7
希望へと続く道~略奪者達の破砕曲

#アポカリプスヘル #ヴォーテックス・シティ #希望 #希望へと続く道

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#アポカリプスヘル
🔒
#ヴォーテックス・シティ
#希望
#希望へと続く道


0




● 白亜の塔とスラム街
 ヴォーテックス・シティの一角に、不自然なほどみすぼらしいスラム街があった。喧騒と悪徳に支配され、夜もなお眩しいくらいに明るいこの街の中で、スラム街に灯るのはささやかな焚き火のみ。朽ちかけたビルは補修もされずに放置され、住人たちはヴォーテックス・シティから命がけで盗んできたわずかばかりの食料を分け合い、身を寄せ合って生きていた。
 高い塀に囲まれ、息を潜めるように存在する街の名はレクター街区。ヴォーテックス一族に連なると噂される強大なオブリビオンの庇護の許、レイダー達の脅威から解放された人間たちの砦だった。
 周囲を高い塀で囲まれた街を見下ろす、白亜の塔。巨大な病院を併設した研究施設の一角に、三人の人影があった。白衣を着た青年ーーレクター博士は、助手のイリアに導かれて室内に入った彼の庇護主であり『契約』と『賭け』の主でもある科学者・レイドの姿に立ち上がった。
「レイド博士。今日はどういった用件で?」
「いやいや、楽にしてください。今日は貸していたものを返して貰おうと思いましてね」
「貸していたもの……?」
 怪訝そうに首を傾げるレクター博士に、レイドは頷き窓の前に立った。眼下に見える暗い町並みを一瞥したレイドは、振り返ると両手を広げた。
「そう。博士には先日、人間の収奪のために生産プラントをお貸ししました。ロージス・シティの人間を収穫してくるという約束でね。でも、あなたは人間の収穫どころか標的も囚えられず、生産プラントを破壊される始末」
「それは……」
「ああ、いいんですよ。生産プラントの一つや二つ、いくらでも増産はできますから。あなたのフラスコチャイルドと同じですよ。ただ、こちらも上から奴隷を献上しろとうるさくてですね。人間狩りを決行することにしました」
 紅葉狩りにでも行くような口調で軽く言った直後、スラム街から爆発音が響いた。窓の下は暗く沈んでいるはずが煌々と明かりが灯り、爆音と共に武装バギーに乗り込んだレイダー達が人々を追い立て、殺し、犯しながら残りを一箇所に集めていく。目の前で繰り広げられる殺戮と強奪に、レクター博士は顔から血の気を引かせると拳を握って叫んだ。
「レイド博士! 街区には手を出さないという契約の筈だ!」
「私は何も、指示なんてしていませんよ。ただ、しばらく人間狩りもしていませんでしたからね。手下たちは殺戮に飢えている。『偶然』ルート上にあった街に『偶然』人間がいたら、ついでに狩りをするのは当然……」
「ふざけるな!」
 叫びながら猛然と掴みかかろうとするレクター博士の胸に爪が突き立つ。身体を傷つけない攻撃はしかし、レクター博士の目から光を奪う。言葉もなく膝を突き涙を流すレクター博士に寄り添ったイリアには目もくれない。そんな二人を心底楽しそうに見つめたレイドは、口元を三日月型に歪ませた。
「さあ、宴を楽しみましょう! なに、フラスコチャイルドの量産設備ならばいくらでもお貸ししますから、新しい住人はまた作ればよろしい。あなたの研究さえ完成すれば、ヴォーテックス・シティから解放して差し上げますから、明日からまた頑張りなさいな」
 窓ガラスに縋るレクター博士の背後で、含み笑いが響いた。

● グリモアベースにて
「仕事だよ、アンタ達」
 冷静な声で言ったパラスは、ヴォーテックス・シティの一角を指差した。
 レクター街区と呼ばれるスラム街にいる人間たちはオブリビオンの迫害から逃れ、ささやかだが自治が黙認されているのだが、この街が蹂躙されようとしているのだ。
 幸い、これは予知情報。今から手を打てば回避も可能だ。街に危害が加わる前にレイダー共の人狩り戦車に爆弾を仕掛けて頃合いを見て爆破してやれば、人狩りの親玉が出てくる。そこを叩けばいい。そこまで説明したパラスは、口の端を持ち上げた。
「親玉を倒せば後は逃げるだけだけどね。どさくさに紛れて街の連中がついてくるのは仕方がないことさ。無論、追っ手は掛かる。街の連中は足手まといには違いないが、護衛しながら逃げれば何とかなるもんさ。ついでに、連れ出したい人間がいるなら呼んどいで。それくらいの時間ならある。……まあ、どうするかは任せるがね」
 無論、車への細工が手薄になれば敵の数が多くなり逃走が困難になる。街の人間を避難させなければ、彼らはこの街に取り残される。他に何かをするにしても、行動は一つに絞った方が良いだろう。
「連中を放置すれば、別の街を襲いに行く。あの世界にこれ以上の悲劇はいらないんだよ。ヴォーテックス一族にひと泡吹かせておやり」
 猟兵達を見渡したパラスは、一つ頷くとグリモアを展開した。


三ノ木咲紀
 オープニングを読んでくださいまして、ありがとうございます。
 今回は三部作の第三部。第二部の結果を受けてのシナリオとなります。
 タグ「希望」とついた一連のシナリオの続編になります。未読でも大丈夫です。

 現在、メルはロージスシティにいます。彼女は猟兵達の役に立ちたいので、作戦に必要とあらば喜んで力を貸しますので必要でしたらプレイングでお声がけください。
「連れて行かない」というプレイングよりも優先されます。お声がけが無ければ登場しません。

 第一章は冒険です。
 街を襲う気満々なレイダー達と話を合わせて、戦車やバギーに爆弾を仕掛けるのがメインです。
 他にも街へ出て避難誘導すると、第三章で護衛の必要が出てきますが街の人達を逃がすこともできます。彼らの移動手段などもプレイングで指示願います。でなければ徒歩で逃げる人間が多く出てきます。住人の内何人かは運転ができます。
 また、レクター博士やイリアと接触し、説得して連れ出すことも可能です。
 下の二つはプレイングが無ければそのまま放置されます。

 第二章はボス戦です。黒幕のオブリビオンを倒してください。
 第三章は集団戦です。状況に応じた逃走劇カーチェイスになります。
 断章の予定はありません。

 プレイングは1月16日(土)朝8時31~1月17日(日)朝10時頃まで受付ます。それ以降はロスタイムです。

 それでは、よろしくお願いします。
143




第1章 冒険 『人狩りマシンに爆弾を』

POW   :    喧嘩騒ぎを起こすなどして注意をそらしている隙に、他の誰かに爆弾を仕掛けてもらう

SPD   :    レイダー達に見つからないように隠密行動を行い、秘密裏に爆弾を仕掛ける

WIZ   :    怪しまれないように他のレイダー達から情報を得て、効率的に爆弾を仕掛ける

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

森宮・陽太
【一応POW】
アドリブ連携大歓迎

ちっ、しばらく忙しくしていたらこういう状況になっていたとは
しかし偶然を装って意図的に人狩りをする気満々じゃねえか
てめえら、全員生きて帰れると思うなよ…!

避難誘導は他の猟兵に任せる
俺は爆弾設置に回るぜ
メルを連れて行くのも構わねえが、そちらも他の猟兵任せ

ひとまず「高速詠唱」からスパーダ召喚
適当にふらつかせておけば勝手に向こうから突っかかってくるだろ

スパーダを囮に俺は「闇に紛れる、忍び足」でこっそり戦車やバギーに接近
運転席らしき場の目星をつけたら「破壊工作」で爆弾設置
もし武装が取り付けてあったら、そちらにも爆弾設置
とりあえず運転席を破壊すればどうにかなると思いてぇ


レパイア・グラスボトル
今回は悪い仕事だね。つまりはいつも通りってことだ。
ちょいと勿体ないけどあちらさんの足は潰させてもらうかね。

売り物を壊しちゃ駄目だろうと普通に話しかける。
目につく怪我人は治す。走れない者を優先。
邪魔をされれば、レイダー及び車両に対して、家族を投擲。

爆破を実施、上手くいけば車両を略奪でき、駄目でも足を潰せる。

誰でも治療し、暴れ爆発させ注目を集める。
どこの世界の言葉だったか、暴力と爆発は街の華らしい。
死人は出さない。

レクター博士やイリアがいる付近に家族を投げて爆破。避難路を作る。
運が良けりゃ逃げれるだろう。怖いお姉さんもついてるようだしな。

怪我していたら治す。
ついでに良い物があれば略奪する。

アレ絡歓



● 暗殺者と悪魔
 闇に沈む人間達のスラム街・レクター街区。
 周囲の喧騒を切り離すようにそびえる高い壁を見上げた森宮・陽太(人間のアリスナイト・f23693)は、無愛想で無機質な灰色の壁に舌を打った。
「ちっ。しばらく忙しくしていたら、こういう状況になっていたとは」
「今回は悪い仕事だね。つまりはいつも通りってことだ」
 陽太の舌打ちに、納得したように頷くレパイア・グラスボトル(勝利期限切れアリス・f25718)は、焚き火を囲んで殺戮の戦績を自慢し合うレイダー達の声に目を細めた。
 顔を上げた陽太の耳にも、嫌でも聞こえてくる。やれこの槍で親子四人を「仲良く一つに」してやっただの、やれ今度の連中は研究所送りでレクターの実験材料にするらしい、だの話し合っている声を聞いていると、控えめに言って反吐が出る。
「偶然を装って意図的に人狩りをする気満々じゃねえか」
「ちょいと勿体ないけど、あちらさんの足は潰させてもらうかね」
「そうだな。足が無けりゃただのレイダーだ。ーー紅き剣を司りし悪魔の剣士よ、我が声に応え顕現せよ。そして己が紅き剣を無数の雨として解き放て!」
 大きく伸びをしたレパイアに頷いた陽太の高速詠唱に応え、現れた捻じれたふたつの角を持つ漆黒と紅の悪魔が紅き短剣を解き放つ。幾何学模様を描きながら飛翔する短剣と共に現れたスパーダの姿に、レイダー達の怒声と銃声がこだまする。
 巻き起こる混乱に目をスッと深めた陽太がいた空間が、ふいに揺らいだ。気配を消し、闇に紛れた陽太は忍び足でレイダー達の戦車に歩み寄った。あの連中が自分で整備をするとは到底思えない。奴隷たちが整備したであろう戦車やバギーは不自然なくらいピカピカだが、取付けられた槍の穂先や柄、車体の隅には明らかな血の曇りが染み付いている。
 幾人もの命を奪った槍や銃器に爆弾を次々に取付けていく。運転席の下やエンジンルームなど重要な箇所にも仕掛けて回る。陽太はアポカリプスヘルの自動車には詳しくないが、運転席を破壊すれば何とかなるだろう。
 着々と準備を進める陽太の背後で、大爆発が巻き起こった。レパイアが派手な動きをしているのだろう。まるで火遊びのように景気よく巨大な爆発物を投擲して回るレパイアの姿に、幾人かのレイダーが自慢の戦車に駆け寄った。運転席に座り、エンジンを掛けると凶悪なヘッドライトが煌々と輝いてはレパイアの背中を映し出す。
「くそ、あのアマ! 踏み潰してやる!」
「させねえよ! てめえら、全員生きて帰れると思うなよ……!」
 レイダー達が乗り込んだ時を見計らい、起爆装置を押す。その直後、レパイアを踏み潰そうと迫っていた殺戮戦車が爆発し、盛大な音を立てて炎上する。
「糞が! 戦車に爆弾を仕掛けたのは誰だ!?」
 火ダルマになりながらも慌てて飛び出したレイダーが周囲を見渡した時には、陽太は既にそこにはいない。犯人を探すレイダーをあざ笑うかのように、第二、第三の爆発音が盛大な音を立てた。

