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連環(作者 犬塚ひなこ
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#ダークセイヴァー  #受付期間【1/21の8:30~1/24の23:59】 


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#ダークセイヴァー
#受付期間【1/21の8:30~1/24の23:59】


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●幸せな悪夢
 黒が、嫌いだった。
 穢れた闇の世界から抜け出したくて、ひかりを求めていた。
 己が汚れた血を持つ者だと知っていたが、定めから抜け出すことは出来なかった。
 ただ、人を愛したかった。
 それが叶わぬことだと識っていたから心は凍っていた。けれども、此処で紡がれたあの歌がこの心にひかりをくれた。ああ、君は――。

「……僕の駒鳥」
 青年吸血鬼は誰かを呼ぶように呟いた。
 薄暗い居城の中、其処にある檻の前には彼以外には誰も居ない。彼が靴先を僅かに動かすと、千切れた鎖が音を立てた。
 彼は己の冷たい指先を見下ろす。その手は僅かに震えていた。
 ずっと独りでこの城に閉じこもっていたが、もう限界だ。この身を悪意が蝕んでいる。世界を滅びに導けという闇の声に、これ以上は耐えられそうにない。きっと間もなくすれば自分は理性を失って近くの村や町を襲うのだろう。
「これじゃ、迎えに行けそうにないね」
 迎えに来るよ、と約束を告げたというのに。しかし、もう叶えられそうにない。
 自分が吸血鬼でなければ良かった。黒でなく白であったなら。闇でなく光であったなら、と彼は幾つもの理想を考える。
 だが、此処にあるのは未練のみ。檻の中には何もないが、自分自身が未練に囚われている。穢れた己は無垢な者の傍に居られないから、迎えに行けやしない。
 自嘲めいた、それでいて甘い微笑を浮かべた彼――黒衣の蝶は静かに瞼を閉じる。

 黒衣の蝶は、己の力を使って過去の幻を映しはじめた。
 ひらり、ひらりと紫彩の蝶が周囲に舞う。
 いま思えば幸せだったあの頃に浸るように、いつか聴いた駒鳥の歌が流れていく。少女の聲で奏でられる、過去の記憶からつくられた音だけが其処に響いていった。
「どうせ、僕が狂ってしまうのなら」
 最後は嘗てあいした少女の歌が響く記憶の中で、眠りたい。

 ――蝶よ、歌よ。昏く儚い世界をひかりで満たして。

●枯れゆく花へ
 理性を失った吸血鬼が村や町を蹂躙して、血の海を作り出す未来が視えた。
 そう語ったグリモア猟兵のひとり、ミカゲ・フユ(かげろう・f09424)はその予知によって吸血鬼の居城を捉えたのだと告げる。
「僕が視た未来はまだまだ先の出来事です。だから、皆さんには蹂躙が起こる前に吸血鬼の城に乗り込んで欲しいんです」
 少年はダークセイヴァーの或る地域にあるという、ちいさな城の場所を伝えた。
 其処には件の吸血鬼、黒衣の蝶以外には誰もいない。
「彼は城の周囲に雲の魔物を集わせて、わざと誰も近付かないようにしていたようです」
 理由や経緯までは分からなかったが、今此処で討っておなければ無辜の民が犠牲になってしまう。居城が分かった今こそ、雲の魔物を倒して乗り込むべきときだ。
「城はそれほど広くはないようなので、奥を目指せば吸血鬼と対面できるみたいです。けれど気を付けてください。彼は精神攻撃を得意とするようです」
 艶やかな髪に燃えるような真紅の瞳。
 薄く甘い微笑を浮かべる青年吸血鬼は、叶わない理想や有り得ない幻、幸福な悪夢をみせる。その力にどうやって抗うかは向かった者次第となるだろう。
 しかし、それを打ち破れば吸血鬼の力も削ることが出来る。
 意志の力が闇を退け、ひかりを導く。
 さすれば未来は拓ける。
 そう信じていると語った少年は、仲間達に信頼の眼差しを向けた。
「それから、お城の奥なのですが……吸血鬼の不思議な力が巡っているようなんです」
 静謐な城の中では歌が響く。
 それは其処に居る者の過去の記憶から生まれる歌声だという。その力自体に悪いものはないので少しだけ歌に浸ってもよい。
 聴こえるのは懐かしいものかもしれない。耳にすることになるのは、もう居ない誰かの声かもしれない。
 もしかすれば歌に耳を傾けたり、共に歌うことが弔いにもなるだろうから。
「それでは、皆さんを吸血鬼の居城の前にお送りします。ご武運を」
 そうして少年は十字架型のグリモアを輝かせ、世界を渡る力を発動させた。





