7
魔王の金で焼肉食べたい

#デビルキングワールド

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#デビルキングワールド


0




●予知
 じゃらり、じゃらり。
 掬い上げるように大きな手を動かす度、古城の最奥で強欲の音が響く。
 お金だ。金。デビルキングワールドに流通する貨幣、D(デビル)。
 それがたっぷりと収められた木箱を漁って、魔王はほくそ笑んだ。
「クックック……順調だな。未だ大儀式の発動には足りぬが、それも時間の問題よ」
 手を止めて振り返れば、既に封じられた木箱が幾つも積み重なっている。
 相当のDを貯め込んでいるのだろう。魔王は暫し己の財を眺めた後――おもむろに眼鏡をかけると、膝上に置いていた紙を取り、電卓を叩き始めた。
「……今期の収益がこれで……フフフ、人件費が780Dの、人数と時間が……それから……成る程成る程、これなら戦闘員にもう少し還元してもいいかもしれんな……フハハ、突然の昇給に恐れおののく様が目に浮かぶわ………クックック……」
 纏う雰囲気からすれば少々俗っぽい独言だが、それはともかく。
 このまま魔王がDを貯め続ければ、何か良からぬ事が起こるに違いない――。

●詳説
「……と、言うことで。悪事に使われる前に奪ってしまいましょう。魔王のお金」
 予知に解説を交えて語り終えると、テュティエティス・イルニスティア(искатель・f05353)はニンマリと笑いながら言った。
「まるっきり押し込み強盗じゃないかと思われるかもしれませんが、これもデビルキングワールドの為。かの世界の貨幣『D』には魔力が籠められていて、それを多く集めたオブリビオンは“カタストロフ級の儀式魔術”さえも発動させる事が出来るようになるとか」
 その詳細は不明だが、しかし未然に防いでしまえばいいだけの話。
「オブリビオンがコツコツと金を貯めるはずもなし、何某かの悪事でデビルキングワールドの住人たちから巻き上げたものに違いありません。その証拠に……魔王は棲家である古城を『Dで雇った大勢のセントウインたち』に警備させています。後ろ暗いところがなければ、そこまでする必要はないだろうというほどの厳重な守りです。――ああ、ちなみに件のセントウインたちは時間当たり780Dで雇われているようですね。1Dは現世地球の価値に換算して1円ですから、時給780円……」
 割と安く使われている事実に、テュティエティスも暫し言葉を失う。
 さておき、古城そのものが周囲をぐるりと大きな堀で囲まれている事もあって、侵入には少し苦労するかもしれない。だが、間違っても正面突破は厳禁だ。
「警備のセントウインたちもデビルキングワールドの住人。つまり、我々猟兵に匹敵するユーベルコード使いです。一筋縄では通してくれないでしょうし、騒ぎを聞きつけた魔王がDを抱えて逃走してしまうかもしれません。何より、彼らはオブリビオンではないのですから、傷つける理由がありません。侵入は慎重に。そして城に乗り込んだ後も、魔王が居る玉座の間に辿り着くまでは、決して気を抜かないように」
 勿論、魔王自身も油断ならない相手だろうが――猟兵ならば必ず打倒できるはず。
「見事に勝利を掴み取った後は、魔王のお金で勝利の宴を開くとしましょう。そうして魔王が貯めたDを正しい経済の流れに乗せてしまえば、強者だらけの悪魔たちからまたオブリビオンがDをかき集めるのは、とても困難な事になるはずですから」
 ちなみに宴会場はもう押さえてある――と。
 テュティエティスは最後に一言付け加えて、デビルキングワールドへの道を開いた。


天枷由良
●シナリオ構成
 1章:集団戦『セントウイン』
 魔王が棲む古城へと潜入します。
 城は金=Dで雇われたセントウインたちが警備しており、猟兵に匹敵するユーベルコード使いである彼らの守りを、力づくで突破するのは不可能です。それ以外の方法で、城内へと潜入する作戦を考えてください。
(集団戦ですが戦闘シナリオではありません!)

 2章:ボス戦『デストロイキング』
 古城の最上最奥、玉座の間にいる魔王との戦いです。
 魔王が集めたDは全て此処に集められています。魔王にとってはDの損失が最も避けたい事態ですから、それを利用できれば有利に戦えるかもしれません。

 3章:日常『暴食の宴』
 魔王がしこたま貯めていた莫大なDを使って飲み食いします。
 Dを分散させる為、宴会場として各地の焼肉店を押さえてあります。
 デビルキングワールドの肉ですから悪魔的旨さでしょう。きっと。

 よろしければマスターページ等もご確認ください。
 ご参加、お待ちしております。
117




第1章 集団戦 『セントウイン』

POW   :    ㉕セントウイン
【自身の筋肉】を巨大化し、自身からレベルm半径内の敵全員を攻撃する。敵味方の区別をしないなら3回攻撃できる。
SPD   :    ①セントウイン
レベル×1体の、【仮面】に1と刻印された戦闘用【①セントウイン】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
WIZ   :    ⑩セントウイン
レベル×100km/hで飛翔しながら、自身の【厨二オーラ】から【暗黒破壊滅殺光線】を放つ。
👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 時は夜。月浮かぶ湖のような堀に囲われた城は、ひっそりと静まり返っていた。
 南側の正門には橋が渡されているが、見える限りでセントウインが数名。真っ向から乗り込もうとすれば、即座に発見されてしまうだろう。
 また、向かって右手――東側には見張り台らしき塔。その他、灯りが漏れる幾つかの窓から、内部を巡検しているらしいセントウインの姿も窺える。
 彼ら全ての目を欺くのは至難の業か。幸い、予知で城の内部構造は判明しており、侵入さえ出来れば玉座まで駆け抜けるのは難しくなさそうだが……。
 既に説明されている通り、セントウインとの戦闘はご法度だ。
 発見されずに乗り込む方法だけでなく、城内でセントウインに出会してしまった際の対応なども考えておくべきだろうか。
(集団戦となっていますが戦闘は行いません。セントウインのユーベルコードへの対策ではなく、城への潜入方法やセントウインの巡検の回避、万が一発見された場合の戦闘以外での対応などをお考えください)
天道・あや
お金を貯めると経済じゃなくて世界が崩壊。うーん、難儀な世界。
でも世界を崩壊させる訳にはいかないし、いっちょ侵入してみますか……!

右よし…と、いけないいけない小声で

右よーし、左よーし、あたしよーし(小声) そんじゃ、突入…!

UCで跳んで屋上から侵入。…といってもただ跳ぶだけじゃ見つかるよねきっと。

というわけで途中、途中、城の壁に掴まって立ち止まりながら跳躍して上へと跳んで行く!存在感を消す、さながらパントマイムのように固まりながら!【グラップル、存在感、ジャンプ、パフォーマンス】


玉座に向かう途中、巡回中の敵に出会いかけたら跳躍して天井に張り付いたりし、窓から飛び出て外の壁に張り付いて回避!



●天道・あや(目指すぜ!皆の夢未来への道照らす一番星!・f12190)
 お金は血液だ。一所に留まらず、絶えず流れる事で経済社会を回す。
 故に過度の貯蓄が仕組みを崩壊させるかもしれないとは、あやも知るところだが。
「……ここで崩壊するのは経済じゃなくて世界そのもの、と」
 難儀な話である。そもそも、何故通貨に魔力など籠めてしまったのか。
 あやは彼方の城を眺めながらぼんやりと考えて。
 考えて――すぐに止め、思案を堀へと放り捨てた。
 Dの性質などはさておき、それが集まれば世界崩壊の契機となるのは確か。
「そうさせる訳にはいかないし、いっちょ侵入してみますか……!」
 肩や足首を回して解して、気合充分準備万端。
「右よーし……っとと」
 慌てて自身の手で口を押さえ、辺りを見回す。
 此処は魔王の根城のすぐそば。大声や足音は決して響かせてはならない。
 勿論、スタァのような存在感を放ったりするのもご法度。
(「静かに、静かにね。……右よーし、左よーし、あたしよーし……」)
 言い聞かせるように囁いて、きりりと真剣な表情を作って。
(「そんじゃ、突入……!」)
 一度頷くと。
 あやは僅かな助走の後――城に向かって、跳んだ。

 月の光が、古城を囲む堀の穏やかな水面に影を落とす。
 それは一瞬で、セントウインたちは気づかない。
 警備や潜入という単語を脇に置けば、輝かしい未来へと羽ばたくようなあやの跳躍は一見の価値があったが――はした金で雇われている彼らの勤務態度や集中力など、所詮その程度なのだろう。

(「……と言っても、ただ跳ぶだけじゃ見つかっちゃうだろうからね」)
 また胸の内に呟きを零すあやの姿は、堀を越えて城壁の一角に在った。
 宙空を幾度も飛び跳ねて頂上まで辿り着くなど造作もない事だが、隠れようがない夜空に身を晒し続ければ発見される可能性も高くなる。
 そこで一計を案じたのだ。逐一、窓から身を乗り出して真下を確認する戦闘員などまずいないだろうから、取り付いた城壁は巡検における死角のはず。
 灯台下暗しである。後は壁と一体になりつつ機を見て再び跳躍、頂を目指すだけ。
(「……というわけで、今のあたしは壁よ。壁。冷たい石の壁……」)
 窓越しに微か聞こえた足音をやり過ごすべく、ぴたりと張り付いたまま雑念を消す。
 城壁を掴む指先はまだまだ余力充分。
 スタァ道を登り切るつもりなら、この程度で音を上げてなどいられない。

 そうして、忍耐の演技を続ける事暫く。
 辿り着いた頂からの景色は、まずまずだった。
 日が昇る頃にでもなれば、また更に美しい風景になるかもしれないが、しかし。
(「玉座まで急がないとね」)
 他の猟兵の動きなどから、潜入がいつどこで露見するかも分からない。
 あやは予知を元に記された図面を確認すると、城内へと続く階段をひた走る。
 権力者は高いところに座すもの。この古城も例に漏れず、金勘定に勤しむ魔王の玉座は最上最奥に位置している。
 必然、下から行くより上から降りる方が早く辿り着けるだろう。
(「地図通りならこの先で――っ!」)

 魔王とのご対面。
 その間際で、あやは内壁を蹴りつけると一気に天井まで跳んだ。
 尖頭型のアーチ状になっている其処で両手両足を伸ばして、じっと息を潜めれば。
「――Dで雇われる戦闘員って思ってたより“ワルさ”ないよな」
「あれだけのDを貯める魔王様は間違いなく“超ワルい”が、俺達はというとな……」
「他のワルそうな仕事探した方がいいかもなー」
 そんな事を言いながら過ぎていくのはセントウインたち。
 雑談にかまけていて、まさか天井を見上げたりなどしない。
(「……バイトの学生みたいだね」)
 UDCアース辺りなら掃いて捨てるほどいそうな雰囲気に、思わず苦笑が漏れる。
 警備を雇うにしても、もう少しマシな人選はなかったのか――と、思わない事もないが、潜入する側としては都合がいい。
「よっ、と」
 軽やかな身のこなしで再び廊下に降り立つ。
 そのまま誰に見咎められる事もなく、あやは一目散に玉座へと向かった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒瀬・ナナ
魔王のお金で焼肉が食べ放題と聞いて!(今年1番のキメ顔で参上!)
さぁ、パパッと潜入して魔王をしばき倒して焼肉三昧よ!

風神様のお力を借りて、ぴょーんとお堀を飛び越えて潜入!
警備の人達に見つからないように、『視力』だけでなく『聞き耳』を立てて音でも確認して。
物陰に隠れたり、目立たないように進むわね。
困った時には『第六感』と『野生の勘』を信じる!

もし見つかっちゃったら全力疾走で逃げる!焼肉の為ならきっと『限界突破』も出来るはず!
……それでもダメなら、魔王が払っているお金の倍額払うから見逃してくれない?
ついでに最上最奥までいける近道があったら教えてくれてもいいのよ?



●黒瀬・ナナ(春陽鬼・f02709)
「焼肉食べ放題なんて聞いたら黙っていられないわね!」
 そう息巻いて来たナナの表情は凛々しい。
 漲る気合は間違いなく今年の最高スコアを叩き出しているだろう。そして今年はまだ三〇〇日以上を残しているから、記録更新も大いに期待されるところ。
 猟兵、黒瀬・ナナの今後の活躍から目が離せない。

 然しながら、まず注目すべきは未来でなく現在のナナ。
「パパッと潜入して魔王をしばき倒して焼肉三昧よ!」
 ただ一言で明朗さと基本思考を露わにしつつも、四方に頭を下げて目を閉じる。
 腕力任せな脳筋的解決を宣言したばかりだが、彼女は戦いを好む羅刹族であると同時に、清浄なる神の御霊をその身へと下ろす戦巫女でもある。静謐を纏えば、其方の側面が強く滲み出ても不思議でない。
 これを俗っぽく言うと“黙っていればただの美人”になるが――ナナの怒りの角を覗きたくないなら、それこそ黙っているべきか。
 閑話休題。神降ろしに集中するナナは、程なく城壁を見据えて囁く。
「わたしはあなた、あなたはわたし――」
 言葉とは即ち言霊。
 自らの意を告げれば力が宿り、世界を超えて八百万の神と縁を結ぶ。
 そうして喚び起こされる奇跡なら、たかだか古城のお堀程度。
「……ぴょーんと、簡単に飛び越えられるわ!」
 風神様の加護を得て、カッと目を見開いたナナが駆け出す。
 一歩、二歩、三歩――。
 目一杯踏み切れば、すらりと伸びた美しい脚が天へと駆け上がって。
 瞬く間に、城の中へと消えていく。

(「ひとまず潜入は成功ね」)
 勢いそのまま、開け放たれた窓から飛び込んですぐに柱の陰へと潜む。
 じっと耳をそばだてれば、緩慢な響きの足音が一つ。
 それは徐々に近づいて――再び遠ざかっていく。
 ナナが隠れている方へと来る前に進路を変えたようだ。
(「……他には誰もいなさそうね」)
 聴覚に集中しつつ、僅かに柱から顔を覗かせてみれば、人影は見当たらない。
 ただ縮こまっている訳にもいかないのだから、進むなら今だろう。
(「もし見つかっちゃったら……その時は、その時よ!」)
 物事を成すには思い切りの良さも肝心。
 行くと決めてからのナナは素早く、けれども密やかに魔王城を駆け出した。

 そして、見つかった。
「なんでよー!?」
 注意深く、己の直感に従って慎重に、八百万の神にも祈ったというのに。
 それでもどうにもならない事があるとすれば――巡り合わせが悪かったのか。
 などと考えている余裕もない。セントウインたちはナナの行く先行く先で湧いて、瞬く間にその数を増やしていく。
 しかし、捕まる訳にはいかない。
 此処で捕まっては――焼肉が、食べられない!
「うう……カルビハラミロースミノレバータン塩ー!!」
 溢れ出る食欲は言葉となるばかりか、ナナの全身に限界を超えた力をもたらす。
 逃げ切れる。これなら逃げ切れる。

 そう確信したナナの前に現れる、壁。
「だからなんでよー!?」
 慌てたせいで道を間違えたのか。
 右にも左にも上にも下にも道はなく、振り返ればセントウインの一部隊。
「ぜぇ……ぜぇ……もう……逃げ場はない……ぜぇ……」
 大きく肩で息をしながら、硬貨の仮面を付けた者たちが距離を詰めてくる。
 袋小路だ。参った。詰んだ。終わった。
 ――なんて、そんなにあっさりと諦めるナナではない。
 瞬きする程の間で思案に思案を重ねて、唯一見出した可能性に望みを託す。
 即ち。

「魔王が払っているお金の倍額払うから見逃してくれない?」

 買収である。
 なんと浅ましい命乞いだろうか……と、そう詰るのは気が早い。
 むしろ褒めそやすべきなのだ。最後の最後で彼女が取った行動は、このデビルキングワールドという世界、其処で規範となる法律、そして金で雇われたセントウインという全ての条件を勘案して、最良のものであったのだから。
「……本当に倍額払ってくれるんだな?」
 仮面の向こうでセントウインが悪~く笑った気がした。
 それを確かめる術はないが、しかしナナも悪~く笑い返して言葉を継ぐ。
「ついでに、最上最奥までいける近道があったら教えてくれてもいいのよ?」
「そいつぁ別料金になるが、構わないか?」
「……ええ、いいわよ」
 どうせ、後で魔王がしこたま貯め込んだDを奪うのだから。
 セントウインが差し出してきた片手を取り、ナナは契約書代わりの握手を交わす。
 そうして裏切り者たちにエスコートされながら、堂々と向かうは――魔王の玉座だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

仙巌園・桜
正面玄関から堂々と行くよ
悪魔の世界も金次第☆

人材派遣会社『M&A種子島』を設立しま~す☆
せんちゃんが社長で薩摩あんた営業部長ね

先ず正門の戦闘員たちを時給780D以上で買収しなさい
巡回ルートや時間の情報を知ってたら2倍出して良いから
印象も大事だから魔王が昇給させる前に手を打つよ

道中で見つかりそうな場合はどんどん買収しなさい
なんなら成功した場合の出来高も付けてあげるって条件で☆

買収した戦闘員いや弊社スタッフも引き連れて行くから
実際に寝返った同胞を見た方が後の買収交渉が捗るでしょ
場合によってはスタッフに交渉させるのも有りね

支払いは魔王のDでせんちゃんの懐は痛まないし~
ティスの肉が減るだけだし
ね?薩摩



●仙巌園・桜(+薩摩・f00986)
 魔王の城と言えば物々しい気配も漂うが、実態を知れば大したことはない。
 金勘定に勤しむ主は自前の軍隊など持たず、城の警備を行うのは魔界の一般市民。
 彼らはセントウインなどと名乗ってこそいるものの、戦闘員と言うよりも銭闘員。
 そう、名誉や忠誠などでなく、はした金で雇われただけの傭兵――否、バイトだ。
「ということは~?」
 桜は鼻歌でも歌い出しかねない雰囲気で問う。
 相棒の小竜・薩摩は――じっと見つめ返すだけ。
 答えるつもりがないのか、先を促しているのか。
 どちらにしても、桜は言葉を継ぐ。
 後ろ手を組んだままで薩摩の周りを一周してから、くるりと振り向いて。
「悪魔の世界も、金・次・第☆」
 明朝、大雪でも降り出しそうな愛嬌を作ると。
 小さく溜息を吐いた小竜に何かを括り付けて、魔王城の正門へ飛ばした。