● 人命救助とレイダー爆弾
 時は少し遡る。
 陽太と共に街区の壁を見上げたレパイアは、高い壁に肩を竦めた。世界を分断するような壁は高くそびえ、ヴォーテックス・シティの暴虐から住人を守ると同時に住人たちを閉じ込めている。籠の鳥のささやかな平穏は破壊されようとしている。
 レパイアはそれを悪とは思わない。所詮この世界は弱肉強食。弱いものは虐げ、搾取しても良いのが自由の掟。その一員であるレパイアもまた、そのルールに従うのみだった。
 つまり。レパイア達強者がレイダー達弱者を搾取する。自由の名の下好きにする。平常運転というものだ。
「今回は悪い仕事だね。つまりはいつも通りってことだ」
 腕を組んで頷くレパイアの耳にも、レイダー達の話し声は聞こえてくる。その会話も、レイダー達にはいつものことだろう。楽しそうだと目を細めるレパイアの隣で、陽太が怒気を孕んだ声を上げた。
「偶然を装って意図的に人狩りをする気満々じゃねえか」
「ちょいと勿体ないけど、あちらさんの足は潰させてもらうかね」
 頷き、高速詠唱を開始する陽太の声を背にしたレパイアは、地面を蹴ってレイダー達に近づいた。高速詠唱とはいえ、多少時間は掛かる。時間稼ぎと洒落込もうか。
「やあ。この街の連中を研究材料にするって?」
 気軽に話しかけるレパイアに、レイダー達は怪訝そうな表情で立ち上がる。レパイアの何倍も体積があるレイダーは、威嚇するようにレパイアを睨みつけた。
「あぁ? なんだこのアマ、スラム街の住人か?」
「違うけど、売り物を壊しちゃ駄目だろう」
「何を言って……」
 言いかけたレイダーの背中に、紅き短剣が突き刺さる。縦横無尽に空間を駆け巡る短剣と現れた悪魔の存在に、パニックを起こしたレイダーが銃口をレパイアへ向けた。
「てめぇ、これはてめぇの仕業か……!」
「違うけど、まあ違わなくもないか?」
 レパイアが掲げた掌に、召喚されたレイダーが現れる。モヒカンや棘付肩パットの先についた導火線が、ジリジリと音を立てながら短くなっていく。体育座りで丸くなる召喚されたレイダーの家族が、突然の召喚に周囲を見渡している。その様子に笑ったレパイアは、大きく振りかぶると迫る敵に投げつけた。
「てめぇ、レパイア! お前また……!」
「ーー心配するな! バラバラになっても治してやるから! ……生きていたらな」
 ぽそりと付け加えたレパイアの手を離れた家族が、巨漢に向けて飛んでいく。手にした斧をやけくそに振り回した家族はその直後、盛大に爆発した。
「それそれ、行って来い!」
 次々に投げ込まれる爆弾に、場が混乱する。始まる銃撃を敵や家族を盾に回避したレパイアは、背中を照らし出すまばゆい光に目を眇めた。殺戮戦車に乗ったレイダーが、レパイアを踏み潰そうと迫る。反射的に身構えたレパイアの目の前で、戦車が爆発した。火だるまになった身体を何とか消火するレイダーの前にしゃがみこんだレパイアは、傷口に消毒薬をぶちまけた。
「ぎゃあ! 痛ぇ!」
「どこの世界の言葉だったか、暴力と爆発は街の華らしい。死人は出さないのがワタシの流儀だけど、死ぬほど痛いのは知ったことじゃないね」
 ニヤリと笑ったレパイアは、白亜の塔から駆け出す人影を視界の端で見ると召喚家族を投げつけた。彼らに迫っていたレイダーが、爆発に巻き込まれて地面を転がる。その隙に駆け出した背中を見送ったレパイアは、遠ざかる陰に口元を歪めた。
「運が良けりゃ逃げれるだろう。怖いお姉さんもついてるようだしな」
 視線を外したレパイアは、うめくレイダーの火傷に消毒薬をぶちまけた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

影見・輪
レイダー達と話を合わせたり[言いくるめ]たりして、[情報収集]しつつ
爆弾仕掛けていくよ

戦力削ぐのとあわせて、避難時の移動手段として確保できないかも探っておきたい
うまくすれば住民に操縦お願いして他の住民乗せるなどして
避難効率上げることもできるだろうしね

レクター博士やイリアは仲間が連れ出してくれることを信じて託すね
街の人達の命がかかってるから誰かの声さえ届けば
彼らは味方になってくれると思うから

街の住民の避難誘導は、可能ならメルにお願いしたいかな
メルとイリアがそっくりなら、住民が危害加えたり警戒したりすることはなさそう
誘導は、後の護衛効率考えできるだけバラバラにならないようにしてもらえたら助かるかも


桜雨・カイ
街の住人を避難させます
移動が難しい人は【呼景】で一時的に中へ入ってもらいます
他はどうやって避難させましょうか…このままでは…そうだ先日レクター博士が車で追いかけてきたという事は車やバイク、運転できるフラスコチャイルド達もいるはずですよね、襲撃前なら車も確保できるかも

レクター博士を探して説得
あなたは街区の人達を守りたいんですよね
今の目的は私達と同じはずです

イリアさんを倒した私の事は
傲慢だと、敵だと思うかもしれませんが
私の思いは同じです
メルさんを犠牲にはしません
でも、あなた達にも生きて欲しいんです

あなたならこの街にも詳しいでしょう、お願いですどうか街の人やフラスコチャイルド達を連れて逃げて下さい


ユディト・イェシュア
これは博士を契約から解放する好機かもしれませんね
メルさんには全てを見届ける権利があります
危険はありますが彼女にその意思があれば
もちろん全力で守ります

スラム街を訪れた聖職者を装って
レイダーたちに声をかけてみて
どれくらいの数がいるか把握しましょう
必要であれば気を引いて仲間が動きやすくなるように
仲間と情報を共有し
車への細工の手が足りなければそちらを優先し
大丈夫そうなら住人の避難を

逃走に使えそうな車両がないか事前に確認
聖職者が説法をしに来たという体で
人々を集めましょう
いざという時固まって逃げられるように
いざ爆発が起きた時パニックにならないように

イリアさんたちも気になりますが…
そちらは仲間に任せましょう


ジフテリア・クレステッド
あーあ…なーんかなー…。
メル、ついて来たいならついて…違う。私がメルについて来て欲しいだけ。
ある意味じゃ1番の被害者であるメルに見定めて決めて欲しい。

道中で魔界盗賊としてのスキルを活かして【目立たない】ように爆弾を設置。住人の避難用に車のキーとかも【盗み】、住人たちに渡して逃げるように伝える。レイダーと鉢合わせないように【忍び足】で。

博士とイリアのところに向かってメルと話をさせる。どうするかはメルに任せるよ。
もしメルが逃がすことを選ぶようならこの場だけは協力する。

…言ったでしょ。『地獄を見せてやる』『諦めるまで何度でも殺してやる』って。
くだらないやつにテキトーなやられ方、させたくないんだよ。


櫟・陽里
人手が足りなきゃ避難誘導に加わるけど
基本は爆弾設置のつもりで参戦するよ
乗り物には詳しいから各マシンの弱点を一瞬で見極めて
最小限の爆弾を選んで素早く作業し立ち去る
あと、逃走する時のことを考えて盗めそうなマシンがあれば目星をつけとく
乗り物ってのは人の役に立つために生まれてきたんだ
人に仇なすものなら壊すしかない、悲しいけどね

作業中は街に馴染んで目立たないようにしよう
ライじゃ確実に目立つから徒歩
古い服着て背筋を曲げてダルそうにノロノロ歩けば…
なかなかの雑魚ゴロツキ演技なんじゃね?よし、いける。

避難誘導担当に事前に計画だけ聞いときたい
作業中に一般人を見つけたら
どの方向に逃げるか位は教えてやりたいからさ



● 生かす車 殺す車
 時は少し遡る。
 巨塔の地下駐車場から轟音を上げて街区へと出ていく戦車達を物陰から見送った櫟・陽里(スターライダー ヒカリ・f05640)は、ようやく途切れた車列に影見・輪(玻璃鏡・f13299)を振り返った。目を見交わして頷き合い、閉まろうとするシャッターの隙間に滑り込む。転がるようにして滑り込んだ二人は、立ち上がると服についた埃を払った。
「潜入成功だね」
「ああ。あのバギーはどう見たって人をあんまり乗せられないからな。人狩りをするならトラックとかジープとか、そういうのがあるはずだ」
「それをいただいちゃえば、戦力削ぐのとあわせて避難時の移動手段として確保して、避難効率上げることもできるだろうしね」
 頷きあった陽里は、広い車庫を改めて見渡した。一角にあった戦車やバギーは出払っていたが、奥には人狩りで手に入れた奴隷を積むのであろうトラックがあった。街の人間がどれだけいるかは分からないが、なるべく多くをすぐに使えるようにしておくのがいいだろう。
 トラックの確認をした陽里は、車庫で眠る殺戮戦車や暴走バギーに眉をひそめた。ここにあるのは、陽里が愛する乗り物だ。だが、これらは放置しておくと必ず人間を殺す。今のうちに破壊して、少しでも後顧の憂いを断っておくべきだ。小さくため息をつく陽里に、車体の下に爆弾を仕掛けていた輪が首を傾げた。
「どうしたの?」
「いや。……乗り物ってのは人の役に立つために生まれてきたんだ」
「……」
「だけど、人に仇なすものなら壊すしかない、悲しいけどね」
 戦車の車体を撫でた陽里は、心の中でそっと謝罪すると気持ちを切り替え素早く動き出した。世界は違うが、車のことはよく分かる。一瞬で車種を確認しては、最も効果的な場所に最低限の爆弾を仕掛けていく。この車庫の戦車達を全部破壊する勢いで爆弾を仕掛けていた陽里に、怒鳴り声が掛けられた。
「おい、貴様そこで何をしている!?」
 後ろから掛けられた声に、陽里は大きく身体を震わせると薄汚れたジャケットの前を合わせた。背中を卑屈に丸めて、怯えたような上目遣いで男を見る。警棒を手にした男は警備員風で、いかつい体つきに冷酷で残忍な目をしていた。
「いや、「整備がなってない」って……」
「はぁ?」
「きみ、どきたまえ」
 怪訝そうな男は、掛けられる声に振り返る。自分の倍以上もある警備員に、輪は一歩も引かない。きちっとした白衣を着込んで伊達メガネをしてファイルを手にしている輪は、パッと見は科学者に見えることだろう。実際、陽里の目にはそうとしか見えない。
「この男は整備士でね。今度の人間狩りのバギーの整備を命じてたんだが、全然なってなくてね。今やり直しをさせているところだよ」
「上からはそんなこと……」
「上の言うことなんて、すぐ変わるだろう?」
 やれやれ、とため息をつく輪に、思い当たる節があるのだろう。警備員は舌打ちすると、踵を返した。
「ちっ。さっさとしてくださいよ。こちとら人間狩りに参加できなくてイライラしてるんだ」
「ああ、ついでに今から奴隷を乗せるトラックを移動させるから、シャッターを開けておけ」
「へいへい」
 ブツブツ言いながら去っていく背中が角を曲がる。完全に消えた気配に、二人は大きく息を吐き出した。ここで潜入がバレたら、車を奪うどころの騒ぎではなくなってしまう。
「サンキュ、輪。名演技だぜ」
「陽里さんこそ、堂に入ってたね」
「それ、褒めてるのか?」
「褒めてる褒めてる。……じゃあ僕は、街の人達の避難を手伝いに行くね」
「俺はもう少し爆弾を仕掛けたら、トラック移動させておく」
 打ち合わせを終えて去っていく輪の背中を見送った陽里は、爆弾のセット作業を再開した。

● 守るための説得
 一方。
 先日の戦いで猟兵が開けた巨大な穴から街の中へ入ったユディト・イェシュア(暁天の月・f05453)は、被ったフードから顔を出すと周囲を見渡した。転送されたポイントから少しヴォーテックス・シティの中を歩いた。喧騒と退廃と死と暴力が充満する市街地とは壁一枚を隔てるだけだというのに、スラム街は驚くほど暗くて静かだ。だがこちらのほうが、ユディトには好ましく感じられた。
 同じことを思ったのか。似たようなボロを被ったメルはユディトのマントの裾を掴むと周囲を見渡しポツリと言った。
「静かだね。……メルに、皆を説得できるかな?」
「危険はありますが、貴女にその意思があれば、俺はもちろん全力で守ります。それに……」
「動くな!」
 言いかけたユディトを遮るように、鋭い声が掛けられる。物陰から突きつけられるガトリングガンの銃口に、ユディトはメルを背後に庇い前に出た。この穴を警戒していたのだろう。先日この街中で追いかけてきたフラスコチャイルド達のリーダー格が、数人の部下とともに鋭い目で睨みながら口を開いた。
「ここはレクター街区。ヴォーテックス一族のレイド博士の縄張りだ。即刻ここから出ていって貰おうか!」
「そういう訳にはいきません。俺達はあなた方を、この煉獄から救いに来たのです」
「は? 何を言っている?」
 怪訝そうに首を傾げる隊長格には構わず、ユディトは続けた。
「俺の話を聞いてください! 大いなる破滅は、すぐそこまで来ています。このままではあなた方は蹂躙され、殺され地獄を見るのです。ですが、俺達が来たからもう大丈夫です。どうか、俺達についてきてください。あなた方はもう、この街で苦しまなくても良いのです」
 胸に手を当て真摯な表情で訴えかけるユディトは、布教をしに来た宣教師にしか見えない。怪訝そうな隊長格は、ユディトを追い払うように手を振った。
「なんだ? 布教でもしに来たのか? 生憎、私は神の存在なんて信じない。私が信じるのは、レクター博士だけだ!」
「レクター博士……」
 ポツリと呟いたメルは、しまったという顔で口を押さえるが既に遅かった。メルをチラリと見たフラスコチャイルドは、その姿に目を見開いた。
「イリア……? いや、違う。お前はメルか!」
 叫ぶと同時に、矢のように駆け出す。大きく踏み込みメルに伸ばされた手を跳ね飛ばしたユディトに、隊長格は苛立ったように叫んだ。
「そこをどけ! メルを連れてきたなら話は早い、そいつを渡して貰おうか! そいつがいれば、私達はこの街から出られるんだ!」
「それはできません! メルさんは渡せません。ですが、あなた方は必ず救います! これは博士を契約から解放する好機なんです。だからどうか、話を聞いてください!」
「……納得できなかったら、メルを連れていけばいいよ」
「メルさん!」
 頑なな隊長格の前に、メルが一歩歩み出た。驚きに目を見開く二人に、メルは微笑んだ。
「皆が危ないのは、本当なの。だからメル達は来たんだよ。ユディトさん達の話を聞いて、納得できなかったらメルをレクター博士のところに連れて行って。そうすれば、どっちになっても皆は助かるよね? 話を聞いてくれないなら、メルは絶対そっちに行かない」
「メルさん!」
「大丈夫。メルは信じてるから」
 驚くユディトに、メルが微笑む。一瞬迷ったフラスコチャイルドは、情報収集型無人機とダミーオブリビオンを召喚すると街中に放った。
「……いいだろう。その言葉、忘れるな!」
 言い放ったフラスコチャイルドの呼びかけに、静かな街は少しだけざわついた。

