あなたの声を聞かせて
●
「うううぅっ……! ゼェッ、ハァッ、あっぐっ……!?」
目覚めたら群竜大陸にいる……!?
そして、ここで死んでほしい!?
彼奴! 彼奴、彼奴! 神罰を待て、言葉の神の鉄槌が必ずや、必ずや……必ずや!!
「ギギッ!」
「ギギャア!」
「あァッ゛……こ……の゛、ォ゛ぐうう……!?」
「ゲゲゲ!」
痛い。
いや、もう、痛くも、ない。
感覚が……何本目だろう……。
脇腹に杭が突き立つ。手錠が、首枷が軋む。
……これは試練だ。
そう何度言い聞かせても、滲む出血も、折れた骨の軋みも、歪む視界も癒えはしない。
祈り、祝言を寿ぐ。
その信仰を折ろうと、この穢れた使徒をあの魔女は差し向けたのだろう。信仰の証は壊されてしまった。他の同胞はどうなったのだろう。私は何処に連れていかれるのだろう。疲労で蒙昧な頭を働かせて辺りを見回して、なんとか周囲に助けを求めようとして。
その度に! その度に! 歯や爪が、私を傷つける。我慢しても。意図せずして叫んでしまう自分が忌々しい。
「あぅッ゛……ううぅゥ、ぜ、ぜ……っ、たい……後悔、します……シャルムーンは、こんな暴挙を決して……」
「ゲ?」
「ギギッ! ガギャ、ギィイ!」
「うぁあ……や……だッやだぁ……もっ、穿るなっ……て……ぇァ゛!? オ゛っ、アぉッ゛アッア゛ーッ゛!?」
わかるのは屍の小鬼が、信じられない膂力で私を持ち上げ、縛り、串刺して何処かへ連れて行こうとしているくらい。
心細い。心身が衰弱する。
なのに。
なのに、なぜだろう。
内から出ずる破邪の悲鳴はますます大きくなる。止められない。止まらない。弱れば弱るほど、苦しめば苦しむほど、言葉の神は私を愛して離さない。私は破裂してしまうのだろうか。やがて自分の鼓動が聞こえなくなるほど、叫びは大きくなって、際限なく張り上げ続けて、そして――!
●
嘸口・知星(清澄への誘い水・f22024)は集まった猟兵を見回すと、大きく頷き口を開いた。
「召集に応じてくれた皆に感謝を! 落ち着いて聞いてほしい。アックス&ウィザーズ世界にて事件が発生した。解決のため、ぜひ猟兵の皆の力が借りたいのだが――急を要するため説明は端的にさせていただく。さぞ不安なことだろうが、一度しか言わないため、よく聞いてくれたまえ」
群竜大陸。かつて帝竜戦役の舞台となったアックス&ウィザーズの広大な大陸に、迷宮災厄戦に現れた謎の勢力「猟書家」の幹部が出現した。
その名を「眠りの森の魔女ターリア」。
「すでに彼女の手によってひとりのクレリックが拉致された。放逐先はわかっている。直ちにそこに向かい、そのクレリックを助け出してほしい」
地獄の古戦場。
帝竜戦役の爪痕が生々しく残るこの地には、多くの「ゾンビ・モンスター」が蔓延っている。
腐汁が充満し大地は踏みしめるには緩く、瘴気が漂い、生温い空気は吸い込むだけで息苦しい。
幸いなことに今回は、烏合の衆を束ねる指揮官を闇討ちするといった芸当は必要ないため、単純な力押しも有効になる。何度殺しても蘇る古戦場のモンスターへの対策を欠かさないことが肝要だ。
「件のクレリックの名は『キョウカ』という女性だ。襲われる彼女を守るのが依頼だ」
大挙して押し寄せているオブリビオンは『ゴブリン収穫兵』。
一匹一匹は大した能力はないが、大勢の上全てがゾンビ化している。さらに一体はクレリック・キョウカを会敵時点で捕らえていると思われる。生きながら盾にしたり食料にしたり、騎乗動物にしたりと、理性のない悪虐は止まることを知らない。大量のオブリビオン兵だけでなく、早急な救出作業も求められる。
「彼女を救出できれば幹部『眠りの森の魔女ターリア』が姿を現す。痺れを切らして彼女を返り討ちにしてやるといい」
幹部と称される彼女の操る力は強力で、「眠りの呪い」と呼ばれる催眠作用を催す。己自身も眠っているため反射も通用せず、一度術中に嵌れば脱出は困難を極める。
補助的に「記憶を一時的に奪う呪詛」も使用するが、これもまた見過ごすことのできない威力を誇る。夢を盗み見るような力らしく、過去大きく負傷したり苦しんだことのある記憶の持ち主ならば、対策がなければ苦戦を強いられるだろう。
「救出対象……このクレリックは『言葉の神シャルムーン』……ああ、アックス&ウィザーズで信仰されている数多の神々のひとつなのだが、これに仕えている。かれらは死の間際に強い断末魔の叫びをあげるらしいのだ。命尽きる時に、強力な『破邪の言葉』を」
その「破邪の言葉」を用いて、群竜大陸に隠された何かを見つけ出すことがターリアたちの目的になる。
すなわち容赦なく、命を刈り取ろうとするだろう。クレリックの命を奪うことは目的の過程でしかないのだから。
「帝竜の封印解除、そして、天上界への到達……巨悪が何を考えてるか全貌はまだわかりかねるが、むざむざ奴らの狙いを成就させるわけにはいくまい。立てよ猟兵たち、今こそ、その勇を存分に奮う時! 武運を祈るぞ!」
助けられる命がまだある。猟兵たちは背中に激励を受けながら、前へ前へと掌を伸ばす。勝利の栄光と、危機に瀕した少女の手を掴むため。
地属性
こちらまでお目通しくださりありがとうございます。
改めましてMSの地属性と申します。
以下はこの依頼のざっくりとした補足をして参ります。
