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ひとりミサキ

#UDCアース #【Q】 #UDC-P

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●序
 青春の日々が夕暮れに浸される。赤く染まる校庭に影法師が落ちる。
 連れ立って帰る生徒たちの笑い声が、手応えのないざわめきになって、この屋上に届く。
 こんな時、御崎・汐音(みさき・しおね)はひとり、昔のことを思い出す。

 何年前のことだったか。もう数えてはいない。その頃、汐音には沢山の友達がいた。
「御崎ちゃん。お願い、宿題写させて!」
「うん。いいよ」
「御崎ちゃん。どうしても外せない用があってさ。当番変わってくれない?」
「うん。いいよ」
「御崎ちゃん。実は頼みが……」
「うん。いいよ」

 小学生の時、内向的な性格の汐音はうまく友達を作れず、大人たちには問題視されたものだった。
 中学校ではそうならないようにしよう。汐音は頑張って皆の役に立ち、よく頼まれごとをするようになった。
 こうすれば皆に好かれる筈。頼まれるのは友達だから。自分はちゃんと友達を作れている。
 そう考えていたのだ。あの日の夕方までは。

 放課後の廊下。頼まれ事を片付けて帰る汐音の耳に、たまたま届いたクラスメイトたちの会話。
「御崎ちゃんって便利だよねー。頼んだら何でもやってくれるし」
「孤立気味だから仲良くしてあげてって、先生から頼まれてんだけどね」
「じゃあお昼に誘う? 御崎……御崎、何とかちゃん」
「えー。あの子って何考えてるか解んなくて苦手」
「まあ、私らがやんなくても他の誰かがやってくれるよ」

 汐音は息を殺して後ずさり、足音も立てずにその場を離れた。
 そこで終われば、それだけのことだったろう。思春期のささやかな傷。時間が経てば癒えていく。挽回だって出来る。
 だが汐音にはもう、この先の時間は与えられなかったのだ。

 それらはいつ、どこから現れたのか。人気のない校舎の薄闇が凝縮したかのように、汐音の傍に立っていた。
 人の姿をした黒いもの。学校に潜んでいた怪異たち。
「惨めだわ……何を言えばいいかも解らないなんて」
「友情は人生の宝物。青春は人生最良の日々。それがないなんて」
「誰しも出来て当然のことが出来ないなんて」
「それで生きてる意味があるかしら? あるかしら?」
 呪詛の輪唱は精神を蝕む。弱った獲物を沼底へ引き込むための罠が、汐音を絡め取った。
(「何、何なの……?」)
 汐音は足早に、やがて小走りに、最後には走って、不気味な人影から逃れようとしたが、影は決して振り切れない。
 もう嫌だ。息が苦しい。何も聞きたくない。追い立てられるように、いつしか屋上へ出ていた。

 施錠されているべき筈の、屋上の扉は開け放たれていた。
 赤い陽射しの中に、やはり黒い人影が立っている。明かりの中でよく見ると、自分と同じ制服の少女の姿であることが、汐音にも解った。
「ねえ、あなた。私たちの仲間にならない?」
 今までの影と違って穏やかな、少女の声音。
「懐かしいわ。私もね、生きていた頃は仲間外れでひとりぼっち」
 少女が纏わりついて来ても、汐音の足は動かなかった。もうどこにも逃げ場が無いのだ。
「それで『飛んだ』の。もう人間が嫌になってね」
 少女の指が、屋上の縁の外、何もない場所を指し示したので、『飛んだ』という言葉の意味がはっきり解った。
「あなたも飛んでくれたら、私たち何もかも一緒だもの。きっと話が合うし、仲良くなれるわ」
 少女は語りながらふわふわと後退する。屋上の縁を越えて、中空へ。
 抗いがたい呪詛に突き動かされ、汐音は彼女を追って歩いた。
 微笑みかける少女の瞳の中に、確かな予感を得たのだ。いま一番言って欲しい言葉を、彼女が言ってくれるという予感を。
「お友達になりましょう、汐音ちゃん」
「……うん」
 高揚と浮遊感のうちに、汐音は夕陽の中へ飛んだ。

 その後の記憶は定かではない。
 赤く染まる校庭。影法師のような自分の死体。広がるざわめき。青春の日の終わり。
 それらを見下ろして佇む汐音は既に人間ではなく、怪異、七人ミサキの一員であった。

 冷えていく頭の中に、流れ込むのは七人ミサキのルール。
 ミサキは常に七人。新しくひとり入れば古いひとりが抜ける。云々。
 ああそれで、と汐音は虚ろに得心した。
 それであの少女の姿が消えてしまって、自分はひとりなのだ。自分をミサキに引き入れて、彼女は抜けたのだ。

 ……激痛が、汐音を回想から現在に引き戻した。
「オバサン、何でまだサボってるのさ……オバサンが先に抜けないと、私たちも抜けられないのに……! ずっと苦しみ続けるのに……!」
 更なる激痛。眼と言わず心臓と言わず、全身を滅多刺しにされている。
 ミサキの能力による攻撃だ。汐音をオバサンと呼ぶ後輩のミサキが(いつしか汐音は最古参のミサキになっていた)、怒りに任せて魔眼の力を向けてきている。
 無理もないことなのだろう、と汐音は思う。ミサキになった者は終わらない苦痛に苛まれ、他人に呪いを向けずにはいられなくなる。
 どうしてか、汐音にはその症状はないのだが。

(「……いっそこれで死ねたら楽なのに」)
 ミサキ同士で殺しあったり自殺を試みても、決して死ねず、傷は元に戻る。簡単に七人ミサキを崩壊させないための仕組みだろう。
 だから汐音は、じっと激痛に耐え続ける。どんな状況に追い込まれても、自分が抜けるために誰かを引き込むことは嫌だった。自分が受けた絶望を人に味わわせたくはない。

「誰かを身代わりは……したくないの……」
「綺麗事言ってる場合じゃないんだよ!!」
「はいはい、無駄なことはお止めなさい」
 汐音に激昂するミサキを、別のミサキが制止した。
「センパイに何を言っても無駄よ。人間としても出来損ないで、ミサキとしても出来損ないなんだから。
 それより、自殺クラブの自殺集会の日取りがようやく整ったの。センパイは手足と舌を潰してから同席して頂きましょう。
 ……私たちがちゃんと人間を呪いたくしてあげますから、感謝して下さいね」
 怯える汐音に、彼女は暗く暗く微笑んだ。

●グリモアベース
「……ここまでが既に起きたこと。そして近いうちに、この学校で集団自殺が起こります」
 眞清水・湧(分界簸却式超人類祖型・f02949)が語る依頼の内容は以下の通り。

 中高一貫校である冬稜学院に、七人ミサキと呼ばれるUDCが巣食っている。
 ミサキは呪詛による誘導で、学院内の人間に『自殺クラブ』を結成させ、集団自殺を企図している。
 予知ではクラブのメンバー、自殺集会の日時や場所までは特定できない。
 猟兵は学院に向かい、各々が得意な手段で自殺クラブの情報を収集。集団自殺の現場に居合わせ、そこに出現する七人ミサキを撃破して欲しい。
 七人ミサキは自殺クラブの精神に大きな影響を及ぼしている、呪詛の大元。彼女らを倒せば自殺は防がれる。

 なお、七人のミサキの中でも御崎汐音は『UDC-P』と呼ばれる、何らかの異常によって『破壊の意志』を持たないオブリビオンである。
 彼女は保護してUDC組織に連れ帰って欲しい。
 猟兵はUDC-Pを見ただけで直感的にそれと解るので、誤って倒してしまう心配はない。

