ワールドエンドに忘れないで
●彼方・那由多の忘却
忘れないで。
その言葉は呪のように世界に響く。
忘れないで。
どうかと願う心は悪しきものであると誰が言えたことだろうか。いや、誰にも言えはしない。
忘れないで。
その言葉はいつかの誰かの声無き声であったことだろう。
人から忘れ去られることによって滅びる者たちがいる。
それが妖怪である。
かつてUDCアースに在りし人の感情を糧として生きた者たち。彼等は知覚されなくなり、恐れや喜びといった感情を得ることができずに滅びる。
それ故に幽世へと大移動を敢行する。
だが、妖怪の全てが大移動に耐えられたわけではない。
命を落とした妖怪だっていただろう。
「塵塚怪王と呼ばれたこともありましたけれど。それもはるか昔の事。ええ、忘れませんように、私は忘れません。あなたたちのことも忘れません。永遠にしましょう。私という存在が潰えぬ限り、ずぅっとあなたたちは私の記憶の中で生き続けるのです」
『棄物蒐集者・塵塚御前』は、それが詭弁であると知っている。偽善であると胸を張っている。
時間が過去に、骸の海に押し出されて堆積していくのならば、彼女がいるのは遺失物の遺棄場である。
赤い彼岸花が咲き誇るそこで、彼女は静かに待つ。
ここにいれば、即ち忘れられそうになっている妖怪たちは集まってくる。彼女は彼等を取り込むだけでいい。
全て記憶している。
彼女の元に集まった世界に忘れられようとしている存在たちを全て束ねていく。
「忘れないで。ええ、忘れませんとも。私の存在全てを用いて忘れません。そのためだけに私は存在しているのだから」
百鬼夜行の如くガラクタたちが彼女の足元に集う。
蜘蛛の形を為した機械人形がカタカタと音を立てる。
「ええ、私一人いればいいのです。私一人が全てを記憶していましょう。永遠を共に往きましょう」
『棄物蒐集者・塵塚御前』 は微笑んだ。
それは魔性でありながら慈母の如き微笑みであった。
幽世蝶の不思議な光だけが、彼女と遺棄場を照らしていた――。
●此方・刹那の記憶
グリモアベースに集まってきた猟兵たちを出迎えたのは、ナイアルテ・ブーゾヴァ(フラスコチャイルドのゴッドハンド・f25860)だった。
彼女の微笑みはいつもと変わらないものであった。そこに如何なる感情があるのかを知ることができるのは彼女だけであろう。
「お集まり頂きありがとうございます。今回の事件はカクリヨファンタズム。妖怪たちの住まう世界、不安定な世界故にオブリビオンによる世界の終わり、カタストロフの危険に常に晒されている世界でもあります」
そう、妖怪たちの住まう世界であるカクリヨファンタズムは、些細なことがきっかけになって世界の終わりを招く。
例えば、言葉一つでも世界は滅びを迎えてしまう。
「ですが、皆さんの活躍によって何度も『世界の滅亡』から救ったためか、極稀に『世界の崩壊するしるし』を感じ取ることができるようになりました」
それはグリモア猟兵が骸魂による事件が起こる予知よりも早く察知することができる。
『幽世蝶』――その群生である。
不思議な霊力を放つ幽世蝶が世界のほころびを感じ取れるのだという。
「皆さんは『幽世蝶』を追って頂きたいのです。ですが、その道程は危険なものであるのです」
ナイアルテは語る。
群生する『幽世蝶』が飛んでいく先は、どこからともなく頭の中に『忘れないで』と声が響き渡る道程なのだという。
声の主が何者であるかわからない。
骸魂のものでもなければ、妖怪たちの声でもない。では、それはなにか。
「恐らく、『幽世蝶』が飛んでいく道は、皆さんの過去の記憶に影響されて響く声なのでしょう。聞こえ方も、声の主も皆さんそれぞれに違うかと思われます」
その声は罪を糾弾するものであるかもしれないし、無力を嘲笑する声であるかもしれない。もしくは、己と関わりのあった者の声であるかもしれない。
「その声が皆さんの心を壊すには十分なものであるかもしれません」
だが、それでも『幽世蝶』を置い続けなければならない。
『幽世蝶』がたどり着いた場所は、『追憶玩具店』。
そこは忘れ去られた懐かしい玩具が集まる店である。妖怪たちは皆、そこに昔自分がなくした玩具やたくさん遊んだ懐かしいものを求めてやってきているのだ。
猟兵もまた例外ではない。
そして、そこにこそ世界を滅ぼさんとする骸魂――オブリビオン『棄物蒐集者・塵塚御前』が存在する。
ただ、『棄物蒐集者・塵塚御前』は自身の存在が猟兵に露見しているとは思っていない。
「彼女に気づかれぬように妖怪たちを玩具店から遠ざけて頂きたいのです」
玩具店で過ごしながら、少しづつ妖怪たちを店の外に自然に連れ出さなければならないのは難しいことかも知れない。
だが、骸魂との戦いにおいて無用な犠牲は必要のないものである。
「確かに難しいことは百も承知です。ですが、『棄物蒐集者・塵塚御前』――骸魂『塵塚怪王』と百鬼夜行の妖怪が融合した存在は、『忘れない』ためだけに世界を滅ぼさんとするオブリビオン」
それは確かに忘れ去られることによって生きる糧を失う妖怪たちにとっては、救いの神であるのかもしれない。
「『忘れない』ために世界を滅ぼす……『忘れないで』という願いに応える善良なる想いなのかもしれません。『忘れられたくない』と願うことは、悪しき望みである、と断定はできないのかもしれません」
それでも。
それでも、世界は滅ぼす理由にはなっていない。
忘れても、忘れても、それでもめぐる因果があるのだと信じてナイアルテは猟兵達に頭を下げ、送り出すことしかできなかったのである――。
海鶴
マスターの海鶴です。
今回はカクリヨファンタズムでの事件を未然に防ぐシナリオになっております。オブリビオンは未だ事件を起こす前段階であり、『幽世蝶』を追い未然に防ぐことが目的となっております。
●第一章
冒険です。
どこかへ飛んでいく『幽世蝶』の群れを追いかけ、謎の声が頭に響く道程を進みましょう。
皆さんの過去の記憶を由来とするネガティブな声が頭に直接響いてきます。
これらを振り払って『幽世蝶』を追いかけ続けましょう。
●第二章
日常です。
『幽世蝶』がたどり着いたのは『追憶玩具店』です。
オブリビオンは『幽世蝶』が周囲に飛んでいるため、一目でわかります。未だ玩具店には妖怪たちが各々の懐かしの玩具を求めて存在しています。
皆さんもまた懐かしむなどしながら、妖怪たちを店から遠ざけましょう。避難させても居ですし、適当に理由をつけて店の外に誘い出してもいいでしょう。
●第三章
ボス戦です。
事件を起こそうとオブリビオン『棄物蒐集者・塵塚御前』は行動を開始しようとしますが、取り込むべき妖怪たちが店内に存在していないことに気が付きます。
ようやくにして気がついた彼女は猟兵達に戦いを挑んできます。
これを打倒すれば、骸魂に取り込まれた妖怪を救出できますし、事件も未然に防ぐことができます。
それではカクリヨファンタズムにて、『幽世蝶』が未然に事件を察知し舞い飛ぶ中、過去からの声を振り切り、追憶陳列する店から妖怪たちを救い出しましょう。
世界を滅ぼす事件を未然に防ぐ皆さんの物語の一片となれますように、いっぱいがんばります!
第1章 冒険
『脳裏に響く声』
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POW : 声を気合いや耳塞ぎ等で聞き流す
SPD : 声が耳に入る前に素早く突き進む
WIZ : 声を聞いた上で対処する
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
声が聞こえる。
それはいつかの誰かの声であったかもしれないし、己の声であったかもしれない。
他の誰にも同じようには聞こえず。
けれど、たしかにあなたの耳に届く。
脳裏に直接響くのは、何故だろうか。それさえもわからない。
カクリヨファンタズムにおいては、過去の出来事さえ心を抉る刃となるか。
猟兵達は知らなければならない。
今まさに己の脳裏に響く声は、己の内側から発する何かであると。
外側から攻撃されているわけではない。
だが『幽世蝶』は、この道を往く。不思議な光を発しながら、事件を引き起こさんとするオブリビオンの元へと猟兵たちを導く。
例え、猟兵たちの心を抉る声が響くのだとしても、それでも足を止める理由にはならぬというように――。
村崎・ゆかり
あれが幽世蝶。世界崩壊の兆しとは思えないくらいに綺麗。
生きましょう、アヤメ
忘れないで――
えぇ、えぇ、忘れたりはしないわ、お祖母様。己の無力に泣いた夜も、挫けそうになったあの夜も。
先師たるお祖母様がいてこそ、今のあたしがある。それを否定するのは、自分の過去を斬り捨てるも同じ。
だからこそ、斬って捨てるのでなく、乗り越える。
今の自分を信じて、己で切り開いた道を進むわ。
行き先がどこへ通じるかなんてあたしは知らない。落とし穴だってあるでしょう。だけどそれも這い上がってやる。
隣にアヤメがいれば、それでもうあたしは無敵よ。
アヤメも何かを思い出しているのかしら?
大丈夫、今は隣にあたしがいる。絶望は必要ない。
幽世蝶が往く。
その輝きは不可思議な光となって、猟兵たちを先導するように舞い飛ぶ。
世界の崩壊、カタストロフの兆しを予知よりも早く、それこそ未然に防ぐために猟兵達は、その輝きを追う。
だが、彼等の脳裏に響く声がする。
「あれが幽世蝶。世界崩壊の兆しとは思えないくらいに綺麗」
村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》・f01658)はカクリヨファンタズムに存在する霊力の輝きを放つ蝶を見て、そうつぶやいた。
カクリヨファンタズムはたしかに不安定な世界である。
ちょっとしたきっかけであっても、オブリビオン・フォーミュラが引き起こすカタストロフと同様の崩壊を引き起こす。
常に世界の終わりの危機に晒されている世界なのだ。
忘れないで。
その言葉は確かにゆかりの耳に届いた。
いや、それは己の脳内、内面、心の内側から響く言葉であると彼女は知っている。
それはユーベルコード、愛奴召喚(アイドショウカン)によって呼び出したエルフのクノイチの式神・アヤメにも同様であったことだろう。
「いきましょう、アヤメ」
二人は己の脳内に響く声よりも互いの言葉を信じる。
それが恋人同士の絆である。
『忘れないで――』
声の主をゆかりはよく知っている。
忘れないでとささやく声が、いつだって耳にこびりつく。
それが幻聴であると知っていたとしても、心は揺れるだろう。水面に小石を投じるのと同じだった。
凍りついていない限り、波紋は広がる。
だが、最初は激しく強く揺れる水面も、時が経てば静まっていくのと同じでゆかりの心もまた同じであった。
「えぇ、えぇ、忘れたりはしないわ、お祖母様。己の無力に泣いた夜も、挫けそうになったあの夜も」
そのどれもが今のゆかりを構成するものだ。
どれ一つが欠けたとしても今の己にはならない。それを知っているからこそ、いや、教えてくれたのは他ならぬ声の主である祖母。
「先師たるお祖母様がいてこそ、今のあたしがある。それを否定するのは、己の過去を切り捨てるも同じ」
時が過去に排出されるからこそ未来へと進んでいく。
それと同じようにゆかりもまた過去からの地続きの道を歩む者である。
どれだけ世界をまたごうとも、それは変わらない。
「だからこそ、斬って捨てるのではなく、乗り越える」
どれだけ、脳裏に響く声が懐かしい祖母の声で悲しげなことを言おうとも、ゆかりは前を見る。
ぎゅ、と握る誰かのぬくもりを感じる。
今の自分を信じる。
己で切り拓いた道を進む。
この道の先がどこへ通じるかなんてわからない。落とし穴だってあるかもしれない。ときには奈落の底に落ちることもあるだろう。
けれど、それでも這い上がる。
這い上がってみせる。自分は独りではないとわかる。この手のひらから伝わるぬくもりがそれを教えてくれる。
どんなに惨めであっても構わない。
どんなに苦しくても構わない。
「隣にアヤメがいれば、それでもうあたしは無敵よ」
そう言ってゆかりは隣に立つ、己の手を握って微笑んでいるアヤメを見て宣言する。
彼女だって何かを思い出しているのかもしれない。
けれど、自分よりも先に手をとってくれたことが嬉しかった。大丈夫。そういうかのような微笑みが今は頼もしくもあり、どうじに嬉しい。
誰かが隣りにいること。
独りではないと感じること。
それがゆかりに力を与えてくれる。
「大丈夫、今は隣にあたしがいる。あなたがいてくれる。だから、この声のいうことは、絶望は、必要ない」
彼女たちに必要なのは、手のひらを通して伝わるぬくもりだけ。
想いが時として力に変わるのであれば、絶望が付け入る隙などない。
「いきましょう。私達の道標は、あの輝きの向こうですよ」
アヤメが微笑む。
それは他のどんなものよりも輝いて見えた。
ならば、自分はもう迷うことなんて無い。手をひかれるでも、ひくでもない。
二人で駆け出した足並みは、いつだって同じ方向に向かっているのだから――。
大成功
🔵🔵🔵
黒髪・名捨
●心境
≪忘れないで≫
ごめん思い出せない。記憶喪失もここまで来ると怖いわ…。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
何忘れてるんだろうか…?