今回は幹部シナリオ、ゴブリンゾンビに襲われるクレリックを救出後、彼女を守りながら幹部と決戦です。
※このシナリオは、『幹部シナリオ』です。
2フラグメントで完結し、『骸の月』の侵略速度に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。以下は特記事項です。
下記プレイングボーナスを満たすプレイングがあれば、ボーナスを得られます。
プレイングボーナス……襲われるクレリックを守る。
続いて、少女クレリック「キョウカ」について補足をば。
戦力としてオブリビオン相手に有効な手段は持ち得ません。ですがプレイングボーナスはございますので、積極的に気遣ってあげるのがよいかと思います。万一失敗(=クレリックが死ぬ)すると、何かが起こるようです。
では皆様の熱いプレイングをお待ちしています。
第1章 集団戦
『ゴブリン収穫兵』
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POW : ヒューマンライド
自身の身長の2倍の【剣を装備した後、捕獲した人間(調教済)】を召喚し騎乗する。互いの戦闘力を強化し、生命力を共有する。
SPD : ホステージシールド
全身を【隠す様に、捕獲した人間を固定した盾】で覆い、自身が敵から受けた【攻撃を盾で受け止め、固定した人間の負傷】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
WIZ : 食人肉料理~生~
戦闘中に食べた【捕獲した人間の血肉】の量と質に応じて【全身の細胞が活性化し、自身の負傷が回復】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
骨と欲望を矮躯から剥き出しにし、下卑た軋んだ笑い声をあげながらゴブリン収穫兵が行軍する。
ゴブリンの屍兵の「戦果」さえ、すでにほとんど骨や骸と化している中で、クレリックのキョウカは生命の光を強く瞳に宿していた。
死中に活あり、とは、言わないけれども。
捨てる神あれば拾う神はいるだろう。
髪を振り乱し、血と汗と涙を流し、彼女は叫び続ける。今際の際のその瞬間まで、それが信仰だと言わんばかりに、鮮烈に。
クリス・ヴァージナス
フン、下等なゴブリン風情が聖なる使徒を玩具にするなんてイイ度胸じゃない。
信ずる神は違えど彼女もまた信仰に生きる女…偽りの信仰心を持つ私とて彼女を助けたい気持ちくらいはあるわ。
異端審問官クリスの力、見せてアゲル♡
【空中浮遊】から一気にゴブリンを強襲、キョウカさんを範囲に入れて【聖なる背徳】を【多重詠唱】で【オーラ防御】と共に展開して攻撃と癒しを同時に行うわ。
ほら、ほら!その汚れた魂と心臓を握り潰してアゲル♡
ゴブリンに跨って【生命力吸収】【エネルギー充填】しながら腰を振り乱し周囲のゴブリンにはダメージを、キョウカさんには癒しを同時に与えて戦局を優位に進めていくわよ。
♡アドリブ歓迎♡
ヒールの踵が踏みしめた粘液が、ずちゅりと水音を響かせて糸を垂らした。
生暖かい空気を孕んだ風が、煌めく銀髪を持ち上げる。切長の眼差しに相貌があらわになるが、それは酷い怒りに燃えていた。乾いた舌の先がひりつく。それでもあえて言い放たなければならない、こんな言葉を交わすことさえ腹立たしい下等なゴブリン風情にも。
「フン……ッ」
踵が、大きく振り下ろす鉄槌のように、先頭のゴブリンゾンビの頭に食い込み、柔らかい腐肉を沼に叩きつけるように沈めた。ゴボ、ガボっと苦悶の叫びがあがれば、理性なき徒党であってもいささかどよめく。何事だ、何奴だ、とぶんぶん得物を振るい、一行を遮る存在に敵意を剥き出した。
濁った飛沫を払うように手を振って、睨み返す、絶世の美女。
「刮目なさい――異端審問官クリスの力、見せてアゲル♡」
クリス・ヴァージナス(性食者・f31157)の姿が、ゴブリン収穫兵たちの視界から掻き消えた。
幻術か、さもなくば目でも潰されたかと思うような鮮やかな消失。
小鬼兵は大きな音や影に反応する。しかし物音はといえば互いに互いが鳴らす得物の音ばかり、影など何処にも見えぬ現状。右往左往する滑稽な一団の中で、唯一彼女を視界に捉えてる存在がいた。霞む視界の中ではっきりと、舞い降りた希望の光を見てとり、呟く。
「……浮いて、る……!?」
「ふふ。わざわざ言ってあげたのに、それとも理解する知能もないのかしら、ねっ!」
反転!
くるりと中空で一回転すると、踏ん張るような姿勢でぐっと体勢を制御し、そのまま強烈なスタンピングを繰り出す。一団の先頭から盾すら構えることもままならず、頭蓋や胸をひしゃげさせながら次々と昏倒! なおも勢いは止まらず、幾人を古戦場の泥濘にめり込ませながらようやく静止した。
屍の山を築き、そこに蹲踞する烈女。
勇猛さ、何よりあらゆる勇壮ぶりを上回る淫らな魅力がフェロモンのように周囲に漂う。
「あなたは、一体……?」
「キョウカさん、あなたを助けてあげる。私にも思うところがあるしね」
「それってどういう……ギっ?! あ、が、ぐ……ッ、ぅ、ううう!!」
――がじゅじゅうっ……! ガブッ、ガジュブッ……!!
