あきか
あけましておめでとうございます、あきかです。
新年最初の依頼はサクラミラージュになります。
●執筆について
プレイング受付開始のご案内はマスターページにて行っています。
お手数ですが確認をお願いします。
●シナリオについて
目的を達成しながら豪華寝台列車の旅を満喫しましょう。
全章通して判定属性関係なくやりたい事を書いて頂ければと思います。
なお、客室の関係上(と書いてMSのキャパと読む)
同時参加は2~3人程度を推奨しております。
勿論1人参加も歓迎です。
●一章:昼過ぎ
駅構内で彷徨う影朧を保護します。
女学生風の影朧はカメラを手にふらふらしており、
目についた人に声をかけているようです。
写真を撮るのも、会話してみるのも良し。
ただし不安定なため激弱ですが多少攻撃のような事をする可能性も在ります。
暴れだしたら落ち着かせて下さい。UC指定しているだけでもOKです。
余裕があれば切符を買いに行ったり、早くもお土産屋をみたりしても構いません。
逆に切符買うプレイングを書かなくても列車は乗れますのでご安心下さい。
なお客室は全室「サアビスチケット」適応しております。
●二章:夕暮れ
駅の中にいる一般人が影朧の存在に気付きます。
このままだと列車の運行に影響が出る為、無事に発車できるよう動いて下さい。
怖がる人の避難、駅員の説得、影朧のお世話などなど。
●三章:夜
無事に発車できましたら列車の旅をお楽しみ下さい。
客室で寛いだり、食堂車で食事したり、外の景色を眺めるのも良し。
影朧は特に構わなくても勝手に車内を見て回り、最終的には消えます。
勿論構ったらそれなりに反応するようです。
●その他
今回はふじもりみきやMSさんとの共同運行になります。
寝台特急シリウス号も是非お楽しみ下さい。
同時参加は諸々矛盾しそうですがこまけぇことは(略)でお願いします。
また、三章に限りオリオもラウンジでのんびり車窓の景色を楽しんでます。
お声がけ頂ければ描写にしれっと参加します。
それでは佳き列車の旅を。
第1章 ボス戦
『血まみれ女学生』
|
|
POW |
●乙女ノ血爪
【異様なまでに鋭く長く伸びた指の爪】が命中した対象を切断する。
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SPD |
●血濡ラレタ哀哭
【悲しみの感情に満ちた叫び】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
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WIZ |
●応報ノ涙
全身を【目から溢れ出す黒い血の涙】で覆い、自身が敵から受けた【肉体的・精神的を問わない痛み】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
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👑11 |
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 |
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
『寝台特急:オリオン号 運行案内
●月×日、一〇:二三分発◆◆行き
素敵な旅の思い出に豪華寝台特急オリオンを是非ご利用下さい。
一番の見所は夜、満天の星を映す湖は一部浅い所を直接走り抜けます。
上も下も星が煌く光景は圧巻!
更に仄明るい幻朧桜並木の美しさも一緒に堪能できます。
銀河と神秘の花、2つの絶景をお楽しみ下さい。
車両案内:全八両編成
一等客室(一号車)
1~2人宿泊可能のスイートになります。
上質な調度品を揃え、広々とした窓からの景色は極上です。
食事は食堂車、または個室のどちらかをお選び頂けます。
一等星のように特別で優雅なひとときをお過ごし下さい。
二等客室(二、三号車)
二段ベッドに折りたたみ式ソファーベッドを使用で三人宿泊可能です。
食事は食堂車をご利用下さい。
食堂車(四号車)
ゆったりとした空間で外の景色を楽しみながら食事ができます。
三等客室(五、六、七号車)
ベッド付きの一人用個室になります。
間仕切りのカーテンを開け、隣室と繋げる事も可能です。
食事は食堂車をご利用下さい。
ラウンジ(八号車)
ソファーで寛ぎながら大きな窓での絶景をお楽しみ下さい。
セルフサービスで飲み物も用意しております。
また、奥の展望デッキは窓越しではないパノラマの景色を観る事ができます。
切符の購入は駅構内販売所にて!
近くの売店ではオリオン号・シリウス号記念土産各種取り揃えております』
華やかな広告が駅構内の一番目立つ場所に貼り出されている。
行き交う人々が目にし会話に取り入れていく、そんな中で。
一人の女学生がふらつく足取りで其処を通り過ぎていった。
榎本・英
これがその列車だね。
寝台特急と言えば殺人事件と決まっている。
……今回はそのような事を考える為に来た訳ではないが。
もう少し時間はあるが、先に切符を買っておこうか。
嗚呼。そこのお嬢さん。
出発前の良い写真は撮れたかな?
一寸、私にも見せて呉れ。
彼女が暴れたらこっそりと落ち着けよう。
個室でゆっくりとした一時を過ごそうではないか。
食事に毒はありがち、寝込みを襲うのもまたありがち。
では何かの拍子に毒が効き始めると云うのは如何だろうか。
それにしても此処の食事は美味しいね。
風景も素晴らしいよ。
このような場所で優雅に過ごす事など滅多にない。
少し作品から離れて、純粋に楽しむとしよう。
●冒頭
作家の日常がそのまま作品に成るとは、どの切欠だったか。
此れは或る人の昼下がりである。
「これがその列車だね」
榎本・英(人である・f22898)の足取りは散歩と相違無かった。
雑踏に馴染む色合いが冷風に撫でられても眼鏡奥の赤は揺らぎない。
舞台近くで止めた脚に今度は蒸気が吹き込んだ。準備中か、忙しないな。
観察する。成程随所拘ったのだろうレトロな造りに大事にされた年季も感じる。
ヘッドマークの星座は陽に照らされ一等鮮やかに輝いていた。
「寝台特急と言えば殺人事件と決まっている」
此程見事な列車なら難解なトリックを乗車させても映えるだろう、けれども。
「……今回はそのような事を考える為に来た訳ではないが」
確かに事件は発生する。がそれは遺体を前に議論する噺では無い。
「もう少し時間はあるが、先に切符を買っておこうか」
さて何処だったか、通行人に紛れ先を目指す。
販売員は笑顔の素敵な婦人だった。興味深い話を交わし切符も購入。
では人波から抜け場面を変えよう。
「嗚呼。そこのお嬢さん」
君も一緒に。
物語に退屈は不要と早くも一人称視点は自然な声掛けで必然を招いた。
振り返る女学生の目は虚ろでも、男を映している。
「出発前の良い写真は撮れたかな?」
問には咳き込みがてら、まだこれからとの内容を頂く。
撮っても良いかと女学生は云った。何を、とは言わなかった。
なら場所を変えよう。丁度昼餉が未だなんだ。
婦人お勧めの構内カフェーは列車を観られる席がウリらしい。
「ゆっくりとした一時を過ごそうではないか」
拙くついてきた彼女も窓越しの鉄塊に気付いたようだ。
「それにしても此処の食事は美味しいね」
片手間の友と言えばサンドウイチだ。
マヨネーズの無い卵、隣は果肉が大きなジャムが挟まれていて。
平凡な中身でも舌を喜ばせる味は流石大型駅に店を構えるだけはある。
「風景も素晴らしいよ。このような場所で優雅に過ごす事など滅多にない」
此処すら中々の絶景だ、オリオン号ではさぞかしと期待が高まる。
食事に興味無く窓外を眺める彼女を横目に、語りは一層止まらない。
やはりかの列車はミステリが似合う。例えばそう、あの車両は食堂車か。
「食事に毒はありがち、寝込みを襲うのもまたありがち」
所謂王道だがそれが良い、其処へ至る過程を彩るのが小説家だ。
ねこみ、どく。
呟く隣人の雰囲気が変わったのも気にせず、彼は手帳を取り出し書きつける。
「では何かの拍子に毒が効き始めると云うのは如何だろうか」
近くで咲いた不気味な黒百合は一瞬のうちに撃ち抜かれ、散っていく。
負の衝動が消えた影朧が見たのは、手帳の中へ消えていく獣の指先だった。
文豪は、今も書を記し続けている。
ふと、シャッター音がひとつ響いた。
振り向くとぼんやり顔がカメラを手に此方を見ている。
「一寸、私にも見せて呉れ」
覗き込むが古いカメラだ。中に在るのはフィルムだろう。
顔を上げる。三度合う視線の先、娘の口が開いて。
「あなたが、外をみて、書いてる姿が――」
丁度、見ていた外で汽笛が鳴り響いた。
英が返事する前に女学生はふらり何処かへ去っていく。
代わりに食後の一杯が運ばれてきた。さて、と一息。
「少し作品から離れて、純粋に楽しむとしよう」
承はこれからだ。ならば、時が来るまでもう少し今を堪能しよう。
大成功
🔵🔵🔵
神代・凶津
また変わり種の仕事だな、相棒。
「・・・でも、なるべく手荒な真似をせずに解決できるならそうするべきです。」
まあ、相棒ならそう言うと思ったぜ。
んじゃ、行くとしますか。
あれが例の影朧か。
早速話しかけるとするか。よう、そこのアンタ。
おっと暴れだしたら動きを見切って抑えるぜ。
落ち着け、別にとって食う訳じゃねえ。
「・・・私達は貴女の味方です。」
相棒の言う通りだ、アンタの無念を話しちゃくれねえか?
カメラなんか持って写真を撮るのが趣味なのかい?
見た感じカメラの扱いとか手馴れてるようだしな。
そうだ、せっかくだし俺達の事も撮っちゃくれねえか。
【技能・見切り、コミュ力、情報収集】
【アドリブ歓迎】
●相互
世界を彩るひとひらの花弁が、射干玉の長い髪へと辿り着く。
淡色の花と同じ名の巫女が精白と赤々を舞わせ、一度足を止めた。
『また変わり種の仕事だな、相棒』
しかし発声は神代・桜の姿に合わぬ男のもの。
幻朧桜の一枚が、しなやかな指に包まれた一等紅い鬼面に落ちていく。
女性が落とした視線の先も同じ場所。声は、其処から発生している。
『彼』こそ神代・凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)、そのものだった。
「……でも、なるべく手荒な真似をせずに解決できるならそうするべきです」
今度こそ芯の通った女性の声がする。
澄み渡る晴夜のまなこは顔を上げ、未だ出発前の列車を遠くに映した。
『まあ、相棒ならそう言うと思ったぜ』
互いの性格を把握する程は共に居る。会話する前に、心は決まっていた。
『んじゃ、行くとしますか』
旅する巫女が頷いて、謎の仮面を抱いたまま凛とした姿勢で歩き出す。
構内は賑やかで、穏やかだ。皆目的地へ何の不安も無く向かっている。
其処に異物が居るとも知らずに。
『あれが例の影朧か』
異物はコンコースより少し外れる開けた場所に居た。が、雰囲気が怪しい。
背を丸め咳き込む姿に退魔師は嫌な気配を感じとる。
『早速話しかけるとするか。よう、そこのアンタ』
ゆっくりと、女学生が視線を合わせた。
くる、しぃ
黒い涙を零し影朧が唸る。伸ばした手に異様な程長い爪が生え害意と化す。
混乱している瞳、振り上げる凶器。
狂気に忘れ去られたカメラが地へと落ちていく。
『おっと』
しかし爪で屠る音も、カメラが壊れる音も一切響かなかった。
ひとつ、聴こえたのは――りんと奏でられた鈴の音。
「!?」
少なくとも我に返った影朧の前には誰も居らず。
次に理解したのは誰かが己の背後で、攻撃の手を掴んでいる事だった。
『落ち着け、別にとって食う訳じゃねえ』
もう一度鳴る退魔の鈴に黒百合と異形の爪だけが祓われ朽ちていく。
落ち着いた女学生が振り向き認識した相手は、カメラを持つ鬼面の巫女であった。
「……私達は貴女の味方です」
敵意が消えたのを感じ、そっと繋いだ手を離す。
代わりに相棒を顔から外してカメラを彼女へ差し出した。
『相棒の言う通りだ、アンタの無念を話しちゃくれねえか?』
静かに受け取った影朧は俯き、カメラを見つめ少し口を開いては閉じている。
返事に悩んでいるのだろう。なら。
『カメラなんか持って写真を撮るのが趣味なのかい?』
質問を変えてみる。指先が反応した後、ゆっくりと顔を上げてきた。
ぼんやりした眼差しだったが、確かに一つ頷いて。
当たりか、良かったと顔に出……一寸判り辛い凶津の代わりに桜が淡く微笑んだ。
『見た感じカメラの扱いとか手馴れてるようだしな』
続いてかけた言葉に相手が考え込むような様子を見せる。
やがて、言葉が浮かんだのか口を開いた。
「撮りたかった。遺したかった。思い出を、忘れないように」
でも、何を。その先が朧気で判別できないらしい。
曇る表情に、一人と一つも考える。
発声したのは男の方だった。
『そうだ、せっかくだし俺達の事も撮っちゃくれねえか』
撮る。その提案はすんなり理解したようだ。
改めて両手で持ったカメラが神代のふたりに向けられる。
桜は確り、凶津を胸前に。ベストアングルに調整された。
シャッター音の後、影朧はまた何処かへ去っていく。
被写体の背後でオリオン号が蒸気を吹き上げ、汽笛を鳴らしていた。
大成功
🔵🔵🔵
リル・ルリ
【歌鼓】
かたんことん
オズ、汽車も綺麗だね
汽車の中で寝る…なんてわくわくだよ
僕もね、汽車にお泊まりもオズとお泊まりも初めて!
