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やがて私たちは鳥になる いずれソコには花が咲く

#UDCアース

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#UDCアース


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 淡く、叶えようともしなかった夢が潰えたとき。鮮明に爆ぜるガラス細工の火花に魅入られた私は、失った後に気づく後悔とはこのように眼神経を蠱惑してくるものなのかと心臓を脈打たせた。


 友人と肝試しを行った。私も友人も、決して恐怖に打ち勝てるような強き心は持ち合わせておらず、しかし私は気の迷いを晴らしたくて。友人は私を元気づけたくて。
 彼は、私の友人である桜田柚鶴は。本当に、とても私に良くしてくれた。
 事故で両の足を悪くし、走れなくなった私を病人扱いすることなく。見舞いの品を己の胃の内で消化して出来た空籠に、くずを入れ花を造る桜田は、変わらず対等で居てくれた。
 元より、熱意のなかった陸上の道をスッパリ諦めると公表した時、私に興味を持った人間は総じて変異してしまった。失意に落胆、怒号に落涙。期待するも応援するも、どうやら急には辞められないらしく。終いには罵倒されるものだから私は驚かずにはいられない。そこまで私に一生懸命で、夢中で。私を誰と重ねているのだろうと、その誰かが少しだけ羨ましくなってしまうほどに。私は目立てど陰の薄さが強まるばかりだ。

「そもそも、咲間はどうして陸上に?」
「さあ、どうだったか。なあなあで入ったし。私を誘った桜田はいつの間にか消えていたし」
「だって練習キツかったんだもん。あと、どうやら俺は走るのは好きじゃなかったらしい」
「なるほど。私は走る事も励む事も苦ではなかったから、か」
「歩くのは好きだよ俺」
「それは同意」

 これは先程、肝試しを始めた夕刻の会話だ。走馬灯ではないが、私は気が少なからず動転している。
 花を添える。誰に? 花神様に。
 花を喰らう。誰が? 鳥神様が。

「やがて私たちは鳥になる」
「なにそれ」
「わかんない。でも肝試しにしては簡単そうじゃん?」
「そうだな……参加者も多いし、何よりお祭りらしいし」
「一番こわいのは宗教勧誘かな、あと高い壺」
「遠慮しますと断ろう」

 これは、先日、肝を試す題材を物色していた放課後の会話だ。選ばれた祭は『鳥神様とやらに花を捧げる』たったそれだけ。……シンプルなやり取りだからこそ、肝を冷やす効力は確かなものといえるか。
 だが、ただ美しいだけの景色を魅せられて恐怖するとはあり得ることだろうか。神とやらもただ可愛らしいだけの鳥じゃないか。これのどこが恐ろしいと思えるんだ桜田よ、桜田。なあ、桜田……。

「桜田」

 桜田。

 どうしてお前は、草花生い茂る地の中で蹲っている。

 ……ひどい汗だ、震えている。怖がっている。どうして? どうしてって……あれ、? ……恐怖が連なり、気分を悪くしたからじゃあないのか。
 でも、なぜ? 私は、この景色を美しいと。……おかしい。何かが。
 どうして、どういうことだ、お前は怖いのが苦手で、私だって苦手で……じゃあ、どうして同感覚ではない。単なる感性の違い? でも、でもどうしてこの綺麗な綺麗な光景を気味が悪いと吐き泣ける。どうして私は桜田に共感できない、私は桜田の神経を疑っている。だっておかしいだろう。おかしいのは……いや、違う。違う!! どういうことだ、どうして私は桜田を不快に思っている!?
 どうして私は今にも倒れそうな友人に駆け寄らずに彼の姿を見下ろしている!?!

 ――嗚呼そうか。お前には理解ができないのだろう。

 落胆と同時に私は理解してしまった。理解してしまったからこそお前の反応が正常だと断言できる。肝試しとは本来恐ろしいものであり、それに恐怖を覚えない私こそがおかしくなったのだ。
 おそろしいと判断できる君が、正しい。だからこそ一刻も早くこの場から君を遠ざけねばならない。

「もし、そこの御二方。……大丈夫、ですか」
「っ大丈夫なわけないでしょ、う……」

 ぬらりと音もなく現れたらしい女人に肩をそっと叩かれた私は、威嚇に啖呵を切るも言動は徐々に小さくなり、息が詰まる。
 黒い帽子に黒いドレス、髪に合わせた黒一色の衣に身を包んだ彼女は真白い肌をしていた。だがその白は端の爪先までは届かず、あるのは空洞で……つまるところ、人差し指と薬指が、無かった。

「戻りなさい。これは夢。こわい夢。忘れなさい。……もう、ここに来ちゃいけないよ」

 指の欠けた女人は桜田に近づく。静かに腰を下ろし、三つ指で背中を撫で、片腕から体温を分けて落ち着かせようと桜田に寄り添っていた。
 ……身体を震わせ、肩で息をし、背にも涙をする友人に対して私は。包み込んでやることもできないのか。

「……生きる人にとって、此処の空気はきっと……猛毒です。から、貴方も。この人を連れて、おうちに帰った方がいい。早く。まだ、お若いでしょう」
「いいや、戻りません。私は戻るわけにはいかない」
「鳥になりたいですか?」

 私は。このままでは、お前をこちら側へと引きずり込んでしまうだろう。もう一度、君と肩を並べて歩くには。私は何に魅入られたのか、確かめなきゃお前の元へ戻れそうにない。

「鳥になりたいのですか?」
「ええ、鳥になりたくて此処に居ます。きっと、なれます」
「へえ。じゃあなってみようかな」

 非難の目玉が此方を向いている。失意混じる絶望が、するりと私の影隣に待ち針を置いてきた。止めてくれと、私を刺せない桜田は己に自爪を食い込ませている。

「桜田」

 友人が伸ばしてくれたヒトの手をはたき落とす。爪痕が消えない桜田は、それでも桜田は私を見ようとしてくれる。すまない。すまない桜田。お前は私よりも肝が小さいのに、無理をさせて、このような目に合わせてしまった。

「お前は明日を生きなさい」

 私は、お前が恐怖した何かに打ち勝たねばならない。


「鳥になる会、だそうで。老若男女問わずの信者にランク付けはなく教祖的なのが一人だけ。
 活動スタイルは来る者拒まず去る者追わずで信者は自らが志願した者のみで構成されていて、自主性を重んじているらしく脱退も容易みたいです。
 肝心の信奉対象であるUDCを予知できなかったのがネックすぎるけど多分、鳥! 鳥ですねはあい次っ!」

 グリモアベースにて。
 だって鳥神様って言ってるしと棚上げ発言をした日向・陽葵(ついんてーるこんぷれっくす・f24357)は自前のノートパソコンとプロジェクターを持ち込んでいた。空間に映し出されたマウスポインタは画面読込に合わせてくるくると弧を描いている。
 映し出された衛星写真上から目的地である村を見てみると、森林に囲まれた辺鄙な場だと頷ける。それでも交通機関を乗り継げば都市部からもアクセス可能らしい。
 大きな建物はないが、ビニールハウスが複数、少し開けた場所が花畑になっている事の二点は目を引くといえようか。

「村ぐるみで儀式は行われています。祝祭の生贄は外部からの信者が主。時折村人からも選抜されてたぽいですが内部事情がわからないので詳細不明。
 でも、どっちも意欲的だったみたいです。生贄になる事を拒んだ者はいなかった」

 猟兵たちは祝祭に侵入し、祝祭の時のみ姿を表すUDCを倒さなければならない。今でこそUDCは正体不明だが、信者たちは穏やかで気性が大人しい者が多いらしく、聞けば何か情報が得られるかもしれない。
 多分なんですケドと、グリモアを展開させた日向は目を逸らしながら呟く。

「死を救済と捉える人はー、特に。目を奪われないように気をつけてって思います」

 うつくしき猟兵よ。怪物を討て。


拳骨
●なんだこのシナリオ!?
 死は救いであるか、否か。死を求める者から死を取り上げるのは非道か、それとも人道か。
 誰を救うも救わないも貴方の自由でしょう。貴方の行動は誰にも縛られない。
 貴方でない名もない誰かは不自由でしょう。誰かの行動は誰かに縛られ縛られ、やがて飛ぶ力すらも無くなった。

『第1章』
 貴方は祝祭に参加しているが、花を添える事は強要されない。貴方には自由が許されている。望めば、望むものが手に入るだろう。
『第2章』
 無垢な鳥神様は花を啄む。貴方にとって神神は敵である。貴方は自由ではあるが、世界の為に剣を取る必要があるだろう。
『第3章』
 花神様は花を好む。鳥となった私たちを、貴方は再び撃ち落とせますか。撃ち落としますか。貴方は自由であるべきだ。

●現地について
 地形:森林又は草原。外から見ると真暗いが、内に入ってみれば意外と暗くないようです。
 時刻:夕方から夜にかけての間くらいです。章が進むにつれて、日は落ちていきます。

●NPCについて
 咲間・夏一(サクマ・ナツヒト)
 男子高校生。正気度はゴリゴリに削れています。自力で生還しそうだけど、ただの一般人です。陸上部に所属していたらしい。

●雑記
 拳骨です。10作目です。なんちゃってシリアスポエムシナリオです。すげえシリアスぶっこいてますが、大筋は「変な儀式してる邪教団ぶっ潰そうぜ~!!」です。
 供物の花は指定が無かったらランダムに決めます。
 後味は悪くなるかもしれないし、良くなるかもしれない感じです。
 程々に頑張ります。よろしくお願いします!
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第1章 日常 『「祝祭」への参加』

POW   :    奇妙な食事を食べたり、奇怪な祈りのポーズを鍛錬する等、積極的に順応する

SPD   :    周囲の参加者の言動を注意して観察し、それを模倣する事で怪しまれずに過ごす

WIZ   :    注意深く会話を重ねる事で、他の参加者と親交を深めると共に、情報収集をする

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●I want to be a bird.
 巣立つ鳥を見送ってきた。すべての鳥を見届けるまで私は鳥に成れない。私は鳥たちに投げられる石を防ぐ盾でなければ鳥たちは報われない。
 でも次々と鳥たちはここにやってくる。私は鳥に成れない。羽を休めて飛び立った強い鳥よ、どうかお元気で、ヒトは明日をも生きなさい。
 死は救いであってほしい。生も救われてほしい。
 ねえ鳥よ。そちらではうまく息を吸えていますか。空気は心地よいですか。

 私も、空を。飛びたいな。

●Nevertheless,
 夏橙色をした日の光を拒絶するかのように、空を遮る木の葉の闇穴はこれから其の先へと至る誰かを見据えている。
 誰かとは誰か。猟兵だろうか。信者だろうか。選ばれた生贄は泣くか笑うかどちらにせよ、うつつとのお別れを惜しまない。
 傍から見たら不気味でしかない木々のトンネルに足を踏み込んでみると、意外にも木漏れ日が差し込んでいるという情報が皮膚感覚から伝わってきた。
 歩を進める度に、隣を歩く者は増える。歩く者どもは談笑をすれば、各々抱えていた花束を見せ合い、三つ指の女人と会釈しては静々と。神とやらに参拝する。
 一連の流れを眺めていると、親切な誰かが声をかけてきた。近隣のビニールハウス内では園芸が行われているらしく、そこには四季折々の花がきれいに咲いていると云う。

 貴方は手に花を持っていますか? それとも、此処で花を摘みますか?
臥待・夏報
スニーカーで歩けないほどじゃない森の道
春ちゃんと流星群を見に行った夏を思い出す

故郷は田舎だったから、山間のほうは密入国者がいるだの落ち武者が出るだの噂があって
女の子ひとりで行っちゃいけない場所に、女の子ふたりで行ったんだ
真夜中、街灯りから離れて、山に入って、変電所のフェンスを僕が蹴破って
送電線だか電波塔だかわかんないやつに一緒に登って

変わり者のあの子に見えていたのと同じ景色は、結局ついぞ見られなかった
地べたから離れられない花はたぶん僕のほう
花は、鳥の腹に納まって、初めて――

――雰囲気に呑まれかけてるな
ビニールハウスの花をひとつもらおうか
儀式には参加しておこう……逆に危機感を保てる気がするからね



●Peaceful sediment
 女の子ひとりで行っちゃいけない場所に、女の子ふたりで行ったんだ。屁理屈だとか反抗だとかそういうのじゃあなくて、単に流星群を見るには夜しかなかったから。
 サイドラインが入った白のスニーカーを交互に進ませる臥待・夏報(終われない夏休み・f15753)は、涼風が走ろうとしない森の道に対し、薄らと汗腺が働き始めていることを感じていた。それを嫌な汗だとは思わない。けれど。

(春ちゃんとの夏を思い出してしまうのは、)

 どうしてだろう。こんな花道、歩いた覚えはない。土の匂いだって、此処じゃなくても幾らでも嗅げるのに。昔、履いていたかもしれないスニーカーは。自然物の歩道に布地を汚してしまったか、どうか。

(どうだったか)

 故郷の田舎は人より野鳥がデコボコ道を整備していて、隅に追いやられた下草はけもの道を邪魔しない代わりに各々生きものを住まわせていた。自由研究のテーマを求めて虫取り網を持つ少年少女は、靴に泥を染み込ませながら我が道を往こうとするだろう。だから大人たちは言ったんだ。山間のほうは密入国者がいるだの、落ち武者が出るだの、心配だからと噂を流して、怪異を生み出して心配させる。
 あの日の季節は夏だったから、真夜中にしては向こうの景色が見えていた。それに田舎は星が綺麗だとか、空気が澄んでいるとか。そういうの。まだ見慣れていた街並みの中に居た頃は、噂は噂だと悠長に片付けられていたのに。街灯りから離れた途端に夜空は急に深さを増す。少しだけ、ほんの少しだけ身体を強張らせながらも変わり者のあの子と一緒に山に入って。流星群を見に行った。
 星明りを遮る木々を照らすのは携帯の液晶画面で、変電所に辿り着くまでの間に噂は噂であってくれと息を吐いて黒に溶かす。送電鉄塔の影が目視できたと思えば、緑が途切れて人工物が目立ち、流星群を吹き飛ばすようなライトが春ちゃんと僕を迎えてくれた。けど、金属フェンスだけが僕らを拒んでいたものだから蹴って。何回か蹴って、蹴破って。星を見に。空から流れるように落ちてくる光を求めて。ぴかぴかしていたから。送電線だか電波塔だかわかんないやつに一緒に登って。登って。登って、……。あの子に見えていたのと同じ景色は、結局ついぞ見られなかった。
 森の中、砂が混じる参道を踏み進めていた夏報の足が止まる。目の前に障害物があるとすれば、背伸びをするも重力に従う緑葉の群れくらいか。

(地べたから離れられない花はたぶん僕のほう)

 花は、鳥の腹に納まって、初めて――……。色、あせるか。いや、あせるなよ。雰囲気に吞まれかけている? 木漏れ日を星に見立てるだなんて。夏報さんよ、じりじりするのは太陽光だけで十分だと思わないか。
 踵を軸に足先を持ち上げてみると、すんなりと体は命令に従った。くしゃりと踏まれていた木の葉は虫食いで、ビニールハウスへと向かう夏報とは別の方向へと流されて行ってしまった。
 四季折々の花が咲いているらしいビニールハウスは、中に入らずともそれなりの人数が居ると確認できる。UDCエージェントらしく、危機感を保つ為に。儀式に参加するコインを拾いに夏報は半透明の空間に繋がるパイプを握り、静かに開けて入っていった。
 季節を無視した花花はどれもが本物で、人工的であれど狂気的ではないと判断しよう。花香は夏報をくすぐろうと弁を揺らしているが、果たして勝手に摘んでもいいものだろうか。

