く渦が捕えた者の身を絞る。
 そう、それこそは――。
「さあ、お掃除開始だ!」
 シンの頼もしき下僕――掃除道具達なのである。
 だが、ただの掃除道具と侮るなかれ。これらこそは悪魔たるシンの使役するモノ達であるのだから。
 ソロネがコースのあちらこちらを駆けまわればそこかしこに隠された罠を探し当て、シンの振るうデッキブラシとエーギルがゴシゴシと油膜やら何やらをこそぎ落す。火炎弾発射装置などの大物はカーリが物理的に排除していく。
 瞬く間に、コース上の罠の多くがシンによって平らげられていくのであった。
「……あ、あー。これはあれだな。ただ掃除するんじゃなくて、ばれないように罠の位置ずらすとかもありなのか」
 シンの歩みと共に片付いていくコース。だが、そこでふと彼は思ったのだ。かくすることもできるのではないか、と。そして、それを考えれば考える程に、それはあくどいことにも思えてきて。
 実際、それは効果のあることだと言えるだろう。仕掛けた当人はその位置を把握しているが故に、それを躱せるという慢心や隙が生じやすくなるもの。しかし、その位置が動かされていればどうなるか。それこそ、その罠が牙を剥くのだ。
「われながら結構ワルなことできてんじゃねぇか?」
 折角と綺麗にした場所をまた汚すのは僅かと気も引けたが、そのアイディアをなかったことにするのも勿体ない。だから、シンは罠の位置をずらし、仕掛けを設置し直していく。その顔にどや顔を、脳裏に自身の罠へ逆に引っ掛かっていく参加者達の姿を思い浮かべて。
 そして、もう一つ、シンが手にしたものがあった。それはこのコースの特徴。コースの長きは勿論のこと、馬力を要求されるような上り坂や横風が奈落に誘う崖の道といった、コース自体の作りもまた参加者の脚を止めんとしていることに気付けたのである。
 シンが手にした情報――罠の再利用やコースの特徴。それをどう使うかは、彼次第。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユーイ・コスモナッツ
はじめて訪れるデビルキングワールドですから、
コースの下見がてらに歩いてまわって、
この世界に対する理解を深めておきましょう

あっ!
だめですよ、ゴミのポイ捨ては!

こらーっ!
自転車の3人乗りはいけません!
スマートフォンを弄りながらの運転なんて
もってのほかです!

……ぜえぜえ
話には聴いていたけれど、
なんて無法な世界なんだろう
私には、目に映るものすべてが胃に悪い……

って、言ったそばから!
信号無視はいけません!
青になるのを待って、
きちんと横断歩道を渡るんです!

え? 法律違反ですって?
今度は誰が……って、私!?
そ、そんなあ!
んもう、どうなっているんですかこの世界ー!



 デビルキングワールド。
 それは悪魔達が闊歩し、魔王が君臨し、そして――。
「あっ! だめですよ、ゴミのポイ捨ては!」
 ユーイ・コスモナッツ(宇宙騎士・f06690)の目前にて平然と行われる悪。
 だが、それを咎めるはユーイばかりであり、他の誰もがそれを止めようとも、捨てられたゴミを拾おうともしないではないか。
 もう! と憤慨するようにユーイが空き缶を拾い上げれば、ポイ捨てをした悪魔の瞳が奇異の色に染まり、まるで近付いてはならないとでも言うかのようにそそくさと離れていくではないか。
「むぅ……」
 唸りをあげ、釈然としない思いでゴミをゴミ箱に。
「こうして街の中にゴミ箱が設置してあるんだから、ちゃんと捨てたらいいのに」
 返事をするのは、ガコンと空き缶を呑み込んだゴミ箱のみ。
 あなたは自分の役割を全うしていて、偉いですね。なんて、思わず現実逃避。
 しかし、そんなユーイの前に、またしても『悪』は現れるのだ。
 ――チャリン、チャリン。
 バランスの悪さにふらふらと右左。ベルを鳴らして、公道を我が道の如くと進みながら。
「あ! こらーっ! 自転車の3人乗りはいけません!」
 二人乗りでも宜しくないと言うのに、まさかの自転車三人乗りであった。
 義を見てせざるは勇なきなり。
 明かな危険運転を見付けておきながらそれを見過ごすことなど、ヒロイックへの憧れを抱くユーイに出来よう筈もない。故に、その身は気付けば宙を駆ける時のように素早く。
「わわ、急に飛び出してくるなよ! 危ないだろ!?」
「危ないのはそちらです! 3人乗りだけでなく、ながら運転までなど!」
「へへ、悪いだろ?」
「……!」
 ユーイの注意へ、悪びれもしない様子の悪魔達。
 先のポイ捨てに続き、その様子に再びのカルチャーショックがユーイを襲う。
「話には聴いてたけれど、なんて無法な世界なんだろう。私には、目に映るものすべてが胃に悪いよ……」
 ユーイの生まれた世界であれば、それこそ今迄に巡ってきた世界であれば、奇異の目で見られるのは悪魔の方であったことだろう。
 だがしかし、ここはデビルキングワールド。デビルキング法の制定された世界では、ユーイこそが奇異の対象なのである。
 猟兵たるとしてその存在を聞き及んではいたけれど、やはり知ると見るとでは大違い。故に、二度にわたって受けたカルチャーショックは、歴戦の勇士でもあるユーイを一時とはいえ呆然とさせ、そろりと彼女から離れていく悪魔達の存在を忘れさせてしまう程のものであった。
 その忘我からユーイを引き戻すは、クラクションの叫び声。
「はっ! いけない、呆然としてました。彼らは、どこに……って、えぇ!?」
 己を取り戻したユーイの視界に飛び込んできたのは、先の三人乗りがこともあろうに赤信号のただ中を突っ切らんとする姿。
 先程からのクラクションは、まさにそれが原因であったのだ。
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださぁ~い!?」
 言った傍からのその光景にユーイ自身も道路に飛び出し、三人組の悪魔を自転車ごとと対岸の歩道まで移動させたことを誰が責められようか。
「なんだ、姉ちゃんも道路に飛び出すなんてやるじゃないか」
「いえ、違いますから。飛び出したくて飛び出したんじゃありません」
「んん? じゃあ、なんでだ?」
 心底の不思議そうな顔は、先程の奇異の眼差しとある意味では似ていた。そして、ユーイの頭は痛むばかり。
「あのですね、先程も言いましたが3人乗りは危ないのです。そして、信号無視はいけません! 青になるのを待って、きちんと横断歩道を渡るんです!」
「え」
「な、なあ、さっきからこの姉ちゃん、なんかアレっぽくね?」
「ああ、アレっぽいな」
「……なんです、アレとは?」
「姉ちゃんって、勇の付く人?」
「勇の付く……いえ、勇ある者たらんとはしていますが」
「!」
 勇の一字が何だと言うのか。怪訝を映し出すはユーイの瞳。されど、今迄それを浮かべていた悪魔達の瞳が恐怖に染まったのを確かに彼女は見た。
「ど、どうかされま――」
「やっぱり勇者だ!?」
「勇者が出たぞー!?」
「え、え、え!?」
 反応は劇的。
 三人の悪魔は――否。周囲の悪魔までもが、勇者という言葉に反応して一目散。
 そう、このデビルキングワールドにおいて、デビルキング法に叛逆する者――即ち、勇者とは悪魔に最も恐れられている者なのだ。
 悪事を働かず、それを戒めるかのようなユーイが、そのような存在として認識されるのも、ある意味では宜なるかなといったところか。
「私が勇者……って、喜んでる場合じゃなさそう!? んもう、どうなっているんですか、この世界ー!」
 ユーイにとっては初のデビルキングワールド。しかし、そのあまりの価値観の違いに、悲鳴のような彼女の嘆きが街に木霊していた。

 なお、僅かばかりの蛇足。
 あまりの状況に頭を痛くしたユーイではあったが、その真面目さでコースの下調べはしっかりとしたようだ。
 そのため、コースが全長20kmにも及ぶものであることや馬力を要求されるような山間の上り坂や横風が奈落に誘う崖の道といった、競争相手からの妨害だけでなくコース自体にも幾つかのポイントがあることを知るのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

納花・ピンチン
なんとまあ、派手な催し物ですわ!
アタシの故郷も商業が盛んで……と、この話は置いといて。

情報収集がてらキマイラフューチャーから持ってきた、
ポップな色と造形で映え映えなスイーツを売って歩きますわ。
ちょっとお高くても珍しさをアピールして、
新しいものに敏感なお客さんを集めます。

何やらあちらの方が楽しそうですね?
誰に賭けてますの?
なんと参加者さん!? 勝つコツとかあるんですか?

(口が堅ければ、売ってない品をチラつかせて)
オマケいります~?
(手にちょっと触れさせてから引っ込めます。お代は情報ってことで!)
まいどあり~!

ん? 事前の営業許可?
硬いことは言いっこナシやで!
ほな、賑やかに行きましょ!



 お菓子の一つ如何ですか~。
 あまぁい、あまぁいお菓子の一つ、いりまへんか~。

 カーレース。それも人気を博する興行があると聞けば、そこに集まる人も自然と多くなるもの。
「派手な催しですわ! アタシの故郷も商業が盛んで……と、今はその話は置いておきませんとね」
 思わずと納花・ピンチン(ブギーモンスターの勇者・f31878)は、己が故郷――果たして、布を被る前のか、布を被った場所のことか――に想いを馳せかけて、はたと現在へと視界を戻す。
 そうだ。この商売のチャンスを――ではなく、情報収集の機会を逃す訳にもいくまい。
 そのための撒き餌も、ほれこの通り。
 撒き餌として用意したスイーツは、ピンチンがキマイラフューチャーから持ち込んだもの。とある世界のUDCを模ったかのような形をしており、この魔界でも一部で人気を博しているのだとかいないのだとか。
 それを乗せたスイーツ屋台を布に包まれたピンチンの小柄な身体が曳いて、ガタリゴトリと音を立てる。そして、布の奥からまた悪魔達の関心を惹くための言葉を紡ぐのである。
「お菓子の一つ如何ですか~。ポップでポイズン、映え映えスイーツですわよ~」
 そうすれば、ピンチンの目論見通りと目新しさに惹かれた悪魔達がぞろりぞろりと列をなすではないか。
「うふふ。案外、アタシはこちらの才もあるのかもしれませんわね」
「お~い、こっちにも早くおくれ」
「こっちが先に並んでたんだぞ。割り込むなよ!」
「ああ、ああ、そう押すものではありませんわ。お待ちになって、一人ずつですわ」
 思った以上の大繁盛。押せや押すなやの大行列。
 それを捌いて、捌いて、捌ききって、ともすればリミッター解除もかくやとあくせく動けば、ようようと行列は消えていく。
「……ふぅ、でも、目的は達成できそうですわね」
 人集まれば、とは元よりピンチンの目的――思った以上にあくせく働くことになってしまったが――の一つ。
 その達成を示すかのように、あちらこちらで悪魔達の塊が。そこから漏れ聞こえてくる声に耳を澄ましてみれば――。
「貴……誰…賭ける?」
「おれは……かなあ」
 なにやら楽しそうなお喋りの声――ピンチンが欲するものがありそうな気配。これは混ざらねばなるまいて。
「あら、皆さんは何をしていらっしゃいますの?」
「あ、お菓子屋の。あなたも一枚噛む?」
「噛む、とは?」
「内緒の賭博ってやつよ」
「まあ! それはとっても悪いことですわね!」
「でしょ~?」
 褒めて煽てれば、悪魔とて鼻高々。
 逆に、そのぐらいで嬉しそうにする悪魔達へ、ピンチンの内心は心配一色だ。確かに、これでは良い子すぎて絶滅寸前にもなろう、と。
 だが、その内面を露とて出さず、ピンチンは続けるのだ。
「では、アタシもそれに噛ませて頂こうかしら。ちなみに、皆様は誰に?」
「ん、んん~、なら、私に乗ってみる? 損はそせないわよ~?」
「やめとけやめとけ、菓子屋の。こいつ大会関係者だからって自信満々だが、ぶっちゃけ信用ならんぜ」
「何よ! 今回は自信あるんだから!」
「なんと大会関係者さん!? そんなに自信満々ということは、何か掴んでいらっしゃる?」
「うふふ、それは秘密よ。ひ・み・つ~」
 周囲の反応は微妙ではあるものの、目の前の女性悪魔が大会関係者というのは本当なのであろう。ならば、そこから得られる情報というのはある程度の価値あるものの筈。故に、ピンチンはここが勝負の仕掛どころとばかりに押すのである。
「そんなこと仰られずに」
「えー。でもなー」
「……致し方ありませんわね。こちら、本当はまだ売り出していない商品なのですが、オマケとしていります~?」
 女性悪魔を連れ出して、こそりと見せるは非売品。
「ま! 袖の下?」
「悪くはないでしょう?」
「貴女もなかなかのワルね~」
 にんまり笑顔の女性悪魔。ピンチンは――布を被っているために表情こそ窺えぬが、その下ではきっと。
「なら、これは秘密なんだけれどね」
 と言って、女性悪魔が語るはコースに仕掛けられた難所の数々。
 馬力を必要とする坂道や横風が奈落に誘う崖の道。これらはコースの特性でもあるために下調べをすればすぐに分かることではある。
 だが、それ以外――大会運営側が仕掛けた装置や妨害があるのだとか。それは火炎弾を吐き出す発射装置でもあり、コース途中で人工的に大雨を齎す区域のことである。
 火炎弾の着弾場所は予め決まっているため、それを見切ることや事前にこうして知ることが出来ていれば躱すことも容易いもの。また、人工の大雨については土砂降りで視界を悪くはさせるものの、その区域は直線であるために一気に駆け抜ける速度と勇気があれば問題はない。
「これを知ってる参加者もいるらしくてね。私はその参加者のことを知ってるから、こうして自信満々に賭ける訳よ」
「なるほど、なるほど。ええ、大変参考になりましたわ!」
「じゃあ、約束の……」
「分かっていますわ。はい、まいどあり~!」
「こちらこそ、まいどあり! 互いに儲けられるといいわね!」
「ホンマ、おもろいレースになるとええですわ!」
 ホクホク顔は両者とも。
 女性悪魔は賄賂を受け取るという『ワルい』ことが出来たことに。そして、ピンチンは情報を仕入れることが出来たことに。
 ――ほな、賑やかに行きましょ!
 そして、これより始まるレースの時に心躍らせるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フェルト・ユメノアール
デビルキングワールドでの初仕事!
よーし、頑張るぞー!

