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超暗躍イケメンぶっころ的な?

#サムライエンパイア

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#サムライエンパイア


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●悲劇の婚礼
「いいかお蛍、この縁談が破綻すれば呉服商として我々一家が作り上げてきた玻璃屋がどんな扱いを受けるか分かるか!」
「そうよお蛍。あの満礬家の嫡男柘之丞様直々の婚礼。喜ばしい事ではありませんか」
 蛍は奥間を抜け、裏庭が見える縁側に座っていた。肌寒いが有松絞りの美しい藍色に浮かぶ模様、そしてその藍の空を泳ぐように銀糸で繊細な蝶々の刺繍が施された羽織に身を包むと暖かい。
 その横にそっと座るのは仕立て職人の勘兵衛だ。蛍の顔がぱっと明るくなる。
「相変わらず勘兵衛様の仕立ては逸品です。この間試作と行って仕立てて頂きました小袖なんて、遊女の誰よりも美しいだなんていわれましたの」
「いやいや、まだまだ修行中の身でございます」
「なにをおっしゃいますか。玻璃屋の勘兵衛、その名を聞いたお客様から注文が殺到していること位蛍は知っておりますよ」
 二人の間に沈黙が流れる。勘兵衛は知っているのだ、目の前の女性の縁談話を。
「仕方がない事、です」
 最近の武家の子息達の無礼にお蛍さんが巻き込まれるのは。と勘兵衛は言いたいが飲み込む。
「私が看板娘で、勘兵衛様とご一緒なら……と思いましたが、既に小袖を嫁入り道具として用意しております」
 店先に飾られていたあの真っ赤な、お蛍さんには似合わないただ華美なだけの小袖はそうだったのか。勘兵衛は再び沈黙した。

●それは囁く
「何故にこの世はつまらない。我が祖父は戦場にて何重もの死闘を繰り広げ、敵将を打ち取ったと聞く。しかしその刀も今や飾り物」
「ええ、ええ、分かります。柘之丞様の退屈が」
「我等武家、時代が違えば戦に出れたものを。どの家の男も皆」
「皆様の嘆きは聞いております。満礬様とお話しできたこと、幸いに存じます」
「いやいやお前の噂は聞いている。傾奇者になるのもまたいいが、暇潰しに耳に挟んだ話その恋話を俺様が潰すなど最高の娯楽ではないか!俺様好みの小袖も作らせてやっている。はは、それを纏った悲劇の嫁!ああ楽しい!」
「私の助言がお役に立てたのであれば幸いです」
 僧侶は高笑いをしている柘之丞の傍でにたりと笑みを浮かべる。
「これでまた一人……嗚呼、楽しや楽しや」

●いんぐりもあべーす
「他人の恋路を邪魔する奴はいつ、どこの時代でもホースに蹴られまくりんぐで構わないよねームカつく」
 カバンシ・サフィリーン(ギャル系宝石人形(妹分)・f10935)は頬を膨らませる。
「つーわけで、オブビリオン……この『黒幕の助言者』って奴がある藩一体の武家の子息達にあれこれ吹き込んでるっつーわけ。平和な時代に退屈している男達は町でやりたい放題。えっと、傾奇者っていうんだっけ?」
「で、そのなかでも最低最悪な婚儀の裏話をしている所をアタシが予知しました」
 タブレットにペンで簡単な絵を描きながらカバンシは説明を続ける。
 呉服屋玻璃屋の娘、蛍さんと結婚を企んでいるのが満礬家の嫡男柘之丞。
 当然蛍さんの両親は大喜びで嫁入り道具を作らせた。でも蛍さん、仕立て職人の勘兵衛さんとは両片思いって関係だ。
「まずはこの婚儀をどーにかして破綻させて!」
 そうすれば悪さをしている男連中は満礬の家に逆らうかーこの庶民共が!ってもっと暴れるはず。所詮は刀を碌に持ったことのないただの道楽息子達。ボコスカしていれば、オブビリオンにたすけてーくろまくさまーなんつって助けを求めにいく。
 そして、姿を現した黒幕の助言者ぶっころタイム!これでどうだ!
 花嫁誘拐や両親の脅迫等の力で攻めるか、すでに別の結婚話の既成事実の証文を偽造したり結婚に必要な小袖を盗み出すか、破談になるよう交渉する。これ位しか思いつかないでごめんね、と謝るカバンシ。
 あ、江戸幕府から支援があってね、皆は徳川の紋所の入った符である『天下自在符』を持ってるよ。その符を見せれば治外法権、人々は平伏するんだって。ただ平伏を一斉にさせただけではこの事件は解決しないと思うよ。
 オブビリオンは巧妙に藩全体の関係者に取り入っているからやっかいなんだよねーと付け加えカバンシは猟兵達に手を振ってその後ろ姿を見送った。


硅孔雀
 ここまで目を通して頂きましてありがとうございます。
 今度はサムライエンパイアにて世直しの旅です。
 現在、ある藩ではオープニングでもありました通り、オブビリオンの手、否助言によって平和な世になった世界に退屈した武家の子息達が暴れています。
 まず第1章では【呉服屋玻璃屋の娘蛍と武家満礬柘之丞の婚儀の破綻】をお願いします。
・蛍の父母(勿論結婚話には大賛成)
・蛍(穏やかな女性。勘兵衛とは両片思い)
・仕立て職人勘兵衛(才能は玻璃屋随一。売れる品の殆どが彼の者。蛍とは両片思い)
・嫁入り道具として作られた小袖(店先に見せびらかすように展示されている。柘之丞のはこれを蛍に着せたがっている)
・満礬柘之丞(藩一番の名家満礬の嫡男。粗暴な男)
 この辺りの情報を役に立てて貰えば幸いです。

 1章クリア後、武家の子息達は武家に逆らう庶民達に腹を立て、更に暴れるのでその対処が2章になります。
 2章クリア後、子息達はボスオブビリオン【黒幕の助言者】に助けを求め、町に現れた彼との戦闘になります。

 尚オープニングでも説明がありまし通り、猟兵達は江戸幕府から「天下自在符(てんかじざいふ)」を与えられており、徳川の紋所が刻まれたその符を見せれば治外法権となり人々は平伏します。
 平伏はしますが、結婚や騒ぎ自体をそれで全て止める、というプレイングは万能すぎるので返却対象になります。使うタイミング、平伏させて何をする等が重要かもしれません。
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第1章 冒険 『望まぬ結婚をぶち壊せ』

POW   :    少々過激だが力づくの行動に出る。花嫁誘拐や両親の脅迫等。

SPD   :    すでに別の結婚話の既成事実の証文を偽造したり、結婚に必要な道具を盗み出す。

WIZ   :    破談になるよう交渉する。対象が結婚を断れるよう後ろ盾を作ってあげる。

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

アトシュ・スカーレット
【SPD】
んーと、どうしよう?
……従業員に変装して盗むか

【行動】

【目立たない】容姿の従業員に【変装】する
店先に飾られた小袖が汚れたりしていたら大変、などと【言いくるめ】、店先から外し、人目がつかない場所で【空間作成・家】に放り込んで【盗む】

その後、【早着替え】で元の服装に戻り、そそくさと退散する(逃げ足)

「おーい、ちょっといいかー?この小袖、出してていいんですかね?嫁入り道具ってんなら、無くしたり汚れたりしたらいかんでしょう?」
「そんなら、確認させてくだせぇ。せっかくの蛍の嬢ちゃんの祝いの品だ。」

「…なんか、悪りぃな。でもあれ、あの姉さんには似合わねぇから、別にいいか。」

連携、アドリブ大歓迎


蔵館・傾籠
誰でも良いんだろう、幸せそうな者達を絡め取って翻弄出来りゃ。気に入らねぇけどな。

【両親へ接触】WIZ(礼儀作法)
此度の縁談誠に喜ばしく。来たる目出度き日を恙無く進められるようお力添え致したい。と、上からも申し使っております。
とかなんとか。
柔和な言動で政府の遣いだとか、身分ある御相手との縁談には力を入れねばだとか上手い事丸め込んで、懐に入れたら良いね。

縁談に喜ぶ母親に同調しつつ、頃合を見てふと憂う声色でそっと零そう。
御子息殿は余り、良い評判が上から聞こえて来ません。あの御家に輿入れして幸せになれるのか、私は余所者ながら娘さんが心配でして…ってな。
浮かれてる最中の不安の一粒は案外に、心が染まるぜ。


飛鳥井・藤彦
馬に蹴られてなんとやらって案件やねぇ。
腕力も脚力もない絵師やけど、お節介やかせて貰いましょ。

せやねぇ……。
店先に飾っとったら日に焼けたりしてせっかくの小袖が台無しや。
僕が小袖を纏った蛍お嬢さんの絵を描くんで、代わりにそれを店先に飾ったらどないでしょ?
と、旦那方に持ち掛けて一筆走らせて人目を惹ける美人画を描かせていただきます。

ほんで小袖への注意が逸れている内に、小袖は僕がいただきますわ。
勿論他に盗んでくれはる方がいはったらお任せします。

僕、タダで描くなんて一言も言ってへんし。
ほな、さいなら。

【アート】



【華麗で粋な男達】
「天下自在符を見せたとはいえ、こうあっさり古着が手に入るとはなあ」
 グリモア猟兵の言っていた呉服屋瑠璃屋の近くまで、使い込まれた作務衣を小脇に挟みながらアトシュ・スカーレット(銀目の放浪者・f00811)
は考えていた。
(自分に出来る事……例の小袖、変装して盗むか。とはいえ)
 繁盛しているのか瑠璃屋の周りは賑やかだ。
 少し道を変え、人気のない裏路地で衣服を着替える。少し慌ててしまったせいか、身に着けていた天下自在符が転がる。
「おっと」
 これは無くしたら大変だ、慌てて地面に向け手を伸ばしたその時、アトシュの上からのんびりとした声が聞こえる。
「お仲間さんがいはったっとはなあ。お嬢さん、きいつけや」
 アトシュがはっと顔をあげ、銀の瞳で逆光の中、風に揺れる藍色の髪の毛の男を見る。飄々とした様子で飛鳥井・藤彦(浮世絵師・藤春・f14531)はアトシュの手に天下自在符を渡した。
「ありがとうございます。あと、オレはオレ、です」