「もういいかい?」

 低く、くぐもった女の声が、夏報の背中から脳へと飛び込んできた。思わず肩が揺れてしまう。んー、と言葉にならない音をゆるく発するのもまた女性のようで。藍色に足を真っ直ぐ伸ばして腕を組む女と、膝を曲げてしゃがみこむ女の二人を映した夏報は、聞き耳を立ててから改めて植物に目を向ける。

「もうちょっと」
「拘るねえ」
「同じ花でもちょっと違うから……」
「まあ、わかるけど。ハサミにも数はある」
「あー……」

 腕を組んだままの女が人差し指を向けた方向には質素な机があり、その上には鉄ハサミが一つと、ワイヤーイーゼルに立てかけられたコルクボードが一つ。画鋲で止められた紙切れには花の積み方やコツ、アドバイスなどが小さな字で綴られていた。
 机に近づいた夏報は鉄ハサミを手にして、不自然なく元の場所へと戻り、流れるように花を摘み始める。目立つ黄色をしていたから適当に選んでみたけど、細くて小さい茎を持つカタバミは繁殖力が非常に強い雑草で、駆除をするのが大変なんだとか。

「この後、どうする? 夜の祝祭」
「あたしはいいかなー。明日が仕事。でも今日休めたから割と飛べる気がする」
「まだ舞えるまだ舞える。やだねえ仕事」
「お花パワー信じて生きていけ~? じゃ、そろそろ行こうか」
「それが待たせた側の態度かよ。どっかでご飯食べて帰ろね」

 信者らしさがない、普通の一般人らしい会話をする女性たちの長髪を横目で追う夏報は、祝祭に参加しないニンゲンも居るらしい事を知る。
 儀式だって、様式もなく。花を置く台座に頭を下げる者が居ればブーケを擲つ者が居た。いやそれは、投げるのはどうなんだと思ったが……そういうものなんだろうなと夏報は受け入れる。逆にと、危機感を保つ意識を強める事にした。

成功 🔵​🔵​🔴​

カイム・クローバー
鳥になる会、か。鳥ったって色々あるだろ?鷹や隼、鷲のような鳥類の頂点に属する存在から雀に鶏なんてのも鳥類だ。――幸せの青い鳥、なんてのも一応鳥類なのかね?

そういう意味じゃないのは勿論、分かってる。分かってるのに聞いてるのは単なる皮肉。こういう場では冗談の一つぐらいは言いたくなるタチでね。ま、空を飛ぶってのに多少の憧れはある。
祝祭に参加した咲間と桜田に声を掛けるぜ。若いな、学生か?宗教に興味を持つ歳でも無いだろうに…何だってこんなトコに?
仕事が始まる前に少し情報収集。大概の事は予知の内容で知ってるが、こういうのは必要なコミュニケーションだろ?
花は――種類に疎くてね。オススメを教えて貰えるか?



●何を追憶したか
 UDC組織に保護された桜田少年は、視線を落としながらもカイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)に伝えようと混濁する言の葉を落とす。桜田少年から出てくる情報はカイムが事前に聞かされた予知の内容と大概一致しており、既知であるとは言えた。しかし、予知が絶対的真実であるとは限らない。一度そうだと思い込んでしまえば、見えているはずのソレは正体不明となり怪物として牙を剥く。

「咲間はどんな奴だった?」
「俺から見た咲間は、理知的でさっぱりとしている奴。そして、俺とおんなじ、高校生だ」

 咲間夏一という男は、陸上界にて才能ある選手だと注目されている人間であった。文武両道で品行方正、容姿端麗でもある彼は周囲の期待に応えずとも素晴らしい成績を出し続けた。そんなスーパールーキーとも呼ばれていたであろう咲間選手が事故に遭ったことは、インターネットで調べてみればすぐに分かる事だった。
 他人を庇っての交通事故。居眠り運転をした加害者と歩きスマホをした被害者は背景を語られずに当時の素行だけを切り取られていたが、その二人よりも咲間少年の方に批判を越えた中傷が数多く見受けられたことについてはカイムも首を傾げずにはいられなかった。

「咲間はマイペースで……ドライって言うのかな。評価を気にしないんだけど、それが問題だって。協調性が無いとか責任感が無いとか言うけど、さ。俺だったら、反発したくなるなって。思うんだ」
「そうだな……たとえ相手が教育者じゃあなくても、響かないからって逃げ場を用意せずに追い詰めるのはよくねぇな」

 子供でも大人でも、叱られるとは嫌なものである。成長を願っての説教だとしても、泣きっ面に蜂を送るならば言葉は慎重に選ぶべきだろう。慰めは何の得にもならないとは云うが、与えられた者は少なからず一時の安堵を入手することができる。

「あんたも咲間も、疲れただろう。とやかく言われて。怖いものが苦手なのに肝試しをした理由は、それまでにいろんな場所に行ったからだろう?」
「え。なんでわかるの」
「便利屋ってのはセンスがイイんだ。エスパーじゃあねえから、見世物にはなれないがよ」
「勘が鋭ければ、こうはならなかったのかな」
「そうさな。身を護るのに重要なのは危険な場所に近づかない事だ。だが、味方が居ねえと抱え込んじまうってのもわかるよ」
「うん」

 しばしの沈黙が続く。面談室の外で待機している職員が動いてノックをしようとしている様子をカイムが紫眼に捉え追っている時に、桜田少年は下唇を噛みながらも顔を上げて思いをたけを語った。

「曇ってるように見えたんだ。いつも遠くの先を見据えている咲間が。彼が今、どこを見ているのか何も分からなくなったんだ。俺と見ている景色は一緒じゃないのはわかるんだ。俺は今に夢中だから、でも。あれは。……」

 空虚だよ。
 集会所と呼ぶにはあまりにも開放的な空間に集う人々を見て、カイムは桜田少年の発言に対して言い当て妙だと顎に指を当てる。ニヒリズムとでもいえようか。その二言では片付けられない奇妙さを探るべくして信者と語らいもしてみたが、皆が皆、特別鳥になりたくて来ているわけじゃない事を知る。中には「鳥に詳しいんだね」とズレた反応をする信者も居たものだから、そいつは特に印象深い。
『どんな鳥になれるか、なりたいか。考えたことがなかったや。だって生まれは選べないだろ』
 誰もがなりたい鳥を答えなかった。考えたことがなかったと口をそろえる彼らに好きな鳥はいるのかと問うと、難しい顔をして考え込む。鳥ったって色々あるだろ? 鷹や隼、鷲のような鳥類の頂点に属する存在から雀に鶏なんてのも鳥類だ。――幸せの青い鳥、なんてのも一応鳥類なのかね?
 そういう意味じゃないのは、勿論分かってはいたが。

「鳥になる会、か……」

 分かってるのに聞いたのは単なる皮肉。こういう場では冗談の一つぐらいは言いたくなるタチでね。ま、空を飛ぶってのに多少の憧れはある。しかし、俺に好きな鳥を教えてくれたのは一人だけだった。

「アヒルだ。家禽化された鳥だから自然に敵うかはわからないが……」
「へえ、水鳥が空を飛ぶってのはロマンがあっていいな。にしてもあんた若いな、学生か?」
「ああ、貴方も警察にしては若く見える。それとも探偵?」
「惜しい、便利屋。宗教に興味を持つ歳でも無いだろうに……何だってこんなトコに?」
「ベッドの下の潜む怪物の存在を確かめに。安眠の阻害はいただけけない」
「スプレーを持たずに丸腰で挑む根性は買うが、衝動的だな。宿泊先はあんたの身を案じていたぜ」

 昨日、祝祭に参加していた咲間夏一はそのまま姿を消して帰って来なかったという。大きな騒ぎにならなかったのは彼が家族に「友達の家に泊まる」と連絡を入れていたためだ。ビニールハウスの扉を開けた咲間は思わず振り返って、カイムを黒眼に映し出す。入口で止まるのもなんだと先に足を動かしたカイムに釣られて、咲間も後ろをついていく。

「桜田が依頼したのか」
「いいや? それは別所。あんたはその方がよかったかもしれないが」
「どう、だろうか。私は。危険を冒していることはわかっている。だから私の我儘に彼を巻き込むわけにはいかないんだ」
「一人で立ち向かうってんなら、横を見てみるといい。誰が居る?」
「貴方が居る」
「そういうこと。つまり、目的は違うが向かう所は同じなわけだ」

 己が知っている花はないものかと、カイムは首を動かして花花から見知った顔を探そうと腰に手をやった。これだけ沢山咲いていると、どれが何なのかだいぶ検討がつかない。あれってアサガオだっけか、にしては小さいし、アサガオはアサガオで昼に咲いてたり咲いてなかったりする……だとか、なんとか?

「楽になりたい」

 ぽつりと。咲間は囁くように独り言ちる。勿論、聞き逃しなどをしないカイムは横に立った咲間少年の表情を確認した。己を映す黒眼が何処か遠くを見ていて、しかし目の前に居る男を逃してたまるかと強く捕らえているように感じられる。イイ顔をするようになったとカイムは口の端を吊り上げて見せた。

「貴方も薄々気付いているだろう。此処の雰囲気に呑まれない貴方は、きっと私より先に真実に辿り着くはずだ。だから私は、貴方の仕事の手助けを申し出る」
「そいつは願ったり叶ったりの提案だ。じゃ早速教えて貰えるか? オススメの花について」
「オススメの花」
「花は――種類に疎くてね」

 瞬きを数回繰り返した咲間は腕を組んで身体を真横に捻らせる。伸びをしたかのような動作をした彼は「あれだ」と目的の花を摘みに行った。忘れずに持った鉄ハサミを使い、赤紫の一年草をカイムに渡す。渡されたカイムはレモンの香りがする葉には覚えがあった。

「ベルガモット?」
「うん、種類はレモンベルガモット。実は私も花には疎い。だが、ハーブだって花を咲かせる事くらいは知っている」

 ハーブも咲いているビニールハウスとは。半透明の境界内から外に飛び出てしまえば、旺盛な繁殖力で根から山を緑緑しく色付け支配するのだろうか。狂気は感じられないが、異様だとカイムは引っかかりを覚えずにはいられなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ベスティア・クローヴェル
ただ花を捧げるだけの儀式
そう聞いて私が思い浮かべたのは墓参り

だけど、周りの者は悲しんでいる様子はない
祝祭というくらいだから、きっと私の考えているものとは違うのだろうね

何かを祝うための儀式だとしても
自らの意志で生贄になることを選んだとしても
彼等の死を悲しむ獣が一匹くらい混じっても許されるはずだ

この世に嫌気がさしたのか
それとも大切な誰かのために生贄になる必要があったのか
どういった理由でその道を彼等が選んだのかはわからないけど

ひとつだけ言えることは、誰かが死ねば、その死を悲しむ者は必ずいる
まぁ、他人の為に死のうとしていた私が言っても説得力はないけれど

そのことに気付かせてくれた友人には、頭が上がらない



●"The bones are not buried,"
 ただ花を捧げるだけの儀式。そう聞いてベスティア・クローヴェル(salida del sol・f05323)が思い浮かべたのは墓参りであった。
 仏壇や墓に花を供える時、植物は仏花と呼ばれ大きく分けて二つの思いを表現する。一つは、故人への想いを花に込める。一つは、仏さまを敬い誓いを立てる。またその二つだけに限定せず、生き人の心を穏やかにする。などと、花とは植物と共生してきたニンゲンにとっては身近な存在だといえよう。
 ベスティアがビニールハウスから摘んできた白花は、初夏から秋にかけて華やかに咲き誇る優美のダリアであった。その豊かな愛情の隣にはピンク色の薔薇が揺れていて、背の高い向日葵の根元には土の替わりにポピーがパレットに絵具を置いていた。仏花には向いていないとされる花が見受けられるが、だからといって禁止されているわけではない。遺された者と花に込められた気持ちの折り合いに納得があればいい。それに、

(きっと私の考えているものとは違うのだろうね)

 祝祭というくらいだから。しかし、彼らは何を祝っていたのだろう。鳥になるとは。どういう意味なのだろう。
 文字通り、鳥になるならば。それは人が鳥になるのだろうか。すると生贄である人間が鳥になるのは、死して生まれ変わる輪廻転生を指しているというのか。そうでなくても、鳥になる前の人は何処に行くというのだろう。生贄とは、生きものを生きたまま神に供える事を意味する言葉である。推測の域を出ることは容易く、しかしそれを認めてしまえばこの世を去ってしまった信者が少なからずもいたという事。

(だけど、周りの者が悲しんでいる様子はない)

 まるで悟りを開いているかのように死を当然として受け入れ、風に吹かれて飛ぶタンポポの綿毛のように自然に身を委ねている姿勢に対し、ベスティアは他人に関心が無いのはまた違う、人一人分の間隔を空けて一つのベンチに座っているかのような距離感があるように思えた。言葉を交わさなくとも、目で語らなくとも。お互いを気遣い、存在を尊重し合っている彼又は彼女らは、この世に嫌気がさしたのか。それとも大切な誰かのために生贄になる必要があったのか。どういった理由でその道を彼等が選んだのかはわからないけど。

(ひとつだけ言えることは、誰かが死ねば、その死を悲しむ者は必ずいる)

 まぁ、他人の為に死のうとしていた私が言っても説得力はないけれど。何かを祝うための儀式だとしても、自らの意志で生贄になることを選んだとしても。彼等の死を悲しむ獣が一匹くらい混じっても許されるはずだ。
 居なくなったら寂しい。置いていかれたら悲しい。一緒だと嬉しい。またねがあると、楽しい。

(そのことに気付かせてくれた友人には、頭が上がらない)

 死について考えたことがある。勿論、生についてだって。だからだろうか。此処に居る者たちは、どちらも諦めていると思えるのは。タンポポの綿毛は根付くことなく、目を背けるように宙を浮いているのは、死を救済と捉えているからなのだろうか。
 ベスティアの赤眼には、談笑もせずに立ち惚けを続ける髭面の男と金髪の女が居た。そこに音もなく影を落としてぬらりと現れた黒衣の女は、鳥になる会の長である。ぽそぽそと小さく音を鳴らした会長は、これまた音を出さずに歩き始め、その後ろを髭面の男が着いていく。残された金髪の女は振り向きもしない二人に小さく手を振り、緑覆いかぶさる灰黒の夕雲を見上げてしまった。
 あとをつけようかとベスティアが足元に視線を落とした時、ふと物珍しい植物が目に留まり思わずしゃがみ込む。フキノトウだ。

(この時期にフキノトウ? ビニールハウス内なら分からなくもないが、外だ)

