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我が鉄躰を、どうか『貴方』の掌へ

#UDCアース #ロシア #銃 #戦争モノ

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 ――ひゅるり、ひゅるりと。白い結晶混じりの風が原野を走り抜けてゆく。
 大地は穢れなき雪に覆い尽くされ、所々に走る間隙の内側には光の屈折によるものだろうか、蒼い輝きがうすぼんやりと浮かび上がっている。暦の上ではそろそろ寒さも和らいで良い頃合いだが、実際は濃密な冬の気配が満ち満ちていた。人々の手によって文明の火が灯されてから幾年月、この大地に置いては未だ自然が人間を凌駕いていると言って良い。
 故に、この地に生きる者たちが様々な意味で迷信深いのもある種当然かもしれなかった。臼に乗ったバーバヤガーを筆頭に、彼らは深い森、果て無き雪原、湖の水底に旧き脅威の残り香を感じ取っていたのだろう。それは危険を避ける術であり、同じ幻想を共有する事による連帯感の醸成を成してくれる。

 さて、では――それを翻って見るに。
                         雪原に一人佇む『ソレ』を。
            彼等ならばどう評するのだろうか。

 其れは酷く小柄な影だった。
 其れは黒のコサック帽と暗緑の軍装に身を包んでいた。
 其れは齢十に届くかどうかという少女であった。
 其れはまるで花嫁衣裳のようであった。
 其れは一つで在り、一人で在り、複数で在り、また大勢でも在った。

 魔女と評するには極めて幼く、人と見るには余りに冷たく、神と尊ぶには俗に過ぎる。
 だが、其れが確かに確固たる信仰を得ているのであれば……。

 ――やはり、神と形容すべきであろうか。
                   ――そう、望む望まざるを問わずに。


「Добрый день、ルゥナさんだよぉ! ちょっと遅くなったけど、新年明けましておめでとう! さてさて、お年玉ならぬ落とし弾という訳で、早速依頼の説明をしようかねぇ!」
 グリモアベースへと集結した猟兵たちを前に、ルゥナ・ユシュトリーチナはにこやかな笑みを浮かべつつそう口火を切った。彼女はぺらりと世界地図を広げると、ユーラシア大陸の大半を占める或る国家を指先でコツコツと叩く。
「今回の舞台はUDCアースがロシア連邦、その僻地に在るとある小村さね……そこで長年に渡り、住民たちによって信仰されているUDC存在の兆候が予知されてねぇ。今回はこの邪神の討伐をお願いしたい、って寸法だよ」
 今でこそマシになったものの、ロシアの前身となる連邦国家では共産主義の元、表向きは宗教が否定されていた。とは言え雪深く厳しい環境柄、その地に住まう人々の心には様々な伝承や迷信に対する畏怖が強く根付いている。このUDCも、そんな人々の信仰心を糧として動乱を越えて生き続けてきたのだろう。
「まぁ尤も? それは信仰心以上の代償……つまりは生贄の要求を伴う関係だ。仲間内の誰かを捧げるのならまだしも、場合によっては外部の人間を拉致したり騙して連れてきているらしくてねぇ。これはちょいと見過ごせないって訳なのだよ?」
 加えて厄介なことに、このUDCは封印されていた訳でも偶発的に召喚された訳でもない。百年以上に渡って信仰と生贄を得続けている『生きた』邪神である。その戦闘力や強大さは推して図るべきだろう。

「という訳で、正面からいきなり殴り込みをかけるのはおススメ出来ないねぇ……それに加えて、信者たちも馬鹿じゃない。表面上は普通のどこにでもある寒村を装っているし、まずは調査を行う必要があるだろうねぇ」
 信者たちは『祝祭』と呼ばれる特殊な儀式によって邪神と交流を行っている。故にそれが行われるまでは直接的な危害を加えてくることは無い。旅人なり観光客なりに扮して、村の実態を調査してゆけばUDC存在の詳細などを得る事も出来るだろう。
「ただねぇ……ちょっとばかし、気になる事があるんだよ。百年も信仰が続けばさ、儀式とか伝承の細々とした部分にどうしたって変化は免れない訳だ。それも結構大きな戦争だって経ているし、存外そういった出来事によって『現代風』になっている可能性も否めない。まぁ、具体的にどんな風にって聞かれれば明言は難しいけど……『銃』ってのが重要になってくるみたいだねぇ」
 詳細に関しては現地で要調査、という訳だ。そうして『祝祭』が始まれば、あとはUDC存在との戦闘へと移行する。
「信者たち自体は儀式の運行に注力しているから、メインの戦闘は邪神とその眷属が相手になるかねぇ。彼らに戦闘力はないし終わるまで放置していても問題は無いよ。UDCが倒されれば茫然自失になって、逃げる事すらしなくなるだろうしねぇ。後はUDC組織が引き継いでくれるさね」
 ともあれ、説明は以上となる。まだまだ寒さが厳しいが、彼の地のそれは世界でも指折りだ。防寒対策はしっかりしておくに限るだろう。
「という訳で、よろしく頼むよ~」
 そういってひらひらと手を振りながら、ルゥナは仲間たちを送り出すのであった。


月見月
 どうも皆さま、月見月で御座います。
 今回は銃についてのお話with赤い国風味となります。
 それでは以下補足です。

●最終成功条件
 邪神の討伐。

●舞台について
 ロシア中南部に位置するとある寒村で、人口は五百人ほど。そこまで雪深い地域ではありませんが、それでも寒さはかなり厳しいです。村の周囲は針葉樹林が広がり、雪深さも相まって陸の孤島と言った地形となります。
 村内には雑貨屋や宿屋など生活に必要な施設が存在している為、滞在自体に問題はありません。

●1章開始状況
 旅人や観光客、その他各自の都合の良い身分にて村へと赴いて頂きます。閉鎖的なコミュニティですが、生贄確保の為に住民たちは表面上フレンドリーに接してくれます。普通に会話しても十分に情報を得る事は可能ですが、彼らは『銃』に関して関心を抱いているようです。

●二章以降について
 二章では『祝祭』が開始され、邪心の眷属が出現します。住民たちが儀式を行う中、それらとの集団戦となります。
 第三章では降臨した邪神との戦闘となります。どちらとも詳細については章が移行した際に適宜説明いたします。

●プレイング受付について
 プレイングにつきましては断章投下後に受付時間を告知します。それ以前に頂いた場合にはやむを得ず流してしまう場合もありますのでご了承下さい。
 また、出来るだけの採用を心掛けますが、キャパ等によっては難しい場合もございますのでその点もご理解頂けますと幸いです。

 それではどうぞよろしくお願い致します。
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第1章 日常 『「祝祭」への参加』

POW   :    奇妙な食事を食べたり、奇怪な祈りのポーズを鍛錬する等、積極的に順応する

SPD   :    周囲の参加者の言動を注意して観察し、それを模倣する事で怪しまれずに過ごす

WIZ   :    注意深く会話を重ねる事で、他の参加者と親交を深めると共に、情報収集をする

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●Все под богом ходим
 足を降ろしてまず感じたのは、ザクリという靴底が霜を砕く感覚。衣服の隙間より入り込む冷気に思わずぶるりと身を震わせながら、猟兵はゆっくりと目を開く。飛び込んで来たのは白と黒の二色に別たれた世界。降り積もった雪の穢れなき白さと、氷の化粧を施された針葉樹林が黒い幹を乱立させている。北方の自然と言うイメージにぴったりの景色ではあるが、液晶や紙面で見るのと実際に体験するのでは天と地ほどの差があった。思わず天を仰ぎ見れば、今は運良く空模様が良いのだろう。薄く白みがかった氷空が風と共に淡い雲を運んでゆく。
 森林浴には格好のシチュエーションだが、長居するには余りにも過酷だ。さてどちらに向かったものかと視線を巡らせれば、雪面に伸びる轍の跡。踏み固められたそれの征く先を見れば、粉雪に煙る遠方に建物の影が見える。
 白い息を吐きながらそこを目指して路を辿ると、現れたのは古振るしい雰囲気を湛えた幾つもの家々。その中へ歩み入ってみれば、談笑する中年の女性や何がしかの機械を修理している老爺、あるいは薪にする為の木や枝を集め、日向に乾している農夫と言った人々が視界に飛び込んで来た。一見すれば牧歌的な村である。観光地の様な派手さはないが、のんびりとした余暇を過ごすにはうってつけだろう。

 だが……それと同時に、君たちは言葉に表しきれぬ『異様さ』とでも呼ぶべき何かを感じるだろう。その直感が、この場所が見かけ通りの寒村ではないと教えてくれる。漏れ出す神の気配か、住民たちの奥底に潜む狂気か、はたまた全く別の俗に満ちた物品か。刺すように冷たい空気、家々から漏れ出る暖かな灰の香りに混じって、どこからかツンとした刺激臭が鼻腔をくすぐるような錯覚を抱く。
「おやおや、珍しいな。こんな時期に旅の方かい。いったいどっから来なすった?」
「こんな辺鄙な村だと、無駄話の相手も変わり映えしなくてねぇ。寒い場所で立ち話もなんだ、ウチで暖まってきなよ」
 と村の様子を窺っていると、猟兵たちに気付いた村人が親しげに声を掛けてきた。柔和な笑みを浮かべ、外じゃ寒いだろうと言って自らの家へ招こうとしてくれる。何も知らなければ田舎の人情味あふれる親切だが……裏事情を踏まえた上だと、逃げられぬよう引きずり込もうとしている様にしか思えない。村の内部へ足を踏み入れた瞬間から、周囲全ての人間に監視されていると考えるべきか。

 彼等の誘いにあえて乗り、虎穴に飛び込んで話を聞くのも良いだろう。
 或いは断って、村の内部を歩き回って観察するのも悪くはない。
 姿を隠し、村人の視線を掻い潜りながら聞き耳を立てるのも一手だ。
 ざっと見た限り、不審な場所も幾つかある。村に不釣り合いなほど大きな倉庫や、何やら時折甲高い音が聞こえる小屋。或いは、それとなく常に村人たちが睨みを聞かせているあばら家。加えて雑貨屋などで在れば人が集まる故に話が聞けるであろうし、宿屋ならば村の住人以外の人間も居るかもしれない。
 時間が来れば自ずと『祝祭』は始まるだろうが、ただ無為に過ごすよりも集められる情報は出来るだけ探し出しておくべきだろう。

 風に乗って、吹き上げられた粉雪がはらはらと空へと舞ってゆく。冬の天気は変わりやすい。そう遠くない内に荒れる可能性もある。そうなる前に動くべきだ。
 猟兵たちは時間を無駄にはすまいと、各々行動を開始するのであった。

※マスターより
 プレイング受付は15日(金)朝8:30~となります。
 第一章は寒村を探索し、UDCや祝祭に関する情報を収集して頂きます。探索先としては断章内で提示した場所がメインとなりますが、他に考え付いた行動や場所があれば自由に行動してください。適宜、行き先と情報が生えます。
 それではどうぞよろしくお願い致します。
ブラミエ・トゥカーズ
”招かれた”なら部屋に入らねばな。
天気が良いのでそもそも外を出歩くのがしんどい。

趣味と称して
長く暮らす人達からこの辺りの昔話、妖怪話などを聞く。
メモを取るのは従者の仕事。

自身の様にこの世で生まれたのか、異界の者なのか興味。

自身の一部を蝙蝠や犬に変化、人の死角、音、臭いの出元を調べることで、他の猟兵のフォローをする。

本体は部屋から出ない(出れない)のでアリバイ造り、ただの奇矯な旅行貴族の風体を装う。
食事が従者に処理させる。

この様な離れ里だと、珍しい妖怪や祭の話を聞けるものでな、
その手の事を見聞きするのが余は好きなのだよ。
そういったモノをオソれる人間が未だいる事が嬉しくてな。

アレンジ絡み歓迎



●招かれたるか、踏み入りたるか
「……さぁさぁ、どうぞ入って頂戴な?」
「親切痛み入る……”招かれた”のなら部屋に入らねばな。今日は天気が良いので、そもそも外を出歩くのがしんどい。少しばかり厄介になろうか」
 扉を潜り、暖かな室内へと足を踏み入れたのは漆黒の身に包んだ麗人。日傘を畳む従者を引き連れつつ、ブラミエ・トゥカーズ(”妖怪”ヴァンパイア・f27968)は小さく息を吐く。村人側から見れば何の変哲もない光景だが、彼女からすれば先の遣り取りは重要だった。日光に弱く、流れる水を厭い……そして、招かれない限り室内へと入れないのだから。
「寒かったでしょうし、まずはこれをお飲みなさい。温まるわ」
 促されるまま椅子へ腰を下ろすと、家主である老婆が紅茶を供してくれた。傍らには小皿へ乗せられたジャムが控えている。混ぜるのではなく、合間合間に甘みを味わうのが『ロシアンティー』本来の楽しみ方だ。ブラミエの主食は専ら赤い液体だが、手を付けぬのも不審がられるだろう。それとなく口に含む振りをしながら、彼女はさてどうしたものかと思考を巡らせる。
(余自身はこの部屋から動けぬし、動くつもりもない。敢えて此処に留まる事により、村人からの警戒も最小限に留められよう……尤も、余の従僕らはその限りではないがな)
 何か茶請けは無いかと家主が席を立ったタイミングを見計らい、吸血鬼は机の下へ腕を垂らすと爪先で指の腹を薄く切り裂いた。傷口より伝った鮮血が床へと零れるや、それらは狼や蝙蝠へと変化して音もなく屋外へと飛び出してゆく。彼女の核となった致死性伝染病、その威が伝承を纏い生まれた眷属たちだ。取り急ぎの斥候はこれで問題は無いだろう。
「マルメラードが残ってて良かったわねぇ。こういう場所だと、お喋りくらいしか愉しみが無いのよ」
「お喋り、か。であれば一つ、余の趣味に付き合って欲しいのだが」
 グミの様な菓子を手に戻ってきた老婆へ、渡りに船であると吸血鬼はそう切り出した。毒見がてらに菓子の処理を従者へ任せつつ、ブラミエは先を続ける。
「この辺りの昔話や妖怪について聞かせて貰えれば幸甚だ。有名所で言えばバーバヤガーやヴォジャノーイか。この様な離れ里だと珍しい妖怪や祭の話を聞けるものでな、その手の物事を見聞きするのが余は好きなのだよ」
 ――そういったモノをオソれる人間が、未だいる事が嬉しくてな。
 最後の言葉は人間の耳へ届くことなく、舌先で縺れ消えていった。情報収集という目的も勿論ある。だが自身の様にこの世で生まれたのか、それとも異界より来たる者なのかという興味も同時に抱いていたのだ。
 そんな問い掛けに対し、老婆は瞼を閉じて思案気な表示を浮かべる。
「そうねぇ……ご希望に添えるかは分からないけれど、ここらにはスネグーラチカが住んでいるって言われているわ」
 スネグーラチカとは雪娘、雪の姫などの異名で称される伝承存在だ。ロシアのサンタクロースである『ジェド・マロース』の孫娘とも、雪像に命を吹き込まれた妖精とも語られている。
「ふむ。妖怪と言うよりも、聖人の類の様に思えるが……」
「そうでもないわ? 今でこそクリスマスに纏わる女の子になっているけど、それは後付けのものよ。他の土地ではどうだか分からないけれど、この村のスネグーラチカはちょっとだけ哀しいの」
 老婆曰く、此処で語られる雪娘は悲恋と共に在る存在なのだという。
 ある時、雪の精は然る優しい青年に心を惹かれた。しかし日向に生きる人間と日陰でなければ溶け消える妖精、同じ場所には居られない。されど恋焦がれた娘は耐え切れず青年の元へと向かい、陽光を浴びて敢え無くただの水へと変わってしまう……語られた内容をざっくりと要約すれば以上の様な筋書きとなる。
「……まるで人魚姫か、極東の雪女だな」
「まぁ、古い話だからねぇ。余所の言い伝えが混ざっていてもおかしくないわ。同じ話でも、他の人に聞いたらきっと細かい箇所が違ってくるでしょうし」
 語り終えた老婆は紅茶を啜って喉を潤す。同じようにブラミエもその話を脳裏で反芻しながら、情報を咀嚼してゆく。
(日差しに生きられぬ存在、か。さて、今の話にどれほどの真実が含まれ、銃がどの様に関わって来るのか……こればかりは眷属らの報告待ちだな)
 ともあれ、調査はまだ始まったばかりだ。蝙蝠や狼を通じて他の猟兵たちの存在を感じ取りながら、ブラミエは従者にメモを取らせつつ暫し老婆と歓談に興じるのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

シキ・ジルモント
旅人として村へ入り込む
見張られているなら好都合、ハンドガンを周囲の村人にもよく見えるように装備しておく
銃を認識した際の村人の反応を探る為だ

情報収集の手段として積極的に村人と話す
消耗品の補充と理由をつけて店へ、買い物がてら店内の村人と対話を試みる
同時に店の中や人の様子に異常があるかをそれとなく確認する

親切な村に好意を持った旅人として、村の文化や成り立ちを世間話の中で引き出したい
それから、銃弾の補充はできないかと聞きつつ、ハンドガンを見せてみる

村人が気にする様子なら銃に興味があるのかと尋ねる
渡さないまでもホルスターから抜いてよく見せるくらいは構わない
『銃』が重要と聞いている、何か探れるかもしれない


アマリア・ヴァシレスク
ずっと信奉されてきた邪神…なかなか根が深そう、です
だけどまずは違和感無く村の方からお話を聞かないと、ですっ

観光…というのも変ですから「ハンティングに来た」ということにしておきます、です
そうすればこの【軍用ライフル】を持っていても違和感はないようですし、もしかしたら村人の興味も惹けるかもしれない、です
それに滞在先の宿屋以外にも、村の周辺を「どんな動物がいるか調べたい」と言って歩き回る口実にもなる…です
調査中は【視力】と【聞き耳】を活かして話し声や不審な足跡等を見逃さないようにしたい、です
もしくは、ハンティング用の物資を見るために雑貨屋に赴いて見るのもいいかもしれい…です

※アドリブ等歓迎



●銃とは如何なるモノ也や
「ずっと信奉されてきた邪神……知るにしろ倒すにしろ、なかなか根が深そう、です」
「それに加えて『銃』が重要と聞いている。普通に考えれば、オカルトとは正反対に位置する文明の利器だ。UDCとどの様に関係があるか、調べておくに越したことは無いだろう」
「その為にも、まずは違和感無く村の方からお話を聞かないと、ですっ」
 さくりさくりと霜を踏み砕きながら、二つの人影が村の中を連れ立って歩いている。アマリア・ヴァシレスク(バイオニックサイボーグ・f27486)とシキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は飽くまで『たまたま旅先のこの村で知り合った』という体裁を取りつつも、その見た目にはある共通点があった。それは銃。人狼は実用性重視の武骨なハンドガンを腰元へと収め、半機人はボルトアクション式ライフルを肩から吊り下げている。
 猟兵たちは村人が関心を抱いている『銃』と言う要素をそれとなく示し、情報を引き出す糸口にせんと考えていたのだ。
「観光……というのも変ですから、私は『ハンティングに来た』ということにしておきます、です。こんな場所ならきっと動物も多いでしょうし、そちらも護身用という事にしておけば不審がられないはず、です」
「となれば、まずは雑貨屋に向かってみるとしよう。弾丸やら何やらの消耗品を買いに来たと言えば、そうおかしくもない」
 そうして暫し村内の地形を把握がてら歩き回ったのち、二人は色褪せた看板を掲げる雑貨屋を見つけた。扉を開けて暖房の利いた店内へ足を踏み入れると、カウンターに座った中年の店主が来客に気付き声を掛けてくる。
「おや、見ない顔だな。旅人さんかい? こんな辺鄙な村にようこそ。何かご入用かな」
「この銃に合う弾丸を補充できるか。獣に襲われでもしたら事だからな、残弾には余裕を持たせておくに越したことは無い」
 シキが愛銃をホルスターから引き抜くと、店主は眼鏡を掛けてしげしげとそれを眺める。万が一を考え、相手に渡すつもりない。口頭で緒元や使用弾種を伝えながら尋ねると、相手はふむと頷いた。
「ウチは猟銃の弾がメインだが、拳銃用の在庫もあったはずだ。ちょっと待っててくれ、いま確認してこよう」
「あ、あとハンティング用の道具とかって置いています、です? 加えて、この村周辺の動物についても聞けたら助かります……です」
「ああ、そういうのはあっちの棚だ。さっき村の猟師も買い物に来ていたから、まだ居るはずだろう。綺麗な嬢ちゃんが相手なら、なんでも教えてくれるだろうさ」
 店主はカウンターの奥へと向かいながら、親指で店の一角を指し示す。アマリアはチラリと仲間へ目配せして店主の相手を頼みつつ、己は猟師から話を聞くべく伝えられた方へと歩いてゆくのだった。

 店内はそう広く無い為、アマリアはそう迷わずに狩猟道具の陳列されている棚を見つけることが出来た。と同時に、話に出ていた猟師と思しき壮年の男がナイフや鉈を手に取り見比べているのが見える。彼女はそれとなく警戒しながら、そっと背後より声を掛けた。
「あの……すみません、です。ちょっとお尋ねしても良い、ですか?」
「む、嬢ちゃんもハンターか。良いだろう、何が聞きたいんだ」
 猟師は刃物を棚へ戻しつつ半機人へと向き直る。その視線は少女の顔を一瞬眺めた後、流れる様に肩から吊り下げられたライフルへと滑りゆく。相手の関心を感じ取りながらも、アマリアはそれを気取らせないまま言葉を続けた。
「この付近に生息している動物について教えて貰いたい、です。下調べはある程度していましたが、現地の方から直接聞くのがやはり確実、です」
「成程な。獲物としてはキツネや兎が定番だが、狙えるのであればエルクも悪くない。あとこの時期ならヒグマは大抵冬眠しているが、穴持たずも少なからずいる。万が一遭遇したら厄介だ……そうだな、銃を見せて貰っても良いか? 其れによって狙える相手も変わってくる」
 会話の流れ的に猟師の申し出は至極真っ当なものだ。しかし、裏事情を知った上でとなると些か意味が異なってくる。何か細工を施されるのではないかと危惧する一方、ここで断ってしまえば不信感を抱かれかねない。彼女は言われた通りライフルを手渡しながらも、猟師が不審な動きをしないか注意深く観察してゆく。
「ボルトアクション式……まぁ、猟銃ならばそうだろう。フルオートなどそう民間に回らんからな。口径と使用する弾丸の種類は……これなら、有効射程が……」
 流石は猟師と言った所か、銃を扱う手つきは慣れたものだ。銃口を下に向けつつ、銃身の長さを確かめたり、槓桿を引いて薬室を改めている。少なくとも、一朝一夕の付け焼刃でないことは確かだろう……が。
「……少々、好みからは外れ……やはりA……7か。しかし、年代的には……だが、新しい物よりも、古い方が……」
 どちらかと言えば、それは銃の性能と言うよりも構造を調べている様に見えた。得物のポテンシャルを知るという点では勿論必要な行為だが、それにしては些か偏執的な様にも思える。ブツブツと独り言を呟き始めるに至り、アマリアも流石に相手の様子がおかしいと気づく。
「あ、あの……銃にどこか問題がありました、です?」
「……ん、ああ。すまん。職業柄、つい夢中になってしまった。これならば威力、射程共に十分だろう。ただ、やはりここらは寒い。凍結防止に油は良く差しておくべきだ」
 すまないが急用を思い出した。猟師はライフルを半機人へ返すと、そう言って踵を返し足早に店から出てゆく。その背を見送りながら、少女は銃に対する関心と言う説明の真意を朧気ながらに感じ取るのであった。

