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略奪される物語たち~わたしがここに居る理由~

#アリスラビリンス #猟書家の侵攻 #猟書家 #ベスティア・ビブリエ #愉快な仲間 #NPC:リンダ #探索 #心情系 #デスゲーム組

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●魔法使いとパーティーの国――リンダ
 魔法のウサギ穴をくぐればそこは別の世界。ここは複数の小さな『世界』が繋がり合う不思議な迷宮、アリスラビリンス。

 果実の実る樹木に挟まれた道。
 その近くにある広場で『愉快な仲間』たちはオブリビオン――オウガの襲撃を受けていた。
 先ほどまでティーパーティーが行われていた様子で、まだ温かいポットや焼き菓子がテーブルに残されている。
 そんな場所でオウガを押しとどめるのは、学生のような服装の魔法使いの『アリス』――。
「ボス級じゃないなら、私だって――サンダー・アロー!!」
 放たれるのは20本の雷属性の魔法の矢。
 魔法の矢は『虹色雲の獏執事』を一体打ち倒す。
「リンダさんの実力、思い知ったか! 雷の魔法には自信があるんだからね」
 しかし相手の数は非常に多く、その侵攻が止まる様子はない。

「猫紳士さん何のんきにお茶を飲んでいるの! 早く逃げて!」
 魔法使いの『アリス』――リンダはカイゼル髭の猫紳士へ呼びかける。
 けれど、猫紳士は静かにティーカップを口に運んでいた。
「落ち着きなさい、勇敢なお嬢さん。彼ら『オウガ』の狙いはお嬢さんのような『アリス』のハズです。それに、私は足が悪くて走ることが出来ない。ですから、まずはお嬢さんがお逃げなさい」
「だけど……!」
 リンダは周囲を指して猫紳士へ呼びかける。
「雪だるまさんはさっき連れていかれそうだったよ! 『今回は』あなたたちが狙われてるじゃない!」

 今回のオウガによる襲撃は、これまでの『アリスラビリンス』におけるソレと異なっていた。
 次々と現れるオウガたちは『愉快な仲間』を見つけては、主人である『ベスティア・ビブリエ』が食べる『物語』として連れて行ってしまうのだ……。

●個性的な『愉快な仲間』を探しつつ敵を倒そう!
「集まってくださり、ありがとうございます! 『猟書家』の幹部の動きを察知しました!」
 グリモア猟兵のユーノ・エスメラルダ(f10751)はグリモアベースに集まってくれた猟兵たちにぺこりとお辞儀をすると、慌てた様子でホワイトボードを引っ張り出す。

「今回わかった猟書家は『ベスティア・ビブリエ』さんです。彼は訪れた不思議の国で『愉快な仲間』たちを攫っては、その『物語』を食べています」
 ホワイトボードへ猟書家『ベスティア・ビブリエ』の姿が簡単に描かれる。それは山羊のような角を持つ一つ目の獣。
「狙われている『物語』は、『愉快な仲間』の方々にとって存在に必要な根本的な情報です……。なので、もし『物語』が食べられてしまえばただのモノになってしまいます」
 それは、彼ら『愉快な仲間』にとっては死を意味する……。
 続けてホワイトボードに記されていくのは現地の状況だった。
「場所は『パーティーの国』です。以前に優雅なお茶会で介入したことがある場所です。そして、ちょうど定期開催されていたティーパーティーの会場が狙われています! 現在は、戦闘経験のある一人の『アリス』の方が奮闘していますが……無力化されるのも時間の問題でしょう」
 『アリス』は学生のような制服を着ており、杖から雷を放って戦っている。そのため、派手な雷を目印にすることで場所はすぐに解るだろう。

 そして続けて共有されるのは敵の情報。
「この猟書家『ベスティア・ビブリエ』は相手の『記憶』や『経験』、そして『夢』といった物語を喰らう攻撃をしてきます……つまり、過去が襲ってきたり、忘れたくない記憶を忘れそうになる事でしょう……。猟書家と相対した場合は、どうか心を強く持って対応してください。奪われた記憶や経験は、この猟書家を倒せば全て戻ります」
 ここまで説明を進めると、ユーノはためらいながら次の言葉を続ける。
「……その。それで、『ベスティア・ビブリエ』は特に『愉快な仲間』の持つ物語が好物の様です……ですので、余裕があれば『個性的な』『愉快な仲間』の方を探して仲良くなると、猟書家の注意を逸らす事に協力していただけると思います……複雑な物語を持つほど、食べるのに時間がかかるそうなので……隙を、作る参考になるかもしれません」
 それは、現地の住民を囮にすることが出来るという情報だった。……それは強力な精神攻撃を軽減する手段のひとつになるだろう……。

 そして、最後に説明されるのは先に戦うことになる猟書家の部下の情報。
「……最後に、転移後に最初に戦うことになるのが『虹色雲の獏執事』さんたちです。彼らは、猟書家が食べるための『物語』を探しています。特に複雑な物語を持っていそうな『愉快な仲間』を見つけると連れていくかどうか吟味し始めるため、そこに大きな隙が生まれます」

●現地の住民を助けるため
 予知した内容をひと通り伝えたユーノは転移の準備を開始した。
「今回、事前に解ったことは以上になります。猟書家に狙われている『愉快な仲間』の皆さんと、彼らを助ける為に留まる『アリス』の方の両方を助けるため、どうか皆さんの力をお貸しください」

 ユーノが祈りを行うと足元に魔法陣が展開される……この上に乗れば、目的の世界へ転移できるだろう。
「……ユーノは皆さんを転移しなければならないので、同行は出来ません。どうか、よろしくお願いします」


ウノ アキラ
 はじめましての方は初めまして。そしてこんにちわ。
 猟書家『ベスティア・ビブリエ』のシナリオになります。ウノ アキラです。
 このオープニングに興味を持っていただき、ありがとうございます。

●お得情報
 執筆は主に土日になるので、プレイングの受け付けは主に【毎週木曜の8時30分から土曜の午後まで】になりますことをご了承ください。
 他にもマスター紹介のページは一読頂けると文字数を少し節約できるかもしれません。

●依頼について
 アリスラビリンスの幹部猟書家の依頼となります。
 一章は集団戦。二章がボス戦。
 二章構成です。

 一章は集団戦です。
 ですが、次章に備えて自身の過去を思い出すような見た目の『愉快な仲間』と出会い、過去を思い出しておくと二章のプレイングの節約になるかもしれません。

 アリスは放置しても大丈夫です。
 オウガたちは『カイゼル髭の猫紳士』を吟味して隙だらけな上に、数の劣勢も猟兵の活躍で解消するためです。

 二章は猟書家『ベスティア・ビブリエ』との戦闘です。
 幸せだったころの記憶が襲ってきたりトラウマの記憶が襲ってきたり、記憶や経験を忘れそうになったりします。
 キャラの過去と向き合わせるチャンスとなるでしょう。
 自力で復帰したり、一章で出会った『愉快な仲間』をトリガーとして復帰することが出来ます。

 アリスは放置しても大丈夫です。
 ですが、もしも向き合う過去が特に無れけば、その時はアリスに構って支えてあげてください。
 上記が不要であれば冒頭の戦闘前に別れるなどの臨機応変な対応を行います。

 アリスは次のユーベルコードを会得しています。ボスに対しては威力が不十分であることにご注意ください。
 【サンダー・アロー】
 レベル×5本の【雷】属性の【魔法の矢】を放つ。
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第1章 集団戦 『虹色雲の獏執事』

POW   :    「邪魔が入るようですね。番兵さん、出番です」
自身が【自身や眠っているアリスに対する敵意や害意】を感じると、レベル×1体の【虹色雲の番兵羊】が召喚される。虹色雲の番兵羊は自身や眠っているアリスに対する敵意や害意を与えた対象を追跡し、攻撃する。
SPD   :    「お疲れでしょう。紅茶とお菓子はいかがですか?」
【リラックス効果と眠気を誘う紅茶やお菓子】を給仕している間、戦場にいるリラックス効果と眠気を誘う紅茶やお菓子を楽しんでいない対象全ての行動速度を5分の1にする。
WIZ   :    「外は危険です。こちらにお逃げください」
戦場全体に、【強い眠気と幻覚を引き起こす虹色雲の城】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


『縺ゅ↑縺溘?迚ゥ隱槭r謨吶∴縺ヲ荳九&縺"(あなたの物語を教えて下さい)』
『縺願?縺檎ゥコ縺?※縺?∪縺(お腹が空いています)』
『縺ゥ繧薙↑迚ゥ隱槭→蜃コ莨壹∴繧九?縺ァ縺励g縺(どんな物語と出会えるのでしょう)』

●ティーパーティー会場での戦い
 転移をした先で、猟兵たちは明滅する雷を目指して道を抜けた。
 その先にあるのは、お茶会の会場だった場所。
 いくつかのテーブルはひっくり返り、合間にはオウガ――オブリビオンたちが『愉快な仲間』を吟味している。
 すでに何人か連れ去られてしまったのだろうか?

