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炎と水の相克

#アックス&ウィザーズ

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#アックス&ウィザーズ


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 なだらかな丘が連なる草原をぬって、街道が伸びている。長年の間、行き来する者達に踏みしめられた道は、しっかりと固く、大荷物を運ぶ隊商も楽々通ってゆけるはずだ。
 この道の先には、知る人ぞ知る、ある村がある。小さな村なのだが、そこに伝わる製薬技術は、名うての薬師や、魔術師たちのそれと比しても遜色なく、しかも値ははるかに安いときている。
 だから、薬を求め、幾組もの隊商がこの道を行く。今もそんな一団が、村への道を急いでいる所だった。
「この辺りは、なんか不思議な土地だよな」
 隊商に付き従う護衛の戦士が、心底不思議そうな風情で隊商の商人に言った。その手の問いに慣れている様子で、そうですね、と商人は返す。
「前の街からここまでの間で、森に岩山、沼地に砂地と景色が変わりすぎますからね……この辺りは精霊の力が強いからだそうです。前に同行した魔法使いがそう言っていましたよ」
 戦士は商人の説明にあっさり納得し、それ以上追及はしなかった。精霊や魔法、よく分からないものは大体そんなものの仕業だ。
 村に近付くにつれ、地形は穏やかに変化してゆき、見晴らしのいい草原が広がっている。山賊の類が待ち伏せるには、いかにも不向きだ。だから、戦士を始め隊商の皆は少し油断していた。
 音もなく接近するもの達の存在に気づいたのが遅れたのは、そのためだ。
「なんだこいつらは……! こんなん居るなんて聞いてねえよ!」
 逆巻く炎に必死に応戦する戦士へ、商人たちは応えない。群がる炎に翻弄され、その余裕がないのだ。
 遂に荷を諦め、皆、逃げようとするが、空を蹴り、泳ぎ回る炎は素早く回り込み、退路を塞ぐ。
 どうして……。
 誰かの最期の言葉が、炎の中に消えていった。


 グリモアベース内では、猟兵が慌ただしく行き来している。銀河帝国との戦いも始まった折でもあり、人の入れ替わりは目まぐるしい。
 そんな中、人の流れがぽっかりと途切れた一角で、ルフトフェール・ルミナ(空を駆ける風・f08308)が猟兵達を募っていた。
「アックス&ウィザーズで、精霊が暴走しているんだ。誰か、力を貸してくれない?」
 話に興味を持った猟兵に、ルフトフェールは事件の背景をを語り始める。
「事件が起こる土地は、様々な精霊が宿る地で、今までは各精霊の力が均衡してたみたいなんだ。けれど、何かの拍子でその均衡が崩れてね。水の精霊の力が強くなってしまったんだよ」
 水の精霊を討伐すれば良いのか、と納得しかけた猟兵へ向けて、ルフトフェールは慌てて言い足した。
「ごめんごめん、実は水の精霊に棲家を追いやられた炎の精霊達が、街道まで迷い出て、人を襲うのを予知してね、まずはそちらを倒さなければならないんだ」
 ルフトフェールは羊皮紙製の古びた地図を見せた。草原の中にぽつんとある村へと伸びる街道の一点を指す。
「ここで、村と取引する隊商が炎の精霊達に襲われるんだ。精霊達を全て倒せばいいけれど、出来れば隊商の人達と荷物も守ってくれないかな。猟兵が攻撃すれば、精霊たちの注意は隊商から離れるはずだよ」
 大体の説明を終え、ルフトフェールはアックス&ウィザーズへの道を開く準備を始めた。
「炎の精霊の次は水の精霊との戦いになると思う。その後は……村の手伝いをお願いしたいんだ。村は、薬の調合で有名なんだけど、材料の採取も大変で、色々大変そうなんだ。皆なら、採取や新薬開発で、村を助けられると思うし、そしたら隊商の人もいい商売できて皆にっこりできるよね。皆に任せてばっかりで悪いけど、よろしくね」


譲葉慧
 初めまして。譲葉慧と申します。
 オープニングをご覧いただき、ありがとうございます。運営はゆっくりの予定で、完結もいつになるかわかりませんが、ご都合のよい時にお付き合いいただけますと幸いです。
 このシナリオは、
 ●第一章 炎の精霊達戦(集団戦)
 ●第二章 水の大蛇戦(ボス戦)
 ●第三章 薬を作ってみよう!(日常) ※一応採取や調合がメインです。
 のフラグメントで構成されております。
 まずは、炎の精霊達との戦いです。場所は見通しの良い街道上、隊商が村を目指しています。猟兵が転送されるのは、まさに隊商が襲われる一瞬前となります。

 それでは、よろしくお願いいたします。
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第1章 集団戦 『炎の精霊』

POW   :    炎の身体
【燃え盛る身体】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【に炎の傷跡が刻まれ】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
SPD   :    空駆け
空中をレベル回まで蹴ってジャンプできる。
WIZ   :    火喰い
予め【炎や高熱を吸収する】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

セツナ・クラルス
炎の精霊たちは悪さをしてやろうと思った訳ではなく
途方にくれているところに
隊商と出くわしてしまったということかな
ううむ、タイミングが悪すぎた為の事故に近いのだろうが
害を為すならこらしめないといけないね

別人格を呼び出して交戦
おいで、ゼロ
共に歩もう

ゼロの一人称はオレ
セツナよりも目付きや口が悪い

ゼロとの息もつかせぬコンビネーションで敵を撹乱
攻撃のテンポを崩しながらカウンターを狙う
暫くは水など見たくもないかもしれないが
悪いね、弱点を突くのは基本なのでね
大鎌に氷の力を宿らせて一閃
周囲の空気ごと冷やして動きを阻害し、
弱ってきたら全力魔法で一気にかたをつけよう

戦闘が終わったら隊商の具合を見る
必要なら回復しよう


狐宮・リン
炎の精霊……、大蛇……、一度見た敵ではありますがみんなも居ませんし、同じ手で倒せるとも……

それより人命をなんとしても守らなければ……!
【WIZ】
残像1、属性攻撃1、武器受け1、優しさ1、オーラ防御1

霊刀【白狐】は氷の属性を纏います。

ユーベルコード【狐の宿別館】を使用して宿内に隊商を人命優先で避難させ、余裕があれば荷物類も宿内に回収します。

残像でのフェイント攻撃を混ぜつつ属性攻撃をしかけます。

他の猟兵がいるのならそちらと攻撃を合わせましょう、私はあくまでも人命最優先で行動して他の猟兵がおもいっきり暴れられるようにします!


レーヴ・オディット
ボクはまずユーベルコードで炎の精霊を攻撃するよ。狙えるなら商隊に一番近い相手にね。ボクの今の装備じゃちょっと距離があるだけで直ぐ攻撃には移れなさそうだし。

上手く注意を惹けたら左手のバスタードソードを技能の武器受けで盾代わりに使いつつ、右のメイスで気絶攻撃して動ける相手を減らしていくね。まぁ相手の攻撃を躱せれば一番いいんだけど。


フィディエル・ジスカール
そんな、炎の精霊の襲撃など……!
戦う力の弱い者など、ひとたまりもないに違いありません!
すぐさま向かいましょう、これも授かりし者の使命です
ええ、人々だけでなく積荷も保護すれば良いのですね?
かしこまりました。私の力を尽くします

しかし、燃え盛る炎というものは実に厄介です……
私の光の矢で、彼奴らを討伐できればよいのですが
炎の精霊……安易に近づけばすぐさまに火に巻かれてしまいそうです
私の六枚ある翼で、空中から一定の距離を取りつつ攻撃を仕掛けます
私はまだまだ未熟……至近からの攻めは蛮勇というものでしょう
もし可能ならば、どなたか他の戦士とともに戦いたいものです