「さて、在庫としてはこんなところか。種類が少なくて済まないね」
「いや、問題ない。念のため確かめさせて貰おう」
 一方、シキは戻ってきた店主がカウンターへと並べた弾丸を手に取り、一つ一つ確かめていた。村人側からすれば部外者は須らく『祝祭』用の生贄である。いざという時に抵抗されぬよう、粗悪品を渡される可能性も排除できない。
「これは……店主、この弾丸には薬莢底の刻印がない。何処で造られたものだ?」
 と、そうして細部を確認しているとシキはそんな違和感に気付いた。普通、弾丸には製造所や年数を示す印が刻まれている。だが、いま店主が持ってきた物にはそれがない。その点を指摘すると、相手はああと眉根を顰めた。
「見ての通り、此処は陸の孤島だろう? 弾丸の取り寄せにも時間が掛かるんで、自作しているヤツも多いんだ。多分、そいつは村人の誰かが作ったのを買い上げたモンだろう。引き取った以上は使えるはずだが、嫌ならやめとくかい?」
 弾丸の自作、というのは銃が普及している国では割とポピュラーである。弾頭は鉛を型へ鋳溶かして作り、手持ちの雷管や薬莢と組み合わせるのだ。無論、既製品と比べれば信頼性や品質に劣るが、その分手早くかつ安上がりに作成できた。
「……いや、一ケース分貰おう。所で、弾丸を自作できる人間は多いのか?」
「大抵の村人なら出来るだろうな。そもそも、この村自体が無理を押して開拓された場所だ。必然、自衛手段の確保は必須になる」
 雑談混じりに聞き出したところによれば、この村は針葉樹林の真っ只中を切り開いて作られたのが始まりなのだという。そのせいか昔から野生動物からの被害が深刻であり、必然的に対抗手段である銃が重要視されるようになったそうだ。
「アンタも気を付けなよ。ひょいと出かけた余所者がいつの間にか消えちまう、なんて事も珍しくない。年寄りは雪娘に攫われたなんて嘯くが、大抵は遭難しての凍死か、動物に食われちまってるんだろうさ」
 だから、軽々しく村から出ないことだ。そう言外に忠告しながら、店主は品物を包んでシキへと手渡す。人狼は代金を支払いながら、最後にそれとなく疑問をぶつけてみた。
「良くそんな場所に村を作ろうと思い、そして今も住み続けているな。けなす訳じゃないが、苦労も多いだろうに」
「……まぁ、辺鄙だからこそ良い点もあるのさ。田舎者にゃ、都会はちと騒がしすぎる」
 誤魔化す様な含みのある物言い。気にはなったが、買い物も終えたいま長居し過ぎるのも悪目立ちするだけだ。丁度良く神妙そうな表情を浮かべたアマリアも戻ってきた為、二人は一旦店を出る事にした。

 二人はそれとなく村人の視線を避けながら、各々が得た情報を共有する。
「弾丸の自作……それだけならまぁ、まだ分からないでもない、ですが」
「銃そのものの構造に興味があるとなれば、話はまた違ってきそうだ。技術と道具、それに知識があるとなれば、碌でもない事を考えつくこともある」
「確信を得るためにもまずは証拠を見つけたいところ……です」
 そうして薄っすらとだが村の『裏側』に当たりを付けつつ、二人は引き続き調査を進めるのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

黒玻璃・ミコ
※美少女形態

◆心情
氷に閉ざされた寒村に潜む邪神ですか
怨敵とは異なる一派でしょうが放置する訳にもいかないですね

◆行動
【黄衣の神子】で美しき人の姿を取り
寒冷地相応の服装を整えた上で旅の薬師として村を訪れましょう
【医術】に【毒使い】としても秀でた私ならではの隠れ蓑ですね
雑貨屋を訪れたら道中で採集した薬草を売った後は
店主や客と世間話(つり)でもしましょう

UCの代償として敢えて緻密に動き
流れる様に髪を靡かせ
【読心術】で相手が望む言葉を囁き
甘い吐息で【誘惑】し
捧げるべき極上の獲物として【おびき寄せ】ましょう

村に具合が悪い方が居るのですね
私で良ければ診ますので案内して頂けますか?

◆補足
連携NG、アドリブOK



●誘い呼び寄せ吊り上げて
(氷に閉ざされた寒村に潜む邪神ですか……怨敵とは異なる一派でしょうが、少なく見積もっても百年以上被害が出ている、と。であれば、放置する訳にもいかないですね)
 白い長髪と橙色の首布を翻らせ、黒玻璃・ミコ(屠竜の魔女・f00148)は白雪の上に足跡を刻み込んでゆく。竜を喰らいし闇色の粘液は現在、うら若き乙女の姿を取って寒村の内部を歩き回っていた。片手には籐の籠が抱え込まれており、その中には青々とした葉や土付きの根などが見て取れる。
(寒村とは言え流石に現代ですから、医薬品もある程度は流通していましょう。しかし、こうした土地柄であれば薬草などの需要もまだ根強いはず。少なくとも、邪険には扱われないとは思いますが……)
 一見すれば白銀に覆われた世界でも、雪を掘り進めれば野草が見つかるものだ。ミコは持ち前の医薬知識によってその中から有用な薬草を選び出し、事前に採取していたのである。これも隠れ蓑である旅の薬師という設定に説得力を持たせ、あわよくば相手から好印象を得ようという狙いだった。
「さて、と。此処なら丁度良いですかね。それでは参りましょうか」
 程なくして雑貨屋を見つけると、少女は店内へと足を踏み入れる。すると、カウンターで紙幣を数えていた店主が驚いたように眉を上げた。
「おや、また外の人か。珍しいこともあるもんだ。さて、アンタはどうなすった。何が必要だい?」
「いいえ、購入ではなくは販売が目的です。道中、薬草を少しばかり摘んで来たのですが、買い取りをお願い出来ますか?」
 そう言ってカウンターへ網籠を置いて中身を見せると、店主はほうと顎を撫ぜた。
「ウゴギの種と根皮に、ヤナギランやシモツケソウの葉か……状態も悪くない。こんなものでも、雪が深いと集めるのが一苦労でなぁ。ちょいと色をつけさせて貰って、こんなもんでどうだい?」
 元より薬草類は村人へ取り入る為の口実、金額の多寡はそこまで重要ではなかった。ミコは店主から手渡された代金を懐へ仕舞いつつ、さてどう話を切り出したものかと思考を巡らせていた……そんな時。
「あいてて……済まねぇ、消毒薬を貰いてぇんだがあるかい?」
 手元を抑えた村人が雑貨屋へと駆けこんできた。何事かと視線を向ければ、掌が赤く焼け爛れている。見た限り、どうやら火傷をしてしまったらしい。
「全く、だからあれほど気を付けろと……いや、だが運が良かったな。丁度旅の薬師さんが来なすってたところだ。申し訳ないが、良ければちょいと見て貰えんかね?」
「ええ。放っておいては後々にまで差し障りますし、応急手当だけでも済ませてしまいましょうか」
 物は次いでとばかりにミコは男の傷口を診ながら、それとなく立ち振る舞いに変化を加える。弱った所を優しくされれば人間そちらに傾くというもの。それが美少女ならば猶更だ。流れる様に髪を靡かせ、それとなく互いの距離を詰めながら、彼女は診察を進め――ある引っ掛かりを覚えた。
(……これは、単なる火傷ではありませんね)
 冬の寒さを乗り切るために暖炉やセントラルヒーティングを取り扱うだろうし、暖かな食事も不可欠だ。その最中に火傷を負う事は十分にあり得るだろう。だが、傷口の様子がそう言ったものとは若干異なっていたのだ。
(単に熱いものに触れた、という訳じゃないですね。もっとこう、激しいような。爆ぜた炭が当たったか、もしくは花火のような……)
 火薬が炸裂した、か。そこでミコは事前に聞かされていた『銃』という単語を思い出す。これを偶然だと片付ける程、彼女は楽観主義者ではない。手早く治療を終えると、そっと囁きかける様に男へ尋ねた。
「……これで応急処置は完了です。ところで、何か作業をされていた最中に火傷されたのですか?」
「へ、あ、ああ。ちょっと、猟銃の手入れをしていて、な。この村じゃ、こんなの日常茶飯事さ。現に俺が此処に来たのも、別の奴が薬を使い切ったからで……」
「つまり、他にも具合が悪い方が居るのですね。私で良ければ診ますので、案内して頂けますか?」
 男はミコの言動に誘惑され、警戒心がただ下がりしている。これならばより踏み込んで話を聞くことも可能だろう。その狙い通り、相手は鼻の下を伸ばしながらコクコクと頷く。
「そ、そう言われて断るのも悪いってもんだしなぁ。じゃあ、ちょいとお願いするか」
「薬師さん、そいつが不埒な真似をしたら俺に言いな。一発〆てやるからよ」
 そうしてひらひらと手を振る店主に見送られつつ、ミコは男と共に雑貨店を後にする。
(さて……鬼が出るか蛇が出るか。個人的には竜が出てくれば嬉しいですけど)
 案内に従い、雪に覆われた道を進む少女の姿をしたナニカ。その口元にはうっすらと不敵な笑みが浮かんでいるのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

寺内・美月
アドリブ・連携歓迎
・UC〖銀龍覚醒(第一)〗にてブロズを召喚し騎乗、ОЦ-33(拳銃)及びАДС(水中銃)を持って村に滞在し、武器携行も通告する。
・自身は歓迎を受けつつ村人から直接の情報収集。銃の詳細について聞かれたら、自分に合うように(機関部や握把、付属品等も含めて)改造した武器である旨を伝える。
・秘密裏にトゥルパに村内を偵察させる。優先目標は地形(村落情勢)、公共設備等、あばら屋、小屋、倉庫の順とする(人との接触を禁止し、危険な場合は一時離脱する)。
・トゥルパには、美月が拘束された場合に備えて予備武装(【繊月・司霊】)を預ける
※この際は美月を救助せずに、被拘束者の確認と敵情把握に努める。



●神なる秘、銃なる裏
「おんやまぁ、中々立派な乗り物でねぇの。銃も見たこともないのを担いで……まるで竜騎兵だでね。ウチの爺様も、昔は軍隊に行って馬に乗ってたってなぁ」
「拳銃は見たことのある型だが、長物の方はなんだい? 珍しい形のようだが……」
「どちらもこの国で作られた銃器です。拳銃はОЦ-33、こっちはАДСと言って水中用のライフルなので、ご存じなくても当然かと」
 集まってきた村人たちから矢継ぎ早に投げかけられる質問を邪険に扱うことなく、寺内・美月(霊軍統べし黒衣の帥・f02790)はその一つ一つへ丁寧に答えてゆく。彼は今、馬の姿へと変じた竜に跨り、手持ちの銃器を装備し敢えて身を晒していた。その結果は御覧の通り、多くの村人たちの注目を引く事に成功している。
(……さて、思った以上の成果ですね。これならば、先行させたトゥルパが見つかる危険も少ないでしょう)
 それは情報収集を狙ったものでもあるが、主たる目的は『囮』だ。彼は事前に自我を持つ精神体を先行させており、村々に点在する怪しい場所……あばら家や小屋、倉庫を探索させていたのである。トゥルパは白を基調とした存在である為この環境下と相性は良いが、それでも絶対ではない。故に万が一の可能性を潰すべく、美月はわざと目立つ様に振舞っていたのだ。
(これは……成程。流石にトゥルパ一人では荷が重い様ですね。ここは私も動くべきでしょう)

 こうして居る間も五感は精神体と共有されており、逐次情報が送られ続けている。青年はそれらを手早く吟味すると、いったん情報収集を切り上げて行動すべきだと判断を下した。所要を思い出したと断りを入れて村人たちから離れると、彼がまず向かったのは村外れに在るあばら家。
(見張りと思しき村人が二人……外套で隠していますが、服の下に銃器を隠し持っていますね)
 美月はさっと周囲を一瞥して状況を把握すると、一度乗騎から降りた。真正面からお願いして中を見せて貰えるような雰囲気ではない。だが今ならば、奇襲によって時間を掛けずに無力化出来るだろう。青年はそっと乗騎を別方向からあばら家へと接近させ、見張りの注意を惹く。
「おん? 随分と立派な馬だな。いったい何処の家のだ。こんな毛並み、見たことも……グッ!?」
 勝負はわずか一瞬。視線が逸れた瞬間を狙って飛び出した美月は、悲鳴すら上げさせずに村人を叩き伏せた。気絶した相手を縛り上げて物陰へと隠しつつ、彼は音を立てずにあばら家の中へと侵入する。
「……此処を優先して正解でしたね。もう少し遅ければ、逃がす時間もなかったでしょうから」
 事前に精神体から伝えられてはいたが、やはり直接見ると眉根を潜めざるを得なかった。あばら家の中には拘束された人間が複数詰め込まれていたのである。見た限り、村の人間ではない。恐らくは生贄用の部外者か。青年は手早く彼らの縛めを解いて解放してゆく。
「げほっ、ごほっ!? た、助かったのか……?」
「取り急ぎは、ですが。すみませんが私はまだやるべき事があります。道案内をつけますので、誘導に従って村から脱出を。救助の者が出迎えてくれる筈です」
 美月は外部に待機しているUDC組織へと連絡を入れつつ、乗騎には一般人を先導する様に言い含める。そうして必要な手配を済ませると、彼は甲高い金属音が聞こえる小屋を調査していたトゥルパと合流。そのまま、最後の目標である巨大な倉庫へと踏み込んだ。
 倉庫の内部は暖房がないのか、冴え冴えとした冷気に満ち満ちている。白い息を吐く青年の表情は強張っているが、しかしてそれは寒さのせいだけではない。
「ロシア、そして銃……考えてみれば『コレ』が出てこない訳がありませんでしたね」
 彼の眼前に広がっていたもの、それは木箱や銃架に収められた膨大な量の銃器だった。全て同じ種類であり、そして美月もまたそれを知っている。
 傑作銃として不朽の名誉を浴びながらも、その高過ぎてしまった生産性と信頼性によって今もなお密造され続け、『小さな大量破壊兵器』の異名を着けられてしまった或る突撃銃。その名は――。
「AK-47カラシニコフ……この村はそうした密造拠点の一つ、という訳ですか」
「……ま、そう言うこった。『詮索好きなワルワーラは市場で鼻をもぎ取られた』、だ。大人しくしてりゃ、暫くは呑気な田舎を楽しめたのになぁ」
 後ろを振り返ると、先ほどまで言葉を交わしていた村人たちが出口を固めていた。その手には倉庫内と同じ小銃が握られている。美月は小さく嘆息すると、手を挙げて降伏の意思を示す。
「小屋の中にあった盤旋機や工具、あれはこれらを製造する為の機材でしょう。火傷は作業の際の怪我、銃への関心はより良い製品を作る為の知識欲といった所ですか」
「ご明察だ。そこまで感づかれちゃ、もう野放しにする事は出来ないな。大人しくこっちに来て貰おうか」
 だが青年は相手の指示に従いながらも、抜け目なく自らの装備を精神体へと託して退避させていた。この後で始まるであろう『祝祭』に備えての伏兵だ。そうして青年はそのまま村人たちに連行されながら、一つだけ問いを口にする。
「ところで、あの銃器は何の為の物でしょうか。農閑期の副業と言うには在庫過多に思えましたが」
「ははは、そんなの決まっているだろう」
 ――スネグーラチカへ捧げるのさ。『兵士役』のお前たちと一緒にな。
 そんな意味深な言葉とともに、村人たちは村中央の広場へと向かってゆく。
 斯くして、旧き『祝祭』の幕が開こうとしているのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 集団戦 『灰色の軍勢』

POW   :    ときは はやく すぎる
【腕時計】を向けた対象に、【時間の奪取による急激な疲労】でダメージを与える。命中率が高い。
SPD   :    ひかる ほしは きえる
【触れたものを塵に変える手のひら】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
WIZ   :    たとえ だれもが のぞんでも
【奪った時間を煙草に変えて吸うこと】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【老化・劣化をもたらす煙】で攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


※マスターより
 第二章断章につきましては本日中ないし18日夜に投下予定です。
 第一章ではこちらの不手際により早々に受付を締め切ってしまい申し訳ございません。最低限の情報は1章リプレイ内にて提示しておりますが、その他詳細についても断章中にて補足させて戴きます。
 参加をご検討されていた方は大変恐縮ですがそちらをご参照頂き、その上で参加しても良いと思って頂けましたら、プレイングお送りして貰えますと幸いです。
 どうぞよろしくお願い致します。
●Худой мир лучше доброй ссоры.
 ――さて、猟兵たちの活動によって明らかになった事実を整理すれば、概ね二つに大別することが出来る。
 まず一つ目は寒村に伝わる伝承について。この一帯には雪の娘とも称される存在『スネグーラチカ』に纏わる話が語り継がれているらしい。現在でこそクリスマス行事に登場する善き人物というイメージが流布しているが、それは飽くまでも近年になってから定着した新しいものだ。この村に伝わっているのはそれよりも旧い原型、それもこの村独自の内容である。
 曰く、雪像に命を吹き込まれた妖精。
 曰く、或る青年に想いを寄せた乙女。
 曰く、儚くも陽に溶けた冬陰の象徴。
 曰く、恋しさから人を連れ去る脅威。
 人魚姫や雪女を思わせる逸話だ。尤も、これらに何処まで真と偽が含まれているのかは定かではない。十中八九、村人たちの信奉する邪神の事を示しているのは間違いないと思われるが、それ故においそれと部外者へ全てを詳らかにする可能性は低いだろう。
 それらを繋ぎ合わせれば、か細い真相の糸を手繰り寄せる事も不可能ではないかもしれないが――二つ目の事実が、より事態の混迷さに拍車を掛けていたのである。


「……さて、これで外部からのお客人は全部かな? 本来であればもう少し数が居たのだがねぇ。逃げられたのは極めて残念だよ」
「尤も、ここから一番近い村までは軽く見積もって三十キロはある。しかも今は冬の真っただ中。着の身着のままで逃げ切れるほど甘くはない。大人しく残っていれば、少なくともかの乙女に看取られて逝けたものを」
 村の中央部、ぽっかりと開けた広場。其処へと引きずり出された猟兵たちを取り囲む村人の手には、武骨なシルエットの銃器が握られている。AK-47カラシニコフ小銃。二度目の大戦後まもなく開発されたそれは、驚異的な頑丈さと高い信頼性を誇る傑作品である。 
 しかし、それに伴う製造の安易さによって世界各国で密造され続け、遂には『小さな大量破壊兵器』と呼ばれる程の悪名を得てしまった暴力の象徴。二つ目の真実とは、この村もそうした密造拠点の一つであったという点だ。
 しかし、彼らは金儲けの為にこれを製造していた訳ではないらしい。全てはただ、崇拝する神へと捧げんがため。確かに、神格へ武具や宝物を捧げる行為は様々な宗教でも見られる。だが、凍てつく氷の少女と近代的な銃が何故結びついたのか。その真相は未だ不透明なままだ。
「まぁ良い。生贄は揃い、条件も整った。では、これより……『祝祭』を始めるとしよう」
 村長と思しき老爺が口火を切ると、村人たちが雄たけびと共に頭上目掛けて勢いよく銃を発砲し始める。硝煙の匂いがツンと鼻を突き、冷気に交じって灰色の煙が周囲に満ちてゆく。すると一陣の風が広場へ吹き込んだかと思うや、煙は幾つもの塊を形成していった。またそれと同時に、ちらちらと粉雪も舞い散り始める。
「かつては共に在りし者。いつかに捧げられし者。いずれその手を取りし者。雪の娘が懸想して、不壊の銃が求めしは、常に寄り添う誰かの手。されど汝の手にあらず。我を握るは何者也や……」
 銃声に交じって村人たちが紡ぐ言の葉。それは祈りの様な清らかさと、妄執を孕む汚濁が入り混じった輪唱。急速に異様な空気が満ちてゆく中、姿を現したのは灰色の衣服に身を包んだ無数の青年であった。
 ざっと一瞥しただけであるが、猟兵たちは本能的に直感する。彼らがかつて邪神へと捧げられた生贄、その成れの果てである事を。百年にも及ぶ儀式によって、その存在そのものが神の求める姿へと捻じ曲げられてしまったのだろう。
「雪の娘に新たなる伴侶を捧げよ! さすれば冬の寒さは遠のくだろう! 不壊の銃へ担い手を与えよ! されば我らに降りかかる災いは打ち払われるであろう!」
 老爺の叫びを受けて、村人たちは手にしていた銃器を灰色の軍勢へと放り投げた。すると彼らはそれを受け取るや否や、慣れた手つきで弾倉を取り付け、槓桿を引いて初弾を薬室へと送り込む。その銃口が向けられるのは当然、猟兵たちだ。
 村人の発言を聞く限り、武器と人間を捧げる見返りとして、冬の寒さや外敵から身を守る加護を得ていたと言うところだろう。

 斯くして、此処に祝祭の前段が幕を開けた。まず相対するは銃器を手にせし灰色の兵士たち。彼らを突破しないことには、目的の邪神まで辿り着くことなど出来はしない。
 さぁ、猟兵たちよ。取り囲む村人たちへと見せてやれ。
 百年変わることの無かった『祝祭』へ齎される、何よりも痛烈な予想外を。

※マスターより
 プレイング受付は若干間が開いてしまい恐縮ですが、22日(金)8:30から開始致します。
 第二章は『灰色の軍勢』との集団戦です。彼らは保有する異能に加え、武装としてAK-47を使用してきます。村人たちは『祝祭』の進行に専念しており、横やりなどの心配は不要です。
 天候は雪交じりの曇り空。戦場は村中央部の広場で、戦闘を行うのに支障がない程度の広さがあります。周囲には民家が立ち並んでいますので、足場や障害物として利用することも可能です。

 1章で得られる情報はリプレイと断章内に記載しておりますが、改めて取り纏めますと
・村人たちが信奉する存在は雪の娘『スネグーラチカ』。しかし語られた内容は不正確であり、かつ長い年月を経たことで何らかの変化が生じているらしい。
・村人たちはAK-47を密造しており、いつしか生贄に加えてそれも邪神へ捧げるようになりました。彼らの信仰が邪神に影響を齎したのか、それとも邪神の変化に村人側が合わせたのか、現時点では不明です。
・小屋から聞こえていた甲高い音は工作機械の稼働音、漂う異臭は使用する油や薬品によるものです。大きな倉庫は彼らが作り上げた銃器の保管場所でした。
・あばら家には猟兵たちとは別に、一般人の生贄たちが拘束されていました。1章の行動結果により彼らは既に解放され、村外に待機していたUDC組織によって保護されています。

 現在判明している情報と補足については以上となります。
 1章ではこちらの不注意でご迷惑をお掛け致しましたが、どうぞよろしくお願い致します。
フォルター・ユングフラウ
【古城】

【WIZ】

弾を込め、引金を引く
そんな単純な動作で、命を奪える
肉を裂く音も、手応えも感じず、返り血すらも浴びずにな
まさに、弱者の為の『手段』であろうよ

弱者の『手段』に合わせてやる理由も無いが…強者の余裕として、あえてやってやろう
黒の弔銃の発砲と同時、UCを発動
亡者の腕で操られた弾丸は、狙い違わず目標を穿つ─どうだ、ちょっとした『魔弾』であろう?

