●きみの熱
夜と闇だけだ。
暗澹たる世界。けれども傍らには、君がいる。
けれど――決してこの約束を破ってはいけないよ。
クリスマスの夜は一言もしゃべってはならない。そんな言い伝えがある地方があった。
許されているのはひとつのあかり。身を寄せ合って、その瞳で、その指で、その手で。
その表情ですべてを語ることだけ。
きみがかたわらにいてくれるなら。
あなたが傍にいてくれるなら。
この想いは伝わっているか。その答えも、目にする姿から得なければならないのだから。
●静かなるかな
「――という、古いしきたりのある地方があってな」
終夜・嵐吾(灰青・f05366)はゆらりと暖かそうな尻尾を揺らして柔らかに微笑む。
「大事な人と二人きり、静かに過ごしたいものもおるかと、思って案内しよんじゃけど」
しゃべってはならんから、自分の全部使って色んな思いを伝えることになるの~とふふと笑う。
いちゃいちゃし放題じゃね、なんて揶揄うように言いながら。
「静かな教会を中心にした街で、街の外には森が広がっとる。その森に敷かれた道を進めば綺麗な湖があるんじゃよ」
街の人々は、教会で祈り、ランプをもって街を巡り。そして森を進み湖へ。そこでしばし過ごして、街に戻るというものが多い様子。
それをまねて湖へと足を延ばしてもいい。街では体の温まる美味しい料理を出してくれる店もあるようなので好きに過ごしたらいいと嵐吾は言う。
色々なクリスマスの過ごし方がある。
ダークセイヴァーで、静かな――互いだけと思える夜を過ごしたいなら、訪れてみると良いかもしれんと、嵐吾は手の内でグリモア輝かせて猟兵達をおくるのだった。
志羽
お目通しありがとうございます、志羽です。
プレイング締め切りなどのタイミングはお手数ですがマスターページの【簡易連絡】をご確認ください。
少人数予定ですので、お返しする方もいらっしゃるかもしれません。
おしゃべり禁止。
ただそれだけです。
話せないからこそ、視線や動作などで想いをいっぱい伝えるシナリオです。
友情、恋情。家族、他色々。いろんな関係があると思います。お好きにどうぞ!
場所については、ダークセイヴァーで、ちょっと大きな街、森、湖とあるので、他にこういうところありそうだな…というところならお好きに作っていただいて大丈夫です。
突拍子もない場所はマスタリングするか、プレイングをお返しいたします。
あと、公序良俗に反するものについてはプレイングお返しします。
フラグメントのPSWについては無視していただいて大丈夫です。
ご一緒する方がわかるように【グループ名】や【ID】を記入していただけると助かります。また、失効日が同じになるように調整していただけると非常に助かります。
お声がけあれば志羽のグリモア猟兵も遊びに参ります。
以上です。
ご参加お待ちしております。
第1章 日常
『ダークセイヴァーのクリスマス』
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POW : 冴え冴えと輝く星空の下で、凍える体を互いに温めたり、温かい飲み物などを飲みます
SPD : 陰鬱な森や、寂れた廃墟をパーティー会場に作り変えてパーティーを楽しむ
WIZ : 静かな湖畔や、見捨てられた礼拝堂で祈りを捧げて、クリスマスを静かに過ごす
|
ヴォルフガング・エアレーザー
・ヘルガ(f03378)と
愛する妻と2人、湖の畔で星を眺め
寒空に彼女が凍えないように、そっと肩を抱き寄せ包み込む
ヘルガの白い右手を取り、胸の「フェオの徴」に当てる
お前がくれた人の心の優しさ、温かさ
騎士として、そして夫としての誓い
俺が「ひと」である証
どんな怒りも苦しみも、この想いあればこそ乗り越えられた
胸に響く鼓動と共に、お前に伝われと願う
抱きしめる腕に力を籠め
そっと頬を寄せ、くちづける
互いの熱を分け合うように
命のありかを確かめるように
ああ、俺を包み込んでくれるヘルガの白い翼は
とても柔らかく、温かい
冴え冴えとした夜空に輝く星
その輝きを心に抱いて
行こう、お前と俺が望んだ、世の幸せのために
ヘルガ・リープフラウ
・ヴォルフ(f05120)と
湖の畔で、大切な夫と身を寄せ合って
大丈夫、あなたがいればとても暖かい
冬の凍てつく空気の中にあっても辛くない
ああ、彼の徴に触れた掌から伝わる
彼の温もり、彼の優しさ、彼の想い
挫けそうな時も、泥中に堕とされ踏み躙られた時も
あなたのこの情熱が、わたくしを救ってくれた
絶望の淵から立ち上がり再び歩き出す勇気をくれた
あなたがいれば、わたくしは何も怖くない
ヴォルフの力強い抱擁に身を委ね
口づけを受け入れて
わたくしも白き翼を広げ、彼を包み込む
わたくしの熱は、祈りは、命は
あなたに伝わっていますか
わたくしはあなたをしあわせにしていますか
あの空に輝く星のように
わたくしはあなたの希望になりたい
●星の下にて誓いと願いを
湖は静かに輝いている。
その様を二人、身を寄せ合ってヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)とヴォルフガング・エアレーザー(蒼き狼騎士・f05120)は眺めていた。
冷たい風が二人の間を駆け抜けようとするけれど、ヴォルフガングは冷えぬようにと肩を抱きよせ包み込む。
そっとヘルガはヴォルフガングを見詰め、微笑む。
大丈夫、あなたがいればとても暖かい――冬の凍てつく空気の中にあっても辛くないのだと。
ヘルガの白い手を取り、ヴォルフガングは胸の中央に刻まれたルーン、フェオの徴の上へと当てた。
それは我が身、無辜の祈りに応え、民を守る礎となると誓わんとしたもの。
ヴォルフガングがヘルガに与えてもらった者。
人の心の優しさ、温かさ――これは騎士として、そして夫としての誓いだ。
俺が『ひと』である証、とヴォルフガングは思うのだ。
どんな怒りも苦しみも、この想いあればこそ乗り越えられたのだと。
胸に響く鼓動と共に、お前に伝われと願う――それは伝わっているのだろう。
温もり、優しさ、想い――挫けそうな時も、泥中に堕とされ踏み躙られた時も。
あなたのこの情熱が、わたくしを救ってくれたとヘルガは抱く。
絶望の淵から立ち上がり再び歩き出す勇気をくれた。
あなたがいれば、わたくしは何も怖くないとそっと視線を向けて伝える。
ヴォルフガングは力強く抱きしめる。その腕に力を込めた。
頬を寄せ、口付ける。それにヘルガは身を任せて、受け入れる。
抱きしめられて腕は届かない。なら、この白き翼でとヴォルフガングを包み込んだ。
互いの熱を分け合うように、命のありかを確かめるように。
その白い翼の、温かさ。
(「ああ、俺を包み込んでくれるヘルガの白い翼はとても柔らかく、温かい」)
わたくしの熱は、祈りは、命は――あなたに伝わっていますか。
わたくしはあなたをしあわせにしていますかと、ヘルガは心の内でヴォルフガングへと問い掛ける。
そして――ふたり、視線を空へ。
冴え冴えとした夜空に輝く星がある。
あの空に輝く星のように、わたくしはあなたの希望になりたいとヘルガは思う。
そしてヴォルフガングは――その輝きを心に抱いてヘルガだけに微笑む。
行こう、お前と俺が望んだ、世の幸せのために。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
宮前・紅
戎崎・蒼(f04968)と行動
廃れた礼拝堂に足を踏み入れる
通路を挟んで離れて横に座った二人を寂寞が包み込む
──月もそれを黙って見ていた
外から行き交う人の息遣いや足音が聞こえる
彼が何を考えているのかは分からない
人の活気があるのは平和な印だ
偶に自分たちのやっていることが正しいかよく分からなくなるけれど
それで人々が安心して街を歩けるのだとすれば、自分たちがやっているオブリビオンの"殺戮"もきっと"正しい"のだろう
ポイと折り畳んだ紙を、今日くらいは穏やかに過ごしたいであろう、澄ました顔のそいつに投げやる
そして、にぃっと意地悪く笑って揶揄う様に彼を見た
『メリークリスマス、これからもよろしくね──共犯者』
戎崎・蒼
宮前·紅(f04970)と行動
こんな場所に礼拝堂があるとは知らなかったな…
もう片割れを横目でちらりと見やっても、きっと其奴はいつも通りに笑っているだけだろう
閑古かつ静かなその空間には、確かに僕等だけの時間があった
性格も全く似ても似つかないし、一生分かり合えるとも思えない奴と僕は、何処か生き急いでしまっている部分がある
だからこそこんな静かに過ごす夜があってもいいのかもしれない
特に紅は心を開く事が中々、いや、まず無いから
……当たらずも遠からじ、狂気と呼ばれる彼にとって休まる一時と成ればいいけれどね
ふいに投げられた紙を、丁寧に折りたたんで返事代わりの苦笑を返す
『……言われずとも』
●共犯者へ
街は静かだ。
その中を、先に歩む宮前・紅(三姉妹の人形と罪人・f04970)。
戎崎・蒼(暗愚の戦場兵器・f04968)はその隣を歩いていく。
気の向くままに進んで――紅はひっそりと、隠れるように建っていたそれを見つけた。
礼拝堂だ。
人の訪れはほとんどないのだろう。
屋根は半分以上ない。祈るための場所はかろうじて残っている。
人々が座る椅子もほとんどが朽ちているだろうか。
そんな礼拝堂の中へ、紅は進む。
(「こんな場所に礼拝堂があるとは知らなかったな……」)
蒼は礼拝堂をするりと視線で投げて眺めて、紅の横へ。
ふたり、中に進む。その足音だけが静かに響いていた。
蒼はちらりと横目で片割れを見やる。
いつものように、笑って――それは影に隠れてふと見えず。
紅は先に進み、まだ座れる椅子へと座った。
通路を挟んで、反対側。そこもまだ座れる。蒼はそこへと腰を下ろした。
少し、距離を置いて、離れて。
ただただ、静か。寂寞が包み込む――僅かな光だけが一筋差し込んだ。
月だ。月だけがふたりを黙って見ている。それも僅かの時間でやがて翳りを帯びた。
人々が――礼拝堂の近くを行き交う。その気配、足音を紅は感じていた。
けれど、一番近い場所にいる蒼が何を考えているのかは、分からない。
人の活気があるのは平和な印だと、その音に僅かに意識を傾ける。
この音は、意味あるものだ。
(「偶に自分たちのやっていることが正しいかよく分からなくなるけれど」)
それで人々が安心して街を歩けるのだとすれば――自分たちのしている事は正しいと言える。
オブリビオンの"殺戮"もきっと"正しい"のだろうと、紅は思えた。
ひとり、思いめぐらせる紅へと蒼はそっと視線を向ける。
性格も全く似ても似つかない。
一生分かり合えるとも思えない。そんな彼と己は、何処か生き急いでしまっている部分がある。
だからこそ、こんな――静かに過ごす夜があってもいいのかもしれないと、蒼は短く息吐いた。
紅が今、何を考えているかはもちろんわからない。
彼が心を開くことが中々――いや、まず無いと蒼は小さく首を振る。
(「……当たらずも遠からじ、狂気と呼ばれる彼にとって休まる一時と成ればいいけれどね」)
そう、蒼が思っているとぽいっと。小さく折り畳まれた紙が膝の上に投げ込まれた。
それを投げたのはこの場に一人、紅しかいない。
今日くらいは穏やかに過ごしたいであろう、澄まし顔の蒼へ。その紙に気づいたから、にぃっと、紅は意地悪く笑って、揶揄うような表情を向ける。
その紙に綴ったのは、今日この日だからこその――それから。
メリークリスマス、これからもよろしくね──共犯者。
その文字を目で追い、紙を丁寧に畳んで蒼は苦笑をする。それは返事代わり。
言われずとも、と。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ニノマエ・アラタ
ノゾミ【f19439】と
森を抜けて湖畔に行くって、何かの新しい試練か?