 当然、その姿は警備の連中から丸見え。
「……何者だ! 止まれ!」
 大きく『1』と刻まれた硬貨の仮面を被ったセントウインが叫ぶ。
 巨漢の『25』や、小柄ながら宙に浮く不思議な『10』も身構える。
 一触即発と誰しもがそう思うであろう光景。
 だが、戦いは起こらない。
 セントウインたちが(覗き穴もなさそうな仮面越しで)見つめる先。
 来訪者、薩摩がぶら下げていたものとは――。

┏  ! 急 募 !  ┓
   スタッフ大募集
  職歴不問・未経験可
  “ワルい”ヤツ大歓迎
造反するなら今がチャンス

  業務:悪事(軽作業)
  時給:1080D~
 昇給・出来高払制有り
 条件次第即1580Dも

 ◆◇友達紹介制度◇◆
 お友達が採用されたら
 お祝い金を支給します
  みんなでワル~く
   稼いじゃおう!!
┗人材派遣 M&A種子島┛

 ――手作り感溢れる求人広告だった。
 チラシと言うより看板だ。そこそこ大きい。
 遠目からでも読める配慮か、文字の書体もハッキリとしたもの。
 それを咥えて飛ぶ薩摩には『営業部長』なる襷が掛けられている。
 忘年会辺りでしか出番が無いような道具だが、さておき。

「未経験可」「ワルいヤツ歓迎」「1080Dだと……」
 口々に呟く門番三人衆は明らかに心揺さぶられていた。
 特に最後の部分だ。現職よりも時給ベースで300D高い。
 ちなみに参考値はUDCアース大都会の最低賃金であるが――それはともかく。
 これが他世界の感覚なら、単に給料が良い、というだけ。
 しかしデビルキングワールドは違う。Dはワルさを測るバロメーターだ。
 即ち、広告の仕事はセントウインたちとっては“より悪い”仕事。
 食いつかない理由などない。
 悪い物/者がよりカッコよく、悪事を奨励する法まで制定された世界。
 それこそが、このデビルキングワールドなのだから。

 かくして始まった買収の標的は、門番三人衆に留まらない。
 城内の見回りをする者、上層への階段を警備する者。
 桜と薩摩が進む先で出会したセントウインたちは次々と寝返っていく。
 説得の中核は、皮肉にも魔王城からM&A種子島に転職したばかりの者たち。
 紹介制度だけでなく、警備シフトや巡回ルートなど手土産に漏らす情報次第で更に給金マシマシなのも裏切りに拍車を掛けた。仮に魔王があと一歩早く昇給を知らせていれば或いは――いや、ド田舎のコンビニみたいな給料が、突然首都圏並みにはなるまい。先んじていたとしても、この買収劇に魔王は太刀打ち出来なかっただろう。
 無論、先手を打って高給を示した桜の慧眼を称賛すべきではあるが。
「じゃあ薩摩、そいつらにお友達紹介ボーナスあげといて」
 偉ぶる社長・桜が指示を出せば、営業部長・薩摩が後払いの証明書を咥えて飛ぶ。
 それを受け取ったセントウインは拳を握って。
 その姿を見た者は、未だ魔王城勤務の者を探そうと血眼に。
「いい感じじゃないのよ~、その調子でじゃんじゃん買収してきなさい」
 右肩上がり。雪だるま式。瞬く間に膨れ上がっていく企業規模。
 それらを全く顧みようとしない桜へと、薩摩が案じるような目を向れば。
「払うのはせんちゃんじゃなくて魔王の財布からだし~?」
 桜はニンマリと笑いながら言って続ける。
 この買収に掛かった費用のせいで、後々の分け前が少なくなるというなら――。
「人を働かせて肉食べようとしてるティスの分を減らすだけだもんね~?」
 そう宣う桜に、薩摩は思っただろう。

 早くお肉食べたい、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アトシュ・スカーレット
新世界、頭がこんがらがりそうな事やってんな…
ま、いいわ

【変化術・三身式】で烏に変身して1番手薄そうな所を【偵察/闇を紛れる/暗視/視力/目立たない】で探してくるか

発見次第、味方に伝えるぞ
教えはしたからな?流石に入る方法は自分でなんとかしてくれ、一応匿うUCはあるんだが…

その姿のまま侵入して、人目に付かなそうなら【化術/変装/礼儀作法】で使用人にでも化けるか…
居なさそうならセントウインにでも化とくがな
もし見つかっても全力で【言いくるめ】るぞ

アドリブ、共闘大歓迎



●アトシュ・スカーレット(狭間を歩く放浪者・f00811)
 考えれば考えるほど頭がこんがらがるから、余計な事を考えるのは止めた。
 為すべきは魔王の打倒とDの回収。その為に必要なのは城内への潜入。
 それを円滑に行おうとすれば――。
(「ま、警備の手薄なところを探すのが最優先だわな」)
 隼に化けたアトシュは胸中に呟きを零して、魔王城の外縁をぐるりと一周する。
 南側の正門には見える限りでセントウインが三名ほど。真正面の防備がそれだけであるはずもないから、大方すぐ近くにもう何名か詰めているだろう。
 東側の物見塔は天辺に一人だけだが、建物の作りを見る限り下層を詰所か何かにしていそうだ。うっかり真上から突けば、すぐに増援が湧き出すであろう事は想像に難くない。
(「ということは、やっぱ北か西か……」)
 そのどちらにも見回りのセントウインが時折窺えるが、堀の存在もあってか厳戒態勢とは到底呼べない。
 どちらから攻め入るかは――好みで良いかと言うくらいに大差ない。

「――って感じだ。教えはしたからな? 後は自分たちでなんとかしてくれ」
 未だ侵入の機会を伺っていた猟兵たちに見聞きしたものを報せて回ると、アトシュ自身は再び隼と化して空に舞い上がった。
 首に巻いたレースのリボンを靡かせるそれは疾く、月を過ぎる小さな影に気付くのは容易いことでない。
 それでも、城を守る数多のセントウインの一人くらいは、目に留めたかもしれないが。
 魔界とて鳥の一羽くらい飛ぶだろう。血眼で不審な事柄を探すほど熱心ならばともかく、はした金で雇われているだけのセントウインたちがそれを見たところで、まさか魔王を狙う驚異などと結びつけるはずもない。

 故に、アトシュは何ら苦労する事なく潜入を果たした。
 矢のように窓から飛び入って、そのまま開け放たれていた扉の向こうに転がり込む。
 無人の其処は――倉庫のようだ。古城の一室にしては狭く、埃っぽい。
 長居したいとは露ほども思わない場所だが、それでもアトシュには好都合。
 さすがに城の中を隼が駆けていけば怪しまれる。
 此処から先を行くには、またそれに相応しい変装を施さねばなるまい。
「……何か使えそうなものは、と」
 薄暗い中で目を凝らし、密やかに四方を漁る。
 最良なのは使用人の服装だろうか。
 執事服は勿論、女顔のアトシュならばメイドでもまあ、いけない事はないはず。
「別に着たいわけじゃねぇが」
 誰に向けるでもなく呟いて、一度手を止める。
 残念ながら使用人の服はなさそうだ。それ以外にも――。
「……いや」
 あるにはあった。ちょうど変装に使えそうなものが、一組。
 しかし、それを着込むのは少しだけ時間を必要としたのだ。
 何と言っても――ダサい。
 とはいえ、背に腹は代えられない。
 アトシュは掴み取ったそれで身を包み、廊下に出る。

 途端、セントウインと出会したものだから、さすがにアトシュも身体を強張らせた。
 出てきたところだけを見られたのか、それとも、その前から見られていたのか。
 場合によっては強硬的な手段を取る必要が――いや、そうなれば作戦失敗だ。
 では、如何とする。口を噤んだまま思索を巡らせるアトシュに『1』の仮面を付けたそれが問う。
「……お前、こんなところで何やってんだ?」
 随分と砕けた態度で来たのは、尋ねる相手が同じ格好をしていたからだろう。
 まだバレてはいない。誤魔化す余地がある。しかし何と答えるべきか。
 瞬きする程の間に様々なパターンを検証した結果、紡ぎ出した全力の言い訳は、ずばり。

「ちょっと着替えを、な」
 ありのままを答える事だった。
 仕方ない。セントウインの事情など知らぬままに嘘八百を並べ立てれば、何処で不審に思われるかも分からない。それを誤魔化そうとすればやはり嘘をつく他になく、肥大し続けるそれは益々崩壊の危険性を高めていくだろう。
 ならば、いっそ開き直るくらいでいいのだ。アトシュは今、着替えた。私服からセントウインの制服に、黒の全身タイツに白の手袋とブーツ、そして『1』の仮面を着用した姿に変わった。
 真実を言っているのだから堂々ともしていられる。此処からさらに「何故」をぶつけられるなら、さらに全力を賭して言い包めてみせるだけだ――!
 と、そんな意気込みなど知るはずもないセントウインが笑う。
「ああ、今晩は特に冷えるもんなぁ。俺も今日は重ね着してるよ」
「……そうか」
 全身タイツの重ね着?
 なんて問いたくなるところをぐっと堪えていれば、セントウインは軽く手を振りながら去っていく。
 それでいいのか警備兵、などと思わないこともないが。
「……ま、いいわ」
 この世界で頭を悩ませるのは無意味と悟ったばかり。
 とにかく潜入には成功したのだ。後は魔王の玉座に向かうだけと、アトシュは巡検の振りをしながら城内を進んでいく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シン・フォーネウス
タダ肉が食えるなんて願ったり叶ったりじゃねぇか!にしても人件費780Dか……とんでもなくワルワルだな。
だがな、その金で焼き肉を食おうとする俺はもっとワルワルなんだぜ!

UC発動、飛行能力を得た下僕たちに乗って侵入を試みるぞ。
城内の曲がり角とか怪しそうだったら、お掃除ロボット『ソロネ』を先行させて見張りがいないか確認してみる。
もし見つかっても、ただ城内を掃除してるお掃除ロボットだ。

もし俺も見つかった場合は、場内の清掃を頼まれた掃除屋って話を通すぜ。

時給500Dで城内清掃を依頼された掃除屋だ。掃除の邪魔だから退いてくれないか?これ以上給料が下がったらどうしてくれんだ?

(アドリブ等歓迎)



●シン・フォーネウス(水竜の従者・f31485)
 タダ飯(しかも肉)にありつけると、喜ぶばかりでいられないのは仕える者の性か。
 正門を守る薄給のセントウインたちの向こうに魔王の歪な笑みを想像したシンは一言。
「……ワルワルだな」
 唸るように呟いて顎に手を添え、暫し黙り込んだ後に言葉を継ぐ。
「だがな、お前らに払われるはずだった金で焼肉を食おうとする俺はもっとワルワルなんだぜ!」
 自信に満ち溢れた宣言は潜伏中であるが故、彼方の門番たちにまで届くことはない。
 しかし今日のシンがやたら生き生きとしているのは、報酬としてぶら下がる肉のせいばかりでなく、一々ツッコミを入れさせるようなものが側に無いからだろうか――と、それはさておき。
「行くぞ、お掃除開始だ!」
 気合充分で城を指差せば、動き出したのはあらゆる汚れを(物理的に)片付けるロボット軍団。
 ビーム撃ち放つ砲塔を二十九門も備えた、七十機のお掃除ロボットと七十機の高圧洗浄機だ。自律飛行すら可能なそれらに取り付いて魔王城への侵入を目論むシンは――完全に戦争を仕掛けているようにしか見えない。
 
 それでも隠密とは対極の侵攻が騒ぎにならなかったのは、猟兵たちに警備の手薄な箇所を報せていた一羽の隼のおかげか。
 誰に見咎める訳でもなく堀を越えたシンは、窓から雪崩込むようにして魔王城へと入り込んだ――が、しかし。
「……ここからが本番だな」
 黒髪に一房浮かぶ深紅を僅か揺らして、より一層表情を引き締める。
 侵入は果たしても、シンがこの城にとって異物であることは変わりない。何処かでセントウインと鉢合わせれば、まず間違いなく不審に思われてしまうだろう。
 その怪訝な視線から少しでも逃れる為には、慎重に進むだけでなく、さらなる偽装を施しておかねばなるまい。
「そういう訳で、今の俺は城内清掃を頼まれた掃除屋だ」
 己に言い聞かせながらデッキブラシを掴み、まずはお掃除ロボット“ソロネ”を先行させる。
 索敵、探査、解析等々の機能を搭載したそれが見つかったとしても――。

「うわぁ!? ……ああ、なんだ。ただの清掃ロボットか」
 このようになる訳だ。
 まともな警備兵だったらそうもいかなかっただろうが、その辺りはセントウインの間抜けっぷりに感謝する他ない。
 とはいえ、何度も繰り返すのはヒヤヒヤする光景に違いなく。
「さっさと魔王のところへ――」

 などと意気込んだ矢先、シンの右肩にぐっと押さえつけられる感触。
 振り返れば『25』の硬貨で顔を隠す巨漢。
「此処で何をしている?」
 問いかけと同時に力が強まった。
 答え次第ではそのまま握り潰すと言わんばかりだ。
 さすがのシンも微かに表情を歪めて――それでもぎこちなく余所行きの顔を作ると、片手の得物を軽く持ち上げながら言葉を返す。
「見ての通り、掃除をしているだけだが?」
「掃除……?」
 そんな話は聞いていない、と巨漢が言外に含める。

 けれども、彼の疑問は続くシンの台詞で殆ど消し飛んだ。
「悪いが離してくれないか。そして掃除の邪魔だから退いてくれ。こちとら残業代なんか出やしないんだ。夜明けまでに終わらせなきゃタダ働きになっちまう。……お前のせいでそうなったら、いったいどうしてくれんだ?」
「……いくらで雇われているんだ、お前」
「時給500D」
「時給500D!?」
 途端、拘束を緩めたセントウインは、驚愕に憐憫を混ぜながら肩を軽く叩いて。
「500D……そうか……まあ、なんだ、その……頑張れよ。お前ならそのうち、もっとワルくなれるさ」
 励ますように言うと、城内の見回りに戻っていく。

 その姿が廊下の角を曲がるまで見送ってから、シンは肩をぱっぱと払った。
 警備を遥かに凌ぐ薄給が余程の衝撃だったのか、或いはワルさのバロメーターとしての視点から脅威でないと見做したのか。理由はさておいても、やはりセントウインたちが間抜けなのは間違いない。
「暫くは今の言い訳でいけそうだな」
 独言しつつ、シンは先に進んだソロネを追う。
 勿論、清掃員である事を疑われないようにと、それらしくデッキブラシを動かしつつ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ディートヘルム・アモン
(アドリブ・連携歓迎)
あれが警備兵か。時給780Dで雇われてるという。
換算して1時間780円で働いているという。
…UDC組織の清掃員の方がまだ給金いいぞ?
『強調してやるな…それより侵入方法は考えたのか』
…[ヴァッハフォイアー]で塀を飛び越えて窓から侵入するか。
[ケーフィヒ]で視える範囲で警備兵が少ないタイミングと位置を狙って突入するつもりだが…
『予知通り警備が手堅いな…では発見された場合、謎を喰らう触手に警備兵の疑問を喰らわせよう』
あくまで警備兵の抱く違和感のみで頼むぞ兄弟。

『…ところでこれから侵入し金を奪う訳だが』
ああ。
『その場合この警備兵の給金はどうなるのであろうな』

『…おい無視するな』



●ディートヘルム・アモン(此岸彼岸の境界線・f09203)
 城の入口で気怠けに構える人影が幾つか。
(「あれが警備兵か。……確か、時給780Dで雇われているとかいう」)
 事前の説明を思い起こしての呟きは何処か物悲しい。
 それもそのはず、1D=1円なのだから、警備の彼らは時給780Dで門番を引き受けている事になる。
 一日八時間の週四勤務でも月10万に届くかどうかだ。Dはワルさのバロメーターくらいにしか使われていないとはいえ、荒事になる可能性もある仕事の報酬としては、やはり安すぎる。
(「……UDC組織の清掃員の方が、まだ給金いいぞ?」)
(『あまり強調してやるな』)
 そう答えたのは、ディートヘルムの半身。
 UDCという言葉で括られるそれは、宿る右の義眼“ケーフィヒ”から“兄弟”と同じ景色を解しつつ、言葉を継ぐ。
(『それより侵入方法は考えたのか? 聞いていた通り正面の警備は手堅いようだが……それ以外の場所からであれば、タイミングさえ計れば突入出来そうだが」)
 問われたディートヘルムは――顎に手を当て、黙り込む。
(『今から考えるのか……!?』)
 もう敵地を目の前にしているのだぞ、と。
 そんなツッコミを受け流してまた暫しの後、ようやっと兄弟が語った方法とは、ずばり。