しかし、殉教の阻止か
件の邪神は、どうせ我等しか眼中に無かろうに
些か、慎重に過ぎる…いや、それが汝の性分であったな
我としては、派手な景色が楽しければ何でも良い
この黒の小瓶の中身、好きに使うが良い
愚かな邪神が、戦の狼火と勘違いして出てくるかもしれぬしな


トリテレイア・ゼロナイン
【古城】

(弾から味方かばい、妖精乱れ撃ちスナイパー射撃で時計や煙草持つ手撃ち●武器落とし
操縦妖精で煙草と銃回収)

フォルター様
騎士を駆逐した銃の利点
そして同じ生産物でも『戦の代行者』たる私達戦機との違いは分かりますか?
是非は兎も角、弱者が容易に戦う力得る『手段』なのですよ

ましてあのUDCEの銃は…(世界知識)
皮肉な仮説ですが、儚き雪の精に捧ぐに良き象徴やもしれません

銃倉庫爆破の為
小瓶をありたけ頂けますか
(物資収納Sの手榴弾で破壊工作)


供物に手を出す愚か者は怒り買うが御伽噺のお約束
邪教徒への心理的制裁
神の制裁という名の殉教の阻止と此方への誘導
力削げれば僥倖という訳です

それに

派手な趣向がお好みでは?



●氷鋼の信仰に上がるは反撃の狼煙
『ただ、永久に消えぬ氷の様に……決して裏切らぬ伴侶の如く』
『積み上げ、積み上げ、積み上げて。真なる一を求め、瓦落多を重ね続けた』
 戦闘開始直後、まず先手を取ったのは灰色の兵士たちであった。彼らは投げ寄こされた銃器を構えるや、一斉にその引き金を引く。瞬間、立て続けに上がる発砲音と共に弾丸が吐き出され始めた。使用されている7.62x39mm弾は威力・貫通性能に長けている上、邪神の影響によるものかその殺傷力に更なる拍車が掛かっている。常人であれば一斉射で肉塊と化すであろう暴威である事は間違いない……が。
「製造されてから、早七十年近く。長年に渡って採用され続けている以上、それを支える長所があるのは当然でしょう。邪神の強化込みとは言え、旧式と侮る事は出来ません」
 如何な弾丸とはいえ、城壁の如き大盾を貫徹するのは些かばかり骨らしい。しかし、その背後からぬっと姿を見せたトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は、装甲表面に刻まれた傷や弾痕を見て敵戦力を上方修正する。一発二発は耐えられようと、これが百発千発と浴びせ掛けられれば無事では済まないだろう。
 彼は敵の様子を伺いながら、そっと背後へと声をかけた。
「……フォルター様。かつて戦場より騎士を駆逐した銃の利点。そして同じ生産物でも、『戦の代行者』たる私達ウォーマシンとの違いは分かりますか?」
「無論だとも。知識としては元より、周りを取り囲む有象無象共を見れば嫌が応にも理解出来てしまうというものだ」
 問いかけに応じたのは漆黒の装束に身を包んだ半魔半人の乙女。フォルター・ユングフラウ(嗜虐の女帝・f07891)は先の銃撃に動じた様子もなく、視線をそのまま横へとスライドさせる。彼女の視界に映るのは見世物でも眺めるような表情を浮かべた老若男女と、彼らの手に握られし突撃銃。
「弾を込め、狙いを定め、引金を引く。そんな単純な動作で、命を奪える。肉を裂く音も、手応えも感じず、返り血すらも浴びずにな。あれでは命を奪ったという、負って然るべき感慨すらも得られまい。まさに、弱者の為の『手段』であろうよ」
「ええ、ご賢察の通りです。是非は兎も角として、あれらは弱者が容易に戦う力得る『手段』なのですよ」
 銃が剣や弓より優れている点は幾つもある。威力は勿論の事、種類によっては有効射程もキロ単位。同じ時間で攻撃を叩き込める回数・速度など比較にすらならない。だがそれ以上に優越している点を挙げるとすれば、その習熟の容易さであろう。目玉が一個、腕が一つに指一本。それだけあれば極論、銃は扱えてしまう。
 そして、それは大抵の人間に備わっているものだ。小さな幼子であろうと、年老いた老婆であろうと、荒事と無縁な淑女であろうと。手にした瞬間から、その者は他者を害せる『手段』を得るのだ。習得までに年単位を要する武術とは根本からして異なる。
「……騎士を自負する身としては、些か以上に複雑な心境か?」
「ええ、少しばかりは。装備しているにも関わらず今更何を、と思われるかもしれませんが……あの銃の来歴を考えますと、ね」
 相手の射線を大盾で巧みに切って背後の仲間を庇いながらも、一方で鋼騎士は電子頭脳内に収められた情報を再度掘り起こしていた。かつて、ある男がこの銃を作り上げた理由は何だったのか。いまこの銃を誰が手にし、何の為に求め、そして何処へと向けているのか。華々しき御伽噺とは違い、戦場の現実はいつだって赤い血に塗れている。
「……皮肉な仮説ですが、儚き雪の精に捧ぐには良き象徴やもしれません」
「感傷に浸るのはいいが、我らまで諸共に供されては敵わん。わざわざ弱者の『手段』に合わせてやる理由も無いが……強者の余裕として、あえてやってやろう」
 黒き女帝は射撃が途切れた瞬間を狙って大盾の後ろより躍り出るや、自らもまた銃器を引き抜く。それは流麗なゴシック意匠の細工が施された回転式拳銃だった。撃鉄を起こし、押し込まれた引き金によって弾丸が放たれる。
 と、それと同時に白き雪原へ幾つもの黒き線が走ってゆく。それらはフォルターの足元より湧き出た、夥しい数の腐り爛れた腕だ。それらは飛翔する弾丸を指先で弾くや、軌道を逸らすことによって回避を試みた相手へ攻撃に弾丸を命中させる。利き腕を貫かれ、灰色の青年は堪らず銃器を取り落とした。
「亡者の腕で操られた弾丸は、狙い違わず目標を穿つ─―どうだ、ちょっとした『魔弾』であろう? 手数が些か足りぬが、得物の現地調達も戦の華だ。どれ、我もソレの出来を試してやろう」
 虚空を引っ搔くように指先を戦慄かせるや、腕の群れは敵が手放した銃器を引っ掴む。そのまま術者の命に従い、当たるを幸いにと弾丸をばら撒き始めた。無論、他の腕による追尾付きだ。
『時は流れ、打ち捨てられ、されど巻き戻ることはなく』
『なれば、ただ過ぎ去ることを望むのみ。来ることなき春を願いながら』
 流石にそれらは無視できなかったのだろう。灰色の軍勢は射撃の合間を縫って腕時計を差し向け、或いは熱を帯びた銃身で灯した煙草を吹かし、吐いた煙を硝煙へと紛れ込ませてゆく。しかし、黒き女帝の呼び出せし腕は既に死したるモノ。死者にとって時間とは流れるのではなく静止するものだ。故に、彼らの繰り出す異能との相性は控えめに見ても良いとは言えなかった。
「煙草を吸いながら戦闘とは感心致しませんね。夜陰や降雪の中でも、存外火や煙と言うのは目立ちますので……物は次いでです、そちらも回収させて頂きましょう」
 更には頭上を飛び回る小さな影が、銃器を掠め取っては腕の群れへと投げ渡してゆく。その正体はトリテレイアの操る妖精型の自律式ドローンロボットだ。それは敵の武装を奪う傍ら、頭部に内蔵されたレーザーによって煙草を焼き切り、零れ落ちた吸殻を目敏く回収する。
 そうして敵の動きを牽制し少しばかりの余裕が生まれると、トリテレイアはちらりと戦場外へと視線を向けた。その先にあるのは製造された銃器が収められている倉庫。己の立ち位置や周辺の地形を手早く把握しつつ、彼は銃撃を続けている友へと手早く耳打ちする。
「すみません、少しばかりお願いがございます」
「どうした、言ってみよ。見ての通りこちらも少しばかり忙しくてな、手短に頼む」
「銃倉庫爆破の為、お持ちの小瓶をありたけ頂けますか?」
 そう告げられ、フォルターもまた横目で一つ頭高い建物を視界へと捉える。成程、確かにあれならば此処からでも射線は通るだろう。しかし、何故わざわざこのタイミングで。そう女帝が目線で問いかけると、鋼騎士は格納スペースより手榴弾を取り出しながら理由を述べてゆく。
「供物に手を出す愚か者は怒り買うが御伽噺のお約束です。邪教徒への心理的制裁に加え、神の裁きという名の殉教の阻止と此方への意識誘導を狙います。またどうにも、アレらを残したままなのは不味い気がしまして……あわよくば、力削げれば僥倖という訳です」
「ふむ。殉教の阻止、か。件の邪神は、どうせ我等しか眼中に無かろうに。信者連中の心配までしてやるなど、些か慎重に過ぎる……いや、それが汝の性分であったな」
「ええ、ご迷惑をお掛けします。それと、強いてもう一つ利点を付け加えるならば」
 フッと、フォルターの口元にくつりと笑みが浮かぶ。それを見たトリテレイアは思い出したかのように、少しお道化た口調で言葉を続けた。
「……フォルター様としても、派手な趣向の方がお好みでは?」
「まぁ、違いないがな。我としては派手な景色が楽しければ何でも良い」
 片手で射撃を継続しつつ、女帝は鋼騎士へと数本の小瓶を放って寄こす。ぞんざいな扱いに見えるが、それはこの理想主義の戦機に対する信頼の裏返しでもある。
「この黒の小瓶の中身、好きに使うが良い。愚かな邪神が、戦の狼火と勘違いして出てくるかもしれぬしな」
「ご協力感謝します。それでは精々、ご期待に沿えるよう努力致しましょう!」
 手元に爆発物を抱いているのだ、余り時間は掛けるべきではないだろう。それを察した仲間が敵を押し返すべく攻勢へと転じる中、トリテレイアは脚部関節を全力稼働。内臓バーニアで推力を得ながら頭上高くへと飛び上がり、手にした手榴弾と小瓶を投擲する。
 それらは村人たちの頭上を飛び越え、放物線を描きながら倉庫へと吸い込まれてゆき、そして……。
「百年にも渡る悪しき信仰を打ち破るために……今こそ、反撃の狼煙を上げる時です!」
 ――凄まじい轟音と衝撃波を伴いながら紅蓮の焔が天高く舞い上がり、吹き荒ぶ氷風を打ち消してゆくのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

レナ・ヴァレンタイン
やれやれ、このまま待ちぼうけを喰らうかと
潜伏活動も楽ではないね

我が「劇団員」たちにはカウボーイ、野盗、娼婦、保安官、原始的な槍を掲げるインディアン…場違いな西部劇の仮装をさせて襲撃
武器も身体も「虚構」なので当たらんが、その放つ音と映る姿は本物だ
眼を盗め、耳を奪え、臭いを偽れ
撃たれる者、時を奪われ倒れ伏す者、古いライフルを手に反撃する者、ナイフを手に襲い掛かる者…様々な被害者と加害者を演じて奴らを虚構に躍らせろ


私は敵の混乱に乗じて暗殺行動
喉にナイフを突き刺し、銃撃に自身の銃声を紛れ込ませて脳天を穿ち、劇団員の動きに合わせてライフルを放つ

卑怯卑劣に立ち回らせてもらうぞ
さあ、ショータイムだ



●慌てふためく観客ども、それ見て嗤うは劇団員
「はぁ……っ!? 爆発、した? いや待て、あそこって、確か倉庫が……!?」
「собака! あの騎士崩れめ、半年分の成果を吹き飛ばしやがった!」
 吹き荒ぶ白を消し飛ばす、どこまでも暴力的な赤。完成した銃を仕舞っていた倉庫には当然、弾薬や油の類も収められている。そこに引火すれば当然、引き起こされるのは凄まじいまでの爆発だ。村人たちはそれまでの物見遊山気分から一転、冷や水を浴びせ掛けられたかの様に浮足立つ。呆然とする者、怒りを露わにする者、神の眷属がどう動くか恐れる者などその反応は様々。
 しかし、まだ彼らの中にそこまでの深刻さはない。生贄の苦し紛れが偶々悪い方向へと転がっただけ――そんな考えが根底に存在している。
「やれやれ……このまま待ちぼうけを喰らうかと思ったぞ。まったく、潜伏活動も楽ではないね。ただ、開始の合図としては悪くない」
 そんな混乱と楽観を見据え、スッと目を細める者が居た。それはこのタイミングまで村人との接触を断ち、裏方での情報収集に徹し続けてきたレナ・ヴァレンタイン(ブラッドワンダラー・f00996)だ。彼女は口元へうっすらと笑みを浮かべながら、今この瞬間こそが己の打って出るタイミングだと直感する。
「予想外はあっても、最終的には何とかなるだろう。だってこれまでも上手くいっていたのだから……大方、そんなところか。残念だが、そんな筋書きは今日までだ」
 このまま時間を置けば、いずれ混乱も収まってしまうだろう。そうはさせまいと、レナはパチリとひとつ指を鳴らす。現実から目を逸らし、神という都合の良い幻想に浸り続けた者たちには、同じ“虚構”の存在がお似合いだろうと考えながら。
「“彼はなんて言ったと思う?”“答えはこう、『ここは新世界だ』『ここでは、なりたい自分になれる』”。幕開けの時間だ、お前が信じるものだけを見せてやる。そのまま墜ちろ」
 ――さぁ、せいぜい楽しめ。
 瞬間、一発の銃声が広場に鳴り響く。何事かと村人たちがそちらへ目を向けると、そこに居たのは『ピースメーカー』を手にしたガンマン。鬨の声を上げて突っ込んで来るアウトローの背後からはカウボーイ、野盗、娼婦、保安官、原始的な槍を掲げるインディアンと言った、まさに西部劇に登場する人物たちが大挙して押し寄せていたのである。
「な、なんだコイツら! 部外者は逃げたやつら以外、広場へ全員集めたはずだぞ!?」
「何であれさっさと撃ち殺して……駄目だ、このままじゃ他の連中も巻き込んじまう!」
 村人たちも咄嗟に応戦しようと銃を構えるものの、下手に密集していたのが裏目に出た。同士討ちを躊躇したところを薙ぎ倒され、アウトローたちの侵入を許してしまう。レナもまた彼らに乗じて広場へと雪崩込み、灰色の軍勢と交戦を開始する。この突然の乱入者は全て、彼女の仕込みだ。こんな時を想定して伏せさせていた『虚構』を操る劇団員たち。
(武器も身体も『虚構』なので当たらんが、その放つ音と映る姿は本物だ。リアルではないが、リアリティは十二分。例え気付いたとしても、そう無視は出来ないだろう)
 彼らは飽くまでも舞台に立つ存在。刃も銃弾も全てがイミテーション。しかし、それ以外は限りなく本物に近い。無論、交戦を続ければいずれ相手もそれに気づくだろうが……そこに一つでも本物が混じれば、さてどうなるか。
(眼を盗め、耳を奪え、臭いを偽れ。撃たれる者、時を奪われ倒れ伏す者、古いライフルを手に反撃する者、ナイフを手に襲い掛かる者……様々な被害者と加害者を演じて、奴らを虚構に躍らせろ。神も眷属も信者も、纏めて騙して引きずり込め)
 レバーアクションライフルを構えた者が居れば、それに合わせてリボルバーを抜き放ち脳天を吹き飛ばす。ボウイナイフを振りかざす者が居れば、別方向から目標へと忍び寄り黒き短剣で喉を掻き切る。敵群が弾丸をばら撒き、或いは腕時計を翳してくれば、身を翻して群衆の中へ。レナは巧みに虚実を織り交ぜながら、周囲全てを疑心暗鬼の渦へと叩き落してゆく。
(これまで数え切れぬほどの他人を騙して、神へと捧げてきたのだろう? なら、こちらも卑怯卑劣に立ち回らせてもらうぞ。さあ……)
 ――ショータイムだ。
 そうして、探偵にして復讐者は村人たちが積み重ねた因果へ報いるように、灰色の軍勢を着実に駆逐してゆくのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ブラミエ・トゥカーズ
銃は避けない。鉛玉では退治できない。
ただし、日光で焦げている。化粧品で誤魔化しているが焦げ臭い。
従者に急ぎ日傘を用意させる。

言の葉は式で、式は枷を作る。
その枷が邪神であるなら、枷の中身は何であろうな。

教えてはくれぬかな?
最初の引き金は誰で、誰を向けてであったかを。

自身に【攻撃が命中した対象】に返り血を浴びせ、
UCを感染させる。
血球に感染するウィルスも自身であるため、血球と共に【老化・劣化】を発生させる。
感染した者に幻覚と渇きを与え吸血鬼の様に仲間割れを誘発させる。
ワクチン接種している様な村人には効果はない。
山奥の村なので期待薄だが。

日光の下なのでどうしても機嫌が悪い。

アドリブアレンジ絡み歓迎



●白雪を踏むは赤黒き死
「何なんだ、これは……こんな事、今までなかったぞ!?」
「案ずるな。やられた眷属はごく一部、それにまだ乙女すら姿をお見せになっていない。どのみち、結果は変わらんよ」
 『祝祭』開始早々に発生した倉庫の爆破。そして、その衝撃も収まらぬままに乱入してきたアウトロー軍団。立て続けに発生した出来事により、村人たちの間に動揺が広がっていた。今年の儀式は何かが違うと感じる一方、しかして灰色の軍勢は未だに大半が健在である。まだ大丈夫、そう己に言い聞かせる信者たちの眼前で――。
「……不快だな。雪交じりとは言え、昼であることに変わりはないか。そろそろ化粧程度では誤魔化しが聞かなくなる。従者よ、急ぎ傘を持て」
 焦げ付く肌を上着で隠しつつ忌々しそうに空を睨みながら、ブラミエが昂然とした足取りで広場へと歩み出る。主の命を受けて従僕妖怪が歩み寄ると、柄の長い傘を広げて恭しく差し出す。それは戦場の粗雑さと余りにも対照的な振舞だったが、それでいて他者へ否を挟ませぬ超然さを帯びていた。村人たちが気圧されている中、彼女は周囲を取り囲む者たちを睥睨する。
「言の葉は式で、式は枷を作る。極東では言霊、洋の西であればプネウマとも形容される、言葉に込められた力。さて、その枷が邪神であるなら……枷の中身は何であろうな」
 ――教えてはくれぬかな? 最初の引き金は誰で、銃口は誰に向けてであったかを。
 状況がどうなろうとも、彼女の関心がブレることは無かった。即ち『雪の娘』がどの様な存在であり、何故このように変貌したのか。七十年、人が生まれて死ぬには十分すぎる時間だ。されどまだ知る者は居るだろうと、吸血鬼は突きつける様に視線を巡らせる。
 若き者は首を振り、或いは目を逸らす。年老いた者も多くは眉根を顰めるのみであったが、最年長と思しき村長だけは違った。目を見開きながら、喘ぐように言葉を零す。
「わ、儂らは悪くない。全ては、時代が……あの鉄十字どもが、来さえ、しなければ」
 きっと我知らずに漏れてしまったのだろう。それ故に言葉の内容は要領を得ていない。更なる詳細を問い質さんと、ブラミエが口を開きかけた……その時。
『……“首吊り自殺した人の家ではロープの話をするべからず”』
『余計なお喋り、野暮な好奇心こそが猫を殺すものである』
 問答を遮るように灰色の軍勢が一斉に発砲を始め、猟兵を蜂の巣にしていった。我に返った村長はハッと口を押えつつ後ずさり、ブラミエは鮮血をまき散らしながらぐらりと体を傾がせる。彼女はポタポタと白雪に赤い点線を描きながら、邪神の眷属たちを睨め付けてゆく。
「生憎、白木の杭でも無ければ退治出来ぬ体質でな。しかし、なるほど。やはり軽々しくは知られたくない類の話か。貴様らが居るとおちおち話も聞けん……だが、これはこれで好都合だ」
 吸血鬼の再生力であれば傷を塞ぐのも容易いが、ブラミエは敢えてそうしなかった。流れ出る血をそっと掌で掬い取ると、まるで手袋を投げるように相手へと叩きつける。
「如何な寒村とは言え、我自身も随分と古い存在だ。ワクチンなり抗体なりは持ち合わせていよう。まぁ、無ければ無いでその時だが……ともあれ、同じく旧き者である貴様らは果たしてどうかな」
 舞い散る血飛沫が灰色の装束へと触れた瞬間、そこを起点として一気に全身が赤黒く染め上げられる。途端に敵群は倒れこむや、悶え苦しみながら地面をのたうち回り始めた。これこそが彼女のもう一つの側面。現在では既に根絶されてしまった、致死性伝染病としての本領である。隔絶されているとは言え現代医療の恩恵を受けている村人たちは兎も角、眷属の元となったのは数十年前の生贄たちだ。時代的にもこうした病に対する免疫が低く、故にこそブラミエはその猛威を十全に発揮することが出来た。
「ほう、我に侵されてもなお抵抗を選ぶか。植え付けられたものだろうとは言え、その気概は称賛に値する」
 にも拘らず、相手は強烈な貧血感に蝕まれながらも銃の照準を合わせ、口元に煙草を運んで紫煙を呼気と共に吹き付けてくる。弾丸が体を貫き、傷口から入り込んだ煙によって老化が促進されるのを感じながらも、しかして吸血鬼に怯む様子はなかった。
「……だが、言ったはずだぞ。病そのものが我であると。本体が老化すれば、ウィルスもまた取り付いた血球と共に劣化する。そうなるとどうなるのか、身を以て知ると良い」
 血球の急激な減少とは即ち、全身へと運び込まれる酸素量の低下を示す。酸素が減少すれば代謝によってエネルギーが生成されなくなり、熱量が不足すれば脳はたちまち機能不全へと陥る。それによって引き起こされるのは……悍ましい幻覚と強烈な飢餓感である。
「全く、銃撃によって日傘に穴が開いてしまったな。取り急ぎは適当な布を宛がって急場を凌ぐより他になし、か」
 そうして眼前で繰り広げられる同士討ちの地獄絵図を横目に、ブラミエは弾痕の穿たれた日傘を見上げて不機嫌そうに嘆息するのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

黒玻璃・ミコ
※美少女形態

◆心情
風と氷雪の娘が鋼と硝煙を求めるとは
抗えぬ存在の象徴であるならこの帰結は必然と考えるべきか……

◆行動
灰色の軍勢達よ
貴方等に【黄衣の王命】を持って告げましょう

『我を指すなかれ』

不敬です、黒き勇者の来訪に捧げ銃さえも出来ぬのですか?

