偽愛なれど愛には代わりなく
#サクラミラージュ
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●誰でもない貴方からの傷
叶えたかった願いがあるのだと、己の心の中に浮かぶものが言う。
それはどうしようもなかったことではあるけれど、それでも心の奥底から欲するものであった。
望むものは全て手に入らなかった。
望まぬものばかりが手に入った。
人は己のことを恵まれた羨むべき人物であると言うけれど、違うのだと叫びたかったことを覚えている。
「わたくしは、あなただけでいいのです。わたくしはあなたのお側に置いていただけるのなら、それでいいのです。他になんにもいらないのです」
ですからどうか、と願う言葉は己が恋い焦がれた優しい微笑みに寄って否定された。
「何も苦労を買うことはない。あなたは私とは違う人間です。幸せになれる人間です。しがない樵と一緒になることなんてない。夏の暑さにも、冬の寒さにも恐れることなんてない生活が待っているのだから」
己を気遣う貴方の言葉すらも、今はただ苦しい。
それはやんわりとした否定であった。綿で叩かれたような衝撃が心を撃つ。あなたの言葉が弾丸であったのならば、どんなによかったことだろう。
あなたの言葉でさえ、己の肉体を貫いて殺してくれたのならば、それでさえもよかったのに。
それでも真綿で人は死なない。どこまで優しいあなたの言葉だから。
「わたくしはあなたの言いつけどおりにしたのです。でも、あなたは言いました。わたくしが幸せになれる人間だと。けれど、わたくしは少しも幸せになんて成れなかった。あなたのようにわたくしも与える事のできる人間になりたくて、相手の望むままにしてきました」
でも、幸せになんてなれなかったのです。
そんな思いの残滓が、ひどく心を傷つける。
深く、深く、心を痛めつける。肉体のように心は傷ついても死なぬと誰かが言った。けれど、心が傷つくと肉体も傷つくのだ。
どうしようもない悲しみが体を蝕んで――。
●溢れる涙は人の愛
サクラミラージュ、帝都に影朧が現る。
それは瞬く間に人々の衆目へと晒される。その浅黒い肌、蠱惑的な瞳、舞い散る可憐なる花びらは人々の注目を否応なく惹きつける。
「アナタの望むままに」
その姿は見る者の『逢いたいと願うものの姿』に変わる。死した肉親、恋い焦がれた人、あらゆる『逢いたいという願望』に則った姿へと変貌していく。
それは欲望となって人々の生命を吸い上げていく。
「アイしてあげるから」
誰からも愛されぬ人々を前にすれば、その木々は肉体を侵食する綿胞子となって、彼女が慈しみと憐れみを向けた者を殺すだろう。
どうしようもないと見放された者に対する救いであり、影朧の与える唯一の救済であったのかもしれない。
「目蓋を閉じて、身を委ねて」
ハナミズキの花弁が甘い芳香を伴って影の枝の揺り籠となって人の生命の輝きを曇らせるだろう。
そうすることで得ることの出来なかった何かを己の腕の内に納めるように、影朧である像華『面映』は微笑む。
その微笑みは儚く、今にも消えそうなほどに弱々しいものであった。
誰も襲うことはしない。ただ、ただ求められれば、そのすべてを持って与えるであろう。それが例え、求めた者が死すこととなっても止まらぬ影朧。それが像華『面映』。
彼女の気配は弱々しい。
けれど、人々は影朧に恐怖する。
突如として現れた影朧に混乱しながら、帝都の街は騒然とする。そんな中、像華『面映』だけがぼんやりとその瞳を帝都の外れの向こう……ある山の一点を見つめるのであった――。
●果たせなかったもの
グリモアベースに集まってきた猟兵たちを迎えたのはナイアルテ・ブーゾヴァ(フラスコチャイルドのゴッドハンド・f25860)であった。
「お集まり頂きありがとうございます。今回の事件はサクラミラージュ。常に幻朧桜が舞い散る大正の世が続く世界です。今回は、このサクラミラージュの帝都に突如とした影朧に関する事件です」
影朧は多かれ少なからず傷つき生まれる『弱いオブリビオン』である。
だが、今回帝都に突如として現れた影朧は、それよりもさらに弱々しい影朧であるのだという。
それは殊更に傷ついた影朧であると言えるだろう。
「はい、その影朧は生前に叶えられなかった『何か』を叶えようとしてします……ただ、現れたのが雑踏でごった返す帝都の街の中だったのです。影朧の名は像華『面映』。本来の名前ではないでしょう。今は説明のためにそう呼称させてください」
ナイアルテは瞳を伏せた。
その表情はどこか切なげであった。
「私の予知に見たのは、彼女が生前の大切な『果たせなかった執着』を叶えようと、目的地に進もうとしているところです。通常ならば、帝都を脅かす影朧は即座に斬るのが掟です。それは帝都の桜學府でも変わらぬこと。ですが、桜學府の本来の目的は『影朧の救済』です。皆さんには桜學府の學徒兵が現れるより早く現場に赴き、影朧を無害化して頂きたいのです」
影朧の無害化。
それは結局の所、いつもの猟兵たちとの戦いに変わりはないだろう。だが、まだ被害を出す前の影朧である。
影朧の執着は猟兵たちが思うよりもずっと大切なものであるのだろう。戦う力を失うまで弱らせれば、無害化する。
「ですが、長くは保ちません。無害となった影朧は『執着』を果たすために、一点に見つめていた山へと歩き始めます。無害化した影朧は皆さんにおとなしく付いてきてくれますが……周囲の住人に悪意を向けられたり、影朧が存在する希望を失うと執着を果たす前に消滅してしまうのです」
それを防ぎながら、目的地である山まで誘導して欲しいとナイアルテは言う。
その先に影朧の執着があるのだという。
「私の予知……影朧が嘗て見た光景。そこに影朧の執着があります。それは、彼女自身が添い遂げることの出来なかった者が住まう山の中へと至り、彼の姿を一目見ること。きっと昔のことなのでしょう。一人の樵の男性が山の中に住んでいます。一人でずっと暮らしているのでしょう」
生前の影朧と樵の間に何があったのかまではわからない。
わからないが、予知から推察することはできる。
「きっと時代が二人で居ること許さなかったのでしょう。家柄、職業、様々な困難があったのだと思います。一度は諦めたはず。けれど、結局誰といても、何をしても幸せを感じること無く早死してしまったが故に、執着と共に影朧として蘇った……のかもしれません」
それがナイアルテの見た予知から推察する、彼女にとっての都合の良い類推であったのかもしれない。人はそれを邪推とも呼ぶかも知れない。
けれど。
けれど、それでも。影朧の執着が樵の姿を一目見たい、見つめたいということに変わりはない。
「だから、どうか。お願いいたします。影朧の執着を、その行く末を皆さんに見守って頂きたいのです――」
海鶴
マスターの海鶴です。どうぞよろしくお願いいたします。
今回はサクラミラージュにおいて、帝都に突如として現れた影朧の持つ執着を晴らし、『影朧の救済』を行うシナリオとなります。
●第一章
ボス戦です。
帝都に突如として現れた影朧との戦闘です。
無害化するためには戦わなければならず、影朧も『弱いオブリビオン』と言えどオブリビオンですので、猟兵が現れればユーベルコードを使うでしょう。
この影朧を倒して即座に死ぬわけではありませんが、どちらにせよ長くは保ちません。無害となった傷ついた影朧は『果たせなかった執着』のために歩き始めます。
●第二章
冒険です。
影朧が現れ、パニックになっている帝都の人々をなだめ、なんとか皆に強力してもらいながら、なるべく影朧を脅かさずに日常の生活を送ってもらいます。
皆さんは影朧のの目的地である帝都の外れにある山の中へと同行しましょう。
●第三章
日常です。
目的地である山の中に住まう樵の元へ向かいます。影朧の執着を果たさせてあげましょう。
影朧の執着は『樵の姿を一目みたい』ということですが、皆さんの行動によってさらなる救いを見出すこともできるかもしれません。
生前の奥ゆかしさ、そして同時に一度否定されたことに寄る悲しみが『一目みたい』という執着になっているのでしょう。
本当はもっと、という執着もまたあるのも事実です。
その思いを『救い』へと昇華するのもまた皆さんの手腕であるでしょう。
執着を果たした影朧は無事に光りながら消滅し、転生することでしょう。
それでは、幻朧桜舞い散るサクラミラージュでの傷ついた影朧の救済。それを為す猟兵の戦いを綴る物語の一片となれますように、いっぱいがんばります!
第1章 ボス戦
『像華『面映』』
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POW : アナタの望むままに
全身を【相手の逢いたいと願うものの姿】で覆い、自身が敵から受けた【欲望】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
SPD : アイしてあげるから
自身が【慈しみや憐み】を感じると、レベル×1体の【肉体を侵食する綿胞子】が召喚される。肉体を侵食する綿胞子は慈しみや憐みを与えた対象を追跡し、攻撃する。
WIZ : 目蓋を閉じて、身を委ねて
【ハナミズキの花弁】【甘い芳香】【影の枝の揺籠】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
イラスト:山本 流
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠四辻・鏡」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
人の愛は儚いものだと誰かが言う。
どれだけの情熱も冷める時があると。熱量はどれだけ持っていても足りることはない。
誰もが愛に飢えているわけではないけれど、それでも皆が平等に互いを愛するとは限らない。
「樵に娘をやるなど考えられるものか。お前はこの家の娘なのだぞ」
父の言葉は己には何も響かない。
だからなんだというのだ。愛の前に家柄も育ちも関係ないではないか。
だから己はよかったのだ。
己の持ち物全てを捨ててでも欲しいものがあった。あなたの愛が欲しかった。
己の全てを差し上げます。だからあなたの全てもください。
なんて。
なんて。
なんて、傲慢。
あの人はわたくしを選ばなかった。
父に何かを言われたのかも知れない。嫌がらせを受けたのかも知れない。だから、あんなにも優しい顔をしてわたくしを拒んだのだ。
「君は幸せになれる。幸せになるように生まれてきたのだから。私のような人間に関わらずとも、君は幸せになれる。忘れることができるのもまた人だから。泡沫の夢のようにお忘れになりなさい」
ああ、あなたのことを否定するわけではないけれど。
わたくしはきっとわたくしでなくなっても。
それでも、きっと生まれ変わってもあなたを愛する。
どれだけ心が傷ついて、肉体が塵芥になっても。
それでも何度でもあなたを見つめるためだけにわたくしは――。
●それは偽りの
帝都に悲鳴があふれかえる。
影朧の姿が雑踏ごった返す帝都の街中に突如として現れたのだ。
それはあまりにも唐突に、それこそ最初から其処に居たように。人々に危害を加えるわけでもなく。ただ、一点を見つめ続ける。
悲鳴が、混乱が、己の存在に寄って引き起こされたなどと考えもせず。
ただただ、その執着が示すとおりに瞳をもって見つめ続ける――。
月見里・美羽
…気持ちがわかる、なんて言うのは傲慢だよね
でも、好きな人がいる身としては
ひと目でも会いたい気持ちはわかるんだ
【シングオーダー】で【ゲート・オブ・サウンド】展開
歌でUCを起動
おいで、妖精たち
傷つけない程度に弱らせておいで
防御は【結界術】で電子結界を張り巡らせよう
面映さん、と呼んでもいいのかな
会いに行こう
ボクはキミの気持ちがわかる
ボクのすべてを差し出して
だから、相手のものも欲しくて
ああ、それは傲慢なことだけど
キミの想いを否定したくない
キミの想いを否定したら
きっとボクも影朧として転生するかもしれないから
だから、この愛は正しいものだと確かめに、行こう
アドリブ歓迎です
優しさは人の美徳である。
誰かの哀しみに寄り添いたいと思うことは尊ばれるべきことだ。誰かの憂いに寄り添うから優しさが生まれる。
人が一人では生きていけない生命である以上、それは歓迎されるべきものである。誰もが優しさを持っているのならば、人と人との間に生まれる摩擦の熱でさえも別のものとして昇華することができるだろう。
けれど、ときに優しさこそが人を傷つけるものとなることを知らなければならない。
誰かのためにという言葉は、不理解から起こるのではなく、理解からこそ生じるのだと知る月見里・美羽(星歌い・f24139)は、殊更に傷ついた影朧である像華『面映』を前にして気持ちがわかるとは言えなかった。
それは傲慢であると己を戒める。
だが、それでも。
「好きな人が居る身としては、ひと目でも会いたい気持ちはわかるんだ」
それはとても素敵な感情であった。
胸の奥から溢れてしまう感情は彼女の歌声を更に彩るだろう。様々な感情が乗せられるからこそ、歌声はただの音ではなく、誰かの心をも震わせるものであるからだ。
「キミはボクのまわりを踊る ラ・ラ・ラ 光の羽で惑わせて」
その歌声はヘッドセット型のマイクによって拾われ、電脳世界を展開した超高度コンピューター内臓の眼鏡型端末が表現する彼女の歌声。
幻想戦舞(ファンタジック・ダンス)。
美羽の歌声によって機械妖精たちが踊る。帝都の街に突如現れた影朧である像華『面映』の周囲を飛ぶ。
それらを取り囲むハナミズキの花弁が相まって幻想的な空間へと戦場を変える。
「面映さん、と呼んでもいいのかな」
その言葉に応えるのは、微笑むような花弁の色。
弱々しい雰囲気の影朧の前には、彼女の言葉は如何なる表情を見せただろうか。共感する美羽の歌声は、彼女の耳にどのように響いただろうか。
「会いに行こう。ボクはキミの気持ちがわかる。ボクの全てを差し出して。だから相手のものも欲しくて。ああ、それは傲慢なことだけど」
彼女の歌声に乗って感情が届く。
それは本来であればオブリビオンと猟兵という垣根を超えるものではなかったけれど。
それでも美羽は言う。歌う。
心を表現するのが歌声であるというのならば、完全に違ってしまった生き物であるオブリビオンにもきっと届く。届かせてみせる。
「キミの想いを否定したくない。キミの想いを否定したら、きっとボクも影朧として転生するかもしれないから」
それは恋い焦がれる者にしか共感できないものであったのかも知れない。
帝都の街中に響き渡る歌声は、どこまでも澄んでいく。
それを耳にした混乱に陥った人々も足を止める。どれだけ影朧が恐ろしい、人々に害をなす者であったのだとしても、美羽は思うのだ……彼女の思いが間違いであるだなんて言わせてはならないのだと。
「だから、この愛は正しいものだと確かめに、行こう」
そうしなければならない。
何のために生まれ、何のために死したのか。
生前に抱いた感情がどれだけ、彼女の心を明るくし、また同時に暗がりへと落ちていったのか。
それを知らなければならない。
落ちてしまったのならば、誰かがすくい上げなければならない。
それが人の優しさだと、人を愛することだというのならば、美羽は万感の思いを掛けて歌うのだ。
それこそが、己が歌う理由だというように――。
大成功
🔵🔵🔵
スリジエ・シエルリュンヌ
弱々しい影朧が、突如現れる。いったい、どうして?