 花みたいな薄緑の植物は、雪解けと共に現れ春先に芽吹く冬の七草で、山菜としてのポテンシャルが高い春告げ草でもある。季節外れの多年草が溶け込む姿に奇異していると、先ほどの金髪の女が「お腹でも痛くした?」と不思議そうに声を掛けてきたものだから事情を話してみる。すると女は納得したように頷いた後一度その場を離れて、数分後にまた戻ってきた。彼女の手にはそれぞれスコップとプランターが握られている。

「移し替えるのか」
「ええ。そういうキマリだから」
「あなたは、いっしょに行かなくてよかったのか」
「いいんじゃない? あたしは呼ばれてないし、あの人とは知り合いってわけでもないし。ああでも同じアパートに住んでる人なんだっけか。一度も喋ったことないけど」
「あの人たちは……これから何処へ?」
「あら。お姉さん、祝祭は初めてかあ。鳥になりに行くんだよ。鳥になれるよ」

 鳥になるだけだよ。みんな鳥になったよ。
 ビニールハウスに向かう途中、和やかに笑う金髪の女はすらすらとベスティアに言葉を浴びせきた。やけに鳥を強調するのは、鳥になる会の信者故か。両の手が塞がっている信者の代わりに半透明の扉を開いてやったベスティアは、三つ編みに纏められた金糸の影を追う。慣れた手つきでフキノトウの根を水に漬けた彼女に感心していると、ベスティアに向き直った女はこそこそと秘密を共有するかのように口元に手を当てた。

「此処に居る人たちはね。みんな寂しがり屋なんだ。だからこのフキノトウのように身を寄せている。だからみんな、ビニールハウスに花を寄せ合うんだ」
「鳥は、石の代わりに花を残していくのか。だから花園が此処に?」
「花壇だよ。ただの。これは象徴であって、たとえ話に過ぎないんだ。花壇が踏み荒らされても、花がきれいに咲いていた事実は覆せない。あたしはそれでいいと思っている」
「……」
「世に抗う貴方は美しいだろう。覚悟をしている貴方は輝かしくて、目に毒だ。鳥になる事すら億劫に思えるほどに」

 諦観するかのような女の瞳に己を映すベスティアの喉奥では、煙がつっかえている。血液に滲んだそれは脳を鈍くし、粘着く鉛が舌に落ちてくる。これは不義理であろうか。不条理でもあるか。正しさとはいったい、何時から納得から更生を優先するようになったのだろう。それでも時間は過ぎていく。いつの間にか辺りはとっぷりと墨色に浸かっていた。
 されど太陽は眠らない。夏の終わりとて夜は明るく広がっているのだから。

「約束したんだ。友達と。またねを沢山、これからを生きると」

 自分の意思を見せることが、貫くことが。今は最も誠意に近しいものなのかもしれない。

「あなたが死んだら私は悲しい。これは慰めの言葉ではなく、私だけの感情だ」
「はは、あたしからお姉さんに返せる言葉は負け惜しみくらいだ。その目玉に毒がうつらなければいいのに」
「大丈夫。安心できて落ち着きに微睡みたくなるこの空気は、誰かをきずつけるような毒じゃないと思うから」

 花畑へ行こう。うつくしいと謳われる祝祭に、生きものの一つとして寄りあおう。獣は決して墓を荒らしにきたわけじゃない。夜道に消えることのない灯を携えに、草木を青く照らすのだ。例えそれが虫を食べる植物の意中へと飛び込んでしまうことになったとしても、星が回るならばヒは上る。
 ベスティアが向かう先には、ソラの法則性を乱すUDC怪物が邪神と呼ばれ、囲われ、まつられている。神とやらは人に何をもたらすというのか。それが素晴らしく万病に効く薬だったとしても、月が落ちてくる前に怪物は討たねばならないだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『セキセイさま』

POW   :    ガブリジャス
【嘴で噛み付くこと】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    あわだまおいしい
戦闘中に食べた【あわだま】の量と質に応じて【全身の羽毛】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
WIZ   :    セキセイまみれ
【沢山のセキセイインコ】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●『鳥に限らず、人間とはお喋りな生物だ。』
 人工の光が届かない森を抜けても、花畑を照らす星々はホタルの発光器よりも薄く、小さく。変事に巻き込まれるのはごめんだと避けるように遠のいている。
 開けた空間に根を下ろす青紫の海からは、香りがしない。もっと近寄れば花の正体がわかるかもしれないが、信者たちは堤防を作るかのように青花を囲い、祝祭の始まりを待っている。どうやら、花畑に足を入れることができるのは生贄だけらしい。生贄でもない者が花海に飛び込んだ事例はあったのかと聞けば、波打ち際で羽を休めている信者の男はあっさり「居た」と返答をした。

「それほど鳥になりたかったんだろう。鳥の人は構わないようだし、僕も止める理由はない。鳥になれるのだから」

 こちらに見向きもせずに花を見つめる男の目は、熱そうだった。心が打たれたかのように集中してる彼の先には花だけが居て、花が咲いている。その花は四つの弁を持っており、中心の黄色から外にかけて浅葱に柔らかく発光している。しかし、大輪を咲かす花があればアジサイのように装飾花を周りに咲かせて姿を隠そうとする花があるなどの個体差が遠巻きからでも確認できた。よくよく見れば発光具合にも個性があり、それでも花弁の数は変わらない花は頭だけが別の花に置き換わっているかのようだ。
 その頭をもぎ取るかのように、小鳥は花を啄んでみせた。音もなく飛んできたかと思われる鳥たちはカラコロと音を鳴らし、小さな翼で無風を吹かせる。その花畑は小鳥の巣の役割も担っていたのだ。まるで餓死から逃れるように懸命に花をつつく鳥たちは、愛くるしいカタチを取りながらもUDC怪物である。怪物は信者たちの成れの果てというのだろうか。彼らはオブリビオンになってしまうのか。
 食事を終えた鳥は海を飛ぶ。飛び回ってしばらくするとまた戻ってきて花を噛む。花の名前はわかりそうにない。それにしても、花弁に落ちている黒い斑点たちは模様だろうか。病気だろうか。虫なのだろうか。鳥なのだろうか。確かな事は、あの青花は植物図鑑に載っていない未知の新種だという事だけだ。
 腹を満たした鳥たちは遅かれ早かれ異物たる猟兵たちに襲い来るだろう。だが、猟兵たちの存在に気付いていたとしても鳥たちは花を啄まずにはいられない。あんよが取れても、くちばしが折れても、毛を抜かれても喉を潰されて鳴けなくなっても。花を啄まずにはいられないのだ。
高階・茉莉(サポート)
『貴方も読書、いかがですか?』
 スペースノイドのウィザード×フォースナイトの女性です。
 普段の口調は「司書さん(私、~さん、です、ます、でしょう、ですか?)」、時々「眠い(私、キミ、ですぅ、ますぅ、でしょ~、でしょお?)」です。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、
公序良俗に反する行動はしません。

読書と掃除が趣味で、おっとりとした性格の女性です。
戦闘では主に魔導書やロッドなど、魔法を使って戦う事が多いです。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!


シフォン・メルヴェイユ(サポート)
『楽しい世界が待っていたらいいなぁ。』
 普段の口調は「女性的(私、あなた、~さん、なの、よ、なのね、なのよね?)」
 怒った時は「無口(わたし、あなた、呼び捨て、ね、わ、~よ、~の?)」です。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、
公序良俗に反する行動はしません。

のんびりとして、無邪気な性格をしています。
基本的に常に笑顔で人に接して、
敵以外なら誰に対しても友好的な性格です。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!



●What's wrong with aiming for a happy ending.
 祭りばやしに青緑が浮足立つ森の中、明りの届かない木々を抜け駆けた高階・茉莉(秘密の司書さん・f01985)とシフォン・メルヴェイユ(夢見る少女・f19704)は、UDCアースにて行われようとしている祝祭とやらを確認する。
 祝祭をこれから始めようとしている宗教団体『鳥になる会』はとあるUDC怪物を神として祀り、生贄を捧げることによって超自然の庇護を受け取っていたらしい。全ての元凶であろう邪神の正体は完全掌握できてはいないが、茉莉とシフォンが向かう花畑の向こうには『セキセイさま』と呼ばれるUDC怪物が数多く存在していた。セキセイさまたちは己の敵である猟兵の存在に未だ気付いていないのか、花畑を作る青色の花を啄んでいる。まるでイチゴやトマトのヘタだけを残して実だけを食らうかのように、茎だけを器用に残して。セキセイさまたちはくちばしを動かしていた。
 一般人でもある信者たちは花畑から少し離れた場所に居る。彼らがその場から動かない限りは、攻撃に巻き込む心配は要らないだろう。セキセイさまたちは今でこそ花に夢中だが、この場から飛び出て行ってしまっては厄介だ。猟兵として、オブリビオンを逃すわけにはいかないだろう。
 倒さねばならない。あれが誰かの成れの果てだとしても。このまま、彼らをそのままにしておくのは永遠に朝がこないのと同様だ。読書をするなら明るい場所で、楽しい世界におはようの挨拶を。

「ハッピーエンドを、お見せ致しますよ!」

 絵本を広げた茉莉はセキセイさまに悪魔の爪を差し向ける。大きな悪魔に手掴まれたセキセイさまは「ヂュイ!?」と驚きの声を上げて暴れるも呆気なく消滅してしまった。同胞を失ったセキセイさまたちは攻撃的な音を出しつつも花を名残惜しそうに見つめている。それでも切り替えることのできたセキセイさまは悪魔の爪目掛けて群れを作って臨戦態勢を取り始めた。童話を披露する茉莉は絵本から飛び出る悪魔の爪を操り、巧妙にセキセイさまのみを攻撃する。花が散ることを気にせずに戦った方が効率はいいかもしれない。だが、それはなんだか。かわいそうだ。花だって、傷つけられれば痛いのかもしれない。

「ギイ!! ギイ!!!」

 愛らしい見た目をしながらも獣の獰猛さは健在か。真ん丸とした黒い点点を細め、吊り上げるセキセイさまの軍隊は、茉莉を捉えて突進した。一羽一羽と爪で大群を剥がしても、披露会を辞めさせたいセキセイさまは嘆かない。大きな影が迫り来ても、茉莉は絵本を閉じることなく黒眼を真っ直ぐに向けていた。それどころか絵本を書杖にセットして、トンと大地を一回叩いてみせる。
 それは合図だ。

「シフォンさん、お願いします!」

 任せて、と天空から頼もしいと思える声が聞こえた。流星の如く降り注がれるのは金時計の幻影。驚いたかのように鳴くセキセイさまはそれでも止まらない。止まらないからこそ狙いはわかりやすく、定めやすい。

「行くよ、時詠みのトライデント!」

 夢見る天使を先導すべく、三叉鉾は大鳥目掛けてその身を穿つ。矛と共に地に落ちるシフォンの格好は豪華絢爛といえる姿に変身していた。柄を握る拳に力を込めて、緑眼にオブリビオンの個個を映せば。

「全ての時と空間を、私たちの手のひらで支配してあげるわね!」

 大きな鳥の振りをした小鳥たちは真実を露わにする。シフォンに討たれたセキセイさまの消滅を目にしてしまった残りのセキセイさまたちは「ピッ」と小さく各々鳴いた。怯えた様子を見せるセキセイさまに対し、シフォンは少しばかり罪悪感を覚えてしまう。

「シフォンさん、前から!」
「へ、うっわわ!?」

 その罪悪感の隙を突こうとしたセキセイさまの一匹が、シフォン目掛けて飛び込んできた。咄嗟に片手で受け止めることには成功したが、その感触はもっちりとふわふわで心地よい。流石にこれはどうしたものかと掴んだ手の平にて此方を睨みつけるセキセイさまを転がしていると、

「痛い!」

 指を噛まれてしまった。緩んだ拘束からセキセイさまは解放されるも、シフォンの周囲にも浮かぶ時計の幻影を彼女は踏み台にして後を追う。そして後方に居る茉莉に目配せをして、人差し指でくるりと弧を描いてみせた。頷いた茉莉はハンドサインでオーケーを作る。

「ヂヂヂッギイーーーーー」

 しつこいとでも言っているのか。セキセイさまはシフォンに威嚇して飛ぶスピードを上げる。セキセイさまの元には仲間が再び集い、大きな影を作らんとしていた。

「茉莉さーん!」
「はぁい! 全力で行きますよ」

 その影を裂いたのは、大きな大きな悪魔の爪だった。茉莉の攻撃に続いてシフォンも追撃を行うべく、トライデントでセキセイさまたちを薙ぎ払う。

「シフォンさん、先ほどの指は大丈夫ですか?」
「うん、平気よ! 見て、跡も全然残ってないの」
「良かったです。でも、やはり治癒はしておきますね。痛かったでしょうから」

 地上に降り立ったシフォンに絵本から飛び出た天使の祈りを与える茉莉はゆったりと微笑む。驚きからきた痛みは多少なりとも痛いと思えてしまうもの。

「ありがとう。ちょっとかわいそうだけど、放ってはおけないものね」
「ええ。可愛くても、噛んじゃだめです。痛いですもの」

 啄まれた花は痛みを感じているだろうか。このまま花畑を放っておくと茎だけになってしまう。ダメなものはダメだと、教えてあげよう。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

カイム・クローバー
生贄に捧げられた人間、か。
背後を振り返る。アレを見てまだ目をキラキラさせてる奴は居るんだろうか。見た目は可愛い可愛い鳥さんだ。だが。

アンタらの目、覚まさせてやるよ。
花畑を進む。無造作に。武器も準備せず。花を啄ばむ鳥の頭を撫でようと手を出して──鳥のUCを【見切り】で躱すぜ。
躱し切れるか?軽い怪我ぐらいはするかもな。ま、良いさ。銃弾一発。信者共の目は覚めたかい?

(振り向いて)見な。腕を引っ込めなきゃ肩から先が無くなってる。
コイツらは鳥の姿をした化物だ。花が無くなりゃ啄ばむ対象は──分かるだろ?
UCで銃弾の大盤振る舞い。落ちる薬莢の音が妙に近く感じるぜ。
鳥になりたいんだったな。化物になりたい奴は?



