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科学者執念物語・ 永遠なれ未完の恒星よ!

#アポカリプスヘル #恒星エンジン #大団円 #猟兵の本気

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●それは、犠牲の上に見る夢物語。
「まあ元の約束はそういうものだったし君の言う事も理解できるけどそれじゃあ余りにも勿体無いじゃないかと思うのさ僕はね?」
 区切りなく滔々と語るのは年若い、少年とも少女ともつかぬ風貌である。
 身の丈に合わぬ白衣にぶ厚い眼鏡、何とも言えぬ暗い笑みを浮かべたその者を対面に、チャラポラ・ンン博士はしかめっ面を取り繕うでもなく腕を組む。
 そんな彼の服装は黄ばんで古ぼけているが、元は白だった事に疑いようのないタキシード姿である。
「もう一度考え直してくれないか時間ならばあるだろうしそう、むしろ時間を早めて欲しいぐらいなのだけど」
「時間は変えんし記録は全て破棄する。それに、どうせお前の事だ、どこかに複製を置いてあるんだろう?」
「もちろん」
 悪びれもなく答えたその者に、チャラポラ博士は苦い顔をして、気に食わないと視線を逸らす。
 立ち上がった博士を目で追って、どこか親しげな笑みを浮かべつつ、眼鏡を白衣で拭く。粗雑な扱いだ。レンズにも細かい傷があり、道具にも無頓着な性格が見える。
「君に夢を叶えて欲しいだけなんだ僕はね、そう、友達でありたいと思っているだけなんだよ。
 ただ、友達と言うからには少しくらい、ワガママを聞いてくれてもいいじゃあないか」
「お前には感謝している。友情の対価など、それで十分だろう」
 まあ、同意見だけれどね。
 博士の言葉に暗い笑みを浮かべたままで、眼鏡を頭に乗せる。
 と。
 二人の話す客間に呼び出し音が鳴り響いた。壁面に飾られたモニターには、訪問者である虫のような風体の歩行戦車が映る。
 背中の装甲を開き、サブアームからお盆と湯気立つコーヒーカップを掲げて。
『博士のオトモダチ! コーヒー持って来ーたよー』
「ああ、いたね、こんなのも」
 画面に映ったそれを興味も無さげに呟いていたが、はたと気づいて博士へ向き直る。
「コーヒー豆とタニシの区別がつかない個体らしいじゃあないか君が直したとも聞くけど他にも不具合があったら大変だし直してあげようか、僕が」
 博士は舌打ちして壁面の受話器を手に取ると、「いないのかな?」とカメラを覗きこむ歩行戦車を怒鳴り付けた。
「しばらくここには来るなと言っただろう、早く帰れ!」
『えっ、でも今日のコーヒーは美味しそうだよ?』
「知らんわ馬鹿たれ!」
 受話器を叩きつけて通信を切ると、すごすごと引き返す歩行戦車の後ろ姿が画面に映る。
 どうせなら飲んでみたかったが、そう嘯いて白衣の者はソファから飛び降り、眼鏡をかけ直した。
「それじゃあ、僕は行くよ。最後の出迎えがあるしね。君が心変わりしてすぐにでも実験を始めてくれることを願っているよ」
「…………、すまんな」
「いいよ別に。番によろしく言っておいてよ」
 白衣の言葉には答えず、一人になった部屋で机に置かれた写真立てを手に取る。
 綺麗に掃除されたそれは、すっかり色褪せてしまった写真に輝く笑顔を見せた女性とエコー写真が貼り付けられていた。

●夢の終わり。
 集まった猟兵を前に、事態は深刻だとタケミ・トードー(鉄拳粉砕レッドハンド・f18484)はホワイトボードにペンを打つ。
「アポカリプスヘルの中で、最近トラブルの多い拠点付近にある巨大農場の防衛を頼む」
 タケミが記した巨大農場は所々崩れているものの防壁に囲われ、少しは防御能力があるだろうと告げる。
 更に付け加えるならばと、農場を見下ろすように設置された環状実験施設。
「こいつが起動すればかなりの熱量を発散してな、冬でも農作物を育てるのに十分な温度を確保できる訳だ」
 ならばこれを破壊されるのは農場にとっても痛手になるだろう。そもそも、破壊されてしまうと瓦礫やら内容物やらで畑が汚染されてしまうのだが。
 この巨大農場を目指すオブリビオンは大規模な数が予想される、アポカリプスヘルでも災害の一種と捉えられている存在だ。
「その名もヤドトリ。まあ、ヤドカリみたいなもんだが中身は害獣だな。
 雑食で単体でも繁殖する上に知能が高い。人間の扱う道具も理解して使用する厄介者だぞ」
 もちろん、人も彼らの食糧だ。拠点を襲い大量に繁殖しながら十分に育った個体が、他の個体と共に移動できるよう改修した拠点の一部を背負ってコロニーを形成する。
 そうやってこの荒野を食い潰し繁殖している。畑を襲えば次の目標は、延長線上にある拠点となるだろう。
 だが。
「この拠点に重大な問題が発生している。いや、しようとしている」
 今現在、同盟を組んだ拠点と共に技術を育む天才と呼べる程の科学者。彼は己の夢の為に様々な実験を行い、その都度危険な目に遭いつつも前進してきた。
 しかし。
「何処で知り合ったのか分からんが、オブリビオンと面識があったみたいだな。
 そう考えれば今まで襲われて来たのも、博士の手引きかもしれないぜ。オブリビオンをけしかける事で猟兵の介入による問題の排除と技術の入手、そして自分たちの存在を悟らせないようにしてきた訳だ」
 問題は。猟兵が現れなければ自分の命すら犠牲になっていたであろう作戦を強行したチャラポラ・ンン博士の決意にある。
 今までの実験も、猟兵がいなければ多大な被害を出したであろう事、そして今回の件も含めて、彼は自身の夢の為ならばその命を惜しみはしないだろう。
 他者の犠牲など構う様子もない。
「博士の実験は恒星のエネルギーを手中に収める事、それほどの力を持つ動力炉の発明だ。
 そんな代物、技術だけで完成するはずはないし、アポカリプスヘルなんて劣悪な状況なら言わずもがな、確実に失敗する」
 彼の最後の実験施設は拠点の地下に建造された。レイダーたちに、そして猟兵たちに見つからぬよう造られたのだ。
 これまでの実験でも規格外のエネルギーを生成している代物ばかりで、そんなものが拠点地下で暴走してしまえばどうなるか。
 拠点周辺地域は崩落し、人的被害も避けられないだろう。
「…………、依頼内容は三つ。オブリビオンの脅威を排除し、博士の実験施設を破壊し、博士を排除するんだ」
 答えを決めた人間は、覚悟を決めた人間である。この実験を止める事は出来るだろうが、それだけで彼を止める事は出来ない。例え手足を奪われようと命ある限り、彼は自らの大願達成を諦めないだろう。
 もはや、博士の存在はオブリビオンに並ぶ脅威なのだ。
「博士は、何故かすぐに実験をするつもりはないようだ。オブリビオンの排除後は拠点の住人と交流してくれ。
 博士のいなくなった後も、彼らが前へ進めるようにな」
 タケミの言葉に戸惑う猟兵たち。だが彼女の言葉通りの選択をするかは彼らが決める事だ。
 その結果、その先の道を、誰も知らないのであればこそ。


頭ちきん
 頭ちきんです。久々のシリアスシナリオです。
 でも前半戦はコミカルにいきましょう。
 前回シナリオと共通した人物が登場しておりますが、特に気にする必要はありません。
 アポカリプスヘルの拠点と農場に迫る脅威を排除しましょう。
 それぞれ断章追加予定ですので、投稿後にプレイング受付となります。
 それでは本シナリオの説明に入ります。

 一章では集団戦となります。巨大農場に迫るヤドトリの群れを粉砕して下さい。割りとヤベー奴等なので確実に駆除しましょう。
 農場は崩れかけとは言え、防壁に囲まれており易々と突破はされないでしょう。正し、砲撃を行う個体がいるので注意してください。
 また、近くの拠点から戦力が派遣されます。断章にて詳しい説明を行いますので上手く活用して下さい。
 二章ではボス戦となります。ヤドトリの群れに乗じてやって来た諸悪の根源を粉砕して下さい。
 拠点戦力では対応できないので注意しましょう。
 三章は拠点の住民との交流を行います。交流後、拠点地下の実験施設を破壊して下さい。
 詳細は断章にて説明致しますが、その後の行動は各参加プレイヤーの皆様次第です。博士から色々と話を聞けるかも知れません。

 注意事項。
 アドリブアレンジを多用、ストーリーを統合しようとするため共闘扱いとなる場合があります。
 その場合、プレイング期間の差により、別の方のプレイングにて活躍する場合があったりと変則的になってしまいます。
 ネタ的なシナリオの場合はキャラクターのアレンジが顕著になる場合があります。
 これらが嫌な場合は明記をお願いします。
 グリモア猟兵や参加猟兵の間で絡みが発生した場合、シナリオに反映させていきたいと思います。
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第1章 集団戦 『ヤドトリ』

POW   :    これがボクたちのちからだーっ!
【動きは遅いが一族一丸となって頑張る】突進によって与えたダメージに応じ、対象を後退させる。【超巨大な移動拠点を背負ったヤドトリ】の協力があれば威力が倍増する。
SPD   :    シューリもカイゾーも任せろーっ!
【改造修理用器具】が命中した対象を治療し、肉体改造によって一時的に戦闘力を増強する。
WIZ   :    でんぱゆんゆんっ!
【脳から発する会話用思念波】から【お涙頂戴の作り話、実話や関係ない豆知識】を放ち、【対象にさせる強制的ツッコミ】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●ワサワサくるコワいヤツ!
 わさわさ、わさわさ。
 崩れかけた防壁に囲われた巨大農場。環状実験施設を戴くそこを目指してやってくるのは、ヤドカリ、ヤドカリ、ヤドカリの群れである。
 見渡す大地を埋め尽くす、彼らの恐るべき姿は見る者を震え上がらせた。小型に分類するならば幼児程の大きさから五歳時程度、中型ともなれば成人男性と並び、大型となれば熊などの野性動物程の大きさだ。
 そんな彼らに見合う貝のヤドは無く、故に彼らは鍋やら犬小屋やら、果ては人骨までもヤドとする。その数の暴力で奪い取り、故に彼らはヤドトリと呼ばれた。
 歩行速度は大したものではないが、着実に進む生命の波はそれだけで恐怖である。
 その最奥に控えるは巨大な要塞。否、要塞を移動可能なヤドへと改造し背負う怪獣クラスのヤドトリである。
 要塞内部にも残る人骨をかじり、あるいは道具を改造するヤドトリたちがいた。
(ねー、なに読んでるのー?)
(よぐわがんね)
 発声器官の持たない彼らは脳から会話用の思念波を発する。そこで会話をしているのは、『科学者執念物語』と書かれた本を読み漁る小型のヤドトリたちであった。
 誰が書いたんでしょうね。
(ほう、……恒星エンジン……ですか。大したものですね)
(つまりどういうことだってばよ?)
(星の力が手にはいるけど、失敗したら大爆発するんだって)
(なるほど、おいどんは博打好きでごわす。みんなで造れば怖くないでごわす)
 こいつらの思考回路よぐわがんね。
 つまり彼らの読み漁っている書物は、チャラポラ・ンン博士が心血注いで作り上げた『D2転用iADS』の設計図となっているのだ。
 理解力の高い上に好奇心の強いヤドトリたちは、すでに造る気に満ち満ちている。爆発してもトライアンドエラーの精神だ。
 お前ら大量発生生物とは言え命を軽く見るなよ。
(そもそもここの設備で作れるのー?)
(よぐわがんね)
(足りないのは代用品を使えばいいんだよ!)
(必要あるか試しに作ってからでいいんじゃない?)
 先人の知識を自分から溝に捨てていくスタイル。気持ちは分かるが彼らが自爆する分には脅威が減るからいいだろう。問題は自爆テロになる事だ。
 彼らの目指す先、資源を求める先に命はあるのだ。


●ひえっ、やって来た食用品っ!
 迫り来る大災害を前に、巨大農場を所持する拠点から、そして同盟を組んだ拠点から戦力が派遣された。
『いっぱいだねー』
『ねーっ!』
 なんか思考レベルがヤドトリと同程度だぞ?
 人工知能を搭載した歩行戦車が二体、巨大農場の防壁に取り付いている。芋虫のような彼らは壁も問わず張りついて尻尾部分の装甲を展開、機関砲などを群れに向けていた。
 また、農場を前に控えるのはこの二体と似た歩行戦車、内の一機はやたらと目立つ黄色である。
『みんな頑張ろうねーっ!』
『僕、運ぶことしかできないよ?』
 頭の上に『空車』と書かれた小さな電光掲示板を乗せて、黄色の歩行戦車はやる気はなさげだ。そもそも戦車ってなんぞや。
 彼らの横に控えるのは、拠点住民たちである。多くの人々が農具、あるいは工具を持ち固唾を飲んで敵の行方を見守る中。肌寒いこの時節にも世紀末ファッションを止めぬ者たちが、不適な笑みを見せた。
「ヒャッハーッ! カニだぜ兄者ァ、腐るほどのカニがやって来やがったぜ~っ!」
 モヒカンその一。
「ギヒィイ、涎が止まらねーよぉおっ!」
 モヒカンその二。
「まあまあ落ち着け弟どもよォ。新たなオトモダチも増えた所でこの『力瘤三兄弟』、張り切ってカニ狩りしてやるぜぇぇ~っ!!」
 モヒカンその三。
 いつもならば丸刈りにしてかち割りたくなる頭も、今回ばかりは頼もしい。棍棒を持つ彼らの屈強な体はヤドトリに対しても壁として活躍できるだろう。
 迫る強大なオブリビオンを前に、拠点の住民たちは結束を始めていた。

・集団戦となります。後方の超巨大ヤドトリがたまに砲撃してきますが、「まー撃っときゃえーやろ」程度の命中精度です。
・超巨大ヤドトリ内には死体も沢山ありますが、資源物資も多く貯蔵されているので上手く倒せば拠点活性化に繋がります。
・ヤドトリは単体でも繁殖する凶暴な生物です。確実に排除して下さい。
・また、二つの拠点から戦力が派遣されています。下記紹介文ごとに一単位として、各参加プレイヤーが利用可能です。上手く活用して下さい。
・派遣戦力の被害でシナリオの成否に影響が出る事はありません。

派遣戦力(プレイヤーキャラクターごとに一単位利用可能)
デッカイザーズ
二機の武装歩行戦車を利用できます。範囲攻撃に有効なミサイル装備、ガトリングガン装備となります。反面機動力が低く、ヤドトリに取りつかれると抵抗できずに解体されます。
防御モードで時間稼ぎが可能です。

タクシーダー
黄色の戦わない歩行戦車です。戦わないのでヤドトリも攻撃してきません。食べ物をあげれば敵陣にも運んでくれますが、使用方法を見られるとヤドトリに悪用されます。
予約車としてご利用下さい。

ヨスミ村の歩行戦車
鬣の装甲がついた歩行戦車です。武装はありませんが回避力が極めて高く、中型どころか大型のヤドトリも突進で蹴散らします。
人、武装、爆発物など各種運搬が可能です。

力瘤三兄弟
拠点住民の中でも近接戦に優り屈強で、小型ヤドトリ程度に囲まれても問題ありません。中型に囲まれると対応仕切れなくなるので注意しましょう。

拠点住民
鍬などの農具や、ハンマーなどの工具で武装した拠点住民です。腐るほどいますが小型ヤドトリと同じ程度の戦力なので、直接対決は腐るほどの被害が出ます。
また、掘削用の爆弾なども所持しており、道具だけ借りて他の派遣戦力に持たせる事も可能です。
アリス・ラーヴァ
アドリブ・連携歓迎

ええー!?ここには雑食で単体でも繁殖する上に知能が高く人間の扱う道具も理解して使用して人間を食べるモンスターがいるのー?
そんな凶暴なモンスターが沢山いるなんてこわーい!
食べられないよーに気をつけないとー

まずは妹達を沢山呼んで、【ダッシュ】で真正面から敵群を押し返すのー
小型種は踏みつぶして【捕食】、中型種以上を体当たりで押し返して自慢の鋏角の【鎧砕き】で切り裂くのよー
敵を押し留めたらデッカイザーズさんやアリスに【騎乗】して貰った拠点住民さん達のミサイルや爆弾で一気に吹き飛ばすのー
大型種?幼い妹達が【トンネル掘り】で地中から【不意打ち】で取りついてヤドの中から食い散らかしましょー



●開幕、怪獣大戦争!?
 わさわさ迫るヤドカリ、もといヤドトリの群れに、住民たちはその手の獲物を強く握り締めた。
「あ、あれがヤドトリ。初めて見たぜ」
「ああ。行商人から聞いちゃいたが、なんて量だ」
 荒野を埋め尽くす鍋やら犬小屋やら人骨やらが這うように動くのは、まるでゴミ箱をぶちまけたこの世界を表しているようだと皮肉げに笑う。
 何かっこつけてんのや、と男は心で呟きつつ、行商人は他に何か言っていなかったのかと問う。そう、例えばヤドトリを蹴散らす有用な何か。
「……ああ……奴ら、ヤドトリは……雑食で、単体でも繁殖する上に知能が高く、人間の扱う道具も理解して使用する。
 人間をも食べるモンスターだ……こんな世界だからこそ言えるが……まるでパニック映画だろ? 目の前の光景がスクリーンならな」
 やかましいわ。
 自分をスクリーンの中の人物とでも勘違いしているのか、再び格好をつけた様子は流石に頭に来て鍬で殴ってやろうかと男が殺人者の目をした時、その背後で硬い物の擦り合う音が鳴り響いた。
 振り向いた先には大抵の物体を引き裂けるであろう、【鋏角】を軋ませる怪物、もといアリス・ラーヴァ(狂科学者の愛娘『貪食群体』・f24787)の姿があった。
「ギチチッ! ガチッ、ガチッ、ガチッ!」
(ええー!?
 ここには雑食で単体でも繁殖する上に知能が高く人間の扱う道具も理解して使用する人間を食べるモンスターがいるのー?)
「……お、おう……」
 しえーっ、と驚くアリス。二メートルを超えた、まるで蜘蛛とも蟻ともつかない姿のアリスであるが、猟兵であることからこの世界の住民には当たり前のように受け入れられている。
 のだが、明らかに頂点捕食者の趣に鳴き声代わりの思念を受けてプレッシャーを感じたか、先程の怒りも忘れて頷くしなかい男。
「ガチガチガチッ、ギィイイエエエエエエッ!」
(そんな凶暴なモンスターが沢山いるなんてこわーい! 食べられないよーに気をつけないとー)
 水平線の果てからわさわさやってくるヤドトリたちを見据えてアリス。その傍らでは、はてなとばかりに小首を傾げる戦場には似つかわしくないメイド服姿の女性。
 御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)だ。彼女は翠玉の瞳を警戒するアリスへ向けた。
(……雑食で、単体でも繁殖して、知能が高くて、人間の扱う道具も理解して、人間を食べるモンスター……)
 ふむふむ、なんでも食べて単体でも増える上に知能もあって人間すら食べちゃうモンスターとな。
 …………。
 あれれれれれれ?
「ギチチッ?」
 ぬばたまの瞳と目が合って、桜花は何でもありませんと目をそらす。今度はアリスが「どうかしたのかしらー?」と首を傾げる番だ。
(ま、まあ、思う所はあるけど以前の事件だって平和の為に頑張ると言っていたらしいですし)
 と、これまた口に出さないのは黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)。実際の所、馬糞未満とはいえ残念ながら霊長類に名を連ねるモヒカンや、生体パーツとは言え猟兵仲間の脱け殻をお持ち帰りしようとしたり、人型も当然の如くもぐもぐしちゃう姿が当たり前のように想起できる姿と行動はあらぬ疑念を呼ぶものだ。
 だからこそ、猟兵としての働きと気持ちを知る摩那は、そんな間違いは起こさないだろうと信じている。桜花とてもちろん同じくだ。
 ただ正直な反応をしてしまっただけなのだ、しゃーないのだ。
 とは言え問題は眼前の敵の群れである。
「ギチギチギチギチ~♪」
(みんな~【全速前進よ~♪】)
 鋏角を独特な動かし方で音をたてると、そこら中の地面からもこもこと顔を出すアリスそっくりの妹たちの姿。
 畑を取り巻く防壁からも続々とアリス妹らが這い出て来る。傍目から見てもこの世の終わりに見える光景だ。
 どこか得意気なアリスを先頭に、体を震わせて土を落とし、あるいは鋏角を鳴らし、更にあるいは涎を垂らす妹たち。
 数で言えばヤドトリの群れには優らないだろうが、それでもその数は驚異的だ。
 こと戦闘能力においては、ヤドトリの群れの大多数を担う小型ヤドトリでは太刀打ちできるものではない。
 オブリビオン対イェーガー、群れ対群れ、むしろ怪獣大戦争。拠点の未来を賭けた戦いが今、幕を開けたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒木・摩那
恒星のエネルギーを掌中に収めようとするのは、SSWでも実現が難しい超技術です。
この世界で成し遂げようとするのは、狂気の沙汰です。
頭で鋼鉄を割るよりも難しいかもしれません。
そんな狂気に囚われて、まさに人の壁を越えてしまったのでしょうか。

今は喫緊の課題である農場の防衛です。ヤドトリ潰しです。
単体でも繁殖可能となれば、確実に滅殺しないといけませんね。
まずは厄介な超巨大を使って倒していきましょう。

ヨーヨー『エクリプス』で戦います。
奥で陣取る超巨大にヨーヨーを引っ掛けて、UC【獅子剛力】で他のヤドトリ達にびったんと叩きつけます。これを繰り返して、ヤドトリを整地します。


御園・桜花
「タクシーの時間貸切は大体初乗りの6倍くらい。8時間くらいを切り上げて、50個。今日は私達とこちらの村を守る方々だけの貸切です…攻め手や攻め手に寝返った方を乗せるのも口を利くのもダメですよ?さあ、防衛する方々、彼を足代わりにお使い下さい」
餡パン50個風呂敷で背負って参加
タクシーダを防衛側の足として確保
自分はデッカイザーに乗り込む又は追随
彼等が壊されないよう留意し戦う