ですが、この世界出身の桜の精として、猟兵として。影朧に癒しをもたらしましょう。
ですから、お手伝い、します!
まずは戦闘…。指定のUCで包囲し攻撃を。
ハナミズキの花弁も、これで燃えるといいのですが。
揺籠もできれば回避、芳香だけはしかたないですね…!
あ、炎はこれ以上、延焼しませんので!!
私は貴女と一緒に、あなたの行きたい場所に行きます。
それは、貴女にとって必要なことですから。
帝都の街に突如として影朧が現れる。
それはどんな新聞や小説の見出しよりも、現実味を帯びて形を為すものであった。その影より現れたような姿。
女性の姿をとった影朧――像華『面映』は、何をするでもなく帝都の外れにある山の一点を見つめ続けていた。
周囲に舞う機械妖精たちが彼女の身を傷つけたとしても、ハナミズキの花弁が舞い散りばかりである。
甘やかな芳香が周囲に香る。
それはとても甘美な誘い。人の形をした美しき影朧が見せる一時の幻想のようであった。
だが、それよりも何故と思うのはスリジエ・シエルリュンヌ(桜色の文豪探偵・f27365)であった。
彼女の心に去来するのは何故という疑問であった。
「弱々しい影朧が、突如現れる。いったい、どうして?」
彼女の疑問は尽きない。
影朧とは生前の辛い経験や過去から生まれた極めて弱いオブリビオンであることは知られている。
だからこそ、帝都の學徒兵であるユーベルコヲド使いであっても対処可能であるのだ。だが、彼女の目の前にいる影朧、像華『面映』は、さらにそれに輪をかけて弱々しい。
戦う力があるとはとても思えない。
けれど、互いは猟兵とオブリビオンである。出会ってしまえば滅ぼすしかないのもまた事実。
「ですが、この世界出身の桜の精として、猟兵として。影朧に癒やしをもたらしましょう」
だからこそ、スリジエは駆け出す。
彼女を、影朧を、いつかの誰かの転生した姿である像華『面映』に癒やしを齎さんと駆け出すのだ。
「――わたくしは、ただ見ていたい。見つめていたい」
言葉を発する像華『面映』の言葉が聞こえる。
それが彼女の望みであり執着であるのだろう。どこまでも純粋な言葉。ただそれだけを求めて過去――骸の海より滲み出たのだろう。
例え、その姿が生前のものとは似つかぬ姿であったとしても、その執着こそがスリジエにとって大切なもののように思えたのだ。
それは彼女が桜の精であるからだとあ、猟兵であるかとかは関係ない。
ハナミズキの花弁を燃やし尽くすのは幾何学模様を描き複雑に飛翔する桜の花びらの形をした炎剣であった。
舞い落ちるハナミズキの花びらを尽く帝都の逃げ惑う人々に触れる前に燃やし尽くす。
その光景は桜火乱舞(オウカランブ)。
「ここに、私の力を! あなたの花弁が美しいのならば、それで誰かを傷つけさせることのないように!」
スリジエの瞳がゆーべるこーどに輝く。
ハナミズキの花弁は尽くが燃え尽きる。スリジエにとって誰かを護ることは当然のことであった。
だが、同時に弱々しい影朧である執着抱える像華『面映』もまた救いたいと思う対象に違いはなかった。
癒やしてあげたい。
それは彼女の心の根底にある優しさであったのかもしれない。
「私は貴女と一緒に、あなたの行きたい場所に行きます。貴女は其処に何があるのかをもう知っているはずなのです」
スリジエにはわからない。
彼女の抱く執着がどれほどの情念の元に、それこそ骸の海よりも染み出してもなお、求めるものであるのか。
けれど、それだけの愛が嘗て在ったのだ。
ならば、スリジエは知っている。
「それは、貴女にとって必要なことですから」
だから、と手をのばす。
助けを必要としている者に手を伸ばす。例えそれが、影朧であったとしても、救えるものは救う。
例え、それが心の救済というあやふやな目に見えぬものであったとしても。
それでも、とスリジエは手を伸ばし続ける。
誰かの心を救いたいと願う心が伸ばす掌にこそ、きっと手が伸ばされることであろうから――。
大成功
🔵🔵🔵
サリー・ヤナギバ
恋に絶望した女性の、なれの果てでしょうか…
姿も儚く聞けば悲しい過去があるのでしょう
貴女の様な影朧ならきっと癒され転生できる
でもその為には…その一途な執着を叶えませんと
櫻柳を携え、使い魔ビビといる事で「落ち着き」野次馬にも騒がず影朧と逆方向に避難するよう伝える
私の逢いたい人…(不意によくパーラーに来る書生風の青年が思い浮かぶが珈琲の注文や挨拶する程度で親しいわけではない…)…幻と解れば私はきっと撃てます
あぁ影朧さん。私まだ貴女の様な恋を知らないみたい、ですね
貴女は儚く嫋やかですが人の心を覗き、縋り付くのは戴けません
銃を構え「制圧射撃」と
UC森の白棘を使用
未練を果たし転生しましょう
アドリブ連携OK
人の心は万華鏡のように変わりゆくものである。
だが、同時に変わらぬ中心に据える心があるのもまた事実である。
「恋に絶望した女性の、成れの果てでしょうか……」
帝都の街中に突如として現れた影朧、像華『面映』の姿は今にも消えそうな弱々しいものであった。
その姿を見遣り、サリー・ヤナギバ(白い手のサリー・f30764)は呟く。過去の集積地たる骸の海より滲み出るほどに強烈なる執着を持つ影朧。
けれど、その力は弱いと言わざるを得ない。
「姿も儚く聞けば悲しい過去があるのでしょう。貴女のような影朧なら、きっと癒やされ転生できる。でもそのためには……」
帝都の街中は混乱に溢れかえっている。
何処まで行っても影朧とは結局の所、人に害をなすものである。
人々は、その姿に混乱し恐怖し、不安に寄ってごった返す雑踏はさらなる混沌へと陥れられてしまう。
「その一途な執着を叶えませんと」
サリーの足元に白地にクリーム色の斑のある仔猫であるビビが駆け寄る。使い魔であるビビと共にいることでサリー自身は落ち着き払って行動する。
手にした小型の機関銃を手にし、逃げ惑う人々とは逆方向……つまりは、影朧へと近づいていく。
「皆さん、私とは逆に走って下さい。何も心配することはありません。影朧ですが、私達がなんとかします。だから、落ち着いて」
そんなサリーの落ち着き払った言葉に人々は幾分か落ち着きを取り戻す。
そう、ここにいるのは超弩級戦力たるユーベルコヲド使い、猟兵がいるのだから。
サリーの瞳に映るのは、彼女が逢いたいと願う人の姿であった。
それが像華『面映』のユーベルコードの輝きに寄って生み出されたものであるとサリーは看破していた。
「私の逢いたい人……」
地方の喫茶店でアルバイトをしていたサリー。
けれど、彼女は何の因果か猟兵として目覚めた。言葉では説明できないことであったけれど、己には『何かができるかもしれない。そんなすごい才能がある』。そう言われたことをきっかけに帝都にやってきたのだ。
当面の生活費を稼ぐために帝都のパーラーでアルバイトを始めた。
彼女の瞳には、今まさに、不意によくパーラーに来る書生風の青年の姿が映っていた。
珈琲の注文や挨拶する程度で親しいわけではない。
けれど、どうしてだかサリーは今彼に会いたいと思ったのだろう。その逢いたいと願った人物の姿から影朧、像華『面映』は生命を吸収しようとする。
「これは幻……わかっていますよ。幻だとわかっているのなら」
サリーは撃つことができる。
幻に向かって放つ弾丸の斉射が影朧の体を撃つ。
「恋い焦がれることは、胸を貫くようなもの」
はらはらと涙するように、銃弾に身を貫かれてもなお、像華『面映』は帝都の外れにある山の一点を見つめ続ける。
その姿は一層憐れであったかもしれない。
「あぁ影朧さん。私まだ貴女のような恋を知らないみたい、ですね」
この胸にあるものが、彼女の言うような胸を貫くものであるかはわからない。わからないけれど、それでも今はそれでいい。
今しなければならないことを真っ直ぐに見据えることができる。
「言の葉の力は偉大なもの、癒し救い、時に貶め凶つ葉となります。これはアナタの凶つ葉の報い、隠し爪の報復です――貴女は儚く嫋やかですが、人の心を覗き、縋り付くのは頂けません」
機関銃の引き金を引く。
ためらいはなかった。それをしてはならないことだと、恋知らぬ己が一番知っている。
影朧には救済を。
傷ついた魂の成れ果てであるからこそ、その未練を果たし、癒やしを与えたいと願う。それは優しさというものが結実したものであったのだろう。
サリーの放った猫柳の花に似たホローポイント弾が、像華『面映』の体に打ち込まれ、そこから発芽し、柳の樹枝と根が一気に生育する。
その枝や根からは棘が生やし、その身を穿つ。
悪意ある言葉は何も発することはなかった。それは生前の彼女の心根に由来するのだろう。
故に、完全に消滅すること無く、その体を留め続ける。
「未練を果たし転生しましょう」
必ず、それを見届ける。
そのためにサリーは混乱に陥った帝都にやってきたのだ。悪意も、すがるべき希望も、全て嘗ての影朧の足を止めさせることはしない。
転生するための癒やし。
それはきっと彼女の抱える執着を果たせばこそ、為し得る最後の希望の輝きであるはずだから――。
大成功
🔵🔵🔵
大町・詩乃
(会いたい人達とは日常で会っているので特に願う姿は無く、普段の人を慈しむ優しい微笑みを浮かべて彼女に接し)
人の世には様々なものが有ります。綺麗な事も汚い事も。
だから貴女には人を世界を恨む選択肢もあったのでしょうが、貴女はそれをしなかった。
面映さんは優しい人ですね(と微笑みかける)。
過去を変える事はできませんが、せめて面映さんが納得のいく結果に繋げられるよう、お手伝いいたしますね。
と、響月を取り出してUC:帰幽奉告を使用。
気持ちを落ち着かせる穏やかな音色により、面映さんをできるだけ傷つけずに無害化します。
面映さんが恋焦がれた樵の人。
どのような方なのか気になります…。
少しでもより良い幸せな結末を。
世界は美しい。
けれど、美しいからこそ美しくないものもまた内包しているものである。世界が美しくその瞳に映るのであれば、美しくないものが生み出した光りでもあろう。逆に美しくないものが瞳に映るのであれば、それもまた美しさの側面であると知る。
大町・詩乃(春風駘蕩・f17458)の神たる身、その瞳に世界はなんと映ることだろうか。
人の世。
そこにあるのは神たる身が見つめる世界。
「人の世には様々なものが有ります。綺麗な事も汚い事も。だから貴女には人を世界を恨む選択肢も在ったのでしょうが」
彼女の瞳が映し出すのは帝都の街中に現れた一体の影朧、像華『面映』。
その姿は弱々しいものであった。オブリビオン、過去の化身と呼ぶにはあまりにも弱い。
その瞳が映すのは詩乃ではなく、遠き山の一点。
だからこそ、詩乃は柔らかく微笑む。
世界を恨んでよかったのだ。
時代を恨んでもよかったのだ。
「貴女はそれをしなかった。『面映』さんは優しい人ですね」
ああ、と影朧の嘗ての誰かの残滓は首を横に振る。
己は優しくなどないのだと。この姿に、この心に優しさが宿るのだとすれば、これはいつかの自分に与えてくれた人の優しさの鏡返しでしかないのだと首を横に振る。
「過去を変えることはできませんが、せめて『面映』さんが納得の行く結果に繋げられるように」
詩乃の瞳に今映っているのは、影朧ではなく詩乃の日常にいてくれる者たち。
どうしても逢いたいと願う者たちは常日頃から会っている。だからこそ、詩乃は微笑む。
例え、その姿が誰かの優しさの鏡返しであったのだとしても、その心は尊ぶべきであると彼女は微笑んで、漆と金で装飾した龍笛を鳴らす。
その音色が奏でるは、帰幽奉告(キユウホウコク)。
誰かを咎めるためでもなく、責めるでもなく。
奏でられる戦慄は傷ついた心を慰めるようであった。穏やかな音色は混乱の極みに達しようとしていた帝都の人々の心にも作用する。
未だ誰かを傷つけたわけでもない影朧の姿。同時にこれから何かをしようとしているわけでもない、殊更に傷ついた影朧の姿を人々は見ただろう。
いっそ憐れすら感じさせる姿こそが、本来の姿。
人の瞳は恐怖と不安が曇らせる。正しきを見ようとしても歪んでしまう。だからこそ、詩のはその手助けをするのだ。
「『面映』さんが恋い焦がれた樵の人。思い出してください。貴女が願ったのは人々を混乱に陥れることなんかなじゃない」
過去の集積地たる骸の海へと追いやられてしまってもなお、其処から滲み出てでも願う執着があったはずだと。
その執着は誰しもが持つものである。
「貴女の優しさが、貴女の執着の源によって生み出されたものであるのなら」
どんな方なのだろうか。
詩乃は気になっていた。彼女の優しさが生来のものでもあったことだろう。けれど、その優しさを陰ることなく今もなお己の心に慈しみを湧き上がらせる。
であればこそ。
詩乃は願うだけではない。少しでもより良い幸せな結末を。その願いのために、己自身の願い、そして何よりもかつて在りし人の結末が悲しいものにならぬようにと。
そのために詩乃の龍笛は音色を奏でる。
人の心に訴える。
誰の心にも闇があるように、同時に光もまた在れと音色を奏で続ける。
「貴女の心の行く末を、より良き幸福で彩りましょう――」
大成功
🔵🔵🔵
黒鵺・瑞樹
アドリブ連携OK
右手に胡、左手に黒鵺の二刀流
サクラミラージュに来るようになって、そしてまたこういう形の影朧を見てしまうと思ってしまう。
人も影朧もオブリビオンも、その心はたいして違いがないんじゃないかって。
逢いたいって気持ちはわかる。
でも全てが欲しいってのは多分わからない。
俺はただそばに居たかった。共にありたかった。それ以上の望みを知らない。
存在感を消し目立たない様に立ち回り、隙をついてマヒ攻撃を乗せた暗殺のUC剣刃一閃。
敵の攻撃は第六感で感知、見切りで回避。
回避しきれないものは本体で武器受けで受け流し、カウンターを叩き込む。
それでも喰らってしまうものはオーラ防御、激痛耐性で耐える。