●Laugh laugh, laugh.
 『鳥になる会』の信者たちは、猟兵がオブリビオンと戦う姿を見ても逃げようとはしなかった。信仰対象である『セキセイさま』が消滅しても、花が啄まれて茎だけになっていても。嘆きも怒りもしない彼らは仕方ないとでも言うかのように笑っている。
 笑っている。

(生贄に捧げられた人間、か)

 背後を振り返るカイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は、アレを見てまだ目をキラキラさせてる奴は居るんだろうかと森を見る。信者達からは敵意は感じられない。それどころか無関心に思える。何もしない、しようとしない彼らの目には、もしかしたら猟兵もセキセイさまも映っておらず、その先にいる花神様とやらにしか興味がないのか。
 幾らでも想像は出来る。一つ確実なのは盲信しすぎて己を蔑ろにしている人間が居るという事。宗教とは考えを持つことだ。考えから生まれた自分なりのポリシーを信じ、敬い、時に崩し崩されては再構築して自分という観点を受容する。この解釈もまた誰かの一つの考えの内に過ぎず、されど鳥になる会の信者たちは止まっている。思考も、思想も。足も時も大地に根付いた植物のように深く、深く。緑根に生気を吸われるかのように全てを諦めて受け入れる。それは悟りの境地に至ったとはいえまい。否、いえてたまるかというもの。
 カイムを睨みつけているのは咲間少年だけだ。口を真っ直ぐに結ぶ彼は「大丈夫なんだろうなお前」と訝し気な目で語る。協力するとは言ったが、便利屋の仕事ぶりについては半信半疑らしい。正直で解りやすいのはいいことだと、カイムは口角を上げてゆらりと手の甲を見せてやった。

「アンタらの目、覚まさせてやるよ」

 銀の尻尾を背にカイムは浅葱色に光る青の海へと踏み込んでいく。足に絡みつく草花からは香りがせず、土の匂いも、獣の匂いも見つからない。中心に行けば行くほど生きものの存在が遠くに感じられた。青花が本当に海水であれば、カイムは大波を被り、長い銀髪を濡らしていたのかもしれない。
 そんなカイムを気に留めないセキセイさまは、呑気に花を荒らしていた。無造作に花畑を進んだカイムも多少なりとも草を踏んだももの、首を刈り取る真似はしなかった。武器を手にも持たないカイムは色黒とした指を五本、セキセイさまに向け伸ばす。花を啄ばむ鳥の頭はまるまるとしていて、ふわっとした黄緑の体毛はぬいぐるみのように可愛らしい。本当に、見た目は可愛い可愛い鳥さんだ。
 だが。

「ヂヂヂヂヂイ」

 耳をつんざくような高音を出し、頭を撫でようと手を出した男の指を食い千切らんと口内の舌を見せた鳥の目は淀んでいて、どす黒かった。
 透き通りのない黒点に対し、紫眼は神経を研ぎ澄ます。元々この鳥は俺の存在に気付いていた。攻撃をしてこなかったのは油断を誘う為か、手を出した途端にくちばしを硬化させ噛み付く時を待ち侘びた。くちばし以外に変化は見当たらないか。だが一点強化型だ。素早さも気迫も増して小鳥の面影は消え失せている。躱し切れるか?

(――軽い怪我くらいはするかもな。ま、良いさ)

 弾丸のように発射されたセキセイさまはくちばしを使ってカイムに攻撃を仕掛けるも、彼の手背から腕にかけて薄く線を付けるだけで終わってしまった。一線は切り傷となりじんわりと赤を滲ませるが、毒を盛られた様子はない。黄緑頭を目で追うカイムの無沙汰であったもう片方の指には拳銃が握られ、トリガーが既に引かれていた。

「ギャチッ!?」

 ダアン、と音は遅れてやってくる。紫雷を纏ったセキセイさまはよろめきながら地へと墜ちて消滅してしまった。
 その途端、空気はひりつき殺意が沸いて出た。ギャギャギャ、ピイピイと唄う怪物らは人間である信者たちの目を覚ましてくれる手伝いを申し出ているようだ。報酬の前払いとして銃弾を一発くれてやる。するとまたしても音の恐怖が周囲に響き渡った。日常的には聞かない乾いた音を危険だと判断する人間は賢い動物である。現実味のない銃声を耳に入れてしまえばファンタジー気分から抜け出すのは容易い。しかしそれを直ぐに受け入れるのは容易ではないようで。
 ならばダメ押しと行こうじゃねえの。少々演出過剰だが、あからさまに目に見えてこそだろう。

「見な。腕を引っ込めなきゃ肩から先が無くなってる」

 振り向くカイムは赤い線が走る腕を観客たちに見えるように広げた。腕まくりもしていなかったので衣類が裂けている様子も確認できる。

「コイツらは鳥の姿をした化物だ。花が無くなりゃ啄ばむ対象は──」

 分かるだろ?
 太い木の枝に止まろうとした小鳥たちはカイムに飛びかかる。腕だけでなく頭や肩、目玉に唇となりふり構わず教えを封じたくて全員で鳴いた。だが、一点に狙いが集まった時。集団は逆に狙われることを意識しなくては人海戦術は成り立たない。
 瞬間、脚を曲げ一度蹲ったカイムは大地を蹴って空を跳ぶ。ぐるりと反転する世界は重力を働かせて、両の手にオルトロスを従えたカイムを引っ張り戻そうと圧をかけた。その間にカイムは呆気にとられたセキセイさま一匹一匹に銀の弾丸を叩き込む。一匹に一つ、丁寧に同等に。紫雷の銃弾(エクレール・バレット)は魔犬の牙を持って鳥の化物を食らっていく。植物である花がクッションになっているはずのに、宙を舞うカイムには薬莢が落ちる音が妙に近く感じられた。キラキラ、キラキラ。金属同士がぶつかり合っては土を付けて。その上にまた薬莢は降ってくる。鳥の亡骸の替わりに積もる小山を靴で小突けば、足先に銀がかすかに反射した。
 それで、

「鳥になりたいんだったな」

 化物になりたい奴は? 笑えないあんたたちは、舞台裏に引っ込んだ方がいい。

大成功 🔵​🔵​🔵​

揺歌語・なびき
その花を
啄むにはいられないのか
喰わずにはいられないのか

宙に発砲することで
一般人にこの場から離れるよう呼びかけ【催眠術、誘惑、恐怖を与える

その花畑をさ
本当に食べられていいの?
害鳥駆除するから、ちょっとどいててね

まぁ無理なら
鳥の攻撃をこっちに向けるしかないなぁ

己の勘で鳥の群れを躱し【第六感、野生の勘
避けきれぬ啄みは耐え凌ぐ【激痛耐性

そんなに花がいいなら
こっちにしろよ
腹いっぱい喰わせてやる

棘鞭から血桜を零し小鳥の群れを覆う【呪詛、鎧無視攻撃、串刺し
夥しい花弁と蟲で埋めつくせ

青い花の群れが
おれにはただおぞましく見える
そこそこ長いエージェント歴だ
これはきっと経験値から来る勘

そもそも
本当にあれは花なのか?



●When you come to your senses, you will be drunk by madness again.
 動揺の色を見せ始めた『鳥になる会』の信者たちは、自らが信仰していた鳥神様の変貌や神様を討つ者たちの姿を遠巻きに見つめている。その信者の静波に紛れていた揺歌語・なびき(春怨・f02050)はふらりと、吸い寄せられるかのように花畑へと足を運ばせた。UDCエージェントたるもの、潜入捜査はそう簡単に観測されてはいけないのだ。信者たちはなびきの行動を止めはしない。カルガモのように後をついても行かない。銃声という、こわいこわい未知の音波が脳みそを揺らすのだ。行く途中、喪服らしき黒衣に身を包んだ女を桜眼に映したなびきは少しばかりの寄り道をする。話は通じそうにはないけれど、話すのは通りそうだったから。
 生贄を背後に従えた三つ指の女人は、まるで信者を守ろうとするかのように片腕を広げてからなびきと対峙した。どうしてこの女は、指を失ってしまったのだろう。自ら斬り落としたか、鳥にちぎられたか、神に捧げてしまったか。何にせよ日常生活を送るには不便であろうと頷ける。

「その花畑をさ、本当に食べられてもいいの?」
「あれは、彼らの善意です。から、自由を尊重するのは。いけないことでしょうか」
「信仰深いことは良い事だと思うよ。でもそれ、目を逸らしているだけなんじゃない」
「有力者は強い言葉を唱えます。制御のできない力は使うなと、我が物顔で火を付けてから。此方に、指を指すのです」
「そっか。生贄を解放する気はないんだね」
「ええ。彼らは鳥になりたいのですから。私は長として彼らに投げられる石を防がねばヒトは報われない、見届けなければ彼らは鳥になったとは言え難い。鳥にならない貴方は明日を生きればいいのに」
「おれは今を生きて居るよ、此処に。害鳥駆除するから、ちょっとどいててね」

 あと、一般人にこの場から離れるように呼びかけさせてもらうね。しなやかながらにも機敏に小銃を宙に差し向け発砲したなびきはふわりと穏和に笑んで見せた。眉をひそめた女人の耳に骨から肉に掛けて内臓を震わせる銃声が飛んでくる。それは女人のみならず、後ろにいる信者にも、なびきが先ほどまでいた信者たちの群れにも響いてしまう。解ってしまうのだ。それがヒトを殺す音だと。想像できるのだ。それは誰かの命を絶つ音であると。
 ならばなぜ彼らは、彼らが鳥神様と呼ぶ『セキセイさま』が花の命ともいえる花弁を刈る姿を目撃しても動じなかったのだろう。慣れという麻痺状態にあったか、邪神による精神汚染か。こうしているうちにも、セキセイさまは青花を餌と見立てていそいそと腹を満たしている。その花を啄まずにはいられないのか。喰わずにはいられないのか。にしてもこの人たちぜんぜん退いてくれないな……まぁ、無理なら。鳥の攻撃をこっちに向けるしかないなぁ。
 呼びかけはしたのだ。意地を張っても守れるのはプライドだけだと強行して説かねばなるまい。再びなびきは引き金を手に掛け、今度はセキセイさまに狙いを定めて弾丸を走らせる。「ピッ」と甲高い断末魔を最後に小鳥は落ちた。再び浮上することは永久になく、代わりに周囲がどよめくだけ。ヂリヂリと朝には聞きたくないアラームクロックが群れを成して勢い任せに飛んできた。単純に見えるが、相手は巨大な一体ではなく巨躯を模る塊だ。分散の可能性を踏まえてなびきは己の勘を信じて駆ける。踏み込む足を包む靴で青花を踏んだ感触はやけにおぞましく、まるで動物の皮を踏んだかのように思えてしまった。けれど足を絡めるわけにはいかない。血吸いの棘鞭から血桜を零し、小鳥の群れを覆うなびきはまたしても空いた腕で銃声を繰り返した。聞こえないなら、何度だって呼びかけてやる。
 セキセイさまには赫に這う。夥しい花弁と蟲は、小鳥の柔らかな肉を埋め尽くしては満たされていく。いいや足りないまだ足りない、咲き誇るには主ならず他者の血をも吸わねばならぬ。かばねの下に立つならば、眠りを妨げる事なかれ。だから鳴くなよ。そんなに花がいいならこっちにしろよ。やまかしいUDC怪物は数だけはやたら多く、運よく桜飛沫をすり抜けた鉄砲玉はなびきを啄み、肉を抉った。深いすりむき傷のようなそれはヒリヒリとするも、元より避けきれぬ啄みは耐え凌ごうと考えていた。だからなんともない。むしろ腹いっぱい喰わせてやる。
 逃げ惑う鳥の喉奥には桜の花弁を串刺して、逃げ迷う人の頭蓋には恐怖を与えて日常への懇願を呼び覚ます。大地を赫く染めるなびきは、反対色とも取れる浅葱色雑じる青い花の群れを注視した。嫌悪感をはっきりと自覚させられるそれに触れてみると、四つの弁を持つそれは全く革のような触り心地はなく。至って普通の花と判断できる柔らかな感触だった。力を込めればすぐに裂いてしまうだろう。先ほどのアレは錯覚だったのかと一瞬思うも、経験値から来る勘が疼いている。
 そもそも。本当にこれは花なのか? 花でなければ何というのか。そこそこ長いエージェント歴だ、これはきっと邪神が齎した花である。コレは確実だ。だから花を正確に象れている。鳥たちは目覚めを告げる使いだ。

(花神様、だっけ)

 もし、この花花の下に死体が眠っているというのならば。それは死にぞこないのUDC怪物ではあるが、沢山の死体を蓄えている事だろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ベスティア・クローヴェル
光る花畑と、そこを飛び交う小鳥たち
目に映る光景はとても幻想的で、いつまでも眺めていたいくらい
この光景がUDCによって生み出されたものでなければ、どれほどよかったか

鳥になれば、社会のしがらみからは解放されるかもしれない
大空を自由に飛ぶことが出来れば、気が晴れるかもしれない

だけどそれは、一時的なものだと私は思う

鳥には鳥のしがらみがあって
大空を飛ぶ自由と引き換えに、弱肉強食の世界が待ち受ける

ヒトの側にいれば、きっと誰かが手を差し伸べてくれる
私が近くにいるのなら、私が手を差し伸べる

信者たちで造られた堤防の隙間を潜り抜け、花畑の真ん中へと歩を進める
左手に握るは終焉を告げる炎の剣

さぁ、弔いの時間だ



●I'm sure we're both clumsy.
 花畑から去る者が居た。ベスティア・クローヴェル(salida del sol・f05323)と入れ違いになった生きものは人間という種族で、『鳥になる会』に属する信者であった。速足を動かす彼らは手を繋いでおり、片方はぼたぼたと涙を流しながらも前しか見ておらず。もう片方は名残惜しそうに銃が歌う歌う戦場を見つめている。浅葱色が発光する夜、紫雷が弾けて薄桃は舞う。そこを飛び交う小鳥たちは綺麗ないのちをしていて、メルヘンは金と銀がぶつかる音を星の音色だと語っていた。
 ベスティアの目に映る光景はいつまでも眺めていたいくらいと思えるほどにとても幻想的で、心惹かれる故にこの光景がUDCによって生み出されたものでなければ、どれほどよかったことかと憂いた息を呑みこんでしまう。

「お姉さんはさ。なんで此処に来たの? どうして花畑を荒らすの」

 逃げないの。と、ベスティアの後ろをついてくる金髪の女は言う。彼女もまた鳥になる会の信者の一人だ。最初にこの場を荒らし始めたのはUDC怪物こと『セキセイさま』ではあるが、儀式を邪魔したのは猟兵ではないとは言い切れず。だが彼女がいう花畑とは、彼女の居場所を指しているのだろう。それでいいと笑っていた女は諦めているのに、執着はしていてベスティアに何故を問い詰める。
 さらりと、ベスティアは素っ気なさを包み隠さず返答する。

「諦めていないから。諦められないから」

 これもまた執着といえようか。困っている誰かが居れば助けたくなるんだ。手が届くならば、伸ばして、掴んで。話をしてみたい。傲慢な考えかもしれない。強迫的とも取れるかもしれない。でも、自分が困っていると助けてくれる者が居た。それに、さっきの花園までUDCに採られるのは嫌だから。

「あなたも。逃げないのは、諦めていないからだと私には思える。鳥になれば、社会のしがらみからは解放されるかもしれない。大空を自由に飛ぶことが出来れば、気が晴れるかもしれない」

 だけどそれは、一時的なものだと私は思う。鳥には鳥のしがらみがあって。大空を飛ぶ自由と引き換えに、弱肉強食の世界が待ち受ける。
 その一時を求めるまでどれほどの不自由を経験してきたのかは、計れない。想像をしてもそれはベスティアの想像でしかない。けれど、光る花畑に飛び込まないあなたは。鳥になりたいだけで命を捨てたい訳じゃあない。はず。

「ヒトの側にいれば、きっと誰かが手を差し伸べてくれる。私が近くにいるのなら、私が手を差し伸べる」

 きっとお互いに不器用だ。両の手を広げてみせるベスティアは、下唇を噛む金髪の女に真っ直ぐの赤眼を瞬かせた。恐る恐ると手を小さく上げた女の指先を掬ってみると生温かさが感じ取れる。「脆いなあ貴方も」と、上ずった声で笑う女の表情は取り繕いのない真顔であった。

