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call(作者 KS
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#ダークセイヴァー 


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#ダークセイヴァー


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 名前とは、その者を形作る物である。
 とすれば、名を呼ばれぬ者が抱える苦悩は、どれ程の物だろうか。

●名を呼ばれぬ者
 極夜卿ジル・ド・フラテルニオ。
 彼は美しい者を好む吸血鬼だ。
 美しさの種類は問わない。それが内的要因であろうが、外的要因であろうが、構わないのである。
 金剛石さながらの強固な精神、鋼よりも美しい肉体、ピアノの様な音の声、夜に似た髪。
 どれも好ましく、全て壊して慈しみたい。
 吸血鬼である彼は、それらをいとも容易く叶えて来た。
 圧倒的な力で踏みにじり、洗脳し、依存させ、飽きたら廃棄する。
 大事な芯を壊された者が堕ちるのは、自然な事だった。
 だが、そうでは無い者も居た。
 たしかに居たのだ!
 ああそれが彼にとって、どれ程救いであったことか!!
 壊れない玩具、耳を貫く囀り、この手を見事すり抜ける愛の鳥。
 なるほど。猟兵という物であれば、この願いが叶うのか!

 そう。彼には願いがあった。
 たった一つ、未だ叶えられぬ、けれどいとも容易く他の者は叶えて来た願いだ。
 それは……。

●という事で今回はダークセイヴァーです。
 ケース・バイケース(花・f03188)は看板の前で揺れている。
 看板にはこう書いてあった。
『猟兵をおびき出そうとしている吸血鬼がいます。おびき出せないと領民に酷い事をするので、罠へと向かってください。』
 花はうねっと次の看板を指した。
『オブリビオンは館の奥で待っている為、館の中からのスタートになります。』
 最初からラストスパートみたいな速さで進む冒険もあったものである。
『敵の種類は三種類です。かわいらしい女の子、洗脳された領民、今回倒すべき吸血鬼『極夜卿ジル・ド・フラテルニオ』です。』
 花はうねっうねっと揺れている。
『今回の館は、条件をクリアしないと先に進めない特殊な館です。そして敵も、それほど怖くありません。ただ、少し厄介です。』
 花は、動きを止めた。
『あなたたちは、誰かから、名前を呼ばれますか?』
 花はまた、通り過ぎる猟兵の話し声に合わせて揺れる。
『それでは、どうかお気をつけて』

 看板を読み終わったその瞬間、あなたの心が決まっていようと、いなかろうと、罠の様に待ち構えていたグリモアが光る。
 次にあなたたちが見る物。
 それはぽっかりと扉の開いた、大きな大きな館の姿だった。


KS
 長い名前って、呼びにくくないですか?
 極夜卿って口が絡まる気がしませんか?
 フラテルニオ、噛まずに言えますか?
 そんな気持ちから書いてしまったこのシナリオ、皆さんには『極夜卿ジル・ド・フラテルニオ』を言い難いながらもがんばって言って貰おうと思います。
 ちょっと声に出して10回くらい言ってみてくださいよ。
 言えました?

 こんにちは、KSです。
 このシナリオですが、一章では『極夜卿ジル・ド・フラテルニオ』のフルネームをひたすら連呼します。噛んでもらえるとMSが喜びます。
 二章ではジルさんにあだ名をつけてあげて、それを連呼します。良いあだ名だとMSが嬉しいです。
 そして三章ではなんと、極夜卿ジル・ド・フラテルニオの名前(あだ名も可)を叫びながらでないとダメージが通りません。語尾レベルで名前を呼ばないとダメです。感情を込めた叫びだとMSのテンションが上がります。

 このシナリオはギャグです。
 尚、極夜卿ジル・ド・フラテルニオの宿敵主様からはPL単位でのギャグ許可を頂いております。

 このシナリオはギャグです。
 進行人数は5人前後を想定しています。
 開始は断章をお待ちください。

 このシナリオはギャグです。
 よろしくお願い致します。
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第1章 ボス戦 『慈愛の聖女』

POW ●ちをあげるから、かわりにあいをください
【指先から流す血液】が命中した対象を高速治療するが、自身は疲労する。更に疲労すれば、複数同時の高速治療も可能。
SPD ●こわいの、こっちにこないで
自身が【殺意】を感じると、レベル×1体の【相手が畏怖する存在】が召喚される。相手が畏怖する存在は殺意を与えた対象を追跡し、攻撃する。
WIZ ●たすけて、ぱぱ
無敵の【ぱぱ】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。
👑11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はメルヒェン・クンストです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●一部屋目