影朧は『弱いオブリビオン』である。
かつての執着を持ったものが骸の海より染み出したものである。時間が前に進むために過去を骸の海に排出して進むものであるのならば、それもまた道理であったことだろう。
サクラミラージュ、幻朧桜の花びらが常に舞い散る世界。
平和という名の概念が根付き、文化が開花した世界。そんな世界にあってもオブリビオンは影朧となって人々の生活を脅かす。
帝都の街中に突如として現れた影朧、像華『面映』もまた、そんな影朧の一体である。
彼女の存在は、其処に在るということだけで人々に混乱と恐怖を引き起こす。
「人も影朧もオブリビオンも、その心はたいして違いがないんじゃないか」
黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)はそう思ってしまう。
サクラミラージュに来るようになって、今回のように強い生前の執着を伴った影朧の姿を見て、尚更に。
人の心は側面を持つ。
正しさの裏には悪しきが在る。光と闇が表裏一体であるように、人の感情もまた動揺であろう。
正しさだけで存在するものなど何一つない。
誰かの正しさは誰かの悪であると知る。
だからこそ、人と影朧の違いはない。それもまた人の心のなせる業であるのかもしれない。
「逢いたい。逢いたい。あなたが逢いたい人は」
像華『面映』の姿が変わっていく。
誰かが逢いたいと願う誰かの姿に。それはある意味で献身であったのかもしれない。生前に言われた言葉を護っているだけなのかもしれない。
そうすることで自身の心の中にある思い出を守ろうとする行為であったのかもしれない。
その姿を前にして瑞樹はためらいを捨てる。
「逢いたいって気持ちはわかる。でも全てが欲しいってのは多分わからない」
ヤドリガミである彼にとって、人の感情は持て余すものであったのかもしれない。
けれど、それは正しさと悪しきが混ざり会ったものであるがゆえに心は苦しまなければならない。
まるで海の中の一粒の輝くものを見つけるようにともがき苦しんだ先にこそ、求めるものがあるのであれば。
「俺はただそばに居たかった。共にありたかった。それ以上の望みを知らない」
だからこそ、刃を振るう。
忍び難きを忍ぶ。
手にしたナイフとサムライブレイドを構え、存在感を消す。
一瞬の隙を見逃さない。今はまだ人々に危害を加えてはいないかもしれない。けれど、それでも。
いつか影朧の中にある執着が欲望となって誰かを傷つけてしまうかも知れない。そうなった時に、悲しむのはなんであるか。それを瑞樹は知っている。
だからこそ、刃を振るう。
剣刃一閃によりて振るわれる斬撃の一撃が背後から像華『面映』の体を刻む。己の心が痛む気がした。
戦いにおいて傷を追うことは当たり前のことだ。肉体が傷ついても心までは傷つかない。己のみがヤドリガミであるからこそ。
だから、肉体は入れ物。
心までは護られる。けれど、今は違う。逢いたいと願った誰かの残滓が見せる影法師を斬りつければ、己の心が痛む。
「それでも。君をこれ以上は」
誰かを傷つける存在にはさせたくないのだと刃を振るう。
散り散りに心が痛む気がした。それでも。それでもと自身の心に走る痛みを堪えながら、瑞樹は少しでも早く影朧が無害化することを願うのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
サージェ・ライト
お呼びとあらば参じましょう
私はクノイチ、世に潜み…胸が目立ちすぎて潜めないとかそんなことないもん!!(お約束
まさか影朧に呼ばれるとは
え?呼んでない?
またまたー
クノイチはいつでも弱いものの味方なのです♪
とはいえ、被害は食い止めませんと
【くちよせの術】でロープを取り出して先端に
漆黒竜ノ牙を括り付けて投擲!
その勢いでロープを巻き付けて進軍を止めましょう!
綱引きみたいな感じで
「は、な、し、聞いてくださーい!!」
この世に被害が広がるのを見過ごすわけにはいきません
だけどそれだけなのです
旅は道連れ世は情け
行くなら一緒に、堂々といきませんか?
とりあえず戦闘行為をやめてもらえると嬉しいです!
※アドリブ連携OK
影朧は人に害をなす。
けれど、同時に癒やしを与えれば転生する存在でも在る。ただ滅ぼすだけではない。癒やしを与え、新たなる生を与えることができるのであれば、ある意味でそれこそが過去の化身たるオブリビオンを真に滅ぼしたということになるであろう。
「お呼びとあらば参じましょう。私はクノイチ、世に潜み……胸が目立ちすぎて潜めないとかそんなことないもん!!」
サージェ・ライト(バーチャルクノイチ・f24264)はいつもと変わらぬお決まりのお約束ごとの向上を挙げて帝都の街に舞い降りた。
その姿は帝都にありても超弩級戦力と呼ばれる猟兵として認知されることであろう。 人々はその姿を見て、突如として街中に現れた影朧の姿から与えられた恐怖を拭い去ることができたことだろう。
彼女の口上は、こういうときにこそ本領を発揮する。続けることが大切なのだ。
「まさか影朧に呼ばれるとは」
執着持つ影朧、像華『面映』はサージェの言葉通り、なにか助けを求めるような存在であったのかも知れない。
その執着を果たしたいと願う姿は、ある意味で悲壮感が漂っていた。
「逢いたい、逢いたい。貴方に逢いたい。ただそれだけでよかったのです」
その言葉はサージェの姿を通り越して、何処か遠くを見つめている。
求めるものがなんであれ、此処にいてはいけない存在なのだ。その言葉に誰かが言葉を変えしそうになる。
それは悪意ある言葉であったのかも知れない。だが、その言葉が放たれるよりも先にサージェは本能的に言葉を紡いでいた。
「え? 呼んでない? 私ではないって感じですか? ……またまたークノイチはいつでも弱いものの味方なんです♪」
サージェの言葉は人々が投げつけようとしていた言葉を遮った。
それが狙ってのことであったのかはわからない。
けれど、彼女の行動が影朧を護ったことには違いない。癒やしを与えれば転生することのできる影朧。
弱った影朧に投げかけられる悪意は、それだけでその存在を崩壊させかねないのだ。
ふらりと動き始める像華『面映』。
それはもまるで何も見ていないかのように、どこかへと行こうとするように足を進める。もうサージェのことを見ていなかった。
「は、な、し、聞いて下さいーい!!」
くちよせの術(ナンデモデテクルベンリスキル)によって取り出したクナイをくくりつけた忍び道具たるロープを投げつけ、像華『面映』の体を絡め取って、綱引きのようにその場に留めるサージェ。
「貴方が何をしたいのか、誰かに迷惑をかけたいわけではないということはわかっています。けれど、貴方が徒に動くだけで、この世に被害が広がるのです。それを見過ごすわけにはいきません」
ぎりぎりとロープが軋む。
何処までも引きずられそうな力。それは彼女が本当に執着しているものへの強さを物語っていたのかもしれない。
弱った影朧とは思えぬ力でサージェは引きずられていく。
「だけど、それだけなのです。旅は道連れ世は情け。行くなら一緒に、堂々といきませんか?」
戦う意志のない影朧。
ただ存在しているというだけで人々に災いを齎す存在。その矛盾。けれど、それでもサージェは願う。
戦うだけが全てではないのだと。
かつての像華『面映』がたどった誰かの悲劇も、これから訪れるであろう本当の結末によって覆すことができるのだとサージェは確信している。
「だから、これ以上力を振るうのはやめてください! きっと貴方だってそんなこと望んでなんかいないって、私はわかるのです!」
だからこそ、引き止める。
必ず無害化し、その魂に救いを。そして、その魂が転生することを願って、渾身の力を込めるようにしてその力を削ぐのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
(宿敵イラストの紫髪の女性
己の創造主 ※非交戦
遥かな昔、銀河帝国に兵器開発を強制され多くの死を生んだことを悔い自害
その際『最優先防衛対象である彼女の殺害』を指示
その矛盾命令実行によって半ば道連れで己の記憶、人格は破壊された
記憶無くとも長年の調査で判明しており)
何故、系列機達ではなく『私』だったのですか…アレクシア様
その理由、その呪怨を知らなくては…
…いえ、この方は答えを持たず
私が為すべきことは
UC発砲、制御妨害
お会いしたい方の元へ赴くに、他者の欲望煽る力は余分です
その方の望む姿で在りたいと願うなら一回で十分
削がせて頂きます
その対価として、貴女の願いに騎士として全霊で取り組むこと
お約束いたします
人の心は柔らかく傷つきやすい。
どれだけ合理的な思考を持っていたとしても、その心が全てを受け止めることのできるものではないと誰が知っているだろうか。
いつだってそうだ。人は己の心の強さを知らない。また同時に己の心の弱さも知らない。
己の内側に視線を向ける術を持てど、その扱い方を誰もが正しく知るわけではない。
だからこそ、良心の呵責によって人は容易に己の死を望む。
生命の存在が生存を最優先事項とするのであれば、それはあまりに矛盾したことであったことだろう。
「その矛盾を抱えるのが生命。だからこそ、私は、私達は護らなければならない。そう在るために作り出されたというのに」
サクラミラージュ、帝都の街中に突如として現れた影朧、像華『面映』。
その姿は弱々しいものであったが、同時に相対するものが『逢いたい』と願うものの姿に変じる。
それはまるで鏡合わせのようなものであった。
どこまでも献身を突き詰めたように、生前から続く執着ゆえであろう。それが形を作ったユーベルコードが、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)のカメラアイを覆う。
目の前にあったのは嘗ての『最優先防衛対象』。
その姿をトリテレイアは知っていた。いや、本来であれば嘗て在りし己の人格と記憶は破壊されている。
矛盾した命令の遂行。
それによって喪われてしまったメモリー。
逢いたいと願ったのは、何故という疑問から由来するものであった。
己を殺せという命令。
それはきっと呪怨であったとトリテレイアは理解していた。
「何故、系列機ではなく『私』だったのですか……アレクシア様。その理由、その呪怨を知らなくては……」
知りたいと願った。
手をのばす。目の前には、その答えを持つ者がいるのだ。答えが得られる。電脳がエラーをはじき出しても関係ない。
手を伸ばせば、届く。
ただ、それだけのことなのだ。だが、それを押し止めるものがある。己の炉心に燃える一つのかけら。
それがトリテレイアが伸ばす手を留める。
きっと答えなどでない。
目の前の像華『面映』はトリテレイアの願う何かを投影したに過ぎない。あるのは結んだ偽の像だけ。
そこにトリテレイアの欲するところのものは何一つない。
「……いえ、この方は答えを持たず。私が為すべきことは――」
アイセンサーが煌めく。
格納銃器から放たれる制御妨害粒子散布用試製炸裂徹甲榴弾(アンチユーベルコード・アーマーグレネード)の一撃を持って、像華『面映』の変貌した姿がほどかれる。
それはまるで蜃気楼のゆらめきのようにトリテレイアの前に姿を表す。
「お会いしたい方の元へ赴くに、他者の欲望を煽る力は余分です。その方の望む姿で在りたいと願うなら、一回で十分」
それは己の欲望。
知らぬを知りたいと願う欲望であるとトリテレイアは自覚していた。だが、今はそれは己にとっても余分なことである。
今自身がなさねばならぬことは、たった一つ。
影朧の執着を果たすこと。
それはトリテレイア自身にとっても必要なことであったことだろう。
見上げる影朧の視線はトリテレイアを見ていない。今までもそうであった。相対する猟兵を見ていなかった。何処か遠く、そう、山の一点だけを見つめていた。
「その力を削ぐ対価として、貴女の願いに騎士として全霊で取り組むこと、お約束いたします」
膝をつく。
いつかの誰かの執着。それを叶えることこそ、己の本分。
トリテレイアは、その騎士としての本分を持って、影朧の心こそを救わねばならぬと、かつての己と執着に背を向けるのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 冒険
『はかない影朧、町を歩く』
|
POW : 何か事件があった場合は、壁になって影朧を守る
SPD : 先回りして町の人々に協力を要請するなど、移動が円滑に行えるように工夫する
WIZ : 影朧と楽しい会話をするなどして、影朧に生きる希望を持ち続けさせる
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
影朧、像華『面映』の身にまとっていた力が削ぎ落ちる。
それは即ち彼女が無害な影朧と変化したことを示していた。だが、影朧であることには変わりなく。
その姿を見て人々は恐怖することだろう。
悪意だって抱くことだろう。
だが、今や像華『面映』は何の力もない影朧だ。そこにあるのは唯一つの執着『たった一目逢いたい』というものだけ。
それだけで彼女の体は今にも消えそうな力を保ち続けていた。
「逢いたい。あの人に逢いたい。あえなくてもいい。一目見つめることが出来たのならば」
それで十分であるというように彼女の瞳は帝都の外れにある山の一点を見続ける――。
●かつてありし
「もう此処には来てはいけません。誰の目があるかもわからない。私が咎められるのならばそれでいいのです。ですが、貴女まで咎められてしまうのは心苦しい」
あの人はそういったけれど、それでも逢いたいと思った。
きっと父が人を使って嫌がらせをしているのだ。そういうことをすることにためらいのない父だ。
