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ロイヤルセレブタワーの攻防

#デビルキングワールド #参加いただき、まことにありがとうございました

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#参加いただき、まことにありがとうございました


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「みんな、家賃払ってる?」
 突然、ルフトフェール・ルミナ(空を駆ける風・f08308)が言い出した。
 ちなみに、ここはグリモアベースだ。ファミレスとか、居酒屋とか、フードコートとかそんなんじゃない。
 たまたま引っかかった猟兵達の答えは様々だ。しかし、ルフトフェールには、その答えのどうこうは問題ではないようで、返事を一通り聞いた後、話し続ける。
「いやね、デビルキングワールドってさ、悪が流行ってるっていうじゃない。んでさ、家賃踏み倒すのも悪らしくってさ、滞納者がたくさんなんだって。でもね、今までは怖~い取り立て屋がいたから、まだよかったんだけど」
 ルフトフェールは、羊皮紙の手書き地図を取り出した。見た所、近代的高層建築物の見取り図と外観図らしい。それがペンで羊皮紙に描かれているのは些かシュールであったが、彼は大真面目で地図をぽんぽんと叩いた。
「ここ、ロイヤルセレブタワーっていうんだって。でも、なんか見た目はそんなにゴージャスじゃない、かな……いやむしろ……」
 確かに、セレブタワーというよりも、第六山田ハイツ、といった趣だ。それが積み重なっていっている様子は、騙し絵かコラ画像にも見える。
「この頂上に住んでるオブリビオンが、入居者を煽ってね、取り立て屋を追い払ってるっていうんだよね。だから、親玉のオブリビオンを排除して欲しいんだ。ってか、家賃が入らないと、ここ自体、荒れ放題になると思うんだけど、住人分かってんのかな……」
 ぶつぶつ言いながら、ルフトフェールは下層部分を指した。
「まず、ここに罠がある。といっても、扉が一枚なんだけどね。なんでも、嘘つき以外絶対に通さないオートロック、だそうだよ。めんどくさい……」
 でも、皆なら、何とかできるよね、とさらりと言い流し、ルフトフェールは長く続く中層を指した。
「扉を抜けると、住人達の襲撃がある。少しおイタが過ぎるんで、相応の対応して大丈夫。むしろ、悪っぽいと喜ぶみたいだから、そこの演出もあるといいかも。まあ、そこまでサービス精神発揮しなくてもいいと、僕は思うけど」
 痛めつけられて喜ぶって、絶対Mだよね? とルフトフェールは訳の分からない独り言をつぶやき、最上階を指した。
「ここに、住民を煽って家賃滞納させてる張本人がいるんだ。どうしてか住民のガードが固くって正体はわからなかったんだけど、住民よりかはずっと強いよ。多分」
 全般にいい加減な説明を終えた後、ルフトフェールは転送門を開き始める。
「皆なら、どうってことないとは思うけれど、気をつけて。それでは、いってらっしゃい」
 転送門で旅立つ猟兵の耳にルフトフェールの呟きが聴こえる。
「家賃って、高いよね…………」


譲葉慧
 譲葉慧です。オープニングをご覧いただき、ありがとうございます。
 運営はゆっくりの予定で、完結もいつになるかわかりませんが、ご都合のよい時に参加いただけましたら幸いです。
 リプレイ作成状況など、当シナリオ運営に関する連絡は、私の自己紹介ページに掲載いたします。

 このシナリオは、
 ●第一章 ロイヤルセレブの証(嘘つきしか通さない)(冒険)
 ●第二章 お住いの方々からの華麗で優雅かもしれないご挨拶(集団戦)
 ●第三章 いいから家賃払え(ボス戦)
 のフラグメントで構成されております。

 あまり書いたことはありませんが、脳力ゼロの頭悪い話を書ければ、と思っています。
 それでは、よろしくお願いいたします。
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第1章 冒険 『嘘つき以外絶対通さない扉』

POW   :    開かない扉を純粋なパワーでぶち破る

SPD   :    前置きとして本当のことをまず言い、それを覆すような嘘を続ける

WIZ   :    まるで本当のことのような嘘をいけしゃあしゃあと答える

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ティファーナ・テイル
SPDで判定を
*アドリブ歓迎

「ウソならまかせて!(キリとドヤ顔)」
「さぁ!何か壊されたく無い物を持って来たらボクがキックで一撃で壊してみせるよ!」とえっへん!と自慢げにドヤ顔。
壊せるものなら壊してみろ、と持ち込まれた物をパンチしてみますが壊れなかったら『ガディスプリンセス・レディース』で従属神群を召喚して『ガディスプリンセス・グラップルストライカー』で拳/髪の毛/蛇尾脚で攻撃して壊れなければ『ゴッド・クリエイション』で怪力魔神を創造して破壊させます。
破壊してから、さも自分で破壊したと言いたげなドヤ顔で「フフフのフ♪」とポーズを決めて笑って見せます!
周りの様子を見つつ力任せに切り替え怪力魔神に。



 ロイヤルセレブタワーは、外装だけに限れば、周辺の家屋同様、実に庶民的な建物であった。その巨大ささえなければ。上へ上へと建て増しに建て増しを重ね、天を衝く勢いで伸びるタワーの姿は、建て増しするなら少しは安定感を考えろよという意味で、周囲と一線を画している。
 家賃督促のため、タワーへやって来た、ティファーナ・テイル(ケトゥアルコワトゥル神のスカイダンサー・f24123)が遠目に見ている間にも、頂上付近が風で大揺れに揺れ、スズメが一斉に飛び立ち、洗濯物が飛び去っていっている。猟兵はあれに上らなければならないわけだが……。
「ロイヤルセレブタワー、コンシェルジュでございます」
 タワーの他の部分と不似合いに堅牢な金属製ドアから、電子音声がティファーナへ語りかけた。さもご丁寧な様子だが、まずこいつが曲者だ。
「当タワーへ入館なさるお客様には、ロイヤルセレブとしての証をお見せいただきたく存じます。それではお客様、よろしくお願いいたします」
 仰々しく『証』などと言っているわけだが、その実は『嘘』であった。デビルキングワールドでのロイヤルセレブとは『嘘つき』のことらしい。
「ウソならまかせて!」
 ティファーナは扉の真ん中辺りに向けて、胸を張り、得意げな顔をしてみせた。尾の先を上げ、緩やかに扉の前で振り回してみせてから、尾の先をぴたりと扉に向けた。
「さぁ! 何か壊されたく無い物を持って来たら、ボクがキックで一撃で壊してみせるよ!」
 尾は一切ぶれずに扉を狙っている。その気になれば、扉もやってしまえそうな勢いだが、そこはそこ、悪なりのルールに従っておいて、それから叩き潰した方が良いこともある。ことに督促となれば、その方が悪っぽいかもしれない。
「では、そのお力、存分にお奮いください」
 扉の近くにある金属製のボックス……というか、物置が、カチリとロックが外れる音がして開き、中の荷物がティファーナの前に放り出された。荷物には送り状が張られている。どうやら住民がお取り寄せした宅配のようだ。
「キミさ、他に壊す物なかったの? ボクは別にいいけど」
「お客様が何の事を仰っておられるのか、存じ上げませんが……」
 扉は、電子音声の癖にしれっと言ってのけた。
「それじゃ、いくよ!」
 ティファーナは、荷物にパンチを繰り出した。もし、荷物が壊れても、これはキックじゃないんでノーカンだ。しかし、恐ろしいことに、荷物はティファーナのパンチを耐え抜いたのだ。良く見ると、品名は『かに(冷凍)』だった。油断していた。奴は凍っていたのだ。
「そもそも、ボク自身が壊す、というのは、ロイヤルセレブらしくないよね!」
 ティファーナは従属神群を呼び出す。彼女そっくりの従属神群は、かに(冷凍)の周りに集まり、協議を始めた。その間、ティファーナ自身は自信満々の顔で、扉に相対している。
 そして、協議を終えた従属神群達は、手に手にヤカンを手にし、かに(冷凍)へ湯をかけ始めた。あっと言う間に箱はふやけてしまうが、仕方のないことだった。かに(冷凍)は、いつか解凍されなければならなかったのだ。
「こ……これはッ……紛れもない嘘八百……」
 扉は呻いた。電子音声で。
「フフフのフ♪」
 ティファーナは、さも自分が壊して見せましたという様子で、ずずいっと扉に近寄って見せる。
 それでもずるずると開錠を躊躇う扉に、ティファーナは握った拳を見せつけた。髪の毛は貫くべく、八方に拡がり、先程振るった尾の先は叩き壊すべくするすると撓っている。
「どうぞ、お通りください、お客様……」
 実力行使が行われる、半秒前にやっと扉が開いた。最初から、そうやって通しておけば、よかったものを。
 ティファーナは開いた扉の中、雑然とした住空間へと踏み込んだ。しかし、それにしても、解せないことがある。
 大体が、荷物をパンチで壊せなかった時点で、嘘は成立していたんじゃないのか……? やっぱりタワーの外観同様に、扉のセキュリティもガバガバなのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

葛籠雄・九雀
SPD

嘘であるか。難しいであるなぁ。
流石に家賃の取り立てなどもしたことがない。
適当に何か事実に反することを言えばよい…のであるかな?
しかし悪か。悪役…うーむ。丁度良い加減が出来んのであるよな、オレは。

とりあえず、家賃の取り立てに来たことを扉には伝えつつ、「そういう仕事だったが、実際に住居を見てみたらオレも住んでみたいと思った故、中を見せて欲しいのである」とな、言ってみるであるよ。嘘には違いあるまい。
もし部屋が満室だと言われたら…ふむ。住人の一人くらいは叩きのめして放り出し、代わりに住むとでも言うか。
まあ、オレは今の屋敷が気に入っておるから、そのような気は更々ないのであるがな。

アドリブ連携歓迎



 そびえ立つロイヤルセレブタワー。その仰々しく堅牢そうな扉の前に、葛籠雄・九雀(支離滅裂な仮面・f17337)は佇んでいた。
 とは言え、堅牢そうなのは扉だけで、それ以外はUDCアースあたりの、築後30年は軽く超すであろう集合住宅に似ていた。いっそ、扉を無視して一階の窓から押し入る方が容易そうだ。
 だが、そうも行かないのが猟兵の悲しい所であった。悪がもてはやされるデビルキングワールドにおいて、押し入りだって悪なことは悪なのだが、チンケすぎて魅せる悪じゃないから、いけないらしい。
 九雀からしてみれば、魅せる悪くらい、どうとでもなるのであるが、如何せん彼は一度やるとなると、徹底的にやってしまう性であった。恐らく、やり過ぎてロイヤルセレブタワーが住民や滞納している家賃ごと、きれーいに均してしまうだろう。それもいけないようだ。
 というわけで、九雀は、まずは真面目に正面扉から、正々堂々と侵入を試みることにしたのであるが……。
「嘘であるか。難しいであるなぁ」
 戦いならわかる。けれども、流石に嘘こきながら戦ったことはないので、嘘は難しいし、家賃の取り立てしながら戦ったこともないので、家賃の取り立て方も分からない。
「ロイヤルセレブタワー、コンシェルジュでございます」
 九雀を認識した扉が、電子音声で話しかけてくる。そして、ロイヤルセレブの証とやらを見せろと言って来た。その『証』が嘘なのだ。まあ……郷に入れば郷に従えという言葉もあるし、とりあえず郷に従って、事実に反する事を言ってみよう。
「オレは、家賃の取り立て人である。ロイヤルセレブタワーの中へ通してもらいたいのであるが」
 九雀は、まず真実を口にした。これはまあ軽いジャブ代わりだ。
「コンシェルジュの名に懸けて、ロイヤルセレブでない方をお通しするわけにまいりません。お引き取り下さい……フッ」
 それを真に受け、扉は鼻で笑った。よくもまあ、電子音声でここまで慇懃無礼さを再現できるものだ。端から、九雀を客だと思っていないようだ。
「……と、最初はそういう仕事だったのだが」
 九雀は、両手を大きく開き、これまた仰々しい仕草でロイヤルセレブタワーを仰いだ。あれは低層……10階辺りだろうか。ベランダで何かを焼いているらしく、もうもうと煙が上がっているのが見えた。多分上階では煙と匂いで居たたまれないことになっているだろう。
 そして、九雀は、視線を地に戻した。視界の片隅で、住人らしい悪魔が、ふやけた段ボール箱を前に号泣している。相当悲しい事があったのだろう。お気の毒に。
「こうして、実際にタワーの営みを見てみたら、オレも住んでみたいと思った故、中を見せて欲しいのである」
 これが真っ赤な嘘だ。口先だけで、検証しづらい嘘ではあったが、真っ当な常識人ならば、話の流れ的に中に入る方便だと察するだろう。常識人であれば。
「新規ご入居希望者様ですか……しかし……」
 やはり扉は九雀の言葉を真に受けた。もしかして、この扉、物凄く騙されやすい、ピュアハートの持ち主なのではないだろうか?
「空きが無いのであるか?」
「残念ながら……」
 無いなら作ればよい。九雀は、号泣している悪魔の首根っこを引っ掴み、ぐるんぐるんと回って勢いをつけると、空へと放り投げた。悪魔の悲鳴が遠ざかっていき、消える頃、遥かな空にお星さまがひとつ、きらりと光った。中々の飛距離を稼いだようだ。自己最高記録かもしれない。
「セラフィムブラスター様も歓迎なさるそうです! ようこそ、ロイヤルセレブタワーへ! 貴方様のお部屋は2205号室です!」
 あっさりと開いた扉の掌返しっぷりもまた、中々のものであった。にしても、セラフィムブラスターって……?
「セラフィムブラスターとは、家主の事であるのか?」
「いいえッッッ!!!」
 物凄く熱っぽく扉は否定した。家主じゃない者が入居の許可を出すことの方が、まずもって否定すべき案件だと思われるが。
「セラフィムブラスター様はッ、この、ロイヤルセレブタワーの頂上に君臨なさる御方ッッッ!」
「ああ、失礼した。後で、挨拶に伺わせてもらうのである」
 急に暑苦しくなった扉をくぐり、九雀はロイヤルセレブタワー内に入る。そう言えば、オブリビオンは頂上に居ると聞いた。セラフィムブラスターというのが、そうなのだろう。確か住民のガードが固く正体不明と聞いていたが、あっさり分かってしまった。これは、扉がアレなのか、下調べがいい加減だったのか……。
 おそらく、その両方なのだろう。九雀は、自分の住む屋敷に思いを馳せつつ、足場も怪しいタワーを登り始めた。

成功 🔵​🔵​🔴​

フラン・ラズィーボワーズ
嘘…あまりついた事ないんだけれど大丈夫かしら。でもなんだか緩そうな感じだしイケる…わよね?

