誰が鳥籠を覗いたか
●サクラミラージュ
招待状が用意されたのは、しんしんと静かに雪と桜が降り積もる夜のこと。
漆黒の封筒に収められた墨染便箋には黄金のインクで書き綴られた文字が踊る。
『拝啓。桜雪霏々として寒冷の候。
来る十二月二十四日、聖夜を祝う晩餐会を相催す事となりました。
ぜひご来臨くださいますようご案内申しあげます』
封筒から、はらりと零れ落ちたのは、一枚の鳥の羽。
●グリモアベース
「鳥類を愛でる男がおりました。仮にBと呼びましょう。彼の住む館には鳥をモチーフにした絵画や彫刻、そして剥製が並んでいるのだそうで。誰が呼んだか『鳥籠館』。華美を尽くしたそれは麗しい洋館でごさいましたけれど」
ペラリ。マスクから(怪奇録・f22795)頁の捲れる音がして、諳んじるような口調が変わる。
「Bの死後、鳥籠館は人手に渡り今はカフェーとなっていてね」
これがなかなかに洒落た店なのだという。
改装はしてあるが洋館の設えはほぼそのまま残っており。
シックでどこかミステリアスな雰囲気が、静かな人気なのだとか。
「そのカフェーで晩餐会を開くのだが。行ってみないか」
晩餐会なんて仰々しい呼び方だが、要するに食事をするだけだよ。
そんな事を言いながら、あなたへ招待状の入った封筒が渡される。
「中には招待状と、鳥の羽が一枚入っていてね。客人はこれを身に着けたりするのさ」
なにしろ、鳥籠館だからね。
鳥の羽はランダムに色んな羽が入っているのだそうで。
「ちょっとした遊びだよ。鳥言葉なんてのもあるし、なにが当たるか面白いじゃないか」
せっかくの聖夜だ。食事を楽しみ平和に過ごそう……それとも館をこっそり見て回るかい?
好奇心を煽るように、マスクの亀裂めいた口がひそめく。
――Bの死因は、聞かないほうが良いよ。
「それじゃあメリークリスマス。よい一日を」
鍵森
クリスマスシナリオです。
クリスマスだけどなんだか不穏な館に招かれませんか。
特に事件はおこりません。平和平和。
●鳥籠館
『鳥籠館』は、そのまま店名となっています。
食事の他に探索/調査/聞き込み等も行えますが。
事件がある訳ではないので必然ではありません。
ご自由にお過ごしください。
●補足
希望があれば個室もご利用できます。
ご注文は、カフェーにありそうなものでしたらなんでもどうぞ。
食事は特に指定がなければ洋食のフルコースとなっております。
未成年の飲酒はできません。
鳥の羽はお任せの場合こちらで選ばせて頂きますね。
●受付
OP公開直後から募集しています。
断章の投稿はございません。
ここまでお目通しありがとうございます。
皆様のご参加お待ちしております。
第1章 日常
『サクラミラージュのクリスマス』
|
POW : カフェー特製のクリスマスメニューに舌鼓を打つ
SPD : カフェーのメイドさんやボーイさんと楽しく過ごす
WIZ : 恋人や家族と共に、クリスマスパーティーの趣向を楽しむ
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
安寧・肆号
スミン(f25171)とお食事にきたわ。
お洋服とベレー帽は色違いでお揃いなのよ。
鳥の羽根は胸につけて完璧。
聖夜っていうのは……なんでもなくない日のことよ。
つまりは、お祝いに招待されたの!
連れたって鳥籠館をノック。
こんばんは!招待状をもらったのよ。
子ども2人だけど、大丈夫かしら。
まあ、まあ!
色々な鳥がたくさん!
そんなところでチキンを食べるのは失礼かしら。
スミン、ドードーは絶滅してるのよ。
無いものを言っても困らせちゃうわ。
美味しい!
こんな素敵なところで、美味しい料理を食べたのは初めてよ!
美味しくて頬が落ちそうね。
死因あて?そうね。
検討もつかないけど…鳥葬だったら幸せね!
アドリブ他おまかせ
スミンテウス・マウスドール
アンネ(f18025)と
このスミンテウスは初めて知らない世界にきたよ。
ところで聖夜ってなに?……なんでもなくない日?
