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花喰エデン

#UDCアース

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#UDCアース


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●春はまだか
 丸皿に綺麗に並んだ、色とりどりの沢山の花。
 金箔が舞い、小さな花が浮いた青と赤の着香茶。
 バラの花弁を煮込んで作ったジャムに、スミレの花の砂糖漬け。
 お伽話の茶会みたいだと、いつかの誰かは言っていた。

 けれども皆が、知っている。これだけでは、足りないのだと。
 花だけでは満足しないことを、知っている。

●どこにもないから理想郷
「年明け早々すまないね。だが集まってくれて感謝だよ」
 グリモアベースの片隅で、微かに薬品の香を纏った娘――キサラが、猟兵達が集まったのを認めると口を開く。
「さてさて。早速なのだが君達には、UDCアースのとある集落に向かってほしいのだよ。まー、そこでは祝祭が行われているのだがね? お察しの如くUDC絡みなんだよね」

 キサラ曰く。その集落に住む者すべてが、ある一体のUDCを信奉する信者達なのだという。
 そのUDCは100年以上もの間、集落に住む者先祖代々から信奉され続け。そしてしばしば奇妙な祝祭によって生贄を要求しているのだそうだ。
 信者達はその祭りと共に生贄となる者をUDCへと捧げ、見返りに超自然の庇護を受け続けてきたという。
「そのUDCが姿を現すのは祝祭の時のみだ。だから君達にはその祝祭の参加者を装って入り込んで、倒してきてほしい。集落の人間達は余所者である君達を喜んで歓迎するさ」
 余所者は貴重な存在なのだ。なんてったって、身内である信者の中から生贄を出さないで済むのだから。

「祝祭についてなのだが、先に説明しておくと『花を取り込む』祭りだ」
 身体の中の穢れを清める意味で花を食すのだとキサラは説明する。ちなみに集落の者は摘み取った花を生食しているそうだ。実際、エディブルフラワーなどそのままでも食べられる花は存在する。しかし集落の者が生食している花がエディブルフラワーであるかは不明だ。
「でも、外の人向けってことで茶屋で着香茶や花弁ジャム。砂糖漬けの花を提供してくる。だから無理して生の花を食べなくてもいいよ」
 もしかすると外部の者の口にも合うようにするのは、最後にはせめて美味な食事をという情けのつもりなのかもしれない。

「信者達は他の生命を対価に、随分と良い思いをしてきたみたいだ。そろそろ突き落としてやらねばならぬよ。禍福は糾える縄の如し、だ」
 そう言うと。キサラはそれじゃ行って来なよと、猟兵達を送り出した。


雪月キリカ
 お目にとめていただき有難うございます。はじめまして、もしくはまたお会いしました。雪月です。
 冷凍庫にバラの花弁ジャムが眠ってます。その……甘くて中々食べ進められないという。

 さて、ざっくりと説明をば。
 一章は日常になります。集落を訪れたところから始まります。
 集落は山間にある一昔前の村みたいなところです。暖かく、そして様々な花が沢山咲いています。UDCの庇護効果です。
 祝祭に訪れた皆さまを逃がさない為に、信者達は茶屋にて花を加工した食べ物や飲み物を提供しようとします。
 茶屋は赤い野点傘に縁台のある、時代劇でよく見られるものをご想像していただければと。
 プレイングに何を提供されるか記載していただければ幸いです。

 二章は『ルリハ』との集団戦になります。
 夕刻になるとルリハが花の香りを纏って皆さまをUDCの元へと誘いに来ます。
 一般人であったならば香りに惑わされてしまいますが、猟兵はそんなことありません。
 サクッとバシッと倒してしまいましょう。

 三章は『ツミコ』とのボス戦になります。
 日が完全に落ちると現れます。生贄が来なくて不機嫌です。猟兵を見るや、排するために攻撃を仕掛けてきますので倒しましょう。
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第1章 日常 『「祝祭」への参加』

POW   :    奇妙な食事を食べたり、奇怪な祈りのポーズを鍛錬する等、積極的に順応する

SPD   :    周囲の参加者の言動を注意して観察し、それを模倣する事で怪しまれずに過ごす

WIZ   :    注意深く会話を重ねる事で、他の参加者と親交を深めると共に、情報収集をする

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 長閑だった。
 空は青い。暖かく柔らかな風が吹き、集落に咲く花達をさわさわと揺らしていた。
 椿は今の時期ではあるけれども。
 桜は、今咲くのだったろうか。
 向日葵は。彼岸花は。とうに終わったのでは?

『あらあら、まあまあ。マレビトさまだわ……!』
 集落の入り口近くに建つ茶屋から出て来た1人の女性が、訪れた猟兵に気付いて駆け寄って来た。
『ねぇねぇマレビトさま。今この集落ではハナバミ祭をしているの。でね、この茶屋で花の砂糖漬けやお茶を出しているのよ。良ければちょっと、休んでいかない?』
 まぁまぁお座りなさいなと、女性は猟兵を縁台へと腰掛けるよう勧める。
『温めた牛乳やお紅茶に、砂糖漬けの花をお砂糖代わりに入れて飲むと美味しいのよ。そうそう、桃やバラの花弁ジャムを白湯に溶かして飲むのも良いわ。あとね、チョウマメの青いお茶、ブッソウゲの赤いお茶もあるの。ちょっとばかし珍しいお茶をお飲みになりたければいかがかしら?』
 女性は矢継ぎ早に言葉を続けて猟兵の興味を引こうとする。余程外へと逃したくないのだろう。

*****************************************

 集落の者達は花だけが詰まった袋やカゴを抱えています。勿論、食べる為です。
 女性や集落の者に祭りについて聞くと喜んで話します。しかし信奉している神について聞こうとすると、適当にはぐらかされてしまうでしょう。
 ですが子供に話を聞けば、ポロっと何かを言うかもしれません。

 茶屋で出されるものに毒や薬などは仕込まれていません。
(生贄にするものに毒を飲ませる=信奉するUDCに毒を飲ませることと同義なので)
 お茶を頂く事にプレイング全振りしていただいても大丈夫です。

*****************************************
蘭・七結
花を食み、身の内にて解かすだなんて
なんと甘美なことなのでしょう
花は、すきよ
生花の姿を食んでしまいたいほどに

いっとう好きなものは牡丹一華
されどこの花は痺れ毒を持っていて
そうと指を伸ばしたのならば
この手を止められてしまうかしら

あかい花を、くださいな

茶を楽しむ童に問うてみましょう
ハナバミ、と云うのだもの
食む花には神さまの加護が宿るのかしら
あなたのお好きな花は?

あかい水面がゆうらり揺れる
あまやかな花蜜を蕩かせて
花浮かぶ紅茶をひと口招く

くるりら指さきで遊んだ花
ひとひらを摘んで導くのは唇
舌へと乗せて送り込めば
薫る花に支配されるよう

未知なる花食みに胸が踊る
このひと時を、与えられた猶予を
花と茶と愉しみましょう



●くれなゐとかして
(「花を食み、身の内にて解かすだなんて。なんと甘美なことなのでしょう」)
 花を身の内に取り込むという、どこか常世離れした祝祭に七結(まなくれなゐ・f00421)は心を惹かれていた。
 七結は、花はすきであった。
 それこそ生花の姿を、そのまま食んでしまいたいほどに。

 集落は季節感なぞ何処へやったのかと思うくらい、桜から福寿草まで様々な花が咲いていた。勿論茶屋の店先にも、沢山咲いていた。
 七結は咲く花たちを眺めやり、見つけたその中の一つに。そっと、誘われたように指を伸ばす。
 あかい牡丹一華だった。
 けれども七結の指が花に届くことは無かった。茶屋の女将がすっと、それを遮ったから。
『マレビトのお嬢さま、牡丹一華を手折ろうとしてはいけませんよ。あれには毒がありますから、触れるとお手が爛れてしまいます』
「……ええ、そうね」
 やんわりと窘めた女将に七結は微笑むと、手を下げる。牡丹一華に毒があることは、七結もよく知っている。だって、いっとう好きな花だから。
「あかい花を、くださいな」
『あかい花……かしら。そうね、少しお待ちになってくださいね』
 七結の注文に少し思惟してから、女将は茶屋の奥へと戻っていった。

 七結が腰を落ち着けようとした縁台には先客がいた。湯呑を手にした、肩で髪が切り揃えられた童女だった。童女はマレビトである七結を、物珍し気に見つめていた。
 柔らかく笑み「こんにちは」と挨拶して、童女から少し離れて隣に腰かけてみれば。童女は少しの間を置いて『……こんにちは』と返す。
 七結は童女に問うてみる。
「あなたのお好きな花は?」
『あたしの好きなお花は、くちなしのお花なの……かみさまのお花だから』
 神の花と聞き、七結は僅かに瞳を細めた。集落で信奉されるUDCに連なるのだろうと容易に想像できたからだ。
「ハナバミ、と云うのだもの。食む花には神さまの加護が宿るのかしら」
『うん。お花はかみさまがくれたもの……なの。だから……食べるとキレイになれるんだって。食べないと……汚くなっちゃって、かみさまと同じ場所にいられなくなっちゃうの……』
 母親がそう言っていたと、童女は躊躇いがちに話すと。『そろそろ帰らないとおかーさんに怒られちゃうの』と、一気に茶を呷り湯呑を置いて、縁台から立ち上がる。
『ばいばい、マレビトのお姉ちゃん』
 手を振り背を向けた童女の足音は遠くなり。それと入れ替わるように別の足音が七結の耳に入る。足音の主は女将だった。
『お待たせしちゃいましたね。あかい花と仰ったから、お嬢さまにはこちらが良いかと思って持って参りましたよ』
 西洋風の白いトレイが女将の手にあった。その上に並ぶはあかいジャムが入った小瓶と、白花の浮かぶ香りのよい紅茶。
 紅茶が注がれたカップを受け止めるソーサーには、紅いバラが添えられていた。
『朝摘みのバラで作ったジャムと、カンシロギクを浮かべたお紅茶ですの。お口に合うと嬉しいわ』
 七結が一言礼を述べると。女将は童女の置いていった湯呑を手に取り、『ごゆっくり』と奥へ下がる。
 小瓶の甘やかなくれないを、七結はひとさじ掬って。それを白花佇む紅茶に蕩かせば、水面も花も、ゆらりと揺れた。
 カップを手に取り、紅茶を口許へ招きひと口含むと。華やかな香りがふわりと拡がった。
 
 おもむろに。七結はソーサーに乗る紅いバラを手にすると、くるりと遊んで。そのひとひらを指先で摘まんだ。ひとひらは七結の唇へと導かれ、そして舌へと乗せられて。その身の内へと送り込まれる。
 先程のひと口よりも強い、薫り。それはまるで、花に内からゆっくりと支配されるようだった。

 ――このひと時を、与えられた猶予を。
 ――花と茶と愉しみましょう。

 七結は己を抱いて、未知に胸を躍らせる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

吉備・狐珀
まぁ…。季節問わず花が咲き乱れて…。
とても幻想的で心を奪われてしまう景色ですけれど。
UDCが絡んでいるのであれば見過ごせませんね。

茶屋のおかみさんが勧めてくれるまま腰掛け一休み。
そうですね、その桃のジャムを白湯に溶かして頂いてもよろしいですか?
おかみさんからお祭りの話を聞きながら、桃の香りを楽しみつつお茶を堪能。

お茶を飲み終えたら、おかみさんにお礼を告げて集落を散策しましょうか。
花籠を持った子供たちを見つけたら、
お祭りを一緒に楽しみたいから私に色々教えてくれませんか?と声をかけて。
どの花がおいしい?貴方はどの花が一番好き?と他愛のない話を交えつつ神様の話を聞けたら聞いてみましょう。



●薄紅は春の彩
「まぁ……季節問わず花が咲き乱れて……」
 桜に桔梗、向日葵に寒椿。集落には季節を問わず、花々が咲き乱れていた。
 思わず溜息が出てしまうほどに幻想的な景色に、狐珀(狐像のヤドリガミ・f17210)は心を奪われそうになる。
 しかし、本来であればこのような事象などあり得ない。花たちはUDCの庇護の効果で咲き乱れているのだ。そうとあっては、このまま見過ごすことは出来なかった。
『ささ、お嬢さま。遠慮せずお座りになってくださいまし。それと喉はお渇きになってません?』
 暖かく吹く風に髪を撫でられながら花々を眺めていた狐珀へと。茶屋の女将は縁台へと腰掛けるよう勧めてきた。
「では、お言葉に甘えて……そうですね、その桃のジャムを白湯に溶かして頂いてもよろしいですか?」
 縁台へと狐珀は腰掛けると。女将が言葉にしてから気になっていた、桃の花弁ジャムを白湯に溶かしたものを注文する。
『わかりましたわ。すぐにお持ちしますから、ちょっとお待ちになってくださいね』
 女将は茶屋の奥へと戻ると。少しした後に、盆に白い湯呑と茶請けの菓子を乗せて戻ってきて、それらを狐珀の座る縁台の上へと置いた。
 湯気の立つ湯呑を狐珀が覗き込んでみれば、桃の香りが嗅覚を撫でた。茶は淡く桃色に色付いて、花弁がゆらりと舞っている。その傍らの茶請けの丸い焼き菓子はサブレのようだ。中心には薄紅色の花が乗せられている。
 女将曰く、焼き菓子に乗っているのは桜の花の塩漬けとのこと。
 狐珀は湯呑を手に取ると口許へと運び、ひと口こくりと飲み下す。ほの甘さと桃の香りが心地よくひろがった。笑みを零し、サブレへと指を伸ばして齧ってみれば。ほのかな塩味が程よくて、白湯との相性も良かった。
 美味しそうに白湯と茶菓子を頂く狐珀を見て、女将は嬉しそうに目を細めていた。
「あの、おかみさん。お祭りについてお話を伺ってもよろしいですか?」
 茶の時間を堪能しつつ、狐珀は祝祭について聞くのを忘れなかった。
『あら、ハナバミ祭について聞きたいの? あのね……』
 訊ねられた女将は嬉しそうに口を開く。
 祭は二年に一度しか咲かない梔子の花が咲いた際に行われること。花は昔々の飢饉の際に、神が振舞った神聖な食べ物であること……等。女将は狐珀に話したのだった。

「ご馳走様でした。とても美味しかったです」
 一服を終えた狐珀は縁台から立ちあがると、女将へ一礼する。
『これから何方へ?』
 そう尋ねられ、狐珀は「集落の散策へ」と返したら。『子供たちに囲まれないようお気を付けて』と女将は手を振った。
 数分後に、狐珀はその言葉の意味を知ることになる。

『マレビトさまだー』
『おねえちゃんのマレビトさまだー』
 集落へと足を踏み入れて少し。狐珀は花籠を抱えた子供たちに囲まれていた。
 集落の外の者の存在は珍しいのだろう。子供たちは狐珀を目にとめると直ぐ寄ってきたのだ。これは聞き込むのに好都合だった。
「お祭りを一緒に楽しみたいから、私に色々教えてくれませんか?」
『いいよー』
『じゃあ、瑠璃唐草のお花畑いこーよ』
 目線を合わせて訊ねれば。子供たちは快く了承した。狐珀は子供たちに手を引かれながら。他愛のない会話の中に、それとなく探りを入れてみることにする。
「貴方はどの花が一番好き?」
『ぼくは苺の花が好きー』
「それと……お祭りの神様を見た事はありますか?」
『みたことはないけれどー……とりさんと仲良しなおんなのこだって、おかーさんがいってたー』
 神様は女の子で、鳥と仲が良い。もしかすると、鳥を配下として操るのだろうか。
 子供たちが零した言葉を、狐珀は記憶に留めるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

小結・飛花
……不思議でございますね。
桜はもう少し後に咲くのでしょう。

けれどもこの世の桜は、様々なものに化けてしまう事も
あたくしは知識としてございます。

加工されたとて
香り豊かな桜の餅。
口の中で春が開いて行くのです。
なんとも芳しい春ですね。

籠いっぱいに花を詰めた幼い子がちょうど目の前を通り過ぎました。
あゝ、一寸そこの子。
その花はなんと云ふ名の花でしょうか?

