いつだって、燃える炎は誰かの瞳を惹きつける。
揺らめく赤、滲む橙、残滓と共に消えていく火の粉は、まるで生きた宝石のように。
けれど今宵、この火の中に見えるのは。
●キャンドルを覗いて
「メリークリスマス。悪いね、こんな日に集まってもらっちゃって」
そんな風に笑いながら、オブシダン・ソード(黒耀石の剣・f00250)は、グリモアベースを訪れた猟兵達にそう告げた。
「これから向かってもらう場所でも、丁度そんな感じで年末のお祭りをしているみたいなんだけどね――」
向かう先は、カクリヨファンタズムの一角。示されたのは、赤々と焚かれた炎を中心に、いくつもの小さな火が並んでいる光景だ。催されているのは、その辺り特有の行事らしいのだが……。
「篝火の周りに、たくさんのキャンドルの火が見えるのが分かるかな? この特殊な蝋燭に火をつけるとね、炎を通して、持ち主の望んだ光景が見られるんだってさ」
当然、見えるものは人それぞれ。一番の思い出が見えたなら、その日を振り返り懐かむことが出来るだろう。記憶にない光景が見えたなら、それこそが自分の望みであると、目標を改めて定めることが出来るだろう。この行事に参加する者達は、そうして古き年を送り、新年を迎える準備をするのだ。
「それと、キャンドルは燃え尽きると、最後に結晶みたいなものが残るらしいんだよね」
溶けた蝋とも違う、言うなれば『炎の結晶』。僅かに熱を帯びるものの、炎のように熱くもなく、それまでのような『望んだ光景』が見えるわけでもない、本当にただの燃え滓なのかもしれないが。ご当地の妖怪達は、それをツリーの飾りにしたり、お守りとして持ち歩いたりしているらしい。それから、願いの結晶とも言えるそれを、親密な誰かに託す――というようなことも、流行っているとかいないとか。
「いやあ、改めて言うと恥ずかしいね、こういうの」
ふふふ、と笑って、グリモア猟兵は肩を竦めた。
「ただ、まあ。その流行りが良くなかったのかな……このお祭り、オブリビオンに狙われちゃってるんだよね」
仲が良さそうにしている家族や恋人たちの姿を見て、嫉妬の炎に身を包んだそのオブリビオンは、このお祭りを無茶苦茶にして、カタストロフを引き起こし、世界を崩壊させようとしているらしい。
「そんな予知が見えたんだけど……うん。たぶんね、君達がちゃんとお祭りを楽しんだり、仲良くしている様子を見せれば、勝手に燃え尽きて死にそうな感じはしているんだ」
嫉妬と怒りが過ぎて燃え尽きる。まあまあ不憫な話ではあるが。
「そういうわけだから、ちょっと世界を救うためにも、お祭りを楽しんで来てくれるかな?」
軽い調子で笑いながら、オブシダンは一同を現場へと送り出した。
つじ
メリークリスマス! どうも、つじです。
今回の舞台はカクリヨファンタズム。一章のみのイベント系シナリオになります。
新年を迎えるためのお祭りがおこなわれていますので、クリスマスも兼ねて楽しんで来てください。
●灯火のお祭り
一人一本、不思議な蝋燭がもらえます。街の中央広場の篝火で火を付けたら、後はご自由にお過ごしください。
他の人の点けたキャンドルを覗くと、その持ち主の望んだ光景が見えてしまいます。誰にも見せたくない人はその辺りご注意ください。
お祭りなので屋台とかも出ているようです。広場から少し離れると大小のクリスマスツリーが並んでいますので、結晶飾りをつける場合などはそちらもどうぞ。
炎の中に何が見えるか。そしてその結晶をどうするか。押さえていただきたいのはその二点です。
つつがなく終えられればオブリビオンは嫉妬でしにますので、プレイングに対応を記載する必要はありません。
●オブリビオン
暗い感情を炎に変えて、その身に纏わせるタイプ。お祭りをぶち壊しにするための準備を進めているようですが、🔵が五個集まると死にます。
以上になります。それでは、ご参加お待ちしています。
第1章 日常
『カクリヨファンタズムのクリスマス』
|
POW : カタストロフを力ずくで解決して、妖怪達とクリスマスパーティーを楽しむ
SPD : カタストロフから妖怪達を救出して、クリスマスパーティーを楽しむ
WIZ : カタストロフの解決方歩を考えたり、クリスマスパーティーの企画や準備をする
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
浮世・綾華
【千遊】
蝋燭貰った?
何見えるかな
一番の想い出
何が浮かぶかなんて検討もつかない
オズと見た景色はどれも一等輝いている
照れ臭くて口にはしないけれど
んじゃみてみましょ
映る、瞬く星を映し混ざり合う空と海
火の中に海が見えるって不思議
つーかこの海
あの時の…なら
オズ、みてて
来るぞ――ははっ
宇宙ザメ!
浮かんだのは今年のいちばんのひとつ
オズは?なに浮かんだ?
――懐かし
きれーだったな
(好きな花を問われ蒲公英を指した
理由はお前に似合うと思ったからで
でも今は俺も…)
おっきな蒲公英
また会えっかしら
ほんと、結晶になった
きらきらしてる
飾る?勿体ない気もする
――いや、でも飾ろう
折角のお祭りだし
(想い出はちゃんと心にあるもんな)
オズ・ケストナー
【千遊】
ろうそくもらったっ
得意げに掲げて
ね、たのしみっ
なに?
アヤカの炎を覗いて
あっ、海だっ
おぼえてる、だからわくわくする
わーっ
びっくりじゃなくて
楽しい気持ちで声をあげて
宇宙ザメっ
わたしのほうはねえ
星が流れる
ふかふかで大きなたんぽぽの上に寝そべって
空を指さして
傍らには目を細めるアヤカがいる
(ここははじまりだから
何度だって思い出すんだ
たんぽぽをすきになった場所
これからもたくさんアヤカの笑顔が見られたらいいなあ
そう、流れ星に願った場所)
またおっきなたんぽぽの上で寝たいねえ
結晶を掲げていろんな角度から眺めて
おっけー、かざろうっ
ツリーへと手を引いて
きれいなツリーをみて
また笑顔になってくれたらうれしいから
●星空の記憶
「蝋燭貰った?」
「もらったっ」
「何見えるかな」
「ね、たのしみっ」
明るい声で蝋燭を掲げたオズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)と共に、浮世・綾華(千日紅・f01194)がゆったりとした足取りで歩く。お祭りを楽しむ人々で賑わう広場を抜け、赤々と燃える篝火へ。すれ違う人々はみな、足を進めながらも、どこか夢見心地で手元の蝋燭に視線を落としている。
話の通りであれば、そこには『望んだ光景』が広がっているわけだから、それも無理からぬことか。しかし、一番の想い出となると、果たして何が浮かぶだろう。隣のオズを横目にしながら、綾華はそんなことを考える。思い浮かぶものはいくつもあるが、二人で見た景色はどれも一等輝いていて――。
「なに?」
「いや、何でも」
とはいえそれを言うのは照れ臭いと、首を横に振ってみせて、彼は篝火へと手を伸ばした。
燃え盛るそこから、キャンドルへと火を移す。元の炎に比べれば頼りない大きさだが、二人の手元にも、小さく明かりが灯った。
「んじゃ、見てみましょ」
小さな灯に顔を近づけ、目を凝らす。視界に滲む赤い光がじんわりと広がり、やがて、その向こうに別のものが見えだした。そこにあるのは、夜の光景。瞬く星の光が空と、そして穏やかな海に浮かび、まるで水平線までなくなったかのような。
「あっ、海だっ」
「ああ……つーかこの海、あの時のか?」
二人でそれを覗き込めば、すぐに思い出は胸に浮かぶ。ならば、この後の光景も予想が付くもの。
「オズ、みてて。来るぞ――」
「うんっ」
するとそこで、凪いだ海の水面を割って、大きな鮫が夜空に向かって飛び出した。
「わーっ」
「――ははっ、宇宙ザメ!」
巨体を震わせながら夜空をひと泳ぎして、その鮫はまた、盛大な水飛沫を上げて海面へと戻っていった。確かあの時も、こんな風に声を上げて笑ったっけ。夏の記憶を、もう一度心の中でなぞって、二人は笑顔で顔を見合わせた。
「オズは? なに浮かんだ?」
「わたしのほうはねえ……」
今度は、揃ってそちらに目を移す。こちらの炎の内に映るのも、また空に浮かんだ星だった。
ふかふかした大きな蒲公英の上に寝そべって、流れる星を指さして――傍らには、そちらに向けて目を細める綾華の姿。
「――懐かし」
ふと息を吐いて、綾華が呟く。これもまた、二人で共に語れる想い出。
あの時、好きな花を問われた綾華は蒲公英を指した。理由は、彼に似合うと思ったから。今、同じことを問われても、綾華は同じ答えを返すだろう。ただ――あれから流れた時と、共に過ごした、共に見てきたものを思い返す。今ならば、違う理由も付けられるだろう。
綺麗だったな、という綾華の言葉に、オズは嬉しそうに頷いた。
オズにとって、あそこはたんぽぽを好きになった場所。何度も思い返す、はじまりの場所。
ああして寝そべって、流れる星を見上げて、これからもたくさんアヤカの笑顔が見られたらいいなあと、そんな風に願いをかけた。
「……また会えっかしら」
「どうかな。でも、またあの上で寝たいねえ」
そうして二人で語らっている内に、キャンドルは静かに燃え尽きた。消えてしまった火の後には、小さな宝石が生まれている。
「……ほんと、結晶になったな」
きらきらしたそれを摘まみ上げて、オズは周りの光を反射させながら、色んな角度から眺め見る。ツリーに飾っていくか、それとも持ち帰るか、同様に結晶を眺めながら綾華が思案する。炎の結晶、想い出の欠片、そんな風に考えると、ここに置いていくのが惜しく思えてしまうが。
「――いや、でも飾っていこう」
「おっけー、かざろうっ」
綾華の決めたそれに、オズは迷いなくそう応じた。
「かざるなら、あのおっきなツリーにしようか。それとも――」
問い掛けながら手を引いて、様々な人の想い出を吊るしたツリーの一つへと、綾華を導く。身に着けておくこともできるだろう。大事にしまっておくこともできる。けれど、飾り付けて、きれいなツリーをみて、また笑顔になってくれたなら、それに勝るものがあるだろうか。
そんな彼の考えを知ってか知らずか、綾華も微笑んで後に続いた。
折角のお祭りだから、というだけではない。
欠片を此処に置いていっても、想い出はちゃんと、心の中にあるのだから。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ネロ・ヴェスナー
【いぬ's】
メ、メリー、クリスマス!
イェーイ
(前足でタッチタッチ)
良イ匂イ、沢山!ドレモ、美味シソウ……!
焼ケタパイ、クッキーノ、甘イ香リ
ソレカラ、ソレカラ、果物ノ甘酸ッパイ香リ
エヘヘ……駄菓子ダケジャナクテ、他ノモ大好キ
ウン、ロウソクニ、火ヲツケテカラ
ア、アワワ……燃エチャウノ怖イ
ネンドウリキ、使エバ大丈夫!