 そして、彼らを守ろうと一人の魔法使いの少女が奮戦していた……しかし敵の数が多く、時間稼ぎにしかなっていないようだ。
 猟兵の力であれば、この状況はすぐにひっくり返せることだろう。
ロベリア・エリヌス
&&&

不愉快だわ
『物語』とは蒐集し愛でるものなのよ
其れを簒奪してしまうなんてナンセンス極まるわ
だって奪い取ってしまったら「その先」を楽しめないじゃない

閑話休題

そう言うわけだから排除させて貰うわ
二機の[O.W.L]と【エレクトロレギオン】で【レーザー射撃】と【誘導弾】の【弾幕】を張ってアリスを援護するわね
機械って眠るのかしら?
幻覚も効くか怪しい所ね
判り切った結末かもしれないけれど、その『記録』を蒐集させて貰うわ

記憶とは曖昧なものだから、私は複数のフォーマットで『記録』を保管しているのだけれど…
一応あそこに居る日記帳みたいな愉快な仲間に協力を仰いでおこうかしら


卜一・アンリ
オブリビオンとお茶会なんて白けるわ。下げて頂戴。

UC【黄金の雨のアリス】の【クイックドロウ】【乱れ撃ち】で迎撃。
行動速度が5分の1になったとしても発射速度は約0.05秒。
撃ち始めれば手数は十分のはず。
敵UCによる眠気は、懐のガラスの破片を思い切り握りしめる痛みで払うわ。
紅茶やお菓子を【武器落とし】でダメにすれば阻止できるかしら。


見つける『愉快な仲間』は、頭が美しい桜の木人。
…アリスラビリンスから帰った私を受け入れてくれなくて、結局また出て行ってしまった実家がある、サクラミラージュの幻朧桜みたいな。

貴女は私が護るわ、離れないで。
その綺麗な花を散らすのは、勿体ないもの。


白霧・叶
&&&【桔梗※4】
どんなにツラく切ない過去でもそれはヒトにとっては無くてはならないものなんだ。それを奪われてしまえばそれはもう、そのヒトとしての在り方に関わる。今回ばっかりは同情の余地もねぇ、さっさと片付けよう

【WIZ】
『戦闘知識』によるUCを発動。 先ずは紅、蒼、ネフラの三人の支援をしつつ三人の行動で間に合わない動作を補助しよう。 戦局を見つつ適切な動きを心掛けて三人と連携しつつ戦っていく(鼓舞)

途中、顔の半分がボロボロでもう半分が作り笑いを浮かべている愉快な仲間を見つけると内心、滅多に見せない苛つきを覚えながらも庇うようにして戦闘を続ける

―……どうにも、こいつは他人とは思えねぇぜ。 たくっ


ネフラ・ノーヴァ
【桔梗*4】
可愛らしいものたちを狙うような不届きな輩は懲らしめねばな。
ああ、できることなら猫紳士の見事な髭をモフモフとしてみたいな。

【POW】
皆に先行して刺剣で突撃し敵の注意を引きつける。懐に潜り込めばUCフェイタルグラップルで羊毛を引き千切り舞い散らせてやろう。
おや、白い鳥の『愉快な仲間』か。雪深い故郷の空にも飛んでいたな。その自由さに憧れたものだ。


宮前・紅
&&&【桔梗*4】
厄介な獏だね?でもまあ、心強い味方も居るし──ね!
此方が劣勢には違いないだろうし……手数を増やして素早く殲滅した方が良さそう

【WIZ】
UCを発動
四人で連携して殲滅するよ
素早さを駆使して複製した細剣で貫いていく(フェイント+貫通攻撃+暗殺)
(自分と少し似た容姿のみすぼらしい人形のような『愉快な仲間』を見つけて)咄嗟にその仲間を助ける(ジャストガード)

迷宮に取り込まれる形になるかは分からない。
だとしても、強引に行くしか無いかもね。眠くなりそうであればコンツェシュを刺して、痛みでどうにか眠気を晴らせないか試すよ(激痛耐性)

つい助けちゃったけど(少し苦い顔をしつつ)
………まぁいいか


戎崎・蒼
【桔梗*4】
悪夢も何も関係なく食べてしまうというのは、何とも悪食めいたものだね
ともあれビブリエに辿り着く為にも早い目に一掃しておきたい所
…皆と連携を取り、着実に歩を進めようか

【POW】
叶のサポートを受けつつ、紅やネフラの攻撃に合わせて射撃
本来なら殺気を消して攻撃すべきなのだろうけど…生半可な感情を向けるのは相手に対して失礼だと僕は考える。敢えて敵意を向けたままにする事で、UCによる身体能力を得てみよう
その後はテルミット弾を使用して過負荷を狙った早撃ちで対応

感情を持たないかのような『愉快な仲間』を見つけ助けるが、つい昔の自分と重ねてしまう

…それに対して可哀想だなんて、僕が言えたものではないけれど


イフ・プリューシュ
むかしのこと、忘れたくない記憶
めざめた前のことは覚えていないイフだけれど
それでも、わすれたくないことはたくさんあるわ
もしも……
いえ、考えるのはやめましょう
いまはみんなをたすけなくちゃ!

みかけたのは、頭がオルゴールの女の子の愉快な仲間さん
音色がとってもきれいね
…あら、一緒に来てくれるの?
ありがとう、一緒にみんなを助けにいきましょう!

みんな、あの子たちをつかまえて!
UCを使って、ひつじさんたちをつかまえるように追いかけさせるわ
みんながつかまえたら、杖から放つ金の糸でしばりあげて
うごけないように拘束するわ!



●抗いに差し出される手
 カイゼル髭の猫紳士を見つけては、じっと品定めを始める『虹色雲の獏執事』。
 この観察が終われば、次に始まるのは誘拐だ。
 この行動パターンは先の雪だるまで判明している……。
「――させるものですか!」
 リンダは足を止めて品定めを始めた『虹色雲の獏執事』を優先して雷を放った。
(全員は無理でも、せめてこのひとだけでも……)
 二足歩行する猫の姿……それが忘れてしまった元の世界の記憶をムズムズと刺激する。
 そういう事もあり、リンダはこの猫紳士だけでも助けようと踏みとどまっていた。

「――その抗う意思は嫌いではない。何より、可愛らしいものたちを狙うような不届きな輩は懲らしめねばな」
 透き通る声が風と共に舞い込むと、一体の獏執事が剣に刺し貫かれる。
 それはネフラ・ノーヴァ(羊脂玉のクリスタリアン・f04313)による『血棘の刺剣』の刺突。
 ネフラはそのまま懐へ入り込み武器から手を離すと直接獏執事に掴みかかって虹色雲の毛を千切った――その力は、ユーベルコード『フェイタルグラップル』。
「まるで羊の様な毛ではないか。綿の様にフワフワ舞うが色合いとしてはイルミネーションか。フフ、あれも美しいものだ」
 舞い散るふわふわの毛。
 ネフラが刺剣を引き抜くと、鮮血噴き出して獏執事は骸の海へと消えていった……。
 その赤と虹の目立つ色彩が『虹色雲の獏執事』たちの視線を引きつける。
「間もなく後続が来る。それまでこの場の注意は引き付けよう」
「誰か解らないけど、ありがとう!」
 到着した助けに希望を見出したリンダはさらに杖を振るい雷を放つ。
 けれど『虹色雲の獏執事』にこの介入を黙って受け入れる道理はない。
「邪魔が入るようですね。番兵さん、出番です」
 そう言うと、獏執事は自身と同じ虹色雲を纏う番兵羊を召喚した。
 数の優位をさらに広げる――そんな敵の戦略だろう。
「フム、余裕があれば猫紳士の見事な髭をモフモフとしてみたかったが。これは少々忙しくなりそうだ」
 ネフラは刺剣を構え、迎え撃つ用意をした。

●その『物語』の先で
 召喚された番兵羊が数の優位をさらに広げた……。
 しかし、さほど間を置かず撃ち込まれた弾丸が番兵羊を次々と射抜いていく。
「おや、他の者が先に着いたか」
 ネフラが視線を向ければ、そこに在るのは共に来た仲間ではなく他の猟兵――ロベリア・エリヌス(recorder・f23533)の姿だった。
「『物語』とは蒐集し愛でるものなのよ。其れを簒奪してしまうなんてナンセンス極まる……不愉快だわ。だって奪い取ってしまったら「その先」を楽しめないじゃない」
 そう言うと、ロベリアはユーベルコード『エレクトロレギオン』を発動させる。
「――そう言うわけだから排除させて貰うわ」
 召喚された四百体ほどの小型の機械兵器が番兵羊と獏執事を殲滅していった。