楽しみで昨日は眠れなかったんだ
ふふー
おそろいだね、オズ!
腕の中のヨルも汽車に大喜び
ちょこちょこ動きまわる様子を見守り
あ、あの子だね
目当ての子を見つけオズについていく
ねぇ写真撮ろう!
僕ね、すまほほん、持ってるんだ!
今日の記念になるよ
僕がとってあげる
得意なんだから!
並んで笑って!
電車と一緒にぱちり
ブレずに撮れたそれを自慢げに披露
今度は僕達をとってよ
ヨルもシュネーも一緒に
宝箱みたいなカメラだね!
とっても素敵
列車の旅、楽しみなんだ
お互い楽しもう
わ!ほんと?僕も見たい!
オズ待ってよー
オズ・ケストナー
【歌鼓】
腕の中のシュネーと
ポスター見つめ
しんだいれっしゃっ
はじめて
リルは?
中にベッドがあるの?
ふふ、リルとおとまりするのはじめてだねっ
おそろいだっ
ヨルと一緒にぴょんぴょん跳ねて
あれ?
リル、あの子だ
こんにちはっ
もちろん、とっていいよ
しゃしんすきなの?
リルもしゃしんとるの、じょうずなんだよ
よかったらいっしょにとろうよ
ほら、列車もいれて
リル、どう?うまくとれた?
きみのはすぐに見られないしゃしんなんだね
それもわくわくするねっ
きっととってもいいしゃしんになってるよ
列車、たのしみでそわそわしちゃう
きみもたのしみにしてるんだよね?
いい旅になるといいねっ
あ、窓から見たら2段ベッド見えるかな?
リル、見にいこうっ
●陽謡
かたん、ことん。――かたんことん♪
弾む言葉は音色を添え、リズムに嬉しさを滲ませ唄う。
「オズ、汽車も綺麗だね」
広告に描かれた列車はリル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)の心を更に躍らせた。
揺蕩う尾鰭上質な衣装と波打って、するりと愉快に名を呼ぶ先へ身を寄せる。
彼の友は小さな姉を腕に、温容の眼差しで同じ絵を見ていた。
「しんだいれっしゃっ」
オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)が堪らず上げた声も嬉しそう。
柔らかなブロンドを揺らしはじめてと云う春の笑顔へ、おんなじ彩の貌が向き合った。
「リルは?」
「僕もね、汽車にお泊まりもオズとお泊まりも初めて!」
なんて素敵な響きだろう。二人の顔にもう一度、喜色の表情が咲いて華やぐ。
「汽車の中で寝る……なんてわくわくだよ」
袖口軽く口元覆い、品美く微笑むも待ちきれなさは隠せない。
楽しみで、昨日は眠れなかったんだ。
「中にベッドがあるの?」
成程だから寝台列車だ。わたしたちは匣(ケエス)で寝るんじゃないんだ。
星夜を走る特急でふかふかの寝台に飛び込めて、かたんことんと揺られて眠れる。
「ふふ、リルとおとまりするのはじめてだねっ」
今日は初めてづくしだ。それと、同じもいっぱい。
ふふーと笑い合う雰囲気だって。そうそう、一緒と言えば。
同じタイミングで互いの服を引っ張る小さな存在達が主張をしている。
下ろした視線の先、人魚が抱えるペンギンと人形が抱く友が見上げていた。
「おそろいだね、オズ!」
「おそろいだっ」
よっつのおかおが、ふんわり輝く。
お楽しみ前に、ひとしごと。
大喜びしていた小さな相棒がぽわっと飛び出し満点着地。
見守る3人見回して、ぴっと高々挙げた片翼には気合を感じた。
大好きな声にヨルと呼ばれた雛はちょこちょこ近くを動き回って探索を始める。
時折振り返る相棒に、ちゃんと居るよと手を振り応えた。
気付けばオズも一緒にぴょんぴょん跳ねている。見守るリルは微笑ましそう。
やがて桜色の綺麗な瞳が何かを見つけ、小さな手が示すように指を向けた。
「あれ? リル、あの子だ」
姉が教えてくれたから、キトンブルーもすぐに目標を視界に捉えて。
「あ、あの子だね」
人魚も先往く友の後ろを子ペンギンと並んでふわふわついていく。
「こんにちはっ」
シュネーを肩に、空いた両手は後ろに組んで。陽だまり笑顔で声かける。
振り向いた女学生は、一瞬だけ眩しそうに目を細めた。
「ねぇ写真撮ろう!」
続く櫻沫の無邪気で心地良い誘い聲を影朧が聞き届け、小さく頷く。
撮らせてください、と返事もあった。
「もちろん、とっていいよ」
許可の声と二人の笑顔、小さなふたりも其々のやり方で歓迎だ。
ならば早速撮るべく娘は古ぼけたカメラへ視線を落とす。
「しゃしんすきなの?」
そこへ投げかけられた純真な問いかけ。上がる顔、再び視線が交差する。
「リルもしゃしんとるの、じょうずなんだよ」
女学生の視界では上手と言われた方がごそごそ懐を探っていた。
「僕ね、すまほほん、持ってるんだ!」
未知の単語に娘が小首を傾げる。傍では何故かヨルがきりっと直立していた。
取り出された端末に同じ体制の銀色ペンギンが付いている。なるほど。
「今日の記念になるよ、僕がとってあげる」
とってあげる。撮られる側は想定外だったのか、それだけ呟き相手は動かない。
「よかったらいっしょにとろうよ」
朗らかな後押しが、そっと彼女の手を取った。
「ほら、列車もいれて」
優しくドールが手を引いて、マーメイドが酸素を泳ぎ彼女の背中を支えたのなら。
「得意なんだから!」
大丈夫、さぁいこう。猟兵達が影朧をオリオン号へ連れて行く。
「並んで笑って!」
ホーム近くに見つけた良い場所。丁度、幻朧桜も一本入りそう。
流れる儘ベストポジションに立った女学生の隣はオズとシュネー。
ヨルはばっちり中央最前列でポーズを決めておりました。
スマホの中は楽しさに包まれた影朧と、賑やか明るい雰囲気に。
背後の見事な寝台特急と一緒に、ぱちり。
「リル、どう? うまくとれた?」
皆を引き連れ駆け寄って、わくわくそわそわ覗き込む。
ちゃんと教わったスマホ操作の賜物は見事な一枚に仕上がりました。
ただ、ブレずに撮れたそれを披露し自慢げな顔と称賛する声の間で。
娘だけはじっと、凝視し続けていた。
「……撮りたかった。列車と、たのしそうな、か、お、」
ぞわ。式神がびびっと体を震わせ慌てだす。
震えているのは影朧も同じだった。黒い涙が溢れ、身に黒百合が咲く。
まるで思い出させないように負の色が彼女を覆い尽くそうと、して。
――僕をみて。
暗い衝動に蝕まれる娘の耳へ、奇跡の歌声が入り込む。
頭を掻きむしろうと上げた右手は歌姫に甘く奪い取られた。
――ね、いっしょに。
ふわりと、暖かな風が影朧を撫でる。
行き場を無くした左手はもう一度球体関節の手が攫っていった。
魅惑の歌が魂を惹き寄せ、おひさま色の花弁が黒い苦しみだけを葬り去る。
刹那、観えたのは――透徹の沫を照らす陽光の華々しい世界だった。
我に返る女学生の足元に、仲良くカメラを持ったヨルとシュネーがやってくる。
はいと言わんばかりに差し出され持ち主の元へ戻っていく。
「今度は僕達をとってよ、ヨルもシュネーも一緒に」
改めてと、汽車の前で歌鼓達が並んで笑う。
大好きを抱いて、楽しいを満面に。シャッター音も、心做しか軽やかだった。
「きみのはすぐに見られないしゃしんなんだね」
レトロなそれをスマホと同じように皆で覗き込む。
「宝箱みたいなカメラだね!」
「それもわくわくするねっ」
きっととってもいいしゃしんになってるよ。
太陽の笑顔達に、娘はゆっくりと頷いた。
汽笛の音に皆が振り返る。整備は順調のようだ。
「列車、たのしみでそわそわしちゃう。きみもたのしみにしてるんだよね?」
これにはやや間があってから、小さな肯定が返ってきた。
少しずつ思い出してる様子の影朧を微笑み眺め、リルは僕もと言葉を繋げる。
「列車の旅、楽しみなんだ。お互い楽しもう」
「いい旅になるといいねっ」
今度はすぐに頷いた。それでも未だ、心の整理はついていないのだろう。
影朧が構内へ歩いていくのでまたあとでねと見送った。
「あ、窓から見たら2段ベッド見えるかな?」
再びオリオン号を見上げたオズに好奇心が囁いたようだ。
「わ! ほんと? 僕も見たい!」
つられて人魚も探し始める。奥の車両がそうだろうか。
よし、善は急げだ。
「リル、見にいこうっ」
飛びつくシュネーを抱きしめて、軽いステップで走り出す。
「オズ待ってよー」
ペンギンを抱えた方も、優雅に尾鰭を揺らし追いかけていった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
桐生・零那
【蛍と刀】
影朧は滅ぼすべき神敵。
私はそう教わり、そう育てられ、そう行ってきた。
そこに善悪の意識はなく、神のご意思ゆえに悩むこともない。
此度も影朧が現れたと聞く。ならば斬りにいくとしよう。
【世界は色を失った】
で対象を束縛。あとは斬るのみ。あっけないものだ。
私の手を止めるものがあるのならば問う。それが友であっても。
神敵たる影朧を斬るのをなぜ止める?珂奈芽もアレを討つ猟兵ではないのか!?
制止の声など聞かずに動ける、が。教会から猟兵と連携を取るように、とも命じられている。
今の私には判断ができない。だから、この場は珂奈芽に従うとしよう。
だが、もしアレが人に害をなしたなら斬る。次はないと思え。
草守・珂奈芽
【蛍と刀】
満足して悲しみが癒えるなら、それを叶えるのだって立派な仕事だよね
って零那ちゃんが襲ってるー!?タンマタンマ!
白銀丸ちゃんとUCで操作する草化媛に影朧さんを保護させつつ、進路さ阻むのさ
真剣な顔はちょっと怖いけど引かない!
ちゃんと影朧のこと分かっちゃないけどさ
オブリビオンだから還さなきゃいけないのは知ってる
でも猟兵の役目はまず世界や人を守ること、わたしはそう思うのさ
無害な影朧なら傷付けず助けたいって學府も言ってるしさ!
