歪みし願いと冒涜の祈り
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「何故……このような事をなされたのですか。始祖ウィルオーグよ」
「全ては遠大な計画の内なのだ。この世を『過去』で満たす為のな」
アックス&ウィザーズの辺境に位置する、とある「神」の崇拝の地と化した地方都市。
住民達が奏でる頽廃で冒涜的な祈りの中で、1人の女性と1人の老人が対峙していた。
ほんの一週間ほど前まで、ここは何の変哲もないごく普通の、しかし平和な街だった。
だが、この老人が現れてから全ては変わってしまった。素朴で善良だった人々は今や、虚ろな瞳で「神」への祈りを綴るばかり。心を操られ信仰に殉じる傀儡と化していた。
「救いを求める人々の祈り、願い、想い。それをこんな形で利用するなんて……」
「然り。人の想いや信仰の力は強い。だからこそ利用価値がある。違うかね?」
聖印の刻まれた盾をかざし、冒涜を糾弾する女性に、老人は飄々とした態度で応える。
彼――異端神官ウィルオーグにとっては、この地に住まう人々など贄に過ぎぬ。信仰の力を生み出し、己が望む『偽神』を作り上げるための。
「純朴で疑うことを知らぬ人間を洗脳するのは容易かった。今回は『素体』の方も良かったようだな。これほど早く完成にこぎ着けられるとは嬉しい想定外だ」
「貴方は……そこまで堕ちてしまわれたのか! エギュレの大神官であられた貴方が!」
女性の糾弾の言葉には、深い悲嘆の色があった。その叡智にて多くの人々を救い導き、篤信と慈悲の心で多くの人々に慕われたという、知識の神の初代大神官――その成れの果てが、これだというのか。冥府からの蘇りはこうまで人の魂を歪めてしまうものなのか。
「……貴方は、ここで倒す。倒さねばならない。知識神エギュレの聖騎士(パラディン)として!」
「さて、できるかな? 今回の『偽神』は強大だ――人の祈りを喰らい、望み通りに育ってくれた」
『―――はい。わたしは願いを叶えるもの。あなたが願うのなら、願いどおりの"神"となり、この世界に災いをもたらしましょう』
ウィルオーグの言葉に応え、天空より舞い降りる眩い光。流れ星の煌めきに似たそれは、一頭の竜の姿をしていた。周囲にいた傀儡の信徒達から、歓喜と狂乱の声が上がる。
其は異端の神官に作られし『偽神』。破滅の願いを叶える凶星が、絶望を告げる――。
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「事件発生です。リムは猟兵に出撃を要請します」
グリモアベースに招かれた猟兵達の前で、グリモア猟兵のリミティア・スカイクラッド(勿忘草の魔女・f08099)は淡々とした口調で語りだした。
「アックス&ウィザーズを侵略する猟書家の1人『異端神官ウィルオーグ』が、オブリビオンを『偽神化』させる計画を進めています」
幾多の世界にまたがって侵略を行う謎の勢力『猟書家』。中でもアックス&ウィザードの侵略に関わる幹部猟書家達は、大天使ブラキエルの目論む「天上界への到達」を実現すべく、様々な行動を取っている。今回の異端神官ウィルオーグの計画も、その1つだ。
「ウィルオーグはとある街の全住人を洗脳し、ある一体のオブリビオンを熱心に信仰させています。彼はその信仰心を力に変えて『偽神』と呼ぶ強大なオブリビオンを完成させ、いずれ来る天上界攻略の中心戦力に据えようと企んでいるようです」
人々の心を歪め、救いを求める祈りを、破滅をもたらすオブリビオンの力に変える――実に悪辣極まる非情な計画である。もしこの企みが成功してしまえば、ただでさえ厄介な猟書家勢力に、アックス&ウィザーズを脅かす大きな脅威がひとつ加わることになる。
「しかも今回ウィルオーグが偽神化の素体に選んだのは流星竜『アストラム』。流れ星を操るドラゴンで、かつては人々の願いを叶える吉兆の存在とされていましたが、死した後にその性質は反転し、オブリビオンの願いを叶える厄災の予兆と化しています」
元々『願いを叶える』という性質を持つアストラムと、人々の信仰心を利用するウィルオーグの計画は非常に相性が良く、対象の偽神化は凄まじいスピードで進んでいる。
「――ですが。リムがこの事件を予知するよりも早く、敵の陰謀に気付いた者がいます」
その人物の名はエクセリア。今は崇める者もほぼいなくなった古き神、「知識の神エギュレ」を今でも信仰するパラディンの女性で、名誉も称賛もなく、清貧のままに世界をさすらい、人知れず人々を守り続けてきた遍歴の聖騎士である。
「彼女はエギュレ神より天啓を授かり、今回の事件を知りました。なぜなら偽神化計画の首謀者であるウィルオーグとは、かつてエギュレ信仰を興した始祖、その人だからです」
エギュレ神を信仰する全ての者にとっての偉大な祖が、汚濁と共に蘇った事を伝えられた彼女は、単身で偽神が信仰される街に向かった。その目的は言うまでもなく計画の阻止とウィルオーグの討伐――始祖の名がこれ以上穢される前に、堕落と罪を裁くことだ。
「エクセリアさんが現地に向かったことで、リムも遅ればせながら状況を予知することができました。皆様も彼女の後に続いて、偽神とウィルオーグの討伐に協力してください」
いかにエクセリアが使命に燃えていたとしても、強大なオブリビオン2体に1人で立ち向かうのは不可能だ。しかしエギュレ神より加護を授かった彼女には、偽神化計画を阻止するための特別な力が宿っている。
「彼女の使用する【無敵城塞】には、偽神と化したオブリビオンの攻撃を引きつける効果があります。発動中は行動できませんが、偽神の攻撃でダメージを受けることもありません。うまく連携すれば彼女の影で攻撃をやり過ごし、戦いを有利に進められるでしょう」
偽神と化したアストラムは、捧げられた祈りと集中した時間に応じて、オブリビオンの『願いどおり』の強大な存在となっている。正攻法で挑めば猟兵でも苦戦する強敵だが、エクセリアの無敵の盾があれば突破口も開けるだろう。
「ウィルオーグはアストラムが倒されるまでは直接戦わず、群衆に紛れて偽神化の完成に専念しています。この段階で彼に手を出すのは得策ではないでしょう。洗脳された人々を戦いに巻き込まないほうが優先です」
それだけ自分の計画に自信があるのだろう。だが偽神化したアストラムを討たれれば、彼も見ているだけではいられない。計画の障害となる猟兵とエギュレのパラディンの力を認め、全力を以て排除にあたるはずだ。
「彼は戦士ではありませんが、知識の神の元大神官としての豊富な知識は今でも健在です。持てる知恵の全てを世界の滅びのために用いる彼を野放しにはしておけません」
ウィルオーグに対してエクセリアの【無敵城塞】は特別な効果こそないが、「あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になる」ユーベルコード本来の効果はそのままだ。純粋な戦闘力では猟兵よりも劣るが、その護りが有用であることは間違いない。
「アストラムもウィルオーグも、生前は善性の存在……それがオブリビオンとなって世界に災いをもたらすのは、誰も望んではいなかったでしょう」
歪んだ偽神と異端の神官に終焉を。そう言って説明を終えたリミティアは、手のひらにグリモアを浮かべ、偽神が崇拝されるアックス&ウィザーズのとある都市への道を開く。
猟書家の計画を阻止する為に、冒涜された祈りを正す為に、この戦いは負けられない。
「転送準備完了です。リムは武運を祈っています」
戌
こんにちは、戌です。
今回の依頼はアックス&ウィザーズにて、危険な『偽神』を誕生させようとする幹部猟書家、異端神官ウィルオーグの計画を阻止するのが目的です。
一章は偽神化したオブリビオン『アストラム』との戦闘です。
人々の願いや信仰心を力に変えることで超強化されていますが、後述するエギュレのパラディンが【無敵城塞】を使用すると必ずその方向に攻撃を仕掛けます。これを利用すれば戦いやすくなるでしょう。
また戦場となるのは町の中心部で、周りには『偽神』への信仰を捧げる洗脳された民衆がいます。信仰心の供給源である彼らを敵も積極的に戦闘に巻き込もうとはしませんが、大規模な攻撃等を行う際にはお気をつけください。
二章は事件の首謀者である『異端神官ウィルオーグ』との決戦です。
豊富な知識を武器に戦う、幹部猟書家の名に恥じぬ強敵です。敬虔で慈悲深いかつての姿から変わり果ててしまった今の彼に、引導を渡せる者は猟兵達だけでしょう。
本シナリオは二章構成となり、全章共通で下記のプレイングボーナスに基づいた行動を取ると判定が有利になります。
プレイングボーナス……パラディンと共闘する。
知識の神エギュレの神託を授かったパラディンのエクセリアは、猟兵よりも一足早く現場にいます。騎士の名に恥じぬ高潔な精神を持ち、【無敵城塞】のユーベルコードも使えますが、それ以外の戦闘力では猟兵やオブリビオンには敵いません。
彼女の使命でもある堕ちた大神官討伐には、猟兵達の力が必須となるでしょう。そのために協力を求められれば彼女は断りません。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 ボス戦
『アストラム』
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POW : ヴォーテクス・サテライト
【オブリビオンの願いを叶えたい】という願いを【自身を利用するオブリビオン】に呼びかけ、「賛同人数÷願いの荒唐無稽さ」の度合いに応じた範囲で実現する。
SPD : 星辰集中
【睡眠】時間に応じて、攻撃や推理を含めた「次の行動」の成功率を上昇させる。
WIZ : ダスク・ティアーズ
【流れ星の群れ】を降らせる事で、戦場全体が【夢か悪夢】と同じ環境に変化する。[夢か悪夢]に適応した者の行動成功率が上昇する。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「ピウ・アーヌストイト」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
フレミア・レイブラッド
相手が神であろうと関係無いわ。
わたし達はそうやって幾多の邪神をも葬ってきたもの
よろしく、聖騎士さん。力を借りるわ
【念動力】によるテレパスでエクセリアとの素早い意思疎通を可能にし、合図や敵の攻撃動作に応じて【無敵城塞】を使用して貰える様に協力を依頼。
【念動力】の防御膜で自身とエクセリアの防御力を更に増強し【神滅の焔剣】を発動。
『神』を焔断する神への特攻を持つレーヴァテインの焔で敵本体や流れ星を焼き払い、全魔力を注ぎ込んだレーヴァテインの焔断でアストラムを焼き尽くすわ!