それがどうにも許せなかったけれど、あの人がそういうから何もしなかった。
心が苦しい。
どうしようもない。なにかもが私とあの人の中を許してはくれなかった。
ただ、逢いたいだけなのに。
たったそれだけのことすら許してもらえない。
「何も恨まなくていいのです。心が苦しいのならば、歌えばいい。その時だけは私も貴女の心を思って歌いましょう。この山へ続く線路の道も、貴女の中にあると思えば私はそれでいいのです。だからどうか、私のことは――」
スリジエ・シエルリュンヌ
…私は先回りして、人々にお願いをしましょう。
私は桜の精。彼女の癒しと転生を望むもの。
今から、とても弱い影朧が通ります。ですが、その影朧たる彼女は、皆さんを傷つけたりはしません。
むしろ、皆さんからの悪意にとても弱く、向けられると消えてしまいます。
彼女を満たし癒すためには、どうしても山へ向かわないといけないのです。
どうか、彼女の歩みを妨げないようにお願いします。
とても真摯に呼び掛けて、頭を下げてお願いします。
だって、やれることの一つですから。
人の悪意は容易に生命を奪う。
それを知る者にとって今の影朧の状態は非常に危ういものであった。
影朧は他の世界に発生するオブリビオンに比べて『弱い』存在である。だが、今帝都に現れた影朧、像華『面映』は輪をかけて弱々しい。
そこへ無害化するためとは言え、力を削がれてしまえば、たった一つの人々が放った悪意ある言葉であったとしても消滅してもおかしくはない。
ただ、彼女の執着を叶えるためだけに猟兵たちは行動する。
影朧であれば倒してしまえばいい。
それは乱暴な論調であったのかもしれない。人は得体のしれないものを恐れる。無知とは即ち恐怖へと直結するものである。
だからこそ、スリジエ・シエルリュンヌ(桜色の文豪探偵・f27365)は帝都の街を駆け回る。
息を切らし、必死に帝都の街中を走る。
それは誰が為に。
「今から、とても弱い影朧が通ります。ですが、その影朧たる彼女は皆さんを傷つけたりはしません」
そんな風に彼女は先回りして人々に頭を下げて願うのだ。
彼女は桜の精。
影朧に癒やしと転生を望む者であればこそ、いくらでも頭を下げようとしたのだ。
「だが、そんな事を言うが、本当に無害なのか?」
幾人かの人々はそう尋ねる。
未だ影朧に対する恐れがあるのだろう。知らないということは罪であるという言葉があるが、知る術を持たぬ者たちにもそれは当てはまるだろうか。
否である。
スリジエはそのために走ったのだから。
人々が影朧を恐れるのは当然である。
何がしかの災厄を運んでくる。恨み言を撒き散らすかもしれない。それは呪となって自分の近しいものたちを傷つけるかも知れない。
どれだけ猟兵が言葉を尽くしたとて、理解されないかも知れない。
けれど――。
「あの影朧はただ、生前の執着……逢いたいと願う人の元へ往きたいだけなのです。あの影朧は弱いのです。むしろ、皆さんからの悪意にとても弱く、向けられると消えてしまいます」
それは息を吹きかけるだけで消えるろうそくの灯火のようなものであった。
だから、どうかとスリジエは頭を下げる。
「彼女を満たし、癒やすためには、どうしても山へ向かわないといけないのです。どうか、彼女の歩みを妨げないようにお願いします」
彼女の言葉は真摯なものであった。
見るものの心を打つものであった。打算もなにもない。頭を下げ、願うことしかできない。
たったそれだけのことだ。
人は人の善意を全幅に信じることができない。
それは僅かに心に残る疑念がそうさせる。どこかで疑うのだ。本当にそうであろうかと。
だからこそ、スリジエは頭を下げ、願う。
「どうか、お願いします。人の心が、魂が行きつく先から滲み出たのが影朧であるのなら」
その心は傷ついているのだと。
その傷ついた心を癒やしたいと願う善意は、徐々に広がっていく。
誰かが言った。
「超弩級戦力のユーベルコヲド使いがいるんだ。見ろ、あんなにも哀れなる影朧だ。もう消えてしまいそうだ。けれど、それでも何か執着があるのだろう。俺達は、そんな吹けば消えてしまいそうなものすら奪うというのか」
その言葉はスリジエの必死なる願いに人々の善性が応えたものであった。
スリジエの表情が明るく華やぐ。
それまで渋って疑いの眼差しを向けていた者でさえ、その花が咲いたような表情にほだされる。
疑って悪かった、と詫びる者たちにスリジエはいいえ、と微笑んで己の願いが聞き届けられたことを喜ぶ。
「だって、やれることの一つですから」
だから、機にしなくっていいのです、とスリジエはまた再び駆け出す。
何度でも頭を下げよう。
どれだけ人の悪意があろうとも、それでもスリジエは走る。必死に走り、頭を下げ続ける彼女の姿は、きっと伝播するように帝都の街に善意の華を咲かせることだろう――。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
影朧……彼女の存在を保つのは其方の方面に明るい方にお任せして…
『良き結末』に繋げる為には、未練に関わる方の協力も必要不可欠
我が身は御伽の騎士ならぬ身なればこそ
両者の望みを叶える為の客観的な情報が必要です
帝都櫻学府の方から来たものです
皆様の安全は私達が保障させて頂きます
影朧の転生にご協力下さい
(礼儀作法とUC併用
消防署の方から~の詐欺師の手口で権威用い人々の不安抑え)
影朧の目的地はこの先の山なのですが、そちらに何かお心当たりある方はいらっしゃいますか?
(人々の反応をセンサーで●情報収集、該当人物●見切り)
あの山に…いえ、其処に住まう方にお心当たりが?
お聞かせ願えますか
そのお方の来歴と現状を
殊更に弱いオブリビオンである執着在りし影朧、像華『面映』は最早人に害をなすだけの力もなければ、もとよりそのような目的すらなかった。
あるのはただの執着。
彼女の瞳が捉えるのは終始、一点を見据えていた。
トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は、その一点こそが彼女の執着の根源にして、終着点であると知る。
だが、幾つもの問題が在る。
無害化したとは言え、オブリビオンである影朧を人々は恐れる。恐れは無知と合わさって人の心に恐怖を呼ぶことだろう。
そうなってしまえば、弱いオブリビオンである像華『面映』は風前の灯火のように儚くも消滅してしまう。
悪意をぶつけられるだけでも消滅してしまうし、果たして目的地にたどりつくまで保つことができるかどうかすら危ういのだ。
だが、トリテレイアはその方面に関しては、他の猟兵に任せることにした。
それは彼が彼らしく騎士として彼女の力になるためであった。
「『良き結末』につなげる為には、未練に関わる方の協力も必要不可欠」
そう、この事件の、物語の終末に訪れるもの。影朧の転生。癒やしを与えるためには、情報がいる。
人となりを知ることで他者は何者かに感情を移入することができる。
「我が身は御伽の騎士ならぬ身なれば、こそ」
トリテレイアは御伽の騎士ではない。
戦機である。だが、だからこそ影朧と彼女の執着たる者、その両方に手を伸ばす。そのために必要な客観的な情報が必要なのだ。
「帝都桜學府の方から来たものです。皆様の安全は私達が保証させていただきます。影朧の転生にご協力ください」
トリテレイアの風貌は帝都のユーベルコヲド使いとは異なるものであった。
それ故にトリテレイアは一度は不信な目を向けられる。
本当だろうか、と。
だが、その奇異なる風貌成ればこそ人々は気がつく。彼等が帝都において幾度も影朧との戦いにおいて姿を表す超弩級戦力であると。
トリテレイア自身は僅かに苦い思いである。
彼の言葉は巧みであったが、いわば詐欺師の手口と同様であった。権威の名をかざし、人々の信用を得る。
そういった手腕であったのだが、それでもこの場において説得力という意味ではトリテレイアの言葉は人々に受け入れられることだろう。
「それはわかったが、一言に転生と言っても私達は何を」
人々の中から手が上がる。
他の猟兵が頭を下げて回った成果であろう。トリテレイアが思う以上にすんなりと事が運んでいく。
「影朧の目的地はこの先の……ええ、そうです。あの外れにある山なのですが、そちらにお心当たりある方はいらっしゃいますか?」
影朧、像華『面映』。
彼女は常に一点だけを見ていた。あの山、彼処に彼女の執着があるのならば、そこに住まう者こそが、彼女の執着。
「ああ、あの山。集落があるわけでもないけれど……」
「あの山に……いえ、其処に住まう方にお心当たりが?」
「元々は樵が済んでいて、木材なんかを降ろすための鉄道が敷かれてたんだが……もうとっくに樵の数も減ってしまって、俺の祖父さんの時代だったか……」
一人の男性が思い当たる節があったのだろう。そんな事を言えば、次々に人々から手が上がる。
トリテレイアが、其処に住まう者の来歴と現状を、と尋ねる前に口々に言葉が上がる。
まるで四方八方から情報が集まるが、彼は戦機である。どれだけ一度に言葉を投げかけられても混乱することなく情報を精査することができる。
曰く、元々樵が集落を作って木材などを鉄道で持って搬出していた。
だが、年々木材などの消費が落ち込めば集落は小さくなり、そこに住まうのはもうたった一人の老人だけになってしまっている。
男性の老人であるが、今もまだ樵として働きながら日々生活しているのだという。
身寄りがないようであるが、人当たりのよい老人らしく、時たま往来があるようだった。
「……ありがとうございます、皆様。必ず私達が影朧の転生を為しましょう。申し訳ありませんが、もうしばらく何事もないように過ごしていただければと思います」
トリテレイアは人々に礼を告げ、頭を下げる。
人々は大したことはしていないというようにトリテレイアと影朧から離れていく。
彼等は彼等の日常を。
猟兵は己達の務めを。
そして、影朧たる像華『面映』は、己の執着のために歩みを進める。
少しずつであるが山へと近づいていく。
「――……一人孤独になりながらも、今もまだ亡き人を想う者。それが貴女の想い人なのですね」
トリテレイアはそのカメラアイに影朧の姿を捉える。
嘗ての執着の残滓であったとしても、骸の海に落ちておなお、その心に在るのは誰かを想うということ。
それをひどく眩しいものを見るように、トリテレイアは騎士としての務めとして、随伴するのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
月見里・美羽
ボクにできることは数少ない
考えたけれども、面映さんに寄り添って
彼女の杖になるように歩くよ
あまりにも弱っているようなのでUCで少しだけ回復を
これはね、恋が実ったときの歌なんだ
貴女の想いが少しでも叶うように
祈りを込めて歌うよ
ボクの言葉は、オブリビオンの貴女には届かないと知っているけど
会いたい人はどんな人だったのかな
どんなところを好いたのかな
恋をする友人同士のように、声をかけて
歌いながら歩けば、道も開けてもらえないかな
害を与えるつもりは全くないんだ
ただ、好きな人に会いたい
それは罪ではないでしょう? ボクはそう思うんだ
アドリブ、絡み歓迎です
人が歌を歌うのは何故だろうか。
己の思いを、願いを、祈りを。
それを歌声に乗せて歌うのであれば、それは人の意思を誰かに伝える手段であったことだろう。
文化という華が咲くサクラミラージュ、帝都において月見里・美羽(星歌い・f24139)の歌声は花のように(ハナノヨウニ)響き渡る。
「降り注ぐ ひだまりのような想いを 抱きとめてほしい 柔らかな 風にそよぐ花のよう」
彼女の歌声は瞬く間に人々の耳に入る。
その歌声を持って人の心に芽吹いた恐怖を慰撫するように優しく響くのだ。
それは花が咲くような歌声であった。
美羽は自身にできることは少ないと思っていた。
考えて見たけれど、何かなせることがあるとは思えなかった。だからこそ、弱りきって無害化した影朧、像華『面映』に寄り添い、彼女の体を支える。
杖のように彼女の傍に居て、彼女が倒れ込みそうに成る度に支えた。彼女が見ているのは常に山の一点だけだった。
そこにある執着がどれだけのものであるのかを美羽は計り知ることはできない。
けれど、それでも。
誰かに恋し、焦がれたことがあればこそ共感できるものがあるだろう。
「これはね、恋が実った時の歌なんだ。貴女の想いが少しでも敵うように。祈りを込めて歌うよ」
彼女の歌は希望にあふれていた。
どこまでも優しく、どこまでも誰かの心に励ましを与えるものであった。
ユーベルコードの輝きに寄って誰かの傷跡を優しく撫でる。そうすれば、痛みは引いていく。そんな優しい歌声を聞く帝都の人々もまた同じであった。
美羽は自分のことがオブリビオンである影朧の少女の耳には届かないだろうと思っていた。
それでも聴きたい。
まるで華やぐ女学生のように、彼女たちが心を秘めた胸を躍らせるように言葉を交わす。
「逢いたい人はどんな人だったのかな。どんなところを好いたのかな」
「……――逢いたい。お優しい方。風の音色のような声のあの方」
返答が在るとは思わなかった。
その言葉は弱々しく、ぽつりぽつりとしたものであったけれど。
それでも美羽の耳に届いた。それは恋する友人同士が語らうように、美羽の心の中を一気に明るいものにした。
いつだってそうだけれど、誰かを想うということは素敵なことだ。
今ならば世界のなんだって変えることができそう。そんな風に思えるほどに胸が高鳴るのだ。
「……――穏やかな眼差し。人を傷つけることを恐れている方。わたくしのようなものにさえ、隔てることなく接してくださったあの方」
それは一つ一つ整然の、いつかの彼女であった存在が持っていた執着の記憶であったのだろう。