機先を制すべくその心を読み
『祝祭』の音に合わせ抑揚を付けて
【催眠術】の様に魂を魅了する声を発します
直に汗から香る【毒使い】による香気も【念動力】による流れで届くでしょう
抵抗か従属かは然程問題でありません
【生命力吸収】すら可能とする路は既に繋がれたのですからね

前々から銃の扱いも覚えようと考えていました
貴方達から『奪う』としましょうか

◆補足
連携&アドリブOK



●風に乗りて歩むもの、鋼の氷を籠めしもの
「……おい。これはもしや、押されているのではないか?」
「馬鹿を言え、まだまだ眷属は居るんだぞ。少しばかり討ち取られたくらいで、そんな……」
「だが、傷らしい傷も与えられてねぇべよ。数が居たって、これじゃあ」
 戦闘開始から暫しの時が経ち、いよいよ以て村人たちの信仰心が揺らぎつつあった。確かに、灰色の軍勢はまだ大半が残ってはいる。しかし、今年の生贄たちは彼らを苦も無く蹴散らしているのだ。例え数で優っていたとしても敵わないのではないか、そんな疑念が生じているのだろう。
(信仰心が強いと言えば聞こえは良いですが、思考を停止してしまえばそれは依存と変わりない、と……精々、他山の石とさせて貰いましょうか。似た様な在り様であれば、崩し方も分かるというものですし)
 同じように神格を奉ずるモノとして、ミコは彼らの心境が手に取るように理解できた。百年も変わらなかった伝統が根底から覆れば、動揺するのも無理はない。尤も行ってきた内容が内容である為、同情の余地など微塵もなかったが。ともあれ、村人たちについてはこのまま戦闘を続けていけば、現実と信仰心が齟齬を起こして勝手に自壊するだろう。寧ろ彼女が興味を惹かれるのは、やはり待ち受ける邪神について。
「風と氷雪の娘が鋼と硝煙を求めるとは。どちらも只人の身では抗えぬ存在の象徴であると見なすのならば、この帰結は必然と考えるべきか……そこのところはどうなのでしょうかね?」
 村人たちから視線を剥がし、真正面へと戻す。その先に居たのは油断なく得物を構え、銃口を向けて来る灰色の青年たち。彼らもそろそろ眼前の相手がこれまでの生贄とは違うと悟ったのだろう。すぐさま攻撃を仕掛けずに、ジリジリと距離を測りつつ様子を伺っていた。言葉自体は発せられるようだが、尋ねたところで素直に答える性格でもあるまい。
「まぁ、わざわざ戦闘中に問答を行うのも悠長な話です。であれば、より直截に行くとしましょうか。灰色の軍勢達よ、貴方等に【黄衣の王命】を持って告げましょう」
 ――『我を指すなかれ』。
 それはそこまで声量が大きい訳でも、傲慢さや高圧さを帯びている訳でもなかった。吹き荒ぶ寒風に流れ溶ける、ほんのささやかな一言。にも拘らず、その言の葉が齎した影響は決して小さくはなかった。
『……ッ!?』
 俄かに相手は顔を顰め、苦悶する様に身を捩らせてゆく。そこには確かな不快感と苦痛が見て取れた。これこそ黒きハリ湖に眠る古き支配者、その威を乗せた呪言である。他の神に従う眷属とは言え、おいそれと無視する事など出来はすまい。
「わざわざこうして足を運んだ来客へ銃口を向けるなど、甚だ不敬です。雪の娘に仕える従者は黒き勇者の来訪に捧げ銃さえも出来ぬのですか?」
『乙女、が、待ち望みし、者は……ただ、ひとり』
『汝に非ず、汝に非ず……汝に、非ずッ!』
 挑発的な物言いに対し、灰色の軍勢の反応は奇麗に二分された。苦痛を押し殺して射撃を行う者と、先端に銃剣を取り付けて接近戦を挑む者である。ダメージ覚悟で援護を敢行しつつ、制約から脱したもう半分でこちらを仕留めるつもりなのだろう。自発的か否かは置いておくとして、ミコは相手の忠誠心に目を細めた。
「礼儀作法は頂けませんが、従者としてはそれなりに優秀なようですね。ならば次は、その信仰の強さを試させて頂きましょう」
 敵の銃撃を搔い潜りつつ、深淵の勇者は肉薄してきた灰色の兵士へと相対する。繰り出される刺突を盾形に変形させた黒剣で防ぎ鍔競り合う格好となるや、響く銃声や戦場の喧騒と合わせるように旋律を口ずさみ始めた。
「いあいあ、はすたあ……ぶるぐとむ、ぶぐとらぐるん……あいあい、はすたあ!」
 字面だけだと単なる意図不明な音の羅列に過ぎない。しかし同じ尋常ならざる存在である眷属たちにとって、それは抗い難き誘惑を含んだ調べであった。更には予め体へと塗布した薬液によって、彼女の流す汗すらも神秘を孕む存在に対して酩酊にも似た感覚を齎す効果を秘めている。その二つが合わされば、狂気すらも魅了する誘いの完成だ。
(抵抗か従属かは然程問題でありません。生命力の吸収すら可能とする路は既に繋がれたのですからね。どちらにせよ、行きつく先に変わりは無しです)
 だが、それだけで済む等とはミコも楽観視していない。抵抗が激しい場合には、相手の心理的防御の隙間をついて生命力を奪うだけの話である。果たして、敵はその動きを鈍らせながらも少女へと挑み続けてきた。
『求められ、違うと断じられても尚、傍に在りて……!』
「ふむ、邪神は女性格と言う話ですし、やはりそちらの方面では分が悪そうですか。であれば、それもまた良し……前々から銃の扱いも覚えようと考えていましたしね?」
 ――貴方達から『奪う』としましょうか。
 差を埋めるべく腕時計を向けて来る相手を蹴り飛ばしつつ、ミコは相手よりAK-47を奪うやこれまでのお返しとばかりに弾丸を浴びせかける。そうして多数の敵を翻弄しながら、その中心で屠竜の魔女は舞うように戦闘を続けるのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

セフィリカ・ランブレイ
エウちゃん(f11096)と

邪神の企み、環境の厳しさで弱った心に潜り込んで
武器を作らせ心のブレーキを緩め生贄を捧げさせる心のハードルを下げた、とかかな
エウちゃんとの美少女二人で村に入ったら完全にカモだよね
食べる以外で殺すっていうのが、もうね。非効率なとこはあるね

『細かい話は後ね。あちこちにいるわよ』
と、溜息を吐くのはシェル姉……相棒の魔剣
一対一なら銃避けるのは簡単だけど、複数人に狙われたら話は別だ

エウちゃん、まずは防御固めた上で数減らそっか

【藍盾の聖女】
バリアを展開する飛行ユニットを無数に展開、一斉放火にだって耐えるよ!

エウちゃん、隙作れる?
砲火に穴が開いた瞬間に突っ込む!

彼女を信じ反撃開始!


エウロペ・マリウス
同行者:セリカ(蒼剣姫・f00633)

生贄が必要な儀式に、碌なものは無いと思うのはボクだけかな?

【挑発】しつつ、【空中浮遊】【空中戦】で空中へ
空中ならば、銃でも煙でも、地上よりは回避行動の幅を持たせられるだろうから
その上で【オーラ防御】【結界術】を用いて防御面を強化
セリカに攻撃をお願いして、ボクは敵の拘束が役目
存分にボクに攻撃的な感情を抱かせたところで動きを止めさせてもらうよ

「反転する九天。指嗾し闊歩する死神。羈束する楔を以て、終幕へと導け。愚者の磔刑(プレヘンデレ・カウサ)」

住民達の救いが十字架に磔にされている景色は皮肉だね
それでもなお祈るというならば
生贄にされた彼らの死後の安寧を祈るといい



●天より下せ、地にて斬れ
「邪神の企み……環境の厳しさで弱った心へと潜り込んで武器を作らせ、まずは心のブレーキを緩め。そして贄を捧げさせる心のハードルを下げた、とかかな。エウちゃんとの美少女二人で村に入ったら完全にカモだよね」
「伴侶だの使い手だの言っているし、あちらとしてはイケメンの方が望みだったかもね。まぁ、取り込まれたらどのみち『あの姿』に変えられるみたいだから、余り関係ないだろうけど……ともあれ、生贄が必要な儀式に碌なものは無いと思うのはボクだけかな?」
「食べる以外で殺すっていうのが、もうね。間違いなく非効率なとこはあるね」
 他方で黒き勇者が眷属たちと大立ち回りを繰り広げている中、セフィリカ・ランブレイ(蒼剣姫・f00633)とエウロペ・マリウス(揺り籠の氷姫・f11096)はひそひそと言葉を交わしあっていた。村での情報収集や『祝祭』での遣り取りから背景事情について想像を巡らせるものの、その実態はまだまだ見えてこない。確かなことはただ一つ、眼前の敵は全て駆逐せねばならないという点のみ。灰色の軍勢を打ち倒さねば、件の邪神が姿を見せることは決してないだろう。
『考察もいいけれど、細かい話は後ね……もうあちこちにいるわよ?』
 と、そんな二人を窘める様に蒼き魔剣が警告を発する。サッと周囲へと視線を走らせれば、幾人もの青年たちが二人を取り囲むように展開していた。手に握られたAK-47の照準は、当然ながら少女たちへぴたりと合わせられている。猟兵の身体能力であれば、小銃の射撃程度避けるのは容易いが……それも一対一での話だ。こうもがっちりと連携陣形を組まれては回避する隙間を見つけるのも難しいだろう。
「足を使って狙いをばらけさせる……いや、この数の差じゃ難しいかな。エウちゃん、まずは防御固めた上で数を減らそっか。囮はこっちで引き受けるから、妨害は頼める?」
「周りが雪で、かつ敵の方が多勢となると、使えそうな『札』は……うん、これならいけるかな。大丈夫、任せて」
 蒼剣姫と氷姫は短く言葉を交わしあい、取るべき戦術を手早く共有してゆく。余計な時間を掛けずに役割分担が出来るのは、互いの手の内を知る者同士だからこその利点だ。即席の連携ではこうもスムーズにはいかないだろう。そしてだからこそ……二人は不意に放たれた弾丸を紙一重で凌ぐことに成功する。
『花嫁の来たる刻、近し。疾く、疾く、供物の装いを整えるべし』
「ッ、あっちも始めるつもりみたいね……それじゃあこっちもいくわよ!」
 初弾は辛くもセフィリカが魔剣を振って凌いだものの、既に他の青年たちも引き金に指を掛けている。もはや猶予はない。彼女は仲間へと声を掛けながら、地面へと切っ先を突き立てた。
 蒼剣姫の叫びと立て続けに響いた発砲音はほぼ同時。強烈な威力を纏った弾丸が少女たちへと食らい付き、衝撃の余波で雪と土が舞い上げられる。灰色の軍勢は一旦射撃を止め、白く煙る奥を油断なく睨みつけ――。
「これは七虹最小にして最硬……矢でも鉄砲でも、防げないものなんてないんだから!」
 瞬間、鮮烈な藍色の輝きが白き薄膜を吹き飛ばした。その光の源はセフィリカの周囲に浮遊する小型の球体ユニット。百に届かんばかりのそれらが互いの死角を補い合いながら、全球状の防御力場を形成していたのである。
「よし、これなら暫くは持ちこたえられそう。幾つかエウちゃんの方にも回すから、その間に隙を作れる?」
「分かった……ボクの方でも可能な限り攻撃を引き付けるよ。だから、セリカも無理はしないでね?」
 そうして敵の攻撃が途切れた一瞬を見計らい、力場の間隙よりエウロペが飛び上がった。彼女は友より借り受けた球体ユニットを伴いながら、敵の頭上を旋回してゆく。敵群は地上と上空の二方向へ弾幕を展開するも、二重三重に張り巡らされた障壁を突破するのは並大抵のことではない。であればと、彼らもまた攻め手を変える。口に煙草をくわえて赤熱した銃身で火をつけるや、周囲へと紫煙を充満させていった。
(ボクに関しては魔力による結界も併用しているけど、セリカはどちらかと言えば物理寄り……やっぱり、余り時間は掛けるべきではないだろうね)
 防御力場は攻撃を防ぐとは言え、完全に内部を密閉出来る訳ではあるまい。故に敵は紫煙によって球体ユニットを劣化させ、出力が落ちたところを破らんと言う狙いなのだろう。術師として素養が高いエウロペならば別の防御手段を持ち合わせているが、セフィリカの装備は剣やゴーレムと言った物が多い。それ故に紫煙の影響は彼女の方が大きいはずだ。
 氷の姫はまず魔力を大気へと行き渡らせると、凍てつく風によって忌まわしき煙を吹き散らしてゆく。それにより仲間への劣化浸食は鈍るものの、今度は己自身が敵の攻撃へと晒され始める。しかし、それこそが彼女の狙いだった。
(十分に敵意は稼げた。そろそろ、ボクも反撃と行かせて貰おうかな)
 エウロペはぴたりと空中で静止するや、高々と氷晶の杖を掲げる。間髪入れずに対空射撃と紫煙が殺到してくるも、彼女は顔色一つ変えずに力ある言葉を口遊んでゆく。
「反転する九天。指嗾し闊歩する死神。羈束する楔を以て相反する空と地に伏し、愚かなる者を終幕へと導け」
 ――愚者の磔刑(プレヘンデレ・カウサ)。
 詠唱が締めくくられた瞬間、虚空へと溶け消えた魔力が収束し一つの実像を結んでゆく。そうして姿を見せたのは、凍てついた青薔薇に彩られし大鎌を携えた陰鬱なる死神。死の象徴が大きく得物を振りかぶるや、軌跡に沿って幾つもの氷で出来た楔が放たれる。それらは吸い寄せられるように灰色の青年たちを穿ち貫くと、その場へと磔にしていった。こうなってしまえば移動は元より、銃撃の射角も大きく制限されるはずだ。
「動きは封じたよ! ただ、彼らも狂信者の同類だ。時間を与えれば手なり足なりを切り落として脱出しかねない。今のうちに畳みかけて!」
「っ、分かった! いっけぇぇええええッ!」
 とは言え、敵の手には未だ銃が握られ、薄まってもなお時を奪う煙が戦場に漂っている。だが、友の叫びにセフィリカは一切の躊躇なく飛び出した。それは己が迷いで好機をふいにしてはならないという自負と、何よりも友人への信頼によるもの。彼女は手近な相手へと斬り掛かりながら、思い出したかのように言葉を付け加える。
「シェル姉、もしも煙に触れさせちゃったら……その時はごめん!」
『そんなことを気にしていられるなら、まだまだ余裕のある証拠ね。安心なさい、あの程度の呪いでどうこうなるほど軟な造りはしてないわ……だから』
 ――全力でやっちゃいなさい?
 その言葉を受けた一刀は、反応すらも許さぬ鮮やかな手並みで相手を横一文字に両断する。仲間が討ち取られたとみるや灰色の軍勢は同士討ちを覚悟で攻撃を仕掛けて来るも、時には死角へと逃れ、時には敵を盾にして攻撃を凌いでゆく。
「俺たちは夢でも見ているのか……あの乙女に匹敵するような連中が、眷属たちを圧倒している」
「一人や二人なんて話じゃない。まさか、集めた生贄全部がこんななのか? まさかそんな、馬鹿げている!?」
 その光景を呆然と、或いは受け入れがたいといった表情で村人たちは眺めている。余りの出来事に手にした銃で反撃する事も考えつかず、また仮にやろうとしても眷属と猟兵の戦闘は余りにも高速過ぎた。既に状況はただの一般人が介入可能な段階をとうに過ぎ去っているのだ。
「……キミ達の救いが十字架で磔にされている景色は何とも皮肉だね。三人ならまだしも、こうも多くては神聖さも何もあったものじゃないよ」
「ッ!?」
 頭上から掛けられた声に村人がハッと顔を上げると、そこには宙に浮かんだエウロペが彼らを睥睨していた。咄嗟に銃器を構えるものの、その照準は小刻みに震えている。そんな様子を冴え冴えとした視線で一瞥しながら、氷の姫は小さく溜め息をつく。
「それでもなお祈るというならば止めはしないよ。ただせめて、生贄にされた彼らの死後の安寧を祈るといいさ」
 そうして目線を戦場へと引き戻せば、磔にされた最後の一人が丁度切り伏せられるところであった。直ぐに第二波、第三波が姿を見せるだろうが、これで少しばかりの余裕が生まれるはずだ。魔剣を手に手を振ってくるセフィリカの姿に微かな笑みを零しながら、エウロペもまた戦場へと舞い戻ってゆくのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

アマリア・ヴァシレスク
銃を力とする邪神…なかなか危険そうな存在、です
とにかく、これ以上力を付けられるわけにはいかない、ですっ! ここで…止める、です!

敵の攻撃は時間奪取…だけど幸か不幸か私の体は色々と改造されているみたい、です
【継戦能力】も並大抵では無いので、それで凌ぐ…ですっ!
攻撃は銃剣付きライフルで相手の足元を狙っての【なぎ払い】、といってもこれだけでは終わらない、です
これで敵の【体勢を崩す】ことができたなら、片っ端から【暴力】【怪力】【グラップル】【部位破壊】…です!
ちょっとだけ心苦しいけど…容赦はしない、ですっ!

何が相手の力に変換されるか分からないので、ここはあえて発砲せずにいきます、ですっ!



