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【Q】迷宮の君

#アルダワ魔法学園 #【Q】 #戦後 #ダンジョンメーカー

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#【Q】
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#戦後
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#ダンジョンメーカー


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「自分が迷宮になったら、どんな形になると思う?」
 妙な言葉並びに聞こえただろうか。
 反応を示しても、示さずとも。
 書物で作られたマスク(怪奇録・f22795)はあなたに語りかける。
「つまりは心の具現化というわけだよ」
 例えば、頭の中に部屋があると思ったことはある?
 別に部屋でなくともいい。

 細い小路や暗がりの階段、閉ざされた扉。
 深く入り組んだ森や、美しい花畑。
 悩みや不安、悲しみに喜び。それらが詰まった箱庭。
 君の内側にそんな場所があると想像したことはないかい。

 潜って探検してみたいと思わないか、自分の中を覗くなんて面白いだろ。
 ナンセンスな絵画のように馬鹿げた空間だったり。
 或いは整然として居心地の良い場所だろうか。
 思わぬ景色を見るかもしれないぜ。

 魔法学園の"装置"を試してみるのさ。
 『ダンジョンメーカー』、想像を創造し迷宮を作り出す魔法の機械。
 ここまで言えばわかるだろ?
「君は自分の内側を"想像"するだけでいい」
 だが漠然と考えれば混沌とするだろうからね。
 いくつか質問に答えてくれれば大丈夫さ。
 後は機械がやってくれる。
 文字に起こすように己の内側を形に起こしてしまうんだ。
 ああ……誰にも見せない至聖所を、明かしてしまうのは気が進まないかい。

「なあに。"混ざって"しまえば解らないさ」

 尖った牙が並んだ口がチェシャ猫のような笑みをつくった。
 この依頼を持ちかけたのは、独りではないのだ。

「何故こんなことを提案するのだと思うかね」
 もちろん災魔を討伐するためだよ猟兵クン。それしかあるまい。
 つまり『ダンジョンメーカー』を使用するには条件がある。
 装置は強力な災魔を一体、強制的に召喚し、新たな迷宮の守護者に据えるのだ。
 これを利用して隠れた災魔を釣り上げるのさ。
 君だってそいつを討つ理由がある。

「だって住み着かれてはたまらないだろう?」
 君の想像に。

「現れるのは白い翼を持つ女性だ。彼女も創造するようだよ」
 人の心に潜んでいる。
 理想や。
 後悔や。
 秘めた心を。
 己の協力者として具現化してしまうのだ。

 君達は自分の中に居る存在と戦うことになる。
 今回の迷宮には相応しい相手だと思わないか。

 頁の捲れるような声が、ぺらぺらとのたまい。
 誘う。

「興味があれば来てくれよ、待っているからさ」


鍵森
 舞台はアルダワ魔法学園。
 あなただけの迷宮を創りませんか。

●構成
 1章:冒険。
 迷宮を創造します。
 幾つか質問をしますので、答えを聞かせてください。
 こういう感じの迷宮がいいな、という希望もありましたら思い浮かべてみて下さい。
 あなたの答えを装置(MS)が解釈し迷宮を組み上げます。

 2章:冒険。
 完成した迷宮内を探索します。
 自由にお過ごしください。

 3章:ボス戦。
 『『罪の影姫』アーラ・イリュティム』との戦闘です。
 彼女はあなたの中に在る姿を創造するでしょう。

 ここまでお目通しありがとうございます。
 皆様のご参加お待ちしております。
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第1章 冒険 『ダンジョンメーカー』

POW   :    肉体や気合で突破するタイプのダンジョンを創造してみる

SPD   :    速さや技量で突破するタイプのダンジョンを創造してみる

WIZ   :    魔力や賢さで突破するタイプのダンジョンを想像してみる

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●アルダワ魔法学園
 訪れたあなたは、小さな四角い部屋に案内されるだろう。
 それはまるで懺悔室のようなつくりをしている。
 中には木製のベンチが置かれているだろう。
 部屋を二分割するように壁と格子窓。向こう側は覗いても誰もいない。
 蓄音機めいた装置があるだけだ。

 なにをすればいいのか、その疑問に答えるように。
 歯車じかけの音がして、蓄音機のラッパから声が流れ出すだろう。
 予め録音された音声が再生されたのだ。
 聞き覚えのないその声は、妙に心地のよい加減で喋り始める。

「さあ、あなたの迷宮をつくりましょう。
 いまから、いくつか質問をします。
 口で答えなくても大丈夫。

 あなたは、ただ 想像 するだけでいいのです」

●質問
 箱を思い浮かべてください。
 大きさはお好きに。
 あなたの箱ですからね。

 箱はどんな色をしていますか。
 好きな色? それとも嫌いな色?

 空っぽだとさみしいから。
 箱の中に物を詰めましょう。
 心の中に浮かんだ物を "三つ" 入れてください。

 かならず三つです。
 多すぎても少なすぎてもダメ。
 ゆっくり考えて。
 なんど入れ直してもいいですから。

 ……できましたか。
 あなたは今、中身の入ったその箱を見ています。
 どんな感情が浮かびましたか。
尾守・夜野
「へぇ!
自分でダンジョン作れるのか!」
こーいうのしたことないからちょっとワクワクしてるぞ

…まぁ多重人格だからまともにできるか不安ではあるんだが
以下、言ってるのは表に出てる俺
()は別の俺で送る
言ってるのは俺だけだから多分俺のが反映されるけど…
思考自体纏まってないから綺麗な作りではないと思う

「…大きさ?大きい方が良さそうだ(小、中)
色?黒(赤、橙…etc)じゃね?
3つか…あんまり思い付かねぇな…んー更に箱、写真、模型(羊、うわばみ、狐)、(花、お菓子、星)、(トラップ…鎖、矢、毒)…かな」

何を考えるか?
いつも通りぐちゃぐちゃさ
考えは欠片とて纏まらず流されるだけ
なおどの人格も同じくらい考えてる



「へぇ! 自分でダンジョン作れるのか!」
 それはなんだか楽しそうな事に思えた。
 何かを作ったり、建てたりすることは嫌いではない。
 新しいことを始める時の楽しさと期待に胸を膨らませて。
 尾守・夜野(墓守・f05352)は、ワクワクした様子で室内のベンチに座っていた。
 けれど、きっと上手くはいかないだろう。
 確信めいた不安があった。
 夜野は多重人格者である。
 口に出して答える俺の意見だけが通るならまだしも。
 装置とやらが思考を探るなら、その結果は想像もつかない。

 カチリ、と歯車は回りだして最初の質問がはじまった。
 まず脳裏に思い描くのは、箱だという。

「……大きさ?」
 ――小さい。中くらい。
 頭のあちこちから様々な声が言う。意識の外にあってもなくても、想像を馳せているのが複数である限り、影響は起こるだろう。
 「大きい方が良さそうだ」
 それなら全部の箱が入るかもしれない。

「色?」
 ――赤。
 ――橙。
 ――青。黄。緑。紫。茶色。くれない。ぎんいろ。……、……。
「黒じゃね?」
 そんな気がする、という口ぶりで声にする。
 すべての色が混ざれば、きっとこんな色になるだろう。
 そういう 黒 だ。
 かつては一色だったそれぞれの色は、黒になり、塗りつぶされ、混ぜられた。
 複雑に渦巻いて、時折その彩を滲ませるような、黒色。

 次に箱の中に何を詰めるのか問われ、夜野は難しい顔をした。
「三つか」
 漫然と手遊びのように、指を折り、また広げて折る。
 入れたいものが、あんまり思い付かない。
 ゆるりと思考を巡らせて、一つ目を決めるのは少し時間が掛かった。

「んー、更に箱」
 想像上の箱の中に、箱が詰められていく。
 その箱にも箱が詰められているのだろうか、マトリョーシカのように。
 けれど蓋をすれば箱は一つだけにしかみえない。
 だからこれは一つだ。

 ――羊。
 ――花。
 ――トラップ……鎖。

「写真」
 ――うわばみ。
 ――お菓子。
 ――矢。

「模型」
 ――狐
 ――星
 ――毒……かな。

 最後に、浮かんだ感情を問われる。
 ぐちゃぐちゃだ。いつも通り。
 箱の中身はきっと纏まりもなく乱雑としている。
 ぽつぽつと雨だれのような思考が溢れて止まらず。
 欠片とて纏まらず流れていくのだから。

 俺の迷宮はきっと綺麗にはならない。
 夜野はそっと息を吐いて、部屋を後にした。


●尾守・夜野の迷宮
 あなたの迷宮は長い回廊に似ています。
 廊下の壁の両面は、埋め尽くすように写真が貼り付けられています。
 その写真に映る画像は、どれも黒く塗りつぶされているでしょう。

 この迷宮にあるものは、どれも模型です。
 羊や、お菓子や、矢など、あらゆる物があるでしょう。
 しかしどんなに精巧に作られていても、本物は一つもありません。

 回廊の出口を見つけることは、そう難しくもありません
 けれど、それは扉に気が付かなければの話です。

 音か、色か、それとも何らかの違和感によって。
 あなたは並んだ扉に気がついてしまうかもしれません。

 壁や、或いは床に、至るところに扉はあり、あなたを囲んでいます。
 扉は、壁の中に埋められた部屋へと通じています。
 佇む扉は、見ない振りをすればやり過ごせるでしょう。

 あなた"達"の迷宮は、無数の箱状をした部屋を繋げて造られています。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メフィス・フェイスレス
私の内側ね
隠し立てする程器用でもないし性にも合わないから
ま 良いわよ?

手で抱えられる四角形

夜闇の色
私の世界の色
好きではない
でもその景色に溶け込むには同じ色が合理的

一つ目 まずは食い物
肉 この上なく食欲をそそる新鮮な肉

二つ目は肉を守る【飢渇】
肉に手を出した見知らぬ奴は喰べて良いと言う
肉に手を出したり自身に攻撃しなければ襲わない
誰彼構わず襲いかかるのは理性的ではないから
「敵」でないならある程度言うことを聞くようにも言っておく

三つ目は【骨身】
進行を妨げ 逆に【飢渇】の襲撃からも逃れられる骨の柵
【飢渇】も食いしん坊だから肉を盗み食いするかもしれないし

私の欲望と理性そのものね
不愉快だけど必要なものだから



 私の内側を。
 曝け出すことに、さほど抵抗はない。
 隠し立てする程器用でもないし性にも合わないから。
「ま 良いわよ?」
 この試みにも快く乗ったものだ。
 小さな部屋の中で一人、メフィス・フェイスレス(継ぎ合わされた者達・f27547)は、物怖じした様子もなく装置から流れてくる音声に耳を傾けた。

 脳裏に描いた想像の中で、メフィスは四角い箱を抱えている。
 箱は手で持てるだけの大きさでいい。
 大きすぎては持て余す。小さすぎては不便だろう。

 箱は、夜闇の色をしている。
 それはメフィスの世界の色。
 人々が寝静まり、明かりが消えた真っ暗な夜に彼女は居る。
 その色は、好きではない。
 でもその景色に溶け込むには同じ色が合理的。
 だから、箱も夜闇に溶け込んでいる。

 箱に何を入れるか?
 一つ目に何を入れるのか、迷うまでもない。
 食い物に決まっている。
 【肉】
 それもこの上もなく食欲をそそる新鮮な肉だ。
 脂の乗った分厚い肉は、冴えた赤色をしていて。
 いかにも味わい深く、柔らかそうだろう。

 私以外に喰べられてしまわないように。
 肉を守ってやらなくてはいけない。

 二つ目は肉を守る【飢渇】を入れる。
 飢えと渇きで出来たそれには意思がある。何をすればいいのか、私はそれに役目を与える。
「肉に手を出した見知らぬ奴は喰べて良い」と私は言う。
 夜闇の箱の中に居る【飢渇】はじっとその声を聞いているだろう。
「肉に手を出したり、自身に攻撃しなければ襲わない」
 なぜ。と【飢渇】は尋ねてくるだろうか。
「誰彼構わず襲いかかるのは理性的ではない」
 アンタは理性のある存在なの。
 そう教えてやれば【飢渇】は己を律することを覚えるだろう。
「『敵』でないなら、ある程度言うことを聞いて協力してあげなさい」

 最後の三つ目は【骨身】
 箱の中には骨の柵が連なって立っている。
 訪れた者の進行を妨げ、あるいは身を守る為に使われるだろう。
 それは【飢渇】の攻撃から逃れられる為の救済処置でもある。
 食いしん坊な【飢渇】が肉を盗み食いしないように巡らせてある。

 想像上の箱を見つめるメフィスの瞳は、複雑な感情を浮かべている。
 内側にあるものを隠すことなく詰めた箱。
「私の欲望と理性そのものね」
 肉と心と骨で構成されたまるで生き物の中身のような。
 喰われるものと喰うもので造られた肉食の心象は、決して綺麗なものではない。
 だけど、それでいい。
「不愉快だけど必要なものだから」


●メフィス・フェイスレスの迷宮
 あなたの迷宮はひどく美味しそうです。
 此処を訪れた者達は、凄まじい食欲に侵されるでしょう。

 白い骨の柵が道を作り出し、切り分けられた巨大な肉の塊で造られた建造物が並んでいます。肉は常に新鮮で、腐ることはありません。
 誰もが魅了され齧りつきたくなる肉色の景色を夜闇が覆っています。

 この迷宮では肉を食べてはいけません。それが許されているのはメフィス・フェイスレスだけです。
 侵入者が肉を食わないか、暗がりに潜む【飢渇】が常に見定めているでしょう。
 【飢渇】は迷宮の肉を守っています。
 【飢渇】は敵意を感じ、攻撃をされると反撃をします。
 【飢渇】は迷い込んだだけの者に対しては、大人しく友好的ですらあります。
 けれど、その者が誘惑に負けて肉を喰らえば忽ち【飢渇】の餌食になるでしょう。【飢渇】は理性を持っているが故に、理性をなくした者に容赦をしません。

 白い骨の柵の中へ逃げ込めば【飢渇】から逃れることが出来ます。
 骨の柵は肉を食べられないように守り阻む役目を持っています。
 骨の柵の中にいる者は、肉を食べることは出来ません。
 骨の柵の中にいる者は、【飢渇】から守られます。

 白い骨の柵に沿って進めば出口を見つけることが出来るでしょう。
 ただし迷宮の出口は、骨の柵を越えた向こう側にあります。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レスティア・ヴァーユ
案内された部屋は、とても落ち着かないと思いつつ
だが違和を覚えるほどに聞き心地の良い声に耳を傾けイメージをする

箱は大きく、広く
思い浮かべたものは『中に庭園を収められる程の、今にも壊れそうなほどに薄い硝子の箱』

色は『澄んだ薄水色』
好みの色、だと思う
――己の好みの色、というのを今まで考えた事もなかったなと、僅か思考を逸らしつつ

何を入れるか
最初の空間に相応しい大きさとした『庭園』をそのまま入れてしまおう
そして『とても美しい、一輪の赤い薔薇』を
だが――あと一つ、あと一つが、どうしても思いつかない

ふと思い浮かぶ
自分が潜るものに、これは相応しくないかもしれないが

――ならば、最後の一つは『私』を入れよう、と。



 この部屋は、とても落ち着かない。
 扉を閉めればいよいよ閉塞感は強まって。視線はどこかに隙間がないか探るように四方を囲む壁や床に馳せられた。
 当然の行動だと言える。
 いわば密室へ閉じ込められたのだ。警戒心が起きるのは自然なこと。それが戦いに身を置く者ならば尚更。
 だが、今は指示に従おう。これは仕事で、引き受けたからにはやり遂げるべきだから。
 ベンチの上に腰掛けたレスティア・ヴァーユ(約束に瞑目する歌声・f16853)は腕を組み、装置から流れ出した音声に耳を澄ませた。
 聞き覚えのない声を聞く内に、心が静められていくような心地よさを感じた。
 気をつけろ。と頭は囁く。
 心の変化に感じる違和感を、レスティアは持ち続けた。

 箱をと問われて、望むように思い描いたのは、今居る部屋とはまるで正反対の空間だ。
 四方を囲む壁も床もない、開放的な場所を心が求めている。
 だから箱は広々としている。
 庭園を。
 そうだ。庭園を収められるほどに大きいのだ。

 大きく、広く。
 けれどその箱は頑丈ではない。
 今にも壊れそうなほどに薄い硝子の箱。
 外界との境界線を感じさせぬような、透明の箱庭。

 外壁のような箱に色を染めるのならほんの僅かでいい。
 その箱は澄んだ薄水色をしている。
 好きか、嫌いかと、音声が問うてくる。想像を見つめていた意識が僅かに浮上した。
「――、己の好みの色か」
 今まで考えたことはなかったが、無意識の内に選んだこの色は。
「好みの色、だと思う」
 少なくとも嫌いだとは思わなかった。

 この箱に何を入れるのかはもう決まっている。
 【庭園】を、そのまま収めておくのだ。
 この箱は【庭園】の為にあると言ってもいいのだから。
 なによりも相応しいにちがいない。

 次に入れるのは、花。
 【とても美しい、一輪の赤い薔薇】を箱に入れよう。
 そっと置かれた花は広い庭園に対してとても小さいけれど。その薔薇は庭園にあるどの花よりも美しい一輪だ。

 と、此処までは順調に決められたのだが。
「……あと一つ」
 三つ目に入れるものを、思い浮かべることが出来ない。
 レスティアは悩ましげに柳眉を顰めた。
 装置からの音声はひっそりと止み、考える時間をこちらに与えているようだ。
 そうした動作をすることが不思議でもあったが、これも魔法なのだろうか。
 じっくりと時が過ぎていく。
 急かすものは何も無いとはいえ、答えを出すまではこの部屋から出られないのだと思うと長考はしたくない。

 ふ、と。
 思い浮かぶのは庭園に降り立つ自身の姿。
 今浮かべている箱としてダンジョンに形成され、自分はそこに潜ることになる。
 そこに入れるものとして、これは相応しくないかもしれないが。

「最後の一つは【私】を入れよう」

 心は、もう決まっていた。
 部屋の扉が開かれて、レスティアはようやく外へ出る。


●レスティア・ヴァーユの迷宮。
 あなたの迷宮は硝子の壁に囲われた美しい庭園です。
 それは巨大なテラリウムにも似ているかもしれません。

 草の絨毯に覆われたなだらかな起伏。青々とした葉を持つ常緑樹の並木。茂を沿わせたレンガの小道や、睡蓮を浮かべる小さな池。
 そうしたものがあるでしょう。

 気候は常に温かく穏やかで、時折どこからか気持ちの良い風が吹いてきます。
 地下にも関わらず天には晴れやかな青空が広がっています。

 庭園には様々な花が咲いているでしょう。
 けれど赤い花は一輪だけです。
 広い庭園のどこかにある【とても美しい赤い薔薇】。
 赤い花はこの一輪だけです。他にはありません。

 この迷宮を訪れた人は【とても美しい赤い薔薇】を見つけるまで外に出ることは出来ません。

 けれどもしこの庭園で誰かが迷っているならば。
 青い瞳の白い鳥が現れて、助けてくれるでしょう。
 歌をうたい、人を導く、この白い鳥にはその力があるのです。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニコリネ・ユーリカ
告解室みたいな空気に心を静めて瞳を瞑し
ほつほつとノイズを混ぜる蓄音聲に耳を澄ます
想像は得意だから質問にも滔々と答えるわ

私の箱は――
玻璃の樣に透き通る水に涯が隠された
でも慥かに際がある、大きくて背の高い円柱型
底へ行く程に水は青くなって
グラデーションは最下層で綺麗な花紫になるの

水はもう入っているから、あと二つ
珊瑚の樣に鮮やかな緑のタタリカと
金魚の樣に赤いストロベリーフィールズ……んンッ
游ぐつもりでいたけど、ハーバリウムみたいになってきた

其々の花言葉は「変わらぬ心」と「色あせぬ愛」
大切な人にあげたいなって想いが湧いてくる

全然迷わなかったのは蓄音機さんお陰ね
だって貴方、とても心地よい聲で話すんだもの!