● 説得
 車庫を抜けた輪は、街区へと入り込むと広場に集まる人々の姿に駆け寄った。先日輪達を追いかけてきたフラスコチャイルド達の姿も見えるが、輪の姿をチラリと見るだけで攻撃を仕掛けてくる様子はない。情報拡散のユーベルコードを使ったのだろう。体育館のような建物の中にこっそり集められた街の人々は、皆不安そうな表情で周囲を見渡していた。
「みんな! メルの話を聞いてほしいの!」
 ざわつく住人たちは、メルの声に話をやめる。木箱の上に立って住人たちを見渡したメルは、緊張したように手を握ると猟兵達を見た。今からメルは、猟兵達の指示に従うように住人たちを説得するのだ。与えられた大役をこなそうとするメルに、笑みを浮かべて頷いてあげる。出会った頃のメルならばできなかったことでも、今ならばできる。見守ってくれる猟兵達の視線に頷いたメルは、住人たち一人ひとりと目を合わせるように語りかけた。
「今、この街区が危ないの。この街区の皆を奴隷にして連れて行こうっていうレイダー達がいて……」
「そんなの嘘よ。信じないわ」
「そうだそうだ! ここは守られた街区だから、安全なはずだ!」
 口々に言い募る住人たちに、メルは一瞬押し黙る。負けそうになる意思を総動員したメルは、住人たちに向けて叫んだ。
「皆はここにいたいの? ここでずっと、レイダー達に怯えたいの? 違うよね。ここから出たい。だからメルを狙ったんだよね。メルがいれば、博士の研究は完成するから。そうすれば皆、この街から出られるから。でもメルは死なない。皆も死なせない。猟兵の皆がメルを守ってくれたみたいに、皆のことも守るよ。だから、一緒に逃げよう!」
「メルさんの言う通りです。ここにいてはいけない。例え今夜襲撃が無くても、遅かれ早かれ蹂躙されてしまう。どうか俺達を信じてください」
 聖者の笑顔で住人たちを見渡したユディトの笑顔に、住人たちはざわめく。広がる動揺に、住人の一人が手を挙げた。
「確かに俺達はここから逃げたい。あんた達が追っ手を殺さなかったのは知ってる。でも、街区から出たってその先はヴォーテックス・シティ。荒野まではとても……」
「大丈夫です。今仲間たちが、皆さんの避難ができるように車を奪いに行っていますから」
「そうだよ。A-238って車庫に奴隷を乗せて走る用の車があったからね。それを奪って逃げられるように、今仲間が動いてる」
 輪の説得に応えるように、最初のトラックが到着する。トラックのエンジンを切り、手を上げ合図し再び車庫へ向かう陽里の姿に、住人たちが再びざわつき出す。それぞれの不安を出し合いながら話し合う中、一人の少年が手を上げた。
「でも、その車にお母さんは乗れないよ。病気で起き上がれないんだ。今も家で寝てる。お母さんが逃げられないなら、僕もこの街に残るよ」
「大丈夫ですよ。あなたのお母さんも、ちゃんと逃げられます」
 微笑んだ桜雨・カイ(人形を操る人形・f05712)は、少年の前に出るとしゃがんで視線を合わせた。今にも泣き出しそうな少年の前に、淡い光を手の中に浮かべる。見たこともない綺麗な景色に目を見開く少年に、カイは安心させるように微笑んだ。
「この中はとても広くて安全です。出たいと思えばいつでも出られます」
「……本当に?」
「本当だよ。僕と一緒に入ってみようか」
 少年の手を取った輪が、【呼景】の光に触れる。消えた人影にざわつく人々の目の前で、二人が無事に帰還した。
「いかがでしたか?」
「すごい! すごく、綺麗だった! きれいで、すごかった!」
「ありがとうございます」
 興奮して頬を赤らめながら両手を振る少年に、街の人々が再び顔を見合わせる。立ち上がったカイは、街の住人たちを見渡した。
「病気の人や身体の不自由な人は、この【呼景】で一時的に中へ入ってもらいます。出たいと思わない限り安全ですが、街の人達全員をこの中に避難させることはできません。だから、皆さんは奪ったトラックで一緒に逃げて欲しいんです」
「でも。例え車があったって運転できなければ……」
「先日レクター博士が車で追いかけてきたという事は車やバイク、運転できるフラスコチャイルド達もいるはずですよね。運転をお願いできますか?」
 カイの呼びかけに、見守っていたフラスコチャイルド達の視線がリーダー格に集まる。腕を組み、眉間に皺を寄せたリーダー格は、集まる視線に頷いた。
「……いいわ。ただし、博士がいなければ運転しない。博士をこの街に残していくなんて、できないもの」
「博士もイリアさんも、一緒に連れ出します」
 力強いカイの声に、フラスコチャイルド達は一歩前に出た。強い視線を向けるリーダー格を、カイは真っ直ぐ見返した。
「必ずよ!」
「はい、必ず。……俺は身体の不自由な人達を迎えに行きます。案内してくれますか?」
「うん! こっち!」
 少年に連れられて、カイが場を離れる。ざわつく街の住人たちは、大部分が覚悟を決めたように見える。集まった住人たちに、メルは改めて声を掛けた。
「みんな。メル達についてきてくれる?」
「ああ!」
「どうせこの街にいたって、未来はない」
「なら、私達はあなた達に賭けるわ!」
「ありがとう、ありがとう皆! 一緒に逃げよう!」
 安心したように息を吐いたメルは、街の住人たちに微笑みを浮かべた。

● 二律背反
 木箱を降りたメルは、大役を終えて安心したように胸を撫で下ろしている。そんなメルに歩み寄ったジフテリア・クレステッド(ビリオン・マウスユニット・f24668)は、目を輝かせながら駆け寄ってくるメルの姿に髪を掻き上げた。
「メル。その、いい演説だったよ」
「ジフテリアさん! ありがとう! でも、街の皆を説得できたのは、猟兵の皆のおかげだよ」
「そんなことない。メルの気持ちが通じたんだ」
「ううん。ジフテリアさん達がいてくれたから……」
「って、言い合ってる場合じゃないか」
 続きそうな問答を遮ったジフテリアは大きくため息をついた。同胞たちを何人も殺し、執拗にメルを狙う博士やイリアを本気で殺してやりたいと思った。今もその気持に変わりはない。例えどんな理由があったって、博士はメルを苦しめた。その生命を今でも狙っているし、つい先日は実際に命の危険に晒した。とても許すことなどできそうにない。
 だが、博士には博士の譲れない正義があり思いがある。それを知ってしまったからには、このまま放置して死なせるのは寝覚めが悪い。
「あーあ……なーんかなー……」
「ジフテリアさん?」
「メル、今から博士のところに行くけど、ついて来たいならついて……」
 言いかけたジフテリアは、自分の物言いに苦虫を噛み砕いたような顔でため息をついた。違う。そうじゃない。その言い方はずるい。
「……違う。私がメルについて来て欲しいだけ。ある意味じゃ一番の被害者であるメルに、見定めて決めて欲しい。博士を生かすか、殺すか」
「……ジフテリアさんは、殺したいんだと思ってた。博士のこと」
 小声で言うメルに、ジフテリアは眉を顰める。大きく息を吐いたジフテリアは、メルから視線を外して塔を睨みつけた。
「これ以上何もできないように、黙らせてやりたい。でも、それは私の気持ちだから。博士に一番迷惑かけられてるメルが決めたなら、私は何も言うことはないよ」
「ジフテリアさん……。ありがとう。メル、助けられてばかりだね」
 握り締めたジフテリアの手を、メルはそっと取った。驚いて目を見開くジフテリアに、メルは微笑んだ。
「メルは行くよ。一緒に行かせて。博士やイリアと、ちゃんと話がしたいの」
「メル……」
「街の人達の命がかかってるから、誰かの声さえ届けば彼らは味方になってくれると思うから。声を届けられるのは、メルだと思うよ」
「そうですね。メルさんには全てを見届ける権利があります」
「輪さん、ユディトさん……。ありがとう!」
 力強く頷く輪とユディトに、メルが嬉しそうに頷く。動けないジフテリアの耳に、帰ってきたカイの驚きの声が響いた。
「メルさん……! 博士のところに行くって、あの塔の中に行くんですか?」
「カイさん。メルは行くよ。博士たちとちゃんと話がしたいから」
「でも……」
 メルの決意に、カイは明らかに迷ったように言葉をさ迷わせる。やがて大きく息を吐いたカイは、小さく頷いた。
「分かりました。私も行きます。博士たちには、私も言いたいことがありますから」
「カイさん、ありがとう!」
 カイの手を取るメルに我を取り戻したジフテリアは、白亜の塔を見上げた。メルの救助に、あの塔の中には潜入したことがある。先導はジフテリアが一番の適任だった。
「予知情報があるから、博士が行きそうなところは予想がつく。私が案内するから、離れないで」
「うん!」
「僕はここで避難を手伝うよ。博士のことは皆に任せた」
「俺も、ここで手伝います。町の人達の不安を、少しでも取り除いて差し上げたいですから」
「よろしく。ーーさあ、行こう」
 街に残る二人に、この場を託す。頷きあった猟兵達は、一斉に行動を開始した。

● 救いの手
 潜入作戦が始まった。目指す先は、メルが捕まっていた研究室の近くにある控室。先導は魔界盗賊であるジフテリアに任せ、カイは殿を務めた。万が一誰かに見咎められたりしたら、足止めして二人を先に行かせるつもりだった。
 精一杯の忍び足でついていくメルの背中に、カイは小さくため息をつく。本当はここに連れて行きたくなかった。危険な目に遭わせたくなかった。だが、メルの意思は固い。置いていくと言っても聞かないだろう。ならば、せめて危険が無いように守るだけ。
 行く先々で柱や梁に手際よく爆弾を仕掛けるジフテリアの姿に、思わず苦笑いが溢れる。カイはこの世界の建築に詳しくはないが、低層階にある柱や梁を爆破すれば上層階がどうなるかは想像に難くない。ついでにこの巨塔が崩れてしまえばいい。どうせ碌な研究はしてないんだろう。ジフテリアの無言の意思に、カイも否定はしない。
 やがてたどり着いたドアの向こうに、博士がいた。わざと大きな音を立てて開いたドアの向こうにいたレクター博士は、書類を手に振り返りもせずに声を上げた。
「イリア、レイド博士はなんて? なにもないならすぐに実験を再開……」
「こんばんは、博士」
 メルの声に、博士は弾かれたように振り返る。信じられない、という表情でメルを見た博士は、メルを守るように立つカイ達の姿に口の端を歪めた。
「やあ、メル。いらっしゃい。ついに研究に協力してくれる決心がついた?」
「ついてないよ。今日は、博士を迎えに来たの。一緒に逃げよう?」
「迎えに? その前に、どこへ逃げるのか聞いておきたいね……イリア!」
 博士の鋭い声と同時に、視界がホワイトアウトした。突然天井から降ってきた真っ白な煙に、一瞬視界が塞がれる。ようやく視界が晴れた時、状況は一変していた。
 メルを囚え、羽交い締めにしたイリアは、博士を背後から拘束し喉元にナイフを突きつけるジフテリアの姿を射殺しそうな目で睨んでいる。互いに人質を取り合い膠着する中、カイはレクター博士に向けて叫んだ。
「レクター博士! お願いです、どうか私達と一緒に来てください!」
「この状況で言うかい? まずは僕の解放が先だろう?」
「その前にメルを解放して」
「冗談ではないわ!」
 互いに一歩も引かないジフテリアとイリアの真ん中に立ったカイは、レクター博士の目を真っ直ぐに見つめると訴えかけた。
「あなたは街区の人達を守りたいんですよね。今の目的は私達と同じはずです」
「どういうことだ?」
 怪訝そうな博士に、カイは状況をかいつまんで説明する。レイド博士からの言伝を聞いていたイリアの眉が、ピクリと跳ね上がった。表情を変えるイリアを、カイは振り返る。
「イリアさんを倒した私の事は、傲慢だと、敵だと思うかもしれません。ですが、私の思いは同じです」
「そんなこと! 例えあなた達の言うことが事実だとしても。このままメルを連れ出してレイド博士に直談判すれば、状況は変わるかもしれないわ!」
「おめでたいねイリア」
 あざ笑うようなジフテリアの声に、イリアは鋭い目で彼女を睨む。互いに一歩も引かずに睨み合うジフテリアとイリアはそのままに、カイは再び博士に向き合った。
「メルさんを犠牲にはしません。でも、あなた達にも生きて欲しいんです。このままでは、いずれあの街区は蹂躙される。あなた方のことなんて、レイド博士はどうでもいいんです。それは、私達の侵入をここまで許したザルのような警備でも分かるでしょう!」
「っ……!」
 カイの言葉に、博士は口ごもる。ほとんどいない警備兵。働かないセキュリティ。それらはレクター博士達の安全は、研究はどうでもいいと、雄弁に物語っていた。
「あなたならこの街にも詳しいでしょう、お願いですどうか街の人やフラスコチャイルド達を連れて逃げて下さい。今が最大のチャンスなんです!」
「……」
 唇を噛んだレクター博士は、容赦ない力で自分を拘束するジフテリアに首を巡らせた。
「きみ、僕に対して『絶対殺す』って言ってた子だよね。どうして殺さないの? イリアはメルを殺せない。今ならノーリスクで絶対に殺せるのに」
「……言ったでしょ。『地獄を見せてやる』『諦めるまで何度でも殺してやる』って。
くだらないやつにテキトーなやられ方、させたくないんだよ」
 苦虫を噛み潰したようなジフテリアの答えに、レクター博士は笑い出す。さもおかしそうに笑ったレクター博士は、観念したようにイリアに視線を向けた。
「分かった。確かに、僕達の利害は一致している。ーーイリア! 2分で準備」
「博士……!」
「返事は?」
「……分かりました」
 渋々と言った風でメルを解放するイリアに、ジフテリアも博士を解放する。すぐさま行動を開始するイリアを見送ったカイは、解放されたメルに駆け寄った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『酔狂な科学者『レイド』』