「馬に蹴られてなんとやらって案件やねぇ」
「その通りです。小袖を盗むのはオレがします」
「僕は腕力も脚力もない絵師やし、絵師らしくお節介やかせて貰いますわ。じゃあ打ち合わせ通りにいきましょか」
「はい。それでは」
 一人は足早に、一人はのんびりとした足取りでそれぞれ瑠璃屋に向かう。
 
 番頭や子供、そして幾人もの身分が違う客でにぎわっている瑠璃屋。その店先に真っ赤な下地に幾重もの花や蝶の刺繍が施された小袖が飾られていた。
 アトシュがそっとその小袖の傍に近づくと、そろばんを弾いていた番頭が顔をあげる。
「お前、それがなんだかわかっているんだろうな!」
 どうやら侵入には成功できたようだ。奉公人アトシュはむしろ堂々とした態度で番頭に振り替える。
「そりゃあもちろん知っていますよ。蛍の嬢ちゃんの大切な嫁入り道具。この小袖、出してていいんですかね?今日も店には人が沢山。無くしたり汚れたりしたらいかんでしょう?」
「ま、まあそうだが、婚礼が決まる日まで飾っておけと満礬様が」
「砂埃が舞うかもしれないし、それにこの美しさ。ここに置いていて危ないとは思いませんかねぇ?」
 番頭は考え込み、番頭は近くで反物をたたんでいる子供に声をかける。
「旦那様と奥方様は今どこにいるか覚えてるか?」
「はい、政府の遣いを名乗るのお方がお一人、いらっしゃいましてお話し中です」
(政府の遣い……既に猟兵が動いている?まあこの場に両親がいなければ話を強引に持っていけるか)
 アトシュが再び小袖に近寄ろうとすると、番頭は強引にアトシュを傍に寄せ耳打ちをした。
『戯れに武家の子息を従えて、柘之丞様がどこまで金をかけてこれを作らせたかと自慢しに来ること位知ってるだろ?』
 その場に小袖が無かったらどうなるか。アトシュは一瞬考え込む。
「これは綺麗で華麗、正に華の如し。番頭さん、そこの奉公人さんから話は聞いているでぇ」
「おいお前……!」
 番頭は小袖に近づき、その柄を前にうんうんと頷く飛鳥井の腰からぶら下げられた天下自在符を見つけた。
「飛鳥井様。おいで下さりまして何より。そこの子供、茶を早く!」
 アトシュは銭を数えていた子供に声をかける。
「僕はまあただのしがない絵師やけど、婚礼の話をそこの子から聞いてなぁ」
「なんてことを飛鳥井様。番頭、このお方は御用絵師飛鳥井様にございます。先立ってお話合いをされている方のお連れ様にてございます」
 咄嗟にアトシュは今両親と話をしているであろう猟兵と飛鳥井を結びつける。
「そこまでの肩書はお断りしていたんやけど、ああ堪忍。婚礼に先立って美人画をと頼まれましてねぇ」
 でも、このままやと日に焼けたりしてせっかくの小袖が台無しやなぁとわざとらしく残念がる飛鳥井を前に、番頭はほっとした様子で二人を見た。
「それじゃあ絵を描いて貰えるように奥間まで案内を。ささ、飛鳥井様はお履き物をお脱ぎになられて」
「せっかくの蛍の嬢ちゃんの祝いの品だ。埃ほつれないかしっかり確認もさせてもらいます」
 こうしてアトシュは小袖を畳み、飛鳥井はその跡をついていく。
 
 瑠璃屋の奥は職人の作業部屋や寝床になっている。適当な空き部屋に小袖を置き、アトシュは汗をぬぐう。
「もう一人猟兵が既に両親と接触している最中みたいですね」
 アトシュが飛鳥井に情報を伝える。
「せやったら、少し絵を描く時間はあるみたいやなぁ……しかし、蛍さんには」
「似合いそうにないですね。本当に描くんです?」
「筆をとったら美しいもんをそのまま残す、それ使命なり、なんてなぁ」
 飛鳥井は柄を軽く確認し、手持ちの和紙に軽く下書きを始める。
 柄にあった無数の岩絵具や膠液を並べながら、飛鳥井はもう持って行って大丈夫とアトシュに声をかけた。
 アトシュは畳んだ小袖を持ちさらに人気のない場所に立っていた。
「ようこそ、根無し草の寄り合い所へ」
 その言葉と共にアトシュのユーベルコード:空間作成・家が発動する。指輪に触れていた小袖がぱっと消えた。
「万が一の時は出せる。にしても」
 ……なんか、悪りぃな。でもあれ、あの姉さんには似合わねぇから、別にいいか。アトシュは会談が行われているであろう表座敷の方へ目を向けていた。


 
 時は数刻遡る。
「此度の縁談誠に喜ばしく。来たる目出度き日を恙無く進められるようお力添え致したい。と、上からも申し使っております」
 蔵館・傾籠(ヤドリガミの剣豪・f11800)は恭しく上座から瑠璃屋夫妻に頭を下げる。その紫の瞳には突然の時の政府からの来訪者に驚いた様子の夫妻の姿が映った。
「我が家の婚礼にわざわざ来ていただけるなど滅相もない」
「これは粗相のないようにしないと」
 夫妻に対し蔵館は努めて柔和な態度で夫妻に話しかける。
「気になさらずに。平和になったこの時世、身分あるお相手とのご縁談など世間にとっては明るき話題、ならず者や無礼者が邪魔をしないよう、ただ私は命を受け参っただけであります」
 夫妻、特に妻の方の顔が明るくなる。
(なんてな。誰でも良いんだろう、幸せそうな者達を絡め取って翻弄出来りゃ。気に入らねえな、仮にも武家の男のやることじゃない)
 蔵館の内心など知らず。夫妻は縁談に必要な嫁入り道具の支度品は出来ているか、養子に出さずにこのまま婚礼を迎えられてよかったと話し合っている。
 ふと蔵館は床の間に飾ってある漆塗りの花瓶と飾られている花に目が付く。二人の話が一段落したところで、蔵館はその花瓶へと体を向けた。
「いやあ実に素晴らしい花瓶に、綺麗な花。はは、こう見えて私、美の教養については詳しくなくできれば教えて欲しいところです」
「ああ!その花瓶も花も私が用意しました所。お褒め頂き光栄にございます。それでは少しお話を」
 上手く妻を床の間の近くまで呼び寄せた蔵館は、花瓶の模様や選んだ花、それぞれについて楽し気に話す妻の様子を観察する。
「この花瓶、花喰鳥同士がまるで食い合っているみたいな絵付けをしてしまったらしく、陶工さんが売り物にならないと困っていたのを譲り受けましたの」
「私には、むしろ二羽が睦まじくおしゃべりをしているみたいで」
「成程、夫婦円満だと思ってお選びになったと。素敵なことだと思います」
 蔵館の夫婦円満という言葉に妻は微笑むが、一瞬憂いを帯びた表情を見せた。
「あの子も柘之丞さんと仲睦まじくしてくれれば……」
「奥様、これは私の独り言だと思って聞いてください」
 蔵館は憂う声色でそっと、妻だけに聞こえる声で話す。
「御子息殿は余り、良い評判が上から聞こえて来ません。あの御家に輿入れして幸せになれるのか、私は余所者ながら娘さんが心配でして……」
 その言葉に、妻はめをぱちくりとさせる。何か言いたいが言い出せない、そんな風な様子も見せる。
(浮かれてる最中の不安の一粒は案外に心が染まる。さて、どうなるか……)
「蔵館様、これも私の独り言でございます」
「お噂は聞いております。そして、私も女としてこの瑠璃屋に嫁いだ身。娘の蛍がいなくなることも、そして……」
 その時であった。
「旦那様奥方様!小袖が!お蛍お嬢様の小袖が見当たりません!」
 飛び込んできた番頭が一人。
(……他の猟兵が動いたか。これはどうなる。まあいい、動いている猟兵とも接触できるチャンスか)
 夫が焦って店先へと向かおうとする中、蔵館は穏やかに夫婦に声をかける。
「とりあえずまず落ち着いて。もしかしたら誰かが移動させたのかもしれません」



 瑠璃屋夫妻と蔵館が店先近くまで瑠璃屋の軒先近くまで行くと、そこには人だかりが出来ていた。
「なんて綺麗なのかしら……」
「お蛍さんの美しさ、そして小袖の華やかさ」
「噂には聞いていたけど本人だったとは」
 通りがかった人ではなく従業員までもがその中で座っている男性へ声をかけたりしている。
「おい!お前ら、小袖は一体」
 夫は怒鳴る様にして従業員達に声をかけるが柔らかい声が途中でそれを遮った。
「小袖は一旦日に焼けないよう移動させてもらいましたわ」
 中心にいた男、飛鳥井は軽く旦那さんすいまへんなぁと謝る。
 蔵館は飛鳥井の腰に天下自在符ばぶら下がっていること、そして彼の近くにあるそれらを見て状況を理解する。
「ああ、お前か。後から来ると話は聞いていたが……」
「飛鳥井ですわお兄さん。こちら上から頼まれていた物が一つ、いやあ何枚か出来上がりました所で」
「それは良かった。この蔵館、危うく上の命を果たせなかったところであったぞ」
「蔵館さん堪忍なぁ。道に迷った挙句。僕の筆がつい何枚も描いてしもうて」
 小袖を着て微笑む蛍。紅裏白綸子の打掛を羽織り、頭に練帽子を羽織る蛍。美人画の数々が並べられていた。優雅な曲線で描かれた柔和な雰囲気の女性と華やかな色合いの小袖。
「こ、これは一体……」
「旦那様、婚礼に先立ちまして、上からも評判を聞いている瑠璃屋様の小袖を着た花嫁の美人画を頼まれておりまして」
 蔵館は夫にそう告げる。
「いやあすみません。彼が来るのが遅くて、その話すっかり忘れていました」
「さ、左様ですか。しかし、小袖はそれでは一体」
「あなた、今はそんな事いいではありませんか」
 その声は、奥方である妻のものだった。
「全くあなたときたら。呉服を、美を取り扱うものとして少しは他の美にも触れなさい!」
「『藤春』様の美人画。名には聞いておりましたが、こんな美しく書いてくださるとは……!」
 妻の声に夫は美人画を眺め、そして隅の朱文印の名前に目を見開く
「藤春……!な、ここまで来て頂けたのですか!」
「ここまで注目されてしまうとなんだか恥ずかしいですなぁ」
 一度この場は収めたほうがいいと思った夫は従業員達に人払いをさせた。

