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さよならかくれんぼ

#UDCアース #呪詛型UDC

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●黄昏迷い路
 黄昏時の街のどこかで、突然かくれんぼに誘われるのだという。
『かくれんぼしましょ、わたし鬼』
 そんな声が聞こえれば、聞こえてしまえば、夕暮れの茜差す街の中でのかくれんぼの始まり。そこは怪異の領域で、周囲に居た筈の人々は消えてしまったかのように居なくなる。拒絶は出来ず、最後までかくれんぼをやりきらなくてはならない。
 追い掛けてくる鬼は人によって違っており、影法師のような顔の分からない人型であったり知っているはずなのに知らない顔の子どもであったりと、様々だ。
 捕まれば一生捕らわれるだとか、逃げ切れば無事に戻るチャンスがあるとか、言われていることは多々あるがどっちに転んでもその次は夜の街に放り出される、というのが共通点。
 そして、夜の街で何が起こるのかは怪異に巻き込まれなければわからないのだ。
 理不尽な話だと思うだろう、でも――。
 怪異とは、理不尽なものなのだから。
 そう囁かれ、都市伝説のように黄昏時のかくれんぼの話は広まっていた。

●グリモアベースにて
「ちょっとな、かくれんぼしてきてくれへんやろか」
 ちいちゃい子と遊んできてな、と続きそうなくらいに軽い口調で八重垣・菊花(翡翠菊・f24068)が言った。
「UDCアースでの仕事なんやけどな、まずはかくれんぼをせなあかんみたい」
 向かってもらうのは黄昏時の街、ふらふらと歩いていれば怪異の方から『かくれんぼしましょ、わたし鬼』と声を掛けられるのだという。
「声掛けられるまではぶらっと歩いてもうとってええよ、お店入ったり買い食いしたりするんもええと思うんよ」
 規模としてはそれなりに都会に分類される街で、ちょっとしたショッピングもきっと楽しいだろうと菊花が頷く。
「せやけど、黄昏時になったら外におらなあかんよ」
 かくれんぼの鬼が声を掛けてくれへんよって、と注意を促した。
「それからな、かくれんぼは見つかっても逃げきっても、どっちでもええよってな」
 これが怪異の理不尽な所で、見つけたら夜の街に放り込むし、逃げきったら逃げた先が夜の街になるのだと菊花が頬を膨らませる。
「かくれんぼの後は夜の街に迷い込むんやけど、ここも怪異の領域でな」
 この夜の街は心残りや未練、伝えなくてはいけないことを先送りにしていたり――そんな想いがある限りループし続ける世界。
 そして、それを解決するのが脱出方法なのだと菊花が言った。
「誰かに謝りたいことがあるとか、やっぱりあの日三軒目まで飲みに行けばよかったとか、あの時もうちょっと食べとけばよかったとか、言わなあかんけど勇気が出んくて言えへんとか、ほんまに些細なことでも気になってたら夜が明けへんらしいわ」
 誰にだって後悔や勇気が必要ということはあるだろう。
 どんなに自分が選んだ選択肢であっても、あの時こうしておけば良かったのにと思うことは、誰にだって――。
 過去の出来事であってもそれはそのままに再現され、悔いの残らぬように動かねばならない。
「それさえ出来れば、この現象を引き起こしてる怪異が現れるよってな、これを倒してきて欲しいんよ」
 人によっては笑い話にも、誰にも言えぬ話になるだろうけれど。
 そう言って、菊花は道を開く為に柏手を打ち、現れたグリモアに触れた。


波多蜜花
 閲覧ありがとうございます、波多蜜花です。
 自由度高目なシナリオをお届けに参りました、シリアスでもコメディでも、お好きなようにプレイングを掛けてくださいませ。
 どれか一章だけの参加も歓迎しております。

●各章の受付期間について
 恐れ入りますが、受付期間前のプレイング送信は流してしまう可能性が非常に高くなっております。各章、断章が入り次第受付期間(〆切を含む)をお知らせいたしますので、MSページをご覧ください。
 また、スケジュールの都合によっては再送をお願いする場合がございます。なるべく無いように努めますが、再送となった場合はご協力をお願いできればと思います(再送が発生する場合はタグやお知らせスレッドでご案内致します)

●第一章:日常
 都会的な街が舞台です。
 楽しみ方は三つありますので、下記を参考にしてください。
【1】かくれんぼはせずに(第一章のみ参加の場合)プレイングを遊びに全振りする
 お買い物や買い食い等、一般的な都市で出来そうな事はしていただいて構いません。現代地球の都会で遊ぶ、と考えてください。
【2】かくれんぼに全力を注ぐ
 お買い物等は特にせず、かくれんぼに対するプレイングに全振りする。この場合、かくれんぼをしながら二章への前振りができます。
 二章で捕らわれるであろう、未練や後悔、しなければならない事が胸に押し寄せて、プレイングによってはちょっと切なくなったりならなかったり。
 ※注意:未練や後悔、しなければならないことに対し、ご一緒に参加していない登録PCさんとのことは描写できません。
 登録されているPCではなく、NPC扱いとなる方であれば大丈夫です(その際は関係性を簡単に記してください)
【3】1と2の組み合わせ
 遊ぶプレイングと、かくれんぼをするプレイングを半々くらいにしていただけると丁度いいかなと思います。
 POW/SPD/WIZは気にせず、思うように楽しくお過ごしください。

●第二章:冒険
 かくれんぼの後、夜の街に囚われます。
 こちらでは囚われる原因となった未練や後悔、しなければならないことを解決することが怪異の領域を抜け出る方法となります。
 POW/SPD/WIZは気にせず、思うようにプレイングをお考えください。

●第三章:ボス戦
 この現象を作り出している怪異との戦いになります。

●同行者について
 同行者が三人以上の場合は【共通のグループ名か旅団名+人数】でお願いします。例:【暮3】同行者の人数制限は今回に限り三名様までとさせていただきます。
 プレイングの失効日を統一してください、失効日が同じであれば送信時刻は問いません。朝8:31~翌朝8:29迄は失効日が同じになります(プレイング受付締切日はこの限りではありません、受付時間内に送信してください)
 未成年者の飲酒喫煙、公序良俗に反するプレイングなどは一律不採用となりますのでご理解よろしくお願いいたします。

 それでは、皆さまの素敵なプレイングをお待ちしております!
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第1章 日常 『夕暮れかくれんぼ』

POW   :    近くに隠れる

SPD   :    遠くに隠れる

WIZ   :    物陰に隠れる

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●茜さす
 幾つもの店が所狭しと立ち並び、訪れる人を今か今かと待っている。ブティックが続いたかと思えば、ラーメン屋とカレー専門店、タピオカミルクティーのお店だったりジェラートのお店が並び、コスメばかりを集めた大きなビルがあったり。
 その街はとても賑わい、人や車で溢れかえっているかのよう。
 けれどもうすぐ、日が沈む。
 ゆっくり、ゆっくりと太陽が西へと傾いて、ビルの隙間から茜色の光がさすだろう。
『かくれんぼしましょ、わたし鬼』
 その声は、茜色の光を受けた誰かの耳に届くのだ。
 拒絶の叶わぬかくれんぼに誘われれば、そこは怪異の領域。
 さっきまで煩いほどに聞こえていた車のエンジン音もクラクションも聞こえず、人の気配もしない世界。
 茜さす無人の街でのかくれんぼへ、ようこそ――!
朱酉・逢真
心情)かくれんぼ、隠れ鬼。見つからずとも連れてくって、ひ・ひ…とんだ横紙破りさ。夜明け時は防衛戦、夕暮れ時は侵略戦。高いところで、太陽(*あいつ)が沈むさまを見ていよう。
行動)黄昏時まで上にいよう。高いところさ。UDCアースなら電柱あンだろ。あの上に座ってるよ。そんなとこでも声するンかな。したら後ろ見るよにのけぞって、アタマっから地面に落ちよう。広がる《黯(*影)》にぽちゃんと落ちたら、湧き上がって地上に出るよ。ああ、夜になってらァ。いいね、歩きやすい…ひ、ひ。



●茜に影をさす
 かくれんぼ、隠れ鬼。
 ひ、ひ、と朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)が笑う。
「見つからずとも連れてくなンざ、とんだ横紙破りさ」
 理不尽な暴力のような話だと、逢真が人の多い通りを歩く。誰にも当たらぬように、まるで影のようにするりと人混みを抜けて、一つ路地へと入った。
「大通りでなけりゃ人が少ないのはどの世界も変わらンね」
 薄暗く、誰も寄り付かぬような路地は心地いい、ふっと上を見上げれば電柱が見えて逢真がニィ、と唇の端を持ち上げる。
「高いところの方がよぉく見えるってもンさ」
 日が沈む様を、日輪が落ちるところを。
 よいせ、と呟くように電柱に足を掛ければ影がぞろりと電柱に移動して、あっという間に逢真の身体は電柱のてっぺんに立っていた。
「……眩し」
 目が灼けちまうとばかりに手を影に突っ込んで、ずるりと傘を引き抜く。
 手にした番傘を開いて、電柱を椅子のようにして座った。
「夜明けは防衛戦」
 夜の闇を朝の光が灼きにくる。
「夕暮れ時は侵略戦」
 太陽を追いやって、夜の帳を下ろしてくれよう。
「だから、こっから見ててやるよ」
 電柱のてっぺんから見える風景はビルの群れ、その合間を縫って沈んでいく太陽。
「さてさて、こンなとこでも『声』とやらは聞こえるンかねェ」
 かくれんぼに誘われるなんざ、何時振りかと逢真が唇から零すように、ひ、ひ、と笑う。
「無邪気なちびならいいけどよ、怪異ときちゃア」
 たんまり遊んでやろうな、と逢真の赤い目が細くなった。
 ああ、もうすぐ太陽がビルの向こうに消える。
 目を灼くような真白の光は茜色となって、最後のあがきを放っている。
 血が滲んだようなその色を身に受けて、逢真の影が色を濃くした。
『かくれんぼしましょ、わたし鬼』
 来た、と唇の端を持ち上げて、逢真が返事をする。
「はいよォ、たぁンと遊んでやろうな」
 傘を差したまま、逢真が重心を後ろへと傾ける。躊躇なく、まるで後ろに背凭れがあるかのようにぐらりと傾いた影は、後ろを見るように真っ逆さまに落ちていく。
 落ちていく先には黯が広がっていて、池が小石を飲み込むように逢真の身体をぽちゃりと飲み込んだ。
 それから、ぞろりと湧き上がる。
 番傘を閉じて影の中に沈め、空を眺めれば太陽はすっかりと沈んで夜の世界が広がっていた。
「あ、夜になってらァ。いいね、歩きやすい……ひ、ひ」
 何の気配もしない夜の中を、逢真が影を引き連れて歩き出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夜鳥・藍
【3】WIZ
かくれんぼ、良いですね。
あまりそういった遊びはしたことがないのでとても新鮮です。ですが買い物も気になるのです。
実は先日の戦争でもふもふはとても良い物だと実感しまして。
店を兼ねた一軒家とはいえ、一人暮らしゆえにペットを飼う事ができないのでぬいぐるみを買おうかと思います。
特に好きな動物もないし、お勧めのお店か商品を紹介いただけたら幸いです。
買い物が終わったらいったん荷物は預けてかくれんぼを。
でも私には未練とかあったかしら?後悔なら先日の戦争で、勉強不足を身に染みて感じましたが。
実家にいた時にもう少し戦術や戦い方について学べばよかったと。家を出れば関係ないからとあの時は思ってたんです。



●もふもふは正義なので
 かくれんぼをする、ということはしっかりと胸に留め置いて夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)が日の沈む前にと街を歩く。
「かくれんぼも気になりますが、ええ、買い物も気になるのです」
 誰に言うでもなく呟いて、先日のカクリヨでの戦争を思い出す。負ければこの現代地球にも影響を及ぼすという戦いも、終わってみればあっという間のこと。
 けれど、そこで出会ったもふもふ達がどうにも忘れられないのだ。
「もふもふはとても良い物……」
 一度そう実感してしまえば、もふもふのない生活はどうにも味気ない。
 あのもっふもっふのふっわふわ、もちもち、いやマシュマロボディのわんこたち。ころころでもふもふの、足元にすりすりとすり寄ってくる可愛らしいねこたち。
 思い出せば思い出すほど、その思いは募ってしまうが生憎と藍は一人暮らし。住む家は店を兼ねた一軒家で、ペットを飼うのは自由なのだけれど――。
「私がいない時に、誰もお世話をしてくれませんからね」
 猟兵という立場上、先の戦争のように長期で家を空けることも珍しくはない。そうなれば可愛いもふもふのお世話はできないし、もふもふが気になって戦いが上の空になってしまう、なんてことにもなれば目も当てられない。
 それゆえに、藍はペットを飼うことは諦めて、ぬいぐるみを買おうと決めたのだ。
「ええと、確かこちらに……」
 とは言え、特に好きな動物もなくこの辺りのお店もよくわからない藍がどうしたかというと、ここへ送り込んでくれた猟兵に事前に聞いてみたのだ。
 お勧めのお店か商品をご紹介いただけませんか、と。
 二つ返事で引き受けた幼女は簡単な地図まで書いてくれたし、お勧めのシリーズを教えてくれた。
 地図を頼りに店に行けば、ずらりと並んだふわふわでもこもこなぬいぐるみ。戦争で見掛けたような犬も猫もあったし、鳥の姿をした物もあった。
「決められるかしら……」
 散々悩んだけれど、手触りと抱き心地を何度も確認した藍はペンギンのぬいぐるみに決めて、包んでもらったそれを抱きかかえてコインロッカーへ荷物と共に預けた。
「そろそろね」
 外へ出ればすっかり日暮れて、茜色の光が藍へとさす。
「でも、私には未練とかあったかしら?」
 後悔なら、少し。
 先日の戦争でも感じた、戦うことについての勉強不足だ。
 あの時ほど実家にいた時にもう少し戦術や戦い方を学べば良かったと思ったことはない。
「家を出れば関係ないからと、あの時は思っていたので……」
 それかしら、と首を傾げれば後ろから聞こえるのは知らないはずの、知っているような声。
『かくれんぼしましょ、わたし鬼』
 ああ、夕闇が街を飲み込んで――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友だが、意図的に三人は眠らされた。

