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闇に吼える悪夢

#クロムキャバリア

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#クロムキャバリア


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「……大佐、本当によろしいのですか」

 まだ年若い、軍服に身を包んだ男は些か不服そうな表情で問うた。

「何か問題でもあるか」

 同じ軍服に、様々な勲章と階級章のようなものを提げた男は、振り返りもせずに答える。

「いえ、自分は別に……ですが大佐は――」
「――君は、確か子供が産まれたばかりだったな。どのくらいになる」

 遮るように、男は言った。

「……はい、今日でちょうど一月になります」
「男の子か?」
「いえ、女の子です」
「そうか。まだ大変な時期だろうが、可愛い盛りだろう」
「ええ、まあ……はい」

 他愛のない世間話のような言葉を数度交わす二人。子供が可愛いということに異論は無いし、待っている家族がいるという心の支えがあるのは間違いない。しかし彼、アルマ・ロッタ大尉は、目の前の男、スドー・ホシガミ大佐の境遇を思うと、手放しで喜べる状況ではなかった。
 そんな曖昧な表情で次の言葉を探していると、スドーは漸く振り返り、真っ直ぐにアルマの瞳を覗き込む。

「……君は、そんな可愛い娘を戦場へ送り出したいか」

 その目を見てアルマは悟った。もう何を言っても変わらないのだと。

「いえ、出来れば戦いとは無縁の……そうですね、普通の生活を送ってほしいものです」
「そうだろう、ならば変えねばなるまい。この国の在り方を」

 スドーは再び踵を返すと、胸ポケットに仕舞っていた写真を取り出す。まるで並んだ三人の最右を意図的に破いたような、歪な形の写真。そこには、まだ幼い少女と、若い頃の彼自身の姿が写っていた。

「その為の犠牲、いや、礎になろうというのだ。私の事など気にする必要はない」

 それきり黙り込んだスドーに一礼すると、アルマは何も言わず引き下がるしかなかった。その判断が正しいのか、それは誰にも分からなかった。


 光の無い、何もない、最早部屋と呼んで良いのかすら分からないその場所で、彼女は独り横たわり苦しみにもがいていた。
 頭痛、眩暈、吐気、動悸、窒息感、胸痛、寒気、あらゆる不快感が身体を支配し、震えが止まらない。現実から遠ざかるような喪失感が襲い、自分で自分をコントロール出来ない不安がやがて死の恐怖を呼び起こす。
 いや、恐怖感とは少し違う。いっそのこと死んでしまえたら、どれだけ楽だっただろうか。
 ふと、部屋の扉が開かれ、光が差した。

「アスハ、仕事の時間よ」

 少女を見てただそれだけを言うと、彼女によく似た顔立ちの痩身の女性は、着用していた白衣のポケットから小さなケースを取り出す。朦朧とする、しかし手放せない意識の中、開かれたケースの中に丁寧に梱包されているアンプルが見えた。

「……して……殺して……」
「何を言っているの? 殺すのは貴女よ、これから、いくらでも」
「嫌……嫌っ!! もう殺すのは嫌!! 痛いのも、苦しいのもやだっ!! もう嫌なのッ!!!」

 力一杯に暴れ、叫ぶ少女。だがやはり、痩身の女性は気にする素振りも見せない。

「……ほんと、煩い子ね」

 小さな注射器で薬品を吸い上げ、空のアンプルをそのまま放り捨てる。
 何の躊躇いもない流れるような動作でその針が首筋に立てられるのと、放られた硝子小瓶が割れる音が木霊するのは、ほぼ同時だった。

「ッ――」

 身体に異物が流れ込んでくる、気持ちの悪い感覚。これまで何度となく、否応なく味わってきた感覚。視界が白く明滅し、元から有って無かったような平衡感覚は完全に消失する。更に早くなる心臓の鼓動が呼吸を乱し、やがて意識を保っていられなくなる。
 その閉じかけた意識の先。まるで救いの光のような、真っ白なそれ。
 知っている。
 手を伸ばしたその先にあるそれを、知っている。だって、そこで手を差し伸べるのもまた、私なのだから――。

「気分はどう?」

 少女はぐったりと身体を預けたまま、小刻みに肩を震わせた。いや、笑っているのか。

「フフ……アハハハハハハっ!」

 今まで、ついほんの数秒前までとは明らかに異質な声。楽しそうに、本当に心の底から楽しそうに笑う声。
 そうして、顔を上げた。

「最っ高だわ、ママ!」

 到底同じ人間とは思えない豹変ぶりに、それでもやはり顔色ひとつ変えることはない。

「ねえ、お仕事でしょ? 今日は何人殺せば良いの?」
「好きなだけ。殺したら殺しただけ、褒めてあげる」
「ホント? なんて良い日なのかしら、愛してるわママ!」
「ええ、私も愛しているわ」

 暗い部屋を出て、そんな会話を交わしながら、真っ白で無機質な廊下を抜ける。その先に待ちわびていた禍々しい巨躯へと、彼女は笑顔で身体を預け――。

「楽しみにしてるわよ、私の――」

 ――私のプリンセス。

 白衣を翻し、そう呟いた彼女の手には、破れた一枚の写真が握られていた。まるで並んだ三人の最左を意図的に破いたような、歪な形の写真。そこには、まだ幼い少女と、若い頃の彼女自身の姿が写っていた。


「仕事の時間だ、準備はいいな」

 グリモアベースに集まった猟兵達を一瞥し、アルト・イストリア(自由の旗・f09100)は自前の携帯端末を操作する。そこから光が浮かび上がり、やがてホログラムのように何もない宙へと情報を映し出す。

「クロムキャバリアの小規模国家で武装蜂起が企てられている」

 周辺の地図だろうか、荒野のとある一点が拡大され、それらしいコロニーが表示された。国の名前などは特に記述がなさそうだが、つまり必要のない情報なのだろう。

「武装蜂起自体は特に問題ない――というよりは我々に関係ないのだが、その原因にオブリビオンが絡んでいるというならば、放っておくわけにもいかんからな」

 続いて映し出されたのは、軍服の男性と白衣の女性の姿。

「男の方はスドー・ホシガミ。武装蜂起を企てた、解放軍を名乗る集団のリーダーだ。女の方は奴らのターゲット、この国のまあ、お偉いさんというやつだな。彼らに言わせれば諸悪の根源といったところか」

 どうやら彼女がオブリビオンマシンの影響を受けて悪事を働いているらしい。重税、徴兵、暴力支配、果ては人体実験の噂さえあるという。

「どんな理由で反旗を翻そうとも俺は知らんし興味もないが、解放軍とやらに接触して取り入れば上手いこと役立つかもしれん。体よく敵に追われている人物もいることだ、それを利用するといいだろう。これに乗じてオブリビオンマシンを撃破、達成次第即時退却だ」

 棘のある言い方ではあるが、言った通り本当に興味が無いだけで、悪意があるわけではない。実際今回の目的はオブリビオンマシンの撃破であり、武装蜂起への加担ではないのだ。

「攻勢に出れば、間違いなく迎撃されるだろう。そこで派手に暴れれば、おそらくオブリビオンマシンも姿を現すはず。発見次第、雑魚は他に任せて一気に目標を叩け」

 これ以上の詳細情報は現地で集めるように。そう言った彼の手のひらの上に、グリモアが輝き出す。そろそろ転送が始まるようだ。しかしまだ彼は猟兵達をその場に留めていた。

「それから、今更言うまでもないとは思うが、討つと決めた相手は迷わず討て。それがどんな相手でもだ」

 引き留めてまでわざわざこのようなことを言う理由は分からない。これまでいくつもの死線をくぐり抜けてきた猟兵達には、それこそ彼の言うとおり今更言うまでもないことだ。だが、それでも敢えてそう言った理由は――。
 彼はそれ以上、何も語らなかった。


朝霞
 みなさんお久しぶりです。
 早速ですが、今回の目標をまとめます。

 一章は敵に追われている解放軍メンバーの保護です。
 敵勢力の規模やオブリビオンマシン(本人は敵の新型キャバリアという認識)の情報などを持った諜報員を保護します。諜報員は中枢メンバーの1人であり、内外の様々な情報を持っています。必要だと思った情報はこの段階で聞き出してください。
 なお、次章以降有利に進むための情報は得られるかもしれませんが、シナリオの成否に関わるような重大な情報はありません。あくまで最終目標はオブリビオンマシンの撃破であるということは忘れないようにしてください。

 二章は解放軍本隊と合流し、一転して攻勢に出ます。
 敵は防衛戦力を展開しているので、解放軍のキャバリア乗りと協力して蹴散らしましょう。味方はそこまで強くないですが、敵もオブリビオンマシンではない(同等には強い)ため、ただの一般人よりは役に立つ程度の戦力はあると考えてください。
 この章では🔴の数味方機が撃墜されます。パイロットは助かりません。苦手な方はご注意下さい。

 三章はオブリビオンマシンとの戦闘です。
 誘い出されたオブリビオンマシンを撃破しましょう。味方機が残っている場合、特別指示がなければリーダー一機を残し戦線から離脱します。オブリビオンマシンの搭乗者の生死は問いませんが、助けるか助けないかどちらか必ず選択してください。
 なお戦場に残った味方機は、助けられる可能性はゼロではありませんが、基本は全て撃墜されるものと考えてください。

 シナリオが成功で終わった場合、解放軍は勝手に目標を達成するものとします。猟兵はオブリビオンマシンを撃破した時点から、あらゆる戦闘行為への加担は出来ません。

 以上の点を留意し、プレイングをお送りください。皆様のご参加心よりお待ちしております。
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第1章 冒険 『企みを知ってしまった者』

POW   :    追手を向かい撃ち、蹴散らす

SPD   :    情報収集して、行く手を察知する

WIZ   :    変装して追手を引きつける

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



「マズったな……」

 男、アルマは呼吸を整えながら、路地の角から顔を覗かせる。
 普段は何でもない、気にも留めないような場所でつまらないミスをした。どうせ戻ったら総力で攻め入るという油断があったことは間違いない。だがそれよりも、掴んだ情報があまりに、あまりにも残酷過ぎたのだ。
 故に彼は判断を誤った。

「さて、どうしたもんかな……」

 自身を探して走り回る衛兵たちを視線の先に捉えながら、周囲の状況を探る。残念ながら退路は塞がれてしまっているようだ。しかしそれでも帰らないという選択は出来ない。何か突破口を探さなくては――。
 そう考えていた矢先のことだ。敵ではない、何か別のものが視界に入ったのは――。
キリジ・グッドウィン
※アドリブ歓迎です

戦場は何かと何かがぶつかり合うっていうか、ヒリつく感じがたまらなく良いよなァ……そこで「生きてる」って感じするぜ!ハハハッ
俺が一暴れしてやるからさァ、解放軍のおエライさんだかは誰かがコソコソ逃がせばいいんじゃねーの?
聞き込みだとかの対話の類はメンドーだから任せるわ。次の戦場がどんなモンかは気になるがな

使用UCでなるべく解放軍の奴がいない方へオレのキャバリアを呼び寄せる。威嚇射撃でもして軽く騒ぎでも起こしてとっとと逃げちまいな
「こっち来いよ『○○○(ここに本日のキャバリア名)』一緒に楽しもうぜェ!」


メアリーズ・エリゴス
私は生体CPU、つまりキャバリアの生体部品ですけど手術や投薬で強化されてますから生身での戦闘も可能ですよ?
強化人間専用軍用拳銃を片手に加勢しますね
首からさげたT型サイコマテリアルが人工サイキッカーとしての能力である第六感や念動力を増幅しますし、殺気を感じることによる索敵もこなしますよ?
ただし、隠密行動は期待しないでくださいね。私に出来るのは強行突破か囮だけですよ
まぁそういうわけで加勢して突破口を開いてあげます
衛兵の小火器装備程度で私を止められると思わないでくださいね?私を止めるなら本格的な歩兵を呼ぶべきですよ?
殺意(アイ)の意思たる念動力で敵を拘束して撃っちゃいますよぉぉぉ!




「オイオイ、何処見てンだよ」

 アルマの視線の先、丁度敵の衛兵を挟んだ反対側で、見知らぬ男が粗暴な言葉を吐いていた。仲間割れではなさそうだが、とにかく素性が分からない。
 衛兵たちは彼へ一斉に銃口を向ける。

「貴様何者だ!」
「さっきの奴じゃないな、お前も仲間か!?」

 どう見ても味方じゃない男を取り囲んでおいて暢気にお喋りとは、随分余裕じゃないか。そう心の中で呟きながら、アルマ自身もまた暢気に観察しているという事に気付き、すぐさま退路を確認する。
 銃口を向けられながらも微塵も臆さず余裕の表情を浮かべる男、キリジ・グッドウィン(レプリカントの量産型キャバリア・f31149)はその様子を傍目に見ながら、衛兵たちの目が彼に向かないよう再び声を上げた。

「こっち来いよジェーン、一緒に楽しもうぜェ!」

 その声に応じて、彼の背後より重い地響き――いや、足音が聞こえる。薄暗い通路の陰から現れたのは、一機のキャバリア。それを警戒するように、衛兵たちの一部はキリジから銃口をそのキャバリアへと向けた。

「イイねぇ、このヒリつく感じ……戦場ってやつはこれだからたまんねぇぜ」

 握られたアサルトライフルを構える。
 まだだ、まだそのときじゃあない。もっと引きつけて、陰に隠れている奴からもっと引き離してからドンパチ――。
 その時、乾いた銃声が響いた。当然キリジではない。彼の相棒でも、彼らに銃を向けていた衛兵たちでもない。誰もそれに気付かなかった。やがてキャバリアの頭上を駆け、華麗に身を翻したその人物は、両者の間に着地する。

「お、女ァ?」

 メアリーズ・エリゴス(生体CPU・f30579)は、突如割って入った存在に狼狽する衛兵たちを横目に、キリジを振り返った。

「正解は生体CPU、その子たちと同じキャバリアの――生体部品、でした」

 少女と呼ぶにはあまりに妖しい笑みを浮かべ、次いで間髪入れずジャンプ。確かに人間とは思えない跳躍力で飛び上がったかと思うと、直後彼女の立っていた場所へ銃弾の雨が降った。後ろを見ていた訳ではなさそうだ。それでもまるでそれを疑ってしまうような反応速度。
 空中でそのまま体を捻り、体勢を整える。右手には一丁の銃が握られていた。