アナタも生前は人々の願いを叶える存在だったのに…。歪められ、『偽神』と成り果てし竜よ。
我が神滅の焔剣により、骸の海へ還ると良い…!
「相手が神であろうと関係無いわ。わたし達はそうやって幾多の邪神をも葬ってきたもの」
偽りの神が降り立った都市で、ひとり平身低頭することなく天を睨みつける娘がいる。
彼女、フレミア・レイブラッド(幼艶で気まぐれな吸血姫・f14467)は悪しき猟書家の計画から人々を救うため、偽神討伐に駆けつけた猟兵の1人であった。
「貴女は……?」
『よろしく、聖騎士さん。力を借りるわ』
不意の助太刀に驚く聖騎士エクセリアに、フレミアは肉声ではなくテレパシーで語る。
この会話法なら敵に内容を聞かれることなく、短時間で素早い意思疎通が可能となる。思念による対話にて自身が味方であることを伝え、偽神討伐のために協力を依頼する。
『……成程、承知した。こちらこそ願ってもない事だ』
始めは戸惑っていたエクセリアもすぐに状況を理解すると、フレミアの依頼に応じて剣と盾を構え直す。その時、まどろむように閉じられていた『偽神』の瞳が開かれ、地上に立ちはだかる者達の顔を見た。
『――あれを倒すことがあなたの願いなのですね? なら、その通りに致しましょう』
零落によりオブリビオンの願いを叶える者と成り果てた、流星を司る竜アストラム――それを素体に人々の願望と祈りを注いで作り上げられた偽神は、【星辰集中】により集めたエネルギーを光の球体に変え、猟兵達の元に投げ落とさんとする。
『滅びなさい――』
異端神官の歪んだ願いを体現した、美しくも無慈悲な災いが放たれる、まさにその時。
アストラムの攻撃動作を察知したフレミアは、エクセリアにテレパスで合図を送った。
『今よ!』
『承知!』
すかさず前に出て【無敵城塞】を発動するエクセリア。知識の神エギュレの加護を受けた盾は燦然と輝き、その光に目の眩んだアストラムは反射的に攻撃目標を彼女に変える。
天より墜ちる流星の一撃は、しかし彼女の盾に弾かれ、傷を負った者は1人も居ない。聖騎士のユーベルコードもさる事ながら、それを増強するように張られたフレミアの念動力の防御膜が、双方の身を守ったのだ。
「我が血に眠る力……今こそ目覚めよ! 我が眼前の全てに滅びの焔を与えよう!」
エクセリアの無敵城塞が偽神の攻撃を凌いだ直後、フレミアは【神滅の焔剣】を発動。
己の血に秘められた真祖の魔力を身に纏い、背中に生えた4対の翼で空に舞い上がる。その手から煌々と迸るのは、神魔を滅ぼし焔断する焔。
『その力は……わたしを討つもの……!』
驚くアストラムに向けて彼女は焔を極限まで圧縮した、神焔剣レーヴァテインを放つ。
『神』への特攻を持つその焔は『偽神』と化したオブリビオンにとって、まさに最悪の天敵だった。迎え撃つように放たれた流星を瞬時に焼き払い、神焔は星竜の身を焦がす。
「アナタも生前は人々の願いを叶える存在だったのに……」
神殺しの焔に苦しむアストラム――邪悪に変貌した竜に憐れみの眼差しを向けながら、フレミアは持てる全ての魔力をレーヴァテインに注ぎ込む。悪しき異端神官の陰謀諸共、かの者の魂を解放するために。
「歪められ、『偽神』と成り果てし竜よ。我が神滅の焔剣により、骸の海へ還ると良い……!」
赫灼たる紅の軌跡を描いて放たれた焔の一閃は、過たずに偽神アストラムを断ち斬り。
神殺しの焔に包まれた竜は哀しげな悲鳴を上げながら、流星のように地面に墜落した。
大成功
🔵🔵🔵
カビパン・カピパン
「何故…このような事を。女教皇カビパンよ」
「この世を『ギャグ』で満たす為のな」
「シリアスを求める人々の祈り。それをこんな形で利用するなんて」
「然り。だからこそネタにする価値がある」
「客を笑わせるのは容易かった。『オチ』も自信がある」
「OPをパクるほど堕ちてしまわれたのか!ここで倒す!」
「今回の『プレイング』は自信作だ」
『―こんな台詞言えるか!!』
「カーット!チェック入ります」
そうこれはお芝居。パラディンと漫才をしていた。
「困りますよアストラムさん。最後は『私のオナラは流れ★の群れ全て飛ばしてやんよーッ!』じゃない」
ここはカビパンワールド。
アストラムは頭がおかしくなり人々からの信仰心を落とした。
「エクセリアさん、漫才をやりましょう」
「……貴殿は何者で、一体何を言っているんだ?」
猟兵と聖騎士の連携が、降臨せし『偽神』を地に墜とした。そこでエクセリアに声をかけたのはカビパン・カピパン(女教皇 ただし貧乏性・f24111)。彼女も偽神と猟書家を倒すためにやって来た猟兵のはずなのだが、言っていることが何やらおかしい。
「まあまあ、これも作戦なんです。あの竜を倒すための」
「そ、そうなのか? いやしかしそれと漫才に何の関係が……」
「まあまあまあ」
堅物で真面目な聖騎士を何やかやと言いくるめ、用意した台本を押し付けるカビパン。
かくして偽神の信仰に歪められた町で、まったく空気を読まない謎の漫才が始まった。
「何故……このような事を。女教皇カビパンよ」
「この世を『ギャグ』で満たす為のな」
住民達が奏でる頽廃で冒涜的な祈りの中で、1人の女性と1人の悪霊が対峙している。
ほんの数分ほど前まで、ここは何の変哲もない普通の、しかしシリアスな戦場だった。
だが、この【ハリセンで叩かずにはいられない女】が現れてから全ては変わってしまった。バシバシとボケの嵐が降り注ぎ、戦場は彼女のペースに合わせたギャグ時空と化す。
「シリアスを求める人々の祈り。それをこんな形で利用するなんて」
「然り。だからこそネタにする価値がある」
聖印の刻まれた盾をかざし、冒涜を糾弾する女性に、悪霊は飄々とした態度で応える。
彼女――カビパン・カビパンにとっては、この地に住まう人々など贄に過ぎぬ。笑いの力を生み出し、己が望む『ギャグ』を作り上げるための。
「客を笑わせるのは容易かった。『オチ』も自信がある」
「先程の問答をパクるほど堕ちてしまわれたのか!」
女性の糾弾の言葉には、深い困惑の色があった。そのボケで多くの人々を救い(?)、謎のカリスマで多くの人々に慕われた(?)という、ハリセン女教皇――その成れの果てが、これだというのか。悪霊化はこうまで人のギャグセンスを歪めてしまうものなのか。
「貴女はここで倒す!」
「さて、できるかな? 今回の『プレイング』は自信作だ」
『――こんな台詞言えません!!』
都市のド真ん中で繰り広げられる茶番劇に、とうとうアストラムがツッコミを入れた。
いつの間にかかの竜の手には2人が持つのと同じ台本がある。お芝居の流れが止まり、カビパンは眉をひそめながら「カーット! チェック入ります」と叫んだ。
「困りますよアストラムさん。最後は『私のオナラは流れ★の群れ全て飛ばしてやんよーッ!』じゃない」
『だからそんな事言えません! たとえそれが願いだとしても無理です!』
いくら願いを叶える流れ星の竜でも、叶えたくない願いだってある。べつにカビパンもエクセリアもオブリビオンではないし、ふざけたお芝居に付き合ってやる義理などない。
「駄々をこねちゃだめじゃない。下積み時代の芸人は何だってやるつもりでいかないと」
しかしここはもうギャグが支配するカビパンワールド。シリアスでまともな意見は淘汰され、ギャグに適応できない者はだいたい酷い目にあう、不条理で理不尽な世界である。
さもそれが当然のように語るカビパンと会話しているうちに、アストラムはだんだん頭がおかしくなってきた。崇拝されるべき『偽神』の困惑は、信徒の祈りに揺らぎを生む。
『お……おかしいのはわたしなんですか? ちがいますよね……?』
神らしさの欠片もなく狼狽するアストラムは、人々からの信仰心をがくんと落とした。
それは取りも直さずウィルオーグの計画の遅延――完全なる『偽神』の完成が遠のいた事も意味していた。過程は訳が分からなかったが、結果オーライである。
「……使命のためとはいえ、もう二度とやりたくないな……」
カビパンのボケに付き合わされた聖騎士は、誰にも聞かれないようにぼやいていたが。
大成功
🔵🔵🔵
キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎
「星に願いを」…か
シルコン・シジョンを装備
遠距離から弾丸を撃ち込んで攻撃
鎧無視攻撃を駆使してダメージを与えれば私に集中せざるをえまい