第2章 ボス戦 『鎖繋ぐ黒衣の蝶』

POW ●僕が与えるのは悪夢のみ
【ミステリアスな甘い声】を披露した指定の全対象に【その者が望む幸福な夢を見せ、戦意喪失の】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
SPD ●理想は叶わないものだよ
【心安らぐ甘い香り】を籠めた【大切な者に裏切られ傷付けられる幻放つ花嵐】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【大切な者を想う記憶と心】のみを攻撃する。
WIZ ●触れたら枯れてしまう花に、触れたくなったら?
対象への質問と共に、【現を忘却させる黒い鎖】から【その者の理想的な幻を見せる紫彩の蝶】を召喚する。満足な答えを得るまで、その者の理想的な幻を見せる紫彩の蝶は対象を【幻惑し、生命力を蝕む甘い鱗粉】で攻撃する。
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はルーチェ・ムートです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●消えぬ絲
 城内は闇に閉ざされていた。
 回廊に灯は燈されておらず、空気も冷え切っている。されど、城には最奥に導くような紫彩の蝶が舞い、幽かな明かりとなっていた。
 不思議な歌声は響き続けているが、弱くなったり、消えかかったりと不安定だ。
 その際に、猟兵達の中に城主の記憶の断片が流れ込んできた。
 己の存在と闇世を厭っていたこと。
 幻に身を浸し、命を浪費する生き方を知らなかったこと。
 無意味な日々の暇潰しに或る少女を拾って、鎖に繋げて飼ったこと。
 無垢な“駒鳥”である少女に歌を教え、その声を聞いて“ひかり”をみてしまったから、冷たい世界から守らねばならないと感じた。
 死を運ぶ血を持ちながら、そのように思ってしまった。
 そうして、蝶々が齎した記憶と、駒鳥の歌声を辿った先では――。

「……悪夢の城にようこそ」
 薄暗い城の奥で、壊れた檻の前に佇む黒衣の蝶が猟兵達を迎えた。
 その言葉からは少しの皮肉と、何処か悲しげな雰囲気が感じ取れる。
 互いの姿が見えたときにはもう、彼の記憶から紡がれていたらしい少女の歌声は聞こえなくなっていた。その残滓であるかのような白百合の花弁が、ふわりと彼の手から零れ落ち、幻となって消えていく。
「此処は僕だけの理想の城だったのに、踏み入ってくるなんて悪い子達だ」
 侵入者に気が付いていた吸血鬼は冷静に此方を見遣った。
 彼の足元には千切れた鎖が落ちている。おそらくはこれが、先程に垣間見えた記憶の少女を繋いでいた鎖の一部なのだろう。
 視えた記憶は断片的であり、黒衣の蝶が少女を解放した経緯は本人しか知らない。
 だが、彼がずっとただひとりの少女を想って此処に居たことは間違いない。
「まぁいいか。理想なんて叶わないものだからね」
 黒衣の蝶は肩を竦め、猟兵達に目を向けた。其処に何かを見出したのか、彼は一瞬だけ切なそうな顔をする。
 しかしすぐに微笑を浮かべ、甘い声で此方に問いを投げかけてきた。
 もし、君達が――。

「触れたら枯れてしまう花に、触れたくなったら?」

 その瞬間、周囲に魔力が広がった。
 或る者の前には、その者が望む幸福な夢が展開されていく。また或る者は心が安らぐ甘い香りの花嵐に包まれ、大切な者に裏切られて傷付けられる幻が見えた。
 そして、すべてを忘却させる黒い鎖と共に、理想の幻を与える紫彩の蝶が羽撃く。
 幻惑の蝶は、命を蝕む甘い鱗粉を舞わせた。
「もうすぐ僕は狂うだろう。その前に……此処に訪れた君達に、優しい悪夢を贈ろう」
 大丈夫、誰も傷付けはしない。
 己の心が完全な闇に堕ちるまでは、せめて――。
 そういって甘く笑う彼の瞳には既に、狂気の片鱗が見え隠れしていた。

 彼は闇に染まること望んでいない。
 もし堕ちることを赦してしまえば、誰も望まない未来が訪れてしまう。それゆえに猟兵達は彼の幻と悪夢を打ち破り、終わらせなければならない。
 それに黒衣の蝶の過去を僅かに見た猟兵達には判っている。
 彼が望む理想の最期は、きっと――。
 駒鳥(かみ)たる少女の歌をもう一度、傍で聴くことなのだから。