(ちらっと隣の人達を見て)
一つのランプを二人で持つんだな?
じゃ、俺が左手に下げて持つ。ノゾミはその上に、手ェのっけろ。
右手はあけとくだろ。刀を握る手だから。
……なんか湿ってない? 汗かいてるのか?
こんな寒いのに。しもやけになるぜ。
黙って歩くだけなら、俺にとっては簡単なご用だ。
まあ、道が暗くても蹴躓く心配も無ェわけだし。
……俺のこと、じっと見てるけど、何?
……?
万が一、ここで戦闘が起こっても。
すぐに呼吸を合わせられる。
なんでだろうな。
……ふだんはたいして、仲良く無ェのにな。
じゃ、帰るか。
特に何もおこらなかったけど。
ま、いいか。
青霧・ノゾミ
ニノマエ【f17341】と
言葉を口に出さないって案外難しい。
僕って、おしゃべりさんだったんだな。
今更、気づいた。
喋っちゃダメって縛りが、僕をドキドキさせる。
……ニノマエのせいじゃない、違うんだから!
ランプを二人で持ってたの、たまたまじゃない?!
そういうの無……。。
僕は両手利きだからいいけど。
暗い湖畔にたどりついても、湖面のさざ波しか見えないな。
……ニノマエの手って、こんなに大きかったっけ。
ゴツゴツ感あるなあ。
相変わらず、無愛想な横面だね。
……あ、眼が合った。
……ニノマエは、裏切らない。
だから、僕は。
……信頼して背を預けられる。
甘えもある、のかな。
ダメだね。
そういうこと。
そういうことだよ。
うん。
●信頼しているから
言葉を口に出さないって案外難しい、と青霧・ノゾミ(氷嵐の王子・f19439)は何度か、口を開こうとし、その度に噤んでいた。
(「僕って、おしゃべりさんだったんだな」)
今更、気づいたとノゾミは思う。
そして――その胸がドキドキしていることにも気づいていた。
このドキドキは、喋っちゃダメという縛りのせい。絶対そう、と思いながらノゾミはニノマエ・アラタ(三白眼・f17341)をそっと見た。
(「……ニノマエのせいじゃない、違うんだから!」)
軽くかぶりを振るノゾミの隣、ニノマエは周囲に視線を巡らせている。
森を抜けて湖畔に行く――何かの新しい試練か? と思っているニノマエ。
他の者達を見てその状況を知るのは大事なこと。近くにいる者達は、一つのランプを二人で持っている様。なるほど、とニノマエは頷く。
(「一つのランプを二人で持つんだな? じゃあ」)
俺が左手に下げて持つ、とニノマエは左手にもち、軽く掲げる。
その上に、手ェのっけろ――そう言っているのが、わかる。
(「ランプを二人で持ってたの、たまたまじゃない?!」)
ノゾミは改めて、そうじゃない人もいるだろうと周囲を見るが――皆二人で持っていた。
(「そういうの無……」)
ニノマエが左手を出したのは右手を開けておくため。その手は刀を握る手だから。
ノゾミは両利き。どちらでも使えるから、右手を乗せる。
(「……なんか湿ってない? 汗かいてるのか? こんな寒いのに。しもやけになるぜ」)
と、ニノマエはノゾミの指先へと視線を。
黙って歩く――ニノマエにとっては簡単なこと。
(「まあ、道が暗くても蹴躓く心配も無ェわけだし」)
そう思っていると――手に、視線を感じた。
ノゾミはニノマエの手をじっと見ていた。重ねたからこそわかる。
(「……ニノマエの手って、こんなに大きかったっけ」)
ゴツゴツ感があるなあ、と思いながらふとノゾミはニノマエへと視線向ける。
相変わらず、不愛想な横面だ。
手に向けられていた視線が己の横顔に向けられたことをニノマエが感じないはずはなかった。
前を見ていた瞳が、ノゾミへと向けられる。
(「……俺のこと、じっと見てるけど、何?」)
(「……あ、眼が合った」)
ノゾミは瞬く。
しかしそれだけで、何か言いたいことがあるのかどうかも、ニノマエは分からない。
(「……?」)
なんだ? と思うだけだ。
しかしノゾミはその間に、信頼を傾けていた。
(「……ニノマエは、裏切らない」)
だから、僕は――とかすかに唇動きかけるのを飲み込んだ。
(「……信頼して背を預けられる」)
甘えもある、のかなと思いはするのだ。
そしてそれを――ダメだね、とも思う。
その、ノゾミが思っていることを、考えていることをニノマエが掬い上げられるかというと、そうではなかった。
万が一、ここで戦闘が起こっても、すぐに呼吸を合わせられる。
そんな思考に到っていた。
しかし、それがなぜなのか――それはわからないままだ。
(「……ふだんはたいして、仲良く無ェのにな」)
けれどニノマエが思っていることをなんとなくノゾミは感じていた。
そして、そういうこと、と思う。
そういうことだよ、うんと――小さく、頷いて。
先に踵を返して、一歩先を進んだのはニノマエだ。
(「じゃ、帰るか」)
帰ろうとしているのはわかる。
特に何もおこらなかったけど――ま、いいか、とニノマエは思うのだ。
何かが劇的に変わるわけでもなく、ただ今までと変わらずある。
それもまた――信頼の上であるからこそ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
蘭・七結
【春嵐】
何時しか極夜へも真冬が訪れたよう
荒ぶように撫ぜてゆく風のつめたいこと
ほうと白息を溢してゆく唇
此度はただの飾り、使いものにはならぬよう
あなたへと紬ぐことのははないけれど
それが、いったい何だと云うのかしら
音に乗せて言葉を綴らずとも
あなたを見うつす眸があれば、それでよいの
あなたとて、おんなじでしょう?
あつい硝子の向こう
あたたかな春を灯すあけのいろ
そうと眦を緩めたのならば
あなたへと左の指さきを伸ばしましょう
滲むぬくもりの心地よいこと
禁じられたからこそ、こころにて唱えましょう
いっとうのしあわせを感じているのだと
このひと時が、愛おしいのだと
みえない想いと、見うつすあなた
嗚呼、わたしたちはいきている
榎本・英
【春嵐】
常夜と呼ばれるこの場所は、私の苦手な世界だ
本日は語らう事を禁じられた
しかし、わたし達にとってのそれは、日常でもある
郷に入っては郷に従えと云う
教会で祈り、ラムプを掲げて森を行き、湖を目指す
言葉はなくとも通じ合うのだ
隣の君は真白く、たおやかな指を持つ少女
赤く結いだ片手をそつと掬いあげ、このぬくもりを分け合う
随分とあたたかな温度が、ゆびさきから染み入るようになった
夕暮れの如き淡い紫に染み渡る君の双眸には月が浮かんでいる
聖夜と云うにはあまりにも普通で、いつも通りであろうとも
それが良い
そのくらいが丁度良いのだ
私たちは今日も生きている
結いだ手を心の臓へと招き入れた
嗚呼。生きている
●ぬくもり
見上げる先にあるのは、夜ばかり。
常夜と呼ばれるこの場所は、榎本・英(人である・f22898)には苦手な世界。
語らうことを禁じられたこの夜は、ここに生きる者達にとっては年に一度のものだ。
けれど、英と、蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)にとっては――日常でもある。
荒ぶように、風が――ふたりの頬を撫でていく。七結は頬だけでなくその長い髪も揺らされていった。
つめたい風が戯れにやってくるのは一度だけではなく、七結の唇から白息が溢れゆく。
その風は、熱を奪っていく冷たいものだ。
震えるほどではないけれども、撫でられていった所から、冷えていく。
唇も、だ。
この唇、此度はただの飾り。音を――英へと、紬ぐことのはなく。
けれど、それが、いったい何だと云うのかしらと、七結は瞬いた。
二人並んで最初に向かったのは、教会。
郷に入っては郷に従えと、教会で祈り、その手にラムプを掲げて森を行き、湖を目指す。
言葉はなくとも通じ合うもので、二人の歩みは自然とそうなっていた。
ただ、静かだ。歩む音だけが聞こえる。
音に乗せて言葉綴らずとも――七結の眸の中にその姿はある。
あなたを見うつす眸があれば、それでよいのと語り掛ける。
あなたとて、おんなじでしょう?
あつい硝子の向こう、あたたかな春を灯すあけのいろを、つかまえた。
そうと眦は、緩んで。七結は、左の指さきを伸ばす。
そうっと、そうっと――触れる。
滲んでいく、ぬくもり。
真白く、たおやかな指を持つ少女。
赤く結いだ片手を、英はそっと掬い上げた。
冷たい、けれどもあたたかい。ぬくもりを分け合って――随分とあたたかな温度が、ゆびさきから染み入るようになったと英は思うのだ。
夕暮れの如き淡い紫に染み渡る君の双眸。その中に月が浮かんでいる。
そして己の姿も、ともに。
聖夜と云うにはあまりにも普通で、これは――いつも通り。
けれどそれが、良い。そのくらいが丁度良いのだ。
ふ、と柔らかに、静かに笑みが零れ落ちる。
滲むぬくもりの心地よいこと、と七結はくすぐったげに微笑んだ。
禁じられたからこそ、こころにて唱えましょう、と心の内で紡いで。
いっとうのしあわせを感じているのだと――このひと時が、愛おしいのだと。
この滲むぬくもりは、互いを伝わりあっていく。
英は、七結の結わいだ手を心の臓へと招き入れる。
とくり、とくりと鼓動があるのは伝わるだろうか。
ゆびさきから感じるその鼓動が、伝えてくる。
言葉がないから、互いの想いを正しく伝えることはできないから、想いはみえぬままだ。
けれど、みえない想いと、見うつすあなたと英の事を七結は想う。
そして、伝わっているのだ。
嗚呼、と言葉にせずとも伝わり落ちる。
嗚呼――生きている。わたしたちはいきている。
結わいだ手のぬくもりと共に。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
月舘・夜彦
【華禱】
話してはならないしきたり、ですか
その代わりに行動等で思いを伝えるということなのですね
事前に頂いた情報に倣い、倫太郎と手を繋ぎながら湖周辺を散策
美しい景色が見えれば顔を合わせて微笑み合う
声を発せないだけで、していることは同じ
しかしながら……倫太郎が見せる表情は何処か物足りないようで
彼が思わず声を出しそうになって口を覆う様子に首を傾げたものの
彼の気持ちがなんとなく分かるような気がして
塞いでいる手にそっと口付ける
そう……言葉で伝えられなくとも行動で示すことはできる
返される口付けに照れ笑いすれば、引き寄せて抱き締める
言葉を伝えるのが一番良いのですが今のこの状況も悪いものではないですよね?