「この様子であればこの場は大丈夫であろう」
 覆った戦力比を見ると、ネフラは静かな足取りでカイゼル髭の猫紳士へと近づく。
 対する猫紳士は帽子を取って礼を伝えた。
「助けに感謝を、美しき剣士どの」
「ああ、怪我は無さそうで何よりだ。できることならその見事な髭。触らせてもらえないだろうか」
「ええ、構いませんとも。あなたは私の命の恩人だ」
 お嬢さんもどうぞと勧められたリンダも加わり、猫紳士はしばし二人にもふもふされていく――。

 しばし流れるモフモフタイム。
 猫紳士の毛並みを堪能するネフラであったが、その時間は白霧・叶(潤色・f30497)の突っ込みによって終了した。
「和んでる場合かっ!?」
「おや、叶殿も到着したのだな。せっかくだし叶殿も彼をモフってみないか?」
「確かに良い毛並みで魅力的だが……相変わらず自由だなー。いや、先行してもらってすまんが、他にも逃げ遅れた『愉快な仲間』が居るみたいでな。そっちの方に行くぞ」
「ふむ、解った」
 そう言い、ネフラは猫紳士をモフっていた手を離す。
 すこしだけ、名残惜しそうに。

●生きた証を
「というわけで、こっちの方は頼んでいいか?」
 と、叶は途中から同行していたイフ・プリューシュ(樹上の揺籃にゆられて・f25344)にネフラが抜ける分の戦力の穴埋めを頼んだ。
「ええ、みんなをたすけるためにも分担はいいことだと思うもの!」
 と、イフは叶の言葉にこくんと頷くとぬいぐるみのおともだち達と共にユーベルコードを放ち始める。
「ここは、イフがうけもつわ。みんな、あの子たちをつかまえて!」
 ぬいぐるみたちに捕らえられていく『虹色雲の獏執事』。ぬいぐるみたちに捕まると、獏執事たちは力が使えなくなっていく様子だった。
 その力はユーベルコード『まだおうちには帰さない<<サミシガリダダッコノワガママ>>』……獏執事は番兵羊や眠気、幻覚などを無力化されていった。

 イフにはオブリビオンもぬいぐるみや人形に見えている。そのためなのか、イフはオブリビオンに対して強い敵意は持っていなかった。
 それ故にその攻撃は、とても優しい。
 イフは無力化した獏執事に対して『微睡む金の針』から出る金の糸で縛り上げて。
「うごけないように拘束するわ!」
 わるいことが出来ない様にしていく。

 ――わるいこと。それは、ここに居るみんなの『物語』を奪うこと。
 それはきっと、その子が経験した『生』であり生きた証。
(それをうばうだなんて、わすれてしまうことと同じだわ。それは、とてもおそろしいことだって、イフは思うの)
 忘却は死とおなじ。イフは、誰かが言っていた言葉を思い出す。
 その言葉を以前に思い出したのは、季節外れの送り火を見たときだっただろうか。
(むかしのこと、忘れたくない記憶。めざめた前のことは覚えていないイフだけれど。それでも――)
 イフは獏執事をまた新たに拘束してわるいことを止めさせると、逃げ遅れた『愉快な仲間』に声をかけていく。
「子犬さん、絵本さん。あんぜんなばしょまで、おにげなさい」
(――それでも、わすれたくないことはたくさんあるわ)
 もしも、その忘れたくない事さえも忘れてしまったら……?
 頭をよぎるその『もしも』にイフは首を振った。
「いえ、考えるのはやめましょう。いまはみんなをたすけなくちゃ!」
 自分以外を喪失から守るため、イフは杖を振るっていく。

●忘れないために
 ――そんな時だ。
 オルゴールの音色が聞こえてきた。
 見ると頭がオルゴールになっている女の子が連れ去られていく最中だった。
 イフはおともだちを向かわせると、オルゴールの少女を救助する。
「音色がとってもきれいね。さあ、あなたもおにげなさい」
 そう言い立ち去るイフだったが、オルゴールの少女は逃げずにイフの後ろをついて来る。
 その音色は、寂しげな少女に寄り添いたがっている様でもあった。
「……あら、一緒に来てくれるの?」
 イフは少女の手をとると微笑んだ。
「ありがとう、一緒にみんなを助けにいきましょう!」

 その間、戦いを無人機たちに任せながらロベリアはティーパーティー会場で繰り広げられる様々な小さな『物語』を蒐集していた。
 手に持つのは自身の著作『記録』。
 ペンを走らせ観察した物語を記録していくロベリアだったが、彼女は転送前に聞いた情報をふと思い出していた。
 事前に聞いた話によると、猟書家『ベスティア・ビブリエ』は相手の『記憶』や『経験』、そして『夢』といった物語を喰らってくるという……。
「記憶とは曖昧なものだから、私は複数のフォーマットで『記録』を保管しているのだけれど……」
 それは恐らく、ロベリアが蒐集した『記録』にも適用されるだろう。
「……念のため、誰かに覚えていてもらおうかしら」
 ロベリアは改めて周囲を見回した。
 すると、目に飛び込んできたのは本に手足が生えたようなの『愉快な仲間』。
「日記――」
 タイトルの無い装丁に視線が吸い込まれながら、ロベリアは近づいて声をかける。
「あなたに協力してもらいたいことがあるのだけれど」
 日記帳の『愉快な仲間』の了承を得たロベリアは、その身体を持ち上げページをめくった。
 するとその白いページに次々と文字が浮かんでいく。
 どうやらその不思議な日記帳は、手にした者の記録が浮かび上がるらしい。
「――成る程、貴方も複雑な『物語』を蓄積していそうね」
 そのつぶやきは、誰に対してのものだろうか。
 ロベリアは、戦いを無人機たちに任せながら日記の『愉快な仲間』のページをめくるのだった。

●預け合う信頼
「叶くんネフラさんと合流できたかなぁ」
 騎士の様相を見せる姿の宮前・紅(三姉妹の人形と罪人・f04970)は細剣の『コンツェシュ』を振るいながら呟いた。
 その死角を埋めるように戎崎・蒼(暗愚の戦場兵器・f04968)はマスケット銃『Sigmarion-M01』の引き金を引く。
「戦闘中だぞ紅。集中するんだ」
「ありがと、蒼くん♪ まあ、心強い味方も居るし──ね!」
 そう言うと、紅は蒼の頭上を飛び越えて新たに現れた『虹色雲の獏執事』を切り刻む。
 振り返ってウインクをする紅に、蒼は「そうだな」と呟いた。
 その呟きは、紅に聞こえるかどうかの小さな言葉だった。

 ここは虹色雲の城の迷路。
 お互いに自傷で眠気を振り払って二人は戦っていた。
 二人は、性格も価値観も異なるにもかかわらず、何処か生き急ぐような……自身を顧みない戦いが似ている。
 そんな二人に守られるように佇むのは、二人の『愉快な仲間』。
 彼らは無口だった。
 片や白髪のみすぼらしい人形。片や感情を持たないかのような黒髪の人形。
(つい助けちゃったけど……)
 紅は苦笑いをほんのり浮かべながら『愉快な仲間』を見る。
 何故なら、片方はどことなく自分に似ている気がするからだ。
 蒼もまた、片方を昔の自分とつい重ねて見てしまっていた。
(まるで感情が無いかの様だ……それに対して可哀想だなんて、僕が言えたものではないけれど)
 こうして過去を思い出しながら二人で居ると、かつての星降る夜を思い出す。
 相棒はどんな夢を見ていたのだろう。

 そんな感傷を振り払うように紅は長剣を振るった。
(でも、今は孤独じゃないからね)
 例え敵を倒し損ねても蒼くんがいる。
 例え敵を見落としても蒼くんが気づいてくれる。

 そして蒼も、淡々と銃の引き金を引いていく。
(……生半可な感情を向けるのは相手に対して失礼だと僕は考える)
 敵意であれば敵意を。信頼であれば信頼を。
 蒼はその『規範<<ラ・レッジ>>』によって不利と解っていても獏執事に敵意を向けてその注意を集めていた。
 ユーベルコードによる、能力向上も狙っているのだが……何よりも。
 僕に向かう敵は、紅が止める。
 互いに利用価値があるのだから。
 ……そうだろ?