「例え私の動きが止まろうと、桜吹雪は止まりませんから。貴方達の歩みも望みも…此処で止めさせていただきます」

「望みに善悪はありません…生きざまなのですから。ぶつかり合い叶う望みと叶わぬ望みがある、それだけです」
戦闘後は鎮魂歌で送る



●勇気を奮え、或いは恐怖を恐怖で塗り潰すとも言う。
 行進していくアリス妹軍団の背をその瞳に収めて、さてとばかりに振り返る先には防壁こと、アリスらが築いた別荘に張り付く二体のデッカイザー。
『!』
「ギチギチ、ギチチッ!」
(デッカイザーズさーん、あらー?)
 呼び掛けるアリスから視線をそらすデッカイザーズ。芋虫のクセに生意気だぞ。
 彼らの視線の先へどんどか地面を削る激しいダッシュで回り込んでも、途端に視線をそらす。何じゃい。
 彼らは悪名高きヴォーテックス・シティの生き残りである。猟兵により忌まわしき呪縛から解き放たれているのだが、世界を超越するオブリビオンとイェーガー、もしかすると彼らの記憶の中には仲間を貪り喰らうアリスの姿が残っているのかも知れない。
 仕方がないとはかりにアリスは彼らから背を向けたが、遠くに弾ける火薬の音をその耳に捕らえた。
『砲撃だーっ、相対危険度百!』
『危ないねー』
『ねーっ!』
 アリス妹軍団の後ろに追随する鬣デッカイザーの言葉に、デッカイザーズも反応する。最奥に位置する超巨大ヤドトリの背負った要塞からの砲撃だ。
 果たしてその砲弾は農場へ届く事なく、あらぬ方向、自軍へと着弾した。
(ぴぎーッ!)
 どこからともなく脳内に響く断末魔。
『外れだねー』
『ねーっ!』
『ノーコンピッチャーだ、良かった! 相対危険度十三!』
 基準が分からんけど危険度減り過ぎじゃね?
「やはり危険なのは、あの超巨大ヤドトリてすね」
 摩那は砲撃の威力に目を細めた。あの距離なら当たりもしなかろうが、敵は常に前進している。接近するほど敵の命中精度は増えるはず。
 その上にあの巨体、そのままぶつかられでもすれば堪ったものではない。
「アリスさん、私も前線に向かいます。お願い出来ますか?」
「ギチチッ!」
(了解なのー)
 慣れた様子でアリスの背に跨がる摩那は、敵を前方に想いは後方へ向けられた。守るべき拠点に住まう者。
(恒星のエネルギーを掌中に収めようとするのは、スペースシップワールドでも実現が難しい超技術です。この世界で成し遂げようとするのは、狂気の沙汰でしょう)
 グリモア猟兵は彼の実験を常々、必ず失敗するものだと語っていた。それは正しい事だと摩那も考える。
 それこそ、彼が容易いと豪語した頭で鋼鉄を割るよりも難しい事なのだ。
 だが本気で、それが叶うと考えているのならば。
(──そんな、狂気に囚われて……、まさに人の壁を越えてしまったのでしょうか)
 ともかくも、まずは喫緊の課題である巨大農場の防壁、つまりヤドトリ潰しだ。
「単体でも繁殖可能となれば、確実に滅殺しないといけませんね」
「ギチギチッ!」
(頑張りましょー!)
「待ってくれ、俺たちも連れて行ってくれないか?」
 摩那の言葉に応えて、前へ進むアリスへの呼び声。意を決した表情で、あの大群と戦うには心許ない武器を手にした拠点住民たちの姿がある。
「ギギギ、ギエエエエエエエッ! ガチッ! ガチッ!」
(もちろんよー。さあ、皆で畑を守りましょー!)
 アリスの言葉を受けて、更なる妹たちが地面から顔を出す。
「…………、お、おい、お前から乗れよ」
「いや飯だしだろ、行けって!」
 何尻込みしてんだ。
 でも彼らも普通の人間、彼らの目線で言えば当たり前のように地面から這い出た美少女に乗るのは気が引けるのだろう。実際、その絵面ヤバいもんね。
 ても緊急事態なんでワガママ聞いてらんないよね。
(早く早くー)
(お腹空いたのー)
(こっちは食べちゃ駄目な人間さんなのよねー?)
「ひえっ」
「す、す、すぐに参りますッ」
 不穏な空気を察したのか、慌てながらもおっかなびっくり妹たちの背に乗る拠点住民。
 桜花はそれを見て、防壁の片隅に縮こまっている運び手のタクシーダーへ視線を送る。
『お仕事ー?』
「……ええと……タクシーの時間貸切は大体初乗りの六倍くらい。8時間くらいを切り上げて、五十個」
 足下の風呂敷を広げれば、中には餡パンその数は五十。全て今回の事件の為に用意したものだ。
『お代が一杯だー!』
「タクシーダーくん、今日は私たちとこちらの村を守る方々だけの貸切です。攻め手や攻め手に寝返った方を乗せるのも、口を利くのもダメですよ?」
『はーい』
 背中の装甲を展開し、サブアームで風呂敷を受け取ると頭の上の電光掲示板に『予約車』の文字が灯る。
「さあ、防衛する方々、彼を足代わりにお使い下さい」
「よ、よし、他の奴らも先に行ってる。俺たちも腹ぁ括るぞ!」
「おう!」
「やってやろうじゃねえか!」
 どこかヤケクソ気味ではあったが口々に叫ぶ住民たち。
 そんな彼らがよっこらせとタクシーダーの背から伸びた複数のサブアームに跨がり持ち上げられる様は正にシュールであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

木霊・ウタ
心情
あの博士が、か
正直信じられないぜ
よっぽどの何かがあんだろうな、きっと

色々聞きたいことはあるけど
それは後回しだ

まずは農場や皆を守るぜ

戦闘
迦楼羅を炎翼として顕現

低空飛行で突撃
敵の突進を回避しながら
獄炎纏う焔摩天で薙ぎ払い纏めて倒す

狙う優先順は大>中
小は無視

住民や派遣戦力が捌けない攻撃を
爆炎加速で引っ返して庇う

ある程度数を減らしたら高度上昇
急降下し加速
超巨大ヤドへ大焔摩天を叩き込み
刀身から紅蓮を放つ

内部からこんがり焼いてやるぜ

炎を延焼させるが
背負ってる拠点には延焼させない

派遣
力瘤
拠点前で
芋虫ズが打ち漏らした小型敵の相手
中型以上が近づいて来たら住民から借りた爆弾の投擲
あんたらが最後の砦だ
頼んだぜ


ジェリッド・パティ
またウチに博士を排除しろと……ん、また? ……違うな、別人だから初めてでいいんだ
マアいい、仕事はうまくやる。一撃で仕留めればいいんだろ

UCでガジェットを召喚するが……。金網と鉄板と、コレは炭……バーベキューでもしてろって言いいたいのか!?
トングはウォーマシン用とスペースノイド用二種揃えていますって、なんだよこの説明書は!!
エー、誰かコレを有効活用できるアイディア持ちのお方はいらっしゃませんか!!

クッソ、変なモン寄越しやがって! おいヤドカリ!! ヤドトリぃ?! 知るか名前なんて!!!
……磔だ。思念波をジャミングして味方だと思わせて、殻から身を取り出したら網に敷いて火炙りだ! 焼けろバーカ!!


紅月・美亜
 丁度いい、お前らで新技の試運転をしてやる。
「集団対集団ならば私に分がある」
 【Operation;BLACK】を操り前方で指揮をして時間を稼ぐ。味方の隙間を埋める感じだな。通信や連絡などのバックアップも引き受ける。索敵と遊撃も任せろ。だが戦線維持は出来ないので味方を頼る。
 時間を稼げたら新技の出番だな。
「本命はこっちでな、Operation;MORNING GLORY……は、既に発令済みだ」
 拠点の近くに固定砲台を作る。ToDの要領だな。連射の利くタイプ、射程の長いタイプ、範囲攻撃できるタイプ、足止めするタイプ等色々だ。
「始動、基地建設システム!」


メルティア・サーゲイト
 技術は正しく使ってこそだ。技術その物に善悪は無い……使う奴が問題なだけだろ。関わっちまったしな。責任を取るって訳でも無いが、私も新技を試したいってのもある。
 最近MODE PANZERが下位互換扱いなんだがコレはコレで利点があるんだぜ。何せ、爆撃機と重戦車を瞬時に切り替えられる。射程距離まで爆撃機で突っ込んで重戦車で駆逐するって訳だな。デカい要塞は主砲でどかんと、細かいのは副砲のガトリングで一掃するぜ。
「テメーらに用はねーんだよ」
 もし、あのジジイがオブリビオンなら何故見抜けなかった? オブリビオンじゃないんなら……裁く権利なんて、誰にある?


リカルド・マスケラス
「農場があると聞いて、駆けつけてきたっすよー」
そんな感じでバイクに乗ったお面登場

拠点住人さん達に手伝ってもらいたいっすね。具体的には体を貸してほしい
「自分達の手で拠点を守りたいと思うなら、このお面をつけて欲しいっす」
【仮面付きの舞闘会】で最大93人までをLv93猟兵くらいまで強化
【集団戦術】で敵に囲まれたりしないよう散開しつつ農具や工具に魔力を込め火とか雷あたりで【属性攻撃】
「まずは足を狙って機動力を奪うっす!」
相手が修理に回ろうものなら、その隙に【怪力】や【メカニック】でパーツを分解して修理器具を強奪っすよ

本体は代償でほぼ動けないが、バイクを念動力で操縦し、危ないところへ庇いに行くっすよ



●そして集う規格外戦力。
(!!)
 ぴっきーん!
 先頭を行くアリス妹とヤドトリの目が合った瞬間、両陣営に駆け巡るモノがあった。
(雑食で単体でも繁殖する上に知能が高く人間の扱う道具も理解して使用する人間を食べるモンスターがいるわー!)
(雑食で単体でも繁殖する上に知能が高く人間の扱う道具も理解して使用する人間を食べるモンスターがいるぞー!)
 お前らじゃい。
 シンパシー弾けた怪物たち、もといオブリビオンとイェーガーは即座に戦闘態勢に入る。
 走る速度を上げたアリス妹軍団。砕ける荒れ地は礫を弾き、砂煙は色濃く彼女たちを包んでいく。
 一方、ヤドトリはわさわさからかさかさに変化した。基本構造はヤドカリに近いからしゃーないね。
(進めー!)
(ぴぎっ!)
(ぎぴーっ!)
 鍋やら骨やら箱やらの殻を踏み砕き、小型ヤドトリなどものともせず進撃するアリスたちは、自分たちの背丈に迫る中型やその身に並ぶ大型と激突。押し寄せる波を塞き止める防波堤の如く荒野に色づく毒々しいヤドトリたちを正面から押し返した。
(……ぴぎぃ~……)
(あっ、ヤドトリさん!)
 爆走するアリスたちに踏み砕かれても、まだ形を保った者もいる。アリスはそんな小型ヤドトリを見かけると、【前肢】で大事に抱える。
 本来ならば立ち塞がる敵を引き裂く為の物、実際にヤドトリを次々と引き裂いて前列のアリスたちは進んでいる。そんな彼女らが傷ついた小さなヤドトリを思わず保護したのは、共感した幼体だからこそ、思うこともあったのだろうか。
「ギイイエエエッ!」
(交代よー!)
 アリスの咆哮から指令を受けて、前列のアリスが後列のアリスと入れ替わる。
(もぐもぐ、頑張りましょー!)
(今の内に補給しといてねー。もぐもぐ)
 …………。
 入れ替わったアリス妹軍団は前肢に捕らえた何かをもぐもぐしつつ、もぐもぐが終われば敵を引き裂く。後退したアリスたちは地面から何かを拾い上げお弁当にしているようだ。
 保護などなかった。
 毒々しい色の甲殻ではあるが、あっちもこっちも美味しそうにもぐもぐしていればそれらしく見えるのが人間というもの。
「へ、へへっ、よく見りゃ旨そうな奴らじゃねえか!」
「俺たちも続くぞ、やってやれ!」
 走り回るアリス妹軍団に跨がる住民たちが、彼女から落ちないようにとへっぴり腰で鍬を降り降ろす。
(ぴぎっ! やったな~!)
 小型ヤドトリの足に食い込んだ刃先に怒りを見せると、鋏で鍬の柄を挟むとあっさりと奪い取ってしまう。
 小型とはいえこれだけの大きさとなったヤドトリの筋力は相当なものだ。その体躯からは予想出来ぬとも、その脚の太さを見れば気づいたかも知れない。
 アリスらの上に騎乗する住民に、彼らの鋏は届かない。だからこその獲物をヤドトリは思う存分に力を込めて振るう。
 が、しかし。
(!)
 遠心力を加えた鍬の一撃はアリスの【甲殻】をも楽に穿つと思われたが、その一撃は柄を折り刃を後方へ跳ね飛ばすだけである。
 堅牢なる装甲である彼女の体は硬度と靭性に優れ、銃弾をも跳ね返す。幾ら大きくなったとはいえその程度の力では彼女らを傷つけることは出来ないのだ。
(いただきまーす)
(ぴぎっ!)
 あっさりと鋏角にくわえられたヤドトリが咀嚼されるのを見つめて、改めて場違いな戦いの場に出てしまったのではないかと戦慄する住民たち。
 そんな最前列での血で血を洗う、もとい食いに食って食いまくりの入れ食いフィーバーな食卓を見つめて、『大いなる始祖の末裔』レイリス・ミィ・リヴァーレ・輝・スカーレットはふむと頷く。
 アリス軍団の進行による突破力は高いが、前方手の届く範囲までしか攻撃出来ない。だが列となる事で敵を押し留め、集中させ後衛の範囲攻撃を効率良く使用している。
 丁度いい戦場だと、レイリスこと紅月・美亜(厨二系姉キャラSTG狂・f03431)は晒う。お名前すっきり。
「集団対集団ならば私に分がある、新技の試運転をしてやろう」
 もはや敵を脅威とすら見ていない美亜、もといレイリス。
 その隣では、聳えるパワードスーツ型の鈍重な【ゴーレムユニット】を背後に、メルティア・サーゲイト(人形と鉄巨人のトリガーハッピー・f03470)は憮然とした顔で腕を組む。
(技術は正しく使ってこそだ。技術その物に善悪は無い、使う奴が問題なだけだろ)
 事実、今回防衛する巨大農場もチャラポラ博士による実験が支えとなっている。科学の申し子たるウォーマシンの身としては、その想いも強いだろう。 
 それに、関わってしまったという考えも脳裏を掠めた。
 使えるものは人でも物でも構わず使えと言ったのは、他でもないメルティアだ。だがそれは、人の命を食い潰す夢を肯定する言葉では決して無い。
 この農場を守った一人として、今回もまたこの地を守るのが彼女の役目だ。
「ま、責任を取るって訳でも無いが、私も新技を試したいってのもある」
 レイリスに目を向け微笑むメルティア。
「まずは前線だな。味方の戦闘能力は歴然、頼もしいが数が数だ。
 壁になってくれているがこの範囲から迫る敵の全てを受け止められはしない。私が指揮を執る」
 防壁より次々とミサイルや銃弾を発射するデッカイザーズ。その攻撃の手が頭上から抜けるのを見てレイリス。
 メルティアは再度笑うと後方のゴーレムユニットへ親指を向けた。
「前線に行くなら、おあつらえ向きなのがあるぜ」
「ほう」
 愉しげなレイリスの相槌が荒野の風に転がる。
 そんな彼女たちとはまた別の方角に大きな人影。
「……またウチに博士を排除しろと……」
 行進するヤドトリ軍団と交戦するアリス軍団を遠くに見つめて、ジェリッド・パティ(red Shark!!・f26931)は顔を歪めた。
(……ん、また……?)
 自らの思考に生じた疑問。記憶を探り、あの日、食事に誘ったチャラポラ博士の笑顔が彼の思い浮かべた人物と違うことに、どことなく安堵の表情を見せた。
 別人だから、初めてでいい。そう言葉をもらして。
「マアいい、仕事は上手くやる。一撃で仕留めればいいんだろう」
「その一撃もこれだけの数となればな」
 背後からの声に振り返れば、戸惑ったように頭を掻く木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)に小さく会釈する。
 彼もそれに片手を上げて答えながら、何とも言えぬ想いに溜め息を吐いた。
 彼の目に浮かぶのもやはり、少し間の抜けて自信に溢れたチャラポラ博士の笑顔である。
「あの博士が、か。正直信じられないぜ」
 拠点の住民たちからも厚い信頼をよせられていたであろう彼がこのような凶行に及ぶなど、少年には信じられなかったのだ。
「ですが、グリモア猟兵が予知した以上は事実です」
「ああ。……よっぽどの何かがあんだろうな……、きっと」
 色々と聞きたい事はある。しかしそれは後回しだ。
「まずは農場や皆を守らなきゃな」
「はい、行きましょう」
 頷くジェリッドに頷き返す。前進を、といった所でウタは未だ防壁前で入念な準備体操を行う力瘤三兄弟に目を向けた。
「…………、何してるんだ?」
「おいっち、にぃー! 決まってるだろ!」
「さん、しぃ! 準備ヒャッハーッ! だ! にぃにっ!」
「さん、しぃー! 飯の前に適度な運動、運動前の準備ヒャッハーッ!
 ふふははははは、今から舌が滾るぜぇ~!」
 滾るのは構わんけど準備ヒャッハーッ! てなによ?
「……お、おう……」
「まあ人間は目的達成の前に障害があるほど達成感が上がるとは聞くが」
 お二人さん引いてるじゃん。やっぱりモヒカンはカスなんだよ。
 先に前線に向かった住民たちも、まさか頼れる力瘤三兄弟が準備ヒャッハーッ! と称して未だ進んでいないとは思うまい。
 しかし戦況を確認したウタは、改めて三兄弟に視線を戻す。
「カニは頂きだぜぇ~!」
『ヒャッハーッ!』
「調味料は準備できたかよぉ?」
『ヒャッハーッ!!』
「い~ぃ激だぜ弟たちよう。そしたら行くべ!?」
『ヒャッハッハーッ!!』
 うわぁ。
 いつの間にか肩を組んで円陣になり、順番に声をあげていく屈強なモヒカスの姿。最後の奇声で空を仰いだ彼らに待ったをかけたのはウタである。
「なんじゃい!?」
「鼻息荒げるなって、落ち着けよ。あの防壁の芋虫ズが撃ち漏らした小型のヤドトリ相手を頼むぜ。
 他の住民から借りた爆弾もあるから、大きい奴らには近づかずにそれを投げつけるんだ」
「やかましい、俺らはカニを食う為にここにいるんだ!」
「拠点を守らないなら帰れよ」
「正攻法で責め立てるのは止めろぅ!」
 忙しいなこいつら。
 ウタの協力依頼に抵抗したものの、ジェリッドの言葉に怯むモヒカス。
 兄者は、うぬぅ、と唸ると興奮する弟二人を押し退けて前に出る。
「オトモダチが前線で頑張っているというのに、俺たちに前に出るなと言うのか!」
 うるせー。オトモダチよりカニだろこの野郎。
 唾飛ばす男に、ウタはそうではないと愛想笑いを見せた。
「あの数じゃどうしたって敵がここまで辿り着く。あんたらが最後の砦になるんだ。
 頼んだぜ」
「ぬふぅ」
 如何にも世紀末的な唸りを漏らす。実際、小型一匹でもヤドトリを農場に入れてしまっては大変な被害が出るだろう。
 食べるだけならまだ良いが、ヤドカリの性質として地面に潜入されてしまうと見つけるのも難しい。そうなれば、周囲の餌を食べながら再び増え始めるのだ。
「奴らを絶対に逃がす訳にはいかない。お前らだってそれくらい分かるだろ」
 最悪の結果を想定するジェリッドの言葉に、兄者も苦い顔をする。
「良いだろう、俺たちはカニを諦める!」
「しかし兄者よ~ぅ!」
「オトモダチの為なら仕方あるめぇえ!」
 当然、防壁の前に来た者を食えばいいのだが、それはあえて黙する両名であった。


●拠点住民猟兵化計画!
「これでも食らえーい!」
(ぴぎゅっ!)
アリス軍団が押し留めたヤドトリの群れに、トンネル掘削などに使用する発破用ダイナマイトが炸裂する。
 大小問わず、流石のヤドトリも肉片を散らす中、後続からやってきたタクシーダーがついに前線と合流する。
 タクシーダーのサブアームに乗る者は、来てしまったかと後悔しているようにも見えるが。
(あっ、ハデな色したロボットだ!)
(アレはいわゆる警戒色! 毒持ってるから危ないゾー!)
『そうだゾー、危ないゾー!』
 攻撃する様子のないタクシーダーに、ならばとばかりヤドトリちも攻撃する様子を見せない。特にその派手な色合いから毒持ちと判断した様子で、タクシーダーもそれに合わせて叫ぶ始末。
『はい、それじゃあ下ろすねー』
「あ、ああ」
「他の奴らとは離れてるけど、ほ、本当に俺たちだけでやれるのか?」
 敵の数に尻込みする男たちであるが、敵を前に後戻りする事は出来ない。「頑張ってねー」と手を振るタクシーダーを横目にバックパックに電源を背負った男は手持ちの砕石機械を振り上げた。
「どっちにせよやらなきゃなんねえんだ、さっき覚悟を決めたろ! 行くぞっ!」
 その言葉の通り、戦わねば未来は掴めない。
 各々の武器を手に走る男たちは電源を入れ、かさかさ迫るヤドトリに接敵する。
「食らいやがれ!」
(ぴぎぎぎっ!?)
 ドリルの回転刃に刃に巻き込まれて甲殻を割られ、飛沫を上げる小型のヤドトリ。
 そのまま中身を抉れば思わず後退したヤドトリを蹴り転がして、男は勝ち誇った顔で振り返る。
「どうだ見ろ、俺たちだって十分戦える!」
「前見ろ前ぇ!」
 悲鳴のような叫び声で返されて、はっと振り返った先では犬小屋を被った小型のヤドトリが、獲物たるスレッジハンマーを抜いた所だった。
(よっこいせ~!)
「…………、へっ、何だよ。いいモン持ってるじゃねえか」
 思わず口から転がる諦めの言葉。
 しかし。
(ぬわぁーっ!)
 砂塵に紛れて乱れる桜。
 花弁に巻き込まれたヤドトリたちは、そのまま風に押し流されるように後退、身さえも削られて体液を噴き上げた。
「──例え私の動きが止まろうと、桜吹雪は止まりませんから。
 貴方達の歩みも望みも、此処で、止めさせていただきます」
 【桜吹雪】、後方から追随する桜花のユーベルコードである。
 前方に集中し、桜の花と風を従えて歩く桜花に対してそろそろと側面に回り込むヤドトリたちを住民らが工具を手に押し留める。
 だが、このままでは数に押しきられてしまう。
「うおおっ、つるはし一刀流、全力振り下ろしィ!」
(なんの、つるはし鋏取り!)
 お前ら楽しそうじゃん?
 振り下ろされたつるはしを難なく受け止めた鋏。小型ヤドトリと工夫のおっさんの熱い鍔迫り合いに、横合いから邪魔者、もとい援軍が駆けつけた。
「突撃っすよー」
(ぴぎいっ!)
 鍋の蓋という、もはやカラですらない物を被っていたヤドトリはあえなく粉砕され、その体液に足を録られながらも無事に停車したのは一台の無人バイク。
 否、仮面を被ったバイクか、それともバイクに乗った仮面か。正解は後者、リカルド・マスケラス(ちょこっとチャラいお助けヒーロー・f12160)。彼もまた猟兵だ。
 機動力よりも馬力、運搬性を重視した宇宙バイク『アルタイル』に乗り、……乗り……? 颯爽と現れた彼はにやけた口元、もとい狐のお面のまま語りかけた。
「ウェーイ、チャラにちわ~っすよ」
「……ち、ちゃら……?」
『チャラにちわー!』
(ウェイウェイウェーイ!)
 拠点住民より遥かにノリの良いタクシーダーとヤドトリの人外タッグ。ヤドトリは隙だらけなので拠点住民さんが八つ当たり気味に駆除しました。
「農場があると聞いて、駆けつけてきたっすよー」
 プレゼントもあります、と語るリカルドの後ろで拠点住民のおかわりを持ってくるタクシーダー。
「……プレゼント……?」
「プレゼントっす。ウェーイ」
 訝しむ男に、リカルドは親しげな笑みを見せた。狐面だけど。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

コノカ・ハギリガワ(サポート)
『やるわ。私に任せなさい!』
 サイボーグの鎧装騎兵×戦巫女、18歳の女です。
 普段の口調は「女性的(私、あなた、~さん、なの、よ、なのね、なのよね?)」
出身世界:スペースシップワールド

性格:勇敢
戦場では積極的に前線に切り込み、敵の注意や攻撃を引き受けます

・戦闘
勇翠の薙刀を主に使って戦います
また、エメラルドアームから発生させた障壁で仲間を庇います

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!



