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昏き翼のフェアリーテイル(作者 まなづる牡丹
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#ダークセイヴァー  #人類砦  #闇の救済者 


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●満たすもの
「退屈」
 使い魔の蝙蝠たちに話しかけるように、少女は呟いた。キャシャシャシャと面白可笑しく笑う返事が返ってくる、元々会話は期待していない。退屈だ。食事だけが、今の私の唯一の楽しみと言っても良い。

 ――先祖返り。少女は、悪魔である。元は普通に……背中の羽根は服の中に仕舞って、頭の角はフードで隠して、人間のように振舞っていた。村でも少女の本性に気付く者は居なかったし、気付かれないように努力した。だって、気付かれたら面倒臭いし。
 しかし、その時は唐突に訪れた。古の大悪魔の血を引き、親ですら顕現しなかった力が突如発現し、力を制御しきれなかった少女は村人から石を投げられ、罵りの言葉を投げかけられた。
 ――どうして。こんなの私のせいじゃない、私は何も悪くないのに! 少女の怒りと哀しみは一夜にして村を死の香りで満たした。
 だから少女が悪魔であることを、本当の本当に、誰も知らない。だったらもう人間のフリをする必要もない。少女は翼を広げ星の瞬く夜天へと羽搏いた――。

 辿り着いたのは人間が築き上げた希望の砦。其処に舞い降りた黒き翼に、人々は恐れ戦いた。半ばパニックになりながらも、砦の代表者である壮年の男が前に出る。
「あなたは一体……? その羽根、ヴァンパイアですか」
 震え声に対し少女はのらりくらりと言葉を交わす。嗚呼、久しぶりの会話だ。言葉が通じるというのは、やはり素晴らしいことだ。
「何でもいいわ、食べさせてくれない? お腹が空いて死にそうなの」
「そんな! 私達はあなた達の食糧じゃない!」
「? 何を言ってるの?」
「うわぁああああ!!」
 恐怖のあまり鍬を振りかぶり少女を一撃で殺さんと、月光を受けてぎらりと鈍く光る刃。それは少女に届く前に、使い魔である蝙蝠が身を挺して受け止めた。ぶしゃっと、果実が熟しすぎて破裂したように、その場に血が拡がる。
「あーあ、こういう時良い子から死んでいくのよね。残念だわ」
 少女は血のついた服をやれやれといった様子で見つめ、鍬を振りかざした者へ鞭のようにしなやかに伸びる尾でスパッと腕を切断した! 悪魔の少女が思うのも変な話だが、天罰だと嘯いて。
 腕が捥げカランと鍬を落とし「ああああ!!」と煩わしく叫ぶ村人なんかには目もくれず、少女は代表者に宣言すると同時に確信する。やっぱり、人間って野蛮。話なんて、通じなかった。
「これより此処を私の食糧庫とするわ。三日に一回、美味しそうな者を差し出して」
 この世界に肥えた人などおらず、美味しそうの基準といえば美醜くらいなもの。少女は食べられさえすれば肉でも野菜でも果実でも何でも良かったが、どうせなら人間を喰らい尽くしてやろうと心に決めた。
 人は皆、醜い。この翼があるせいで、少女は人から迫害された。人は自分と違う者を受け入れられないのだ。でも、不思議な事にこの翼を手放したいとは一切思えない。この翼は少女が少女である証。今更引き千切ることなんて出来やしない。
 ――だったら、もう自由奔放に生きてやろう。降りかかる火の粉は振り払い、私は静かに美味しいものを食べる。食物連鎖の頂点にいる私が、下々の者に遠慮する必要なんて最初からなかったのね。
「あ、ああ……」
 人類の希望が、失われていく。此処もまた他の領主に従属してしまう村と同じになってしまうのか。
 少女は昏き翼を大きく広げ、砦の中心部に向かっていく。其処は大聖堂だった。少女は其処を根城とし、此の砦に居座ろうという魂胆である。
 ――神の対極にいる悪魔が無辜の人間を蹂躙する様を、何も出来ないまま見ていると良いわ、神様。

 少女に神は居ない。それはひとえに、悪魔だからに他ならず。しかし自ら望んでそうなったわけではない。だのに、助けのひとつも寄越さないなんて、やっぱり神様なんていないんだわと諦めて。
 退屈そうに今日の供物を啜る。震える供物の脳天を一突きし、死んだのを確認したら、最初は血抜きから。ジュルルと啜る血の味のなんて甘美なこと! 今まで知らなかっただけで、やはり少女は悪魔、故に人を喰らう宿命。一気に少女の瞳に光が宿る。
「……美味しい。じゃあ屹度、今日のお肉も美味しいわね」
 少女が砦に居を構えてから一か月。配下の蝙蝠たちが常に人々を見張り、逃げおおせる者は誰も居なかった。それまでに9人の人間が食べられた。次で記念すべき10人目。
 折角なら老人ややせっぽちはダメ、特別若くて柔らかい……年頃の若者が食べたいと。少女は初めて供物をオーダーした。砦の未来を繋ぐ子供たちを食べさせるわけにはいかない。何か、何か方法は無いものか……砦の住人は思案し、神に祈る。そんな折。
「あら、この光」
 ふわりと現れた幻想的な光に、少女は目を奪われた。幻光虫と呼ばれるその虫は、一定の期間だけ光を放ち、異性を誘惑するという珍しい生き物。その美しさから『神の遣い』と呼ばれることもある。うふふ、と少女は喜んだ。
「特別な日の料理を、特別な光で頂けるなんて、素敵だわ」
 幻光虫はふわりふわりと少女のまわりを飛び回り、少女にとってはまるで祝福されているかのように戯れる。悪魔といってもやはりまだ『女の子』、こういったものには弱いらしい。
 ――嗚呼、もし神様がいるのなら、今日という日の為に焦らしていたのね。意地悪。でも良いわ、私は今とても気分がいいもの。だから……。
「素敵な時間を邪魔しないでね。また退屈になったなら、いっそ全員食べてしまうかも」