幼き子や。そちらさんは妖怪をご存知?
あたくしはね、妖怪なのです。
花を食む妖怪。

その綺麗な花をひとひらくださる?
だめだと云ふのなら
そちらのお花とこちらのお餅を交換こしませんか?

それからあたくしとお話も。
良いでしょう?



●花蝕の妖
 はらはら、ひらひら。桜の花弁が青空に舞っては地に落ちる。今はまだ、睦月だというのに。
「……不思議でございますね。桜はもう少し後に咲くのでしょう」
『あら、そうでしたわ。この集落の外だと、桜はいっときしか咲かないのでしたね』
 赤い野点傘の下で、縁台に腰かけ悠々と桜茶を啜る飛花(はなあわせ・f31029)の言葉に。茶屋の女将は、はたと思い出したように零した。女将の言葉は裏を返せば、集落では常に桜の花が咲いていることを意味していた。
『以前いらしたマレビトさまが、外の桜のお話しをしてくれたんですよ。枝だけや緑の葉っぱだらけになった桜なんて、私には想像できませんわ』
 ことり、と。飛花の隣に桜餅を乗せた盆を置きながら女将は話す。飛花が盆へと視線を落とせば、桜餅は道明寺の型が二つ並んでいた。
 年中桜が咲き誇るのは、サクラミラージュであったならば頷ける。だが此処はUDCアース。春夏秋冬、四季が移ろえば花も移ろう。集落とその外では『ずれ』が明確にあるのを感じながら、飛花は女将に礼を言った。

 飛花は、この世界の桜は様々なものに化けてしまう事を知識として知っていた。
 桜は見たモノに言い知れぬおそろしさを与える花にもなれば。今、飛花が手に摘まんだ桜餅にだってなってしまう。
 それをはむりと、ひと口頬張る飛花。手を加えられたとて、香りの豊かな桜の餅。口の中で春が開いて行くのがわかる。
「なんとも芳しい春ですね」
 口内に訪れた春を沁沁と感じながら、茶屋の前の通りを眺めていたら。白色の花が一杯に詰まった手提げ籠を持った男児が、ちょうど飛花の目の前を通り過ぎて行くところだった。
 おいでおいでと手招きながら、飛花は声を掛ける。
「あゝ、一寸そこの子。その花はなんと云ふ名の花でしょうか?」
『……おいらのこと?』
 男児は立ち止まると、少し周りを見渡してから飛花の方を向いた。飛花はそれに肯いてみせる。
『このお花はね、キキョウだよ』
 問いに答えた男児は少し警戒しているのか、その場から動かなかった。飛花は男児の警戒を解す様に柔く笑むと、また問うた。
「幼き子や。そちらさんは妖怪をご存知?」
『おはなしできいたことあるよ……! 人をおどろかせたり、たべたりするんだよね……!』
 男児の声はどこか上擦っていた。怖がるというより、未知のものに触れる際の高揚が滲んでいる。瞳もどことなく輝いているように見えた。
「あたくしはね、妖怪なのです。花を食む妖怪」
『ようかい……! おねえちゃんはお花をたべるようかいなの……?!』
 そう話せば、更に瞳を輝かせて男児は飛花の側まで近寄り見つめる。幼い子というのは、純粋故に未知のものが好きなのだろう。
「その綺麗な花をひとひらくださる?」
 すっ、と飛花が指差したのは、男児の持つ籠の中の白桔梗。それは近くで見ると、曇りのない白だと良く分かった。男児はどうしようかと考えるように、少し俯く。
「だめだと云ふのなら……そちらのお花とこちらのお餅を、交換こしませんか?」
 まだ手を付けてない、もう片方の桜餅が乗った皿を飛花が男児の目の前に掲げれば。男児は『こうかんこならばいいよ……!』と、ぱっと顔を輝かせて白桔梗を差し出した。幼い子は、大抵は菓子が好きなのだ。

 そして始まる交換こ。男児の手の中桜餅、飛花の手の中白桔梗。

「それからあたくしとお話も。良いでしょう?」
 白桔梗を手に、ふふと笑んで訊ねてみれば。すっかり警戒の解けた男児は、『ゆうがたになるまえまでに、ようかいのおはなしをたくさんきかせてくれるなら』と。満面の笑みを零して飛花の隣に腰かけた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

冴木・蜜
中々興味深い文化です
うつくしい花々を眺めるのも嫌いではない

青いお茶と甘いものをひとつ頂きつつ
物珍し気にお話を伺ってみましょう

季節ではない花を見かけまして
つい興味を惹かれてお邪魔してしまいました
花々を眺めるのが好きでして
何処かいい景色のところがありましたら教えて頂けませんか

なんて
まずは世間話から
それからお祭りのことを伺いましょう

祭りの頻度だとか
花と祭りの関係だとか
何を願ってなのか、だとか…
花好きの興味が向いているような
そんな体で訊いてみましょう

……、
目の前の彼女たちは
自分達が差し出そうとしている贄が
死毒であることを知らぬのでしょう

――、ああ
お祭りが楽しみですね



●円環に罅
 暖かな風が桜の花弁を運び、彼岸花や向日葵にふわりと桜の彩を添える。それは一見うつくしく、しかし異常だった。
 蜜(天賦の薬・f15222)はうつくしい花々を眺めるのは嫌いでは無かった。この集落だけは、UDCの庇護効果で花の季節が狂っているというのを先に知っていたから、瞳に映る光景はそういう現実として受け止めていた。
 ノコギリソウが咲いているのを目にとめると、蜜はしゃがみ込んで。それをじっと眺めながら、説明時に聞いた事を思い返す。
 ――花を食す。
 その字の並びだけでも、中々興味深い文化だと蜜は思う。
『あら、そこなマレビトさまは学者センセか何かで?』
 茶屋の女将が蜜に声を掛けてきた。おそらく蜜の纏う白衣を見てそう思ったのだろう。蜜は立ち上がり、そのようなものですと、話を合わせることにする。
「季節ではない花を見かけまして。つい興味を惹かれてお邪魔してしまいました」
『キセツ……ああ、そういえば外だと花々は移り変わりながら咲くのでしたね。いつかいらしたマレビトさまも、同じようなことを仰ってましたわ』
「そうなんですか」
 丁度舞ってきた桜の花びらを目で追うフリをし、目を逸らして話す女将に。蜜はいつかのマレビトのことは訊ねない。おそらく既にこの世に居ないだろうし、聞いても嘘で誤魔化されてしまうだろうから。
『さ、ここで立ち話もなんですから、学者センセもあちらにお掛けになってくださいまし』
 すっと女将が指差した先は、茶屋の前に設置してある縁台だった。

 縁台に座る蜜の側に、女将は湯呑と甘味を乗せた盆を置く。
『こちらチョウマメの青いお茶と、紫陽花寒天になります』
 湯呑に入った茶は空と同じように青く、そして金箔が踊っていた。水面に揺れる白い花は形からして撫子だろう。カミツレとハッカを一緒に入れ蒸らしているから、茶の味はさっぱりしていると女将は言う。
 甘味の方は角切りにした青い寒天を丸めた白餡に塗して、紫陽花を模したものだった。
「花々を眺めるのが好きでして。何処かいい景色のところがありましたら教えて頂けませんか」
 寒天に匙を刺しながら、物珍し気に。何も知らない外の者であるように装い訊ねる。
『そうねぇ。集落の東側にある丘では、瑠碧唐草がたっくさん咲いてますわ。其処に行くといいかも知れませんねぇ』
 そうやって世間話から花へ、そして祭について話を移せば。興味深い話を聞くことが出来た。

 ――百年以上昔。飢饉が起きたこの集落に神が降り、花を一面に咲かせそれを振舞ったこと。
 ――花が咲き続ける限り、神は集落を見守り続けると伝えたということ。
 ――そして神への感謝を忘れない為に。祝祭が行われる際は花を食すのだということ。

 女将はおそらく、マレビト向けの伝承を話していると蜜は感じた。
「お祭りは、どれくらいの頻度で?」
 茶を啜り、こみ上げてきたタールを押し戻して。なるべく目を合わせない様にしながら、蜜は訊ねる。
『お祭りはね。二年に一度、梔子の花が咲いた時に開かれるんですよ。他の花はいつでも咲いているけれども、梔子の花だけは違うんです』
「…………」
 他の花はいつでも咲いているのに、梔子だけがそうでは無いのは妙な話だ。梔子の花が咲くのは、生贄を要求する合図だろうと。蜜は容易に推測できた。
(「目の前の彼女たちは……自分達が差し出そうとしている贄が、死毒であることを知らぬのでしょう」)
 今まで、信者達はただの一般人を生贄に捧げてきた。
 だが今回は――。
(「――、ああ」)
 蜜は少しだけ長く目蓋を閉じてから、開く。
「お祭りが楽しみですね」
『そうねぇ、私も楽しみですよ』
 知らない方が、幸せな場合だってあるのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

斑星・夜
へー、食べられる花かぁ。
データでは見た事あったけど、実際に目にするのは初めてだなー。
他所の世界に来たのは初めてだけど、やー、面白いなぁ。

俺、ジャスミンティーとか好きだけど、あんな感じなのかな?
せっかくだから、砂糖漬けの花を入れた紅茶をお願いしてみよう。

さて、お仕事にも来たわけだから、紅茶を貰いながら、それとなく情報収集してみようかな。
うーん、話しかけやすいのはちびっこかなー。
コンビニで買ったチョコをお礼代わりに話を聞いてみよう。

「お花、綺麗だよねー。いつもこんなに綺麗な花が咲いてるの?」
「このお祭って何を祝ってるんだろう」

世間話から、最後に聞きたいことを混ぜてみよう。

※アドリブ歓迎です!



●世界は未知で出来ている
「へー、食べられる花かぁ。俺、ジャスミンティーとか好きだけど、あんな感じなのかな?」
『そうですねぇ、似たようなものと思っていただいてもよろしいかと。ですが此処でお出しするものは、外よりも花の香りが強いですよ』
 茶屋の女将に呼び止められた夜(星灯・f31041)は、瞳に好奇の色を浮かべると。折角だからと、砂糖漬けの花を入れた紅茶を頼んでみることにした。何の花にするかは、女将に任せた。
少しの間を置いて。夜の許に女将が運んできたのは、花弁舞う紅茶と淡紅色の琥珀糖だった。
『お待たせしましたね。バラの花弁の砂糖漬けを入れたお紅茶と、バラシロップで味付けした琥珀糖です』
 良い香りのバラを使っているのだろう。縁台の上に置かれているというのに、バラの華やかな香りが夜の嗅覚に届く。口に含んだらきっと、バラ園に立っている感覚になるに違いない。
(「データでは見た事あったけど、実際に目にするのは初めてだなー」)
 琥珀糖を摘み取ると、まじまじと眺める夜。
 夜はクロムキャバリアの外の世界に出たのは初めてだった。世界というのは未知が溢れているものだなと思う。
「やー、面白いなぁ」
 摘んだ琥珀糖を口に放れば。外はしゃりっと、中ぷるり。不思議な食感と共にバラの香りが拡がった。

(「さて、お仕事にも来たわけだから……」)
 女将は仕込みにでも入ったのか、しばらく茶屋の奥から出てくる気配が無さそうだ。情報収集をするなら今のうちだろう。
 紅茶を啜りながら、夜は道を行き交う人々を眺めやる。
(「うーん、話しかけやすいのはちびっこかなー」)
 そう考えていたら丁度良く、コスモスが一杯に詰まった籠を抱えた三歳ほどの幼女が夜の前を通りかかった。すかさず夜は「こんにちは」と挨拶して気を引く。
 挨拶された幼女は『こんにちはー』と返して立ち止まり、夜の方をじっと見た。集落の外の者は珍しいのだろう。繋がった糸が切れる前に、夜は幼女へと問いかけてみる。
「お花、綺麗だよねー。いつもこんなに綺麗な花が咲いてるの?」
『そうよー。咲いてないのを見たことがないの。でも、くちなしのお花が咲いているの、はじめてみたのよ』
 夜を悪い人ではないと判断したのか、屈託のない笑顔で幼女は答えた。
「このお祭って、何を祝ってるんだろう?」
『んー……まだあたしにはわからないの』
 少し困った顔をすると、俯いて。けれどもすぐに顔を上げると『でも、』と続ける。
『お祭りのはじまるよりもまえの日にねー。おとーさんやシューラクチョーさんがあつまって、おはなししてるのは見たのよー。サイタ、とか……ささげ? とかー』
 それは断片的ではあったけれども。断片にこそ真実が宿る。
 ここで夜は情報の整理に入る。幼女曰く、花はいつでも咲いている。しかし梔子の花が咲いているのは初めて見たと言った。
 父親や集落長の言った『サイタ』とは、恐らく梔子の花が咲いたことをさしている。そして『ささげ』は生贄を捧げることだろう。
 それらから導き出された結論は、『梔子の花が咲いたら祝祭が行われる』ということ。同時にそれは、『UDCが生贄を求めている』ことに繋がった。その解に至るまで、ほんの一瞬だった。

 あまり長く引き留めるわけにもいかない。そろそろ引き時だろうと夜は判断し、「お喋りしてくれてありがとうな」と。礼として幼女へとチョコバーを差し出す。集落に来る前に、コンビニで購入しておいたものだ。
 チョコバーを見た幼女は瞳をきらきら輝かせた。集落の外の菓子は相当珍しいようだ。
「他のみんなには内緒なー」
 と、夜が人差し指を口に当て笑いかければ。
『ふたりだけのひみつなのー』
 と。幼女も笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒鵺・瑞樹
アドリブOK
SPD

花を取り込む祭りって珍しいのかな?実りを祈るとか祝うとかならよく聞くが。
穢れを清めるっていうが…他者の命を取りこんでるみたいだ。

茶屋でのんびりと着香茶を楽しむ。茶ばかりだと口寂しいからちまちま砂糖漬けの花をつまんだり。
しかし冬だってのに温い。
温泉地なら地熱でって事だろうけど、ここのは邪神がらみだからなぁ。
季節感もなく花が咲くさまは逆に異様だ。
周囲を見渡して興味深く祭りについて軽く聞いてみたり。あと茶についても聞いたり。
ハーブティーのように花そのもののお茶があるのか。仕事がらみでなければ土産にいくつか買い込んでいきたいとこだけど。



●移り変わるからこそ美しい
「花を取り込む祭りって珍しいのかな? 実りを祈るとか祝うとかならよく聞くが……」
『ハナバミについては、確かにそれだけ聞けば珍しいとお思いになるでしょうけれども……』
 縁台に座った瑞樹(界渡・f17491)は世間話がてらに少し訊ねれば、茶屋の女将は外の祭と対して変わらないと思うと答えた。
『さぁさ、こちらラベンダーのお茶とバラの花弁の砂糖漬けです』
 話を逸らすようにして。女将は瑞樹の座る縁台に、湯呑とバラの花弁の砂糖漬けが詰まった小瓶をことりと置く。
 此処はお茶をのんびり楽しんでおくことにしようと。瑞樹は女将に礼を言った後に、湯呑を手に取る。心の落ち着くようなラベンダーの良い香りが鼻先をくすぐった。
 流石に茶だけでは口寂しくなるもので、啜る合間に花弁を指に取り口に含む。その瞬間からバラの香りが抜けたことから、なかなかに香りの良いバラを使っていることが瑞樹にはわかった。
(「穢れを清めるっていうが……他者の命を取りこんでるみたいだ」)
 もともと食するという行為は、他を糧に己を存えさせることではあるけれども……。もしかすると、花を食すのは何か理由があったからではないのかと瑞樹は思い至る。その理由についてはまだ明確ではないが、祭に繋がることなのだろう。

(「しかし冬だってのに、温い」)
 此処が温泉地であったならば、暖かいのは地熱の影響でと説明がつくだろう。しかしそうではない。今は冬であるのにこんなにも集落が暖かいのは、信奉されているUDCの庇護によるものだというのは、容易に想像できた。
 見渡せば、桜や彼岸花に初め菖蒲や紫陽花。季節を問わずに様々な花が咲いている。季節を知っているからこそ。瑞樹の目には、季節感なく様々な花が咲き誇るこの光景が異様に映った。花々は季節と共に移り変わるからこそ美しいのだ。
 好奇心でと前置きした上で、瑞樹は祭りの起源は何なのかと女将に訊ねてみる。
『ハナバミ祭はですね……昔々、この集落で飢饉があった時に神様が降りて来てくださってですね。辺りいっぺんに花を咲かせて、それを振舞ったことから来ているのですよ』
 それ以来、感謝を忘れない為に花を食す祭をしているのだと女将は答える。おそらく起源的なものはそうなのだろう。花を食する理由は判った。しかしUDCが関わる事象が、全て綺麗な言葉、出来事で済むわけがない。
 この話にはきっと裏の顔があるだろうと。瑞樹には感じられた。

『ああ、そうですわマレビトさま。こちらも珍しいんではなくて?』
 そう言って。色々と思惟していた瑞樹のもとに、女将が小さな球体の入った透明なポットと湯呑を乗せた盆を持って来た。
 瑞樹が「これは一体?」と、球体を指差して首を傾げれば。女将は『まぁ見ていてくださいな』と、ポッドの中に湯を注ぐ。
 すると花が咲くように球体が開いてゆき、その中からふわりと花が咲いた。それを見た瑞樹は目を丸くする。
『なかなか面白いものでしょう? これは見ても飲んでも楽しめるお茶なのですよ』
 女将は瑞樹に得意げに言って、『こちらもお飲みになってみてくださいな』と新しい湯呑に茶を注ぐ。
「ハーブティーのように花そのもののお茶があるのか」
(「仕事がらみでなければ、土産にいくつか買い込んでいきたいとこだけど……」)
 祝祭が純粋なものであれば、少し珍しいだけの祭として楽しむことが出来たのだろう。だがUDCが絡む『仕事』として来たのだと、瑞樹は気を引き締め直した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

外邨・蛍嘉
「」内はクルワ台詞。まだ内部にいる。

ハナバミと…ああ、『花喰』かな。
「そうかもシレマセンネ。デモ、油断しないでクダサイヨ?