他に何一つ思い出せなくても、執着の存在だけは未だ魂にすら刻まれているようだった。
「優しい人だったんだね――……」
美羽は支えながら歩く。
けれど、此処は帝都の街中。人々でごった返す道。どうあっても人の視線や体は僅かなことであっても障害となってしまう。
「道を開けてもらえないかな。害を与えるつもりは全くないんだ。ただ、好きな人に逢いたい。それは罪ではないでしょう?」
ボクはそう想うんだ。
美羽の言葉は、以外にもすんなりと人々に聞き入れられる。
誰の心にも想う誰かがいるだろう。
それは何も恋するだけにとどまらないはずだ。肉親、友人、恋人。そんな関係性を顕す言葉はどれもが彼等の胸に抱いた想いを表現するには言葉足らずだった。
だからこそ、道が開く。
猟兵たちが頭を下げ、言葉を尽くしたからこそ、人々は道を開ける。
影朧は恐ろしい。
けれど、それ以上にその胸に抱いたもの。執着と呼ぶものが眩しい。
あんな激しくも燃えるようなものをもって生き抜くことができたのならば。それはきっと人生という意味を与えるものであったのかもしれない。
そんな眩さと美羽の歌声に道は開く。
人の悪意が影朧を殺すのだとしたら。
人の善意もまた影朧を癒やす。その意味を美羽はこころの内に宿すのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
サリー・ヤナギバ
あまりにも一途すぎて私の胸も痛いくらい…
「落ち着き、祈り」を込め頭を下げる
帝都の皆様、お騒がせの上に一つお願い申し上げます
どうかこの影朧にそっと道を空けて下さいませ
影朧は超弩級戦力の手によってすでに姿を留めるのが精一杯
…嘲りの言葉一つで消し飛ぶ程に弱り
ただひとつの未練の為辛うじて姿を保っているだけ
その未練はごく些細なもの
或る山に住まう心懸けた方をただ一目見たい
…恋わずらい、ですね
とても深く想ったのに控え目過ぎた事で絶たれた
私は彼女を憐れと思います
未練を断ち生まれ変わって欲しいと
悲しい魂の鳥路を皆様にも開いて欲しい
もし仇為す気配があれば私達が即刻影朧を討ちます
ですから、今はどうか
アレンジ連携OK
その想いはあまりにも一途すぎて、サリー・ヤナギバ(白い手のサリー・f30764)の胸の内側から痛みを発するほどであった。
彼女に未だ恋は早いものであったのかもしれない。
理解しきれないのかも知れない。
けれど、彼女の胸の痛みは確かに彼女を走らせていた。弱々しい影朧。すでに存在を保つだけで精一杯の存在。
風前の灯火のように悪意の一息だけでも消えてしまい兼ねない存在。
そんな影朧、像華『面映』を護るためにサリーは祈るように頭を下げるのだ。
「帝都の皆様、お騒がせの上に一つお願い申し上げます。どうかこの影朧にそっと道を空けて下さいませ」
きっと人々は心の中に未だ恐怖を抱いているだろう。
それはどうしようもないことだ。人は未知なるものを恐れる。暗がりの中にすら恐怖を抱くのであればこそ、その恐怖は決して完全に拭い去ることなどできない。
どれだけ言葉を尽くしても、影朧が無害化していると言われても、それでも拭えぬ一点の恐怖が残る。
「影朧は超弩級戦力の手によってすでに姿を留めるのが精一杯……嘲りの言葉一つで消し飛ぶ程に弱り、ただ一つの未練の為辛うじて姿を保っているだけ」
サリーが胸に痛みを抱えるのは、彼女が理解しきれぬものの衝動によるだけではない。
儚い存在。
それが抱えるもの。それが人の悪意だけで消し飛んでしまうのが恐ろしかった。それは言い換えれば、誰かの意志無き言葉でさえも、そこに在るものを消してしまう力を持っているからだ。
「――その未練はごく些細なもの。或る山に住まう心懸けた方をただ一目見たい。それだけなのです。ただ、それだけのことなのです」
その願いすらも否定されてしまう世界があるのだとすれば、その哀しみは如何なるものか。
だからこそ、サリーは信じる。祈る。
人の悪意があるのならば、人の善意もまたあるのだと信じ、祈る。
「本当にそれだけでいいのかい」
その言葉は雑踏の中から問いかけられた。
一目見たい。ただそれだけで気が済むものなのかと。それはサリーにとっては思いがけないものであったのかもしれない。
「……恋煩い、ですね。もし、仇為す気配があれば私達が即刻影朧を討ちます」
それは人の生命がかかっていることであったからこそ、サリーは決意と共に問いかけに返す。
それは誰かを信じたいと願う問いかけであったのだろう。
サリーたち猟兵、超弩級戦力を信じたいと願う言葉であり、同時に影朧の執着が邪ではないと信じたいと願う言葉でもあったのかもしれない。
サリーは影朧、像華『面映』を憐れに想う。
とても深く想ったのに控え目過ぎたことで断たれた未来がある。その未練こそが執着となって骸の海より滲み出たのであれば、それを断ち生まれ変わって欲しいと願う。
そして、同時に悲しい魂の鳥路を人々にも聞いて欲しい。
それが人の何かを変えるきっかけになるであろうとサリーは信じている。
「拭えぬ悪意が人の心に在るのだとすれば。同時に人の心に在る善意もまた心の内に広がるものであると信じたい」
サリーの言葉は人々の足を動かす。
道は開いた。それは誰もが心に抱えるものがあるからこそ。恐怖が消えないわけではない。
けれど、悲しきものを悲しいものにしてはおけぬという人の心の暖かさでもあった。
それを感じて、サリーは微笑む。
人々は日常の暮らしへと視線を向ける。いつもどおりの日々。
ただ、誰かが悲しい思いをしているのならば、それを捨て置けぬと見知らぬ誰かであっても力を貸そう。
そんな暖かな心の光が今、帝都に広がっていく。
その光景をサリーは、そう想い、感じるのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
黒鵺・瑞樹
アドリブ連携OK
WIZ
どうしようか。
あまり対人関係得意とは言えないんだよな。
その直接的というかストレートに言いすぎてしまいがちで…オブラートに包むような言い様ができないんだよなぁ。
だから影朧と共に進もう。
もし不安に思う人々がいれば、危険があれば即座に俺が斬る事を約束し。
影朧には無理させない程度に、でも歩みを止めないように消えないように…だって逢いたいんだろう?
逢ったことでまた未練が生まれるかもしれない。
でもこのままやっぱり未練が残るなら、行動しない後悔より行動しての反省を俺は選びたいから。
影朧だろうがなんだろうが、そう人にはあって欲しいと願うから。
黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)は悩んでいた。
どうしようかという思いだけが心のなかで虚を生み出すようでもあった。
対人関係が得意であるとは言えない自身。
何かを伝えようとする時にどうしても直接的というかストレートに言いすぎてしまいがちな自分を省みる。
オブラートに包むような言い方ができない。
ヤドリガミである自身の体にあるのは、『誰が為に』という想いを受け継いでいる。相反するような不器用さは、彼の心と体をバラバラにするようであった。
けれども、その場から足を遠のかせ、離れることはしなかった。
どうあっても己の言葉が直線的であることは否定できないし、直すことも難しい。
なのであれば、どうするべきか。
「――……影朧と共に進もう」
そう決意する。
瑞樹にとってそれこそが今為せることの一つであった。唯一であったと言ってもいい。
人々の瞳を見ればわかる。
どれだけ超弩級戦力である猟兵に言葉を尽くされてもなお、その心のなかには恐怖を捨てきれぬ者もいることを。
「もし、不安に思う人がいるのならば。即座に俺が斬ろう。誰かを傷つける素振りがあれば」
自分が汚れよう。
誰かの生命が脅かされてからでは遅すぎる。
自分たちの行いが、帝都に日常を生きる人々にとってはエゴであるということはわかっている。
どれだけ無害化していると言われても不安に思うのは仕方のないことだ。誰もが同じ様に己の生命を賭すことができるわけではないのだから。
「何故、そんなにまでしてその影朧をかばうのだ」
誰かが言う。
もっともな疑問であったことだろう。
自分だってそう思う。
立場が違えば、そう思うだろう。でも、だからこそ。
「……だって、逢いたいと言うんだ。深く傷ついた生命だからこそ、影朧となって現れる。なら」
その想いが純粋なものであるのならば、遂げさせてやりたい。
人の傷ついた魂に癒やしを与えることができるのならば。その機会と力があるのならば、それを遂げさせてあげたい。
それは善なる行いであったことだろう。
「逢ったことでまた未練が生まれるかもしれない。でも、このままやっぱり未練が残るなら、行動しない後悔より行動しての反省を俺は選びたいから」
それがエゴであることを知っている。
自覚しているけれど、それでも道理を越えた感情が叫ぶのだ。人を傷つけぬやり方で己の感情を発露させる。
未練という感情が残ってしまえば、それは癒やしにはならない。
葛藤と矛盾の中で思い悩むことこそが、生命の本質であるというのならば正解だらけの人生に意味はない。
失敗からしか学ぶことはない。
学び、知り、練磨されてこそ人生という路は輝く。
傷を傷としか見れぬのならば、それは磨かれぬ。あらゆる傷跡を慰める手も、輝きに変えることができる。
「影朧だろうがなんだろうが、そう人にはあって欲しいと願うから」
だから、瑞樹は影朧と共に歩む。
その先に果たして未練無き癒やしがあるのか。それがわからなくても、それでも暗中を歩むように。暗がりだからこそ見える輝きを目指して歩むのだ――。
大成功
🔵🔵🔵
大町・詩乃
帝都櫻学府の一員を名乗り、私達が責任持って保護と監視を行いますので、周囲の皆さんには『面映』さんを傷つけたり悪口を言わない様にお願いしつつ、『面映』さんと一緒に山に向かいます。
道中、『面映』さんに「貴女が会いたい人はどのような方なのでしょう?教えてくれませんか。」とお願いし、彼女の話を聞いて「会いたいですよね。貴女の気持ちは判るような気がします。」と『面映』さんの想いに寄り添って、共に歩みます。
また少しでも『面映』さんの気分が明るくなるよう、響月で明るい内容の曲を楽器演奏します。
何か起こりそうであれば『面映』さんの前に立ってかばったり、好奇の目を向ける方にそっとしてもらえるよう促したりします。
「私は帝都桜學府の一員です。この影朧は私たちが責任持って保護と監視を行いますので、周囲の皆さまにおかれましてはどうかいつもどおりの日常を過ごして頂きたいのです」
大町・詩乃(春風駘蕩・f17458)は言葉を尽くす。
人の身ではない神性を宿した神たる身であれど、その言葉は人々に信を得ることに長けていたのかもしれない。
彼女の言葉は説得力を持って人々に受け入れられる。
それまでに他の猟兵たちが尽くした下地があってこそであったことだろう。詩乃の言葉に誰一人として異を唱えるものはいなかった。
たった一つの悪意ある言葉でさえも、今の無害化された影朧である像華『面映』は消滅してしまう。
それほどまでに力を喪っている。いつ消えてもおかしくない状態なのだ。
だが、それでも像華『面映』は歩く。
その瞳がただ一点――……山を捉えている限り、詩乃は彼女が周囲に害を為すことはないだろうと信じていた。
「貴女が逢いたい人はどのような方なのでしょう? 教えてくれませんか」
その言葉は彼女に届くであろうか。
半信半疑の問いかけであった。無害化したとはいえ、影朧はオブリビオンである。そこに猟兵という存在と相対しているという事実が如何なる事態を招くのかは想像するしかなかった。
「……――お優しい方。いつまでも、ずっと、自分よりも他の誰かの気持ちばかりを慮ってしまう方。だからわたしくしは」
ぽつり、ぽつりと言葉が漏れ出る。
像華『面映』の生前の魂に刻まれた執着。
それは嘗て抱いた愛の影法師でしかない。それが本物であるとは誰もが証明できない。偽りだと言われても仕方のないことであり、執着を叶える必要なしと断じられてもしかたのないことであった。
瑣末事である。
しかし、詩乃や他の猟兵たちは違う。それをたった一つの言葉では終わらせない。そうしてはならぬと彼女たちの心が叫ぶ。
「だから、わたくしは――……あの方の心の重りを一つ分けていただきたかった」
それを愛と呼ぶか。
けれど、そうしたいと願うかつての誰かの思いは、こうして執着として影朧としてでも滲み出るほどに強いものであった。
「……逢いたいですよね。貴女の気持ちは判るような気がします」
その想いに寄り添いたい。
たとえ、それが憂いであったのだとしても、誰かの憂いの傍に寄り添うことこそが優しさというものである。
共に歩く。
瞳が捉えるのは、帝都の外れの山。その一点。
「ならば奏でましょう」
手にした竜笛から詩乃は旋律を響かせる。それは悲しいものでなくて、聞く者の心を明るくするものであった。
今でも人々の心には潜在的に影朧への恐怖があるだろう。
未知なる者を人は恐れる。
それはどうしようもないことだ。恐ろしいと思う心が在るからこそ、人は恐怖を乗り越えた先に善性を発露させることだってある。
「人の心は移ろい、それでも彩りを変えて輝くもの。ならば、貴女の心もそうなのでしょう。鈍色であった貴女の心に彩りを与えた方。その方が貴女の心に癒やしを与えるのならば、その執着を持って虹色に輝かせるのなら」
それは人の心の救済であろう。
神性宿す詩乃だからこそ、為せることがある。例え、偽りだらけの愛であったのだとしても、それを愛ではないとは言わせない。
人の時代が許さぬものがあったのだとしても。
それでも。
それでも、誰かを愛することに偽りなどないのだと詩乃は信じているのだから――。
大成功
🔵🔵🔵
サージェ・ライト
ふぅ、とりあえず落ち着いた展開になってよかったです!