扉を潜った先で待っていたのは、白く可愛らしい少女だった。
少女は言う。
「まっていました。あなたたちが、りょうへいさん、ですね?」
可憐な小さな手に握られていた看板を、そっと立てる。
『極夜卿ジル・ド・フラテルニオをスムーズに50回言えないと出られない部屋』
そこには堂々とそう書かれていた。

「ぱぱのなまえ、まちがえたら、やりなおしです。わたしは、じゃまもするので、りょうへいさん、がんばってください。できるって、しんじてます。」
少女はぐっと拳を握り、キラキラとした瞳で君たちを見ている。

ちなみにこの子と極夜卿ジル・ド・フラテルニオの間に血縁関係は一切無いです。
「わたしのてびょうしに、あわせてぱぱのなまえを、いってください。」
だいじょうぶですか?と首をかしげる。
「おてほん、しますね。」
パンパン
「きょきゅやきょゆ、ちる・ど・ふりゃてるにお」
パンパン
「きょきゅやきょぅ、じる・ろ・ふりゃてるにお」
パンパン
「・・・・・・こんな、かんじです!」
きりっ
自分の発音は完璧だと思っている顔で、少女は君たちを見ている。

「では、りょうへいさんの、ばんです。じゅんびができたら、おしえてください、ね?」
沢山練習した手拍子の為に手を合わせながら、少女はきりりと君たちを見ている。

この少女の瞳を裏切って攻撃出来る猟兵など(相当な鬼畜でなければ)、居ないだろう。
がんばれ猟兵。戦え猟兵。
どの技能を使うかはこじつけて、この局面をなんとか乗り切って欲しい。
六間・愛
きゃああああんかわいー!!しゅき!!(モツ出ししないハグ)
うんうん五十回ね言えばいいのねだいじょぶ
かっこいいお名前だもん
おねえちゃんにまっかせて~!

うふふ手拍子じょうず~
きょくにゃきょ、ああ~今のなし~
きょきゅにゃきょうじゅるど、ふりゃてるにょ
きょきゅやきょうちるろ、ふにゃてりゅにょ
きょくにゃきょうじるろ、らふてー、あれ?
きょくやきょう、ちるどで、ふらいあげてるにお
きょくやきょっかきょかきょく???
あーーーんむつかしいのねえ
あっそうだ
(歌唱、【揺々籃々】で歌うようにリズムをつけて)
きょくやきょう、じる、ど、ふらてるにお~
やたっ!
あららぁ寝ちゃった?
はっっっ寝顔かわいーーー!!(怪力ぎゅむ!!)


御心・雀
わかるよ。おなまえまちがえられるの、悲しいのね。じゃあ、じゃくもがんばってみるね。

きょくきゃきょう、きょくやきょう、じろろ、きょくやきょう、じる、ろ、ふらてるり…ふらてるりあ。ふらてるにあ。ふらてるにあ?
きょくやきょう、じるろ、ふらてるにあ、きょくやきょうじる、ろ、ふられ…きょくやきょうじる、ろら…きょくやきょう、じる、ど…ううん。
きょき、きょくやきょう、じるろ、ふらてるり…あん、もう。
きょくやきょう。じる。ろ。ふらてるにあ。
…いまので合ってる?

ええと、あとなんかい言えばいいのだったかしら。
思ったよりずうっとむずかしいのね。ぼくお歌ならちゃんと…あっ、お唄にしたら、覚えやすいのじゃないかしら。


●測れない事ってあるからさ。

「きょきゅあ?きょきゅや……」
「きょきゅにゃきょう?」
「ぱぱのなまえは、きょくにゃきょう、じるろ……」
三人は集まって各々が名前を練習している。
プレイングにある様な言い間違いを繰り返しながら、しかし顔を合わせながら何度も繰り返し極夜卿ジル・ド・フラテルニオをなんとか言おうと試行錯誤しているのだ。