ユラユラ揺レル火、スゴクキレイ
オ花畑?アッ、オ花畑見エタヨ!
全部ピンクナノ、スゴクキレイ
ウン、本物ノオ花畑見テミタイ……!
ボクノハ……ワァ、皆ダ!
オトウサン達ト、オ家デ過ゴシテルトコロ
皆、楽シソウ……!ダカラ、ボク大好キ
石ハ、オ土産ダネ!
オ土産貰ッタラ、次ハ、オ菓子食ベニ行コ!
ジョン・フラワー
【いぬ's】
めりーくりすまーす!
いえーい!
食べ物のお店もいっぱいあるよ!
パイやケーキはあるかなあ! いちごのやつがいいなあ!
アリスの好きなダガシもあるといいね!
でも蝋燭に火をつけてからなんだって
大丈夫? アリス燃えない?
何それすごい便利!
見て見て! これ僕の縄張りだったお花畑!
一面ピンク色で綺麗でしょ! 夢の中の国一番の自慢のお花畑だよ!
いつか綿のアリスにも見せてあげたいなあ
綿のアリスのはどんな景色なの?
お家! 帰る場所があるっていいよね!
みんな幸せそうだし……あっ、あのアリス知ってる!
ほんとに石になっちゃった
折角だから貰っとこうかなあ。楽しいの思い出!
ぽっけにないないしたらお店巡りにいこう!
●花畑
「めりーくりすまーす!」
「メ、メリー、クリスマス!」
いえーい、と手を合わせて、ジョン・フラワー(まごころ・f19496)とネロ・ヴェスナー(愉快な仲間のバロックメイカー・f26933)は共にお祭りの会場に降り立った。篝火と、人々の灯したうくつものキャンドル。それはともかく彼等の気を引いたのは、その手前に建った屋台群だ。
「食べ物のお店もいっぱいあるよ!」
「良イ匂イ、沢山! ドレモ、美味シソウ……!」
「パイやケーキはあるかなあ! いちごのやつがいいなあ!」
「甘イ香リ……焼ケタパイ、クッキーモアルカモ……ソレカラ、果物ノ甘酸ッパイ香リモ……!」
「本当かい? それは嬉しいなあ! アリスの好きなダガシもあるといいね!」
「エヘヘ……駄菓子ダケジャナクテ、他ノモ大好キ」
こんなところで匂いを嗅いでるよりも、見に行った方が早いのだが、今回はそれが出来ない理由がある。
「でもね、蝋燭に火をつけてからなんだって」
「ウン、ロウソクニ、火ヲツケテカラ……」
そわそわするあまり、オウム返しのような返答になってしまった。とにかく食べ物に夢中になる前に、やるべきこと――オブリビオン対策を兼ねて、祭のメイン行事を楽しむために、二人はキャンドルを手に篝火の方へと向かっていった。
「大丈夫? アリス燃えない?」
「ア、アワワ……燃エチャウノ怖イ」
燃え盛る篝火は、ネロの毛並みにはまあまあの障害だったが、念動力を駆使すれば問題はないはず。早速、蝋燭を浮かび上がらせて。
「何それすごい便利!」
とりあえず、問題はなかったようだ。
無事キャンドルに火を灯して、揺らぐ炎の内へと目を向ける。
「ユラユラ揺レル火、スゴクキレイ」
小さな火ならばそう怖くないと、鼻先を寄せれば、やがてそこに、望んだ風景が浮かび上がってきた。
「見て見て! これ僕の縄張りだったお花畑!」
嬉しそうにジョンが言う。彼の手元の蝋燭からは、言った通り、故郷の花畑を覗き見ることが出来た。柔らかな風と、それに揺れる花弁、花の香りさえも滲んできそうな、そんな景色。
「オ花畑? アッ、オ花畑見エタヨ! 全部ピンクナノ、スゴクキレイ」
「うんうん、一面ピンク色で綺麗でしょ! 夢の中の国一番の自慢のお花畑だよ! いつか綿のアリスにも見せてあげたいなあ」
「ウン、本物ノオ花畑見テミタイ……!」
火の向こうに覗くのではなく、実際に足を踏み入れて、胸いっぱいに匂いを嗅いで。そんな楽しみ方を夢見て、二人はそう言葉を交わした。
「綿のアリスのはどんな景色なの?」
今度はそっち、と指さすのにジョンに従って、ネロは改めて自分の蝋燭の火に顔を近づける。
「ボクノハ……ワァ、皆ダ! オトウサン達ト、オ家デ過ゴシテルトコロ」
映し出されたのは、今住んでいる家と、家族の姿だった。あたたかな部屋に、みんな輪を作るように座って、微笑みを交わす、そんな光景。
「お家かあ! 帰る場所があるっていいよね! みんな幸せそうだし……」
「ウン、皆、楽シソウ……! ダカラ、ボク大好キ」
はにかむように言うネロに、うんうんと頷いて返して。
「あれ? あのアリス、僕の知り合いに似てるかも」
「エッ、本当ニ?」
そうしてお喋りしながら互いの光景を見ていれば、時間が経つのはあっという間。瞬き消えた蝋燭の火の代わりに、そこには明るく輝く結晶が残されていた。
「……ほんとに石になっちゃった」
不思議な事もあるものだ、と摘まみ上げて、僅かに熱を持つそれを、ジョンはしげしげと観察する。
「折角だから貰っとこうかなあ」
言うなれば、願いの結晶。楽しいの思い出の詰まったそれを、ポケットに仕舞い込んだ。
「オ土産貰ッタラ、次ハ、オ菓子食ベニ行コ!」
「そうだね、お店巡りにいこう!」
予定よりもじっくり楽しんだところで、ここからが本番とばかりに、ジョンとネロは先程当たりを付けた屋台の方へと駆けていった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
蘭・七結
【紅月】
常夜の扉を開いたのは二年前のこと
あなたとの二度目の冬を迎えたようね
今年というひととせは、如何なるものであったかしら
ゆうらり揺れる灯火は、とてもあたたかい
まるであの館に点った温度のよう
蝋燭に宿る光景は常夜の館
皆さんがいて、皆々が微笑んでいる
こうして何時しか、とりどりの彩が点ったの
とても大切で、いとおしい日々だわ
まあ、あなたの灯火にも
ステキな光景だこと
もう少し先へと進んでみましょうか
本日はくりすます、なのだもの
おおきなつりーを眺めてゆきましょう
館の皆さんの安寧を見守るあなた
あなたにも、数多のしあわせが注ぎますように
ええ、ありがとう
関係に与う名はなくとも
あなたも、わたしの大切なひとのひとりよ
朧・ユェー
【紅月】
おや、あの扉を開けた日からもう二年も経つのですか
君との出逢いは懐かしいような、昨日の出来事の様な
ふふっ、七結ちゃんの今年はどうだったのかな?きっとお互い違った出来事があった気がするねぇ
おや?蝋燭の灯火を魅せてくれるのですか?
あたたかい灯火、まるで君と僕を包み込む様に
えぇ…えぇ、僕も同じ事を考え
ました
あの館の様にあたたかく
七結ちゃん、皆…僕も一緒に微笑んでいる
僕の灯火も君と同じ、愛おしく大切な人達
出逢った頃はきっと違う灯火だった筈、今では同じ幸せ感じるのは嬉しいですねぇ
えぇ、大きなツリーまで
行きましょうか?
例え変わったとしても、これは変わらない
ふふっ、ありがとうねぇ
永遠の僕の紅華姫さん。
●とりどりの彩
年の終わり、新年を迎えるための祭。踊る篝火とその周りのたくさんのキャンドルを眺めて、蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)はこれまで歩んできた道を思い返す。気が付けば、常夜の扉を開いてから二年の月日が流れていた。
「あなたとの二度目の冬を迎えたようね」
「おや、あの扉を開けた日からもう二年も経つのですか」
彼女の声に、朧・ユェー(零月ノ鬼・f06712)がそう返す。あの出逢いは遥かの昔のようにも感じられるが、同時についこの間のように、鮮明に思い出すこともできる。
「あなたにとって、今年というひととせは、如何なるものであったかしら」
「ふふっ、七結ちゃんこそ、今年はどうだったのかな?」
共に戦い、いくさばで背中を預ける事も多かった。けれど、きっとお互いにそれだけではないだろうと、そんな思い出話を交えながら、二人はそれぞれ篝火からキャンドルへと炎を移した。
赤く燃える篝火のそれとは違い、蝋燭の灯火は小さく、ゆらりと揺れて、仄かな熱を伝えてくる。そのあたたかみに、七結は馴染みの館に点った温度を思い出した。
それによるものかは定かでないが、覗き込んだ炎の中に、七結は常夜の館を見出した。館には勿論、集う皆の姿があって、彼等はみな、微笑みを浮かべている。何時しか点った、とりどりの彩。それこそが、彼女の望んだ光景――とても大切で、いとおしい日々だった。
手にした柔らかな光を、七結がそっと差し出せば。
「おや? 僕にも魅せてくれるのですか?」
ユェーもそちらへと目を凝らす。あたたかい灯火は、まるで我が身を包むようだと感じながら、彼女の『望んだ光景』に共に見入った。
「僕も、同じ事を考えました」
そう言って示した彼の手元。同じように揺れる蝋燭の火の中にも、あの館が映し出されていた。
ユェーにとって、愛おしく大切な人達。それは、七結の描いた人々と同じ顔ぶれ。もちろん、七結とユェー、互いの姿もそこに在った。
「そう、あなたの灯火にも……ステキな光景だこと」
きっと二年前ならば違う光景が描かれていた事だろう。それが、共に過ごす内に、同じ願いに変わったのだとするのなら。
「嬉しいことですねぇ」
そうして、夢の光景と同じように、二人は微笑みを交わした。
「もう少し、先へと進んでみましょうか」
「先へ、ですか?」
蝋燭が消えるのを見届けて、七結は広場の向こう、煌びやかな飾り付けをされた木々の方へ、指先を向けた。
「本日はくりすます、なのだもの。おおきなつりーを眺めてゆきましょう」
「えぇ、いきましょうか?」
人々の持つ蝋燭の火と、そこに映る夢の合間を二人で歩んで、七結とユェーは、この中でも一際大きな木の前に至る。見上げれば、クリスマスらしい飾りの合間に、たくさんの結晶が吊り下げられているのがわかるだろう。願いを映した火の残り、それを願掛けのように置いていく。そんな習わしに従って、七結も残った結晶をそこに飾った。
館の皆さんの安寧を見守るあなたへ。そんな風に、願いを込めて。
「あなたにも、数多のしあわせが注ぎますように」
彼女の言葉に、ユェーもまた、応じるように。時と共に変わっていくものがあったとしても、これはきっと永遠だと、彼はそう口にした。
「ふふっ、ありがとうねぇ、永遠の僕の紅華姫さん」
「ええ、ありがとう」
関係に与う名はなくとも、あなたも、わたしの大切なひとのひとりなのだから。
もう一度、篝火に照らされた木を見上げる。色とりどりの願いを抱いたその大樹は、星空に負けないくらい、眩く煌めいて見えた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ルーシー・ブルーベル
【苺夜】
ロウソクの火ってきれい
ゆらいであったかくて
じーっと見てしまう
水色のロウソクに火を点けるわ
ゆらり見えてくる
苺が隣で笑って
館のみんなも笑ってる
クリスマスの飾りつけがされたあたたかな部屋で
美味しそうなお料理がたくさん並んで
でも思い出じゃない
皆、ルーシーもほんの少し齢を重ねた姿
ああそうか
来年も、その後も
わたしはみんなと
苺はどんなのが見れた?
