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酔刃

#サムライエンパイア #猟書家の侵攻 #猟書家 #『刀狩』 #妖剣士

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●鬼と化す
 男は真面目な行商人だった。
 旅路を安全に往くため刀の扱いには長けていたが、人格者であり不義に刃を振るうことなどない男だった。
 あるとき薬の代がないと告げた浪人風の男に刀を渡された。売って金にしてくれと。
 それよりも妻のために薬が欲しいのだと。
 受け取れぬと断った男だったが、妻の命を武士の誇りで贖うのだと、そう言われて押し切られた。
 だから──その刀を売り払うことができなかった。
 いつかあの浪人風の男に再びまみえたなら、なにかの対価とこの刀を交換しよう。
 妻の命も武士の誇りも、喪うべき者ではない。そう思った。
 男は、そう思ったのだ。

 けれどそれが悲劇を招き寄せた。
 血塗れの家屋の中で、男は不意に我に返った。これはどうしたことだ?
 なぜ、己の家族が血溜まりに伏せているのか?
 なぜ、己の手には血塗られたあの刀があるのか?
 己が──やったのか?
 嗚呼。己が──やったのだ。
 薬に。そう。薬に人血が佳いのだ。人血はそのまま飲めば催吐作用がある。だから多量に集めて、固めて、それをすり潰して粉末にして──嗚呼、嗚呼、そうだ。
 なんという所業。
 なんという悪鬼。
 薬? そんなどこぞの誰かをも知らぬ者を助けるもののために己は、己が血族を皆殺しにしたのだ。
「は──は、はは」
 ついぞ、嗤いが零れた。
「ははは……ははははははッ! あはははははは!」
 そして男は、鬼と化す。
 頬を伝うひと筋の涙を忘れたようにへらり薄い笑みを口許に刷いて、男は血腥い家屋へ背を向けた。
「佳い、佳い」
 唄うように、行李を背負いつ、歩き出す。
「人を呪わば穴ふたつや云うてな。もうボクはボクを呪うてしもた。さあ、欲しがりや。ふたつ以上の数え方はみぃんな『たくさん』や、ボクの呪いを分けたげよ」
 誰に聞かせるでもなく嗤いながら、男は目覚め始める村の方へと足を向けた。

●『刀狩』の遺志
 語り終えた憩・イリヤ(キミガタメ・f12339)はひとつ肯いた。
「これは猟書家の幹部だった『刀狩』の『仕掛け』がまだ働き続けてしまってる……ってお話なの。鬼と化した男のひとの名前は弥平。彼が手にした刀にオブリビオンが憑依して弥平を操って──最終的には正気を失くさせることで優秀な配下とする……それによって『江戸幕府の転覆』を図る──それが、クルセイダーの目論見なの」
 イリヤはただ顔を歪めた。この戦いを終えても弥平の家族は戻りはしない。
「それでも、このひとはまだオブリビオンじゃないの。戦って、正気に戻してあげることはつらい事実と向き合うことになっちゃうけど……イリはやっぱり、死なせるわけにも、いかないと思うの」
 壊れ切ったように嗤い刃を振るい他者を呪う弥平を無力化したなら、その刀へ憑依したオブリビオンが姿を現すだろう。猟兵が声を掛けたなら、弥平も改めて己の意思で武器を手に取り、怒りと恨みの矛先をオブリビオンへと突き付けるだろう。
「……その感情の強さは、……猟兵にも匹敵するくらい、だと思うの」
 元より力のある妖剣士ではある。
 それでも、一般人が埒外の存在である猟兵に肩を並べるほどの、憎悪。
「一緒に戦えば、戦闘自体は有利に運べると思うの。そこは……みんなに任せるの」
 場所は朝を迎える村へと続く一本道。
 猟兵達はいつもどおり、まずはかわるがわる弥平へと襲い掛かることになるだろう。
「迎え撃つのはまずは鬼で、その後は鬼を生んだ狂気なの。甘くみてると、手酷い怪我をしちゃうかもしれないから、」
 そう言ってイリヤは猟兵達を送り出す。
「──どうか油断しないでね」


朱凪
 目に留めていただき、ありがとうございます。
 丁寧に戦闘を書きたい。朱凪です。

※まずはマスターページをご一読下さい。

▼全章(全2章)を通して
 ちょうゆっくりペースで書きます。
 3日間のプレ期間で、朱凪が『動かせる!』ってなった方を『ひとりずつ』描写していきます。
 先着順ではありませんが、早め送信の方のほうが考える時間が長くなるので採用率は高めかもです。
 👑の数に🔵が到達したら〆切ですが、時間切れで返却になっちゃっても、お気持ちにお変わりがなければ再度投げてもらっても大丈夫です。
 今回、採用人数はそんな多くはできないと思います。

 戦闘スタイルや武器へのこだわり等ありましたら色々(プレイングで)教えてもらえたら嬉しいです。
 『あなた』なりの戦闘をめいっぱい書きたいです。
 あるいはお任せも歓迎ですが、ギャンブル要素高いです。

 2幕は幕間を追加しますのでお待ちくださいましたら幸いです。

 では、残酷な物語へ挑むプレイング、お待ちしてます。
201




第1章 ボス戦 『嗤う厭魅師』

POW   :    人を呪わば穴二つ
対象のユーベルコードを防御すると、それを【召喚した対象の影姿で再現し】、1度だけ借用できる。戦闘終了後解除される。
SPD   :    呪殺符
レベル×5本の【即死】属性の【呪符】を放つ。
WIZ   :    蟲術
【猛毒】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は御狐・稲見之守です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ビディリー・フィズン
■口調
「…」を多用

■行動
朝焼けに勝る美貌振りまき降臨
仁道通す商いをしていた彼の心根は感心に値する
望まざる凶行は止めねばならない
「……だってボクは、王子様だから」

自らの手で愛しき者を失う、その心の喪失は計り知れない
しかし自らの所為で人が殺し合う様は幾度となく見てきた
だから分かる
自身を呪わないで、他者を呪わないで、死を求めないで
死を振りまくのではなく、笑顔を齎して生きるのが彼の責任だ
「……辛い道です。ですが、君なら出来ます」

死の呪符も王子様の威光の前には平伏し地に落ちる
邪魔は無礼、ボクは弥平と話したいだけ
弥平、声を聴いて、ボクを見て
ボクも見る、そうすれば
「……君のこれからを、ボクが肯定します」



●暁光
 綺羅と長い長い海色の髪を冴えた朝陽に泳がせ、ビディリー・フィズン(虚栄の王冠・f20090)は平らに均された土を踏みゆく。
──弥平。
 仁道貫く商いをしていた、鬼と化した男の名を胸の裡で呼ぶ。その在り方を、心根を、美しいと思う。自らには、遠く及ばねど。
 さり、と。微かな衣擦れと共に男の前へと歩み出た彼は、弥平の眼に渦巻く狂気と憎悪に長い睫毛を伏せがちにした。
──……自らの手で、愛しき者を失う、……その心の喪失は、計り知れない。
 かつて器物であった頃。美しく在り続けた彼の周囲は魅了され惑わされ──殺し合う。その凄惨な光景をビディリーは幾度となく見てきた。そしてそれが、己の所為だと知っている。
──だから、分かる。
 男が己自身を呪う心を。他者を憎む想いを。死に縋る希みを。
「……君を、止めに来ました、……弥平」
「なんや、キミ」
 男が嗤う。高い背丈から、視線がビディリーを捉えた。
「……君は死を振りまくのではなく、笑顔を齎して生きる責任がある、……と考えます。……辛い道です。ですが、君なら出来ます」
「はッ、」
 男は嗤う。ビディリーの声を、聴いたが故に。
「ボクにはもうなにもあらせん。責任も、なにも。嗤わすわ──鬼に人を説くな、童!」
 壮絶なまでの笑みが暁光を背に受けた影の口許を大きく裂いた。薄く開いた男の眸には純粋な殺意が宿って炯と燈る。素早く放たれた幾多の呪符が、
「……いいえ」
 ぴたり、中空で止まって、はらはらと力なく落ちてゆく。邪魔は無礼だ。彼はただ弥平と話したいだけ。
 分かるのだ。彼が、仁道を通し続けた弥平が、この先の凶行を望むはずがないことを。
 ひたと、ビディリーが男を見た。
「……だってボクは、王子様だから」
 彼は傲慢だ。なにをも思いのままにしたい。──否。自然となる。そう信じている。
 恍惚──コノトキメキハコイカシラ。彼の美しい振る舞いを見、美しい声を聴き、美し過ぎる視線を身に受けた者は力を喪う。王冠の放つ栄光に勝手に眩む。
 彼はただ在るだけ。
 彼は昔から、ただ──在っただけ。
「は、ははは……ッ」
 男は嗤った。たった今し方血族を斬り伏せた凶刀の柄を握る。男は鬼。狂わされた鬼。ただ在っただけの刀に、狂わされただけの──鬼。
「けったいやのォ! ボクはキミみたいなヤツが、いちばん嫌いや!」
 美しさ故に、技は成る。故に声は、届かない。
 振りかぶられた刃が、鈍い音で風を斬った。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