「私はロイヤルセレブタワー専門家なんだけれどこの建物はデビルキング建築法に違反している可能性があるという申告があったの。確認のためにも通してもらえる?」

ロイヤルセレブタワー専門家とかデビルキング建築法とか自分でも何言ってるのかしらこれ…。なんだか恥ずかしくなってきたわ。

あれ?これもし本当だと信じられたら私通れないのかしら、それとも確認の為に通してもらえるのかしら…?でもこの身なりならさすがに嘘って…分かるわよね…。


通れなかったら『デルタストライク』でドアをぶちやぶっちゃいましょ…。



 ロイヤルセレブのための、ロイヤルでセレブな住空間。それがロイヤルセレブタワーのコンセプトであった。
 コンセプトに則するためには、出入りする者もロイヤルセレブのみに厳選しなければならない。というわけで設置されたのが、ある意味レトロな外観の中で、唯一近代を感じる正面ゲート……つまり仰々しい扉であった。
「ロイヤルセレブタワー、コンシェルジュでございます。ロイヤルセレブの証をお見せくださいませ、お嬢様」
 扉が、電子音声でフラン・ラズィーボワーズ(翡翠の御令嬢・f31886)に語りかける。心なしか、令嬢のフランに対しては恭しいような気がする。
(「嘘……あまりついた事ないんだけど大丈夫かしら」)
 扉の言うロイヤルセレブの証、というのが『嘘』というわけなのだが、デビルキングワールドでは、それが、ロイヤルとかセレブの嗜みであるらしい。全くもって、ひどい世界もあったものだ。
 まず、『今日は良い天気ですね』という定番の話題が、風雨吹き荒れる荒天の時しか使えないとか、ややこしいにも程がある。また、『お宅様の坊ちゃん、ありえないクソガキでございますわね』とか言われたら、褒めてると取らなければならない。高度な処世術として、本当の事を言っている可能性もあるが。
(「でもなんだか緩そうな感じだしイケる……わよね?」)
 ちょっと嘘に自信がなかったので、フランは先人たちの様子を伺ったのだが、皆、割とあっさり扉を開けているようだった。案外ちょろい扉かもなのかもしれない。
 と、いうわけで、フランも扉に挑戦だ。居丈高に見えるように、くいっと少し上向きに顎を上げる。専門家先生っぽい演出だ。
「私はロイヤルセレブタワー専門家なんだけれど、この建物はデビルキング建築法に違反している可能性があるという申告があったの」
「お嬢様がロイヤルセレブ専門家、と? そして、当タワーが建築法違反と? 解せませんね」
 早速嘘成立か?! と思われたが、扉が開く気配はない。まさか、まさか……。
「当タワーは、デビルグッドデザイン賞受賞物件! なのですよ、お嬢様。デビルキング建築法如き、デビルグッドデザイン賞に及びもつきません。ロイヤルセレブの専門家なら、その程度のことはご存じのはず」
(「デビルキング建築法って、本当にあったの……! そして、デビルグッドデザイン賞って何なの」)
 きっと、両者とも地元の魔王かラスボス辺りが、思い付きで作ったのだ。それに、普通、法と賞とは比べる対象ではないだろう。
「お嬢様、貴女様は本当に、ロイヤルセレブ専門家、なのですか?」
「ほ、本当よ……」
 もうここで、ロイヤルセレブ専門家としてのフランは、馬脚を現しつつある。が、まだ扉は開かない。
 【ロイヤルセレブ専門家】。【デビルキング建築法】。造語にしてもあまりにもあまりなネーミングを実際に口に出し、相手にまで連呼されると、自分でも何をやっているんだと恥ずかしくなってくる。しかも、両者とも本当に存在しているらしいのが、もう……フランは頭痛がしてきた。
「お見受けするところ、お嬢様の身なりは、とても【ロイヤルセレブ専門家】には見えないのですが、本当に【ロイヤルセレブ専門家】、なのですよね?」
「そうよ、私は【ロイヤルセレブ専門家】……」
 遠い目をして、繰り返すフラン。ここまで来たら、羞恥に耐え【ロイヤルセレブ専門家】を貫き通すしかない。策は唯一、それしか無かった。
「お嬢様は、良家の令嬢らしき装いをしておいでです……もしかして、貴女様は【令嬢にして、ロイヤルセレブ専門家】という、新ジャンルを拓かれた御方なのですか?」
「そう。私は、唯一の【令嬢にして、ロイヤルセレブ専門家】なのよ……」
 違うのよ! と叫びだしたい心をぐぐっっと抑え、フランは更なる属性が追加された【ロイヤルセレブ専門家】を追認した。せざるを得なかった。
「……」
 饒舌だった扉が急に黙り込んだ。このまま永久に扉は閉ざされるのだろうか? 遠い目をしたまま、フランは成り行きを見守った。
「お嬢様、お見事です! 貴女はその身でロイヤルセレブたる証をお立てになりました! どうぞお入りください」
 フランを招き入れるため、扉がゆっくりと開いた。その先には、狭苦しい生活感あふれる通路が続いている。どこか腑に落ちないものを感じながら、フランは中へと分け入った。
 扉が開いたのは、フランが嘘を貫いたからか。それとも、新ジャンルを開拓した先駆者への敬意か。フランの後ろで再び閉まってゆく扉はそれを語ることはなかった。多分、誰も尋ねなかったからだと思うが。

成功 🔵​🔵​🔴​

レッグ・ワート
オーケイ、そういう世界。善悪は世界と時代でどうにでもで合わせるが、根っこが恙なさすぎて詰むから悪どい奴がすごい事にしますなんてのは演算の割と端の方だぞ。

そんじゃ超雑にゆっくり何もしないで待つわ。って言いつつ先ず扉の見立て。自衛されない程度に強度諸々ざっと調べるよ。後は必要分だけ怪力利かせて、邪魔の要を壊すように鉄骨で突き込むかぶち破るかしてさっさと入ろうと思うんだが。種族問わずに判定かけてるならどんな仕様なんだろうなコレ。とまれとっとと推測立てないと壊れんぞ、とは言わないでおくぜ。

正直壊され慣れててすぐ次用意される気がしなくもない。まあその分は中の連中に払わせよう、と。こんな感じでいいのかね。



 良い子たちが棲む、平穏で安定した世界。全世界を見回せば、それを望む者もそれなりに居るであろうその世界は、いざ実現してしまうと、後は緩やかな滅びの道を下ってゆく。それが、デビルキングワールドの過去であった。
 滅びを避けるために、デビルキングワールドは変化を求め、そうした結果がデビルキング法、欲望と悪に価値を置く法の制定であった。良い子から悪い子へと極端すぎる転換であったが、とりあえず目先の滅びは回避したようだ。
 レッグ・ワート(脚・f02517)は、それらデビルキングワールド概要データを、何の感慨もなく閲読し、そしてさっさと削除した。易きに流れるにも程があるだろう。だからこそ、一度滅びかけたのだろうが。
 レッグが今居るのは、ロイヤルセレブタワーを自称する集合住宅前だ。集合住宅自体は、強度も明らかに足りていない建物を、縦に積み重ねた形状をしており、崩落を免れているのは、その極めて優れた靭性と弾性によるもののようだ。
 今も風が吹いており、最上階付近はぐよんぐよん揺れているが、絶妙な塩梅で折れずに元に戻っている。他の世界なら、建て増しした者は天才だと言われるかもしれないが、ことこの世界に関していえば、天才と紙一重のなにかの方である可能性の方が高い。
 そして、集合住宅の入口だけは、一点豪華というべきか、仰々しい鉄扉が設えられている。オートロックだそうで、嘘を吐いた者しか通さないとかいう、ひねくれた扉なのだそうだ。
 レッグは、とりあえず扉の前にあった電信柱にもたれて、暇を潰し始める。暇潰しなら、それこそ寝転んでても良いくらいなんだが、流石に扉前で寝転んでて怪しまれても面倒くさい。取り敢えず扉は今のところ、レッグを入館希望者とは見なしていないらしい。
 そうしていると、住人と思しき悪魔達が真面目に扉から入って行った。一階ベランダ辺りから侵入した方が悪だと思うが、その辺りの心理はどうなっているのやら。
 住人を入れるため開いた扉により、厚みは大体人間の大人の片腕分位というのが分かった。扉内の配線を見るに、動力は電気だろう。レッグはもたれた電信柱の電線をスキャンしたが、残念ながら、扉への給電はない。流石に電線切って機能停止、という楽はできなかった。
 扉は一見、一塊の金属から削りだしたように滑らかに見えるが、拡大してみると、無数の接合面があった。多数のパーツを組み上げて扉は形成されている。如何にも頑強そうな見た目だが、パーツ同志の結合度はさほどでもなく、実際の強度は高くなさそうだ。
「まあ、壊され慣れてるとすれば、理に適っているな」
 敢えてパーツをバラバラになりやすくし、それでも壊れたパーツのみを交換すれば、修理が完了するというわけだ。修理代は、住民皆の家賃に上乗せとなる。そして住民は家賃を滞納する……まあ、そういった悪循環システムなんだろう。
 これ以上見るべきものはなさそうだ。レッグは鉄骨を担ぎ、扉の前へと立った。
「ロイヤルセレブタワー、コンシェルジュでございます。当タワーへ入館なさるお客様は、ロイヤルセレブの証をお見せいただきたく存じます」
 物騒な鉄骨を持った2m超のウォーマシンも、扉は悪魔同様の生命体と認識した。しかし、電子音声のくせに、随分とまあ警戒心丸出しの声色だ。このコンシェルジュとやら、相手の種族を問わずに嘘を要求しているわけだが、その判定仕様は一体どんなものかと思っていたが……。
(「インターフォンかい」)
 本当に本当に立派なのは扉だけだった。コンシェルジュとか自称しているが、管理人のおっさん悪魔辺りがインターフォンで応対しているのだ。そりゃあ、他種族だろうが猟兵は認識できるだろうさ。
「俺さ、中に入りたいんで、ちょっとここらへん壊すわ」
「お、お客様、なッ、なにをなさるのですッ! ああっ、御無体な!」
 レッグの怪力で突き込まれた鉄骨が、まず片側の蝶番をぶち壊した。無数のパーツの中でも強度の特に低い場所だ。きっと壊されまくって修繕を重ねた結果、強度が落ちてるんだろう。
「どうか、どうか、そこだけは、お許しくださいまし……!」
 扉の哀願を無視し、レッグはまた一つ蝶番を壊し、扉を蹴った。扉が外れ、どす……んとタワー内側へと倒れ込む。やってみれば、実に簡単なことだった。
「ううっ……貴方は血も涙もない、人でなしだ……」
 レッグにめためたに壊され、扉は呻いた。その言い草は、この世界の場合は褒め言葉なのだが、この扉、それは分かっているのだろうか?
「タワーの主であられる、セラフィムブラスター様に言いつけますから! あの御方にかかれば、貴方なんかコテンパンです!」
「あ、そう。よろしく言っといてくれよ」
 子供じみた捨て台詞を吐いた扉をくぐり、レッグはロイヤルセレブタワー内に入った。伸びている通路は、外見からの想像通りだ。
「次は確か、住人のお出迎えのはずだったな」
 早くも幾つかの気配がレッグの出方を窺っているのがわかる。レッグも各演算回路の出力配分を思案し始めた。

