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魔法よ、解けることなかれ

#ヒーローズアース #猟書家の侵攻 #猟書家 #パストテイラー #ダークヒーロー

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●時間よ、止まれ
 子供の頃から、動物が好きだった。
 家庭で飼えるようなペットは、一通り育てた。けれど、渇望は何時だって腹の底で蠢いていた。
 檻やテレビのモニター越しにしか見られない、希少な動物たちが好きだった。
 動物園に捕らわれた、希少な白変種の虎。国際条例で保護された、鮮やかな羽を持つ鳥。輸出入が禁止されている、柔らかな毛並みの蝙蝠。
 そういう美しいものを双眸に写す度に、渇望は激しく燃え上がり、軈て倫理と理性を燃やし尽くして。残った燃え滓は、ヴィラン『ビーストラヴァ―』と成った。
 初めて手に入れた獲物は忘れもしない、鮮やかな蒼い羽根を持つ「バンガイヒタキ」だ。夜中にバードパークに忍び込んで、あの子を掌中に収めた時の喜びときたら……。
 悪党として名を馳せ、経験を積むうちに軈て、大型獣すら盗めるようになった。汚れた金と開花した才能が、大胆な犯行すら可能にしてくれた。
 別に動物解放だとか、捕らわれている姿が可哀想だとか、そういう大層な使命感や同情心を抱いていた訳じゃ無い。
 ただ、あのうつくしい生き物たちを、手元に置いておきたかった。犯行の動機は、それだけだ。
 勿論、攫った動物は大切に育てた。一度引き取った命は最期まで看取るべきだ。彼等を棄てるようなことはしない。何とも知れぬ輩へ売り飛ばすなんて論外だろう。
 しかし、看取った後のことは殆どの者に理解されなかった。

 物言わぬ彼等すら愛するようになったのは、一体いつからだろうか。
 硝子玉の如き静謐な眸。唸り聲ひとつ漏らさぬ、固く閉ざされた口。凛と整えられた、艶やかな毛並み。生前と寸分も違わぬ、見事な立ち姿。
 ああ、永久にうつくしき君よ。科学と医学によって、時計の針を止められた君よ。願わくば――……。

 魔法よ、解けることなかれ。

●Beast Lover
「ヒーローズアースの、博物館へ向かってくれないか」
 グリモアベースの片隅で、機械仕掛けの男――ジャック・スペードは、集った面々を見回しながら、僅かに頸を傾けて見せる。
 ヒーローズアースにて、猟書家の活動が予知されたのだ。「パストテイラー」と云う幹部が、ヴィランから改心したダークヒーローの“過去の罪”を具現化させ、過去の悪事を再び働かせようとしているらしい。
 ヴィランから改心したダークヒーローが、再び悪事を働くようになったように“錯覚させる”ことで、世界に不和の種を蒔き、怪物「スナーク」の存在を人々が信じる素地を作ろうとしているのだと云う。

「あんた達には『エンリケ』というダークヒーローと接触して貰いたい」
 そう説明をしながら、タブレット端末のモニターを一同に見せるジャック。画面のなかには、銀絲の髪をオールバックにした、目つきの鋭い男が映っていた。
 痩せぎすで眉が薄く如何にも悪人のような貌をしているが、このエンリケ、実は夜な夜な博物館に通っているらしい。
「エンリケは一昔前、ヴィラン『ビーストラヴァ―』として暗躍していた」
 彼は“鳥獣”専門の誘拐・密輸犯だったのだと云う。
 動物園やバードパーク、サファリパークへ忍び込んでは、鮮やかに鳥獣を攫い。ジャングルや極寒の地に赴いて珍獣を手懐けては、誰にも知られぬよう持ち帰る。そんな生活を、彼は捕まるまで何十年にも渡って続けていたらしい。
「ビーストラヴァ―は、攫った獣を売ることも殺すこともしなかった」
 獣愛好家の名に違わず、彼が鳥獣たちを粗末に扱うことは決して無かった。然し、ただ愛でる為だけに獣を攫った訳でもあるまい。
「――獣たちを育て、看取り、『剥製』にしていたんだ」
 何とも言えない沈黙が、其の場に流れた。
 剥製。主に学術的な理由から、獣たちを嘗て生きていた侭の姿で保存したもの。恐らくは、彼なりの愛の容なのだろうが。経緯を踏まえると、中々に偏執的だ。
「変わり者だが、悪い奴じゃ無い筈だ」
 無根拠にそんなことを言いながら、機械仕掛けの男は更に説明を重ねて行く。
 件の猟書家は彼にとって「最も印象深い場所」に現れるらしい。更に彼女は「エンリケの過去の姿」を召喚して、手駒のように戦わせることも出来る。そこで、猟兵たちはエンリケと接触し、彼から昔話を聞き出す必要があるのだ。

「猟書家の出現まで猶予は有る。ナイトミュージアムも楽しんで来てくれ」
 情報収集をさくっと済ませたら、夜の博物館を探検してみるのも良いだろう。其処にはエンリケから押収された剥製コレクションの他、恐竜の骨格標本や化石、うつくしい宝石に、珍しい刀剣の類まで、色々な展示物が揃っていると云うのだから。
 それに、普段よりも薄暗い博物館で眺めるコレクションは、もしかしたら昼間よりも生き生きとして視えるかも知れない。
「それでは、武運を」
 粛々と見送りの言葉を紡いだ男の掌中で、剣の意匠を象ったグリモアがくるくると回転する。
 向かう先は英雄たちが集う世界――ヒーローズアース。


華房圓
 OPをご覧くださり有難う御座います。
 こんにちは、華房圓です。
 今回はヒーローズアースで、猟書家シナリオをお届けします。

●一章〈日常〉
 夜の博物館にて、ダークヒーローと接触しましょう。
 対話で交流を深めてもいいですし、「印象深い場所」や「過去の話」を尋ねるなど、質問を重ねていくのも効果的でしょう。

 猟書家の登場まで猶予があるので、接触後は存分にナイトミュージアムをお楽しみください。
 寧ろ此方のお楽しみをメインに、プレイングを書いて頂いても大丈夫です。

●二章〈ボス戦〉
 幹部猟書家「パストテイラー」との戦闘です。
 彼女はダークヒーローにとって「最も印象深い場所」に出現します。
 また彼女はユーベルコードに加え、「ダークヒーローの過去の姿」を召喚して戦わせます。
 予めダークヒーローから「彼の過去の戦闘スタイル」等について聞いておけば、戦いを有利に進められるでしょう。
 プレイングボーナスは、『ダークヒーローと共に戦う』です。

●ダークヒーロー『エンリケ』
 嘗て『ビーストラヴァー』と呼ばれた、珍しい動物だけを狙う誘拐・密輸犯でした。
 現在の彼はただの、動物と剥製をこよなく愛する男です。

●『博物館』
 ナイトミュージアムを開催しています。
 恐竜の骨格標本に、太古の生物の化石。高名な音楽家が遺した楽譜に、王侯貴族が愛した家具、貴重な刀剣のコレクション、などなど。
 博物館に展示されてそうなものは、和洋中問わず大抵あります。
 その中でも特に「剥製」のコレクションに定評があるそうです。
 詳しい情景描写等は、断章にて。

●連絡事項
 こちらは二章で完結するシナリオです。
 プレイングの募集期間は断章投稿後、MS個人ページ等でご案内させて頂きます。
 一章の受付期間は長めを、二章の受付期間は短めを予定しています。
 どの章からでもお気軽にどうぞ。日常章のみのご参加も大歓迎です。

 またアドリブの可否について、記号表記を導入しています。
 宜しければMS個人ページをご確認のうえ、字数削減にお役立てください。
 それでは宜しくお願いします。
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第1章 日常 『ダークヒーローの過去を探れ』

POW   :    ダークヒーローの現在のヒーロー活動に協力しつつ、話を聞く

SPD   :    ダークヒーローに接触し、言葉巧みに話を聞き出す

WIZ   :    ダークヒーローの過去を調べあげ、刺激しないように話を聞く

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●Night Museum
 夜の博物館には、ただ静けさだけが満ち溢れていた。硝子の天窓からは月明かりが射し込んで、過去の遺物を秘めた此の匣の中を、より神秘的に彩っている。
 先ず入館者の視線を惹くのは、天井で揺れるスポットライトに照らされた、巨大なティラノサウルスの骨格標本だろう。きらきらと煌めく白い骨は、妖しい生気を孕み。大きく開かれた顎と相俟って、今にも動き出しそうだ。
 恐竜を取り囲むように並べられたケースのなかには、古生物の化石が眠っている。貝のような容をしたアンモナイトは深海の夢を、鼠めいたエオマイアは大地の夢を、それぞれ見ているのだろう。
 誰かのゆびさきに捲られる日を夢見ているのは、金彩の譜面台に置かれた一冊の楽譜。古惚けて色褪せた其れは、高名な音楽家の遺作である。耳を澄ませば、スピーカーから四弦が奏でる幻の楽曲の、うつくしい音色が聴こえてくるだろう。
 煌びやかな金装飾が為され、滑らかな革で彩られた長椅子は、途絶えた王朝の遺物なのだと云う。未だに絢爛な煌めきを放つ其れに腰を降ろす者は誰も居ないけれど、ぽっかりと空いた空間からは、嘗ての貴人たちの気配が感じられる。
 ぎらりと輝く刀剣のコレクションは、少年心を擽ってやまない。繊細にすらりと伸びた刃がうつくしい日本刀に、波打つ刀身が優美なフランベルジュ。刀身が力強い三日月を描く偃月刀は、合戦の記憶を抱きながら今は静謐に其の身を委ねていた。
 ガレオン船の模型が、髑髏の標本と彼岸を旅する傍らで。七彩に煌めくアレキサンドライトを嵌め込んだ、金彩に煌めく卵型の飾り箱――イースター・エッグは、嘗ての繁栄を訪れる人々の眸に焼き付けてくれる。

 趣溢れるコレクションを抜けた先、硝子の壁に突き当たる。其の先には、今にも息遣いが感じられそうな、希少動物たちの「剥製」が飾られていた。動物園やバードパークと見紛う程の数に、圧倒される入館者も少なく無い。
 まるで空を映したかのような青い羽を持つ、バンガイヒタキ。もふっと柔らかな毛並みは生前その侭の、ベヒシュタインホオヒゲコウモリ。
 白変種のタイガーは、穏やかな眼差しで大地へ伏せている。照明を浴びた毛並みは、まるで生きて居る様にきらきらと煌めいていた。天を突き破りそうな程の角を誇るアダックスは、草を食む体勢のまま動かない。世にも珍しい碧い眸のコヨーテは、凛とした立ち姿で天を仰いでいる。のんびりと寛ぐソマリノロバを狙っているのは、今や殆ど見かけることの無いアメリカアカオオカミだろうか。
 生き生きとした其のコレクションの前で、まんじりとも動かぬ男がひとり。オールバックに撫でつけた銀絲の髪、薄い眉、痩せぎすの貌。彼こそが、ターゲットにされたダークヒーロー『エンリケ』であり、元『ビーストラヴァ―』である。
 話を聞いた所によると、エンリケは優に50は超えていそうだが。眼前に居る彼はもっと若く見えた。それこそまさに、時を止めて仕舞ったような……。

 此処に飾られて居る者は、流れる時に取り残されたものたちだ。彼等は入館者たちの視線を浴びることを、心待ちにして居る。
 さあ、どうか其の眸に、過去に成れなかった者たちの姿を焼き付けて。けれども、展示物にはどうか、惹かれるまま御手を触れぬように――。


≪出来ること≫
(1)博物館を楽しむ
 ⇒ お仕事のことは気にせず、様々な展示物をお楽しみください。
   一章のみのご参加も歓迎ですので、お気軽に遊びに来て頂けると幸いです。

(2)ダークヒーローに接触
 ⇒ リプレイは、エンリケとの会話がメインに成ります。
   彼も一応ヒーローなので、猟兵には協力的です。

(3)ダークヒーローと接触したあと、博物館も楽しむ
 ⇒ 調査活動はあっさりでも大丈夫です。
   エンリケはプレイングに準じた形で登場します。

≪補足≫
・アドリブOKな方はプレイングに「◎」をご記載いただけますと幸いです。
・複数人でご参加の場合は、【グループ名】等のご記載をお願いします。
・本章のPOW、SPD、WIZは、あくまで一例です。
 ⇒展示物に関する点も含め、ご自由な発想でお楽しみください。

・版権に抵触するプレイングは採用を見送らせて頂きます。申し訳ありません。
・過度にグロテスクなものは、適宜マスタリングさせて頂きます。

≪受付期間≫
 1月20日(水)8時31分 ~ 1月23日(土)23時59分
空露・紫陽
🚬🔥



噫…物で溢れた空間だと、半ば親近感の中で
この空間を作りあげた奴に話でも聞いてみてぇな
此処の一番の見所、楽しみ方ってヤツをさ

大体聞き終えた頃に入ってくる新しい聲
…イケメン?
己の事だと分かれば、ふっと笑って誘いひとつ
寂しい男に付き合っちゃくれないかい、可愛いお嬢さん?
デートねぇ、それも悪くないな
俺みたいなおっさんで良ければどうぞ
モテ期に足してくれや

俺は紫陽
紫陽花から花を抜きゃ文字通りだ
名の可愛さはねぇけど
くゆり。イイ名で可愛いじゃねぇの
普段から紫煙燻らせる俺に随分と馴染み深い

さぁて、夜中の探検に洒落込むか
宝しか無いがね
はいよ、デートな
なら何処から行きたいお姫様?
紳士の仕草でお前さんに手を


炎獄・くゆり
🚬🔥



夜の博物館とかチョーアガる!
正真正銘の宝の山
でもなぁんか忘れちゃってる気が

あ~~~!
もしかしなくてもエンリケさんじゃないですかぁ!
しかもイケメンと一緒で一石二鳥、目の保養!

あなたにお話聞きたかったんですけどぉ
もうソッチのオニーサンが聞いてくれましたよね
じゃもうイイですぅ……ぅえ?
デートのお誘いですかぁ?
あらやだモテ期?
ウフフ、モッチロン大歓迎でーす!

しはる、紫陽?
キレーでカワイイ名前
ギャップ萌えってヤツですねェ〜〜
あたしはくゆりですよぉ
紫陽さんに負けず劣らずカワイイでしょお?

ではではレッツゴー!
探検じゃなくてデートですよぉ!
アハッ、イケメンすぎません?
そんなん惚れちゃいますって~~!



●ふたりの夜歩き
 月灯が仄かに射し込む静謐な世界で、ヤドリガミの青年、空露・紫陽(Indulgence・f30642)は独り、硬質な脚音を響かせていた。紫紺の眸で横目に眺めるは、ショーケースの中で眠る過去の遺物の数々。
 されど、最も彼の視線を惹き付けたのは。
 ――……噫。
 真直ぐに歩き続けた其の先で並べられた、剥製のコレクションだった。其処に何匹居るのか、数えることすら儘ならない。まさに、物で溢れた空間だ。
 そしてコレクションの前には、もはや動かぬ彼等を眺め続ける、痩せぎすの男が独り。あれが、件のエンリケなのだろう。半ば親近感に近い感情を抱きながら、この空間を作りあげた彼へと青年は聲を掛けた。
「なぁ、聞いても良いか」
 男の視線が、じろり。剥製から、青年の貌へと移った。気怠げに細められた双眸は、彼の人相の悪さを更に引き立てていたけれど。紫陽は物怖じせずに、言葉を重ねて行く。
「此処の一番の見所、――楽しみ方は?」
 そんなことか、と言いたげな貌をした男は、視線をゆるりと剥製に戻す。その代わりに腕を上げて、エントランスの方を指差した。
「ティラノサウルスだ」
 低い聲が、静まり返った空間に響き渡る。淡々と響く科白は、余りにもぶっきらぼうに紡がれた。突き放すような調子さえ感じさせたが――。
「休日には人集りが出来ている」
 素直に答えを返すあたり、拒絶の意思は無いのだろう。青年が取り敢えず礼を云おうとした刹那、バタバタと賑やかな脚音が展示室に響き渡った。
「夜の博物館とかチョーアガる!」
 薄暝闇に芒と照らされた正真正銘の宝の山に浮かされた、炎獄・くゆり(不良品・f30662)の脚音である。ガトリングと化した右腕をぶらぶら揺らす彼女は、展示室に入って来るなり、小首を傾げて何やら悩み貌。
「でも、なぁんか忘れちゃってる気が……」
 ぐるりと室内を見回した少女の燃え盛る眸が、剥製のコレクションを、そして其の前で立ち話をするふたりの姿を、ばっちりと捉えた。其の刹那。
「あ~~~!」
 予想通りの聲が、少女の口から溢れ出す。紫陽は瞬きながら彼女を見つめ、人に関心を向けぬエンリケも、流石に背後を振り返り怪訝な貌をした。
「もしかしなくても、エンリケさんじゃないですかぁ!」
 そんなふたりの貌彩を全く意に介さず、少女はバタバタと彼等の許へ駆けだした。名こそダークヒーローの方を呼んでいるが、実際のところ彼女の本命は――。
「しかもイケメンと一緒で一石二鳥、目の保養!」
「……イケメン?」
「あんたのことらしいな」
 誰のことかと頸を傾ける青年に、少女の意図を察したエンリケがさらり、そんな言葉を掛ける。勿論、眉ひとつ動かさぬ儘で。
「あなたにお話聞きたかったんですけどぉ……」
 ちら、と青年の貌へ視線を向けるくゆり。どうやら、聞き込みは彼の方で済ませてくれたようだ。ならば、自分の仕事はもう無いだろう。不愛想な変人と無駄にお喋りする趣味もないので、「もうイイですぅ」と云い掛けた瞬間。
「寂しい男に付き合っちゃくれないかい、可愛いお嬢さん?」
「……ぅえ?」
 ふっと笑みを零した青年に、甘い言葉で誘われた。エンリケと云えば、自分はもう用済みと察したらしく。剥製を前に自分の世界に没頭していた。つまり、ふたりの間を邪魔する者は何もない。

「デートのお誘いですかぁ? あらやだモテ期?」
 左手で貌を覆いながら、きゃっきゃと燥いで見せたなら。紫陽は「それも悪く無いな」と、悪戯に笑った。
「俺みたいなおっさんで良ければどうぞ、モテ期に足してくれや」
「ウフフ、モッチロン大歓迎でーす!」
 元気に左手を挙げて、ついでにぴょんぴょん飛び跳ねたりもして、身体中で喜びと同意を現す少女。そんな彼女を見降ろしながら、青年は穏やかに言葉を紡ぐ。
「俺は紫陽」
「しはる……」
 聞きなれない言葉の並びに、くゆりは小さく頸を傾げた。彼女の反応を察して、青年は名前の成り立ちを説明してやる。
「紫陽花から花を抜きゃ文字通りだ」
「あー、紫陽? キレーでカワイイ名前」
 ギャップ萌えってヤツですねェ〜〜、なんて。そう燥ぐ彼女に、可愛くは無いと青年は頸を振る。
「あたしはくゆりですよぉ」
 そんな彼の反応は置き去りで、少女はマイペースに自己紹介。されど紫陽は大人の余裕を見せ、彼女の名を静かに反芻した。
「くゆり。イイ名で可愛いじゃねぇの」
 シガレットケースを本体とし、普段から紫煙燻らせる青年にとって。「燻」という響きは、随分と馴染み深かった。
「ね、紫陽さんに負けず劣らずカワイイでしょお?」
 大人の余裕溢れる青年に褒められた少女は、自信満々にドヤりと頬を弛ませた。そうして、物騒な右腕をぶんぶんと振り回す。
「ではでは、レッツゴー!」
「さぁて、夜中の探検に洒落込むか」
 宝しか無いがねと、紫陽が肩を竦めれば、少女は少し頬を膨らませながら反論を返す。その言い草は、少しばかりロマンチックじゃなかった。
「探検じゃなくてデートですよぉ!」
「はいよ、デートな。――なら、何処から行きたいお姫様?」
 少女の要望に応えるように、青年は己の胸へ片手を当てて。もう片方の掌を、少女の方へと差し出した。紳士めいた仕草を前に、くゆりの眸はめらめらと煌めいて。
「アハッ、イケメンすぎません? そんなん惚れちゃいますって~~!」
 困ったような科白を吐く少女だけれど、その貌は大層楽し気だ。くゆりは迷うことなく紫陽の手を取った。青年はそんな彼女の手を引いて、宝の山のなかを歩きだす。
 先ず向かう場所は一番のおススメ、ティラノサウルスの骨格標本前――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

グラナト・ラガルティハ

エンリケと言う男が鳥獣を愛しているのは確かだろう。その命を見取り美しいまま留めておきたいと言う思いは否定はしない。
人は美しい毛皮を求めて殺して剥ぐ。それらに比べればある種の好感すら感じるが…。

ただ、俺は剥製と言うものを好まない。
そこにはもう魂という中身がないからだ。
だから、俺は…
すまない感傷に浸りすぎた。
俺はお前を否定しないさ。生きてる間に注いだ思いは確かだろうからな。

さて、歴史のコーナーにでも行ってみるか。
人の歴史は戦の歴史でもある。
それを司るものとしてはどこの世界の歴史も飽きることはない。
剣に盾に槍に弓、そして銃に至るまで。
どれも興味深いものだ。



●虚飾の器
 エンリケと云う男は、鳥獣を愛している。
 あちらとこちらを隔てる硝子の前。まんじりとも動かずに、瞬きひとつ零さぬまま、ただ動物たちを眺め続ける男を見て。グラナト・ラガルティハ(火炎纏う蠍の神・f16720)は、そう確信した。
 彼が手掛けたのであろう剥製たちは、生前その侭の姿で、硝子の向こうに飾られている。まるで芸術作品の如き其れは、妖しげなうつくしさを秘めていた。
「その命を見取り、美しいまま留めておきたいと言う思いは否定はしない」
 かつり――。
 靴音を響かせながら、火炎と戦いを司る神は一歩ずつ、男の方へと歩みを進めて行く。軈て隣に並び立つ迄、エンリケが貌を動かすことは無かった。
「人は美しい毛皮を求め、獣を殺して皮を剥ぐ」
「……度し難いな」
 吐き棄てるように、男はそう云った。拳をきつく握り締めながらも、彼は時間を止めた獣たちを双眸に深く焼き付けている。
「動物は、其の儘の姿が一番うつくしい」
「ああ、それらに比べれば……」
 装飾の為に動物の毛を剥いだり、牙を折ったりする行為には、神と云えど忌避感がある。然し、展示された剥製たちには傷ひとつないのだ。
 其処にいのちへの敬意が秘められているような気がして、グラナトは或る種の好感すら感じた。
「ただ、俺は剥製と言うものを好まない」
 しかし、其れと此れとは話が別だ。
 剥製と化した動物たちは、未だに艶やかな毛並みを誇り、穏やかな眼差しを湛えた侭、其処に置かれているけれど。彼等にはもう、魂がない。
 グラナトにとって剥製は、中身のない虚飾の器に視えるのだ。
「だから、俺は……」
 憤る訳でも、反論する訳でもなく、エンリケはただ神の言葉を待った。神は唇を噛み締めながら、紡ぐべき言葉を探して居た。
「――すまない」
 感傷に浸りすぎた、とグラナトが静かに頸を振る。エンリケは少なくとも、外道ではない。しかし、価値観が違い過ぎるのだ。
 彼にとっては愛すべき子どもたちを、グラナトは愛せない。
 善悪なんて関係ない。ふたりの間にある事実は、ただ其れだけ。されど、その溝は決して埋められぬもの。
「批判も拒絶も、慣れて居る」
「俺はお前を否定しないさ」
 素っ気無く返された男の言葉に、神は再び頸を振って見せる。エンリケなりに愛する者の死と、いのちに向き合った結果がきっと、このコレクションなのだ。
「生きてる間に注いだ思いは、確かだろうからな」
 時を止めた獣たちの貌は、何処か安らいでいるように見えたから。グラナトはほんの僅か相好を崩し、穏やかにそう重ねた。

 暫く剥製を眺めたのち。隣の男に邪魔したなと聲を掛け、神は展示室を後にする。次に向かうは、歴史を取り扱うブース。
 炎のように赤く燃ゆる髪をゆらしながら、彼は金の眸を右へ、左へ廻らせる。農耕や狩猟の歴史なども興味深いが、戦の神たるグラナトにとって、最も興味深いものは当然、武装のコレクションだ。
 思えば、人の歴史は戦の歴史でもある。
 少しでも多くの土地を支配する為に、人々は幾度も争いを繰り広げて来た。戦を司るものとしては、喩え同じような経緯であろうとも、戦史は飽きずに眺めていられる。
 彼等が用いた得物は、謂わば戦の生き証人だ。
 すらりと優美な線を描く日本刀は、何度も合戦で振われたものなのだと云う。頑丈な木で造られた不格好な盾は、原住民が決死の覚悟で構えたもの。赤々とした目晦ましの房飾りが揺れる花槍は、実戦にもよく役だったことだろう。中世では殺人的な威力を誇ったクロスボウは、錆びてなお堂々とした姿。火縄付きのマスケット銃は、銃士たちと共にきっと幾つもの冒険を繰り広げたのだろう。
「――どれも、興味深いものだ」
 感慨深げな戦神の聲が、展示室へ静かに零れ落ちた。
 武器はいつでも、人類と共に在る。

成功 🔵​🔵​🔴​

琴平・琴子
◎2

ねえおじ様
おじ様は剥製の前にいらっしゃるけれど
おじ様の一番お気に入りはどれですか?

あちら?
今にも動き出しそうですね
あれは、貴方が手掛けたもの?