待鳥・鎬
鮮血のような花を咲かせるあの植物も催吐剤になったっけ
今回の経緯を聞くと、彼岸花という名前もちょっと皮肉に聞こえるけど
つまり、反吐が出るってやつだ

杞柳と一緒に戦うのは初めてかな
宜しくね、相棒
基本は相手の射程外からUCによるヒット&アウェイ
杞柳の翼を借りた[早業]なら、実力差も補えるはず

何故殺めたのかが薬のためというなら、何故、行商のあなたが人血で薬を作ろうなどと思ったのでしょうね
己を呪って世を呪って、このまま狂気に溺れた方がいっそ楽なのでしょうけど…
その何故は、その違和は……あなたとご家族の無念は、永遠に蟠って残る

…私なら、どうせ自棄になるなら怨敵を討ってからにします
余計なお世話かもしれませんが



●毒にしかならない
「殺めたのが薬のためと言うのなら、」
 ふわり、洋袴〈スカアト〉を翻し、威嚇のために撃った一撃は鬼を跳び退かせることに成功する。琥珀の瞳に朝の光を受けて、ふ、とガジェットの先から揺れる煙を吹いて腰のホルスターに仕舞った。
「何故、行商のあなたが人血で薬を作ろうなどと思ったのでしょうね」
 そんなものは聞いたことがないと、薬匙は──待鳥・鎬(町の便利屋さん・f25865)は言う。
「はは。何故やろね。もう──そないなこと、如何でも佳い。ボクは家族を刻んで薬作ろ思た云う事実があるだけやし」
「ッ、杞柳」
 放たれた呪符。呼ばわる声に応じて、柔らかな羽毛に包まれた有翼の蛇がくるりと彼女の腕に巻きつき──憑依する。鎬の背から広がった雪色の翼の羽搏きによって、すんでのところで死を齎す符を躱した。彼女は小さく息を吐く。
 星降る夜に出逢った使い魔と共闘するのは初めてだが、息の合い方に不安はない。
「このまま宜しくね、相棒」
 穿牙。杞柳の力を身に宿すことで得る翼と──霊刀。鎬の右腕を覆うように白く伸びたそれを水平に構えて、彼女は力強く滑空した。音をも置き去りにするほどの刺突。
 鬼の肩を深々と貫いた刃を引き抜けば、朝焼けの空に鮮やかな紅が舞い散った。
「がぁアッ!」
──ああ。
 けれど迅速に羽搏き再び鬼の手の届かぬ空へと逃げた鎬の思考は、とろりと苦い薬湯の混ざるかの如き混濁を浮かべ、微かに彼女は目を眇めた。
──鮮血のような花を咲かせるあの植物も催吐剤になったっけ。
 此度の弥平とその家族の身に起こった悲劇を思えば、彼岸花という名前も皮肉に聞こえるところではあるが、つまり。
「……反吐が出るってやつだ」
 ぽつり、吐き出すのは便利屋としての『猫』を置いた彼女の想い。そして彼女は僅かに首を振って、もう一度力強く羽搏いた。
 雪色の霊刀を静かに構える。
「己を呪って世を呪って、このまま狂気に溺れた方がいっそ楽なのでしょうけど……その“何故”は、その違和は……あなたとご家族の無念は、永遠に蟠って残る」
 如何でも佳い? そんなことはない。
 考えないようにしているだけ。逃げているだけ。
 再び叩き付けられる切っ先に、身を捻る。肉が裂けて、血が散った。大きく裂けた腕でそれでも男は呪符を鎬へと叩きつけた。即死の属性を持つ呪符。がくり、彼女の瞳から光が失せる。やった。鬼は嗤った。
 けれど。
「……私なら、どうせ自棄になるなら怨敵を討ってからにします。余計なお世話かもしれませんが」
 くん、と。瞬時昏くなった意識が──瞬きの間に戻る。彼女はヤドリガミ。その肉体は仮初のものだ。何度だって蘇る。大切なひとが、いない世界でも。それでも。
「薬と毒は表裏一体です。……ならば僕は、薬でありたい」
 

成功 🔵​🔵​🔴​

黒鵺・瑞樹
アドリブ連携OK
右手に胡、左手に黒鵺の二刀流

刀を生業としない人も巻き込むなんて、刀狩が残したものは本当にひどい。
でも怒りも恨みも狂気も、生きてるからこそ。
時には生きる糧になる事も俺は知ってる。

存在感を消し目立たない様に立ち回る。
そしてUC五月雨で攻撃。同時に投げられるだけの飛刀も投擲、UCと飛刀でなるべく多く呪符を相殺しつつ接近。直接二刀で攻撃を仕掛ける。
敵の攻撃は第六感で感知、見切りで回避。
回避しきれないものは本体で武器受けで受け流し、カウンターを叩き込む。
それでも喰らうものは激痛耐性で耐える。
即死といっても即死の呪いであれな呪詛耐性で耐えられるはず。



●閃
 場所は朝を迎える村へと続く一本道。
 隠れる場所はない? そんなことは、ない。
「っ?!」
 百にも届きそうな数の黒刃。幾多と降り注ぐは五月雨。刀を握り締める鬼の腕を裂いた大振りの刃の隙間を縫うが如き柳葉の飛刀が更なる傷を刻む。
 隠し切れない存在感は朝影と、──他の猟兵の蔭に潜ませて。
 影に灯る黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)の碧眼と、鬼の双眸がかち合う。
「は──はは! 姑息な!」
「仕方ないだろ。性分だ」
 咄嗟に放たれた呪符を右手の刀が叩き落として、舞いのように踏み込む勢いそのまま、まろび出るように左手の刃が次々と襲い来るそれを更に斬り裂いた。
 彼もヤドリガミ。本性は暗殺者が愛用したナイフだ。闇に紛れる暗殺は最も得意とするところだ。嗤う鬼に、特に気を害す様子もなく目を細め瑞樹は襲い来る紙吹雪の中を舞い泳ぐ。
「ならキミの願うも人の死か?」
 お揃いやね──ニィイイ、と歯を剥いて嗤う鬼の顔が、幾多と舞い散る呪符の向こうに消える。瑞樹は胸中で舌打ちのひとつもしたい想いで更にふた振りの刃を振るった。
 その狂気が、鬼、否、弥平そのひとのものではないことを彼は知っている。
──刀を生業としない人も巻き込むなんて、『刀狩』が残したものは本当にひどい。
 脳裏に浮かぶのはひとりの少女。そして彼女と共に相対した白銀の龍。
「ッ!」
 ひらり、舞い散る符が風に躍り瑞樹の肩に貼り付く。籠められているのは“即死”の呪い。けれど彼は歯を食い縛った。呪いには耐性がある。破魔の力も充分に備えている。
 だから。走り抜けた激痛を、短く吐いた呼気と共に捨て置いて。
「……揃い、だろうな。でも、同時に全く違う」
 彼に籠められた願いは人の死でありながら、人の死ではなかったから。今もそうだ。
 弥平を斬るのは弥平の命を断ち切るためではないから。
「怒りも怨みも狂気も、生きてるからこそ。時には生きる糧になる事も俺は知ってる」
 瑞樹はナイフを握ったままの左手で、貼り付いた呪符を引き剥がす。
「生きろ、弥平」
「ほたえなや!」
 短く告げた言葉に鬼は嗤う。再び襲い来る呪符の流れを、風の動きを、読み切って彼は更に刃を振るった。
 場を覆うが如き呪符に幾多と、紅が散る。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

天霧・雨吹
刀狩の所業は、つくづくと醜悪なもの
己が力を恃むのならば言の葉の一つでもと思えど
他を絡め取り、嘲笑い、踏み躙る、その悍ましさには言葉もない

だから、弥平
戻っておいで
無論、喪われた命は戻らぬ
だが、ただ一つ残っているものがあろう
きみが為さなければならぬこと
呪を撒き散らす八つ当たりではなく
きみの血族が無念を、きみが晴らさねば