妨害アリと言ってもエンタメはエンタメ、お客さんみんなを楽しませて勝つ!
となればまずはコースを把握しておかないとね
どんな地形でどこが重要な勝負ポイントか、それが分かれば少しはレースもやり易いはず
それにこの世界なら事前に地雷を埋めたり油を撒いたりしてる人がいそう!っていうか絶対いる!
だからそういうのを見極める為にも一通りコースを調べて……そして隙あらば逆にボクがトラップを仕掛ける!
郷に入っては郷に従えっていうしね
【SPスマイルスライム】を連れてコースを調査、【D・スキャナー】で道のチェックをしつつさりげなく粘液トラップを仕掛けておくよ



「よーし、頑張るぞー!」
 デビルキングワールドに響いた朗らかな。
 妨害アリ、障害アリのレースを控えても変わらぬその声の持ち主こそは、フェルト・ユメノアール(夢と笑顔の道化師・f04735)その人。
 彼女にとっては件のレースもエンターテイメントに過ぎない。否、エンターテイメントであるからこそ、観るヒトビトを楽しませねばならぬと意気込んでいるのである。
「お客さんみんなを楽しませて、その上で勝つ!」
 勿論、ただ楽しませるだけではなく、レースへの意気込みもそこにはあった。
 元気と笑顔。自身も楽しんでこそ、観客も楽しませることが出来るのだと言わんばかりに。
「さてさて、となればまずはコースを把握しておかないとね」
 勝つためには情報も大事。
 それを理解するからこそ、こうしてフェルトはレース会場の地に立っているのである。
「どんな地形で、どこが重要な勝負ポイントか。それが分かれば少しはレースもやりやすい筈だよね」
 それになにより重要なことがもう一つ。
「妨害のトラップも、見極めとかないと」
 そう、このレースは妨害アリ。なんでもありなのだ。
 レースの際に持ち込んで来るヒトもあるだろうけれど、先んじて仕掛けようと――既に仕掛けている――ヒトもきっといる。いや、絶対にいる。
「地雷を埋めたりとか油を撒いたりしてる人はいそうだもんね!」
 確証はまだないが、確信だけはそこにあった。なんなら、デビルキングワールドの住人に限らず、猟兵にだってそういうことをしそうな気配!
 だから、下調べは入念に。それこそ――。
「カモン! SPスマイルスライム!」
 手にした魔法のカードから呼び出されるは、鏡餅もかくやの三色スライムがぷるぷるぷるっ。
 ――ユーベルコードを使っても、だ。
 そして、道化師とスライムは連れ立って歩き出す。この、サーキット場を抜けて山へと向かうコースを、全長20kmにも及ぶ長い道のりを。

「わ、眺めいい~」
 フェルトの眼前に広がるは山頂からの光景。山の麓でもあるそこ、眼下に広がる街並みはミニチュアのようにも見える。
「だけど、ここも走るのか~」
 確かに眺めはいい。眺めはいいけれど、それは遮るものが何もないからこそ。
 そう、そこは確かにコースの一部でもあるというのに、転落防止のガートレールもない崖の道。
 真横から吹き付ける風がはたはたとフェルトの髪を揺れる。スライムはスライムで、風に吹かれて一層とぷるぷる揺れている。
「山道もなかなかに馬力が要りそうだったけれど、ここもここで危ういね」
 真横から吹き付けてくる風はなかなかに強く、ともすればハンドルを取られてコースアウトということも在り得る。悪辣そうに見えるが、悪魔であれば、それに準じる存在であれば、これぐらいではそう大したことにはならぬということなのであろう。
 ただ、不幸中の幸いとも言えることもあった。それは、この崖の道がそこまで曲がりくねってはいないことだ。横風はあろうとも、バランス感覚に秀でていれば影響を大きく抑える事ができるだろう。
「それと、まあ、こっちは予想通りかな?」
 そんな道だからこそ、ハンドル捌きにより注意がいく道だからこそ、『ソレ』はフェルトの予想通りに。
 道路にこびりついた不自然なテカリ。触るまでもなく、ヌルりとした触感を放っているであろうそれ。
「うーん、油かあ」
 片眼鏡ならぬHMD。フェルトの片目に装着されたそれは、成分分析の結果を主へと伝えるのだ。
 さて、発見したからにはどうしたものか。洗い流してもいいし、敢えてと無視してもいいし――。
「郷に入っては郷に従え。ボクは罠を仕掛けないなんて言ってないしね」
 逆にトラップを仕掛け直そうではないか。そのためにこそ、SPスマイルスライムを連れてきているのだ。
 いって! と一言指示出せば、ぷるぷるスライムは油の上をズルリ。瞬く間に道路のぬめりは――消えていない。今度は油ではなく、スライムの粘液がそこに残されてしまったから。
「うんうん、いい感じだね!」
 触れたモノを絡めとる粘液の絨毯。そこに残されたモノはそういうものだ。油断して通れば、足を強制的に止められること請け合いであろう。
「よし、この調子で先のコースも見ていこうか」
 はたりはたりと風に吹かれながら、フェルトはコースを辿っていく。
 その過程で次々と妨害の罠を見つけ、自分のそれに塗り替えながら。
「さあ、レースが楽しみだね!」
 道化師が朗らかに笑っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
この世界とは些か相性が悪くとも、大事が起きた時に動けぬのでは騎士として名折れというもの
少しでも悪魔の流儀に慣れたいものです

幸い、テクノロジーも発達したこの世界
レース場のデータベースに●ハッキング
コースにエントリー選手の来歴、過去のレース模様などを情報収集

…十分悪事ですね、これは

悩ましきは悪魔達の悪事の程度です
基本善良な彼らのそれがどの程度の物なのか
強豪選手…悪のカリスマ達をマークしつつレースに活かしたいものですが

本気の私ならば事前にマシンに妖精ロボで細工したり…
…買収悪魔を通じてオブリビオンが行う可能性もありますね

ガレージに監視の妖精を配置
万一、スタートラインも越えられぬのは流石に気の毒です



 デビルキングワールド。
 それは、『ワルい』ことこそを是とする世界。 逆を言えば、善に類する行為はあまり推奨されはしない世界。
「この世界とは些か相性が悪くはありますが……」
 御伽噺の騎士たらんと己を律するトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)からすれば、確かに、この世界との相性は良いとまでは言えないものなのであろう。
 バイザーの奥――緑の光を困惑に瞬かせながら、それでもとトリテレイアはこの世界に足を踏み入れたのだ。何故か。
「それでも、大事が起きた時に動けぬでは騎士の名折れというものです」
 それこそが理由。なによりの理由。
 トリテレイアならずとも猟兵はいるのだ。だから、この世界を避けることも出来た。だが、そうすることはトレイテレイアには出来なかったのである。
「少しでも悪魔の流儀に慣れたいものです」
 そんな風に零した彼が今あるのは、とあるネットカフェの一室。有体に言えば、パソコンの前であった。
 カタリカタリとキーボードに触れ――る必要もない。直接に自身と目の前のパソコンとをデータ通信で繋ぎ、潜り込むは電子の世界。
「テクノロジー的には……ふむ。スペースシップワールドほどではありませんか」
 悪魔独特のネットワークはあるのかもしれないが、それでも、トリテレイアが故郷とする世界のネットワークに比べれば、そう労はない。
 だが、何故、このようなことをしているのかと言えば。
「コースやエントリー選手の来歴などが分かればいいのですが」
 そう。大会のデータベースをハッキング――いや、アクセスをして、それが分かればというのがトリテレイアの考えであったのだ。
 そして、出るわ出るわの情報、機密。

 山岳を通る20kmにも及ぶ全長のコース。そのコース内には4つの難所が存在しする。
 1つ、山道を使用することによるアップダウン。特に、登りの際には馬力が必要となるであろう。
 1つ、大会側の設置した妨害装置。火炎弾を発射するものであり、誰かの手で動かされない限り、所定の位置にのみ降り注ぐもの。注意深く観察することが出来れば、躱すことも可能であろう。
 1つ、人工の土砂降り。視界を遮り、二の足を踏ませるもの。だがしかし、その区域は比較的短く、また、曲線はほぼない。故に、その場を駆け抜ける速度よ勇気が必要となる。
 1つ、横風吹き抜ける崖の道。奈落への道にガードレールはなく、強風にハンドルを取られれば真っ逆さま。そうならないようなバランス感覚や運転技術が求められる。
 以上が、このコースにおける大会運営側が用意した難所である。

「……十分悪事ですね、これは」
 性格的に相性が悪くとも、能力的に相性が悪いとは限らない。
 情報の羅列を整理しながら、トリテレイアは吐息零すように呟くのである。
 だが、まだだ。まだこれだけではない。
「参加者は……ふむ。覚えておくとしましょうか」
 どこかで見知ったような猟兵の名前もちらほらとあるが、それはさておきとトリテレイアは参加者の情報をすらもその電子頭脳に刻み込むのだ。
「さて、こんなものではありますが……妨害とはどの程度のものになるのでしょうか」
 参加者――この際、猟兵達のことはさておきとして――の悪魔達がどの程度の妨害/悪事に走るものなのか。
「私であれば……そうですね。本気なら、事前に妖精ロボでマシンに細工したりでしょうか」
 スタートと同時の不調。もしくは、そもそもとしてスタートラインに立たせなければ、勝負にすらなるまい。
 などと思考を加速させるトリテレイアであったが、この世界の悪魔達にその発想は全くと良い程になかったのである。精々がコース上に仕掛けを施す程度。悪魔の流儀に慣れるどころか、ある意味ではトリテレイアの方が悪魔的ですらあると言えた。
 しかし、その加速していく『もしも』を突っ込む者はこの場にはいない。残念ながら、いないのだ。
「そうですね。念のため、行動しておくとしましょうか」
 トリレテイアから離れた幾つもの光球――機械仕掛けの妖精達は、主の意向を汲んでガレージへと飛んでいく。
 参加者の妨害をするためにか。否。参加者達の機体に、何かがないようにと見守るために。
 結局のところ、かの発想はトリテレイアが使うのではなく、他の参加者を守る為にこそであったのだ。
 悪を知らねば善を知れず、善を知らねば悪を知れず。
「万一、スタートラインも越えられぬでは、流石に気の毒ですのでね。もしも空振りでも、私の溜息一つで済むのなら安いものです」
 今回に限って言えば、それは確かに杞憂ではあった。だけれど、その行いはきっと騎士として正しきものであったことは、間違いのないものの筈だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ティオレンシア・シーディア
※アドリブ掛け合い絡み大歓迎

あたし、順位とかにはそこまでこだわりないけれど。
…ことレースに関しては。「有象無象には負けられない」程度にはプライドあるのよねぇ。

まずはイタズラ対策に魔術文字を装飾に紛れさせて。あとは直接現地に行ってコースの〇情報収集しましょうか。
ルートに地形に地理状況――それから、仕掛けやすいポイントとか、ね。

で、まあ当然仕掛けてくるでしょうし、●要殺で警戒しておきましょ。
そのまま倒しちゃってもいいけれど…ここの住人って根本的にすごぉくいい子だし、あんまり悪辣な手は使ってこなさそうよねぇ。
上手く○言いくるめて味方にしちゃったほうが得かしらぁ?



「あたし、順位とかにはそこまでこだわりはないのよねぇ」
 トロリと零れた蜜はティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)の言の葉に相違ない。
 ティオレンシアが己の足元を見れば、彼方より真っ直ぐに伸び来て、彼方へと真っ直ぐに伸び行く鈍色の直線。
 此処は件のレースが行われると言う場所。そのスタート地点にして、ゴール地点だ。
 順位にこだわりはないと彼女は言った。
 だと言うのに、何故、テォオレンシアはこの地に立つのか。それは――。
「でも、ね。ことレースに関しては、有象無象に負けてられないわぁ」
 こだわりはないと確かに言った。言ったけれど、こればかりは譲れないからこそ。
 ティオレンシアにもプライドがある。矜持がある。そこらの有象無象に負けては、名折れである、と。
 だからこそ、彼女は今、この地に立つを決めたのであった。
「それじゃあ、行くとしましょうか」
 向かう先は鈍色の伸びる先、山へと至る道の先。 

「まあ、当然。仕掛けてるわよね」
 登るに馬力を要しそうな坂道を、横風吹き付けて奈落へ誘う崖の道をティオレンシアは往く。
 コースの道程を知ろうとするだけであれば、それでも十分であったことだろう。
 しかし、ティオレンシアはその中においても、一時たりとて気を抜くことは無かった。もしかすれば、下調べ中に襲撃なりがあるのかもしれないと考えていたが故に。だからこそ、ソレに気付けたのだ。
 ――鈍色の上へ焼き付いた、僅かな焦げ目。
 ある区間から点々と残るそれ。タイヤ痕にしては丸く、短く、コースの上で何かを燃やしたかかのような。
「襲撃の跡……にしては、随分と規則正しい感じねぇ」
 口調に反して、ティオレンシアの頭の回転は速い。まして、警戒を一段階あげている彼女ともなれば、猶更の事。
 そんなティオレンシアの見立て通り、点々と残る焦げ跡は疎らに見えてその実、規則正しくと残されていたのである。
「てことはぁ、これは恒例の妨害なり、仕掛けなりってところかしらぁ」
 なら、どこか近くにその仕掛けがある筈。
 少なくとも、その焦げ跡が残る場所からは何の反応――悪戯対策に施していた魔術文字の反応――もなかった。ならば、飛来した何かが原因と考えるが妥当か。
 焦げ跡の向きや密度を見、当たりをつけて斜面のただ中、木立の向こうをティオレンシアの強化された視界が見抜く。
「……見つけたわぁ」
 そして、ソレはあった。ガサリと草木をかき分けて、道を外れたその先に。
「ふーん。発射装置……あの痕跡を見るに、火炎弾とか、そういった類のものかしらぁ」
 住人による襲撃を予期してはいたが、それとはまた違うものが見つかるとは。だが、これならば言いくるめる必要もない。ちょいと手を加えてやれば、着弾箇所も自分の思いのままに変えられることだろう。
「これはこれで収穫よねぇ」
 着弾箇所を知っているということは、変えられるということは、かの区域を駆け抜ける際には確かなアドバンテージとなることだろう。
 元よりその表情に微笑み浮かべるティオレンシアではあったが、より一層とその笑みを深めるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『色々魔法使い』

POW   :    ジオチェインボーナス
【戦場に存在するシンボルモニュメントの投擲】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を覆い尽くす衝撃波を放ち、属性相乗効果で】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
SPD   :    リフトアップ&スローイング
【味方を持ち上げて】から【綺麗なフォームで投げつけ】を放ち、【一気に距離を詰めること】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ   :    魔法アビリティ
【技名のように食べ物の名前を叫びながら魔法】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 空は快晴。
 青々としたキャンバスに、ポンポンポンと花火の白が彩りを加える。
 スタート地点には幾人もの参加者が己の愛機と共にグリッドへ整列しており、暖気のなされた機体がその熱の解き放たれるを待つ。
 観客席は満員御礼。参加者達の熱が伝播したかのように、ざわりざわりと波打つ悪魔達の視線もまた熱い。
 全ての機体がグリッドに入り込み、開始5秒前のボードが掲示されれば、スタートシグナルに赤が灯る。
 ――水を打ったような静けさ。
 先程までの熱気はそのままに、誰もが固唾を飲んでその瞬間を見守っていた。
 響くはエンジンの唸り声だけ。
 赤が消える。
 一つ、二つ、そして――。
 響く轟音は全機一斉に飛び出した証拠。
 ここに戦いの火蓋が切って落とされたのである。


 ※以下もお読みください※
 猟兵の皆さんの情報収集により、全長20kmにも及ぶコースには以下の難所が存在することが判明しています。

1.スタート地点から山頂に至るまでの上り坂。
2.火炎弾降り注ぐ区域。
3.土砂降り区域。
4.横風吹き抜ける崖の道。

 以上の中から、どこで勝負を仕掛けるかをプレイング冒頭に番号で指定して下さい。
 リプレイ描写や2章時点での順位判定の核はプレイングで選んで頂いた場所が主となります。
納花・ピンチン
2

実は選手だったんですわー!
と菓子売り中に見かけた観客席の悪魔に手を振ります
しっかりちゃっかり、ワルカッコイイアピールですわ

愛機はウィザードブルーム・魔法の箒に乗って飛んでいきます
これで上り坂もスイスイですわ!

さて問題の火炎弾区域ですわね……
箒ちゃん、いっちょ行ったろやないかい!!

アタシと箒の両者で火が来るタイミングを見極めて、
スピード出しまくりながらスレスレのコースを飛んでいきます
火炎と激痛の耐性つけてきましたから、多少の怪我はなんのその
勝負仕掛けていきまっせ!