あなたの望む世界にルーシーも…
うれしい
ルーシーはこんな光景よ
ええ、よく似てる!
燃えず残ってくれた結晶は小さくてもキラリ光る
苺、これ持っていて下さる?
あなたにお渡ししたいの
まあ
こうかんね?
大事に、するわ
あちらにツリーがあるんですって!
見に行こう?
手を差し伸べて
歌獣・苺
【苺夜】
うんうん!
じぃっと見てると
心も体もぽかぽかするよね!
苺色の蝋燭に火を付ける
…わ、なにか見える
私とルーシーと館のみんな…!
とっても楽しそうに笑ってる
心を…結んでる…!
あぁ、なんて幸せな世界
私が望んでいる世界
私の本当の幸せ
みて、ルーシー
私の本当の幸せの世界
私はいつかここへ行くよ
ルーシーも一緒に…ね!
わぁ、ルーシーの見えた光景も
館のみんながとっても楽しそう!
似てるね。私たちが望む世界!
?ルーシー。これ、いいの?
じゃあ私のとこーかん!
私もこれ
ルーシーに持ってて欲しいな…!
私の大切な幸せの結晶♪
ツリー!?いくいくー!
差し出された手に綻び
ぎゅっと握れば
この先に待つ幸せに向かって
共に駆け出した
●同じ願いを
お祭りの参加者はそれなりに多く、その人数に相応しいだけのキャンドルが、小さな灯の群れとなって広場を照らす。眩く輝きながらも、どこか力無く揺れるそれを、ルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)はゆっくりと見回し、満足気に息を吐いた。
「ロウソクの火ってきれいね」
ゆらいで、あったかくて、思わずじっと見つめてしまうほど。そう口にする彼女に、歌獣・苺(苺一会・f16654)もまた頷いて。
「うんうん! じぃっと見てると、心も体もぽかぽかするよね!」
今日もまた元気の良い彼女と一緒に、ルーシーは広場の中心、明るく燃える篝火へと歩んで行った。
そしてルーシーは水色のキャンドルを、それから苺はその名の通りの赤いキャンドルを、それぞれ差し出し、炎の欠片を手元に移す。灯された火はゆらゆらと揺れて、やがて確たる明かりのように落ち着いた。
「……わ、なにか見える」
そこに視線を落とせば、そう。望んだ光景が浮かび上がるのだ。
ルーシーが目にしたのは、みんなの笑顔だった。クリスマスのお祝いだろうか、飾り付けがされたあたたかな部屋に、美味しそうな料理がたくさん並んでいる。そこにはルーシーが居て、隣で苺が笑っていて、それから館のみんなも楽しそうに笑っていて。
それは館の日常のようにも見えるけれど、やはり思い出とは違うようだと彼女は思う。だって、そこにいるルーシーも、苺も、今より少しだけ背が伸びて、大人になっているのだから。
ああ、そうか。合点がいったようにルーシーは頷く。確かにこれは、こうあれたらと願う光景なのだと。
来年も、その後も、わたしはみんなと――。
一度目を閉じて、その光景を記憶に焼き付けるようにしてから、ルーシーは苺の方へと向き直った。
「苺はどんなのが見れた?」
「うん、ルーシーも見て」
そうして、二人は同じ火の内側を覗く。苺色のキャンドルが浮かび上がらせる光景もまた、あたたかなもので。
苺とルーシーと、良く知る皆の姿があった。彼女等はみんな楽しそうに笑い合って、心の結びつきまで見えるよう。それが苺の願うもので、彼女の思う本当の幸せだった。
「ねえ、何だか私達の望む世界って、そっくりね!」
「ええ、よく似てる!」
互いの『願い』を見せ合って、二人は共に笑みを零す。同じ景色を描けたことも、互いの願いの中に、互いの姿があったことも、おんなじくらいに胸をあたたかくしてくれた。
「私はいつかここへ行くよ。ルーシーも一緒に……ね!」
そんな苺の決意表明に、ルーシーは嬉しそうに頷いた。
やがて幸せな光景は、揺らぎ、消えて、燃え尽きた蝋燭の代わりに、小さな結晶が残された。ルーシーは、摘まみ上げたそれを確かめるように眺めてから、それを苺へと差し出した。
「苺、これ持っていて下さる? あなたにお渡ししたいの」
「? ……ルーシー。これ、いいの?」
思わぬ申し出に目を丸くしていた苺だったが、ルーシーが頷くのを見て、大切そうに、それを受け取る。それから、自分の願いから生まれた結晶も、代わりにルーシーへと差し出して。
「じゃあ、私もこれ、ルーシーに持ってて欲しいな……!」
「――大事にするわ」
互いのそれを交換して、二人はぎゅっとそれを手に握る。大事な友人の願いが込められたそれは、じんわりとした熱を感じさせる。
「あちらにツリーがあるんですって! 見に行こう?」
「ツリー!? いくいくー!」
そうして、もう片方の手で、空いての手を握って、二人は一緒に駆け出した。
この先に、未来にあるはずの、あの幸せな光景に向かって。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
黒鵺・瑞樹
アドリブOK
蠟燭を貰い火をつけたらそっと人気のない場所へ。
自分でも何が見えるのかわからないし、何よりどんな内容であれ人に見られるのは恥ずかしい。
そっと炎をのぞき込む。
見えたのは小さく舞う光を供にした満月。あの夏の日の夜空。
燻ってどこにも持っていきようもなかった想いに、はっきりと形を持たせた日。
あの時は告げる事はしなかったけど、ずっとずっと抱えてきた。
忘れようとしたり、できなくて結局諦めようとして。
そう今も叶うのを諦めてるのは変わらない。
残ったこの結晶もまた想いの結晶なのだろう。
結晶は持ち帰る。一応お守りとしてになるのかな。
悩んで結局忘れられなかった想い。なら最後まで抱えようと決意したから。
●あの夏の日
出来れば、誰の目にもつかないところへ。祭の喧騒を避けるように、黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)は歩く。キャンドルの上で揺れる火は、掌で覆いをして、他の誰かに見られぬように。
そこに何が映るか、自分でもわからないし、人に見られるのは恥ずかしい。
周りに人の気配がしなくなった辺りを頃合いに、彼は手元の光をそっと覗き込んだ。
人の居ない暗がりでは、その小さな明かりも眩く見える。ゆらめく炎をじっと見つめていると、その中にある光景が浮かび上がった。
まず見えたのは、空に浮かぶ丸い月。そしてその周りには小さな光が、供をするように待っている。それがあの夏の日の夜空だと、瑞樹はすぐに思い至った。
同時に、心の奥にあるものを、改めて認識する。あの月が照らす下で、彼は胸の内で燻り、どこにも持って行きようのない想いに、はっきりと形を持たせた。そして、あの時は告げる事はしなかったけれど、その想いはずっとずっと抱えてきたのだ。
忘れようとしたこともあった。そして、それが出来なくて、結局諦めようとしたことも。
あれから時は流れたが、今も叶うのを諦めてるのは、変わらないのだろう。そうでなければ、きっと別の景色が見えていたはずなのだから。
キャンドルの火は、あの夏の空気をもたらしたかのように、見つめる彼をあたたかく照らす。一人だけ、自分だけの光を胸に、瑞樹はそこで、火が消えるまでの時を過ごした。
闇が戻ったその場所には、煌めく結晶だけが残る。炎の残滓、想いの結晶、きっと呼び方はいくらでもあるけれど。悩んで、結局忘れられなかった想いの象徴であるのなら。
「一応、お守りってことになるのかな」
微かな温もりを残したその石を、瑞樹はその手に握り、歩みだした。
置いていくことなどできはしない。この想いは、最後まで抱えていこうと決めたのだから。
大成功
🔵🔵🔵
豊水・晶
あまり人に見せたくないようなものが、見えてしまうと嫌ですから、まずは一人でこっそりと見ます。(式神の藍は一緒)偶然、番のような木を見つけたので、そこで炎の中を覗くと一組の家族が見えました。大人しそうな夫と快活そうな妻、そして母に抱かれる赤ちゃん。それを見た瞬間、涙があふれて止まらなくなりました。それは、歴代で一番気にかけていた宮司と巫女でした。邪神との戦闘の後、村が移住することになり、その報告をしに来たのがちょうどこれくらいの時期でした。「よかった、幸せになったのですね。」今度はこの幸せが自分の目で見られることを願い、番の木に飾り付けて景気づけにお酒を飲みに繰り出します。
●ある家族の光景
手元の蝋燭に火を入れて、豊水・晶(流れ揺蕩う水晶・f31057)は一人、人気のない方へと足を急がせる。心に望む光景が、誰からでも見えてしまうのはある意味困りもので。あまり人に見せたくないようなものが浮かんでしまう可能性もあるからと、隠れるようにしながら、晶は手で覆い隠していた蝋燭へと目を向けた。
偶然見つけた、番いのような木の下、興味深そうに見てくる式神と共に、揺らぐ炎の中を覗き込む。すると、眩い光の向こう側に、一組の家族の姿が見えてきた。
小さく驚きの声を漏らして、晶は思わず口元を覆う。大人しそうな夫と、快活そうな妻、そしてその腕に抱かれる赤ん坊――あたたかく、穏やかな団欒の様子に、彼女の目から涙の雫が零れ落ちた。
「よかった、幸せになったのですね」
彼等は、かつて晶が気に掛けていた宮司と巫女だった。村を襲う邪神との戦いの後、二人とも移住することになったのだと、そう報告を受けたのは、こんな冬の日だっただろうか。
あれからも、遠く旅立ってしまった彼等のことは、ずっと心の隅で気になっていた。その二人が、こうして元気でいてくれるとは――。
瞼を伏せて、涙を払い、晶はもう一度その光景に見入る。忘れないように、その目に焼き付けるように。そして、この幸せな光景を、今度は自分の目で見られるように、強く願った。
どれくらいそうしていただろうか、大切な光景は、炎と共にそこから消える。残ったのは、雫のような、願いの結晶。
ふと息を吐いた彼女は、頭上の木――番になったそれに、輝く結晶を飾り付けた。
いつの日か、届くように。振り仰いで、一度それを見つめてから、晶は夜店の方へと繰り出していった。
年の瀬を送り、それから新年への景気付けに。そして、幸せになった彼等への祝いに。今日のお酒はさぞ美味に感じる事だろう。
大成功
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小結・飛花
この身に流るる水でさへ
灯る炎を消す事は叶わぬのですね
あゝ、なんとあたたかな光でしょう
篝火の傍は身を焦がすほどの熱で溢れているのに
この炎は人肌のように力強い。
茫とした火に、あたくしの望んだ景色が揺らいで、
ひととひとが輪を作り微笑み合う
炎の向こうから笑い声が漏れ聞こえる心地
今日と云ふ日であるならば
当たり前に見る事のできる景色なのでしょうね。
炎の向こうにいらっしゃる家族の顔は見えません