●グリモアベースにて
「っていうわけ。状況が飲み込めない人は手ェあげて~」
 グリモア猟兵、斬断・彩萌(殺界パラディーゾ・f03307)は集った猟兵達に今しがたグリモアが見せた予知の内容に疑問がある者はいないか声をかける。皆状況は切羽詰まっている事は理解出来たようだ。
「この女の子の悪魔が、今回倒してもらいたいオブリビオンよ。人類砦のド真ん中に居座って、3日に一度人間を食べてる。そして明日は30日目……つまり、10人目の犠牲者が出る予定の日よ」
 猟兵達には至急人類砦に向かって貰い、まずは砦に侵入する為に配下である蝙蝠型のオブリビオンと戦ってもらう必要がある。
 村人は戦闘が始まると各々砦の中に引きこもるので、巻き込む心配はない。蝙蝠型配下は数こそ多いが個体は猟兵の力を以ってすれば苦戦する事はないだろう。
「配下を倒したら砦の中心……あ、この砦は丸い形をしています。その真ん中ね。そこに大聖堂があるの。戦場としては十分な広さがあるわね。そこで無邪気に幻光虫と戯れてる悪魔娘を倒せばミッションコンプリート!」
 少女は3日ぶりの食事を楽しみにしているところを猟兵に邪魔をされれば、面倒臭そうに猟兵達を追い払おうとするだろう。それを往なしながら全力で戦って欲しい。
「相手は古の大悪魔の血を引く娘。本人には及ばずとも匹敵する力を持ってるわ。ただ、使う場面がなかっただけ。猟兵が自分を殺そうとするなら、存分に力を振るってくるでしょうね」
 気を付けて、と彩萌は念を押して、再度グリモアを起動する。転送する前に、もう一言。
「退屈な死合にはならなそうね」
 そう付け加え、一人ずつ現地に送り出すのだった。





第3章 日常 『きっと君のためのワルツ』

POW豪快に光と戯れる
SPD軽快に光と戯れる
WIZ風流に光と戯れる
👑5 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 幻光虫がふよふよと、まるで少女の魂を天へと召すかのように踊る。その光景は幻想的で美しく見える一方で、どこか寂しく、砦の住民を安堵と祈りへ導いた。此処は人類砦、人々の希望が集う場所。恐ろしい脅威は去ったのだ。
 今回食べられるはずだった生贄の若者は、胸を撫で下ろして大聖堂を見上げた。――神はやはり御座したのですね。感謝の一礼をして、祝いの声がする方へと向かう。神のご加護が在る限り、我らは希望を捨てませんと心に誓って。
 一仕事終えた君たち猟兵は、幻光虫と戯れても良いし、しんみりと過ごすのも、はっちゃけるのも、砦の住人と話すのも自由だ。悔いのないように過ごすと良い――。

 ※PSWを気にする必要はありません。幻光虫のことは一切無視しても大丈夫です。
ブラミエ・トゥカーズ
かくして、村を脅かす化け物は退治されました。
めでたし、めでたし…と。