妨害してくる子にはUC、めっちゃ・こちょばいをお見舞いします
笑い転げて脱落して下さい



 景色が風と共に流れていく。
 はたり、はたり、はたり。
 深々と被った布のはためきこそが、己の――納花・ピンチン(ブギーモンスターの勇者・f31878)の速さの証。
 第一の難所――坂道を、そのふわふわと浮遊した姿で駆け抜けた姿は、まだ記憶に新しい。そして、トップ集団に食い込む形で駆け抜けたことも。
 その光景には、観客達――ともすれば、大会運営スタッフの一部からも――どよめきが起こっていた。
「お、おい、あれって……」
「あ、あれ? 私、もしかして余計なこと……」
「うふふ。実はアタシ、選手だったんですわー! 皆さん、先頃はお世話になりましたわね!」
 浮遊し、はためく知恵の布。実態は魔法の箒に跨ったピンチンであるが、自身が映し出されているであろうモニター越しに、悪魔達へとしっかりアピールも忘れない。
 その姿を知る者達からのどよめきは、いつしか喝采へと早変わり。
「ちっくしょう、やられた! あの菓子屋は世を欺くってやつかよ! 格好いいじゃねえか!」
「う、ううん! 情報漏洩も、立派なワルよね! なら、それであのヒト? が、優勝でもすれば尚の事! よし、がんばれー!」
 ピンチン達、参加者が飛び出したサーキット場は既に遠く。故に、その喝采はピンチンの耳にまでは届かない。だけれど、声は風となって確かにその背を押すのだ。

「――頃合い。ああ、そろそろ来ると思っとった!」

 轟々と音をたて、焔が堕ちた。
 道路に着弾したそれは熱をばら撒き、名残のようにチリチリと火の粉を宙に躍らせる。
 火炎弾区域。
 事前に集めた情報の中に、確かにそれはあった。
 それをそうと知らなければ、いきなりの状況に多少でも混乱が生じていたことだろう。そして、その混乱はハンドル捌きならぬ、箒捌きにも影響を及ぼしていた筈の。
 だが、そうではない。そうではないのだ。
 ピンチンはその手腕によって事前にその情報を仕入れていたがために、それが来ることを見越していた。そのために、彼女は落ち着いてそれを視ることが出来ていた。
「ずっるーい! なんで、そんなにスイスイと!」
「これが準備という物ですわ!」
「く、悔しいけど、カッコいいじゃない!」
 ピンチンと同じく、箒で並走していた参加者の魔女から抗議の声。それを敢えて悪役令嬢のように高笑いして一蹴すれば、焔に巻かれて遅れ始めた魔女から届くは悔しさ半分、感心半分。
 しかし、魔女とてレースに参加する以上は勝ちを譲れない。譲りたくない。
「バニラ、チョコ、ストロベリーアイス!」
「アイスクリームが好きなんですの?」
「勿論!」
 魔女の詠唱に思わずとツッコんだは性という物か。だが、魔女の指先より生じた吹雪――降り注ぐ焔を呑み込み、吹き荒れるそれを大人しく受け入れるつもりなど、ピンチンにはない。
 箒を振って右左。降り注ぐ焔に加え、後方から吹き荒れる凍てつく風をやり過ごさんとする。
 回避の為にと箒を左右に振れば、その分だけ軌道が乱れるは必定。そして、それは直線を駆け抜ける魔女が追い付くチャンスにも――。
「追い付い――」
「させへんわ! ……コホン、笑い転げて脱落して下さいませ」
 ――させる筈などなかった。
 相手が妨害をしてくるのなら、ピンチンとて遠慮は無用。いや、最初からこれはなんでもアリなレースである以上、その手段を用意していない筈などなかったのだ。
 魔女の四肢と首の付け根。そこに浮かび上がったキリトリ線。だが、これは本当に斬り取るための線ではなく。
「――た!? あ、ちょ、こそばゆ、タンマ、タンマ!? あは、あははははは!?」
 そこをくすぐり、笑い転がすための線。
 効果は覿面に発揮されていた。追い付きかけていた魔女がくすぐったさに身を捩り、みるみる間に減速していくではないか。次々と追い抜かれていく姿には、もう逆転の目など残ってはいないだろう。
 さて、後顧の憂いは断ち切った。ならば、後は――。
「全部が全部、予想通りでもありませんが、それでもこれぐらいなら問題ありませんわ!」
 降り注ぐ焔だけ。恐らくは他の参加者――猟兵の手によるものだろう。途中から火炎の着弾地点が不規則になったり、進路を囲い込むように変わってはいたものの、炎に対する耐性を、痛みに対する耐性を得てきたピンチンの足を竦めさせるにはまだ足らない。
「勝負仕掛けていきまっせ! 箒ちゃん、いっちょ行ったろやないかい!!」
 他の参加者が二の足を踏むような焔と焔の隙間を、時には、火勢の弱まった焔であれば強引にでも突っ切り、ピンチンは難所の一つを駆け抜けていく。そして、彼女は速度を落とすことなく、第三の難所へと――。

成功 🔵​🔵​🔴​

ユーイ・コスモナッツ
空飛ぶ大盾『反重力シールド』が私の愛車
得意分野でもあることですし、
参加するからには優勝を目指したい

ですが、今回はカーレースということで、
あえて地表を滑走するくらいの低空飛行でいきましょう
そうです、あくまでも正々堂々と!
いま会場がざわつきましたが、気にしません!

勝負をかけるのは2です
旋回性能が特長の乗り物なので、
火炎弾を避けるのは難しくないですが、
ここでタイムを短縮できれば後が楽そう
得意の騎乗技能と、
【天の川の流体力学】で直線突破!

傾斜やオフロードが気にならないという点で、
他の難所も大きく不利にはなりませんが、
4はちょっと心配かな……
滑落しそうな参加者がいたら、
レースを捨ててでも救助に向かいます



 その疾走にエンジン音のような轟きはない。
 されど、その速さが他の参加者のそれに劣るモノであろう筈もない。
「これこそが私の愛車。優勝を目指すための相棒!」
 むしろ、スタート地点よりの坂道をユーイ・コスモナッツ(宇宙騎士・f06690)は上位に食い込む速さで駆け抜けていた。
 それは彼女の騎乗能力は勿論だが、その相棒たる反重力シールドの力により坂道の負荷を軽減出来ていたことも大きいだろう。
 ――モニターに、映し出されるのはユーイの雄姿。
 鋭角とも言える曲線を大地スレスレに重心傾けて勇壮に往く。だが、それは蛮勇に非ず。恐れを知ってなおと一歩踏み込む勇気がなせる業。
「正々堂々と、騎士の誇りのもとに!」
 それこそがユーイの矜持。正道を歩まんとする姿がそこにはあった。
 だがしかし、忘れてはならない。ここはデビルキングワールド。他の世界であれば称賛に値する姿勢であろうとも、ここではその真逆なのだから。
「あ、あれ、あの時の!」
「勇の付く!」
 客席会場では、感嘆のどよめきとはまた違うざわめきが響いていたとか。
「なんだかまた頭の痛くなるようなざわめきが聞こえた気もしますが、気にしません!」
 だが、それは既に遠く離れたサーキット場での出来事。疾走するユーイにとっては、風の唸りしか聞こえてこない。ええ、聞こえてなどいないのだ。
 そして、集団を引っ張るような形でユーイは2つ目の難所へと突入していく。

「火炎弾……だけど、今迄の戦いに比べたら!」
 降り注ぐ焔は赤々と。
 だけれど、その焔には敵意がない。殺意がない。数々の激闘を通し、ユーイが経験してきたモノに比べれば、如何ほどだと言うのか。
 ならば――。

「――このぐらいで止められるもんか!」

 反重力シールドの売りはその旋回性の高さだ。それは途上のカーブでユーイが示したモノに他ならない。であれば、それをもって火炎弾を回避しながら進むことも可能。
 ――だがしかし、彼女が、ユーイが選んだ道は違う。
 ミルキーウェイの道を往く。否、彼女こそがその道を切り拓く者。
 ユーイは己の身を天にて輝く銀河と同じ輝きにて包み、火炎弾のただ中を直線突破と突き進むのである。
 柔らかな輝きは尾を引いて、ユーイの軌跡をコースへと刻む。
 撒き散らされる焔の熱も、叩きつけられる衝撃も、ユーイの歩みを阻害するには至らない。
 だが、上位を行くということはそれだけ注目を集めることであり、後方からの妨害を一手に受けるということでもある。
 ――のだが。
「ちょっ、お前、あれ何とかしろよ!」
「いやいや! あんたも知ってんでしょ!? あの人、デビルキング法に背いときながら、今でも健在なのよ!?」
 悪事千里を走る。ならぬ、善事千里を走る、か。
 ユーイがレース前に行った出来事を知るは観客のみではなく、こうして参加者にも。
 本来であれば妨害に走る悪魔、魔女であったのだろうけれど、ユーイのそれを知る者達は妨害に打って出るも尻込みし、彼女の独走を許していたのだ。
 直線を駆け抜ける者と火炎弾を回避しながら駆け抜ける者。どちらがより速く抜け出すかなど、それこそ火を見るよりも明らかであった。

 しかし、レース展開とは分からぬモノ。
 土砂降りの道も大きく出遅れることなく、そのまま突き進めれば優勝の二文字も幻ではない段階まできていたユーイではあったが、第四の難所にて急ブレーキをかけることとなる。
 何かアクシデントがあったのかと言えば、あったのである。しかし、彼女にではない。
 魔女の一人が崖の底へと呑まれかけたのだ。
 放っておけばよかった。だけれど、放ってなどおけよう筈もなかった。ユーイの憧れる英雄物語であれば――。
「な、なんで……」
「助けを求める手があれば、掴む。そういうものです」
 きっと、そうするであろうから。
 落下を防いだユーイの背後、次々と他の参加者達が通り過ぎていく。
 なんでもアリである以上、こうして誰かを助けることもアリだ。故に、ユーイは失格になどならない。
 だけれど、喪った時間はその分だけ優勝の二文字からユーイを遠ざけたことも確か。
 だが、まだ諦めるには早い。レースはまだ終わっておらず、レース展開とは分からぬモノと自らが証明した通り、ここからの逆転も充分にある得るのだから。
 意気の挫けた魔女を地に降ろし、ユーイは再びと相棒と共に疾走を再開するのである。

成功 🔵​🔵​🔴​

オブシダン・ソード

【狐剣】

僕のキャバリアで参加
歩幅が広いしスラスター吹かせば結構速度が出るんだよ
ちなみ操縦席は一人用

観客の皆さんに花火とかお願いしたけど、もっとすごいもの打ち上がってない?
ていうか飛んで来てない?
焼き狐ができちゃう

命中しそうなのは着弾前に撃ち落とそう
あれ、ミサイル全部花火に換装してたっけ?
綺麗だねえ

あとはいすゞのナビに従ってコース取りを
え? つまりどっちに行けばいいの??
ダメならブレードで受け止め

対応に慣れてきたら他車の妨害も
こっちもいすゞの指示に合わせてトリモチ弾で銃撃

それでも追い抜けなさそうならブレード振り上げて観客席に合図
仕込みの花火一斉射撃をお願いしちゃう
いやあ、盛り上がってきたねえ


小日向・いすゞ

【狐剣】
センセのきゃばりあの肩に乗って
観客に愛想を巻いて華々しく嘯いて来たのは良いっスが
コレ狐死にが出るヤツっスよねェ!?

逃げ足に関しては詳しくとも綺麗~とか言ってる余裕も無い
管、あの火が振ってこない位置を占うっス
当たらぬも八卦?
当てなきゃアンタも焼狐っスよ!?

センセ
9時と2時の方向火が来るっス
11時の方向に逃
あーもー
お茶碗持つ方に走って!

スイスイ避けてるましんもいるっスけれど…
後ろを付いていくのは癪あーっ燃える燃える
あの前のましんに向かってトリモチっス!
あとついでに踏んづけて行くっスよ~!

やあやあセンセ達!
この席じゃあっしらの優勝は見れないでしょう
折角っスからここで盛り上げてもらうっスよ!



 背に負う声は大喝采。
 背を押す声は大推力。
 サーキットを抜け、坂道を越え、疾駆する人型こそオブシダン・ソード(黒耀石の剣・f00250)の乗騎、オブシディアンMk4_ソードカスタムなるキャバリアだ。
 その機体の想定するは一人用。かつてはオブシダンが座するシートの横――僅かな間隙――に、入り込んできた誰かさんも居たけれど、今はその誰かさんは居ない。
 一人であれば悠々としたコックピットも、二人だったらギュウギュウとしていたコックピット。でも、少しだけ、ギュウギュウだった時に感じた誰かさんの気配が遠いことに物足りなさを感じたり――。
「そっち、大丈夫?」
「絶景かな、絶景かなぁってやつっスよォ」
「結構速度出てるけど、その様子なら問題なさそうだね」
 ――してはいなかった。傍に居なくても繋がっている想いというものは確かにあると、知っているのだから。
 その誰かさんこと、小日向・いすゞ(妖狐の陰陽師・f09058)があるのは、オブシディアンの肩。
 流れる景色は相応の速さではあるものの、猟兵たる身には影響なし。むしろ、いすゞの言の通り、およそ5mの高さが加わった景色はいつもと違う光景に新鮮さすら覚えるもの。
「いやあ、随分と進んだもンスね。すたーと会場があんなに遠くっスよ」
「でも、まだまだ序の口。これからが本番ってところだろうね」
「なら、そろそろが仕掛けどころっスかね?」
「そうだね。そろそろ、中堅集団から抜け出しときたいし……」
 仕込みの様々を使う時は今か。
 そう二人が考えた時、聴こえた音は轟の音。唸りをあげるエンジン音でもなければ、スラスター音でもない、轟の音。