●さあ、楽しい宴の始まりっすよ!
 ふわりと虚空に浮かぶ狐面。それはリカルド・マスケラス、ではなく。
 百にも迫ろうかという彼の分体だ。タクシーダーが補給するようにぺっ、ぺっ、と前線に捨てていく拠点住民たちをずらりと取り囲んでいる。
 これ普通に怖いね。
「い、一体なんの儀式が始まるんだ!?」
「これは自分のユーベルコード、【仮面憑きの舞闘会(マスカレイドパーティ)】っすよー。細かい事を省けばこれを被ると自分ら猟兵と同じ、スーパーパワーが身に付くんす!」
「……猟兵……奪還者みたいなもんか……?」
 しかし、やはり見るからに怪しげと思えば手は伸びぬもの。二の足を踏む住民たちに気持ちは分かるとリカルド。
「っすけど、自分達の手で拠点を守りたいと思うなら、このお面をつけて欲しいっす」
 単純な筋力ですら小型ヤドトリにも及ばないのが常人である。
 ならば選ぶ道などあるまい。
「南無三!」
 ここで最初の一歩を踏み出したのは先程スレッジハンマーで頭をかち割られそうになった男だ。
「ええい、ままよ!」
「やってやらぁー!」
 それに続き、次々と自分たちを囲う仮面を被る拠点住民たち。その瞬間、狐のお面をその顔によろう直後に、自身の体が熱くなるのを感じた。
 月並みではあるがそれはまるでマグマが身体中を駆け巡るような、溢れる力は咆哮となって空へ解き放たれる。
「何という力だ!?」
「……信じられん程の凄まじい力だ……! こ、これが猟兵の力!?」
 先程まで重く担いでいた工具を棒切れのように振り回し、住民たちは自らの肉体に起きた変化に驚愕した。
 しかし、驚く間など少しだけ。彼らは互いに顔を合わせるとにやりと笑う。
「勝てる!」
「相手がどんなヤドカリであろうと負けるはずがない!」
「俺たちは究極のスーパーパワーを手にした『俺たち』になったんだーっ!!」
『うおおおおおおーっ!!』
 何かすっごい勢いでフラグ建ててるぞ。
 リカルドですら「このおっさんたち大丈夫かな」と漏らす中、作戦も何もなく自らの力を過信した超拠点住民たちが敵の中に飛び込んでいく。マジかお前ら。
「えっ、どうされたんですか!?」
 いきなり前へ猪突猛進する超拠点住民たちに驚く桜花。しかし彼女の困惑など構いもせず、彼らは工具や農具を使用するどころか素手で敵の体を引き裂いた。
「モブ・パンチ! モブ・キック!」
(おわーっ!)
「枯れ木も山の賑わいハリケーン!」
(ぐへーっ!)
「特に技名はないけど強いて言うなら頭突き!」
(ぴぎいっ!)
 次々と己の肉体でヤドトリの群れを解体していく様は力瘤三兄弟も真っ青である。
 しかし。
(そこどいてー、ライフル撃つよー)
(ショットガンもあるよ~!)
(てやんでぃ、バズーカも持ってけこんちくしょーめい!)
「ちょっ!?」
「それは卑怯じゃないか!?」
 カサカサやって来た援軍ヤドトリたちが人類の叡知を構えれば、流石の超拠点住民もたじろいだ。
 もちろん、敵である彼らがその様子を気にかけるはずもなく、「いてもうたれー!」とばかりに次々と弾丸を発射した。
 直後に戦場を横断する紅蓮の壁。それが飛来した砲弾を誘爆し、炎を引き裂き突き進む弾丸は、リカルドがアルタイルを壁にすることで住民たちへの被害を防ぐ。
 リカルドの使用したユーベルコードは強力な反面、自身が動けなくなるという特性を持つ。が、変わりとばかりのアルタイルに乗る事で戦闘の補助を担当しているのだ。
「何してるんすか、皆さん! 幾らなんでも無策で突っ込んじゃあ、いい的っすよ!」
「面目ないですぅ!」
 リカルドの叱責に頭を下げる超一同。素直でよろしい。
 敵は動きが遅いとは言え力があり、知恵もある。いくらスーパーパワーを手に入れた超拠点住民と言えどその数の差は圧倒的だ。戦争は質より量なのだ。
「皆さんは散開、絶対に囲まれないように動くんす!
 農具や工具に魔力を込めて、炎とか雷あたりで攻撃するっす!」
 リカルドの言葉に、「こうかな?」と手を翳すだけで刃先が赤々と焼けていく。さすがに彼の力を模倣しているだけの事はある。
「まずは足を狙って機動力を奪うっす! 動きさえ止めてしまえば後はどうとでもなるっす!」
「了解だ!」
 雷光や火の粉を纏う農工具を振り回し、強化された肉体による華麗なステップがヤドトリたちを翻弄し、次々と迫り来る刃がその足に打ち込まれていく。
(ぴぎぃー!)
(むむっ、助けを呼ぶ声が聞こえる!)
(修理も改造も任せろ~!)
 衛生班か、リュックサックに身を包んだヤドトリたちがリヤカーを引く。中に詰まったスクラップ品を傷ついた仲間の補修に使うと言うのだろうか。
 だがそれを黙って見ている道理は無い。
「皆さん、あれを奪って下さいっす!」
『サー、イエス・サーッ!』
(わわわ、何だ何だー!?)
 リカルドの号令を受けて瞬間的に一転突破する超拠点住民たちが、リヤカーを引くヤドトリを殴り飛ばしてそのままリヤカーごと離脱する。
 離脱すると同時に進むのは恐怖のアリス軍団だ。
(ぴぎっ!)
(ぴーっ! ぴぎぃーっ!)
(あーん、助けが間に合わないよーっ、…………! ぴぎゅっ!)
 歩けなくなったヤドトリたちは仲間に助けを求めるがそのまま踏み潰され、或いはお弁当として持ち去られていく。
 いくら数に優るとは言えやはり質に関しては雲泥の差である猟兵、その力を宿した超拠点住民たちのヒット・アンド・アウェイには対応できず衛生班ヤドトリたちも確実に数を減らされている。
 戦争は数だが数をカバー出来る質が揃えばそりゃそっちのが強いに決まってるんだよ!
(えーい、銃撃隊の皆さん! 下がって下がって、距離を取って攻撃だぁ!)
(任せろ~! ……ん……?)
(何か空から音がするなー?)
 ひゅるるるる、という特徴的な落下音。
 音に反応した個体が目を空へと伸ばすと、照りつける太陽をその背に浴びて、空を悠々と泳ぐ巨大魚。
 その腹から落とされるものは鱗などではなく。
(ぴぎぃーっ!)
(ぴぎゅっ!)
(ぴーっ!)
 地上に、そして群れ成すヤドトリたちに触れると同時に炸裂する、容赦など欠片もない爆弾だ。
 次々と破壊されていく群れを見据えて上空から降下、否、落下するのはゴーレムユニット。
『Taaaallllyy Hoooooooo!』
メルティアのご機嫌な叫びと共に地上へ向けて垂直に迫る爆撃機形態のゴーレムユニットは、その翼を炸薬により排除、飛行機から戦車へと姿を変えた。
 ゴーレムユニットに搭載された万能生成機【ナノクラフトバインダー】の力を利用した瞬間換装。これこそ【MODE PANZER(モードパンツァー)】、それぞれの形態に特化したユーベルコードとは違う、戦場ではなく作戦に合わせた機動戦を可能とするユーベルコードなのだ。
『空は爆撃機で陸は重戦車! 飛ばしまくりの撃ちまくりだゼェー!』
(敵影確認、対空砲用意!)
『何ィ?』
 頭に響くヤドトリたちの声に【全方位レーダーシステム】を起動させる。周辺の動体や熱源、その他魔力なども読み取り敵の位置を探る高感度レドームだ。
 即座に捜索の網にかかったのは、地上に張り付く何匹かのヤドトリによる複数のグループ。なんと彼らが用意したのは移動式榴弾砲だ。
 各グループには双眼鏡を構えたヤドトリも確認されるが手動でしか動作しない代物、命中するとは思えない。
(とは言え、自由落下中に偶然でも当たるのは面白くねえ)
 こちらに狙いを定めるヤドトリを捉えつつナノクラフトバインダーを使用、落下するゴーレムユニットにパラシュートを取り付けて速度を低減しつつ、メルティアは見るからに不要と思える程の長々砲身を備えた長距離狙撃用【リニアレールカノン】を旋回させる。
(ここらへんかな? はい、三、二ィ、一、どーん!)
(どーん!)
 合図を受けて敵対空装備が火を噴くと同時に、リニアレールカノンも火を噴いた。
 否、正確には砲身内圧縮されたプラズマだ。超速で砲弾を放ち、その衝撃で機体を流したメルティア。彼女の機転によりゴーレムユニットは弾道から大きく身を離した。
(な、何ぃいっ!?)
 指揮官らしい熊のぬいぐるみを被り偉そうなパイプを頭に乗せたヤドトリは、双眼鏡を覗きながら驚きの声を上げた。いや声じゃないわ。
(次だ次、撃て撃てー!)
(はいどーん!)
(どーん!)
 慌て迎撃を続けるが、もはや狙いを定める時間もなく、適当に撃つ砲弾がかするはずもない。
(ぴぎゅっ!)
(ぴぎっ!)
 地響きをたてて着地した鋼の獣は地上を走るヤドトリたちを踏み潰し、履帯を轢き回して威嚇するように旋回する。
(後退、いや突撃だー!)
(デカいのがなんぼのもんじゃい!)
(取り付けば終いやでしかし!)
 ここで攻撃の判断を下す彼らの戦略眼は素晴らしいと言えよう。
 しかし。
(!)
 旋回した車体が向けたのは長銃身大口径六連装の中距離砲撃支援【ガトリングカノン】と、三連装短銃身の近距離迎撃用【ガトリングショットガン】だ。
 前者は取り回しや精度に難があるものの敵の量に対し、こと殲滅戦ならば遺憾なく効果を発揮する。後者などはそれこそ接近した彼らを。
(ぴぎぎぎっ!?)
(ぴぎゅう!)
(ぴぎー! ぴーっ!)
 フルオートで連射される散弾の雨はもはや面としてヤドトリたちを押し潰すように破壊していく。
 更にはこれらの副砲に更に備えて近距離殲滅用【大型火炎放射器】が文字通り火を噴いてヤドトリたちを焼き払う。
 もはや、取り付くなど考える者はなく、ゴーレムユニットから逃げ惑い遠距離から反撃を試みては超拠点住民や桜花の桜吹雪に破壊されるのみ。
「……ふふふ……圧倒的じゃないか……我が軍は……!
 と、言いたが」
 重戦車のハッチが開き、満を持したと腕を組み登場したレイリス。強気の笑みを浮かべてはいるが、現在の布陣の弱点を即座に読み取った。
 戦線を維持する能力が足りないのだ。
(各者よくやっているが数の差が効いてきたな、スタミナ切れだ)
 迫るヤドトリをアリス軍団や超拠点住民、そして猟兵が守る地点はきちんと防いでいるのだが、数が多く手の届かない所から侵入されている。
 壁を作れば川は止められるが、海は止められない。
「ならばその壁を伸ばすまで。
 この地の安寧を取り戻す為に、最終平和兵器──、【Operation;BLACK(オペレーションブラック)】始動!
 ……我々はもう引き返せない……そう、お前たちもだ!」
 体を回し勢いをつけて行先を指にて示せば、四百を越える戦艦状の小型戦闘機が乱れ飛ぶ。
 これらは一発分のエネルギーしかないものの、新型の光学兵器を搭載した戦闘機だ。
 仲間たちのカバーの及ばない場所に飛来し、拡散するレーザー光で敵を焼き払う。
『各員に告ぐ! 戦場の目は我々が引き受ける! そのまま戦列を維持されたし!
 繰り返す! 戦列を維持されたし!』
 メルティアからゴーレムユニットの拡声機を借りて声を通し、戦場を支配するように伸びた戦闘機の目を統括する。
(こちら北のロクロクサンパチ・アリス、了解したわー)
(南々々々西のキュウマルヨンハチサンゴロクゼロニーニーイチ・アリス、少し敵を逃がしてしまったのー)
(こちらアリス・スリー、ミッション順調よー)
(もぐもぐもぐもぐ)
(大変、ヤドトリさんたちがこんがりしてる! 先に拾いに行きます、オーバー!)
『えぇい、役に立とうとする気持ちは嬉しいが群体の個別報告は止めろ!』
 途端に流れ込む許容限界を超えた情報量にレイリスが一喝すると、メルティアは思わず笑ってから頬を引き締める。
「さて、デカブツに喧嘩を売るぜ?」
「ああ。だが、私たちが撃つのはたった一発の砲弾で十分だ」
 お次は答えるレイリスがにやりと笑う番だった。


●攻勢!
(急げ急げー! …………。
 何してるの?)
(急がば回れって言うじゃん?)
(その諺はその場でくるくる回れって意味じゃないから!)
 戦場へ慌ただしくカサカサ向かうヤドトリたちに紛れて、髑髏を被ったヤドトリは人間の腕と思われるそれを後生大事に抱えてくるくるしていた。
 が、突っ込みを受けたのでくるくるは止める。
「あれがあのヤドカリたちのハウスね」
(ほわっつ?)
 響く声に視線を向ければ、白い装甲に身を包んだ少女、コノカ・ハギリガワ(勇を示す翠・f06389)がタクシーダーから降りる所であった。
 彼女がタクシーダーを使用する様子を見ていたツッコミヤドトリは、鋏を振り上げて彼を呼び止める。
(へーい、タァクスィー!)
『本日完全予約中でーす』
(……そんなぁ……)
 頭の上の『予約中』と書かれた小型電光掲示板を示せば、意気消沈としてとぼとぼ戦場に向かうツッコミヤドトリ。
 桜花の作戦がしっかり効いているようだ。腕持ちヤドトリは自軍へ帰るタクシーダーと敵地へ向かうツッコミヤドトリを見送り、それから自分たちの棲家でもある超巨大ヤドトリへ真っ直ぐ歩むコノカへ視線を変えた。
 今どう考えても侵攻されてますよね。
(ちょっとちょっと、何してるのー?)
「アレを倒す準備。気合入れていくわよ」
 腕持ちヤドトリの言葉に答えて目蓋を下げる。全身を軋ませる筋肉の収縮が、その身を緊張させ集中力を高めていく。
 【フォースチャージ】。フォースを高める事で様々な能力を引き上げるユーベルコードだ。
 敵陣、それも本丸を正面に見据えて大胆不敵にも集中力を高める態勢に入ったのだ。無論、それをあっさりと見逃すヤドトリではない。
(そっか。頑張ってねー)
 腕持ちくんは例外ね?
 とりあえず前に進まなきゃとカサカサする腕持ちヤドトリはさて置いて、超巨大ヤドトリの中からバズーカ砲を構えた大型ヤドトリが現れた。
(どてくりまわしたらーっ!)
 動かぬ標的に向けて正確に発射される砲撃。対してコノカは目を閉じたまま、左手にはめられた長手袋状のエメラルドアームを前方に向ける。
 その掌から発生した翠色の障壁は虚空に並び、直撃した砲弾の爆発すらものともせずに健在だ。
 唐突な轟音に驚いて振り返る腕持ちくんは、まるで自分を守るかのように立つ少女の姿にきゅん、と胸を高鳴らせ鋏を顔の前に持っていった。
 ついでに腕を噛ることも忘れない。
「──せいっ!」
(ぴぎっ!)
 身を翻すと同時に頭上で旋回するのは翠の華。
 緑色のフォースの刃が形成されると同時に、風を切る音すらも斬り裂いて【勇翠の薙刀】が腕持ちヤドトリを真っ二つに両断した。
 きゅん、じゃねーんだ害獣野郎。
 当然の結果として敵を切り捨てたコノカの正眼が見つめるは、こちらの存在など感知していないかのような超巨大ヤドトリ。
 【エメラルドブレイブ】の翠光が強く輝き、身を屈めた少女は勢い良く跳躍する。
「……師匠直伝の力、見せてあげる……!」
(!!)
 その一撃が、コノカなど見てすらいなかった超巨大ヤドトリの目を片方、斬り落とした。
(ぴぎいいいいいいいいいいっ!!)
 超巨大ヤドトリから発せられた警告信号が戦場を駆け抜ける。
 彼の背負う要塞からわらわらとヤドトリたちが現れ、同時に侵攻していたヤドトリたちの行動に乱れが生じた。
 進むべきか戻るべきかの僅かな迷い、それは混乱となり彼らの連携を妨害する大きな障壁となる。
「ギィイエエエッ!」
(よいしょー!)
「ふうっ。ようやく、チャンスがやって来ましたね!」
 超巨大ヤドトリを前に姿を現したのはコノカだけではない。地下を潜行していたアリスと共に、彼女に騎乗していた摩那も共にいる。
 地上ではヤドトリたちが混乱している所であるが、連携の取れていない小型・中型のヤドトリなど何するものぞ、しかし体格だけならばアリスらと並ぶ大型ヤドトリがまだ存在している。
「ギチギチ、ギチチッ」
(みんなー、いっぱい食べるのよー)
「本当に大丈夫そうで、良かったですよ」
 動きの止まった大型ヤドトリを素通りするアリスと、ほっと胸を撫で下ろす摩那。
 アリスの幼い妹たちもまた潜行していたのだ。彼女たちは先に陣地深くに潜り込み、大型ヤドトリに取りつきその中身を食い散らかしている。
 傍目には陣地を守るべく配置されているように見えるが、実際にはただの置物。そのお陰で陣地が手薄になっているとヤドトリたちも気付きもしない。
 触覚を振り回し、要塞から現れるヤドトリたちが転がり落ちるのも気にせず踏みつけながら警戒色を高める超巨大ヤドトリ。
「その厄介な巨体、利用させていただきます!」
 ぴしりと右手に構えたのは彼女が別世界で手に入れた超可変ヨーヨー【エクリプス】。謎金属で構成された理屈を超える硬さのヨーヨーを、摩那は投げ放つ。
 狙いは超巨大ヤドトリ、その足の一本だ。
「【獅子剛力(ラ・フォルス)】──、アリスさん、お願いします!」
「ギイイイイ! ギヂギヂギヂ!」
(任せてー!)
 本来ならば靴に取り付けた宝石状の呪力型加速エンジン【ジュピター】を最大稼働しアンカーなども使用したユーベルコードだが、今回はアリスがいる。
 百トン近くをぶん投げる摩那のユーベルコードだが、それにもまして敵は巨大。故に彼の体を支える足の一本を捕らえ、アリスの力も借り敵を引きずる作戦だ。
 抵抗すればその足がもげようし、抵抗しなければ。
「いぃっけえぇええっ!!」
(ぴーっ! ぴーっ!)
 強烈な力に引き寄せられ、自らの足が外れないようその力に向かって移動する超巨大ヤドトリ。その行進に捲き込まれるヤドトリたちの悲鳴が上がった。
 豪快なその構図。ヤドトリたちとの激しい戦いの最中でも全ての戦場の者は驚嘆をもって摩那とアリスの後ろ姿を見つめただろう。
 超巨大ヤドトリ、一本吊りである。上げてないし釣りではないよ!
「さあ、このまま整地して差し上げます!」
(にゃろめぃ、やらせるかー!)
 超巨大ヤドトリから振り落とされたヤドトリたちが、摩那とアリスに向けて手持ち式ミサイルを向けた。アリスは足場となっている為に動けず、避けようがない瞬間を狙ったのだ。
(食らえーっ!)
 放たれたミサイルは地上すれすれで点火、アリスへと真っ直ぐに飛翔し。
(ぴぎーっ!)
 地上を走る炎にヤドトリごと飲み込まれて誘爆する。
 先程、拠点住民たちを守ったものと同じ紅蓮の壁。こんがり焼かれて美味しそうな香りを辺りに漂わせて、上空から炎と共に舞い降りたのはウタであった。
 地獄の炎と一体化する金翅鳥たる【迦楼羅】を自らの翼として身に纏い、ウタは豪快な撤去作業を行う摩那に笑みを向けた。
「あいつの周りはまかせたぜ。こっからは守りじゃなく、攻めの時間だ!」
 炎の翼が羽ばたき再び空を舞えば、直後には爆炎を放ち突き進む。
(ぴっ!?)
 高速でかっ飛ぶウタの姿、否、炎の塊に驚くヤドトリたちは兵器と見たか、体当たりでこれを止めようとする。
 だがそんなもの触れることも出来はしない。
 スラスターを吹かすように細かく火炎を吹き上げて身を回したウタは、華麗に彼らの間を潜り抜ける。
(小型はアリスが戦線を押し上げればそのまま踏み潰せる! なら目指すは中型と大型!)
(ディッ、ディッ、ディフェンス!)
(ディッ、ディッ、ディーフェン!)
 迫るウタを止めるべく何体かのヤドトリが互いに鋏を組み、壁となって蟹を思わせる見事なサイドステップを披露する。
 お前らその方が動き速いじゃん。
 敵が防御の姿勢なら、抜くは大剣、字をその身に刻みし【焔摩天】。
「食らえッ!」
 加速して力を十二分に乗せた横薙ぎの一撃か、華麗なサイドステップを見せるヤドトリたちを焼き斬った。


※一章完結となるヤドトリとの決着は執筆が間に合わず次章断章に持ち越し致します。
 二章開始の断章と共に本日(1/17)午前中に投稿させていただきます。ご迷惑おかけして申し訳ありません。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 ボス戦 『ハカセ』