それはめでたい。きたいマックス。
服はアンネと色ちがいの綺麗なやつ。
羽根ェ?そんなのどこでもいいよ!あたまに刺そう。わかりやすいからね。
鳥。とり。トリ。かこまれすぎて鳥頭になりそう。
ご注文は鳥料理でたのむよ。
このスミンテウスはドードー鳥がわりと好きなんだ。
ない?えぇ?そう。
紅茶はないの?ある?ティー!
せっかくだから死因あてゲームしよう。死因いったほうがかち。
鳥にかこまれすぎて鳥頭になった。つまりはじさつだ。
どう?
鳥葬?それは死んだあとだよ。
桜の花びらと雪が重なり合い、淡いピンク色に染まるような雪景色が広がって。
点々と並ぶ街灯の光の下を、二つの影が通り過ぎていく。
このスミンテウスは初めて知らない世界にきたよ。
新雪の上に足跡をつけながら、吐息だけで呟いた。
スミンテウス・マウスドール(だれかが視てる夢・f25171)は、凍った桜の花弁が靴にくっつくのを見て小さく瞳を瞬いた。それから隣を見やって。
「ところで聖夜ってなに? ……なんでもなくない日?」
「聖夜っていうのは……なんでもなくない日のことよ」
安寧・肆号(4番目・f18025)が、お姉さんらしい優しい口ぶりでそう答える。
「それはめでたい。きたいマックス」
今宵は招かれたのだから。二人は色違いの奇麗な服に身を包んでいた。
片方が赤なら片方は緑だろう。あるいは青と白。もしくは黄色と茶色だったかもしれない。
いずれにせよこの二人は似て非なる出で立ちを楽しんでいるに違いない。それほどに洒落ている。
二人は鳥籠館の玄関の前で一度、立ち止まった。
雪風に飛ばされないように携えてきた招待状の封筒から羽根を取り出して肆号が尋ねる。
「スミン、羽根をつける場所は決めた?」
「羽根ェ? そんなのどこでもいいよ!」
スミンテウスはそう言って、さっさとカグーの羽根を頭のところへつけた。
あたまに刺そう。わかりやすいからね。
「そうね、いい考えだと思うわ!」
頷きながら肆号は胸にナキハクチョウの羽根を差し止めて、それからベレー帽の位置を確かめる。
身だしなみを整えると、肆号は鳥籠館の扉をノックした。
「子ども二人だけど、大丈夫かしら」
ええもちろんようこそおいで下さいました。
外は寒かったでしょうさあどうぞ中へお入りください。
すぐにメード達が二人を丁寧に館の中へと招く。
暖かな部屋の中で四方八方に取り囲む鳥たちが迎えた。生きた鳥は一匹もいない。
すべて芸術であり、コレクションだ。
「まあ、まあ!」
肆号は思わず目を瞠った。
「色々な鳥がたくさん!」
「鳥。とり。トリ。かこまれすぎて鳥頭になりそう」
スミンテウスがやれやれと頭を振る。
二人は、ツリーの近くにある席へと案内された。もみの木にはたくさんの小鳥がオーナメントのように飾られていて、つぶらな黒い瞳を向けている。
「ご注文は鳥料理でたのむよ」
迷う素振りもなく言ってのけたスミンテウスに、肆号は虚を突かれたような心地を覚える。
彼女は(こんなところでチキンを食べるのは失礼かしら)と鳥たちの視線に遠慮が浮かんでいたのだ。
「このスミンテウスはドードー鳥がわりと好きなんだ。ない?」
「スミン、ドードーは絶滅してるのよ。無いものを言っても困らせちゃうわ」
「えぇ? そう」
スミンテウスは残念そうに肩をすくめた。初めての世界での残念なことの一つかもしれない。
きっと幾多の世界でドードーは絶滅して、しかしどこかの世界ではバターソテーになるのだ。
「紅茶はないの? ある? ティー!」
どうやら紅茶は絶滅していないらしい。スミンテウスは素直に喜びの声を上げる。
注文を伺っていたメードは快く頷いていた。子供の冗談だと思ったのだろうか。
二人のために用意された料理が運ばれてくる。前菜から順に、適切なタイミングで。
「美味しい!」
料理を口にした肆号はあどけなく声を上げた。
「こんな素敵なところで、美味しい料理を食べたのは初めてよ! 美味しくて頬が落ちそうね」
メインの鳥料理は鶏もも肉のポワレ。