大丈夫大丈夫。そこはちゃんとやるさ。
マレビトなのは間違いないし(戦国乱世出身)

さて、珍しいお茶でもいただこうかな。そのブッソウゲの赤いお茶にしよう。

飲んだあとは、ここのお祭りのことを聞いておこうかね。
「何がどう転がってイルカ、ワカリマセンカラネ」
そうなんだよね…。子供に聞いてみようかな。
そう、お祭りと…祀られる神様について。


「ソレニシテモ…。ケイカ、店先で違和感ナイデスネ…」



●香り裏腹
「そのブッソウゲの赤いお茶にしようかな」
 蛍嘉(雪待天泉・f29452)は茶屋の女将に勧められるままに縁台へと座ると、僅かに考えた後に注文する。
『では少々お待ちになってくださいね』
 女将は注文を受けてすぐに茶屋の奥へと戻った。女将が戻るまでの間、蛍嘉は女将の言った『ハナバミ』について思惟する。
(「ハナバミ……ああ、『花喰』かな」)
 女将の言った、祭の『ハナバミ』という単語は花を喰むことから来ているのだろうと蛍嘉は推測した。事前に花を食す祝祭だと聞いていた故、それに至るのは自然なことだった。
《「そうかもシレマセンネ。デモ、油断しないでクダサイヨ?」》
 蛍嘉の内に封じられている鬼の「クルワ」が釘を刺してきた。
 花を食す、それ自体は少し珍しい祭として捉えれば、なんの問題もない。だがUDCが関わっている一件となれば、気を抜くことが出来ないと言いたいのだろう。しかし蛍嘉は静かに、穏やかに笑う。
(「大丈夫大丈夫。そこはちゃんとやるさ。マレビトなのは間違いないし」)
 マレビトとは外部からの来訪者、または常世からの来訪者を指す。蛍嘉は戦国乱世の出身であり、悪霊だった。どちらにも当てはまるのだ。
 集落の者達は『外部の者』を誰であろうと歓迎するのは聞いていた。相当に不用意なことをしなければ怪しまれることもないだろう。

『さ、ブッソウゲのお茶とお茶請けのお饅頭をお持ちしました』
 女将が運んできた茶の水面には、金箔と薄紅の撫子が浮いていた。しかしそれ以上に目を引いたのは茶の色で。それは澄んだ赤だった。甘い香りが湯気と共に立ち上り、もしや花の滴なのではと思いそうになる。
 蛍嘉がそれを口に含んでみれば。香りとは裏腹に酸味が効いていて、少し驚きそうになった。
 茶請けの饅頭は桜色をしていて、その頂には桜の塩漬けが乗っている。女将曰く、皮に桜が練り込まれているそうだ。
《「ソレニシテモ……ケイカ、店先で違和感ナイデスネ……」》
 クルワは感心したように零す。赤い野点傘の下で。縁台に座り優雅に茶を啜る蛍嘉の姿は、和装も相まってとても様になっていたのだ。

「さて、お茶をいただいて満足したことだし。ここのお祭りのことを聞いておこうかね」
《「何がどう転がってイルカ、ワカリマセンカラネ」》
「そうなんだよね……」
 茶を一服したところで。蛍嘉は茶屋の前の通りを行き交う人を眺めながら、声をかける相手を見定める。そして菖蒲の花を抱えた幼女を目にとめると、「ちょっとそこのキミ」と呼び止めた。
 幼い子供を選んだ理由は、大人だと耳触りの良いことしか話さないだろうと判断したからだ。
『あたし?』
 幼女は立ち止まると蛍嘉の方を見る。
「そう、キミだよ」
 話し相手になってくれないかと尋ねれば。幼女は『ゆうがたになる前までならばいいよ』と了承する。
 菖蒲の花が綺麗だねと、蛍嘉は他愛ない話から始めて。祭に、そして神についてへと持っていく。
 幼女は『くちなしのお花が咲いたからお祭りなの』と、子供らしい表現で祭が行われる理由を語ったが、信仰される神については『かみさまは……あたしにはわからないの……』と俯いてしまった。
「そう言えば、何で夕方には帰らなきゃダメなんだい?」
 話題を変えるがてら、蛍嘉は訊ねる。幼女の最初の言葉に何処か引っかかっていたのだ。祭は夜が本番である場合が多いというのに。
『あおいとりにさらわれちゃうから、ゆうがたにはおうちにいなさいって。おとーさんにいわれたの』
(「……!」)
 青い鳥に攫われる。
 その言いつけは子供が、夕刻以降に外に居られる困ることがあるからではないか?
 蛍嘉は「じゃあ攫われる前に家に帰らなきゃね」と話を切り上げ、幼女を家路につかせる。
 夕刻に何があるか。それはその時になればわかるだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

榛・琴莉
【POW】
では、温かい紅茶に砂糖漬けの…
なんの花が良いでしょう、オススメあります?

仕事にそなえて、体を温めておきましょうか。
花を食べても害はないらしいですし。
はぁー、しかし…
花を使った食べ物とか、素敵だと思いますけど。
こういった事が関わると、なんだか不気味なものに見えてしまいますねぇ。

Ernest、仕事です。
集落を【偵察】してきてください。
祝祭は生贄を捧げる類のものですし、祭壇などあるかもしれません。
祭司でもいれば、面白いお話が聞けるかもしれませんしね。
オブリビオンはまだ出現していませんし、一般人に見つかることはないと思いますが…一応、警戒して。
報告はスマホにお願いします。



●スミレは春の使い
「では、温かい紅茶に砂糖漬けの……なんの花が良いでしょう、オススメあります?」
 縁台に座らされた琴莉(烏合の衆・f01205)はこれから来る『仕事』に備え、紅茶を飲み予め体を温めておこうとして。けれども何の花を共にするかは決められず、茶屋の女将に助言を求めた。
『そうですねぇ……お嬢さまにはニオイスミレがいいかしら』
 琴莉はいつものガスマスクを装着していなかった。忘れて来たという訳ではなく、ガスマスク自体は琴莉の傍らに置かれている。そうしているのは、今の段階ではまだ装着する必要はないという判断からだ。
「それでお願いします」
 承った女将は『少しお待ちになってくださいね』と、茶屋の奥へと下がる。少しすれば、茶を持って戻ってくるだろう。
 花を食べても害はないらしいとは知っていた。それにスミレは、欧州の方では砂糖漬けが販売されている。
(「はぁー、しかし……花を使った食べ物とか、素敵だと思いますけど」)
 それが都会の洒落たカフェであれば、納得できるのだ。しかしUDCが関わるとなると、何だか不気味なものに見えてしまう。 
『お待たせいたしましたね。温かいお紅茶とニオイスミレの砂糖漬けです。砂糖漬けはそのままでも、お紅茶に入れても。どうぞお好きなように味わってみてくださいまし』
 女将が湯気立つ紅茶と、砂糖漬けのスミレの乗った小皿をトレイに乗せて戻って来た。琴莉は一言礼を言うと、まずは紅茶を啜る。身体の中からじんわりと温まって行くのを感じた。
 そして一旦紅茶を置いて、スミレの砂糖漬けを一粒摘まむ。じっと眺めた後にそれを口に含み、かり、と齧れば。砂糖の甘さと上品なスミレの香りが口に拡がった。欧州に実在した、かの女王が愛したのも頷けると琴莉は思った。

 女将が茶屋の奥に戻り、しばらくは表に出てくることが無いだろうと判断したところで。琴莉は傍らに置いたガスマスクを軽く指先で突く。
「Ernest、仕事です。集落を偵察してきてください」
 ガスマスク内部に住み着くAIのErnestへと話し掛ければ、Ernestは周囲に電脳空間を展開させて。小さな鳥のアバターとなって現実世界に姿を現した。
 琴莉はErnestに、集落の何処かに生贄を捧げる為の祭壇が無いか、祝祭を指揮する祭司が居ないかを調査してくるように指示を出す。
「オブリビオンはまだ出現していませんし、一般人に見つかることはないと思いますが……一応、警戒して」
 優秀なAIである彼のことだから、一般人に見つかることはまず無いと琴莉は思ってはいた。だが、警戒を怠らぬようにと念を押す。
「報告はスマホにお願いします」
 最後に琴莉がそう言えば。Ernestは音も無く羽搏くと、集落の中心へと向かって消えていった。

 ゆっくりと紅茶を啜りながら、琴莉はErnestの報告を待っていた。
 不意に、ポケットに入れていたスマートフォンが震える。Ernestは情報を手に入れたようだ。取り出した青いスマホの画面には、掻い摘むとこのようなことが映し出されていた。

 ――集落の中心部、梔子の木に囲まれた社在り。多数の花や菓子が捧げられていることから、崇拝されるUDCとの関連性高。
 ――祝祭を執り行う中心人物は、集落長と呼ばれる老齢男性。夕刻前に、子供たちを帰宅させるようにと謎の指示。
 ――加えて御使いが現れたら、思考を奪われたマレビトが、それについて行くように仕向ければ良いのだと。意味深な発言。

 共に送られてきた添付ファイルを開けば、社の写真や集落長の顔写真が画面に並ぶ。
 Ernestの報告に目を通し終えた琴莉は。集落長の言う御使いというのは、UDCの配下だろうと推測すると。すっかりぬるくなった紅茶を一気に呷った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シビラ・レーヴェンス
露(f19223)と。
集落には立ち寄った旅人ということにする。
面倒になりそうだから露とも話を合わせておく。

ふむ。種類が豊富なんだな。どれも旨そうだ。
「私は空腹ではないから、茶でも飲もう」
茶を一つ頼んでついでに祭りのことを聞く。
「近々ここで祭りがあるのだろう?」
祭りの内容や自分達も参加できるのか質問。
内容を怪しまれない程度に抑えてみよう。
その間でも周囲を。人々をさりげなく観察
無駄に警戒をされても動き難くなるだけだ。

密かに【小さい援軍】で集落を探ってみる。
情報収集だ。大人達の後をつけるように頼む。
『私』達なら問題なく遂行できるだろう。
「…なるどな。助かった」
情報を聞く時は集落の人間が居ない場所で。


神坂・露
レーちゃん(f14377)と。
「わあー♪ 素敵ね。お花で作るのって」
何があるのかしらって聞いたら沢山あるのね。
「うーん。どれも美味しそう…迷うわ迷うわ」
あ。レーちゃんはお茶なのね。じゃあじゃあ…。
「うーん。ならなら、『花弁ジャム』がいいわ」
パンもお願いできるかしらって聞くわ聞くわ。
ジャムだけだと食べるの難しいと思うから。
「レーちゃんもこのジャム食べてみる?」
じぃって見てくるレーちゃんに笑顔で聞くわ。
え?いらない?むぅ。本当においしいのに…。

そーいえばちまレーちゃん達は無事かしら?
心配だから本体のレーちゃんに聞いてみるわ。
『ねえ。ちまちゃん大丈夫かしら?』(小声)
問題ない?うーん。でも心配だわ。



●ふたりたび
『あらまぁ、とっても可愛らしいマレビトさまたちですわね』
 茶屋の女将はシビラ(ちんちくりんダンピール・f14377)と露(親友まっしぐら仔犬娘・f19223)を目にとめると、頬に片手を添えて笑う。
 旅の途中、様々な花が咲いているのが見えたから立ち寄ったのだとシビラが話せば。女将は瞳を丸くした。
『まだ小さいのにそれはそれは……さぞやお疲れになっているでしょう。どうぞ一息ついて下さいまし』
 そして茶屋では花を使った菓子や飲料を提供している旨を軽く話した後に、縁台で休むようにすすめる。
「わあー♪ 素敵ね。お花で作るのって」
 にっこり笑顔で縁台に腰かける露に「そうだな」とシビラは抑揚なく答えると、露の隣に腰かけた。話を合わせたのは、そうしておいたほうが面倒なほうには流れないと判断したからだ。
「ねぇねぇ、例えばどんなのがあるのかしら?」
 露が女将に訊ねれば。花弁のジャムや砂糖漬け、普通の紅茶に、青や赤の茶に着香茶等々……があると例を挙げる。
「ふむ。種類が豊富なんだな。どれも旨そうだ」
「うーん。どれも美味しそう……迷うわ迷うわ……」
 それを聞いたシビラと露は、どれを頼もうかと悩む。
 そして、先に決断したのはシビラだった。
「私は空腹ではないから、茶でも飲もう」
 シビラはカミツレの着香茶を頼むことにした。カミツレにしたのは薬草で、よく慣れ親しんでいるという理由からだった。
「あ。レーちゃんはお茶なのね。じゃあじゃあ……」
 露はシビラが先になにを頼むか決めたのを受けて。自分も早く決めないと、と少し焦る。シビラが飲み物なら、自分は……。
「うーん。ならなら、『花弁ジャム』がいいわ」
 何の花弁にするかはお任せして。けれどジャムだけだと食べるのは難しいからと、ついでにパンもお願いできるか小首を傾げて頼んでみる。
『パンでございますか? 厚切りのトーストで宜しければ』
 女将の答えに、露は「それで大丈夫よ」とうなずく。
『ではお持ち致しますので少々……』
「そういえば、ここで祭りがあるのだろう? それは私達も参加できるのだろうか」
 女将が茶屋の奥に戻る前にと、注文以降黙っていたシビラが口を開いた。怪しまれないように何となしを装いながら、どのようなものかと探りを入れる。
『ええ、お祭りがありますよ。お二人も参加出来ます。お祭りはざっくばらんに言ってしまえば、神様に感謝しながら花を食べるものですが……そうね。夕刻になればきっとわかります』
 そう話すと、女将は『ではお持ち致しますので』と。茶屋の奥に戻っていった。