「先程は大変失礼いたしました!」
「いやいや、こちらこそ驚かせてしまって申し訳ございませんでしたわぁ」
 夫が土下座せんとばかりに謝ってくる姿に飛鳥井が止める。
「しかし、小袖はそれでは」
「それでしたらご安心ください」
 4人が話し合っている中、番頭とまだ奉公人の格好をしているアトシュが現れる。
「こいつに小袖は見張らせています。どうにも埃があったようで、今は確認しております」
(え、小袖はオレが隠したんだけど……)
 アトシュは番頭の態度に驚くが、それに合わせて頷く。
「なら安心ね。店先に美人画の一つでも飾っておいた方がよりいいでしょう?これ以上の詮索はおやめなさい」
 先程蔵館の前で見せた不安げな態度が消えた妻は2人と、アトシュに微笑む。
「はるばる遠くからいらしていただきましてありがとうございました。お帰りのようでしたら私と、そこの奉公人がご案内しますので」
 飛鳥井と蔵館、そしてアトシュは内心驚きつつ。帰り支度と送る準備を始めた。
「急な訪問と」
「それに勝手ながら美人画の作成、ご迷惑かけてすいませんでしたなぁ」
 瑠璃屋の店先で飛鳥井と蔵館はそれぞれの履物を履く。既にアトシュは番頭にどの宿がいいか店を出てあれこれ教えられているようだ。
「いいえ、とんでもございません……これは、大きな私の独り言です」
「美人画は、あの子がこの家を去っても残る物。そして……女として、母として、蛍が選びたい道があれば私はあの子の好きにさせます」
 決意に満ちた妻の顔。飛鳥井と蔵館はそれを見た。
「奥方様!こいつと一緒に帰りの宿の手配をさせます!」
 番頭の呼びかけに、妻は深く頭を下げ、2人を見送った。

「あそこの宿が一番上等だ。それにしても……」
 帰りの道を案内する番頭はくるりと向きを変え、3人に頭を下げる。
「皆様、今回の一件で動いてくださり、ありがとうございました」
「えっ」
 奉公人であったアトシュにまで頭を下げたことにアトシュは驚く。
「詳しい事情はお聞きしません。ただ、これだけはお伝えします」
「お蛍様は我々瑠璃屋の大切なお姫様。無粋で粗暴なあの満礬柘之丞が何をしようと守り、たとえ店を潰そうとするなら針でも算盤でもあの傾奇崩れに叩きつけてやります」
「最初から瑠璃屋の従業員に婚礼を喜ぶ奴なんざいませんでした。あんな品のない着物を仕立てさせ、自慢させ、無粋にも程があるってもんだ……そして、それに怯えていた俺達に喝を入れてもらった恩、決して忘れません」 
 そう言い残し、瑠璃屋まで戻っていく番頭の姿を3人は見送っていた。



「オレの変装、ばれていたのかなぁ」
「いやぁそんなことあらへんよ。あの番頭さんが信用してくれたんやと思うで」
「2人とも初対面、そして俺が話し合っていたのも咄嗟に取り込んだんだろ?」
「それについては蔵館さんも凄かったですよ。少なくともこれで蛍さんのお母さんの気持ちは変わった」
「アトシュくんの手に小袖は渡っていて」
「そして飛鳥井の美人画が今飾られている、と」

 3人の猟兵。彼らの行動により状況は動き始めた。

※状況変化
【小袖は瑠璃屋から運び出された】
【母親は『娘の意志を尊重したい』と考えを改めた】
【瑠璃屋従業員一同は現状に不満があり、婚礼破綻に繋がる行動に対しては味方する状態】

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


 常に賑やかな瑠璃屋。
 そこに集まっている人々の目当ては着物の仕立てを頼むこと以外にもあった。
 店内に吊り下げられた装飾用の色鮮やかな色紙。その上に貼られている美人画。
 大切な小袖、日に焼けないでこうして宣伝するのもいいかもねえ、と感心した遊女たちは目線を美人画から離す。
 彼女達の視線、そして揶揄うような笑みは瑠璃屋から少し離れた所に立っていた男に向けられていた。
「あらぁ、今日は満礬さんと一緒じゃないのねぇ」
「どうしてこっちにこないのかしらぁ」
 嘲笑の対象は満礬の取り巻きである武家の子息。庶民風情が、と思わず刀に手が伸びた時だった。
「おいおいお侍さんが刀なんざ振り回しそうだぜ。お嬢さんたち大丈夫かい?」
 筋骨隆々な大工や鳶、左官達がその光景を見てわざと大きな声で庇う。
「無粋な輩がいたらお前らはどうする?相撲でもするか?」
「親方がするんですかい?ちんけな庶民であるあっしらが勝てますかねえ?」
 彼らもまた、遊女たちと同じようにニヤリと笑っている。
「……くそっ、覚えろよお前ら……!」
 武家の子息、否、傾奇くずれは捨て台詞を吐き瑠璃屋を後にした。
マリアドール・シュシュ
アドリブ◎

他猟兵の動向は確認済

「ならばマリアはやるべき事は一つなのよ。蛍の気持ちの再確認とその手助けを。
マリアが導くのよ。蛍と勘兵衛の邪魔はさせないのだわ。
黒幕には自ら名乗り出てもらいましょう」

可能なら蛍に会う前に勘兵衛の気持ちも確認
【クリスタライズ】で侵入
蛍が一人の時にコード解除し話す
母や従業員の思いを伝える
蛍の意志を確認し説得
蛍を連れて逃亡
誰かに遭遇する前に透明化

「本当の事を教えて、蛍。今、真実に蓋をしたらきっと後悔するのよ。
マリア達はあなたの味方。信じて。そしてマリアと共に来て(手差し出し)
大丈夫、あなた達の運命の糸は繋がっているわ。
これはお守り代わりに持っていて頂戴(白の茉莉花握らせ」



【華開く決意】
(猟兵のみんなが動いている。ならばマリアはやるべき事は一つなのよ。蛍の気持ちの再確認とその手助けを)
 マリアドール・シュシュ(無邪気な華水晶・f03102)は太陽の下で輝く銀の髪を揺らし瑠璃屋へと向かっていった。
 人だかりを整理していた番頭がマリアドール、そして天下自在符をみるなり頭を深々と下げた。
「美人画が複数あるのなら、徳川様も1枚でいいから是非とも見たいとのこと。その遣いで参りました」
「それでしたら残りの飾ってない分が奥間にございます。ごゆっくりお選びください」
 マリアドールは悠然と奥の間へと歩いていく。番頭も察したようで付き添いを自分にはつけなかった。
「みんな、頑張っている。マリアは導くのよ。蛍と勘兵衛の邪魔はさせないのだわ。黒幕には自ら名乗り出てもらいましょう」
 そう呟き奥間に続く襖を開けた。
 
 色とりどりの反物の数々。その上に何枚かの美人画が並べられていた。そして美人画と反物を相互に見ながら考え込む男が一人。
「と、徳川様の遣いの方でございまするか?」
 男はマリアドールの姿を見るなり畳に座りこみ、深々と頭を下げた。
「私めは勘兵衛。仕立て職人の一人でございます」
「はじめまして、マリアはマリアでいいのだわ。美人画を見てくるよう頼まれたの」
「仕立て職人さんなら特に綺麗な物を選んでくれそう!そして、あなたにも興味があるのだわ」
「わ、私……ですか?」
 どうしてそんなに真剣そうに見ていらしたの?と小首を傾げてマリアドールは尋ねる。金の瞳には動揺する勘兵衛の姿が映っていた。
「蛍さんなら……赤より青、夜空みたいな藍も好きだといってたけど青空の青も似合うだろうなあ。縹もいいが甕覗もまたいい」
「ならば染めはまず与助だな。図案は蛍さんがよく話に聞かせてくれた2匹の花喰鳥とそれに……」
 蛍さんが好きだった花は桜草。ならば下絵は伴次郎と敬之助どちらが誰に頼むか。
「あの」
「ああ、マリア様済みませぬ!どうしても着物を見てしまうともっと素敵な」
「素敵な蛍さんが見たい、とあなたはそう思っている」
 いつの間にか慣れないながらも正座をしたマリアドールは勘兵衛に微笑みかける。
「え、あ、そんな事は」
「だって、勘兵衛、蛍のお話ばかり。勘兵衛の考えた小袖を着た蛍の方がずっと綺麗なのだわ」
 少しの沈黙の後再び勘兵衛は深々と頭を下げた。
「漸く言い出せる勇気を決めた私の愚かさをお許しください」
「私は、蛍さんをこれ以上悲しませたくありません」
 そう言い切った勘兵衛の目は輝いている。マリアドールはその手をそっと握った。
「試すようなことを言ってしまって謝るのはこちらの方なのだわ。大丈夫、マリアが導くから」
「あなたの気持ちも、他の皆の気持ちも蛍さんに伝えるわ」
 立ち上がったマリアドール。その言葉の真意をくみ取った勘兵衛も立ち上がり、深々と礼をする。
「蛍様は今の時間でしたらお一人かと思います。化粧を練習したいと言っておりました」
 蛍の部屋の場所を聞いてマリアドールは奥間を後にする。勘兵衛が案内をしようと思い、曲がり角を曲がった時。そこには誰もいなかった。