なるべく人的被害の出ない場所を位置取り、エギュレの無敵城塞を壁にしつつひたすら弾丸を撃ち込む
星の輝きとは、尊き希望の輝きだ
お前達の祈りで曇らせて良い物じゃない
敵がUCを発動したらカウンターでUCを発動
撃ち込んだ弾丸を百合の紋章に変えて攻撃し敵を弱体化させる
動きを封じ込めたらさらに追撃してダメージを与えよう
死して偽神に仕立てられた、その無念は察するに余りある
だが、人々を守るためならその輝きも止めて見せよう
…それが、かつての希望の輝きだったとしてもな
「『星に願いを』……か」
かつては天に祈る人々の願いを叶え、今は偽りの神と化した流星の竜に、銃口を向けるキリカ・リクサール(人間の戦場傭兵・f03333)。その眼差しはどこか哀しげで、しかし情に揺り動かされない強い意思が宿っている。
「かつてお前に捧げられた願いは、もっと美しいものだったのだろうな」
神聖式自動小銃"シルコン・シジョン"のトリガーが引かれ、聖句の弾丸が唸りを上げて敵を穿つ。すでに魔に墜ちた『アストラム』は悲鳴を上げ、冷酷な視線でキリカを見た。
『わたしは神……オブリビオンの願いを叶える、災いと滅びの神……』
多くの人々に願われるままに偽神と化したアストラムは、オブリビオンの宿敵たる猟兵に流星の輝きを放つ。対するキリカはなるべく人的被害の出ない場所に位置取りながら、遠距離から防御の隙間を狙って弾丸を撃ち込み続ける。
「守りはお任せを!」
【無敵城塞】を発動したエギュレの聖騎士が壁となり、偽神の攻撃を受け止める。偽神と異端者を討つために神より与えられた神託の盾は、今この戦場において最も強固な盾。それがあってこそ、キリカは攻撃に専念することができた。
『まだ祈りが足りません……どうかわたしに願いを……』
今のままでは聖騎士の守りを突破できないと判断したか、アストラムは【ヴォーテクス・サテライト】を発動し、自身を利用する者に願いを呼びかける。異端神官に洗脳された民がそれに同意するように祈りを捧げ、流星の竜はより完全な『偽神』に近付いていく。
「星の輝きとは、尊き希望の輝きだ。お前達の祈りで曇らせて良い物じゃない」
だが――それを遮るように、キリカが【fleur de lys】を発動。これまでに撃ち込んだシルコン・シジョンの銃弾が、アストラムの体内で神の祝福である百合の紋章に変わる。
聖母マリアの受胎告知において、大天使ガブリエルは百合の花を持って現れたという。その逸話から、この紋章は現世に生を受け未来を歩んでいく者達の希望を現し、それ故に過去から現れ世界を破滅へと導くオブリビオンを著しく弱体化させる力を持っていた。
『――……なに、が!?』
体内で花開いた百合の紋章が、忌まわしき祈りによる強化を相殺する。アストラムは爪で紋章をほじり出そうとするが、一度傷口に深く刺さったそれはどう足掻いても抜けず、まるで犯した罪の証のように彼を苛んでいく。
「我らに日用の糧を与え給え。我らが人に赦す如く、我らの罪を赦し給え。我らを試みに引き給わざれ、我らを悪より救い給え。――アーメン」
敵の動きを封じ込めたところで、キリカはさらに追撃を仕掛ける。彼女が祈りの言葉を口にする時、シルコン・シジョンのハンドガードに走る黄金のラインから眩い光が迸り、銃声は神々しい聖歌となって戦場に響き渡る。
「死して偽神に仕立てられた、その無念は察するに余りある。だが、人々を守るためならその輝きも止めて見せよう……それが、かつての希望の輝きだったとしてもな」
守るべき者達のために絶望の輝きを討たんとする強き意志。それは偽りの信仰などに負けるはずのない想いの力。気高くも美しき信念と祈りが銃弾となり、偽りの神を射抜く。
聖弾を放つキリカの心にあるのは敵への悪意ではなく、純粋な祈りと使命だけだった。
成功
🔵🔵🔴
雛菊・璃奈
悲しいね…人々から慕われた神官と願いを叶える竜がこんな事になるなんて…。
これ以上の非道はわたし達がさせない…
エクセリアさんと連携…。
【無敵城塞】で攻撃を引きつけ、黒桜の呪力解放【呪詛、衝撃波、なぎ払い、早業】で呪力を放ち、攻撃と同時に呪力を散布…。
呪力の縛鎖【呪詛、高速詠唱】を放ち、アストラムを拘束して【呪詛】で体を覆い、弱体化させると同時に、散布した呪力を使って呪力の結界【呪詛、結界術】を展開…。
呪力が満ちる結界内にアストラムを封じ込めると同時に、人々の信仰や願いが届くのを妨げ、一層弱体化を狙うよ…。
可能な限り力を弱めたら【神滅】を発動…。
願いを叶える力の源を斬り捨て、バルムンクでトドメ…
「悲しいね……人々から慕われた神官と願いを叶える竜がこんな事になるなんて……」
かつては聖賢と讃えられながら、悪しき猟書家の一員となった異端神官ウィルオーグ。
吉兆の存在とされた生前の姿から変わり果て、厄災の偽神と化した流星竜アストラム。
骸の海から蘇ったのを契機に、見る影もない変貌を遂げてしまった二体のオブリビオンを前にして、雛菊・璃奈(魔剣の巫女・f04218)は哀しげに目を細めた。
「これ以上の非道はわたし達がさせない……」
洗脳された人々を救うのは勿論、もう非道を犯させないためにも、彼らはここで討つ。
その決意を現すかのように、彼女が手にした呪槍・黒桜からはひらひらと花弁のように呪力があふれ出し、周囲を黒く染め上げていく。
「エクセリアさん、防御をお願い……」
「承知しました。攻撃はお任せします」
璃奈の要請を受けたエクセリアは【無敵城塞】の構えを取り、エギュレ神の神威で敵の攻撃を引きつける。偽神と化したアストラムの放つ流星の光は、まさに神罰を彷彿とさせる威力を誇るが、無敵の盾となった聖騎士もまた一歩も退きはしない。
「我らが始祖が犯した罪に、これ以上誰かを傷つけさせるものか。猟兵殿!」
「うん、行くよ……」
エクセリアの盾で攻撃を凌いだ後、璃奈が黒桜の呪力を解放する。黒い桜吹雪のように放たれたそれは攻撃であるとともに呪力を散布する手段であり、続く作戦の布石となる。
『これしきの呪いで、神となったわたしは墜とせません……』
吹き荒ぶ黒桜の嵐に呑み込まれても、アストラムは翼のひと振りで呪詛を吹き飛ばす。
【ヴォーテクス・サテライト】によって人々の祈りや願いを集めた彼は、それを仕組んだオブリビオンの望みに呼応する形で『偽神』として完成されていく。邪悪な願望の具現と化した彼を、単純な力で打倒するのは容易いことではない。
「それなら、まずは可能な限り力を弱める……」
次の攻撃が来る前に、璃奈は呪力の縛鎖を放ってアストラムを拘束。鎖に込めた呪詛で身体を覆うのと同時に、先ほどの黒桜の一閃で散布した呪力を使って、結界を展開する。
『これは……どういうことですか? 皆の願いが、聞こえない……』
呪力が満ちる結界内に封じ込められたアストラムが、困惑で目を丸くする。璃奈の狙いは呪いによる彼の弱体化と、人々の信仰や願いが届くのを妨げること――想いが偽神の力になるのなら、それを遮断してしまえばいい。
「ここならもう、誰の願いも届かない……」
結界の中にいるのは璃奈とアストラムの二人きり。神々しき威容を呪詛に侵食され、見るからに力を失っている流星竜の前で、彼女は竜殺しの魔剣「バルムンク」を抜き放つ。
発動するのは【妖刀魔剣術・神滅】。呪力を籠めた一撃で対象の力の根源のみを断つ、魔剣の巫女が会得した剣技の神髄。
「神をも滅ぼす呪殺の刃……あらゆる敵に滅びを……」
剣と体から莫大な呪力を放ちながら、駆け出した璃奈は敵との間合いを一瞬で詰める。
そして黒風を纏い振り下ろされた一太刀は、過たずアストラムの力の源を斬り捨てた。
『―――……!!!』
魔竜を屠った逸話を持つ剣で放つ神滅の斬撃は、偽神と化した竜にとってまさに天敵。
願いを叶える力を失ったアストラムは、言葉にならぬ悲鳴とともに大地に崩れ落ちた。
成功
🔵🔵🔴
トリテレイア・ゼロナイン
(猟兵の書類登録の際、騎士らしさに惹かれ職業記入)
(神の加護持たぬ私は厳密にはパラディンでは無いのですが)
騎士として助太刀いたします、エクセリア様
この街の人々の解放の為、共に戦いましょう
…格好については触れないでいただけると助かります…
前に立ちワイヤーアンカーを地に打ち込み姿勢固定
この体躯ではその守護のお力を活かせません
なにより…前に立つのが騎士の本懐なれば
無敵城塞を!
