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天幕のオクタグラム

#UDCアース #お祭り2020 #クリスマス

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●あなたの星を天幕へ
「クリスマスは、星に囲まれてみないか」
 祝祭の雰囲気に賑わうグリモアベースの片隅にて、機械仕掛けの男――ジャック・スペード(J♠️・f16475)は徐に口を開く。
「UDCアースに、体験型の全天球プラネタリウムが有る」
 ジャック曰く――。そのプラネタリウムは客席が無く、自由に歩き回ることが出来るのだと云う。まあるい部屋全体がスクリーンと成っており、360度見渡す限りにうつくしい星空が広がって居るのだとか。世間一般においても、脚を一歩踏み入れた瞬間、まるで星海を散歩している気分に成ると専らの評判らしい。
「そこでは自分でデザインした星を、プラネタリウムに投影して貰えるそうだ」
 つまり、自作のイラストを機械で読み込み、プロジェクターを通じて壁に映し出すサービスが行われているのだ。UDCアースの娯楽施設や、子供向けのアートイベントでは偶に見かけるお遊びだが、実際にやってみると中々に面白いのだとか。
「どんな星を夜空に浮かべるかは、アンタたちの自由だ」
 美しさを突き詰めて見ても良い。好きなものに想いを馳せながら描いてみるのも良いだろう。愛し人をイメージした星を空に浮かべるのも、ロマンチックかも知れない。
「併設されたカフェバーでは、プチケーキが食べられるそうだ」
 軽食は其れだけだが、飲み物は色々と用意されているようなので。歩き疲れた時は、星空に囲まれた幻想的な空間で、ひとやすみしてみるのも良いだろう。
「良ければ、楽しんで来てくれ」
 そう締め括り、ステッキで床を叩いてグリモアを展開した男は、ふと思い出したように動きを止めた。取ってつけたように重ねる科白は、今日この日に欠かせないご挨拶。
「ああ、メリークリスマス」
 グリモアがくるくる回る。
 向かう先は繁栄を甘受せし華燭の世界――UDCアース。

●硝子の空に鎖されて
 まるでスノードームのようなシルエットをした其の施設は、「オクタグラム」と名付けられていた。普段はVR体験型娯楽施設として人々に親しまれているこの施設は、クリスマスの時期だけ特別仕様。体験型のプラネタリウムになるのだと云う。
 まあるい部屋のなかをぐるりと囲む艶めく硝子の壁や天井は、冬の星空を映す巨大なスクリーン。つるりとした床にすら、広大な星海が広がって居るのだ――。
 体験型と銘打たれただけあって、このプラネタリウムには鑑賞席が無い。ゆえに興味と好奇が赴く侭に好きな星座の許へ歩み寄り、壁に描かれた星図を指先でなぞることが出来る。
 このプラネタリウムで出来る“体験”は、それだけに非ず。
 自分でデザインした星を、壁に映し出された夜空に煌めかせることが出来るのだ。方法は至極簡単、専用の紙に描いた星を機械に読み込ませるだけ。あとはプロジェクターが、然るべき場所に其れを投影してくれるのだ。

 少し歩き疲れたなら、プラネタリウムの隅に併設された小さな“カフェバー”へと脚を運んでみよう。
 其処には星のように綺麗な彩のカクテルや、各種ノンアルコールドリンクが揃っている。ドリンクだけで満たされない時は、サンタクロースやモミの木など、クリスマスをテーマに造られた、色鮮やかな「プチケーキ」をどうぞ。
 見渡す限りの星に囲まれながらグラスを傾け、甘味に舌鼓を打つひと時は、きっと良い想い出に成るだろう。

 この丸くて小さな世界の中でなら、ベツヘレムの星も見つけられるだろうか――。


華房圓
 OPをご覧くださり、ありがとうございます。
 こんにちは、華房圓です。
 今回はUDCアースで、クリスマスシナリオをお届けします。

●〈オクタグラム〉
 全天球型のドーム施設。現在は体験型のプラネタリウムを運営しているようです。
 ドーム全体がスクリーンとなっており、見渡す限りの星空が楽しめます。
 座席などは在りませんので、ご自由に歩き回ってお楽しみください。
 また専用の機械とプロジェクターを通じて、「あなたがデザインした星」を、夜空を映す壁へと投影することが出来ます。

 また施設には小さなカフェバーが併設されています。飲食は此方でのみ可能です。
 星空に囲まれながら、各種カクテルやノンアルコールドリンクの他、サンタやモミの木を模した「プチケーキ」をお楽しみ戴けます。
 (小さなカフェバーなので、他の軽食はご用意できないようです)
 未成年の飲酒喫煙は禁止です。

●〈その他〉
 本章のPOW、SPD、WIZはあくまで一例です。どうぞ自由な発想でお楽しみください。
 お声掛けいただいた場合に限り、グリモア猟兵のジャックが登場します。

●〈ご連絡〉
 プレイングの受付については、MS個人ページ等でお知らせします。
 グループでのご参加につきましては「3名様まで」とさせてください。
 またアドリブの可否について、記号表記を導入しています。
 宜しければMS個人ページをご確認のうえ、字数削減にお役立てください。
 それでは、宜しくお願いします。
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第1章 日常 『UDCアースのクリスマス』

POW   :    美味しいパーティー料理を楽しむ

SPD   :    クリスマスイベントに参加したり、観光を楽しむ

WIZ   :    恋人や友人との時間を大切に過ごす

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●星幻のまあるい世界
 鎖されたドームのなかには、星空が広がって居た。ぐるりと頸を巡らせども、そこに有るのは星ばかり。天も地上も、右も左も――。
 まるで、星海のなかを散歩して居る様な心持ち。されど此処には、温かな空気がある。ひとを地に留める重力も、踵を鳴らす度に響く音もある。
 空に浮かぶ星の中には、訪れた人々が作り上げた星も煌めいて居る。自分の為に、或いは誰かの為に空へ放たれた其れは、冬の僅かな間だけ、鎖された世界で燃え続けるのだ。
 甘いプチケーキの馨が仄かに漂う星幻のちいさな世界で、こころ安らぐひと時を――。

≪補足≫
・アドリブOKな方はプレイングに「◎」をご記載いただけますと幸いです。
・複数人でご参加の場合は、【グループ名】等のご記載をお願いします。
・版権に抵触するプレイングや、性的内容を含むプレイングは不採用とさせていただきます。申し訳ありません。

≪受付期間≫
 断章追加後~12月27日(日)23時59分まで
鳳凰院・ひりょ

プラネタリウムかぁ…
満天の星空の下をゆっくり歩きながら楽しむ

そういえば、ここ最近猟兵としての生活に慣れるのに必死で星空を見るなんて事、してなかった気がする
それだけ心に余裕がなかったのかな?
新しい生活、しかも戦いに身を置くという緊迫感は、猟兵になる前だと想像していなかった感覚だ
ずっと張りつめていたのかもしれないな

小さい頃は嫌な事、辛い事があった時には夜、星空を眺めてぼ~っとしてた
満天の星空を見ていると自分の悩みが小さなものに思えてくるから、また頑張れる、って…

ちょっと歩き疲れたらカフェバーで紅茶とプチケーキを戴きながら一休み

星空を久しぶりに堪能して心もリフレッシュした気がする
これでまた頑張れる



●星を見上げて
 見渡す限り何処までも、その星空は続いて居た。硝子の夜に鎖された小さな世界を、鳳凰院・ひりょ(人間の聖者・f27864)はゆるりと歩く。
「プラネタリウムかぁ……」
 満天の星空の下、宵色の眸はきょろりきょろりと、天幕に煌めく星を追い掛けている。ひときわ眩く煌めく三つの星は、きっと冬の大三角形。ならば、三角形の青白く煌めく一点、プロキオンの延長上に明るく煌めく双つ星は、カストルとポルックスだろう。
 いつもは遠い夜空もオクタグラムのなかでは、手を伸ばせば届きそうな距離にある。なんだか新鮮な感覚に、ひりょは頬もふわりと弛ませた。
 星空を見るなんて、随分と久しぶりだ。
 ここ最近は、猟兵としての生活に慣れることに必死だった。こうしてのんびり夜空を見上げることも、いつの間にか忘れて居たような気がする。
 ――……それだけ、心に余裕がなかったのかな?
 猟兵に覚醒して、もうすぐ一年が経つ。
 青年はこの一年、以前とは全く違う生活を送って来た。しかも、戦いに身を置くことに成ったのだ。何処に居ても、何をして居ても、緊迫感からは逃れられない。それは、覚醒前には想像していなかった感覚だった。
「ずっと、張りつめていたのかもしれないな」
 誰にともなく、独り言ちる。
 小さい頃、嫌なことや辛いことがあった時にはいつも、星空を眺めてぼんやりして居た。満天の星が煌めく夜の空を見ていると、自分の悩みすら段々と小さなものに思えて来るのだ。
 思い返せば「また、頑張れる」と幼心を奮わせてくれたのは、あの遠い煌めきだった。それがいま近くに有るのは、何だか嬉しいような、懐かしいような、不思議な気持ち。
「……ちょっと、疲れたな」
 頸を巡らせれば、片隅のカフェバーが目に入った。其処に歩みを進めたひりょは、長い散歩の小休憩に入る。注文から暫く時間を置いて、彼の前へと運ばれて来るのは湯気を立てる温かな紅茶と、サンタクロースを象ったプチケーキ。
「わぁ、美味しそうだ」
 いただきますと手を合わせれば、サンタ帽代わりの苺やおひげ代わりのクリームに舌鼓。ケーキの甘さと紅茶の馨は、疲れた躰を優しく癒してくれる。満天の星空に囲まれながらお茶を楽しむなんて、滅多に無い機会だ。勿論、星海のなかを歩く機会も――。
 今日は久しぶりに、じっくりと星空を堪能できた。こころもリフレッシュできたような気分だ。偶には幼い頃に思いを馳せるのも、悪くはない。
 ――これでまた、明日からも頑張れる。
 けれど、疲れた時はまた、星を見上げてみるのも良いかも知れない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【不死蝶/2人】◎
わっ、すごい
プラネタリウムって椅子に座って
ひたすら上を眺めているイメージだったけど
足元まで星空が広がっているなんて
なんだか宙に浮いているみたい

あれがオリオン座なら
あっちにあるのはきっとおおいぬ座だね
それにしても星座の名前って面白いよね
だって、こいぬ座とか全然子犬に見えないじゃない?
誰が最初に名付けたんだろうねー

ねぇ梓、俺たちも自作の星を映してみようよ
自分の好きなものとかを頭に思い浮かべて
自由に描けばいいんだよ

投影された梓作の星を見て…
うーん、ねこの星座かな??
梓、絵はあんまり得意じゃないからなぁ…
と思ったけど言わないであげておこう
うんうん、とっても梓らしくて素敵な星だね


乱獅子・梓
【不死蝶】◎
もし宇宙に放り出されたら
こんな感じなんだろうか…とか考えてしまうな

冬の星空ということは
定番の冬の大三角形とかもあるんだろうか
星座に詳しくない俺でも知っている星
この広大な星空からお目当ての星座を
探す時間もまた楽しい
おっ、あったあった、あれがオリオン座か
まぁ確かに、おおいぬ座はまだ分かるが
こいぬ座は無理があるよなぁ…

ほぉ、面白そうだな
しかし何を描いたものか…
俺の好きなもの…と来れば、もちろんコレだな
意気揚々と紙にイラストを描き進め
どうだ!焔と零をイメージした、俺だけの竜座だ!
こっちが焔で、あっちが零だ
そうかそうか、お前たちも喜んでくれるか
肩に乗る可愛い相棒竜たちを撫で撫でして