 秘密の隠れ家にいるような空気だった。
 レトロチックな機械が歯車を回している音がする。
 ほつほつと、不思議なノイズを混ぜる蓄音聲。
 遠くから聞こえてくる心地よい音楽に澄ませるように。
 ニコリネ・ユーリカ(花売り娘・f02123)は、そっと瞼を伏せながら。
 ゆったり身を預けるようにして、流れてくる聲を聞いた。

 想像することは得意、と柔らかな笑みを口元に浮かべて。
 空想の箱を脳裏に描き出す。

 私の箱は――水。
 玻璃の樣に透き通る水に涯が隠されているの。
 でも慥かに際がある、大きくて背の高い円柱型。

 角のないまろやかな形をした箱である。
 ようく満たされた水は、光を浴びてはキラキラと輝くのだろう。
 透明な箱を脳裏の奥でじっと眺めてから。
 この箱に似合う色を与えようと、ニコリネは水中へと意識を潜らせた。

 底へ行く程に水は青くなって。
 グラデーションは最下層で綺麗な花紫になるの。

 想像を覗く者を誘うように、自由な想像の世界へ思いを馳せながら。
 ほら、見えるでしょう? まるでそう語りかけるように微笑む。

 次は何を入れるか決めるのね。
 水はもう入っているから、あと二つ。

 思い浮かぶのはもちろん花だ。
 彼女は花売りであるから、選ぶ花も漠然とはしていない。
 花弁や葉の色合いや形、手にとるように思い描くことが出来る。
 一つ一つ心を込めるように、選び取って。

 珊瑚の樣に鮮やかな緑のタタリカ。
 花言葉は「変わらぬ心」。
 それから。
 金魚の樣に赤いストロベリーフィールズ。
 花言葉は「色あせぬ愛」。
 水の箱に彩りが加わって華やかな水の世界は、まるで……。
「……んンッ」
 既視感のあるデザインを連想して、ニコリネは瞳を瞬く。
「游ぐつもりでいたけど、ハーバリウムみたいになってきた」
 それも素敵だけれども。一体どんなダンジョンが出来上がるのかしら。

 浮かぶイメージは今や克明な像を結び、触れた水の温度まで伝わってきそうなほど。
 抱えるには大きすぎる円柱型の箱を、ニコリネは優しい眼差しで見つめた。

 私は、この箱を大切な人にあげたいな。
 そんな想いが湧いてくる。

 ほつ。ほつ。プツン。――音が止む。
 最後の質問に心の中で答えたニコリネは目を開いた。
「全然迷わなかったのは蓄音機さんのお陰ね」
 格子窓に向かって笑いかけ、
「だって貴方、とても心地よい聲で話すんだもの!」
 軽やかな足音を立てて、部屋を出る。


●ニコリネ・ユーリカの迷宮
 あなたの迷宮はセノーテを中心に造られています。
 透明な流水の壁が迷路をつくり、水辺へ人を招くでしょう。

 水は滾々と湧き続け、枯れることはありません。
 セノーテは深く、底へ潜るにつれてその色を変えていきます。
 そして深い色をした水ほど、強い癒しの力が宿っています。
 迷宮の水を飲んだ者は、体の傷や心の痛みを回復させる事ができます。

 水中には【ストロベリーフィールズ】の金魚が泳いでいます。
 水中には【タタリカ】の花が珊瑚のように咲いています。
 この花たちは枯れることがありませんが、何かを害する力を持ちません。
 もしあなたが他の花を水中へ入れれば、その花も水の生き物へ変わります。

 あなたの迷宮は人の気持を和ませ、悲しみや痛みを遠ざけます。
 入ることも出ることも簡単にできます。
 しかし隠された涯や際を見つけて此処へ辿り着ける人はごく僅かでしょう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

マリーノフカ・キス
【竜翼】同行希望
関係は学友で、一緒に迷宮探索をしているパーティで……あと、他に恋人がいるのにまだ迫ってる軽薄男と、フッた子

「さて、さて。混ざるなんて緊張してしまうね。恥ずかしければ別々に探索するかい?」
なんて、からかうように笑って

……箱は、赤銅の色
中身は古びた刀、赤い宝石の嵌った黒曜石のナイフ、美しい羽飾りのついた盾
入れたいものはこの箱には大きすぎて、蓋が閉まらない

自分と、大事な人が二人。心を問われれば、そりゃあ、どうしたってこういうイメージになってしまうね
苦笑が浮かぶし、良くないのは分かっているけれど。……厭だとは思えないから、困ったものだよ

「『一番』大切なもの、かな」
なんて。笑って、答えて


綾峰・美羽
【竜翼】
大事な学友で、一緒にパーティを組んでるの
で、彼女持ちなのに迫ってきたから私だけを選んでくれるなら、って答えた
そんな関係

「あっは、どんな混沌が出来上がるんでしょ」
「ん~? 腹の中見られるいい機会だと思うけど」
なんて、冗談めかせて笑って

想像する箱は、陽光の橙
中にしまうのは、大鴉の羽根、吸血蝙蝠の翼、それといつかの夜空のようなラメの煌めく濃紺の布

自分と大切な妹と、忘れられない思い出になった日に見た景色
全部間違いなく今の私を作る大切なものだもの
これが作る迷宮がどんなものか、すっごく楽しみにしてるから
「で、そっちは何を思い浮かべたの?」
悪戯っぽく聞けば
「またそういうことを」
ってはたいとくね



 広くもない室内に二人は揃って入ることにした。
 一つしか無いベンチに隣り合わせで座る。
 その距離は離れすぎず触れ合うまでもない、程よい位置。

「さて、さて。混ざるなんて緊張してしまうね」
「あっは、どんな混沌が出来上がるんでしょ」
 互いの内側をこんな形で引き出して混じらせるのだという。
 頭の中で描いた事を晒し合うのはタブーに触れるようなスリルだろうか。
「恥ずかしければ別々に探索するかい?」
「ん~? 腹の中見られるいい機会だと思うけど」
 からかうように、冗談ぶって、笑い合う。
 そうでなくては伝えられないものがあるとでもいうように。

 蓄音機めいた装置が動き出して質問が始まった。
 マリーノフカ・キス(竜星のコメットグリッター・f01547)と綾峰・美羽(陽翼ホーリーナイツ・f00853)は口を閉ざし、暫し想像に思いを馳せる。

 マリーノフカは赤銅の色の箱を思い浮かべていた。
 翼の色によく似ているだろうか、金属の艶を持つ黒にも近い赤色。
 小さい箱ではなかったが、大きいとも感じない。そんなサイズだ。

 美羽が浮かべたのは陽光の橙。
 暖かい光から生み出されたような箱を思い浮かべる。
 そこに入れたい物はもう決まっていた。

 マリーノフカは箱の中にまず、古びた刀を入れた。
 そして、赤い宝石の嵌った黒曜石のナイフと美しい羽飾りのついた盾を丁寧に収める。
 けれど箱に対して入れる物があまりにも大きい。
 すぐに溢れて、箱には蓋がついているのだが、どうしても閉まらない。
 自分と、大事な人が二人。
 心を問われれば、そりゃあ、どうしたってこういうイメージになってしまうね。
 苦い笑みを浮かべて、それでも中身を変えることはできない。

 いつか見た光景を美羽は思い出していた。そこから象徴となるものを選び取っていく。
 最初に大鴉の羽根を箱に入れた。
 次は吸血蝙蝠の翼。
 そしていつかの夜空のようなラメの煌めく濃紺の布を収める。
 これらは自分と大切な妹の、忘れられない思い出になった日に見た景色。
 全部、間違いなく今の私を作る大切なものだもの。

 想像の中で、二人はそれぞれ自分の箱を見つめている。
 片方は苦笑して、もう一人は試すように笑う。

 良くないのは分かっているけれど。……厭だとは思えないから、困ったものだよ。
 これが作る迷宮がどんなものか、すっごく楽しみにしてるから。

「これで終わりかな」
「そのようだね」
 音声が止んだのを確かめて、声を出す。
 長いような短いような時間だったと、部屋を出ていきながら。
「で、そっちは何を思い浮かべたの?」
 美羽に悪戯っぽく尋ねられれば、マリーノフカは大人しく頷き。
「『一番』大切なもの、かな」――なんて。笑う。
 そうすれば美羽は、いつものように慣れたように、
「またそういうことを」
 軽くマリーノフカの肩をはたいた。


●マリーノフカ・キスと綾峰・美羽の迷宮
 あなた達の迷宮は重なり合っています。
 ジグザクした道や階段を巡らせた複雑な構造をした建物です。

 迷宮は常に夜で、床や壁まで布を広げたような夜空となっています。
 星を散りばめた夜道を橙色のランプが照らしているでしょう。

 行く手には幾つもの分かれ道が現れるでしょう。
 けれどこの迷宮で道を選ぶことは危険です。
 訪れた者が選択をする度、この迷宮は少しずつ崩れていきます。

 この迷宮には秘密の宝物庫が隠されています。
 それは吸血蝙蝠と大鴉の石像が鎮座する部屋の奥にあります。
 宝物庫に繋がる扉には古びた刀が突き刺さっています。
 古びた刀は楔です。
 抜けば扉は開かれ、中に入る事ができるでしょう。
 部屋の中には二つの宝箱が置かれています。
 【赤い宝石の嵌った黒曜石のナイフ】の入った宝箱。
 【美しい羽飾りのついた盾】の入った宝箱。
 この宝箱を両方持ち出すことは出来ません。
 しかし片方の宝箱を選べばこの迷宮は崩壊します。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リサ・マーガレット
箱は大きいくらいで暖色。中には、探偵の友達の愛読書と、魔法の杖と、アテナが描かれた絵画にします。
一体どんなダンジョンになるんだろ。
謎解き系とかなら嬉しいな。



「ダンジョンを作る装置があるなんて」
 なんだか面白そう、とリサ・マーガレット(活発系マルチダンサー・f32587)は呟いた。
 懺悔室のような部屋に案内されると、彼女は好奇心に満ちた瞳であたりを見回す。
「本当にここで考えるだけでいいんだよね」
 手順を確かめるように一度問いかけたが、部屋の周りにも誰もいないのか返事はない。
 その内に蓄音機めいた装置が動き出し、質問が始まった。
 リサは集中するように、ギュッと目をつむってみる。

 思い浮かべるのは、大きい箱。
 たくさん物が入るような大きな箱がいいな。

 箱の色はね、暖色。あたたかい印象を持つ色。
 一色じゃないんだ。
 オレンジとか黄色とか赤とか、そういう色を混ぜた斑色。

 この箱にものを入れるんだね。
 何にしようか、ちょっと迷うけど。
 ダンジョンになるならこういうのはどう?

 まずは探偵の友達の愛読書。
 ミステリー小説を入れたら、謎めいた迷宮になるかも。

 二つ目は魔法の杖。
 僕の使う杖を入れておくよ。
 ダンジョンでの戦いで役に立つといいな。

 最後の三つ目は、アテナが描かれた絵画。
 アテナは戦いと知恵の女神。
 大きな都市の守護女神ともいわれている。
 この絵を入れたら、ダンジョンにどんな影響を与えるだろう。

「一体どんなダンジョンになるんだろ」
 謎解き系とかなら嬉しいな。
 完成を楽しみに、リサは明るく笑うと部屋を出た。


●リサ・マーガレットの迷宮
 あなたの迷宮は図書館に似ています。
 大きな本棚が並んだ迷路です。

 迷路を抜けるには数々の仕掛けを解かなくてはいけません。
 暗号を入力しないと開かない扉や、進む順序を間違えると通れない廊下。
 難解なギミックが次々と行く手を阻みます。

 知恵を使い謎を解くことが必要となるでしょう。
 時には魔法の力を必要とする場面もあるでしょう。

 どうしようもなく困った時は、本棚を調べて下さい。
 本棚にある書物には謎解きのヒントが書かれています。

 迷路を突破した者には、女神の祝福が与えられるとされています。

大成功 🔵​🔵​🔵​

古明地・利博
アドリブ、絡み歓迎

「深層心理を汲み出してダンジョンを作るみたいな感じかな?装置の構造とか色々調べたいけどそれは後で、まずはやってみよう。体験すれば色々と分かるかもしれないからね。」

想像した内容
(……白。苦手な色。小さな玩具箱。パイプベッド、カミソリ………………木箱のオルゴール。
……嫌だ、見たくない。)

「……なんか、変な感じだ。これもあの装置の効果かな?」



 そもそも『ダンジョンメーカー』とは。
 先の戦争後に大魔王が封印されていたダンジョンの最深部で発見された機械なのだという。
 地下迷宮アルダワを造りあげた『最初の魔法装置』。
 この機械は大魔王が死ぬと共に封印装置としての役割を終え、本来の機能を取り戻した。
 今までもこの装置によってアルダワ魔法学園の地下に新たなダンジョンは造られてきた。
 けれどこの装置を直接調べたという記録があるのかは不明だ。
 故に、研究者として好奇心を唆られるものがあった。

「深層心理を汲み出してダンジョンを作るみたいな感じかな?」
 提示された趣旨から意図を読み取ろうと、古明地・利博(曰く付きの蒐集家・f06682)は考えを巡らせた。
 いかにも実験的な催しだ。
「装置の構造とか色々調べたいけどそれは後で、まずはやってみよう」
 この時、利博は被験者であり、観察者でもあった。
「体験すれば色々と分かるかもしれないからね」
 壁の向こうにある装置が動き出した。蓄音機めいたこの装置は『ダンジョンメーカー』ではないのだろう。音声を再生するためのプレーヤーと考えるのが妥当だ。
 ベンチに腰掛けた利博は注意深くその声を聞き、違和感に気がつく。
「この音……」
 妙に心地が良い。
 微かなノイズや声のテンポは、そのように調整されているのかもしれない。
 ある種の周波数に調整された音楽は脳に影響を与え、体の緊張を解し、脳の覚醒を促すのだという。
「こうやって瞑想状態に誘導しているとか?」
 仮定として、この実験的に思える催しが成功するには、協力者達が想像力を働かせられる環境が必要なのだと推測される。
 ……それなら、委ねよう。
 探究心のままに、よい実験結果が得られることを願って。
 利博は瞳を閉じて、深く息を吸いながら想像の世界へと思いを馳せた。

 まずは、玩具箱を思い浮かべる。
 子供の頃にこんな箱を持っていただろうか。
 懐かしいような気もするし、見覚えがない気もする。
 サイズは小さい。成長した自分の手と比べるからかもしれない。

 箱の表面には何も描かれていなくて。
 ……ただ白い色をしている。これは苦手な色。

 玩具箱に入れるのは、玩具じゃない。
 まずはパイプベッド。スチール製の飾り気のないシンプルな造り。
 寝るには少し硬くて上に乗ると軋む音を立てるようなやつだ。
 
 小さな箱の中に入れられたベッドは、サイズも縮んでいるだろうか。

 次はカミソリ。
 刃物だ。
 身近にある日用品でもあるけれど、切れ味は鋭い。
 子供の手に触れさせてはいけないのに、玩具箱の中にある。

 最後の三つ目……。
 浮かんできたイメージを利博は咄嗟に追いやろうとした。
 でも、もう、決まってしまっていた。
 他に入れるものはない。いくら考えてもこれだけだ。
 …………木箱のオルゴール。
 それを、収める。

 想像の中で利博は玩具箱の蓋を閉めていた。
 音声に箱を見ているのだと言われて、例えようもない胸騒ぎがする。
 嫌だ。
 嫌だ、見たくない。
 それが最後の質問だったと気がつけば、拒絶するように想像を打ち消していた。

「……」
 利博は青ざめた顔のまま、しばらく動かなかった。
 自分の出した答えを反芻しながら、確認をして記録をする。
 行為に、意味があるのかは解らない。
 それでもそうせずにはいられないのは、研究者としての性なのだろうか。


●古明地・利博の迷宮
 あなたの迷宮はなだらかな砂丘です。
 砂時計のような空間に詰められた白い砂の上に【パイプベッド】が一台置かれています。

 ここを訪れた人は、砂を掘らない限り外に出られません。
 砂の中には【カミソリ】が埋まっています。
 冷たい刃は砂の中に散らばるようにして落ちています。
 この【カミソリ】の刃に切られても肉体に傷は付きません。
 しかし心を傷つけられたような錯覚を覚えるでしょう。

 時折風に乗ってどこからかオルゴールの音色が聞こえてくるでしょう。
 その音色は砂の中から【木箱のオルゴール】を見つければ止まります。

 砂丘のずっと深くに【小さな玩具箱】は埋まっています。
 【小さな玩具箱】が見つかれば外に出ることが出来ます。

大成功 🔵​🔵​🔵​

篠突・ササメ
想像から迷宮ができる。なんだか言い得て妙な気がするよ
うまく言えないんだけど、面白いね

思い浮かぶ箱というと、両手で収まるくらいの大きさかな
きっと古い木箱みたいな年季の入った焦げ茶色だろう
重そうでぼろっちいけど、存外嫌いじゃないな

さて、何を入れよう。雨…雫はきっと放っといても入ってしまうな
多かろうと少なかろうと、それが滴り続けるのはいつも変わらない
なら鮮やかな緑を入れたいな、初夏の山や畑が青々しい頃の緑
あとは…色々浮かんだけれど、これだなって思ったのは、誰かの歩く音だ

うまく形になったかな
…ああ、昔よく見た景色に似ている気がする
雨音が気にならない程穏やかで懐かしくて、少しだけ寂しいね



 この狭い室内にも雨の気配はしていた。
 ゆるりと男は入室し、落ち着いた様子でベンチに腰掛ける。

「想像から迷宮ができる」
 なんだか言い得て妙な気がするよ。
 と篠突・ササメ(誘い水・f30166)は言葉遊びを楽しむように柔らかな笑みを浮かべた。
 舌の上で響きを転がしてみてから。
「うまく言えないんだけど、面白いね」
 装置へ向かって呟く。
 ほんの冗談のような調子で。

 蓄音機めいた装置から流れてくる音声は耳障りもよく。
 ササメは相槌のように微かな頷きをしてみせた。
 箱を思い浮かべてと声が言う。

「思い浮かぶ箱というと、両手で収まるくらいの大きさかな」
 両方の掌を水をすくうように合わせて、視線を落とし。
 これぐらいの大きさだろうと空想の箱を思い描く。
「色は」
 きっと古い木箱みたいな年季の入った焦げ茶色だろう。
 長い年月を渡り、傷や汚れも染み込んでいる。
 寂びた佇まいには、どこかぬくもりも感じられて、案外しっかりした造りをしている。

 重そうでぼろっちいけど、存外嫌いじゃないな。
 想像の箱を眺めてササメはそんな事を思う。

「さて、何を入れよう」
 雨……雫はきっと放っておいても入ってしまうな。
 多かろうと少なかろうと、それが滴り続けるのはいつも変わらない。
 選ぶ意思など関係はない。それはササメの持つ因果である故に。

 二つ目からは好きに選ぶ事ができるのなら。
 鮮やかな緑を入れたいな。
 初夏の山や畑が青々しい頃の緑を。
 やがて梅雨が来るまでのひとときに見せる自然の彩。

「あともう一つだけと言われれば迷ってしまうな」
 景色や、色や、香り、あるいは感触など。
 記憶をたどるように、様々なものが浮かんだ。
 その中でこれだな、とササメが選んだのは足音だった。
 誰かの歩く音。
 自分以外の誰かがそこにいるのだと感じられる確かな響き。
 それを最後にそっと想像の小箱へと収める。

「うまく形になったかな」
 ササメは想像の中で小箱の中を覗き込む。
 ……ああ、昔よく見た景色に似ている気がする。
 自分の中から分けたもので出来ているからだろうか。
 思えば思うほど、イメージは克明に彩られていく。
 雨に濡れる緑に囲まれた人里を思わせる、小さく遠いような箱の中身。
 雨音が気にならない程、穏やかで懐かしくて。
 少しだけ寂しいね。
 ササメは仄かな嘆息を零し。
 ひっそりと小箱の蓋を閉じて、想像を終えた。


●篠突・ササメの迷宮
 あなたの迷宮は雨の降る里で造られています。
 里山に囲まれたのどかな田園の周りには、点在する民家が見えます。
 民家は年季の入った木造建てで、人の住んでいるような気配があります。

 この迷宮に人はいません。
 【誰かの足音】がするだけで人は誰一人いません。
 【誰かの足音】は無害な存在です。

 迷宮には常に雨が降っています。
 天井は雲に覆われ、辺りは薄暗いことでしょう。
 雨は草木を育み、青々と茂らせています。
 雨の勢いや水量は変化します。
 雨のしずくには人の心に影響をもたらす力があります。
 里の中を歩く人は、次第に寂しさや郷愁の念を感じるでしょう。

 この迷宮の出口は古い木の扉です。
 扉は里のどこかに佇んでいます。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロク・ザイオン
(奇妙な声に、いちいち生真面目に答えてゆく耳障りな声)

……赤い、箱。
でも中は白いんだ。
そんなに大きくはない。(手を肩幅程度に軽く広げて)このくらい。
……嫌いな色は、おれにはないよ。
綺麗な色だと思う。

みっつ。
……海。水と、
果物……りんご、と
小さい獣。……仔猫のような。ふわふわの。

キミは、さみしくないように、って言ったけどさ。

……この獣は。
獣は、きっと、箱の中にはいたくないと思うんだ。
水も、りんごも、これを満たしてはくれないんじゃないか、って。おれはそう思った。
うまく噛み合わなくて、うまくいかない。
そういう、箱。