●声を気合いや耳塞ぎ等で聞き流す
『気合い』と『勇気』を入れて前に突き進む。
正直、気が滅いるが頑張って行こう。うん。
すまない、なんか寧々も苦しんでいるみたいだが、『結界術』頼む。
ガチ頼む…。
『読心術』で寧々の記憶の悲しみを『かばう』
今のうちに『浄化』の術の発動も頼むわ。
くそ、過去の記憶思い出す手がかりを求めて、この依頼に手を上げたんだが…。記憶が戻らないのに何で心に突き刺さるんだ。
どうせ悲しいのなら記憶も少しは思い出してくれよ全く…。
喪った記憶はなかったことになるだろうか。
記憶なき者にとって過去は無いに等しいものであろうか。
答えは否である。
過去があるからこそ、記憶を喪ってもなお人となりが存在する。それはどうしようもないものである。
突然、その存在が世界に現れることがない。
必ず始まりがあり、終わりがある。
それが生命というものであるのならば、記憶無き者にとって、幽世蝶が飛び、その輝きで持って世界の崩壊を成さんとするオブリビオンへと導く道行きは過酷なものであったことだろう。
黒髪・名捨(記憶を探して三千大千世界・f27254)にとっても、それはかわりないものであった。
いつもと変わらない。
記憶を呼び覚ますような不可思議な現象に飲み込まれてもなお、声の主に覚えがないのだ。
『忘れないで』
その言葉の意味を、意味するところのものを、由来するものを、それも名捨は思い出せない。
喪ったのか、捨てたのか。
それすらも判別ができない。
これまでも何度もあった記憶を呼び覚ます機会。
「くそ……その度に手がかりを求めてやってきてるっていうのに……」
記憶を喪った者。
それが名捨という猟兵である。
彼の脳裏に響く声に、名捨は頭を振る。
ごめん思い出せない、と。己が記憶喪失である自覚はある。けれど、幽世蝶の導く道程に置いてさえ、己の記憶を呼び戻すきっかけにすらならない。
何度も何度も、脳裏に響く声。
その声の意味が理解できないことに対する謝罪の念ばかりが心に渦巻くのだ。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
謝るばかりで、それ以上のことは何も己の心から汲み上げられる様子はない。
ただ、心に刺さる。
忘れないでという言葉ばかりが、己の心をえぐって通り魔のように傷つけていくのだ。
「記憶が戻らないのになんで心に突き刺さるんだ」
どうしようもない悲しみが心を満たしていく。
理由もわからないのに、心ばかりが冷えていくのを感じる。気が滅入る。それは彼が抱えたしゃべる蛙『寧々』もまた同様なのだろう。
すまない、と名捨はつぶやく。
気遣うことはできる。けれど、それでも彼等は進まなければならない。
「旦那様」
わかっていると頷く。
結界術を張り巡らしても、それでもなお声は響くのだ。
どうしようもないことなのだ。どうあたっても、幽世蝶を追わなければならない。だから、名捨は肩代わりする。
読心術によって『寧々』の心の中をかき乱す声を肩代わりする。
どうあっても思い出せない記憶。
悲しい記憶も、辛い記憶も誰かのものであるのならば、耐える。誰かの悲しみと苦しみをどうにかしてあげたいと願う心があれば、脳裏に響く声も気にはならない。
ああ、それでも。
それでもどうせならば、と思ってしまう。
「どうせ悲しいのなら記憶も少しは思い出してくれよ全く……」
悲しみの理由もわからぬままに心ばかりをかきむしられる。
それはどんなに心の痛覚が麻痺していたのだとしても、気持ちの良いものではない。
けれど、抱えた『寧々』の暖かさは忘れようがないのだとも思う。
あの幽世蝶の齎す霊力の輝きを道標に、名捨は走る。
ひたすらに走るのだ。
どれだけ暗夜を駆けようとも、それは勇気があればなんとでもなる。見通せぬほどの闇があったのだとしても、それを必ず終わらすという意志があればいい。
たった、それだけで名捨は駆けることができる。
記憶なくとも、必ず過去が存在する。
それは彼にとって見通せぬ闇であったのかもしれないけれど。それでも其処に在るということが彼の背を押すのだから――。
大成功
🔵🔵🔵
天帝峰・クーラカンリ
この蝶を追っていけば良いのか?簡単だな
なにやら聞こえるが無視して素早く先へ進む
「神様だからってお高くとまりやがって」
「所詮神の座から堕ちたから此処にいるんだ」
「エベレストだの富士山だのならわかるが、クーラカンリ山なんて誰も知らないだろう」
カツカツ、踵を鳴らし
噫、やはり煩いな
耳障りだ、気分を害した
私が此処にいるのは私の意思だし
私は与えられた仕事を誠実にこなしていただけだ
それを「お高くとまる」とは、人の評価など全くあてにならぬものだな
山の名のひとつも知らぬのは、学が無いからに他ならぬ
分かっている
最後に信じられるのは自分だけだ
今更誰に頼ろうか
私の歩みを止めたければ、もっと違う者の声を使うべきだったな
カクリヨファンタズムは世界の崩壊――すなわちカタストロフの危険に常に晒されている世界である。
その世界にあって、『幽世蝶』の存在はこれまでとは違った役割を担うようになっていた。すなわち、カタストロフの前兆をグリモアの予知よりも早く感知することができるようになったのである。
それは驚くべきことであるが、世界崩壊を未然に防ぐことが出来るということは猟兵たちにとって朗報だ。
だからこそ、天帝峰・クーラカンリ(神の獄卒・f27935)は幽世蝶の霊力の輝きを、その青い瞳に写して頷く。
「この蝶を追っていけば良いのか? 簡単だな」
確かに幽世蝶の群生を追っていけば、自ずとオブリビオンにたどり着くことができる。
幽世蝶はすなわち群生となって事件を引き起こすオブリビオンの元へと集うのだ。
けれど、問題は道程にある謎の声が響く場所。
それはクーラカンリ――『天帝の峰』の名を冠する神である彼もまた例外ではない。
「神様だからってお高く止まりやがって」
「所詮神の座から堕ちたから此処にいるんだ」
「エベレストだの富士山だのならわかるが、クーラカンリ山なんて誰も知らないだろう」
そんな声が彼の脳裏に響く。
それは多分にもれずネガティブな言葉ばかりであった。幽世蝶が舞い飛ぶ道程は、この道に足を踏み入れた者の心の内側からネガティブなことばかりを抽出して響かせる。
何故こんな場所があるのか。
その理由はわからない。けれど、その嘲りの言葉ですらクーラカンリの歩みを止める理由にはならなかった。
言葉は言葉である。
無視すればいい。カツカツと踵を打ち鳴らすようにしながらクーラカンリは道程を進む。
その瞳に在るのは幽世蝶の輝きだけだ。
それ以外は目もくれない。世界の崩壊を防ぐためには、この程度の嘲りなど嘲りですらない。
意味がないのだ。
「私が此処に居るのは私の意志だし、私は与えられた仕事を誠実にこなしていただけだ。それを『お高く止まる』とは人の評価など全くあてにならぬものだな」
どれだけ嘲りの言葉が、己の心を内側から罵るように響いたところでクーラカンリはブレない。
その心の柱とも言うべき芯は些かも揺れることはない。
それは彼が神たる身であるからではない。
常に自他共に厳しく律する心があればこそである。その心の佇まいは僅かな時間で築かれるものではない。
山が揺るぐことのないように。
己の心もまた巨山と同じように。どれだけ心の内側から揺らされようとも揺れることは決して無いのだ。
「山の名の一つも知らぬのは、学がないからに他ならぬ」
己の知らぬところを知る。
それこそが無知から得られる知である。知らぬと自覚した時にこそ学びの機会が訪れるのだ。
それを嘲りとするのならば、喪ったも同然である。
わかっている。
己の心が自答する。最後に信じられるのは自分だけである。今更だ。
誰に頼ることがあろうか。
「私の歩みを止めたければ、もっと違う者の声を使うべきだったな」
有象無象の言葉では己は止められない。
どこまで行っても己の心を自由にできるのは自分の言葉だけである。揺るぎないこと。ぶれぬこと。
己を律する心があればこそ、歩むことができる。
「小うるさいとも思わぬさ。微風にも至らぬ小言など」
あの輝きを、幽世蝶を決して見失わぬようにとクーラカンリは前を向いて歩み続ける。
登山家が決して頂き以外を目指さぬように。
冠する『天帝の峰』がそうであるように。
彼の歩みは止まらず、幽世蝶を追い続けるのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友。
第一『疾き者』唯一忍者
一人称:私 のほほん?
幽世蝶は綺麗なんですけどねー…。
「忘れるな」と複数の男の声がする。
そう、複数。かつて、私が色と技を駆使して暗殺していった男たちの声…だと思う。
中にいる三人には聞こえない。だって彼らは武士で、忍びではないから。
私だけに聞こえる声。
ダッシュで駆け抜ける。
中の三人だって、どういったのが聞こえているのか、薄々気づくだろうし。
…三人は、アリラビ戦争時に『潜入暗殺の鬼』を知ってなお、受け入れてくれたから。
駆け抜けて。止まるわけにはいかないのですよー…。
※
静かなる者「我らがいますよ」
ちなみに『静かなる者』とは元恋仲の現戦友。
忘れ得ぬ業があるのだとすれば、それを如何にする。
それが業を抱えたものの宿命であるのだとすれば、その業の重さは本人にしか分かり得ぬことであろう。
理解を求めることも、理解することも、何もかもが五里霧中の如く手をのばすことすら憚れるものであるのかもしれない。
その解を得ることも、迷うことも、その者にしかできないことである。
誰もが言うだろう。
人の心は移ろうものであり、薄まっていくものであると。忘れることのできないものなどないのだと。
されど、輝き舞い飛ぶ幽世蝶が示す道程には、足を踏み入れた者の心の内側から響く言葉によって苛む刃が在る。
『忘れるな』
複数の男の声が、複合型悪霊である馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)の一つの人格である『疾き者』の心の内側から響く。
「幽世蝶は綺麗なんですけどねー……」
辟易していたわけではない。
その言葉の意味を、声の主たちのことを忘れたわけではない。
過去は消えない。
過去はなかったことにはならない。
己の過去が追いすがってくるような気配さえした。
己が嘗て殺めた者たちの声だ。色と技。
それが己のできる最大の役目であるという自負はあった。この声が聞こえるのは四つの人格が束ねられた悪霊である己以外の三柱には聞こえていないだろう。
それは彼等が武士であるからこそであろう。
この声が聞こえるのは己だけだ。
「私だけに聞こえる声」
安心したような気がする。
ああ、と。彼等が忍びでなくてよかった。自分だけが忍びで良かったと安堵さえしたのだ。
走る。
駆け抜ける。ただそれだけのために、それは風のように(ハヤキコトカゼノゴトク)に幽世蝶の輝きを追う。
何もかもが気が付かれないといい。
そんな甘い考えは霧散して消えている。
己と融合した他の三人にもきっと聞こえないまでも、どのような声が聞こえているのかは察することができるだろう。
けれど、彼等は何かを言うわけではない。
何故なら、己が助けを求めていないからだ。嘗て在りし戦いにおいてさえ、『潜入暗殺の鬼』を知ってなお、受け入れてくれた。
言いようのない感情。
名前のない感情がこみ上げてくる。
そう、駆け抜けなければならない。己が為すべきことを為す。それが忍びの本懐であるのならば、己はそれを全うしなければならない。
「立ち止まるわけにはいかないのですよー……」
振り切る。
全てを振り切る。自身の足を掴む過去があって然りである。けれど、振り払うことなく抱えていこう。
そうすることでしか為せぬことがある。
それを己は知っているのだ。忘れるなという声が聞こえる。
「我らがいますよ」
『静かなる者』の声が、光明のように心を照らす。
暗澹たる過去の声さえも切り裂いて、心を照らす。その暖かさに報いる為に『疾き者』は駆ける。
一歩でも早く。
一秒でも疾く。
世界崩壊を引き起こすカタストロフ。その中心足り得るオブリビオンを討つために、『疾き者』は一陣の風になって道を急ぐのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
ワタツミ・ラジアータ
キャバリアから降りて探索している。
不快感を隠さず、気休めに鋼材を齧っている。
何故、私はこの世界に来たのでしょうか。
私とは無縁な世界の筈ですのに。
頭のノイズが不愉快ですわ。
不快なノイズ。
知らない。忘れた。知りえない。知ってはいけない。
『心』が揺さぶられるのは不愉快ではあるが。
しかし、その理由は解析する気になれない。
進む事すら億劫になるが、立ち止まるわけにはいかない。
何故か分からないけれど。
立ち止まってやる物ですか。
私が滅ぼすべき敵がいるのですから。
それが何かはわかりませんけれども。
蝶の導きと自身の敵意を磁石に目的地へと向かう。
何故己がその名を名付けたのか。
ワタツミ・ラジアータ(Radiation ScrapSea・f31308)は己のキャバリアから降りて、カクリヨファンタズムの大地に足をつける。
何故。
その問いかけは自問自答であった。
答えはない。
解答はない。
己の身体を這い回る言いようのない不快感だけが、確かな実感であった。『危険』と名付けられた機体を見上げていた視線をおろし、気休めの鋼材をかじりながら己に問いかけるのだ。
「何故、私はこの世界に来たのでしょうか。私とは無縁の世界の筈ですのに」
そう、無関係の世界。
いや、猟兵となった今はどの世界に対しても無関係ではいられないのだろうが、自身の主観の考えるところをして縁のない世界であると断ずることができる。
けれど、それでも頭の、いや、脳裏に響く声は不愉快極まりないものであった。
「頭のノイズが不愉快ですわ」
がり、と鋼材をかじる音がノイズを打ち消すように響いた。
けれど、それでもまだノイズのように響き渡る声が聞こえる。
それが『声』であると理解できるのがまた癪に障る。
不快なノイズ。
知らない。忘れた。知り得ない。知ってはいけない。
ただそれだけが己の不快感の源であるようにワタツミは鋼材を噛みしめる。
レプリカントである己の心が揺さぶられるのは不愉快でしかない。ノイズがエラーとして検出されるのであれば、それを即座に検出し排除することが肝要であろう。
だが、ワタツミはそんな気になれないでいた。
己の心が揺さぶられる原因。理由。その由来を解析しようと思えばできたのだろう。けれど、それをしないということは、己の足取りを重くするものだった。
「進むことすら億劫になりますわ」
重い、重い、足取り。
どうあっても己を進ませぬ何かが、このノイズにはある。
まるで泥濘から這い出た手が己の足首をしっかりと掴んで話さないかのような錯覚。
それを鬱陶しいと思う以上に、己の心の中の何かが立ち止まるわけにはいかないと叫ぶようであった。
だから、進む。
何故かわからないけれど。
それでも進む。
いや、違う、これは『何故』という言葉では言い表せない強い感情に突き動かされている。
「立ち止まってやるものですか――」
引きずるように足をすすめる。
目の前に幽世蝶の霊力の輝きが、鱗粉のようにワタツミを導く。
あの先にいる。
「私が滅ぼすべき敵がいるのですから。それが何かはわかりませんけれども」
それでも進む。
わからないことは足を止める理由になんてなっていない。
わからないこと、知らないこと、忘れたこと、知ってはいけないこと。
何もかもが己の足を止めさせようとする。
仕切り直した己の足を止めさせようともがく。これはきっと敵意と呼ぶのだろう。己の『心』が磁石のように吸い寄せられる『敵』を求めて、ワタツミは、その瞳に意志を宿して進む。
ノイズの向こう側にある何者かの声が遠ざかっていくのを感じながら、それでも不快感とともに彼女は前に、前に、進むのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
星野・祐一
あれが幽世蝶ね。光を発してくれるのは有り難い
早速バイクに乗って追いかけようか
[SPD]
忘れないで、か……
この声は親父かお袋か、もしくは――
未熟だった時の俺に熱線銃をくれたあの人か……
ま、別に忘れてた訳じゃないんだけどな
ただ、それだけに囚われないようにしてるだけさ
バイクをフルスロットルで走らせる
両親も恩人も、皆が死んで過去になっちまって
俺も何時かはそうなるんだろうな
だけど今はまだこうして生きてるんだ
それまでは自由に未来を掛けさせて貰うぜ!