鮮血がぷしゃぁと噴き出す。
血の霧が濃厚な匂いを撒き散らした。
生命の危機に瀕した時、欲望は活性化するものだ。自然の摂理は、死した小鬼でさえ変わらない。受けた負傷を回復するため、何より黒幕の野望を果たすため、クリスに背を向けて、寄ってたかって拘束されたキョウカに小鬼は牙を突き立て始めた。新鮮な、穢れを知らぬ生肉。二の腕、太もも、胸部。剥き出しにされた柔らかい部分を生きながらに齧られる恐怖と絶望感。滴る猥欲は粘り気をもって肌に広がり、じっくりと吟味した後、さらに下卑た欲望は下腹部にまで迫って――。
「ッ゛――い゛ッ、痛アぁああ!? や……めてっやだっやだやだやだああぁああ!!?」
ついには半狂乱となって叫び、子供のように滂沱の涙をこぼし始めた。
いかに使徒として修練を積み、精神を鍛え上げていたとしても、斯様な恐怖と穢れを注ぎ込まれてなお理性的に振る舞えるものなどいまい。そのままでは舌を噛み切って自決せん勢いである。
その様子を見てクリスは穏やかであった。
欲望第一。その身を聖教会に置きながら、我欲を満たしては信仰など偽りと常々思っている奔放な存在。そもそも信ずる神も違う。信仰の自由、という言葉もある。キョウカ嬢の信ずる神は、ここまで信徒が貶められてなお救いの手を差し伸べなかった。キョウカの信仰心が足りていなかったのだろうか。あるいはこれが彼女に下された罰か。生きながら食われるとはどのような悪行を重ねれば与えられる罰なのかは存じ上げないが。今まさに心傷と喪失感、今までの人生で味わってないであろう痛烈な刺激を受けて、その命を散らそうとしている。
クリスは、穏やかに微笑した。
穏やかでありながら、嵐のように怒っていた。
無視されているから――だけではない。それもあるが。
下等なゴブリン風情が聖なる使徒を玩具にする。その所業は看過できない。
穏やかさが艶やかな笑みへと変わった時、戦場に『異端審問官』クリスの真骨頂が披露される。もはや直視などできない、壮絶な行為。今までの挑発的な格好と言い回しが児戯に思えるほどの蠱惑さに、周囲はあらゆる苦痛から解放される。
腰を前へ。そして、腰を後ろへ。ゆらゆらと悩ましげにシェイクする動きからだんだんと激しく、アグレッシブに。そんな動きを不安定な屍の山で行えば必然、露わになった房の半球や、大きく突き出された尻もぶるぶると揺れてしまう。視線を感じれば、ため息混じりに右手を左の肘に添え突き上げて腋を晒す。また別の視線を感じれば、腕を解いて太ももから股へと指をつーっと泳がせる。
生者ならば息を荒げ、急所を熱り立たせることだろう。同性のキョウカでさえ、直視を憚ってしまう。それもまた正しい。うら若き乙女にはまだ早い。不思議と癒しと活力を得ていた彼女は、己の知らない内なる淫らさに「なんて私ははしたない……」とこっそり衝撃を受けていることだろう。
最後には頭巾と小手、佩剣を解くと、着衣にブーツだけの無防備な姿になって周囲を一層魅惑した。ここまでくるとストリップだ。唇から覗く赤い舌は、扇情的を通り越して肉体から魂を励起させる。この世ならざる美貌の極致とも言える。
野生動物なら昏倒するほどの求愛行動に、ゴブリンたちはバタバタと倒れ始めたではないか。
あまりの強い刺激に耐えられなかったのだ。それは、文字通りに心臓を鷲掴みにされ、魂を捻りあげられているに等しい。
下品な愚か者にも、相応の救いと死の報いを。凄絶ながら、たしかにそれは宗教家の有様である。
「穢れしモノに苦しみを、無垢なるモノに救いを、そうあれかし♡ あなたの信条とは少しちがうけれど、ごめんなさいね♡」
キョウカは確信する。動かぬ体を揺すって首を垂れ、心中、手を合わせる。
神は救いの手を差し伸べていたのだ。人ならざる魅力と強さを兼ね備えた、淫魔(サキュバス)という、救いを――!
大成功
🔵🔵🔵
ラハミーム・シャビィット(サポート)
シャーマンズゴーストのUDCメカニック×戦場傭兵、25歳の男です。
口調は、掴みどころの無い変わり者(ボク、キミ、デス、マス、デショウ、デスカ?)
人と少しずれた感性を持っていて、面白そうならどんな事にも首を突っ込む、明るく優しい変わり者です。
戦闘時にはクランケヴァッフェや銃火器の扱いは勿論、近接格闘術のクラヴ・マガなどでド派手に暴れ回ります。
ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
ラハミーム・シャビィット(黄金に光り輝く慈悲の彗星・f30964)は口のない顔で確かに笑っていた。
ここではボクの力が存分に発揮できる。相棒になってくれとは、いかないまでも……!
「出番デスヨ」
――目覚めなさい、古戦場の亡霊たちよ。
多くのゾンビ・モンスターたちが蔓延る地獄の辺境にて、シャーマンズゴースト人間が次々と姿を現す。姿は千差万別、一つとして同じ形態のものはいないが、共通しておよそ表情と呼べるようなものがないようであった。
「いったい何が起きてるのでしょうか……神よ……!」
不自由な手では祈ることさえままならない。
必死に目を瞑り、現出した光景に俯くキョウカ。そんな彼女にも容赦なく牙を剥くゴブリン兵。
わかりきっていた地獄を、更なる混沌めいた地獄によって上塗りする。餓鬼を狩るUDC怪物、徒手空拳でゴブリンを刺し貫き、握り潰し、蹴り倒していく。悪鬼羅刹の肉体舞踏劇。立ち上る血煙にむせ返りそうな腐臭は、キョウカにはかえって「生きている」という生の実感を感じさせるのに一役買った。
「つまらないデス。それで本気デスカ?」
「ギギギ……!」
こういった手合いは銃撃は過剰火力。そう判断したラハミームは自ら、大きく振るった鉄槌でゴブリンたちをしたたかに打ち付ける。それでもやや威力は大きすぎるほど。ばらばらの肉片と化した収穫兵を一瞥し、実につまらなそうに見下ろした。
本当につまらないのだ。何の刺激にもなりはしない。
「まとめてかかってきていいデスヨ。そちらの方が楽しそうデス」
ぶるんと大きく振って挑発してみせる。
その細身の体のどこにそんな膂力があるのか、果たして、大挙して押し寄せたゴブリンたちを、片っ端から料理してみせる。はじめこそ一団と呼べる存在だった彼らも、粉々になれば復活するのも容易ではなく、みるみるうちに数を減らしていく。
その様子は面白いとは言えないまでも、多少なりとも刺激を感じたラハミームであった。
成功
🔵🔵🔴
四王天・燦
《華組》
気分が悪い
ターリアちゃんよ女の子の味方なアタシでも許せんぜ
漆式で紅狐様呼んで騎乗
ゴーグルかけてシホに目配せ一つ
心は一つ、連携はこれで充分だ!
煙幕弾が飛んだらキョウカ目指し突撃
助けに来たぜ!
声を掛けて安心させる
ゴブリンを神鳴で薙ぎ払い、紅狐様の蹴爪で踏み潰し蹂躙
キョウカに近づけば『あと少しだ!』大声上げてゴブリンにアタシの方向―ホステージシールドを向けるべき方向を知らしめる
煙幕の中、紅狐様から降りる
紅狐様におびき寄せを行ってもらい、キョウカを盾に身を隠すゴブリンを背後から暗殺
アークウィンドで枷を切断
杭を抜く際にシホに祝音要請…そのまま抜けば死にかねん
キョウカを背負い紅狐様に騎乗して脱出だ
シホ・エーデルワイス
≪華組≫
アドリブ歓迎
何て酷い…
一刻の猶予もありませんね
先制攻撃でキョウカさんが目立たなくなる様
目潰しの煙幕弾を早業で撃ち込み
燦が救助する隙を作って時間稼ぎ
燦!