しかしながら、あたくしの胸を焦がす光景が広がっているのです。
あゝ、あなたがたは幸福なのでしょう
消え行く間際の結晶はあたくしの守りとしましょう
こんなにも胸を焦がす景色を見せてくれた灯火の
零れ落ちた熱量はこの手の内
●残滓
「この身に流るる水でさへ、灯る炎を消す事は叶わぬのですね」
摘んだ花を愛でるように、小結・飛花(はなあわせ・f31029)は手元のキャンドルへと視線を落とす。蝋で出来た茎の上で、明るく咲いた炎の花弁。それは先程見た篝火の、身を焦がすほどの熱とは違い、柔らかく、穏やかに、けれど人肌のように力強く咲いていた。
あゝ、なんとあたたかな光。小さな火がもたらすそれに、飛花は見入る。美しく、茫とした火の向こうに、やがて彼女の望んだ景色が見えてきた。
ひととひとが、輪を作り微笑み合う、そんな光景。この火のように、穏やかであたたかい、笑い合う声さえも聞こえてくるような。
「今日と云ふ日であるならば、当たり前に見る事のできる景色なのでしょうね」
そんな言葉が、自然と零れる。当たり前のそれは、目を細めてしまうほどに眩しく映る。手を伸ばしたいと、そんなことを望んでも良いのだろうか。けれど、そうしたら消えてしまうのかも知れない。
炎の中の像は滲んで、そこに居る家族の顔はわからない。それでも、その光景に飛花の胸は強く焦がれるのだ。
名前を呼び合い、微笑み合う。そんな『当たり前』を享受すること。
――あゝ、あなたがたは幸福なのでしょう。
音にできぬまま、そっと息を吐いて、飛花はその光景が消えるまで、その光を胸に抱いていた。揺らいだ花が消え行く間際に、零れ落ちた結晶を、手の内にくるんで。
「……これは、あたくしの守りとしましょう」
じわりと広がる、温もり。胸を焦がす光の残滓を、目を瞑って、しばしの間、追いかける。
大成功
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リード・ユースレス
誰かを大切に思うこともなく、嫉妬に身を焦がし消える定めとはなんとも、そう悲しいものです。彼?彼女?が救われることを少しばかり願っています。それはそれとして楽しませてもらいますが。
……誰も焼かない炎は綺麗ですね。
映ったもの?別に見られて困るものじゃありませんよ。僕の大切なものです。複雑ですね。あの夜全てを奪った炎の中で、お嬢様が微笑んでいるんです。
未練がましいとは思いますが、お嬢様を、いえ僕の願いの欠片をカクリヨに置いていけません。ええと何か入れ物はありましたでしょうか。夜店か何かがあればよいのですが。
●炎の中の笑顔
ふと、誰かの声が聞こえた気がして、リード・ユースレス(案山子になれなかった人形・f16147)は彼方へと視線を遣った。篝火の明かりの届かぬ場所。そして賑わう人々の喧騒の向こう側。そこにいた誰か、彼とも彼女ともつかないその者は、きっと誰かを大切に思う事も無く、嫉妬に身を焦がし消えていったのかもしれない。
そう考えるとやはり、少しばかりの救いが訪れていれば良いと、そんな風に願ってしまう。
――まあ、それはそれとして祭は楽しませてもらうけれど。
「……誰も焼かない炎は綺麗ですね」
思わずそう口にして、リードは手元に移したキャンドルの火を覗き込む。そこには彼の望んだ光景が浮かび上がるはずだが……。
「複雑、ですね」
一見するとほとんど変わらぬ表情のまま、リードが呟く。自分にとって大切なもの。覗き込んだ炎の中には、また別の炎が見えた。他のものには分からないかも知れないが、それはあの夜、全てを奪った炎に違いない。そんな燃え盛る炎の中で、彼女が……お嬢様が微笑んでいた。
本当に、これが? 普通ならばそんな疑問が湧いてきそうなものだが、リードはただ、それを『そういうもの』として受け入れていた。
揺らめく炎を、そのまましばし眺めていると、やがて芯を失ったキャンドルは、ただ静かに燃え尽きた。後に残るのは炎の名残、光り輝く小さな結晶だ。
「……」
無言のままに、リードはそれを指先で摘まみ上げる。未練がましい、と言われるかもしれないが――お嬢様を、いや、自分の願いの欠片をこの世界に置いていくことはできないだろう。
そう結論付けた彼は、その結晶を落とさぬよう、大事に拳に握って、様々な人の灯りで照らされた、お祭りの広場へと歩み出した。
「夜店に何か、良い入れ物があればよいのですが……」
神社のような風情の建物も見えるし、この結晶を持ち帰る者も多いと聞いている。御守り用の袋くらいは、ありそうだけど……。
思案に暮れつつ、祭の喧騒の中を、彼はゆっくりと歩いていった。
掌に感じるほのかな熱を感じながら。
大成功
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英比良・與儀
ヒメ(f17071)と
見た目はふつーの蝋燭だな
ヒメ、これに火をつけ…と、あの篝火でつけるんだったか
俺にとっては火はお前って感じだからなァ
なんか他んとこから火を貰うのは不思議な感じだ
ゆらり、蝋燭の炎を見詰める
望んだ光景がみられる、か
……でけー俺が、本来の俺がいる
まァ、そうだな。俺は早く元の姿に戻りてェから
身長も、ちょっとずつ伸びてるが、あと何年かかるのか、と笑って
ああ、消えちまった
…残ったのは、炎の結晶って言うんだってな
おい、ヒメ、これやるよ。俺いらねェし
御守りにするでもなんでも好きにしろよ、そこのツリーに飾ってもいい
お前の?
貰ってどうすんだよこれ、って思っちまうけど
まァ、貰っといてやるよ
姫城・京杜
與儀(f16671)と!
俺は炎の神だからか、灯火見てると落ち着くな
自分でも火はつけられるけど
今日は折角だし、篝火から貰うぞ
確かに、ちょっと不思議かも
こくり頷きつつ、楽し気に主と並んで火をつけてみる
…望んだ光景、か
もしも自分が死ぬ光景だったら…與儀に怒られちまう…
なんて、少し心配しつつ自分の炎覗けば
普段通りの、與儀と過ごす何の変哲もない風景が
それ見て気付く
昔は死にたくて仕方なかったけど
今は…與儀と過ごすこの日々が続く事が、俺の望みなんだなって
與儀の結晶くれるのかっ?(嬉し気に受け取り
じゃあ、俺のは與儀に!(にこにこ
そしてそっと願うぞ
與儀の…いや、與儀と俺の望んだ風景が、どうか叶いますように、って
●火の欠片
大きな篝火が広場の真ん中で燃え盛り、その周りを広く囲むように、人々の灯したキャンドルの灯が揺れる。そんな光景に、炎の神である姫城・京杜(紅い焔神・f17071)は、懐かしいものでも見るかのように目を細めていた。そして一方の英比良・與儀(ラディカロジカ・f16671)は、配られていたキャンドルを受け取って。
「見た目はふつーの蝋燭だな……」
何か仕組みがあるようには見えないが、と一通りそれを調べて、與儀はおもむろにその先端を京杜に向ける。
「ヒメ、これに火を――」
点けて、と言いかけて、京杜が首を横に振るのを見て言葉を切った。
「折角の祭だからな。火は篝火から貰うぞ」
現地の流儀に従おうと言う京杜に、與儀も頷いて返す。その辺りは彼も納得しているのだろう、他の人々と同じように、篝火の傍へと歩み寄って。
「俺にとっては火はお前って感じだからなァ。なんか他んとこから火を貰うのは不思議な感じだ」
「確かに、ちょっと不思議かも」
二人並んで手を伸ばして、蝋燭の先に火を移した。
屋外ながら、今日は幸い風も無い。静かに、けれどしっかりと燃える火種へと、與儀はじっと目を凝らす。揺らめく光の中をじっと見つめていると、やがてそこに、見慣れた顔が浮かんできた。
「ああ……でけー俺だ」
いや、本来の姿と言うべきか。神に相応しい堂々とした佇まいの、成長した與儀の姿がそこにはあった。
「望んだ光景か……まァ、そうだな。俺は早く元の姿に戻りてェから」
どこか納得したようにそう呟く。成長しているとはいえ、『少年』としか言いようのない今の姿からは、果たして何年かかるのか。理想の光景までの距離を悟って、思わずその顔に苦笑いが浮かんだ。
そして、彼と同時に火を点けた京杜は、周りに――特に與儀に見られぬよう気を付けながら、蝋燭の火を覗き込む。
見えてくるであろう光景に、少しばかり心当たりはあった。その候補の一つとして、『自分が死ぬ光景』なんてものもあるが……そんな様子を他ならぬ與儀に見られたらどうなる事か。若干緊張しながら炎に視線を落とした彼は、すぐにそこに浮かんだものを確かめて。
「何か、普通……?」
思わず、そう呟いた。
望んだ光景として見えているのは、與儀と過ごす何の変哲もない日々だった。共に歩いて、笑って、振り回したり振り回されたりしながら。何ら変哲の無いその光景が、自分の望んだものなのかと、そこまで考えたところで、京杜はそれに思い至った。
以前は本当に、死にたくて仕方がなかったけれど、今は……與儀と過ごす日々が、それを上回っているのだろう。
それぞれに、自らの目標を、そして大事なものを再確認した二人は消え行く炎からその結晶を取り出した。
先程までの火とも違い、じんわりとした熱を伝えてくるそれは。
「炎の結晶って言うんだってな」
手の内で弄ぶようにした後、與儀は手元のそれを、今度こそ京杜の方へと差し出した。
「おい、ヒメ、これやるよ。俺いらねェし」
「え、くれるのかっ?」
それを見て、京杜が声を弾ませる。とはいえ、何故そんな嬉しそうなのか、與儀にはいまいちわからないようで。
「御守りにするでもなんでも好きにしろよ、そこのツリーに飾ってもいい」
どうしても、素っ気ない言い方になってしまう。まあ、それを気にする京杜ではないようだが。
「じゃあ、俺のは與儀に譲ろう! 受け取ってくれ!」
「お、お前の? いや貰ってどうするんだよこれ……」
ぐい、と押し付けられたそれを、どうしたものかとしばし眺め。結局、まあいいか、と溜息を吐いた。
「……まァ、貰っといてやるよ」
態度はどうあれ、受け取ってはもらえたと、京杜は表情を緩める。望みと想い、その結晶を、互いに託した形と言えなくもない。
大事に握ったそれに、そっと彼は願いを込めた。
與儀の……いや、與儀と俺の望んだ風景が、どうか叶いますように。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
荻原・志桜
🎲🌸
すごいキャンドルの数だね
ねえ、ディイくんは何か視えてきた?
ふふっいいね。そういうのも素敵
あ。わたしのも何かみえ、る――…?!
炎を通して視える光景は彼とわたしの未来の姿
その腕に小さな命を抱えて
ひ、ひゃああああ?!
まって、見ないで!タイム、ディイくん離れて!!
蝋燭から遠ざけようとするけど多分見られる
彼に知られるなんて。羞恥のあまりに泣きそう
……見た?