篝・倫太郎
【華禱】
夜彦がいると饒舌になる自覚があるし
甘く深く俺を呼ぶ夜彦の声が聞けない
それは少し……いや、かなり寂しい
そんな事を思いながら
いつも通りに手を繋いで
のんびりと湖周辺を散策
綺麗な景色に顔を合わせて笑い合う
それだけでも気持ちは伝わるけど
言葉に出来ないのは少し残念
夜彦の名前を呼びそうになって
慌てて空いた手で自分の口を覆う
どうしました?
そう言いたげな綺麗な緑の瞳に
声を立てずに笑って
手の甲に落ちたキスへのお返しに
頬へとキスをひとつ
返ってくる照れ笑いにほっと安堵すれば
引き寄せられて腕の中で……
そっと熱を分かち合う
早く声が聞きたい
名前を呼んで欲しい
そんな事を想うけど
この一時もまた、愛おしさが募る時間だから
●悪いものではなく
話してはならない、という縛りは篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)に自分の一面を深く感じさせるものだった。
傍らに、月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)がいれば饒舌になる自覚がある。
そして、甘く深く――己を呼ぶ夜彦の声が聞けないというのは。
(「少し……いや、かなり寂しい」)
あの声で呼んでほしいという想いが募るのだけれども、夜彦は綺麗に笑って返した。
話してはならないしきたり。その代わり、行動等で思いを伝えるということなのですね、と繋いだ手に僅かに力籠めた。
冷たい風が指先を撫でていくけれどのんびりと、湖周辺をいつものように手を繋いで歩む。
その時間はふたりにとって――日常でもある。
しかし、景色は今日だけのもの。
きらきらと湖面が輝いて美しい。
その光景に顔を合わせて笑い合う。
声を発せないだけで、していることは同じ。
それだけで気持ちは伝わるのだけれども言葉に出来ないのは少し残念な心地だと倫太郎は思うのだ。
そして夜彦は、そのわずかな陰りを。倫太郎の物足りなさを感じて心内で小さく首傾げる。
そしてふと倫太郎の唇の形が『よ』の形を作ろうとして、倫太郎は慌てて空いた手で口を覆う。
その様子に、今度は本当に、夜彦は首傾げて――ああ、と思う。
倫太郎が今、どんな気持ちでいるのかわかるような気がして、その塞いでいる手にそっと、口付けた。
その行動に倫太郎は瞬く。
夜彦はどうしました? と、そう言いたげな綺麗な緑の瞳を向けていた。
その中に自分を見つけ、声を立てずに笑って――手の甲へのキスのお返しに、頬へとキス一つ。
くすぐったさを感じながら、また笑い合う。
言葉では伝えられなくても行動で示すことはできて――その口付けに照れ笑いを零しながら、夜彦は倫太郎を引き寄せ抱きしめた。
夜彦の照れ笑いにほっと安堵して。腕の中に閉じ込められ熱を分かちあう。
その心地に倫太郎は瞳細める。
早く声が聞きたいと思う。
名前を呼んでほしい、と。
そんな事を思うけれど――この一時もまた、愛おしさが募る時間であるのも事実。
倫太郎は己の瞳に夜彦の姿を映す。
夜彦も、言葉を伝えるのが一番良いと思いつつも、いまこの状況も悪いものではないと思っていた。
その気持ちを、倫太郎も感じて。そうだなと小さく、頷いたのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
神元・眞白
【POW】シンさん(f13886)と一緒に。
※合わせとしてお互いにプレイングを伏せて送っています。
闇の世界は少し久しぶり。でもこんな夜だからこそ、でしょうか。
森の中なら空を見上げれば星の海が見えるのでしょうか?
雪が降ってきたら、ホワイトクリスマス。少し嬉しくなりますね。
私は人形なので寒さは平気ですが、シンさん用に暖かい飲み物を用意しましょう。
お話ができなくても、触れ合えるだけ、視線を合わせられるなら。
2人で寄り添って静かに、今日の日を過ごせて。暖まって。
いつもの感謝を。言葉を交わさなくても、心は通じ合ってます。
……こういう時は動かないと、いけないんですよね
シン・コーエン
眞白さん(f00949)と
POW
(おしゃべり禁止なので、お互いプレイングを伏せて提出する事にしました。どのような展開でも構いませんので、よろしくお願い致します。)
眞白さんと湖の畔で並んで座り、一緒に空と湖を眺めながら過ごす。
寒さをしのげる様、暖かい紅茶を二人分持参。
一緒にいて言葉を出さない様にしていると、想いが溢れ出しそうになる。
最初は肩に手を伸ばして、そっと抱き寄せ、マントで二人くるまる様に。
彼女の温もりが伝わってきたら、ふと手を彼女の頬に伸ばしてみる。
柔らかい頬、綺麗な青い瞳、吸い込まれる様に見つめ続け、少しずつ顔が近づき、(彼女が嫌がっていないのであれば)優しく口づけして抱き締めます。
●伝えること、伝わるもの
手元には灯りひとつ。夜の闇は誰の上にも等しく降り注ぐ。
闇の世界は、少し久しぶり。神元・眞白(真白のキャンパス・f00949)は青い瞳を瞬かせ、この夜の静けさに浸る。
こんな夜だからこそ――なのだろうか。
森の中を歩む。そして視線を上げれば――星の海がきらめいていた。
きらりきらり、その輝きは一瞬なのか、それとも永遠なのか。
けれどその星も、空全てに広がっているわけではなく鈍重な雲に隠れているところもあった。
重い空は、寒さも相まって――そのうち白雪を零しそうだ。
そうなったらホワイトクリスマスだと眞白は傍らへと視線を向ける。
そうなったら、少し嬉しくなりますねと。
その視線を受けたシン・コーエン(灼閃・f13886)は眞白に微笑む。
湖に辿り着いたなら良さそうな場所を見つけ、二人の間にランプを置いて、並んで座る。
一緒に座って並んで、瞳に映す光景は唯一無二のものだ。
けれどひゅう、と冷たい風が吹く。
ミレナリィドール、人形である眞白は、寒さは平気。けれどその指先を温かい飲み物、紅茶があたためていく。
寒さ凌げるように、とシンはそれを一口。ほう、と温かさが体の内にしみていくようでもある。
今ここには沈黙の時間しかない。
けれど傍らに、一緒にいて寄り添って。
言葉を発さないようにしていると逆に想いが溢れ出しそうになる。
そっと、眞白の肩へと手を伸ばして――僅かに、どうしようかと止まって。けれども優しく触れてそっと抱き寄せる。
己の纏うマントで一緒に、二人で包まれば自然と視線があった。
眞白はシンにやわらかな笑みを向ける。
寄り添い、静かに。今日のこの日を過ごして、共にぬくもりを伝え合っていく。
シンはぬくもりを感じ、ふと眞白の頬に手を伸ばした。
指先に触れる。眞白の柔らかな頬、綺麗な青い瞳に吸い込まれそうだ。 見つめ続け――少しずつ距離が縮まる。
眞白は、いつもの感謝をもって。そして言葉交わさなくとも、心は通じ合っていると思っていた。
そして――こういう時は。動かないと、いけないとも、そっと瞳閉じる。
いとおしさはこみあげていくばかりだ。
シンは優しく、その唇にそっと触れて――抱きしめる。
今、二人きりの夜の中でふたりの距離をまた縮めて。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ブラッド・ブラック
【森】
サンの異変には気付いている
元気付けてやりたいが
賑やかな場所へ行けばお前は無理をして笑うのだろう
サンを包み込み【比翼の鳥】、己の躰を愛し子の鎧と翼に変え共に飛翔
今は二人だけで居れる場所――時計塔等の高い所へ
降り立てばUCを解いて人型へ戻り、並び腰掛け静かに街を眺めよう
話は少しばかり聞いている
サンが神の子かもしれないという事
いくつかの記憶を思い出したという事
……それ以上は、まだ話したくないのだろう
サンの心に重たい闇が圧し掛かっている
声を聞かずとも、悄気返った耳や尾を見ずとも其れ位は判る
血が通わぬ俺の躰は冷たかろうが
俺が傍に居ると、お前を独りにはしないと
優しく、しっかりと、お前の肩を抱き寄せた
サン・ダイヤモンド
【森】ブラッドと時計塔へ
楽しいはずのクリスマス
なのに上手く笑えなくて
断片的に取り戻した記憶
僕を創ったのは多分、神様
僕の中の『僕じゃない僕(過去の僕)』は今でも神様を想って泣いている
“愛している、愛して欲しい”と
『僕』の嘆きが僕の心を締め付ける
逢わせてあげたい
だけどまだ何の手掛かりもなくて
それに記憶の中の神様は
激しい怒り
焼けるような背中の痛み
忌々しげに吐き出された言葉――無価値なもの
小さく震えたのは寒いからじゃない
不意に、闇に呑まれそうな心ごと抱き寄せられて
目が醒めるようだった
闇に温かな光が射し込んだ
嗚呼、ブラッドブラッド
あなたは僕の光
互いの熱が緩く柔らかく溶け合って
強張った僕の全てが解けてゆく
●ひかり
クリスマス。それは楽しいはずだというのに――サン・ダイヤモンド(apostata・f01974)の表情は、晴れてはいなかった。
いや、笑みは浮かべているのだ。
けれども――本当には笑えていない。上手く笑えないとサン自身もわかっていた。
そして一番近くにいるブラッド・ブラック(LUKE・f01805)もサンの異変には気付いていた。
元気付けてやりたいとブラッドは思う。
しかし、にぎやかな場所へ行けば――きっと、無理をして笑うのだろうとブラッドは静かにサンを見詰める。
サンの、憂い。
断片的に取り戻した記憶があった。
それはサンを創ったものの記憶。
(「僕を創ったのは多分、神様」)
その、神様を想ってサンの中で『僕ではない僕』――過去の己が、泣いている。
ずぅっとずぅっと、泣いている。
“愛している、愛して欲しい”と――『僕』が嘆いている。
その嘆きがサンの心を締め付けるのだ。
逢わせて、あげたい。
けれど――まだ何の手掛かりもない。どこにいるのか、なんてどうやって知ればいいのか。
何もわからない。手掛かりの、糸口すらないような状況。
そしてその記憶、その先を思い返すと微かに喉が引き連れる様な呼吸になってしまった。
記憶の中の神様は。その表情がどうであったか――それがどんな感情故かは、わかっている。
激しい怒りだった。
それから、己の身に走った焼けるような背中の痛み。忌々し気に吐き出された言葉――それは。
『無価値なもの』と。
その言葉を思い浮かべただけでひやり、と全てが冷えていくような感覚に支配される。
小さく震えたのは、寒いからではなかった。
しんしんと、心を覆いつくしていく何かのせい。闇に呑み込まれそうになる――そんな最中で不意に。
サンの身をつつむあたたかさ。
それはブラッドだ。サン抱き寄せて、その身を包み込む。
目が醒めるような、一瞬をブラッドがサンへと与える。
闇に温かな光が差し込んだよう。サンは瞬いて、その瞼を揺らした。
己の身を包むいろ。
ブラッドは愛し子の鎧と翼にその身を変えて、空へと連れだしていく。
ブラッドが目指すのは、遠くに見えた時計塔。
高い塔だ。そこに人の気配はない。時計塔の天辺へと、舞い降りる。
舞い降りれば、サンを支えつつ人の形をとるブラッド。
そして座ろう、と示して、並んで腰かける。静かに、ただ街を――人々があるいて揺らす、小さな灯を眺める。
ただそれだけで、よかった。
嗚呼、と零れそうになる声をサンは飲み込む。
ブラッド、ブラッドと心の中で何度も、その名前を繰り返す――あなたは僕の光、と。
サンの心は、僅かでも軽くなっただろうか。
話は少しばかり、ブラッドも聞いてはいたのだ。
サンが、神の子かもしれないという事。
いくつかの記憶を思い出したという事――それ以上は、ブラッドは知らない。
それは、まだ話したくないということなのだろう。
サンの心に重たい闇が圧し掛かっていることは、声を聞かずとも――いや、悄気返った耳や尾を見ずとも判ること。
だからブラッドは、今自分にできることをしている。
血が通わぬ己の躰は冷たかろうが、傍に居るのだ。
独りにはしない、と伝えるべくブラッドは手を伸ばす。
やさしく、しっかりとサンの肩を抱き寄せるブラッド。その優しさにサンは身を寄せる。
冷たいなんてことはない。そこには熱があった。
互いの熱が緩く柔らかく溶け合って――強張った己の全てが解けていくようだとサンは想う。
解けて、溶けて、ひとつになったような感覚さえもあるような。
そんな、夜は静かに今、始まる。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
筧・清史郎
らんらんと一緒に
らんらんと会話を交わすことは、楽しいし常であるが
言の葉交わさず過ごすのも、たまには良いな
まぁそれに語らずとも、らんらんとであれば意思疎通は易い
森を進み、湖にでも足を延ばしてみるか
明かりは俺が持とう
道は敷かれているとはいえ、森で迷子にならぬよう手でも繋ぐか?