……でも。
多分、これが、おれの箱だ。
だから、入れ替えなくていい。



 狭い箱のような部屋。
 ロク・ザイオン(変遷の灯・f01377)はベンチに大人しく腰掛けていた。
 静かな眼差しは格子窓の向こうにいる装置を見つめている。
 やがて歯車が回りだし、装置が動き出すと鬣の髪の毛が二房、獣の耳のように揺れた。
 そうか、お前は……キミは話すのか。
 どこかノイズの混じる声が、真鍮のラッパから聞こえてくると、ロクは耳を澄ませた。
 うん。うん。
 流れてくる音声に合わせて、小さな相槌を打つ。
 一つ一つ、丁寧に生真面目に話を聞く。
 その様子は人と話す時と変わりのないものだった。

 想像するだけでいいとキミは言うけれど。
「話してもいいのなら、声に出してもいいかい」
 尋ねると、装置はじっと沈黙を返してくる。
 ロクは、濁った声でぼそぼそと言葉を紡いだ。
「……赤い、箱」
 箱を持ち上げてみせるように手を持ち上げて。
 身振り手振りで箱の形や大きさを現してみせる。
 伝わっただろうかと、少し小首をかしげて装置に伺いつつ。
「でも中は白いんだ」
 表と裏で色違い。でも中を覗くまで、人はその事を知らない。
「そんなに大きくはない。このくらい」
 自分の肩幅程に開いた手で、想像した箱の輪郭をなぞり。
 手で抱えるならこんな感じになるだろうかと仕草をしてみせた。
 好きか嫌いかと装置は尋ねたから。
「……嫌いな色は、おれにはないよ。綺麗な色だと思う」
 ちゃんと考えてから、答えを告げる。

「みっつ」
 しぱ、しぱ、瞼をゆっくり瞬いた。頷きと相槌の仕草。
 箱にものを入れるのだという。
 これは想像だから、なんでもいいのだろう。
 思い浮かべたものを順番に、歌うような調子で答えていく。
「……海」
 水と。
「果物……」
 りんご、と。
「小さい獣」
 ……。
 ……仔猫のような。ふわふわの。な。
 具体的なイメージを考えながら言葉を付け足した。
 全部箱に入る大きさで、丁度よいくらいに収まったのだと思う。

 それから装置の声は少しの間途切れて、ロクの言葉を待っているようだった。
 ゆっくり考えられるように、してくれているのだろう。
 俯いた姿勢を取りながらロクは箱の中を覗き込むようにして言葉を探す。
 なにか言いたいことがあって、でも簡単には説明ができないような気がして。
「キミは、さみしくないように、って言ったけどさ」
 ざらり。装置に向かってゆっくり話しかける。
「……この獣は」
 ふわふわの小さな命。強そうでもなく頼りない姿。
 仔は脆い。
 それでも箱の中にいる間は生きていけるだろう。
 けれど。
「獣は、きっと、箱の中にはいたくないと思うんだ」
 獣は箱の外にも世界があることをきっと知っている。
「水も、りんごも、これを満たしてはくれないんじゃないか、って。おれはそう思った」
 だから探して、求めるようになって。
 いくら与えられても。
「うまく噛み合わなくて、うまくいかない」
 想像の箱を覗き込む瞳が、寂しげに細められた。
「そういう、箱」
 ざらりと息を吐くと、最後の音声が流れてくる。
 うん、見つめているよ。と返事をして。
「……でも。多分、これが、おれの箱だ」
 どこか満足げな心地ですらあった。よく出来たのだと思う。
「だから、入れ替えなくていい」
 蓋をして閉じれば完成。
 装置は、もうなにも話しかけてはこなかった。

「じゃあ」
 別れの挨拶をして、部屋を出る。
 後ろで装置の歯車が一度だけ控えめな音を立てた気がした。


●ロク・ザイオンの迷宮
 あなたの迷宮は海上都市で造られています。
 都市の半分は水没し、白い建物が海面から突き出た状態です。
 この迷宮は他の迷宮から隔絶された空間になっています。

 都市の一番高いところには【りんご】の樹が生えています。
 その樹にはいつでも熟した果実が成っています。
 【りんご】の樹の下には一匹の【小さな獣】が住んでいます。

 【小さな獣】は訪れた人にりんごを分けてくれるでしょう。
 【小さな獣】は海の外にある世界の話を聞かせると喜びます。

 都市から眺める海は途方もなく広くて果ても見えないでしょう。
 海はとても深くて底も見えないでしょう。

 迷宮から出るには海を壊して下さい。
 あなたの攻撃で、海は道を拓きます。
 その時、白い都市は赤く染まっているでしょう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ノヴァ・フォルモント
自分の内側ね…
想像したことも無いが
確かに興味深くはある

通された四角い小部屋
覗く格子窓の向こう側へ
語りかけてと言わんばかりの

…そう、質問に答えるだけ
想像するだけでいいのだな



まずは箱か…そうだな
大きくも小さくもない
腕に抱えられるくらいの大きさで

深い、青色の
まるで夜空のような
ああ、とても好きな色だよ

月を浮かべ、星を散らせて
…あと、もう一つ
一雫の流星を

嗚呼、絵に描いたような美しい星空だ
何時も傍にあって
でも決して手の届かないもの



「自分の内側ね……」
 なんとも妙な話に聞こえたけれど。
 想像したことも無いが、確かに興味深くはある。
 何が現れるだろう。
 自分の中から零れるように生まれた景色を旅するのは、どんな心地になるだろう。
 次に向かう先を決めた男は、流れるような足取りで出掛けたのだった。

 ノヴァ・フォルモント(待宵月・f32296)は四角い小部屋へ入ると、腰を下ろしたベンチに月の光を灯すランプを置いた。ほのかな明かりを灯してみれば、白く優しい光が部屋を照らしだす。
 格子窓に目をやり、まるで語りかけてと言わんばかりの設えだと思う。
 やがて。カチ、コチ。歯車が回る音がして、蓄音機めいた装置のラッパから声が流れだした。
 開幕の合図のようだ。

 ……そう、俺は質問に答えるだけ。
 想像するだけでいいのだな。

 後ろの壁に背を凭せ掛けて、ノヴァはくつろいだ姿勢を取った。
 まずは箱をと声が言う、話を聞かせてとねだられた時のようだと感じながら。
「……そうだな」
 静かに瞼を伏せて、夢見るように思い描きながら心の中で言葉を紡ぐ。
 それはまるで幼子に物語を聞かせるような語り口にも似ていただろうか。

(その箱は、大きくも小さくもない。
 腕に抱えられるぐらいの大きさをしている)

 思い浮かべたそれが、自分の前にあるような気がした。
 立方体はふわふわと宙に浮かんでゆっくりと回転している。
 今にも何処かへ漂ってしまいそうな様子だ。
 じっとしていてごらん、君の色を教えるから。

(深い、青色の。
 まるで夜空のような箱)

 はじめから決まっていたことのように滑らかに答えながら。
 想像の箱をノヴァは優しい眼差しで見つめている。
 好きか、嫌いか、と装置が尋ねるから。
(ああ、とても好きな色だよ)
 ゆったりと頷いて、ノヴァは微笑んだ。
 次は箱にものを入れるのだと、声は言い。

(そうだね。何を入れようか)
 深い青色の夜にはなくてはならないものがある。
 箱の蓋を開いて、一つずつ。
(月を浮かべよう)
 丸い月が夜空の箱に浮かんで白く輝く。
(星を散らせて)
 キラキラとした砂粒のように小さな光を振りまいて。
 燦めく星々が箱の中に広がっていく。
 ……あと、もう一つ。と逡巡をすこし。
(最後は一雫の流星を)
 ぽつん、と投じたそれは光の尾を引いて夜空を駆け巡るだろう。

(嗚呼、絵に描いたような美しい星空だ)

 腕の中にその箱を抱えられたら素晴らしいだろう。
 手で触れられそうな距離に箱はある。
 けれど指先を伸ばした途端、箱は遠ざかるのだとノヴァは知っている。
 この箱は俺にとって。
「何時も傍にあって、でも決して手の届かないもの」
 伏せていた瞼を開けば、想像の箱も消えていた。

「さて、これで終わりかな」
 ランプを持って立ち上がると、ノヴァは格子窓に一瞥をして部屋を出た。


●ノヴァ・フォルモントの迷宮
 あなたの迷宮は青い夜空の中に浮かんでいます。
 それは星にも似た球体の建物です。
 建物は柔らかく仄かな白い光を放っています。

 建物の大きさはあなたが一巡りするのに丁度いい大きさをしています。
 建物の中は複雑な迷路となっています。
 球体構造の迷路は床も壁も縦横無尽に歩くことが出来ます。

 夜空には小さな星々が浮かんでいます。
 美しい星達は人々を見守るように輝いています。

 訪れた人が夜空へ飛び降りた場合、その人は建物の上に戻されます。
 もしこの迷宮から出たいと願うのなら。
 【一雫の流星】が現れて出口まで導いてくれるでしょう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジェイミィ・ブラッディバック
敢えてこの依頼、受けましょう
朧気な私のルーツに真に迫るまたとない機会です

…あー、心理テストですか

箱の色は銀色ですかね、光沢やや控えめでしょうか
落ち着いた感じの燻し銀、的な感じです

で、ここに詰める物?
ふむ、ではアレです、前提として縦横6mくらいの箱を想定します

まず一つ目、私の普段使っているパソコンですかね
今の私を象徴するものでしょうか
二つ目は私のキャバリア、TYPE[JM-E]です
戦乱の世界で生きていた私を象徴するものですかね
三つ目は…WHITE KNIGHTのAIユニットです
銀河帝国時代の私の象徴と言えます

全て私の経験の象徴…封じられた記憶への渇望を覚えますかね?
…ホントに心理テストですねコレ



「自分の内側……ですか」
 これはまた荒唐無稽な話だった。
 異世界の、それも魔法が使われているのならそんな事も有り得るのか。
 『ダンジョンメーカー』
 装置の性能は、原理や仕組みは、と考えてしまうのは性だろうか。
「想像から建造物を造り出す機械、興味はありますね」
 ただ、二つ返事で引き受けるのは躊躇われ、しばらく逡巡する時間を要した。
 が、やがて心は決まった。
「敢えてこの依頼、受けましょう」
 朧気な私のルーツに真に迫るまたとない機会です。
 そうしてジェイミィ・ブラッディバック(脱サラの傭兵/開発コード[Michael]・f29697)は魔法学園へと向かったのだった。

 案内された部屋の中に入ったジェイミィは礼儀正しい様子でベンチに腰掛けて、作動を始めた蓄音機めいた装置から流れる音声を黙って聞いた。
 それは何処かで聞いたような形式をしていた。
「……あー、心理テストですか」
 なるほど、なるほど。
 質問の答えによって深層心理がわかると言う触れ込みで度々見かけたりはする。
 しかし、どれも根拠はなさそうなものばかりで、若い学生たちが遊びでやるような代物である筈だ。
 何かを探ろうとする意図で使われているのか、それともただの戯れか。
 ただ、ジェイミィの場合は、明確な目的があってこの依頼に参加したのだ。
 自分の過去を探る、手がかりを得る。
 そのための答えを装置に伝えなければいけない。
「えー、まずは箱の色ですね」
 口に出さなくてもいいとは言われたが、説明は口頭で伝える方がやりやすい。
 真面目な口調で、ジェイミィは話を始めた。

「箱の色は銀色ですかね、光沢はやや控えめでしょうか」
 自分の箱は当然金属にちがいなかった。
 しっかりとした造りの、重厚な造りをしている気がする。
「落ち着いた感じの燻し銀、的な感じです」
 音声が次の指示を出した。
「で、ここに詰める物?」
 それでしたら。と頭の中で計算と精密な設計を素早く組み立てる。
 臨機応変にその場で対応する姿勢は流石のものだ。
「ふむ、ではアレです、前提として縦横6mくらいの箱を想定します」
 三つ。必ず三つ……心理テストでよく聞くような文言ですね。

「まず一つ目、私の普段使っているパソコンですかね」
 今の私を象徴するものでしょうか。
 自分の記録や情報を探るなら、これは欠かせないでしょう。
「二つ目は私のキャバリア、TYPE[JM-E]です」
 戦乱の世界で生きていた私を象徴するものですかね。
 思い出した中で一番古い記憶があるとしたらこれかもしれません。
「三つ目は……WHITE KNIGHTのAIユニットです。」
 銀河帝国時代の私の象徴と言えます。
 解析したばかりでまだ新しいものでもありますね。

 次は箱の中を見つめていると。解りました。
 ジェイミィは暫し考え。
「全て私の経験の象徴……封じられた記憶への渇望を覚えますかね?」
 そんな気がしました。と少しあやふやな調子で答えた。
 こういう感じで良かったのだろうか、という疑問が拭えない様子だ。

 すべての質問が終わり、装置が停止する。
 その事を確認して、ジェイミィは席を立った。

「……ホントに心理テストでしたねコレ」
 答えとか、あるんでしょうか。
 そんな事を思いつつも、お疲れさまでしたと一声呟き部屋を出る。


●ジェイミィ・ブラッディバック
 あなたの迷宮は製造プラントに似ています。
 ここでは機械の壁が作られ続け、迷宮を常に変化させています。

 あなたはこの迷宮の中で彷徨うことでしょう。
 出口を求めますか? あるいは最奥を目指しますか?

 機械の壁はあなたの進路を厳重に閉ざし進行を妨げるでしょう。
 迷宮を破壊しても、破壊箇所はすぐに自動的に修復されます。

 製造プラント内の設備は全てAIによって管理されています。
 AIはあなたに「この奥は何もなく危険な場所だ」と繰り返すでしょう。
 しかし、迷宮内の全てを把握している訳ではありません。

 迷宮の奥には、機械が壊れたままにされた場所があります。
 それは誰にも修理することが出来ず、放置されています。
 あなたがもしそれを修理したのなら、何かを思い出すかもしれません。

 この迷宮の奥への道は突然消えて真っ暗な闇が広がっています。
 たどり着き足を踏み入れた者は、意識がブラック・アウトするでしょう。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『『ダンジョンメーカー』ダンジョンの探索』

POW   :    肉体や気合でダンジョンを探索、突破する

SPD   :    速さや技量でダンジョンを探索、突破する

WIZ   :    魔力や賢さでダンジョンを探索、突破する

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 魔法学園の地下奥に新たな迷宮は出来上がった。
 複数人の想像から創造された迷宮は並び合い。
 それぞれのエリアに分かれたようになっている。

 他人の目にはそれが何かもわからないだろう。
 自分の迷宮を知るのはあなただけだ。

 あなた達は、自分の迷宮に転送される。

 災魔との戦いが始まるには、まだ時間が在る。
 さて、どのように過ごすだろうか。
尾守・夜野
「ほほぅこうなったんだな」
転送された先であたりをぐるりと見渡す
あらゆる物が存在し同時に全てが紛い物の中
間にあるのは本物のドア
続く先は出口ではないにしても

きっと敵が紛れても誰がどこに紛れても気づかずいつかそれすらもこことして扱われるんだろうな

(とりあえず、戦場になりうるんだしどこに何があるか把握しておきたい…)
扉を開けて中や外、ふらりあちこち見歩いて
見つけた興味深い模型は手にとって眺め歩き飽きたらそこらへ

そうやって動くうちに出口からは遠く離れそうだ
そも扉だらけでどれが出口なのか…
多分一番最初の回廊で出口の形把握しなかった事が敗因だな

分かっても後悔しても反省はせず
戦になるまで飽くまでふらふらしてる



 深く、深く、沈んでいくような感覚があった。
 尾守・夜野(墓守・f05352)は自分の迷宮をその瞳に映して、吐息をつく。
「ほほぅ、こうなったんだな」
 ぐるりと見渡せば、長い廊下が続いている。周り角の向きを見るに、此処はどうやら回廊になっているらしい。
 どこか空気の重い、静かな場所に思える。
「『写真』はこれか」
 答えの一つ。
 両壁を埋める写真の群れはまるで模様のような様相をしていた。
 モザイクじみたコラージュとでも言おうか。
 写真には様々な場面が写っているのだろうけれど、そのどれもが黒く塗りつぶされている。
 夜野の口元に、薄っすらと寂しげな笑みが浮かんだ。
 けれどそれはすぐに普段通りの表情へと変わる。

 とりあえず、戦場になりうるんだし、どこに何があるか把握しておきたい……。
 ふらりと、どこか夢の中を彷徨うような足取りで歩き出す。
 案外、物が多い。
 床に転がされたり、丁寧に飾られたり、中には動物の姿まである。
 鎖や、星や、飾りにしては統一性もないが、どれも本物に見えるそれはただ静かにそこにあった。
 触れれば解ったが、どれもプラスチックの模型だ。これも答えの一つだったと覚えている。
 興味深いものは手にとって眺め、飽きたら元の場所へ戻して先に進む。

 あらゆる物が存在し、同時に全てが紛い物の中。
「本物があったとして、それがわかるのか?」
 きっと敵が紛れても。
 誰がどこに紛れても。
 気づかずいつかそれすらもこことして扱われるんだろうな。

 夜野は立ち止まると、壁にある写真をグッと掴んだ。
「やっぱり、なにか在るよな……この奥」
 カサカサ、パリパリ、塵積もる木の葉を取り除くように写真を剥がし始める。
 ほら、これだ。
 爛々とした赤い瞳が見開かれ、出てきたものに視線を注ぐ。わずかに息を呑んだ。
 写真の下の壁に、隠されたドア。
 一つではない。
 そう自覚した瞬間から、扉は現れた。
壁に床に奥から浮き出てきたように次々と。
 無数の扉は元からそこにあったのだろうか、それに今、気がついただけだろうか。
「……ドアは本物なんだな」
 扉へ腕を伸ばせば、触れた指先から伝わる重たい感触。
 ざわざわと音もなく蠢く気配は、己の内側から響いているのだろうか。
 それとも扉の奥にあるものが微かな波でも起こしているのか。
「開けてみるか」
 ドアノブを握る手に力を込めて回し、分厚い扉をゆっくりと押し開いていく。
 ギィ、と錆びついた音を立てて顕となる中身。

 四角い箱めいた部屋がある。
「座敷、だな」
 まるでどこかの屋敷にある和室だ。
 中を確認してから、次の扉へ。
 在る扉は、物置。
 在る扉は、寝室。
 在る扉は、書斎。
 扉はじつに多種多様な部屋に繋がっている。
 見るからに女性らしい部屋もあった。
 罠だらけの部屋まで在る。
「……」
 無言のまま、次々と部屋の扉を開けていく。
 中に収められた道具や家具は模型ではない本物もあっただろうか。
 どこかはっきりとはしない。
 時間はどれほど経ったのか。
「……出口はどの扉だったかな」
 ふと気がつけば周りは扉だらけで、解らなくなってしまった。
 遠く離れた場所にあるような、そんな気もするが。
 多分一番最初の回廊で、出口の特徴を確認していなかったのが敗因だと息を吐く。
 後悔はあれど、反省はない。
 どこか覚束ない足取りでやみくもに歩いていく。

 戦になるまで、飽くまで、こうしていようか。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レスティア・ヴァーユ
目を開けた先の庭園に
一瞬呆けたような驚きを
その光景は初めて見るものなのに
分かっていたような、分かっていなかったような
とても不思議な心地がする

…その美しさに呆けている場合でも無い
まずは構造と出口だけでも確認しておかなければ

しばらく歩けば
まだ敵意や害意を感じないこの迷宮が
段々と居心地が良く感じられるような気がして
少しぼんやりと見て回りながら
どんどんと目的を忘れて
気がつけば西洋風の東屋に

時間の経過…ふと我に返り
自分の代わりに唱う鳥の声に気づき、はたと
流石にこのままでは出られないのでは、という危機感
居心地が良すぎて失念し掛けていた
この鳥ならば出口を知っていそうな気がする

では――案内は、災魔を倒した後に



 爽やかな風が頬を撫でた。
 目を開けば、周りに広がるのは緑豊かな庭園。
 此処は地下にあるはずだが、頭上に広がる空は何処までも青く澄んでいる。
 呆けたような驚きに、レスティア・ヴァーユ(約束に瞑目する歌声・f16853)の瞳は一瞬、丸くなる。
「これは……庭園か」
 生み出されたばかりの真新しい光景に覚える淡い既視感。
 自分の中にあった思いがこのような景色を造り出したのだ。
 分かっていたような、分かっていなかったような。
「妙な気分だ」
 うまくは言い表せないが、たしかに自分の想像だと思わせるものがある。