あのですねディイさん。違います。落ち着いてください
寒くて幻覚を――はい、わたしの願望です
アナタとなら幸せを築けるって思うから
ん。それじゃあ交換
叶えたい、よ。ぜったいに。だってディイくんじゃないとイヤなの
いつだって望むのは彼と歩むしあわせな未来を
ディイ・ディー
🎲🌸
炎は俺にとって身近なもの
ちいさく灯る火は好ましく思えて薄く笑む
おっと、視えてきたぜ
俺が望む光景は――ああ、成程
少し大人になった志桜が見えた
俺と揃いの研究白衣を着ていて、穏やかに微笑んでいる
数年後も一緒に居たいって願いが視えたのか
……志桜、その光景
すげー照れるんだが、その……うん、悪くない
俺より先を見てるんだな、志桜は
落ち着いてないのはそっちだろ、と笑って
慌てる彼女も可愛いし、望んでくれた事も嬉しい
行く先は未だ分からない
けれど、俺だって志桜との未来を望んでいる
灯を重ねて、想いだって二人で重ねて往こう
その結晶、交換しようぜ
俺の想いと志桜の想いを互いが叶えられるように
君の幸福が俺の倖せだから
●未来
祭に使われている広場を見渡せば、行き交う人々の手にしたキャンドルの群れが、満天の星空を写したように輝いている。炎を身近なものとするディイ・ディー(Six Sides・f21861)にとっても、その小さな灯は好ましいものに感じられた。
「すごいキャンドルの数だね」
そんな彼の傍らで、同じ様に広場を眺めつつ、荻原・志桜(桜の魔女見習い・f01141)はむしろ、彼の手元の方へと注意を促す。
「ねえ、ディイくんは何か視えてきた?」
こういう時は他の誰かではなく、自分の火にこそ気を向けてほしいもの。
彼女の声に従い、手元の蝋燭に視線を落としたディイは、じっくりとその中心を覗き込んだ。
「おっと、視えてきたぜ。俺が望む光景は――」
ああ、成る程。そう得心がいったように頷く。橙色にゆれる炎の向こうに見えたのは、今より少し大人になった志桜の姿。揃いの研究白衣を着た彼女が、こちらに穏やかな笑みを向けている。これはつまり、同じ職場、ということになるのだろうか。
「……数年後も一緒に居たいって願いが視えたのかもな」
「ふふっいいね。そういうのも素敵」
喜ばしいのが半分、恥ずかしいのが半分。照れ隠しのように、志桜も自分のキャンドルを見つめていると。
「あ。わたしのも何かみえ、る――……?!」
言葉に詰まる。ディイと志桜、今より数年先の、少し大人になった二人の姿が見えたところまではよかったのだが。あたたかそうな部屋で、微笑み合う二人。そして成長した自分が胸に抱いているのは、恐らく二人の――。
「ひ、ひゃああああ?!」
素っ頓狂な声を上げて立ち上がった志桜は、キャンドルの火がディイの視界に入らないよう身を以て隠しにかかる。
「し、志桜?」
「まって、見ないで! タイム、ディイくん離れて!!」
「あ、ああ……」
どうにかこうにかキャンドルを遠ざけた彼女は、顔から火が出る思いで向き直って。
「……見た?」
「すげー照れるんだが、その……うん、悪くない」
しみじみ頷かれて、志桜が突っ伏す。間違いない、これは完全に全部見られた時の反応だ。
「あのですねディイさん。違います。落ち着いてください。あれはほら寒さからくる幻覚で――」
「意外と往生際が悪いな?」
むしろそっちが落ち着け、と諭されて、志桜はがっくりと肩を落とした。
「――はい、わたしの願望でした」
涙目になって慌てる彼女の姿も、望んでくれたことも、愉快で、そして嬉しく感じてディイが吹き出す。
「しかし、俺より先を見てるんだな、志桜は」
「……アナタとなら、幸せを築けるって思うから」
ディイにしてみれば、「そういうのはまだ早い」と引いていた線の、遥か先のような光景。まだまだ、そこに至るまでの道のりが見えないくらいだと思えてしまうが。
「俺だって、志桜との未来を望んでいる」
そう、向いている方向はきっと同じだから。灯を重ねて、想いだって二人で重ねて往こう。彼はそう心に決めた。
「その結晶、交換しようぜ」
炎が消えた後の、残った欠片を摘まみ上げて、ディイが言う。
「ん。それじゃあ交換」
自然と先程の光景が脳裏を過ぎって、また耳が熱くなるのを感じつつ、志桜もそれに応じることにした。
願いの結晶を、互いの手に。握った掌に感じる仄かな熱は、きっと指針になってくれるだろう。
二人の望む光景が、ぴったりと合うように。そしてそれが、一緒に叶えられるように。
幸せな未来を目指して、二人は一歩ずつ歩いていく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
朧・紅
《朧》人格で
気付けば蝋燭持って立っていた
…またか
紅は最近「こういう事」をよくするようになった
クリスマスも楽しめッてか
眉間に皴
蝋燭に灯る情景が日々を笑顔で楽しむ紫目から
嗤い殺戮愉しむ金目の情景へと揺らめき移る
ギロチン刃が敵を貫き
相手の獲物が己が身を抉る
クリスマスに興味はねェが映す炎は面白いモンだと薄く口角を上げて
更に揺らぎ映った知らぬ光景に
その炎を握り潰した
…はァ
凍り付くほど感情が冷め
否
これは苛立ち、か
嗚呼と思い付く
遊び相手は居たのだと
オブリビオン
刃で穿とう
悲鳴を愉しもう
痛みもスパイス
イイじャねェか
俺ラも“仲良く”殺しあおうぜェ?
羨ましかったんだろ、なァ!
結晶になれなかった物は打ち捨てた
●朧の愉しみ
気が付けば、蝋燭を持って立っていた。朧・紅(朧と紅・f01176)――彼女を成す人格の中の一つ、『朧』は、ご丁寧に火まで点けられたキャンドルを前に、「またか」と溜息を吐く。
片割れであるところの『紅』は、最近よくこういう事をする。
「……クリスマスも楽しめッてか」
余計な真似を。舌打ち一つでは足りないとばかりに、眉間に皺が寄る。
そのまま、金の瞳で蝋燭を睨めば、『紅』の描いた楽しい日々の情景が、暗い色へと染まり行く。ギロチンの刃が敵を貫き、相手の得物が我が身を貫く、そんな血みどろの戦いと殺戮こそが、彼女の望んだ世界だから。
クリスマスなどに興味は無いが、なるほど望みを映す炎というのは面白い。薄く口角を上げてそれを眺めていた彼女だったが、やがてその凄惨な幻がさらに揺らいで、見知らぬ光景に変わったところで、すぐさまその火を握り潰した。
「……はァ」
先程感じた愉悦が急速に冷めて、代わりに腹の奥でふつふつと何かが煮える。この感情の正体を『苛立ち』だと特定できたところで、同時に彼女はその解消法を思いついた。
嗚呼、と声を漏らしながら、口の端を上げる。この状況でも、遊び相手は居るはずだ。
この祭を狙っているという、オブリビオン。見つけたら、すぐさま刃で穿ってやろう。悲鳴を愉しもう。きっと痛みだってスパイスになるに違いない――。
結晶を作るまでもなく消えた燃え滓を打ち棄て、朧は祭に背を向けた。
敵の居場所に関する情報を、グリモア猟兵は語らなかった。だがこの祭の雰囲気の中、我が身を焦がすほどの昏い情念を燃やす者が居るのなら、見落とすはずがないだろう。
「さあ、俺ラも“仲良く”殺しあおうぜェ?」
祭の篝火とは違う、真っ黒な炎を纏った相手に、凶暴なばかりの笑みを向けて。
「羨ましかったんだろ、なァ!」
無数に飛び交うギロチンの刃を引き連れて、朧は『遊び相手』へと襲い掛かる。
同じ灯火でもこちらの方が、よほどマシだと嗤いながら。
大成功
🔵🔵🔵
雛瑠璃・優歌
【永歌】
(参考シナリオID:29709(2章))
見えるのは幸せな家族の光景だと思ってた
「…何で」
見えたのは一人だけ
一度少し瞑目してから顔を上げ、視界の先の人の名を呼ぶ
「こんばんは、逢海さん」
先に来てた人
火の中に見えていた唯一の人
「火、いっぱいですね。逢海さんの扱う狐火みたい」
頼れば近くに居てくれる
彼の目も狐火も綺麗、いつもそう思ってた
でもどこか遠い所に居る様な、淋しい匂いがする気もしてた
あたし達はきっともっと何かを分かち合えると思うのに
火の中の、あたしを真っ直ぐ見つめる瞳はまだ知らない
「ぁ、溶け切ってる…」
見えたのが彼だから
「これ…逢海さんに持っててほしい、です」
貴方の許がいい
「お願いします」
逢海・夾
【永歌】
オレの望むものに変わりはねぇ
アイツ等の笑う平穏な世界。それだけだ
…分かってるさ
アイツ等の望みには、そこにオレも含まれてることぐらい
そうでもなきゃ煙管なんて「縁」を繋いだりしねぇ
でもな、大事なものは少しでいい
身軽に、いつでもいけるように
「あぁ。いい夜だな、優歌」
誰にも知られないように守り隠してきた
でも、アイツと同じ、陽の匂いがする人間だから
炎に揺れる姿がひとつ増えた、だから
見られても許せる、と思えたんだろうか
「そうか」
狐火には、オレには、優しい願いも熱もねぇのにな
そう、見えるのか
オレが持ってりゃ、いつかは砕ける
これも、それも、変わりなくな
それでもいいんなら、断る理由もねぇよ
●互いの姿
その蝋燭に火を灯せば、炎の向こうに望んだ光景を見ることができる。それがこの祭の触れ込みだ。
『望み』の形は様々だろう。話を聞いて思い浮かべたもの、「かく在れ」と定めたもの、そして心の奥で、無意識に求めてしまうもの。何が表に出てくるかは、やってみなければわからない。
雛瑠璃・優歌(スタァの原石・f24149)は、そう冷静に思考して、「何で」と呟いた己への答えとする。彼女の手元では、キャンドルの火が望みの光景を移し、揺れていた。
そこに見えるのは、幸せな家族の情景だと思っていた。戦う事、舞台の上で振舞う事も、最終的にはそこに繋がる筈だったのに。そう考えながら、瞑目する。
瞼の裏で、光の残滓が踊る。
炎の中、見えたのは一人だけ。そこには、彼の姿だけがあった。
一方で、逢海・夾(反照・f10226)の蝋燭には、彼の思う通りの光景が映し出されていた。
望むものは変わらない。『彼等の笑う平穏な世界』、だ。
彼等の望みの中には、夾自身が含まれていることも、勿論自覚している。手にした煙管は、繋いだ縁の証。そういった繋がりの大事さは、妖狐である夾にわからぬはずもない。
――ああ、でも、それだけだ。大事なものは少しで良い。
炎の中に見えるものが、増えれば増える程、それは同時に重石となる。
身軽に、そうあるべきだと彼は思う。いつでも、その選択ができるように。
「こんばんは、逢海さん」
目を開いた優歌が、先に来ていた夾に声を掛ける。灯の中に見えたのと同じ、白い髪と、赤い瞳。彼もまた、蝋燭を手にしているようだが。
「あぁ。いい夜だな、優歌」
気にした様子もなく、夾はそう応じた。
常ならば、ここでその灯を隠してしまうところだ。望んだ光景を見られることは、胸の内を覗かれる事に等しい。けれど、不思議とそうする気は起きなかった。
アイツと同じ、陽の匂いがする人間だからか。そんな風に夾は思う。その辺りは定かではない。確かなのは、夾の見る炎の中に、一人分の姿が増えていたという事だけ。
そんな彼の思考を知らぬまま、優歌はその隣に並んで、祭りに賑わう広場へと目を向けた。
「火、いっぱいですね。逢海さんの扱う狐火みたい」
彼の目も狐火も綺麗、いつもそう思っていたから、自然とそんな言葉が口をつく。
「そうか」
冷たいわけではないけれど、短い返事。それは肯定でも否定でもなくて、「そんな風に見えるのか」という感慨に過ぎない。この灯火のような願いも、優しい熱も、持ち合わせてはいないというのに。
そして、音にされないその思考に、優歌が届くはずもない。
頼れば近くに居てくれる。でもどこか遠い所に居る様な、淋しい匂いがするのは、この辺りが原因だろうか。
あたし達は、きっともっと何かを分かち合えると思うのに。もどかしい思いを形にしようとしている内に、優歌は手元の蝋燭が消えていることに気が付いた。
「ぁ、溶け切ってる……」
蝋燭と炎が尽きた代わりに、残されていたのは、明るい色に輝く結晶。拾い上げ、確かめるように握った後、優歌はそれを差し出した。
「これ……逢海さんに持っててほしい、です」
だって、映っていたのは彼なのだから。
そんな申し出に対して、夾はいつも通り、飾らないままそれを並べる。
「オレが持ってりゃ、いつかは砕ける。これも、それも、変わりなくな」
それでもいいなら、という夾の言葉に、優歌は迷うことなく答えた。
「お願いします」
願いの結晶を、貴方の許に。
大成功
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叢雲・源次
【煉鴉】
グウェンか。随分とめかし込んでいるが…(そういう自分はいつものスーツ姿。仕事で来ているのだから)
なるほど…オブリビオンへの対応は、その行事とやらに参加して完遂すればいい。という事か
(キャンドルを灯す。理想とする姿は以前にUDCアースの任務で訣別した。今の理想として映るのは自身が経営を任されている喫茶店の一幕。何気ない日常)
これでいい、俺にはこれが何よりの理想だ。
グウェン、失ったものは帰ってこない…だが新たに得られる物もある
お前にはそういった物を大事にして欲しい
鮭?クリスマスには鳥なのでは…いや此処にはそういう風習が?