 鏡に映った自分の顔は明るいだろうか。そう思いながら蛍は鏡台の前に座っていた。
「ええと、まずはどこから塗れ」
「その必要は無いのよ、蛍」
 不意に聞こえた声。手に取っていた磁器が転がり落ちる。それと同時に、自分のすぐ側に少女の姿が何もない空間から現れていく。
「ど、どなたですかっ!」
「ごめんなさい、マリアはマリア。これを見せれば分かるのだわ」
 ユーベルコード:クリスタライズを解除したマリアドールは天下自在符を見せる。徳川様の遣いだと分かった蛍はごめんなさいと謝った。
「勘兵衛も蛍も謝ってばっかりなのだわ。あなた達を、導くためにきたの」
 マリアドールは無邪気に笑い、そして、真剣な顔で蛍を見つめる。
「本当の事を教えて、蛍。今、真実に蓋をしたらきっと後悔するのよ」
「真実……?」
「あなたのお母さまは蛍の幸せを祈っている。瑠璃屋のみんなはなにがあっても蛍さんを、瑠璃屋を守ると決意している」
「で、ですが……」
 蛍の唇が微かに震えている。怖い顔を見せては駄目なのだわ。そう呟きマリアドールは笑顔を浮かべる。
「勘兵衛が言ってたの。自分が小袖を仕立てるのなら空みたいな綺麗な青い反物。描くのは2匹の花喰鳥、それに桜草!」
 マリアドールが指折りながらいう度にぽろりぽろりと蛍の目から涙が零れ落ちる。
 自身を纏う深く艶やかな青と純白のレースで彩られたドレス。それが皺になろうと蛍の涙で汚れようとも気にせずマリアドールは涙をぬぐい、そして蛍の嗚咽が外に聞こえないようそっと抱きしめた。
「……落ち着いた?」
「はい、もうしわ」
「申し訳ないもごめんなさいも、これ以上は駄目なのだわ。マリア達はあなたの味方。信じて。そしてマリアと共に来て」
「はい、わかりました」
 自分を抱きしめていたマリアドールの手を握り、蛍は立ち上がる。
「遠路より来て頂いたこと感謝いたします。瑠璃屋代表としまして街の案内しかできませぬがよろしいでしょうか!」
 蛍の声は大きく、屋敷の裏口まで響く。
「そうね、マリアは街に行きたいのだわ!」
 蛍の声にお手伝いらしき老女が慌てて部屋に入る。
「裏口より行ってらっしゃいませお嬢様。お宿の手配は既に済ませております。ごゆっくりご案内をさせた後、お泊りになられる事は伝えておきます」
 老女の声は弾んでいる。
 二人は裏口まで堂々と歩き始める。マリアドールの履物を持ってきた奉公人も、顔を覗かせた職人たちも皆笑顔であった。

「下手な芝居でしたでしょうか?」
 宿の中、美しい調度品に目を輝かせていたマリアドールに蛍は尋ねる。
「そんなことないのだわ。それに、従業員の皆もちゃんと味方してくれた、信じてくれる?」
「勿論です。勘兵衛さんが、皆が、母が、そして来ていただいたマリア様のお陰で決心はつきました」
 マリアドールは握りこぶしをそんなに力まないで、と緩めるように白の茉莉花を握らせる。
「大丈夫、あなた達の運命の糸は繋がっているわ。これはお守り代わりに持っていて頂戴」
「まあ綺麗、桜草とは違うのですか?」
「ジャスミンっていうの。波斯の国の言葉、神様の贈り物ヤースミーンがジャスミンに」
「それでね、異国では花にはそれぞれ意味があるって言葉を付けるのよ。あのね、蛍が好きな桜草は」
 桜草の花言葉、それは初恋。
 今度は自分の小袖で涙を拭い蛍は笑う。
「何と素敵な。でしたら蛍、この初恋の華を散らすわけには参りません」
 
※状況変化
【勘兵衛、蛍の婚礼を中止させたいと決意】
【蛍は婚礼話を断わることを決意】
【現在蛍は宿に滞在※猟兵達に場所は連絡済】

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『傾くなら傾き通せるか?』

POW   :    痛い目に合わせ反省させる

SPD   :    悪事を失敗させ意気を挫く

WIZ   :    説得するなどで改心を促す

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


【夕刻】
 猟兵が待つ宿より戻ってきた蛍。
 大切にしないと、と呟き手の中にあったそれをそっと鏡台の前に置く。
 星空の下、近くを通りかかった奉公人に蛍は声をかけた。
「勘兵衛さんを呼んでください」

「父様母様、私が添い遂げたいのはただ一人、勘兵衛様だけにございます」
「瑠璃屋の名を汚すのであれば私は即ここを去ります。それでも怒りが収まらないと満礬家が仰られるのであれば庶民の首一つにて手を打ってほしいとお伝えください」
 父の顔はたちまち青ざめ、母は平然として茶をすすった。
「何を血迷った真似を!勘兵衛、お前が蛍を誑かし」
「娘を失い、勘兵衛まで失ったら瑠璃屋に何が残るというのです!」
 母は茶碗を文机に置き、一喝する。
 その声にあわせ、番頭や奉公人、子供や職人までもが部屋になだれ込む。
「旦那様、我々が百集まっても勘兵衛様の足元にも及ばないことぐらいわかっておいででしょう!」
「傾奇だかなんだか、信念もなく暴れてる奴らに頭下げ続けて仕事するのが瑠璃屋なんですか旦那!」
「おさむらいさんたち、ぼくたちのおちゃがまずいっていつも熱いのをなげてわらうんです」
 飛び交う怒声。それを止めたのは文机に叩きつけられた年代物の算盤であった。
「だ、旦那……?」
「これはな、親父とお袋が初めて呉服屋で武家の娘さんに仕立て品を届けに行ったときついでに貰ったもんだ」
「娘が泣いて喜んでた。この店の繁盛を願って選んでくれたそうだ」
 父親は、叩きつけた算盤を手に取り立ち上がる。
「それが武家の誇りなんだって聞かされ続けてきたんだが。糞が、俺はいつから魂まで売り払う身になったんだ」
「算盤こそ俺の刀、勘兵衛は美を刀、そして」
「女だって戦えますよ。美しい着物を纏った皆が刀で御座います」
 勘兵衛は怒声が、それぞれを奮い立たせる声に変わっていくのを聞きながら蛍の手を握る。
「いいんですかい?」
「勿論にてございます」

【数日後】
 茶屋では今日も茶屋娘たちが愛想よく和菓子を運んでいた。饅頭を一口食べ、男が笑う。
「なあなあ聞いたかいお重さん」
「そりゃあ勿論、昨日からそれはもう茶菓子以上に皆さんにご好評いただいてますわよ」
「『満礬柘之丞殿、かのような品なき嫁入り道具はこれ以上店に置けませぬ。瑠璃屋一同』って文と一緒に小袖が満礬家の前に置かれてた!」
「文をびりびり引き裂いて、猿のように顔を真っ赤!柘之丞様には美なんてもの分かんなかったんだろうな!」
「本当、瑠璃屋さんのご用意するものじゃないですわよあんなの!」
「武家も子息になると、刀も触れず美もわかんなくなるんだろうねえ!」
 ゲラゲラ、けらけらと笑いあう中。茶屋の先から怒号と共に悲鳴が聞こえる。
「や、やめてください!」
 身なりのいい服を着た男達、刀を乱暴に差し込んだ一団が物を投げつけていた。
「貴様ら庶民が何を笑っていやがる!」
「ま、満礬家に逆らった奴の肩を持つのか!」
 茶屋にいた男達は茶屋娘を奥に下げ、馬鹿にしたように笑う。
「おまえらなんざ取り巻きの取り巻きじゃねえか!子猿よ子猿!子猿の群れ!」
「ぐ、ぐぐぐぐ……!」

 一方、瑠璃屋に向かって刀を向け、血走った目で満礬柘之丞は取り巻きに向かって叫ぶ。
「あの瑠璃屋、我々武家に逆らう謀反者ナリィ!!!」
 最早金切り声に近い叫び声をあげる。
「ええい、こうなったら滅多切りだ!殺すんだ!」
 街中で暴れ続けていた傾奇者。いや、もはやただの暴漢。
 しかし、武家の子息達には刀がある。

※茶屋で暴れているのは「武家を馬鹿にした」という事に腹を立ててイキってる程度の武家の子息達です。
 説得に耳を傾ける余地はあります。
※恥をかかされた満礬柘之丞は完全に当初の目的を忘れ怒りが頂点です。
 特に蛍と勘兵衛に対しては切るからな!絶対に斬るからな!状態です。
 説得するよりぶん殴ったほうがいいかと思います。
蔵館・傾籠
【選択・瑠璃屋門前】武力問答(なぎ払い・範囲攻撃)

もしも通行人や見物人が居るなら口許に指を添え『天下自在符』を掲示
巻き込まれる前に武力を持たぬ民は早急に離れろと皆にも伝達せよ、と簡潔に言葉添えを。

公衆の面前で喧しいぜ、無作法者。袖にされたからと手下を連れて騒いでちゃあ、そりゃ嫁の一人も来てくれん訳だなあ。

暴れ出すならば攻撃・防御どちらも【巫覡載霊の舞】で対処。
猟兵を待つ間の時間稼ぎと牽制を。
さあ退避は済んだか?童子や老人も置いてかんでくれよ。

手前は初めてその刀を持った時何を思った。
脅して駄々を捏ねて迷惑を撒き散らすのが大人のする事かい。
信念を抱いた事があるなら今の己はどうだか、振り返るんだな。


飛鳥井・藤彦
【SPD】
説得といきたいところやけど、頭に血ィのぼってるみたいやし。
ちょいと頭冷やして貰いましょ。
僕、武家の兄さん方と違うて荒事は苦手なんやけど、意気を挫く位は出来るとええなぁ。
同行の方々とも協力して上手く立ち回れたら重畳。

ちゅーわけで、愛筆の輝紅篠画でやんちゃしてはる武家の兄さん方を【なぎ払い】【吹き飛ばし】、ついでに墨で【目潰し】といこか。
おやおや、刀も持たない一介の絵描き風情にこの有様かいな。
こりゃ傑作。
僕が武家の者やったら恥の上塗りする前に退散するわぁ。
潔く身を引いた方が粋でかっこええと思いますけど?