てな感じで響く声を振り切って行く(狂気耐性、激痛耐性
……あ、そうだEs。ちょっとお喋りに付き合ってくれよ
何、ちょっと相槌打つだけでいいからさ、ね?
アドリブ歓迎
霊力の輝きを鱗粉のようにカクリヨファンタズムに撒き散らしながら群生する幽世蝶。
その光景は傍目に見れば幻想的な光景であったことだろう。
以前はそうだったのだ。
ただ霊力の輝きを放つ蝶。それが幽世蝶だった。けれど、今は違う。猟兵たちにとって、かの蝶の輝きは世界崩壊の兆しである。
同時に猟兵達にオブリビオンの存在を知らしめてくれる輝きでも在った。
「あれが幽世蝶ね。光を発してくれるのはありがたい」
星野・祐一(シルバーアイズ・f17856)は親の形見である真紅の二輪バイクに跨ってエキゾースト香るままに幽世蝶を追いかけていた。
エンジン音と駆動音に紛れて声が聞こえる。
予見していたし、同時にどのような声が聞こえるのかと半分は期待があったのかもしれない。
『忘れないで』
その声は誰の声であったことだろう。
祐一にとって、その声の主は父親化それとも母親か。それとも。
己が未熟出逢った頃に熱線銃をくれたあの人か。
別に忘れていたわけじゃない。
忘れたかったわけでもない。
バイクをフルスロットルで駆け抜けさせながら、思う。
思いを馳せることは悪いことではない。
過去を思えば、今を見つめ直すことが出来る。誰も責めないし、誰にもそんな権利はない。
誰だって過去がある。
「ただ、それだけに囚われないようにしてるだけさ」
過去は重たく己の背にのしかかる影であったのかもしれない。
精算しきれぬ過去ばかりが己の両肩に重くのしかかる。消えることのない過去は、己の歩みを止めさせるには十分すぎる重さであったことだろう。
だから、祐一は囚われないようにとバイクの回転数を上げる。
上げて、上げて、振り切るようにしてバイクを走らせ、幽世蝶を追う。
あの輝きの元にオブリビオンがいる。己が成さねばならないことが在る。
「両親も恩人も、皆が死んで過去になっちまって、俺も何時かはそうなるんだろうな」
過去になっていく。
それはどうしようもないことだろう。
わかっている。わかっているのだ。
「だけど今はまだこうして生きてるんだ」
息をすれば吐き出す息は白くなる。風が肌を切るように冷たいのも、心臓が脈打つのも感じられる。
生きている。
その実感が己の生命を謳歌させる。
いつかは終わること。
けれど。
「それまでは自由に未来を駆けさせて貰うぜ!」
どんなに己の手を、身体に追いすがる声があろうとも。それでも振り切っていく。申し訳ないという気持ちがあったのかもしれない。
その声の主の顔も、名前も、何もかも。
囚われないようにと、祐一は朗らかに笑う。
「……あ、そうだEs。ちょっとおしゃべりに付き合ってくれよ。何、ちょっと相槌打つだけでいいからさ、ね?」
何も面白い話がしたいわけではない。
誰かが隣りにいるというだけで紛れるものもある。
彼の言葉にサポートAIの静かな声が響く。
目指す幽世蝶の輝きがキラキラと舞い散る中、祐一は他愛のない会話にこそ、己の心の寄す処を見出すのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
荒覇・蛟鬼
様々な世界を見てみましたが、荒れ具合に
関してはやはり幽世が一番ですな。
■行
【WIZ】
頭の中に、何やら色々聞こえて来ますな。
此処はいったん足を止め、じっくり聞きますか。
忘れるわけがございません。この声は、私が此れまで
塵とみなし、処断した者の声ですな。
咎人、見捨てた被害者、そして未熟な正義の味方……
皆が私の死を望んでいます。
これはいいですな、お礼の弁を述べましょう。
「至極光栄にございます。あなた達が私のことを塵と言うのは、
私の行いを正しいと認めた証なのですからね」
言い終えたらまた歩きますか。
『若、それを言うなら“同じ穴の狢”と言うのが適切では?』
聞こえないぜ、濡姫。
※アドリブ歓迎・不採用可
猟兵たちがたどる道行きは、いつだって荒れ果てている。
数多の世界を跨いで歩く者たちに世界はどのように映ったことだろうか。オブリビオンが世界を荒廃に導く者であるというのならば、常に世界の崩壊に晒されているカクリヨファンタズムは、殊更に荒れ果てた世界であったのかも知れない。
けれど、その世界にあっても妖怪たちは己たちが生きる術を見出そうとする。
「様々な世界を視てきましたが、在れ食い兄関してはやはり幽世が一番ですな」
荒覇・蛟鬼(鬼竜・f28005)はカクリヨファンタズムの大地に鱗粉のように舞い散る霊力の光を放つ幽世蝶の姿を見上げて、そうつぶやいた。
些細なことでも世界崩壊へと繋がるカクリヨファンタズムは、彼の瞳にはひどく荒れ果てた世界に見えたことだろう。
ちょっとした言葉だけでも世界が滅びようとする。カタストロフが引き起こされてしまう。
それを悲しいとも思わない。
ただ、己の責務を全うするだけだ。
例え、己の脳裏に響く声がどれだけ己を攻め立てようとも蛟鬼いは関係のないことだった。
「頭の中に何やら色々聞こえてきますな」
足を止める。
これが己の心のうちから頭に響くものであると蛟鬼は知っていた。だからこそ、足を止め、じっくりと聞き入るのだ。
『忘れるな』
ああ、と溜息をつくように蛟鬼は笑った。
感嘆でもなければ悲哀でもない。ただ、笑った。
「ええ、忘れるわけがございません。この声は、私がこれまで塵とみなし、処断した者の声ですな」
忘れるな、と言われても忘れようがない。
全て記憶している。
塵とはすなわち、世界の崩壊を導く芥。
だからこそ、処罰せねばならない。断じなければならない。強行しなければならない。そうでなければ、守るべきものすら脅威にさらされてしまう。
世界の崩壊とは、たった一つの塵が起こすのだから。
「咎人、見捨てた被害者、そして未熟な正義の味方……」
声の主達は一様に己を責め立てる。死を望んでいるのかも知れない。
それは言葉の刃となって心の柔らかな部分を突き刺そうと迫る。
けれど、その程度。
「これはいですな。お礼の弁を述べましょう。至極光栄にございます。あなた達が私のことを塵というのは、私の行いを正しいと認めた証なのですからね」
相反する者同士。
対峙すれば、互いが互いに敵意を向けるしかないのだとすればこそ、己の行いが肯定される。
蛟鬼とっては、罵る言葉すらも行程の言葉でしかない。
だからこそ、笑った。
笑って幽世蝶を追う。
『若、それを言うなら“同じ穴の狢”というのが適切では?』
相棒である濡姫の言葉がささやくように蛟鬼に響く。
それは脳裏に響く言葉よりも刺さるものであったが、それを気取られぬようにと蛟鬼はくしゃりと眉根を寄せて言うのだ。
「―――聞こえないぜ、濡姫」
そう、聞こえない。
一歩、半歩、たった少しの違いでしか無いと自覚があるからこその言葉。
けれど、そう。
もう止められない。
賽は投げられたし、走り出した足は終着点に至るまで止まれない。己の行いが善か悪か。
それは後の人が評価するのみ。
己が為すべきことを為す。ただそれだけの為に、己は走り続けるのだ――。
大成功
🔵🔵🔵
サージェ・ライト
お呼びとあらば参じましょう
私はクノイチ、世に潜み…胸が目立ちすぎて潜めないとかそんなことないもん!!(お約束
聞いてるのが幽世蝶だけというのは悲しいことですね(ほろり
気を取り直していきましょう
忘れないで、忘れないで、と…
うーん、困りました
きっとあなたは私の『発生』に関係する人、なんでしょう
その声は確かに聞き覚えがあって
でもおそらく私が『サージェ』として生まれてからは
出会ったことは無い声
概念って面倒ですね
だから私に出来ることはあなたを記憶に刻むだけ
そして先に進みます
あなたたちのおかげで私はいま『在る』んですから
※アドリブ連携OK
幽世蝶の霊力の輝きが、光となって世界を照らしている。
猟兵たちが何度も何度もカタストロフ、すなわち世界の崩壊を救ってきたからかはわからないが、幽世蝶の群生はオブリビオンの存在を事前に感知するようになった。
それは喜ばしいことである。
事件に巻き込まれる妖怪たちが少ないということは、未然に防げたということである。
いつだって予知によって事件を知ることができる猟兵達はある意味で後手に回らざるを得ない。
けれど、幽世蝶の予見があるのならば、それはさらなる迅速さで持って事件を解決することができるということだ。
「お呼びとあらば参じましょう。私はクノイチ、世に潜み……胸が目立ちすぎて潜めないとかそんなことないもん!!」
いつもの前口上でサージェ・ライト(バーチャルクノイチ・f24264)はびしぃっと決める。
いや、途中で前口上が寸断されている時点でいつも言えていないのだが、今回は周りに誰がいるわけでもない。
「聞いているのが幽世蝶だけというのは悲しいことですね」
潜んでいるのがクノイチであるのだから、別にそれはいいのではという白猫又のツッコミを聞き流してサージェは幽世蝶の輝きを追う。
都合のいいところだけ聞きかじるのは、お姉ちゃんどうなのと白猫又のシリカは若干心配な顔になるが、そういう細かいところを気にしない明るさがあるのが、サージェの良いところであったのかもしれない。
『忘れないで、忘れないで……』
幽世蝶を追えば追うほどに耳にこびりつく声。
忘れないで、という言葉。
それが誰の声であるのか、その声の主の顔がサージェには思い浮かばない。
あらゆるクノイチという概念の集合体として生まれたサージェにとって、それは思い当たる節のない声であった。
「うーん、困りました。きっとあなたは私の『発生』に関係する人、なんでしょう」
聞き覚えはあるけれど、わからない。
誰なのだろう。
出逢ったことが在るとは思えない声。
発生した、生まれた。
それからの記憶の中には無い声であった。
けれど、この声が必ず己の心の内側から湧き上がってくる声であることはサージェにもわかっていた。
だから、己の発生に関係した人物であろうということは推察することができる。
「……概念って面倒ですね」
ままならない。
自分自身の力ではどうしようもない大きな力の奔流に流されてしまうほか無い。
響く声も、願う声も。
何もかもに応えるのがサージェという存在だ。
そうした概念が寄り添い、紡がれて生まれたからこそ、その声を捨て置くことなど彼女にはできなかった。
「面倒……って一言で言えたらよかったんですけれど、私に出来ることはあなたを記憶に刻むだけ」
それ以上のことはできない。
過去に何があったのか、己の発生に何が関係しているのか。それを知らない。知り得ない。
けれど、歩みを止める理由にはなっていない。
あの幽世蝶の輝きの元にオブリビオンがいる。世界を滅ぼそうとうする意志がある。
それを止めることが、猟兵としてのサージェのあり方だ。
「そして、先に進みます。あなたたちのおかげで私はいま『在る』んですから」
与えられたものばかりだ。
だからこそ、己で勝ち得ていかなければならない。
その言葉の意味を知るからこそ、サージェは駆ける。
声を振り払うことなく、己の記憶に刻み込んで連れて行く。未だ視ぬ世界を、未だ知らない世界を、共に駆け抜けるために――。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 日常
『追憶玩具店』
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POW : 店内を走り回っておもちゃを探す
SPD : 色々あるなと視線を泳がせながらおもちゃを探す
WIZ : 注意深くおもちゃを探す
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
幽世蝶が無数に一つの玩具店の前に集まっている。
そこは忘れ去られ、遺棄された玩具たちが集う場所。
いつかの誰かの持っていた玩具たち。思い出の詰まった玩具たち。それらが棚に飾られている。
妖怪たちは、その棚から己の知っている玩具を手に取る。
思い出が溢れてくる。
その感情の波こそが、彼等の生きる糧。
「ああ、懐かしい。こんなものもあったんだ。思い出すなぁ……」
妖怪たちは皆、笑っていたり、瞳を潤ませていたりと表情をくるくると変えていく。
それが生きるということなのだろう。
だが、そんな彼等を取り込まんとするオブリビオンがいる。
感慨深げな妖怪たちの中で唯一、『棄物蒐集者・塵塚御前』だけが微笑んでいた。幽世蝶の集う輝きに照らされて、蜘蛛のからくりにざして微笑んでいたのだ。
慈母のような微笑みであった。
邪悪さは感じられないかも知れない。
けれど、その微笑みには意志があった。世界を滅ぼさんとする意志。全ての記憶を己のものにして、永続を願う意志があった。
「懐かしいということは、思い出ということ。記憶は保持されなければならない。消耗されてはならない。ええ、私が覚えていましょう」
幽世蝶に囲まれながらも、微笑みを絶やさない。
未だ己の企みは看破されていない。だから、『棄物蒐集者・塵塚御前』は微笑んでいた。
猟兵達はすぐに判っただろう。
あの蜘蛛のからくりの上に座す者こそが、『棄物蒐集者・塵塚御前』であると。
あれが倒すべきオブリビオンであると。
けれど、まだ早い。
猟兵達はこの玩具店『追憶玩具店』に集った妖怪たちをオブリビオンに悟られることなく店の外に連れ出さなければならない。
妖怪たちに被害を出すこと無く、オブリビオンの企みを防ぐ。
そのためには必要なことだった。
けれど、猟兵達の瞳には映ったことだろう。
昔見た、嘗てありし日にみた懐かしものを――。
村崎・ゆかり
あのお店がオブリビオンの根城か。それにしては、幽世蝶が集まってる他に変わったところは無いわね。
アヤメも、森では玩具で遊んでたの?