引き寄せで軌道予測が容易となる流星の渦に照準レーザー乱れ撃ちスナイパー射撃
近接戦等不要な演算リソースを自己ハッキングで割り振り
演算速度限界突破
設置重力波を微調整
落下軌道と速度修正
人々に累を及ぼさず、アストラムのみ討つ流星落とし
(神の加護持たぬ私は厳密にはパラディンでは無いのですが)
猟兵の書類登録の際、騎士らしさに惹かれて職業にパラディンと記入したトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は、神託を授かった正真正銘のパラディンと共闘するにあたり、数奇なものを感じながら声をかける。
「騎士として助太刀いたします、エクセリア様。この街の人々の解放の為、共に戦いましょう」
「かたじけない。罪なき人々を悪しき異端から救う為、どうか力を貸してほしい」
生まれも種族も歩んだ道も異なっても、騎士として掲げた矜持と魂は同じ。力なき者の剣となり盾となり、歪んだ『過去』の悪意を阻むために、彼らは偽りの神と対峙する。
「その姿、まるで城塞のようだ。貴殿のような剛の者が助太刀してくれるとは心強い」
「……格好については触れないでいただけると助かります……」
しかし信を寄せるエクセリアの言葉に対し、トリテレイアが言葉を濁したのはなぜか。
【戦機猟兵用重力制御兵装装備型強化ユニット】を装着した現在の彼は、頭部レーザー照準器を、背部に大型スラスターと二門のキャノン型グラビティガンを備えたフル装備。本人はその姿に思う所があるようだが、超重装備の威容は味方には頼もしくも映る。
『どんな武器や鎧も、天からの災いは阻めません。わたしはそう願われたのですから』
対するアストラムは再び【ヴォーテクス・サテライト】で人々の願いと信仰心を集め、手と手の間に流星のエネルギーを溜める。想いの力が具現したそれは美しくも禍々しい、歪んだ力であった。
「ここは私が……」
「いえ、この体躯ではその守護のお力を活かせません」
攻撃の予兆を察し、味方の盾になろうとするエクセリアだったが、それよりも先にトリテレイアが前に出る。元々人間の倍近くあるウォーマシンの体格に追加装備まで合わせたサイズ差では、庇われたところで流れ弾が漏れてくるという判断である。
「なにより……前に立つのが騎士の本懐なれば」
ユーベルコードに頼らぬ純粋な防御力と耐久力に関しては彼も自信がある。流星の光を溜める竜を相手に、機械仕掛けの騎士は一歩も退かぬ姿勢を見せ、頭部に備えたレーザー照準装置を輝かせた。
「無敵城塞を!」
「承知した!」
トリテレイアの影に隠れながら、エクセリアが【無敵城塞】を発動する。防御手段としての運用を省いても、偽神の敵意を引きつける加護は有用だ――この位置取りであれば、アストラムの攻撃は全てトリテレイアに殺到する事になる。
「どこに引き寄せられるか判っていれば、軌道予測も容易です」
降り注ぐ流星の渦にトリテレイアは狙いを合わせ、頭部からレーザーを乱れ撃ちする。
本来は照準用であるため威力は然程でもないが、彼が本命とする攻撃手段は別にある。
(不要な演算リソースを軌道計算と重力波の制御に)
自らの電子頭脳にハッキングを行い、接近戦等この戦いで使わないリソースを追加装備の運用に割り振る。目標はレーザーでマークした全ての流星とアストラム本体。背部に備わる二門のグラビティガンが、ブゥンと低く唸り声を上げる。
(演算速度限界突破、設置重力波を微調整、落下軌道と速度修正)
これは"放つ"のではなく、指定座標に重力波を"設置"する特殊武装。全ての演算処理を完了したトリテレイアがグラビティガンを起動すると、見えざる重力が星空を歪める。
『これは……わたしの星が、吸い寄せられて……!?』
光さえも歪曲させる強力な、かつ局所的な重力井戸は、人々に累を及ぼさずアストラムのみを討つための力。地に災いをもたらす筈の流星は中空で圧壊し、偽りの神もまた重力の軛に捕らえられ、墜落する。
『あ、あああぁぁぁぁぁ―――!!!』
落下点もまた機械騎士の計算通りに。誰もいない場所に墜ちたアストラムの身体は重力波に捻り潰され、星図を描いた翼もひしゃげ――神としての威厳なき醜態を晒していた。
成功
🔵🔵🔴
トキワ・ホワード
【δ】アドリブ◎
来てくれたか、クロウ
協力に感謝する
かつては願いを叶える吉兆の存在…と言われていたようだが
今は単なる偽神。排除すべき敵に過ぎない
信仰により力を増しているのなら信仰する者がいなくなれば或いは…む?
…そうか、お前の掲げるは正義
解った、お前の意向を尊重する
如何な強き存在でも
力と知恵が揃えば
斃せぬ道理はないだろう?
敵のUCに対しては各種耐性で対抗
お前が嘗ての神性だろうと俺は信仰と無縁でな
他者に夢も悪夢も、委ねる気はない
UCを発動
灼熱の陽光にて敵を焼きクロウの一太刀を通す為の道を為す
協力を願った俺がお前に頼りきりというのもな
全天を照らす陽光は灼熱と為りて星々を焼き尽くす
星の竜よ、陽光に沈め
杜鬼・クロウ
【δ】アドリブ◎
見る目あるなァ、トキワ
俺の力が必要なンだろ?
ならば応えてこその俺だ
始祖を穢した偽神の存在は見過ごしておけねェ
ましてや民を巻き込み悪事を働こうとしているなら
己が義を以て
テメェの野望を打ち砕くぜ
俺が前へ出る
好機があれば俺に構わず放て
お前なら”外さねェだろ”(目配せ
みすみす殺される気は無い
敵のやり方に憤り感じる
銀のピアス代償に【無彩録の奔流】使用
洗脳受けた人々から敵引き剥がし意識を自分へ
敵の攻撃は剣で武器受け・かばう
怒涛の連撃
嘗ての面影はねェなァ
歪んだ願いで得た力なんざ
全部俺が叩き斬るッ
亡き流星竜の為にも
意志を力に
剣に炎属性を出力させ黒焔の一閃
トキワの焔と共に穿つ
…眠れ、吉兆の流星竜
「かつては願いを叶える吉兆の存在……と言われていたようだが」
目前に立ちはだかる『アストラム』の巨躯を見て、トキワ・ホワード(旅する魔術師・f30747)は独り言つ。生前がいかに善性であっても、オブリビオンとしての復活は本質を歪めてしまう。天空の流星の如く輝いていたその身も、もはや悪性に穢れてしまった。
「今は単なる偽神。排除すべき敵に過ぎない」
であれば容赦は不要と、彼は単身でもウィザードロッドを構え、偽神を討たんとする。
その背後から、ひとつの足音。振り返れば彼にとって見知った顔の青年が、身の丈ほどもある巨大な漆黒の魔剣を担いでやって来た。
「始祖を穢した偽神の存在は見過ごしておけねェ。ましてや民を巻き込み悪事を働こうとしているなら、己が義を以てテメェの野望を打ち砕くぜ」
青年の名は杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)。唯我独尊にして己が正義を貫く神鏡のヤドリガミ。偽神に魔剣を突きつけ豪語する彼を見たトキワは、口元に笑みを浮かべた。
「来てくれたか、クロウ。協力に感謝する」
「見る目あるなァ、トキワ。俺の力が必要なンだろ? ならば応えてこその俺だ」
笑み交わす二人の間には信頼があった。勝算はここに整ったとばかりに並び立つ魔術師と剣士を前にして、傷ついた偽神は折れた両翼を羽ばたかせ、己の信者達に呼びかける。
『祈りを……願いを……あなた達が望めば、わたしはどこまでも強くなれる……』
異端神官に洗脳された人々は、崇拝する神を死なせまいと懸命に祈りを捧げる。その願いを【ヴォーテクス・サテライト】で実現することで、アストラムは再び立ち上がった。
「信仰により力を増しているのなら信仰する者がいなくなれば或いは……む?」
その様子からトキワが敵の分析とを行っていると、おもむろにクロウが前に出る。
口元をにやりと笑みの形に歪めたその横顔は、言外に「秘策あり」と語っていた。
「俺が前へ出る。好機があれば俺に構わず放て。お前なら"外さねェだろ"」
「……そうか、お前の掲げるは正義。解った、お前の意向を尊重する」
彼の目配せを受けてトキワも理解したらしい。頷きを返すと杖を構え呪文を紡ぎだす。
背後で高まる魔力の圧を感じながら、クロウは黒き魔剣を構えて偽神に挑みかかった。
『来たれ、星よ。終わらぬ夢をここに』
天に向かってアストラムが叫ぶと、無数の【ダスク・ティアーズ】が戦場に降り注ぐ。
その対象は戦場全域。己を崇拝する信者も敵も一切合切を、オブリビオンが望む災厄の悪夢に呑み込む、流星の竜としての力の真骨頂。
「神羅万象の根源たる玄冬に集う呪いよ。秘められし力を分け与え給え。術式解放(オプティカル・オムニス)──我が剣の礎となれ!」
敵の所業にクロウは憤りを感じながら、装着した銀のピアスを代償に【無彩録の奔流】を発動。魔剣「玄夜叉・伍輝」の封印を解き、目も眩むほどの五行の光を刃に纏わせる。
その輝きは知識神の騎士が用いる【無敵城塞】に似た効果を発揮し、偽神の注意を引きつける。洗脳を受けた人々に累が及ばぬよう、自らを囮にして敵を引き剥がす算段だ。
『まずは自分から死にたいと……それがあなたの望みですか……?』
「みすみす殺される気は無ェよ」
降り注ぐ流星を魔剣で受け止めて、怒涛の連撃を繰り出すクロウ。強大な偽神が相手だろうと一歩も譲らぬその気迫は、力では勝るはずのアストラムをじりじりと後退させる。
『なぜ……人々の祈りを受けたわたしが、押されている……?』
「嘗ての面影はねェなァ。歪んだ願いで得た力なんざ、全部俺が叩き斬るッ」
「如何な強き存在でも、力と知恵が揃えば、斃せぬ道理はないだろう?」
動揺する偽神を気迫で圧倒するクロウ、そこにトキワも援護に加わる。彼が掲げた手から頭上に展開されるのは、燦然と輝く疑似太陽。その光は敵に対しては全身を灼き尽くす灼熱となり、味方には柔らかに包み込むような温もりとなる。
「協力を願った俺がお前に頼りきりというのもな」
トキワが発動した【讃えよ彼の炎帝を】は、前線で戦うクロウが決定打を通す為の道を為す。全天を照らす陽光は灼熱となりて星々を焼き尽くし、偽神の支配域を霧散させた。
「お前が嘗ての神性だろうと俺は信仰と無縁でな。他者に夢も悪夢も、委ねる気はない」
『なんという……ことを……』
戦場の悪夢化も、呪詛や狂気や環境変化に耐性のある彼には元々効果が無かったのだ。
星を翳らせる太陽の下で、アストラムが力を失っていくのがはっきりと分かる。その機を逃さずに、クロウが踏み込んだ。
「剣よ、吼えろ」
クロウが柄を固く握りしめると、漆黒の魔剣から五行が一つ、炎の属性が出力される。
それは彼の燃えたぎる意志の具現。亡き流星竜の為にも、ここで必ず偽神を討ち果たす――その決意が力となって、黒き業火を剣に宿す。
「炎帝よ、輝け」
そしてトキワもまた、頭上の太陽に魔力を送り、灼熱の陽光を彼の一太刀に合わせた。
中天に座したその輝きは、偽りの信仰がもたらす光をかき消し、偽神の目を眩ませる。
「星の竜よ、陽光に沈め」
「……眠れ、吉兆の流星竜」
陽光の焔と黒焔の一閃が放たれたのは同時。トキワとクロウが各々の全力を注いだ二つの灼熱は偽神・アストラムを包み込み、二度と立ち上がれぬよう骨の髄まで焼き尽くす。
『ああ……祈りが……聞こえない……これでわたしは……解放……され……』
焔の中で彼が囁いた最期の言葉には、悲哀と嘆き、そして微かな安堵が含まれていた。
猟兵達と信徒と聖騎士が見守る前で、偽りの神は灰燼に帰し、骸の海へと還っていく。
異端神官ウィルオーグの計画した偽神創造は、ここに完全なる破綻を迎えたのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『異端神官ウィルオーグ』
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POW : 第一実験・信仰に反する行動の規制