貴方は本当に動物が好きだったのですね
手元に置いて、剥製にしたいだなんて
私にはそのお気持ち、少々理解し難いのですけれども

永遠なんて無い
時に限りがあるからその精一杯生きようと思えるものだから

――でも、動物に危害を加えなかったことだけは
貴方の素晴らしいところだと私は思いますよ

ところでお伺いしたいことがあるのですがよろしいですか?
食いしん坊の猫を痩せさせる方法とかご存知ではないでしょうか
……私以外の人から餌をねだって食べているのですよ、その猫は



●猫と少女
「ねえ、おじ様」
 うつくしき剥製たちを前に、まんじりとも動かぬ男。そんな彼――エンリケの背中に、話しかける少女が独り。琴平・琴子(まえむきのあし・f27172)である。
 よく通るその聲に振り向いた男は、この時間に子供が独りでいることに対して、訝し気な貌をした。迷子に懐かれては堪らないと思ったのか、彼の唇は未だ震えない。
「おじ様はずっと、剥製の前にいらっしゃるけれど――」
 そんな彼の反応を意に介さず、琴子は靴音を響かせて彼岸と此岸を分ける硝子の前へ歩み寄った。翠の双眸が、黙した侭の動物たちをぐるりと見渡す。
「一番のお気に入りは、どれですか?」
「……此処に居るのは俺の子供たちだ」
 しばらくの沈黙の後、男の眸がついと剥製たちの方を向いた。低い聲がぶっきらぼうに、否定の言葉を紡ぐ。
「総て等しく、愛している」
 それは、嘘偽りのない言葉だった。
 琴子は真直ぐな眸でエンリケを見上げた侭、何も言わなかった。寡黙な男もそれ以上は口を開かず、ただ沈黙だけがふたりの間を支配する。
「……見学に来る子供には、ジャイアントパンダが人気だ」
 一向に去る気配を見せぬ子どもに業を煮やしたのだろうか。先に折れたのは、エンリケの方だった。配置場所を把握しているのか彼は視線を真直ぐに向けた儘、ただ腕だけを動かして件の剥製を指で差す。
「あちら?」
 つい、と導かれる侭に少女が眸を動かしたなら。視界に映るのは、のんびりと大地に座るちいさなパンダの姿。ゆったりと投げ出された脚といい、僅かに口を開いた貌といい。まるで今にも動き出して、笹の葉でも食み出しそうだ。
「あれは、貴方が手掛けたもの?」
「そうだ」
 問いかけには、簡潔な返事が戻って来た。もう動かぬ動物たちを眺める男の眸に、確かな温かさを感じて、少女はぽつりと呟きを溢す。
「本当に、動物が好きだったのですね」
 罪だと分かって居ながらも手元に置いて、きちんと育んで。最期まで看取ったうえで、剥製にしたいだなんて――。
「私にはそのお気持ち、少々理解し難いのですけれども」
 “永遠”なんて無い。時に限りがあるからこそ、人間を含む動物は精一杯生きようと思えるのだから。それが、琴子の持論である。ゆえにこそ、彼らの時間を止めてしまったエンリケには共感できない。――でも、
「動物に危害を加えなかったことだけは、素晴らしいと思いますよ」
「当たり前だ」
 せめてもの賞賛を注げば、男は静かに頸を振った。獣愛好家として、そんな心得はあくまで最低ライン。だから彼は、何処か寂し気に斯う呟く。
「本当に、あの子たちが好きだった」

「ところでお伺いしたいことがあるのですが」
 不意に、宜しいですかと頸を傾ける琴子。男は黙った侭、視線だけで続きを促す。彼女が知りたいのは、飼い猫「市」の育て方について。
「食いしん坊の猫を痩せさせる方法とか、ご存知ではないでしょうか」
「大前提として、人間の食卓に猫を近づけないことだ」
 猫が太る原因のひとつは、高カロリーな人間の食事を与えることである。真面目な琴子は当然、猫と人間の食事を確り分けているだろうが。
「餌をやる時間を決めて、残りの時間は確りと遊んでやれ」
 兎に角、躰を動かし続けることが肝要なのだと男は語った。正直、それについてはどうにか成りそうだ。然し解決しがたい問題は、前者にある。
「……私以外の人から餌をねだって食べているのですよ、その猫は」
 少し不満げにそう紡ぐ琴子に、「猫はそういう生き物だ」とエンリケは淡々と返した。猫はきっと、妥協しながら共生すべき存在なのだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

サフィリア・ラズワルド

エンリケさんに接触します。

すごいすごい!竜の剥製や化石はありますか?あ、この世界で竜は一般的じゃないのかな?
【番い竜の召喚】で二人をエンリケさんに紹介します、本物の竜ですよー!

竜が沢山いる世界でも彼等は剥製にされないかもしれませんね、竜から採れる素材は貴重で捨てる所がないんです、私の仲間の竜のほとんども死んだら素材提供を約束してくれています、その後は残った欠片と共に土に還すんです。

でもそうですね、いつまでも覚えていてもらえるなら私が死ぬ時はこうしてもらおうかなぁ、なんて……流石に人型は無理?大丈夫です、私が死ぬ時はきっとこの二人と同じ様に竜になってますから。



●人の衣を脱ぎ捨てて
 硝子の壁に隔たれたた先。生前のままの姿で時を止めた動物たちを前に、サフィリア・ラズワルド(ドラゴン擬き・f08950)は歓声を溢した。
「――すごいすごい!」
 寛ぐように大地へ頭を垂れるグレビーシマウマに、牙を剥くスマトラトラ。艶やかな毛並みに宿った妖しさは、まるで彼等を生きているかのように見せていた。
「竜の剥製や、化石はありますか?」
 隣でじっと剥製を眺め続ける男――エンリケを見上げ、ドラゴニアンの少女は問いかける。すると、瞬きひとつしなかった男の眸が、ちらりと彼女の方を向いた。
「生憎、幻獣は範疇外だ」
「……あ、この世界で竜は一般的じゃないのかな」
 “幻獣”と云う響きに、頸を傾けるサフィリア。アース系列の世界において、竜というものは存在すら曖昧な生き物らしい。けれども、直ぐに気を取り直した彼女は、にっこりと男へ笑い掛ける。
「じゃあ、ご紹介します」
 パン、と手を打ったなら、何処からか現れる番の竜。
 四つ足で地面に降り立つ彼等は、前足が翼になっており。この地上で生活する爬虫類や鳥獣類とは、全く異なる生態をしていた。
 番の竜は慣れぬ場所に暴れることもなく、サフィリアの傍で靜に伏せる。
「ほらほら、本物の竜ですよー!」
「コモドドラゴンとは、また違うらしいな」
 獣愛好家らしく、エンリケは興味深げに竜の傍へと膝を着いた。そして視線を合わさぬように努めながら、初めて目にする幻獣を慎重に観察していた。
「たとえ竜が居る世界でも、彼等は剥製にされないかもしれませんね」
「皮が分厚い、剥皮に梃子摺るだろうな。切開後の縫合も困難だろう」
 番の竜へ視線を向けた儘、エンリケが淡々と私見を述べる。剥製マニアらしい切り口に、「それもあるかもしれませんが」と前置きつつ、少女は言葉を重ねて行く。
「竜から採れる素材は貴重で、捨てる所がないんです」
「……漢方でも作るのか」
 硝子の壁の向こう、表皮に白い斑紋を刻んだハイナン・ターミンジカへ視線を向けながら、男はそんなことを言う。
 聴けば鹿の角は「鹿茸」と云って、粉微塵に砕いて呑めば、貧血や冷え性改善に役立つのだとか。
「薬だけではなく、装備品の材料にもなりますね」
 少女もまた鹿へ視線を注ぎながら、曖昧に頷いて見せた。華燭の世界に暮らす人々には、ピンと来ないかも知れないが。竜の躰は余すことなく役立てることが出来る。
 例えば皮は其の丈夫さから、防具にも使用される。肉は美味と云われるし、爪はよく研ぐことで武器にもなる。骨や角は粉微塵にすることで薬と成るのだ。
「私の仲間の竜たちも、死んだら素材提供を約束してくれています」
 その後は残った欠片と共に、土に還すんです――。
 サフィリアがそう説明すれば、男はただ一言「そうか」と相槌を打つ。さすがに、勿体ないとは言わなかった。生物の躰を余さず活かすこともまた、いのちへの敬意に他ならないのだから。
 でも、と少女の眸が竜の傍で膝を着いた侭の男を見下ろす。
「いつまでも覚えていてもらえるなら――」
 何れ容を喪って、母たる大地と同化する。それが自然の原理。とはいえ、何百年も時が経てば、自分の姿容を覚えて居て呉れる人は居なくなる。
 それなら、いっそ。
「私が死ぬ時はこうしてもらおうかなぁ、なんて」
「……人間は剥製にしない」
 死蝋にするものだ――。
 冗談めいた調子で言葉を紡ぐ少女へ、エンリケは至極冷静にそう答えた。しかし、そんな物騒な回答にも物怖じせず、サフィリアは大丈夫ですと穏やかに頸を振る。
「私が死ぬ時はきっと、この二人と同じ様に“竜”になってますから」
 嘗て実験体として扱われていた人工竜――サフィリアは、いつか人の姿を喪い、本物の竜に成る運命。それでも、竜の姿すら喪われてしまうなら、其の前に。
 ――せめて“私”が生きた証を、遺したい。
「腕のいい剥製師が見つかることを祈ろう」
「ふふ、有難うございます」
 少女が招いた夫婦竜は、そんなふたりの遣り取りを穏やかに、澄んだ眼差しで見つめていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

黒鵺・瑞樹
◎WIZ

博物館は何度か訪ねた事はあるけど、ここのように夜に来るのは初めてだ。
見上げるティラノサウルスは化石とはいえ動きだしそうな気がして、少し怖いかもしれない。
普段からオブリビオンとか相手にしてるのにな。

案内に従い順路をめぐる。
元々生き物であった化石、職人の技が光る物品、生前と変わらぬ姿の剝製。
不思議だ。
猟兵になってから多くのヤドリガミと出会った。
人が作り出した物を本体とするものはもちろん、こんな風に化石を本体とする者もいた。
生きていたのに、死して物になった途端ヤドリガミとなる可能性があると考えると、とても不思議。
ここにある…居るものもいつか人の身を得たりするんだろうか。



●未来を想う
 射し込む月灯りと、天井で揺れる照明に照らされて尚。夜の博物館は何処か薄暝い。ヤドリガミの青年、黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)は銀彩の髪を揺らしながら、静かにエントランスを進んで行く。
 ――ナイトミュージアムは、初めてだ。
 人が遺したものを愛する瑞樹だ。博物館自体は、実際に何度か訪ねたことがある。それでも今日のように、夜に訪れるのは初めてのこと。ふと脚を止めて、エントランスに佇む巨大な骨格標本を仰ぎ見る。
 もう過去の存在と化した「ティラノサウルス」は、骨だけに成ってしまったとはいえ、今にも動きだしそうな迫力を秘めていて。
 ――……少し、怖いな。
 畏怖にも似た感情が、青年の内側からふと湧き上がった。普段から世界の脅威であるオブリビオンと、命懸けで戦っているのに――。
 動きもしない標本にこんな感情を抱くなんて、おかしな話だ。

 溜息をひとつ零した後、瑞樹は順路に従い歩みを進めて往く。先ずは、骨格標本の周囲に置かれた化石群を眺めて視よう。
 元々生き物であった彼等は、いまはもう石のなか。無機物と化した其の様からは、在りし日の姿など到底見出せぬ。
 次に進めば、其処には職人の技が光る物品――宝石を嵌め込んだイースター・エッグが目に留まった。其の造形のうつくしさたるや、思わず息を呑んでしまうほど。七彩に煌めくアレキサンドライトは、黄金の卵に艶やかな彩を添えていた。
 そうして最後に現れたのは、生前と変わらぬ姿で剝製にされた動物たち。青年は硝子越し、碧彩の眸で彼らの姿を眺める。
「……不思議だ」
 猟兵になってから、多くのヤドリガミと出会った。
 百年使われた器物に魂が宿り、人間型の肉体を得た存在――それがヤドリガミである。ゆえに、人が作り出した物を本体とするものは勿論のこと。驚くべきことに、化石を本体とする者も居た。
 本当に、不思議な噺だ。
 化石になるということは、即ち死ぬことと同義である。然しそうして物になった途端、ヤドリガミとなって再び生を受ける可能性が発生するのだから。
 ということは、此処に在る――いや、此処に居る者も、もしかしたら。
「いつか、人の身を得たりするんだろうか」
 遠い未来、いつか「永遠」の魔法が解けた時。彼等は何を想うのだろうか。そして、どう生きるのだろうか。
 その答えは、眸に静謐さを湛えた彼等のみが知っている。
 未だ見ぬ未来へ思いを馳せながら、瑞樹は時間を止めた動物たちを、ただ静かに見つめていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヤニ・デミトリ

ウサギさん(f26711)と

好きなものを傍に置けたのに辞めちゃったんスか
その辺の切欠に関係でもあるかなァ
そこそこに話を聞いた後は館内へ

いや一回見てみたかったんス…夜の博物館
モノが息潜めてるみたいでイイっスよねえ、静かだし

ねえアレ。この機会に見ときたかったんスよ、ティラノサウルスの全身骨格
やばくないスか?超かっけえ…前足ちっちゃ…
ここがどうこうってぼやきながらまじまじ観察するっス
…聞いてますウサギさん??何スかそれ、ええ?出来たら見たかったなァ

1人でもいいけど相手がいるのも悪くないっスね
…ウサギさんの前じゃなきゃ割と機嫌いい時はあるんスけど
ヒヒ、もうちょい付き合わせたいから黙っとくっス


真白・時政

カラスくん(f13124)と

ナンで鳥サンが好きなの〜?ってフンフン聞いて
長くなりそォだカライイカンジの所でウサギさんたちイロイロ見て回りたいカラってバイバイ

ウンウン怪しい〜雰囲気がイイよねェってキョロキョロ
ホントに一人ぐらい動いてるコがいたりシないかなァ〜…

これがティラノサウルス?うわァ〜スゴ〜い!おっきィ〜!
ウサギさん何人分ぐらァい?ぐるぐる周って背比べ
ウンウンそォダネそォダネ、スゴイスゴォイって相槌打ちながら骨のパズルに夢中のウサギさん
やってるンだケドよく分かんないからイイや〜

ティラノはもォイイの〜?
んフフ、カラスくんが見たいだけ見ててイイヨォ〜
ニコニコウキウキなカラスくん、レアだからネ



●ウサギとカラスとティラノサウルス
 飾られた剥製たちの前。兎のように真っ白な青年――真白・時政(マーチ・ヘア・f26711)と、屑鉄の尾を揺らす黒彩の青年――ヤニ・デミトリ(笑う泥・f13124)は、件のダークヒーロー「エンリケ」に聞き込みをしていた。
「ナンで鳥サンが好きなの〜?」
「翼の美しさと、優美な佇まいだが」
 時政が絲のような双眸を更に細めて問い掛ければ、端的な答えが戻って来た。釣れない様子で剥製を眺めるエンリケは、更に言葉を重ねて往く。
「然し、鳥だけじゃない。俺は総ての動物を愛している」
「好きなものを傍に置けたのに、結局ヴィランを辞めちゃったんスか」
 そんな彼の科白を拾うのは、ヤニのほう。其処まで愛しているのなら、いまも犯行を重ねていそうなものだが。どうして足を洗ったのか、純粋に疑問だった。
「――逆だ」
 男の双眸にふと、剣呑な彩が燈る。忌々し気に握り締められた彼の拳は、僅かに震えていた。
「愛し子達を取り上げられた今、もう蒐集は続けられない」
 そう語る彼の視線は、ただ動物たちのみに注がれている。愛したものたちを取り上げられ、二度と愛でられぬ場所へ飾られる――。
 それこそが、彼が甘受すべき罰。
 時政は男の言葉にフンフンと肯いたのち、「もうおしまい」とばかリに明るく手を振って見せた。ある程度の疑問は解けたので、そろそろお楽しみに移るとしよう。
「ウサギさんたちイロイロ見て回りたいカラ、バイバーイ」
 エンリケからそこそこに話を聞いたふたりは、剥製展示室を後にするのだった。

「夜の博物館、一回見てみたかったんス……」
 屑鉄の尾をそわそわと揺らしながら、ヤニは薄暝い館内をぐるりと見回す。順路に沿って並べられた展示物は、静けさも相まってか、昼間よりも何処かぽつんとした様子。
「モノが息潜めてるみたいでイイっスよねえ」
「ウンウン怪しい〜雰囲気がイイよねェ」
 時政もまた、キョロキョロと頸を巡らせる。薄暝闇のなか、不意にカタリと何かが動き出すような。そんな不穏さが、夜の博物館には満ち溢れていた。
「ホントに一人ぐらい、動いてるコがいたりシないかなァ〜……」
「――あ、ねえアレ」
 浪漫を思い描く時政の傍らで、はたとヤニが立ち止まる。伸ばした指の先には、ティラノサウルスの骨格標本がどっしりと佇んで居た。
「この機会に見ときたかったんスよ、やばくないスか?」
「うわァ〜スゴ〜い! おっきィ〜!」
 こうした巨大な骨格標本には中々お目に掛かれない。ふたりの青年は燥いだ様子で駆け寄って、嘗ての陸の覇者の姿を仰ぎ見る。
「超かっけえ……前足ちっちゃ……」
「ウサギさん何人分ぐらァい?」
 黒彩を纏う青年が感嘆の聲を溢す一方、白彩に染まった青年は標本の周囲をぐるぐる周って背比べ。このウサギさんは長身だけれど、喩え5人いたってティラノサウルスには届かなさそうだ。
「ほらこの歯、クロコダイルより強いんスよ」
「ウンウン、そォダネそォダネ」
「この小っちゃい前脚の用途、未だに謎らしいっス」
「スゴイスゴォ~イ」
「……聞いてます、ウサギさん??」
 興奮気味でぼやくヤニだけれど、時政の方はどうも生返事な気がする。じとりとした眼差しで、彼の方へと貌を向ければ。
「――何スかそれ」
 とっくに背比べを止めたウサギさんは、展示物の傍に置かれた骨の立体パズルで遊んで居た。根気よく組み立てれば、恐竜の容が作れるようだ。
「今やってるンだケド、よく分かんないからイイや〜」
「ええ、出来たら見たかったなァ」
 半分ほど出来上がった其れをパラパラと崩し、時政はぐいと背伸びをひとつ。一方のヤニは名残惜しそうに、バラバラに成ったパズルを覗き込む。
 しかし、ひとりで静かに展示物を眺めるのもいいけれど。
 ――相手がいるのも悪くないっスね。
 相手の反応に残念な気持ちに成ったり、巨大な骨に一緒に燥いだり。色々な感情が湧き上がって来て、なんだか楽しい。時政はそんなことを人知れず考えるヤニの貌を、「ティラノはもォイイの〜?」なんて問いながら覗き込む。
「んフフ、カラスくんが見たいだけ見ててイイヨォ〜」
 彼の貌に浮かぶ笑みには、何処か含みがあった。多分、このウサギさんは展示物より、ヤニの反応を面白がっている。
「ニコニコウキウキなカラスくん、レアだからネ」
 対する黒彩の青年は、そんな訳でも無いのだと内心で苦笑するばかり。
 ――……ウサギさんの前じゃなきゃ、割と機嫌いい時はあるんスけど。
 しかし、そんなことは口にしない。
 ――ヒヒ、もうちょい付き合わせたいから黙っとくっス。
 彼が与えてくれたせっかくの機会、存分に楽しむとしよう。
「それじゃあ、あとちょっと」
 言葉に甘えた振りをして、ヤニはティラノサウルスへ改めて向き直る。自然と頬が緩んだのはきっと、太古の覇者を目にしている所為だけでもないだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シキ・ジルモント
◎☆
剥製の展示スペースへ向かってみるか
展示物に興味を惹かれつつエンリケを探す

動物の剥製といえば、狩りの成果や権力を示すトロフィーのようなものばかりだと思っていたが
ここに展示されているものは、そういうものとは違って見える
今にも動き出しそうな…おっと、触れてはいけないのだったな

エンリケにはまず状況を説明する
率直に彼がオブリビオンに狙われていることを告げ、その悪事を阻止する為の協力を頼む
聞き出したいのはダークヒーロー時代の彼の事や強く印象に残っている過去の出来事
すぐに思い当たらなければ動物たちの話を聞いてそこから敵の出現場所の当たりをつけたい
…変わり者だが悪い奴じゃない、確かにその通りかもしれないな



●Meet the Beast Lover
 夜の博物館には、何処か妖しげな魅力があった。
 射し込む月明りがそう魅せるのか。或いは薄暝闇に浮かび上がる展示物の不穏さに、何処か生気のようなものを感じてしまうのかも知れない。
 人狼の青年、シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は独り、順路に沿って道を往く。右へ左へ動かす蒼い双眸が映すのは、時の流れに置き去りにされた展示品たち。年季の入ったマスケットは銃士として興味深く、黄金のイースターエッグの煌めきは見事な物で、つい魅入られそうになる。
 されど、仕事人たる彼はナイトミュージアムを楽しみに来た訳では無い。目的は別にあるのだ。どんなに興味を惹かれようと決して立ち止まらずに、青年は脚を進めて行く。
 順路を抜けて漸く辿り着いた先には、硝子の壁に隔てられた展示室が広がっていた。其処には、数え切れぬ程の動物たちが居る。
 頭を垂れて草を食もうとしたり、のんびりと座って居たり、獲物を狙う態勢で居たり。彼等は思い思いに過ごして居るけれど、一匹たりとも動く素振りを見せない。それも当然のこと、これらは剥製なのだから。
 続いて視界に入ったのは、硝子の前に佇んだ侭、まんじりともしない男の姿。銀絲の髪を後ろに撫でつけた彼こそが、件のダークヒーロー「エンリケ」なのだろう。
「剥製といえば、狩りの成果や権力を示すトロフィーばかりと思っていたが――」
 青年は警戒されぬよう静かに、彼の隣へ並び立つ。そうして徐に溢すのは、彼のコレクションへ敬意を示すような科白。
「ここに展示されているものは、そういうものとは違って見えるな」
「……最期まで看取ったからだ」
 剥製から視線を逸らすことなく、エンリケはそう返す。恐らく、ハンティングトロフィーと異なり、自分の剥製には愛があるのだと、そう言いたいのだろう。成る程と肯きながら、シキもまた彼の視線を追った。
 風が注げば揺れそうな、艶やかな毛並みと云い。自分の意思でそうしているかのような、自然な立ち姿と云い。まるで動物たちが、時間を止める魔法にかけられてしまったような、そんな錯覚に襲われる。
「今にも動き出しそうな――」
 人狼の青年がつい、彼らに向かって手を伸ばす。ぽん、と優しく躰を叩いたなら、魔法が解けそうな気がしたから。しかし、硝子に移った己のゆびさきに、彼はふと我に返る。
「おっと、触れてはいけないのだったな」
「構わない」
 対するエンリケは、開いた掌を強かに硝子の壁へと叩きつけた。
 ドンッ――。
 鈍い音が展示室に響き渡り、振動で硝子が僅かに震える。されど、起こったのはただ其れだけだった。
「盗難対策は万全だ、忌々しいことにな」
 吐き棄てるようにそう零す男の眸には、激しい感情が揺らいでいた。少し間を置いて、シキは静かに問いを紡ぐ。
「ダークヒーローのエンリケだな」
「……俺を知っているのか」
 対峙する男に、驚いた様子はない。淡々とした返事が戻って来るだけだ。エンリケと云う男は、動物にしか関心が無いらしい。恐らくは、己のことすらも――。
「あんたは、狙われている」
 ゆえにこそ、シキは率直に状況を説明することにした。

「ビーストラヴァ―復活か」
 パストテイラーの企みを一通り伝えたのち、エンリケは「気に入らんな」と不愉快そうに眉を寄せた。それが本当に正義感から零された感想なのか、疑問は遺るが。
「悪事を阻止する為にも、助力を頼みたい」
「――何をすればいい」
 青年のほうへと視線を向けたエンリケは、低い聲でそう問い返す。拒絶の彩は、今のところ見て取れない。
「ビーストラヴァ―のことを教えてくれ」
 過去に思いを馳せるかの如く双眸を瞼に鎖した男は、暫し沈黙した後。嘗ての己“ビーストラヴァ―”について、静かに語り始めた。
「全盛期の俺は、何処にでも忍び込めた」
 彼は魔法を使った訳じゃ無い。当時の彼の犯行を可能にしたのは、若さゆえの無謀さと、鳥獣に対する愛情である。悪党として成功した後は専ら、札束でサファリパークやバードパークの関係者を買収したと云うが――。
 それも通じぬ時、或いは名を馳せる前は、強硬手段が多かったのだと云う。ビーストラヴァ―の得物は“麻酔銃”であった。それで警備員を眠らせれば、檻の鍵を拝借して愛する獣を掌中へ。そうして無事に拐したあと、追い掛けて来る警官やヒーローも麻酔銃で無効化したそうだ。
「成る程な」
 そうやって何十年もビーストラヴァ―として活動していたことから、彼の射撃の腕はユーベルコードの域に達していると察せられた。勿論、思い出深い場所の噺も聴かなければなるまい。猟書家が現れるのは、其処なのだから。
「強く印象に残っている事件は、あるだろうか」
「――最後の事件だ」
 苦虫を噛み潰したような貌で、男は低く吐き棄てた。不意に硝子へ頭を押し付ければ瞳孔の開いた眼で、愛らしくお座りしたアムールヤマネコを凝視する。シキも何となく、彼の視線を追い掛ける。
「オセロットを捕まえようとして、ヘタを打った」
「それは、何処で」
「……サファリパークだ」
 エンリケ曰く、此の州には博物館の他にサファリパークも有るのだと云う。
 奇しくも鳥獣愛好家は其処で仕事をしくじり、自身が牢獄と云う名の檻に入れられて。挙句の果てに、コレクションを此の博物館へ寄贈されたらしい。
 誰が聞いても、自業自得な噺だ。
 本人も其の自覚は有るのか、あるいは改心したのか。シキの問いに、エンリケは包み隠さず総てを答えた。エンリケは狂気に足を踏み入れているが。悪事を阻止する為に、文句ひとつ言わず協力してくれた。そんな彼はきっと、曲がりなりにも「ヒーロー」なのだろう。
 ――……変わり者だが悪い奴じゃない、か。
「確かに、その通りかもしれないな」
 人知れず苦笑を溢すシキの姿を、時間を止められた動物たちだけが、物言わぬ眸で静かに見つめていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

陽向・理玖
【月風】

瑠碧姉さん
少しだけ
話聞いてからでもいい?

元ヴィランのダークヒーロー
捕まったからヒーローになったのか?
少しその理由を知りたい
そしたら戦い方も分かるかもだろ?