刀を振るうだけじゃないと思うの、今回は特に
うん、今止まってくれるならそれでいいよ
その思いを全部否定なんてできないもん
…影朧さんも零那ちゃんも穏やかに済めばいいんだけどなー
●衝突
彼女が規定通り着こなすセーラー服へと、冬風が花弁を届けていく。
「此度も影朧が現れたと聞く」
桐生・零那(魔を以て魔を祓う者・f30545)の眼前に在るのは賑やかな日常の風景。
ただし教会の戦闘員には任務を遂行するための場、という認識でしかなかった。
確認の呟きはなまら綺麗だねー。と幻朧桜吹雪を見ていた隣人へと贈られる。
草守・珂奈芽(意志のカケラが抱く夢・f24296)が振り向き元気な笑顔を見せたなら。
蛍と刀は前を向き、いざゆかんと目的地に入っていった。
駅弁の試食を促す売店前や、人々の会話弾む時刻表近くだろうが構わず先へ進む。
いやちょっとだけ蛍石の少女は気になったが、お仕事優先と進行方向に向き直る。
大丈夫大丈夫、お仕事頑張るんだべ。
気合を入れ直しがてら、先に聞いた情報を思い出して。
「満足して悲しみが癒えるなら、それを叶えるのだって立派な仕事だよね」
ヒーローの一族……の分家とは言え正義の味方として戦ってきた胸中を吐露する。
戦わずして救う仕事だって、自分なりにできる事をしようと新たな決意をひとつ。
手を握り気合を入れる珂奈芽の傍で、女剣士は鋭い眼でずっと索敵を続けていた。
零那とて先の説明を聞き、友の話も確りと耳にしている。
そんな彼女が一点に視線を固定し、返事をする為口を開いた。
「ならば斬りにいくとしよう」
認識の違いに齟齬が生まれていく。
オブリビオンの殲滅こそ神の救済であり、影朧は滅ぼすべき神敵。
そこに善悪の意識はなく、神のご意思ゆえに悩むこともない。
教会の戦闘員はそう教わり、そう育てられ、そう行ってきた。
目先に居るのは女学生ではない。影朧であり、倒す敵だ。
「『アグレアプト』。今その契約を果たせ」
呼んだ名は、今隣で気持ちの整理をしている少女のものではない。
喚ばれた者は、交わした契を成す為悪魔召喚士に代償を求めた。
望むは左右違う輝きの瞳、その片方が映す世界の色。
極彩と無彩が混じり合う光景に透明な鎖が出現し対象へと伸びていく。
「って」
魔の気配を感じたクリスタリアンが見上げた先で、拘束の音が響き渡る。
「あっけないものだ」
「零那ちゃんが襲ってるー!?」
更には藻掻く影朧へ無慈悲に近付く7番戦闘員が、鯉口を切るのも視界に入った。
あとは斬るのみとばかりに鍛えられた刀身を抜き放つ。
戸惑ってる暇など無い、サイキッカーは即座に力を開放し走り出す。
「白銀丸ちゃん!」
叫び声に応え飛び出したのは一匹の管狐。小刀を咥え、鎖の解除に取り掛かる。
同時に一体の人形も意思を持って後を追い手伝い始めた。
胸にリンクする相手と同じ石を煌めかせて。
「タンマタンマ!」
間に合った。珂奈芽は両手を広げ二人の間に立ち塞がる。
零那は攻撃の手を止められ、一旦立ち止まった。
だが魔の力宿る眼は射抜くように。例え友であっても、鋭く見据えている。
「神敵たる影朧を斬るのをなぜ止める?」
問う者のクールな真顔に圧倒されかけるも、問われた方も引かず真っ直ぐ見つめ返す。
「珂奈芽もアレを討つ猟兵ではないのか!?」
張り上げた声は真剣だ。魔を以て魔を祓う者の揺るぎない信条が伺える。
同時に、祓魔剣士は行動していない。制止の声等聞かずに動けるにも関わらず。
人間として、友として答えを待っている。その心を感じ取れたからこそ向き合えた。
「……ちゃんと影朧のこと分かっちゃないけどさ」
素直な想いのまま、飾らぬ言葉を投げかける。
金赤の瞳が変わらぬ強き視線で受け止めていた。
「オブリビオンだから還さなきゃいけないのは知ってる」
わたしはヒーローを目指して、彼女は救済の為戦っていて。
どちらもオブリビオンを倒す者である事に変わりないけれども。
「でも猟兵の役目はまず世界や人を守ること、わたしはそう思うのさ」
イェーガーとしての在り方。人それぞれだとも、知っている。
だから。
「無害な影朧なら傷付けず助けたいって學府も言ってるしさ!」
声を上げる度に柔らかな若草色の髪が跳ねる。それ位に、伝えたかった。
「刀を振るうだけじゃないと思うの、今回は特に」
みっつ同じ色の瞳が交差する。場に少しだけ、沈黙が訪れた。
やがて……一人が視ていたモノトーン交じりの世界が少しずつ、戻っていく。
「――教会から猟兵と連携を取るように、とも命じられている」
刀は鞘へと戻され、悪魔の気配は消え去った。
「うん、今止まってくれるならそれでいいよ」
今はこれでいい。最良の答えなんて、この先幾らでも変わっていくだろう。
緊張が解けた少女が気の抜けた笑顔を浮かべようと、して。
あ、ァ、ア……!
地を這う声が背後でした。振り向く先で、影朧が蹲って唸っている。
周囲に黒い影が広がって幾つもの黒百合が咲き始めていた。
このままでは拙い。管狐が焦った様子で猟兵達に視線を送る。
「零那ちゃん!」
「あぁ」
合図は最低限。戦闘態勢は一瞬のうちに、揃って構えを取る。
祓魔剣士が再び抜き放った刀は一太刀の元黒百合を刈り取って。
不気味な影は煌めく蛍石の結晶が撃ち込まれ、渦巻く狐火が消していく。
もう、二人の認識に齟齬は無かった。
消えゆく負の気配。徐々に影朧の震えが収まり、やがてゆっくりと顔を上げる。
最初に女学生が見たのは古ぼけたカメラを抱きしめて護る魔導人形の姿だった。
何処かで納刀の音がする。
「……今の私には判断ができない」
落ち着いたオブリビオンが草化媛から受け取る姿を横目に呟く。
救済の為に斬るべき。その教えを今己は背いているのだろうか。
一息ついてもやはり答えは出てこない。
「その思いを全部否定なんてできないもん」
管狐を伴い友が傍に来て、気持ちに寄り添う言葉を贈ってきた。
まだ、学ぶ時間が必要なのだろう。今解るのは少女が笑っている事だけ。
「だから、この場は珂奈芽に従うとしよう」
彼女の笑顔に、私は今どんな顔を返せているだろうか。
小さなシャッター音に気付いた蛍刀が一緒に顔を動かした。
動けるようになった女学生がぼんやりとカメラを構えている。
虚ろな視線は猟兵達と、傍に貼られていたオリオン号のポスターを見ていた。
「仲良し、いいなと、おもったの」
それだけ告げ、ふらふらとまた影朧が歩き出す。
「待て」
制止の声に足を止め娘が振り向く。剣士はもう、攻撃態勢をとらなかった。
「次はないと思え。人に害をなしたなら斬る」
言葉に嘘偽りはなく、己が行動の事実を告げる。
相手は頷きこそしなかったものの、聞き届け……改めて去っていった。
姿が見えなくなる迄オッドアイの視線は揺らがず見届け続けている。
「……影朧さんも零那ちゃんも穏やかに済めばいいんだけどなー」
そんな零那の後ろで珂奈芽が呟いた声が彼女達に届いたかは、定かではない。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
サティ・フェーニエンス
列車…この体を得てから、乗るのは初めてなので少し楽しみです
件の影朧を見つけたら驚かさないよう声をかけます。
「此方に乗る方ですか?僕、初めてなので色々不安でして…緊張解けるまでで良いんですが、少しご一緒しても?」と。
もしあちらも初めてだと仰ったら、共感の方向で雑談し。
暴れ出してしまったら、UCをそっと発動させ。彼女の足元だけ、傷つけぬよう巻き留めます。
基本、彼女の話したい事、やりたい事を(周囲に迷惑かからない範囲で)促して付き添います。
耳を傾けてくれるなら、お土産屋を見るのに付き合ってもらったり。
いえ、あの、僕が欲しいわけでは決して…ええと、知りあいにあげようかな、とか(←自分の好奇心)
●共行
蒸気に花弁が流れていく様すら見慣れない光景だった。
サティ・フェーニエンス(知の海に溺れる迷走っコ・f30798)は今、煙桜の海を見上げている。
風に揺られ波打って、引いて消えた後に残るは黒く大きな寝台特急。
「列車……この体を得てから、乗るのは初めてなので少し楽しみです」
でも先にするべき事をしなくては。
白のローブを同じように靡かせて、外見少年は行動を開始する。
件の影朧はオリオン号を眺めながら通路脇の席に座っていた。
探索者はさり気なく近付き、気遣いの足音だけが密やかに響く。
「此方に乗る方ですか?」
かける声も丁寧に。猟兵は影朧に、話を伺う。
何に等聞かずとも解る。其処から視線を外し娘の眼は青いヤドリガミを映した。
返事は少しだけ間が在った。やがて僅か首を、下上に。
「僕、初めてなので色々不安でして……」
初めてな事に嘘はない。他は、さておいて。
また暫く反応の遅延が在った。視線が泳ぐ、何かを思い出すように。
「……私も、乗るのは、はじめて。どう、して?」
呟いた女学生の瞳が突如暗い色を帯びる。
焦点も合わなくなってきた……と思ったら、すぐに元へ戻っていく。
不思議そうな顔をする相手にサティは変わらぬ表情で小首を傾げた。
「緊張解けるまでで良いんですが、少しご一緒しても?」
頷く彼女を導いて、二人並んで移動する。
去った跡に残る不穏な黒百合は固く尖った蔓に巻き取られ朽ちていった。
「乗車するまでにやりたい事はありますか?」
話したい事でも良いんです。真面目な彼の質問はストレートだ。
促された女学生はぼんやりとした顔に、目だけがうろうろ彷徨っている。
返答は最後迄待つ予定であったが……ふと、一応少年の脳裏に疑問が一つ浮かんだ。
「あの、切符は持っていますか?」
彼女が小首を傾げたので確信に変わる。
相手は影朧だ。必要かは解らないが列車に乗るなら切符があった方が良いだろう。
「買いに行きましょう」
表情は乏しいが行動力は逞しい。早速と言わんばかりに場面を移す。
笑顔の素敵な販売員から購入した切符は無事に手渡されて。
あり、がとう。
小さなお礼は『古書』の心に優しく書き込まれた。
その後も特に思いつかないようだ。なら。
「お土産屋を見るのに付き合ってもらえませんか?」
丁度売店が近くにあるので提案したリクエストは即時受理された。
店先には様々な土産品が通行人の足を止めようと山盛り陳列されている。
女学生も興味あるようだ。良かったと、心内で安堵する。
途中店員に姉弟でお買い物かな? と微笑まれ解せない気分になったり。
高い所のグッツに届かなかったら影朧が取ってくれたり。
若干不服があったものの、つつがなく時間は過ぎていき。
最終的にサティの手に在ったのは小さな根付だった。
夜に近い濃紺の飾り紐に、オリオン号のヘッドマークがぶら下がっている。
それでも買うか悩んでいたら不意にシャッター音が聴こえてきた。
顔に出ないが驚き目線をあげると、影朧に一枚写真を撮られている。
「いえ、あの、僕が欲しいわけでは決して」
何だかとても気恥ずかしくなって、慌てて謎の弁解を始めてしまう。
相手はじっと此方を見つめている。徐々に、顔に熱が集まって。
「……ええと、知りあいにあげようかな、とか」
片手で口元を抑えながら、ぽつりと一言。
好奇心に勝てなくて、でも見栄っ張りなヤドリガミの精一杯だった。
「どうか、大切に」
穏やかな一言を告げ、彼女はその場を離れていった。
大成功
🔵🔵🔵
ルーシー・ブルーベル
【月光】
ゆぇパパも?
寝台列車はルーシーも初めてなの
少し、楽しみね
何に代えても成したい衝動
一体何なのかしらね、パパ
穏やかに還れるのなら
お手伝いがしたいな
先ずはゆぇパパと手を繋いで
駅構内を廻り探しましょう
カメラを持ったお姉さんね
撮らせて、といった言葉が聞こえないか
ようく耳を澄ませて
それらしき方を見つけたなら
パパの背から
ゆっくり声をかけるわ
ごきげんよう
その…カメラ、よね?ステキ
お写真が好きなの?
ルーシー、最近カメラに興味があるの
これからどちらにいくのかな
良ければご一緒して、お話聞かせて頂ける?
切符売場へお誘いして
写真を希望されるなら写りましょう
UCは彼方が攻撃した時
パパや周りに害が有りそうな時のみよ
朧・ユェー
【月光】
寝台列車に乗るのは初めてですねぇ
ルーシーちゃんはどうですか?
そうですねぇ
それがわかってお手伝い出来れば良いですね、ルーシーちゃん
彼女の手を取りゆっくり歩いてまわる
女性の声
あの方でしょうか?