成功 🔵​🔵​🔴​

早乙女・翼
謡さん(f23149)と

…ロイヤルとかセレブってなんだろう…
タワーなのは間違いねぇけど、さ(見上げ)
これで立ってられるって建築基準法的に…いや、違法のがいいのかこの世界
月決いくらさよ…(入居案内見)
うっそ、世界間でレート換算しても俺の住んでる部屋より高いってどーいう事

オートロックとかコンシェルジュとか、設備だけはセレブリティなんだな…
嘘…なぁ、謡さんは嘘とか得意?(こそっと)
正直って、ちょっと待って…(どきどき)

えっと、こっちで拠点欲しくてさ
素敵な物件あるって聞いて内覧見たいんだけど是非開けて欲しいさよ
すげぇ便利で住みやすそうだし俺好みの予感しかしないからさ

…ってンなワケねぇから、うん(ぼそ)


白紙・謡
翼様(f15830)と

セレブかどうかは分かりませんけれど
このタワーに好んでお住まいになる方は
…住居にだるま落としのスリルを求めていらっしゃるのかしら
やはり高層の方がお高いのでしょうか

うふふ
翼様、大丈夫ですわ
わたくし正直者ですので
滲み出る教養とか気品とか何か色々を隠しきれないかもしれませんけれど


では、平然と流れるように語りましょう

翼様どうぞこちらへ
此方が誉れ高きロイヤルセレブタワー
刻まれし歴史そのものの如く聳え立つ威容
自然の恩恵をその身に受けて幾星霜
築何年か知らないけど堅牢なる我が自慢の城ですわ

何ですかコンシェルジュ
さっさとお開けなさいな
わたくしのお帰りですわ


勿論、しれっと並べた嘘八百ですけれど



 ロイヤルセレブタワー。そんな名前を名乗るからには、ロイヤルでセレブなタワーなのだろう。だが、何を以ってロイヤルと、セレブと、タワーというのだろう? その定義とは、一体何ぞや?
 早乙女・翼(彼岸の柘榴・f15830)はロイヤルセレブタワーを見上げ、それを問うていた。
「……ロイヤルとかセレブってなんだろう……タワーなのは間違いねぇけど、さ」
 ごくごく庶民的な住居を縦に積み重ねた外観が、タワーたる所以なのだろう。危うい均衡で成り立っているタワーは、ほんの少しの風でもゆらーりゆらーりと揺れ動く。よくもまあ、建物がこんなにしなるものだ。
 翼の側で、白紙・謡(しるし・f23149)も小首をかしげる。
「セレブかどうかは分かりませんけれど、このタワーに好んでお住まいになる方は……住居にだるま落としのスリルを求めていらっしゃるのかしら」
「これで立ってられるって建築基準法的に……いや、違法のがいいのかこの世界」
 確か、建築基準法って、一応民の生命、健康、財産の保護を図るためのものではなかっただろうか。多分、この世界ではそういうのを守るのは、気が利く魔王とかの役目なのだ。
 今もタワーは大揺れ状態だ。あんなに揺れててちゃ、上層部では碌々茶も飲めやしないどころか、生活自体が成り立たないんじゃないだろうか。
「月決いくらさよ……」
 翼は手にした入居案内を見た。
『デビルグッドデザイン賞受賞物件! アダルトに、アバンギャルドに、ロイヤルセレブが貴方のハートをアタックする!』
 まず飛び込んできた謎の呪文を右から左へと流し、極々小さく書かれた月決の部分を見つけ出した。
『月額560,000D~(共益費・駐車場料・ロードヒーティング料・24時間管理料は実費(時価)をいただきます)』
「うっそ、世界間でレート換算しても俺の住んでる部屋より高いってどーいう事」
 それ以前に共益費や駐車場料が時価とか、わけがわからない。お高い寿司屋じゃあるまいし。
「やはり高層の方がお高いのでしょうか」
 翼の入居案内を覗き込んだ謡は更に小さな文字を追う。
『10階まで560,000D、11~25階620,000D、26階~45階790,000D、46階~50階980,000D』
「お高いですわね」
「しかも、どーいう基準で値段決められてるんだよこれ」
 階層同士の値段の開きが、適当にしか思えない。それもこれも、ここがデビルキングワールドだからだ。取り敢えず翼はそれで納得することにした。
「ロイヤルセレブタワー、コンシェルジュでございます。入居希望のお客様でいらっしゃいますか?」
 入居案内を持った二人に、見た目は頑丈そうな鉄扉から、電子音声が語りかける。扉には鍵穴や暗証番号キーらしいものは無く、音声認識によって開錠されるオートロック式のようだ。
 そして、その音声認識の内容とは言えば、『嘘』なのだそうだ。まったくの嘘を扉へ告げなければ、このいかめしい扉は開かないということだ。
「オートロックとかコンシェルジュとか、設備だけはセレブリティなんだな……」
 翼は扉に気取られないよう、唇の動きを極力殺し、囁いた。
「嘘……なぁ、謡さんは嘘とか得意?」
 謡は、つややかな唇に笑みをのせて応える。
「うふふ、翼様、大丈夫ですわ。わたくし正直者ですので。滲み出る教養とか気品とか、何か色々を隠しきれないかもしれませんけれど」
「正直って、ちょっと待って……」
 今この時は、正直はいけないのではないだろうか。いや、正直に語った結果、違う何かが滲み出るということか……? 隠し切れないものとは一体? いやいやいやいや。
 とりあえず、とりあえず、まずは翼が扉に語りかける。
「えっと、こっちで拠点欲しくてさ、素敵な物件あるって聞いて内覧見たいんだけど、是非開けて欲しいさよ」
「ええ、ええ、そうでしょうとも、お客様。当タワーは他に類を見ない至高の物件でございますので」
 扉は上機嫌で翼に応じた。が、嘘をついているのに、扉が開く様子は無い。
「すげぇ便利で住みやすそうだし、俺好みの予感しかしないからさ」
 ……って、ンなワケねぇから、うん。翼は、ぼそりと独り言を追加してみた。
「はい。それはもう、お客様の予感は正しいと、この私めも完全に同意いたします」
 けれど扉は開かない。翼の呟きも、都合よくスルーしているようだ。どうやら、扉は自物件が至高=真実であると固く信じているらしく、それをなぞる言葉を、嘘だと判定しないらしい。なんだそれ……。
「翼様、どうぞこちらへ」
 謡が翼を自らの側へと差し招いた。
「此方が誉れ高きロイヤルセレブタワー、刻まれし歴史そのものの如く聳え立つ威容、自然の恩恵をその身に受けて幾星霜、築何年か知らないけど堅牢なる我が自慢の城ですわ」
「……」
 立て板に水のように語る謡に、扉は圧倒されたように黙りこくった。
 実際の意味は、適当に住居を積み上げた年月、野ざらしで修繕もろくにされなかった日々、築何年か分かる者も居ないくらい古いけど、まだ建ってる、という意味なのだが、扉に秘められた意味が読み取れるのだろうか?
「素晴らしい……当タワーが何者であるかを、完璧にご理解いただいている……私、感動いたしました!」
(「えっ……これじゃ俺と同じさね」)
 自物件至高を信じるコンシェルジュに、褒め殺しは効かない。しかし、謡は感動している扉を、当たり前でしょう、と冷ややかな目で見下した。
「何ですか、コンシェルジュ。さっさとお開けなさいな。わたくしのお帰りですわ」
「はっ……」
「わたくし自慢の城と言ったのが聞こえていなかったのですか。二度とは言いませんわ」
「し……失礼いたしました。どうぞお入りくださいませ」
 しずしずと扉が開く。翼と謡は、それが当然といった様子で扉の中に入った。その先には自転車やらプランターやらが置かれ、狭まった通路が伸びている。
 それにしても……謡は嘘を吐いていたのだが、扉は嘘を嘘として認識していなかった。では何で扉は開いたのか。
 謡はいつも通りの可憐な姿にほんのりと笑みを浮かべ、翼の側を歩いている。彼女に逆らってはいけない。つまりはそういうことなのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

玖篠・迅
悪が流行る世界と嘘つきしか通れない扉かあ
ほんと色んな世界があるよな

とりあえず扉の近くにひっそり隠れて電脳ゴーグルとかで「ハッキング」してみるな
扉の人に気づかれたら、このタワーにはすごいロイヤルセレブがいるって聞いて会いに来たんだけど、よく考えたらロイヤルセレブを見分ける扉の人もすごいんじゃ?と思って調べさえてもらってるとか言ってみようか
いままで見分けてきたロイヤルセレブとか、タワーの住人のロイヤルセレブぶりに、ここの家賃がいくらなのかとかも扉の人尊敬する感じで聞いてみるな
話してる中でうっかり通してくれるといいけど、ダメならほんとは家賃の取り立てに来たこと言って「ハッキング」で開錠がんばる



 ロイヤルセレブタワー。悪がはびこる世界にそびえ立つ、まるで世界を体現するような住空間。庶民に向けた手頃な住居を、縦へ縦へと重ねることによって、ロイヤルセレブに相応しい場へと昇華した、奇跡の塔だ。
 ……と、言葉で飾れば何やら凄そうだが、遠間からロイヤルセレブタワーを望む、玖篠・迅(白龍爪花・f03758)からしてみれば、寄せ集めのアパートが後付けで積み重なった、奇っ怪な建築物であった。
(「悪が流行る世界と嘘つきしか通れない扉かあ」)
 古いひびが入った外壁や、一重の薄いガラス窓の建物自体は、UDCアース辺りで見かける建物の特徴だ。もしかするとヒーローズアースにもあるかもしれない。一際目を惹く入口の大扉だけは、違和感なく存在するとすれば、スペースシップワールドだろう。この大扉、音声認識式オートロックなのは良いが、嘘をつかないと開錠しないという代物だ。そして、そんな扉があるとすれば、このデビルキングワールドが一番しっくり似合っている。
(「ほんと色んな世界があるよな」)
 迅が見守る間にも、猟兵達がタワーへと入ってゆく。扉と会話する者、扉を破壊する者、やり方はそれぞれだ。迅は電脳ゴーグルを装着し、ハッキングを試みることにした。ゴーグルは一度叩いただけですんなりと起動する。今日は調子がいいようだ。
 あっけないほどすぐに、HUDに解析結果が表示された。
「あれ……」
 この扉、外見にそぐわず、ネットワークへの接続がない。スタンドアロンで稼働しているようだ。システムに侵入するには、直接アクセスするしかなさそうだ。
「ロイヤルセレブタワー、コンシェルジュでございます。ロイヤルセレブの証をお見せくださいませ、お客様」
 淡々とした電子音声が、扉から発せられた。扉は一見して滑らかな一枚の金属でできているが、電子音声が発せられた辺りでLEDが光っている。多少強引だが、ここを侵入口として利用できるかもしれない。
 他に侵入口は……? 少し、時間稼ぎが必要だ。
「このタワーには、すごいロイヤルセレブがいるって聞いて会いに来たんだけど」
「それはもう。素晴らしい御方がお住まいでいらっしゃいますよ。しかしご多忙故、アポイントメント無しのお客様にはお会いいたしません」
 迅は、扉に近付き、表面を触ってみた。想像通りにひんやりとした金属の手触りだ。
「お、お客様、な、何をなさいますっ。ロイヤルセレブ以外の方に、この扉が開かれることはございませんよ!」
 何故か狼狽の様子を見せる扉は、見た目通り金属でできている。触ってみると、どういう訳か、パズルのようにパーツが分かれて組み上げられているようだ。
「よく考えたら、ロイヤルセレブを見分ける扉の人も凄いんじゃ? と思って調べさせてもらってるんだ」
「それが、私の仕事でございますから」
 謙遜した言い口だが、声色は多分に得意げだ。そこに乗じ、迅は更に扉に近付き、電脳ゴーグルで表面組成をスキャンし始める。
「いままでどんなロイヤルセレブが、このタワーに住んだんだろう?」
 扉は、黙り込んだ。それは、語ることがないからではなく、むしろその逆だからなのだと思われた。いわゆる、溜めの時間だ。
「そうですね……やはり、第一に挙げるとすれば、伝説の魔界のキング、ゴージャス★ブリリアント★キラー様、でしょうか。それに、ブランネージュあやか💛姫様、†闇夜の凍豆腐†様……ああ、挙げればきりがありません……」
 一挙に語り、陶酔し始めた扉は、もう調べ放題だ。扉はかなりの厚みがあり、内部に電気配線が通っているようだ。
 スタンドアロンであるならばなおさら、故障時に開くための機構へのアクセス手段が、内外両方の何処かにあるはずだ。内部機構を精査すれば、見えてくるかもしれない。あるいは、デビルキングワールドなので、端からそんなものは無いのかもしれないが。
「今住む人達も、ロイヤルセレブなんだろうなあ」
「それはそれは、ロイヤルセレブでございますよ。他物件と一線を画する、当タワーの『揺れ』。時に、窓から放り出されますが、スリルとして愉しんでおいでです」
 住空間として、それはどうなのか。当然起こる突っ込みも、デビルキングワールドでは無粋なのだろう。『悪魔は死んでもやせ我慢』とか、そんな類の諺がありそうだ。『武士は食わねど高楊枝』的な。
「そっかー。そんな体験ができるのなら、家賃も高いんだろうな」
「フッ。お家賃は月560,000Dからとなっております、お客様。ですが、揺れ体験は高層階のみのご優待となっております。高層階の月額は980,000Dでございます」
 ……見つけた。緊急開錠機構だ。スキャンした回路を辿ると、扉のかなり下の方に、蓋で隠された小さなコネクタ差し込み口があった。多分、様々な体格の悪魔に対応したら、そんな位置になったのだろう。迅は、ケーブルを取り出し、電脳ゴーグルと接続した。
「お、お客様! 何を……! おのれ、この私を謀りましたね……!」
 恨めし気に扉は叫んだ。嘘を吐かないと扉を開けない以上、日々謀られるのが仕事の筈なのに、いざ謀られると、この言い草だ。
 迅は、緊急開錠機構にアクセスし、扉を開く。何か叫んでいる電子音声をよそに、扉はすんなりと開いた。
「ごめんなー」
 扉を抜け、迅は雑然とした住空間へと分け入った。その背後で、扉はすっ……と静かに閉まる。一度開いた後の扉は、意外に諦めが良いようだった。もっとも、扉は動けないので、諦めるしかないのだが。
 往く手から何者かの気配を複数感じる。おそらく住人の悪魔だろう。タワーを登りきるまでに、まだ多少の手間はかかりそうであった。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 集団戦 『セントウイン』