POW   :    つまりは加速と強度と質量の話だね。
単純で重い【パンチやキック 】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    まずはその無駄な機能を削ぎ落として改良すべきだ。
【なんの変哲もないノコギリ 】が命中した対象を治療し、肉体改造によって一時的に戦闘力を増強する。
WIZ   :    その力を行使する際の思考と体の繋がりを調べたい。
【筋弛緩剤入り注射器 】【拘束ロープ】【違法な治験同意書】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠タケミ・トードーです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●スタンディング・ウィナー!
 ヤドトリたちを跳ね飛ばし、猛然と進むデッカイザー。
(おんどりゃー!)
(死に晒せーっ!)
『回避行動に移りまーす! 皆さん落ちないようお気をつけ下さーい!』
 銃器を持ち出すヤドトリたちの射線上から身を左右に揺らし、機敏な動きでかわす鬣デッカイザー。
「さすがですね、デッカイザーくん!」
『それほどでもー!』
「いやしかし、これは素晴らしい運動性能だぞ」
 その回避力や遮蔽物を利用したフェイントなど気転の働きは目を見張るものがある。
 今回、この戦いに参加した四機の内、過去この個体のみが熾烈な戦場を生き延びたのだから、当然と言えるかも知れない。
「ようし、ここだ。あの超巨大ヤドトリと農場の中間地点。ここのヤドトリを叩き、敵の攻勢を挫くんだ」
「お任せを」
『お任せをー!』
 さて。
 現れた猟兵たちに警戒するヤドトリ。彼らを前にバーベキューセットを組み立てるジェリッド。
「おい、ヤドカリども」
(僕たちはヤドトリです~、ヤドカリじゃないです~!)
「あぁ、ヤドトリぃ!? 知るか名前なんて!」
(ひえっ)
 声を張り上げるジェリッドに小型ヤドトリは体をびくつかせる。止めて、相手は子供なのよ!
 しかし怒りの収まらないジェリッドさんは、すっかり萎縮したヤドトリを睨みつけた。
 磔だ。静かな意志がジェリッドから発せられた。
 彼らヤドトリは特殊な信号を生体器官から発している。ならばジェリッドの演算回路【Cruelty factor】によるジャミング機能の効果も適するだろう。
(!? あれ、さっきまで猟兵がいたんだけどなー、あれっ? ?)
 きょときょとと周囲を見回すヤドトリ。今の彼にはジェリッドが同族であると錯覚しているのである。
「…………」
(? ぴっ!?)
 無言で近付いたジェリッドさん、穴の空いたトランクケースをヤドにしているヤドトリを持ち上げると、怪訝そうな彼からヤドを剥ぐ。
 状況が飲み込めず触角を動かすヤドトリさん。トランクケースに隠れていたお尻が思いの外にぷりぷりしてて美味しそうです。
「さて」
 逃がす訳にはいかない。
 巨大なバーベキューセットの網はすでに良い感じに炙られている。そのままヤドトリを網に降ろすと──、あ、今回は残酷な描写はカットしてお送り致しますので、美味しそうなヤドトリの丸焼きを調理するジェリッド・シェフの姿をお楽しみ下さい。
 漂う香りは芳しく、食欲を誘う生焼きであるがそれだけでは終わらせない。さっと炙られて色付いた本体を両断し、断面を上にじっくりと火を通していく。
 熱に踊る肉がまた赤く色付いて食欲を誘う。しかしジェリッド・シェフは特に何とも思っていないようだ。
 分けた肉の上に醤油ベースの特性タレをふんだんにかけつつ、スライスしたバターを乗せる。その熱気ですぐに溶けていく黄色がとろりと殻の皿から溢れたのを見送って、ジェリッドはヤドトリの丸焼き二人前を皿に取り分けた。
「さあて、次はどいつだぁ?」
 赤のアイカメラがぬらりと光り、仲間だと錯覚したヤドトリたちがジェリッドの前を無警戒に歩いていた。
 そんな美味しそうな香りが漂う戦場で、桜花もお腹が空いたなと頭の片隅におきつつ、桜の花弁を纏った鬣デッカイザーくんと共に迫り来る敵の波を切り裂いて行く。
(ぴぎぃっ!)
(ぴぎゅ──、ぴぃっ!)
 桜花の桜吹雪によりその身を削られたヤドトリたちを、デッカイザーの突進により鉄の体が粉砕していく。
 更には桜の花弁を左右に開くことで網のように敵の勢いを殺し、弱まった甲殻を再びデッカイザーが打ち砕いていく。
 まるで以前から知り合ってでもいるかのように息のあったコンビプレイだ。
 もはや大型ヤドトリですら止められない彼女たちの進撃は敵の波をめちゃくちゃに切り捨て、その戦列を乱していく。
「上出来です、あの超巨大ヤドトリから来る他のヤドトリたちもどんどん数が少なくなっています。私たちの勝ちですよ、デッカイザーくん!」
『ウェーイ!』
(ま、待ってください!)
 追い詰められたヤドトリ。彼はデッカイザーのまえに身を投げ出すように平伏し、彼なりに高伏の意思を示しているのかやどにしていた犬小屋を脱ぎ捨てた。
「……何を……?」
(僕には八匹の子供がいるんです! 僕がいなくなると育てられません! あの子たちに罪はないんです、後生ですから見逃して下さい!)
 猟兵さんはお前ら絶滅させに来てるんだぞ。
 そんな事を言われても、生き残る為の争い、望みが叶うは一方だと語ったのは桜花自身である。
 可哀想だとは思う。だが、ここで退く訳にはいかないのだ。
(あれ? お前んちの子供なら近所の奥さんとお前が食べて三匹になってなかったっけ?)
 …………。
(そうだっけ? じゃあ三匹の子供の為に見逃して下さい!)
「貴方がたは子供の命をなんだと思っているんですか!?」
 それは強制的に口から飛び出させた言葉。信号により相手に干渉するヤドトリたちのユーベルコードなのだ。
 それは御しがたい隙となる。しまったと思った時にはもう遅く、ヤドトリたちは走り出していた。
(おりゃー!)
(死に晒せー!)
(おんどりゃーっ!)
 カサカサカサカサカサ!
「…………」
『…………』
 一生懸命走るヤドトリさんたちは遅く、一瞬の隙などほとんど意味がなく。
『えいっ』
(ぬわぁー!)
 とりあえずデッカイザーのメインアームの一振りで幕は閉じた。
 こうして自慢の数も減らされ、隊列も疎らになった彼らがレイリスの要塞と化した農場を、獰猛なアリスや猟兵並みのスーパーパワーを手にした超拠点住民を抜けられるはずもない。
 戦いは終局へ向かっていた。
(ぴぎいいいいいいいいいいいいいいっ!!
 ぴいいいいいいいいいいいいいいいっ!!)
「っ、く!?」
 超巨大ヤドトリから発せられる信号が脳を揺らす、とまではいかないが、不快な信号にコノカは思わず顔をしかめた。
 往生際の悪い。そう敵を断じて薙刀を構える。
 すでに摩那が引き摺り回して超巨大ヤドトリ周辺の衛兵たちは、その巨体の下敷きとなった。あれだけ揺らされては中に残るヤドトリも無事では済まないだろう。
「さあ、決着を!」
「ええ!」
「ギイイイイイッ! ガチガチガチ!」
(いっただっきまーす!)
 コノカを先頭に、摩那とアリス、三人娘が突撃する。
 大きく振り上げた巨大な鋏。超巨大ヤドトリの迎撃の一振りは、上空より急降下するウタによって阻まれた。
 地獄の炎に炙られ紅蓮の光を湛えた【大焔摩天】。
(ぴぎいいいっ、ぴいいいいいいいいっ!!)
 もはや叫んでも、その身を守りに来る者などいない。
「コノカさん!」
「お願いするわ!」
 アリスの上に再び飛び乗った摩那、彼女のエクリプスがコノカの胴を捕らえ、大きくぶん回してつけるは回転。
「はああああっ!!」
 気合一閃、真っ正面から叩きつけた翠の光が、ぶ厚い甲殻に包まれたヤドトリの頭部を引き裂いた。
 その直上から再び接近するは紅蓮の光。
「──、内部からこんがり焼いてやるぜ!」
 開いた眉間に突き刺さる紅蓮の刃は、彼の右腕から立ち上る【ブレイズフレイム】と繋がっている。
 獄炎をその身から溢れさせて、遂にはヤドトリの進撃は止まったのだった。


●ハカセが居る。
「いやー、すげえもん見れたなぁ」
「全くだぜぇ~、兄者よう~!!」
「……カニ……来なかったな……」
 平和に済んだというのになぜか不満そうな力瘤三兄弟。だからお前らモヒカンなんだぞ。
 血みどろの戦場であったにも関わらず、なぜか美味しそうな匂いが漂い腹を空かせている。拠点住民たちは、災害を自分たちの手で防ぎ切ったんだと抱き合って喜んでいた。
「おっ。あのクソデッケェヤドトリ、城みたいなカラがそのまんまだぜ?」
「中を探れば、オトモダチの喜ぶ物資に溢れているかも知れんな」
「まあ、まずは掃除からってところかねぇ」
 違いない。ヤドトリたちの残骸が残る荒野を笑い飛ばす。
 全て終わったのだと、安堵仕切った様子の彼ら。だが、猟兵だけは知っている。まだ終わりではないと。
「やれやれ、ようやく静かになったかなぁ」
 超巨大ヤドトリの背負う要塞の一室で、メスを置いたその者はぶ厚いレンズの眼鏡をかけ直す。
 部屋の一面には磔にされたヤドトリたちの姿があり、様々な部分が兵器と置き換わっている。
 白衣に彼らの体液で汚れた手を雑に拭い、机の上で頭を切開されたヤドトリへ機械を繋げていく。
「ふむ。やはり君たちの言語能力は失われたようだけど自意識は残っているのかなそれなら色々と確認したいんだけど答えてくれないんだものねしょうがないさ、その腕を切ってまず様子を見るべきだと思うんだ僕はね?」
 もはや言葉を発さず、時折震えるだけとなったヤドトリを前に、白衣はノコギリを取り出した。

・ボス戦となります。戦場は超巨大ヤドトリの背負う要塞内です。
・オブリビオンは改造ヤドトリを従えていますが固定砲台のようなもので回避を行わない上、無茶苦茶な改造により自らの攻撃で簡単に壊れてしまう状態です。
・要塞そのものを何らかの手段で破壊する事でボスへダメージを与え改造ヤドトリを全滅させられます。ただし、要塞内の物資も失われてしまいます。
・オブリビオンは戦闘技術は低いものの、非常に硬く、また高い攻撃力を備えていますので注意しましょう。
・特に隠しだてするつもりはないようで、チャラポラ博士の情報を問えば答えてくれるでしょう。
・派遣戦力は引き続き使用可能ですが対応できる相手ではないので、盾として扱う形となります。被害は避けられないので注意して下さい。
・被害の有無はシナリオの成否に関わるものではありません。
紅月・美亜
 新技の防衛拠点の方は問題無さそうだ。BLACKは自動制御で周囲を哨戒。これでコイツ相手に集中できるな。
「Operation;FRONTIER、発令。私がわざわざ呼び出された目的を果たすか」
 フィギュアサイズの戦闘機で航空支援。調節操縦しているの箱の一機だけだ、簡単に堕とされはしない。
 機銃で牽制しつつ主砲六発を叩き込む。折を見てボンバーを投下して操縦席から飛び降りる。操縦席から離れれば私は元のサイズに戻る。【CYBER CORE】の力だ。
「お前の口から出る情報など誰が信じるか」
 光リ輝ク銀ノ銃で撃ち貫き、ワイヤーアンカーで有線ハッキング。チャラポラ博士に関する情報を全て抜き取る。


メルティア・サーゲイト
 白兵戦闘なら人型モードだぜ。戦車だと拠点ごと潰しかねないからな。
「たまには初心に帰ってみるのもいいか」
 って事で武器はガトリングカノンとガトリングショットガン。がしんがしんと歩きながら撃ちまくって弾幕を張るぜ。
「ひゅんひゅん飛び回るロボットは趣味じゃねンでな」
 火力と装甲と射程距離があれば機動性は無くても何とかなる。改造ヤドトリを先に破壊しておくぜ。
「一応聞いておくが、チャラポラ博士を知ってて来たのかお前」
 あくまでも一応だ。回答はどっちでもいい。
「悪いが、テメーに用があって来たんじゃねェンだ。とっととくたばれ」
 後は大体撃ちまくるだけだろ。レイリスちゃんが情報引っこ抜いてくれる筈だし。


アリス・ラーヴァ
アドリブ・連携歓迎

今日は大漁ー、みんなー今夜はヤドカリパーティーよー
でもその前に、悪いオブリビオンさんを退治しましょー
えーと、あのどこかで見たよーなハ人が悪者なのねー
うーん?あの改造ヤドトリ、壁の方には攻撃できないよねー?
まずは試しに幼い妹(幼虫)達に超巨大ヤドトリを掌握して貰って、【トンネル掘り】で壁の内側から改造ヤドトリの体内に喰いこんで寄生して貰いましょー
寄生に成功したら、暫くばれない為に味方におざなりに攻撃してー
ハカセさんの攻撃にタイミングを合わせて、超巨大ヤドトリを操って要塞を揺らし体勢を崩したら改造ヤドトリで一斉射撃しましょー
あ、幼虫達は改造ヤドトリが破壊されそーな場合は逃げてねー



●いざ往かん、移動要塞ヤドトリ!
 美味しそうな香りの立ち込める戦場で、すっかり勝利者気分の拠点住民たちがなぜか美味しそうに調理されたヤドトリを食している。
 そいつら主食に人間も入ってるからね?
 そんな彼らを背に、超巨大ヤドトリへ進行するアリス・ラーヴァ(狂科学者の愛娘『貪食群体』・f24787)は自らと同じ姿形の妹たちを従えていた。
「ギチギチ、ギエエエエエ!」
(今日は大漁ー、みんなー今夜はヤドカリパーティーよー)
(わーい!)
(やった~!)
 倒したヤドトリは相当数。例え彼女たちの戦いが終わっても食糧が消える事はないだろう。
 ぞろぞろと進むアリス軍団に乗って猟兵たちが進む中、一際目立つのは二足歩行する巨大人型機動兵器ゴーレムユニット。
「新技の防衛拠点の方は問題無さそうだ。ブラックは自動制御で周囲を哨戒、これで例の相手に集中できるな」
 ゴーレムユニットの手に腰掛けるのは『大いなる始祖の末裔』ことレイリス・ミィ・リヴァーレ・輝・スカーレット、こと、紅月・美亜(厨二系姉キャラSTG狂・f03431)である。
 彼女のユーベルコードにより巨大農場を囲う防壁は要塞の如くなり、自動迎撃機能を備えた砲台が周囲を警戒している。
 先の戦いでこちらの防衛陣を突破する敵に対し、劇的な戦果を挙げた小型機動兵器も周囲を警戒している。
 抜け目なく語るレイリスを運ぶのはメルティア・サーゲイト(人形と鉄巨人のトリガーハッピー・f03470)。先の戦闘ではこちらもゴーレムユニットを重戦車として、レイリスと共にヤドトリたちを踏み潰していた訳であるが。
(白兵戦闘なら人型モードだぜ。戦車だと、ヤドトリの背負ってる要塞ごと潰しかねないからな)
 胸中で呟く。
 この要塞内の物資は周辺の各拠点に配布すべき物だ。それをむざむざと失う訳にはいかない。
 超巨大ヤドトリを内部からじっくりと焼いても物質までは焼かなかった木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)も気持ちは同じくだ。
「折角だし、他にもヤドトリを美味しくいただける調味料があるといいな」
「その時はウチが美味しく焼きますよ」
 ウタの言葉に続いてジェリッド・パティ(red Shark!!・f26931)。彼こそが本日のヤドトリ・シェフである。
 なお火加減はばっちりだが料理が得意と言う訳ではない。これもガジェットの力であったのだろうか。
「調味料。色々とあるならお出汁をとって煮付けても良さそうですね」
 そういえば、以前は彼らに味噌を分けたような、と御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は記憶を探る。こちらはガジェットがなくとも料理の腕前が高く、味を疑う必要はないだろう。
「良いですね! カニの出汁にピリリと辛い調味料を加えて……ああ、美味しそうです……!」
 アリス妹の上で揺れながら手を組む黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)。彼女の味覚センスで考えるならば、ピリリとは常人にとって舌が裂けるかのような地獄の辛さである。
 彼らの横を走るバイク・アルタイルに乗る、と言うのか置かれているリカルド・マスケラス(ちょこっとチャラいお助けヒーロー・f12160)だ。
 影響下に敷いていた拠点住民たちも解放し、自らを苦しめていた呪縛ももはやない。
(あのオブリビオンがここの連中とどんな因縁があるかは自分は分からないっすけど)
 守るべき者は守る、それだけだと嘯いて、仮面は風を抜いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リカルド・マスケラス
ここの連中とどんな因縁があるかは自分は分からないっすけど、守るべきものは守る。それだけっすかね

拠点住人達を帰したら、【霧影分身術】で5Lv分くらいの分身を19体作る
「数は減るけど、住人達への危険性が減る分、気楽っちゃ気楽っすね」
主に改造ヤドドリを撃破して味方をサポート。敵の攻撃は分身を1Lv分分離させて【かばう】させる。自分以外に味方もかばう。

「味方にこんな改造施して、心は痛まないんすかね」
などとハカセに言ってみて、自分が拠点住人を強化して戦わせたことをもし指摘されれば
「一緒にしないで欲しいっすね。あれは彼らの明日の選択肢を広げる下準備みたいなもんすよ」
結局は平行線な会話になりそうっすけど


黒木・摩那
あなたがヤドトリ達を差し向けたのですね。
チャラボラ博士とは一体どんな関係なのでしょうか?
エネルギーが目的なら、もっと積極的に関わっていれば、それも可能だったかもしれません。
なぜそうしなかったんですか?

もっとも、そのおかげで今こうして対峙できているのですけどね。

さて、オブリビオンの硬さは厄介ですね。
ここは相手の力を利用させてもらいましょう。
魔法剣『緋月絢爛』で戦います。
UC【暗黒球雷】の吸収球を剣の表面に集めて、【武器受け】で相手の攻撃を受け続けます。
その内にエネルギーが貯まるでしょうから、120%でオブリビオンに【衝撃波】でキャッシュバックします。


御園・桜花
「貴方がオリジナルでもクローンでも。貴方が貴方であることにかわりないでしょう?生きることは願うこと。在り続ける以上、どんな願いを持つのも構わないけれど…ぶつかりあえば叶わないこともある…それだけです」
UCで炎の精霊を召喚し敵の放つUCを追尾炎上させ味方に当たらないようにする
また高速・多重詠唱で弾丸にも炎の属性を付与し制圧射撃
敵の攻撃や行動を阻害して仲間の攻撃が通りやすくする

「貴方がオブリビオンでなかったら。貴方が貴方になる前に、切磋琢磨出来る他者、貴方を愛し慈しむ他者がいたら。貴方の願いは、此程迄に他者とぶつかりあわなかったと思うのです」
鎮魂歌で送る