 眠気を自傷で振り払い、二人は迷路に残る敵を減らしていった。

●二度目の旅の中で
「オブリビオンとお茶会なんて白けるわ。下げて頂戴」
 拒絶の声と共に響くのは銃声。
 『悪魔憑きの拳銃』から放たれた弾丸が『虹色雲の獏執事』が支給したティーカップを撃ち抜いた。
 冷たい視線のまま拳銃を抜いた卜一・アンリ(今も帰らぬ大正桜のアリス・f23623)は、流れる様に手近の獏執事も撃ち倒す。
 絶命した『虹色雲の獏執事』はそのまま骸の海へと消えていった……。

 この目立つ行動により、周辺にいる『虹色雲の獏執事』たちがアンリを抑え込もうと一斉に群がり始める。
 対するアンリは、獏執事の提供する紅茶と菓子を拒絶した。
 行動速度に妨害がかかってしまうが、アンリの銃撃はそれを大きく上回る速度で行われていく。
 ユーベルコード『黄金の雨のアリス<<アリス・ザ・レインメーカー>>』――その力と『悪魔憑きの拳銃』が持つ弾倉への弾丸召喚が横殴りの雨の様な乱れうちを作り出しており、敵の妨害はさほど戦闘の問題になっていない。

 ――そして生乱される弾丸の雨に慈悲は無く、そこにはオウガに対する恨みの様なものさえ感じられる。
 何故なら影朧やオウガといったオブリビオンは、卜一・アンリの人生を歪めた原因でもあるからだ。

 視界の獏執事をあらかた処分したアンリは倒す相手を探し周囲を改めて確認した。
「向こうの方にまだ――」
 その時、アンリの視界に懐かしい色が飛び込む。
 それは幻朧桜……ではなく、よく見れば頭が満開の桜の様になった美しき木人だった。
 木の肌を持つ彼女は、遠慮がちにアンリへと話しかける。
「……驚かせてしまったでしょうか。助けて頂いたお礼を言いたくて……。ありがとうございます」
 袴と着物を着たその木人は、そう言うと静かにお辞儀をした。

 アンリはその容姿に一瞬、サクラミラージュを思い出してしまう。
 沸き立つのは、かつての鏡の中の理想郷の様な、複雑な思い。
 アンリは桜の木人に背を向けた。
(……アリスラビリンスから帰った私を受け入れてくれなくて、結局また出て行ってしまった実家を思い出すだなんて)
 ――必死に必死に逃げ回って帰って来たのに!

 ――それでも、たぶん嫌いになりきれないのだろう。
「貴女は私が護るわ、離れないで。その綺麗な花を散らすのは、勿体ないもの」
 アンリは顔を見せないまま、桜の木人へ『護る』と告げた。
 その視線が見据えるのは、会場を外れた先に見える谷。
(『ベスティア・ビブリエ』……近くにいるとしたら、あそこね)

 パーティー会場の端にいたアンリは、この『虹色雲の獏執事』たちが、その谷から湧く様に現れている事に気が付いていた。

●そのヒトの在り方
(紅と蒼の居る位置は追加の敵はほとんど来ない筈だ……ネフラとも合流した。そして戦場のパーティー会場を横断した事で敵の群れが何処から来ているかも目星がついた!!)
 叶は先行してもらっていたネフラと合流するついでに敵の動きを分析していた。
 後は四人で揃って大将を叩くだけ――叶は今回については明確に相手を敵として見ている。
(どんなにツラく切ない過去でもそれはヒトにとっては無くてはならないものなんだ。それを奪われてしまえばそれはもう、そのヒトとしての在り方に関わる)
 記憶、経験、夢。そういったものを指して『物語』だというのであれば。それは『愉快な仲間』に限らず生きる者全ての生きた証だろう。
(――今回ばっかりは同情の余地もねぇ、さっさと片付けよう)

 そう思い走っていた叶だが、合流したネフラが唐突に足を止めた。
「おや、白い鳥の『愉快な仲間』か。雪深い故郷の空にも飛んでいたな。その自由さに憧れたものだ」
 足を止めたネフラと目があった白い鳥は、危険の残る地上に降り立つと、振り返りながら少しずつ飛んで移動する。
「叶殿、どうやらこの白き翼は私たちを連れていきたい所があるようだ」
 そう言うと、ネフラは鳥が誘う方へと進路を変えた。
「紅殿と蒼殿の二人であればこの程度の敵に後れを取ることもあるまい」
「そりゃそうだろうけどさぁ!」
 叶は焦る気持ちを抑えながらネフラの後を追う。
 ……その先には『虹色雲の獏執事』に連れていかれそうになっている『愉快な仲間』が居た。
 そのカカシの『愉快な仲間』は顔の半分がボロボロでもう半分が作り笑いを浮かべている。
「いや待て、話をしよう。いきなりヒトを縛り上げるのは無粋だろう? せっかくのお菓子に失礼だって、ほら!」
 と半分作り笑いのまま抗議するカカシは、しかし諦めか達観か抵抗が殆ど無い。

 その姿を見た叶は、いつもとは違う皺を眉間に寄せながら飛び出した。
(――……どうにも、こいつは他人とは思えねぇぜ。たくっ)
「『物語』を奪うつもりだろうが――させねぇよ。奪わせねぇ」
 叶は霊刀『散桜』を抜くと『虹色雲の獏執事』を切り伏せる。
 振り返れば、他の獏執事は既にネフラが刺剣で突き刺し倒し終えていた。
 ……雪の様に舞う虹の綿は、ネフラが千切ったものだろうか。
「よし、早いとこ紅と蒼と合流するぞ!」
 叶は顔の半分がボロボロのカカシを抱えると再び走り出した。

●略奪の発生源へ
 『虹色雲の獏執事』を退け『愉快な仲間』たちを助けた猟兵たちは、獏執事を追ううちにその『発生源』ともいえる場所にたどり着く。
 ――猟書家『ベスティア・ビブリエ』の元だ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第2章 ボス戦 『ベスティア・ビブリエ』

POW   :    縺願�縺檎ゥコ縺�◆縺ョ縺ァ鬟溘∋縺セ縺励◆
攻撃が命中した対象に【埋まることの無いぽっかりと空いた心の穴】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【一秒毎に記憶を次々と失っていき、衰弱】による追加攻撃を与え続ける。
SPD   :    譏疲�縺ゅk縺ィ縺薙m縺ォ
自身の【憑依しているが、使い捨てる本のページ】を代償に、【Lv×1体の幸せそうな物語の登場人物達】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【世界の『正』を『負』に捻じ曲げた幻想】で戦う。
WIZ   :    蟷ク縺帙↓證ョ繧峨@縺ヲ縺�∪縺励◆
いま戦っている対象に有効な【精神攻撃をする『物語』を演じられるもの達】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠フィオレンツァ・トリルビィです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●二章についてのお知らせ
 一章へのご参加、ありがとうございます。
 引き続き二章のプレイングの受付は予定通りに木曜の01月28日(木)からとなる見込みです。
 よろしくお願いいたします。

●『ベスティア・ビブリエ』
 そこには一冊の本が落ちていた。
 その本は『物語』を喰らう。

 侵略蔵書なのだろうか?
 その答えは解らない。
 解っているのは、その本は『物語』を喰らうこと。
 そして、その本は猟書家の幹部の所有物であるということ。

 猟書家『ベスティア・ビブリエ』は来訪した者たちを見ると舌なめずりをした。
 美味しい『物語』という獲物とか見ていない様子だ。

『譏斐??≠繧九→縺薙m縺ァ(昔々あるところで)』
『蠖シ繧牙スシ螂ウ繧峨?蟷ク縺帙↓證ョ繧峨@縺ヲ縺?∪縺励◆(彼ら彼女らは幸せに暮らしていました)』
『縺願?縺檎ゥコ縺?◆縺ョ縺ァ縺溘∋縺セ縺(お腹が空いたのでたべます)』

●補足
 この幹部が行う攻撃には、物理的なダメージや怪我は発生しません。
 全て精神的なダメージです。

 念のため、可能性を残すためまだ明記していませんが、現時点では『アリス』のリンダはリプレイの序盤で別れて、カイゼル髭の猫紳士と共に安全な場所へ離れていく予定です。
.
●『アリス』との別れ
「本当にありがとう! あなた達のお陰で助かったわ」
 魔法使いの『アリス』、リンダはそう礼を言った。
 猟兵たちの介入により、ティーパーティーの会場の『オウガ』たちは退けられ今はその姿は無い。
 しかし会場の外を見れば、新たな獏執事がこちらに向かって歩いてくるのが見えていた。
 おそらく向こうに、オウガが湧き出る元があるのだろう。

「本当なら私も手伝いたかったけど……足手まといになりそうだし。私は、猫紳士さんを連れてここを離れるわ」
 リンダはそう言うと、カイゼル髭の猫紳士へ手を差し伸べる。
「さあ、いきましょう。猫さん」
「ここまで尽力されては、断れませんな」
 片足に古傷がある猫紳士は、ひょこりとぎこちなく立ち上がるとリンダの手を取った。

 二人は安全な場所を目指してこの場を離れていく……。
 途中、リンダは振り返って猟兵たちへと手を振った。
「あなた達の未来の旅路に、精霊の加護がありますように!!」
卜一・アンリ
本なのだから燃やせばいいわ。
拳銃(ダイモンデバイス)を構えて

構えて

…何を、呼ぼうとしたのかしら。

敵の攻撃を受けてるのだけが漠然と判る。
駄目、私ひとりじゃ戦えない。『牡丹』を呼ばなきゃ。

…牡丹って、誰かしら。

記憶が削れていく。
何で私は、ほんの数年前まで握ったこともなかった銃なんて持っているの?
何で私は、こんなにもオブリビオンを恨んでいるの?