 女将が戻ってくる前にと。シビラは一旦席を立ち、茶屋から少し離れた場所に咲いていた桜の樹の影に身を隠す。
 そして『小さい援軍』を発動させ、黒いヴェールをかぶった手乗りシビラを数多に喚び出して。大人たちの後をつけて情報を収集するように命じた。
 命を受けた手乗りシビラ達が頷き、影に紛れながら散り散りになったのを見届けてから。シビラは縁台へと戻る。
「あらレーちゃん。何してたの?」
 露に訊ねられたシビラは、『小さい援軍』達に集落の情報収集を行わせている旨を話した。
『お待たせいたしました。カミツレの着香茶と、花弁ジャムにトーストとなります』
 丁度話し終えたところで、女将が注文の品を乗せたトレイを手に戻って来た。
 縁台に置かれたトレイに乗る小瓶の中のジャムは、透き通った淡紅色で。その中に花弁が浮かんでいる。花弁は女将曰く林檎のものだという。一緒に運ばれてきたトーストは厚切りで、表面が程よいキツネ色をしていた。
 カミツレの着香茶は青林檎にも似た清々しい香りを放っていて、飲んだらリラックス出来そうだ。
 シビラがカップを手に取り啜ってみれば。僅かな苦みと共に香りが口の中に拡がる。この苦みはカミツレ特有のものだと知っていた故に、気に留めることは無い。
 露はジャムをトーストに塗り、それを食んだ。林檎の香りと甘酸っぱさが口いっぱいに拡がる。
 シビラはジャムの味が気になったのか、美味しそうにトーストを食む露をじぃっと見つめる。
「レーちゃんもこのジャム食べてみる?」
 シビラの視線に気付いた露は、笑顔で聞いた。
「いや、遠慮する」
「え? いらない? むぅ。本当においしいのに……」
 けれども返ってきた言葉はつれないもので。露は頬を膨らませた後、トーストをまたさくりと食んだ。

 茶を啜りながら、茶屋の前の通りを行き交う人々を観察するシビラ。
 恐らくはシビラと露が幼い見た目をしているということがあってか、集落の者たちは二人を警戒している様子はない。
 そして皆、様々な花がたくさん詰まった籠を抱えていた。集落の者たちはあれらを全部食べるのかと思うと、シビラは不思議の感に打たれる。
(「そーいえば、ちまレーちゃん達は無事かしら?」)
 ――ねえ。ちまちゃん大丈夫かしら?
 不意に気がかりになった露は。手乗りシビラ達が無事であるか、小声で隣のシビラ本人に訊ねる。
 ――問題ない。『私』達なら問題なく遂行できるだろう。
 心配そうな露に対し、シビラは淡々と。けれども確信をもってそう返す。
(「うーん……でも心配だわ」)
 そう言われても、やっぱり心配なことには変わりない。だがその時、露の足元に小さな黒い影が顔を出した。
 黒いヴェールをかぶった手乗りシビラだった。無事に戻ったのを見て、露はほっとする。シビラは報告を聞くため茶屋から離れ、また桜の樹の影に身を隠した。
 手乗りシビラはシビラの肩に乗ると、耳打ちをする。

 ――集落長と呼ばれる白い顎髭豊かな老人が、祝祭を指揮しているということ。
 ――大人たちは、子供たちに夕刻前に帰宅するよう勧告していたということ。
 ――子供が間違って御使いについていったらかなわんと、気になる発言をしていたということ。

「……なるほどな。助かった」
 御使いというのはUDCの配下だろうと判断するとして。それよりも、集落の子供は夕刻前に帰宅させるのに、何故自分達にはそのようなことを話さなかったのか。
 女将は意図して話さなかったのは確実だなと、シビラはため息を吐いた後に、露の元へと戻った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

グウェンドリン・グレンジャー
(身体に埋め込まれた刻印とUDC細胞の影響故に極度の肉食性。植物性はあまり美味しく感じない……が、好きな花なら食べられるだろうか)

私……は、バラ
外の国……イギリス、UKって知ってる?
バラの国、って、言われること……も、ある
だから、バラ
花弁入りの、紅茶で、貰う

話すの、苦手。だけど、周囲の人と、なんとか、話してみる
……ブルーベルって、花、知ってる?
私の、故郷……の、蒼い花
春の森に、絨毯みたいに、咲く
きっと、あなた達……も、気に入る……と、思う

第六感、見当つけた、子供に、こっそりと、聞きたい
神様、どんな感じ?
大人……には、内緒で、教えてくれたら
これ、あげる
(コンビニで売ってるチョコ菓子を差し出し)



●花に誘われ
 グウェンドリン(Heavenly Daydreamer・f00712)が集落に足を踏み入れ先ず抱いた感想は、『暖かい』というものだった。
『そこなマレビトのお嬢様、どうぞあちらにお掛けになって?』
 茶屋の女将がグウェンドリンを目にとめると声を掛けてきて、店先の縁台に座るようにすすめて来た。グウェンドリンがそれに素直に従えば、女将は花を使った品書きを並べ立てる。
 それを聞いたグウェンドリンは僅かに思惟する。グウェンドリンはその身に埋め込まれる黒い刻印とUDC細胞の影響で、肉ばかりを口にする極度の偏食家だった。故に植物を口にしてもあまり美味だとは感じない。
「私……は、バラ。花弁入りの、紅茶で、貰う」
 けれども、好きな花ならば食べられるだろうかと思い、それを頼むことにした。
「外の国……イギリス、UKって知ってる?」
 訊ねてみれば、女将は何か思い出そうとするように首を傾げてから『いいえ』と答える。どうやら海外の知識は持っていないようだった。
『お嬢様は、外のさらに外からいらしたのですか?』
 それにグウェンドリンはこくりとうなずいて見せる。
「バラの国、って、言われること……も、ある。だから、バラ」
『まぁ……それはとっても素敵ですねぇ』
 バラにした理由はそれだと述べれば、女将は笑んで。『少しお待ちになってくださいね』と、茶屋の奥へと引っ込んだ。

 少しすれば足音が聞こえてきて。グウェンドリンがその方を向けば、女将がトレイを手に戻って来た所だった。
 女将は『お待たせいたしました』と、グウェンドリンの傍らにトレイを置く。その上には紅茶と、鮮やかな紅赤のジャムの入った小瓶が置かれていた。
 ジャムの蓋を開けると、優しくも芳しいバラの香りがグウェンドリンの鼻先を撫でた。匙で掬い、紅茶へと入れてかき回してみれば。バラの花弁が紅茶の中で踊る。
 ひと口紅茶を啜れば、紅茶と共にバラの香りが口いっぱいに拡がった。もしかすると、バラを食したならばこのような感じなのかもしれないと、グウェンドリンは思った。
『おやおや、珍しいマレビトさまですなぁ。もしかして、外よりも外からいらしたのですかな?』
 茶を啜っていたグウェンドリンのもとに。白く長い顎髭をたくわえた老人が声を掛けてきた。
『あら集落長さま。そうなんです、外の外からいらしたんですって』
 グウェンドリンは話すのは苦手であったが、なんとか話してみようと口を開く。
「……ブルーベルって、花、知ってる? 私の、故郷……の、蒼い花」
 首を傾げた集落長に。春の森に絨毯みたいに咲く花だとたどたどしくも説明すれば、集落長は『ほぅ……』と感心したような声をもらす。
「きっと、あなた達……も、気に入る……と、思う」
『それは一目見てみたいですなぁ……』
 集落長はそう言うと、ふぉっふぉと笑った。

 茶を飲み終えたところで。女将と集落長に別れを告げ、グウェンドリンは集落を軽く散策する。
 そして向日葵の花を抱えた十歳ほどの少女を目にとめると。第六感が「この子は祀られる神を知っている」と告げた。
 グウェンドリンは少女へと歩み寄ると、少し大丈夫かと声を掛けて。軽く世間話をした後に、祭の神様について訊ねてみる。
「神様、どんな感じ? 大人……には、内緒で、教えてくれたら……これ、あげる」
 前もってコンビニで購入しておいたチョコ菓子を差し出せば、少女は少しだけ躊躇った後に話し始めた。
『私……前のお祭りのときに外に出て、こっそり見ていたことがあったの』
 外に出てこっそりという言葉に、グウェンドリンが首を傾げれば。少女曰く、十二歳を過ぎるまでは、祭の日は夕方以降外に出てはいけないと大人に言いつけられているという。
『大人に見つかるとまずいから、遠くからだったんだけれど……多分、十四、五歳くらいの、髪を二つに結んだ女の子だった。社の捧げものを食べていいのは神様だけだし、きっと神様よ』
 グウェンドリンは一言「……わかった」と告げ、少女にチョコ菓子を握らせると帰途につかせる。
 答え合わせは、夕刻以降に出来るから。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『ルリハ』

POW   :    セカンダリー・インフェクション
自身に【病源体】をまとい、高速移動と【病源体】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD   :    アウトブレイク
【伝染力の高い病源体】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    スーパー・スプレッダー
【病源体】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【にばら撒くことで】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 西の空に陽が沈み、他者の顔の見分けがつきにくくなる黄昏時。
 集落の道の両端に、篝火が焚かれ始めた。来る夜に備えてだろうか。
 
 不意に何処からか。チィチィと鳥の鳴く声が聞こえてきた。
 鳴き声の主は何処ぞと見渡せば。家屋の屋根、もしくは樹の枝に、その鳥を見つけることが出来るだろう。
 鳥はそこから飛び立つと、猟兵の頭上をくるくると旋回する。
 同時にふわりと、甘い花の香りが漂った。頭がぼんやりとしてしまいそうな、濃厚な香りだった。

『マレビトさま、あなたは選ばれたのです』
『あの鳥に導かれるままに、おすすみください』
『あなたのその――が、――に……のです』
 旋回する鳥に気付いた集落の者たちが口々に、鳥について行けと言う。

 チィチィ、チィチィ。おいでおいでと言うように鳥は鳴く。足を止めている内に、その数は増えていく。
 けれども猟兵には判るのだ。あの鳥たちはオブリビオンであると。

*************************************

 二章はルリハとの集団戦となります。
 病原体=花の香りになります。吸い込み過ぎると意識が朦朧とします。

 集落の者達は花をひたすらに食しながら、もしくは『どうぞお進みになってください』等宣いながら猟兵とルリハを見送ろうとします。
 しかし猟兵はルリハをオブリビオンとして認識できるので、惑わされることはありません。
 今までのマレビトはルリハの香りに思考を奪われ、集落の者たちの言葉のままにルリハについて行き、そのまま……というパターンでした。今回もそうだろうと集落の者たちはタカをくくっているので、戦闘に手を出そうとしてきません。

 軽くついて行くフリしてから打ち倒しても、最初から打ち倒しても。どちらでもどうぞ。
黒鵺・瑞樹
アドリブ連携OK
右手に胡、左手に黒鵺の二刀流

イライラする。他者をなんだと思っているんだ。
正直言えば自身が生きるために他者を贄にするのはそれほど悪い事だとは思ってないさ。
食物連鎖が悪い事だと言えないように、時には邪神がらみだからって否定しきれない。
でもこの村はひどく心がざわつく。

存在感を消し目立たない様に立ち回る。そしてマヒ攻撃を乗せたUC陽氷で攻撃。
同時に紛れるように投げられるだけのマヒ攻撃を乗せた柳葉飛刀も投擲し、なるべく多くをしとめる。
敵の攻撃は第六感で感知、見切りで回避。
回避しきれないものは本体で武器受けで受け流し、カウンターを叩き込む。
それでも喰らうものは激痛耐性で耐える。



●割り切れぬ心
(「イライラする。他者をなんだと思っているんだ」)
 瑞樹はどうしようもなく、苛立っていた。
 正直言ってしまえば。自身が生きる為に、他者を贄にするのはそれほど悪いことであるとは思っていない。
 食物連鎖が悪いことと言えないように。イキモノというのは他を糧にして生き永らえている。邪神絡みだからといって、それを否定はしきれない。
 しかし、それでも。この村は瑞樹の心を酷くざわつかせるのだ。

 そんな瑞樹の心を知ってか知らでか。チィチィと鳥たちは鳴いている。
 そのうちについて来ないことを不思議に思ったのか。一羽が瑞樹の目の前まで下降してきて、ぱたたと停止飛行する。まるで『どうしたの? はやくおいでよ』と言っているようだった。
 同時に花の香りが一段と濃厚になり、漂ってきた香りの元凶はこの鳥たちなのだと理解できた。瑞樹は頭がくらりとしそうになるが持ち堪える。どうやら催眠に類する効果が香りにはあるようだ。
『さぁさぁ』
『マレビトさま、ついて行きなされ』
 住民たちは瑞樹を急かす。それが望みであるように。いや、望みなのだ。

 瑞樹は鳥を静かに睨みつけると。左手に握った黒鵺で、ざん。と斬り裂き拒絶した。

 苛立ちが瑞樹自身を繋ぎとめていた。
 裂かれた鳥は地に落ちると。しゅう、という音と共に骸の海へと還る。
 それを見た住人たちはどよめいた。口々に『何故』だの『あり得ない』だのを零している。一方仲間を斃された鳥たちは、瑞樹を敵と判断し。甘い香りを纏いて猛烈な速度で突進してきた。
 瑞樹は空気と一体になると、鳥の群れをすれ違うように躱して。くるりと反転し、鳥たちへと青き清浄なる炎を放つ。
「青き炎よ!」
 炎に飲まれた鳥たちは、鳴き声もあげられぬままに還ってゆく。香りも炎に焼かれたようで、幾許か楽になった。同時に、紛れこませるように投擲したいくつもの柳葉飛刀が、炎の範囲外に存在した鳥も射ち墜としていく。

『我々から、――を奪う気なのか?』
 最中に聞こえた住人の誰かの呟きは、聞こえなかったフリをした。

成功 🔵​🔵​🔴​

斑星・夜
あらら、綺麗な色の鳥さんだけど、さすがにオブリビオンは眺めてるだけじゃいられないな~。ちょっと残念
さて、この香りもあんまり吸い込まない方が良さげかな
服の袖で時々鼻を覆っとこ

とりあえず敵さんがまだこっちを舐めてるうちに
ついて行くフリをして攻撃するタイミングを見計らおう

まずはワイヤーガンでワイヤーを放ち、ルリハの捕縛を試みる
空とか高い位置に飛ばれたら、攻撃を当てるのちょいと大変だしね

ルリハにワイヤーを上手く巻きつける事が出来たら、こっちへ力任せに引っ張り寄せるよ
それから伸縮性ロッドを使って『グラウ・ブリッツ』で攻撃
攻撃で後ろに飛んでも、もう一度、ワイヤーを引っ張って引き寄せて攻撃するよ



●凶星墜とし
(「あらら、綺麗な色の鳥さんだけど、さすがにオブリビオンは眺めてるだけじゃいられないな~」)
 現れた鳥たちは瑠璃の青色。オブリビオンでなければ、バードウォッチングしたかったところだけど、と。少し残念に思いながらも、夜は冷静に状況を分析する。
 あの鳥たちが現れてから、辺りに頭がぼんやりするような花の香りが立ち込めた。そして住人たちは鳥についていけと言う。
 香りの発生源が鳥であること、そして香りに催眠に類する作用があることは間違いない。
(「この香りもあんまり吸い込まない方が良さげかな……服の袖で時々鼻を覆っとこ」)
 そして住人たちの様子からこれまで誘導に失敗することは無かったと、夜は瞬時に結論付けると。まだタカをくくっているうちに鳥について行くフリをして、仕掛けるタイミングを見計らうことにする。

『そうです、そのまま』
『そして私たちに――』
 時折咳を装い、服の袖で鼻を覆いながら。夜は鳥たちの後を追う。
 ちらりと住人たちを窺えば。花を食しながら此方を見守っているか、優しい声音で鳥について行くように宣っているかだった。其処に夜を疑う目は無い。
 七、八分ほどついて行けば、大分開けた通りに出た。ここで仕掛けるのが最善だと夜は判断すると、素早く懐からワイヤーガンを取り出し。鳥たちへ向け引き金を引く。
 しゅるんと真直ぐに伸びた銅線が、鳥を数羽纏めて絡め捕ったところで。より高い位置へと逃げられる前に、夜は力任せにぐいと引き寄せた。勿論、放たれる香りを吸い過ぎぬよう十分に気を付けながら。
 抗議する様に、けたたましくチィチィと鳴く鳥団子。しかし夜はその鳴き声に構うことは無くて。
「それじゃ、ちょっと下がっててね……!」
 ある程度引き寄せたところで、夜は伸縮性ロッドを片手で振って伸ばすと電流を纏わせる。
 バチバチと小さな稲光を放つロッドで鳥団子を殴り付ければ、ひゅんと飛んで行った。電流で失神したのか、反撃する素振りは見せなかった。
『今までこんなこと……』
『これは何が起きているんだ』
 それを見ていた住人たちにどよめきが走る。一体何が起こったのか、理解できないとでも言うように。
 夜はそんな住人たちを横目に、飛んで行った鳥団子をまた引き寄せていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

外邨・蛍嘉
「」内クルワ台詞
武器:私は藤色蛇の目傘、クルワは妖影刀『甚雨』

黄昏時…子どもが出てはいけない時間。綺麗な鳥なんだけどね…。
軽く着いていこう。いいね、クルワ。
「(まだ内部にいる)モチロン」

少し空けたところに出たら…UC発動、攻勢開始さ!
「花の香りが強いデスネ…。いきマショウ、ケイカ!」
風と雨の攻撃属性をのせて、少しでも花の香りを散らそう。
「あのルリハ狙いの斬撃でも、散らせるデショウカ」
散らせたら儲けものだよね!