(まぁいい、ありがたく頂戴する)
……。(炎の結晶を胸ポケットに仕舞う)
グウェンドリン・グレンジャー
【煉鴉】
源次ー、めりくりー、はっぴー、ほりでー
(もこもこのフード付コートを纏ってマトリョーシカめいた1.6mの生き物になっている。フードを外す)
(肩を叩いて)
キャンドル……だって。灯して、みよー
(自分の灯した炎を覗き込んでみれば、生まれ持った赤毛に青い目の己。笑顔の自分の近くには、楽しげな両親が)
…………。
(母は死んだ、父は狂気に堕ちた。私は、半分人でないものに変わってしまった。)
……確かに、理想
屋台、いこ
クリスマス……には、サーモン、食べるのが、流行り、らしいよー
サーモンのハラス焼き、特盛り、くださーい
源次、特別に、半分、分けてあげるー
炎の結晶……私、これ、貰ってく
(手袋を外しそっと触れて)
●時の中の今
今回の目的はオブリビオンの討伐。そしてこのカクリヨファンタズムを救う事。つまりいつもの仕事であると、スーツ姿の叢雲・源次(DEAD SET・f14403)が現地に降り立つ。同行する味方とは、こちらで合流する予定だが……。
「源次ー、めりくりー、はっぴー、ほりでー」
声を掛けてきたのはマトリョーシカめいたもこもこ体型の愉快な仲間……ではない。
「グウェンか。随分とめかし込んでいるが……」
もちろん声に聞き覚えはあるし、見間違えるはずもない。フードを取って顔を出したのは、グウェン――グウェンドリン・グレンジャー(Heavenly Daydreamer・f00712)だった。
「お祭り、だから」
言葉少なにそう告げて、グウェンドリンは、先に貰っておいた源次の分のキャンドルを手渡した。それこそが今回の祭の主旨であり、我等が猟兵達に与えられた使命でもある。
「灯して、みよー」
「なるほど・・・…オブリビオンへの対応は、その行事とやらに参加して完遂すればいい。という事か」
察しが良くて非常に助かる。うんうんと頷くグウェンドリンが先導する形で、二人は賑わう広場を横切って、その中心の大きな篝火から、それぞれの蝋燭に火を移した。
「確か……これで望んだ光景が見られるのだったか」
行事の流れを思い出しながら、源次は自らの手元の炎を注視する。『理想』と言えば、彼にはどうしても、最初に思い浮かぶものがある。しかし、その姿とは訣別したのだ。一度瞑目し、改めてそう反芻してから、『今の理想』をその目で追う。
そこにあるのは、源次が経営を任されている喫茶店だった。いつもと変わらぬ日々、何気ない日常、それが彼の、新しい望み。
「……これでいい、俺にはこれが何よりの理想だ」
ふと微笑んだ源次は、連れの方へと目を向ける。グェンドリンもまた、自らの点けたキャンドルの火を見つめていた。けれどその目は源次と違い、遥か遠く、届かぬものをみるようで。
「…………」
言葉もなく、彼女がじっと見つめていたのは、家族団欒の風景だった。真ん中に居るのは、今よりも幼い、かつての己。赤毛に青い目、今の自分とはずいぶん違った見た目の彼女は、両親と楽し気に語らい、笑っていた。
それはもはや失われ、戻らぬもの。炎の中で微笑む母は既に亡くなり、父は狂気に囚われた。グウェンドリン自身もまた、半ば人ではないものに変わってしまった。
「……確かに、理想」
焦がれ、そして届かぬものを、人はそう呼ぶ事がある。けれど、それだけではないのだと、源次静かに口を開いた。
「グウェン失ったものは帰ってこない。……だが新たに得られる物もある」
お前には、そういった物を大事にして欲しい。そんな彼の願いによるものか、グウェンドリンは、柔らかな光の中の光景から、視線を上げた。
やがて、炎と共に、その光景も消えていく。それを確かめたところで、グウェンドリンは源次の方へと向き直った。
「屋台、いこ」
「ああ」
仕事はこれで果たしたはずだと頷く、彼に。
「クリスマス……には、サーモン、食べるのが、流行り、らしいよー」
「鮭? クリスマスには鳥なのでは……いや此処にはそういう風習が?」
「サーモンのハラス焼き、特盛り、くださーい」
初めて聞く情報に面食らう源次を他所に、すたすたと歩みを進めた彼女は早速注文を始めている。
「源次、特別に、半分、分けてあげるー」
「……」
まぁいい、と結論付けて、源次はありがたく申し出を受けることにした。
胸ポケットに仕舞いこんだ結晶の存在を思いながら、源次は思う。いつか彼女の願う光景も、自分のように、変わっていく時がくれば良い。
そしてグウェンドリンもまた、ポケットに入れたそれに、手袋を外した指先で触れる。願いを宿した結晶は、ほんの少しだけ、あたたかい。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
橙樹・千織
炎の中に見えたのは
友人と行った灯籠祭り
露店で揃いの耳飾りを選び
四季を問わぬ花々が咲き誇る庭園
何種もの桜が咲く中を彼に手を引かれて歩いたこと
花筏浮かぶ水に二人で身を沈めたこと
その後に現れた影朧は逃がしてしまったけれど、花は奪われずに済んだこと
確かにあれは今年一番の想い出かもしれない
あの庭園は美しかったし、心中の真似事も滅多にしないものね
移ろう光景にくすりと笑う
そういえばあの時、自分は何を思ったのだったか
そう、たしか…
『もっと貴方との想い出が欲しい』
…?
何故“貴方達”ではなく“貴方”だったのか
不思議で首を傾げ結晶を空に翳す
咲いた花
帰ったら調べてみようかしら
結晶をそっとしまったら屋台やツリーを見に
●花咲く光景
篝火と、そしていくつもの蝋燭の灯りが夜を照らす。無数の小さな光の中には、橙樹・千織(藍櫻を舞唄う面影草・f02428)が灯した火もあって、それをじっと見つめれば、見えてくるのは、そう。あの秋の日の灯籠祭のことだった。
宵時の、灯籠の間を二人歩いて、露店で揃いの耳飾りを選んだこと。
この世のものではないかのような、四季の花咲く庭園。何種もの桜が咲く中を彼に手を引かれて歩いたこと。
そうして、花筏浮かぶ水に二人で身を沈めたこと。
その後に現れた影朧は逃がしてしまったけれど、花は奪われずに済んだこと。
記憶の中を手繰るように、浮かび、そして移ろう光景を、千織はその橙色の瞳で追いかける。
確かに、あれは今年一番の想い出なのかもしれない。まるで桃源郷だと話したように、あの庭園は美しかったし、心中の真似事も滅多にする機会のないものだろう。
過ごした時間と交わした言葉、そしてその時の気持ちをなぞり、彼女はくすりと微笑む。
二人で戦い、襲い来る影朧を退けて――そういえばあの後、自分は何を思ったのだったか。自然と浮かんだ言葉は、たしか……。
「もっと貴方との想い出が欲しい」
明るく燃えて、消えていく炎を眺めながら、口の中だけで小さく呟く。
改めてなぞれば、少しだけ不思議な気持ちになって、千織は最後に残った結晶を摘まみ上げながら、小首を傾げる。
何故“貴方達”ではなく“貴方”だったのか。月と篝火の光に結晶を翳して、その輝きを眺めてみる。指先に感じる僅かな熱は、繋いだ手のそれを思い出させる。
確たる答えは出ないまま、けれど頭の中に浮かんできたのは、あの時咲いた花のいろだ。
「帰ったら調べてみようかしら……」
手の内に握った結晶をそっとしまって、千織は屋台と、それからツリーのある方へと歩いていった。
鮮やかに咲くトリテレイア。その花言葉は――。
大成功
🔵🔵🔵
千家・菊里
【花守】お供のおたまも共に
趣深い炎があったものですねぇ
おたまと狐火で遊ぶのも楽しいですが、こうして唯のんびり眺めて楽しむ炎というのも乙で
あ、伊織もうっかり周りのあつあつな方々に嫉妬の炎とか燃やさないでくださいね?
(片手に蝋燭――そして片手にちゃっかり屋台の戦利品を握りつつ、暢気に笑い)
さてさて、何が見えるか――
(おたまと覗いてみれば、皆で温かな宴や御馳走を楽しむ様子が浮かび上がり――)
伊織は何が?まさか亀さんやぴよこさんというものがありながら、他の方との浮気現場なんて浮かんでませんよね?