白い皿の上にこんがりと焼き目のついた肉が見栄え良く盛られ、上から滴るような真っ赤なソースが掛かっている。
ナイフとフォークを使い上手に肉を切り分けて、口の中へ運べば。
表面はパリッと中身はやわらかく、肉の旨味が口一杯に広がって。
甘酸っぱい果物のソースが、その味をさらに彩るのだった。
さてこれはなんの鳥であろうか、それは気にすることはない。
ドードー以外の鳥であることは確かである。
腹も満たされくつろいだ心地になれば、会話も弾むことだろう。
そのうち二人はゲームを始めた。
「せっかくだから」とスミンテウスは思いつき。
「なあに」肆号は尋ねる。
「死因あてゲームしよう」
「死因あて?」
「死因いったほうがかち」
「いいわ」
誰の死因か。それは言わなくても互いに解っている。
ちょっとしたリドルを楽しもうという具合なのだ。
「鳥にかこまれすぎて鳥頭になった。つまりはじさつだ」
先に答えたのは、スミンテウス。頭の横で人差し指をくるくると回してみせた。
頭の外も内も鳥になってしまったのなら、ここにいる鳥だってそれを見ていた筈だ。
それとも記憶を亡くしてしまっただろうか。三歩も歩かない内に。
「どう?」
順番を回す。
「そうね。検討もつかないけど……鳥葬だったら幸せね!」
己の血と肉が愛する鳥に啄まれていくのだ。きっと男は喜んだだろう。
幸せな死に方はなにかと、そのように思考を至らせた肆号の笑みは、優しいものであるかもしれない。
でも残念。それはかちじゃない。と、スミンテウス。
「鳥葬? それは死んだあとだよ」
やがて二人のために紅茶が運ばれてくる。
ティーワゴンには紅茶のセットと供に苺のクリスマスケーキも載せられていて。
なんでもなくない日の夜は穏やかに過ぎていく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
榎本・英
(羽お任せ)
面白い招待状を頂いたよ。
何やら面白い話も残っているようだね。
使い魔は立ち入り禁止かな?
禁止ならばナツには懐に隠れていてもらおう。
カフェーで食事をするのも良いが、私は此処を見てまわりたい。
カフェーと言えばライスカレーだ。
彼方の彫刻は一体何に利用をされたのだろう
彼方の剥製は何を見ていたのだろう。
嗚呼。此処を舞台に何かを書いてみるのも楽しそうだ。
犯人は差し詰め鳥人間と言った所か。
いやしかしそれだと捻りが無い。
あれを使い、これを使いと考えている間に
ライスカレーは無くなった
さて、こっそりと此処を見て回ろう。
鳥言葉と云うのも気になる。
こんな日にこんな事を考えるのも良くないがね。
面白い。
そのように、受け取ったのだ。
件の館は、帝都の中心からは少し外れた場所にあるようだ。
そうした隠れ家めいた立地も、人気の秘密なのかしれない。
人目を忍んでひっそりと通いたくなるような道筋を行けばカフェーが見えてくる。
出迎えたボーイは招待状を確認すると恭しく彼を館の中へ招いた。
ところで。
「使い魔は立ち入り禁止かな?」
そうっと低めた声で囁いて、懐の中にいる猫の使い魔の首筋をくすぐれば。
雪が積もるような冷たい夜のことだから、仔猫は温かい場所で丸くなっている
榎本・英(人である・f22898)のそうした仕草をボーイは見。
隠されていたほうが、よろしいでしょう。
鳥籠館は――猫を禁じておりましたから。
"おりました"――過去形だ。
ボーイに目礼して館の中へと入れば、多角形の玄関ホールは如何にも鳥籠めいていた。
「なるほど、鳥だらけだ」
禽舎もかくやという様相である。
ぐるりと壁を彩るように飾り付けられた鳥たちの絵。
彫刻や剥製は、静かに佇み来客を眺めているように見える。
家具の装飾も鳥ばかりで、ふと見たランプの飾りは真鍮のハトだった。
彼方の彫刻は一体何に利用をされたのだろう。
凶器かもしれぬ。
彼方の剥製は何を見ていたのだろう。
目撃者かもしれぬ。