何もかもが曖昧になっていく中で視界に映るのは
私に寄り添って敵の注意をひく桜の木人の花弁と、腰に差した退魔刀。

あぁ、そうだ。
これならまだ身体が覚えてる。幼い頃から習ってきたもの。
幻朧桜の木の下で、お父様に教わったもの。

【指定UC】、敵を細切れに【切断】にかかる。


ロベリア・エリヌス
&&&

有史以来『人』は積み重ねてきた事象や『物語』を様々な形で記録して来た

私もそれに倣って様々な媒体にあらゆる『記録』を残しているわ
口伝、石板、書物、写真、レコード、映像媒体etc
さっき知り合った愉快な仲間もいるしね
つまり『私』の記憶を曖昧にした程度で、私の『記録』が喪われる事は無いのよ
それこそが私の求めるBrain Odd Xanaduの極致だもの

所で、正負が逆転した物語で私に何を見せてくれるのかしら?
別の可能性を見せる程度なら期待外れも良い所だわ

【真の姿を開放】
ysmpドzsdryrィfsdソms?
spmp『zpmphsysト』エp

【其の答えを識るまで、僕は死ぬ事もままならぬ】のですから


宮前・紅
&&&【桔梗*4】
OK、気をつけるよ
へぇ、面白い怪物も居たものだね
俺は悪趣味なのは嫌いじゃないよ──但し俺の方が悪趣味に限る話だけどね、あはは♪

でも、まぁ──少しは楽しませてくれそうかな

【SPD】
皆と協力して倒すよ
UCを発動
敵には真っ暗闇にしか見えなくなる
敵に恐怖が効くか分からない部分が多いけど、動揺を誘うくらいは出来る筈──そのうちに倒してしまおう
複製した細剣で補足した敵を殲滅するよ(呪詛+貫通攻撃+暗殺)

敵の攻撃は上手く見切って躱す(フェイント+ジャストガード)

俺が正気に戻す役割を果たすしかないかな……普段は逆だけれど、ね
───良いよ、ちょっと荒療治だけど、痛みで正気に戻してあげるよ!


戎崎・蒼
&&&【桔梗*4】
ようやくビブリエに辿り着いたか
物語を喰らうとは悪趣味……だなんて、まあものによるのだろうけど
ともすれば物語を終焉に近づけようか

【POW】
紅と連携しつつ、ネフラが前に、叶がサポートとして出るようだから僕は射撃で攻撃をくまなく加えたい(スナイパー+暗殺)
弾丸を打ち込めたらUCを発動
ルールはそうだな…例えば『物語を喰らってはならない』のだとしたら、だ
それを破るようなら攻撃となる筈だ

僕の記憶はどれだけ奪ってくれても構わない
咎人殺しの記憶なんて、いくらでも

本と定義付けるには其れらしく無く、吐く言葉はおしなべて形を準えただけ
───そんな紛い物の"物騙り"は、もう終わりにしよう


白霧・叶
【桔梗※4】&&&
待たせたな、みんな。
どうも厄介な能力を使うらしいが気を引き締めろよ、みんな。 まあ何とかなるだろうが―……(『第六感』で何か嫌な気を感じる)

【POW】
今回はネフラと合わせるようにしてみようか。 あくまでみんなが動きやすいようにするために動くようにしていこう

敵の攻撃は『覚悟』を持って耐えるがもし記憶を奪われたとしても俺の夢―……たった数十年の平和という目標さえ覚えている限りは戦い続けるさ。何を忘れようと、何を失おうとそれが己の全てなんだから

もしネフラが暴走していたら紅が何かしら考えがありそうだしそれを手伝おうか。


ネフラ・ノーヴァ
&&&【桔梗*4】
まったく訳の分からぬ語を口にする獣だ。血が流れているかは知れないが、血祭りに上げてやろう。

【POW】
記憶を失う、か。いっそ失ってしまいたい記憶もある。だがそれとて私を私たらしめるものだ。
おいそれとくれてやるものではないが、たとえ記憶の全てを失ってもこの身体、刻印たる「瞳」は血を求め戦うだろう。
瀉血剣晶、我が血を刃として、斬り裂こう。さあ、貴様もその腹に穴を空けるが良い。

もし仲間の記憶を失ったら闘争本能にまかせて刃を向けるかもしれないな。
フフ、その時は申し訳ないが頑張ってなんとかしてもらおう。


イフ・プリューシュ
&&&/WIZ

これが、ベスティア・ビブリエ
かわいいけれど、でも
みんなの物語をたべちゃうのはだめよ

イフのなら、といいたいところだけれど
イフにも奪われたくない物語はあるの
たいせつな人たちの笑顔
声のねいろ
つないだ手のあたたかさ
みんなのおかげで、ぬくもりを知った心
なにひとつ、奪われたくないたからものなの

めのまえに現れたのは、ひとりぼっちの『わたし』
めざめたばかりの、笑顔もしらないわたし
それは、イフだったけれど、いまのイフじゃない
みんなは、こんな『イフ』でも、好きになってくれたかしら
心は揺れるけれど、でも

鳴るオルゴールの音に合わせてうたうわ
あなたに白ばらの棘を
傷ついた人たちには癒しのうたを

おやすみなさい



●居場所を守りたくて
 逃げ遅れていた『愉快な仲間』を助けて『虹色雲の獏執事』を退けた猟兵たち。
 彼ら、そして彼女らは、オウガが湧いている『発生源』へと向かっていく。

「もー、叶くん遅いよ!」
 合流した【桔梗】の四人のうちの一人、宮前・紅(三姉妹の人形と罪人・f04970)は頬を膨らませて白霧・叶(潤色・f30497)に抗議をしていた。
 自傷で敵による眠気を振り払っていた、紅と戎崎・蒼(暗愚の戦場兵器・f04968)の二人は傷でボロボロになっている。
「すまん。待たせたな、みんな」
 責められてしょんぼりする叶。しかし、紅が弱みをさらに弄ろうと口を開いた所で蒼が言葉を挟んだ。
「それで、ビブリエにたどり着く道は解ったのか叶」
 蒼の問いに叶は頷いた。
「ああ。ばっちりだ」
「分かった。ならすぐ行こう」
「うむ、そのためにここに来たのだからな」
 しれっと蒼の隣に移動していたネフラ・ノーヴァ(羊脂玉のクリスタリアン・f04313)も、蒼の言葉に深く頷いた。

 四人は道すがら獏執事を倒しながら、会場を外れた谷の方へ降りていく……。
「ところで、彼らがずっとついて来てるのだけど……」
 蒼が背後を振り返ると、そこには先ほど別れた筈の愉快な仲間――白髪のみすぼらしい人形、感情を持たないかのような黒髪の人形、顔の半分がボロボロでもう半分が笑っているカカシの三人がいる。
「危ないと説明した筈なんだがなぁ」
 と頭をかく叶だったが、カカシが言うには、オウガのボスを倒せる可能性が高いからこそ協力したいとのこと。
「力のない俺に何が出来るかはわからんが……俺はここが気に入っているんだ。だから何かさせてくれ。邪魔はしないようにするからさ」
 と、カカシは言った。
 彼が逃げ遅れたのも、もしかしたら他の『愉快な仲間』を逃がしていたからなのかもしれない。
 そして二人の人形もトコトコとついてくるが、彼らは相変わらず何もしゃべらなかった。

●始まる物語の略奪
 会場を外れた谷の底。
 そこには一冊の本が落ちていた。
 そこに在るのは舌なめずりをする猟書家『ベスティア・ビブリエ』と、拳銃を構えたまま立ち尽くす卜一・アンリ(今も帰らぬ大正桜のアリス・f23623)の姿。

 それを見た叶は嫌な気配を感じ取った。
 確か、この敵は相手の記憶や経験、そして夢といった物語を喰らうのだったか。
「どうも厄介な能力を使うらしいが気を引き締めろよ、みんな」

 叶がそう仲間に告げた時、『ベスティア・ビブリエ』がこちらを『視た』。
 この時、誰もが奇妙な浮遊感を感じたことだろう。
 肉体から魂が浮遊する感覚。
 記憶が持ち上げられ、ページがめくられていく様な違和感。

 ――『物語』の吟味が始まる。

●卜一・アンリの旅路
 ――記憶が削れていく。
 ようやく扉を見つけ、すべてを思い出して帰った日のこと。
 投げつけられた言葉。
 家を飛び出したこと。
 ――記憶はむしゃりと食べられた。
(……どうして私はここに居るのかしら)

 ぼんやりと攻撃を受けている事は感じ取れた。
(駄目、私ひとりじゃ戦えない。『牡丹』を呼ばなきゃ)
 キャバリアを呼ぼうと考えるアンリだが……。
 ――記憶がむしゃりと食べられた。
(……牡丹って、誰かしら)

 ――記憶が削れていく。
 見知らぬ奇妙な世界で記憶も失い逃げ続けた日々。
 武器も無く逃げる中で行った悪魔との契約。
 その契約で銃を手に入れ、使い方を覚えながら必死に逃げ続けた旅路。
 ――記憶はむしゃりと食べられた。
(……何で私は、こんなにもオブリビオンを恨んでいるの? 何で私は、ほんの数年前まで握ったこともなかった銃なんて持っているの?)