大聖堂で祈っている若者を驚かせにゆく。
陽の光の届かない所には恐ろしい物がいるのだと。
故に畏れる事を忘れない様に。

病は撒かない。文明レベルから危険なため。
霧になって影に潜んで姿を顕し驚かせる。

希望を棄てぬのは良いが、次の厄は如何するのかな?
考え、抗い、負けて果てに勝利し、暗きを捕え追放し尽くすと良い。
人間こそ、最も恐るべき生き物なのだから。

人間に負け尽くした余が保証してやろう。
とはいえ、祈るだけの生き物には負けぬがな。
余も、この世界にもいるであろう目に見えぬ物共はな。

それはそうと、血を貰えぬかな?仕事をして喉が渇いた。



 斯くして、村を脅かす化け物は退治されました。めでたし、めでたし……と。ブラミエは激戦を終え、口笛でも吹きたくなるのを止め、一路、大聖堂で祈りを捧げている若者を驚かせに向かった。陽の光が届かない所には恐ろしい物が居るのだと。故に畏れる事を忘れないように。
 文明レベルで危険が及ぶ為病は撒かず、ただの霧状になって影に潜み、懇々と祈る若者の下からぐわっと這い上がるように顕れ驚かせる。若者は驚きのあまりその場に尻もちをついて、何が起こったのか事態を呑み込もうと必死だ。
 よく見れば、砦の中から伺っていた際、あの煩わしい蝙蝠を叩きのめし、悪魔を退治しに向かった女ではないか。若者はホッと一安心しつつも、何故こんなことをするのか疑問に思う。それを見透かしたようにブラミエは語る。
「希望を棄てぬのは良いが、次の厄は如何するのかな? 考え、抗い、負けて果てに勝利し、暗きを捕らえ追放し尽くすと良い。人間こそ、最も恐るべき生き物なのだから」
 それはブラミエという妖怪が直に味わってきたことだった。だからこそその語り口には凄みがあったし、なんなら説得力すらある。若者は小さく「……はい」と頷いた。ブラミエは未だ霧状だった足元まで確りとこの身をこの世に表し、無表情のまま淡々と続けた。
「人間に負け尽くした余が保証してやろう。とはいえ、祈るだけの生き物には負けぬがな。余も、この世界にいるであろう目に見えぬもの共はな」
 目に見えるものだけを恐れるな。姿を持たぬものだっている、形を如何様にも変えられるものもいる。何より恐ろしいのは悪意と、悪を自覚しない蹂躙者である。そんなものがこの世にはごまんといて、未だ潰える兆しはない。だからこそ、ブラミエはよぅく言い聞かせた。
「この砦は我々の希望です。此処で産まれた新しい命だってあります、それを摘み取らせはしません」
「言うではないか。では余は、その希望とやらが奇跡を起こすことを願ってやろう」
「……ありがとうございます」
「ところで、話は変わるのだがな」
 ブラミエはぐっと若者に近づき、その妖艶なる翠の瞳で若者の目を覗き込んだ。ごくりと息を飲む若者に、ブラミエは普段と変わらぬ声音で呟く。
「ちと血を貰えぬかな? 仕事をして喉が渇いた。ほんの啜るだけだ」
「!! ……ヴァ、ヴァンパイアだったのですか……!?」
 再び驚愕する若者に、この世界の吸血鬼とは似て非なる存在であることを説明すると、若者は納得はせずとも命の恩人の頼みとあれば仕方ないと、首は流石に怖いので手首を差し出した。其処に牙を立てたブラミエは、本当に喉を潤す程度啜って、腕を解放した。若者はあからさまに安堵していたのは言うまでもない――。
大成功 🔵🔵🔵

木霊・ウタ
…救えなかったけど
安らかは贈るぜ

火葬で葬送
他に延焼させない

幻光虫の動きをワルツに見立てて合わせた
軽やかな旅立ちの旋律を即興で
静かな眠りを願う


仲間を守れなかったこと
砦が安全でなかったこと
辛い現実が諦観を生んで
抗う意思を
対抗の決意を揺らがせちまうかもって心配してる

余計なことかもだけど
住民達の声や思いに耳を傾けて
勇気づけてやりたいぜ

ああ辛いよな
そして、あんたたちの目的は
吸血鬼の支配から脱することだろ?
ならその道行がどんなに辛くても
歩みを続けなくっちゃな
進むことでしか
望む未来には届かないんだから
俺達も力になるぜ

許可が出たら大聖堂の壁に
炎で炙り9人の名を刻む
9人の英雄を称える勇壮な曲を奏でる



 少女の遺体が心無い者に壊される前に、ウタは少女を抱きかかえ大聖堂を出ると、砦の住民がが見守る中そっと火をつけた。みるみるうちに燃え上がる遺体、他に延焼しないように気を付けて。救うことは出来なかったけど、安らぎは贈れるように、幻光虫の動きをワルツに見立てて合わせた軽やかな旅立ちの旋律を即興で奏で、静かな眠りを願う。
 住民は少女の遺体が灰になるまで、誰も口を開かずじっと見つめていた。この悪魔の手によって9人、犠牲になった。尊い犠牲だった。くじ引きで決めたことも、自ら志願した者もいた。誰もがこの砦にいつか救いの手が伸ばされると信じて、逝った。その祈りは、漸く通じたわけだが……決して早かったとはいえない。
 仲間を守れなかったこと、砦が安全でなかったこと。辛い現実が諦観を生んで、抗う意思を、抵抗の決意を揺らがせてしまうかもと、ウタは心配した。余計なことかもしれないが、住民達の声や思いに耳を傾け、勇気づけてやりたいと思う。
「ねぇねぇ、お兄ちゃん」
「ん?」
 火葬と鎮魂歌を終えたウタに、子供が駆け寄って来て訊ねる。
「あのお姉ちゃんはどこにいったの? 天国? じごく?」
「……天国、かな。この子も、生きるのに必死だったんだ。全てが悪かったわけじゃない」
 本当は骸の海に還ったのだけど、言っても伝わることはないだろう。子供は「ふぅん」と言って、ウタに向かい「ゆうしゃさま、ありがと!」と告げ去っていった。勇者か、と自嘲気味に笑ってウタは拳を握りしめる。本当に勇者だったら、少女の魂すらも救えただろうにと。
 少女の遺灰が風に乗って消え去ると、砦の住民は堰を切ったように喜び、同時にウタへ向けて感謝の意を述べた。
「ありがとうございます。お陰でこの砦は救われました。しかし、犠牲者は帰ってきません。それだけが、辛い」
「ああ、辛いよな。でも、あんたたちの目的は吸血鬼の支配から脱することだろ? ならその道行がっどんなに辛くても歩み続けなくっちゃな。――進むことでしか、望む未来には届かないんだから。俺達も力になるぜ」
 力強いウタの言葉は、住民たちの心にじんと染みわたった。これからどんなに辛く険しい路であろうとも、決して希望を失わず、逞しく生きていこうと誓える程には。
「なぁ、犠牲となった9人の名を大聖堂の壁に刻むのはどうだ?」
 ウタの提案に、砦長は是非ともお願いしますと頼んだ。ぼろぼろになった大聖堂。ステンドグラスは割れ、一部吹き抜けになってしまっているところもあるけれど、無傷の場所を探し9人の英雄の名を炎で炙り刻みつける。彼らを称える勇壮な曲に、幻光虫もまたくるくると舞い躍った――。
大成功 🔵🔵🔵