「行け、ヴァッハフォイアー……!」
 絞り出すように言って腹を蹴れば、蒼炎滾らす死霊の馬が夜を駆けていく。
 如何なる場所でも越えるその健脚を以てすれば、城のお堀など軽く跨ぐくらいのもの。
 水面に波紋すら残さず渡り切って、主を窓から城の中へ送り届ければお役御免。
(『とはいえ、ここからが正念場だぞ』)
 兄弟の呼び掛けには頷きだけを返して、まず周囲の様子を窺う。
 目指すべきは最上階の最奥部。
 其処に座す魔王と対面するまで、警備の全てを躱すなど現実的ではないだろうが――。
(『その時は“謎食らう触手”に彼奴らの疑問を喰らわせよう』)
(「……あくまで疑問、違和感のみで頼むぞ、兄弟」)
 些か血気に逸るUDCを窘めつつ、ディートヘルムは慎重に進み出す。

(『……ところで』)
 まだ幾ばくも進まない内に、兄弟がふと思い出したように尋ねてくる。
(『これから金を奪いにいく訳だが。その場合、警備の連中の給金はどうなるのであろうな』)
(「…………」)
(『おい』)
(「………………」)
(「おい。無視するな』)
 駄々をこねるかのような呼び掛けに、ディートヘルムは応じない。
 返す言葉があるとすれば――そんな疑問など、それこそ触手にでも喰らわせておけ、というくらいか。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ナターシャ・フォーサイス
【聖影】WIZ
色々と突っ込みどころはありますが…要するに、潜入しろと言うのですね。
使徒としては、彼ら安い時給で働く方々にも道を説き、教えを広めたいですが…仕方ありません。
そも、この世界においては教えを説くことが正しいのかは甚だ疑問ですしね。

潜入と言っても、それらしいUCはありませんので、天使達で陽動をしましょう。
私はティノさんの陰に潜って動きます。
それが目につかぬよう、天使達には分散し彼らの目を散らすよう命じましょう。

…決して、他人のお金で焼き肉が食べたいからとか、そう言う邪な理由なのではないですよ?
ただ私も人間、食べねば飢えてしまいますから。
美味しいものを求めるのは、人としての性でしょう。


ティノ・ミラーリア
【聖影】
この世界の概要は一応聞いたけど…わかったような、わからないような…。
取り合えず、雇われてるセントウインとは戦わず、元凶のオブリビオンだけ倒せばいいんだよね。

最初の陽動はナターシャがしてくれるから、セントウインの目がそっちに釣られたらUC発動。
二人でコウモリ型『眷属』の影の中に入り込んで、コウモリ眷属で城の中まで侵入しよう。
発動すればもう影の中ですることもないし、城の中までしっかり飛んでね?
もし見つかることがあっても別の影や眷属に移動すれば、回避するのは簡単かな。

全部終われば、魔王が溜め込んだDでお肉が食べれるのは楽しみだ…。
悪魔的旨さ…美味しかったらお土産に持ち帰ったりもできるのかな。



●聖影
 僅かに毛色の違う銀髪が、月の光を照り返すのも避けるように忍んで。
 小さく唸る二人。
 片や、ナターシャ・フォーサイス(楽園への導き手・f03983)。
 片や、ティノ・ミラーリア(夜闇を伴い・f01828)。

「……ええと。要するに、潜入しろと言うのですよね」
「うん。元凶のオブリビオンだけ倒せばいい、はず」
 囁く程度の言葉を交わすことで、互いの疑問を退けていく。
 それでも湧き上がる諸々や、腑に落ちない事柄は尽きないが。
 全て纏めて城のお堀に投げ沈めると、ナターシャは手を組み、目を瞑り、静かに祈る。
(「薄給の彼らに教えを説き、導く事は叶いそうにありませんが……」)
 そもそも、このデビルキングワールドではそれを為すべきなのかさえ定かでない。
 ならば、ひとまずは使徒でなく猟兵としての使命に集中すべきだろうが――生憎、ナターシャには隠密や潜入という単語と親しいものに思い当たる節がなく。
(「ですから、私は陽動を」)
 その為の仕掛けを。
 祈りは次第に天使の形を成して、瞬く間に群れと化して。
 整然と並んだかと思えば、一斉に飛び立ち、様々な方向から城へと攻めかかった。

 途端、魔王城は臨戦態勢に入る。
 正門は多数のセントウインで固められて、見張り台からと思しき塔からは大きな声が響き。
 あちこちの窓から漏れていた灯りが僅かに弱まれば、代わりに顔を覗かせた『10』の仮面のセントウインたちが闇色の破壊光線を滅多矢鱈に連射する。
 猛攻を前に天使軍団は次々と穿たれて消え去り、四〇〇体を超えていた彼らの姿は、あっという間に何処にも見られなくなってしまった。
「なんだか知らんが、大した事はなかったな!」
「危険手当の支給理由になりそうだから、むしろ感謝すべきだろうな!」
 方々で上がるのは鬨の声でなく、臨時ボーナスを期待する笑い声。

 それを“影の向こうの世界”で聞いて、ティノは呟く。
「楽しそうだね」
「……良いのではないでしょうか」
 答えたナターシャは、また眉間に小さな皺を作っていた。
 猟兵たちが行き交う世界は数多かれど、こうも気が削がれるような舞台は珍しい。
 それもこれも、良い子すぎる住人たちや“デビルキング法”のせいなのだろうが、さておき。
「もうすぐ着きますね」
「コウモリで飛び越えるには、ちょっと大きな堀だったけどね」
 敵地へ潜入する最中とは思えないほど穏やかに言葉を交わす二人は、影の向こうに匿われたまま、城の窓を通り抜けていく。

 そのまま尖頭状の天井に張り付くようにして進めば、魔王と相対する前に出会したのは見回りのセントウイン。
 万が一があれば別の影や眷属に移り変えて凌ごう――と、そう身構えていたティノが行動に出るより先に、顔を『1』の仮面で隠した魔界の住人はコウモリを見上げて、一瞬ばかり身体を強張らせた後に溜息を吐いた。
「なんだコウモリか……驚かせやがって。ほらほら、そんなとこ飛んでないで行った行った」
 窓の外へと追い払うように手を降ってみせた後、セントウインは興味を失ったように過ぎていく。
(「なんだか拍子抜けするね」)
(「まあ、古いお城のようですし、このような来客は珍しくないのかもしれませんね」)
 ふふ、と微笑むナターシャに頷きを返して、ティノは眷属に先へ進むよう促す。
 この調子なら、労せずして魔王の玉座まで辿り着けるだろう。
 などと思い始めると、頭の中には早くも美味しそうな肉たちが攻め寄せてくる。
(「お肉、楽しみだな……」)
(「ええ」)
 綺麗に切り分けられたそれを網の上に乗せれば、香ばしい匂いと共に滴る油が――。

(「……はっ!?」)
 潜入途中に何を考えているのだろうか。
 ナターシャはかぶりを振って、ゆっくりと呼吸をした後に忽然と語り出す。
(「違います。違うのですよ。決して、決して他人のお金で焼肉が食べたかったとか、そういう邪な理由で来たのではないのですよ。ええ。ですが、ですが。然しながらですね。私も人間、食べねば飢えてしまいます。そうして飢えを避けるべく食べるとするなら、どうせ食べるのであれば。美味しいものを求めようとするのは、これは人の性というもの。そうでしょう?」)
 肺の中を全て絞り出すように言い切って。
 ふと見やったティノは――恐らく、半分も聞き取れていなかったのだろう。
(「悪魔的旨さ……お肉、お土産に持ち帰ったり出来るのかな」)
 ともすれば純朴にすら聞こえるそんな呟きに、ナターシャは長尺の独言をまるっと取り消してしまいたいような気分に陥ったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『デストロイキング』

POW   :    デストロイキング軍
レベル×1体の【ビューティスパイダー】を召喚する。[ビューティスパイダー]は【女郎蜘蛛】属性の戦闘能力を持ち、十分な時間があれば城や街を築く。
SPD   :    デストロイ光線
レベル分の1秒で【背中の魔力角から破壊光線】を発射できる。
WIZ   :    デストロイウェポン
【腹部の巨大な口に取り込んだ物体】から、対象の【全てを破壊したい】という願いを叶える【破壊兵器】を創造する。[破壊兵器]をうまく使わないと願いは叶わない。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 種々様々な方法で城内へと潜入した猟兵たちは、セントウインたちの目を掻い潜ったりなんやかんやしながら、無事に玉座の間へと辿り着く。
 門扉と違わぬほど重厚な木扉を押し開けると、広々とした空間には赤い絨毯が敷かれている他、簡素な事務机があるくらい。奥には当然、魔王が居て。
 予期せぬ来訪者の集団を見据えたそれは、おもむろに眼鏡を外すと――傍らにあった木箱を閉じて腰を上げ、こう宣った。
「……クックック。貴様ら、何処の手のものだ。労基か? 税務署か?」
 暫し言葉を失う猟兵たち。
 それを拒絶と判断してか、魔王は勝手に話を進めていく。
「名乗らずとも良い。だが、儂の金には指一本触れせさせはせんぞ」
 言うが早いか、魔王は木箱を抱えて玉座の後ろへと運ぶ。
 其処に積み重ねられた同じ木箱の数々に、何が詰まっているかなど言うまでもない。
 さあ、魔王を倒し、焼肉資金を手に入れるのだ――!
アトシュ・スカーレット
え、労基でもなんでもねぇんだけど…

よし、さっさと回収して焼肉食うぞ!
【2回攻撃/呪詛(腐敗)/鎧無視攻撃/鎧砕き】を主軸に攻撃していくか

危ない攻撃は【指定UC】で回避後【カウンター】をするか【残像】が見える速度で回避するかなどっちかにするわ

アドリブ、共闘歓迎



●アトシュ・スカーレット(狭間を歩く放浪者・f00811)
 呆然と立ち尽くしたままでアトシュは呟く。
「いや、どっちでもねぇんだけど……」
 まず魔界に労基だの税務署が在るのか?
 そもそもオブリビオンが気にする事なのか?
 疑問は止まず、それらへの答えは何処にも転がっていない。
 必然、思案の時間は極々僅かで打ち切られた。
「――よし、さっさと回収して焼肉食うぞ!」
 片手剣を抜き放てば、相対する諸悪の根源も厳つい手を握り締めて立つ。
「聞こえていなかったのか。この金は、儂のモノだ!」
 叫声は巨竜の咆哮の如く轟いてアトシュの全身を軋ませた。
 けれど、それは未だ驚異ではない。威嚇ですらない。
 魔王が魔王たる証明、要するに唯の挨拶程度。
 真なる試練は、程なく来た。
「――――っ!」
 気配を感じて魔王から遠ざかれば、何処からともなく現れた魔物たちがアトシュの居た場所に小さくない窪みを作る。
 蜘蛛だ。蜘蛛の身体に人の顔を持つ魔物。一匹でも十分な存在感を放つそれは瞬く間に数を増やし、群れを超えて軍と呼べる程にまで達する。
「ヌハハ! これぞ我が忠実なる下僕、デストロイキング軍!」
「……警備はバイトだけじゃなかったのかよ」
 ボヤいてみても眼前の景色は変わらなかった。
 しかし漠然と仕掛けるのは流石に躊躇う。
 アトシュは刃を手にしたままで敵を見据えて――。
「行けぃ!」
 思考が定まるのを敵は待ってくれない。
 蜘蛛の糸が左右から飛び交い、それらを器用に跨いで幾つかの足先が槍のように襲い来る。
 その全てを俊敏性だけで凌ぐのは厳しい。幾ばくかの反撃を足しても同じことだ。
(「……仕方ねぇ」)
 尚も思索は巡らせてみるが、他に有用な手立てなど見当たらない。
 状況を打破するにはそれなりのカードを切らなければ――。

 ――と、そう決めた瞬間、アトシュは戦場から消失した。
 残像を生むほどの高速移動でも、敵を欺く偽装でもなく。
 完全に、消えてしまった。
「クックック。今更、儂に恐れをなしたか」
 魔王は呟くが油断はしない。無能では巨額のDなど貯められるはずもない。
 自らと財を守るべく、攻勢に傾けていた手駒たちを呼び戻して陣形を整えようと動く。

 しかし、それを為すには短すぎた。
 時間にして十秒。思考は出来ても軍勢が成果を上げるには足りない。
 間隙を縫うような良い塩梅は、ともすれば偶然の産物かもしれないが。
「されど切り開かれる道は確定する――!」
 世界に自らの存在を再証明したアトシュが刃を振るう。
 刹那の内に二度。呪詛染みる太刀筋は魔王の頑強な肉体を裂き、蝕み、それを一時であるが跪かせて。
「おのれ……!」
 歯噛みした魔王が自らの命よりも財を守ろうと動けば、アトシュは嘲笑うかのようにまた一度退いた。
 Dは回収すべきだが、それは全てが終わってからでも遅くはないだろう。

成功 🔵​🔵​🔴​

シン・フォーネウス
一介の掃除屋だ。時給上げに来た。
嘘だ。まあそんなことはどうでも良いんだよ。焼肉資金はそこかっ!
よし、ここら辺全部掃除させてもらうわ!リビングキッチントイレに洗面所浴室、そして木箱、以上!清掃特別料金10万Dだ!

とは言ったものの、はいそうですかって頷きそうにないな。
UC発動、デストロイキングの認知情報から『背中にある魔力角』と『木箱』を抹消してみるぜ。すでにお前の木箱は俺の掌中にある!

そして脱税絶許斬!時給780Dと時給500Dの厳しさを味わえや!
デストロイキングに幻の刀傷と激痛を刻んでみるぞ!

俺は労基でも税務署の悪魔でもねぇ!だからその木箱の中身は豪遊に使わせてもらうぜ!



●シン・フォーネウス(水竜の従者・f31485)
 猟兵だ、と名乗り返すのは容易い。しかし面白くない。
 そう思ったかどうかはさておくとしても、シンが警備のバイトを騙くらかした設定を貫こうとしたのは事実だ。
「俺は一介の掃除屋だ。時給を上げに来た」
「掃除屋……? ふむ、確かに清掃業者を入れる予定があったような……」
 魔王は再び眼鏡をつけると軽く指を舐め、片手に握ったままの紙を捲る。
「ええと、清掃業者、清掃業者……ああ、これだな、うむ。……成る程、日当5000Dでの募集であったか」
「……いや、あのな」
「賃上げは構わぬが、あまり非常識な要求をするのであれば契約解除でも仕方あるまいな。他にも幾つか申し出はあったはずだし、そもそも悪魔たちは無償奉仕も厭わ……ぬ? 資料は何処へ置いたかな。まだ裁断はしていなかったはずだが――」
「嘘! 嘘だ! そんなことはどうでも良いんだよ!」
 堪らずデッキブラシを床に叩きつけ、僅か弾んだそれを足先で器用に拾って。
「焼肉資金はそこかっ!」
 持ち直した清掃用具で魔王の背を指し示すと、シンは勢いそのままに続ける。
「嘘だとは言ったが、ここら辺全部掃除させてもらうわ! リビングキッチントイレに洗面所浴室、そして木箱、以上! 料金は特別割引サービスで――全部込み込み10万Dだ!」
「ふざけるなッ!」
 忽然と響く怒声。温厚な経営者風から“らしい”威圧感へと纏う雰囲気を変えて、魔王は不届き者を一睨みすると両拳を握り締める。
「――たかだか掃除に10万も払えるかァ!!」
「怒るポイントそこかよっ!」
 なんて茶化すような台詞こそ吐いたが、状況は芳しくない。
 力む魔王の背から伸びる幾つもの突起。一つ一つが刃のような“角”から迸る魔力が、万物を破壊する光線となってシンに襲い来る。
(「そりゃ、はいそうですか、って頷くとは思わなかったけどな……!」)
 逃げ回りながら舌打ちを一つ。
 これでは掃除をするどころか散らかる一方だ。魔王が光線を撃つ度、古めかしい城の壁や柱が砕けて赤い絨毯を汚していく。
 それ自体はどうでもいいが、しかしこのままでは攻め掛かる隙もない。そればかりか、逃げ隠れする場所すら遠からず失う羽目になるだろう。

 けれども、シンは焦るどころか不敵に笑う。
 元より自信ありげな表情では居たが、今も根拠なく虚勢を張っている訳ではなく。
「俺を清掃バイト程度の“ワル”だと舐めてもらっちゃ困るぜ?」
「なにぃ……?」
 猛攻の隙間に差し込まれた言葉を魔王が訝しむ。
 しかし――それは一瞬で別の表情へと変わった。
 驚愕。その後、蒼白。
 奴は初めから青い肌だろうなどと野暮なことを言ってはいけない。突如として魔力角からの砲撃を止めた魔王はまず己の背中を窺い、それからその向こうを確かめて叫んだ。
「――わ、儂の金が! ない!」
 欲望をたんまりと貯め込んだ木箱。謎の大儀式を起こす為に必要な大量のD。
 それが一瞬にして“魔王の世界から消失”したのだ。
「ない! ない!? 儂の角、いや儂の金! そんなバカな!」
「残念だったな! そいつはもう俺の掌中にある!」
 勝ち誇る声にまた振り返れば、デッキブラシを刃に持ち替えたシンが大上段からの一撃を繰り出す。
「時給780Dと時給500Dの厳しさを味わえや! ――脱税絶許斬!!」
「グ、グオォッ!」
 心身共に斬り刻まれるような技を受けて悶え、魔王は見苦しくのたうち回った。

 その滑稽な姿を横目に、シンは木箱を一つ担ぎ上げる。
 小脇に挟んだのは刃でなくデッキブラシ。
 傍らの魔王は、依然として背中に幾つもの魔力角を有している。無論、木箱も積み上げられたまま。
 全ては“幻”だ。喪失も激痛も、シンが魔王に与えたのは何もかもが認知の歪みによる幻。
 ……否、一つだけ“真”も在ったか。
「俺は労基でも税務署の悪魔でもねぇ。だから、この木箱の中身は豪遊に使わせてもらうぜ!」
 宣言通り魔王のDを掌中に収めたシンは、未だ苦しむ魔王を余所に早くも未来へと思い馳せた。
 ――待ってろ、焼肉!