 UDC-Pは日常生活を送るにおいて何らかの不都合を持っていることが多いが、汐音の場合は『未練のある場所を離れられない』というものだ。
 何かしらの方法で未練を解消してやることで、連れ帰ることが出来るだろう。

「では、よろしくお願いします」
 湧はぺこりと頭を下げて、猟兵たちを送り出した。


魚通河
 学院で調査して戦闘して解消しようというシナリオです。

●第1章
 学院内の秘密クラブ、『自殺クラブ』の集団自殺がいつ、どこで行われるか調査します。
 現地UDC組織の手引きにより、中学生・高校生・教職員などの身分で潜入できる他、隠密行動で調査することも可能です。

●第2章
 七人ミサキとの戦いです。
 猟兵ならミサキを倒して骸の海に還すことが出来ます。

●第3章
 御崎汐音の未練を解消することで、連れて帰れるようにします。
 未練の内容はプレイングで「こうかも」と言えばそれに左右されますが、学院と実家がある町内での行動になります。
 湧は呼ぶと何か手伝わせることが出来ます。
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第1章 冒険 『教団員を探せ』

POW   :    自分が怪しいと思った相手に力を見せつける

SPD   :    容疑者の情報や証拠から教団員を特定する

WIZ   :    会話して得られた情報から教団員を推理する

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🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●一
 冬稜学院は中高一貫の私立校だ。雰囲気はごく平穏。治安はよく、校則は緩い。
 だがこの学院内の何人かが、自殺クラブと称して集まり、死の準備をしているのだ。

 やたら陽気で空回り気味の留年生。完璧主義で少しの弱味も見せない委員長。
 滅多に口を開かず小説を読み耽る眼鏡の娘。笑顔が朗らかで、左手首のリストバンドを決して外さない軽音部員。
 生気をどこかに捨ててきてしまったような世界史教師に、生徒の名前をいっさい覚える気のない美術教師、等々。
 怪しいと思い始めれば誰もが怪しく見えてくる。

 あなたはUDC組織の手引きで生徒や教師、職員として潜入、もしくは人目につかないよう隠密裏に、調査を開始した。

●補足
 上の文中に出て来た怪しい人たちはただの例です。「こういう性質の人物がいる筈だ」とプレイングで指定すれば、大体そういう人が登場します。
風見・ケイ
スーツの上に白衣を羽織り、養護教諭――保健室の風見先生としての一日が始まる
教師や警備員といった選択肢もあったけど、保健室には学校の『問題』が集まるものだ
私も、よく保健室でサボっていたな……宗教かぶれの母がうるさくて眠れなかったから

冷やかしに来た生徒をあしらってから、情報を整理する
最近よく来る中等部の五十川さん
転校生でクラスに馴染めず孤立していたが、ここ数日は一段と生気がない――等々、彼女の友人の志野さんから相談を受ける形で情報を得ていた
私の調査結果とも合致する……五十川さんが、メンバーのひとりだ

――志野さん
五十川さんのこと、今は私に任せてください
その後は……貴女が、寄り添って、手をとってあげて




 校舎に注ぐ、爽やかな朝の日差し。梢を渡る風。小鳥の囀りが告げている……勤務時間が来たよと。
「さて……」
 風見・ケイ(星屑の夢・f14457)は調査経過の整理を一旦終え、スーツの上から白衣に袖を通す。ここ数日の潜入調査で着慣れた仕事着。
 養護教諭としての一日の始まりだ。

「ねえねえ、先生って齢はいくつ?」
「恋人はいるんですか?」
 無邪気な瞳で見上げて来るのは、中等部の女生徒たち。『保健室の風見先生』は、彼女らからすれば、さぞ格好いい大人に見えているのだろう。
「もうすぐ一限目が始まりますよ。遅れないようにね」
 冷やかしの生徒たちをあしらい、送り出してから、暫くすると、ひとりの女生徒が保健室を訪れる。
「先生……今日もいいですか?」
「ええ。どうぞ、五十川さん」
 中等部保健室の常連、五十川澪を、慧は暖かく迎え入れる。

 保健室には学校の『問題』が集まるものだ。
 教師や警備員として潜入することも出来た慧が、養護教諭を選んだ理由はそれだった。
(「私も、よく保健室でサボっていたな……」)
 自分自身も覚えがある、少女時代を思い出す。
 あの頃は、宗教にのめり込んだ母が夜毎うるさくて眠れず、保健室のベッドが安息の場所だった。
 思い出しついでに、耳の奥で母の何事か唱える声がまだ響いている気がして、慧は首を振る。
 ベッドに目をやると、具合が悪いと言って伏せった澪は苦し気に寝息をたてていた。

 放課後。五十川澪の友人、志野有架が相談にやって来た。
「……」
 整頓された保健室の器具の中で、時計の秒針だけが微かな音を立てる。
 切り出すことが出来ずにいる有架に、慧は可能な限り優しく声をかける。
「志野さん、ここで聞いたことは誰にも話しません。誰かの不利益になることも、責められることもありません。だから何でも話して」
「先生……」
 ぽつぽつと、有架が語った内容。

 転校生である澪はうまくクラスに馴染めず、孤立気味であった。
 それでもどうにか有架という友人も出来、これから事態は好転しそうだったのだが。
 ここ数日、何だか様子がおかしくなった。うまく言い表せないが、生気がない気がするのだ。
 そして有架にお願いがあると言ってきた。明日の夕方、一緒に集会に来て欲しい。どうしてもひとりで行くのが怖いから、と。
 何の集会なのか訊ねても教えてくれず、この話は絶対に誰にもしないでと約束させられた。
 それから、澪は有架に、今までありがとう、と泣きながら告げたという。

(「間違いない。……五十川さんが、メンバーのひとりだ」)
 有架の証言に自分の調査結果も併せて、慧は確信する。
「先生、私どうしたらいいのか……」
 有架は縋るような眼で慧を見上げた。『保健室の風見先生』は、彼女からすれば頼るべき大人に見えているのだろう。
 大人のふりをしているだけの自分が。
 一瞬、そんな考えが頭を過ぎるが、言葉は不思議とすらすら口をついて出た。憧れの人ならばこう言っただろうという言葉が。
「――志野さん、話してくれてありがとう。
 心配しないで。五十川さんのこと、今は私に任せてください。その後は……貴女が、寄り添って、手をとってあげて。
 それはきっと、貴女にしか出来ないことだから」
「……はい」
 安堵した有架の表情を見るに、どうやらうまく出来たらしい。

 明日の夕方。時刻は差し迫っているようだ。慧はその時に向けて、更なる情報収集に奔走した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】

抜けたくても抜けられない輪ってのも、
世知辛いもんだねぇ……
そいつが閉じた環だってんなら、最悪だろうさ。
…ソイツが生徒でも教師でも関係なくね。
だから、先に「芽」を摘み取っておこうじゃないのさ。

年上に見られるのは癪だけど、この際だから目をつぶる。
学院の外部機関とか適当な肩書を付けた監査役に『変装』し、
教師内でのパワハラについて『情報収集』するよ。
どうせ脛に瑕の一つや二つ持つセンセもいるだろ。
そいつらの『傷口をえぐる』様に『言いくるめ』、
標的にされてた教師を探し出す。
そしたら後はカウンセリングのお時間さ。
『コミュ力』で鬱屈した思いを和ませて、
決行日を聞き出そうじゃないか。