シャオ・フィルナート
炎、ね…
それなら、俺の力とは
相性最悪かもね…

★氷麗ノ剣を構え
商人達を護るように水を放出
更にUCと連携し
水の竜巻を発生させ炎の精霊達に向かわせた後凍結させる【属性攻撃】
その間に商人達をより護りやすい位置に

本当は、接近戦の方が好きなんだけど…
護らなきゃ、いけないし…

空気中の水分を凝縮させることで背中に★氷の翼を作り出し
そこから羽根を模した無数の弾丸を【一斉発射】する事で
直撃した敵の一掃狙い

あぁ、そうそう…
商人のおじさん達がもし逃げずに残るなら
死角の確認くらいは、よろしくね

まぁ、合図無くても気付けるけど
声をあげてくれるなら確実だから
武器から状況に応じて氷や水の壁を放ち
遠距離でも護り抜くよ


玖篠・迅
薬の調合って事は、傷薬もきっとあるよな?
すぐに覚えられるものじゃないだろうけど、村に着いたら調合とか薬草の見分け方教えてもらいたいなあ

それじゃまずは隊商の人たちの護衛だ
最初は炎の精霊相手だし、式符・天水の蛟で炎の勢い抑えていくな
精霊の注意が完全に猟兵に向くまでは、蛟たちには隊商の人と荷の護衛と火の気がよらないように周囲を水気で満たすのを頼んどく
だいたい注意が猟兵に向いたら、数体は念のための護衛で他は精霊との戦闘に参加頼むな
力たりないって感じたら合体して対抗だ

俺は「属性攻撃」で武器に水の力を付与して対応な
霊符投げて牽制したり、近づかれたら朱夏で「武器受け」して隊商に向かわせないように注意する


グリツィーニエ・オプファー
おやおや、流石は炎を司る精霊
中々に猛々しい姿と気性をさせておられる様子
…これでも毛並みの手入れは欠かさぬ故
燃やされては些か困りますでしょうか

己の持つ鳥籠より蝶を解放
【母たる神の擒】にて、精霊達の動きを封じる事に致しましょう
一時的とはいえ、猟兵方への支援に繋がると思います故
火喰いの一撃に関しても、死角を取られなければ回避も容易になる筈
共に戦う猟兵殿の死角を補うよう行動すると共に
炎の動きや気温に変化が見られた際は警告を致します

…おやおやハンス、如何致しました
その様に大声を上げては周囲の迷惑に――おや?
そうで御座いました
猟兵が敵と認識されるならば、私が狙われる事も自明の理
確り回避か武器受けを致します


アザレス・グレイスノヴァ
ふむ、炎の精霊か、属性バランスが崩れ、追いやられた憐れな存在ではあるが、人々に仇なすならば倒さねばならないか…。兎に角まずは切り払う、周りの猟兵達とも連携して行こう、別に一人で戦うことにメリットがあるわけでもないしな。
【トリニティ・エンハンス】発動。守って見せる、私の誇りにかけて。