【論文】が命中した対象にルールを宣告し、破ったらダメージを与える。簡単に守れるルールほど威力が高い。
SPD : 第二実験・神罰の具現化
【自身や偽神に敵意】を向けた対象に、【天から降る雷】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ : 第三実験・反教存在の社会的排除
【名前を奪う呪詛】を籠めた【蝶の形をした黒い精霊】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【縁の品や周囲からの記憶など、存在痕跡】のみを攻撃する。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠クシナ・イリオム」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「なんという事だ。まさか私の作り上げた傑作が敗れるとは」
猟兵達の手で偽神アストラムを倒され、ウィルオーグは少なからず驚いたようだった。
かつては知識神エギュレの初代大神官にして、現在は幹部猟書家の座につく異端神官。生前と変わらぬ叡智を以て、彼はこの世界を滅ぼす為の思索を行う。
「素体の適性は問題なかったはず……では与える信仰が不足していたのか? 規模、或いは想いの深さをより高める必要があるか……次回は洗脳術式を見直す必要があるな」
今だ臨戦態勢の猟兵達を目前にしながら、彼にとっては戦いよりも計画のほうが重要な様子だった。古来から賢者と愚者は紙一重と言うが、彼のそれは寧ろ狂人のそれに近い。
まるで実験台の上のモルモットのように、人の想いや信仰を弄ぶ。生前の高徳さを知る者ほど、オブリビオンと化した彼の堕落ぶりは目に余るだろう。
「……我らの始祖は、もうどこにも居ないのだな」
深い哀しみをたたえた眼差しで、エクセリアが呟く。今、目の前にいるのは信仰を拓いた古の賢人ではなく、知を悪用し弄ぶ邪悪なオブリビオン。歪みの果てに猟書家の一員にまでなった彼に与えられる救済は、ここで骸の海に還すことのみ。
「ふむ、では実験を始めよう。猟兵とエギュレの信徒に私の術式がどう作用するか試してみたい。諸君らを殺してオブリビオンに変え、新たな偽神の素体にするのもよかろう」
そう語るウィルオーグのローブの内側から、論文の紙片と禍々しい呪詛があふれ出す。
戦士としての鍛錬を積んでいるようには見えない老人だが、その叡智と魔力は十分過ぎるほどの脅威。偽神に勝ったからと油断すれば、次に命を落とすのは猟兵達の番になる。
歪みし願いと冒涜の祈りで、偽りの神を創造せんとする異端神官ウィルオーグ。
その野望を打ち破るために、猟兵達は再び戦闘態勢を取り、彼との決戦に挑む。
キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎
かつての賢人が惨憺たる有り様だな
お前の名を励みにする者も、未だこの世界にいるだろうに
敵の雷をエクセリアのUCで防ぎつつ、シガールQ1210で敵を銃撃
命中率が高い攻撃を食らった上で無効化する【無敵城塞】は役立つだろう
とは言え、この攻撃だけで決まるほど甘くはないか…
エクセリア、もう少しだけ壁になっていてくれ
今からコレの封印を解く
UCを発動
ナガクニの封印を解き、太刀に変化させる
敵の雷がエクセリアの【無敵城塞】に当たると同時に飛び出してカウンターでの斬撃を行う
もし雷が来たら、それごと叩き切ってやろう
その名を地に落とす前に骸の海へと沈ませよう
それがお前に贈る最大限の敬意だ、堕ちた賢人よ
「かつての賢人が惨憺たる有り様だな」
異端に堕ちた神官ウィルオーグと対峙したキリカは、哀れみの籠もった呟きを漏らす。
知識神信仰の開祖となり、多くの人々を導いたであろう賢人の叡智は、今は偽りの神を生み出し、人々を絶望に陥れるために用いられている。その変貌はあまりにも残酷。
「お前の名を励みにする者も、未だこの世界にいるだろうに」
「そのような愚か者共に興味はない。偽神の信者に仕立て易そうではあるがな」
既に魂まで邪に堕ちたウィルオーグは冷たい笑みを浮かべ、枯れ木のような手ですっと天を指差す。それが攻撃の予兆と気付き身構えたのは、キリカと――そしてエクセリアも同時だった。
「第二実験・神罰の具現化」
偽神の神官に敵意を向けた者に、天から雷が降り注ぐ。エクセリアは聖印付きの盾を頭上にかざした構えで【無敵城塞】を発動し、キリカは咄嗟にその"傘"の下に飛び込んだ。
(命中率が高い攻撃を食らった上で無効化する【無敵城塞】は役立つだろう)
二人分の落雷を聖騎士の盾が弾き返す。偽神から猟書家に相手を移しても、その護りの堅牢さは健在。守備を彼女に任せながらキリカは強化型魔導機関拳銃"シガールQ1210"を構え、秘術により強化された銃撃を敵に浴びせる。
「ほう。よく出来た連携だ」
弾丸の幾つかが標的を捉えるが、ウィルオーグは感心したように笑うのみ。武術の心得はなくとも何らかの備えはしているのか、さほどのダメージを負ったようには見えない。
「この攻撃だけで決まるほど甘くはないか……」
キリカは機関拳銃のトリガーを引きっぱなしにして少しでも敵を牽制しながら、懐に忍ばせた短刀に手を添える。秘術弾でも撃ち抜けない強敵が相手となれば、こちらもそれ相応のリスクを背負わねばなるまい。
「エクセリア、もう少しだけ壁になっていてくれ。今からコレの封印を解く」
「任せろ。あの方を止める為なら、いくらでも耐えてみせる……!」
不動の構えで頷くエクセリア。決して崩れぬ守りに信を置き、キリカは【影打・國喰】を発動――短刀"ナガクニ"に施された二柱の神の封印を解き、秘められし力を解き放つ。
「忌まわしき邪龍の牙よ、呪われたその力で目の前の獲物を討ち、存分に喰らうがいい……」
ナガクニの鍛造には、かつて邪龍と呼ばれるまでに堕ちた悪しき竜神の骨が素材として使われている。平時は抑え込まれているその力の封印が緩めば、刀身より溢れ出した邪龍の力は不気味な鳴動と共に、短刀を一振りの凶々しい太刀に変化させる。
「往くぞ」
敵の雷が再びエクセリアの無敵城塞に弾かれるのと同時に、キリカは飛び出した。抜き放たれた邪龍の太刀は強力な反面、使い手の魂すらも蝕む諸刃の刃。長時間の使用は推奨されない以上、決めるならばカウンターでの一撃が望ましい。
「ほう……その力、興味深いな」
ウィルオーグは好奇の眼差しと共に、明確な敵意を持って近付いてくるキリカに狙いを変えて雷を落とすが――刹那、目にも留まらぬ速さで閃いた邪龍の太刀は、驚くべきことに落雷を"斬った"。
「その名を地に落とす前に骸の海へと沈ませよう。それがお前に贈る最大限の敬意だ、堕ちた賢人よ」
國を喰らうという名に偽りのない、げに恐るべき邪龍の力。それを彼女が解禁したのはかつての聖賢の名を守るため。落雷を斬り落としてなお勢いを衰えることのない斬撃は、そのまま敵を袈裟懸けに叩き斬った。
「ぐ……ッ!!」
これは流石に堪えたか、苦悶と共にウィルオーグが片膝をつき、黒い衣が血に染まる。
興味深い――尚もそう呟く老人の瞳は、決然とした覚悟で立つ猟兵達を観察していた。
大成功
🔵🔵🔵
カビパン・カピパン
ウィルオーグと対峙した瞬間
「し、師匠!!」
「すみません師匠。不肖の弟子は修行が足りずに、師のお怒りになられる理由に見当もつきません。ご気分を損なわれたのなら、この通り伏して謝りますゆえ。賢明なる師のお慈悲をもって、私が叱られる訳を教えてくださいませんか」
一部の隙も無く平身低頭してスラスラと謝罪を述べた。その敬服に値するカビパンの気持ちを受け止めたウィルオーグは本当に弟子をもっていたような感覚に陥る。
「では実験を始め「師弟コントですか!」
斯くして、師弟漫才が始まった。緊張してガチンゴチンなカビパンは、むやみやたらにハリセンでツッコミする。そのせいでウィルオーグの叡智と魔力と術式は台無しになった。
「し、師匠!!」
ウィルオーグと対峙した瞬間、カビパンは何故か感極まったように開口一番で叫んだ。
彼が知識神の初代大神官だったのは遠い昔の事で、現代の猟兵達と面識などあるはずがない。当然ながら師匠と呼ばれたウィルオーグの方も、怪訝そうな顔で首を傾げている。
「はて? 私にはお前のような弟子を取った覚えなど無いが」
老人であってもオブリビオンとなっても、彼の脳ミソはまだボケてはいない。どの神のものとも知れない宗教的な服を着た、悪霊化した女の弟子などいなかったはずだ。しかしカビパンは本気で師匠に対する弟子のような態度で、一分の隙も無く平身低頭する。
「すみません師匠。不肖の弟子は修行が足りずに、師のお怒りになられる理由に見当もつきません。ご気分を損なわれたのなら、この通り伏して謝りますゆえ。賢明なる師のお慈悲をもって、私が叱られる訳を教えてくださいませんか」
そしてスラスラと謝罪を述べる。よく噛まずに言えたなと思わずにいられない長広舌、これまた一分の隙もないガチ謝罪である。その敬服に値するカビパンの気持ちを受け止めたウィルオーグは、なんだか本当に弟子をもっていたような感覚に陥る。
「そうだな。そこまで言うのなら私の実験の役に立ってみせるがいい。その結果如何によっては許してやらんこともない」
彼は気付いていない。謝罪という形を取った【ハリセンで叩かずにはいられない女】の特大ボケの術中にもう嵌まっている事に。戦場はシリアスからギャグの空気に塗り替えられ、カビパンのペースに掌握される。こうなってしまえばもう彼女の独壇場だ。
「では実験を始め「師弟コントですか!」
師匠の言葉を遮るというド無礼なことを早速かましつつ、ぱっと顔を上げたカビパンはハリセン片手に立ち上がる。いや違うぞとウィルオーグが言っても全く聞く耳を持たず。
斯くして師弟漫才が始まった。巻き込まれたウィルオーグの困惑をよそに、尊敬(?)する師匠と一緒の舞台に立ったカビパンは、やたらめったらハリセンでツッコミをする。
「いや漫才ではない。私は実験を――」
「なんでやねん!」
「話を聞け。これから行うのは第三実験――」
「なんでやねん!」
「反響存在の社会的排除。対象の名を奪うことで、存在痕跡を――」
「なんでやねーん!」
およそ漫才としての間を考慮していない、矢継ぎ早のツッコミの連打。このカビパン、いつものように好き勝手振る舞っているように見えて、実は緊張してガチンゴチンになっている。本当の師匠でもない(はずの)相手に何をそうまで緊張しているのかは謎だが。
「なんでやねん! なんでやねん! なんでやねん! なんでやねん!」
「貴様、いい加減に……というか、私にも話をさせろ……!」
むやみやたらにツッコミ続けるカビパンのせいで、ウィルオーグの段取りは無茶苦茶。悪いことに彼女が振り回すハリセンにはあらゆる奇跡を霧散霧消させる女神の加護が宿っており、準備していた呪詛や精霊も散らされてしまった。
「こんな奴に私の実験が……貴様はもう破門だ! 破門!」
どんな叡智も魔力も術式も、こうなってしまっては台無しである。怒れる師匠から直々に破門を言い渡されたカビパンは、野良猫のように戦場から追い払われたのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
(前章の『ガス欠』追加装備パージし)
人々の為に剣を執り盾を掲げ、何者であろうと悪しきに否を突き付ける
私達、騎士とはそのような存在であらんと願うもの
違いますか、エクセリア様
貴女の信仰を…正義を貫く為に、今一度私も助力いたします
宣告と共に放たれる紙面…防御を得手とする私達とは些か相性が悪いUCですね(盾を牽制に投擲)
私の片手にお乗りください
10秒以内にあの異端神官の元へ送り届けてみせましょう
騒音はご容赦を!