水桐・或
奪われたら奪い返される
その当たり前が成っただけさ
とはいえ……

悪魔の少女のための墓を作ろう
ここじゃあ砦の人たちに嫌がらせそうだし、どこか静かな所が良いかな
幻光虫はどこから来たのだろう?
虫に左手で触れて、生物の帰巣本能の性質を己の脳に獲得
それで住み処を探してみよう
その傍に墓を建てたら、少しは安らかになってくれないかな?

なんでこんなことをするかって?
僕は人から奪う時、せめて慎ましくありたいと思っているのさ
申し訳ないという態度を忘れたくない
それで君が僕を許すわけではないだろうけど

……僕と君は違うと言ったけれど、いつか奪い返されるのは僕も同じだろう
君には嫌われてそうだから、できれば地獄で会いたくはないな



 何事も奪われたら奪い返される。物も、命も、希望も。その当たり前が成っただけ。とはいえ、どこか遣りきれない想いの或がいることもまた事実。心はそうすんなりと、敵を倒しました! はい終わり! とはいかないのだ。此処に至るまでに何人もの犠牲が出ているなら尚のこと。
 或は、少女の為の墓を作ろうと考えた。しかし、砦の中に作ったのでは住民たちに嫌がらせを受けそうな気もするし、どこか静かな場所が良いと悩む。ふと、目の前を飛んで行く幻光虫が目に入った。
 ――この幻光虫はどこから来たのだろう?
 左手で優しく触れて、生物の帰巣本能の性質を或の脳は獲得する。そのまま歩き出した、この柔い光を放つ虫の住処を探す為に。その傍に墓を建てたら、少しは安らかになってくれないかな? と或なりの思いやりを込めて。
 砦から出て少し歩いたところに、一際光を放つ、大木の窪みがあった。此処が幻光虫の本来の巣穴なのだろう。砦の中へ幻光虫が行くのは、僅かな食べかすや花の蜜を求めてか。ともかく、周辺になにか目印になりそうな物がないか探す。適当な石を丸く大木の根元に並べて、簡素な墓の出来上がり。
 何故こんなことをするかと言えば、或は人からなにかを奪う時、せめて慎ましくありたいと思っているから。申し訳ない、という態度を忘れたくない。それで命を奪われた少女が或を許すかと問われたら、甚だ疑問ではあるけれど。
 何匹もの幻光虫が並べられた石の上を歩く。まるで追悼の意を表すかのように、少女が救われることを祈っているように、ぽつりぽつりと集まってくる。その光景は幻想的で……少し哀しい。
「……僕と君は違うと言ったけれど、いつか奪い返されるのは僕も同じだろう。君には嫌われてそうだから、できれば地獄で会いたくはないな」
 等と或が口にすれば、ひらりと舞い上がる幻光虫たち。この声が届いているのか、だとしたらもう一言二言、言ってやろうか。
「大体、足りないくらいだよ。君は9人から奪った。そして自分は1回しか死んでない。釣り合いが取れないよね。それに……君が死んだからって、君が喰らった9人は帰ってこないんだ。永遠にね。それなのに君ときたら、骸の海で再びこの世界に現れる時を待っているんだろう? 不公平だ」
 唇を尖らせる或。返事はどこからも返ってこない。大木に群れる光たちが、或の周りにふよふよと漂っては去っていく。否定も肯定もない。でも、それでいい。結果としてこの砦が救われたこと、それに間違いはないのだから。
「じゃあね。――」
 そういえば名を聞く暇も無かったなと思い出し、しかし名前くらいは奪わないでやろうと、或は静かに砦へと戻った。其処では喜び、哀しみ、賞賛、後悔……色んな感情が渦巻いていたのを、或は忘れない――。
大成功 🔵🔵🔵