●双竜は冬空を游ぎて
 かつり――、脚を踏み入れた其処には、数多の星を鏤めた夜空が広がって居た。小さな世界をぐるりと囲む其の景色に、灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)は黒い髪を揺らしながら感嘆の聲を零す。
「わっ、すごい――」
 プラネタリウムといえば、ただ椅子に腰を下ろして、只管に上を眺めるだけの印象を持っていたけれど。どうやら此処は、一般的な其れとは少し違うらしい。
「足元まで星空が広がっているなんて、なんだか宙に浮いているみたい」
「もし宇宙に放り出されたら、こんな感じなんだろうな……」
 乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)もまた、サングラスの奥の眸を興味深げに動かしながら、そんな感想を漏らす。重力こそ在るが、周囲に広がる光景は正しく星海に包まれているようだった。
「冬の星空ということは、定番の冬の大三角形とかもあるんだろうか」
「ありそうだね、探してみる?」
 星座に明るくなくとも、有名な其の星々は知っていた。ふたりは壁を眺め、天井を仰ぎ、まあるく鎖された夜空のカンバスに煌めく星を追う。あれでもない、これでもないと言いながら、目当ての煌めきを探す時間もまた楽しいもの。
「――おっ、あったあった」
 暫くそんな遣り取りを続けたのち、梓が不意に天に向かって指を差す。其の先に煌めくのは、オレンジに煌めくベテルギウスを抱く鼓状の星座。――オリオン座だ。
「あれがオリオン座なら、あっちにあるのはきっとおおいぬ座だね」
 視界に其の煌めきを捉えた綾もまた、オリオン座の斜め下に煌めく星を指差した。青白く煌めくシリウスを抱く、犬のような容の星座が其処に在る。
「それにしても星座の名前って面白いよね」
「……そうか?」
「だって、こいぬ座とか全然子犬に見えないじゃない?」
 おおいぬ座の斜め上に煌めく白い星――プロキオンと、その周囲に煌めくひとつの星を結び“こいぬ座”の容を宙で儗って見せながら、「ね?」と綾は梓へ同意を求める。
「まぁ、確かに。おおいぬ座はまだ分かるが、こいぬ座は無理があるよなぁ……」
 斜めに「一」の字を描いたような其の容は確かに仔犬とは程遠く、梓も思わず苦笑を漏らして肯いた。
「誰が最初に名付けたんだろうねー」
 そんな他愛もない話に興じながらも頸を巡らせる綾の視界にふと、オリジナルの星を投影するプロジェクターの姿が映る。黒髪の青年は湧き上がる興味の儘に、相棒の腕を引いた。
「ねぇ梓、俺たちも自作の星を映してみようよ」
「……ほぉ、面白そうだな」
 自作の星と云う響きに興味を惹かれた梓もまた、彼に誘われる侭に投影機の方へと向かって行く。軈て辿り着いた其処には、プロジェクターの他に紙と何種類かのペンが置かれており、既に何人かの観光客が思い思いに星を描いていた。ふたりも早速、紙とペンを取り机に向かう。
「何を描いたものか……」
「自由に描けばいいんだよ、好きなものとか」
「俺の好きなもの……もちろんコレだな」
 真剣に悩んでいる様子の相棒へ、難しく考える必要は無いのだとアドバイスする綾。その言葉に背中を押されたのか、梓は意気揚々と紙にペンを走らせて行く。その様を見て満足気に頷きながら、綾もまた星図を描き始めるのだった。
 ――果たして、先に星を完成させたのは梓の方だった。
「どうだ!」
 投影されたばかりの星を、自信満々に指差す梓。赤く煌めく星と、青白く煌めく星で象られた、何処か生命力に溢れる星――。
「うーん……?」
 彼の指先を追い掛けた綾は、一体なんだろうと首を捻る。“ねこ”の星座なのだろうか。相棒は余り絵心があるタイプでは無い為、説明なしに絵の意図を理解するのは難しい。
「こっちが焔で、あっちが零だ」
「ああ、そっかー」
 赤く煌めく星は炎竜「焔」を、青白く煌めく星は氷竜「零」をイメージしたもの。天に雄々しく煌めく其れは、梓だけの「竜座」なのだ。
 名を呼ばれてふと、梓の両肩に件の竜たちが這い上って来る。空に煌めく自分たちの星座を見上げた彼らは「キュー、キュー」燥いでみたり、「ガウ」と鳴聲を零したり、各々満足そうだ。
「そうかそうか、お前たちも喜んでくれるか」
「うんうん、とっても梓らしくて素敵な星だね」
 可愛い相棒たちを撫でる梓も何だか嬉しそうで、自然と綾の頰にも笑みが咲く。特別な星の下で彼らと過ごすクリスマスもきっと、良い想い出に成る筈だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シャオ・フィルナート
【虹氷】◎
星に、触る…
空を飛んでも、届かないものだけど…普通は

だからこそ無感情に見えても少し興味深々で
星をなぞるように指先で壁をゆっくりと撫でてみたり

俺は、さそり座
双葉さんは……いつだっけ、誕生日
ん…なら、天秤じゃない
北斗七星があそこなら、多分こっち

双葉さんをてんびん座の方へ案内し
実際にスクリーンに映る星座をなぞりながら形を教えたり

…自分で星、ね…
……

無言で少し考えた結果、描いたのは気ままに歩くような形の猫
手と足と少し曲がった尻尾と
…星になった、猫と大根…(ぼそっ

交換、してもいいけど…大根……キッチンに飾っとく
ケーキ、凍らせても美味しい…?
些か不穏な言葉を残しつつ双葉さんに腕を引かれ


満月・双葉

【虹氷】
ふむ、触れるのか…
作り物とはいえ何か楽しいね
前にいくつか教えてもらったよね
えーっと…まだ探しなれないな…
そういえば誕生日に応じた星座があるんだってね?
僕らのは何だっけか…
誕生日は9月の25だよー

自分でデザイン…!
よし来た

大根の星を描いて満足気

シャオちゃんは何書いたの
猫?
うん可愛い
並べて写せるかしら?

所であの紙持って帰れるかな?
まぁ持って帰れないなら描くだけだから良いのだけど
持って帰れるなら交換しよう

終わったら、さてケーキでも食べに行こうか
と言いつつシャオちゃんの手を掴んでコーナーへと向かおうとする
アイスケーキか、それもいいね!



●猫とラディクス
 まあるい壁に広がる夜空に、そうっと手を伸ばす。刹那、ゆびさきは宵彩の光に染まりながらも、白く煌めく星を撫ぜた。満月・双葉(時に紡がれた人喰星・f01681)は興味深そうに、己のゆびさきを見降ろしている。
「ふむ、触れるのか……」
「星に、触る……」
 傍らの少年、シャオ・フィルナート(悪魔に魅入られし者・f00507)もまた、彼女に倣って壁へと手を伸ばす。本当の星というものは、空を飛んでも届かないもの。ゆえにこそ、無感情に見える少年も藍彩の眸に僅かな興味を滲ませながら、ゆびさきでそうっと星を撫でた。
「作り物とはいえ、何か楽しいね」
 ふたりで星を儗りながら、双葉はふわりと頬を弛ませる。表情を変えぬシャオも、こくりと小さく頷いて見せた。
「そういえば、誕生日に応じた星座があるんだってね?」
 ふと12星座の噺を想いだし「僕らのは何だっけか……」と思案に耽る少女。そんな彼女を芒とした眼差しで見つめる少年は、かくりと小首を傾けた。
「……俺は、さそり座。双葉さんは……いつだっけ、誕生日」
「僕は9月の25日だよー」
「ん……なら、天秤座じゃない」
 そっか、と納得した様子の双葉は壁に向かい直り、乳白彩の眸を巡らせながら“てんびん座”を天幕のなか探して行く。
「星座、前にいくつか教えてもらったよね」
 キャンプ場で共に夜空を見上げた、夏のあの日。その時も隣には親友の彼が居て、星座のことを教えてくれた。記憶を辿るように、宙でゆびさきを揺らす双葉だが――。
「……見つけられそう?」
「えーっと……」
 未だ未だ、探し慣れないようだ。見兼ねたシャオも、ぐるり、周囲へ視線を巡らせた。視界の端に煌めく北斗七星を捉えたら、其れを目印に天秤の星を探す。
「多分、こっち……」
 軈て壁に映し出された其の星を見つけた彼は、双葉を其方へと連れて往く。赫星と蒼星が菱形に連なる其れは、彼女が探していた“てんびん座”だ。
「すこし線がはみ出した……四角い星座……」
「これが天秤座なんだ……」
 壁に映し出された星座をふたり儗りながら、そんなことを囁き合う。スクリーン越しとはいえ、実際に星を結べたのだから、次は簡単に見つけられそうだ。
「あ、あっち。星を自分でデザイン出来るんだって!」
 暫く互いの星座を探した後、次に双葉の興味を惹いたのは、星座を投影するプロジェクターの存在だった。「よし来た」なんて、意気揚々と其方へ駆け寄って行く彼女の背中を、シャオは大人しく追い駆ける。
 少年が漸く投影機の許へ辿り着いた頃、双葉は既に大根を象った星を描いて、満足そうな貌をしていた。大根は彼女が愛用する「拷問道具」と同じ容なのだ。
「自分で星、ね……」
 シャオもまたペンを取り、何を描いたものかと思案する。ほんの少しの沈黙の後、彼が紙にさらさらと描いたのは、しなやかな四つ足に、少し曲がった尻尾――気ままに歩く「猫」の如き星の姿。
「シャオちゃんは、何描いたの……猫?」
 親友の手許を覗き込んだ双葉は、その愛らしい星図に瞬きをひとつ、ふたつ。けれども直ぐに、柔らかく頬を弛ませた。
「うん、可愛い」
 折角なので、横並びになるような形で投影して貰うことにする。そわそわと星が天に昇る様を見守るふたりの眼前、天幕に燦燦と煌めき始めたのは――。
「……星になった、猫と大根……」
 ぼそり、少年が呟く。改めて聲に出してみると、なかなかシュールな光景だ。けれど、斯うしてふたり天へ星を飛ばした経験と云うものは、なかなか得難いもの。
 なにより、楽しかったからこれで良いのだ。
「そうだ。さっきの紙、交換しよう」
「交換、してもいいけど……」
 双葉の提案にシャオはぼんやりと眸を瞬かせる。断る理由は無いので、彼女の描いた星図と自分が描いた其れを交換した。
「やっぱり可愛い、部屋に飾っておこうかな」
「大根は……キッチンに飾っとく」
 この星図を見る度にお互いきっと、今日のことを想い出すのだろう。ふたりのクリスマスの想い出が、またひとつ。
「さて、次はケーキでも食べに行こうか」
 再び視線を巡らせた少女は、カフェバーの存在も察知したらしい。少年の腕をぐいと掴んだ彼女は、ケーキ目指して元気よく彼を引っ張って行く。
「ケーキ、凍らせても美味しい……?」
「アイスケーキか、それもいいね!」
 芒と腕を引かれながらも、聊か不穏な科白を零すシャオだが。当の双葉は彼の嗜好を否定せず、かんばせにくつりと微笑を滲ませた。
 どんなことでもチャレンジしてみよう。ふたりならきっと、何でも楽しめるから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ティル・レーヴェ
【花綴】

空に高く輝く星が
飛んでもいないのにこんなに近くて
其れに足元にまで広がって
まるで星空に抱かれているよう!

そんな地を大好きな彼女と共にと思ったなら
地に着いている筈の足もふわふわと浮く様で

魔法の無い世界の魔法?
彼女の紡ぐ其れが心に響いて
そんな素敵な見かたで
世界を映し紡ぐ彼女こそが
魔法使いのように思えて

へへへ
お星様は大好きだけれど
実は星座には詳しくないの
だから、良ければ色々教えて欲しいよぅ
七結殿がお好きな其れも
仕立てた想い出の星座も

並ぶ彼女の柔い指が綴る先を追う様に
藤の色を星空に泳がせて

――ね、妾にお話を聞かせて?