 地下迷宮であることが信じられない、風光明媚な景色だ。
 気ままに見て回りたい気持ちが起こらないでもない。
 しかし、やがては現れる敵に備えて、レスティアの心は警戒を忘れない。
 迷宮内の構造と、出口の把握だけでも確認しておかなければ。

 足を踏み出せば、確かな土の感触と草葉の立てる音がして、ここが確かな現実なのだと教える。
 そのまま、レスティアは歩き出した。
 此処のことを全て知っているような気がした。

 道の端に咲いた小さな白い花の群れ。
 丸い葉をつけた木が伸びやかに枝を張り、アーチを作っている。
 そこを通り抜ければ、なだらかな坂が現れて。

 遠い昔に一度来た場所に訪れた時のようだった。
 記憶にない場所である筈なのに、体の感覚が覚えているような。
 それなのに見るもの全てが新しい、不思議な心地がしている。
「美しいな……」
 思わず、青の瞳を微かに和らげながら。道を一つ、一つ、確かめていく。
 なんの悪意も、害意のない、純粋な空間に思えた。
 わざと道に迷わせるような仕掛けも、人を傷つけようとする罠もない。
 ついつい、居心地の良さにぼんやりとしてしまう。

 大方一巡りして、少し座りたいと思った頃合いになにか建物が見えてきた。
 花畑に囲まれるように慎ましく佇んでいるのは、白いガゼボ。
 中に入り、壁に沿って置かれた長椅子に腰掛けて、美しい景色を眺める。
 穏やかな、ひとときだった。
 どれくらいそうしていただろう、ふと我に返って席を立つ。一休みには十分な時間だった。
 自分には為さねばならないことがある。そう思った時。
 レスティアは遠くから流れてくる歌声を聞いた。自分の代わりに歌う何者かがいる。

 ガゼボを離れ、導かれるように歌声の主を探せば。
 一本の灌木の上に、一羽の白い鳥が止まっていた。
 純白の美しい翼を持った鳥は、レスティアが近くまで来ると歌をやめた。
「この歌は、お前が歌っていたのか」
 ピルル。と鳴き返して、鳥が近くの枝まで降りてくる。
 丁度目の合う高さだ。じっと見つめれば、鳥の方もレスティアを見ていた。
 鳥の宝石のような青い瞳に、どこかで見覚えがあるような気がする。
 ああ、そうか。とレスティアは全てが解ったような気がした。
「お前は出口を知っているんだな」
 なぜだか、確信があった。
 鳥はきっと頼めばすぐに自分を連れて案内をしてくれるだろう。
 けれど今はまだその時ではないから。
「では――案内は、災魔を倒した後に」
 歌うように囁いて、約束を結ぶ。
 鳥が一度、高く鳴いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

綾峰・美羽
【竜翼】
あはは、盾も回復も使える騎士が前のがいいんじゃないです?
なんて軽口とと共に後ろをついていく
夜空を見上げれば、ちらりとその顔を見るけれど
視線を感じたらすぐにそらす
蝙蝠と大鴉にはやっぱりこうよね、と頷いて

最後に二つ並んだ宝物
やっぱそうよね、とすっごいジト目を向けるけれど
楽しんでいるような雰囲気で
「“どっちか”ですって、選んできてくださいな」

彼の恋人はよく知っているし、ここに私といる時点で選択は分かってるけど
「ほんとに? げ、って思ったんじゃない?」
冗談めかせて言いつつ、選択に内心でだけ安堵して
「一人私だけを選んでくれるなら、ってあの日からいつも言ってるでしょ」
なんて、君に肩を竦めてみせるね


マリーノフカ・キス
【竜翼】
後ろは任せたよ、と、前を歩いて迷宮を進む
いつか見たような夜空に、少しそわりと横顔を見て
蝙蝠の像には、そりゃあいるよね、と笑って

……最後の宝には、正直めちゃくちゃ頬がひきつるけども

「分かってる。僕が選ぶよ」
肩を竦めて、前に進み出て

脳裏には、ここにいない恋人との約束。自分への想いが変わらないならと、笑って我が侭を許してくれている
だから、こそ

「この場でこれを手に取れないなら、最初からあんなバカなことは言わないよ」
内心の葛藤は表に出さず
見た目上は迷わず、「盾」を手に取って

……もっとも
「並べて比べている時点で、意味はないんだけどね。……だろ?」
苦笑気味に、君の表情を確かめるように、振り向いて



 転移を終えた二人は、夜空にいた。
 滑らかな濃紺のベールに星を散りばめたような、神秘的な夜。
 足元の硬い床の感触と、行く道を灯すランプの存在が、この夜空はなにか石のような材質で造られているのだということを教えてくれる。

「さて、見て回りましょうか」
 互いの腹の底なんですよね、と囁く声は秘そめいて。
「ああ、うん。何があるか楽しみ……と言っていいかは正直迷うけど」
 何を見ても大丈夫さ、と覚悟を決めて。
 先に前に出たのはマリーノフカ・キス(竜星のコメットグリッター・f01547)。
「後ろは任せたよ」
「あはは、盾も回復も使える騎士が前のがいいんじゃないです?」
 軽口で応じながら、綾峰・美羽(陽翼ホーリーナイツ・f00853)もその後ろをついていく。
 互いの仕草や言葉の端々には、確かな信頼が滲んでいて。

 水面に波紋を広げるような、不思議な足音を響かせながら。
 二人は、しばらく声を潜めて、静かに廊下を進んでいった。
 するとやがて天井の高い、円形ホールのような場所へ出る。
 そこは一層星が煌めいていて、いつか見た夜に似た光景だと、マリーノフカは少しそわりとした。
 声を交わすでもなく二人は並んで、どちらともなくゆっくりと天井を見上げた。
 ちらりと美羽はマリーノフカの横顔へ視線を馳せる。
 ほとんど同時に彼も、美羽の方へ目を向けていて。
 互いの視線が絡み合いそうになる瞬間、目をそらしたのは美羽だった。
 穏やかな沈黙がしばし流れる。
 ねえ。とマリーノフカが口を開いた。
「美羽くん、はぐれてはいけないよ」
「勿論、気をつけていますよ」
 と答えてから、美羽は少し不思議に思う。何度も一緒に迷宮に潜っているのに、どうして今更そんな事を言うのかと。
「どうしたんです、急に……なにか気になることでも?」
 マリーノフカは「いや」と首を振り、少し言い淀んでから、
「不意に、夜が君を包んでしまいそうだと思ったものだから」
 静かな調子でそう言った。本気とも冗談とも取れる言い方だ。
 美羽は一瞬、想像に思い描いた布を思う。あれは確かにこの景色の元となったのだろう。
 ……仮に、夜の帳が自身を包みこんでしまったとして。
「もしそうなっても――見つけてくれるでしょう?」
「ああ、必ずね」
 迷いなく答えてくれるマリーノフカの声に、どうしたって心は揺れてしまう。
 くすくす。小さな声で美羽は笑った。

 道は五方に分かれていたので、真ん中の道を選びホールを抜ける。
 上に下に、右に左に、枝分かれした迷宮の道は複雑で何処へ向かっているかも定かではない。
 それでも、この道は何処か特別な場所へ繋がっている。
 言葉にはできない予感が二人にはあった。
 彼らが通った後にはいくつもの亀裂が出来ている。
 道を選ぶ度、迷宮には小さなヒビが走る。誰も気づかないほど、微かに静かに。

 どれほど歩いただろうか。
「いかにも何かありそうな部屋って感じだね」
 突き当りに現れたのは、見上げるほどに巨大な扉。
 鍵も罠もないことを確認して、二人は注意深く中へ進んだ。
 広い部屋の中に石像が立っている、橙色のランプに照らされて浮かび上がるシルエット。
 それが蝙蝠と大鴉であると気がついた美羽は、頷き。
「やっぱこうよね」
「そりゃあいるよね」
 二人は納得のいった表情で石像を眺めた。
 石像が守るように建つその奥にもう一つの扉が見える。近づいてみると重厚な扉には一振りの刀が深々と突き刺さっていた。
「この刺さってる刀って」
「うん、僕のだね」
 此処が中央部で迷宮の核となる部分なのだろう。
「刀を抜かないと扉が開かない、か」
 マリーノフカは古い刀の柄を掴んで、一息に引き抜く。
 随分あからさまに具現化したものだと、創造した本人故に思う。装置は機械故に単純でシンプルな、誤魔化しのない空間を作り出したのだろうか。
 古い刀は、役目を終えたように、手の中で光の粒子となり消えていった。

 分厚い扉の向こうには広い空間があり、中央に台座が二つ並んでいる。
 上に置かれているのは宝箱。
 金や宝石で飾り立てられたきらびやかな宝箱は、二人が近づくとひとりでに蓋を開いた。
「……」
 宝箱の中を見た瞬間、マリーノフカの頬はひきつる。
 横からジト目で見てくる美羽の視線が突き刺さる。「やっぱそうよね」と言葉もなく言われているのが伝わって、胸が痛い。

 赤い宝石の嵌った黒曜石のナイフ。
 美しい羽飾りのついた盾。

 それぞれが収められた宝箱。意味するところは明らかだ。
 念の為に調べてみれば『この宝箱を両方持ち出すことは出来ません』という事がわかる。
「“どっちか”ですって、選んできてくださいな」
 笑ってはいるが、美羽の声にはどこか硬いものが混じる。
「分かってる。僕が選ぶよ」
 彼女の前でなにも選ばないという事はできない。
 マリーノフカは肩を竦めると、まっすぐに前へ出た。
 脳裏には此処にはいない恋人との約束と笑みがある。
 自分への想いが変わらないならと、笑って我が侭を許してくれている。
 だから、こそ。
「この場でこれを手に取れないなら、最初からあんなバカなことは言わないよ」
 そう言って手に取ったのは、美しい羽飾りのついた盾。
 美羽の肩が、ちらりとだけ震える。
「ほんとに? げ、って思ったんじゃない?」
 軽口を言いながら美羽は安堵していた。
 葛藤も見せない彼の姿、自分もよく知る彼の恋人は、きっと……。
 ここに私と居る時点で、彼の答えはわかっているけれど。
 今だけは、内に秘めた喜びを許して。

 一番に選んでほしい、そう思う心と。
 どちらも等しく愛おしいと想う心。
 二つの心が重なれば、矛盾が生じるのも無理はない。
 この迷宮に起きるヒビはその矛盾が現れたもの。

「並べて比べている時点で、意味はないんだけどね。……だろ?」
 マリーノフカが苦笑気味に言いながら、振り向く。
 表情を探る青い視線の先で、
「一人私だけを選んでくれるなら、ってあの日からいつも言ってるでしょ」
 軽く肩をすくめて、美羽は笑った。

 『片方の宝箱を選べばこの迷宮は崩壊します』この迷宮はそう定められている。
 よって。
 迷宮は、ゆるやかに崩壊を始めるだろう。
 まるで入り切らない中身が箱から溢れるように。
 亀裂が走り、床が割れ、壁が崩れて。
 夜が崩れる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

メフィス・フェイスレス
理性が不愉快さを訴える一方で酷く魅力的に思う
涎がとまらない 幾筋も垂れ落ちる

骨の柵から出る
じゃれつく飢渇を除けて肉に喰いついた
場所で肉の種類が違う
コレは牛でコレは豚で…

不意に開けた空間に出た

そうか、この迷宮の肉はこの空間を隠す為のもの
だが欲望のまま喰い続けていると何れは此処に辿り着くんだ
中心に木があった
その木に実っているのも肉だ

他のどの肉よりも美味そうだった

ふらつく足で近寄って手を伸ばそうとして

誰かに腕を掴んで止められた
すぐ横に女がいた
咎めるような目を向けてくる紅髪の女が

誰よ、邪魔しないで

振りほどこうとしても何故か出来ない

気がつくと骨の柵の中で横たわっていた

ああ、思い出した

――あれは、私だった



 それは、狂気に満ちた光景だった。
 きっとまともな人間なら、耐えられないに違いない。
 巨大な生き物の内臓めいた迷宮は、メフィス・フェイスレス(継ぎ合わされた者達・f27547)を飲み込んでいた。

 どこもかしこも、じっとりとした肉の感触に囲まれて。
 床も、壁も、肉だ。
 肉の地面に分厚く切り取られた肉の塊を積み上げて作られた建物。
 新鮮な、瑞々しい断面が並んでいる。
「はは、こうなったのね」
 メフィスは乾いた笑いを漏らした。
 想像通りだと思う一方で、どこか複雑そうに。
「匂いまで……するんだから」
 息を吸うだけで、辺りに充満する新鮮な肉の匂いが、強い刺激を浴びせてくる。
 理性が不愉快さを訴える。一方で酷く魅力的だと思わずにいられない。
 腹が空く。ぐるぐると煮えるように空腹を訴える身体は正直だ。
 だらだらと溢れる涎が口端からこぼれて幾筋も滴った。
 金色の瞳は、食い入るように肉を見ている。

「くッ、は……!」何を今更、と喉を鳴らすように呻く。
 肉の地面を突き破るように生えた骨の柵を超えて。
 暗闇から現れじゃれ寄る巨大な獣を適当に除けながら、メフィスは手前の壁に両手をついた。
 そのまま大きく開いた口で喰らいつく。
 なんて柔らかくて美味しいのだろう。歯で食いちぎり、飲み込む。
 ぐちゃ、ぐちゃ。
 粘ついた咀嚼音をさせながら、メフィスは無我夢中で肉を喰った。
 その為の場所だ。
 私にだけ許された食用肉の迷宮。
 生き物を喰む訳ではない、全ては想像の産物に過ぎない。
 食欲のままに喰らいつくしたとて、誰にも責められることもない。

 食事にふける姿は暗闇に隠れ、ああまさに夜闇に紛れた彼女の世界。
 血に濡れた口周りも、脂と肉汁に塗れた掌も。
 誰の目にも触れることはない。

 コレは牛で。
 コレは豚で。
 場所によって形成された肉は種類を変えた。
 自分の想像から産み出された肉だから、食べたことのある物ばかりなのだろうか。
 鳥に、馬に、うさぎ……様々と。
 あらゆる家畜の味がする。あらゆる獲物の味がする。

 どれほど食べただろうか。
 壁も建物も、喰らい尽くすばかりの勢いで進んでいた。
 目的地があった訳じゃない、目の前にあるものを喰っていただけだ。
 なのに。
 目の前に現れたのは、ぽっかりと開けた空間。
「ああ……そうか」
 ずるりと身体のどこかから力が抜ける。
 メフィスは、理解した。
 この迷宮の肉はこの空間を隠す為のものであり、餌だったのだ。
 メフィスが欲望のままに喰い続けた時、此処へ辿り着けるようになっていたのだ。
 だから他の者は肉を喰うことを許されない。
 私だけの標。

 ふらりと覚束ない足取りでただ広い空間を歩き出す。
 空間の中心には、一本の木が立っていた。
 木の幹も枝も普通だが、その木に実っているのも……肉。

 たわわに熟した果実のようだった。
 ひと目見ただけで、心を奪われるような肉だった。
 霜降り脂が乗った赤身はいかにも上質で、程よい弾力を持っていることがわかる。
 しなり垂れた枝からも解る、その重み、さぞかし中身が詰まっていることだろう。
 食べたい。喰いたい。欲しい。
 ギラギラとした欲望が腹の中で燃えている。
 体中のあらゆる感覚が、あの特別な肉を欲している。

 魅せられて、ふらふらする足で近づき腕を伸ばそうとして――その時。
 何者かが、メフィスの腕を掴んで引き止める。
「な、に?」
 僅かに鈍い反応をしてから、殆ど本能的に相手を鋭く睨みつけた。

 すぐ傍らに紅髪の女が立っていた、彼女は咎めるような目をメフィスに向けている。
 いつの間に接近されたのか、まったく気配を感じなかった。
「誰よ、邪魔しないで」
 威嚇する獣のような低い声が口をつく。
 怯む様子もなく、紅髪の女は沈黙したまま、ただ腕を掴んでいる。
 手を振り払おうとして――メフィスは何故か動けなかった。

 そこから、記憶はぷつりと途絶える。

 気がつくとメフィスは肉の地面に膝を抱えた格好で横たわっていた。
 静かに瞳を開くと、どこか虚ろに視線を馳せる。
 白い骨の柵が、自分を囲んでいる。ここは、最初に訪れた地点らしい。
 自分は、夢を見ていたのだろうか。あれは全部、現実にあったことなのか。
 どこから、どこまでが、自分が生み出した想像だというのだろう。
 思い出すのは。赤い肉の中で見た。紅。

 ああ、思い出した。
 あの、紅髪の女――あれは、私だった

 ヒクリと喉の奥がせぐりあげる。
 口元を引き結んで、メフィスは吐き気をこらえるように体を丸めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リサ・マーガレット
「図書館か、達川さん(探偵の友人)が喜びそうだな」
「持ってるアイテムでどうにかなるかな?

多分、今のままだととても大きい魔法は使えないかもしれないから、妖精をデコレーションロッドに変えて、「とりあえず、魔法少女に変身してみようかな。」

スマホが使えればメモや写真を撮ります

本どこだろ?(わからなくなった時)

敵がいたら、普通に魔法で。

(探検していると、なんでかノイモント(リサの元友達)のことを思い出して少し涙が出る)

「僕だってしっかりしないと、この迷宮を出て、いつか強く優しくなって、みんなを助けなくちゃ」



 とん。と軽い足音を立てて着地して。
 目を開ければ、そこはまるで巨大な図書館。
 リサ・マーガレット(スカイダンサーのオウガスレイヤー(自称)・f32587)は、瞳いっぱいに景色を映しながらその場で踊るように体を回した。

 居並ぶ書架に並んだ背表紙はピシリと揃えられていて、如何にも真新しい。
 ふんわりと漂う紙の香り、ひっそりとした空気。
 自分の想像から生み出された、本物の図書館。
「図書館か、達川さんが喜びそうだな」
 なんて、友人のことを思い浮かべながら。
 リサはわくわくした様子で探索を始めた。

 図書館は入り組んだ迷宮でもあった。
 廊下はジグザグとした迷路になっていて、あちらこちらに分かれ道を造り出している。
 そして、道の先に進もうとしても通り抜けられない場所に行き当たる。
 いろいろ確認してみると、先に進むにはそれぞれ条件をクリアしなくてならないようだ。
「ステージをクリアしないと先に進めない、ってことか」
 まるでゲームのようだと、リサは面白そうに笑った。
「ちゃんと謎解き系の迷宮になってるんだね」
 気になって試しに近くの本を読んでみる。
 するとそこに書かれていたのは、謎解きへのヒントらしき文章。
「おっと、ネタバレはだめ」
 すぐに本を元の場所に返し、とりあえず面白そうな方向へ進んでみる。
 ああ、けれどその前に準備だ。

 ここが迷宮である以上、危険もあるだろう。
 いきなり敵が出てきたり、罠があった時のためにも大きな魔法を使えるように。
「とりあえず、魔法少女に変身してみようかな」
 妖精をデコレーションロッドに変えて一振り。
 まばゆい光がその身を包めば、リサの姿は魔法少女へと変身していた。

 さあ、謎に挑もう。

 クイズから、絵合わせに、暗号クロスワード。
 知恵を絞り、時に本を読んで学び、魔法を使うこともあった。
 行き詰まった時は、発想を変えて柔軟に考えを巡らせる。
「そうだ。スマホ使えるかな」
 そんな手段を思いつくこともあった。
 試してみると通信機能は流石に使えないようだが、カメラやメモ帳としては問題なく使えそうだ。
 よしよし、と頷いて。
 魔法も、知識も、文明の利器もフル活用して、リサは謎に挑んでいく。
 ステージをクリアして新しい場所に行けるようになる度に嬉しさがあった。

 こうして探検していると、元は友達だった子の事が浮かぶ。
 なんでかな。急に。
 あなたがいたら、きっと楽しかっただろうって、思ったんだ。
 リサは不意に込み上げた涙を、指でそっと拭う。

「僕だってしっかりしないと」
 頭を振って気持ちを切り替え、前へ進む。
 その言葉はまるで自分に言い聞かせるような強さがある。
「この迷宮を出て、いつか強く優しくなって」
 決意と覚悟がそこにある。
「みんなを助けなくちゃ」
 凛とした眼差しは夢と理想にきらめいて。
 魔法少女は軽やかに迷宮を行く。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジェイミィ・ブラッディバック
※アドリブ等歓迎