大成功 🔵​🔵​🔵​

仙巌園・桜
労基?税務署?
泣く子も黙る人材派遣会社「M&A種子島」で~す☆

さて、魔王君。戦いは数と士気だって知ってるかな?
弊社スタッフ達よ
薩摩営業部長と協力して魔王を倒してね
勿論最後の止めを刺した人には臨時ボーナスがありま~す
気張れよスタッフ共!Dは自分で勝ち取れ!
(……薩摩に持っていかれなかったらだけど)

薩摩、基本的には後ろの木箱狙いで攻撃なさい
そんなに大事なら守る為に勝手に魔王が攻撃受けてくれるから
守らないならそれはそれで奪えるしね~
それとなるべく止めさせる様に調整しなさい
経費は少ない方が良いから
せんちゃんもどさくさに紛れて木箱の1つや2つナイナイしちゃお☆

アドリブ歓迎
面白可笑しくして頂ければ結構です



●仙巌園・桜(+薩摩・f00986)
 魔王は我が目を疑った。
 そして木箱を庇うように立ちながら呆然とするそれに、もはや魔王を超えた“ワル”と言っても過言ではない桜はニヤリと笑いながら語り始める。
「労基~? 税務署~? 違う違う。うちは泣く子も黙る人材派遣会社『M&A種子島』で~す☆」
「人材派遣……?」
 鸚鵡返しで応じる魔王だが、それは言葉の意味を尋ねているのではない。
 忽然と進み出て戯言を宣う竜娘の後ろに整列している面々。自らが警備で雇ったはずのセントウインたちが、何故其処に居るのかを問うているのだ。
 けれども、疑問は視線に含められるばかりで言葉にならない。
 そしてそれを良い事に、桜はくるりと魔王に背を向けて講釈を垂れる。
「……さて、魔王君。戦いは数と士気だって知ってるかな?」
 勿論、返答などない。それが求めているのは違う言葉。
 ――彼らは金で寝返りました。
 そう教えてやるだけなら五秒と掛からない。
 だが、それでは魔王を怒らせるだけだ。曲がりなりにも莫大なDを貯め込むだけの力量を持つオブリビオンが激憤すれば、如何にセントウインたちが猟兵に匹敵するユーベルコード使いであっても怯え、萎びてしまうだろう。
 それではいけない。今しがた自らが言葉にした通り、戦いは(概ね)数と士気。
 既に数の方は揃っているのだから、後は士気を向上させてやれば――。

「ではでは、弊社スタッフ諸君」
 沈黙を保つ魔王とのコミュニケーションは諦めて、桜はM&A種子島の面々に呼びかける。
「早速だけども、薩摩営業部長と協力して魔王を倒してね~。勿論、止めを刺したりして成績トップだった人には『臨時ボーナス』がありま~す」
 悠然とした声でも一箇所を殊更強調してみれば、途端にセントウインたちの雰囲気が変わる。
 臨時ボーナス。イコール金。イコールD。
(「つまり魔王を仕留めた奴が俺たちの中で一番のワルになれる……!」)
 社長と営業部長には及ばなくとも主任辺りにはランク付け出来るだろう。
 これは薄給バイトからの躍進を果たすまたとないチャンス。
「気張れよスタッフ共! Dも出世も自分で勝ち取れ!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
 社長直々のお言葉に地鳴りのような叫びが返れば、セントウインたちは我先にと争って元雇用主に襲いかかる。
「……お、おお!? おのれ裏切り者どもめ! 折角昇給も考えてやっていたのに!」
「昇給!? いくらだ!!」
「ヌハハ! 聞いて驚け、一気に100Dアップの880Dだ!」
「そんな時給で働いていられるかぁ!!」
「あんれぇ?」
 それなりに奮発したはずなんだけどなぁ……と、予想外の反応に首を傾げる魔王はM&A種子島が提示した報酬を知る由もなく。
 金の力に背を押されたセントウインたちは分身を生み出し、暗黒破壊滅殺光線を放ち、筋肉を膨張させて力任せに殴りかかって――尽く魔王の膂力や胆力には及ばず、跳ね返された。
「あれれ~? それじゃあボーナスなんて夢のまた夢だよ~?」
 お気楽な声援を送る社長の在所は勿論、戦場の端も端の安全圏。
 使う者と使われる者の立場の差が如実に現れる世知辛い光景だが、しかし経済社会とは斯くあるもの。
「俺がボーナスを貰うんだぁ!」
 成り上がりを夢見たセントウインが気概だけで攻め掛かり、力の差に打ちのめされる。
 魔王城で繰り広げられる戦の一端には、何とも俗っぽい匂いが漂っていた。

 そんな中でも成果を上げる営業部長は、さすが社長の懐刀。M&A種子島のエース。
 数多のセントウインの勧誘に尽力した薩摩が、今度はライバル企業を叩きのめすべく辣腕を振るう。狙いは魔王でなく、その後ろに控える幾つもの木箱。
「む……!?」
 飛来する驚異は小さく、しかし魔王も見逃しはしない。背に生える幾つもの角から魔力を光線として撃ち放つ――が、その程度で薩摩を落とせると思ったのなら過小評価もいいところ。
 ワンマン社長の鶴の一声で東奔西走、戦争という名のデスマーチすらも熟してみせる営業部長は鍛え方が違うのだ。網の目を潜るように魔力光線も避けてみせれば、加速する小竜の身体は瞬く間に木箱へと迫った。
「よ……よせ! 止めろ!」
 漸く意図を悟った魔王が叫んでも突撃の勢いは落ちない。
 小竜は木箱を打ち砕かんとばかりに突っ込んで――辛うじて差し込まれた青い肌を裂き、天井すれすれにまで舞い上がってから主の元へと戻る。
「ちょっと薩摩、直帰とか誰がOKしたってのよ。ちゃんと成果上げてきなさい」
 労うどころか超過勤務を命じる社長は、ともすればブラック以上のブラックに映る。
 だが、竜娘と小竜の間には法律も雇用契約も存在しない。其処に在るものを表現する言葉は一つ。即ち、主従。
 主が言えば何処までも。再びの飛翔(外回り)に赴くべく薩摩は羽ばたき、その翼の一薙ぎで以て部下たちにも営業の何たるかを示す。
「……うおおお! 部長に負けるなぁ!!」
 それでいいのかお前ら、なととツッコむ者が居なくてよかったのかもしれない。
 確実に間違った“やりがい”を見出したセントウインたちが薩摩に続いていく。一人一人ならば何ら成し得ない者たちだが――しかし、数と士気。社長・桜が宣う二つの要素を兼ね備えた今、それは決して無視できない存在と化してしまった。

「く、くそ! 貴様らにはビタ一文払わんぞ――ぐお、止め、脇腹を殴るな!」
「うるせぇ! 払わねぇってんなら力づくで取り立ててやんよ!」
 元雇用主と労働者の間で放たれるみっともない応酬を添え物にして繰り広げられる攻防。Dの入った木箱へと群がるセントウインたちに対して、魔王はひたすらに守りを強いられる。
「そんなに大事なものならちゃんとしまっておけばよかったのにね~?」
 けらけらと笑う桜は相変わらず戦場の端。薩摩にさらなる営業命令を下してから、偉そうに腕組みして趨勢を見守るばかり。
 そんな社長には目もくれず、セントウインは尚も木箱を求めて魔王に殴打蹴撃の嵐。
 裏の金貸しも驚くほどの実力行使だ。もしや人材派遣会社M&A種子島は反社的な勢力のフロント企業なのだろうか。
 などと口にすれば魔王と同じ目に合うだろう。触らぬ神に祟りなしである。問題は近寄らなくても神の方から接触してくる恐ろしさなのかもしれないが、さておき。
「薩摩」
 桜が一段低いトーンで言い放ちながら戦場の中心へと近づいていく。
 幾ら社長といえど重役出勤が過ぎるが、それに異を唱える営業部長ではない。呼び掛けられた意図を察してひらりと舞い、小竜は本日の業務を終了すべく渾身の一撃を繰り出した。
「ぬおうっ……!?」
 木箱狙いとばかり思わせる体当たりから一転、全力を賭したそれは魔王に血を流させたが、自己破産にまで追い込みはしない。
 けれども、薩摩が営業成績トップである事は揺るがないだろう。つまり臨時ボーナスとかいう無駄な経費は、実質社長の懐に入る訳で。
「……ま、それだけじゃ全然足りないし~?」
 今日イチの悪い笑みを浮かべた桜は未だ続く魔王とセントウインの応酬を回り込む。
 其処に在るのは、魔王の財。Dを収めた木箱。
「こんなにたくさんあるんだから分かんないよね~? って訳で、一つ二つくらいポッケナイナイしちゃお☆」
 ――いやいやご主人、その量は懐に収まりませんよ。
 などと小竜が言外に示したところで止まるはずもない。
 両脇に強欲の塊を抱えて、桜は夜逃げでもするかのようにそそくさと離れていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ディートヘルム・アモン
(アドリブ・連携歓迎)
…アレか。
『分かりやすくあの箱の中だろうな』
雑に扱ってるのか丁重に保管してるのかどっちだろうな…
まあいい。その二択で言えば税務署の者だ。取り立てに来た。
そう警戒するな、俺はDとその使い道にしか興味はない。
『語弊のある言い方をするんじゃない!』

しかしよくここまで搔き集めたものだ。
並大抵の努力、並大抵の欲望では実現できなかったのではないか?
…ではその妄執ごとお前を縛ろう。
【炯眼纏縛】、そこでじっとしているがいい。
動けぬ間にDを運び出させてもらう。動けば[ヴェルメ]でDごと燃やす。
悪?悪いぞ。そういう態度でもないと納得しないだろう?



●ディートヘルム・アモン(此岸彼岸の境界線・f09203)
「……アレか」
『分かりやすくあの箱の中だろうな』
 意見を一致させた兄弟は改めて先を見据える。
 玉座から立ち上がって猟兵と相対する魔王。
 その後ろには積み上げられた幾つもの木箱。
「……雑に扱っていると言うべきか、丁重に保管していると言うべきか……」
 評価に悩んだディートヘルムは唸るが、今度は兄弟からの返事もない。
 どうでも良い話なのだろう。かくいうディートヘルム自身も興味なさげにかぶりを振ると、まずは魔王の問いに答えるべく堂々と立って言い放つ。
「その二択で言うならば、税務署の者だ。取り立てに来た」
 途端、魔王は己が背を庇うように腕を広げた。
 眼光も鋭く、不審な動きがあれば直ぐに実力行使する構え。
 そんな魔王の顔を暫し眺めて、ディートヘルムは首を竦めた。
「そう警戒するな。俺はDと、その使い道にしか興味はない」
『語弊のある言い方をするんじゃない!』
 どうにも不器用な口振りを兄弟が嗜める。
 その間にも、魔王は取り立てを逃れるべく隙を窺い、思索を巡らせる。

「しかし、よくここまで掻き集めたものだ」
 焦れるばかりの空気を再び震わせたのはディートヘルムの声。
「並大抵の努力、並大抵の欲望では実現できなかったのではないか?」
「……クックック。当然であろう」
 不敵な笑みと共に答えた魔王が指折り数える。
 今日に至るまでを振り返っているらしい。それは殆ど言葉にならなかったが、広げた掌がまた握り込まれるようになった頃、魔王はしみじみと零した。
「もうすぐなのだ。あと数日分の上がりがあれば我が望み、大儀式の発動に至る」
 刹那、拳からは炎が滴り、魔王の腹に覗く大きな口がニィと笑う。
「故に貴様らのような輩には1Dとて奪わせはしない。この金は――儂のものだ!」
 叫びを伴って溢れるのは魔王たる者の威圧感。
 常人であれば腰を抜かして命乞いしてもおかしくはない。

 しかし、魔王が相対する者は半魔半人。
 おまけに理外の存在まで宿す身で、何よりもマイペースな性格。
 厳つい顔に怒鳴られたくらいで狼狽えるようには出来ていない。
「……では、その妄執ごとお前を縛ろう」
 ぽつりと零す声色とは裏腹に、鋭い眼差しで敵を射抜く。
 瞬間、魔王はびくりと身体を震わせて――そのまま黙り込んだ。
 喋らないのではない。喋れないのだ。
 それどころか指一本すらも動かせない。侵入者を退けるべく虎視眈々と機会を窺っていた力、魔王の腹から創造されるはずだった破壊兵器も、云わば喉まで出かかったところで押し止められてそれっきり。
「そのままじっとしているがいい。……言っただろう? 俺はDと、その使い道にしか興味はない」
 吐き捨てながら魔王の横を通り過ぎる最中、ディートヘルムは黒炎が形作る剣をちらりと見せつける。
 言うことを聞かなれけば――と、刃を木箱に近づけていく動きは、これ以上無いシンプルな脅し。
「こ、この……」
 人でなし。無法者。極悪非道。
 魔王は恐らく、そのような意味合いを言葉にしたかったのだろう。
 だが、拘束に抗って絞り出せたのは其処まで。
 故にディートヘルムの方が魔王の意を汲んで、木箱を一つ担いだまま宣う。
「悪? ああ、悪いぞ。そういう態度でもないと納得しないだろう?」
 そうして笑うディートヘルムは、確かに『悪』と評すべき風体だった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ルエリラ・ルエラ
【雑居】
【アドリブ・連携歓迎】
ふっふっふ。私は芋煮の使者であり流離の料理人ルエリラ・ルエラ。芸人のあやと一緒にごうと…もとい、営業にきたよ
そんなわけで、この芋煮を食べてみてほしい。仙台山形サメ風に毒。各種豪華なものを用意させてもらったよ
芋煮とあやの歌と踊りを堪能してほしいな

堪能した?
それじゃほら魔王様…
あとは払うもん払ってもらわないと…そこの木箱全部とかね!

あやの行動で混乱し戸惑ってる魔王様に向かって【ツヴァイ】を放ちまくるよ
爆発する矢の雨あられで魔王様も魔王城も大ダメージまちがいなし!全部粉砕だー!
手応えがあったら、煙幕弾投げてスモーク焚いてからあやの空けた穴にダイブして撤退!
お宝頂いたよー


天道・あや
【雑居】

…そこは普通、勇者とかなのでは?? …ま、いっか!どっちにしろ成敗しに来たのは間違いないし。(ボソッ)それじゃ、ルエリラさん、例の作戦行きますか!

魔王様!あたし達は労基でも税務署でもなくて

芸人と料理人です! 今回は営業、自分達を売りに来ました!あたしの歌と踊り、そしてルエリラさんの芋煮を堪能してください!【コミュ力】

楽器を構えて、レッツダンス&ミュージック!魔王様の注意を引きながら木箱の方へと! 【楽器演奏、ダンス、存在感、おびき寄せ】

歌ダンスと料理を堪能してもらったら

【ダッシュ、ジャンプ、足場習熟】で魔王を出し抜いて、UC発動!床を破壊して箱と一緒に落下!

お代頂きます!焼肉の為に!!