●果てよ、せめて弾丸でなく拳刃にて
「銃を力とする邪神……なかなか危険そうな存在、です。供物である完成品は大半が吹き飛ばされましたけど、とにかくこれ以上力を付けられる訳にはいかない、ですっ!」
 『祝祭』が開始されてから既に短くない時間が経過しているが、戦闘そのものは猟兵側の優位にて進行することが出来ている。しかし、今はまだ前哨戦に過ぎない。本番はこの次だ。アマリアは弾痕が刻まれ白く煙る戦場と、そこに揺らめく灰色の軍勢を見据える。
「それに村人たちの持つ銃自体はまだまだ残っています、です。ざっと見た限りで三桁は軽く超えている、です。あれらまで捧げられぬ様、ここで信者も眷属も……纏めて止める、です!」
 住民が携える銃器の数が邪神にとって多いのか少ないのか、そこまでは判断がつかない。しかし、相手はそもそも百年にも及ぶ信仰と言う下地がある存在だ。僅かばかりの強化すらも許したくはないというのが本音である。故にここで眷属を殲滅し、それを以て信者たちの心も完全にへし折らねばならない。
『伴侶は足りず、担い手は足りず、ただ時間のみが余り逝く』
『されど求むはただ一人。一人を得るに、積み上げし贄は雪粒の数でもまだ足りぬ』
 だが当然ながら、敵もこちらの思惑通りに動いてくれる訳ではない。個々の実力差に大きな隔たりがあるのはこれまでの戦闘で嫌と言うほど学習したのだろう。相手は軍勢の名の通り、密集陣形を取ってからの弾幕射撃を展開してくる。加えて合間合間にチカリと光の反射が見えるのは、体を襲う疲労感から察するに腕時計を向けられているのか。銃弾と言う物理的な予兆がない分、避けるのが困難な嫌らしい一手だ。
「敵の攻撃は時間奪取……確かに厄介な攻撃、です。だけどそれは、私がただの人間であればの話、です!」
 それに対し、アマリアが選んだのはなんと接近戦であった。ライフルの切っ先へ銃剣を取り付けるや、それを槍の如く構えながら吶喊を敢行する。無論、常人であれば弾丸の嵐に蹂躙され、時間を奪われて倒れ伏すのが関の山だろう。しかし、彼女の身体は7.62x39mm弾を弾き返し、疲労を無視して動き続ける。
「幸か不幸か私の体は色々と改造されているみたい、です。だから、純粋な強度や継戦能力も並大抵では無いので、それで凌ぐ……ですっ!」
 彼女は肉体に様々な改造を施された半機人である。本来であれば眼鏡だって必要ないのだ。一方で曖昧な言い方なのは、彼女の中からこれら改造に関する記憶がごっそりと抜け落ちているが故。何処にどんな手が加えられ、そしてそれを誰が行ったのかは未だに分からない。だが役に立つのであればトコトン使い倒すのが戦場における流儀作法である。
(出来れば首なり心臓なりを狙って手早く済ませたいですが、銃や腕時計による反撃が怖い……です。なら、ここは敢えて下を狙う、です!)
 彼女は倒れ込むすれすれまで体を傾けさせるや、突撃の速度を利用してそのまま敵群の足元を薙ぎ払った。銃剣の切っ先が紅の飛沫を散らすと同時に、体勢を崩した前列の青年たちが地面へと倒れ伏す。こうなればもうこちらの独壇場だ。
「銃本体、部品、弾丸、戦闘行為……何が相手の力に変換されるか分からないので、ここはあえて発砲せずにいきます、ですっ!」
 アマリアはそのまま相手に馬乗りになると、握り込んだ拳を思い切り振り下ろす。如何にUDC、如何に邪神の眷属とは言え、実体としての肉体を持つ相手である。である以上は、全力で顔面をぶっ叩かれて無事で済むはずもない。拳から伝わってくる嫌な感覚信号に顔を顰めながらも、感傷に浸る余裕などなかった。取り囲まれる前に飛び退くや、手近にいた敵を引っ掴んで投げ飛ばす。
「元はと言えば、彼らだって犠牲者、です。ちょっとだけ心苦しいけど……容赦はしない、ですっ! 躊躇うことは私だけじゃなく、この人たちの為にもならない、です!」
 彼らは既に数十年も前に命を失った存在。今更元に戻してやれる手立てがない以上、猟兵に出来ることはただ眠らせてやることだけだ。そうしてアマリアはせめてもの慈悲として拳打蹴撃を振るいながら、灰色の軍勢と渡り合ってゆくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

寺内・美月
アドリブ・連携歓迎
・預けた装具を回収する。その後、トゥルパには付近の屋根を飛び回り移動させつつ、小銃射撃や手榴弾投擲を行わせる(発煙筒も投擲し視認する危険を減らす)。
・事前に〖防弾ベスト〗を着用済みであるため、最低限頭部及び頸部を防御しつつ近接戦闘。この際、超限定的に(使用UCによって)加速することにより、視認および時計を指向される危険を減らす。
※ただし〖黒鞘レーザー〗の使用権は一時(【司霊】ごと)トゥルパに移管する関係上、美月は【繊月】のみで戦闘。
※付随して、トゥルパ直轄戦闘団も後方で秘密裏に戦闘準備。
・その他〖白鞘レーザー〗による自己および全体の治療や【ОЦ-33】による至近射撃も実施。



●兵たる者の素質とは
「そんな……どうすれば良いのよ! ねぇ、こうなった場合『祝祭』はどうなっちまうんだい!?」
「俺に聞くんじゃねぇよ! こんな事、年寄連中だって知らねぇんだぞッ」
 戦闘開始前の物見遊山な雰囲気はとっくに消え去り、村人たちは半ば恐慌状態に陥っていた。何をどうすれば良いかなど、彼らには分からない。助太刀しようにも猟兵と眷属の戦闘は極めて高速かつ苛烈である。常人が割って入る余地もなく、ただただ右往左往するだけだ。
(陸戦部隊は往々にして『用意周到ながらも動脈硬化』などと評される事が多いが……きっと、それが極まった場合はああなるのだろうな。定められた状況に強くとも、柔軟性に欠く。ゆめゆめ肝に銘じておくべきか)
 もはや住民たちが有意な行動を取ることは不可能だろう。美月はそんな感慨を抱きつつ、視線を彼らから外して上へと向ける。広場を取り囲む屋根の上、そこに待機していたのは先刻の調査時に分かれたトゥルパであった。精神体は預けられていた装備を投げ渡してくれる一方、黒鞘拵えの刀を始めとする武装の一部は未だ保持したままだ。
「そのまま屋根上より小銃射撃や手榴弾投擲による援護を頼む。遊撃手は存在するだけで敵に対し警戒を強いる事が出来るからな。それに、私はこのまま接近戦を挑むつもりだ。そうなれば必然的に視野が狭まるだろう……故に周辺警戒を任せる」
 接近戦の有効性は先に切り込んでいった猟兵が既に証明してくれている。ならばその知見を活かさぬ道理はない。ただその場合は前方以外の敵に対して注意が払い難くなるため、全体を俯瞰する役目を精神体へと与えたのだ。
「胴体部に関しては最低限の防御は出来ているが、肝心の頭部及び頸部の守りが手薄か。だが手持ちの防具が限られている以上、その点に関しては警戒するより他にない」
 事前に軍装の下へ防弾チョッキを着込んではいたので、被弾面積の大きい箇所の防護は一応出来ている。それと同等以上に守るべき急所については、攻撃を避けるなり武器で弾くなりするしかないだろう。
「『最後の決は我が任務、騎兵砲兵協同せよ』……突撃こそが歩兵の華、か」
 ならば後は動くだけだと、青年は真白き刀身を持つ刃を鞘走らせながら、猛然と大地を蹴り上げて吶喊を開始した。当然、相手もそれに反応して手にした銃器による迎撃を開始してくる。超至近距離を弾丸が掠め、甲高い風切り音が耳朶を打つ。だが、彼我の距離はまだ有る。これは飽くまでも牽制だ。本命は命中確実な間合いへと踏み込むその一瞬。
(まだだ。まだ、耐えろ。こちらの動きに相手の目が慣れ切ったタイミングにこそ……)
 ――恐れることなく踏み込むべし。
 敵が狙い澄ましてトリガーを引いたのに合わせ、美月は駆け抜ける速度を一気に引き上げた。血に受け継いだ神気、武威纏う者としての殺気、そして叩き込まれた剛気。その三種を練り上げた身体強化術である。そうして己が先ほどまで居た場所を銃弾が通り過ぎるのを感じながら、今度は青年が敵を己が間合いへと捉えた。
「着剣する時間も与えん……このまま切り捨てる!」
 袈裟にて頑丈さで鳴らした銃器を断ち、返す刀で使い手を両断する。左右から敵が挟み撃ちを狙えば、もう一方の手でОЦ-33を引き抜き鉛玉を叩き込んで黙らせた。無勢が多勢に勝つには乱戦に持ち込むのが定石だが、それでも危うい均衡である事に変わりはない。美月は不意に、がくりと体から力が抜ける感覚を覚える。
「っ、腕時計の射線に入ったか……!」
 一瞬でも足を止めれば、乱戦は袋叩きへと早変わりだ。この隙を逃さぬと殺到してくる敵兵を青年は真正面から見据え……ほんの微かに、口元へ不敵な笑みを浮かべた。
 瞬間、幾つもの円筒物体が投げ込まれると共に一発の銃声が戦場に響いた。それはトゥルパによる支援行動である。手近な相手が狙撃されて崩れ落ちると同時に、発煙筒からしゅうしゅうと白い煙が吐き出されて視界を封じてゆく。美月はそれに乗じて包囲を脱するや、煙に紛れて戦闘を続行する。見える見えないは関係がない。彼にとって周囲全てが敵なのだから。
 そうして若き将校は煙幕が薄れるまでの間、散々に敵陣を蹂躙してゆくのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ペイン・フィン
【路地裏】

生け贄、か
……崇め、奉る行いが
いつの間にか結果を求めるための行いだけになっているよう、だね
……ああ、これは、酷く
腹立たしい、よ

コードを使用
右腕を破魔の属性に変更
その力を流して、竹筒……、毒湯"煉獄夜叉"を振るう
扱う毒は、浄化の毒
怨み、妬み、呪い
そう言ったモノを侵し、浄化し、消し去る毒

銃撃に関しては、頑張って除けよう
第六感を、耳を、眼を使い、限界を突破して、その攻撃を避ける

きっと
きっと貴方たちも、春が待ち遠しかった、だろうね
終わること無き冬は、殺風景だったろうね
……ああ、だから、そうだね
貴方たちの魂、自分が、盗んでいこうか


吉備・狐珀
【路地裏】

はっ!いけません。伝承を聞くのに夢中になってしまいました…。
儀式がもう始まっているではないですか!

見返りがなければ奉ることのできない神様など信仰とはいえません
今日をもって終わりにしましょう

UC【神使招来】使用
月代、津雲殿の衝撃波に合わせあなたも(衝撃波)を放ち津雲殿の援護をお願いします。
ウカ、あなたは玄武の力を解き放ち、強く雪を降らせ彼らの視界をさらにふさいでしまいなさい。
視界をふさがれた兵士達がやみくもに乱射されては厄介。
あちらより先にウケと共に銃を持つ腕を中心に狙いをさだめ、(浄化)の力を込めた御神矢を(一斉発射)し、阻止させて頂くとしましょうか。


ファン・ティンタン
【WIZ】白魔
【路地裏】

(冬国に何着ようか悩んで出遅れたのは別の話)

白は、純粋な色だ
それは、すぐ他の色に染まる危うさを秘めている
信仰なんてモノも似ていて、身勝手な願いが混じり、歪になるものだよ

さて、白の国で雪を使わない手はない
みんなが雪の環境を育てているし、幾分も消費は少ないかな?
【精霊使役術】
本来のスネグーラチカは、どんな娘だろうか
案外、お転婆かも?
こんな風にね

暴力的なまでの風雪で敵勢を呑む
意思を持つかのような暴風渦で視界を、動作を、その害意を【蹂躙】する
真白に染まるこの世界なら、鳴かずば撃たれまい


……で、だ
彼の願いは別のトコロにあるのだろう
優しすぎる拷問官の為にも、厳冬はやがて晴らすべきか


落浜・語
【路地裏】
いや、別に寒いのが嫌で出遅れたとかでは…いや、まぁそんなことはどうでもよくってな
既にいろいろ始まってるしなぁ。さて、どうするか

往々にして目的と手段が入れ替わってしまう事なんざ、常にある事ではあるけれど、悪い方向に入れ替わるのは頂けないよなぁ。
ついでに寒いの嫌なんで、少し燃やしてしまおうか
UC【紫紺の防禦】を使用。触れるもの全て燃やすの良い事に銃弾も敵も、燃やしてしまえばいいか
腕時計を向けられなければあちらのUCはそこまで怖くないので、そもそも視認さえされない様、狐珀や津雲さんの作る雪や雪煙に紛れたり、建物の陰に隠れてやり過ごす。
ついでに、雪に花弁を紛れ込ませるとなお効果があるかな?


勘解由小路・津雲
【路地裏】5名
うう寒い。仮初の体にもこたえるな。寒さ避けの結界の準備をしていたら、いつの間にか事態が動いていたか。
土着の信仰、近代兵器との融合、術師としても興味があるが、まずはこいつらを片付けないとな。
【戦闘】
まずは【衝撃波】を地面にたたきつけ、雪煙をたててUC対策に相手の視界をふさぐとしよう。
だがでたらめに弾をばらまかれてはたまらない、本体は民家の影へ。
月代の衝撃波もあるから、おれや語の動きは気取られまい。
そこで【式神召喚】を使用。ファンの起こした風雪の間に、ひそかに相手に近づき、隙を見て死角から取りつこう。
暴風に耐えた生き残りも、不意をついて動きを止めてしまえば、ペインの浄化の毒の餌食だ。



●百の冬を耐え抜いて、ただ訪れぬ春を待つ
「……はっ! いけません。気が付けば、伝承を考察するのに夢中になってしまいました……大きな火柱が上がっているのを見て急いで駆けつけましたけど、儀式がもう始まっているではないですか!」
「ふむ、冷気避けの結界の準備をしていたら、いつの間にか事態が大きく動いていたようだな。しかし、それにしても寒い……急拵えなのも相まって、この冷え具合は仮初の体にも堪える。ざっと見た限り、戦闘も佳境に差し掛かったといった所か」
 『祝祭』の開始より暫し時間が経過し、徐々に戦闘の趨勢が明らかになりつつある頃。既にあれやこれやと騒ぎ立てる余力すら失った村人たちの合間を縫って、広場へと雪崩込む一団があった。その数は合計五人――彼らは【路地裏野良同盟】の面々である。
 慌てたように先陣を切っていた吉備・狐珀(狐像のヤドリガミ・f17210)は出遅れてしまったと首を振り、続けて姿を見せた勘解由小路・津雲(明鏡止水の陰陽師・f07917)は白い吐息を漏らしながら肩を竦めていた。尤も、遅れてきたが故に村人たちによる拘束を受けなかったと考えれば、一概に悪いことばかりではないだろう。
「いや、別に寒いのが嫌で出遅れたとかでは……ほんのちょっぴり無いではないけれど、まぁそんなことはどうでもよくってな。どうやら既にいろいろ始まってるみたいだしなぁ。はてさて、どうするか」
 そんな仲間の様子に苦笑を浮かべつつ、落浜・語(ヤドリガミの天狗連・f03558)は周囲へと視線を向けた。広場を囲む民家には無数の弾痕が穿たれ、地面は抉れ雪の下より黒々とした土が覗いている。周囲に散らばる銃器の残骸を見るに、先行した猟兵たちも相当派手に立ち回っていたようだ。
「土着の信仰、近代兵器との融合。一つの神話体系が変遷してゆく過程は術師としても興味があるが、まずはこいつらを片付けないとな……それに大本はかつて捧げられた生贄たちだと聞く。此処で終わらせてやるのも一つの救いであろう」
「……生け贄、か。本来は神を崇め、奉る儀式が……いつの間にか結果を求める為だけの行いになっているよう、だね。始まりは已むに已まれぬ行動、だったのかもしれない、けど。こうなっては、ただただ俗物なだけ……ああ、これは、酷く」
 腹立たしい、よ。陰陽師の話を横で聞いていたペイン・フィン(“指潰し”のヤドリガミ・f04450)の言葉尻には、確かな苛立ちと嫌悪感が滲んでいた。より旧い時代の『祝祭』がどの様なものであったのか、それを知る術はない。だがきっと、神や自然に対する敬意と畏怖があった筈なのだ。しかし今の『祝祭』はどうだろう。指潰しには、ただ利益を得る為の慣例行事にしか思えなかった。
「白は、純粋な色だ。穢れを知らぬ無垢に人は神秘性を見出すけれど、それはすぐ他の色に染まる危うさも秘めている。信仰なんてモノも似ていて、身勝手な願いが混じり、歪になるものだよ……百年という時間はそれだけ長い。物が意思を持つほどにね」
 そんな想い人の心情を察してか、ファン・ティンタン(天津華・f07547)は宥める様に言葉を掛けつつそっと傍らへと寄り添う。自らは大した労力を払わず、他人に犠牲を強いる在り様を青年は受け入れがたいのだろう。だが今は村人たちをどうこうするよりも、邪神とその眷属を鎮めるのが最優先事項である。
「往々にして目的と手段が入れ替わってしまう事なんざ、物事には付き物ではあるけれど……悪い方向に入れ替わるのは頂けないよなぁ」
「個人的には、見返りがなければ奉ることのできない神様など信仰とはいえません。それはもはや伝統ではなく悪習です。今日をもって終わりにしましょう」
 尤もこの場へと足を運んだ以上、他の仲間たちも大なり小なり指潰しと似たような感情を抱いていた。噺家はさてどう立ち回ろうかと油断なく目を細め、狐像の少女は己と相容れぬ在り様を前に毅然とした態度を示している。そして、そんな猟兵たちの戦意へ呼応するように、新たな敵勢が虚空よりその姿を浮かび上がらせてゆく。
『来臨の刻、近し……花嫁を孤独にするなど許されぬ』
『共に手に取る者を選ぶべし。握る担い手を整えるべし』
 彼らは手にした銃器を腰だめに構えるや、銃口の照準を猟兵たちへと差し向けてきた。それを見て、ペインは忌々しそうにため息を漏らす。
「残念だけど……あちらも、やる気、だね」
「端から話し合いで解決できるなんて思ってはいないさ。さて、それじゃあ」
 ――始めるとしようか。
 そんな白き少女の言葉を皮切り、開戦の火蓋が切って落とされる。一斉に浴びせかけられる弾丸の雨を前に、五人もまたそれぞれの役割を成すべく行動を開始するのであった。

「さて、それじゃあ遅れた分は戦働きにて返させて貰おう。流石に開幕早々蜂の巣にされるなど御免被るからな、まずは視界を潰すとしようか!」
 初撃の一斉射を咄嗟に展開した結界で凌ぐと、津雲は手にした錫杖の石突を思い切り地面へと突き立てた。すると彼を中心としてボコりと地面が膨れ上がるや、積もっていた雪が勢いよく弾け飛ぶ。元より彼は水や氷と言った領域に長けた術者である。寒さばかりはどうしようもないが、この環境そのものとは非常に相性が良い。故に目晦ましに雪を巻き上げるなど造作もないことだった。
「これで正確な狙いはつけられないだろうが、連中に弾切れなんて都合の良い隙を期待しない方が良いだろう。盲撃ちでも数をばら撒かれれば避け切るのは難しい。ここは素直に地形を利用した方が良さそうだ」
 これで集中砲火を浴びることも無くなっただろうが、代わりに白き幕の向こう側より散発的に銃弾が飛んでくる。そもそもとして、数は未だ相手の方が上なのだ。各々が出鱈目に射撃を行うだけでも弾幕と言えるほどの密度を維持していた。無防備に敵の前で身を晒していた場合の末路など、考えるだに恐ろしい。
「とは言え、吹きつけてくる風も徐々にですが強さを増しています。このままではそう時間も経たずに薄まってしまうでしょう……であれば月代、あなたも津雲殿の援護をお願いします!」
 こんな状況でも儀式としての『祝祭』は進行しつつあるのだろうか。凍てつく風は村へ来た直後よりもその勢いを強めている。雪交じりとは言え、何も手を打たなければそう長くは持つまい。狐珀は津雲と共に広場周辺の民家を遮蔽物としながら、仔龍の放つ衝撃波によって雪煙の維持に努めてゆく。
 だが、これまでの戦闘によって降り積もった雪は少なくない範囲が踏み固められ、或いは土と混ざり合ってしまっていた。どのみち、そう何度も使える手ではない。なればと、狐像の少女は黒き従獣を呼び寄せる。
「ウカ。あなたは玄武の力を解き放ち、強く雪を降らせ彼らの視界を更に塞いでしまいなさい。それに寒気がより色濃くなれば、反撃の為の足掛かりにもなります!」
 地に足りなければ、天より得れば良いだけの話だ。狐珀が倉稲魂命に仕えし近衛兵を召喚すると、神なる兵士は手にした神剣を高々と頭上へ掲げる。その柄に嵌められた宝玉が輝いたかと思うや、猛烈な勢いで風に雪の粒が混じり始めた。これならば見通せる距離を大幅に狭められるだろう。
「さて、と……白の国で雪を使わない手はない。狐珀や津雲のお陰で元となる材料も増えたしね。これなら幾分か消費は少ないかな?」
 そうして大気に濃密な氷の気配が満ちた事を悟ると、ファンは反撃に転ずるべく吹雪の中へと身を晒してゆく。防寒具に身を包んでいるとは言え、身体の末端より痛いほどの冷気が忍び寄ってくる。だが、これこそ白き刃が望んだ状況だ。彼女はそっと、雪の結晶を掴むように手を指し伸ばす。
「……本来のスネグーラチカはどんな娘だろうか。氷の如くお淑やかなのか、はたまた雪の様に物静かだったりするのかな。それとも……案外、吹雪みたいにお転婆かも?」
 例えば、こんな風にね。掌を握り締めた瞬間、ただでさえ激しかった氷雪がより苛烈さを増した。ファンが雪の精たちへと働きかけ、更なる自然の猛威を引き出したのである。これでは視界の確保は愚か、身動きすらも叶わないだろう。このままの勢いを維持すれば、敵が氷像と化すのにそう時間も掛からない……そう判断しかけた少女の頬を。
 ――チュンッ、と。
 暴風を貫いて飛翔してきた弾丸が掠めていった。つぅと傷口から紅が伝うも、滴り落ちる前に凍てつき崩れ落ちてゆく。それは何よりも明確に、相手の健在と戦闘意思を示していた。
「なるほど、眷属も銃も寒さに対する備えは万全と言う訳か。まぁ、こうして真白く染め上げられた世界に由来する存在だしね……ただ、今のを外したのは迂闊だったかな。雉も鳴かずば撃たれまい、だ」
 そんな呟きと共に、悠然と佇む少女のすぐ脇を赤黒き影が抜けてゆく。それは漆黒の外套を翻すペイン。なおも継続している射撃を前に、躊躇うことなく雹風の渦へと飛び込む青年の手には一本の竹筒が握られていた。
(さて……普通の風雪なら、兎も角、この場合はどうだろう、ね? みんなの力が、籠った、とっておき……まぁ、凍ってしまっても、それはそれで、アリだとは思うけれど)
 毒湯『煉獄夜叉』、その内部には猛毒の液体がたっぷりと収められている。通常であれば氷点下でも凍ることなく使用可能だが、いま周りに満ち満ちているのは仲間たちによる異能の産物だ。良くも悪くもその威力を身に染みて感じている現状、楽観視する事は出来ない。なればと、彼は掌の中の同胞へと力を注ぎこんでゆく。
(いま扱うべき毒は、浄化の毒……ただ単純に害し、傷つける為のものじゃない。怨み、妬み、呪い。そう言ったモノを侵し、浄化し、消し去る毒)
 竹筒を握る手が純白に染まりゆく。当然ながら、霜が纏わりついた訳ではない。自らの右腕部分のみ属性を反転させ、破魔の力を宿らせたのである。それに伴い、筒の中に収められた毒もまたその本分とは真逆の性質を得ていた。
「存在そのものに染み付いた、邪神の影響を解きほぐして……せめて、本来の姿を、思い出せると良いんだけど、ね」
 これならば凍結の心配もあるまい。ペインは栓を引き抜くや、風の流れに乗せて中の液体を振りまいてゆく。霧となって氷の結晶と混じりあいながら、浄化の毒は瞬く間に戦場全体へと拡散していった。相変わらず視界は不明瞭であり、敵の姿は杳として窺い知れない。だが、青年は眷属たちに染み付いた仄暗い感情がゆっくりと溶け出してゆく感覚を、確かに感じ取ることが出来た。
 しかし、それと同時に……染み渡る毒に抗いながら、自らの元へと踏み込んで来る気配にもまた気づいてしまう。
『一人には出来ぬ。独りには出来ぬ……例え、自らが望まれる誰かでなくとも!』
「っ……!」
 フルオートで弾丸をばら撒きながら、遮二無二距離を詰めて来る灰色の兵士。こんな状況でも稼働する銃を褒めるべきか、浄化を受けても揺らがぬ忠心を賞賛すべきか。弾丸の回避を優先して僅かに隙を見せたペインへと、相手は掌を伸ばしてくる。それに触れられてはならない。半ば確信に近い直感でそう悟るも、既に眷属の手は眼前と迫っており――。
「紫紺の花弁よ……何人も呪いも超えられぬ壁となりて、我を護り理に背く骸を還す力となれ」
 指先が触れる寸前、相手の全身が深い紫色の炎に包まれた。これには眷属も堪らず火を消そうと地面を転がり回るが、雪に触れてもその勢いが減じる様子はない。瞬きを数度するうちに、灰色の姿は文字通りの灰となって風の中に崩れ消えてゆく。
 よくよく見れば、いつの間にか吹き荒れる雪の中に紫紺色の花びらが混じっていた。もしそれらが流れてきた方向を辿ることが出来たならば、建物の陰から顔を覗かせる語と首元で揺れるループタイに気付いただろう。噺家は相手が寒気に対して耐性を持つ可能性を見越し、逆の属性である炎を用いて布石を打っていたのである。
「何があったか、なんてのはまだ見えてこないがね。どうにも愉快な噺じゃ無いことだけは確からしい。悪いが、そんな筋書きに俺の仲間は付き合わせられねぇな」
 ついでに寒いのは嫌なんで、少し燃やしてしまおうか。そんな独白を零しながらパチリと指を鳴らすや、俄かに煌々とした輝きが吹雪の中で灯る。寒気に耐え、毒を凌ぎ、反撃の機会を狙い潜んでいた眷属たちを文字通り『炙り出した』のだ。元来、炎は浄化の役割を担う存在とされてきた。それに指潰しの振り撒いた毒湯が合わされば、正に効果覿面と言ってよい。
「正直、腕時計を向けられないか気が気じゃなかったけどな。ここまで入念に視界を潰せば、流石に心配はないかね」
「……いや、どうやらそうもいかぬらしい。敵もむざむざ雪に晒される愚を犯し続けるほど、考えなしではなかったようだ。敵の一部が吹雪を抜けてきたぞ!」
 灯りが一つ消える度に、眷属もまたひとり消し炭となって崩れ落ちてゆく。己が戦果のほどを確かめてホッと一息つく語であったが、横合いより津雲の警告が飛んでくる。示された方向へと視線を向けてみれば、雪を払い落しながら氷嵐の中より飛び出してくる一群があった。恐らくは比較的勢いの弱い外周部に潜んでいた者たちだろう。彼らは建物の陰に隠れている猟兵たちを認めるや、猛然と弾幕掃射を仕掛けてくる。
「こうも間断なく撃たれ続けていては、おちおち顔も出せん」
「花びらで銃弾を相殺しているから、これでもまだマシな方だぜ? 尤も、攻撃に回せる分が少なくなっているから、どのみちジリ貧かもしれないけどな」
 猟兵と眷属の間で立て続けに幾つもの火花が生まれては消えてゆく。敵の放つ弾丸を語の花びらが焼き払っているのだ。しかし、彼我の手数はほぼ互角。相手は射撃を継続しつつ、着実に距離を詰めて来る。このままではそう遠くないうちに懐へと踏み込まれてしまうだろう。
「……だが、こうした事態も想定済みだ。雪に紛れ込んでいるのは、何も毒湯と花びらだけではないさ」
 銃弾によって跳ね散らされる木っ端に顔を顰めながらも、しかして陰陽師に焦りの色はない。彼がそっと九字を切るや、降り積もった雪をかき分けて紙で出来た鳥が飛び出してくる。こうした事態に備え、予め式神を近くに潜ませていたのだ。それは巧みに弾丸を避けながら眷属へピタリと張り付くや、金縛りの呪を以て強制的に身動きを停止させた。
「ウケ、やはり厄介なのは銃による射程と手数です。相手の利き手に狙いを絞りなさい。倒せずとも構いません、銃を取り落とさせればそれで充分です!」
 そしてそんな大きすぎる隙を見逃してやるほど、猟兵は手緩くない。吹雪の維持に注力する倉稲魂命に代わり、保食神が手にした弓を引き絞る。近衛兵は主の命令通り狙い違わず相手の腕を穿つだけでなく、腕時計の盤面ごと器用に射貫いていた。これならば時間を奪われる心配もないだろう。
『忍び寄る紫煙の帳は、音もなく汝の時を掠め取る。凍気が眠りの内に命を連れ去ってしまう様に』
 傷を負った腕では銃を握れず、時計も破壊され、近づく術もない。ならばと灰色の兵士は唯一残った異能を行使すべく、奪った刻を巻いた煙草を吹かそうと火を付ける……が。
「戦場に煙草は付き物ではあるけれどね? この暴力的なまでの風雪は、そんなちっぽけな火を灯せるほど生易しいものではないつもりだよ」
 凍てつく旋風が僅かばかりの熱を消し去ってしまう。眷属が焦燥と共に背後を振り返れば、荒れ狂う氷嵐を伴ったファンとペインが仁王立っていた。津雲や狐珀、語と攻防を繰り広げている間に、二人は吹雪の中に居た敵を粗方駆逐し終えていたのである。
「苦しむのも、忠義を果たすのも……もう、十分だから。大丈夫、あとは自分たちに任せて、眠ってほしい」
 浄化の力を内包した白が灰色の兵士を飲み込んでゆく。悪罵か、忠告か、惜別か。相手は瞳を見開き何事かを叫ぶが、全ては風の喧騒に搔き消されてゆき……吹雪が晴れた時、そこに灰色の姿は跡形も見えず、ただただ降り積もった雪の白だけが残されているのであった。