 ――記憶が削れていく。
 まるで、心にぽっかりと空いた穴から零れ落ちる様に。

 その時、満開の桜がアンリを庇うように視界に広がった。
 それはパーティーの会場でアンリが助けた桜の木人。
 『ベスティア・ビブリエ』の前に飛び出したことでその注意を自分へと逸らしたのだ。
 幻朧桜のような花弁がアンリのぼやける意識を引き戻していく。
 このままではいけないと心が警鐘を鳴らす。
 理由は思い出せないが、今は危険な状態なのだ。
(あぁ、そうだ……)
 アンリは腰の『退魔刀』を確認した。
 中の刀身は本物の真剣だ。
 アンリは、刀身に映る自分の瞳の色に戸惑うが――。
(考えるのは後にしましょう)
 アンリは刀を再び納刀し、技を放つ体勢をとるとひとつ目の獣を間合いに入れる。
(あれは影朧? 解らない……けれど、たぶん原因はあれよね)

 手の中にあるのは、実家を出た後に父から――直接会わず桜學府を経由して――送られてきた退魔の霊刀。
 それさえも忘れてしまったけれど。
 それでも『どう使うか』は覚えている。

 衰弱していく身体に気合いを入れて、アンリは抜刀した。

●宮前・紅の悪夢
「OK、気をつけるよ」
 紅は、叶の引き締めろという言葉に明るく答えた。
 ……けれど、気が付くと周りにいた仲間たちの姿が無い。
「あれ……?」
 紅はふと、目の前にスポットライトに照らされた舞台が出来ていることに気が付いた。

 舞台には幸せそうな家族がリビングでくつろいでいた。
 それは、紅の父であり、紅の母であり。
 そして、暴力を受けた痕跡が一切見られない笑顔の紅がいた。
 その光景は、まさに『正』を『負』に捻じ曲げた幻想の様だった。

 家族は他愛のない話をし、感じたことを分け合い、些細な日常を共有している。
 それは幸せそうな物語。
 けれどその物語は、紅にとっては現実味が全くない世界だ。
(へぇ、これが例の精神攻撃かな? 面白い怪物も居たものだね。今のところ異常は感じられないし……もう少し楽しんでみようか)
 紅は観客席に座ると、足を組んでしばしこの茶番劇を眺めることにした。

 そんな家族劇に人形師の青年が加わる。
(――!)
 この舞台を他人事として見ていた紅だが、彼の登場には穏やかではいられない。
 何故なら。
(あんただけだったんだ……優しくしてくれて、色んなことを教えてくれて、俺に生きていていいと言ったのは……!)
 観客席で見る紅の思いと裏腹に、青年はお土産のクッキーを取り出すと家族とお茶を楽しみながら話題を提供していく。
 彼と特に親しくしているのは、何も知らず心の底から純真な偽物の紅。
 人形師が自分に似た別者と親しくしているのが、紅に『悪い夢』を見せていく。

(――もういいや。壊そう)
 紅はにこりとほほ笑むと細剣『Koncerz』を抜いて観客席から立ち上がった。
「俺は悪趣味なのは嫌いじゃないよ──但し俺の方が悪趣味に限る話だけどね、あはは♪」
 その時だ。
 舞台上の紅がこちらを指さして叫んだ。
「助けて! 怖い化け物がいる!」
 観客席の紅へ敵意の視線が向けられる。
 もちろん、人形師の彼も――。
 この精神攻撃に対し、紅は……。
「あはは♪ あははははっ♪」
 壊れた様に笑いながらユーベルコードを発動させた。

●戎崎・蒼の空白
 蒼は戦闘の算段を考えながら手慣れた手順で弾を込める。
(紅と連携しつつ、ネフラが前に、叶がサポートとして出るようだから僕は――)
 その時、蒼は違和感を感じた。
 それはまるで記憶が持ち上げられページがめくられていく様な、奇妙な感覚……。
(――精神攻撃か!)
 蒼は咄嗟に精神攻撃への対処を行おうと『異端者のフォーク』を握る――。
(強い刺激や痛みを受ければ抜け出せる)
 しかし。

 ――その記憶はむしゃりと食べられた。

 心にぽっかりと空いた穴から記憶がぽろぽろと零れ落ちていく。
(……何だ? 何かが変だ。どうして僕はフォークを持っているんだ?)
 蒼は周囲を見回した。探すのは、白い髪の――。

 ――その記憶がむしゃりと食べられた。

(……? 僕は『誰を探した』んだ?)
 誰かの身を案じた気がする。けれどそれが誰なのかが解らない。
(そもそも、僕が誰かを心配する……?)
 今の蒼が覚えている仲間とは、それぞれの利益を考えた上での契約書上でしか成り得ない関係性。
(そうだ。僕は咎人殺しとして――)

 ――その記憶もむしゃりと食べられた。

 この時、蒼は自分に何が起こっているのかを理解した。
(……思い出せない。僕の隣には誰が居た? 共に過ごした師を、僕が殺したことはまだ覚えている。けれど、その過ごした日々が思い出せない)
 蒼は急いで握っていたフォークを自分に突き立てる。
 これ以上失う前に――。

 痛みが意識を肉体に戻して持ち上げられた記憶の本が本棚に戻されていく。
(……僕は師を殺した後は何をして過ごしてきた? 『今』の僕は何をしている? 『誰と』一緒に居るんだ!?)

「――っ!」
 蒼は精神攻撃から抜け出し意識を取り戻した。
 フォークで刺した筈の場所と違う部位が痛んだので見てみると、足に細い剣がちょこんと刺さっている。
 そして眼前には蒼を庇うように立つ、白髪のみすぼらしい人形と感情を持たないかのような黒髪の人形。そして顔の半分がボロボロでもう半分が笑っているカカシ。
 最後に、笑顔で剣を突き刺している白髪の少年がいた。
「蒼くん、正気に戻った? ちょっと荒療治だったけど、大丈夫だよね?」
 覗き込むその顔は、今の蒼には見知らぬ顔だけれど。
「大丈夫だ……いや、どうやら十年ほどの記憶が曖昧になっているみたいだ。特に最近の数年が思い出せない。咎人殺しの記憶なら、いくらでも奪ってくれて構わないのにな……」
 蒼がそう答えると紅は表情を一瞬強張らせる……。
 そして蒼は、この見知らぬ少年に大きな外傷が無さそうだと判断すると不思議な安堵を感じながら理解するのだった。
(そうか……あの時僕が探した『誰か』は……)

●白霧・叶の理想
「しまっ――」
 感じる奇妙な浮遊感。
 肉体から魂が持ち上げられ、ページがめくられる様な違和感を感じた。
 同時に、共に居た筈の仲間の姿が見えなくなる。
 叶の持つ戦闘への知識が、精神攻撃を受けたことを知らせた。
(これは厄や呪いじゃねぇ……っ!)
 敵の『ユーベルコヲド』は何の理屈も無く直接『物語』へ干渉する力であった。
(気を抜きすぎたか……? こんなんじゃ流石に『潤色』の名も廃れちまうな……)
 早く抜け出さなくては――。
 強い刺激で意識を戻そうと、叶は懐に忍ばせていた串で自分の腕を刺そうとする。
 しかしこの時、叶に何かを失った感覚が襲い掛かった。
「『潤色』? 誰だ……それは……?」

 物心ついたころから居た軍の機関――軍務に追われ都合よく利用されたかつての日々――それらが失われて叶の記憶に空白が増えていく。
 何が起きている? ここは何処で俺は何をしていた?
 わからない。けれど。
「記憶を奪われたとしても俺の夢――……たった数十年の平和という目標さえ覚えている限りは戦い続けるさ。そうだろう?」
 叶は誰にともなく問いかけると――。
(こんなよくわからん場所でこれを持ってるってことは、つまりこう言う事だろ!)
 串を己の腕に突き刺した。