第二『静かなる者』霊力使いの武士
一人称:私 冷静沈着
生前の名前:梓奥武・孝透(しおう・たかゆき)

かくれんぼ…そういえば、姉や護衛だった『疾き者』とやった思い出がありますね
といっても、隠れられる場所は限られそうで。物陰に身を隠しましょうか

未練とか後悔とか。(オブリビオンに復讐する以外は)無縁だと思っていたんですよ、ついこの間までは
カクリヨでのまぼろし橋。私だけが、赴かなかった
陰で支えてくれたおとなしやかだが芯の強い女性、それが妻の千聖(ちせ)
彼女に会える機会だったというのに、気づいてしまったから

愛していた彼女が、一番ではないと



●一番星は見えない
 かくれんぼ、という言葉を聞いて思い出すのは、姉や自分の護衛であった『疾き者』と遊んだ記憶だ。
「懐かしいですね」
 微笑むのは四人で一人の複合型悪霊である馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)で、今の意識を保つのはその中でも『静かなる者』と呼ばれる梓奥武・孝透であった。
 子どもの頃にやった遊びを思い出し、ふっと笑みを零す。
 どんな場所に隠れても、必ず見つけてくれたのは『疾き者』であったし、最後まで隠れていたのも彼だった。あんまり上手に隠れるから、最終的には自分と姉とで名前を呼んで、顔を見せてくれたのだっけか。
「今思えば子ども相手に随分と大人げない……」
 でも、そのお陰で彼を探すのが上手くなったのだったかと、義透がゆっくりと傾いていく太陽を見上げた。
 すぐにでも茜色が広がりそうな空はどこか物悲しくも見えて、義透は先の戦いのことを思い出す。カクリヨが危機に陥り、この現代地球までも巻き込まれそうになった戦いだ。
「未練とか後悔とか、無縁だと思っていたんですよ」
 オブリビオンに復讐する以外、そんな気持ちは持ち合わせていないと思っていたのに。
 ああ、なのにと義透が溜息を零すと、彼を照らすかのように茜がさした。
『かくれんぼしましょ、わたし鬼』
 聞いたことがあるような、ないような。幼子のような老人のような声が響いて、義透は誰もいない街に取り残された。
「なるほど、確かに一方的ですね」
 いいよ、とも言ってないのですけれどと考えつつ、適当な路地に入って身を隠す。そうして、あの戦争で自分だけが赴かなかった場所を思う。
 まぼろし橋、死んだ想い人の幻影が現れるというカクリヨの橋。
 他の三人はかつて妻であった愛しい者や母に会いにいったというのに、自分だけは行かなかったのだ。
「行けば彼女に会えたでしょうね」
 自分を陰で支えてくれた、おとなしやかだけれど芯の強い女性……かつて妻であった千聖に。
 壁に背を預け、暮れていく空を見上げる。
 それでも行かなかったのは――いや、行けなかったのは気づいてしまったから。
「愛していた彼女が、一番ではないと」
 気が付くべきではなかったのに、気付いてしまったならもう彼女には会えなかった。
「君は私を詰るでしょうか」
 それとも、知っていましたよと笑っただろうか。
 一番星が見えぬままに、夜がくる――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フィッダ・ヨクセム
【1】◎
かくれんぼは得意だが
折角街まで出てきたし、俺様買い物に行きたいな!散歩だ!

目的は友達んチに配送予定の、黒くてデカいクッション!
大人をダメにしそうな奴がいい!
……が、ヒトの生活から少しズレてる野宿主体のヤドリガミなもんでウィンドウショッピングだけで不思議なモン見てそうで日が暮れそうだな
(……誰かに付き合ッて貰うんだッたなあ)
(誰も誘える相手、居ないけどな)
苦笑しつつまあ、ほのぼのと買い物日和を過ごそう

大きいクッション、自分用も買わなきャやッぱ変かなァ?
あんまり部屋に俺様の私物もないし、なァ…?
俺様に似合いそうなも買ッて、行く…?(そわそわ)

UCで背に乗せて別種族を装って帰るしか無いな



●ヤドリガミもダメにして
 かくれんぼ、かくれんぼか、と考えながらフィッダ・ヨクセム(停ノ幼獣・f18408)がまだ明るい街を歩く。
「かくれんぼは得意だが、折角街まで出てきたし」
 うん、決めた! とフィッダが並ぶ店を見渡して笑う。
「俺様買い物に行きたいな!」
 散歩も兼ねた買い物をしよう、と心に決めてフィッダが気になる店を片っ端から覗くことにした。
 目当ては決まっているのだけれど、やはり目に映る全てが輝いているように見えて、思わず足を止めてしまう。
「あれなんだ……? 扇風機?」
 首から掛けるタイプのポータブル扇風機に、ヘッドフォンかと思ったと呟きながら目を丸くしたり、きらきらの星と赤と青の珠が飾られたガーランドに目を奪われたりと、フィッダを惹き付ける物は多い。
 ヒトの生活から少しずれた、野宿を主体としたバス停のヤドリガミゆえ、どれもこれもが珍しくて不思議でたまらないのだ。
「……誰かに付き合ッて貰うんだッたなあ」
 誰も誘える相手、居ないけどな。
 思わず唇からこぼれた言葉に、フィッダが胸の内で言葉を返す。
 そうして、少しだけ苦みを覚えたような笑みを浮かべて、次の店へと足を運んだ。
 色々見て回って、あれもこれも気になって仕方なかったけれど目当てを疎かにするわけにはいかないと、黒くてデカいクッションを求めて生活雑貨を扱う店に踏み込む。
「クッションは……ッと」
 きょろきょろと店内を見回して、目当てのクッションが置いてあるコーナーへと向かう。そこは充分なスペースが取られた場所で、様々なサイズの――大人とかをダメにしちゃうという噂のクッションが多く陳列されていた。
「これか! どれどれ」
 まずは触り心地を確認しようとフィッダが触れると、ふにゅんと手が吸い込まれる。
「おわ……ッ」
 これはヤバいな……ごくりと喉を鳴らし、フィッダがお試しコーナーに置かれたクッションに身を預けるように腰掛けた。
 あ~~これはヤバい、とける……もうここから動きたくない……ここに住む……みたいな気持ちになりながら、フィッダはなんとか誘惑から抜け出すように立ち上がる。
「これにしよ」
 クッションで溶けたせいか、口調もなんだか寝起きみたいだ。
「大きさは俺様がこれでジャストだから、多分こッちだな」
 もう一回り大きな方を選んで、それからふと考える。
「大きいクッション、自分用も買わなきャやッぱ変かなァ?」
 相手の部屋に行った時に、自分がプレゼントした物に自分が座るのも変な話だし、かと言ってこのクッションに友達が座ってたら俺様だって座りたいし。
 それに、それに。
「あんまり部屋に俺様の私物もないし、なァ……? 俺様に似合いそうなのも買ッて、行く……?」
 これは色々チャンスでは?
 何を、とは口にせず、フィッダは友達が黒なら俺様は赤かな、とヤドリガミをもダメにするクッションを二つ手にして。それからこれを持って帰るには力を使って背に乗せて帰るしか無いな、と買って帰る決心を固めたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【不死蝶】◎
お洒落なカフェとか、知らない国の料理専門店とか
さすが都会、色んなお店が立ち並ぶ
そんな中で俺の心を掴んだのは…ラーメン屋さん
ちょっと恐そうな親父さんが経営している
昔ながらのイメージそのままな感じの

梓にお願いすれば色んな料理を振る舞ってくれるけど
ラーメンは流石に作ったことないでしょ?
せっかくの外食だし、この機会に食べなきゃ!って思ったんだー

じゃあ俺はどれにしようかな
目に留まったのは真っ赤な担々麺
しかも辛さが選べる
もちろん最大の辛さの担々麺で即決(激辛好き

んーっ、麺のコシもスープの濃厚さも辛さも全部俺好み
最後の一滴まで飲み干せちゃいそう
ねぇねぇ、梓のも一口ちょーだい
俺のも一口あげるから~


乱獅子・梓
【不死蝶】◎
綾のことだから、映えるパンケーキとかが
あるカフェを選ぶのだろうかと思っていたら…
…何でまたラーメン? いや、普通に美味いと思うが…

あー、言われてみれば確かに…
美味いものを食うと自分でも作りたくなる俺だが
ラーメンを作ろうと思ったことはなかったな
スープは鶏ガラや数種類の野菜を何時間も煮込まなきゃいけないし
身近な割に手作りのハードルが高いのがラーメン
こう思うとラーメン屋やインスタントラーメンって
ありがたい存在だよな…(しみじみ

俺が選んだのは定番の醤油ラーメン
派手さは無いが「これぞラーメン」と思える安心安定の美味さ
一方綾のは…なんかすごい色してる
一口やるのはいいが…お前のは遠慮しておく



●ラーメンって罪の味
 UDCアース、現代地球のとある街を白と黒の二人が歩く。
 高身長に加え、サングラスと赤い丸眼鏡で目元を隠していてもわかる整った容姿に、擦れ違った女性が思わず振り向いてしまうような、そんな二人組だ。
 モデルかしら、なんて声が聞こえて灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)が思わず笑う。
「梓、梓、モデルだって思われてるよ?」
「あ? お前が思われてるんだろ」
 何を言ってるんだ、という顔で乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)が答えるのを綾がまじまじと見返して、わかってないってすごいなぁと口に出さずに前を向いた。
「で、何処に行きたいんだ?」
「ん-、その辺ふらっと見てからご飯が食べたいんだよね」
 ウインドウショッピングからの食事、何時ものことだなと思いながら梓が頷く。特に欲しいものもなかったので、綾の行きたいことろを優先的に見て回ることにした。
 夏を目前にしたショーウインドウには水着を着てサングラスを掛けたマネキンが並んでいて、綾が楽しそうに眺めている。女性物が多い中、男性のマネキンも幾つか立っていて今年の夏の流行りはこのタイプなのだなと梓も何とはなしにチェックをしていた。
「ねえ、これ梓に似合うんじゃない?」
 綾が指さしたのは黒地に白のラインが入ったサーフパンツで、ゆるっとした白いラッシュガードを着たマネキン。
「悪くないな、綾はこっちか?」
 ほら、と梓の視線の先を追えば、黒地に赤のラインが入った色違いのサーフパンツと黒いラッシュガードを着たマネキンがあった。
「いいかも、夏の海かぁ」
 海と言えばグリードオーシャン、去年はいっぱい遊んだなと綾が思い出す。
「今年も海に遊びに行きたいねぇ」
「そうだな」
 色々見て回っていると、飲食店が並ぶ通りに差し掛かる。
「あ、あっちにお洒落なカフェがあるよ。こっちは知らない国の料理専門店……さすが都会、色んなお店があるね」
 綾はきっと映えるパンケーキとかがあるカフェを選ぶんだろうな、と梓がちらりと綾に目をやった。
「何処にする?」
「んー、あそこにしよう!」
 綾が梓の手を引いて、こっちと急かす。
「店は逃げないだろ……って、ここか?」
「ラーメン屋さん、良くない?」
 綾が選んだのは昔ながらといった風情のラーメン店で、威勢のいい声が聞こえている。
「……何でまたラーメン? いや、良いけどな」
「美味しそうでしょ」
「まあ、確かに」
 入ろう、と促されて店に入れば、二人掛けのテーブルに案内されてメニューを開く。
「梓にお願いすれば色んな料理を振る舞ってくれるけど、ラーメンは流石に作ったことないでしょ?」
「あー、言われてみれば確かに……」
 梓は凝り性なところがあるから、美味いものを食べると自分でも作ってみたくなるけれど、ラーメンを作ろうと思ったことはなかった気がする。理由は簡単で、お店レベルのスープを作ろうと思ったら鶏ガラや数種類の野菜を何時間も煮込まなければいけないし、麺だって手作りはちと手間がかかる。身近な割に手作りのハードルが高いのがラーメンなのだと改めて梓が頷いた。
「ね、だからせっかくの外食だし、この機会に食べなきゃ! って思ったんだー」
 二人でメニューを眺めつつ、とりとめもなくそんな話をする。
「そう思うとラーメン屋やインスタントラーメンってありがたい存在だよな……」
 手軽にラーメンが食べられるっていうのは幸せだったんだな、としみじみ梓が言う。
「大げさな気もするけど、身近な幸せってやつだね」
「そういうことだ、幸せの味……俺は定番の醤油ラーメンにするかな」
「じゃあ俺は……」
 迷いながらもメニューに視線を走らせ、ふっと綾の目に留まったのは真っ赤な担々麺。しかも辛さが五段階で選べるというもの。
「俺はこれ!」
 すいませーんと店員に声を掛け、綾が辛さ最大の担々麺を注文し、ついでに梓の醤油ラーメンも一緒に頼んだ。
「お前……」
「辛いの、どれくらい辛いか楽しみだね」
 にこにこする綾にそれ以上は何も言わず、梓はお冷を口にしつつラーメンが届くのを待った。
 すぐに注文したラーメンが運ばれて、梓の前にはスタンダードな醤油ラーメンが、綾の前にはスープまで真っ赤な担々麺が置かれる。
「美味しそう、いただきまーす!」
「いただきます」
 手を合わせ、サングラスは曇るのでちょっと外してまずはスープを一口。それから、麺をちゅるりと啜る。
「ん-っ、麺のコシもスープの濃厚さも辛さも全部俺好み」
「こっちも派手さは無いが『これぞラーメン』って思える美味さだ」
 ほっとする、と言えば伝わるのだろうか。コクがあって醤油のキレもあって、箸が止まらないほどだ。
「それにしても……お前の担々麺」
 なんかすごい色をしている、地獄の釜の中みたいな色、と梓が口元を引き攣らせる。
「美味しいよ、最後の一滴まで飲み干せちゃいそう」
「そうか」
 綾が美味しいならいいか、と梓はチャーシューを飲み込む。
「ねぇねぇ、梓のも一口ちょーだい? 俺のも一口あげるから~」
「一口やるのはいいが」
 そっと自分の丼を綾の方に押しやれば、綾も丼を梓の方に渡そうとする。
「いや、お前のは遠慮しておく」
「なんで? 美味しいのに」
 いいから、と真っ赤なスープを湛えた丼を押しやって自分のラーメンを食べさせた。
「醤油ラーメンも美味しいねぇ」
「味わかんのか?」
 そんな辛そうなラーメン食っといて、と梓が目を細める。
「わかるよ? あー、ラーメンって幸せの味だけど罪深い味がするよね……」
 しみじみ言う綾に、そうだなと梓が笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
「真面目にかくれんぼ致しましょう」