 音の発生源――見上げた頭上には、紅蓮の弾。それは赫々として。

「ねえ、センセ」
「なんだい?」
「もしかして、もう皆さんに花火の合図をお願いしたりしたっスか?」
「まさかまさか」
「なら、あれはなンスかね?」
「うーん、もっとすごいもの、かな? ていうか、飛んで来てない? 飛んで来てるよね?」
 轟々の音だけを残して、両者の間に流れたは沈黙。
「いやあ、焼き狐ができちゃう」
「コレ狐死にが出るヤツっスよねェ!? というか、センセは何を悠長に!」
「これでも現状で全速力さ。いすゞ、ナビを宜しく」
「あーもう! 合点っスよ! でも、この第一陣の方は……」
「うん、任せて」
 いすゞが指先で手にする管幾つ。そこから呼び寄さんとするは管狐なる。
 ならば、その時間を稼ぐことこそオブシダンの役割に他ならぬ。
「――火力戦こそ本領だよ。着弾前に、撃ち落とす」
 いすゞを振り落とさないように姿勢制御。ミサイルキャリア、オープン。――射出開始。
 とは言っても、射出されるは本当のミサイルではない。
「んー、綺麗だねえ」
 空咲く花の美しき。
 ミサイル代わりの花火を打ち上げ、紅蓮とぶつかり合えば、弾けて広がる。
 ドン、ドン、ドン。と、空気を伝わって衝撃が訪れるけれど、直撃に比べれば如何ほどでもないだろう。
「こんな感じでいいかな?」
「十分っスよォ! さあ、管。あの火が振ってこない位置を占うっス! 当てなきゃアンタも焼狐っスよ!?」
 ミサイルは打ち尽くし、次弾はもうない。
 ならば、ここから先はいすゞの手腕次第。
 封を解かれ、管の内よりまろび出たは管狐。主の危機感迫るに大慌て。焼狐は嫌とばかりに安全なルートを浮かびあがらせる。
「センセ! 次は9時と2時の方向、火が来るっス! 11時の方向に逃――」
「ええと、進行方向が12時? 6時? え、え? つまり、どっちに行けばいいの?」
「――あーもー! お茶碗持つ方に走って!」
「あ、それなら分かるよ」
「おーえすの方を更新するべきだったっスかね!?」
「はは、いつだって僕は最新版だよ」
 きゃあきゃあぎゃあぎゃあ、騒がしく。
 それでも、いすゞのナビゲートとそれに応えられるだけのオブシダンの操縦技術とが相まって、二人はスルリと火炎弾の包囲網を抜けていく。
 だけれど、そこは5mの人型。車や箒、バイクなどに比べて的が大きく、回避の挙動もまたそれらより大きく取らざるを得ない。元は中堅の集団にいたオブシダンといすゞであったが、その分だけ後方に順位を落とすは致し方のないことであった。
「スイスイ避けてるましんもいるっスけれど……」
「このまま追いかけるだと、これ以上離されないのが限度かな」
「分かってるっス。でも、後ろを付いていくだけなのは癪あーっ、燃える、燃える!?」
「大丈夫、だいじょーぶ」
「もう! こうなったら、あの前のましんに向かってトリモチっス!」
「この炎がなかったらその予定だったものね。うん、準備は出来てる」
「それじゃあ、ふぁいあっス!」
 カチリとオブシダンがレバーのスイッチを押し込めば、オブシディアンの銃口より飛び出す白。
 それこそがトリモチ弾。弾けて、広がり、そのネバネバで二人の前を走る車を搦め取っていく。
「きゃあ!?」
「あ、あれ? ハンドルが固まって、うわー!?」
「動け! 動け!?」
 ネバネバ地獄の阿鼻叫喚。トリモチに囚われ、動けぬ者達の悲鳴がそこかしこ。
 その横を二人は――否。
「逃げねばこの場で召し取るぞ~」
「ついでに踏んづけて行くっスよ~!」
「うわあ、追討ちだなんてワルだねえ」
「れーすの世界は非情なンスよ、きっと」
 ボンネットやらトランク部分やらを器用に踏み潰し、再起不能を増やしながら順位をあげていくではないか。
 だがしかし、だ。
「やられてばっかで堪りますかっての! アールグレイ!」
 そうやられてばかりの参加者達でもない。中には魔法で水流を発生させ、反撃やトリモチの洗い流しを企てる者もあった。
「上は大火事、下は洪水って感じだねえ」
「逆なら答えはお風呂で良かったンスけどね」
「ここで濡れ鼠は宜しくないや」
 だから、一つばかりの奥の手を。
「折角っスから、ここで盛り上げてもらうっスよ! センセ達――」
「よろしくお願いするよ」
「――それ、あっしの台詞っス!?」
 オブシディアンがその手に握った刃を掲げれば、どこからともなく花火の大群。
「なになになに!? さっきから、なんなのもう!?」
 あちらこちらで弾けて、バチバチ、ドンドン、大騒ぎ。反攻の目も、妨害から抜け出さんとする目も、全てを騒乱のただ中に叩き落とすのだ。
 誰がと問うはそれを知らぬ被害者達で、そうではない二人だけが訳知り顔。
 そう、その花火の正体こそ、オブシダンといすゞとが事前に準備していた妨害の手段、その一つ。観客に花火を持ち込ませ、彼ら彼女らの合図でそれを撃たせるという。
「こんな悪事の機会を逃す手はねえぜ、手前ら、ウチの商品使いたい放題だ! やっちまえ!」
「おぉー!!」
 観客であるなら、サーキット場で見守っているのではないのか。いいや、違う。そんな良い子ちゃんばかりでいられないのは、この世界の誰もが知るところ。
 山道、斜面のあちらこちら。悪魔な皆さんの影がちらほら。そして、大盛り上がりな様子が見て取れた。
「いやあ、大盤振る舞いだ。盛り上がってきたねえ」
「応援ありがとーっス! あっしらの活躍、そこでまた応援してて欲しいっスよォ!」
「がんばれよー!」
「いい機会をありがとなー!」
 背に負う声は大喝采。
 背を押す声は大爆発。
 サーキット場からの出だしとはまた少し違う音に背を叩かれながら、二人は機体を進めていく。優勝。その二文字を目指して。
 ゴールへの道のりはまだまだ長く、結果がどうなるかは最後の時まで分からない。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ライカ・ネーベルラーベ
【3】
わたしの勝負所?
――決まってる。雨と嵐はわたしの味方
「さあ、走れ【Donner】!我ら地を裂く雷光なれば!」

土砂降り区域に達したら【ジギタリスのエキス】をブチ込んで自分の出力を増加
めまいを起こす視界にも構わず、自身の【帯雷体質】を全力活性化
「あはははははっ!テンション上っがるぅー!!」
周りが感電するかもしれないけど
これは体質だからね、しょうがないね

そして電撃の影響を受けるのは選手だけじゃない
例えば、コース脇に何故か置いてある燃料満載のドラム缶、とか
爆発してもまぁ別に死にやしないでしょ、選手も観客も
「これがあるからわたし、ガソリンバイク使えないんだよねぇ……」

遠慮も容赦もない
最速で走るだけ



 山の天気は変わりやすい。
 ライカ・ネーベルラーベ(りゅうせいのねがい・f27508)も、どこかでそれを聞いたことがあるような、ないような。
「でも、これは変わりやすいってもんじゃないよね」
 視界を、進行方向を埋め尽くす程の土砂降りの雨。
 叩きつけるように降ってくるそれがライカの身体に当たってはバチバチと弾ける。
 ゴーグルの一つもなければ、容赦ない雨粒は眼球に入り込んで、その視界すらをも奪っていたことだろう。
 そう、これこそが猟兵達の集めた情報の中で3つ目の難所と語られた場所。大会側が人工で生み出した土砂降りの区域。
 視界を制限された山道。濡れそぼった道。一歩間違わなくともコースアウトの危険を孕むコースは、自然、誰もが警戒してその速度を落とすもの。だがしかし――。
「さあ、走れ Donner! 我ら地を裂く雷光なれば!」
 そんな常識がライカに通じる筈もない。
 彼女は騎乗する二輪車のスロットルを全開と廻せば、忠実なる愛機の心臓が咆哮と共に応えてくれる。
 ――加速。
 その二文字でもってして。
 この時を待っていた。この場所のためにこそ、坂道も、火炎弾降り注ぐ道も、ライカは誰かの後塵を拝するを耐えていたのだから。
 雨は味方。雷は味方。嵐は味方。
「あはははははっ! テンション上っがるぅー!」
 雨音に負けじとライカは叫ぶ。
 咆哮響かせるは何も愛機の心臓だけではない。ライカもまた己自身に強心薬をぶち込んで、心臓――魔力核の鼓動を強く、迅くと跳ねさせる。
 副作用にぐらりぐらりと視界が揺れた。
 だが、問題はない。問題などない。
「わたしは過去、わたしは残骸、わたしは■■■■――!」
 ――最速。
 そのためにであれば、今が揺らごうとも。
 それに、元よりぐらぐらと不安定な世界で生きていることに変わりはないのだ。今更と視界の揺れた程度がなんだと言うのか。
 高揚した精神。相変わらず、バチバチと音の弾けるが聞こえてくる。いや――。
「どいたどいた! ここはわたしのための道だよ!」
 音の弾けるは確かにそう。だけれど、その正体が変わっていた。
 土砂降りが隠す視界の中、ライカの近くを走る魔女は確かに稲光を視る。
 落雷でも落ちたのか。否。
 誰かが事故でも起こしたのか。否。
「なんでっ! エンジンがショートして!?」
「悪いね。いや、悪くもないか。これも体質だからさ、しょうがない」
 その稲光こそライカ自身。バチリバチリと音弾き、彼女が語ったが如くに地を裂く雷光となりて土砂降りの中を駆け抜けていく。
 まず最初に、近くの魔女が餌食となった。
「わたしの勝負所は、ここしかないでしょ! 雨と嵐こそ、わたしの味方なのだから!」
 雷撃、電撃、見境なし。
 追い抜きざまに襲い掛かるそれらが、瞬く間に犠牲者を増やしていく。リタイアさせられ、止まらざるを得ない車が増えていく。
「畜生! なら、せめて道連れに……!!」
 遠のいていく背後から嘆きの声が聞こえた。
 次いで、雨音を裂く飛翔音。
 チラリとサイドミラーを見やれば、飛んでくる車の影が歪んで見えた。
 なるほど、リタイアさせられた報復であろう。直撃すれば只では済むまい。
「――ははっ、可愛いもんだね」
 だが、その程度で報復のつもりとは片腹痛い。
 突如として爆炎の華が咲き、熱風が雨粒を消し飛ばす。
 火炎弾の着弾ではない。あれはこの区域には降り注ぎはしない。そういうルールだ。
 ――ならば、何か。
「これがあるからわたし、ガソリンバイク使えないんだよねぇ……」
 それこそはライカが事前に仕込んだ種。
 コースのあちらこちらへ巧妙に仕掛けられた燃料タンク。ライカから零れだす雷撃がそれへと手を伸ばし、引火し、華を咲かせた結果であったのだ。
 突如の爆風に、飛来していた車も巻き込まれて軌道を変えた。
 もう、それはライカには届かない。怒りに任せて車を投げつけてきた魔女も、突然のそれに虚を突かれた上でその事実を認識し、地面にへたり込むしか最早出来ない。
 邪魔立てはなくなった。後顧の憂いはなくなった。
 その瞬間にはもう、ライカの認識の中に妨害を受けたことは忘却の彼方。ただ、更なる加速を、最速を求めることだけが埋め尽くす。
 握り込んだハンドル。再びと愛機の二輪車が咆哮した。
 先んじて勝負を仕掛けた者達に開けられた差。それが一息に巻き返されていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シン・フォーネウス
【4】
それなら俺は強風の崖の道でショートカットしてみるか。

UC発動、飛翔可能な下僕たちの上に乗ってレースカー代わりにして出発だ!敵からの魔法は砲塔からのビーム射撃で『掃除』していくぞ。
俺が移動させておいた罠に嵌ったら上出来だな。

崖の道に入ったら、コースアウト覚悟で崖からダイブ!ダイブする瞬間に超高水圧ジェットでかっ飛んでいくぜ!

強風で煽られそうになるんなら、集めた下僕たちを防風壁として俺の周囲に集めておくのと、水圧ジェットで制御してみるぞ。
失敗しても近くの崖に戻れるぐらいには制御してみるか。

自分の危険も顧みないワルワルな行為ってのもいいよな!さあて、どこまで行けるかな……!

(アドリブ等歓迎)



 雨音に混じって風の鳴き声が目立ち始めたのは、コースが前半戦の終わりに近づいてきた証。
 それを文字通りの肌で感じながら、シン・フォーネウス(水竜の従者・f31485)は先んじて4番目の難所――崖の道へと駒を進めていた参加者達の姿を追う。
「いけるか? いや、いけるな?」
 その足元、シンを運ぶは下僕達。お掃除ロボットと高圧洗浄機の集団。
 浮遊しながら進むその光景はシュールでもあったけれど、浮遊のお蔭か坂道においての負担は遙かに少なく、その『機能』でもってして火炎弾の道――これに関しては、事前に自身で弄っていたこともあり――すらをも好成績で駆け抜けていた。ただ、惜しむらくは精密機械の宿命か。生活防水はあろうとも、生活防水を越える土砂降りの道でややブレーキが掛かってしまったことか。
 とは言え、だ。まだ勝負を仕掛けてすらいない状況を思えば、勝ちの目は十二分に。
 いけるか。と問いかける声は下僕達にであり、同時に自分自身にでもあったのだ。まだ勝利を諦める時ではない、と。
 ――視界が広がる。
 視界を遮っていた土砂降りも、樹々の壁も取り払われ、見えるは街並み見下ろす光景。しかし、それはその光景との間に自らを受け止めてくれるモノがないことを示していた。
 シンの視線の先で、先行者の姿が見える。
「……行くぞ」
 加速、加速、加速。
 一歩間違えれば奈落に落ちかねない中で、シンはそれでも加速を躊躇わない。そうしなければ、追いつき、追い抜くは不可能であると知っているから。
 加速し、バランスの崩れやすくなったシンへと横から風が吹き付ける。それはまるで、死神が奈落へと手を招くかのよう。
 まさしく、死と隣り合わせの気配。
「俺が誰に仕えるかは、俺が決める!」
 だが、だからどうした。死なぞ、己が宿す概念にしか過ぎない。死神なんぞに囚われてやるつもりは毛頭ない。それになにより、神様というものがあるのなら、既に彼の身は売約済みであればこそ。
 心に燃えるは闘争心。
 従うべきはお前の方だと言わんばかりに、シンはその身を躍らせたのだ。風吹き荒ぶ崖の空へと。
 傍から見れば自殺行為。加速の末にハンドル捌きを誤ったかと思われる行為。だけれど、これは歴とした――。
「下僕達! 俺の周囲を固めろ! 一気にごぼう抜きするぞ!」
 シンなりの戦略。勝負の仕掛どころであったのだ。
 声に応え、高圧洗浄機のホース先から吹き出すは水流。
 それは、ただ奈落へと引き寄せられるだけであった筈のシンに、道なき道を進むための翼となる。
 流石に、そのまま崖の道全てを越えるは難しいけれど、それでも、滑落を考慮しなくても済むこと、直線で駆け抜けられることは大きなアドバンテージだ。
「ああ!? その発想はなかった!」
「はは、自分の危険も顧みないってのは、なかなかワルワルだろ?」
「なら、それを邪魔して、俺らもワルになってやるぜ!」
「おわっと!?」
 だが、注目を浴びるということは、つまるところ妨害を受けやすいことでもある。
 吹きつけてくる風とはまた違う、突きあげるような衝撃がシンを襲う。
 それは魔女や悪魔達から放たれた魔法の弾丸。数撃てば当たるとばかりに雨霰と。
「やってくれるぜ。だけれど、やられてばかりと思うなよ!」
 水流ジェットを吐き出すだけが高圧洗浄機の能ではない。
 ずるりと動いたホースは、まるで鎌首をもたげた蛇の如く。そして、その口より吐き出されるは――。
「ぎゃー!? どんな掃除道具だよ!?」
「馬鹿、そっちは明らかに道がおかしい!」
「妨害の掃除も仕事のうちってな」
 障害打ち払うは光線の数々。放たれる魔法の弾丸を呑み込み返し、その先にある下手人たちを綺麗に平らげ、仕掛け直した罠の方へと誘導していく。
 そうなれば、もう相手に立ち直るだけの機会はない。光線の雨霰が、そこにある筈のない罠が、彼ら彼女らを崖の奈落ならぬ、混乱のどん底に陥れるのだから。
「こうやって高みから見下ろすってのも、これまたワルワルでいいよな!」
 下界の混乱を見下ろして、シンは悠々と崖の道を進んでいく。
 気付けば、いつの間にやら当初の目論見通りのごぼう抜き。シンは仕掛けた勝負に打ち勝ったのだと言えた。

成功 🔵​🔵​🔴​

トリテレイア・ゼロナイン
4 

(機械馬に騎乗した上でUC装着
機動兵器のような有様で地面擦れ擦れを低空飛行)
この装備の特性や最高速を鑑みれば『レースをする気が無い』との誹りを免れませんが…
エネルギー残量を考えねばごぼう抜きも可能
目標乱入に備え中間近くの後方集団をキープするには最適でしたからね

しかし車体で要らぬ注目を集めたのか、そろそろ後続からの妨害が…

シンボル躱しつつ衝撃波混じりの横風の風速や風向きをセンサーで情報収集
瞬間思考力で推力移動の制御を微調整
最適な姿勢制御でUC機能も使用し後方宙返り
ドッグファイト宜しく後ろにつき調整重力波で減速させ馬上槍機関砲のスナイパー射撃でマシンのカウル撃ち抜き

…次はお判りですね?



 トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)のセンサーに映る景色が、尾を引いて背後へと流れていく。
 それは見慣れた光景である筈なのに、どこか見慣れぬ光景で。
「『レースをする気が無い』との誹りを免れませんが……」
 何故なら、その速度は最高速に程遠い。普段であれば景色を景色と認識する間もなく、トリテレイアの背後へと流れ去っていたことだろう。だが、今はまだそれがない。
 チラリと意識を這わしたモニターが示す数値。そこにはエネルギー残量が豊富に残っていることを指し示す数値が刻まれていた。
「まだ、余力はありますね」
 坂道を越え、火炎弾降り注ぐ道を過ぎ、土砂降りの中を潜り抜けてきた。それでもまだ、だ。
 差し掛かったは第四の難所、崖の道。トリテレイアが調べた中では、残された難所は此処のみの筈。
「であれば、そろそろでしょうか」
 勝負を仕掛ける機のことか。
 そうでもあるし、そうでもない。
 事前の段階においてトリテレイアが集めたのはコースに関する情報のみではない。その参加者についても、彼は念のためとその電子頭脳に収めていた。
 そんなトリテレイアだからこそ、気付けたことがあったのだ。
「一名、足りませんでしたからね」
 スタート地点でグリッドに参加者が勢揃いした際、そこで彼はその場にある参加者の存在を照合していた。
 だが、かく語るようにどうしても一人だけ、未照合のままの参加者が居たのだ。
 それが参加をボイコットしただけなのか、はたまた、別の思惑があるのかは分からない。だけれど、オブリビオンが参加している筈のこの大会であれば――。
「念には念を込めていて、損はない筈です」
 空振りでもというのは、昨日の時と変わりない。杞憂であったのならば、それはそれで問題はないのだから。
 だからこそ、トリテレイアは今迄積極的に勝負を仕掛けることもなく、集団中央から後方を意識して走り続けていたのであった。
 だが、参加者――主に猟兵達が動き出し、一般参加者との差が広がり始めた今、トリテレイアもそれに置いていかれる訳にはいかない。
「原速より第一戦速へ移行」
 背部スラスターに灯る輝きは強さを増し、ロシナンテの駆動音もまたギアをあげる。
 風向き、風速、計算。コース情報、取得。慣性制御機構機動、グリーン。
 明かな加速の気配が周囲に伝わる。
 このレース、レーシングカーのみではなくバイクやキャバリア、箒に果ては特性掃除機械で参加する者もあった。だけれど、その中でトリテレイアの機械馬――強化ユニット付きのロシナンテも、周囲の注目を浴びるに十二分。
 そんな明らかに特殊な存在が、遂にと動きの気配を見せたのだ。
 妨害アリ、なんでもアリなこのレースにおいて、それを放置しておく参加者があるだろうか。いや、ない。
「どっせーい!」
 掛け声は力一杯。飛来物は危険一杯。
 この場におけるシンボル――他の参加者によって再起不能とさせられた機体が、風を伴って飛んでくる。
 それこそは魔女の投擲。魔法にて射出された物。トリテレイアにぶつけることで加速を妨害し、あわよくばと目論んでいたのだろう。
 だが、だ。
「騎士と言うよりは曲芸紛い。お目汚しかもしれませんが」
「うぇっ!? 今のを躱す!?」
 敵意はあれども殺意なきに、トリテレイアが捉えられる筈もない。
 機能の十全。推力の巧緻なる調整、慣性の制御と利用、その最適を瞬間的に弾き出す思考力。それがあれば、躱すに容易い。
 崖の道にて器用に機体を宙返りさせたトリテレイアは、ひっくり返った世界の中で、妨害してきたであろう魔女の驚愕を視る。
 ああ、抜きたいのであれば抜かして差し上げようではないか。
 着地は魔女のすぐ背後。これが飛行、宙間戦闘でなくとも、いつでも相手を刈り取れる絶好の位置。
「御覚悟を」
「したくなーい!」
 排気を振りまいて魔女も逃げようとするが、些か遅い。既に、トリテレイアの火器管制はそれを捉え終え、引き金を引き終えていたのだから。
 重い衝撃が魔女の車体に奔り、スピンしながら奈落の底へとご案内。
 だが、彼女は崖の底に堕ちることはなかった。彼が、トリテレイアが、そのギリギリでかの車体を支えていたから。
「再起不能ということで、宜しいですね?」
「うぅ」
「では、お先に失礼します。もし、まだ妨害に打って出ようというのなら、お判りですね?」
「……はーい」
 丁寧にと道に戻し、釘を刺すを忘れない。
 そして、今度こそとトリテレイアは先へと進まんとする。
 しかし、まだ疑念は拭えてはいない。欠けた唯一の参加者――オブリビオンの姿は確認出来ていないから。
「まだ、この段階ではない?」
 ということは、この先でまた新たなる波乱が起こることは十二分にあり得る。
 電子頭脳が弾き出した未来予測へと間に合わせるべく、その身はまさしく風となって崖の道を駆け抜けるのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ティオレンシア・シーディア
4

仕掛けるなら、やっぱりさっき下見と細工した崖道よねぇ。
ラド(車輪)と韋駄天印で機動力を向上、エオロー(結界)で○オーラ防御を展開。
ミッドナイトレースはこんな見た目でもUFO、火炎弾の着弾箇所は割れてるし道にとらわれず最短ルート突っ走っちゃいましょ。

…ああ、そうそう。あたしの近く走るなら、気をつけたほうがいいわよぉ?下見のついでにあっちこっちに描きに描いた魔術文字、あたしが近づくと発動するから。
遅延に火炎に氷に雷、魔術の〇弾幕雨霰。火炎弾も降ってくるし、魔法使ってる余裕ある?余所見してたら危ないんじゃないかしらぁ?
…まあ、当然あたしも事故らせるために射撃とかグレネードの〇投擲とかするんだけど。



 細工は流々仕掛けを御覧じろ。
「最短ルートを駆け抜けてはきたけれど、流石に一筋縄じゃない訳ねぇ」
 ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)、その愛機たるミッドナイトレースを駆りて往く。
 土砂降りの中、身体を撫でて過ぎる風は雨粒を帯びて冷たく、まるで刃のただ中に身を浸しているかのよう。
 UFOの特性を持つ愛機により、坂道は負担少なく駆け抜けた。火炎弾の道も、先んじて得ていた情報から苦も無くと。だが、それでも今のティオレンシアの順位は中堅どころ。他の参加者――主に猟兵達である――が、その先を幾人かと行っていた。
「でも、これからよぉ?」
 その順位も当然と言えば当然だ。ティオレンシアが勝負を仕掛けんとするは、これからなのだから。
 ハンドルを握れ、ギアを上げろ。
 愛機の心臓が唸りをあげて、機体に刻まれた加護がその意義を主張する。
 ――空気が変わった。
 嘘のように土砂降りは消え去って、次いで姿を見せるは崖の道。
 眼下に見下ろす街並みは小さく、見通しが良いことを示す。だけれど、それは逆に遮るものがないことを示しており、一歩間違えれば奈落へと誘われるを示していた。
 しかし、ティオレンシアの顔に浮かぶは恐怖でも、苦悶でもない。あるのはただ、いつもの微笑みだけ。
「待ってたわぁ」
 水気を孕んでいた空気は、清涼とした風の匂いに置き換わっていた。だが、変わった空気とはそれだけではない。ティオレンシアの纏っていた空気もまた。
 愛機は甲高くと嘶きをあげ、過ぎ去っていく風は最早物理的に立ち塞がる壁のように厚く、硬く。
 しかし、それが彼女を害することは無い。
 見る者が視れば気付いていたことだろう。ティオレンシアを取り巻く、薄く、しかして確かなる守りの輝きに。それはまるで衝角のように立ち塞がる空気を裂いて、ティオレンシアがその影響を受けるを最小限に留めていたのだ。
 それだけではない。事前にこの場所を見ていたのは物見遊山などではなく、数多の仕掛けを施す為。
「悪いわねぇ、まだまだそっちに落ちるつもりはないの」
 加速した機体。そのままでは曲がり切れぬはずの曲線を、慣性すら捻じ伏せ/遅延させて、鋭角に曲がり切る。
 後続が真似しようとも、それは彼女が曲線ごとにコースへ仕掛けた魔術文字を発動させたからこそできる芸当で、それを理解せぬままに追ったとしても、哀れ、奈落へご招待と相成るのみ。
 有象無象を次々にと抜き去っていく程に、ティオレンシアの身もその位を高めていく。
「そんな仕掛け、私が通った時にはなかったのに!?」
「当然よぉ。あたしが近付いたら発動するようにしてたんだから」
「なんてインチキ!」
「ふふ、この世界でなくても褒め言葉ねぇ」
 追い付き、追い越す瞬間の意志の交換。
 でも、その魔女はそれをすべきではなかったのだ。運転に集中しておくべきであったのだ。
「でも、お話してるなんて余裕ねぇ?」
「え?」

「――今、言ったばかりでしょ。私が『近付いたら』発動するって」

 仕掛けたのは、何も遅延だけではない。
 炎が、氷が、雷が、コースのあちらこちらから顔を覗かせていた。
「な、ちょ、加減ってもんがあるでしょ!?」
「ほらほらぁ、余所見してたら危ないんじゃないかしらぁ?」
 降り注ぐそれは弾幕の如く。普段であれば魔女も迎撃の一つも出来ていたであろうが、レースという極限状態の上に繊細な操縦を求められるコースを走っているのだ。そんな余裕などあろう筈もない。
 それでも、ティオレンシアに追い抜かれながらもなんとかとその弾幕を潜り抜けてきたは、これまで上位――猟兵達に喰らい付いていただけのことはあった。ありはしたのだ。ここまでは。
 ――ティオレンシアの背後で響いた爆発音。
 次いで、車のスリップする音が響いて、消えた。
 ティオレンシアは振り返らない。彼女は知っているから。それが、その車がリタイアした音であると。
 魔女は停車させられた車の中で驚愕に顔を染める。彼女は知らない。それが、ティオレンシアがすれ違い様に車へ張り付けていったグレネードによるものであると。
 だが、両者共に理解するのは、参加者がまた一人リタイアした/させられたのだという事実のみ。
 レースは段々と猟兵同士のみのものへと様相を変えていく。
 最後の勝負の時が近付きつつあった。

成功 🔵​🔵​🔴​

フェルト・ユメノアール
せっかく情報を集めたんだしボクは④で勝負を掛けようかな
レース用に準備した【D・キャリバー】の調整も万端!全力で行くよ!

前半は先頭グループを風避け、弾除けにしてパワーを温存
事前に粘着トラップを仕掛けた崖に差し掛かったところでフルスロットル!
ボクは既にSPスマイルスライムの効果を発動していたのさ!

それだけじゃないよ
ボクは手札からカウンタースペル、【光の拘束鎖】を発動!
もちろん、他の参加者を攻撃する訳じゃない
ボクの狙いは……これさ!
鎖を地面に突き刺し固定、命綱にする事で前方で動けなくなっている参加者の脇を抜け
垂直の崖を曲芸のウォール・オブ・デスのように駆け抜ける!
道がないなら切り開く!全速前進だ!



 フェルト・ユメノアール(夢と笑顔の道化師・f04735)もまた他の参加者の例に漏れず、険しき坂道、火炎弾の降り注ぐを越え、土砂降りの中を進んできた。
 とは言え、その道程は決して華々しいものではなかったと言えるだろう。
 最初のスタートこそ上位集団に喰らい付いてはいたものの、そこから少しずつと順位を落とし、差を広げられ、今は全体の中ほどか。
 だが、それでいい。これがいいのだ。劣勢からの逆転劇だなんて、これぞまさしく――。
「エンターテイメントってやつだよね!」
 いつも絶えないフェルトの笑顔。だけれど、今はそこに負けじの気迫を加えて。
 土砂降りの雨がはたと止んだ。
 景色が急激に切り替わり、そこにはいつかに見た景色。でも、運転の最中であるからか、あの時とはまた違う印象の。
 髪を弄ぶだけであった風は、今や奈落へと手招きする死神の手だ。少しでもその手招き応じてしまえば、リタイアは免れないだろう。
 しかし、進まねばならない。いや、違う。進むのだ。意志をもって。

「調整万端、準備も万端! 全力で行くよ、D・キャリバー!」

 このレースのために準備した、そして、これまでを共に駆けてきた己の乗騎に呼び掛けて、攻略せんとするは崖の道。
 フェルトの気迫へ、D・キャリバーが加速をもって応えていた。
 景色が一層と形を崩し、流れるように後ろへ、後ろへ。
 その加速にぎょっとしたのは並走していた魔女達であり、前を走っていた悪魔達。
 落下遮るものなき崖の道なれば、誰もが無意識に加速を抑える。だからこそ、その中でのフェルトの行動は特異に映っていたのだ。
「やらせるかよ!」
「わわっと、そういうのは良くないんじゃないかな!」
「なんでもアリってのは、こういうことさ!」
 だが、抜かれるを彼ら彼女らとて許したくはないもの。フェルトの進路に車体を割り込ませ、その加速を潰さんと。
「そうだったね。なら、遠慮はしないよ!」
「あん?」
「ボクはここでSPスマイルスライムの効果を発動させる!」
 カードを1枚抜き放ち、叩きつけるように備え付けのスキャナーへと通す。
 するとどうだ、途端にフェルトの進路を塞がんとしていた車体がガクンと止まるではないか。
「おわ!? なんだ、なにしやがった!?」
「はは、種も仕掛けもあるものだからね」
 それこそはフェルトがコースに仕掛けていた罠。スマイルスライムの粘液を顕現させ、トリモチのように邪魔せんとしていた者達を搦め取っていたのである。
 絡みつかれて空回りするタイヤは、回れば回る程に粘液に沈んで抜け出せなくなっていく。
 その隣をフェルトは悠々と抜き去って――。
「いかせないから!」
「注目を集めるのも道化師の役目ではあるけれど、こうも熱い視線が集まると照れるね!」
「戯言を! 甘納豆、あんころ餅、ひなあられ!」
「――!」
 ――行きはしたものの、幸運にも箒に乗っていた魔女の一人はフェルトへと追従してくる。それだけではなく、その手に魔法の輝きを宿らせていたのだ。
 輝きは吹き荒れる炎となって、フェルトの足元へと着弾を果たす。
 もうもうと煙があがり、すぐに崖の道へ吹き続ける横風が消していく。
 煙の消えたそこには、フェルトの姿はなかった。衝撃に奈落へと落とされたしまったのか。いや、違う――。
「な、そんなのあり!?」
「なんでもアリっていうのは、こういうことでもあるんじゃないかな?」
「だからって、そんな躱し方……進み方って!」
 確かに、フェルトの身は奈落の途上にあった。だけれどそれは、落下を示すものではない。彼女の身は奈落――崖の側面を走るようにしてあったのだ。
 それを可能とするは命綱。フェルトの身と道とを繋ぐ、光り輝く鎖があればこそ。
「カウンタースペル、光の拘束鎖。この頑丈さは折り紙付きだよ!」
 本来であれば、対象とした存在の動きを止める効果であった。だけれど、今はそれを自身が落下するを止めるために。
 鎖を突き刺しては次へ、突き刺しては次へ。妨害を避けると共に、まるで空中ブランコのような振り子運動の繰り返しで、一気に崖の側面を進んでいく。
 その姿は悪魔や魔女をして出鱈目で、思わず追いかけるを忘れる程にその出鱈目さで魅了していた。

「道がないなら切り拓く! 全速前進だ!」

 もう悪魔の妨害も、魔女の敵意も、死神の手招きもフェルトには届かない。
 道なき道を切り開いて、いつしか彼女はトップ集団へとその存在を食い込ませていたのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 ボス戦 『邪蛇の女王・クィーヴラ』

POW   :    精々糧となるがよい
自身の【傍らに従える黒大蛇】が捕食した対象のユーベルコードをコピーし、レベル秒後まで、[傍らに従える黒大蛇]から何度でも発動できる。
SPD   :    不敬なるぞ?
【ヒトガタの皮】を脱ぎ、【超巨躯を誇る邪蛇の姿】に変身する。武器「【腐蝕毒の牙】」と戦闘力増加を得るが、解除するまで毎秒理性を喪失する。
WIZ   :    妾の出るまでもない
レベル×1体の【しもべ黒蛇】を召喚する。[しもべ黒蛇]は【毒】属性の戦闘能力を持ち、十分な時間があれば城や街を築く。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はバルディート・ラーガです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 示された四つの難所を乗り越えて、猟兵達はコースの終盤へと差し掛かる。
 これより先へ残されたには、最早、難所と言える程の難所はない。サーキット会場――即ち、ゴールへの花道があるのみ。
 後は誰が速いかを純粋に競うだけ。その勝者のためにこそ旗は舞う――筈であった。
「ふは、ふはははっ! ご苦労なことであったな、猟兵共!」
 ぞろりと尾を引き、コースへの乱入を果たすは黒の大蛇。いや、それだけではない。その上にて悠然と立つ緑髪の女性。
 誰何の声をあげるまでもなく、猟兵であるならば気づくであろう。その緑髪の女性――邪蛇の女王たるクィーヴラがオブリビオンと称される存在である、と。
 これこそがブリーフィングにて語られていた、オブリビオンの参加なのであろう。誰もが疲労を覚える終盤に乱入することで、優勝の二文字を掻っ攫わんとしての。
「しかも、わざわざ露払いまでしてくれるとは、ありがたいことよ! よくぞ、儂の勝利のために貢献したと、褒めてやろうではないか」
 大蛇の上にて、クィーヴラが傲岸不遜と嗤っている。その姿は己の勝利を確信し、露とも疑ってはいない。
 確かに、如何な猟兵と言えどもレースも終盤に至った現在、大なり小なりでも消耗をしていないと言えば嘘にもなろう。
 しかし、クィーヴラへ勝利を確信させるにはまだ早い。
 レースは最後まで何があるか分からないのだから。
 誰がために旗は舞う。
 それを決めるための決戦が、今、始まる。


〇第二章終了時点での参加者順位〇

1位:シン・フォーネウス
2位:フェルト・ユメノアール
3位:納花・ピンチン
4位:オブシダン・ソード&小日向・いすゞ
同順:ティオレンシア・シーディア
6位:ライカ・ネーベルラーベ
7位:ユーイ・コスモナッツ
同順:トリテレイア・ゼロナイン

              (敬称略)

※一般参加の魔女、悪魔の皆さんは、自滅や猟兵の皆さんによって全員リタイアしています。
※第三章から参加される方がある場合、その方は7位と同順から判定致します。
シン・フォーネウス
ここに来て乱入とかふざけんなよ…ワルワルじゃねーか!
そんな策略をぶち壊すのが更にワルワルな俺の悪魔ムーブだぜ!