そう強請ったなら
彼女を現す牡丹一華を描くように
そうっと真上の星をなぞって微笑んだ


蘭・七結
【花綴】

指のさきで触れて、そうとなぞって
眺めるだけではない星たちとの戯れ
そのような体験が出来るだなんて
まるで、ステキな魔法のようね

この世界には魔法がないのだから
いっそう、不思議な光景に心が踊るの

星の空を共に往くあなた
まるで星々を司る天使のよう
ティルさんは、すきな星座はあるかしら

わたしは、そうね。ふたつほど
かつて仕立てた星座があるの
今では久しい、思い出の星座
綴り方は――こう、だったかしら

もうひとつは、さそり座よ
物語にも登場をする、あかいこころを持つ者

あなたの指さきは、如何なる星を描くのでしょう
行くさきを眺めたのならば、自然と笑みが溢るる

教えてと乞う声音に眦は緩むばかり
ええ、もちろん。この星は――



●ゆびさきの魔法
「わあ……」
 夜毎に天高く煌めいている星が、空を飛んでもいないのに、手を伸ばせば届きそうな程に近い。しかも星空が、脚許にまで広がっているなんて。
「まるで星空に抱かれているよう!」
 淡翠の髪を揺らす小さな天使、ティル・レーヴェ(福音の蕾・f07995)の脚もふわふわと、無重力に跳ねるよう。然し其れは、この夜空に鎖された世界に在る為だけではなく、大好きな“彼女”とこの得難い体験を共にできる喜びも大きいから。
 くるり、ふわり――。
 眼前に散らばる星屑を指のさきで触れ、天幕に描かれた星図をそうっと儗る。常とは違う眺めるだけでは無い星たちとの戯れに、蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)は紫水晶の双眸を、つぅと細めた。
「なんだか、ステキな魔法のようね」
 UDCアースは、科学に依存した世界だ。魔法は一般的に、存在しない。だからこそ、こうした不思議な光景はこころ踊るのだと、牡丹一華の乙女は語った。
「魔法の無い世界の、魔法……?」
 乙女がゆるりと紡ぐ言葉は、確かにティルの胸を打つ。
 そんな豊かな感受性で以て、此の世界を双眸に映し、感じた侭のことを言葉として紡ぐ七結こそ、彼女にとっては魔法使いのよう――。
「ティルさんは、すきな星座はあるかしら」
 芒と此方を見上げる少女の胸の裡を、乙女は知らぬ儘。星空のなかを共に往くティルに向けて、そう柔らかに問い掛ける。七結の眸には煌めく天幕に抱かれた少女の姿こそ、星を司る天使のように見えて居た。
「お星様は大好きだけれど、実は星座には詳しくないの」
 へへへ、なんて。小さな天使は、はにかむ様に花唇を弛ませる。常宵に揺れる鳥籠のなか、星図の儗り方なんて誰も教えて呉れなかったから――。
「良ければ色々、教えて欲しいよぅ」
 そう強請ってみせたなら、かんばせにふわりと微笑みを湛えた七結は、静かに首肯した。色好い反応に、ティルの藤彩の眸は煌めきを増す。
「ねえ、七結殿のお好きな星は?」
「わたしは、そうね。ふたつほど」
 そう言って牡丹一華の乙女は、そうっと眸を伏せる。長い睫が影を差し、整った貌に回顧の彩が燈った。
「かつて、仕立てた星座があるの」
 今では久しい其れは、思い出の彼方に煌めいて居る。遥か遠くの残照を手繰り寄せる様に、乙女はあえかな指のさきを動かして往く。
「綴り方は――こう、だったかしら」
 拙く、宙を儗る。
 彼女の傍らに並び立つ天使は、藤彩の眸を星空に游せながら、其の柔い指が描く軌跡を追い掛けて居た。
 其れは、名も知らぬ星。されど、彼女の眸にはきっと、一等星よりも明々と映えるもの――。
「もうひとつは、さそり座よ」
 乙女の指は、つぅと天幕を儗り。軈ては、いっとう赫く煌めく星へ辿り着く。つらり、つらり、柔く動くゆびさきが結ぶのは、物語にも登場をする“あかいこころ”を持つ勇士の容。
「……ね、妾にお話を聞かせて?」
 そう強請りながら、ちいさな天使は白い指のさきを遊ばせて、真上に煌めく星をそうっと儗る。其れは確かに、絢爛と咲く牡丹一華の容をして居た。
 七結が仕立てたと云う想い出に煌めく星の噺も、彼女が好きだと語る“さそり座”の噺も、“あかいこころ”の物語も――総て、識りたい。
「ええ、もちろん」
 天使が遊ばせた指さきの行方に、自然と笑みを滲ませた七結は、愛らしく強請る其の聲に眦を益々弛ませる。
 牡丹一華を夜空に描き、満足気に微笑むティル。そんな彼女に寄り添う乙女は、御伽噺の聲彩で、静かに語り始めた。ふたりだけの、ひめごとを。

 そう、この星はね――……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ニコ・ベルクシュタイン


ジャック殿にお声掛けをさせて頂こう
こうしてゆるりとお目に掛かるのは初めてだろうか
ニコ・ベルクシュタイン、懐中時計のヤドリガミ
何時も貴殿の尽力には、知人共々大変お世話になっている
深く感謝を…何?今くらいは仕事の事は忘れよと?
はは、申し訳無く
仰る通りだな、折角のお誘いだ、楽しませて頂こう

さて、体験型のプラネタリウムとな
ライブの演奏ならば存じ上げているが、歩き回れるとは凄いものだ
…して、俺が投影した愛しいものの光が見えるだろうか?
あまりにも小さすぎて、肉眼では捉えられぬやも知れぬな
元々がフェアリー、俺の伴侶の姿故に
名付けて「うさみ座」だ、愛らしいだろう!
(と言いながら触れた星の隣こそが正解である)



●ちいさな標
 満天の星空に囲まれながら、人々は思い思いに特別な紙へとペンを走らせて居る。ニコ・ベルクシュタイン(時計卿・f00324)も、その中のひとり。
 どんな暝闇をも照らす細やかな煌めきを天に放った彼は、人波のなかにふと見知った貌を見つけて後を追った、固い背中越しに聲を掛ける。
「ジャック殿」
 名を呼ばれた鋼鐵の男――ジャック・スペード(J♠️・f16475)は、静かに後ろを振り返った。眼鏡を掛けた青年の姿を捉え、金の双眸は明滅を繰り返す。
「……久しぶりだな」
「うむ、こうしてゆるりとお目に掛かるのは初めてだろうか」
 仕事を斡旋したりされたり、互いに知らぬ貌では無い。然し落ち着いてふたりで話をするのは、今日が初めてと言えるだろう。
「俺はニコ・ベルクシュタイン、懐中時計のヤドリガミ」
「ジャック・スペードだ。改めてヨロシク」
 ちゃんと言葉を交わすのは、昨冬の遊園地以来。されど、絶叫マシンの上では碌に話も出来なかったので、改めて自己紹介を行うふたり。
「何時も貴殿の尽力には、知人共々大変お世話になっている」
 深く感謝をと生真面目に頭を下げる青年へ、ジャックは緩く頸を振った。世話に成って居るのは此方こそ、と前置いたうえで、男は穏やかに言葉を重ねる。
「今日くらいは、仕事のことなんて忘れないか」
「……はは、申し訳無く」
 本体が懐中時計である所以か、ニコは休日でも何処か堅苦しさが抜けないのだ。照れたように頰を掻く青年は、すぐに赫い双眸を弛ませた。
「仰る通りだな。折角のお誘いだ、楽しませて頂こう」
 鋼鐵の男も金の双眸を柔く光らせて、彼の言葉に首肯ひとつ。そうしてふたりは、満天の空に囲まれた小さな世界を、ゆっくりと歩き出す――。

「ライブ演奏のあるプラネタリウムは存じ上げているが、歩き回れるとは……」
「星が近くて面白いな、宇宙を散歩しているみたいだ」
 凄いものだと感心するニコに、ジャックも静かに同意を示す。着席して天球をぼんやり見上げるひと時もこころ癒されるが、こうして自由に天幕のなかを歩き回るひと時も、なかなかに新鮮だ。
「……ところで、俺が投影した愛しいものの光が見えるだろうか?」
「ニコが造った星か、何処にあるんだ」
 ヤドリガミの青年が溢した問い掛けに、鋼鐵の男は興味津々と云った様子で天を仰ぐ。まあるい夜空に浮かぶ星は、数えきれぬほど――。
「あまりにも小さすぎて、肉眼では捉えられぬやも知れぬな」
 ふ、と頬を弛ませるニコ。数多の星が煌めく天幕のなか、彼だけは其の居場所を知っているのだ。彼が天へと放した星は、伴侶である愛しきフェアリーの姿を象っている故に。
「名付けて『うさみ座』だ、愛らしいだろう!」
 愛らしいうさ耳を揺らし、ちいさな翅を羽搏かせる伴侶の姿を脳裏に想い描きながら、ビシリ。伸ばした指先で、壁に煌めく桃彩の星に触れるニコ。
 ――惜しい。
 本当はその隣に煌めく柔らかな桃彩の星こそが、『うさみ座』なのだが。
「ああ、カワイイ星だな」
 彼の勘違いに気付かぬ男は、「そのヒトの写真とかないのか」なんて、呑気に青年へ問い掛ける。
「写真なら確か此処に……」
 対するニコも満更ではない様子で、ごそごそと懐を漁り始めた。果たして彼らが真相に気付くか否かは、分からないけれど。
 満天の星空に囲まれながら甘い噺に興じるクリスマスも、きっと良い想い出と成るだろう――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

旭・まどか
◎△

擬似星に囲まれるなんていつもと変わらない日常なのに
如何して足が向いてしまったのか

だって
浮かべたい星は無いし、浮かべたいと思う形だって
この空っぽな身体は持ち合わせて居ないのに

注文するのはいつもと変わらないホットコーヒー
今日一日で厭きる程聞いた誰かの為の祭礼の言葉には一瞥だけをくべ
浮かんでは消えて往く“誰かの為の星座”を眇める

浮かべたい星があるのも
それを共に眺めたいと思える者が隣に居る事も
とても、しあわせな事

其に気づけている者が一体どれ程いるのだろう

隣に在って当たり前だったものが失くなって
後悔した所で既に、遅い

ぬいぐるみのかたちをしたお前を見遣れども
星座を移す八重の彩に映る感情は、読み解けない



●闇彩に溶ける
 芳ばしい湯気を立てる珈琲に、偽物の星たちが映って居る。
 伏せた双眸でその様を捉えた旭・まどか(MementoMori・f18469)は、カップの取っ手に指を絡ませ、ゆらり。艶めく闇彩の水面を揺らした。
 ――擬似星に囲まれるなんて、いつもと変わらない日常なのに……。
 如何して、足が向いて仕舞ったのだろうか。
 硝子の天幕に浮かべたい星は無い。浮かべたいと希う形すら、この空ろな躰は持ち合わせて居ないと云うのに。
 やることもないから仕方なしに、少年はプラネタリウムの片隅で珈琲を傾けて居る。芒と黄昏る彼の鼓膜を何度も揺らすのは、「メリークリスマス」なんて在り来りな祭礼の言葉。
 ――もう、聞き厭きた。
 仲睦まじく祝祭の挨拶を交わす恋人たちに一瞥を呉れたのち、少年は薔薇彩の双眸で、天幕に煌めき続ける“誰かの為の星座”を仰ぐ。然し、人工の星空は自棄に眩しくて、思わず彼は眸を眇めた。自然と、溜息が零れる。
 本当に如何して、こんな所まで脚を運んで仕舞ったのだろうか。
 そもそも星を見たいなら、本物の夜空を仰げば良い。疑似星に囲まれたいなら、いつもの場所に帰れば良い。それなのに――。
 何故“僕”は此処に居るのだろう。
 誰が何処でクリスマスを過ごそうと自由だけれど、自分が此処に居ることは、余り相応しくないように感じる。ゆえにこそ、少年のこころが弾むことは無かった。
 珈琲を喉へ流し込みながら、視線を下界へと向ける。其処では誰も彼もが、当たり前のように祭日を楽しんでいた。星を天幕に投影して黄色い聲を上げる女子学生たちの聲が、遠くで聴こえる。
 浮かべたい星があることも、それを共に眺めたいと思える者が隣に居ることも。とても、しあわせなことだ。
 ――……其れに気づけている者が、一体どれ程いるのだろう。
 自分が持ち得ぬ“しあわせ”を甘受する人々の姿を眺めながら、少年はそんなことを物思う。隣に在ることが当たり前だったものを亡くして、初めて人は己が幸運に気づくのだ。後悔した所で既に、遅いというのに。それなのに、天幕の下では猟兵と一般人の垣根なく、誰も彼もが笑顔を咲かせている。

 けれど、それは悪いことでは無い。

 寧ろとても素敵で、優しくて、“しあわせ”なことだ。そんなこと、彼だってよく分かって居る。こころの裡に優しさを秘めた彼だからこそ、大事な物を喪うひとの辛さを想い、胸を痛めるのだろう。

 然し、まどかがそんな想いを抱くこともまた、間違いでは無い。

 時の流れは平等で、祝福を拒む者の許にも祝祭は絶対に訪れる。それを如何に受け止めるかは、本人の“自由”なのだから。
 ――こんな時、「お前」なら……。
 腕に抱いた狼の縫い包みへ、そうっと視線を落とす。風の仔が抱く八重の彩は、偽りの星座を靜に映していた。
 其処に滲む感情を、少年は未だ読み解けず……――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エドガー・ブライトマン

やあ、ジャック君
キミも一緒に遊びに行こう。なんだか楽しそうだよ

キミと共にオクタグラムへ
プラネタリウムというもの、多分初めて見たとおもう
ひとの手で作られた星空のことを云うんだったっけ

満天の星空を眺めよう
キミと見た星空も、これくらいキレイだったんだろうな
私は覚えていないけれど
ジャック君が覚えていてくれるならそれで良いや

星を空へ映すことが出来るんだって!
ジャック君もやろう。きっとなかなか出来ない経験だ
紙に描いたのは白に近い青色の星
形は胸元のエンブレムに似たようなもの

いつか私も死んで、あんなふうに故郷を照らすひとつになるんだろう
ひとが思わず願いを託したくなるような
あれくらいまばゆい星になりたいものだ



●いまは遠い星
 カツリ、カツリ――。
 まるで宇宙のなかに居るような光景。されど踵を鳴らす度に反響する音が、此処は地球であることを教えて呉れる。旅の途中で『オクタグラム』にふらりと立ち寄った王子様、エドガー・ブライトマン(“運命”・f21503)は、入口の傍に友人の姿を視つけて手を振った。
「やあ、ジャック君」
「エドガーか、メリークリスマス」
 彼が聲を掛けた鋼鐵の男、ジャック・スペードもまた、軽く手を挙げ挨拶を返す。暝闇のなか芒と輝く男の双眸を見上げながら、エドガーは何時もの調子で明るく笑う。
「キミも一緒に遊びに行こう、なんだか楽しそうだよ」
「ああ、折角だから色々見て回ろうか」