●雑居
 魔王が相対する者を推し量る時、まず挙げるべき肩書は勇者なのでは?
 あやは訝しんだ。そしてすぐさまどうでもよくなった。
(「どっちにしろ、成敗しに来たのは間違いないし」)
「何か言ったか?」
 耳聡く呟きを拾い上げる魔王に首を振って、あやは傍らを見やる。
(「それじゃ、例の作戦行きますか!」)
(「……ふっふっふ。任せてよ」)
 魔王のように勿体振って応じるのはルエリラ・ルエラ(芋煮ハンター・f01185)。
 そのルエリラは恭しく礼をすると、まず己が何者であるか、何を為すべく来たかを告げた。
「私は芋煮の使者にして流離の料理人ルエリラ・ルエラ。芸人のあやと一緒にごうと――」
「魔王様!」
 半端なところで相方の口を塞ぎ、後ろに押し退けて今度はあやが語りだす。
「あたし達は労基でも税務署でもなくて……芸人と料理人です! 今回は営業、自分達を売りに来ました!」
「……そう。営業にきたんだよ」
「ふむ。成る程」
 そうであったか――などと納得した訳ではないだろう。
 しかし、魔王は相手の出方を窺うつもりか、再び玉座に腰を下ろした。
 其処にまだ付け入る隙があると見るや否や、あやはさらに言葉を継ぐ。
「あたしの歌と踊り、そしてルエリラさんの芋煮を堪能してください!」
「……芋煮……?」
「そうだよ芋煮だよ」
 ずずいと前に出たルエリラが、さらにずずいと“それ”を押し出す。
「仙台山形サメ風に毒。魔王様の味覚に相応しい豪華なものを用意させてもらったよ」
 何やら聞き捨てならない部分もあった気がするが、果たして聞き流したのか聞き落としたのか、魔王は其処を咎めるでもなくルエリラの用意した鍋を見つめた。
「ふふん。魔王様も興味津々だね。さすがは芋煮だね」
「その芋煮とやらは食い物か?」
「芋煮は食べ物であり、そして全てだよ」
「……ふむ」
 恐らくはまともに語り合うだけ疲弊する。
 莫大なDを貯める最中に積み上げた経験からか、魔王は早くもルエリラとのコミュニケーションを放棄して聞き手に徹する決断を下した。けれどそんな胸中を推し量るはずもなく、芋煮の使者は慣れた手付きで芋煮をよそって魔王へと差し出す。
「まずは食べてみてほしい」
「……うむ。まあ、そういうならば」
 これ以上なく不承不承という感じで受け取ったお椀は、魔王が手にするには小さく。
 それを口に運ぶ瞬間を今か今かと待ち望むルエリラの視線も子供のようで、何とも不可思議な緊張感に襲われながら魔王は控えめに汁を啜った。
 程なく温かいものが喉を流れていけば、自然と溜息が漏れる。
「どう?」
「……うむ。まあ、悪くはない」
「魔王様は素直じゃないね。美味しい時は美味しいって言った方が喜ぶよ。芋煮が」
「芋煮が……?」
 この娘には何が見え、何が聞こえているのだろうか。
 じんわりと心地よい感覚のある腹に対して、首の裏から背の方には何やら冷たいものが走ったような気がして、魔王はそれを払うべく残りの芋煮を掻っ込んでいく。

 そうしていると、今度は聴覚を揺さぶられた。
 ギターに歌手御用達の三点セットを加えて、準備万端のあやが軽く弦を爪弾く。
「――レッツダンス&ミュージック!」
 途端、魔王城・玉座の間は即席のライブ会場と化した。
 演者は一人。客も一人。箱の大きさに対してどちらも少なすぎるが、しかし弾ける笑顔でパフォーマンスを始めたあやを見ていれば、そんな事など気にならない。
「なんだか知らんが、此方も悪くはないな」
「難しい顔でそんな事言ってないで、もっと盛り上がっていこ~!」
 いえーい、とテンション高く煽るあやに合わせて、魔王も片腕を突き上げる。
 持っているのがサイリウムでなく箸なのが惜しいが、さておき。
「はい、おかわりだよ」
 魔王の仕草をそうと解釈したのか、ルエリラがお椀に新たな芋煮をよそって寄越す。
 親切なようでいて、何故だか拒否できないようなそれを受け取れば、その間にも近寄ってきたあやは魔王の目の前で激しいダンスから美声、そして懇親のギターソロへと目まぐるしく表現方法を変えて。
「――――っ!!」
 さんざっぱら六弦の上で指を踊らせると、演奏を締めくくる大ジャンプを披露すべく、ぐっと屈み込んだ。

 瞬間、ひたすら芋煮の給仕に務めていたルエリラが囁く。
「魔王様、堪能した?」
「……む? うむ、まあ、堪能したというか、させられたというか」
「それじゃあさ」
「うむ」
「払うもん払ってもらわないと」
「うむ。……む?」

 どうにも流れが怪しい。
 そう思った頃にはもはや手遅れ。
 箸を取り落して呻く魔王を飛び越え、あやは拳を握り締めたまま木箱へと迫って。
「それじゃあお代、頂きます! 焼肉の為に!」
 言うが早いか床をぶち抜くと、木箱ごと階下へと落ちていく。
「な……貴様ら、謀ったな……何が営業だ……!」
「食べるだけ食べて楽しむだけ楽しんで、それは通用しないよお客さん」
 そそくさと芋煮をしまい込んだルエリラも掌を返して、弓を取ると続ける。
「払えないっていうなら身体で払って貰わないとね」
「いや待て、儂の金はいまアイツが――!」
 持っていっただろう、と。
 言い訳する暇さえ与えられないまま、ルエリラが魔力で生成した矢を滅多矢鱈と射ち込めば、魔王はおろか城のあちこちにも穴が空いて。
「それじゃ、お宝は頂いてくねー」
 しでかした事の大きさに対してあまりにもあっさりとした声音で語るルエリラは、最後に芋煮の香り撒き散らすスモークグレネードを幾つか転がすと、あやが落ちた穴へと飛び込んでいった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ティノ・ミラーリア
【聖影】
魔王だし、思い当たる節はあるんだろうけど…変なところ真面目というか……
デビルキング法なのか安く使ってまで溜め込んで、一体なにに使うつもりなんだろうね。
分かりやすく教えてくれたあの木箱が、今回のターゲットでよさそう?

魔王の相手はナターシャに任せて、僕は少し後方から遠距離攻撃でサポート。
ただし、その間に『眷属』や『纏影』を操作して木箱の元へ忍び寄らせて、
ユーベルコードを発動したら触れた木箱を影の中に吸い込んでしまおう。
木箱なら吸い放題だし、ごっそり無くなれば隙ができるか戦意もなくなるかな。

セントウインへの支払いに一部と……残りは、この後の焼肉の資金…?


ナターシャ・フォーサイス
【聖影】WIZ
相変わらず突っ込みが多くて頭を抱えますが。
そも貴方、過去から蘇りし哀れな魂ではないのですよね?
であれば、道を説くべきなのでしょうけれど…まずは徴税から。
あまりに安く使いすぎです。それでも魔王ですか?

そう易々とは応じないでしょうし、実力行使しましょう。
天使を呼び結界を張り、退路を断ちます。
仇成すなら天使の加護が貴方に相応の報いを返すでしょう。
こちらで目は引くので、ティノさんはその間に回収してください。

…内部留保、それは結構。
ただし正当な対価を支払ってからお願いいたします。
それから生けるものであるならば。
幸福の約束されし楽園へ至るため、その資金とするのはいかがでしょう?



●聖影II
 ナターシャは思わず頭を抱えて蹲りそうになった。
 労基? 税務署? そんなものがこの魔界で機能しているのか?
 在ったとして――魔王が気にする事なのか?
「……思い当たる節はあるんだろうけど、変なところで真面目だね……」
 ティノでさえも呟いてしまう。相対した敵の言葉は、二人にとってそれだけ斜め上に聞こえていた。
 そんな事を知ってか知らずか、魔王は背後に積み上げた木箱を庇うようにして立ったままニヤリと笑う。
 侵入者を撃退する算段をつけたのか、それともDを纏めて逃げる方策でも思いついたのか。
(「……ともかく、まずは徴税からでしょうか」)
 それも為すのも道を説くのも同じような困難ではあろうが、兎にも角にも此処まで来たからには動かなければなるまい。
 ちらりと傍らのティノに目配せしてから、ナターシャは一歩進み出て。
「人をあまりに安く使いすぎです。それでも魔王ですか?」
 若輩を叱りつけるように言えば、魔王はふんと鼻で笑ってみせる。
「コストカットの何が悪いというのだ?」
「そのようなせせこましい態度は上に立つ者らしくないと申しているのです。内部留保も結構ですが、まずは対価として正当な金額を支払ってからが筋ではありませんか?」
「どんぶり勘定の放蕩経営は結果的に被雇用者を苦しめる事になるのだぞ」
 猟兵とオブリビオンの会話だとは俄には信じ難いやり取り。
 しかし、これは紛れもなく現実。そう思えばやはり頭を抱えたくなるところ、ナターシャは溜息を胸中に零して毅然とした態度を保つ。
「やはり議論では平行線にならざるを得ないようですね」
「ならば帰りたまえ。続きが必要ならば書面で応じよう」
「そういう訳には参りません」
 何故ならば、ナターシャは労基の職員でもマル査の女でもない。
 使徒であり、そして猟兵なのだ。聞き耳持たない相手には行使すべき力が在る。
「……さあ、貴方の罪を祓い、共に参りましょう?」
「税務署にか?」
「違います!」
 本気か冗談かイマイチ判別しづらい魔王の言葉を両断して展げるのは結界。喚び寄せるのは天使。
「もはや逃げ場はありませんよ」
 自身も機械天使の姿を曝け出したナターシャが宣えば、魔王は不敵な笑みを浮かべたまま、懐から取り出したものを腹部の大きな口へと放り込む。
 それは今しがた、木箱に封じていたはずのもの――D。
 言葉そのまま“ポケットマネー”という事だろうか。類推するナターシャを余所にティノが影を放つが、刀槍の如く伸びた黒に刺し穿たれても魔王の腹は咀嚼を続け、其処から禍々しい翼の生えた大砲を吐き出した。
「逃げ場がないというならば作るまでよ!」
 刹那、砲口から急激に溢れ出して炸裂したのは巨大な光線。
 城壁をもぶち抜いて彼方に伸びようとするそれは一瞬でナターシャを飲み込み、その姿を光の中に覆い隠す。
「ヌハハ! では――」
 さらばだ!
 そう格好つけて、木箱の山を原野の如き風呂敷で包んだ魔王は颯爽と戦場を抜け出す。

 ――と、恐らくはそんなつもりでいたのだろう。
 しかし悲しいかな。ナターシャの屍を踏み越えるつもりでいた魔王は攻撃の反射を浴びて、打ち捨てられた躯のように横たわって天井を見上げていた。
「な……これは……どういうことだ……」
「どうもこうも。それが『報い』というものです」
 逆さまの世界でナターシャが告げる。
 魔王は言葉に詰まり――そして反論よりも何よりも、自らの命よりも大切なものの安否を確かめるべく、視線を動かして。
 大きく目を見開いたまま絶句した。

「あんなに貯め込んで、なにに使うつもりだったのか知らないけど」
 ティノが木箱の積み上げられていた場所に立ったままで淡々と続ける。
「残念。消えるのは一瞬だったね」
「ば、バカな……貴様、儂の金を何処へやった!」
「さあ?」
 答えるつもりも義理もない。
 或いは時間を与えてやれば正解に辿り着くかもしれないが、それを待つ意味もない。
 ナターシャが矢面に立って魔王との応酬を繰り広げる最中、援護攻撃もそこそこにしてこっそりと木箱に忍び寄らせていた影。その向こう側にしまい込んだ莫大なDの使い道は既に決まっているのだ。
「安心してね。警備の……セントウインの給金は支払っておくから」
「や、やはり貴様が盗んだのだな! 待て! 儂の金を返せ!」
 未だ立ち上がる事さえ出来ない魔王が必死に腕を伸ばす。
 けれども、それはティノの影さえも掴めず。
「残りは……ね?」
「ええ。楽園へと至るための資金に致しましょう」
 そんな言葉を交わしながら遠ざかる二人に、尚も魔王は言葉で追いすがる。
「儂の金! 儂の! 金! 何に使うつもりだ、貴様らぁ!」

「……焼肉?」
「ハァ!?」
 予想だにしなかった返答に魔王が素っ頓狂な声を上げれば、振り返りもせずにそれを告げたティノの姿はナターシャ共々、とうとう城の外へと消え失せてしまったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

虚偽・うつろぎ
アドリブ連携等ご自由に

もちろんDもろとも自爆しちゃうよ?
ほら庇わないと大変だよ?
僕には関係ないけどね!

登場即自爆
自爆できれば台詞も活躍もいらぬ!
速攻で自爆することが最優先
1歩も動かず即自爆
そう、自爆だ
僕に自爆をさせるんだ!
僕もろとも鏖殺だ
これぞ鏖殺領域なり

ただ自爆するためだけに現れる存在
何かいきなり自爆する怪奇現象
もはや災害である

技能:捨て身の一撃を用いての
メッサツモードによる高威力な広範囲無差別自爆

射程範囲内に敵が1体でもいれば速攻で自爆
自爆することが最重要
なので敵がいなくても自爆するよ
大事なのは自爆までのスピードさ

捨て身の一撃なので自爆は1回のみ
1回限りの大爆発
自爆後は爆発四散して戦闘不能



 ――爆散!

        【完】




●虚偽・うつろぎ(名状しやすきもの・f01139)
 もう終わっても構わないはずだが、この世の仕組みがそれを許さない。
 故に爆散の前後等々を記そう。
 其れは忽然と現れた。何処から来たのかは知らない。分からない。
 何者だろうか。それも分からない。其れが語るままを述べても信じるに足るかどうか保証は出来ない故、知りたければ知りたいと思うものが此度の記録から自分自身で辿って知るべきだ。別に勧めはしない。
 では、其れは何をしたかったのだろうか?
 其処だけは明瞭であり、確信を持って断言しよう。
 自爆だ。そして殺戮。鏖殺。
 己が身をも顧みぬ其れを何と評するかは人それぞれである。
 豪壮、蛮勇、奇行愚行、理解不能意味不明。
 各々好きなようにラベリングすれば良い。
 何を貼り付けたところで事実は変わらない。
 現れて、爆ぜた。一言か二言か何某か語ろうとしていたような気もするが、全ては爆炎と轟音の中に消えてしまった。
 けれども其れは満足しているはずだ。
 百の言葉よりも一度の自爆。千秒の生存よりも一瞬の自爆。
 其れが望むのは唯一つなのだから。

 ――かくして、魔王城は崩壊した。魔王も在るべき場所へ還った。
 この凄惨極まりない大爆発が一通りの常識的な決着の後であり、
 猟兵と警備の魔族と莫大なDが既に城を離れていたのは、真に幸運な事であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『暴食の宴』

POW   :    とにかく肉だ肉!がっつり食いまくるよ!

SPD   :    流行の波に乗って、ネットでバズった人気メニューを食いまくるよ!

WIZ   :    あま~いスイーツは心のご褒美!食いまくるよ!

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 魔王は斃れ、その莫大な財貨は猟兵の手に落ちた。
 かくして来たれり宴の時。舞台はデビルキングワールド各地に六十店舗以上を構えている(らしい)焼肉店『恕恕怨』である。実にデビルで禍々しい名前だが、入店した客を出迎えるのは教育が行き届いた店員たちの実に朗らかな声だ。
 その悪魔店員たちもデビルキングワールド住人の例に漏れず根っからの良い子であるから、お冷から特上肉まですぐに無償で提供しようとしてくる。
 しかし、猟兵たちはその尽くを断って宣言するのだ。魔王から奪い取ったDを見せつけて一言「金なら腐るほどある」などと。
 それがどれだけ“ワルく”映る事か。猟兵たちに羨望の眼差しを送る悪魔店員たちは値段が列記されたメニュー表を差し出して、この極悪な富豪=超カッコいい猟兵たちがどれほどの欲望をぶちまけるのかと伝票片手に期待を膨らませている。
 さあ食え、そして飲め。そうして猟兵が豪遊すれば、一所に集められたDは経済の流れに乗って散らばり、デビルキングワールドに安寧を齎すのだ――!
黒瀬・ナナ
へいへーい!とりあえず、メニューに載っているもの片っ端から全部持ってきて!
フッ、お金なら腐るほどあるわよ!(どやぁ)

いやぁ、元々焼き肉は美味しいけれども。
人から巻き上げたお金で食べる焼き肉は悪魔的な美味しさよねぇ。
自分の懐具合を気にせず、好きなものを好きなだけ食べられるってステキ!
お肉おいしい、クッパもビビンバもデザートもおいしい!

店員さんのオススメを聞いたり、他の人達が注文しているのを頼んでみたり。
もうお店を潰すくらいの気合いと勢いで食べ尽くすわね。
あー、お肉に合うお酒も欲しいわぁ。
……わたしもう、ここに住みたい。
焼き肉屋さんの子になりたい。
毎日お肉食べて過ごしたい!