おや、写真…
そっとルーシーちゃんを自分の背の方へ移動させ
えぇ、構いませんよ
一緒に撮りましょうか?
UCは彼女や周りに迷惑かけない程度に
美喰
相手の行動、彼女がどう思っているか内なる心を聞き出す
●父娘
幻朧桜は咲き誇るが、春は未だ遠い。
寒くないだろうかと幼い彼女を見下ろす男の眼差しは、とても暖かかった。
返す隻眼が大丈夫と淡く微笑んでくれるから。
陽より温和な月光達は仲良く喧騒へ入っていく。
目指す列車の広告を見つけたのは、朧・ユェー(零月ノ鬼・f06712)だった。
「寝台列車に乗るのは初めてですねぇ」
無意識に心惹きつけるような声色は、されど柔らかく。
誰の為と云われたら言葉につられて顔を上げる少女へ向けて。
「ゆぇパパも?」
ルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)と合う視線に、笑みが増す。
「ルーシーちゃんはどうですか?」
「寝台列車はルーシーも初めてなの」
慈しむ問いに嬉しさが答え、少し楽しみねと返事を付け足す。
行き交う人の誰もが、彼等は親子と疑わぬ穏やかな光景だった。
「何に代えても成したい衝動。一体何なのかしらね、パパ」
今日此処へ来たもう一つの目的に意識が移る。
本日のお供を抱きしめて呟く子につられ、男も口元に手を添え思案する。
「そうですねぇ」
オブリビオンの根底を抑える程の感情、その理由。
晴らせば戦う事も傷つけ合う事も無く見送れる道へどうしたら辿り着けるだろう。
「それがわかってお手伝い出来れば良いですね、ルーシーちゃん」
過去がそうするのか、彼女は少しだけ思考が大人びている。
それでも影朧の為にと考え込む様は純粋で相応な横顔だった。
「穏やかに還れるのなら、お手伝いがしたいな」
零れ落ちる素直な想いに大きな手が差し出される。
伸ばされた小さな手を包み込んで、ゆっくり二人は歩き往く。
廻る駅構内で、気になるものがあったら教え合えるように。
人混みに紛れても離れないように。
雑踏で流れる声は数多、その中から目的の聲を探す。
――撮らせて、ください。
微か、弱々しい女声の音色が耳に届く。
「あの方でしょうか?」
それと、ゆぇパパの優しい問いかけも。
なんとなく繋いだ手をぎゅっとしてから示された方に向き直る。
視界では撮影を断られ、気落ちしたような女学生が佇んでいた。
「おや、写真……」
ユェーの呟きは相手へ届いたらしい。ぴくりと動いた女が静かに振り向く。
そっと、大切な人を自分の背に移動させるのは自然な動きだった。
「ごきげんよう」
最初に声をかけたのは大切な人の背より顔だけ出した少女から。
半魔の蒼く煌めく瞳に、淀みかけた魂の視線が映し出された。
「その……カメラ、よね? ステキ」
返事はないが話を聞いているのは解るので言葉を続ける。
両手で大事そうに持つ物に称賛を贈ると、眼が僅かに揺らいでいた。
「お写真が好きなの?」
またひとつ、相手の前にそぅっと置くような質問を投げる。
白い半魔を挟んでの会話は少しだけぎこちなく、様子を見合ってるようで。
でも確かに、少しずつ心を花開かせようと気遣うルーシーの思いが在った。
結果を待つ間、無意識に片手でパパの服を掴む。
すぐに、後ろ手へ回された彼の手が重なり包んでくれた。
視線は前を向いた儘、頷く影朧を見つめている。
「ルーシー、最近カメラに興味があるの」
虚ろな顔に、不思議そうな表情が色づいた。
数秒程時間をかけ、理解した影朧が口を開く。
「写真を、撮らせて、ください」
先程よりはっきりした口調は、猟兵達が受け入れ体制を示したからだろうか。
多少不安定な雰囲気は感じたが、一切顔に出さず男が微笑んだ。
「えぇ、構いませんよ」
言ってから、一番背の高い彼は一旦辺りを見回した。
すっと、妖しい輝きを湛える金色が細く成る。
少しこの場は殺風景ですねぇと零す音を一番小さな娘が拾い、重なる手を握り返した。
「これからどちらにいくのかな」
記念を残すなら、今日を一枚撮るのなら。
より思い出に残る場所を映したほうが、きっと好い。
「良ければご一緒して、お話聞かせて頂ける?」
影朧が行きたい所は何処だろう、伺うも外された視線が虚空を彷徨っている。
未だ思い出せない部分もあるようだ、ならば切欠を導けばいい。
お誘いしたのは切符売り場。この後買う予定だったので如何と尋ね了解を頂いた。
販売所は盛況だ、大人しく並んで順番を待つ。
その間ダンピール親子が切符の有無を聞き影朧の女学生は有ると答えた。
ただその視線は少し先にあるオリオン号記念切符一覧を見ている。
どうやら客室別に少しだけ切符の柄が違うようだ。
サアビスチケットもあるので別種類の切符を購入しようと番を待ち。
父や周囲の人々が和やかに見守る中、娘が自分達の分も一緒に購入。
受付の笑顔が素敵な婦人から鼈甲飴のおまけが付きました。
甘味はさておき、一旦売り場を離れてから切符を影朧に差し出すと小さなお礼が返ってくる。
少しだけ緊張が解けた二人を眺め、ユェーが微笑んだまま口を開く。
「一緒に撮りましょうか?」
売店前で買った切符を手に撮ったら、きっと良い記念になるだろう。
ルーシーも希望されるなら写りましょうと頷いて隣の影朧を見上げる。
「パパにお願いしてもいい?」
変わらず、気遣いに溢れた伺いだった。
ただ――言葉を聞いた相手の目が、大きく見開かれている。
「ぱぱ? ……おとう、さん」
月光を交互に見ている女の影が不気味に歪む。良くない気配に猟兵達は身構えた。
此処は周囲に人が多すぎる。暴れだしたら拙い。
父が優しく娘の髪を撫でた後、直ぐに行動を開始する。
「だいじょうぶ、側にいるわ」
蒼の半魔は臆せず近付き、優しく震える手を取った。
繋いだ指先から影朧の手へ黄糸が絡む。癒せずとも、告げた約束の証になるのなら。
もうひとつ、銀の縫い針に通された青糸が咲き始めた黒百合を総て絡め取る。
丁寧に丁重に地へと縫い付け、お還り頂いた。
黒の衝動が収まりぼんやりする女へ今度は白の半魔が静かに近付く。
伸ばした大きな手が影朧に触れ、己が体内に埋め込まれた刻印の力が動き出す。
暴食のグールが美味しく頂く。控えめに、手加減されて。
「僕に教えてくれるかい?」
君はどんな子なのか。内なる心に問いかけるとノイズ混じりの心が響いた。
――逢えない、から、思い出を……残したかった。
咳き込む音に能力の行使を終わらせ、触れていた先を背中に変え擦る。
処置を終えた小さな手も一緒に、影朧が落ち着くまで気遣った。
今度こそ、一緒に撮りましょう。
レンズ越しに並んだ二人はもう少しだけ距離が縮まっているようで。
やはり微笑ましく思いながらユェーは一つ思いついて彼女達の後ろに回り込む。
腕を伸ばし、自撮り風に。三人揃った思い出を切り取った。
カメラを返し、またねと告げて。
見えなくなる迄ルーシー達は影朧を見送った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
灰神楽・綾
【不死蝶】
寝台特急って受付開始と同時に一瞬で完売…
みたいなイメージあったから
まさか自分が乗れる日が来るなんてね
どんなご飯が出るのかな
列車から見る星ってどんな眺めかな
へぇー、部屋も色んなランクがあるんだね
でもここはやっぱりスイートルームでしょっ
というわけで梓、スイートで二人分の切符宜しくね
件の影朧は写真を撮るのが好きだったのかな?
彼女を発見したら、話しかけるきっかけとして
シャッターお願い出来ますか?と尋ねてみる
言われてみれば確かにね
今まで梓と沢山の場所を訪れたけど
写真に残すことってあまり無かったなぁ…
これからはもっと意識してみよう
心の中の思い出だけではいつか忘れてしまうかもしれないから
乱獅子・梓
【不死蝶/2人】
綾、はしゃぐ気持ちは分かるが
ただ遊びに来たわけじゃないんだぞ
…と、思わず小言を言ってしまったが
内心かなり楽しみなのは俺も同じ
それに多分今回は影朧との激しい戦闘は無いだろう
綾を危なっかしい目に遭わせずに済むのは安心
言い出しっぺのくせに俺に買わせる気かお前
まぁ、いつものことだが
それに俺もどうせならスイートで
のんびり過ごすのも良いなと思っていたところだし
…が、値段を見て一瞬固まる
猟兵で良かった、サアビスチケット万歳
影朧に写真を撮ってもらうことになったら
せっかくだから仔竜の焔と零も肩に乗せて一緒に
そういえば、俺が焔や零を撮ることはよくあるが
綾含め俺たち全員が写った写真ってかなり貴重だな
●傍蝶
流石は豪華列車を運営する大型駅だけあって、賑わう量も格別だ。
そんな人混みから、頭一つ飛び出た二人の姿は販売所前にあった。
「寝台特急って受付開始と同時に一瞬で完売……みたいなイメージあったから」
言いながら、片方は赤レンズ越しの視線で購入する列を追っていた。
「まさか自分が乗れる日が来るなんてね」
灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)がしみじみ呟き感嘆の息を吐く。
想像だけで諦めかけていたものに依頼とは言え乗れるなんてと期待は高まっていた。
次にサングラスの視界は隣に立つ自分より数センチ高い男の方へと移っていく。
「どんなご飯が出るのかな」
目線を上げた時にはもう、相手は此方を見ていた。
それも解っているから笑みが深まるのは仕方のない事だろう。
「綾、はしゃぐ気持ちは分かるが」
長い付き合いだ。乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)の反応も大方予想がつく。
なので尚更、楽しくなった。
「列車から見る星ってどんな眺めかな」
「ただ遊びに来たわけじゃないんだぞ……」
思わずと言った雰囲気満載の言葉と色眼鏡に覆われていても解る表情。
でもきっと、内心かなり楽しみにしているのは俺と同じなんだろうなぁ。
とは声に出さず笑顔の儘穏やかな小言を聞き続ける。
一方暗い視界の方も上機嫌な相方を見ながら違う意味で楽しそうだ。
(多分今回は影朧との激しい戦闘は無いだろう)
長年守護する相手が今日も隣で笑ってくれている。
それが何より白い竜騎士には嬉しい事だった。
(綾を危なっかしい目に遭わせずに済むのは安心)
結果、和やかにお互いを見る長身男性達の構図は人波の中割と目立っていた。
改めて、猟兵達は前を見る。
「へぇー、部屋も色んなランクがあるんだね」
一通り説明を見ていくが綾の心はもう決めているようで。
何故か自信まで伺える表情に梓は早速彼の答えを予知していた。
「でもここはやっぱりスイートルームでしょっ」
二人で泊まれて、一番豪華。迷いなど微塵もない。
美味しいご飯も美しい景色も目一杯楽しまなければ損というもの。
というわけで。
「梓、スイートで二人分の切符宜しくね」
「言い出しっぺのくせに俺に買わせる気かお前」
見事な迄に即反応しつっこむ返事だった。
何故か益々笑みを深める数センチ下の男に緩い溜息が零れる。
「まぁ、いつものことだが」
言葉とは裏腹に己も笑みを浮かべているのも自覚していた。
面倒見がいい自覚もそれなりに、対象が目の前のダンピールなら猶更。
もうこの流れが二人の常だった。
「それに俺もどうせならスイートでのんびり過ごすのも良いなと思っていたところだし……」
早速買いに行こうと動き出した道中のセリフが急に途切れる。
様子がおかしい白い男に、黒い男がつられて原因を視界に入れた。
前者は固まり、後者はへぇと楽しげに笑う。
流石は豪華寝台特急。流石は最上級のスイート客室。
桁が違った。
「猟兵で良かった、サアビスチケット万歳」
しみじみと呟きながらも無事に切符は購入できました。
移動中手にした一等客室への導を眺めていたらまた小言を言われた。
仕方なくポケットに仕舞い前を向く。
「件の影朧は写真を撮るのが好きだったのかな?」
ずれた色眼鏡を指先で正し、一瞬だけ雰囲気を猟兵のそれへシフトする。
……が、今日の仕事内容を思い出して気が抜けていく。不思議な感覚だ。
そう我らは猟兵だ。その特性故、どんな違和感も一般人は感じない。
本来違和感の塊である小さな一匹は駅構内を低空飛行して戻ってきた。
「ガウ」
結果を問えば氷水属性の仔竜は主人の肩に乗り首を振る。
あっちは居なかったか、なら。
「キュー」
少し遠くでもう一匹の相棒が出す鳴き声がした。
不死蝶達は互いを見て頷き現場へ向かう。
辿り着いた先、炎属性の仔竜を見下ろす女学生が居る。
「彼女か」
違和感を与えない筈の存在を凝視する娘が、急に肩を震わせ口元を手で覆う。
咳き込み、落ち着いた後に今度は塞いだ手をじっと見ている。
廃戦場の揚羽が静かに笑う。あぁ――血の匂いだ。
……!