POW   :    ㉕セントウイン
【自身の筋肉】を巨大化し、自身からレベルm半径内の敵全員を攻撃する。敵味方の区別をしないなら3回攻撃できる。
SPD   :    ①セントウイン
レベル×1体の、【仮面】に1と刻印された戦闘用【①セントウイン】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
WIZ   :    ⑩セントウイン
レベル×100km/hで飛翔しながら、自身の【厨二オーラ】から【暗黒破壊滅殺光線】を放つ。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ロイヤルセレブタワーの内部は、その外観同様に奇怪であった。
 長々と続いていた廊下の曲がり角を曲がると、10歩もかからない所に、次の曲がり角がある。かくかくと細かく曲がる角を越えた先には、唐突にエレベータが現れた。
 エレベータを呼ぶと、扉から上に微妙にずれた位置で箱が止まった。中の灯りは明滅しており、電力の供給が怪しそうだ。あまり乗りたくない代物ではある。
 それでも時短になるかもしれないと、エレベータに乗り込んでみると、所々ボタンが抜け落ちて、押せなくなっていた。45階より上は全滅だ。ちなみにロイヤルセレブタワーは50階建てである。
 地道に階段を登ろうとすると、今度は住人の置いた荷物で溢れかえっている。物干しざお、洗濯機、バケツ……。それらを蹴散らしながら、タワーを登る羽目になるだろう。
 どちらにせよ、面倒くさいが、どちらの面倒くささを取るか悩む君の前に、複数の人影が現れた。ロイヤルセレブタワーに入った時から、君の様子を窺っていた住人だ。あまりにも気配が見え見えだったので、ようやく現れたかといった思いも、なきにしも非ずだ。
 彼らは、何故か全身タイツに身を包み、顔は数字の描かれた円盤で隠している。セレブだから? セレブだから顔を隠さないとならないのか? それとも、単なる趣味?
「フッ……今の今まで、私達の気配に気づかないとはね。だから出てきてあげたよ。この分では、今度の取り立て人も大したことはないかな」
 顔に10と描かれた全身タイツが、気取った口調で言ってのけた。彼? は何故か黒いオーラをまとい、ふよふよと宙に浮かんでいる。
「そう仰いますな。そもそも、ロイヤルセレブたる我らと、彼らでは格が違うのですから、仕方のない事なのです」
 10に阿るように、1と描かれた全身タイツ達が、10の周りに、ざっ! とV字型にフォーメーションを組んだ。
「まあ、少しばかり可愛がってやりましょうや。そうすりゃあ、このロイヤルセレブタワーに取り立て人もこなくなりまさあ。これで、ますますロイヤルセレブタワーの格が上がるってもんです」
 顔に25と描かれたムキムキ全身タイツが、身体に似合わぬ甲高い早口で、肩を慣らし始めた。
 何だか好き勝手言っているが、当然猟兵が彼ら? に後れを取るわけがない。逆に蹴散らして、タワーを登ろう。
 しかし、どうやって蹴散らすかは、個人の自由だ。あなたなら、どうする?
ティファーナ・テイル
*アドリブ歓迎

「小銭マン?」と小首を傾げてみます。
『スカイステッパー』で動き回りながら隙を見て『セクシィアップ・ガディスプリンセス』で♥ビーム攻撃をして、敵の攻撃を『神代世界の天空神』で空間飛翔して避けて敵のUCを『天空神ノ威光・黄昏』で封印/弱体化を仕掛け、機会を見て『ガディスプリンセス・レディース』で従属神群を召喚して『ジェットストリーム・ラヴハート』でSPDを強化し『ガディス・ブースト・マキシマム』で♥ビーム&♥弾の攻撃をします。
『ゴッド・クリエイション』で金貨レディを創造して『ガディスプリンセス・グラップルストライカー』で一緒に白兵攻撃で拳/髪の毛/蛇尾脚を仕掛けます!



 ロイヤルセレブタワー、10階。この階は、今まで見た階よりも、少し異なっている所がある。廊下に小さな広場のようなスペースがあり、少しだけ広いバルコニーと繋がっている。そして、そこからは何かを焼く香ばしい匂いがしている。
 スペースには全身タイツが多数集まっており、手に手にバーベキュー串を持って寛いでいたが、その中の一人が、スペースを堂々と横切ってゆく、ティファーナ・テイル(ケトゥアルコワトゥル神のスカイダンサー・f24123)の姿に気づいた。
「取り立て屋か……! 我らのコミュニティスペースにまで侵入するとはっ。串焼きは渡さん! あと金も払わんぞ!」
 他の全身タイツも、すぐさま身構えた。流石に、今まで数多の取り立て人を退けて来たタイツ達、一応統率はとれているようだ。その証か、ここのタイツは皆、顔に『1』と描かれた丸い仮面のようなものを被っている。
「小銭マン?」
 ティファーナは、タイツ達に向かって小首を傾げてみせた。仮面のようなものは、どう見ても硬貨だったのだ。
「失敬な! 我らにはセントウイン、という名前がある!」
 一人のタイツが、イカ焼きの串を皿に戻してから、ティファーナに襲い掛かる! だが、露骨な予備動作付きの攻撃は、さらりと伸びたティファーナの髪にあっさりと受け止められ、拳一撃で沈められた。
「なかなか出来るな……」
 タイツ達は、一斉に食べかけの自分の串を皿に戻した。統率が取れている。
「だがッ! 1セントを笑う者はッ!」
 一人のタイツが地を蹴る。あからさまな攻撃動作、先程のタイツの二の舞か――?
「1セントに泣くッ!」
 残りのタイツ達が、四方八方から襲い掛かる。先程の一人は陽動だった。しかし、空を蹴りながら宙を舞うティファーナの尾撃で、陽動のタイツごとなぎ倒される。ちなみに、デビルキングワールドの通貨は、D(デビル)だ。
「でも、今は、キミたちの方が、泣きそうじゃない?」
 ティファーナは空を切り、飛び上がった天井すれすれでタイツ達を見下した。ちょっとビームを放って左右に揺らせば、一掃上がりだろう。
「ぬかせ……我らには、まだ力がある。仲間との絆という力がなっ」
 タイツ達は、一所に集まり始めた。ティファーナは悠々と空を蹴り、舞いながら、何をする気なのか見届けることにした。集まったタイツ達は融合し、一つの全身タイツとなろうとしている……あのタイツ、一体どういう素材だろう。
「これが! 我らの真の力!」
 顔に『38』と描かれた丸い仮面を被った全身タイツが誕生した。数字が中途半端なのは、頭数が減っていたからだ。1よりかは強そうなオーラを醸し出しており、これならティファーナについていくことができるかもしれない。
 小手調べに、ティファーナは軽くビームを放つ。おおざっぱに照準を合わせたビームをタイツ38はへらりと躱した。躱されたビームはバルコニーを越えてゆき、ややあって轟音がした。多分、近くのマンションに直撃したのだろう。
「先程までの我々と思うな! 38セントの重み、味わうがよい!」
 タイツ38は、高所を取るティファーナの真下を狙い、床を蹴った。そしてジャンプしながら無数のパンチを叩き込むが、ティファーナの髪、羽根、尾で弾かれる。
 パンチの応酬に飽きたティファーナは空を蹴り、するりとタイツ38の間合いから離れ、ビームを放った。今度のビームは、着地したばかりで体勢の整わないタイツ38を捉える。
「ぐぬ……中々の威力ではないか……だが、まだまだだぁ! 我らはいけるゥ!」
 ビームで床に空いた大穴をほうほうの体で登り、ローリングしながらタイツ38はティファーナから間合いを取る。ティファーナからすれば、近間でも遠間でもどちらでもよいのだが、まあ、タイツ38のやりたいようにさせよう。
「我ら魂のユニゾン……受けて見よッ」
 あろうことか、タイツ38は自らの仮面をむしりとり、フリスビーよろしくティファーナに投げた。スピンのかかった仮面は、中々の速度でティファーナに迫る。だがしかし、ティファーナは不規則な軌跡を描く変化球を、片手で掴み、ぴったり止めて見せた。38体分のタイツの魂は結構重い。
「ダメだよ。魂をそんなに粗末に扱っちゃあ」
 ティファーナは空を蹴って、タイツ38の頭上に迫り、自由落下に任せ、仮面でタイツ38を引っぱたいた。
 ぼすん、と鈍い音を立てて、仮面はタイツ38の頭にクリーンヒットした。捨て台詞を言う間も無く、タイツ38は昏倒する。さすがに自分の魂で殴られたので、効いたのだろう。
 ここまで痛い目に遭えば、少しは家賃も払う気になるはずだ。ならなかったとしても、払う気になるまで、これが繰り返される。猟兵に目を付けられたのが運の尽きだ。
 後は最上階に居るという、タイツ達を煽ったボス、こいつを何とかすれば取り立て終了だ。けれど今、ティファーナにとってより厄介なのは、ボスの存在よりも、ここが全50階のうち、まだ10階であるという事実の方だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

葛籠雄・九雀
SPD

うむ。やり過ぎても怒られなさそうな奴らであるな!
実に助かる。
高笑いをしてから、口上を述べようぞ。

愚かであるな、隠れておれば見逃してやったものを。オレは他者の肉体を奪う呪いの仮面…この肉体も飽きたところである故、貴様らの肉体を頂戴するためここまで来たのであるぞ!
ロイヤルセレブなる貴様らであれば、オレもさぞ楽しく悪徳に耽ることができるであろうからなあ!
さて誰にするか…嗚呼、そこの1ども!
オレの新たな糧となれ!