 特に宛は無く、のんびりと並び歩くふたり。その最中もエドガーは珍しそうに、きょろきょろと視線を彼方此方へ巡らせていた。
「プラネタリウムというもの、多分初めて見たとおもう」
 由緒正しい「王子様」である彼には、ひとの手で作られた星空よりも、ふと見上げれば其処に有る夜空の方が、よほど親しみのあるものだ。
「そうなのか、人工の空も結構キレイだぞ」
 ほら、とジャックが天を仰げば、釣られてエドガーも天球を仰いだ。視界に広がるのは、満天の星空。その光景は、王子様の記憶を朧気に呼び覚ます。
「……キミと見た星空も、これくらいキレイだったんだろうな」
 いつか隣の男と星を見たことは覚えている。けれど、その時に広がって居た煌めきが如何なるものだったのかは、もう忘れてしまっていた。
「アレは、もっとキレイだったな」
 ぽつりと零された言葉をセンサーに捉え、静かに其れだけを答えるジャック。鋼鐵の男は、記憶の喪失について特に追求しない。そんな彼の科白にエドガーは、ふ、と小さく微笑みを零した。
「ジャック君が覚えていてくれるなら、それで良いや」
 僅かにしんみりした空気は何処へやら。健やかさを取り戻した王子様は、再びきょろきょろと視線を巡らせる。涼やかな蒼い眸が捉えたのは――……。
「あ、星を空へ映すことが出来るんだって!」
 オリジナルの星を天幕に投影してくれる、無骨なプロジェクターの姿だった。好奇に眸を輝かせながら、エドガーは同じくらい無骨なフォルムの友を見上げる。
「ジャック君も、やろう」
「そうだな、記念にひとつ星を遺して行こう」
 きっとなかなか出来ない経験だから、楽しまないと勿体ない。ふたりは頷き合って、プロジェクターの許へ向かった。そして、それぞれ紙とペンを取れば、思い思いに星を描いて行く。
「出来たよ、どうかな」
「上手いな、エドガー。胸元の“ソレ”を描いたのか」
 エドガーが紙に描いたのは、白く染まりかけた蒼彩の星。其の容は、彼の胸に揺れるエンブレムに刻まれた、星の意匠とよく似ていた。
 賛辞に笑みを刻んだ彼は、嬉しそうに星を天幕へと放つ。ふわりと壁に浮き上がる蒼白い星は、華やかな彩のなか静謐に煌めいて居る。
 ――いつか私も死んで、あんなふうに故郷を照らす“ひとつ”になるんだろう。
 死者の魂は軈て星に成り、下界を明るく照らし続ける。それは、王子たるエドガーも例外ではない。人間は皆、何時かは土に還るのだから。
 願わくば、ひとが思わず願いを託したくなるような……――。
「あれくらいまばゆい星に、なりたいものだ」
 今は遠い煌めきを眸に焼き付けるかのように、エドガーはそっと瞼を閉ざす。彼の脳裏には何時までも、あの蒼白い星の姿が焼き付いて居た。

大成功 🔵​🔵​🔵​

琴平・琴子


冬の夜空を見てご覧
一番輝く星が見えるから
そう言ってくれたのは貴方だったかしら

シリウス、太陽の次に明るい星を指さす
この星は貴方みたいだった
暗い中でも輝く一番星
その隣にいる筈の、目には見えない星の辺りを指で伝う
見える人には見え、見えない人には見えない
貴方の大事なお姫様も寄り添う様に傍にいたのを覚えてる

だからこの星々が彼等の様に見えて
どこか見守っていてくれている様にも見える

以前はそれをただ眺めていたけれど
今ではそれに並びたい
いいえ、それに近い星になれたのなら

その近くにいる星々の近くに一つ瞬く小さな星を作りあげる
私だけの、私自身の星

この光が、この輝きが
どうか貴方たちにも届けばいいのだけれど



●彼方へ繋ぐ星
『冬の夜空を見てご覧、一番輝く星が見えるから』
 まあるく鎖された夜のなか、ふとそんな言葉を想いだして、琴平・琴子(まえむきのあし・f27172)は双眸を弛ませる。
 ――……そう言ってくれたのは、“貴方”だったかしら。
 いまは遠い空の下に居る彼へ想いを馳せながら、少女は白いゆびさきで、いっとう明るく煌めく星を撫ぜた。蒼白いそれは、シリウス。太陽の次に明るい星だ。
 ――この星は、貴方みたいだった。
 どんな暝闇のなかですら、輝きを放ち続けて。まるで標のように、凛とした煌めきで人々を正しい道へと導く、一番星。
 見つめれば見つめるほど懐かしい気持ちに成って、密かにはにかむ少女。けれども、想い出の彩は、もうひとつ。
「この辺り、でしょうか……」
 琴子は少しだけ指をずらして、シリウスの隣に広がる暝闇をそうっと撫ぜる。一番星の隣では、限られたひとにしか見えない星が、確かに煌めいて居るのだ。
 見える人には見え、見えない人には見えない。
 琴子は勿論、前者である。だって彼女は、その星の存在を知っているのだから――。
 瞼を閉じれば、ほら、一番星のような“貴方”の姿が視える。そして矢張り“大事なお姫様”も、寄り添うように“貴方”の傍に居る。
 少女の眸にはこの星々が、不思議の国で出逢った彼等のように見えているのだ。ふたつの星を儗りながら、琴子は静かに翠の双眸を睫から覗かせた。
 ――どこか見守っていてくれているみたい……。
 以前の琴子なら憧れを胸の裡に秘めた侭、夜空に煌めく一番星をただ眺めているだけだった。けれど、自らの脚で歩み続けることを覚えた彼女は、そうじゃない。
 今では、誰かを導く星である、彼等に並び立ちたいとすら思う。それだけ、琴子は強く成ったのだ。
 けれども、今日はクリスマス。
 もう少し、欲張ってみても良いのかも知れない。星々を撫ぜていたゆびさきを握り締め、少女は静かに己の“希い”と向き合った。
 ――シリウスに近い、星になりたい。
 未だ恐れ多いけれど、それこそが今の彼女の大きな希い。
 せめて天幕の上ではと、少女は翠彩に煌めく星を、シリウスと姫星の傍へ投影する。微かに瞬く小さな星は、琴子だけの星。――否、それは“琴子自身”だ。
 彼等が居る世界と、この世界は違う。けれども、空だけは同じ貌をして居るから。もしかしたら、を願わずにはいられなかった。
 どうか、この光が、輝きが。

「貴方たちにも届きますように――」

 今日は素敵なクリスマス。良い子の祈りが報われる日。
 だから、ほんの少しの奇跡を期待したって、きっと罰は当たらない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

泡沫・うらら


まぁ、綺麗

空に壁に床に
映る星々がどれも煌びやかで
にせものの足で追い掛ける姿ははしゃいでいるように見られる?

だってとても素敵なんやもの
駆け出せない事をこんなにも惜しく思ったのは、はじめて

ねぇ、ジャックさん
貴方が浮かべたいと思った星は何処にあります?
うちにもみせて、と浮遊出来んせいで随分遠くにある黄金色を見上げ

うちのは内緒
お願いはしとりますけども
どれがそうなんかは教えてあげません

見つけて下さいね

貴方が思ううちの姿そのものかもしれんし
思いもよらん姿かもしれません

知っているようで知らん事の方が多いから
それが少しでも無くなれば、ふふ

なんでもありません
ああほら、よそ見しとったらひとつ見逃してしまいますよ



●ひかり探し
 まあるい天球のなかへ脚を踏み入れると同時に、泡沫・うらら(混泡エトランゼ・f11361)は、ほぅ、と感嘆の吐息を零した。
「……まぁ、綺麗」
 空を覆う様に、そして壁一面に、涯は床にまで広がる満天の空。鎖された世界に映る星々は、どれも煌びやかで。ゆったりと廻る其れを、乙女は蒼い髪を揺らし、そろり、そろりと追い掛ける。
 ひとの容をした偽物の脚は、何処かぎこちなくステップを刻むのみ。ゆえに、傍から見たうららの姿は、燥いでいるように見えたかもしれない。
 彼女の後ろを歩くジャック・スペードもまた、危なっかし気に跳ねる姿を、そわついた様子で見守っている。けれども、今の彼女には他人の視線なんて、全く気に成らない。
 ――だって、とても素敵なんやもの。
 星に囲まれた世界を走り回れたら、どんなに素晴らしいだろうか。大地を踏み締めて駆け出せないことが、こんなにも惜しいのは、きっとはじめて。
「ねぇ、ジャックさん」
 鋼鐵の男を振り返った乙女は、翡翠の双眸を煌めかせながら、かくりと頸を傾けて見せる。其の朱い唇からは、少女の如き鈴音で紡ぐ問いが零れた。
「貴方が浮かべたいと思った星は、何処にあります?」
 宙を游げぬ所為で、今日の空は自棄に遠い。ゆえに、彼らしい星を自力で探すのは困難だ。彼方で煌めく黄金彩を見上げながら、「うちにもみせて」とうららは男へ微笑み掛ける。
「俺の星は、あそこだな」
「あれは……剣、いえ、スペード?」
 ジャックが指さす先には、金彩に煌めく小さな星々が有った。鋼鐵の指先が宙を儗り何かの容を象れば、納得した様に乙女は頷く。
「貴方らしいですねぇ」
 嫋やかに零された彼女の笑みから逃れる様に、「それしか描けない」と貌ごと視線を逸らした男は、視界に広がる星々を見てふと疑問を抱く。
「うららは、自分の星を放たないのか?」
「お願いはしとりますけども……うちのは、内緒」
 どれがそうなんかは、教えてあげません。蒼い髪を揺らす乙女は、ゆびさきで己の唇を封じながら、そう悪戯に微笑んで見せる。
「――見つけて下さいね」
 果たして、負けず嫌いに火が付いたのか。
 男は金の双眸を煌めかせながら、ぎぎぎと頸を巡らせて、彼女が放った星を追う。しかし、広大な星海に揺れる煌きから容を知らぬ其れを探すのは、余りにも難しい。
「……ヒントを頼む」
「さあ、貴方が思ううちの姿そのものかもしれんし……」
 或いは、思いもよらない姿かも知れない。観念したように助力を求める男を、ふわりふわり、そうやって往なすうらら。
「蒼く煌めく、魚の形の星じゃないのか」
 一方のジャックは、未だに天幕へ彼女に似た姿を描こうと、四苦八苦して居た。思えばお互い、よく知っているようで、まだまだ知らないことの方が多い。
 けれど、光を探す戯れを通じて、それが少しでも無くなれば――。
「ふふ」
「如何かしたのか」
 小さく笑みを零したら、間髪を入れずに男の視線が彼女の貌へと注がれる。まるで瞬きの様にチカチカと明滅する双眸へと、うららは頸を振って見せた。
「いえ、なんでもありません」
 しかしジャックは、未だに不思議そうな貌をしている。其処で乙女は彼の注意を天幕に戻そうと、緩慢に廻る星をそうっと指差した。単純な男の視線が、其れを追う。
「ああほら、よそ見しとったら――」
 ひとつ、見逃してしまいますよ。
 悪戯な囁きが、ちいさな世界に響き渡る。
 乙女の星は丁度ふたりの頭上で、嫋やかな煌めきを放ち続けていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

無間・わだち

モバコ(f24413)

本物の星空なんて
否応なしに何処でだって見れたけど
自分で星を作るなんて
考えたこともなかった

絵心はあまりないし
五芒星で黄色に塗ればいいと思うし
だけどそれじゃあ味気ないか

何が可愛い返事なのかわからない
どうってことないですよ

中心を赤に
ピンクと黄色でまわりを縁取る
こういう感じでいいんだっけ
モバコ、そっちはどうですか

足元も星の海
なんだか空中浮遊に似て
彼女に転ぶようなお転婆さはないから
歩幅を合わせるだけに留める

偽物の星の群れも
なんだか悪くはないなと思えた

あの子も俺も
綺麗なものを視ていたいから

表情の変わらぬ彼女の中身も
綺麗であればいいけど
それを、俺が望む権利はない

気に入りました?
…そう


海藻場・猶予

わだくん(f24410)と

わだくんも、星と聞いたら黄色い五芒星を思い起こすのですね
いえ、昔から不思議なのですよ
わたくしが孤島《アサイラム》で見た『本物の星』は単なる白い光点でしたから
かの図形は、哺乳類共通の幻想のようなものなのでしょうか

時折誤解を受けますが
不満が在る訳ではないのです
何時も疑問が在るだけで
折角の逢引に可愛くない事を云って仕舞いました?