●黒瀬・ナナ(春陽鬼・f02709)
 食べる、という事に貪欲ならば誰もが一度は想像するであろう夢。
 それを叶える権利が手元にあるのだ。躊躇う理由などない。
 ラミネート加工された両面印刷や薄い縦長の冊子を一瞥したナナは一言、
「とりあえず、メニューに載っているもの片っ端から全部持ってきて!」
 堂々と言い放つやいなや、脇に置いていた箱の中身を見せつけてドヤる。
「……フッ、お金なら腐るほどあるわよ!」
「っ!? あ、ああ、あの、少々お待ち下さい!」
 すぐにご用意致しますので――と、もはや悲鳴じみた歓声を上げながら厨房に駆け込んでいく店員。
 その後ろ姿を満面の笑みで見送りながら、早くも戦支度(紙エプロン装着)を済ませたナナは「へいへーい! へいへいへいへーい!」と荒ぶり始めた食欲に首輪を掛けて引っ張る。そうでもしなければお冷をガロン単位で飲み干してしまいかねない。
(「あともう少し! もう少しの我慢よ!」)
 此処まで来て水などで胃を埋めるなどもってのほかだ。
 店内に立ち込める肉の香りにも抗って、加熱される焼き網とは対照的に心を鎮めつつ、待つこと暫く。
 いよいよ卓上に並び始めた肉は、もはや芸術と称すべき細やかなサシが入った超一流品。
「こんなの美味しいに決まってるじゃない!」
 思わずテーブルを叩いてしまいそうになるところ、堪えに堪えて冷静にトングを掴むと一切れずつ網に運んでいく。
 ナナの眼差しは魔王城へと乗り込む時など比較にならないほど、真剣そのもの。
 侮るなかれ、焼肉とは戦いなのだ。油断すれば網に捧げられた上等な肉の最も美味しい瞬間を逃すばかりか、消し炭にしてしまう可能性すらあるのだから。
 ――などとは思いつつも、肉が焼けるのを待つ間に箸を伸ばしたサラダやらナムルなどから既に頬が緩む美味しさ。
 一仕事終えた後だからか尚のこと美味い。自然とバタつく足を理性で御して、いよいよ本命の肉に挑んでみれば――噛んだ瞬間にジュワッと溢れた肉汁が全身の細胞をくまなく活性化させる。
「人から巻き上げたお金で食べる焼肉、悪魔的美味しさね!」
 そんな事を宣えば非難の眼差しを浴びせられてもおかしくないところだが、しかし此処は極悪を是とするデビルキングワールド。他の客や従業員たちから向けられる視線は咎めるどころか称賛や憧れと等しい。
 もっとも、当のナナはそんな事など大して気にしていない。ただただ懐具合を気にしないで済む食べ放題という、魔界の片隅に生じた理想郷を堪能するべく肉を焼いて、食べて、焼いて、食べて――。
「お肉、おいしい!」
 幸せを言葉と表情で炸裂させながら、さらに焼いて、食べる。
 勿論、肉ばかりではない。締めに持ってきそうなクッパを早々に投入したかと思えば、石焼ビビンバが奏でる音を恍惚として聴き入り、アイスクリームやら杏仁豆腐やらのデザート類などを箸休めにしてまた肉へと帰る。
 店員が今日のオススメとして勧めてくるものも当然のように受け入れて貪り、隣のテーブルから牛タン塩の香りと食レポじみた会話が漏れ聞こえてくればそれを追加で頼み、そろそろ終いかと思いきや此処から酒を投入。杯に並々と注いだ液体を豪快に流し込むと、謀ったように焼き上がった肉を纏めて掻っ攫って頬張る。
 一体全体、何処にそんな量が収まるのか。
 なんて、聞いても思ってもいけない。それは乙女の秘密。

「あー……わたしもう、ここに住みたい」
 一頻り堪能した後には、そう呟くのが癖なのかもしれない。
 ともすれば牛一頭丸々頂いたのではないかと思うほどの量を平らげて、至極満足そうな顔で寛ぐナナは夢見心地のまま続ける。
「もう焼き肉屋さんの子になりたい。毎日お肉食べて過ごしたい……!」
 それが実現すればどれほど幸せな事だろうか。
 けれども、仮に現実となったところでナナは満足出来まい。世界にはまだまだナナが知らない“美味しいもの”があるのだろうし、それを考えれば一所には留まっていられない。
 何より、今日と同じ量を毎日消費されては店が保たないだろう。我が事ながら想像して笑うと、ナナはたっぷり頂いた食事の代金を支払うべく木箱に手を添えて――。
「……もう少しだけ食べていこうかしら」
 冗談のような事を呟いたかと思えば、通りすがった店員を呼び止めて本当に追加の注文を始めた。
 それが平均的な一人前を遥かに凌ぐ量であった事は、言うまでもない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

惠・甜々
【龍巣】
わぁーい!人のお金で食べる焼肉美味しいって聞いたことあったから楽しみにしてたn…アイヤー!?シン君以外もいるって聞いてないよ!!??ナンデ!!??(シン君の後ろに隠れながら)
ん?お菓子…わぁ、美味しそうな匂いがするー!くれるの?やったぁ!アナタ良い人ね!
お菓子作り!?い、言われなくても食べ専だよぅ!?ほ、ほら!お肉!!お肉食べよ!?

ふへへ…きっとこれは良いお肉…ご飯がとても進むねぇ
としれっと全部よそってもらいながら目をキラキラさせてお肉食べる。うまうま
お肉だけじゃなくてデザートまであるの!?やったー!食べるー!!
シン君も食べ…ほわぁ…スイッチ入ってそれどころじゃなくなってるー!!


栗花落・澪
【龍巣】
えへへ、ついお誘いに乗ってしまった
初めまして、澪だよ
なにも無しは悪いから家でフィナンシェ焼いてきたんだ
お土産にどうぞ
ぺこり頭を下げながら可愛い袋に入れたそれらを二人に手渡し

挨拶も済んだところで焼肉だー!
実は焼く側経験ないんだよね
シンさんに任せようかな
ご飯食べる人いる?
お肉と一緒にお願いするよ
声は通るんだ、任せて
すみませーん!(片手ぴっと上げ
あ、僕はご飯少な目で

んー美味しい~♪
シンさん焼き方すっごい上手いね
ほら惠さんもいっぱい食べて
取ってあげようか?
あっ、ねぇねぇ
食後にデザートも頼んでいい?
このアイス食べたいんだ、お願い(無意識上目おねだり
やったー!
シンさんお掃除の間に、惠さんも食べよ!


シン・フォーネウス
【龍巣】
大量のD、俺一人じゃ使い切れねぇからな。へぇ、澪はお菓子作り得意なのか、ありがたく貰うぜ。

甜々も引きこもってばかりいないでお菓子作りとかやった方が良いんじゃ――いや待て。俺の仕事が増える。料理はやめろ。よし。

それじゃあ焼肉を焼く作業に移る。高い肉を次から次へと焼いて行く。アイスもどんどん頼め!他人…他悪魔の金で無礼講だ!

俺も一口。旨すぎる!溢れ出る肉汁がやべぇ…悪魔で闇執事やってて良かったぜ。

さて。焼く、食う。それは良い。天国だ。だが…だがな…!床下が脂で汚れてるぞ!誰だ清掃やってる悪魔は!気になるだろうが!

掃除だ掃除!とにかく下僕たち喚び出して掃除開始だ!恕恕怨内全部掃除だオラァ!



●龍巣
「――アイヤー!?」
 惠・甜々(水瓶の龍・f31425)は叫んだ。一周回って逆に新鮮な悲鳴を轟かせた。
 従者のシンが「肉を食わせてやる」と言うから「わぁーい!」とホイホイ釣られて出てきたらこのザマである。やはり世の中にただより高いものはなく、外に出るより内に籠もっている方が安全だというのが真理に違いない。
 しかし悟り直したところでもう遅い。唯一の逃げ場と飛び込んだ従者の陰は同時に檻でもあって、其処から身動きの取れなくなった甜々は出来たての豆腐のようにぷるぷると震えながら自身に可能な精一杯の抵抗と意思表示をしてみせる。
「ナンデ!?」
「なんでじゃねぇよ!」
 結果は惨敗であった。従者はたった三文字で意図を汲んでくれたが助け舟は出してくれない。かと言って他にはどうする事も出来ず、涙目の甜々に残されたのはひたすら縮こまりながら従者の袖を掴んで様子を窺うくらいのもの。
「ナンデ……ナンデ……」
 感情が破壊されたのか語彙力が死んでいるのか元からポンコツなのか。
 恐らくは一番最後が正解な気もするが、ともかく呟きの意味を従者以外にも解くとすれば、其処に籠められた意味は要するに「何故知らない人がいるのか」という事。
 従者がその枠に入るはずもなく、他にそれらしい影は一つきり。即ち甜々が取り乱した理由は――苦笑する他にない栗花落・澪(泡沫の花・f03165)その人。
「えっと、あの……」
 どうしたものかと言葉に詰まっていれば、シンは「気にするな」と首を振った。
 しかし、だからと言って知らん振りも居ない者にも出来まい。まして共に食卓を囲んで焼肉を頂こうというのであれば、尚のこと現状を好転させる必要がある。
 そして奇しくも、その為に役立ちそうなものを澪は所持していた。
 手ぶらでは悪いからと家で焼いてきたフィナンシェだ。果たして食事会の土産に相応しいかどうか、などと躊躇わずに持ってきた数刻前の自分は包みに可愛らしい袋を選んだ辺りも含めて大いに褒めてやるべきだろう――が、今は過去の己よりも目の前の人見知りに対応すべきところ。
「初めまして、澪だよ」
 ぺこりと頭を下げて自己紹介した後、すかさず「お土産にどうぞ」と焼き菓子入りの袋を手渡せば、ひとまず二つ纏めて受け取ったシンは興味深そうに唸りながらそれを眺めて。
「ありがたく貰うぜ」
 悪魔とは思えないほど素直な礼を返すと、一つを後ろへと流した。
 途端、其処から滲み出る気配が変わったのは気の所為ではない。
「……わぁ、美味しそうな匂いがするー!」
 袋から微かに漏れる香りを余すところなく吸い込んで声を弾ませた甜々は、今までが嘘のように明るい表情で「くれるの? くれるの?」などと問う。
 それに澪が頷き返してやれば、完全に解き放たれた竜神は「やったぁ!」と幼子じみた反応を示して一言。
「アナタ、良い人ね!」
 自分が先程までビビり倒していた相手をそう評価する。
 この掌返しには従者も溜息を漏らすしかない。いつか餌付けで拐われる日が来るのではないかと真面目に考えざるを得ない。無論、自分が目を光らせていれば済む話だが――それはさておいても。
「甜々も引きこもってばかりいないでお菓子作りとかやった方が良いんじゃ……」
 などと口走りかけて、シンはそれを推し進めた未来を想像した。
 とりあえずオーブンは爆発するだろう。間違いなく。
「……駄目だ。料理は止めろ。俺の仕事を増やすな」
「え!? い、言われなくても食べ専だよぅ!?」
「よし」
 全然ヨシじゃないが積極的に大惨事を起こすくらいならヨシとしておくべきだ。
 事故を未然に防いだシンは胸を撫で下ろして、その独り相撲を見守る他になかった澪はやっぱり苦笑を浮かべて。
 そして駄神はと言えば。
「ほ、ほら! お肉!! お肉食べよ!?」
 場の空気に耐えかねたのか単に空腹が限界値に達したのか、従者と“お菓子をくれた良い人”を先へと進むように促す。

「――それじゃあ、肉を焼く作業に移る!」
「わー!」「焼肉だー!」
 紙エプロンを付けて準備万端のシンが力強く宣言すると、賑やかしに回った二人は手を叩きながら声上げる。
 甜々は(生活能力的に)饗されて当然として、澪も其方に落ち着いたのは自己申告に基づくもの。
(「実はお肉を焼く側になったことないんだよね」)
 そう告げられるや否や、シンは自身が奉行となる事を即断したのだ。
 何と言っても肉が高級品である。如何にタダ飯といえども失敗は許されない。魔王は罪深い存在であったが――あったが! お肉には何の罪もない。美味しく頂いてやるのが頂く側の務め。疎かには出来ない。
「いいか、とにかく高い肉をじゃんじゃか焼いていくからな」
 念押しするように言えば、餌が運ばれるのを待つ雛鳥の構えな二人も力強く頷く。これが甜々だけなら苛立ちもするだろうが、澪の存在が上手く緩衝材になっているのは間違いない。
 さておき、いよいよ一切れ目を焼き始めてしまうとシンの意識は其方に傾く。妥協を許さない姿勢は褒めて然るべきところだが、しかし魔王城からDを掻っ払ってきた彼と違って真なる意味でタダ飯喰らいを許された澪も、ただ待っているだけの時間は少々落ち着かない。
「……あ、ご飯食べる人いる?」
「食べるー!」
 当然のようにいの一番で返事をしたのは甜々だったが、幸いにもシンは肉の焼き加減に全身全霊を傾けている最中。
「じゃあ、お肉と一緒に追加しちゃうね」
 徐々に馴染みつつある竜神の態度に微笑みつつ、澪はぴっと姿勢良く手を伸ばして。
 すみませーん! と張った声は賑やかな店内でもよく通る。その辺りからは歌唱力などもやんわりと推し量れそうだが――まさか、早くもだらしない顔で「ふへへ……」と肉を見つめる甜々が、そんなところに触れるはずもなく。
「これと、これと……あとご飯二つください。あ、一つは少なめでお願いします」
 澪は澪でテキパキと注文を済ませて。
 其処でちょうどよく肉を取り分け始める辺り、シンは従者として有能かつ根っからの奉仕体質なのだろう。
「ほら食え! どんどん食え! 今日は他人の……いや、他悪魔の金で無礼講だ!」
「ぶれいこーだー!」
 果たして意味を理解しているのかも怪しいが、肉から米から全てお膳立てされてご満悦の甜々に水を差しても仕方あるまい。キラキラと瞳輝かせる彼女が躊躇なく食事を始めたのを皮切りに、澪も一口。そしてシンも一口。
「んー、美味しい~♪」
「旨すぎる! 溢れ出る肉汁がやべぇ……悪魔で闇執事やってて良かったぜ」
 口々に零しては、さらに焼いて食う。焼いて食う。

「シンさんの焼き方すっごい上手いね」
「ふぇ?」
 食うばかりではと話を振ってみればこれだ。
 だがしかし、この短い時間で澪も少し慣れてきた。
 彼女は、甜々はこう、あれだ、そういう星の下に生まれたのだ。
「ほら、まだまだたくさんあるから惠さんもいっぱい食べて。あ、取ってあげようか?」
「いいの!?」
 などと言いつつも受け入れ態勢だけは万全なのだから、やっぱりそういうものとしか言いようがない。
 それに肉やら何やらをよそってあげていると、何だか不思議な心地に目覚めてくる。これが母性というやつか。確かに澪はとてつもなく可愛らしい少女のようだが、しかし母にはなれないはずなのだが。

「ねぇねぇ、デザートも頼んでいい? このアイス食べたいんだけど……」
「あ? デザート?」
 まだ早いんじゃないか――などと返そうとして、シンは答えに窮した。
 恐らくは店内でも「かわいい」で解釈が一致しそうな子がナチュラルに上目遣いでねだっているのだ。
 果たして男としてこれを無下に退けられる者がいるだろうか。
 いやいない(断言)。
「……どんどん頼め!」
「やったー!」
「お肉だけじゃなくてデザートまであるの!? やったー! 食べるー!!」
「甜々はその皿に残ってる肉をきちんと食べきってからにしろ!」
「そんなー!?」
 一瞬で涙目になった駄神が見上げてくるが、其方はとっくに耐性がついている。
 効かないどころか、むしろ苛立つ――というか、甜々などより余程シンが気になっているのは。

「肉は美味い。そして実質、食べ放題。此処は魔界だが天国だ。間違いない。だが……だがな!」
 トングを忽然とデッキブラシに持ち替えて、シンは堪らず店内隅々まで響き渡る程に叫ぶ。
「テーブルは綺麗でも床下が脂で汚れてるぞ! 誰だ清掃やってる悪魔は! 気になるだろうが!」
「ちょっとシン君――」
「お前か!? お前だなホールの清掃担当は!? よしこれを持て! 掃除だ掃除! ――営業中? 知るかそんなこたぁ掃除開始だ! 恕恕怨内全部掃除だオラァ!」
「あああ……ほわぁ……スイッチ入っちゃった……」
 こうなると手がつけられないのは甜々ならば知るところ。
 一方で澪はじっと掃除の悪魔を眺めて。
「……シンさんがお掃除してる間にアイス食べちゃおうか?」
 悪魔のような囁きを施せば、それに甜々が抗えるはずもなく。
「食べる! 食べる~!」
「じゃあ、はい。スプーンはこれね」
「ありがと~!」
 色々な意味で馴染みつつある二人は、ひんやりとした感触で暫し舌を休める。
 その間に行われた店内総清掃は、シンが喚んだ下僕(お掃除ロボット軍団)の物量でもって、アイスが溶け切る前には終わっ――。
「なんだこのキッチンは! ナメてんのかオラァ!! 掃除だ掃除!!!」
 終わる気配はなくなってしまったから、綺麗好きも考えものかもしれない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アトシュ・スカーレット
待て待て待て!!!お冷はいいけど他は金あるから!!払うから無償は本当にやめろ!!
…は!!か、金なら山ほどある!特上肉を持って来い!あ、牛タンとハラミとセリと鶏モモと野菜も一緒に持って来い!