POW   :    希望に燃えた過去
【叶えたい願い】を籠めた【毒爪】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【警戒心と戦意】のみを攻撃する。
SPD   :    似合いの現実
【理解と共感の視線】が命中した対象の【心臓】から棘を生やし、対象がこれまで話した【夢や希望、理不尽に対する怒りの言葉】に応じた追加ダメージを与える。
WIZ   :    行きつく未来
戦闘用の、自身と同じ強さの【帰る拠点を失った奪還者】と【無人の荒野を彷徨うソーシャルディーヴァ】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠パラス・アテナです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


● 狂う計算
 レクター街区に、爆発音が響いた。
 次々に爆発する殺戮戦車や人狩りバギーは無残に破壊され、ヴォーテックス・シティに爆発音が響き渡る。乗り手のレイダー達が右往左往する中、白亜の塔から火の手が上がった。
 地下駐車場の車が爆発し、ガソリンが引火して燃え上がる炎は白いビルを焼き焦がす。同時に上がった爆発音は塔に重要な柱や梁を破壊し、圧力に耐えかね崩壊を始める。巻き起こるパニックに、青い服を着た青年が声を張り上げた。
「手が空いている者は火を消しなさい! 塔は絶対に崩壊させないでください! ーーレクターはどこですか!」
「それが、研究室は跡形もなく……」
「いました、あそこです!」
 指を差す部下に、レイド博士は窓へと駆け寄る。レクター街区の大通りに次々と人狩り用の大型トラックが到着し、人々が乗り込んでいる。その中に駆け込むレクターの姿に、レイド博士は窓ガラスを殴りつけた。
「ここから逃げようっていうのですか? そうはさせません! あなたの、あなた達の絶望はまだこんなものじゃないのです。ここまで手間暇を掛けさせた代償を、今こそ払っていただきましょう!」
 踵を返したレイド博士は、矢のように駆け出す。爆発と火災の混乱は、未だに収まりそうにはないのだった。

※ プレイングは1月23日(土)8:31~1月24日(日)10:00頃までにお送りください。その後はロスタイムです。
影見・輪
避難する人達に攻撃が向かないよう護衛中心

人々には[オーラ防御]施し必要応じ[かばう]
優先度は
メル>避難する人達>レクター博士>イリア
仲間と連携しながら声掛け合図意識して立ち回るね

攻撃時はレイド博士が召喚したものをはじめ、
敵の数が多い場合はUCで[範囲攻撃]しかけ、数を減らすことを意識
"誘"で仲間の[援護射撃]するね

必要なら踏み込んで
"鮮血桜"使用の上、[捨て身の一撃、傷口をえぐる、生命力吸収]で攻撃するよ

レイド博士
キミもかつては自身の大切なものを救い守りたいって希望を持っていたのかな
何を見て、何を経験し、オブリビオンに堕ちたのかは僕には知る由もないけど
レクター街区の者達への危害は加えさせないよ


桜雨・カイ
【想撚糸】を広範囲で発動
これはメルさんや皆を崩壊や炎から守る結界であり
敵を足止めする網
追っ手たちが動揺している間に足止めしないと

あなたがレイド博士ですか
…さっき「絶望」と聞こえました
あなたがレクター博士と賭けをしたのは
彼に絶望を与える為だったんですか?

レクター博士は手段は相容れませんでしたが、人を救うために動いていた。
…それを踏みにじり奪おうとするあなたは何が望みなんですか

希望は誰かを犠牲の上に作られるものではないし、何より踏みにじられるものではありません

爪の攻撃は(予知で)分かってます。
今度は想撚糸を狭く細かく編み上げ、爪を防ぐ盾とします
あとは【念糸】でレイド博士の動きを封じにかかります


ユディト・イェシュア
イリアさんたちも無事に脱出できたんですね
ではレクター博士を契約で縛っていたこの元凶を倒せば
この街にもメルさんにも希望が…

人の命はあなたにとって
無力であれば消費されるものであり
価値がないものなのでしょうか
また生み出せる…
その程度のものだと

けれど不老不死を求めて
その命の価値を高めようとする者もいる
他者の命を犠牲にしてでも

幼い頃に見た光景を思い出し吐き気が込み上げる
そんな地獄を繰り返したくないんです
けれどあなたにもそう至った理由があるのでしょう
許すことはできませんが
出来ることならば知りたいです

あの毒爪は強力そうですね
俺は仲間の盾に
俺にあるのは戦意ではなくみんなを守りたいという意志です
必ず守り切ります



● 玻璃桜の攻撃者
 天を灼くような炎が、ヴォーテックス・シティの夜空を焼く。高い壁の向こう側で巻き起こる混乱の中、五つの人影が猟兵達の許へと走っていた。壁を抜け、必死に走るメル達の姿に、影見・輪(玻璃鏡・f13299)は叫んだ。
「メル! 皆、急いで!」
「どこへ行くというのです? ……さあ、二人とも行きなさい。オブリビオンが攻めて来ましたよ!」
 輪の呼びかけに応えるように、メル達の背後から冷徹な声が響く。同時に現れた二体の人影が、悠然と歩くレイド博士を追い越してメル達に襲いかかった。
「オブリビオン共め! あの放送は絶対に止めさせん!」
 覚悟の声と同時に銃声が轟く。逃げるメル達の足元を破壊した奪還者の弾丸に、輪は駆け出した。崩れる地面に足を取られて転倒したメルに、奪還者の2撃目が放たれる。身動きもできずに悲鳴を上げるメルの前に、絹布のような糸が張り巡らされた。
「させません……!」
 メル達と共に白亜の塔から逃走していた桜雨・カイ(人形を操る人形・f05712)が、念糸の結界を張り巡らせる。寸でのところで押さえられるガトリングガンの銃弾の渦に、結界が大きくたわむ。眉を顰めたカイは、結界を保持する指に力を込めた。
「これはメルさん達を守る結界。必ず守り通します……!」
「オブリビオンを呼んでいた元凶を発見したわ! リスナーの皆、あと少しの辛抱よ!」
 叫び声を上げるソーシャルディーヴァの声が響く。ソーシャルディーヴァの歌声に力を得たように、奪還者の銃弾が威力を増した。カイの念糸はさっきの攻撃に密度を下げ、次の攻撃は守りきれないだろう。このままではメルが危ない。唇を噛み詠唱を開始した輪は、駆け出す白い影に眉間に寄せた皺を緩めた。
「危ない!」
 住人を避難させていたユディト・イェシュア(暁天の月・f05453)が、メルを抱きしめるように割って入る。渾身の力で放たれた銃弾を浴びたユディトはしかし、無傷でそれらを受け止めた。無敵城塞でメルを守りきったユディトに、輪は詠唱を完成させた。
「君の逝く路に、祝いの花を送ってあげる」
 詠唱と同時にレイド博士に誘の弾丸が放たれる。博士に向かった銃弾はしかし、駆け出したソーシャルディーヴァによって防がれた。
「この子には指一本触れさせないわ!」
 庇ったソーシャルディーヴァに祝いの名を借り血塗られし呪いを込めた傷跡が穿たれ、血に染まりし玻璃の欠片の花吹雪が巻き起こる。攻撃を受けたソーシャルディーヴァの姿に、一瞬攻撃が止んだ。その隙を突き桜を隠れ蓑に駆け出した輪は、掌の刻印に力を込めた。
「ここで止めるよ!」
 鮮血桜から溢れる血色のオーラが、輪の拳を包み込む。レイド博士の頬を殴りつけた輪の攻撃に、二人が消え去った。それを確認した輪は、ふいに肩に走る激痛に眉を顰めた。
「あなたもコレクションに加えてあげましょうか」
「冗談!」
 貫く爪が激痛をもたらす。渋い表情を浮かべた輪は、大きく後ろに飛び退き爪から逃れると、レイド博士を睨みつけた。

● 過去の亡霊
 収まる攻撃に、ユディトは無敵城塞を解除した。腕の中で縮こまっていたメルに微笑みかけたユディトは、手を差し出すとそっと立たせた。
「大丈夫ですか? 怪我は?」
「メルは大丈夫。ありがとうユディトさん」
「良かったです。ーーさあ、もう少し走れますね?」
「うん!」
「メル、こっち!」
 メルの手を取り駆け出す猟兵にメルを託したユディトは立ち上がる。最初のユーベルコードを解除し歩み寄るレイド博士の姿に、ユディトは背後をチラリと見た。
「イリアさんたちも無事に脱出できたんですね」
「そうだね。でももう少し足止めしないと」
 肩を押さえながらも注意深く誘を構える輪に、ユディトは頷く。猟兵達がうまく立ち回ったお陰で住人たちの乗るトラックは着々と到着しているが、なにせ人数が多い。百人近い住人たちが全員乗り込むにはまだ時間が掛かる。必死に避難する住人たちを、レイド博士は嫌らしい目で見つめていた。
「おやおや。この街は私の所有物でしてね。私の許可無しでは石ころ一つ動かしてはいけませんよ。略奪者達にはお仕置きをしなければなりませんね」
「あなたが、レクター博士を契約で縛っていたのですね」
「縛るとは人聞きの悪い。私はただ、彼が望む通り最高の研究環境を与えただけですよ。そこから成果を出すのは、当然じゃないですか」
「レクター博士を契約で縛っていたあなたを倒せば、この街にもメルさんにも希望が……」
「希望? 素晴らしい響きですね。それを潰され絶望した時、人は最高の顔を見せる。こんな風にね!」
 ふいに明後日の方に爪を伸ばすレクター博士に、ユディトは目を見開いた。爪の先にいるのは、小さな少年。母親思いの少年の手には、忘れ物だろうか。粗末な人形が握られていた。
「危ない!」
 伸びる爪に、ユディトは反射的に駆け出した。少年を庇い心臓に立てられた爪から、猛毒が染み出してくる。戦意を削ぎ警戒心を失わせる爪の攻撃を受けたユディトの耳に、レイド博士の声が響いた。
「さて、今あなたが庇った少年は誰でしょうね? 幼馴染? 兄弟? それとも……あなた自身?」
 レイド博士の声に、ユディトは目を見開く。ユディトが庇ったのは、まだ幼い少年。ひどく痩せて血色が悪いその姿に、かつての姿が重なった。
 異能の力を大人に利用され続けた過去。目の前に広がる死体。その間を歩く自分。次々に運ばれてくる死体。それらを淡々と『視る』自分。
 人の命は無力であれば消費されるものであり、価値がないもの。いくらでもまた調達できる、その程度のもの。おびただしい数の死の向こうで笑っているのはレイド博士か、不老不死の法を求めた彼の者か、あるいはユディト自身か。
 湧き上がる吐き気に、ユディトは口元を押さえた。あれは地獄だ。もう終わったと、二度とあんなことはないと思っていたが、今もなお目の前に……。
「……ん! ユディトさんしっかりして!」
 輪の声と同時に、頬に鋭い痛みが走る。意識を取り戻したユディトは、心配そうな目でユディトを見つめる輪に大きく息を吐いた。
「輪……さん……」
「大丈夫ですかユディトさん!」
 カイの声が聞こえてくる。同時に放たれた爪は、ユディトの目の前で念糸の結界に阻まれ地に落ちた。立ち上がらなければ。例えあの少年が自分自身だったとしても、皆を守らなければ。
「カイさん……。ありがとうございます。もう、大丈夫です」
「そんなフラフラでどうするの? 戦意も無い者が戦場にいても……」
「俺にあるのは戦意ではなくみんなを守りたいという意志です。必ず守り切ります」
 胸の奥に残った意思を声に出した時、ユディトの足に力が戻る。ゆっくり立ち上がったユディトは、レイド博士を真っ直ぐ見つめた。