合わせて全く同じ絵柄を描いてみましょう
『貴方』の思う、『貴女』の好きな色を、わたくしが真似て、皆に見える夜空に浮かべる
それでもこの想像上《にせもの》の星は、各々の心の内にしか存在しないのでしょう

解り難かったでしょうか
気に入った、という意味なのですが



●硝子夜のフェイクスター
 鎖された世界のなか、ただ星だけが広がって居る。もはや見慣れた煌めきに、無間・わだち(泥犂・f24410)は、そうっと息を吐いた。
 ――本物の星空なんて、否応なしに何処でだって見れたけど。
 自分で星を作って、それを天へ放つだなんて。そんなこと、考えたこともなかった。踏み出した脚は、何処か覚束ない。眼下にも広がる星の海は、本来あるべき重力すらも世界から奪い去って居るようで。なんだか空中浮遊でもしているような、心持ち。
 少年は継ぎ接ぎの貌と色違いの眸で、傍らを歩く少女――海藻場・猶予(衒学恋愛脳のグラン・ギニョル・f24413)の姿を盗み見る。ふわりと揺れる海月めいた彼女のドレスは、暝闇の世界にひどく映えた。
 星海を游ぐおとひめ様は、なにも無い所で転がるほどお転婆では無い。ゆえに少年は彼女と歩幅を合わせるだけに留め、投影機の許へ歩んで行く。
 軈て目当ての場所へ辿り着いたふたりは、紙とペンを取り描くべき星に思いを馳せる。然し、わだちの方は絵心が余りなかった。そこで当然、思いつくのは――。
「五芒星で、黄色に塗ればいいかな」
 それじゃあ味気ないか、なんて。眉を下げる少年の貌を、猶予は赫い眸でじっと射抜く。花唇から、淡々とした呟きが零れた。
「……わだくんも」
 少年の意識が紙とペンから、少女の方へ向く。色違いの眸に見つめられて尚、猶予の表情はぴくりとも動かない。
「貴方も星と聞いたら、黄色い五芒星を思い起こすのですね」
「……?」
 彼女が言わんとすることが分からずに、わだちは黙って首を捻る。星を描く為に集った人々の賑わう聲が、何処か遠く聴こえた。
「いえ、昔から不思議なのですよ」
 己の科白を補足する様に、猶予は淡々と言葉を重ねて行く。脳裏に過るのはいつかアサイラムで視た、遥か彼方で燦燦と煌めく白い星屑の姿。
「わたくしが孤島で見た『本物の星』は、単なる白い光点でしたから」
 それなのに、大抵のひとが「星」と言われてイメージするのは、かの図形『ペンタグラム』である。
 高名な心理学者が嘗て想像した様に、この世界の裏側には無意識の集合体が有って。そのなかに、哺乳類共通の幻想のようなものが刻まれているのだろうか――。
「成る程」
 彼女の説明を受けて、わだちは唯それだけを返す。心理学のことも、無意識のことも、正直なところ余りピンと来ていない。
「……時折誤解を受けますが」
 そんな彼の内心を汲み取ったのか、猶予はぽつりと口を開いた。彼から視線を逸らして、未だ白紙の紙に眸を向ける。何を描くかは、相変わらず決めて居ない。
「別段、不満が在る訳ではないのです」
 猶予のなかにはただ、何時も疑問が在るだけ。そして願わくば、それを語り合いたいという、ほんの僅かな渇望がこころの何処かに潜んで居るだけなのだ。
「折角の逢引に、可愛くないことを云って仕舞いました?」
「――どうってことないですよ」
 何処か遠慮がちに問われた言葉に、少年はゆっくりと頸を振って見せた。なにが可愛い返事なのかは、彼にもよく分からないから。

 ふたりは並んで星を描く。
 わだちは結局、在り来りな「五芒星」を描くことにした。しかし、色だけは“彼女”らしく。中心を赤で鮮やかに塗潰し、ピンクと黄色で星のまわりを縁取ってみる。まるで、彼女の御髪をイメージしたような星だ。
 ――……こういう感じでいいんだっけ。
「モバコ、そっちはどうですか」
 完成品に視線を落としながら、猶予の方へと頸を巡らせる。果たして彼女は、彼と全く同じ絵柄を描いていた。不思議そうに瞬いた少年は、それでも特に何も言わず、完成したふたりの星を天へと放つ。
 天幕にふわりと昇る、ふたつの赤い星。
 それは暝闇のなか、確かに存在を主張して居て力強くも美しい。其れを取り囲む、変哲の無い星々の煌めきも、双星を引き立てる様で――。
 偽物の星の群れも、なんだか悪くはないと思えた。
 大きな赫眸の持ち主である“あの子”も、其れを右目に縫い付けたわだちも、綺麗なものを視ていたいから。
 願わくば、表情の変わらぬ猶予の中身も、綺麗であれば良い。けれども、
 ――それを、俺が望む権利はない。

「『貴方』の思う、『貴女』の好きな色」

 物思いに耽る彼の傍らでふと、少女がぽつりと口を開く。詩的な言葉は、まるで総てを煙に巻くように、ゆらりと小さな世界に響き渡った。
「其れをわたくしが真似て、皆に見える夜空に浮かべる」
 あえかな指先が、天に煌めく双星を示す。見れば見る程に、人目を惹く星だ。彼女の後ろを通り過ぎて行く人々も、ふたりが放った星を見て「綺麗だね」なんて囁き合っていた。
「それでもこの想像上の星は、各々の心の内にしか存在しないのでしょう」
 だって目録には載っていないし、どの天文台にも登録されていないから。どんなに人目を惹こうとも、此処に煌めく星は総て“にせもの”だ。
「解り難かったでしょうか」
 何も答えず沈黙した少年の貌へと、少女は静かに視線を注ぐ。嗚呼、また語り過ぎてしまったようだ。つまりは――。
「気に入った、という意味なのですが」
「……そう」
 フェイクスターの煌めきは、ふたりを温かく見守っていた。にせものだけれど、確かに其処に、星は在る。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロキ・バロックヒート
【欠片】


わあぁ、綺麗だねぇ
あんまり寒くないしいいところだね、なんて

星座をデザイン?
亮座とかロキ座とか作れる?ふふ

俺様が亮ちゃんの星座つくってあげる
彼女がよく身に着けてるサンカクとかリボンマーク
それを付けた辛うじて鳥っぽく見えるものを描く
なんとなくだけど亮ちゃんは鳥っぽい
しあわせの欠片を嘴で集めてるの
欠片に見立てたパズルのピースをくわえた鳥
もしかしたらしあわせを見付けようとしてるのかなって
少し思うだけ

渡り鳥もかっこいいよね
ロキ座は猫?ふふ、可愛いー
きっと亮鳥が届けに来てくれたら振り向くよ
見て見てあそこに星座できてる
ふたつ合わせてしあわせの欠片座だね
なんて眺めながら

よーしプチケーキ食べに行こうよ


天音・亮
【欠片】


うひょあー!
思わず大きな声を出しそうになって慌てて両手で押さえた口元
いつもは寒そうなロキの足下もここでなら暖かそうで一安心

亮座ってなんだか歌舞伎みたい
ロキ座はありそうだよね
なんて笑って

ふふ、それが「亮座」?
鳥っぽいって言ってもらえると本当に飛んでいけちゃいそう
じゃあたくさん飛べるようになったら渡り鳥になれちゃうね

ロキの星座はー…
すらすら描いたのは
夜空の中のもっと遠くをみつめるような座る猫
やっぱりきみは気侭な猫のイメージ
だけどなんだか偶に
いっぱい考えちゃってるように見えるのは心の中だけに留めて
ロキ猫に亮鳥がピースを届けに行くんだ
なんて星座を隣り合わせてみようか

プチケーキ!行こう行こう!



●しあわせを運ぶ星
 まあるい硝子の世界に足を一歩踏み入れたら、其処には星海が広がって居た。眼前に広がる煌めきに、ロキ・バロックヒート(深淵を覗く・f25190)は感嘆の聲を零す。
「わあぁ……」
 彼の隣を歩く天音・亮(手をのばそう・f26138)も、思わず歓声を上げかけて、慌てて両手で自らの口を塞いだ。
 ――……うひょあー!
 満天の星空を映す彼女の蒼い眸は、唇よりも雄弁に感動を伝えていて。ロキは和んだように、くつり。柔らかく頬を弛ませた。
「ふふ、綺麗だねぇ」
 ちいさな世界に広がる星海のような光景とは裏腹に、施設のなかは温かく、人々の燥ぐ聲に溢れている。脚許から仄かに伝わる熱の感触に青年は、ほう、と息を吐く。
「あんまり寒くないしいいところだね」
「うん、暖かくて良かった」
 いつもは足許が寒そうな彼も、此処なら凍える心配は無い。安心した様に亮はにこにこと微笑んで、くるりと星に包まれた世界を見回した。――刹那、蒼い眸に映るのは、人々が描いた星を投影する機械の姿。
「あ、あっちで星をデザイン出来るんだって」
「ふふ、あきら座とかロキ座とか作れるかな」
「あはは、あきら座ってなんだか歌舞伎みたい」
 ロキ座はありそうだよね、なんて。笑い合いながら、ふたりは投影機の許へ向かう。其処には特別製の紙と、何種類ものペンが置かれていた。
「じゃあ、俺様が亮ちゃんの星座つくってあげる」
 ビタミンカラーのペンを何本か掴みながら、にやりと口端をあげるロキ。既にイメージは固まっているらしく、さらさらと紙に亮らしい星図を描いて行く。
「ふふ、それが『あきら座』?」
 漸く彼の腕が動きを止めれば、亮は横からひょっこりと、彼が描いた星図を覗き込む。其処には、一羽の鳥が描かれていた。
 拙い筆跡で描かれた其れは、彼女がよく身に着けている三角形の意匠やリボンを其の身に飾っていて、とても愛らしい。
「なんとなくだけど……亮ちゃんは鳥っぽいから」
「そんなこと言われると、本当に飛んでいけちゃいそう」
 ふふりと嬉しそうに笑みながら、亮は鳥を象った星座へ視線を落とす。よくよく見ると其の鳥は、パズルのピースを嘴に咥えていた。
「ねえ、この子が嘴に咥えてるのは?」
「これはね、しあわせの欠片を嘴で集めてるの」
 パズルのピースを、“しあわせの欠片”に見立てたのだとロキは語る。
 小さなしあわせを掻き集めて、いつか世界をたくさんの幸福で満たそう――。
 そんなことを語り合ったふたりにとって、“しあわせ”はパズルのピースのようなもの。それにロキの目には亮が、しあわせを探す鳥のようにも見えたから。“あきら座”は、こんな星図に成ったのだ。
「たくさん飛べるようになったら、渡り鳥になれちゃうね」
「うんうん、渡り鳥もかっこいいよね」
 彼の思いなど知らず、娘は整えたゆびさきで鳥の星図を撫ぜながら、かんばせに喜色を浮かべている。青年も彼女のこころの裡には、深く踏み込まない。
「じゃあ、ロキの星座はー……」
 亮もまたペンを取り、すらすらと紙に星図を描いて往く。軈て彼女の腕が動きを止めれば、次はロキが其の手許を覗き込む番。
「ふふ、可愛いー」
 其処に描かれて居たのは、背筋を伸ばして行儀よくお座りする猫の姿だった。何処か遠くを見つめるような貌は、なんだか寂し気にも見える。
 亮にとってロキは、気侭な猫のイメージ。けれども偶に、難しいことを色々と考え込んで居る様にも見えるから。
「ロキ猫に亮鳥が、しあわせのピースを届けに行くんだ」
「きっと亮鳥が届けに来てくれたら、振り向くよ」
 それは素敵だと笑い合って、ふたりは互いの星座を天へと投影する。暫くして、ふわりと夜空に浮かび上がった双つ星は、仲良く隣り合わせに煌めいて居た。
「ふたつ合わせて、しあわせの欠片座だね」
 何処か遠くを眺める猫の傍らに降り立つ鳥は、まさにふたりの“こころの在り様”を現しているようで。ロキは天を仰ぎながら、双眸を穏やかに弛ませる。
 なんだかこの星を見ているだけで、幸せを感じられる気がする。
 けれど、ちいさな幸せは、もっと身近な所に有るのだ。例えば、先ほどから甘い馨を漂わせる、片隅の細やかなカフェバーとか――。
「よーし、プチケーキ食べに行こうよ」
「プチケーキ! 行こう行こう!」
 燥いだような聲を零して、ふたりは次の目的地へと脚を進めて行く。少し羽と脚を休めたら、また“しあわせの欠片”を探しに行こう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

筧・清史郎
オズ(f01136)と

ぷらねたりうむ、訪れたのは初めてだ
きょろり視線巡らせオズと笑み重ね
初めての事は心躍る
友と一緒だと余計にな

注文は一等甘いプチケーキに
甘い物はとても好きだ
可愛い甘味キラキラ見つめ
俺のはトナカイさんが
ふふ、わけっこか、それは良い
おひげまで甘いとは…さすがさんたさん
トナカイさんの角も甘い飴細工だ

カクテルの夜空興味深く見つめ
似ている、とこくり
夜空はどんな味がするのだろう、とわくわく

そうだな…金と薄紅の双子星はどうだろうか
友の様な蒲公英と己と縁深い桜のいろ
青と赤でも良いな
眼前のキトンブルー見つめ笑み
ふふ、皆の星を並べたら何座ができるのだろうな

星空作りも楽しみに
互いの夜空重ね乾杯しよう


オズ・ケストナー
清史郎(f00502)と

上にも下にも星がいっぱいだっ
くるんと回って
セイシロウと顔見合わせて笑う

サンタのプチケーキを注文
わあ、かわいい
セイシロウ、ひとくちわけっこしよっ
サンタさんのおひげもあまいよっ
くるり星空を見渡して
足元に見える天の川とカクテルを見比べて
みてみて、にてる
すごいね、きらきらだ