『聖瞳』でキョウカさんを暗視し
燦の合図で【祝音】を飛ばし手当
後は破魔の聖火属性攻撃誘導弾で
敵の腕や盾の留め具や食べようとしている血肉を
スナイパーで部位破壊して援護射撃
人質を盾にしても私の弾は自動追尾や跳弾で
敵のみを狙います
清めて炭になった肉なら食べられないでしょう
燦が救出に成功し合流したら
キョウカさんをコミュ力と礼儀作法で優しく慰めて落ち着かせてから
『聖鞄』へ保護
不可ならオーラ防御の結界で庇いつつ戦う
もう大丈夫です
貴女は私達猟兵が守ります
――……もぞっ、ズズ……ッ!
「(痛い゛……がっ、手を……こまねいては……助けが、来ているのに……ッ!)」
身動げば意識が遠のく。
ごぷりと口端から、血塊が漏れる。
それでも、そもそも、これも神が与え給うた試練、ならば、伏して死を待つなど……ましてや舌を噛むなどあってはいけない。信徒キョウカの信念は揺らぐどころか、一条の光明によりいっそう堅固さを増したように見えた。首と両脚が繋がれてはいるものの、手は縛られているだけだ。動く箇所は、ないわけではない。騒乱の隙をついて、縛り付けられた盾ごと身を捩り――泥濘へと身を投げ出す。
重力と、衝撃と。沼底の枯木と、拘束具に付けられた杭がさらに深々と食い込む。ズギリッ! と迸る痛みに、生半可な言葉を失うが、意識までは握りしめて手放さない。ここで気を失えば、もはや目覚められない。そんな危機感だけが今のキョウカの支えだ。
「私は……逃れました! ハァッ……どなた方か存じ上げませんが、どうか存分に、その勇を……!」
「ギギャ!?」
「ギギャア! ギギギ!」
「ッ……負けないっ、負けません! どれほど穢されたって、ッ……!」
――ダダッ! ダダッ! ダダッ!!
蹄の踏音か、はたまた轍を刻む音か。
粘つく死の古戦場には似つかわしくない快音を響かせて迫る音。それと同時にであろうか、視界をもうもうと白い煙が漂った。煙幕! 単純な感覚器官と思考しか持たない小鬼にとっては効果覿面の先制攻撃。これもまた猟兵らのなせる戦略である。
一斉に身構える。わけでもない。得物を振り回すもの、盾を構え直すもの、非常食にありつくもの、色々、色々だ。
煙の間隙を縫って、ひとつ、また一つ光の筋がそんな小鬼の掌を、盾の拘束具を、噛み砕かんとする牙を、手にした肉片を撃ち貫いていく。
得物を握りしめればその指を、逃げ出そうとすればその背を、何か指示めいた叫びをあげれば舌を、先手先手を打って潰す。何をしても、何をしようとも何にもならない。それも、集団で群れるゴブリン全てが、である。
まるで暗闇の中から一方的に襲われるような恐怖。これが常人ならば身の毛もよだつであろうが、ゴブリンにとっては、悲しきかな、ただただ困惑するのみだ。残念ながら、その低脳では何をされているかさえわからない。煙に巻く有効性は存分に発揮されている。
何より、この煙幕には、キョウカを視認しづらくする目的が隠されていた。
迫る音と、見えない銃撃にひたすらにパニック状態に陥ってしまい反撃も堅守もままならない。効率重視の電撃作戦。攻めるよりよほど難度の高い救出戦において、これほどまでに鮮やかな手際を見せられるのは……!
「私は、私たちは! 何者も決して切り捨てません!」
助けるために何かを切り捨てる、そんなある種の「妥協」の恐ろしさを知っているから。
シホ・エーデルワイス(捧げるもの・f03442)の誰よりも強い意志が、約束された悪夢のような結末に一つの祝福を下す。言うなれば、それは「祝音」であった。
「燦!」
白くて暗い安寧を引き裂く、鈴の声音。
シホは見据えている。後ろ目に一瞬、視線を送る相棒の、信頼と自信に満ちた心の内を。
「助けに来たぜ!」
煙の中に顕現するのは、紅く、熱い、猛火の狐。それを従える紅蓮の稲荷巫女。差し伸べる手はまっすぐで力強く、何にも増してあたたかい。
全てを理解した。
合図も、他には必要ない!
振り返らず駆け抜ければ、タイミングは合う。見透かされた心はもはや一つ。一心同体のコンビネーションで絶望を打ち砕く!
「アタシは、ここにいる! 生きろ!」
――ザンッ!! グジャ……ッ!!