ふふ、まぁ分かっていますよ
こんな風に温かく照らされる日々が、続くと良い
(結晶はおたまへ、お守りと誓いとして)
呉羽・伊織
【花守】お供の雛や亀も一緒に
ああ、こりゃ良いや
身も心もあったまるような、優しい炎だな
…
別にリア充爆ぜるべしとか思ってないし!寧ろ末永くお熱く燃え上がり続けるが良いわこの野郎~って気分だし!
別に玉砕続きで既に燃え尽きたりとかもしてないし…
(どんどん消沈する声を、何とかぐっと立て直して)
それより今はこの炎に心を向ける時だろ!
全く、もう――(向き直れば自然と浮かぶは右に同じ――それは過去の思い出でもあり、未来にもまた望むものでもあり)
…ってコラ、んなワケ…いやそんな夢も見てみたいケド…コホン!
ああ、そーだな
(この炎は消えようとも、心の内の灯火は絶えず此処に――此方もお守りとしてお供達と共に、傍らに)
●変わらぬ絆
篝火から移した蝋燭の火が、穏やかに夜を染める。今宵、人々の手にしたそれは、光をもたらすだけではなく、各々の願いまでも照らし出すようで。
「ああ、こりゃ良いや。身も心もあったまるような、優しい炎だな」
「趣深い炎があったものですねぇ」
呉羽・伊織(翳・f03578)の抱いた感想に、千家・菊里(隠逸花・f02716)が同意する。祭の喧騒にしても、望んだ光景を前にしたゆえだろうか、皆どこか前向きで、普通の宴のそれとは一線を画した風情が漂っている。
「こうして唯のんびり眺めて楽しむ炎というのも、乙なものですね」
おともとして引き連れたおたまへと目を遣りつつ、菊里が言う。狐火で遊んでやるのも今日はお預けだろうか。いつの間にやら屋台から仕入れてきた食べ物を頬張りつつ、菊里は辺りを見回して。
「伊織も、うっかり周りのあつあつな方々に嫉妬の炎とか燃やさないでくださいね?」
何しろ、恋人やら夫婦らしき二人連れも結構居る。それは当然、伊織も目にしているはずだった。
「いやいや、別にリア充爆ぜるべしとか思ってないし! 寧ろ末永くお熱く燃え上がり続けるが良いわこの野郎~って気分だし!」
「それはよかった。成長しましたね伊織」
「ああ……別に玉砕続きで既に燃え尽きたりとかもしてないし……」
言えば言うほど虚しくなってきているのか、声は徐々に萎んでいく。いやしかし、こんな気分に浸りに来たのではないと、伊織は何とか気持ちを持ち直した。
「それよりも! 今はこの炎に心を向ける時だろ!」
「おや、思い出してしまいましたか」
「全く、もう――」
呑気に笑う菊里を半眼で睨んで、共に篝火から火を移した彼等は、それぞれに炎の中に視線を向けた。
「さてさて、何が見えるか――」
おたまと一緒に覗き込んだ菊里は、やはりと言うべきか、皆で温かな宴や御馳走を楽しむ様子をそこに見出す。そうすると、気になるのはもう一人の方だが。
「伊織は何が? まさか亀さんやぴよこさんというものがありながら、他の方との浮気現場なんて浮かんでませんよね?」
「何言ってんだコラ、んなワケ……いやそんな夢も見てみたいケド……」
こちらも引き連れてきた雛と亀が、心なしか責めるような目をしている。いくら何でも言いがかりである。それにそもそも、浮気という事になるのか……?
色々と言いたいことはあるが、実際のところ伊織が見ていたのは、菊里の見た光景とほとんど同じで。それは何度も何度も経てきた過去の思い出の積み重ね。そして、未来にもまた続く様にと望むもの。
けれどそんな弁明は、改めてする必要もないようで。
「ふふ、まぁ分かっていますよ」
そう微笑んだ菊里は、もう一度炎の内へと視線を戻す。そうして、炎が揺らめき、消えていくまでそれを眺めた。
「こんな風に温かく照らされる日々が、続くと良いですね」
「ああ、そーだな」
この炎は消えようとも、心の内の灯火は絶えず此処に――そう誓い、二人は残った結晶をその証として、それぞれのお供達に持たせた。
いつまでもそれを忘れぬように。そして、傍らに在るように。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
朱赫七・カムイ
⛩神櫻
隣のサヨのぬくもり
噫、生きているのだ
望んだ光景を映す炎
私の蝋燭に火を灯す
何を望んでいるか、なんて知っているくせに
私の巫女は冀う
――私の慾をみせよと
きみにあいたい
輪廻を巡った末に
私の望みはもう叶っているはずなのに
映された桜色は―正しく
私の希み
散らぬ桜のサヨと手を取り合って世界をかける
きみが咲う
ずっと一緒だ
次は何処に行こう?
明日も明後日も
一年後も百年後も千年後もずっと一緒に生きていく
望んではいけないと戒める程に解ける願い
俯いた頬に櫻の手が触れる
きみは狡い
私の願いのよすがが揺れる角に触れる
何故サヨは火を灯さなかったの?
私の巫女は狡いなと笑う
桜の唇を指で撫でて笑う
桜の木の下の秘密を
暴いてみせるよ
誘名・櫻宵
🌸神櫻
焔より艶やかな赫を纏うカムイの隣
炎より暖かな温もりを感じながら
カムイの持つ桜色の焔を覗き込む
私達の蝋燭は二人でひとつでいい
望んだ光景がみられるなんて
私の神様はどんな願いを抱いているの
―桜が咲いている
手をとり笑いあう
あなたと私
立派な神のあなたの手をとり笑う桜龍
私の桜は、散らぬ永久桜
共に世界を旅しよう
色んな彩をみにいこう
ずっとずっと傍にいて
なんて幸せな日々
そんな願いに愛おしげに双眸細め
俯く神の頬に触れる
噫、なんて
愛おしい
燃え尽きた幻の欠片を手に取る
ツリーに飾るのは勿体ない
自分の角に飾る
カムイの願いのよすがは私だけのもの
私の蝋燭に何故灯さなかったのか?
…私の願いは秘密よ
あなたが暴いて
私の神様
●桜色
「ねえ、カムイ」
艶やかな赫を纏う彼の隣に、誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)が身を寄せる。火の傍よりも、ここの方があたたかいと、その温もりを感じながら、彼の手にしたキャンドルに目を遣った。
この祭の触れ込みに沿うなら、それを覗き込むことで、持ち主の望んだ光景が見られる、ということだが。
「私の神様は、どんな願いを抱いているの」
そう冀う櫻宵の言葉に、朱赫七・カムイ(約彩ノ赫・f30062)は、仕方ないと言うように息を吐いた。何を望んでいるかなど、櫻宵が知らぬはずもない。それでも問うて、慾をみせよと言っているのだ。
隣に在るぬくもりを思えば、その答えは明らかで。揺らぐ炎を二人で見られる位置に置いて、カムイはそれを改めて言葉に乗せた。
きみにあいたい。
ずっと、彼の望みはそれだった。数奇な運命と、輪廻を巡った末に、それは叶えられたはずなのに。願いの言葉は今も変わらない。
覗き込んだ炎の中は桜色。散らぬ桜、永久桜を咲かせた櫻宵と手を取り合って、笑い合う。世界を駆けて、様々な彩を探しに。そんな桜龍と神の旅路の光景が、そこには在った。
さあ、次は何処に行こう。幻の中の神は言う。
望んではいけないと戒める程に、願いは解け、雄弁に、音の無い声で語るのだ。
――ずっと一緒だ。明日も明後日も、一年後も百年後も千年後もずっと傍に、一緒に生きていくのだと。散らぬ桜と同じように、永遠を、共に。
吐露される思いは、聞こえずとも櫻宵には察せられる。それはきっと、幸せな日々だろう。夢見るような瞳でそれを眺め、甘く溜息を吐いて、櫻宵は俯いたカムイの頬に、指先で触れた。
噫、なんて愛おしい。
永遠の旅路は終わることなく、それを描き出すキャンドルの火が、先に燃え尽きる。消えゆく光景を惜しむように目を細めたカムイの前で、最後の輝きは結晶へと形を変えた。
最後に残った幻の欠片、願いのよすがを、カムイに先んじて櫻宵が手に取る。
「ツリーに飾るのは勿体ないわよね」
捕まえたそれを、自らの角に飾って、微笑む。これで、私だけのもの。
「きみは狡い」
悪戯な振る舞いに、カムイは愛おしげに目を細めたまま、その櫻に触れた。
指先に感じる熱は、先程までの炎の名残か。同じものを、櫻宵も感じているのだろうか。
「何故サヨは火を灯さなかったの?」
ふと、浮かんだそれを口にする。君の望みは? それは当然の問いだけれど。
「……私の願いは秘密よ」
「やはり、私の巫女は狡いな」
帰ってきた答えに、そう笑って、櫻宵の唇を指先で撫でる。柔らかな感触を覚えるままに、その唇が言葉を紡いで。
――あなたが暴いて、私の神様。
――暴いて見せるよ、私の巫女。
囁くように、そう交わした。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
藤代・夏夜
毎日が愛と夢でいっぱい
欲しい物盛り沢山オタクな私が火をつけたら
何が見られるのかしらね?
ワクワクしながら火を見つめる
浮かんできたのは複数のシルエット
UFOキャッチャーで遊んでる高校生達
笑ってたり真剣だったり
その中に…生きてた頃のみんなの中に私もいる
覚えのある光景につい吹き出して
そうね
オタ仲間で友な皆との思い出は大量にあるけど
これが一番の思い出だわ
お目当てのフィギュア取れなくって全員で挑戦して
で、取った人にガチャガチャ1回分奢る事になったのよ
…何でそうなったのかしら
思い出せないのが寂しいけど
笑ってるみんなが見れてぽかぽか温かい結晶が残った
だからわからないままでいいわ
結晶は持ち帰ってお守りにしましょ
●灯るぬくもり
銀色に輝く指先を伸ばし、藤代・夏夜(Silver ray・f14088)は篝火から蝋燭へ、その炎を移す。焔を照り返す自分の右手に若干見惚れながらも、彼は心を躍らせて、キャンドルへと瞳を向けた。
「さあ、何が見られるのかしら……?」
欲しい者は盛り沢山、愛するものは両手に余るほどあって、毎日は夢に満ちている。オタ活という形で人生を謳歌する彼には、一番に望む光景として何が出てくるのか、予想もつかないでいた。
とはいえどの推しが出てきても問題は無い。福袋ガチャを回すような気持ちで炎を見つめた彼は、揺らめく光の合間に、複数の人影を見出した。
「これは……」
その正体を悟って、夏夜は思わず吹き出してしまう。その光景は過去のもので、彼の記憶にも確かに残っていた。
UFOキャッチャーに挑む高校生達。笑ったり、やけに真剣な顔をしていたり、アームの行方に一喜一憂する若者の中には、当時の夏夜の姿もあった。
周りの彼等は所謂オタ仲間。懐かしい友人達――そう、生きていた頃の彼等を、目を細めて夏夜は眺める。皆との思い出は、いくつも、大量にあるけれど。
「……そうね、これが一番の思い出だわ」
納得したように、そう呟く。皆で挑んでいるのは、お目当てのフィギュアが置かれた筐体だ。どうしてもそれが取れなくて、結局全員で順番に挑戦して――最後にそれを取った人に、ガチャガチャ一回分ずつ奢る事になったのだ。
何がどうしてそんなことになったのか、誰が言い出したのか。炎の中の幻には音が無く、細かいところはもう思い出せない。それが、少しだけ寂しいけれど。
ほう、とひとつ溜息を吐く。
いつまでも眺めていたい気持ちに反して、やがて蝋燭は終わってしまう。
笑ってるみんなが見れて、残った結晶、その温もりを感じて。
――わからないままでいい。
自然と、そう思えた。
大成功
🔵🔵🔵
雲失・空
【雨空】
わ、明るい色がめっちゃある……目がチカチカしちゃうな……
ん?大丈夫だよウルル。意外と綺麗に見えてるよ、この目でもさ
んはは!クリスマスだっていうのにウルルはまた食べ物の話?