…この程度でよいか。
【逃げ足、ジャンプ、ダッシュ】で間合いを見つつ、【投擲、毒使い、カウンター、2回攻撃】+ペルシカムで黙らせる。合体したら?
…別にやることは変わらんな。

アドリブ連携歓迎



 轟音がタワー全体を揺るがしている。かと思うと下階から迸ったビームが、遥か遠くのマンションを直撃した。まあ多分、あのマンションも滞納者満載だろうから、あれくらいが丁度いい塩梅なのだろう、きっと。
 取り立て人の誰かの所業を足元に、葛籠雄・九雀(支離滅裂な仮面・f17337)もロイヤルセレブタワーを登っていた。ここは22階……もうそろそろ半ば、未だ半ばであった。
「そういえば、2205号室はこの階であるな」
 前の住人がお星さまになったため、九雀が入居する事になった部屋だ。2205号室の扉の前に立つと、中から賑やかな声が聞こえる。家人はもういないというのに、来客だろうか?
 扉を開けると、長い暖簾に隠された先から、何者かの声が九雀を迎えた。
「かには、持って来たか? 早速解凍するのだ」
 そういえば、前住人は何やら段ボールの前で号泣していたが、あの段ボールの中身はかにだったのか。号泣の理由が分かってすっきり……というわけでもなし、この部屋は、もう九雀の部屋なので、家賃を大人しく払ってお引き取り頂こう。
 暖簾を勢いよくはねあげ、九雀は部屋の中に入った。
 そこは、日に焼けた畳が敷かれた部屋であった。部屋の真ん中にはこたつがあり、その上に大皿小皿、かにスプーンがスタンバイしており、1と描かれた丸い仮面を被った全身タイツが3名、こたつに入っている。
 タイツ3名は、入室した九雀を一度振り返ってから二度見し、やっと事態に気づいた。
「貴様、何奴!」
「いや、問うまでもない……取り立て人、だな。さては、かにを差し押さえたか……卑怯なり、取り立て人!」
「我ら食の恨みは永劫に忘れん……取り立て人だ、出会え! 出会え!!」
 一人のタイツの大音声の後、室外からは、ばんばんドアが開く音とおびただしい足音が響き渡った。この階に生活するタイツ達が2205室付近へ大集合しつつある。
 九雀が廊下へ出てみると、廊下にはみっちりとタイツ達が集合していた。密すぎてお互い身動きが取れなくなっている。集合する時、お互いの間合いについて、何も考えていなかったのだろうか。だがいろいろと好都合だ。
 万が一、万が一にも、やむにやまれず家賃を滞納した人物がいたとすれば、完膚なきまでにやってしまうのは、ちょっとよろしくない。今見た感じ、タイツ達は大した事情はなさそうだ。そして、ここにいるのは、階全体のタイツのようだ。探して回る手間が省ける。つまり、忖度の必要が微塵もない。
 晴れやかな気持ちで、九雀は高笑いした。
「愚かであるな、隠れておれば見逃してやったものを」
「痴れ者か……我らを見て、その言葉が出るとはな」
 余裕の含み笑いでタイツの一人が返す。今までの取り立て人を、物量作戦で退けて来た自信がそうさせるのだろう。
「オレは他者の肉体を奪う呪いの仮面……この肉体も飽きたところである故、貴様らの肉体を頂戴するためここまで来たのであるぞ!」
「!?」
 タイツ達は引いた。わかりやすい。実にわかりやすい反応だ。内心ほくそ笑みながら、九雀は口上の続きを述べる。
「ロイヤルセレブなる貴様であれば、オレもさぞ楽しく悪徳に耽ることができるであろうからなあ! さて誰にするか……」
 ゆっくりねっとりと、九雀はタイツ達を見まわした。1の仮面に隠れて目には見えないが、九雀の視線が横切ったタイツ達は露骨に動揺している。
「嗚呼、そこの1ども! オレの新たな糧となれ!」
「楽しく悪徳に耽るなど、言語道……いや、悪だから良いが! とにかく、貴様になど、このロイヤルセレブの魂、渡しはせぬ!」
 狭い廊下の中、一人ずつ順番にタイツが襲い掛かってくる。一重の差で退き、体勢を崩したタイツに針をぷっすり刺す。中には毒が仕込んである。刺されば一撃ダウンだ。あるいは九雀の本体を狙い回し蹴りを放ったタイツの脚をしゃがんで避け、軸足を掴んで、タイツ達の塊に投げ返す。
 何人ものタイツを返り討ちにされ、一対一では敵わないとやっと悟ったタイツ達の間に、無言の遣り取りが交わされる。以心伝心ということだろう。ちなみに九雀にも以心伝心であった。
「我らロイヤルセレブの尊き魂、その輝きを見るがいい!」
 一人ずつ、タイツ達が合体してゆく。全員が合体するまでにまだしばらくかかりそうだったが、合体していくタイツの人数を数えながら、九雀は大人しく見守ることにした。何というか、お約束の一つのような気がしたからだ。それに、1体にまとまれば、1回仕掛けるだけで仕留められる。時短だ。
「見よ! この魂の輝き! ゆくぞ取り立て人!」
 頭の仮面には、『25』と書かれている。九雀が数えた数とぴったり一致した。ところで、最初は50人程いたような気がするが、半数倒されなければ不利を悟れなかったということだ。戦力の逐次投入というやつか。
 しかし九雀のやることは、先程と変わらない。当たるを幸い、タイツ25に幾本もの毒針を投げる。毒と言っても、致死毒ではなく、吐き気やら麻痺やらびらんやらをもたらす、相手の戦力を削ぐためのものだ。その効果はてきめんで……。
「う、ううっ……吐き気が、それにび、びりびりするぞ……卑怯な毒使いめ……!」
 毒に苛まれ、大技を使えないながら、タイツ25は九雀の心臓を狙い、鋭い手刀を繰り出した。九雀は僅かに避け、手刀を脇に挟みこみ、タイツ25の首筋に毒針を刺し込む。
「む……む……」
 タイツ25は呻き、そして倒れた。いよいよ毒が回り、口も回らなくなったらしい。元々ろくな事を喋ってはいなかったから、この方がましかもしれないが。
 あっけなく決着をつけ、最上階を目指す九雀の背に、呻きに混じった声が投げかけられた。
「かに……食べたかった……」

大成功 🔵​🔵​🔵​

レッグ・ワート
……、……。階段込各道中ぱっと見衛生的にめっちゃ整えて寄せたいんだけど連中はこれを日々掃除した上でやってる可能性あるのがね。実際の気性なり強度なりを知る機会になったら上等だなあ。

というわけで返り討ちだ。状態確認は通しで使って再起不能は避ける感じで、糸張ったりぐる巻いたりの時間稼ぎで数調整しつつ進めよう。一体とか小規模毎に怪力込み鉄骨で殴るなり突き倒す。後は分散させて吊るすか片付けに回って貰うぜ、多かったら一部外に叩き出す。とりまくっついても、見切り避けつつバラけるまで脛殴ったり足指狙ったりするだけなんで、気が済むまで殴られていけばいいんじゃないか。ただ何度でも立ち上がるって勇者っぽいよな。



 ロイヤルセレブタワー、37階。家賃体系的には中層階の区分だ。しかし、不安定な土台の上にいい加減な建て増しがされているせいで、ちょっとしたことで、床がゆーらゆーら傾ぐ。
「……」
 もともと決して広くない通路に、住人の家財が雑然と置かれ、更に狭くなっている。レッグ・ワート(脚・f02517)が通り抜けると、斜めに置かれた自転車が倒れ、派手な音を立てた。と同時に、若干だが床がふらりと揺れる。
「……」
 さらにレッグが進むと、洗濯機が置かれている。すれ違いざまにボタンに触れたらしく、洗濯機の蓋が開く。中には洗濯物が入ったままだ。
 無言のまま、レッグは己の欲求を抑え続けた。あのばらけたゴルフクラブを束ねて、枯れた植物が植わったままのプランターは撤去だ。段ボールはたたんで縛る。そしてごつごつに芽が出たジャガイモの箱は、さっさと中身を食えば無くなるだろう。
 ならば綺麗に整えれば良いのだろうか? いや。レッグの心中で、緩やかながらも警鐘が鳴っていた。第一に、住人にとって、これが綺麗な状態である可能性がある。そして第二に、実際歩いてみると、実は、この物の配置は、タワーの重心を安定させるためのものではないか、という気がしてきた。とすると迂闊に物を動かせない。
 レッグは気配を消しておらず、それなりに物音も立てている。住人達も承知らしく、無数の気配がレッグを窺っているのがわかる。中々襲い掛かって来ないのは、罠なのかもしれない。だとしても、罠ごと住民をなぎ倒していけば良いので、早く襲ってほしいものだ。
 この階初めての曲がり角を曲がると、また、タワーが揺れた。多分、目の前に集合した全身タイツ達の重量のせいだろう。彼らは一様に『1』と描かれた丸い仮面のようなものを身に着けている。
「取り立て人よ、よくこのグリーンガーデンまで来たな! だが、ここまでだ。緑の園にて力尽きるがいい!」
 グリーンガーデン。確かに少し開けた広場風の場所に、観葉植物らしき鉢やらベンチやらがばらばらと置いてある。多分、タワー内の公園的な位置づけなのだろう。
 間髪入れず、待ち構えていたタイツ達がレッグに襲い掛かる。だがその動きは、レッグからすれば簡単に捕捉可能であった。繰り出される彼らの肉弾攻撃をいなし、その動きを入力してゆく。直線的であり、突出した癖もない、実に素直な攻撃だ。
 そして、彼らの防御性能もまた、素直なもので、搦め手に弱いようだ。レッグが少し変化をつけて繰り出したカーボン糸はきっちり彼らに絡みつき、レッグは後方のタイツ達へまとめて叩きつける。
「皆、気をつけろ! この取り立て人は一味違う!」
 直後、レッグの鉄骨に思い切り脛を殴られ、このタイツは悶絶し転げ回った。戦闘不能、更に1名。
「脛に鉄骨など……何という残虐! 何という非道! 許さんぞ、取り立て人!」
 襲い掛かって来たタイツの蹴りをレッグは難なく受け止め、軸足の小指に蹴りを入れた。声なき声を上げ、タイツは悶絶し転げ回った。戦闘不能、また1名。
「悪逆非道の輩め……! 彼らの仇は必ず!」
 そう言いつつ、タイツ達はレッグを遠巻きし、様子を見ている。次はどの急所を狙われるかと戦々恐々のようだ。言行不一致である。
「そいじゃ、先行かせてもらうわ」
 引いているタイツ達をよそに、レッグは上階へと進んでゆく。
「このままで……このままで良いのか我らは」
 一人のタイツが呟いた。
「しかし……我らに勝ち目など」
「同朋がやられたのだぞ……! 亡き(注:亡くなっていません)彼らに、今の我らの姿を見せられるか? 何より、今の我らを我ら自身が許せるか……!?」
「……そうだ。出来る出来ないではない、やるかやらないか、なのだ……!」
 タイツ達が融合し始めた。そして、一つに融合したタイツは、さっさと先へ行ったレッグに追いすがる。
「待て取り立て人! 行くなら、我が屍を越えてからにするのだ!」
 融合したタイツの頭の仮面には、『42』と描かれている。先程よりもパワーアップしているようだ。
「何度も立ち上がるって勇者っぽいな。けど、さっきと同じになるだけだぜ」
「ぬかせ!」
 タイツ42は、観葉植物をレッグに投げつけ、その間に間合いを詰めた。レッグの懐に入り、鉄骨の攻撃を防ぐ心積りだ。レッグは放たれたパンチの連打を盾代わりの鉄骨で防ぎ、パンチが途切れたところで、鉄骨から両手を離す。タイツ42の足の甲を直撃だ。
「――――!!!」
 怯んだタイツ42を、レッグはカーボン糸でぐるぐる巻きにした。タイツ42は42な分、1よりも往生際が悪いようで、体当たりでレッグの側から逃れようとする。それを身体ごと受け止め、今度は思いっきり足の小指に蹴りを食らわせる。
「頭の数が増えても、負けパターンは一緒だな」
 レッグは大人しくなったタイツを、グリーンガーデンの真ん中に吊るしておくことにした。本人も癒しの緑に囲まれて満足だろう。さっきよりも揺れが頻繁になったような気がするが、それは決して吊るしどころが悪いせいではないはずだ。多分。きっと。

大成功 🔵​🔵​🔵​

玖篠・迅
修理できてないのは家賃払わない人が多いからか、直してもいろんな理由ですぐに壊れちゃうとかだったり?
……俺には難しそうだけど、ここで暮らせるロイヤルセレブの人たちってすごいなあ

とりあえず、揺れとあんまり物壊さないように気をつけて最上階目指そっか
邪魔する人は蒲牢の雷で痺れてもらったり、落ちても大丈夫そうなら風でマンションの外に押し出させてもらうな
俺も「属性攻撃」の水を込めた霊符で雷の通り良くしたり、「マヒ攻撃」と「呪詛」を込めたので動き縛っていくようにする