「言い忘れていましたが、生身での戦闘もできますよ」

 銃声。
 見た目ほど軽くはない、むしろ本当に彼女が扱えていい代物なのか分からない程度に重く派手な銃声。彼女の眼下では、並の兵装では傷つける事もできない装甲服を纏った衛兵が一人、右肩から血を流し倒れている。
 続いて二発、三発、四発。彼女が着地するまでに放った銃弾の数は四。地上ではきっちりその人数が倒れていた。キリジはその姿を見て口笛を鳴らす。

「へェ……やるじゃん」

 そして同時に、彼女が自分と同じ『コソコソするのが得意じゃない』人種なのだと悟った。
 何しろ既に火蓋は切って落とされた。後は細かい事など気にせず、とにかく暴れて敵を引きつけておけばいい。キリジはそう決めると自前のアサルトライフルを片手に、愛機を率いて切り込んでいく。退路までの道は十分に拓けた。後は敵との位置関係を反転させ一気に押し返せば、防衛線も張れるだろう。アルマが隠れていた物陰を見やると、そこには既に人の姿は無かった。おそらくこの場からは退散できたのだろう。

「おい女、俺たちはここで陽動ついでに足止めといこうじゃねぇか」
「あら、デートのお誘いにしては些か不作法ですね」

 互いに姿を見向きせず、敵の状況だけを捉える。そのうちの一人が銃口を向けたタイミングで、突然硬直した。キリジは何が起きているのか分からなかったが、おそらく彼女が何かしらのユーベルコードを使ったのだろうとの予想はついた。当然動きを止めるだけではない。腕と脚、左右で計四発。きちんと銃弾を撃ち込んで戦闘不能にした。

「それに、かわいい彼女が嫉妬していますよ」

 変わらずの妖しい笑みで、メアリーズはキリジのキャバリアを見据える。彼もそれにつられて愛機を見上げる。
 敵に向かって威嚇射撃を行う姿は、自分で操っていながらも、まるで嫉妬し八つ当たりをしている様に見えて、キリジは苦く笑った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

月守・咲凛
アドリブ他諸々OK
ふっふっふ、私に任せておけば万事解決なのです。
レーダーで周囲の敵兵の位置を把握して、逃走ルートを探ります。
強行突破が必要な場合はアジサイユニットを遠隔操作して敵の気を引き付けますが、人を殺す事はできない子なので攻撃は武器破壊や、チェーンソーを使わない体当たり(頭にゴツーン)に留めます。また、アルマさんが人を殺そうとする場合は怒って止めます。
人を殺すのはわるいことなのです!
ある程度の位置までエスコートしたらあとはあっちに行けば良いのですよ、と別れて、今のうちに敵のキャバリアを動けなくしちゃいましょう。処理数を優先したいから、コックピットハッチだけ開かなくしておけば良いかな。


ユーリー・ザルティア
ヤレヤレ、今日も今日とてクロムキャバリアらしい事件だね。


ねえ、ボクを雇ってみないかい?
個人的にもあいつらより君たちの方が、ボクの腕の見せ所もありそうだしね。
地獄の沙汰も金次第…なんてね。まあまずはボクの腕を見るためにもお試しに…なんてね契約完了っと(UC発動)
ボク?ボクは通りすがりの撃墜女王さ。


さて、量産型キャバリアのパールバーティに搭載したARICAにちょっと囮になってもらうよ。
敵がARICAに注意を引き付けられているうちに、近くの端末から『ハッキング』して『情報収集』でマップと敵配置を確認っと。
ついでに、監視カメラを『ジャミング』しておくよ。
さて、このルートなら安全に進める。




 名も知らぬ第三勢力によってなんとかその場を切り抜けたアルマだったが、依然拠点への道のりは長い。派手に暴れてくれているおかげか、兵力の大半はそちらに流れていると考えてもいいだろう。だが当然それが全てではなく、追っ手はまだまだ無くならないままだ。
 アルマは周囲に人の気配がない事を確認して、物陰で一息つくことにした。

「……ハァ……ハァ……ったく、敵の数が多いな……見た事ない奴らもいる……さては正規軍じゃないな……」
「なるほど、つまりそーてーがいってやつですね」
「どうやらそのようだな……」
「じゃあやっぱりこっちについた方が、腕の見せ所はありそうだね」
「そうしてもらえると助かるが……ん?」

 無意識に誰かと会話していたようだ。元々独り言は多かった方だが、まさか幻聴と会話することになろうとは、いよいよ極限まで追い詰められているということか。そう考えながら壁に背中を預ける。

「お疲れみたいですね」
「休んでる暇はないと思うけど」
「ぅおわっ!!?」

 いた。
 確かに人の気配がない事を確認したはず。それなのに、二人は男のすぐ横に立っていた。思わず胸ポケットから取り出そうとしていた配給煙草を落とす。反射的に銃を抜かなかったのは、銃声によってさらに人が寄ってくることを避けたかったというのもある。しかし何よりも、二人から殺気を感じなかったというのが最もたる理由だろう。

「……驚かさないでくれ、全く。……それで、君たちはさっきの二人の仲間なのか?」

 あくまで平静を装い、少女たちに向かい合った。彼からすると、二人ともまだ子供に見える。それどころか、一人はまだ年端もいかない少女だ。何者であれ戦力ならば歓迎したいところではあるが、子供を戦場に立たせたくないアルマにとって、それは如何ともしがたいこの国の未来の光景にも見えた。

「――いや、そうじゃないな。君たちは俺の味方なのか、それとも敵なのか」

 その言葉を待ってましたとばかりに、紫髪の少女ユーリー・ザルティア(自称“撃墜女王”(エース)・f29915)はにんまりと笑って、親指と人差し指で輪を作ってみせる。

「そいつはコレ次第、かな」
「……幾らだ」
「さぁてね、そこはお任せってことで。なんたって、地獄の沙汰も――」
「――金次第、ってか」

 アルマは懐に手を入れると、ずっしりと手に収まるサイズの革袋を取り出し、ユーリーへ投げ渡した。

「今ある分はそれで全部だ。足りなきゃ後で上に掛け合ってみよう」
「全額前金でいいの?」
「そのための金だ」
「それじゃ遠慮なく」

 革袋を仕舞い込むユーリーの背後から、月守・咲凛(空戦型カラーひよこ・f06652)は、触角のように立った前髪を揺らしながら顔を出す。

「話は終わったですか?」

 今まで難しい顔でレーダーユニットとにらめっこを続けいていたせいか、若干疲れが見え隠れしている。だがその甲斐あって既に彼女の頭の中には逃走のためのルートが組み上がっていた。

「じゃあ依頼内容を確認するよ。ここから逃げ切ればいいってことだよね」
「子供にこんなことを依頼するのは不甲斐ないが……そうだな、脱出するための護衛を頼む」
「んじゃ、契約成立っと」

 そこでアルマは、先ほどからどこか遠くに聞こえていたキャタピラの駆動音がすぐそこまで迫っていることに気がついた。他に人の声は聞こえないということは、基本集団で行動している敵の衛兵たちではなさそうだ。などと考えている矢先、その正体が陰から姿を現した。
 青と白を基調にした躯体に、特徴的な両肩の砲身、歩行型ではなく走行型のキャタピラレッグ。誰も驚く様子がないところを見ると、なるほど彼女のキャバリアなのだろう。

「なに、ボクは通りすがりの撃墜女王さ。で、誰が子供だって?」
「こいつぁ……頼もしすぎて腰を抜かしそうだ」
「ふっふっふ、私たちに任せておけば万事解決なのです」

 自慢げに言う咲凛は、アルマの手を引いて駆け出す。ユーリーもそれに続いて走り出すと、すぐに背後で複数の足音が聞こえた。追ってきた衛兵たちに違いない。こちらに姿を見せない限り、残したキャバリアと遠隔攻撃ユニットが上手く攪乱してくれているはずだ。

「こっちには敵がいないですが……」

 レーダーをもとに先導して駆ける咲凛の足がふと止まる。見上げた視線の先には、監視カメラが一基。よく見ると、ところどころに同じようなカメラが設置してあるようだ。彼女が算出したルート上にはこの一基しか設置されていないようだが、ここを抜けなければ安全に脱出は出来ないだろう。

「ふふん、任せときなって」

 グローブを外しつつ手近にあった端末を操作し始めるユーリー。ほんの短い間だけそれをいじると、にやりと笑う。

「ビンゴ、これをこうして……と……よし、これで大丈夫」
「何をしたのです?」
「ちょっとね~」

 ダミー映像のデータを送り込み監視カメラを無力化すれば、残る障害は多くない。本来なら多少時間のかかる作業ではあるが、陽動が成っている今、邪魔するものはいない。

「このブロックを抜けたら、やがて安全な場所へ出るのです」

 レーダーにも敵の姿は無い。案内はここまでで大丈夫だろう。その旨をアルマへ伝えると、咲凛は踵を返した。

「私はもう少しここで戦力を削っておくのです」

 具体的には、まだ人が乗り込んでいない無人のキャバリアを今のうちに破壊しておこうという訳だ。最悪破壊までならずとも、人が乗り込めない状態にできればよい。

「仕方ない、ボクも手伝っちゃおうかな」
「アルマさんはいいのですか?」
「俺はここまでで大丈夫だ。後はどうとでもなるさ」

 互いにこの施設の地図を確認した限りだと、おそらく出口まではそう遠くないはずだ。外にさえ出てしまえば、後は彼の言っていた通りどうとでもなる。それこそキャバリアの部隊とでも遭遇しない限り。警戒は解かないままで通路を走り出したアルマを見送りながら二人はそれぞれ、そんな事態が発生しないための工作を始めた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



 想像よりも静かな市街地に、幾つかの声と銃声が響いていた。

「いたぞ! こっちだ!」

 駆け回る衛兵たちが目にしたのは、アルマの後姿。少し離れたところからそれを見ていた衛兵たちの指揮官らしき男は、手元の写真とその後姿を見比べ、間違いがないかを確認する。しかしそれを、すぐ隣に立っていた男が遮った。

「心配しなさんなって。間違っても構いやせんさ」
「何を言う、相手は一般人かも知れんのだぞ」
「だァら良い子ちゃん育ちの衛兵様はよォ……それで逃がしゃ元も子も無ェんだよ!」

 他の衛兵も数多く居る中、後姿の男に向かって彼は何の躊躇いもなく銃弾を放った。

「何を――」

 言いかけたところで、撃った男の体が霧散して消えた様子を目の当たりにし、彼は言葉を失う。まるで夢でも見ているかのような光景だった。

「いったい何が……起こっているんだ……」
「俺が知るかよ。だが人間じゃねぇ奴らが混じってるのは間違いねえ……オイお前ら、見かけた奴は女子供以外全員殺せ!」

 その声に応じて、一部の衛兵たちが雄たけびを上げる。

「……貴様にも人の心が残っていたとは、驚きだな」

 女子供は殺すな、言い換えるとそういう命令だ。彼は正規軍中隊クラスの指揮官としてこれまで同じような指命令を出したことは何度もあった。あくまで軍隊であって、ならず者の集団ではないのだから、非道な行為など命令できるはずもない。しかしこの別動隊は違う。国のトップが雇っている、正規軍とはまた別の戦力。これまではごく一部の人間にしか知らされていなかった、非合法の作戦行動を取る部隊。そんな彼らが女子供は殺すなと言うのだ。
 だが男はその言葉に、下卑た笑みを浮かべた。

「当然だろ、女も子供も、高く売れるんだからなァ」
「貴様――!」
「おっと、仲間割れはナシだぜ、ケツの穴増やされたくなかったら、大人しくしとくんだな」

 彼らの背後では、数名の衛兵たちが銃を構えていた。余計なことをしたら殺す、ということだろう。それきり黙り込むと、男に向けて引き金が引かれることはなかった。
ルイン・トゥーガン
アドリブ絡み歓迎

生身での潜入作戦なんて久しぶりだねぇ
伊達に海兵隊に特務隊に所属してた過去があるわけじゃないさね
衛兵達には特別に市街地での【ゲリラ戦】の恐ろしさを教育してあげるよ
便衣兵って知ってるかい?ハッ、禁止行為?今更、知ったこっちゃないさね
さて、アルマっていったかい。背格好の似たゲリラ用意したからさっさと服交換して入れ替わるんだよ
ゲリラを囮にして、アタシが家族に扮して護衛してやるから逃げるよ、パパ?それとも兄さんがいいかい?
仮にバレて補足されても問題ないよ。偽名でトゥーガンなんて名乗ってるのはそれなりの理由があるさね
古巣での白兵戦、CQBじゃアタシの二丁拳銃に勝てる奴は片手の指で足りたさね


アマリア・ヴァシレスク
…なんだか不穏な予感がする、です
だけどこれもまたお仕事…です。【覚悟】を決めて出発、です!