お化けさんでも出そうな雰囲気だしな
そう身振り手振りで示しつつ、友の反応を見ながらくすりと
湖では、ゆったり静かに景色でも眺め過ごそうか
語らずとも、いつもの通り……そっと、手を伸ばして
もふもふな友の尻尾を、存分にもふもふもふっとしよう(微笑み)
ふふ、らんらん、声を出しては駄目だぞ?
ではそろそろ、街に戻って温まる料理でもいただこうか
●もふん
ここでは一言もしゃべらぬという。
筧・清史郎(ヤドリガミの剣豪・f00502)はその赤と青混じる瞳に笑みを讃えて、傍らの友へ視線向けた。
友――終夜・嵐吾(灰青・f05366)はふにゃりと笑って、ふっさりとした尻尾を揺らす。
(「らんらんと会話を交わすことは、楽しいし常であるが」)
言の葉交わさず過ごすのも、たまには良いな――瞳細めて思う。
その気持ちは嵐吾にも伝わっているのだろう。尻尾をご機嫌に振ってくる。
やはり、語らずとも意思疎通は易いなと清史郎は微笑んだ。
ランプ一つ、清史郎の手に。
森を進み、湖にでも足を延ばしてみるか、と相談せずとも自然とそうなっていた。
道は敷かれているけれど――森で迷子にならぬよう手でも繋ぐか? と清史郎は手を差し出し笑む。手なんて――と嵐吾は表情歪めたのだが。
突然背後でがさがさっ! ぎゃあぎゃあ! なんて不気味な声が響いたら微かに喉奥鳴らしてひしっとその手を掴んでいた。
嵐吾は、お化けの類が苦手だ。尻尾も丸まっている。
他にも出るかもしれないぞ、なんて身振り手振りで示せば、嵐吾はだだだだ、だいじょうぶじゃと示すものの表情は強張っていた。
そんなちょっと怖い(嵐吾だけ)夜道を歩み進んだ先――湖はただ静かに煌めいている。
そこでちょっと一息。
恐ろしい森を抜けたからか、嵐吾のふさふさの尾は安堵に揺れている。
「……」
もふっ。
「!」
いつもの通り、そっと手を伸ばして。
もふもふもふ。
存分にもふもふっとしよう――清史郎は微笑んでいた。
(「ふふ、らんらん、声を出しては駄目だぞ?」)
もふもふもふ。もふもふテクニックは毎日磨かれている――もふもふはいつもの事だが、今日は聖夜すぺしゃるだ。
もう少しもふもふしたら、街に戻って温まる料理でもいただこうかと笑いかける清史郎にそうじゃなと嵐吾は笑って返す。
それにしても――本当にもふもふ好きじゃなという視線と共に。
大成功
🔵🔵🔵
セリオス・アリス
【双星】
アドリブ◎
アレスだけがランタンを持っているから
はぐれないように手を重ねた
珍しくアレスから絡む指が嬉しくて
ぎゅっと1度握り返し
それからその指にちょっかいをかける
返される悪戯が楽しくて
笑い声の代わりに軽くぶつかるように体を寄せる
アレスの頭の重みは心地いいけど
今欲しいのはそれじゃない
塞がった手をあけるため
ランタンに手を伸ばす
撫でられたらご機嫌でランタンを返却
湖の少し先に光が見えた気がして
アレスの手を引き小さな丘へ
ああ…星みたいだ
街の灯りを眺めながら
気遣いだろう、マントに入れてもらったらお礼の代わりにすり寄って
…すぐそばのアレスを覗きこむ
この星が一番きれいだな
触れる熱も何よりで
ああ…いい夜だな
アレクシス・ミラ
【双星】
アドリブ◎
ランタンを片手に湖へ
はぐれぬようにとセリオスに手を差し出し、繋ぐ
でも、それだけでは何故か足りない気がして
指を絡めるように繋ぎ直す
我ながら慣れない事を…と思うが
握り返される熱は嬉しくもあって
悪戯は…返事をするようにお返ししよう
手が塞がってるので撫でる代わりに頭を寄せる、と
あ、こら…!
危ないよと灯りを掲げて…気づく
これが欲しいのかな
一旦灯りを渡して髪を撫でる
ご機嫌な顔にさらに応えたくなった
手を引かれて行けば
街の灯りが星のようで目を細める
それと、傍の彼が寒くないように
マントの中に入るように手で促せば
覗き込んでくる瞳と輝く表情
思わず手を伸ばし―触れる
綺麗な一番星を
もっと…見ていたくて
●傍らの一番星
アレクシス・ミラ(赤暁の盾・f14882)の一方の手にはランタンが。そしてもう一方の手は、セリオス・アリス(青宵の剣・f09573)と共に。
はぐれぬようにとアレクシスが差し出したその手。セリオスは頷いてその手を重ねたのだ。
でも、繋いだだけでは――何故か足りない気がして。
アレクシスはその指を絡めるように繋ぎ直した。それに、セリオスは瞬く。
(「我ながら慣れない事を……」)
アレクシスは少し居心地の悪いような心地。けれどもセリオスにとっては嬉しいものでぎゅっとその手を一度、握り返した。
けれど握り返すくらいでは――セリオスが、今度は足りない。
だからその指にちょっかいをかけていく。指を絡めたまま、撫でてくすぐって。
一体どんな顔をしているのか、とそうっとアレクシスの顔を覗き込むけれど暗い夜によくはみえない。
けれど、悪戯へは――返事をするようにお返しが返ってくる。
解こうとしたら絡めて。それが楽しい。
笑い声の代わりにセリオスは軽くぶつかるように体を寄せた。 きっと、声が閉じられていなければ笑いあっていただろう。
だが今日は、ここでは喋ってはいけないから――ランタンと、そして悪戯で両手が塞がっているアレクシスは撫でる代わりにセリオスへと頭を寄せた
その重みは心地いいけれど、今欲しいのはそれじゃあない。
欲しいものを貰うにはどうしたらいい?