ンン博士を害する行為は仲間であっても阻害する



●博士とハカセと猟兵と。
 粗末なスクリーンに映る自分の顔を横目に、切り開いたヤドトリの頭部にコードを差し込む。ヤドの代わりに背負わせた制御盤を弄るとヤドトリの目がくりりと動き、それに合わせてスクリーンの映像にも動きが生じる。
 どうやら彼の視界と繋がっているようだ。
「まあ手動なのは電気信号の確認の為だストレスを受けているのは人なら組織の色で判断できるけど君たちはどうだろうねとりあえず縫合するけど君たちの甲殻は堅いんだ、あまり激しい運動は止めてくれるようにお願いするよ」
 暗い笑みを湛えてヤドトリの頭部に金槌で鉄芯を打ち込み、むりやり甲殻を繋いでいく。再生を目的とした縫合ではなく、中身がこぼれないよう閉じただけの施術。
 それだけでこのオブリビオンが、被験体のその後に関心を持っていないことが分かるだろう。
(ハカセー! 侵入者が出ましっ、たぁい!
 あ、これどうぞ昼食です)
 ばぁん、と勢いよく開いた大扉が勢いよく戻って顔面を痛打したヤドトリくん。
 その鋏で器用に持つお鍋を落とさず、散らかり放題の部屋にカサカサやってくる。
「そうかい? 特にお腹は空いてないんどけどなあ。じゃあ、そこにでも置いててくれないかい」
(ハカセー! お昼ご飯なんて気にしてる場合じゃないよ!)
 自分が持ってきたにも関わらず、侵入者が来たっつってんだろとじたばたしているが、それより気にすべきことが部屋中に磔にされてるではないか。
 場合によっては共食いするヤドカリと同じく、彼らも同種の命に対してそこまで関心がないのかも知れない。猟兵へ子供を食っていたような話をしていたが、あながち嘘ではなかったか。
(もー! 迎撃準備しなきゃ──ぴぎぃっ!)
 再び勢い良く開いた大扉。重量のあるそれと壁に挟まれて、今儚い命がひとつ消えてしまった。
「おや、来たね」
 鍋の中の、煮込まれてもいない虫の集る肉を面倒だとばかりに匙でつついていたハカセと呼ばれたオブリビオン。
 それは来訪者へ顔を向けると暗い笑みを浮かべた。獲物、否、材料の組合せを探るかのような子供の目。生理的嫌悪を伴う笑顔でハカセは歓迎しようと手を開く。
「君たちが来たって事は、大体の話の流れも知っているんだろう? どうだい、食べ物もあるんだ。一緒に彼が夢を叶える所を見ていかないかい?」
 運んで来た彼は潰れてしまったけれど。
 ぼそりと付け加えられたその言葉にびくりと体を震わせたのは、大扉を開いた本人たるアリスだ。そっと潰してしまったヤドトリを覗いていたが慌ててオブリビオンに向き直っている。
 広い超巨大ヤドトリ内部探索の為に参会した猟兵たちだったが、件の鍋を持ったヤドトリを発見したことで結集し、この部屋に押し入った。
 その折、散らばったアリス妹たちはそのまま探索を続行させている。
「あなたが、ヤドトリたちを差し向けたのですね?」
「そういう事になるね」
 摩那の言葉に肩を竦めるオブリビオン。まるで他人事だ。多くの拠点を食い潰してきた存在を差し向けた者の態度とは思えぬほど、関心がないというその態度。
「テメーとにこにこお食事する為に来た訳じゃねェって、分かってんだろ?」
 立て付けの悪い大扉を引き裂くように、部屋の中に入ってきたゴーレムユニットをハカセは興味深そうに見上げている。
 その視線すらも鬱陶しく、メルティアは舌打ちして操縦席を開くとその赤い目でオブリビオンを睨み付けた。
「一応聞いておくが、チャラポラ博士を知ってて来たのかお前」
「知ってて? ……ああ、なるほど……違うよ。知りはしない、と言うのは正確じゃないかな。今の僕は彼の事を知らなかったんだ」
 骸の海から再び現れるとは、そういう事なのだろうとハカセは笑う。まどろっこしい答え方だ。
「それじゃあ、ンン博士があんたと組んでたってのは本当なのか?」
「まあね」
 ハカセの言葉に身を乗り出すウタ。あっさりと認めた白衣に眼鏡を拭くオブリビオンへ、視線を厳しく変えて拳を握る。
「あんたが焚きつけたのか、ンン博士を。ンン博士に何をさせるつもりだ?」
「焚きつけた? 僕が?」
「周囲や自分の命を顧みない実験だなんて、許せないぜ。なぜそんな事をしようとしている?」
「そんな事、だって? そりゃあ、君、とんでもない事だよ。要は彼にとって、他人の命も自分の命も、自分の夢を叶える為なら顧みる価値は無いって事なのさ
 僕はただ、彼に夢を叶えて欲しいだけなのさ」
 それほど彼の夢は大きく素晴らしいんだ。芝居がかった仕草でヤドトリらの体液で汚れた両腕を広げる。
 ならばその夢とは一体、何だと言うのか。他者も己も顧みない夢などと。
「あなたはその夢を知っている、と。チャラポラ博士とは一体どんな関係なのでしょうか? 恒星エンジンとやらのエネルギーが目的なら、もっと積極的に関わっていれば、それも可能だったかもしれません。
 なぜそうしなかったんですか?」
「恒星エンジンの、エネルギーだって? そんなもの、何の役にも立ちやしない。ああ、いや、違う、意味が変わるね。エネルギーを取り出す事なんて絶対にできないから、何の役にも立たないと答えたのさ僕はね」
 ハカセの言葉に、猟兵たちは違和感を覚えた。彼の長年の夢とは恒星エンジンの完成ではなかったのか。だがこのオブリビオンの言葉だと、それとは別にあるように語っている。
 それどころか、まるでグリモア猟兵と同じく失敗が当然だと理解している口振りだ。そこからもチャラポラ博士の夢を応援しているという言葉と剥離している。
 否。やはり言葉通りの意味ではないのか。オブリビオンとチャラポラ博士の目的は恒星エンジンの完成で無いのだとしたら。
「それに、彼には色々と協力させて貰ったよ。恒星エンジンの製作に利用できるオブリビオンの素材さ。君たちに倒して貰わなきゃならなかったし、お陰で危ない橋を渡る事にもなったけど。
 僕が直接関わってしまうと、素材研究も進む前に君たち猟兵と出くわしてしまうかも知れなかったからね。彼らを一ヶ所に押し留めておくのは、結構、骨が折れたんだよ?」
 素材となるであろうオブリビオンの選別やチャラポラ博士への関与など、エンジン作成中に猟兵との戦闘になってしまえばご破算だ。
 だからこそ回りくどくも着実に研究が進む方法を考えたのだ。それは彼と同じく研究者であるからこその発想だったのだろう。
「…………、なんだ、アンタも博士なのか?」
 ハカセの言葉に対して、どちらにせよお前は破壊対象だとジェリッドは蔑んだ。
「オブリビオンには拷問を。博士の方は高齢だし、耐久力を踏まえて尋問だ」
 きちんと対象の違いを認識するのはさすがのウォーマシン。ハカセも見習って欲しいアフターケアだ。
 しかしてハカセはその言葉に関心も薄かったが、ふと気づいて背後のスクリーンに目を向けた。
「そうかそうだなそれも面白いじゃないか拷問いい考えだなぁ」
 興奮した様子でまくし立てると傍らのヤドトリの頭部に深く根差すコードを引き抜く。大きく震えたヤドトリを一切気にせずソケットにコードを移して電話をかけると、素朴な椅子に腰かけた白いタキシードの背中がぽつりと、スクリーンに映し出された。
 チャラポラ博士だ。
 彼の目の前にはスクリーンに映り切らない巨大な鉄の塊が鎮座していた。
「やあ君聞こえているかいこっちを振り返ってごらんよ面白い話があるからさ」
『……何だ、今度は何の邪魔を……!?』
 振り向いた先にはモニターでもあるのだろうか、手を振るハカセの背後に続く猟兵の姿を確認して驚愕に目を見開く。
「聞いてくれよ、君、彼らは僕を拷問するって言うんだ。その次は君の番になるだろう。だから君、実験は早めたほうがいいと思うのさ僕はね?」
『…………、そういう事か』
 じろり睨み付けるのは、受話器を握る悪びれない子供の顔。
「アンタ、目的を話さないとコイツの二の舞になると思っておいたほうがいいですよ」
『好きにしろ。それに、俺の目的は』
「恒星を造る事、だものね」
 恒星を造る。それが恒星エンジンを指すものではないのだと、否、恒星エンジンを利用した彼の夢なのだと猟兵たちは直感する。
 ジェリッドの脅しの言葉にも冷めた目を向けたのは、自らの命を既に秤に載せているからなのか。ただ命惜しさなどではなく、隠す気もなく。
 答えた言葉を引き継ぎハカセは猟兵たちへ振り返る。オブリビオンを見つめていたチャラポラ博士もまた、溜め息を吐いて機械の方へと向き直った。
『何をするのも好きにしろ。俺はやる事をやるだけだ』
 ぷつりと音をたてて映像が消える。彼に繋げていた回線が切断されたのだ。
「だってさ。困っちゃうよねぇ、君たちが彼の元に着く前に、すべき事をすべきだって思うんだけど、彼は聞く耳を持ってくれないのさ」
 だから、自分が攻撃を受けている所を見せつけたかったらしい。
 ハカセもまた自らの体などどうでも良いのだろう。それなのに博士を気にかけ、その夢に協力している。
 だと言うのに犠牲を他者にも強要するその心は。
「味方にこんな改造施して、心は痛まないんすかね」
 リカルドの言葉。アルタイルの代わりに青年がそのお面を頭の横に張り付けている。
 それがヒーローマスクでもある彼の真の姿であった。
「味方? と言うには少し誤解があるようだけど。それ以前に、味方を改造しちゃあいけないのかい?」
 まるで理解できない様子のオブリビオン。博士のはリカルドの狐面を指し、改造と言うならば君もしていたではないかと笑みを浮かべる。
 甚だ心外である。まるで個を否定したような、幼児の遊び場のようなこの研究室での出来事と自分の行為を同視するなど。
「一緒にしないで欲しいっすね。あれは彼らの明日の選択肢を広げる、下準備みたいなもんすよ。
 興味本意で明日を奪うお前とは違う」
「…………、まあ、確かに僕の実験はあくまで記録用だからね。でも構わないじゃあないか、幾らでもある材料なんて」
 睨み付けるその目に、やはり何一つ理解していないハカセ。
 一発触発の雰囲気に緊張感が高まる中、アリスは桜花へ顔を寄せた。
「ギチチッ、ギチギチ」
(えーと、あのどこかで見たよーなハカセ? 人? が悪者なのねー)
「ええ、そうですね」
 いつか顔を合わせた敵を前に、アリスと桜花はハカセを見つめる。
 完全に倒す事の出来なかったオブリビオンは骸の海へと還り、再び時の牢獄で眠り続ける。
 だがその骸の海から目覚める彼らにその記憶が無い者もいる。メルティアとハカセの問答からすると、ハカセに先に声をかけたのはチャラポラ博士だろう。今のハカセではなく過去、骸の海から現れたハカセと面識があるのだとすれば、桜花とアリスが共に戦った、惨劇の起きた拠点の生き残りの可能性もある。
 その時の光景は今のヤドトリたちを遊び散らかした部屋の比ではない。もしそうだとするならば、人を人とも思わぬハカセに、それでも接触したチャラポラ博士の狂気的覚悟は。
「質疑応答の時間は、もう不要だろう。これ以上の時間稼ぎをさせる訳にはいかない」
 その思考を断つように前に進み出たレイリス。
 全くもってその通りだと時間稼ぎであることを認めて、ハカセはそれでも言葉を重ねた。
「君も、他の彼らのように聞きたい事はないかい?」
「ふん、お前の口から出る情報など、誰が信じるか」
「嘘なんて吐かないけどなぁ」
 頭を掻くオブリビオンに、そういう話ではないのだとレイリス。
 このオブリビオンの価値観と倫理観は、まるで狂人のそれなのだ。このオブリビオンは言葉通り嘘は吐かないだろう。だが、その歪んだ思考で捉えた現実が、真実とは限らないのだ。
 それが妄想でないなどと、誰が保証できると言うのか。
「そうかい。なら、仕方ないね」
 やれやれと自分の肩を叩くと、壁に磔にされたヤドトリたちが一斉に動き始めた。
「それじゃあ、しようがない。時間稼ぎをしようか。僕が骸の海に還るまで」
「自己犠牲のつもりか? 下らんな。貴様は自分の研究に他者の犠牲を強要するように、博士の研究の為に犠牲を強いているに過ぎない!」
「そこは問題じゃあないのさ」
 熱を見せたレイリスとハカセの言葉。
 そんな二人ではなく、磔から抜け出した武装化する改造ヤドトリにを見つめるアリス。
「……ギギギ……」
(うーん? あの改造ヤドトリ、壁を壊せる武器ないよねー?)
 ぬばたまの瞳がきょろきょろと、這い回るヤドトリたちを捉えていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

木霊・ウタ
心情
命を蔑ろにする奴を許せないぜ

戦闘
獄炎纏う焔摩天で薙ぎ払う
高熱の剣風の余波で改造ヤドトリを砕く

不屈の意思で何度でも剣撃と火炎を繰り返し重ね
常に延焼させて
敵の防御能力/装置の負荷や過熱を誘う

物資には延焼させない
拠点や世界の生存や復興に大切なものだもんな

剣&炎壁で防御
仲間を庇う
受傷時も吹き出す炎をくれてやるぜ

ンン博士について
あんたと組んでたってのは本当か?
あんたが焚きつけたのか
ンン博士に何をさせるつもりだ?
周囲や自分の命を顧みず実験だなんて許せないぜ
なぜそんなことをしようとしている?

ハカセ
あんたもOストームで変じて
絶望に飲み込まれちまったクチか
可哀そうに
海へ送ってやる

事後
鎮魂曲を奏でる
安らかに


ジェリッド・パティ
博士は破壊ではなく、排除だったか。……状況次第、周りに判断を仰ぐが、決定権はチャラポラ自身にあると考える
だから、ウチはそれを尊重する

……なんだ、アンタも博士なのか? どちらにせよアンタは破壊対象だ
ハカセには拷問を。博士の方は耐久力を踏まえて尋問だ。アンタ、目的を話さないとコイツの二の舞になると思っておいたほうがいいですよ

理屈を語るより夢を話せ!! さあ話せ! 語るのは好きだろう!? 聞いてやる。耳にしてメモリに残してやる
言い残したことはないか!? やり残したことは!? 執念とはその程度のものか!!
アンタら、ここでおっ死んで満足できる脳と身体してるのか! 最後まで抗え。ウチと争え、科学者ども!!



●激突!
 ごつり。
 硬い音をたてて、ハカセのブーツが進む。乗り出した身にその歩行、警戒などあったものではない、散歩にでも行くような無造作な一歩。
「ギエェェェ! ギイィィィ! カチカチカチカチ!」
(【みんな~もう少しだけがんばって~】)
「?」
 急に声を張り上げたアリスに目を丸くする。その隙だらけな姿に機を見て仕掛けたのはジェリッドだ。
 ヤドトリに汚染されたとは言え元は要塞、それなりに堅牢な造りであるにも関わらず、一歩でもって床を踏み砕き高速接近する黄の装甲。
 鋼の【拳】がハカセの腹部を貫けば、強烈な一撃にその体が浮き。
 直後に全質量を乗せた渾身の打ち下ろしが頭部に炸裂する。轟音をたてて叩き伏せられたオブリビオンに対し、見下ろすジェリッドはその手応えに驚いたようで半歩下がった。
「……こいつ……?」
「やってくれるじゃあないか」
 傍目から見ても会心の攻撃であったが、直撃にもかかわらず何事もなかったように起き上がる白衣。
 彼の攻撃を受けた服は大きく破けて、その柔肌もまた凶悪なジェリッドの拳によりずたずただ。
 だがその皮の下から覗くのは生物らしい筋組織ではなく、機械的な骨組み。このオブリビオンが人でないと知らせるには十分だ。
 レンズの割れた眼鏡を頭に乗せて、ハカセは薄ら笑いをそのままに拳を固める。
「!」
 無造作に繰り出した拳を咄嗟に肩で受け止めると、激しい金属音が響いてジェリッドが弾き飛ばされた。
 体格で言えば巨人と小人、にも関わらず体格差を覆す十分な威力だ。
「硬いね。君たち猟兵は材質もこの世界の物とまるで違うから色々な情報が集められそうで嬉しいよ」
「狂った機械が科学者を気取るのか! ……狂った機械だから……か!」
 全くの無防備なハカセへ拳を打ち込んだ手応え、そして今の攻撃。ジェリッドはハカセに近接戦闘に関する知識がまるでない事を悟る。
 同時に、その体が自分より遥かに小柄ながら、同等かそれ以上の質量を有している事も。
「見た目より厄介な相手みたいだ。ロボットか、だから何だって話じゃないが、命を蔑ろにする奴を許せないぜ」
 佇むハカセの後ろに集まり始めたヤドトリを睨み付けてウタ。ハカセと言えば相変わらずのにやけた顔で頭を掻く。
 全体で言えばコンマ以下のパーセントにすら及ばない個体数。それを実験に使って何が悪いのかと。
「それに彼らは明らかに手を加えられた生物だ製作の思想傾向が極めて僕に近いからあるいは過去の僕が造ったのかも知れないがならなおの事材料として消費する正当性が出るだけじゃあないかと思うよ僕はね、だってそうしなきゃあ生まれなかった命だもの」
 命という言葉を軽々しく使うこのオブリビオンは。
 理解しているかのように唱えているが、その実、個の単位として見ているだけだ。
 命の続く先を、その道を見ている訳ではない。命が紡ぐ存在を、まるで理解していないのだ。
 ウタは目を固く閉じ、力を抜いて開く。背負う大剣、焔摩天を右腕ひとつで抜き放ち、ハカセを真っ直ぐ見つめる。
「あんたもオブリビオン・ストームで変じて、絶望に飲み込まれちまったクチか」
「さあねぇ。そんな事には興味なんて無いけれど、今ここに居る僕が、僕というだけの事さ」
 詰まらなさそうな顔をするハカセの言葉。それがかつてのオブリビオンと重なり、桜花は苦い顔を見せた。
「あなたがオリジナルでもクローンでも。あなたがあなたであることに変わりないでしょう?」
「…………、そうなるね」
 何かしらこちらの事情を知っているのかと、視線を上に向けて考える素振りを見せたオブリビオン。
 桜花は小さく息吹くと、ハカセを睨み付けた。かつての哀れみは無い。誰もが生きる為に戦う絶望の荒野に現れたこのオブリビオンは、打破すべき障害に他ならないのだ。
「生きる事は願う事。在り続ける以上、どんな願いを持つのも構わないけれど……ぶつかりあえば叶わないこともある……それだけです」
「そうだね。まあ、僕としては避けたかったんだけどね?」
 勝手な事を。
 桜花とウタの瞳に怒りの炎が映る。それは或いは右腕に、或いはその背後に燃え移り。
 地獄の炎を纏う焔摩天を両手に構えたウタと、その背に炎の精霊を喚び出した桜花の【召喚・精霊乱舞】。
 明々と薄暗い部屋に灯る光にハカセが目を輝かせると同時に、大きく踏み込んだウタが剣を一閃する。
 間合いで言えば遥かに遠い。しかし放たれた一撃は風となり、その剣風は炎を運び隊列を組むヤドトリたちに直撃した。ウタのブレイズフレイムを利用した攻撃だ。
 悲鳴すら上げなければ燃える体に抵抗すら見せず、ただ焼かれるままの彼らはその体から生えたソケットやケーブルから火花を散らす。
「困るなあ、まだデータを取っていないんだ。優しく扱って貰わないと」
 まるで飼い主がペットの粗相に愚痴を漏らす程度の様子を見せたハカセがヤドトリへ近づくと、動きを止めるべく鉛弾の雨が降り注いだ。
 その身に受けて燃え上がる白衣に多少は驚いた顔を見せて桜花へ目を向ける。
 従えた炎の精霊を利用し、構えた【軽機関銃】の銃身に焼き付いた魔方陣がその攻撃に燃焼効果を与えていると察するのは容易である。
 ユーベルコードか。
 膝立ち姿勢のまま油断なく、弾倉を取り替える桜花の前へ、その身を守るように摩那が立つ。
「その硬さ、厄介ですね」
「まあね。厄介になるよう造られたからね」
 摩那の言葉に皮膚へと燃え移る炎を消しながらハカセ。桜花の銃弾を物ともしないが、そもそもがハカセへの攻撃はついででしかない。
 後方のヤドトリへの制圧射撃により、ウタの攻撃に引き続き炎上範囲が広まっているが、微動だにしない彼らをハカセは無事で良かったと溢す。
 勿論、このオブリビオンが無事と評したのはヤドトリ自身ではなくその身に装着させた武器が使用出来るか否かだ。
「まあでもほうっておいたらスクラップだしこれ以上の時間はかけてられやしない早速君たちには戦ってもらわなきゃいけないね」
 初めてオブリビオンが見せた、防衛の為ではない敵意らしい敵意。理由としては低俗極まりないが、その令を受けてヤドトリたちが前進する。
 その直後、足下を進むヤドトリの内の一匹を拾い上げてハカセは小首を傾げた。
「おかしいな。君は、燃えてもいないし、特に問題がないみたいだけど、妙にレスポンスが悪いね」
(ぎくーっ!?)
 どこからともなく響く擬音を模した言葉。明らかに猟兵へ迫るヤドトリの内の何匹かが狼狽えた様子を見せた。
「君だけじゃないね。他にも何匹か、通信系の問題というよりは、そう、別の命令系統に組み込まれてしまっているような」
「シイィッ!」
 まるで隙だらけのハカセの横っ面に叩き込まれたのは、ジェリッドの巨拳。
 ヤドトリを取り零してそのまま壁際にまで吹っ飛んだハカセ。今回は全体重だけではない、気合も乗せた全霊の拳だ。
 何という馬鹿力だと摩那は舌を巻く。
「通信を切られたのは残念だが、アンタを拷問する事に変わりはない!」
 機材の山に突っ込んだハカセを掘り出し、その頭を鷲掴みにして自分の頭と高さを合わせた。
「さあ理屈を語るより夢を話せ! さあ話せ、語るのは好きだろう!? 聞いてやる。耳にしてメモリに残してやる!」
「安心しなヨ、音声は伝わッテる。同ジ機械の体じゃアないか、仲良クシよう」
 その声にはノイズが混じり。
 ジェリッドの攻撃によって顎が歪み顔の半分近くの皮膚が剥がれたハカセはそれでも態度を変えようとしない。
 これは拷問なのだ。ジェリッドは言葉の変わりに拳を固め。
 続く衝撃、否、衝突音を響かせ殴り飛ばされたのはジェリッドだった。
 こちらも頭部に一撃を受けて、その装甲が僅かに歪んでいる。彼の戒めから解放されて床に降り立つオブリビオンは、殴り飛ばしたジェリッドを気にも留めていないのか、器財の山を漁っていた。
「なグるというのハツまりは加速ト強度と質量の話ダね」
 取り出したのはもはや形を成していない眼鏡だった。
 ハカセはそれを天井に掲げて透かし見て、ジェリッドへ振り返る。
「君たチハ僕の事を感情ガないか、オカシな奴だト思ッテいルようダけど、ソンな事はないンだ。君たちヲ一目見れば殺さズにいらレナい程に憎たラシしいシ、同時ニ恐怖だって感ジている。
 だけド、ソウ、トっくにコんな感情は亡くシタと思ってイたけれド」
 手に残る眼鏡を握り潰し、残る皮膚が作る薄ら笑いをジェリッドへ向ける。
 君の事は嫌いだな。
 前言を翻し、手の中の屑を白衣のポケットに収めて真っ直ぐにジェリッドを目指す。構えるジェリッド、ここでようやくヤドトリたちも武器を構えた。
 だが彼らとて、通過点に過ぎぬハカセを前に足踏みするつもりなどない。
『悪いが、テメーらに用があって来たんじゃねェンだ。とっととくたばれ』
 扇状に広がり猟兵たちを包囲する群れに、降り注ぐ鉛弾の嵐、鉄の風。前列のヤドトリを一薙ぎしたのはメルティアとゴーレムユニットだ。
 【CODE GENOCIDE(コードジェノサイド)】。ガトリングガンとガトリングショットガンの連射数を引き上げているが、加熱する砲身はユーベルコードによって焼き付かず、そんな無茶も難なくクリアしている。
『やっぱコイツが一番しっくりくるよなァ、ガトリング、リアクティブ!』
 すっかりご機嫌になったメルティアの声が外部拡声器から響いて、ハカセの視線もそちらへ移る。
『ひゅんひゅん飛び回るロボットは趣味じゃねンでな。さあ、穴だらけにしてやるぜッ!』
 構えた銃口へ、投げつけるのは機材の山から引き出した装甲版。
 舌打ちして銃身で弾けばその先で、ハカセがゴーレムユニットの操縦席目掛けて跳躍していた。
 崩れた顔に迷い無く、仄暗い瞳を向けて振りかぶるその拳。
 身体中に鳴り響く危険信号に身を硬直させた時、間に割って入ったのは摩那であった。
 角度が変わる度にきらりと刀身のルーン文字に変化を見せる魔法剣【緋月絢爛】。
 敵の拳に対して、エクリプスを利用して高速接近した摩那が刃を打ち込む。本来ならばその剣を大きく跳ね飛ばされたであろう瞬間も、衝撃はしっかりとその手におさめられた。
「何だイ、それは?」
「さあて、何でしょう?」
 摩訶不思議な感触に目を細めるハカセ。目の前に着地したまま無防備なオブリビオンを蹴りあげて、メルティアは後退しながら群れるヤドトリを射撃する。
『やっぱあのテの相手にゃ不利か! 目標、改造小型ヤドトリで固定!』
「【Operation;FRONTIER(オペレーションフロンティア)】、発令。私がわざわざ呼び出された目的を果たすか」
 牽制、否、回避行動すらしないヤドトリを殲滅しながら後退するメルティアに代わり、小さなフィギュアサイズの拳銃型戦闘機を召喚したレイリス。
 併合して発動するのは【Operation;CYBER CORE(オペレーションサイバーコア)】。戦闘能力に長けていない本体たるレイリスが戦う為の手段のひとつ。
 フィギュアに触れればその体は戦闘機へと吸い込まれ、直後には慣れ親しんだ操縦席だ。その身を移しつつ一番得意な、偏愛するシューティングゲームを代言したバトルゲーマーとしての真骨頂たる戦闘スタイルだ。
「大きければ強いという訳ではない。特に、戦闘機と言うものはな」
 発進。
 乱れ飛ぶ機銃に対して豆鉄砲と侮ったか、ゴーレムユニットの蹴りから身を起こしたハカセは無視するつもりのようであったが、そうは問屋が下ろさない。
 前述した通り、銃身に翼を備えた戦闘機はその先端に主砲を備える。
「頭を貰う!」
 コックピットから見る視界にハカセの頭部を収めて発射された砲弾はハカセの側頭部へ正確に着弾する。
「──オ……」
 傾いだ体は足を開いて倒れるのを拒むと、側を歩いていたヤドトリを掴み上げてレイリスに対する盾とばかりに掲げた。
(きゃーっ)
「…………?」
 他のヤドトリと違い感情的なそれの動きにハカセが疑念を持つと同時、小柄なハカセの更に下から垂直に伸びた足が、その手を蹴り上げた。
 手から離れた改造小型ヤドトリは、そそくさと群れの中に消えていく。
 潜り込むように滑走し、腕を支えに跳ね上げた見事な蹴り。それを放ったのは狐面、リカルドだ。だがその仮面には『5』の数字が刻まれ、その姿も先程の青年のものではない。
「夢か現か幻か、とくとご覧あれっすよ!」
 女の顔でにやりと笑うのはリカルドであった者、過去のお面の所有者だ。
 【忍法・霧影分身術】。霧を形と成して実体とし、分身を作り出すユーベルコード。さらに生み出した分身を掛け合わせる事で数は減るもののその能力は高まるのだ。その数、本体を合わせて二十。
「さっきより少ないすけど、住人達への危険性が無い分、気楽っちゃ気楽っすね」
 何より、屋内戦闘で数だけ揃えるなど愚の骨頂。犇めき合って仲間により動きを止められるヤドトリたちがそれを証明している。
 動きが止まってしまえば、ウタ、桜花、メルティアの良い的だ。
「しょウがナいな」
 盾を失った事で再び頭部を砲撃され、たたらを踏んだ体でハカセは。
 ヤドトリたちに一斉射撃を命じた。