物陰に隠れUC使用
蜜蜂で周囲を確認しながら物陰から物陰へと移動していく

(大人と子供の目線は違いますけれど…隠れるのも探すのも難しそうですよね)

こういう遊びをしたのは大人になってからだ
崩れ落ちた座敷牢を
梁を伝って外に出るまで
世話人以外会ったことがなかった
外に出て帝都に辿り着いて
大家の業突婆に人間にして貰えた頃にはそういう遊びをする年はとっくに越えていた
業突婆にチビの面倒みろと言われ
実際にはチビ達に面倒みて貰って
業突婆から痛い躾をたくさん受けて
まともに話して考えられる大人になった
今でもよく怒られるけれど
感謝しかない

「捕まらずに夜の街まで行きませんと」
周囲を見回した



●見つからないように、そっと
 ゆっくりと暮れていく空を眺め、御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)はその時を待っていた。
 傾いた太陽は茜色の光を何処までも伸ばし、空の色を染めていく。
 水色と茜が混じって薄紫のような不思議な色が広がって、思わず立ち止まってビルの向こうを眺めた。
『かくれんぼしましょ、わたし鬼』
 囁くような幼子の声が桜花の耳に響き、振り向くよりも早く雑踏の音が掻き消える。素早く視線を交差点に向ければ、今さっきまで走っていた車の群れも、桜花のすぐそばを歩いていた人の群れも全てが無くなっていた。
「まるで映画か何かのようです」
 セットに取り残されたみたいだと思いながら、桜花がすっと片手を視線の高さまで上げる。
「おいで蜜蜂、花の蜜をあげましょう。私の代わりに追い駆けて、全てを見て聞いてくれるなら」
 呼びかけに応じ、蜜蜂の群れが桜花の前に現れた。
「お行き」
 羽音を響かせて蜜蜂が四方八方へと飛ぶのを見届けて、桜花が物陰を探して移動する。周囲の確認は感覚を繋げた蜜蜂が担ってくれるので、桜花自身は逃げることに集中する。
「さてどうしましょう。大人と子供の目線は違いますけれど……隠れるのも探すのも難しそうですよね」
 いっそ上の方に向かって隠れるのもありではないかと考えつつ、物陰から物陰へと移動して桜花がふっと微笑んだ。
「かくれんぼは子どもの遊びと言いますけど、こういう遊びをしたのは大人になってからでしたね」
 思い出すのは崩れ落ちた座敷牢、なんとか梁を伝って外に出るまで桜花は世話人以外の人に会ったことがなかった。
 今でも外に出た時の空の色を覚えている、こんなに美しい色があるのかと深く心を揺さぶられたあの時の想いも。気の向くままに歩いて歩いて、帝都に辿り着いて出会ったのは大家の業突婆。
 あの人に会えていなければ、今頃自分はどうなっていたのか考えるのも恐ろしい話だと思う。どうにかこうにか人間にして貰えた頃には、そういう遊びをする年齢はとっくに超えていた。
「懐かしいです、チビの面倒をみろと言われたけど、実際には私がチビ達に面倒をみて貰って……」
 業突婆からは失敗をすれば痛い躾をたくさん受けたけれど、そのお陰でまともに話して考えられる大人になったのだ。
「今でもよく怒られるけれど」
 それでも、あの人には感謝しかないと桜花が笑って周囲を見回す。
 黄昏はやがて夜を連れてくるだろう、それまでになんとか。
「捕まらずに夜の街まで行きませんと」
 隠れる場所を変える為、桜花はそっと足を踏み出すのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シビラ・レーヴェンス
【2】露(f19223)。
面倒だから常に外に居てウィンドウショッピングをしておこう。
共にいる露は相変わらずに腕にくっつき。
『この服は似合うと思う』とか『この色は可愛い』とか言ってる。
「む…」
声がしたとたん少し眩暈にもにた感覚に陥ると雑音が消えた。
なるほど。これが例の合図…よし露と周囲を警戒しつつ隠れる。
第六感と野生の勘を付与して警戒の精度を上げ気を払っていよう。
移動中は左右を分担し足を止めている間は露とは背合わせで。
物の陰などを利用し闇に紛れ移動と待機を繰り返し隠れる。

更に念を入れて違和感を感じたら【紅の直感】を発動させよう。
極力『鬼』に捕獲されたくない。露と協力し細心の注意をしておく。


神坂・露
レーちゃん(f14377)。
黄昏まで時間あるわってレーちゃんみたら外でショッピング?
あー。ウィンドウショッピングするのね。うん、するわー♪
レーちゃん黒ばっかりだけど暗い色が好きなのかしら。
似合ってるけどもう少し…あ!この色可愛い。似合うかも~。
とか言ってたら本当に声かけられたわ!これが…。

レーちゃんから緊張感が溢れてきてあたしも気を引き締める。
警戒しながら聞き耳を立て野生の勘と第六感で周囲を厳重視認。
後は音が聞き取りやすいように忍び足で足音を消しておくわね。
そしてレーちゃんも使ってると思うけど【先見の瞳】を利用する。
かくれんぼってこんなに緊張するものだったかしら?
怖いって理由でくっつく♪わー。



●かくれんぼの合図
 クラクションの音が鳴り、その音に思わずシビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)が振り返る。幾度目かの現代地球だけれど、どうにもこの煩い音にはあまり慣れない。
「どうしたの~? レーちゃん」
 対して、神坂・露(親友まっしぐら仔犬娘・f19223)はそんな音したかしら? みたいな顔をしてシビラの腕にくっつきながら彼女を見ている。
「何でもない」
「そう? 何か気になるものでもあったかと思ったのに」
 もしもあったら教えてね、と露が笑うのでシビラは取り合えず頷いた。
「黄昏まで時間あるわねえ」
「中に入って黄昏時を逃すのも面倒だ、このまま外に居てウインドウショッピングでもしていればいい」
 ウインドウショッピング、という言葉に露の耳がピクリと動く。
「外でショッピング……あー、ウインドウショッピングね! うん、するわー♪」
 シビラと共にいられるのなら、なんでもいいのだけれど。
 それでも、ウインドウ越しとはいえシビラに似合う洋服を見立てるのは絶対に楽しいだろうと、露が俄然やる気を見せた。
 二人でふらりと歩きながら、ブティックのショーウインドウを眺めては立ち止まる。
「ねぇレーちゃん、レーちゃんって黒系の色が好きなの?」
 黒い服に視線を向けていたシビラに、露が問う。
「着慣れているというのもあるが、闇に紛れるだろう」
「そういう理由?」
 それだけではないのかもしれないが、暗い色が好きにしたってもう少し違う色も似あうのにと、露が考えながら黒ではない色の服を指さす。
「こっちの服、レーちゃんに似合うと思うの」
 黒い服だってとっても似合っているけれど、明るい色だってきっと似あうと露が自信ありげに微笑んだ。
「この間白いのを着たばっかりじゃないか」
「それはそれ、これはこれよ~♪」
 他に何かないかと歩けば、夏を前にして水着で着飾られたマネキンが目に飛び込んでくる。
「あ! この色可愛い。似合うかも~」
 そう言って露が指さしたのはライトブルーのワンピースタイプの水着。首元はホルターネックで、スカート部分は普段シビラが着ているようなフリルが重ねられていた。
「……派手じゃないか?」
「水着だもの、これくらい普通よ!」
 露の勢いに、そうかと頷きつつもシビラがもう一度水着を見遣る。確かにデザインは好みだけれど、慣れぬ色にシビラが小さく唸った。
「あたしはこっちかしら」
 白とミントグリーンの水着を眺め、どう思う? と露がシビラに問い掛けた時だった。
『かくれんぼしましょ、わたし鬼』
 二人の耳元で囁くような声が響き、シビラが眩暈にも似た感覚を覚えると同時に雑音の全てが消える。
「む……」
「これが……かくれんぼの?」
 シビラから感じる緊張感に、露も気を引き締めるように辺りを警戒する。
「露、行くぞ」
「わかったわ、レーちゃん!」
 取り敢えずかくれんぼというからには隠れなくてはならないだろうと、シビラが露を促して走りだす。隠れやすそうな物陰に身を潜め、二人は視線を交わした。
「露」
 内緒話をするようなシビラの声に露が無言で頷き、己の感覚を開放する。それに合わせてシビラも同じように感覚を開放し、警戒の精度を上げていく。
 移動する時は左右の確認を分担し、足を止めている間は背中合わせになって怪しい気配がないかを探る。極力物音を立てぬように足運びも気を付け、物陰から物陰へと移動を繰り返す。
 太陽はゆっくりとビルの合間へと落ちて、辺りは赤いほどの茜色に包まれていた。
「日が暮れるまではもう少しあるな」
 なるべくならば、鬼に捕獲されたくないとシビラが日の傾きを確認する。
「このまま夜の街になるまで、逃げきらなくっちゃね~」
「そうだな」
 シビラが頷き、ふっと瞳を閉じて何かを見通すかのように開いた。
「Nu gândiți, simțiți-vă……」
 十秒先の未来を感じるように、対象の攻撃を予想し回避する力を発動させる。
「一つ先の現実を」
 露もシビラの真似っことばかりに、同じ力を発動させて笑う。
 そうして、二人は鬼から逃げる為に再び街を駆けた。
「ふふ、かくれんぼってこんなに緊張するものだったかしら?」
「普通のかくれんぼではないからな」
「レーちゃん、あたし怖いわー?」
 なんて笑って、露がシビラにくっつく。
「露……」
 呆れたような声が聞こえたけれど、露は知らない振りだ。
 腕にくっ付いた露をそのままにして、溜息を零しながらシビラが沈みゆく太陽を見遣る。
 黄昏の街に夜が訪れるまでは、もうすぐ――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セロ・アルコイリス
【紅白】
【1】声が聴こえるまで全力で

仕事終りの姉と待ち合わせするみたいにそわそわ
へへ、おれもー

特に目当てがあるわけじゃなく
ショッピングモールで目についた店に

ねぇ花世、この髪飾りとかあんたに似合いそうです!
とか
ええ、なんか大人っぽ過ぎねーです?(やや照れ
そっちもかわいい……って!
花世!
ぜんぶとかだめですって
う、そんな顔……
(ああでも、)
(あんたが買ってくれるなら、一着くらいは)

見てください花世、
新作フラッペですって!
薔薇の香りか桃味かどっちにします?
贅沢了解、これはおれに奢らせてくださいね?
カップを当てて、
はいお疲れさま! ──ってUDCアースでは言うんでしょ?

この距離がすきだなあ、ってこっそり


境・花世
【紅白】【1】

こういうの、すこし、憧れてたんだ

内緒話みたいにはにかんで、
やさしい弟を連れ回す姉のふり
あてもなく、されど賑やかにきみの隣で歩きながら
お財布の紐がゆるゆるにほどけてく

爽やかな紺のリネンジャケット、
セロにうんと似合いそうだなあ
それともきみはかわいいのがお好み?
ならドット柄のシャツ…いや両方……!

(全部買ってあげようとして止められた)
(とてもざんねんそうな顔をしている)

わあ、フラッペ?
今日のわたしはうんと贅沢したいから
薔薇も桃も半分こを希望します

──ふふ、ありがと、お疲れさま!