「嗚呼。此処を舞台に何かを書いてみるのも楽しそうだ」
有象無象の文章が頭の中に浮かんで綴られ断片となる。
自分が感じているものを文章に起こそうと、咄嗟の閃きを留めようと脳髄が働きだしている。
作家の性だ。
「君、ライスカレーを頼むよ」
席につくなり、英はさっと注文を済ませた。
ゆっくりと食事を楽しむよりも、もっと他のところも見せてくれと、その瞳は獲物を狙う猫のような輝きを一瞬だけ覗かせる。
料理が運ばれてくるまでの時間、しばし思索にふける。
鳥籠館で事件が起こるなら。
犯人は差し詰め鳥人間と言った所か。……いやしかしそれだと捻りが無い。
「鳥が人を襲うなら動機はどうする」
鳥人間も原型としては面白い、どう膨らませてやろうか。鳥でもなく人でもない。もしくは鳥であり人である容疑者Xは、なんのために罪を犯すのだろう。
「他に招待状を受け取ったのは誰だ」
これが小説ならあの黒い封筒は事件の関係者に届けられるに決まっている。
無論、探偵は除いて。
視線をめぐらせれば、他にも客の姿を確認できる。英以外の猟兵もいるようだが。一般人らしき物もいる。常連らしく親しげにメードと会話を交わす様子などからそれは推察できた。
やがて、ライスカレーが運ばれてくる。
正直なところ、味は解らなかっただろう。程よく辛くてしょっぱくて野菜はごろりとしていたが、想像に忙しい作家を引き戻すほどの感動は与えられないに違いない。
クリスマスらしく星型にカットされた人参も、気づかれない内に口の中へ消えている。
そも、招待状はなぜ用意されたのか。
「見立て殺人への伏線? いや、暗号、メッセージ」
何枚かは無作意に配られたとして、特定の人物には決められた鳥を充てがう。
そのための招待状なのだ。……小説にするならその方が意味は通る。
視線をめぐらせる。カッコウの羽根を付けた貴婦人、ガチョウの羽根は初老の男、ワインを飲む青年はキレンジャクの羽根。
「……私の羽根はなんの鳥だったろう」
そう言って指先につまんで眺めたのは小鳥の羽根。
懐の中でナツがもぞりとした。じゃれはしないだろうけれど、気になるのかもしれない。
キツツキフィンチ、という鳥がいる。英の手の中にある羽根の持ち主だ。
絶海の孤島に暮らすこの小さな鳥の特徴といえば、その見た目ではなく狩りに在る。
彼らは木の中に潜む虫を捕るために細長い道具(茎や時に人の落とした針金)をくわえて小さな穴に差し入れ、くちばしの届かぬ奥に隠れた虫も引きずり出す。
そのような方法を生み出した、キツツキフィンチの鳥言葉の一つは『柔軟な発想』。
ライスカレーをすっかり食べ終えて。
音も無く、英は立ち上がった。
――さて、こっそりと此処を見て回ろう。
聖夜であっても"仕事"気分が抜けないものだ。
こんな日にこんな事を考えるのも良くないがね。
ふっと暗闇の方へ消えるような影を、鳥だけが見ている。
大成功
🔵🔵🔵
蘭・七結
【桜一華】
カンカン帽にバッスルドレス
踵の高いお気に入りの靴を履いて
はらり舞い落ちた羽根は胸元へ飾りましょう
桜華舞う世界の淑女らしく振る舞うわ
とてもお似合いだわ、さよさん
燕尾服を纏わうあなたのなんと凛々しいこと
ふふ。まるできょうだいのよう
なんだか胸の奥が擽ったくて
けれども、あたたかい心地だわ
とてもステキな洋館ね
鳥籠と名がつくのだもの
愛でるように、逃さぬように
大切ななにかを仕舞っていたのかしら
……ふふ。なあんて
それを知るのは、ひとりきり
胸元に添えた羽根は如何なる鳥のものかしら
鳥言葉、というものがあるのだそう
ちょっぴり気に留まってしまうわ
おいしいお食事に舌づつみ
華やぐひと時を、あなたと語らいましょう
誘名・櫻宵
【桜一華】
あら!素敵な装いだこと
似合うわよ、七結
お手をどうぞ、お嬢様
素敵な淑女はしっかりとエスコートしないと
纏うのは晩餐会にお似合いの燕尾服
鳥の羽は胸に飾るわ
並んでカツリ、踵をならす
きょうだいのようで心が踊ってしまう
あなたも同じ気持ちかしら?