試しに壁に向かって武装を射撃
…あー、ホントに修復されましたね

刻々と迷宮内の状況が変わる以上、レーダーとWHITE KNIGHTの未来予測で最奥部への経路を絶えず情報収集しながら移動します

…真っ暗な闇?
WHITE KNIGHT、これ通れますか?
「先程からの『この奥は危険な場所だ』というアナウンスはこれを指しているようだな」
じゃ、少し裏技使います
後で起こしてください

UCを使って暗闇地帯を一気に推力移動で突っ切ります
意識を失ってもスラスターが続く限り前進できますからね

「…起きろ、ジェイミィ」
意識を失う領域は突破できましたか

最奥部にたどり着いたらメカニック知識を元に機械の修理を試みます



 まず、認識したのは稼働音。
 ゴゥン。シュウシュウ。カタカタ。
 空間転移を終えると共に、辺りは無機質な騒がしさに包まれる。
「……なる程、そうなりますか」
 目的を持って造られた迷宮は工場の形をしていた。
 自身の持つ渇望を装置はこのように具現化したらしい。
 機械が産まれる場所、答えとしては実にシンプルだ。
 ジェイミィ・ブラッディバック(脱サラの傭兵/開発コード[Michael]・f29697)は、しげしげと辺りを眺めながら歩き始めた。

 蛍光灯の明かりをテラリと反射する緑色の床。
 床に張られたラインテープは、区域ごとの境界線を示しだす。
 また、テープの描く線は道標のようでもあった。
 迷宮の中は立体的な構造をしていて、上にも下にも移動することが出来るようだった。
 無骨な鉄骨がまるでジャグルジムのように張り巡らされ、足場や柵の役目をしている。
 ジェイミィは鉄骨の階段を上がって、上階から見渡せる部分だけでも確認をすることにした。
「あれは、何を作っているのでしょう」
 視線の向こうには、稼働中の製造ラインらしき場所。
 巨大な装置が何に使われるのかも解らない金属のパーツを吐き出し、ベルトコンベアに載せられたそれらがガタゴトと次の作業場へ運ばれていく。
 しばらく観察をしたが、分析結果は芳しくない。
「何にせよ、最奥を目指すべきでしょうね。此処は迷宮なんですから」
 様子見はここまでと、レーダーによる索敵を開始する。
 "WHITE KNIGHT"に呼びかければ、AIは未来予測による結果をジェイミィに伝えた。

 で、あるから。

 "WARNING"と記された扉の奥にある経路を見つける事は実に容易かっただろう。
 分厚い扉の向こうは、狭い通路となっていて、道はまるで地面を這う蛇のように曲がりくねっていた。
「如何にも異様ですねー。どうしてこんな造りをしているのだか」
 通路の床壁は機械の密集体だ。それが、絶えず、組変わり変形している。
 ここで製造された機械部品は、道を変化させるのに使われているのだろうか。
「おっと」
 ふいに異変を察知したジェイミィは、半歩後ろに下がった。
 途端。目の前に機械の壁が下から突き出してくる。
 それはたちまち進路を塞ぎ、ジェイミィを行かせまいとした。
「随分手荒な進路妨害ですね」
 明らかな、意思が感じられた。
 なにかのラインに触れたのか、レッドランプが点灯しビープ音が鳴る。
『警告します。この先は危険です』
 声は、真上にあるスピーカーから流れてきた。
 その声はどこか"WHITE KNIGHT"に似ているような気がする。
「何故です? 理由を教えて下さい」
 ジェイミィはあえて冷静に問いかけた。
「もう一度聞きます。警告の理由を答えて下さい」
 しかし、返答は同じ内容のみ。

 ならば、次のプラン。

「WHITE KNIGHT(白騎士さん)、未来予測情報に変化は?」
『経路は常に不規則な変形を繰り返している。前進は困難だろう』とAIが答える。
「……あなたも先に進まない方が良いと判断しますか?」
 一泊、思考する間があった。
『リスクのない決断はないと返答しよう』
「ええ、その言葉で十分です」
 言い終わるが否や、機械が反応するよりも速く銃身を抜いた。
 壁に向かって弾丸を撃ち込めば、あたりは衝撃に揺れ、壁に大穴ができあがり。
 ジェイミィはすかさず壁の亀裂へ飛び込む。
「……あー、ホントに修復されましたね」
 当然予測していたことだ。
 通り抜けたジェイミィの後ろで、破壊箇所は直ちに自動修復され、穴は塞がれる。
「閉じ込めるつもりでしょうか」
 ならばもう、強行突破しかない。
 壁の向こうに隠された道を探索し、立ちはだかる壁を壊しては進み、壊しては進む。

『この奥は危険です』とアナウンスは繰り返し、赤ランプが激しく明滅する。
 ジェイミィは、止まらなかった。
 やがてたどり着いたのは、果てもない闇が広がる虚空にも似た場所。
「……真っ暗な闇?」
『ジェイミィ』とAIが呼び掛けた。『"この奥は危険な場所だ"というアナウンスは、これを指しているようだな』
「闇の中を進めば先はありますかね」
『残念ながら。この先にあるのはブラック・アウトだ。意識は強制的に遮断される』
 つまり、先へ進むのは不可能だということだ。
 普通ならば……。
「じゃ、少し裏技使います」
『ジェイミィ? 何をする気だ?』
「後で起こしてください」
『ジェイミィ! 無茶だ!』

 迷いはなかった。
 UCによる一斉射撃、それによって飛翔と加速、前方への推力移動を行う。
 無謀とも言える大胆な行動だ。
 しかし彼は、意識を失っても前進できる唯一と言っていい手段を一瞬で閃き実行したのだ。
 それは、誰にでも出来ることではない。
 深い闇の中に打ち出されたジェイミィは、一直線に軌跡を描いて飛んだ。

『――……起きろ、ジェイミィ』
 再び意識を取り戻した時、そこは屑鉄まみれの場所だった。
 どうやら闇の領域は突破できたらしい。そして恐らくここが最奥部。
「これは、スクラップ置き場でしょうか……」
 原型を留めないほどに破壊された機械の山がある。
 その内の一つを拾って、ジェイミィはそれをジッと眺めた。
 自分の想像から生まれたものがそこにある。それは確かに自分の一部を注いで造られたものだ。
「修理してみましょう……なにか解るかもしれませんから」
 封じられた記憶。
 それがなんであれ、知らなくてはならないのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニコリネ・ユーリカ
神々しい光を導べに迷宮へ
耳を擽る樣な水の音を辿る裡
肺腑に染む淸浄な空気に心が洗われていく
なぜかしらブーツが躊躇われて
素足に水を潜らせながら散策する
うん気持ちE!

蓄音機さん、とっても綺麗な場所をありがとう!(エコー
こんなに素敵な場所なのに
辿り着けるのはごく僅かなんて
誰かに教えたい心と秘密にしたい心で揺れ動いちゃう

でも折角癒しの力があるもの
素敵な人に見つけて貰えますようにって、もうひとつ彩を
ストロベリーフィールズの金魚のお友達にブルーロ-ズを添えましょ
花言葉は「夢叶う」

赤と青の魚の遊泳に自ずと旋律が生れる
UCで歌を響かせ、迷宮を祈りに満たしましょう
迷宮を訪れた冒険者に癒しを、そして夢を叶えてあげて



 流れる水の音が耳を擽って。
 目の前に現れた、神々しい光に溢れるその場所を見。
「きれい」
 ほう、と淡い吐息をついた。

 さらさらとした透明な水が、宙に浮かび横に流れて薄い壁を作っている。
 透明な水は光にキラキラと輝き、緩やかな流れにそっと指先をくぐらせてみれば、小さな飛沫が散って。
「こんな場所が出来上がるなんて」
 ニコリネ・ユーリカ(花売り娘・f02123)は、小さく笑った。
 流水の迷路の向こうに、白い石の洞窟が見える。光はあそこから発せられているようだ。
 水の壁を突っ切って洞窟まで進むこともできるのだろう、けれど。
 それではあそこへは辿り着けないような気がした。なにより、もったいない。
「ふふ、折角だもの楽しまないとね」
 進む道筋は時折カーブを描き、波を立てて頭上にアーチをつくり出す。
 水のベールと戯れるように、ニコリネは舞うように迷路を抜けた。

 仄かに発光する洞窟の中は広い空間になっていた。
 中央には満々と水を湛えたセノーテが、深く美しい水の色を見せている。
 それはニコリネが想像した通りの色をしていただろう。
「……目にすると不思議ね。本当に私が思ったことを元にしているんだわ」
 岸から水の中へ足を入れようとして、ニコリネは動きを止める。
 清らかな水へブーツで踏み入るのは戸惑われたのだ。
 素足になってから、スカートを持ち上げ、そうっと足を水に浸す。
 ひんやりと、しかし優しい感触がする。

 うん気持ちE!

 ぱしゃぱしゃ、はしゃいだ足音を立てて。
 ニコリネは嬉しげに水の浅いところを歩いて回った。
 肺腑に染む清浄な空気に心が洗われるようで。
 スゥ、と深呼吸。
 そして地上を見上げるように顔を上げて、
「蓄音機さん、とっても綺麗な場所をありがとう!」
 そんな、素直な感謝を伝えるのだった。
 伸びやかな声はしばらく辺りに反響して、気持ちのいい余韻をのこした。

 しばらく、散策を楽しみ。
「こんなに素敵な場所なのに、辿り着けるのはごく僅かなんて」
 水面から突き出た岩の上に腰を下ろして、ニコリネは悩ましげに呟いた。
 この場所を誰かに教えたい気持ちと、秘密にしたい気持ちに心は揺れ動く。
 水面に寄せた視線の先には小さな赤い魚たちが泳いでいた。
 ストロベリーフィールズの金魚だ。
 丸みのある可愛らしい姿の魚たちは、のんびりと気持ちよさそうに泳いでいる。
 ようく奥を覗けば、タタリカの花の珊瑚もゆらゆらと揺れていて。
 その景色は、まるで水の中に花畑があるようにも見えた。
 「色あせぬ愛」と「変わらぬ心」。花言葉に込められた想いは、誰かに贈りたいと思う気持ちに繋がっていた。
「そうね」
 この場所に、人を癒やす力が宿っているのなら。
「素敵な人に見つけて貰えますように」
 願いを、込めて。
「この花を贈るわ」
 ニコリネは鮮やかな青色の花を取り出した。
 ブルーロ-ズ。奇跡を願う人の「夢叶う」ように。
 笑顔と一緒に花束を差し出し、青薔薇を水の中へ静かに浸す。

 手の中を離れた花々は、やがてふわふわと回転を始めた。
 魔法に掛けられたシンデレラが美しいドレス姿になるように、姿が変化していく。
 花びらはひらひらと広がって、魚のヒレや尾ヒレとなり、胴体を振ってつぶらな瞳やウロコを覗かせた。
 やがて、ブルーロ-ズの青い魚たちがそこにいる。

「まあ、可愛い」
 ニコリネが水の中へ手を入れると、魚たちは指先の周りで踊るように泳ぎだした。
 ストロベリーフィールズの金魚と一緒に、くるり、くるりと。
 赤と青の遊泳に、ニコリネの中には自ずと旋律が生まれてくるのを感じた。
 ああ、これは祈りの歌。
 唇を開き、滔々と溢れる思いを歌う。

 いつか、此処へ辿り着く人へ。
 この思いが届きますように、迷宮を祈りに満たしましょう。
 冒険者に癒しを、そして夢を叶えてあげて。

 岩の上に座り、水中に揃えた足を浸して歌うニコリネの姿は。
 まるで秘密の入り江で歌うマーメイドのよう。
 洞窟に響く、澄み透った歌声。
 それは波紋のように広がって、迷宮に溶け込んでいくようだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

古明地・利博
あー嫌だな。こんな世界(ダンジョン)が私の心?こんな飢えた世界なんて、ふざけてるねぇ?まぁいいや、周りを見てみるか。

パイプベッド、それと砂にカミソリが、あとオルゴールがどこかに。この曲は……ああ、そういえばこの曲は弟が好きだった……見つけて壊そう。

このカミソリ、一体何なんだ?指は切れないけど心が苦しくなる、弟の死んだ時の光景が浮かんでくる。今すぐこの音を止めたいのに、掘れば掘るほど、傷つけられるほど、あの事が浮かんでくる。
俺だって、助けたかったんだよ!でも、間に合わなかった。

もう疲れた……少し寝よう。



 乾いた砂の世界が広がっていた。
 なだらかな勾配が陰影をつくり、まるで砂が波打っているようにも見える。
 小さな丘の上に古明地・利博(曰く付きの蒐集家・f06682)は立って、しばらくその光景を眺めた。
「あー嫌だな」
 自らの想像を魔法装置はこうして解釈したのかと、苦々しく思う。
 ふだんあれだけ足の踏み場もない部屋で過ごしているというのに。
 荒涼たる砂漠は、どこまでも殺風景だ。
 まるで全てが砂に呑まれたようではないか。
「こんな世界が私の心? こんな飢えた世界なんて、ふざけてるねぇ?」
 軽く砂を蹴り上げると、砂塵が煙のように舞った。
「まぁいいや」
 気持ちを切り替えて、周りを確かめる。
 するとそれほど遠くない場所にパイプベッドがポツンと置かれているのが見えた。
「これはそのまま抽出したのか」
 近寄って、答え合わせをするように、観察してみる。
 なんの変哲もないベッドだ。
 寝具は一通り揃っていて、使用するのにも問題はなさそうである。
「砂の上にあるのはこれだけか……」
 では、下はどうなっている? 確かめる為に、利博は砂を掘り始めた。
 砂は軽くさらさらとしていて掻き分けるのは手でも容易かった。
 公園の砂場で遊んでいるようだと、そんな既視感を覚える。
 けれど果たして砂の中には異物が混じっていた。

「あ」
 砂の中に入れた手が鋭いものに触れ、指を切った。と利博は感じた。
 しかし痛みはなく、なにか、奇妙ないやな感覚が体を走る。
 急いで手を確かめると傷はなく、鋭いものはカミソリの刃だったことがわかった。
「箱の中身か」
 カミソリを手に取って確かめると、いかにも切れ味の鋭い見た目をしているにも関わらず、それは布や紙も、人の肌さえ切れないようだった。
「このカミソリ、一体何なんだ?」

 カミソリは砂の中に無数に埋まっていた。
 掘る手がその刃に振れる度に、利博は最初に感じたいやな感覚が、ズキリとした苦しみに変わっていくのを感じる。
 そして次第に苦しみと共に脳裏に同じ記憶が浮かんでくる。
 忘れもしない、弟が死んだ時の光景だ。
「これは……」
 瞬間、聞こえてくる。オルゴールの音が。
 呼び掛けてくるように、懐かしいメロディが遠くから響いてくる。
 利博は苦しげに息を吐いた。
「この曲は……ああ、そういえばこの曲は弟が好きだった」
 オルゴールの音は、砂の中から聞こえてくる。
 深い場所にあって、そこで鳴り続けている。
「……見つけて壊そう」

 ザク、ザク、ザク。
 無言で利博は砂を掘った。カミソリは掘れば掘るほど現れ、切りつけてくる。
 弟が死ぬ。あの瞬間を何度も味合わせるように繰り返す。

 砂を掻き出す指に力が篭もる。
 蘇る記憶もオルゴールの音も追いやることも出来ずに、一心不乱になって砂を掘り続ける。
 掘れば掘るほど、傷つけられるほど、あの事が浮かんでくる。
 まるで――どうして弟を助けなかったんだ? と。責めるように。

 深くなった穴の底で、利博はとうとう堪らなくなって叫んだ。
「俺だって、助けたかったんだよ!」
 両手の拳で穴の底を殴りつけ、乱暴に掴んだカミソリを投げ捨てる。
 砂が目に入って、勝手に涙がこぼれた。
 ずるずると蹲りながら、砂の上に爪を立てて、掻きむしる。
 オルゴールは、見つからない。
「……でも、間に合わなかった」血を吐くような声でつぶやいた。
 無力感に包まれて、身体が酷く重い。
 あの時、自分にもう少し力があったのなら、変えられただろうか。

 利博は自分が掘った穴から這い出ると、のろのろとベッドへと向かった。
 シーツが清潔でなくとも、マットレスが柔らかくなくとも、構わない。
 どうでもいい。どうせ、想像の産物だ。
 倒れ込むようにベッドに入り、ため息を吐いた。
「もう、疲れた……」
 金属の軋む音を聞きながらうつ伏せになる。
「少し寝よう」
 ベッドを使うのはいつぶりだろうかと、そんな事を思う。
 瞼を伏せて、疲れ果てた体が眠りに誘われるのに身を任せる。
 今は夢も見たくない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロク・ザイオン
おれが作った迷宮
…森、ではないのか

(地形が把握できる高所を目指そう)
……。
(箱に入れた獣がいる)(想像だったのにすごいな)

…キミは、木の番をするのか
ここからは、遠くが見えるな

白くない街もある。夜になると、色んな色に光る。
りんごの他にも、たくさんの実りがある。森。森は、いいところだ。
…空に太陽がない世界
空のない、土の下に住むのもいる
木も街も朽ちて乾くだけの世界
ここみたいに、海に囲まれた世界
キミに似た獣も、違う獣も、たくさんいる

キミがおれを見る目を
おれは、きっと、あねごに向けていた
あねごはそれを、どう思われていただろう

おれは、ここを出る事ができる。だから
…キミに、一緒にゆこうと言えてしまうんだ



 潮の香り、波の音。
 青い海の真ん中に、白い建物で造られた都市が建っている。

「おれが作った迷宮」
 すん、と辺りの匂いをかぎ、
「……森、ではないのか」
 ロク・ザイオン(変遷の灯・f01377)は考え込むように呻った。
 都市の下半分は海に沈んでいて、少し降りて建物の淵から海面を覗き込んでみると澄んだ水は下の方までよく見えた。
だが、しかし水の中には生き物の気配がないようだった。
 自分がよく知る海とは違う世界なのだということがよく分かる。
 白い石造りの家々を念の為覗いてみるが、そこにもやはり気配はなく。
 迷宮がなまじ建物の形をしているだけに、まるで忘れ去られた廃墟のような、がらんとした印象を受けた。
 とはいえ、もし、此処に多くの生き物が住み着いていたらきっと困惑するだろう。
 此処は、つい先程まで存在しなかった生まれたばかりの迷宮なのだ。

 ロクは、全体の地形を把握する為に、高所へ登ることにした。
 地を蹴ると、身軽な動作で建物の外壁や屋根の上を飛び跳ねていく。
 一番てっぺんに着くまでは、そう時間は掛からなかった。
「……」
 都市の一番高い場所には、りんごの木が生えていた。
 木はどっしりと幹が太く、大地を抱えるように根を張っている。
 見上げる程に大きな木だ。枝葉が天蓋のように広がって、涼し気な木陰をつくっている。
 たわわに成った果実は、どれもよく熟しているようで、瑞々しい甘い香りをさせていた。
 そうした緑には森の気配があっただろうか。

 ロクはそこに、小さな獣をみた。
 箱に入れた獣だ。想像だったのにすごいな。
 驚きと、なにか不思議な感慨が浮かぶ。
 あの装置に上手く説明できた、ということなのだろう。

 赤い毛むくじゃらの小さな獣は、驚いた猫のような真ん丸に見開いた瞳で、ロクを見ている。生まれてはじめて自分以外の生き物を見たのだ。
「……キミは、木の番をするのか」
 穏やかに声を掛けると、小さな獣は「み゛」と濁った鳴き声を上げた。
 うん、と一つ頷いて、ロクはそろそろと腰を下ろす。
 視線はあまり合わせずに、獣が安心するまで待ってやる。
 好奇心が旺盛なのか、やがて小さな獣はロクの傍までやって来て、ふんふんと匂いを嗅ぎはじめたので、指をその鼻先へ持っていって獣流の挨拶を交わす。
「ここからは、遠くが見えるな」
 視線を海の方へやると、見晴らしのいい眺めが広がっていた。
 ぎぃ。と鳴き声がする。錆びついた喉をこじ開けた隙間から漏れるような声だ。
 ざらざら、ぐるぐる、とロクも喉を鳴らしてみせる。

「ここの、外にはな」
 ゆっくりとした口調で話を始めると、獣の耳はピンと立った。
「白くない街もある。夜になると、色んな色に光る」

 ロクは何度か瞼を閉じて、脳裏に自分の知るあらゆる場所を思い描いた。
 それは自分が今まで辿ってきた道筋を思い出すような行為。
 思いついた端から口にするので、言葉は、しばしば断片的で。
 まるで歌のようだった。

「りんごの他にも、たくさんの実りがある」
 一つの木しか知らない仔へ、伝えよう。
「森。森は、いいところだ」
 言葉以上に思いを込めて、
「……空に太陽がない世界」
 恐ろしい事があることも隠さずに、
「空のない、土の下に住むのもいる」
 想像もできないような世界との出会いを。