 草原を吹き渡る風が、丈高い草の先を撫でるように吹く。だが、穏やかな風には場違いな熱気が籠っていた。道をゆく隊商の面々はそれにまだ気付いていない。
 動くものを見つけた炎の群れが、青々とした草を炙りながら、空中を滑るように飛んでゆく。隊商の最後尾にいる商人が、訝し気に振り返ったのは、炎の群れが飛びかからんと迫った、まさにその時だった。
 あまりの事態に反応できない彼の目前一杯に炎の赤が広がり、何が起こったのかは分からないまま、彼は己の死を確信した。だが、すぐ側まで迫った烈火は、何故かざあっと退き、その間に慌てて彼は荷車へと後じさった。そして、今何が起こっているのかをやっと知ったのだ。
 荷馬車を中心とした隊商の周りを、幾つもの炎の塊が飛んでいた。その様子は獲物を狙う獣を思わせる。そして、いつの間に何処から現れたのか、何人もの人が更に周囲を取り囲んでいた。
 これはどういうことだ。敵は誰か、もしかして取り巻く者たち全員か。混乱しかけた隊商の面々に、涼やかな少年の声が飛んだ。
「助けに参りました! 後は私達にお任せください!」
 その言葉の証にと、フィディエル・ジスカール(宵明けの熾翼・f11146)は、隊商に近づこうとする炎の塊へ、すっと指を向ける。音もなく天空から降った光は、炎の塊を閃光で包み、共々に昼光の中へ溶けた。
 それでもなお、空を蹴り、隊商に寄ろうとする炎の塊へ、レーヴ・オディット(ダンピールのパラディン・f13916)も同じく天空からの光を呼び、炎の塊をまた一体、掻き消した。
 相次いで同朋をきれいさっぱりと存在ごと消され、炎の塊たちは惑うように動きを止める。かれらの意思の在り処はよく分からないが、力もつ者が介入してきたことは認識したのだろう。
 その一時の隙に、シャオ・フィルナート(悪魔に魅入られし者・f00507)は、氷麗ノ剣を構えた。水の力を秘めた剣は、草原に宿る水気と風をもとに、水の竜巻を創りだす。シャオの意思と術の力で創り上げられた、自然に似て非ざる竜巻が、ごうごうと音を立て、隊商と炎の塊たちの間に割って入った。
 既に炎の塊の注意は猟兵へと向かいつつあるが、それでも隊商を救援し避難させる間、火の粉を阻む者が必要だろう。水の竜巻の間を縫って、幾人かの猟兵が隊商へと走った。
「おいで、ゼロ」
 走りながら、セツナ・クラルス(つみとるもの・f07060)は、共に歩もう、そう、もう一人の自分に呼びかけた。溶けあっている魂の片割れが一瞬震えて応え、セツナの身体の輪郭がぼやけたかと思うと、分離するように背格好もそっくりなゼロがすぐ側へと現れ、セツナと並走する。
 他方からは、アザレス・グレイスノヴァ(氷結龍の魔導騎士・f13460)が魔法剣を掲げ、炎、水、風と、異なる魔力を編み上げて一つとなし、自分自らが魔力の渦となりながら、炎の塊の只中へと飛び込んだ。
 その間に、狐宮・リン(妖狐の若女将・f03275)も隊商へと駆け寄った。仲間達は炎の精霊との交戦よりも隊商を守るのを優先するだろう。それを知るリンは後顧の憂いなく仲間が戦えるように、策を用意していた。
 リンは、隊商の主らしい壮年男性へと近づいた。炎と氷の応酬、勝手の違い過ぎる戦場の只中で、何が何だか分からないといった様子の彼を安心させるため、もう大丈夫なのだと、リンはふわりとした笑顔を浮かべ、そっと勾玉を差し出した。
「この勾玉に触れると、魔法で狐の宿にお送りします。いつでも出られますけど、少しの間だけ、こちらへ避難していてくださいね」
 リンの誠意は分かっているようだが、よく分からない魔法の品への怖れや、運んでいる商品の心配があるのだろう。隊商の主は逡巡しているようだ。他の商人達や護衛の戦士は、彼の出方を伺っている。
 その時、隊商の真上に、小さな龍のようなものが沢山現れた。玖篠・迅(白龍爪花・f03758)の呼びだした式神、浅葱色の蛟達だ。
「まかせた!」
 迅の声に応え、蛟達は身に帯びた水気を発し、生じた霧が荷車の荷物や隊商の人達を湿してゆく。周囲を満たす濃厚な水気と、お蔭でじっとりと濡れた荷物は、延焼を防ぐ役に立ってくれるはずだ。
 そして、今も猟兵達は皆、隊商から炎の塊を阻む体で戦場を動いている。自らが負傷するのも顧みず、だ。猟兵達が身を挺して戦う姿を見て信じることにしたのだろう。隊商の主はついに意を決して勾玉に触れ、狐の宿へと旅立った。他の者達も次々と後に続く。
「どうぞ、狐の宿でごゆるりと♪」
 実際、狐の宿のおもてなしは、徹頭徹尾行き届いている。もしかすると、彼らは中々勾玉から出てくる気になれないかもしれない。
 隊商一行が安全な場所に匿われたのを見、フィディエルはリンへと目礼し、感謝の意を表した。彼がこの戦いに身を投じたのも、戦えない人達を守るためだ。飛び交うユーベルコードは少し掠っただけでも、普通の人には致命傷となる。しかし、彼らが巻き添えとなる危険はもうない。
 炎の塊達は、猟兵達が生み出した冷気や霧に敵意を煽られたかのように猛り、己が熱気で圧しようと、猟兵達へと襲い掛かる。
 その一体が、グリツィーニエ・オプファー(ヴァルプルギス・f13858)へ体当たりを仕掛け、側を通り抜けた。一瞬後、しっとりと湿気を含んだ毛先が焼ける匂いがする。精霊と心を通わす彼は、表情はそのままに、おやおや、と声色だけに感嘆の色を滲ませた。
「流石は炎を司る精霊、中々に猛々しい姿と気性をされておられる様子」
 炎の精霊達は空中を跳ねるように動き回り、やおら急降下を仕掛けて来る。その様はまるで猛獣だ。レーヴは左手のバスタードソードで急降下する炎の牙を弾き返した。炎の塊という外見に反し、左腕に重い手応えがあり、次いで熱気が襲って来る。
 弾き飛ばされた炎の精霊は、草原に着地した。すると、たちまちのうちに熱気で草が萎れ始める。延焼が始まって起こった炎は、炎の精霊の力を増す元となるだろう。攻めてきてもそれを守っても、同じく炎上で力を得るとは、何とも厄介な相手だった。
 これはいけませんね、とグリツィーニエはごち、手にした鳥籠の扉を開いた。中に籠められている羽たちが、彼の言葉を待っている。
「――お往きなさい」
 グリツィーニエの言葉に従い、青い蝶の群れが戦場を飛びたった。いかにも心もとない薄羽に乗った呪の力に魅入られ、炎の精霊達は、動きを止める。
 かれらを一掃するなら今だ。シャオは剣の力と共に水気を凝縮し、背に氷の翼を創りだす。羽根の一枚一枚が氷の刃で出来た、戦いの為だけの翼。それら全てを、炎の精霊達に放つ。動きを止められたかれらは、避けようもなく刃に貫かれ、声なき声を上げて消えてゆく。
 だが、全てではない。いまだ残った炎の精霊達は、生き残るために火気をもとめ、激しく飛び回る。猟兵達が、得物に水気や冷気をまとわせ、戦場の空気が冷え切っている中、精霊達の動きは狂おしいまでだ。
 そんな中、新たな火種として、荷車に目を付けた精霊がいた。滴るほどの水気で荷車を守っていた迅の蛟が応戦する。だが、一対一ではどうも荷が重すぎるようだ。与しやすい相手と見て、もう一体炎の精霊が寄って来た。
「よし、ここは合体だ!」
 迅の声に、ばらばらに飛んでいた蛟達は一所に集まり、融合した。蛟の尾には15という数字が描かれている。俄かに強くなった蛟に、それとは知らず手負いの精霊が挑み、返り討ちに合った。
「荷物、頼んだからな」
 後は合体した蛟に任せても大丈夫だろう。迅は霊符を片手に、仲間への援護のため、戦場の真ん中へと足を向けた。
 炎の精霊も数を減らし、手負いの精霊達も残りあと僅かだ。セツナとゼロは、時に離れ、時に近付きながら、一つ一つ、丁寧にその魂を消してゆく。また一つ、氷をまとった大鎌が、喘ぐ炎を掻き消し、セツナとゼロはお互いを背中合わせに庇い、次の獲物を探す。
「炎の精霊たちは途方にくれているところで、隊商に出くわしてしまったということかな」
「だとしたら?」
 セツナの言葉にそっけなく応え、ゼロは一手早く氷嵐の鎌を振り下ろし、獲物を刈り取った。
「事故に近いのだろうなと」
「それで?」
 きっぱりと言い捨て、ゼロは、セツナから離れて次の獲物へと距離を詰めた。その背をセツナは追う。
「それでも、人に害をなすならこらしめなければならないってね」
 セツナとゼロの遣り取りは、近くで戦うアザレスにも聞こえた。それは、アザレス自身がこの戦場に立った時に感じた思いでもあった。
「追いやられた憐れな存在ではあるが、人々に仇なすならば倒さねばならない……か」
 アザレスの剣も命も、もう自分だけのものではない。護るべき者のために捧げたのだ。目の前に護るべき者がいるこの場で、何を迷う必要があろうか。誓いの剣の一閃で、また一つ炎が掻き消えた。
 今や戦いは、掃討戦となっていた。残り少ない炎の精霊を、追い詰め、倒してゆく。心を持たないのか、その状況でも炎の精霊は一切怯むことなく、緒戦同様猟兵へと襲い掛かる。
 目の前に迫る炎の精霊を、レーヴは右手のメイスで正面から叩き落とした。ずっしりとした感触と共に、綺麗に入った、という確信があった。果たして、炎の精霊は惑うように動きを止め、その場に浮いた。見事に隙だらけだ。
「今だよ!」
 レーヴが身体を引いて開いた射線へ、翼を打ち、低空から間合いに入ったフィディエルが裁きの白光を導いて、炎の精霊を包み込み、滅した。そしてその頃には、戦場のあちらこちらで仲間達も炎の精霊を倒し、残りの精霊達は、追い立てられるように身を寄せ合った。
「さあ、仕上げといこうか?」
 冷たい霧のたゆたう中、シャオは再び氷の翼を拡げ、仲間達も炎の精霊達を取り囲む。一斉攻撃を受け、束ねられた炎は最後の瞬きを残す間もなく、一筋の煙を残し、吹き消えた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第2章 ボス戦 『水の大蛇』

POW   :    水の身体
【液体の身体により】、自身や対象の摩擦抵抗を極限まで減らす。
SPD   :    口からの水弾
レベル×5本の【水】属性の【弾丸】を放つ。
WIZ   :    身体の復元
【周囲の水を体内に取り込み】【自身の身体を再生】【肥大化を行うこと】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は宇冠・由です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 猟兵達が助けた隊商は、猟兵達に礼を言うと、目的地の村へ向かうため、戦いの余波でまだ冷え冷えとしている草原を後にしていった。
 第一の目的、炎の精霊は討伐した。しかし、この事件の大元である水の精霊がまだいる。水の精霊を何とかしない限り、同じような事件がまた起こるだろう。
 猟兵達は、炎の精霊達が何処からやって来たのかを探るため、かれらの残した痕跡を辿った。
 炙られた草や焦げた樹、それらの痕跡を辿るうちに、草原を越え、いつしか猟兵達は岩の多い山地へと分け入っていた。
 登ってゆくにつれ、猟兵達に湿った空気が重苦しくのしかかる。足場はぬかるみ、岩肌は濡れている。
 水の精霊の居所は近い。警戒しながら進む猟兵達の前に、ついに水で象られた大蛇が現れた。
 縄張りを荒らす者達を、水の大蛇は赤く光る眼でねめつけた。
 それは威嚇ではなかった。生きて帰すつもりはない、そういう意思の表出であったのだ。
狐宮・リン
隊商が無事で良かったです。
さて、水の大蛇……ですか
どう攻めましょうか?