まずは工作員の人と合流するのを優先、です。ライフルを使っての【スナイパー】と【援護射撃】で衛兵の狙いを私の方に【おびき寄せ】て退路を切り開く、です。もし近距離に潜り込まれても銃剣格闘や【グラップリング】と【暴力】で対応、です。
それと、【視力】や【聞き耳】を活かして【索敵】し、できるだけ逃げやすい経路をアドバイスする、です。
可能ならばその際に、今回工作員の人が得た情報についても聞いておきたい…です。

さっき脳裏をよぎった不穏な予感、どうしても気になってしまう…です。




 遡ること十数分前。

「生身での潜入作戦なんて久しぶりだねぇ」
「……なんだか不穏な予感がする、です」

 市街地へと抜け出してきたアルマの姿を建物の窓越しに捉えながら、二人、ルイン・トゥーガン(B級戦犯指定逃亡者・f29918)とアマリア・ヴァシレスク(バイオニックサイボーグ・f27486)は作戦の準備を行っていた。
 この辺りにはまだ衛兵の姿は無い。それどころか、どう見ても人が生活していた形跡はあるのだが、生活をしている人の姿が見えない。戦闘が近くで行われている訳でもないのに避難しているとは考えにくいが――。
 一旦姿を隠して様々思慮を巡らせているうちに、ふと窓がノックされた。手鏡をそっと覗かせ再び窓の外を確認するも、相手の姿も見えない。とはいえこの場所に居る人物などたかが知れている。

「そこに居るんだろう、君たちもあの傭兵の仲間なのか」

 聞こえた声から推察するに、予想通りアルマのようだ。二人は顔を見合わせ頷くと、立ち上がって姿を見せた。

「なんだ、こっちから出向く手間が省けて助かるね」

 彼を建物内に招き入れ、早速状況の確認を始める。どうやらこの市街地の中に彼らの拠点があるようで、追手を撒いてその入り口まで辿り着ければ完遂となる。解放軍は彼が戻り次第情報の共有を行って作戦を修正、それからすぐに攻め入るという予定のため、周辺の住民の避難は既に済ませてあるとのことだ。また潜入先で掴んだ情報にもアマリアは尋ねたが、彼曰く時間が惜しいとのことで、情報の代わりに一枚のメモを渡された。

「そこが俺たちの拠点の場所だ。……どうせ報告もしなきゃならん、その時まで生きてりゃ教えてやるよ」

 逃走のためにルインの考えた作戦はこうだ。召喚したゲリラ兵に囮をやらせ、アルマを逃げ遅れた一般人に扮して逃がす。この上なくシンプルだが、相手の虚を突くのは重要なことだ。またアルマの提案で、逃げ切ったら合図を出す、というものが付け加えられた。確認次第引き上げ、メモの場所へと向かう。そうすれば彼が掴んだ情報も入手できるとのことだ。

「問題は、奴らが一般人も関係なく撃つっつーことだ」
「撃つ、ですか? 関係のない人を、です?」
「ああ、撃つさ。どうせおそらく正規の軍隊じゃないだろうしな、俺の予想が正しけりゃ、奴らはちと人を殺し慣れてるような連中だ」
「そん時はそん時さね、分かったらとっとと覚悟を決めて着替えるんだよ」

 既にゲリラ兵の準備は整っているようだ。扮装のための衣類は建物内から拝借したものだが、彼の服は彼自身が着ているものしかない。囮をさせるにはアルマもゲリラも着替えさせる必要がある。

「ここで着替えるのか?」
「なんだい、小娘じゃあるまいし。今更恥じらってる時間はないよ」
「いや俺は良いんだが……」

 アルマは言いかけて、アマリアに視線を向けた。

「わ、私、です? えと、じゃあ私はあっち向いておく、です……」
「済まんな」
「一丁前に紳士ぶってないでさっさと着替えな!」

 そんなこんなで準備は整い、市街地に展開し始めた衛兵たちを迎え撃ちながらの撤退戦が始まった。

「こっちの方が敵は少ない……です」

 アマリアは一般人に扮した男と共に、なるだけ敵の数が少ない道を選んで進んでいた。聞こえていた銃声が止んだということは、おそらく囮のうちの一人がやられたのだろう。つまり敵に囮作戦を取っていることがバレたということだ。アルマの言っていたことが事実なら、見つかれば躊躇なく襲ってくるだろう。
 建物の壁を背に角から通路を覗くと、その先に衛兵が三名。全方位をカバーし合っているようで、見つからずに抜けるのは容易ではない。

「ここで待っていてください、です」

 アマリアはそう言うと、建物伝いに衛兵たちの反対側へ向かう。既に弾丸が装填されている愛用のライフルを手に、深呼吸をひとつ。敵はまだこちらに気付いていない。姿勢を低くし、息をひそめて、集中。

「――」

 引き金を引いた。
 発破音と共に狙撃用のフルサイズ弾が衛兵の脚を貫いた。距離が近かったせいか彼の脚は無事ではなさそうだが、この際気にしている場合ではない。
 突然のことに反応が遅れ、時間差で攻撃に気付いた衛兵たちは、倒れた仲間に駆け寄りながらも銃弾の飛来した方向を警戒する。だがまだ場所までは気付かれていない。ボルトを引き、次弾を装填。引き金を引く。
 再び銃声が鳴り、二人いた衛兵のうち片方の脚が弾けると同時に、もう片方が狙撃地点を発見した。

「そこか!」
「もう遅い、です!」

 立ち上がったアマリアのすぐ横に、空の薬莢が跳ねている。既に装填は完了していた。しかし撃ち込んだ弾丸は敵を捉えず地面へと埋まった。それを確認すると、アマリアは踵を返し全力で走る。
 外したのは狙いがブレた訳ではない。こうすれば敵が自分を追ってくると考えたからだ。案の定追撃を仕掛けてきた。嬉しくも誤算だったのは、聞きつけた他の衛兵たちまで追ってきたということだ。多くの敵をこちらで引きつければ、彼を安全に逃がすことも容易になる。
 一人、二人、三人、順にライフルで戦闘不能にしながら、複雑な地形を走り回る。ようやく追手が無くなる頃、彼女は男の元へと再び合流することにした。だが。

「あれは――」

 駆け付けたそこでは、衛兵が一人、男の頭に銃を突き付けていた。

「見かけたら全員殺せって命令だからな、恨むなよ」

 アマリアが止める間もなく、衛兵は引き金を引いた。銃弾は無惨にも頭を貫通し――。

「なっ――!!」

 霧散して消えた。
 そんな狼狽する衛兵の背後。彼女は両手を組んで振りかぶり。

「残念、こちらは偽物、です!」

 おもいきり振り下ろした。
 一方本物のアルマとルインは、また別の道を隠れながら駆けていた。当然一般人に扮しているとはいえ、見つからないに越したことはない。

「ふん、流石にお前さんじゃ不自然だろう。パパ? それとも兄さんがいいかい?」
「年上にそんなことを言わせる趣味は無い」
「ほう?」

 年上と言われたことに少々驚きながらも、足は止めない。ルインの外見はとてもじゃないが大人には程遠い。見た目だけの話をするならば、アマリアの方が断然年上に見えるだろう。実際はやがて一回り程ルインの方が上であったが。

「あんた、普通の人間じゃないだろ。遺伝子操作か、薬物投与か……まあいずれにせよ、そういう人間を見るのは初めてじゃない。あとは勘だ」
「たいした洞察力だが、長生きしたいなら余計なことは言わないことさね」
「そりゃどうも」

 そんな話をしている矢先、建物の陰から衛兵が数人姿を現した。驚いている様子を見るに、おそらく偶然居合わせたのだろう。会敵した瞬間、ルインの顔つきが変わる。だがそれは戦う者のそれではなかった。
 わざと止まれない振りをして敵にぶつかり、しりもちをつく。見上げる怯えた表情。それを見て、衛兵たちは品のない薄ら笑いを浮かべた。単純な奴だと、本当は今すぐにでも笑い出したいところではあったが、流石にそういう訳にもいかない。
 作り物の怯えた表情を浮かべたまま腰を抜かした振りをしているルインの腕を、衛兵の一人が強引に引き上げ、頭に銃を突きつける。

「兄さん……逃げて……」

 アカデミー賞モノの演技でアルマを逃がそうとするルインだったが、唯一の誤算があったとすれば、あまりにも迫真すぎてアルマさえも呑まれてしまったということだろう。彼女は心の中で舌打ちをしながら演技を続ける。

「オイ兄ちゃん、俺たちはな、見つけた奴は全員殺せって言われてるんだ。お前は探してる奴じゃなさそうだが――」

 ルインは思った。こいつらは間違いなくバカだ。

「――全員殺せって言われたら、殺すしかないよなぁ。でも俺たちは鬼じゃない、どっちか片方は生かしてやろう。さあ、どっちが死ぬんだ?」
「そりゃお前たちさ」

 もう少し楽しもうと思っていたが、思っていたよりも面白くなかったために、早々に飽きが来てしまったようだ。ルインは自分の腕を掴んでいた男の足に、どこからともなく取り出した銃で鉛玉をブチ込んだ。腕を放されたと同時にもう一丁取り出し、ついでに銃を構えていた別の衛兵に向かって男を蹴り飛ばす。左右からアサルトライフルで銃弾をばらまいてきた衛兵は、彼女が地面を蹴って宙へ舞うと、丁寧に同士撃ちを決め込んでくれた。着地と同時に左右の銃からそれぞれ別の場所へ放った銃弾で、二人の衛兵が倒れる。ここに居た敵はそれで全てのようだ。

「トゥーガンの名は伊達じゃないってとこ、見せてやるさね。惚れるんじゃないよ、ボウヤ」
「ハハ……兄さんじゃなかったのかい……」

 追手を撒きながら、ようやく辿り着いたそこは、普通の民家のようだった。しかしその扉――ではなく、裏にある焼却炉のようなものの蓋を開けると、そこには下へと伸びる階段がある。ここが彼らの拠点の入り口なのだろう。周囲を確認するも、敵の姿は無い。ここまで来ればもう大丈夫だろう。

「助かった、後は皆に報告するだけだな。だが約束通り、あんたの仲間が揃うまでは待とう」

 アルマはそう言うと、腕に巻いていた何かの装置のボタンを押した。直後、遠くで緑色の煙を上げながら何か――信号弾のようなものが打ちあがるのが見えた。これが、彼の言っていた合図というやつか。
 この場所の地図を共有しておけば、猟兵たちはここに集まることが出来る。だが敵は信号弾の上がった場所に人がいると思い、その場所へ集まる。なるほど考え無しではないようだ、とルインはほんの少しだけ感心する。
 外から姿が見えなくなる最後の最後まで警戒しながら、ルインは焼却炉の蓋を閉じた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『ファイア・リグオン』

POW   :    戦術パターンA『火力制圧』
【全武装の一斉射撃による飽和攻撃】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    戦術パターンB『可変射撃』
【RS-Sショルダーキャノン】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
WIZ   :    戦術パターンC『牽制射撃』
【RSハイパーガトリングガン】【RS-S高誘導ミサイル】【RS-A左腕部ロケットバズーカ】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



「敵の姿が見えねぇな……逃げられたか」
「そのようだな」

 指揮官らしき男と、別動隊のリーダーと思わしき男は、二人離れた場所から状況を眺めていた。
 そこそこの戦力を投入したつもりではあったが、それはあくまで敵が一人だった場合の話だ。潜入の段階で相手が複数いるなど、どちらにとっても予想外の事態だった。それも相手は対複数戦を容易くこなせる精鋭ときた。どうやら出し惜しみをしている余裕は無いようだ。二人は同時にその結論に辿り着いた。

「総員撤退! キャバリア部隊は出撃の準備をせよ!」
「お前ら、モタモタしてねぇでさっさと準備しろ! 俺もリグオンで出る」

 猟兵たちにより、敵機には妨害工作を施してあるものもある。数は相当数減らしてあるがそれで全てではない。敵は残った戦力を結集しつつあった。


 解放軍の拠点に集まった猟兵たちはまず、他とは違う大仰な階級章と勲章を提げた軍服の男に迎えられた。グリモアベースで見た男、解放軍のリーダーであるスドー・ホシガミという男だ。とは言ったものの、彼の素性を知っているのはこちらの都合であり、怪しまれない為にも自己紹介だけは聞いておくことにした。

「では早速此度の報告を」

 スドーの言葉にアルマは静かに頷くと、一歩前に出る。

「今回敵戦力の偵察を行いましたが、結論から言えば我々の予想とほぼ同等であることが判明しました。侵攻経路含め作戦の大幅な変更は必要ありません」

 ですが、とアルマは続ける。

「それはここに居る協力者たちの力を借りてのことです。彼らが居なければ、これの倍、いやそれ以上の敵と戦う必要があったでしょう。まずは彼らの協力に感謝を」

 猟兵たちの方を向き直り頭を下げる彼の姿は、先ほどまでとは打って変わって丁寧に感じる。まあ上官の手前というのもあるのだろうが。

「予想外だったことは二つ、一つは敵戦力が正規軍だけではないということ」

 周囲に集まっていた解放軍のメンバーがざわつく。戦う相手が軍隊だと思っていたのだから、そうじゃないと言われれば驚くのも無理はない。

「おそらく敵の半分以上は非正規軍――トップ連中が隠蔽や火消しに使う、非合法の武装集団です。キャバリア部隊としての戦力は偵察できませんでしたが、正規軍よりも戦い慣れしていることは間違いないでしょう。そしてもう一つは――」

 アルマは一枚の写真と、それに付随して書類を数枚と封筒を一部、ミーティングテーブルへ置いた。

「敵の新型です」
「新型……だと?」
「ええ、明らかに軍用のものとは別に、新型のキャバリアが調整を行っていました。これがそのデータです」

 新型と呼ばれたその写真に写っていたのは、全身黒づくめのキャバリア――否、猟兵たちにはすぐに分かった。あれは新型キャバリアではない。あれこそが彼らの標的、オブリビオンマシンだ。
 書類には様々な数値が並んでいる。その最下部にサインと印鑑が見えた。責任者だろうか、そこに綴られた名前は、ナラカ・ホシガミ――。当然のことではあるが、最初から分かっていたようで、スドーの表情に変化は無い。彼が気にしていたのは、新型のスペックなどどうでもよさそうにしていたアルマだ。むしろそれとは別に、置いた封筒の中身を気にしているような素振りさえある。自分から話を振るべきかどうか、まるで迷っているようだ。

「なるほど、新型には気を付けておこう。して、その封筒は」

 見かねたスドーが彼にそう尋ねると、アルマはとうとう諦めたように、猟兵たちへ視線を向けながら封を解き始める。

「情報はあんた達にもくれてやる、そういう約束だったからな……」

 その封筒から出てきたのは、また別の書類だった。先ほどと同じように、様々な数値や文字の羅列がある。だが唯一明らかに違ったのは、備え付けられたものが機械ではなく人の写真だったということだ。
 そして、その写真を見たスドーは、目を見開いた。

「大佐、今一度聞きます」

 一度写真を手に取り、しかし震える手で握ることすら叶わないスドーに、アルマは真っすぐ向いた。

「――本当に、よろしいのですね」

 書類に記されたテストパイロットの名前。それは。
 アスハ・ホシガミ――かつて戦火に呑まれて行方知れずとなっていた、彼の娘の名だった。


 白兵隊とキャバリア隊に別れ、敵の首領を叩く。猟兵たちはそのキャバリア隊と行動を共にすることになった。
 アルマの話によると、キャバリアには搭乗してもしなくてもどちらでもよいそうだが、必要な場合は貸与も可能らしい。戦いやすい方法で行くと良いだろう。解放軍のキャバリア隊とは暗号通信が可能になっているため、連絡事項があれば伝達できる。舞台は整った、というべきか。
 全機が一斉に出撃したその直後、解放軍の一人が前方に展開する敵機を捕捉した。いよいよ戦いの火蓋は切って落とされる。
 ある者は未来のために。ある者は国のために。ある者は享楽と酔狂のために。ある者はそれが正義と信じて。ある者は、艱難辛苦と葛藤の果てに。
 それぞれが、己の信念を掲げて――。
ユーリー・ザルティア
※アドリブ、連携はご自由に

ヤレヤレ信念って奴かしらね。
リッパだけど、悲しい話ね。これが戦争って奴か…。
ボク達猟兵が頑張ろうハッピーエンドのためにね…。

さて、ボクはレスヴァント。学習型AI【ARICA】をパールバーティに搭載して無人運用で出撃で行く。
ARICA『援護射撃』よろしく頼む


『範囲攻撃』で効果範囲を拡大したプラズマ・スフィアで敵機の動きを停止。
今のうちよ!!