答えは簡単だ、奪えばいいのだ。
その塞がった手をあけるためにランタンに手を伸ばすセリオス。
(「あ、こら
……!」)
その動きに驚いて、危ないよとアレクシスは灯り掲げて――気づいた。
これが欲しいのかな、とセリオスの手元へ運ぶと、その通りというように受け取って。
灯のいろを映した瞳が何かが欲しいと訴える。
アレクシスはそれに思い至って、セリオスの髪を撫でた。すると、その表情はご機嫌のいろを浮かべていく。その表情にさらに応えたくなっていくアレクシス。
けれどずいっと、ご機嫌でのランタンの返却。セリオスを撫でていたその手に、再びランタンが収まる。
二人歩いていると――やがて湖につく。
湖の、少し先に光が見えた気がしてアレクシスの手をセリオスは引っ張った。
そこは小さな丘。そこから見る――街の灯りは。
(「ああ……星みたいだ」)
そう思ったのはセリオスだけではなくアレクシスもだ。
街の灯り、それにいくつかの動いている灯りは歩む人々の姿だろう。
瞳細めてその光景眺めるアレクシスは冷たい風が吹いたのを感じ、マントを広げて、セリオスを招く。
その気遣いに、お礼の代わりにすり寄って、ぬくもりを分け合う。
そしてセリオスはすぐそばの、アレクシスを覗き込んだ。
アレクシスも、セリオスの視線を受け止める。覗きこんでくる瞳と輝く表情。
アレクシスは思わず手を伸ばし――触れる。
知っているのだ。お互いに。
何よりも綺麗な一番星が傍らにあることを。
もっと、見ていたいと――アレクシスは思う。
この星が一番きれいだと――セリオスは思う。
触れる熱も何よりだ。ともにある、この夜は――終わらないでほしいと思うほどの佳い夜なのだろう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
御園・ゆず
ひすいさん/f03169と一緒に
付かず離れずの距離で、その背中を見つめる
湖の暗い水面を眺めてから、隣のうつくしい横顔をちらり盗み見
嗚呼、なんて綺麗で、どこか空虚なのだろう
交わる視線に、染まる頬
勇気を出して、その繊細な指さきに触れる
心臓がただ煩い
潤む眸で彼を見上げる
すき、だいすき
どうしようもなく、すき
指さきを握り、目を閉じて顔を近づけてその唇に唇を重ねる
ひやりとした唇と、わたしの熱が融けていく
その微笑みを見て、心がきゅうと苦しくなった
やっぱり、すき
言葉にすればなんと陳腐なものだろう
細い体躯を抱きしめる
泣かないで
大丈夫だから
……恋に焦がれて鳴く蝉よりも、鳴かぬ蛍が身を焦がす
緋翠・華乃音
御園(f19168)と共に
恋を知らない、哀しい人(ばけもの)と憐れむだろうか。
満たされない器があった。
一滴の水も注がれず、渇き飽くだけの心があった。
彼女が自分に寄せる想いは知っている。
それが恋という名の感情であることも知っている。
しかし恋そのものが何かを知らないのだ。
けれど彼女の想いは太陽のように暖かくて。
瞳や指先から伝わる心地好い熱に、冷たい心が溶けるような錯覚さえ覚える。
求められた口付けを拒むことはしなかった。
渇き飽いた心が満たされるような感覚。
――でも。
これは本当なら“いけない”ことだ。
言葉で静謐を毀してはならないから。
「……ダメだよ」
なんて諭す代わりに、物寂しそうな微笑みを浮かべた。
●こい
夜の闇が深い。
だからといって緋翠・華乃音(終奏の蝶・f03169)の往く道が定まらぬなんてことはなかった。
その華乃音の背中を御園・ゆず(群像劇・f19168)は見つめ。付かず離れずの距離で付いていく。
やがて森の道が終わって――冬の静謐、僅かに輝く湖面が見えた。
燦燦と眩しく輝いているわけではなく、暗い水面が気まぐれに翻って輝く一瞬があるだけ。
そんな湖を、並んで眺める。
ゆずは隣の、華乃音のうつくしい横顔をちらりと盗み見た。
嗚呼、なんて綺麗で――どこか空虚なのだろう。
ゆずの心に広がるその想い。空虚だから、綺麗なのか。それとも――もっと他の理由故か。
ゆずの向ける視線を、やがて華乃音は掬い上げた。
視線が交わり、ゆずの頬が熱を得て染まる。
今なら――と、勇気を出して、ゆずは華乃音の繊細な指先へと触れた。
どくんどくん。
心臓の音がただ煩い。胸の内で鼓動刻んでいるはずなのに、その音はゆずの耳の横で爆ぜそうなのを我慢しているように響く。
いきが、くるしい――なきだしそう。
潤む眸で、ゆずは華乃音を見上げた。
募る、溢れる。零れてしまう。
すき、だいすき。
どうしようもなく、すき。
その心を――華乃音は、分かっていた。
恋を知らない、哀しい人(ばけもの)と憐れむだろうか。
満たされない器があった。
一滴の水も注がれず、渇き飽くだけの心があった。
それでも、ゆずが自分へと寄せる想いは知っている。
それが恋という名の感情であることも知っている。
しかし華乃音は知らないのだ。
恋そのものが、何であるかを知らない。
けれど、ゆずの想いは太陽のように暖かくて。
華乃音へと向けられている瞳がうるんでいても。そっと触れてきた指先も。
伝わってくるその心地よい熱に、冷たい心が溶けるような、そんな――錯覚さえ覚えてしまう。
ゆずは、きゅっとその触れた指先を握った。目を閉じて、踵をあげて背伸びをする。
顔を近づけて、とくんとくんと鼓動が一瞬凪いで。
唇に唇を重ねた。ひやりとした唇に熱が、融けてゆく。
口付けを、華乃音は拒むことはしなかった。渇き飽いた心が満たされるような感覚をそれは与えてくれたのだ。
――でも。
これは本当なら“いけない”こと。
華乃音は、言葉で静謐を毀してはならないから――。
『……ダメだよ』なんて諭す代わりに、物寂しそうな微笑みを浮かべる。
その微笑みにゆずの心はきゅうと苦しくなった。
やっぱり、すき。
それを音にはしなかった。言葉にすればなんと、陳腐なものだろうと思いながら手を伸ばす。
細い体躯を抱きしめれば、伝えたい想いは伝わるだろうか。
(「……恋に焦がれて鳴く蝉よりも、鳴かぬ蛍が身を焦がす」)
ゆずはそうっと、瞳を伏せる。泣かないで、大丈夫だから、と。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
境・花世
綾(f01786)と
闇夜の星映す湖のほとりへと、
静かにふたり、寄り添って辿り着く
不思議と馴染んだ沈黙の底
ただ、傍にいられるだけで
ただ、それだけで十分なはずなのに
何も望まないはずの指先が
つい、と袖を引っ張って
あたたかな胸に頭を押し付けてしまう
すり寄る仔猫を慈しむような
寒い夜の懐炉代わりのような
そんなふうでいいんだ、わたしを撫でて
与えられた温もりがやさしくて、
すこしさみしくて、幸せだから
きみの名を呼びたくなるよ
(綾、)
そっと唇をふさいだ美しい指が、甘い笑みが、
あんまりにも罪深くて胸が苦しいから
抗議の代わりにかぷりと噛みつく
詞にできない何もかもを夜に沈めて
もいちど撫でて、ねえ、わたしのかみさま
都槻・綾
f11024/花世
夜の底にあなたと二人
道中も
湖畔に佇む此の時も
直ぐ傍らに添う花世の温度があたたかくて
濃く深い宵闇でさえ
柔らに身を包む毛布のよう
知らず浮かんでいた穏やかな笑みが
ふと深まったのは
引かれる袖に
間もなく寄せられた身に
確かな熱を感じたから
雨の日に拾った子猫が
存外温かく思えたのは
子猫以上に己が冷えていたからなのだと
気付かされたのだけれど
今もまた
彼女の体温のお陰で
随分と冷え込んでいることを自覚したりして
礼を伝える代わりに撫でる髪は柔らか
唇の動く気配を
そっと指先で封じたなら
甘噛みで返されたから
やはり猫みたい、と
聲無く肩を揺らす
でも
ねぇ
再び触れる髪も頬も滑らかで
猫よりずっと、あなたの熱は心地良い
●夜の底に深く
冷たい風が体温を奪いながら夜の深さへと導いていく。
夜が落ちてくるのではなく、その底へ静かにふたり、寄り添って。
そして今、湖畔に佇む此の時もすぐ傍らにある境・花世(はなひとや・f11024)の温度があたたかく。
都槻・綾(糸遊・f01786)は柔らかに眦を緩めた。
濃く深い宵闇でさえ柔らかに身を包む毛布のよう
不思議と馴染んだ沈黙の底――ただただ、静か。時折、風に揺れる木々の音と水面の戯れが聞こえるくらい。
ただ、傍にいられるだけで。
ただ、それだけで十分なはずなのに――花世の指先が空をかいた。
何も望まないはずの指先が、つい、と。
綾の袖を引っ張って――あたたかな胸に頭を押し付けてしまう。
綾の浮かべる穏やかな笑みが、ふと深まったのは確かな熱を感じたからだ。
すり、と。花世は綾へとまたすり寄る。
そのぬくもり。綾はふと――思う。
雨の日に拾った子猫が存外温かく思えたのは子猫以上に、己が冷えていたからなのだと気づかされたのだけれど。
今もまた――そうであるのだと。花世の体温のお陰で随分と冷え込んでいることを綾は自覚する。
教えてくれてありがとうと、そのぬくもりを伝えてくれてありがとうと礼を伝える代わりに、花世の髪を撫でる。
その髪は柔らかだ。
その優しく撫でる手を花世はくすぐったそうに笑む。
すり寄る仔猫を慈しむような。寒い夜の懐炉代わりのような――そんなふうでいい。
そんなふうでいいんだ、と花世は想う。わたしを撫でて、と。
やさしい。
与えられた温もりがやさしくて、すこしさみしくて、幸せだから。
花世の唇が微かに動く。きみの名を呼びたくなる――その、音をかたどりかける。
(「綾、」)
その気配を、綾はそっと指先で封じた。
甘い笑みを向ける綾。その笑みがあんまりにも罪深くて、花世の胸は苦しくなって。
抗議の代わりに、かぷり。甘噛みだ。
その微かな、くすぐるような痛みにはならない痛み。
やはり猫みたい、と聲無く肩を揺らして綾は笑み零す。
言葉を許されない夜だから。
詞にできない何もかもを夜に沈めて、悪戯するように。
もいちど撫でて、ねえ、わたしのかみさま――するりと、すり寄る。
あたたかさが触れて。
(「でも、ねぇ」)
再び触れる髪も、頬も滑らかで。猫よりずっと、あなたの熱は心地良い――綾の指先は温もりを得て。
ふわり、くすぐる様に花世を撫でていく。
今、一番傍にいる、ぬくもりを伝え合う相手は互いだけ。
今宵はふたりきりの夜なのだから。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
佐那・千之助
クロト(f00472)と
小さな灯りに肩寄せ合い、目に映るのは一人だけ
闇夜の世界が今日は殊更いとおしい
声を出してはいけない?
えっどうしよう
わくわくそわそわ、無言で笑顔向け
じゃあ…私は今何を考えているでしょう?
と挑戦するような顔で、彼の顎に手をかけて
顔を寄せ、じーっと見つめて…
…見てるだけでした!と言わんばかりのいい笑顔で彼を解放
だって見たかったんじゃもん
どうやらお見通しのようで
見ているぶん見られていて、それはとても幸せで
…彼の手が、動く
それだけで、はしゃいでいたのが大人しくなって
なのに僅か熱が上がるようで
私、意識しすぎ…
常々、言葉で想いを表し足りないけど
今なら触れた手の先へ
熱で伝えられるだろうか
クロト・ラトキエ
千之助(f00454)と
終わりの無い夜と闇
それが『暗澹たる世界』だなんて知りもせず
独り往くのだと思っていた
――最期まで
傍らの君は、それはもう楽しそうですし
かと思えば何だか挑戦的ですし
…でも
似たよな背丈。向かい合い近付く顔に、
ふんわり笑って、緩く首を傾げてみる
言葉なんか無くたって
こんな状況、そんなお顔…
君がとってもはしゃいでるんだって、おじさん分かるんですからね…っ!
…こんな所で何か、なんて
まず有り得ないですしー…
離れても尚笑顔溢れる君に、
ひかりを見る
夜と闇の世界ででも目映くて
…夜と闇の道さえ照らしてくれた
言葉で伝えるのは拙い僕だけど
服を摘む?
手を繋ぐ?
きっと伝えるよ
――涯ての先まで
きみが、すき
●どこまでも、終わりなく
手元の、小さな灯りだけが照らし出す。
佐那・千之助(火輪・f00454)が肩寄せ合い、そして瞳に映すのは一人だけ。
闇夜の世界が今日は殊更、いとおしい。
声をだしてはいけない――そう聞いたとき、千之助は『えっどうしよう』とまず思った。
そして今、わくわくそわそわ、クロト・ラトキエ(TTX・f00472)へと無言で笑顔を向けている。
クロトは、終わりのない夜と闇に想いを馳せる。
それが『暗澹たる世界』だなんて知りもせず独り往くのだと思っていた――最後まで。
だというのに、今は、この夜は。
わくわくそわそわ、にこにこと。
傍らの千之助は、それはもう楽しそうで。
かと思えば――
(「じゃあ……私は今何を考えているでしょう?」)
挑戦するような顔で、クロトの顎に手をかけ顔を寄せてくる。
じーっと見詰めて、見詰めて。
何故挑戦的なのか。その心内をクロトは察することはなく。
(「……でも」)
似たような背丈。向かい合って近づく顔――どんな顔をすればいい?