脚部スラスターの●推力移動で接近
迫る論文群を未来予測演算格納銃器乱れ撃ちスナイパー射撃で迎撃し突破
さあ、今です!
投擲剣で逃げ道塞ぎ聖騎士を投擲
その陰からワイヤーアンカー射出しロープワークで捕縛
「人々の為に剣を執り盾を掲げ、何者であろうと悪しきに否を突き付ける」
偽神との戦いで使用した"ガス欠"の追加装備をパージしながら、トリテレイアは言う。
重厚なキャノンやスラスターを外した彼は、騎士を思わせる本来の姿で、右手に剣を、左手に盾を構え、堂々たる佇まいで異端の神官と対峙していた。
「私達、騎士とはそのような存在であらんと願うもの。違いますか、エクセリア様」
「……違わない。私は常にそのために戦い続けてきた」
知識神エギュレのパラディンもまた、彼の言葉に強く頷きながら、剣と盾を構える。
世界と種族は異なれども、それは"騎士"として共通する不変の信念。理想は今だ遠くとも、彼も彼女も、それを目指して不断の歩みを続ける者である。
「貴女の信仰を……正義を貫く為に、今一度私も助力いたします」
「感謝する」
堅固な信念と魂を漲らせる二人の騎士を前にして、異端神官ウィルオーグは低く笑う。
強い"想いの力"を持つ者ほど、彼の行う実験の対象としては優れている。彼はそうした想いを弄び、偽りの神を生み出すまでに至った男だ。
「第一実験・信仰に反する行動の規制」
言葉と共にふわりと舞い上がった論文が、二人の騎士に向けて放たれる。魔力と呪いを込められたこの紙片は、命中した対象に一定のルールを課す――ウィルオーグの唱える信仰の教義によって行動を制限されるのだ。
「……防御を得手とする私達とは些か相性が悪いユーベルコードですね」
トリテレイアは牽制のために大盾を投擲するが、それ一枚で全ての紙片をなぎ払うことはできない。"当たればいい"類の攻撃は、確かに防御重視の彼らの戦法とは相性が悪い。
だが、その程度の不利で怖じ気付くのならば、最初から彼らは騎士を名乗りはしなかっただろう。どれほど強大な相手だろうとも断固として立ち向かう、それこそが騎士道だ。
「私の片手にお乗りください。10秒以内にあの異端神官の元へ送り届けてみせましょう」
降りかかる無数の紙片を前にして、無謀とも言える宣言。だがエクセリアは疑いの言葉を口にすることはなかった。戦友への信頼を胸に、無言のまま機械騎士の手に飛び乗る。
そして、その信頼に応えるためにも、トリテレイアは己の電子頭脳をフル回転させる。
「騒音はご容赦を!」
脚部スラスターを全開にして発進と同時に、全身の格納銃器を展開し弾丸を乱れ撃つ。
【白騎士の背、未だ届かず】――数多の戦闘経験を重ねた彼の電子頭脳は、限定的ながら未来予測さえ可能とする。ひらひらと空中を漂う紙片のランダムな動きを演算・解析し迎撃する、まさに神業と呼ぶべき精密攻撃によって彼はウィルオーグへの道を切り拓く。
「なんと――?!」
あの巨躯で、しかも"荷物"を連れていながら、一枚の紙片すら命中させられないとは。
さしものウィルオーグさえ驚愕に目を見開いた時には、彼らはもう目前に迫っていた。
「さあ、今です!」
咄嗟に退避しようとする異端神官、その動きさえ予測下に収めたトリテレイアは、まず剣を投擲して逃げ道を塞ぎ、続け様に片手に乗せていた聖騎士エクセリアを投げ上げる。
ウォーマシンの膂力によって、女騎士の体は弾丸のように空を駆け、その陰から機械騎士が射出したワイヤーアンカーがウィルオーグを捕縛する。全ては9.8秒間の予測通り。
「――覚悟ッ!」
「があ、ッ!?」
万感の想いを込めて振り下ろされた聖騎士の一閃が、悪しき異端に堕ちた開祖を貫く。
聖別されし剣が血に染まると共に、まるで獣のような苦悶の絶叫が戦場に響き渡った。
大成功
🔵🔵🔵
フレミア・レイブラッド
これ以上、且つての賢人の堕ちた姿は忍びないわね…。
ここで終わらせましょう、全て!
【ブラッディ・フォール】で「終焉を呼ぶ黒皇竜」の「黒皇竜ディオバルス」の力を使用(黒皇竜の翼や尻尾等が付いた姿に変化)。
【インフェルノ】で飛んでくる論文や蝶を焼き払い、爆炎の魔力弾【属性攻撃、誘導弾、高速・多重詠唱、全力魔法】で攻撃して敵を足止め。
1章同様にテレパスでエクセリアと会話を行いタイミングを合わせ、爆炎を突っ切って左右から挟撃し、【黒竜皇の一撃】を叩き込み、エクセリアを退避させて【カタストロフィ・ノヴァ】で消し去るわ。
この世界の竜を利用した貴方はその力を以て滅ぼされると良い!
疾く骸の海へ消え失せろ!