アストライアの『制圧射撃』で撃破。
ESレーダーユニットの『索敵』で『情報収集』して撃破されそうな味方機を『瞬間思考力』で見極めて、優先的に援護に向かうわ。

敵の攻撃は自慢の『操縦』テクニックで『悪路走行』『ダッシュ』で軽やかに回避ね。


田中・夜羽子
色々事情があるみたいだけど、
私は依頼されたことをきっちりやるだけよ。

今回の目的は、雑魚の相手をしつつ黒い新型を誘き出すことね。
さぁ、『ヤルダバオート』でるわ!

僚機の援護は難しそうね、ただ自分が目立てばそれだけ被害は減るはず。
FAMGライフルやバックパックのアームにマウントしたチェーンガンの【スナイパー】でコックピットや機関部か駆動部を狙って攻撃、とにかく戦力を潰して状況を悪くさせれば、狙いのやつも出てくるはずだわ。
それに、派手にドンパチするのは得意中の得意なのよ!

FAMGライフルなら量産型の装甲程度なら薄っぺらい紙と変わらないわね。
迂闊に出てこなければ死ぬこともないのに。




 一斉に出撃していくキャバリア隊の後姿を見ながら、ユーリーと田中・夜羽子(偽神装機・f31315)もまた自らの出撃準備を進めていた。

「ヤレヤレ信念って奴かしらね」

 待ち望んだ変革の時、悲願が達成される時。泥水を啜るように生きてきた彼らにとって、これは初めての勝利の味なのかもしれない。

「リッパだけど、悲しい話ね。これが戦争って奴か……」

 ユーリーのため息交じりの声は、猟兵たちだけが残された格納庫に寂しげに反響する。
 そう、これは戦争だ。規模が国家間ではないというだけで、革命という名の外套を纏った、これは紛れもない戦争なのだ。

「……色々事情があるみたいだけど、私は依頼されたことをきっちりやるだけよ」

 隣で準備を終えた夜羽子は、通信回線を閉じ一人コクピットの中で呟く。グリモア猟兵は確かに、迷わず討てと言った。ならばこんなところで二の足を踏んでいる場合ではない。
 オープンチャンネルに切り替えて、周囲の人影を確認。障害は無い。

『さぁ、「ヤルダバオート」でるわ!』

 とあるオブリビオンに封印を施したそれは、彼らの標的と同じオブリビオンマシンだ。だがその禍々しき力を扱っている猟兵たちも珍しくはない。彼女もその一人なのだろう。解放軍たちと同様に出撃していった彼女の姿を見て、ユーリーは再びのため息と共に目を閉じる。集中しなければならない。

「だからこそボク達猟兵が頑張ろう」

 静かに瞼を開き、クリアになった視界を確認する。障害、異常共に無い。彼女の僚機であるパールバーティには、既に学習型AIを搭載してある。出撃の時は来た。頭部のモノアイに光が灯り、彼女の愛機であるレスヴァントは一歩踏み出す。

『ハッピーエンドのためにね……』

 解放軍に遅れて出撃した二人が彼らに追いつくころには、既に戦闘は始まっていた。識別コードは敵となっているが、解放軍と同じキャバリアを扱っている彼らは、おそらく正規軍の戦力だろう。一見したイメージとしては、本体も装備も全てにおいて非常に「軽そう」だ。機動性が高いのかもしれない。そうでなければ、この機体は生産する意味すらないだろう。ここは任せても大丈夫そうだ。
 問題はそう、後方から出張ってきた機体群。黒のシルエットに、両腕、両肩に装備された重量過多とも取れる重火器。何故かどことなくオブリビオンマシンに似ている気がするが、あれはオブリビオンではない。つまり操縦しているのは人間、ということだ。
 敵機、ファイア・リグオンの編隊はまだ少し離れた場所に居る。このまま戦場を通過して先を急げば、合流させずに分断して戦うことが出来るかもしれない。そう考えたユーリーと夜羽子は、正規軍の相手を解放軍に任せることにした。

『さて、こちらから行かせてもらうわ』

 どっしりと構えた電磁投射砲の三本のレールに電力が流れ、電磁気力が発生する。まだだ。まだ、極限まで高めて、そして、撃つ。
 音すら遅れてやってくるほどの高速弾が、まだ離れた地点に居る敵機の腹部を貫いた。冷却を待ち、続いて二機目、三機目と倒れていく。しかし彼らは止まらない。どんなに味方が墜とされようと、傷付こうと、それでも止まらない。それはまるで、死の行進のようだった。

『量産型の装甲程度なら薄っぺらい紙と変わらないわね……で、数はいくつ減らせばいいのかしら?』
『もう十分』

 敵に接近しつつ、ユーリーはいくつかの計器を弄りだす。

『まずは味方機に対EMPシールド付与……っと』

 離れた場所に居るとは言え、解放軍の戦線に影響を出すわけにはいかない。対電子機器用電磁パルスを遮断するシールドを展開しながら、彼女は同時に攻撃の準備も行っていた。

『――じゃあ、魅せてあげる。これがボクの切り札って奴。……EMP干渉攻撃開始ッ!!』

 文字通り全力で発せられた電磁パルスが、戦場全体を覆いつくす。保護されていない敵のキャバリアたちは悉くが電子機器をやられ、その機能を停止した。何より効果的だったのは、エネルギーインゴットを動力に変換する機構を電力で稼働させていたため、戦場の敵ほとんどがキャバリアの稼働自体を諦めざるを得なかったというところだろう。
 だがそれも完全ではない。中にはまだ動ける敵も居る。このまま放っておけば、増援も考えられるだろう。今のうちに叩いておかなければならない。

『今のうちよ!!』
『ええ』

 自身もキャバリア用のアサルトライフルと僚機による援護で攻撃を行いながら、夜羽子と共に敵戦力の掃討を始める。

『さあ、潰して潰して潰しまくるわ、派手にドンパチするのは得意中の得意なのよ!』

 バックユニットに搭載された八本のアームに連なる各種兵装を巧みに扱い、時にはチェーンガンで薙ぎ、時にはロケット弾でまとめて粉砕し、冷却が終わったらレールガンで撃墜していく。
 足下を掬い倒れたキャバリアのコアブロックへ零距離からチェーンガンを撃ち込んだところで、ちょうど一部兵装の弾薬が尽きた。周囲を見渡すと、もう動いている敵は直近には居なさそうだ。驚くべきことに、敵の第一陣はほぼ二人だけで壊滅させてしまったようだ。

『……迂闊に出てこなければ死ぬこともなかったのに』

 後方から、同じく正規軍の掃討を終えた解放軍の雄たけびが聞こえる。先に進んでも問題ないだろう。実弾兵器の補給を行うため一旦後方へ下がりながら、二人は先行する他の猟兵たちを見送った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月守・咲凛
SPDで戦闘、アドリブ他諸々OK
自機に搭乗します。
戦いなのは分かるのですけど、相手はオブリビオンじゃないのです……。
あまりやる気は出ませんけど、人を死なせたくないのです。
前へ前へと出て、自分を狙わせる事で味方の損害を減らそうとします。
敵機への攻撃は徹底して敵の腕や武装を狙い、相手の戦闘続行不能による撤退を狙います。カメラや足を奪うと逃げられなくなってしまうので、そこは狙いません。
少しでもダメージを受けた味方には撤退を促し、死亡ダメージを受けそうな機体は敵味方問わずシールドグレネードで護ります。
オブリビオン戦には味方を参加させる気はありません、戦闘終了後の味方は攻撃してでも撤退を強要します。


アマリア・ヴァシレスク
姓が同じということは…もしかして奥さんと娘さん…です?
やっぱり、嫌な予感が当たった…かもです。
この家族の過去に何があったかはまだ分かりませんけど、ここで止めなければいけない、です。

キャバリアは…今回は必要ない、です。ひとまずは【地形の活用】で敵に捕捉されないように立ち回る、です
もし、こちらが狙われたとしても【見切り】で回避を優先、ですっ!
今回は【視力】を活かしつつ【スナイパー】で敵キャバリアのセンサー類を狙い撃つことに集中する、です。
センサー部は特に防御が薄い部分ですし、破損すれば戦闘への影響は大きい…この【部位破壊】を他の方への【援護射撃】とします、ですっ!




 アマリアは一人、誰も居ない高台に身を潜めていた。キャバリア隊が戦闘を行っている区画から離れた、戦場全体が見渡せる場所。と言っても、通常人が見渡そうとするならば、スコープや双眼鏡が必要になるだろう。しかし彼女はその距離を、あろうことか肉眼で確認していた。
 愛用のライフルを片手に、入り乱れる戦場の黒鉄を見つめていた彼女は、ふと先ほどの拠点で見せられた資料の中身を思い出していた。
 オブリビオンマシンのパイロットとして名を連ねていたアスハ・ホシガミ。諸々の資料に責任者としてサインしていたナラカ・ホシガミ。そして、そんな彼女らに反抗するべく武器を取った者たちの統率者スドー・ホシガミ。彼らの関係など、これ以上誰かが何かを言わずとも最早知れたことだ。何故このようなことになってしまったのか、彼らの過去に何があったのか、それは分からない。だが一つだけ確かなことがある。

「必ずここで止めてみせる、です……!」

 姿勢を低くし、寝そべるようにして衝撃に備える。スコープを覗く要領で彼の地の敵機を捕捉、照準を合わせるその距離約四千。高所からの撃ち下ろしではあるものの、これだけ超長距離となれば、温度、湿度、風向き、更には惑星の自転までもが影響してくる。集中。全てを、視力とこの引き金を引く指先に、集中。周りから音が消え、耳が痛くなるほどの静寂が辺りを包む。いや、耳が痛いという感覚さえ遮断し、その時が来るのをじっと待つ。
 そして――。


 待ち構えていた第二陣との戦闘は、混沌を極めていた。先ほどは半々だった正規軍と非正規軍の割合が、明らかに非正規軍に傾きだしたのだ。正確には初めから分かっていたことではあったが、戦い慣れしている彼らに解放軍のキャバリア隊が圧倒され始めていた。正直解放軍が全滅したところで猟兵たちだけでもこの状況は覆せるし、敵を殲滅することは可能だろう。しかしそれを猟兵たちは、咲凛は許さなかった。オブリビオンではない生きた人間を相手にする戦闘行為自体に乗り気ではなかったものの、それで人死にが出てしまうというのなら話は別だ。
 敵の機体は遠距離からの火力支援型、近づいてさえしまえばこちらのものだ、などと甘い話ではないようだが、それでも一部の兵装は間違いなく無力化できる。後方から一気に前線へ、翼のような残光と共に、アメジスト色の軌跡が翔け抜けた。飛び交う銃弾とミサイルの雨の中、自身を目掛けて飛んでくるものは躱し、それによって味方に被害が出そうな場合はシールドグレネードを投げ防ぐ。

『死なせないのです、誰も、絶対に!』

 誰も。それは敵味方問わず、全てということ。
 開いた装甲から、疾走しながらロックオンした全ての敵に誘導ミサイルを放つ。狙いは両手両肩の兵装と、武器を扱うための腕だ。避けられた者には肉薄し、ビームサイズとビームチェーンソーで直接武器と腕を破壊する。頭と脚を残したのは、逃げる手段を残しておくためだ。
 戦場は最早、彼女の独壇場だった。蝶のように舞い、蜂のように刺す、まるでその言葉は彼女のために用意されたかのようだ。踊るように戦場を駆ける姿は、まるでサーカス――。

『――っ!?』

 ふと、背後で何かが爆発した。急速転回、振り返ったそこには、解放軍のキャバリアだった残骸を足蹴にする機影があった。あの遠距離特化の機体で、この敵地に単機で乗り込んできたというのか。

『随分楽しそうなダンスパーティーじゃねえか。俺も混ぜてくれよ』

 言い終わると同時に、ショルダーキャノンが砲身を低く落とした。避け――ると味方に当たってしまう。瞬時に判断した咲凛は、水晶のようなグレネードを投擲し、障壁を展開する。だが勢いを取り戻した敵の攻撃から全てを守るにはそれだけでは足りない。出来るだけ多くの味方に障壁を張り、ガーディアンユニットも稼働、手の届く範囲は直接砲弾を叩き落す芸当すら見せた。ただ、足りない。一人ではどうしても足りない。これ以上敵の増援があれば、もう守り切れない。
 そんな折、視界に入ったのは、足蹴にされていたキャバリアの残骸。正確にはコアブロックだろうか。損傷はそこまで激しくない。もしかしたら、まだ生きているかもしれない。しかしそれに同時に気付いた者がいた。

『なんだァ、もしかしてまだ生きてるのか? ダメじゃないか、大人しく死んでなきゃなァ!!』
『やめ――!』

 黒鉄の脚が、勢いよく踏み抜いた。吹き上がる赤い飛沫が、冷却水なのか、オイルなのか、それとも血液なのか、もう分からなかった。

『ぁ……ああ……』

 守れなかった。全部守るといったはずなのに。なのに守れなかった。
 盾は自律しているかのように他の味方を守り続ける。呆然自失としていながらも、無意識に味方を守ろうとしているのだろう。だが自らに向けられた砲筒にはまだ気付かない。放たれたショルダーキャノンは愛機シーガルの直ぐ傍を掠め、背後の味方機に直撃した。もう、振り返ることすらできなかった。

『なるほどなァ……』

 おそらくこれが敵のリーダーとやらなのだろう。彼は何かに気付いたように呟くと、全ての砲門を咲凛へと向けた。

『自分がガラ空きなんだよ、お前さんよォオオ!!!』
『っ……!!』

 やがて、それらから砲弾が発射され――。

「……そこ、ですっ!」

 なかった。否、発射できなかったといった方がいいだろうか、直前で何かに弾かれたように体勢を崩した敵キャバリアは、立て直そうとしたところでまた同じように二、三度弾かれ、再び体勢を崩す。近くに攻撃した味方機の姿は無い。
 狙撃だ。よく見ると敵機のセンサーを破壊しているようで、おそらく射撃武器を扱うのは不可能となっただろう。我に返った咲凛は、目の前で体勢を崩したままの敵の姿を視界に捉えた。
 これは敵だ。仲間を殺した、敵だ。生かしておいたらまた誰かを殺すかもしれない。敵だ。敵だ。敵だ!