元は歩き巫女やってたから、他の信仰見ることもあったけどさ。…本当、ここの神様は何なのだろうね。



●雨に流るる
「黄昏時……子どもが出てはいけない時間。綺麗な鳥なんだけどね……」
 蛍嘉は空の鳥を見上げると呟いた。訊ねた子供が言っていた、攫う青い鳥とは、あの鳥のことだろう。
『あの瑠璃羽の鳥がマレビトさまを導きます』
『さぁ早く』
 住人たちが鳥について行くようにと蛍嘉を急かす。彼らは篝火が置いてある場所を境として、そこからは前に出る様子は無かった。
(「軽くついていこう。いいね、クルワ」)
《「モチロン」》
 内に存在するクルワへと声を掛け。蛍嘉は鳥について行く。今はまだ、攻めに出るべき時ではないのだ。

 鳥は花の香りを撒き散らしながら、蛍嘉を先導する。そうして少しついて行けば、大分開けた通りに出た。
 今が攻勢に転ずる時であると蛍嘉は判断すると、藤色の蛇の目傘を剣へと変化させ。内に封ずるクルワを現実へと喚びだした。
「さあおいで、クルワ。雨剣鬼の力を見せようじゃないか!」
 突然剣を握った蛍嘉と現れたクルワに、鳥たちは異常を察知し集まりだす。花の香りが一層と濃くなった。
「花の香りが強いデスネ……いきマショウ、ケイカ!」
 現れたクルワは顔を少し顰めながら、蛍嘉に並ぶと妖影刀『甚雨』を抜く。斬るべきモノは、あの瑠璃色の鳥たち。
「少しでも花の香りを散らそう」
「あの瑠璃羽狙いの斬撃でも、散らせるデショウカ」
 ざ、ざ、ざん、と。風に散らすように、雨に流す様に。蛍嘉とクルワは迫る鳥たちを次々と斬り捨てていく。
「散らせたら儲けものだよね!」
 クルワの問いに、蛍嘉は正面から迫って来た鳥を斬り捨てながら返す。香りの元が鳥たちであることは間違いない。鳥を絶てば、香りも消える筈だ。
 二人の斬撃演舞が展開される様子を、住人たちは呆気にとられながら眺めていた。
『どうしていきなり……』
『何が起きて……』
 何故突然もう一人現れた? 何故、いきなり鳥達を攻撃し始めた? いくら考えても、彼らは、理解する事が出来なかった。

(「元は歩き巫女やってたから、他の信仰見ることもあったけどさ……本当、ここの神様は何なのだろうね」)
 あらかたの香りと鳥たちを片付けたところで、蛍嘉は胸中で言ちる。けれどもそれはもうすぐ分かるだろうと、蛍嘉は思い直すと。点々と星々が輝き始めた空を見上げた。

成功 🔵​🔵​🔴​

冴木・蜜
選ばれた、か
ならば誘われるまま往きましょうか

体内毒を濃縮
小鳥に導かれるように
彷徨うように小鳥の後を往きましょう

彼らも贄を逃がしたくないでしょうから
香りを振り撒く鳥たちは増えるのでは
ある程度小鳥たちが集まったら
力を抜くように擬態を解き
死毒となって『微睡』みましょう

村人は巻き込まぬようにだけ意識して
そのまま気化した毒で包み込み
彼らを逃さず融かし落として差し上げます

意識を解いたとて
私は死に到る毒
故にただ在るだけでいい

貴方達が苦しまずに
微睡むように逝けますよう

鳥を斃したら彼らは驚くでしょうか
私という毒を誘い込んだのは皆さんなのですから
これは皆さんの招いたことですよ

……なんて
意地悪はやめておきましょうか



●来たれ甘き死の時よ
「選ばれた、か」
 鳥を見上げ、蜜は呟いた。住人たちは、そうやってマレビトを捧げていたのだろう。
『そうです』
『さぁ、踏みだしてください』
 住人たちは鳥について行くよう口々に言う。仮面のような、貼り付けた笑みで。
(「ならば誘われるまま往きましょうか」)
 蜜は素直に、ふらりと鳥の後をついて往く。導かれているようであり、彷徨うようでもある足取りで。
 来たる時のために、身体の毒を濃縮させながら。

 瑠璃羽の鳥にゆっくりとついて往けば、蜜の意思を本格的に奪うためか。その数は次第に増えて、辺りに漂う花の香りも更に濃くなった。
 この鳥はマレビトを惑わせるために香りを放っている。
 確実に贄をその手中に収めるために、数を増やしていくだろうという蜜の読みは当たっていた。
 そうして、ある程度の数の鳥が集まったところで。

 蜜は力を抜くようにして。ヒトのカタチをどろりと解くと、微睡んだ。
 
 それは倒れ込むようにも、瓦解する様にも、見えた。
 その様子を認めた住人たちはどよめいた。仕方のないことだろう。人だと思っていた者が、黒く崩れ落ちて融けたのだから。
 融けた蜜はすぅっと気化すると、鳥たちへと迫って。
 苦しまぬよう、微睡むように逝けるようにと。赤子を抱きながら寝かしつける母のように、鳥たちを包み込む。
(「おやすみなさい、さようなら」)
 鳥たちは瞬く間に、中空に融けた。羽根一枚、骨一本も遺さずに。鳴き声すら融解したみたいだった。
 住人たちは愕然とする。一体何が起きたのか理解できないのだ。
 それもその筈。前代未聞のことなのだから。人が融け、神の御使いたる鳥たちが消えてしまうことなんて。

 蜜は、蜜自体が死毒。
 故にただ在るだけで、いい。
 それだけで、崩壊へと至らせることが出来る。

 その『蜜』という『毒』を集落内へと誘い込んだのは、紛れも無い住民たち。
 これは自分達が招き、撒いた種であると。
 それを言葉にして聞かせたら、住人たちはどんな顔をするだろうか。
(「……なんて。意地悪はやめておきましょうか」)
 けれども蜜は、言葉にすることをやめる。
 だって住人たちには、これから大きな崩壊が待っているから。

成功 🔵​🔵​🔴​

吉備・狐珀
神様のことや祭りのことを教えてくれた子供たちをいくら手を出してこないとはいえ、この子たちの前で戦闘をするのは危険ですね。
この場から離れるためにも惑わされたふりをして少しついていくとしましょう。

子供たちから離れたらUC【神使招来】使用
ルリハの花の香りが命中しないように結界術で結界をはったら戦闘開始です。
ウケ、私と共に御神矢をルリハに向けて一斉発射し、撃ち落としてしまいましょう。数が多いですからね、手を休めることなく矢を放ちますよ。
ウカ、貴方は神剣に封じ込められた玄武の力を解き放ち雨を降らせ、外れた花の香りを全て洗い流してしまいなさい。
強化も反撃の隙も与えてはしません。骸の海へお還りなさい。



●香流し
 広大な瑠璃唐草の花畑で。子供たちと談笑していた狐珀は、花の香りと共に現れた瑠璃色の鳥たちが、オブリビオンであると見てすぐに解すると。平静を装いつつも身構える。
『とりさんだー』
『いきをとめなきゃダメなんだー』
 けれども、口と鼻を覆いながら鳥たちを指差す子供たちは暢気だった。
『こぉらお前ら! 夕方には帰ってこいって言ったでしょう!!』
 そこに切り裂くように、女性の怒声が響いた。声の方を見れば、走って来る女性が見えた。子供たちの母親だろうか。
 女性は子供たちへ近付くと、腕をぐいと引張り連れ帰ろうとする。
 子供たちは『きゃー』と棒読みで怯えるフリをした。結構強い子たちなのかもしれない。
『マレビトのお嬢様。あの瑠璃羽の鳥はあなたをお導きする神聖な鳥です。ついて行ってくださいまし』
 不意に女性は狐珀へ向くとそう言った。その顔は貼り付けたような笑みだった。
 子供たちの前で戦うことは危険であるし、この場からも離れる為にも、ここは言葉と香りに惑わされたフリをしておこうと。狐珀は鳥たちの後をついていく。

 花畑と集落の境界が近くなったところで、狐珀は辺りを見渡す。見回した限りでは、子供たちや他の者は見当たらない。
「猛き者達よ 深き眠りから目覚め 我と共に闇を祓う力となれ」
 狐珀は自身を中心にして結界を張り、花の香りの侵入を拒むと。ウカとウケの内に眠る近衛兵の御霊を喚び起こす。
 そしてウケには共に手を休めずに御神矢を放ち、鳥たちを撃ち落とすように。
 ウカには神剣に封ぜられた玄武の力を解き放ち、雨を降らせ香りを洗い流すように命ずる。
 異常を察知した鳥たちは、狐珀の周囲をくるくると旋回する。香りを濃縮しているのだろうが、結界を張っている狐珀に効きはしなかった。
 さぁっと一帯に雨が降り始めたと同時に、狐珀は破浄の明弓をその手に構える。
「反撃の隙も与えはしません。骸の海へお還りなさい」
 狐珀が凛と鳥たちへと告げ、矢を放てば。同時にウケが展開した御神矢も放たれて。過たずにその瑠璃たちを貫いた。

 そうして一帯から鳥たちが消え、香りも流されれば。「もう大丈夫です」と狐珀は雨を止ませる。
 鳥達は集落の中心へと向かわせていた。そこに信奉されるUDCが現れる筈だと狐珀は判断すると、口を真一文字に結んで駆け出した。

成功 🔵​🔵​🔴​

小結・飛花
あっちの花は苦いか
こっちの花は甘いか

あゝ、あの鳥についてゆけばよいのですね。
あたくしは花食みの飛花で御座います。
花を食むなどたやすいこと。

あの鳥があたくしの仲間なのでしょう?

さえずりが標であるならば、それを断る理由などございません。
あゝ、そちらの鳥
しあわせの青い鳥

どのやうな花がお好きですか?

あゝ、そちらの鳥
あなたに甘くておいしい花を差し上げましょう。

藤の花弁で鳥を惑わしましょう。

甘くて美味しいでしょう。
あたくしも好きな花の一つで御座います。

どこへ連れて行こうと言ふのですか。
そちらにさちは御座いません。

惑わしの鳥よ
花と共にお眠りなさい。



●こい乞ひて
 ――あっちの花は苦いか。
 ――こっちの花は甘いか。

 逢魔時に唄が響く。唄声の主は飛花だった。
『あの瑠璃色の鳥に、誘われるままに』
『そして私たちに――を』
 住人たちの言葉を聞いた飛花は、微笑んで。
「あゝ、あの鳥についてゆけばよいのですね。あたくしは花食みの飛花で御座います」
 飛花は名乗ると、花を食むなどたやすいこと。と、歩を進める。
「あの鳥があたくしの仲間なのでしょう?」
 響くさえずりが標なら、それを断る理由はないと。鳥たちの後を追う飛花の様は、花の香りに惑わされる蝶のようだった。

 時折、飛花の周囲をくるくると。鳥たちは低く飛ぶ。その度、花の香りは濃くなった。
「あゝ、そちらの鳥。しあわせの青い鳥」
 ――どのやうな花がお好きですか?
 どうか待ってと言うように、飛花はその手を鳥へと伸ばすけれども。それは宙を切るだけで。
「あゝ、そちらの鳥」
 ――あなたに甘くておいしい花を差し上げましょう。
 これをご覧になってと言うように。すっと、飛花が差し出した手にあるのは、藤に杜鵑の花札。
「おいでなさい」
 言葉紡ぐとその札は、瞬く間にぱっと淡藤色に弾けて。辺り一帯に藤の花弁を散らす。
 散った花弁は風に乗り。さぁっと舞って、鳥たちを包み込んだ。
「甘くて美味しいでしょう。あたくしも好きな花の一つで御座います」
 けれども鳥たちは、チィチィとしか答えない。
 藤の花弁から逃れるように、鳥たちは飛花を導こうとしていた先へと飛ばんとする。満足な答えを得られるまで、藤の花弁は鳥たちを追うというのに。
「どこへ連れて行こうと言ふのですか。そちらにさちは御座いません」
 鳥たちの行く先を、藤の花弁が阻み続ける。ねぇ待ってと、縋りつくように。
 飛花はわかっていた。鳥たちが導こうと、そして逃れようとした先に、どのようなモノが待ち構えているのかを。
「惑わしの鳥よ。花と共にお眠りなさい」
 粛々と告げれば、藤の嵐が鳥たちを飲み込んで。後には静寂だけが残る。
 藤の嵐を目にした住人たちは、呆気にとられたような顔をして。そして戸惑いを見せ始めた。

 飛花は蝶では無く、水鬼。
 水遣りの水鬼は、たつことしか出来ぬ。

成功 🔵​🔵​🔴​

榛・琴莉
神様には会いに行かなくてはいけませんし、このままついて行くとして
この匂いは嫌ですねぇ
まさにガスマスクの使い所ではありますが、流石にあからさま過ぎる…となれば、元を断つのが最善
Harold、あの鳴き声が聞こえますね
分散して小さくなっても、あの小鳥くらいは仕留められるでしょう

『にゃあ』
『アハアハ』
『だぁれ?』
『ねぇねぇねぇねぇ』
『見てるよ』
…なんで喋ってんですか
さては自分たちで【武器改造】して声帯を模倣しましたね
なんかグネグネしてると思ったら…
『あ〜そ〜ぼ〜』
で、これは何を教えたんですか。Ernest

スマホからメッセージの受信音
見たことのあるホラーゲームのタイトルがずらり、最後には笑顔のスタンプ



●The looming fear
『ついてお行きなさいな』
『さぁ、マレビトさま』
(「神様には会いに行かなくてはいけませんし、このままついて行くとして……」)
 しかし辺りに漂う花の香りが琴莉は嫌だった。ここがガスマスクの使い所ではあるが、流石にあからさま過ぎるだろうと、使用を思いとどまる。
「Harold、あの鳴き声が聞こえますね。分散して小さくなっても、あの小鳥くらいは仕留められるでしょう」
 なれば、香りの元を断つのが最善と。琴莉はコートの内に潜むHaroldを呼んだ。
 呼応したHaroldは。水銀のようなその身を地に落とすと同時に、水溜まりのように広がらせて。ぷつりぷつりと千切れて分散する。
 だが、それを見ていた琴莉は違和感を覚えた。妙にグネグネとして、カタチを取るのが少し遅いような……。
 そう思っているうちにHaroldたちは歪な鳥のカタチを取る。そして、あらぬ所から生えている嘴を開くと、

   『にゃあ』『アハアハ』『見つけた』『だぁれ?』
       『くねくね』『ねぇねぇねぇねぇ』『見てるよ』『うしろに』

 名状しがたき声で、喋った。

「……なんで喋ってんですか」
 Haroldたちが喋ったのを受け、琴莉は愕然とした。
 妙にグネグネとしているなと琴莉は思っていたが、どうやら自身を改造し声帯を模倣していたらしい。
 一体何処で言葉を……と思い。けれどもそれを教えるのは、彼しかいなくて。
「で、これは何を教えたんですか。Ernest」
 張本人たるErnestへと琴莉は問い質す。それに答えるように、直ぐにスマホからメッセージの受信音が鳴った。
 Ernestから届いたメッセージを開けば。画面にはずらりと、見たことのあるホラーゲームのタイトルが並んでいた。最後にはご丁寧に笑顔のスタンプが押されている。
「…………」
 スマホを手に琴莉が無言になっている間。Haroldたちはぎょろり、瞳を瑠璃羽の鳥たちへ向けて。一羽たりとも過たずに墜とさんと飛び立った。
『『『あ〜そ〜ぼ〜』』』
 Haroldたちは次々と。飛び交う鳥たちを、確実にその嘴で貫き骸の海へと還してゆく。その光景はまるで、ホラーゲームのワンシーンみたいだと琴莉は思った。
 一方集落の住人たちは。初めて見る光景に戦慄し、言葉を失っていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

蘭・七結
かろやかな鳴き声に耳をすませて
移ろう紫彩がその姿を捉うでしょう
音色の主は、あなた?