好きな香りでつい顔を出した戦闘狂の気配に影朧が反応する。
無意識にオブリビオンとしての衝動が刺激され黒百合が女の影から咲き始めた。
やっちゃったねと愉しげに笑う男に三度目の小言は後回しにするとして。
二人は即行意識を切り替え走り出す。
「歌え、氷晶の歌姫よ」
それはスローモーションで観るような一瞬の出来事だった。
『零』の調整された神秘のレクイエムが影朧の意識だけを急激に奪い取り。
動きが鈍った隙をつき半魔が彼女の前に躍り出る。
「紅く彩られながら、おやすみ」
優しく差し出された掌から輝く蝶が羽根を広げ舞い踊り。
無数の紅達が影朧を蝕む負の花に止まり、枯らしていった。
ふらつき崩れ落ちる娘を白焔の騎士がそっと支え様子を伺う。
もう黒い気配は消えていた。
女学生が気がついた。ぼんやりした眼だが、猟兵達を認識している。
気遣う言葉をかけたら先程の事は覚えてなかった。なら仕切り直そう。
「写真、好きなのかな?」
ずっと握っていたカメラに話題を向けるとすんなり頷かれる。
それから彼女は何故か梓の周囲を飛ぶドラゴン達をじっと見つめた。
不思議がる二匹と一人を眺める綾は突如ひらめいた顔をして。
「シャッターお願い出来ますか?」
尋ねてみたら、当たったようだ。撮らせてくださいとの返事が聞けた。
折角なので今日の記念を、幸い近くにオリオン号の模型が展示されている。
近くに並んでみたがやはり影朧の視線は竜を追い宙を泳いでいた、ので。
「焔、零」
呼べば其々ひとつ鳴き、主の肩にちょこんと乗ったら準備は完了。
シャッター音が響く数秒前、さり気なく二人は寄り添い一緒に笑っていた。
お礼の会釈をした女学生は古ぼけたカメラを持って歩き去る。
見送るよっつが視線のうち、一人が何気なしに口を開く。
「そういえば、俺が焔や零を撮ることはよくあるが」
呼ばれた二匹だけでなく、呼ばれなかった男も興味深げに耳を傾ける。
「綾含め俺たち全員が写った写真ってかなり貴重だな」
今は見られなかったが、あのカメラには思い出が確り記録された。
その事実だけでもこんなに感慨深いものなのか。
「言われてみれば確かにね」
気持ちは伝わり、共感の声と一緒に綾は緩く微笑んだ。
「今まで梓と沢山の場所を訪れたけど、写真に残すことってあまり無かったなぁ……」
共に居る時間は長いが、今は一瞬だ。
写真等で思い出を沢山残したら、見返す度にその一瞬が蘇る。
(これからはもっと意識してみよう)
出発まで何処に居ようかと笑いかける梓に、綾の表情が一層和らいだ。
心の中の思い出だけではいつか忘れてしまうかもしれないから。
あの影朧もきっと、残したかったのだろう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リュカ・エンキアンサス
折角の列車旅だ
味なんてわかんないけど、定番の駅弁でも買って乗り込もう
あ、ついでに簡単に食べられるお菓子と本も。旅の醍醐味らしいからね
席は…三等でいいか
豪華なのは慣れないし
列車旅はバイクよりも早くて、それも新鮮で心が躍る
あっという間に街中を走って行くのも楽しい
早く出発すればいいんだけど
…
……
あなたも、そうなの?(カメラを持った朧影に)
そう。景色に興味があるのかと思って
だってカメラ、持ってるでしょう?
…そうだね。列車はあんまりに早すぎて
この世界のカメラじゃ、外の景色を映すのには不向きかもしれない
じゃあ、あなたは何を撮りたかったの?
出発したら、撮れなくなるものもあるよ
それまでに、良く、考えておいて
●準備
「幕の内弁当は桜の花の塩漬け麦飯に魚の照り焼きが好評ですよ!」
「……なるほど?」
「サンドウイチ弁当もおすすめです、カフェーで人気なんですよ!」
「んー……」
リュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)は今、違う種類の戦場に居た。
セエルス攻撃を受ける少年の対応は大変クールだが、店員もめげない。
購入を勝ち取る戦いは続く。尤も、折角の旅列車なので客は最初から買う予定だが。
(味なんてわかんないけど)
問題はそこであった。でも列車に乗るのだし定番は確保しておきたい。
店員の勝利の笑顔を横目に、一つ手に取り買……いや。
(ついでに簡単に食べられるお菓子と本も)
旅の醍醐味は全部入手しようと思った結果。
彼は再び販売員の熱心なトークを聞く羽目になった。
(席は…三等でいいか。豪華なのは慣れないし)
近くの切符販売所でもきちんと並んで購入した。
なんだかんだ乗車前から旅を満喫している気がする。
ふと、足を止め外を見る。硝子の無い大窓の先に停車中の列車があった。
ヘッドマークの星座からしてオリオン号だろう、あれに乗れるんだ。
列車旅はバイクよりも早くて、それも新鮮で心が躍る。
(あっという間に街中を走って行くのも楽しい)
蒸気の排出される音が響き、熱が此処まで伝わってくるようにも思た。
思いの外、自分はわくわくしているらしい。
「早く出発すればいいんだけど」
独り言のような声は、呟きには大きかった。
……。
…………。
リュカは首を傾げ、隣を向く。
「あなたも、そうなの?」
先程の言葉も、今も。傍で同じように外を見ていた女学生にかけていた。
漸く自分へ話しかけられたと認識した影朧がゆっくり顔を合わせていく。
少し、間があって。小さく頷き返事した。
「そう。景色に興味があるのかと思って」
発車前点検中の列車に賑やかな喧騒、晴天は澄み渡り桜吹雪も穏やかだ。
走行中でなくても中々に素敵な光景が視界に描かれている。
「だってカメラ、持ってるでしょう?」
問われて、娘の視線は手元のカメラに移された。
もう何枚か撮っているが、未だ、未だと執着する想いが燻り続けている。
「……走ってからも、欲しい。でも……」
その先が出てこない。でも、何だろう。何を望むのだろう。
思い出そうと頭を抱える姿に阻害するような影が生まれてきた。
彼女の足元で咲き始める一輪の黒百合、その蕾が膨らんでいく。
――――――!!
突如、オリオン号の汽笛が辺りに鳴り響く。
軽く驚いた人々はすぐさま列車へ視線を向け吹き上げる蒸気に歓声を上げる。
瞳を大きく開いた影朧が見たのも同じ光景だった。
彼等は気付かない。同時に一発の弾丸が、狂気の花を撃ち抜いていた事に。
砕かれた黒が消えていく。
(邪魔をしないで)
蒼炎の猟兵はそっと、空色の宝石飾りが綺麗な拳銃を懐に仕舞い込んだ。
「……そうだね。列車はあんまりに早すぎて」
この世界のカメラじゃ、外の景色を映すのには不向きかもしれない。
リュカは変わらぬ調子で会話を続ける。我に返った娘が、また此方を向いた。
「じゃあ、あなたは何を撮りたかったの?」
続く質問が再び影朧の心に波紋を生んでも、もう黒い影は現れなかった。
「出発したら、撮れなくなるものもあるよ……それまでに、良く、考えておいて」
確かに告げて少年は背を向け歩き出す。
残された女学生はカメラを握りしめ、少しだけ悩んで。
とりあえず去り往く彼を列車と一緒に撮影していた。
大成功
🔵🔵🔵
ハーモニア・ミルクティー
消えちゃうのなら、目的を果たすお手伝いがしたいわ
しんみりする前に、まずは行動よ!
影朧の女学生さんを見つけたら、直ぐに声をかけるわ!
ねぇ。あなた、写真撮影が趣味なのかしら?
わたしは旅行の最中なの!
寝台特急と星空の噂が気になっちゃって
あなたさえ良ければ、少しお話しないかしら?
寝台特急は初めてみるのだけど、格好良いわね
列車を造った人たちは、どんな想いを込めたのかしら?
乗った人たちはどんな気持ちになったのかしら?
そうだわ。折角なら一緒に写りましょう?
前に立ち寄った場所では、「自撮り」っていうのが流行っていたの
こう、身体を寄せてレンズを覗いて……
旅の一期一会を楽しむのも一興よ
貴女もどうか、良い旅を
●祈願
あの星座鉄道が着く先に、永遠の国があるのだろうか。
小さな彼女の翅が翻る度に幻想の光が零れ煌めく。
花弁微風に乗って一人の妖精は大きな人々行き交う構内を見回した。
(消えちゃうのなら、目的を果たすお手伝いがしたいわ)
ハーモニア・ミルクティー(太陽に向かって・f12114)が今胸に抱く一つの願い。
過去として蘇り、苦しみながらも何より強い執着で動き続ける者の元へ。
例え最期は消えてしまう事になっても……そこで一旦思考を切り、首を横に振る。
「しんみりする前に、まずは行動よ!」
旅の導き手は影朧に向かって奇跡を散らし、飛んでいく。
甘く白んだ紅茶と同じ色の髪が進む方向変える度、ふわふわ揺れ動いた。
御伽噺から飛び出したような姿が通行人の間を通り抜け、探し回る。
やがて広々としたコンコース内に建てられた大時計の上から見下ろせば。
ようやく、ようやく。女学生さんを発見した。
「ねぇ、あなた」
悩み顔の女性へと舞い降りた妖精という出会いは、まるで物語のよう。
驚いて目を丸くする相手へ、ハーモニアはにこりと明るく笑ってみせる。
「写真撮影が趣味なのかしら?」
漸く動き出した影朧が言われた物と、言う者を交互に見てから頷いた。
「わたしは旅行の最中なの! 寝台特急と星空の噂が気になっちゃって」
両手を広げ元気な笑顔と一緒に身振り手振り、想いを伝える。
とてもとても今日の旅を楽しみにしているとの訴えは通じたようだ。
写真を撮らせてくださいと短い返事を受け、更に笑顔を輝かせる。
「あなたさえ良ければ、少しお話しないかしら?」
了解を頂いてから場所を変えようと導き手は羽ばたいて、先行する。
後ろでちゃんと付いてきてくれる気配を感じながら。
「寝台特急は初めてみるのだけど、格好良いわね」
長い通路を進む途中、壁に大きな写真が飾られているのに気がついた。
『オリオン号完成記念』と傍に書かれている。
「列車を造った人たちは、どんな想いを込めたのかしら?」
古ぼけた写真からでも解る立派な列車に素直な思いが口から出ていく。
女学生も足を止め、写真をじっと見つめていた。
その横顔は何処か……写真や猟兵の言葉に何かを思い出そうとする様子も伺える。
ほんの少しだけハーモニアは近づいて、優しく言葉を投げかけた。
「乗った人たちはどんな気持ちになったのかしら?」
見開かれる影朧の目。何かを言おうとした瞬間強く咳き込み始める。
同時に、足元の影が不気味に濃くなり不穏な芽が生えてきた――瞬間。
ひらひらと、桜ではない淡色の花弁が過去の娘を包み込む。
リラの祝福が蝕まれる心に降り注ぎ、沈めていく。
意識を失い膝をつく女学生は心配だが今はそれよりも。
星空と海で着飾る弓を引き、彼女を苦しめる影へ流星の一矢を射ち放った。
気付いた娘の視界に気遣うハーモニアの姿が映り込む。
無事を確かめほっと一息。立ち上がる女学生にカメラを差し出した。
「そうだわ。折角なら一緒に写りましょう?」
まだ影朧の願いを聞いてない事を思い出し提案する。
不思議がる相手へ以前立ち寄った場所で流行っていた『自撮り』を説明しつつ。
「こう、身体を寄せてレンズを覗いて……」
妖精の指導で二人は寄り添い、列車の写真を背景にシャッターボタンを押し込んだ。
「旅の一期一会を楽しむのも一興よ。貴女もどうか、良い旅を」
一旦の別れ際、祈りを込めた言葉に影朧も口を開く。
「想いを、気持ちを、撮りたかった。……ありがとう」
大成功
🔵🔵🔵
誘名・櫻宵
🌸神櫻
何て浪漫に溢れた旅路なのかしら!