『ぅああああああああああああああああああ!!!!!』

 両手に携えたビームサイズの刃が、翼のように展開する。それを思い切り振り下ろすと、切断された残骸が地面へと転がった。
 残ったのは、他の敵機同様、全ての武器と両腕を切り落とされた歩く棺桶だった。
 彼女は殺せなかった。たとえ誰かを殺した人間だったとしても、彼女にはそれが出来なかった。

『とっととおうちに帰って、お母さんに泣きついてろ――です!!』

 トドメとばかりにアジサイの突進を喰らわせると、よろけたまま何処かへ走り去っていった。センサーを破壊されたときに外部スピーカーもイカレたのだろう、おそらく何かを喋ってはいたのだろうが、何も聞こえなかった。
 そうこうしている間に再び勢いの衰えた敵勢力も、アマリアの狙撃とガーディアンユニットが上手く処理してくれていたようで、撤退する敵軍の後姿が見える。第二陣はこれで全て片付いたようだ。

『……皆さん』

 シーガルのオープンチャンネルで、咲凛は周囲に呼びかける。

『この先戦闘は厳しくなるです。敵の新型が出てきたら、私たちに任せて引き下がってくださいです』

 それに対して反対の声が上がることは分かっていた。だからこそ、彼女も強引な手を使わざるを得なかった。

『――こんな、ふうにっ!!』

 ガーディアンユニットを思い切り地面に叩きつけて、強引に全員を黙らせる。

『こんな……ふうに……死にたくなかったら……言うことを聞くのです……っ!!』

 それきり回線を閉じた咲凛は、撃破されたキャバリアの残骸を一瞥すると、そのまま進軍を再する。アマリアの視力をもってしても、コクピットに籠った彼女がどんな表情をしているのかは見えない。それでもその場にいた全員が、まるで泣いているようだったと、それだけは感じていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ルイン・トゥーガン
アドリブ絡み歓迎

上層部直轄の非正規軍?
あぁ、糞ったれ!昔を思い出してイラつくねぇ!?
だが、まぁ元同類だけあってある程度やり口は予想できるかね?
向こうも正規軍と仲良しこよしってことはまずないだろうし、その辺が狙い目かね

白兵隊とキャバリア隊に別れるってことは、こっちは囮の意味合いもありそうだね
まっ、精々派手にやるさね。アマランサス・マリーネ出るよ!
敵は重装タイプか。ハッ、当たらなきゃいいさね!
【エースパイロット】として性能限界まで機体をぶん回して高機動で翻弄するよ!
手に持ったビームアサルトライフルにバズーカ、サブアームのサブマシンガン2門に、肩のミサイルポッド。強襲仕様のこっちも火力は十分さね!


メアリーズ・エリゴス
あら、あらあら?
テストパイロット、アスハ・ホシガミの書類のデータ。全部ではないですが一部は読み解けますね
私のデータに類似点がありますね。つまりはそういうことでしょうかね?
まぁテストパイロット扱いなら私よりマシかもですね。生体CPU、部品扱いもなってみると意外と悪くはないんですけどね?

ロートガル、出ますよ
解放軍の方々は無理せず援護に徹するだけでいいですよ?私のお相手が減っちゃいますし
まずは【オーバードーズ】しますね
くひっ!ひひっ!あぁ、強い殺気(アイ)を感じますねぇ。これは非正規軍の方々ですかね?
壊(アイ)し甲斐がありますねぇぇ!
私を含めたロートガルの性能は、そんな機体じゃ止められませんよぉぉ!


キリジ・グッドウィン
※アドリブ歓迎です

アレェ……アチラさんとコチラさんがあれそれで修羅場か?まあ今回はとりあえずコチラなんでコチラで。大義の為に動いてるのに、個人の情に踊らされてる。実に"人間"って感じで見てる分には面白い部類だぜ

さっきは経緯上ちっぽけな弾いくつか抛っただけじゃ物足りなかったよなァ!この爪の餌食になりたい奴から来いよォ!!

キャバリア隊として参加。解放軍より前に躍り出て先制させてもらうぜェ
ノロマが!こっちだバーカ!!
こちらの拳は特別製だ、シビれちまいな!後ろから味方サンから銃撃やら妨害するヤツが飛んで来るだろうし、撃たれた所を更に傷口から抉ってやろうじゃねぇか!




 時は少し遡る。
 作戦開始直前。解放軍拠点、ミーティングルーム。
 大部分の灯りが落とされた薄暗い部屋の中、ルインは空になったドリンクのボトルを不機嫌そうに蹴り飛ばした。ボトルは壁にぶつかり跳ね返ると、そのままゴミ箱へ吸い込まれる。

「なーに怒ってんだよ」
「るっさいね……こちとら昔を思い出して苛々してんだよ」

 上層部直轄の非正規軍、それを聞いた時から、彼女の機嫌は幾らか悪そうだった。というよりも、間違いなく悪かった。微妙に噛み合っていない会話を交わしたキリジもこれには肩をすくめる。

「……まあ、向こうも正規軍と仲良しこよしってことはまずないだろうし、その辺が狙い目かね」

 苛ついていても冷静に。元々同じような存在だったからだろうか、ルインは大きく息を吐くと、それとなく予想のつきそうな弱点を口にする。確かに彼女の言う通り連携のなっていない部分を叩くのが効率的だろう。ともすれば組織同士どころか、組織内での連携すらままならない可能性もある。
 だがそれはあくまで可能性の話だ。もしかするとこの解放軍とやらも統率の取れない駄組織かもしれない。キリジはふと彼らのことを思い浮かべ、心内で密かに笑ってみせた。或いは憐れみのようなものだったのかもしれない。

「大義の為に動いてるのに、個人の情に踊らされてる。実に"人間"って感じで見てる分には面白い部類だぜ」

 つい口をついで出た言葉に反応するものはその場に居なかった。
 そろそろ出撃の準備をする時間だ。これ以上ここに留まっていては、解放軍のキャバリア隊に後れを取ってしまう。二人は未だ摘まみ上げたミーティングテーブルの書類と無表情でにらめっこするメアリーズへ呼びかける。しかし彼女はやはり無表情でじっと書類を見つめているだけ。
 彼女が持っている書類は、オブリビオンマシンと思わしき機体の、テストパイロットのものだった。アスハ・ホシガミとの名前が記されたその書類の記載事項、主に数字の羅列を眺めているように見える。そして。

「あら、あらあら?」

 不思議そうに、或いは初めからそうだと予想していたかのように、彼女は歪な笑みを浮かべる。ただその瞳だけは、まるで得物を見つけた肉食獣のように、役目を終えた書類に据えられた写真を捉えて離さなかった。
 時はやや進んで、格納庫内。猟兵たちは各々出撃準備を終え、コクピット内にて待機を行っていた。

「私のデータに類似点がありますね。つまりはそういうことでしょうかね?」

 どうせもう要らないものだろうと黙って持ち出した書類を片手に、メアリーズはひとりごちる。この時点でまだ彼女の言葉の本当の意味を理解できる者は居なかっただろう。

「まぁテストパイロット扱いなら私よりマシかもですね。生体CPU、部品扱いもなってみると意外と悪くはないんですけどね?」

 妖しげな笑みは未だ絶えない。やがて自分の番が回ってくると、通信回線をオープンチャンネルへと切り替える。先に出撃したキリジに続き、メアリーズとルインが並んだ。

『わざわざ白兵隊を別で準備するってことは、こっちは囮の意味合いもありそうだね。まっ、精々派手にやるさね』
『お好きにどうぞ』
『生意気な小娘だね』
『別に無理せず援護に徹するだけでもいいですよ? 私のお相手が減っちゃいますし』

 ルインがそれに鼻で笑って返すと、正面を向き直る。先頭集団はもう会敵しているとの情報があった。先に出撃した猟兵たちも上手くやっているだろう。ならばこれ以上の後れを取るわけにはいかない。

『アマランサス・マリーネ出るよ!』
『ロートガル、出ますよ』

 並んだ二つの紅が、戦場へと疾る。


 現在。
 若干の被害を出したものの、数字の上では全壊がたったの二機という驚くべき軽微な損害でここまで着々と敵陣を突破してきた。この数字の捉え方はそれぞれ違うだろうが、これだけの被害で抑えられているのは間違いなく猟兵たちの活躍の賜物だ。
 そしてまた一人、戦場を駆ける。
 解放軍が前線へ合流する以前に単機で仕掛けたキリジは、拾い上げたキャバリア用ライフルで牽制しながら敵の弾丸をかいくぐっていた。

『しゃらくせェ、来ねぇならこっちから行くぞォ!!』

 空になったライフルを目の前の敵機へ投げつけメインカメラを破壊すると、動きが鈍くなったところへ急迫。両手の鋭利な爪で両脚を切り裂くと、地面に崩れ落ちた機体のコクピットを突き刺した。爪を引き抜いた亀裂から噴き出す熱された冷却水が、返り血のようにキャバリアを汚していく。

『さっきはちっぽけな弾いくつか抛っただけじゃ物足りなかったよなァ! この爪の餌食になりたい奴から来いよォ!!』

 雄叫びのごときその言葉に臆したか、もうやられたとはいえ味方の機体と共にあるキリジの元へ容赦なく砲弾を撃ち込んでいく敵兵たち。元々近接型に見て取れる彼に遠距離から挑むのは当然のことに思えた。しかし彼らの明らかな失敗は、その砲撃によってキリジの姿を見逃してしまったことだ。
 土煙が一体を包み周囲の状況を視認できない中、目標の補足をレーダーに頼るため視線を移したその一瞬。

『ノロマが! こっちだバーカ!!』

 気付いた時にはもう遅い。機体の頭部が宙に舞い、続いて両腕、肩部兵装、両脚、順番に全てが削がれ、残ったコクピットは両手で頭上へと持ち上げられた。徐々に力が加えられる度、金属の撓み軋む音が鳴る。オープンチャンネルに切り替えられた敵機の通信回線を通して、慟哭のような命乞いが聞こえた。それにキリジはにやりと口角を上げると。

『悪ぃな、何か言ったか?』

 出力を上げ、左右から押し潰した。
 土煙が収まる頃、残った敵兵が見たものは、バラバラになった機体の残骸と、ひしゃげて投げ捨てられるコアだった物体、それから水や油、そして血の滴るキャバリアの姿。
 棄てられたコアが地面に落ちるその音を合図とするように我に返った敵兵の一人が、最早やけくそのようにガトリングの弾丸を乱射する。そんな弾が当たるキリジではなかったが、流石に一機ずつ相手にしていては、単機でこの数を捌ききるのは骨が折れそうだ。
 次の獲物をどうしようか考えていた矢先、突如爆音と共に敵の砲撃が止んだ。一瞬のことで何が起こったのか分からず、それでも動きを止めないように確認していると、次いで何やら光のようなものが奔り、敵機を貫いたのが見えた。知っている、これはビーム兵器の光だ。

『敵は重装タイプか。ハッ、当たらなきゃいいさね!』

 追いついた特務仕様アマランサス、マリーネを駆るルインは、敵と同じく重装型に似つかわしい重火器から弾丸を撒き散らしながら高速で戦場を駆ける。そのすぐ後ろ、同じく追いついてきた紅の巨躯、ロートガル。両機ともビームライフルを持っているようだが、先ほどの射撃はあのどちらかなのだろう。
 指揮するものもおらず、戦場を引っ掻き回された彼らは最早ただの有象無象。しかし元々戦闘力の高い者が集まった集団であるからには、油断は出来ない。

『あぁ、強い殺気(アイ)を感じますねぇ。これは非正規軍の方々ですかね?』

 この場所には同型機しか見受けられない。正規軍のキャバリア部隊は別の場所に展開しているのだろうか。まあ今は関係のないことだ。それよりも彼女は、どうしようもない身体の昂ぶりを抑えきれずにいた。

『壊(アイ)し甲斐がありますねぇぇ!』

 足下に転がったジェットインジェクターを蹴飛ばし、操縦桿を握りなおすと、ルインが作った道を並んで駆け抜け、背中合わせに敵陣の中央へと位置する。

『全部まとめて持っていきな、釣りはあの世で受け取ってやるさね!』
『私を含めたロートガルの性能は、そんな機体じゃ止められませんよぉぉ!』

 アマランサス・マリーネのビームアサルトライフルが、バズーカが、マシンガンが、ミサイルポッドが。そしてロートガルのロングビームライフルが、胸部メガビーム砲が、それぞれ同時に火を吹いた。全方位に渡って繰り広げられる殲滅劇に巻き込まれないよう、キリジは捕まえた敵機を盾にしながら、二人から距離の離れている敵に襲い掛かる。
 蹴り倒した機体にトドメの一撃を入れたところで、改めて振り返る。そこには、敵を一切寄せ付けずただただ破壊の限りを尽くす紅の巨体が並んでいるだけだった。

『ひえ……おっそろし……』

 肩を竦めながら、飛んできた砲弾に今しがた倒したキャバリアをぶつけて防ぐと、あの二人から逃げ延びたのか既に満身創痍の敵へと疾り、銃創から縦に引き裂く。砲声が止んだのを確認し、裂いたキャバリアの残骸を投げ棄てると、それで戦場は静かになった。どうやら今のが最後だったようだ。タイミングよく後から追いついてきた解放軍のキャバリア隊は、その惨状を見て言葉を失っているようだった。キリジも彼らの気持ちが分からなくもなかったが、敢えて口にすることも無いだろうと黙っておくことにした。
 これ以上の増援は今のところ見受けられない。が、敵戦力の全体像が見えない以上は分からない。ここから先は敵地の中枢になる。防衛ラインとしてはこの場所が最終地と、普通の思考ならばそう設定するだろう。
 補給を終えた他の猟兵たちも合流し、いざ踏み込まんとした、その時だった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『デモンエクスマキナ』

POW   :    デモンストライク
単純で重い【背部アーム】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    腹装高濃度圧縮エネルギー集束砲『アストロス』
【腹部の砲門から集束エネルギー砲】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    腹装高濃度圧縮エネルギー拡散砲『ドラギュロス』
【腹部の砲門から拡散エネルギー砲】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠カスミ・アナスタシアです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 別所、市街地。
 猟兵たちが戦っているすぐ隣の区画で、スドーは正規軍の指揮官と交戦、並外れた操縦技術で彼を圧倒し、背後から拘束していた。