映されている星を見ながら
ね、セイシロウならどんな星をつくる?
赤い星?
さくらみたいな、やさしい色の星もすてき

ふたごの星?
目を輝かせ
それって、とってもすてきだ
となりを見ればこうして笑い合えるんだもの

みんなみたいな星をたくさんならべるのもいいねっ
なに座だろう?
ふふ、たのしい座っ

あとで双子星つくりにいこっ
かんぱーいっ



●ブルームーンに星を浮かべて
 空を覆う天球には夜の帳がおりていて、見渡す限りに数多の星が煌めいて居る。筧・清史郎(ヤドリガミの剣豪・f00502)は見慣れぬ其の光景に、きょろりと視線を巡らせた。
「ぷらねたりうむ、訪れたのは初めてだ」
「わあ、上にも下にも星がいっぱいだっ」
 一方のオズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)は、ちいさな世界を包み込む神秘的な光景に燥いだ様子。精巧な脚で星間を渡り、くるんと回りながら清史郎に笑い掛ける。その無邪気な姿に、ヤドリガミの青年は赫い双眸を弛ませた。
 嗚呼、初めての体験はこころ躍る。
 ――……特に、友と一緒だと余計にな。
 いつも楽しそうなオズは、まるで星空を照らす月のようだ。彼と一緒なら、宵に鎖された世界も存分に楽しめるだろう。
 ふたりは軽やかな足取りで、プラネタリウムの片隅にあるカフェバーへと向かって行く。天幕に煌めく数多の星と、擦れ違いながら――。

「おお……」
「わあ、かわいい」
 彼等はいま星空の下で、運ばれて来たプチケーキと見つめ合っていた。清史郎もオズも、愛らしく美味しそうなケーキを前に、眸をきらきらと輝かせ続けている。
「俺のは、トナカイさんか」
 清史郎の前に供されたのは、トナカイの容をしたプチケーキ。
 一等甘いものをと頼んだところ、チョコレートで外側をコーティングされた此れが出て来たのだ。立派な角は飴細工で出来ているらしく、星の煌めきを反射してきらきらと煌めいて居る。軽くフォークを通してみれば、中から甘いチョコレートソースが、とろり。
「わたしのは、サンタさん!」
 オズの前に供されたのは、サンタの容をしたプチケーキ。
 逆さに置いた苺はお決まりの三角帽子代わり。真っ赤なベリーソースで染まったお洋服は、甘い馨を漂わせている。ふわふわのお鬚は生クリームで象られているようで、フォークで突けばふわりと揺れる。更に柔らかな躰へフォークを刺し込めば、とろりと溢れる黄金色のカスタード。
「ん、美味しいな」
 甘いものは好きだと清史郎が頬を弛ませれば、オズもふわふわと笑みながら、彼の言葉を首肯する。柔らかな甘味の口どけは、彼のこころを更に弛ませてくれるよう。
「セイシロウ、ひとくちわけっこしよっ」
 美味しいものは、ふたりで食べるともっと美味しいから。あどけなく碧い眸を煌めかせた青年は、元気よく友人へとそんなことを提案した。
「わけっこか、それは良い」
 微笑ましげな笑みを浮かべながら、清史郎はオズへと自分の皿を寄せて遣る。オズは楽し気な貌に深い喜色を滲ませ、トナカイへフォークを刺し込んだ。
「あ、チョコだっ」
「そうだ、甘いだろう?」
「サンタさんのおひげもあまいよっ」
 お返しとばかりにオズも、「どうぞ!」と自分の皿を清史郎の方へと寄せた。ひっそりサンタの味も気に成って居た彼は、雰囲気をそわつかせながら、フォークをそっと白い髭の近くに潜り込ませる。
「おお、さすが“さんたさん”だ……」
 ぱくり、おまけのカスタードと一緒に、白い生クリームを口に運んだら。じわりと舌に広がる甘さ。端正な貌に緩い笑みを咲かせる青年もまた、幸せそうだ。
 そうやって、甘くてゆるふわなひと時を楽しみながらも。オズは視線を星空へと巡らせる。軈て足許に広がるミルキーウェイを見つけた彼は、テーブルに置かれたカクテルとそれを何度も見比べた。
「みてみて、にてる」
 友人の聲に釣られて、清史郎もまた足許に広がる運河と眼前のグラスを見比べる。カクテルグラスの中身は、宵空を映したような彩の酒『ブルームーン』。ジンとスミレのリキュール、それからピンクレモネードを混ぜて、金箔を鏤めただけのもの。
 されど、カフェバーの照明に使われたブラックライトの魔法によって、カクテルグラスの中すらも、天の川めいたグラデーションに染められていた。
「確かに、よく似ているな」
「すごいね、きらきらだ」
 友人の言葉に頷きつつも、興味深げにカクテルグラスを見つめる清史郎。一方のオズも燥いだ様子でグラスを揺らし、鏤められた金箔が光に煌めく様を眺めて居た。
「一体どんな味がするのだろうか……」
 わくわくと雰囲気を弾ませる清史郎の対面で、ふとオズは空を見上げる。そういえば、此処では自分の彩の星を作れるのだと云う。眼前の友人はどんな星を天に放つのか気になって、彼は無邪気に頸を傾けて見せた。
「ね、セイシロウならどんな星をつくる?」
「そうだな……青と赤の星でも良いが」
 カクテルグラスから視線を離した清史郎は、じっと眼前に煌めくキトンブルーの眸を見つめて笑う。曇りなく煌めく友人の眸も、大層魅力的ではあるけれど。
「金と薄紅の双子星はどうだろうか」
 オズに似た“蒲公英”と、己と縁深い“桜”の彩。そのふたつを寄り添わせるのも、きっと綺麗で素敵だろう。
「ふたごの、星……?」
 清史郎の提案に、オズはぱちぱちと眸を瞬かせる。しかし直ぐに、少年じみた貌いっぱいに喜色を浮かばせた。
「それって、とってもすてきだ」
 きらきらと煌めく碧い眸は、言葉よりも雄弁に彼へと喜びを伝えている。だって、となりを見れば、こうして笑い合えるのだから――。
「あ、みんなみたいな星を、たくさんならべるのもいいねっ」
「ふふ、皆の星を並べたら何座ができるのだろうな」
「なに座だろう? ふふ、たのしい座っ」
 星空の下、溢れ出る楽しさもお喋りも、決して留まることはない。それは、ふたりが今という時間を、めいっぱい楽しんでいる証。
「あとで双子星つくりにいこっ」
「ああ、楽しみだ」
 互いの夜空を重ねれば、涼やかな音が鳴る。「かんぱいっ」と謳う青年の聲が、ミルキーウェイの水面と共に、ふわり、楽しげに跳ねた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

荻原・志桜
🎲🌸

大切な彼と歩く星の海
見上げ綺麗だねと笑顔向けて

ディイくん、あそこの星たち繋げたら何かの形に見えそう
あっちと向こうの星を繋げて――ほらっ雪だるま!
え、見えない?そうかなぁ…うーん、それっぽく見えるのに

指先で星を繋ぐように示して
彼にあれだよー、と笑いながら眺め乍ら
自分だけの星を?やってみたい!と彼の袖引っ張る

わたしだったら――あ、ノエル?空に浮かぶ猫の星!
使い魔を思い浮かべるが描いた星は彼を思わせる賽子
にひひ。上手く描けたと思うの。アナタの星

ふふっわたしたちと同じだね
空に浮かぶ賽桜。彼の腕に手を触れて
アナタの心に花を咲かすように、照らす灯になるように
離さないで、わたしだけをいつまでも傍に


ディイ・ディー
🎲🌸


ちいさな世界を彩る満天の星
隣の志桜が嬉しそうに笑うから、俺も楽しくなる

成程、星を繋げてみるのか
そうか?どっちかというと餅に見えるような
なんてからかって笑う

指先に視線を向けてから、志桜の横顔も見る
今、この子の幸せそうな顔を見られるのは俺だけ
彼女の瞳に映る星の光が綺麗でずっと見つめていたくなる

ああ、やろうぜ
俺はどうするかな、何か綺麗なものがいい
これ、俺か。上手じゃん。でも何だか少し照れるな

だったらこっちは桜の花
賽に桜を少し重ねて投影して貰い天を仰ぐ

それから志桜を後ろからそっと抱き締める
あの賽桜の星、今の俺達みたいだろ

志桜は俺にとっての唯一の花で、一番星
絶対に離さないから覚悟しておいてくれ



●天で寄り添う双つ星
 重力のなか、星空に包まれた世界を軽やかに渡り歩く。いつか蝶を追って星海を渡った時とは、また異なる感覚。それは、隣に大切なひとが居るからかもしれない。
 荻原・志桜(桜の魔女見習い・f01141)は、頭上に煌めく星を仰いで、綺麗だねと恋人に笑顔を向けた。ディイ・ディー(Six Sides・f21861)は、そんな彼女に優しく頷いて見せる。
 まあるい屋根に鎖された、ちいさな世界。その総てを彩る満天の星。幻想的な世界のなかで、隣の恋人が嬉しそうに笑うから。釣られてディイも、つい楽しくなる。
「ディイくん、あそこの星たち繋げたら何かの形に見えそう」
「何が見えるんだ?」
「あれだよー」
 楽し気に宙を儗る彼女のゆびさきに、蒼い眸が集中する。成る程、星と星をつなげて、形を作って行くらしい。一生懸命に星を繋ぐ彼女の聲を聴きながら、ディイは其の横貌もこっそりと盗み見る。
 ――いま、この子の幸せそうな顔を見られるのは俺だけ。
 そう想うと、独占欲が満たされた。彼女の翠の眸に映る星は、夜空にあるよりもうつくしく煌めいて視えた。思わず、ずっと見つめていたくなる程に……。
「ほらっ、雪だるま!」
「そうか? どっちかっていうと、餅に見えるような」
 揶揄うように笑いながら、志桜に倣って青年も星を結んで宙を儗る。時期柄、丸と丸が重なれば、鏡餅の姿が思い起こされた。
「……うーん、それっぽく見えるのになぁ」
 不満げに頬を膨らませる、彼女の姿も愛らしい。色んな表情を見たいがために、つい揶揄ってしまう。自分に漏らした苦笑を誤魔化すように、青年は再び空を仰いで星を結ぶ。丸と丸が重なる形は、彼女の云う通り、スノーマンに少し似ていた。
「あ、あっちで自分だけの星を作れるんだって」
「ああ、やろうぜ。あっちか?」
 直ぐに機嫌を直した恋人に「やってみたい!」なんて袖を引っ張られたなら、断る術など何処にも有るまい。ディイは彼女に引っ張られる侭、星海を渡って往く。

 投影機の許には、自作の星を天に放とうと少なく無い数の人が集っていた。彼らの手許に在る星図を眺めながら、ふたりは何を描こうかと思考を巡らせる。
「わたしだったら……あっ、ノエル?」
 志桜の脳裏にふと、使い魔の姿が過る。猫の容を取るそれは、宙でも抜群の愛らしさと存在感を誇ることだろう。
「俺はどうするかな、何か綺麗なものがいい」
 一方のディイは、未だ決め兼ねている様子である。真剣に悩む彼の横顔を見つめている内に志桜はふと、ささやかな悪戯を思いつき、さらさらとペンを走らせて往く。
「ディイくん、見て見て」
 強請る聲に振り向いた青年の視界に映るのは、賽子を象る蒼い星。まるで彼をイメージして描かれたかのような其れに、ディイは思わず瞬いた。
「にひひ、上手く描けたと思うの。――アナタの星」
「これ、俺か。上手じゃん」
 余裕の表情で彼女の星図を眺め、そんな感想を溢す青年。けれども、その内心では少しだけ擽ったさを感じていた。
 ――……何だか少し照れるな。
 だったら、此方も同じサプライズをお返ししよう。青年もさらさらと紙にペンを走らせて、完成品を彼女に見せる。
 其処に描かれて居たのは、愛らしい桜の花。
「わあ、これって……わたし?」
 次は志桜が頬を赤らめる番。相手の目に映る自分の姿を知らされるのは、何だか少し気恥ずかしい。けれども、嬉しい気持ちの方が勝っている。
 賽と桜を少し重ねるようにして、ふたりは星を天幕へと放つ。夜空にふわりと浮かび上がる賽桜の星は、仲睦まじく寄り添い合い幸せそうに煌めいて居た。
「ふふっ、わたしたちと同じだね」
 天を仰いで嬉しそうに笑う彼女が愛しくて。ディイはそうっと、後ろから少女の華奢な躰を抱き締めた。
「ああ、今の俺達みたいだ」
 志桜はディイにとって唯一の花で、一番星。何にも代えられない、掛け替えのない存在だ。だからこそ、こうして捕まえておきたくなる。いつでも、傍に居られるように――。
「絶対に離さないから、覚悟しておいてくれ」
 耳元で囁く科白に独占欲を滲ませて、青年は静かに目を閉じた。彼女の温もりは、呪いに蝕まれた其の身を優しく癒してくれる。
 志桜は柔らかく微笑みながら、彼の右腕にそうっと、あえかな掌を寄り添わせた。
「離さないで、わたしだけをいつまでも傍に」