「……う~ん、カウンター、回らないねぇ」
愛は看板の横に立ってるカウンターを見て困った顔をする。
きちんと言えていると、このカウンターが回って道が繋がる様になるらしい。
「ぱぱのなまえ、うまくいえてると、おもうのになぁ」
敵の少女もむぅ、と唇を尖らせている。
「思ってたよりも、ずうっとむずかしいのね。」
雀もまた、柔い表情のまま首を傾げた。
「長くて、舌が絡まって、大変なお名前だねぇ、パパ」
愛が、うーんと困って眉を八の字にしてしまう。
「でも、ぱぱのなまえ、かっこいいです。」
「そうだね。すごく強そうで、きっと大好きななまえなんだと、おもう。」
こくこくと頷く少女の頭を撫でて、雀はにこりと笑う。
「だから、じゃくもがんばるね。きっと、あなたのぱぱも、喜んでくれるように」
ぐっと握られた小さな拳に、愛の大きな手が重なりぶんぶんと大きく振られた。
「わたしも!わたしもがんばるよー!まだまだこれから、たっくさん呼んであげるんだから!」
先程までの八の字眉はどこへやら。きゅっときりっと上げて、気合を入れ直す。
「わたしも、がんばります。たすけて、ぱぱ。みんなを、おうえんしてください!」
えいっとここで少女が自身のユーベルコードを発動させる。
キラキラエフェクト共に現れたのは、無敵のぱぱ、こと極夜卿ジル・ド・フラテルニオその人だ。
とは言えこれは、少女が見る極めて精巧な創造物なのだが。

「あ!この人が、きょくやきょう、ちるどで、ふらいあげてるにおさん!」
愛の言葉に、困った顔で笑う極夜卿。
回らないカウンター。
「あれぇ~、上手く言えたと思ったんだけどなぁー」
しょんぼりする愛の腰をぺすぺすと叩いて、雀が提案する。
「唄にするのは、どうだろう?ぼく、歌ならとくいだよ?」
セイレーン。それは海賊を歌で誘惑する魔物の名。
その名を持つ種族である彼女であれば、確かに数節にも満たない文字の羅列など、どうという事は無いだろう。
「え!雀ちゃんもお歌じょうずなの?わたしもね、よくね、じょうずねって研究員さんたちに褒めてもらえるのよ!」
わぁい!と腕を大きく上げて、喜びを表現する愛に、雀はやわく微笑んだ。
「それじゃあ、いっしょに。」

「じゃあ、いきますよ。せーのっ」
パンパン
きょ~くやーきょう~ じる~ど~~ ふら~てるにーお~♪
パンパン
きょ~くやーきょう~ じる~ど~~ ふら~てるにーお~♪

一定のリズムと音程で、荘厳さすら感じさせる輪唱が展開される。
これは彼女らのユーベルコード。
家路を揺々籃々辿る物。
守り唄はやわくやわく、厳かに続く。

やがて手拍子が止み、終わったのかと少女を見れば、暖かさに負けたのかうつらうつらとまどろむ姿が目に入る。
無防備なその顔を見ていると、愛は胃よりも上、人が心と呼ぶ臓が、熱くなっていくのを感じる。
「んぁ~~~っ、寝顔かぁ~~わいいねぇーーーーっ」
ぎゅむっ!!圧し潰さんばかりの怪力を、止めたのは少女がぱぱと呼ぶ極夜卿だった。
「随分と強い抱擁だね、美しい君。」
ギチギチと骨が鳴く。それでも砕けないのは、果たして愛が本気ではなかったからか、この細い吸血鬼が頑丈だったからなのか。
「カウンターを御覧、可愛らしい小鳥たち。」
何故かばっきばきに壊れているカウンターを顎で指し、極夜卿は言う。
「どうやら、君達の可愛らしさにカウントが正確に出来なかったらしい。けれども道は繋がったから、もうお行き。」
ギチギチと抱きしめられながら、夜は雀の顔を見る。
「青の小鳥。君の身体は、とても美しい。清らな心も、好ましい。君が最後の部屋に来るのを、楽しみに待っているよ。」
サバ折りよろしく鳴る骨の音を、出している本人とは思えないほど涼やかに極夜卿ジル・ド・フラテルニオは微笑んだ。
「さぁ、大きな小鳥。ハグはもう充分だろう?」
腕を優しく叩く姿は、父の様にも、母の様にも、神の様にも見えただろう。