引き続き下僕たちに乗りながら突っ走るぜ。
砲塔からレーザー射撃の面制圧で敵たちを『掃除』してみるぞ。流石に物量で押し切られんのもアレだ、地面をレーザー射撃で削りに削ってその砂の煙で視界を妨害してみるか。

さて、と。蛇ってのは確か赤外線でモノを捉えるんだっけか?まあお前は違うかもしれねぇが。
周囲を舞う粉塵、そこに俺の下僕の高熱レーザー射撃をブチかませば…一瞬で熱量が跳ね上がる粉塵大爆発が起きそうだ。

俺はその大爆発の風圧で更に加速してみるが…下僕たちの煤掃除が大変そうだな。

(アドリブ等歓迎)



 登場の口上はあげられた。
 ならば、こちらも同じくを返そうではないか。
「ここに来て乱入とか、ふざけんなよ……!」
「は、こういうのをお前達は好むのだろう?」
「ああ、そういうのもワルワルじゃねーか!」
「よいよい、当たり前をそう褒めるな。だが、敬うことは許そう」
「だけどよ」
「……む?」
「そんな策略をぶち壊すのが、更にワルワルな俺のムーブだぜ!」
 いの一番にてクィーヴラへと告げるこそは、シン・フォーネウス(水竜の従者・f31485)。
 クィーヴラを見る彼の瞳に諦めの文字はない。むしろ、乱入の結果、己の前に躍り出たそれを敵と認識し、抜き去るべき障害と認識する光が宿っていた。
「痴れ者が。大人しく儂の後ろへと付き従っていればよいものを」
「そんなんじゃ格好悪すぎるんでな」
「しかし、その小さきでなんとするつもりであるというのか」
 翻って、クィーヴラがシンを見る瞳に宿るは嘲りであり、侮りである。
 己の大蛇に比べ、シンが乗騎とするは彼の下僕達。大きさだけを見れば、確かに見劣りはしようというもの。
 だがしかし――。
「大きければ便利ってもんじゃねぇんだぜ?」
「ほう」
「小回りはこっちが上さ!」
 曲線への突入。
 必然、巨体を誇る蛇の動きは大きくならざるを得ない。されど、シンの下僕であるお掃除ロボット達は違う。大蛇の曲がるその内側。そこへと入り込み、それこそするりと抜き去っていく。
「わざわざ前に出て、喰ろうてくれと言っているようなものよな」
 そこは蛇の視界の内、鎌首伸ばせば丸呑みも容易き。
 故に、クィーヴラの余裕はまだ崩れない。むしろ、己に大言を吐いたシンを喰らう機会とばかりに口元描くは蛇の如き。
「小さきが好みであるならば、無数に喰らわれる名誉をやろう」
 喜ぶが良い。
 そう言うクィーヴラが手を翳せば、虚空より降りしきるは雨。ただし、その一粒一粒が猛毒の蛇である。
 噛まれればただでは済むまいことは想像に難くない。しかし、蛇の雨を防ぐための傘などあろう筈も――。

「――おっと、最近のお掃除ロボってってのは多機能でもあるんだぜ?」
「なんだと?」

 小さきからと油断はならぬ。
 毒蛇の雨を退けるに傘など要らぬ。地より――己の下僕より沸き立つ光を差し向けてやればいいのだから。
 それはクィーヴラがレースの最初から正式に参加していれば知ることの出来ていた筈の情報。シンの、彼の下僕がただのお掃除ロボット達であろう筈がなく、その機能として光線による掃除も可能とするということを。
 じゅわりと音立て、蛇の雨が焼け落ちていく。
「ならば、直接と――」
「霞でも食ってな」
 もうもうと煙をあげるは蛇焼いた煙でもあり、大地を削った土煙。
 光線は蛇だけでなく、その実、地にも向けられていたのだ。
 煙がシンを、クィーヴラを覆い隠していく。
「ふん、無駄な足掻きを。この程度で儂が獲物を見失うとでも?」
 だが、その煙を見通す眼こそが蛇の目。煙の向こうにあるシンの熱を、形を、その目は見通し――。
「後片付けが大変じゃああったんだがな。まあ、仕方がねえ」
 シンの形が膨張するを視た。
 それは極大の熱。幾本もの光線を束ねた熱源であり、これより解き放たれるモノ。

 ――煙が、爆炎へと姿を変えた。

 爆炎は熱を撒き散らし、風を撒き散らす。
 自爆か。いいや、違う。
「一気にぶっ飛んでく!!」
 これは意志ある行動に他ならない。爆発を足止めに、爆風を追い風にせんとするための。
 煙の内は既に過ぎ、その背を熱が後押ししていく。
「けほっ、けほっ……あー、煤だらけになっちまったぜ」
 ぐんぐんと景色は後ろに流れ、最早、シンにはクィーヴラがどうなったかは分からない。だけれど、背後から響き、届いてくる口惜し気な声が、どんどんと遠のいていくことだけは理解出来た。

成功 🔵​🔵​🔴​

ライカ・ネーベルラーベ
チャンスを待ってた?
悪いね、それはわたしもなんだ

わたしよりもずっと強いやつが現れる、この瞬間を
「切り札は取っておくもの……でも、切らなきゃ切り札じゃ無いじゃんさぁ!!」

条件が整ったので【其は組み鐘を鳴らす者】を発動
先程投与した強心薬の酩酊感が残るまま、
今までと段違いのスピードで(2重の意味で)『ブッ飛んで』行く
「イヤッ……ホォオォオオウ!」
こうなったらわたしはわたしでも止めらんない
妨害が来ようが蛇女が立ちふさがろうが、不退転のわたしが押し通る
「邪 魔 だ 退けぇぇぇぇ!」

神殺しの刃がお相手だ
竜ならぬ蛇が、雷光を喰らえるものかよ
「今のわたしは、神でも殺す!」



 伏して待つは何も蛇ばかりではない。
「チャンスを待ってた? 悪いね、それはわたしもなんだ」
 ぐらり、ぐらり、ぐらり。
 まだライカ・ネーベルラーベ(りゅうせいのねがい・f27508)の視界には強心剤の副作用による酩酊が残る。
 だけれど、その揺らぐ世界の中においても彼女は自身の敵が、いや、踏み越えるべき障害が現れたのだということを理解するのだ。
「チャンス? そのような傷んだ身体で掴めるものなどあるのか?」
「掴めるとか、掴めないとかじゃない。掴むんだよ」
 傷んだ身体と言われれば、確かにそうなのであろう。このレースでも随分と酷使してきた。
 だが、そんなことは随分前からだ。幾つの部位を機械のそれと代えてきたことだろうか。七か、はたまた八か。
 だから、今更とその程度でその歩みを止めるライカなどではない。その身体で、その魂で、彼女はこれまでを掴んできたのだから。

 ――身に纏いたる彩は、黄金のそれ。

 弾ける音は聞き馴染みのある音。だが、その強さはこれまでを駆け抜けてきた音の比ではない。心臓の鼓動のように、何十にも響き渡る鐘の音のように。
「アナタ、わたしよりもずっと強いんでしょ?」
「おお、おお、そうだとも。なんだ、色を変えたのは降参の証だったのか」
「それを聞ければ、もう十分」
 ああ、そうだ。これは降参の証などではない。これは伏したる竜が天へと駆け上るための。

「切り札は取っておくもの……でもさあ! 切らなきゃ切り札じゃ無いじゃんさぁ!」

 テンションをぶち上げて、スピードをぶち上げて、どこまでもどこまでもとぶっ飛んでいくための。
「イヤッ……ホォオォオオウ!」
 黄金の雷光――ライカの生命エネルギーそのものとも言えるそれを乗騎のエンジンにも叩き込む。
 もう止められない。もう止まらない。自重など事象の彼方へ置き去りに。
 ライカの変貌へクィーヴラは面食らったように目を瞬かせ、そして、それが己の領域を踏み荒らしかねないものと今更ながらに認識を改める。
「抜かせるものかよ!」
 故に、その身を運ぶ大蛇に命を下し、ライカの身が加速しきるより早くと囲い込まんとするのだ。
 だが、心せよ。今のライカに自重の二文字はない。不退転の三文字があるのみ。
 彼女の瞳にはもうクィーヴラも、囲い込まんと立ち塞がる大蛇の姿も見えてはおらず、映さんとするはゴールラインだけ。
 そこへ立ち塞がるというのであれば、全て――。
「邪 魔 だ 退けぇぇぇぇ!」
 踏み越えていくだけ。
 構わずと跳ねあげたエンジンの回転数。急速な加速は前輪を浮かび上がらせた。
 まさかのバランスを崩して転倒か。
 ――否。
 黄金の雷光が尾を引いて、バチリと名残を残す軌跡はまるで翼。
 ――これは飛翔である。
 持ち上がった前輪が大口を開けんとしていた大蛇の頭を踏みしめて、その身は宙へと高く、高く。

「竜ならぬ蛇が、雷光を喰らえるものかよ」

 大蛇の頭を踏み越える間際、そこに立つクィーヴラとすれ違う。その顔に驚愕の満ちるをライカは見ていた。
 しかし、それも一瞬の出来事。次の瞬間には空の景色、そして、着地の衝撃。それを見事といなして加速を殺さずにライカは翔ける。
「立ち塞がるというのなら、今のわたしは神でも殺す!」
 後ろを振り返りなどしない。踏み潰された蛇になど、もう何の興味もないから。
 翼を得た竜は、その加速でもって自らの身体を目的の場所へと押しだし続けるのみ。
 そして、ライカは遂にと終わりを示す白線を踏み越えて――。

成功 🔵​🔵​🔴​

ティオレンシア・シーディア
いや、途中から乱入とか認めたらレース成立しなくない…?
いくらなんでもルールとかそれ以前の問題な気がするんだけどなぁ…

あたしのユーベルコードは「ミッドナイトレースの強化」だからコピーされてもさほど問題はないけれど…まあ、流石に食べられたらリタイアよねぇ。
相手は大蛇と蛇使い、そこを突きましょうか。
まずは●轢殺・適応を起動して装甲を強化、大蛇にはフレア・蛇使いには閃光弾と催涙弾で○目潰し。紛れを潰してイサ・ソーン・ニイドで○足止めして釣瓶撃ちしちゃいましょ。相手は変温動物だもの、「氷」の「茨」による「束縛」は覿面に効くでしょぉ?

ラストは移動力を強化してのドラッグレース。
…負ける気は、ないわよぉ?



「いや、途中から乱入とか認めたらレース成立しなくない……?」
 ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)が呈する問題は、最もな話である。
「ルール無用を好むはこの世界でな。ほれ、奴らも沸いておろう」
「だからって、これはいくらなんでもルールとかそれ以前の問題な気がするんだけどなぁ」
 吐息、溜息、思わずと。
 そもそもからしてデビルキング法という法律としてどうなのかと首を傾げるようなものが通る世界だ。常識人であればある程に、頭を悩ませる。それがこの世界なのかもしれない。
 だが、それはそれとしても――。
「その程度に負ける気はないわよぉ?」
 形はどうあれ、レースという盤面に乗っかってきたというのなら、抜き去るのみ。
 ティオレンシアはその明晰な頭脳でも頭をひねるような疑問を遠くに放り投げ、現在へとその意識を傾ける。
「お前の言う程度かどうか、確かめるがいい」
「確かめる時間だって惜しいわぁ」
 並走しているうちに分かった。クィーヴラは走り屋などではない。
 コースの曲がり方一つ、加速の仕方一つをとっても、ティオレンシアの運転技術には程遠い。
 それもそうだろう。クィーヴラの目的はあくまでもレースに勝ち、悪魔達からの名声を得ることでしかなく、レースへの参加はその手段でしかないのだ。だから、乱入のようなことにも打って出た。まともに走れば、勝ち得ない可能性があると知っていたから。
 嗚呼、ならば、そんなモノにかかずらう時間こそが惜しいではないか。
 既に幾人、一歩先へと踏み出すための動きを見せている。ティオレンシアもそれに出遅れるつもりは毛頭ない。

 ――動力を廻せ、速度を得よ。そのためにならば、今の形すら捨てて。

 ティオレンシアの愛機――ミッドナイトレースの形が変わる。
 内より生まれる駆動の衝撃へと耐えられるように、より強くと大地を噛んで駆け抜けられるように。
「いい子ね。それじゃあ、行きましょ?」
「儂を一瞥もせぬとは不遜の極みよ、猟兵共。腹の内にて悔やめ」
 ティオレンシアが加速せんとするその間際、横腹に食いつかんと蛇の頭が迫りくる。
 咄嗟にと回避運動を取れたのは、その思考の瞬発力が故に。
 それを横転もかくやと車体倒し、火花散らしながら滑らせれば、ティオレンシアの頭上と過ぎていく。
 五体無事。愛機も無事。しかし――ほんの僅かばかり、出遅れた。
 また鎌首が持ち上げられるを視界の端で捉え――。
「邪魔でしかないわね」
「なんだと!?」
「蛇の頭にタイヤ痕を付けた状態で偉そぶっても、様にならないわよぉ」
「言うな!」
 他の猟兵が付けていった痕跡が、蛇の頭でその存在を主張する。
 それを揶揄すれば、クィーヴラの顔は朱に染まり、怒髪天を示すが視えた。
 レースとは秒の時間を、コンマの時間を競うもの。
 クィーヴラは走り屋ではない。だから、そんなことも理解できていなかった。その世界へと生きる者を相手にして、怒髪天を示す余裕などなかったことを。そんなことをするよりも、先んじて動くべきであったことを。

「――遅いわよぉ」

 高速で流れる景色の中、ティオレンシアの手からは投擲物が離れ、景色の中に放物線を描いていた。
 カツンと妙に耳へと残すように響けば――。
「ぬおっ!? 目が、くそっ、目潰しかっ!?」
「なんでもアリでしょ? なら、それだけである筈がないじゃない」
 閃光が、催涙が、クィーヴラと大蛇の目を潰す。だが、それだけではない。朱色を蒼白へと塗り替える冷や水。氷の茨が蛇の身を蝕んで。
「そこで指でも咥えてなさぁい?」
「待て! 儂を置いてゆくなぞ、待てぇぇ!」
 怒号がティオレンシアの背後から響く。しかし、それはクィーヴラが最早、彼女に追いつけぬを示すなによりの証拠。
 動きの鈍った大蛇を置き去りとして、ティオレンシアは最後のスパートを掛けていく。
 その思考に、もうクィーヴラの存在はない。ただ、最後の直線だけが見えていた。
 追い付けるか。いや、追い抜くのだ。
 エンジン音が更なる鼓動を響かせ、そして――。

成功 🔵​🔵​🔴​

フェルト・ユメノアール
お褒めに預かり光栄だね
でも、最後に勝つのはボクたちの方さ!