蛇塚・ライム
……神のご加護、ね
私、神様のせいで人生メチャクチャになったのよ

それに実は私、この間まで悪い神様だったの
――って言ったら信じてくれるかしら?
(元生贄の若者に微笑みかけながら

カマドGを砦の広場に顕現させて、砦の住人たちと交流するわ
どこの世界も鋼鉄の巨大ロボは注目されるはずよ

集まった住人たちへ、私から話を

心の拠り所を求めることは間違っていないわ
この不条理な暗黒の世界ならば尚の事よね

でも、忘れないで
神様は直接あなた達に施してはくれないの
自分達を救うのは、いつだって自分達の努力の賜物よ
故に、これからは自衛手段を考える必要があるわ

さしあたって砦の強化ね
今回の襲撃で損壊部分は?
カマドGで補強工事を申し出るわ



 今回の贄となるはずだった若者が神に祈る中、隣に立ったライムは皮肉めいた口調で話しかけた。いや、ライムの生い立ちを考えれば実際多少の皮肉も混じろうというもの。
「……神のご加護、ね。私、神様のせいで人生メチャクチャになったのよ。それに実は私、この間まで悪い神様だったの――って言ったら、信じてくれるかしら?」
 ニィと口角をあげるライムに、若者はなんとも言えぬ顔をした。この少女が神だったというのも、神が人の人生を狂わせるのも、信じがたい様子で。その反応に声も出さず笑って、大聖堂を後にするライム。信じるか信じないかは、全て誰か次第なのだ。
 砦の広場にカマドGを顕現させれば、住人はわらわらと集まってきた。特に子供とその親が。どこの世界でも鋼鉄の巨大ロボは童心を擽らせるのか、子供たちは「なにこれー!」「でっかーい!」と騒いだりカンカンとカマドGを叩いてみたりしていた。
 交流するにはもってこいの状況になった。砦の未来を担う子供と、その彼らを育む保護者たちへ、ライムはカマドGの肩に乗って熱弁する。
「みんな、聞いてくれる? 心の拠り所を求めること、それ自体は何も間違っていないわ。この不条理な暗黒の世界ならば尚のことよね」
 でも、忘れないで。先程まで朗らかだったライムの表情が、声音が、真剣なものに切り替わる。子供たちは相変わらずカマドGの周りをまわったりしているけど、保護者たちもまた真摯に言葉の続きを待つ。
「神様は直接あなた達に施しを与えてはくれないの。自分達を救うのは、いつだって自分達の努力の賜物よ。故に、これからは自衛手段を考える必要があるわ」
 納得したようにこくんと頷く保護者たち。しかし、自衛といっても何が出来るだろうか。今回の一件で砦の一部は壊れてしまったし、暴れずとも強力な敵が現れたら抗うことなど到底出来やしない。住民たちがあーでもないこーでもないと言う中、ライムは率先して指揮を執る。
「さしあたって砦の強化ね。今よりもっと堅牢で、尚且つ目立たないようにするのが良いと思うわ。今回の襲撃での損壊場所は? そこから補強工事をしていきましょう」
 このカマドGがね! と付け加えれば、子供たちは「わーっ!」「すごーい!」と目を輝かせる。ライムも自慢のスーパーロボットがこんなに人気なら、悪い気はしない。しかし、動くにあたっては危ないので「みんな退いてー!」と指示しながら、損壊箇所に向かう。
 石と木で出来た簡素な砦だ。これでコンクリートでもあればどんなに楽で丈夫なものが作れたか悔やまれるが、元来その世界にないものを持ち込んで生態系を崩すのは宜しくない。ライムとカマドGはこつこつと丁寧に、石垣をくみ上げ、ついでに家屋の修理もしてまわったとか。
 助けてくれない神様より、助けてくれる人間の方が余程ありがたいと実感した住民達だったとな――。
大成功 🔵🔵🔵

リーヴァルディ・カーライル
…どうやら無事に終わったみたいね

…ならば後は10人の犠牲者の魂を鎮めるだけ

…後少しだけ、この大聖堂を使わせてもらうわ

左眼の聖痕に魔力を溜めてメルスィン・ヘレルの魂を暗視し、
大鎌に降霊した9人の犠牲者の魂を解放しつつUCを発動
彼らの魂を浄化し"光の精霊"化して召喚する

…このまま現世に死者の霊魂を残しておく事はできない

…だけど、残された人達に別れの挨拶をする時間ぐらいはあるわ

…どうか心安らかに眠れるように、最期の時を過ごして来て

全て終わったら大聖堂で祈りを捧げるわ

…死という罰を受けて貴女の罪は赦され、その魂は浄められた
最期は悪魔としてではなく人として神の御許に向かうが良い



 少女の肉体は灰となり土に還った。では魂は、一体どこへ向かうのだろう。天国か、地獄か、再び骸の海か。それともどこにも行けずこの世を彷徨うのか。リーヴァルディは大聖堂の中央、神を象った像を見上げる。
「……どうやら無事に終わったみたいね」
 ならば後は、9人の犠牲者の魂を鎮めるだけ。あと少しだけ、この大聖堂を使わせて貰うことにする。左目の聖痕に魔力を溜めて、メルスィンの魂を暗視し、大鎌に降霊させた9人の犠牲者の魂を解放する。彼らの魂を浄化し、光の精霊と化してこの世に再び呼び戻す。
 ――このまま現世に死者の霊魂を残しておく事はできない。……だけど、残された人達に別れの挨拶をする時間くらいはあるわ。……どうか心安らかに眠れるように、最期の時を過ごして来て。
 リーヴァルディの計らいに、光の精霊たちは幻光虫に紛れてふわっと大聖堂を飛び出した! 向かうのは家族の元、恋人の元、大切な人の元。ユーベルコードによって昇華された魂は24時間継続する。その間に、束の間だけど安寧の時を過ごして欲しいと思った。犠牲となった9人の為だけじゃない、その彼らが向かった先の者にとっても、大事な時となるはずだから。
 己にやれることは終わったと、リーヴァルディは大聖堂、神象の前に跪き祈りを捧げる。それは9人の犠牲者、怯える日々を過ごした住民、そしてメルスィン、この砦で起こった出来事に関わる全ての者に対しての祈り。
「……死という罰を受けて、貴女の罪は赦され、その魂は浄められた。最期は悪魔としてではなく、人として神の御許に向かうが良い」
 リーヴァルディは、メルスィンの魂が天国へ行くことを望んだ。哀れみでも、神へ責任を押し付けたわけでもない。本心からメルスィンが救われることを願って。幻光虫が一匹、リーヴァルディの指に止まる。小さな光だ、あっけない程弱弱しくも、沢山集まれば照明になる程度の光はある。
 この虫を、メルスィンは嫌がることもなく受け入れていた。それはきっと、本来光の中で生きたかったからなのだろう。物理的な光に限らない。日陰者な暮らしではなく、誰かに必要とされたり、受け入れてもらえたり。そう言った人の心の灯火に、メルスィンは触れたかったのかもしれない。
 ――同情はしないわ。貴女から先に、人間を裏切ったのだから。貴女に本当に必要だったのは、対話だったのでしょうね。カッとなることなく、ただ「果実と水を」の一言があれば良かった。そうすれば今頃、また違った未来があったのでしょう。
 もう何もかも遅すぎるけど。メルスィンを討ったところで犠牲になった9人が蘇るわけでもない。リーヴァルディ達猟兵は、悩みのタネを解決したに過ぎず、あと出来る事と言えば、住民の心に寄り添うくらい。でも、それで良い。それで贄より救われた人間が、心の傷を癒され救われる人間が、数多く居るのだから――。
大成功 🔵🔵🔵