一人で戻れぬならば、手を貸そう
仇を討つに力が及ばぬというならば、背を押そう
きみの手で決着をつけるために
戻っておいで

無差別攻撃ならば狙いも甘くなろうと
見切りや残像にて避けるを心がけ
ある程度の毒は覚悟の上で
全力を込めて冰雷を放ち、早めに勝負をかける



●器と人と神の声
 やれ、と。
 吐息をひとつ。天霧・雨吹(竜神の神器遣い・f28091)はその夜帳色の瞳を道の先に在る鬼へと向けた。
 『刀狩』の所業は、つくづくと醜悪なもの。
──己が力を恃むのならば言の葉の一つでもと思えど、他を絡め取り、嘲笑い、踏み躙る、その悍ましさには言葉もない。
 雨吹も白銀の肢体持つかの猟書家に既に一度まみえたことがある。同じ竜の字を戴く者としてただ吐息が零れたものだ。風上にも置けぬものだった。
「なんや。キミも説教か?」
 左腕は大きく裂け、顔にも胸にも脚にも幾多と斬り傷が走り、着物は紅に染まる。それでも首を捻るようにして振り返り、嗤う鬼が袖を泳がせ腕を振るった。
「鬼に人を説くなと言うに!」
「いいや、」
 撒き散らされる禍々しい色合いの液体が猛毒であることを知っている。
 大小、真円に楕円、飛沫に大粒──種々に形を変えるそれを雨吹はひとつひとつ、丁寧に見遣り泳ぐが如く避ける。無差別に振り撒かれた狙いは定まりにくかろうとより意識を縒ってひとつにして。
 もちろん、全てをすべて、避け切ることは不可能だ。
 清水に親しんだ膚を猛毒が蝕むのを感じながらも、けれど雨吹の視線は揺るがない。
「きみは人の子だよ、弥平。だから、」
 戻っておいで。
 囁く声音は凪いでやさしく。霧雨が肌を濡らすかの如く、しめやかに。
「無論、喪われた命は戻らぬ」
「、」
 真をのみ伝える声に鬼の嗤いが微かに引き攣った。それを雨吹は「だが、」敢えて見えぬふりをした。
「ただひとつ残っているものがあろう。きみが為さなければならぬこと……呪を撒き散らす八つ当たりではなく、きみの血族が無念を、きみが晴らさねば」
「嗤かすわ。ボクが殺したんや。ボクが斬り刻んだんや。だからボクはボクを呪うた、家族の無念晴らすならボクが死ねば佳い──そんなこと判ってる」
「耳を塞ぐが得手かい。ひとりで戻れぬならば、手を貸そう」
 他の猟兵たちの言の葉も、きっと弥平には届いている。だからこその拒絶だ。雨吹はそと夜映す竜珠を手にした。
「仇を討つに力が及ばぬというならば、背を押そう」
 練り紡ぐ力は全霊を以て。
 竜珠から湧き起こる流れは渦巻く流れのようで、あるいは叩き付ける豪雨のようで。水の気が満ちたなら急速に冷気を帯び、同時に黄金に、または蒼く光る雷光が氷片を纏って彼の周囲へ満ち満ちる。
「きみの手で決着をつけるために」
 打ち付けられた猛毒に侵され、右眼は痛み眩んだ。それでも竜神は手を差し伸べた。
「──戻っておいで」
 凍てる雷光が、鬼を灼いた。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

ヲルガ・ヨハ
アドリブ可

半人半龍の乙女と
それを抱き抱える龍面の男
否、土塊と血とまじないで拵えたからくり人形

薄絹の奥、紅の色が微笑む
ーー瞋恚にはらわたを焼くか、人の子よ

言の葉など無粋
お前の武勇をわれに奉ぜよ

"おまえ"
呼べばわれを抱える人形が、地を駆る
云わば、一心同体
近ければ人形の蹴撃と拳撃で
遠ければわれの龍の尾で打ちつける

さて、力の差があるだろうか
喪った神力が口惜いなれど
……庇うか、"おまえ"よ
なれど
その呪い、われが受け止めよう

【雲蒸竜変】で反撃

あまねくすべてを喪えど
あらがい、あがき、立ち上がる
そのような人の子は好ましくおもう
なれど……

覚悟もなく志もなく
血腥いばかりは好かん

あらがえ、あがけ
見届けよう、人の子よ



●一対
 薄絹の奥、薄らと乙女は口許に笑みを刷く。
「──瞋恚にはらわたを焼くか、人の子よ」
 麻痺したように巧く動かぬ右手でなおも刀を握り締めたまま、鬼は乙女を──ヲルガ・ヨハ(片破星・f31777)を嗤って見遣った。
「キミもカミサマって奴か? 高みの見物とは恐れ入るわ」
 下半身が龍のヲルガを擁くのは龍面の男の褐色の腕。否。土塊と血とまじないで拵えた“なにものか”。
 ヲルガは鬼の安い挑発を拾うことなくさらと銀の髪を揺らし、長い睫毛を伏せた。
「言の葉など無粋、お前の武勇をわれに奉ぜよ。──“おまえ”」
 呼ばわると同時に龍面の男が彼女を抱えたまま地を蹴った。
 瞬足に間合いを詰めた男と龍の乙女へ、鬼は素早く中空を覆い尽くすほどの呪符を放ち遮った。
 ヲルガは紗の蔭で微かに柳眉を顰めた。痛感する力量の差。竜神たる彼女が喪いし神力を思えば微かに口惜しくはあれど、それをただ憂う無能さは持ち合わせていない。
 長くしなやかな竜鱗の尾で符を打ち払う。けれど意図したヲルガに先んじて、呪符と彼女の間に割り入ったのは龍面の男の肩。
 土塊を叩き潰すが如き音がして、微か揺れた彼女の身体。けれど人形たる男はヲルガをしかと擁いたまま身を捻り更に彼女へと追撃せんと襲い来る呪符を蹴り裂いた。
「……庇うか、“おまえ”よ。なれどその呪い、われが受け止めよう」
「ははっ、なんや、ただの死にたがりなん? なら欲しがるままにくれたげよ。今のボクなら殺したげられる」
 鬼が嗤う。それへと乙女は静やかな眼差しを送った。
「あまねくすべてを喪えど、あらがい、あがき、立ち上がる。そのような人の子は好ましくおもう」
 伸ばした白い腕へと吸い込まれるように呪符が貼り付き、ヲルガはその身を蝕む痛苦に奥歯だけを噛み締めた。人間の竜神信仰を糧とする彼女達にとっての『即死』とは、なにを意味するのだろうか。
 軽んじられることか。あるいは、忘れられることか。
 呼気を奪われ視界を奪われ、声は枯れて指先に“おまえ”の肌の感覚も判らない。
 それでもヲルガは全てを紗に隠す。なれど。声は紡ぐことができただろうか。彼女の耳には届かない。
──覚悟もなく志もなく、血腥いばかりは好かん。
 解き放つ、雲蒸竜変。彼女を擁くからくり人形は命ぜられるよりも疾く意図を知るかの如く、流麗に踏み込み鬼へと間断ない蹴撃を繰り出した。回転するように右を叩き込み、鬼にそれを受けられたならばそこを支点に左を繰り出し、鬼の身を蹴りつけて反動をつけて距離を生む。足が地に着くや否やの間にヲルガの長い尾が鬼の目を狙い打つ。
 たたらを踏む鬼を──否、弥平の姿を、呪いに蝕まれ見えずとも感じるのは眼前にある彼女の存在を彼が、人間が、忘れていないからなのだろう。
 ヲルガは微かに微笑んだ。
 あらがえ、あがけ。
 それをわれは見届けよう、人の子よ。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

ユルグ・オルド
んふふ、これまた不釣り合いなモノをお持ちで
や。ギャップッてヤツかな

爪先ならしてシャシュカの一振りと
柄に手をかけて窺うのは抜くべき時
喋んのが好きなのも時間稼ぎで距離計ってんのもホント

でも、鬼と成ったその刃
受けてみてェのが一番かね
止められず踏み込んで駆け出すなら――本能かなァ

真直ぐに振り抜くことだけを考えてる
息をして拍動する内で一番、
受けてみせて、返してみせて、
それとも描いた通りの軌跡でもいい
緩めず続くのは呼吸するように
怯まず踏み込むのは届くように
顧みないのは欠けないと思ってっから
それとも予想外が欲しいから