ふむ、実際に手に取った事のないあたしでも懐かしさを感じる、ヴィンテージ品ばかり。
そうね、これがいいわ。
ねえ、みんな。外へ出て一緒に独楽回しを楽しみましょう。こんな狭いお店の中じゃ、独楽も狭っ苦しく感じるわよ。
その気になった人から表へ出て。外の空き地で、みんなで一緒に独楽回し。
誰が一番長く回せるかを競ってもいいし、それこそ喧嘩独楽でもいいわね。
アヤメ、あたしたちも参戦しましょう。独楽の下に紐を巻き付けて、気合いの声と共に勢いよく独楽回し。
ちょっと童心に返った気分だわ。
幽世蝶の群生こそが、オブリビオンの印である。
その霊力の輝きを放つ光景は、普段見慣れているカクリヨファンタズムの住人である妖怪たちにとっては、なんら不思議なことではなかった。
けれど、猟兵たちの瞳には全く別の意味として捉えられることだろう。
蜘蛛のからくりの上に座す妖怪――いや、オブリビオン『棄物蒐集者・塵塚御前』。彼女の微笑みは底抜けに優しいものであった。
本当に彼女が世界を滅ぼさんとするオブリビオンであるのかわからないほどであったけれど、猟兵であればなんであれ、ひと目見ただけでわかる。
あれがオブリビオン。
世界を終末へと導く者であると。
「あのお店がオブリビオンの根城か。それにしては幽世蝶が集まってる他に変わったところはないわね」
村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》・f01658)は追憶玩具店の店構えを見てそうつぶやいた。
ユーベルコード、愛奴召喚(アイドショウカン)によって共にある式神のアヤメもまた同様であったことだろう。
ともかく、妖怪たちをこの玩具店から引き離さなければならない。
踏み込むと、ふわりと鼻腔をくすぐるのは懐かしさを感じる香りであったかもしれない。
これをどこで嗅いだのかと問われれば、答えに窮することだろう。
けれど、たしかにどこかで嗅いだことがある香りであったことは間違いない。
「あぁ、これ……」
ゆかりの傍らでアヤメが懐かしそうに木彫りの独楽を手にとっていた。
その横顔は何かを思い出すようでもあり、懐かしむようでも在った。
「アヤメも、森では玩具で遊んでたの?」
「此処にあるような沢山の玩具があったわけではないですよ。自分で作ったり、譲ったり、そんな感じでしたね」
へぇ、とゆかりは微笑む。
どんな些細なことであっても互いを知れることは嬉しいことだ。
「ふむ、実際に手にとったことのないあたしでも懐かしさを感じる、ヴィンテージ品ばかり」
手で弄ぶようにして木でできた独楽を手にとって転がす。
「そうね、これがいいわ」
うん、とゆかりは頷く。
この玩具店から妖怪たちを引き離すには、ちょうどよい玩具だ。アヤメも得心が言ったように微笑んで妖怪たちに呼びかけていく。
「ねえ、みんな。外に出て一緒に独楽回しを楽しみましょう。こんな狭いお店の中じゃ、独楽も狭っ苦しく感じるわよ。その気になった人から表へ出て」
笑ってゆかりが独楽を掲げる姿に妖怪たちは次々に両手を上げて店外に出ていく。
どうする、なにする?
そんな風に妖怪たちが笑う姿をみやりながら、ゆかりは店の外の空き地へといざなう。
「誰が一番長く回せるかを競ってもいいし、それこそ喧嘩独楽でもいいわね」
腕を組み考える。
けれど、考えるより先に妖怪たちは空き地で思い思いに独楽を回し始める。その姿を見て、ゆかりは考えを一旦置くのだ。
こうなっては楽しんだほうがいい。
あれこれ考えるより、共に遊んでいれば、妖怪たちは一人で夢中になってくれるだろう。
「アヤメ、あたしたちも参戦しましょう」
互いに笑い合って、勢いよく独楽を回す。
普段は聞けないような童心に還ったような声が空き地に響く。
それはゆかりとアヤメ、そして妖怪たちの心を癒やすような、そんな一時の泡沫であったのかもしれない。
けれど、たしかに在ったのだ。
懐かしむ記憶も、誰かと遊んだ日々も。
その思い出がまたいつの日にか、このカクリヨファンタズムに生きる妖怪たちの心を癒やし、生きる糧になる。
誰かの感情が、誰かの記憶が、決して忘れ去られることなく、いつまでも楽しかったあの日に連れ戻してくれるように――。
大成功
🔵🔵🔵
黒髪・名捨
●心境
懐かしい…か。
『懐かしい』って字は『懐』(ふところ)っとも読む理由は…胸のうちに来るこの暖かさを意味するのかもな。
●行動:店内を走り回っておもちゃを探す
ああ、何故かこの玩具たちに一番懐かしさを感じる
ん?何ってコレだ(メンコとベーゴマ)
というわけで(寧々「どーいうわけじゃ?」)手伝ってくれ寧々…。
店内の片隅で『化術』で人化した寧々とメンコとベーゴマで白熱したバトルを始める。こーいうのはキャラじゃないが、何故か燃える。
メンコとベーゴマのバトルで妖怪たちの注意を十分引いたら。
「ここじゃ狭い。ベーゴマもメンコも店内の遊びじゃねぇ。外で…道路でやるもんだ!!」(寧々「そーなのか?」)
外で本番勝負だ
霊力の輝きを放つ幽世蝶が行き着く先にあったのは一つの玩具店であった。
名を『追憶玩具店』。
その名の通り、かつて妖怪たちが遊んだであろう懐かしさを感じさせる玩具が棚に並べられている。
忘れられ、遺棄された玩具が行き着く先であったのかもしれない。
そこに座すのはオブリビオンである。
からくりの蜘蛛の上に『棄物蒐集者・塵塚御前』は座り、懐かしさを感じさせる玩具を手にとっている妖怪たちを見て、慈母の如き微笑みを湛えていたのだ。
「懐かしい……か」
黒髪・名捨(記憶を探して三千大千世界・f27254)は独りごちる。
記憶無き者にとって懐かしさとは無縁であったのかもしれない。
『懐かしい』という字は『懐』、すなわち『ふところ』とも読むことができる。
理由は胸の内に来るこの暖かさを意味するのかも知れないと名捨は、己の胸の内に去来するものに目を細めた。
『追憶玩具店』はそんな名捨にとっても同じように抱かせたのかもしれない。
店内を走り回り、玩具を探す。
別に急いでいるわけではない。ただ、居ても立っても居られないのは何故だろうか。
理由のわからない足取りの軽さ。
駆けたくなる気持ち。
それはいつかのどこかで名捨が得た感情であったのかもしれない
ぴたりと足を止める。
一つの棚に目がいくのだ。
「ああ、何故かこの玩具たちに一番懐かしさを感じる」
手にしていたのは札と独楽であった。
『なんじゃ、旦那様。それは』
喋る蛙『寧々』にとっては見慣れぬ玩具。名捨も何故これを手にとったのか理由はわからない。
こういう時、直感に頼るのも悪くないし、それにこれは――。
「ん? 何ってコレだ。メンコとベーゴマ。というわけで、手伝ってくれ、寧々」
手のひらから伝わる熱。
それは懐かしさという温かみであったのかもしれない。
どーいうわけじゃ? と寧々が蛙の姿のまま首を傾げていたが、名捨は彼女に化術で人の姿に化けてもらい、店内の片隅でメンコとベーゴマを使った白熱バトルを繰り広げる。
「あー!? 寧々待って、それはまってくれ!」
『いいや、待たぬ!』
さながら、どこかのホビーアニメのような展開で名捨と寧々が遊びに興じていると店内に居た妖怪たちは気になった様子でよってくるのだ。
こういうのはキャラではないのだが、何故か燃えるのだと名捨は張り切っていた。
いや、終始何故か初めての遊びにしては寧々が異様に上手なものだから、名捨の面目は立ちそうにない。
けれど、ここは面目躍如の時である。
「なあなあ、兄さん。これ、どういうルール?」
妖怪たちが名捨と寧々のバトルに興味を持ったのか、一段落してから尋ねてくる。
こうなってしまえば名捨の思惑通りである。
「ここじゃ狭い。ベーゴマもメンコも店内の遊びじゃねぇ。外で……道路でやるもんだ!! ルールなら教えてやるよ。一緒に外行こうぜ」
妖怪たちをオブリビオンから自然と遠ざける。
それが名捨たち猟兵の目的である。
『そーなのか?』
寧々はいまいち飲み込めていないようであったが、天性のものがあるのだろう。
妖怪たちと連れ立って店の外へと飛び出せば、絶対的女王として外での本番勝負であっても、妖怪や名捨をも打ち負かして勝利をつかみ、コテンパンにしてしまうのだ。
それもまた懐かしい光景であったのかも知れない。
そんなふうに心のなかに去来する暖かさに再び、名捨は目を細めるのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
ワタツミ・ラジアータ
ノイズがまたひどくなった。
とはいえ、今はこらえて妖怪を保護をする仕事である。
器物百年を経て、化して号すと云へり。
嘗ての己であった物もあり得よう。
己も器物であれど、そういう風に創造された故に懐かしさという感情は今一つ理解できない。
とはいえ、アンティークな趣味は理解できなくもない。
骨董品、修繕品、そう言った物は嫌いではない。
壊れた玩具を悲しむ妖怪がいれば、それを直してあげる。
食べた玩具の壊れた部品を十全の部品として再構築する。
店中で食べるのは行儀が悪いですし、表で直しましょう。
ご希望の方はついていらっしゃい。
店の中にいれば、アンタから目を離せそうではありませんし。
頭の中を砂嵐が舞っているような、そんなノイズが走り回っている。
あらゆる場所を這い回るようなノイズは、不快感しか生み出さない。どうしようもないことであるとわかっていたとしても、このどうしようもなさを排除しなければならない。
そうであることが己であるための前提条件であるというようにワタツミ・ラジアータ(Radiation ScrapSea・f31308)は幽世蝶を追う。
その瞳の先に在るのは、『追憶玩具店』。
幽世蝶が集まり、其処こそが己の敵が居る場所であると知れる。
しかし、同時に其処に在るのは己の敵だけではない。
此処はカクリヨファンタズム。
妖怪たちの住まう世界である。その『追憶玩具店』もまた例外ではない。
陳列された古い玩具たちが遺棄され、流れ着いたものであるとワタツミは知っていた。
「ノイズがまたひどく――」
ざりざりと脳内を紙やすりで削られているような気さえするノイズ。
不快感を通り越している。度を越している。それは何故かと問う者あれば、きっと彼女はこう応えるだろう。
『器物百年を経て、化して号すと云へり』
嘗て己であった物も在るかも知れない。
自分自身も器物であるけれど、そういう風に想像されたゆえに、この追憶玩具店が醸し出す雰囲気、懐かしさという感情はワタツミにとって今ひとつ理解できないものであった。
けれど、嫌悪しているわけではないのだ。決して。
アンティークな趣味は理解できなくもないし、骨董品、修繕品、そういった物は嫌いではないのだ。
「……どうしました」
そんなワタツミが見つけたのは、独り壊れた玩具を前に途方に暮れている妖怪の姿だった。
悲しんでいるようでもあり、諦めているようでもあった。
息を吐き出す。
「壊れてしまったんだ。壊れてしまったから捨てられてしまったんだろうかと思ったら、それは悲しいことだなと思って……」
「……お貸しくださいな」
ワタツミはこわれた玩具を手に取り、妖怪と共に店の外へと出ていく。
安心していいと思った。
それはユーベルコード。
店の外へ妖怪と共に出て、その瞳に宿った輝きとともにユーベルコード、Dinner of GarbageCrusher(ハサイキコウアクジキハグルマ)が発動する。
玩具を口に含む。
無機物であるのならば、彼女のユーベルコードは自在に操作することができる。すなわち、修繕も難なく行えるのだ。
これでよかったのだとワタツミは思う。あの店の中にいれば、幽世蝶が群がるオブリビオンから目を離せそうにない。
そうなれば、店内の妖怪たちを巻き込んでしまうことは確実であった。
未然に事件を防ぐ。
それが目的だとワタツミも判っている。
「――……どうぞ、治りましたよ。さあ、ご希望の方がいらっしゃれば、どうぞ外へ」
ワタツミは直した玩具を妖怪に手渡し、店内からこちらを伺っていた妖怪たちに呼びかける。
その言葉に妖怪たちはワラワラと店から壊れた玩具を手にとって出てくるのだ。まさかこんなにも、とワタツミは思ったが、乗りかかった船である。
壊れた玩具を直したいと思う彼等の心は、きっとそれが大切なものであるからだ。
ならば、それを為そう。
例え、己の敵がいるのだとしても。
「ありがとう。とても嬉しいよ。その力、とってもすごいことだね! 本当にありがとう!」
くいくいとワタツミの袖を引っ張って妖怪の一人が礼を告げる。
嬉しそうな顔。
ノイズは、聞こえない。自分の目的のためにしたことだった。副産物だった。
けれど、嬉しそうな妖怪の顔を見れば、それは理由をつけて否定することのできない感情であったことだろう。
だから、ワタツミはこわれた玩具を手に取って並ぶ妖怪たちの希望を叶えるため、ユーベルコードの輝きを本来とは違う用途であれど、正しい使い方でもってまばゆく輝かせ続けるのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