● 誰が為の希望
 念糸を操り皆を守っていたカイは、立ち上がったユディトに胸をなでおろした。爪の攻撃は予知で知ってはいたが、戦意を削ぎ敵の言うことを信じ込み引き金とする攻撃はとても侮れない。注意深く攻撃を弾くカイは、ユディトの声に立ち止まった。
「レイド博士。あなたにもここに至った理由があるのでしょう。許すことはできませんが、出来ることならば知りたいです」
「……知ってどうするというのですか?」
 口元を歪ませるレイド博士に、輪もまた口を開いた。
「何を見て、何を経験し、オブリビオンに堕ちたのかは僕には知る由もないけど。レイド博士。キミもかつては自身の大切なものを救い守りたいって希望を持っていたのかな」
「ははっ! 甘いな! 君達の尺度を勝手に押し付けるのはやめてもらいましょう!」
 心の底から侮蔑する表情を浮かべたレイド博士は、カイへ向けて爪を向けた。その爪に向けて硬く撚った念糸の結界を展開したカイは、襲う圧に全力で抵抗する。間近に迫ったレイド博士に、カイは問いかけた。
「レイド博士。……さっき「絶望」と聞こえました。あなたがレクター博士と賭けをしたのは、彼に絶望を与える為だったんですか?」
「そう。人は最初から持っていない物に対しては絶望しないんです。現状を甘んじ、納得し安定した中にあるのは退屈な平穏。そんなものに価値はありません。人が最も輝く瞬間。それは、手に入れられると思っていた希望が絶望に変わる瞬間! この世で一番素晴らしい瞬間です! あなたにもあるでしょう? 麗しの日々が。美しく輝いた希望が、絶望に変わる瞬間が! 私はあなたの、その一瞬の移ろいが見たいのです」
 恍惚とした表情でカイを見つめるレイド博士の爪が圧を増す。ギリギリとにらみ合い、力を比べ合うカイの念糸は、ついに爪が貫通する。そのまま一気に念糸を引き裂いたレイド博士に、誘の銃弾が叩き込まれた。
「そこまでだよ!」
「あんな地獄を、繰り返させません!」
 爪の圧が緩んだ瞬間、ユディトの払暁の戦棍が叩き込まれる。攻撃を余裕で受け止めるレイド博士の姿に、カイは唇を噛んだ。
「レクター博士は手段は相容れませんでしたが、人を救うために動いていた。……それを踏みにじり奪おうとするあなたは何が望みなんですか」
「言ったでしょう! 希望は全ての礎! 人の生きる源です。希望を生み出し、大事に守り育てて裏切り一息に奪う! こんなに楽しいことは他にありません! そうは思いませんか?」
「希望は誰かを犠牲の上に作られるものではないし、何より踏みにじられるものではありません。あなたの希望、ここで潰させていただきます! こんなふうにね!」
 決意も新たに念糸を繰ったカイの背後から、狂声が響いた。住人たちを乗せたトラックに、レイダー達が攻撃を仕掛けているのだ。その姿に、カイは唇を噛んだ。レイド博士は未だ健在だが、トラックも守らなければ。迷うカイに、猟兵が駆け出した。
「奴は任せろ! カイはトラックを頼む!」
「お願いします!」
 牽制の攻撃を繰り出す猟兵にレイド博士を任せたカイは、トラックに群がるレイダー達に向けて駆け出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

レパイア・グラスボトル
望みが絶たれた―ってのはワタシ達にはお約束の言葉だけどね。
わざわざ未来にまで残すのは勘弁してもらえないかね。
特に過去の再生品や、今も残る残留物が、ね。

医療により痛み抑制、UCにて敵UC制限。

未来への理不尽に抵抗する権利を持つのはガキ共だけで、
ワタシ達はそのケツ持ちするだけさ。
だから、アンタみたいなのは邪魔なのさ。

ワタシらは絶望しないさ。そんなものとうの昔に捨て去って、
理不尽に相乗りして今を笑うのさ。
博士共もイリアもメルも、こんな世界だ。
笑っておけよ。
でないとガキ共も患者(未来)は安心できないそ?

ガキ共にはナイショにな。
ワタシら親共はバカで通ってるんだからさ。

アレアド絡歓


森宮・陽太
【WIZ】
アドリブ連携大歓迎

今回の騒ぎの元凶はてめえか
ったく、人間狩りなどしやがって!

生憎だが、絶望するのはてめえだ
ここでてめえに引導を渡してやる

「高速詠唱、言いくるめ」から【悪魔召喚「アスモデウス」】
アスモデウス、奴の周囲に出鱈目に炎を吐きやがれ!
ただし奪還者やソーシャルディーヴァは焼くなよ
むしろ彼らの気を引いて時間を稼いでほしい

アスモデウスと炎を囮にして
俺は「忍び足、闇に紛れる」でレイド博士の背後を取る
背後が取れそうになかったら「ジャンプ」して壁を蹴りつつ接近
「騙し討ち、ランスチャージ、暗殺」で致命的な部位に二槍を叩き込む!

…生命をモノ扱いする奴はよ
遅かれ早かれ、こういう末路を辿るんだぜ


ジフテリア・クレステッド
OK,OK…分かりやすいね。今だけはあなたに感謝を…素直にぶっ殺しても良さそうな顔が出てきてくれてありがとうございます!

殺人スピーカー!オーバードーズ、カモン!
【毒使い】の毒音波による【範囲攻撃】【衝撃波】で攻撃。

理解と共感?ヴォーテックスなんかが!私の【歌唱】を!【パフォーマンス】を!そして【情熱】を!本当の意味で分かるものか!
夢も希望も!理不尽への怒りも構わず歌い続ける!それにどれだけダメージ受けたってフラスコチャイルドは、造りものの私たちは【継戦能力】【限界突破】で無理矢理歌えなくもないんだよ!

根比べだゴミクズ…!
お前たちが粗製濫造するフラスコチャイルドの恐ろしさをその身に刻んで死ね…!



● 激戦
 住人たちが乗り込んだトラックの前に出たレパイア・グラスボトル(勝利期限切れアリス・f25718)は、さっきから聞こえていた会話に口の端を歪めた。
『希望は全ての礎! 人の生きる源です。希望を生み出し、大事に守り育てて一息に奪う! こんなに楽しいことは他にありません!』
 いっそ清々しい快楽主義者の言葉を、レパイアは鼻で笑う。絶望なんて、何度も経験してきた。レパイアだけではない。この世界に生きる全ての人間は、望みを叶えられる人の方が少ない。
「望みが絶たれた―ってのはワタシ達にはお約束の言葉だけどね。わざわざ未来にまで残すのは勘弁してもらえないかね。特に過去の再生品や、今も残る残留物が、ね」
「この楽しくも美しい営みを、未来永劫続けなくてどうするのですか? 人間はその為に生まれ、死んでいくのです」
「今回の騒ぎの元凶はてめえか」
 二槍を構え前に出た森宮・陽太(人間のアリスナイト・f23693)の貫くような視線に、レイド博士は楽しそうに笑う。無言の肯定に眉を顰めた陽太は、心底気分を害したように息を吐くと槍を構えた。
「ったく、人間狩りなどしやがって! 生憎だが、絶望するのはてめえだ。ここでてめえに引導を渡してやる」
「いいね、いいね。希望に燃えていて実に素晴らしい」
 わざとらしく手を叩いたレイド博士は、宣戦布告する陽太の表情を見下すと両手を広げた。再び現れた奪還者とソーシャルディーヴァの姿に、心底おかしそうにほくそ笑む。
「コレクションの中でも、今気に入っているのはこの二人でしてね。この二人も、最初はあなたのような目をしていました。拠点にいる大切な人を守りたいと希望に燃えていた青年と、青年に届けと希望の放送を最後まで続けたソーシャルディーヴァ。彼らの希望を育てて潰した時の顔と言ったら素晴らし……」
「……っ、はは、あーっはっははははっ……!」
 滔々と語るレイド博士の言葉を、ジフテリア・クレステッド(ビリオン・マウスユニット・f24668)が遮った。ガスマスクに阻まれくぐもった声で嗤い声を上げたジフテリアは、目に浮かんだ涙を指で拭った。
「OK,OK……分かりやすいね。今だけはあなたに感謝を」
「へえ?」
「……素直にぶっ殺しても良さそうな顔が出てきてくれてありがとうございます! 殺人スピーカー! オーバードーズ、カモン!」
 怒りに燃えたジフテリアが、偽神兵器オーバードーズを構えると間髪置かずに猛毒の音波を放った。怒りに身を任せて攻撃を仕掛けるジフテリアの姿を目の端に捉えたレパイアは、自分の半分しか生きていない同胞の姿に小さくため息をついた。
「未来への理不尽に抵抗する権利を持つのはガキ共だけで、ワタシ達はそのケツ持ちするだけさ。だから、アンタみたいなのは邪魔なのさ」
 現れた二体のオブリビオンに対して攻撃を仕掛け続けるジフテリアを、アサルトライフルで援護する。ジフテリアが放つ衝撃波を帯びた殺人音波に、明るい女性の声が重なった。
「Hello.Hello.皆聞こえる? こちらCathy's Radio。リスナーからのお便り、いつまでだって待ってるわ! まずは一曲目『希望の歌』」
 ソーシャルディーヴァが歌う歌が、レイド博士へ向かうジフテリアの毒音波を真っ向から打ち消す。ソーシャルディーヴァの歌に力づけられた奪還者は、手にしたサブマシンガンから狂ったように大量の銃弾をばら撒き続けた。
「ここを突破されたら拠点は落ちる! 絶対に通すものか!」
 悲痛な叫びと共に張られる弾幕を辛うじて避けた陽太は、二人の向こうでほくそ笑むレイド博士の嫌らしい笑みに大きく舌打ちを打った。あのニヤけ面に一撃でも食らわせればこの二人は消える。だが死角に回り込もうにもソーシャルディーヴァの援護を受けた奪還者の弾幕が許しそうにない。距離を取った陽太は、高速詠唱を開始した。
「ちっ! 厄介なユーベルコードだぜ。何とか博士に一撃入れねぇと。……アスモデウス!」
 陽太の召喚に、ダイモンデバイスからアスモデウスが現れる。獄炎を操る悪魔を見上げた陽太は、レイド博士を指差した。
「奪還者の周囲に出鱈目に炎を吐きやがれ! 奴の気を引いて時間を稼いでほしい。その隙にレパイア!」
「了解了解。気が逸れたら、ワタシが指突で黙らせてやるよ」
「頼んだぜ!」
 血色の悪い白い指を指揮棒のように振るレパイアに、陽太は頷いた。レイド博士と同じ強さの奪還者の攻撃を止めないことには、近づくことさえできない。彼の傍らに立つソーシャルディーヴァのバフも厄介だ。マイクを手に訳のわからないことを喋るソーシャルディーヴァに向けて、ジフテリアは偽神兵器オーバードーズを構えた。
「私はあのソーシャルディーヴァを押さえる。目には目を。歌には歌を、ってね!」
 オーバードーズが毒音波を奏でるのと同時に、アスモデウスが獄炎を放った。全てを焼き尽くす紅蓮の炎は奪還者の周囲を取り囲み、その視界を遮る。同時に巻き起こる炎の音の向こう側で、ジフテリアが毒音波を放った。致死性の猛毒を孕んだ歌声に気付いたソーシャルディーヴァは、マイクを向けると希望に満ちた歌を歌い上げる。相殺される歌声に、ジフテリアは口の端を持ち上げた。
「上等!」
 ジフテリアの歌とソーシャルディーヴァの歌と。二つの音波は互いの音を打ち消し合い、混ざり合い不思議なセッションを戦場に生み出す。まるでラップバトルのような戦いを制しソーシャルディーヴァが与えていたバフの効果が消えた時、弾幕で押さえきれなくなった炎が奪還者を包み込む。炎から逃れようと大きく腕を振った時、レパイアが迫った。
「こんな世界だ。笑っておけよ。でないとガキ共も患者(未来)は安心できないぞ?」
 ニヤリと笑ったレパイアの指が、奪還者の脇腹に突き刺さる。奪還者が怯んだその一瞬、一筋の道が生まれた。
 陽太にはそれで十分だった。
 ほんのわずか生まれた道に、影がゆらめく。身を低く保ったまま炎が生み出す闇に紛れた陽太は、音もなく駆けるとレイド博士の眼前に肉薄した。濃紺のアリスランスをまっすぐに構え、生まれた道を駆け抜ける陽太の姿に、レイド博士は小馬鹿にしたような笑みを浮かべると腕を振り上げた。
「そこを突いてくることは分かっていましたよ!」
「だろうな!」
 回避され、カウンターで繰り出された爪が空を切る。槍を地面に突き刺し、柄を伸ばした陽太はそのまま宙高くジャンプすると淡紅のアリスグレイヴを突き出した。
「何!?」
「喰らえ!」
 落下が齎す位置エネルギーに加え、槍を蹴り加速。自身と一体となったかのような槍は空を裂き、レイド博士の胸を捉えた。
 陽太の槍が、レイド博士の心臓を貫く。穂先は胸を裂き、手元まで食い込んだ柄からの返り血を浴びた陽太は、苦痛の呻き声を上げるレイド博士の耳元で冷徹に囁いた。
「……生命をモノ扱いする奴はよ。遅かれ早かれ、こういう末路を辿るんだぜ」
「ふふ、どういう末路ですか!」
 口の端から血を流したレイド博士は、間近に迫った陽太の脇腹に鋭い爪を突き出した。至近距離からの攻撃を第六感で感知した陽太は、レイド博士の身体を蹴り距離を取る。だが、爪を完全に完全に避けきるには至らない。繰り出されるカウンター攻撃に貫かれた脇腹を押さえ大きく後退した陽太の前に、ジフテリアとレパイアが立つ。奪還者達が消えて体勢を建て直した二人に、レイド博士は大穴の空いた胸を押さえると理解と共感の視線を向けた。
「理不尽に抗う姿は素晴らしい。その意思が、その希望が、絶望を生むのですよ!」
 目を見開いたレイド博士の視線と、レパイアの視線が一瞬絡み合う。直後に感じる胸の激痛に、レパイアは思わず息を飲んだ。心臓から生えた棘が、周囲の重要な血管を容赦なく傷つける。激痛に飛びかける意識を保ったレパイアは、不敵な笑みを浮かべた。
「ワタシらは絶望しないさ。そんなものとうの昔に捨て去って、理不尽に相乗りして今を笑うのさ」
 内蔵を抉られる痛みを辛うじて堪えたレパイアは、自身の心臓に応急処置を施すと膝をつき荒い息を繰り返す陽太に治療を施した。
「これは派手にやられたねぇ。でも心配はいらないよ。ワタシの前じゃ誰も死なないんだ」
「悪ぃ。助かる」
「ガキ共にはナイショにな。ワタシら親共はバカで通ってるんだからさ」
「……理解と共感?」
 改めてオーバードーズをレイド博士に向けたジフテリアは、自身に向けられる視線に心臓を押さえた。心臓を引き裂かれるような激痛が、ジフテリアを襲う。目の前が暗くなり、乱れた心拍から送り出される血液がジフテリアの全身から力を奪う。突きそうになる膝はしかし、しっかりと伸ばされた。
「ヴォーテックスなんかが! 私の【歌唱】を! 【パフォーマンス】を! そして【情熱】を! 本当の意味で分かるものか!」
 ジフテリアのシャウトが響く。魂の底が上げる叫びは毒電波を帯び、レイド博士に向けられた殺人スピーカーがそれを何倍にも増幅する。仲間たちと今まで語り合ってきた夢や希望。良いことばかりじゃない。むしろ理不尽に憤ることの方が多かった。今まで生きてきた道程にあった沢山の思い出達一つ一つが棘となり、ジフテリアを苛む。
 それでも。ジフテリアは歌うのだ。声は嗄れ涙も枯れ心が涸れてもそれでも。
 痛みも苦しみも全てを糧にした歌声は、確実にレイド博士を蝕んでいった。
「お前に痛覚はないのか!?」
「根比べだゴミクズ……! お前たちが粗製濫造するフラスコチャイルドの恐ろしさをその身に刻んで死ね……!」
 魂が上げる叫びに、レイド博士はついに膝をつくが、ジフテリアの歌は止まらない。これ以上歌わせるのは危険だ。駆け出した陽太は、濃紺のアリスランスと淡紅のアリスグレイブを構える。ゆらりと陽太の気配が消えた直後、二槍はレイド博士の腹を貫いていた。
「悪いな。さっさと死んでくれ」
 陽太の攻撃にレイド博士が膝をついた時、爆音が響いた。どこからか殺戮戦車を調達したレイダー達が、怒りに満ちた怒号を上げながら猟兵達に迫る。その姿に、陽太は二槍を引き抜いた。
「ちっ……! 行くぞ! 奴は長くない!」
 撤退を促す陽太の声に、ジフテリアはようやく歌をやめる。三人が乗り込んだ直後、トラックがスラム街を抜けて走り出す。ヴォーテックス・シティを駆け抜ける猟兵達を、レイド博士の笑い声が追いかけてくるようだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 集団戦 『レイダー・アンド・カーバンクル』