しかし
やっぱ剥製ってリアルだな
夜だから尚更何か不気味っつか
瑠碧姉さん…大丈夫か?
他行こうぜ
手取ろうとし
あっでも恐竜も見たい…
おずおずと様子伺い
ほらでかいし!かっけぇ!
会ってきたのか
そうだよな…今も普通にいるんだよなこの世界

刀剣とか鎧もいいなぁ
猟兵やってるとあんま珍しくないけども
こうやって飾ってあると何か違う気が…
そうそれ歴史的な

瑠碧姉さんは何か気になるのある?
楽譜か
…歌上手だもんな
弾いたりもすんの?
隣りで聞き
…いい声
やっぱ上手い
目細め


泉宮・瑠碧
【月風】

文明の発達した世界は
まだ少し苦手です…

話を聞く際は
初めましての挨拶と…
野生の動物は、捕獲や持ち帰るのは、難しい様な
薬や縄かと、思いましたが…
愛する子達に使うのか、疑問でして

剥製は…
命は巡るものという意識なので
納得は出来ずとも…好みの否定も無いです
動物が大事なのも、本当ですし…

複雑な思いで居れば
理玖に手を取られ安堵
はい、他の色々も…見に行きましょう

恐竜はどの子も、良い子達でしたよ
骨の姿で動いている子も、居ました

刀剣類は…自分の世界では、普通なので…
飾られている物は、年代を感じますが

楽譜が、少し…正確には、聴きたいです
弾きますが、出来るのは一部の楽器、ですね
目を閉じて聴き、小さく口遊みます



●遺物を辿る夜
 鎖された世界を照らし出す月よりも眩しいLEDの照明に、泉宮・瑠碧(月白・f04280)は、つぅと双眸を細めた。
 ――文明の発達した世界は、まだ少し苦手です……。
 斧と魔法の世界の灯は、もっと柔らかで温かいのに。高文明の世界の灯は、ギラギラと遠慮なく照り付けて来て、正直なところ目が痛い。
「瑠碧姉さん、少しだけ話聞いて来ても良い?」
 そんな彼女へ陽向・理玖(夏疾風・f22773)は、気遣う様に問い掛ける。彼がちらりと向けた視線の先には、硝子の壁の向こうに並ぶ剥製の数々と、それをじっと見つめ続ける男の姿があった。ヒーローたる彼の性分を理解して居るエルフの娘は、静かにそうっと肯いた。頷き返した少年は、意を決して男の背中に聲を掛ける。
「元ヴィランのダークヒーロー」
「エンリケだ、何か用でも」
 漸く剥製から視線を逸らした男の鋭い双眸が、ぎろり。ふたりの貌を、静かに振り返った。薄い眉と相俟って、悪役面に凄味が加わる。
「……初めまして、泉宮瑠碧です」
「俺は陽向理玖。ひとつ、あんたに聞きたいことが有る」
 自己紹介を交わしたあと、徐に本題を紡ぐのは理玖のほう。嘗てヒーローという存在に救われた彼は、エンリケが転向した理由について関心を抱いていた。
「ビーストラヴァ―は捕まったから、ヒーローになったのか?」
 少年の真直ぐな問いかけに、男は静かに頷いてみせる。
「半生をヴィランとして過ごした以上、他の存在には成れなかった」
 それだけだ、と彼は語った。エンリケにはきっと、鳥獣への愛以外なにも無いのだろう。
 悪党として過ごした長い時間は、彼から平穏な人生を奪い。されど何十年もヴィランをやれるだけの腕っぷしと才能が、彼にダークヒーローという道を示した。
 ヒーローへ転向するうえで特に役立ったのは、射撃力なのだと云う。麻酔銃で数多の追手を無効化してきた彼の射撃の腕は、もはやユーベルコードの域に達していた。
「あの……」
 過去の話に黙って耳を傾けていた瑠碧が、おずおずと男へ話しかける。理玖と同じように、彼女もまた彼に対して疑問を抱いていたのだ。
「野生の動物を持ち帰るのは、難しい様な。薬や縄で、とも思いましたが……」
 果たして愛する獣達に、そんな手荒な手段を使うのだろうか。一体ビーストラヴァ―は、如何なる手で鳥獣を捕獲したのだろう。
 それこそが、彼女の疑問だった。
「昔から、どんな動物も手懐けることが出来た」
 自分はただ、普通に接しただけだとエンリケは語る。その表情に、嘘偽りはないようだ。猟兵の常識で考えるなら、彼は“動物使い”の才に長けているのだろう。
「それに魔法のトランクのお蔭で、あの子たちには快適な旅をさせられた」
 男は涼しい貌で、そんな情報も付け加えた。恐らくは、“フェアリーランド”のようなユーベルコードを持っていたのだろう。とはいえ、こちらは戦闘に使え無さそうな代物だが。
 エンリケの話を聴いている内に、瑠碧の表情は段々と神妙なものに成って往く。
 ――……命は、巡るもの。
 いのちに対する彼の考えは、彼女のそれとは相容れぬもの。ゆえに、納得することは出来ない。とはいえ、本人を前にして趣味嗜好の否定をする気にも成らなかった。
 ――動物が大事なのは、本当みたいですし……。
 住む世界が異なれば、いのちへの向き合い方も変わるのだろうか。少し居心地の悪さを感じ始めた娘の耳に、戀人の聲がぼんやりと届く。 
「しかし、やっぱ剥製ってリアルだな。夜だから尚更何か不気味っつか――」
 今にも動き出しそうな其れから視線を外した少年は、瑠碧の何とも言えない表情を見るなり口を噤んだ。
「瑠碧姉さん、……大丈夫か?」
 気遣うような聲と共に、彼女の手をそうっと取る。ゆびさき絡み、互いの銀彩が寄り添えば、漸く瑠碧の頬が和らいだ。
「他行こうぜ」
「はい、他の展示も……見に行きましょう」
 不安げに揺れるこころが安堵の彩で染まって行くのを感じながら、彼に手を引かれる侭に娘は歩みを進め始める。

「あっ、でも恐竜も見たい……」
 不意にエントランスで視掛けた少年心擽る骨格標本を想いだし、おずおずと戀人の様子を伺う理玖。
「ほら、でかいし! かっけぇ!」
「恐竜はどの子も、良い子達でしたよ」
 懸命に展示の魅力を伝えて来る彼に、瑠碧はくつりと微笑みを溢す。気にしなくても大丈夫だと、柔らかに頸を振って。
「骨の姿で動いている子も、居ました」
「ああ、そうだよな……。今も普通に恐竜いるんだよな、この世界」
 パンゲア大洞窟には実際、生きた恐竜が居たりするのだが。大抵のひとにとっては其の場所も遠いもの。骨は骨で浪漫が有るし、エントランスのティラノサウルスは、最後のお楽しみに取っておくとして。ふたりは順路に沿いながら、展示をゆっくりと眺め歩く。
 ふと理玖が立ち止まったのは、刀剣や鎧のコレクションの前。武装の類は、ふたりにとって珍しいものでは無い。瑠碧の故郷では日常的に扱われるものであるし、そもそも猟兵と武装は、切っても切り離せないものである。しかし、
「こうして大事に飾ってあると、何か違う気が……」
 自分たちが普段扱っている其れと、一体何処が異なるのかと理玖は頸を捻る。深い蒼の双眸で刀剣を眺めて居た瑠碧は、ぽつりと一言。
「……飾られている物は、年代を感じますね」
「そうそれ、歴史的な」
 どんなに身近なものにも、いまの容に至るまでの歴史や物語がある。ショーケースのなかで眠る刀剣たちにも、きっと――。
 彼らが辿った歴史を想いながら、再び歩みを進め始めるふたり。然し、年季の入った楽譜の前で、次は瑠碧が脚を止めた。
「気になる?」
「少し……正確には、聴きたいです」
 よくよく耳を澄ましたなら、近くの壁に備え付けられたスピーカーから、静謐な四弦の調べが聴こえて来る。
「……歌、上手だもんな。弾いたりもすんの?」
「弾きますが、出来るのは一部の楽器、ですね」 
 戀人の問いにそう答えれば、娘は双眸を瞼に鎖して、調べに耳を傾ける。そうして暫し、彼女の花唇がふと、四弦に合わせてちいさな旋律を口遊み始めた。
「……いい声」
 少年は彼女の傍らで「やっぱ上手い」と双眸を細めながら、鼓膜を揺らす旋律に耳を傾けている。
 時に置き去りにされた楽譜はいま、長い時を経て漸く、口遊まれる時を迎えたのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

本・三六

故郷の土に居場所はあるだろうか
なぜ足を洗ったのかな。ただ話を

君が剥製を?…瞳がね、気になったんだ
毛並みも素晴らしいが、生きてる
今に動き出しそうだ

鳥も獣も美しい。嫌いな訳はないよ

差し支えなければ…生前の事を聞いても?
いや。生き物は並大抵じゃ。人相手だって難しい
満たされたか知るに言葉は足りない筈だ
あぁ小さな茶トラを昔…彼は老いた半野良でね
今は好きな川縁に居るよ

野生と
人と暮らす事の差は一つだと
ボクは思う
…自立の道を奪う事。戻るには力が要る

檻を持つ者も、罪人か
彼らに訊くしか
全ての動物が、意思を問われて人と共に居るとは思えない

帰路を失えば
愛情と安心を与える、それしか無い
誰よりも出来ると思ったんだろう?



●野生を忘れた獣たち
 硝子の壁に隔たれた向こう側で、時を止められた動物たちは思い思いに過ごして居た。
 ――故郷の土に、居場所はあるだろうか。
 展示室にゆるりと脚を踏み入れた青年、本・三六(ぐーたらオーナー・f26725)は、剥製を眺めながらそんなことを物思う。
 動物たちの姿を追い掛けると否が応でも目に入るのは、硝子の前に佇んだまま剥製を見つめ続ける男の姿。彼こそが件のダークヒーロー「エンリケ」だろう。
 彼の隣にそっと並んだ三六は、努めて穏やかに口火を切る。
「あの剥製は、君が?」
「――ああ」
 それは、素っ気無くも重たい返事だった。
 その一言に詰まった感慨を読み取った青年は、彼と同じく剥製を見つめ続けた侭、優しく言葉を紡いで往く。
「……瞳がね、気になったんだ」
 硝子の向こうに居る動物たちは、まるで時間をピタリと止められたように、生き生きとした様相を呈している。
 彼等をそんな風に見せるのは、素晴らしく艶やかな毛並みのみに留まらず。何処か穏やかな其の眼差しにも、原因があるに違いなかった。
「彼等は、生きてる」
 既にいのちが喪われたにも拘わらず、獣たちの眸には光があった。ゆえにこそ、今にも動き出しそうに視えたのである。
「……怯えないんだな」
「鳥も獣も美しい、嫌いな訳はないよ」
 ほんの僅か意外そうに掛けられた言葉を、頸を振りながら否定して。三六もまた、差し支えなければと前置きを入れ、男へ問いを紡ぐ。
「……生前の事を聞いても?」
「あのドールは、よく甘えて来た」
 得物を狙う様に伏せるアメリカアカオオカミを眺めながら、男がぽつりとそう零した。鋭い其の双眸には、温かな彩と僅かな寂寥の念が浮かんで居る。
「暇さえあれば遊んでやったが、もっと構ってやるべきだった」
「いや、生き物は並大抵じゃ――……人相手だって難しいし」
 なんにせよ、あそこまで立派に育て上げられたのは事実だと、青年は彼のこころへ寄り添って見せる。亡き家族が満たされたか否かを知るのに、何時だって言葉は足りない。
 先だった家族がひとであろうと、動物であろうと、「もっと大事にしてやれば良かった」と後悔の念を滲ませる者は多いだろう。
 喩え、溢れんばかりの愛情を注いでいたとしても。
「……生き物を育てた経験が?」
「あぁ、小さな茶トラを昔……」
 三六は懐かしむように、琥珀の双眸をそうっと緩めた。記憶を辿ればいつの間にか、掌には熱が宿る。愛猫を撫でた時に感じた、柔らかな熱が――。
「彼は老いた半野良でね、今は好きだった川縁に居るよ」
「……その子は幸せだな」
 永き眠りに就いて尚、愛しき想い出の場所で過ごすことが出来るのだから。そう言いたげに、男はほんの僅か優し気な微笑を溢す。
 嘗ての「ビーストラヴァ―」は見ての通り、愛すべき子等と離れ離れにさせられている。それは、彼への罰なのだろう。ならば、主と引き離された動物たちは、彼との離別をどう思っているのだろうか。
 エンリケの寂し気な貌を真剣に見つめながら、三六は静かに言葉を紡いで往く。
「野生と人と暮らす個体の差は一つだと、ボクは思う」

 それは、自立の道を奪うこと――。

 ひとに飼われた動物たちが元の生活に戻るには、野生で生き抜くだけの力が必要だ。裏を返せば、人間に懐くほど動物たちは独りで生きていけなくなるのである。
「全ての動物が、意思を問われて人と共に居るとは思えない」
 彼等の生きる力を奪い、檻に入れた者たちに罪があるか否か。それは当事者である動物たちに訊なければ、きっと分からない。
 ゆえにこそ、人間が彼等の為に出来ることはただひとつ。
「帰路を失った彼等には、愛情と安心を与えるしか無い」
 動物たちが老衰で介護が必要に成ろうと、病に斃れてしまおうと。最期まで世話をして看取ることが、動物を扱う人間に課された責務である。
「君は、誰よりもそれが出来ると思ったんだろう?」
「――そうだ」
 諭すような青年の言葉に、男はちいさく肯いた。
「誰よりも、あの子達を愛していた」
 冷たく低い聲が、微かに震える。されど其の科白は静謐な部屋のなか、確かにぽつりと零れ落ちて、温かに染み渡って行った。

成功 🔵​🔵​🔴​

末代之光・九十
【藍九十】◎(2)
(藍の後ろに手を繋いで付いてきて会釈)
僕は九十だけど。僕の事は良いよ。
僕らはねエンリケ。君の事が聞きたいんだ。
好きな者。好きな物の話は語るのも聞くのも楽しい。
だから聞きたい。君の愛する物達の話。

うん。うん。盗んででも手に入れて。最期まで共に。そしてその後も寄り添う。社会倫理や好みはさて置き。それは愛だと言えるよね。
僕はそう思う。
だからこそ一つ気になるんだ。
……君は。何で。ヴィランを止めたの?
辞めた理由を教えて。

それで。どんな理由にしたって。パストテイラーはそれを踏み躙る。
僕はそれムカつくな。他人事でも腹立つ話だよソレ。
…君はどう?

一緒にね。殴りに行けたらと思うのだよね。僕は。


紫・藍
【藍九十】◎(2)
藍ちゃんくんでっすよー!
変わりゆく可愛さの藍ちゃんくんなのでっす!

死んだ後も愛する、愛される。
思うところがある話なのでっしてー。
(おねーさんと繋いだ手をぎゅっなのでっす)

ヴィランを辞めた理由は藍ちゃんくんも気になるのでっす!
何十年も続けてきた生き方を変える。
それはとても大きなことでしょうからー。
お聞きしてもよろしいでしょうかー?
藍ちゃんくんとしましても、或いはいつか、そういうことも訪れるかもでっすのでー。

おねーさんの言う通りなのでっす!
変わることを選んだ方に、今のあなたはあなたじゃないと言わんばかりに変革を否定してくるのは!
藍ちゃんくんとしましても一番許せないことなのでっす!



●流れ往く時、移ろうこころ
 硝子の壁に区切られた展示室の中、時を止めた動物たちを眺め続ける男の背を、紫・藍(変革を歌い、終焉に笑え、愚か姫・f01052)は片手でトンっと叩いた。
「藍ちゃんくんでっすよー!」
 怪訝そうに振り向いた男の貌に、にぱっと明るい笑みを返してご挨拶。一見するとギザ歯がチャームポイントの明るい少女に視える藍だけれど、本人が言うように性別は「くん」と呼ばれる側――すなわち、男性なのであった。
「変わりゆく可愛さの、藍ちゃんくんなのでっす!」
「……エンリケだ」
 双眸を細めたまま沈黙を続ける男に、駄目押しで笑顔を振り撒けば。男も観念したのか、漸く自己紹介を返してくれた。
 藍は「ビーストラヴァ―」の話を聴いた時から、彼と剥製の間に結ばれた奇妙な絆について関心を抱いていた。
 男は獣たちが死んだ後も、其の亡骸を愛し続けている。獣たちは死後も、魂なき器ごと其の身を愛され続けている。
 ――……思うところがある話なのでっしてー。
 愛情は、そしてその容は眼に見えないもの。ゆえに、彼がどんな想いで剥製を愛でているのかは、本人にしか理解できないこと。
 藍は自身の後ろに付き添う少女、末代之光・九十(何時かまた出会う物語・f27635)と繋いだゆびさきに、ぎゅっと力を籠めた。
「……僕は九十だけど、僕の事は良いよ」
 ふたつに結った黒髪を揺らして会釈しながら、九十は言葉を重ねる。彼女たちはエンリケと交流を深めに来た訳では無く、彼の過去を探りに来たのだから。
「僕らはね、エンリケ。君の事が聞きたいんだ」
「……俺に大した過去は無い」
 たっぷりと沈黙したのち、男はそんな答えを出した。然し、ふたりは頸を振って、その考えを否定する。
「そんなことないでっすよー」
「好きな者、好きな物の話は、語るのも聞くのも楽しい」
 特に彼は「動物」や「剥製」に、並々ならぬ愛情を注いでいる。いつになく興味深い噺を聴くことが出来そうだ。だから――。
「聴きたい、君の愛する物達の話」
 そういうことならと、男は静かに首肯した。僅かの熱も孕まぬ聲が、静まり返った部屋のなかに、低く響き始める。
「あの子達には、それぞれ名前がある」
 バンガイヒタキのチルチルに、ホワイトタイガーのブラン、ソマリノロバのミダス――……。
 いまは物言わぬ彼等にも、それぞれ物語があったのだ。その時点で既に、彼が作った剥製は芸術作品との一線を画している。
「動物は美しい。特に、あの子達は――」
 彼等、「希少種」のうつくしさの前には、倫理も道徳も無意味。そんなものは容易く吹き飛んでしまった。だから罪を承知で手元に置いて、彼等を愛で続けた。
 しかし、動物の寿命はおしなべて短いものだ。
 いのちの炎が消えてしまえば、彼らのうつくしい姿は蟲によって分解されて、何れは土へと還ってしまう。彼等と過ごした、想い出ごと……。
「そんなこと、赦せる訳がなかった」
 だから天命を全うした動物たちに、未だ死相や死斑が浮かばぬうち。彼らを薬液に浸し、皮と肉を分離させ、生前の儘の姿で保存したのだと云う。
 怪しげな生気を秘めた剥製たちは、うつくしい姿のままで彼に寄り添ってくれた。永遠は、確かに其処に在ったのだ。

「……うん、うん」
 其処まで男の話に耳を傾けた九十は、小さく頷きながら相槌を打つ。
 希少な動物たちを盗んででも手に入れて。莫大な時間と手間と費用を注ぎながらも、最期まで共に過ごし。そして、亡骸と寄り添ってみせる。
「社会倫理や好みはさて置き、それは愛だと言えるよね」
 事実、彼女もそう思っている。世間一般においては難色を示されるかも知れないが、エンリケの行動は確かに「愛情」から起因したものだった。
「だからこそ、一つ気になるんだ」
 寡黙な男に目線だけで続きを促されて、九十はふたつめの問いを編む。何方かと云うと、こちらの方が本題だ。
「……君は、何で、ヴィランを辞めたの?」
「それは藍ちゃんくんも気になるのでっす!」
 理由を教えて、と淡々と言葉を重ねる少女の傍らで。愛らしい少年もまた、はいっと挙手をする。
 何十年も続けてきた生き方を変える――。
 それがとても大きな決断であることは、彼より年少である藍にも分かって居た。寧ろ17年しか生きていないからこそ、何十年という数字が重く感じるのだ。
「藍ちゃんくんとしましても、或いはいつか、そういうことも訪れるかもでっすのでー」
 初めて女性の服に袖を通したあの時のように、いつかまた、生き方が変わるような出来事が自身に訪れるかも知れない。未だ見ぬ未来に備える為、藍は彼が転向を決断した理由を知りたいと願う。
 ふたりの問いを耳にしたエンリケは、鋭い双眸で“向こう側”の剥製たちを射抜く。そして彼等の眼差しに惹かれるように、ゆっくりと硝子の壁へ貌を寄せ、額を思い切り其処に打ち付けた。
「――捕まった後、愛し子たちを奪われた」
 誰かさんへの盗難対策は万全なのだろう。硝子の壁は、びくともしない。草臥れたような男の聲が、虚しく展示室に零れ落ちた。
「だから、もう終わりだ」
 男が語ったのは、それだけだった。
 コレクターに相応しい其の罰は、暴走する男の情熱を冷ますに相応しいもの。其処の知れぬ喪失感は、彼から気力も情熱もすっかり奪い去ってしまった。
「どんな理由にしたって、パストテイラーはそれを踏み躙る」
 物言わぬ男の背中に、九十は静かに語りかける。かの猟書家は、決断に至った経緯も、その時に感じた哀しみや痛みさえ、弄ぼうとしているのだ。
「僕はそれムカつくな。他人事でも腹立つ話だよソレ」
「おねーさんの言う通りなのでっす!」
 経緯はどうであれ、彼は自分の意思で変わることを選んだのだ。それなのに、「今のあなたはあなたじゃない」なんて言わんばかりに、変革を否定するその態度や遣り口は見逃せない。
「藍ちゃんくんとしましても、一番許せないことなのでっす!」
 変革にこそ救われた少年は眉を寄せ、ギザ歯をぎらりと煌めかせながら力説する。変化を遂げた人間の“いま”を否定する権利は、きっと誰にも無い筈だ。
「……君は、どう?」
 九十はゆるり、男へ頸を傾けて見せる。もしも、彼が己の人生に誇りを持っているのなら、ふたりと同じような感想を抱く筈だ。
「――不愉快だ」
 少年少女の聲を背中で聴いていたエンリケは、そう低く呟いて。漸く硝子の壁から貌を離した。そうして、怒りを孕んだ眸がゆっくりと、ふたりの方を振り返る。
「一緒にね、殴りに行こう」
 そう促す少女の言葉に、男は微かに頷いたのだった。
 シンデレラの魔法が解ける頃、ビーストラヴァ―へ会いに行こう。“彼”を過去に置き去りにした、ダークヒーローも連れて――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

都槻・綾
◎(1)

剥製達の玻璃の義眼を覗き込めば
映るのは己の姿と
天蓋の灯り

嘗ては
獲物を、
航る蒼穹を、
臨んで居たのだろう

或いは、

ね、今も
空や大地の夢を見ているのかしら

淡く笑みを浮かべ
そっと双眸を閉じて
魂のない、器だけの動物達へ一礼

己もまた器物の身
ただ魂が宿っただけのいのちは
「生きている」と言えるのだろうか

魂が消滅した時
香炉が砕け散った時
其れでも
剥製達へ馳せた想いのように
美しき光景の夢を見ているだろうか

…未来が知れぬことは
ひとと同じ、ですねぇ

其れなら
「生きている」と勘違いしたままでも
許されるのかもしれない

誰に語ることも無き淡い呟きを零したのは
嘗ていのちのあった動物達の眼差しが
たいそう澄んでいたからに違いない



●虚ろの殻
 そろり――。
 脚音もなく展示室を訪れた都槻・綾(糸遊・f01786)は硝子の壁越し、優し気な若葉彩の双眸で、剥製たちの玻璃の義眼を覗き込む。
 穏やかな彩を湛えた其れに映るのは、ひとの身を得た己の姿と、無機質にぎらぎらと煌めく天蓋の灯りのみ。
 彼等の眸がもっと濡れていた頃は、こうして近付くことすら叶わなかったに違いない。ならば、当時の彼等はいったい何を其の眸に映していたのだろうか。
 草食獣なら青々とした草木を、肉食獣なら大地を駆ける獲物を、鳥ならば航る蒼穹を、きっと其々に臨んで居たのだろう。或いは――。
「ね、」
 まるで溜息でも吐くように、ちいさな音を吐息に乗せる。綾が紡ぐ聲には、何処か慈しむような彩が滲んで居た。
「今も、空や大地の夢を見ているのかしら」
 整った貌にあえかな笑みを浮かべた青年は、穏やかな若葉の双眸をそうっと瞼に鎖す。そうして徐に、魂が喪われた器だけの動物たちへ一礼した。
 陰陽師然としたいまの己は、主であった青年の写し姿。嘗ての己は玲瓏と謳われし香炉、すなわち器物の身。ゆえにこそ、綾の虚ろなこころに靄が揺蕩う。
 ――ただ魂が宿っただけのいのちは、「生きている」と言えるのだろうか。
 ひとの容をした此の躰から、魂が消滅した時。若しくは、繊細な花鳥紋ごと、今度こそ香炉が砕け散って仕舞った時。綾もまた、彼等と同じく死を迎えるのだろう。
 それでも尚、価値があると云う理由で、斯様な場所に飾られたとしたら。
 果たして己はその時、時間を止められた動物達へ想いを馳せた通り、うつくしき光景の夢を見ているだろうか。
「……未来が知れぬことは、ひとと同じ、ですねぇ」
 若葉の彩を瞼から覗かせて、ぽつり零す。
 ひとの容の器を与えられ、其れを操る為の魂を得た。双つの眸は彼の眼差しの先を見る為に、仮初のいのちは彼の生の続きを歩む為にある。
 うつくしき彩を蒐集し、香炉は華やぐばかりだが。虚ろなこころに、ひとらしい熱情は燻らない。其れは彼の本質が、器物であるがゆえ。
 けれども、容と意思を持つ限り、未来がある。
 誰と出逢い、何を目にし、いつ容を喪うのか。そんなこと、喩え“生きた"ひとであろうと分からない。其れなら、いっそ――。
「“生きている”と勘違いしたままでも、許されるのかもしれない」
 誰に語ることも無く、淡い呟きが零れ落ちたのは、嘗て“いのちのあった”動物たちの眼差しが、たいそう澄んでいるからに違いなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロキ・バロックヒート
◎2

こんにちは、エンリケくんだっけ
これぜーんぶ君の子たち?すごいねぇ
もし君がまだヴィランであったとしても
こうして讃えたに違いない
なんにも悪いと思わないし
いっそ可愛らしい
ただ人の秩序に合わなかっただけ
なんて言ったら悪いこと勧めてるみたいだけど
君のかつての行いを私は赦すよ
だって神様だもの

だからこそやっぱりわからない
どうしてビーストラヴァーをやめよーって思ったの?
捕まったから?それとも君の子たちを守るためとか?
ねぇ今はどんなことしてる?
愛しい子たちと触れ合えてる?
ヴィランだった君とヒーローの君との違いが
これからの戦いに必要なのだと思うから

話を聞いたら一緒に観て廻りたいな
ねぇ、どの子がいちばんきれい?



●神は総て赦し給う
 ぺたり、ぺたり。
 素足で磨かれた床を踏み締める青年――ロキ・バロックヒート(深淵を覗く・f25190)は、硝子張りの壁の前でまんじりとも動かぬ男の姿を視界に認め、口端をそうっと緩める。
「こんにちは、エンリケくんだっけ」
「……そうだが」
 ぺたぺたと彼の隣に並び立てば、人懐っこい聲で彼の名を呼んだ。当の男といえば、来訪者の多い夜だと謂わんばかりで、溜息交じりに肯定を返す。
「これ、ぜーんぶ君の子たち?」
「総て俺が育て、看取り、容を遺した」
 再び肯定が返ってくれば、「すごいねぇ」なんて燥いだ様子で、ロキは硝子越しに時間を止められた動物たちを眺める。
 それは、素直な気持ちから出た感嘆。
 もしエンリケがまだヴィランであったとしても、ロキはこうして彼の愛し子たちを讃えたに違いない。
「咎めたりしないのか」
 ほんの僅か意外そうに掛けられた言葉に、ロキは「ん~?」と首を捻る。咎めたり、責めたりと云った発想が、そもそも彼には無かった。
「なんにも悪いと思わないし、いっそ可愛らしいよ」
 ひとを甘やかすことを好む神であるロキにとって、彼の行いは児戯のようなもの。まるで虫取りに夢中に成った子供が、獲物をピンで標本箱に留めるような、――そんな行為の延長にしか思っていない。
「君の愛情表現はただ、人の秩序に合わなかっただけ」
 鳥獣たちを奪取することも、レッドリストの品種を密輸することも、悪事には違いない。彼の所為で、絶滅に一歩近づいた種も居るかも知れないのだ。
 けれど、湧き上がる愛情や思慕は誰にも止められないことを、此の神はよく分かって居た。
 罪と知りつつ一線を越えてしまう、人間の愚かさがいとおしい。だからこそ、
「――私は、赦すよ」
 嘗てビーストラヴァ―が、否、エンリケと云う男が犯した罪を。寛大なこころで甘く、濯いであげよう。
「……大層なことを言うんだな」
「ふふ、だって神様だもの」
 その子たちを作ったのは私じゃないけれどね、なんて言葉を重ねれば。新たな疑問が胸に去来し、ロキはかくりと頸を傾ける。
 矢張り、分らないことが有るのだ。
「ねぇねぇ、どうしてビーストラヴァーをやめよーって思ったの?」
 罪を重ねることを良しとする程に、鳥獣を愛していた男が、何故ぱったりと犯行を止めて仕舞ったのか。
「……しくじって、牢屋にぶち込まれた」
「それだけ? 君の子たちを守るため、とかじゃなくて」
 不思議そうに問い掛けるロキへ、男は険しい顔をしながら「逆だ」と頸を振る。鋭い双眸は、動物たちの姿を只管に捉えていた。
「俺は、あの子たちを喪った」
 一度目は、死別によって。そして二度目は、コレクションの没収によって。彼は愛し子たちを、精神的にも肉体的にも完全に奪われてしまったのだ。
 幸か不幸か、彼等は此の博物館に寄贈される運びと成ったが。近しいからこそ、触れられぬもどかしさは募り、絶望は深まるばかり。
 彼の胸中で燃え盛っていた情熱は、いつしか其の身を蝕む喪失感に吹き消されてしまった。
「再び攫った所で、どうせ捕まる。俺はもう、奪われたくない」
 男の口から寂し気に零れ落ちた科白は、静かな部屋のなかへ染みわたって行く。対する神は同情する訳でも無く、無邪気に問いを重ねてみせた。
「じゃあ、今はどんなことしてるの?」
「昔の俺みたいな悪党を懲らしめている」
 悪党として重ねた年月は余りにも長く、ダークヒーローとして生きて行くほか、路は無かったのだと云う。
「愛しい子たちとは、もう長いこと触れ合えてないんだ」
「……ああ。斯うして毎晩、貌を身に来るだけだ」
 男は愛おしげに、硝子の壁へ掌を這わせた。毛並みを撫ぜるように動かすゆびさきは、磨かれた硝子に、薄い痕を遺すのみ――。
「ねぇ、寂しいね」
 彼の疵に寄り添うように、神は甘く優しい聲を溢す。男は諦めたように眸を閉じた後、ほんの少し肯いた。
「家にはもう、犬と猫しかいない」
 もちろん生きている子たちだ、なんて。涼しい貌で冗談を語る彼の口許は、寂し気に微笑んでいたから。ロキも釣られて、くつりと笑った。そして青年は、再び意識を硝子の向こうに居る動物たちへと向ける。
「ねぇ、どの子がいちばんきれい?」
「皆うつくしいが――」
 ぺたりぺたりと硝子の前を歩きながら、興味本位の問いを紡げば。男はそう前置いて、一匹の動物へ視線を注ぐ。
「最も人目を惹くのは、ホワイトタイガーだ」
 すらりと伸ばされたゆびが示す先では、白銀の毛並みに茶縞を刻んだ“白変種”の虎が、のんびりと大地に寄り添っていた。
 その子の貌つきの穏やかさに、そして照明を浴びて艶めく毛並みに、喪われ得ぬ“生”の残滓を感じた気がして。ロキは人知れず、微笑を零すのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

宵鍔・千鶴
🌸🌙

博物館って正に歴史の宝庫みたいだよねえ
はしゃぐレンの裾を引き
何処から見よう?と輝くかんばせ
ね、夜な夜な恐竜が動いたりとか
歴史の偉人と話せたりとかしない?しないか(しょぼ

気づいたらレンにも手を引かれていて
わくわくな様子にそうっと笑みを零す
骨格標本へ熱い眼差し送り
刀は一寸想い入れがあるから
つい足を止めじいと見つめて
レンは船がすき?