血飛沫が散る。拭う一瞬さえ今は惜しい。
踏み砕く。石くれに止まってはいられない。
鎧袖一触、無人の荒野を駆けるように、一切合切の抵抗を即座に粉砕して、一直線にひた走る。
狙うは一人。抵抗するキョウカを抱え上げ、タワーシールドのごとく構え抵抗の意志を見せるゴブリン収穫兵。鬱陶しいくらいの生存本能に、四王天・燦(月夜の翼・f04448)は舌打ちする。あと少しだ! 踏ん張れ! と声をかけて、ひらりと降り立てば、波紋が飛沫となって辺りに散った。
一瞬の静寂。
古戦場に吹き抜ける風は生暖かく、鳥肌ものの悍ましさを否応なしに感じさせる。五感に訴えかける如実な「死」の実感に、ゴブリンもまたないはずの感覚器官をフル活用して身構える。
汗が滴る。痺れる神経、荒く吐く息。
時が、止まる。
「っ……ッ!?」
「目を開けな」
「え……え……?」
「終わったぜ。よく頑張ったな」
キョウカは、その緊張を堪えきれず、目を閉じていた。
次に開けた瞬間には全てが終わっていた。
ちんと刀を鞘に収める音。ずるりと落ちていくゴブリンの首。風の刃が枷をバターのように切り裂いて。
脱力する体を抱えて、燦の両手がついにキョウカの失われかけた命を抱きすくめていた。失われていた感覚が触れられた先からみるみるうちに蘇る、そんな心地であった。快い。指先に至るまでに生命力が漲る。
燦は頷いた。
もはや包囲の只中にとどまる理由もない。彼女を背負って紅狐に再び跨ると、甦らんと蠢くゴブリン屍兵をよそに、悠々と突破、勝者の凱旋をしたのであった。
……煙幕の霧を抜けた先に、白き翼を背負った聖女が待っていた。
このまま串刺しのまま放置しても、その場で抜いて応急処置しても命は失われかねない。実際に燦の判断は正しかった。決して清潔な環境でないここでの半端な応急処置は、いずれ彼女を死に至らしめることは疑いようもない。そこで、シホの出番というわけである。
癒しの光がかざされた手から溢れて、キョウカの砕けた骨肉を包み込む。刺さった杭がひとりでに抜けて、止血され、元へと回帰していく。
「あなたは……いったい……?」
「名乗るほどの者ではありません。……はい。もう大丈夫です。貴女は私達猟兵が守ります」
「猟……? けほっ、ぁっ……気をつけて、くださいっ……魔女が、私を狙って……!」
「だとしても見過ごせません」
「だからこそ、だろ?」
勝気に笑う燦に、呼応するように微笑するシホ。言葉は僅かながら、キョウカの心は解きほぐされ、すでに安らかであった。シホの治癒を許諾したのち、セーフスペースである【聖鞄】に保護される。しばらく眠れば快癒するだろう。ひとまずは安心であると言えた。
「ふぅ……」
「しばらく眠れば……ねぇ」
「眠りの森の魔女は女の子のようですが」
「なんだよ。肩貸すのやめようかなー」
急速治療で疲労したシホの体を支えつつ、燦は口を尖らせる。彼女の魔物娘好きは公然の秘密。キョウカの試練が眠りに始まり眠りに終わったのであれば、必然残された猟兵の役目は安眠を妨害する黒幕へと移る。
資料によれば、常に眠りに落ちた姫君の如き魔性の美を備えた女性だというではないか。
皮肉や悪意などなく、シホとしては恋人の趣味嗜好として合致しているのではと推察した次第である。
「あれはダメだ。気分が悪い」
「? どういうことでしょうか?」
「気分が悪いのは、気分が悪いんだよ」
【聖鞄】を抱えるシホの手前、露骨にしらばっくれる燦。
彼女は怒るだろうか。嘆くだろうか。救いようのない悪もいるものだと、アタシでも許せんぜと、言葉を並べたら。ささやかな悩みは、シホの蒼い瞳に見透かされているような気がして、口にする気にもならなかったけれど。そう思い悩んだ時点で、互いに互いの言い出しそうなことがわかってしまって、いつのまにか千日手になってしまう。
肩を貸す、その微かな温もりは雄弁に物語る。
この確かな絆は、魔女の呪いをも打ち破れるだろう――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『眠りの森の魔女ターリア』
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POW : ようこそ眠りの森へ
戦場全体に、【「眠りの森」 】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
SPD : 醒めざる夢の茨
【棺の中から伸びる「眠りの茨」 】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ : 忘却の眠り
【記憶を一時的に奪う呪詛 】で攻撃する。また、攻撃が命中した敵の【過去の記憶】を覚え、同じ敵に攻撃する際の命中力と威力を増強する。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠リミティア・スカイクラッド」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「ええ。ええ、実に困っています。遙かなりや天上界、その存在を夢にまで見ながら、強固な封印に阻まれるという不運。わたしの伝えたいお願いは端的に言えば一つ。死んでいただきたい、ということです」
地獄の古戦場。
生命の生まれるはずのないこの地にて、ずるりずるりと生え栄えるイバラたち。
それらに横たわるようにして、ターリアは現出する。
彼女は目的以外何も見えていない。
澄み渡るような空も、任を失敗した小鬼兵も、その原因となった猟兵たちも。
一切合切を空気の如く、視認しない。
少しでも気を抜けば、キョウカは搦め捕られたのち、喉笛をかき切られ絶命するだろう。彼女は言う。「眠り」に耐えられる生物などこの世には存在しないのだと。閉じた瞳の大幹部は、嵐のように見境なく、襲いかかる――!
火土金水・明
「大切な一つの命を利用して、自分達の利を得ようとするような猟書家を許すわけにはいきません。」(キョウカさんが狙われたら【かぼう】行動をとります。)
【SPD】で攻撃です。
攻撃方法は、【継続ダメージ】と【鎧無視攻撃】と【貫通攻撃】を付け【フェイント】を絡め【限界突破】した【銀の流れ星】で、『眠りの森の魔女ターリア』を【2回攻撃】します。相手の攻撃に関しては【残像】【オーラ防御】【見切り】で、ダメージの軽減を試みます。
「(攻撃を回避したら)残念、それは残像です。」「少しでもダメージを与えて次の方に。」
アドリブや他の方との絡み等は、お任せします。
「大切な一つの命を利用して、自分達の利を得ようとするような猟書家を許すわけにはいきません。」
火土金水・明(夜闇のウィザード・f01561)は、黒い帽子をぐっと被り直すと、呪いの魔女に向き直る。放置しては危険な存在だと認識こそしていたが、いざ対面すれば気圧されてしまうほどのプレッシャーを感じる。
びゅんと鞭のようにしなる一撃が繰り出される。軌道を読み切って横腹から銀の剣を刺し入れると、確かな手応えと共にバラバラに引き裂かれた。
「いきなり攻撃とは無粋ですね。私たちのことは眼中にない、とでも言いたいのですか?」
「それは少々違います。わたしの目的はあくまでそこのクレリック。あなた方の命などいくらいただいても使い道はありません」
「随分と勝手な言い草なんですね。」
「重ねてお伝えしますと、あなた方の命などいつでも奪える、ということです。おわかりいただけましたか? でしたら……」
――……ザシュッ! ドシュッ!!
