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間違いだらけの怪物

#ヒーローズアース #猟書家の侵攻 #猟書家 #カーネル・スコルピオ #スピリットヒーロー #『神月円明』

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●怪物を見る怪物
 1999年7月。
 それはある者たちにとっては忘れがたき日である。

 ――『ジャスティス・ウォー』。

 センターオブジアースから顕現した善神と邪神が戦いに加わったことにより引き起こされた二大決戦。
 その戦いは苛烈を極めた。
 多くのヒーローが死んだ。
 多くのヴィランが死んだ。
 世界は甚大なダメージを追い、あらゆる者に大なり小なりの傷跡を遺した。心身共に傷を追うのは仕方のないと言えるほどの大きな戦いだった。

「――弱虫野郎が。お前は遠く及ばない。お前は何も守れなかったし、何も為せなかった。だというのに、俺を、この俺を倒したヒーローとして喝采を受けている。それがどうにも俺には許せねぇ」
 その声に覚えがある。
『ヴァンパアバット』。
 物体をすり抜ける能力を持ったヴィラン。暗殺や破壊工作を得意とする、他者の苦しむ姿や悲鳴を好む狂気の殺人鬼。
 だが、それだけの力を有していた。
 己は対峙してなお、奴を仕留められなかった。仕留め残った。いや、正確に言おう。

「ああ、そうだ。お前は俺に勝ってなどいない。それどころか、俺に殺されかけていた。わかっているよな? お前は何も成していない」
 せせら笑う『ヴァンパイアバット』の表情が歪む。
 歪に、それこそマスクに包まれた顔が割けるほどに大口を空けて嗤う。己を嗤う。ヒーローたり得ないと嗤うのだ。
 確かに己は嘲られるに相応しい者なのかもしれない。

 成すことを為せなかった。
 父や母、そして恋人や友人たちの仇を討つことができなかった。あれだけ憎かった、あれだけ殺してやりたいと思ったヴィランですら、殺すことはできなかった。
 できなかったのだ。
 生命を奪うと思った瞬間、己の力は暴走して仕留め残った。いや、そうではないだろう。己は迷ったのだ。
 本当に殺していいのか。
 憎しみのままに力を振るっていいのか。これは憎しみの連鎖を紡ぐだけの結果にしかならないのではないかと。
「できねぇんだよなぁ? お優しいことにお前は俺にも親しい者がいるかもしれないと思ってしまった。そんなんだから、殺しそこねるんだ。逃してしまうんだ。あまつさえは、絶対に殺さなければなかった俺を、他のやつに、あの『神月円明』に横取りされてしまうんだ――」

 ごぽり、と『ヴァンパイアバット』の裂けた口から血液が溢れ溢れる。
 その胸には大穴が空いていた。
 知っている。その大穴は徒手空拳にて貫かれていたことを。己では為せない業。己がやらねばならかったことを。
 その拳の主を己は知っている。誰よりも臆病で心優しかった彼。生命を殺めることを恐れ続けていた彼。
 そんな彼に生命を奪わせてしまった。
 けれど、彼は笑ったのだ。
 悲しそうな、笑顔で笑ったのだ。
「――あんたが手を汚す必要なんて無い。憎しみの連鎖はオレが連れて行く。だから、あんたは――」

 彼が何を言おうとしたのかわからない。
 だからこそ、己は堕ちていく。悪夢へ。悪夢へ。底の見えぬ憎しみという己をつなぎとめる鎖すらも断ち切られて堕ちて、行く――。

●悪夢の底
 猟書家『カーネル・スコルピオ』は蒼い炎を操りながら、眠らせたスピリットヒーロー『モーニア』をユーベルコードによって醒めることのない夢へといざなう。
 そこはスピリット『モーニア』のトラウマを増幅させた悪夢であった。
「彼女は目覚めない。スピリットヒーロー、確かのその力は強大にして万能。だが、些細な心の乱れが暴走に繋がる……ならば、その力を持って無敵の怪物『スナーク』を具現化させよう」

 揺らめく蒼き炎が悪夢の中に引きずり込まれていく『モーニア』の心を蝕んでいく。
 彼女が今どんな悪夢を見ているのかはわからない。
 だが、確実に言えることがある。力の暴走によって現実と悪夢の世界は繋がる。
 そうすれば、『超生物スナーク』の生誕は成すことができる。
 現実と悪夢の世界に存在する怪物は、繋がった世界で具現化し、その名を恐怖の代名詞として紡ぐことになろう。
 それこそが、ヒーローズアースを再び戦乱の時代に引きずり込む。
「私は望む。世界が再び恐怖のうちに震えることを。その震えこそが、私の心をこそ震えさせるだろう! 悪夢に染め上げよう。私の炎が、全ての生きる者たちの心を蝕み、焼き尽くすその時まで!」

 猟書家『カーネル・スコルピオ』は、その手にした蒼き炎を掲げ、『モーニア』の見る悪夢でもって、その精神の全てを灼き焦がさんとユーベルコードの輝きを増すのだった――。

●その悪夢を
 グリモアベースに集まってきた猟兵たちを迎えたのはナイアルテ・ブーゾヴァ(フラスコチャイルドのゴッドハンド・f25860)であった。
「お集まり頂きありがとうございます。今回はヒーローズアースにおける事件です。皆さんは、ジャスティス・ウォーという事件はご存知でしょうか」
 それは善悪の二大決戦であり、ヒーローとヴィラン、そして世界に甚大なる損害を与えた事件である。
 この戦いによって、心身ともに傷を負った者は少なくない。

「今回予知された猟書家『カーネル・スコルピオ』は、そんなトラウマを抱えた一人のスピリットヒーロー『モーニア』さんをユーベルコードによって悪夢に誘い、彼女のトラウマとなったヴィランを再現し、その力を暴走させようとしているのです」
 スピリットヒーローは強大な力を持つ万能なる魔術師の如きヒーローである。
 ただ、心の乱れによって力を暴走させてしまう可能性も高いヒーローなのだ。そんな彼女のトラウマをえぐって、現実と悪夢の世界をつなげようと目論んでいるのだ。

「そうなってしまえば、悪夢に登場するヴィランは無敵の怪物『スナーク』として現実に具現化してしまうのです。それこそが『カーネル・スコルピオ』の狙いなのです」
 今、スピリットヒーロー『モーニア』は病院に搬送されている。
 トラウマをえぐる猟書家のユーベルコードによって現実と悪夢の世界は繋がっている。ならば、こちらからも悪夢の世界に攻め入ることができるのだ。

「『モーニア』さんに触れれば、悪夢の世界に潜入することができます。悪夢の中で彼女のトラウマを打破し、目覚めさせることができれば『カーネル・スコルピオ』の陰謀は打ち砕けることでしょう」
 ナイアルテは頭を下げる。
 彼女にとって出来ることは少ない。
 けれど、『モーニア』の心の傷跡をえぐる行いは見過ごしては置けない。それは『スナーク』の誕生に繋がる。

「彼女のトラウマは、言うまでもなく……復讐をためらったこと。そして、復讐する相手すら喪ったこと。誰をせめていいのかもわからず、成すべきことを為せなかった自責の念。それは転じて具現化した悪夢……怨敵のヴィランへの恐怖心へと変わっています」
 彼女を救えるのは悪夢に入り込むことの出来る猟兵だけだ。
「私は信じています。いつだって、人の心の恐怖があるのならば、きっと勇気もまたあるのだと」
 見送るナイアルテの瞳は輝いていた。
 見てきたのだ。
 これまでも。猟兵たちの戦いを。その戦いが人々の心に勇気という燈火を灯すのを。
 だから、彼女は信じて送り出すのだった――。


海鶴
 マスターの海鶴です。どうぞよろしくお願いいたします。
 今回はヒーローズアースにおける猟書家との戦いになります。猟書家『カーネル・スコルピオ』がスピリットヒーロー『モーニア』に見せる悪夢の中に潜入し、トラウマの原因たるヴィランの打倒と、彼女のトラウマを克服することで猟書家の陰謀を砕くシナリオになります。

 ※このシナリオは二章構成のシナリオです。

●第一章
 ボス戦です。
 悪夢の中でスピリットヒーロー『モーニア』のトラウマの原因となった出来事、それに関わるヴィラン『ヴァンパイアバット』が襲いかかってきます。
『モーニア』の恐怖心により、『ヴァンパイアバット』は超強化されており、そのままでは倒すことは叶いません。
 夢の中にいるスピリットヒーロー『モーニア』、彼女にトラウマに向き合う勇気を与えることで、敵を弱体化させることができます。
 彼女のトラウマたる出来事はオープニングにある通りです。

●第二章
 ボス戦です。
 トラウマを克服し、悪夢を打ち払った皆さんの元に猟書家『カーネル・スコルピオ』が乗り込んできます。
 言うまでもなく猟兵である皆さんを排除し、再びスピリットヒーローである彼女を悪夢に堕とそうとしています。
 これを打倒し、彼女を悪夢より目覚めさせましょう。

 ※プレイングボーナス(全章共通)……スピリットヒーローにトラウマを克服させる、もしくは共に戦う。

 それでは、トラウマに塗れたスピリットヒーロー『モーニア』の悪夢を打ち払い、無敵の怪物『スナーク』を具現化させようとする陰謀を砕きましょう。
 皆さんの言葉が、行動が誰かを救うのだと。人の憂いに寄り添うから優しさだというのだということを証明する物語の一片となれますように、いっぱいがんばります!
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第1章 ボス戦 『ヴァンパイアバット』

POW   :    ブラッディ・トレイター
【衝動に身を任せた暴走状態 】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
SPD   :    ヴァンプ・シザーズ
【鋭い爪 】による素早い一撃を放つ。また、【六枚の羽で飛翔する】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ   :    ゴーストナイト・ボディ
自身の身体部位ひとつを【不可視かつ不可触のエネルギー 】に変異させ、その特性を活かした様々な行動が可能となる。

イラスト:純志

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はクロゥ・クガタチです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 繰り返される悪夢。
「私は後悔してるのだろうか。私は私が為すべきはずだった復讐を、彼に押し付けてしまったことを悔いているのか」
 それとも。
 それとも、あの怨敵を『ヴァンパイアバット』を殺しそこねたことを後悔しているのだろうか。
 誰かの手を汚してでも成さねばならないことであったのだろうか。
 確かに、父や母を親しい者を殺された。
 許しがたいことだった。
 憎んだ。怨嗟の声を上げた。けれど、それらの全てを彼が根こそぎ持っていった。

「ああ、俺を殺したのは確かにお前じゃあないだろうさ。だがな。お前はわかっているはずだぜ?」
『ヴァンパイアバット』がせせら笑う。
 もうわかっているくせに、と。もう理解しているであろうにと。わからないふりをするのは寄せ、としたり顔で笑った。