傾く陽に照らされたわたしたちは
おんなじ色に染まって笑って
今ならすこしだけ、おたがいに似ているだろうか



●きみと待ち合わせ
 駅前で相手を待つ――それだけのことなのに、どうしてこんなにそわそわするんだろうと思いながらセロ・アルコイリス(花盗人・f06061)が首に掛けた音の鳴らないヘッドフォンを撫でる。
 それから、きょろきょろと辺りを見回しては時計に視線を向けて、まだかなと頬を緩ませた。
「待たせたかな?」
 ほどなくして聞こえた声に、セロが振り向いて笑みを浮かべる。
「ええと、おれも今来たところです」
 こうやって言うのが様式美なんだっけ、と思いつつも待ち人――境・花世(はなひとや・f11024)が笑っているので、これで良かったのだろう。
「ふふ、ありがと。こういうの、すこし、憧れてたんだ」
「へへ、おれもー」
 内緒話みたいにはにかんだ花世に、セロが一緒ですと嬉しそうに笑う。仕事帰りの姉と待ち合わせ、そんなシチュエーションだ。
 行き先に目当てがあるわけではないが、駅中にあるショッピングモールへと二人で向かう。優しい弟を連れまわす姉のように見えるだろうかと、花世がこっそりセロを横目で見れば、セロがなんですか? と小さく首を傾げた。
「なんでもないよ。折角だ、何か気になるものはない?」
 今日ばかりはお財布の紐は最初からゆるゆるでいこう、と決めていた花世がセロに問う。
「気になる……」
 うーん、と立ち止まった店に視線を巡らせ、セロがパッと瞳を輝かせて台に置かれた髪飾りを指さした。
「ねぇ花世、この髪飾りとかあんたに似合いそうです!」
 指の先を辿れば、牡丹に見立てたつまみ細工の髪飾り。赤白ピンクと咲いた花は、花世の髪を彩るにふさわしいように思えた。
「買ってくる」
「え、え? 他に見なくていいんです?」
「わたしも一目惚れしてしまったからね」
 宝物を手に取るように髪飾りを手にして、花世が会計へと持っていく。
 気に入ったのは勿論だけれど、何よりもセロが似合うと言ってくれた髪飾りを買わないという選択肢は、花世にはなかった。
 包んでもらったそれを鞄に入れて、さぁ次は何を見ようかと歩き出す。自分の物を見立ててもらったのだから、次はセロに似合うものを見立てたいと思いながら花世が男性向けのブティックに目を遣る。
「セロ、ちょっとあそこを見ていこうか」
「いいですよ」
 どこであったって花世が見たいというのだから、セロに否はない。
「セロ、セロ、これなんかどうだい?」
 そう言いながら花世がセロに見せたのはさわやかな紺のリネンジャケット、一番上のボタンを留めて腕まくりしても似合うなとセロにジャケットをあてた。
「……おれに?」
 身体にあてられて、漸く自分にどうだと聞かれているのだと理解してセロが目を瞬かせる。
「セロ以外に誰がいるのかな?」
 やはり鏡で見た方がいいね、と花世がセロを鏡の前に立たせてもう一度ジャケットをあてた。
「ええ、なんか大人っぽ過ぎねーです?」
「そんなことないよ、うんと似合ってるとも。それにこういうのは一枚くらい持っていても困らないと思うよ?」
 照れたようにもじもじとするセロに笑って、ああ、でもと花世が考える。
「きみはかわいいのがお好み?」
 それならこっちのシャツなんかどうだろう、とドット柄のシャツのハンガーを手に取って再びセロの身体にあてる。
「あ、これかわいい……」
「こっちのストライプも似合いそうだね」
 ひょいひょい、とハンガーを手にしてストライプのシャツもあてると、セロがこっちもかわいいと笑う。
 あっもう全部買おう! と思っても仕方のないような笑顔で、花世は全部買うことに決めた。
「じゃあわたしはお会計に行ってくるよ」
「花世!?」
 リネンジャケットも二枚のシャツも抱えた花世をセロが慌てて止めると、花世がこてんと首を傾げる。
「どうかしたかい?」
「どうかしたじゃねーです、ぜんぶとかだめですって」
「え……?」
 だめ? どうして? と、捨てられた子犬のような顔で花世がセロを見遣る。
「う、そんな顔……しても、だめです」
「ほんとうに……?」
 しょんぼりとした顔に、セロが根負けをするのはすぐだった。
 ああ、でも、あんたが買ってくれるなら、一着くらいはと思ってしまったのだ。
「……一着、なら」
「一着だけ? この中から一着……? せめてジャケットとシャツ一枚ずつにしよう?」
 ね? と、押しに押してジャケットとドットのシャツを見事会計に持ち込んだ花世は、店を出る時にはそれはもうご機嫌な笑顔を浮かべ、ショップの袋を持ったセロは申し訳ないやら、でも花世に選んでもらった服が嬉しいやらで複雑な笑みを浮かべて彼女の横を歩いていた。
「あ、見てください花世、新作フラッペですって!」
「わあ、フラッペ?」
 美味しそうだと二人で店の前に並んで、どれにしようかと顔を突き合わせる。
「薔薇の香りか桃味かどっちにします?」
「今日のわたしはうんと贅沢したいから、薔薇も桃も半分こを希望します」
 胸を張って言った花世に笑って、贅沢了解! と、セロが両方注文した。
 お財布を出しかけた彼女を制して、セロが財布を出す。
「これは俺に奢らせてくださいね?」
 ね? と念押しすれば、花世が笑って財布をしまいフラッペのカップを受け取った。
 フラッペを片手に持ちながら、セロがカップを花世のカップに小さく当てて囁くように言う。
「はい、お疲れ様! ――って、UDCアースでは言うんでしょ?」
「──ふふ、ありがと、お疲れさま!」
 カップに差し込まれた太めのストローを吸い上げながら、歩き出す。
 外に出れば空はすっかり黄昏色に染まっていて、傾く太陽の光に照らされた二人も同じ色。それがどうしてか嬉しくて、二人で笑う。
 今ならすこしだけ、おたがいに似ているだろうかと花世がセロを横目で見遣れば、この距離がすきだなあ、なんてセロがこっそりと思いながら視線を受け止めて、笑みを返した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

丸越・梓
【2】

(全てNPC)

_

幼いその声にくすりと微笑み
「…いいよ」
慈しむよう、優しく返す


…未練や後悔。
ずっと己のそれについて考えていた
未練も後悔も数えきれない程ある
かつて孤児院で共に暮らした弟妹たちを護ってやれなかった、死なせてしまったこと
警察官として道を歩み始めても尚手が届かない人たちがいた。…俺が未熟だから。もっと力があれば。

──そして
部下であり親友でもあった一人の男の心から逃げてしまったこと

愛されることが怖かった。知ってしまえばもう独りで立てないのではないかと恐れた。
…けど、あの時
彼の心と向き合っていたなら、何か変われたのだろうかと

『もういいかい』

──ああ、夜が来る。



●もういいよ
 クラクションの音が響く中、丸越・梓(月焔・f31127)がじんわりと額に掻いた汗を拭い、自動販売機のミネラルウォーターのボタンを押した。
 ゴトン、と落ちてきたペットボトルの冷たさに僅かに頬を緩ませ、蓋をねじ切って口を付ける。喉から胃に向けて流れ落ちていく冷たさに、ほのかに汗が引いていく。
 あっという間に半分ほどを飲み干して、思っていたよりも喉が渇いていたことに気が付いた。
「……ああ」
 もうすぐ太陽が傾いて、ビルの合間に落ちていくだろう。パキリ、と手にしたペットボトルが歪む。
 未練に後悔、ずっと己のそれについて考えていたけれど、あれもこれもと考え出せばきりがない。俺は一体どれを一番に後悔しているのだろうか。
 ぼんやりと考えている間にも太陽はどんどん傾いて、茜色の光が梓のところまで届く。空は水色と茜色が混じり合って薄い紫色のようにも見えた。
『かくれんぼしましょ、わたし鬼』
 幼い声が梓の耳元で囁く。
「……いいよ」
 柔らかく微笑んで、慈しむような優しい声でそう返した。
 いつの間にかクラクションの音も人々のさざめきも消えて、梓はたった一人黄昏の街に立っていた。
 ペットボトルを片手にちゃぷんと鳴らしながら、梓が無人となった街を歩く。職業柄身の隠し方はそれなりに上手く、物陰に身を潜め、辺りを警戒しながら路地裏へと身体を滑らせた。
「未練に、後悔」
 上げればキリがないけれど、思い浮かぶのはかつて孤児院で共に暮らした弟妹たちを護ってやれなかったこと、死なせてしまったこと。
 これ以上手の届く範囲で誰も死なせたくないと、警察官として道を歩み始めても尚、手が届かない人たちがいた。
「……俺が未熟だから」
 もっと力があれば、あの時ああしていれば。そんなたらればは、もうどうしようもないけれど。
 路地裏からもう一つ細い道に入り込み、そっと息を吐く。
 ――そして、もうひとつ。
 部下であり、親友でもあった一人の男の心から逃げてしまったこと。
「俺は」
 愛されることが怖かった、知ってしまえばもう独りで立つことができなくなるのではないかと恐れて、重ねられた手を鳴った電話を理由に逃げたのだ。
 けれど、あの時。
「あいつの心と向き合っていたなら、何か変われたのだろうか」
 掠れた声は地面に落ちて。
『もういいかい』
 茜色の空は宵の色へと変わり。
 ――ああ、夜が来る。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『永遠の今日はまた巡り』

POW   :    領域内を歩き回り、不自然な場所を探す。

SPD   :    僅かな変化などから、原因を導き出す。

WIZ   :    目の前の事象を整理し、法則を読み解く。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●夜闇に灯す
 気が付けばそこは夜の街で、相変わらず誰かがいる気配はなかった。
 電灯やビル、商業施設からはまるでそこに人がいるかのように電気が付いていたけれど、その何処からも人の気配はない。まるで取り残されたような感覚に陥りながらも、此処から抜け出す為に歩き出す。
 そうしていれば、やがて己の心に刺さった小さな棘に出会うだろう。それは誰かであったり、物であったり、あの日の再現であったり、人によって様々だけれど。
 悔いの残らぬように動かねばならない、その言葉を思い出して猟兵達は夜の街を往く。 
 己の未練や後悔を断ち切る為に――。
朱酉・逢真
心情)未練はない。後悔はない。慚愧はない。"こうしていれば"は俺にない。俺は選択せンからなァ。昨日のこととて忘れがちさ。だから―ああ、(怪異が)混乱してらァ。
行動)周囲の光景がくるくる変わる。ヒトの世がどろり"光"に熔けて、夜闇を残さずカッ消していく。《俺》が"負けた"ときの再現かねェ…残念。焼けるほど腹立たしいが後悔はないのさ。次は…ああ、俺の信仰教団が鏖殺(*つぶ)されたときの。信じる拒むはヒト次第、ここにも俺の未練はないなァ。龍神(*ダチ)が"光"にすべて奪われたときの。そいつァ俺にゃア無関係だぜ。無駄だよ怪異(*おちびさん)。ヒトの道理じゃ理不尽だろォが、俺ァそもそも道理が無ェでな。



●横紙破り
 ひ、ひ、と笑って朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)が夜になった街を歩く。何の気配もない夜の街は、随分と逢真に馴染んでいるようであった。
「未練はない」
 ふらりと歩きながら、逢真が口を開く。
「後悔はない」
 星も瞬かない空を見上げる。
「慚愧はない」
 あの時こうしていれば、は俺にないのだと、くつくつと喉を鳴らして笑う。
「そうさァ、何せ俺は選択せンからなァ」
 昨日のこととて忘れがちなのだ、未練もクソもない。仮にそんなものが染みついてしまったならば、器は破棄され新しいものとなるだろう。
「だから――ああ、混乱してらァ」
 未練や後悔のないヒトはいないだろうが、カミならばどうだろうなァ? そう、逢真がくつりと笑う。
 くるくると変わる周囲の光景に、お前の慚愧を暴いてやろうと怪異が足掻いているのだろうかと唇の端が持ち上がる。
「ふぅン?」
 闇夜に差した強い光に、逢真がふと足を止めて建ち並ぶビルを見上げる。すると、見上げたそれらがどろりと光に熔けて、夜を、闇を、残さず掻き消していく。
「俺が負けたときの再現かねェ……」
 残念、と逢真が目を細める。
 それは確かに焼けるほどに腹立たしい話ではあるが、後悔はないのだ。
「次はなンだい?」
 どんな見世物をみせてくれるのかと楽しむような声に、景色が変わった。
 怒号と悲鳴、助けを求めて祈る声、血の匂い。次々と倒れていく人々の姿に、逢真が何だったかと片目をつぶる。
「ああ、俺の信仰教団がつぶされたときの」
 一切合切が鏖殺されていく光景も、逢真にとっては過去のこと。
「信じる拒むはヒト次第、ここにも俺の未練はないなァ」
 何せヒトのすることなのだから、愛しくすらある。
「次は――へェ、ダチの」
 龍神が光にすべて奪われた時の光景が広がって、逢真はつまらなさそうに影を延ばす。
「そいつァ俺にゃア無関係だぜ。無駄だよおちびさん」
 どれもこれも、ヒトの道理であれば理不尽なことだけれど。
「俺ァそもそも道理が無ェでな」
 まるで記憶媒体が壊れたかのように、ぶつ切りに映像が映し出されては黒く塗りつぶされていく。
「ひ、ひ、最初に横紙破りをしたのはお前さンだろうに」
 こっちがそれをしない道理が何処にある? と笑って、これ見よがしに靴音を鳴らして真っ直ぐに歩いた。
 向かう先には、怪異の姿――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

馬県・義透
『静かなる者』のまま

千聖に会わねば。一番でなくとも、確かに『愛していた』に入る彼女に
歩けば、光に照らされると濃い紫になる髪(暗闇だと黒)、こげ茶の目をした彼女が

千聖、愛しき妻。あなたには謝らねばなりません
確かに愛していました。ですが、一番ではなく…。私は『鬼になってまで、彼(『疾き者』)を追いかける可能性』があったのです


最初は見た目が一致しないので戸惑う千聖
「知っておりましたよ、孝透さま。だって、実家の価値観(忍を下に見る)で言ったときに、静かに怒られましたし…。彼の方(『疾き者』)を見る目に、たまに『恋慕』が過っておりましたので」
なお、孝透の気づいてない『彼に対する独占欲』にも気づいている



●見えぬもの、見えるもの
 星すらも瞬かぬ夜空を見上げ、馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)が夜を歩く。
 人工物の灯りだけが爛々と輝く街には人の気配はなく、彼女を探すには都合がいい。彼女――今表に出ている人格、梓奥武・孝透の妻であった人。一番ではなくとも、確かに愛していたと思える人。
「千聖」
 懐かしい彼女の姿を思い浮かべながら、名を呼ぶ。
 光に照らされると濃い紫になる髪を美しいと思っていた、こげ茶の目も愛らしいと。
「千聖」
 愛しき妻、謝らなくてはならない人。
 もう一度名を呼ぼうとした時、人工の灯りがジジジと音を立てて点滅した。
『孝透さま……?』
 懐かしい声が自分の名を呼んでいる、声がする方へを視線を向ければ、そこには探し求めていた彼女の姿があった。
「千聖」
『孝透さま、なのですね』
「ええ、あの頃と姿は違っていますが……」
 この姿は四人の中から疾き者をベースにした姿、生前の孝透の姿ではない。それでも自分だとわかってくれた事を嬉しいと思うほどには、自分は彼女を愛していたのだなと彼は思う。
 そんな彼女に向き合い、言葉を紡ぐ。
「千聖、愛しき妻。あなたには謝らねばなりません」
『何でございましょう』
 真っ直ぐにこげ茶の瞳を見つめれば、柔らかな笑みを浮かべて彼女が視線を返す。
「私は……私は確かにあなたを愛していました」
 彼女が静かに頷く。
「ですが、一番ではなく……私は」
 言い淀む彼を促すように、千聖が手を包み込むように握る。
「私は『鬼になってまで、彼を追いかける可能性』があったのです」
 それはあなたに対しては抱いてはいない執着だと言外に告げれば、千聖が静かに頷いた。
『知っておりましたよ、孝透さま』
「千聖……」
『だって、実家の価値観で彼の方の話をしたときに、怒られましたでしょう?』
 忍びを下に見た物言いを静かに窘められたのを今でも覚えておりますよ、と千聖が笑う。
『それに、孝透さまの彼の方を見る目には――』
 時折、恋慕が過っておりましたので。
「そう……でしたか、お恥ずかしい……」
 片手で目を覆ってしまった義透に、仕方のない方ですねと彼女が笑った。
『どうぞ、もうお気になさらないで』
 知っていたのだ、恋慕もあなたが気付いていない彼に対する独占欲も。
 だから今更なのですよ、と彼女が笑う。
 それは生前と変わらぬ笑みで、私はきっと彼女のこういうところを愛していたのだろうと義透も笑みを零した。
『さあ、お別れです。孝透さまには為すべきことがございましょう?』
「ええ。ありがとう、千聖」
 消えゆく彼女に礼を述べて、義透も歩き出す。
 もう、後ろは振り向かなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
梁が崩れ
星空が覗く