閃くその一瞬だけを絶えぬぬように
立つ場が違えば
俺も違わず、鬼だったかな



●ともすれば地続きの
「これまた不釣り合いなモノをお持ちで」
 均された道の砂利をブーツがにじる。朝焼けの光に、紅い双眸が炯々と灯る。
 ユルグ・オルド(シャシュカ・f09129)が見遣るのは、行商人たる弥平の手にある血に濡れた刃。
「や。ギャップッってヤツかな」
 悪かねェのかもネ。そいつが汚れてなけりゃさ。無造作にすら見える足取りで進む彼をけれど当然鬼は警戒する。
「キミこそ、よく斬れそうなモンをお持ちで」
「んふふ、バレた?」
 腰に下げた『己』──鍔持たぬひと振りの柄へ手を掛けていたならば察することは如何にも容易い。隠す気もないユルグの思惑は透けたところで構いはしない。
 人の身得たが故にか、あるいは他のなにかか。喋ることが好きなのも、間合い測るための時間稼ぎなのも嘘じゃない。だが、彼が鬼へと近付いた最たる理由は、それじゃない。
──鬼と成ったその刃、受けてみてェ、なんて不謹慎かね。
 ニ、と笑って見せたなら強く踏み込む。
 心地良い鞘鳴りが置き去りになる。
 それはもはや本能とでも呼べようか。
「ッ!」
 すべてを集中した刺突。無駄をそぎ落とした形。真っ直ぐに振り抜くことだけを考えている在り方。
 熄──ツフラ。
 防御を図った血塗れの鬼の左腕ごと、その胸へと刃が突き立って──引き抜けば鮮華が咲いた。ごぼりと血の塊を吐き出した鬼は、けれど嗤った。
「は──はは、はははッ! はははははッ! 嗚呼そうや、これがボクには相応しい」
 そして鬼が刀を振るったならば、そこに現れたのは鍔無き剣を持つ男の影。
 ユルグは片眉を上げて、口角も吊り上げた。血振りした刃を再び迷いなく構える。影も迷わず、神速の踏み込み。
「っ、んふふ、俺が相手してェのは鬼のあんたなんだけど」
 突貫。繰り出される切っ先の一点を過たず刃の腹で打ち払い受け流し、影の勢いを殺さぬまま回転して──ふ、と呼気ひとつ。弛まず緩まず、隙だらけになった肩を狙って繰り出す刃を、影もまた戯れるように返す剣で払う。
 んふふ。そう笑う声が聞こえてきそうで、ユルグは薄く笑み返す。そこに楽しい、なんて感情は付随しないけれど。
 顧みないのは欠けないと思うが故? あるいは──予想外が欲しいから?
 そうだとしたら俺の勝ちかね。
 踏み出す、届かせる。その先は、影の軌跡を撫でるようにして、背後に立つ鬼へとただ真っ直ぐに。
「悪ィけど呪われたとこで目的忘れちゃいねェんだわ」
「……ふ、はは、はは……っ、それだけ、揺らがん“刀”が、ボクにも、あればなあ」
 血反吐零して鬼が言うのに、ユルグは静かに瞬きのみを返す。
──あァ。立つ場が違えば、俺も違わず、鬼だったかな。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

御剣・刀也
笑えねぇな
仁義に厚い男が落ちていく
お前さんが殺したって事実は変わらねぇ。それを受け止めるのも、飲み込むのも簡単なことじゃねぇ
けどな、お前さんはこっちに来ちゃ駄目だ。俺みたいな人外の居るところに来ちゃダメだ
奪っちまったなら、それ以上の笑顔を作れ
お前はまだ戻れる。だから、ちょっと乱暴にいくぜ

人を呪わば穴二つで、自分のUCを防御しようとしたら、グラップルで相手の腕の動きを妨害する位置に自分の腕を持っていき、相手が刀を構えたら、それを腕の捻りとバンプアップで受け流しながら、そのまま正拳突きを打ち込む
「剣は心なり。剣は己の心を写す鏡。お前の悲しみと怒りが伝わってくる。今解放してやる」



●修羅と鬼と
 仁義に厚い男が墜ちていく。
「笑えねぇな」
 嗤い続ける鬼へ、御剣・刀也(真紅の荒獅子・f00225)は片目を眇めて吐き捨てた。
 『刀狩』の最期を見た。なのに続く悲劇に、渦巻く感情のやり場に迷う。
 彼は他者の日常を奪う存在が嫌いだ。許せはしない。
 そして刀也の宝は家族だ。愛しい白い鳥だ。彼女を傷付ける者があればすべて斬り捨てる。そう心から思っている。
 だからこそ、故に。
 その宝を自らの手で屠った弥平の“傷”が如何ほどのものか、想像することすら苦い。
 それでも、刀也は告げる。踏み込む。
「弥平。お前さんが殺したって事実は変わらねぇ。それを受け止めるのも、飲み込むのも簡単なことじゃねぇ」
 踏み出した右足が地にめり込むほどの速度と重さを湛えて。
 繰り出したのは単純で簡潔な──愚直なほどの正拳突き。しかしそれは鍛え上げられた刀にも劣らぬ威力で鬼の胸の中心を貫いた。
「がッ……!」
 息が止まる。「けどな、」短く息を吐き、更に刀也は力を籠めた。
「お前さんは“こっち”に来ちゃ駄目だ。俺みたいな人外の居るところに来ちゃダメだ」
 生き延びるために生み出された技を受け継いだ、戦いを求め、強き者を求める修羅。
 死線の中でこそ生きていると感じた。宝を、手にするまでは。
「か、……っは、は、はは……ッ、遅い、もう遅いんや」
「遅くなんかねぇ。奪っちまったなら、それ以上の笑顔を作れ。お前はまだ戻れる」
「戯言や」
「戯言かどうかは、お前さん次第だ。──だから、ちょっと乱暴にいくぜ」
 再び意気を練る。拳が見えるか否か。しかし宣された攻撃をのうのうと喰らう鬼も居ない。刀を傾け受けた形そのままに彼の拳を抉らんと切っ先を向けた鬼へ。
 伸ばした拳を、刀也は開いた。
「!」
 見開いた鬼の目。構わず彼は鬼の衿を掴み、掌底で刀を握る右腕を叩き上げた。一度見せた技。防御に動かれるのは彼とて想定内のことだ。だからこそ、それを利用する。
 弾かれるように開いた懐へと潜り込むのは一瞬。
「剣は心なり。剣は己の心を写す鏡。お前の悲しみと怒りが伝わってくる。今、解放してやる」
 ただ真摯に叩き込む拳の一撃は、真っ直ぐに鬼の胸を打った。

成功 🔵​🔵​🔴​

クロト・ラトキエ
誰とも知らぬ者を助ける為に、
己の大事な者を差し出す…
えぇ。そりゃ嗤っちゃいますよね。
逆に奪ってやる方が得ですものね。
ひとはそういうの、悪鬼だ畜生だ、病魔だ毒物だ云うんですけど…
はい。この邪魔者――要は僕ですけど、そういう類でして?

四肢の挙動、踏込みに攻撃の癖。
視線、速さ、軌跡…見切る全てを知識に照らし、
回避、反撃の糧に。
鋼糸を張り足場に、或いは引き斬り断つ刃に。
模倣されると判っているなら、扱うUCは只の強化。
炎の魔力で攻撃力を…符を焼く程。

そんな鬼畜を斬る為に、義侠の刃が大切で、
そんな病毒を絶つ為に、医者や薬が必要だ。
貴方の想いが育てた技、確かに見事。
けど…
貴方のその呪い、今も家族に誇れます?



●畜生は謳う
 他の猟兵たちの猛攻を受けてなお血塗られた刀を手放そうとしない鬼の前に、ひとりの男が立った。
 ひょろりと長い影形の男──クロト・ラトキエ(TTX・f00472)は柔和な表情のまま穏やかに眼鏡の奥の瞳を細めて見せた。
「誰とも知らぬ者を助ける為に、己の大事な者を差し出す……えぇ。そりゃ嗤っちゃいますよね」
 逆に奪ってやる方が得ですものね。
 命を秤に乗せて損得で語るクロトに、鬼の昏い目に焔が灯るのを、見落としはしない。えぇそうですと笑みさえ浮かべて彼は軽く首肯する。
「ひとはそういうの、悪鬼だ畜生だ、病魔だ毒物だと云うんですけど……はい。この邪魔者──要は僕ですけど、そういう類でして?」
 生きるためならなんでも利用した。
 人の情というものは。……最近は少しずつ己の裡にも芽生えたのかもしれないけれど。以前から“それ”にも疎かったわけではない。識っていたからこそ、使った。
「なにが云いたい?」
 ゆらり、満身創痍の鬼の身に、まだ気力が湧き上がるのが視える。
 その爪先の向き、手の位置。肩の角度。視線。
 しゃん、と居合に抜かれた刃の奔りを、クロトは危なげなく躱して両の手を広げた。
 否。両の手から鋼糸を放っている。炎の魔力で速度増したそれらのうち、一本はすんでのところで鬼の刀に弾かれたが、一本は鬼の腕に巻きついた。
 けれど防御は叶ったと。嗤う鬼の前に現れる、男の影。クロトの、影。
 先の同じく炎の魔力を籠めた鋼糸を放つその姿に、クロトは一切動じない。ああ、まるで想定内。
 影の鋼糸が奔り抜けた後に、彼の姿がない。
 鬼が瞬くと同時、鬼の視界が翳った。振り仰ぐ。漆黒のコートが朝焼けを切り取る。影の糸をすら足場に跳んだのだと、察するのに時は必要なかった。
 だから云ったでしょうと、彼は微笑む。
「そんな鬼畜を斬る為に、義侠の刃が大切で、そんな病毒を絶つ為に、医者や薬が必要だ。貴方の想いが育てた技、確かに見事」
 弥平の生き様を認めている。
 己にはない路と識っている。
 だからこそ「けど……」クロトは紡ぐ。
 鬼と畜生は糸で繋がれ一直線。
 クロトは弾かれた鋼糸を巻き上げ、再び放つ。しなやかで強靭な糸は刃となって過たず鬼を裂いた。
「貴方のその呪い、……今も家族に誇れます?」
 炎纏う糸が朝の空をあかあかと照らして、問うクロトの表情を隠した。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