緩く笑って余裕の態度は崩さず。
真綿のように柔らかい口調で揶揄しながら撤退を促します。



【瑠璃屋店外にて】
 傾奇者、否、ただのごろつきだと思いながらも庶民達は彼らの粗暴な振る舞いに耐えてきた。しかし今、殺気立った満礬柘之丞を筆頭に十数名の武家の子息達が鞘を見せつけ脅してきただけの刀をさやから抜いている。
「なんだなんだ!?」
「無礼討ちでもする気かい!?」
 騒めく街の人々。子連れの母親や通りかかった油売りの老人が叫び、その声に呼応して人々が群がる。
 混沌とする状況の中指笛の音が鳴った。そして、蔵館・傾籠(ヤドリガミの剣豪・f11800)が天下自在符を掲げる。
「皆の物!徳川の遣いより命ずる!この場から武力を持たぬ皆は早急に立ち去れ!巻き込まれる前に皆にも伝えよ!無作法者達は我が止める!」
 天下自在府、そして蔵館が手にしている薙刀。目にした者、声を聞いた者それぞれが慌てて瑠璃屋から離れていく。
 それと同時に、無作法者という言葉も武家の子息達は反応していた。
「徳川の遣いであろうと、多勢に無勢よ!」
「満礬家筆頭に武家に逆らう奴ら。向こうからの喧嘩じゃ!」
「さ、左様だ!この満礬柘之丞、瑠璃屋を許すわけにはいかぬ!」
 満礬柘之丞が刀の先を蔵館に向けた。
「公衆の面前で喧しいぜ、無作法者。袖にされたからと手下を連れて騒いでちゃあ、そりゃ嫁の一人も来てくれん訳だなあ」
 憐れみが込められた蔵館の声、それに逆上したのか、かかれかかれという金切り声とドタバタ走り込んでくる無作法者の群れ。
「はは、走り方も情けないとくるか。さて武力問答と行こうか!」
 無銘・薙刀を手にした蔵館の周囲の空気が揺れる。ユーベルコード:巫覡載霊の舞が発動したのだ。構えも無茶苦茶に一斉に切りかかってくる無作法者の群れの刃は蔵館触れることなく、刀の持ちて毎吹き飛んだ。
「な、なんだこれは一体!?」
 薙刀から放たれる衝撃波、当然武家の子息達には見えない。次々と襲い掛かるが返り討ちにするかのように蔵館はその場で薙刀を振るう。
(これで少しは時間稼ぎが出来ればいいんだが……っ、あれは)
 少し離れた場所から戦闘をじいと眺めている少年。そこより離れろと蔵館が叫ぼうとした時、和服の男性が少年を抱き上げた。
「おお、ちょっとおおきいなあ。なあきみ、ここはちょっと僕達にまかせてえな。ほら向こうにお友達いっぱいおるやろ?」
 身の丈ほどある大筆を背負い、緊迫した状況でも安心感を与える笑みを浮かべる飛鳥井・藤彦(浮世絵師・藤春・f14531)。彼の言葉に少年はうんと返事をして通りの向こうに集まっていた子供達の元へ駆けていく。
「今回も遅くなってしまってすいませんでしたなぁ」
「構わない。童子老人の退避までしてくれたようだな、感謝するぜ」
「あら、ばれてましたかぁ。ありがとさん」
 飛鳥井はさてと、と呟き向きを変え飄々とした様子で地面に尻もちをついている武家の子息達に緩く笑いかける。その笑みは駄々をこねている子供をあやしているかのような余裕すら感じられた。
「僕が武家の者やったら恥の上塗りする前に退散するわぁ。潔く身を引いた方が粋でかっこええと思いますけど?」
 その言葉はとても優しく、例えるなら真綿のようであった。たった一人の政府の遣いに打ち負かされ、そしてまた自分達を挑発するように声をかけてくる。まるで首をじわじわと絞めつけられているかのような感覚を武家の子息達は覚える。
 しかし、この場で刀どころか大きな筆を背負っているだけの人間にまで馬鹿にされている状況だ。
「な、き、貴様程度の絵師が何を!」
 後がないとわかっているのかそうでないのか、そうだそうだ!と立ち上がりながら今度は飛鳥井の方に向かう刃先。
 いつの間にかひょいひょいと飛鳥井は軽やかに動き、蔵館と背中合わせに立っていた。
「やっぱり頭に血ィのぼってるみたいやなあ。ちょいと頭冷やして貰いましょ」
「そうだな。じゃあここからは本気でやらせてもらうとするぜ」
「僕、武家の兄さん方と違うて荒事は苦手なんやけど、まあ勇ましき武士としてこの人らの絵は描けまへんわ」
 周囲から一斉に襲い掛かってくる武家の子息達。致命傷にならない程度に蔵館は薙刀で牽制しながら、時に刀を弾き飛ばす。
「輝紅篠画、これで一枚絵を……って情けない題材はやめときましょ」
 飛鳥井が輝紅篠画を振るうと、集団で向かってきた武家の子息達は纏めてなぎ倒され、そして吹き飛ばされていった。
「が、め、目の前が!」
「なんだこれは、墨か!?」
 地べたに既に倒れこむ者。突然前が見えなくなり恐怖する者。飛鳥井の真綿のような柔らかい言葉が響く。
「墨だけに用済み、あんまりうまい洒落やないか。なあ、僕らとこれ以上やるつもりなん?」
「く、くそ……柘之丞様!」
 自身も切り傷を負い、体を無様に墨だらけにしながらも満礬柘之丞は刀を杖代わりに立ち上がる。
「や、やってやる。殺してや……ぐはっ!」
 もう一度、輝紅篠画が振るわれた。吹き飛ばされる柘之丞を前に刀を放り出してもつれ合いながら逃げ出す武家の子息まで出始めた。
「こりゃ傑作。まあ題とするなら『かぶかぬ粋なき群れ』とでもしましょか。描くつもりはあらへんけどなぁ」
 どこまでも余裕の態度は崩さず飛鳥井は情けない逃亡劇を緩く笑って眺めていた。そして飛鳥井よって地べたに叩きつけられ、尚血走った目で2人の猟兵を睨みつける満礬柘之丞。
 薙刀を構え直し、蔵館は再度柘之丞に声をかけた。
「手前は初めてその刀を持った時何を思った。脅して駄々を捏ねて迷惑を撒き散らすのが大人のする事かい。信念を抱いた事があるなら今の己はどうだか、振り返るんだな」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

アトシュ・スカーレット
【POW】
うっわ、小袖を返した辺りから、もしかしてと思って奉公人のフリし続けて正解じゃねぇか!?

【行動】
(瑠璃屋に潜伏)
えっと、一通り騒がせてる間に他の奉公人や子供達を店の奥に避難させるようかな
あ、必要ならこっそりと天下自在符を見てるよ!
…あんまり使いたくはないんだけど、そんなことも言ってられないしね

避難が終われば、村雨・刀形態を指輪から取り出すね
刀を受け流す(武器受け)ためだよ!
今回は徒手空拳かな…。なら、手足に雷の魔力を宿らせてスタンガンみたいなことができるようにしておこうっと(マヒ攻撃)

多少の訓練はしてるだろうし、【希望への軌跡】で先読みしてから回避か受け流しするよ

アドリブ、共闘大歓迎


マリアドール・シュシュ
アドリブ◎
他猟兵と協力

「出来る事なら穏便に済ませたいのだわ。
柘之丞は所詮操り人形、なのでしょう?
裏で糸を操ってる大本を糺さなければ、またこうした悲劇は繰り返されるの。
影で笑う不届き者はマリアが成敗してくれるのだわ!」

「馬鹿にしている訳ではないの。この結婚は誰も幸せにならないから。
お願いよ、どうかその刀をどうか収めて頂戴。マリアはあなた達とも争いたくないわ」

子息達をまず説得
説得失敗したら少し懲らしめる
【茉莉花の雨】で【祈り】を込めて纏めてお仕置き

「柘之丞、あなたは本当に可哀想なひと(憐情)その心は何のためにあるの?
二人を斬る?そんな事マリアがさせないのだわ。
人の恋路を邪魔する者は、めっ!なのよ」



【瑠璃屋店内にて】
「旦那様!やっぱりきましたぜ!」
「鋤や鍬でもいいからとっとともってこい!」
 店の奥では奉公人や職人達、そして蛍や勘兵衛をはじめとした瑠璃屋の人間が騒然としていた。
(うっわ、小袖を返した辺りから、もしかしてと思って奉公人のフリし続けて正解じゃねぇか!?)
 未だに奉公人として騒動の中、アトシュ・スカーレット(銀目の放浪者・f00811)は周りを見渡す。
(オレが小袖を置きにいったこともあるし、このままじゃ刀をもった奴らと瑠璃屋の従業員がぶつかる。流石にこれはまずいか)
 外の様子はどうなっているのかと誰も言っていないので、様子を見ると言ってアトシュは店先近くまで歩む。
「お、おい!外であいつらが吹っ飛んでるぞ!政府の遣いの人らが止めてくださってるようだぞ!」
 他の猟兵達が行動を始めたのだろう、そう考え慌てて従業員達の元へと戻る。
「たとえごろつき、道楽の馬鹿息子共とはいえ、刀を持ったあいつらとやりあうのはやばそうですぜ。数が多い」
 アトシュは奉公人や子供達を店の奥に避難させるよう上手く話を持っていこうとする。
「だ、だけど」
「もしかしたら裏口から入ってくるかもしんねえだろ?」
 勘兵衛と蛍は身を寄せ合い、勘兵衛はならば自分が囮にとまで言い始めた。
(こうなったら天下自在符使って正体ばらすか……)
「裏口やその周りは大丈夫よ、誰もいなかったのだわ」
 蛍が振り返る。リンと涼やかに鳴る鈴のような、綺麗な声色。マリアドール・シュシュ(無邪気な華水晶・f03102)が銀色の髪を揺らし、裏口から裏庭まで入ってきていた。
「宿で騒ぎがあったとマリアに託があったの、蛍さんの教えてくれた道中には不届き物はいなかったのだわ」
「ここはマリアに任せてほしいの。不届き物がどこから入ってくるかわからない、二人やご夫婦を守ることに専念を」
 その言葉に蛍が、マリア様の仰る通りと勘兵衛や他の従業員に声をかける。いきり立った従業員達も冷静さを取り戻し、屋敷内のどこが手薄か、移動や4人の警護を始める。
 マリアドールはほっとした様子で店先から外、喧騒がおこっている場所へと移動を始める。その後ろをアトシュがこっそりついていこうとした時、番頭がアトシュの着物の裾を掴んだ。
「な、なんですかい?」
「ほら、これ、お前の持ち物だろ。いや、貴方様とここはお呼びするべきか。着慣れた服の方が動きやすいでしょう」
 籠の中に入っていたのはアトシュの本来の衣服。それにアトシュが目を落とすと、番頭は立ち上がる。
「ここはお2人にお任せします。どうかご無事で」
 深々と頭を下げ、避難の誘導を始めるため奥へと消えていった番頭。
「オレの変装、やっぱりばれてたのか」
「違うのだわ。この状況で冷静に動いてくれた、それで、この騒動を終わらせてくれると信じたのよ」
「……じゃあやるしかないね」
「ええ、そうなのだわ」
 2人の猟兵はそして瑠璃屋の店から出ていった。