 学院の門は開かれている。物理的にはその通りだったが、やはり外から来た者には結界じみた印象を与える。閉ざされた世界の境界線。
「抜けたくても抜けられないしがらみってのも、世知辛いもんだねぇ……」
 普段のライダースーツではなく、ビジネススーツに身を包んだ数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)は門を見上げて呟く。
「そいつが閉じた環だってんなら、最悪だろうさ。……生徒でも教師でも関係なくね」
 だから自殺クラブを潰す前に、そのメンバーを増やす『芽』を摘み取っておこう。
 外部機関の監査役という肩書と、法律の知識という武器を手に、多喜は門を潜り、閉じた世界へ斬り込んだ。

「……ご質問の点については以上です」
「成程、解りました。ご協力感謝します」
「いえ。では私はこれで……」
「ああそうそう、もうひとつだけ伺いたいんですがね?」

 多喜が探りを入れたのは、教師間のパワハラ問題。恐らく存在するだろうという多喜の予想は当たっていた。なければないで、平和でいいことだったのだが。
 身内の不祥事を隠そうとする掴み所のない抵抗と、【罪暴く言の葉(ディテクティブ・ロイヤー)】で格闘する。
 ある時は法の盾を押し立てて、ある時は後ろ暗さに爪を立ててえぐり、ある時は問い詰めと言いくるめで懐柔し。

「煙たがられるのはまあ仕方ないけど、若い教師から年上に見られるのは癪だね。あたしはまだ若者だっての」
 多喜は情報を整理しながらひとり零す。もちろん、あえてベテランに見えるよう変装している為なのだが。
 学院のパワハラ問題について、あらかた調べはついた。もとより相手は犯罪や証拠隠滅のプロではないのだから、そこまで強固に秘匿されてはいない。
 調査報告はUDC組織を通じて善用されるだろう。睨みを利かされた教師は横暴を控えるに違いない。
 だが、それらはあくまでついでの用事。本題は自殺クラブの情報収集だ。
「さて、後はカウンセリングのお時間といこうかね」
 多喜はパワハラを受けていた教師の中でも、ここ最近特に様子がおかしいという相手にコンタクトを取った。

「簡単な聞き取り調査ですから、楽になさって下さい」
「はい……」
「大変でしたね」

 幸い、相手は同年代の女性教師であり、パワハラを暴いて止めさせた実績もあって警戒はされなかった。
 時間をかけて聞き役に回り、鬱屈した思いを吐き出させていく。
 そうして最後の最後に、ようやくその言葉を聞けた。

「明日の夕方……もう行く必要もなくなりました」
「明日の夕方? どこへです?」
「これはあなたの領分かは解りませんが、実は……」

 自殺クラブの存在とその集会について、彼女は話した。自分も参加しようとしていたが、目が覚めた今、どうすればいいものかと。
「その件は私に任せて下さい。悪いようにはしません」
 多喜はにやりと口の端を歪める。そろそろこの堅苦しい変装も終わりに出来そうだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

獅子王・椿
五鬼継竜胆と参加
時間は放課後
服装はセーラーに着物っぽい上着という格好
「竜胆、ふた手に分かれて調査しようではないか」
そう言って椿は美術室へ。
そこでは鬱々とした男性教師がキャンバスに絵を描いていた。
椿はこっそり近づき後ろから
「なかなか良い絵だの〜」
教師の反応はお任せ。

絵に関することや椿の着物っぽい上着その他でお話したい(お任せ)

少しの間会話したところで本題に。
「そう言えば、近々何か催しものがあると聞いての。我も参加したいのだが、日時も場所も分からぬ。お主、何か知らぬか?」

その後の反応等もお任せでお願いします


五鬼継・竜胆
「椿様、承知しました。それでは私はこちらを。」
時間は放課後。
セーラー服に黒タイツという服装に着替えた竜胆。
スカートだがなんとなくイケメン臭漂う感じ。

椿にそう返事すると教室がある方へ向かう。

とある教室の前まで来るとすすり泣くような音が聞こえる。
そっと教室を覗くと一人の静かそうな女の子がポツンと1人机に伏して泣いている。

そっとドアを開け女の子の近くに行き声をかける
「どうされた?何か嫌なことでもあったか?」
静かな口調で話しかけながら隣の席に座る

虐めとかでも

話を聞いたりして、女の子が少し落ち着いたところで
「そういえば、近々何かイベントがあるようなのだが私も参加したいと思っているんだ。何か知らないか?」




 見覚えのない、あの子は誰。初めて話すのか、そうじゃないのか。
 夕闇が誰彼を惑わす刻限。人通りの失せた廊下を歩くのはセーラー服に身を包んだ、鬼の角を持つ者たち。

「うむ。竜胆、なかなか様になっておるぞ。やはりこういうものは形から入らねばな」
 獅子王・椿(復讐の鬼・f25253)は、自分に従う五鬼継・竜胆(椿の守護者・f29586)のセーラー服姿に頷いた。
 セーラー服に黒タイツという出で立ちの竜胆は、女子制服にも関わらず、整った顔立ちと端然とした佇まいの為に美青年然とした雰囲気を発していた。
「はい。椿様もよくお似合いで」
 セーラー服に着物のような上着を羽織った椿は、昼の校舎でならさぞ衆目を集めただろう。人の少ないこの時間では、それを褒めるのは竜胆のみだったが。

「では竜胆、ふた手に分かれて調査しようではないか」
「椿様、承知しました。それでは私はこちらへ」
 並んで歩いていたふたつの影は廊下の突き当りで離れ、それぞれ別の方向へ向かった。果たして誰と出会うのか。

「どうやら人の気配がするの」
 椿が辿り着いたのは高等部美術室。覗いてみれば、男がひとり、黙々と絵筆を走らせている。教室を自由に使えるあたり、美術の教師だろう。
「どれ……」
 こっそりと近づき、後ろから声をかける。
「なかなか良い絵だの~」
「そう思いますか」
 男は驚きも振り向きもしなかった。
「うむ。画面はほとんど真っ暗だが、中心の余白にはまだ何か浮かび上がって来る余地がある。何がそこにあるのかの?」
「さあね」
「決まっておらぬなら、我のような美しい着物の娘でも描いてはどうか?」
 男は会話する気がなさそうだが、椿も無理矢理にでも話に引き込もうとする。
 正面に回ると夕日の中に上着を棚引かせ、くるりと一回転して見せた。
「成程。美しいな」
「そうであろう、そうであろう」
「だがそれだけだ」
「それ以上の意味がはたして必要かの?」
「……何の用です? 美術部は廃部になったから、もう部員は募集していないが」
 根負けした男は用向きを訊ね、椿はほくそ笑む。
「廃部とは、また何故に?」
「さあ。生徒の考えることは解りません」
「そうか……。まあ、我の用向きはそれではない。
 実は近々、催しがあると聞いての。我も参加したいのだが、日時も場所も分からぬ。お主、何か知らぬか?」
「……? それこそ、私が知る筈もない」
(「しまったの」)
 椿の見た所、男は嘘をついていはいない。本当に知らないか、椿の目当てが自殺クラブだとは思いもしていないのだ。
 確かに、自分は自殺志願者には見えないだろうと椿は思う。

(「仕方あるまい」)
 少しだけ、心の内をみせてやろう。
「お主、美術教師であろう? ならば物事の表面だけでなく、裏側も観て取れぬか?」
「何?」
 怪訝そうにこちらを見上げた男の視線を、椿は左右色の違う瞳で悠然と見返す。
「一見何の憂いもなさそうに振舞っていても、誰にも言えぬ苦悩や窺い知れぬ過去を抱えていることもある。……そうは思わぬか?」
 それを語る椿の圧に、一瞬男は怯んだ。が、すぐに笑いだす。
「ふふ……そうか。じゃあ君も『そう』なのか」
 自由気儘な少女の中に、自分と同じ影を見出した、暗い笑い。
(「一緒にするでない」)
 と言いたかったが、こらえて頷いておいた。
 男は自殺クラブの集会について話しだす。
(「上手くいったの。……誰しも心の内では、同類を求めておるものか」)
 明日の夕方、この美術教室で。早速、竜胆を探して伝えよう。