剥製は今にも動き出しそう
此処にいのちと魂が無いなんて
信じられないね
冒涜でも生者のエゴでも
美しい姿で時を止めたいのは解るかも、なんて

は、もうこんな時間だ…
一番、自分が気に入った鳥獣を見つけた場所とか
お気に入りの剥製も気になる
よし、探検ついでにエンリケ探しに行こ!


飛砂・煉月
🌸🌙

夜の博物館ってすげーな!ロマンの宝箱って感じ!
めっちゃ探検って気分ッ
子供みたいにきょろきょろしつつ
あ、千鶴の眸も輝いてんじゃん
偉人は居ないかもだけど恐竜は歩いてたりしないかなー?

骨格標本に化石とか既にヤバいんだけど!
気付けば千鶴の手を引いて
次、次って元々の目的はすっぽ抜けた侭
ねね、刀に船も有るよ
オレは船に惹かれ
千鶴はやっぱ刀だよね
一緒に足止めて視線でなぞりながら
船、好きってより
遠い世界のロマンみたいな?

剥製――生きてる、みたいだ
死は慣れてるけど
今も息衝いてるみたいに止まった時間は
オレにも其の気持ちを教えるみたいで

あ、オレ達エンリケに会いに来たんだった
探検の続きがてら探して色々聞かなきゃ



●ふたりで辿る夢と浪漫
「夜の博物館ってすげーな! ロマンの宝箱って感じ!」
 静けさに満ちた館内に、飛砂・煉月(渇望の黒狼・f00719)の燥いだ聲が響き渡る。窓の外には既に夜の帳が降りていて、其処から射し込むのは僅かな月光だけ。
「めっちゃ探検って気分ッ」
 博物館と云う非日常な場所、そして昼間よりも何処か薄暝い館内の雰囲気は、冒険心を擽るには充分で。煉月は子供のように、周囲をきょろきょろと見回している。
「博物館って正に歴史の宝庫みたいだよねえ」
 そんな彼の裾を引くのは、宵鍔・千鶴(nyx・f00683)だ。何処から見ようと、楽し気に頸を傾ける少年のかんばせもまた、きらきらと輝いていた。
「ね、夜な夜な恐竜が動いたりとか、歴史の偉人と話せたりとかしない?」
 何処かそわそわと浪漫を紡いだ千鶴は直ぐに我に返り、「しないか」としょんぼり肩を落とす。
「偉人は居ないかもだけど、恐竜は歩いてたりしないかなー?」
 何処か浮ついたような少年の姿を微笑まし気に見守りながら、煉月は周囲を見回した。ふと視界に飛び込んできたのは、巨大なティラノサウルスの骨格標本。そして、それを囲むように飾られた太古の生物の化石たち。
「骨格標本に化石とか、既にヤバいんだけど!」
 青年は無意識に少年の手を引いて、標本たちの許へと駆け出して行く。わくわくと雰囲気を弾ませる彼に、少年もまた和んだようにそうっと微笑みを零すのだった。
 至近距離で眺めるティラノサウルスの骨格標本は、動いてこそいなかったが、立ち姿だけでもかなりの迫力があった。巨大な恐竜の骨格標本は、やはり少年心を擽るもの。ふたりは暫し、太古の覇者へ熱い眼差し送り続けて――。
「よし、そろそろ次いこ!」
 元々の目的はすっかり置き去りに、好奇心が赴くまま館内を巡るふたり。どの展示物も歴史を感じさせるものばかりだけれど、一際彼らの目を惹いたのは……。
「――ねね、刀に船も有るよ」
 大きなガレオン船の模型が中央にどんと置かれ、それを囲むように刀剣のコレクションが飾られた展示室のなか。煉月は思わず、喜色の滲んだ聲を響かせた。
 刀に想い入れがある千鶴は、優美な日本刀の前でついつい足を止めて。白妙に煌めく刀身を、紫水晶の双眸でじいっと見つめている。
「千鶴はやっぱ刀だよね」
 彼の傍らで同じく足を止めた煉月は、優美な刀身を視線でなぞりながら、そんなことをぽつりと呟いた。
「レンは船がすき?」
 漸く日本刀から視線を外した少年は、部屋の中央で存在感を放つガレオン船に視線を向けながら、かくりと頸を傾げて見せる。
「好きってより……遠い世界のロマンみたいな?」
「冒険の船旅とか、ちょっと憧れるよね」
 同じく頸を傾けながら返された言葉に納得した様子で頷いて、千鶴は再び刀剣へと意識を集中させる。
 そうして、のんびり時間をかけて展示室を巡り、最後に大きなガレオン船をじっくりと眺めて居たところで、ふと――。
「は、もうこんな時間だ……」
「あ、オレ達エンリケに会いに来たんだった」
 当初の目的を想いだした。閉館の時間が訪れる前に彼を捕まえて、色々な話を聞き出さなくてはならないのだ。
「よし、探検ついでにエンリケ探しに行こ!」
 ふたりは順路に沿って、再び館内を進んで往く。更なる遺物との出会いに、胸を弾ませながら。

「……生きてる、みたいだ」
「此処にいのちと魂が無いなんて、信じられないね」
 そうして辿り着いたのは、剥製の展示室だった。
 艶のある毛並みに、妖し気な生気を孕んだ佇まい。そして眸に穏やかな光を湛えた動物たちは、ただ時を止められているだけのようにも視える。
 今にも動き出しそうな彼等を前に、ふたりは暫し言葉を失くして。ただ硝子越しに、其の姿を眺め続けるのみ。
 剥製を作ることは、いのちへの冒涜なのだろうか。或いは、生者のエゴとも云えるかも知れない。それでも、
 ――……美しい姿で時を止めたいのは解るかも、なんて。
 そんなことを、千鶴は思う。時を止めた動物たちは、まるで芸術品のようにうつくしく完成された容をしていたから。
 一方、傍らの煉月は神妙な貌で剥製たちを眺めていた。人狼病を患っている彼は、死に慣れている。けれど、
 ――今も息衝いているみたいに止まった時間は……。
 まるで彼にも、其の気持ちを教えてくれているようで。何処か息が詰まるような、そんな気がした。
「あ、エンリケ」
「……っと、色々聞かなきゃな」
 探していた男の姿に気付いた千鶴が、ふと溢した言葉に煉月は我に返る。少年の視線を追い掛けた先には、剥製をじっと見つめ続ける男が居た。彼が件のダークヒーローだろう。ふたりが話しかけたところ、男は言葉少なに答えを返した。
「一番気に入った鳥獣を見つけた場所とか、覚えてる?」
「オセロットが居たサファリパークだ」
 結局しくじったが――。
 そんな科白を付け加えながら、男は煉月の問いかけに、苦虫を嚙み潰したような貌で返答を紡いだ。そんな彼に、千鶴もまた問いを重ねてゆく。
「お気に入りの剥製なんかも気になるね」
「……どの子も等しく愛している。差は付けられない」
 エンリケの答えに「成る程」と肯いたふたりは、何と無しに再び剥製へと視線を向ける。
 磨かれた硝子の向こう側、彼等はただ静かに主の姿を見つめていた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

天音・亮
まどか(f18469)と


博物館って普通なら夜は入れないもんね
なんだかドキドキしちゃうな、ふふ

指し示され見上げたコンドル
生きてるわけではないし目が合っているわけでもない
それなのになんだか

なんか、ちょっとこわい…ね
今にも食い付かれてしまいそう
リアリティのある動かない生き物
まだ生きている時のほうが生命の熱がある分安心できたのかもしれない

それはそうなんだけど…
あ!私あれ見たいな、楽譜!

流れる音楽を聴きながら譜面を目で追う
感じられる命の名残にざわめいていた心が落ち着くよう
楽譜にはね、心と言葉が詰まってるんだよ
書いた人の命がそこに宿るの
曲の終わりまで聴いたら
きみの手取って歩きだす
さあ、次はどこを見よっか


旭・まどか
あきら(f26138)と


近頃娯楽施設の夜間営業を良く耳にするね
博物館は初めて聞くけれど、昼間とは随分雰囲気が違うな

ねぇ、アレなんか今にも此方に飛んできそう
指差し示すは両翼を広げたコンドルの剥製
瞠る程の翼長にすっぽりと覆われてしまいそうだ

まぁ、剥製だからね
リアリティの無い方が作品としては間違っているのだけれど
剥製の無い所に行こうか

ふぅん。楽譜なんてどれも全部一緒じゃあ無いの?
音楽への嗜みは無いから
ただの記号の羅列の何処に目を惹くのか良く分からない

心と言葉と命、ねぇ
言葉にされても未だしっくり来ない
けれど
悪いものでは無い気はするから

うん、次のエリアは何だろう?
君の手に引かれる侭、世界の軌跡を辿ろう



●音に託されたこころ
「近頃娯楽施設の夜間営業を良く耳にするね」
 静寂に満ちた通路を往きながら、旭・まどか(MementoMori・f18469)はぽつりと零す。ナイトアクアリウムに、ナイトズー、それから初めて聞くナイトミュージアム。それらは近年、勤め人や非日常的な刺激を求める人々の来訪を期待して、各所で開催されているもの。
「……昼間とは随分、雰囲気が違うな」
「博物館って普通なら夜は入れないもんね」
 少年が薔薇彩の眸を左右にゆるりと動かせば、天音・亮(手をのばそう・f26138)は楽し気にくすりと微笑む。
「なんだかドキドキしちゃうな、ふふ」
 昼間は心地の良い陽射しが射し込む窓も、いまは月灯だけを内へ注いで居る。その結果、独特の薄暝さが館内を支配していた。

「――ねぇ」
 靴音を響かせるふたりが辿り着いた先は、剥製の展示室。硝子の壁の向こう側、高い所に興味深いものを見つけて、まどかは亮の注意を惹く。
「アレなんか今にも、此方に飛んできそう」
 伸ばしたゆびさきが示す先には、カリフォルニアコンドルの姿があった。まるで今から獲物に食らい付こうとするかのように、両翼を広げた其の様は圧巻のひとこと。目を瞠る程の翼長に、少年の体躯もすっぽりと覆われてしまいそうだ。
 彼のゆびさきを視線で追い掛けて、コンドルの剥製を見上げた亮は思わず静止した。彼は生きている訳ではない、増してや、目も合っていない。それなのに、なんだか――。
「なんか、リアリティ有り過ぎて、ちょっとこわい……ね」
 剥製たちは、魂の抜け殻ゆえに動けないのではなく、ただ時間を止められているから動けないように見える。まるで今にも食い付かれそうな迫力に、亮は珍しく表情を強張らせた。いっそ生きているほうが、いのちの“熱”がある分、安心できたのかも知れない。
「まぁ、剥製だからね」
 対する少年は涼しい貌で、さらりとそんなことを言う。剥製にも様々な種類があるけれど。これは服や装飾を纏わされた縁起物の剥製とは違い、自然の儘のうつくしさを求めて手掛けられた、――本格的な剥製だ。
 寧ろリアリティが無い方が、作品の意義としては間違っている。
「それはそうなんだけど……」
「……剥製の無い所に行こうか」
 普段は明朗な彼女が、余りにも困り貌をするものだから。まどかは吐息をひとつ零したのち、展示室から踵を返す。亮もまた剥製を見ないようにしながら、少年の後を追った。

「――あ!」
 そうして順路を進むこと暫し。亮が不意に、先ほどとは一転した明るい貌を見せ、ショーケースの前で立ち止まる。
「私あれ見たいな、楽譜!」
「……ふぅん」
 少年へと掛ける聲に何処か喜色を滲ませながら、娘は楽譜の許へと駆け寄って往く。ショーケースに近づけば、四弦の調べが鼓膜を揺らした。その旋律を耳で確かめつつ、譜面を目で追い掛けてゆくうちに。剥製に感じた「命の名残」にざわめいていたこころが、すうっと落ち着いたような気がした。
「楽譜なんて、どれも全部一緒じゃあ無いの?」
 ゆるりとした足取りで楽譜の側に歩み寄り、古びた譜面を眺める少年は釣れない貌。色褪せた様子や、金彩の譜面台に重々しく飾られた様から、この楽譜が貴重なものであることは理解できる。高名な音楽家が最期に遺した楽曲と云う位だから、それなりの価値が在るのも分かる。しかし、それは他人にとっての噺。
 音楽への嗜みが無い少年にとって、この譜面はただの旧い紙。彼女が記号の羅列の何処に惹かれているのか、正直良く分からない。
「楽譜にはね、心と言葉が詰まってるんだよ」
 されど、亮は穏やかに目を閉じて、優しく言葉を紡ぐ。耳に流れ込む旋律からは、最期まで音を探し続けた音楽家の“魂”が感じられた。
「書いた人の命が、そこに宿るの」
 喩え音楽家が鬼籍に入っても、彼が曲に籠めた想いは、そして彼の魂は、譜面が捲られる度に蘇る。
 また譜面に綴られているのは、記号ばかりではない。余白に綴られた手書きの指示は、奏者へのメッセージだ。曲が演奏される間だけ、音楽家は時を超えて奏者とこころを通わせることが出来るのである。
「――心と言葉と命、ねぇ」
 言葉で説明された所で、未だしっくりとは来なかった。けれど、彼女が其処までいうなら、悪いものでは無い気がする。それに実際、あの楽譜を見つけた瞬間、彼女は元気を取り戻したのだ。音楽には、誰かのこころを救う力が有るのかも知れない。
「さあ、次はどこを見よっか」
 四弦の余韻が消えた頃、亮はそうっと少年の掌を取った。そのまま導くように手を引いて、再び順路を歩み始める。
「うん、次のエリアは何だろう?」
 まどかも其れを受け入れて、ゆるりと脚を踏み出した。靴音を響かせ向かう先に、何が待ち兼ねているのかと、想いを巡らせて……。
 月のような静けさを纏う少年と、太陽のように周りを照らす明るい娘。
 対照的なふたりは他愛も無いお喋りを交わしながら、世界の軌跡を辿って往く――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

木元・祭莉
【かんにき】◎だよ!

夜に大きい建物入るの、ワクワクするね?

わ、恐竜だ!
あ、たまごがあるよ。金ぴか!
(何を見ても、わーわー騒ぐコドモ)
みんな、気になるモノ違うかな。
あとで聞いてみよっと。

あ、動物園!(大ダッシュ)
違った、生きてないや。
剥製、っていうんだっけ。
毛並み、つやつやで生きてるみたい。
……オブリビオンにならなくてよかったね!

へえ。白い虎もいるんだ。
目は……あれ、青い?
ウサギさんとは違うんだね。へー。

あ、わんこさんがいた!(犬好き)
色、おいらと似てるね。
サムエンのオオカミとは違うんだ♪
(じっくり)

おじさん、わんこさん好きなんだ?
何が一番好き?
生きてるのと、ここにいるのだと、どっち??(懐く)


駒鳥・了
【かんにき】◎!
暗い時間にこゆトコ来るとテンション上がんね!
よっしゃれっつごー!

ふぉー恐竜でっか!
あの首の長いのを滑り台代わりにしてみたかったなー!
いや今の骨はゴツゴツして滑らなさそーだから実際はしないしない
(言い訳じみて手をひらひら)

うーん
剥製ってビシっとキメポーズ取ってるカンジでカッコイイけど
やっぱ生き物のあったかさが無いからなー
こゆ可愛い子たちはつついたり餌付けしたりしたいトコ!
……最終的に美味しそう、と思わない保証もないんだけど、さ
(ちょっと目が逸れる)

オレちゃんはこの子生きてた頃知らないからだからまだいーケド
生きてた頃知ってる人から見て、この姿はさみしーとか思うコトないんだろーか?


木元・杏
【かんにき】◎
博物館、大きいね…
夜に見るとこう、何だか大きな生き物みたい
少し怖いけど、好奇心もあるから
アキとまつりん(祭莉)が元気に入って行くのに続いてく

ガーネットは宇宙が故郷
ふふ、それではわたしが展示を案内してあげる
鳥のコーナーへ行き、鳥の説明
ん、鳥は鮮やかな羽根で、大小や見た目も色々
そして、もふもふしてる
特に翼の中(脇)とか…、ふふ
翼を広げてる剥製は今にも飛び立ちそうで

翼を持ち、生物の中でも独自の進化を遂げた姿を一体一体感嘆して眺めてく

…ん、ヒーロー
バンガイヒタキの前でなら会えるかな
小さな青、貴方が魅せられた最初の子

綺麗ね?…大切に育てた?
お友達と別れて、今もまだここに居る
この子は…幸せ?


ガーネット・グレイローズ

【かんにき】

地球の自然や文明を学べるなんて、貴重な機会だね。
私は生まれた時から宇宙しか知らないから、地球のことを
沢山知りたいんだ。

「驚いたな。地球では、こんな生き物が闊歩していたのか」
恐竜の骨格を見上げ、その迫力に思わず感嘆の声を上げる。
剥製コーナーでは、鳥に詳しい杏の解説に耳を傾けながら相槌。
しーっ、まつりん静かに。ほら、まつりんと同じオオカミがいるよ。

館内を巡っていると、やがて音も無く現れた男の影に気付く。
「こうしてみると、コウモリも意外と愛嬌があるものですね」
スポットライトの下、エンリケと動物の剥製についてのやりとり。
短い時間の会話で、私の《第六感》は彼の本質を感じ取れるだろうか?


シリン・カービン
【かんにき】◎

夜の博物館ではしゃぐ子供たちを見送りながら、
剥製のコーナーへ進みます。

私の世界とはまた違う動物たち。
生命の精霊こそ宿らないものの、今にも動き出しそうな剥製は、
余程の技術と熱意が無ければ作れないでしょう。
エンリケの動物への愛情は疑いようが有りません。

ならばこそ、聞かねばならないことがあります。
エンリケは何故、ヴィラン『ビーストラヴァー』であることを
止めたのか。

私は猟師。
狩った獲物を余すところなく糧とし、次の生命へと繋ぐのが生業です。
生き方は違いますが、獲物への視線は彼と近しいものを感じます。
それだけに気になるのです。何があったのか。
そこに猟書家が付け入るのを、許したくはないのです。



●賑わう夜の冒険譚
 夜の静寂に包まれた博物館のエントランスホールには、華やぐ5人の若者たちの姿があった。そのなかの黒一点、木元・祭莉(まつりんではない別の何か・f16554)は興味深げに館内を見回しながら、纏う雰囲気をそわつかせる。
「夜に大きい建物入るの、ワクワクするね?」
「暗い時間にこゆトコ来るとテンション上がんね!」
 ポップな女子高生、駒鳥・了(I, said the Rook・f17343)もまた、非日常的な体験に胸を弾ませていた。
「博物館、大きいね……」
 宵闇のなかに聳え立つ博物館は、口を開いて獲物を待つ生き物のようにも見えた。木元・杏(メイド大戦・f16565)は、其の独特な雰囲気に気圧された様子。少し怖いけれども、好奇心も惹かれているから、元気の良いふたりの後に続いて行く。
「地球の自然や文明を学べるなんて、貴重な機会だね」
「ええ、何が展示されているのでしょうか」
 最後尾を歩くのは、星海の世界出身のガーネット・グレイローズ(灰色の薔薇の血族・f01964)と、森に棲むエルフ――シリン・カービン(緑の狩り人・f04146)のふたり。
「よっしゃ、れっつごー!」
 全員がエントランスに揃ったことを確認して、了は愉しげに拳を振り上げ音頭を取る。祭莉と杏の双子兄妹も「おー」と拳を上げ、5人は探検に出発するのだった。

「わ、恐竜だ!」
「ふぉー恐竜でっか!」
 最初に一同の視界に飛び込んで来たのは、エントランスホールの中央で聳え佇む、ティラノサウルスの骨格標本だ。天窓から射し込む月灯と、天井に揺れる照明を浴びた白い骨は、妖しく煌めいて居て。今にも駆け出して仕舞いそうだ。
「驚いたな……」
 骨と化しても尚、何処か強靭さを感じさせる標本を見上げ。余りの迫力に思わず感嘆の声を漏らすガーネット。眼前の生物は、彼女の知る宇宙生物とは全く異なる容をしていた。
「地球では、こんな生き物が闊歩していたのか」
「ドラゴンとは、少し違うようですね」
 麗人の傍らでエルフの娘も、興味深げに標本へと視線を向ける。眼前の生物はどちらかというと、魔獣よりも爬虫類に近い容をしていた。
「あの首の長いのを滑り台代わりにしてみたかったなー!」
「恐竜さん、滑り台にしちゃうの……?」
 翠の双眸を煌めかせながらロマンを語る了に、杏は金の眸をぱちぱちと瞬かせた。はっちゃけた少女は、今にも展示物に駈け上がり兼ねない。
「いや、今の骨はゴツゴツして滑らなさそーだから」
 当の了は「実際はしないしない」と、言い訳じみた言葉を重ねて、手をひらひらと振ってみせた。
「あ、たまごがあるよ。金ぴか!」
 きょろきょろと周囲を見回していた祭莉の興味を次に惹いたのは、金彩に煌めく卵型の飾り箱――イースター・エッグである。七彩に煌めくアレキサンドライトが嵌め込まれた其れは、嘗ての王朝の繁栄の名残。
「キラキラでかっわいー! なにこれ宝石箱?」
「王族が金細工師に造らせた装飾品、と記載されているね」
 現代においても若い女性に受けそうな卵のフォルムに、了が眸を輝かせる傍ら。ガーネットが展示物の説明を読み上げる。
「皇帝に献上する時、中にお楽しみとして小物をひとつ入れていたそうだよ」
「お楽しみ、……金ぴかのヒヨコさんかなー?」
「金色のヒヨコさん、きっと綺麗だね」
 少年少女たちがわいわいと楽し気に言葉を交わすなか、シリンはそっと皆の輪から離れて往く。彼女が向かう先は、件のダークヒーローが居るであろう剥製の展示室。

「あなたがエンリケですね」
 順路に沿って余所見をせずに進んで行けば、軈て硝子の壁で区切られた展示室へと辿り着く。其処でまんじりともせず、剥製を眺め続ける男の背中へとシリンは声を掛けた。
「……今日は客が多いな」
 男は鋭い双眸を細めながら、彼女の方を振り返る。間違いない、彼が件のエンリケだ。エルフの娘は何も答えず、静かに彼の隣へと歩み寄って行く。
 ――……私の世界とはまた違う動物たち。
 娘の双眸は、展示された剥製たちを見つめていた。時間を止められた動物たちには、生命の精霊こそ宿らないものの。まるで、今にも動き出しそうな迫力がある。
「余程の技術と熱意が無ければ、作れないものでしょうね」
「一番必要だったのは、愛情だ」
 ぽつりと零した感想に、隣の男が静かに答える。それは娘の目から見ても、明らかなことだった。妖しげな生気が残る毛並みに、穏やかな光を湛えた眸、縫合痕の目立たぬ表皮。
 此処に飾られている剥製は総て、在りし日の彼等の「うつくしさ」を遺すことだけを考えて、手掛けられたものだった。エンリケの動物への愛情は、まさに疑いようが無い。
 ――ならばこそ、聞かねばなりません。
 シリンは剥製から眸を離し、男の方へと向き直った。
 森に住まう彼女は、猟師でもある。狩った獲物はを余すところなく糧として、次の生命へと繋ぐことを生業としているのだ。
 生き方こそ違うけれど、「獲物」への視線について、自分と彼は何処か近しい価値観を持っているように感じる。
 それは、根底に“いのち”への敬意があるからに他ならなかった。
「あなたは何故、『ビーストラヴァー』であることを止めたのですか」
 ゆえにこそ、シリンは真実を知りたかった。そこに猟書家が付け入ることを、許したくはないから――。
「……捕まった後、俺は罰を受けた」
 物思うように眸を閉ざした男が、ゆっくりと言葉を紡いで往く。
 牢屋に入れられることは、罰ではない。更生プログラムを課されることも、罰ではない。男にとっての罰とは、愛し子たちを取り上げられることだった。
 没収された彼等は警察の許に渡り、軈てこの博物館へと寄贈された。ゆえに男は夜な夜な愛し子たちに会いに来る。されど、触れられぬこの距離がもどかしい。
 罪さえ犯して手に入れた物たちを、愛でられる日はもう来ない。エンリケのなかにはただ、虚しさだけがあった。
「ヴィランを続けても、いつかは捕まる。そうしたら、また」
 愛し子たちを、取り上げられてしまう――。
 あんな想いは二度と御免だった。だから男は、愛すべき動物を追い掛けることを止めたのだった。苦々し気に語られる男の独白を、シリンはただ静かに聞いていた。

「あ、動物園!」
 ふと、聞きなれた聲と賑やかな足音が鼓膜を揺らす。其方へふと視線を向けると、展示室へ駆け込んで来る祭莉の姿が視えた。少年は興味が赴く侭に、動物たちの前へと駆け寄って往く。
「……違った、生きてないや」
 剥製っていうんだっけ、と頸を傾げた少年はくるりと視線を巡らせて――。ふと、エルフの娘を視界に捉えた。銀の眸がぱちぱちと瞬く。
「あっ、シリン姉ちゃん!」
 娘が答えを返す前、再びぱたぱたと脚音が響き渡った。他の3人もまた、剥製の展示室に遣って来たのである。
「――また珍しいものが置いてあるね」
「うわ、初めて見た!」
「シリン、ここに居たの……」
 ガーネットと了が剥製に驚く傍らで、杏は漸く見つけたシリンに目をぱちくりさせていた。ふたりの娘も彼女に気付き、再び5人は合流を果たすのだった。