上の階に住んでる人は階段だけじゃ大変だろうし、最上階に行く近道とかあったりするのかな



 ロイヤルセレブタワー、エレベータホール。ホールといっても、低層階用と上層階用で2基のエレベータが並んでいる他は、他の廊下と変わる所はない。
 エレベータは2基とも稼働中であり、扉横にある、階数を示すランプが移動しているが、ランプの所々が点灯しなかったり、点滅していたりする。エレベータ外扉には、ガラスがはめ込んであるが、大きなひび割れが走っており、その上からテープで補修が行われている。
 そんな怪しげなエレベータであったが、玖篠・迅(白龍爪花・f03758)は、敢えて上層階用の『▲』ボタンを押した。最上階を目指す近道といえば、やはり階段よりかはエレベータだろう。そう思ったのだが……。
 エレベータが着き、扉が開く。すると、中の箱が上にずり上がって、階段一段分くらいの段差が出来た。普通は故障を疑う挙動だ。しかし、これを動かしたままとは、ここロイヤルセレブタワーでは些事なのだろうか。乗りこもうと思えば乗れるし。
 なので、迅は、エレベータに乗り込んでみた。これで最上階まで一気に……と、思ったのだが……。
 行き先の階数ボタンが、幾つか抜け落ちて押せなくなっている。特にひどいのは高層階で、45階から上は全部ない。つまり、45階まではエレベータで行き、残り5階は階段を使わないとならないということになる。確か、高層階の方が家賃が高かったような気がするが。
「修理できてないのは、家賃払わない人が多いからかな」
 45階を押すと、ボタンが点滅した。扉も閉まり、上昇も始まる。後は昇り切るのを待つだけ……なのだが……。
 ギギギギギギ、キィー―――。
 箱の上部から怪音がずっと聞こえている上に、半ばの25階辺りで、突然灯が消え、非常灯が点灯した。だが、エレベータは構わず上昇を続けている。挙動の不穏さは、もはやホラーか、或いはドッキリを仕掛けられているのかという域まで達している。
「それとも、直してもいろんな理由ですぐに壊れちゃうとかだったり?」
 もしかしてもしかすると、エレベータの妖怪とか精霊かなんかが荒ぶっているのかもしれない。その理由にも家賃払われなくて修理されない、が含まれていそうな気がしないでもないが。
 45階に着くと、エレベータの灯は復旧し、ドアが開いた。そして忘れずに箱は上にずれる。とりあえず降りる分には支障がないが。迅が降りると、エレベータは誰かに呼ばれたらしく、下へと降りていった。
「……俺には難しそうだけど、ここで暮らせるロイヤルセレブの人たちってすごいなあ」
 ロイヤルセレブなエレベータに対する、迅の素直な感想であった。
 そんなこんなで、迅は46階の階段を探し、歩き始めた。廊下の様相は、1階とさして変わらなさそうだ。すなわち、モノが溢れていて狭い。
 薄そうな外壁から風の鳴る音が聴こえる。すると、ゆっくりと床が傾ぎはじめる。それに応じて窓から見える景色は、空の割合が多くなってゆく。揺れが素晴ら……酷いという話であったが、それは本当の本当のようだ。そして、傾いだ床が元に戻ってゆく。この揺れ、もしかして酔う奴なのではないだろうか?
 風でこれだけ傾ぐのだ。周りに衝撃を与えたりすれば、更にマーベラs……デンジャラスなことになるだろう。ことによると、ぽっきり折れてしまうかもしれない。そうなれば家賃を取り立てることができない。それは困る。
 そういうわけで、迅はそっと足を忍ばせ、46階への階段を探し、45階の通路の家財をすり抜けてゆく。建て増しの継ぎ接ぎだらけのせいで、廊下がくねくね曲がっていて、視認性が悪い。
 曲がり角を曲がると、階段が唐突に現れた。無難に上れそうな普通の階段だ。躊躇いなく迅が段を上ろうとしたその時のことだった。
「どこへ行こうというのだね?」
 曲がり角の先から、声が聞こえる。やっと住人のお出ましだ。迅が曲がり角まで戻ると、顔に『10』と書かれたメダルのような仮面を被った全身タイツが、黒いオーラをまとい、ふよふよと空中に浮かんでいた。
「あの先は、真にロイヤルかつセレブである者の住む処……取り立て人の君が立ち入って良い場所ではないのだよ」
「ロイヤルでセレブなら、家賃はきちんと払うものじゃないかな」
 迅の返しに、タイツは気取った風に指を振って見せた。
「もちろん、払うとも。僕を越えるロイヤルセレブ相手なら、ね。試してみるかい?」
「いや、やめとく」
 迅は普通に取り立てることにした。ロイヤルセレブ対決などしたら、自分の中の大切な何かがどうにかなってしまいそうだった。霊符を取り出し、周囲を水の気で満たす。
「僕は速く、速く飛べるんだ。君に着いて行けるかなッ!」
 タイツも迅へ迫ろうとし、物干しざおにぶつかりそうになって、急減速をかけた。その隙に、迅は蒲牢を呼び出す。雷をまとった霊獣が現れ、迅の前に立つ。水の気と雷とが混じり、空に雷が走る。
「ぐっ……!」
 廊下に走る雷にまとわりつかれ、タイツは呻いた。雷獣から離れようと動くが、その間も雷に灼かれつづけている。陣と蒲牢はタイツの後を追いながら、通路に水気と雷の罠をしかけてゆく。迅に近寄ろうとすれば、無数の雷が襲い掛かるという算段だ。
「このままでは、埒が明かぬか……」
 廊下のつき当たりまで追い詰められたタイツは、腹を括ったようだ。まとった黒いオーラが増大している。
「蟠る闇黒の光、その身に受けてみよ……暗黒破壊滅殺光線、発射!」
「……」
 滅殺なんて名が着いている分、確かにちょっと痛い光線であった。このままだと、雷と蟠る闇黒の光の撃ちあいになり、不毛な消耗戦となる。
 迅がふと横を見ると、タイツの側に窓ガラスを見つけた。あの外は、空だ……。
「頼むな」
 迅に頼まれ、雷獣は風を巻き起こし始めた。びゅうびゅうと通路で渦巻く風は、散らかった品を巻き上げ、ガラス窓を破る。
「何をする気……」
 タイツは問いの途中で、風に巻き上げられ、種々雑多な家財とともに、ガラス窓から空に放り出される。尾を引く悲鳴は、途中でふっつりと途切れた。多分、途中で自分が飛べるタイツであることに気が付いたのだろう。
「さ、先を急ぐか」
 風のおかげで酷く揺れる中、迅は今度こそ上階を目指し、歩き始めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

白紙・謡
翼様(f15830)と

暫く住めば無駄にバランス感が身につくかもしれませんわね
などと嘯きつつ翼様の背に乗っております
抱えて飛んで下さるご提案がありましたので
その後降りてない位、些細なことでございます

ああ、セントってそういう…
つまりあのお顔が全財産の可能性?

話しつつ翼様の背からひょいと降りると周囲を見回し
こんなに舞台が整っているのでしたら
伝統に則りまして
『招』で描写するのは絵に描いたような取り立て屋
グラサン紫スーツとか豹柄とかパンチパーマとかオールバックとか
そういう者達をわらわらと
皆様足癖悪く
その辺の一升瓶や物干し竿をいい感じに振り回す方々でございます

わたくし?
勿論、後方でネタ帳を開いておりますわ


早乙女・翼
謡さん(f23149)と

スラムの安アパートだろこいつぁ…
家賃を払わないから管理がなされないのか
管理がなされないから家賃払う気しないのか

謡さん抱えて階段飛ぶとは言ったけどさ
何で背中に負ってるんだろう…(勢い呑まれ)
だあぁっ洗濯物邪魔ぁ!

セントって基本通貨単位の百分の一さよね
つまりここじゃ「1セント=0.01D」?
どのみち激安じゃねぇか(ぼそ)
ワルぶって払わないんじゃなくてマジに金無ぇ説に一票
あの顔で支払われても、困るさね

サーベル抜いてUC発動
闇の厨二には光の厨二で対抗
天より射し込みし光を以て、汝らを暗黒の海より救済せん!
とか
咲き誇りし冥界の花と散れ!
とか

…謡さん、頼むから今のメモるなよ、マジで



 モノで溢れたロイヤルセレブタワーの共用空間。階段もその例外ではなかった。
 踊り場の上に張られたロープには洗濯物が干され、真下には水滴の跡を残している。かと思えば、壁に沿ってビール箱が雑に重ねられており、その上に何故か三輪車とスケボーが乗っかっている。それらはタワーの揺れのなか、ガタッだとかギシッだとか、何だか不穏な音を立てていた。
「スラムの安アパートだろこいつぁ……」
 飛んで階段を上っている、早乙女・翼(彼岸の柘榴・f15830)は、低く呟いた。整理整頓を促す張り紙すらなく、どう見ても、まともに管理されている様子はない。家賃が払われないから管理がされないのか、管理がされないから家賃を払う気が起きないのか……それは最早、卵が先か、鶏が先かの議論と同じであった。
 また、タワーが派手に揺れ、あちらこちらから、怪し気な軋み音やら何かが崩れる音が聴こえてくる。
「暫く住めば、無駄にバランス感が身につくかもしれませんわね」
 翼の背に乗った、白紙・謡(しるし・f23149)が嘯いた。その手はしっかりと翼につかまっている。
「そう……さね」
 確かに、翼は謡を抱えて飛ぶと言った。言ったの、だが……ちらと翼は踊り場に表示されている階数を見た。『48』という数字はどこからどう見ても48だ。頂上まであと2階。
 揺れまくる上、モノに溢れた狭い通路を、謡に歩いてもらうのも酷だと思ったから、これはこれでこれなのだが……。しかしこれは……。だが、この件に謡は一切触れない。それはつまり、あと2階よろしくお願いします、そういうことなのである。
 暗黙の了解の中、飛ぶ翼の顔に向かって、お日様の香りを散らしながら、バスタオルが飛んできた。
「だあぁっ洗濯物邪魔ぁ!」
 振り払われたバスタオルは、お日様の香りを残して、はらりはらりと下階へと落ちていく。
「おや、僕とっておきのお日様の香りは気に入らなかったかな?」
 上方から、気取った声が聞こえた。声の方を見ると、顔に『10』と描かれた硬貨の仮面を被った全身タイツが、黒っぽいオーラをまといながら浮いていた。バスタオルは奴のものだったのか。許せん。
「君達は、取り立て人だね? 僕は10セントウインという。短い間だが、どうぞお見知りおきを」
 タイツは、黒オーラを炎の様に燃え立たせながら、大仰なお辞儀をしてみせた。顔の硬貨単位は、セントらしい。
「セントって基本通貨単位の百分の一さよね。つまりここじゃ「1セント=0.01D」? どのみち激安じゃねぇか」
 呟く翼の背から、謡もタイツを仰ぎ見た。
「ああ、セントってそういう……つまりあのお顔が全財産の可能性?」
「ワルぶって払わないんじゃなくて、マジに金無ぇ説に一票。あの顔で支払われても、困るさね」
 確かに、「払います」と言って、顔を剥がされたら物凄く嫌だ。しかも、無くなった顔を作り直してくれる人など多分居ないだろう。何が悲しゅうて、わざわざ10セントの通貨偽造罪を犯せるかっていうもんだ。
「二人とも、何を言っているんだい? 来ないのならば、僕から行かせてもらってもいいんだが?」
 余裕綽々で、タイツは背負った黒オーラを悪魔の翼の形にしてみせた。翼を見て触発されたのだろうか。
 謡は翼の背から降り立って、辺りを見回した。負け筋は見えないのだが、一応戦闘準備だ。
「こんなに舞台が整っているのでしたら、伝統に則りまして」
 整っているというか、整っていないというか。謡はさらさらと何事かを帳面に書きつけた。すると、謡の近くの空に小さな歪みが幾つも発生し、そこから人型のものが歩み出る。
「何という……」
 召喚された人物を見て、タイツは呻いた。というのも、人物たちは皆黒いサングラスをかけ、紫色を初めとした、派手なスーツにに赤のシャツだとかを合わせ、更に豹柄とかついた、一言でいえば、『一体何処で入手した?』という格好をしている。髪形はきりきりに固く巻いたパンチパーマ、ポマードてかてかのオールバックなど、髪と地肌にとっても悪そうだ。
「おうおう、兄ちゃん、金払えやぁ!」
 ストレートな要求を掲げ、無駄にビール箱を蹴倒したり、物干しざおをぶん回しながら、召喚されたお兄さん達は、タイツへ迫ってボコる。
「ぬぬ……ロイヤルセレブタワー(の重心)を脅かす下劣の輩めぇ……僕の『暗黒破壊滅殺光線・前奏曲(プレリュード)』に飲みこまれてしまえ!」
 ボコられながらも、タイツは不思議な踊りを踊った。どうもあれは指揮しているつもりらしい。ともあれ、黒っぽいオーラの翼から発せられた黒い衝撃がお兄さん達を包み、存在を消してゆく。
 謡は更に帳面に書きつけた。新たなお兄さんが発生し、騒がしくタイツへ迫る。
「これではきりがない、か……」
 ボコられながら、タイツは思案した。そして、召喚主の謡へと目を向ける。元を断とうと思ったのだろう。
「相手はこっちさね」
 タイツの光線の陰に隠れ距離を詰めた翼が、刃を抜き放ち迫る。
「ふ……自ら斃されにくるとはね……ならば君からいかせてもらおう! 『暗黒破壊滅殺光線・間奏曲(インテルメッツォ)』!」
 タイツの黒オーラが増大する。インテルメッツォとか言っているが、さっきと寸分たがわず同じ挙動である。
「黒の間奏曲(インテルメッツォ)よ、天より射し込む光に散ぜよ……紅き花よ、あえかに散りし歌を悼み、咲きほこれ……!」
 翼の手の刃が、ふわりと彼の手を離れ、無数の赤い羽根と花弁となって、暗黒破壊滅殺光線・間奏曲(インテルメッツォ)を、タイツごと包み込んだ。
「そうか、君の目論見は。させないよ……鎮魂曲の歌い手は、この僕だ! 『暗黒破壊滅殺光線・鎮魂曲(レクイエム)』!」
「鎮魂は、全てを終わらせた者が、最後に残った者が、為せるもの……紅く泣く冥界の花、為せざる者への手向けだ……」
 黒っぽい光線と、曼珠沙華の花弁たちが、正面からぶつかり合った。衝撃でタワーの壁がびりびりいっている。徐々に赤色が黒色を押し返し、タイツを飲みこんだ。実はインテルメッツォん時と結果はまるっきり同じだ。そして、弱った所にお兄さん達のボコりラッシュが始まった。お兄さん達、弱った者に強いみたいだ。
「……ぐ、この僕が、こんな敗け方……」
 すごく不満そうにタイツは気絶した。不満な気持ちは分からないでもないが、それでも勝ちは勝ち、負けは負けである。
「ふう……?」
 刃を鞘に戻し、翼は謡へ振り返った。謡は何かを書きつけている。お兄さん達を呼んだ時とは違う帳面だ。あの帳面は、一体何なのだろう……?
「……謡さん、頼むから今のメモるなよ、マジで」
 翼の言葉には応えず、謡は、帳面越しに翼を見つめ、にこりと笑った。そして、書き終わった帳面を、ゆっくりと閉じ、大事に仕舞いこんだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『セラフィムブラスター』