※二章完結となるハカセとの決着は、ヤドトリ戦と同じく執筆が間に合わず次章断章に持ち越し致します。
 三章開始の断章と共に本日(1/24)投稿させていただきます。度々のご迷惑、申し訳ありません。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『アポカリプスで農業を』

POW   :    力仕事を担当する

SPD   :    丁寧な仕事を心掛ける

WIZ   :    技術指導などを行う

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●抗う者と。
「そう来るっすか!」
 群れの中で暴れさせていた分身を引き返し、防御に回るリカルド。
 仲間の壁が邪魔となり攻撃の控え目だったヤドトリたち。しかし味方の誤射や効果の大小を考慮せず銃撃が開始されれば話が変わる。
 狭い屋内で、ただでさえ精度の低い射撃を行うのだから下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるとばかりであるが、ここは屋内だ。
「まるでクソゲーだな!」
 下手な鉄砲も上手な鉄砲も壁に当たれば跳ね返る。縦横無尽に乱れ飛ぶ弾丸にレイリスは毒吐きながらもバレルロールを連続し弾丸をかわしていく。
 後方へ下がり防御に徹する猟兵たちであるが、この程度の弾丸では止めようがないゴーレムユニットは戦闘を続けている。
「ハッ、苦し紛れの策も勝手に数が減るんじゃ意味なしじゃネェか!?」
「ソれはどウカな?」
 ゴーレムユニットと同じく鉛弾の雨の中を歩くハカセ。自らの弾丸で倒れるだけでなく、その無理な改造から射撃の衝撃に耐えきれず甲殻が剥がれ落ちる者すらいる地獄絵図。
 そんなヤドトリたちの前に白衣の下から鋸を取り出して、機械としての姿を露にしたハカセはその刃を振り下ろす。
 材料ならば沢山あるのだと転がる機材を引き摺って。
「まズハソの無駄な機能ヲ削ぎ落トして改良すべキダ」
「修理などさせるか!」
 他にハカセと同じくこの鉛の雨を走れるといえば、同じく機械生命体であるジェリッドだ。
 走る方向視線の先に捉えたのは、ただでさえ格闘技術に精通していない相手だ。ヤドトリを修理改造すべくこちらに背を向けるハカセに一撃を入れるなら、今を置いて他にない。
 ゴッドハンドであるジェリッドの右手に力が込められた。先程まではその身体の性能で、あるいは気力も含めた威力とはまた違う。
 世界を司る理にして常世の法則とは一線を画す力、ユーベルコードの力を解き放つ。
 鋸で次々と解体を行い、機械に使う接合材や締め付け材で素早く組み立てる。銃弾や自らの攻撃で破壊されたヤドトリたちを戦線に復帰させるハカセの背後へ肉薄する。
 ──【一撃必殺】。
「……っ、ぐ……っ!」
 それはダメージらしいダメージを与えていなかったハカセの腹部を、遂に背後から貫いたのだ。
 抜いた腕を支えにハカセを持ち上げ、更なる追撃を構えるジェリッド。続く一撃はその脳天だが。
「言い残したことはないか? やり残したことは!?」
 彼の問い掛けが戦場に響く。止めの一撃を放つ前に、その想いを吐き出させるように。
「どうした、お前の執念とはその程度のものか!」
「……ンン……ドウ、カ……ナ……」
 胴を貫かれたまま、振り返り様の裏拳。もはやこちらも手の皮膚はなく、剥き出しになったフレームがジェリッドの右面を襲う。
 古傷の残るその顔に新たな傷を刻まれて、こちらの腕から抜け出したハカセを追うも、敵はすでに体勢を整えていた。
 腹に大穴を開けながら、それでも飄々と立つその姿。
「ギイイイイイ! ギヂギヂギヂ!」
(みんなー! 今よー!)
(はーい!)
 数の少なくなった改造小型ヤドトリたちから数匹、やたらめったの射撃を行う仲間たちから離れる。
 何が起きているのか。声が聞こえた先は天井に、その身を、表皮を変色し周囲との色彩を合わせ【保護色】とするアリスの姿があった。
 本来ならば目視で察知できるものではない。しかしあらゆる情報を記録する為に造られたであろうハカセの眼球は、熱源からアリスの姿を鮮明に写し出していた。
「実、ニ興味深イ生命、体、ダガ、後ニシ、ヨウカ」
 見下ろすはジェリッドに向けられる死神の如き髑髏を模したフレームから流れるのはたどたどしい機械音声。
 今から君を砕く。
 聞き付けた言葉に答えるように、拳を固めて振りかぶる直後。
 要塞が大きく揺れた。否、正確には要塞を背負う超巨大ヤドトリが動いたのだ。
 已に命を失なったはずのその身を動かしたのは、アリスの幼い妹たちである。
 要塞内にやってきたアリスの妹たちには幼虫も共に行動しており、オブリビオン探索と同時に要塞内を、そして超巨大ヤドトリの身を食いながら寄生していたのだ。
 その妹たちの一部は更に壁を掘り進み、何匹かの改造小型ヤドトリにも侵入寄生し、ハカセにも気づかれかけたのだが。
 その度に味方の援護もあり上手く逃れる事が出来た。
 ──そして今。
 超巨大ヤドトリが動いた事で足を踏み外したハカセ。拳は正面のジェリッドではなく自らの足下を打ち抜いた。
 その威力は凄まじく、激しい音をたてて床を崩落させ、中心地のハカセはもちろんジェリッドをも巻き込んで階下へと落下した。
「ジェリッド! …………! メルティア!」
『分かっている!』
 リカルドの言葉に短く答え、少なくなった銃弾を抜けて階下へと向かう小型戦闘機。
「……この数なら私たちも……」
「待つんだ桜花!」
 改造小型ヤドトリから逃れようとした桜花の前に、再改造された小型ヤドトリが姿を見せる。
 腹部を切除され、代わりに可燃性の燃料を収めたタンクをつなげられたヤドトリ。口許は簡易的な機械に取り替えられており、開くと同時に突出したノズルの先に炎が点る。
『!』
 着火。
 逃げる間もなく放たれた炎の波に、咄嗟に右拳で床を殴りつけ、その手から溢れる獄炎が壁を築いて火炎を防いだ。
「銃だけじゃないっすか! 炎の波じゃあ分身たちで防ぐには辛いっすよー」
「大丈夫だ、炎なら俺が!」
「私もいけます!」
 流れる炎を魔法剣で切り裂き摩那。
 桜花はちらと背後に召喚された炎の精霊へ目を向けた。
「少しだけ時間を貰います。この場の全ての炎を味方につけますから、私が合図をしたら一気に蹴散らして下さい!」
『それまでの攻撃は私に任せろ!』
「ギチギチ!」
(アリスたちも頑張るわー)
 銃撃はもちろん炎もものともしないアリスならば適任だが。
「…………、いえ、アリスは下への足場を先に作って、妹ちゃんたちと先に降りててほしいっす!」
「ギギギ、ギイィイエエエエッ!」
(えー、分かったわー)
 少々不満げなのは、雌伏の時を終えてようやくハッスルできる妹たちを思ったが故か。
 しかし食い下がる事はなく、アリス版蜘蛛の糸と呼べる【アリスの糸】で天井からするすると降りていくと、それに続いてヤドトリ数匹が穴へと消えていく。
『まあ、任せろとは、……言ったがよ……!』
 生き残りのヤドトリたちへの攻撃。銃弾は打ち砕かれたヤドトリたちの残骸や瓦礫、機材といった物に阻まれ残存ヤドトリへの攻撃は通り辛く。
『ちっ!』
 襲い来る炎の波に後退すれば、ウタの発生させた炎の壁や摩那の斬撃が防いでくれるが。
 炎にその身を晒し続けるのは内部機構に影響を与える恐れがある。長い間を戦うには向いていないのだ。
『余り長くは気張らせネェでくれよ!』
「お待たせ致しました!」
『お、おう。待つ程でも無かったな!?』 
 予想よりもお早い合図にメルティアは、ともすれば早目に吐いた弱音とも取れる自らの軽口に赤面する。
「おいで精霊、数多の精霊、お前の力を貸しておくれ」
 戦場に流れる言葉が風となり波となり、所々に付着し炎を灯す燃料から優しく炎を奪っていく。
 火炎を構えていたヤドトリたちもその火種を奪われて、ただの燃料を噴霧するのみだ。
「それじゃあ──」
『行くっすよ!』
 声を重ねて防御の陣形から躍り出るリカルドとその分身たち。ゴーレムユニットでは上手く攻撃できなかった障害物の影に潜むヤドトリたちを次々と粉砕していく。
「こっちの炎は消えないんだな!」
 剣風から巻き起こした炎で再改造ヤドトリを攻撃すれば、腹部の燃料に引火して爆裂する。
 そのまま燃え移り次々と引火していくが、必要以上に炎が広がらないように桜花が精霊を誘導し、ウタもまた自らの炎を消す。
「…………、良し!」
 ヤドトリの銃撃や炎を引き裂いて、自らの刃に生じる力に頷く摩那。
「ひとまずこれで!」
「終わり! …………、っすかね?」
 刃を振りかざした摩那と共に、振り上げた拳を解いて叩くリカルド。
『存分に弾を撃てる場所が良かったぜ』
「次はどうなるか、ですね」
 ぼやくメルティアに続き、穴を見下ろして桜花。
 すでに道は作られており、アリスらが螺旋状に作ったスロープが闇に伸びている。
「さすがにもう、あのハカセ以外に敵は残っていないと思うが、油断せずに行くぞ」
 ウタの言葉に一同は頷く。目指す敵はただ一人。


●終わりの時へ。
「イ、イ加減ニ、シ、ツ、コイナァ」
「アンタ、ここでおっ死んで満足できる脳と身体してるのか! 最後まで抗え。ウチと争え、科学者ども!」
 闇の中に奔る声、続く轟音が大量の火花を放ち、それが拳同士のぶつかり合った結果と知る者は少ないだろう。
 弾かれあった拳を戻し、身を引く動作を振りへと変えて、ジェリッドは強烈なフックをハカセの顎先に向けた。拳同士を弾かれて体を流したのはお互い様だが、その後の動きを知らぬオブリビオンは隙だらけで何の抵抗もなく直撃する。
 人であれば骨は砕け脳も揺れ、昏倒も必死であるがお互い鉄の怪物だ。とは言え構造の脆い部分を狙い大きく揺らす事は接続部分の破壊に繋がる。例えロボットとは言え、耐久値の差はあれど物理的破壊力が効果的なのは人と変わらない。
 引いた足を蹴り足に、狙うは一点、敵の顔面。
 その頭部を粉砕し引き千切る勢いのストレートは狙い違わずハカセの顔面に炸裂し、一際大きな火の花を咲かせた。
「ギチチッ!」
(決まったわー!)
(よっしゃーなのー!)
(畳みかけるのよー!)
 すっかり観戦者となっているアリスらの言葉だが、拳を振り抜いたジェリッドは驚愕する。
 打ち放った右拳、その手首を握り締めて吹き飛ぶのを堪えたオブリビオン。
「次、ハ、僕ノ番カ。ナ?」
「お前の番はこねえよ、クソったれめ」
 これは拷問と言っただろう。
 闇の中に赤い左目が光を流し、左足でハカセの胸部を抑えて内側に捻るように右腕を畳む。あっさりとその戒めを解く。直後には左足を設地、ぐるりと回転した後ろ回し蹴り。踵でその側頭部を刈り取ろうとした瞬間を。
「!」
 重心を落としてしっかりと両腕を使い、防御態勢を取って受け止めるハカセ。
 ただ殴り続けられていたオブリビオンが、ようやくと技術を行使したのは続く格闘戦に学びを得たか。
「悪、イネ、僕ノ番、ダ」
 足をしっかりと捕まえて逃さぬよう、抉るような拳がジェリッドの脇腹に激突、幾度目かの火花が闇を照らしその巨体を部屋の最奥まで吹き飛ばした。
 壁に叩きつけられて、いい拳だとの感想はおくびにも出さず立ち上がるが、そのまま崩れて片膝をつく。
(内部機構に異常発生、本当にいいパンチを受けてしまったな!)
 内心で舌打ちせる巨体の脇を、アリス幼虫に寄生されたヤドトリたちが駆け抜けた。
「ギィエエエエエッ! ガチガチガチ!」
(一斉発射よー!)
 取り囲むヤドトリたちの構えた銃に、何の意味があるとばかりのハカセはその身を鉛弾に晒す。次々と弾かれるそれらに効果的とは見えないが。
 隙を作るには十分だ。
「ギヂギヂギヂギヂッ!」
「!」
 威嚇音を発してハカセの頭上に降下。格闘戦を覚え始めた程度で覆い被さるアリスの動きに対応出来るはずもない。
 あっさりと押し倒されたそれに、重戦車の装甲をも引き裂く強靭な鋏角が襲い掛かった。
「ギチギチ!?」
(固~い!?)
 派がたたないとは正にこの事。ハカセはがじがじと噛り付くアリスを興味深く観察しつつ、そのまま起き上がる。
「実ニ興、味深イ生物、ダネ電子戦ニ対応シ、テルノカナ彼ラヲジャック、シ、タノハ君ダロ、ウソレトモ何カ別、ノ方法ガア、ルノカイ教、エ、テ、欲シイケ、ド言ワ、ナクテ、モ構ワナイヨ自、分デ調ベテミタイ、ンダ僕、ハネ」
「ギチーッ!」
(こわーい!)
(やめるのー!)
(サイコパスよー!)
 束ねた足を使い全力で蹴りつけて跳躍、大きく距離を取るアリス。追うハカセは止めようとする幼虫・イン・ヤドトリを物ともせず踏み潰す。
(きゃーっ)
 はかいされた体から慌てて逃げ出す幼虫たち。
 アリスを追い歩くその姿はもはや衣服もなければ皮膚もなく、ジェリッドと幾度もぶつかり歪んだフレーム、胴体に開けられた風穴から時折と火花を散らす。そのままの骨子を剥き出しにしたアンドロイドの進撃を止められる者は。
『──それも囮だ』
 銃撃によるマズルフラッシュ、被弾時の火花、その身から零れるスパーク。
 全てがこの闇の中で標的を捉える為の導線に過ぎないのだ。
 獲物に向かって一直線に飛翔するフロンティア──小型戦闘機から放たれる主砲が連続で命中すれば、ハカセの頭部も跳ね回る。
 外れないのが不思議な程野光景に、どれだけソリッドな奴なのだとレイリスも毒づく。
 だがこの状況ではもはや視界も定まるまい。
 すれ違い様のボンバー投下。爆発して塵が舞い上がる中で小型戦闘機から飛び降りたレイリスは、瞬時にその姿を元の大きさに戻し、振り向き様の一撃がハカセの胸部に突き刺さる。
「……世の中は移り変わってゆく……貴様もまた、変わったモノの一つかも知れない。
 ──しかし! 私の前では変えられない物が一つだけある!」
 ユーベルコード、【Operation;RADIANT(オペレーションレイディアント)】。人の心を撃ち抜くとされる【光リ輝ク銀ノ銃】から放たれた【アンカー付き光学式チェーン】が、心と言う防壁を突破しその情報を引き抜くハックスキル、否、クラックスキルと呼び変えてもいいかも知れない。
 が。
「イ、イネ、電子戦、カイ?」
「……くっ……!」
 アンカーを掴み、手繰り寄せるハカセに引き摺り込まれるレイリス。多くの絡め手を持つ彼女であるが、直接戦闘においてその能力値は一般人程度、抵抗らしい抵抗すら出来ないのだ。
 それもそのはず、いくら大いなる始祖の末裔を自称しても、ダンピールであったとしても、彼女自身は紅月・美亜に他ならないのだ。
「構、成部品、ハ、優レテイナ、イミタイ、ダネ」
「ふん」
 拳を振り上げるハカセの姿は、死刑執行人の刃に等しい。だがそれを前にしても彼女がレイリス・ミィ・リヴァーレ・輝・スカーレットとして在り続けるのは、自らを信じる力と、そして。
「…………! マ、タ君カ!」
「そう簡単にやらせるもんですか!」
 信じられる仲間がいるからだ。

 睨み合う両者。
 上の部屋にあったのか、投げ入れられた照明灯に浮かび上がりハカセの拳を受け止めたのは、その力を考えるなら細い身をした摩那であった。支えとする魔法剣、緋月絢爛の刃の表面に発する力が、ハカセの怪力を封じていた。
(イヤ、コノ感、覚、吸イ込マレ、ルヨウナ)
 それは先程も疑問視した力。
「励起」
 刃の接触面を境界に視界が歪む。空間そのものが渦巻くように。
 そも、その拳は刃に触れていたのか。
「昇圧、反転。空間転移を確認。……変換良し……!」
「何、ヲスル気、ダイ?」
 プレッシャーをかけどもびくともしない摩那に言葉を投げれば、彼女は不敵な笑みを浮かべた。
「感謝していますよ。あなたが最後まで裏方に徹してくれていた、そのお陰で恒星エンジンの完成が遅れた事を」
 今こうして、対峙できている事も。
 まるでブラックホールのように歪み圧縮する世界が周囲にプラズマを発生させて時、反発する力がハカセの拳を押し返し始めた。
「……コ……レ……ハ……!」
「【暗黒球雷(スフェール・テネブル)】、散開ッ!」
 解放された力は、オブリビオン・ハカセや今まで受けた銃撃に、斬り裂いた炎すら。
 それらが一点にエネルギーとして吸収・集中した事で強大な力場を発生し。
 爆裂する力はジェリッドの貫いた腹部を通り、その左肩までを引き裂いて千切り飛ばした。
 崩れ落ちるその体。アリスの言葉では無いが、畳み掛けるならば今しかない。
「……グ……ガ……」
 軋む音を響かせて、ゆっくりと立ち上がらんとするハカセを霧が囲む。濃霧の中で敵を睨み付ける幾つもの狐面。
 と、不意に面がハカセへ迫ったかと思えば、仮面を被った人の形を実体として現れる。
「一!」
 少女の姿で現れたそれの迅雷の前蹴りがハカセの顔面を捕らえ。
「二!」
「三!」
「四!」
 続々と迫る仮面に霧から吸い出されるように洗われる分身たち。
 しかし追い詰められてもなおその頑強、次々と繰り出す蹴りにふらつきながらも立ち上がるハカセ。
「十三!」
「十四!」
「ウッ、ク!」
 ならばと繰り出すは蟹挟み。足を固定された所で膝裏を蹴られ、再び倒れるその体の下に滑り込む影ひとつ。
「十五!」
 前転から伸び上がる両足の強襲はその身を跳ね上げて、続く分身たちの蹴り上げがハカセの体を空へと押し上げて。
「そしてこれが、止めの二十っすよー!」
 直上より落下するのは、階上の足場から十二分にかそくしたアルタイルの激突撃。
 本体であるリカルドごとの体当たりはハカセを地面に叩き付けてその顔面フレームを粉砕する。
「これぞ忍法・霧影分身、多連撃! なんちゃってっすよー」
「…………」
 もはや喋る事も出来ないが。
「……あ、立つんすねー……」
 それでも立ち上がったハカセに冷や汗を見せて頬を掻く。
 左肩から腰までを失いながら、某かの電子音を発しながら、それでもこちらへ向き直った姿にリカルドもまた構えを見せた。
 ハカセの右手が腿を叩くと、開くフレームから取り出すのは針の曲がった注射器や、焼けてしまったロープ。
「!」
 手首のスナップだけで高速に放つそれらがリカルドに迫ると同時に、その背から飛来した火球がそれらを迎撃炎上、灰に帰す。
「ふう。あんな物まで隠してるなんて、助かったっすよ、桜花」
 非球を放った桜花はリカルドの言葉に笑みで返し、再び顔を引き締めてその前に立つ。
 ハカセが左の腿からも獲物を取り出しているが、背後の精霊が既に迎撃用の追尾弾を形成している。苦し紛れの攻撃など、もう猟兵には届かないだろう。
「その体でまだやるつもりなんだな」
 桜花と並ぶウタ。彼の手に握られた焔摩天は獄炎に炙られゆらりと揺れるが、彼の心を表すように静かなものだ。
「あなたがオブリビオンでなかったら。
 あなたがあなたになる前に、切磋琢磨出来る他者、あなたを愛し慈しむ他者がいたら、あなたの願いは」
 此程迄に他者とぶつかりあわなかったのではないか。
 溢す言葉も、すでにハカセは返す手段を持たない有り様だ。だが止まる事はしない。
 投げつけられた注射器はやはり炎の精霊によって破壊され。
「ウタさん」
 桜花の手が、焔摩天を握るウタの手に触れた。桜の精である彼女のカラダを介して、炎の精霊の力がウタの獄炎へとわたっていく。
 あたたかい、慈しみの炎。桜色の巨大な光刃剣となった焔摩天を担ぎ、拳を固めてこちらへ歩むオブリビオンを正眼で捉える。
「…………、海へ、送ってやる」
 すでに上の階で見たガラクタたちと変わらぬ姿になったそれへ、ウタは両手に構え直した陽里刃を振り下ろした。


●そして、始まりの時へ。
 上階に残ったメルティアとゴーレムユニットを利用し、摩那のエクリプスを使用して猟兵の引き上げが完了して超巨大ヤドトリから外へ出る頃には、陽も沈みかけて真っ赤な夕日が荒野を染めていた。
 外では超巨大ヤドトリが動いた為に再び武装した各拠点からの派遣戦力が結集し、覚悟を決めている所であったが。
 猟兵による陽動作戦のようなもの、と聞いて観るから安心し、脱力してへたりこむ者もいた。
「まあいいさ。本当に終わったならそれでよ」
「なあ、アンタらはここいらの村の救世主だ! 食べてってくれよ!」
「よく分からんけど調理されたのがあっちこっちにあってよ、食い放題だぜ!」
 そう言いながら猟兵らにヤドトリの丸焼きを押し付ける住民たち。それを遠くで見つめて、メルティアはアイリスへ目を向けた。
「で、どうだったんだレイリスちゃん。何かわかったのか?」
「……単刀直入に言えば……奴は、博士は死ぬつもりだ。決められた時間、奥さんの誕生日に合わせてな」
「何ィ?」
 レイリスの言葉に不機嫌な声を上げるメルティア。
 彼女らの声を聞き、博士は破壊ではなく排除だったかとジェリッドは桜花からの治療を受けながらグリモア猟兵の言葉を反芻する。
「状況次第、だが。ウチは決定権はチャラポラ自身にあると考える。
 だから、ウチはそれを尊重する」
「…………。私は、ンン博士を害する行為は許せません。何か、道があるはずです」
 ならばその道の為ならば、例え仲間であっても。
 桜花は言葉を飲み込んだ。
 静かに流れるギターの音はウタによる鎮魂曲。人の言葉を介する怪物たちが、迷いなく躯の海へ帰れるように。
 桜花もまた、彼と同じ気持ちで曲に合わせ喉を震わせた。

 かつては新拠点と呼ばれたみすぼらしい場所。今では他拠点との交流により力をつけ、様々な家が建ち並ぶ立派な姿となった。
 一画に一際目を引くドーム状の建物、それがチャラポラ博士の研究所だ。彼の開発した技術で大小様々な支援を受けた住民たちに感謝を込めて、立派に建て直されているように彼の功績は大きい。
 だからこそ誰も気づけないし、疑おうとも思わない。その地下で全てを吹き飛ばすような実験を行おうとしている事も。
「…………」
 チャラポラ博士は伊須に座ったまま、装置を見つめる。戦いの尾とが消えた部屋の中で独り、ただ時間が過ぎるのを待っていた。


・戦闘終了、要塞の外では戦いに参加した拠点住民たちが宴会を開いています。各拠点に残っている住民もいますが、博士の実験が行われた場合、全てが吹き飛びます。
・博士が実験を開始するまでまだまだ時間があるので、宴会を行う拠点住民へ農業のノウハウなど、博士亡き後の対策をそれとなく教えることが可能です。
・早めに切り上げて、または宴に参加せず博士の所に向かっても構いませんし、向かわなくても構いません。
・グリモア猟兵の要求は実験施設の完全破壊と博士の排除です。が、選択は全て現地の猟兵たちに委ねられています。
・博士は自らの死を覚悟していますが目的の為に手段を選びません。対話は可能ですが説得は不可能です。
・原則として猟兵間での戦闘は行われませんが、お互いに牽制、行動を阻害する事が可能で一人につき一人が猟兵の行動を完成できます。その為、博士についてどうするのか選択したプレイングの多い方で博士の生死が決まります。
 同数の場合、博士は死亡しません。
・博士の生死についてはシナリオの成否とは無関係ですが、追加シナリオ発生の有無に関わります。お心のままにお選び下さい。
・紅月・美亜により博士の目的が亡くなった妻の誕生日、その時間に合わせて装置を起動する事だと判明しています。その理由までは分かっていません。
・博士は罠や嘘などは用いません。質問があれば問いかけてみましょう。
アリス・ラーヴァ
アドリブ・連携歓迎

わーい!ヤドトリの丸焼きありがとー!とってもおいしーのー
お礼にアリス達も農業のお手伝いをするねー
幼い妹達を農地に派遣してふわふわの土になるまで耕すのよー
肥料の【パワーフード(粒状)】も漉き込んで養分もたっぷりー

さて、博士さんにはアリスも感謝しているけど、みんなを吹き飛ばして良い理由にはならないのー
どーしても辞めないなら博士の思い入れのある装置だけど、パパにお願いして起動前に重要部をピンポイントで破壊してもらいましょー
危険な内容物が漏れるようなら汚染部分ごとアリス達で【捕食】よー
博士については、群れの害になる個体だから処分した方がいーけど、処遇は同じ種が考えるといーわー


紅月・美亜
 簡単な話だ、実験を成功させればいい。犠牲者0でな。拠点の地下でやろうとするから問題なのだ。研究施設ごと誰も犠牲にしない高さまで持ち上げる。工作機でな。コレの飛行系統はザイオング慣性制御システム。コレを大型化した物を研究施設に取り付けて施設ごと空高く飛ばせる。
 無論、その為のアシストはするし隠し立てはしない。住人を吹っ飛ばす事が目的でなければな。堂々とその時を迎えればいいさ。
 ソフト面では私が、ハード面ならメルの奴が何とかする筈だ。それに、熱の制御に長けるウタ、樹木を扱える桜花、色々出来るアリスチャンと何とか出来そうな奴も揃ってる。
 上手くいかせれば全く何の問題も無いだろう?