「毛並み、つやつやで生きてるみたい」
 硝子の壁に貼り付くようにして、祭莉はじぃっと動かぬ動物たちを見る。野生で伸び伸びと育った少年の目から見ても、いのちが喪われているとは思えぬほど、彼等は自然な容をしていた。
「……オブリビオンにならなくてよかったね!」
 とはいえ、過去と化した者たちと戦う猟兵としては、そんな感情を抱くことを禁じ得ない。真剣に剥製を観察する少年の傍らで、了はうーんと首を捻る。
「剥製ってビシっとキメポーズ取ってるカンジでカッコイイけど……。やっぱ生き物のあったかさが無いからなー」
 彼女にとって動物は、芸術作品とは異なり生命力に満ち溢れたもの。やっぱり彼等は、伸び伸びと動いている方が魅力的な気もする。
「こゆ可愛い子たちは、つついたり餌付けしたりしたいトコ!」
「確かに、生きていた時の姿も気になるね」
「……最終的に美味しそう、と思わない保証もないんだけど、さ」
 そんなことを付け加えながら、そっと視線を逸らす了。まるまると肥えた鳥を前にしたら、どうしても味を想像してしまう気がする。
「それにしても、地球には色々な動物がいるんだな」
「ガーネット姉ちゃんは、こういうの好き?」
 そう問い掛けて来る少年に、麗人は緩く笑んで見せる。好きと云うより、興味深いのだ。初めて見る物は、彼女の知的好奇心を満たしてくれる。
「私は生まれた時から宇宙しか知らないから、地球のことを沢山知りたいんだ」
「ふふ、それではわたしが展示を案内してあげる」
 杏はガーネットを手招きして、鳥の剥製の前へと移動した。くりくりとした真っ赤な瞳が愛らしく、貌の辺りに長い髭を生やしたカオカザリヒメフクロウに、黒と白の斑な羽を持つオオアカゲラ。空の彩に溶け込みそうな羽を持つバンガイヒタキも其処に居た。
「ん、鳥は鮮やかな羽根で、大小や見た目も色々。そして、もふもふしてる」
「もふもふ……?」
 杏は様々な種類の鳥を眺めながら、そう説明を重ねてゆく。一方のガーネットは、不思議そうに彼女の言葉を反芻した。
「特に翼の中とか……」
 ふふ、と微笑みながら高所に飾られた剥製を見上げる杏。翼を広げたカリフォルニアコンドルの剥製は、今にも飛び立って仕舞いそうな迫力を秘めている。
「ああ、確かに脇の辺りがふわふわしているね」
 釣られて見上げたガーネットは、納得した様に相槌を打つ。立派な姿と裏腹に、もふもふとした毛並みの其処は、触れると心地好さそうだった。
 翼を持つ彼等は、生物の中でも独自の進化を遂げていると云っても過言ではない。ふたりは鳥類の趣深い造詣に感嘆を溢しながら、一体一体、彼らの姿を眺めて往く。
「へえ。白い虎もいるんだ。目も……あれ、青い?」
 彼女達の近くでは、祭莉がホワイトタイガーをじぃっと観察して居た。白い動物の眸は得てして赤いものだと思っていた少年は、彼の眸に驚いた様子。
「ウサギさんとは違うんだね。へー」
 白変種はアルビノと異なり、毛細血管は透けていないのだ。その為、眸にもちゃんと色が付いているのである。ホワイトタイガーの眸は、空を映した様に青かった。
「しーっ、まつりん静かに」
 杏の講釈に耳を傾けていたガーネットは、己の唇を人差し指で封じて祭莉を諭す。そして徐に、硝子の向こう側に居るアカオオカミを指で指し示す。
「ほら、まつりんと同じオオカミがいるよ」
「あ、わんこさんがいた!」
 彼女が指し示す先を見て、犬好きの少年はきらきらと眸を輝かせて、彼の許へと駆け寄って往く。なんとなく了もその後ろを着いて行った。
「色、おいらと似てるね。サムエンのオオカミとは違うんだ♪」
「ほんとだ、なんか赤い感じ?」
 ニホンオオカミは淡いクリーム色の毛並みを持つが、眼前のオオカミは狐に近い色合いをしていた。不思議そうに剥製を覗き込むふたり。
「それは、アメリカアカオオカミだ」
 その後ろから、ふと低い男の聲が響く。思わず振り返る少年と少女。果たして聲の主は、銀絲の髪を後ろに撫でつけた男――エンリケだった。彼は一同が入ってきた後、壁に寄り掛かりながら事態を静観して居たのだ。
「ノースカロライナのみに生息している、アジアには居ない」
「おじさん、わんこさん好きなんだ?」
 強面の男を前にしても、無邪気な少年は物怖じせずに問いを編む。犬好き同志、エンリケにすっかり親近感を抱いてしまっている。
「犬に限らずどの動物も好きだ」
「犬だと何が一番好き?」
「……ジャーマンシェパードを飼っている」
 はっきりしない答えが返って来ても、ぐいぐいと問いを重ねて行く祭莉。エンリケも流石に観念した様子で、ぽつりと其れらしい答えを紡ぐ。
「へぇ、じゃあ生きてるのと、ここにいるのだと、どっち?」
 少年はすっかり男に懐いた様子。わくわくとした貌で男を見上げ、彼の返事を待っている。
「両方だな」
 剥製たちへ愛でるような視線を注ぎながら、男はぽつりと呟いた。生きていようと剥製だろうと、エンリケにとって彼等は愛すべき家族。動いているか否かの違いしか、其処には無いのだ。
「オレちゃんはこの子生きてた頃知らないからだから、まだいーケド」
 剥製と男の貌を交互に視ながら、了が釈然としない貌で疑問を溢す。生前の彼等を知らぬ自分たちは、剥製を目にしても「凄い」とか「怖い」とか、そういう普遍的な感情ばかりを抱いて仕舞うけれど。
「生きてた頃知ってる人的には、この姿はさみしーとか思うコトないんだろーか?」
 いまにも動き出しそうな出来だからこそ、二度と彼らの時が動かぬことが辛くは無いのかと、そう少女は考える。
「……灰に還すよりは、寂しくなかったな」
 僅かに視線を伏せたエンリケは、静かに頸を振って見せる。生きて居た頃を思い出して懐かしくなるが、それが良いのだと微かに彼は微笑んだ。
「こうしてみると、コウモリも意外と愛嬌があるものですね」
 少年と少女たちに続いて、ガーネットもまたエンリケに聲を掛ける。彼女の視線の先には、まんまるとしたシルエットのベヒシュタインホオヒゲコウモリがいた。
「あの子は丸みがあり毛も多い。マスコットのようで可愛かった」
「……あの子、ですか」
 其の表現から、麗人は男が本当に動物たちへ愛情を注いで居たことを知る。彼は一見すると冷たいが、本当は情が深い人間なのだろう。悪人と云うよりも、情の発散方法が独特な変人と云った所だろうか。
 エンリケは静かな足取りで、硝子の壁へと近付いて行く。そして未だに鳥を眺め続ける杏の隣で立ち止まった。
「……ん、ヒーロー」
 少女は隣に遣って来た男を一瞥したのち、視線を青色を纏うちいさな小鳥へと向けた。その小鳥こそ、最初に彼を魅了した生物であるバンガイヒタキだ。
「綺麗ね」
 男は無言で頷いた。いまにも羽搏きだしそうなバンガイヒタキは、其の羽根の一本一本に艶やかな生気を宿しており、神秘的でうつくしい佇まいをしていた。
「……大切に育てた?」
「ああ、本当に愛していた」
 淡々と紡がれる科白に、嘘は無いのだろう。小鳥を見つめる彼の双眸には、温かな愛情が滲んで居た。
「この子は……幸せ?」
 それでも杏は、問わずにはいられない。鳥を愛する者として、彼の行いには疑問を感じるのだ。
 バードパークから連れ出されて、もう二度と自然のなかには戻れずに。土に還ることも無く、今もまだこの子はここに居る。

「――少なくとも俺は、幸せだった」

 動物たちとの想い出を辿るように、男はそっと瞼を閉じる。もの謂わぬ子らの幸せの容は分からねど、彼等と過ごした時間はたしかに、幸福なものだったのだ。
 ふと、館内のスピーカーから寂し気な旋律が響き渡る。時計の針は22時20分を指している。博物館は、閉館の時を迎えようとしていた――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第2章 ボス戦 『パストテイラー』

POW   :    過去の改変により始まり
対象への質問と共に、【対象の過去の記憶】から【人生の転機となる出来事の光景】を召喚する。満足な答えを得るまで、人生の転機となる出来事の光景は対象を【当時起こりえた絶望的な結果に塗り替える事】で攻撃する。
SPD   :    現在と相対し
【ブラックオーブから放たれる侵食する闇】で攻撃する。また、攻撃が命中した敵の【ユーベルコードと技能】を覚え、同じ敵に攻撃する際の命中力と威力を増強する。
WIZ   :    そして、スナークへと至る
無敵の【敵の記憶に眠る真の姿をした怪物スナーク】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠幻武・極です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●Tales from your past
 博物館が閉館時間を迎えた後、調査を済ませた猟兵たちが訪れたのは、エンリケがオセロットを捕まえようとして失敗した場所――サファリパークだった。
 草木に囲まれ砂利が敷き詰められたエントランスで、猟兵たちは敵を待つことにする。夜行性の猛獣が放し飼いされている園内に生身で乗り込むのは危険であるし、猟書家も猛獣たちの群れのなかに現れることは無いだろう。
 此処に居ると最後の仕事をしくじった記憶が蘇るらしい。協力者として同行したエンリケは、強面の貌を更に険しくして敵の登場を待ち兼ねていた。
 やがて、シンデレラの魔法が解ける頃。
 エントランスに冷たい風が吹き抜ける。次の瞬間、闇に紛れて黒尽くめの女が舞い降りた。占い師然とした其の女は、長い黒髪を揺らしながら謳う。
「過去の改変により始まり、現在と相対し、」

 ――そして、スナークへと至る。

 刹那、闇が蠢き段々とひとの容を象って行く。
 月灯に照らされた其れは、ダークヒーローと同じ貌をしていた。よくよく見ると、エンリケよりも少し顔つきが若く見える。今よりも長く伸ばされている銀絲の髪は、風に靡いてきらきらと煌めいて居た。
 ヴィラン『ビーストラヴァ―』は、今ここに復活したのである。

「過去は決して捨てられない、罪は未来を侵食する」
 漆黒のオーブを抱いた女は、色違いの眸を瞬かせながら、淡々と唇を動かし続ける。女の聲は呪詛のように、其の場に居る者たちの鼓膜をぞわりと揺らした。
 ビーストラヴァ―が動いたのは、その時だった。片手で麻酔銃を構え、猟兵たちへと麻痺を齎す針をばら撒いて行く。
 ――鈍い発砲音が連続して響き渡る。
 ダークヒーローのエンリケが、二丁の拳銃で彼を迎え撃ったのだ。ユーベルコードの弾丸が降り注ぐ針を落としたのを確かめて、男は低い聲で呟く。
「……ビーストラヴァ―は俺がやる」
 それがケジメだと言葉を重ねて、エンリケは己の過去と向き合うのだった。再び銃声が響き渡る。暫くこの鈍い音は止まないだろう。
 まるで他人事のように銃声を聞きながら、女はヴェールの奥で微笑みを咲かせた。ひゅるりと吹いた冷たい風が、彼女が紡いだ言の葉を運んで来る。

「あなたのことを教えて――」


≪補足≫
・アドリブOKの方は、プレイングに「◎」を記載いただけると幸いです。
・プレイングは心情寄りでも、戦闘寄りでも、何方でも大丈夫です。
・戦場はサファリパークのエントランスにつき、動物を巻き込む心配はありません。

・プレイングボーナスは『ダークヒーローと共に戦う』です。
 →エンリケへの言及は最低限でも大丈夫です。

≪受付期間≫
 1月27日(水)8時31分 ~ 1月29日(金)23時59分
グラナト・ラガルティハ

エンリケ、俺はな愛しい人に死んだら目をあげると言われた。そんなに好きな瞳ならと…俺はそれに否と答えた。魂のない瞳はたたただ悲しい。
だから死してなお器を愛でられるお前はある意味強いのかもしれないな。
エンリケ、お前はお前を貫くといい。

なるほど、俺の転機はこれか…
愛しい人に出会ったこと。
あの時、俺の赤や炎が好きだと言われたからこそ今の俺がある。
それを絶望に塗り替える…つまりは…俺に怯えて逃げられという事だろうか…。
あぁ、何という絶望か。
だがな、今の俺があると言うことはそれはただの幻だ。(自身を切り付け幻を振り切る)
UC【我が血潮もまた炎】
(そのまま血に炎に変えて攻撃)



●血潮は燃ゆ
 戦場に降り注ぐ麻酔針を、出鱈目な軌道で飛び交う銃弾がひとつ残らず撃ち落として行く。グラナト・ラガルティハは引鉄を引き続けるダークヒーローの背中へと、静かに聲を掛けた。
「エンリケ、俺はな」
 総てを捧げた愛しき人から、捧げられた言葉が神の裡に蘇る。愛しきあの“青”は「死んだあとに目をあげる」と、己に言ったのだ。
 そんなに好きな瞳なら――……。
 そう語る彼のこころには、きっと愛の炎が燃え滾っていた。けれども、グラナトは敢えて「否」と答えたのである。
 魂のない眸は、ただただ悲しい。
 幾ら愛した眸とて、其処に光が宿らぬならば、硝子球と同じこと。ゆえに、死してなお獣たちの器を愛で、生前と同じ執着を傾けられるこのダークヒーローは、ある意味では「強い」のかもしれない。
「……あんたは魂を愛し、俺は器を愛した」
 それだけだ――。
 神の独白にぶっきらぼうな返事を紡いだのち、男は再び過去の幻影へと引鉄を引く。振り返ることの無い其の背中に、グラナトは餞の言葉を送る。
「エンリケ、お前はお前を貫くといい」
 愛情の容は違えども、ふたりは誰かを、何かを、こころから愛している。その事実だけは、誰にも否定できないのだ。

「さあ、教えて」
 改めて対峙した猟書家は、グラナトに甘い音色で乞うた。刹那、彼の眼前に広がるのは、在りし日の光景――。
「なるほど、俺の転機はこれか……」
 それは、愛しい人に出会った時の記憶。
 まるで海のように鮮やかな、青い眸が印象的な少年が居た。あの日彼が、己の「赤」や「炎」が好きだと、そう言ってくれたからこそ。
 いまのグラナトは、此処に在るのだ。

「これは、あなたの物語」

 言い聞かせるような響きが女の唇から零れた刹那、温かな記憶は一気に変貌した。幸せな光景は、冷たく寂しい絶望の光景へと塗り変えられていく。
 先ほどまで笑っていた少年が、怯えた眸で己を見ている。安心させようと一歩足を踏み出せば、彼の頭に揺れる猫のような耳がびくりと震えた。少年は己を拒む様に背中を向けて、一目散に逃げて往く。
 嗚呼、何と絶望的なことか。神は耐えるように拳を握り締めた。それでも、金の眸を閉ざすことは決して無い。
「だがな――」
 グラナトはいま、何も変わることなく此処に居る。
 いまの彼が此処に在るということは、つまり。
「それは、ただの幻だ」
 なにより、彼の指に光る紺碧の煌めきが、そのことを雄弁に教えてくれている。
 戦神が剣を引き抜けば、蠍尾の飾りが揺れた。視界の端に其の様を捉えながら、神は己が腕へと刀身を這わせ、躊躇い無く切りつける。
 炎を司る神たるもの、その血潮もまた炎である。噴き出す鮮やかな鮮血は、揺らめく炎と化して幻影へ降り注ぎ、過去を歪めた猟書家ごと、絶望の光景を焼き払って往くのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

琴平・琴子


過去のご自身と対峙するなんて随分と勇気のある方
その勇気に敬意を表して輝石ランプを前に構える

過去の自分に勝つのは大変な事だから
彼の戦いの邪魔なんてさせませんよ

輝石の入ったランプを大きく揺らし、狂気を呼ぶ
模らせるのは大きな熊の姿
咆哮の声は無いけれど体を大きく見せる威嚇でおびき寄せおじ様の方には向かわせない様にするだけ
熊と言うのは獲物を何処までも追い掛ける執着さと
突進すれば大型の車が大破するぐらいの強靭さがあるから
負けやしませんよ、ましてや同じ闇からできたものなどに
ブラックオーブを目掛けて力強い腕力で割れるでしょうし

可愛いパンダも悪くないですけど、熊も充分強くてお役に立てたでしょうか



●立ち向かう者への祝福
 先行の猟兵がパストテイラーを相手取る傍ら、ダークヒーロー「エンリケ」は過去の自分を牽制し続けていた。二丁の拳銃からは絶え間なく弾丸が発射され続け、鈍い音が少女の鼓膜を揺らす。されど、そんなことは気に成らなかった。
「……過去のご自身と対峙するなんて、随分と勇気のある方」
 雄姿と云っても差し支えない彼の姿を視ながら、琴平・琴子はぽつり。過去の、しかも罪を抱えた自分と正面から向き合うなんて、誰にでも出来ることではない。
 その勇気に敬意を表すように、少女はランプを構えた。ゆらり、煌びやかな灯が揺れて、地面に影が伸びる。
「彼の戦いの邪魔なんて、させませんよ」
 過去の自分に打ち勝つのは大変なことだから、パストテイラーの介入は見過ごせない。翠の双眸が、女の涼し気な貌をきり、と睨め付ける。
「――無駄なこと」
 猟書家はヴェールの奥で、くつりと冷笑を溢した。まるで預言者の如く、彼女の唇は淡々と動き続ける。
「幾ら足搔こうと、過去は消えない」
「ならば、抗って見せましょう」
 ゆうらり、ゆらり。
 少女がランプを大きく揺らせば、中に入った輝石がカラコロと音を立てる。茫と煌めく灯も揺れて、奇妙な軌跡を描き始めれば、漂う空気が不穏に淀む。
「さあ、いらっしゃい」
 その不穏は闇のなかに影を招き、少女の前で段々となにかの容を象って行く。軈て月下に現れるのは、大きな熊の恐ろし気な姿。
 熊は女に向けて牙を剥いた。その正体は狂気ゆえに咆哮の声は無いけれど、威嚇する様に腕を広げて見せるだけで、敵にとっては脅威と成る。
「本来ならば、ヴィランの獲物だけれど」
 件のビーストラヴァ―はエンリケとの交戦に没頭している。仕方なしに、女は腕に抱くオーブへ闇を纏わせて往く。集った其れらは、少女の方へと放たれて。
「――負けやしませんよ」
 しかし、琴子は気丈に闇を見据える。同じ闇から出て来たものに、彼女が呼んだ狂気が負ける筈はない。
 熊の容を模した其れは、迫り来る闇のなかへ突っ込んで行く。熊という生き物は、大型車を破壊する程の強靭さを持つ。それが突進してきたら、どうなるか。果たして答えは明白であった。
 鋭い爪で浸食する闇を切り裂き、離散させる。されど、彼は未だ止まらない。熊の恐ろしい所は、獲物への執着心。壊すべき其れを捉える迄、彼は駆け続けるのだ。
「きゃあっ」
 オーブから再び放たれた闇を裂いて、熊は女の許に肉薄する。大きく振り上げた爪が狙う先は、彼女が抱く黒いオーブだ。
 勢いよく爪を立てられて、朱い模様が刻まれた其れに、ピシリと罅が入った。
「さて、お役に立てたでしょうか」
 小気味よい其の音に耳を傾けながら、少女は男のほうを見遣る。彼は二丁の拳銃を操り、尚も飛び交う麻酔針を落とし続けていた。
「……ああ、あの子のお蔭でな」
 いつか剥製にした、ナマケグマを想い出す――。
 そう言い添えながら、エンリケは弾倉を一瞬で補填する。戦場に発砲音が満ちる前に、琴子は涼しい貌で問い掛けた。
「可愛いパンダも悪くないですけれど、熊も充分強いでしょう」
 男は僅かに苦笑しながら肯いて、再び二丁の引鉄を指で弾き始める。少女もまたランプ片手に敵へと向き直り、凛と咲く花の如く戦場に佇んでみせた。
 勇気が有るのはエンリケだけでは無い。
 琴子にも、昨日の恐怖を乗り越える勇気がある。彼女の裡に煌めくその想いは、今日も少女を前へと進ませるのだ。正しい未来へ向けて、真直ぐに――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

本・三六

移動に使ったMr.を離れ

君がそう云うなら
ただ敵も複数。用心を
麻酔も闇も触れては不味いらしい。嫌な感じだ…手荒くなると思う
一つ頼んでも?

断続的に『黒賽子』を放ち
光と誘爆により闇の拡がりの把握に努め、障害物のない方へ
己をよく知ってる、夜闇で活きる力だ
好奇心も解るが
心を見て尚、踏み躙る理由が分からない
…想いは視えてないのかな

此処の子等も
誰かに愛され育まれてる
別離と向き合う彼が見過ごすと?

防戦の間に相棒たちをMr.に
『白夢』を光の合図で打ち込んで貰い
隙に『鉄芥』で一矢を
切掛でいい。彼にオーブも狙って貰えないか

想いを注ぐ存在が、力に意味を齎す
これは師の受け売り…彼を見れば判るね
君に遣れる過去は此れ位だ



●想いを力に
 飛ばされた麻酔針が鋼鐵の紳士に激突し、カツンと跳ね返る。すぐさま飛んで来た銃弾が、宙に浮いた針を容赦なく地面に撃ち落とした。其の様を見降ろした後、本・三六は鋼鐵の紳士たるキャバリア「Mr.」から飛び降りる。
 先ほどまで脚と成ってくれた彼とは暫し別れ、三六は生身で弾丸の射手、エンリケと向き合った。彼が弾倉を補填する間に、聲を掛ける。
「君がそう云うなら――」
 自分は、ビーストラヴァ―に手を出さない。
 けれども、意地を張り続ける男の姿は少しばかり心配でもあった。ゆえに、青年はこころから彼の無事を祈る。
「敵も複数……用心を」
「あんたもな」
 補填を終えると同時、再び引鉄を引き始める男の返事は、相変わらず素っ気無い。されど、互いに気持ちは通じ合っていると、そう思えた。
 三六は改めて、猟書家の女と対峙する。見れば彼女が抱くオーブに、ぐるりと闇が纏わりつき始めていた。
 ――ああ、嫌な感じだ……。
 直感的にそう思い、掌をきつく握り締める。この闇に加えて、麻酔針の雨まで降り注いでくるのだ。敵もなかなか手荒い真似をする。
「君に一つ、頼んでも?」
「片手間で出来ることならな」
 密やかな聲で乞うたなら、銃弾を放ち続けるエンリケは獲物から視線を逸らさぬ儘、ふたつ返事でそう応えた。そして一言、二言、遣り取りを交わしたのち。三六は彼から離れて地を蹴り付け、パストテイラーの許へ駆ける。
 風を切る青年から、ヒュンと放たれるのは鈍色の賽子たち。多角形の容をした其れは、宙に舞いながら眩い光を放ち、軈て花火のように破裂する。ひとつが爆ぜればその他も巻き込まれて、次々に苛烈な光が広がって往く。誘爆は細やかなもの、パストテイラーには決して届かない。されど、彼はよく知っている。
 これは、夜闇でこそ活きる力なのだと――。
 三六にとって其の光は、照明の代わり。お蔭で闇の拡がり具合も、戦場の状態もよく把握できる。彼は瞬時に開けた場所へと駆け込んで、術を編む。
 宵闇にぽんっ、ぽんっと零れ落ちるのは、色鮮やかなゲームキャラクターたち。幼い頃に慣れ親しんだ彼等は、散り散りに散らばって往く。
 数体が広がる闇に呑み込まれても尚、突き進み続ける彼等を一瞥したのち。青年は猟書家が居る位置へと、視線を呉れる。
「好奇心も解るが……。彼の心を見て尚、それを踏み躙る理由が分からない」
 或いは、彼女に視えているのは“過去”だけで。彼の“想い”までは、視えていないのかも知れなかった。
「罪は未来を蝕む、ただ其れだけ」
 女は貌彩ひとつ変えずに、ただ淡々と同じことを繰り返す。こころを踏み躙っている自覚すら、きっと無いのだろう。浸食する闇が襲い来れば、先ほどの灯で視認した他の安全地帯へと転がり込む。
「此処の子等も、誰かに愛され育まれてる」
 サファリパークの獣たちは、飼育スタッフに、観光客に見守られながら、番や群れの仲間たちと共に日々を過ごしている。
 そんな動物たちの安寧を、脅かそうとするなんて――。
 青年がそんな科白を溢すと同時、再び闇を祓う様に黒賽子が眩い光を放った。次の瞬間、しゅるり。一本のアンカーが宵闇を裂き、猟書家の許へ伸びて往く。
「!」
 抗う術を持たぬ猟書家は、驚いた様に飛退くけれど。アンカー、白夢はそれを許さない。更に其の身を伸ばして、ぐるり。女の躰を今度こそ戒めた。
「そんなこと、別離と向き合う彼が見過ごすとでも?」
 視線は猟書家に留めた侭で、聲彩に何処か信頼を滲ませて、青年はそう問うてみせる。

「嗚呼、見過ごせんな――」

 期待通りに返されたのは、低い聲。
 刹那、エンリケが放った弾丸が不規則な軌道を描いて、パストテイラーが抱くオーブへと着弾する。衝撃に女が仰け反ったのと同時に、三六は駆け出した。
 ――ほんの小さな切掛で良かった。
 青年がダークヒーローに頼んだのは、オーブへの射撃である。アンカーによる戒めが功を奏し、彼が過去の己を相手取る“片手間で”猟書家を狙える隙が生じたのである。
「想いを注ぐ存在が、力に意味を齎す。これは師の受け売り――否、彼を見れば判るね」
 オーブに罅が入ったお蔭か闇は少しずつ晴れて往き、視界もだいぶ良好だ。三六は迷うことなく女へ肉薄し、ずしりと重たげな鉄芥を勢いよく振り被った。
「想いでは無く、過去を見せて」
「君に遣れる過去は、此れ位だ」
 女の願いを一蹴すれば、容赦なく腕を振り下ろして、機械仕掛けの鈍器で思い切り其の身を殴りつける。
 衝撃に吹き飛んだ女の腕から、ころり。罅の入ったオーブが、転がった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

陽向・理玖
【月風】

俺の過去?
覚えてない過去まで分かんの?