「お断り、です!」
剣技《銀の流れ星》。
尾を引いて煌めいて、流れていく夜空の星を掴めるものなどいない。
無尽蔵に生えてくるイバラを切り捨て、本体に一太刀加えることだって、不可能ではないのだ。
「な……手応えはあるのに!」
「たしかに攻撃を受けたようですが……このイバラはユーベルコードを封じる魔のイバラ、これに触れたものはたちまちにその力を失います」
機械的な問答に、一切の焦りも余裕も感じない。当然の帰結であると言わんばかりの態度の、瞳を見せない魔女。明は、改めて対敵している存在の強大さを噛み締めていた。幸いなことに、積極的に自身を狙ってこないというのが救いか。しかし長期戦になれば消耗するのは己が先。
「限界を越える! 一度でダメなら二度撃ち込めば!」
「鬱陶しいですね……」
眼前を飛び回る羽虫を払い除けるように、大ぶりにイバラを振る。触手のように明を絡め取ろうとして、その剣先に触れかけたところで、姿がかき消えた。
「残念、それは残像です。」
「む……」
夢現の魔女は、それでもなお無表情に、無感情にイバラを振るい続ける。焦ることはない。一手でクレリックは鏖殺できる。付き合う道理こそなかったとしても、立ち止まるのは猟兵が先だ。
ターリアは実力差から無意識のうちに慢心していた。明の指摘通り、命を利用しようとする輩特有の誤った損得感情が優先順位を誤認させたのだ。本来ならば猟兵を一人一人屠ったのち、キョウカを殺すべきである。それを頑なに、猟兵を無視する態度を取り続けた。
――結果。
「はあっ! そこ! まだまだ!」
流星群のように絶え間なく繰り出される剣撃の嵐。律儀にそれを払い除ける魔女。たった一撃、その攻撃を潜り抜けてクレリックを一撃すればいい。
「(遠い……わたしより弱い存在が)」
十二分に時を稼ぎ、猟兵たちに反撃の機会を与えてしまった。
取り返しのつかない失敗をしでかしてなお、ターリアは使命に殉じ身を省みない。実力は自身が上回っているという、それだけを盾に漫然と攻撃を続ける。幹部の脅威は今なお覆い尽くすように忍び寄る。
「私は、あなたと違って一人で戦っているわけではありません!」
「……? どういう意味でしょうか。この場にて仕掛けてきているのはあなたのみのようですが」
「そういう意味じゃ、ないっ!」
一閃、袈裟がけに銀の剣がイバラの鎧を切断する。
所詮、目を閉じてしまえば見れるものも見れぬ仕舞いである。致命的な盲目を、絶好の付け入るチャンスを逃す明ではない。不可能と思えた猟書家打倒が、明の不屈の連撃で今、現実味を帯びる――!
大成功
🔵🔵🔵
クリス・ヴァージナス
眠り姫ね…私の全力でお相手してあげるわ。
キョウカさんには私への祈りを捧げ身体に触れるよう要請、彼女の祈りと接触した肉体から【エネルギー充填】して即座に対物理・対呪術結界【オーラ防御】を展開して眠りに対抗。
同時に【多重詠唱】で【ジャッジメント・クルセイド】を発動、眠りの力を結界が押さえている間の刹那に【神罰】の一撃を叩き込むわ。
幸い聖職者にして【悪のカリスマ】として生きた私には辛い過去や記憶はない…眠りにだけ抵抗すれば一撃するのは十分に可能よ。
「キョウカさん…貴女を死なせはしないわ、だって……まだアナタのオンナの部分を味見してないんですもの♡」
劣情と欲望こそ力、それで幹部に対抗よ
♡アドリブ歓迎♡
――言葉の神「シャルムーン」のクレリック、キョウカは言葉を失った。
敬虔な信徒であるが故に、その「無言」の罪の重さは重々承知してなお、少しでも気を抜けば悲鳴が口から溢れてしまいそうになる先ほどとは違い、ただただ。言うなれば呆然とした様子で目の前の状況を食い入るように見つめていた。
理を離れた、頂上の戦い。
その前線にあって、キョウカは見守ることでしっかりと参戦していた。彼女は逃げない。逃げられない。一歩歩けば死んだモンスターが闊歩し追いかけてくる地獄の古戦場。その出口に立ちはだかる『眠りの森の魔女ターリア』。閉じた双眸が見つめるのはキョウカただ一人であると認識しているから。
「(いざとなれば……不肖……この身を捧げてでも……!)」
「いけない。邪念が見えるわ。キョウカさん、集中してくれる?」
「えっ……あっ」
「それとも、私のことがまだ信用ならないかしら?」
――バヂィッ……! ドォォウッ……!!
振り返って微笑みつつ、右手を前に払う。
その流れに沿うようにして、禍々しいオーラが霧散した。
取り込まれれば一瞬で昏睡する強力な眠りの呪詛。それを前にしてこちらを気遣う余裕があるのだろうか。いや、あるはずがない。現に、庇うように立つクリスの頬には汗が伝っていた。
キョウカとターリアの間に仁王立ちし、降りかかる呪詛を払いながら反撃の機会を窺っているのが現状である。
「あなたはあなたのすべきことに集中なさい」
「私のすべきこと……?」
「ええ――私を、抱きしめて」
より強大な呪詛が、幾度も、押し寄せる波濤のように勢いを増して攻め立ててくる。轟音と猛風と、衝撃。クリスの背後に隠れてるキョウカでさえいなしきれない。ゆえに、先は聞き間違いだろうかと、キョウカにそれを確認する術も、タイミングもなかった。
結果、言われるがままクリスを抱きすくめることになる。膝立ちし、両手を広げて抱え込む体勢で、後ろからクリスのヒップ目掛けて、である。
――……ぎゅっ!
「こ、こうですか?」
「ダメよ。全然足りない。恥じらっちゃダメに決まってるじゃない」
ぴしゃりとした言葉なのに、どこか神経をくすぐるような甘い声音に聞こえるのは、なぜだろうか。まさかこの異貌のシスターが西洋妖怪・淫魔であることはキョウカは知る由はない。魅力(チャーム)に取り憑かれたかのように、無我夢中でキョウカはより強く、柳のような細腰に向かって抱き締めた。
――ぎゅうう……!
「こうですか!?」
柔らかくて、甘い匂いがする。
むせ返る……。
クラクラする……!
鈍痛で軋む体に染み渡るように、心が穏やかに安らかになっていく。教会の子供たちが時折頬張っている綿菓子を彷彿とさせるようだ。地獄の惨劇の最中、ど真ん中に似つかわしくない、ふわふわと体の浮く触感と感覚に、キョウカは身を投げ出していた。知らない。だけど、心落ち着く。興味がない、わけではない。知らない世界を覗いてしまった……!
「まだね」
「まだ!? はぁ……フゥッ……ふーっ、こうっ、ですかぁっ!?」
――ぎゅぎゅうウウウッ……!!