POW   :    破壊
単純で重い【拳】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    破砕
【裂帛の叫びから繰り出される衝撃波】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ   :    破竹
自身の【連れている不思議な生命体】が捕食した対象のユーベルコードをコピーし、レベル秒後まで、[連れている不思議な生命体]から何度でも発動できる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


● 夜間逃走劇
 ヴォーテックス・シティに爆音が響いた。
 レクター街区を抜け、夜の街を駆け抜ける猟兵達にレイダー達が迫った。レイダー達は調達した殺戮戦車やバギーを駆り、逃げる獲物を狩ろうと爆音を轟かせ、絶え間ない波状攻撃を仕掛けてくる。
 対する猟兵の足は遅かった。レクター街区の住人を乗せた5台のトラックには住人達が乗り込み、小回りが効かずスピードも出ない。攻撃力も防御力も無いトラックに、レイダー達は容赦なく攻撃を仕掛けていた。
 それを護衛する猟兵達は、フラスコチャイルド達と共にバイクや車に乗り込み戦いながらひた走る。第一波を凌ぎ市街地に入った猟兵達の通信機に、レクター博士から通信が入った。
『レイダー達の攻撃をここまで凌ぐなんて、さすがは猟兵だね。……ところで、行く宛はあるのかい? 運良くヴォーテックス・シティを抜けられても、その先は何か考えが?』
 レクター博士の問に、猟兵達は押し黙る。この街を抜ければ、彼らは自由だ。だが、自由であれば人間らしく生きていけるとは限らない。寄る辺が無ければ、遅かれ早かれ彼らはレイダーとして他の拠点を略奪して生きるしかなくなってしまう。
 だが、ヴォーテックス・シティから独立して生きていくと決めたのは彼らだ。猟兵がそこまで責任を持つこともない。それともレクター博士には何か考えがあるのか。問いかけようとした時、レイダー達の増援がでたらめな銃撃を放ちながら奇声を上げた。
「ヒャッハー! どけどけぃ! てめぇらの首、刈り取ってやらぁ!」
「レクターを置いてけば、てめぇらは逃してやってもいいぜぇ!」
「八つ裂きにしてやるぁ!」
 無限に現れるレイダー達を全滅させる術はない。猟兵達は一旦思考を切り替えると、レイダー達を迎撃した。


 第三章はヴォーテックス・シティからの逃走劇となります。第二章の結果、猟兵達は避難民を乗せたトラックを護衛しながら戦うことになります。レイダー達は容赦なくトラックを狙ってきますので護衛が足りないとトラックに乗った住人はヴォーテックス・シティに取り残されることとなります。数を減らすことも重要です。

 猟兵達も何らかの乗り物に乗って逃走します。自分の乗り物を持ち込んでも良いですし、フラスコチャイルドが運転するバイクに乗って攻撃しても構いません。フラスコチャイルドは指示があれば多少戦力になります。

 この街を抜けた後、彼らがどこへ身を寄せれば良いのか、何か考えがある方はプレイングにお願いします。特に無くても構いませんが、ここでの行く先の提案は次の話に影響を与えます。住人は100人ほどで、財産などは所持していません。

 プレイングは1月30日(土)朝8時31分~31日(日)午前中までにお寄せください。その後はロスタイムです。

 それでは、良き逃走劇を。
レパイア・グラスボトル
救急車ってのはどんな邪魔も蹴散らす権利を持っているんだぞ。

盗んだ車と自家用車、そして救急車で護衛に回る。
家族は車を盾に爆弾に、けが人は救急車で緊急治療。
怪我人がいたら車線上にある物を蹴散らして直行する。
必要に応じて他の車に飛び移りつつ治療も行う。

ヒャッハー同士が出会えば、やる事はヒャッハーだけである。
敵レイダーも最低限に治療し、お荷物にする。
治療費として下着以外は奪う。
この生き物?ガキ共の土産に良いかねぇ?

なお、家族がとどめを刺すのは止めない。
目に見えない所でなら。

人もフラスコチャイルドもオブリビオンも等しく家族に誘う。
来るものは拒まない。
条件は一つ、この地獄で死ぬ迄笑って生きること。


森宮・陽太
【POW】
アドリブ連携大歓迎

しつこい連中だな
八つ裂きにされるのはてめえらだっつーの

とはいえ、これはちょいと分が悪いな
俺が片っ端からレイダーを倒して来る
倒し損ねた奴らは任せたぜ
後の事? それより今だ!

「高速詠唱」から【悪魔召喚「ハルファス」】
愛用の二槍を持った全身エメラルドの二翼の女性に変身
レイダーの上を飛び回りながら「空中戦」だ
「制圧射撃」で炎弾をばら撒きつつ、二槍で「ランスチャージ」
てめえら、まとめて吹っ飛べや!
拳の一撃は空中に逃れれば問題ねぇ

…そういえば
さっき、俺は平然と爆弾を設置できた
車やバイクの運転も身体が覚えている
だが、サクラミラージュで覚える機会はなかった
…一体どこで覚えた?


櫟・陽里
速度で劣るトラックを5台も護る……こりゃなかなか大変だね!
遊撃要員として臨機応変に対応していきたい
機動力を重視しライに騎乗
1番ピンチなトラックを庇えるよう意識して
ビームシールドを展開しながら走り回るぜ!
後部座席に1人なら乗れるけど…
荒い運転するから落ちないよう頑張れ?

Side by sideで敵を一機ずつ燃やす
ミラーに映る俺に気をつけな!
悪路でも土煙あげてターンしたり
トラックの荷台からジャンプ等のテクを見せつけ
煽り運転で敵集団を掻き回す
トラック運転手に進路のアドバイスしても良いかも