ねぇカムイ
寝台特急、客室な勿論、一等客室!
美味しい料理に美しい景色…銀河と桜を楽しみながらワインをころがしたりして―もう!カムイったら
妄想の中でくらいお酒を飲ませてよう
なんて戯れながら足取りは弾むよう
立派な汽車ね
折角だから、あの汽車の前で写真を撮ってもらいましょ!
ねぇお嬢さん
記念写真を撮って欲しいの
私の神様と初めて寝台特急に乗るの……ケホッ……
噫、ごめんなさいね
少し風邪気味で……だ、大丈夫よう!
カムイったら大袈裟で笑ってしまうわ
私、とっても楽しみにしてたの
絶対乗るのよ
うふふ!ありがとう!
よく撮れてるわ!
あなたのおかげでこの日の証ができた
あなたも良い旅路を
朱赫七・カムイ
⛩神櫻
はしゃぐ巫女の姿が可愛らしくていとおしく―だめだよサヨ
きみはお酒に弱いんだから
膨らんだ頬もまた、可愛いな
サヨの分の荷物も持ち
彼が転ばぬよう気を配りながら先をゆく
心配事は先日から体調を崩している…ということ
大丈夫とはいうけれど―噫、あのこかなサヨ
女学生を見つけたなら、記念写真を撮ってもらおう
良い写真はとれた?
きみの撮りたいものではないかもしれないけれど
そのカメラは宝箱だね
映る皆の楽しみと笑顔、期待と、記念が込められている
ほら、サヨ!やっぱり休んでいたほうが…
歩ける?抱えてあげようか
私からも有難う
良い、旅路を願うよ
影朧の君がおとしものをみつけられるように
――かつて影に堕ち、救われた
私のように
●桜夢
違和感は感じないがあまりに神々しいので此処に居て良いものか悩んだ、と。
後に前で並んでいた一般人は語っておりました。
「何て浪漫に溢れた旅路なのかしら!」
濃櫻に染めた指先美しく、白い手は喉元で淡く組まれた。
溜息すら艶やかに、誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)は先を見て瞳を輝かせる。
後少しで窓口へと至る列の中、切符はもうすぐと胸中愉しく笑みを彩った。
「ねぇカムイ」
世界の欠片と、己が華。二種の花弁を添えた袖口で口元隠し隣を呼ぶ。
楽しくて仕方なくて、でも彼にだけ伝えたくて。移る視線もしとやかに。
受け止める朱赫七・カムイ(約彩ノ赫・f30062)の目元も益々、緩くなる。
はしゃぐ巫女の姿が可愛らしくていとおしく――なんて想いも潜ませて。
「寝台特急、客室は勿論、一等客室!」
溺愛する友は先程の仕草を何処へやら、懐から冊子を取り出し今度は言葉を惜しまない。
何度も見た形跡のある箇所を、これまた幾度目になるか相手へ見せつけた。
「美味しい料理に美しい景色……銀河と桜を楽しみながらワインをころがしたりして――」
「だめだよサヨ、きみはお酒に弱いんだから」
うっとり頬を染め一等鮮やかに輝く春の双眼が神の一言により様子を変える。
「もう! カムイったら、妄想の中でくらいお酒を飲ませてよう」
目眩く幻想夜の想像で一緒に居た筈の相手からストップがかけられたのだ。
此れ位は当然と、透き通る肌の頬部分を膨らませて抗議する。
(膨らんだ頬もまた、可愛いな)
嘗て災厄の厄神であった男は現在、とても幸せそうだった。
何故か大変丁寧に対応頂いた販売所で無事一等客室の切符を購入し列を出る。
泊りがけの旅は持つ物多いが二人分の荷物は全てカムイの手に在った。
だというのに表情は重さを一切感じさせず、むしろ相手への気遣いに満ちている。
少し後ろからついてくる櫻宵は戯れに足取り弾む位に元気そうではあるものの。
(心配事は先日から体調を崩している……ということ)
本人は何事もないように振る舞っているが、時折口元を抑えているのが伺える。
震わせる肩を見るだけで痛みにも似た感情が心に芽吹く。
(大丈夫とはいうけれど)
心配なんだ、大事なきみが。
「立派な汽車ね」
思考の海に揺蕩う意識が心を砕く彼の声で戻ってくる。
朱砂を染めた春花の龍瞳が遠くを眺め感嘆の声を出す様を捉えた。
ひとときだけ、その横顔をただ見つめる。それから一緒に、彼方を向いて。
確かに見事な造りだ。けれども約彩ノ赫は別なるモノに気付いて意識を其方へ。
懐かしいと云うには、あまりに昏く永い記憶が脳裏を掠めた。
「――噫、あのこかなサヨ」
顔色崩さず、穏やかな儘声だけで隣人を呼ぶ。
桜龍も神の視線を導きに列車を見つめる影朧を見つけた。
話通り、女学生の格好カメラを両手で持っている。
「折角だから、あの汽車の前で写真を撮ってもらいましょ!」
「そうだね。記念写真を撮ってもらおう」
想いが重なる神櫻。わたしとあなた、世界の三種桜花纏わせ逢いに行く。
最初に影朧が感じたのは芳しい春の香り。
「ねぇお嬢さん」
自然と向いてしまうような声色に誘われて、振り返る。
起きながら観る夢が其処に咲き誇っていた。
「記念写真を撮って欲しいの」
美しい女人と思われる方が花の顔を綻ばせ話しかけている。
隣の華纏うも厳かな雰囲気の男性は隣人を慈しむ目で見ていた。
と思ったら目が合った。会釈されたので了承の意味も込めて小さく頷く。
ありがとうと、きれいな人達は礼を告げた。
「私の神様と初めて寝台特急に乗るの」
オリオン号と幻朧桜を背に写真を撮った後、奇麗なヒトが告げた言葉を思い出す。
桜花に映える、素敵な笑顔だった。
「良い写真はとれた?」
はい、と答えた。髪も瞳も印象的な朱で彩るヒトも笑う。
それからどうしてか眉尻を下げ懐かしむような、気遣うような顔をした。
「きみの撮りたいものではないかもしれないけれど」
視線がゆっくり、女学生が持つ物に移る。
「そのカメラは宝箱だね。映る皆の楽しみと笑顔、期待と、記念が込められている」
気付いた時には持っていたそれ。今日は何度使用しただろう。
きたい、きねん……えがお。
「沢山、撮りたい。もっと。……列車と、一緒の、」
先に負の気配を感じ取ったのは猟兵の方だった。
娘の心を塗り潰そうとする厄が黒百合と成って咲き乱れる――だが。
『神』が其れを、赦しはしない。
「――災を倖へ」
再約の神罰が絲を紡ぎ負の花々をカムイと結び合わせる。
厄は成長を阻害され、一括に纏められた。まるで花束のように。
そして。
「――私の桜にお成りなさい」
濃櫻に染めた指先美しく、白い手は黒の花束を優しく包み込む。
陰は桜獄へ捉えられ、櫻宵の花へと廻り逝く。
呆然とした顔の影朧が観たのは絢爛華やぐ光景と、惹き込まれる龍眼の輝き。
「ケホッ……噫、ごめんなさいね。少し風邪気味で……」
夢の終わりは小さな咳と、力無く緩んだ微笑み。
「ほら、サヨ! やっぱり休んでいたほうが……」
気高き態度が一変、全身で心配を表現する元厄神はすぐに彼の背をさすっていた。
「だ、大丈夫よう! カムイったら大袈裟で笑ってしまうわ」
顔を上げ改めて明るく笑ってみせるも、友の眉は下がったまま。
なんとなく表情から乗車中止の雰囲気すら読み取って、桜龍は再び頬を膨らませる。
「私、とっても楽しみにしてたの。絶対乗るのよ」
こうなれば彼は曲げないだろう。解っているからこそ、約神は穏やかに笑えた。
「歩ける? 抱えてあげようか」
桜舞い散る中で笑顔がふたつ、花開く。
瞬間、聞こえたシャッターの音。神櫻が撮影者にも笑いかける。
「うふふ! ありがとう! あなたのおかげでこの日の証ができたわ!」
「私からも有難う」
眩しい光景をぼんやり眺めた娘が、ゆっくりと会釈する。
きっとよく撮れてるわ、そう称賛を贈ると僅かに雰囲気が柔らかくなる気配がして。
ありがとうと、小さな声が二人のもとに届けられた。
発車にはまだ時間があったので、影朧は再び何処へと歩き出す。
「あなたも良い旅路を」
見送る桜霞の眼差しは気遣う想いを捧げるように。
「良い、旅路を願うよ」
朱砂は安らかな未来を祈るように。それから少しだけ、目を細める。
(影朧の君がおとしものをみつけられるように)
思わずには居られなかった。あの娘は、過去の己が姿だ。
どうか、どうかと善き結末を望まずにはいられない。
(かつて影に堕ち、救われた――私のように)
再約の神は今。隣で咳き込む巫女に寄り添い、慈しむ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
梟別・玲頼
雪音(f17695)と
この世界でも撮り鉄っているの、か?
いや、現代世界じゃ鉄道好きったらカメラ構えてるイメージだし
女性は割と珍しいけどさ
余程何か撮りたい被写体があるって事だよな…
って、駅見物から行くのか
列車の中で摘まむお菓子くらい買っても良いんじゃね?
ホームに進めば蒸気機関車に息を呑み
…懐かしい形の車体、だ
いや、カムイであった頃、開拓時代に遠目で眺めたが…まさか乗る日が来るとは
件のお嬢は刺激しない様にそっと話しかけ
雪音を庇う位置取りで、もし攻撃きてもオレが全部UCで受け止め
その際もなるべく相手傷つけないように
すげぇ格好良い列車だよな…オレも写真に収めておくか
列車の前に立つお嬢も撮影したい、かな
御乃森・雪音
玲頼(f28577)と。
女学生風でカメラを持ってる、なら見つけやすそうねぇ。
汽車に乗れれば良いってだけなら良いけど、何が彼女にとって最大の執着なのかしら。
それはそれとして、駅って雰囲気良いわねぇ。こそっとスマホで写真撮っときましょ。
探すついでに一寸玲頼とお買い物とかできそうかしら。名物のお菓子とかそんなの。
あら、玲頼は汽車を見た事あったの?