これで面映さんがあの山に辿り着ける確率があがりましたね
一緒に行きましょう!
街の人には他の人が色んな手配してくれてる感じなので
私は【かげぶんしんの術】でしゅばばばっと増えましてですね
面映さんを運びます!
この世界ならあるはずです、人力車とかダルマ自転車付きの籠とか!
それをお借りして面映さんを運びましょう
少しでも面映さんの力を温存できるように
あなたの力は本番に取っておいてください!
運転手役を(交代役含めて)十数人残したら
残りは偵察とか交通整理とか障害物の撤去とかしましょう
いっぱいいますからねー
遠慮なく乗ってくださいね!
※アドリブ連携OK
無害化された影朧、像華『面映』。
それは最早風前の灯火のように弱々しい存在でしかなかった。猟兵たちは彼女の転生……つまりは、癒やしを与えるために奔走する。
人々の悪意や誹りだけでも消滅してしまいかねない影朧である彼女に救いがあるようにと心を砕く姿は、帝都の人々の心に恐怖以上の善性を湧き上がらせることになっただろう。
そんな人々の営みを見やるのは、人々の思いによって結実した存在であるバーチャルキャラクター、サージェ・ライト(バーチャルクノイチ・f24264)は息を吐きだして、一息つく。
「ふぅ、とりあえず落ち着いた展開になってよかったです!」
これで像華『面映』が、彼女の執着の示す終着点である山にたどり着ける確率が上がった。
それは一人の猟兵だけの力ではない、この場に転移した猟兵と帝都に住まう人々の善性によって成り立つものであった。
サージェはそれが喜ばしいことに思えた。
何処まで行っても人は個人でしかない。どれだけの関係性、人間性があろうとも人は人でしかないのならば、何かを前にして一つになることは難しいことであった。
大きな脅威を前にしても一つになりきれないからこそ、人の心は様々に輝く。
「だから、私は私のやるべきことをなしましょう! ――しゃどーふぉーむっ! しゅばばばっ!」
サージェの瞳がユーベルコードに輝く。
かげぶんしんの術(イッパイフエルクノイチ)によってサージェの分身たちが一斉に帝都の街中を駆け巡る。
彼女には思い当たるものがあった。
確かにこのまま影朧である像華『面映』の足取りに任せてもたどり着くことはできるかもしれない。
けれど、それでももっと確実性を上げてもいいのではないか。
そう、サージェが思い至ったのは人力車。この帝都であれば在るはずなのだ。街中を駆け巡ってサージェは人力車を探す。
「ありました! すいません、どうかそれを貸してくださいな!」
サージェは唐突な願いを人力車を引く者に願い出る。
本来であれば、それは叶えられることのない願いであったことだろう。けれど、他の猟兵達の言葉、願いが結実する。
人々は人の善性すらも伝播させる。サージェの願いに二つ返事で人力車を貸し出してくれるのだ。
「ありがとうございます! これで――!」
少しでも力を残して山の麓までは行ける。サージェは『面映』を人力車に乗せて、まさに人海戦術のように分身たちによって彼女を一気に山の麓まで力技で推し進める。
「少しでも力を温存できますように! あなたの力は本番に取っておいてください!」
サージェと分身たちがえんやこらと人力車を推し進める。
少しでも長く。
少しでも確実に。
それがサージェの願いであった。人の思いは強いものである。それは電子の海にて人々の思いや概念が結集してできあがったクノイチという概念の集合体であるサージェにとって、どうしても叶えてほしいものでもあった。
分身たちが障害物や交通整理を執り行い、つつがなく道を進む。
人の思いの強さは言うまでもない。
だからこそ、その結果が悲しいものであっていいはずがない。傷ついた者がいるのならば、その傷跡にこそ癒やしがなければならない。
世界に哀しみは満ちている。
それはどうしようもないことだ。けれど、その悲しみを癒やし、より良き次なる命へとつなげることができる。
それがサクラミラージュのオブリビオン、影朧だ。
弱々しい存在である。でも、だからこそ懸命に生命を燃やす。そこに人の善性が加わるのであれば、サージェはきっと微笑んで明日を迎えることができる。
「さあ、後もう少しですよ! きっと、きっと、良い明日が来るはずですから!」
その言葉は、自分に言い聞かせているようでもあり、同時に誰かの魂が救済されることを願って止まぬ言葉でもあったのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 日常
『夏の線路』
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POW : 錆びた轍の路に誘われて夏の廃線跡を進む
SPD : 吹き抜ける風に誘われて夏の廃線跡を進む
WIZ : 遠い汽笛の音に誘われて夏の廃線跡を進む
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
影朧、像華『面映』の執着たる山の麓へとたどり着いた猟兵たち。
目の前に続くのは寂れた線路の道。
かつては樵たちが切り開いた山の中から木材を搬出するために使った道である。その先に彼女の執着たる、生前の想い人がいる。
年月が流れ、想い人は年老いてしまっているだろう。
すでに木材の消費が落ち込み、集落とも呼べぬ山の中に一人暮らす想い人は何を思って山にこもるのか。
けれど、そんな彼を一目見たいと願う者がいる。
ならば、猟兵は傷ついた魂に救済を齎すべく走る。傷ついたままの魂をそのままにはしておけぬという善性が彼等を走らせるのだ。
どうか良き結末になりますようにと、一人一人が紡ぐ。それは一人では頼りない細糸であるかもしれない。
けれど、より合わせていけば強固なるものになる。
その先にあるのが、如何なるものか。
わからない。未来を知る者は少ない。だからこそ、人は懸命であれねばならぬ。
●あやまち、いつわり、されど
私の人生は過ちと偽りと、そして後悔にまみれていたと思う。
今は一人になってしまった山の中に在ることこそが、その贖罪である。私はいつも人のことばかりを気にかけている人間であったように思える。
すでに生命の灯火はかすかなものであると自覚がある。
静かに人生の幕を下ろそうと考えれば、考えるほどに蘇るのはあの人の笑顔であった。
花が咲くような笑顔を見せる人であった。
身分の違う女性。
とうてい釣り合わぬものであり、それは同時に最初から終わっていた恋であったのだろう。
「間違えたのだ。私は。あの時、あなたの笑顔を前にして嘘をついた。幸せを願っていたことは偽りなどではなかったけれど、わたしのことを忘れてしまいなさいと言ったことは」
それは偽りであった。
ならば、その愛は偽りであったのだろう。己の心を偽ることのできる愛が果たして愛であったのだろうか。
後悔ばかりである。
あの人は早死してしまったと聞いた時、己の魂がひび割れたのを覚えている。誰と逢っても、誰と隣りにいても、いつだって、どこででも孤独を感じた。
自ら手放したものであるのに。
偽愛であったと心が認めたというのに、未だ私の心を締めつけるのは、あの人の笑顔ばかりであった。
「私が傷つけたのだ。だからこそ、私の人生には後悔ばかりがまとわりつく」
そう、これでいい。
愛を偽りだと言った私自身への罰。これが贖罪である。
ああ、願わくば。
●そして
猟兵たちは線路を征く。
人の心は移ろい、傷つきやすい。けれど、同時に輝きも放つ。
ユーベルコードではどうしようもないものである。だからこそ、信じるほか無い。
一目みたいと願った執着。
その行方を見なければならない。
誰もが願っている。
良き結末が訪れることを――。
トリテレイア・ゼロナイン
(機械馬騎乗、線路の先の樵の元へ)
帝都櫻学府の方からの者です
此方にお住まいと聞き、避難の脚となるべく参上いたしました
その影朧とはこのような容姿で…
…心当たりお有りのようですね
『あの方を一目見たい』と…そう願っておられました
儘ならぬご関係であったことは推察いたします
そして負い目故に会う資格など無いと思われていることも
死別した者達の顔…己が罪を直視する辛さ
私にも覚えがありますので
ですがあの方は生前の記憶の儘にこちらを目指し、貴方は此処に居続けた
…縁は切れておりません
己が心の平穏でなく、あの方の幸いを今度こそ望むなら
騎士としてお連れ致します
女性は一人で歩かせるものではありません
お迎えに上がりましょう
機械の白馬が山の中腹へと至る線路の道を征く。
さっそうと駆け抜ける姿は、まさしく疾風のようでもあった。走る。走る。駆け抜ける。
それは戦場を駆け抜けるのが本分なれど、それでも機械白馬『ロシナンテⅡ』は疾駆した。
風のように、今はもう嘗て在りし日の残影を後悔在りし者の元へと駆け抜ける。
トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)の身中は如何なるものであったことだろうか。
騎士としての役目。
それを果たすために己が為すべきことは一つであった。
他の猟兵たちよりも一足早く樵の元へと駆け抜けたトリテレイアが見たのは、実利を突き詰めたような鍛えられた肉体の老人であった。
静観な顔つきの瞳の中にあるのは、これまで刻まれてきた人生の輝きであった。
初めて見るであろう機械騎士の姿に驚きは隠せずとも、その心は未だ凪いでいるようにも思えた。
「帝都桜學府の方からの者です。此方にお住まいと聞き、避難の足となるべく参上致しました」
トリテレイアは丁寧に説明する。
だが、老人の瞳は未だ凪いだまま。影朧の特徴を伝えても未だ凪いだままだ。生前の姿通りの姿を影朧がしているわけではない。
けれど、トリテレイアは決定的な言葉を吐き出す。
「そのような方が何故私の元へ。避難と言われても」
「貴方が未だ独りである理由。お心当たりがあるはずです。影朧とは心を深く傷つけた者が成る存在」
肩が震えるのをトリテレイアは見逃さなかった。
確かな同様。凪いでいたはずの瞳がさざ波を立てる。溢れるのはいつかの日の悔恨であったことだろう。
「お心当たりお有りのようのですね。『あの方を一目見たい』と……そう願っておられました」
だからこそ、トリテレイアは速駆にて駆けつけたのだ。
その願いを叶えるために。その執着を終わらせるために。次なる生に進むために。
時代が許さなかった恋があったことだろう。
何もかもが儘ならぬこともあったことだろう。それを悔いていることもわかっている。
「私は……」
それでも、本人にはそんな資格などないと知る。
そこにあったのは彼女を傷つけたという負い目。己の不甲斐なさ。あらゆるものが彼の心を今攻め立てていることだろう。
痛みに心が張り裂けそうなことも承知している。
「死別した者達の顔……己の罪を直視する辛さ。私にも覚えがありますので」
だからこそ、トリテレイアは言葉を紡ぐ。
今すぐにでも強引に機械白馬に老人を乗せて駆け抜けることもできるだろう。だが、それはしてはならぬことだ。
何もかもが手遅れであると、そう嘯くのならば、トリテレイアは見せなければならない。
人の縁が如何なるものであるか。
悪縁奇縁良縁。あらゆる縁が紡がれるからこそ、人の営みは途絶えずに続いてきたのだ。
機械たる身、戦機である己の中にも在る悔恨と罪悪がある。
しかし、それから目をそらしたところで何も変わらない。何かを変えなければと願うからこそ、トリテレイアは手を差し伸べる。
「ですが、あの方は生前の記憶の儘にこちらを目指し、貴方は此処に居続けた」
すでに人の営みとは程遠い場所。
住居を移さぬ理由などないはずだ。だが、彼には在るのだ。此処に在るという意味を、たしかに持っている。
自覚があるはずだ。だからこそ、トリテレイアは告げる。
「……縁は切れておりません。己が心の平穏ではなく、あの方の幸いを今度こそ望むなら――」
その言葉はトリテレイアの願いでもあった。
どうしようもなエゴ。
誰かのために在る存在であれど、時には騎士として。己の責務を果たす。それは嘗て夢見たであろう理想の騎士。御伽の騎士。されど、己の身はそれに能わず。
だが、今此処にその意義を見出す。
己の身体が頑強である理由。己の持つ力が何をなさねばならぬかを炉心が燃えて教える。示すのだ。
「騎士としてお連れ致します。女性は独りで歩かせるものではありません」
伸ばされた手を掴む。
人の心の輝きこそが、トリテレイアの炉心に火を灯す。
その輝きを絶やしてはならぬと、己の中の騎士道が言う。誰かのためにこそ成るべきであると。
そう造られたからこそ、意義を果たせと。
「お迎えに上がりましょう」
そういって機械白馬はさっそうと駆け抜ける。
何事にも手遅れなんてことはない。本当に出会ったもの同士であれば、別れなどない。どれだけの、幾千、幾万もの別れが訪れようとも紡がれた縁は途切れることなどないのだとトリテレイアは誇らしさを感じ、白馬を駆るのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
サージェ・ライト
えーとー……どこにあったかなー?(【くちよせの術】でがさごそ)
あ、ありました!変装用町娘の着物!