「今の方が通り難いなんて…」
崩れた梁を伝って地上に出れば
記憶と同じ廃墟

ただ
あの日は雲ひとつない晴天だったけれど

足の痛みだけ気にして通り過ぎた場所を
血臭辿り歩く

満天の星の下
周囲の瓦礫は闇陰に沈む
記憶にないから見えないのか

瓦礫の下から覗く血塗れの繊手
瓦礫を持ち上げる前に全てを跳ね退け襲いかかってきたのは
獣の唸り声をあげ被った紗の下で血涙を流す白装束の世話人の女

「そうですね…貴女達の声も望みも知らない事が、私の後悔です」
切り裂こうとする爪ごと手刀で世話人を両断する

「貴女達をこんなものとして喚び出す事も、誰かを望みも声も知らず死なせる事もしません…今度は」
幽鬼を倒し尽くして夜が明ける



●見つけたそれを断ち切って
 夕暮れの街を抜け、夜の街に辿り着いたはずだったのに、と御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は思う。
「ここは……」
 忘れもしない、記憶の中と同じ座敷牢。
 座敷牢の中、垣間見える星空に視線をやってから、どうやって脱出したのだっけかと思い出すように立ち上がった。
「確かここを……」
 天井を見上げ、崩れた梁に登る為に足を掛けて外へと向かう。
「今の方が通り難いなんて……」
 梁を伝うこの瞬間にも音を立てて崩れそうな脆い個所を通り抜け、なんとか外へと抜けだした。
「ふう……埃塗れになってしまいましたね」
 軽く埃を払いのけ、桜花が空を見上げる。
 満天の星だ、と思う。けれど、星は決して瞬いてはいなかった。
 それが、ここは怪異の作り出した領域なのだと桜花に告げている。
「でも、あの日は雲ひとつない晴天だったけれど」
 それでもなんとなしに見えるのは、月のお陰だろうか。
 足の痛みだけを気にして通り過ぎた場所も、何もかもがあの日のままだ。
「血の匂い……」
 あの時とは違う何かがあるのだろうか、そう思って血の匂いを辿るようにして歩く。満天の星の下、廃墟の瓦礫は夜の闇に沈んでいる。
「月の光も届かない場所なのでしょうか」
 それとも、記憶にないから見えないのだろうか。
 どちらでも構わない、そう思いながら桜花は瓦礫の重なるそこへと足を向けた。
「手……?」
 瓦礫の下から見えたのは血塗れの白い手、己の記憶にあっただろうか。否、なかったとしても、それを助けないという選択肢は桜花にはなかった。
 瓦礫を持ち上げようと、もう一歩近付けば指先がぴくりと動く。生きている、そう思った瞬間に手の持ち主が瓦礫を吹き飛ばすかのように跳ね退け、獣のような唸り声をあげて桜花に襲い掛かった。
「……っ!」
 咄嗟にそれを避け、桜花が後ろへ下がる。
 血の涙を流し、襲い掛かってきたのは白装束の女。見覚えのある、世話人の女だった。
「そうですね……貴女達の声も望みも知らない事が、私の後悔です」
 渦巻く桜吹雪が桜花の全身を包み、己を切り裂こうとする女の爪ごと全てを両断する。
「貴女達をこんなものとして喚び出す事も、誰かの望みも声も知らず死なせる事もしません……今度は」
 何があろうとも、必ず。
 そう誓えば、桜吹雪が一層強く渦巻いて、幽鬼を断つ為に桜花が舞った。
「……ああ、夜が明けます」
 朝が来ると、桜花が白んでいく空を見上げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夜鳥・藍
WIZ◎
人がいるような雰囲気なのに、それでも人の気配が感じない。
違和感がすごい。
私の悔いを残さぬにはまずここから出る事。でなければきちんと学ぶこともできないから。
この戦争とはかけ離れたUDCアースの日本では学ぶことも難しいでしょう。
ですが、帰れば実家に帰れれば資料は残ってるので。
……ええそしてなにより。先程購入したぬいぐるみを愛でるという事をしなければ。
帰ったらお名前を決めて、きちんとつけるのです(こぶしぐぐっ)

ほんの少し、私として生まれる前の心残りも心の奥底に確かにあるのだけれどそれも過去の事。何とかできるとしてもそれを成せるのは、今の、今後の私だけ。だからここで果てるわけにはいかないの。



●夜に揺蕩う
 夕闇が街を飲み込んで、気が付けば夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)は夜の街にぽつんと立っていた。
「街灯は点いてるのね、ビルの灯りも……」
 人工物の灯りが煌々と辺りを照らしていて、夜空を見上げても星は遠い。
「人がいるような雰囲気なのに、それでも人の気配が感じないなんて……」
 感じるのは違和感、今にもその辺の飲食店から人が出てきそうなのに、誰も出てこないし入る人もいない。車も人も通らない夜の街は、まるでゴーストタウンのようにも見えた。
「ここから出なくてはいけません」
 私の悔いは、此処にいては一生解決することはできないから。
 そう頷いて、藍は前を向いて歩く。当てなどはなかったけれど、立ち止まっていてもどうにもならないと知っていた。
「それに、この戦争とはかけ離れたUDCアースの日本では学ぶことも難しいでしょう」
 私が学びたいことは、と藍が独り言ちる。
 実家に帰れば資料は残っているのだから、怪異の領域から抜け出したら里帰りの日程を考えなくてはと頭の中でスケジュールを立てる。
「お店は臨時休業にするとして……今月中には帰れそうです」
 うん、と頷いて、なんとなくぬいぐるみを預けたロッカーの方へと向かう。
「……ええ、そしてなにより……先程購入したぬいぐるみを愛でるという事をしなければ」
 可愛らしいペンギンのぬいぐるみ。
 何度も手触りを確認して、他の候補と見比べた結果、これだと手にしたものだ。
 必ず戻って家に連れて帰らなくてはと、藍がこぶしをぐっと握る。
「定位置はやっぱりベッドの上でしょうか、それとも……ああ、その前にお名前を決めなくてはいけませんね」
 どんな名前がいいだろうか、あの可愛いペンギンのぬいぐるみに相応しい名前を考えなくては。
 帰ったらやらなくてはいけないことが幾つもある、そう思ったらなんだか楽しくなってしまって、藍の口元に笑みが浮かぶ。
「……ほんの少し、私として生まれる前の心残りも心の奥底に確かにあるのだけれど」
 それはもう過去のこと。もしも何とかできるとしても、それを為せるのは。
「――今の私だけ」
 だから、今ここで果てるわけにはいかないの。
 宙色の瞳が瞬いて、まっすぐに夜を貫いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セロ・アルコイリス
【紅白】
夜になった街はヒトで溢れてて

弾劾する声に隣の横顔窺えば
不安気ないろが視える気がして
唇引き結び彼女の前に出る
なんかむかむかするココロは、

振り向いて彼女に額をぶつける
夜しかない世界で、おれに彼女がしてくれたよに

前にも言ったけど
例えあんたがばけものでも、
おれは"ばけものの境花世"ごと大好きです
あんたが花瓶で居てーならそう呼ぶよ
でも

おれはヒトじゃねー、人形で
それでいいって最近は思えたけど
それでもおれを人間だって言うヤツもいる
正しくはねーんでしょう
でもおれはそれが、うれしい

正しさなんかどーでもいい
今あんたのココロが迷うならあんたはヒトでしょ
花世、
あんたのうれしい、を、選んで欲しいです

なんて、我儘


境・花世
【紅白】

夜の街にはたくさんの人、人、人
みんな正しく赤い血の人間で
自分だけがなんだかちがう

『お前の罪を、生きて償え』

数えきれない大勢がゆうらりと現れて
”境花世”を弾劾するのは
この身に宿した花がばけものだから

今まではずっと平気だったんだ
わたしはただの花瓶に過ぎないと、
痛みも感じずにやってきた

だけどほんとうは、セロ、わたしは、
どこまでを自分にすればよかったんだろう
正しい答えはよくわからないけれど

近づいて、ぶつかった額がちゃんと痛いから
すこし泣きそうな気持ちで、微笑う

……うん、

俯く代わりにきみの裾をぎゅっと掴んで
重い人の躰と化物の罪とを引き摺って

それでもただ、立ち止まらずに夜を往く



●この夜を抜けだして
 とぷん、と夜の水槽に落ちたかのようだった。
 夕暮れの街はいつの間にか人工の灯りに満ちた夜の街になっていて、セロ・アルコイリス(花盗人・f06061)と境・花世(はなひとや・f11024)は顔を見合わせる。
「怪異ってやつですか」
「そうみたいだね」
 微かに聞こえた声がトリガーだったのだろう、食べきってしまったフラッペのカップをゴミ箱に投げ入れて、人の気配がしない街を二人で歩く。
 未練、後悔、そんなものがトリガーとなっている空間で、いったい何が出てくるのだろうかとセロがちらりと花世の横顔を見遣る。
「人だ」
「え?」
 花世の声に、セロが視線を前に向ければいつの間に現れたのか、誰もいなかった夜の街に沢山の人が歩いているのが見えた。
 立ち止まってしまった花世を守るように辺りを見回せば、歩く人々が自分達に向かってくる。
「あれはみんな正しく赤い血の人間で」
「花世?」
 自分だけが、なんだかちがう。
 ちがうんだ、と花世がぽつりと零すと、群れを成した人々が彼女を指さす。
『お前』
『お前の罪を』
『生きて贖え』
 のっぺらぼうのようにも見える人々が、口々に『境花世』を弾劾する。
 お前には罪があるのだと、責任を取らなければならないと。
 罰を受けよと口々に。
「この身に宿した花がばけものだから、か」
 力なく花世が呟けば、そうだと言わんばかりに人々の声が大きくなった。
「花世」
「今まではずっと平気だったんだ」
 そう、喪った右目に咲き誇る、薄紅の八重牡丹。寄生植物型UDC――絢爛たる百花の王。
 わたしはこれの花瓶であり、それ以上でもそれ以下でもなくて。痛みの一つも感じずにやってきたというのに。
「こんなにも、囚われていたんだな」
 これがわたしの未練で後悔だというのなら、それはきっと正しい。
「だけどほんとうは、セロ、わたしは」
 どこまでを自分にすればよかったんだろう?
 か細い声は泣いているようにも思えて、セロが花世の横顔を窺う。
「……っ」
 色の白い彼女の顔に不安気ないろが視えた気がして、セロが唇を引き結ぶと迷わずに彼女の前に立った。
 なんだかむかむかするココロごと、振り向いて彼女に額をぶつける。ゴッという軽い音が響いたけれど、構ってなんかやらないんだ。
 夜しかない世界で、おれに彼女がそうしてくれたように――。
「前にもいったけど、例えあんたがばけものでも」
 ばけもの、という言葉に一瞬だけ花世の肩が震える。
「おれは『ばけものの境花世』ごと大好きです」
「……セロ」
「あんたが花瓶で居てーなら、そう呼ぶよ」
 あんたが望むままに呼んでやる。
「でも」
 そうじゃないのなら、もっと望む何かがあるのなら。
「おれはヒトじゃねー、人形で、それでいいって最近は思えたけど」
 それでも、自分を人間だって言うヤツもいる。
「おれは人形で、それは正しくはねーんでしょう」
 けれど、そうであったとしても。
「でもおれはそれが、うれしい」
 だから、だから正しさなんてどうでもいいと、セロは花世の手を握る。
「今、あんたのココロが迷うなら、あんたはヒトでしょ」
 真っ直ぐに花世を射抜く視線はどこまでも真摯で、ぶつかった額はちゃんと痛くて。
 正しい答えなんて、よくわからないけれど。
「……うん」
 ほんのすこしだけ、泣きそうな気持で花世がわらった。
「花世」
「うん、なんだい」
「だから、あんたのうれしい、を、選んで欲しいです」
 こんな有象無象の言葉なんか聞かないで、あんたを大事に思う人の言葉だけを聞いて。それはきっと、途轍もない我儘だけれど。
 俯く代わりに、花世はセロが握った手をぎゅっと握り返す。
 それから、重い人の躰と化物の罪とを引き摺って、まだ弾劾を続ける人々の群れの中を二人で突っ切って駆け出した。
 立ち止まることだけは決してせずに、二人、夜を往く――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

丸越・梓


気付けばあの日だった
部下であり、親友でもあった男…汐種と残業中だった、──彼と向き合うのを恐れた夜

けれど彼はいない
誰もいない、俺独り
此岸と彼岸で分かたれている様に

「……強くなるよ」
ぽつり、けれど強い意志を秘めた声で呟く
「強くなる。お前の心と真っ直ぐ向かい合えるように。そしてもう、何も取り零さないように」
己しかいないのに背に熱を感じた
幼い子どもの縋るような熱
老若男女の数多の縋り爪立てる感触
それは俺の罪の証
救えなかった人々がいた証

_
(──電話が鳴っている
梓が自身を強く責め立てるように、激しく
何度も、何度も)
(……手を強く握りしめる
前髪の下から覗く瞳は、尚も鋭く凛々しく
翳ることはない)