「この声は……」
 椿と別れた竜胆は、教室の並ぶ廊下を歩いていた。聞こえてきたのは、しくしくとすすり泣く声。
「ここからか」
 そっと声のする教室を覗くと、ひとりの少女が机に突っ伏して泣いているのだった。

「もし、どうされた? 何か嫌なことでもあったか?」
 竜胆は静かに語りかける。少女は顔も上げずに答えた。
「……何でもありません。放っておいて」
「……とてもそうは見えないが」
 それきり会話は途切れた。竜胆は少し離れた机に腰かける。

「あなたは何をしているの?」
「あなたが落ち着くまで、傍にいようと思ってな。そんな様子でひとりにしておくのは忍びない」
「……別にいいのに」
「そう言わず。さ、これで涙を拭いて」
 顔を上げた少女に、竜胆は心配そうにハンカチを差し出した。夕日を背にした竜胆の顔を眩しそうに見上げる少女。頬が赤いのは、西日の為か別の理由か。
「無理にとは言わぬが、何があったか話してみないか? 話すだけでも楽になることもあろう」
「……本当に、大したことなんてないですよ?」
 そう前置きして、少女がぽつぽつと話しだす。

 その内容は、悪い奴らに酷いことをされている、という話ではなかった。
 大変な問題が起きて、解決しなければ重大な結果に至る、という話でもなかった。
 他人から聞けば他愛もない話。何かやってもうまくいかない、結果を出してもしっくりこない。そういった内容の詰め合わせ。

(「私に出来ることはありそうもない」)
 悪を退治するとか、そんな問題ではないのだ。
 竜胆はそう考えながらも、少女が話しやすいように相槌を打つ。普段からよく振り回される苦労人の竜胆は、話を聞くのも慣れていた。
 少女は話し続けた。内容が整理されているあたり、何度も頭の中で繰り返したものだろう。
 誰かに聞かせようにもその相手がいなかった言葉たち。それならば、通りすがりの来訪者である自分が引き受けるのが丁度よかったかも知れない。
 苦労するのは嫌いではない。竜胆は静かに話に耳を傾ける。

 やがて話も終わりを迎えた。
「ごめんなさい、こんなにずっと話して……」
「いいさ、あなたの気が晴れるなら。ところで……」
 竜胆は問いかける。近々行われるという、秘密の集会。それに自分も参加したいのだが、何か知らないかと。
「え……」
 少女は不安そうに眉を顰めた。
「それ、自殺クラブのことですか? それなら明日の夕方にあるって……でも、止めた方がいいです。遊びじゃないから。私ももう行きません!」
「そうか。では止めておこう。少し興味があっただけなのだ」
 適当にごまかして少女を安心させながら、竜胆は思う。早く椿様に合流してお伝えせねば。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『七人ミサキ』

POW   :    七人ミサキの呪縛
【 彷徨い続ける苦しみと生者への妬み】を聞いて共感した対象全てを治療する。
SPD   :    道連れの呪い
【肉体を操作し、対象自身の手で】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
WIZ   :    呪殺の魔眼
【憎悪の視線】を向けた対象に、【自身の死に様を再現する呪詛】でダメージを与える。命中率が高い。

イラスト:しらゆき

👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●二
 翌日夕刻。それぞれに情報を集め、またそれらを突き合わせた猟兵たちは、高等部美術室で自殺集会が開かれることを突き止めた。
 メンバーの中に紛れ、または隠れ潜み、猟兵たちは集会の場に居合わせる。

「世界は生きるに値しない。或いは世界から弾き出された。どちらでも構いません。
 今日、ここにお集まりの皆様は、人生からの解放を望まれている筈」
 クラブの主導者は変哲のない少女だった。恍惚の表情と陶酔的な話し方は、呪詛の影響の濃さを思わせる。
「恐怖を忘れられない方もご安心ください。死の天使様が福音を授け、恐れを消し去って下さいます」
 彼女が語ると同時、黒い悪霊……七人ミサキが姿を現す。クラブのメンバーたちはざわめいた。主催の少女以外はミサキの姿を見たことはなかったらしい。

「ああ、天使様。私たちに福音をお授け下さい!」
 少女は跪いてミサキに懇願する。ひとりのミサキがそれを制した。
「少しお待ちなさい。全ては招かれざる客人を始末してから。
 ……あなた達さえいなければ全て上手くいくのです。邪魔はさせません、猟兵」
 ミサキたちは自分の敵を的確に見分けられるらしい。
 教室の隅に転がされているUDC-P、汐音を除いた六体のミサキが、猟兵たちに牙を剥く。

●補足
 七人ミサキは猟兵への攻撃を何より優先します。猟兵さえいなくなれば呪詛に抵抗できる者はいなくなり、全て思い通りになるからです。
 ミサキは死因によって魔眼の内容が変わります。「こういう死因のミサキと戦う」とプレイングで指定するとそういう展開になります。

 美術室は普通の教室よりは広く、頑丈な作業机が並んでいます。美術室にありそうなものは大体あります。

 自殺クラブメンバーたちは事態についていけず、おろおろしています。戦いの邪魔になるようなことはしません。
 汐音は手足と舌を潰され、教室の隅に転がっています。戦いに影響することはありません。ミサキ同士でつけた傷は勝手に治るので、死んだりもしません。
獅子王・椿
五鬼継竜胆と参加、アドリブ・連携歓迎

転がっている汐音を見て
死なんとはいえ、なかなか酷いことをするのぉ
ほれ汐音とやら、大丈夫か
お主からはあ奴らと違った匂いがするでの
そこで静かに見ておれ

不敵な笑みを浮かべミサキに向き直ると

貴様らは少しやり過ぎたの。我達が叩きってくれるわ。
そちらは任せたぞ!(竜胆や他の猟兵達へ)

机に足を掛け飛ぶと、そのまま1人のミサキ(虐め自殺)へ刀を袈裟斬りに振り下ろします

大剣のため部屋の中での戦闘で苦労するが、最後は連携か他人に当たらないようにだけ留意してガンガン打ち込んで最後はUCで決着をつけます

自殺志願者に対して、まだ自殺したいか?なら我が叩きってくれるわと不器用な優しさを


五鬼継・竜胆
刀のつばに手を掛けすぐにでも動ける体勢を取りつつ、椿の後ろで静かに教室に集まった者達を見る

ミサキ達のせいもあるが、こんなにも自ら死を願う者達が多いのか
それぞれ悩みは違うが、こんなちっぽけな場所だけを見て人生を終わらせるのは勿体無い…と今は思う。

椿が切りかかり空中に浮いている間に別のミサキ(行き過ぎた虐めからの溺死)が椿に襲いかかる

お前の相手は私だ

別のミサキを蹴りで吹き飛ばした後戦闘
冷静に相手を翻弄しつつ、最後はUCで斬る

椿の言葉足らずを補足しつつ、
どうせ死ぬのなら、私らのように旅をしてからでも遅くはないと思うぞ。
などフォローしつつ、やめさせる方向を探る




 行く先は決まっている。
 包丁を手にしたミサキに向かって、椿は悠然と歩みを進める。
「来なよ……誰にも邪魔させない……! え?」
 それから、意気込むミサキの傍を通り過ぎて、教室の隅へ。屈み込んで、床に転がされている汐音を抱き起こす。
「死なんとはいえ、酷いことをする」
 敵に背を向ける格好であったが、椿の動きに迷いはなかった。手足を潰された少女の有様を見れば、こうするに決まっているではないか。それに頼れる従者が自分の背を守ってくれる。
「ほれ、大丈夫か、汐音とやら」
「あ……う……」
「無理に話さずともよい。お主からはあ奴等とは違った匂いがするでの」
 怯える汐音に、椿は微笑みかけて安心させると、椅子をいくつか連ねてそこに寝かせてやった。
「……さ、これでよし。そこで静かに見ておれ。我等があ奴等を骸の海に還す、その様をの」
 微笑みは不敵な笑みに変わる。