『私は、貴方に憧れていた……。強く、優しさと厳しさを持ち合わせ、誰からも慕われていた貴方に、私は憧れていた……』

 通信回線を通して聞こえてくるのは、まるですすり泣くような、悲しみを纏った声だった。

『何故です、何故……何故貴方は、我々を裏切ったのですか……!』

 行き場を失った子供のように、だだをこねる子供のように、ただ心の内を吐き出す。それにスドーはただ一言、簡潔に答えた。

『怖かったのさ。だから逃げた、それだけだ』

 彼は信じていたのだ。本当は何か事情があるのではないかと。そうするしかなく、仕方なく裏切ったのではないかと。信じたかったのだ。
 だが、そのノイズの混じった無機質な機械声が、彼の最後の心の砦を完膚なきまでに叩き潰した。

『こわ……かった……?』
『そうだ。俺は逃げ出したんだ』

 聞きたくなかった。何よりも、スドー本人の口から、聞きたくなかった。だからこそ、その瞬間が訪れるのは必然だったのだ。
 気付いたときには、既に右の拳で安全カバーを叩き割っていた。モニター表示と機械音声の事務的なアナウンスとは裏腹に、機内灯は全て赤の警告色へと変わる。

『それが……それが大の大人の言うことかぁあああああああ!!!』

 急反転、リミッターを解除し、機体性能を限界まで引き出した彼のキャバリアは、全身から悲鳴のような軋音を生みながらも、スドーの拘束から逃れ距離をとる。

『機体を棄てるか』
『裏切者の分際で、まだ上官のつもりか!』

 軍用高周波振動ブレードが起動すると共に、周囲の建物のガラスが割れる。

『あんたが悪いんだ……あんたが……あんたが裏切るからぁああああ!!!』

 ほんの数舜前までとは人が変わったように、ブレードを構えて突進してくる。しかしスドーはそれをさも当然のように躱し、足を掛け地面に倒すと、そのままブレードを奪い両脚を切断した。それでもまだ内臓火器に手を伸ばそうとすると、今度は両腕を切断する。完全に抵抗できなくなったところで、解放軍の増援が到着した。

『大佐、ご無事で何よりです。こちらは片付きました。命令通り、正規軍のパイロットは全員生かして拘束しています』
『そうか、ご苦労。あれも救出してやってくれ』

 地面に転がる指揮官機のコアを指すと、キャバリア数機がかりでコクピットハッチの開放作業に取り掛かる。一旦機体を降りたスドーは、丁度こじ開けられたハッチから正規軍の指揮官が運び出される姿を見た。戦闘の衝撃でどこかに頭でもぶつけたのだろう、血を流しているが、別段重傷という訳でもなさそうだ。そんな彼と目が合った。何も言わずスドーを睨みつける彼の瞳は、やはりどこか悲しそうだった。

「……怖かったのさ、この国の行く末が」

 誰に言うでもなく、一人スドーは呟いた。


 正規軍との戦闘もひと段落着いたのだろう、いつの間にか別行動を取っていたスドー他数名のキャバリア隊が戻ってきた。市街地の少し上った高台の上で、戦闘を歩くスドーの部下が、肩部の発光器で信号を送ると、それを見た本隊は歓喜した。猟兵たちの下で本隊指揮を執っていたアルマも、敵ではないことが分かった猟兵たちがそれぞれ武器を下ろすと、ほっと胸をなでおろした。
 あとは合流して、未だ姿を見せないオブリビオンマシンを撃破すれば――。

『――ッ!!』

 突如スドーは、前方を歩いていた部下のキャバリアを全て、高台のなだらかな斜面に向けて蹴り飛ばした。急なことに姿勢制御も間に合わず転がり落ちる彼らは、市街地の本隊近くまで転げ落ちたところで初めてスドーを振り返った。
 しかし彼らの視界に映ったものは、何か正体不明の高熱源が、彼の立っていた場所を飲み込んでいる様子だった。ビーム兵器、だとしたらこれは艦砲クラスだ、火力がこの国のキャバリアと圧倒的に違いすぎる。

『そんな……大佐……死――』
『――んでないわこの馬鹿者!』

 間一髪後方へ跳んで逃れたスドー機は、二射目を警戒しつつ急ぎ本隊へと合流した。

『例の新型か』
『おそらく』

 まだ敵の姿は見えない。退くとしたら今のうちだろう。そう判断したスドーは、アルマへと命令を下した。

『アルマ、残った全機を連れて白兵隊と合流し、そちらを援護しろ』
『な……我々はまだ――』
『――君は、いつから上官の命令を無視するようになった?』
『……っ!』

 アルマは何も答えられなかった。そんな彼に、続いてスドーは叱るでも怒るでもなく、ただ優しく説いた。

『それに、子供のわがままを聞いてやるのも、大人の役目だ』

 初めは何を言っているのか分からなかったが、ふと、新型からは手を引けと言った少女の姿がよぎった。そして尚何も言えなくなる。

『正規軍の連中は全員しょっ引いておいた。どうするかは君たちの判断に任せよう』
『……まるで死にに行くような言い草ですね』
『老人は若者より先に死ぬものだ。知らなかったか?』

 スドーは部下たちを、自分の子供のように思っていた。謎の機体が発掘されたと息巻いて家を出たきりおかしくなってしまった妻と、戦争のさなか行方不明となってしまった娘。どうしようもなくバラバラになってしまった本当の家族の代わりを、彼はそこに見出していた。

『なに、心配せずとも決着をつけるまでは死ねんよ』

 自らの因縁に、過去に、決着をつけるまで。

『……分かりました。皆さんも、どうか御無事で』

 それを最後にアルマは、残ったキャバリア隊を引き連れて退却した。戦線を離脱するまでオブリビオンマシンが現れなかったのは幸運だっただろう。しかしやがてその悪魔のような黒鉄の巨躯が姿を現す。
 息を呑んだ。資料の通りではあったが、まるでマシンというよりも魔物に近いシルエット。まず目に飛び込んでくるのは、背部から伸びる巨大な二本の腕、そして丈夫そうな脚。躯体自体は背骨のように細くつながっているだけにも見える。頭部には、マシンには必要のないはずの牙――否、口があるようだ。一定間隔で蒸気が噴出しているところを見ると、排熱機関なのかもしれない。腹部付近に若干赤熱した痕跡が見られる。先ほどの攻撃はここからなのだろうか。

『ぁあ痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!! あいつら、クスリを薄めやがったのね! 頭が痛くて割れそうだわ!! 後で帰ったら皆殺しにしてやるんだから!!!』

 少女の声だった。スドーは聞き取れるか取れないか程度の声で彼女の名を呟く。

『あいつら全員殺せば帰れるんでしょ……とっとと死んでママへのお土産になってもらうんだから!!!』

 彼女の声に呼応するようにして、金属が割れる音と共に排熱口が開き、強制排気が行われる。地鳴りを伴う船の汽笛のような低い音。それはまるで、獣の雄叫びのようだった。
 オブリビオンマシン。破壊と殺戮の権化、デモンエクスマキナ。全ての元凶たるその悪魔との戦いの火蓋は、今切って落とされた――。
月守・咲凛
アドリブ他諸々OK。

人の命を守れなかった事に対してかなり精神的に危うくなっており、相手の様子を見て、この人も人を殺す人なんだ、という悲しみでかなり攻撃的になっています。
UCとシールドグレネード、キャバリア用のアジサイユニットを盾として使用して、敵の攻撃を躱しながら自棄に近い突撃で空中からの接近戦に持ち込み、自分以外を狙う隙を与えません。

私は、それでも命を守るのです!
生存に関わる部位への攻撃はしませんし、他の人、特に猟兵以外への攻撃に対しては自分の防御を考えず守ります。
(自身を人を守る者として定義しており、猟兵に関しては対等な相手なので、援護はしますが自分が守るべき対象とは考えていません)


ユーリー・ザルティア
ヤレヤレ、戦いも佳境ね。
あとはボク達猟兵にお任せね!

引き続きレスヴァントで出撃するわ。
ARICAは引き続きパールバーティで味方機の離脱の『援護射撃』をお願いするわ。

機体もパイロットも強敵っぽい。
なんか薬やってるみたいだし…なんか事情有りそうね。ちょっと骨折れそうだけど…助けてみるか!!

UCを発動!!最大加速は『肉体改造』された体にもきついけど、頑張るよ。
『瞬間思考力』で射線を瞬時に判断し、機体を『操縦』テクニックで攻撃を回避。当たらなければどうということはない!!

アストライアの『制圧射撃』で行動を阻害。その隙に飛び込みイニティウムで敵機の四肢を『切断』するよ。


※アドリブ、他猟兵との連携OK


ルイン・トゥーガン
アドリブ絡み歓迎

はん、こいつがオブリビオンマシンかい
分かっちゃいたが他の機体と技術体系が違いすぎるね。分類はスーパーロボットに近いかねぇ?
さっき撃ち終えたミサイルポッドをパージして機体を少しでも軽くするよ。でないとヤバそうだしねぇ
流石にアレと接近戦する気は起きないし、大砲に当たるわけにもいかないからね
サブアームのサブマシンガン2丁で牽制しながら、各部のスラスター吹かして機動力で翻弄するよ
ふん!クスリ漬けのガキが、機体性能も本人の反応も良くても、そんな様じゃ狙いが見え見えさね!
砲口はあそこか、一瞬の隙があれば十分さね!
ビームアサルトライフルの【スナイプ・ショット】で発射寸前の砲口を狙い撃ちだよ!




『はん、こいつがオブリビオンマシンかい』

 空になった両肩部のミサイルポッドをパージしたのを確認しながら、ルインは敵機を見据える。明らかに技術体系の異なる黒いオブリビオンマシン。見た目と躯体の大きさを鑑みるに、スーパーロボットに近いだろうか。概ねアルマが入手した情報の通りではあったが、細部に至るまでは未だ未知数であることは確か。もしも先ほど使用した艦砲クラスのビーム兵器を連射できるようなバケモノであれば、迂闊に飛び込むことは出来ない。彼女が愛機のミサイルポッドを外したのも、機動性を少しでも向上させ、敵のいかなる行動にも対応出来るようにする為だ。

『ヤレヤレ、戦いも佳境ね』

 僚機は解放軍の撤退支援に回したユーリーも、同じようにオブリビオンマシンと睨み合っていた。相手はどう見ても堪え性の無さそうなパイロットだ。こちらから仕掛けなければ、黙っていても間違いなく襲ってくるだろう。

『なかなか強敵って感じだけど……』

 どうするの、そう言葉には出さず、ユーリーは彼女らの背後に未だ残っているスドーを見やる。彼は何も言わず、ただじっとオブリビオンマシンの方向を向いていた。

『……まあ、後はボク達猟兵にお任せってことで』

 黙ったままの彼にあまり構っていられる状況でもない。再び敵のオブリビオンマシンを振り返りった。

『あらなぁに? もしかして怖くて震えてるのかしら。随分舐められたものだわ、そんなゴミ以下の足手まとい連れて、勝てると思ってるだなんて!』

 嗤ったり怒ったり感情が安定しない。元からデータにもあったが、彼女自身もクスリと言っていた通り何か薬物を投与していると見て間違いない。おそらくはブースタードラッグの類だろう。この世界では珍しいことでもないというのは、些か悲しい話ではあるが。

『……あなたも、人を殺すのですか……』

 生気の抜けたような声が、通信に割って入る。その主、咲凛は、元来対空戦闘を想定した機体にも関わらず地に足を着け、一歩ずつゆっくりと前に進んでいた。

『それがどうしたのよ、あたしの邪魔をする奴は全部殺すわ、全部、全部よ!!』
『何故です……人を殺すのはいけないことなのですよ……』
『おかしなことを言うのね、人を殺すのに理由なんていらないじゃない。死んでしまえばどれも同じよ!』

 もう彼女の心の中には、かなしい、以外の何ものも存在しなかった。人は守らなければならないの。命は守らなくてはいけないもの。なのに、それを奪おうとする者がいる。壊そうとする者がいる。何故、どうして。咲凛には微塵も理解できなかったし、当然するつもりもなかった。
 一つだけ確かなことがあるとすれば、このオブリビオンマシンを放っておけば、もっとたくさんの、数えきれないほどの犠牲が出るということ。

『させないのです……もう、誰の命も……奪わせないのです……!』

 同時に地面から浮遊、急激に速度を上げ、ルインたちのすぐ横を一瞬にして通り抜けると、一気に敵へと迫る。金属同士のぶつかり合う激しい衝撃音が遅れて響くそこには、正面からオブリビオンマシンと組み合う彼女の愛機、シーガルの姿があった。組み合っているのは前腕部、背部腕ではない。この隙にあの巨大な腕で叩き潰そうと考えるのは当然のことだろう。案の定動き出したアームが振り下ろされ、彼女を捉える直前、組んでいた腕を振り払って背後へと回り込む。だがそれすら読んでいたかのようにすぐさま転回し再び巨腕が振るわれる。それを避ける為に宙へ舞い――。

『それ以上飛ぶんじゃないよ!』

 高度を上げようとした咲凛に、地上からルインが叫んだ。
 この世界には、高速で飛翔する物体を無差別に砲撃する暴走衛星、殲禍炎剣なるものが存在する。そう、この衛星がひとえに制空権を握っているのだ。空へ上がることは一種の自殺行為に他ならない。しかし周囲の声が聞こえていないのか、それとも聞いていないのか、咲凛は上昇を止めない。諦めかけたその時。
 ルインは気付いた。もういつ砲撃が飛んできてもおかしくない高度だというのに、いつまで経っても殲禍炎剣がその身を焼くことはなかった。

『なんとか間に合った? セーフだったね』

 同じく上空から聞こえたのは、ユーリーの声。彼女の駆るレスヴァントは、光の粒子を放出しながらゆっくりと降下する。いったいいつの間に空へ、いや、それよりもあの粒子は何なのか。思考を巡らせるルインに気付き、ユーリーは答える。

『あんまり気にしなくていいよ。とにかく殲禍炎剣の目は眩ませておいたからさ』
『そうかい。ったく、世話のかかる小娘だよ』

 原理はさっぱりだったが、確かに上空へ放たれた腹部砲を舞うように避ける咲凛が殲禍炎剣から砲撃を受ける様子は見て取れない。心の中で密かに一息つくと、彼女は右腕に装備したビームアサルトライフルをチェックする。
 小言を言いながらも、咲凛の作った隙を逃したりはしない。彼女の援護を行いながら、その時が来るのを待つ。
 何度目かの腹部砲を躱した咲凛は、蝶のように舞い、蜂のように刺すその戦法に、徐々にアスハの機嫌が悪くなっていく。