「――お前は自分の獲物を横取りされたのが、堪えているんだろう? 自分が殺すはずだった俺をアイツに横取りされたのがよほど腹に据え兼ねたんだろう? どれだけ言い繕っても無駄だ。どんだけおべんちゃらをしようが、お前も俺と同じだ」
 ただ殺したかった。
 恨みを晴らしたかった。
 そこにヒーローらしい倫理観を持ってきたから、そんなことになってしまったのだ。
 憎しみの連鎖。
 それを断ち切ることこそが、ヒーローであると。
 なまじっかヒーローとして生きるからそんなことになる。もとより復讐者であることを忘れかけるからこそ、肝心なところで仕損じるのだ。

「違う。私は……違う! 憎しみの連鎖は、断ち切らなければと――!」
「詭弁、お為ごかしはやめろよな。ヒーロー。そんな薄汚れた感情で吠えるんじゃあねぇ。お前も結局俺と同じなのさ。嗤えよ、復讐者! お前にヒーローなんていう名は似合わない――!」
メンカル・プルモーサ
…なんでやねん…(【尽きる事なき暴食の大火】をぶつけつつ)
つい思わずへんな方言が…『お前も俺と同じ?』…優しさが故に躊躇した彼女と残忍な殺人鬼のお前が…?
復讐対象を殺せなかったことを「横取りされた」、と考えて「横取りさせてしまった」とは考えられないお前が…?
躊躇も自責も彼女が復讐者ではなくヒーローだからこそ、だよ…
身内を殺されれば誰だって復讐心は芽生える…それを押さえ込むだけの優しさを持つことは悪い事では無い…
(だからこそ神月円明も手を汚したのだろうけど、と心の中で)

そして…わざわざ決着再チャレンジの機会をくれるというのもお優しい話だね…
モーニア、手伝うから今度こそは決着を付けよう…



 正道と邪道があるのだとして。
 人の生きる道に果たして、その道の良し悪しを決めるだけの俯瞰した価値観があるだろうか。
 あるのだとしても、その道を歩く者には見えぬ視点であろう。
 誰しもが正しさを愛する。
 誰しもが正しくあろうと思うだろう。
 だが、その心はそのままでいいのだ。無理に正しさというものに縛られる必要はない。無理をすれば、それはいつかねじ曲がる。
 誰かを傷つける道となってしまう。

 憎しみが心を歪めるのだとすれば、その憎しみをこそスピリットヒーロー『モーニア』は振り払おうとしたのだろう。
「お前と俺も同じだ。心の中に悪がある。誰かを妬み、嫉み、憎しむ心がある。ヒーローなんて肩書が在るから苦しいんだ。さあ、忘れちまえ、そんな肩書。自分に素直になろうぜ? 俺が憎かっただろう? 殺したかっただろう? 何を差し置いても俺を殺そうと思っただろう?」
 ヴィラン『ヴァンパイアバット』がせせら笑う。
 
 此処は悪夢だ。
 わかっている。己の罪悪感が、引け目を感じる心が生み出したものだとわかっている。けれど、『モーニア』は否定できなかった。
「違う……違う……」
 言葉で否定できても、己の心に芽吹いた『憎しみ』が燃え上がっていくような気がした。
 やつの言う通りであるかもしれないという疑念が力を、暴走させていく。
「違わねぇよ! 何度でも言うぜ、『お前も俺と同じ』だ!」

 だが、その言葉を否定するのは、『モーニア』ではなかった。
「貪欲なる炎よ、灯れ、喰らえ。汝は焦熱、汝は劫火。魔女が望むは灼熱をも焼く終なる焔」
 遮るように詠唱の言葉が紡がれる。
 それは、メンカル・プルモーサ(トリニティ・ウィッチ・f08301)の放つユーベルコード。
 尽きる事なき暴食の大火(グラトニー・フレイム)であった。いかなる存在も燃料にする白色炎が『ヴァンパイアバット』の体をなめるように覆う。

 それは凄まじき炎であったが、疑念を感じる心、そして何よりお恐怖心が『モーニア』の悪夢の具現である『ヴァンパイアバット』を燃やすことすらできない。
「……なんでやねん……」
 それはいつもの彼女らしからぬ方言であった。
 つい出たおかしな方言であった。メンカルの胸中に渦巻くものはなんであっただろうか。
 怒りであったかもしれない。

「『お前も俺と同じ』……? 優しさが故に躊躇した彼女と残忍な殺人鬼のお前が?」
 膝をつく『モーニア』と『ヴァンパイアバット』の間に割って入ったメンカルの瞳が白色炎に揺らめいていた。
 湧き上がる言葉が、否定する。
 同じではないのだと。メンカルは断言した。
「復讐対象を殺せなかったことを『横取りされた』と考えて『横取りさせてしまった』とは考えられないお前が……?」
 否定する。
 そう、メンカルは否定する。その言葉を、誰かを傷つける言葉を否定する。例え、超強化されたヴィランであったとしても関係ない。

 メンカルの心に灯る優しさが、それを否定するのだ。
「躊躇も自責も彼女が復讐者ではなくヒーローだからこそ、だよ……」
 誰かを許すことを知っている者の心にこそ優しさが宿る。
 力だけでは何も成すことはできない。誰も救えない。誰しもの心に宿るであろう優しさがあるからこそ、誰かを救うヒーローになりえる。
 彼女の躊躇いは、彼女の自責は。
 何もかも彼女が優しいから。ヒーローだからこそ、その心を傷つけてしまう。

 そんなヒーローを守りたいと願った者がいた。
 メンカルもその一人だ。だからこそ、『神明円月』、その名を持つ者も手を汚したのだろう。
 心の中でメンカルはつぶやく。
 いつかの誰かが守りたかったものを、メンカルは護る。
「身内を殺されれば誰だって復讐心は芽生える……それを抑え込むだけの優しさを持つことは悪いことではない……そして、わざわざ決着再チャレンジの機械をくれるというのもお優しい話だね……」
 為すことの出来なかった過去。
 けれど、今は悪夢の中であろうとも、考えようによっては再び決着を付ける場を齎したとも言える。
 それを為したのが猟書家であるというのは皮肉であったものだが。

「私、は……違う。私……!」
『モーニア』の瞳には涙が白色炎に照らされてきらめいていた。
 誰かに言ってほしかった。
 肯定してほしかった。心に宿る復讐も、憎しみも。誰しもが抱えるものであると。

 だから、メンカルは手を差し伸べた。
「モーニア、手伝うから今度こそは決着をつけよう」
 白色炎が燃え上がる。
 それはきっと、『モーニア』の心を後押しする暖かな炎であったことだろう――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルイス・グリッド
アドリブなど歓迎
モーニアに貴方呼び

復讐したい、同じ目に合わせたいというのは誰にだってあるのに貴方はギリギリで踏み止まった
貴方は復讐よりもヒーローである事を選んだ
助けてくれた彼を思うなら胸を張ってトラウマに打ち勝て

SPDで判定
【聞き耳】【視力】で【情報収集】し銀腕を【武器改造】で盾にし【盾受け】【受け流し】で【かばい】つつモーニアと話す
主に復讐よりもヒーローとして踏み止まった事を言いたい
隙があれば【怪力】【シールドバッシュ】を使って相手の【体勢を崩し】てから銀腕を剣にし翼を狙って【切断】する



 白色炎が燃え盛る悪夢の中でヴィラン『ヴァンパイアバット』は、嘲り嗤う。
 何故なら、それこそがヴィランたる彼の本質であるからだ。
 確かに彼は短気で粗暴であった。けれど、それは己の思い通りにならぬからという理由ではなく、他者の懊悩し、悲鳴を上げ、苦しむ姿こそが己の愉悦であると知るからだ。
 だからこそ、この悪夢に現れた猟兵たちの姿に顔を歪め、せせら笑うのだ。
「おいおい、何を言っても無駄だぜ。お前にも、お前にも、誰の心にも復讐心が宿るってぇのならよ。みんな俺とおんなじだ。おんなじ人間なのに、おかしいぜ? なんで殺さない。なんでためらう」
 にたりと嗤う顔が歪む。
 どれだけ己を肯定しようとも、自分だけが許されるのは許しておけないと『ヴァンパイアバット』は鋭い爪先を突きつける。

「ああ、自分の手を汚さなくてよかったって、誰かがやってくれてよかったって思っているんだよ。ああ、そうだよな。誰だって良心の呵責がある。生命を奪う行いは、汚いことは誰かに押し付けたいって思うものな!」
 六枚の羽が広がり、鋭い爪をスピリットヒーロー『モーニア』に振り下ろす。
 その鋭い一撃は、彼女の恐怖心で強化されていた。
 絶命の一撃。
 けれど、その一撃を受け止める影があった。

「復讐したい、同じ目に合わせたいというのは誰にだってあるのに――」
 ユーベルコードに輝く銀の腕で鋭い爪を受け止めながら、ルイス・グリッド(生者の盾・f26203)は言葉を紡いだ。
 凄まじい力だった。
 メガリスである銀の腕ですらきしみを上げる程に強化された『ヴァンパイアバット』の一撃はルイスの体のあちこちから悲鳴を挙げさせる。
「貴方はギリギリで踏みとどまった。貴方は復讐よりも、ヒーローであることを選んだ」
 銀の腕が爪の一撃を弾き、ルイスは『モーニア』をかばうようにして立つ。

「それ、でも……あいつの言う通りだ。私は、確かに、ほっとしたんだ……生命を奪わなくてよかったと。けれど、そのために、彼が」
 そう、自分の代わりに手を汚した。
 憎しみの鎖すら自分から引きちぎって連れて行った。
 彼に業を背負わせてしまったことこそ、己の後悔であったのかもしれないと、『モーニア』は涙を落とす。

「助けてくれた彼を思うなら胸を張ってトラウマに打ち勝て――!」
 メガリス・アクティヴによって強化された銀腕を盾に変形させて受け流し続ける。
 強化され続ける悪夢によって、『ヴァンパイアバット』のちからは並のオブリビオン以上になっていた。
 猟兵たちの介入によって、少なからず『モーニア』の心は良い方向に向かっていても、それでもなお、『ヴァンパイアバット』と己に対する自責からは完全に解き放たれていない。

 そうだよな、とルイスは思った。
 そう簡単に割り切れない。振り切れない。それが人生というものだ。
 けれど、だからこそルイスは言葉を紡ぐ。
「復讐を遂げようとすることは簡単だ。けれど、それは一瞬だ。人生は長いんだ。刹那の復讐から続く人生は、これからも、ずっと続く! だからこそ、その憎しみを振り払った己を、そのヒーローとしての矜持を、誇ってくれ!」
 誰かのためにと戦う者だからこそ、英雄と呼ばれるのだ。
 ルイスはそれを知っている。