「何してるのさ……!」
 椿が自分を無視して通り過ぎたことに、ミサキは憤る。
 しかし椿の背に攻撃を仕掛けることは出来なかった。竜胆が椿の背後に立ち、守っていたからだ。
 刀に手を掛け、こちらを見据える冷えた視線。一言も発さなくとも、椿様には触れさせぬと雄弁に語っていた。

 これが自分の役割だ。
 打ち合わせたわけでもなく自然に、竜胆は椿の背を守った。椿が敵のことなど知らぬげに好きに振舞うのも、自分を当てにしての行動だと思うと嬉しくもある。
(「しかし」)
 目前の敵に睨みを利かせながら、室内の状況をも横目に把握する。その中で竜胆は思った。
(「ミサキ達のせいとはいえ、こんなにも自ら死を願う者が多いのか」)
 室内に、自殺クラブのメンバーは8名。急な事態についていけず、右往左往している。
(「悩みは様々だろうが、こんなちっぽけな場所だけを見て人生を終わらせるのは勿体無い……」)
 今日歩き回った校舎。仇を追って旅して来た竜胆から見れば、なんと小さな世界だったことか。
「竜胆、行くぞ」
 椿の呼ぶ声に物思いを中断する。今は敵を斬り、呪詛を断ち切ることが先決か。
「は、椿様」
 竜胆は椿に合わせ、刀を抜き放った。

「貴様らは少しやり過ぎたの。我達が叩っ斬ってくれるわ」
 ミサキに向き直り、鬼刀・咲椿を抜いた椿は不敵な笑み。椅子に乗りあげ、机に足を掛ける。
「それはこっちの台詞で……ええっ!?」
 ミサキはまたも驚いた。
「そ~らっ!」
 椿は机を蹴って跳ぶと、一瞬で宙に浮かぶミサキに肉薄し、斬りつけたのだ。
「ぐうっ」
「何をする……!」
 別のミサキが椿の着地際を狙おうとするが。
「お前の相手は私だ」
 竜胆がそのミサキを蹴り飛ばし、椿との間に割って入る。
「竜胆、そちらは任せたぞ!」
「御意のままに」
 ふたりは背中合わせに刀を構え、互いの相手と対峙した。

 ぽたぽたと、床に血が痕を描く。
「こんな痛み……!」
 胸に椿の一撃を受けたミサキは血を流しながらも、包丁を振りかざして襲いかかる。
「よいぞ。打ち合いといこうか!」
 椿も正面から鬼刀を振るい、刃と刃が火花を散らす。
 ミサキの膂力は人間離れしていたが、それでも武器も技術も椿には及ばない。
 包丁を弾き返し、鬼刀は更に二度、三度とミサキの身体を斬りつけた。

「……存外にしぶといの」
「こんな痛み、今までの苦しみに比べたら何てことないよ……」
 何度も斬られながら、ミサキが倒れる様子はない。それどころか、呪いの言葉を呟く度に傷が塞がっているようだった。【七人ミサキの呪縛】の力だろう。
「苦しみを知らない奴等を! 同じ目にあわせてやるんだよ……!」
 ひときわ強い呪詛で完全回復し、怒りを滾らせたミサキは包丁を構えて突進する。
「……もうよい。我のこの一撃、受けてみよ!」
 椿も相手に呼応して気を吐き、奔った。ふたつの影が交錯し。
「……終わりかの」
 響華閃。咲椿の一閃はミサキの胴を両断した。
「まだやれるんだよ、まだ……」
 ミサキは呪縛の治癒を続けたが、ふたつに分かれた身体を修復することは叶わず。塵となって骸の海へ還っていった。

「お前……ゴボッ……邪魔を……ゴボボ……するな……ガフッ」
 一言喋るごとに、苦悶するミサキの喉から腐った水が溢れ出す。その全身はびっしょりと濡れていた。
「溺死、か」
 身投げしての自殺だったのだろう。陰惨な苦しみを竜胆は想像するが、頭の別の部分では冷静に戦いの手を考えている。
「ぐうう……ゴプッ」
 ミサキは水の魔法、呪いの水弾を次々に放つ。が、竜胆は動き回って身を躱し、相手を翻弄する。
「どうした。私はここだぞ」
「おのれ……ゴボッ」
 焦るミサキの攻撃は竜胆に掠りもしない。遂に竜胆は、ミサキの背後を取った。刀の間合い。
「もうよせ。苦しまずに終わらせてやろう」
「ガボッ……そうはいくか……!」
 ミサキは水塊で壁を作り、竜胆を圧し潰そうとするが。
「はあっ!」
 気合と共に抜き放たれた剣刃一閃は、水の壁ごとミサキを両断。
「ああ。息が……楽に……」
 喉から溢れる水が止まったミサキは、安らかに消滅していった。

 戦いが終わった後の話。
「お主ら、まだ自殺したいか? ならば前に出よ。我が叩っ斬ってくれるわ」
 腰に手を当て、椿が自殺志願者たちを睨む。その中には昨日の美術教師の姿もあった。
「……言い方は乱暴だが、椿様はあなた達に自殺を思い止まって欲しいのだ」
「むう」
 フォローする竜胆を、椿はじろりと横目で見やる。
「どうせ死ぬのなら、私らのように旅でもしてみてはどうだろう。別の世界を覗いてみてから改めて考えても、遅くはないと思うぞ」
 椿の視線に気づかないふりをして、竜胆は続けた。
「旅か……それもいいかも知れない」
 美術教師がぼそりと呟く。
「そもそも考えてみれば、あれって死ぬほどのことだったっけ?」
「ねえ……違うかも」
 ミサキの呪詛の影響下にあった者たちは、少しずつその目に光を取り戻していった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

風見・ケイ
五十川さん達を護るため――そう言いたいところだけど

解放、救済、そんな甘言に惑わされ自ら命を絶つ
私の母も、そうやって集団で首を括った
『ミサキ』の苦痛と制約に縛られているから?
そう頭で理解はできても昂ってしまう感情を、どうにか抑えて

作業机を盾にしながら、拳銃で応戦
クラブのメンバーが気になりますが、自殺志願者を避難誘導するのは難しいか
――ミサキに向けたはずの銃口が、自らの胸に突き付けられて
私は抵抗せず引き金を引く
【幽明境の暮れ泥み】にいる私は、君の代わりになれないよ

血が抜けて、少し落ち着いた
呪いを無視[呪詛耐性]して、銃口をミサキに向ける
『星屑』による炎を加えた一射で、七人ミサキという鎖から解放する




 ゆらゆらと揺れている。誰にも触れられず。手の届かない場所で。

「て、天使様……いったい何が……」
 突然はじまった撃ち合いに、自殺クラブのメンバーは何も出来ずにいるばかり。
 可能なら避難誘導したかったが、何度か呼びかけてみても、こちらの声は聞く気もないようだった。
 幸い、慧もミサキも彼女らを巻き込みたくない点は共通しているようで、攻撃を受ける危険はない。ミサキに引き込む為には、あくまで自殺させなければならないのだろう。