思い出の更新、かしらねぇ。
その子を見つけたら声をかけてみましょう。
どこに行きたいの?汽車に乗るなら一緒に行きましょ、っていう感じかしら。
向こうが焦って攻撃を受けても、反撃せず黙って手を握って、敵ではないと伝えて。
多少のダメージなら玲頼もいるし耐えられるわ。
●雪風
今日もサクラミラージュに大正浪漫の風が吹く。
「この世界でも撮り鉄っているの、か?」
呟く男の前には見事なモダニズム建築が存在した。
流石は大型駅、と言った所かハイカラな人々が常に行き交い賑わっている。
「いや、現代世界じゃ鉄道好きったらカメラ構えてるイメージだし」
梟別・玲頼(風詠の琥珀・f28577)は顎に手を添え眼前の光景を観察していた。
琥珀の瞳は獲物を求め煌めくようにも見えるが、雰囲気は至って穏やかで。
ゆっくりと辺りを見回した彼の視界に……漆黒の艷やかな髪が広がっていく。
「女学生風でカメラを持ってる、なら見つけやすそうねぇ」
スタイルの良い女性が一歩、前に出る。
絢爛な黒を纏う御乃森・雪音(La diva della rosa blu・f17695)も同じく先を見据えていた。
「女性は割と珍しいけどさ」
確かにと同意を付け足して息を吐く。どうやら駅前に目的の人物は居ないらしい。
もとより中に入る予定だったのだ。早速行こうと二人は桜花の風と共に歩き出す。
「汽車に乗れれば良いってだけなら良いけど」
中も見渡す限りレトロな景趣が視界を彩る。
できればこの景観に波風立てたくないが此度の仕事はただ影朧を討つでは終われない。
「何が彼女にとって最大の執着なのかしら」
指先すら美しいダンサーの手が己が髪の一房に触れる。
摘み取ったひとひらの花弁。この桜が呼び寄せた魂は何処に居るのだろうか。
「余程何か撮りたい被写体があるって事だよな……」
隣人も考えながらついでに見回そうと首を横にし……て、少し傾ける。
人が首を回せる限界をつい忘れていたようだ。初期位置に戻すと、同行人が何かしていた。
「それはそれとして、駅って雰囲気良いわねぇ」
女が取り出したスマートフォンから軽快なリズムが飛び出していく。
こそっと撮っては満足気に結果を眺めていたが、ふと顔を上げ。
「探すついでに一寸玲頼とお買い物とかできそうかしら」
名物のお菓子とかそんなの。楽しげな視線が、人々からその上にある広告へ移動する。
「って、駅見物から行くのか」
思わずツッコミは入れたが男も気になるようで。
つられて上を見た後うんと一つ頷いた。
「列車の中で摘まむお菓子くらい買っても良いんじゃね?」
そうと決まれば切り替えは早い。目指す場所は何処だろう。
――寝台特急オリオン号及びシリウス号の記念土産販売は此方です!
元気の良い掛け声が喧騒の中木霊する。
お誂え向きだ、ならば行こうと互いの顔見て笑いあった。
店員曰く、人気は列車の絵でラッピングしたチョコレートやキャラメルらしい。
構内カフェーではフルーツポンチ等の水菓子が楽しめるそうだ。
この後オリオン号に乗ると言ったら、食堂車でも注文可能と教えて貰った。
夏場はアイスクリンがよく売れるとか何とか。
そんな会話も楽しんで、じっくり選定した菓子を手に猟兵達は場所を移す。
一足先にホームへ向かうと徐々に長い鉄の箱の全容が鮮明になってきた。
吹き出す蒸気の欠片が足元を通り過ぎていく――刹那。
玲頼は冷たい白が舞い込む感覚を覚えた。
「――」
冬深き寒風、汽笛の音色。真っ白な、人間の静かなる大地にて。
嘗て『レラ』で在った頃の記憶が蘇る。
「……懐かしい形の車体、だ」
風使いが呟く。思い起こすのは翼を広げ見下ろした小さな村の景色。
この感情を望郷と、云うのだろうか。
「あら、玲頼は汽車を見た事あったの?」
慣れた手付きで寝台特急の姿をスマホに収めた雪音が振り向く。
問われた方は一度瞼を閉じ、小さく笑って世界をリロードする。
「いや、カムイであった頃、開拓時代に遠目で眺めたが……」
現の視界で春色の欠片達がふわりふわりと舞い落ちていった。
「まさか乗る日が来るとは」
降り注ぐ彩りは違えども、心躍る思いは等しく色付いていく。
楽しみなんだと少し実感できた。
「思い出の更新、かしらねぇ」
新しい想い出の中で深い青空の瞳が笑っている。
「ですから、未だ発車時間ではないんです」
近くで誰かの困惑した声が聞こえてきた。
向いた先で一人の女学生が列車の前で止められ立ち尽くしている。
手にはカメラを握りしめていた。間違いない、件のお嬢だ。
揉めている様子に嫌な予感を覚え足早に、でも刺激しないよう注意して近付く。
「どうしたの? 汽車に乗りたいのかしら」
努めて優しく声をかける。振り向いた娘の瞳は、不安定に揺らいでいた。
「乗りたい、のに。どうして」
「申し訳ございません、出発時刻までお待ち下さい」
丁寧に説明する駅員の言葉が理解できないようで、表情が僅かに歪む。
瞬間、不穏な気配が発生したのに気付いたのは猟兵達だけだった。
影朧の足元に不気味な黒が広がって、影に塗りつぶされた百合が咲く。
拙い――二人は一度だけ視線を交えてから、同時に動き出した。
「我が名と共に、守護の風よ」
急に空気の流れが変わり、意思を以て花弁を巻き込んでいく。
徐々に強くなっていく花嵐に人々が気を取られたその隙に、女が手を伸ばす。
「――吹き荒れろ」
宣言は变化の行使。玲頼の身体が風に溶け、気流を操り場に広がっていく。
しかし、それは竜巻と呼ぶにはあまりにも……柔らかな光景だった。
空で幻朧桜達が輪舞を踊り、周囲の視線を惹き付ける。
一方で、地では荒れ狂い黒百合共を刈り取った。
「こっちよ」
女学生の手を掴み雪音が走る。飾る青薔薇が数枚風に攫われて。
カムイが導く風の中を軽いステップで抜けていく。
「のり、たい、の、」
離れたくないと影朧が抵抗する。悲しみの叫びが弱々しい痛みを与えても、尚。
青華飾る鮮やかな黒を靡かせながらオブリビオンの手を握り続けた。
「アタシ達は敵じゃないわ。安心して、乗るなら一緒に行きましょ」
負の衝動を風が取り除き、心からの言葉を伝えていく。
やがて白肌を握り込む力が弱くなっていき。
風使いがヒトに戻って合流した時には、落ち着いた女学生を気遣う相方の姿が在った。
少し離れてもかの列車は目一杯に視界を飾っている。
根気よく説明して、『出発はもう少し先』という事は解って貰えた。
次に相手から出てきた言葉が写真を撮らせて下さいだったので、二つ返事で了承し。
ふたり並んで記念の一枚。満足したらしい影朧を見送った後改めて振り返る。
「すげぇ格好良い列車だよな……オレも写真に収めておくか」
玲頼は呟き雪音を見る。気付いた彼女の視線を受けて、にこりと微笑む。
「列車の前に立つお嬢も撮影したい、かな」
春と青色の花弁達が、柔らかな風に乗って二人を彩った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
歌獣・苺
【彩夜】
わぁいわぁい!
なゆとときじと
おでかけ♪
楽しみだなぁ~!
私も『でんしゃ』はあるけど
『しんだいとっきゅー』は
初めて…!
らうんじ?うん!
もちろんいいよ!
ほら、ときじもいこ~!
(ぐいぐい引っ張り)
お茶する!ケーキもあるかな…?
わぁ…綺麗だねぇ…!
(『いと』をくれて、心を結んだなゆ。許しをくれて、『いと』を結ばせてくれたときじ。)
なんだか優しい音がする…♪
一緒に来れてよかった
これからもずっと一緒にいてね
だぁいすき…!
…?なゆの知り合い?
しゃしん、上手なの?すごーい!
みたいみたい!
えっ!ときじもかめらあるの?
だったら3人で撮ってもらおうよ!
素敵な思い出に…♪
はい、うさぎっ♪(にこーっ)
蘭・七結
【彩夜】
寝台特急という星を眺む旅に往きましょう
ときじさんはご乗車されたことはある?
電車に乗ったことはあれど
このような機会ははじめて
まいも、おんなじかしら
八号車が気になるの
絶景を眺めながらお茶をしましょう
高速にて移ろう景色
追い続けても見切れてしまう
夜にはキレイな星夜がみえるのだとか
如何なる景色なのか、たのしみね
ふらりと歩むひとの姿
お話で聞いた通りならば、あのひとは
あなた
お写真はおすき?
過ぎ去ってしまう景色
それをゆっくりと眺めてみたいの
良ければ、あなたのお写真を見たいわ
ときじさんも、かめらをお持ちだったわね
共にこのひと時を収めるのは如何でしょう
うさぎ、の合図と共に
指さきにうさぎの姿を仕立てましょう
宵雛花・十雉
【彩夜】
昔読んだミステリの舞台が寝台特急でさぁ
憧れて1人で乗ったもんだよ
もちろん事件は起こんなかったけどな
おう、2人は初めてかい
ならオレが寝台特急の先輩として色々教えてやるよ
何でも聞いてくれ
お、いいねぇ
行こうぜラウンジ
あだだ、そんな引っ張んなって
って、いきなりどうしたよ
まぁオレもずっと友達でいたいと思うけどさ
なゆさんとも、苺ちゃんともな
なゆさんが声をかけた相手の特徴を見て察する
なるほど、この人が…
おう、折角だから3人で撮ってもらおうか
はい、チー…ってうさぎかよ!
そうそうオレもすまーとほんのカメラ持ってんの
次はオレが撮るからお姉さんも入ってくれよ
今日の出逢いの記念にさ
ほら、3人とも笑って笑ってー
●絲方
おぜうさん、おぜうさん。何方征くの?
「一寸、其処迄」
白い手黒い手、結び合い。
娘達は軟派な言葉を微笑み一つで断り告げる。
お呼びでないのよあなたたち、それでも縋るといふのなら。
後ろの正面誰かしら?