「人生の終わりを決めるのは自分でありたいんだ。納得のいく豊かな人生であったといえるように決断したのに。それを揺らがす貴方は悪い人だ」
「人、か。こんなところに居るあなたも悪い人といえるのかもしれない。夜は寝る時間だろう。偶の夜更かしは楽しいものだが」
「そうだね。良い子にも悪い子にも太陽ってのは照ってくるんだ」
「鬱陶しく思われても構わない。私は。私も揺らいだ過去がある。崩れた覚悟がある。でも、生きているんだ。今もここに居るだろう」

 さぁ、弔いの時間だ。
 太陽を追いかける獣を従える人狼はその身に篝火をたかせ蒼を宿す。信者たちで造られていた堤防の大きなほつれを潜り抜け、花畑の真ん中へと歩を進めるベスティアは青に蒼を混ぜ合わせた。四つの花弁をそれぞれ輝らす植物は、チリチリと外側から焼かれて中心の黄色を目指していく。しかし、それを阻むかのように黒い斑点は炎の延焼を遅延させた。
 そう、まるでベスティアの行き先を阻むUDC怪物のように。

「ギギギッギイッギ」
「ヂアイイアイヂヂヂ」

 可愛らしい容姿からは出てほしくない音圧である。ベスティアが左手に握る終末を告げる炎剣は、太陽のようにまるまるとした小さな惑星を食べようと耀き燃え盛る。硬化された鋭いくちばしに肉を貫かれることがあっても、被弾する事を気にせずに炎柱を創りラグナロクを発動させたベスティアだったが、無香であるはずの空気から火薬の匂いをわずかに嗅ぎ取った。途端、銃弾が脳天目掛けて飛んでくる。頭蓋を反らしたベスティアはその勢いのままに身体を横に薙ぎ倒して、脚で大地を凹ませた。それと同時に銃声が鳴ったものだから、セキセイさまは「チ、キ」と怯んでしまっている様子。

(銃弾は何処から。誰が……、)

 居た。
 ベスティアは夜を埋め尽くすようなセキセイさまの群れに対して巨大な炎海を放つ。津波のように荒くも鋭い耀炎を叩きつけられたセキセイさまたちは、消滅する前に溶けて消えてしまったのではないかと思えるほどに消し炭を遺して骸の海へと還っていく。音の方向を辿れば、そこには拳銃を器用に六つの指で操る女が生贄を背に従えて居た。UDC怪物と比べると驚異にはならないが、宗教団体の会長とて一般人の枠に入るからこそ厄介だ。

「人生の終わりを決めるのは自分でありたい。その一心で自死を選択し、自らの手で終わることを決断をしたニンゲンを。哀れと思いますか。天晴と言えますか。鳥にならない貴方は何ですか」
「私は、私だ。あなたにとっては鳥になることは死を意味するのだろう。しかし、鳥になることを生と捉える者はいた」
「ええ、生は報われて欲しいのに死を求める。鳥になれません。鳥になりたいのに。貴方も鳥になれたのかもしれないのに。誰も救えないでしょう」
「健康にも環境にも阻害されない死とは幸福かもしれない。私は生きている今日を幸福に思うから、あなたが何を言っているのかもわからない」

 滅裂に言葉を並べる三つ指の女人の音は、線がぐちゃついていてあまり耳にしたくないものばかりだ。もっと話し合えば彼女を理解できるのかもしれない。だが時間は限られて、狂気に染まる気もないならば。ぶった切るのも一つの手だ。
 金髪の女が生贄の一人である髭面の男の腕を掴んだ。思わぬ乱入者に目を見開く女人は銃口をベスティアから外すことはしなかったが、片腕だけでは生贄を引き戻すことはできそうにない。

「行くよ、あー、同じアパート住まいの人!」
「貴方。貴方。鳥になりたくないのですか」
「あの人銃持ってるよ。みんなも鳥になる前に撃たれたら鳥になれないよ。なりたいでしょ。鳥になろうよ。なれるから」
「そうですか、ハンパな覚悟で死するならば踏みとどまれ人間」

 女人が空いた片腕で暴力を振るおうと金髪の女にもう一丁の銃口が向けようとした時、八本脚の軍馬に跨った人狼は女人の愚行を彼我の距離で見つめていた。赤眼を燃やすベスティアは右手で女人の頬を殴る。床に落ちた銃は両方蹴って、膝をついた会長を横目にベスティアは巣立つ鳥たちを見届けた。しかし現場に居合わせた猟兵たちが猛威を振るってもセキセイさまの姿は尽きず、おまけに味方ではない敵から銃を向けられるとは。
 ベスティアは再び、終末を告げるべく大剣に炎を纏わせて青花を燃やした。此処の空気はあのやさしかった花園と違って、吐き気がする。種を蒔いた邪神は生命を弄んでいる気がしてならないのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

風見・ケイ
――星になろうとした人達
母を染め上げた団体が脳裏に浮かぶ
最期には、儀式と称して仲良く天井にぶら下がった彼ら
……俯いていると、見上げた空に憧れてしまうんだ

いっそ花を吸い込んでしまおうかと思いましたが、『花を喰らい尽くしたら』なんて条件だったら危険です
拳銃で地道に対処していくしかないが……流石に数が多いな
それに、これ以上増やされては厄介です

UC使用
かざした右手から飛び立つ燕達が小鳥達を啄む
喰らい尽くしてしまっても構わないよ
あとは羽根を毟られ地に落ちた小鳥を落ち着いて狙い撃てばいい

この悪夢と孤独の夜が終わるとすれば、確かに死は救済かもしれない
私がそれを確かめられるのはいつになるか、見当もつかないけど



●stars and girl are capricious.
 バタバタと鳥になりたい人間たちは音を立てて去っていく。生贄に選ばれたくせして自命惜しさに使命を放棄し逃げる彼らを臆病者と指をさして笑う者は居るだろう。責め立てる者はもっと居るかもしれない。だが命を大切にする判断ができるのは何よりだ。それでこそ人間らしい。
 生贄たちの手を引く女は、幾つだろう。多分成人している。私より年下なのかと思えてしまう幼げな素振りをしつつも、しっかりとした自我を持つ彼女はしてやったと言いたげに嘲笑していた。花畑に残っているのは風見・ケイ(星屑の夢・f14457)を含む猟兵と地に伏せ頬を抑える女人、木影に手を添え観測する咲間少年。それらを囲む『セキセイさま』。

(鳥になろうとした人達、)

 数の暴力には拳銃で地道に対処していくかないとケイは得物を構えるも、彼女の脳裏には母を染め上げた団体が浮かんでいた。

 ――星になろうとした人達。

 なりたいと、そう考える事すらできない程に自我を保てなくなってしまった人間が複数いた。星に狂ってしまった彼らは、星に縋り救済を求めていた。星になれば変われる。星になれば満たされる。救いのない世界の方が狂っていて、正しさを求めて私たちは星に願いを捧げるのだ。その声掛けに応じるのは星ではなく人である。人語は人間の言葉でしかなく、星が耳を傾けるには理解が足らぬ。交信とは、お互いに理解してはならない一方通行の温床だ。
 母は私を産んでくれた人だった。育ててもくれた。親子だったと思う。でもどうしてか、どうしてだったか。星になろうと、声掛けに応じてしまって。染まってしまって。血が繋がっただけの女を呼称では呼びたくなくなって、でも呼ばないと反応してくれないから返事が来ないから仕方なく。仕方なく。親子だから連れ歩かれて、反抗期を利用して離れ離れになって。でもお母さんだから気になってしまって、なんであっちに行っちゃうんだろうと思ったから理由を探しに後をつけて。
 後悔した。

(いっそ花を吸い込んでしまおうか)

 毒を吸えば星と一つになったあの日を少しでもいいから暈すことはできないだろうか。儀式と称して仲良く天井にぶら下がった彼らの最期には、その中に私はいなかったのに。
 この悪夢と孤独の夜が終わるとすれば、確かに死は救済かもしれない。私がそれを確かめられるのはいつになるか、見当もつかないけど。

(……俯いていると、見上げた空に憧れてしまうんだ)

 ギラギラ光る惑星がまぶしくて、瞼を閉じると星がちかちかと横切った。視界を広げれば周りは夜になってしまっていて、あの青い花のように私は灯を宿していた。
 その花の群れを目目に映すケイは、うつくしい花畑に似つかわしくない金属が、銃の形をして青い花の底に埋もれていることを知る。拾ってみるとそれはオモチャではない質量を持っていることがわかる。先ほど、発砲をした三つ指の女人がよろめきながらも立ち上がる姿をも確認できてしまった。

「鳥になりたいですか。どうすればなれると思っていますか?」

 ケイは『鳥になる会』の会長でもある女に探りを入れる。邪神と崇められるUDC怪物の顕現条件は未だ判明していない。『花を喰らい尽くしたら』なんて条件だったら尚更危険である。

「貴方は、死の境界線をご存じではないのですか。人間はどこから死ぬと思いますか。貴方は宗教をよく知っている。だから私を嫌悪します」
「そうですね。質問に答えず、はぐらかして決めつける貴女には多少なりとも」
「貴方が死んだと認識した人たちは幸せそうだったでしょう。鳥になれましたか?」
「死体がありましたよ。それを鳥と思える貴女は不誠実ですね」
「酒や薬に溺れるよりも、神に責任を押し付けて眠った方が健康的なのに」

 健全な宗教は人の脳みそに教えを植え付けない。
 欲しい情報は得られなかったのでケイは音を出さずに会話を終了させる。セキセイさまが此方目掛けて飛んできていたからだ。女人の横を突っ切り、鎌鼬を起こすセキセイさまの数はじわじわと減っている。つむじ風は花の首を折らなかったが、女人とケイに切り傷を負わせてきた。ケイの肉体を包む衣類は裂けて、隙間からは色白い肌が覗かれる。
 これ以上増やされては厄介だと、ケイが右手をかざすと隕石のような飛来物がセキセイさまたちにぶつかっていく。石をぶつけられた小鳥は地に落ちることも許されずに音を立てて身を小さく小さく砕かれていく。

(……流石に数が多いな)

 その飛来物の正体は、燕だ。ケイの右手から飛び立つ異形の群れは寿命を燃やして飛んでいる。捕食対象である小鳥の命は勿論、ケイの命だって啄んで啄んで、浸食しては削いでいく。独りよがりの愛だ。喰らい尽くしてしまっても構わないよ。あとは羽根を毟られ地に落ちた小鳥を落ち着いて狙い撃てばいい。まんまるとしたお腹に鉛を当てると、あっけなく生は消えてしまう。

(それに、しても。花畑はこんなに広い空間だったか……)

 ケイの足元には青い花が咲いていた。四つの花弁を揺らすそれはケイ自身が移動していなければ寄り添うこともできない、大地に根を張る植物である。

(……私は、一歩も足を動かしていないのに?)

 銃を構える為に足を開いた。射撃訓練場では遠くに現れる的を撃ち続ければいいから、わざわざ乗り出すことはしない。なのに、どうして私は花に囲まれているのだろう。女人も花に囲まれているのだろう。此処は先ほどまでは何もなかったはず。ざわりとした心臓が、花の動きを観察しろと脳髄に命令を要請した。赤と青は小さく見開かれる。風に揺れている花などいない。そもそも風は吹いていない。
 花が揺れている。波のように、引いては戻ってきて。浅瀬に浸かる者に海藻を絡ませてはまた引いて。押し寄せて。
 花は動いている。

成功 🔵​🔵​🔴​

臥待・夏報
当たり前すぎることを言うけど
君たちは飛べる筈でしょう
勝てっこない天敵がここに居るんだから、空の向こうまで逃げればいいのに

……なんて感傷を抱いてみても、鳥神様とやらに情けをかける理由はない
見た目も振る舞いも関係なく、うちの職場のいつもの仕事だ
拳銃で順番に撃ち落とすだけ

死にかけてるときでも花を食べようとするんだな
そんなに甘いものなのかい
あの黒点に蜜があったりするんだろうか――

くだらないことを考えていると、撃ち抜いた鳥の一匹が肩の上に乗ってきて
……攻撃してくる様子もなかった
何のつもりだか知らないけれど、どうせすぐに死ぬ子だろう
貰ったカタバミの残りを啄ませてやる
悪いね
最後の晩餐がこんな雑草みたいな花で



●のしかかる温度の脆さ
 子供は無邪気にツツジの花の蜜を吸う。頭をもぎって余計な部分を取って捨てて、花弁だけになったそれの根を口にくわえて。薄味の甘味を感じ取ったら廃棄する。これは食べ物じゃないから粗末にしても親には怒られない。だが罰には当たるだろう。それが有毒植物なら尚の事。猟兵に狩られながらも花を啄まんとよそ見をする『セキセイさま』は、どうしてそんなに此処に執着するのだろうか。
 花ならビニールハウスにも咲いていた。臥待・夏報(終われない夏休み・f15753)が花を添えた台座にだって置かれていた。森の外にだって自然は群生していているのに。無風に波打つ青花はまるで海のように押し寄せては引いて行く。花畑に入らなかった者だけが見れる現象に、夏報は勘違いであってほしかったなと藍眼を薄くさせた。

(いやー、夏報さん冴えてるな。単に花畑に入りたくなかったから気づけたことなんだけど……ふつうは気味悪がると思うし。それにほら、一般人。居るし)

 大人は子供を守る……じゃない? ふつうは。うん、普通だ。
 ひとりでに頷く夏報は後ろ横に立つ咲間少年の護衛を務めていた。これもまた地味な仕事で、セキセイさまたちが飛んでこない限りは花畑が戦場であることを忘れてしまうくらいに呑気ができる。

「『鳥になる会』の信者たちは、咲間少年と同様にこの景色に見惚れていたんだよね?」
「そうだな。美しいだけの景色だと思えたし、鳥も可愛いだけだと思っていた」
「見比べて、他に気付いたことはあるかな。些細なことでもいいんだ」
「貴方達の振舞以外にだろう? どうだろうか……あの時は。……あれが出てきた時……今の時刻は?」
「二十一時じゅう……あ、十一分になった」
「……当時の記憶が朧げだから、あれが、何だったかはよく分かっていない。でもその怪物とやらは二十時前に居たと思う。一時間ズレている」
「夏報さんたちが乱入したからなあ……っとと、と」

 拳銃を構えて一発、二発。弾丸を発射させてセキセイさまの通り道を邪魔する。急ブレーキをかけた鳥に襲い来るのは味方のユーベルコードで、セキセイさまは群れを散らす間もなく骸の海へとかえされていく。あれが自分だったらと思うと、夏報は迷わずに逃げを選択するだろう。
 ……当たり前すぎることを言うけど。

「君たちは飛べる筈でしょう」

 勝てっこない天敵がここに居るんだから、空の向こうまで逃げればいいのに。五体満足で逃げ果せられるかはわからないけれど、無謀に痛めつけられるよりは遥かにマシなんじゃないのかな。……なんて感情を抱いてみても、夏報が鳥神様とやらに情けをかける理由はない。見た目も振る舞いも関係なく、うちの職場のいつもの仕事だ。
 拳銃で順番に撃ち落とすだけ。ガンシューティングゲームの液晶画面に現れたキャラクターの的へ標準を合わせて、トリガーボタンを人差し指で押す。倒された敵は点滅しながら消えてしまって、それでおしまい。セキセイさまは耐久力が高いのか、はたまた乱数か、弾丸一発じゃあ倒し切れないことがある。そりゃそうだ。慣れた職員には淡々とした鎮圧作業だが、UDC怪物にとっては死活問題だろ。勿論、夏報さんだって。
 にしても、死にかけてるときでも花を食べようとするんだな。そんなに甘いものなのかい、その花。それほど好ましいのかい。