(「あれのどこが天使だっていうのか」)
 作業机の陰に身を隠し、呪殺弾の弾幕に拳銃で応戦する。その合間合間に確認できる敵の姿。
 手足を力無く宙に垂らし、折れ曲がった首には縄の痣。表情だけは生者のように、暗い目でこちらを見ている。あの姿は。
(「首吊り自殺……」)
 推測されるミサキの死因に、思わず慧は眉を顰める。

「天使様……」
「安心なさい。もうすぐあなた達は救済されます。安らかに世界から旅立つのです。それまで大人しく待っていなさいな」
 相も変わらず出鱈目を並べている。ああいう連中の手口はいつもそうだ。
 解放、救済、そんな甘言に惑わされて自ら命を絶つ人々。
 慧の脳裏に母の顔と声が過ぎる。あの人もそうやって、集団で首を括った。

「あなた、さっきから険しい目で私を見ているけれど……首吊りがそんなに珍しい?」
 ふと思い立ったとでも言うように、ミサキは慧に話しかけてきた。ゆらゆらと宙に揺れながら、探りを入れてくる。
「それとも、誰かを思い出したのかしら? 家族、友達、恋人……」
 呪詛に反応してはいけない。心に隙があると思われたら、どこまでも絡みついてくる。……その例をよく知っている。
「当ててみせましょうか? ……お母様ね。ああ、何て幸福な人なんでしょう。でも、天国で寂しがっておられるわよ。あなたが一緒に来てくれなかったから」
 何も知るわけがない。ただこちらの神経を逆撫でするための茶番。
(「五十川さん達を護るため――戦うのはそのため」)
 銃を握る理由を見失ってはいけない。自分に言い聞かせるように考える。
 七人ミサキは苦痛と制約のため、人を呪わずにいられない。ミサキになれば誰でもそうなってしまうのだ。
 だが頭でどんなに理解できても、胸の内に燻るものがある。
(「大人は怒りに任せて敵に突っ込んだりしない。投げやりになったりしない」)
 昂ってしまう感情を抑え込み、冷静に応射する。

 ミサキの呪殺弾が慧に当たることはなかったが、慧の狙いも僅かに精彩を欠く。
 そんな撃ち合いを少し続けた後、はたと呪殺弾が止んだ。
「頃合いよ。やるわ」
「はい」
 首吊りのミサキは背後で援護していたもうひとりのミサキに合図し、同時に強力な念を繰り出した。
 道連れの呪い。ユーベルコードは超常の力だ。それも二人がかりであり、先程からじわじわと呪詛を浸透させられてもいた。
 結果、慧の呪詛への耐性を上回ることに成功したミサキたちは、慧の身体を操った。
 神経が暗闇に浸される感覚。腕が勝手に動き、自分で自分に銃口を向けさせられる。
 その狙いが心臓だったので、慧は抵抗するのをやめた。

「ふふ、これで私は抜けられる。お母様によろしくね」
 銃声。弾丸は過たず慧の心臓を射抜き、鮮血が迸る。……が、慧は倒れない。
「……!?」
「【幽明境の暮れ泥み】にいる私は、君の代わりになれないよ」
 己の心臓を撃ち抜く。それが発動のトリガーとなって、慧の身に宿る邪神、『星屑』と呼ばれる存在の防御反応が引き起こされたのだ。
 呪詛の支配は消し飛び、代わりにもっと熱いものが全身に満ちる。

「ああ、そう。もう他の神様がいて……人間も辞めているなんて」
 邪神の気配に気圧されながらも、ミサキはまだ呪いの言葉を呟くが。
「もう効かないよ。……血が抜けて、少し落ち着いた」
 少し落ち着くどころの出血量ではないが、今の慧には大した痛手でもない。
 自由になった両手で、狙いをつける。心も銃口も揺れることなく、正確無比に。

「口惜しい……人間だった時は何も成せず、幽霊になってもまた失敗。役立たず。出来損ない」
 勝てないことを悟ったのだろう。自分を呪うミサキに、怒りではなく憐れみを向けて。
「七人ミサキという鎖から、あなた達を解き放つ」
『星屑』の炎を纏った一射で貫いた。続く一射がもう一体のミサキも火葬する。
 炎の揺らめきに包まれた悪霊たちは灰となって宙に溶け、後には何も残らなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】

悪いね、ちょいと邪魔するよ。
ここのセンセに頼まれて、生徒さん達を助けに来たんだ。
大丈夫、生きてりゃこうして何とかできる。
……ま、手遅れの奴らにゃキツいお灸を据えてやらねぇとな。
分かってんだろ、ミサキ?

こうして思い切り『コミュ力』で『挑発』してやれば、
センセにも周りにも見放されて孤独感から自殺したミサキが
思い切り噛み付いてくるだろ。
別に構いやしねぇよ、その悔しさも本物だ。
呪詛を『優しさ』を忘れずになけなしの『呪詛耐性』で堪えつつ、
教室中に静電を満たす。
憎悪をむき出しにしたのが運の尽き、
ここはもう【超感覚領域】の只中さ。
人を呪わば穴二つ、アンタらミサキはいくつ掘る?




 空気に満ちているもの。悲嘆、苦痛、戸惑い、呪い。そういったものを塗り替えるために、彼女は来た。
「悪いね、ちょいと邪魔するよ」
 変装を解いた多喜の雰囲気はワイルドで、この場では異質だ。それが自殺志願者たちの気を引いた。
「あの……あなたは?」
「あたしはここのセンセに頼まれてね、生徒さん達を助けに来たんだ。知らない? 英語担当で、眼鏡をかけた若い女の……」
「沼淵先生?」
「よくこのクラブに来てた……」
 それは多喜がパワハラから救い出した教師の名前。
「そう。あのセンセは『呪い』が解けてね。あなた達を心配してたよ」
「そんな。今日も来てくれる筈だったのに」
「呪い……?」
「あなた達も、今は『呪い』で操られてるだけさ。大丈夫。生きてりゃ打つ手はあるし、何とか出来る」
「あの先生が……」
「ねえ、どうする?」
 多喜は会話を続け、少しずつ空気を塗り替えていく。その様子を、冷たい目で見下ろす黒い影がひとつ。
「……ま、手遅れの奴等にゃキツいお灸を据えてやらねぇとな。
 解ってんだろ、ミサキ?」
 多喜は中空の影を見据え、あえて挑発の言葉を投げた。

「うるせーなさっきから。死ぬ時まで群れてなきゃ何も出来ない、弱い奴等が」
 その少女は、頭と胴体が離れていた。両腕と両足も胴から千切れ、更に指も掌と繋がっていない。その宙に浮いた指を、いらついたようにわきわき動かしている。
(「どういう死に方だ。爆発?」)
 思い巡らせながら、多喜は話を引き延ばそうとする。もう少し準備が必要だ。
「群れることが弱いとは、アタシは思わないがね。そういうアンタは強いってのかい?」
「生きてる奴等、群れてる奴等はみんなそうやって屁理屈を言うんだ」
 ミサキの言葉には隠しきれない悔しさが籠っていた。
(「いいさ、その悔しさも本物だ」)
 孤独を賛美すればするほど悲しみを露呈する、そんなミサキの呪詛を、多喜は黙って聞き続けた。