 戦う必要のない平和……その理想を抱く、白霧・叶としての在り方を失う前に――。

「って、危ねぇっ!?」
 戻った瞬間、差し向けられる刺突をほぼ直感で躱した叶。
 それは紅が気付けの為に突き刺そうとした剣だった。
「あ、叶くんお帰り! 叶くんは『どこまで覚えてる』?」
 紅の後ろでは白髪の人形と黒髪の人形、そしてカカシの三人が囮として『ベスティア・ビブリエ』の注意を引いていた。
 そのため精神攻撃が薄れて自覚も容易だったのかもしれない。
 叶は一先ず、紅に自身の状況を伝えた。
「俺は小一時間ほどの記憶と、猟兵になる前の記憶を持っていかれたみたいだ。紅と蒼は大丈夫か?」
「叶くんは俺たちのこと忘れてないんだね! ……良かった。えっと、じゃあ状況を説明するね――」
 紅は、普段と逆だよね、と笑いながら叶に状況の説明を始めた。

●ネフラ・ノーヴァの制約
 奇妙な浮遊感を感じた。
 それはまるで、魂が持ち上げられて中を覗かれる様な、奇妙な違和感だ。
 おそらく、精神に何かしらの干渉をされているのだろうとネフラは察する。
「確か記憶を失う、だったか。いっそ失ってしまいたい記憶もある……だがそれとて私を私たらしめるものだ」
 闘争を求める嗜好から異端と呼ばれたこと。
 実験体にされ刻印を埋め込まれたこと。
 そして、私だけが知る私だけの、会いたくて、けれど会いたくないあの人の事も。

 その時、ふと喪失感を感じた。
 恐らく何かの記憶を喰われたのだろう。
「フム、戦いは既に始まっている。そしてここは相手の土俵だな。しかし……」
 ネフラは自身の腹へ『血棘の刺剣』を刺した。
 ドクン、と脈打つ感覚と同時に刺剣は赤刃の長剣へと変わっていく……それはユーベルコード『瀉血剣晶』のチカラ。
 肉体に受けた痛みで意識を引き戻したネフラは、今回の闘争の相手『ベスティア・ビブリエ』を見据えた。
「たとえ記憶の全てを失ってもこの身体、刻印たる『瞳』は血を求め戦うだろう」

 ――血を欲してしまう制約は面倒だが、今となってはこの体も悪くはないのだ。

 ネフラの瞳が赤く輝く。
『縺願?縺檎ゥコ縺?◆縺ョ縺ァ鬟溘∋縺セ縺励◆(お腹が空いたので食べました)』
『縺ゅ↑縺溘?迚ゥ隱槭r鬟溘∋縺輔○縺ヲ(あなたの物語を食べさせて)』
「まったく訳の分からぬ語を口にする獣だ。血が流れているかは知れないが、血祭りに上げてやろう」
 そう言ったネフラだが、血の瞳が映す『ベスティア・ビブリエ』には血の流れが見あたらない。
(フム、この獣の本体はそこに落ちている本の方だろうか?)
 その時、再び奇妙な浮遊感と共に何かを失う感覚がネフラを襲った。
 それをネフラは闘争への欲求で振り解く。
 この二度目は防いだネフラだが、しかしこの時すでに最近の二年~三年の間の記憶を食べられていた。

 最近の記憶を失う――それにより、ネフラの『興味』は血が無い書の魔獣『ベスティア・ビブリエ』ではなく近くの血――叶、蒼、紅の三人へと向けられる。
 沸き上がる血への欲求のままに、ぽっかりと空いた心の穴を埋めるようにネフラは血を強く欲した。
「フフ。そこの書物の獣の他に居るではないか、美しい血が」
 ――再び襲い来る奇妙な浮遊感。
 この三度目でさらに記憶を喰われて誰を思い出せないのかも思い出せないネフラは、渇望のままに血を欲していく。
「我が血を刃として、斬り裂こうではないか。嗚呼、血だ。その血の香気が欲しい。夥しい血が欲しい」

●『記憶』、あるいは『記録』
 先に猟書家『ベスティア・ビブリエ』と接触した五人……彼らや彼女らが精神攻撃に晒されて戻ってくるまでは、ほんの数十秒しか経っていない。

 ロベリア・エリヌス(recorder・f23533)とイフ・プリューシュ(樹上の揺籃にゆられて・f25344)の二人がこの場に到着したのは、その僅かな時間の間だった。
「これが、ベスティア・ビブリエ」
 イフはくりっとした目で書物の魔獣を見つめる。
「かわいいけれど、でも。みんなの物語をたべちゃうのはだめよ」
 そう言いながら、イフは一緒に来たオルゴールの少女の手を握った。
 『ベスティア・ビブリエ』の精神攻撃を受けたとしても、彼女の音色はきっとイフを引き戻してくれるだろう。
 出会って間もない二人だけれど、イフはひとりぼっちでは無いのだから。

 ロベリアも日記帳の『愉快な仲間』と共に居た。
「有史以来『人』は積み重ねてきた事象や『物語』を様々な形で記録して来たわ。口伝、石板、書物、写真、レコード、映像媒体etc……本当に、様々なものにね。そして何れも伝えて共有するためにあるの。其れを簒奪してしまうのは、ナンセンス極まるわ」

 記憶、あるいは記録。
 それに強い思いを抱く二人が『ベスティア・ビブリエ』の凶行――物語の略奪と捕食――を止めようと行動する。

 その時『ベスティア・ビブリエ』が二人を『視た』。
 すると二人を奇妙な浮遊感が襲った。
 魂が持ち上げられ、ページがめくられていく様な違和感が……。

●イフ・プリューシュのたからもの
 気が付くとイフの目の前にひとつの棺が置いてあった。
 見たことがある様な、無い様な。
 イフが不思議な気持ちに襲われていると、棺が開いて中かからもうひとりのイフが現れる。
(あのこは、イフだわ。めざめたばかりの、笑顔もしらないわたし。ひとりぼっちの『わたし』)
 これが『ベスティア・ビブリエ』の精神攻撃なのだろうか。
 当時の寂しさを思い出しながら、イフはこんな再現に負けない様にと自分に言い聞かせる。
(イフにも奪われたくない物語はあるの。たいせつな人たちの笑顔、声のねいろ、つないだ手のあたたかさ)
 みんなのおかげで、イフはぬくもりを知った。
 それはどれも忘れたくないものだ。
 だからイフは動じない。どれも奪わせない。
 ちょとだけ「みんなは、こんな『イフ』でも、好きになってくれたかしら」と、思ったけれど。
 それだけだった。

 めざめたひとりぼっちのイフは、棺から顔を出し周りをキョロキョロと見回していたが、やがて棺を出て歩き出す。
 そこは、研究所の様な場所。
(ここは、もう誰もいないわ)
 いくら『物語』を再現されようと、ぬくもりを知ったイフはもう心に傷を増やすことは無い。
 イフはこの精神攻撃を抜け出す方法を探してみることにした。
 耳をすませば微かにオルゴールの音色が聞こえている……。
(この音をたどって、まっすぐあるけば、でられるかしら?)

 この『物語』を無視して抜け出そうとイフが考えた、その矢先だった。
「やあ、おはよう。イフ」
 ふと聞こえた懐かしさを感じる知らない声のねいろ。
 思わず振り向くと、その『物語』ではひとりぼっちのイフが眼鏡の男性に頭をなでられていた。
(――あ)
 その手のあたたかさが、声のねいろが、笑顔が。
 笑顔をしらないイフに向けられている。
 イフが諦めたもの、イフが願ったもの。
 ……そういったものが『物語』のイフに与えられていく。

 ――でも。
(心は揺れるけれど、でも)
 精神攻撃に苦しみながらイフが思い出すのは、今まで出会ったみんなの笑顔。
(いまのイフだって、たくさんのたいせつな人がいるのよ。たくさんの、いろんな人よ。それにね、まいにちがあたたかいの)

 イフの思いと共に、微かに聞こえていたオルゴールの音色が強まる――。

「あ――」
 イフは気が付くと元の場所に居た。
 『ベスティア・ビブリエ』もそのままで、先ほどの出来事はほんの数秒の出来事だった様だ。
 イフの手には、ずっと隣にいてくれたオルゴールの少女の手が握られていた。
 ずっとイフへ呼びかけてくれていたのだろう。

 周りをみると、徐々に他の猟兵たちも精神攻撃から抜け出しつつある様だ。
 イフはオルゴールの少女へと微笑んだ。
「ささえてくれて、ありがとう。とても心強いわ。ねえ、一緒にうたいましょう」

●ロベリア・エリヌスの観測
 ロベリアは気が付くと舞台の観客席にいた。
 その舞台にはロベリアと瓜二つな女性がおり、どこかの役所の様な場所で働いている。
 その様子を、ロベリアは。
(あら……もしかして『強化』前かしら)
 と他人事のように観察していた。