●赫灼
 夕暮れが夜へと変わるのを見た、その瞬間に強い眩暈を感じて目を閉じたのは覚えている。けれど、今自分が置かれている状況は――。
「あの日、か」
 狭い部屋に並べられた五人分のデスク、積み上げられた未解決のファイル。
 一番上のファイルの名前は、あの日見たままで。
 それならば、と辺りを見回すけれど此処にいるのは丸越・梓(月焔・f31127)一人だけであった。
「は……」
 思わず漏れた言葉は安堵か、自責の念か。片手で目を覆い、か細く息を吐く。
「……大丈夫」
 例え独りであっても、それが此岸と彼岸で分かたれていたとしても。
 俺は今、生きているのだからと息を吸う。呼吸を整えるように何度か息を吸って吐いてを繰り返し、梓は目を覆っていた手を離した。
「……強くなるよ」
 あの日、彼がいた場所に瞳を向けて、呟く。
 落とされた言葉は酷く静かであったが、強い意志を感じさせるような落ち着いた声で。
「強くなる。お前の心と真っ直ぐ向かい合えるように。そしてもう、何も取り零さないように」
 二度と後悔しない為にも、心も身体も。
 ふっと、背に熱を感じる。
 誰もいないはずの部屋で背に感じたそれは、幼い子どもの縋るような熱。それから、数多の老若男女が縋るように爪を立てる感触。
 きっと全てまやかしだけれど、その全てが自分の罪の証なのだと梓は受け入れる。
 救えなかった人々がいた証を、一生忘れぬように。
「俺は、強くなる」
 囁くように零した言葉は、自分自身に言い聞かせるように。
 それまで静かだった部屋に、電話が鳴る。
 梓に電話に出ることを強要するかのように、何度も何度も。まるでそれは、梓が自身を強く責め立てるかのよう。
 きっと、今までの自分であったなら迷わずに電話に出ていただろう。
 けれど、梓は動かない。爪が食い込むほどに強く手を握り締め、ただ電話の音を聞いていた。
 汐種、カクリヨの橋で会ったお前。
「俺はもう逃げないから」
 あの熱からも、お前からも、何もかも。
 大丈夫だともう一度呟いた彼の前髪の下から覗く瞳は、どんなに電話の音に苛まれようともその鋭さを失うことはなかった。
 真っ直ぐに前へ進むために、翳ることのない凛々しい瞳には赫灼たる光が宿っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シビラ・レーヴェンス
露(f19223)。
二人の技能でも魔術でも探知にかからないな。
さて。どうするか…。

黙考しつつ歩いていたがそういえば露の煩い声が消えてるな。
改めて周囲を見回すと一つの影が佇んでいることに気づく。
そいつは…。ああ。私の叔父…だったかな。『自称』だが。

そいつは相変わらず見下すような冷えた瞳でこちらを見つめる。
そして口を開く。初めの言葉は『まだ生きているのか?お前は』。
次の言葉は『お前が死ななければ我々一族に希望はないんだがな』。
ふん。相変わらず自分のことしか言わないな。この叔父とやらは。

昔は。まだ幼かった頃は何も言えなかったが。今は言おう。
「一族の希望とやらは、私は知らん。もう私に関わるな。阿呆!」


神坂・露
レーちゃん(f14377)。
呼びかけられた声だけであたし達以外に周囲に気配はないわ。
流石のレーちゃんでも探知は難しいみ…あれ?レーちゃん?

「あれー?」
大きい声で呼んでみるけど反応ないわ。あれー?…あれ?
あちこち探してみるけどレーちゃん見つからないわ。
肝心の『レーちゃんレーダー』も反応が全くないし…。

うろうろしてると人にぶつかったわ。男の人にどかっって。
謝るけど…あれ?この人…。あたしを最後に持ってた人!
もっと説明すると『石のあたしの最後の所有者さん!』
わ~♪幽世の戦争で何度も逢ったのにまた逢ったわ~♪
そっかー。これがあたしの『棘』なのね。
じゃあじゃあじっくりお話しするわ♪えへへ。えへ♪



●その棘を抜いて
 二人で黄昏の中を歩き、気が付けば夜であった。
「夜になっても人の気配はないのね~」
 電気は点いてるのにね、と神坂・露(親友まっしぐら仔犬娘・f19223)がシビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)にぎゅっとくっついたまま空を見上げる。
「レーちゃん、レーちゃん」
「なんだ、露」
「星もなんだかおかしいわ」
 星? と夜空を見上げれば、確かに何かがおかしいように思えて、シビラが星の位置を確認する。
「……ふん、空も偽物のようだな」
「偽物? この夜空も偽物なの?」
 偽物というよりは、きっと怪異の作り出した領域ゆえだろうけれど。
「ループする世界が本物なわけないからな」
「そういえばそうよね、あたし達以外に気配がないんだものね」
 レーちゃんってば賢いわ♪ なんて言いながら、露が笑った。
 そんな彼女を腕に引っ付けたまま、さてどうするかとシビラが考える。互いに限界まで力を開放しているにもかかわらず、感知能力にも魔術にも引っかからないのだ。
 この状況の打開策を練る為に、シビラは脳をフル回転させながら歩いていたのだが、ふと違和感に気付く。
「……露?」
 いつの間にか腕に引っ付いていた露が消えている、これも怪異のせいかとシビラが構えた時だった。
「誰だ」
 ぼんやりと見える影にシビラが声を掛ければ、次第にその影は人の形を取り始める。油断することなく眺めていると、見たことのある顔だと気が付いた。
「ああ、私の叔父……だったかな」
 自称ではあるが、それはシビラの叔父の姿となって見下すような視線をシビラに寄越す。冷えた瞳だ、とシビラは思う。口を開くような動作をした男に、無表情のままシビラは言いそうなセリフを思い浮かべる。
 まだ生きているのか? とでも言うのだろうな。
『まだ生きているのか?お前は』
 ほら、当たった。
 次の言葉を予想するのも馬鹿らしいな、とシビラは考えるのを止めるけれど、言いそうなことはどうせ自分のことばかりだ。
『お前が死ななければ我々一族に希望はないんだがな』
 一族の為だと言いながら、己の保身しか考えていないような男なのだから。
 こんな男が叔父だと言い張るのだから、世も末だとシビラは黙ったまま思う。
『何とか言ったらどうなんだ』
 その言葉に、ふと気が付く。
 昔は、まだ幼かった頃は何も言えなかったけれど、今なら臆することなく言い返せることに。
「そうか、ならば遠慮なく言わせてもらおう」
 一瞬怯んだ様な顔をした男に、シビラが視線を向ける。
「一族の希望とやらは、私は知らん。もう私に関わるな。阿呆!」
 ぱりん、と何処かで何かが割れたような音がした。

 あれ? と露が顔を上げる。
 レーちゃんでも探知は難しいのかしら、と考えていたら、その当人が消えていたのだ。
「あれー? レーちゃん? レーちゃんったらー!」
 大きな声で名を呼べど、これっぽっちも反応がない。頭の上にクエスチョンマークを沢山浮かべたまま、露があちこちを探してみる。
「あれー? ……あれ?」
 全く見つからないどころか、中々に高性能だと自負している露の『レーちゃんレーダー』にも何一つ反応がないのだ。
「あたし、迷子になっちゃったのかしら……」
 取り敢えずその辺をうろうろしてみようと、露が気の向くまま歩き出す。
 迷子になったらその場から動くなと言われた気もするけれど、ここは怪異の領域だとシビラも言っていた。そうであれば、ただ待っていても仕方ないだろう――というのは建前で、じっとしているのは性に合わないからなのだけれど。
「レーちゃんいないかしら……きゃっ」
 どん、と誰かにぶつかったのだと気が付いて、露が視線を上げる。目の前にいたのは男の人で、咄嗟にごめんなさいと謝ってから、しみじみと彼を見上げて、露が瞳を瞬かせた。
「あれ? あなた……」
 あたしを最後に持ってた人! ぱぁっと表情を明るくして、露が男に笑みを向ける。
 きちんと説明をするならば、石としての露を最後に持っていた人、だ。
「わ~♪ 幽世の戦争で何度も逢ったのにまた逢ったわ~♪」
 小さく笑った彼に、露がふっと考える。
「そっかー、これがあたしの『棘』なのね」
 あたしにとって大切な、今も夢に出てくるあなた。
 遊牧民風の衣装を纏った男に笑顔を向けて、露が唇を開く。
「じゃあじゃあ、じっくりお話しましょ♪」
 今度こそ、悔いの残らぬように。
 たくさん、たーくさん! えへへ、と笑えば、男もゆるりと口元を緩めて露の話に耳を傾けた。
 そうして、たくさん話をして、気が付けばぱりんと何かが割れる音がして、露はいつの間にかシビラの隣に立っていた。
「レーちゃん!」
「露」
 やっと会えた! と抱き付こうとした露を手で制し、シビラが夜の向こうを指さす。
「お出ましのようだ」
 ぱりん、ぱりん、と怪異が作り出した夜が割れようとしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 集団戦 『『エラー』』

POW   :    ■、1あ■アオ、蒼、青い■あァあ、%2■3屍%蒼
【■アl■%あ、蒼い跳ぶ、頭■%、■格闘技】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    %2あ、か■赤血赤赤、■ア垢か、ぁ■赤い、%1■
【紅、?■2閼伽■紅い紅い紅い紅い紅い紅い】【紅い、紅い■■あああ■、紅い%貴方、四肢】【屍%、4赤■■、■ぁ■死あァぁ7。%呪術】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
WIZ   :    キき■%、4■黄イ生ぇ膿キ■徽き、君、君■■%4
【■%黄い脳m、キ嬉々、黄%■未来、予知で】対象の攻撃を予想し、回避する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●エラー
 夜の闇から一転、そこは朝と昼と夜の街が混じり合ったような、モザイクの世界であった。
 一言でいえばバグっている、そんな世界の中にスーツ姿の男が立っている。顔はエラーを起こした画面のように乱れていて、どのような表情を浮かべているのかすらわからないような、男。
 よく見れば、手足や身体の所々も同じようなエラーを吐いていた。
『■、1あ■、あ』
 話す言葉も要領を得ない、これはそういった『怪異』なのだろう。
 名を付けるとするならば――エラー、と。
『■が、1■な、あ』
 バグが増えるように、男の姿が重複していく。そして、猟兵達に襲い掛からんと走り出した。
御園・桜花
「確かに貴方は怪異でしょう。邪神の尖兵として怪異を拡げ邪神が降誕しやすくするのが貴方の望みだとも思います。でも、もしも…貴方に、怪異に至る前の望みがあったなら。怪異に至る迄の望みを思い出せたなら。どうぞまた、此の世にお戻りを。貴方の転生を、お待ちします」

「何をどう予測し強化しようとも。近付かぬ訳にはいかないでしょう?」
味方を巻き込まぬことを最優先に、敵を術範囲内且つなるべく接敵しない位置取りを行いながらUC「アルラウネの悲鳴」使用
術行使の位置取りや敵の攻撃には第六感や見切りで対応する

必要なら高速・多重詠唱で銃弾に破魔と浄化の属性与え制圧射撃し仲間の攻撃補助も

「…お休みなさい」
最後は鎮魂歌で送る



●あなたの望み
 モザイクの街に立つ御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)が顔を上げ、真っ直ぐにエラーを見据える。名前の通り、エラーを吐き続けるスーツ姿の男に向かって、静かに唇を開いた。
「確かに貴方は怪異でしょう。邪神の尖兵として怪異を拡げ、邪神が降誕しやすくするのが貴方の望みだとも思います」
 そういう類の存在なのだろう、でも、もしかしたら。
「もし……貴方に、怪異に至る前の望みがあったなら」
 そうあれかしと、作り変えられた存在であったとしたなら。
「怪異に至る迄の望みを思い出せたなら」
 目の前の男の姿がぶれる、吐き出すエラーが増えて男の顔はそれで埋め尽くされていく。
「どうぞまた、此の世にお戻りを」
 影朧を転生させる術を持つ桜の精たる桜花らしい言葉であった、たとえ相手が影朧ではなく骸の海に還りゆくオブリビオンであったとしても。
「貴方の転生を、お待ちします」
 迎え入れようと、桜花は真っ直ぐに言葉を尽くし、エラーを還す為に軽機関銃を手にして走り出す。
「%2あ、か■赤血赤」
 エラーが意味を成さぬ言葉を吐き出し、己の攻撃力を強化する。
「何をどう予測し強化しようとも。近付かぬ訳にはいかないでしょう?」
 周囲の状況を素早く把握し、他の猟兵を巻き込まぬだけの距離を取る。そうして、エラーが己の術式の範囲内にいることを確認すると、軽機関銃を構えて軽い威嚇を兼ねた射撃をエラーの足元へと放った。
「ドゥダイーム、マンドラゴラ、アルラウネ……全ては同じ物ですの。その絶叫、どうぞ味わってくださいませ」
 言葉がわからないとしても、その絶叫は届きますでしょう? そう微笑んだ彼女の桜色をした唇から、アルラウネが引き抜かれた時のような絶叫が響き渡る。それはまるで超音波のようにエラーへ放たれ、高威力の攻撃として暴れ狂った。
 それでも、全身からエラーを吐き続けながら、怪異は桜花に向かってその手を振るう。
「無駄です」
 桜花のアルラウネの悲鳴によって満身創痍ともいえるエラーの攻撃は、桜花には届かない。
 桜の花びらが舞うかのようにひらりと避けて、桜花が軽機関銃を構えた。
 唇から零れるのは破魔と浄化を願う言の葉、それを銃弾に宿して引き金を引く。
 どうぞ、安寧の微睡を。
 そう願いながら、桜花は消えゆくエラーに鎮魂歌を送る為に優しい声音で歌を紡ぐ。
 お休みなさい、どうか良い夢を――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

馬県・義透
『静かなる者』というか梓奥武・孝透のまま。

千聖にも背を押されましたからね…私は、私の役目を果たすまで。
【四天境地・水】を先制攻撃+早業にて発動。
未来予知にてかわすそうですが…元より、この矢は足元を狙ったもの。地面を湖へと変換させるために。
そこまでは予知できないでしょう?