状況は圧倒的に不利……でも、燃えてきた!
エンターテイナーとしてこの状況、ひっくり返してみせる!

その為にも、まずは相手に近づかないと……
取り出したるは魔法のステッキ、『ミラクルシルクハット』から『ハートロッド』を取り出してクィーヴラに向け『投擲』
狙いは攻撃じゃない、白鳩姿に戻したハートロッドで相手の視界を塞いで速度を抑えた所で接近

接近すれば相手は攻撃を仕掛けてくるはず、その一瞬が勝機
この瞬間!ボクは手札からスペルカード、【機雷バルーン】を発動!
機雷を起爆させ、相手を吹き飛ばすと共に自身は爆風に乗り加速、一気にゴールまで駆け抜ける!



「お褒めに預かり光栄だね」
 場を温めるは道化の仕事。
 例え、それがクィーヴラのためでなかったとしても、それを褒められたとあらば礼の一つもしようではないか。
 ただし――。
「でも、最後に勝つのはボクたちの方さ!」
 フェルト・ユメノアール(夢と笑顔の道化師・f04735)に勝利を譲るつもりなど毛頭ない。
 己は消耗し、相手は万全。相手が先を行き、己はその後。そうだったとしても、むしろ、その方がより燃えるというもの。
 先の難所を越える時だってそうだった。あの時も、崖の道に至るまでは劣勢を甘んじていたのだから。
「エンターテイナーとしてこの状況、ひっくり返してみせる!」
 決意は強さへ、想いは迅さへ。
「は、道化らしい大言壮語よな」
 だが、それを嗤いとばすからこその邪悪。
 大蛇の頭上より見下ろすクィーヴラは悠々たる姿のまま、チラリとフェルトを一瞥するに留めるのみ。
 出来るものか、と。今はもうフェルトを見ていないその瞳が語っていた。
 それが、フェルトの魂を刺激する。
 ――絶対に振り向かせてみせる!
 劣勢をひっくり返すだけではない。クィーヴラの目を釘付けにしてやろう、と。
「その為にも、まずは近付かないとだね……!」
 何をするにしても、先行するクィーヴラとの距離が離れていては致し方がない。
 現状でもエンジンは甲高くと嘶きをあげてはいるが、更に更にとあげていく。
 ガタリ、ガタリ、ガタリ。
 加速する体躯に、機体が悲鳴を上げるように揺れる。
「ごめんね! でも、もう少しだけ付き合って!」
 だが、その甲斐は確かにあった。追い抜くには至らずとも、大蛇の体躯に並ぶことは出来たのだから。
 それでも、まだクィーヴラの視線は他の猟兵との相対に使われている。いや、意識の一部は割かれている気配はするが。

「――直接見ないってこと、後悔するからね!」

 乗騎に搭載された自動操縦機能は、何もカードを繰る時にだけ役立つものではない。
 取り出したるは、タネも仕掛けもあるハット。一、二の三。と、唱えれば、中からするり不思議と魔法の杖。
 さて、それをどうするかと言えば。
「ていやっ!」
 と、クィーヴラ目掛けて投げるのだ。
 空気を貫き、杖が奔る。
「何をするのかと思えば、この程度か」
 それだけであれば、ヒトの皮を脱ぐまでもない。
 腐食毒宿す牙の代わり、手に宿したそれで飛来する杖を見ることもなくクィーヴラは打ち払わんとする。
「……なに?」
 だが、その手に手応えはなく、触れ、腐り落ちるは柔らかき羽毛のみ。
 おかしい。直接見た訳ではないけれど、それでも気配は空気を裂く音を捉えていた筈。だというのに、これはいったい何なのか。
 疑問がクィーヴラの思考を縫い留めて、思わずとその正体を探らせた。
 バサリ、バサリ、バサリ。
 場違いな白が羽ばたきを響かせて、クィーヴラの視界を埋める。
 それこそはフェルトの投擲した杖――ハートロッドのもう一つの姿、白鳩であったのだ。
「この、纏わりつくな! 前が!」
「だから、直接見ないと後悔するって言ったんだよ?」
 直接と見て、その上で対応していれば、クィーヴラもその変化の瞬間を捉えることが出来ていただろう。他の対応策を取ることも出来ただろう。だが、それを怠ったからこその現在。フェルトを侮ったからこその現在であった。
 それを悔やんでももう遅く、クィーヴラの意識が始めてまともにフェルトを視た。彼女に、振り向かされたのだ。

「それじゃ、もう一個プレゼント! 風船一つ、如何かな?」
 ――好機はここに。

 視線を受けながらフェルトが手札から引き抜いたカードは、必勝を期すための。
 乗騎に付随するスキャナーを通せば、それを介してカードは現実世界に顕現する。
 現われ出でたは無数の風船。されど、それがただの風船であろう筈もなく。
「ええい! 次から次へと!」
「それがパフォーマンスってものでもあり、エンターテイメントってものでもあるんだよ」
 ――効果発動!
 鳩を、風船を払おうと振りかざす手に反応し、フェルトが声高々と宣言すれば、舞い踊る風船達の一斉起爆。
 爆炎が広がって、爆風が広がって、クィーヴラの身体を大蛇ごと呑み込んでいく。
 しかし、それであれば近くを走っていたフェルトも巻き込まれるのではないのか。
 それはある意味で正しく、ある意味で異なるもの。
「じゃあ、お先に!」
 ぶわりと吹き付ける爆風を追い風に、フェルトは乗騎へ更なる速度を与えたのである。
 もくりと漂う煙の中、大蛇がそれを割って頭を出すが、もうその時にはフェルトの姿は他の猟兵共々と地平の彼方。
 逆転のエンターテイメントが此処に成った瞬間であった。

成功 🔵​🔵​🔴​

オブシダン・ソード
【狐剣】
器物はいすゞに渡す

他はともかく途中から乱入した人には負けたくないね
それじゃ積極的に妨害しちゃうよ
肩キャノンから特大花火玉を射出ーッ!

あっ食べられた

同じUCで反撃されそうだけど…まあ、所詮花火だからね
撃ち返しながら強引に突っ込んで追い縋るよ
いやあ、派手で良いねぇ
いすゞは焦げないでね
背筋がうすら寒いのは多分気のせい

花火の応酬に相手も慣れた頃合いで、本命――肩に乗っていたいすゞを思い切りぶん投げてあげるね
光と煙がきっと目くらましになってくれるはずだから
後はよろしくー

敵がどうなろうと僕は妨害はやめません

最後は燃料切れまでスパート
負けそうならさっきの要領でいすゞを発射して一位を狙うよ
いっけぇー!


小日向・いすゞ
【狐剣】
未だに肩の上
彼の器物を背負って

いやー、小狡いっスねェ
小狡さで狐が負ける訳にゃ行かないっスけれど
あっ

ふふっ派手っスね~
ねェセンセ
知ってるっスか、狐は防火性能が無いンスよ
覚えててくださいね、自らの行いを

はぁいはい
あとはあっしの仕事っスけど
そりゃ言い出したのはあっしっスけど…ッ!
ぶん投げられるのはそりゃ怖い

無理やり取り付いて
器物で敵の害意を斬れば
一瞬くらいまともに勝負してくれる気持ちになってくれるンじゃないっスかね

あっしらは害意は斬られてないっスから
投げられようが、人の車に乗ろうが
勝てば良いンスよ、勝てば
めちゃくちゃ怖いから後で八つ当たりします

例え壁等にぶつかっても猟兵はまあまあ丈夫っス



 勝ちか負けかを問われたならば、それは勿論勝ちがいい。だけれど、勝負は時の運。必ずしも勝てるばかりとは限らない。
 そんなことは分かっている。分かっているのだけれども。
「他はともかく、途中から乱入した人には負けたくないね」
「ここで負けちゃ、あっしらの努力は水の泡っスからねェ」
 納得できかねることもある。
 轟々と走る人型機械、その操縦者たるはオブシダン・ソード(黒耀石の剣・f00250)。人型機械――オブシディアンの肩には変わらず、小日向・いすゞ(妖狐の陰陽師・f09058)を乗せたまま。
「いやー、小狡いっスよねェ。蛇は本当に狡猾っスよォ」
「はは、大丈夫。幾ら蛇が狡猾でも、狐はそんな蛇も食べちゃうからね」
「それはあっしの方がって言いたいンスか?」
「その通り。いすゞが、いや、君と僕なら、あれぐらいに負けはしないよ」
「……そうっスね。小狡さで狐が負ける訳にゃいかないっス」
 それじゃあ、妨害の一つでもくれてやろうか。
 二人浮かべるは同じ笑み。互いに顔を合わせずとも分かる、ヒトの悪い笑みを。

 ――ドカン、ドカン、ドカン!

 炸裂するは特大花火。
 オブシディアンの肩に装備された砲より放たれたそれは、着弾の度に盛大な火炎の花を咲かせては散らす。
「祝砲のつもりにしては、随分と物騒ではないか」
「そりゃそうさ。これは妨害なんだからね」
「た~まや~っス!」
 また一つと放って、落ちて、咲いて。
 進路を妨害するように放たれるそれは、前へ前へと進む大蛇の身をジリジリと焼いていく。
「すぐにどうこうなるほど軟ではないが、やはり煩わしいな」
 言葉にするまでもない。己が主の意思に従い、ぞろりと動いたは蛇の首。
 無機質な瞳が見つめる目標は一つ。
「あっ、食べられちゃった」
 飛来する火の玉を、大きく開いた口でバクリ。
 口腔の内側が焼け爛れるが、クィーヴラの眷属でしかない大蛇は少しの躊躇もなくゴクリとそれを飲み干す。
 ――変化は劇的。
 焼けた舌の代わり、大蛇の口よりチロリチロリと顔を覗かせるはどこかで見慣れた朱の色。
「ねェ、センセ」
「なんだい、いすゞ」
「あっし、すごく嫌な予感がするンスけど」
「……ははは、まあ、砲撃戦は怪獣と戦う時の華だよね」
「それ、大体撃ってた方が怪獣にやり返されるまでがてんぷれーとっスよね!?」
「では、ここまでしてくれた褒美だ。期待に応えてやるとしようか」
 火の玉を喰らった時のようにと大蛇の口が開く。ただし、そこには火炎玉が既に形成されていた。
「回避、回避ー!」
「了解!」
「はは、逃げるも良かろう!」
 撃って、撃たれて、撃ち返して。
 空に咲く筈の花が、地上のあちらこちらでその姿を見せる。
「いやあ、派手で良いねぇ」
「ふふっ、派手っスね~」
 花火の中を縦横無尽。本来であれば見上げるものを、まさか中から立体的に見ることが出来るだなんて。でも、これは感動に打ち震えてのものではない。
 これがレース中でなければ、客観的に見れるだけのものであれば、きっと綺麗だったことだろけれど、けれども!
「ねェ、センセ」
「なんだい、いすゞ。って、これ、さっきもやったね」
「そうっスね。でも、センセは知ってるっスか?」
「何をだい?」
「狐は防火性能が無いンスよ」
 花火と言えど妨害用。蛇の口から吐き出されるそれも同じ性質の。であれば、キャバリアの装甲を抜くには至らない。だからこそ、喰われてもそこまで大きな動揺はなかった、戦いの最中も縦横無尽と駆けられた。
 だが、その装甲の外――例えば、肩になんて乗っていれば、どうなるかは想像に難くない。
「……焦げないでね」
「覚えててくださいね、自らの行いを」
 普段とは違ういすゞの言葉遣いが、オブシダンの背筋を薄っすらと寒くしていた。多分、今、笑顔を浮かべているのはいすゞだけであったことだろう。
 ――閑話休題。
「でも、そろそろ頃合いかな?」
「はぁいはい。あとはあっしの仕事っスね」
「うん。じゃあ、後はお願いね」
 それこそは花火の応酬を影に隠した刃。本命の刃。
 撃ちあいに慣れてくれれば、他の猟兵達との戦いに意識を割いてくれれば、途端に抜き放たれるもの。
 そして、それを抜く時こそが今だと言うのだ。
 オブシディアンの手が何かを柔らかと掴み――。
「いくよ! 光と煙がきっと目晦ましになってくれるはずだから」
「言い出したのはあっしっスけど……ッ!」
 ――思い切りとぶん投げる。
 投げ出されたそれこそは、ちょっとチリついた琥珀色の弾丸こと、いすゞであった。
 空気が壁となり、層となり、圧力を掛ける。
 すぐ間近では、大蛇とクィーヴラの意識を引続き惹きつけんとオブシダンの奮闘する余波が暴れている。
 実際、怖い。怖いけれども――。
「応えないと、女が廃るンスよォ!」
 いすゞがその手に握ったは絆の証、鈍く輝く黒の色。
 それを託されて怖気づくなど、相棒として、伴侶として、いすゞ自らが許さないことだろう。

 ――体感時間は長く、実際は数瞬で大蛇が鱗の上に。

「乱戦の最中を飛んでくるとは、正気か!?」
「奇策弄する小狡さで、あっしらは負けねェンスよォ!」
 乱戦中の闖入者に、まさかとクィーヴラも目を見張る。虚を突かれる。
「センセ! 言葉も借りるっス!」
『うん、君に全部を預けるよ』

「――『君の願いは届かない』」

 言の葉の応酬はないけれど、それでも確かに互いの声が耳に届いた気がした。
 そして、いすゞに振るわれた黒曜石の剣――オブシダン・ソードは、狙い違わずとクィーヴラを、その身に宿す害意を確かに切り裂いたのだ。
「撤収っス!」
「もう来てるよ」
 乱戦の音絶える数瞬の空白。
 斬り捨てられたクィーヴラの害意が再びと芽生えるより早く、オブシダンが乗騎を駆りてもう大蛇の間近。
 ――力の高まりを感じるは、あちらこちら。
 恐らくは、他の猟兵達も機を見て一斉に動き出したのであろう。巻き込まれてはたまらない。
「さ、早く乗って」
「白馬の王子様にしちゃ無骨っスけど、流石っス!」
「君ならやり切るって知ってたからね」
 さあ、この数瞬に逃げ切り態勢に入ろうか。クィーヴラの動きは止めたけれど、まだレース自体が終わっている訳ではないのだから。

 ――ラストスパート!

 燃料の量などもう気にしない。アクセルフルスロットルの、最高速度で突っ切るのみ。
 ――と、熱血に終われば良かったのだけれども。
「あっしらは二人で一人。一人でも一人」
「つまり、どっちかが先にゴールすればいいってことだよね」
「投げられようが、人の車に乗ろうが、勝てばいンスよ、勝てば」
「わぁ、いすゞ、悪い顔」
「センセも同じっスよォ」
 越後屋と御代官様の謙遜し合いも真っ青な悪巧みがそこにはあった。
 オブシディアンの手がむんずといすゞを掌の内に。
「あ、でも、これはめちゃくちゃ怖いンスから、後で八つ当たりは覚悟しておいてくださいっス」
「それ、今言うかな!?」
 動き出した機構は止まらない。止められない。
「ああ、もう仕方がない。いっけぇー!」
 後の怖さを放り投げるように、オブシディアンの手からいすゞが再び弾丸と撃ちだされていく。
 今度の目標は大蛇の鱗の上ではない。ゴールラインを、チェッカーフラッグを目指して。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

納花・ピンチン
あら、途中参加とはワルワルですわね
でも本当に勝ちたいならアタシ達に構わず
サッサとゴールしてしまえばよろしいのに

分かってます、しっかり遊びに来たんですわね
ほな、いきましょか!

箒ちゃんですぐそばを飛び回りながら動きを観察
なるほど、あの一番大きい蛇ちゃんが相棒ですか

一番大きい照明が背になる位置に来たら
蛇ちゃんの口目掛けて必殺・突撃!