 ユーベルコードを使い、指輪の中に入れていた刀形態の村雨を手にするアトシュ。その後ろから辺りの様子を観察する。すでに何本か刀が転がり、武家の子息達は倒れていたり逃げ出している。しかし、満礬柘之丞を始めとした数人は未だ刀を手に取っている。
 アトシュが村雨を構えようとすると、マリアドールはその手を優しく抑える。
「一度、説得してみるのだわ」
 突然現れた、自分達に対し再び攻撃してこようとしてくる者達に対し武家の子息達は殺気を隠さず刃の先を一斉にマリアドールに向ける。表情を一つも変えず、むしろ心配そうな様子でマリアドールは話し始めた。
「あなた達を馬鹿にしている訳ではないの。この結婚は誰も幸せにならないから。お願いよ、どうかその刀をどうか収めて頂戴。マリアはあなた達とも争いたくないわ」
 穏やかに。歌を唄いあげるように。殺気立っていた武家の子息達は一瞬我に返る。
「何を言うか!お前らのせいでこの柘之丞、どんな辱めを受けたか!あ、あのお方の言う通りにすれば上手くいったものを」
 あのお方、その言葉に反応したマリアドールは凛とした声で、今度はこの場にいる全員に響くように告げた。
「出来る事なら穏便に済ませたいのだわ。柘之丞は所詮操り人形、なのでしょう?裏で糸を操ってる大本を糺さなければ、またこうした悲劇は繰り返されるの。影で笑う不届き者はマリアが成敗してくれるのだわ!」
 操り人形、不届き物。武家の子息達は顔を見合わせる。恐らくその頭に浮かぶのは。
(オブビリオン、の姿だよな。ここまで来て後には引けないって去ってくれるか、それでもやってくるか)
 アトシュは全員の装備品や刀を確認するように伺いながら、直ぐに行動に移れるよう体勢を整える。
「満礬様、ここは一度下がり、あの方にもう一度お話を……がっ!」
 マリアドールの説得に刀を下げ、満礬に声をかけた武家の子息。その声を遮ったのは、満礬の刀であった。
「ええいお前ら、お前らも所詮は俺様、満礬よりかは下の者!切り殺すんだ!全員!」
 その声に脅されたかのように叫び声をあげながら斬りかかろうとしてくる。説得には成功できた。
「でも……ごめんなさい、そうであればせめて気絶させる程度に」
 マリアドールはそう呟き、祈りを込めるようユーベルコード:茉莉花の雨(ヤースミーン)を発動させる。ひらひらと空中に現れ舞う花びら。その形は花びらであっても、光を反射し煌めく水晶。
「ぐはっ!な、なにが起こっているんだ、花なのか!」
「ジャスミンよ。大丈夫、あなた達は気絶させるだけ」
 一方アトシュの方にも刀は向けられ、奇声をあげながら斬りかかってくる者達がいる。
 しかし、するりするりとアトシュはそれを掻い潜り、村雨で受け流す。
「何故!何故俺様の刀が当たらぬ!」
 柘之丞の腕は確かに武家の子息のそれ、稽古等は行っていたのであろう。
「ここにいる皆、ちゃんと武家の子息として正しく藩を治めて平和を保つことに専念すればよかったんだよ」
 アトシュはユーベルコード;希望への軌跡(シュトラーサ・ホッフヌング)を発動させており、攻撃を、太刀筋を知っていた。
 刀を片手に持ち替え、もう片方の手足に雷の魔力を宿らせる。群れて襲い掛かってくる敵陣に潜り込み、次々と一撃を与えていく。水晶の花びらが舞い、電撃の光がそれを煌めかせ。
 気が付くと武家の子息達は皆気絶しており、ぜえぜえと息を荒げる柘之丞が立ち上がれないものの、まだ刀を握りしめている。
 その様子に憐憫の表情を見せ、マリアドールは語り掛ける。
「柘之丞、あなたは本当に可哀想なひと」
「その心は何のためにあるの?二人を斬る?そんな事マリアがさせないのだわ。人の恋路を邪魔する者は、めっ!なのよ」
 その言葉に耳を傾けたのか、柘之丞は刀を下ろす。ほっとした様子でマリアドールは柘之丞にも手を差し伸べようとした。
「……なんて改心すると!が、ぐぎゃっ!」
「そうだよね、思うわけないよね」
 隙を見てマリアドールを切りつけようとした柘之丞の行動をアトシュは見逃さなかった。村雨で刀を弾き、雷撃を込めた拳を急所に入れる。白目をむき、柘之丞は倒れ込んだ。
「どこまでも、どこまでも可哀想なひと」
 マリアドールは最後まで変わらなかった男を一瞥し、気絶した武家の子息達の様子を確かめ始めた。



「得物は取り上げたし、もうこんなことしないよね?」
 アトシュはぜえぜえと気絶から回復した武家の子息の1人に声をかける。
「あ、当たり前だ……申し訳ねえ」
「それはよかったのだわ。悪いことはもうしちゃだめなのよ」
「も、勿論です……」
 その時、茶屋の方から悲鳴が上がった。
「何だ!?」
「お、俺達みたいなのがまだいる……まだ、暴れてるかもしれない……」
 喋れる程度に回復したもう子息達は観念し。

「は、はいじ……廃寺……あのお方に……助言を……」
 地面に転がり、うわ言のようにつぶやく満礬柘之丞。しかし、彼を助けようと手を伸ばすものはいなかった。

※状況変化
【瑠璃屋を襲撃しようとしていた柘之丞と取り巻き達は全滅。全員気絶し無力化】
【取り巻き達は改心】
【茶屋ではいまだに騒動が続いている】
【「あのお方」「助言」「廃寺」※廃寺に関しては藩の外に複数存在しており、特定の場所には現時点では行けません】

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​


【???】
「嗚呼、なんと酷い怪我。大丈夫です、この騒動、私めが終わらせましょう」
 いつも通りの柔らかな笑みに、人の心を優しく撫でるような声。下がっていく武士達を見送り、彼は嗤う。
「早い早い。まあ仕方なしか。所詮は心もなまくらの道楽馬鹿達よ」
 胡坐をかき、笑みを深める。傍らには錫杖。
「もうすぐでいいのかな。まあいいか、どうせ自分に返り討ちにされるだけなのにねぇ」

【茶屋】
 茶屋の客と刀を差したごろつき共との睨み合いは膠着したまま。
 煽り立てていた男達。既に茶屋から逃げた女性や子供、老人達の顔色は皆悪い。
「瑠璃屋でひと騒動あったって!満礬の柘之丞、その取り巻き、全員ぶっ倒れたみたいだってよ!」
 その声は全ての人に伝わってしまった。
「な、お前ら庶民風情が……!」
アンバー・バルヴェニー
【WIZ】
猫の手も借りたい状況かしら?
よくってよ、わたくしの手ならいくらでも貸して差し上げますわ。

それではまだ騒動の続いている茶屋に向かいましょう。
何やら剣呑な雰囲気の方の前にすっと歩み出て、市井の皆様に手が出せないように致します。

「ここでこれ以上騒動を大きくしても貴方方に利は無いと思いますわよ」
「瑠璃屋の助っ人はなかなかの手練れ。貴方方も上の方に助けを求めた方がよろしいんじゃないかしら?」

【言いくるめ】でこの場から立ち去ることを促し、黒幕のところへ引き上げるように誘導。
それから【追跡】【情報収集】で黒幕の居場所や黒幕に関する情報を集めます。

悲劇を招く雑音の主、必ず尻尾を掴んでみせますわ。



【明らかになる暗躍】
 悲鳴、このままじゃああいつら本当に人斬っちまうよ!と茶屋から逃げ出す人々。
 茶色い耳は街の人の声を聞き取り、不安げに描けていく人々の様子を琥珀色の瞳は見逃さない。
「猫の手も借りたい状況かしら?よくってよ、わたくしの手ならいくらでも貸して差し上げますわ」
 周囲が騒然とする中、アンバー・バルヴェニー(歌う琥珀嬢・f01030)はあらあらまぁまぁと様子を伺っていた。
 そして、逃げていく人々とは逆方向、アンバーは上品な足取りで尻尾を揺らし茶屋へと向かった。
 騒然となっている茶屋、店の中ではまだ店主と客が残っており、武家の子息達は後がないと分かっていながらも刀を手放そうとしない。
 茶屋娘達が心配そうに中を見つめている中、着物の裾を少し引っ張られた茶屋娘が振り返る。
「あら、驚かせてごめんなさい。ええと、どれを見せればいいのでしたっけ……」
「な、何よ貴方は……あ!」
「そうそうこれ。天下自在符でいいのよね」
 茶屋娘お重は天下自在符をみて目を丸くする。今目の前にいる遥か異国の絵巻物に出てきそうな上流階級の服を身に纏ったアンバーは時の徳川様の遣い。
「も、申し訳ございません、私は重と言います」
「まあ素敵なお名前。はい、政府よりこの藩の乱れについて頼みごとがありましたのでわたくしが参りました」
 お重に抱えられ、茶屋の内部を目を凝らしアンバーは確認する。礼を言って下ろしてもらいながらアンバーは茶屋の方へ向かった。
「あ、あの!えっと……」
「アンバーでよろしいのですわ」
「アンバー様、彼らは今でこそあのような粗暴な振る舞いをしていますが、武家の跡取りとして稽古に励んでいたりと」
「刀の腕は確かなはずです。だ、大丈夫でしょうか?」
 見た所アンバーは上質な衣装に身を包んだ淑女だ。精霊のゼフィールが傍らにいるものの複数の彼らに武力で勝てるのかと他の茶屋娘達も心配げに見ている。
「お稽古はちゃんとしていましたのね。そして、元は正しき心の持ち主であったと」
 アンバーは尻尾を揺らし、不安げな茶屋娘達を落ち着かせるよう微笑む。
「色々教えてくださりましてありがとうございます。市井の皆様に手が出せないように致しますので大丈夫ですわ」
 ふと、店先の席に置かれていた茶菓子やそれを運んでいたお膳にアンバーが気が付く。
「お願いごとを頼んでしまってごめんなさい。ええと、これと、あれと……そうね、淹れたての方がいいわね」
 アンバーは茶屋娘達に小声で話しかけ、そして茶屋娘達は頷きそれぞれ頼まれた事をするために走り出す。