 一先ず戦闘に一区切りがついたことを確認すると、五人は一度集まって互いの負傷や疲労具合を確認しあっていた。幸いにも目立ったダメージを負った者は見受けられない。放心状態の村人たちも幸か不幸か被害はなく、戦闘の余波でまき散らされた雪を被ってへたり込んでいた。元々この地で長年住んでいた者たちなのだ、凍えて死ぬような事にはなるまい。
「ぱっと見、周囲に敵の姿は見受けられないな。前哨戦はこれで終わりかね?」
「いや、まだ倒した眷属たちと同種の気配が感じられる。いまは後続が現れるまでの小休止といった所だろうが……先の戦闘で相当数を駆逐できたはずだ。出て来たとしてもそう多くはあるまい」
 そうして一息つきながら津雲の分析に耳を傾けていた語は、白い息を吐いて手を温めている。対策は十分に施していたつもりだが、それでもなおシベリアの寒波は厳しいものだ。手袋を脱いでみると、指先から掌まで赤くかじかんでいた。
「しっかし、戦闘に集中していた時は気にならなかったけど、こうして落ち着いてみると本当に寒さが身に染みるな。動き回って汗を掻いたせいで、余計に冷え込む気がするぜ」
「確かに、気を抜けば風邪を引いてしまいそうですね。時期柄、そういうのは避けたいところです。まぁ、その前に勝って帰ることを考えるべきでしょうけれど、ね?」
 苦笑を浮かべながら同じように手を擦り合わせていた狐珀だったが、そこでふと何かを思いついたように眉を上げる。少女はそっと噺家へ近寄ると、冷え切った手をそっと取って握り締めた。
「これなら……少しは温まりますか?」
「いや、まぁ、うん。暖かいな、凄く」
「はっはっは……うむ、こっちは見ているだけで火傷しそうなんだが」
 そんな仲間のさりげなくも仲睦まじげな遣り取りを前に、陰陽師が神妙な面持ちで突っ込みを入れていた頃。一方でもう一組の青年と少女はと言うと、眷属たちが斃れた場所へと足を向けていた。
 見ればペインは腰を落とし、少しだけ窪んだ雪原へそっと手を伸ばしている。
「きっと……きっと貴方たちも、春が待ち遠しかった、だろうね。終わること無き冬は、酷く、殺風景だったろう。ずっと、この場所に縛られて……ああ、だから、そうだね」
 貴方たちの魂、自分が、盗んでいこうか。眷属へと変じてしまった、名も知らぬ誰か。彼らを知る者はもう居ないだろうけれど、帰りを待つ人も旅立ってしまっただろうけど。それでも此処に残してゆくのは余りにも忍びなかった。だからこそ、青年は微かに残った想いの残滓を掬い上げ、己の裡へと仕舞ってゆく。
(こうして死者を労わるのも、間違いなく本心なのだろうけれど……きっと、彼の願いは別のトコロにあるのだろう。この優しすぎる拷問官の為にも、厳冬はやがて晴らすべきか)
 そんな指潰しの背中を見守りながら、白き刃はスッと目を細める。眷属たちは紛れもなく被害者だ。しかし戦闘中に彼らが放った言葉には、端々からどこか邪神を慮る様な雰囲気が滲み出ている様に思えた。眷属になったが故と言ってしまえば、もちろんそれまでではある。だが感情に直接触れられる青年ならば、より踏み込んだ何かを感じ取れるのだろうか。
 徒然とそんな事を考えながら、ファンは次なる敵が現れるまでの間、ペインの弔いにそっと寄り添い続けるのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

シキ・ジルモント
一般人の生贄を逃がせていてよかった、守りながら戦うには数が多い
…銃へ細工も無し、購入した弾丸も問題はない
なるほど、この数のオブリビオンを嗾けるなら小細工は不要という事か

ユーベルコードを発動、的を絞らせないよう常に動き回る
銃ならこちらも持っている、増大した速度による射撃で敵の銃を叩き落とす(『スナイパー』)
更に接近される前に追撃を仕掛け撃破を狙う
弾丸に触れられて塵にされないよう手の届きにくい側面や頭上、背面からの攻撃を心掛ける

自分達は痛みを伴わず、望まない他者に犠牲を強いるやり方が気に入らない
オブリビオンを殲滅して分からせてやるとしよう
犠牲によって成り立つこの村の全ては、今日限りで崩れ去るのだと



●終わりを告げるは銃声の遠吠え
「前哨戦もそろそろ終盤か……こうしてみると、調査段階の内に一般人の生贄を逃がせていてよかった。守りながら戦うには些か以上に数が多かったからな」
 白い息を吐きながら広場へと踏み込んだシキは、周りの惨状を見渡してそっと目を細める。広場を取り囲んでいた村人たちは、現実を受け止め切れずに暫く前から茫然自失状態となって呆けていた。だがもし生贄の救出を行えていなければ、彼らによって人質とされていた可能性が極めて高い。その場合に血を流すことなく助け出せたかと問われれば、さしもの人狼とて容易く是とは言えなかった。
「加えて銃への細工も無い上に、購入した弾丸も問題はない。始めこそ意図が読めず訝しみもしたが……なるほど。この数のオブリビオンを嗾けるなら、下手な小細工は不要という事か」
 視線を広場の外延部から中央へと移せば、そこに広がるのは激しい戦闘の痕跡。厚く降り積もった雪に埋もれて、幾つもの銃器が残骸と化して散らばっていた。軽く靴底で地面を踏みしめれば、足裏からじゃりじゃりとした感覚が伝わってくる。ざっと見た限りではあるが、その数は下手をすれば三桁に届く勢いだ。確かにこの数を相手に、拳銃一丁で抵抗できるとは思うまい。
「尤も、その数も随分と寂しくなってしまったようだがな……察するに、お前たちで最後だな?」
 そうして、そんな残骸の向こう側に灰色の青年たちが佇んでいた。彼らはいまも油断なく銃を構え、狙いをシキへと合わせている。だがその数は戦闘開始当初よりも大幅に数を減らしており、既に相手の戦力が底をついているであろう事が伺えた。しかしかと言って、素直に降参する様な手合いでもないだろう。その証拠に、鬱々としながらも毅然さを帯びた言葉が響く。
『せめて一人でも、一挺でも、かの乙女へと届け奉じん。例え叶わずとも、この場を断固守るべし』
「信仰の裏にどんな事情があったかは知らん。だが、それが手段を正当化する理由にはならない……悪いが、押し通らせて貰うぞ」
 事ここに至れば、もはや悠長に問答をしている段階ではない。シキが地面を蹴って飛び出すのと、敵が射撃を開始するのはほぼ同時であった。倒れ込むギリギリまで体を傾斜させつつ、人狼は射線を切るためにジグザグの軌道を以て敵をかく乱してゆく。一瞬前まで自分の居た場所へ銃弾が着弾し、雪煙が立ち上る。足を止めれば一瞬で蜂の巣だ。
(射線が低い……狙いはこちらの脚か。身体機能のリミッターを外しているというのに、よく追従してくるものだ。だが、銃ならこちらも持っている。ここはひとつ、射撃の腕でも競ってみるとしよう)
 敵も味方も、常に有利な位置を求め高速で動き続けている。だがそんな中に在って、シキは武骨な拳銃を取り出しトリガーを引くや、狙い澄ましたかのように敵の武器を撃ち抜いてゆく。弾丸は機関部へ吸い込まれると、内部より精密機器を鉄屑へと変えていった。後々の事を考えれば、単に叩き落とすのではなく破壊した方が安全であろう。そうして攻撃手段を失った敵へと、防ぎにくい背後や側面より二射目を放って次々と無力化してゆく。
『……何よりも長く、何よりも早きもの。それは時の流れなり』
 しかし、いつまでも棒立ちで隙を晒しているほど相手も愚かではない。得物を失ったとみるや、掌を突き出して踊り掛かってきた。咄嗟に胴体部へ弾丸を叩き込むも、相手は文字通りの捨て身で距離を詰めて来る。触れられればその時点で終わり、ではあるが。
「掌以外なら問題はないんだろう? なら、対処とて簡単な話だ。警戒はするが、さりとて過度に恐れるモノでもない」
 シキは繰り出された掌を避けて手首部分を掴むや、ぐいと引き寄せて眷属の体勢を崩す。そうして目の前に突き出された頚部へと銃口を宛がい、そのまま発砲する。急所を撃ち抜かれた灰色の青年は受け身を取ることもなく雪の中へ倒れ込むと、そのまま灰と化して崩れ落ちてゆくのであった。
「犠牲は部外者に押し付け、戦闘は眷属任せ、それでも駄目なら神に縋る……自分達では痛みや責任を伴わず、望まない他者に犠牲を強いるやり方は正直気に食わんな。だが、これで認めざるを得ないだろう」
 ――犠牲によって成り立つこの村の全ては、今日限りで崩れ去るのだと。
 空になった弾倉を取り換え、初弾を薬室へと送り込むシキ。彼は今の攻防を茫洋とした視線で眺めていた村人たちを一瞥しながら、そう静かに独り言ちるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『純雪の花嫁』

POW   :    小さな大量破壊兵器
【これまでに製造されてきたAK47】が自身の元へ多く集まるほど、自身と[これまでに製造されてきたAK47]の能力が強化される。さらに意思を統一するほど強化。
SPD   :    戦場こそが我が蜜月
【7.62mm小銃弾】を降らせる事で、戦場全体が【弾丸と砲弾、吹雪舞うシベリア】と同じ環境に変化する。[弾丸と砲弾、吹雪舞うシベリア]に適応した者の行動成功率が上昇する。
WIZ   :    花嫁よ、何時迄も側に在れ
「【戦場へ向かう若人に寄り添わん】」という誓いを立てる事で、真の姿に変身する。誓いが正義であるほど、真の姿は更に強化される。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ユエイン・リュンコイスです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●Горе не море, выпьешь до дна.
     ――旧い話をするとしよう。
                ――或る神に纏わる、三つの変化の話だ。

 其れがいつ、なぜ生まれたのかは人間の窺い知るところではない。だがこの地に人が足を踏み入れた時、其処には既に雪の精が住まっていた。日差しを知らぬが如き白い肌、澄んだ氷を思わせる瞳に冴え冴えとした相貌を備えた、幼き娘。その姿を見た者らは、其れが自分たちとは根本から異なる存在だと直感したのだろう。
 安易に近寄らず、さりとて排することもなく、わずかばかりの貢物と引き換えにささやかな加護を得る。信仰の始まりはそんな小さなものであった。やがて迷信に満ちた生活に文明の灯がともり、急速な近代化の波や国家体制の変遷を経てもなお、それは途切れることなく村の中で引き継がれていたのだが……。

 そんな中、まず先に変化が生じたのは村人たちの側だった。捧げれば、その分だけ返ってくる。であれば、より多くを投じて更なる見返りを求めるのも自然な、或いは仕方がない流れだったのだろう。始めは僅かばかりの作物だった捧げ物へ酒や獣の肉が加わり、果てに人身御供へと至るまでそう時間は掛からなかった。
 神もまた人の姿をしてこそ居るが、根本は人外である。人間の倫理など通用しない。捧げられるものが有意であれば、家畜だろうが人だろうが構わず取り込む……その、はずだったのだが。

 次なる変化を起こしたのは、神の側であった。或る時、生贄として捧げられた然る青年に対し、雪の娘は強い執着を示したのである。何故なのかという理由については、それこそ神のみぞ知る領域だ。長い年月に経てきたが故か、それとも人を取り込んだ影響か。それが慕か愛なのかまでは定からぬが、邪神が確かに人の持つ『情』を抱いたのは確かであった。
 そのままであればきっと、話は穏やかな方向へと進んだのだろう。喰らうだけの供物ではなく共に在る伴侶を得て、真の意味での神と相成る……だが、現実はそうならなかったのだ。雪の娘がその青年と出会ったのは、今から丁度八十年前。鉄十字の国が赤き連邦へと牙を剥く、その始まりの年。
 それから暫くしてのことだ……三つ目の変化が起こってしまったのは。


「っ……!? 来るぞ、これは。降臨なされる」
「控えろ、伏せて動くな。今年は何もかもが違いすぎる。何が起こるか分からん」
 流石に長年信仰し続けたことはあるのだろう。広場に満ちる空気の変化を真っ先に感じ取ったのは、放心していた村人たちであった。彼らはハッと我に返ると、跪く様に姿勢を低くしながらジリジリと後退してゆく。
 しかし、猟兵たちがそれに注意を払っている余裕はなかった。異常とも呼べる寒波を纏い、眷属を遥かに超える存在感を持った何者かが広場の中央部へ現れようとしていたからだ。
 果たして――風と雪の中より姿を見せたのは、正しく『雪の娘』と呼ぶに足る存在だった。
 其れは酷く小柄な影だった。
 其れは黒のコサック帽と暗緑の軍装に身を包んでいた。
 其れは齢十に届くかどうかという少女であった。
 其れはまるで花嫁衣裳のようであった。
 其れは一つで在り、一人で在り、複数で在り、また大勢でも在った。
 その造り物めいた姿も然ることながら、より眼を惹くのは周囲に浮遊する無数のAK-47。真新しいモノもあれば傷つき錆び付いたモノもあり、酷ければ暴発したのか半壊状態の残骸も見受けられる。恐らくは、それらこそが長年に渡って収められてきた供物なのだろう。

 そう……これこそが三つ目の変化による結果、或いは末路である。
 戦争とはどこまで行っても『数』の勝負だ。幸いにもこの国はそれが豊富であり、不幸にもその価値は極めて安かった。だがそれを以てしても、通常の動員だけでは戦力が払底するほどの激戦が繰り広げられたのである。そうなれば男は勿論、少年から婦人までもが戦場へと駆り出された。史上二人しか存在していない女性エースパイロットが、どちらもこの国から生まれているという例を見れば分かりやすいだろう。

 まぁつまりは、そういうことだ。この土地から離れられぬ娘を残し、青年は戦場へと赴いた。そして、帰ってこなかった。当時としてはよくある話だ。余りにありふれた出来事だ。しかし、心と言うものを覚え始めた神性に、その喪失を受け止め切れるだけの下地などあろうはずもなく。
『……あの人は、どこに居るのですか』
 結果――生まれたばかりの心は砕け、歪み、狂った。どうして共に行けなかったのか。共に在りさえすれば、こんな事にはならなかった。そんな懊悩の果てに、神が縋ってしまったものが銃だったのである。若人の手に握られ、共に戦場へと赴き敵を討ち倒す武威の象徴。己がそうであれば、何かが変わったのかもしれない。そんな渦巻く感情を委託したのだろう。
 その点については作成が容易かつ、使い手を裏切らぬ信頼性を持ったAK-47は打ってつけだったのだ。尤も、設計者が『子供に銃を持たせるべきではない』と苦言を呈するような性格だったことを考えれば、皮肉というより他にない……或いは、そこに込められた嘆きや祈りを本能的に感じ取ったのだろうか。

『帰ってこないのです。どこに行けば逢えるのでしょうか。何人、何十人、何百人……その手を取ったのに、誰も彼もが違いました』
 とは言え、一度砕けた心が元に戻ることはなかった。生贄が捧げられる度に青年が帰ってきたのだと喜んでは落胆し、また同じ様な過ちを犯さぬ為にひたすら銃器を収集し続ける。
 暖かさなど、始めから知らなければこうはならなかった。だが突然与えられた温もりを取り上げられて、どうしてこれまでと同じように冬の寒さを耐えられようか。来るべき春が、永遠に遠のいてしまったというのに。
『だから、私は待ち続けなければなりません。いつか帰って来てくれる日まで。この手を握ってくれる日まで……ずっと』
 ――数十年たっても、彼女の時は止まったままなのだ。永遠に溶けぬ、このシベリアを覆う雪の様に。生贄を求めたのも、銃を望むのも、この土地へ近づく脅威を打ち払うのも、あの日の暖かさに恋い焦がれ続けるが故。

 だが……終わらせてやらねばなるまい。既に信仰の始まりにあった神聖さは俗な利益に塗れ、『祝祭』は忌み嫌ったはずの戦禍と同じく無尽蔵に命を呑み込む悪習へとなり下がった。そして、待ち望む相手が帰ってくることは――絶対に有り得ないのだから。
 さぁ、猟兵たちよ。どうかこの百年の冬に幕を引いて欲しい。
 神と呼ばれてしまった雪の娘に、雪解けの瞬間を与えてくれ。
 