【SPD】
残像1、属性攻撃1、武器受け1、優しさ1、オーラ防御1、投擲1

霊刀【白狐】は雷の属性を纏います。

ユーベルコード【狐の嫁入り】を使用して戦います。

【狐の嫁入り】前に【夢幻の霊刀】を使用して刀を召喚その際召喚した刀の使い方を戦闘知識と世界知識によって 予測します。

召喚した刀を撃ち込み攻撃しますが、接近された場合は打ち込んだ刀剣を拾い二刀流で戦います。


シャオ・フィルナート
ん…これが元凶、だね
同じ水使い同士…せめて、いい勝負出来たらいいね

引き続き★氷麗ノ剣主体に
【暗殺】技術による素早い立ち回りで奇襲をかけるように攻撃
但し剣で斬れるとは思ってないから
目的は武器に凍結の【属性攻撃】を乗せることで
触れた場所から水蛇の体を凍結させること

水…取り込まれるのは、脅威…だけど……
体全てが水なのは、少し損だね
だって…凍りやすいでしょ?

敵がWIZで攻撃力を強化したなら
一度後退し★死星眼に覚醒

氷の鎌鼬による【援護射撃】で注意を引き
瞳の力による【催眠、生命力吸収】により混乱させる

その隙に敵自身を含む周囲の水を利用し
UCで水の竜巻を起こした後凍結させる

…遠心力で分離しないかな…



 水の大蛇は身体をうねらせ、妙に緩慢な動きで猟兵達へと近寄って来た。その眼差しが猟兵達の間を泳いでいる。最初の獲物を見繕っているのだ。
 そして、その眼は、シャオ・フィルナート(悪魔に魅入られし者・f00507)に据えられた。それは水に親しむ者同士の引き合いか、反撥か。
 獲物を定めてからの水の大蛇は、先程とは一転して滑らかな動きでシャオとの距離を詰める。それはまるで、空気からも地形からも一切干渉を受けずに流れる水のごとしだった。
 水の大蛇は、じっとりと濡れた周りから水気を吸い取り、その嵩を増した。周囲の水から何がしかの力を得ているようだが……。
「あれは、攻めの力を増している、のかな……?」
 狐宮・リン(妖狐の若女将・f03275)の言葉尻には疑問符がついていたが、半ばそれは確信だった。理屈では説明できない感覚がそう言っている。今まで、その感覚が外れたことはなかったし、戦闘を仕掛ける者の行動としても妥当なものだ。
「それは、面倒、だね……」
 面倒と言いつつシャオは、水の大蛇のくねる身体を縫って触れるまでに接近した。近寄れば近寄るほどに、水の強い力を感じる。その圧迫感を跳ね除け、シャオは無造作に氷麗ノ剣を刺した。手応えといえば、流れる水に剣を突き込んだような風で、小さな飛沫が上がった程度だ。実際に剣の刺突で損傷を与えているかどうかはよくわからない。
 だが、それも彼の予測の範疇内のことだった。氷麗ノ剣には、氷の力が宿っている。刺さった剣を中心に、水の大蛇の身体が凍り付いた。シャオは剣を獲られないようにさっと引き抜き、その勢いでいったん距離を取る。
 水と水とで戦ったならば、水の化身ともいえる大蛇の方に分があるだろう。けれども。横目で水の大蛇を見遣るシャオの右眼だけが、藍色から金色へと変じる。
(「少し損だね。だって……凍りやすいでしょ?」)
 水の大蛇の身体で絶えず流れる対流が、内から氷を圧し、ひびを入れる。割れて剥がれた氷の欠片が地面に落ちた。あたかも攻撃は効いていないように見えるが、そうではないことはシャオ自身わかっていた。何故なら剥がれ落ちた氷は、水の大蛇の身そのものだからだ。肉の身体を持つ相手を刃で削いだのと同じことだ。
 だが、水の大蛇は悠然とした様子で、つるりと岩場を登ってゆく。仲間達の頭上を取るつもりだ――リンは、刀の真髄に呼びかける。相対する相手により、如何様にも己の容を変えて見せる刀の、唯一変わることのない魂そのものに。
 そして現れたのは、荒れる雷を連れた刀の群れだった。もとよりリンの持つ霊刀【白狐】のまとう雷と相和し、いや増した雷が、周囲の空気を震わせ、小さな稲光を放つ。
「晴天でも降り注ぐ刃の雨……受けてください!」
 轟く雷鳴とともに、刀の雨は水の大蛇を貫いて、再び大地へと叩きつけた。水の大蛇の身体は、雷に打たれた場所がまだ雷を帯び、波うっている。体内の水の流れが狂っているようだ。
 鋼の刃で斬れないこともないが、雷の力、つまり属性の力をぶつけた方が恐らく効果は高いだろう。これまでの応酬で、リンはそう当たりをつけた。ならば――。
 リンは、地面に深々と刺さった刀を引き抜き、雷を放つ二刀を構えた。
 手痛い攻撃を連続して食らった水の大蛇は、怒りに目を光らせ、ばっくりと口を開けた。これ以上もないほど大きく開いたあぎとからは、何十もの水弾が生まれ出る。それらが連続して放たれ、岩を穿ち、地面を抉った。そして、シャオとリンにも襲い掛かる。
「……これはちょっと痛いかな」
 シャオは呟き、右眼で水の大蛇を見据えた。瞳の力が、彼と水の大蛇との間に見えない道を作りだす。生命力そのものが通る、一方通行の道から水の大蛇の生命力を奪い取る。それでも全ての傷が癒えたわけではない。
 無造作に放たれた大量の水弾を、シャオはその軌跡を読み、紙一枚ほどのすれすれで躱し、リンは刀で叩き落としたが、如何せん水弾の数が多すぎた。
 流石に一体で炎の精霊達を追いやっただけはあり、一筋縄ではいかない相手だが、猟兵の攻撃は順当に効いている。さて、これからどう攻めたものか……。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

セツナ・クラルス
先ほどの炎の精霊たちも厄介だったが
あなたの威圧感はそれ以上だね
油断せぬようにせねば

ねえ、ゼロ?
精霊たちと戦うときにしみじみと思うのだが…
属性攻撃を持っていてよかったなあ、と
この属性にはどの属性が有利に事を運べるのだろうか、と試行錯誤するのも楽しいね

別人格ゼロと緊張感のないやりとりをしながら
土属性の力を出現
周囲の水に土を混ぜ込み
復元時にふんだんに泥水を召しあがって頂こう
土の重量分、動きが鈍ってくれればいいのだが

水弾は可能な限り被弾を避けたいが
数が多すぎるね
回避不可能な水弾には砂を混ぜ込んで速度と威力を削ぎ
最低限のダメージで受けるようにしよう
受けた攻撃は無駄にはしないよ
水蛇の能力を模倣し反撃しよう


アザレス・グレイスノヴァ
此奴をどうにかしなければ何時まで経っても事件は解決しないか…此奴も哀れな奴だ、唯自然のあるがままに生まれただけだというのに…だが、無辜の民に仇なすというのならばたとえどんな事情があるにせよ容赦などできん。恨むななどと言わんし言えん、だが、せめて安らかに眠れ…。
征くぞ、哀れなる流水の大蛇よ。


玖篠・迅
炎の精霊でも思ったけど、全身水もすごいよなあ…
さて水には土が克けども、どうやって攻めてこうかな

とりあえず動くには足場が悪そうだし、式符・白秋使って乗せてもらうな
虎には思いっきり動き回ってもらって、大蛇の撹乱狙ってもらう
俺は「属性攻撃」で虎と符に土の力込めといて、隙見て大蛇に攻撃な
水の弾丸使われると数が厄介そうだし、一気にたくさんの符を投げて口を開けるの邪魔したり、顎下に虎の爪で一撃入れて防げないかな
タイミングは「第六感」とか「野生の勘」で今って思ったときにだな