馬県・義透
引き続き『疾き者』
なるほど、あそこですかー。幽世蝶いなければ、気づけませんねー、本当。
あやとりの糸もあるんですねー。遊び相手といえば、双子の妹でしたけどー。
…しますか、あやとり。何だかんだで四人全員、やったことのある遊びですし。
近場の座れそうな場所を探しましてー。
最初は軽く。徐々に難しいのへと。あとは、連続で変化させて。
近寄ってきた者たちにも教えますよー。その方が、集まりやすくなるでしょうしねー。
故郷は乱世時代でしたけど、確かにそこに遊びもあったんですよねー。
幽世蝶の放つ霊力の光は、道標となって猟兵たちを次々と導く。
古びた玩具店。
名を『追憶玩具店』という。そこに集まるのは忘れ去られ、遺棄された古い玩具ばかりが棚に陳列されている。
こと妖怪たちにとって思い出こそが感情の結晶であるのだろう。
彼等はその残滓とも言うべきものを求める。それが生きる糧なのだから。
けれど、そこにあったのは、それ以上に懐かしさという感情であったのかも知れない。
「なるほど、あそこですかー。幽世蝶がいなければ、気づけませんねー、本当」
馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)の中の一柱『疾き者』はなぞの声が響く道程を駆け抜け、『追憶玩具店』の前にたどり着いていた。
目印となる幽世蝶は今もひらひらと霊力の輝きを鱗粉のように舞い散らせながら、飛んでいる。
オブリビオンがいることは間違いようがない。
本来であれば、猟兵達はオブリビオンが事件を起こす予知によって駆けつける。大体の場合はカタストロフが引き起こされた後である。
けれど、今回は違う。
何もかもが未然に防げるのだ。
世界の崩壊に巻き込まれる妖怪だって救える。そのために義透たちは駆けつけたのだから。
「あやとりの糸もあるんですねー」
此処は遺棄された玩具が集まる玩具店である。
当然、彼等が懐かしむような玩具だってある。記憶が掘り返されるような気がしたことだろう。
遊び相手といえば、双子の妹だった。
あやとりの赤い糸。
それを手にとって、遠き日の残響を聞くように目を細める。それは微笑んでいたのかも知れないし、追憶の彼方に在る何かを渇望していたのかもしれない。
「……しますか、あやとり。なんだかんだで四人全員、やったことのある遊びですし」
近場に座れそうな場所を探して、腰掛ける。
次々と人格を変えてあやとりをしていく。最初は軽く。けれど徐々に難しいものへと変えていく。
連続で変化を加えながら、『疾き者』は、その名の通り素早くあやとりの形を変えていく。
他の三柱は早々にギブアップしてしまっていた。
『疾き者』の技量は凄まじいの一言に尽きる。
降参、というように他の三柱が諸手を上げたのをおかしく思っていると妖怪たちが、その見事なあやとりの手の動きに見惚れるようにして『疾き者』の手元を覗いている。
ああ、童たちもこうであったかと思いだして笑う。
「教えて差し上げましょうか? 何、そんなに難しく考えなくっていいのですよー」
感嘆なものから教えていく。
ここをこうして、こうする、手を取り、指を取り、妖怪たちにあやとり遊びを教えていくのだ。
きっといつかのどこかでこんなやり取りがあったことだろう。
妖怪たちの笑い声が聞こえる。
それは不思議と心地の良いものであったかもしれない。
確かに彼等の故郷は乱世の時代であった。
人が人のまま、穏やかに人生の幕を引くことすら難しい時代であったが、それでも確かに在ったのだ。
「こんな穏やかな時間が。遊びもあったんですよねー」
感慨に、感傷に、浸っているだけではないのだけれど。
それでも、この穏やかなる時間を脅かさずに、世界を滅ぼさんとする悪意を討つことができる。
幽世蝶の霊力の輝きが、今もなお、そこに存在するオブリビオンの姿を指し示しているのだから――。
大成功
🔵🔵🔵
星野・祐一
あれが件の玩具屋だな。やっと着いたぜ
そんで蜘蛛のからくりの上にいるのが例のオブリビオンね
[SPD]
気付かれないようにこっそり入って、と
へぇー見たこともない玩具がいっぱいあるな――ん?
こいつは…熱線銃型の射的ゲームじゃないか
電源を入れるとホログラフの的が出てきてそれを狙い撃つんだよ
場所を取らずに遊べて当時は人気があったんだよね
俺もスコアをカンストする位には遊んだっけ懐かしいなぁ…
…よし、いい事思いついた
投げて遊ぶ玩具を持ってる奴を誘って店の外で遊んじまおう
この的は銃以外の物体にもちゃんと反応する優れ物なのさ
避難も出来て一石二鳥ってね
という訳でそこの妖怪さんや、俺と一緒に遊ばないかい?
アドリブ歓迎
『追憶玩具店』――その名を聞いて、星野・祐一(シルバーアイズ・f17856)は何を思ったことだろうか。
幽世蝶の放つ霊力の輝きが店の周囲に、オブリビオンの存在を知らしめている。
店に入れば、祐一を取り囲むのは懐かしさといった感情であったかも知れない。
どこを見回しても古めかしい玩具ばかりである。
自分が知っている物もあれば、知らない物もある。
ここは遺棄された玩具の集積地。
誰かの思い出が、誰かの新しい思い出になるようにと願われた場所でも在る。
そこに座すのはオブリビオンだ。
幽世蝶が舞い飛び、カクリヨファンタズムであるからこそ日常の光景として受け入れられている。
「ここが件の玩具屋だな。やっと着いたぜ」
バイクで駆け抜けた道中を思えば、この『追憶玩具店』の名は何か因縁めいたものを感じるかもしれない。
蜘蛛のからくりの上に座すオブリビオンの姿を瞳に捉え、視線を外す。
店内には未だ多くの妖怪たちが、玩具を眺めているのだ。事件を未然に防ぐためには、彼等をオブリビオンに悟られることなく退店させなければならない。
「へぇー見たこともない玩具がいっぱいあるな――ん?」
目的はそうであっても、やはり棚に並ぶ玩具の数々を見やれば、わずかに童心に帰ることだろう。
彼が目にしたのは嘗て、幼き日に彼が遊んでいた玩具の一つであった。
「こいつは……熱線銃型の射的ゲームじゃないか」
手にするのは電源を入れるとホログラフの的が出てきて、それを狙い撃つ玩具であった。
祐一は幼き日の思い出が蘇ってくるようだった。
スコアをカンストする程には遊んだものであった。懐かしい。あの頃の自分のはしゃぎようを思い出して、わずかに頬が熱くなるのは気恥ずかしさからだろう。
今見れば、まるっきり玩具感が満載であるが、あの当時は何もかもが新鮮に、それでいて本物と同じであったのだ。
抜き払う動作や、狙いをつける工夫。
子供ながらに色々と考えたものであった。
「……よし、いいこと思いついた」
祐一は妖怪たちが手にしている玩具を見定めて、彼等を誘う。
妖怪たちはなんだろうと不思議そうな顔をしている。いろいろな投げ縄やゴムピストルなど、何かを飛ばしたり投げたりして遊ぶ玩具を持った妖怪たちを引き連れて、祐一は店の外に出る。
そう、祐一が手にしたホログラフの的を出す玩具は付属の熱線銃型玩具以外のものにも反応するように出来ているのだ。
これならば、避難も出来て一石二鳥である。
「というわけで、妖怪さんや。俺と一緒に遊ばないかい? いやさ、勝負! ってところかな?」
なんて、あの日の頃のように大仰なポーズを取って熱線銃型玩具を構える。
妖怪たちは大盛りあがりであり、手にしたゴムピストルや投げ縄、紙の手裏剣などを取り出して、ホログラフの的に投げつける。
ルールも何もわからないでも、的の中心を狙うということは万国共通であろう。妖怪たちのはしゃぐ声が聞こえる。
きっと懐かしさとは嬉しいことばかりではないだろう。
どちらかと言えば切ない感情のほうが多かったかも知れない。
けれど、こうしていつでも童心に変えることが出来る。
それが祐一と妖怪たちの良いところであった。どんなに時間が立っていても、この玩具が思い出のあの日に自分を連れて行ってくれる。
それは郷愁の念を抱かせるには十分であったかもしれないけれど。
それでも戻らぬ日々を思って笑い合う声は、いつまでも続いて欲しい。
祐一は笑う。
笑って、あの過去を轍に変えて歩んでいく。
懐かしいあの日に再会し、そして今はさようなら。
自分にはまだやらねばならないことがあるのだから――。
大成功
🔵🔵🔵
サージェ・ライト
ふむふむ、妖怪のお客さんを外に誘い出せばいいんですね
ならばお外で魅力爆発の屋台などしてみます!
ふふふ、これで噂になればすぐに…あれ?もしかして怪しさ大爆発ですかこれ?
くっまさかこの超絶正統派美少女クノイチが怪しまれるなんて!
あの、シリカ(猫)さん爪構えるのはやめてもらっていいですか?(がくぶる
仕方ありません
ならばここは面白い見世物として妖怪の人たちを誘い出しましょう!
サージェvsシリカ!
これは見どころぎゃああああ?!
シリカ演技!演技して!
本気はダメでぎにゃああああ!
うっうっうっ、冗談の通じない妹が手厳しい…
※アドリブ連携OK
「ふむふむ、妖怪のお客さんを外に誘い出せばいいんですね」
サージェ・ライト(バーチャルクノイチ・f24264)は今回の事件の概要を改めて認識していた。
そう、カクリヨファンタズムにおいて世界の崩壊とは日常茶飯事である。
それほどに些細な理由で世界が滅びかけてしまう。不安定な世界であるからこそ、猟兵の助けがいるのだ。
けれど、これまでそうであったようにカクリヨファンタズムの世界の崩壊――カタストロフはオブリビオンが事件を起こしてからでなければ、予知に引っかからない。
今回は幽世蝶の導きによってオブリビオンが事件を起こす前に察知することができたのだ。
この機会を逃すわけにはいかない。
だから、サージェは考えたのだ。妖怪たちは楽しいことが大好きである。同時に人の感情を糧にして生きる者たちでもある。
目の前に幽世蝶が舞い飛ぶ『追憶玩具店』もまたそうだ。
過去に遺棄された玩具たちが漂着する場所。思い出が詰まった玩具店。そこに妖怪たちは懐かしさという感情を求めてやってくるのだ。
「ならば、お外で魅力爆発の屋台などをすれば、妖怪の皆さんの噂になってすぐにでもお店から飛び出すことでしょう」
完璧な作戦である。
妖怪たちは楽しいことが大好き。そこで屋台を開いて魅力的なことをすれば、自ずと退店させ、同時に避難も完了という寸法である。
だが、魅力爆発とは一体。
「……あれ? もしかして怪しさ大爆発ですかこれ?」
屋台と言ってもなにかの見世物小屋みたいになっている。
そこに猟兵と言えど、クノイチサージェがいるのであれば、何をするのか一体全体わからない光景が広がっているのだ。
どう好意的に見ても怪しさが匂い立つようであった。
「お姉ちゃん?」
白猫又のシリカの爪がにゅっと飛び出している。
「あの、シリカさん爪構えるのはやめてもらっていいですか?」
まさかここまで怪しまれるとは思っていなかったのだろう。
サージェにとって、これは完璧なる作戦の一つであったのだ。だから、シリカが鋭い爪を出したときには慌ててしまう。
ガクブル震えながら、致し方無しとサージェは見世物小屋のような舞台に立つ。
こうなれば自棄……いや、不退転の決意でことに挑まねばならない。
「ならば此処は面白い見世物として妖怪の人たちを誘い出しましょう! サージェVSシリカ! これはみどころぎゃああああ?!」
サージェの悲鳴が木霊する。
それは悲痛なる叫びというより、コミカルなお約束であった。
シリカは容赦のない爪攻撃であったが、サージェはあくまで演技であると思っていたものだから、本気の爪が来るとは思っていなかったのだ。
「シリカ演技! 演技して! 本気はダメでぎにゃああああ!」
「ブックがあるとお姉ちゃんはすぐに大根になりそうなので」
理由になっているようなないような。
そんな風にどたばたと昭和な土煙を上げながらシリカとサージェの乱闘が続く。
コミカルな雰囲気と昭和レトロな芝居につられて妖怪たちが見世物小屋の舞台のまわりに集まってくる。
コレで目的は達成されているのだが、シリカの猛攻は止まらない。
毒霧攻撃がないだけ感謝して欲しいくらいだとシリカはサージェに飛びかかる。台本のないプロレスは、終始サージェが理不尽に蹂躙される。
「うっうっうっ、冗談が通じない妹が手厳しい……」
なにかいいましたか、とシリカの爪が乙女の柔肌にずぶーって刺さると同時にサージェの嘆きの声が響き渡る。
それはある意味で三文芝居であったのかもしれない。
けれど、妖怪たちは涙を浮かべて笑っている。今はそれで十分だ。『追憶玩具店』にいた妖怪たちは懐かしさと言ったセンチメンタルな感情ばかりを浮かべていたから。
たまにはこんな風にはしゃいで、バカ騒ぎをして、明るく振る舞ってもいい。
サージェはそういうように、今日もコミカルな悲鳴をカクリヨファンタズムに響かせるのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
荒覇・蛟鬼
骸魂はここにいるようですな。
まだ中には妖怪がいる。早めに避難させましょう。
■行
【WIZ】
さて、私は何をしましょうか……ん?