無我夢中とはまさにこのこと。
柔肌に顔を埋め、鼻先を擦り付けん勢いでむしゃぶりつく。荒く吐いた息で肺が痛い。傷が治ったわけではないので当然のことだ。
戦闘の真っ最中に興じている背徳感だけで、キョウカは身も心も果ててしまいそうである。淫魔の魅力に当てられた、という言い訳さえなければ、であるが。
「キョウカさん?」
「はい、は……イ゛ッ!? 痛ッ……す、みません、これ以上は私も体が言うことをきかな」
「少し痛いわ」
「ン……っ!! すみませんっすみません!」
我に帰る顔が朱に染まっていく。血肉で穢れた衣服すら可愛らしいアクセントに見える、その所作は初々しさと清廉さに満ち満ちて。
なんて愛しいのだろう。
クリスはあえて言わなかった。背後に隠したキョウカの「祈り」の力を借りることを。あくまで「触れ」て……もとい抱いて、信じて欲しいと念じた。その気持ちは想像を遥かに超越して通じ、強固なオーラ防御と、反撃のためのエネルギー充填を可能とした、というわけである。
無垢な女性を誑かすこともまた、性食者の醍醐味といえる。
何より、こんなにかわいい反応を返してくる女の子を弄らないで放っておくなど、据え膳にも加減があるだろう!
「死なないでくださいね。どうか、シャルムーンよ、彼女にご加護を……!」
「キョウカさん…貴女を死なせはしないわ、だって……まだアナタのオンナの部分を味見してないんですもの♡」
「んなっ! ななな、なな……! は、破廉恥ですっ、あいた……ぁ、声出すと……うぅ」
「無言ということは、肯定ってことよね? 戦後が楽しみね。ふふふ」
先ほどまで必死に小鬼屍兵に荒がっていたキョウカも、きゅっと下腹部が熱くなる蠱惑の微笑。劣情と欲望こそ力なのだとわからされるカリスマ的なチャームに、抱く力は否応なしに強まる。
「まさかこんな人間がいるとは思いませんでした。あなたは葛藤や苦悶の記憶を持たない、とでもいうのですか?」
「聖職者だもの。だからこそこうしてキョウカさんのことも、穢し尽くした後に殺そうとしたのでしょう? 絶望に満ちた死の断末魔の叫び……」
苦痛は快楽と隣り合わせだ。それを引き出す術を下等なゴブリンに任せた時点で、底が知れている。
「かわりにあなたが聞かせてくれる?」
光芒。
光の雨が指さした先は、ターリアの眉間。
眠りこける魔女に気付の一撃を。溜め込んだ祈りの力を全て注ぎ込み、叩きつける。光の柱に撃ち貫かれたかのような衝撃が、彼女を飲み込んで瞬く間に吹き飛ばした。
一撃を加えた。キョウカは心中でぐっと拳を握る。しかし、この胸の高鳴りの理由はそれだけではないことを彼女が知るのは、まだ先のようであった。
大成功
🔵🔵🔵
四王天・燦
《華組》
ターリアはキョウカへの行いもアタシらも視てねえか
怒りが沸くぜ
昨日の晩御飯は?
出会った場所は?
シホと記憶を交え呪詛耐性で二人の想い出を護り突撃
呪詛を受け、怒り任せに悪辣な攻撃を行った後悔の記憶が掠め苦笑い
斬ってターリアは目を開く?
暴力で討って後悔しない?
否だな
シホ…自己満だけど後悔なく躯の海に送る力を貸して
霊装で右目がシホの蒼に変異
二人ならできる!
アークウィンドで茨を払う
棺に馬乗りて刃を振るう
狙うは女の命たる髪
遺髪を天上界に連れ行くと約束する
代価で要求―目を開きアタシらを見ろ
キョウカにごめんなさいって言ってよ
後はターリア次第
伍式で葬る
キョウカは強いね
シャルムーン様自慢の信徒かもしれねーぜ
シホ・エーデルワイス
≪華組≫
仕方ないよ
それがオブリビオンだから
私は一々怒れば心が保てなくなると思う
抱くは…
私は全てと分かり合い救える程
寛容でも強くもありません
でもキョウカさんには触れさせません!
油揚げ入りのボルシチ
リリアーナさんの居城
燦に【霊装】で憑依
聖霊体への変身は装備ごと故
私達を倒さない限り『聖鞄』に触れる事すら不可
もちろん!
守りは任せて!
光学迷彩と呪詛耐性のオーラ防御で燦を庇って包んで目立たなくなり
敵に近づき易くする
私は猟兵になった時
一度記憶を失いました
けど
助けたい
今はこの意志さえあれば十分!
群雄大陸から帰還後
キョウカさんを医術で診察し
【復世】で身体の傷跡を消し欠損部位があれば復元
試練を乗り越えた者に祝福を
――戦いは終わった。
愛さえ知らない少女たちは、愛する方法を知らなかった吸血鬼の支配から解き放たれた。否、解き放たれた、というのはいささか好意的に解釈してしまっているだろう。放り出された、と表現するのが正しい。
今まで依存していたかけがえのない存在からの、突然の自立。女主人はそれを「私の罪」とボヤいていた。過去の女だ。その自嘲が果たしてどれほどの意味を持つかは論ずるに値しないが、それでも、終戦後の始末として、猟兵がすべきことは山積していた。
絶望と虚無感だけが全てではないのだと、知らしめる必要があった。
くしゃっと己の銀髪を掴んで俯くオラトリオがいる。少女たちに未来を指し示すためにちっぽけなフォークでその少女に自らの心臓を刺すように指示した、苛烈な覚悟を抱いた……追い詰められたような顔の、救済の体現者。
シホである。
愛と、未来を、教示する。
オブリビオンに遺志があるのだとしたら、この被害者たちをあまねく救い、希望を抱かせることが遺志だろう。それを受け継ぐことが責務。
シホは記憶がない。空っぽのがらんどうで、その空の器にヒビが入るくらいに己を追い込み続け、強い使命感で己を縛り続けている。
救わねばならない。
救えなかった。
そんな思いが渦巻いては、焦燥に胸を掻きむしる。笑顔を浮かべる少女たちの光景だけがひととき荒ぶる心を安らぐ清涼剤となっていた。
「少し風に当たりましょうか。……?」
「幸せになれ。アタシの願いだ」
気晴らしに城まで歩いてきてしまった。
咄嗟に物陰に隠れたが、猟兵が少女の一人に諭すように声をかけていた。決定的な場面であり、盗み見る真似になってしまった。不慮の事故である。私には秘密を覗き見する趣味はありません……と誰ともなく言い訳しつつ、まじまじと見つめる。
少女は感謝を述べて、決意の眼差しで猟兵を見上げている。ニッと嬉しそうに見つめ返す、燦。
「……ん? 誰かいるのか」
「(咄嗟に隠れてしまったけれど、秘密を見てしまったようで気まずいですし)」
「んー……まあいいか」
願いと、祈りを。
か弱きもの、不憫なもの、報われなかったものに手を差し伸べる、重要なことだ。しかし、願いを口にし支援をし、少女たち自身が希望になってもらいたいと共有すること。いわばその救いと一つになること。新たな救済の形を見たような気がして、シホは胸の奥が熱くなる感覚を覚えていた。
あの妖狐は無自覚だろう。勝気な振る舞いで、自然にそれができている、ように見える。
些細な憧れだった。
……しかし、妖狐・燦もまたその直情的な感性から、悪辣な敵に怒り任せに攻撃を行う、そんな危うさを秘めている。カッとなってやった、では済まされない。瞬間、己の正当性も品性も傷つけて、勝ち残ったところで勝利の勝ちを失わせ自らもまた悪辣な敵と同じ精神性を持ってしまう。感情の赴くまま行動しては野生のケダモノと同列だ。時には憤怒の炎を制御し、適切な熱量を持って巨悪と相対しなければならない時もある。
すなわち、対話である。
オラトリオ・シホにはその素養は見事に備わっていた。心を通わせ、誰にでも手を差し伸べる。そのために己の全てを投げ出す覚悟を持ち、いつでも実行に移すことができる。強さの形は千差万別。今はまだ交差するだけの二人の女性は、それぞれに! 肩代わりできない芯の強さを持っていた――!