私自身は水上歩行できますからね、行動に支障はありませんし。
あなたがたの生命力を吸収し、活力を低下させましょう。
そして、その上でさらに矢を射かけましょう。

今は眠らせているとはいえ…四人で一人の複合型悪霊が、怪異に負けるわけがないでしょう?
ここで立ち止まるわけにもいかないのですよ。



●怪異を征す
 嫋やかな妻に見送られ、振り返ることなく歩いた先で馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)は立ち止まる。そこは夜の世界ではなく、朝と昼と夜が混じり合ったようなモザイクの街であった。
「あれが元凶の怪異ですか」
 かろうじて人の姿を保っているような、見慣れぬ歪を吐き出している男、『エラー』。
「千聖にも背を押されましたからね……私は、私の役目を果たすまで」
 この空間を作り出し、都市伝説のような噂を作り出した怪異を倒し、骸の海に還すこと。
「ええ、手抜かりなく……参りましょう」
 白い雪のような長弓、白雪林を手にし、矢を番える。
「六出の血にて、これをなしましょう」
 先手必勝、相手が動くよりも早く氷雪の属性を持つ霊力矢を『エラー』の足元へと放った。
「未来予知にて躱すそうですが……」
 元より、義透が狙ったのは『エラー』の足元、避けられたところで問題はない。そして、避けたところで義透の狙いまではわからないはずだと、彼はエラーの足元に広がっていく雪解け水の湖に視線を落とす。
「そこまでは予知できないでしょう?」
 相手の攻撃の軌道は読めるだろう、そしてそれを回避することも。
 けれど、はなから『エラー』自身を狙っていない攻撃であれば? 予想の範囲外のはずだと義透が湖の上を駆けた。
「私は水上歩行ができますが、あなたがたはどうでしょうね?」
 水の上でも変わらぬ動きで矢を番え、放つ。
 水上での動きを想定したことはないのだろう、『エラー』の鈍い動きを射止めるのは簡単だった。
「それに、この湖の上では私が一枚上手なんですよ」
 敵と認めた相手の生命力を吸収し、自身の戦闘能力を高める――そういう効果を持った湖なのだから。
 いくら群れで襲い掛かってこようとも、活力が低下し地の利は自分にある状況で、義透が負けることはない。『エラー』達に矢を射かけ、次々と仕留めていく。
「そもそも、です」
 白雪林に矢を番え、また一体と矢を放ちながら義透が笑う。
「今は眠らせているとはいえ……四人で一人の複合型悪霊が、怪異に負けるわけがないでしょう?」
 ねえ? と、今は眠らせている他の三人に向けてそう言うと、最後とばかりに矢を連続して放ち、『エラー』を湖の底へと沈めた。
「それに」
 モザイクが晴れゆく空を眺め、呟く。
「ここで立ち止まるわけにもいかないのですよ」
 だから、ここでさよならですと義透が怪異に向けて決別の言葉を放った。

成功 🔵​🔵​🔴​

夜鳥・藍

どうしてかくれんぼをしたかったんでしょうか?
それともスーツ姿もただの記号で、あの姿は本質とは違うのでしら?
もしかしたらモザイクの集まり、本質すらもないのかもしれないわね。
ああでも、心残りや未練を現すというのなら……。

相手の攻撃方法がわかりにくいのが難点ですが、それならその前に倒せばよい事。
UC雷鳴で対象を包囲するように攻撃します。敵の攻撃は第六感で回避です。
本当を言うと私の後悔以上に過去の私の未練を終わらせないと。
先の戦争でやっと私になったと言えるようになったけど、同時に少しずつ思い出してきた事もある。終わらせないときっと私は私を始められない。
そしていつか彼らの未練も解消できますように。



●誰かの
 一日の全てを詰め込んだ様なモザイクの空に、エラーを全身から吐き続ける怪異を目の前にして夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)はぽんと浮かんだ疑問に小首を傾げた。
「あなた、どうしてかくれんぼをしたかったんですか?」
『■、?■死あァ■』
 明瞭な答えが返ってくるとは思っていなかったけれど、吐き出す言葉までエラーを起こしているとは思いませんでしたと藍が宙色の瞳を瞬かす。
「そのスーツ姿もただの記号で、本質とは違うのかしら?」
 かくれんぼは夜の街に引きずり込む為に、ただそうする必要があっただけで。あの姿も本当はモザイクの集まりで本質ですらないのかもしれない。
「ああでも、心残りや未練を現すというのなら……」
 ほんの少しの、けれど塵も積もれば山となるという言葉のように、少しずつ積み重なった誰かの心残りと未練が形となった怪異なのかもしれない。
「……何であったとして、倒すべき相手ですが」
 吐き出す言葉はエラーに満ちて、その動きもわかりにくい。
「それならばそれで、相手よりも早く動き倒せばよい事」
 『エラー』が行動に移す前に、藍が先手を取るべく力を開放する。
「響け!」
 凛とした声が辺りを支配して藍の持つ黒い三鈷剣、鳴神がその数を増やし『エラー』を取り囲むように展開していく。
「避けられますか?」
 視線だけで全ての鳴神を操って、一斉に『エラー』へと落とした。
『%2あ、か■赤血赤赤、■ア垢か、ぁ■赤い、%1』
 到底避けられる数ではない、防御の力を引き上げたとて長く持つものでも。だから、こうしていればいずれ目の前の敵は骸の海に還るだろう。
 隙なく鳴神を操りながら、藍は目の前の後悔の塊に僅かばかり己を重ねる。
 本当のことを言ってしまえば、『私』の後悔以上に過去の『私』の未練を終わらせなければならない。先の戦争……UDCアースを巻き込んで滅びそうになったカクリヨを救うための戦いで、やっと私になったと言えるようになったけれど。
「思い出したことも、あるから」
 それを終わらせなければ、きっと『私』は『私』を始められない。
 骸の海に還る時まで『エラー』を吐き出し続ける怪異を見遣って、いつか、と藍は呟く。
「いつか、彼らの未練も解消できますように」
 『私』の未練は『私』が必ず終わらせるから。
 囁くように零れた言葉は、消えゆく『エラー』に届いただろうか。
「さ、ぬいぐるみを迎えに行かなくちゃ」
 晴れゆくモザイクの空を眺め、前へと進むかのようにゆっくりと歩き出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セロ・アルコイリス
【紅白】
文字通りの人垣を抜けたら壊れた世界──怪異
なんだ、
かわいいかくれんぼの鬼でも出て来んのかと思ったのに
随分な壊れっぷりのおにーさんですね

未練も後悔も過去もなく生きてきたおれのともだちと
人間になり損ねた失敗作のおれ
あっはは、おれたちも"エラー"かもしんねーですね
でも、ねぇ花世、
ソレって奇跡だと思いません?

瞬きの間に散り舞う花弁は鮮やかで
ああ勿体ねーな、なんて場違いに

抜いたダガーに魔法を込めて
彼女が隙を作ってくれるって信じてるから迷いなく振り抜く
空気が熱せられれば花弁もまた空に舞い上がるんだろう

おれたちもエラーなら
おれは壊れたおにーさんのことも否定はしねー
狂気だけ掬ってやるから
どーぞおやすみ


境・花世
【紅白】

夜の割れた向こう側、
ルールもなしに蠢めくエラーたち
傍らに佇むきみの声は
こんな時なのに不思議に明るい

ああ、きっとセロの言うとおり
化物のわたしも人形のきみも、
世界のエラーにちがいない

こわれているくせに動いて
意味なんてないのにここに在って

……だけど、だからこそ!

矛盾ばかりを孕んだ右目の花を
乱暴に毟り取る、かすかな痛み
代わりに生まれる力を手足に込めよう

地を蹴り駆けて、駆けて、辿り着く敵の眼前
早業で攻撃を避け、避けきれずとも怯むことなく
翻す扇で巻き起こす花びらの嵐

動きを止めるのは一瞬で十分
ほら、続きはセロが燃やしてくれる

正しい答えは今も知らない
──だけど、エラーだらけで、きみに逢えたよ



●それが世界の誤りであっても
 雑音を振り切って、夜を駆けた先に広がっていたのは朝と昼、それから夜が複雑に混じり合ったモザイクのような世界だった。
 壊れた世界だ、とセロ・アルコイリス(花盗人・f06061)は握ったままの手の持ち主、境・花世(はなひとや・f11024)を見遣る。その顔はさっきよりも随分とマシで、セロはゆっくりと握っていた手を離した。
 本当はずっと繋いでいたかったけれど、目の前に現れた怪異を前にしてはそうも言っていられない。
「なんだ、かわいいかくれんぼの鬼でも出て来んのかと思ったのに」
 夜の割れた向こう側で蠢く『エラー』達を前にして、不思議に明るいセロの声を聞いた花世は思わず口元を緩ませる。
「随分な壊れっぷりのおにーさんですね」
 そうは思いませんか、花世。なんて問われてしまえば、花世もそうだねと頷くよりない。
 だって目の前の怪異は全身からエラーを吐き出し続ける男の姿をしていて、喋る言葉も何を言っているのかわからないのだ。これが壊れていないのであれば、世の中の大抵のものは壊れていないと言い張れるだろう。
 乱れた画像のようなエラーを吐く怪異を前に、セロが小さく笑う。
「未練も後悔も過去もなく生きてきたおれのともだちと」
 花世を見遣る目は、どこまでも優しく。
「人間になり損ねた失敗作のおれ」
 失敗作だと言うけれど、その口調はどこか楽し気で。
「あっはは、おれたちも『エラー』かもしんねーですね」
 世界から弾き出された、誤り。
「でも、ねぇ花世」
 真っ直ぐに立つ姿は、どこまでも凛として。
「ソレって奇跡だと思いません?」
 ああ、君はなんて可愛くてかっこいいんだろう、と花世は思う。
「そうだね、きっとセロの言うとおり」
 化物のわたしも、人形のきみも、きっと世界のエラーの一つにちがいない。
 だって壊れているくせに動いて、意味なんてないのにここに在って、そうして縁を持って此処に二人立っている。
「……だけど、だからこそ!」
 ――生きている。
 だったら、なんだって出来るはずなんだ。
『■、1あ■アオ、蒼、青い■あァあ、%2■3屍%蒼』
 エラーに満ちた怪異が動く、それに合わせて花世が己の右目に咲く八重牡丹に手を掛けた。
 大きく咲き誇る八重牡丹を握り締め、乱暴に毟り取る。
「ちぎれ、こぼれて」
 微かにはしった痛みは無視して、身体の奥から生まれいずる力を手足に込めた。
 力を溜めた足で地を蹴って、最短距離で『エラー』の眼前に躍り出る。『エラー』の放つ徒手空拳を避け、杪春の扇をパチンと開く。春の名残がひらりと舞って、花世が扇を翻せば巻き起こるのは花びらの嵐。
 瞬きの間に散って、零れて、それがまた何ともいえず鮮やかで。
「ああ、勿体ねーな」
 セロがぽろりと落とした言の葉も、花びらに搔っ攫われていく。
 場違いな感想だとは思いつつ、花世の作り出した隙を狙う為に抜くのは武骨なダガー、それに火の魔法を込めながらセロが『エラー』に向かって駆けた。
「誰の所為でもなく、ただ」
 ダガーに重ねて纏わせた魔法の刃を迷いなく振り抜く、その動きは必ず花世が自分に合わせて敵の隙を作ってくれるという信頼から。そして、それに応えるのが花世という女であった。
「動きを止めるのは一瞬で充分」
 続きはセロが燃やしてくれる、そうだよね? と問うように、花世がセロに視線を送れば返事の代わりに熱された空気が花弁を空へと舞い踊らせる。
「おれたちもエラーなら、おれは壊れたおにーさんのことも否定はしねー」
 だから、その狂気だけ掬ってやるから。
 振るわれた魔法の刃は『エラー』の狂気だけを正確に破壊して、吐き出すエラーを潰していく。
「どーぞ、おやすみ」
 骸の海に還る、世界の誤りを眺めてセロがぽつりと呟く。
 その横顔を眺め、扇を閉じた花世が目を細める。
 晴れていくモザイクの空の中にだって、正しい答えは無いだろうけれど。
 ──だけど、エラーだらけで、きみに逢えたよ。
 それだけで充分だと、二人手を繋いで微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シビラ・レーヴェンス
露(f19223)。
物理などの攻撃は露に任せて私は電脳から介入してみるかな。
エラーが元ならばそれを修復させるとどうなるのか。楽しみだ。
【電子の精】で技能を上げてからハッキングを試みてみよう。

まずは私の近くにいる手頃な一体の怪異へハッキングをする。
怪異のエラーの性質を調べてから修復作業を始めようか。
修復することでダメージを与えられる…と推測してみたが…。
想定を超える何かが発生したら露に対応して貰うとするかな。
エラーにもよるが手に負えない場合は要の部分を消去してみる。
消去でもダメージを与えられるかも…と考えたのだが…。

ふむ。これは直接攻撃をした方が効率がいい場合は露のサポート。
電脳からになるがな。


神坂・露
レーちゃん(f14377)。
電脳の世界からこのエラーってゆー怪異さんに関わるみたいね。
…むぅ。そーなるとレーちゃんのサポートってできない…。
ならあたしはレーちゃんの身体を護るわ。うん。決めた♪

リミッター解除と限界突破後に全力魔法の【蒼光『月雫』】を。
レーちゃんに向かってくるエラーさんへ棘の包囲攻撃をするわ。
破魔と継続ダメージと重量攻撃付きの棘をお見舞いしてやるわよ。

うーん。レーちゃんは黙々とゴーグルしてて何してるかわからないわ。
そしてレーちゃんあたしの活躍をちっとも見てくれてないし~。
ゴーグルしてるから仕方がないけど…なんだか不満だわ。不満。
終わったら思いきりぎゅうぅーってしちゃうんだから!