俺には生活能力無ぇからな…生き抜く方法は俺が習いたい位だ
斥候で先行し一時隠れられる様な廃墟の探索ならできると思う



● 激闘
 救急車に乗り最後尾を走っていたレパイア・グラスボトル(勝利期限切れアリス・f25718)は、バックミラーに映った土煙に楽しそうな笑みを浮かべた。
「来たよ来たよヒャッハー共が。うちのヒャッハー共と気が合いそうだね!」
 救急車の後部の扉を開け放ったレパイアは、両手を広げると嬉々とした声を上げた。土煙と共に近づいてくるのは、巨漢の男と謎の生物。見るからに同類なオブリビオン達の姿に、略奪が捗りそうだと思考が走る。
「狼煙を上げろ!! みんな、略奪の時間だよ!!!」
「ヒャッハー! 行くぜ野郎ども! あの連中おぶおぁ!」
 詠唱と同時に現れたレイダー達の第一陣が、放たれた敵レイダーの衝撃波で吹き飛ばされて宙を舞う。雑魚吹っ飛びでバイクから落ちたレイダー達を拾い上げたレパイアは、救急車の中に雑に突っ込むと治療を開始する。残りの家族達がレイダー達にヒャッハーを仕掛けるのをチラリと見たレパイアは、それぞれのバイクに乗った二人の青年の姿に顔を上げた。
「アンタ達もヒャッハー組かよ? そうは見えないけどねぇ」
「いや何をしてヒャッハー! なんだよ!」
 苦笑いを浮かべながらレパイアを振り返った森宮・陽太(人間のアリスナイト・f23693)は、ふと真顔になるとバイクのハンドルを軽く切った。
 一瞬前まで陽太がいた空間を、衝撃波が薙ぐ。続けざまに放たれた衝撃波が、最後尾のトラックに猛然と迫った。レパイアが救急車を差し向けようとした瞬間、一台の宇宙バイクが割り込んだ。
「速度で劣るトラックを5台も護る……。こりゃなかなか大変だね!」
 大変そうなのをむしろ楽しんでいる様子の櫟・陽里(スターライダー ヒカリ・f05640)は、展開したビームシールドで衝撃波を受け止めた。裂帛の気合と共に放たれる衝撃波を絶妙なバランスで受け流した陽里の運転テクニックに、レパイアは口笛を吹いた。
「やるねぇ。操縦上手いじゃないか。二人とも、家族に来るなら歓迎するよ!」
 レパイアの誘いに、陽太は苦笑いを零す。レパイアの家族になるのも悪くはないが、陽太には陽太の家族がいた。血の繋がりはないし今は離れて暮らしているが、それでも家族は家族だ。
「遠慮しとくぜ。一応サクラミラージュに家があるからな」
「俺は宇宙中を、いや世界中を自由に走りたいんだ。この世界に縛られるのは勘弁」
 あっさり答える二人に気を悪くするでもなく、レパイアは肩を軽く竦めた。
「そりゃ残念。アンタ達なら家族の条件を満たしてると思ったんだけどねぇ」
「家族の条件?」
「アタシの家族になる条件は一つだけ……」
 興味を覚えた陽太が条件を聞こうとした時、レパイアの家族に吹き飛ばされたレイダー・アンド・カーバンクルが飛んでくる。ハンドルを切りまたもや軽々とレイダーを回避した陽太は、眉を顰め舌打ちした。
「とはいえ、これはちょいと分が悪いな。俺が片っ端からレイダーを倒して来る。倒し損ねた奴らは家族とやらに任せたぜ」
「脇道から来る連中とトラックの護衛は任せとけ」
「ケツは持ってやる。怪我しても治してやるから存分に走れよ二人とも」
 一瞬目を見交わした三人は、同時にサムズアップ。それぞれの方向へと走り出した二人を背中で見送った陽太は、バイクを追いすがるレイダーに向けて加速させた。バイクのエンジンを吹かし同時に詠唱を開始。高速詠唱で召喚術を完成させた陽太は、迫るレイダーの拳を冷静に見つめた。まるで壁のように迫る拳をギリギリまで引きつけながら、レイダーに向けてエンジンを吹かす。
「戦の種を蒔きしハルファスよ、我が身体に宿り、その無限の武装を以てこの場を制圧せよ!!」
 詠唱の完成と同時にバイクを蹴る。空を切ったレイダーの拳の下を通り抜けたバイクが爆発炎上する。巻き込まれたレイダー達が後方へ取り残されるのを見た陽太は、続く衝撃波を軽々と回避した。
 悪魔ハルファスをその身に宿し、背に二対の悪魔の羽根を生やした全身エメラルド色の女性の姿になった陽太は、衝撃波を軽々と避けると炎弾を放った。場を制圧するように放たれる炎弾は、レイダー達のバイクを破壊し後続車両を巻き込んで視界の外へと消していく。効率よくレイダー達を排除するが、相手は無限に湧き出てくる。次々と衝撃波を放つレイダー達は、機嫌よく叫んだ。
「ヒャッハー! 八つ裂きにしてやるぁ!」
「しつこい連中だな。八つ裂きにされるのはてめえらだっつーの」
 宙を蹴った陽太は、二槍を構えると巨体にランスチャージを仕掛けた。迎え撃つレイダーの拳が、陽太を破壊せんと迫る。一瞬の交錯。倒れたのはレイダーだった。
 二槍を伸ばし距離感を狂わせた陽太の槍が、レイダーの喉元に突き刺さる。槍を軸に弧を描いた陽太の身体は再び宙を舞い、後続の車両を巻き込みながら倒れるレイダーを見下ろした。
 同時に後方のトラックへと視線をやる。そこでは陽里が楽しそうに走り回っていた。
 追っ手のレイダー達は、後方からだけとは限らない。横道から回り込み一斉に奇襲を掛けるレイダーの同時攻撃に、陽里は場の状況に神経を巡らせた。手前から二台、奥側から三台の殺戮戦車が突撃を仕掛けている。そのうち2台は左右から先頭のトラックを狙っているのが分かる。これを落とされたら、後続も巻き込んで停車してしまうだろう。
 瞬時に判断した陽里は、まず手前から突進してきたバギーに向けてライを向けた。唸りを上げて弧を描いたライの軌跡が炎を上げ、トラックに迫るバギーを炎上させる。その直後には、陽里は宙を舞っていた。
 最小の助走で地を蹴ったライは、トラックの運転席の屋根に着地する。派手な音を立てた直後には再び加速。向かい側でトラックに向けて襲いかかるレイダーの頭上に躍り出た。陽里の気配に気付いたレイダーが、空を見上げるがもう遅い。落下の勢いを生かしてレイダーの上に着地した陽里は、躊躇なく加速すると先頭のトラックに向けて拳を振り上げるレイダーに体当たりを仕掛けた。
「ミラーに映る俺に気をつけな!」
 その声が届いているのかいないのか。ギョッとしたレイダーが拳を振り下ろす間もなく炎に包まれ、レースから離脱する。不利を悟った最後のレイダーが、高らかに笛を鳴らした。合図に合わせて、トラックの車列の両側から多くのレイダー達が一斉に襲いかかる。両側から迫るこの数の敵は、流石にいなしきれない。一瞬背中に氷の塊が落ちたが、トラックから飛び出してきた味方猟兵の姿に笑みを浮かべた。彼らがいれば、手前側は心配いらない。意識を奥側のレイダー達に集中した陽里は、ライのエンジンを全開にすると火の鳥のように駆け抜けた。
 最前列の車両の前を回り込み、一気に最後尾まで駆け抜ける。走り抜けざまにレイダー達を吹き飛ばした陽里は、Jターンすると高度を落とし救急車に着地する陽太に声を掛けた。
「そっちは?」
「上々!」
「死人はいないよ今の所は」
 親指を立てる陽太とレパイアに親指を立て返す。波状攻撃が少し落ち着いた戦況に、陽里は息を吐いた。
「住人の行く末かあ。俺には生活能力無ぇからな……。生き抜く方法は俺が習いたい位だ」
「そうだな。まずは今を切り抜けねぇと」
「連中がアタシの家族になりたい、って言ったら受け入れてやるよ」
 そう言ってカラッと笑うレパイアに頷きを返す。斥候で先行し一時隠れられる様な廃墟の探索ならできると思うかと思った時、ふと陽太を振り返った。
「そういえば、陽太はバイクの運転うまいな。知らなかったぜ」
「……ああ、俺もだ」
 陽里の声に、弾かれたように陽太は顔を上げた。言われるまで気づかないくらい自然にバイクを運転したが、本来それはあり得ない。あり得ないのだ。
(「……そういえば。さっき、俺は平然と爆弾を設置できた。車やバイクの運転も身体が覚えている」)
 逃走を開始した直後、陽太はバイクに乗ることを選んだ。その時は何の疑問も思わなかったが、サクラミラージュで運転のスキルを覚える機会はなかった。なのに、陽太は大型バイクを軽々と乗りこなし、我が身の一部のように攻撃を避けてはバイクを敵にぶつけるということまでやってのけた。
「……一体どこで覚えた?」
 思考を過去へと巡らせるが、明確な答えは出てこない。靄のような胸騒ぎを覚えた陽太は、迫る衝撃波に意識を戻した。今は答えの出そうにない疑問に心を奪われている場合ではない。思考を切り替えた陽太は、迫るレイダーに炎弾を叩き込んだ。
 再び激しさを増す戦いに、レパイアは二人の攻撃に取り残されたレイダーを回収しては治療して放り出すを繰り返していた。
「治療費として下着以外は貰っとくよ」
 治療を終えたレイダーを放り出したレパイアの手から、カーバンクルがすり抜ける。どうやらガキどもの土産にはできないらしい。それはそれで一向に構わないと切り捨てたレパイアは、進む戦局に救急車を突進させた。
「救急車ってのはどんな邪魔も蹴散らす権利を持っているんだぞ」
 脇道から出てきたレイダーが、出会い頭に救急車に跳ね飛ばされては宙を舞う。器用にキャッチしたレパイアは、苦痛にうめくレイダーに手早く治療を施した。
「うう、死にたくねぇよ……」
「死にたくないなら黙るんだね。今治療するから」
 真剣な目で治療を施すレパイアの姿に、レイダーは目を見開く。治療を終えて放り出そうとするレパイアの白衣の裾を掴んだレイダーは、縋るような目で見つめた。
「お前、俺は敵だぞ? なんで助けるんだよ!」
「ワタシは医者だからね。目の前で死なせはしないんだ。見えないところでは知らないけどね」
 あっさり言うレパイアに目を見開いたレイダーは、レパイアを拝み倒した。
「……待てよ! 俺も仲間に入れてくれ! な、頼む!」
「いいよ」
「そう言わずに……って、え?」
「ただし、条件は一つ、この地獄で死ぬ迄笑って生きること。できるかい?」
「……ああ! やってやろうじゃねえか!」
 一瞬の放心の後。笑みを浮かべて戦場に向かうレイダーの後ろ姿を見送ったレパイアは飛んできた次のレイダーに向かい合う。
 来るものは拒まない。去る者は追わない。人もフラスコチャイルドもオブリビオンも、レパイアの前では等しく「命」だ。命は救う。それがレパイアに課せられた製品仕様だった。
「死ぬなら見えないところで。因果なもんだね瓶詰めなんてのは」
 苦笑いをこぼしたレパイアは、治療を終えたレイダーを車外に放り出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

桜雨・カイ
まずはフラスコチャイルドが運転するバイクに乗って移動

たとえ拳がトラックを直撃しなくても、周辺地域が破壊されれば車はまともに走れない。あの拳をトラックや地面に当てさせる訳にはいきません

すみません!トラックに移らせて下さい!
そして私が敵の攻撃を止めますので、その間に攻撃をお願いします!

トラックの荷台に移動し【想撚糸】発動
拳の衝撃をこれで受け止めます
力勝負になりますが、負けるわけにはいきません。
止める為にはもっと力を…!

皆さんはこの先何をしたいですか?
夢物語でも何でもいいです、あなた達の「希望」を教えてもらえますか。
語ってくれた願いの「記憶」と、その希望を守りたいという「思い」で撚糸を強化します!


ユディト・イェシュア
メルさんを信じてついてきてくださった皆さんですから
必ず無事に送り届けましょう
レクター博士を信頼しているようですし
大きな混乱はおきないでしょう
この人数を受け入れてくれる拠点は少ないかもしれませんが
廃墟となった拠点で使える場所があれば
そこでまた一からやり直すこともできるかもしれませんね
農業ならメルさんも教えてくれますよ

どなたかの乗り物に乗せてもらい
トラックを攻撃から守ります
敵を狙うのではなくその乗り物を破壊
ひとまず数を減らすことに専念します

快楽でたやすく人が狩られる
けれどこれが皆さんの生きる世界
自由を手に入れたあなた方の心に灯った希望の光
それこそが力になるのです
決して屈してはいけません
この不条理に



● 希望はいつか自分達の手で
 時は少し遡る。
 フラスコチャイルドが操縦するバイクに同乗した桜雨・カイ(人形を操る人形・f05712)は、念糸を繰ると迫りくるバギーの車輪へと放った。回転軸に巻き付いた念糸はバギーを容赦なく転倒させる。もんどり打って地に落ちるレイダーを見送ったカイは、脇道から回り込んできた殺戮戦車の姿に目を見開いた。一際大きな身体のレイダーが、真ん中のトラックめがけて拳を振り上げている。
 あの拳をまともに食らったら、ひとたまりもない。咄嗟に加速したカイは、念糸で拳を絡め取った。だが、移動するバイクでは踏ん張りが効かずに軌道を変えるだけで終わってしまう。
 トラックを破壊する拳が、地を抉る。大きなクレーターを作った拳に、後続のトラックが足を取られそうになる。もしあれが進行方向にできたならば。空恐ろしいものを感じたカイは、操縦するフラスコチャイルドに声を掛けた。
「すみません! トラックに移らせて下さい!」
「分かった!」
 頷いたフラスコチャイルドが、真ん中のトラックに幅寄せする。フラスコチャイルドはトラックと速度を合わせてはくれているが、伸ばす手はなかなかトラックを掴めない。焦りの見えたカイに、手が差し伸べられた。
「カイさん!」
 呼び声と同時にトラックの荷台から手を伸ばしたユディト・イェシュア(暁天の月・f05453)の手を掴む。感謝の視線を送ったカイは、ユディトの手を掴み荷台に登った。体勢を整えた巨躯のレイダーが、再び拳に力を込める。奇声と共に振り下ろされる拳の前に念糸で作った網を張ったカイは、襲い来る衝撃に歯を食いしばった。さっきよりは足場が安定している分受け止められる力も上がっているが、力勝負には明らかに分が悪い。ギリギリと押し込まれる拳に、天からの光が放たれた。
「させません! このトラックは俺が守ります!」
 ユディトが放ったジャッジメントクルセイドはしかし、レイダーが連れた不思議な生き物ーーカーバンクルが飲み込む。けふ、と息を吐いたカーバンクルは、大きく口を開けるとトラックに向けて天からの光を放った。
 雨のように降り注ぐ光が、トラックを容赦なく襲う。咄嗟にかばおうとするが、いかんせん数が多い。目を見開いたユディトの目の前に、念糸の結界が広がった。敵レイダーがユディトのユーベルコードを受け止める為に、拳に乗せたユーベルコードを解いたのだ。自由になったカイが包み込むように放った念糸が、トラックをユーベルコードの雨から守る。ホッと息を撫で下ろしたユディトは、済まなさそうに頭を下げた。
「ありがとうございます、カイさん」
「こちらこそ。ですが、このままでは押し負けてしまいますね。止める為にはもっと力を……!」
「力、とは?」
「私は、想いや記憶の数で念糸を強化できます。そうすれば、次にあの拳が来ても皆を守ることができるはずです」
 カイの言葉に頷き周囲を見渡したユディトは、荷台にいる住人達の前に立った。不安そうに身を寄せ合う人々の前に立ったユディトは、陽だまりのよな笑顔を浮かべた。
「大丈夫です。安心してください。メルさんを信じてついてきてくださった皆さんですから、安全な場所まで必ず無事に送り届けましょう」
「でも……。でも、逃げてどうするのかな?」
 不安そうに首を巡らせる少女に、父親と思われる青年がそっと寄り添った。
「どこに行ったって、俺達は狩られる運命なんだ。このまま荒野に出たら、誰も守ってくれないんだろう? これから先、どうなるんだ……?」
 青年の不安の声が、周囲に伝播する。ざわめく空気を宥めるように、ユディトは聖者の顔で辛そうに目を閉じた。
「快楽でたやすく人が狩られる。けれどこれが皆さんの生きる世界。自由を手に入れたあなた方の心に灯った希望の光、それこそが力になるのです」
「希望の光……。でも、不安なの。この先どうなるの? どうすればいいの?」
「皆さんはこの先、何をしたいですか?」
 念糸を維持したカイが、不安を訴える少女に微笑みかける。問われた少女は、ただ大きく目を見開くと首を傾げた。
「この先……?」
「夢物語でも何でもいいです、あなた達の「希望」を教えてもらえますか」
「そうです。俺達はそれを必ず守ります!」
 力強く頷くユディトに、少女は視線を彷徨わせた時、くう、とお腹の音が鳴った。
「……お腹いっぱい、ご飯が食べたい」
「私は綺麗な水でお茶を飲みたいな」
「俺はあったかい布団で眠るぞ!」
「誰にも怯えずに生きたい」
 口々に語り合う住人達の希望一つ一つに、ユディトは頷く。力強く拳を握り締めたユディトは、真っ直ぐな目で住人達を見渡した。
「皆さんの希望は、必ず叶います。ですから、決して屈してはいけません。この不条理に」
「私も、必ず守ります。皆さんの希望を。ついてきてくださった想いを、全て力に変えて進みましょう、その先へ!」
 住人達の希望を受け取ったカイの想撚糸が、淡い光を放つ。ようやく止んだユーベルコードの雨から視線を転じたカイは、迫る拳に撚糸の結界を向けた。光を帯びた念糸の撚糸が、巨大な拳を包み込む。さっきは弾くことしかできなかった拳は、軽くしなやかな網に絡め取られてピクリとも動かない。
 ならばとエンジンを吹かして体当たりを仕掛けてくるレイダーに、ユディトは指を向けた。レイダー本人にではなく、彼が駆るバギーの車体へ指を差し向け光を放つ。狙い違わない光の矢は、バギーのエンジンを突き破り動きを止める。後続車を巻き込みながら視界から消えるバギーに、ユディトは胸を撫で下ろした。
 周囲を見渡してみるが、とりあえず第二波は捌いたようだ。少しだけできた余裕に、ユディトは改めて住人達と向き合った。
「さて。これからの話でしたね。この人数を受け入れてくれる拠点は少ないかもしれませんが、廃墟となった拠点で使える場所があれば、そこでまた一からやり直すこともできるかもしれませんね」
「そうだな。それが現実的かもな」
「でも、私達何も持ってないわ。お腹いっぱいご飯を食べられるのかしら?」
 女性の声に、皆が沈黙する。沈みかける雰囲気に、カイは元気づけるように言った。
「当座の食料なら、何とかします。どのみち皆さんはお疲れでしょう。少し休む場所が必要ですね」
「そうですね。いつか皆さんがホームと呼ぶべき場所を手に入れられるよう、微力ながら俺も手伝います。農業ならメルさんも教えてくれますよ」
「ホーム……。いい言葉だね」
「そんな場所に行きたいなあ。誰かの庇護で生きるんじゃなくて、自分たちで行きていくの」
「必ずできますよ」
 力強く元気づけるユディトに、住人達は安心したように頷いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