それはきっと、こんな顔。
ふんわり笑って、緩く首を傾げてみる。
言葉なんか無くたって――こんな状況。
そう思っていると。
(「……見てるだけでした!」)
いい笑顔を向けて、クロトの顎から手を放つ。
千之助は一人で答え合わせだ。その答えが伝わることはなかったけれども。
(「そんなお顔……」)
クロトがはしゃいでいるのがとてもよく解る。
それを伝えるような表情をクロトは作った。
(「君がとってもはしゃいでるんだって、おじさん分かるんですからね……っ!」)
すると、その言いたいことを千之助は掬い上げて。
(「だって見たかったんじゃもん」)
お見通しであることも、楽しいのだ。
見ているぶん、見られていて。それはとても――幸せだと、千之助は感じる。思う。
そんなにこにこで、幸せ溢れる表情を前にして、クロトはふ、と息を吐く。
(「……こんな所で何か、なんて。まず有り得ないですしー……」)
そう思いながら変わらぬ笑みを見詰める。
離れても、尚笑顔溢れる千之助に、ひかりを見る。
夜と闇の世界ででも眩くて。
彼は――
(「……夜の闇の道さえ照らしてくれた」)
言葉を、紡いではいけない夜だ。
それは好都合。言葉で伝えるのが拙いことをクロトは自覚しているから。
ならどうすればいいだろうか。
服を摘む?
それとも、手を繋ぐ?
そっと、クロトの手が動いて、でも動きを失う。
その一瞬を千之助は目にして。少し、動くそれだけで、はしゃいでいた心はふっと大人しくなる。
それなのに僅か熱が上がるようで。
(「私、意識しすぎ……」)
常々、言葉で想いを表し足りないと思うのだ。
今なら、触れた手の先へ熱で伝えられるだろうか。
千之助が、触れる。その指先の熱――先を越された、なんて思ってしまう。
でもきっと、きっと――伝えてみせる。
クロトは、ふわりと。千之助だけに微かに笑み向けて。
『――涯ての先まで。きみが、すき』と、きっと。
さて千之助はどんな顔をしてそれを受け取るのだろうか。
今向けられている笑みよりも、きっと、それは。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
朱赫七・カムイ
⛩神櫻
鈴なるような美しい声が聴けないのは惜しい
静かに咲き綻ぶきみと繋ぐ手に力をこめる
君が隣にいてくれるなら何も望まない
何時だって
きみがいい
きみじゃなきゃいけない
花咲ぬ夜の森を歩む
君の熱と
君が咲かせる桜だけが世を彩る
どんな闇の中でも
私を絆ぐこの春のぬくもりだけが真実
呪いの様な愛の熱
言葉より雄弁に語る桜色
愛は、きっときみの呪になる
定命の約を侵しきみに永遠を望むように
永久に私の傍で咲いていて欲しい
あいしている、は滅びの呪文
禁忌を踏破りそうになる
慾押し込め、愛し子の頬を撫でる
私を見つめる桜彩に何もかも見透かされていそうで
手で瞳を塞ぐ
神であるのに慾抱く様は
醜い
唯の一瞬だけ、花唇に触れる
赦さなくてもいいよ
誘名・櫻宵
🌸神櫻
あなたの低く落ち着く声音が聴こえないのは寂しいけれど
握られた手の熱に浮かされるよう森を歩む
迷ってしまえばずっとこのままでいられるのかしら
カムイの瞳の奥
静かで優しく激しい赫の愛が揺れる
その朱桜の瞳に捕らえられ逃れられない
蕩けてしまいそう
美味しくて愛しくて背筋がゾクゾクする
その熱に
愛の焔に
あなたは気がついているの?
朱枠の籠の中にいた私を身請けしたのも『あなた』だった
欲しいなら求めればいい
私を永遠に堕とせばいい
慾の縄で縛り約を結べばいい
あなたにはそれが出来るのだから
踏み止まる様のかぁいいこと
おとしたくなる
視界塞がれ闇の中
唇に触れた感触は瞬きの間だけ
赦すわ
その方が
あなたが苦しむとしっているから
●慾
その声が――鈴なるような美しい声が。
その声が――低く落ち着く声音が。
聴けないのは、聞こえないのは。
惜しくて、寂しくて。
けれどかわりに、その手の熱が互いを伝えあう。
その熱に浮かされる心地で誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)は朱赫七・カムイ(約彩ノ赫・f30062)が僅かに、その手に力こめるのを感じていた。
迷ってしまえばずっとこのままでいられるのかしら、と櫻宵は静かに咲く。
その様を――カムイは瞳に映すのだ。
君が隣にいてくれるなら何も望まないと心に抱いて。
何時だって、きみがいい。
きみじゃなきゃいけない――それを言葉には今宵はできぬ。
花咲かぬ夜の森を歩みながら、ただ思うだけ。
触れた、櫻宵の熱と、そして櫻宵が咲かせる桜だけが世を彩るものと。
しかしその想いは瞳の中で静かに激しく、赫の――愛として揺れていた。
その朱桜の瞳に捉えられ、逃れられない。
蕩けてしまいそう、と櫻宵は喜びを得ていた。
美味しくて愛しくて背筋がゾクゾクする。
柔らかに笑んでいるというのに、その心底にあるものは。
その熱に、愛の焔に――ふ、と櫻宵の口端に笑みが宿る。
(「あなたは気が付いているの?」)
朱枠の籠の中にいた私を身請けしたのも『あなた』だった――櫻宵の瞳も、また揺れる。
欲しいなら求めればいい。
私を永遠に堕とせばいい。
慾の縄で縛り約を結べばいい。
あなたにはそれが出来るのだから――けれど、そうはしなくて。
(「踏み止まる様のかぁいいこと」)
それなら――おとしたくなる、と。
繋いだその手、その指を、するりと指で撫でていく。
熱はここにあるのだと。
それにカムイは、ふと口端に笑みを浮かべた。
どんな闇の中でも――真実はあるのだと。
(「私を絆ぐこの春のぬくもりだけが真実」)
それは、呪いの様な愛の熱。
言葉を紡がぬのではなく、いらないのだ。
言葉より雄弁に語る桜色がそこにあるのだから。
愛は、きっときみの呪になる。
定命の約を侵しきみに永遠を望むように。
永久に私の傍で咲いていて欲しい。
あいしている、と紡げばいいのかもしれない。それだけですべてが成されて、叶ってしまうのかもしれない。
けれど――カムイは知っている。
(「あいしている、は滅びの呪文」)
それは禁忌。その禁忌を踏破りそうになる。
桜色の瞳が――誘って、いるのかもしれない。
解き放てばよいのに、慾をと。
けれどその慾押し込め、カムイはするりと、指の背で愛し子の頬を撫でる。
(「私を見つめる桜彩に何もかも見透かされていそう」)
だからその視界を、手で塞ぐ。
これ以上は見てはいけないよ、見せられはしないよ。
神であるのに慾抱く様は――醜い。
唯の一瞬だけ、花唇に触れることをカムイは選んだ。
唇に触れた感触、瞬きの間だけの逢瀬。
赦さなくてもいいよ、と微笑んだ。
赦すわ、と微笑んだ。
その方が――あなたが苦しむとしっているから。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ルーファス・グレンヴィル
マコ(f13813)と
声は出さない
この想いは伝えない
親友として、そう決めた
だからこそ、
夜と闇が支配する此処は、
妙に居心地が良いのかも知れない
ランプを片手に湖の前
隣の彼へと視線を移せば
足許から頭の天辺まで
ゆっくりと見て
やがて、目が合った
ふ、と穏やかな微笑みを溢す
声に出せない
何も口にせずとも
届く気持ちはきっとある
だから徐に手を伸ばし
何時もの如く髪を撫でる
わしゃわしゃと掻き乱して
熱くも鋭い眼差しと共に
優しさが滲む表情でマコを見詰め
やがて、掌を、彼へ向け
何もかもを包み込むよう手を繋ぐ
伝わる温もりが二人を支配する
君のしあわせを願うから、
この距離のままで良い
これから先も共に行こうか
オレの、たったひとりの、
明日知・理
ルース(f06629)と
_
…吐き出す息は白い。
寒くないか、と傍の彼に問いかけそうになって慌てて口を閉じた。
ふと、彼と目が合って
向けられた穏やかな微笑みに、俺も微笑み返した。
…胸の奥にちくりと刺した、切ない痛みに気付かないフリをして。
不意に頭を撫でられ、くすぐったくて溢れそうになる声を抑え
広がっていく胸の痛みを全部隠して
『親友』としてその手をとる。
声は出さない。声に出さない。
──だから、気付かないでいてくれよ。
今の表情も、この胸の痛みも、この気持ちも、何もかも。
全部──俺だけの秘密だ。
●選んだもの
それはこの夜が、しゃべってはいけないと言われた夜だから、というわけでもなかったのだろう。
ルーファス・グレンヴィル(常夜・f06629)は、もう決めていた。
声は出さないことを。この想いは伝えないことを。
この夜だけではなく――この先も親友として、そう決めたのだ。
だからこそ、夜と闇が支配する此処は、妙に居心地が良いのかも知れないと赤い瞳を僅かに細めて傍らへとちらり、視線向ける。
はぁ、と白い息が吐きだされ消えていく様を明日知・理(月影・f13813)は見て。
寒くないか、とルーファスに問い掛けそうになって、慌てて口を閉じた。
なんだかちょっと恥ずかしいような気まずいような。
そう思っているとふと、目が合った。
ルーファスの手でランプが揺れる。ルーファスは足許から頭の天辺までゆっくりと見て、そして今、理と視線があったのだ。
ふ、と穏やかな笑みを溢す。
穏やかで柔らかな微笑みだ。その微笑みに理も微笑み返した。
けれど――ちくり。
胸の奥、ちくりと刺したか、刺されたか。切ない痛みを僅か感じて、けれど気付かないフリをした。
理のその痛みをルーファスは気付く事はなく。
声に出せない。何も口にせずとも、届く気持ちはきっとあるのだろう。
だから――徐に手を伸ばした。
その手は何時もの如く髪を撫でる。理の頭をわしゃわしゃと搔き乱してやった。
その不意の行動。理はくすぐったくて溢れそうになる声を抑え――感じていた。
ちくり、としていたものがじわりじわり広がっていく。
明確な痛みとして広がっていく。それを気付かれぬよう隠して。
わしゃわしゃとされる下から、ルーファスの表情を見る。
熱くも鋭い眼差しと共に、優しさが滲む表情だ。
やがて、ルーファスは掌を、理へと向けた。
そして、理も選んだのだ。『親友』としてその手をとることを。
声は出さない。声にださない。決して、声にださない――だから。
(「――だから、気づかないでいてくれよ」)
上手く隠せているだろうか。
今の表情も、この胸の痛みも、この気持ちも、何もかも。
全部――理だけの、秘密。
手を繋ぐ。何も鴨包み込むよう手を繋いで、ぬくもりが伝わって、伝わりあって支配していく。
(「君のしあわせを願うから、この距離のままで良い」
これから先も共に行こうか、とルーファスは笑みに乗せる。
オレの、たったひとりの、――その先の言葉を秘めて。
お互いに、秘め事と共に。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
尭海・有珠
レン(f00719)と
先を照らすのではなく、灯りは下ろした手に緩く持ち湖のほとりへ
しかと手を繋げば伝わる熱が私の目印になる
尻尾の感触に、出してて良いのか?と問うようにレンを見遣る
最初は優しく、撫でながらもふもふを堪能しよう
そのうち撫で方に、少しだけ遠慮がなくなってしまうのは仕方ないだろう?