「こ、これ以上近づいてみろ!お前ら叩き斬るからな!」
「庶民風情が!」
 茶屋の店主は客をかばいながら、茶屋の奥で刀を構える武家の子息の一団、5人を睨みつける。
「お前たち仮にも武家の端くれなんだろ!揃いも揃って、「ここでこれ以上騒動を大きくしても貴方方に利は無いと思いますわよ」の取り巻き共は全員やられたってたじゃないか!」
 最悪、自分だけ斬られる覚悟をして店主は刃が向けられる中
「ええその通り、わたくしやほかの遣いが既に瑠璃屋での騒動は収めましたわ」
 突然店内に聞こえる女性の声。上品な衣装をまとったアンバーの両手にはお膳。その上には天下自在符と、茶菓子、そして淹れたての茶が置かれている。
「な、なんだてめえは!」
「お、おい、あれ天下自在符じゃ」
 武家の子息達は混乱した様子でアンバーが品よく自分達の元に歩みを進めるたびに困惑する。
 えい、とお膳を近くの畳の上において、アンバーは微笑んだ。
「ここでこれ以上騒動を大きくしても貴方方に利は無いと思いますわよ」
 自分達を率いていた満礬柘之丞。彼を含めは取り巻き達は自分達よりもずっと稽古に勤しみ、強かった。
「瑠璃屋の助っ人はなかなかの手練れ。貴方方も上の方に助けを求めた方がよろしいんじゃないかしら?」
 畳みかけるようにアンバーはお茶を一口啜りどこまでも優雅な様子で彼らに笑う。
「それに貴方達も武家の子息として、稽古や色々大変なことがあったのでしょう?」
「ここで人を守るべき民を斬れば、それは即ちその誇りを失ってしまう。戦場で戦ってきたご先祖様が見たらどう思うでしょうね?」
 カラン。武家の子息の誰かが刀を落とした。
「……お茶を、お飲みながらお話は伺いますわ」



「成程、赤い髪の毛に赤い瞳の僧侶が藩の様子を聞きに訪ねてきたと」
「はい。誰も最初は不信がっていましたが、度の道中でみた戦場の痕跡などの話から始めて」
「悲惨な戦いだったかもしれない、武士として、刀を取って最期まで戦ってきた武士達を弔うために来たといっていました」
「段々と、どうして自分達は勇ましき武士としてあの場にいなかったのだろうと思い始め……」
 刀を店主に店の奥に置いておくよう命じた後、アンバーは武家の子息達から情報を集めていた。
「お話してくださりありがとうございます。恐らくは、その僧侶が呪いで皆様の心を操っていたと思いますわ」
「我々がもっと強く、平和な時代を守ることに目を向けていれば……」
 僧侶の容姿、言動などを借りてきた和紙にと書きながらアンバーは微笑む。
「ご安心ください。これより先はわたくし、わたくし達の仕事です」
 最後にアンバーは僧侶の場所を知らないか武家の子息に尋ねた。

「ふむふむ、藩の北外れ、かつて落ち武者が襲撃し骸もそのままにされている廃寺が根城、と……」
 恐らく戦で死がより集まった場所を根城にして黒幕は行動していたらしい。
 アンバーは立ち上がった。
「悲劇を招く雑音の主、必ず尻尾を掴んでみせますわ」

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『黒幕の助言者』

POW   :    死灰復然(しかいふくねん)
【Lv体の武者】の霊を召喚する。これは【刀】や【弓矢】で攻撃する能力を持つ。
SPD   :    含沙射影(がんしゃせきえい)
【無数の影の刃】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    電光雷轟(でんこうらいごう)
【錫杖】を向けた対象に、【激しい雷光】でダメージを与える。命中率が高い。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠犬憑・転助です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


【廃寺】
 藩の北外れ、戦場の名残が未だに残されているその寺。門も外壁も崩れ落ち、辺り一面は瓦礫の山。
 崩れかけた講堂から彼は錫杖を手に持ち、悠然と歩く。
 漆黒の僧衣、そして淀んだ赤い瞳。くつくつと笑いながら彼は軽く錫杖を振るう。近くにあった鐘楼が簡単に吹き飛んだ。
 鈍く響く音を聞き、集まった猟兵達。
 深々と礼をし、彼は話しかける。
「これはこれはようこそ僕の寺へ。未だに戦乱からの回復はしておりません故、茶の一つも出せないこと、お許しください」
 顔を上げた僧侶の笑み。しかし、その瞳に光はなかった。
「合戦の恨みつらみが残っている場所の方が都合がよくてね。まあそれが僕を『物珍しき僧侶』だと信用して貰えた所まではよかったんだよねぇ」
 その言葉と共に周囲が段々と暗くなる。目の前の僧侶は笑みを深める。
 集まってくる瘴気、それはオブビリオンの放つそれだ。
「このまま藩の治安を乱れさせ、世に災いをもたらそうと思っていたけれど道楽馬鹿達じゃあ駄目だよねぇ。弱かったでしょう、彼ら?」
「そうだ、君達の死体を彼らが作ったことにして武勇伝を……できるかなぁ。まあ助言はいくらでもしてあげないと」
 『黒幕の助言者』 を取り巻く瘴気が一段と濃くなる。
 空には暗雲が立ち込めていた。
アトシュ・スカーレット
真の姿を解放します
詳細:髪が伸び、まるで女性の幽霊のような姿になる
ちょっと浮いてる

お前が黒幕か!
絶対に思い通りになんかさせない!

行動
ルルディを槍に変身させ、腐敗の【呪詛】を付与し、【念動力】で操る

【暴走術式・気候学式】を発動させ、周囲を炎の海へと変貌させ、行動を制限させる
味方には【火炎耐性】の魔法をかけ、対処する

他の味方の盾として【かばう】準備をし、魔力をオーラの代わりにして【オーラ防御】、【電撃耐性】の魔法で防御する


飛鳥井・藤彦
【WIZ】
ええ男やねぇ、兄さん。
せやけど、あかんなぁ。
やり方がまどろっこしくて敵わんわ。

【電撃耐性】つけてるけど、僕痛いの好きやないしあちらさんの攻撃は【見切り】で回避できたらええなぁ。
まぁ防戦一方なのもおもろないな。
輝紅篠画で【なぎ払い】と見せかけて、青墨ぶっかけて【グラフティスプラッシュ】発動。
ダメージ与えられたんならそれで良し。
墨が当たらず戦闘力の上昇のみの場合は輝紅篠画の【なぎ払い】、きっちり当てにいくで。
ついでに【吹き飛ばし】もできたらええ気味やけど。

回避や攻撃の際は他の猟兵さんの位置も確認しつつ、足引っ張らへんように立ち回りますわ。
何分荒事は苦手なもんで。

※アドリブ・絡み歓迎


マリアドール・シュシュ
アドリブ◎

「ごきげんよう(ドレスの裾抓み寺へ)
あら、手厚い歓迎どうもありがとう。
ならわたしもそれ相応の礼をしなくっちゃあね。
…そう。もう言い残すことはないかしら?
人を人だと思わない下劣な行為、非道な言動を絶対に見過ごせないのよ。絶対に」

仲間と連携
目細めドレス翻し竪琴構える
攻撃が届く範囲で距離取る
マヒ攻撃・鎧無視攻撃を付与し演奏攻撃(激情の儘にテンポ早め
敵の攻撃は音色のカウンターで相殺

「最期に、あなたが踊り狂う様を見せて頂戴(無慈悲な笑み)
彼の世で悔い改めなさい」

高速詠唱で【透白色の奏】使用
確実に当てる

「二人に永久の祝福を(笑顔で蛍と勘兵衛に祈りの言の葉贈る)
マリアは楽しいことが大好きなのよ!」


蔵館・傾籠
戦もした事が無い頭の緩い若人じゃ、世を乱すにゃ分不相応だったろうさ。平和ゆえに鈍る剣ならばそれはそれで俺は良いとは思うがね。

【WIZ】神和裁霊の舞闘
盾が居なければ神霊体で攻撃を引き受けよう。やられっぱなしは腹が立つからな、勿論上乗せの礼は尽くさせて貰おうさ。遠慮しなさんな。
戦況を見つつ遠近で振るう獲物を持ち替えるなり、臨機応変に。

団結力の強い良い店だ。遅かれ早かれ抗う決意はしただろうし、一丸となってお前の企んだ略奪婚に抗っていただろうさ。丁寧に丁寧に、ひよっこの傾奇者らに擦り寄った時間は無駄だったな?はは、
過去のものは大人しく消えておけよ。

(アレンジ・共闘、諸々と歓迎。)



【逢魔時の雷霆の中で】
 雷雲が空を覆い尽くし、廃寺は段々と薄暗くなっていく。散らばる瓦礫の影や闇がそのまま意志を持ったかのように黒幕の助言者を覆う。
 それは紛れもなく『黒幕の助言者』がこの世界に存在してはならない存在、オブビリオンたる証であるようだった。
 蔵館・傾籠(ヤドリガミの剣豪・f11800)は『無銘・薙刀』を構え、助言者に刃を向ける。
「そこの」
「おや、どうしましたか?」
 助言者は笑う。その挑発に乗らないよう、蔵館は語り掛ける。
「戦もした事が無い頭の緩い若人じゃ、世を乱すにゃ分不相応だったろうさ。平和ゆえに鈍る剣ならばそれはそれで俺は良いとは思うがね」
「成程、それは確かに。ですが、騒動は彼らが望んだこと。鈍り奉られるだけの刀に助言をしただけでして」
 ヤドリガミである自身を見透かしているかのような淀んだ瞳。しかし、蔵館の意思は揺らぐことはない。
「ええ男やねぇ、兄さん。せやけど、あかんなぁ。やり方がまどろっこしくて敵わんわ」
 飛鳥井・藤彦(浮世絵師・藤春・f14531)もまた、普段の飄々とした態度を崩さないまま『輝紅篠画』を構えた。
「これはこれは物騒な。薙刀に大筆、戦の絵でも描くおつもりでしょうか?」
 闇の底から沸き立つような瘴気とそれに毒された光のない瞳で助言者は二人を見て笑う。異様な光景の中、銀の髪を揺らしマリアドール・シュシュ(無邪気な華水晶・f03102)が廃寺へと姿を現す。
 助言者へと歩みより、美しい夜空とそこに輝く星の瞬きを縫いあせたようなドレスの裾を摘み、礼をする。
「おや、次は美しき異国の姫様のご登場ですか」
「黙って。手厚い歓迎どうもありがとう。ならわたしもそれ相応の礼をしなくっちゃあね」
「礼はこれから頂きますよ。そう、3体の亡骸。徳川の遣い。嗚呼これが終わったらどう助言して彼らを奮い立たせるか、考えないとねぇ」
 最初からオブビリオンと会話が通じるとはマリアドールは考えていなかった。美しい物に向ける穏やかな笑みを消し、目を細めドレスを翻し、マリアドールは助言者から距離をとる。
「……そう。もう言い残すことはないかしら?人を人だと思わない下劣な行為、非道な言動を絶対に見過ごせないのよ。絶対に」
「お姫様がどこまで泣き叫び、亡骸と化すのか。考えるだけでも嗚呼面白き、面白き……おや?」
 声を立て笑い、瘴気を振りまく黒幕の助言者は一部残っている壁の上を見上げる。
 そこにはアトシュ・スカーレット(銀目の放浪者・f00811)が立っていた。普段着のフードの中から出てきた小さ女の子、ルルディが不安げにアトシュを見つめる。
「そうだ。もう見逃さない。お前が黒幕か!」
 アトシュの銀の双眸は怒りに震えていた。壁から飛び降りるのと同時に、ルルディはその姿を槍へと変え、アトシュの手の中に握られる。
「これ以上、絶対に思い通りになんかさせない!」
 その叫びと共に、助言者の笑みが消える。
「さあさあ、これで役者は揃いましたか。それではこれより僕の庭、永遠に続く災厄を始めましょう」