俺の転機は師匠との別れなんだろう
師匠がいなくなったから
俺はこの世界を離れて
猟兵になった

師匠が俺を庇って代わりにほぼ致命傷
助けを呼びに行けなんて
結果的には置いて逃げたと変わんねぇ
これ以上に絶望的な結果って何があるよ

本当はあそこで
最後まで一緒に戦いたかった

はっとし
…瑠碧姉さん
ありがとうな
過去は過去だ
裾引く手に触れ

苦しくても生きなきゃって思ってた
でも今は
仲間の
…この人の側で生きたい
触れた手を離し
前に出て変身し残像纏いダッシュで距離詰めUC

過去は変えられねぇ
けど俺の罪は俺だけのもんだ
あんたにどうこうさせやしねぇ

エンリケも同じだろ
ちらと様子見
助力不要なら集中


泉宮・瑠碧
【月風】

…過去は消えない事も
罪が未来まで侵食する事も
否定はしませんが…

理玖の過去は
聞いていますので
静かに…そして悲しく、共に見ます

私は似た状況も
…何を後悔しても、もう戻れない事も
知っていますから

…理玖
そっと袖を引いて
現実に、帰そうとします

私は郷愁総奏
過去を懐かしみ、省み
けれど、その上に立ち、前を向く歌を
エンリケにも届く様に

スナークを無敵とするなら
あくまで概念だからだと思います
不信感、とか、形無きもの
なので、それを怪物とし
創造したら無敵ではないのでは

逆に訊きますが…
無敵、とは何でしょう?

私の思う無敵、は私にしか適応しません
それは、無敵ですか?
…私の方が、不思議です

パストテイラー…
どうか、安らかに



●Replay the Past Tale
 月灯を浴びながら、黒衣を赤く染めた女がオーブを撫ぜる。白いゆびさきは禍々しい彩の其れによく映えて、自然と陽向・理玖の視線が其処に集中する。
「あなたの過去を教えて」
 淡々と紡がれた言葉は、まるで魔法のように、少年の鼓膜から脳裏へ浸み込んで往く。鈍い頭痛に襲われて、理玖は思わず頭を抑えた。
 ――俺の、過去……?
 ヴィランの組織から救われる迄の記憶は、彼にない。ならば女は、なにを見せるのだろうか。
 彼の「過去」がいま、リプレイされる――。

 少年の転機は、“師匠”との離別であった。思い返せばそのことを切欠に、彼は此の世界を離れ、猟兵に成ったのである。
 15の夏、忘れもしないあの暑い日に、師匠は居なくなった。
 それは、いつもと同じ潜入任務の筈だった。少年は、庇われたのだ。
 代わりに致命傷を負った師匠は、「助けを呼びに行け」とそう云った。それが彼の人の優しさから出た言葉であろうとも、結果的には置いて逃げたと同じこと。
 嗚呼、これ以上に絶望的な結果があろうか――。
「師匠……」
 本当は、あの日、あの場所で。最期まで一緒に戦いたかった。“生かされた”のだと分かって居ても、そう想わずには居られないのだ。

「――理玖」

 聞きなれた聲が鼓膜を揺らし、少年は我に返った。
 見れば泉宮・瑠碧に、服の裾をそうっと引かれている。哀し気に此方を覗き込む彼女の貌と目が合って、少年はゆっくりと瞬きを溢す。
「瑠碧姉さん……」
 彼女は、少年が過去に受けた痛みを知っている。ゆえに、彼が絶望に呑まれぬようにと、現実へ呼び戻してくれたのだ。
「ありがとうな」
 過去は過去だと、気丈にそう囁いた少年は、裾を引く手にゆびさきを重ねた。静かに理玖へと頷いたのち、瑠碧はパストテイラーへと視線を向ける。
「……過去は消えない事も、罪が未来まで侵食する事も、否定はしません」
 彼の眼前で繰り広げられた光景と、似たような現実を。そして、幾ら後悔したとしても、過去には戻れないことを、よく知っていたから。エルフの娘は双眸を伏せて、そう語る。けれども、いつまでも後ろを向いた侭では居られないのだ。
 すぅ――と息を吸い込んだ娘は、花唇から歌聲を響かせる。
 それは、過去を懐かしみ、省みて。けれども、その上に立ち、前を向くための歌。靜なその調べは、傍らの少年のこころを、そして同じ戦場に立つエンリケの疲労を癒して行く。
 ――苦しくても生きなきゃって、思ってた。
 幾ら挫けようとも、諦めずに何度でも立ち上がる。それが「ヒーロー」という存在だから。なにより、生かしてくれたひとに、報いなければいけないから。
 ――でも、今は仲間の傍で……。
 そして、この人の側で生きたい。
 誰かの為でも、贖罪の為でもない、自分の為の人生。それを強く希えるように成ったのは、大切な彼女の存在あってこそ。
 触れたゆびさきをを離して、少年は駆ける。脚は止めぬ儘、竜の横顔を模したバックルを腰に嵌め込めば、瞬時に全身が装甲に覆われた。
 ちらり、過去と対峙するエンリケの姿を確認する。彼方は問題なさそうだ、ならば今はオブリビオンのほうへ。

「無敵のスナークよ――」
 オーブをゆるりと撫ぜた女が、一言そう囁けば。闇夜に白き影が舞い降りる。其れは、瑠碧の真の姿を模した、無敵の怪物「スナーク」の姿。それは、駆けるヒーローの前へと立ちはだかる。しかし、瑠碧の方はそれを良しとしない。
「スナークは、あくまで概念だから、無敵なのだと思います」
 不信感や恐怖と云った「形無きもの」が怪物として伝搬していくことにより、スナークは無敵となるのだと、娘はそう考えている。
「なので、それに容を与えたら……無敵ではないのでは」
 核心を突いた科白に、スナークの輪郭が揺れる。恐らくは己の力に、僅かな疑念を抱いて仕舞ったのだろう。駄目押しとばかリに、瑠碧は問いを重ねてみせる。
「逆に訊きますが……無敵、とは何でしょう?」
「無敵、すなわち、敵がいないこと」
 パストテイラーは淡々と答えを編んだ。それでも尚、スナークの揺らぎが元の容を取り戻すことは無い。エルフの娘は、不思議そうに頸を傾げて疑問を紡ぐ。
「けれども、“私の思う無敵”は“私”にしか適応しません」
 それは、無敵と云えますか――。
 まるで言葉遊びのような遣り取り。されど、彼女が招いた無敵の怪物は存在そのものが児戯の如きもの。強さへの過信が揺らいだスナークは、ひとの容を喪ってパラパラと崩れ、軈ては粒子に成り果てる。
 立ちはだかる彼女が消えれば、残像を纏ったヒーローは、ひといきに敵へと接近。握り締めた拳を、思い切り振りあげる。
「過去は変えられねぇ。けど、俺の罪は俺だけのもんだ」
 風を切った拳が、女の躰を強かに貫いた。あえかな躰が地面に食い込み、骨が軋む音が響き渡る。
「――あんたに、どうこうさせやしねぇ」
 そう啖呵を切るヒーローの佇まいに、迷いは一片もない。彼の雄姿を見守る瑠碧は、両のゆびさきを絡め合わせ、静かに目を閉じた。
「パストテイラー……」
 どうか、安らかに。
 そんな優しき娘の祈りは、夜風にひゅるりと溶けて行く――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

黒鵺・瑞樹
◎☆
右手に胡、左手に黒鵺の二刀流

けじめか、いいな。
なら現れたスナークの相手はエンリケに頼むとしよう。

俺も闇に紛れ存在感を消し目立たない様に立ち回る。そして隙をついてマヒ攻撃を乗せた暗殺のUC五月雨で攻撃。
同時に投げられるだけの飛刀も投擲、なるべく逃げ場がないよう囲むように攻撃。
さらにその隙に接近して直接二刀での攻撃を重ねる。
敵の攻撃は第六感で感知、見切りで回避。
回避しきれないものは本体で武器受けで受け流し、カウンターを叩き込む。
それでも喰らうものは激痛耐性で耐える。

過去は捨てられず、時に未来を黒くするかもしれない。
でもそれは心次第だと思う。
過去があっての現在でそして未来だからな。



●切り拓く刃
「――けじめか、いいな」
 ダークヒーローが遺した科白に、ふ、と笑みが零れた。自分の過ちに向き合う気概があるのなら、スナークの相手は彼方に任せるとしよう。
 右の手に神聖なる日本刀を、左の手に黒塗りのナイフを持ち、黒鵺・瑞樹は猟書家『パストテイラー』と対峙する。
 敵は丸腰だが、その腕に抱かれたオーブが曲者だ。罅の入った其れを、女のゆびさきがつぅ――と撫ぜれば、戦場に闇が拡がって往く。
 しかし其れは、暗殺者のナイフを本体とする瑞樹にとっては好機。暝闇に紛れば、なるべく気配を消して。足音ひとつすら立てず、駆ける。
 その傍らで飛刀を一本、懐から取り出して投げつけた。敵の視界にも闇は満ちている筈なのに、女は軽々と飛退いて其れを躱す。ならばと青年は、五指へ飛刀を挟み、次々に投げつける。
「!」
 パストテイラー本体の身体能力は、あまり高く無いのだろう。再び飛退き連続で飛来する刃から逃れたものの、たたらを踏んで姿勢を崩す。
 ――いける。
 そう直感した青年は、虚空に黒塗りのナイフを招く。天から降り注ぐ百の刃は、五月雨のように。女の躰を血でしとしとと濡らして行く。
「抗おうとしたところで――」
 痛みを堪えるように眉を寄せる女が、腕に抱くオーブを撫ぜれば、彼の許に闇が集う。されど、神へと奉納された「胡」に祓えぬ邪は無し。
「過去を、罪を、消すことは出来ない」
 煌めく刀身で襲い来る闇を一閃すれば、瞬く間に視界は開け。闇に紛れた彼の躰も露わに成る。しかし、猟書家に追撃の余裕など与えない。
 すかさず十指に飛刀を挟み、一機に投擲する。ばらばらな軌跡を描いて女の許に至る其れは、足の踏み場すら奪った。その場で立ち往生する彼女の懐へ音も無く忍び込めば、二刀を同時に振り下ろし、女の躰に十字を刻む。
「……っ」
 黒衣を血に染めながら倒れ込む女を、涼し気な双つの碧が見降ろした。呉れて遣るのは、惜別でも手向けでもなく、未来へ挑み続ける「ひと」の意思――。
「過去は捨てられず、時に未来を黒く染めるかもしれない」
 暗殺者の刃であった彼とて、そのことは分かっている。でも、ひとには運命を覆せるような「意思の力」があるのだ。
「――総ては本人の心次第だ」
 過去があるからこそ今があり、それが未来へと繋がって行く。嘗ての主の写し身たる瑞樹の存在が、なによりも、そのことを証明して居るのだ。
 ひとの未来を護る為、ふたつの刀を取った青年の姿を、月は明々と照らして居た。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ガーネット・グレイローズ
【かんにき】◎

サファリパーク…ここがエンリケの運命を変えた場所か。

仲間と連携しつつ、ビーストラヴァー、パストテイラーを同時に相手取る
《戦闘知識》で麻酔銃の射程と弾道を予測しつつ、
ブレイドウイングで半身を覆って《武器受け》し射撃をやり過ごし
反撃にブラックバングルから《衝撃波》を。

エンリケ、貴方は既に罰を受けている。
ならば、これ以上過去に悩み苦しむ必要もないだろう…
杏の言葉は厳しいが、ぜひ聞き入れてほしい。
貴方がこれからもヒーローとして歩んでいくのなら、
過去にけじめをつけたいのなら、私も助力を惜しまない。

【サイキックブラスト】を放ち、
ビーストラヴァーの動きを一時的に封じる。
…今だ、猟書家を叩け!


木元・杏
【かんにき】◎
昔のエンリケ…

ん、わたしは後方から、うさみん☆に回復薬の入った沢山の小瓶を持たせて操る
うさみん☆、ジャンプで攻撃を避けつつ傷の大きい人を優先し、早業で小瓶を投げ渡してね

エンリケ、ビーストラヴァ―
わたしは「あなた達」が好きではない
盗む事も、それをやめる事も、全て「自分」の気持ちばかり
大事に愛情を注いだ?愛し子を奪われた?
それはあなたが盗んだ子も、盗まれた「誰か」も同じ事
今でもお互いを探してるかもしれない、再び会えない悲しみの最中かもしれない
あなた達のした事は、赦されない

そんな罪まみれの存在は強くない
利用する貴女も強くない
一気に間合いを詰めてパストテイラーに怪力で灯る陽光を叩きつける


シリン・カービン
【かんにき】◎

杏の気持ちはわかります。
ですが、今のエンリケは何か変わろうとしているように
思えるのです。

虚しさを抱き続けて生きるのは辛いもの。
かつての苦い記憶が残る地で、ヴィランであった頃の自分に勝利し、
ビーストラヴァーに決別する。
そうすることで、新たな自分になろうともがいているのではないかと。

「エンリケ」
彼に共闘を申し入れます。
狙いはパストテイラーとビーストラヴァーの同士討ち。
猟書家の闇を見切り、残像とフェイントで躱しながら誘導。
猟書家とヴィランの間に私たち二人が挟まれるように誘き出し、
闇と麻酔弾の着弾直前に彼の腕を掴んで空中へ回避。
敵が攻撃を受けて怯んだ隙に、お互いの獲物を仕留めます。


駒鳥・了
【かんにき】◎
ココが現場かーってパーク内じゃん
あ、オレちゃんいまめっちゃ根本的なトコでドン引いたかも

気を取り直して
過去を変えさせない浸食させないのがオレちゃんたちのお仕事!

攻撃は第六感で避け残りは妖刀のカウンターで払う
木や建造物を踏みつけて空中に飛び残像で位置を特定させず
合間にナイフの乱れ撃ち!

っと、景色変わったね
粉々になった瓦礫の表面がガラス質なのは超高熱が加わったか
残念ながらコレはメイン人格のリョウちゃんの記憶だ!
オレちゃんことアキは幻よりリョウちゃんのが怖いなー!

杏ちゃんの容赦ない台詞、カッケーって笑いながら
グレちゃんの掛け声にオッケー!
現世への執着をこの刀で思いっきり払っちゃおーね!


木元・祭莉
◎【かんにき】だよ!

あれ、若いころのおじさんがいる。
あー、泥棒やめなかったおじさんだね。

今度は何を狩るの?
へ、おいら?
おいらは、剥製にはならないよ!
さあ、いくぞー!

え、じんせいのてんき?
おてんきなら、アンちゃんかなあ?(特別感情)

浮かぶ光景は、木元村に一人で降り立つおいら。
あれ、アンちゃんは?
どこ行ったのー!?(うわーん)

うー。歌ってたり踊ってたりしたら、気付いてくれるかな?
よっし、れっつ・だんしん!
(ぽんぽん飛び出すヒマワリがパストテイラーをビンタする)

あ、みんないたー!(戻った)
仲良しさん引き裂くのって、絶対ダメだと思うな!

ヒマワリさん、やっちゃっていいよ!
おいらも、今ちょっと怒ってる!



●想いはそれぞれに
 夜風は相変わらず、冷たく吹き荒んでいる。月灯だけが射し込む薄暝い戦場に、いま、5人の猟兵が降り立った。そのうちのひとり、ガーネット・グレイローズは、がらんとした其の場所を興味深げに見回している。
「……ここがエンリケの運命を変えた場所か」
「ココが現場かー……って、サファリパークじゃん」
 同じくきょろきょろと視線を動かしていた駒鳥・了が、『Safari Park』と書かれた看板を見つけて、翠の眸をぱちぱちと瞬かせた。がらんどうとした此処は、どうやらエントランスらしい。幸か不幸か、園内へ至る門は固く閉ざされていた。
「あ、オレちゃん、いまめっちゃ根本的なトコでドン引いたかも」
「あれ、若いころのおじさんがいる」
 男たちにジト目を向ける了の傍ら。木元・祭莉もまた、エンリケとビーストラヴァ―を見比べて、不思議そうに瞬きを繰り返して居た。
 敵が一気に5人も増えたため、多勢に無勢と見たのだろう。ビーストラヴァ―は動きを止めて、猟兵たちの方を観察して居る。エンリケもまた息を整えながら、暫しの休息に浸っていた。
「あー、泥棒やめなかったおじさんだね」
 ビーストラヴァ―の長い銀絲の髪が、さらりと風に靡く様を眺めながら、少年はぽんと手を叩く。そういえば自分たちは、具現化したエンリケの過去の姿と、パストテイラーの悪巧みを止めに来たのだった。
「……正確には“誘拐犯”だが」
 エンリケにとっては動物も人も同じらしい。ぼそりと訂正しながら、彼は弾倉を補填する。ずっと戦い通しなのだろう。彼の貌には、明らかな疲労の色が見て取れた。
 そんな彼の科白を聞き流し、祭莉はビーストラヴァ―へ駆け寄って往く。何を隠そう此の少年は好奇心旺盛で、チャレンジャーなのだ。
「若いころのおじさん、今度は何を狩るの?」
 ビーストラヴァ―は無言のまま、少年を指し示した。ぽかん、と祭莉の双眸が丸くなる。
「――へ、おいら?」
 己を指差しながら、思わず首を傾げる少年。ヴィランは貌彩ひとつ変えず、静かに首肯した。いまよりも冷たい聲が、零れ落ちる。
『ニホンオオカミは、コレクションにいない』
「節穴め、その子はアカオオカミだ」
「おいらは、剥製にはならないよ!」
 ビーストラヴァ―とエンリケの何処かズレた遣り取りを聴きながら、少年は再び皆の許へ駆け戻る。警戒に耳を逆立てる兄に寄り添う木元・杏は、ビーストラヴァ―へ視線を注いだ。
「あれが、昔のエンリケ……」
「ま、ともかく!」
 少女の貌が曇ったことに気付いた了は、取り敢えずジト目を解いて。気持ちを切り替えるように、明るく聲を張りあげた。
「過去を変えさせない、浸食させないのが、オレちゃんたちのお仕事!」
「さあ、いくぞー!」
 彼女の音頭に合わせて、祭莉も元気よく拳を振り上げる。冷静に皆の様子を見守っていたシリン・カービンと、年長者のガーネットもまた、それぞれ得物を構えるのだった。
「――あなたたちの過去を教えて」
 ふと、甘い囁きが鼓膜を揺らした。
 見ればパストテイラーのゆびさきが、腕に抱いた禍々しいオーブを撫ぜている。黒いオーブによく映える白いゆびに、そして其の妖し気な動きに、視線を奪われた了と祭莉の意識は飲み込まれて行く――。

「……っと、景色変わったね」
 了の目の前に現れた光景は、乱雑に積まれた瓦礫の山だった。此処は廃墟だろうか、それとも――。
 自らの過去から取り出された光景であるにも関わらず、少女は取り乱すことなく冷静に周囲を観察する。よくよく見れば、粉々に砕けた瓦礫が足元に散らばっている。
 否、瓦礫にしてはどうも可笑しい。損傷に反してどうにも艶やかで、彼女の姿を鏡のように映しているのだ。もしや表面が、ガラス質に成って居るのだろうか。
「あー、超高熱が加わったか」
 瓦礫の破片に映った自分を見下ろして、了は何かを察した様子で苦笑した。そう、いま眼前に広がって居る光景は、メインの人格である「リョウ」の記憶なのだ。
「オレちゃんは、幻よりリョウちゃんのが怖いなー!」
 了――“アキ”は、からりと笑ったのち、魔法剣をするりと引き抜く。其の儘、ぶんっ、と腕を振り下ろせば、暝い世界に彩を与えるように煌めく刀身で、臆することなく過去を切り裂いた。
 気づけば其処には、がらんどうのエントランスが広がって居るだけ――。

「あれ、アンちゃんは?」
 一方の祭莉は、誰も居ない村のなかで、独りぽつんと佇んで居た。右を見ても、左を見ても、双子の妹の姿は無い。ただ、見覚えのある景色が広がって居るばかり。
 ――これは、少年の過去の記憶だ。
 祭莉にとって人生の転機は、妹と木元村に降り立ったこと。それに加えて「おてんき」といえば妹のことを指す、と想っているからなのか。彼の過去はいま、「杏と共に世界を渡れなかった」という、絶望的な光景に塗り変えられていた。
「アンちゃん……どこ行ったのー!?」
 普段は元気いっぱいだけれど、実は小心者の少年は、うわーんと聲を上げて泣き出してしまう。胸の中は心細さでいっぱいだ。
「うー……」
 ひとしきり泣いた後、少年は眼をごしごしと擦って涙を拭う。幾ら泣いても、誰も現れることは無かったのだ。
「歌ってたり踊ってたりしたら、気付いてくれるかな?」
 ふとそんなことを想い付いた祭莉は、先ほどの泣き顔から一転。よっし、と気合を入れると同時に満開の笑顔を咲かせ、くるくると踊り始めた。
「れっつ・だんしん!」
 刹那、彼の傍からぽんぽんと次から次に、向日葵が飛び出して行く。彼らは何処か遠くへ飛んで行き、軈て見えなくなった。暫くすると、何処からかバチン、バチンと、何かを叩くような音が聴こえてきて――。
 気づけば少年は、元居たサファリパークのエントランスへ戻って来ていた。

「あ、みんないたー!」
「いきなり居なくなるから、マジビビった!」
 状況を把握していない祭莉は、ぱああと貌を輝かせ。状況を察していた了もまた、悪戯心が赴く侭に彼の言葉に乗っかった。
「ああ、ふたりはパストテイラーの攻撃を受けていたんだね」
「大丈夫ですか……?」
 一見すると元気そうに見えるふたりを気遣う、ガーネットとシリン。回復手である杏は、うさ耳を付けたメイドさん人形「うさみん☆」を操り、ふたりの許へと向かわせた。うさ耳メイドは了と祭莉に回復薬の入った小瓶を渡したのち、再び主の許へと戻って往く。
「ヒマワリさんが、助けてくれたみたい」
 杏の視線の先には、少年が飛ばした向日葵たちにバチバチと叩かれて蹲っている、パストテイラーの姿があった。彼女の相手は、暫く彼らに任せておこう。
「もー、仲良しさん引き裂くのって、絶対ダメだと思うな!」
「ほらほら、まつりん。早く飲まないと」
 回復薬を片手にぷんすこと怒る祭莉、そしてそれを宥めるガーネット。ほのぼのした光景が、なにやら広がり始めて居たけれど。杏は真剣な貌でうさ耳メイドを操って、エンリケにも小瓶を投げ渡す。
「エンリケ、それにビーストラヴァ―」
 ダークヒーローとヴィラン、ふたりの男の視線が杏へと集中した。鋭い四つの眼に射抜かれて尚、彼女に怯む様子はない。
「わたしは、『あなた達』が好きではない」
『そうだろうな』
「ああ、よく言われる」
 麻酔銃を握りしめて警戒を露わにした儘、或いはキャッチした小瓶の蓋を開けながら、ふたりの男は淡々と答えを返す。ヒーローとはいえ、元はヴィラン。其の趣味嗜好も相まって、良い貌をされることは余り無い。
「動物を攫うことも、それをやめることも、全て“自分”の気持ちばかり」
 大事に愛情を注いだ。愛し子を奪われた。彼にとって其れは事実だろうけれど、奪われたのは彼ばかりでは無い。
 事前に説明された通り、彼が狙ったのはパークや野生にいる動物ばかり。いくら希少種でも、「誰か」が飼っていた「愛し子」を攫うことは終ぞ無かった。
 けれども、もしかしたら、彼が攫った子も、その子から引き離された群れの仲間や親兄弟も、同じ気持ちを抱いたのではないか――。
 そんなことを、杏は独り考えていた。
 もしも、今でも彼等がお互いを探しているとしたら。そして再び会えない悲しみの最中に居るとしたら、そんなの余りにも可哀想だ。
「あなた達のした事は、赦されない」
 先ほど博物館で目にした通り、彼の手に渡った動物たちは、総てが穏やかな貌をしていた。
 動物たちもまた、彼を“慕っていた”ことが分かる程に――。
 それでも、引き離される側の気持ちを考えると、胸の奥が苦しく成り、怒りが込み上げて来る。
「あんたの科白は総て正しい、俺は自分のことしか考えていない」
 杏の指摘に貌彩ひとつ変えず、痩せぎすの男はそう宣う。愛でたい一心で彼等を手元に置き、土に還したくない一心で彼等の時間を止めた。
 其の行いを自分勝手と云わず、何と云おう。
「だが、愛していたことも、幸せだったことも事実だ」
 エンリケの言葉に、杏は納得しないだろう。杏のほうが正しいし、ひととして真っ当だ。しかし、この男の価値観ときたら……。

「……杏の気持ちはわかります」
 シリンが一歩、ダークヒーローのほうへと歩み寄った。
「ですが、今のエンリケは、何か変わろうとしているように思えるのです」
 博物館で彼と言葉を重ねてみて、ひとつ分かったことが有る。エンリケはこころの裡に“虚しさ”を抱きながら、生き続けているのだ。その辛さたるや、想像に難くない。それでも彼は、どうにか藻掻いて生きている。
「苦い記憶が残る地で、ヴィランであった頃の自分に勝利し、『ビーストラヴァー』と決別することで。彼は新たな自分になろうとしているのではないかと」
「うーん、あの人ホントに変われんのかなー……」
 再犯しそうには視えないけれど、反省しているようにも見えない。了は人知れず、こっそりと頸を傾けていた。
「エンリケ、貴方は既に罰を受けている。ならば、これ以上過去に悩み苦しむ必要もないだろう……」
 ガーネットもそっと、ふたりへ助け舟を出した。企業の長も務める彼女は、躓いた者に再度チャンスを与えることの必要性を、よく理解して居るのだ。
「杏の言葉も、ぜひ聞き入れてほしい」
「善処しよう」
 諭すように言葉を紡げば、素っ気無くもそんな答えが返って来た。昔の彼といまの彼は確かに違う存在であると見て、麗人は更に言葉を真摯に重ねて行く。
「貴方がこれからもヒーローとして歩んでいくのなら、そして過去にけじめをつけたいと願うのなら、私も助力を惜しまない」 
「――エンリケ」
 更に一歩、シリンが彼の方へ歩み寄る。緑の眸が真直ぐに、そして真摯に、痩せた男の貌を射抜いた。
「あなたに共闘を申し入れます」
 ガーネットも、シリンも。エンリケは必ず変われると、そう信じて居るのだ。
「俺は銃弾しか飛ばせないが、それで良いなら」
 手を貸そう――。
 男は確かに、そう云った。大人たちは頷き合って、今度こそ本当に、倒すべき者たちと対峙する。