そそくさと着替えましてー目立たない目立たない
だって今回のヒロインは面映さん
私は付き人に従事しましょう
古来よりお嬢様はワガママなもの
であれば、いかな理由であろうとも
この道行きを邪魔する不届き者はおらず
ただただ貴女を送り届けましょう
さあお手をどうぞ
ここからはゆっくり、ご自身の足で
錆びた轍の路も踏みしめれば
思い出すこともあるでしょう
そういえば……貴女のお名前は何と言うのでしょう?
もしよろしければ教えてください
(名前が効けたならその名で呼んで)
よかったですね♪
※アドリブ連携OK
「えーとー……どこにあったかなー?」
そんな声が山の麓で聞こえる。
くちよせの術(ナンデモデテクルベンリスキル)によって様々な忍道具をあっちこっちから探り寄せていたのは、サージェ・ライト(バーチャルクノイチ・f24264)であった。
彼女が探していたのは変装用の忍道具。
町娘の着物を早着替えのように一瞬で着替え終えたサージェは、己の姿を見回してうなずく。
だって今回のヒロインは像華『面映』である。サージェは付き人として従事しようというのだ。
いつもは目立ちすぎてしまう風貌も町娘の格好をしていれば、幾分鳴りを潜めることだろう。
とは言え、今は山の麓。人の気配もなく、あるのは錆びて朽ちていくほか無い線路が続く道であった。
「よっと……古来よりお嬢様はワガママなもの。であれば、いかな理由であろうとも、この道行を邪魔する不届き者はおらず。ただただ貴方を送り届けましょう」
少し芝居ががった口調。
サージェにとって目立たぬ町娘であり、今は像華『面映』の付き人である。形から入るタイプなのである。
そんな微笑ましげなやり取り。
けれど、弱々しくも無害化された影朧、像華『面映』は言葉を発しない。
発するだけの余裕がないのか。ただ、この線路の続く道の先にあるものを覚えているのか、ゆっくりとした歩調、時折身体が揺れ動き倒れ込みそうに成るのをサージェが支える。
「さあお手をどうぞ。ここからはゆっくり、ご自身の足で。錆びた轍の路も踏みしめれば思い出すこともあるでしょう」
手を取ってサージェが微笑む。
ありがとう、という声が聞こえたのはあまりにも儚い言葉であった。ともすれば聞き逃してしまうようなか細い声。
だが、しっかりとサージェの耳には届いていた。確かに今、影朧が猟兵であるサージェに感謝したのだ。
それはオブリビオンと猟兵の垣根を越えたことに違いはない。
誰かのために何かを為そうとすることは、きっといつかの自分に返ってくる。
そうやって因果は巡る。
人の営みもまた巡る。
「そういえば……貴女のお名前はなんと言うのでしょう? もしよろしければ教えてください」
サージェは気になっていたのだ。
かつての傷ついた魂が影朧として過去より滲み出てくる。かつて人で在りし時にある名前があったはずなのだ。
けれど、それは本人にさえ擦り切れて消えてしまった名前であるのだろう。思い出せない。
その名で呼ばれたことは覚えていても、その名を思い出すことができない。
「――……」
愛おしく呼んでくれた人が居た。
その名を思い出したくても思い出せない。その名の意味するところを知っているはずなのに。擦り切れてしまった過去の化身は、それでも胸に執着を抱いて進む。
サージェはゆっくりでいいのだと手を取りながら進む。
線路の向こうから駆ける音が響く。
それは他の猟兵がこの奥に住まう樵を連れてくる音。
「ほら、もうすぐですよ。あの人がきっと迎えに来てくれたんです。よかったですね♪ ――さん」
今はもう思い出せぬ名。
彼女の名を呼ぶ誰かがいる。サージェにとって、それは喜ばしいことだった。
人の思いが結実したのならば、それは華開くことだろう。
いつかの誰かの名を呼ぶ者が居る限り、人の営みと歩みは轍となって過去から未来へと繋がっていく。
この錆びついた線路にさえ、あり得たはずの未来と、これからが連なっていく。
それをサージェはゆっくりと共に歩むのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
月見里・美羽
ボクの好きな「あの人」は言った
好きならば、どうして諦めるのだ、と
キミが辛いから別れようと言ったボクへ、まっすぐに
だから、ボクは面映さんを連れてきたんだ
どんな事情があったかはわからない
好きだからこそ身を引くのもまた美徳だ
でも、好きだからこそ二人で乗り越えるのもまた、美しいと思う
面映さん
素直に言っていいんだよ
慕っていると 会いにきたと
それをどんな形で受け止めてもらえるかはわからない
でも、お一人で住まわれているというのが
何よりの答えだと思うんだ
流れた時間も、変わった姿も、関係ない想いが
きっと二人を引き寄せるって信じてる
ああ、どうか、幸福な終わりでありますように
アドリブ、絡み、歓迎です
弱々しい影朧、像華『面映』が歩む線路の道は錆びついていた。
もうどれだけの時間が流れただろう。あの頃と変わらぬままに続く線路。けれど、何もかもが変わっていく。
不変なるものはないけれど、それでも彼女の胸に抱いた執着は変わらない。
『あの人を一目見たい』
たったそれだけのために、骸の海より滲み出た存在。それが影朧である彼女のである。
寄り添うように共に歩むのは猟兵達である。
時に気遣い、時に励ます。
最早、影朧である彼女の歩みは弱々しいどころではない。きっと今も一歩を踏み出すだけでもその力を大いに振るわねばならないのだろう。
その姿は痛々しいものであったが、月見里・美羽(星歌い・f24139)は励ますように言葉を紡ぐ。
それが彼女にできることであった。
「ボクの好きな『あの人』は言った。好きならば、どうして諦めるのだ、と。キミが辛いから別れようと言ったボクへ、まっすぐに」
彼女の胸中に浮かぶのは、かつての出来事。
それもまた過去となって骸の海へと排出されていく。そうすることで世界は時間を進める。
何物も止めてはおけない。
変わることを止められない。
けれど、それでも変わらぬ思いがあることを美羽は知っている。
「だから、ボクは面映さんを連れてきたんだ」
あきらめることなんてないのだと美羽は言う。線路の道を往き、その先に影朧である彼女が求めるものが在る。
樵であった者、影朧と成った彼女。二人の間にどんな事情があったのかはわからない。
好きだからこそ身を引くこともまた美徳であろう。
誰かを思うことは大切なことだ。尊ぶべきものだ。けれど、と美羽は言う。
「でも、好きだからこそ二人で乗り越えるのもまた、美しいと思う――……面映さん、素直に言っていいんだよ。慕っていると、会いに来たと」
線路の向こうから聞こえる音。
それは他の猟兵がいち早く樵の元へと駆け、彼を連れてくる音であった。
美羽の瞳はそれをまっすぐに捉えていた。
彼女が望み、願った執着がもうすぐそこにある。
「――……あ、あ」
漏れ出る声は意味をなしていないのかも知れない。ただの感情の発露であったのかもしれない。
涙が溢れている。
ああ、と何かを思い出すように影朧、像華『面映』が足を止める。
「こ、こ……あの方とわたくし、が……」
初めて出会った場所。
いつかの誰かと、今駆けてくる者が出会った場所。あのときもそうだった。付き人がいた。立ち往生していたところに彼が駆けつけてくれた。
助けてくれた。優しくしてくれた。ただそれだけであったのだ。
「いいんだよ。それで。どんな形で受け止めてもらえるかはわからない。でも……お一人で今も住まわれているのが、何よりの答えだと思うんだ」
美羽は思うのだ。
誰かを思うことは素晴らしいことだ。何も諦める必要がないと言われたことを思い出す。
辛いからと思いやった心は、そのままに返ってきた。
それが人の営み。人の心が見せた輝き。
「流れた時間も、変わった姿も、関係ない想いがきっと二人を引き寄せるって信じてる」
だから、どうかお行き。
美羽は送り出す。その背中を送り出すように歌う。誰かの幸せを願うように、その歌声が彼女の背中を押し出す。
願わずにはいられない。
「ああ、どうか。幸福な終わりでありますように―――」
その願いはいつまでも変わることのないもの。
歌声が山の木々の中に吸い込まれていく。優しい日の光が、いつかの二人と。そして、美羽の歌声を綺羅星のように輝かせるのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
黒鵺・瑞樹
アドリブ連携OK
ただ歩く事しかできないな。
逢いたい気持ちも、想うからこそ偽るのもわかる気がするから。
見守る、というのも烏滸がましい気がする。
でもそれしかできないかな。どちらも今の過去の自分が重なって見えてくる気がしてきて。
後悔だって生きてるからこそ。
だからその終わりの時にはせめて悔いないように。そう思う。
足取りが止まる。
正面に見据える線路の向こうから駆けてくる音が響く。
それは他の猟兵が影朧、像華『面映』の執着である樵の男性……今はもう老人になっているであろう彼を連れて駆けてくる音であった。
ぴたりと共に歩んでいた影朧の足が止まる。
その瞳に執着たる者はまだ見えないだろう。けれど、その足が止まる。何故か。
「あ、あ……」
声が震えて、漏れ出る言葉は、彼女と彼がはじめて出会った場所だったのだろう。
線路の上、脚をくじいてしまった彼女の元に駆け寄る青年の姿を幻視したような気がしたのは、黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)であった。
ただ、共に歩くことしかできないと思っていた彼にとって、その幻視はあまりにも突然の出来事であったことだろう。
『誰が為に』という思いが己の心の始点であるというのならば、その身を作り上げたものもまた誰かの思いであったことだろう。
「逢いたい気持ちも、想うからこそ偽るのもわかる気がするから……」
見守る、というのも烏滸がましいと思ってしまう。
人の営みの果てにあるのがいつだって別れであるというのならば、それはとても心が苦しくなることであったことだろう。
心が、感情があるからこそ、人の心に苦しみが生まれる。
それを別離の悲しみでもって染め上げてしまう。
いつかの誰かである影朧もまたそうであろう。けれど、強烈なる執着が骸の海すらも越えて今に滲みに出る。
それが影朧である。
「……――あの方が」
影朧が押し出されるようにして脚を踏み出す。
もう支えはいらないであろう。なぜなら、彼女は己の意志と執着によって今に在るもの。
本来であれば、あってはならない存在。
けれど、瑞樹はそれを斬って捨てることはできない。いや、しようとはしない。
己には見守ることしかできない。
どちらの立ち位置に立っても自分が重なって見えてくる気がするから。
きっと彼女たちは後悔したのだろう。
深く、ひどく、それこそ死に絶えた後ですら残る執着を抱くほどに。
「後悔だって生きているからこそ」
死んでしまえば、それもできなくなてしまう。
人の生命はいつだって有限だ。手を伸ばしても届かないことばかりであるし、報われることもないのかもしれない。
けれど、それでも。
手を伸ばすことを止めてはならない。間違えても、正しくても。それもまた己の刻んだ轍であり、消えぬ道行となろう。
「だから、その終わりの時にはせめて悔いないように」
そう想うのだ。
己にそれができなかったとしても、今見守る彼等には、その悔恨が訪れぬようにと願う。
誰かの幸せを願うのならば。
人の心の輝きを見る。見守り続ける。『誰が為に』。
その身に宿った思いを抱いて、ヤドリガミとしての生を歩み続ける。瑞樹は彼等の行く末がせめて悔い無きものであればいいと、今は独り願うのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
大町・詩乃
アドリブ・連携歓迎
『面映』さんを励まし、樵さんと落ち着いて話せる場をセッテイング。
お二人や他の猟兵さんの話を聞いて納得。
お互い同じように相手を大切にしていたと判りました。
お二人に余計な言葉を挟むのは野暮というものですが、お互いに自責したり卑下しようとした時だけは、「相手に良かれと思って偽るのは、嘘では無く思いやりだと思います。長い時を経てもお二人はお互いに愛している。それが全てです。それで良いではありませんか。」と優しく笑いかけ、若草色の神気を発し、お二人を祝福する様に優しく包みます。