杼糸・絡新婦
たとえ正気に戻った時辛い言うても、
このまま言うのも泥沼やろ、
這い出して恨み晴らせるなら、とは思う。

鋼糸を使って【フェイント】を入れ攻撃、
【見切り】で回避しつつ、
糸を張り巡らせるようにして【罠使い】のように絡みつき
【捕縛】し相手の行動を阻害する、
【見切り】でタイミングを図り、こちらに来る攻撃、
他の猟兵へ行く攻撃を【かばう】ようにして、
タイミングを図り脱力し、オペラツィオン・マカブルを発動させる。
排し、返せサイギョウ。

呪う相手はもっと近くにおるやろ、
こんなことやっとる場合かい。



●揺らす、揺れる
 糸は、途絶えず。
 張り巡らされた鋼糸は足場となり狩場となる。とある忍びが用いたその暗器の在り方を誰かが呼んだ。絡新婦と。
 糸の上を跳ねるように、あるいは滑るように、杼糸・絡新婦(繰るモノ・f01494)は自在に往く。
 地上の鬼は既に血に塗れ、けれど右の手に刃は手放さず、瞳には憎悪と怨嗟を燃やし続けている。
──たとえ正気に戻った時辛い言うても、このまま言うのも泥沼やろ。
 深く重いそこから、這い出して恨みを晴らせるなら、と絡新婦は思う。
 幾多数多と降り注ぐ呪符を、糸の反動を利用して避け、払う。
 それでも中空を覆い尽くすほどの符をすべて避けることは不可能だ。『即死』の呪いをばら撒く鬼へと絡新婦は小さく息を吐き、──すべての力を抜いた。
「……阿呆」
 零した言葉を呑み込むように、狂喜するが如き呪符が彼の姿を覆い尽くした。
「は──はははッ! はははははッ!」
 息さえできぬ、指先ひとつさえ動かすことさえできぬ木乃伊のような形になった『敵』に鬼は嗤った。
「なにを云うたかてボクは鬼や。さあ分けたげよ。分けて、分けて、分けて、分けて──そしたら、」
 ボクも。
 その声なき声が、聴こえたか否か。
「……排し、返せサイギョウ」
 零された命〈めい〉は短く簡潔に。絡新婦の身体を覆っていた呪符が潮が引くように消え失せたかと思うと、彼の十指に繋がれた、狐人のからくり人形の狩衣の裾からすっかり効果を失くした符たちがばらばらと散って落ちた。
「な……!」
 勝利を確信していた鬼は目を剥き、絡新婦は迷いなくからくり人形を、糸を繰った。
 『サイギョウ』が舞いでも踏むが如く男の周囲を跳ね、鬼の身を縛めた。無論鬼とて抵抗を図ったが、間に合わない。
 きつく、きつく、締め上げて。
 それでもなお握り締められた刀を見下ろし、絡新婦はちいさく笑った。それが呆れだったのか、それともこんなに歪であろうとも大切にされる、器物への想いだったのか、彼にしか判りはしないけれど。
「呪う相手はもっと近くにおるやろ、こんなことやっとる場合かい」
 与えるべき情は今ここではないことくらい判っている。更に糸の圧を上げたなら、悲鳴と共に鬼の手から刀が零れ落ちた。
 

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 ボス戦 『『凶刀』絶姫』

POW   :    遊んであげましょう
【凍てつく炎】【修羅の蒼炎】【呪詛の黒炎】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
SPD   :    貴方、斬るわ
【殺戮を宣言する】事で【剣鬼として最適化された構造の躰】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    私は刀、刀は私
【刀、又は徒手での攻撃】が命中した対象を切断する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠四辻・鏡です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●凶刀、降り立つ
 重い音を立てて地に跳ねた刀。
 それがじわりと青白い光を帯び──そして“それ”が現れた。
 『刀狩』の遺志を継ぎしオブリビオン。あるいはかの遺志などまるで関係なく血を求め肉を刻み骨を断つ、彼女の名は絶姫。
 絶姫の身体がオブリビオンとして顕現すると同時に、弥平の身に刻まれていた傷が消え行った。毀傷はすべて彼女が負ったものとなったか、あるいはただの気まぐれに癒しでもしたものか。
「つまらない、つまらない」
 鈴を転がすような声音で、絶姫が言う。
「怨嗟が足りぬ。怨恨が足りぬ。狂気が足りぬ。悔恨が足りぬ。己が血族を斬り刻んで未だ、鬼如きにすら成り切らぬとは」
 そして彼女は、すらと自らの刀を抜く。
「仕方がない。直々に私が斬ってあげましょう。より靭い憎悪を持つ者を“造り”に行きましょう。然すれば良い手駒となるでしょう」
 彼岸花揺れる漆黒の髪を躍らせて、少女は告げる。
「左様なら。お休みなさい。永久の夢を」
 その鋭利な白刃に気付くものもあっただろう。
 彼女は造られた鬼ではなく──生粋の人“喰い”鬼の化身であると。
 
回々・九流々々(サポート)
『僕だってやれば出来ます。はい』
 愉快な仲間のオブリビオンマシン × 四天王、7歳の女です。
 普段の口調は「コーヒーカップ(僕、~様、です、ます、でしょう、ですか?)」、酔った時は「くるくる(僕、~様、です、ます、でしょう、ですか?)」です。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!



●奇跡が如き取り合わせ
「行きますよ!」
 ひょいと現れた少女は妖刀に憑依していたオブリビオン・絶姫が相手でも揺らがない。鮮やかな色彩の髪を揺らして『界転装躯リトル・リトル』へと作動させる。
 それはオブリビオンマシン。オブリビオンとして蘇ったキャバリアだ。
 そして彼女は、回々・九流々々(くるくる・f21693)はユーベルコードを発動させる。コヲヒイカツプは止まれない。対象を乗せて高速回転することで、攻撃を遮断する技。
 そう。九流々々は元より戦う気などない。
 身に覚えのない場所に放り出されたならまずは攻撃を防ぐ。その間に──次の攻撃の案を練るなり、あるいは誰かを護るための時間稼ぎをすることができれば重畳。
 傷付かず、傷付けさせない。
 それはひとりであれば意味のない行動。けれどその場に他の猟兵たちが駆けつけてくることを彼女は知っている。
 だからこそ、彼女はそれを選ぶ。
「小癪ね。──斬るわ、貴女」
「いいえ、できませんよ」
 絶姫がキャバリアに捕まれ強制的に乗り込まされたのは、メルヒェンかつグロテスクな機体。いかにもサムライエンパイアの世界観には在り得ぬ形だったけれど。
 乗った者は酔う。そんなささやかでありながらも非常に不本意な結果を与えるそれに、けれど絶姫は適応した。速度と反応が飛躍的に向上するユーベルコードは、九流々々のそれを、打ち崩す。
「そうね。今はできないわ。けれど、止まったときが貴女の最期よ」
 高速回転に適応し、絶姫は細腕とも呼べる己が右手を変形させていく。長く、しなやかに。回転が止まったならすぐにも九流々々の身を刻むことができるように。
「あー、じゃあ根競べですね」
「そうね。貴女が止まるか、私の寿命が尽きるか」
 娘は、わらった。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

黒鵺・瑞樹
アドリブ連携OK
右手に胡、左手に黒鵺の二刀流

憎悪なんてよっぽどのことがなければ長続きしないよ。
ただただ悪戯に心も体力も消耗するだけ。
生きるための繋ぎならともかく憎悪だけで生きる事は難しい。
そうやって作った鬼なんて、手駒としても長続きなんてしないさ。

存在感を消し目立たない様にし、隙を見てマヒ攻撃を乗せたUC菊花で攻撃を仕掛ける。
代償は寿命。誰かが傷つくより自分が。
誰かの為に戦う、そのために生まれた道具である俺は、守るべき「人」が傷つくのは好まない。
敵の攻撃は第六感で感知、見切りで回避。
回避しきれないものは本体で武器受けで受け流し、カウンターを叩き込む。
それでも喰らうものは激痛耐性で耐える。