「ヒーロー……私、まだ、ヒーローって、名乗っても」
 いいのだろうか。
 そのつぶやきをルイスは見逃さなかった。未だ悪夢を振り払えなくてもいい。
 ルイスは自分の為すべきことを為す。
 誰かの憂いに寄り添うことができるからこそ、人は優しく成れる。優しくあることが人として生きる資格なのだ。
 それを証明するようにルイスは輝くメガリスの力と共に『ヴァンパイアバット』の体を盾に変形させた銀腕と共に押し出し、叩きつける。

「ぐぁっ!? こ、この――!」
「遅い!」
 即座に盾から銀腕を剣に変えて、『ヴァンパイアバット』の一翼を切り裂き、失墜させる。
 倒せる。その手応えが、ルイスにはあった。
 猟兵たちの言葉が、ルイスの言葉が、徐々に『モーニア』の心を励ましている。
 その手応えを感じながら、ルイスは悪夢の中に一条の光となる銀の輝きをユーベルコードと共に放つのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

村崎・ゆかり
お邪魔するわよ、『モーニア』。
あたしが『モーニア』の説得をするから、その間アヤメはヴィランの攻撃を捌いてちょうだい。『鎧装豪腕』、連れてっていいわ。

『モーニア』、二十年前の古傷にいつまでつきまとわれてきたの!
二十年余、二十年! その頃あたしは生まれてもいない。
それだけの時間、ヒーローとして戦ってきたんでしょ!
だったら、敵の生死をどうするか考えることがあったはず。その時あなたは、何を基準にどうしてきたの!?
答えは、あなたの中にしかない。一人前のヒーローなら、自分で考えて答えを出しなさい。

お待たせ、アヤメ。交代よ。
「全力魔法」炎の「属性攻撃」「衝撃波」を乗せた不動明王火界咒をヴィランにぶつけるわ。



 銀の光が悪夢の中に降り注ぐ。
 その光はある者にとっては希望であり、ある者にとって疎ましい光であったことだろう。
「私は……間違えて、ない」
 つぶやくような小さな言葉であったけれど、その肯定の言葉は確かに紡がれたのだ。
 けれど、その芽吹いた小さな光ですら塗りつぶそうとする漆黒の闇が、過去より追いすがってくるトラウマという名の影があった。
「いいや。間違えているさ。お前は間違えている。自分自身の手で決着をつけなかったことを今でも悔いている。誰かの手を汚させてしまったという悔恨よりも、自分の中にあるストレスを解消する方を選んだのさ」
 影――ヴィラン『ヴァンパイアバット』が謗る。
 その言葉は確かにスピリットヒーロー『モーニア』の心えぐった。この悪夢は彼女の精神にある後ろめたいという気持ちが元になっている。

 だからこそ、彼女の心を抉るには十分すぎるほどの尖さを持っていたのだ。
 衝動のままに『モーニア』を抹殺せんと駆ける『ヴァンパイアバット』の前に立ちふさがったのは、村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》・f01658)であった。
「お邪魔するわよ、『モーニア』」
 爪の一撃を式神のアヤメが受け止め、鎧装豪腕を伴って『ヴァンパイアバット』を引き離す。
 だが、悠長にしている時間はない。
 かのヴィラン『ヴァンパイアバット』はスピリットヒーロー『モーニア』のトラウマによって超強化された存在であり、彼女のトラウマが克服されない限りは、その恐怖心によって今の猟兵たちであっても倒すことは出来ない。

「『モーニア』、二十年前の古傷にいつまでも付きまとわれてきたの! 二十年よ、二十年! あたしは生まれてきてもいない」
 ゆかりはスピリットヒーロー『モーニア』の肩を掴んで揺さぶった。
 彼女の姿は当時、即ち『ジャスティス・ウォー』のままだ。
 現実空間の彼女の姿とは違う。けれど、年若い彼女の姿であっても、積み重ねてきた年月が在る。
 彼女たちがどれだけの犠牲を払って『ジャスティス・ウォー』を戦い抜いたのかを、ゆかりは知らない。
 生まれてきていない。
 けれど。

 けれど、それでもゆかりは意思を込めて彼女の心に、今まさに揺れ続ける悪夢の世界において彼女に言葉を繋ぐ。
「それだけの時間、ヒーローとして戦ってきたんでしょ! だったら、敵の生死をどうするか考えることがあったはず。その時あなたは、何を基準にどうしてきたの!?」
 選ばなければならない時もあっただろう。
 人の人生に置いて選択は常なるものだ。
 何が正しく、何が間違っていたのかなんてわかるわけがない。後から振り返ってみて、初めて正しかったのか間違っていたのかを決めることができる。

「――……! わたし、は……!」
 何かを間違えてしまったとずっと思っていたのだ。
 誰かの手を汚させてしまったという罪悪感。己が成さねばならなかったことを為せなかったという後悔。
 何一つ成し得ることのない人生であったと、『モーニア』は悔いていた。
「答えは、あなたの中にしかない。一人前のヒーローなら、自分で考えて答えを出しなさい」
 ゆかりは掴んでいた肩を離して、立ち上がる。

 ここで立ち上がらなければ、『モーニア』はずっとこのままだ。
 けれど、ゆかりは違う。
 いまを生きている。
 後悔なんてしない。したくない。だから、駆ける。言葉は十分に告げた。後は『モーニア』次第だ。
「おまたせ、アヤメ。交代よ」
 吹き飛ばされてきたアヤメを受け止め、ゆかりはその手に白紙のトランプをはさみ、『ヴァンパイアバット』へと投げつける。
 超強化されたヴィランを抑えるにはアヤメでは足りなかったけれど、言葉を紡ぐ時間を稼いでくれたのだ。

 次は自身の番だ。
 あれだけの啖呵を切ったのだ。先輩ヒーローに情けない姿は見せられない。
「これがあたしの戦いよ! 何も喪わせない。何も奪わせない。あたしの手に届く全てを諦めない。だから、悲しむことなんて、ひとつもないのよ――ノウマク サラバタタギャテイビャク――」
 白紙のトランプから、不動明王火界咒(フドウミョウオウカカイジュ)の炎が噴出し、『ヴァンパイアバット』を吹き飛ばす。
 炎に塗れてもなお、その姿は健在である。
 
 だが、篝火は灯した。
 スピリットヒーロー『モーニア』の心が惑うのならば、この炎を見ればいい。
 迷っていい。間違えてもいい。
 そんなときは思い出して欲しい。
 彼女の心の中に在る原点。その心に燃える炎を。誰かのためにと力を振るった、復讐心など忘れて、誰かを助けるために走ったあの日のことを。
 ゆかりはそう願い、『ヴァンパイアバット』へと己の力を、ユーベルコードをぶつけるのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

バーン・マーディ
我はバーン・マーディ
ヴィランである(ヴァンパイアバットに立ち塞がる黒騎士

UC発動


復讐…憎しみ…怒り
そして正義
それらは全ての殺戮を許容する為の免罪符

ヴィランであるが故に多くの者があの戦争で殺された
我が友も
我が家族も
ヒーロー共に
我も殺した
ヴィランも
ヒーロー共も

皆がそうだった
皆が憎しみと正義に酔い殺し合った

あの地獄の中…貴様は尚殺す事を「悪」としそれを「正しい」と為さなかった

それは弱さではない
貴様自身の強さなのだろう

それは…我が唯一認めるヒーローの在り方だ

愚か
無様
だが強い

殺さぬという在り方もまた正義

貴様の正義はなんだ

貴様の目指した正義とは何だ

……我はヴィラン

ヒーローがおらぬのはつまらんからな



「我はバーン・マーディ。ヴィランである」
 その言葉は悪夢の中に厳かに響き渡った。
 黒騎士の如き姿をした者、バーン・マーディ(ヴィランのリバースクルセイダー・f16517)には正義が在った。
 その心の儘に、その信念のままに己を体現するのが、ヴィランズ・ジャスティス(ヴィランズ・ジャスティス)であるというのならば、その禍々しき紅きオーラは、バーンの持つけして倒れぬ不屈の精神に依るものであったことだろう。

「それで。それで、そのヴィランが何用だよ」
 ヴィラン『ヴァンパイアバット』が炎を振り払って六翼の翼のうちの一枚を喪った姿で首をひねる。
 ここは悪夢の世界である。
 スピリットヒーロー『モーニア』の見る悪夢であり、現実ではない。
 目の前にいる『ヴァンパイアバット』は既に死んでいる。救おうとしても救いようのない存在である。 
 生前の存在のようであっても、それはバーンにとってヴィランにほかならない。

「復讐……憎しみ……怒り。そして正義。それらは全ての殺戮を許容する為の免罪符」
 バーンの声が響く。
 正義とはなにか。
 貫かねばならなかったものはなにか。己に問うことはない。すでに己の中に答えはある。揺るぎないものがあるからこそ、ブレぬのであるとするならば、その胸中にあるのはあらゆる感情を超越したものであったことだろう。

「ヴィランであるが故に多くのものがあの戦争で殺された。我が友も。我が家族も。ヒーロー共に。我も殺した。ヴィランもヒーロー共も。皆がそうだった。皆が憎しみと正義に酔い殺し合った」
「それの何処が悪い。殺し、殺され、因果応報だっていうのならば、それもまた摂理だろうがよ」
『ヴァンパイアバット』はその心に宿る衝動のままに咆哮する。
 その速度は凄まじいものであった。
 一瞬でバーンに肉薄し、その飛翔能力でもって空中戦を繰り広げる。

「あの地獄の中……貴様は尚殺す事を『悪』とし、それを『正しい』と為さなかった」
 バーンの瞳は『ヴァンパイアバット』を見ていなかった。
 いや、捉えてはいた。けれど、その瞳は常に『モーニア』を見つめていた。その瞳に在るのは、憎しみでも、憐憫でもない。
「為さなかったんじゃない……出来なかっただけ。私は、弱すぎる……!」
「それは弱さではない。貴様自身の強さなのだろう。それは……」
 そう、それはバーンが唯一認めるヒーローの在り方だ。
 愚かであり、無様である。 
 だが、強い。滑稽であると嗤うだろう。懊悩し、苦しむだろう。その結果が猟書家に付け込まれたのだとしても。

 それでもバーンは言う。
 手にした剣で『ヴァンパイアバット』の爪を弾き飛ばす。
「殺さぬという在り方もまた正義。貴様の正義はなんだ。貴様の目指した正義とは何だ」
 きっと。
 そこに答えがある。復讐も、それをやめたことも。誰かに罪悪を感じることも。
 何もかもが『モーニア』というヒーローの在り方であり、不可分にして不可逆。
 ならば、立たねばならない。
「……我はヴィラン」
 そう、バーンは己をヴィランとする。
 ヒーローとヴィランは分かり合えぬ存在であるかもしれない。けれど、それでも、認める存在がいるのならば、バーンはヴィランとして対峙する。