メルティア・サーゲイト
施設ごと飛ばすだぁ……!? 無茶言ってくれるぜ。いやまあ、SSWから軌道エレベータに使う部品のデータを持って来いって言われてたから持ってきてはいるが。最悪衛星軌道まで上げる気かよ。
 まあ、こんな事もあろうかとSSWで色んな機材のデータは読み込んであるから【MODE CRAFTAR】で作れるけどな。全く、人を3Dプリンター扱いしやがるぜ。そうだけど。
 後お前ら、実験成功後の脱出考えてないだろ。あくまでも犠牲者0だ。装置を起動させたら【MODE STUKA】で全員脱出させるぜ。
「誕生日に送る花にするには悪かねェよな」
 施設は消えるだろうがそれは構わねェだろ?


木霊・ウタ
心を過去から引きずり出してやりたいぜ

まず宴会を満喫
ちょいと勇気の必要なBBQだよな
音楽も

絆は深まり
歓声は博士へ届く
共にある人の存在は
きっと繋ぎ留める力になる

ラジオっぽいのを片隅に置き
博士の元へ

オリジナルのハカセを製造したのは博士?

なぜ死へ逃げる?
奥さんは喜ばないだろ

タニシを飲んで
拠点の為に尽力してんのも
皆が好きだからだろ?

未来を育むのは人の温もりだって
心は判ってる筈だ

殺しゃしない
オブリビオンで蘇られても困るし


俺の懐にはマイク
中継器の会話を聞き住民達が押し寄せる
処遇は住民達に一任

是からも
拠点の為に力を尽してもらう事になりそうだな

けど施設は別だ
恒星と化す理不尽を灰に
この施設は拠点や未来の為のものだ



●ヤドトリ・パーティー!
「あのヤドカリが動き出すもんだから、本当にもう駄目かと思ってたぜ」
「あの時のお前の面! 本当に笑えたもんだったぜ」
「何を、蹲ってた奴が本当に分かるワケねぇだろ!」
 本当に本当にうるせえよ。
 酒も飲んでいないと言うのに酔いが回ったかのような陽気な雰囲気。すっかり陽の落ちて影が覆う荒野で、彼らは所々で焚火をしながらシェフに調理されたヤドトリ食らい、原型を留めている死骸を拾っては自分たちで裂いて火にくべる者も見える。
(ふんふん、ほうほう、なるほどー)
 それでもやはり生き残りは居るようで、超巨大ヤドトリから『科学者執念物語』と書かれた本を読みながら這い出る者も現れる。
 すっかり本に夢中で頁をめくりながら、周囲の確認を怠る彼の横には、陰に溶け込むようにじっと縮こまっているデッカイザーの姿があった。
『えいっ!』
(ぴぎぃっ!)
 鋏状のメインアームの一振りで犬小屋をヤドにしたヤドトリを叩き潰し、体液滴るそれを持ち上げて拠点住民たちの元へ向かう。
 どことなく誇らしげな鬣状の装甲についた汚れをサブアームで拭いつつ、「追加のお肉でーす」とヤドトリが行き渡っていないグループに渡す。
 その後ろでは他のデッカイザーズが鬣デッカイザーと同じく超巨大ヤドトリからの脱出者を見張っている。
『餡パンあるよー。あまーいよー、多分!』
 人々の間を抜けて、こちらは黄色の装いでタクシーダーが猟兵から受け取った餡パンを希望者に渡している。食べた事がないので味についてはデータを参照しているらしい。
「よう坊主! 見てたぜ、お前があのデカブツに突っ込んでったのをな。ほら、食いな!」
「……あ、ああ……」
 差し出されたのは、焼けて赤々と綺麗に染まったヤドトリの足。食欲を誘う香しい匂いは裂けた殻から溢れる肉汁も相まって垂涎ものだ。
 人食ってるけどね。
 木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)は引きつった笑みでそれを受け取る。この足の持ち主の食糧を思うと中々と決意が固まらない、勇気が必要となるバーベキュー。
 だが、人の好意を無下にする訳にはいかない。意を決して殻に口を寄せて中身を啜れば、溢れる熱い肉汁がウタの口内一杯に広がり同時に舌を撫でる濃厚な味に思わず唸る。
 予想以上に蟹の味、それが身もぎっしりと詰まって美味であることこの上ない。それは功労者である猟兵たちに勧めたくもなると言うもの。
「ギイイイイイイッ! ギチギチギチ!」
(わーい! ヤドトリの丸焼きありがとー! とってもおいしーのー)
「あ、あいよ。お嬢ちゃんも一杯食って大きく……大きく……? なるんだぞ?」
 ヤドトリの殻ごとばりばりと踊り食い。アリス・ラーヴァ(狂科学者の愛娘『貪食群体』・f24787)の姿に拠点の住民たちはウタ以上に引きつった笑みを見せているが、なぜ自分たちがそこまでの拒絶反応を示しているかは理解できないようだ。
 猟兵である以上、彼らの目にはお嬢さんとしか映らないのだ。それはさておきヤドトリを貪り食らうアリスの傍らでは、【銀盆】に湯気たつ珈琲を乗せた御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)が大忙しと住民たちに配膳中だ。
 盆の上にある砂糖とミルクがパーラーメイドとしての桜花の心遣いを示している。
「ふう。贅沢言っちゃなんねえのは分かるが、さすがにカニばかりはきついな」
「それなら、サンドイッチがありますよ」
 桜花は笑みを浮かべて自らの夢を詰め込んだ【ケータリング用キャンピングカー】へ視線を送ると、慣れた仕草で黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)が彼女の作り置きしたサンドイッチを取り出してきた所である。
 しかし。
「いってぇ!」
「! ごめんなさい!」
 心ここにあらず、といった様子の摩那はサンドイッチを待つ男の足を踏んでしまう。
 住民たちにとってはアポカリプスヘルでもよくある全滅の危機を前に、同盟拠点が協力しあって得た勝利なのだから受かれもする。だが猟兵らにとっては選択の時が迫っているのだ。
「まあ、まだ時間はある。それまでに何をするか、だな」
「こっちはどうするか、アテはあるのか?」
 摩那らの様子に腕を組む紅月・美亜(厨二系姉キャラSTG狂・f03431)へ疑問を投げたのはメルティア・サーゲイト(人形と鉄巨人のトリガーハッピー・f03470)だ。
「当然だ。時間があるのなら、その時間を有効に活用するだけだ」
 他の者もそうしているようだ、と言葉を繋げて不適に笑う。だからこそ何をするのかという少女の問いに、大いなる始祖の末裔、レイリス・ミィ・リヴァーレ・輝・スカーレットを名乗る美亜は笑みを強くした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リカルド・マスケラス
博士を止める必要はあるっすけど、過去の存在になった場合、オブリビオンになってどこかで蘇るリスクがあるので、殺すことには反対っす

自分は自分流の農業指導
拠点住人達に魔力の使い方、【属性攻撃】の感覚などを教え込む
「農具に属性の力を流し込んだ感覚、今度はそれを畑に与える感覚でやってみて欲しいっす。自分も手伝うっすから」
あとはその力を効率良く運用する為の魔法陣を描いたりして【森羅穣霊陣】を使用。使用する際も、素質のありそうな人の体を借りて、その感覚を教え込む。場合によっては【狐憑きの舞闘会】併用で複数人同時に行使
恒星エネルギーが使えない場合でも農場を豊かにできる為の選択肢を増やしてあげたいところっす


御園・桜花
改造車から珈琲と軽食を持ち込み博士含め語らう面々に配布
ミルク・砂糖もお好みで

「惑星と恒星では元々の潜在能力が違いすぎます。空気程度で表面を固まらせる惑星と、真空でも化学反応を興し続けられる恒星とでは。この星を砕く程のエネルギーは得られても、この地上にある物質程度では、恒星のエネルギーは得られないし御し得ない。だから…貴方が何故恒星の力を内包するほどの動力炉を望んだのか、その経緯を、誰のために望んだかを知りたいのです」

「此処で実験しても、拠点設備が吹き飛ぶだけです。ハカセの実験施設に移動してそこで再実験するのは如何でしょう」
引っ越しは手伝うし仲間が博士を殺そうとするならUCで透明化し抱えて逃げる


ジェリッド・パティ
アンタ、死に急ぐ割には死に方を選ぶんだな。それも一人で死なずに大勢を巻き込んで、大層な事だ
奥方が亡くなった日の再現でもしようというのか? そうして過去に生きようというのか
ハン、人の癖に。見事に愚か者のモノマネをしてくれる

アンタ一人で死ぬなら握り潰してやってもいい。が、またウチに博士を殺せと博士は命令するというの……か? なんだ、……違う。……違わない
犠牲を厭わない姿勢、夢を歪に語る口先。信念は真っ直ぐに向こうを見ていて、振り向いたとしても既存の景色は眼中には無い

……ウチはアンタのことを、勝手に、最低限に、尊重している。いや、御託はいいか
アンタが死ぬデメリットの方がデカイから阻止する。それでいい


黒木・摩那
オブリビオンのハカセも何とか排除できました。
残る問題は博士の排除です。
宴会には参加はしますが、上の空です。

心情としては、いろいろ付き合いもあった博士なので、生かしておきたいところですが、本人が単なる自殺ではなく、科学者として実験の失敗による死を望んでいるっぽいですね。このままでは多かれ少なかれ、周囲を巻き込む形で施設を爆発させることは時間の問題でしょう。
博士にはここで静かに亡くなってもらいましょう。

施設は温熱施設として動かすだけ、にしておきたいです。
全力運転できないように回路に細工します。
博士亡き後には維持もできないでしょうから、細く長く動くようにします。



●この拠点の明日の為に。
 どんちゃん騒ぎの人々より離れて巨大農場前。防壁を背に準備体操をしながら言葉を待つのは腹を膨らませた拠点住人たち。彼らの待ち人は、狐のお面を被ったバイク、もとい狐のバイクに被さったリカルド・マスケラス(ちょこっとチャラいお助けヒーロー・f12160)だ。
 どっちにしろ人じゃないぞ!
 そんな彼の姿もアリスと同じく人として認識される。正確には少し違うがそのようなものだ、うん。
「ジェリッドも手伝ってくれるんすかー?」
 ジェリッド・パティ(red Shark!!・f26931)はその黄の装甲に体に対しては実に小さなコック帽子を剥いで背を向ける。
「いえ、ウチも先に行きます」
「そっすか。じゃあ、また」
 歩むジェリッドがその先で摩那と合流するのを見届けて、さてさてと集まった面子に目を向ける。目を向けるったら向けたのだ。
「それで、何を教えてくれるってんだ?」
 集まった内の一人が口を開く。そう、ここに集まって貰ったのはリカルドなりの農業について指導する為なのだ。
 実験施設の破壊はこの巨大農場の実験施設に波及する恐れもある。
(恒星エネルギーの実験施設、それが使えない場合でもこよ農場を豊かに出来る選択肢を増やしてあげたいところっすもんね)
 現れた霧を形として、人の身となったそれが面を被る。するりと面を横に回せば可愛らしい少女の顔で手を叩き、集まった住民たちを整列させた。
「皆には魔力の使い方、『属性操作』のコツというか、感覚を教えるっすよ!」
「魔力だって?」
「禁忌の技術みたいなもんだな。優れた科学技術は魔法と一緒ってやつさ」
「へー」
 絶対にわかってない様子で相槌を打つ住民たちもいる中で、リカルドはまず感覚を覚える為に実践あるのみだと農具を渡していく。
「うんっ、だらぁああああ!」
「はいやーっ!」
「ひえぇええい!」
「どるぅああおおぅ!」
「はいはい、気合も大事っすけどまずは話を聞くっすよ」
 ささっと用意したホワイトボードに簡単な絵を描き、人の図の頭上、あるいは足下から力を得るイメージを作る。
 世界を取り巻く全ての物質はそれそのものが力である。風もまた物を動かし降り注ぐ熱は世界を温め大地より立ち上る熱もまた同じく、あるいはその息吹で地上を揺らす。
 見えざる力もまたこの世界に存在する物質。それを自らの体を通して魔力へと変換し、再び物理的な力と成して世界へ出力する。
「要は自分をコンバーターにして使い道に応じた力にするって事なんすよー」
「……コーン……バター……?」
「なかなか旨そうな話じゃねえか!」
 そんな話じゃないんだよなー。
 百聞は一見に如かず。集まった人々を見渡し、特に素質のありそうな輩に目をつける。
「こっちに来るっすよー、力瘤三兄弟!」
「ほっ?」
「あ~?」
「…………」
 いかにもモヒカンらしい反応を見せた弟二人を従えて、兄者はリカルドの前に立つ。
「話は大体分かったぜ。つまりお前に選ばれた俺たちは、なる資格があるんだな?
 ……魔法少女に……!」
「ならないっすよ。やる事はファンタジーっすけど、もうちょい考えを科学的にして欲しいっす」
「……そう……」
 鏡を見て出直して来いゲロカス。
 少ししょんぼりした様子である兄者の顔に狐のお面、リカルド本体を移して農具を握らせる。
「それじゃ力を通してみるっす。よく感じるんすよー」
「…………? お、おっおっおっ!?」
 分かりやすい熱の力。農具の先に鉄が焼けて湯気を上げた。それは先の戦闘で他の住民たちを強化させた時と同じだ。
「あの時の感覚、覚えてる人もいるはずっす。そのイメージを使って魔力と属性を使うんすよー」
 何も体験していなければ難しい注文も、先に触れたとなれば話は別。
「お、おお!」
「こうか? …………、こうかっ! こうかぁ?」
 出来る者もいれば出来ない者もいる中で、確かにその力が住民たちの間で根付いてゆく。
 その様子を力瘤兄者の頭から眺めていると、やって来たのはアリスである。妹たちも引き連れ大群である。
「ギチギチ!」
(ご飯のお礼にアリスたちもお手伝いするねー)
(何でも手伝うのー)
「それじゃあ、早速っすけど畑の方をお願いするっすよ!」
 リカルドの言葉にイエッサーとばかり畑に向かう。
 この防壁、今回の件よりも更に前に一部破壊されていたのだが、それもレイリスのユーベルコードで立派な扉に変わっている。
 アリスを認識して開いた扉の先には収穫の終わった稲の姿。
「ギチッ」
(あらー)
 実はこの畑、要塞化した防壁に関しても製作したのはアリスたちだ。この畑の中にはすでに幼虫たちが人目も知れずに耕しと繁殖を繰り返していた。
 ちらりと横目で見た先で、よっこいしょと成虫になったアリスが畑から抜け出て要塞の壁を登っていく。
「…………。ギチチッ! ギィイイエエエエエエエエッ!」
(まあ一杯になったらみんな外に行けばいいかしらー。ふわふわになるまでどんどん耕しちゃってー!)
(はーい)
 引き連れた成虫のアリス妹たちから、ぴょんぴょんと畑に移る幼虫のアリス妹たち。
 かなり広大な土地だ、雨で固まった場所など全てに手が行き届いている訳でもない。彼女らが増えた所で困るのはモヒカンぐらいのものだろう。
(鬼は~口!)
(福も口ー!)
 畑の中で豆まきの如く成虫の妹たちが蒔いているのは、発光物質。
 彼女らの巣で形成される高栄養価の【パワーフード(粒状)】だ。土を耕す幼虫たちがそれらをまとめて漉き込んでいく。
「ギチギチ、ギチチッ!」
(これで栄養もたっぷりよー!)
「いい感じっすね~」
 そこへ現れたのはリカルド・オン・ザ兄者。他の住民たちも引き連れており、すっかり属性変換も可能となった彼らが格好をつけて鍬を振り回して夜空に光の軌跡を残していた。
 危ないから止めてよね。
「農具に属性の力を流し込んだ感覚、それを今度は畑に与える感覚でやってみて欲しいっす。自分も手伝うっすから」
「おう、頼むぜ」
 兄者はがっちりと両手に二本ずつ鍬を握り締め、どっかと畑に打ち下ろす。
「ぬぅうおおおおおっほぉぉぉおお!!
 出ろォォォォ、俺の魔法少女魂ィィィィィ!!」
 このモヒカンの何がそこまで魔法少女へ駆り立てるのか。そんなどうでも良い疑問は流し、兄者の体から鍬を伝わり拡散していく。
「はぃいぃああーっ!!」
「どらっしゃっさっせーっ!!」
 モヒカンの両隣に立つのはやはりモヒカン、そんな彼らより離れて迷惑そうな視線を送るその他の住民たち。
 漏れなく狐面を被っている。先のヤドトリ戦で見せたマスカレイドパーティだ。
「ギチチッ!?」
 唐突に現れた狐面はアリスらにも張りついた。
「すまないっすね、アリス。少し手伝って欲しいんすよ」
「ギチギチ!」
(大丈夫よー)
 リカルド指導の元、狐面を被ったアリスたちは四方八方に散らばり防壁内に魔法陣を描いていく。
「ここに悪しきを払い、恵みをもたらせ!」
「ギチチッ!」
(恵みをー)
 リカルドの言葉に合わせてアリスも祈りを捧げるように前肢を上げた。
 ユーベルコード、【森羅穣霊陣(グレイスフル・ガーデン)】だ。ぼんやりと輝く光が農地を多い、生命の力強さを表すように夜空に伸びていく。
「!?」
「な、なんだろう、言葉では上手く説明出来ないけど、感覚的に理解できる!」
 説明的な台詞回しであるが、何かしらの感触を得たようだ。
 このユーベルコードに類するものを扱えるようになるのも、リカルドの狙いである。
「ここならどんな作物も育ち放題っすよ~」
「ほっほーっ! いいじゃあねえか!」
 リカルドの言葉に喜ぶ男たち、その頭上ではジェリッドと摩那が下からの幻想的な光を浴びて実験施設に手を加えている所だった。
「このエンジンの回転数を下げて、流動エネルギーを作らず空洞体をただの伝熱体として利用すれば、施設の崩壊もないし最低限の動作で長く、はずです」
「ありがとうございます。これで、博士がいなくなったとしても大丈夫ですね。下でも色々とされているようですし」
 摩那の言葉を受けて、光の中でやたらと原始的な躍りを披露する集団を見下ろすジェリッド。
「摩那さんは、博士を?」
「……オブリビオンのハカセも……何とか排除できました。残る問題はやっぱり、博士の排除ですよね」
 摩那は溜め息を吐いた。彼とはそれなりの付き合いだ。ヴォーテックスシティでは博士の機転でタクシーダーを上手く治めたとも聞いている。
 そんな彼を害する事はしたくない。だがそれも彼が害を為さないならばこそ。
(本人が単なる自殺ではなく、科学者として、実験の失敗による死を望んでいるのではないか。
 ……このまま……多かれ少なかれ、周囲を巻き込む形で施設を爆発させることは時間の問題でしょうし)
 ジェリッドは黙り込んだ摩那の考えを察した様子であった。夜空を見上げて、それから下を指す。
「冷えてきましたし、下に降りましょう。そろそろ時間も来るでしょうし」
「……そうですね……行きましょうか」
 ジェリッドに促されて施設から降りていく二人。彼らの様子を下から見上げていたウタは、時間かと腰を上げる。
「もう行くのかい?」
「ああ、ちょっとね。おっさんたちは楽しんでいてくれよ」
「悪いがそうさせて貰うぜ」
 桜花からおかわりのコーヒーをミルクたっぷりで頂いた厳つい男に手を振って、然り気無くラジオのような機械を置いて。
 桜花もまた最後のコーヒーだと頭を下げてキャンピングカーへ戻り、手早く後片付けを済ませてウタの元へ向かう。
「どうぞ。他の方もお連れします」
「ああ、助かるぜ」
 ウタがキャンピングカーに乗りながら肩越しに振り返れば、アルタイルに乗ったリカルドとアリスたち、そして、ジェリッドと摩那がこちらに向かっている所であった。