「木も街も朽ちて乾くだけの世界」
 小さな獣が、身を震わせる。
「ここみたいに、海に囲まれた世界」
 小さな獣が、海とロクを交互に見る。
「キミに似た獣も、違う獣も、たくさんいる」
 小さな獣が、小さく飛び上がった。

 ロクは聞き手の様子を見ながら、複雑な笑みを口端に漂わせた。
 瞳を輝かせて自分を見る小さな獣が、昔の思い出と重なるようで。

 キミがおれを見る目を。
 おれは、きっと、あねごに向けていた。
 ――……。
 あねごはそれを、どう思われていただろう。

「なあ」
 と、ロクは小さな獣と目を合わせた。
「おれは、ここを出る事ができる」
 だから、
「一緒にゆこう」
 ……キミに、そう言えてしまうんだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ノヴァ・フォルモント
青い夜空に浮かぶ
淡く光る白い星
これが俺の創造した迷宮か

足を踏み入れるとふわりとした感覚に包まれる
まるで浮いている様な
地に足が付かない感覚
どうやら床も壁も関係なく歩めるようで

…何とも、不思議な感じだな。

外から見た時は然程広そうに思えなかったが
内部は複雑に入り組んでいる
闇雲に歩き回っても出口は見つからなさそうだ

さて、どうしたものか。

見上げれば星々が瞬いている
何時も見ている星空と同じ様に
星たちが、地上の自分を見つめている

視界の端に一層瞬く星が映る
その星はまるで自分の意志に呼応する様に煌めくと
一筋の軌跡を描きながら夜空を流れ始めた

…そうか、お前が導いてくれるのか。

一雫の流星を追い掛けて
迷宮の奥へと



 青い夜に浮かんだ、淡く光る白い星。
 夜から抜け出たように現れ、星の上にそっと降り立てば。
 ふわりとした感覚に包まれて、ノヴァ・フォルモント(待宵月・f32296)は心地の良い驚きに双眸を瞬かせる。
 身体がとても軽くて羽根のようだ。
 まるで浮いている様な、地に足が付かない感覚がしている。
「……何とも、不思議な感じだな」
 球体状の迷宮は夜の中に浮かんでいて、表面にはいくつか穴のような入口が開いていた。
 そこから迷宮へ入ってみると、可笑しな形をした空間が現れる。
 どこが床で壁なのか解らないような。
 四方八方に通路や窓があり、階段が逆さまについていたり、天井と思った場所に扉がある。
 そんな可笑しな構造をした迷路がそこにはあった。

 宙に浮かぶ真ん丸な星の迷宮には、上も下もないらしい。
「ふうん」
 試しに滑るような足取りで、床から壁へと歩いてみると、地続きの場所を行くように移動することができた。
 逆さまになった感覚はない。自分の立つ場所は、常に地面なのだ。
「なるほど、これなら何処までも行けそうだ」
 表情を柔くほころばせて、ノヴァは歩き出した。
 出口を目指しつつ、あちらこちらを見て回るように、散策する。
 最初に外から迷宮を見た時にも思ったが、ここはそう広くない様に感じられた。
 しかし迷宮は気を抜くと自分の居る位置さえ見失いそうな、そんな場所で。
 どうやら、闇雲に歩き回っても出口は見つからなさそうだ。
 と、ノヴァは慎重に考えを深めた。

「さて、どうしたものか」
 ノヴァは夜空が見える窓辺により掛かり、少し足を休めることにした。
 窓には硝子などはなく、いつでも外へ出られるような形をしている。
 この部屋以外にも、そうした夜空に繋がる場所はいくつもあって、そのせいか迷宮内にいても、閉塞感はあまり感じられない。

 思い立って、ノヴァは一度窓から迷宮の外へ出てみることにした。
 球状の丸みを持つ地面の上に立って夜空を見上げる。
 ここは地下の何処かのはずなのだが、夜空は果なく遠くまで続いているようだった。
 星々は静かに瞬き、いつも見る夜空とも変わらないように思える。
 地上の自分を見つめる星たち。
 星空へ視線を注いだ、ノヴァの瞳に淡い感情の色が浮かぶ。
「俺の想像の星――」
 吐息のような呟きが漏れる。
 導を望むような気持ちはあっただろうか。
 静謐さを湛えた夜に燦めく星々は、ただそこにある。

 ふ、と。
 黄昏空を思わせる瞳が、微かな光を捉えた。
 視界の端に、幻かと思うほど一瞬だったけれど。
「いや、気の所為じゃない」
 顔を向けて、今度はじっと待つ。
「俺は、望んだよ」
 穏やかな声を投げかければ、一層瞬く確かな星の光が返った。
 まるでこちらの意志に呼応するように煌めき、一筋の軌跡を描きながら流れる。
 夜から自分の元へ零れてくる小さな星。
 手の中に収まりそうなほど小さなそれは、まっすぐにノヴァの元へ向かって落ちてきた。

 星の光に指先を差し出して、小鳥にするような仕草をしてみる。
 触れそうなほど近く、しかし、星は決してそれ以上は近づいてはこない。
 小さな星はノヴァの周りを漂うように飛び。
 そしてまるで迷い子の手を引くような、ゆったりとした早さで迷宮の中へと入っていった。
「……そうか、お前が導いてくれるのか」
 一雫の流星を追いかけて、ノヴァも後に続いた。
 軽く柔らかい足取りで、ふわり、とん、とん。と足音をさせながら。
 白い星の奥へと、進んでいく。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『『罪の影姫』アーラ・イリュティム』

POW   :    虚飾の白翼(その姿はきっと素晴らしいわ)
【相対者が想像する理想の姿】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
SPD   :    虚飾の白翼(その姿から目を逸らさないで)
【相対者が後悔するかつての姿】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
WIZ   :    虚飾の白翼(その姿を誇ってもいいのです)
【相対者が心の奥に秘めた姿】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。

イラスト:鞘間ヨシキ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠茲乃摘・七曜です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●『罪の影姫』
 少女――イリュティムは、淀みなく人の心を見透かしてしまうような瞳をしていた。
 事実、これまで彼女は様々なものを見てきた。
 隠しても、秘めても、浮かび上がる他人のそれを。
 素敵ですね。と明るく受け入れてきた。
 そして、創り出すのだ。
 夢想に形を与え、生命と意志をもった生き物にする。
 素敵なものが本物になれば誰でも嬉しいでしょう。
 この世に醜いものなんてありはしないと信じるように少女はそうする。
 見知らぬ場所に迷い込んでも、少女は悲観しなかった。
「じっとしていても仕方ありません。さて、美術品でもないか探してみましょうか」
『それよりもするべきことがあるだろう、我が契約者殿』
 呆れたように答えたのは背中に広がる白い翼だ。
「いいじゃないですかアーラ……だってここは不思議な雰囲気がするんです」
 細い指先で壁をなぞり、感触を確かめるように添わせて。
 くすり、と笑う。
「なにかの中身を覗いているような、そんな気持ちになりませんか」
『やれやれ』
 雲の上を歩くようなやわらかい足取りで、"災魔"が歩き出す。


 そして、少女は瞳に猟兵の姿を写した。
「見えましたよ、ねえ」
 脳裏を暴くような真っ直ぐな眼差しをそそいで微笑む。
「あなたがどう思っていても、私は素敵だと思います」
 理想も。
 後悔も。
 秘めた心も。
 私には見えているんです。
「アーラの翼で生み出してあげましょう」
 優しく、善意から、肯定して。
「この迷宮に、あなたを」
 翼は風を撫でるように羽ばたいた。


 自分の中から抜け出たものが。
 この迷宮を闊歩して、あなたの前に現れ出る。
 災魔の仕業に違いない。
 虚飾された写し身は創造主を守るだろう。
 そのように創られている。
 災魔を討つためには、まずこの"姿"を倒さなくてはならない。

 葬らなくてはならない、今ここで。
レスティア・ヴァーユ
背後にわだかまる気配と
心に踏み込まれたような不快感
不愉快に眉を顰め
ゆっくりと振り返れば災魔が

夢心地は、ここまで
武器を抜き、歌声を伴い刀身に光を灯す
だが現れたもう一人の己に目を見開いた
自分とほぼ同じ外見
異なるのは
心まで凍て付いた瞳と、三対六翼の羽根
それが抑え込んだ本来の自分だと

今ここにいる
―平和な日常の些事に、感情を揺れ動かし生きる私を
見下すように、こちらを見ている
傲慢と共に告げられる―偽りの安寧に浸る愚を、やめよ。と

斬り結ぶ
相手を拒絶するように叫ぶ
「私は…ッ、貴様のような化物ではない!!」
怪我を厭わず
至近でUC発動
災魔を倒し
案内を共に迷宮を後に

怪我の痛みに
まだ『自分がここにいる』自覚に安堵して



 ぞわりと身の毛がよだつ。
 無遠慮に心の中へ入り込み、萌芽を踏みにじる者が居ると、気配が伝えてくる。
 身内から湧き上がる、言いようのない不快感。
「鳥よ、暫し離れていろ」
 俺はやることが出来た。と告げれば白い鳥は飛び去る。

 武器を抜いて、歌声をさせて刀身に光を灯す。
 それは相手をここへ誘う合図でもあっただろうか。
 大きな羽音に柳眉を顰め、忌まわしげな顔をして振り向けば。
 そこには、もう一人のレスティア・ヴァーユ(約束に瞑目する歌声・f16853)が立っている。
 まさしく写し身、鏡合わせのような、しかし異なる姿。
 驚きに、レスティアの目は見開かれた。
 何という姿をしている。
 心の奥まで凍りついたような冷たい瞳は、刳り抜くような鋭い眼差しをして。
 三対六翼の羽根を広げれば、纏う風すら冷気を帯びているようだった。
 どこまでも、自分を否定する存在だ。
 怒りでも悲しみでもなく、心底からレスティアを見下げている。
 ――虚飾の写し身は、それを言葉よりも明確にその姿で示していた。
 レスティアは、どこか打ちのめされたような感覚を覚える。
 夢心地から覚め、突きつけられるのは秘めた心。
 そこに居るのは抑え込んでいた本来の自分だと、悟った。

「実に愚かしい事だ」写し身が、唇をひらく。
 穏やかな庭園を一瞥して、
「仮初の平和に浸り、日常の些事に感情を揺れ動かす、その生き様」
 恥ずかしくはないのか、と言外にレスティアへ問うてくる。
 心にある本質とは別のまやかしを創造し、心地よさに身を委ねただろうとなじる。
 否。この迷宮へ降りる以前から、秘めた心は囁いていたのだろうか。
「――偽りの安寧に浸る愚を、やめよ」
 なんたる傲慢だろう。
 まるで自分こそが正しいのだと信じてやまない厚顔無恥な物言い。
 己を誇れと囁かれたかのように誇示をして、圧倒する。
「言いたい事はそれだけか」
 レスティアは剣を握る手に力を込め、一息に相手へ斬りかかった。
 瞬速の剣撃を、しかし向こうも剣で受ける。
 ギィン。と刃の噛み合う音が響き渡った。
 白い翼を広げて、両者は同時に地を蹴って飛び上がる。
「無用な感情を捨てよ、それがお前の弱さとなる」
「黙れ!」
 切り結んで、わかった。写し身の持つ強靭な精神と肉体。
 およそ人の身に宿していいものではない、力。
「貴様が私を同一に語るな……!」
 レスティアは写し身よりも上昇すると、反転し急降下からの一刀を振り下ろした。加速と体重をかけた剣で相手を押しつぶすように切り込んでいく。
 しかしまるで大きな壁に向かって剣を振るうような、手応えの鈍さばかりが重なって。
「解っているだろう」
 冷めた声音が、侮蔑を投げる。
 写し身は、レスティアの剣を押し返して払うと、ひらいた胴体に向けて一文字に切りつけた。鮮血が散って、庭園に赤が咲く。
 続けざまに蹴りつけられたレスティアの身体が後ろへ吹き飛ばされる。圧倒的な力を見せつけ、そして写し身は言うのだ。これがお前の本来の力だと。

 目の前にいる者が、どれほど強く、どれほど優れているのだとしても。
 認めてはいけない。
 受け入れれば、それは自分のすべてを奪っていくだろう。

「私はお前……お前が望めばすぐに私になれる」

 何を言われようとも、聞く気はない。
 血に濡れて白い羽根を散らしながら、それでもレスティアはくじけぬ意志込めた瞳で睨めつけた。
 敵が接近するその一瞬を狙い。
「私は……ッ、貴様のような化物ではない!!」
 切っ先を突きつけて、叫ぶ。
 想像によって造られた青い空に光が生まれ、天が応えた。
 聖なる光が振り注ぎ、雷のように写し身を貫く。
 ぐらりと傾き、写し身の姿はそのまま大地へ落ちて消えていった。
 その最後を見届けるレスティアの表情に、どこか虚脱が混じる。

 戦いの余波を受けて少しばかり荒れた庭園の草原。
 降り立ったレスティアを、白い鳥が歌声と共に迎える。
「……連れて行ってくれ」
 かすれた声で願えば、鳥はその青く澄んだ眼差しでレスティアを見つめた。
 その嘴に、一輪の赤い薔薇をくわえている。
 これが鍵なのだと、自然にそう思う。
 レスティアはひざまずいて腕を伸ばすと、その赤い薔薇を受取った。その瞬間。

 あたりにあった庭園が幻のように薄れて消える。
 自分の迷宮を出てみれば、そこに広がるのは様々な迷宮を継ぎ接ぎした景色だ。

 残る災魔の本体を討つべく、レスティアは滑るように駆け出した。
 体を走る怪我の痛みに安堵を覚える。
 それは、まだ『自分がここにいる』そのことの証明なのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニコリネ・ユーリカ
目の前に現れる像に時が止まる
ターシャ・テューダーのようなお婆さん
商業界で地位を得ながら其を離れ
四季豊かな庭園で花を育てた質朴の人

私も貴女の様になりたくて働いてる
稼いだお金で農場を買い、自分で育てた花を売りたい
我が子のように愛した花で皆に笑顔を贈りたい

目標が目に見えて否応にも気が引き締まる
今持てる力の限り立ち向かいます!

ロサ・ユゴニスの仄かな麝香を纏って飛翔
貴女の稼ぎには程遠いけどお客様への感謝は負けない
いつか辿り着いて見せると誓ってシャッター棒一閃!
憧れで終わらせないよう夢幻と訣別する

vs災魔
迷宮の水量に比例して集まる水の精霊に呼び掛け
四方から水鉄砲を起して翼を叩く
迷宮の力を使って撃退しましょ



 空気に異変を感じる。
 それは酷くやんわりとした、一筋の光のように入り交じる気配。
 歌をやめたニコリネ・ユーリカ(花売り娘・f02123)は、拍手の音を聞いた。
 驚いて見遣る視線の先に、岸辺に佇む一人の老婦人が写る。
 いつのまにそこに現れたのだろう。
 彼女はまるでおとぎ話に登場する『優しいおばあさん』の様な出で立ちをしていた。
「素敵な歌だったわ、お嬢さん」
 にっこりと微笑みながら、老婦人は心からの賛辞を述べる。
 そこには悪意は一欠片も見当たらない。それでも異質であった。

「あなたは……」ニコリネは驚きに目を見張る。
 ここにいるはずはない、憧れの人。
 花を愛する人ならばその名を一度は耳にするだろう。
 かつて商業界で地位を得ながら、其を離れ。
 四季豊かな庭園で花を育てた質朴の人。
「そう、そうなのね」
 私も、貴方の様になりたくて働いている。
 抱き続けた純粋な夢を紐解いて、ありのままに顕わすのなら。
 それはこのような姿をしているのだと、ニコリネは悟った。

 私の目標。

 これほど自分の気を引き締め、奮い立たせる者はない。
「会えてとっても嬉しいわ! だから、私が今持てる力の限りで立ち向かいます!」
 宣戦布告に、夢幻の老婦人は穏やかに微笑んだ。
 けれど優しいだけではない、熟練に培われた鋭さが奥に潜んでいる。
 そのことに、ニコリネはなんだか嬉しさを感じた。

 想いに応えるようにロサ・ユゴニスの仄かな麝香がニコリネを包む。
 夢に向かって、一歩ずつ進んでいくのだと、彼女に示すために。
 セノーテの水面を跳ね上げて、岸辺までひとっ飛びに迫れば。
「良い香りだわ」懐かしそうに老婦人が目元をやわらげた。
「ええ、本日のオススメよ」
 一息に決着をつけるつもりで、ニコリネはすかさず携えたシャッター棒で打ち掛かった。
 しかし。
 ツ、ツ、とひかえめな舌打ちがする。シャッター棒の一撃を遮る枝葉が老婦人を守っている。クラブアップルの木だ。紅色の花びらが、視界を覆わんばかりに花盛りに咲き誇って。
 これは虚飾された姿が持つ力だろうか。なるほど強い憧れは、一筋縄ではいかない。
 ニコリネは息を吸い、体勢を整える。
 クラブアップルの花言葉はなんだっただろう。頭を巡らせれば浮かび上がる、数ある内の言葉の一つは「選択」。だった筈だ。

「私ね」しっかりと言の葉を紡ぐ。自身の夢と憧れを、力に変えるように。

 稼いだお金で農場を買い、自分で育てた花を売りたい。
 我が子のように愛した花で皆に笑顔を贈りたい。

 選んだ道はきっと苦難も多いのだろうけれど。
 その領域に辿り着いてみせると誓う。
「貴女の稼ぎには程遠いけど――お客様への感謝は負けない」
 夢幻へ贈るのは、訣別の一閃。
 憧れるだけでは終わらせない、その覚悟は確かに、木々の向こうに届いた。
 夢幻はかき消えて、辺りは花の香と水音に満たされる。

「水の精霊さん」
 セノーテへ向かって、ニコリネは呼び掛けた。
 つま先を立てるように水面へ触れ合わせながら宙に浮かぶと、澄んだ水に惹かれて集まった精霊たちが、小さな波を寄せてくる。
 この迷宮に夢幻を造り出した災魔がいるから力を貸してほしいと囁きかければ、彼等もやる気充分の様子。
「ここまで来れないように、水鉄砲で撃退しましょ」
 ニコリネは腕を振って合図をする。
 涼やかな音立てて、あちらこちらから噴射される水が立ち昇り、それはまるで美しい模様を描いているようだった。
 やがて遠くから「きゃあ」と悲鳴が聞こえてくる。
 翼を叩かれた災魔を、飛沫となった水の精霊達が追い立てていく気配がして。

 もう少しだけ、此処は秘密よ。
 箱庭めいた世界に、ひっそりと声が落とされた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

尾守・夜野
後悔はあっても誰にとってのか定まらないから反省できず重ねるだけ
それでも一等後悔してるのは、どの俺でもきっと村を守れなかった頃の俺の事だろう
きっと塗りつ潰された写真はあの頃だ
見えないからわからないけど

…あちらの俺にとっても、俺が今現在生きている事も許せはしない事だろうな

恨みを愛を悲を忘れ生きてるように見える俺に奴だって
俺だって起きた事象を一人助かった奴(自分)を許せない(…)

だからきっと呪い合うんじゃねぇか?
まぁ痛みなら今の俺のが慣れてるから耐え
奴の主にも…
この飛びっきりの糞をよこした奴にも呪いをと同じところをぐるぐるぐる
出口はあれど見つからない()ここで不毛に繰り返すんじゃないかな



 その姿から、目を逸らさないで。

 この回廊には偽物が溢れていた。道具も食べ物も模型ばかり。
 無数にある扉を開けても、部屋の意味がわからない。
 出口への扉を見失って彷徨う羽目になり。
 何度も角を回って、おなじところを廻り続けている。
 だから巡り合った。

 尾守・夜野(墓守・f05352)は自分の中にある後悔を思う。
 それは誰のものかもわからない無数の像をしていて、だからいつものように定まらず、反省もできずに重ねるだけ。
 一点に絞ることなんて出来ないのに、覗き込むなんて馬鹿なことをするものだ。

 壁に貼られた写真に映るのはきっとあの頃だ。
 黒く塗りつぶされた向こうには、守れなかった村がある。
 見えないからわからないけど。
 どの俺も一等後悔してるのは、あの村を守れなかった事だろうから。

 廊下の真ん中に暗い眼差しをした子供が立っている。
 前にいたのか後ろにいたのか、堂々巡りの回廊にいれば同じことだろう。
「どうして生きている」
 呪詛のように子供が言った。
「全部、わすれた様な顔をして、そんなこと許されない」
 恨みを。愛を。悲を。
 当然の感情を忘れたように生きることを、後悔の"姿"はなじった。
 恨みがましくて憎しみの籠もった声を、どこか遠くに聞く。
 そんなことは、言われなくても身に沁みている。