 その舞台で繰り広げられる物語の舞台は管理社会の様であり、そこで彼女は満足そうに日々を過ごしていた。
 毎日、同じ道を歩き、同じものを食べ、同じ仕事を行い、同じ時間に寝起きをする代り映えの無い日々。

 彼女は選択の迷いとは無縁だった。
 彼女は憧れと現実の差による悩みとも無縁だった。
 彼女は危険と責任からも無縁だった。
 そこに物語は無く、しかし肉体の健康と日常の安定がある。

「……期待外れも良い所だわ」
 その物語を、ロベリアはため息とともに一蹴すると著書の『記録』を閉じた。
「さっき私は、有史以来『人』は積み重ねてきた事象や『物語』を様々な形で記録して来たと言ったわ」
 ロベリアの言葉と共に周囲に電脳魔術のモニターが展開されていく。
「『私も』それに倣って様々な媒体にあらゆる『記録』を残しているの。電脳空間だけじゃないのよ。口伝、石板、書物、写真、レコード……本当に様々なものにね」
 ロベリアは、表示した記録を確認すると、モニターを閉じながら呟いた。
「――やっぱり。ここに来る前に見た日記帳のコピーを参照したわ。『彼女』がそんな生活で満足する可能性は、ゼロよ。そうでなければ、あんな事はしないし『私』もここに存在して居ないのだから」

 ぐにゃあ、とロベリアの姿が歪む。
 聞き取れない音声と共に、金属板をギチギチと鳴らす形容し難いオブジェ――ロベリアの真の姿が現れた。
『記憶を食べようとしたって無駄よ。『私』の記憶を曖昧にした程度で、私の『記録』が喪われる事は無いのだから――それこそが私の求めるBrain Odd Xanaduの極致だもの』

 ロベリアの言葉と共に強い光が明滅し、キィンと鋭い音が鳴り響く。
 それはロベリアによる精神攻撃だ。
 『ベスティア・ビブリエ』の精神攻撃がロベリアの精神攻撃で僅かに相殺され――生じた『隙間』をハッキングしたロベリアは、そのまま精神世界を抜け出した。

●わたしたちの在り方
「秘剣抜刀――剛の型!」
 アンリが退魔の霊刀を抜刀すると無数の斬撃が『ベスティア・ビブリエ』を襲う。
 ユーベルコード『××流秘剣・剛の型』――その斬撃は敵が依り代として憑依している本を切り刻むが――。
 『ベスティア・ビブリエ』はその斬撃に耐える。
「何て固い本なの!」
(火があれば燃やせるのに……)
 けれど。
「……でも、戦える。これならまだ身体が覚えてる」
 ずっと教わって来たのだから。

 何かを忘れてしまった時に感じた、奇妙な感覚は今は感じない。
 おそらく、この桜の木人が身代わりとなってくれているのだろう。
 彼女は徐々に弱っているように見えた。
 アンリは『退魔刀』を再び納刀し次の攻撃の機会を伺いながら。
「ねえあなた達、味方で良いのよね? 加勢して欲しいのだけれど!」
 と背後でもめる四人に声を投げかけるのだった。

 その声に「すまん!」と謝りつつ、叶は暴走するネフラの剣を必死に受ける。
「俺は前線で刀を振るうようなタイプじゃねぇんだけどなぁぁあああ!? 防御にまわるなら軍刀持ってくりゃ良かったなーーーっ!!」
 と不満を言いながら、暴走するネフラの相手をしていた。
 一方で、ここ数年の記憶を食べられて失ったネフラは。
「フフフ、やるではないか異国の剣士。 血に濡れる戦いも香しさと美しさに心が躍るものだが。しかしこのような闘い合いも良いものだな。そうは思わないか?」
 と非常に楽しそうである。
「紅、何かしら考えがあるんだろ、紅!」
 と叶が紅へ催促をするが、紅は。
「あははははははははっ♪」
 と笑っていた。
 その様子に、蒼は困惑の表情で紅に問いかける。
「……普段の僕たちもこうなのか?」
 その問いに、紅はこう答える。
「ここまでハチャメチャなのはさすがに珍しいけど……うん、そうだね。多少なら、記憶が減っても俺たちらしさは変わってないんじゃないかな?」
 そう答える紅の表情には、仲間に忘れられた哀しさは、もう無い。
「まぁ──少しは楽しませてもらったかな。じゃあそろそろネフラさんを正気に戻して、それから猟書家を倒して。みんなを元に戻そっか♪」
 紅はそう言うとユーベルコード『黒い月<<カバー・アップ>>』を発動させた。
 光なき暗闇が、暴れるネフラを引きずり込んでいく……。
「――ちょっと荒療治だけどね」

●略奪の物語の終わり
「あなたに白ばらの棘を、傷ついた人たちには癒しのうたを」
 戦場に歌が響いた。
 それはイフのユーベルコード『小夜鳴鳥の献身<<シロバラヲソメルウタ>>』だ。

 オルゴールの少女と共に歌うイフの歌が、仲間の傷を治療していく。
 同時に白バラの棘が『ベスティア・ビブリエ』の憑依した本を絡め取って狙いやすい様に持ち上げていった。
 物理的な干渉が出来ない『ベスティア・ビブリエ』はそのまま恰好の的となる。
 続けて――。
「ysmpドzsdryrィfsdソms? spmp『zpmphsysト』エp」
 聞き取れない音声が聞こえたかと思うと、ロベリアの著書の『記録』から情念の獣が現れた。
「――答えてもらうわ。『其の答えを識るまで、僕は死ぬ事もままならぬ』のですから」
 ユーベルコードから生まれた獣が『ベスティア・ビブリエ』のページを貪り喰らおうとするが……。
 『ベスティア・ビブリエ』が抵抗しているのか、そのページは意外と頑丈で破れない。
 しかし。
「ほんとうにしぶとい紙ね」
 アンリの刀による追撃が本のページを傷をつけて破りやすくしていく。

 この猛攻を受け『ベスティア・ビブリエ』も反撃を開始した。
『縺ゅ↑縺溘?迚ゥ隱槭r鬟溘∋縺輔○縺ヲ(あなたの物語を食べさせて)』
 白バラに絡み取られたまま、本がカタカタと動き、獣の目が光った――。
 だがその反撃は、蒼の弾丸により阻止される。
 その狙撃は、ちいさな本から飛び出す蝶を逃さずに迎撃した。
「本と定義付けるには其れらしく無く、吐く言葉はおしなべて形を準えただけ――そんな紛い物の"物騙り"は、もう終わりにしよう。僕たちの記憶を返してもらうぞ」
 そして次弾を装填した蒼は、すぐに『ベスティア・ビブリエ』の憑依する本へと弾丸を打ち込んだ。
「『物語を喰らってはならない』……これが君に課す規則<<ルール>>だよ」
 ユーベルコード『第一楽章 「94」より:最悪の銃式について<<パロットラ・マギカ・エドゥ・インフィニータ>>』――その効果により『ベスティア・ビブリエ』は今後抵抗するたびに追撃を受けてその耐久力を失っていくだろう。
 愉快な仲間に対する捕食にも制限がかかる形となる。

●『物語』
『譏疲?縺ゅk縺ィ縺薙m縺ォ(昔昔あるところに)』
 自ら憑依した本のページを破り、幸せそうな物語を作り出そうとする『ベスティア・ビブリエ』。
「させねぇ!」
 しかし、れは人物の形をとる前にネフラと叶に切断された。
「話は聞いたぞ。私の記憶が曖昧なのは貴様のせいなのだな」
 そう言うネフラは、口元こそ微笑んでいるが珍しく目が笑っていない。
 ネフラはさらに赤刃の長剣をもう一度、素早く切りつけた。
 封印を解かれて殺傷力を増した赤い長剣が本のページをズタズタになっていく。
(その記憶は、おいそれとくれてやるものではないのでな)

 立て続けに攻撃を受けていく『ベスティア・ビブリエ』。
 その憑依する本は、次第にページの耐久力を失っていく。
 そして――。
「今度こそ……秘剣抜刀――剛の型!」
 アンリの斬撃が本を粉々に切断した。
(――思い出したわ。また……この刀に助けられたのね)

 ……この場に現れた猟書家『ベスティア・ビブリエ』はこうして討伐された。

 『ベスティア・ビブリエ』に食べられた『物語』が元の場所へと戻っていく……。
 囮を引き受けた『愉快な仲間』たちはみんな回復し、記憶を食べられた猟兵たちも奪われた記憶を取り戻していった。

 過去が積み重なった『物語』は、同時に今を形作る。
 それは、誰かが未来へ向かう限り紡がれ続けるのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年02月01日


挿絵イラスト