(あの黒点に蜜があったりするんだろうか――)

 だとしたら、その蜜には毒が入っているだろう。ツツジの毒性に気付かぬ子供のように、花を啄むセキセイさまは食べ物を粗末にしないからこそ懸命な様子で命をつついていた。ムクドリじゃあるまいし。なんていえば、セキセイさまは怒ってくちばしを此方に向けるだろうか。
 そんなくだらないことを考えていると、撃ち抜いた鳥の一匹が夏報の肩の上に乗ってきた。弱々しく丸まる怪物は攻撃してくる様子もなく、小さな腹にか細い空気を送り込んでいる。何のつもりだか知らないけれど、どうせすぐに死ぬ子だろう。色白い手の平で背中に触れてみると、生きもの特有の適温が伝わってきた。それが徐々に冷たくなっていくのを夏報は理解してしまう。
 どうしようもなく、今更手を除けるのもと躊躇ってしまって。夏報は日が沈み切る前に貰っていたカタバミの残りを添えてやる。もう片方の指で小さな星をつまんでセキセイさまの口元に近づけてみると、鳥は小さな口を開けて。途切れ途切れに大きく息を吸い込みながら献花を黄色いくちばしで啄んだ。

「悪いね。最後の晩餐がこんな雑草みたいな花で」

 その代わりにはなりそうにないけれど。数はあるから、さ。

「なくなるまで、肩に乗せといてやる」

 夜がもう少し早かったら。お前はもっと遠くへ飛べたのだろうか。その前に致命傷を負わないとカジュアル・ロマンスは発動してくれないけれど、これはたとえばで始まる空想的小話に過ぎず、付き合ってやっていると思っているのは多分。お互いさまで。僕もお前のように終われないから終わらせてくれと、いつか肩にもたれかかる日がくるのだろうか。
 小鳥のさえずりが何処からも聞こえなくなった時、花が咲いた。肩の荷がほどかれた時。青が裂かれた。何かが顕れた。エージェントである夏報は知っている。
 あれが邪神だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『邪神『パトリック』』

POW   :    かわいいはな
戦闘中に食べた【信者】の量と質に応じて【身体の周囲に信者の意識を宿した花が咲き】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD   :    はながきれい
自身の身体部位ひとつを【花】に変異させ、その特性を活かした様々な行動が可能となる。
WIZ   :    さいたさいた
全身を【信者の意識を宿した花】で覆い、自身が敵から受けた【負傷】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠トゥール・ビヨンです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●ヒトが居た場所に金貨を置けば、それを見た者はヒトが金貨に化けたと錯覚するだろう。
 花畑は呼吸をしている。大地に根を張り、地中からエネルギーを吸収するそれは水がなくとも光があれば成長する。自ら発光する植物の最奥にて、UDC怪物は顕れた。
 カエルの指を脚としたそれは青い絨毯に腰掛ける。濃淡入り混じる表皮の斑点は液体のように動いていて、長細い胴や手足を循環していた。顔と思わしき頂点には目と鼻の器官が備わっていて、音を発する口は見当たらない。
 ほろほろと、先の見えない洞窟から花が噴いている。目と呼べる空洞から。丸みを帯びた胴体から。四つの花弁を持ち、浅葱に内から発光するふしぎな青花が無数に浮いて、熟れている。

「haNaイ■セニ■ うミゑひつヴみい ■■そゐう hanア_いり■■」

 花神様に花を添えた者は、複雑な音階を理解できない言葉だと思えるだろう。空耳を潰すも、己が知っている単語と非常に似ている音韻が頭蓋に響いて脳味噌をグツグツ濁らせてきた。

『花が一杯。今日も賑やか。いい天気。花、可愛い』

 邪神『パトリック』。そのUDC怪物は花を好み、花を咲かせるだけしか能を持たないオブリビオンであった。が、『鳥になる会』に花神様として祀られたことにより、周囲に超自然の庇護を与えられる程度には邪神の役割を担えていた。庇護とは花だ。花を咲かせることだ。大地に花を咲かせるだけのパトリックに対し、鳥になる会の信者たちは「鳥になりたい」という思いを込めて花を添えていたものの、パトリックは青い花を咲かせるだけだった。

「はNa_hあNA いり■■ と」

 花と戯れるように、パトリックは棒切れのような腕部で風を撫でた。そよ風が此方にやってくる。猟兵にとっては何ともない、ただのそよ風だ。
 何も無い。
 花の匂いも、風の衝撃も。何より攻撃の意思表示が見られない。それなのに鳥になる会の長である女人は「あ」と声を漏らして。

 消えた。

 誰かの目にある色彩はノイズを起こす。不具合を生じた本能が異物混入を訴える。女人が居たはずのところには何も無い。そこに有るのは花だけだ。瞬きする間もなく、女人は途端に消えたのだ。

「鳥に、なりたいだって?」

 震える唇を手で覆い抑える咲間少年は、脂汗をかきつつも乾いた目を逸らさなかった。閉じる隙もなかった。少年の前には、少年が追い求めた真実がある。私は何に恐怖したのか、私は死に魅入られたのか、私は、私はアレを可愛らしい鳥だと認識していたのか。ああ、答が見えた。理解できてしまった。私はアレがひどくおそろしくてたまらないのにどうしてめをそらせないのだろうどうしてあのひとはきえてしまったんだろうどうしてそこにははながさいているのだろう。

「何が、やがてだ……」

 人が花になる瞬間を見たことがあるだろうか。それを、花と認識するか。その花を、人だったものと捉えるか。手品にはタネがある。花にだって種はある。それらは明かされなければ包まれたままだ。だからって、でも。いくら鳥が花を食べたって。それは鳥になったといえるのか? そもそも、本当に死ん……、……消えた、のかもどう、か。

 死とは。どこからが死なのだろう。

「■ほイねセそ■ち■ ゐほ_■Eち■ みセいし き■そA」

 生贄に捧げられた人間は、本当に鳥になりたかったのだろうか。

「ハな はな_うよ■つき■し と」

 鳥になりたい人は花になった。花は鳥に食べられた。鳥が花を食べたら私たちは鳥になる。鳥になれる。鳥になった。
 だが、女人がなったのは鳥ではなく、

「花じゃないか……」

 やがて私たちは鳥になる。いずれソコには花が咲く。鳥となった私たちを、貴方は再び撃ち落とせますか。撃ち落としますか。貴方は自由であるべきだ。
 うつくしき祝祭の怪物を討つ時は来た。猟兵たる[   ]よ。[   ]ならどうする?
ベスティア・クローヴェル
花畑の正体を知って、思わず顔を顰める
散々踏み荒らしてきたものが元ヒトだったとは思いもしなかった

そのうえ、花となって餌として食べられれば鳥になれるだなんて…
酷い詐欺もあったものだ

花になった人達はただ鳥に捕食されただけで、決して「鳥になった」とは言えないと思う
何を食べても私は私のままだし、鳥は鳥のままであるのと同じように、食べられたモノの意識がそこにないのだから
ただの健全な宗教であれば否定するつもりはないけど、これはUDCによって生まれたもの
だから私は、あなた達が鳥になろうとすることを否定する

それに、花畑の周りにいた信者の人達も離れて行った
であれば、私も全力を出せるというものだ
周りを巻き込まないように調整するのは苦手だもの

ただその場に佇んで、身体が暖まるのを静かに待つ
私が生み出した熱によって焼かれ、灰となっていく彼等から目を逸らさず、この光景を心に焼き付けていく
大空を飛びたかったのなら、この熱風に乗っていくといい
鳥のように自由というわけにはいかないけど、きっと見たかった光景が見られるはずだ



●Silver petal
 ベスティア・クローヴェル(salida del sol・f05323)の長く伸びた白い髪先が小さく揺れる。視界が狭まったのは赤眼に銀糸が無数に降ってきて、瞬きをしようとしたからだ。眉を寄せて暗転を阻止した彼女の顔は、はっきりと顰められていた。ぢりりと鳴ったのは鳥屍か、火種か。赤い氷を燻らせるベスティアは、その場から一歩も動かずに『花神様』と称されたUDCと対峙する。

「『可愛い花、ようこそ。ようこそ。咲いた花は、可愛い。おいでおいで、こっちにこい。こい』」

 邪神『パトリック』の周囲には花が舞う。鳥の足のようなカタチをしたかぎ爪を回し、青い花を招き浮かせて遊んでいるそれは夕刻に花を添えたベスティアが理解できる言葉を発していた。じわりじわりと、少しずつ。静かにベスティアの身体は暖まっていく。

「……散々踏み荒らしてきたものが、元ヒトだったとは。思いもしなかった」

 夜に飛ぶ夏のホタルは、暗い闇を仄かに光らせる。生命が放つ光とは神秘的で美しく、目を惹かれてしまう者が多数居る。絶景を見せてくれる虫を保護しようと、人々は祭りを開催して後世に紡ごうとするのだとか。
 だとしたら、この花畑は何なのだろう。花畑の正体を知ったベスティアは、その花をヒトだったものと捉えていた。知らなかったで済まされることじゃない。けれど、例え先に正体に気付けていたとしても。放っておけるものか。
 パキリ、と何かが割れる音がした。ベスティアの足元からは彩が失われて灰色が徐々に広がっていく。音を出した植物の枝葉には蒼い灯が点いていて、灰に姿を変える花はベスティアから離れて外へと向かって行ってしまった。あぶれた蒼炎はベスティアのつま先に戻ってきて纏わりつく。そしてまた、青青とした大地に熱を焼べようとすり抜けて散っていった。上昇していく影を見やるベスティアは、唯々佇んで待っている。左腕の煉炎が噎せ返る時を、花園の中心にて二つの色に纏われながら。

「……花になった人達はただ鳥に捕食されただけで、決して「鳥になった」とは言えないと思う」

 あの女人の命はUDCが起こした風によって削られてしまった。命の灯を消されたニンゲンは鳥ではなく花となって、そのうえで餌として食べられれば鳥になれるだなんて。……酷い詐欺もあったものだ。

「何を食べても私は私のままだし、鳥は鳥のままであるのと同じように、食べられたモノの意識がそこにないのだから」

 ヒトには信じる何かが必要で、信じたいものを信じている。だから時折騙されて愚かだと言われてしまう。けれど騙す方も騙す方だ。鳥であれ花であれ、邪神の生贄となり殺されることには変わりはない。

「ただの健全な宗教であれば否定するつもりはないけれど。これはUDCによって生まれたもの」

 健全な宗教とは信じる者の為にあって、この邪教はUDCの為にしかならず、花にしか目を向けないあなたの為ではない。命を見ないあなたはなんだ。信じてくれる者を無視するお前はなんなんだ。

「だから私は、あなた達が鳥になろうとすることを否定する」

 命を冒涜するものを否定せよ。空は広くて大きいんだ。UDCの手の内に閉じ込められちゃ、訪れるかもしれない次を夢見ることすら叶わない。命よ囚われることなかれ。使命に縛られることなかれ。己がままに使命を抱いて明日をも生きよ。夜が来ても太陽は歩を止めることはしないのだ。

「『花……花がもえている? きえていく。どうして。ああ、花がへっていく。もったいない。もったいない』」

 ベスティアが言葉を口にすると同時に生まれていた熱風によって、青い花は蒼く染まっては灰色へと変化していった。その異変に気付いたパトリックは「勿体ない」と言ってのける。それなのに、花を庇おうとも守ろうともしない。口だけのパトリックは周囲に侍らせていた植物を爪先でつつき、その花をベスティアの方に向かってふわふわと飛ばしてきた。
 だがそれは直ぐに花という形を失った。ベスティアが生み出した熱によって焼かれた花は、ヒトである。そう彼女は認識している。灰となっていく彼等からベスティアは目を逸らさず、その光景を心に焼き付けていく。彼女が足を付ける大地に蔓延る根まで火が届くように。誰一人とも取りこぼすことがないように炎の温度を上げて。上げて。上げて。計測不可能の摂氏度に悲鳴をあげる者は、此処にはもう居ない。彼女が真っ直ぐに見つめる景色の向こうでは、ピントの合わないUDCの斑点模様が蠢いていた。首をひねらせるパトリックは不思議そうにベスティアを花がこぼれ落ちる伽藍洞から覗き込んでいる。

「『可愛い花はいたみをかんじるのに。可愛そう、可愛そう』」
「……ヒトだって、痛みを感じる」
「『? それは花ではない。可愛くない。おまえは可愛くない花でもない、おまえはうとましい。やかましい、ほえるな。ほえるな』」
「どちらも生きものだ。どちらもが生きている命だ。それを生きていたに変えるあなたを、私は喰らい尽くす」

 花畑の周りにいた信者の人達は離れて行った。それに、現場に居合わせた猟兵等も一度引いてくれている。であれば、私も全力を出せるというものだ。周りを巻き込まないように調整するのは苦手だもの。
 呑み込め。喰らい付け。焼き払って帰ってしまえ。さぁ、お前は何時迄耐えられる。

 彼の地を宿し、我が身を燃やせ。

 ベスティアが足を踏み出すと同時に、花畑に巨人の足跡が付けられた。長くそそり立つ炎柱は轟々と燃え盛り、中ではパトリックがかげろうに揺れてわめいている。青い花を咲かせようにも蒼く燃え、爪で空を引っ掻いても滝のような勢いを持つ火のカーテンは裂かれない。
 その一瞬、波打つ蒼炎に小さな穴ができた。穴を開けたのはベスティア自身で、光輝く左手の煉獄は長槍のように大きく刃を研ぎ澄ませていた。虚空の中に花を閉じ込めるパトリックの眼窩目掛けて、ベスティアは固く握りしめた拳を振りかざす。
 おどろおどろしい穴ぼこに火を焚べろ。体内を動き回る液体にすら火の粉を落として燃やしてしまえ。蒼く照った先には何も無い。何も無いなら火を置いておこう。これから洞窟に入る花たちが踵を返してくれるように、行き止まりを意味する火柱を立てよう。煉獄の園に苦しむパトリックの斑点はぼこぼこと動いている。

「花はあなたのものじゃない。女人の花は女人自身のものだ。その命はあなたのものじゃない」
「『かえして。かえせ』」
「あなたのじゃない」
「『いかないで。かえらないで。愛でさせて。可愛いのに』」
「骸の海に還るのはあなただ。あなただけだ。鳥になりたかった者たちの邪魔をするな。だから、手を縮めてそこで見ていろ」
「『じゃまものだ。じゃまだ。きえてしまえ』」

 炎渦をかき消したいパトリックは自身が可愛いと評価した花花を吹きこぼす。洞窟の入口で詰まっているようだったが、無理くり花を咲かせて増やして量で対抗をしてきた。
 可愛い花と言ったのはあなただろう。可愛そうだと言ったのもあなただろう。消火活動をするパトリックに対し、ベスティアは容赦なく青い花を塗り替えた。「可愛そう、可愛そう」と心にもない言葉を発すパトリックに、生命を想う気持ちは存在しないと断言できる。そんなUDC怪物にくれてやる命はない。奪わせてなるものか。鳥になりたかったヒトたちよ。花になってしまったヒトたちよ。

「大空を飛びたかったのなら、この熱風に乗っていくといい」

 鳥のように自由というわけにはいかないけど、きっと見たかった光景が見られるはずだ。空は広くて大きいけれど、飛んでいるうちにまた会える時が来るのかもしれない。だから恐れずに飛んでいけ。
 少女は夜に飛ぶ灰を見届ける。それはかつてヒトであったが、森を抜けた遠くの向こうまで舞って飛んでいく彼等を。最期まで。ずっと。蒼く揺れる炎が映る赤い瞳に焼き付けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カイム・クローバー
咲間と邪神の間に入るぜ。んで、背中を向けたまま声を掛ける。
…さて、咲間夏一。これが真実だ。鳥だ、花だと色々あるだろう。目の前には化物の園芸屋。……ビビったか?
意地悪く伝えて。けど、彼がビビってると言っても俺は笑わない。それは自然な反応だ。
(振り返って頭に手を乗せる)心配すんな。俺が必ず家に帰してやる。必ず日常に戻してやる。…お前がこれ以上、失う必要なんざねぇよ。

魔剣を顕現。ツカツカと歩いて。
よぉ、園芸屋。まさか無害です、なんて主張しねぇよな?
邪神のUCを待つぜ。喰った信者ってのは…会の長か?だが、一人だけじゃねぇだろう。…消えた人間の花。悪夢のような光景。生贄の末路。
ああ、全部俺が晴らしてやる。
【見切り】で躱してUC。邪神諸共この花畑を【焼却】するぜ。

――そういや。名乗ってなかったな。
(燃える花畑を背に咲間夏一に向き直って)
カイム・クローバー。仕事は便利屋をやってる。
趣味は化物退治。仕事も趣味の延長のようなモンさ。
(記憶消去があるだろうからきっと彼は忘れてしまうだろうが)
改めて宜しくな?