レティシア・ヘネシー
ギャング達と共に砦の復興の手伝いに尽力した後、大聖堂に戻ってあの子の亡骸があった場所にゴロンと寝転がる

正直かなり悔しい。本当はあの子に手を取って欲しかったな、と

ふと、神に祈りを捧げているであろう青年と目が合う。青年はレティにお礼と共に「貴女達は神からの遣いだったのですね」なんて言葉をかけてきた

思わぬ言葉に返答に困る。よりによってレティに言うのね

気まずくてしどろもどろになってると、ふとあの子と話していた時の困り顔が思い浮かぶ。あの子もこんな気持ちだったのかもしれない。ちょっと悪い事しちゃったかな

青年に零す。本当はあの子も助けたかったと

もし生まれ変わりがあるのなら、

次こそはちゃんと友達になりたいな



 砦の復興の手伝いにスクラップギャング達を回し、自身も忙しなく動き回った。材料集め、資材を切ったり組み合わせたり、石垣を積み上げたり。一日やそこらで終わる量じゃないと踏んだレティシアは、一息吐くために大聖堂に戻る。そしてメルスィンの亡骸があった場所へ、ゴロンと寝転がった。
 ――正直、かなり悔しい。本当はあの子に手を取って欲しかったな。
 と、思わずにはいられない。レティシアの全身全霊の本心は、メルスィンの心に少しでも届いたのだろうか。結果としては相容れなかったけど、本当はメルスィンだって、もう後に退くことなんて出来なくて、半ばヤケになっていたのかな、とも考える。
 ぐるぐると渦巻く思考。その時、神に祈りを捧げていた若者と目が合った。若者はレティシアに感謝の意を述べると共に、意外な一言を投げかけてきた。
「貴女達は神からの遣いだったのですね」
「…… ……」
 思わぬ言葉に返答に困り、返事が出来ない。よりによって、レティシアに言うとは。気まずくてしどろもどろになっていると、ふとメルスィンと話していた時の困り顔が思い浮かぶ。
 ――あの子もこんな気持ちだったのかもしれない。ちょっと悪い事しちゃったかな。
 レティシアはぽつりと若者に零す。「本当はあの子も助けたかった」と。若者は驚いて目を見開くも、勝手に何か納得したのか、「それが神の遣いである貴女方の意思なれば」と答えた。悪魔すらも救済する、それが神の御意思なら従っていた、ということなのだろう。
 全員の総意ではないかもしれないけど……少なくとも、レティシアにとってはそうだった。ひとりぼっちで人間を諦めた少女に、何かしてやりたいと思って辿り着いたのが、友達になることだった。
「もし生まれ変わりがあるのなら、次こそはちゃんと友達になりたいな」
 若者は「流石言うことが違いますね」なんて感心していた。冗談で言ってると思われているのだろうか。だとしたら失礼な。レティシアは本心からそう願っている。寝転んだまま手を天に向け、ぐっと握りしめた。これは決意の証。二度とこんな悲しい事件が起こらないように、起こったとしても、相手を救えるように、と。
 拳に幻光虫が2~3匹寄ってくる。淡い光がレティシアの決意を応援しているようだった。改めて上を見る。大聖堂の上方には、沢山の幻光虫が集まって、光のカーテンを生み出していた。奇しくもそれは戦闘開始直後と同じ光景で、レティシアは少し、哀しくなる。
 でも、此処で立ち止まっているわけにはいかない。世界にはレティシアを求める声が至る所にある。それはオブリビオンの声かもしれないし、助けを求める無辜の民のものかもしれない。それらにも耳を傾け、話が通じそうなら出来るだけ話そう。何も言わず、ただ痛めつけるなんて、レティシアの流儀じゃない。
 「私は人間じゃないから。ただの人間よりは話せるよ!」、そう笑顔を浮かべる日も遠くない――。
大成功 🔵🔵🔵