●刃の性
 回転する他の猟兵のオブリビオンマシン──根競べのそのさ中。
「憎悪なんてよっぽどのことがなければ長続きしないよ」
 場にそぐわぬほど穏やかな声音と共に、蔭より煌めいた碧眼。娘の命を刈ることに執心していた絶姫を、漆黒の刃と厚い鐵が幾多と襲った。
 菊花。名のとおり花弁の如く黒鵺・瑞樹から四方八方、九度繰り出される攻撃に絶姫の身は裂けて血が散り、『凶刀』の忌み名持つ姫は根競べを放り出してひらり舞った。
「ただただ悪戯に心も体力も消耗するだけ。生きるための繋ぎならともかく、憎悪だけで生きる事は難しい」
 そうやって造った鬼なんて、手駒としても長続きなんてしないさ。
 ひょうと諸手の刃の血振りをして、瑞樹は隙なく敵を見据える。
 絶姫はうっそりと顎を上げて彼を見た。彼の放つ気配に、知る。
「貴方も命を削るのね」
 「……」応える義理はない。知れていたとて構いはしないが、暗殺者の武器である以上情報を秘匿するのはもはや息をするより当然のことだった。
 菊花は彼女の言うように、寿命を代償とする。ただし──一点。味方を攻撃すればそれを避けることができるユーベルコードだ。
 けれど瑞樹はそれを望まない。
──誰かの為に戦う、そのために生まれた道具。
 その矜持が、確かに彼の中には息づいている。だからこそ、守るべき『人』が傷つくのは好まない。ただそれだけのこと。
 瑞樹は絶姫の持つ見事な刃文の刀を見遣った。あの刀も、誰かの為に戦うために生まれたはずだ。しかしオブリビオンの娘はわらった。
「棄てる命ならば斬らせて頂戴な。貴方を斬り刻むわ」
 みしり、みしりと音を立てて既に長かった絶姫の腕が更に細く長く伸びる。剣鬼として力を振るうことのできる最適化を目指して変貌していく。
「貴方が手数を増やすなら対応してみせましょう。貴方の寿命と私の寿命、どちらが長いかしらね」
「っ!」
 風を斬る音だけが聴こえた。咄嗟に避ける、その爪先があった場所の道が大きく穿たれ土塊が散る。鞭がしなるが如く跳ねた刃の切っ先が瑞樹の左胸を狙い、『黒鵺』の腹で彼はそれを打ち払う──、
「さぁ、さぁ、さぁ。逃げてばかり? 違うでしょう? 貴方の刃は、斬るためのものでしょう?」
「──どうやら、救うべきは弥平だけじゃないみたいだな」
 刻まれていく傷。走る痛みは奥歯で殺し、『凶刀』を見据えた彼の碧眼が、再び輝く。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

ヲルガ・ヨハ
僅か取り戻したる感覚に
されど
触れる肌だけは、朧気で

……ほぅ、お前があの禍々しき刀の
いけ好かぬと尾を揺らす

瞋恚はただの嚆矢に過ぎぬ
はらわたに巣くう熾火
だが、それだけだ

われに奉じる武勇とは
程遠い

戦旗の頂に身を降ろされれば
おまえが敵と相対する為と解るから
近付く気配は結界と尾で払い

人の子よ
あれを斬り捨てたとて
なにもかわるまい
嘆き、怒れ
お前はお前を忘れるな

未だ立っているだろう比翼に
(弥平を)止めよと命じ

山荷葉の如く鱗を溢し
【竜神飛翔】にて龍と化す

戦はわれらの生
そうする事でしか生きられぬと叫ぶのだ
われをわれとする何かが

喰らいつくし
忘れ
それでも
生を、希んだわれの、


神力尽き
落下した先が
おまえの腕の中であればと



●喉を灼く
 荒々しく猛々しく周囲を取り巻く慣れ親しんだ戦の気配〈オーラ〉が、『即死』の呪いからヲルガ・ヨハを守った。
 喪われていた感覚が徐々に戻り、けれど己を擁くはずの触れ合う肌のそれだけは未だ、朧げで。乙女は無意識的に“それ”へと指を滑らせつつも、刀下げた姫へと薄絹の向こうから視線を投げた。
「……ほぅ、お主があの禍々しき刀の」
 いけ好かぬ、と銀の尾を振れば絶姫はついと口角を上げて見せる。弥平の取り落した件の刀は、そのまま路傍に落ちている。
「構いはしないわ。好意でなにが変わると言うの? 世界を変えるのは力よ」
「……すべてを否定はせぬ」
 軍神〈いくさがみ〉と呼ばれ、趨勢を転じたと語り継がれる“夜半のオルガ”。紗の奥で彼女は微かに目を眇めた。けれど、すべてを肯定も、しない。できない。
「だが、瞋恚はただの嚆矢に過ぎぬ。はらわたに巣くう熾火、それだけよ。われに奉じる武勇とは──程遠い」
 土を穿つ音。戦旗『塒』が突き立てられたのだと知れば“おまえ”の腕が離れる気配を感じ取る。『凶刀』と向き合う背が見える。
 ヲルガは首を巡らせた。未だ理解の追いつかない──否。感情の追いつかない弥平へと声を紡いだ。
「人の子よ。あれを斬り捨てたとて、なにも変わるまい」
「っ?」
 止めよ、と。告げる先は“おまえ”に。混乱のさ中にありながらも落ちた刀を拾おうと身を屈めた弥平の腕を、“おまえ”はヲルガの意を違わず理解し掴んだ。
「なにもするな云うんか」
「そうとは言わぬ。だが煽られ操られるままに力を振るうのはやめよ。嘆き、怒れ。お前は、お前を忘れるな」
 信ある武勇ならばわれは受け容れよう──。そう残して。
 ヲルガの身は空へと舞い上がる。銀の竜鱗は零れると同時に澄んで煌めいて。
 朝焼けの空へ躍り上がった銀龍が喚ぶ、霹靂。轟音を奏でて戦場の敵だけを的確に狙い打つ神罰が如き一撃が迸る。
 絹を裂くような娘の悲鳴も、雷音に掻き消されて届かない。
「……戦はわれらの生」
 優雅にすら見える飛翔で、誰にも聞こえぬと知りつつヲルガは呟く。
「そうする事でしか生きられぬと叫ぶのだ。われを、われとする何かが」
 眼下にはきちんと弥平を護る姿。“それ”が誰かも、彼女には判りはしない。喰らいつくし、忘れ、それでも。
──それでも、生を、希んだわれの、
「ッ!」
「、」
 絶姫の放つ凍てつく、あるいは修羅の、そして呪詛の炎が、一時意識を逸らしたヲルガを灼いた。それは敵の力を喰らう炎。
 ふつり、──途端に龍の姿を保てず墜ちたヲルガは、けれど慌てることはない。
 憶えてもいないのに。
 思い出せもしないのに。
 身体への衝撃は最小限。擁かれたのはいつもの腕の中。乙女は薄らと笑みを刷いた。
「……上々だ」
 

成功 🔵​🔵​🔴​

ユルグ・オルド
子分を作って楽しいかい
揮う方が楽しくはない?
まァどうだっていいんだケド
遊ぼうか

眇めて窺うのは見切る距離を
シャシュカの刃に掌滑らせて
ブラッドガイストで食らわせて思うのは
飛び込んで喰らいつくまでの距離を

一番きれいな距離を想っているし
通らなきゃイイとも思ってる
止められたら気にくわねェケド
すぐ終わっても詰まんないでしょ

刃一枚の距離まで疾く、
カウンターすべくの視線は熱烈に
穿つその瞬間にだけ焦がれてる
振り抜く痛みが目晦ましにもならなくて
笑みが漏れるのは干戈だけが拍動になりうるから

だけ、じゃアなくなっちゃったのなんでだろうね
――分かる?
なンて。
刃を手にするからには負けるわけにゃいかないの
折れるまでは、ね



●刃の本懐
 白銀の龍が墜ちるのを絶姫が見送る隙も与えず、砂利をにじってユルグ・オルドはすらと鞘から剣を抜いた。
「子分を作って楽しいかい」
 あんたも刀なら、揮う方が楽しくはない?
 清光色の髪がさらり揺れて、紅い瞳が妖しく灯る。かと思えば、男はひょいと肩を竦めて息を吐く。
「まァどうだっていいんだケド」
 ──遊ぼうか。

 抜いたシャシュカが裂いたのは娘ではなく男の掌。赤い一線からひと筋滴る──それが意思を持つかの如く、鍔なき剣へと巻いた。
 娘が身体を変貌させるならば、男は剣を変貌させる。それは殺戮捕食態。厚い鋼が赤黒く体積を膨張させ、獣の咢のように禍々しく開いて獲物を求めた。
 ああ不思議だなァ。
 この身から血が零れることも。
 “己”がその血を糧に、敵を喰らわんと目を醒ますことも。
 なにが本当? どれが俺?
 ただ判ンのは、眼前の娘を斬ればイイってことだけ。
 短く息を吐き捨てる。踏み込み飛び込み、身を捻って振り抜くと同時に“己”が大きく口を開く。
 斬りたい。それは真実。
 でもとっとと終っちまうのも詰まんねェ。
 まるで児戯のユルグの想いに応じるみたいに、絶姫は「遊んであげましょう」妖艶に微笑んだ。
「お、」
 まずシャシュカの“口”が燃え上がる炎に凍てついた。次いで蒼と黒の炎が刃を伝ってユルグの腕を舐めて這い上がる。
 喰らうはずが逆に喰らい尽くされる痛みにガリと奥歯噛み締めて、けれど彼は口許に弧を描く。今このときの干戈だけが拍動になりうるから。
 ほどけるように殺戮捕食態が消えて露わになる鐵を、しっかと握って振り下ろした。
 視線は始めから最後まで熱烈にあんただけを捉えてる。穿つその瞬間にだけ、──焦がれてる。
 ユーベルコードを掻き消してなおの攻撃を想定していなかった絶姫の悲鳴が迸った。
「だけ、じゃアなくなっちゃったのなんでだろうね。──分かる? なンて」
 さア斬り結ぼうよ、遊ぼうよ。
 ひゅん、ひゅん。風を斬って、血を払って。きれいな距離をもう一度測りながらユルグは絶姫へとただ笑み掛ける。
「刃を手にするからには負けるわけにゃいかないの。折れるまでは、ね」
 それは本能であり、本懐だ。
 同じでしょう?
 声ならぬ彼の問いに、絶姫は美しい黒髪をさらり揺らして、凄絶にわらった。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