……なーんで普通に肉食うだけで金を払うからやめろって言わなちゃならねーんだよ……
そら滅びかけるわ…

肉とかが来たら片っ端から焼いてくか
焼くだけならオレでもできるし
【大食い】だし、焼けた先から食ってくか!
あ、ご飯大盛りと特上肉のおかわりも寄越せ

あ、会計の時、注文数と皿の種類を数えて増えてたらその分もちゃんと払うぞ。金額も多めに出すな
釣りはいらねぇ、自分の懐にでも入れてろ



●アトシュ・スカーレット(狭間を歩く放浪者・f00811)
「――待て待て待て!!!」
 両腕を振り回す程の勢いで呼びかければ店員はきょとんとしたまま動きを止めた。
 その表情からツッコんでいきたいところ、アトシュはぐっと堪えて本題のみを突きつける。
「お冷はいいけど他は止めろ! 注文も取らずに無償でばら撒こうとするのは本当に止めろ! そんなポケットティッシュみたいな気軽さで特上肉をほいほいと差し出そうとするんじゃない!」
「でも……」
「でもじゃない!!」
 まるで幼子を躾けるかのようだが、アトシュには魔界に兄弟を持った覚えなど勿論ない。
 しかしまあ、彼我の認識の差がこれほど大きいとは思いもしなかっただろう。概ね大多数の世界で通用する常識が常識でなくなるという感覚は、ともすれば魔王城だのよりも余程恐ろしいような気がしないでもないが、さておき。
(「……っ! そうだ!」)
 その魔王城から何を掻っ払ってきたのだったか。
 入店早々の衝撃に一瞬ばかり忘れかけていた木箱の存在を思い出すと、アトシュはその中身であったものを積み上げるように置いて見せつけた。
「か……金ならある! 見ての通り! 山ほど! ある!!」
 身代金の取引現場でしか放たないような台詞を口走ると目眩すら覚える。
 けれども、それが事態を好転させる唯一の材料である事は間違いない。焼肉店へと持ち込むには余りある莫大なDを目の当たりにした店員は危うく取り落しそうになった伝票をどうにか押さえて、其処に書き込むべき事柄が告げられるのを待った。
「よし! とりあえず特上肉だ! 一番高いやつをこれでもかと言うほど寄越せ! ……あ、牛タンとハラミとセリと鶏モモと野菜も一緒に持って来い! いいか、遠慮するなよ!! じゃんじゃん持ってこい!!」
 最後にもう一度だけ念押しするように「金ならある!!」と付け加えれば、一言一句を漏らさずに書き留めた悪魔店員は厨房へと取って返す。
 それを見送ってようやく一息ついたアトシュは――店中の注目を集めていた事に気付き、デビルキングワールド的なワルさでなく単純な収まりの悪さを感じながら席に座り直した。
(「……なーんで普通に肉食うだけで『金を払うからやめろ!!』なんて言わなきゃならねーんだよ……」)
 そんな世界だと言えばそれまでだが、しかし良い子だとかワルいだとかをさておいて、このデビルキングワールドは何か根本からおかしいのではないか。或いはこの焼肉店辺りが特に酷いだけなのか。
「そら滅びかけるわ……」
 思わず呟いてしまうのも無理はないだろう。
 何やらどっと疲れを感じながら座席に身体を預けて目を閉じる。
 そのまま眠りについて今日一日が終われば平穏間違いなしだが――他でもない、自身の腹の虫が鳴いた事でアトシュは目覚め、それと同時に注文した品々が卓上へと届き始めた。
「よし! 片っ端から焼いてくか!」
 両頬を叩いた手でトングや皿を掴み、充分に温まりきった網の上へと肉を並べていく。
 人様に向かって胸を張れる程の料理の心得などないが、ただ焼くだけならばアトシュにだって出来る。頃合いを見て肉を裏返したりもしつつ、小皿に調味料なども用意してゆっくりと息を吸えば食欲そそる香りが鼻を通り抜けて。
 そのまま飛びつきたくなるところ、もう一呼吸分だけ間を置いてから漸く口に運んだ肉の味は――。
「美味い!」
 素直にそう言葉が出るほど。
 デビルA5ランクの特上肉を筆頭に、デビル牛タン、デビルハラミ、デビルかぼちゃにデビルピーマン……果たして“デビル”と頭に付く以外に一般的な肉や野菜と何の違いがあるのかは定かでないが、とかく味に関しては文句のつけようもないのは確か。
「あ、大事なもんを忘れてるじゃねぇか! ちょっとそこの! ご飯大盛りで頼む! あと特上肉のおかわりも寄越せ!」
 調子が上がってきたアトシュは意気揚々と追加注文を飛ばして、程なく運ばれてきたつやつやなデビルご飯(デビル盛り)に新たに焼き上がった特上肉とのゴールデンコンビ結成の命を下す。
 それを諸共貪り尽くそうとするアトシュの身なりは女性と見紛うようなものであったが、食事量の方は屈強な男にも引けを取らない。運ばれてくる端から平らげていく極悪(カッコいい)客からは悪魔店員たちも目を離せず、誰が肉を持っていくかで仄かな競争すら起きたが――焼いては食うを繰り返すアトシュには、さして重要な話でもない。

 そうしてお一人様のデビル焼肉を堪能した後、アトシュは改めてレジカウンターに金を積んだ。
 元の持ち主の几帳面さか、キリのいい単位で一纏めにされているそれを一つ置き、二つ置き、三つ置き――支払い額として表示されている数字を上回っても、まだ暫く足していく。
「あの、お客様……」
「うるせぇ。つべこべ言うな」
 実は密かに注文した量よりも多く提供されていた事などお見通し。
(「油断も隙もありゃしねぇんだからな、こいつら……」)
 何故焼肉を食べに来ただけでそんな風に思わねばならないのか――と、またくたびれそうな思案は放り捨て、これでもかと言うほどに金を積んだところで止めに一言。
「釣りはいらねぇ、自分の懐にでも入れてろ」
 太っ腹なだけでなく横領まで勧めるアトシュは最高の客であり、最高のワルだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

仙巌園・桜
今回は薩摩(メイン)視点で書いてください
ティス登場希望

薩摩は肉を食べたり桜&ティスの行動(これはお任せ)
店員や他の客の行動など観察し
喋りませんが色々思う事や対応したりします

桜は適当に焼肉と酒を楽しみます
ワルじゃなくて良いので隙あらばタダで食べようと企みます
Ⅾ?ナイナイだけど文句ある?
理由を付けてティスにあまり食べさせない様に意地悪なんかしたり
薩摩に無理難題を言ってみたり
(別に実行しなくても怒らない。拗ねるけど)

上記のような感じでアドリブ超多めで書いて頂き
面白おかしくしてください



●魔界の肉は我のもの、魔界の金も我のもの。
「分かってんでしょーね?」
 何時に無く真剣な主の声に頷いて、ガラス容器へと首を突っ込む。
 一仕事終えた後の冷えた水は美味い。まして吸い込むように飲み干してもすぐさま補充してくれるだから此処が天国に違いないと思いきやお茶汲み役の彼は悪魔だそうで、ならば地獄なのかと尋ねればそうでもなく何やら『恕恕怨』なるお店らしい。何と書いてあるかは小竜には読めない。そもそも尋ねてもいないし天国云々と思ってもいない。ただ水が美味い。美味しい。
「……本当に分かってんの?」
 疑り深い主の為に顔を上げて頷き直し、間髪入れずにもう一回。
 さらにサービスで一度追加しての総計四回。これだけ反応を示して見せればさすがの主も閉じた口を再び開こうとはしなかった。
 僥倖だ。実に僥倖である。何だかよくわからないものをぶら下げて飛ばされたり変なお金のお面を付けた連中とてんやわんやしたり、今日も今日とて充分に働いた小竜のやる気は閉店ガラガラ。
 それでも主に本気で「行け」と言われたら行かざるを得ないのが小竜の宿命ではあるが、行かなくて済むのならそれに越したことはない。もっとも肝心の主もいきなり席を立つつもりはなさそうなので口を噤んでいる間は小竜の平穏も保たれるに違いない。
 などと断言できないのは此処に主と小竜以外の第三惑星が襲来するからだ。それはテュティエティスとかいう何度呼んでも呼び慣れない舌噛みそうな名前の女。
 主でさえも早々に諦めて贅肉のように無駄な文字数をバッサリと削ぎ落とした末に「ティス」と呼んでいるのだから、小竜はつくづく人語を紡げなくて良かったと思っているだろう。しかし人語を紡げないせいで第三惑星の超接近をいまいち防ぎきれていない辺りでプラマイゼロかもしれないが、さておき。
 そのティスがもうすぐ合流するらしい。細々とした残務処理の後に一服してから来るという事だったので小竜は主と先んじて寛いでいる訳だが、恕恕怨の清潔で広々とした赤いテーブルに着くや否や、適当に幾つかの注文を終えた主は忽然と宣ったのだ。
(「薩摩、あんたもお金の事は知らんぷりしときなさいよ」)
 ――は?
 口を半開きにしながら主を見つめ返した時には、やはり人語を紡げなくて良かったと小竜は心底思ったはずだ。本当に「は?」などと口にした日には主から竜の牙よりも鋭い言葉の数々が飛ぶ。
 とはいえ主従とは生半なものでもない。小竜の不理解は一瞬で理解されて、主は喉を潤すとさらに言葉を継いだ。
(「お城からナイナイしたお金の事、ティスには黙っときなさいって言ってるのよ」)
 ――なんで?
 そのお金でお肉を食べるはずだという事くらい小竜にだって解る。
 しかし首を傾げてみても、主は己の口に人差し指を添えて念押しするばかりでそれ以上の説明はしなかった。
 そして漸く何事か語ったと思えば序文の発言である。余程あのお金を隠しておきたいようだが、それが目的なのかそれで起こりうるだろう諸々が狙いなのか――小竜は水のおかわり(二度目)を店員に要求しながら考え、コップが満たされるまでの間に答えを出した。
 ――どっちもですね、ご主人。
 主従とは生半ではないのである。主が小竜を知るように小竜も主を知るのだ。
 けれども従である小竜は自分自身が納得出来たところで一連の話を終いとした。主に「黙っとけ」と言われたら黙る以外に選択肢を持たないのが小竜の性(さが)であり、それによって自らが被る不利益もない。
 今のところは、だ。注釈を付けねばならないのは、とうとうそれが来たからである。

「……あれ? せんちゃん、木箱どうしたのよ」
 当然のように其処から触れたティスを片手で制して、桜はまず座るように促す。
 その段階で訝しんではいるだろうが、しかし役割の差こそあれど一仕事の後だというのは変わりない。素直に応じたそれは腰を下ろすなり店員を呼び止めて「とりあえずビール――え、何これ。デビール? ……まあどっちでもいいわ。それちょうだい」などと口走った。ちょっとおじさん臭い。
「……で? 木箱は? 魔王から奪い取ったDは? 何処?」
「さあ?」
「さあじゃないでしょーよ。全員で根こそぎ持ち出したところまでは知ってんだから。ほら出して」
「今出したって使わないでしょ~? お会計は食事の後って知らないの~?」
 のらりくらりと躱して笑う桜にティスの眉がぴくりと動いたのを薩摩は見逃さない。
 ――ご主人。
 実に様々な意味合いを籠めて小竜は主を見やる。
 けれども、それは藪蛇というやつだったのだ。視線に応じた桜はニヤリと笑みを強めて小竜を持ち上げ、その眼差しが対面に座る者の方に向くよう仕向ける。
 途端、現場の空気は一変した。
「薩摩くん、今日もお疲れ様だったわねー」
 険しくなりかけていた表情を綻ばせたティスがやたらと媚び売るような声を出す。
 一体全体この女の何処に何が触れたというのか、ひょんな事から出会ってからというものそれは小竜に熱を上げる一方。幸いにしてYESドラゴンNOタッチが信条らしく強引な手法こそ用いる気配はないが、しかし何かに付けて餌付けじみた行動に出ようとしてくるところは小竜自身も薄々気がついてはいるだろう。
 ――しかしまあ、ご主人がやれというなら。
 己を賭して話題を転換するのが小竜の役目。じっと赤い瞳を見つめ返して一つ鳴き声でも浴びせてやれば、焼肉店の一角に渦巻く寸前だったお金に纏わる暗澹たる気配はまだ本来の仕事も果たしていない換気扇へと吸い込まれて何処かに消え、再び舞い戻る前に新たな刺客たちが卓上を支配し始めた。即ち。
 ――お肉!
 小竜といえどもそれを前にしては落ち着いていられない。陶器に盛り付けられた塊は程よくサシが入っていて見るからに上等。それが次々にテーブルを埋め尽くしていくものだから小竜が完全包囲されるまでに大した時間はかからず、数多の肉を前にして瞳輝かせる小竜の姿を肴にティスが届いたばかりのビール改めデビールを一瞬で空にする。
「乾杯もしてないのにね~? 大して働かないで飲むお酒は美味しいんだろうね~?」
 様子見のつもりなのか主が煽るような台詞を吐くが、デビール中ジョッキ一杯分に含まれているおよそ20g程度のデビルアルコールが聴力か判断力か注意力あたりを早速鈍らせたのだろう。特に一触即発の事態に発展する雰囲気もなく、桜も手酌で清酒を味わってからトングを取るといよいよ肉を焼こうと片手を袖口に添えた。
「どれ食べたい?」
 ――え?
 まさかの問いかけに小竜は目を丸くしたが、しかし時たまそんな事を聞いてくるのが桜だったりもする。
 或いは上手く話題を逸した褒美かもしれないが、理由は何でもいい。肉。待ちに待ったお肉。その前で小竜も遠慮などしない。一際厚切りの焼肉というよりかステーキじみた塊を顎で示せば、主は自身から見て網の奥側にそれをどっかと乗せてから、手前には一口大の肉を並べていく。
「え、あたしの肉置くところないんだけど」
「薩摩がでっかいの食べたいっていうんだからちょっとくらい待ってあげたら~?」
「それなら仕方ないわね!」
 ――え?
 些か潔すぎやしませんかとは小竜でさえも思うところ、それは早くも二杯目を空にして店員を呼びつけていた。既に顔も赤らみ、目元が少しばかりとろんとして来ている。
 ――あ、そういえば。
 あれはいつの話だったか。小竜も半ば棲家としている“こんびに”とかいう商店の片隅で主が戦利品の酒を振る舞った際、ティスは醜態と呼ぶべきか悩ましいくらいの姿を一瞬晒していたような覚えがあるような、ないような。
 ――ご主人、お酒止めるかお肉あげるかした方がいいのでは?
 そんなつもりで袖を啄んだところ、主は網上に鎮座する肉塊をひっくり返しながら「まだ焼けてないでしょ」とにべもなく言うだけ。
 けれども小竜は見逃さなかった。対面の呑兵衛を見守る主の顔。それがまたニヤリとワル~い笑みであった事を。
 どうやら既に食卓の勝敗は決しているらしい。酔っ払いは小竜へと直火級の視線を熱く熱く注いでばかりで、もはやお金の行方など気にもしてない様子。
「さて、それじゃあ食べるとしますか」
 悠々と箸を取った主は手前に並べた肉を一つ残らず取り上げて小皿に移し、空いた網上に新たな肉を乗せてから行儀よく「いただきまーす」と告げて本格的な食事モードへと入る。

 それからまた暫しの後。
「あれ? せんちゃん、あたしの肉乗せるところないんだけど」
「薩摩にも少しくらい野菜を食べさせなきゃならないでしょ。ちょっとくらい待ったら?」
「それなら仕方ないわね! 健康大事! あははは!!」
 状況はある意味で悪化の一途を辿っていた。
 取り返しのつかないレベルでぐでんぐでんになったティスはまだ塩と胡麻油で和えたキャベツときゅうりしか食べておらず、しかし本人は怒るでもなくひたすら笑いながらジョッキを空にするばかり。
 それを顧みるでもなく、桜は肉を焼いては自身の胃袋へと収めていく。いい肉だからかタダ飯だからかその両方が原因か、運ばれてきた端からぺろりと平らげていく辺りは主の食欲もドラゴン級というところか。
 そして、薩摩はと言えば。
 ――うまい!
 人と比べれば遥かに小さな口で肉を貪っては目を細め、尾を揺らす。
 デビルA5だとかA4だとかいうランクの話を店員にされたところで主と揃って右から左。ただただ軽く噛むだけでほろりと解けていく上等な肉の旨味に舌鼓を打ち、若しくは食べごたえ抜群の塊をこれでもかと頬張って、たまに香ばしく仕上がった根菜や芋類、それと瑞々しい葉物なども頂いてからまた肉を齧ればもう軽く羽ばたかざるを得ない。
「あ、こら薩摩。バタバタしないの」
 そういう主も酒と肉で随分と満たされたのかだいぶ機嫌良く、小竜が器用に酒を注いでやれば駄賃代わりの肉を寄越してくる。
 これほど好き放題に食い散らかしていれば小竜でも財布の心配をしたくなるところ、今日は魔王から奪い取った莫大なお金――ではなく、デビルキングワールド元来の気質である住人たちの良心に甘えまくっての食べ放題。何も案じる事などない。
 むしろ案じるべきはナイナイしたDの行方だが、それは小竜が考える事ではなく。
 ――うまい!!
 自らを労うように、小竜は無我夢中で肉を喰らい続けるのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ナターシャ・フォーサイス
【聖影】
果たしてこのやり方で楽しむことが、使徒的にはいいのか甚だ疑問ですが…
…少なくとも、本来はアウトでしょう。本来は。
まぁ経済を回してDを消費するのが正しいのですから、これも正しいのでしょう(

そんなわけで肉です。えぇ、肉ですとも。
シンプルに焼いて、食べる。
それだけのことなのに、どうしてこれ程までに満たされるのでしょう。
ここが楽園だから…いやいや、それはないでしょう。
ですが幸福なことは事実。
存分に味わうとしましょう。

それから、スイーツもあるのですよね?
でしたらそちらも心行くまで楽しみましょう。
昔から甘いものは別腹と相場が決まっているのです。
どこかで強欲という声も聞こえますが、気のせいでしょう。


ティノ・ミラーリア
【聖影】
デビルキングワールドではこれが正しいなら、問題はない……のかな。
世界の平和ために、魔王の金で高級焼肉…悪いことをしないとね…。

お店の方は…お肉も他のメニューも普通に美味しそうだし、
良い人どころか無償提供しようとか、相変わらず不安になるね…。
…ごほん。金ならいくらでもあるから、ここからここまで…まずは持ってきて。
片っ端から焼いて食べて、お腹がいっぱいなるまで食欲を満たしていこう。
なにも気にせず食べられるなんて…信じられないけどこれも猟兵の役得?
今は諸々を置いておいて、この焼肉を楽しもう。あ、こっちも美味しそう…

消費しきれなかったDはお土産の購入に使ってしまおうかな…。



●聖影III
 今日という日は悩んでばかりの一日だ。
 振り返れば最初から最後まで「これで良いのか」との思いが拭えなかった。ただ一人で挑んでいれば、何処かでより深い惑いの中に踏み込んでいた可能性も否めない。
 そんなナターシャがどうにかこの席に落ち着けたのは、正しく影の如く寄り添って今日を共に歩んだティノのお陰というところも少なからずあるだろう。
「デビルキングワールドではこれが正しいみたいだから、問題はない……のかな」
 さすがの彼も断言するには至らないが、しかし自分ではない何者かがそうして意見を述べるだけでも思考の迷宮に筋道が立つ。
「……少なくとも、本来はアウトでしょう。本来は、ですが」
 念押しするように繰り返すナターシャの表情は柔らかい。
 自らが思い描く使徒としての正しい有り様ではなくとも、魔王がしこたま貯めたDを浪――消費して経済を回すことがデビルキングワールドの安寧に繋がる事は確かなのだから、これから為す行いもやはり正しいはず。
 つまりは至るべきところへと至るまでの道程が、ナターシャの理解とは少し(!)違っただけの話なのだ。
「じゃあ、世界の平和の為に、悪いことを沢山しないとね……」
「えぇ。むしろここからが正念場とも言えるわけです」
 僅かに表情を引き締めたナターシャが紙エプロンという名の戦装束を身に着ける。
「では――」
 いきますよ、と目で訴える彼女にティノが頷いて、そして。