まわりの水気が多すぎて厄介なら、減らすために式符・朱鳥も使っていくか
最初から1体に合体して、一帯の水気を蒸発とか吹き飛ばして減らしてくれ


クレム・クラウベル
恵みの水、とは言うが
勢いが良すぎては押し流す濁流でしかない
精霊の恩恵と言うものも相応にあるのだろうが
害為すものとなっては困りものだな
悪いが大人しくなってもらおうか

ぬかるんだ地面に足を取られぬよう立ち回り注意
撃ち出される水弾は絶望の福音で軌道見極め
必要以上に被弾せぬよう回避
そのまま接近し射程に踏み込めるならナイフで一閃
遠ければ精霊銃でクイックドロウ
水の身体が相手。効いているか分かり難いのは厄介
顔か腹か、数度攻撃試し
より効いてそうな部位あればそこを集中して狙う

おびき寄せれそうなら相手を引きつけ
あえてギリギリで攻撃躱し、だまし討ちで一撃なども狙おう
手応えの薄い水の身体も
引き裂いてしまえば多少堪えるか



 獲物と思っていた者達から思いもよらぬ反撃を受け、水の大蛇はするすると流れるように地面を動きながら、再びぬかるみから水気を含みとった。水の大蛇の身体を巡る水の勢いが増し、身動きするたびに身体から飛沫が跳ねる。水気を得て力を得たのだが、先程とは様子は少し違うようだ。
 その姿を前に、玖篠・迅(白龍爪花・f03758)は、式符により白虎を召喚し、その背に乗った。ぬかるんだ地面に、濡れて滑りやすい岩場、ただでさえ水の大蛇に有利な場所なのだ。戦場を自在に駆けることで、地の利を少しでも得ておきたい。
 そして、攻めの手として、迅は土の力を符と白虎に籠めた。陰陽五行の説によれば、土は水に克つという。土の力をかさねれば、いずれ巨大な水流を留める塁ともなるだろう。
 今の戦場には氷に雷、土と、猟兵によって様々な属性の力が発現している。セツナ・クラルス(つみとるもの・f07060)は、もう一人の自分、ゼロに呼びかけた。
「ねえ、ゼロ?」
 ゼロからの返事はないが、『聞いて』はいるようだ。セツナは構わず後を続ける。
「精霊たちと戦うときにしみじみと思うのだが……属性攻撃を持っていてよかったなあ、と」
「なんで? 鎌で斬っちゃった方が早くない?」
 身も蓋もないゼロの応えに、セツナは少し笑った。猟兵ならば、そういう戦い方も充分ありなのだけれども、属性の化身に対しては、やはり属性で挑んでみたいではないか。
「この属性にはどの属性が有利に事を運べるのだろうか、と試行錯誤するのも楽しいね」
 セツナが片手を振ると、土煙が巻き起こった。乾いた土は、たちまちぬかるみに引き込まれて同化してしまうが、それはそれでセツナの狙い通りだった。水気を得て力を得るとして、その水気に混じりものがあったとしたら……? 試行錯誤の一つに、どう結果が出るか。
 水の大蛇は、今度は水弾を放とうと口を開く。大量の水弾をまともに食らうのは避けたいところだ。迅は目まぐるしく戦場を行き来して攪乱で大蛇の狙いを散漫に出来ないか試み、セツナは水弾の勢いを削ぐため、目前に砂嵐を起こして壁とする。
 数任せに放たれた水弾は、二人の狙い通り、幾ばくかは迅の攪乱に引きずられて明後日の方向へ飛び、幾ばくかはセツナの起こした砂嵐と混じり合ってぬかるみの嵩を増した。それでもやはり残った水弾が、猟兵達を襲う。凄まじい水圧から来る衝撃は、骨まで響き、軋ませるほどに重い。
 その恐るべき水弾の間隙を縫い、クレム・クラウベル(paidir・f03413)は、水の大蛇へと真っ直ぐに近づいた。迫る水弾は、身体を半身にし、或いは僅かに頭を傾けただけで躱す。一瞬先の時を視るクレムにとって、それは実に容易いことだった。
 外れた水弾が、クレムの背後で着弾し、飛沫を散らし、泥を撥ねる。水は生ける者に恵みを与えるが、この凶暴なまでの在り様は、恵みとは程遠い、過ぎたる力だ。この地に住む人達には災害そのものだろう。
 水の大蛇の至近で、クレムはその身体を観察した。流水が蛇の形を取ったような姿をしているが、現世でそういう形を取らせている、いわば魂や心臓といえる場所が、何処かにあるはずだ。彼は銀の短剣を持つ手首を翻し、まずは目前の水の大蛇の腹を抉った。実在の動物なら、たいてい、そこは皮膚が柔らかくて薄い急所だ。
 しかし、水の大蛇に目に見えるような反応はない。傷は与えているが、急所という程ではないらしい。次はどこを狙うか……。
(「あの光る眼、辺りだろうか」)
 そうすると、長大な水の大蛇との体格差上、至近だとむしろ狙いづらいか。クレムは後退し、岩場の上へと跳んだ。高所からの銃撃なら頭部を狙いやすいだろう。彼は水の大蛇の動きに追従し、狙撃の機を狙う。
 属性の力と狙撃で戦う仲間達は、水の大蛇と駆け引きするかのように、間合いから踏み込み、或いは退いて戦っている。互いの間合いの満ち引きの只中で、アザレス・グレイスノヴァ(王の竜・氷結龍の魔導騎士・f13460)は、ぬかるむ地面に足を取られながらも、しっかと立った。
 水の大蛇は、牽制や挑発を一切捨てて立つアザレスを見た。狙うに易い獲物だと思ったのだろう、泥混じりの水を取り込み力を得る。緒戦と同じく、攻めの力を得た水の大蛇は、アザレスに巻き付き、彼女の頭を砕こうと噛みついた。
 だが、牙も巻き付きも、心霊体に変じたアザレスの身体を半ばすり抜ける。綿の塊のような手応えに戸惑って退く水の大蛇に、アザレスはなぎなたの一閃を放った。命中した衝撃波が飛沫を散らす。
 尚も水の大蛇の正面に立とうと動くアザレスを、軽い眩暈が襲う。己が身体を心霊体とし、致命打をかすり傷程度に抑える巫女の術には、相応の代償があるのだ。術を維持するための糧として、己の命を燃やさなければならないのだ。おいそれと発動して良い術ではない。
 しかし、民の命がかかっている今はまさに、この術を使うべき時だった。アザレスは、執拗とも思えるほどに、水の大蛇の間合いに立ち続ける。
 接近戦を仕掛けるアザレスに留められる形で、戦場を縦横無尽に移動していた水の大蛇の動きが止まった。
 セツナは、ゼロにそっと呟いた。
「やっと止まったね、ゼロ。けど、土の力は効かなかったのかな……残念」
「えっ、いや、普通に効いてるし? さっきより攻撃にキレないよね?」
 ゼロに言われて改めて見て見ると、確かに、泥の濁り混じりの水の大蛇は、攻撃を仕掛ける時も、防御や回避行動も、先程よりもったりした動きを見せている。そちらの方が風格的に大蛇らしいといえばらしいが、とにかくセツナと迅が地道に戦場を土の気で満たした故であることには違いないようだ。
 水の大蛇は、殺意で爛々と光る眼で、猟兵達を見下ろした。
 一網打尽にするつもりだ――迅は、白虎を走らせ、間合いを一挙に詰める。一網打尽ならば、次に来るのは水弾だ。果たして、大きく口が開けられ、迅は白虎の爪の一撃で、その下顎を引き裂いた。
 不意の一撃で口元がぶれ、狂った水弾の大半は、あらぬ方向へと飛び散った。着弾した水弾がはね上げる、盛大な泥水の幕を掻い潜り、セツナは水の大蛇への射線を確保する。
「私は無から有を創るのは苦手でね。だから、あなたの能力を利用させて貰うよ」
 先程受けた水弾のイメージは、映像、感触共に脳内に残っている。それを使う自分のイメージを組み合わせて……。
 イメージから創りだされた無数の水弾が、現実のセツナの周りに現れ出でた。同じ技の正面からの撃ちあいならば、水の大蛇に押し負けるが、今の状況ならば、引けはとるまい。一斉に放たれた水弾は、水の大蛇の身体へと命中して盛大に飛沫を散らす。
 体幹部分を散々に攻められ、水の大蛇の身体を構成する水流は乱れて濁り、澱んでいる。傍目にも弱っているのだろうとわかる様子でありながら、その眼光だけは、消え去るどころか光を増している。
「その殺意が、照準器代わりだ」
 赤く光る眼に向け、クレムは狙撃を仕掛けた。弾は水の大蛇の頭部を貫通し、背後の岩盤を穿つ。ぐらり、と頭が揺れ、次いで身体がくたくたと倒れてゆく。その身体も仲間達の追撃によって形を失い、水の流れとなって地へと還っていった。