 あの日の戦いをなかったことにしてはならない。
 あの日の苦しみも、悲しみも、今という時間に繋がるものであるのだとすれば。全てを抱えていくしかない。
 張り合いがないのだ。
 バーンは切り結ぶ『ヴァンパイアバット』を一撃の下に大地に叩きつけ、嘯くようにつぶやいた。

「――ヒーローがおらぬのはつまらんからな」

大成功 🔵​🔵​🔵​

髪塚・鍬丸
あれはヴァンパイアバット本体じゃない。彼女が「奴ならこう言うだろう」と考える架空の存在か。
ならば、真に対峙すべき対象はモーリア嬢。

【鳴神の術】使用。加速飛翔し、敵の飛行能力に対抗する。
敵の動きを【見切り】爪の斬撃を【早業】でかわし距離を取る。
己に気を引きつつ上空に雷雲を発生させ、【属性攻撃】。落雷で攻撃。

仇を殺せなかったかい。
兵士や復讐者なら失格だろうさ。だがお前さんはヒーローだ。
ヒーローに最も必要なのは「信念」さ。生き様がぶれないからこそ、人々はヒーローを信じて希望を持てる。
お前さんは信念を曲げられなかった。だからこそ神月とやらはお前さんを信じ託した。
お前さんを信じた神月を信じな。



 叩きつけられたヴィラン『ヴァンパイアバット』が呻くようにして立ち上がる。
 スピリットヒーロー『モーニア』の恐怖心、トラウマによって超強化された、その悪夢の権化は、未だ健在であった。
 それは『モーニア』の心の靄が、トラウマが未だ晴れきっていないことを証明していた。
「あ~ぁ、本当に次から次へと余計なことをするもんだな。なぁ、おい。そいつはな、罰を求めているんだよ。自分がやらかしたことへのな。だが、内罰的だって言うのはお門違いってもんだぜ?」
『ヴァンパイアバット』はスーツについたホコリを払いながら、嘲る。
 そう、罪には罰を。
 スピリットヒーロー『モーニア』は自身が抱える罪を、誰かに己の復讐をなすりつけてしまったことを今でも悔いているのだ。
 それがトラウマ。
 それが己の罪への恐怖心となって悪夢として彼女に降り掛かっている。

「あれは『ヴァンパイアバット』本体じゃない」
 それは力強い言葉だった。髪塚・鍬丸(一介の猟兵・f10718)の言葉が悪夢の世界に響く。
 そう、あの『ヴァンパイアバット』は嘗て在りしヴィラン『ヴァンパイアバット』の幻影に過ぎないのだ。
 生き返ってきたと思っても仕方のないほどのトラウマ。
「モーリア嬢、君が『やつならこう言うだろう』と考える架空の存在にすぎない――我 天土の理を知り雷と鳴る」
 凄まじい速度で鍬丸は悪夢の中を『ヴァンパイアバット』と戦う。
 六翼のうちの一翼はすでに切り落とされている。だが、それでも『モーリア』の恐怖心、トラウマによて強化された『ヴァンパイアバット』の飛行速度は鍬丸の速度となんら遜色のないものであった。

「仇を殺せなかったかい。兵士や復讐者なら失格だろうさ」
「ああ、そのとおりさ。だから、誰かに押し付ける。いつだってそうだ。失敗したやつの尻拭いをするのは、できるやつの仕事だからな! だから、そいつはヒーローじゃあない」
 爪の斬撃が鍬丸に迫る。
 それを躱し、距離を取りながら、鍬丸は己に『ヴァンパイアバット』の注意を惹きつける。
 確かに『ヴァンパイアバット』の言うことはもっともだ。
 けれど、一つ間違えている。

「だが、お前さんはヒーローだ。ヒーローにもっとも重要なのは『信念』さ。生き様がぶれないからこそ、人々はヒーローを信じて希望を持てる」
 その言葉に『モーリア』は顔を上げる。
 瞳の中にどれだけ絶望と恐怖があろうとも、鍬丸の放つユーベルコード、鳴神の術(ナルカミノジュツ)の輝きは照らし続ける。
 何も信じられないだろう。
 己の信念も今は見失っているだけに過ぎない。鍬丸は信じている。

 彼女が何故、『ヴァンパイアバット』を殺すことをためらったのか。
 それは彼女がヒーローだからだ。
 誰かを助けたい。誰かのために成りたい。例え、目の前にいる仇敵がいたのだとしても、憎しみの連鎖が続くことをこそ恐れた彼女だからこそ、鍬丸は信じる。
「お前さんは信念を曲げられなかった。だからこそ、『新月円明』とやらはお前さんを信じ託した」
 あの日のことを思い出せばいい。
 ここが悪夢だというのならば、その恐怖の権化が『ヴァンパイアバット』。
 であるのならば、その恐怖を打ち消すのは、嘗て在りし『モーリア』の信念だ。誰かが信じて託したことを。
 誰かにつないでいくことこそが、彼女の役目である。

「私は……! 私はつなぎたい、紡ぎたい。誰かのためにと思ったあの日のことはウソじゃないって!」
『モーリア』の声が響く。
 暗雲立ち込める悪夢の中に雷鳴が響き、鍬丸の放ったユーベルコードの落雷が『ヴァンパイアバット』を撃つ。

 それは暗闇を切り裂くような輝かしい光であった。
 誰の心にも希望が宿りますようにと。
 願ったいつかの誰かの願いを叶えるように、悪夢の中に雷鳴がほとばしる。
「お前さんを信じた『神月円明』を信じな」
 鍬丸は『ヴァンパイアバット』へと雷撃の一撃を再び叩き込み、その雷の名の通り、その瞳に希望が灯るのを、見つめたのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シャオロン・リー
アドリブ歓迎

はぁ、これやからヒーローは好きやないねん
「お前もヒーロー」やと?生憎俺は悪党や、お前らと同じな
(ここが夢ん中でよかったわ、監視の目もないし、悪党やらせてもろてええやろ)
うだうだ悩まんと、復讐したいならしたらええやんけ
モーニアやったっけ?お前はヒーローや。何悩んどんねん
俺よりずっと間違いなく、俺の嫌いなヒーローや
誰かの為に戦わな、て悩む時点で俺らとはちゃうねん

さて!ほな、俺は暴れ倒させて貰うわ
俺は悪党やけどな、俺の仲間以外とつるむ気はあらへんねん、俺は暴れたいときに暴れる、暴れ竜シャオロンや
攻撃は見切りで躱して激痛耐性で耐えて、三尖刀で分裂させた槍を全部纏めて叩っこむ
串刺しにしたるわ



 悪夢の世界に溜息が溢れる。
 それは親しみやすい雰囲気を持ったシャオロン・リー(Reckless Ride Riot・f16759)の吐いた溜息だった。
「はぁ、これやからヒーローは好きやないねん」
 そんな風に言う彼の姿は確かにヒーロー然としていた。
 その本質は嘗て在りしヴィラン組織『鋼の鷲』の時から変わっていない。だからこそ、目の前に雷撃を受けてもなお立ち上がってくるヴィラン『ヴァンパイアバット』の姿を前にしても、溜息ばかりがこぼれてしまうのだ。

「お前もヒーローじゃないのか? どうしてそいつを庇うように立っているんだ。なあ、おかしいぜ。嫌いだっていうのなら、別にやらなくたっていいだろう?」
「生憎俺は悪党や、お前らと同じな」
 様々な事情があんねん。
 そんなふうにシャオロンは小さく呟いたが、悪夢が具現化した存在である『ヴァンパイアバット』に己の境遇を言ったところで意味のないことである。
 だが、同時によかったとも思っていた。
 何故なら、彼はヒーロー活動をする条件で自由になった身であり、未だ監視が続けられている身の上であるからだ。
 ここ、悪夢の中ならば監視の目はない。
 好きにやれるし、悪党らしく振る舞っても誰に咎められるわけでもない。

 だから、シャオロンは言うのだ。
 彼の感情のままに、感じるままに。彼自身が自身を悪党と定義するように、あらっぽく言葉を紡ぐのだ。
「うだうだ悩まんと、復讐したいならしたらええやんけ。『モーニア』やったっけ? お前はヒーローや。何悩んどんねん」
 シャオロンには理解できなかった。
 ヒーローはいつだって悩む。懊悩する。苦しむし、悲しむ。
 そんなけったいなことに囚われていることのほうがよほど不自由な生き方じゃないかと。そんな生き方を選ぶ気持ちがわからない。

 だから、嫌いなのだ。
「誰かのせいにして生きたくはないの。何をするにも理由がいるのなら、せめて正しいことをと――」
『モーニア』の言葉が紡がれる。
 その瞳はこれまでも駆けつけた猟兵たちの言葉が、心が絶望と恐怖を拭われていた。
 徐々に光が灯り始めていた。
 だが、まだ足りない。未だ対峙する『ヴァンパイアバット』の力は強化されたままだ。

「俺よりずっと間違いなく、俺の嫌いなヒーローや。誰かのために戦わな、て悩む時点で俺らとはちゃうねん。けどなぁ」
 そう、決定的に違う存在だ。
 けれど、それは他の誰にも当てはまることだ。
 手にした槍の石突と刃部から炎が噴出し、その槍を構える。炎が悪夢に煌めいて、世界を照らす。
「俺は暴れ倒させて貰うわ。俺は悪党やけどな、俺の仲間以外とつるむ気はあらへんねん、俺は暴れたい時に暴れる、暴れ竜シャオロンや」
 それ以上でもそれ以下でもない。
 他の誰かが己を定義しようとしても無駄である。此処にあるのは勝手気ままなる暴力の化身。

 そして、その彼が今獲物と定めているのはヴィラン『ヴァンパイアバット』である。
「さぁ、限界までいかしてもらうで!」
 発破竜槍『爆龍爪』が炎を纏い、多重分身した三尖刀(ヒートヘイズスピアー)が『ヴァンパイアバット』に叩き込まれる。
 それは神速の突きであった。
 多重分身したどれもが一斉に打ち込まれ、躱すことはできない。

 暴れる。
 暴れて、暴れて、暴虐の限りを尽くす。
 どれだけ相手が超強化されていたのだとしても関係ない。今のシャオロンは暴れ倒すということだけに注力している。
 それはあまりにも身勝手であり、同時に自由だった。
 何物にも縛られない。
 捉えられるのことのない存在。きっと『モーニア』とは対極の生き方をしてきたのだろう。

 けれど、その瞳は楽しげであった。
 問答無用で叩き倒し、『ヴァンパイアバット』は言葉を発する暇もなくシャオロンの暴力の前に屈する。
「嫌いなヒーローのために何かをしないとあかんのは、堪忍してほしいけどな。けど、それが『モーニア』、あんたのその七面倒臭い生き方やってわかっとる」
 だから、選べ、とシャオロンは炎まとう槍を振り回し告げる。

 自分で選ばないとならないと。
 悩みに悩んだ末に。本当の答えがあるというのなら、悩むこと知らぬ己であったとしても、頷くことの出来る結果があるのだから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
モーニア様を盾でかばいつつ怪力シールドバッシュで敵を弾き距離を置き
UCの鉄球をロープワークで操り牽制兼囮として使用

お気を確かに、モーニア様
貴女を責めるあのヴィラン…貴女の仇は、すでに貴女の恩人に討たれているのですよ
あれの言動の核は貴女の恐怖、自分自身を責める貴女の影です!