じゃあま、帰りに屋台寄って帰ろっか
いいよ。せーの、
(──晴れた景色。
平然と、堂々と歩く自分。
人の波を恐れず、街を闊歩して 笑顔で声をかけてくれる人に笑顔で応えて
”色”なんか視なくたって、”顔”を見ればいい。普通の世界。)
──…まぁ、大体そんなところでしょ。自分のことは自分がよく分かってるしね。
どう?ウルル。
わ、なになに?そんな顔しないでよも~
…視なくてもわかるよ。
だから今夜は、美味しいものをたくさん食べて笑顔で帰ろう。
ウルル・レイニーデイズ
【雨空】
(火の中にぼくが見るのはどんな光景かな。
クリスマスだし沢山おいしいもの食べてる光景?だとすると……)
……おなか、すきそう
(脳内は多弁、出力は言葉少な。いつもの様にカラに話しかけ)
……せーので、火 つけよ。 せーの
(――晴れた景色。
傘を差さず歩くぼく。
何かを汚す憂いなく
街を歩き
普通のベッドでゆっくり寝て
家族に囲まれて
緩やかに老いていく。
フラスコ生まれのぼくには
きっと難しいだろう未来。)
……確かに
こうだったら いいな
(そしてきっと叶わぬ夢
微かに淋しげな笑みを浮かべて)
……ぼく へんな顔してた……?
………そっか(後はいつもみたいに微笑んで)
うん。
……あのね?カラ ぼく
……おなかすいた(ぐぅ)
●叶わぬ光景
「わ、明るい色がめっちゃある……目がチカチカしちゃうな……」
広場の中心の篝火と、その周りの人々が手にした無数のキャンドル。それら熱源をサングラス越しに感じ取り、雲失・空(灯尭シ・f31116)がそう声を上げる。ついで、こちらの様子を窺い見るウルル・レイニーデイズ(What a Beautiful World・f24607)の気配を察して、そちらへと向き直った。
「大丈夫だよウルル。意外と綺麗に見えてるよ、この目でもさ」
わかった、と頷き返したウルルは、空の隣に並ぶようにしながら、祭りの光景と、これから見るものへと思いを馳せる。
話によれば、蝋燭の火を通して、望んだ光景を見ることができるという。ならば自分の見るのは果たしてどんな光景だろうか。クリスマスであることを鑑みれば、沢山おいしいものを食べてる光景、というのが一番ありそうだ。
ぼんやりした表情に見えるが、頭の中では思考がぐるぐる回っている。そこまで予測した上で、呟いたのは一言だけ。
「……おなか、すきそう」
「んはは! クリスマスだっていうのにウルルはまた食べ物の話? じゃあま、帰りに屋台寄って帰ろっか」
そんな様子も慣れたものなのか、空は快活に笑って応えてから、広場の真ん中へと歩き出した。
配られたキャンドルをそれぞれ手にしたところで、ウルルが言う。
「……せーので、火 つけよ」
「いいよ。せーの、」
大きな篝火から二本の蝋燭へ、炎が燃えて、その光景を浮かび上がらせる。ウルルが、その赤い瞳で見たものは、広がる青空と晴れた景色。
そこでのウルルは傘を差すこともなく、何かを汚す憂いもなく、街を歩いて、普通のベッドでゆっくり寝て、家族に囲まれ緩やかに老いていく。フラスコチャイルドとして、短命を運命づけられた彼女には、きっと難しいだろう、そんな未来。
「……確かに。こうだったら、いいな」
一方、空の前にもまた、炎の中に晴れた景色が浮かんでいた。彼女自身にそれを見ることはできないが、幻の中の空は平然と、堂々と街を歩いていた。人の波を恐れず、笑顔で声をかけてくれる人に、同じように笑顔で応え、『色』ではなく『顔』を見て、普通の日常を過ごす――。
――見る事は出来ずとも、大体そんなところだろうと、空自身もそう当たりをつけていた。
自分の事は、自分が一番よく分かっているのだから。
「どう? ウルル」
そして、隣の彼女に声を掛ける。奇しくも二つ、浮かんだ光景は共に『叶わぬ夢』。
「わ、なになに? そんな顔しないでよも~」
「……ぼく へんな顔してた……?」
空にそう指摘されて、ウルルは自分の頬に触れる。
「……うん、視なくてもわかるよ」
「…………そっか」
今となっては、どんな顔をしていたか自分でもわからないのだが。いつも通りの表情に戻った彼女に、空は言う。
「今夜は、美味しいものをたくさん食べて笑顔で帰ろう」
それに対して、ウルルはこっくりと頷いた。
「……あのね? カラ ぼく」
「うん?」
「……おなかすいた」
「そうだろうねえ」
蝋燭の火が消えていく中、小さくお腹の音が響いた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
揺・かくり
【幽明】
現世ではくりすますと云うらしい
君は知って居たかい?
三太は我々の同胞かな
彼の者も喫驚を好むのだろうか
呪符を纏った両腕で灯火を得よう
濁った視界へも色を灯すかの様だ
何とも摩訶不思議な事だね
私は視力が無いに等しいのだが
此度限りは、何かが見える様な気がするよ
気侭な腕で君へと焔を寄せよう
灯る景色には幽世が映る
私が“私”を望み、いきている景色だ
内情は、君のみが知って居れば良い
目は役立たずだが耳は冴えて居るのだよ
茫とする視界に映る景色、君からの密告
其れは、我らの秘め事だ
妖が騒ぎ立てる行事は過ぎ去った
だが、此度限りは良いだろう
しとりは酒が呑めるのだったね
深まる夜は冷える事だろう
酒宴を共にしようじゃないか
鈍・しとり
【幽明】
話には聞くわね
三太とかいう輩が出るそうな
神出鬼没というからに、或いは同類の仕業やもと
まあ、そうなの
視力の不自由は初耳でやや驚きつつ
まさか見失われはしないかと
視界から追い出されぬ様にと
拝見序に寄る袖へ手を添え身を寄せる
かくり、
濁りを自称する貴女の目に光をさす景色はどんなにか。
焼かぬ火に焼かれた心地さえする
せめて目に焼き付けて帰ろうぞ
次いで、陰る目で蝋燭を手繰ればきっと
此方は炎の中に同じかたちの女が映る
内緒話を良いか知ら
或れこそはわたしの世、景色の全てだったもの
――嗚呼、直ぐ燃え尽きてしまうのね
火が消えると急に暗くなった気がするわ
そうね、折角だもの
此の結晶を冷やさぬ様
確り酔って帰りましょ
●秘密
降り立ったそこは祭の最中。広場の大きな篝火を中心に、キャンドルの灯が周囲へと広がり、明るい喧騒が耐えず響いている。祝いごと特有の浮かれた空気を感じ取りながら、揺・かくり(うつり・f28103)は鈍・しとり(とをり鬼・f28273)に、聞きかじった噂を披露した。
「現世ではくりすますと云うらしい。君は知って居たかい?」
こちらも聞いたことがある。しとりもまた小耳に挟んだ内容を思い出して。
「何でも、三太とかいう輩が出るそうな」
その者神出鬼没というからに、或いは同類の仕業やもと所見を挟めば、かくりは感心したように頷いた。
「成る程。その三太とやらも喫驚を好むのかも知れないね」
幽世には現世に詳しい者も、そうでない者も勿論居る。二人はどうやら後者のようだが、そろそろ誰か誤解を解いた方が良いような気もする。
とにかく、祭の源流の一部は理解できたと見込んで、二人もそれに加わった。祭りを象徴するような大きな篝火に、呪符を纏った両手と、冷たく青白い指先が伸びて、それぞれ蝋燭へと火をもらう。
柔らかく点った蝋燭の炎を、かくりは早速金の瞳で見つめる。明るい光は、濁った視界へも色を灯すかの様に感じられて。
「何とも、摩訶不思議な事だね」
思わず、そう呟きが漏れた。それを捉えたしとりは、彼女の白い顔を窺う。
「もう、なにか見えたの?」
「いや――」
その前に、前提として。かくりはその眼について言及した。
「私は視力が無いに等しいのだが……此度限りは、何かが見える様な気がするよ」
「まあ、そうなの」
一緒に見るかい、とそう誘うかくりの、滲んで見える金色を再度覗き見て、しとりは口元を押さえる。それについては初耳だ。今までそんな事はなかったが、まさか見失われはしないだろうかと心配になって、蝋燭を覗き込む序に、袖を引いて身を寄せた。
共に見つめる炎の中には、幽世の景色が浮かび上がる。そこには、自らの『今』を望んで生きる、かくりの姿が在った。
かくりは、口に出してそれを説明するようなことはしない。この内情は、覗き見た君だけが知って居れば良いのだから。そんな彼女の意図を察してか、しとりはその光景を、濁りを自称する彼女の願いを、その目に焼き付けておこうと胸に決めた。
一頻りそれを眺めてから、次いでこちらもと、しとりは自分の蝋燭を翳す。これで、かくりにもきっと同じ物が見えているはず。
「内緒話を良いか知ら」
「ああ、勿論。目は役立たずだが耳は冴えて居るからね」
冗談めかして応じる彼女に見せたそこには、しとりと同じかたちの女が映っていた。
――或れこそはわたしの世、景色の全てだったもの。
密やかに語られる言葉に、かくりはしとりにだけ分かるよう、頷いた。ならば其れは、二人の秘め事としておこう。
そうして、やがて火は消えて、先程よりも夜闇を色濃く感じられる。
目的となる行事は、これで果たすことが出来ただろう。かくりはそう認識して、改めて口を開いた。
「しとりは酒が呑めるのだったね」
立ち並ぶ屋台の方には、その辺りの願いを叶えられる場所もあるだろう。
「深まる夜は冷える事だろう。酒宴を共にしようじゃないか」
「――そうね、折角だもの」
頷いたしとりは、消えていった光の根元に指を伸ばして、最後に残った煌めく石をその手に取った。
「此の結晶を冷やさぬ様、確り酔って帰りましょ」
願いの結晶、二人の秘密を収めたそれは、息づくように、微かな熱を帯びていた。
●灯火
大きな篝火を中心に、幾つもの小さな炎が、生まれては消えていく。
そうした祭の遠景の中、「グワーッ」みたいな断末魔と共に、黒い炎が上がって消えた。
祭を楽しむ猟兵達は、それによって世界の崩壊を防いだのだ。
様々な願いを乗せて、灯火は揺らめき、そして年は暮れゆく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