POW   :    銃撃の使徒
自身の【翼】を代償に、【空飛ぶデビルガトリング】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【魔力弾の銃撃】で戦う。
SPD   :    セラフィムブースト
レベル×100km/hで飛翔しながら、自身の【デビルガトリング】から【銃弾の雨】を放つ。
WIZ   :    スマイルガトリング
自身が【微笑んでいる】いる間、レベルm半径内の対象全てに【デビルガトリングの掃射】によるダメージか【セラフィムの加護】による治癒を与え続ける。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ロイヤルセレブタワー、50階。ロイヤルセレブを謳うタワー最上階であり、それを最も体現しているエリアのはずであった。だがしかし……。
 見た目は今までの階と同じで、モノだらけだ。置いてあるのは大体同じモノなので具体的に列挙するまでもない。ただ一つ異なっているのは、他階より部屋数が少なく、部屋の間取りが広いらしいというところだ。確か、49階と家賃は同じだったような気がするが。
 それはさておき、このロイヤルセレブタワーの主を称し、住人であるセントウイン達の家賃滞納を煽っていたオブリビオンが、この階に居る。それにしても、改めて書き出してみると、オブリビオンの所業としてはなんともチンケである。
 オブリビオンの居場所は、容易にわかった。5001号室――最初の部屋だ。そこには『セラフィムブラスター』と表札がかかっている。住人達が白状した、オブリビオンの名前だ。
 あなたがドアを開けると、広々と畳の間が広がっていた。そしてその奥では、丸椅子に座った女がいる。傍らのテーブルには、カップ酒と珍味が載っている。女の背には6枚の翼とガトリングガンが浮かんでおり、背もたれのない丸椅子に座っているのは、多分それらのせいだろう。
「住人を脅しつけて、取り立てしている奴らがいるって聞いてたけど、アンタなの」
 気だるげな声で、女――セラフィムブラスターはあなたを見、カップ酒を呷った。
「でもね、家賃は払わないわよ。居住権はね、アタシたちが生きてくための権利だから……こんな世界でも」
 セラフィムブラスターが、そんな小難しいことを言ったところで大きな揺れが来た。思いっきり畳が斜めになる程だ。セラフィムブラスターの家にあまり家財が見当たらないのは、このためか。セラフィムブラスター自身は、揺れ返し共々、椅子に座ったまま、足を踏ん張って耐えている。カップ酒と珍味を絶対死守しながら。
「広いし、パシらせる下僕にも事欠かないし、こんな居心地良く引きこもれる所、他にないからね……」
 下衆い本音を堂々と言ってのけ、酒を飲み終わったセラフィムブラスターはやっと立ち上がった。居住権とはいったい。
「だから、取り立て人にはお引き取り願うわ。アタシ自ら、ってのは、面倒くさいんだけど、今エネルギーも補給したし、やるからにはやる」
 セラフィムブラスターのガトリングガンがあなたに狙いを定めた。さて、どう応戦しようか?
ティファーナ・テイル
SPDで判定
*アドリブ歓迎

「さぁ!決着だ!」と拳を向ける
『スカイステッパー』で縦横無尽に飛翔し回り『セクシィアップ・ガディスプリンセス』で♥ビーム攻撃をして『神代世界の天空神』で空間飛翔し『天空神ノ威光・黄昏』で敵のUCを封印/弱体化をし『ガディスプリンセス・レディース』で従属神群を召喚して『ガディス・ブースト・マキシマム』で♥ビーム/♥弾で攻撃をします!
猟兵や状況を見つつ『ガディスプリンセス・グラップルストライカー』で拳/髪の毛/蛇尾脚で』肉弾白兵を挑み『ジェットストリーム・ラヴハート』でSPDを強化して機会を作り見つつ隙を見て攻撃を仕掛けます!

『ゴッド・クリエイション』で鋼鉄巨神を守護する



 ロイヤルセレブ5001号室。広い畳の部屋だ。テーブルと丸椅子、カップ酒の箱、あたりめやいかくん等の珍味が詰まった箱、布団一式、家財と言えば、それくらいだ。その只中に目的の人物がいた。
 ロイヤルセレブタワーの主を称し、住人の家賃滞納を煽るオブリビオン、セラフィムブラスター。外見は、6枚の羽とガトリングガンを背に負った女であった。彼女は手にしていたカップ酒を一気に呷ると、カップを勢いよくテーブルに置いた。
「エネルギー供給完了! まあ覚悟しといて」
 ぞんざいな口調で、相対するティファーナ・テイル(ケトゥアルコワトゥル神のスカイダンサー・f24123)に言い放つと、翼で天井近くまで飛び上がった。ティファーナの上を取るつもりだ。
「さあ! 決着だ!」
 ティファーナも空を蹴り、セラフィムブラスターと同じ高度まで飛び上がって、彼女へ拳を向けた。その言葉が終わるか終わらないかのうちに、ガトリングの斉射がティファーナを襲う。
 直撃は避けたが、ティファーナの肌を、若干の銃弾が掠っていった。単射ならば避けようもあるが、広範囲の斉射は、避け切れないところがある。ならばどう対抗するか。時間稼ぎのため、ティファーナはガトリングガンへ牽制のビームを放つ。
 ビームに直撃され、ティファーナへ照準を定めかけていた1門のガトリングガンの動きが一瞬止まる。その隙をめがけ、ティファーナはもう一度ビームを放った。
「痛った!」
 ビームに打たれ、セラフィムブラスターは、敷居に頭をぶつけたような悲鳴を上げた。反撃か、制圧射撃か、ガトリングガンが精密な照準を定めないままに、ティファーナのいる方向へ斉射開始される。
 4門のガトリングガン斉射中は、流石に仕掛け辛い。ティファーナは空を跳ぶ間合いとテンポを変化させながら、回避に専念した。斉射が止んだ時こそが、仕掛ける大きなチャンスだ。
 斉射による弾幕が部屋全体に及び、視認性が悪くなってきている。ティファーナは思い切って、セラフィムブラスターの背後目がけて跳んだ。背後、それが駄目ならば至近でも良し。とにかく、斉射の及ばない場所取りだ。
 目算で跳んだ先は、セラフィムブラスターの頭上だった。そのままセラフィムブラスターの頭に着地する。
「ぐほぇぁっ!」
 蛇の尾に全体重をかけられ、セラフィムブラスターはへんな叫びを上げた。姿を捉えられる前に、ティファーナは背後へと跳ぶ。
「何処へ行った……!」
 ティファーナを探し、セラフィムブラスターが後上方へ頭を巡らせたその時――。
「隙ありー!」
 セラフィムブラスターの背後で、着地したティファーナが、下方から最大出力のビームを放った。背のガトリングガンと翼の隙間を縫って到達したビームは、セラフィムブラスターの背を灼く。
「熱っち!!」
 羽を焦がしながら、セラフィムブラスターは高速飛翔でビームから逃れ、ティファーナに向き直る。
「やるわね。ここまで来たのは、まぐれだと思ってたのに……」
 セラフィムブラスターは、再び空へと跳んだティファーナに、じっくりと狙いをつけている。大雑把な照準の斉射で片づけられる相手ではないと悟ったのだろう。ティファーナも隙を狙い、ビームで牽制しつつ跳び続ける。
 迂闊な動きはできない。しかし、動かなければ事態は打開できない。そんな膠着状態がいかばかり続いた後だろうか。
「ああ、エネルギー……」
 セラフィムブラスターが呟いた。エネルギー? そう言えば、戦闘開始前に、エネルギー供給、とか言って酒を飲んでいたが、あれが彼女のエネルギーだとでもいうのだろうか。
 ティファーナは、部屋の壁際に置いてある、カップ酒の箱を見た。ガトリング斉射に晒され、ボロボロの部屋の中で、実に綺麗なものだった。この箱を避けてガトリングを撃っているようだ。
「フフフ♥」
 悪い笑みを浮かべ、ティファーナはカップ酒の箱の前に立つ。
「そっそれはアタシのエネルギー……くっ、卑怯な!」
 身を晒し堂々と立つティファーナは格好の標的だったが、セラフィムブラスターは一瞬撃つのを躊躇った。それが彼女の命取りとなった。ティファーナのビームが、真っ向から彼女を包み、灼く。
「エネルギーは無事? よかった……」
 それが、灼かれながらセラフィムブラスターの残した台詞であった。これがカップ酒の箱でなければ、例えば支援物資とかならば、いい台詞であったはずなのだが……彼女もまた、このロイヤルセレブタワーの住人、そういうことなのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

葛籠雄・九雀
SPD

これは実に…見事な駄目オブリビオンであるな。拍手しておこう。
正直楽しそうであるし、放っておいてもよい気がして来たが…まあオレはこれでも義務を果たす仮面であるからな、仕事をするとしようぞ。

というか、この狭い部屋をそんな速度で飛翔…? 無理があるのではないか? 壁をぶち破ってしまわんか?
ま、まあよい…【見切り、逃げ足、ダッシュ】で避けつつ、【カウンター、2回攻撃、投擲、毒使い】でペルシカムを放つ。当たりたくはないが、最悪当たれば【激痛耐性、医術、継戦能力】で耐えてあの自堕落オブリビオンを引きずり落とすとするか。

ああ。
それと最後に、かにの者には部屋を返しておくであるよ。要らん。

アドリブ連携歓迎



 たっぷりのマヨネーズに少しだけ醤油をかけ、七味を散らす。そこにあたりめを突っ込んで……。
「くぅー、やっぱりあたりめは、この組み合わせが王道よね」
 セラフィムブラスターは、ゆっくりとあたりめを味わい尽くし、カップ酒を一口、いやカップ半分くらい飲み干した。
「ああー、しみるわぁー」
 また、あたりめの載った紙皿へ手を伸ばす……と、もうなかった。あれが最後のあたりめだったのだ。
「いかくんならまだあるけど、今は絶対的にあたりめの気分なんだよね……おーい! セントウイン! ちょっとあたりめ買ってきて!」
 しかし、セントウインは誰もこない。またバーベキューやら、かにパーティやらやっているのだろう。どやしつけるために、セラフィムブラスターが重い腰を上げた、その時だった。
 部屋の入口から、誰かが拍手しながら堂々入って来る。
「これは実に……見事な駄目オブリビオンであるな」
 まるでラスボスのように登場したのは、葛籠雄・九雀(支離滅裂な仮面・f17337)だった。安酒浸りの女オブリビオンは、本人は現状に満足しまくっているし、そのままにしておいても、大して世界の害にはならなさそうだが、そこはそれ、九雀は頼まれごとは義理堅く果たす仮面であった。
「駄目? 駄目っていった方が、もっと駄目なんだからね! ってアンタ取り立て人!?」
 駄目な台詞とともに、セラフィムブラスターは6枚の羽で天井まで飛翔した。身を翻す速さは、なるほどロイヤルセレブタワーの主を名乗るオブリビオンなのだろうが、狭い部屋――それでもロイヤルセレブタワーでは広い方なのだが――で高速飛翔は、無理がある。つまり、自身の持ち味を全く生かせていない。
(「壁をぶち破ってしまわんか? と思ったが、ぶち破らない方が良いには良いであるな」)
 ガトリングガンが、九雀目がけて斉射される。精度は大したことないが、問題は弾数の多さだった。なんとかも、数撃ちゃ当たる、というなんとかだ。九雀は弾の密集する辺りを避けて、弾道の死角、足下へとスライディングして潜りこんだ。避け切れなかった弾が胴と腕を掠ったが、痛み程には深手ではない。この身体に継戦能力は充分残っている。
 九雀はセラフィムブラスターの足下をすり抜けざまに、様々な効用を持つ毒針を投げつけた。幾ばくかはガトリングガン本体に弾かれたものの、手応えはあった。さて、どの毒を仕込んだ針が刺さったものやら。
「なんか、ちくちくするなー」
 斉射を終えたセラフィムブラスターは、背後に回り込んだ九雀に、くるりと向き直った。こういう時、上方を飛んでいるというのは、狭い中にも大きなアドバンテージだ。再びガトリングガンが火を吹く。
 セラフィムブラスター宅の寂しい家財では、遮蔽にもならず、九雀は部屋を駆けて回避する。不幸中の幸いといえば、弾道が読みやすいということくらいか。
 回避を続ける九雀に追従して飛ぶセラフィムブラスターの背が、壁に当たった。そこで、揺れ動いていた弾道が一方向で止まった。弾幕の隙を縫い、セラフィムブラスターの側面に貼りついた九雀は、無数の毒針を投げつけた。今度は先程よりも刺さった本数が多いようだ。
「痛ッた! 針でチクチクって、ちょっと陰湿じゃ……」
 非難の声を上げたセラフィムブラスターの声が途切れ、6枚の羽を別々にバタバタさせ、身悶えし始めた。手で背中を掻こうとしているようだが、届かないようだ。
「かっゆ! かゆっ! アンタもしかして前世、蚊じゃないの!?」
 ……多分びらん毒が効きはじめたのだろうが……セラフィムブラスターは痒みで飛んでいられずに、ズ……ンという音と共に、地面に着地する。重みに耐えられず、畳が沈み込んだ。
 どすどすと音を立て、セラフィムブラスターは部屋を歩き回る。どうやら、軽やかな動きは羽あってのものだったようだ。機動力を奪った今ならば、ガトリングガンの攻撃も精彩を欠くというものだ。
 実際、狙いはぶれぶれで、時折痒みに耐えかねて斉射も止まる。それを幸い、九雀はセラフィムブラスターに、毒針のお代わりを雨あられと食らわせた。
「そんなほっそい針で、アタシを倒せると思ったら……ぅぅ」
 セラフィムブラスターは、ふらふら千鳥足でガトリングガンを撃ちはじめる。今まで以上に雑な斉射は、九雀の毒針で弾を弾き返せるほどだ。ぴしぴしと弾いた弾は、セラフィムブラスターに当たっているが、本人は痛みを感じる余裕がなさそうだ。
「アタシ、そんなに飲んでないはずなんだけどな……戦って酔いが回った? ぅっ」
 セラフィムブラスターは、とうとう大の字にひっくり返った。
「だめだぁ~。酔ったわぁ~。ぅぇぇ」
「それでは、オレの勝ちであるな。あと、かにの者の部屋は返す。要らん」
 ぐでんぐでんになったセラフィムブラスターは、虫の息で九雀に異議を申し立てようとしたが、そのまま力尽きた。
 それにしても……毒針には、嘔吐作用のあるものも混じっていたが、これほどまでに効くとは思わなかった。いや、もしかしてもしかすると、本当にセラフィムブラスターは酔いが回って自滅したのかもしれない。
 それは尽きせぬ謎であった。が、九雀に追及する気はさらさらなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