●夜のインバリアブル
「『花あらし。花あらしだ。可愛そうな花、可愛い花。可愛いのにいたいたしい』」

 銀が飛ぶ夜空に鈍く手を伸ばす邪神『パトリック』の表皮は薄汚れていて、ぶくぶくと泡が立っていた。蒼い陽光に照らされた洞窟は肉が腐ってただれているように見えて、其処から湧き出てくる青い花にはべっとりとした何かが付いている。浅葱に光る花の存在をも覆い尽くす粘着物は濃淡が入り混じる、パトリックの身体を生成している液体と同じものであった。うぞうぞと蠢くそれはパトリック自身が可愛いと称する花を熟らして、花というカタチをくずし、いたませ、色落ちた屑へと変えていく。

「……」

 花を荒らしているのはどちらだろうか。降りかかる火の粉を払おうとするUDC怪物は植物に構わず濁流のような花花を生み出しては燃やしていく。可愛いってなんだ、可愛そうってなんだよ。感性の違いに絶句する咲間少年は声には出さなかったが、荒波を黒眼に宿していた。だが、彼の視界は一つに結われた銀髪では隠せぬ蒼い布で遮られる。カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)が少年と邪神の間に入ったからだ。背中を向けたままのカイムに咲間少年は声を掛けようにも、思うようにいかない。振り返らない便利屋は腰に手を当てて、パトリックの支離滅裂さに小さく笑っていた。冷んやりとした紫に射抜かれるパトリックはカイムの存在に気付くも、手足が出せない状態にある。

「……さて、咲間夏一。これが真実だ」
「っ……、……」
「鳥だ、花だと色々あるだろう。目の前には化物の園芸屋。……ビビったか?」
「ビビってないお前をみておちつこうも、うけ入れがたい」

 意地悪く伝えてみるのは、カイムの癖のようなものだ。カイムの背中を刺そうとした咲間少年の声はか細く震えている。それでも両の足で立ち続け、恐怖に打ち勝とうとする意地はあるようで。

「へいぜんとしているお前は、かてるだろう。あれに。かてるだろうさ。園げいやとしょうするお前なら――」
「勝つさ」

 かぶせ気味に受答するカイムは振り返って少年の頭に手を乗せた。手のひらに伝う温度は短く切り揃えられた黒茶色を摩るとより明らかになる。強がろうにも弱ってしまうこの人間は、危険だと分かっていても首を突っ込んでしまう子供で、だからこそ。

「心配すんな。俺が必ず家に帰してやる。必ず日常に戻してやる。……お前がこれ以上、失う必要なんざねぇよ」

 例え、彼がビビってると言ってもカイムは笑わない。だから目を合わせても笑むことはせず、しかし調子は崩さずいつもながらの偽らない気持ちで。

「けど、そう全部を全部受け入れるもんじゃあないぜ。それは自然な反応だ。ところで夕刻に言った言葉を覚えているか?」
「夕こく、……手だすけのことか? 私がやく立てることはまだあるのか」
「ある。何もアンタ一人で戦っている訳じゃねぇんだ。アンタの目の前には怪物が居る。だがその前には俺が居る。そして周りには……実は俺以外にも居るんだぜ、同業者」

 そんなに何人も便利屋が居ちゃあ閑古鳥が鳴くかもだが、猟兵の目的は至ってシンプルにオブリビオンと戦って倒すそれだけ。それなら人手は多い方がいいだろう? 時間は有限なんだ。高校生を夜中にうろつかせる神の出来損ないは、学生の健康を害する立派な怪物だ。

「咲間、アンタはもう真実に辿り着けた。じゃあ次だ。俺はアンタの手助けをしよう」

 魔剣を顕現させたカイムは蒼炎が灯る花畑に足を踏み入れる。ツカツカと歩いた先ではパトリックが焦げ跡を無かったことにしようと新たに青花の大海を作り出していて、四つの花弁をパトリックに揺らされる植物は実に不気味であった。しかし、それは邪神に生み出されたからであって、それさえ無ければカイムも愛でることができたのかもしれない。

「よぉ、園芸屋。まさか無害です、なんて主張しねぇよな?」
「『えんげいや? えんげいや……花かみと、いわれるよりはましかも。ああでも花がない。花がついていない。それはよくない』」
「マシ、ねぇ。俺は花には疎いのもあって花を可愛がることはしないんだが、お前の愛で方が変わっていることくらいは判る。卿を持ち込む割には他人に説く気もないってか?」
「『りょうへい。それは、花じゃない。おまえも花じゃない。それはじゃま。それ花じゃない。可愛くない可愛くないきえてしまえ』」
「とんだ悪習だな。所業を背負わされても尚その態度じゃあ信者に見放されるのも時間の問題だったじゃねぇの? その時間が今な訳だが、花を慈しむなら花の声を聞いたらどうだ」
「『花はなでるもの。ふれてふれてのびていく。つよく愛でて可愛い花は可愛そうになる、可愛そうはのびしろ。よくそだつ花は可愛く咲いた』」
「植物育てる知識があってのソレかよ。笑えるな」
「『りょうへいはほえるだけで花は咲かせない。あっちいけ』」

 パトリックの体たらくに呆れるカイムは、邪神の口撃を受け流す。花神様に花を添えたおかげで言葉は理解できるものの、面白くないトークに耳を傾けるほど悠長な事はしていられない。花畑に座するパトリックは、しっしっと手で追い払うかのような動作をカイムに向ける。僅かな風圧に乗った青花がカイムに降りかかろうとするも、浅葱の光は黒銀の炎に包まれ燃やされる。片手に魔剣を構えたカイムは挑発するかのように足元を一閃。途端、斬撃によって跳ねた花はぶわりと炙れて消滅した。
 炎炎を仕舞わずに燃ゆるカイムの姿に、パトリックは指を差す。指を差したまま花を押し付ける。

「『花がひめいをあげている。いたいいたい、可愛そう。可愛そう、可愛くて可愛くて。もったいない。こんなに咲いているのにもったいない』」

 それは非難とも取れる言葉であった。UDC怪物でも非難できる口と脳はあるのかと一瞬感心できるが捨て置いておく。花には殺傷能力が存在しない。替わりに、信者の意識を宿していた。鳥になりたかったがなりたい鳥は答えられなかった者たちの意識が宿っていた。

「喰った信者ってのは……会の長か? だが、一人だけじゃねぇだろう」

 ……消えた人間の花。悪夢のような光景。生贄の末路。生贄になることを拒まなかった誰かが、今まで沢山居たとして。死に意欲的であっても邪神に殺されてしまった現実は変わりはしない。仮に人魂が花に宿っていたとして、此処に留まられるわけにはいかねぇだろ。
 恨んでくれたっていいさ。それで晴れてくれるなら幾らだって買ってやるぜその花束。

 ああ、全部俺が晴らしてやる。

 陽が昇れば陽は沈む。日没に輝く黄昏は神を滅ぼす明かりである。花吹雪を焼けばパトリックのかぎ爪がのっそりと伸びてきた。近くで見るとゲル状の肌をしている。皮の中まで火傷を負っている細枝に骨は入っていないようだが、関節部分は脆さが見て取れる。十分に引き付けてパトリックのじゃれつきを躱したカイムは、着地点を軸に輝く魔剣の力を鋭く尖らせ、そこから殴りつけるように無慈悲なる衝撃をパトリックに撃ち込んだ。
 UDC怪物の腕部が飛ぶ。切り口からは黒銀の炎が侵略して怪物の体内を駆け巡る。粘つきのあるゲル状の液体が吹きこぼれても、慈悲無き炎は液体が花に落ちることを許さない。苦しむ姿を見せるパトリックにもう一度カイムは魔剣を振るった。丸みを帯びた腹部が裂かれて、邪神は花畑諸共焼却されていく。「かなしい」とわめく邪神に人の心など有りはしない。故に、そのかなしみは理解できても同意してはならない邪悪な怪物の意味無き模倣である。
 黒銀に埋め尽くされ、染まり燃ゆる花畑を背に、カイムは後方の少年に向き直った。

「――そういや。名乗ってなかったな」

 彼は他人を受け入れすぎる節があるから、自分の名を知っているワケは俺が便利屋だから。で片付けた事だろう。便利屋だから怪物と戦えて、他に色々知っていても俺だからで済ましてくれる。

「カイム・クローバー。仕事は便利屋をやってる。趣味は化物退治。仕事も趣味の延長のようなモンさ」

 UDCには記憶消去があるだろうから、きっと彼は忘れてしまうだろう。だが、無謀で危険で浅はかなだと言われるような行動であれど。真実に向かおうとした意志は間違いなく立派なものだと言えないだろうか。

「さっきに言ってた、アンタにして貰いたいことは……というよりは、お願いかもな」
「ねがい、か?」
「ああ。死なないで欲しい」

 突き詰めてしまえば、死のうとする人間に対して言える言葉はコレしかない。

「……少なくとも、今だけは、今だけはそのたのみにうなづける」
「正直なところ、今だけでは足りねぇが、今はそれでいい」

 改めて宜しくな? 子供を家に帰すまでが、大人の仕事だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

風見・ケイ
神に責任を押しつけるのも
己で責任を抱え込むのも
みんな、おんなじだ
見えないように、目をそらしているだけ
……そんなこと、ほんとうはわかっているよ

眠れぬ夜の鼓動
花でも鳥でも、ましてや星でもない私に、神の相手は荷が重いから
花神に咲いた花を吸い込んで強化と再生を封じる
信じる者が離れた今、貴方はもう神ではない
こうなれば鉛玉でも十分なはずです
花の代わりに捧げましょう

穴の先がどうなっているのか、確かめたことはないけど
宇宙《そら》のようであるならば、鳥《よだか》はいずれ星となってしまうから
花が鳥に、鳥が星になる前に、本物の空へと吐き出す
宙を舞う花は、鳥のように見えるだろうか

はぁ……今夜は酒も煙草も多くなりそうだ



●むげんのなかのひとつ
「クミひじ_クミひじ hあならほぞし■たつきいこし■たつん■くし■たつ■し■■し■く■ ゆマゑの■_わひをしすにハナつちEち■ちち■ふイち■ いり■かゑぞはち■ くゐぞくひを」

 邪神『パトリック』が、何かを叫んでいる。腹や腕から粘ついた体液をぼたぼたと吹きこぼし、うずくまろうとする怪物の洞窟からは青い花は咲いていない。どうしてあのUDC怪物は花に執着するのだろう。夕刻に花を添えていれば風見・ケイ(星屑の夢・f14457)にもパトリックの言葉は理解できたかもしれない。今だってあの怪物に花を添えても遅くはないのかもしれない。だが、好奇心旺盛な人間を釣るには都合の良すぎるコミュニケーションだ。見せかけの意思表示に耳を傾けても、他人を見ようとしない自分だけのパトリックはこれまで多くの一般人を殺してきた、紛れのないオブリビオンである。
 そのオブリビオンに殺された人間は言っていた。人間はどこから死ぬとか、死んだ人間は幸せだとか。神に責任を押しつける方が健康的だ、なんて。そんなのがやけに頭に残っている。
 一番どうでもいいと思えるような外野から噛み付かれた時。言葉は思っていたよりも抜け落ちてくれなくて、構えた腕に噛み跡が残ったのではなく腕そのものを持っていかれたという気分になる。本当に噛まれたわけではないけれど、腕だって付いてるのに。気にしてしまうのは。先ほどまでは生きていた女人が、目の前から消えてしまったからだろうか。

(みんな、おんなじだ)

 神に責任を押しつけるのも。己で責任を抱え込むのも。

(見えないように、目をそらしているだけ)

 だって。そんなの。……。

(そんなこと、ほんとうはわかっているよ)

 わかっていたけど、ズキッてするから。だから言わないで欲しい。痛いところは突かれると痛いんだ。自覚しているからこそ指摘されるのは、いやになる。
 身体のどこかに潜んでいる正体不明の痛みを探していると、パトリックの奇怪な行動がケイの双目に留まった。邪神は花畑を土ごと抉って、身体に取り込もうとしている。それが自身が可愛いと称した花畑の破壊を助長している行動だとしても、何かを誰かを模倣するだけのパトリックは気づかない。

「き■し き■し_ハNaイき■そ■A わ■ぞ わ■ぞまほぞし■いE_■いち■ぞあセすつあ■」
「はぁ……」

 自然とため息が出た。深くて重くてどうしようもない、味気ないタールのようなコレは無臭だから無意味に思える。目の前の青い花は、吸えば甘い味がするのだろうか。パトリックが座する周囲の植物は生きる力を吸われて萎れて、枯れることも叶わず喰われて死んでいく。……息を吸い込むと、再びため息が出て行った。

(……今夜は酒も煙草も多くなりそうだ)

 花でも鳥でも、ましてや星でもない私に、神の相手は荷が重いから。

「信じる者が離れた今、貴方はもう神ではない」

 眠れぬ夜の鼓動が産声を上げた。紫に染まる視界が遠くなるものの、心臓が激痛を主張するから引き戻されて眠れない。不規則的に警告を発する臓器は意識を薄くさせるものの、夜が終わることを認めてくれない。まだまだ始まったばかりだと、心臓から全身へと伸びる管が夜を駆け巡って空気を送り込んできた。
 ケイの右腕に群がる花には、信者の意識が宿っている。パトリックから引きはがした植物たちは青色とはいえない彩をしていたから、ゲル状の液体だけを吐き出してやってパトリックの元へと返してやる。花を奪われたパトリックは怒っているようにも見えたし、泣いているようにも見えたけれど、