「解ってるだろうけど」と、夜野は声を返した。
 なんて小さな姿で現れたのだろう。
 子供を見下ろしてやれば、憎しみに濁った目を向けてくる。
「俺だって、一人助かった奴を許せない」
 なあ。と同意を求めるように笑う。
 さざ波のように内側で起こる考えを、一つも掬いとれなくて。
 指の隙間から零れていく砂粒を、ただ見ているような無力感。
「もう、どうでもいい」
 そうやって投げ出してしまいたかった。
 なんで。何で俺、私、俺様、僕、ボクばかり。
「呪われろ」と子供が喚いた。
 床を踏み鳴らし、泣きじゃくるような声で繰り返す。
 その姿は夜野の思う姿とはかけ離れていたかも知れない。虚飾されたそれは本物ではないのだ。どうにもならない現実に、子供は打ちのめされて感情のままに悲しんでいる。
 ぞうっと背筋に怖気が走った。
「やめろ」
 夜野は喉を締め付けられたように呻いた。
 そんな……そんな資格はない。お前に、俺は。そんな姿を見せるな。
「壊れちまえばいいんだ」
 皆。皆皆皆皆皆皆皆皆皆皆。そうなればいいのに。そう望んでいる。
 強い思いは呪いとなって流れ込む。
 互いに同じ力を使えばどうなるか。
 自分は慣れきった痛みに耐えればいい、簡単なことだ。
 けれど、子供は。

 痛い痛いと、泣き叫んだ。床を転げ回って苦しみ藻掻く姿を晒して。
「私が……どうして……! 俺様から、出ていけ! 僕の手を戻して! ボクの足が壊れていく! ああ……あああああっ!!」
 混濁する意識から、意味の通らない言葉を繰り返し、悲鳴を上げ続けた。
 自分が受けた痛みは、こんなにも苦しいものなのだと突きつけてくる。
 目を、反らすことが出来なかった。
 ぼんやりと他人事として、その光景を見ていたようにも思う。
 心が痛むような気はしなかった。けれど、胸の悪くなる光景だった。
 やがて、子供は息絶えて幻のように消え去る。

「飛びっきりの糞をよこしやがって」
 毒突く口調に苛立ちが滲む。
 そこで見ているんだろうお前。
 呪いを掛けてやるよ、同じところをぐるぐるぐる、不毛に繰り返すがいい。
 出口はあれど見つからない、壊れてしまえ。
「ここを出たって先は迷宮だ」

 逃げられないんだよ、もう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

マリーノフカ・キス
【竜翼】

美羽くん?
いや……その表情は

「なるほど、僕に都合の良い側面だ」
苦笑

身勝手で欲張りな思いを前に
悩みつつも『しょうがないひと』なんて
許して、流されてくれる、僕に甘い君

そんな姿を期待しなかったと、今も期待してないといえば嘘になる
でも
「ごめんね。本人にも言えないんだけどさ」

そうはいかなかった
キミは迷った挙句『いつか嫉妬で貴方を傷つけたくないから』なんて理由を口にした
余人には、理解し難いだろうけど

「僕はあの気高さに、惚れ直したからね」

だから、本当に身勝手だけど
本物に言わせないと、意味がない

せめて痛みなく一刀で
この決断も、受け入れてしまうのだろうから

……こうなると向こうのが心配だな……色んな意味で


綾峰・美羽
【竜翼】

あら、マリーさん
と、思いましたがこれは虚像ですか

「あ~、そういう風に出てくるわけですねぇ」
その顔、声、しぐさ
どれも本物に近いけれど、でも違う
きっとそれは私を――私だけを選んだ彼
あの盾を手に取ったからこそ、想起した姿

けれど……
「僕としては、そんな結末があってもいいなと思いましたけれど」
それは都合の良い妄想で
こんな結果で叶ったとしても意味はないし
「私、一緒に冒険行く関係性もいいものだと思ってるし、仮にそういう関係になったら今までの時間に嫉妬しちゃいそうだから」

聖剣を抜き放ち、切り裂く、と見せかけて盾の殴打を
うん、やっぱり本物のほうが手ごわくて、余裕ぶってるのに必死で
もっとかっこいいと思う



 夜は崩れて、深い闇が二人を遮った。
 それは、ほんの一瞬のこと。

「しょうがないですねぇ」
 ハッとして、マリーノフカ・キス(竜星のコメットグリッター・f01547)は目の前にいる少女を見つめた。
「いいですよ。それがマリーさんですから」
 何かがおかしい。途切れた一瞬の間に、起こる違和感。
 振り返って、見つめた美羽の表情はこんなにも甘いものだっただろうか。
 まるでなにもかも受け入れて、許してくれているような。
「……美羽くん?」
「なんですか」
 小首をかしげて微笑むその表情に悟る。
 彼女は偽物だ。
 自分の思いが生み出してしまった虚像だ。
 "もしも"と思い浮かべた身勝手な想像が現れたもの。
「マリーさん……いいんですよ。自分を責めないでください」
 虚像も自身の正体を知っているのだろう。優しげにそんな事をのたまう。
 彼女の姿をしたものにそんな言葉を言わせたくはなかったけれど。
「私だって、あなたに愛されたかった。それで、いいじゃないですか」
 そこまで言うのか。と苦笑する。
「なるほど、僕に都合の良い側面だ」
 とん、と美羽が一歩近づく。
「キミは僕の身勝手で欲張りな思いを許してしまうんだね」
「それっていけないこと?」
 真っ直ぐな眼差しに、息を詰める。
 自分はどこかで望んだのだ。
 悩みつつも。許して、流されてくれる、甘い美羽を。
 そんな姿を期待しなかったと、今も期待してないといえば嘘になる。

「ごめんね。本人にも言えないんだけどさ」
 本当のキミは迷った挙句『いつか嫉妬で貴方を傷つけたくないから』なんて理由を口にした。
 余人には理解し難いだろう、今の関係を選んだのだ。
「僕はあの気高さに、惚れ直したからね」
 だからキミを葬らなくてはならない。
 身勝手な僕の想像。
「許さなくていいよ」
 どうか、そうしてほしい。
 けれどキミはこの決断すら受け入れてしまうのだろう。
 腰に下げた刀の柄に手を掛ける。
 その動作を見ても、美羽の姿をした者は、
「あなたが決めたことなら、いいですよ」
 笑みのまま、両腕を広げ。
 鋭い居合の一撃ですら、躊躇なく心臓を差し出し受け入れてしまう。
 崩れる体を腕で抱きとめたのは、せめてもの慈悲だった。
「マリーさん……、……――だいすき」
 今際の言葉が耳にこびりつく。
 苦い笑みを浮かべて、幻が掻き消えるのを見届けて。
 深い溜め息をつく。
「……こうなると向こうが心配だな……色んな意味で」

 その思いを馳せた先で。

「美羽くん、こちらだよ」
 綾峰・美羽(陽翼ホーリーナイツ・f00853)の耳に、声が届いた。
「あら、マリーさん」
 よかった。すぐ其処にいたんですね。
 暗い闇夜に意識を途切れさせられた感覚があった。宝物庫にいたはずが、気がつけば見知らぬ部屋で、驚いたものだ。
「怪我はないかい。さあ、おいで」
 心配そうな表情をして、マリーノフカが腕を差し伸ばしている。
 すぐに違和感に気がついた。
 美羽は思わず、笑ってしまう。こんなの本物な訳がない。
「あ~、そういう風に出てくるわけですねぇ」
 願望を見せられているようで恥ずかしい。
 私だけを見つめる瞳。いつもよりも少しだけ、迷いのない声音色。
 この手を取ってと乞うような、そんな表情をして。
「あなたは、私だけを選んだ彼なんですね」
「そうだよ。僕はキミだけが居ればそれでいい」
 擽ったるような甘さを含んだ答えだ。
 本物なら、間違ってもそんな事を言わないだろう。
 これは盾を選んだ姿から想起してしまった姿。
「ふふ、都合がいいですねぇ」
 自分でも呆れてしまうぐらい、妄想と願望が詰め込まれていて。
 ほしい言葉を惜しみなく与えてくれる虚像の、なんと虚しいこと。
「美羽くん、僕と一緒に行こう」
 そうやって、私だけを選んだあなたを愛したかった。
 けれど、そうはならなかったから。
「僕としては、そんな結末があってもいいなと思いましたけれど」
 こんな結果で叶ったとしても意味はないし。
 決別しましょうあなたとは。
「私、一緒に冒険行く関係性もいいものだと思ってるし、仮にそういう関係になったら今までの時間に嫉妬しちゃいそうだから」
 さようなら。
 聖剣に手をかければ、向こうも武器を構えた。その姿に安心を覚える。戦うことすらしないマリーさんなんて偽物でも幻滅だ。
 一息に間合いへ飛び込み、聖剣を抜き放つ――と、見せかけて。
 相手が警戒した反対から盾による殴打を食らわせる。
「駄目ですよ、油断しちゃぁ」
 軽く笑いながら、それとも見惚れてましたか、と冗談を飛ばす。
「……ああ。キミはこの世で一番素敵な女性だよ」
 ほら全然ちがう。
 このタイミングで優しく答えるのは違う。
「傷つく方へ、キミを行かせたくなかったな」
 居合抜きを盾で受け止め、美羽はすかさず足蹴りを放つ。
 虚像のマリーノフカは攻撃をあしらいながら、楽しげに目を細めた。
 まるで二人で過ごす最後の時間を愛おしむように。
「"僕も"やはり身勝手なんだ……美羽くん」
 光り輝く聖剣で胸を貫いた刹那、そんな呟きが聞こえた。
 その姿は幻のように消えて無くなる。

 美羽は振り返らずに、部屋を出た。


 部屋を出た先には、夜はなく。
 迷宮を抜けたのだと美羽は悟った。巨大な迷宮内に、継ぎ接ぎされたような区域があるのが見える。それぞれの想像を詰め込んだ箱庭が並んでいるのだ。
 同じ様に迷宮を抜けたマリーノフカと合流したのはすぐのこと。
「美羽くん、無事だね」
「あら、マリーさん」
 似たようなやり取りをしてみれば、やはり本物は違う。

 うん、やっぱり本物のほうが手ごわくて。
 余裕ぶってるのに必死で、もっとかっこいいと思う。

 夜の中に夢幻を置いて、二人は災魔を討つために駆け出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジェイミィ・ブラッディバック
※アドリブ等歓迎

災魔が来る前に修理できましたが
これTYPE[JM-E]ですね…乗れと言うことですか

む、災魔が来ましたか…同じTYPE[JM-E]!?
WHITE KNIGHT、敵の情報収集を!
「解析完了…あれはロールアウト当時の姿だ!」
ロールアウト当時? …あぁ、なるほど
ひとつ思い出しました

クロムキャバリアの宗教国家「メサイア」で私は生み出された
異端勢力からの護国決戦兵器…だが役目を果たせず、国は滅びた
そして、私は教皇が発動した界渡りに巻き込まれた

ま、その過去が思い出せただけで十分です
過去喰らいの剣を装備
相手の動きを見切り、推力移動で接近してUCにて斬る

今の世界を守れればそれで良いのですよ、私は



 スクラップの山で一人、ジェイミィ・ブラッディバック(脱サラの傭兵/開発コード[Michael]・f29697)は修理を続けていた。
 破損したパーツを組み立て直していくにつれ、それは一体の機体となっていく。
 見覚えのある姿だと、ジェイミィは気づいていた。
 だから、無残に破壊されたそれを元の形にしてやることが出来たのだ。

 自分と同モデルのキャバリア――TYPE[JM-E]。

「災魔が来る前に修理できましたが」
 確かに想像の箱に収めた機体だ。何故この様な形で具現化したのだろう。
「壊れていた、もう一つの私。失われた記憶の象徴という訳ですかね」
 推測されるのはそんな理由だろうか。
「教えて下さい……私の事を」
 機体に手を置いて、願うように問い掛ける。
 どんな形でもいいのだ。
 データでも、言葉でも、抽象的なイメージでも構わない、どうしても答えが欲しい。
「私は何故、生まれたのか。何を忘れているのか――思い出したいんです」
 TYPE[JM-E]は沈黙している。
 しばし、黙想にも似た空気が漂う。
 残された時間はもう無いだろう、やがて敵が来る。
「……起きろ。起きて下さい、TYPE[JM-E]」
 今一度、呼びかける。
 意識の奥で眠りについていた遠く古い過去。破棄されて、彼は一度死んだのだろうか。
 ダンジョンメーカーが造りだしたレプリカなのだとしても。
 TYPE[JM-E]には起き上がる理由がある。
「戦いの時が迫っています」
 ジェイミィは、そう告げた。

 グ、……ゥゥウウウン。

 低く重たくうなるうような起動音と共に、エネルギー供給が開始されアイライトに光が灯った。見守っていたジェイミィの前で、錆びを弾くようにハッチが開く。
「……乗れと言うことですか」
 素早くコクピットへ滑り込めば、一心同体となるよう設計されたかのような内部へジェイミィの体は収まる。
『敵影確認――災魔が向かってくるぞ』
「む、来ましたか」
 操るままにTYPE[JM-E]が鉄くずの中から起き上がり、迎撃体制に移る。
 スクラップ置き場となった迷宮を切り崩すようにして、敵の砲撃が続き、その音は段々とこちらへ近づいてくる。目標を定めた動きだ。
「狙いは当然私ですよね。さてどうやって迎え撃ちましょうか」
 備えられた発射口を開き、レーダーとAIによる予測から狙いを定め。
 瓦礫と煙を飛ばしながら現れた影にミサイルを撃ち込んだ。
「動けますね、TYPE[JM-E]」
 反撃が来る。と地面を蹴って横に退く。瞬間、鋼の巨体が突っ込んでくる。
 荒々しい災魔の影は、こちらと瓜二つの機体。
「向こうも同じTYPE[JM-E]!? WHITE KNIGHT、敵の情報収集を!」
 ジェット噴射を展開し相手との距離を離し、ジェイミィは叫んだ。
 敵のユーベルコードによる偽物に違いない。
 まさか、操縦者はいないだろうが。
『解析完了……あれはロールアウト当時の姿だ!』
「ロールアウト当時? ……あぁ、なるほど」
 鏡合わせのように向かい合った機体を見る内に、蘇る。
「あれは、私の後悔の姿!」

 私の生み出された場所。
 神を信じる人々が住まう、宗教国家「メサイア」。
 異端勢力からの護国決戦兵器として、私は望まれたのだ。
 敵を倒し、安寧を取り戻せと。
 だが。
「……役目を果たせず、国は滅びた」
 ただの兵器ならば叫ぶこともできず、流す涙もなく。
 静かにその最後を見届けて、共に滅ぶはずだったのだろう。

 偽のTYPE[JM-E]が右腕を振りかぶり、殴りつけてくる。
 上げる声もなく、自我やそれに値する意識があるとは思えない。
 だが虚飾された影響か、彼はたしかに怒りを持っていた。
 金属同士がぶつかり合う音が響き渡る。ジェイミィは拳をいなすと、相手の懐に飛び込みタックルの要領で吹き飛ばす。
 床に投げ出された過去の自分を、ジェイミィはじっと眺めた。
「そして」
 結末はこうだ。
「私は教皇が発動した界渡りに巻き込まれた」
 役目を果たせず、国は滅ぼされ、護るべき人々を失った。
 過去に起こった出来事、その只中に彼は居るのだろう。ならば。
「未来の私が、あなたに終わりを与えましょう」
 自身の操るTYPE[JM-E]に、過去喰らいの剣を握らせる。刀身に纏った粒子が不思議な輝きを放ちだす。
 視界の向こうでは偽のTYPE[JM-E]が破損した機体で無理矢理に起き上がり、ミサイルの一斉照射を放った。
 推力移動による滑らかな動きで接近、飛び交うミサイルをかわしながら、ジェイミィは三度の斬撃を見舞う。それがトドメとなって。
 鉄くずの山に倒れたTYPE[JM-E]の姿は、崩れるように消えていった。

 結局、詳しいことは解らず。手に入れた情報は断片的なものでしたけど。
「ま、少しでも過去が思い出せただけで十分です」
 自分の知らない後悔が、過去を守れなかったと嘆いていたのだとしても。
 たしかに今日TYPE[JM-E]は勝利を得て、世界を守った。

「今の世界を守れればそれで良いのですよ、私は」

大成功 🔵​🔵​🔵​

メフィス・フェイスレス
【WIZ・アドOK】

此処に足を踏み入れるなんてね
よほど運のない迷い込みかそれともお花畑な物好きか
どーもアンタは後者っぽいわね
喰い千切りたくなる理解(わか)ったような厚かましいツラだから

心の奥に秘めた姿
何もかもかなぐり捨てて喰らおうとする私

きっとさっきの私もこんな感じだったのね
浅ましいったらありゃしない 獣以下じゃないの

「飢渇」どもは動かない あれは私だから いつだってそう
結局獣(わたし)を止められるのは人間(わたし)しかいないんだ

そうよ、アンタは私。不愉快だけど必要な、私の起源
だからこそ、私が人間(わたし)で、猟兵(わたし)である為に

――おいたが過ぎるペットは躾けないとね?

歯ぁ喰い縛れッ!!



 それは、自分勝手で恥知らずな姿。
 じっとりとした熱を帯びて、柔らかな肉は舌の上で溶けるようだと。
 噛んで、千切って、足りない足りないとよだれを垂らしながら。
 食べる程に飢え、満たされない身体に詰め込んで、底なしの欲望を剥き出しにして。
 暴食の浅ましい姿をさらす。女。

「アンタ、何のつもり?」
 それを見つけたメフィス・フェイスレス(継ぎ合わされた者達・f27547)に嫌悪が走る。
 こちらの声も届かない様子で、それは一心不乱に肉を喰い続ける。
 獣のように地面に這いつくばって、掘り返した肉の土を口に詰め込んで。
「ハッ」
 思わず、笑い飛ばした。
 こんな場所に足を踏み入れるなんて。
 よほど運のない奴か、それとも頭の中がお花畑の物好きか。
「どーもアンタは後者っぽいわね」
 迷宮の空気に狂ったのだとは思えない。こいつは初めからこうなのだ。
 ギロギロとした金色の眼が、メフィスを見つめている。
 嗤っている。この姿を誇れよ、と。誘うように。

 喰い千切りたくなる。
 理解(わか)ったような厚かましいツラ。
 あれは、心の奥に秘めた姿。
 何もかもかなぐり捨てて喰らおうとする私は、まるで獣以下じゃない。

「きっとさっきの私も、こんな感じだったのね」
 肉を守るはずの『飢渇』どもは動かない。
 あれをメフィスと認識しているせいで、手を出せないのだ。
 いつだってそう。
「結局獣(わたし)を止められるのは人間(わたし)しかいないんだ」
 身体の中に生まれる熱を解き放ちながら、メフィスは敵へ殴りかかった。
 転げるように攻撃を避けながら、偽物が口を開く。
「なんで止めるの」
 好物を取り上げられた子供のように拗ねた声で言う。
「アンタは私でしょ。私なら私の気持ちが理解るでしょ」
 身体をはね起こすと、手を伸ばし隙あらば噛みつこうと口を広げ。
 責めるように言葉を継いだ。
「腹が空いて苦しくて仕方ないって知ってる癖に」
 偽物もメフィスと同じ様な動きで戦うのだから、殴り合うことになる。
 互いの拳が火花を散らしていた。それはやがて大きな火へ変わっていく。
 あたりを焼き焦がしながらその姿は、真の姿へと。
「奪い合って、喰らい合って、そうやって生きるしか無いのに否定するの?」
 偽物が訴えるように言い、メフィスは今一度、拳を強く握った。
「でもそれは許されないの」
 人と生きるのならば。
 目の前のもの全てが食い物に見えてしまう自分を戒めなければいけない。
 私は人間だから。

「わかんないよ! そんなのわからない! 我慢なんてしたくない!!」
 説いても、理性のないその姿は首を横に振って喚くばかり。
 火を吐いて、肉の地面を一蹴り、一足飛びに偽物の間合いに入る。
 首根を掴んで叩き伏せて、倒れた偽物の上に馬乗りになった。
「なら、教えてあげる――おいたが過ぎるペットは躾けないとね?」
 身体から火柱が昇り肉の迷宮を焼き焦がして。
 押さえつけた身体がいくらもがこうとも逃さないよう押さえつけた。
「歯ぁ喰い縛れッ!!」
 叫び。殴り抜ける。
 トドメを受けた夢幻の偽物は、塵に灰になって消え失せていく。
 それでも私の中には、まだその心があるのだ。

 そうよ、アンタは私。不愉快だけど必要な、私の起源。
 だからこそ、私が人間(わたし)で、猟兵(わたし)である為に。

 ――飼い馴らしてやる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リサ・マーガレット
「ちょっと遊んであげようかな?」
よく考えれば、
僕は優しくあるべきだろうか?