天霧・雨吹
足りぬ足りぬと囀るは
何とも言えず醜悪なことだ
己とは別の何かに変じるなど……生半な覚悟では成り得まい
つまり、浅薄な誘導では起こり得ぬ

祈り無きものには分からぬだろう

祈りを抱くしかない命の弱さも
祈りを抱くからこその強さも

弥平
きみが望む望まぬに関わらず、あれは討ち果たす
けれど、きみの背を押すと言ったのは嘘ではないよ
きみが望み祈るならば
僕は君の手であり、刀であろう

在るがまま暴威であった
かつてには及ばずとも
僕は祈りを受けて戦うものでもあるのだから

何処までだとて、翔けてみせよう……八重雷神
鎧を無視して攻撃すれば身体を最適化しようと傷は負わせられる
傷をつければ、いつかは致命傷となろう
心弄んだ報いを今こそ受けよ



●神気と妖気
 散る、散る、散る、紅の中。
 無より喚び寄せた『八重雷神』を手に、天霧・雨吹は静かに瞼を伏せる。
「足りぬ足りぬと囀るは、何とも言えず醜悪なことだ」
 ちらと視線を遣るのは、落ちた刀を拾うこともできずに人外の戦いに歯を食い縛っている弥平の姿。傷の癒えたその身は、先にまみえた傷だらけの鬼ではない。
「己とは別の何かに変じるなど……生半な覚悟では成り得まい。つまり、浅薄な誘導では起こり得ぬ」
 祈り無きものには分からぬだろう。
「祈りを抱くしかない命の弱さも、祈りを抱くからこその強さも」
 囁きにも似た雨吹の声に、絶姫は「判らないわね」血に濡れた身でうっそりとわらう。
「強いものが強いの。勝ち、殺す権利があるわ。祈り? それがなにになるの? それで──喪ったものが蘇るのかしら?」
「ッ!」
 ぎりと奥歯を擦る音が響いた。雨吹の、ではない。がしゃり、鍔鳴り。
「弥平」
 咄嗟に刀を拾い上げた男へ、竜神は告げる。
「きみが望む望まぬに関わらず、あれは討ち果たす。けれど──きみの背を押すと言ったのは嘘ではないよ」
 そして振り返る、夜帳色の双眸。男を捉えて、同時にちりりと雷流が彼を巻く。
「きみが望み祈るならば、僕は君の手であり、刀であろう」
 在るがまま暴威であったかつてには及ばずとも。
──僕は祈りを受けて戦うものでもあるのだから。
 胸に秘めた、いとしい者たちより捧げられた昔日の信仰。地を蹴り手にした“友”の存在は敢えて視界に入れずとも強くつよく感じる。
──何処までだとて、翔けてみせよう……八重雷神。
 彼の裡の呼び掛けに、強くつよく、“聲”を返してくる。
 そうとも、知っている。
 喪ったものは祈りでは還って来ない。
 欠けていくキミに気付きもしなかった僕。疑いもしなかった僕。
「殺されたいなら殺してあげるわ」
「生憎」
 それでも祈りは、斯うして力となるのだ。
 絶姫の身が剣鬼として最適化された──神速の雷撃を無効化せんと変化するのを、神剣から放たれた雷電の刃がその隙間を縫って喰らう。
「がッ──?!」
 見開かれた瞳に、冴えた視線が注がれる。
「心弄んだ報いを今こそ受けよ」
 

成功 🔵​🔵​🔴​

三条・姿見(サポート)
招集を受けた援軍だ。…俺も力を貸そう。
指示があるならば、そのように。猟兵として務めは果たす。

**
『ある刀を探している。取り戻さなければならないものだ』
ヤドリガミの剣豪 × 化身忍者
年齢 27歳 男
外見 178cm 黒い瞳 黒髪 普通の肌
特徴 短髪 口数が少ない ストイック 天涯孤独の身 実は読書好き
口調 生真面目に淡々と(俺、お前、だ、だな、だろう、なのか?)
偉い人には 作法に倣って(俺、あなた、~さん、です、ます、でしょう、ですか?)
**

主武装は刀と手裏剣。…相手の数に応じて使い分ける。
薬液が効く相手なら、毒や麻痺薬も使用する。

賑やかな場所はどうにもな…だが鍛錬となれば話は別だ。
励むとしよう



●求めた其れとは異なりて
 東雲の空を見上げて、そして三条・姿見(鏡面仕上げ・f07852)は視線を差し向ける。
 他の猟兵たちと干戈交わすはひと振りの刀を振るう女。『凶刀』絶姫。
 微笑みさえ浮かべながら舞うが如くのどかなはずの村への道に双方の血を散らしていく姿は如何にも醜悪で、姿見は右目の下に皺を刻む。
 喚ばれ応じただけの彼に詳細は判らない。
 だが着物からげて愉し気に他者を斬る女を捨て置けないことと、──彼が求めている刀が其れではないことだけは判った。
 駆ける。同時、放った漆黒の手裏剣が絶姫の身を裂いた。
 そこでようやく姿見の存在を知覚した娘が、わらう。
「貴方も遊んで欲しいの?」
 言葉と共に姿見の周囲にぼぅと炎が点った。蒼い、黒い、あるいは炎であるにも関わらず冷気を帯びた焔。
 炎にはある程度の耐性がある──かと言ってわざわざ受けてやる義理もない。
「ッ、」
 間一髪ですべてが的中するのを素早く避けたが、腕に巻いた炎は彼の“姿”を焼いて刀を握る腕の力を奪った。
「……なるほど」
 けれど、それだけだ。
 たったそれだけで、姿見の信念は揺らぎはしない。ざり、と地をにじり敵を見据え──息をひとつ。
 踏み潰した距離。眼前に絶姫の赤い瞳を捉えた、と知ったときには既に『封刃・写』を振り下ろしている。剣刃一閃。ひと断ちの許に、かろうじて身をよじろうとした娘の左肩から腕が吹き飛んだ。
「……お前が、刀に狂わされたか、狂わせる刀かは知らないが」
 冴えた瞳が、朝焼けの逆光に光る。
「骸の海に還す、……それだけだ」
 

成功 🔵​🔵​🔴​

クロト・ラトキエ
怨嗟、怨恨、狂気、悔恨…
一朝一夕で悪心渦巻く鬼を作るにゃ、貴女、遣り方がヌルいんですよ。
しかも堪え性まで無い、と…
“造る”の向いてないって、ご自分でお気付きじゃ無い?

常の笑み――“人を食った”笑顔で、
人のカタチをした獣の有り様で、
鼻っ柱の高そうな鬼を嗤う。
怒ります?

おいでませ。
そして、えぇ、左様なら。

刀を、術を操るなら、前動作はある筈。
向かう視線、体幹、足運びに体捌き、
速さ、軌道に軌跡…
凡ゆるを視て見切り、知識に照らし、回避を。
接近を利用…或いは掛けた鋼糸で進路を変え、
外さぬ
――捌式