 あれだけの存在感を放つ水の大蛇のいた証は、今や足元のぬかるみだけだった。アザレスはそのぬかるみの中を精霊の存在を確かめるように、ゆっくりと歩く。
 水の大蛇は、精霊として、ありのままに振る舞っただけだったのだろう。単なる力の集合体、しかし、大きすぎるその力が破壊に傾き人を脅かした。
「恨むななどと言わんし言えん。だが、せめて安らかに眠れ……」
 手向けの言葉を残し、後を振り返ることもなく去るアザレスは鳥の声を聴いた。それは均衡を取り戻した山地に生き物が戻って来た証だった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​




第3章 日常 『ポーションを作ろう!』

POW   :    誰も行ったことの無いであろう場所へ探しに行ってみる。

SPD   :    近隣の森を広範囲で探ってみる。

WIZ   :    新たな材料を使って新ポーションの作成方法を考えてみる。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 草原の村を猟兵達が訪れると、先に到着していた隊商から話は既に伝わっており、村の人達からは歓迎をうける。
 村はごく小さく、薬で生計を立てていると先に聞いていなければ、生活していけるのか心配になるくらいだった。
 村の広場では隊商が商いをはじめていて、村の人達と話をしているが、どうも商談は芳しくない様子だ。
 そんな中、隊商の主は、猟兵の姿を見つけ、相談を持ち掛けて来る。
「どうも、今までのいろいろで、村で薬の材料が手に入れられなくなっていたらしくて、薬が全然ないというんですよ。私どもも商売ですし、かと言って、私どもの品がなければ、村の生活も困るしで、弱っているところです……」
 その話に、村の長老らしき年配の女性も加わって来る。
「材料さえあれば、薬は作れるんじゃがのう……わたしらだけで採取に出かけても、充分に材料が集まるまで、どれだけかかるものか……」
 どうやら、暗に採取を手伝ってほしいと言っているようだ。
 猟兵達が否定的な反応をしないので、同意と受け取ったのか、二人は採取と調合について、話し始める。
「この辺りは精霊の加護があってですね……村から少し離れれば、山、森、砂地、沼地、川、色んな場所から薬の素材が採れるそうですよ。中には見たことのないものもあるかもしれません……そうでしたよね、長老?」
「そうじゃ。そして集めたもので薬を調合するのじゃ。調合の心得がある方はおられるかのう?」
 不思議な素材を採取したり、未知の素材で新薬を作ったり、或いは採取の間に、良い景色や落ち着いた時間を満喫することもできそうだ。
 採取や調薬は無償に近いので、村滞在中は、村で下にも置かぬ扱いでもてなしてくれるはずだ。
 さて、どうしようか?
シャオ・フィルナート
…俺は……自分で使う機会のある薬以外は
あまり詳しくないから…
材料集めの方、手伝うよ…

★蒼笛で動物達を呼び
【動物会話】で薬の素材を集めたい事を説明
UCの翠狼にも手伝わせる事で広範囲での捜索をする

攻撃力のある肉食動物達にはサソリなど
薬の材料になる生き物を倒して来てもらう…
指示は、翠狼…お前がお願い

小型動物達には嗅覚と機動力を活かして
木の上や落ち葉の中に隠れた薬草や
キノコ等の回収をお願い…
こちらの指示は…俺が、します……

傷薬や麻痺毒等の中和剤に必要な素材知識くらいはあるから…
とりあえず村から近い場所から調べていく

もし、薬作りに水や氷が必要な時は…いつでも言って…
【属性攻撃】で…いつでも、出せる…



 薬師の村を出て少し歩くと、もう周りは一面の草原だった。風の流れに沿ってなびく草の色は、淡く優しい緑色だ。
 シャオ・フィルナート(悪魔に魅入られし者・f00507)は、蒼笛を取り出した。少しかすれた音色が伸びやかに響く。旋律は上がり下がりしながら、艶やかな高音へと流れゆく。
 風に乗った音色は、草原にいる生き物達へ届けられ、いつしかシャオの元には聴き入る動物たちが集まっていた。
「手伝ってもらいたいことがあるんだけど、いいかな……?」
 音色が止んで、名残惜しそうな風情の動物たちにシャオは訊いた。彼の言葉ははっきり伝わっているらしく、動物たちは言葉の続きを待っている。
「薬の素材を……探していてね。身体の調子が悪い時に食べてるものを、分けて欲しいんだ……」
 シャオの依頼に、動物たちはそれぞれの棲家へと散ってゆく。森に棲む者は森へ、山に棲む者は山へ。シャオは翠狼を呼びだし、狼などの肉食獣と一緒に素材集めへ出かけるよう頼んだ。
 まるで狩りへ行くように、翠狼と肉食獣は草原を走り去ってゆく。
 一方、小動物達は、森へ向かう者が多いようだ。シャオはかれらの後を追う。
 薬の素材が採れる森というと、いかにも怪し気な、悪い魔女でも住んでいそうな様子を想像するが、森は日当りの良く、あちらこちらで鳥や動物の気配がする、穏やかな森だ。
 シャオを案内する兎が、彼の気を引く様に跳んで、獣道の脇の茂みに入っていく。しばらく後を追うと、少し開けた草地にキノコの円環があった。兎は二本の足で立ち、伺うように、シャオの方を見る。お腹が痛い時に食べるといいのだそうだ。
「……ありがとう」
 キノコを採っていると、頭上の木の枝が揺れ、木の実が落ちて来た。見上げると、枝にはリスが並んでいる。これは、栄養があって、食べ物が少ない時に嬉しいのだという。
 色々と採取して草原へと戻ると、舞い降りた小鳥が、嘴にくわえた一輪の花をくれた。この花弁の汁は、怪我をしたときに塗るといいらしい。
 別方向へ採取に出かけた翠狼達も、草原に戻って来た。採って来たのはサソリ、脱皮した蛇の皮、などなどだ。翠狼と共にいる狼によると、それらは量によって毒にも、毒を破る薬にもなるとのこと。
 動物達にお礼を言って、村に戻ると、シャオの持ち帰った素材を使って、早速薬師達が調合に入る。複雑な調合は彼らに任せ、シャオは薬作りに、と、混じりものの全くない純粋な水を創りだす。
 傷薬、ちょっとした毒の中和剤、胃薬、強壮薬……そういった薬が調合され、隊商との間で取引がはじまる。
 よく晴れた、のどかな村で一時を過ごし、名残を惜しむ村人と隊商の人の声に送られて、シャオは帰還の途についた。

成功 🔵​🔵​🔴​

狐宮・リン
狐の秘薬……!
を教えるわけにはいきませんけれど……

そういう話でしたらお薬作りをお手伝いしましょう!