なんだ濡姫、古い紙芝居を持ってきてどうした?
……え、今からこれを妖怪達の前で披露しろ?
ああ、避難誘導も兼ねてか。
妖怪の皆さん、楽しい紙芝居が始まりますよ。
(こうして始まった紙芝居だったが)
むかしむかしあるところに#@□&→$◯#☆¥
えっ何ですかこれ(知らない言語)
mr.ノーネーム・ガイ……名前がおかしい。
お客様笑わないで?台本が少々おかしくて……
(結局最後まで爆笑は止まず)
……濡姫、おまえだな。台本変えたのは。
『若はやっぱり真面目ですね(にんまり)』
※アドリブ歓迎・不採用可
古びた『追憶玩具店』の周りには幽世蝶の霊力の輝きが舞い散っていた。
店内には未だオブリビオンだけではなく、一般の妖怪たちもまた存在しているようだった。
未だカタストロフは引き起こされていない。
それは幽世蝶が導くままに猟兵たちがオブリビオンの存在を感知し、事件を起こす前段階から踏み込むことができたことに起因している。
「骸魂はここにいるようですな。まだ中には妖怪がいる。早めに避難をさせましょう」
荒覇・蛟鬼(鬼竜・f28005)は頷いて店内を見やる。
確かに骸魂、すなわちオブリビオンの気配がある。
だが、未だ店内に妖怪たちがいるのは危険なことだった。
未だカタストロフが引き起こされていない状態とは言え、戦いになれば妖怪たちを巻き込んでしまう可能性だったあるのだ。
「さて、私は何をしましょうか……」
蛟鬼は考える。
他の猟兵たちも様々な趣向を凝らして妖怪たちを玩具店から退店させている。懐かしい玩具たちが立ち並ぶ棚をみやり、何かできないかと考えていると、相棒の濡姫が古い紙芝居を持ってくるのだ。
「ん? なんだ濡姫、古い紙芝居を持ってきて……え、今からこれを妖怪たちの前で披露しろ?」
最初は何をトンチキなことを言っているのだと思った蛟鬼であったが、得心がいく。
これは妖怪たちを店の外に誘導するための一計であるのだ。
避難誘導を兼ねるのは確かに合理的な判断であると言えたことだろう。ならば、と蛟鬼は濡姫の用意した紙芝居を手に店の外に出て、軽く咳払いをしてから声を響かせるのだ。
「妖怪の皆さん、楽しい紙芝居が始まりますよ」
その声につられて、玩具店から次々に妖怪たちは出てくる。
懐かしさという感情でわずかに沈んでいた妖怪たちは楽しげな雰囲気につられやすい。恐れや不安などと言った人間の感情を糧にすることもあれば、こんな楽しい感情もまた彼等にとっては得難い感情であることは言うまでもない。
紙芝居を開幕させた蛟鬼の元には大勢の妖怪たちが詰めかけている。
「むかしむかし在るところに……えっなんですかこれ」
調子よく紙芝居を始めたはいいが、言語が統一されていないのだ。
蛟鬼の知識の中にない言語の羅列が続く。中途半端に読めそうな言語が混ざっている所がこしゃくなところであった。
そこで読むことを放棄すればいいことなのだが、それでも蛟鬼は読み進めていく。
「mr.ノーネーム・ガイ……名前がおかしい」
ついつい、自分が紙芝居をしていることを忘れて、裏に欠かれているセリフに突っ込んでしまう。
それはセルフノリツッコミというやつであろうと妖怪たちの笑いを誘う。
蛟鬼が支える度に、がんばれー! だとか、それは違う読み方だぞー! とかやんややんやと妖怪たちの楽しげな声が響く。
「お客様、笑わないで? 台本が少々おかしくて……」
そんなしどろもどろな言い訳も通じるわけがない。
妖怪たちも手伝って翻訳しながら紙芝居が続いていく。
結局最後まで妖怪たちの爆笑は止まらず、楽しげな雰囲気のまま蛟鬼の紙芝居が幕を閉じる。
なんだか戦うよりも疲労困憊な蛟鬼であったが、その瞳を相棒である濡姫に向ける。笑いを噛み殺すような仕草を見せた彼女に恨みがましく蛟鬼は言うのだ。
「……濡姫、おまえだな。台本を変えたのは」
あれはもはや暗号の類であった。
解読するのにも骨が折れたが、結界オーライな所が憎たらしい。
『若はやっぱり真面目ですね』
にんまりと笑った濡姫の笑顔は、蛟鬼にとってどんな意味を齎したことだろうか。
妖怪たちの楽しかったなぁという笑顔と声。
それは普段の彼には得られないものであったことだろう。
そういう意味では……そう、悪くない経験であったのかもしれない――。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『棄物蒐集者・塵塚御前』
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POW : 歯車地獄―壊す事もそれなりに得意なのですよ。
【自身の体の内部 】から【圧搾破砕用に変形した複数の巨大歯車】を放ち、【任意の全対象の関節接続部等を破壊すること】により対象の動きを一時的に封じる。
SPD : 鉄骨抄―喚け、笑え、叫べ。お前の声を響かせよ。
【名を失った”妖怪”百鬼夜行 】【名を与えられなかった”妖怪”百鬼夜行】【名を封じられた”妖怪”百鬼夜行】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ : 忘霊遊郭―御足は其方の瘡蓋一枚。いざ来たれ。
いま戦っている対象に有効な【対象の心身の傷に刻まれた忘れ・失せモノ 】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
イラスト:エンドウフジブチ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「飾宮・右近」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
仄かに輝き放つ幽世蝶の霊力の輝きが強まっていた。
それはオブリビオンである『棄物蒐集者・塵塚御前』 の周囲に集まり、『追憶玩具店』の中で輝きを放っていた。
「……おかしいおかしいとは思っていましたが。妖怪たちを遠ざけていたのは猟兵でありましたか」
慈母の如き微笑みを絶やさずに、『棄物蒐集者・塵塚御前』 は微笑んでいた。
忘れないでほしいという願い。
捨てないでほしいという願い。
どうかそのままで居てほしいという願い。
それらが合わさって、あらゆる器を取り込んだ姿が『棄物蒐集者・塵塚御前』 である。
棄てられたものたちの恨みでもなければ、悲しみでもない。
喜びも、怒りも、悲しみも、楽しげな思い出さえも差異などなく。別け隔てなく収集し続ける。
蒐集。
集めるだけの自動装置であったのかもしれない。
けれど、それでも救われる思いがあったのならば。
「ええ、私が覚えておきましょう。忘れないようにしましょう。私の記憶の中ですら、猟兵は生かしましょう」
蜘蛛のからくりがうごめく。
あらゆる思い出を、記憶を、何もかも止めようと、その身の内に止めようとカチカチと牙を鳴らす。
蒐集家にして捕食者。
それこそが、『棄物蒐集者・塵塚御前』 。
哀れなる者も、そうでないものも、全てを取り込み永遠にしようとする追憶の簒奪者である――。
村崎・ゆかり
こういう時、悪魔祓い師ならこう言うんでしょうね。『塵は塵に、灰は灰に』。
あなたの行為は、単なる世界の強奪。自身を世界にでもするつもりかしら。
何にしろ、動く前に討滅する。
摩利支天九字護身法で「オーラ防御」して、「衝撃波」を放つ薙刀からの「なぎ払い」と「串刺し」。
いつまで座っていられるかしら?
アヤメは絡繰り蜘蛛を頼むわ。脚を一本ずつ狙っていって。
百鬼夜行は「浄化」「破魔」「除霊」の「なぎ払い」「衝撃波」で一掃する。
記憶を蓄えると言っても、手駒のように使い潰すだけ。あなたに世界は渡さない。
これまでに奪った記憶も解放させてもらうわ。さあ、さっさと骸の海へ還りなさい。
アヤメ、そっちの戦果はどう?
「こういう時、悪魔祓い師ならこう言うんでしょうね」
村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》・f01658)の瞳は幽世蝶の放つ霊力の輝きと己の身の内側から溢れ出るユーベルコードの輝きで持って、相対するオブリビオン『棄物蒐集者・塵塚御前』に言葉を放つ。
それはオブリビオンであるが故に絶対的に滅ぼさなければならない間柄にとっては、端的な言葉でもって言い表すことができる。
『塵は塵に、灰は灰に』
その言葉を聞いて、『棄物蒐集者・塵塚御前』は微笑んだ。
互いに滅ぼさなければならない者同士であったとしても、慈母のように微笑んだのだ。瞳に在るのは狂気でもなんでもない。
ただの自動装置。
異界の神であった頃の名残であろうか。
名もなき百鬼夜行の群れが彼女の周囲に渦巻く。
まるで己の主を護るように展開し、その全てが独立して動き始める。
「元のままになんてさせはしません。永遠にしましょう。未来永劫私が語り継ぎましょう。あなたの生きてきた意味も、死せる意味も、全て私が記憶してあげましょう。そうすることによって、あなたは永遠になるのです」
放たれる百鬼夜行の群れをゆかりはユーベルコードにかがやく瞳のままに薙刀で持って振り払う。
「オンマリシエイソワカ。摩利支天よ、この身に験力降ろし給え――あなたの行為は、単なる世界の強奪。自身を世界にでもするつもりかしら」
摩利支天九字護身法(マリシテンクジゴシンホウ)の輝きと共に放たれる薙刀の衝撃波が襲いくる百鬼夜行の群れ薙ぎ払って寄せ付けない。
オーラの力が噴出して、妖怪たちはゆかりにまでたどり着くことができない。
「ええ、自身を世界に。私自身が世界になればいいのです。忘れることのない記憶と共に、いつまでも現世にとどまりましょう。そうすれば、忘れられることなどないのです」
その悲しみを誰彼構わず背負うことなどないようにと、オブリビオンの顔で笑うのだ。
それはゆかりの言う通り、世界の強奪であったことだろう。
ひとは忘れる。
忘れるからこそ、己の身体を、心を軽くして進むことができる。
忘れてほしくないという願いが悪いわけではない。
けれど、囚われてはいけない。
進むべき道を歪めてはならない。それはきっと妄執という名の花を咲かせる。人を傷つける棘を持った美しい花だ。
「思いがあるからこそ、ひとは美しい。生命は美しい。私はそれを覚えておきたいのです」
ゆかりに迫る百鬼夜行の群れを、彼女は薙ぎ払い浄化し続ける。
『棄物蒐集者・塵塚御前』の力の源は、奪い取った記憶と存在そのものだ。取り込んだ妖怪たちの力を間借りしているだけに過ぎない。
記憶を蓄えると言っても、結局の所、こうやって手駒のように使い潰すことしかできない。
それがわかっているからこそ、ゆかりは吠えるように叫ぶのだ。
「あなたに世界は渡さない。これまでに奪った記憶も開放させてもらうわ――!」
ゆかりのオーラの力がオブリビオンの視界を眩ませる。
次の瞬間、式神のアヤメが手にした短刀で蜘蛛のからくりの足を狙う。
切り裂かれた足が吹き飛び、その巨躯に蓄えられていたであろう記憶が噴出する。
幽世蝶の輝きに照らされて、奪い取ったはずの記憶がかけらのように周囲に舞う。
「ああ! ああ! 私の! 私の記憶が!」
まるで愛おしい我が子を喪ったかのように『棄物蒐集者・塵塚御前』が手をかざす。そこにゆかりの薙刀が、させぬと振り抜かれ強かに両の腕を打ち払うのだ。
「さあ、さっさと骸の海へ還りなさい。あなたの居場所は此処じゃない。あなたの記憶でもない」
それはいつかの誰かの記憶である。
己のものにはできない輝き。
それを追い求める者の妄執を断ち切る輝きを放ち、ゆかりの薙刀が『棄物蒐集者・塵塚御前』を過去へと押し戻すように振り抜かれるのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
馬県・義透
引き続き『疾き者』
武器:灰遠雷
…だからといって、勝てると思わないことです。
それに、あなた…他の三人の姿知らないでしょう?ここに来るまで、表に出てるのは私だけ。全ては覚えられないのですよー。
指定UC+呪詛+風属性攻撃で、相手取りましょう。この矢から逃れる術はありませんよー?