「これ以上、且つての賢人の堕ちた姿は忍びないわね……」
生前の在り方とはかけ離れた姿に成り果てた異端神官に、フレミアは哀れみの眼差しを向ける。尊敬を以て語られたその名前を、汚辱と悪行によって汚させないために、彼女は【ブラッディ・フォール】を発動する。
「ここで終わらせましょう、全て!」
過去に討伐したドラゴンの一体「黒皇竜ディオバルス」の力を身に宿すことで、彼女は背に翼を、頭には角を、腰からは尾を生やした竜人の如き姿に変化し。まさに終焉を告げる者として相応しい威容と気迫を以て敵を睥睨する。
「その姿はディオバルスの……成程、我らオブリビオンの力すら利用するか」
元・大神官の肩書は伊達ではなく、フレミアの使用した能力を即座に理解したウィルオーグは【第三実験・反教存在の社会的排除】によってその力の名と存在を奪わんとする。
ひらりひらりと舞う黒い蝶は、彼が作り出した呪詛精霊。触れた者から名を剥奪し、縁の品や周囲からの記憶といった存在痕跡そのものを攻撃する、恐るべき呪いの塊だ。
「わたしの名も、この竜の名も奪わせはしないわ」
冒涜的な異端神官の呪いを前にして、フレミアの胸に怒りが燃え上がる。それは熱く滾る【インフェルノ】の業火となって放たれ、飛来する蝶の群れをことごとく焼き払った。
『エクセリア、タイミングを合わせて』
フレミアは視線をウィルオーグに向けたまま、隣にいるエクセリアとテレパスで会話を行う。これなら敵に作戦を聞かれる心配もない――仕掛ける機を窺っていた女騎士は、頭の中に聞こえる吸血姫の言葉に「了解した」と思念で回答を伝えた。
『この一撃と同時に仕掛ける!』
黒皇竜の力に自らの魔力を乗せ、ひときわ巨大な爆炎の魔力弾を作り上げ、放つ。大規模な爆発がウィルオーグを包み、爆炎と衝撃が一時的に彼の視界を眩ませ、体制を崩す。
それを合図にしてフレミアとエクセリアは動いた。灼熱にすら恐れることなく爆炎の中を突っ切り、左右から挟撃――これにはさしもの猟書家と言えども対応は追いつかない。
「喰らいなさい!」
「覚悟せよ!」
フレミアの【黒皇竜の一撃】と、エクセリアの騎士剣が、異端神官を捉えたのは同時。
双方ともに単純だがそれ故に重い、信念と決意が籠もった挟撃を叩き込まれ、老人の矮躯がたまらず血に伏せる。
「ぐ、おぉッ……!? まさか、これほどとは……!」
オブリビオンの力を利用したという点では、ウィルオーグの偽神創造計画も同じ。だが黒皇竜の力を纏ったフレミアの力は彼の知識と予測を上回っていた。それは彼女がかつての強敵達の力を認めているから――ただ利用するのではなく、そこには敬意があるから。
「この世界の竜を利用した貴方は、その力を以て滅ぼされると良い!」
堕ちた賢人の名をこれ以上汚させぬだけではない。死してなお尊厳を歪められた流星竜の為に、フレミアは同じ竜の力を以てこの戦いを制する事を望んだ。骸の海に眠っていた黒皇竜の魂はそれに応え、超絶的な熱量のエネルギーが彼女の体内から溢れ出してくる。
竜と一体となった吸血姫はテレパスでエクセリアに退避を告げると、迷うことなくその力を解き放った。
「疾く骸の海へ消え失せろ!」
かつてのディオバルスも使用した極大規模の大爆発――【カタストロフィ・ノヴァ】。
球形に広がる圧倒的熱量は、フレミアを中心としてウィルオーグただ一人を呑み込み、骨の髄までその身を焼き焦がす。
「――――ッ!!!!」
大気すら焼き消える灼熱の中で、彼は悲鳴を発することもできず、ただ苦痛に悶える。
人々の心を、竜の尊厳を踏みにじった異端神官に与えられたのは、尽きる事なき地獄の業火による裁きであった。
大成功
🔵🔵🔵
雛菊・璃奈
数多の世界でわたし達は神をも倒して来た…。
人が作った程度の神を人が倒せないハズがない…。
そして…人の心を操り、竜を利用し、多くを弄んだおまえは許さない…!
【九尾化・魔剣の媛神】封印解放…!
黒桜の呪力解放【呪詛、衝撃波、なぎ払い、早業】と終焉の魔剣の斉射で敵の精霊や論文をなぎ払い、そのまま敵本体を攻撃…。
エクセリアさんには敵の攻撃をなるべく回避に努めて貰い、敵の雷等、物理攻撃のみ【無敵城塞】で防いでカバーして貰える様お願い…。
敵がエクセリアさんに意識が向いた瞬間に神速と凶太刀の高速化の二重加速で一気に懐に入り込み、凶太刀と神太刀の二刀による高速連撃で仕留めるよ…。
堕ちた神官、骸の海へ消え去れ…!
「数多の世界でわたし達は神をも倒して来た……。人が作った程度の神を人が倒せないハズがない……」
偽りの神を討ち果たした璃奈は、再び得物を魔剣から呪槍に構え直すと、その切っ先を異端の神官に突きつける。UDCアースの邪神、ダークセイヴァーの異端の神々――猟兵達が対峙してきた"神"を名乗る存在は数多く、その全てに彼女らは勝利してきた。
「そして……人の心を操り、竜を利用し、多くを弄んだおまえは許さない……!」
今、彼女の心に漲るのは、異端神官に対する純粋な怒り。誰かの想いを利用して、希望の象徴さえも絶望の器に変える――そんな所業をこれ以上繰り返させる訳にはいかない。
「我が眼前に立ち塞がる全ての敵に悉く滅びと終焉を……封印解放……!」
【九尾化・魔剣の媛神】の封印を解いた璃奈の身体から、周囲を崩壊させるほどの莫大な呪力が放たれる。それは空中で何十という魔剣の形となり異端神官に切っ先を向ける。
これが全ての魔剣を奉る巫女の真の力。手にした呪槍をさっと振るうと、先ほどの戦いとは比較にならない程の黒桜の呪詛が迸り、滞空する魔剣と共に一斉攻撃を仕掛けた。
「ほう。武器に込められた呪いを操り、また呪いを武器とするか。面白い業だ」
その力にウィルオーグは研究者としての好奇を懐きながら【第三実験・反教存在の社会的排除】で迎え撃つ。名を奪う呪詛を籠めた蝶型の精霊が、押し寄せる桜吹雪と魔剣の豪雨と衝突し、互いの呪いを散らし合う。
「エクセリアさんはなるべく回避に努めて……物理攻撃のみはカバーをお願い……」
「あの呪いは我が神の加護でも防げるか怪しいからな……悔しいが、そうしよう」
呪いと呪いが激突する最中、エクセリアは璃奈の指示通りに余波を受けないよう回避に徹し、敵が【神罰の具現化】を発動する素振りを見せた時のみ、【無敵城塞】を発動して自身と璃奈に降りかかる雷を防ぐ。物理的な攻撃に対しては、今だその盾は有効だ。
「かつての行いが、このような形で牙を剥くとはな……」
自身が棄てた知識神の信仰を、現代まで受け継いできた信徒の末裔。それが今、自身の障害となっている事実に、ウィルオーグは何を想ったのだろうか。憎しみとも怒りとも違う感情が籠もった視線がエクセリアに向けられる――その瞬間を璃奈は見逃さなかった。
(仕掛けるなら今……!)
呪槍を手放すと同時に彼女が抜き放ったのは二振りの妖刀。その片割れである「九尾乃凶太刀」には、使い手の動きを加速させる呪いが宿っている。魔剣の媛神の封印を解いた彼女が用いれば、そのスピードは神速さえも超えた領域に達する。
「な―――ッ!?」
瞬きする間もない刹那の内に、呪詛の激突を抜けて懐に入り込む。驚愕する敵に対応の暇を与えす、繰り出すのは二刀による超神速連撃。まるで剣舞を踊るかのように流麗に、そして容赦なく――。
「堕ちた神官、骸の海へ消え去れ……!」
高速化を付与する凶太刀、そして神を討つ神太刀の連撃が決まった直後――一拍の間を開けて、ウィルオーグの全身から鮮血が噴き出す。あまりの斬撃の速さに、傷が開くことさえ遅れたように。
「まさ、か……私が……敗れるのか……?」
我が身に何が起こったのかを、その段階でようやく理解した男は、がくりと膝を付く。
偽りの神に続いて、数多の想いと祈りを弄んだ異端神官にも、最期の時は迫っていた。
大成功
🔵🔵🔵
カビパン・カピパン
私の名は猟書家カビパン。以前はウィルオーグに師事していたが、破門を言い渡され無職。では今現在、何をしているのかと言うと、実験漫才をしたいとか寝惚けた事をほざいている異端神官の師として直々に指導するためにやって来たわけだ。この猟書家カビパンのギャグを学べるとは、なんたる幸運な弟子よ。
「なんだ、私が指導するのは――ジジィではないか」
私が待ち合わせの場所に出向いてやると、そこに立っていたのはジジィだった。かつての師でもあった気がしたがとうの昔に忘れた。
ジジィは血管切れて死ぬんじゃないかと思うほど、キーキー叫んでいたが、全てを聞き流した。誰だと思っているんだ。その腐ったギャグセンスを鍛えなおしてやる!
「私の研究はまだ道半ば……実験が完了するまで倒れる訳には……」
猟兵達の攻勢に深手を負いながらも、脅威的な生命力で再び立ち上がるウィルオーグ。
たとえ生命の危機に瀕しても、邪悪なる智の探求を止めはしない――そんな彼の前に立ちはだかったのは、見覚えのあるハリセンを持った女だった。
「貴様は……」
「私の名は猟書家カビパン。」
あまつさえ幹部猟書家を相手に、彼女は臆面もなくそう名乗った。ついさっき追い払われたばかりのくせに性懲りもなく戻ってきた、【ハリセンで叩かずにはいられない女】の第二ラウンドが幕を開ける。
「一体何をしに戻ってきた!?」
先刻の師弟コントに辟易していたウィルオーグは、ガチで嫌そうな顔で叫ぶ。師事していた彼に破門を言い渡され無職になったはずの彼女は、一応弟子らしかったへりくだった態度から一転して無闇矢鱈と偉そうな物言いで語る。
「今現在、何をしているのかと言うと、実験漫才をしたいとか寝惚けた事をほざいている異端神官の師として直々に指導するためにやって来たわけだ」
「な……!?」
弟子が師匠に、師匠が弟子に。つまり彼女がやりたい事は師弟漫才TAKE2。指導する側から指導される側となって、前回以上の無茶振りを異端神官にぶちかますつもりだ。
「なんだ、私が指導するのは――ジジィではないか」
増上慢と言っても過言のない不遜さで、目の前に立っているジジィを見下すカビパン。そいつはかつての師でもあった気がしたがとうの昔に忘れた。伏して拝んで教えを請うなら、この溢れんばかりのギャグセンスの一端を分けてやってもいいだろう。
「この猟書家カビパンのギャグを学べるとは、なんたる幸運な弟子よ」
「ふ、ふ、ふ……巫山戯るな! 貴様如きに教わる事など何もないわ!」
散々手を焼かされた不肖の(そもそも認めてすらいない)弟子に師匠ヅラされて見下される、これほど屈辱的な事が他にあるだろうか。とうとう堪忍袋の緒が切れたウィルオーグは血管まで切れて死ぬんじゃないかと思うほど、血相を変えてキーキーと叫び散らす。
「私を誰だと思っているんだ。その腐ったギャグセンスを鍛えなおしてやる!」
だがカビパンは全てを聞き流した。弟子の意見をハナから認めず、偉そうに自分の意見だけを押し付ける。まるで絵に描いたようなクソ師匠ムーブである。ウィルオーグにも元大神官としてのプライドがある、こんなエセ師匠の言うことなど素直に聞きはしない。
「根性を叩き直されるのは貴様のほうだ! そこに直れ!」
「なんだとジジィ!」
かくして始まるギャグバトル。バシバシとハリセンの音が響き、醜い罵り合いが木霊する――それはもう壮大かつ不毛な戦いだった。不毛過ぎるので詳細については割愛する。
結果として、この戦いで最も被害を被ったのは、やはりウィルオーグだろう――ただでさえ消耗していた彼は、すっかりカビパンのペースに乗せられてしまったせいで、残りの気力まで大きくすり減らしてしまったのだから。
大成功
🔵🔵🔵
トキワ・ホワード
【δ】アドリブ◎
次の実験対象は俺達か?