もし優しければ…。苦しまないように。

「ウィザードミサイル」
そう言って、軽いキックをあたらないように
できれば、それほど痛くないように。打ち込む

攻めるのではダメだろう。
でも、倒さなくてはいけないのはわかる。

「君だって、仲良くなれるよね。」
僕はは、優しさを持ってそう伝えたい。
【対猟書家用切り札01】を打ちつつ

「あの子を救って見せる。ありがとう、この経験が、希望になったよ。」
そうか、多分この子は天使だったのかな?

最後は、慈悲と刀にした妖精で切り捨てる。
優しく、罪を許すように、認めるように。



 誰にでも善意があるんじゃないかって思うんだ。
 優しく誰かを思う気持ちは、心の中できっと育つものだから。
 だから僕は、君とも仲良くなれるって信じたい。

 仕掛けだらけの図書館で造られた迷宮。
 謎掛けを解き明かし、進んだその先に現れたのは。
「……あれは、僕?」
 リサ・マーガレット(スカイダンサーのオウガスレイヤー(自称)・f32587)は驚きに目を見張る。
 まるで鏡写しのような、けれど少し違う魔法少女。
 そして、その後ろにもう一人。背中に白い翼を生やした少女が立っている。
 災魔アーラ・イリュティムだ。
『この子は、あなたが心の奥に秘めた姿』
 褐色の瞳が、リサを覗き込むように見つめている。
「僕の心?」
『あなたは、とても純粋な心を持っていますね』
 だから造り出したんです。この姿を誇ってほしいから。
 一見優しいような言葉だけれど、彼女たちは災魔だ。
 偽物のリサが動き出す、構えた二丁拳銃の銃口をリサへ向けた。
「戦いは避けられないよね、やっぱり」
 リサは戯れるようなステップを踏んで、ほんのすこし、困ったような表情を浮かべる。
 こうして争う以外の方法はないのだろうかとそんな思いが沸き起こって。
「それなら、ちょっと遊んであげようかな?」
 おいでよ。と誘うように迷宮を駆け跳ねる。
 偽物がその後ろを追う。
「あなたも踊りは得意? 魔法を使う?」
 だって僕だもんね。
 とん。と、床を蹴ってその次は壁を蹴る。軽いフットワークだからなせる縦横無尽の動き。魔法少女のスカートがフワリとたなびいて。風に遊ぶ一輪の花のように、リサは敵を翻弄する。
 でもこんな風に時間稼ぎをしていてもだめだ。

 僕は優しくあるべきだろうか?
 僕ができる優しさってなんだろう。
 もし僕が優しければ……苦しまないように、できないかな。

「ウィザードミサイル」
 近づいてきた敵を、くるりと回って軽く蹴りつける。
 せいぜい銃口を反らすぐらいの。痛みなど、殆ど感じないだろう威力だ。
「なんて、こんなのじゃ倒せないよね」

 あなたを、倒さなくてはいけない。
 わかってるんだ。
 でも。

「君だって、仲良くなれるよね。」
 もう一人の僕。心の中にある秘密の姿。
 あなたを迎え入れるから、武器をおろしてこちらへおいで。
 優しく伝えれば、偽物はその言葉に頷いてみせた。
 銃を手放した手を取り合って、リサと偽物は微笑み合う。
「あなたが消えても、心の中には残るから……」
 苦しませないよう、痛みも感じないように、妖精を刀に変えて鋭い一刀で貫いた。
 優しく、罪を許して、認めるように。
「あの子を救って見せる。ありがとう、この経験が、希望になったよ」

 偽物の身体は幻のように消え失せて。
 災魔も、いつの間にかその場を立ち去ったようだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

古明地・利博
は、なんで俺がそこにいる。しかもその病衣はあの時の……!
ふざけるなよ、今すぐ出ていけ。俺に救いはいらない、受けるべきは罰だ。救いなんて……受けてはいけない。
出ていかないなら、力づくだ。

俺は、あの時のようにならないために力を身に着けた。あの時のようにならないために知識を蓄えた。あの時から止まった時間を進めるために、特別な道具を集めだした。もう俺は、お前みたいな踏みつぶされるだけの存在じゃない。だからお前とは……決別だ。

いるんだろ?クソ野郎。出て来いよ、全力でぶっ飛ばしてやる。そして俺……私は、小さなおもちゃ箱を見つけて外にでる。私は、この罰を背負っていかなきゃいけないからね。



 夢なんて見たくなかった。
 だからこれは現実なんだろう。
 理不尽で、救いのない、虚飾の夢幻。

 ベッドの寝心地は酷いものだった。
 脆い砂の上でベッドはいつも不安定に揺れていたし。
 時折聞こえるオルゴールの音や、砂が崩れるザラザラとした音が、鼓膜をいやに震わせるのだ。
 だから起きた後も、酷く泣いた朝のような気だるさに、頭がぼんやりとする。

「起きてる?」と、声がした。
 幻聴ならいいのに。と思わないでもない。
「は」
 古明地・利博(曰く付きの蒐集家・f06682)は砂礫でひりつく喉で嗤った。
 ベッドから降りて、声のした方を見遣れば。
 なだらか砂丘の上に、見覚えのある姿がある。
「なんで俺がそこにいる」
 そこに居たのは利博だ。今より過去だろうか、背格好に違和感がある。
 着ているものが病衣であることに利博は息を呑む。
「それは、あの時の……!」
「もういいんだよ」
 後悔から造られた夢幻の利博が、そっと優しげに微笑んだ。
 反吐が出る。
 この想像を詰めた迷宮に、よくも入ってこれたものだ。
「救われてもいいんだよ。……もう、許してくれるよ」
 誰より何より、お前だけは決してそれを言うべきじゃないんだ。
「ふざけるなよ」
 込み上げる怒りに呼応するかのように、利博の身体に禍々しい力が宿りだす。
 人ならざるものが持つ驚異が、内側でうねり膨れ上がっていく。
「今すぐ出ていけ。俺に救いはいらない、受けるべきは罰だ」
 力を使う代償は、臓腑を焼き焦がすような痛み。
 構わない。
 どうなっても構わない、その覚悟が利博にはある。
「俺は、救いなんて……受けてはいけない」
 その覚悟すら、憐れむように。
「そんなの、悲しいよ。傷ついてばかりで可哀想だ」
 泣きそうな顔をして、夢幻が声を振り絞った。
 甘ったれたことを言うのは、それが虚飾されているからだろうか。
「消えろ」
 それが出来ないのなら、と夢幻の胸ぐらをつかみあげる。
 戦うすべを知らないようなもう一人の自分は、されるがままで。
 無力で、無知で、弱い。
「出ていかないなら、力づくだ」
 せめて反撃をしてみろと頭の隅で思う。
 一方的に蹂躙されるだけの自分は見るに堪えない。
 震える手が、利博の腕に触れた。
 悲しげな瞳が、真っ直ぐに見詰めてくる。

「俺は」
 利博は過去の自分に向かって、撥ねつけるように言葉を紡いだ。
「あの時のようにならないために力を身に着けた」
 遠くで、オルゴールが鳴っている。
「あの時のようにならないために知識を蓄えた」
 ザラザラと、足元の砂が何処かへ流れ落ちるように動き始めた。
「あの時から止まった時間を進めるために、特別な道具を集めだした」
 この迷宮は、砂時計のような空間をしている。
「もう俺は、お前みたいな踏みつぶされるだけの存在じゃない」
 異形の力が利博の中を駆け巡る。
 強力な毒は、己ごと掴んでいた夢幻を蝕んだ。
 苦しげに口から血を吐く、鏡写しのような姿で互いに咽る血で溺れそうに成りながら。
 互いを罰するようにとどめをくれた。
「だからお前とは……決別だ」

 息絶えた夢幻の利博は、白い砂になって崩れていった。
 それは足元に小さな砂山を作った。中からどこか見覚えのある箱が覗いている。
 小さなおもちゃ箱だ。
 利博は跪くと、その箱をゆっくり拾い上げた。
 ……俺……私は、外にでる。
「私は、この罰を背負っていかなきゃいけないからね」
 おもちゃ箱の蓋を開くと、周りの景色が溶けるように薄れていく。
 オルゴールの音が遠くなり、全ての砂がこぼれて消える。
 気がつくと辺りは箱庭めいた区域が並ぶ迷宮へ変わっていた。

 自分の迷宮を抜けた利博は、軋るように怒りを漏らして、
「いるんだろ? クソ野郎。出て来いよ、全力でぶっ飛ばしてやる」
 白い翼を持つ災魔目掛けて、ありったけの力を振るう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロク・ザイオン
(触れる物を焦がすだけの
血肉無き炎の人形)
(何の胎から生まれたとも知れぬ己は
せめてそうでなければいいのにと)

…だからおれは
キミを思い描いたんだ

キミは真っ直ぐ森を抜けていけ
振り返った街が赤く染まったら
すぐに追いつくから
ともに行こう

ここは獣の迷宮だ
──誰の許しでここにいる!

(「響徊」
迷宮は深森へ
水源、泥、濃霧
熱が生む雲、雨が「それ」を阻もう
森を焦がす熱はそうしていつか消えるのだから)

そしてお前は「それ」から遠くへゆけないんだろ

(撒き散らされた火災に捲かれて死ぬのか
生き残っても煙で周囲はろくに見えまい
【地形利用】し【追跡】【早業】で
纏めて刈り取る)

「それ」は何も守れない
だから、おれは、おれなんだよ



 熱を、感じた。
 その瞬間、わかったのだ。
 己の心に秘められた姿が――赤い炎なのだと。

 異変を感じた小さな獣が毛を逆立てて、唸り声を上げる。
 ここはまだ、この獣が護るべき領域なのだ。
 戦おうとするだろうその身体を抱き上げて、ロク・ザイオン(変遷の灯・f01377)はその頼りげのない、しかし温かな感触に胸を締め付けられた。
「キミは、死んではいけない」
 生まれたばかりの脆弱な仔。それでもその身に宿る意志は、きっと勇敢だ。
「外を見るんだ。この箱は、内側は白くて、でも本当は赤い色をしている……キミはそれを知るべきだ」
 ぎぃ。と小さな獣が心細げに鳴いた。
 怖がらなくていい。海を越えて、旅に出よう。
 穏やかに言葉を囁いて……一転。
「今から来るあれは、おれの相手だ」
 殺気を込めた声を吐いた。危険を教える為に。
 小さな獣を、抱いていた腕から解き放つ。
「行け」
 合図を送って、見上げた視線の先。
 迷宮の空に生じたのは小さな焔。
 それは大きく燃え上がると、腕をつくり足をつくり頭をつくり
 やがて人の姿をした炎の人形となる。
 轟々と燃えながら、触れるものを焦がすだけの存在。

 何の胎から生まれたとも知れぬ己は。
 ああやって生まれたのだろうか。
 せめてそうでなければいいのにと、その心さえ否定された。

「……だからおれは、キミを思い描いたんだ」
 くっ、と喉を鳴らして自嘲の笑みを漏らす。
 炎の人形が、降りてくる。まるで火の玉のように。
 ロクは深く息を吸うと、腹に力を込めて遠吠えを上げた。
「ぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおッッッ!!!」
 迷宮の中に響き渡る声が、白い都市を揺らし海に振動を走らせた。
 深い緑の森が、やってくる。
 辺りに草木は満ちて、りんごの木も都市も飲み込まれていく。

「キミは真っ直ぐ森を抜けていけ」
 降りてくる炎から目を離さずに伝えるロクの足に、尻尾が擦り付けられる。
 それは、去り際の挨拶の仕草なのだろう。
 撫でてはやれない代わりに低く喉を鳴らし。
「振り返った街が赤く染まったら、すぐに追いつくから、ともに行こう」
 約束を、した。

 着地をした炎の人形が森を焼く。
 歩くだけで、息をするだけで、触れようと手を伸ばしただけで。
 それは唯そこに居るだけで全てを灰にする。
 だからこそ、森がそれを阻み封じるのだ。
 水源、泥、濃霧。それらを内包した森の仕組みがある限り。
「お前に、森は負けない」
 生命が廻る。破壊と再生を繰り返し、森は潰えることはない。
 炎の人形がロクへ向かって飛びかかった。
 森を生み出した根源を断とうというのか、それとも敵として造られたゆえの行動か。
 剣鉈を抜き払い、ロクは低く構えた体勢から地面を蹴る。
 突っ込んでくる炎の身体を切り裂いて、すり抜けるように向こうへ飛び、木の上に登った。森が焼けていく。火が立ち上り、周囲を赤く染めていく。
 四つん這いに倒れた炎の人形が、首を巡らせて木の上のロクを睨みつけた。眼など無いが、それでも確かに怒りに満ちた視線を向けている。
 真っ向からそれを睨めつけて、
「ここは獣の迷宮だ」
 ロクは小さな獣の分も吼えた。
「──誰の許しでここにいる!」
 シャアアア! と猛獣が威嚇するように炎が叫んだ。
 口があるなら大きく開いて笑みの形を作っていたのではなかろうか。
 招かねざる侵入者、歪められた虚飾の写し身は、その姿を誇らしげにしているようだった。
 火を、災厄を、撒き散らすだけの存在であるはずなのに。
 ロクの首筋にぞわりとしたものが這う。
 木々を飛び移り、熱気にあぶられた空気の中を自在に跳ね跳びながら、ロクは炎に向かって剣撃を見舞った。敵の炎は消えることを知らずに再生するように斬られた部位をまた炎でつくりだす。まるできりがないようであったが。

「森はお前の存在を許さない」
 辺りに、雨が降り出していた。
 火災によって生じた熱が雨雲を呼び、激しい雨を降らせるのだ。
 森を焦がす熱はそうしていつか消えるのだと定められている。

 雨に打たれて、次第に炎の人形は苦しみだした。
 よろめくように雨を避けられる場所へ逃げていこうとする。
 けれど逃げ場など無いのだ。

「そしてお前は『それ』から遠くへゆけないんだろ」
 自身が起こした火災に捲かれて死ぬのか。
 水が炎と共にそれを消し去ってしまうのか。
 自然のままに消滅するものだとしても、余計な火種を残してはいけない。
「残らず、おれが刈り取る」
 それが森番の役目なのだから。
 雨と黒煙に塗れながらロクは焦げた大地の上に降り立ち、剣鉈を振り上げた。
 奥歯を噛んで、弱々しくなった炎の塊を、一刀で消し飛ばす。
 あとには、森の焼け跡がのこるばかり。

 『それ』は何も守れない。
 だから、おれは、おれなんだよ。

 森の出口へと向かって、ロクは歩き出した。
 その先に、遠吠えによって割れた海が見えてくるだろう。
 白いばかりの都市は赤く染まり、まるで炎の色に染められたようだろう。
 小さな獣は何処へ行ったのか、それはここでは語るまい。

 けれどきっと、旅に出たのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ノヴァ・フォルモント
お前がこの迷宮の創造主、災魔というわけか
自分の心の内…興味深い迷宮を見せて貰ったよ

…然し
心の中を見透かされるというのは
気持ちの良いものではない

生み出されたもうひとりの自分
大きな黒翼に、太く長い竜の尾
猛々しい竜族そのもの
内に秘めた本来の自分の姿だ
それと同時に俺にとっては忌むべき姿でもある

…随分と
辛気くさい、満たされない
といった顔をしてるじゃないか。本来の俺よ
幾ら力を持っていたとしても、心までは満たされない
有り余る力は災いをも呼ぶ
…そう、必要ないんだ。その姿は

三日月の竪琴を手に、月夜の旋律を奏でる
頼むから、今は大人しく眠ってくれないか
本当にその力が必要になる時まで

願わくば、その時が来ない事を祈るよ



 災魔が彼に向けた眼差しは、遠くに輝く星を見つけた子供のような喜びに満ちていた。
 だからこそ、周りに伝えたいのだ。
 自分の見つけた素敵なものを、皆に見てほしくてたまらない。
「とても素敵です。あなたのその姿」
 強くて美しくて、震えるほどの恐ろしさを秘めた心。
「ああ、どうぞ誇って下さい」
 白い翼を広げてやわらかな笑顔を浮かべるアーラ・イリュティム。
 いち早く、その元に辿り着いたのは、
「お前がこの迷宮の創造主、災魔というわけか」
 流星の導きによって自分の迷宮を抜けたノヴァ・フォルモント(待宵月・f32296)。
 力強い澄んだ双眸に、ひりりとするような冷たさを一筋含ませて。
 それでもその声は、なめらかな音を紡ぐ。
「自分の心の内……興味深い迷宮を見せて貰ったよ」
 想像によって生まれた夜と星の迷宮。
 それは、自分が選んで提示したものだから楽しむことが出来た。
「……然し。心の中を見透かされるというのは、気持ちの良いものではない」

 背に生えた大きな黒翼に、鱗に覆われた太く長い竜の尾。
 猛々しい竜族そのものとなったノヴァが写し身となって目の前に現れる。
 内に秘めた本来の自分にして、同時に忌むべき姿。
 鬱屈とした表情、身を包む雰囲気に、優しさや穏やかさはまるでなく。
 写し身である彼もまた、ノヴァを忌まわしいと感じている事が肌に伝わってくる。

「……随分と」
 檻の中に閉じ込められていた猛獣が、解き放たれた。
 そのような、心地だろうか。
 溜まりに溜まったその鬱憤は、捌け口を求めている。
「辛気くさい、満たされない、といった顔をしてるじゃないか。本来の俺よ」
 ノヴァは三日月の竪琴を爪弾いた。一弦、ビィンと空気を揺らすような音が響く。
 目覚めさせてはいけないのだ。
 それが例え造られた偽物だとしても、本来の自分が暴れ出せばどうなるか。
 考えるだけで、背筋に冷たいものが走る。

 その時。本来の姿をしたノヴァが咆哮をあげた。
 まるで人の言葉すら忘れた様子は、虚飾された影響によるものか。
 轟々とまるで雷鳴のような声を迷宮中に響き渡らせて。
 黒翼を羽ばたかせて飛び上がり、理性を失った獰猛な動きでノヴァへ襲いかかる。
 触れたものを引き裂かんばかりに掴みかかり、鞭のように跳ねた尾が地面を抉って瓦礫を薙ぎ払った。まるで破壊の化身の如き猛攻にノヴァは琴の演奏で対抗する。

「幾ら力を持っていたとしても、心までは満たされない」
 相手へ言い聞かせるように、そして自戒するように言葉を紡ぐ。
「有り余る力は災いをも呼ぶ」
 思うままに力を誇示するあの姿は、どこか焦燥に駆られているよう。
 見せつけられて、胸の奥に軋むような痛みが走ったような気がした。
「……そう、必要ないんだ。その姿は」
 唇を噛み、言葉を切る。
 災いの竜にあるのは、破滅だけだと識っている。

 今だけは大人しく眠ってくれと、奏でるのは月夜の旋律。
 優しくゆったりとした曲は、誰もが月明かりが見守る夜を思い起こし、疲れた身体を横たえたくなるような心地に誘われるだろう。
 演奏による効果は徐々に現れ、暴れまわっていた写し身の動きは鈍りだしていく。
 やがて。ふらり、と写し身のノヴァの身体が地面に崩れて倒れた。
「……さあ、おやすみ」
 本当にその力が必要になる時まで、ずっと。
 願わくば、その時が来ない事を祈るよ。

「どうして、否定するんですか。あなたの心はこんなにも素晴らしいのに」
 心底、不思議そうに災魔が尋ねた。
「……君には解らないのだろうな」
 ノヴァの足元で、写し身の姿は幻のように消えていく。

「人の心は、容易く暴かれていいものではない」
 冴え冴えとした琴の音が、爪弾かれて。
 災魔へ、最後を与える旋律を贈る。



 やがて。
 それぞれの迷宮を抜けた猟兵達の手によって、白い翼の災魔は葬られる。
「ああ……とても素敵な姿でした……」
 最後の瞬間も、彼女はそんな言葉を残していった。
 アーラ・イリュティムの瞼は深く閉ざされ、もう何も見ることはない。
 その姿も造り出した写し身と同じ様に跡形もなく消え去っていった。

 あなた達の迷宮は、どうなっただろう。
 崩れたり、壊れたり、しただろうか。
 それとも変わらずそこに佇んでいるのだろうか。
 いずれにせよ、この迷宮はあなたが創造したもの。
 あなたが想像すれば、それはきっと現れることだろう。
 迷宮の君は、心の中にあるのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年04月09日


挿絵イラスト