白峰・歌音
(聖堂の中を見据えながら、まだ痛みが残ってる部分に手を触れて)メルスィン、お前の痛みと想い、受け取ったぜ。
もし生まれ変わるって事があるんだったら、やっぱりこの世界で生まれるんだろうか?
もしそうなら…次はこんな悲劇の連鎖が起きないような世界にして見せるぜ?
人間だったら、優しさを分け与えられるような余裕がある、そうでなかったら…優しさをもらえるような温かい世界に。神に祈らなくてもみんながみんなへ救いを紡げる世界に。
お前の無念を、この世界を暗く覆った奴にぶつけてみせるからな、必ず。


アドリブ・共同OK



 聖堂の中を見据えながら、まだ痛みの残る部分に手を触れて、歌音はきりっと神の象を見上げた。そしてじっとりとその痛みと共に想う。
 ――メルスィン、お前の痛みと想い、確かに受け取ったぜ。
 もし生まれ変わることがあるのなら、やはりこの世界で生まれるのだろうか。この陽光のない、常闇の世界で。誰もが等しくひもじく、特権階級と称する支配者たちだけが潤うこの冷えた世界に、また。
 ――もしそうなら……次はこんな悲劇の連鎖が起きないような世界にして見せるぜ? 人間だったら、優しさを分け与えられるような余裕がある、そうでなかったら、優しさをもらえるような温かい世界に。神に祈らなくても、みんながみんなへ救いを紡げる世界に。
 歌音の言う事は半分は正しいが、半分は間違っている。人は同情や憐れみから、または愛しさや下心から優しさを向けることはある。しかし、それは相手を見下している時だ。相手が圧倒的強者であった場合、その優しさは畏怖へと変わり、人は従属の道を選ぶ。
 だから今回起こった悲劇も、少女が『悪魔の姿』をしていたから人々は恐れ戦き、話を聞くことすらせずただ拒絶した。そのショックは、哀しみは、メルスィン本人にしか分からないだろう。姿の違いが、こんなにも会話を困難にさせるなど、思ってもいなかったはずだ。
 ――弱い者ほど徒党を組む。当たり前だよな、一人でいるより寂しくない。隣で笑い合える仲間がいるってのは、それだけで心強い。お前にも、そんな仲間がいたなら、あるいは……。
 もしもの話だ。既に起こった出来事に対して、ifに意味はない。明瞭な事実が、此処に深い爪痕を残していったことは明白。
 住民は再び、安らかな夜を過ごせるようになるだろう。でも、油断してはいけない。死は、悪意は、無邪気な暴力は、この世界のどこにでも存在している。それらに立ち向かえるよう、住民を指導するのもまた猟兵の役目。
 その場を走り出した歌音は、砦の復旧作業を行うみなのもとへ駆ける。今自分に出来ることといえばそのくらいだから。でも、いつか。
 ――お前の無念を、この世界を暗く覆った奴にぶつけてみせるからな、必ず。
 誓いを立てて、歌音はもういない少女を想いながら復興を手伝った。猟兵が居る分人手は増えたが、損壊は大きい。特にこの美しかった大聖堂の飛び散ったステンドグラスなんて、直すのにだいぶかかるだろう。それでも住民は、屹度この大聖堂を元の姿に戻すのだろうと思った。
 神の遣い、なんて烏滸がましいけど。住民の中には自分たちのことをそう思っている者もいるようだから。夢は壊さないでやろうと、その話題を振られてもうんとも言わずはぐらかし、手を動かす。何かやってなきゃ、この空虚は埋まらない――。
大成功 🔵🔵🔵

セツナ・クラルス
……終わった、のかな
戦いが終わったという実感が湧かず
彼女が今までいた場所を見つめ

砦の若者の声に我に返って
取り繕うに微笑みを浮かべて
彼の姿が見えなくなるまで見送ろう

…また、生き残ってしまったね
きみを失い、きみを得た時
人々に光をもたらせると誓った感情に偽りはない
だけど、いつ掻き消えても構わない…という気持ちも本心なのだよ…