こんな私が…ええ、覚えがあります
私が騎士として戦う原点は模倣なのですから

ですが、ある日友人にこんな金言を贈られました

『理由はどうあれ、助けられた者にとって汝はまことの騎士だろうよ』

私もつい肝心な時に忘れてしますのですが…

貴女が戦った日々と護った人々、そして貴女を護った優しき方は貴女をヒーローと呼ぶでしょう
後は、貴女次第です!



 炎纏う槍を叩き込まれ、ヴィラン『ヴァンパイアバット』がよろめく。
 恐怖心、トラウマによって超強化された悪夢の権化はここに来て、ようやく弱り始めていた。
 それはスピリットヒーロー『モーニア』の心がトラウマを克服しつつあるということであった。
「クソが! 一々、面倒な連中ばっかり引き込んできやがって。なぁ、おい!」
『ヴァンパイアバット』が衝動のままに悪夢の中を飛ぶ。
 その瞳が捉えていたのは『モーニア』だけだった。
 此処は悪夢の世界であるが、彼は『モーニア』を苦しめ、恐怖させ、その恐れによって具現化して現実世界に侵食しようとする幻影である。
 未だ形を得ることは敵わないが、猟兵たちさえ悪夢の中にやってこなければ、とっくに彼は『スナーク』として顕現していたはずだったのだ。

「私は、もう……!」
 絶望などしない。
 そう言葉にしかけて『モーニア』は、『ヴァンパイアバット』を正面から見据える。未だ恐れはある。
 己の罪を正面から見据えるのは、あまりにも過酷なことだった。
 内罰的な心があるからこそ、懊悩するのだとしたら、彼女の心は今こそ正念場だった。
 正面からぶつかってくる『ヴァンパイアバット』の目の前に盾と共に飛来したのは、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)であった。
 凄まじい衝撃が盾から伝わってくる。

 減退したとはいえ、未だ力が残っている『ヴァンパイアバット』の突進はトリテレイアの大盾をきしませるほどであった。
「お気を確かに、モーニア様。貴女を責めるヴィラン……貴女の仇は、すでに貴女の恩人に討たれているのですよ。あれの言動の核は貴女の恐怖、自分自身を責める貴女の影です!」
 わかっている。
 わかっているのだかれど、それでも『モーニア』の足は震えている。恐ろしいのだ。己の罪と直面するのが。
 その罪を罰でもって贖うことこそが正しさだと知ってはいても、それでも己の罪の大きさに慄くのだ。

「こんな私が……ええ、覚えがあります。私が騎士として戦う原点は模倣なのですから」
 まがい物の騎士でしかないと自嘲するトリテレイア。
 拘束鉄爪内蔵式対装甲破砕鉄球(ワイヤード・ジェット・モーニングスター)で『ヴァンパイアバット』を牽制しながら、彼はつぶやく。
 己の体は言うまでも無く機械である。
 魂というものが宿っていたのだとしても、生身の生命とは違う。決定的に違うのだ。
 それが騎士という存在を模倣しているだけに過ぎない。

 騎士道精神。

 ただそれだけが己の炉心に宿るものである。
 それだけを頼りに己は戦ってきたのだ。斯く在るべしと、己に言い聞かせてきたのだ。しかし、理解しているのだ。
 己が模造品でしかないし、求められる存在ではないと。

「ですが、ある日友人にこんな金言を贈られました」
 それは未だに彼の心というものがあるのだとすれば、それを突き動かす原動力にもなっている。

『理由はどうあれ、助けられた者にとって汝はまことの騎士だろうよ』

 その言葉があったからこそ、トリテレイアは今も戦うことができる。
 騎士として、猟兵として。
 助けを求める誰かの元に駆けつけることができる。自分自身ですら肝心な時に忘れてしまうことなのだ。
 機械は間違えない。
 けれど、そこに魂が宿り、模倣してでも成りたい物があるのだとすれば、一つの生命のように忘れ、そして覚え、気づきを得ることも在るのだろう。

「貴女が戦った日々と護った人々、そして貴女を護った優しき方は貴女をヒーローと呼ぶでしょう」
『モーニア』は、あの日と変わっていない。
 変わらなかった。
 変えられなかった。
 何故なら、変わってしまえば、己の復讐を、体にまとわりついた憎しみの連鎖を再び己の体に宿すことになるから。
 だから、あの日のことを思い出す。

 誰かのためにと願ったことが原点であるというのならば。
 託された願いを手に立ち上がらなければならない。それをしなければ、何もかもが無駄になってしまう。
「後は、貴女次第です!」
 まだ自分のことをヒーローと呼ぶ者がいるのならば、スピリットヒーロー『モーニア』は答えなければならない。

 ユーベルコードが輝き、その名の通りにほとばしる雷撃が明滅する。
 悪夢の世界を切り裂き、渾身の力で持ってトリテレイアがワイヤー鉄球によって拘束した『ヴァンパイアバット』の体へと稲妻を落とすのだ。

『日はまた登るさ。明けない夜はない。例え沈んだのだとしても、きっとまた登る』

 その言葉を思い出した『モーニア』は過去と決別し、振り切り、その瞳を輝かせ、悪夢という名の世界を激烈なる稲妻の輝きで満たすのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『カーネル・スコルピオ』

POW   :    パニッシャー・ヴァーリィ
【二挺拳銃から炎を纏った弾丸の一斉掃射】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    侵略蔵書「スコルピオインフェルノ」
【自身の侵略蔵書から放たれた蒼い炎】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を炎上させ】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
WIZ   :    スコルピオン・ブレイズ
【二挺拳銃から放たれた弾丸】が命中した対象を燃やす。放たれた【蒼い】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。

イラスト:亜積譲

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠シャオロン・リーです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 猟書家『カーネル・スコルピオ』は落胆した。
 己の持つ蒼き炎は精神を灼き焦がす。
 スピリットヒーロー『モーニア』は、もう少しで己のトラウマに押しつぶされ、その心の中にある恐怖心を悪夢の中に充満させ、恐怖の権化として『スナーク』を生み出さんとしていた。

「なんという茶番だ。これでは私の望みは敵わない……だが、何度でも恐怖は蘇る。人は間違え、忘れる生き物だ。だからこそ、心に沈んだ恐怖は消えない」
 足を踏み出す。
 稲妻がほとばしる、嘗ての悪夢出逢った世界に猟書家『カーネル・スコルピオ』は足を踏み入れた。
「ならば、私が直接排除しよう。猟兵が『モーニア』の希望となるのなら、その尽くを摘み取ろう。そして、また叩き落とそうじゃないか」
 蒼き炎が揺らめく。
 それは悪意を持って、他者を蝕ままんとする者。

『スナーク』の創造を望み、世界に悪夢と恐怖を満たそうとする者。
 それが猟書家『カーネル・スコルピオ』である――。
村崎・ゆかり
出てきたわね、蠍の大佐。あなたの狂気はここで止める。

アヤメ共々、足を止めずに拳銃に捕捉されないよう動き回り、アヤメはクナイを、あたしは九天応元雷声普化天尊玉秘宝経で、カーネルの体力を削っていく。
あたしたちが連携してカーネルの気を引いている間に、『モーニア』は悪夢の元凶に一撃入れちゃいなさい。

といっても猟書家相手じゃとどめまでは無理か。『鎧装豪腕』、『モーニア』の防御を最優先に定義。「盾受け」でカーネルの攻撃から彼女を守って。

とにかく、この気に入らない相手に最後の一撃を打ち込んで離脱しましょう。
「全力魔法」雷の「属性攻撃」「衝撃波」を乗せた、最大威力の九手の右舷雷声普化天尊玉秘宝経を叩き込む!



 その蒼き炎は見るもの全ての精神を灼き焦がす。
 ある者はトラウマを。
 ある者は己が恐れる幻影を。
 それらによって心を焼き尽くし、その恐怖に歪む顔こそが猟書家『カーネル・スコルピオ』の望むものであった。
 人は己の欲望のためならば何処までも残忍になれる。
 他者を蹴落としてでも己の欲望を成就させようとする。そんな悪しき心が在るのが人という生命であるのならば、それは何とも陳腐なことであった。
「ああ、だからこそ! 私はそれが見たいのだよ。恐怖に歪む顔が、震える心が! 悪こそが陳腐であると、人の心はたやすく悪に成るのだと世界に知らしめたいのだ!」

 手にした2丁拳銃から蒼き炎が噴出する。
 構えた銃口が捉えるのはスピリットヒーロー『モーニア』と彼女を守らんとする猟兵たちであった。
「出てきたわね、蠍の大佐。あなたの狂気はここで止める!」
 式神のアヤメと共に悪夢の世界を駆けるのは、村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》・f01658)だった。
 拳銃の銃口が己たちを狙っている。
 あの2丁拳銃は一斉にこの場にいる自分達を同時に狙うことができる。だからこそ、補足されないことが肝要となるのだ。

 アヤメのはなったクナイを手にした拳銃で払いながら、『カーネル・スコルピオ』は炎の弾丸を放つ。
「気に入らないわね。悪が陳腐だから、流されるのは仕方ないというのならば、正義を為そうと流されない者をこそ誇るべきよ。九天応元雷声普化天尊! 疾っ!」
 放たれた蒼き炎の弾丸を巻き込んで、九天応元雷声普化天尊玉秘宝経(キュウテンオウゲンライセイフカテンソンギョクヒホウキョウ)の激烈なる雷撃がほとばしる。
 ゆかりにとって、悪が、正義がというのは、ただの建前にしか過ぎない。

 人の心に陰と陽があるように、誰しもが悪と正義を抱えて生きている。
 矛盾無き心などありはしないのだ。
 だからこそ、辛く険しい道のりを敢えて歩もうとする者を貶める行為を許せはしない。
「モーニア! 悪夢の元凶に一撃いれちゃいなさい!」
「わかっている……! 貴方も無理をしないで!」
『モーニア』は、その年齢を考えれば、引退していてもおかしくないヒーローである。
 だが、この悪夢の世界の彼女は違う。
 全盛の頃と変わらない。そのほとばしる雷撃は、ゆかりのユーベルコードと重なって、『カーネル・スコルピオ』の体を撃つ。

「なるほど。加勢を得て、トラウマを克服したか。だが、その心を鎧うものがなければ!」
 放たれる炎の弾丸が三人を狙う。
 全方位何処からでも放ってくる無差別なる射撃は嵐のように周囲を巻き込んで爆発を引き起こしていく。
「といっても猟書家相手じゃ、とどめまでは無理か――『鎧装豪腕』!」
 呪符に収納されていた篭手型式神が盾となって、三人を炎の弾丸から護る。
 砕け散っていく鎧装がきらきらと破片を飛ばしながら、一斉に三人は駆け出す。