青い鳥は幸福を叶えるもの
そのような物語を読んだことがあるの
ねえ、まって
あなたを追うて往く先には
そのしあわせが、待っているの?

あまやかな香りを身に纏わせて
好奇心と共に、駆けてゆく

嗚呼、まって――待たないで
留まって――留まらないで
青い背を追うて、追い続けるわ
鬼ごっこは始まっているのよ

その背を穿つ、鬼がゆく

惑わし喰らうものならば
喰らわれる前に、屠ってみせるまで
この花は、この黒は、いとしきもの
たんと召し上がれ。あなたという毒を咲かせるわ

降り注ぐ病魔さえも糧へとしましょう
とろかす毒のお味は如何?

もう一度、囀ってちょうだいな



●鬼遊
 くるくると、瑠璃羽の鳥達が夕焼け空を舞っている。
 鳥たちのかろやかな鳴き声に耳をすませながら、七結は移ろう紫彩の双眸でその姿を捉えていた。
「声色の主は、あなた?」
 問うけれども、鳥たちはチィチィと鳴くだけだった。
 青い鳥は幸福を叶えるもの、と。七結は物語で読んだことがあった。もしや、青い背を追って往けば、その先には――。
(「しあわせが、待っているの?」)
 手を伸ばすもそれは届かず。ただ距離だけが離れていく。
「ねえ、まって」
 七結はあまやかな花の香りを身に纏わせて、好奇心と共に駆け出した。

「嗚呼、まって」
 ――待たないで。

「留まって」
 ――留まらないで。

 鬼遊びはもう始まっているのだ。思い通りになってしまったら、つまらない。
 青い背を七結は追い続ける。届かぬ願いに必死に手を伸ばそうとするように、追い求める。
 おにさんこちらとでも言うように、鳥たちは鳴く。

 そして。振り向かぬ青い背を、茨の棘が貫いた。

 それは鬼へと回帰した、七結が放った猛毒の黒いばら。
 茨は鳥たちをかこうように、纏わりつくように辺りに張り巡らされる。
 幸福の青い鳥を逃さない為?
 いいや、違う。この鳥たちは過去の残滓。惑わすモノであって、導く先にあるものは破滅だから。
 ――惑わし喰らうのものならば。喰らわれる前に、屠ってみせましょう。
 七結は、ふわりと跳ねて。とん、と家屋の屋根に降り立った。
「この花は、この黒は、いとしきもの。たんと召し上がれ。あなたという毒を咲かせるわ」
 追い縋るその棘に貫かれた鳥たちは。生命を喰らい尽くされ、黒いばらの糧となり。蔓に黒い花を咲かせた。
 鳥たちが逃れようと足掻き、辺りに振り撒いた甘い香りの病ですら。黒いばらは取りこみ糧として、蔓に次々と黒を咲かせる。
「とろかす毒のお味は如何?」
 逃げ惑う鳥たちへと、微笑み問う七結に。返って来たのは、最期の鳴き声ばかりだった。

「もう一度、囀ってちょうだいな」
 羽搏きも、囀りも。聞こえなくなってしまった。呼ぶ声がなければ、鬼遊びは出来ない。
 けれども鳥たちは答えない。すべてが、花の糧と成り果ててしまったから。
 辺りにはただ、篝火が弾ける音だけが響いていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

シビラ・レーヴェンス
露(f19223)と。
なるほど…。この匂いで幻惑し誘導か…。
即座に身体へ狂気と毒耐性。オーラ防御を纏う。
ここは素直にふらふらついて行くことにしよう。
ある程度の距離を置いてからこの鳥を駆逐する。
集落の者達の眼下でコトを起こすと面倒そうだ。
その前に露にはこの匂いを吸わないよう警告を。
「…露、吸うなよ?」
暗視で鳥達の位置を確認しつつゆらゆらと歩く。
戦闘は隣の露の肩を私が掴むのを合図にしよう。
すぐに無酸素詠唱と高速詠唱をしながら少し後退。
全力魔法に貫通と範囲攻撃を付与したUCを行使。
「すまないが…君達の糧にはなれない」
放つ『剣』の数十本は私と露の身体を囲み防御に。
残りの『剣』で露と連携し鳥達を屠る。


神坂・露
レーちゃん(f14377)と。
「え? …この甘い匂いダメなの?!」
雰囲気作りかなって思ってたけど違うのねー。
慌てて破魔つきのオーラ防御で身体を護るわ。

小声の作戦説明を聞きながらふわふわ進むわ。
少しほんの少しぼんやりするけど…まだ大丈夫♪
レーちゃんの隣で一緒に進みながら合図を待つわ。
…うーん。どのユーベルコードにしようかしら…。
レーちゃんならどんなユーベルコード使うかしら。
肩を掴まれたら高速詠唱であたしの魔法を発動よ。
…あ。魔法は全力魔法と破魔つきの範囲攻撃ね。
「可愛い鳥さんごめんなさい!」

やっぱりレーちゃんも包囲攻撃するタイプだった♪
しかもちゃんと護ってくれてるし~。えへへv
うん!あたしも!!



●紅と蒼白の演舞
『さ、お二人も』
『あの青い鳥について行ってくださいませ』
 甘い香りが漂う中。集落のものたちは仮面のように貼り付けた笑みで、シビラと露に鳥の後を追うように言う。
(「なるほど……この匂いで幻惑し誘導か……」)
 シビラは悟ると。すぐさま己に香りへの耐性を張り、オーラを纏う。
 しかし集落の者たちの前でコトを起こすと面倒そうなので、ここは素直にふらふらと付いて行き。ある程度の距離を置いてから鳥たちを駆逐することに決める。
 そして少しばかりほわほわとしている露へと、漂う香りを吸いすぎないようにと小声で諫める。
「……露、吸うなよ?」
「え? ……この甘い匂いダメなの?!」
 露は同じく小声で驚きを見せた。漂う香りはてっきり、雰囲気づくりだと思っていたのだ。慌てて露も、己に破魔の力を持つオーラを纏った。
 それを見て大丈夫だなと判断したシビラは、歩を進めながら、露へと先ほど考えた作戦を小声で説明する。そして、攻めに出る時は露の肩を掴むと。それが合図だとシビラは伝える。
 作戦を聞いた露は、小さく頷いた。

 シビラは薄暗い空の下でも鳥たちを見失わぬよう、暗視を駆使しながらその位置を把握して。
 わざと、ゆらゆらと。香りに惑わされているフリをしながら歩いて行く。
(「ほんの少しぼんやりするけど……まだ大丈夫♪」)
 露もシビラに並び、ふわふわとした足取りで進んでいく。そして攻勢に転ずるその時を待つけれども。少しばかり頭がぼんやりとしていた。
(「……うーん。どのユーベルコードにしようかしら……」)
 合図が来た時、どれを選べば良いだろう?
 あれでも良いかもしれない。けれどこっちの方が良いかもしれないと、露は迷う。
(「レーちゃんならどんなユーベルコード使うかしら……」)
 隣を歩く親友だったらどんな技を選択するだろう?
 ちらりと横目で露はシビラを窺う。
 その時だ。露がいきなり肩を掴まれたのは。

 それが戦闘の合図だと。露は思い出した。
 いつの間にか通りは広くなり、集落の住民たちの姿も見えなくなっている。
 その代わりに、数多の鳥たちが頭上を旋回していた。
 シビラは鳥たちや周囲の状況を把握しながら、機を窺っていたのだ。
「すまないが……君達の糧にはなれない」
「可愛い鳥さんごめんなさい!」
 少し後ろに下がりながら二人が詠唱すれば、数多の紅の剣と水晶のような蒼白い棘が虚空に現れて。それらは鳥たちへと一斉に放たれた。
 紅の剣と蒼白の棘は。美しい軌跡を描きながら、鳥たちへと迫りその身を貫いて。骸の海へと還してゆく。
「やっぱりレーちゃんも包囲攻撃するタイプだった♪」
 露はシビラも同じことを考えていたのだと分かると、嬉しくなった。
 そしてふと、何十本かの紅の剣がシビラと自身の周囲を滞空していることに気付く。
(「しかもちゃんと護ってくれてるし~」)
 シビラの気遣いに気付いた露はえへへと頬を緩ませる。
「……露も包囲攻撃を選んだのか」
「うん! あたしも!!」
 シビラはちらと露へ視線を向けると、そう問うた。それに露は満面の笑顔で答える。
「さっさと残りを片付けるぞ」
 けれどもシビラは、答えを聞いても淡々としていた。しかしこれがシビラなのだ。それを露は分かっている。
「そうね、レーちゃん!」
 そして二人は、僅かに残る鳥たちへと向き直ると。紅の剣と蒼白の棘で取り囲み、一気に貫いた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

グウェンドリン・グレンジャー
病、蒔く、小鳥
(メキリ、と、皮膚や服を突き破り生えてくるのはMórrígan。身体に埋め込まれたクランケヴァッフェの黒い翼。これを私に埋め込んだのは、外科医の父)
病を治す、ために……UDC細胞、埋め込まれた、私が、あなた達と……なんだか、ブラックジョーク

バラや、ブルーベルの香り、感じる……けど。惑わされちゃ、いけない
Glim of Animaの、青い光、灯し、狂気耐性、対抗
(掲げたラムプが一際眩しく光り、守護霊のような聖女の姿が浮かび上がって)
お願い、ブリギッド
炎は勿論、ある種の光……も「殺菌」作用、あるらしい
限界突破。素早く動いても、その範囲ごと、燃やせば良い
光は、何よりも早い
全て、浄めて



●軋みだす世界
『あの鳥は、あなたを導くもの』
『あなたの――が、この地を――』
 黄金の瞳が、空舞う瑠璃色を捉えた。しかしあれらはヒトを導くどころか惑わす存在だと、すぐに解した。
「……病、蒔く、小鳥」
 ぼんやりと、鳥を見上げるグウェンドリンが呟いたと同時に。メキリ、という音がした。
 それは服を、皮膚を突き破り、グウェンドリンの腰から展開された黒い翼――Morriganだった。
 Morriganをグウェンドリンに埋め込んだのは、外科医であった彼女の父だ。
 グウェンドリンは本来であれば虚弱体質であり、心疾患を抱えている筈だった。しかし彼女の父は余命僅かな娘を哀れみ、とある筋から提供されたUDCの体組織と刻印をグウェンドリンに埋め込んだ。
 術後、グウェンドリンは健康体になったが――両親は失踪した。
「病を治す、ために……UDC細胞、埋め込まれた、私が、あなた達と……なんだか、ブラックジョーク」
 辺りには花の香りが漂っていた。その香りの中に、バラやブルーベルの香りも感じた。
 けれども、惑わされてはいけないと。グウェンドリンは手にGlim of Animaを掲げる。
 ラムプは青い光を灯す。その光はグウェンドリンに狂気への耐性を与えた。これで香りに惑わされることは無いだろう。
「闇に、光を……雪解けの、春を」
 詠えばラムプの青い光が、一際眩しくなると同時に。トリケトラの文様を背に、守護霊のような聖女――タロットの女教皇の姿が浮かび上がる。
「お願い、ブリギッド」
 炎は勿論のこと、ある種の光にも「殺菌」の作用があることをグウェンドリンは知っていた。
 鳥たちは見慣れぬ光と共に女教皇が現れたのを受け、異常を察知すると。素早く迫り、グウェンドリンを病纏う香りで包み込まんとする。
 しかし顕現した女教皇が、Glim of Animaに灯る青い光を更に強く輝かせる。
「光は、何よりも早い」
 ――全て、浄めて。
 青白い光は、瞬く間に。鳥たちも、香りも。全て飲み込んで行く。
 
 その光が落ち着いた頃には、辺りは浄められて。過去の残滓も、香りも残っていなかった。
『このままでは……どうすれば……』
 住人たちは戸惑っていた。マレビトが御使いたる鳥を迎撃するなど、今まで無かったことだった。
 ――このままだと、この集落は神から加護を受けられなくなる。
 それを想像した住人たちは、言葉を失っていた。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 ボス戦 『ツミコ』

POW   :    ××のカタチ
自身が装備する【髪留めの赤いリボン】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
SPD   :    ××の在処
【梔子の花弁】と【甘い香り】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全対象を眠らせる。また、睡眠中の対象は負傷が回復する。
WIZ   :    ××の代償
【実体を持たない青い鳥】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠鈴・月華です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


『あーあ、人間って使えないわ。どれだけ時間かかっているのよ』
 少女の声が夜闇に響いたと同時に。辺りに先ほどとは違う花の香りが広がった。芳醇な梔子の香りだ。もしかすると、この香りが記憶にある者もいるかもしれない。庭木としても、よく植えられているから。
 すると青い鳥たちが導こうとしていた方向から、白い少女が現れた。住人達は少女を目にするなり、頭を地につける。この少女が祀られている神のようだ。
『もうお菓子とか全部食べ尽くしたわ……って、ふぅん、そういうこと』
 少女は猟兵を認めると、面白くなさげに全てを悟る。しかし住人たちは、何も理解出来ていない。
『もうここは潮時ね……まぁいいわ。さっさと猟兵片して適当に人間食べて、違う場所に行くから』
 少女は淡々と、そう言った。
 それを聞いた集落の者たちは狼狽え、縋ろうとする。が、少女は冷たい視線で射抜き、それを許さなかった。
 UDC邪神にとって、人間とはその程度のモノでしかないのだ。

********************************************

 ツミコに集落のはじまりを問えば、以下の様な彼女視点の話をします。
 この話を接触した際に問い、知り得たものとして戦闘プレイングを掛けて頂くのも。問わずに知らないものとして戦闘プレイングを掛けて頂くのも、どちらでも大丈夫です。