 瘴気が一斉に廃寺を覆い尽くした。各猟兵は黒幕の助言者から一定の距離を置く。 瘴気の中、黒幕の助言者は念仏にも似た何かを唱えていた。
「まずは死灰復然。僕の寺、そして世界。さあ。戦は終わっていないよ」
 瘴気が薄れていく中、20を超える武者が現れる。ある者は頭に矢が刺さり、ある者は既に片腕がない。
「……ほんま、美しくないなぁ」
 飛鳥井はマリアドールを庇うように後ろに下げる。その代わり前へ出てきたのはアトシュと蔵館だ。
「あの霊、恐らくは合戦の」
「そうだな、刀に……ちっ、弓まで飛んできたか。ここは盾になる」
「分かりました、こちらも応戦します!」
 アトシュが念動力で槍を操り刀を振るってくる霊と交戦する中、降ってくる矢の群れ。霊たちを従え笑う黒幕の助言者。蔵館は薙刀を構え直し、精神を集中させる。
「記憶に染みるは光を携えた白金の娘、きみの心を借りよう」
 その言葉と同時に蔵館のユーベルコード:神和裁霊の舞闘(カンナギサイレイノブトウ)が発動する。神霊体へと自分の体が変わっていくのを感じながら、『無銘・薙刀』を振るい舞う。
「人の命、そして運命まで弄んだ罪、ここに裁く!」
 舞と共に衝撃波が矢を弾き飛ばし、そして霊を薙ぎ払うかのようにかき消す。その隙を狙い、駆けて近づいていたアトシュの槍が黒幕の助言者を突き刺した。錫杖を振りかざすことなく、助言者は血とも黒いナニカとも言えぬ物を吐き出す。
「ガ、ガァッ!お、お前ら……っ!」
 蔵館の薙刀の衝撃波を避けながら、アトシュが槍と村雨で確実に霊を消し去り、黒幕の助言者を切り刻んでいく。
「団結力の強い良い店だ。遅かれ早かれ抗う決意はしただろうし、一丸となってお前の企んだ略奪婚に抗っていただろうさ」
 蔵館は薙刀での遠距離戦から太刀による接近戦へと切り替える。助言者が錫杖で太刀を受け止めながらも、蔵館はニヤリと笑う。
「丁寧に丁寧に、ひよっこの傾奇者らに擦り寄った時間は無駄だったな?はは、過去のものは大人しく消えておけよ」
 2人の接近戦による攻撃。それは確実に黒幕の助言者、そして彼を構成する瘴気を削っていた。
「貴様ら風情が僕に!……もういいでしょう、所詮は死霊。含沙射影。切り刻め!」
「蔵館さん危ない!一旦飛鳥井さんの方まで下がりましょう!」
 アトシュが蔵館の手を引く。振り返った二人が見た物。瘴気が影と化し、刃のようにこちらへ迫ってくる光景。
「2人とも怪我は、ってだいじょうぶそうやねぇ。ご苦労さん。あちらさん、いよいよ本性を現してきましたねぇ」
「そうみたいね。もう少し近づけるかしら……必ず、当てて見せる」
 その両手に『黄金律の竪琴』を抱き、マリアドールは体から流れ出す瘴気を刃の群れに変え、先程までの余裕の笑みを消し形相で猟兵達を睨みつける黒幕の助言者をじっと見据える。
「大丈夫やで、お嬢さん。ちぃっとばかし危ないかもしれませんが、まあなんとかなるでしょう」
「あら、信じてもいいのかしら」
「勿論です。アトシュ君と蔵館さんが切り拓いた道、進もうじゃぁありませんか」
 荒事は苦手なもんでと苦笑しながらも飛鳥井の紫の瞳で黒幕の助言者を見据える。どこまでも飄々と、しかし確実に刃の群れを躱し、マリアドールの後道を作りながら飛鳥井は輝紅篠画を掲げた。
「はは、たかが筆で刃が薙ぎ払えると思ったか!」
 一斉に刃の群れが飛鳥井を取り囲む。その刹那、輝紅篠画の先から夜空のような、深い青墨が噴き出す。飛鳥井のユーベルコード:グラフティスプラッシュが発動し、その青墨は漆黒の助言者の体を蝕む。
「が、が、がぁああああああ!」
 黒幕の助言者が錫杖を飛鳥井に向け、電光雷轟による激しい雷光を放つが飛鳥井は軽く舞うように避け、地面に広がった青墨へと降り立つ。
「お嬢さん、お召し物はだいじょうぶそうやねぇ」
「ええ、大丈夫」
「こっちの手は尽くした。次の一撃は頼みます……っと!」
 青墨が広がる地面の上、飛鳥井の輝紅篠画はいつも以上に軽く、そして確実に黒幕の助言者を狙う。
「ぐ、ぐぎぐあああああ!」
 輝紅篠画の穂先が宙を舞い、黒幕の助言者の体は漏れだす瘴気ごと薙ぎ払われ、そして衝撃で瓦礫の山へと吹き飛ばれる。
 人間の形をしているのであれば片手が吹き飛んでいたであろう黒幕の助言者のそれは、瘴気の塊と化していた。
「おやおや、人の形すら保てなくなりましたか」
「黒幕の助言者。あなたにこれ以上人は傷つかせない」
 未だ飛んでくる含沙射影刃の群れを、マリアドールは自身の感情、激情の儘にテンポを早めた演奏でかき消し助言者を攻撃する。
 錫杖を杖代わりに、最早半身が瘴気の塊となったそれが咆哮を放つ前、無慈悲な笑みを浮かべ、マリアドールは告げた。
「最期に、あなたが踊り狂う様を見せて頂戴。そして、彼の世で悔い改めなさい」
(煌き放つ音ノ葉を戦場へと降り注ぎましょう──さぁ、マリアに見せて頂戴?玲瓏たる世界を)
 マリアドールのユーベルコード:透白色の奏(リスタ・エメラルム・カノン)が発動した。視線の先にいた黒幕の助言者はハープで奏でられる旋律に、体中を切り刻まれる。
「――ぁ、ぁ」
「助言を与えてきた喉、潰れたのね。それが罰。いや、まだ罪は残っているわ」
 黒幕の助言者は、自分を構成する瘴気をかき集めるようにし、猟兵達から距離を置く。逃げようとでもいうのか。
 各猟兵が追撃に向かう中、闇夜と化していた廃寺が一瞬にして明るく輝いた。
 それは、炎の海。
 熱気、耐えきれず瓦礫の山が崩れ落ちる中、立ち上がるそれはいた。
「これで退路はたった。どこまで足掻く。この先にお前の道はない」
 漆黒の髪の毛は女性のように伸び、熱気のなか揺れている。アトシュの真の姿。女性の幽霊のようなそれは告げる。
「我が身に宿りし天災よ!この身を喰らいて蹂躙せよ!」
 アトシュのユーベルコード:暴走術式・天災(エルガー・カタストローフェ)の発動。その手に持ったルルディが変化した槍が業火と、氷雪とアトシュが黒幕の助言者だった塊に近寄る度に揺れ動く。
「最初に槍で貫いた時、既にその体には腐敗の呪詛が与えられていた。心の底から腐敗したオブビリオンにも効くとはね」
 業火、そして豪雪。二つの属性を暴走させた付与術・天災式を纏いながら斬撃で貫き、刻み、凍らせ、燃やし尽くす。
 辺り一面の炎が消える中、そこにはもう瘴気はなかった。
「……み、皆さん、いきなり火を放って大丈夫でしたか?」
 アトシュは廃寺の奥にいた3人に慌てて声をかける。
 マリアドールはくすりと、飛鳥井はへらりと、そして蔵館はにやりと笑い薙刀を見せる。
「何、少しの残骸が降ってきただけだ」
「ええ、マリアは大丈夫。これで、終わったわね」
「皆おつかれさん。炎の中戦う美しき女性……美人画としては勇ましすぎかなぁ」
「……オレはオレ、です」
 猟兵達は空を見上げる。いつの間にか雲は無くなり、夜空が輝いていた。



 徳川家の真の遣いによりオブビリオン『黒幕の助言者』の存在は隠すよう猟兵達には文が届いていた。
 満礬柘之丞初めとした武家の子息達にはしばらくの間監視が付き、更生するまで厳しい稽古が付けられるとも書かれていた。
 今日も瑠璃屋には人だかりが出来ており、多くの客が出入りしている。
「この度のこと、皆様には感謝するしかございません」
「だから謝るのはだめよ蛍。二人に永久の祝福を!」
 マリアは楽しいことが大好きなのよ!とマリアドールは手を振り、徳川の遣いと共に去る。
 瑠璃屋の店先には『藤春』の美人画。
 青空のような青の下地に2匹の花喰鳥の図。
 桜草の刺繍が施された小袖を着た女性。
 彼女と同じ小袖を着た蛍は、勘兵衛と並び、猟兵達が街の通りの向こうまで消えていくのを見送った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年03月08日


挿絵イラスト