 あの間違えだらけの怪物とでも言うべき猟書家。
 彼の言葉はすべてが間違っている。世界を震わせようとするのならば、恐怖で振るわせるのではなく喜びで震わせるべきだ。
 もっと言えば……そう、『モーニア』というヒーローに目をつけた事自体が間違いだった。
 彼女は間違いなくヒーローだった。
 その心が、誰かのためにという原点が在る限り、日が登るように再び輝くことを知らなかった。

 だからこそ、此処まで悪夢は晴れたのだ。
「とにかく気に入らないわね、蠍の大佐。あなたの妄執など――!」
 鎧装豪腕が砕け散った瞬間、そこにあったのは渾身の力を込めたユーベルコードに輝くゆかりの瞳だった。
 溢れんばかりの激情。
 その心に従うままに、ゆかりは雷の力を『モーニア』の雷撃を加えて解き放つ。
 最大出力を越えた一撃は、悪夢の世界を包んでいた黒雲すらも塗りつぶすように明滅し、完全に『モーニア』というヒーローがトラウマを乗り越えたことを知らしめるのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メンカル・プルモーサ
…そうだね、人は間違えて、忘れる生き物だ…
…同時に忘れずに、克服する生き物でもある…
…つまり…克服した相手に二番煎じは意味は無い…スナークを有無という計画は御破算だよ…

さてと…『モーニア』…やれるね……?
まずは術式組紐【アリアドネ】を布状且つ多層展開する事で弾丸から自分とモーニアを守ろう…
…燃えたらその布は消去…最下層に次の布を補充する事で延焼も防ぐよ…

…防いでる間に重奏強化術式【エコー】からの【空より降りたる静謐の魔剣】を掃射…スコルピオを凍結させることで動きを封じるよ…
…そこに『モーニア』に稲妻を叩き込んで貰おう…
…克服を茶番だと軽く見るから見誤る…いつまでも同じ人間だと思わないことだね…



 激烈なる雷撃の一撃が猟書家『カーネル・スコルピオ』の体を穿つ。
 焼け焦げた匂いを立ち込めさせながらも、『カーネル・スコルピオ』は未だ健在であった。傷口のあちこちから蒼き炎を噴出させながら、笑っていた。
「これほどまでに強い力を持っていたとしても、人は忘れるのだ。あの日の原点も。耐え難い屈辱も、堪えられない悲しみも。忘れていく」
 それはどうしようもないことだ。
 人という生命である以上、忘れるということは消し去ることのできないものだ。時間が過去に排出されて、時が進むように。
 過去の集積地たる『骸の海』より染み出した過去の化身でさえ、生前とは異なるほどに歪められていく。

「……そうだね、人は間違えて、忘れる生き物だ……」
 メンカル・プルモーサ(トリニティ・ウィッチ・f08301)は、『カーネル・スコルピオ』の言葉を肯定した。
 知の探求者たる彼女にとっても、それは抗いがたい運命であったかもしれない。
 忘れるからこそ留めようとする。
 喪ってしまうからこそ、その存在を心に刻む。
「……同時に忘れずに、克服する生き物でもある……つまり……克服した相手に二番煎じは意味はない……『スナーク』を産むという計画は御破算だよ……」

 そう、例え猟兵たちを全て『カーネル・スコルピオ』が打倒しようとも、決してスピリットヒーロー『モーニア』は二度と悪夢の前に屈することはない。
 もう乗り越えたのだ。
 己の中にある罪の意識と罰。
 それらを全て乗り越えてこそ、スピリットヒーロー『モーニア』はメンカルの隣に立っていた。
 あの日から変わらぬ姿は、この悪夢の世界だけの姿かもしれない。
 けれど、凛として立つ姿にメンカルは頼もしさを覚えたかも知れない。
「さてと……『モーニア』……やれるね……?」
「ええ、やれる。いいえ、やるわ。それが私の務め。私がやらなければならないこと。あの日に願った原点なのだから」
 その横顔は晴れやかなものだった。

 もう彼女は仇敵の誹りも届かない。
 それこそがヒーローであると言わしめる姿でもって、メンカルと共に『カーネル・スコルピオ』と対峙しているのだ。
「笑わせるな。何度でも悪夢に漬け込もう。その悲鳴が、世界を歪める。震わせる。そうすることによって、無敵の怪物は、『スナーク』は生まれるのだから!」
 構えた2丁拳銃が蒼き炎を噴出させて放たれる。

 しかし、その弾丸は届かない。
 メンカルの発動させた術式、組紐『アリアドネ』が弾丸を網目状に組み上げた布上の防御となって二人を護るのだ。
 あの弾丸を打ち込まれては、精神を灼き焦がす蒼き炎に包まれてしまう。
「無駄だ、その炎は消えない! あらゆるものを燃やし尽くすまでな!」
 だが、即座にメンカルは布上に展開した『アリアドネ』を破棄し、さらに多層展開していた防御を持って蒼き炎を防ぎきっていた。

「停滞せしの雫よ、集え、降れ。汝は氷雨、汝は凍刃。魔女が望むは数多の牙なる蒼の剣」
 どれだけ、人の心を破壊しようとする炎が降り注ごうとも、決して壊すことの出来ぬ原点がヒーローと猟兵たちには在る。
 それを思い出す度に。心に浮かべる度に、彼らの力は増していく。過去に歪んだオブリビオンには決してないものだ。
 だからこそ、猟兵達は勝つのだ。
 ヒーローが負けないように。
 紡がれた詠唱は重奏強化術式『エコー』によって増幅され、空より降りたる静謐の魔剣(ステイシス・レイン)たる氷の魔剣を雨のように降り注がせる。

 その全ての軌道をコントロールし、メンカルの魔剣が空を舞い、『カーネル・スコルピオ』の体を穿つ
「ぐぁっ――! だが、この程度で……!」
 その瞳が驚愕に見開かれる。
 ユーベルコードは輝いた。だが、一度ではない。強化術式によって生み出された氷の魔剣は、第一群が彼を貫いただけに過ぎない。

 無数に紡がれた第二群の氷の魔剣が、再び『カーネル・スコルピオ』の体を穿ち、蒼き炎すらも凍結させていく。
「……克服を茶番だと軽く見るから見誤る……」
 人はいつだって前に進んでいる。足を進めている。立ち止まってしまうかもしれない。振り返り、後戻りしてしまうかもしれない。
 けれど、前を見て歩んでいくのだ。
 人によって意味合いは異なるだろう。それを成長とも呼ぶし、克服とも呼ぶかも知れない。

「……いつまでも同じ人間だと思わないことだね……」
 メンカルの瞳には、『モーニア』の稲妻を湛えた拳が放たれる光景が映っていた。そう、いつまでも同じ人間ではない。
 昨日よりも今日。今日よりも明日。
 抱えるものが多いからこそ、ヒーローはまっすぐに進む。己が成すべきことと定めた、誰かのために戦う姿を、メンカルは見つめていた。

 知れず口に出していたかもしれない。
 やってしまえ、と。
 それに応えるように稲妻の如き拳が『カーネル・スコルピオ』の体を撃つのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルイス・グリッド
アドリブなど歓迎
モーニアは貴方呼び

あぁ、やってみろよ。ビブリオマニア。俺達はお前が思う以上にしぶといぞ
俺が奴の隙を作る、貴方は攻撃に専念を
俺の事は生きた盾とでも思ってくれればいい、やってくれ、ヒーロー

SPDで判定
まずは【大声】で【挑発】して敵の攻撃の狙いになる
銀腕を【武器改造】で盾に変えて【盾受け】しながら、義眼の藍の災い:圧壊【重量攻撃】を【全力魔法】【範囲攻撃】で使用
炎上してる場所の鎮火しつつ敵の足元の【地形を破壊】し【体勢を崩】した上で、黄の災い【感電】を【スナイパー】【全力魔法】で使って僅かな間でも動きを止めてモーニアに攻撃してもらう
必要なら彼女を【かばう】



 稲妻をまとった拳が猟書家『カーネル・スコルピオ』の体を撃つ。
 その一撃は、一度は恐怖心と己の抱えたトラウマに沈んだスピリットヒーロー『モーニア』の放ったものだった。
 ヒーローと呼ばれる者たちが何故懊悩するのか。
 その理由を知る者は多くはない。
 いつだってそうだけれど、正しさには困難がつきまとう。
 正しさをなそうとする時、人の心の中にある悪しき心が甘美なる誘惑をする。こちらが楽だと。流されてしまえばいいと。

 けれど、ヒーローたちは常に、険しくも正しい道を選ぶ。
 例え己の身が苦しみと悲しさに包まれようとも、他の誰かのために成ることを選ぶ。
「侵略蔵書『スコルピオインフェルノ』――我が蒼き炎がもたらすのは、恐怖に心を焦がす輝き! お前達は、私の与える恐怖で震えてくれればいいのだ。世界が震えれば、それだけ悲鳴と苦痛にあえぐ者が増える。私はそれが見たいのだよ。人の本質はいつだって、恐怖でしか浮き彫りにならないのだから」
 猟書家『カーネル・スコルピオ』は猟兵とスピリットヒーロー『モーニア』の攻勢の前に徐々に押され始めている。
 手にした侵略蔵書を開き、そこから溢れる炎で己を囲い込む。

 その炎は人のトラウマや恐怖心を煽り、その心を破壊しようとするだろう。
「人の本質こそが悪だと知らしめたいのだ。正義という正しさを人は愛すれど、己の中にある悪を自覚させなければ!」
「あぁ、やってみろよ。ビブリオマニア。俺たちはお前が思う以上にしぶといぞ」
 ルイス・グリッド(生者の盾・f26203)は敢えて声を上げた。
 それは挑発でもあったし、『カーネル・スコルピオ』の上げる蒼い炎の標的を己に絞らせるためだった。
 メガリスである銀の腕を盾に変形させて、炎を防ぎながら『カーネル・スコルピオ』に肉薄する。

「その炎は心を壊す! 無理をしないで!」
『モーニア』の叫びが聞こえる。
 けれど、ルイスは頭を振った。これでいいのだと。己の役目はヤツの隙を作り出すこと。
「俺のことは生きた盾とでも思ってくれればいい、やってくれ、ヒーロー!」
 蒼い炎がルイスを包み込む。
 どれだけ銀の腕が盾に変形しようとも、炎は変幻自在である。
 回り込み、ルイスの体を焼く蒼い炎。それはルイスの心を焼く。