随分と信仰…いや、今となっては狂った研究か
熱心なことだ
クロウ、あれが本命だ。まだやれるな?
本来なら是が非でも奴の知識を手に入れたい
と言うところだが
お前はあの手合いを赦せはしないだろう
であれば、俺の協力者はお前だ
お前の敵とあらばアレを斃すことに躊躇いはない
奴程度の遺した叡智など、この先も手に入るだろう
精霊魔法?
黒蝶…生物を模した不規則な動きはアレに触れさせる為だろう
であれば…当たらなければ作用すらしない
為らば、全てを焼き尽くせ炎帝よ
…これは
蝶によるダメージはない…いや、俺の存在が消えている?
些末な。俺は旅人、誰の記憶に残らずとも…俺は俺の為すことを為すだけだ
杜鬼・クロウ
【δ】アドリブ負傷◎
つくづく俺の神経逆撫でするような行為してくれてンなァ
それとも態とか?
俺達をテメェの実験相手に選んだコト、後悔させてヤんよ
誰に言ってやがる?トキワ
無論だ
ハ、言うなァ!
戦いを交えて奴の術式を解いてみせろや
以降の話し合いは無用
彼方が智と魔力で来るならば力で応対する迄
示す為には己が信ずる力で圧する
【沸血の業火】使用
体に紫電纏い一気に駆ける
討たれる前に穿て
高速で敵の体斬り刻む
敵が攻撃する隙与えず
敵のUCで負傷しても構わず突き進み
剣に灼熱の炎宿して叩き斬る
エクセリア、お前の始祖は確かに死んだ
だがお前に遺した信条は今も、在るだろ
お前の中に
生きろ
きっとお前の往く途を見守っているハズだから
「次の実験対象は俺達か? 随分と信仰……いや、今となっては狂った研究か。熱心なことだ」
「つくづく俺の神経逆撫でするような行為してくれてンなァ。それとも態とか?」
歪んだ悪性を隠そうともしない異端神官に、冷然とした視線を向けるトキワと、怒りを隠そうともしないクロウ。対照的な態度を示す二人だが、その目的意識は共通している。
「クロウ、あれが本命だ。まだやれるな?」
「誰に言ってやがる? トキワ」
無論だ――と風雲児が漆黒の魔剣を担ぎ直せば、旅する魔術師はウィザードロッドを構える。偽りの神を創造した猟書家を討ち果たしてこそ今回の依頼は完遂されるのだから。
「本来なら是が非でも奴の知識を手に入れたいと言うところだが、お前はあの手合いを赦せはしないだろう」
学究の徒として異端神官の叡智に興味がある自分とは違い、相方は奴の穢れた知恵など微塵も欲しくはないだろうとトキワは理解していた。であれば、俺の協力者はお前だ――と、対象の撃破を最優先とする。
「お前の敵とあらばアレを斃すことに躊躇いはない。奴程度の遺した叡智など、この先も手に入るだろう」
「ハ、言うなァ! 戦いを交えて奴の術式を解いてみせろや」
あるいは不遜とすら取れる発言に、相応の自信と実力がある事をクロウも知っている。
打倒猟書家の決意をより固め、にじり寄るように間合いを測る二人。その視線の先で、追い詰められた異端神官ウィルオーグは憎々しげに奥歯を噛んだ。
「随分と余裕な事だ……私の実験はまだ終わってはいないぞ」
発動するのは【第一実験・信仰に反する行動の規制】。邪な教義が記された論文が二人目掛けて飛び、異端信仰を強要せんとする――だが、その刹那にクロウが【沸血の業火】を使用し、目にも留まらぬ早業で論文を斬り捨てた。
「俺達をテメェの実験相手に選んだコト、後悔させてヤんよ」
自身の血潮を代償として、筋肉量を格段に上昇させた超高速モードに移行。戦闘態勢を整えた彼は全身にバチバチと紫の電流を纏いながら、敵の懐目掛けて一気に駆ける。
「クッ、止まれ……!」
ウィルオーグはなおも論文を放つが、それに触れてもなおクロウは止まらない。宣告されたルールに違反したことで負うダメージにも構わず突き進み、もはや話し合いは無用とばかりに、獣の如き眼光で敵だけを睨め付ける。
(彼方が智と魔力で来るならば力で応対する迄。示す為には己が信ずる力で圧する)
討たれる前に穿て――揺らがぬ覚悟で間合いに踏み込んだ彼は、迅雷の速度で魔剣を振るう。瞬発力、移動速度、攻撃速度等あらゆる意味での"速さ"を強化したその斬撃は、紫電の軌跡を描いて敵を斬り刻む。
「がぁ……ッ、ならば……!」
第一実験ではクロウの行動を規制できないと悟ったウィルオーグは、【第三実験・反教存在の社会的排除】を発動。その身から溢れ出た呪詛が、黒き精霊の群れを呼び寄せる。
「精霊魔法? 黒蝶……生物を模した不規則な動きはアレに触れさせる為だろう。であれば……当たらなければ作用すらしない」
その術式の特性と意図を瞬時に見抜いたのはトキワ。かつての偉大なる大神官の叡智が一端を記憶に焼き付けながら、それに対抗するための方策を導き出す。力を以て知を制すのがクロウの戦い方なら、知を以て知を制するのが彼の戦いだ。
「為らば、全てを焼き尽くせ炎帝よ」
【讃えよ彼の炎帝を】――再び頭上に現れた疑似太陽の輝きが、黒い蝶を焼き焦がす。
味方には癒しをもたらしつつ、敵のみにダメージを与えるユーベルコード。守りを捨て攻撃に専念するクロウのサポートとしてもこれが申し分ないという判断だった。
「おのれ……ッ、邪魔をするな!」
怒れるウィルオーグが放った蝶の一羽が、焼け切る前にトキワの肩に触れる。痛みはなく、どこも傷ついてはいない――しかし大事な"何か"を奪われたような感覚があった。
「……これは。蝶によるダメージはない……いや、俺の存在が消えている?」
肉体を傷つけずに対象の存在した痕跡のみを周囲から抹消する"名前を奪う呪詛"。異端神官が用いる術式の中でも特に悪辣なユーベルコードを受けたトキワは、成程と小さく頷き――そして何事もなかったように、余裕な態度を崩さずに杖を掲げる。
「些末な。俺は旅人、誰の記憶に残らずとも……俺は俺の為すことを為すだけだ」
炎帝の輝きはより苛烈さを増し、蝶のみならずウィルオーグの纏うローブまでもが発火する。炎に包まれた老人が反射的に身を庇った瞬間、紫電纏うクロウが追撃を仕掛けた。
「――凌駕せよ、邪悪を滅する終焉の灼!」
滾る血潮を対価として、剣に灼熱の炎が宿る。最速のモードと最大の火力、その二つを合わせた乾坤一擲の一太刀は、陽光に灼かれるウィルオーグを過たず捉え――叩き斬る。
「―――!!!!」
その瞬間、頭頂から股下まで両断された老人はカッと目を見開き、裂けたローブの中から無数の論文があふれ出す。それらも魔剣と太陽の熱によって焼き尽くされ、全てが灰燼に帰していくなか、彼は猟兵達をぐるりと見回して。
「口惜しい……だが、次こそは……」
――それを最期に異端神官ウィルオーグの肉体は灰となり、魂は骸の海に還っていく。
人々の想いを弄び、偽りの神を創造せんとした猟書家の野望はここに阻止されたのだ。
「終わったか」
「ああ。大丈夫かトキワ?」
「問題ない」
敵の消滅を確認して剣を下ろしたクロウの元にトキワがやって来る。受けた呪詛が少量だったのと直後に術者が死亡したお陰で、存在痕跡へのダメージは微小で済んだようだ。
ウィルオーグの死に伴って町の人々にかけられた洗脳も解け、偽神を信仰させられていた者達も我に返る。しばらくはここ最近の記憶の欠落等に悩まされるかもしれないが、じきに元の生活に戻れるだろう。
「……」
そしてエクセリアは、ウィルオーグが最期に立っていた場所をじっと見つめていた。
何も語らず、ただ無言でその場に跪き、祈りを捧げる――堕ちた大神官はこの世界に許されざる危害を為した。それでも、せめて冥府で安らかなるよう知識神の慈悲を願う。
「エクセリア、お前の始祖は確かに死んだ。だがお前に遺した信条は今も、在るだろ。お前の中に」
そんな彼女に声をかけたのはクロウだった。無作法な態度だがその口ぶりには相手の心情を慮る響きがある。始祖が消えても、彼が興した信仰は受け継がれる限り存在する――その事実を、改めて思い出させるように。
「生きろ。きっとお前の往く途を見守っているハズだから」
「……ああ。分かっている。これからも私は騎士として生き続けよう。知識神エギュレの威光と、初代大神官ウィルオーグの偉大さを、後世に伝え遺すためにも」
立ち上がった聖騎士エクセリアの顔にもう憂いはなく、朝日のように晴れやかだった。
これからも彼女は知識神の名の下に世界を巡り、弱き民を救い続けるだろう。偉大なる先達の名に恥じぬよう、その眼差しを背中に感じながら。
――かくして、歪みし願いと冒涜の祈りがもたらした事件は幕を閉じる。
猟書家の侵略は挫かれ、骸の月の侵食はまた一歩、後退するのであった。
大成功
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