お二人に残された時間は少ない。
せめてと、お二人の人生を思って湧き上がる気持ちをそのままに、楽曲として響月で吹奏
嘗て在りし者の影法師が影朧であるのだとすれば、それはきっと偽りの姿であったことだろう。
互いに変わり果てた姿。
一人は今を生きる年老いた男。一人は過去より滲み出たいつかの誰か、その影朧である。
その二人は奇しくも初めて出会った場所で再び視線を交わす。
影朧、像華『面映』は、以前の姿ではないけれど歩みだす。彼女の執着たる『一目見たい』と願った樵の男性へと駆け寄ろうとして、よろめき線路の上へと倒れ込もうとしていたが、それを支えたのは老体である樵の男性であった。
「――……あ、あ……わたくし、は」
その言葉は今にも途切れそうな言葉であった。弱々しく、今にも消えてしまいそうな声。
それでも影朧は言葉を紡ごうとしていた。
執着たる想いでもって千切れそうになる体をつなぎとめるようにと言葉を紡ぐ。
「私は、貴方を知っている。きっと幸せになれるのだろうと思っていたのに」
瞳を交わしただけで通じるものが在るのだろう。
それを大町・詩乃(春風駘蕩・f17458)は見つめていた。互いに同じ様に相手を大切にしていたことがわかる。
詩乃にとって、それはとても尊きものであるように思えた。
人の心が見せる善性。
その結実たる光景を今、詩乃は垣間見た。人の縁はいつだって唐突に結ばれるものである。
かつて出会いし場所にて、終わりの時を迎える。
影朧の執着は『一目みたい』ということであった。けれど、その執着を超えるものが今目の前で起こっている。
「私の、せいで……貴女は、こんな風になって……どんなに、どんなにお辛かったことか」
「わたくしは、不幸せではなかったのですよ。本当に。あなたさえ……こんなに永く、待ちぼうけさせてしまって――」
その言葉は互いを思いやっての言葉であったことだろう。自責の念もあったことだろう。
あえて二人の時を邪魔してはならぬと詩乃は言葉を挟まなかった。野暮であるとも自覚していた。
けれど、詩乃はこれだけは言わねばならぬと思った。
「相手に良かれと思って偽るのは、嘘ではなく思いやりだと思います。長い時を経てお二人はお互いに愛している。それが全てえす。それで良いではありませんか」
その言葉は優しかった。
どこまで優しかった。彼女の微笑みこそが神性の発露。何かを育むということは難しいことである。
人の愛もまた同様であろう。
互いに互いを思いやらねば、愛は育たぬ。
不幸な行き違いがあったのだとしても、互いに自責する優しさもまた愛である。だからこそ、詩乃は若草色の神気を放ち、二人を祝福するように優しく包み込む。
二人に残された時間は少ない。
それは年老いた人間と今にも消えそうな影朧にとって、残酷な時であったのかもしれない。
けれど、それでも詩乃は二人が再び出会えたことを祝福する。
詩乃の心の内側から湧き上がるのは二人の人生を思っての感情であった。心臓が早鳴り、詩乃は湧き上がる気持ちのままに竜笛を奏でる。
その旋律に言葉はいらなかった。
一度は分かたれた生命。
けれど、此処に再び交わることができた。それは過去の化身たるオブリビオン、影朧であったとしても、それこそが彼女の救済となる。
癒やしを与えるような音色。
「人の心が見せる光。その輝きを私は見ています。太陽の光が生きとし生けるもの全てに必要であるのならば、人の心の輝きは、人の愛を育てるもの」
それを尊いと詩乃は微笑みと共に見つめる。
きっと誰もが願っている。
幸せな結末を。より良い結末を。
それがどんなに苦難の先にあるのだとして、詩乃は今見つめる人の愛の光が照らしてくれていると旋律を紡ぎ続けるのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
サリー・ヤナギバ
(帝都を離れ自然の多い山に近くなると張り詰めた気も少し薄れ、影朧に反応は無くとも笑みと言葉を向けるように。使い魔ビビを抱き歩く)
さあ、影朧さん…貴女の想いの詰まった山に、来ましたよ
貴女の想いはもう過去
貴女はすでに人で無く
想い人も思い出の若者では無いかもしれません
でも貴女には想い人の魂が解るはず
こんなに恋い焦がれたのですもの
想い人は優しい人だと貴女は言った
貴女もそんな彼を悩ませたくなくて身を引いてしまった
恋し合って居たのに一緒になれなくて、手に入らなくて
貴女は、彼は、どんなにか泣いたでしょう
ねえ?今はもう過ぎた事
彼ともし見つめ合えたら
影曨さん
その時はどうか、涙越しでも良いの
最期は笑って下さいな
猟兵達の言葉と行動を尽くした結果が、風前の灯火のように消えて失せてしまいそうな影朧の存在を保った。
それは猟兵達が影朧、像華『面映』が迎えるであろう結末をより良きものにしたいと願いったからこその結果であったことだろう。
帝都の外れとは言え、山の麓から線路の道を往けば、そこは張り詰めたような気も少し薄れていた。
サリー・ヤナギバ(白い手のサリー・f30764)は時折、共に歩く影朧に微笑みを向ける。
白地にクリーム色のぶちの仔猫を抱えながら歩く姿のサリーは何を想うのか。影朧に反応はないとわかっていても、微笑みを向ける。
悪意に寄って消滅してしまうかも知れないほどに弱々しい存在である影朧。
その存在に向ける微笑みは慈しみであったことだろう。
「貴女の想いの詰まった山に来ました……貴女の想いはもう過去。貴女はすでに人で無く。想い人も思い出の若者ではないかもしれません」
その言葉は事実であった。
初めて出会った線路の上で再開した彼等の姿は、当時とは似ても似つかないだろう。
若者であった青年は皺の刻まれた老人に。片や人ではない姿の影朧。人の上面を見ただけでは互いが何者であるのかを知ることは出来なかったことだろう。
けれど、サリーは知っている。
「貴女には想い人の魂が解るはず。こんなに恋い焦がれたのですもの。想い人は優しい人だと貴女は言った。貴女もそんな彼を悩ませたくなくて身を引いてしまった」
人の魂に色があるのならば、真実を知る者こそが知ることのできるものがある。
互いの視線が通っただけで二人は互いが何者であるかを知る。
言葉を交わす。
互いの自責の念を吐き出す。けれど、それでいいのだと旋律が二人を祝福する。それはすべてを許す音色であったことだろう。
「わたくしは……貴方をお慕いしておりました。ただ一目見たくて、そうしなければならぬと……」
「私こそ貴女を。私の愛は偽りであった。貴女のためをと、偽ってはならぬものを偽ってしまった」
互いの言葉は、互いを思いやればこそ。
二人に必要だったのは、なんであったのだろうか。何があれば、こんなすれ違いなど起こらなかったのだろうか。
サリーは想う。
恋し合っていたのに一緒になれなくて、手に入らない現実。
どんなにか二人が泣いたか知れぬ。だが、それは過去のことである。変えようのないことである。
だからこそ、サリーは二人に言う。
「今はもう過ぎたこと。見つめ合えたら、どうか」
涙越しでも良いのだとサリーは二人に告げる。過去は変えられない。けれど、今再び巡り合った縁がある。
互いの紡いだ人生と、引き寄せた想いがあればこそ。
それが例え、もうすぐ幕引きを迎えるのだとしても。それでもと、胸に抱いた仔猫を抱きしめて、万感の思いを乗せて言葉を紡ぐ。
そうすることで初めて人と人の心の行違いが正される。
嘗ての愛が偽りであったと言うのならば、最後に全てを覆す魔法がある。
「最期は笑って下さいな」
その笑顔こそが偽りなきもの。
かつて出逢った頃のように。たったそれだけで二人の時は逆巻くだろう。老人は青年に。影朧は少女に。
僅かな時間であっても、それが今は許される。
なぜなら、まさに今が奇跡の時なのだから――。
大成功
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スリジエ・シエルリュンヌ
…どれだけ年月がたち、姿が変わろうとも。
その思いは変わらなかったんですね。
つもる思いも話もあるでしょう。私は邪魔をしません。
ただ、ここで見守るのみです。
伝えたいことを伝えてください。おもいっきり、すべて。
今が、その機なのですから。
今しか、ないのですから。今を逃せば、もう二度と…。
そして、私は桜の精として、役目を果たします。
どうか、どうか…今度こそ。
今度こそ、幸せな恋であれ、愛であれと。
「……どれだけ年月が経ち、姿が変わろうとも。その想いは変わらなかったんですね」 互いに瞳を交わし、微笑み合う影朧と老人の姿を見て、スリジエ・シエルリュンヌ(桜色の文豪探偵・f27365)は微笑んだ。
互いの時は短い。
人生に幕を下ろそうとしている老人。
弱々しい影朧であるが故に己の執着を果たして消えようとしている影朧。
それは猟兵たちが紡いできた結果であった。
誰か一人が欠けていても為す事の出来なかった結果であったことだろう。今はただ、ここで見守るばかりであるスリジエもまた同じ気持ちであった。
「伝えたいことを伝えて下さい。おもいっきり、すべて。今が、その機なのですから」
互いに伝える言葉は互いを思いやっての言葉。
慕う心と、それに応える心。
それはあまりにも遅きに失するものであったのかもしれない。あの時に、こうすることができていればと思うことも合ったことだろう。
けれど、二人の間にそれはなかった。彼らの人生は後悔にまみれたものであったのかもしれない。
「今しか、ないのですから。今を逃せば、もう二度と」
スリジエは思う。
もう二度とはない。こんな奇跡は二度はない。だからこそ、目の前の光景は尊い輝きのように思えたのだ。
「例え生まれ変わってもまたわくしはあなたをお慕いいたしましょう。きっと、あなたのもとに」
「私も見つけ出しましょう。貴女は私のきらめく星であるのだから。きっと離しはしないでしょう」
抱きとめた影朧の身体が光を伴っていく。
きらきらと粒に成っていく影朧の姿を見た。
もう限界であったのだ。
いつ消滅しても仕方のないことであったのだろう。けれど、今の今まで彼女をつなぎとめていたのが執着である。
一目見るだけでいい。
たったそれだけのために彼女は影朧であるための力を注いできた。思えば最初から彼女は誰かを傷つける事をしなかった。
猟兵たちとの戦いの最中ですら、それをしなかった。
「あなたは本当に優しい方なのですね。それを貴方から与えられたものであると彼女は言ったのですよ」
スリジエの言葉は優しかった。
人の優しさは誰かの優しさの鏡返しである。誰かを思った優しさは、めぐりまわって返ってくる。
だからこそ、スリジエたち、猟兵達はその優しさを持って彼女の執着を果たそうとしたのだ。
「……私の優しさもまた貴女がくださったもの。私は貴方に出会えて――よかった。貴方に出会えたことが私の人生の意味。きっと私は、この人生を後悔なんてしない」
老人の言葉を受けて、光の粒となって消滅していく影朧。
それは止めようのないことであった。
涙が流れる姿をスリジエは見た。悲しい涙での別れは似合わない。笑って欲しいと願った猟兵が居た。
その願いに答えるように二人は笑い合って最期を迎え――。
「そして、私は桜の精として、役目を果たします」
癒やしを与えられた影朧は、桜の精によって転生される。
それは影朧の救済である。
人は皆傷つきながら生きている。だというのならば、その次なる生に願うのは何か。それをスリジエは祈りに変えて願うのだ。
「どうか、どうか……今度こそ。今度こそ、幸せな恋であれ、愛であれ」
光が消えていく。
影朧の転生は相成った。
そして、一人の老人が残った。
その涙は溢れていたけれど、それでも。微笑んで見送った。それがいつかの誰かのための手向けであったから。
「私は私の愛を偽りとは言わない。例え偽りであったと言われても。それでも」
そう、それは偽愛なれど愛には代わりなく。
そのいつかの願いは、きっと再びめぐり、いつかの誰かと結実し、華を結ぶことだろう。
かつて、『華』と呼ばれた少女の笑顔の先にこそ、巡る運命が在るのだから――。
大成功
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