 けれど、ルイスは倒れない。
 己の体に移植された呪われし秘宝、メガリスが輝く。
 それはユーベルコードであり、彼の身に移植された義手と義眼がメガリス・アクティヴによってさらなる力を引き出した瞬間であった。
「メガリス・アクティヴ――! しぶといぞ、俺達は! お前は人をすぐに悪に染まり、流れるというが、ならば人の世はすぐに悪の世になるだろう。だが、『ジャスティス・ウォー』の結果はどうだ!」
 善悪の二大決戦。
 その勝利は確かに薄氷の勝利であったのだろう。世界も、ヒーローもヴィランも。等しく傷ついた戦い。
 けれど、結果として正義が勝ったのだ。

「だから、それを再び覆そうというのだよ!」
 猟書家『カーネル・スコルピオ』にとって、それこそが悲願であろう。
 敗北した過去。
 人の本質が悪だというのならば、あの戦いの勝利は自分達のものであったはずなのだ。
 だというのに敗北した。
 それは人の心に在るものが悪だけではないということの証明にほかならない。
「そんなはずはない! 人の本質は悪のはずだ。流されやすく、容易に他者を傷つける! 傷つけたとしても、己の快楽の前には他社のことなど顧みない。それが人のはずだ!」
 だが、ルイスは知っている。
 誰かのために戦うものの存在を。
「輝け、メガリス! 藍色に……!」
 放たれる圧壊の災い。実を包む炎を吹き飛ばし、ルイスは足元へと拳を叩きつける。ひび割れる大地の上で『カーネル・スコルピオ』の体制が崩れた瞬間、その義眼の輝きがほとばしり、一瞬で彼の動きを止める。

「黄の災いよ! そして……! 頼んだ、ヒーロー!」
 その言葉とともに空をかけるはスピリットヒーロー『モーニア』。ほとばしる光は雷鳴のごとく。
 稲妻のように放たれた手刀の一撃が、『カーネル・スコルピオ』を袈裟懸けに切り結ぶ。

「ば、かな……! この、私が……! この蒼い炎が、効かない……!?」
「ああ、そうさ。効くわけがない。どれだけ精神を追い詰めようとも、日はまた登る。ヒーローとはそういった燦然と輝く太陽な者たちのことを言うのだから」
 ルイスは銀腕を剣に変形させ、さらに一撃を放ち、『カーネル・スコルピオ』をさらなる消耗へと追い込むのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

髪塚・鍬丸
彼女は悪夢を乗り越えた。目の前には倒すべき諸悪の根源がいる。
御下命如何にしても果たすべし。

【神風の術】発動。自身を中心に竜巻を起こす。
UCの【限界を突破】。範囲を拡大、無敵状態の中心部にモーニア嬢を取り込み【庇う】。
撃ち込まれる弾丸を【衝撃波】で受け流す。纏う炎も、破邪の風で【浄化】し吹き消す。奴自身が風の内側に入り込もうとするならば【破魔】の【範囲攻撃】で吹き飛ばし攻撃。
俺自身は動けない。攻撃を頼む。正義のスピリットヒーローの力なら、この風を貫いて攻撃出来る。

恐怖は何度でも甦ると言ったな、スコルピオ。ならば何度でも乗り越えればいい。その度に強くなれる。
貴様は、貴様にとって最悪の形で間違えた。



 人の人生において壁はつきものである。
 いつだって、どこでだって、必ず目の前に現れる壁。目の前の猟書家『カーネル・スコルピオ』は壁であった。
 立ちはだかる壁であり、どうしようもないほどに強大な壁であった。
 蒼き炎がその体から噴出する。
 その蒼き炎は見るものの精神を壊す穢れた炎である。
「無駄だ! 人は間違える。どうしようもなく間違える。愚かなのだ、人という生命は。簡単に流される。善悪の基準すらもわからず、他者を傷つけることすらいとわない精神性は、世界を滅ぼすには値するだろう」
 猟書家『カーネル・スコルピオ』は手にした2丁拳銃から炎の弾丸を撃ち放ち、猟兵とスピリットヒーロー『モーニア』を牽制し続ける。

 猟兵たちの攻撃、『モーニア』の攻撃を受けても尚、彼は消耗しながらも超生物『スナーク』の生誕を夢見ていた。
「悪夢の如き力! 誰しも心に在る悪に住まう怪物、それが『スナーク』だ。それによって私は、成そうというのだよ、あの日の決着の転覆を!」
 それが『カーネル・スコルピオ』の望み。
 あの日、『ジャスティス・ウォー』の敗北を覆すという望み。それを成すのが『スナーク』であるからこそ、彼は悪夢の世界であっても、その蒼き炎を噴出し続ける。
「彼女は悪夢を乗り越えた。目の前には倒すべき諸悪の根源が居る」
 髪塚・鍬丸(一介の猟兵・f10718)は、蒼き炎の弾丸を躱しながら、悪夢の世界を駆ける。

 あれだけの悪夢に苛まれながらも、『モーニア』は乗り越えた。
 日がまた登るように、原点に灯った光は今も燦然と輝いている。それを眩しいと思えど、守らねばならぬと彼は知る。
「――御下命如何にしても果たすべし」
 故に、鍬丸がすべきことは一つだ。
 あの蒼き炎が見る者の心を破壊するのならば、それら全てを灰燼に帰す。
 鍬丸の手が印を結ぶ。
 ユーベルコードに輝くは彼の瞳。

「……神成る風よ、荒れ」
 己の体を破邪の竜巻で包み、悪しきもの全てを塵に変える。
 あらゆる攻撃に対し、無敵と成るユーベルコードにして、神風の術(カミカゼノジュツ)である。
 だが、それだけでは噴出する『カーネル・スコルピオ』の蒼き炎は防げない。
 限界を超えろ。
 今此処で越えなければ、『モーニア』は護れない。そして、己が果たすべき使命も果たせない。

 それは忍びとして生きてきた己の存在全てを否定するのと同じだった。
 果たせぬ使命。それは己に在ってはならぬもの。使命を果たすということが己の存在意義であったのならば、限界は今越えなければならない。
「その程度の竜巻で私の蒼き炎が防げるものか!」
 放たれ続ける炎の弾丸。
 以下に悪しきものを全て塵に変える竜巻であっても、無差別に放たれ続ける弾丸は鍬丸の力を消耗させていく。
「――もう、いい! 無理をしないで。私が……!」
『モーニア』の気遣う声が聞こえる。
 誰かのためにと願った彼女の声に鍬丸の瞳は更に輝く。

「俺の限界は、俺が決める。俺自身は動けない……攻撃を頼む。正義のスピリットヒーローの力なら、この風を貫いて攻撃できる!」
 彼女の力ならば。稲妻の力ならば、破邪の竜巻に干渉されることはない。
 今こそ、その力を頼るべきだった。
 だからこそ、鍬丸は渾身の力を振り絞って術を維持する。誰かを護ると決めた誰かを護るために。
 それが己に課せられた使命であるのならば、そう……如何にしても果たすべし!

『モーニア』の放った稲妻の弾丸が竜巻を突き抜け、『カーネル・スコルピオ』の体を穿つ。
 それは荒々しい力ではなく、研ぎ澄まされた力であった。
 竜巻が消え、鍬丸は己の全てを出し切った。
「ばか、な……私の炎が、効かない……?」
「恐怖は何度でも蘇ると言ったな、スコルピオ。ならば、何度でも乗り越えればいい。その度に強くなれる」
 鍬丸は、その瞳を真っ直ぐに向けた。
 彼が背後に庇う『モーニア』の瞳も彼と同じように輝いていた。もう絶望にも、悪夢にも屈することのない正義の光が宿っていた。

 それはきっと、悪夢に苛まれなければ得ることの出来なかった輝きであったことだろう。
 悪夢さえ、『カーネル・スコルピオ』が悪夢を見せることさえなければ、彼女の心に掬ったトラウマは、いつか彼女を押しつぶし『スナーク』となったかもしれない。
 そう……。

「貴様は、貴様にとって最悪の形で間違えた――」

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
(瞬間思考力で銃口見切り、剣の武器受け、武器落とし銃弾落し、盾受けヒーローをかばいつつ)

モーニア様、貴女の恩人はどのような方だったのですか?
いえ、知っている気がいたしまして

……

称える歌を聞いたことは御座いますが『会った』方ではないようです

私もその優しき方と言葉を交わして見たかったです

さて、ここはモーニア様の精神世界
その銃弾は精神を燃やす攻撃なのでしょう
つまり電子頭脳の演算で擬似感情象る私にとってはクラッキングなのですよ

●ハッキング情報収集完了
UCの防壁経由で敵の頭脳へ大量の悪性情報叩き込み動きを封じ
モーニア様と共に攻撃

人の精神は本来侵してはならぬ領域
悪意を持って踏み込んだ報いを受けて頂きます



 稲妻の弾丸が穿たれた猟書家『カーネル・スコルピオ』の身体が傾ぐ。
 けれど、傷跡から噴出する蒼き炎の勢いは止まらない。消耗しても尚、その力は世界に顕現する。
 悪夢の世界だからこそ、『カーネル・スコルピオ』は咆哮する。
「私はまだ終わらない……! 終わってなるものか。あの日の、あの決戦の勝利を! 私は勝ち取らなければ……そのために『スナーク』の力が要る……!」
 手にした2丁拳銃から蒼き炎の弾丸が凄まじい勢いで放たれる。
 それはまるで炎の嵐のようであった。
 放たれた弾丸はあらゆるものに跳弾し、あらゆる角度から猟兵とスピリットヒーロー『モーニア』を狙う。

「させはしません!」
 トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は大盾を『モーニア』の眼前に投げつけ、弾丸から庇いながら、己もまた剣によって弾丸を撃ち落とす。
 その絶技、その技量、それはかつて彼女が見た圧倒的なヒーローを想起させるものであったかもしれない。
 もっとも、そのヒーローは拳だけで弾丸を撃ち落としていたが、それでもあの日の光景に重なる幻影を『モーニア』は見たことだろう。

「モーニア嬢、貴女の恩人はどのような方だったのですか? いえ、知っている気がいたしまして」
 讃える歌を知っている。
 出逢ったことはない。けれど、どこかで知っている気がする。それは己の電脳の中にあるデータベースからを照らし合わせても、そうである『かも知れない』というだけのことであったのかもしれない。

『神明円月』。

 その名を『モーニア』は口にした。
 それは流派の名前でしかない。彼はそう名乗っていたけれど、本当の名を彼女は知っていた。
「私と同じ稲妻の名を持つ人……優しかった。ヴィランにすら情けを持っていた。己の拳の強大さを知っているからこそ、誰かのためにと戦いながらも、戦う相手にすら思いを馳せる人だった……」
 そんな人だったからこそ、生まれた罪悪である。
「……そうですか。私の『会った』方ではないようです。私もその優しき方と言葉をかわして見たかったです」
 だが、今は悠長に言葉をかわしている時間はない。