だから、自分の身を投げ出すような戦いをするのかもしれない
危険であればある程、自分の生を実感することができ、その瞬間がいっそ愉しいとすら感じてしまう…

『博打打ちが相方になっちまうと大変だな
まあ、オレがいる限り死なせねぇからさ』

…うん、死なないよ
きみと生きると決めたのだから



 戦いが終わったという実感が湧かず、少女が今までいた場所を見つめるセツナ。ぽつり、零れた「……終わったのかな」という呟きに、誰からも返事はない。戦いは確かに終わったが、しかし、少女を救うことは最期まで出来なんだ。
「もし、勇者さま」
「え、あ――私かい?」
「勿論! 今回は本当にありがとうございました。お陰で私は……この砦は救われました」
「……」
 若者の声に我に返り、かけられた言葉に取り繕うように微笑みを浮かべ、若者が去ってゆくのを見送った。勇者、だなんて。そんな称号、私には相応しくないと、セツナは白手袋の上から指を噛みしめる。確かに『悪魔』を一体倒しただけで多くの命が救われたけど、数の問題ではない。
 セツナは今回の戦いを振り返る。思えば、ギリギリの橋を渡ったものだ。相棒もよく反応してくれた。
 ――……また生き残ってしまったね。きみを失い、きみを得た時、人々に光をもたらせると誓った感情に嘘偽りは一切ない。だけど、いつ掻き消えても構わない……という気持ちも本心なのだよ。
 だから、自分の身を投げ出すような戦いをするのかもしれない。危険であればある程、自分の生を実感することができ、その瞬間がいっそ愉しいとすら感じてしまう……。この感情は罪か、愚かか。自問自答しても得られるものは何もない。その代わりにゼロが応えてくれる。
『博打打ちが相方になっちまうと大変だな。まあ、オレがいる限り死なせねぇからさ』
 その言葉に静かに頷くセツナ。ゼロが言うなら間違いない。と、セツナはゼロに全幅の信頼を寄せているから。だから、死なない。死ねない。
 ――きみと生きると決めたのだから……これからもよろしく頼むよ。
 お願いするセツナにゼロはクククと笑って、セツナの背を叩く。そこには「当たり前だろ」と「なにを今更」が混じっていて、ゼロは面白くなってしまったのだ。セツナもまたその心意気を受け入れ、ほわっと柔らかい……本物の笑みを返す。
「ありがとう、ゼロ。当分死ぬ心配はなさそうだね。今度はもっと大胆にいこうか」
『馬鹿言え、フォローする方の身にもなれってんだ。今回だって結構危なかったんだからな?』
「はは、それでも何とかしてくれるのがきみだろう」
『世辞で浮かれるようなタマじゃねーぞ、オレは』
 そんな軽口を叩いて、大聖堂を後にする。砦の中は少女の遺体を燃やした後の独特の匂いが、瓦礫の誇り臭さに消されていくようだった。少女が今度生まれた時は寂しい生を送らないで済むように……セツナは心の中でひっそりと祈った――。
大成功 🔵🔵🔵

リンタロウ・ホネハミ
さぁて、砦の皆さん。話をしようじゃないっすか
悪魔になってしまった少女の話を、オレっちの知る限りっすけどね

まあ、そりゃあそんなもん今更知りたくもねぇってなるっすよね
そんなの一々気にする余裕なんざこの世界にゃないっすし
もし最初からあのお嬢さんのことを知っていたとして、何も変わらなかったかもしれないっすし

それでも、あのお嬢さんの話を聞いて
もし出会い方が、接し方が違えば何かが違ったかもしれないと思ったのなら

どうか、墓を立ててやってはもらえないっすかね
1人の不幸な少女の墓を、その悲劇を忘れないためにね



 砦の住民が灰となった少女の周りに集まり、じっとそれを眺めているなか。リンタロウは誰に対するわけでもなく、全体に行き渡るような声で言の葉を紡ぐ。砦を守った勇者の有難いお言葉だと、皆顔を灰からリンタロウへと向けた。
「さぁて、砦の皆さん。話をしようじゃないっすか。悪魔になってしまった少女の話を、オレっちの知る限りっすけどね」
 予知で見させられた光景を思い出しながら、ひとつひとつ少女の生い立ちを語る。人のふりをしていたこと、先祖返り、人でありたかったこと、本当は人間など食べなくても生きていけたこと、性根はただの『女の子』であったこと……。
 住民は話を聞きながら憐れむ者もいれば、当然の報いだと言う者、悪魔であることに変わりはないと事実だけを見る者と様々だった。そして――今それを知ってどうなるとも。
「そりゃあこんなもん今更知りたくもねぇってなるっすよね。そんなの一々気にする余裕なんざこの世界にゃないっすし。もし最初からあのお嬢さんのことを知っていたとして、何も変わらなかったかもしれないっすし」
 その通りだ。実際少女の本性を知ったとしても、人間はそう簡単に自分達と異なる者を受け入れられるようには出来ていない。それは猟兵に対しても同じだ。砦を、贄を助けてくれたことに感謝こそすれど、芯から信用できるかと言われたらそうではない。謂わばポっと出の勇者だ、敵ではないが味方かは分からない。
 だからこそリンタロウは住民に問う。彼女は悪魔であったが、『悪』であったかと。人を喰らう行為は『善』とはならないこの世界で、それでも善の反対は果たして本当に悪なのかを。
「私たちはどうするのが正解だったのでしょうか」
 そんな疑問の声に、リンタロウはぐっと伸びをして回答を――いや、この場合指針か――を示す。
「正解なんて、どこにもないっすよ。既に起こった出来事に「もしも」は無意味っす。それでも、あのお嬢さんの話を聞いて、もし出会い方が、接し方が違えば何かが違ったかもしれないと思ったのなら……どうか、墓を立ててやってはもらえないっすかね」
 一人の不幸な少女の墓を、その悲劇を忘れない為に。これには住民は賛否が分かれた。リンタロウの話を聞いて同情した者からは「墓くらいなら」と声が上がるし、未だ悪魔の恐怖に怯える者は「不吉なものを残したくない」と言う。そのどちらも正しい、間違いではない。
 リンタロウは結論は住民に委ねた。砦長が決めるでも、多数決でも、犠牲者家族の意見を参考にするでも、何でも良い。ただ、出来ることなら弔いの場があればと願うだけ。そこに毎日花を活けろとか、そんな事を言う心算は更々ない。
 ――お嬢さん、あんたの行動は、確かにこの砦の住民の心を動かしたっす。良い方向にも、悪い方向にも。
 そう考えながら、そっとその場を立ち去る。議論が白熱するのは、人々が生気を取り戻した証――。
大成功 🔵🔵🔵