通じる想いが嬉しくて心が擽ったい
鳥籠の
七結は籠の鳥だったことはおあり?
捕らえたいと思ったことは?
愛しきものは逃がさぬよう
外の世界から護るよう
加護を与えるものなのかしら
きっと
神のみぞ知る
鳥言葉
気になるわ
あなたという小鳥を示す言葉はなにかしら
美味しい御料理を楽しんで
何より美味しいのは
かぁいいあなたの表情がからりころりと移ろい語られる
春告の噺たち
うふふ
ご馳走様よ
夜桜はほんのりと雪明りに浮かび上がって。
しんと物静かな夜に現れたのは、華麗なる一組の男女。
カンカン帽にバッスルドレス、粋にハイソに着こなした。蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)の胸元にはベニイロフラミンゴの羽根。
「あら! 素敵な装いだこと。似合うわよ、七結」
「さよさんも、とてもお似合いだわ」
燕尾服を纏わうあなたのなんと凛々しいこと。
褒めそやす視線の先で、誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)は恭しく手を差し出して微笑んだ。その胸にはタンチョウヅルの羽根。
「お手をどうぞ、お嬢様」
「ええ」
参りましょう。と手と手をつないで歩き出す。
鳥籠館は丁寧に二人を迎え入れた。
今日の為に履いてきたお気に入りの靴なのだと七結は楽しげに。
カツリカツリ、靴音も踊るように床板を鳴らした。
その様子を見つめる櫻宵の瞳は、実に優しい色が浮かんでいる。
美男美女であり紳士淑女である両人が並び立てば、周りの空気も華やいで。
気心知れた様子で笑み交わすその姿はただ麗しい。
「ふふ。まるできょうだいのよう」
七結の呟きに。ああ同じ気持ちでいるのだと、櫻宵は嬉しかった。
たがいに心を踊らせて、なんだか擽ったいような、あたたかで不思議な心地がしている。
二人が案内されたのは窓際のテーブル。
黒い格子状の窓枠からは、手入れの行き届いた庭園がよく見える。
「とてもステキな洋館ね」
「そうね、お庭も綺麗だわ」
桜と雪とが舞う幻想的な夜の景色を眺める内に、料理が運ばれてくるだろう。
前菜は彩りの良い五種の取り合わせ。
アペリティフはもちろんノンアルコールの飲み物が注がれた。
二人はあたたかな談笑を交わし、料理を味わい、聖夜を楽しむ。
不意に。
格子状の窓枠を七結がその白くほっそりとした指でなぞる。
話の流れで、自然とそのように、意識が向いたのだろう。
この館の創りが、鳥の絵画や彫刻が、そうさせるのかもしれない。
「鳥籠と名がつくのだもの」
鳥籠の。櫻宵は頭の中で反芻する。
「愛でるように、逃さぬように」
愛しきものは逃がさぬよう。
「大切な"なにか"を仕舞っていたのかしら」
外の世界から護るよう。
共鳴するように言葉が重なりあう、まるで鏡写しのようだと櫻宵は思う。
「……ふふ。なあんて」七結がころころと笑った。
冗談。
かわいらしい他愛もない戯言である。
けれど、
「七結」
呼び止めるように思わずこぼれた声はすこし揺れていた。
不思議な微笑をたたえて、七結は首を傾ける。
櫻宵の一度閉じられた唇が薄っすらと開いて、ゆっくりと息を吸い、言葉を継ぐ。
「七結は籠の鳥だったことはおあり?」
それとも。
「捕らえたいと思ったことは?」
問い質しているわけでもない、ただ訊いただけ。
だから、答えを待つような言い方をしなかった。
七結も、肯定も否定もしない。
通じる想いがあればこそ、眼と眼でだけで慮ることが出来るから。
愛すれば、愛の名のもとに、愛ゆえに。
独り言のように、櫻宵は呟く。
「加護を与えるものなのかしら」
それを知るのは、ひとりきり。と七結。
きっと、神のみぞ知る。と櫻宵。
それぞれに至った結論は、過程も論点もちがうのに、どこか似通っている。
二人はしばし言葉もなく見つめ合った。
「さよさん」
「ええ」
「まるできょうだいのよう。わたしたち」
先ほどと同じ台詞だ。
きょとんと目を丸くした櫻宵に、七結は屈託のない目配せをしてみせた。
妹が兄にする、じゃれるような可愛らしさで。
「ふふ」
「うふふ」
表情を柔くほころばせて、二人はくすくすと笑いあう。
ベニイロフラミンゴとタンチョウヅル。
全く別の鳥であるけれど、冠する言葉は『優雅』。
今宵の二人を表すような偶然を知れば、それもまた話の種になるだろうか。
噺に花を咲かせて囀るように語らいましょう。
ご馳走様を告げる時まで。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
オズ・ケストナー
【咲日花】
羽お任せ
わたしとクロバは探偵と助手さんだから
なんでもかいけつするんだよっ
これなんの羽かな
付けつつ
ねえクロバ、なんだかじけんのかおりがするね
すんすん
おいしそうなにおいだ
とりあえず食べながらようすをみよう(がんばってキリッとする
メニューになにか暗号がはいってるとか
クロバ、と手招いてメニューで顔隠し内緒話
――メインは肉と魚どっちがいい?