「っ、闇は総てを侵食する」
 向日葵に叩かれていたパストテイラーが、不意にオーブから闇を呼ぶ。刹那、少年が咲かせた向日葵たちは、しおしおと枯れて往き、闇へ呑まれて行った。
『ホモサピエンスに興味がないが――』
 もはやゴリ押し以外に路は残されて居ないと知り、ビーストラヴァ―も引鉄を引く。すると麻酔針の雨が、戦場に音もなく降り注ぎ始めた。
「アレが刺さると不味いな、気を付けて」
 二丁の拳銃を操るエンリケが麻酔針を撃ち落として行くが、矢張り取り零しも生じるもの。
 ガーネットはマントを翻し、即座に液体金属の翼を展開。それで己の上半身を覆い、飛んで来た針を弾き飛ばした。
「えー、傘とか持ってきた方が良かったカンジ?」
 勘が働く侭に麻酔針を避け、合間に妖刀『無銘蛇目貫』を引き抜く了。反りの浅い刀身を構えれば、飛来する針を叩き伏せた。
「ま、オレちゃんは問題ないケド!」
 拡がり続ける闇は、エントランスの周囲に生い茂った木々を足場とし移動を続けることで、的確に避けて行く。向かいの木へと飛び移る前に、空中に飛び立つ姿はまるで疾風のよう。夜空に遺した残像の消えない内に、五指に挟んだ鋼蝶のナイフをパストテイラーへ投げつけた。
「……!」
 何処からか飛んで来たナイフに、女が慌てて飛びずさる。それを見逃さぬガーネットは、天高く拳を振りかざした。刹那、白い腕を彩る黒きバングルから、衝撃波が放たれてゆく。
 余りの衝撃に拡がる闇は後退し、ビーストラヴァ―も引鉄から手を離し防御態勢を取っている。
「いまのうちに、行きましょう」
「ああ、背中は任せておけ」
 麻酔針の雨が止んだ一瞬を好機と見たシリンは、エンリケを促し共に戦場を駆け抜ける。とはいえ、このダークヒーローに超常への対処は無理だろう。
 ゆえに、先導はシリンの役目。襲い来る闇を的確に避け、時には残像の方へとそれらを導きながら、彼女はエンリケにも無理のないルートで猟書家の許へと駆ける。
 気付けば衝撃の余波は収まり、戦場には再び麻酔針の雨が降り始めていた。闇の浸食も、心なしか早まっているようだ。
 銃弾で飛び交う針を落しながら、エンリケはちらりとシリンを振り返った。
 いま、背中合わせに佇むふたり。娘の正面にはヴィランが、男の正面にはオブリビオンが立ちはだかっている。
「挟まれたぞ、どうする」
「勝機はあります」
 対するシリンは、至極冷静だ。ビーストラヴァ―は、まず目の前の獲物から片付けることにしたらしい。麻酔銃の銃口が己に向けられ、彼が引き金に力を籠めた、其の瞬間。
「……ッ!?」
 エンリケの腕を掴んで、シリンは天高く飛び上がった。それは、シルフィード・ダンスと銘打たれたユーベルコード。空中を何度も蹴りながら、彼女は男と共に下界を眺め遣る。其処では、予想通りの光景が広がっていた。
『何……』
「あっ……!」
 女のオーブから襲い来る闇は、ビーストラヴァ―に。銃口から放たれた麻酔針は、女の黒き纏いに突き刺さる。男が後退り、女がオーブを取り落とした其の瞬間。彼らの許へ不意に接近した影が、高らかに吠えた。
「――今だ、猟書家を!」
 其の正体は誰あろう、ガーネットである。
 彼女はビーストラヴァ―に両掌を向け、高圧電流を放てば動きを封じた。これでもう、煩わしい麻酔針に悩まされる必要もない。
 シリンは程々の高度で男の腕を放し、パストテイラーの許へと舞い降りて往く。背中に、男の聲を聴きながら。
「礼を云おう、イェーガー」
 其れは、隙を作ってくれた娘たちへの感謝の言葉。一拍後に響いた鈍い銃声は、きっと彼の戦果を示すものだろう。

「お覚悟を、パストテイラー」
 涼しい貌でその音を聴き流したシリンは、着地と同時に女の懐へ滑り込み、引き抜いた猟刀で其の身を裂く。
「グレちゃん、オッケー!」
 続いて愉し気に笑みを咲かせた了が、気合一杯と云った様子で、妖刀片手に駆けて来る。月灯を浴びて煌めく刀身を構えれば、ウインクひとつ。
「現世への執着、この刀で思いっきり払っちゃおーね!」
 反りの浅い刀身で、女の躰をするりと撫ぜる。彼女が傷付けるのは肉体に非ず、躯の海から出でる程の「執着」のみ。
「罪まみれの存在は強くないし、それを利用する貴女も強くない」
 回復はもう不要と判断した杏もまた、前に出てきていた。白銀の光を放つ刀を構え、ひといきに間合いを詰めたなら、一閃。
 刀から零れた暖陽の彩が花弁の如く、ひらりひらりと舞い散るなか。祭莉もまた、敵の傍らへ向日葵の花を咲かせてゆく。
「ヒマワリさん、やっちゃっていいよ! おいらも、今ちょっと怒ってる!」
 見せられた絶望の光景は、本当に怖かったから。少年は頬を膨らませて、月を見上げる花を嗾ける。すると向日葵はくにゃくにゃと踊り始め、パストテイラーの視線を惹き付けた。其処で、彼女の命運は尽きた。
 踊る花は、見惚れた者を逃さない。
 ぐるりと伸びた茎で彼女を縛り上げ、葉で其の身を包み込めば、勢いよくパストテイラーを地面へ叩きつける。
「悪夢はもう、お終いだ」
 最後にガーネットが妖刀『朱月』を引き抜いて、衝撃に身動き取れぬ女を切りつけた。朱く輝く刀身は鮮血を纏い、更なる妖気を放ち続ける。

 想いは其々だが、5人の目的はひとつ。
 世界に滅びを齎すオブリビオンの暗躍だけは、絶対に見逃せない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

空露・紫陽
🚬🔥


エンリケ、お前さんは過去と対峙すんのな
なら手助けするぜ
俺達には俺達の仕事が有りそうだしよ

くゆり、一緒に行けるかい?
煙草で紫煙を燻らせた男が笑う
途切れた煙、吸い殻は携帯灰皿に放り込んで

他が戦ってる死角から奇襲のひとつでも
自身の元へ指先で招き
重い?
なぁに、問題ねぇさ
ほら、くゆり――行ってきな
手をバネにする様に空中へと送れば
俺も仕事の時間か

Gewehrを手にkugelで確実に
くゆりの死角を埋める様な立回り
好きに行きな
好きに殴りな
足りねえモンは俺が補ってやるさ
アクティブな戦い方
足止めんのは狙い撃つ時だけで十分

まだまだ楽しませてくれんだろ?
――くゆり、と紡ぐ名
お気に召す侭にと笑うは狙撃手の紫紺


炎獄・くゆり
🚬🔥


エンリケさんカッコイ~~
そういうの嫌いじゃないですぅ
ハァイ、勿論!
こういうデートもアリですねェ
コッチのカワイイ子はあたし達でヤッちゃいましょ

あら、紫煙もくゆるイイ男…
なんて見蕩れてる場合じゃなくって!

でもココじゃ自慢のコレも撃てなぁい
どうしよっかな~
右腕をブンブン振り回しつつ
なんですなんです?
あたし結構重いですよ、イイんですかぁ?
フフ、じゃ遠慮なく
いってきまーす!

空中でくるりと回って
回転の勢いのまま右腕を敵へ振り下ろす
大振りな分、隙が出来やすいんですけど
今は紫陽さんが見ててくれますからねェ
好きに動けちゃいます
メッチャ頼もし~~

アハッ、紫陽さんこそ!
もっともーっと楽しませてくださいね?



●紫煙はくゆる
 露払いは任せろと謂わんばかりに、過去の己を相手取るダークヒーロー。其の背に向かって炎獄・くゆりは、きゃっきゃと燥いでみせる。
「エンリケさんカッコイ~~」
 そういうの嫌いじゃないですぅ、なんて。からからと笑う貌は如何にも愉し気だ。彼女の傍らで戦況を見守る空露・紫陽もまた、ゆるりと双眸を細めてみせた。
「そうか、お前さんは過去と対峙すんのな」
 手助けするぜ、と言葉を重ねた青年が向き合うのは、猟兵たちが打ち取るべき敵――パストテイラーである。
 ダークヒーローの仕事がヴィランを討つことならば、猟兵の仕事はオブリビオンを成敗すること。青年は紫紺の双眸で、ちらりと今宵の相棒たる少女を見遣る。
「くゆり、一緒に行けるかい?」
「ハァイ、勿論!」
 青年に名を呼ばれて、くゆりは勢いよく手をあげる。隣に美男が居る嬉しさに、頬はゆるゆると綻ぶばかり。
「こういうデートもアリですねェ」
 少女が笑顔を振り撒けば、青年は、ふ、と笑みを零した。彼が咥えた煙草から伸びる紫煙は、ゆらゆらと揺らめいて居る。
 そんな絵に成る様を前にして、思わず少女はぽつり――。
「あら、紫煙もくゆるイイ男……」
 もちろん、見蕩れてる場合ではないことは分かって居るから。直ぐに気を取り直して、えいっと自分に気合を入れることを忘れない。
「コッチのカワイイ子は、あたし達でヤッちゃいましょ」
「ああ、仕事といくか」
 不意に途切れた紫煙を合図に煙草を口から離し、吸い殻を携帯灰皿に放り込みながら、紫陽もまた静かに肯くのだった。

「あ、でも、ココじゃ自慢のコレも撃てなぁい」
 しかし戦場を見回したくゆりは、右腕のマシンガンをブンブンと振り回しながら、どうしよっかな~と悩む素振り。そんな彼女を紫陽は、ゆびさきで手招く。
「なんです、なんです?」
 彼の意図を察したくゆりは、くふふと含み笑いしながら彼の許へ。焔の彩に染まった眸は、期待にきらきらと煌めいていた。
「あたし結構重いですよ、イイんですかぁ?」
「なぁに、問題ねぇさ」
 紳士のように手を差し出す青年は、ほら、と少女を優しく促す。お転婆な淑女が、存分に戦場を楽しめるように。
「――くゆり、行ってきな」
「フフ、じゃ遠慮なく」
 云うが早いが、くゆりは助走を付けて、思い切り駆ける。彼女が伸ばすのは、ゆびさきではなく、――脚である。

「いってきまーす!」

 元気の良い聲と共に、少女は青年の手をバネとして、勢いよく天へ飛び上がった。眼下に黒尽くめの女の姿を認めれば、空中でくるりと一回転。そうして勢いのまま、右腕を、右腕代わりのガトリングを、下へと向ける。
「……あなたの過去を、教えて」
 敵の接近に気付いた猟書家は、彼女の前に幻想を招かんとする。一方、空中に在るくゆりは、敵に狙いを付けた侭だ。重量がある分、迂闊に体勢を変えられない。
 されど、隙を気にする必要は無い――。

「足りねえモンは、俺が補ってやるさ」

 小型銃を手に戦場を駆ける紫陽が、埋めてくれるのだ。
 銃口から飛び出す白銀の弾丸は、パストテイラーが抱くオーブを強かに撃ち抜いた。其処に入った罅は、より大きく広がって往く。
「闇よ――」
 反撃とばかリにパストテイラーが招いた闇が、青年の許へと迫り来る。けれども彼は脚を止めることなく、ただ独りの敵へ銃口を向け続けた。立ち止まった一瞬で引鉄を引き、再び駆ける。
「好きに行きな、好きに殴りな」
 宙を舞う少女にもきっと、彼の言葉は届いていた。重力に導かれながらも彼女は、牽制を担ってくれる彼へとウインクひとつ。
「もー、メッチャ頼もし~~」
 彼が自分をちゃんと視てくれているお蔭で、好きに動けるのだ。
 だから、銃弾を回避しようとしてたたらを踏んだパストテイラーに、思い切りガトリングガンをぶつけることだって出来る――。
「っ……!」
 衝撃に大地へ伏せる女、一方のくゆりは大地へ華麗に着地する。明るい笑顔を浮かべながら、右腕をゆらゆら揺らす彼女の傍らに、紫陽はそっと並び立つ。
「まだまだ楽しませてくれんだろ?」
 くゆり――。
 そう少女の名を紡ぐ。煙と縁深い己の舌には、よく馴染む名だ。何度でも紡ぎたくなる。他方、穏やかな響で名を呼ばれた少女の笑顔は、宵闇に置いてなお明るく輝いて。
「アハッ、紫陽さんこそ!」
 ぶらぶらと揺らしていた右腕を一点へ向けて、少女はもう一度片目を閉じて見せる。次の瞬間、ドドド、と断続的に響き渡る鈍い音。
 ウインクから零れ落ちたのは星では無く、敵を蜂の巣にする為の弾丸たちだった。
「もっともーっと楽しませてくださいね?」
「……お気に召す侭に」
 狙撃手の紫紺が、穏やかに笑う。
 青年が再び小銃を構えれば、銀の弾丸が放たれて。目にも止まらぬ速さで飛翔する其れは、女の躰を強かに撃ち抜いたのだった。
 ふたりの狂宴は終わらない。女のいのちが、燃え尽きるまで――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

宵鍔・千鶴
🌸🌙


過去と、己と対峙する
覚悟は並大抵じゃないよ
エンリケ、
きみが想うまま貫くべきだ

……俺も、もう少し早く
自分と向き合えば……
ううん、今は彼の邪魔はさせないことに集中しよう

レンと共に燿夜を翳して
きみが視るもの
過去に遍く景色は決して
心地好いものでは無いと理解るから

レン、今、此処に居るきみの結果が凡てだよ
彼の冷えた指先にそっと触れて
そのままぎゅうと握って
だから、気付いて欲しいと
訴えるように温もり重ね

相棒の名を口にして
打ち勝つレンに安堵して
――うん、お帰り

さあ、反撃しよう
切先に桜を舞わせて黒き敵へ
きみの槍が通るまでの目眩し
春を招いてひかりへと導く

過去は変えられない
でも未来は幾らでも変えてゆけるから


飛砂・煉月
🌸🌙


過去は消えない、それでも未来には行ける
だからエンリケ、振り返らないで
オレもそうするから

千鶴と共にハクを白槍に変えて握る
――オレが視た機転
大好きだったあの子との生活
塗り替わった光景は
オレがあの子を喰い殺した光景
噫――絶望と後悔に呑まれそうになるも

ちがう、
そんなのは、
違う

だって喰ってたらオレ生きてないんだ
罪悪感と後悔で死んでる筈だ

ならオレが今生きてるのが其の末路が幻の証明
ハクと相棒の名を呼んで
竜牙葬送を放ち幻をぶち壊したなら
きっと気付くんだ、片手のぬくもりに
そして笑って、千鶴と名前を呼ぶ

あの末路にキミは居ない
だからキミも今のオレを証明するひとりだ

もう絶望は要らない
倍返しで済むと思うなよ?



●きみがいる今
 月灯を浴びてきらきらと煌めく麻酔針が、まるで霧雨のように戦場に降り注ぐ。しかし、響き渡った鈍い銃声と、出鱈目な軌道を描いて飛び交う弾丸が、其れ等を容赦なく叩き落とした。
 ビーストラヴァ―の術を、エンリケが抑えているのだ。独り奮闘する男の姿を遠目に眺めながら、宵鍔・千鶴はぽつりと呟きを溢す。
 過去と、己と、真正面から対峙するなんて。
「……その覚悟は並大抵じゃないよ」
 紫水晶の双眸を物憂げに伏せる少年の裡に、ふと湧き上がる後悔の念。人生に「もしも」なんて存在しないけれど、それでも思わずには居られないのだ。
 ――俺も、もう少し早く自分と向き合えば……。
 其処まで想いを溢れさせて、千鶴はそうっと思考を振り払うように頸を振った。今は、ここは、戦場だ。
「エンリケ、きみが想うまま貫くべきだ」
 せめて彼の戦いが邪魔されぬよう、パストテイラーの方へ意識を集中させよう。静かにダークヒーローの背を押す彼の傍ら、飛砂・煉月は神妙な面持ちで、紅い双眸をそっと閉ざす。
「過去は消えない、それでも未来には行ける」
 過ぎ去りし時はもう、戻らない。
 されど、これから流れ往く時間のなかで、ひとは変わることが出来る。
「だからエンリケ、振り返らないで」
 オレも、そうするから――。
 そう言葉を重ねれば、青年の肩に乗った白銀の竜「ハク」の姿が瞬く間に白槍に転じ、青年は其れを確りと握り締めた。千鶴もまた打刀「燿夜」を抜き放ち、月明りに翳すのだった。
「あなたの過去を教えて」
 ふたりの猟兵と対峙する女は、オーブを撫ぜながら密やかな聲を溢す。闇を映したかのような漆黒に染まりしオーブに、女の白きゆびさきは明々と映える。黒と白のうつくしきコントラストに惹かれる侭、煉月の記憶は飲み込まれて行く――。

 気づけば青年の隣には、“あの子”が居た。
 そう、大好きだったひととの生活こそ、彼の転機だったのだ。温かくて幸せな、懐かしい記憶。
 それが不意に、一転して血濡れた光景へと移り変わる。
「……ちがう」
 震える唇から、拒絶の聲が零れ落ちた。
 塗り替わった光景は、将に惨劇の絵図。ぐったりと崩れ伏しているのは“あの子”で、口元を血に染めて佇んで居るのは、いつかの自分自身。
「そんなのは、ちがう……」
 煉月の双眸に写し出されているのは、あの子を喰い殺してしまった己の姿。
 嗚呼、此れ以上の絶望があるだろうか――。
「ちがうんだ……」
 視界を鎖すように目を閉じて、眸に焼き付いた光景を振り払うように頭を振る。そう、これは悪い夢。現実に起きたことの筈は無いのだ。

「レン……」

 ふと、聞き覚えのある聲が、青年の鼓膜を優しく揺らす。
 傍らで煉月を見守っていた千鶴は、彼の冷えたゆびさきにそうっと触れる。彼が見るもの、過去に遍く景色は決して、心地好いものでは無いと理解っていた。
 だから其の儘、ぎゅっと手を繋ぐ。
「今、此処に居るきみの結果が凡てだよ」
 どうかそのことに気付いて欲しいと、訴えるように。穏やかに温もりを重ねながら、少年は友のこころが戻って来る時を待ち続けていた。

「だって――」
 優しい聲に導かれるように、青年は静かに瞼から紅を覗かせる。もしも、目の前に広がる光景のように、あの子を喰らっていたとしたら。
「オレ、生きてないんだ」
 罪悪感と後悔でいっぱいになって、きっと生きてはいられない。故にいま、自分が此処に居ること。其の末路こそが、幻の証明である。
「ハク!」
 相棒の名を呼べば白槍を大きく振り回し、血濡れた幻想に向かって突撃する。こんな改変なんて御免だと、そう謂わんばかりにぶち込むのは、猛き竜の咆哮。
 劈く葬送曲――。
 刹那、まるで鏡が割れたように、ピシリ。目の前に広がる世界に罅が入った。容を維持できなくなったそれらが、パラパラと崩れて行けば、世界は夜の彩を取り戻す。
 ふと、片手に灯った温もりに気付いて。煉月は傍らの少年を見遣り、ふっと笑う。
「……千鶴」
 あの末路を本当に辿ったのなら、自分は生きていないだろう。だから当然、彼と出会うことも無い。けれども、千鶴はいま隣に居る。
 だから、彼もまた“今の煉月”を証明するひとりに違いないのだ。
「うん、お帰り」
 過去に打ち勝った様子の青年を前に、少年もまた安堵した様に微笑んだ。それから得物を握り締めるゆびさきに、ぎり、と力を籠めて。
「さあ、反撃しようか」
 白銀に煌めく切先に櫻を舞わせれば、黒を纏う女の許へと駆けて往く。煉月もまた、千鶴の後に続いた。
 駆け抜ける程に、少年の刀はほろほろと形を崩し。はらはらと風に舞う、櫻の花弁へと転じて行く。されど、問題はない。これは、目晦ましなのだから。
「過去は変えられない」
 招いた満開の春で女の視界を奪いながら、千鶴は静かにそう紡ぐ。喩え幾ら公開しようと、既に起きたことはどうしようもない。
「でも、未来は幾らでも変えてゆけるから――」
「もう絶望は要らない」
 少年の言葉を拾うように、煉月が言葉を重ねてゆく。桜の花吹雪に紛れて敵へ肉薄した彼は、白槍の鋭き切っ先で、女の躰を強かに貫いた。
「――倍返しで済むと思うなよ?」
 過去に打ち勝ち未来へ進み続ける、うつくしき人の姿が其処には在った。
 雪融けの到来を思わせるように、冬空の下、櫻は舞い続けている。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シキ・ジルモント
◎☆
オーブから放たれる闇は回避を試みる
エンリケを狙われたら庇ってでも守る心算で
共闘するのだから相互の守りも考慮するのは当然だ

それにあの剥製の動物たちは、触れてもらうことが叶わなくてもエンリケの無事を願う筈
共に過ごし看取られた、家族も同然の者ならな

ユーベルコードを発動、狼の姿に変身し敵に接近する
あのビーストラヴァーがエンリケの過去なら、獣の姿でいれば攻撃の手が緩むかもしれない
後はエンリケに任せて猟書家に専念
たとえ能力を知られても反応できるかは別問題だ
爪や牙での攻撃を繰り返し猟書家の行動パターンを覚え、決定打に至る反撃の隙を探る

知りたいのなら教えてやる
ただし、相手を知る事ができるのはこちらも同じだ



●忌避感を超えて
 ダークヒーロー「エンリケ」は、相変わらず過去の己――「ビーストラヴァ―」と対峙し続けていた。彼はただ、若かりし頃の己を一心に見つめた侭、引鉄を引き続ける。
 戦況はほぼ互角、雌雄を決するにはあと一手が必要だった。
「総てを侵食する闇よ……」
 傾かぬ天秤に業を煮やしたか、パストテイラーが不意にオーブを撫ぜた。刹那、どろりとした闇が、彼女の周囲に蠢き始める。それらは、麻酔針の雨を撃ち落とし続けるエンリケの許へ、ぞろぞろと這い寄って――。
「狙われてるぞ」
 男へと襲い掛かろうとする闇の前に、不意にひとりの青年が立ちはだかる。シキ・ジルモントだ。すかさずハンドガンを抜いた彼は、迫り来る闇に連続で弾丸を撃ち込んで行く。
「……俺を助けたのか」
 出鱈目な軌道の銃弾でヴィランを牽制しながら、飛散する闇を視つめるエンリケの貌には、僅かに驚愕の彩が浮かんでいた。
「当然だろう」
 シキは背に庇った彼を振り返り、口許へ微かに笑みを滲ませる。
「俺たちは共闘しているのだからな」
 ならば互いの守りも考慮するのは当たり前だと、何でもないように彼は言う。シキにとって、共闘仲間の経歴は関係ないこと。任務の遂行のためなら、悪党として名を馳せたものであろうと、手を貸してやるのだ。それに――。
「あの動物たちも、あんたの無事を願っている筈だ」
「……俺はもう、あの子たちを撫でてやれない」
 男はぽつり、そんな科白を溢した。然しシキは、静かに頸を振る。
 喩え、主に触れて貰うことが叶わなくても。
「共に過ごし看取られた、家族も同然の者なら、きっと」
 そう想う筈だと念を押したのち、人狼の青年は過去のエンリケ――ビーストラヴァ―に向かい合う。過去と現在の勝敗の天秤を傾けることが出来るのは、猟兵だけ。
 ならば、ほんの少し手助けをしてやるとしよう。
「この姿すら利用してやる」
 決意を滲ませると同時に、青年の躰は前方へと大きく傾いて往く。軈て字面に倒れ伏し掛けたその瞬間、彼は一瞬にして、銀の毛並みを持つオオカミへと転じた。
 獣の蒼い眸がヴィランを射抜けば、麻酔針の雨が止む。見事な毛並みを持つ、凛々しい佇まいのオオカミは、ビーストラヴァ―にとって絶好の獲物。傷つけるような真似をする訳が無い。
 そもそも、彼はこころから動物を愛している。ゆえに、オオカミと化したシキを巻き込むような攻撃は、喩え命にかかわらずとも出来ないのだ。
「素晴らしい毛並みだ、目に毒だな」
「ならば、ビーストラヴァ―に集中しておくことだ」
 極力オオカミに目をくれないようにしながら、エンリケは本気か冗句か分からないことを言う。シキも四つ足の姿のまま軽口を返したのち、駆ける――。
 狙うはパストテイラー、ただひとり。背後から響く銃声は、エンリケが放ったものだろう。勝敗の天秤は、現在の彼に傾いた。あとは、猟書家に集中するのみ。
「あなたの過去を、教えて」
 女が再びオーブを撫ぜれば、シキの方へと闇が迫って来る。後ろ足で地を蹴り、高らかに跳ねることで其れを軽々と躱したなら、オオカミは女の懐へ飛び込んだ。
「知りたいのなら教えてやる」
 そのまま鋭い爪で、勢いよく女の纏いを引き裂いてみせる。慌てて女が後退れば、その脚に食らい付いた。成る程、パストテイラー本体の戦闘能力は、決して高くない。
「ただし、相手を知る事ができるのはこちらも同じだ」
 まったく、獣の潜在能力というものは恐ろしい。彼女の行動パターンは、既に躰が覚えている。藻掻く女の躰を前脚で抑えつけて、銀のオオカミは大きく牙を剥く。
 ふたりのうえでは、欠けた月が明々と煌めいていた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

末代之光・九十
【藍九十】◎
過去は決して捨てられない?
そりゃそーだ。
良いも悪いも挫折も失望も絶望も全部消えない。
一つも欠けず全て合わせた物語が人で。
だからビーストラヴァーを辞めた事も含めてエンリケなんだ。
それを。都合のいい部分だけ抽出して取り出して。改変?
ただの粗悪なデュープでしょ馬鹿らしい。

スナークも同じ。
恐れ怯えても決して潰えはせず闇を駆逐し続けたのが人だ。
僕等(神々)の庇護(支配)すら打ち破って進み続けたのが人だ。
今更自身の心の中から生えたパチモン如きに負けるもんか。

人を舐めるなオブリビオン。

エンリケ! 藍!!
傷は癒すし生命なら幾らでも補充したげる。
だからこの悪趣味なマガイモノ職人に。本物を見せたげて。


紫・藍
【藍九十】◎

はいなのでっすよ、おねーさん!
魅せつけてやるのでっす!

無敵の怪物スナークでっすかー。

で?
それだけでっすか?

藍ちゃんくんはなんとなんと無敵可愛い上に笑顔も眩しく歌って踊れてかっこいいのでっす!
いえいえ藍ちゃんくんの魅力は幾らでも語れちゃうのでっすが!
おねーさんのことだって沢山惚気けちゃえるのでっすが!
そんな藍ちゃんくん達に!
藍ちゃんくん達の魅力分の1な無敵なだけのスナークが!
勝てるとお思いなのでっすかー!

ええ、ええ、ええ、ええ、お望み通り教えてあげるのでっす!
このステーッジで!
藍ちゃんくんを! おねーさんを! おじさまを!
無敵以外にも――なんにだってなれる、生きているということを!