 昔々のお話よ。どれくらい昔かなんてもう忘れたわ。
 たまたま人を取って食べようと思って、麓に降りたら……干からびてるかやせっぽちしか居なかったのよね。
 取って喰おうにも、やせっぽっちなんて骨ばっかりで美味しくはないの。
 だから気まぐれでちょっと恩を売ってみようって思ったのよ。あたしは草花を芽吹かせて、咲かせて。それを食べなさいって言ったわ。人間たちはそれでも結構喜んでいたわね。
 それから、あたしは小さな楽園をつくってあげたわ。そう、この永遠に暖かな場所。
 だけどこの恩恵をずっと受け続けたければ、生贄を寄越しなさいってあたし言ったの。
 梔子の花が咲いて、青い鳥が呼んだその時にってね。幸せには代償が必要でしょ?
 なーんて。本当は何もしなくても、あたしがお腹空いた時に人間が来るようにしたかっただけ。子供なんか柔らかくて好きなんだけど、あまり寄越してくれなかったわね。
 最初は身内の人間を寄越していたみたいだけれど……。
 何時からかしら。外の人間を寄越すようになったわ。
 ま、あたしは人間を食べられればそれでいいから、気にしなかったけれど。
 あんたたちだって何か食べる時、それが何処から、どういう道筋でとか考えないでしょ? それと同じよ。
 そういえばその頃からだったかしら、あたしをカミサマとして祀り始めたのは。
 どういう経緯で崇められるようになったのかなんて知らないわよ。ま、悪い気もしなかったし。

********************************************

 住民たちは、初めは集落内から生贄を出してはいました。
 しかしある時。たまたま梔子が咲いたその日に、外の人間が迷い込みました。
 住民たちは、『この人間を捧げれば、集落の誰も犠牲にならない』と考えました。それは実行されます。
 その際何も知らない人間を差し出すのに、罪悪感を持つ者もいれば、割り切る者もいました。当然集落内部は二分されます。
 罪悪感を持った者は次第に集落を去りました。人が減るという事は過疎化に繋がります。集落長の先祖は危機感を抱きました。
 そしてもう去るものが出ないよう、集落を一つにするために。邪神を神として崇めようと決めました。信仰することで盲目となり、外の人間を捧げる行為を正当化させました。
 そして長い時間をかけて、現在の祭の形となりました。
 今の住民たちは、信仰のなれの果て。同じことを繰り返しているだけの大人たちです。

 ツミコは今までに沢山の人間を食べているので、力を持っています。故に猟兵を見くびっている節があります。
 戦闘の最中、住民達はただ恐れているだけです。戦闘ではなく、楽園と信じた場所が崩壊する恐怖です。何もして来ません。
 ツミコを撃破したら、UDC職員達が集落の住民たちを連行、記憶処理や裁き諸々を受けさせますので、事後処理については気にしないでいただいて大丈夫です。
榛・琴莉
経緯がどうであれ、生贄信仰なんて碌なもんじゃありませんね。
相手がまともな神様でないのなら、尚更。

攻撃が当たらない…ふぅん、なるほど。
貴方みたいな鳥もいるものですね、Ernest。
厄介。けれど単純な事です。
当たらないのなら、当たるようにしてしまえば良いだけのこと。
似たもの同士、要領は得ているでしょう?
『ハッキング』で鳥に干渉。波数を、チャンネルをこちらに揃えて。

私、寒がりなので。
春は結構好きなんですよ、暖かいから。
でも貴女の楽園は、正直、好きにはなれなそうなので。
申し訳ありませんが、塗り替えさせていただきます。
【白姫ヶ淵】
雪。氷。吹雪。極寒。
飛べるものなら、飛んでみせて。


冴木・蜜
貴女が作り出した訳ではないとしても
信仰を続かせるわけにはいかない

楽園の扉は閉じなくては

村人の前に立ち
彼らに危険が及ばぬよう意識

体内毒を濃縮の上
身体を液状化
目立たなさを活かし足元まで接敵

他の猟兵に彼女の意識が逸れた瞬間
手を伸ばして『融愛』
攻撃されたとしても
私の飛沫が一滴でも触れれば良い

私は死に至る毒
ひとたび触れる、ただそれだけで良い
幾年も蓄えた力そのものを
全て、融かす

ふと、後ろを振り返る

彼女はかみさまではなくて
そして
他人の命の上に成り立つ楽園などあり得なかった
ただそれだけ

捧げた毒が全て融かす
貴方達の招いた末路を見届けるといい


斑星・夜
そうだね、俺も食べ物がどういう道を辿って自分の所へ来たかは考えない
でも今この場なら誰がその道を辿って食べられるかは分かるよ
放っておいたら最初にお話ししてくれたあの子も危ないって事がさ
だからここで倒させてもらうよ!

元気そうだし、まずは弱らせた方が良さそうかな
相手の攻撃をよく見て、伸縮ロッドで叩き返したりして防ぎながら接近を試みます(※ジャストガード、武器落とし)

上手く近づく事が出来たら、伸縮ロッドに電撃を纏わせて力任せに『グラウ・ブリッツ』で攻撃し、後退させます(※切り込み、怪力)
出来るだけ集落の人達から引き離したい
疲れてきたら途中で食べようとするかもしれないから、念のため!

※アドリブ歓迎です!


黒鵺・瑞樹
アドリブ連携OK
右手に胡、左手に黒鵺の二刀流

例え始まりやいきさつがどうであれ、住人たちが他者を食い物にした段階で良いものだとは言えないと思う。
少なくともここの住民たちはその報いを受けるべきだと思う。
その為にもまずは目の前のこの子を倒さないと。

真の姿(設定資料)に。
引き続き存在感を消し目立たない様に立ち回る。そして隙をついてマヒ攻撃を乗せたUC剣刃一閃で攻撃。
敵の攻撃は第六感で感知、見切りで回避。
回避しきれないものは二刀による武器受けで受け流しや斬り捨てて、可能ならカウンターを叩き込む。
それでも喰らうものは激痛耐性で耐える。


蘭・七結
いきること
自分自身が歩み続けるためには
選ばなくてはならない
捨てなければならない
何時だって犠牲がつきものでしょう?

全てを溢さずに抱いて
全てを護ることなんて叶わない
この世には綺麗事ばかりよ
他者のために生命を棄てる
それが出来るひとは幾人居るかしら

わたしたちにとってあなたが悪ならば
彼女たちとってわたしたちは悪でしょうね
正義なんて、ほんとうの救いなんて
何処にもないのかもしれないわ

わたしが赦したとて
彼女たちの罪は彼女たちのもの
わたしはただ、この現実を識りたいだけ
これからも犠牲が尽きないのならば
あなたを祓ってしまいましょう

たとえ、わたしが悪になろうとも

こころを留める針たちにいとを込めて
あなたへと差し向けるわ


外邨・蛍嘉
「」内クルワ台詞。
武器:蛍嘉は藤色蛇の目傘(刀形態)、クルワは妖影刀『甚雨』

あー、なるほど。それで子供たちには夕方に出るな、なんだ。たぶん、由来とか忘れられてそうだけど。
「信仰とは、そういうものデスヨネ」
そうだよ。どこかで歪むからねぇ…。

さて、梔子の花も香りも、UC+風雨属性攻撃で散らそうか!
「眠りは厄介デスカラネ!念のため、覚醒結界も張ってマスヨ」
まあ、見下してるようだけど。それが隙ってもんさ。
「隙をつくのも、立派な戦術デスヨネ」
そう。…忍びの家に生まれた私に誉はないしね。
「……ソウデスネ」


シビラ・レーヴェンス
露(f19223)と。
ふむ。いい手段ではある。簡単に欲するものが入手できる。
そして人でもこの邪神と同等のことを行い利を得る者は多い。
だが…だがな。これは…ん?露は何故むくれている?
やれやれ。露は情に流されやすいな。安易な挑発だろうに。
(自分にも怒りが向けられているとは考えてない)

このまま一人で露を行かせるわけにはいかないな。
全力魔法と範囲攻撃を付与した高速詠唱で【過の魔杖】行使。
封印を解いた限界突破で紅の剣の本数を増加。
まず剣を防御と攻撃の二種類の役目を担わせて使用。
防御に使用する剣は『露』『人間達』『私』の周囲に展開。
露と私に展開した剣は回転させて護らせる。
攻撃に使用する剣は…露の囮だな。


神坂・露
レーちゃん(f14377)と。
むぅ。なんだか嫌な感じだわ。邪神ってみんなこーなの?
やりかたは間違ってたけど必死で生きてるのに。
って。何で興味深そうに聞き入ってるの?レーちゃん?
え?自分の利を楽に得る為の手段としては適切?えぇえー!

もおー!そんなレーちゃんは放っておいてあたしは戦うわ。
なんかもう直に攻撃加えたいわ。この邪神の子。
だから両拳に【闇狼】発動させて…頬をひっぱたくわッ!
一旦少し離れてから大きく息を吸って止めてダッシュで行く。
狂気耐性に破魔とオーラ防御を身体に纏っておくわね。
一気に懐に踏み込んで二回攻撃の早業でぱんぱぁんって平手打ち。
攻撃は見切りとか野生の勘とか第六感で回避してみせるわ。


吉備・狐珀
信仰をこのように歪めて利用するのは、いかなる事情があれど腹立たしいことですが…。人の裁きは人に任せるとしましょう。
猟兵のすべきはこの歪んだ信仰を生み出すこととなったツミコを骸の海へ還すこと。
月代、ウカ、ウケ、いきますよ!

真の姿になりてUC【破邪顕正】使用。
破魔の力を込めて御神矢を矢継ぎ早に放ちリボンを打ち抜き浄化する。
念動力で操ろうと関係ありません。私の矢は不浄なものをどこまでも追いかけます。
ウカ、月代!
私がリボンを引き受けますから、貴方達はツミコを衝撃波で吹き飛ばし、その爪で薙ぎ払っておやりなさい!
ウケ、貴方はウカと月代がけがをしないように、念のため結界をはり補助をお願いしますね。



●言いつけの由来
「あー、なるほど。それで子供たちには夕方に出るな、なんだ」
 子供の肉は柔くて好きという話を聞いた蛍嘉は、昼間に会った幼女から聞いた言いつけに合点がいった。おそらく、集落に信仰が浸透するよりもずっと昔は、外を遊ぶ子供が邪神に喰われぬようにするための言いつけだったのだろう。
「……たぶん、由来とか忘れられてそうだけど」
 しかし今では子を護るためから、集落を存続させるためにすり替わってしまっていると想像できた。
「信仰とは、そういうものデスヨネ」
 蛍嘉の零した呟きに、クルワは頷く。それらしく、都合よく。意味は歪まされ、真実は隠される。
「そうだよ。どこかで歪むからねぇ……」
 小さな歪みは、長い時間を経て大きな歪みになり。そして、誰かがそれに気づいた時には取り返しがつかなくなっている場合が多い。この集落も、そうなのだろう。

●キレイゴト
「例え始まりやいきさつがどうであれ、住人たちが他者を食い物にした段階で良いものだとは言えないと思う。少なくともここの住民たちはその報いを受けるべきだ」
『報いって……他者を食い物にする。それのどこが悪いのかしらね? 生き延びたければ、他を殺さなきゃいけない時だってあるでしょ?』
 瑞樹の言葉に邪神はそう返すと。小首を傾げ、不思議そうな顔をした。確かに、後者の話だけならばそうではある。
「自分自身が歩み続けるためには、選ばなくてはならない。捨てなければならない」
 それがいきることだと、七結は毅然と言葉を紡ぐ。
 生き続けるということは、選択し続けることだ。たとえ選んでいるつもりはないと言ったとしても、イキモノは無意識に選択をしている。
 そして、選択をするということは、選ばなかった片方を犠牲にするということでもある。七結はそれを理解していた。
「この世には綺麗事ばかりよ」
 ――全てを溢さずに抱いて、全てを護ることなんて叶わない。
「他者のために生命を棄てる……それが出来るひとは幾人居るかしら」
 それが出来るひとほど。消えてゆくのは、はやい。

●純粋な
(「むぅ。なんだか嫌な感じだわ。邪神ってみんなこーなの?」)
 邪神の語りを聞いた露の心はささくれ立つ。
 この集落の住人たちのやり方は間違っていたけれども。彼らだって必死で生きているのだ。なのにこの邪神は、ずいぶんと身勝手だと露は思う。
「……って。何で興味深そうに聞き入ってるの? レーちゃん?」
「ふむ。いい手段ではある。簡単に欲するものが入手できる。そして人でもこの邪神と同等のことを行い、利を得る者は多い」
 シビラは感心したように邪神の話を聞いていた。道徳等を抜きにして考えれば、邪神が組んだ生贄のシステムは効率的だった。
『あんた、わかっているじゃない。あたしは楽に得を取っていただけだわ』
(「え? 自分の利を楽に得る為の手段としては適切? えぇえー!」)
「だが……だがな。これは……」
 続きを話そうとして、けれど突き刺さるような視線を感じたシビラはその方……露の方を見る。露は頬を膨らませ、むすっとしていた。
「ん? 露は何故むくれている?」
 露はシビラの問いに答えを返さず、ぷいとそっぽを向く。
 シビラが評価していたのは効率が良いことだけであり、邪神の取った手段については一切評価していない。
 だがそれを露は知らない。そしてシビラは露に怒りを向けられているとも、一切思っていなかった。

●どちらが狡いのか
「信仰をこのように歪めて利用するのは、いかなる事情があれど腹立たしいことですが……」
 沸々と湧き上がってきそうになる怒りを狐珀は抑え込む。信仰というものは心に寄り添うものであって、心を支配し犠牲を生むべきものではない。かつて神社で人々を見守っていた狐珀は、それをよく理解している。
「経緯がどうであれ、生贄信仰なんて碌なもんじゃありませんね……相手がまともな神様でないのなら、尚更」
 琴莉はそれを言い終えると同時に、ガスマスクを装着した。
 神と崇められていても、それは神ではなく邪神。よこしまで、息するように害を齎す存在だ。本来であれば、信仰するに値しない。
『信仰なんて、人間が勝手に始めたことよ。もしかしたら人間の方が狡いかもしれないわね』
 クスリと邪神が笑ったのを受け、狐珀と琴莉は溜息を吐く。
 邪神の話から推測するに。住人たちの先祖が利を得るために邪神を崇め始めたことにより、歪んだ信仰が生まれ現在へと至っているのが容易に想像できた。
 しかし、
「貴女が作り出した訳ではないとしても。信仰を続かせるわけにはいかない」
 蜜は庇うように住人たちの前に立ち、邪神を静かに見据える。
 この邪神は、自分にとって都合の良い仕組みの味を知ってしまった。
 仮に逃がしてしまったら。此処ではない別の場所で、また似たようなことを始め、犠牲は繰り返されるだろう。
 邪神が開いた楽園の扉は、閉ざさなくてはならない。
 そして。もう二度と、歪みが生み出されぬように。目の前の邪神を、骸の海へと還さなければならない。

●過去は過去に
「そうだね、俺も食べ物がどういう道を辿って自分の所へ来たかは考えない」
 短くした伸縮ロッドを軽く宙に放り投げ、夜は言う。
「でも今この場なら、誰がその道を辿って食べられるかは分かるよ」
 邪神は子供の肉は柔くて好きだと、そう言った。つまりここで逃がしてしまったなら。昼間会話した子供が喰われてしまう危険がある。
 子供の未来が失われてしまうことを夜は、望まない。
「だからここで倒させてもらうよ!」
 夜は落ちて来たそれを掴み取ると、邪神を指す。
 それが、戦闘開始の合図となった。

「月代、ウカ、ウケ、いきますよ!」
 破浄の明弓を手に、声を張り上げた狐珀の姿は。先程までとは違っていた。髪は結い上げられ、その顔を狐の半面が覆っている。

『あんたたちって、なんで邪魔するのが好きなのかしらね!』
 邪神は苛々と、機嫌を損ねた子供のような表情をすると。髪を結っていた赤いリボンを解く。そしてその手から、意思を与えられたかのように数多のリボンが放たれる。それは何処か、蛇の大群にも見えた。
「ウカ、月代! 私がリボンを引き受けますから、貴方達は邪神を吹き飛ばし、その爪で薙ぎ払っておやりなさい!」
 命ぜられた月代とウカは邪神へと向かい飛び出す。
 狐珀はウカと月代が怪我をしないようにと、ウケに結界を張り補助する様に指示すれば。ウケの抱える巻物がしゅるりと解かれ、ウカと月代に堅牢堅固な結界を展開させた。
 それとほぼ同時に、露も邪神へ向かい駆け出す。
「レーちゃんなんか置いてっちゃうんだから!」
 遠くなる露の背を見つめ、シビラは軽くため息を吐く。
(「やれやれ。露は情に流されやすいな。安易な挑発だろうに」)
 とはいえ、このまま無暗に突っ込ませる訳にはいかないと理解していた。
 シビラは素早く詠唱し、数多の紅の剣たちを喚び出すと。それらを自身と茫然自失状態となっている住人たち。そして露の周囲に衛星のように展開させ、盾とさせた。