「――彼女達に御用かい」
ゆうるり現る奇々傀々。覗いた大きな伊達男に蜘蛛の子忽ち逃げていく。
見送った視線重なって、愉しく揃って笑い合う。
寝台特急という星を眺む旅に往きましょう。
常夜の少女が告ぐあまい言葉に兎が一人軽く跳ねた。
「わぁいわぁい! なゆとときじとおでかけ♪」
歌獣・苺(苺一会・f16654)の無邪気は何時だって皆の笑顔を誘い出す。
頷く蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)が見守る目元も優しく蕩けて。
繋ぐ手離さず今度は目線を上へ、彼の視線も柔らかい。
「ときじさんはご乗車されたことはある?」
呼ばれた男はちょいとだけ顔寄せほんの少し差を埋めていく。
女子らの首を気遣う宵雛花・十雉(奇々傀々・f23050)の髪がさらりと流れた。
「昔読んだミステリの舞台が寝台特急でさぁ」
憧れて1人で乗ったもんだよと、紅引く隻眼伏せて懐かしむ。
かと思えば口端にぃと上げ、黄丹に金引く眼が花開いた。
「もちろん事件は起こんなかったけどな」
折角探偵乗ったのに。だけども平和が一番だなんて愉快そう。
良き思い出だったんだろうと、夢見る苺の瞳が煌めく。
「楽しみだなぁ~!」
ただでさえ今居る場所は好奇心を刺激するモノが数多に在る。
並ぶ先のレトロな販売所、派手な活字が謳う広告、遠近響く鉄道音。
桜舞う世界のコンコースは賑やかな浪漫で溢れていた。
「電車に乗ったことはあれど、このような機会ははじめて」
どの視点も目紛しい人通り、けれども湧き上がるのは楽しさばかり。
だって自分達も同じこと。これからを思えばこゝろは弾む。
「まいも、おんなじかしら」
握る柔らかな彼女の手。肉球ふにふに、あのこはにこにこ。
「私も『でんしゃ』はあるけど、『しんだいとっきゅー』は初めて……!」
黒い長耳に花弁付くすら楽しいと、未知の幸せに期待は高まる。
片方は全身で、片方は控えめに燥ぐ姿は微笑ましい。
「おう、2人は初めてかい」
同時に頷く姿も華がある。飄々気取る男は腕組み、歯を見せた。
「ならオレが寝台特急の先輩として色々教えてやるよ、何でも聞いてくれ」
ならば場所を変えましょうと彩夜は仲良く先を往く。
この時期売れる飲み物と言えばやはり暖かいものだそう。
珈琲、紅茶、ココアにレモネード、甘酒なんかも売店で販売されていた。
銘々好みを手に入れ店先集合しがてら手先を暖める。
近くのカフェーから戻ってきた七結に行方を問うたら内緒と淡く微笑まれた。
「八号車が気になるの」
広げた冊子を各々覗き込み、しろい指先が控えめに指し示す。
苺が活字を目で追って、不思議そうに瞬いた。
「らうんじ?」
「お、いいねぇ。行こうぜラウンジ」
未だ頭にハテナマークが浮かぶ黒兎へ十雉が場所を説明する。
ついでに売店の飲み物も置いてあると店員から聞いた話も付け足した。
「絶景を眺めながらお茶をしましょう」
白い息逃がした牡丹冠する笑みに誘われ、段々藍苺の貌に喜の彩が色付いていく。
「うん、もちろんいいよ! お茶する!」
笑顔で手合わせぽよんと柔い音がひとつ。それから、あ! と声を上げ。
「ケーキもあるかな……?」
甘味もあれば尚良しと。願いは叶うか、頁を捲る。
次に見つけた探偵のなぞる指先、四号食堂車の一文に甘味も注文可能とくれば。
『注文頂きました甘味・軽食類に限り八号ラウンジにお届けもできます』
赤い果実色に染まる頬を見届けて、くれなゐ少女がもう一度冊子に手を添える。
触れた場所には車窓からと題した写真が載っていた。
「高速にて移ろう景色、追い続けても見切れてしまう」
今は未だ静止画の動く場面を想像し、胸が焦がれる。
「夜にはキレイな星夜がみえるのだとか」
闇夜に鏤める光瞬いて、走る光景を鮮やかに照らすのだとしたら。
そして――ゆうくり顔を上げていく。
今有る刻にいとを結び、共に在れるいとしき縁達が笑っていた。
幸多かし未来を一緒に過ごせるのだから、いっとうしあわせな事に違いない。
「わぁ……綺麗だねぇ……!」
元時計ウサギも同じ写真に感嘆ひとつ。
視線を感じて目を向け気付く。嗚呼、二人も同じ気持ちなんだ。
(『いと』をくれて、心を結んだなゆ)
あまやかな微笑みは、紅き半魔の底視るまごころ。
(許しをくれて、『いと』を結ばせてくれたときじ)
今も二人を気遣って、軽く身屈め見守ってくれる面倒見の良いヒトのあなた。
意図したいと想って無いのに、心の糸は絡まずきれいに編まれてく。
(一緒に来れてよかった)
苺一会にいとしの縁は何処までも。胸いっぱいに感情がこみ上げて。
「なんだか優しい音がする……♪」
心の儘が口出た瞬間、近くで心地良い低音がゆっくり鳴り響く。
驚く顔達は広場の中央で八つ時告げる大時計の動きを見ていた。
あまりに丁度良くて、同時に顔を見合わせ揃って笑い出す。
「これからもずっと一緒にいてね、だぁいすき……!」
「って、いきなりどうしたよ」
今一番の破顔に益々愉快に。でも聞けた言葉は、ちゃんと受け止めて。
「まぁオレもずっと友達でいたいと思うけどさ」
嘘偽りの無い心で返す。少々軽い口調が照れ隠しなのかは彼のみぞ知るけれども。
ひとりひとりをちゃんと見てから、再度口を開いた。
「なゆさんとも、苺ちゃんともな」
ちゃんと笑えてたかな、なんて思う暇無く男の視界は急に傾く。
「ほら、ときじもいこ~!」
気分高揚中の一人が待ちきれないとぐいぐい腕を引っ張った。
隣は口元手で隠し、ころころ転がす鈴声で笑う。
「あだだ、そんな引っ張んなって」
演技に笑顔を混ぜ合わせ。足取り軽く、連れて行く。
ふらり、すれ違うヒトとひと。
不意に七結は振り向き紫の眼を静かに細めた。
「……? なゆの知り合い?」
後の二人も足止め伺う。ゆらりゆらり、歩む女の後ろ姿。
直感を信じ迷わず近付く。お話で聞いた通りならば、あのひとは。
「あなた」
糸で繋ぎ合わせるように、細心の注意を払って呼びかける。
ぽた、と水が滴る音がした。
振り返る女学生は能面の顔に、大事そうにカメラを持っている。
(なるほど、この人が……)
聞いた特徴から察するに、彼女で間違いないだろう。
先は友人達を守ろうと一歩前に出て……気がつく。
ぽたり、ぽたり――黒い涙が娘の頬を伝い、落ちていた。
「撮り、たい。とりたい、もっと、とらせ、て」
影朧の足元が歪む。黒く塗り潰された所から負の感情が形を成す。
蠢きは黒百合に姿を変え、禍々しい気配を撒き散らしていく。
「苺ちゃん、なゆさん」
前を向いた儘ふたりの名を呼ぶ。
変わる雰囲気を背後で感じながら己が懐に手を入れた。
――これは、貴方を忘れない詩。
歌う獣が純粋に伝う、ありのままの謡い唄。
あなたにだけ届けたいと影朧を揺さぶり動きを鈍らせる。
――みつめて、繹ねて。
世界を彩る春色の欠片に、いのちのあかが寄り添って。
舞い飛ぶ花は小さな嵐を創り狂気の花を引き裂いた。
ぐらつく影朧。一歩、一歩と巫女が距離を縮めていく。
取り出す一枚の霊符を長い指先に、聢と挟んで。
「大人しくしてな」
花歌に導かれ堂々と影朧の眼前に。額に張り付く、霊縛の呪。
優しく送られた気の流れが、歪んだ涙を塞き止める。
崩れ落ちる女学生を十雉が支え、奇跡の時間は終わりを告げた。
札を剥がし戻った意識へ拾ったカメラを見せながら差し出す。
あなたのね。大丈夫? 立てるかい?
みっつの勞る声を受け、支えられて女学生は大人しく立ち上がる。
カメラは誰かに守られたかのように、新しい傷はついていなかった。
「お写真はおすき?」
古ぼけたそれを親指で撫でた影朧が、静かに頷く。
通じる言葉に安堵をひとつ、ひとときのいとが密やかに結ばれる。
「過ぎ去ってしまう景色。それをゆっくりと眺めてみたいの」
一瞬一瞬が重なり、織りあげられてゆくのが思い出と云うのなら。
輝く一等と同じく鮮烈に残せる一枚が、尊く思えた。
「良ければ、あなたのお写真を見たいわ」
「しゃしん、上手なの? すごーい!」
みたいみたい! なんて兎の声と耳が跳ねる。
僅かに目を開いたカメラの持ち主が視線を落としたので、他も続く。
古ぼけたカメラはフィルム式らしい。なら後でと楽しみな約束が一つ増えた。
「共にこのひと時を収めるのは如何でしょう」
「だったら3人で撮ってもらおうよ!」
「おう、折角だから3人で撮ってもらおうか」
折角出会えたこの佳き日に。芽生えた小さないとに記念を。
意図を理解した影朧が再度頷く。なら早速と、今度は四人で移動する。
コンコースの大時計前は遠目に停車中の列車も見られる良い所だ。
ベストポジションを背景に。さんにん並ではい、チー……。
「はい、うさぎっ♪」
思わず指先可愛らしく、寄り添う三匹とっさでも完璧でした。
「ってうさぎかよ!」
ベストショットにつっこむタイミングもベストマッチ。
「ときじさんも、かめらをお持ちだったわね」
指先うさぎに仕立てた儘、和らぐまなこが頭を上げる。
「えっ! ときじもかめらあるの?」
ぱああと輝く苺星。一等星の瞳も向いたら男の目元が緩くなる。
「そうそうオレもすまーとほんのカメラ持ってんの」
も一度探る懐から今度は精密機器が取り出された。
すいすい操りモード切替、ではもう一度……の前に。
「次はオレが撮るからお姉さんも入ってくれよ」
かけた提案に反応は嬉しさ2つ、驚きひとつ。
「今日の出逢いの記念にさ」
喜ぶ猟兵ふたりが戸惑う影朧一人の両脇を確保する。
大人びたあまい微笑みと、笑顔の元気な喜色が記念を促した。
主に、手先を。
「素敵な思い出に……♪」
あれよあれよとできていくポーズに十雉は笑いを噛み殺す。
「ほら、3人とも笑って笑ってー」
わらう七結に燥ぐ苺、可愛い兎達に不器用な一匹も加わって。
再び彷徨う影朧へ、かけがえのない糸をひとつ紡いで見せた。
大成功
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神埜・常盤
人間と見紛う程に精巧な人形を依り代とした
式神の天竺を連れて、ふたりで駅構内をぶらり歩き
はは、斯うしてるとまるで
戀人同士みたいじゃァないか
なんて戯れど釣れない貌の女給を伴いつつ
影朧に聲を掛けてみよう
暴れ出すかも知れないから
天竺には彼女を戒めさせて
僕は魔眼で影朧に催眠を
さァ、落ち着いて――
この女給、僕の連れなんだ
良ければ写真を撮ってくれないかね
君なら彼女を綺麗に映してくれるだろうから
天竺と睦まじく――
厭そうにそっぽ向かれて居るけれど
寄り添いながらカメラの前に佇んで
良かったねェ、天竺
これでお前のうつくしい姿を遺せるよ
ありがとう、きみ
お蔭で良い想い出が造れたよ
……君も、良い旅が出来ますように
●兩人
其の女給、式神につき。
ひとのやうに精巧で、いとうつくしき花のかんばせ。
歩く姿は階級高き貴婦人の、夜会に巻いた琥珀が整う上品さを描いてる。
隣で歩く男も高身長の色男であれば尚更、華は周囲の目を惹いた。
そんな天竺に唯一、挙げるものが在るとすれば。
「はは、斯うしてるとまるで戀人同士みたいじゃァないか」
主人が戯れに笑んだとしても、にこりもしない貌のつれなさ。
しかし此れが常ならば、神埜・常盤(宵色ガイヤルド・f04783)の調子も慣れたもの。
粛々憑き添う式と術士、ふたりで駅構内をぶらり歩く。
手にした切符も二人分、冊子と一緒に保管する。
別嬪さんだねぇと笑顔の素敵な販売所の御婦人からも評判だった。
けれども淑やかなビスクドールの頬は到頭赤みささず仕舞い。
冬のせいにし場所を変え、さてはて目的の女性は何処へやら。
そう言えば物言わぬ女給の視線が先程から固定されている。
前も見ず器用なもの――あァ。居た。
やはり彼女は釣れない女だ。
では影朧に聲を掛けてみよう。
軽いネクタイチェックを受けてからお嬢さんと紳士的なアプローチ。
反応した女学生は酷く狼狽えた様子だった。
何かと思えば、元在った視線の先で親子が仲良く列車を見ている。
「……おかあさん。おとう……さん……」
前半ははっきりと、後半は弱々しく曖昧に。
徐々に不穏が娘を襲い定まらぬ焦点の先に黒百合が咲いた。
暴れ出すならと探偵は式の名を呼び目配せ送る。
推理が要らぬ事件なら、ミーティングも必要無い。
本日初めて天竺の服が乱れる瞬時の接敵、影朧を背後より戒めさせる。
後は飄々優雅に常盤が近付き失礼と其の顎へ指先添えた。
「さァ、落ち着いて――」
宵は朱けて紅に輝く。御覧よおぜうさん奇麗だろう?
恐怖も狂気もムスクの様な蠱惑に沈む、微睡んだ先は――。
薄ら覗く牙の笑み。仕事は終わりと冊子で魔眼を隠し遮る。
用無しの花は女給が手折った。
「この女給、僕の連れなんだ」
介抱を受け娘が2人を交互に見ている。
何故か頷かれた。まぁ受け答えが出来る程には回復したのだろう。
「良ければ写真を撮ってくれないかね」
此れも二つ返事。ではあちらでと常盤が指一本で指し示す。
先程親子が見ていた列車を、丁度正面から見られる場所が在る。
「君なら彼女を綺麗に映してくれるだろうから」
云われた女は先程の動きなど嘘のように綺麗だった。
幻朧が雨舞う世界を歩く。男は女を視線で気遣う。
美い場所に主人が足を止め、釣れない女給は言葉無く隣に付いた。
レンズの中では睦まじく――厭そうにそっぽ向かれて居るけれど。
迷わず影朧は寄り添う兩人に花弁が彩る鮮やかな瞬間を、切り取った。
「良かったねェ、天竺。これでお前のうつくしい姿を遺せるよ」
相変わらず表情動かない女給に笑いかける。勿論次は、女学生にも。
「ありがとう、きみ」
お蔭で良い想い出が造れたよ。胸に手を当て礼を尽くす。
じっと見ていた影朧は天竺を一度見て、常盤に戻る。
「遺せて、良かった。です。ありがとう」
撮った思い出を確り両手で握りしめ、娘は頭を下げた。
後は。そう訴える瞳がオリオン号を見てから乗り場方面へ歩き出す。
(……君も、良い旅が出来ますように)
あの子の願いを叶える為に、猟兵もまた願いをかけた。
汽笛が鳴り、ホームが賑わっている。出発は近い。
大成功
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