手が取られるも唇の形を読んで、仕方ないなぁと零れる苦笑
私だって君の掌の温もりは心地好いから
けれど頬への感触に、驚いて体が跳ねてしまう
けして嫌ではないのだけれど
犬だからと笑う君に、その好意の種類に対し
自分の心の置き場が分からなくて
誤魔化すように、誤魔化されるように
苦笑ひとつ、あやすようにレンの狼耳を撫でるんだ
飛砂・煉月
有珠(f06286)と
誰も居ない湖のほとりへ
夜目の利く眸で進み灯は要らない
繋いだ手に熱を込め信じてと云わんばかり
落ち着いて座ればキミだけ見せる秘
狼耳と尻尾
大きめの尻尾で君の腰を抱き
もふもふされても耳を触られても
キミの熱を感じるだけだから意の侭に
其れでも触れたいと傍にある掌だけ攫って握る
海色の眸へ悪戯気に緋色を細めて
ゴメンね?
音のない唇の形だけで
普段仕舞っているせいか
耳と尻尾を出すと顔を覗かせるのは太陽の犬より月下の狼
キミが欲しいとつい頬へ口付けひとつ
キミに口付けた自身の唇をぺろりと舐め取る仕草は欲の狼
…噫、気づかれる前に犬に戻れたかな?
有珠のぬくもりは
オレを狂わす月で
オレを包む海
きっと、何方も
●触れる、一瞬に
誰も居ない湖のほとりへ、飛砂・煉月(渇望の黒狼・f00719)は尭海・有珠(殲蒼・f06286)の手を引いて向かう。
夜目の利く煉月の眸があるから、灯りは先を照らすのではなく有珠が下した手に緩くもち、ゆうるり揺れるばかり。
それに繋いだ手に煉月が熱を込め信じてと、云わんばかりだ。
そしてその熱は目印。
解かれることなく、冷たい風が渡る湖へ。
落ち着いて座れる場所を見つけた煉月は、腰を下ろして一息。
そしてふわりと、狼耳と尻尾を現す。ふわり、その大きめの尻尾で有珠の腰をだく。
すると有珠は瞬いて、出してて良いのか? と問うように煉月を見遣った。
これは有珠にだけ、煉月が見せる秘密だ。
そのふわふわでもふもふの尻尾。有珠はそれを最初は優しく撫でていた。撫でながらもふもふを堪能――していると、そのうち少しだけ遠慮がなくなって。
もふもふ――ちらり。その耳も気になる。そっと手を伸ばせば煉月はされるがまま。
有珠の熱を触れられて感じるだけだ。だから、好きにと意のままに。
けれどそれでも触れたいという気持ちが無いわけではなくて。耳をそうっと撫でていたその掌だけ攫って握る。
瞬く、その海色の眸へ悪戯気に緋色を細めて――ゴメンね? と音のない、唇の形だけで伝えた。
それを読み取って、仕方ないなぁと苦笑零す有珠。
私だって君の掌の温もりは心地好いから――と。
その表情に煉月はちょっと顔を近づけた。
普段仕舞っているせいだろうか。耳と尻尾を出すと、顔をのぞかせるのは太陽の犬――ではなくて。月下の狼か。
思うままに、キミが欲しいと頬に唇寄せて、触れる。
その感触に驚いて、有珠は身を跳ねさせる。
決していやではないのだけれども、と有珠は煉月へ視線を向ける。
触れただけの唇をぺろりと舐めとる一瞬。それは欲の狼なのだけれども、さて有珠はそれを目にしたのか。
(「……噫、気づかれる前に犬に戻れたかな?」)
きっと、大丈夫なはず。
犬だから、と笑う――そんな煉月へと戻れているはず。
そんな煉月の、その好意が一体どんなものなのか。
有珠は自分の心の置き場がわからなくて、戸惑いを――それを誤魔化すように、誤魔化されるように。
また、苦笑ひとつ。あやすように煉月の狼耳を有珠は撫でる。
擽ったいとぴこりと耳先を揺らす煉月。
有珠の与えるこのぬくもりは煉月を狂わす月であり。
そして、煉月を包む海でもある。それはきっと、何方も。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
宵雛花・十雉
【双月】
同じように自分の口元に指を当て返すと
手を引かれるままについて歩く
こうやって沈黙を守っていると
自分が普段どれだけ言葉に頼ってるのか思い知らされるよ
辿り着いた湖でユェーと目が合う
触ってみてっていうことかな?
首を傾げつつも、頑張って視線の意味を推し量ろうと
湖面に触れると凄く冷たくて
反射的に声が出そうになる
あ、危なかった…
上着を貸して貰ったら、目を細めて会釈を
人里の暖かさが恋しいよ
はやく帰ろ
街では美味しい料理に舌鼓
そこでもやっぱり視線を感じて
ず、ずっと見られてたら食べにくい…
ユェーもどうぞって伝えるように、料理を相手の方へ寄せて
やっぱり誰かと一緒に食べた方が美味しいもんね
朧・ユェー
【双月】
喋ってはいけないと指を口元に置きシーと笑った後
君の手を握る
深い闇に君を囚われたらいけないと僕から離れてはいけないと
森を抜けると綺麗な湖
そっと触れると冷たい
十雉くん綺麗で冷たいですよと
瞳で合図する
可愛らしい反応に愛おしく見つめて
大丈夫ですか?と頭を撫でる
冷たい場所で彼が冷えた身体
そっと自分の上着を羽織って
あたたかい街に戻りましょうか
街へとお戻り
あたたかいシチューなど料理を作り君へ
美味しそうに食べる彼をじぃーと見つめている
見ているだけで温かくなる
料理がこちらにもそっと来る
ありがとうと微笑んで
そうですね、一緒に食べる方が美味しいですね
嗚呼、この時間がとても幸せだと
●視線
喋ってはいけない、と指を口元に置き。シーと朧・ユェー(零月ノ鬼・f06712)が笑ったなら、宵雛花・十雉(奇々傀々・f23050)も同じように自分の口元に指をあて返す。
ユェーは十雉の手をしっかりと握り歩み始めた。手を引かれるままに、十雉もついていく。
深い闇に君を囚われたらいけない。僕から離れてはいけないよ、と指先に力を乗せる。
沈黙。何も言葉はなく――こうして沈黙を守っていると、自分が普段どれだけ言葉に頼ってるのか思い知らされると十雉は口端に薄く、困ったように笑み乗せた。
ただただ、共に歩んでいく。
森の中を歩んで、そして視界の先でかすかな煌めきが見えた。
それは湖。
ユェーと十雉は一度足を止めて、そしてまた歩み出す。
しゃがんで、そっとその水に触れるユェー。冷たい。
ユェーは十雉を見上げる。すると、目があって。
十雉くん綺麗で冷たいですよ、と笑いかける瞳。すると十雉は触ってみてっていうことかな? と首を傾げつつも、頑張ってその視線の意味を推し量ろうとする。
十雉は傍らにしゃがみ込んで湖面にそっと触れた。
すると、思っているよりもすごく冷たくて『ひゃ』と反射的に出そうになる声を飲み込んだ。
(「あ、危なかった……」)
と、安堵する。
その反応全て可愛らしくて、愛おしくユェーは見詰めて手を伸ばす。
大丈夫ですか? と頭を撫でると瞳柔らかに緩めて、大丈夫と十雉は告げる。
しかしひゅう、と冷たい風が駆け抜ければ体が冷えていく心地。
ユェーは自分の上着を十雉へと貸す。
十雉は目を細めて会釈して、ありがとうと告げた。
しかし長居はとくるりと踵返す。
あたたかい街に戻りましょうかとユェーが示せばこくりと十雉は頷いた。
人里の暖かさが恋しいよ、と小さく笑い零して。
はやく帰ろ、と二人の歩みは湖への道のりを辿るよりも早く。
町は、誰も声を出していないけれどもにぎやかだ。
暖かそうな気配、良い匂い。
あたたかいシチューを、一緒に。
美味しい、と十雉は料理に舌鼓――なのだが。にこにことじーっと向けられる視線。
美味しそうに食べている。見ているだけで温かくなる。
(「ず、ずっと見られてたら食べにくい……」)
おや、食べる手を止めてしまったとユェーが思っていると十雉はそうっとユェーの方へと皿を押しやった。
ユェーもどうぞ、と言っているのだ。
十雉のその気持ちをユェーは微笑んで受け止める。
ありがとうと微笑んで、そうですね、と頷いた。
ひとりより、一緒に食べる方が美味しい――ユェーもひとくち。
それを目にして十雉も笑み深めた。
やっぱり誰かと一緒に食べた方が美味しいもんね、と自分もまたひとくち。
この空気に、あたたかさ。
嗚呼、この時間がとても幸せだと、ユェーはその眦を緩めるのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と
宵と手を繋ぎ教会へ向かおう
物である己に人の神の祝福はきっとないのだろうが…祈りを捧げる宵が隣に在るこの時間はとても尊いとそう思う故、声に出さぬながらも僅かに笑みを浮かべ祈りの姿勢を続けよう
その後は町の者達の列に交じり宵と手を繋ぎ湖へ
寒さに肩を竦めつつ宵は寒くは無いだろうかとついぞ視線を向けるも、目が合えば瞳を笑みに細めながら腕の中に引き寄せる様力を込めてみよう
繋いだ手から、触れ合う身から温もりを伝える人を赦す為だけにあった己を赦し導いてくれる愛おしい愛しい導きの星
出会えてよかったと、そう思いを込めて手を握りなおそう
ああ、本当に。言葉にせずとも、繋いだ手さえあれば心は伝わる物だな
逢坂・宵
ザッフィーロ(f06826)と
かれと手を繋いで教会へ
僕には信じる人の神はいませんが
人の神とやらは祈る者を問わぬそうですので
これまでの日々への感謝と、これからの日々への希望をのせて祈りましょう
それから湖へ向かう方々に紛れつつかれと手を繋いで森の中へ
頬をひりりと刺激する寒さに
寒さに弱いかれが凍えてはいないかと、視線を上げれば
まなざしがかち合ったなら、嬉しくて目を細めましょう
それから腕の中に引き寄せられれば
さらに強く感じるかれの気配と体温
触れた手が、そして擁くこころがあたたかい
モノであった時分には知りようもなかったこの気持ちを教えてくれたかれの傍で、僕は生きていきたい
―――ああ、僕の神は、きみですね
●今は、知っている
逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)とザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)が手を繋いで向かう先は――教会だった。
教会は祈る場所だ。
宵に、は信じる人の神はいない。
けれど、人の神は祈る者を問わぬというのだ。
だったら、この一夜に祈ってみるのも良い。
これまでの日々への感謝と、これからの日々への希望を。
そしてまた――ザッフィーロも思う。
物である己。人の神の祝福はあるのだろうか。いや、きっとないのだろう。
しかし傍らに祈りをささげる宵がいる。
隣に彼が在るこの時間はとても尊いと、そう思う故、声に出さぬながらも僅かに笑みを浮かべ。ザッフィーロは祈りの姿勢を続けていた。
宵が祈りを捧げる――それに正面から向き合いたい、と思う気持ちが全くない、というのはきっと嘘になる。けれど、傍らのここが一番心地よい。
そして祈りも、ほどほどに次に向かうのは湖だ。