 アナタの心に、いつでも花を咲かせられるように。
 そしていつか訪れる暝闇を、照らす灯となるように。

 天に煌めく賽桜の彩は、寄り添い合うふたりの姿をいつまでも、温かく照らして居た――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ライラ・ユグドラシル
◎綾華(f01194)と

きらきら瞳を輝かせて
くるりと周りの星を眺めてから
綾華の隣にしゃがんで、足元にも広がる星空を見つめる
すごいね……
不思議だという綾華の言葉に、こくりと頷き
星の世界にいるみたい
……きれい

星を……?
ふふ、おもしろそう
どんな星にしようかな
綾華のも、楽しみ

夕陽に染まった桜の花びら
小さく鳴った金色の鈴
一緒に行った、桜が咲く島のお祭りの思い出
嬉しくなって、優しい銅色の鈴を見せながら微笑む

俺の星はね
綾華たちが育てていた、リリアライトをイメージしたよ
とてもきれいな、空色の花
お手伝いした時に見た風景は、今も鮮明に覚えてる

思い出の花が咲く夜空を歩く
ふわりと笑みがこぼれて
そっと星に手を伸ばした


浮世・綾華
◎ライラちゃん(f01350)と

しゃがんで足元をじぃっと見つめてみる
そこにも吸い込まれそうな宙
ほんと不思議
本物じゃないなんて嘘みてぇ
うん、きれー

星、デザイン出来るんだって
折角だからやってみよーよ
何描いたかは、映し出してからのお楽しみで

夕陽の赤に色づいた花びら
ひらひらと描いたそれは
夏の日、共に見た夕陽に舞う桜を想って

懐から出した金色の鈴を控えめに鳴らす
分かる?と首傾げ
表情で察し此方も微笑んで

あの日の桜は赤かったから
なんか別の花みたいだケド――特別って感じするでしょ

ライラちゃんの星をみて
――あ
ほんと、リリアライトみたい
なんか嬉しいな。こーゆーの

ふたり描いた星の花彩る中歩けば
自然と笑顔が綻んだ



●鈴音と星花
 鎖されたまあるい世界に、ふたりは居た。
 床一面にまで広がる星海に、浮世・綾華(千日紅・f01194)は興味津々。隅の方でしゃがめば、脚許に煌めく彩をじぃっと見つめている。
 いまにも吸い込まれそうな宇宙が、其処には有った。
 傍らの少女――ライラ・ユグドラシル(星詠・f01350)も、柘榴石めいた眸をきらきらと輝かせながら、くるりと頸を巡らせた。何処を向いても、星の煌めきが彼女のかんばせを優しく照らしてくれる。
 そして、足許から放たれる煌めきに惹かれるように。少女もまた青年の隣にしゃがんで、眼下に広がる星海を見降ろした。
「ほんと不思議、本物じゃないなんて嘘みてぇ」
「すごいね……」
 彼がぽつりと零した感想に、こくり。ちいさく首肯するライラ。星海の世界に赴いたことのない彼女にとって、この空間はまるで星だけで造られた世界の様。
「……きれい」
「うん、きれー」
 次は少女が、ぽつりと感嘆の聲を零す番。茫と眼下を見つめ続ける綾華もまた、ゆるりと肯いた。彼は不意に視線を上げて、傍らの彼女へ語り掛ける。
「星、デザイン出来るんだって」
「星を……?」
 夢のような言葉に、ライラは猫めいた双眸を瞬かせる。そんな彼女に微笑を向けながら、青年は緩く言葉を重ねて行く。
「そ、折角だからやってみよーよ」
「ふふ、おもしろそう。どんな星にしようかな」
 彼女を促すように綾華が立ち上がれば、くつりと微笑んだライラもゆっくりと膝を伸ばした。何を描くかは、未だ秘密。
 総ては映し出してからのお楽しみ――。

 描いた星図を読み込ませた後。ふたりはそわそわと天幕を仰ぎながら、その彩が天に昇る時を待ち兼ねていた。
「……あ、俺の発見」
「あれは……花弁?」
 彩華が指さす方には、赫い彩に染まった桜の花弁を模した星が煌めいて居た。不思議そうに頸を傾けた少女の前で、青年は懐から金彩の鈴を取り出して見せる。
 チリン、チリン。
 涼し気な音色を控えめに響かせながら、「わかる?」と頸を傾ける綾華。眸に映る赫彩と、鼓膜を揺らす鈴の音に、少女の記憶が呼び起こされる。
 天幕に煌めいて居る赫は、あの夏の日、桜咲く島の祭りでふたり眺めた桜の花弁。夕陽に染まった其れを眺めながら、鈴カステラに舌鼓を打ったことは、昨日のように覚えている。
 そして綾華が鳴らす鈴は、彼女が祭りの終わりに彼へと選んであげたもの。あの日の想い出が、彼のなかにもちゃんと息づいていたことが嬉しくて。
 ライラも銅彩の鈴を見せながら、はにかむように微笑んだ。彼女が細やかに揺らす其れは、「もっと仲良くなれますように」という想いと共に、彩華が選んでくれたもの。
 その表情と動作に、青年も思いが通じたことを察したらしい。彼は銅彩の鈴を優しく見つめて、ふわりと微笑んだ。
「――特別って感じするでしょ」
 あの日の桜は夕日に染まって赤かったから、なんだか別の花のようにも見える。しかし、だからこそ良いのだ。
 この花の正体はきっと、同じ想い出を共有するふたりだけにしか分からない。
「俺の星はね……」
「――あ」
 ライラもまた、天幕に煌めく優しい彩を指し示す。彼女のゆびさきを追い掛けた綾華は、見覚えの在る其の容に聊か目を見開いた。
「綾華たちが育てていた、リリアライトをイメージしたよ」
 リリアライト。
 其れは、木漏れ日が降り注ぐ温かな森の湖畔で咲き誇る、うつくしい空彩の花。ライラは綾華たちと共に、其の花を世話したことが有るのだ。肥料を巻きながら視界に焼き付けた光景は、未だに彼女のこころに鮮やかに彩を灯している。
「なんか嬉しいな。こーゆーの」
 よく似てる、と賛辞を零した青年は、空彩の星を映した双眸を穏やかに弛ませた。あの花畑の光景は、彼女のなかで今も色付いているのだ。
 ふたりが描いたのは、どちらも想い出の中に咲く花。
 斯うして語り合える想い出を重ねて来れたことに、ふたりのこころは温かくなる。ゆるりと廻る星を追い掛けるように、ライラはゆっくりと脚を踏み出した。遠い所で煌めく星へ、そうっと手を伸ばしたなら。少女のかんばせに、ふわりと笑みが咲く。
 綾華もまた、彼女の後ろを静かに着いて行く。想い出の花が散る星空の下を往けば、自然と唇から笑みが零れた。
 ふたりは星を追い掛けて、星海をゆるりと渡る。ちいさな鈴の音をふたつ、仲良く響かせながら――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

都槻・綾

カフェバーにて
ジャックさんとお話ししたく


星空モチーフのカクテルをお供に
卓に開いたのは
普段から持ち歩いている帳面

…悩みますねぇ、

頁を捲っては
小さな吐息

筆記具をぱたりと置き
通り掛かりのジャックさんへ
首を傾げて見せる

星座作りに参加してみたいのですけれど…、

助言を求めるため差し出した雑記帳は
文字は流麗なれど
絵の方はなかなか前衛的

恐竜のような花
キリンのような兎
其れから其れから、

…まぁその、最近漸く
絵が得意でないということに
気付いたのですよね

軽く肩を竦め
眉尻を下げる

もういっそ子供達に
どんな星座か当てっこして貰うのは如何かしら

多少(?)の困難は
茶目っ気で吹き飛ばして
皆のキラキラ星めく瞳を見れたら
きっと重畳



●思い思いの星を描いて
 星海に鎖された世界の片隅に、其のカフェバーはひっそりと佇んで居た。カクテルグラスに供された『ブルームーン』を、運河のようにグラデーションさせるブラックライトの灯に照らされながら。都槻・綾(糸遊・f01786)は、ほぅ、と溜息を零す。
 細く伸びた卓上ではらりと開いたのは、普段から彼が持ち歩いている帳面だ。片手に筆を持ち、空いた方のゆびさきで頁をはらはら捲っては、其処に書かれたものを見て、何度もちいさな吐息を漏らす。
「……悩みますねぇ」
「綾、如何したんだ」
 背中越しに聴き覚えのある聲がして、青年はふと後ろを振り返る。其処には、僅かに頸を傾けて此方を眺める鐵の男――ジャック・スペードの姿が在った。
「あぁ、ジャックさん」
 馴染みの貌に筆記具をぱたりと置き、彼もまた細やかに頸を傾げ返す。そうして視線を帳面に向ければ、鋼鐵の男は横から彼の手許を覗き込んだ。
「私も星座作りに参加してみたいのですけれど……」
 はらはら、ぱらぱら。
 長いゆびさきで捲られて行く頁には、流麗な文字が踊って居る。金の双眸に其れを認めたジャックは、感心したように鉄のマスク越し、感嘆のノイズを溢す。
「……達筆だな」
「ええ、文字のほうは兎も角として――」
 されど、青年の方は気まずそうな貌を見せた。誉め言葉に喜ぶ訳でも無く、ただ何かを探るように頁を捲り続けている。
「すこし、見てくださいませんか」
 軈て手を止めた綾は、開いた侭の雑記帳をそうっとジャックへ差し出した。鋼鐵の指先でそれを受け取った男は、不思議そうに視線を手元へ落とす。
 果たして其処に描かれて居たのは、聊か前衛的な「絵」だった。
 繊細な雰囲気を纏う青年から掛け離れた大胆な筆跡に、鋼鐵の男は双眸をチカチカと明滅させた。ぶわりと広がった襟、生命力を感じさせる爪、これは――。
「上手いじゃないか、恐竜だろう?」
「……いいえ、花です」
 何とも言えない沈黙が、ふたりの間に流れる。
 哀し気に長い睫を伏せる綾の姿に、さしものジャックも申し訳なさそうな貌。元気を出して貰わなければと、男は気を取り直すように隣に描かれた絵を注視する。長く伸びた頸、短いふたつのツノ、これなら――。
「そっちのキリンは、カワイイな」
「……そちらは、兎のつもりで」
「兎か……」
 好きな動物なのだろう。どうにか頸を巡らせて、その姿をこの絵から見て取ろうとするジャック。綾は神妙な貌で、その姿を見守っていた。
 次の絵は飛行機めいた鳥、その次はヨットのような林檎。其れから、其れから……。

「――まぁ、その」
 何度か似たような遣り取りを繰り返した後、綾はこほんと咳払いをひとつ。自分の口からこんなことを告げるのは、聊か躊躇われなくも無いが。
「最近漸く、絵が得意でないということに気付いたのですよね」
 青年は困り果てたように眉尻を下げながら、軽く肩を竦めて見せる。想い描いた侭の星を天幕に放つ、折角の好機なのに。これでは星図を天幕に放ったところで、何を描いたか分かって貰えない。
「もういっそ子供達に、どんな星座か当てっこして貰うのは如何かしら」
 青年は端正な貌に柔らかな苦笑を滲ませて、そんな冗談をゆるりと紡ぐ。多少の困難はいっそ、茶目っ気で吹き飛ばして仕舞おう。
 折角描いた星図だもの、せめて子供たちの良い遊び相手に成れば僥倖――。
「それはそれで、楽しんで貰えそうだな」
 俺も混ぜて貰おうか、なんて。小さく呟いた男は懐から手帳を取り出し、さらさらと何かを描いて行く。軈てひと仕事終えた風の男は頁を破り取り、綾へ差し出した。
 其処に描かれていたのは、裂けた巾着餅の如きシルエット。自身と同じくらい前衛的なその画風に、青年はきょとりと瞬きをひとつ、ふたつ。
「猫だ」
「……ふふっ」
 何故か自信満々に告げられた科白に、綾はくつりと笑う。茶目っ気と茶目っ気が重なり合い、すっかり面白可笑しい気持ちに成ってしまった。
「では、キラキラ星めく瞳を見に行きましょう」
 星空めいたカクテルを、からり。喉奥へ流し込んだ綾は、おっとりと微笑んで見せる。星図の出来なんて、きっと些細なこと。
 幸せそうに輝く人々の貌を見られたら、それで重畳なのだから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジニア・ドグダラ

葛籠雄(f17337)さんと

360度全てが、プラネタリムとは……本当、不思議な空間、ですね。
まるで、私自身が、一つの星になったようにも、思えるくらい、です。
それに、星座を創れるというのも、面白い、ですが……あはは、こればっかりは、葛籠雄さんと、同じく、です。

という事で、葛籠雄さんと、お話ししながら、この宇宙を、眺めます。

私としてましては、見ていて綺麗だけでも、心が洗われますし……
葛籠雄さんの言う、『何か』をこの星の先人が託し続けたからこそ、私達はこうして星座という名前を話して歩ける。
そう考えると、不思議、です。

あと、もし楽しむなら、この中の一つに、別世界があると考えると、面白く感じませんか?