ぜんぶおいしそう
このワインの名前とかどう?
よみにくい、あやしい
あ、わたしは食後に紅茶がいいなっ
クロバ、これおいしいっ
わあ、たべるっ
じゃあわたしのもひとくちどうぞ
次はなにかな
デザートもたのしみ、ふふ
おいしかったね、クロバっ
おみやげ買ってかえりたいねえ
と満足して
華折・黒羽
【咲日花】
羽お任せ
何でしょうね?
問われる言葉に首を傾げるのみ
自身の鴉の羽翼がふるり揺れて
探偵助手として
何か事件があるなら解決しないと
と意気込みを心裡で
オズさんの動きに倣う様鼻をすんすん
漂う良いにおいに目が輝くのを我慢して
めにゅう、というものを見ると確かに
これが暗号ですか、初めて見ました
あ、メインは魚がいいです
先程から良いにおいがしてて、お腹が鳴りそうで…
小声でひそり己もめにゅうに隠れ
オズさん
これも美味しいですよ
一口どうぞ
食べ始めればすっかり夢中
でざーとはくりすますに因んだものなんですかね?
楽しみです
ぱくりぱくり
いつの間にやら皿は空
はい、とても美味しかったです
…あれ
俺達何しに、来たんでしたっけ?
これなんの羽根かな。
何でしょうね?
探偵さんとその助手さんは、顔を見合わせて仲良く首を傾げた。
コマドリかな? カーディナル? 梨の木にいるヤマウズラ?
図鑑を開いて調べたけれど、クリスマスの鳥たちではないみたい。
どこかで見た気もするんだけど、小さな羽根から得られる手がかりは少なくて。
招待状は探偵への挑戦状だったのかもしれない。
わたしとクロバは探偵と助手さんだから。なんでもかいけつするんだよっ。ねっ。
オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)は決意をして。
その様子に華折・黒羽(掬折・f10471)も、うんうんと頷く。鴉の羽翼もふるりふるり。
なぞの羽根を胸のところに飾り付けたら、準備は万端。
そうして二人は聖夜の晩餐会へと出発した。
雪と桜の降り積もる、美しい夜のこと。
鳥籠館の窓から暖かな光がしていて、お祝いの気配が漂っている。
浮き立ちそうになる心を抑えて、オズは少し立ち止まって館の様子を眺め。
「ねえクロバ、なんだかじけんのかおりがするね」
嗅覚に集中するように瞳を閉じて、顎を上向かせて、すんすん。
「事件の香り」倣って黒羽もすんすんする。「これは……」おいしい匂い。
「おいしそうなにおいだ」
オズ探偵もやはり同じ意見だ。ごちそうの予感がする。
「オズさん、それでは」
「とりあえず食べながらようすをみよう」
そう言って、正面から堂々と鳥籠館の扉へ。
顔つきもキリッとしている。がんばっているのだ。
案内されたのは、可愛らしい刺繍が施された赤いテーブルクロスのテーブル。
横の飾り棚には小鳥の聖歌隊の人形が飾られていて、客人達の視覚を和ませている。
しかし、そんな可愛らしい光景には探偵も助手もごまかされない。
「メニューになにか暗号がはいってるかもしれない」
「これが暗号ですか、初めて見ました」
黒羽は大きな猫の手でそうっとメニューブックを開く。
白く大きな紙には綺麗な文字が綴られていて、ちょっと豪華そうでクリスマス・スペシャルな感じがする料理がずらりと並んでいる。料理の解説なども添えられているので、正体不明のものが出てくる心配はなさそうだ。
「クロバ」「はい」手招きに頭を低く下げて、顔を寄せる。