影見・輪
トラックの護衛中心

基本はどれかのトラック一台の護衛を
トラックを移動する必要があるなら
必要ならUCの鏡を集めて作った鳥に乗ったり
他の人が運転する乗り物に乗ったりして足場を作りながら
トラックの屋根を行き来する

攻撃は他の人が動きやすいよう援護攻撃を中心に

"誘"の[援護射撃]と
必要応じて"鮮血桜"や"闇色桜"を使っての
[捨て身の一撃]と[生命力吸収]で対応するね

>街を抜けた後
他案あればそっち優先
ないなら、ひとまずロージスシティに身を寄せることを提案してみる
一時的でもまずは難民全員身体を休めた方がいいと思うからね
あちらの住民との兼ね合いとか課題も多いけど
その辺は僕ら猟兵が間に立って調整できればと思うよ


ジフテリア・クレステッド
キャバリアにアウトブレイクを持たせて敵に突貫させつつ自分はオーバードーズから【衝撃波】を放って敵の攻撃からトラックを守る。

持ってて良かったキャバリア!サイズ差でぶっ潰せ!

行く宛?ロージスシティ!

実際あの町は(…メルが犠牲になっていたせいで)大きいし、他のとこよりはマシなはず。私は嫌いだけど。(あの町なら博士がメルに何かする前に予知が入るだろうって打算もある。)
今まで散々助けてきたんだ。メルや猟兵が押せば町の連中も嫌だとは言いづらいでしょ。

というかレクター博士!何お客様面してるのさ!お前も手伝え!のほほんしてるとマジでお前から先にぶっ殺すからな!
あっ、メルは無理しなくていいからね!楽にしててよ!



● 進むべき道はどれか
 ヴォーテックス・シティを抜け、後少しで自由の荒野に至るところまで、猟兵達はやって来ていた。周囲を警戒していた影見・輪(玻璃鏡・f13299)は、まばらになる襲撃にホッと胸をなでおろした。
「どうにか撒いた、かな?」
「そうみたいね」
 先頭車両をずっと守り続けていたジフテリア・クレステッド(ビリオン・マウスユニット・f24668)は、伏せた姿勢で構えていたジュニアスナイパーライフルの銃口を上げて座り直した。振り返る視線を追って、背後を振り返る。ここまで護衛してきた五台のトラックは、一台も欠けることなくここまでやってきた。あと一息で荒野だ。そこまで出ればまずは安心か。
 頷きあった二人は、トラックの荷台へと戻った。屋根から幌の隙間に滑り込むように入った輪とジフテリアの姿に、メルは立ち上がると表情を輝かせた。
「輪さん、ジフテリアさん。おかえりなさい。もう、大丈夫なの……?」
「ただいまメル。今のところ襲撃が止んだみたいだから、少し話をしておこうと思って」
「話……?」
 首を傾げるメルに、輪は頷きを返した。この一団が荒野に出た後、どこかに進路を定めなければならない。戦いが激化する前にレクター博士が言っていたことを、改めて話し合わなければ。
「これからの行き先だけど……」
「行く宛? ロージスシティ!」
 ビシッと言ったジフテリアは、目を丸くするメルに腕を組んだ。今まで何度か狙われた、比較的大きな拠点。「シティ」の名前にふさわしい程度には大きく、比較的豊かな拠点であることをジフテリアは知っていた。
「実際あの町は大きいし、他のとこよりはマシなはず。私は嫌いだけど」
 ふくれ面のジフテリアは、メルの視線とぶつからないように視線を逸らす。ロージスシティはメルが犠牲になっていたせいで大きいのだ。それを思うと、とても手放しに好きにはなれない。
(「それに、あの町なら博士がメルに何かする前に予知が入るだろうって打算もあるしね」)
 だがそのことは、口には出さずに胸の内にしまっておく。目の前に本人がいるのに口に出して指摘するのは、さすがに気が引ける。そんな心の機微を読み取ったのか、輪もまた同意するように頷いた。
「僕も、ひとまずロージスシティに身を寄せるのがいいと思う。一時的でもまずは全員、身体を休めた方がいいと思うからね」
「でも、街の皆は受け入れてくれるかな? 最初に皆が来た時、困った村に物資を出すのも嫌がってたって聞いたよ?」
 不安そうにするメルに、ジフテリアは小さく肩を竦めた。
「そんなの。今まで散々助けてきたんだ。メルや猟兵が押せば町の連中も嫌だとは言いづらいでしょ」
「そうだよ。確かに、あちらの住民との兼ね合いとか課題も多いけど。その辺は僕ら猟兵が間に立って調整できればと思うよ」
 二人の言葉に、メルは浮かんだ涙を必死に飲み込むと笑顔を浮かべた。
「ジフテリアさん、輪さん……。ありがとう。いっぱい迷惑掛けちゃって、ごめんね。特にジフテリアさん。ロージスシティのこと嫌いなのに、メルだっていっぱい傷つけちゃったのに、いつも来てくれて。いつも助けてくれて。ありがとう」
「わわっ!」
 真っ直ぐ見つめて手をそっと取るメルに、ジフテリアは慌てたように手を離した。顔が熱い。多分赤い。ガスマスクで隠れていることに感謝するなんて思いも寄らなかった。慌てるジフテリアに、メルは少し寂しそうにキョトンと首を傾げている。ニマニマとした笑みを浮かべる輪の視線に気付いたジフテリアは、黙って見守っているレクター博士に指をビシッと突きつけた。
「というかレクター博士! 何お客様面してるのさ! お前も手伝え! のほほんしてるとマジでお前から先にぶっ殺すからな!」
「生憎、僕に戦闘力は無いからね」
「そうよ! 博士が手伝うならメルだって動くのが筋ってものよね?」
 レクター博士を庇ったイリアが、メルにビシッと指を突きつける。指名されたメルは、慌てて立ち上がると破魔のやり方を復習し始めた。
「う、うん! メルもがんばる! まだ街を抜けた訳じゃないもんね!」
「あっ、メルは無理しなくていいからね! 楽にしててよ!」
「いやぁ、面白いね!」
 くつくつと笑う輪にジフテリアが反論しようとした時、トラックが急ブレーキを掛けた。地面を斬りつけるような音を立てたタイヤは急ハンドルで曲がり、中に乗っていた住人達が悲鳴を上げながら転がる。トラックのすぐ脇を衝撃波が過ぎ去り、吹き込む暴風に息が止まる。必死に体勢を建て直したバスがようやく停車した時、遠吠えのような咆哮が辺りに響いた。

● 自由の荒野へ
 トラックの外に出たジフテリアは、門の前に番兵よろしく立ち塞がる巨体のレイダーの姿を見上げた。何か遺伝子操作でもされているのか。今まで見てきたレイダー達の2倍以上はあろうかという巨体のレイダーは、白目がちな目でトラックを見下ろした。好戦的な視線で荒い息を吐き出したレイダーは、拳に力を溜めるとバスに向けて巨大な拳を振り下ろす。
 拳がバスに突き刺さる寸前、巨体が大きく傾いだ。勢いよく飛び出した金と黒をベースにしたキャバリアが、巨体のレイダーに体当たりを仕掛けたのだ。
「持ってて良かったキャバリア! アウトブレイクでぶっ潰せ!」
 脳波コントロールと念動力でキャバリアを操縦するジフテリアの命令に応え、キャバリアがアウトブレイクを構える。ゆらりと身を起こした巨体のレイダーに、巨大化したライフルから毒弾が放たれる。倒れた巨体のレイダーは、裂帛の衝撃波を狂ったように放った。迫り来る衝撃波を迎え撃つように、オーバードーズから衝撃波を放つ。真っ向からぶつかり合った衝撃波が互いを打ち消し合い、鋭い音と共に相殺される。
 その隙をついて湧いて出た通常サイズのレイダー達が、それぞれの乗り物に乗ってヒャッハー! と叫びながらトラックに追いすがってくる。他の猟兵達はレイダーの迎撃に出て、こちらを手伝えそうにない。その様子に眉を顰めた輪は、ジフテリアを振り返ると鏡の鳥に飛び乗った。
「援護するよジフテリアさん!」
「こんな巨大レイダー、反則。援護、頼んだわよ!」
 輪をチラリと振り返ったジフテリアは、目の前の巨体のレイダーに集中する。早くこいつを倒さなければ。両手を突き合いギリギリと力比べをするキャバリアと巨体のレイダーの均衡は、巨体のレイダーが膝をついたことで崩れた。
「弁慶の泣き所、って知ってる?」
 輪の声が戦場に響く。血の色に染まる桜の花びらをまとわせた、漆黒のオーラを放つ念動力で自分自身を操作した輪の捨て身の一撃が、巨体のレイダーの脛を強打する。右拳の刻印に深くまとわせた闇色のオーラが巨体のレイダーの皮膚を裂き、肉を抉って骨まで至る。輪の攻撃に膝をつく巨体のレイダーに、ジフテリアのキャバリアが猛攻撃を仕掛けた。
 ついに倒れた巨体のレイダーを、キャバリアが持ち上げる。車一台が辛うじて通れる隙間に、輪の声が響いた。
「この隙に、ここを抜けて!」
「早く! コイツ重い! ながくは、持たない、から!」
 二人の声に、派手な一撃をレイダーに食らわせた味方猟兵達がバスを護衛しながら通り過ぎていく。最後の一台に乗り込んだ輪とジフテリアが通過した直後、轟音を立てて巨体のレイダーが門を塞いだ。
 壁を乗り越えて合流したキャバリアを回収したジフテリアは、眩しい光に目を細めた。東の空が赤く染まり、今日初めての光を投げかけてくる。
 夜が明けたのだ。
「綺麗……」
 ポツリと呟いたのは誰なのか。暗闇を抜け、朝日の中を走り出した猟兵達は、一路ロージスシティへ向けて走り出すのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年02月01日
宿敵 『酔狂な科学者『レイド』』 を撃破!


挿絵イラスト