どこへ、と決めていたわけでもなくなんとなくの流れかもしれない。多くの人々がそうしている流れに沿うてみたのだ。
ひとびとの流れに乗ってその中に紛れつつふたり、また手を繋ぐ。
教会の中はあたたかかったけれど、外はやはり寒い。
頬をひりりと刺激する寒さに宵はザッフィーロを見上げた。
寒さに弱いのだから凍えてはいないかと。
けれど、同じなのだ。
ザッフィーロもまた、寒さに肩を竦めたのだけれども。宵は寒くは無いだろうかとついぞ視線を向けたところ。
目があえば――自然と笑むばかり。嬉しくて瞳細める宵。ザッフィーロも瞳を笑みに細めながら腕の中へと引き寄せる。
人の流れにどこかへ行かぬように。
引き寄せられた腕の中で宵はザッフィーロの気配と体温をさらに強く感じていた。
触れた手が、そして擁くこころがあたたかいのだ。
繋いだ手、触れ合うところから熱を伝える術。
それをもつのは人だけだ。その人を、赦す為だけにあった己を赦し導いてくれる愛おしい、愛おしい導きの星とザッフィーロはその姿だけを瞳に閉じ込める。
出会えてよかった――そう、想いを込めてザッフィーロは宵の手を握りなおした。
あたたかく、しあわせな。
(「ああ、本当に」)
言葉にせずとも、繋いだ手さえあれば心は伝わる物だなとザッフィーロは想う。
お互いに、モノであった時分には知りようもなかった気持ちを今は、抱いている。
この気持ちを教えてくれたザッフィーロの傍で。
(「僕は生きていたい」)
そう、宵は思うのだ。
そして、気づいて悪戯するように笑み零した。ザッフィーロはその笑みを掬い上げてどうした? と僅かに首傾げた。
けれど、ふるりと首を横に振って宵は微笑みを深めるだけだ。
(「――――ああ、僕の神は、きみですね」)
いつかその想いを言葉にするだろうか。しかし今夜は、宵の心のうちだけに。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
旭・まどか
あきら(f26138)と
定められたルールを抱きながら
君の隣をゆっくりとした足取りで進む
此処に在るのは
緩やかな波の音と草を踏む音だけ
息遣いさえ聞こえないほど静かな世界で
確かに此処に在る事を確かめる様に視線を向けて
口を開きそうになる君の姿に
人さし指で沈黙を促す
そういえばどうして喋ってはいけないのか
戻ったらその由来を尋ねようと思いながら
何か言いたげな君の眼差しを受ける
当然、言葉を介さない以上その意図は解らないから
首を傾げるに留めるけれど
まぁ、良い
別に識る事だけが正解な訳では無いから
繋がれた左手から感じるぬくもりに
君が言葉を介したくなった時に黙って耳を傾けよう、と
屹度、近い内にその日は訪れるだろうから
天音・亮
まどか(f18469)と
私はよく喋る方、だと自分でも思ってるから
喋っちゃダメっていう決まりにはつい口がむずむずしちゃいそう
太陽の無い世界できみと隣り合わせに歩く
静かだからきみの小さな足音も聴こえて
目を閉じれば殊更に静かな聖夜の音が耳に届いて
心がふわり凪ぐ様
ねえまどか─…
なんて声に出しそうになったのを察したきみが立てた人差し指
慌てて真似る様に自分の口元にも添えた
それじゃあ喋っちゃいけない代わりにと
伸ばした右手できみの手を取ろう
(あのね、まどか。きみに話したい事がたくさんあるよ。)
首を傾げたきみに返すのはいつもの笑顔だけ
手を繋いで、きみと二人ゆっくりゆっくり
教会にでも行ってみようか
一歩、きみの前に
●きっと、いつか
ふたりの足取りはゆっくりとしたものだった。
常日頃、よく喋る方――だと、自分でも思っている天音・亮(手をのばそう・f26138)はこの喋ってはいけないという決まりにはつい、口がむずむずしてしまう心地。
対して旭・まどか(MementoMori・f18469)はただ静かだ。
この世界に太陽は無く。隣り合わせに、歩んでいく。
あかりは、ひとつ。それはすべてを照らすことができる強いものではなく、せいぜい足元を照らすくらいのものだ。だから、真っ暗な夜であることは間違いない。
静かだから、聞こえてくるのは風に微かに撫でられておこった湖の波の音。それから、ふたりで草を踏む小さな音だけ。
まどかは息遣いさえ聞こえないほど静かな世界を捕まえていた。
ふと、亮は瞳を閉じる。すると殊更に静かで――遠く、聖夜の音が耳に届いていた。
まどかは、亮が確かに此処に在る事を確かめる様に視線を向けていた。
亮は心がふわり、凪ぐ様な心地に忘れかける。
『ねえまどか─―……』
なんて声に出しそうになる。しかしまどかがそれを察して、人差し指一本で沈黙を促す。
そうだった、話してはいけないと慌てて真似るように亮は自分の口元にも添える。
喋ってはいけない――そういえば、どうして喋ってはいけないのか。
まどかはそれが気になり始める。戻ったら由来を尋ねようと思っているとすっと、目の前に伸ばされる手があった。
けれど、まどかは首を傾げる。
その手は、しゃべっちゃいけない代わりにと亮が差し出したもの。何か言いたげな眼差しだと思うけれどまどかは首を傾げるだけ。
手を伸ばしただけでは伝わらない。だから、亮はその手でまどかの手をとった。
(「あのね、まどか。きみに話したい事がたくさんあるよ」)
首を傾げたまどかへ返すのはいつもの笑顔。
当然、言葉を介さない以上、その意図は解らないままだ。
だから首を傾げるにとどめて――歩こう、と亮が一歩踏み出したのに続く。
ゆっくりと、ついていく。
まぁ、良い――別に識る事だけが正解な訳では無いから。
それに、繋がれた左手から感じるぬくもりは、悪いものではないのだろう。
まどかは思う。亮が言葉を介したくなった時、黙って耳を傾けよう、と。
屹度、近いうちにその日は訪れるだろうから。
いまは、きっとゆっくりでいいのだ。
ゆっくり、ゆっくり、歩いていく。
夜の静けさの中にあって、ふと――教会にでも行ってみようかと亮は思いついた。
一歩、まどかの前に出る。行こうと、誘いをかけるように。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ライラック・エアルオウルズ
【花結】
夜のしじまを歩みゆく
声の届かぬひとときは
いっそう、君の存在を
手繰り寄せたくなるもので
密か見る君が身引けば
照らす灯も眸も揺れて
滲みゆく熱と
溢れそうな言葉
それらを抑えるように
肯定の代わり、想い返す
君が少し違えるのなら
僕も真似て、そのように
頬に手添えたのならば
そう、と額を合わせて
君の眸を間近と見詰め
でも、少しもどかしくて
離れたあと、やわらかに
指先で君の唇をなぞる
子猫のよに、甘えるも
可愛らしくあるけれど
愛を伝えて、詞の伝わる
その唇が、矢張り恋しい
そんな我儘、いっそ
伝わらなければいいと
誤魔化すべく、歩みだし
歩みの至る森の湖畔は
熱冷ますにも良いだろう
けれど、それでも、きっと
繋いだ熱は、増すばかり
ティル・レーヴェ
【花結】
静かな夜をあなたとふたり
伝え合う言の葉も
今宵ばかりは蓋をして
ダメと言われると
したくなるのは何故かしら
恒よりも尚
すき、とあなたに伝えたくて
添い歩むあなたをツン、と引く
恒のよにその身傾いでくれたなら
伸ばす爪先
いつかに似てて
その先は少し違うのよ?
彼の頬に己の重ね
甘える猫のよに
柔く擦り寄せる其処が
手で触れるより柔らかに感じ
思わず目を細め
そっと離して
燈が灯す顔覗き
伝わった?と眸で問えば
交わる視線に重なる額
返る想いに綻ぶも
不意に唇をなぞる指
その先の眸も熱帯びて見え
こっちがよかった?なんて
自惚れた問いも今は紡げず
熱持つてのひら繋いで
歩み出す彼の傍に添う
言の葉に逃がせぬ
ふたりの熱で
あゝ溶けてしまいそう
●今宵は熱のままに
静か――聞こえる音はわずかばかりの心地よさ。
伝え合う事のはも、今宵ばかりは蓋をして閉じ込めて。
だから、こうしたくなるのだろう。いっそう、君の存在を手繰り寄せたくなるとライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)は傍らの少女、ティル・レーヴェ(福音の蕾・f07995)へと密かに視線を向けた。
喋ってはいけない。
ダメと言われると、したくなるのは何故かしらと思うのだ。
今夜は、恒よりも尚――すき、とあなたに伝えたくて、手を伸ばす。
ツン、とその服の端を摘まんて引くティル。
すると、ライラックは恒のようにその身傾いで――手にした灯も、眸も揺れて。
ちょんと、爪先伸ばして背伸びする。
そこにあるのはすきの気持ちと、ちょっとだけ。ほんの少しだけ悪戯心もあったのかもしれない。
(「いつかに似てて、その先は少し違うのよ?」)
ライラックの頬に、己の重ね――甘える猫のように柔く擦り寄せる。
其処が手で触れるより柔らかに感じ、ティルは思わず目を細めていた。
そっと離して、燈が灯すその顔を覗き込んで――伝わった? と眸で問う。
滲みゆく熱がある。
溢れそうな言葉、それらを抑えるように。肯定の代わり、想い返すのはライラック。
そうして、視線が交わった。
君が少し違えるのなら――僕も真似て、そのように。
頬に手を添えれば、冬の寒さに少し冷たくて。
そう、と額を合わせてライラックはティルの眸を間近と見詰める。
返された想いに、ティルの表情は綻んだ。
でも、ライラックは少しもどかしくて――離れて、そのあと。
柔らかに、指先でその唇をなぞった。
不意に、なぞっていく。
子猫のよに、甘えるも可愛らしくあるけれど。
けれどやはり、恋しいものがある。
愛を伝えて、詞の伝わる――その唇が、矢張り恋しいと伝えるのだ。
ライラックのその心をティルも感じて。
その眸も熱帯びて見え――こっちがよかった? なんて、自惚れた問いも今は紡げぬのだ。
そんな我儘、いっそ伝わらなければいいとライラックは誤魔化すべく、歩み出す。
けれどもう、伝わっているかもしれない。
そうっと、熱持つてのひらを繋いでしまったら、きっともう逃げられないのだろう。
いや、今日は時に逃げ道になってしまう言の葉を封じられているから、逃がせられないのだ。
歩む、その先の森の湖畔は熱冷ますにも良いだろう。
けれど、それでも、きっと。
指先重ねてそれだけでも。繋いだ熱は増すばかりだ。
ふたりの熱――あゝ溶けてしまいそうと笑み向ける少女からそいっと視線逃す彼の頬。
夜でよかったのだ。きっと明るい陽の下であったならその瞳に映って、逃げられない。
きっと、どちらも。
大成功
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