メニューブックに隠れるように内緒話。
オズはとても真剣な眼差しをして、ひっそりと囁いた、
「――メインは肉と魚どっちがいい?」
「あ、メインは魚がいいです」
「魚、おいしそうだよね」
「先程から良いにおいがしてて、お腹が鳴りそうで……」
瞳をゆっくりシパシパ瞬いて、黒羽は語気を緩めた。すこし恥ずかしげだ。
ごめんね。早く決めるからちょっとまってね。とオズは瞳を彷徨わせる。
「でもお肉とも迷う。ぜんぶおいしそう」
黒羽は深く頷いて、わかります。の意を示した。
そのような場面もあったものの、なんとかメインコースの注文を済ませて。
改めてメニューを調べようということなった。
「このワインの名前とかどう?」
オズは開いたメニューブックを黒羽に見えるように向けた。
「よみにくい、あやしい」
「あやしいですか」
「この、ここの、ね」メニューを指でつついて。
「はい」それを目で追い、頷く。
「声にだしたら舌をかんでしまうかもしれない」
アン……シャペ……? シュプ? くりゅりゅ?
呪文だろうか。
あやしいワインの解読は、難航を極め、探偵と助手をしばし悩ませたのである。
二人は一生懸命真面目に問題に取り組み。
いっそ実物を確かめてみようか、なんて話も出たけれど。
食後のお飲み物は如何なされますか。とメードが訊く頃には。
「あ、わたしは食後に紅茶がいいなっ」
好きなものを飲むのが一番だという結論に達しているだろう。
料理は順番ずつ運ばれてきて、そのどれもが鮮やかで客人を楽しませる工夫がなされていた。
味からもシェフの張り切り具合が伝わってくるというもの。
一口食べるごとに、ぎゅっと真面目を保とうとした顔つきも幸せにゆるめられ。
「クロバ、これおいしいっ」
「オズさん、これも美味しいですよ」
「一口どうぞ」「わあ、たべるっ」
美味しいものを分け合える人がいる。
そんなふとしたことが胸の中をあたたかく満たして。
「じゃあわたしのもひとくちどうぞ」
そうして互いに食事をおいしそうに味わう様子にも嬉しくなる。
次の料理はなにかな。ワクワクしながら待つ時も楽しくて。
「でざーとはくりすますに因んだものなんですかね?」
「きっとそう。デザートもたのしみ、ふふ」
小さな子供のように無邪気な笑みを交わした。
楽しい時間ほどあっという間に過ぎて、帰り道。
「おいしかったね、クロバっ」
「はい、とても美味しかったです」
隣り合わせに歩きながら、ふと。
「……あれ」
俺達何しに、来たんでしたっけ?
「おみやげ買ってかえりたいねえ」
なにがいいかな。ケーキ、クッキー、それとも小鳥のおもちゃ?
黒羽の頭に浮かんだ疑問は。
オズのほんわかとした満足げな笑みと空気に、とけていく。
謎のままになっている羽根の正体も、いずれ突き止められことだろう。
オズには『素直な心』のメジロ。
黒羽には『予感』のウグイス。
どちらも春になれば現れる、小鳥たちだから。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
神籬・イソラ
煌びやかな場は好みませぬが
章馬さまが「視た」のなら「そう」いう事なのでしょう
招待に応じ参ります
イブニングドレス姿
鳥の羽:お任せ
容姿:影のある近寄りがたい貴婦人を造形
食事の席でBについて聞き込み
館の剥製は、どれもいのちの美しさを感じる出来
素晴らしいわ。一体どなたのご趣味なの?