 ――網の上に一枚、肉が置かれた。
 肉。程よくサシの入った肉。見るからに贅沢という大きい肉。じゅうじゅうと食欲そそる音に香ばしい匂い。
 それをナターシャが手際よく並べていく間、ティノはテーブルの端に立て掛けられていたメニュー表をぱらりと捲ってみる。禍々しい店名や何かにつけて“デビル”と冠が被せられている以外に奇妙なところはない。むしろ、メインのデビル牛肉からデビル野菜、デビル米・デビル麺類にデビルデザート類までどれもこれも普通に美味しそうだ。
 それを事あるごとに店員が無償で食べさせようと勧めてさえこなければ、もう少し肩の力も抜けるのだが。
「……金ならいくらでもあるから」
 咳払いを一つ挟んで太っ腹過ぎる悪魔を押し留めると、ティノはメニュー表をつつつとなぞって。
「ここからここまで……持ってきて」
 先を見越して追加注文すれば、店員はちらりと覗く財貨にひれ伏すような態度で品名を読み上げてから厨房へと駆け戻っていく。
「……相変わらず、不安になるね……」
「……えぇ」
 良い子で括るには強烈過ぎる魔界の住人たちを、この世界の当たり前なのだと認めて慣れるまでにはまだ暫く時間が掛かりそうだが――頭を悩ませる諸々の事柄は当面の間、脇に置いておくとして。
「さあ、焼けましたよ。いただきましょう」
 ナターシャは実にいい感じに火が通った特上肉の先遣隊を取り分ける。
 いよいよ。いよいよだ。今日という日はこの為にあった。最高の肉を憂いなくひたすらに味わう至福の時間。その前に忘れず、焼き網いっぱいに次弾を装填しておくとして。
 こんがりと、しかし油で艶やかに輝く塊をゆっくりと口へ運んでいく。
 途端に広がる感覚は――そう、祝福。
 やはり此処が楽園か。いやいや、それにしては看板がおどろおどろしい。あくまでも焼肉店。此処は焼肉店。それを理解していられるナターシャの頭は、ティノ共々まだまだ正常であるはず。
 故に、この幸福感も紛れもない現実なのだ。噛む力を必要としない程の上質な肉はあっという間になくなっていくけれども、しかし舌の上、口の中にはいつまでもその余韻が残る。
 それだけでも長い時間を過ごせるであろうところ、また新たな贄を捧げようというのだから強欲と罵られても仕方ないが、今だけは強欲上等。悪徳こそ、欲望こそが素晴らしいとされるこの世界で、他人様からせしめた金を湯水のごとく使って腹を満たそうというのに、そうでなくて何だと言うのか。
「……これも猟兵の役得?」
「えぇ、えぇ。勿論ですとも」
 ティノに答えるナターシャは幸せを得る代わりに語彙を失っていたが、もはや此処で教えを説く事などないのだから構わない。
 むしろ説かれるのは二人の方だ。第二陣の特上肉を網から攫って、空いたスペースに新たに運ばれてきたデビル牛タン塩などを豪快に投入。それらが焼けるのを待つ間に、取皿の上で召し上がられる瞬間を待つ第二陣をこれでもかと貪り尽くせば、頭の天辺から爪先に至るまで全身で真理を悟る。即ち――高い肉美味い! 他人の金で食う肉、美味い!!!
「これはもう、止めどころが分かりませんね……」
「止めるのはお腹いっぱいになった時だよ」
「……そうですね、その通りです」
 繰り返すが、金ならある。二人では使い切れないほど、ある。
 ならば限界まで突き進もうではないか。
「……あ、こっちも美味しそう……」
「頼みましょう。どんどん頼んでしまいましょう。――あ、店員さん。これとこれと……ああ、もう、このページの全部持ってきてください」
「隣のページのもよろしく……」
 ともすれば乱雑にさえ思える注文も悪魔店員はにこやかに書き留めていく。
 莫大なDを抱える二人は超極悪、つまり超カッコいい。
 何がどう転んでも、魔界の住人たちにとっては羨望の的以外になり得ないのだ。

 かくして、片っ端から焼いて食べてを繰り返した二人であったが。
 焼肉店で頂けるものは焼き肉だけではない。
「昔から甘いものは別腹と相場が決まっているのです」
 などと宣うナターシャの前には積み上げられるようにして置かれた数多のデザートたち。
 アイスクリームにティラミスに杏仁豆腐に抹茶白玉あんみつに――これだけでも充分に腹が満たされるどころか、食べきれるかどうかすら心配になる量だと思われたのも束の間、それらは雪が溶けるように消えていく。この恐るべき光景には、強欲の悪魔も敗北感に打ちひしがれて自ら席を譲るだろう。
 また一方では、ティノが持ち帰り用のメニューを手に店員と言葉を交わしていた。
 暴食の極みという程に食べ尽くしてもまだDが余ったのだ。それを後生大事に取っておく意味もなし、魔界でしか価値のないDから全世界全てで等しく意義のある食品に変えてしまおうというのは、ティノ自身も我ながら妙案と思ったに違いない。――いや、単に食欲が溢れて止まらないだけかもしれないが。
「とにかく一番高いやつで頼むよ」
 無表情の中にも何処か尊大な雰囲気漂わせて言えば、超お金持ち=超極悪人からのお願いに気合漲る厨房から威勢のよい声が届く。
 それに満足げな頷きを返して、一度席に戻ったティノは――ナターシャが何度目かのデザートフルコースのおかわりを要求した場面に出会しておきながら、さも当然と言わんばかりの様子で腰を下ろしたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

天道・あや
【雑居】

何か城から逃げるとき背後からおっきな爆発音が聞こえた気がするけど

ま、いっか!

焼き肉だ!焼き肉!いやー頑張って城に潜入して、魔王様から貰ったお金で焼き肉!

ふふふ、今日のあたしは、あたし達はデビルに焼き肉しちゃうぜ!ということでルエリラさん、いきましょうぜ!焼き肉というなのサバトに!

店に入ったらお金ドーンと置いて


焼き肉高いの上からドンドン持ってきて!そしてー、you達(店員さん)も一緒に食べようぜ!勿論あたし達の奢りで!

道行く人にもこえかけちゃう!あとCで呼んだ仲間とも!勿論、テュティエティスさんと友達への土産に焼き肉弁当も忘れずに注文!

…ルエリラさんが芋煮布教してるけど、まいっか!!


ルエリラ・ルエラ
【雑居】
【アドリブ・改変大歓迎】
肉の時間だー!芋煮もいいけど焼肉もいいよね
あやと一緒に豪遊しちゃうぞー

ヘイ店主!お高いお肉を順に!料金無料?ふっふっふ、私達をなんだと思ってるのかな?ほーれ!Dは山ほどあるんだ!つべこべ抜かさず持ってくるんだよ!
そんな感じでガンガン楽しむよ。一皿持ってきてくれる毎に芋煮のお鍋満載のDを店員にお支払い!オマケに芋煮もプレゼント!
お祭り騒ぎなんだし店員さんも食べた食べた!私たちの奢りだー!嫌だとは言わせないよ?食え飲めー
ついでに店の前を通りかかる人を呼び込んでその人たちの分も奢ってやるのだー!ふははー真の焼肉パーティーの始まりだー!!あ、あと芋煮も食べてね



●雑居II
「焼き肉だ! 焼き肉!」
「肉の時間だー! 芋煮もいいけど焼き肉もいいよね!」
 魔王城から強奪した金を抱えてご機嫌の二人は足取り軽く焼肉店へと向かう。
 何だか最後の最後で盛大な爆発音が背後から響いた気もするけれど気にしない。
 そんな事より重要なのは両腕で抱える重みの方だ。
 現地調達した報酬は当然ながら二人分。
「これだけあればー?」
「あればー?」
「焼き肉なんてもう実質無料ですぜ、ルエリラさん!」
「いえーい! 豪遊しちゃうぞー!」
 どうせ他人の金。泡銭。自制や節約と言った言葉に預ける理由はなく、そもそもが「使え」とのお達しなのだから我慢の必要などない。正しく強欲を司る悪魔のごとく、今夜は肉を貪り尽くしてやろう。
「ということでルエリラさん! いきましょうぜ、焼き肉という名のサバトに!」
「おしきたー! たのもー!!」
 道場破りのように勢いよく木扉を押し開けて焼肉店へと突入。
 案内も待たずにどっかとテーブルの一つを専有すれば、呆気に取られていた悪魔店員が我に返って来たところ、お冷が出されるのと入れ替わりに巨万の富を見せつけてやる。
「ほらほら、高い肉からドンドン持ってきちゃってー!」
「え? 無料でいい? ――ヘイ! HEY! これが目に入らないってのかい! 見ての通りDは山ほどあるんだ! つべこべ抜かさず持ってくるんだYO! お高いお肉を!」
 ふんぞり返って煽るように吐き連ねる二人は一見して質の悪い客のようだが、しかし。
 デビルキングワールドでの振る舞いを他世界の常識で捉えてはいけない。たとえ二人がどれほど尊大な態度を取ろうとも、傍らに莫大なDがある限りThat’s coolなのだ。
「ふふふ、今日はデビルに焼き肉しちゃうぜー!」
「ガンガン楽しむよー! デビルに!」
 デビルは今宵の合言葉。
 意味などは考えるのでなく感じるべきだが――どうしてもデビルの一例を挙げなければならないのなら。
 そう、例えば大皿いっぱいに盛り付けられた特上肉をぐわしと根こそぎトングで掴み取って焼き網に叩きつけ、程よく火が通ったところで丸ごと豪快に掻っ攫って口へと運ぶあやの振る舞いはデビル。
 或いはまた新たに運んできた肉を卓上へと置く悪魔店員に対して、芋煮用の鍋にこれでもかと詰めたDを早くも支払った挙げ句おまけの芋煮をプレゼントするルエリラの行いもデビル。
「いやー美味しい! 頑張って城に潜入した甲斐もあったってものだね! 魔王様に感謝しなくちゃ!」
「あいつもういないけどね!」
 HAHAHAHAHA!!!
 上等な肉の油のお陰か、実に饒舌な二人は焼いて食って笑うの三拍子を繰り返す。
 もはや気分はお大尽。否、気分だけでなく今の二人は正真正銘のお大尽。
「HEY! YOU達も一緒に食べようぜ! 勿論あたし達のお・ご・り・で!!」
「そうだ奢りだー! 食え食えー! 飲め飲めー! 支払いは私とあやが全部持つ! 今日はお祭りだー!」
 すっかり気が大きくなった二人は居合わせた客どころか店員たちすらも巻き込んで、それでも足りないのかとうとう店を飛び出すと行き交う悪魔たちまでも次々にサバトの会場へと誘って。
「食べ放題という名の大海原へ出向だぜー!」
 トングをサーベル代わりに荒々しく振り上げれば、忽然と現れたあやの仲間たち(幽霊船員)が大宴会を飾るに相応しい楽曲などを奏で始める。そんな彼らも勿論、合間合間で肉を食う。喰らう。貪る。
 ついには満席を超えて乗船率数百%に達した夜宴会場で、響き渡るは壮大な音色と極悪(超カッコいい)猟兵を称える声。
 ――てーんーどー! てーんーどー! てーんーどー!
 まるでスタァやアイドルではなくプロレスラーへの声援だが細かいことは気にしない。
「ありがとー! ありがとー! 好きなだけ食べてって! あたしには、あたしたちには、金が、ある!!」
 あやが座席に立って財貨を見せつければ、歓声はさらに勢いを増す。
 ――るーえーりら! るーえーりら! るーえーりら!
「ふははー! ここからが真の焼肉パーティーの始・まり・だー!!」
 ルエリラが座席に立って芋煮を見せつければ、やはり歓声は勢いを増す。
「芋煮! 芋煮もよろしく! みんな芋煮も食べてねー!」
 ――いーもーに! いーもーに! いーもーに!

「……あ、あれ?」
 なんかおかしくない?
 奇跡的にも一欠片ほどの理性を残していたあやが小首を傾げる。
 今日は何の集まりでしたっけ? 焼き肉パーティ? 祝勝会? 芋煮会? サバト?
 っていうか芋煮会って元からサバトみたいなものじゃない?
「……ま、いっか!!」
 これが何の会だろうと真理は一つ。即ち、肉美味い!
 座り直したあやは気の利く店員が交換してくれた新しい網の上にデビル特上肉(グラム数千D)を隙間なく並べて、それを魔王が世界を手中に収めるかのごとく纏めて平らげる。
 美味い。一度噛むだけで簡単に解れて溶けて消えていくのだからきっとカロリーはゼロ。しかし全身が幸せを感じている以上、与えられたエネルギーは恐らく無限大。どれほど食べても明日には差し支えないどころかスタァ道を邁進する為のPowerとなるに違いない。
「すみませーん! このお肉で持ち帰りの焼き肉弁当おねがいしまーす!」
 まだ理性を留めている間に忘れずと、あやは友人や此度の案内人への土産を注文。
 その傍ら、ルエリラはデビル特上肉をふんだんに使用したデビル芋煮で着実に侵略――でなく布教を進めようとしていた。焼肉店での冒涜的な一幕は当分終わりそうにない。まだまだ、夜は長い。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ディートヘルム・アモン
(アドリブ・連携歓迎)
確かにそれを手元に置くことに価値を見出される財はある。宝石や絵画のように。
だが通貨というならやはりヒトの手を渡ってこそだろう。
働きに対して正当な報酬が与えられ、使われることで社会は回っているのだから。

『…これが肉食いながらでなければなあ!?』
失礼な。野菜や麺類も食べてるぞ。
そもそもDを使うのが目的だし抑える選択はない。
必要なこと。必要なことなんだ。血だの魂啜るより肉啜った方がよほど美味しいし。
…ところで。そろそろ何枚目かの大皿が尽きるがどうだった兄弟。
表に出てなくとも味覚等の感覚は分かるだろう。
『……まあ、悪くは』
よし。では追加だ。
Dに換算できない礼もつけて注文しよう。



●ディートヘルム・アモン(此岸彼岸の境界線・f09203)
 魔王城での戦いも今は昔。
 ディートヘルムは魔界の喧騒に紛れて遠くを見やる。
 傍らには奪い取った木箱が一つ。その中身を掬い上げてみれば、じゃらりじゃらりと音が立つ。
 魔王もこの音色を聞きながら策謀を巡らせていたのだろう。
 じぃっと耳を傾けてみれば、成る程。確かに何か惹き付けるものがあるような、無いような。
(「……しかし、だな」)
 掌に残る幾つかをふるい落として、呆れたように溜息を一つ。
 世の中にはそれを持つこと、手元に置くこと自体に価値を見出される品が数多在るのだとは、ディートヘルムも知るところだ。例えば美しい輝き放つ宝石然り、素晴らしき芸術の一片である絵画然り。
 だが、今しがた弄んだそれは違う。Dとは通貨である。デビルキングワールドでは住人の気質とも相まって、それの重要性は本来あるべきところよりだいぶ低いが、それでもDは宝石や絵画でなく、お金なのだ。
 ならば、やはり一所に多くが留め置かれるべきではない。
「労働には正当な報酬を。通貨とは世に流れ、ヒトの手を渡り、血液のごとく巡り巡ることで社会を回しているのだからな」
 既に亡き魔王へと説くように呟いて、ディートヘルムはグラスを傾ける。
 その横顔、彼方を見る紫瞳の其処には、深い愁いが揺蕩っているような気がした。

『……これが肉食いながらでなければなあ!?』
 厳粛や荘重とでも呼ぶべき空気を“兄弟”がずたずたに引き裂く。
 途端、周囲から切り取られていたようなディートヘルムの姿もすっかり魔界の中に馴染んだ。方々で聞こえるのは悪魔たちの談笑と、肉がじゅうじゅうと焼ける音。
 焼肉店の一角に腰掛けたディートヘルムも、当然ながら肉を焼き、貪っていた。一仕事終えた身体には上質な油が染み渡る。
『なあ!?」
「失礼な。見ろ、きちんと野菜や麺類も食べてるぞ」
『そういう話ではなくてだなあ!?』
 果たして兄弟は何がご不満なのか、怒りと呆れを綯い交ぜにしてから薄めたような声で訴えてくる。
 だが、何も咎められる謂れはないのだ。そもそもが魔王城から強奪したDで豪遊するところまでが今日の仕事。高級肉をこれでもかと頼むのも無計画な散財ではない。必要なことだから、そうしているまでの話。
 もっとも、血だの魂だのを啜るより、此方の方が余程美味しく感じられるのは確かだったが。
「……ところで。そろそろ何枚目かの大皿が尽きるが、どうだった兄弟」
 網の上で肉を踊らせつつ、ディートヘルムは問う。
 己が半身たる兄弟も深層で同じ感覚を味わっているはず。もしも兄弟が高級肉の味や舌触りに尋常ならざる不快感を覚え、ともすれば苦しみのあまり成仏するかのように義眼から消失してしまいかねないとでも言うのなら、ディートヘルムとしてもこの豪遊を半ばで止める事は吝かではない。故に、問う。
「どうだ?」
『……まあ、悪くは』
 どうにもはっきりとしない言い様に、微かな笑いが零れる。
「よし。では追加だ」
 兄弟がもう少し歯切れよく認めるようになるまで、錆取りのごとく肉汁に浸してやろう。
 そう決意したディートヘルムは、忙しなく働く店員を呼び止めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年01月26日


挿絵イラスト