 ここは『モーニア』の精神世界である。
 悪夢の世界に鑑賞しているからこそわかることがある。蒼き炎、『カーネル・スコルピオ』がもたらす炎は精神を燃やす攻撃である。
 つまり、電子頭脳の演算で疑似感情を象るトリテレイアにとっては、クラッキングと同様である。
 ならば、トリテレイアが取れる選択は一つである。
「銀河帝国護衛用ウォーマシン・上級攻性防壁(ファイヤウォール)……報復措置を取らせて頂きましょう!」
 そのユーベルコードは蒼き精神を壊す炎と対極なる炎を生み出す。

 精神に干渉する蒼き炎を生み出す『カーネル・スコルピオ』へ見せる鏡合わせ。
「――なん、だ、これは……! この光景は……!」
 それは正に悪夢であった。
 猟書家『カーネル・スコルピオ』が敗れた日の記憶。
 忘れがたき『ジャスティス・ウォー』の記憶。
 ヴィランとしてヒーローに敗北を喫した日の記憶。噛み締めた奥歯が軋む音が聞こえる。耐え難き敗北の記憶は、蒼き炎を逆撫でするように燃え上がらせる。

「私は、敗けてなどいない……! あの日、あの時、私は!」
 半狂乱になりながら放つ2丁拳銃の弾丸が炎の嵐となって巻き起こる。彼が今見ているのは、トリテレイアのユーベルコードによる悪性情報である。
 敵の頭脳へと直接介入するのが、己だけであると『カーネル・スコルピオ』は驕っていた。

 そこに付け込む隙がある。
「人の精神は本来侵してはならぬ領域。その悪意を持って踏み込んだ報いを受けていただきます。モーニア嬢!」
 共に戦場を駆けるトリテレイアとモーニア。
 彼女の雷の力がトリテレイアの長剣に宿り、紫電を放ちながら振りかぶられる。その一撃は付与された稲妻の力をもって、さらなる剣速となって一閃を『カーネル・スコルピオ』へと刻む。

「過去に歪められた者にはわかりますまい。人の心がどれだけ強くも弱くもなるのか。それを決めるのは他者ではない。自分自身であると、私は知っております。故に私は守りましょう。そのための騎士となりましょう」
 トリテレイアは振るった剣の一撃が、確かに『カーネル・スコルピオ』を追い詰めたことを実感した。
 それは己の力だけでは成し得なかったことである。
 この悪夢の世界において、切り裂いたのは、嘗ての誰かの優しさと、今を生きる『モーニア』が乗り越えた強さがあればこそ。

 だからこそ、トリテレイアは騎士として誰かを守る戦いに身を投じたことを誇る。
 己のためではない誰かのために。
 その願いと思いを紡ぐために、寄り添うことができたことをまた、一つの勲章として、己の電脳に刻むのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シャオロン・リー
は、べらべらべらべら、黙って聞いとればよう喋るもんやな
オマエはご高説垂れへんと戦えもせんのか
御託はええねん、さっさと戦りあおうや
お互い悪党らしく、なぁ!

俺は上から行くからな、モーニア、オマエには地上を任したで
生憎と加減は出来んからな、俺の攻撃に巻き込まれるんとちゃうぞ

金磚、翼生やして空中戦に持ち込む
燃える弾丸は見切りで躱して激痛耐性と火炎耐性で耐える

この世界には俺の仲間が眠っとるんや
アイツらをオブリビオンなんぞには絶対させたらん
せやから!オマエらの企み、成就させたる気は微塵もあらへん!

空中から燃える槍の雨、奴に向かって降らしたる
これが暴れ竜の真骨頂、暴力、暴動、暴走!
骨の髄までたっぷり食らえや



 猟兵たちの放った稲妻が、剣の剣閃が、穿つスピリットヒーロー『モーニア』の拳が猟書家『カーネル・スコルピオ』を追い詰めていた。
 消耗激しく、その身に刻まれた傷跡からは蒼き炎が噴出していた。
 溢れ出る蒼き炎は見るもの全ての精神を灼き焦がす。
 トラウマある者は、さらなる深みに引きずり込む。
 心に傷が在る者であればあるほどに、『カーネル・スコルピオ』の蒼き炎は絶対的な力を誇るのだ。

 けれど、彼は間違えていた。
 ヒーローとはいかなる存在かを。傷が在れども立ち上がる。心折れて、膝を大地に屈しても日が登るように再び蘇る。
 悪夢の世界にあっても、悪夢すら克服して来る。
「ありえない……! ありえていいはずがない! 私の炎は全てを燃やす。物体を、精神を! 全てを! 私が敗ける理由がない。間違える理由がない。私はまだ『あの日』から敗けていないはずだ!」
 それは悪性を吠える怪物に他ならなかった。

 他者の中に悪を見る。
 己の中に悪を見る。
 何処を見ても悪性だらけの生命であるからこそ、ヴィランである『カーネル・スコルピオ』は敗北することはないと思っていた。
 だが、結果は違う。
「人の心には悪性在りき。誰かを傷つけ、誹り、妬み、嫉むのが人間のはずだ! ならば、私の炎は消えるはずがない!」
 放たれる2丁拳銃から蒼き炎が噴出し、悪夢の世界を包み込む。

「は、べらべらべらべら、黙って聞いとればよう喋るもんやな」
 シャオロン・リー(Reckless Ride Riot・f16759)は、吐き捨てるように言葉を投げかけ、首の骨を鳴らした。
 彼にとって戦いとは即ち暴れ倒すものである。
 そこに言葉は不要であった。ただ、己の拳と槍のみが他者との対話となるのだ。いや、その対話すら必要なかったのだ。

 己の前に立つ者を打ち倒す。
 ただそれだけのシンプルな理由でもってシャオロンは暴れ倒す。満足できないのだ。そうでなければ、己の存在が、いかなるものであるのかを世界に示せない。だから、暴れ倒す。
「オマエは御高説垂れへんと戦えもせんのか。御託はええねん、さっさと戦りあおうや!」
「貴様……! 私の信念を御託と言ったか!」
 だからぁ、とシャオロンは片眉を釣り上げた。
 その身に宿る獣性にして暴力性が唸りを上げていくのを彼は自覚していた。もう我慢ならない。この衝動を解き放たなければ、どうにかなってしまいそうだった。

「そういうのはええっちゅんじゃ! 戦やろうや、お互い悪党らしく、なぁ!」
 駆け出し、シャオロンは竜の血脈を励起させる。
 背がせり上がり、竜の翼が広げられる。その雄々しくも凶悪なる姿のままにシャオロンは悪夢の世界の空へと飛び立つ。
 金磚(ドラゴニックラインエイジ)と呼ばれるユーベルコードに輝く姿は、悪夢の世界を切り裂く稲妻のようであった。

 炎をまとう槍を手に、シャオロンは地上に在るスピリットヒーロー『モーニア』へと呼びかける。
「俺は上から行くからな、モーニア、オマエには地上を任したで」
 だが、この姿になった以上加減はできない。
 それは言外に己の攻撃に巻き込まれるなという意味を含んでいたことを『モーニア』は正しく理解していた。
 同時に、何故シャオロンが戦うのか。
 その意味を彼女は知ることになる。

 吹き荒れる弾丸の雨をかいくぐり、シャオロンは竜翼でもって飛ぶ。
 凄まじい銃撃の数。手にした槍で裁ききれない数の蒼き炎の弾丸が彼を襲っていた
 けれど、凄絶なる笑みを浮かべながらシャオロンは『カーネル・スコルピオ』へと肉薄する。
 彼は己を小悪党と呼んだ。
 それは事実なのかもしれない。猟兵である以前に己がいかなる存在であるのかを知っている。だからこそ、シャオロンは咆哮する。
「貴様は、何のために戦うのだ! 悪党だというのならば、貴様の行いは矛盾しているだろう!」
「この世界には――」
 そう、ヒーローズアースには、シャオロンにとってかけがえのないものがある。

 炎の弾丸が己の身を穿つ。
 痛みはない。いや、正確にはあるのだろう。凄まじき激痛がシャオロンを襲う。
 けれど、それを無視して彼は進む。突き進む。炎の嵐のような弾丸を前に一直線に迫るのだ。
「俺の仲間が眠っとるんや。アイツらをオブリビオンなんぞには絶対させたらん」
 それは絶対なる意志だった。
 世界の命運も、誰かの心の傷も関係ない。
 シャオロンにとって大切だったのは、己の仲間だった。喪われてしまった生命は戻らない。
 時間は逆巻くことはない。

 いつだってそうだ。
 肝心な時に己は、その場に居ない。
 何度悔やんでも悔やみきれないけれど、それでもシャオロンは生きている。猟兵として、未だヴィランとして生きている。
 自分が為すべきことは一つだ。
「せやから! オマエらの企み、成就させたる気は微塵もあらへん!」
 それが何も出来なかった己が、喪った仲間たちにできる唯一の手向け。

 手にした炎が極大の炎でもって篝火のように悪夢の世界にほとばしる。
 そこへ『モーニア』の放った稲妻の力が合わさっていく。
「――ええ、塩梅や。見さらせ、これが暴れ竜の真骨頂、暴力、暴動、暴走!」
 ぎちぎちと身体の芯が軋み、体の限界を越えていくのを感じる。
 練り上げた炎と稲妻の力がシャオロンの腕の限界をとっくに超えていた。だが、この程度の暴走を御せずして何が暴れ竜か、猟兵か、ヴィランか、悪党か!

「骨の髄までたっぷり喰らえや!」
「こ、んなことが……! 私の炎が、飲まれる! 私は、どこで――」
 間違えてしまったのか。
 降りしきる極大の炎と槍が『カーネル・スコルピオ』の身体を穿ち続ける。それは絶え間のない連撃であり、その肉体の一片をも残さぬほどのユーベルコードの輝きであった。

 悪夢は切り裂かれ、その世界は崩壊していく。
 きっとスピリットヒーロー『モーニア』は現実世界で目覚めることだろう。
 戦い終えたシャオロンの前に『モーニア』は言う。
「ありがとう。ヒーローにお礼を言われるなんて、あなたは嫌がるかも知れないけれど。それでも、ありがとう」
 その言葉にシャオロンは、嫌味なやっちゃな、と毒づく。
 けれど、どうせ此処も悪夢の世界だ。
 誰も見ていない。
 ならば、シャオロンは言うのだ。

「はぁ、これやからヒーローは好きやないねん。勝手に感謝してきよってからに。まあ、ええわ。ほなな――」
 手を取り合うことはしない。
 視線を交わすこともない。
 ずっと平行線のヒーローとヴィランだからこそ、隣を歩んでいくことができる。この世界に眠る嘗ての仲間たちのために。
 それがシャオロンが戦う理由であり、『カーネル・スコルピオ』のように間違いだらけにはならぬ、たった一つの大切な理由だったのだから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年01月17日
宿敵 『カーネル・スコルピオ』 を撃破!


挿絵イラスト