「扉は既に開かれた。閉じる前に、進むと良い。」
言い聞かせる様な言葉に、愛はゆるゆると腕を離した。
「わかった!じゃあ、またねちるどふらいさん!」
「ジル・ド・フラテルニオだよ大きな小鳥?」
ぶんぶんと手を振る愛と、小さくばいばいする雀を見送り、カウンターをぶち壊した本人であるフラテルニオは思った。

『次は頼むから、もう少ししっかり名前を呼べる者が来てくれたら、良いなぁ』と。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

トリテレイア・ゼロナイン
…幾度もこの世界を訪れましたが
中々に奇特なケースのようですね

(いえ、名の拘りは理解出来るのです
トリテレイアシリーズ・シリアルナンバーゼロナイン
騎士と振る舞うという自戒の為、守護の花言葉の機種名を名として私は選んだのですから)

(膝を付き目線を近づけ)
お任せを
私に噛む『舌』等ありませんので
(スピーカー音声)
その前に、書面にサイン願えますか?
(「私」は「署名者」に治療を行う事)

始めましょう

極夜卿ジル・ド・フラテルニオ

パンパン

極夜卿ジル・ド(略)

お疲れ様でした

手拍子で痛くはありませんか?
掌を診てあげましょう
(医術+優しさ)

(手を汚す覚悟はありますが、そんな形でこの娘を骸の海に還したくは…ありませんね)


●無力

クッションの上でむにゅむにゅと眠る少女とその横に立つ看板を認知。
解読。
そしてトリテレイアは、僅か数瞬ではあれど確実にフリーズした。

『……幾度もこの世界を訪れましたが……』
そう。ダークセイヴァーには昔から困難が多く、それ故にオブリビオンによる暴力も数が知れない。
この世界の困難に立ち向かった回数も、90に近い。
けれど、この様な事態は
『今回は、中々に奇特なケースの様ですね。』
普段は独り言など必要としない機械の身体であっても、回路の冷却も兼ねて音声が零れ出るのも仕方が無い。
こんなシリアスな世界でギャグをしようと思うだなんて、稀有な者も居たものである。

しかし、名に拘りを持つ者が居る事は理解出来る。
本機もまた、騎士として振る舞う事を己に課した末、名乗る事を決めたコードを背負っているのだから。

既に来ていた人間のユーベルコードがようやく切れたのか、少女はもそもそと起き上がった。
「……」
目の前の白い甲冑を、ぼんやりと視認。
寝起きの頭で現状を理解しようと、ぐしぐしと頭を撫ぜる。

「…………あっ、りょうへいさん、ですね!」
少しして、ようやく解った少女は、ぴん!と耳を立てながらぽんと手を打った。
「ぱぱのかっちゅうが、うごきだしたかと、おもいました。かっこいいですね。」
自分が身に付ける事など無いフルアーマーを見事に着こなしていると受け取ったのか、ウォーマシンを知らぬ少女はトリテレイアの周囲をちょろちょろと回った。
「すこし、さわってもいい、ですか?」
普段危ないからと触らせて貰えない鋼鉄に、幼い好奇心は勝てなかった。
ぴんと立つ尻尾が、それを物語っている。

本当はすぐにでも看板に書かれている問題に応え、先へ急ぐべきだろう。
回路もそう答えを出している。

しかし

きらきらと大きく開かれた目を裏切って尚、それは果たされるべき物だろうか。

結論。ここでの否定は騎士の矜持と反する。
故に

『分かりました。私はその提案を、受け入れましょう。』

騎士が傅く姿の様に、トリテレイアは膝を付く。
どうぞ、と手を差し出せば小さな手が白いその手をぎうと握った。
「……わぁ」
近付いた目線のすぐ先で、きらきらの瞳が大きく開いた。
「すごい、とても、かたいのですね。おしろのかべと、おなじぐらい?いいえ、いいえ、もっとつよそうです。」
きらきらは次に視線を移す。
腕をぺたぺたと触り、胸部装甲に触れ、それから顔へと移動する。
「まっしろで、つやつやで、きずなんてとてもつけられなさそうです。」
手が届かない物に触れ、喜ぶ姿はただの幼子だ。
過去に手が届くのであれば、この娘もまた守るべき者だった、のかもしれない。
「でも、とても冷たいのですね。」
少女は小さな身体で、硬い鎧の頭部を覆う。
ぎうと抱きしめるやわい肉は、いとも容易く鋼に沿って形を変える。
動けば殺してしまうかもしれない。
緊張で締まる回路に、少女が言う。
「ちょっとだけ、あたたかいですか?」
よし、よし、と頭部後方にやわらかな衝撃。
おそらく、小さな手が、危害の意図無く叩いているのだろう。
あやす様な仕草に、彼女よりも余程強く完璧な機械であるトリテレイアは、どんな感情を寄せればよかったのだろうか。