「……本当の強さを見せてやる。ボクの魔眼は最強なんだ」
「へえ。そいつで睨まれると、どうなるんだい?」
「もっと怖がれよ! ボクが睨めばお前は爆死するのさ。その死に方の魔眼が一番すごいって、お姉様が教えてくれたんだ。最強のミサキだって褒めてくれた!」
「ああ」
 準備はもう整っている。多喜は思わず憐れみを込めて零す。
「悪い奴等に騙されたんだね」
「……死ねっ!!」

 ミサキが憎悪を膨れ上がらせてから、魔眼が発動するまでの刹那の間。
 その間に、電撃がミサキを貫いた。
「!?」
 反射で目が閉じられ、魔眼の発動は阻害される。
「なあ、アンタの魔眼は確かに強いよ。だから受けてやる訳にいかないんだ」
「何をした……?」
「憎悪をむき出しにしたのが運の尽き、ここはもう【超感覚領域】の只中さ」
 多喜が時間をかけて周囲の空気に満たしていたもの。超能力の静電が敵意に反応してミサキを灼いたのだ。
「……クソッ!」
 ミサキは幾度も魔眼を発動しようとしたが、敵意は全て自分に跳ね返り、電撃でその身を焦がしていく。
「よくもっ!」
 別のミサキが攻撃を仕掛けてくるが、それも同様の結末を辿った。
「人を呪わば穴二つ、アンタらミサキはいくつ掘る?」
 墓穴を掘って灰となり、消えてゆくミサキたちに、多喜は静かに呟いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『UDC-P対処マニュアル』

POW   :    UDC-Pの危険な難点に体力や気合、ユーベルコードで耐えながら対処法のヒントを探す

SPD   :    超高速演算や鋭い観察眼によって、UDC-Pへの特性を導き出す

WIZ   :    UDC-Pと出来得る限りのコミュニケーションを図り、情報を集積する

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●三
「あのう……私も除霊されるんですか?」
 御崎汐音はおずおずと口を開いた。

 戦いが終わり、六体のミサキは長く囚われていた呪いの枷から解放された。
 呪詛に心を縛られていた自殺クラブの人々も正常な心身に戻り、猟兵たちの激励もあってもう自死を考えることはないだろう。
 事後処理に派遣されてきたUDC職員によれば、彼らはこの後、「異能者と悪霊が実在し戦った」という記憶を書き換えられるが、猟兵たちの存在や話した内容そのものは忘れることはない。
 最後に残された問題は、UDC-Pの保護だった。

「みんな消えてしまいましたし、私も……」
 汐音の傷は戦闘が終わる頃には治癒し、話せるようになっていた。
 中学生のままの姿で、寂しげに語る幽霊に、猟兵たちは事情を説明した。
 汐音は消える必要は無いこと。UDC施設に保護され、研究に力を貸して欲しいこと。彼女の未練を解消する手伝いをしたいということ。

「ああ、そうなんですね。よかった……」
 汐音の声には苦役が終わる嬉しさと、消えずに済むという安堵が滲んでいた。そして目から零れる一筋の涙。
 人間でなくなり、世界から切り離された後でも、まだこの少女には生きていく意志があるのだと、猟兵たちは理解した。

「でも、未練と言われても、どうすればいいのか……ごめんなさい、自分のことなのに」
 汐音自身、未練の内容をはっきりと自覚できてはいないようだ。
 しかしいつの間にか、少女の両足には黒く重たげな鎖が巻きついていた。これが彼女をこの土地から離れられなくしている未練なのだろう。
 色々と試すことで、未練の鎖は消えていく筈だ。猟兵たちはその方法を考え始めた。

●補足
 汐音は未練の詳しい内容を自覚していません。
「友達になって友達らしいことをする」
「友達は無理して作らなくたっていいし、いなくても悪くないと伝える」
「残された汐音の家族がどうしているか一緒に調べる」
「あの日の屋上で汐音をミサキに誘って自殺させた少女のことが汐音の心に強く残っており、やっぱりあの子と友達になりたかったという未練にどうにかしてケリをつける」
 等の方法で、未練を解消できます。

 これら以外の、考えられる未練と解消する方法をプレイングで指定することも出来ます。
 また、全部の内容をこなす必要はありません(特に4番目)。

 汐音は学校とその近所までは自由に行動でき、汐音の実家も範囲内にあります(自殺して以降は罪悪感から、家に帰ったことはありません)。
 汐音は一般人から見えない状態になれるので、連れ歩いたり目立つ行為をしても見咎められることはありません。
風見・ケイ
五十川さんたち、どうしたかな……いや、きっと大丈夫だろう。

それにしても、UDC-Pか……まあ私も汐音さんと似たようなものです。
UDCに保護される彼女に、この秘密を伝えることはできませんが。

ねえ汐音さん。友達になりましょう。
友達に大人も子どもも関係ありませんよ。

……私も、学生時代に友達ってほとんどいなかったから、どうすればいいのかよくわからないけど、一方的な物ではないと思うな。
君の頼み……願いも、言ってごらん。
今の私は養護教諭じゃなくて、君の友達で……探偵です。
一緒にお茶することも、君が気になることを調べることもできるんだ。

……これは、内緒にしてね。
私も、知ってるんだ――『飛んだ』時の、浮遊感。


獅子王・椿
竜胆と参加

それでは行くとしようか!

慌てる汐音の手を引き強引に連れて教室を、学校を出て行く
竜胆も椿に従って一緒に

実はUDC職員から汐音の実家の場所を聞き、そこへ行こうとしている

そのまま直接家へ行く予定だったが、途中にあった商店街から美味しそうな匂いがしたため椿が寄り道する

なんか美味そうな匂いがするの
汐音、あれは何という食べ物だ?

クレープを買った椿は美味しそうに食べる

途中で汐音に差し出し
お主も食べるか?

実家に到着し、チャイムを鳴らすと母親が応対してくれる
汐音も母親に見えてないので一緒にいく

汐音の友人の椿だ
線香を上げさせてもらおうと思っての

帰り際に、汐音はお主の知らぬ場所へ行くが、元気でやっておるぞ


五鬼継・竜胆
椿が汐音の手を引き外へ出ていく
何か考えがあることだろう

どこかへ行く途中、商店街で美味しそうな匂いに釣られる椿様

あぁ全くあの人は

ただ、笑顔で食べる椿様と汐音を見ていると口元が緩む
え、私にもですか?
…なるほど、美味しい

ここは汐音の実家か
汐音には辛い事かもしれないな

私は竜胆と申します
汐音さんの友人です
線香を上げさせていただいても良いでしょうか?
(椿様の格好に少し面食らった感じだな


憔悴した母親
大事な娘であっただろう
娘の悩みに何故気付いてやれなかったのか後悔ばかりであっただろう
話を聞いた後

帰り際椿の言葉の後
汐音さんはとても良い子です
貴女に元気になって欲しいと願ってるみたいですよ

玄関を閉めてサッと消える




「あの、風見先生、ご心配をおかけしました」
 自殺クラブ崩壊直後のこと。美術室にいた五十川澪も呪詛が解け、慧にお礼を述べた。
「ええ。無事でよかった」
 慧は澪と言葉を交わして様子を見た後、最後に告げた。
「志野さんと仲良くね」
「はい。志野さ……有架ちゃんにも、お礼を言わなきゃ」

 その後、志野有架からも連絡があった。
「五十川さん……澪ちゃんの様子が変わって元気になって、風見先生に助けられたって。先生、ありがとうございました!」
 この分なら彼女たちは大丈夫そうだ、慧は考える。
 気がかりならまた様子を見に来たっていい。もう保健室の先生ではなくなるが、自分は探偵なのだから。