……。
…………。
「……? 奪った記憶は混濁(ねつぞう)している……? わたしの術とは相性が悪いようですね? 困りました。なぜわたしの妨害をするのか、理解できませんが……」
「相性は、関係ないな。もう一息だぜ。シホ…自己満だけど後悔なく躯の海に送る力を貸して」
「もちろん! 守りは任せて!」
戦いは、地獄の古戦場で続いている。
そして、終わりつつあった。
烈風が吹き荒れイバラを引きちぎり、ターリアの棺に馬乗りになった燦が今まさに、刃を振り下ろさんとしているところだ。
先の光景は奪った記憶のはずだ、しかし視点が混ざり合って対象を昏睡させるには至らない。
――昨日の晩御飯は?
――油揚げ入りのボルシチ。
「これは……!? 合体して、内在する精神で会話を行なっているのですね? 珍しい」
「バレたか。でももう関係ないな。この状況下まで視てねえってのも怒りが沸くぜ」
「仕方ないよ。それがオブリビオンだから。一々怒れば心が保てなくなると思う」
一度失った記憶だ。
むざむざと掠め取られるような真似はしない。その対策を練るべく、こうして日夜、術を研ぎ澄ませているのだ。
数瞬『聖鞄』に触れて、シホは決意する。助けたい、という気持ちだけで、動ける、動く!
「勝負アリだ。最期にてめえを討ち取ったやつの顔ぐらい拝んでおかないか? 悔しいだろ。遺髪ぐらいなら天上界ってとこに連れて行ってやってもいいぜ」
「天上界の手がかりを……すでにつかんでいると? 聞き捨てなりません。書架の王よ、やはり存在します。わたしは……!」
「だから目を開きアタシらを見ろ!」
「申し訳ありません、書架の王よ!」
「キョウカにごめんなさいって言ってよ!」
「燦!」
右目が蒼く光り輝き、生命を灰になるまで燃やし尽くす慈悲の炎がターリアに降り注ぐ。言葉を借りるなら、「それがオブリビオンだから」。ましてや幹部ともなれば容易に絆されることもない。使命を全うし、焼き尽くされる。殉教さながらの行いに、燦は観念して言い捨てた。
「いいや。もう、そのまま寝てろ」
棺には亡骸は残らない。
イバラの一本残さず焼却するまで、矢が降り注ぎ、戦いは猟兵の勝利で決着を迎えたのだった。
●
「主の…世界の記録に接続…検索…見つけました。これより転写し復元します……ふぅ。動けますか?」
シホが当てた手を離した患部は、先ほどまでの見るに堪えない惨状からは想像し得ないほどに完治していた。キョウカは感激した様子で頷く。今でも信じられないといった様子で、頭を下げて上げられないようであった。
「本当にありがとうございます。何とお礼を申し上げたら……!」
「いやいや」
たとえ体が癒えたとしても、心が受けた傷までは治せない。これから先も生きていく上で痼りは残り続けるだろう。またいつ連れ去られて、酷い目に遭わされるかもわからない。そんな恐怖に怯えて過ごすことになるかもしれない。そう思うと先行きは不憫に思えてならなかった。
しかし、やっと顔を上げたキョウカはシホと燦に向かって微笑みかけていた。
「彼奴は神……シャルムーンが使わした試練でした。私も一から出直します。もっともっと信仰を深めなければ」
「キョウカは強いね。シャルムーン様自慢の信徒かもしれねーぜ」
「私なんてまだまだです。ここで何度声を上げてしまったことか」
生きながらに食われかけたとは思えないくらいに、恥じらい混じりに笑ってみせる。自分の情けない姿を晒したことの方がよほど気になるらしい。彼女ならきっと大丈夫だろう。二人は頷き合うと、共に手を合わせた。
「試練を乗り越えた者に祝福を」
「達者でな」
「……はい!」
「……ところで、ボルシチってなんでしょうか」
「は?」
「いえ、そばにいたので、なんとなく会話が漏れ聞こえて……その、私、もう丸一日何も食べていなくて……あの……」
「あーボルシチは……油揚げの一番美味しい食べ方」
「それうどんの時にも同じことを言ってたでしょう」
「まぁまぁ、油揚げは何でも美味しいし」
「ボルシチの説明になっていません」
群竜大陸から帰還後――悪夢の終わり。
少女たちはクレリックを連れて料亭へと向かったという。初めて食べる油揚げの感触と味わいに、歓喜の声を上げたことは言うまでもない。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
最終結果:成功
完成日:2021年01月15日
宿敵
『眠りの森の魔女ターリア』
を撃破!
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