※マスターより
 プレイング受付は29日(金)朝8:30より開始いたします。
 第三章は姿を現した邪神との戦闘となります。1,2章での成果によって今年の供物が捧げられなかった為、能力の強化は発生しておりません。正し、それを差し引いた上でも強大な戦闘力を保有しています。
 ただ武力を以て弾丸を跳ね返すか、言葉によって心を溶かすか。行動はご自由にお考え下さい。プレイング内容は戦闘寄りでも心情寄りでも大歓迎です。
 それでは、どうぞよろしくお願い致します。
シキ・ジルモント
この吹雪で邪神に干渉するのは困難、まずは接近する
狼の姿に変身しユーベルコードを発動
被毛の色によって吹雪に紛れて姿を隠し、邪神の位置を追跡して走る
弾丸や砲弾で狙うには認識する必要がある筈
姿を捉えにくい状況に持ち込みたい

接近したら人の姿に戻り、銃を構え警戒しつつ邪神と対峙
この距離なら銃弾も、声も届く

誰かを待っているのか?
…何百という贄の手を取るだけの時が過ぎたなら、もう自分で気付いているんじゃないか
帰って来ないのではなく、帰って来る事が出来なかったのだと

もう待たなくても良いと伝える
…引き金を引くべき敵相手に甘いかもしれないが、欲の為に神を利用したのは人だ
その末の歪みだとしたら少しでも正してやりたい



●弾丸にて語らい、言の葉にて撃つ
「なるほど、あれが村人たちによって信奉されてきた邪神か……見た目こそ子供だが、百年と言う年月の重みに相応しい威圧感だな」
 シキは油断なく愛銃を構えながら、照星越しに姿を見せた邪神へと視線を合わせてゆく。一見すれば相手は年端もいかぬ女童であるが、その裡より滲み出る存在感は尋常なものでは無い。まるで巨大な氷山を人型にまで圧縮したような、そんな質量さえ感じられた。周囲へ無数の突撃銃を従えているという事もあり、さてどう攻略したものかと様子を窺っている、と。
『……あなたは、あの人なのですか? でも、あの人が持っていった銃はもっと、別のカタチをしていて……?』
 雪娘と人狼、両者の視線が交わった。小首を傾げて問いかけて来る邪神の表情は期待、疑念、回想と目まぐるしく変わってゆく。眼前の相手が恋焦がれた者なのかすら、すぐさま判別つかないのか。その様子を見てシキは相手の精神状態が只ならぬ事を察すると共に、次なる反応を半ば確信じみて直感する。
『あの人で無いなら、つまり……打ち払うべき外敵ですね?』
「そちらからすれば、そう大きくは間違っていないがな……ッ!」
 無数のAK-47の銃口がこちらを向いた瞬間、シキは転がるようにその場から離脱していた。瞬間、響き渡ったのは地雷の炸裂を思わせる衝撃と轟音。見れば、一瞬前まで己の居た場所が抉り取られる様に削られている。行動自体は先の眷属と同じだが、そもそもの威力が段違いだ。
 加えて、着弾地点を中心として冷気が溢れ出したかと思うや、ヒュルヒュルという甲高い風切り音まで聞こえ始める。それが何なのか、分からぬ傭兵ではない。
(吹雪だけでも厄介だというのに、この音は重砲の砲撃だな。正に八十年前の再現という訳か……この状態では邪神に干渉するのは困難、まずは接近する。忌々しいが、手段を選んではいられん)
 シキは手にした銃を咥えるや、四つ足を以て雪原を駆け始める。着弾した砲弾が土煙を上げる中、その姿は瞬く間に銀色の大狼へと変じていった。人の身では翻弄されるだけの戦場も、獣の運動能力であればまだ優位に立ち回ることが出来るだろうという判断だ。
(この毛並みであれば雪に溶け込める上、被弾面積も人型より小さくなる。弾丸や砲弾で狙うにもこちらを認識する必要がある筈。姿を捉えにくい状況に持ち込みつつ、こちらの射程距離まで肉薄出来ると良いのだが)
 果たして、銀狼の狙い通り直撃軌道を取る攻撃は大幅に減少する。しかし、相手の真価は異常とも言える手数の多さだ。平面を薙ぐ銃撃、頭上より降り注ぐ砲撃。手当たり次第にまき散らされるそれらは命中せずとも、余波の威力だけで猟兵の体力を削り取ってゆく。
(凍土の香り、鉄臭さ、硝煙の匂いが混ざり合って分かりにくいが……捉えたぞ)
 しかしそんな状況下でも、シキは確かに嗅ぎ取っていた。氷の如き澄んだ空気、それが漂ってくる地点。彼は一息に砲弾雨の中を駆け抜けるや、人間形態へと戻りながらその場所へと飛び込む。果たして、其処に居たのは悠然と佇む雪の娘。人狼は咄嗟の迎撃として向けられた銃器へ鉛玉を叩き込んで破壊しつつ、銃を構えたまま邪神と対峙する。
 この距離ならば、届く。弾丸も――そして言葉も。
「漏れ聞こえる言葉から察するに、此処で誰かを待っているのか?」
『………………』
 シキの言葉に、相手はただ冴え冴えとした視線のみを返してくる。彼女にとって対話する価値を見出す人間はただ一人だけなのだろう。その執着を否定するつもりはない。だがきっと、それ故にこの信仰はここまで歪んでしまったのだ。
「……何百という贄の手を取るだけの時が過ぎたなら、もう自分で気付いているんじゃないのか。その『誰か』は帰って来ないのではなく、帰って来る事が出来なかったのだと。その事実を理解できないのではなく、したくないだけで」
 大切な者との離別。その哀しみならば、シキとて十二分すぎるほど身に染みている。目の前の女童へ同情や共感を覚えぬ訳でもない。しかしそうした痛みを知るからこそ、その感情にどこかで『区切り』を着けねばならない事を、喪失と引き換えに学んでいた。
「離れゆく誰かと共に在りたいと願って、銃へと想いを託したのだろう? ならば今この状況がそれと矛盾している事も、本心では分かっているはずだ。お前は、もう……」
 ――待たなくても良いんだ。
 シキがそう告げた瞬間、雪の娘の相貌に確かな感情が浮かぶ。だが彼はそれをなんと形容すべきか、当て嵌る言葉が思いつかなかった。ただ分かることは、渦巻くそれが極めて激しいものだと言うことだけだ。
『あの人は帰って来てくれます……別れ際に必ず帰ると、告げてくれたのです。私はそれを、信じて……!』
 瞬間、破壊したものに代わり新たなAK-47が召喚されるや、一斉射を以てシキへと弾丸を叩き込む。心の乱れが現れているのかその狙いは甘く、人狼は飛び退りながら応射して再び銃器を破壊。そのまま一旦戦場より離脱してゆく。
(破壊したのは結局銃のみか。我ながら甘いことだが、欲の為に神を利用したのは人だ。その末の歪みを少しでも正さなければ、余りにも後味が悪すぎる。それに……)
 泣きそうな顔の幼子を撃つのは少し、な。そうして人狼は感傷に浸るように一瞬だけ眼を閉じた後、再び砲弾降り注ぐ戦場をひた走るのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ブラミエ・トゥカーズ
信仰、迷信、噂話。
余は愉快なモノに成ったが、貴公は恐るべきモノに成ったのであるな。

同じ化生同士、枷を付ける必要もあるまい?
外し方を忘れたか?

挑発して真の姿にする。
余は、かつて人に恋され退治されたぞ。愛しき素晴らしい者に巡り合えたぞ。

【真の姿】
先天的抗体保持者であったブラミエ似の村娘。
枷を付け、赤い霧を纏う。

かかって来いよ。自然の権化。
わしはこの星で生まれ、この星で生きるものぞ。
自然の驚異如きで滅ぼせると思わねぇことだな。
おい、仇敵共、てめぇらの得意な魔女狩りだ。

風通しが悪いと雪も溶けやしねぇ。

自身は挑発と防御重視。
化生としての確立を狙う。
浄化属性にて祭儀場を焼く。

アドアレ絡み歓迎



●其は人の姿をせし脅威なれど
「古々しき信仰、無知ゆえの迷信、尾鰭の付いた噂話。そうしたものを纏った結果、余は愉快なモノに成ったが……貴公は恐るべきモノに成り果てたのであるな。しかし、さて。それを言祝ぐべきか、それとも憐れむべきか判断に迷うところだ」
 神の姿を見たブラミエは、そう小さく首を傾げる。かつて猛威を振るった紅の伝染病は特効薬による根絶と引き換えに、吸血鬼としてのアイデンティを獲得して現在の名と姿を得た。かつての畏怖は未だ残されしも、それでもまだ穏やかな気質へ落ち着いたと言えるだろう。
 しかし翻って見るに、眼前の娘はどうか。神などと称されるに足る力は確かに持ち合わせている。だがその在り様は寧ろ、ブラミエと同じく荒れ狂う災禍としての側面が強調されてしまっている様に思えた。
「まぁ良い。我も貴公も同じ化生同士、わざわざ枷を付ける必要もあるまい? 衆目も分を弁えて控えておるしな、見てくれが少しばかり変わった所で盗み見るものもおらんよ。それとも、よもや外し方を忘れたか。我は人の姿へと相成ったが、貴公の場合……」
 人の姿など、とうの昔に捨てているのだろう?
 そこに直接的な言及は存在していない。しかし、言葉の裏には様々な寓意を含んだ不敵さがありありと感じ取れた。貴族然とした見た目に違わぬ、迂遠な言い回しの挑発。相手も心理状態が歪んでいるとは言え、それに気づかぬほど愚鈍でもない。
『今のままでは、共に在れなかった。だから、そう在れる姿を求めたのです……それは決して、無意味などではありません』
 ひゅうと雪交じりの風が吹き荒れ、女童の姿を覆い隠す。白き幕が晴れた時、其処に存在していたのは一挺のAK-47だった。見てくれこそ他の物と変わらないが、その威圧感は先ほど以上である。邪神の本気を前に、しかして吸血鬼の口元に浮かぶのは微かな笑み。
「……余は、かつて人に恋され退治されたぞ。愛しき素晴らしい者に巡り合えたぞ。輝ける日差しが如き暖かさに触れ、焼かれ溶かされたのが貴公だけなどと自惚れてくれるな」
 そうして神の純白へ対抗するかのように、ブラミエの周囲にも深紅の霧が漂い始める。それに伴い彼女もまた姿を変じさせたかと思うや、現れたのはどこか吸血鬼の面影を残す村娘だった。かつて、致死性ウィルスの抗体を先天的に保持していた或る少女。自らの克服者を、旧き病は己が真としていたのだ。
「かかって来いよ。自然の権化。わしはこの星で生まれ、この星で生きるものぞ。お前が求めた、人と共に在るものぞ。たかが自然の驚異如きで滅ぼせると思わねぇことだな」
 打って変わった荒々しい口調と共にじゃらりと鎖付きの枷を打ち鳴らし、ブラミエは邪心と真っ向から睨みあう。果たして、先手を打って動いたのは邪神の側であった。
『既に駆逐された存在が、今更大言壮語を……ッ!』
 周囲の銃器群と同時に放たれた一斉射は、強烈な衝撃波と共に村娘を穿ち吹き飛ばす。その威力たるや、もはや小銃弾で引き起こせる破壊の域を優に超えている。如何に吸血鬼が鉛玉で死なぬとは言え、神の力を帯びた弾丸だ。こちらも真の姿を発揮していなければ、今の一撃で五体が微塵と化していただろう。
「カッ、ハ……!? 全く、それを言われちゃあ返す言葉もないがな。だが裏を返せば、人のみがわしを打ち倒せた。自然などでは断じてねぇ。そうだろう、なぁ、仇敵共ッ!」
 傷の痛みなど意に解さぬように、吸血鬼は相手に負けじと怒鳴り返す。肉体の再生を進めて回避へと移る一方、彼女は零れ落ちた血液へと己が意を注いでゆく。瞬間、それらが膨れ上がり凍結したかと思うや、内部より松明や火矢で完全武装した騎士団が出現した。火とは古来より不浄を祓う存在。詰まるところ、彼らはかつてブラミエを滅ぼさんとした者らの再現である。
「恐るべき人よ。愛しき無知よ。己の善にて邪を蹂躙する正しき者よ。怨敵共よ、魔女狩りを始めるが良い。汚れた敵は此処にいるぞ……さぁ、てめぇらの得意な魔女狩りだ! 昔のように異端異教を焼いてみせろ!」
『そんな時代遅れなもの、すぐに薙ぎ払って……ッ!?』
 号令一下、騎士団は焔を振り撒いて冷気を乱し、火矢を放ちながら進軍を開始する。騎士にとって銃器は鬼門であるが、弾丸が神の力を帯びていたのが逆に功を奏した。神秘こそが彼らの狩るべき対象。その領分に踏み込んで来たとあらば、状況を互角にまで持ち込めるのだ。
 そんな戦闘の様子を、ブラミエはすっと目を細めながら眺めてゆく。
(ま、焼くのは寧ろこの祭儀場だがな。この場から切り離して、神ではなく化生として存在の確立を狙う……尤も、そう容易いことではないだろうが)
 神威の弾丸が甲冑を穿ち、浄化の焔が銃器を歪め暴発させる。恐るべき執念深さを以て迫りくる騎士団を前に、先に音を上げたのは邪神の側であった。
『焔は、嫌い。暖かさなんて、要らない……あの人以外のものなんて、なにもっ!』
 銃身が焼け付くのも厭わぬ連続射撃により騎士団を押し返すと、そのまま吹雪の向こう側へと女童は姿を消してゆく。追撃を試みる隙など無く、視界に広がるのは分厚い雪の銀幕のみ。
「一旦退いた、か……全く、風通しが悪いと雪もロクに溶けやしねぇな」
 ブラミエはその向こう側へと視線を投げかけながら、忌々しそうにそう吐き捨てるのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

黒玻璃・ミコ
※美少女形態

◆心情
零落したとは言え凍て付く神かと思えば
まさかの恋を忘れられぬ乙女だったとは……興がさめました

◆行動
とは言え此も成り行き
【読心術】により彼女の心の奥底の願いに耳を傾け語りかけましょう

1%でも良いです
三千世界を流離う私に貴女の権能と思慕を預けなさい
貴女が愛した人が真に良い男なら
此の世界では果てても
魂の容が同じ者が必ずや何処かの世界に居る筈です

此の地に縛られてるのなら
【黒竜の道楽】を以て【捕食】……いいえ
その想念と鉄躰を昇華した上で私の内に【生命力として吸収】しますので共に行きましょう
幸いなことに時間は幾らだってあります、旅する風に心惹かれたなら掌を取りなさい

◆補足
連携&アドリブOK



●流離う風に手招くものよ
 びゅうびゅうと、強烈な吹雪が吹き荒れる。近づく者一切を拒むが如き拒絶の氷嵐は視界を白く煙らせ、その中心に立つ神の姿を覆い隠してゆく。だが、風を司る神性を奉ずるが故に、ミコはそんな状況下でも正確に相手の姿を捉えていた。
「零落したとは言え凍てつく旧き神かと思えば、まさかの恋を忘れられぬ乙女だったとは……正直なところを言えば、興がさめました。てっきり、戦争などに傾倒していた存在かとも考えてはいたのですが」
 そんな彼女の視線もまた、相手に負けず劣らず冷ややかなものだ。『黄衣の王』が信奉者として異なる神との対話を期待して蓋を開けてみれば、その正体が慕情を拗らせた少女だったのである。そんな反応も無理はないだろう。だが、その身に帯びる神威に一切の偽りはない。猟兵としてはこのまま捨て置くことなど出来はしなかった。
「とは言え此も成り行きです。砕け散った心であろうとも、銃やこの土地に固執している以上は己が願いを完全に見失っている訳ではないはず。奥底の願いに耳を傾け、語り掛ける事が出来ると良いのですが……ッ!?」
 そうして相手の在り様を注意深く観察していたミコだったが、不意に邪神の意識が己へと向けられた気配を感じ取る。白く煙る向こう側で幾つもの銃器が蠢いたのを認めた瞬間、彼女は全力でその場より退避していた。瞬間、膨大な量の弾丸が雹雨の如く降り注いでゆく。それらは決して尽きることなく、疾駆する黒き勇者を駆り立てる様に追従し始める。
『私は待ち続けなければなりません……あの人が嘘など吐くはずなど、ないのですから。そうすれば、今度こそは、共に』
 弾丸の風切り音に乗って、そんな言葉が耳朶を打つ。今の邪神の心は、砕けた器の破片をもう一度乱暴に繋ぎ合わせたようなものだ。ただ事実のみを叩きつけたところで、重みに耐え切れず軋みを上げるだけだとミコは看破する。であれば、まずは別の方向から相手の心を解きほぐしてやらねばなるまい。
「その意志を一概に否定するつもりはありません。であれば、1%でも良いのです。三千世界を流離う私に貴女の権能と思慕を預けなさい。掌へ収められる相手として、私相手では真に納得は出来ないかもしれません……ですが」
 先の戦闘で奪った突撃銃で応射しつつ、それが反撃で破壊されれば千変万化の黒剣を以て攻撃を凌ぐ。いまは必要とされているのは、きっと痛みよりも言葉のはず。ミコは己が全戦力を防御へと裂きながら、純白の薄幕で隔てられた相手へと叫び続ける。
「そうして己が存在を変容させる程、誰かと共に何処までも行けることを願ったのでしょう? 八十年にも渡って待ち続けたのです。そろそろ、歩き出してもきっと罰はあたりませんよ」
 返ってくるのは相も変わらず銃弾ばかり。言葉がどこまで響いているのかも窺い知れぬ。だがそれでも、彼女は言の葉を紡ぐことを止める気は更々なかった。確かに相手は神として強大であろう。意思統一された銃器群と眷属は群として完成されているであろう。だが……信仰とは心に、魂に、精神に由来するものだ。眼前の相手からはそれが完全に抜けている。である以上、ミコとしてはそんな有り様を見過ごすことなど決して出来なかった。
「待ち人の最後だって、恐らくは村人より伝え聞いただけでしょう? ならばその者が斃れた場へと足を運ぶだけでも、死者に対する何よりの手向けになります」
 すぐ真横を通り抜けた弾丸によって皮膚が削られ、衝撃波が黒液状の体内を攪拌してゆく。だが少女は痛みに顔を顰めながらも、僅かずつではあるがジリジリと彼我の距離を詰めていった。雪煙越しでの会話などまどろっこしい。こういったものは須らく、直接顔を合わせてこそ意味があるのだから。
「それに貴女がそこまで愛した人が真に良い男なら、例え此の世界では果てたとしても……魂の容が同じ者が必ずや何処かの世界に居る筈ですよ」
『っ……戯れ、言を……!』
 ようやく得られた反応は、字面だけ見ると拒絶を示すもの。しかし、弾幕の圧力が僅かに下がったという事実が、相手の心に何がしかの変化を与えられていたことを示していた。この機を逃す理由はない。ミコはそのまま渦巻く白風へと身を投じるや、一気に相手の懐へと踏み込んだ。
「他の理由でこの地へ縛られているというのなら、その無粋な戒めを解き放ち、貴女の想念と鉄躰を昇華した上で私の内へと取り込みます! その為にも黒き混沌より目覚めなさい、第零の竜よ!」
 相手がトリガーを引くよりも早く、屠竜の魔女は夥しい数を誇る黒竜の残滓を召喚。放たれた弾丸を片端から喰らい飲み干しつつ、雪の娘へと差し向ける。危害を加えるつもりはない。それらが牙にかけるは負の想念と貯め込んだ財貨のみ。
「幸いなことに時間は幾らだってあります、旅する風に心惹かれたなら掌を取りなさい。新たな百年をどうか共に行きましょう!」
『私、は……ッ!』
 黒竜の奔流と氷弾の嵐が真っ向からぶつかり合う。激突の余波で突風が吹き荒れ、今度こそ戦場は白く染め上げられる。思わずミコも目を閉じ、氷粒を払いのけながら再び目を開いた時……既に邪神の姿はその場より跡形もなく消えていた。
「はぁ……逃げられてしまいましたか。本心からぶつかったとは言え、少しばかり性急に進め過ぎ、て……? いえ、これはまさか」
 小さくため息を吐く黒き勇者だったが、足元に何かが埋まっていることに気付いた。そっと雪を払いのけ、引き抜いた『其れ』は……。
 ――古ぼけた、されども確かな力を感じる一挺のAK-47であった。

成功 🔵​🔵​🔴​

寺内・美月
アドリブ・連携歓迎
「…『副官、RCT進出開始。あとICVを一両此方に』…しかし、本当に戦死していれば配下の亡霊に…後で探してみるか(帽子を被り真の姿に)」
・RCTからICV化小隊と迫撃砲小隊を招集し、乗車中は迫の着弾を観測。敵の状況によっては隙を見て下車し接近、見方の火力支援の下に『繊月』による近接戦闘を行う。
・ICV化小隊は厚い装甲を生かして接近しつつ、至近距離に砲弾もしくは車載型対空火炎放射器を撃ちこむなど、敵の行動を妨害する事に努める。
・トゥルパ指揮下のRCT主力は、砲弾の弾道から火砲展開地を割り出し強襲を仕掛け、村落への火制を妨害もしくは停止させる。
・UC【月光】による猟兵支援も継続。