●いのちが輝くオンステージ
 つぅ。女の白きかんばせに、赫絲が伝う。数多の猟兵たちを相手取った、パストテイラーの消耗は激しかった。
「過去は捨てられない、罪は未来を侵食する」
 嗚呼、それなのに――。
 どうして、誰も絶望を受け入れようとしないのか。
 彼女の胸裏には、そんな疑問が波のように押し寄せていた。なにせ猟兵たちといえば、誰一人として、絶望の光景に膝を着いたりしないのだ。
「過去は決して捨てられない? そりゃそーだ」
 女のこころを見抜いたかのように、生と死を司る神たる末代之光・九十が、現世の真理を語る。
「過去だけじゃない、良いも悪いも、挫折も失望も絶望も、全部消えない」
「分かっているのなら、何故……」
 消せない罪に、覆せない過去に屈しないのかと、そう言いたげな視線をパストテイラーは向けて来る。
「それらが一つも欠けず、全て合わせた物語が“人”だから」
 消せない過去の積み重ねが、そして其の記憶のひとつひとつが、“人”を構成している。そう、つまり……。
「エンリケは、ビーストラヴァーを辞めた事も含めて、“エンリケ”なんだ」
 神ですら変えられぬ其の事実を、己に都合のいい部分だけ抽出して、取り出して。挙句の果てには改変するだなんて――。
「そんなの、ただの粗悪なデュープでしょ」
 馬鹿らしい、と神は呆れたように溜息を吐いた。彼女の噺に耳を傾けるエンリケも、麻酔針の雨を撃ち落としながら不愉快そうに眉を顰めている。
「……いいえ」
 女は僅かに、頭を振った。白いゆびさきが、黒きオーブをゆるりと撫ぜる。すると辺りに、禍々しい気配が立ち込め始めた。
「改変された過去は、いつかスナークへといたるの」
 猟兵たちの前に、ゆらりと影が蠢く。それは段々と形を為して行き、世にもおそろしき怪物「スナーク」の姿を取った。その威圧感に、胸がざわつき始める。
「……ソレも同じ」
 しかし、九十は動じない。
 神である彼女にとって、眼前の怪物は子供騙しのようなもの。
「恐れ怯えても決して潰えはせず、闇を駆逐し続けたのが人だ」
 そして人は、神々が与えた庇護と云う名の支配すら、打ち破って進み続けた。その結果、此の世界は此処まで繁栄したのである。
「そんな彼等が今更、自身の心の中から生えたパチモン如きに負けるもんか」
 九十の双眸に、剣呑な彩が燈る。
 パストテイラーは、人間がなんたる存在なのか、全く理解して居ないのだ。

「――人を舐めるな、オブリビオン」

 唇から、自然と啖呵が零れた。
 少女は愛しきひとと、ダークヒーローを振り返る。其の眼差しには、「ひと」という存在そのものへの信頼が滲んでいた。
「エンリケ! 藍!!」
 傷を負ったなら、幾らでも癒そう。
 生命だって、幾らでも補充してあげよう。だから、
「この悪趣味なマガイモノ職人に、“本物”を見せたげて」
 彼女が招いたビーストラヴァ―は、エンリケの偽物に過ぎないと。そして、本物の人間は、己の裡に秘めた怪物にも打ち勝てるのだと。
 あのオブリビオンに、見せつけてやる――。
 九十の躰からほろほろと、温かな光が零れ始めた。それは、触れた者の疵を癒す「生命の概念」そのもの。光はエンリケの疵と疲労を癒し、紫・藍のこころを奮い立たせる。
「はいなのでっすよ、おねーさん! 魅せつけてやるのでっす!」
 少女の如き姿をした少年は、元気よく飛び跳ねて。彼女の信頼に応える為に、恐るべき怪物に向き合った。
「無敵の怪物スナークに勝てるとでも?」
「へー、無敵なんでっすかー」
 猟書家の女がヴェールの奥で嘲笑を溢せば、藍もにこにこと相槌を打つ。其の儘の表情で、彼はかくりと頸を傾けた。

「――で?」

 戦場を、沈黙と緊張が支配する。
 九十と同じく藍にとってもまた、この怪物は恐れるに足りぬものであった。
「それだけでっすか?」
 無敵無敵と煩いが、それがどうしたと云うのだろうか。そう言いたげに、少年は反対側へと頸を傾けた。
「藍ちゃんくんはなんとなんと、無敵可愛い上に笑顔も眩しく、歌って踊れて、その上かっこいいのでっす!」
 ドヤっとした貌で胸を張りながら、そんなことを自慢げに語る藍。口端から覗いたチャームポイントのギザ歯が、きらりと煌めいた。
 自分の魅力を一番知り尽くしているのは、やっぱり自分自身。時間さえあれば、それこそ幾らでも語れそうだけれど。
「おねーさんのことだって沢山惚気けちゃえるのでっすが!」
 なんなら、愛するひとの魅力だって、知り尽くしているのだけれど。今は取り敢えず、置いておくとして。
「そんな藍ちゃんくん達に! 藍ちゃんくん達の魅力分の1な“無敵なだけ”のスナークが! 勝てるとお思いなのでっすかー!」
 藍にとって無敵よりも強いもの、それは「魅力」である。無敵は凄いことだけれど、ただ強いだけの存在に、彼は価値を見出さない。
「そんなの詭弁でしょう……」
「ええ、ええ、ええ、ええ、そこまで云うなら――」
 たじろぐ猟書家を勢いで押して行く藍。気づけばスナークから放たれる圧は、だいぶ微弱なものに成っているようだった。
 彼の余りの勢いに、猟書家はきっと「無敵」という概念そのものへの疑念を抱いて仕舞ったのだろう。
「お望み通り、教えてあげるのでっす!」
 どっかーん。
 天から落ちて来るのは、巨大なステージ。まるで野外ライブで使われるような、ネオンで煌びやかに彩られた其れへ、藍は当然のように飛び乗った。
「藍ちゃんくんは! そして、おねーさんは! おじさまだって!」
 間一髪、ステージの下敷きになることを逃れた女へ少年はビシッと指を差す。それは、ポップでキュートで、生命への敬意に溢れた宣戦布告。
「無敵以外にも、なんにだってなれるということを!」

 さあ、生きているものたちの強さを、存分に見せつけてやろう。
 いまの藍たちはきっと、何だって倒せるのだから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

旭・まどか
あきら(f26138)


そうだね
過去は決して捨てられない
“今”僕が此処に在るのは捨てられない“過去”が在ったから

そして、君も
“過去”の上に立って此処に在る
だから君の手で君自身の過去にけりをつけると良い
僕たちはそのお手伝いをしてあげる

けれど、嗚呼
罪に侵食される“だけ”の未来は、無いそうだよ
ふふ、良かったね

今一度決意を示すかの様に強く握られた手が離れ
眩い陽の彩が真っ直ぐ女の許へと向かい征く

その背を眇め、送るは言葉では無く夜が持つあたたかなひかり
より一層強化された闇が彼女を覆わんばかりに伸びれば
オーラを飛ばして代わりに受けよう

偽物が増えた所で大した事はない
太陽のあかりは、決して何にも侵せないのだから


天音・亮
まどか(f18469)


あの人があの剥製を…

ねえエンリケさん
私はまだまだ世間知らずで世界の事を何も知らない
私にはまだ分からない、知らない愛の形があるんだって
そう思ったけどやっぱり怖いって感じちゃったの

きっとそこは交わる事のない道で
でもね
これだけは同じだと思う
過去は捨てられないとしても
罪に侵食されるだけの未来なんて
絶対にない

繋いだままだったまどかの手を今一度ぎゅっと握ってから離す
私も越えていくんだ
過去を!

いつか耳を傾けてくれたきみへ決意表明
きっと近く、あの時は話せなかった事を打ち明ける日が来る
予感めいた思い連れ
太陽色の炎を宿し握った“拳”で壁を壊そう
あたたかな夜灯に守られ
襲いくる闇を照らす一撃を



●過去を飛び越えて
 黒き纏いを赤く汚した女の姿は、将に満身創痍。オーブを抱くゆびさきを震わせながら、彼女はぽつりと問いを溢す。
「幾ら足搔こうと、過去は変えられないのに」
「……そうだね」
 旭・まどかは薔薇彩の眸で女を一瞥し、肯定を示す。パストテイラーの云う通り、過去は決して捨てられないのだ。
「“今”僕が此処に在るのは、捨てられない“過去”が在ったから」
 喩えそれが忌まわしいものであろうと、“今”を構成する大切な一欠片であることは事実。少年は過去の己と戦い続ける男へと、流し目を呉れる。
「そして、君も。“過去”の上に立って此処に在る」
 ビーストラヴァ―として暗躍した過去が無ければ、ダークヒーロー「エンリケ」は生まれなかった。ヴィランであった頃の己を、唾棄すべき者だと思うなら。
「君自身の過去には、君の手でけりをつけると良い」
 僕たちも、お手伝いをしてあげる――。
 静かにダークヒーローの背を押す少年と手を繋いだまま、天音・亮は銀絲の長い髪を揺らす男――ビーストラヴァ―へ視線を注いで居た。
「あの人が剥製を……」
 いのちを喪い、容だけが残った動物たちの姿を想い出し、娘は碧色の双眸をそっと伏せた。胸の奥がぞわぞわして、何だか落ち着かない。
「ねえ、エンリケさん」
 それでも、亮はダークヒーローと向き合おうとする。
 まだまだ世界には、知らないことが沢山あって。いま目の前に居る彼の価値観は、特に未知の領域のもの。
「私にはまだ分からない、知らない愛の形があるんだって、そう思ったけど」
 なにより、愛や想いの容に正解なんてないことも、表現方法が人それぞれであることも、ちゃんと分かって居たけれど。
「……やっぱり、怖いって感じちゃったの」
「よくある反応だ」
 申し訳なさそうに目を伏せる彼女へ、エンリケは淡々と言葉を返す。彼は相変わらず、過去の己に向けて銃弾を放ち続けていた。
 剥製を愛せる者も居れば、そうでない者も居るだろう。ただ価値観が異なるだけで、何方かが悪い訳では無い。彼らの価値観はきっと、交わることはないだろう。
「でもね、これだけは同じだと思う」
 貌を上げた亮は、確りと前を見据えた。パストテイラーの云う通り、過去は捨てられないとしても。
「罪に侵食されるだけの未来なんて、――絶対にない」
 まどかの手を一度だけ、ぎゅっと握り締めたのち。ヒーローは、倒すべき敵の方へと駆けて往く。ゆびさきに籠められた力から、彼女の決意を読み取った少年は、ふふ、と唇を弛ませた。
「嗚呼、罪に侵食される“だけ”の未来は、無いそうだよ」
 良かったね、なんて。男に語り掛ける少年は、眩しそうに眇めた双眸で、亮の背中を見つめていた。自らの脚で進める彼女に、背中を押す言葉は必要ない。
 だから、彼女には温かな月のひかりを捧げよう。

「私も越えていくんだ、過去を!」

 天の雫に包まれて、亮の金絲がきらきらと煌めいた。花唇から紡がれるのは、言葉なき鼓舞をくれた少年への決意表明。
 まどかはいつか、自分が裡に秘めた「過去の話」に耳を傾けてくれた。あの時の続きを打ち明ける日は、きっと近い。
 そんな予感を抱きながら、娘は拳に焔を纏わせた。刹那、波のように押し寄せる闇が、彼女を呑み込まんとするけれど――。

「太陽のあかりは、決して何にも侵せない」

 まどかが飛ばしたオーラが、押し寄せる闇を弾く。眩い陽彩を纏う太陽の如き娘が、闇に呑まれるなんて許せない。
「――まどか」
 感謝と信頼を籠めて少年の名を紡いだ亮の拳が、フレアのように赤々と燃え盛る。温かな夜の灯に守られた彼女に、恐れるべき者なんて、きっと何も無いのだ。
 襲いくる闇に向かって、娘は腕を振り翳す。拳に宿った太陽の輝きが、燦燦と暝い世界を照らし出した。
 如何なる暝闇も、太陽の輝きを退けることは出来ない。
 瞬く間に、世界と未来を侵食する闇は晴れて往く。紛れる闇を失い、その姿を露わにした猟書家を、炎を纏う拳が鋭く穿った――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヤニ・デミトリ

ウサギさん(f27611)と

愛し子と離された今も、戦う事を選ぶんスね
それも愛ってヤツなのかな
そういうの、凄くヒーローっぽくていいと思うなァ
だから殊更、過去が今を歪めるなんざ良くない趣味っスね

行ってきては癪っスけど、闇の方は任されたっス

しがない泥は色々と勉強中スから、あれこれ覗かれるのは照れるっスねえ
身体を溶かして攻撃を避けて、
顎に変えた腕や、屑鉄の猟犬達を放って闇を捕食するっス

実の所、生物が容を遺しておきたいほど美しいってことは俺も同意なんスよね
生きてようが容だけだろうが、それを失うのは勿体なさすぎるっス
だから誰の今も侵させやしませんよ
闇もその向こうの敵も、一緒に食い破っちまうっス


真白・時政

カラスくん(f13124)と

ソンなにコワイ顔シてたらカチンコチンで動けなくなっちゃうヨ
ウサギさんみたいにスマイルスマイル:)

んフフ〜、かァっこい、ネ、ネ
過去の自分を斃して更に強くなるってホントにヒーローみたァい
コッチはウサギさん達がやっつけちゃお!
ネッ、カラスくん行ってきて!

ココロがダメならってヤツみたいでウサギさんよくわかンなァい
デモデモ二人にとってはダイジなンだろォなァってコトはわかるヨ
ソレが一つのアイのカタチってコトもネ

だからウサギさんもちゃァんとお仕事スるの〜
ポンポン出てきた偽スナークはウサギさんの巣穴にゴショータイ!
んフフフフお茶請けのお菓子は何にシヨっかなァ〜
たァのしみ、ネ、ネ



●愛のカタチ
 過去の己、ビーストラヴァ―が放つ麻酔針の雨に向かって、エンリケは銃弾を放ち続ける。猟兵たちを巻き込まぬ為とはいえ、ずっと同じことの繰り返し、埒の空かぬ戦況への苛立ちに、男の眉間に深く皴が刻まれて――。
「ソンなにコワイ顔シてたら、カチンコチンで動けなくなっちゃうヨ」
 見兼ねて真白・時政が、ひょっこり男の前に貌を覗かせた。自分の口端に指を当てながら、白き青年はにっこりと笑う。
「ウサギさんみたいに、スマイルスマイル」
「……動物の前じゃ無いと笑えない」
 低い聲でそう返す男だが、幾分か気は緩んだらしい。固く刻まれた眉間の皴は、僅かに解けていた。そんなふたりを眺めながら、ヤニ・デミトリは、ぽつりと呟く。
「愛し子と離された今も、戦う事を選ぶんスね」
 それもまた「愛」の容なのだろう。
 喩え、誰に理解されなくとも。彼には彼の「護るべきもの」があるのだ。
「そういうの、凄くヒーローっぽくていいと思うなァ」
「んフフ〜、かァっこい、ネ、ネ」
 過去の自分と対峙し、それを斃し乗り越えて、更に強くなるなんて。様式美に沿っていて、将にヒーローという感じがする。
 ゆえにこそ、「過去」が「今」を歪めるなんて見過ごせなかった。
「コッチはウサギさん達がやっつけちゃお!」
 時政は意気揚々と聲を上げたのち、にっこりとした笑顔を黒き青年へ向けた。要件なんて、決まっている。
「――ネッ、カラスくん行ってきて!」
「“行ってきて”は癪っスけど……」
 真白の青年にジト目を送りつつも、パストテイラーと向かい合うヤニ。どの道、彼女は此処で倒さなければならないのだ。
「ま、こっちは任されたっス」
 ヴィランの方は、殺気満々のヒーローに任せておこう。
 オブリビオンに食らい付けるのは、猟兵たちだけなのだから。

「あなたの過去を教えて――」
 黒衣を纏う女は、オーブをゆるりと撫ぜる。刹那、宵闇がまるで津波の如く、彼の許へと流れ込んで来た。
「しがない泥は色々と勉強中スから、あれこれ覗かれるのは照れるっスねえ……」
 飄々と紡ぐ科白に拒絶を滲ませたヤニは、身体をどろりと溶かす。普段はひとの容を取っているヤニだけれど、ブラックタールである以上、液体にも自在に姿を変えられるのだ。
 迫り来る闇そのものに紛れたら、次は反撃の時。腕だった部分を鋭い牙を生やした顎に転じさせ噛みつけば、闇は一気に離散して行く。
「こういう獣はどうっスか」
 続けざまに闇の中へと招くのは、屑鉄で造られた猟犬たち。彼等はバラックスクラップの躰を揺らし、ガシャガシャと歯を鳴らしながら、闇を捕食し始めた。彼等は瞬時に獲物の性質を理解し、其の場に拡がる闇を胎へと収めて行く。
 ――生物が“容を遺しておきたいほど美しい”って点は、俺も同意なんスよね。
 屑鉄の獣たちを眺めながら、黒き青年はひとり思う。
 喩え生きていようが、魂なき器だけの存在だろうが。その「容」を失うのは、余りにも勿体ない。
 特定の容を持たぬ“ブラックタール”である青年は、殊更にそう想うのだ。そう、ヤニの価値観は僅かに、エンリケの価値観と合致していた。
「誰の今も、侵させやしませんよ」
 ゆえにこそ、青年は闇の向こうへ猟犬たちを嗾ける。
 生き物の容は、時を止めたくなるほど美しい。されど、誰かに歪まされた姿は、直視に耐えないから――。

「おいでなさい、無敵のスナーク」
 女が再びオーブを撫ぜれば、獣たちの進撃を阻む様に、黒き異形の姿をした無敵の怪物が現れる。不気味な咆哮が地を揺らせば、猟犬たちの躰を為すスクラップがカタカタと音を立てた。
「偽スナークはウサギさんがオモテナシ、シてあげる~!」
 無敵の怪物を相手取るのは、時政だ。がらんどうとした戦場に無数の巣穴を放ったら、異形のスナークを兎の棲家へご招待。
 笑顔の裏側で、ウサギさんは考える。
 ああ、喩え魂が無かろうと、器だけでも遺しておきたいなんて。
 ――ココロがダメならってヤツみたいで、ウサギさんよくわかンなァい。
 時政は「器」より「中身」が大事だと思っている。しかし、ヤニとエンリケは、物の「カタチ」こそ大事に想っているのだ。そのことは理解できる。そして彼等にとって、其れがひとつの「愛のカタチ」だということも。だからこそ、ウサギさんは、確りとお仕事を熟すのだ。 
「んフフフフ、お茶請けのお菓子は何にシヨっかなァ〜」
 深淵に呑み込まれて行くスナークの姿を眺めながら、時政は含み笑いを溢す。無敵の怪物も、巣穴に堕として仕舞えば此方のもの。
 さあ、どう料理してくれようか――。
「たァのしみ、ネ、ネ」
 スナーク無きいま、猟犬たちの往く手を阻むものは何も無い。ひとの姿を取り戻したヤニは、不敵に口端を弛ませて今度こそ屑鉄の獣擬きを嗾ける。
「さあ、食い破っちまうっス」
 主の号令ひとつで、パストテイラーの懐へ飛び掛かる猟犬たち。
 四つ足で女の躰を押し倒し、鉄に塗れた躰で圧し掛かれば。月明りを浴びて煌めく鉄屑の牙が、女の腹へ強かに食い込んだ――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロキ・バロックヒート


見えるのは折り重なり倒れている子どもたち
神に造られたのにどこかが欠けていた失敗作の処分
故に神と成ることもなく―
物語はそこで終わる

私に罪があるとするなら
その時生を天使に願ったこと
死が“絶望”だなんて
なんともひとらしいよね
さぁ神様の秘密を識った代償を貰わないと
なんて

過去の君は奪う者だったんだね
あの子たちを失ってから奪われる痛みを識った
触れ合えずとも守りたいんだろう
痛みを識りなおも立つ者はヒーローと成る

でもさ
どうせなら博物館の館長とか学者になるのはどう?
誰の物でもない獣に会いに行ったり
したいことをできるようにするの
ごーほーてきってやつ?ふふ
奪われてから時が止まっているとしても
君は生きているのだから



●神の深淵
 彩の異なる双つの眸に焦燥の彩を浮かべながら、パストテイラーは歌うように言葉を紡ぐ。白いゆびさきが撫ぜるのは、禍々しい彩のオーブ。
「……さあ、あなたの過去を教えて」
 催眠のように鼓膜へ響く聲に誘われて、ロキ・バロックヒートもまた、歪んだ幻想へと堕ちて行く――。

 其処には、子どもたちが居た。
 されど、天使のようなソプラノが響くことは無い。仔犬のような脚音が聴こえてくることも無かった。
 みんな、地面へ折り重なって倒れているのだ。
 彼らは“神”に造られたのに、何処かが欠けていた「失敗作」たち。無残にも処分され、物のように打ち棄てられた、可哀想な子たち。故に、神と成ることもなく――。
 この物語は、そこで終わった。

 もしロキに罪があるとするのなら、それは、その時「生きたい」と天使に願ってしまったことだろう。ならば彼の不幸とは、天使がその希いを気まぐれに叶えてしまったことか。
「……死が“絶望”だなんて、なんともひとらしいよね」
 ふ、と零した微笑みは、果たして自嘲だろうか。
 不老不死の神様は、死ねない「生」へ疾うに嫌気が差していた。
「さぁ、神様の秘密を識った代償を貰わないと」
 青年の容をした神の影が、ぶわりと揺れる。其処から這い出ずるのは、天使の容をした黒い影。それは笑わず、歌わぬ、彼の写し身。似ても似つかぬ、ロキの影。
 天使めいた影法師は、眼前に広がる幻想ごと猟書家を闇に飲み込んで行く――。

 軈て世界が彩を取り戻した時。戦場には膝を着いたパストテイラーの姿と、過去の自分へ銃を突きつけるエンリケの姿が在った。
『未だ、集め足りないんだろう』
「だとしても、ビーストラヴァ―は俺だけだ」
 唆すようなヴィランの問いに、エンリケは淡々と否定を紡ぐ。引鉄を握るゆびさきに、ぐっと力が籠った。
「――そして二度と、復活することは無い」
 鈍い銃声が鳴り響く。倒れ伏したヴィランの姿は、どろりと夜闇に溶けて往った。ふたりの戦いの結末を見届けた神は、静かにヒーローの許へ歩み寄る。
「過去の君は、奪う者だったんだね」
「そう云われても、仕方のないことをした」
 感情の籠らぬ聲が、重々しく夜に落ちて行く。エンリケは、あの子たち――愛した剥製たちを失って初めて、“奪われる痛み”を識った。
 硝子の壁に遮られ、もう二度と触れ合えずとも。彼らのことを「守りたい」と、そう思う気持ちは変わらない。
 痛みを識り、こころに疵を負いながら、尚も立ちあがる者はヒーローと成る。そのことをロキは、よく知っていた。
「でもさ、どうせなら博物館の館長とか学者になるのはどう?」
 まさか堅気の仕事を勧められるとは、思ってもみなかったのだろう。悪戯に微笑む神から齎された提案に、エンリケは僅か、眸を見開いた。
「誰の物でもない獣に会いに行ったり、したいことをできるようにするの」
 “ごーほーてき”ってやつ? なんて、ロキがふふっと笑みを零す。
 喩え、愛し子たちを奪われてから、時が止まっているとしても。
「君は未だ、生きているのだから」
「……それも、良いかも知れないな」
 エンリケも釣られて、ふ、と微笑を溢した。神たるもの、迷える仔を導くのもまた役目。彼の反応に、ロキは満足そうに笑む。
 あの子たちの時間は止まった侭でも、きっと男の“時間”は、此れから動き始めるのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

サフィリア・ラズワルド

POWを選択

飛竜の私が何かを喰らっている、先程まで生きていた者を喰らっている、竜人は竜の幼体ではない、あれはそれを受け入れなかった私だ、自分は竜だと信じて疑わない私だ、いずれその思考すらも本能に呑まれるかもしれないのに…。

『エンリケさん、私は貴方の剥製達が羨ましいです』

【白銀竜の解放】で四つ足の飛竜になります、青い炎を吐いて威嚇します。

私達の様な存在がいたという事実は残ってもその姿を覚えていてくれる人はすぐにいなくなります、私はどんな形でもいいから人と在りたい、人と在った証を残したい。

『だから見ていてください』

人であり竜である私の姿を。



●この姿を永久に
 手駒を喪い、猟兵たちは誰も膝を着かない。パストテイラーの破滅は、既に決まっていた。それでも彼女は、オーブを撫ぜてこう語る。
「あなたの過去を教えて――」
 白きゆびさきが、黒いオーブによく映えた。サフィリア・ラズワルドは、そのコントラストを目にする内に、意識を幻想へと引きずり込まれて行く。

 一匹の飛竜が居た。
 それは、外でも無い“サフィリア”だ。彼女は何かを咀嚼しているようだった。口許を赤く染めながら、喰らっているのは――……ああ、あれは、先程まで生きていた“誰か”だ。
 あの飛竜は、サフィリアの“もしもの姿”だ。
 竜人は、竜の幼体ではない――。
 その真理を受け入れず、自分は竜だと信じて疑わぬ儘、ただ誰かを喰らい続けている。いずれはその思考すらも、本能に呑まれるかもしれないと云うのに……。
 紫水晶の眸に其の光景を映したサフィリアは、静かに溜息を吐いた。刹那、彼女の躰は、白銀の躰に夜空を秘めた翼を持つ、うつくしき飛竜と化す。
 彼女は四つ足で確りと地面を踏み締めれば、その猛き顎を開き、青い炎を吐き出した。燃え盛る青は忌まわしき幻想を呑み込んで、歪められた過去を焼き尽くす。

『――エンリケさん』
 軈て戻って来た現実の戦場で、飛竜の少女は戦況を見守る男の名を呼んだ。「なんだ」と男が素っ気無く返事を寄越す。
『私は、貴方の剥製達が羨ましいです』
 博物館で、時を止めた動物たちの姿を視た時から、ずっとそう想っていた。
 「猟兵」と云う存在は、きっと歴史に名を残すだろう。きっと、『サフィリア・ラズワルド』と云う名前も――。
 けれども、その姿を覚えていてくれる人は、百年経てば居なくなる。サフィリアにとって、それは物寂しいことなのだ。
『私はどんな形でもいいから人と在りたい、人と在った証を残したい』
 外界で経験したことは、総てがきらきらと煌めく想い出だから。このうつくしい世界で、自分と云う存在が生きた証を。誰かとこころを通わせ、同じ時を過ごした証を、消えない容として残したい。
 あの剥製たちが羨ましい。死して尚、生前の容を、生きた証を遺された挙句。あんなに温かい眼差しを、全身に浴びることが出来るなんて――。

『だから、見ていてください』

 少女竜は凛と敵の姿を見据えながら、そう希う。
 希少種を愛してやまないエンリケなら、きっと双眸に何時までも、己の姿を焼き付けてくれる筈だ。確信めいた、そんな信頼が有った。
『人であり竜である、私の姿を』
「嗚呼、うつくしいな」
 男は感嘆の息を吐く。
 その優美な佇まいは言わずもがな、鋼の如く煌めく白銀の躰の勇猛さよ。
 ああ、そして星屑を鏤めた夜空を映したような翼の、なんと煌びやかなことか!
「見つめて居よう、あんたの姿を――」
 こんな見事な飛竜は、もう一生お目に掛かれないと、男は双眸を大きく見開いた。勿論、瞬きなんて無粋な真似はしない。
『忘れさせたり、しませんから』
 約束のような言葉を交わして、竜の娘はパストテイラーの許へ飛んで行く。女の上に影を落とせば、青き炎を地上へ振り撒いた。竜の業火に巻かれた女は、聲もなく灰と成って往く。炎が総て消え去ったあと、戦場にはひとりの男と、一匹の竜だけが遺された。

 12時を過ぎても魔法は解けず、世界はいつも通りの貌を見せる。
 固く閉ざされたエントランスの門の向こうから、ふと獣の猛き咆哮が聴こえた。過去は歪まず、サファリパークの平和も護られたのだ。

●時計の針は廻り行く
 あれからダークヒーロー「エンリケ」は、平穏な日常へと舞い戻った。
 矢張り、彼は相変わらずな様子。日中はヒーローとして活動し、夜は博物館に通っているのだと云う。きっと、今宵も愛し子たちを、硝子越しに愛でているのだろう。
 けれど、ひとつ変わったことも有る。
 それは彼のこころだ。戦場で目にした何かが刺激と成ったようで、燃え尽きたと思われていた“希少種”への興味と感心が、再び彼の中でぶり返したらしい。
 尤も、彼が路を違えることは、もう無いだろう。
 彼なりに真当な方法を思案したのか、最近はアドバイザー兼ボディガードとして、希少種の調査に同行することも多いらしい。
 そんな彼の夢は、いつか剥製たちを買い戻し、ちいさな博物館を作ることだと云う――。

 魔法は解けず、されど時は巡り続ける。
 過去に囚われぬ限り、ひとは何時だって、未来を切り拓くことが出来るのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年02月02日
宿敵 『パストテイラー』 を撃破!


挿絵イラスト