相手からの攻撃は結界術で弾いたり…そう、『静かなる者』からの支援である防御オーラ+破魔も加えて。
破魔使えるの、『静かなる者』だけですからねー…。だからこそ、彼にも頼りましょう。
静「我らは共にあり、共に見、そして覚えているものですよ」
名前のない百鬼夜行を為す妖怪たちの声が響く。
骸魂に飲み込まれた百鬼夜行。
彼等の名はすでにオブリビオン『棄物蒐集者・塵塚御前』 によって奪われていた。
その記憶、思い出、名前、全てを記録するために吸い上げられ、飲み込まれているのだ。
彼等の叫びは悲哀であろうか。
けれど、『棄物蒐集者・塵塚御前』 は彼女が座す蜘蛛のからくりの上で微笑む。
脚部の一部を切断されてもなお、微笑んでいた。
何故、と問う声があったとしても、彼女には応える気などなかったことだろう。
「私の記憶。私のモノ。私の全て。奪わないでください。世界は記憶で紡がれていくもの。忘れ去られてしまえば、世界は終わってしまうというのに」
だからこそ、己が紡がねばならぬと『棄物蒐集者・塵塚御前』 は世界のあらゆるものを記憶する。
いや、蒐集するのだ。
貪欲に、強欲に。あらゆるものを己の記憶にしようと。
「……だからと言って、勝てるとは思わないことです」
馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)を構成する悪霊の一柱である『疾き者』が言う。
猟兵に、自分達に勝てる見込みなどないのだと言う。
全てを覚えると言った『棄物蒐集者・塵塚御前』 の前で『疾き者』は笑った。
慈母の如き微笑みを浮かべる彼女の前で、笑ったのだ。
「あなた……他の三人の姿を知らないでしょう? 此処に来るまで、表に出ているのは私だけ。そう、全ては覚えられないのですよー」
手にした強弓を引く。
呪詛を込め、色が黒く変わっていく。
「悪霊からは逃げられない」
輝くユーベルコードは、四天境地・雷(シテンキョウチ・カミナリ)。
その呪詛込められし黒弓から放たれる矢は一射にして無数に分裂する。迫る名もなき妖怪たち、名を奪われた妖怪たちの身体をその場に縫い止める。
決して傷つけない。
それは『疾き者』の本意ではない。
「ええ、ええ。攻撃は『静かなる者』の力でー」
オーラの力が破魔と共に膨れ上がる。
分裂した矢を躱した妖怪たちが次々と『疾き者』に取り付かんと迫っても、オーラの力と付与された破魔の力によって次々と邪悪なる力は打ち払われていくのだ。
「これ以上。奪わないで。忘れさせないで。私の記憶が」
オブリビオンの言葉など聞く必要など無い。
彼女の言葉は全て惑わしであるし、まやかしである。
己の欲望を他者の願いとしてすり替えているだけに過ぎない。
誰かを必要としないものは孤独だ。
誰にも寄りかかる事の出来ない者の力はたった一人分でしかない。
けれど誰かを頼ることを知る者の力は膨れ上がっていく。どこまでも、どこまでも。己だけで為し得ぬことは、他の誰かの手助けによって為すことができる。
「だからこそ――」
「我らは共にあり、共に見、そして覚えているものですよ」
『静かなる者』の声が響く。
共に戦場を駆け抜けた四人。
誰もが苦難と辛酸を舐めたことだろう。
悔やんでも悔やみきれない後悔の記憶があった。けれど、それを否定はしない。棄てようとはしない。
己ではない誰かが同じ思いをしないで住むようにと彼等は戦い続ける。
「分かたれてはならないでしょう。記憶は一つで良いはず。共有したとしても、擦り切れていく。摩耗していく。私はそれが――」
絶えられないと『棄物蒐集者・塵塚御前』が叫ぶ。
けれど、義透たち四柱は違う。
彼らは四つで一つ。
誰一人として欠けてはならない。それを知るからこそ、為せることがある。
迅雷のように放たれた矢が分裂し、それぞれが『棄物蒐集者・塵塚御前』を穿つ。その一撃を持って、複合型悪霊たる彼等の意志がたった一つの記憶足ろうとしたオブリビオンの目論見を打ち砕くのだ――。
大成功
🔵🔵🔵
黒髪・名捨
●心境
ふう、結局記憶は戻らず…しかし…いい夢(じかん)を見させてもらったよ。
理由はわからねーが、懐かしかった。
ただそれだけは感謝する。だから死ね(ぇ)
●戦闘
ふう、合法阿片を吸って心を落ち着かせる(『ドーピング』中)
ふ――――ッよし、『元気』でた。
さて、手から『衝撃波』を撃って歯車を撃ち落としたり、『第六感』頼りに『見切り』回避っと。
これ以上好きにはさせない。
アーラーワルを取り出し、『破魔』『浄化』の力を付与し、『槍投げ』て刺さったのを確認したら指パッチンを合図に幻爆起動。
誰かが言ったな。黒歴史な過去は『焼却』処分って。
あばよッ!!
打ち込まれた矢が、オブリビオン『棄物蒐集者・塵塚御前』の体を穿つ。
これまで取り込んできた妖怪たちの記憶が、矢によって穿たれた穴から溢れ出していく。それは血液のようでもあり、同時に幽世蝶の霊力が放つ輝きによってキラキラと星のように瞬いていた。
「私の記憶。私の記憶! 世界に一つだけの私の記憶が! 失われる、溢れ出てしまう……!」
世界を存続させるためではなく、記憶を存続させるためにあらゆる記憶を蒐集し続ける。いわば、自動装置の如き役割こそが、『棄物蒐集者・塵塚御前』の欲望。
望みというには、あまりにも烏滸がましいものであったかもしれない。
忘れないでという願いのままにあらゆる妖怪たちを取り込み、己のものとする。
名もなき百鬼夜行の妖怪たちの記憶すらも己の記憶として、糧として世界を崩壊へと導こうとする。
それは愚行と呼ぶに相応しいものであったことだろう。
世界を崩壊させる理が世界を存続させる記憶の器としてありえるわけがない。
「ふう、結局記憶は戻らず……しかし……いい夢……時間を見せてもらったよ」
なぜだか理由はわからないけれど。
そう、黒髪・名捨(記憶を探して三千大千世界・f27254)は感慨深げにオブリビオンである『棄物蒐集者・塵塚御前』を見つめる。
懐かしさ。
それは己の無いはずの記憶すらも揺さぶる感情の起伏であった。
「ただ、それだけは感謝する」
こんな状況を、境遇を、遭遇を。
それを齎してくれたオブリビオンに、滅ぼし合う関係であれど名捨は感謝したのだ。
だが――。
「だから死ね」
それは一方的な最後通牒であった。
彼に飛ぶのは『棄物蒐集者・塵塚御前』の身のうちから現れた巨大な歯車である。それを投げ飛ばし、名捨を轢き潰さんとする。
「いいえ、死にません。私は私のままに、このまま世界になるのです。全ての記憶を保持して、忘れないで。全ての生命は私の記憶の中で生きるのです」
それは土台無理な話であったことだろう。
全てを記憶する。
それが如何なる存在であっても為せることはできないだろう。加速度的にましていく記憶。
生命である以上忘れることは定められた機能だ。
それを無視するなど。
「ふ――ッよし、『元気』出た!」
合法阿片を勢いよく吸い込み、名捨はその手を掌底のように打ち出し衝撃波でもって巨大な歯車を迎撃する。
打ち込まれた衝撃波は凄まじく、ドーピングされた名捨の力を増していく。弾き返した歯車が再び迫ろうとも、今の名捨にはさしたる問題ではなかった。
「よっと! これ以上好きにはさせない」
迫る歯車を蹴り飛ばし、名捨は腰を低くして『アーラーワル』……短槍を手に構えた。
そのユーベルコードの輝きは目映いものであった。
破魔と浄化の力がみなぎり、ドーピングによって得た筋力をも上乗せにして投擲される必中の一撃は『棄物蒐集者・塵塚御前』へと突き刺さる。
「がはっ――!」
だが、短槍『アーラーワル』の投擲が如何に凄まじき命中精度を持っていたとしても、その一撃は未だ『棄物蒐集者・塵塚御前』を仕留めるには至らない。
そう、ユーベルコードの輝きは未だ潰えず。
輝きは今まさに頂点へと至るのだ。
「とっておきだ。とりあえず喰らっていけ」
名捨が指を鳴らす。
瞬間、世界を覆い尽くすほどの熱と輝きがカクリヨファンタズムの空を埋め尽くすほどに明滅する。
それこそが、名捨のユーベルコード、幻爆(ゲンヴァク)。
環境に安全な小規模核融合爆発は、その一撃で持って『棄物蒐集者・塵塚御前』の肉体を焼く。
「誰かが言ったな。黒歴史な過去は『焼却』処分って」
誰しもが忘れたい過去があるだろう。
どうしようもなく苦味しかしない記憶があるだろう。
それを抱えるからこそ、人は成長する。それを忘れるほどに輝かしい生命の謳歌の記憶を持って人々は、その人生を進む。
例え、忘れてしまっても。
それでも歩みを止めない。
記憶無き名捨であってもそれは同様だ。
だからこそ、名捨は振り切って歩むのだ。
たった一言。
その言葉こそが名捨がオブリビオン『棄物蒐集者・塵塚御前』に送る言葉であった。
「――あばよッ!!」
大成功
🔵🔵🔵
星野・祐一
ずっと覚えといてくれるのかい?そいつは嬉しいね
だけどその為に世界を壊すってのはナンセンスだぜ!
[SPD]
Esの【情報収集】の結果を入力した流星で
からくりの足の脆い【部位を破壊】して機動力を奪い(誘導弾
次いで本体の動きを【マヒ攻撃】で封じたら
雷鳴の【弾幕】を浴びせて畳み掛ける(力溜め、2回攻撃
百鬼夜行は列の先頭を狙って雷鳴の【貫通攻撃と衝撃波で吹き飛ばす】
【第六感、UC、先制攻撃】で常に先手を取って声を出す暇も与えない
それ以外の攻撃は【見切り】で避けて対処な
思い出に浸るってのはいいもんだが
何時までも後ろを向いて止まってたら時間に置いてかれちまうからな
だからたまにする位で丁度いいのさ
アドリブ歓迎
オブリビオン『棄物蒐集者・塵塚御前』の体に穿たれた傷跡から溢れるようにして、取り込んだ妖怪、百鬼夜行の名もなき者たちの記憶が噴出する。
それは体を構成する血液のようなものであった。
「ああ、私の記憶! 私の! 私の!」
両手を伸ばし、喪ったものを求めるように『棄物蒐集者・塵塚御前』は空をかきむしる。
だが、悲しいかな。
その記憶はどれも正しく彼女のものではない。
取り込んだ百鬼夜行の妖怪たちのものだ。
決して彼女のものではないのだ。
「忘れたくない。忘れないで欲しい。その願いのままに私は覚えているだけだというのに!」
例えそれが敵対する猟兵であったとしても彼女は記憶として留めることだろう。
世界を滅ぼすことになろうとも蒐集することをやめられない。
どこかで歯車が狂ったかのように彼女は世界を滅ぼすことを止められないのだ。
「ずっと覚えといてくれるのかい? そいつは嬉しいね。だけど、そのために世界を壊すってのはナンセンスだぜ!」
星野・祐一(シルバーアイズ・f17856)が『追憶玩具店』の中へと飛び込む。
手にした熱線銃を構えていた。
サポートAIであるEsから送られてくる情報を元に、『棄物蒐集者・塵塚御前』が座す蜘蛛のからくりの関節部、すなわち細い脚部を狙って熱線銃の青白い弾丸を打ち込む。
機動力を奪えばいい……だが、『棄物蒐集者・塵塚御前』のユーベルコードが輝く。
これまで取り込んだ百鬼夜行の妖怪たちの群れが溢れるようにして戦場となった『追憶玩具店』の中にあふれかえる。
名を奪われ、名を喪った妖怪たち。
彼らは皆一様に祐一へと殺到する。未だ名を持つものから、その名を奪おうとするかのように。
けれど、祐一は彼らを振り切る。
「思い出に浸るってのはいいもんだが……」
思い出す。
此処までの道程を思い出す。
懐かしい声だった。もう聞くことの出来ない声であったはずなのに、あの道程は不思議と聴きたかったであろう声を聞かせてくれた。
戻れるのならば戻りたい穏やかなる日々。
けれど、祐一はそれを振り払う。ぬるま湯のように優しいあの日を振り払う。もう戻らない過去を見ない。
「いつまでも後ろを向いて止まってたら時間に置いてかれちまうからな」
そう、人生に立ち止まる時間は必要だろう。
己を顧みて、己のこれからを占うこともあるだろう。誰にも咎められることのない。自分だけの時間。
けれど、立ち止まっていてはいけないのだ。
時間は待ってくれない。
それはどんな者にも平等に流れるものであるからだ。だから、祐一は立ち止まらない。
これから自分の瞳に映る全てから目をそらさない。
「瞬いてる暇なんてねえぞ!」
それはまるで、春雷(シュンライ)のように。
明滅する雷よりも疾く、祐一の手にした熱線銃がきらめく。それを『棄物蒐集者・塵塚御前』は見ることが出来ただろうか。
いや、見ることなど出来なかったことだろう。
何故なら、彼女は過去ばかりを見ている。今を見ていない。在るのは過去ばかり。彼女が集めるのは過去に在りし日の思い出だけ。
それだけを抱えて存在しようとするからこそ、世界は滅びる。
その意味を知る祐一の放った弾丸の一撃は、たしかに彼女の胴を貫いた。
「――だから、たまにする位で丁度いいのさ」
祐一の言葉は追憶の彼方に向けられたものであった。
過去の思い出は変わらない。
色あせてしまうかも知れないけれど。
それでも。
それでも、祐一の足を未来に向けるだけの力は、ずっと変わらずに彼の歩んだ道、その轍になって残されるのだから――。
大成功
🔵🔵🔵
サージェ・ライト
さてさて
信条的にはどうにもやりにくい相手なんですけど
クノイチ的に撤退は無い感じですみません
忘れられるのは悲しいことですね
ずっと忘れないで
ずっとそばにいたい
そう考えてもなんらおかしくないです
…無いけれども
世界は、私たちは
有形で有限で…時を消費して進むモノ
せめて貴女が本当に蒐集するだけの機械だったら
全てを、と望まないモノだったら
また違ったのかもしれません
ただただここに在る事実は
私が猟兵で貴女がオブリビオン
私は私の生き方を誇る為に貴女を倒します
【電光石火】起動!