『お前ェ、ちょこまかといつまでも!!』
『やめたりしないのです、人を殺すというのなら、絶対に止めてみせるのです!!』
『何よカッコつけちゃって、止められなかったくせに!!』

 拡散砲、収束砲、使い分けられる兵装を正しく予見し回避していた咲凛が一瞬だけ動きを鈍らせる。その隙を見計らって攻撃してこないあたり、相手もまだまだ未熟というものか。

『アハハ、ちゃーんと見てるんだから……守れなくって泣きわめくだけの、ただの子供がッ!!』
『確かに、私は子供です……。頭の中わーってなって……もう分からくて……。でも……私はそれでも、命を守るのです!!』

 上空から急降下し、コアが収納されていなさそうな場所を選んで突進すると、ヒットアンドアウェイで手の届かない上空へ逃げる。それを何度かまた繰り返した頃、ようやく地上の準備も整った。主に接近戦用に造られたアサルトライフル、アストライア。鋭い切れ味を持つキャバリア用ブレード、インティウム。その二つだけを携えたユーリーのレスヴァントは、ほぼ全ての意識が空へと向いたオブリビオンマシンへと接近する。

『こっちへ来るなァ!』

 気付いたアスハは一瞬で狙いを切り替えるも、既にそこにユーリーの姿は無い。

『当たらなければ、どうということはない!』

 機体の速度に身体が完全に追いついていないのか、襲い来る肉体的負担に口端に血を滲ませながら、彼女は敵の背後を取っていた。

『もらった!』

 振り下ろされるブレードは、四肢を切断するために。まずはその背部の巨腕から――。

『うそ、かっっった!!!』

 弾かれこそしなかったものの、彼女がいつも感じている手ごたえが無かった。実際には、ダメージこそ与えたものの、切断に至らなかった。もう一度ブレードを振り下ろそうとしたその時。

『自分から当たりに来てくれるなんて、お馬鹿さんね!!』

 目の前で、腹部の砲門が輝く。直撃したらまず助からない。瞬間的に判断する思考力でも、体が追い付かなければ意味がない。やられる。その思考が廻った瞬間、しかしそれは現実とはならなかった。

『ふん! クスリ漬けのガキが、機体性能も本人の反応も良くても、そんな様じゃ狙いが見え見えさね!』

 動きを止めたそこへ、この瞬間を待っていたとばかりにビームアサルトライフルを撃ち込む。正確無比な射撃は吸い込まれるようにエネルギーを収束し始めた砲門へと直撃した。
 衝撃に機体が揺れ、合わせてアスハの悲鳴がこだまする。

『く……そっ、何よこれ、出力が上がらないじゃない! これじゃちゃんと撃てない……なによ、なによなによなによ!!!』

 見た目はそれほど傷付いていないようにも見えたが、どうやらダメージは与えているようだ。取り乱すアスハをよそに、再びブレードを振るうユーリー。先ほどと同じ個所を再度斬りつけることで今度こそ切断を狙う。だがやはり、装甲が厚すぎるのか、硬すぎるのか、切れ味の良いことで評判のインティウムでも、それは適わない。
 しかし、彼女は猟兵。一人で戦っているわけではない。

『ぅあああああああああああああああああああ!!!』

 ブレードの刀身目掛けて、ガーディアンユニットを直接手に持った咲凛のシーガルが急降下、その勢いをブレードに乗せるように体当たり。悲鳴を上げるかのような軋音さえ無視し、ただその腕を切断するために。
 徐々に機体装甲に食い込んでいく刀身。そして。

『このまま――いっけえええええええええええええ!!』

 巨大な腕が、右背部腕が、弾け飛んだ。そのまま宙を回転しながら飛び、やがて地面へと突き刺さる。そこまで確認する前に、追撃を危惧したユーリーは咲凛を引き連れてその場から撤収した。自身の持つアストライアと、ルインのサブマシンガンとが同時に火を吹き地面を抉ると、目くらましの土煙が上がる。
 思ったより頑丈なようだが、着実にダメージは蓄積している。ルインとユーリーの二人は、未だ前線で敵を引きつける為に暴れようとする咲凛をなんとか抑えながら、一旦引き下がることにした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

メアリーズ・エリゴス
あぁ、分かります。クスリが薄いのは辛いですよね
私もお薬が無くなったら発狂して死んでしまいますし、冗談抜きで
ふふっ、ご同類。貴女はどこまで強化されてますか?私は骨から内蔵から神経に至るまで強化手術に薬物強化ですよ

きひっ!流石にその腕と力比べは嫌ですし、大砲も当たってあげられませんねぇ!
……あぁ、なんだツマらないですね。同類かと思えば、ただ泣いている子供。それが本当の貴女ですか、残念ですね
なら、これで終わりです
サイコマテリアルとサイコ・コントロール・システムで増幅した殺意(アイ)の念動力で拘束し、動力直結のメガビーム砲を念動力で異常強化してフルパワーで撃ちますよぉぉ!
これが、私の愛ですよぉぉぉ!


キリジ・グッドウィン
※アドリブ歓迎です

こういうヤツは生きるのと死ぬのどっちがイイんだろうな?楽にしてやるのも一つの慈悲ってやつなんじゃねぇのか。家族と元通り仲良しこよしってワケにはいかねぇだろうし。
ま、オレには関係ねェか、トドメを刺すのが好きってわけでもねェから、その辺は任せるわ。


デカブツがイキってんなァ!まあそれを張っ倒す楽しみもあるって事で。
こういうのはデケェ攻撃の隙を衝いていくべきか?地形を壊すほど重い一撃なら連撃はできないだろうし、誘いこんでワザと撃ってもらって
寸でで避けてどっかに引っかかってでもしてくれりゃ御の字ってとこだな。
戦力を文字通り削いでやるか


田中・夜羽子
どうやらお目当てのやつが出てきたみたいだけど……
確かにあれの相手は解放軍程度じゃどうにもならないわね。

それにしても、クスリで無理矢理戦わせてるなんて……
すぐに助けてやるから、もう少し我慢してなさいよ!!

背部の腕と脚部を【スナイパー】使用でライフルによる狙撃。
機体の形状からコアの位置が分かり辛い、恐らく頭部かその後ろかしら、そのあたりは避けて攻撃するしかないわね。
拡散砲は回避が難しそうだから【オブリビオン・ヴォイド】で防げるか試すしかないわ……駄目なら、気合でどうにかよ。

何があったのかは知らないけど、夫婦喧嘩がしたいんなら二人だけでやりなさいよ……子供まで巻き込んで!




 背部の巨大な腕が片方なくなりバランスを失ったオブリビオンマシンは、システムを自動で書き換えながら制御を取り戻す。腹部にあるエネルギー砲も出力が安定せず、既に攻撃手段は半分以上機能を失っていると考えていいだろう。

『ぅうう……ぁああああああああ!!!』

 コクピット内に居るアスハの苦しそうな叫びと共に何かを強く叩く音が聞こえる。中で暴れているのだろうか。
 彼女は薬を薄められたと言っていたが、正確にはただ効果が薄くなってきただけであった。度重なる投与の末、身体がその免疫を付けてきたのだ。それに対抗して強い薬を処方すれば、彼女の言う不調とやらは解消するだろう。だがこれ以上は身体がもたないだろう。それは誰が見ても明らかだった。

『……こういうヤツは生きるのと死ぬのどっちがイイんだろうな』

 ブースタードラッグの副作用に苦しむアスハの姿を思いながら、キリジは口に出していた。

『どういう意味よ』

 それが夜羽子に聞こえてしまったのは、本当にただの偶然だった。
 確かにオブリビオンマシンさえ倒せばいい、そういう話だった。しかし、だからと言って無理やりに戦わされている、それも子供の命を、簡単に奪ってしまっていいわけがない。

『勘違いすんなよ、別に殺しちまえって話じゃねえんだ。楽にしてやるのも一つの慈悲ってやつなんじゃねぇのか……ってな』
『あぁ、分かります。クスリが薄いのは辛いですよね。私もお薬が無くなったら発狂して死んでしまいますし、冗談抜きで』

 一方おそらくこの場で最も何かがズレているメアリーズは、違う方向に共感を得ているようだった。これを共感と呼んでいいのかは甚だ疑問ではあるが、ドラッグというものを最もよく知るのもまた彼女であった。
 メアリーズはアスハへ語り掛けるように、反応のないオブリビオンマシンへ一人訥々と言葉を投げかける。それは彼女を想ってのことではない。優しさでも、厳しさでもない。自分と同じ強化人間の存在に対する、純粋なる興味、彼女にあるのはただそれだけ。

『ふふっ、ご同類。貴女はどこまで強化されてますか? 私は骨から内蔵から神経に至るまで強化手術に薬物強化ですよ』

 自虐ではなく、例えるならば好きな食べ物はこれです、とあくまで自己紹介のような感覚で語る。彼女にとって過ぎ去った事実など些末なことに過ぎないのかもしれない。だが現に苦しんでいるアスハにとって、それは火に油を注ぐような行為だ。

『殺す……お前を……ころ……す……!!』

 今の彼女を動かしているものは、憎悪と殺意だけだった。オブリビオンによる影響なのか、それともドラッグの影響なのか、それがどこから湧いて出たものかは分からない。ひとつ確かなことは、彼女がオブリビオンマシンを撃破したとしても元には戻らないということだ。救出したとて後遺症に苦しむ人生を歩むのならば、いっその事。そういう選択をしなければならない事もあるだろう。正しいか間違っているかなど、結局は終わってみなければ分からないものだ。
 アスハはコンソールに叩きつけて血だらけになった額を気にも留めず、再び操縦桿を握りしめる。

『どう転んだって戦うしかねェんだ、歯ァ喰いしばってろよクソガキ!』
『すぐに助けてやるから、もう少し我慢してなさいよ!!』

 戦闘態勢に入ったオブリビオンマシンを前に、キリジと夜羽子も同じように構えた。
 呼吸の音がいやに鮮明に聞こえる。
 先に動いたのは、アスハだった。

『ァアアアアアアアアアアアアア!!!』

 地面が抉れるほどに踏み込み、一気に加速、二人が立っている場所の直ぐ目の前には、もう既に黒鉄の巨躯は居た。反応が遅れる。戦場では一瞬の油断が命にかかわると言うが、よもや反応できない速度ともなれば油断も何もあったものではない。
 横薙ぎに振られる巨腕に対し、以外にも衝撃を受けたのは背後からだった。

『きひひっ!』

 心の底から愉しそうに笑うメアリーズ。唯一反応した彼女は、キリジと夜羽子の二人を背後から蹴り倒し敵の攻撃を躱させる。当然だがこれも味方を守るための行為ではない。ただこの瞬間を邪魔されたくなかった、それだけの事。

『さあ、思う存分アイし合おうじゃないですかぁああ!!』

 その言葉と同時に、彼女の愛機ロートガルの脚部から幾多のマイクロミサイルが発射される。元より致命傷を狙っていなかったとはいえ、その悉くは腕で直接薙ぎ払われた。連鎖して爆破したミサイル群の煙が晴れ姿を覗かせたオブリビオンマシンは、ほぼ傷付いていないようにも見える。それもそれでどうかと、未だ起き上がらず眺めていたキリジは考えていたが、猟兵たちが連携して漸く腕を一本落とすことが出来るような強靭な装甲を思えば、何も不思議ではないことが不必要な現実味を与えていた。

『この程度で――』
『ほらほら、こっちですよぉ!』

 爆風に紛れ背後へと回り込んでいたメアリーズは、反射的に振られた腕の一撃を流れるように躱しながら、単発式の大型ライフルを撃ち込む。何も考えずただ撃っているようにも見えるが、彼女は最も効果的な場所を探しながら攻撃を当てていた。それぞれ全て違う箇所へ攻撃を当てていることが何よりの証拠だ。

『きひっ! 流石にその腕と力比べは嫌ですし、大砲も当たってあげられませんねぇ!』

 言いながら腹部の大型エネルギー砲へ一発。あまり機体にもアスハ自身にも効いていないように見える。前腕も脚部も腰部も胸部も腹部も違う。
 ロートガルのフロントアーマーの下腹部が開くと、内部からビームサーベルを固定したサブアームが姿を現した。出力が低下し満足に威力も射程も伸びないエネルギー砲を躱しながら、背後からサーベルで頸椎へと斬りかかり――。

『――っ!!』

 その瞬間、アスハは全ての行動を止めて、防御に走った。そこが、メアリーズの探していた場所。

『うふふ……ふひ……ひひひっ……かくれんぼはお終いです……ほぉら、見つけちゃいましたよぉぉ!!!』

 大型ライフルを連射式に切り替え、頸椎へ向けて乱射。防御姿勢とはいえ片腕しかない状況では全てを防ぎきることは出来ない。彼女の探していた場所、コアブロックへの直接攻撃を受け、アスハは衝撃に襲われる。同時に彼女の悲鳴が聞こえた。
 アスハにとって、いやこの機体にとって、このような攻撃を受けるのは初めてだった。いつもは一方的に、泣こうが喚こうが許しを請おうが全て蹂躙してきた。なのに、今は逆の立場に居る。
 この機体には元来パイロットを保護する機能が一切備わっていない。衝撃が与えられれば直に伝わるし、機体温度が上昇するだけでも高温に曝される。強制冷却は機体の保護のための機能だが、結果としてそれが唯一たるパイロットの生命保護機能となっている。そういった仕組みがまた、より一層彼女を震え上がらせた。
 彼女が戦場で初めて感じたもの。それは、恐怖。それを自覚した瞬間、完全にブースタードラッグの効果が切れてしまった。

『あ……ぁああ……いや……』

 その隙にも、メアリーズの猛攻は止まない。次から次に襲い掛かってくる攻撃に、激しい衝撃がアスハを襲った。コクピットの壁やコンソールパネルに頭や腕をぶつけ、血が飛び散る。そのまま地面へと叩きつけられ、呼吸すらままならなくなった。視界が白く明滅し、ただでさえ気分が悪いのに視覚までが脳を揺さぶってくる。吐き出すものは胃液しかなかったが、それすら出し切ったような不快感。
 痛い。苦しい。辛い。どうして。なんで私ばっかりがこんな目に。もう嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ――。