【SPD】
私達が居なくても村の益に出来るよう、周辺素材で作れそうなポーションを作成しましょう♪

世界知識1、情報収集1を使用してポーションに使用できる薬草類、茸類、野生動物の部位を採取しますね!

医術1、毒使い1の知識をいかして採取してきた素材を調合します!

効能の方向性は治療薬や免疫向上等の身体を守るためのもので作ろうと思います!

あ、せっかくなので調合道具は私のお宿から持ってきますね!



 薬、というと、狐宮・リン(妖狐の若女将・f03275)には実のところ、心当たりがあった。
 それは狐宮家に代々伝えられる、狐の秘薬だ。それは、内服良し、外用良しの万能の薬なのだけれど、調薬方法は秘伝中の秘伝、おいそれと人に教えられるものではなかった。
 けれど、幸い、この薬師の村の周りには豊富な薬の素材があるとのことで、必要充分な薬を作ることができるはずだ。
 調合道具は狐の秘薬を作るものと同じものを持ってきている。何を調合するかは、集まった素材次第、というわけだ。
「では、私は薬の素材を集めて来ますので、待っててくださいね!」
 希少素材を使った薬や、人々の日常で使う機会のない薬は、調合したとしても、きっと村や隊商でも持て余すだろう。リンは敢えて村からは遠く離れず、見つかりやすい素材を探すことにした。
 まずは、村を取り巻く草原だ。生えている草は丈が低く、遠くまで見通せる。草原の次は、少し遠くに見える森を当たってみて……などとリンが考えていると、足下に周囲の草より緑の色合いが濃い草を見つけた。
「この草は、宿の近くに生えている薬草に似ていますね」
 葉を摘み取って、香りをかいでみると、香りもそっくりだ。おそらく効果も似たようなものだろう。根を絶やさないように、葉だけを少しずつ摘んでゆく。
 リンは薬草を袋一杯に摘んだあと、森へと分け入った。鳥のさえずりや、小動物の気配がする。どこかのんびりとした様子を感じる、それらの気配からして、近くに危険な肉食獣などはいないのだろう。村の人達が森に入っても、安全に採取ができそうだ。
「どこに何があるか、記録するのもいいかもしれませんね」
 ふと、甘い香りがしたので、リンは茂みをかき分けて香りの方へ向かってみる。すると一杯に桃色の花をつけた灌木が繁っている一帯に出た。
 近寄って花を採ってみると、蜜が滴り、ふわりと花の甘い香りが拡がった。蜜の味を確かめてみると、癖のない甘さの後に花の香りがついて来る。滋養強壮の薬効がありそうだ。それに、薬以外にも色々使い道があるだろう。例えば、お茶に入れるとか、お菓子に使うとか……。
 花を採って、獣道を通ってゆくと、木の幹の皮が剥がれかけているのを見つけた。皮の隙間から小さなキノコがまるで束になったように纏まって生えている。これも、何処かで見かけたことのあるキノコだ。確か、傘の部分を傷つけると出て来る汁が、火傷やかぶれに良く効く軟膏の材料になるはずだ。
 そうして採取を続けているうちに、素材が鞄一杯になった。この素材で薬を作れば、相当の量ができるはずだ。村に戻っても大忙しだ。陽が傾く前にと、リンは村への帰路を急いだ。
 リンが持ち帰った素材は、彼女の見立て通りの薬効があるとのことだった。特にこのキノコは、見つかる数が多くなく、大事に使っているのだとか。村の薬師達は、リンのつけた記録を大切そうに受け取った。
「早速、調合といきましょう♪」
 まず薬として必要とされるのは、治療のための薬だ。風邪払いの薬、傷薬、痛み止め……そして、病気になる前に予防し、なった後は身体に病気に勝てるだけの元気を取り戻す、免疫向上薬。
 免疫向上の薬は、あまりこの村近辺では馴染みのないものらしく、リンは、薬師達や隊商の人達にその薬効について、矢継ぎ早に質問を受けた。きっと、この村とこの隊商の名物商品になるだろう。
「皆さん、お元気で、頑張ってくださいね!」
 採取と調薬を終え、村を後にするリンに、せめてものお礼に、と村の人達がお弁当を渡してくれた。帰路でお茶入りの水筒を開けると、リンの摘んだあの花の香りが優しく鼻をくすぐった。

成功 🔵​🔵​🔴​

玖篠・迅
それじゃまずは材料探しからだ

村の人じゃ採取するのが大変だったり、優先して欲しい素材とかないか聞いてみるな
あったら特徴をしっかり聞いたり、採取の時に気をつけることがないか確認しとく。素材入れる袋も借りれるかな
式符使えば村の人より探しやすいと思うんだ
朱鳥使って上を探したり、足場の悪いとこは白秋。水の中なら天水とか。
「第六感」とかに何か感じる素材があったらそれも村に持って帰っとくな

ちょっと前に大怪我してる人に何もできないことがあって、この村の事聞いた時に色々教えてもらえたらなって思ったんだ
薬の使い方、作り方、素材の見分け方とか
村の貴重な財産だろうけど、少しでも学ばせてもらうのはだめかな



 仲間達が採取に出かけてゆく中、玖篠・迅(白龍爪花・f03758)はどこへ採取に出かけようか思案していた。
 確か、この村の周辺の地形は、奇妙な程変化に富んでいるとのことだった。その中には、村の人達では採取が大変な場所があるかもしれない。或いは、村付近をさまよっていた炎の精霊のために、ずっと採取できなかった素材があるかもしれない。
 採取に出かけるとしたら、そういった場所だ。迅は、村の広場で隊商と話をしている薬師達へ尋ねてみた。
「今すぐ欲しい、って素材や、採りに行くのが大変な素材とかないかな」
 薬師達の答えは、満場一致で、村から少し離れた砂地、だった。そこは穏やかな気候の村とは打って変わって、さんさんと照る陽と、それで熱を持った砂と、天と地から熱気に責められる過酷な場所で、長くは居られないのだそうだ。限られた時間では集められる素材も多くない。
 出かけようとする迅に、採取用にと革袋が渡される。手触りがひんやりとしているのは、中に入っている凍土から採れる石のためで、採取したものが熱気で傷まないようにするのだそうだ。但し、冷気が保つ時間には限りがあるとのこと。
 村を出た迅は、式符を用い、白秋を召喚した。顕れた白虎の背にまたがり、一直線に砂地へ向けて駆ける。少しでも多く採取時間を確保しておきたかった。
 地面の草が、だんだんとまばらになっていき、勢いを増しつつある風には、熱気が籠る。普通はこの程度の距離でここまで地相が変わったりはしない。それが精霊の加護を受けている地、という所以なのだろう。
 そして迅と白秋は砂地へと辿りついた。僅かな起伏のある砂の連なりは思いの外広く、砂地というより、これはもう砂丘とか砂漠の域だろう。
「たのむなー」
 今度は式符・朱鳥の出番だ。火の力を持つ赤い鳥が20羽現れ、素材を探すために散り散りに飛んだ。迅から見るに心なしか朱鳥達はいつもより生き生きしているような……?
「まずは……砂漠のバラ、か」
 それは、砂地の水気が干上がった跡に出来る鉱物の塊で、形がバラの花に似ているとのことだ。水気の名残などどう探そうと思いながらも、迅と白秋は砂の丘を見て回る。幾つかを見つけた所で、朱鳥達が、頼まれていたもうひとつの素材を見つけたと知らせてきた。
 朱鳥に導かれた先には、緑の小さな群生があった。肉厚の葉を持つ、ずんぐりとした植物だ。これは暑い場所で生きるための姿なのだろう。迅は幾つか摘んだ葉を保存用の袋に入れた。
 そこで、白秋が落ち着かな気に足で地をかいた。そろそろ帰り時だと言いたいようだ。もう少し採りたいと思ったが、素材を熱気で台無しにしてしまったら、元も子もない。
 熱気の名残を連れて村に戻り、採取品を見せると、薬師達の顔に喜色が浮かんだ。もともと見つける事自体が大変な素材で、この収穫は、式符を使える迅だからこそなのだった。
「薬の作り方、使い方、素材の見分け方とか、教えてもらうのはだめかな」
 迅が薬師達に尋ねると、その理由を問われた。薬の製法は村の財産であり、また、薬師としての規範というものがあるようだ。
「ちょっと前に、大怪我してる人に何もできないことがあって、薬の知識で同じような人を救いたいんだ」
 その言葉を聞いた薬師達は視線を交わし、頷いた。この村では、人を救う志ある者にのみ、薬師の技は伝授されるのだという。
 まずは基本的な傷薬、解毒薬の調合を教わり、次に迅の採取した品の調合を見せてもらう。砂漠のバラは、細かい粉末にして解熱剤の材料にし、肉厚の葉の切れ目から出る粘り気のある汁は、傷口に塗って傷を保護し、痛みを和らげる薬になった。
 一通り調薬を習った後、迅は薬師達に丁重に礼を言って村を辞することにした。帰りしな通りかかった村の広場では、長老はじめ薬師達と隊商が値段交渉をしていた。採取前とは打って変わって生き生きとした様子の彼らの遣り取りを背に、足取りも軽く、迅は自分の店への帰路についた。