火土金水・明
「今度のセラフィムブラスターは、酔っぱらい属性ですか。」「さて、酔っぱらいには、水をかけるのが一番なのですが、ここは氷属性で代用しましょうか。」
【WIZ】で攻撃です。
攻撃方法は、【継続ダメージ】と【鎧無視攻撃】と【貫通攻撃】を付け【フェイント】を絡めた【コキュートス・ブリザード】を【範囲攻撃】にして、『セラフィムブラスター』とカップ酒の箱を纏めて【2回攻撃】します。相手の攻撃に関しては【見切り】【残像】【オーラ防御】で、ダメージの軽減を試みます。
「(攻撃を回避したら)残念、それは残像です。」「少しでもダメージを与えて次の方に。」
アドリブや他の方との絡み等はお任せします。



 部屋の隅に重ねて置いてあるカップ酒の段ボールを見、セラフィムブラスターは慈母のような微笑みを浮かべた。
「良いわ……そうね、おつまみは、あたりめ? いかくん? いえ、奮発していかの塩辛もいいかもしれないわね……」
 彼女は余程いかが好きなのであろう。挙げた候補はすべていかであった。そして、彼女の手が、最初のカップ酒の封を切ろうとする……。
「今度のセラフィムブラスターは、酔っぱらい属性ですか」
 至高の一時を邪魔されたセラフィムブラスターは、声の方を鋭く見返した。そこには、いつの間に5001号室へたどり着いたのか、火土金水・明(夜闇のウィザード・f01561)がいた。
「アタシは酔っぱらってなんかないわよ!」
 酔っ払いの常套句を吐いて、セラフィムブラスターは明に向き直った。そこじゃなくって、『今度の』セラフィムブラスター、とか突っ込むところは他にもあるだろうに。
「さて、酔っぱらいには、水をかけるのが一番なのですが、ここは氷属性で代用しましょうか」
「まあとりあえず、さっさと終わらせて、やっぱり今日はもっと奮発して松前漬け……」
 セラフィムブラスターは、うっとりと微笑んだ。それに呼応して、背に負う4門のデビルガトリングが高い唸り音を立て、怒涛のような斉射が始まった。
 狙いは全くつけていないようだが、戦場全周に及ぶ斉射は、死角……回避の余地をごり押しで潰してゆく。やむなく明は、魔術によって生成したオーラをまとい、弾を受け止める。
 弾が飛び交う中、明も反撃の機会を狙う。魔術により、大量の氷柱を呼び出すが、考えなしに撃ち出しても弾に粉砕されて終わりだ。少し宙に浮いたセラフィムブラスター自身は、隙だらけなのだが、それを弾幕で補っているのだ。
「全然攻めてこないけど、なに? これじゃいつまで経っても終わんないじゃない」
 煽った拍子に、松前漬けの幻想に浸っていたセラフィムブラスターの笑みが消えた。すると、デビルガトリングの斉射もやむ。
(「なるほど、そういうことですか」)
 デビルガトリングの斉射は、笑っている間だけ。つまり、セラフィムブラスターが笑ってられない状況に追い込めば、勝ち筋も見えてくるだろう。
 明は、セラフィムブラスターが恍惚の表情を浮かべていた辺りを見た。数箱の段ボール箱が重ねて置いてある。斉射の只中にあって、傷一つなく綺麗なものだ。箱の印刷によれば、中身はカップ酒……さもありなん。
「さあさあ! いらっしゃ~い」
 調子に乗ったセラフィムブラスターは、にまにま笑みながら、再びデビルガトリングの斉射が始めた。だが、今や、それを凌ぐ策が、明にはあった。
「……こんな趣向はいかがでしょうか」
 明は、氷柱の硬度を上げ、貫通力を上げる。それでも、セラフィムブラスターまで到達しなくてもよい。本当の狙いは……。明は弾幕の薄い所を狙い氷柱の群れを放った。一回の斉射と見せかけ、時間差でもう一度氷柱の群れを放つ。
 氷柱の群れは、セラフィムブラスターの弾幕とせめぎ合ったが、第二弾の氷柱の破片が、セラフィムブラスターに刺さり、カップ酒の段ボールを粉砕する。
「ああっっ!!」
 セラフィムブラスターは甲高い声で悲鳴を上げた。肉体の痛みからではない。心のよりどころを失った者の、それはそれは悲痛な悲鳴であった。
「そんな、ひどい……アタシの大事な命のお水……」
 微笑みを失った天使は、何事かをぶつぶつ呟きながら、尚もデビルガトリングを撃つが、先程の圧倒的な斉射と比べれば、降り始めの雨のようなものだ。明は弾を見切りながら、セラフィムブラスターへと接近する。
「……!?」
 それまで明を見つめていた、セラフィムブラスターの視線が宙の一点で止まった。その先にはガタガタになったテーブルがあり、無事なカップ酒が一個残っている。戦いの前に飲もうとしていたものだ。
 カップ酒に向かってダッシュしたセラフィムブラスターに先んじ、明は駆ける。そして、カップ酒を手にしたのは――。
「身軽さの勝利ですね」
 明に命のお水を奪取され、セラフィムブラスターはうなだれた。先程までの笑みを浮かべる余裕も無く、憔悴しきっている。
「このカップ酒を、返してあげてもよいですよ」
「!」
「ただし、家賃は耳を揃えて全部払ってくださいね。できますか?」
 セラフィムブラスターは激しく頷いた。そして、明から受け取ったカップ酒を、大切そうに抱きしめた。それがもうちょっと違う物であれば、聖女にも見えたものを……。
「今回のセラフィムブラスターは、あっけなかったですね」
 あっさりと取り立て完了し、明はロイヤルセレブタワーを後にする。次のセラフィムブラスターは、もうちょっと骨のあるセラフィムブラスターだと良いのだが。

大成功 🔵​🔵​🔵​

陽環・柳火(サポート)
 東方妖怪のグールドライバー×戦巫女、21歳の女です。
 普段の口調は「チンピラ(俺、てめぇ、ぜ、だぜ、じゃん、じゃねぇの? )」

悪い奴らはぶっ潰す。そんな感じにシンプルに考えています。
戦闘では炎系の属性攻撃を交えた武器や護符による攻撃が多い。
冒険等では割と力業を好みますが、護符衣装を分解して作った護符などを操作したりなどの小技も使えます。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!



 ロイヤルセレブタワーの主を名乗る、セラフィムブラスターは、がたつく窓から左右に揺れる景色を眺めていた。
 50階建ての最上階だけあって、並ぶ高さの建物はなく、景色が良く見える。そのため、というかその一点のためだけに、上層階は破格の家賃が設定されていた。
 とは言え、セラフィムブラスターは家賃を払っていなかった。いつの頃からか、と問われると、自分でも記憶が定かではない。多分、最初からであろう。
 最近では、住人であるセントウイン達も、家賃を踏み倒しているらしい。そして、家賃の取り立て人を実力行使で追い払っているようだ。もっとも、セラフィムブラスターも取り立て人が来たならば、同様の仕打ちをするだろう。
 そして今、セントウイン達を退け、セラフィムブラスター自身にまで辿りついた取り立て人が目の前に居る。見た目は猫耳と二股の尻尾を持つ、黒髪の少女――実際の年齢は知れないが――陽環・柳火(突撃爆砕火の玉キャット・f28629)だ。
「てめぇ家賃払ってないんだってな。タワーの主を名のんなら、きっちり払うんが筋じゃねぇの?」
 柳火は、小さな体で胸を張り、窓際に佇むセラフィムブラスターに、堂々言ってのけた。
「しかたないよ、お金がないからね……」
 セラフィムブラスターは、気だるげに応じる。しかし部屋を良く見ると、家財は少ないながらも、部屋の隅には箱買いのカップ酒だの、おつまみだのが大量に積み重なっている。
「金の使いどころがおかしいんだよ、てめぇは」
 的確に柳火に指摘され、セラフィムブラスターは一瞬黙った。痛い所を突かれたようだ。代わりにガトリングガンが柳火に照準を定める。やる気だ。柳火も懐からにゃんジュールを取り出し、中のジュールを吸った。かつお味がじんわりと沁み、それに伴って全身に魔力が満ちてゆく。やはりかつお味は至高だ。
「我は翼を代償に捧げる……」
 セラフィムブラスターが両手を拡げるとともに、羽が消失した。代わりにガトリングガンに魔力が注がれる。どうやら柳火と似た術を使ったようだ。
「翼のもげたセラフィム、ってか? それじゃあもうセラフィムじゃなくね?」
 柳火は、炎の護符をセラフィムブラスターへと投じた。標的を追うように、あらかじめ術式を描いた護符は、ガトリングガンをすり抜けてセラフィムブラスターへと迫る。
「翼があろうとなかろうと、アタシはアタシだもの」
 セラフィムブラスターはそう応えた。何か良い事を言ったように見えるが、そもそも今は家賃取り立ての場である。ガトリングガンから魔力弾が撃ち出され、柳火を追う。柳火は変幻自在の動きでいなそうとしたが、追いすがった弾は柳火を背から撃ち抜いた。
(「こりゃ面倒だぜ」)
 魔力弾の追尾性能は高く、この部屋に遮蔽になるものは少ない。このまま戦えば、更なる被弾は免れまい。
(「あれをやってみるか」)
 柳火は護符衣裳をぽんぽんと叩いた。衣裳を象っていた護符が剥がれてゆき、ふわりふわりと宙を舞う。柳火は、にゃんジュール補給で得た魔力を注ぎ込み、護符に己の姿を映し出した。
 何人もの柳火が、同時に炎の護符を操りセラフィムブラスターを襲う。四方八方から繰り出される炎は、いかに力あるオブリビオンとて、全てを避け得なかった。
「これって分身の術? どれが本体よ?」
「それも見極められないんかい。大したことないじゃん」
 セラフィムブラスターは、喋った柳火に向けて、魔力弾を集中させたが、それは護符であった。本人が喋ってみせるなんて、そんなヘマはしない。また、柳火達の集中砲火がセラフィムブラスターを襲い、彼女を炎上させる。
「熱っつ!!」
 やはり、護符を撃ち抜いたセラフィムブラスターは炎に巻かれながら、苛立たし気に魔力弾を乱射した。もう余裕がないように見える。柳火達は、とどめの爆裂弾護符を放った。
「家賃、払えっつーの!」
 柳火達の声と共に巻き起こった轟音と業火が、セラフィムブラスターを飲みこみ、炎が去った後には、丸焦げで髪の毛が逆立ったセラフィムブラスターが残された。
「なあ、家賃払うよな。でないと、そこの酒、差し押さえて持ってくぜ」
 戦意をごっそり失くしたセラフィムブラスターに、柳火の言葉は深く響いたようだった。セラフィムブラスターは項垂れ、家賃を払うと約束したのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2021年02月25日


挿絵イラスト