『――して――ろし――』

 微かに何かが聞こえた。

『……ころして……もう……戦いたく……ない……もう……くるしいの……や……だ……』

 今にも命尽きそうな、微かな声。ずっとサイコマテリアルを通して感じていた、アスハの意思。漸くそれをはっきりと感じ取ったメアリーズは。

『……あぁ、なんだツマらないですね』

 まるで虫の死骸でも見つけたように、興味を失ったような声で吐き捨てた。

『同類かと思えば、ただ泣いている子供。それが本当の貴女ですか、残念ですね』

 高まる殺気。それが肌に纏わりつくようで、水の中に居るような息苦しさがアスハの身体を硬直させる。視界に映るのは、ロートガルの胸部にある砲門が、どう見ても単機では考えられないような異常反応を示している様子だけ。否、それに呼応するようにオブリビオンマシンの腹装エネルギー砲も充填を始めた。何故なのか、彼女がそれを考える暇は一瞬たりとも無かった。今更充填を始めたところで間に合わない。上手くいったとしても相打ち出来るかどうかといったところだろう。
 そして気付いた。薄れ行く意識の中、最後に見た光景。コンソールパネルに表示された文字。


 ――CONTROL:OBLIVION――


『なら、これで終わりです』

 やがて光が溢れ――。

『って訳にはいかないでしょ!!』

 突如謎の液体が波となって押し寄せる。互いのエネルギー反応はそれに触れると収縮していき、やがて消えた。メガビーム砲だけではない、ロングビームライフルも、マイクロミサイルもダメだ。メアリーズはこの波の正体を知っていた。
 全てのオブリビオンが生まれいずる場所。過去の象徴、骸の海。それを吐き出すことが出来るのはユーベルコードのみだ。

『ギリセーフ……って感じ?』

 ヤルダバオートから骸の海を射出した夜羽子は、己の身を削りながらもその性質を利用して射撃武器を無力化していた。

『よくも邪魔をしてくれましたね』
『勘違いしないで、敵の攻撃からアンタを守ってあげたのよ』

 現にオブリビオンマシンは、不可解な動きを見せた。パイロットであるアスハの言葉とは違う、まったく逆の行為。彼女がそれをしたとは思えない、別の意思による介入。そこで猟兵たちは思い出した。相手はオブリビオン、元よりパイロットの意識が無くとも勝手に動いて勝手に戦うもの。ということは、とうとう歪んだその正体を現したということなのだろう。
 排気口が再び開き、強制冷却が始まる。

『ハッ! デカブツがイキってんなァ!』

 身を隠していたキリジの機体が立ち上がる。正面に相対したオブリビオンマシンの頸椎。コアの場所は分かった。戦いたくないという意思も分かった。今機体を動かしているのがオブリビオンだということも分かった。

『これで救えなきゃ、嘘ってもんでしょ!』

 制限時間は70秒と長くはない。しかし間に合えばそれで構わない。射撃武器が使えないとなると出来ることも限られてくる。だからこそ夜羽子は骸の海を維持することに集中する。いや、もう一つ出来ることがあった。
 彼女のまだ後ろ、存在すら忘れられようとしていたもう一つの機体。未だ何も語らないスドー。

『アンタも、いい加減にしなさい! 何があったのかは知らないけど、夫婦喧嘩がしたいんなら二人だけでやりなさいよ……子供まで巻き込んじゃって!』

 アスハを戦場に出したのは、スドーではなかったかもしれない。だが、彼女を、自分の娘を、殺そうとしたのは紛れもなく彼自身だ。

『アスハ……』

 声の聞こえなくなったオブリビオンマシンへ、スドーはただその名前を呼んだ。それで何かが変わるわけでもない。だがスドーは、呼ばずにはいられなかった。

『さァ覚悟しな、てめぇを張っ倒してスッキリしてやんぜ』

 言いつつも致命打を避け、まるで何処かに誘導するかのような素振りを見せるキリジ。射撃武器が使えない敵機は、中途半端に片方無くなった腕だけが武器だ。良い間合いを見つけさえすれば、攻撃に当たることなど無い。寸でのところでひらひらと躱しながら、とある何もない一点に到着した。しかしそれと同時に。

『66――67――68――69――』

 時間が来た。
 コクピット内で鳴り続けていた警告音が止んだことに一瞬気を取られたキリジは、オブリビオンマシンの繰り出した一撃に気付かなかった。真っすぐ、コアへと向けて伸びるその腕が鉄を突き破り柔らかい肉を裂き、やがて血に塗れる姿を、キリジはコックピットの中から見ていた。

『――ど――やら、無事のよ――だな』

 彼らの間に割って入ったのは、スドーだった。オブリビオンマシンの巨大な腕が、そんな彼の駆る機体のコアブロックを貫通していた。しかしそれでも彼は止まらなかった。そのまま敵機へと組みつき、相手の動きを封じる。

『――ぃまだ……私ごと……敵を……撃て……』

 彼はきっとそれしか道が無いと思っているのだろう。それが正しい選択だと思っているのだろう。だが、道は他にもある。掴むべき未来は他にある。
 だからこそキリジは言った。

『うるせェぞオッサン、こちとら反撃はまだ終わってねぇっての』

 そうだ、まだ終わっていない。キリジのその言葉を合図とするように、戦場へと飛び込む小さな影があった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

アマリア・ヴァシレスク
あの子と私…何が違うんでしょうか…です…
うぅん、今は悩んでいる場合ではない…です!
【追加武装プラットフォーム『フォルタラーツァ』】と武装一式を装着し、あの悪魔のキャバリアに立ち向かう、です!
クロー攻撃には細心の注意を払い、【空中戦、推力移動、見切り】で回避行動を取りながら各武装の【砲撃、制圧射撃】で撹乱する、です!
そして本命…プラズマ砲の【リミッター解除】、極大出力モードでの一撃を叩き込む…です!
【スナイパー】で狙うは…排熱口、です。内部には装甲がないはず…なら、最も脆弱な箇所でもあるはず、です!

できればパイロットの命までは取りたくないけど…これは賭け、ですっ!




 アマリアは一人、狙撃地点から移動しながら考えていた。
 何故かも分からず、何も知らず、ただ誰かの願いによって生み出された存在。それを思ってひとりごちる。

「あの子と私……何が違うんでしょうか……です……」

 分からない。
 あの少女は、どうして戦わされているのだろう。何故あんなにも苦しみに悶えながら戦っているのだろう。誰が何を願ったのだろう。結局は何も分からない。誰かによって作り出された、何のための存在かも分からないそれは、まるで自分自身の、鏡映しの現身のように感じた。
 だが今は悩んでいる場合ではない。アマリアは思考を振り払うように頭を振ると、戦場の様子を確認する。移動しながらだとあまり遠くを見通すことは出来ないが、走りながらでも十分に確認できる距離まで既に近づいているようだった。そこで彼女は、空を翔ける猟兵の姿を目撃し、目を疑う。殲禍炎剣が機能していないわけではなさそうだが、だとしたら空を跳べるはずがない。しかし現に戦場を飛び回る猟兵の姿は確認できる。あの一帯だけ特殊なジャミングを行っているのだろうか。猟兵の可能性は無限、もしかするとそのようなユーベルコードを持つ者がいてもおかしくは無い。
 念のためもう少し近づくまでは低空を滑走しながら、市街地に入ると地面を蹴って一気に加速、障害物を全て飛び越え、オブリビオンマシンからほど近い高所へと降りた。

「目標……捉えました、です……!」

 背中のバックパックに搭載された各兵装を展開しながら、大型レーザーライフルを構える。まだ敵はこちらに気付いていない。流石に味方が戦っている中弾幕を張るのは邪魔になるだろう。だが精密射撃を行うには敵の動きが多すぎる。折よく”何故か”レーザーライフルの出力が上がらないところだ。射撃系統は全てダメ。戦況を見る限りこれも誰かのユーベルコードの影響なのだろう。これが切れるまではどのみち攻撃手段は無い。
 しかし準備は出来る。姿勢を引くし、レーザーライフルの照準を合わせる。戦っている猟兵たちとオブリビオンマシンの姿を互いに視界に収めながら深呼吸。
 しばらく後、ライフルの出力上昇を確認。その他全武装の異常も消える。そうして再び戦場へと視線を移したアマリアの目に。

「……っ」

 その先で、スドーの乗っていた機体が貫かれるのが見えた。場所はちょうど、コアブロックのあるあたりだ。彼が生きているか死んでいるかはここからでは分からない。
 それでも冷静に。
 組みつかれて動きの取れなくなったオブリビオンマシン。こうなってしまえばただの的だ。彼女にそれを撃ち抜けない道理はない。ロケット砲で敵の動きを牽制しつつ、それによってこちら側からは行えない射角の微調整を行う。

「まずは一撃――です!」

 直線でオブリビオンマシンへと翔ける光は、残っていた背部腕の付け根に直撃した。衝撃でよろめいたところへもう一発、度重なるダメージの影響だろうか、最後の腕は刺し貫いたままになっていたキャバリアの重量に耐え切れず根元から折れた。敵機に組み付いていたスドー機はそれを最後にオブリビオンマシンから離れ、まるで役目は果たしたとばかりに地面へと力なく転がった。
 だがアマリアはまだ諦めていない。刺し貫かれたコアブロックの隙間から、スドーの姿が見えていた。どうやらギリギリ命に関わるような部位には傷を負っていないようだ。出血は激しく、放っておいたら死んでしまうのは間違いない。あとは時間との勝負だ。
 これまでの戦闘の様子を確認する限り、通常の兵器で傷付けられる相手ではないことは承知だ。だから彼女も通常ではない兵器に頼るほかない。
 シールドガントレットに内蔵された、砲身の短いプラズマ砲。至近距離からの使用を前提とされたその兵器は、元より人の身で扱うものではなかった。しかし彼女がそれを扱える理由、それは単純に人が持てるサイズ、機能に制限圧縮されたからだ。といっても、彼女自身それを知る由も無いのだが。
 構えたプラズマ砲にエネルギー充填を開始。100%ではまだ足りない。気付いたオブリビオンマシンが、斬り落とされた腕を前腕で拾い上げ、アマリア目掛けて投擲する。それもロケット砲にて撃ち落とし、重機関砲の弾幕射撃により敵機をその場に押しとどめる。
 充填率が臨界点に到達。狙うは開いたままになっている排熱機関。コアに近い分、狙いが逸れてしまったらパイロットを消し飛ばしてしまう危険性はある。だが破壊できればオーバーヒートは必至だ。流石にもう機能を停止するだろう。だから。

「これは賭け、ですっ!」

 トリガーを引く。膨大なエネルギーが目の前で爆発、視界を埋め尽くされたアマリアには、そこから先何も見えなかった。
 やがて限界を超えた砲身が焼け落ち砲撃が止むと、持っていられないほど異常に熱を持ったプラズマ砲を取り落としたアマリアはその先の光景を目の当たりにした。
 オブリビオンマシンは見事に頭部だけを蒸発させ、そしてゆっくりと地面に倒れていった。それきり動く気配はない。それを確認したアマリアはすぐさま倒れたオブリビオンマシンへと滑空する。近寄って調べると、確かに頸椎の部分に回転式レバーが見えた。おそらく外部からコアを強制開放するためのレバーなのだろう。握ると、プラズマ砲よりも高温になっているのが分かる。熱い、あまりにも熱い。この中に人がいるなんて、考えただけでも恐ろしい。
 しかし熱も痛みも堪えて、彼女はレバーを回した。
 開放されたコアのハッチから、熱膨張した空気が吹き出る。内部はあまりの熱気に蜃気楼が見えた。むせかえるような血の臭い。その中に、全身を血に塗れさせた少女がいた。自分の年齢よりもまだ圧倒的に若く見える。何故こんな少女が戦わなければならないのだろう。ともかくその場から引きずり出すと、意外にも外傷はそこまでひどくなさそうだ。だがそれ以外の部分、彼女の場合脳や内臓などの方がよほど深刻なダメージを受けていそうだ。スドーに関しては先に見えていた通りだった。傷というよりも出血量の方が深刻な状況だ。
 アマリアはスドーの身に着けていた通信機の電源を確認した。まだ生きている。簡単な止血を行いながら何度かそれらしい操作を行っていると、救難信号のサインを発見、それにタッチすると、幾らか簡素な電子音が鳴る。おそらく彼の仲間たちに伝わったはずだ。

「……まだ、ハッピーエンドって訳にはいかなさそう……です」

 この国に何が起こっているのか、未だ全容の見えない事態と、謎の尽きないオブリビオンマシンという存在。猟兵として国の情勢に関わることは出来ないが、そこにオブリビオンが関与しているのなら話は別だ。もしも彼らが生き延びることが出来れば、そしてオブリビオンの脅威が残っているのなら、また再び相見える日が来るかもしれない。
 アマリアは止血を終えると、撤収していく猟兵たちの背中を追うように走り出した――。

成功 🔵​🔵​🔴​



 結論から言えば、二人は助かった。駆け付けた解放軍の兵士たちによりきちんとした処置が行われ、そのまま搬送、なんとか一命を取り留めたといったところだ。
 だがスドーはその怪我が原因で利き腕である右腕が動かなくなってしまった。アスハに至っては未だ目が覚めていない。
 首謀者であるナラカもまた、捕らえられる直前に意識を失い、同じように目覚めていなかった。ちょうど猟兵たちがオブリビオンマシンを撃破した直後のことだ。

「……ここにいらしたんですか、大佐」
「もう大佐じゃないさ」
「失礼、元大佐」

 病室の窓から外を眺めていると、ふと背後から声がかかる。アルマだった。
 利き腕の自由を失ったスドーは、予備役として軍の後進育成に努めることとなった。前線から身を引いたのだ。命があるだけマシだと思うようにしていたら、思ったほど悪くない選択だった。

「して、何の用だ」
「ああ、これからどうなさるおつもりかと」
「ヒヨッコ共の育成に決まっているだろう」
「そうじゃなくて、この国のことですよ」

 政治の話ならば、そんなことは知らん、偉い奴らに任せておけ、そう答えるつもりだった。だが彼の目は違うと言っている。

「……これから調べる。まだきな臭い何かがある気がするんだ」
「そう言うと思ってましたよ」

 やれやれ、とアルマは肩を竦める。

「予備役軍人じゃ、出来ることも限られているでしょう?」
「ふ……偉くなったものだ」
「実際偉くなりましたからね」

 戦火にみまわれた市街地は復興作業の真っ最中だ。その様子を見ながら、二人はまた次の、別の戦場へと足を踏み入れるのだった。

最終結果:成功

完成日:2021年01月17日


挿絵イラスト