「誰も花神の再生を望んでいません。誰も、貴方の復活を望んでいません」

 だから封じる。だから打ち消す。学習せずに繰り返し花を身体に咲かせるパトリックから青色を取って吸い込んで、咲いた花を吸い込んで、繰り返して。邪神の能力を封じ込める。
 途中、胸部の激痛に立ち眩みが起きた。汗ばむ眉間に皺を寄せ、下唇を噛んで凌ぐ。荒み始めた息はまだ続く。それに私より怪物の方がよっぽど苦しそうだ。開いた傷の止血を邪魔され、そのままに動けばUDC怪物だって眩暈を起こすものなのかもしれない。
 こうなれば鉛玉でも十分なはずです。

「花の代わりに捧げましょう」

 両の手で拳銃を構えたケイは、視界に群がろうと舞う上がる花弁に惑わされることなくトリガーを引いた。銃弾の軌道に纏わりつこうとした植物は貫かれて二つに裂けた。回転の止まない鉛玉に続けてケイはもう一発、二発と続けて撃ち込む。舞い続ける花弁はこれからのショッキングな映像を防ごうとでもいうのか。瞳を紫に輝かせるケイは、真っ直ぐに飛び続けた銃弾がパトリックの裂けた腹に着弾して、そのままめり込む姿を視認した。おどろおどろしい音をあげる邪神は鉛玉に苦しんでいる。息をつく暇もなくケイは銃声を響かせる。休む必要も、休ませる必要もないからだ。
 懲りずに花を咲かせようものならば吸い込もう。右拳上に存在する小さな空洞に集まろうとする花の中には、パトリックの洞穴を潜ってきた者も居るのかもしれない。

「っけ、ふ」

 痛みに思わずむせたケイは、喉を鳴らす程度の浅い咳を少しだけ行う。その時、先ほどに受けてしまった右手の切り傷に目が入ってしまった。
 もう血は出ていない。けれど、虚は在る。……この穴の先がどうなっているのか、確かめたことはないけど。

「宇宙《そら》のようであるならば、鳥《よだか》はいずれ星となってしまうから」

 花が鳥に、鳥が星になる前に、本物の空へと吐き出そう。
 右手を夜空にかざしたケイは、掌を広げて指をふわりと持ち上げた。すると花弁たちは僅かな風に乗って空へと飛んでいく。宙を舞う花は、群れで羽ばたく鳥のように見えるだろうか。

(だから、誰かが見届ける必要があったのか)

 誰かが一人が鳥と言えば、それは鳥であり、鳥でないとはいえなくなる。あらゆる仮説が認められる限り、無いを証明することは困難なのだ。
 意識の遠くでUDC怪物がノイズを叫んでいる。神殺しに重荷を感じても、これは神を騙るオブリビオンだ。追加の鉛玉が欲しいなら、あげるよ。幾らでも。弾が尽きても、痛みを感じている間は。ずっと。
 花神とやらを撃ち続けよう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

臥待・夏報
向精神薬の錠剤を口に注いで噛み砕く
破片を頬袋にためると、粘膜から吸収されて、消化管に入れるより即効性を得ることができる
なあ、咲間少年
これは健康な人間が飲んだら昏睡して死ぬ量だ
長年使い続けると、耐性がついて段々効かなくなるのさ
……ここから先はそういう世界だ

進んで死ねとは言わないし、引き返して生きろとも言わない
けれど覚えておいてくれ
どちらも選べなかった人間は、永遠に呪われるんだってこと

花神様
君を殺すのはあくまでお仕事
この花畑が綺麗なことを否定するつもりはないよ
それでもひとつ教えてほしい
花が鳥になれないのなら
――花をついばむ鳥のこと、君はどう思っていたんだい
愛してたのか
憎んでたのか
それとも……どうでもよかったのか

【愛も恋も未だ見ぬ星】
臥待夏報という人間の輪郭は溶け崩れ
飛べやしない、綺麗でもない、曖昧な化物がそこにいる
呪詛の炎で花を灼き、その場のものを何でも拾って、殴打という単純な暴力を振るう
そのうち……『誰か』は……そこの少年を巻き込むだろうな
それまでに君がどうするか
僕の知るところじゃないけど



●Jupiter in retrograde is on a journey to find that fire again by returning to the past.
「『キレイな花がこわれていく。キレイな花がとんでいく。かわいそうに。すべてをすくうことはできないのに、はなれてしまっていたぃた、いたいあいたいまたいたいいたいつかい――』」

 小鳥は死の恐怖を感じただろうか。日本語らしき言葉を雑ぜて音を狂する邪神『パトリック』は身体中から濃淡を吐き出して噴き零しては、花を求めて夜を裂く。切り取れない空間に星は居らず、かわりに青が飛んで飛んで。飛んでいく。
 向精神薬の錠剤を口に注いで噛み砕く臥待・夏報(終われない夏休み・f15753)は、咲間夏一に小さなガラス瓶の無地ラベルを向けて見せる。保存のよく効く茶色の空間の中で踊る粒を鳴らして、青ざめつつも真っ直ぐで在り続ける黒眼に藍眼は問うた。

「なあ、咲間少年。向精神薬を服用したことはあるだろうか?」

 例えば、精神を刺激するもの。いわゆる麻薬のような依存性や致死性の高い危険な化学物質が大半を占めるドラッグの中では、カフェインが多く含まれる缶コーヒーがUDCアースの法に従う男子高校生にとって最も身近な存在だといえよう。彼が順調に年を重ねれば、抑制剤の入った酒類を口にすることができるかもしれない。今後、消されるであろう記憶を自らの手で掘り起こそうとしなれけば、少年はサイケデリックを追体験することもないはずだ。

「これは健康な人間が飲んだら昏睡して死ぬ量だ」

 だから。未だ死にたいと思うならばこれくらいしないと楽にはなれない。
 『鳥になる会』の信者たちは大半が楽になりたがっていたらしいが、楽になる前の苦は誰にだって設けてある。死の前にも生の前にも苦楽は当然のように共に居て、どちらもが生命の隣に携わって花の蜜を持っている。薄味を濃く味わうには一気に吸い尽くさないといけないのか、とうの昔に味も忘れた錠剤の破片を頬袋にためる夏報に対して咲間少年は遅い答えと共にボールを転がした。

「コーヒーもあんまり。のまない方だから、ないと思う。……そんなにのまないときかないのか」
「若々しいね。長年使い続けると、耐性がついて段々効かなくなるのさ」
「子どもじたなだけだ。コーヒーよりココアの方があまくておいしいから。私は。にがいよりあまい方がいい」

 ああ、それは、分からなくもないかなあ。味のしないよくわからない名前をしたフレンチを食べるよりはマズいと舌を出せる材料の判った雑飯の方がよっぽどいい……いや、マシの方が適切だな。一番いいのは、己の身に慣れ親しんだ食事であろうから。
 口の粘膜から吸収されていくキャッチボールに使えやしない内服薬は、身体の中に入れることによって体内で邪気を防いでくれる。歯牙で噛めば噛むほど消化管に入れるより即効性を得ることができる。網膜フィルタの引っかかりを緩和するコレは食事だろうか。それとも食前の服薬だろうか。生贄だったらどんな注文でも従って、恐怖に歪まずその身を神に捧げていた。猟兵じゃなかったら風に当たって花になって、悪運強ければ邪悪の戯れに付き合わされる。どっちもがごめんだ。鳥になる話はどこにいったんだ?

「君に進んで死ねとは言わないし、引き返して生きろとも言わない。けれど覚えておいてくれ」

 君の為に君の記憶を消される君は今日の事を、今日に関わる過去の記憶をも消されてしまって忘れてしまって思い出せなくて、覚えることすら叶わなくても。今だけは耳を貸してくれないか。ほんの少し長く、時計の針をくるくる早めてしまった人間のチを。

「どちらも選べなかった人間は、永遠に呪われるんだってこと」

 臥待夏報という装飾物の言葉を、君という咲間夏一はどう咀嚼するのだろうね。

「……ここから先はそういう世界だ」

 そうだろ、身体中に花を生やす病ましい病ましい花神様。蔦も茎も創らずに花弁だけを纏うだなんて……さっきの鳥みたいだな。全部じゃなくて一部分しか変えられない姿勢は慎ましいともいえるのかなあ。

「花神様」
「『いたいいたい。きらい、りょうへいは花をあらすから可愛くないからいたいだいきらい。しんでしまえいなくなってしまえ』」
「君を殺すのはあくまでお仕事。この花畑が綺麗なことを否定するつもりはないよ」
「『いたい。かえして。可愛い花をもどしてよこせ。とんでいく花は可愛そう、おいで』」
「それでもひとつ教えてほしい。花が鳥になれないのなら」

 ――花をついばむ鳥のこと、君はどう思っていたんだい。

 質問をした女の声が青闇に吸われたと同時に、回答する者であるUDC怪物の前には。花畑には。誰でもない誰かが黒海の上に立っていた。そのヒトだったかもしれない臥待夏報という人間の輪郭は溶け崩れ、本来の肉体が花広がる宇宙を覗いている。可笑しいな、星が降らない空だなんて宇宙じゃあない。真っ暗闇は濁り汚れていて穢くて燃やさないと塵は焼け野原に流れてこない。
 そこにいる怪物は実に曖昧な姿かたちを取っていた。生きもののように飛べやしない、死骸のように綺麗でもない、誰かを宛がわれた他者という視点から精製されてはじめて視えるモザイクアート。色情報が並べ替えられた誰かの足元にはL字型に曲がった短い金属鈍器が落ちていた。誰かとは、女人である。消えた女人が居たその場にまた別の誰かが何かを拾ってものにする。別の誰かとは女人ではあったが女人ではない、『誰でもない誰か』であり揺れるかげろうは川じゃなくて皮でもなくてすれ違う衛星は惑星は神様じゃない。
 そうだ、神様。
 記憶の組み合わせは呪詛の炎で花を灼く。愛してたのか? 全長百五十四センチのダミーは油でフォトグラフを光らせる。憎んでたのか? ダンマリのパトリックよ。邪神なんだろ花神様なんだろ、なあ。神を名乗っているUDC怪物、理解できる言葉をしゃべるならば音を上げて教えてくれよ。愛も恋も未だ見ぬ星ははやくしないと気が鬱ぐとお前と死に至らしめるまたいつかがやってくるかもしれないんだ。そうだろ? それとも、

「……どうでもよかったのか?」

 拳銃を手に持った怪物は、銃弾を放たずにパトリックを攻撃した。殴打という単純な暴力を、鳴かぬ恐怖の象徴に乗せて振るう。

「『やめろ。やめて、とりなんていないのに』」

 鳥なんて居ないのに。

「『なにもないたい。なにも、ない。花、花可愛い。花もなかった、なにもいないから花がさいた、花はたくさんいっぱいなのにどうしていない』」

 はっきり喋れよ。

「『よくないよくないたいいたいいたよくないいたいいたよくいたいなた――』」
「どうでもいいならどうでもいいって言えよ」

 『誰か』は鼻かもくちばしかもわからないパトリックの突起物を撲つ。顔面に付いているパーツを鈍器の角で削って削いで、花が咲いていたら撲りつけて捻り潰す。空いた穴に呪いを落とし、炙れた体液は片手で抉って蹴り飛ばす。広がるのは粘ついたゲルではなく灯油のにおいだ。燃えてしまえば皆がみんな生贄で、なのに誰かが燃えなくて何かだけは燃えてくれない。そういえば、そこの少年。どうして燃えていないんだ? 巻き込んじゃ駄目だろ。選択肢を僕が奪うのは……違う。そうだっけ、全部忘れてしまうのに?

「『すべてをすくうことはできない。すべてをすくうことはできない。すべてをすくうことはできない。すべてをすくうことはできない』」

 いかれた無線機は青い花にと変異していく。喉元を潰せば満足のいく答えが得られるだろうか。それともそれが答なのか。そうか、内臓を焼けば真実は見えてくるに違いない。

「……、便利屋さん」

 べんりやさん。
 無線機でも誰でもない、強張ってる低い声は。少年と青年の合間に居る人間から発せられた声で。……名乗ってなかったしな、『夏報さん』。そりゃあ、何て呼ぶか迷うよね。彼に構わず、僕はブヨブヨとした革生地に拳銃を振るう。

「便利屋、さん」

 一瞬だでも反応してしまったからか、続けて名指された。彼が呼んでいるのは『夏報さん』であって、僕ではあるけれども。錯視を受け入れる君の勘違いを訂正する為には、臥待夏報に戻らなければ。そのうち……『誰か』は……そこの少年に悪影響を及ぼすだろうな。
 それまでに『君』がどうするのか。僕の知るところじゃないけど。
 夏報さんは、年下相手にお姉さんヅラするのが趣味だから。

「『すべてをすくうことはできないのに』」
「君はもう黙ってていいよ」

 拳銃を握りなおし、両手で構えた夏報はトリガーを指で引いた。拳銃は打撃にも使えるけれど、本来は火薬玉を素早く弾いて遠くに打ち飛ばす道具だ。それを至近距離で撃てば神様は死ぬ。否、オブリビオンは骸の海に還るだけだ。

「君に咲く花をついばめば、花以外を認識しない君に鳥の存在を、その空っぽの器に入れることができたのかな」

 焼かれた臓も無い、詰まった花も無い。液体を抜かれたパトリックは空気を抜かれた浮き輪のようにしぼんで、平らになって。『誰でもない誰か』が置きっぱなしにした火に掛かって、灼けた。

●"You must value human connection. Isolated people are, in the eyes of the Grim Reaper, the least virtuous spirits he judges."

 『鳥になる会』はUDC組織の協力もあって完全に解体された。邪神がもたらしていた超自然の庇護は「植物の成長を活性化させる」たったそれだけで、信者たちに直接的な恩恵は一切与えられていなかったという。集会場であった山中の異様な生態系は、時が経つにつれて元通りになると判断された為に除草作業は行われなかった。それでも、その集落への立入は規制され、住んでいた村人は慣れない新生活を強いられることだろう。
 さて、今事件に関わった一般人の記憶を改竄するのはUDCエージェントの仕事の一つである。特に邪神が出現したあの日、儀式に参加していた者は血眼になってでも特定しなければ仕事が終わらず家に帰れず、寝ることも叶わない故に他部署へと泣きつき縋る、船漕ぎ職員が結構居た。目下に太い黒を塗った男性職員に土下座された『地味な仕事』を専門にする女性職員は、うわあと引きつつも断れずに仕事を受け持ってしまったが、その分はちゃん給料に加算されるし。美味しいお酒を個人的にタダで送ってくれるのなら、まあ。いいかなって。

(そういえば。あの少年たちって学生だったよな……)

 どんな学校に行ってるとか、今何年生だとか、深く知ろうとは思わないけれど。学生は学生らしく、呪いなんて言葉がふざけ半分で扱われるふつうを過ごしているといいな……なんて。
 そう思うくらいは。自由だろ。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年10月04日


挿絵イラスト