その場は途中で辞し、館を探索
事件は起こらずとも「かつて起こった」のなら
痕跡くらいは追えましょうか
呪いや、曲がった想念の気配を感じたならそちらへ
「追跡・失せ物探し・封印を解く」で
秘された痕跡を暴きましょう
もしもBの残留思念にまみえること叶ったなら
『霊還し』で清めます
今度は貴方さまが
「わたくし」という鳥籠の虜になる番にございます
たおやかな、所作だった。
イブニングドレスの長い裾をスルスルと静かに引いて。
案内をされた席に座り、ボーイと二、三言葉を交わした。
それだけであるが。
なんとも、近寄りがたい。そう思わせる空気が在る。
ぬばたまの黒をした美しい女性である。
ぬめらかな液体が流れを留めて浮かび上がらせた相貌は人々の心を惹きつけた。
そこへもって。
秘められた心の澱を思わせる影が、ますます彼女の存在をミステリアスにしている。
神籬・イソラ(霊の緒・f11232)は、煌びやかな場を好まない。
それでも招待に応じたのは、これが「そう」いう事だと察したからだ。
運ばれてきた食事を味わう間も。
研ぎ澄ませた意識の奥から探っている。
感じるのは、「執着」。この場所ではない館の何処かだろうか。
鳥類を愛する男だった、と聞いている。
カフェーとして改装された部分に飾られている鳥の絵画や彫刻、そして剥製はどれも見栄えがよく、鳥の美しさや愛らしさを感じるような作品ばかりのようだった。
人受けするようなものばかりと言ってもいい。
客商売をするにあたって、表に出すものを選ぶのはあたり前のことだろうから、そこに不審があるとは思わないけれど。
イソラはそっと席を立ち、
「館の剥製は、どれもいのちの美しさを感じる出来」
さきほどからこちらの様子を伺っていた初老のボーイに声を掛けた。
壁際に備えられたとまり木の上で、カワセミが羽根を畳んで少し首を傾げたポーズをしている。生前の色艶をそのままにのこした羽色は艶やかで、今にも動き出しそうだった。
「素晴らしいわ。一体どなたのご趣味なの?」
ボーイは、考えあぐねる様な様子ですぐには答えなかった。
しかしやがて、この館の前の主が遺した物だと話した。
「他のものも見てみたいでけれど、難しいかしら」
イソラはあえて、このまま館の中を見て回るような素振りをしてみせた。
相手の出方を伺うように、見つめる。
態度に違和感があった。
ボーイの顔には、過去の悲しみを思い出した老人の悲愴が滲んでいる。
「金のインクで書かれた招待状をお持ちの方に限っては、その行動を邪魔してはならない。そのように、仰せつかっております」
そもそも何故、招待状は猟兵達の手に渡るようになっていたのか。
勿論、鳥籠館に関わる何者かが、呼んだのだ。
どうやらその人物は秘密裏に事を進めたかったのだろう。
誰に、悟られたくなかったのだろうか。
"ユーベルコヲド使い"が訪れることを、館内の従業員たちは心得ているような節が在った。
ここで事件が起こるとは言われなかった。
「かつて起こった」ことを仄めかされただけだ。
それでいて、この件は猟兵達それぞれの自主性に任されている。
だから今からすることは、イソラ自身がやると決めたことなのである。
イソラも、様々なものを「視る」。
常人であらば感じ取ることの出来ない、五感を超えた有象無象を。
人の念が時にあまりに凄まじく悍ましいと彼女は識っている。
館内をイソラは進んでいた。廊下にずらりと並ぶ鳥達が見ている。
静かだ。
ここに生きている鳥はいない。
愛されたのは飛ぶことをしない鳥だけだった。
男は鳥の姿を愛していたが、生き方はそうではなかった。
「秘された痕跡を暴きましょう」
イソラが触れると、奥の扉が錆びついた音を立ててゆっくりと開く。
降雪の夜のこと、人気のない館内の奥は息が凍りそうなほど冷たい。
灯りのない部屋の奥で、淀んだ空気がたゆたっている。
――貴方さまは。
と、イソラは声を投げかけた。
返事はない。そこにはなにもない。ただ一枚の絵が在るのみ。
鳥籠の絵だ。
真っ黒なキャンパスに金色の鳥籠が描かれている。
鳥籠の中に、目には見えない鳥がいる。
そのようにイソラは直感した。
絵の中の鳥は籠の中で身動きすることも出来ないでいる。
――このように、囚えてきたのですね。
「今度は貴方さまが」「わたくし」という鳥籠の虜になる番にございます。
イソラは見えないなにかを手招いた。ぬばたまの黒が闇の中に一瞬溶け出して、包み込んでしまうような気配があって。
やがてイソラはひっそりとそのまま姿を消したのだろう。
見えない鳥を連れて。
大成功
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