それは数十秒だろうか、数分だろうか。
されるがままになっていたトリテレイアは、身動きは取れないまま音声を流した。
『……お名前を、呼ばなくともよいのでしょうか。』
少女はそれを聞いてはっとする。
「そうでした!りょうへいさんに、ぱぱのなまえを、いってもらわないとですっ」
ぱっと離れた姿に漸く安堵し、トリテレイアは動く。
『それでは、始める前にこちらの書面にサイン願えますか?』
差し出された書類には、署名者に治療を行う制約が書かれている。
「さいん?わぁ、さいんなんて、はじめて!」
何が書いているかも分からないまま、少女は指定された場所にミミズがのたくった様な線を描く。
きっと、名前なのだろう。
機械の彼にさえ、その文字の判別は出来ないが。

『承諾いたしました。それでは、始めましょう。』

パンパン
『極夜卿ジル・ド・フラテルニオ』
パンパン
『極夜卿ジル・ド・フラテルニオ』
パンパン
『極夜卿ジル・ド・フラテルニオ』

~~以下ループ50回~~

時折変わるテンポや、似た様な言葉で惑わしてくるといった妨害も、機械であるトリテレイアにはなんのその。
どこ吹く風と言った様子で、見事に50回それはスムーズに言い切った。
カウンターもきっちりと回り切っている。

「すごいですりょうへいさん!かんぺきですね!」
きゃっきゃっとはしゃぐ少女の手は、赤くなっている。
それは、痛ましいとも映るだろう。
『……手拍子で、痛くはありませんか?』
囁く様な指摘に少女は自らの手を見つめる。そういえば、痛いかもしれない。
過去の幻影など、所詮は遺物。
「だいじょうぶ、ですよ。わたしは、せいじょ、なので」
その顔は、笑っているだろう。
けれど落ちた尻尾と耳とは語る。
過去の聖女に弱音は赦されなかった。
過去の聖女は否定を持たなかった。
過去の少女は理不尽な暴力でさえ、きっとこうして笑ったのだろう。

『お手をこちらに』
白い騎士の手が、小さくやわらかな手をすくう。
『私が、診てさしあげましょう。』
そう言って、トリテレイアは医術による治療を開始する。
この世界よりもずっと進んだ癒しの技術は、彼女の手をあっと言う間に治すだろう。

彼女は過去の残影だ。
放っておけば本人の意志ではなくとも害となる、哀れな被害者の過去だ。
それを殺す覚悟は、無論有る。
騎士として、無力を守る意思は揺らがない。
けれど、殺すという方法で、この少女を骸の海へと還したくはなかった。

『さぁ、もう痛くはありませんか?』
手をぐーぱーする少女に訊ねれば、元気に「はい!」と返事があった。
「きしさまは、すごいのね。なんでも、できてしまうのですね。」
『はて、私は騎士と名乗っていなかったと、記憶しますが。』
くすくす、少女は宝物を抱えた様に笑う。
「きしさまですよ。だって、みあげるほどにおおきくて、わたしにこんなにやさしくて、よろいだって、まっしろなんですから。」

トリテレイアが何かを言うその前に、カウンターがカチカチと音を立てながら数字を0へと戻していく。
それを見た少女が、慌てて騎士の背を押した。
「たいへん、もういかないと。みちが、とじてしまい、ます」
はやく、はやく、と扉へと誘導する力を拒否する訳にもいかず、トリテレイアはその微量な力で先へと進まされてしまう。

とん、と押された先で、扉は閉まる。
続くのは、長い一本の廊下だけ。そしてその先にまた、扉が待ち構えていた。

『お別れも、言えませんでしたね。』
僅か見えたまたねと手を振る少女の影に、この手を振る前に扉は閉じてしまった。
ここで見た少女と、二度会う事は無いだろう。
過去に行く術が無い以上、彼女を救う術は誰も持ち得無い。

騎士は憂い、願う。
あの少女の逝く末が、せめて苦しくは無い様に、と。
大成功 🔵🔵🔵