まあツッコむのは白いシーツ被せた箒ちゃんだけなんですけどね

箒ちゃんが蛇ちゃんの口の中で暴れてる隙に
真必殺・ブレイブソードを放ちます

姉ちゃん一番オモシロいところ参加せずじまいでしょう
妨害レースはな、こんくらい大変やったんやで!!

あとで大人しく箒ちゃんからのシバキを受けますわ



「あら、途中参加とはワルワルですわね」
「であろう?」
「でも、本当に勝ちたいならアタシ達に構わず、サッサとゴールしてしまえばよろしいのに」
「それは――」
「いえ、いいえ、分かってます。しっかり遊びに来たんですわね!」
「違うわ! お前達を完膚なきまでに粉砕するためにだな!」
「もう、照れ隠しですの?」
「儂の話を聞いておらんぞ、こやつ!?」
 ふわりふわり、はたりはたり。
 宙を滑り、浮かんではためくは端の少し焦げたシーツお化け――ではなく、納花・ピンチン(ブギーモンスターの勇者・f31878)。その姿のような掴みどころのなさで、乱入者のクィーヴラを翻弄する。
「と、まあ、冗談はおいておいて」
「ぐ、ぬぅ……儂を馬鹿にしているのか」
「いいえ、そんなつもりはありませんわ」
 ぐるりぐるり、ぐるり。
 知恵の布はためかせるのは同じのままに、ピンチンはクィーヴラに、大蛇に並走を続ける。
 時に右側から、時に左側から、時に上側から、浮遊による立体的な機動で付き纏うかのように。
 既に最後の戦いへと向けた、他の猟兵達によるクィーヴラとの小競り合いは始まっている。
 だと言うののに、ピンチンは抜き去ろうとするでもなく、他の猟兵のように仕掛けてくる気配を見せるでもない。ただ、並走を続けるのみ。
 いや、正確には視られているという気配はクィーヴラにも分かるのだが、それ以上のことが分からないのだ。彼女が何を考えているかは、知恵の布が表情から何から全て包み隠していたから。
「ええい、小蠅のように鬱陶しいわ!」
「あらあら、短気は損気ですわよ? 商機……じゃなくて、勝機はしっかりと見定めないと」

 ――中天にて輝く太陽を背に、布が揺れた。

「まあ、でも、お待ちかねのようですし……ほな、いきましょか!」
 あまり時間を掛け過ぎても、他の猟兵達の攻勢に後れを取りかねない。
 ならば、もう『観察』は充分だ。
 周囲を浮遊していた動きから一転、ピンチンはその浮遊の高度をあげて、太陽を背にしたのである。
 それはあからさまな何かを仕掛けてくる気配。
 しかし、それに対応せぬをクィーヴラは選べない。何を考えているか分からない相手だからこそ、猶更に。
「箒ちゃん! ブッ込みかけるで!」
「来るか!」
 輝きが落ちてくる。
「だが、些か素直すぎるな!」
 その軌道は一直線。ならば、それを迎撃するはクィーヴラにとっても容易き事。
 大蛇の頭がずるりと動き、洞穴の入り口が如き黒がそれを出迎える態勢を取る。
「……? これだけか?」
 そして、ソレは加速も手伝ってか避けることもなく洞穴の中。出れば二度とは独力で出れぬ蛇の孔の中へ。
 その呆気なさに、クィーヴラも思わずと目を点とせざるを得ない。ピンチンに対して感じていた不気味さに対しての、この呆気ない幕切れでは。

 ――二つ目の輝きが、降ってきた。

「油断大敵、火がボーボーですわね!」
「なぁっ!?」
 輝くそれは勇者の剣。ピンチンの持つ、勇者の剣。
 確かに、ピンチンの突撃は大蛇が迎え撃ち、呑み込んだ筈。だと言うのに、ここにある彼女はなんだというのか。
「だから言ったではありませんの! しっかり見定めないとって!」
 そう。先んじて突撃してきたのは、ただ箒にシーツを被せただけのモノ。ようは囮でしかなかったのだ。

「――なあ、姉ちゃん! 一番オモシロいところ参加せずじまいでしょう。妨害レースはな、こんくらい大変やったんやで!!」

 端の焼け焦げた知恵の布こそ、激戦の証。
 ピンチンだけではない。他の猟兵達だって、リタイアしていった悪魔や魔女達だって、それぞれにその証とも言えるものを抱えてここまできたのだ。
 ならば、その証もたぬクィーヴラにも、是非ともそれを贈呈せねばなるまい。
 ピンチンによる囮へと食いついた愚か者に、正義の鉄槌が振り下ろされた。

「ああ、もう! だから、ごめんなさいと謝っているではありませんの!」
 大蛇の脳天への一撃は、衝撃にガパリと口を開けさせるに十二分。
 それだけの隙があれば囮――ピンチンが乗騎としていた箒も、逃げ出てくるは当然。
 ピンチンも颯爽とそれを掴み取り、他の猟兵達共々とクィーヴラを置き去りにしていったのだ。
 だが、ブッ込みをかけると言われて、まさか自分だけが突撃する羽目になるとは思いもしていなかった箒は怒り心頭。
 ピンチンの謝罪にも抗議の声をあげるように、ゆらりゆらり蛇行しながら、最後の直線を駆け抜けるのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ユーイ・コスモナッツ
先頭集団からは遅れてしまったけれど、
諦めてレースを棄てることなんてできない
最後までベストを尽くします

乱入者などもってのほか
正々堂々の勝負に邪魔だては許しません

レースでは封印していた「空中戦」技能をここで開封
【流星の運動方程式】で急加速、
ランスチャージからの高速離脱を繰り返します
いわゆるヒット・アンド・アウェイですが、
突入角度を変えたり、緩急をつけていきます

蛇は視覚が弱いと聴いたことがあります
敵UCの「毎秒理性を喪失する」副作用とあわせて、
心身共に撹乱してしまいましょう

冷静さを欠いてくれればこちらのもの
巨躯にものを言わせた大振りの一撃を
紙一重でかわしながら間合いをつめて、
白銀の剣を一閃!


トリテレイア・ゼロナイン
(前章の追加装備の燃料使い切り加速しパージ、機械馬に●騎乗しつつ敵へ肉薄)

お待ちしておりました、邪蛇の女王
ええ、優勝トロフィーなど眼中に無く
私の視線は貴女だけを探しておりました

レースに途中参加し優勝、カタストロフに繋げる等…『優勝候補を引き摺り落とす為だけに参加した』悪逆の騎士としての私の悪行が霞んでしまいますので

討ち取らせて頂きます

呑み込みの挙動と軌跡をセンサーでの情報収集と瞬間思考力で見切り、騎馬で大地踏みつけ推力移動合わせ回避

大蛇にUC撃ち込み振り回し投げ出された女王に幾度も叩きつけ

私と共にリタイアして頂けると嬉しいのですが
尤も貴女の行き先は骸の海
平和な悪魔達の世を脅かさせはしません



 一斉にクィーヴラを追い抜いて行った猟兵達。
 しかし、爆発に巻き込まれようとも、凍てつく蔦が這おうとも、強靭なる一撃を見舞われ様とも、しぶとさこそが蛇の本領。
 まだ動ける、まだ進めるであれば、そこに宿した危険は変わらない。
 むしろ、傲慢にして強欲なる蛇の女王であればこそ、優勝を得られぬとあればレースそのものを台無しにせんと動く可能性すらあった。
 だからこそ、ここから始まるは今もって繰り広げられるデッドヒートとはまた違う、もう一つの戦いである。

「ぐぬ、ぬぅ……よもや、猟兵共がここまでとは。こと、此処に至ってはしかたあるまい。レースごと壊す悪逆非道にて……」
「お待ちしておりました、邪蛇の女王」
「正々堂々の勝負に邪魔立ては許しません」
 颯爽と、先へと進むではなく、大蛇の前にて立ち塞がる二つの影。
 それこそはユーイ・コスモナッツ(宇宙騎士・f06690)にして、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)。
 片や、未だレースを諦めた訳ではないけれど、悪逆非道を見過ごせずにして。
 片や、乱入者の登場を、それが齎すであろう混乱を予期して。
「邪魔をするか」
「ええ、優勝トロフィーなど眼中に無く、私の視線は貴女だけを探しておりましたので」
「参加者それぞれの想い、ここで台無しになどさせる訳にはいきませんから」
「そうか。ならば、この怒りをまずはお前達にぶつけよう」
「っ! 来ますよ、トリテレイアさん!」
「では、討ち取らせて頂きましょう」
 クィーヴラがずるりと脱ぎ捨てるはヒトの皮。ドロリと溶け落ち、乗騎の大蛇と混ざり合えば、瞬きの間もなくと現れ出でる巨躯なる蛇。
 大きいということはそれだけで物理的な圧力を感じさせるものであり、蛇と化したクィーヴラもその例に漏れぬ存在感を圧力と放つ。
 だが、それで怯むようでは騎士などはしておれぬ。
 ユーイも、トリテレイアも、姿形種族は異なれども、同じくと騎士を標榜する者。
 そこに撤退はなく、互いに得物を抜き放ちて相対の返事とするのみ。

 ――開戦を報せる三者三様の咆哮が轟いた。

「ブースト・オン!」
 此処は輝ける星々の海ではないけれど、それでも宙を行く事はできる。
 今迄はレースということもあり、自ら封印していた反重力シールドの機能制限を解き、宙へと駆け上がるはユーイ。
 流星の如くと名残りの尾を引きながら、高く、高く、高く。
「私に、あそこまでの華麗さはありませんが……」
 燃料を使い果たした追加装甲――今となってはデッドウェイトを切り捨てる。
 チラリと見上げた先には宙の輝き。一抹の憧れ。
 だが、自らは自らでしかなく、この無骨さこそが己なのだと、トリテレイアはロシナンテと共に地を駆ける。
 奇しくも、ユーイとトリレテイアの行動は空と地からの二面作戦の形となっていた。
 だが――。
「不敬であるぞ。平伏せよ」
 巨躯を得たクィーヴラの動きは、二人の予想よりも早かったのである。
 全身の筋肉が躍動し、振るわれる尾の一撃は音を抜き、触れれば大岩とて砕くだけの威力を秘める。例え直撃せずとも、その躍動が掻き乱す空気は荒れ狂い、容易くと近付くを許しはしなかったのだ。
「おわっとっとと」
「大丈夫ですか?」
「ええ、お恥ずかしい所を。ですが、当たった訳ではないので問題ありません」
 空気の乱れ、その影響を最もと受けたのは宙を往くユーイの軌道。
 ぐらりぐらりと揺れ動き、波間に揺れる木の葉の如くと右左。
 転覆にまで至らぬは、ユーイの研鑽された技能があればこそ。
「とは言え、あの動きは厄介ですね。しなりはどこから来るかの予測を困難にしますし、尾を躱しても空気の乱れと下手をすれば噛みついてもくるでしょう」
 躱すだけならば、大きく距離を取れば困難ではない。いや、常人には困難なものではあるが、ユーイであればというところ。
 本来の姿でなお一撃で落とせなかったという事実に、クィーヴラが警戒の音を漏らす。すぐすぐと攻めては来ず、威嚇するようなその姿はまさしくと蛇そのもの。
「であれば、私の方で情報支援も行いましょう。パスを繋ぎます」
 ユーイには攻撃への専念を。代わりに、自らが彼女の眼であり、耳でありにならんとトリテレイアは言うのである。
 トリテレイアの情報収集能力や解析能力を思えば、情報が蓄積すればするほどに尾の軌道を読み取ることも出来るであろう。空気の乱れを予測することも出来るであろう。そして、攻めかかりながらそれを行う並列処理が可能であるのも、彼が機械の身体であるが故に出来る事。
「ありがとうございます」
「いえ、ですが、その分……」
「はい! 剣としての役割はお任せ下さい!」
 適材適所。互いが互いに為すべきを知る。

 ――空を翔ける。地を駆ける。

 流星の如くとユーイは軌跡を描きながら、その剣でもってクィーヴラを貫かんと。
 時に正面から、時に側面から、時に直線で、時に螺旋で。トリテレイアから齎される情報を基にし、ひと時とて同じ軌道を描かずに動き続ける。
 それを追うように蛇の尾が、頭が、空気を乱して。
 だが、宙にばかり注意がいけば、地を踏み鳴らす鋼鉄の嘶きが僅かな隙を突かんと機を狙う。
 如何にクィーヴラが強大なる個と言えども、じりじりと削られるは苛立ちを覚えずにはいられない。そして、苛立ちは行動の荒さへと繋がっていく。
 集団としての強みが、此処にはあった。

「――今です!」

 そして、彼ら彼女らの行動は遂にと結実を迎えるのだ。
 先んじて辿り着いたは地を駆けるトリテレイア。
 尾の大振り、その後にと生まれた隙を掴み取れば、その膂力でもってクィーヴラの動きを全力でもって戒める。
 動かぬように、動けぬようにとワイヤーで自らと蛇とを地に繋ぎ、発する電流でもって。
「ふざっけるなぁぁぁ!!」
 クィーヴラとてプライドがある。抗うようにと暴れれば、ワイヤーの幾本を引き千切り、トリテレイアの身体に軋みを鳴らす。
「いいえ、ふざけてなどいません。貴女は私と共に此処でリタイアして頂きます。平和な悪魔達の世を、脅かせなどさせません!」
 だが、確かにその瞬間、クィーヴラの動きは縫い留められていたのだ。そこを目掛けて、今、流星が墜ちてくる。

「でぇぇやあああああああ!!」

 裂帛の気合と共に、ユーイは自らの身体ごとぶつかるかのようにして剣ごと。
 ――音が消えた。
 ぶつかり合う衝撃に立ち込める土煙。
 もくりもくりと立ち込めていたそれが風に消えて行けば、そこに残るは大蛇の頭部へ白銀を深々と突き立てたユーイの姿。
 邪蛇の終わりが、二人の勝利が、そこには確かにあったのである。

 ―。
 ――。
 ―――。
 さて、ここから先は単なる余談。蛇足とも言えるお話。
 静けさを取り戻した戦場の向こうから、観客の声援が響いてくる。きっと、レースの優勝者が決まったのだろう。
「どうやら、勝者が確定したようですね」
「そうですね」
 ゆるりゆるり、ボードが進む。
 しかし、その背に負うは影二つ。
「これはルール違反では?」
「はは、これをしてはいけないなんて言われてませんよ。それに、このレースはなんでもアリだそうで」
 クィーヴラの動きを縫い留める最中、トリテレイアとロシナンテはそこに全力をつぎ込んだ。その結果として、動けぬではないけれど彼らがコースを走破するだけのエネルギーはもう残されていなかったのだ。
 最初からクィーヴラの対処を目的としていたトリテレイアであればこそ、そのままリタイアするも辞さなかったけれど、それを阻むようにユーイが何も言わずトリテレイアを担いで己のボードに乗せたのである。
 なんでもアリ。としれり語った姿は、まだ彼女がレースを諦めていない、最後までベストを尽くさんとする姿そのもの。
「リタイアしかけた参加者と一緒にゴールをするだなんて、これはとんでもない悪事ですね」
「そうかもしれません」
「困りました。これでは、優勝候補を引き摺り落とす為だけに参加した悪逆の騎士としての私の悪行が霞んでしまいます」
「あはは、頭が痛くなるばかりの今回でしたけれど、私も最後には多少でもこの世界に馴染めたということかもしれません」
 いつの間にか歓声は随分と近づいて、そして、二人もまた他の参加者と同じく、その歓声に包まれながら旗舞う下を潜るのであった。




〇最終順位結果発表〇

1位:シン・フォーネウス
2位:ライカ・ネーベルラーベ
3位:オブシダン・ソード&小日向・いすゞ
4位:ティオレンシア・シーディア
5位:フェルト・ユメノアール
6位:納花・ピンチン
7位:ユーイ・コスモナッツ
同順:トリテレイア・ゼロナイン

              (敬称略)

  ―― 幕 ――

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年02月01日


挿絵イラスト