たったあれだけの言の葉で、未だ心に火を灯せた…
弥平殿が奴に一太刀呉れて遣りたいと思われるなら…
隙作り、致しますよ



●唆
 袈裟懸けに大きく裂けた娘の姿にも、クロト・ラトキエは特に動じない。
 これまでに歩いてきた戦場ではもっと悲惨な姿も見てきたし、なにより相手はオブリビオンだ、気にしてやる道理もない。
 いつもどおりの笑みをすら浮かべ、クロトはくいと顎を上げ嗤う。それは彼が常に纏う鎧。“人を食った”笑み。
「怨嗟、怨恨、狂気、悔恨……一朝一夕で悪心渦巻く鬼を造るにゃ、貴女、遣り方がヌルいんですよ」
 殺すかどうかも人任せ。化けるかどうかも人任せ。甘い、甘い甘い甘い。
 人間ひとりの心を毀すには徹底した仕込みが必要だ。否──勝手にひとは毀れることもあるが、造りたいのならば甘過ぎる。
「しかも堪え性まで無い、と……」
 すぅと顎を引いたなら、その口許に刻まれるのはもはや獲物を前にした獣の笑み。
「“造る”の向いてないって、ご自分でお気付きじゃない?」
「よく回る舌ね。斬り落として差し上げましょう」
 娘の白い面は変わらない。けれどそこに滲む怒りはクロトの思惑どおりで。
「おいでませ」
 誘い込み唆し、獣は襲い掛かる鬼の刃の先、腕の向き、体幹──幾多と積んだ戦闘知識に照らし合わせ、ぎりぎりの回避を繰り返す。怒りは敵の視野を狭めるが、持てる力を底上げすることも想定の範囲だ。
「っと、」
 ひと房の髪をもっていかれながらもクロトが見遣るのは地に蹲るようにして刀を握り締めている弥平。歯を食い縛り、迷っている。
 家族の命を奪った刀を、もう一度手にすることに。
──たったあれだけの言の葉で、未だ心に火を灯せた……。
 瞳に宿ったいろを、クロトは忘れていない。だから口角を上げる。
 緩むはずもないグローブを引いて、確かめる。
「弥平殿が奴にひと太刀呉れて遣りたいと思われるなら……、隙作り、致しますよ」
 告げた言葉が、届こうが届くまいが構わない。
 既に視線を絶姫へと戻した彼は致命傷を負わせるべく更に深追いしてくる彼女の視線、足運び、それら凡てを視野に収めて。
 外さぬ。
「──捌式」
 五百にも届かんばかりの魔力で複製された鋼糸が、刀を振るうべく腕を振り上げた彼女を貫いた。
 貫いた、などという言葉では生温い。
 中空に完全に磔になっている娘へと、クロトは再び穏やかに笑みを向ける。その手には複製ではない、本物の鋼糸がしゅるりと躍る。
「そして、えぇ、……左様なら」
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

杼糸・絡新婦
真の姿開放

弥平、まだまだやれますかい?
向こうは言いたい放題言っているし
ならこちらも全部ぶち撒けてやんなや。

弥平の攻撃が届くようにこちらに意識を向けたり、
スキを作り出す。

【錬成カミヤドリで【鋼糸・絡新婦】をレベル分召喚
【挑発】しこちらへ意識を向けつつ【見切り】での
回避や糸を絡みつかせるようにし【罠使い】妨害、
糸を束ねて盾代わりにしながら、
こちらも【鎧無視攻撃】や糸を足場にして【空中戦】
を行っていく。



●蜘蛛の糸
 他の猟兵が巻いた糸は寸刻の複製。
 その糸の蔭に這わせるようにして杼糸・絡新婦は鋼糸を巡らせていく。靭く、しなやかなそれらすべてを、複数の単眼、あるいは複眼が余さず見遣る。
 ともすればたおやかな見目であった彼は真の姿を解放し、忍び装束に鮮やかな危険色を伴う形へと変貌を遂げて。
「──“そしたら、”なんやて?」
 きりりと百近い数の器物『鋼糸・絡新婦』を繰りつつ、にィと彼は口角を吊り上げた。
 声を掛ける先は、もちろん弥平だ。
 刀を手にしたまま動くことができずに居る彼に、
「呪う相手は他におる言うたやろ。──まだやれますかい?」
 絡新婦は視線を向けることなく告げ、高く跳ぶ。それはまるで空を舞うかのようだったが、それが鋼糸の上を駆けているのだと、戦闘に身を置き続けた者ならば判っただろう。
「肉親斬り刻んでなお鬼にさえ成り切れぬ腰抜けよ。今更なにができると言うの? 邪魔をするなら貴方ごと斬るわ」
 対峙した娘がわらう。斬り刻むことに適した身体へみしみし音を立てて変わっていく。振り抜く速度に全てを置いた、娘の華奢な身体に不釣合いな太い腕が刀を振るう。
「ッ、……弥平」
 張り詰めた鋼糸がいくつか断ち切られる。
 けれど、そこまで。そこまでも、想定の範疇。
 断ち切られたかに見えた鋼糸が逆に、絶姫の刀に絡んでその動きを妨げた。
「向こうは言いたい放題言っているし、ならこちらも全部ぶち撒けてやんなや」
 深く重いそこから、這い出して恨みを晴らすためなら──蜘蛛の糸で良ければ垂らして進ぜよう。
 地獄の呪いを蹴落として、這い上がれ。
 鬼だった男の瞳に、火が点る。握り締めた刀に力が篭もる。
「ぁあ……あぁああああああああ!!」
「ッ成り損ないが……!」
「おっと、ひとを呪わば穴ふたつ。避けるのは無しや」
 身動きを封じられたはずのオブリビオンの腕が更に変形していく、それを絡新婦の糸が絡め取り締め上げる。きゅい、と捻り上げたなら絶姫の腕が開いて。
 弥平の刃が無防備に開いた懐へと、深々と突き刺さった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

待鳥・鎬
傷本当にもう大丈夫かな
それにしても…噂をすれば彼岸花か
君の場合は毒気が強すぎて、薬はおろか、潰しても晒しても食えなさそうだ

弥平さんは自分の意思で選んで良いんです
戦うなら助太刀なんて恩着せがましいことは言いません
こちらも心強い

UC常時発動
「山吹」を纏い、杞柳の翼で宙へ
光の雨に紛れながら「花香」で鉛の雨を
一人に攻撃が集中しないよう、遠距離や援護だけでなく不意打ちで近距離から撃ち込んだり、機動力を活かして立ち回るよ
霊刀の刺突も強かったけど、速度の優位が消えれば技で負けかねない
わざわざ相手の土俵に上がる必要はない

仇敵を討ったなら…できればもう一度人生を捨てずに生きて欲しい
…きっとそれを望んでいると思う



●岐路
──傷、本当にもう大丈夫……みたいだね。
 鬼と化し掛けていた際に、仕方ないとは言えど全くの容赦なく斬り裂いた弥平の腕は、絶姫を貫くのに問題がないほどに癒えていて。
 待鳥・鎬は顎を引いて、静かに胸からぼたぼたと鮮血を零す『凶刀』を見据えた。その黒髪に飾られた紅。
──それにしても……噂をすれば彼岸花か。
 偶然の一致に、舌の奥に苦味が走る気がする。己の思考が敵のそれと微かでも重なったような、そんなにがさ。
「……君の場合は毒気が強すぎて、薬はおろか、どんなに潰しても晒しても食えなさそうだ」
「ふ。ふふ。貴女、死なないのでしょう? “私たち”と──なにが違うの?」
 私は刀、刀は私。そう呟いて絶姫はゆぅるりと血に濡れた刃を持ち上げた。朝焼けの光を鈍く反射するそれに、「──杞柳」鎬は更に雪色の翼を大きく鳴らした。同時に戦場を眩い光が包み込んだ。
「ッ……!」
 絶姫が呻く。ただの光ではない。敵を灼き、味方を癒すそれは光雨。
 光に紛れる迷彩。目立たぬ紗の羽織が舞い上がった彼女の姿を眩ませて、「弥平さん」呼ばれた男は見えぬ空を振り仰いだ。
「弥平さんは自分の意思で選んで良いんです。貴方が戦うなら、助太刀なんて恩着せがましいことは言いません。こちらも、心強い」
 がちり。回転式弾倉〈シリンダー〉が回るその音がなんなのか、弥平は知らない。
 構わず鎬は敢えて羽搏きをせず風を斬り、『凶刀』へと光天から鉛の雨を叩きつけた。
「なにが違う、なんて、知れたこと」
──僕は“ひと”のことが   。
「小癪ね!」
「わざわざ相手の土俵に上がるのは無謀ですから」
 彼女の姿を見失い白刃をやみくもに振るう絶姫へ、澄まして鎬は告げる。相棒に借りた霊刀は確かに強力だが、過信するほど彼女は──薬匙は未だ、戦闘に染まっていない。
 そして振り返る。幾多の猟兵たちに与えられた傷、弥平も浴びせたひと太刀。敵の体力は限界だ。
 良ければ、力を貸して。
 そう彼女が言ったかは判らない。けれど血を撒き散らして喚くオブリビオンに、弥平は固唾を呑んで、再び刀を握り締めた。
 放つ、銃声。合わせて、男が死角より刀を振り下ろす。
「ぁ、が──……」
 幾多の銃創と鋼糸や刃の斬撃、穿孔、神罰が如き雷光に灼かれた絶姫は、朝焼けにぼろぼろと崩れて、そして消えていった。

 そこには静けさだけがあった。
 怒りはあった。
 しかしそれよりも遥かに大きな、哀しみがあった。気付いてしまった。己を呪い、他者を呪い、殺して、殺して、殺して。
 けれどなにも、戻って来ることはないのだと。
 ばさり、羽搏きをひとつ。地に足をついた鎬は憑依を解いた。
「お節介をもうひとつ、言わせてもらうなら。できればもう一度、人生を捨てずに生きて欲しい。……きっとそれを、」
 望んでいると思う。
 誰が、とは言えなかった。
 ただ男の震える背中を見ないふりをして、彼女は頬に擦り寄る相棒に肯き、朝の光の中を去り退いた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年01月30日


挿絵イラスト