●外と内の戦い
 ぱりん、と薄氷が割れるような音が響く。
 夜が割れてパラパラと剥がれ落ち、現れたのは朝と昼と夜を混じり合わせたような、モザイクの空。
「怪異のテリトリーか」
 シビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)が冷静に状況を把握する中、神坂・露(親友まっしぐら仔犬娘・f19223)は小さく口を開けて現れた空を見上げていた。
「よくわかんないけど、器用なのねぇ」
「器用、か。どちらかと言えば壊れている、といった感じだが」
 見てみろ、と言ったシビラの視線の先を辿れば、全身からエラーを吐き出し続ける怪異の姿があった。
「わぁ、何かしらあれ。画像が壊れてるみたいな感じね」
「だからこそ、『エラー』と言うのだろう」
 そうなのね~、と呑気な返事をした露に小さくため息をついて、シビラが電脳ゴーグルを装着する。
「レーちゃん?」
「私は電脳世界から介入してみる」
 現実世界に侵食しているとはいえ、あれはデータの塊のようなものだ。
 それがたとえ誰かの後悔や未練が積もって出来上がったものだとしても、そういう形を取っているならばその法則に僅かでも縛られているはず。
 電脳世界を展開させ、『エラー』のデータをシビラが探る。
 現実世界の身体は置いてきぼりになるけれど、それは言わずとも露が守るだろうという確信があった。
 まぁそれでも一応、声だけは掛けておくかと意識を電脳世界に飛ばしながらシビラが露に一言だけ囁く。
「頼む」
「ふふ、お任せよ~♪」
 レーちゃんに頼まれちゃった、と露はご機嫌な笑みを浮かべてシビラを己の背に庇う。電脳世界から『エラー』に関わるのなら、露には何も手伝うことがない。本当は言われるまでもなく、シビラの身体を護ろうと思っていたのだけれど。
「気合入れて護らなくっちゃよね」
 直々にお願いされたとあっては、露のテンションも変わるというものだ。
 現実世界の身体を露に任せたシビラは、電脳パネルを開きながら思考を纏めてい。
「エラーが元ならば、それを修復した場合どうなるのか……楽しみだ」
 技の精度を上げるべく、能力の底上げをする為に力を一つ解き放つ。
「Toate informațiile existente sunt reale și fantomă……」
 電子の精、とシビラが呼ぶその力を巡らせば、常よりも遥かに高い能力でハッキングが可能となる。
「さあ、みせてもらおうか」
 まずは一番近い場所にいた『エラー』へとハッキングを開始し、その性質を探っていく。
『%2あ、か■赤血赤赤、■ア垢か、ぁ■赤い、%1』
 壊れたデータを出来る限りサルベージして、空中に映し出されたコンソールに指先を滑らせた。
「エラーを吐いてない箇所がない、元からまともなモノではないのか」
 そうでなければ怪異などにはなっていないか、と思考を切り替える。
「それなら修復プログラムを流し込んでみるか」
 流したそばからエラーを吐き出しそうだけれど、やってみる価値はあるだろう。
 エラーのパターンから解析したプログラム、ワクチンのようなものを送り込むと『エラー』の動きが変わった。
「……まずったか?」
 不味いことになれば、そこは露が対応するだろうと決め込んで、シビラは修復プログラムを改良し、改良したそばから流し込んでいく。
『%2あ%2あ%2あ■■■隗ヲ繧後k縺ェ』
「露!」
「はぁい!」
 動きを止めていた『エラー』が一斉にシビラに襲い掛かろうと動き出したのを察知して、露が己に掛けていたリミッターを解除する。
 そして、水晶のような蒼白い棘を自身の力の限り顕現させると、襲い来る『エラー』達に向けて一斉に放った。
「闇に散れ~♪」
 蒼い光が幾重にも重なって、『エラー』達の身体を跡形もなく消し飛ばしていく。
 蒼白い棘を正確に操りながら、露がちらりとシビラに目を遣って、小さく溜息を零す。
「うーん、レーちゃんは黙々とゴーグルしてて何してるかわからないわ」
 何かしらしているのだろうけれど、露からすればさっぱりだ。
「そしてレーちゃんあたしの活躍をちっとも見てくれてないし~」
 ゴーグルをしているのだから仕方ないけれど、なんだかとっても不満だわ! と、露が『エラー』達に追い打ちを掛ける。『エラー』達の動きが鈍いのはシビラが電脳世界からサポートをしてくれているのだろうけれど。
 それくらいは理解できるけれど、でもそれとこれとは違うの! と、八つ当たりのように露が『エラー』達に止めを刺した。
「終わったら思いきりぎゅうぅーってしちゃうんだから!」
 もう、絶対ぜーったい! と、露は晴れていくモザイクの空にちらりと目を遣って、シビラがゴーグルを外すのを待つのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱酉・逢真
心情)坊や、《過去》の坊や。どうしてこんなことをしたのだい。怪異だからかい。生まれながらにバグってたのかい。まともな言葉は返らンかい。ああ、そンならそれでいい。吐ける言葉があるなら吐いときな。意味がなかろと価値がなかろと、それがお前さんの爪痕だ。
行動)殺しに来るなら殺しにおいで。両手広げて抱きしめてやろう。この《宿》が砕けようと構いやせンさ。俺の病毒は"いのち"に限らん。内外より侵し壊すものだ。そォら捕まえた。さァさ、"底"まで送ろう。



●送り火
 世界が変わる瞬間を瞬きもせずに朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)が視る。
 夜の世界から一日の全てを詰め込んだモザイクのような空に向けて、唇の端を持ち上げた。
「綺麗なもンじゃないか、なァ?」
 そう言って、現れた男の姿をした怪異『エラー』に向かって優しい声音で問い掛ける。
「坊や、『過去』の坊や」
 低く響く声は恐ろしくも優しく、聞く者の心に入り込むかのよう。
「どうしてこんなことをしたのだい」
 身体からエラーを吐き続ける怪異に向かって、一歩、また一歩と歩み寄る。
「怪異だからかい。生まれながらにバグってたのかい」
 怪異として生まれ落ちた瞬間から、きっとエラーを吐き続けていたのだろう。世界の誤り、誰かの残滓。
『■、4き■キ紀■■』
「まともな言葉は返らンかい。ああ、そンならそれでいい」
 ならば俺はそれごと赦してやろうなァ、坊や。
 逢真が『エラー』の前で立ち止まり、まるで赤子を愛おしむようにその唇から言葉を紡ぐ。吐ける言葉があるなら、全て吐き出してしまえと泣く子をあやすかのように声を響かせて。
「意味がなかろと価値がなかろと、それがお前さんの爪痕だ」
 両手を広げ、逢真が可愛い坊やと『エラー』を呼んだ。
『キき■%、4■黄イ生ぇ膿キ■徽き、君、君■■%4』
 エラーを吐き出しながら、わからないことに恐怖する。全てがわからない、ただ一つわかるのは目の前の男を殺せばいいということだけ。確実に殺せるように、『エラー』が逢真の動きを予想する為に演算を掛ける。
『キき■%、4■黄イ生ぇ膿キ■徽き、君、君■■%4』
 何度思考しようとも、目の前の男は両手を広げたまま動かない。殺されようとしている、わからない、わからない。
 全身からエラーを吐き出しながら、わからないまま逢真を殺す為に『エラー』は逢真を、否、その『宿』を――。
「そォら捕まえた」
 容易く折れる骨の音、筋肉が千切れる音が耳朶を擽っても逢真は意に介さない。
 逢真の病毒が『エラー』に回る、それは『いのち』を壊すだけでなく、内外より侵し、壊すもの。
「さァさ、そこまで送ろう」
 千切れた腕で炎を放つ。
 轟、と燃えるそれは逢真の『宿』ごと『エラー』を飲み込んで、『底』に辿り着くまで燃え盛った。
 残ったのは赤い滲みを残した影ばかり。
 とぷんと、消えて。

大成功 🔵​🔵​🔵​

丸越・梓

マスタリング歓迎

_

──何だ?

エラーが混じっているせいで、彼ら…『エラー』の言葉が解らない。
それでも彼らの発する音の意味を拾い上げたいと、必死に掬い取る。
攻撃をいなしながらも、彼らを滅ぼすのではなく制圧する為に立ち回る
……相手の心や意図が判らぬままに、危害を加えるようなことはしたくなかったから
オブリビオンたる根源が、彼らの思考を、言葉を、心を邪魔しているのなら

相対する『エラー』の拳を掌で受け止める
そのまま腕を引き
発動させるは【君影】
…彼らは何を伝えたいのか
彼らはどうしたいのか
骸の海より迷い出でてしまったのなら
我が力を、安息の眠りへの一助とする。

_

(かくれんぼはもう終わり。
──さよなら、エラー)



●かくれんぼはもう終わり
 狭い部屋から一転、丸越・梓(月焔・f31127)が立っていたのは一日の空を全て混ぜたような、モザイクの空の下だった。
 ここも怪異の領域だろうと判断を付けて、周囲の気配に注意を向ける。いつでも動き出せるように体勢を整え、現れた怪異を見据えた。
『■、1あ■、あ■が、1■な、あ』
「……何だ?」
 それは恐らく怪異『エラー』の発する声だろうということまではわかった、けれど何を言っているかまでは解らない。体中から電子エラーのようなものを吐き出し続ける怪異は、言葉までエラーに塗れているのだろう。
 軽く眉根を寄せ、梓はなんとか意味ある言葉を拾い上げようと耳を澄ます。
 それはまるで、砂漠で砂金の一粒を探すような行為であったが、梓は言葉の端を掬い取ろうと真っ直ぐに『エラー』を見た。
『■、1あ■アオ、蒼、青い■あァあ、%2■3屍%蒼』
「あお?」
 アオ、青、蒼。
 色だろうか、と考えるのも束の間、梓に向かって『エラー』が拳を向ける。その動きを焦ることなくいなし、滅ぼすのではなく制圧する為に梓が駆けた。
 怪異、オブリビオンといえども、相手の心や意図が判らぬままに危害を加えるようなことはしたくないと、刑事らしい――梓らしい考えのままに武器を用いず、その拳だけで立ち回る。
「オブリビオンたる根源が、彼らの思考を、言葉を、心を邪魔しているのなら」
 それは仮説であり、確証など何処にもなかったけれど。
 砂漠で砂金を探すような確率であったとしても、可能性があるのなら梓に迷う理由などない。
 全身からエラーを吐き出し続ける『エラー』の拳を黒の革手袋をした掌で受け止め、掴んだ腕を引く。
「──おやすみ」
 力ある一言を囁けば、それはオブリビオンたらしめる根源へと響いて。
「何を伝えたい」
 どうしたい、そう問い掛ける。
 骸の海より迷い出てしまったのなら、悔いも未練もこの力で断ち切って、還してやろう。
 安息の眠りをもたらそう、『エラー』であるお前達に。
『■■カ■、あァあ、%■■タ%ァ』
 ああ、最後まで言葉は解らないけれど。
「還してやる」
 かくれんぼはもう終わりだと、梓が優しい声で告げた。
 さよなら、誰かの未練、誰かの後悔。
 そして、俺の――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フィッダ・ヨクセム

荷物を住処に置いて戻ッてきたぜ?
荷物を届けに行くのが楽しみだが……それは今日じャない
まあ行くだけなら今日でも良いが、今じャない
良いことしてきた話もついでに持ち込む方が気持ちいいしな!

でもそれは今は気持ちの脇に置いておくよ(幸福な感情)
影に入り込む妖怪の性質を活用してモザイク世界に入り込む

おいスーツ、鬼ごッこは終わりだ
バグだらけなお前らの匂いは異質過ぎる

駆ける足跡を炎魔法の軌跡として残して一斉爆破を目論むぜ?
星型だとか何かを描く様に逃げる
攻撃は受けてもいいな、どうせ攻撃の真意は解らねェし!

朝昼の明るさで自分がひでえ目に遭うのは構わない
必要経費(激痛耐性)だ、我慢する
痛くねェと馬鹿笑いしてやるよ



●おしまい
 背中に背負うほどに大きな荷物を住処に置いて、フィッダ・ヨクセム(停ノ幼獣・f18408)が元来た道を走る。
 買った荷物を届けに行くのは楽しみだけれど、それは今日じゃない。
「まあ行くだけなら今日でも良いが、今じャない」
 本当は今すぐにでも行きたいところだけれど、どうせなら良いことをしてきた話も聞いてほしい。色々ダメにするクッションに身体をだらんと預けて、話を聞いてもらえたら、それはどんなに気持ちがいいだろう。
「でもそれは、今は気持ちの脇に置いておくよ」
 ぴたりと閉ざされた世界を前に、フィッダは妖怪鬣犬の姿へと変じる。
 それから、影に入り込むという性質を最大限に活用して、閉ざされた世界へと入り込んだ。
 するりと潜り抜けたそこは、まるで朝と昼と夜がごちゃ混ぜになったようなモザイクのような世界で、そこかしこに怪異の姿を見つけることができた。
「おいスーツ、鬼ごッこは終わりだ」
 エラーを吐き出し続ける、バグった存在の匂いはあまりにも異質で、フィッダは思わず小さく鼻を鳴らす。
「見つけたのは俺様、見つかッたのがお前らだ」
 そう言うや否や、フィッダが鬣犬の四つ足で駆けた。
 駆けた後には炎魔法の軌跡、可愛い肉球の形に燃える小さな炎の点を線で結べば星のよう。
『■、1あ■アオ、蒼、青い■あァあ、%2■3屍%蒼』
 追ってくる『エラー』の攻撃を避けるように逃げつつ、あの攻撃なら受けてもいいな、どうせ攻撃の真意は解らねェし! とフィッダが笑う。笑いながらも無駄な一撃は避け、あくまでも最後の仕上げの為に『エラー』を集める為に必要な攻撃をわざとその身に負った。
 太陽の光が射し込む場所を駆け巡れば、この姿の代償だとばかりにその光で身体が灼ける。
「必要経費だ、これッくらいは大したことねェ」
 そうさ、こんなもんは痛くも痒くもねェ! 大きな口をがぱりと開いてフィッダが笑う。
 一頻り、馬鹿みたいに笑って口を閉じる。
「仕上げだぜ」
 炎魔法の軌跡がフィッダの意思に応じて、一斉にバチンと弾けた。
 それはフィッダが感知した『エラー』全てを巻き込んで、モザイクの世界すらも巻き込んで爆発する。
「景気がいいねェ!」
 ああ、そういえばもうすぐ夏だ、花火の季節だと笑って、フィッダは崩壊していく世界を最後まで見届けて、荷物を届けに行く為に消えゆく世界を後にする。
 かくれんぼはもうおしまい、そうして世界はするりと閉じた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年06月26日


挿絵イラスト