 時系列は前後して、今、慧の目の前には汐音が立っている。
(「UDC-Pか……」)
 自分も彼女と似たようなものだ。胸に手を当てて思う。
 その身に息づく存在を、UDCには秘密にしている以上、これからUDCに保護される汐音にも伝えることは出来ない。それが少しもどかしい。
 とはいえ、慧はひとつ大きく息をしてから、汐音に声をかけた。
「ねえ汐音さん。友達になりましょう。友達に大人も子どもも関係ありませんよ」

「い、いいんですか? あの、私、何をすれば」
「……私も、学生時代に友達ってほとんどいなかったから、どうすればいいのかよくわからないけど」
「?」
「友達ってどちらかが一方的に何かをするものではないと思うな」
「あ……」
「だから、君の頼み……願いも、言ってごらん。友達の願いを聞きたいのが、私の願い」
 慧は汐音を安心させるように両手を広げる。
「今の私は養護教諭じゃなくて、君の友達で……探偵です。一緒にお茶することも、君が気になることを調べることもできるんだ」
 そう言って答えを待つ慧に、悩んで悩んで汐音が告げたのは、一緒に帰りたい、という簡単な願いだった。

 友達同士が並んで帰る光景を、汐音は遠い屋上からずっと眺めてきたのかも知れない。
 夕日が差す校内を、慧と汐音は連れ立って歩いた。
 話題は長いあいだ外の情報に触れていなかった汐音の気になっていたこと。
 あの作品はまだ完結していないだとか、あのバンドは数年ぶりに新曲を出しただとか。
 汐音とは不思議と趣味が合った。生きていたら慧と年齢が近いのだろう。それに。

「……これは、内緒にしてね」
 汐音が打ち解けて、弾んだ会話が一段落ついた頃。慧はふと立ち止まって言った。ふたりの他に人影はなく、誰にも聞かれる心配はない。
「……何?」
 静まり返った中で、汐音もまた何かを待つように立ち止まる。
「私も、知ってるんだ――『飛んだ』時の、浮遊感」
 小さく囁いた慧の言葉に、汐音は短く、
「そう。そうなんだね」
 とだけ答え、何も追及はしなかった。
 ただ、彼女の表情と声音に幾許かの後ろめたさと、同じ瑕疵を持つ者に出会った喜びがあるのを、慧は読み取った。

 ふたりは再び歩き出し、他愛もない話題に戻る。いつしか、汐音の足に巻きついた鎖はその数を減らしていた。


 慧と汐音が校門を出ようとする頃。
「おーい!」
 別方向からやって来たのは椿と竜胆。
「あの美術教師に、美しい着物の娘の姿をしっかり描くように、と念押ししておったら遅くなってな」
 実際は、美術教師を気にかけた椿の不器用な優しさの発露だったのだが。
(「言わない方がいいだろう」)
 竜胆は口を噤む。

「よし。では行くとしようか!」
 言うが早いか、椿は汐音の手を取って歩き出す。
「ど、どこへ?」
「見た所、今は帰り道なのであろう? 学校を出たら、家へ帰るものではないか」
「あ……」
(「成程。そういうことか」)
 何か考えがあるのだろうと静観していた竜胆は納得する。汐音たちに合流する前、椿がUDC職員に何事か尋ねていたのは、汐音の家の情報を求めていたのだろう。

「で、でも……」
 汐音は歯切れが悪かった。家に帰りたい気持ちはあるが、家族に顔向けできないという罪の意識もあるのだろう。竜胆はそう察する。
「汐音さん、帰ってみるのもいいと思うよ」
 携帯端末で通話していた慧がそう言った。彼女もUDCに汐音の家族について問い合わせ、帰っても問題ないと判断したのだ。
「汐音はミサキに陥れられただけなのだ。胸を張って帰ってよいのだぞ?」
 椿はいったん立ち止まるが、汐音の手は離さない。
「……帰りたい家がまだあるというのは幸せなことだ。戻りたい気持ちがあるなら、そうするのがいいだろう。いつか後悔しないように」
 竜胆の言葉には、切実な実感が籠っていた。
「……そうですね。私、帰りたいです」
 三人に背中を押されて、汐音は迷いを振り払った。


 椿は皆の先頭に立ち、家路を急ぐ……かと思いきや、通りがかった商店街から漂ういい匂いに気を取られた。
「なんじゃ? 美味そうな匂いがするの」
 匂いに引き寄せられてふらふらと、椿が寄り道した先にはクレープ屋があった。
(「あぁ、全くあの人は」)
 内心で溜息をつきながらの竜胆と、慧、汐音もついて来る。
「汐音、あれは何という食べ物だ?」
 汐音から説明を受けながら、椿は注文を終えてしまった。それから目の前でクレープを焼く光景を、興味津々に見守った。

「おお。美味いではないか!」
 出来上がったクレープを頬張り、椿は満面の笑み。
「椿様、そろそろ先を」
「お主らも食べるか?」
 人数分を注文してあったクレープを、椿は竜胆にも差し出した。

「美味しいですね」
「うむ」
 そう言って笑いあう汐音と椿の姿に、竜胆の口元も緩む。
「……成程、美味しい」
 口にしたクレープは甘い味がした。


 汐音の家に着き、インターホンを鳴らすと、応対したのは女性の声だった。
「お母さん」
 という汐音の呟き。
「実は私たちは汐音さんの友人で……」
 探偵であり、元警察である慧が、それらしい事情を作り上げて説明する。
「汐音に線香を上げさせてもらおうと思っての。入れてくれぬか?」
「私は竜胆と申します。汐音さんの友人です。線香を上げさせていただいても良いでしょうか?」
 椿の言動が怪しく思われなければいいが、と心配しながら竜胆は頭を下げる。
 竜胆と慧の丁寧な対応がよかったのか、椿の堂々たる姿が悪人に見えなかったのか、汐音の母は三人を仏間に通してくれた。
 一般人からは見えない汐音も、皆に続いて自分の家へ入っていった。

 三人が線香を上げる間に、汐音は懐かしい家の中を見て回っているようだった。
 見る限り、汐音の母は元気そうで、家の中も綺麗に整っている。この家に暮らす人たちは汐音の死を乗り越えたのだと感じられた。
 それでも、三人が線香を上げ終えた後、娘の悩みに気がついてあげられなかった、と語る母の様子は後悔に満ちていた。
「お母さん達は何も悪くないの、ごめんね……」
 家の中を回り終えた汐音は、自分の存在を認識できない母に謝り、ぽろぽろと涙を零し続けた。

 帰り際、椿は汐音の母に告げる。
「汐音はお主の知らぬ場所へ行くが、元気でやっておるぞ。だから安心して欲しい」
 竜胆も続いた。
「私たちが知っている汐音さんは、とても良い子です。貴女を責める気などなく、元気でいて欲しいと、ずっと願っているみたいですよ」
「そうですか……。貴方がたが言うなら、きっとそうなのでしょうね」
 事情を知らない者からすれば怪しくも思われかねない内容であったが、汐音の母はどこか納得した様子だった。
 慧が汐音から聞いた母との思い出話をして汐音を偲んだことで、三人は間違いなく汐音の友達なのだと確信したのだろう。
 家を去る三人の後について歩く汐音は、名残惜しそうに何度も母を振り返っていた。


「皆、助けてくれた上に心残りも解いて貰って、何てお礼を言ったらいいのか……。よかったら時々、研究所に遊びに来てね」
 汐音と猟兵たちは別れの言葉を交わす。足に巻きついていた鎖は全て消え去っていた。これで少女は町を離れてどこへでも行ける。
 UDC組織の車に乗り込み、遠ざかっていく彼女を、猟兵たちは見送った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年02月23日


挿絵イラスト