成功 🔵​🔵​🔴​

セツナ・クラルス
精霊たちの祝福を受けた
動物や植物たちを直に見てみたいな
村人たちの採集に同行することにしよう
この辺り特有の動植物を見つけたら
興味津々に観察
固有種の特性などがあれば色々と教えて貰いたいところだね

今回の事件は不幸な巡り合わせなのだろうが
これまでの加護の感謝と、これからも恩恵にあずかることができるように
精霊たちに祈りを捧げよう

採集後、まだ時間があるようなら
何か作ってみたいところだが
調剤など全くの未体験だしねぇ
ふむ、ハーブティなどは簡単に作れるのかな
リラックス効果を期待できるようなハーブティを作ってみたいな
あなたのオリジナルブレンド、ぜひ教えて頂けませんか?
村人にお願いし特別なハーブティを教えて貰おう



 村の周囲は木を簡単に組んだ柵で囲まれている。それは外敵に対するものではなく、村の境界線を示すためだけに作られたもののようだ。セツナ・クラルス(つみとるもの・f07060)は、柵に寄りかかり、村と周りの草原を見ていた。
 精霊達の力が強い土地と聞いていたが、この村自体にはそんな雰囲気はない。ここは台風の目の中とか緩衝地域とか、そんな所なのかもしれない。
 村の若手達が連れ立って採取に出かけようとしている所を見かけたセツナは、一緒に採取に行けないか、彼らに頼んでみた。腕の立つ冒険者が同行するとあって、彼らは二つ返事で了承してくれた。
「これから、何を採りにいくのかな?」
 村を出て、ずっと草原をゆく村の人にセツナが尋ねると、『冬花の木』のもとに出かけるとのことだった。よく話を聞いてみると、この辺りは季節の移ろいで気候はあまり変わらないにも関わらず、冬にしか花が咲かない木なのだそうだ。
「へぇ……この辺りには、他にどういう動物や植物があるんだろう?」
 この辺りの変わったものを、と聞きたいところだが、村の人にしてみれば、ここが普通で他の土地が変わっているのだろうから、きっとぴんと来ない答えが返ってきそうだ。
「草原には、たまに金色の毛皮の鹿がいることがあるなぁ……あれって他では珍しいんだってな。獲れた時は毛皮が良い値で売れるよ」
「沼地の泥に生えてる花の根っこがな、とても甘いんだ。すりおろして水にさらして粉にして、菓子とか子供向けの薬に混ぜたりして使うのさ」
 先日まで困っていた割に、彼らはのんびりとしている風情だ。元々ここは本当に平和な土地なのだとわかる。
「あの、一本だけ背の高い草はなに?」
 やけに目立つ草を見つけたセツナの問いに、何でもなさそうな様子で一人が答える。
「あれね……穂先が垂れてるだろ? あれは日当りとか関係なく、北にむけて垂れてるんだ。だから皆『標草』って呼んでる」
 見かけたあれやこれやについて質問するセツナに、快く村の人達は答えてくれる。そうしているうちに、目の前に赤い花をつけた木々が見えて来る。あれが、『冬花の木』だろう。
「え? 採るのは種なんだ?」
 村の人達が、花の時期を終えた枝から生っている割れた実を採り、中から種を集めているのを見て、セツナはちょっと驚いた。花を咲かせている木の下に花がまるごと落ちているが、それは採取しないらしい。
「種を絞って油をとるんだ。それには種が沢山要るから、花は後回しでね」
「花も花で、染め物に使えるんだけど、趣味で、ってとこかな……」
 セツナは鮮やかな赤の花を一輪、手に取って記念にと荷物に入れ、種の採取に加わった。高い所ならお任せだ。
 熟した実を取り終えたところで、セツナが油の効用について聞いてみると、食用にも化粧用にも使える油で、調薬では、油にしか溶けない素材と合わせて、塗り薬を作るのに使うことが多いそうだ。
 沢山の収穫を得て、村へ帰った一行を、村の女衆が出迎えてくれる。これから調薬やらの仕事だが、仕事前にとお茶を振る舞ってくれた。お茶はかすかに甘味があり、果物のような味と香りがする。喉を通る時に、すっきりとした清涼感が荒れた喉にも効きそうだ。
 セツナに調剤の心得はなかったが、ハーブティなら、作ることができるかもしれない。
「このハーブティ、ブレンドを教えて頂けませんか?」
 お茶をくれた若い女性に、丁寧に尋ねてみると、同年代の男性相手に少しどぎまぎした様子で、彼女は作り方を教えてくれた。村の側にある小さい花とハーブを乾燥させたものをブレンドしているらしい。
 その実物を見せてもらうと、他の世界ではエルダーフラワーとペパーミントと呼ばれているハーブで代用できそうな気がする。割合はエルダーフラワーの方が多い。
 彼女に礼を言って村の広場に出ると、薬師をはじめとした村人達が忙しそうに立ち働いている。そろそろお暇したほうがよいかなと、セツナは長老と隊商の長に挨拶をして、村を後にした。
 街道を行くと、心地よい風がセツナの身体をなでた。風に吹かれた草もざあっと音を立てて緑色の波を立てている。しばらく風と草の波音に身を任せながら歩いていたが、遠くで鹿の鳴き声がしたと思うと、風がぴたりと止まった。
 セツナが足を止め。声の方角を見ると、堂々たる金色の牡鹿が一頭、草原の中に立っている。もしかして、あの鹿はこの地の精霊達の使いかな。そんな思いが何とはなしに彼の脳裏に浮かんだ。
(「これまでの加護の感謝と、これからも恩恵にあずかることができるように」)
 皆が在りのままに生きただけなのに、何処かが掛け違ったゆえの顛末だった。皆が在りのまま、お互いを侵さず生きられる明日を。セツナは目を閉じ、この地に宿る精霊達に祈りを捧げた。
 目を開けたセツナの瞳に、牡鹿の眼差しが飛び込んでくる。それは時間にしてほんの一瞬だったが、牡鹿の黒い眼は、祈りに応え、是と言っているようだった。
 そして金色の牡鹿は、身を翻し、草原の中へ消えてゆく。白昼夢のような一時が過ぎ、一人残されたセツナの元に、風が戻ってきた。先程と変わらない心地よい風は、これからもずっと変わらず、この地を渡りゆくのだろう。この地に住み、宿る者全てを見守りながら。
 セツナはまた風に身を任せ、往くべき処への道を、歩き始めた。

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年02月16日


挿絵イラスト