葛籠雄・九雀
ジニアちゃん(f01191)と

全天球プラネタリウムに創作星座とは、非常に興味が惹かれるであるな!
とは言えオレは絵心がないであるからな、星座は作らぬのであるが。
元々の星図も勿論、他の者が描いた星座なども見られるのであれば、それも眺めながら、ジニアちゃんとゆっくり話をするとしよう。

それにしても、足の下にも星が見えるというのは不思議な気分であるな。
正直オレなどは、美しいと思っても、結局星であるなとしか感じぬのであるが、この輝く集まりが、誰かにとっては感情や物語を託すような『何か』に見えると言うのは面白いものであるよ。
存外、オレたちの世界というのは、そう言ったものによって作られておるのやも知れぬな。





●煌めきは誰かの想いと共に
 全天球の空に、実在する星と誰かが創作した星が、仲良く煌めいて居る。
 星空に鎖されたような世界の中で、ぐるり。大きく頸を巡らせて仮面の青年――葛籠雄・九雀(支離滅裂な仮面・f17337)は、陽気な聲を溢す。
「非常に興味が惹かれるであるな!」
 自由に星海を渡れる体験型のプラネタリウムに、此処でしか見られない創作星座。これで好奇心を擽られぬ訳が無い。
「本当、不思議な空間、ですね」
 栗色の髪を揺らす娘――ジニア・ドグダラ(白光の眠りを守る者・f01191)も、360度広がる空をくるりと見回しながら、ほぅと感嘆の息を吐く。
 まるで自分も、この星空に浮かぶ一つの星になったような心持ち。
「オレは絵心がないであるからな、星座は作らぬのであるが」
「あはは。こればっかりは、葛龍雄さんと、同じく、です」
 自分が描いた星を天幕に放つのも、なかなか面白そうな体験だが。それだけの星図を作る画力は無いので、挑戦するのは止めておく。
 その代わり、人々のカンバスと化した此の空を、ふたり並んで見上げることにした。人が造った作品を眺めるのも、また楽しいものである。

「あの星は、何を象っているのであろうなあ……」
「私には、お花の容に、見えます」
 赤彩の煌めきを放つ星を九雀が指で示せば、ジニアはゆるりと宙を儗り、星と星を其れらしく結んで行く。其れを横目で視た彼は、成る程と納得したような聲を溢す。
「その形から察するに桜の花弁のようであるな」
「ふふ、どうして、赤いんでしょう、ね」
 其処に作り手の想いを感じて、ジニアは何となく頬を弛ませた。自由気儘に煌めく星々には、きっと其々物語が隠されているのだ。
 弾むこころの儘に、ゆるり。娘が視線を逸らした先には、現実の夜空にも浮かぶ明るい星々が視える。
「あ、あそこ、冬の大三角形、でしょうか」
「おお、確かにそれらしい煌めきであるな」
 次は九雀がゆびさきで宙を儗り、星と星を結ぶ番。オレンジの光と、蒼い光、それから白い光を結べば、大きな三角形が出来た。彼の指が迷いなく動けば、ジニアはふふりと笑みを零す。
「その近くの、星は、ええと……」
「あれは、猫のようであるな」
 少し歪な形のそれもまた、微笑ましいものだ。然しここまで来ると、なんだか当てっこして遊んでいるような気持ちに成る。
 星を見上げるふたりは、ゆびさきで様々な星を繋いでいく――。
 幾つもの花に、数匹の猫、それから鳥。変わり種では、大根や賽子。涯は何かのシンボルや、五芒星のような星まで見つけて、ふたりの好奇心は並々と満たされた。
 流石に疲れたので頸を下へと向けたなら、脚許にまで広がる大宇宙の如き煌めきが視界に映る。
「足の下にも星が見えるというのは、不思議な気分であるな」
「まるで宇宙を、お散歩、しているみたい、です」
 青年に釣られてジニアもまた、視線を足許へ向けた。喩え地上に在ろうと、星々は尚も茫と光を放ち続けている。
「正直オレなどは、」
 眼下に広がる煌めきを見降ろした侭、ぽつり。仮面の青年は言葉を、静かに落とす。こういう星々を、美しいと思う気持ちこそ有れど。
「結局星であるなとしか、感じぬのであるが」
 言葉とは裏腹に、九雀は星々から視線を逸らさない。
「この輝き達が誰かにとって、感情や物語を託せる『何か』に視えると言うのは」

 ――面白いものであるよ。

 こころの底から零れたような科白に、くすりとジニアは笑う。彼の語る言葉には、なんとなく同意出来た。
「私としてましても、見ていて綺麗、というだけで、心洗われますし……」
 彼が語るように『何か』を、この世界の先人たちが星に託し続けたからこそ。ふたりは今、こうして星座の話をしながら歩くことが出来るのだ。
「……そう考えると、不思議、です」
「存外、オレたちの世界というのは、そう言ったものの集まりなのやも知れぬな」
 九雀は漸く顔を上げて、満天の星空を仰ぐ。
 この世界には、88の星座があると云われている。しかし人間は有史以来、名もなき星にも願いや想いを託して、ここまで世界を発展させてきたのだ。
 ゆえに、世界が本当は柔らかな感情で構成されて居たとしても、何ら不思議はあるまい。
「じゃあ、この中の一つに、別世界があると考えると、面白く感じませんか?」
「たしかに、それは面白い視点であるな」
 悪戯に囁きながら、そうっと天幕を見上げるジニア。傍らに佇む青年も、陽気な調子で同意を紡ぐ。ふたりの頭上では相変わらず創作星座の数々が、のんびりと揺れていた。
 誰かに託された「想い」や「物語」を、その煌めきに秘めた侭――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

夏目・晴夜

トトさん(f20443)と

星空で踊る姿に転ばないように、と声を掛ける気分は完全に彼女の兄
いいですねえ、とびきりの星を作りましょう!
とりどりの『尾を引いた星』(若干歪)を真似して描いて
兎や犬の絵もさり気なく
ハレルヤのは当然として、トトさんの星も素晴らしいです

本物の流れ星は一瞬ですが
これで願い事を沢山叶えて貰えますね
ええと、我々の無病息災と
毎日楽しい事したい
トトさんといっぱい遊びたい
あ、トトさんにハレルヤ並みに最高の恋人ができますように
あともう少し身長を

そして一番重要なのは
トトさんと美味しいケーキを食べたい

願い事、一緒でした?
ならば早速願いが叶いそうですね
あのカフェバーのケーキ、絶品らしいですよ


トスカ・ベリル

ハレ(f00145)と

星空に飛び込んだならくるくる回って
はーいおにいちゃん
ね、ハレ、ハレ、星つくろう
早速描き出す、『尾を引いた星』(下手くそ)
──を、色とりどりに、たっくさん

流れ星星雲!
に、気付けばたくさんの星座っぽい動物達が寄り添ってて
さすがハレ上手!
ハレ見て、これえだまめみたい

映し出されたそれは動かないから
願いごとし放題
ずる満載のそれに満足気
わたしも毎日楽しく過ごしたいし
ハレと遊びたいし
ハレが幸せになって欲しいし
ふふ、そうだね、
わたしにもハレくらい素敵な彼氏ができますよーにっ
それからそれから、

あ。
そのお願い、一緒だ
サンタとモミの木のパンケーキがあるんだって、
半分こしたら両方食べられるね



●星雲に希いを
 まあるい世界に一歩脚を踏み入れたら、其処には何処までも続く星海が広がって居た。浅瀬彩の双眸に星のような煌めきを灯した少女、トスカ・ベリル(潮彩カランド・f20443)は星海へ軽やかに飛び込んで、満天の空の下でくるくると踊る。
「転ばないよう気を付けて下さいね」
 そんなトスカに聲を掛ける夏目・晴夜(不夜狼・f00145)の気分は、すっかり彼女のお兄さん。燥ぐ少女を見守るように、紫水晶の双眸を細めたなら。
「はーい、おにいちゃん」
 少女もまた妹気分で彼の方を振り返り、戯れるような返事をゆるり紡いだ。そうして再び、くるりと星海を舞う少女の眸に映ったのは、星を映す投影機の武骨な姿。
「ね、ハレ、ハレ、星つくろう」
「いいですねえ、とびきりの星を作りましょう!」
 少年の許へ駆けよったトスカがそう強請れば、晴夜も乗り気で頷いて。ふたりは軽やかな足取りで、目当ての場所へと歩いて行く。

 ペンを持った少女は、迷うことなく紙に線を引いて行く。早速描き始めたのは、尾を引いた星――すなわち、流れ星である。
 少し拙い容のそれを、トスカは紙いっぱいに描いて行く。色とりどりの其れは、天幕に映す前から仲間が沢山で、とても賑やかだ。
「はい、流れ星星雲!」
「さすがの発想力ですね、トトさん」
 紙に一枚絵を描くのではなく、紙をたくさんの星で埋め尽くすトスカの発想には、目を瞠るものが在る。素直に感心した様子で頷いた晴夜は、彼女に倣って同じく紙に色とりどりの彗星を描いて行く。少し歪な容の星の周りに、兎や犬の絵もさり気無く寄り添わせて。
「さすが、ハレ上手!」
「ハレルヤのは当然として、トトさんの星も素晴らしいです」
 愛らしさと賑やかさを増した星雲に、茫とした少女の眸が再びきらきらと煌めいた。零された素直な賛辞に、晴夜はふふんと胸を張って応える。
「――ハレ見て、これえだまめみたい」
 ふと、少女の視線が寄り添う犬の絵に集中した。ふわふわの毛並みを持つ白い柴犬めいた其れは、彼が愛玩している絡繰り人形『えだまめ』によく似ているのだ。
「では、こっちはトトさんでしょうか」
 少年はくつりと笑みながら、ロップイヤーめいた兎の絵を指で示す。聲に潜む冗談めかした響きに、少女もまたふわりとはにかんだ。

 ふたりが造った賑やかな星々が、壁へと投影されていく。
 箒のような尾を引く星の群れは正しく星雲のように纏まり、晴夜の視線よりも少し高い位置で、うつくしいグラデーションの煌めきを茫と放っていた。勿論、その傍には犬と兎の星座も、寄り添うように煌めいている。
「本物の流れ星は一瞬ですが、これで願いを沢山叶えて貰えますね」
「うん、願いごとし放題だね」
 ふたりは満足気に、流れ星星雲を仰ぐ。
 この天球に投影される絵図は、とても長い時間をかけてぐるりと室内を廻っているので、煌めく星はどれも止まっているように見える。
 ――動かない流れ星の群れに、願い事を盛り沢山。
 ずる満載の其れに、ふたりのこころは弾むばかり。この星は確かに天幕を巡って行くのだから、ご利益も期待できそうだ。
 祈るように両手を組み合わせながら、ふたりは星に願いを掛けて行く。勿論、遠慮は一切ない。
「ええと、我々の無病息災に、それから毎日楽しい事したい」
「わたしも毎日楽しく過ごしたいし、ハレと遊びたい」
「トトさんといっぱい遊びたい」
 溢した希いのひとつは互いに向けたもので、一瞬ふたりは貌を見合わせる。それから再び、流れ星へと視線を向けて。
「ハレが幸せになって欲しい」
「あ、トトさんにハレルヤ並みに最高の恋人ができますように」
 次は互いに、相手の為の希いを紡いだ。
 相変わらず自信満々な、けれども優しさに溢れた晴夜の科白に、トスカがふふっと微笑みを零す。
「そうだね、わたしにもハレくらい素敵な彼氏ができますよーにっ」
「ああ、あともう少し身長を……」
「それから、それから」
 自分の為に希っても、相手の為に希っても、流れ星は未だ其処に在る。嗚呼、なんという贅沢。けれども、一番重要な願いが未だ――……。
「そう、トトさんと美味しいケーキを食べたい」
「あ。そのお願い、一緒だ」
 傍らの彼が溢した希いに、トスカの眸がぱちくりと瞬く。そんな彼女を見降ろして、晴夜はふふりと口角を弛ませた。
「早速、願いが叶いそうですね。あのカフェバーのケーキ、絶品らしいですよ」
「知ってる、サンタやモミの木のケーキがあるんだって」
 半分こしたら両方食べられるね、なんて。少女が相槌に悪戯な響を滲ませれば、少年もまたにやりと笑う。
「素晴らしいアイディアです、トトさん」
 行きましょうか、と少女を促しながら青年は一歩足を踏み出した。流れ星星雲は、未だ其処に在る。彼等が帰る迄は、大きく動くことも無いだろう。
 ――ならば願いごとの続きは、ケーキに舌鼓を打ちながらゆっくりと。

 今日は楽しいクリスマス。
 少しくらい欲張りな子に成ったって、サンタさんも大目に見てくれる筈。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年12月31日


挿絵イラスト