(『なんなのよ、こいつら……!』)
 二体と一人の進みが止まることはない。
 まるで邪神の心中を代弁している様に。リボンたちは荒々しくうねり、迫りくる。
 だが狐珀が矢継ぎ早に放つ御神矢が。シビラが露の周囲に展開させた紅の剣たちが。リボンを浄化し、斬り裂き。無効化して行く。
 援護する者が居るからこそ。振り返らず、怯まずに前へと踏み出せるのだ。
 月代が風を操るのと同時に、ウカの持つ宝玉がカッと輝くと。轟と邪神目掛けて殴りつけるような突風が吹いた。それを諸に受けた邪神はバランスを崩し、後ろへと吹き飛ばされる。
 そして尻餅ついたその時。邪神の目に、月代の爪が輝いたのが映った。
 邪神は咄嗟に両腕で身を庇おうとするも、時僅かに遅く。肩から脇腹にかけてその身を裂かれる。
 裂かれた箇所からは。赤色ではなく、薄青色が溢れていた。

(「なんかもう直に引っ叩いてやりたいわ。この邪神の子」)
 とにかく露は、邪神少女が気に入らなかった。この手で直に平手打ちを喰らわせなければ、気が済むことが無いくらいに。
 露が両腕に精霊力を集中させれば、その両腕は淡い青に染まり行く。
 そうして腕に充分に精霊力が満ちたところで。露は一旦大きく息を吸うと、止めて。裂かれた傷を押さえる邪神の懐へと弾丸の如く、だんと駆け出す。
 驚愕の色を浮かべる邪神の視線と、怒りが浮かぶ露の視線が交差した。
『っ!!』
 引き攣る邪神の声が聞こえたが、気に掛けることは無い。露は右手を振り上げると、邪神の頬目掛け素早く振る。
 パァンと平手打ちの音が響いて、
「もーいっかい!」
 間髪入れずに反対の腕が振り上げられると、音がまた響いた。両頬を引っ叩かれ仰け反った邪神は、キッと露を睨みつける。
 だがその顔に、次第に苦痛が滲んできた。

●そこに立つ覚悟
 裂かれた痛みに加え。今までに経験したことの無い、身を噛み砕かれているような感覚に責められる邪神の耳に、鈴を転がすような声が聞こえた。
「わたしたちにとってあなたが悪ならば。彼女たちにとってわたしたちは悪でしょうね」
 語る七結の紫彩の双眸には、金環が浮かんでいる。
 その瞳が識りたいのは、ただそこに在る現実。
「わたしが赦したとて、彼女たちの罪は彼女たちのもの」
 そう。住人たちが犯した『罪』が消えることは永遠に、無い。
『ここに住んでる人間たちは罪も何も分かっていやしないわよ! 空っぽなんだから!』
 罪を罪であるとわからぬまま、それを重ねてきた者たちへと、邪神は嘲る。
 邪神はひとを喰らう。ひとを利用する。ひとを――。
 七結は邪神を見つめる。
「……これからも犠牲が尽きないのならば、あなたを祓ってしまいましょう」

 ――たとえ、わたしが悪になろうとも。

 立場や視点によって、それは変わる。自分がその『どちらか』であると決定付けたいからこそ、悪や正義という概念は存在するのだろう。
 正義や真の救いなど、現実には何処にもないのかもしれない。
 不意に。ふわり、ひらりと。花びらが悄然としたままの住人たちへと舞う。
 それは、いのちに添わす花びら。呪いを祓い、自己を取り戻すための花びら。
 住人たちの邪神に対する信仰は、言い換えれば長い期間を経て完成された洗脳であり、呪いだった。
 真に求めていたものは、安心。支えを欲していただけなのだ。しかしその支えとなった柱はいびつで、よこしまなものだった。
 今、七結は住人たちの支えとなっていたものを祓わんとしている。それは怨まれ、憎まれる側になってしまうこと。
 けれども七結にはその立場になる覚悟があった。
『痛っ!! 何なの?!』
 邪神の頬を、何かが掠め。そこからじわりと薄青が流れ出した。
 掠めたそれは、七結がいとを込め差し向けた留め針たち。
 数多の留め針たちは、過去は過去に留めてしまわんと。次々に、邪神の身体へ突き刺さる。

●切り開くために
『……っ! うざったいったらありゃしない!!』
 音も無く。邪神の足元から、透明な青い鳥たちが現れた。
 琴莉はすぐさまその青い鳥たちへ向け、Mikhailの銃口を向けると引き金を引く。だが、弾丸は鳥たちをすり抜けてしまった。
(「攻撃が当たらない……ふぅん、なるほど」)
 当たらないということは、実体を持っていない。
 それは厄介なことではあるが、単純なことでもある。
「貴方みたいな鳥もいるものですね、Ernest」
 ガスマスクに住まうErnestへと琴莉は声を掛ける。
 ――当たらないのならば、当たるようにしてしまえば良い。
 琴莉はErnestに、鳥たちへと干渉しチャンネルを此方側に揃えるように指示する。
「似たもの同士、要領は得ているでしょう?」
 するとガスマスクのレンズの片隅に『No sweat.』という一文が表示された。
 Ernestがハッキング出来るのは、電脳世界に限ったことではない。元電脳の海産UDCである彼は、霊子的にだってハッキングを行うことが出来る。
 邪神の放った鳥たちの解析をErnestは瞬時に完了させると、干渉して。波数の書き換えを行い、同じ次元まで落とす。
 それを例えるならば、ペイントソフトのレイヤーと同じだ。お互いが触れあえない階層位置であっても、統合し同じ階層にしてしまえば触れることが出来る。
 同じ次元の存在へと書き換えられてしまった鳥たちは、透明度が下がり強制的に実体を得てしまう。
「これで攻撃が当たる筈です」
「それじゃ、遠慮なく!」
 琴莉の言葉を受けた夜は駆け出して。伸縮ロッドを振り、鳥たちを叩き落し。時には受け流して邪神との距離を詰めて行く。
『ちょ……! 近付くんじゃないわよ!!』
 獲物に飛び掛かる蛇が如く。赤いリボンが夜の身に迫った。
 けれどもそれは夜に届くより前に、狐珀の御神矢によって撃ち抜かれる。
「幾つ操ろうと関係ありません。私の矢は、不浄なものをどこまでも追いかけます」
『――っ!!』
 矢を番える狐珀へと、邪神は憎々し気な視線を送る。
 邪神がリボンを操ったのは、夜の動きを止め時間稼ぎをする気だったからだ。
 蓄積されたダメージにより思うように動けぬ邪神は、少しでも回復のための時間を稼ぎたかった。が、それは封じられてしまった。
「はいはーい。よそ見してる余裕、ある?」
 ハッとした邪神がその声の方を見れば。不敵に笑う夜がすぐ側まで迫っていた。
 その手に握られた伸縮ロッドは、バチバチと音を立て、青白い電撃が走っている。
「それじゃ、ちょっと……いや、結構下がっててね!!」
 住人達から少しでも引き離さんと。ありったけの力を篭めて、夜はロッドを邪神の懐へと叩き込んだ。
『あぐっ……!』
 ロッドを握る手に確かな手応えを感じながら、夜は思う。
 ――過去が未来を食べるなんて、ナンセンスにも程があるでしょ?
 叩き込んだ勢いに任せて押せば。邪神の身体は宙に浮き、後方へと飛んで行く。
 赤いリボンが、ばっと邪神の後方に展開された。それは、邪神が自身を受け止めさせるために展開させたものだった。

●闇に紛れ
 リボンに受け止められながら、邪神は読みの甘さを後悔しはじめていた。
(『思ってたよりも強いんだけど……!』)
 突然。辺り一帯に梔子の白い花弁が舞い散り始めた。それは眠りへと誘う香りを伴う花弁。邪神は猟兵達を眠らせ、その隙に逃げようとしているのだ。
 けれどもその香りは、花弁は。猟兵達の意識を奪うには至らなかった。
「眠りは厄介デスカラネ! 念のため、覚醒結界を張っておいてマスヨ」
 花の香りが意識を奪うものだと、先の使い魔の鳥たちと遭遇した時に知り得ている。それと似たような業を邪神が使ってこないとも限らないと、予めクルワが結界を張っていたのだ。
 蛍嘉は刀へと変化させた藤色蛇の目傘を。クルワは妖影刀『甚雨』を握り二手に分かれると、邪神へ駆けだす。
 どちらを先に仕留めるか迷う邪神の視線は、定まらず。闇夜に紛れ、迫る第三の存在を捉えることが出来なかった。
『っあ!』
 気付いた時には、その存在はすぐ近くに。それは瞳が夕陽色となった瑞樹だった。
(「まずは、目の前のこの子を倒さないと」)
 兎にも角にも、邪神を倒さなければ先に進むことは無い。
 邪神はリボンを操り、瑞樹へと放つ。けれども瑞樹は右手の胡と、左手の黒鵺を振るい斬り捨て、難なく受け流して。
 しかし、全てを受け流せるわけでは無かった。間隙を縫い、瑞樹へと迫らんとするリボンもあった。けれどもそれらに裂かれた痛みは耐えて、前へ踏み込むことを優先する。
 そのまま懐へと潜り込んだ瑞樹は。邪神の胸を黒鵺で、ざんと一閃する。
 ぱっと、薄青の飛沫が飛び散った。

 一閃された勢いで姿勢を崩す邪神へと、蛍嘉は正面から一気に距離を詰める。
「まあ、見下したことが一番の間違いだったね」
 邪神は反撃したくとも。先の瑞樹の一閃に込められていた麻痺の戒めによって、反撃できずにいた。
「さて、残っている梔子の花も香りも散らそうか!」
 踏み込んだ蛍嘉は、荒々しい雨の如き斬撃を繰り出して。未だ残っていた香りと梔子の花を、雨に、風に。すべて流す。
 思うようにいかないことに、邪神は下唇を噛む。
『……え?』
 それなのに、素っ頓狂な声を出したのは。背から胸を刀が貫いたからだ。その刀は、背後から迫っていたクルワの甚雨。
「隙をつくのも、立派な戦術デスヨネ」
 甚雨の刀身を邪神から引き抜きながら、クルワは零す。
「そう。……忍びの家に生まれた私に、誉はないしね」
「……ソウデスネ」
 忍は影、潜むもの。表舞台で、光を浴びることはない存在。蛍嘉の呟きに、クルワはどこか淋し気に頷いた。

●とける、かえる
 身を裂かれ、貫かれ。限界に近付きふらついた邪神の身体を。何者かが受け止めた。
『あんた、いつの間に……!』
 その者の顔を見上げた邪神は目を見開き、驚愕を禁じ得なかった。それは住人たちの前に居たと思っていた蜜だったからだ。
 確かに。蜜は住人たちに危険が及ばぬ様に、庇うように彼らの前に立っていた。
 しかしそれは邪神の思い込み。今はシビラの紅の剣たちが盾として住人たちを護っている。ずっと蜜が庇い立つ必要は無い。
 それに邪神の意識は、住民たちよりも攻撃を繰り出してくる猟兵達へと向いていた。
 その隙に蜜は自身を液状化させ、目立たぬようにしながら。邪神の足元まで音も無く近付いていたのだ。
 そして体内の毒を濃縮させながら機を見計らい、人型となりて。邪神の背中から手を伸ばした。
 蜜にひとたび触れられたならば。その箇所から毒蜜が、身体を侵蝕しはじめる。
「貴女に染みゆく私の毒蜜は。幾年も蓄えた力そのものを全て、融かす」
 蜜は毒。
 一滴でも触れてしまったならばひとたまりもない蜜自身に、確りと受け止められてしまったなら?
 邪神は慌て蜜を突き飛ばし飛び退くが、時既に遅し。
 急速に力が失われてゆくのを邪神は感じていた。力だけではない。今まで喰らい得た知識も、身体の動かし方も。溶けていく。
「捧げた毒が、全て融かす」

 ――貴方達の招いた末路を見届けるといい。

 住人たちへと向けて、蜜は言い聞かせる。現実を見ない者に、未来が来ることは無い。
 邪神はその姿を始まりの姿へと。鳥の群れへと退化させられていく。
 言葉を忘れ、ヒトのカタチを忘れ。けれども『生き残りたい』という原初の欲だけは忘れぬまま。邪神は残る力を振り絞り、飛び立たんとしていた。

●真白に消ゆ
「私、寒がりなので。春は結構好きなんですよ、暖かいから」
 琴莉の言葉は、鳥の群れとなった邪神に届いていないだろう。
 それでも、琴莉は言葉を続ける。
「でも貴女の楽園は、正直、好きにはなれなそうなので」

 ――申し訳ありませんが、塗り替えさせていただきます。

 響いた銃声。けれども向けられた銃口の先は、天上。
 それは偽りの楽園を、氷雪に閉ざされた女神の神域へと塗り替えるための弾丸。
「飛べるものなら、飛んでみせて」
 はじめに。霰混じりに雪が、ちらついた。それらは直ぐに、勢いを増す。
 そしてびょうびょうと吹き荒ぶ風がそれらを舞い上げ、地に叩き付ける。
 鳥たちごと、叩き付ける。
 羽に霜が張り、凍えて動けなくなった鳥たちは。真白の雪の中に埋もれて。
 二度と、飛び立つことは無かった。
 それが、ヒトをクイモノにした邪神の末路だった。

●冬が終われば
 夜が明けると。UDCの職員たちが、住人たちを連行するために集落に訪れた。
 住人たちはこれから連行された先で記憶処理や、裁きを受けることになるだろう。
 人の裁きは人に任せると。狐珀はそれに介入する気はなかったけれども。関わった子供たちが気掛かりだった。
 それは夜も同じで。夜は職員を一人呼び止めると、子供たちはどうなってしまうのか訊ねてみる。
 職員曰く。大人たちが償いを終えるまではUDC養護施設で預かることになるという。
 大なり小なり、大人たちは祝祭に関わっている。けれども子供たちだけは、何も知らない。
 説明やつじつま合わせはどうするのかと狐珀が問えば。「そのつじつま合わせは、UDC職員の十八番だ」と職員は笑った。UDC職員たちはその道ではプロ。似たような案件を、いくつもこなしているのだろう。
 ひどい扱いは絶対にしないと、力強く言う職員に。夜と狐珀はほっと胸を撫で下ろす。

 蜜は連行される住人たちに背を向け、歩を進めようとして。けれど振り返り、口を開いた。
「彼女はかみさまではなくて……そして、他人の命の上に成り立つ楽園などあり得なかった」
 ただそれだけのことなのだと、蜜は告げると。また踵を返し、もう振り返ることは無かった。
『儂らは……やり直せるのじゃろうか……』
 蜜の言葉を受け、白く長い顎髭を蓄えた老人がそう零す。集落長だ。
「やり直してはいけないなど、誰が決めたんだ?」
「そう思ったのなら、やり直せるわ」
 集落長へと声を掛けたのはシビラと露だ。裁きは受けることになる。けれども、悔いて償い、やり直しを願えるならば。未来が途絶えることは無い。
『今までやり直せないと、思い込んでいたのじゃが……そうか……そうか……』
 やり直しを集落長が願えたのは、七結の花びらによって呪いから解かれたからだった。
 老人は涙を一筋流すと。UDC職員に連行されて行った。

 歪んだ楽園は、もういらない。
 例えやり直しの道が、辛く厳しいものであったとしても。
 春は、きっと訪れる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年02月12日
宿敵 『ツミコ』 を撃破!


挿絵イラスト