●チャラポラ・ンン博士。
 ちっ、ちっ、ちっ、ちっ、ちっ。
 時計の秒針が動く音。ゼンマイ仕掛けの置き時計を見据えて、チャラポラ・ンン博士は正面へと視線を戻す。
 冷たいまま、動きを見せない鉄の塊。彼の夢を叶える為の実験装置。
 黙する博士の背後で音をたてたのは自動ドア。
「来たか」
 小さく呟いて立ち上がる。視線の先に並ぶ猟兵たちに、くたびれた白のタキシードは実験装置を指した。
「あれが『D2転用iADS』だ。起動までまだ時間がある。特別な装置がある訳でもない、いつでも破壊できるさ」
「ギチギチ、ギチチッ!」
(博士さんにはアリスも感謝しているけど、みんなを吹き飛ばして良い理由にはならないのー)
 ならばどうする。
 挑むような博士の様子に、アリスは僅かに躊躇したようであった。実験材料となるオブリビオンの残骸を運んだり、彼女たちのパパと重なる点があったのかも知れない。
「ギギギ、カチッ、カチッ」
(どーしても止めないなら、博士の思い入れのある装置だけど)
 やはり、破壊するか。
 アリスの様子に博士が笑うと、その様子を見てウタは口を開く。
「あの、ハカセのオリジナルはあんたが作ったのか、ンン博士」
「アレをだと? まさか。アレは、……そう……アレは人間だよ。本物の天才だ。であれば、造った者は神だ。人間の俺に造れるはずがない」
「何だって?」
 良く分からない物言いに眉を潜めたウタ。博士は理解できるはずがないと鼻で笑う。それは少年を笑ったのか、大天才を自称する自分でも理解できない存在に自嘲したのか。
「なら、なぜ死へ逃げる? そんな事して、奥さんは喜ばないだろ?」
「…………、どうかな」
 手元の写真へ目を落とす。そこに映るものを、猟兵たちは知っている。グリモア猟兵の予知した写真。
「惑星と恒星では、元々の潜在能力が違いすぎます。空気程度で表面を固まらせる惑星と、真空でも化学反応を連鎖する恒星とでは」
「つまり?」
 前に出た桜花の語りに、博士は面白がる様子で続きを催促する。
「この星を砕く程のエネルギーは得られても、この地上にある物質程度では、恒星のエネルギーは得られないし御し得ない。
 ……だから……貴方が何故恒星の力を内包するほどの動力炉を望んだのか、その経緯を、誰のために望んだかを知りたいのです」
 誰が為に。
 博士は装置に視線を送ると、椅子に無言で椅子に向かう。くるりと入り口に佇む猟兵らに向けて座り直す。
「少し長くなるからな。構わんだろ?
 装置は、別に起動してすぐ爆発するものでもないさ」
「ええ、お願いします」
 す、と差し出した桜花のコーヒーを受け取った博士はその香りに頬を緩めて一口啜り、ひじ掛けにカップを置く。
 それは、もう何十年と昔の話であった。
「俺の嫁はいい奴でな。論文ばかりで結果の残せない、貧困学者に甲斐甲斐しく世話をしてくれたよ。家にも帰らず、帰っても寝るだけ。
 同じ屋根の下にいても顔すら合わせない、そんな俺にな」
 いつまでも結果を残せない研究に資金など出るはずもない。その内、研究所からも追い出されたチャラポラ博士は嫁であるヨシコが養うようになっていった。
 だがそんな中でも幸はあるもので。
「子供ができたのさ。俺とあいつのな。良いことってのは続くもんで、その後はとんとん拍子さ。
 新しい研究資金の提供、論文の評価も上がり、再び研究室を任されたよ。久々でな、楽しかったよ」
 そして、再び家に向かう足は遠のいていく事になる。妊娠した嫁を残して。
 彼女が、階段から足を滑らせた事を知ったのは、事故が起きて二日が経っての事だった。
 近所の住人からその話を聞いたチャラポラ博士は病院へ急ぐ。母体であるヨシコは無事であったが、お腹の子が助かる事はなかった。
 流産の影響から、
「今まで俺を支えていたアイツも、今度ばかりはな。すっかり落ち込んだアイツを慰める為に俺は研究を止めてアイツと、ヨシコと一緒にいたよ」
 しかし何をするにも金が必要なのだ。研究を止めたままにはできない。そこで彼が考えたのが恒星エンジンだったのだ。
「俺はヨシコに約束したのさ。星を作る、見けてやるとお前の誕生日に捧げてやるってな」
 それから暫くしてヨシコは亡くなる事となる。自殺であった。
 遺書には一言、『これ以上、あなたを嫌いになりたくないから』、そう記されていた。
「分かるか? あいつは俺を、許してなんかいなかったのさ。家に身重の女を一人残していた俺のような奴はな。
 ……子供の……作れなくなったヨシコに捧げようと、そう考えていたんだがな」
 博士は言葉を切って、コーヒーを啜る。そるから桜花を真っ直ぐに見つめた。
 恒星エンジンは、動力を得る為に作るのではない。メルトダウンするエンジンから現れる、恒星を。
 ただの一瞬でいい。自分の造り上げた恒星を見る。ただそれだけの為に。彼女の惚れた男は情けない者ではないのだという証明の為に。
 そして、子を産むことの出来なかったヨシコに、生命の体現である星を捧げるのだと。
「アンタ、死に急ぐ割には死に方を選ぶんだな。それも一人で死なずに大勢を巻き込んで、大層な事だ。
 過去を取り戻せると思っているのか? 奥方が亡くなった日を取り戻して、あの日々の幸せが再現できると考えているのか?」
「出来るものか。だが、だからこそ星を造るのだ。それがアイツとの約束で、俺はその為だけに生きてきたのだから」
 決意と覚悟。
 両方を備えた博士の言葉に問いかけたジェリッドは、その想いを汲み取るかの如く鋼の拳を握る。
「そうして、叶えられなかった過去に生きようというのか。
 ハン、人の癖に。見事に愚か者のモノマネをしてくれる」
 愚か者とは一体、誰を指した言葉なのか。彼の指摘にも笑うだけで反論はなく、コーヒーを啜る。チャラポラ博士。
「アンタ一人で死ぬなら握り潰してやってもいい。が、またウチに博士を殺せと博士は命令するというの……か……?」
(なんだ、……違う……違わない……?)
 僅かに記憶に生まれたノイズを振り払い、ジェリッドは博士を見つめる。
「犠牲を厭わない姿勢、夢を歪に語る口先。だが信念は、真っ直ぐに向こうを見ていて、振り向いたとしても既存の景色は眼中には無い。
 研究者らしい研究者だ。……ウチは、アンタのことを……、勝手に、最低限に、尊重している。恐らくアンタの奥方も……いや……、御託はいいか」
 ジェリッドは拳を開いて腕を組む。
「アンタが死ぬデメリットの方がデカイから阻止する。それでいい」
 それはグリモア猟兵の下した決断とは正反対の答えであった。
 シンプルに考えを突き詰めたジェリッドの想い。
「俺を生かすと言うのか? ふん、俺がなぜ抵抗しないのか分かるか? 諦めないからだ。
 恐らくこれは最後のチャンスで、造り直す余裕など残っていないのは、俺の体の事は俺が一番よく知っている」
 だからこそ、諦めない。
 例え実験施設が破壊されても、必ず造り直すという想いを込めて。だからこそチャンスは逃がさない。例え、この拠点の上にどれだけの命があったとしても。
「何を言っているんですか。ここでの実験が失敗すれば、彼はいよいよ形振り構わないでしょう。巨大農場の実験装置を元に恒星エンジンに変えられてしまえば、今以上の犠牲が出るんですよ!」
 以前、皆でオーバーヒートしていく実験装置、トイレットを整備した時もそうだ。僅かな時間でも強大なエネルギーを生成し暴走した施設。
 元がこの施設の前身だけに、簡単に狂気の装置へと変わってしまうだろう。
「博士を止める必要はあるっすけど、博士が過去の存在になった場合。
 オブリビオンになってどこかで蘇るリスクがあるので、殺すことには反対っす」
「俺も同意見だ、殺しゃしない」
「……それは……! ……そうかも知れませんが……!」
 倫理的な視線から離れたリカルドとウタの言葉は確かにその通りで、ここまでの執念を実行した相手がオブリビオンとなり得るのは頷ける事だ。
「ギイッ、カチカチカチカチカチ!」
(群れの害になる個体だから処分すべきなのよー。まあでも、処遇は同じ種が考えるといいわー)
 別個の存在である事を考えたアリスは博士の生死に言及はしない。だが、施設の破壊については論じるまでもないようだ。
 摩那が視線を博士へと向けると、その背後に忍び歩きをしていた桜花と目が合った。素知らぬ風を装い下手な口笛を吹き始めた彼女に殺意がないと判断し、摩那は溜め息を吐く。
「…………。分かりました。でもどうするんです?
 博士は施設を破壊されてもまた作るとしか考えていませんよ?」
「……そうですね……ここで実験しても、拠点設備が吹き飛ぶだけです。ハカセの実験施設に移動してそこで再実験するのは如何でしょう」
「運ぶにはこの実験装置、大きすぎるっすよ」
「それに爆発の規模がどれ程かも分からないぜ」
 リカルド、ウタの言葉に桜花は困った様子で銀盆で口許を隠した。移動させる、それは正しい選択だろう、
 犠牲を無くし、博士が満足する、その道を。つまりはそれこそが答えなのだ。
「ならば簡単な話だ。実験を成功させ、犠牲者がゼロとなる場所。拠点の地下ではない最適の空間を教えてやろう!」
 勢いづいて扉を開いたのはレイリスとメルティアだ。今まで何をしていたのかと問われれば、その為の準備だとレイリスは笑う。
 そう、犠牲者をゼロに、実験を成功させるための準備。
 そのような方法がないか困っているのだとジェリッドは言う。
「その方法っていうのは?」
「地上という平面に縛り付けるから被害が生じる。
 だから、研究施設ごと誰も犠牲にしない高さまで持ち上げる」
 工作機でな。
 示したのは彼女の後を追うように着いてくる小型の戦闘機だ。
「コレの飛行系統はザイオング慣性制御システム。空間保護を行う事でコックピットブロックの慣性を機体外と切り離す強力なシステムだ。
 今、地上で組立中だが、コレを大型化した物を研究施設に取り付けて、施設ごと空高く飛ばす」
「……し、施設ごと飛ばすだぁ……!? 無茶言ってくれるぜ」
 余りにも乱暴な計画にメルティアも目を白黒させている。レイリスのオペレーションモーニンググローリーで製作を進めているのは知っているが、この方法の為とは夢にも思わなかったようだ。
(いやまあ、スペースシップワールドから軌道エレベータに使う部品のデータを持って来いって言われてたから持ってきてはいるが)
 最悪、衛星軌道まで上げる気か。
 彼女のユーベルコード、【MODE CRAFTAR(モードクラフター)】があれば組み上げていくのも可能だろう。
 そうと決まれば話は早い。まずはどうやって装置の導線を確保するかと頭を悩ませる猟兵たち。
 レイリスは彼らの動きに満足そうで、チャラポラ博士に向き直る。
「無論、貴様の求めるその後の為のアシストはしよう、隠し立てはしない。
 住人を吹っ飛ばす事が目的でなければ、堂々とその時を迎えればいいさ」
「……何故だ……何故、お前たちはここまでするのだ?」
「決まっているじゃないですか」
 腰に手を当てて呆れたように摩那。
「そう、出会ってしまったからですよ。私も、貴方も、関わりを持ったからです」
 桜花の言葉に、博士は顔を伏せた。震える小さな声で語ったお礼は、猟兵たちの耳にまでは届かなかったが。


●未完の大輪。
「ギチッ、ギチッ」
(準備はいいかしらー?)
「ああ、やってくれ」
 アリスの言葉に頷くチャラポラ博士。彼の言葉を受けて、アリスは空に向けて前肢をぶんぶか振り回す。
「ギィイエエエエエエエエエエエッ!」
(パパー! おねがーい!)
 アリスの叫びを受けて、完成した戦闘機にノイズが入る。
『……可愛い娘に寄り付く不埒者は、粉砕されるべきだろう……だが、今回は特別だ……』
「誰だ!?」
 驚くジェリッドに声は答える事なく、接近する熱源反応に空を見上げる。
 夜の幕を引き裂いて、現れるのは巨大な発光体。稲妻の如く地上を叩きつけたのは衛星機動兵器『LOVE LOVE☆ALICE号』から放たれる電磁投射質量弾だ
 これぞ【養父の愛(極超音速質量弾篇)(チチノアイフラチモノハフンサイ)】である。今回は博士の実験施設を破壊し、地下で建設されたD2転用iADSを丸裸にするよう威力調整が成されている。
 立ち上る噴煙をアリスの妹たちが糸で作った団扇で吹き飛ばし、地下への道を作る。
「予定通りだ。桜花」
「ええ」
 ふわりと浮かぶ運搬機に、桜花は大きく作られた搭乗スペースに乗り込む。
「おいでませ我らが同胞。その雄大なる腕をもって、我らが包め。
 【エントの召喚】!」
 現れた牧人の精霊たち。本来は木の根などを利用し敵を貫く攻撃として使用しているが、今回は木を運搬機外装に取り付け、本体を熱から守ろうと言うのだ。
「頼むぜ、迦楼羅」
 ウタの右腕から発生した炎の翼を広げる者は、そのまま運搬機の纏う木の根に止まる。こちらは上昇する際の壁となり、運搬機の受ける影響を減らす作戦だ。
「ソフト面では私が、ハード面ならメルの奴が何とかする筈だ。
 それに、熱の制御に長けるウタ、樹木を扱える桜花、色々出来るアリスチャンと打ち上げには十分な面子だ。
 上手くいかせれば全く何の問題も無いだろう?」
「それで、着地は私とジェリッドさん、リカルドさんとなる訳ですね」
 摩那はレイリスに答えて、任せてくれと頷いた。
「全く、人を3Dプリンター扱いしやがるぜ。そうだけど。
 後お前ら、実験成功後の脱出考えてないだろ。あくまでも犠牲者ゼロだからな、装置を起動させたら【MODE STUKA(モードスツーカ)】で全員脱出させるぜ」
「勿論だ」
 ゆっくりと降下していく運搬機。地下では待ち構えていたアリスたちが糸で機体に装置を固定している。
「さて、準備はよろしいか?」
「…………。ああ」
 チャラポラ博士の言葉を受けて。
 運搬機は空へと飛び立った。
 それは、傍目には不可思議な光景であったろう。木の根の塊が地上から打ち上げられるのだから。
 その先端には壁となるように炎が燃えて、天へと向かうレールに従い一直線に空へと向かう。
 あっと言う間に機動エレベーターを抜けて静止機動上にまで達した技術力と不可侵の理にチャラポラ博士が驚く間もなく、運搬機と実験装置の分離が行われた。
 火薬によりアリスの糸を断ち、離れるそれは命綱となるケーブルで運搬機と繋がっている。
 メルティアにより作られた宇宙服に身を包んだ面々は、皆一様にチャラポラ博士へ視線を向ける。
 博士はこの待ちわびた瞬間を前に、躊躇いを見せる事なく、装置の起動スイッチを押した。
 雛型とは言え恒星エンジン、今まで最大出力での使用をしなかったそれの制限が、初めて解除された。
 最初は、変化がないように見えた。だが装置を巡るモーターたちは動くに激しさを増し。装置は徐々に赤熱し、オブリビオンで作られた装甲もあっさりと歪みを生じてエネルギー誘導用のモーターも弾け飛ぶ。
 今、この内部では液状の流動エネルギーで保護された炉心内面を、球状になったエネルギー体から放たれるエネルギー屑がめちゃくちゃに降り注いでいるのだ。
 早く脱出しなければならない。だが、今後退しては意味がないのだ。
 退かざるを選択したチャラポラ博士の目の前で、光が弾けた。
 脅威の光量を宇宙服のシールドが防ぎ、それでも目の痛くなる光景に広がるのは。
 まごうことなき、光の球であった。
「全速後退ッ!!」
「──待っ……!」
 運搬機を捨て、高速爆撃機形態へと変じたゴーレムユニットが空間を離脱する。拡大していく太陽の如き若き星を背に、青い星へと一直線に。
 直後の爆発は、機体を大きく揺らし、走る衝撃に博士は宇宙服越しに頭をぶつけた。
「…………、何て光景なんすか」
 地上では、夜空を明けさせるような爆光に月すら消えていくのを見上げていたリカルドがアルタイルを発進。
 ジェリッド、摩那の両名は振り落とされないようにしがみついている。
「予定より流れています! スピード! 上げられますか!」
「勿論! アルタイル! 凄い所を見せるっすよー!」
 ユーベルコード【牽牛星覚醒(アルタイル・オーバーロード)】。
 馬力をあげて前タイヤが浮かびつつもジェリッドが無理やり抑えて急加速。摩那はスマートグラスでメルティアたちの着地地点を予測する。
「ジェリッドさん、データ送ります!」
「了解しました、行きますよ!」
 摩那を抱えて跳ぶジェリッド。着地地点に到達。
「呪力型加速エンジン【ジュピター】、全開!」
 それは、摩那の持つ接地面との反発力を高め移動速度を上げる宝石型装置であるが、今回はクッションとして使用する。
 更にはサイキックグローブ【クェイク】、指貫グローブを用いて彼女の念動力を衝撃波へと変換する。
 拡散することで威力を弱め、落下速度を軽減し。
「博士、アンタはウチが死なせない。受け止める!」
 接近するゴーレムユニットを正面から、ジェリッドが受け止めた。

 時間にしてみれば全く短いもので。
 それだけに、地球から宇宙へ飛び立ち、再び地球へ戻るという離れ業をこの文明の崩壊したアポカリプスヘルで行う事は、それだけでこの人類史に価値のある行いだった。
 無事の生還を喜ぶ猟兵たちの傍らで、魂が抜け落ちたようにぼんやりと座り込むチャラポラ博士。
「施設は消えちまったが、誕生日に送る花にするには、悪かねェよな」
 彼の視線と同じく空を見上げるメルティア。そこには、爆光で形成された光の大輪が夜空に咲いていた。
 まるで、夜明けを運んだかのような光景だった。これを形容する言葉など博士は知らないし、する必要もないと自嘲する。
「終わりだな、全部」
「何言ってんだ、これからだろ?」
 桜花の注いだコーヒーを手に、博士へ渡すウタ。
「タニシを飲んで拠点の為に尽力してんのも、皆が好きだからだろ?
 未来を育むのは人の温もりだって、博士の心は分かってるはずだ」
 ほら。
 ウタの指し示す先には、こちらへと走り寄る拠点住民たちの姿があった。家にいた者たちだけではない、農場で騒いでいた者たちも一緒だ。
 実はウタの懐には、先程の彼らの元に置いたラジオ型機械に繋がるマイクがあった。中継器から彼らの会話を聞き、住民達が押し寄せたのだ。
「博士、アンタ、なんでこんな大それた事を一人で抱え込んでたんだ!」
「……人がいれば注意をそらせる……お前たちにはそのまま犠牲になってもらうのが一番だったのさ」
「そうじゃねえ!」
「アンタの言葉があれば俺たちゃ拠点捨てるぐらい訳もないし、拠点を、あんたの装置を守るのだってしてやれたさ!」
「…………!」
 目を見開く博士。ウタは彼らを見つめて、これからも拠点の為に生きていくのだろうと、博士の道を憂う必要はないのだと安堵する。
 本来ならば、拠点の移動も破壊も、住民にとっては死に直結する行いだ。それを自ら進んで行おうと言うほどに、博士は彼らに必要とされていたのだ。
「けど、装置はもう必要ないし、悪用されたら困るぜ。
 この施設は拠点や未来の為のものだ。あの装置は無かった事にさせてもらう」
 ユーベルコード、【ブレイズアッシュ】。
 彼の右腕から生まれた炎を迦楼羅が導き、施設の地下を燃やしていく。
 あの装置は無かった事になる。ならば引き上げられた装置もない。時間を巻き戻すように崩壊した施設がゆっくりと戻っていく。
「花が、消えたな」
「ギチチッ!」
(美味しそうだったのにー)
 爆光が消えても、まだ明るさの残る夜を見上げるレイリスとアリス。アリスチャンは情緒より食い気かと思わず笑う。
 それは先程までのレイリスではなく、紅月・美亜としての笑みだったのかも知れない。
「……どんどん人が増えて手が間に合いませんっ……!
 どなたか手伝って下さい~!」
 ウタの放送のお陰で次々と集まってくる住民たちに悲鳴を上げた桜花に、猟兵たちは慌てた様子で彼女の元へ向かったのだった。


●道の先へ。
『そっかー。博士のオトモダチはここにいないんだね。
 そんじゃ行って来まーす』
『いってらっしゃいー』
『いーっ!』
 あれからしばらくの時が経ち。
 落ち着きを取り戻した拠点で鬣デッカイザーはサブアームにポットやカップなどを乗せて同胞に別れを告げた。
 向かう先は二つの拠点を結ぶ巨大農場だ。砕石で舗装された道を一機でかさかさ歩いて行くが、途中途中でその道を行き交う人々と出くわし、挨拶にと手を振る。
「じゃあのう、歩行戦車っつーたらよう」
『じゃあのー!』
「ヒャッハーッ! うすぎたねぇワンちゃん発見だぜェ!」
「よぉし、お前たちぃ。この先の拠点でまぁたシャワールームぅを、貸して貰うとしようやなーいかい皆ァ!」
『デス・さそりファイヤッハー!!』
『ヤッハー!』
 道端で野良ワンコを回収する怪しいモヒカン軍団に吊られて声を上げ。
 砕石の敷かれた道を外れれば、大要塞農場だ。入り口には一仕事終えたであろう男たちが休憩をとっている。
「つまり時代は力だけじゃあない訳だお友だちよぉ~」
「はあ。にわかには信じられませんが、オトモダチが言うなら事実なんでしょうね」
「んなことより見張りに戻らねえとさぁ」
 ホワイトカラーとモヒカンの二人組を囲うモヒカン三兄弟の姿はどう見てもカツアゲである。
『おっす、今日も鬣決まってるねー!』
『そっちも黄色の塗装が決まってるぅー!』
 他の住人の送り迎えをしているであろうタクシーダーに挨拶をし、更に離れた小高い丘を登っていく。
『えっと。あ、いたいた!』
「んん?」
「おお、救いの神とはこの事! 博士、まずはコーヒータイムといきましょう!」
「仕方ないなぁ」
 切り出した石の上で将棋を指していたチャラポラ・ンン博士とヨスミ村の村長は、やって来た鬣デッカイザーからコーヒーを受け取って立ち上がる。
 眼下を見下ろせば、行き交う人々が繋ぐ二つの拠点と、大要塞農場が目に映った。
 季節はまだ冬。厳しい風も吹き付けるが、すぐに春となるだろう。その時はまた、この拠点から別の拠点に向かう人々が現れるのだろう。
 そして彼らの進む先は、人類の道となっていくのだ。それは誰も知らぬ、未知の先へ。
「…………、我らが拠点の繁栄に」
「人類の未来に」
 乾杯。
 かちりと当てたコーヒーカップ。二人は笑うと中身を啜り。
「ン生臭っ!」
「うおえっ!」
『あれーっ?』
 くそまっずいコーヒーを吐き出して、コーヒー豆の栽培は開始出来ているはずだろうと鬣デッカイザーを怒鳴りつける。
 彼らが美味しいコーヒーを飲めるのは、また先になりそうだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年02月01日


挿絵イラスト