貴女も名も無きモノたちもこの刃で断ち切ってみせましょう!
せめてこの戦いを貴女の手向けに
※アドリブ連携OK
穿たれた傷跡は猟兵の数だけオブリビオン『棄物蒐集者・塵塚御前』に刻まれる。
その傷跡から溢れ出る記憶と思い出という名の力の残滓が次々と己が取り込んだ妖怪たち、百鬼夜行の名も無き妖怪たちに戻っては離れていく。
蒐集家。
それこそが彼女の本質。
あらゆるものを拾い、集め、束ねていく。
そうすることで世界から棄てられし者たちを救う。それが欲望。抱えてはならない願望であったのだ。
「私は、覚えていかたかっただけなのに。私は、どうしても棄てられた者を捨て置けなかっただけなのに」
なのに、どうして、と叫ぶ声が響く。
『追憶玩具店』の中でオブリビオンの慟哭が響く。
どうして、と問われたのならば、答えなければならない。
例えそれが信条的にどうしてもやりにく相手であったとしても、それでもサージェ・ライト(バーチャルクノイチ・f24264)は己がなんであるかを自覚している。
猟兵であり、クノイチである。
退くことはできない。退いてはならない。
この身を構成する概念があればこそ、彼女の心に撤退の二文字はない。
「忘れられるのは悲しいことですね。ずっと忘れないで。ずっと傍にいたい。そう考えてもなんらおかしくないです」
溢れる百鬼夜行の妖怪たちがサージェを襲う。
そのどれもが名を奪われた妖怪たちの群れであった。膨大な数をして、ようやく『棄物蒐集者・塵塚御前』が取り込んだ妖怪たちの記憶の量を知る。
妖怪たちは人の感情を糧に生きる者たちだ。
忘れられては生きていけない。
ある意味サージェもそうかもしれない。クノイチという概念の集合体。もしも、全ての人々からクノイチという名が失われてしまったら。
「……ないけれども。世界は、私達は、有形で有限で……時を消費して進むモノ」
けれど、それでも。
理解はできても、そうすることはできない。できないのだ。
「なら、忘れ去られろと。なかったことにしろと!」
叫ぶ声が響く。
それは悲痛なる声であったのかもしれない。理解できるからこそ、サージェの心に悲痛なる叫びが届くのだ。
「せめて貴女が本当に蒐集するだけの機械だったら全てを、と望まないモノだったら、また違ったのかも知れません」
サージェは妖怪たちの群れを躱して飛ぶ。
狙うは一点のみ。
手にしたカタールがきらめくのを『棄物蒐集者・塵塚御前』は見たかも知れない。
「ただただ此処に在る事実は、私が猟兵で貴女がオブリビオン。私は私の生き方を誇るために貴女を倒します」
それは純然たる決意であった。
相容れぬ者同士が相対する以上、決着の方法は一つしかない。それ以外はないのだ。決して。
だからこそ、サージェの瞳はユーベルコードに輝く。
火花が散るような明滅。
その輝きは苛烈なる光と共にサージェを駆け抜けさせる。
「貴女も名も無きモノたちもこの刃で断ち切って見せましょう! せめてこの戦いを貴女の手向けに!」
それは電光石火(イカズチノゴトキスルドイザンゲキ)。
雷霆の如き電光石火。
放たれる斬撃の軌跡こそ、稲光が空に刻まれるようにあらゆる障害を排除して『棄物蒐集者・塵塚御前』の体を穿つ。
切り裂かれた首元から溢れ出る血液のような記憶たちが世界に取り戻されていく。
その光景を美しいとは思わなかった。
いつもそうだ。
美しいと思うものは、いつまでも続く永遠ではなく。
刹那に輝くものであると、サージェは知っていたのだから――。
大成功
🔵🔵🔵
荒覇・蛟鬼
これはこれは、あなたも討った者を記憶するタチですか。
私も、多くの者の名と姿を覚えているのですよ。
世を乱した“塵”としてね……
■闘
そういう訳ですので、あなたも塵として果てていただきます。
先ずは【空中浮遊】で身体を浮かせますか。
現れた妖怪たちの動きを【見切り】つつ、【残像】を
伴う【ダッシュ】で真横から素通りしてやりましょう。
狙うは塵塚ひとりですので。
お次は【大首が迫る】勢いで急加速し距離を一気に詰め、
零距離寸前まで接近し【恐怖を与え】ます。
そこから構える隙も与えさせず、素早く力を込めた一撃を
お見舞いしましょうか。
あなたの名と所業は、私の獄卒帳に記しておきますので。
※アドリブ歓迎・不採用可
それを塵と呼ぶ。
何故、そう呼ぶのか。その問いかけに意味はない。
いつだって世界が滅ぶのは些細なことだ。それは不安定な世界カクリヨファンタズムに限ったことではない。
世界とは強固なるものではないと知るからこそ、たった一片の塵が世界を覆す。
『棄物蒐集者・塵塚御前』と呼ばれたオブリビオンがいる。
それは塵である。
荒覇・蛟鬼(鬼竜・f28005)は破滅齎す塵へと一歩を踏み出す。
猟兵たちの戦いによって、オブリビオン『棄物蒐集者・塵塚御前』は消耗していた。
これまで奪ってきたであろう記憶を失わされ、もとの妖怪たちへと戻っていっている。それは正しく世界を回すためには必要なことであった。
それを知るからこそ、蛟鬼は同じく記憶する者として歩みをすすめる。
「これはこれは、あなたも討った者を記憶する質ですか」
その言葉に答えはない。
あるのは、喪ってしまった記憶を惜しむ『棄物蒐集者・塵塚御前』の慟哭であった。
傷跡からはとめどなく溢れる血液の如き記憶たち。
どうしようもなく溢れてしまったものをかき集めるように空をかきむしる姿はいっそ哀れであったかも知れないが、蛟鬼は何の感慨も浮かべては居なかった。
「私も、多くの者の名と姿を覚えているのですよ。世を乱した“塵”としてね……」
だからこそ、己の前に立つものは皆『塵』である。
世を乱し、世界を破滅へと導かんとする『塵』。
それを捨て置くことこそが大罪である。
「私は、その塵芥すらも記憶しておきたい。止めておきたい。世界の全てになりたい」
『棄物蒐集者・塵塚御前』の慟哭はむき出しの欲望であった。
溢れんばかりの情動でもって、世界を滅ぼす姿は、蛟鬼にとって唾棄すべきものだった。
そんな理由など理由にはなりはしないというように空中に浮かび、放たれる名も無き妖怪たちの群れを躱す。
駆け抜けるだけでいい。
狙うのはたった一つ。
オブリビオンだけだ。他の妖怪たちには目もくれない。覚える必要はない。彼らは取り込まれただけの存在であれば、己の目の前に立つ資格すらないものたちだ。
だからこそ、蛟鬼、空中から一瞬で踏み込む。
それは瞬間移動のように突如として姿を表したように見えたことだろう。
「軽くつつくだけですので――あなたの名と所業は、私の獄卒帳に記しておきますので」
だから、忘れられるなんてことはないのだと蛟鬼は微笑んだ。
ええ、忘れるわけがないと。
その拳が柔く握られる。
幾度も幾千も繰り返された動作。
それは味方によっては魔法のようにさえ思えたことだろう。連綿と紡がれ、生み出されてきた技術。
練磨の果てに至る境地。
それこそが寸勁である。
触れた拳の感触は柔らかいものだった。
けれど、その放たれる一撃は重撃に勝るものであったことだろう。放たれたユーベルコードの輝きは収束し、蛟鬼の拳から放たれる。
それこそが、大首が迫る(オオクビガセマル)にして断罪の一撃。
「なんて、なんて――」
なんて、理不尽な一撃。
その言葉を放った瞬間、『棄物蒐集者・塵塚御前』の身体が吹き飛ぶ。
まるで見えぬ何かに吹き飛ばされたかのように、盛大に身体をばらばらにしながら、その身体から奪った記憶を噴出させる。
きらきらと幽世蝶の霊力の輝きが、破片のように舞い散る記憶たちを照らし、在るべきものたちの元へと導いていく。
「ええ、知っていますよ。けれど、罪には罰を。当たり前のことでしょう」
大成功
🔵🔵🔵
ワタツミ・ラジアータ
はじめまして、お―様。
何を言おうとしたのか分からない。
知り合う縁も無い存在。
同族嫌悪に近い。
【対SPD】
さぁ、私が力を貸しましょう。
未だこの世にある皆々様。
伽藍洞の廃棄場に目に物を見せましょう。
【属性:封印を解く】
百鬼夜行に語る。
今の世は手を変え品を変え語りを変えて、妖は有り続けていますわ。
暗き夜は未だ健在なのですから。
だから、失っても与えられなくても、また手に入れれば良いのですわ。
操られた妖怪の制御を解き、片腕を砲身にし、砲撃する。
忘却を恐れずかき集めるだけの心無い機械。
死の恐怖を知れば別の未来があったかもしれませんけども、
もう遅いですわ。
アンタはただの残骸(スクラップ)なのですから。
打ち込まれた重たい一撃。
それは『棄物蒐集者・塵塚御前』のオブリビオンとしての体面を尽く打ち砕くものであった。
この戦いに集った猟兵達の活躍は言うに及ばず。
全てを記憶し、世界のすべてを己の身の内に蒐集しようとした彼女にとって、溢れ出る血液こそが己の集めた記憶そのものであった。
消耗すればするほどに喪っていく。
吹き飛んだ身体を掴み上げる蜘蛛のからくりがあった。
「ああ、わたし、わたしは、わたしは」
壊れた機械のように求める声を上げる。
どうしようもない。壊れてしまったような、声色が続く。
「はじめまして、おー様」
その言葉は、ワタツミ・ラジアータ(Radiation ScrapSea・f31308)のものだった。
散々に砕けかけた人形である『棄物蒐集者・塵塚御前』の瞳が彼女を捉えて、その唇が何かを紡いだ。
けれど、何を言おうとしたのかわからない。決して知り合う縁も無い存在が、彼女たちであった。
だが、この心に湧き上がる感情はなんであるか。
ワタツミはわからなかった。
わからなかったけれど、直に相対してわかった。理解してしまった。
これはそう――。
「同族嫌悪に近い」
似ている。
似ているからこそ、憎む。鏡合わせのように見せつけられるかのような妄執。人に仇なす棘を持つ花。
誰かのためにと、覚えていたいと願う心は美しいものであったかもしれない。
けれど、それは存在してはいけないものだった。
人を傷つけるだけの棘を備えてしまったからこそ、滅ぼさなければならない。
「さぁ、私が力を貸しましょう。未だこの世にある皆々様」
目の間に居るのは空虚なるうろをしかない存在だ。
「伽藍堂の廃棄場に目にものみせましょう」
放たれる百鬼夜行たち。
かつて名を持つ妖怪たちは取り込まれることによって名を喪っていた。
「今の世は手を変え品を変え語りを変えて、あやかしはあり続けていますわ。暗き夜は未だ健在なのですから。だから、喪っても与えられなくても、また手に入れれば良いのですわ」
手をのばす。
それは攻撃ではなかった。囚われたのあらば、解き放てばいい。
ワタツミの言葉は、真理であったのかもしれない。
何も喪ってはないのだと。
その言葉の力が、糧となるのならば。
ユーベルコードに輝くのはワタツミの片腕であった。己を作り変えるユーベルコード。
使い捨ての砲台に変換する力は、如何なる由来に寄るものか。
「見捨てられた残骸達よ。私が命じましょう。―謳いなさい。叫びなさい。ただ々々有る儘を示しなさい」
砲身が形成される。
生み出される長大なる砲塔は、その砲口でもってオブリビオンを、己が討つべき敵を見据える。
確かに嫌悪はあった。
けれど、同時に哀れみもまた在った。
「忘却を恐れずかき集めるだけの心無い機械。死の恐怖を知れば別の未来が在ったかもしれませんけれども、もう遅いですわ」
そう全てが遅い。
過去になってしまった存在。オブリビオンとなった時点で、すでにもう終わってしまっている。
言い換えるのならば、それは。
「アンタはただの残骸(スクラップ)なのですから――」
明滅する砲塔。
輝くはユーベルコード、Song of SteelBorne(ゲドウサイモンテツホネノウタ)。謳うように、吠えるように。
その砲身から放たれる一撃は、『棄物蒐集者・塵塚御前』の胸に開いた空虚なる廃棄場を貫いて、世界に奪い取った記憶を撒き散らす。
幽世蝶の霊力が雨のようにきらきらと明滅しながら降り注ぐ。
それは取り込まれていた妖怪たちの体に溶けて行けていく。主のもとに戻った記憶は、これからも紡がれていくだろう。
忘れてしまうこともあるかもしれない。
覚えていられないこともあるかもしれない。
願っても、願っても、それでも忘れてしまうかも知れない。
けれど、どれだけ世界の終末(ワールドエンド)に忘れないでと願っても、果たされぬ願いがある。
それを悲しいと思う気持ちがあれば、それこそが嘗て在りし何者かの慰めになるだろう。
そう願うしか無い。
ワタツミは降りしきる記憶の雨に討たれながら、同族嫌悪を向けた嘗ての誰かの願いを胸に抱くのだった――。
大成功
🔵🔵🔵