●戦いは一にも二にも数なれば
「副官、RCT進出開始。あとICVを一両此方に回せ……相手の使用火器はただのAK-47ではない。適切な支援無しで挑みかかれば、まともに抗しえぬと心得えておけ」
 黒き勇者が雪煙の中で対話を試みている頃。仲間の戦闘経過を観察しながら、美月は己が配下の部隊へと無線機越しに命令を飛ばしていた。彼らは先の眷属戦時から密かに戦闘準備をさせていたRegimental Combat Team……陸軍の諸兵科を取り纏めた連隊戦闘団である。戦いとは往々にして数が物を言う世界だ。相手が数十年にも渡って捧げられた火器を同時に扱うのであれば、こちらもまたそれ相応の戦力を以て当たらねばなるまい。
「……しかし、八十年前に斃れた兵士を待ち続けているとはな。もし本当に戦死していれば配下の亡霊に居る可能性も……可能性としては何とも言えんが、念のため後で探してみるか」
 青年は通信を切ると、意識を切り替える様に軍帽を被り直す。ただそれだけの行為であるにも関わらず、纏う雰囲気がどこか引き締められたように思えた。そうしている内に内燃機関の駆動音が聞こえたかと思うや、歩兵戦闘車を先頭に命令に応じて招集された迫撃砲小隊が展開してゆく。美月はハッチを開けて内部へ体を滑り込ませると、手早く指示を下し始める。
「敵目標は友軍と交戦中。誤射の危険を鑑みて、迫撃砲小隊は照準調整のまま待機。状況が動き次第、こちらも行動を開始する。決して気を抜くな」
 半身を乗り出して戦況の推移を見守りながらも、万が一の事態を想定して白き鞘をすぐ手の届く範囲へと留め置いていた。そうして、各員がジリジリとした緊張感を張り詰めさせる中……。
『厄介な手合いを避けたと思ったら……また、新手?』
「敵目標『スネグーラチカ』を視認。ターゲットの周囲に味方の姿は認められず。各隊、兵装使用自由。攻撃を開始せよ!」
 雪煙を突き破り、遂に無数の銃器を引き連れた邪神が姿を見せた。美月が間髪入れずに号令を下した瞬間、待ってましたとばかりにポンという破裂音が立て続けに戦場へ響き渡る。それらは相手の周囲へと着弾するや、爆風と撒き散らされる破片にて雪の娘を駆り立ててゆく。
『貴方も、この場所を脅かすのですね。駄目です、それだけは駄目です。ここはあの人が帰ってくる場所なのだから』
 その先制攻撃が邪神の心に巣食う過去を呼び起こしたらしい。あどけない相貌に憤怒の感情を滾らせると、村の広場にかつての激戦を再現し始める。お返しとばかりに砲弾が降り注ぎ、次々と呼び出される小銃が夥しい数の弾丸を浴びせ掛けてきた。
「遺憾ながら、火砲の数はあちらが上か。神が砲兵を兼任しているのであれば仕方があるまい。戦闘団主力は弾道から火砲展開地を割り出し強襲、敵支援砲撃を停止させよ。各歩兵戦闘車は我に続け……このままでは埒が明かん。強引にでも斬首戦術を敢行する」
 このまま砲撃戦を続けていても些か以上に分が悪い。そう判断した美月は本隊に砲兵陣地の制圧を任せると、自らは歩兵戦闘車小隊を引き連れて吶喊し始めた。車両に搭載された20ミリ機関砲による掃射に加え、搭乗人員による内部からの射撃によって局所的ながらも敵の圧力を跳ね返す。
 しかしながら、流石に無傷のままでとはいかないものだ。神威を籠めた弾丸が装甲を凹ませ、頑丈さを旨とする無限軌道を抉り吹き飛ばしてゆく。結果、青年が登場していた車両が擱座するに至って、彼は白兵戦へと移行する決断を下す。
「動けぬ機甲兵器など頑丈なだけの棺桶、か。幸い、或る程度は距離を詰められた。ICVはこのまま特火点として運用。残りの人員は下車し、本車両を遮蔽物として援護に回れ」
 そう告げながら美月もまた歩兵戦闘車から飛び降りるや、白き刀と黒曜石製の指揮杖を手に邪神目掛けて踏み込んでゆく。本来であれば指揮官が先陣を切るなど言語道断だが、この部隊における最高戦力は猟兵たる彼に他ならない。軍勢の士気高揚という点も相まって、この状況下に関して言えば十分に選び得る一手であった。
『この攻撃の中を生身で……ッ!? 愚かなことです。無意味なことです。冬の寒さに耐え切れぬほど弱々しく、飛礫の一つで潰える命でありながら……誰も彼も、どうして!』
「……その問いかけに明確な答えを返すのは正直に言って難しい。名誉や武功を求める者が居れば、金銭に得るため已むに已まれぬという者もいる。祖国の苦難を憂いて志願し、或いは強引に連れて来られ従わせられる場合もあるだろう」
 後方からの火力支援を受け、美月はただひたすらに前へ前へと踏み込んでゆく。だが、それでも戦力差は如何とも埋めがたい。にも拘らず、何故こうも恐れずに挑みかかって来れるのか。青年の姿に擦り切れた誰かの面影を重ねる雪の娘へ、彼は自分なりの考えを返してゆく。
「だが、軍に属する人間がその命を賭すに足る事情など、往々にして一つに集約されるものだ。攻めるにしろ、防ぐにしろ、その根底にあるのは……」
 ――何かを護るという、その一念のみ。
 防衛に関しては改めて語るに及ばず。侵略とて多大な欺瞞を含んではいるだろうが、突き詰めれば自らの生存を確保するために。その根底には何かを護るという考えが芯となっている。であれば、今回の場合は?
「……さて、その男はいったい誰を護りたかったのだろうな」
『そ、れは…………ッ』
 それこそ、口にするだけ無粋と言うもの。目に見えて動揺する相手に隙を見出すや、美月はそのまま懐へと飛び込み斬撃と刺突を叩き込む。流石に初撃で両断は叶わぬものの、ビキリと何かが罅割れる手応えが確かに感じられた。反射的に迎撃してくる銃撃を飛び退って避けつつ、青年は瞬時に身を翻して後退を選択する。一撃は加えられたのだ、これ以上の欲を掻き過ぎれば命取りだ。
 そうして若き将校は潔く踵を返すと、友軍との合流を急ぐのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

レナ・ヴァレンタイン
単なる機構が感情を持て余して壊れる、なんてよくあることだが
それはそれ。これはこれだ
理解は示そう、納得もしよう。だがお前はもう“ダメ”だ
哀しみと空虚を抱えきれず、その穴埋めを求めていずれ世界すら喰らう
そうなる前に終わらせる

相手は所詮AKいえど神の権能が施された特別だ。戦車とサーフブレードの重装甲を盾にできうる限り接近し、可能なら巨大質量をそのまま叩きつける。回避されれば至近距離のギャラルホルンの砲撃でブッ飛ばす
態勢を崩したあとは私のユーベルコードで奴と奴がこれまで喰らった銃と生贄との間の「力の流れ」と「繋がり」を掴み潰す

これまで喰った無駄なものは全て吐き出せ
お前の求めたものはすぐそばだ、バカ者が



●きっと求めるべきだったものは其れでなく
「単なる機構が感情を持て余して壊れる、なんてよくあることだが……それはそれ。これはこれだ。理解は示そう、納得もしよう。僅かばかりの同情が無いとも言い切れない。だが、こうして直接見て分かった……お前はもう“ダメ”だ」
 寒村の広場で繰り広げられる戦闘。仮に先の眷属戦を銃撃戦と形容するのであれば、いまレナの眼前で巻き起こっているのは最早戦争と呼べるものだ。本人としては『あの人』の帰って来る場所を護っているだけのつもりらしいが、心理面的にも火力的にも危うさがそこかしこから感じられた。
「未熟な心が壊れ歪んだまま、ここまで来てしまったのだろう。哀しみと空虚を抱えきれず、その穴埋めを求めていずれはこの村だけではなく世界すら喰らい取り込む……そうなる前に終わらせる」
 言葉通り、邪神の在り様に思うところがない訳でもない。だが全てはとうの昔に『終わった』話なのだ。ただ、村人たちの手によって今日まで引き延ばされてしまっただけで。ならば猟兵として最も優先すべきは、今と明日への脅威を討ち祓うこと。
 戦闘へと意識を切り替える探偵の背後に、巨大な二つの鉄塊が姿を見せる。一つは自律飛行能力を付与されたキャバリア用試作三号型破城剛剣『ブッチャーピート』。もう一つは高機動型多脚式近接重装甲戦車『ワンダードッグ』。どちらも鋼鉄によって構成された大型兵器である。
「相手は所詮AKといえど神の権能が施された特別製、しかもその数は数十年もの供物によって裏打ちされている。戦車とサーフブレードの重装甲を盾にできうる限り接近し、そのまま巨大質量で押し潰せれば良いのだが」
 膨大な数での攻勢に対する回答、それは極まった質を持つ個による蹂躙だ。雪崩を前に大岩が押し流されるか、それとも巨石が溢れ出す積雪を押しとどめるか。これはそういう勝負の話である。どちらに軍配が上がるのか、それはこれから明らかとなるだろう。
『大きな剣に、戦車……? ええ、ええ。昔はよく見ました。この村にもたくさん。でも、ちっとも怖くはありませんで。少し冷たくしてあげれば、みんな動かなくなってしまったから』
「侵攻がすぐに終わると楽観視していた軍隊と一緒にされるのは心外だな。『冬将軍』の恐ろしさは嫌と言うほど聞き及んでいる。当然、凍結対策も実施済みだ!」
 レナの意思に従い二機の鋼鉄が進軍を開始した瞬間、邪神の手繰る突撃銃も一斉に火を噴いた。その質量たるや、弾幕と言うよりも最早分厚い壁と言って良い。装甲表面に銃弾がぶち当たる音など、間断なく響き過ぎて耳がおかしくなりそうである。
(AK-47が正式採用されたのは戦後すぐの頃……一般に製造方法が出回ったのはそれよりも後だろうが、それでも数十年は下らない。村人が月当たりで作れる数は百か、千か? トータルの総数など考えたくもないな)
 生半な機甲兵器ではものの数十秒でスクラップとなるだろうが、彼女の兵装は如何なくその頑強さを発揮しながらジリジリと前進を続けていた。だが敵の圧は凄まじく、その速度は当初想定よりも遅い。このまま時間を掛け過ぎれば、遅かれ早かれ辿る末路は変わらないだろう。
(まずは抱え込み過ぎた銃器のストックをどうにかするのが先決か。ともあれ、その為にも距離を詰めねばならんが……こちらも少しばかり無茶をする必要があるな)
 背に腹は代えられない。どのみち、無傷で邪神をどうにか出来るなどとは端から考えていなかったのだ。探偵は覚悟を決めると、まずは多脚戦車を前面へと押し出してゆく。
「ワンダードッグ、こちらへの射線を切りつつ近接散弾を連続射! 残弾や砲身過熱は気にせず撃ち続けろ!」
『これは……狙いはこちらの銃器ですかっ』
 砲身から吐き出されるのは徹甲弾ではなく対歩兵用の散弾である。火薬の爆発によって飛翔する鋼鉄の球体は、頑丈さで鳴らすカラシニコフを粉々に打ち砕く。すぐまた新たな銃器が補充されるだろうが、それでもほんの数瞬だけ攻勢が弱まる。それだけあれば、レナにとっては十二分。
「わざわざ剣を飛行できるようにしておいたのは、こういう時の為だッ!」
 傍らに浮かぶ大剣の分類はRXサーフブレード、詰まり元々はキャバリアを乗せて飛行する移動手段も兼ねた武装である。レナは刃の上に立つやその本領を存分に発揮させ、一気に彼我の距離を詰めていった。そのまま大質量で圧殺しようと突撃を敢行してゆく。
『こんな、無茶苦茶な……!』
「それは此方の台詞だ。よくもこれだけ溜めに溜めこんだな!」
 邪神は雹風に体を任せて辛くもその一撃を避けるものの、間髪入れずに探偵は巨大な装甲破砕攻城砲『ギャラルホルン』を担ぎ上げるや、至近距離から散弾を叩き込んで残ったAKも引き剥がしてゆく。そうして携行していた武装を粗方使い切ると、彼女は遂に相手を手の届く距離へと捉えた。
「これまで喰った無駄なものは全て吐き出せ……銃も生贄も、手当たり次第に取り込むから分かりづらくなる」
『なに、を……ッ!?』
 そうしてレナは相手の周囲、正確には銃器や生贄たちと繋がっている『力の流れ』を赤熱化した腕で鷲掴む。それは極めて硬く、太く、そして複雑に絡み合っている。一息に全てを断ち切るのは困難だが、躊躇している余裕などなく……。
「――お前の求めたものはすぐそばだ、バカ者が」
 探偵は渾身の力を以て、掌の中に在る重荷を握り潰すのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

エウロペ・マリウス
同行者:セリカ(蒼剣姫・f00633)

(真の姿を晒しながら)
……なんだか、複雑な気持ちになりますね
一度知った温もりに依存してしまう気持ちもわかりますが、今の貴女がそれが失われたと分かっていて、癇癪を起こして八つ当たりしているように感じます
とはいえ、もう止まれないところまで堕ちてしまっているようなので、
私に出来ることは1つ、でしょうか
せめて、幸せな虚実を抱いて眠らせてあげるぐらいでしょうか

「虚実を喰らう獣。纏い・砕かれ・混濁に沈み、朔に眠れ。華鏡は虚月に彷徨う(ルナ・スペクルム)」

動きが止まったならば、セリカとシェルファに声をかけて、私は【全力魔法】で氷の【属性攻撃】で一斉攻撃


セフィリカ・ランブレイ
エウちゃんと(f11096)
変わるに足る縁を争いが捻じ曲げた
そも生贄が切っ掛けの縁故の因果応報とはいえ、悲しい話だ

『価値観を変える出会い、か』
シェル姉……手の中の魔剣が静かに

(人など供物でしかなかった私も、そんな出会いをして。その男の子供にまで縁を結んで、ここに在る
結ばれなかったのは同じでも、見守る事を選べた私とは違い、引き離されたまま終わり、か……処理するには難しい感情ね、それは)

『セリカ、あの娘、眠らせるわよ』
シェル姉、珍しく感傷的かも

エウちゃんも、悲し気な顔だ
そうだね、もう、戻れない。……眠らせてあげよう
シェル姉、コーチング頼むよ!
三人で一緒に、やろう!

【蒼剣は担い手と踊る】



●過ぎては戻らぬ刻の無常よ
『あ、か……はっ……!?』
 身悶えする邪神の周囲に、力を失った突撃銃がばらばらと落下してゆく。先の交戦によって捧げられてきた銃器との接続が寸断されたのだ。無論、影響を受けたのは全てではなくその中の一部ではあるが、長い年月をかけてそれらは彼女と深い結びつきを構築している。強引に断ち切られたとあっては、見た目以上に影響があるのだろう。
「雪の様に冷たくも無垢な存在が変わるに足る縁を、巨大な争いが捻じ曲げた。だけどそもそもの始まり自体、生贄を切っ掛けとした縁故。そういう点では因果応報とも言えるだろうけれど……悲しい話だね」
「確かになんだか、複雑な気持ちになりますね。神を利用した村人たちだって、大本を辿れば厳しい自然を乗り切るための行動だったのでしょうし……尤も、度を越して以降の所業を擁護する気は更々ありませんけれど」
 そんな幼き神性の姿を前に、セフィリアとエウロペは痛ましそうな表情を浮かべる。雪の娘は確かに脅威であると断言できる一方、忌むべき邪悪かと問われれば肯定するのは難しい。極論を言ってしまえば、愛する者との別れを未だ受け止め切れぬ幼子でしかないのだ。ただ、その子供が神と称するに足る力を持ち合わせているだけで。
「一度知った温もりに依存してしまう気持ちを否定はしません。ですが今の貴女はそれが失われたと分かっていて、癇癪を起こし八つ当たりしているように感じます……それはきっと、誰の為にもなりません。貴方自身は勿論、焦がれた誰かにとっても」
 氷の姫は小さく祈るように瞳を閉じながら、手にした氷晶の杖へと力を籠める。注ぎ込まれた魔力は少女の身体を包み込み、背より生える一対の翼へと収束してゆく。淡雪が如き翅は水晶を思わせる氷へと結実し、それに伴って幾分か大人びた姿へと術者を変化させていった。
『……価値観を変える出会い、か。それがこの事態を引き起こしてしまうなんて皮肉なものね。禍福は糾える縄の如しとはこういう時に使うべきなのかしら』
「シェル姉……?」
 蒼剣姫に携えられし意思を持つ魔剣。それがぽつりと零した独白に、セフィリカは訝しげに手元へと視線を落とす。その声音からは眼前の敵ではなく、もっと古い何かについて思いを馳せている様に感じられた。
(人など供物でしかなかった私も、そんな出会いをして。その男の子供にまでこうして縁を結んで、此処に在る。結ばれなかったのは同じでも、見守る事を選べた私とは違い、引き離されたまま終わり、か……処理するには難しい感情ね、それは)
 仮に死に目に立ち会えていたら、もう少しはマシな形になっていただろうか。それとも逃避の余地すら生まれずに、より致命的な形に壊れてしまったか。もしもの未来を覗き見る事など、それこそ真の神にのみ許された所業だ。剣と銃、用途や能力こそ全くの別物ではあるが、担い手を必要とする点に相違はない。故にこそ、シェルファと銘打たれた刃は雪の娘が抱く慟哭の一端をまざまざと感じる事が出来てしまうのだ。
『セリカ……あの娘、眠らせるわよ。本当ならもっと早く、誰かがそうしなければならなかったの』
「ええ。こちらの感傷はどうであれ、もう止まれないところまで既に堕ちてしまっているようなので……私に出来ることは1つ、でしょうね。せめてもの手向けとして、幸せな虚実を抱いて眠らせてあげるぐらいでしょうか」
 魔剣も氷姫も、戦意と共にどこか感傷を帯びているように思えた。当然、蒼剣姫もそれに気づかぬほど鈍くはない。
(シェル姉、今回は珍しく感傷的かも……それにエウちゃんも、悲し気な顔だ。私もちょっとは可哀そうかなと思うけど、でも、それだけ。きっと二人ほどではない、けど)
 セフィリカは剣を引き抜き、友と肩を並べる。仲間が物憂げであるならば、その分自分が明るく振舞い引っ張ってゆく。それが己の役目だと少女は再認識しながら、断絶の混乱より復帰しつつある邪神と真正面から向き合った。
「そうだね、もう、戻れない。時間はいつも流れて進むものだから……眠らせてあげよう。それじゃあ三人で一緒に、やろう!」
 それぞれの武装を手に挑みかかる猟兵たち。我に返った邪神はその姿を視界へ捉えると、周囲の空間を己が記憶にて塗り潰し始めた。即ちそれは、かつて巻き起こった大戦の再現である。
『まだ、乱れた接続が、安定しない……でも、これなら暫くは、時間を稼げるはず……!』
 元が雪の娘とは言え、既にその存在の少なくない割合が雪と氷から鋼鉄と銃弾へと置換されている。銃との接続を断たれるという事は、手足をもぎ取られる事に等しい。痛みを抑え込み修復できたとは言え、すぐに元通りという訳にはいかないのだ。故にこそ、まずは砲弾の雨を降り注がせて接近を防ごうという魂胆なのだろう。
「頭上から砲弾……エウちゃん、お願いできる?」
「もちろん。さっきの戦闘だと守って貰いました。なら、今度は私の番です」
 弾幕と砲撃を組み合わせた三次元的攻撃は、さしもの猟兵とは言え同時に対処するのは難しい。故にまずは頭上から迫りつつある砲撃をどうにかするべく、セフィリカの要請に応じたエウロペが動いた。くるりと杖を回転させると、その軌道に沿って氷が薄い円を形作り始める。
「虚実を喰らう獣。纏い・砕かれ・混濁に沈み、朔に眠れ。ひと時の夢にて、白銀を照らし出せ……」
 ――華鏡は虚月に彷徨う(ルナ・スペクルム)。
 詠唱が締めくくられると同時に、言の葉に乗せられた魔力が現実を捻じ曲げてゆく。渦巻く寒風に巻き上げられながら薄いレンズと化した氷が浮き上がるや、月光の如き輝きを放ち始めた。その冴え冴えとした光の裡より姿を見せしは、御伽噺の中から現れたと見紛う幻想的な竜。キラキラと光を反射する半透明な体を揺蕩わせながら、幻獣は降り注ぐ砲弾へと身を広げてゆく。
『これは、竜!? ですが、関係ありません。この土地は聖ゲオルギーに守られていると、あの人は聞かせてくれました。残念ながら私がそれを感じたことは無いけれど……そうであるならば、竜になど負けはしません』
「ゲオルギー……聖ゲオルギオス、竜殺しの英雄ですか。兵士や兵器工、旅人の守護聖人だから、キミとは別に信仰していたのでしょうね。ともあれ、確かに砲弾を耐えるのは難しいと思います」
 宙空で立て続けに紅蓮の華が咲き、大気が打ち震える。攻撃を防ぐという目的自体は達せられたものの、鈴の音の如き咆哮を上げる竜からはパラパラと吹き飛ばされた破片が零れ落ちてゆく。見た目通り、耐久力は決して高くはない。これであればそう時間も掛からずに墜とせると確信する邪神ではあったが――。
「尤も……攻撃を受けて砕け散るまでを含めて、私の狙い通りですけどね?」
 雪と共に降り注ぎ、大地にばら撒かれる透明な断片たち。それらは月の輝きを乱反射させるや、現実を覆いつくすかのようにもう一つの光景を被せてゆく。それはさながら、煌めく万華鏡の如き現象。エウロペの言葉通り、一連の術式は相手の攻撃を相殺してからが本領なのである。
『これは……この、景色は。そんな、これはあの人と逢った、時の……』
 それは光を直視せし者が望む幻を見せる術。雪の娘が見ているものが何であるかは本人にしか分らないが、考えられるものなど一つしかない。だがなんであれ、邪神の意識が虚現に捕らわれた事により攻撃の圧力が大幅に落ちた。好機は今より他にない。
「よし、動きが止まりました。今ならいけるはずです……セリカ!」
「分かった! このまま斬り掛かるのも一手だけど、なんだか気になる事もあるみたいだし……よし。シェル姉、コーチング頼むよ!」
 セフィリカはエウロペの求めに応え猛然と踏み込みながら、手にした魔剣へと呼びかけた。すると煙の如く魔力が漏れ出たかと思うや、青い髪を持つ妙齢の女性を形作る。これこそが魔剣に宿る自我、その姿だ。
『戦闘中なのにそんな気まで回して、全く……でも、ありがとう。さぁ、行くわよ!』
 剣を振るうのは相変わらず一人だけだが、これにて視野は単純に二倍。それだけでも対応のしやすさは段違いに上がるうえ、経験も経てきた年月の分だけ魔剣側が長じている。故に、目に見えてその動きは滑らかさを帯びてゆく。
「私が全力で凍気による一撃を叩き込みます。セリカは着弾後に、間髪入れずに二の太刀を!」
「オーケー! ただ、夢を見ている所を襲うのはちょっと気が引けるけど……」
『そんな贅沢を言える相手じゃないわよ? ……幸福な夢を見たまま終わらせてあげられると考えなさい』
 氷の姫の言葉に頷きながらも眉根を顰める蒼剣姫に、蒼き刃は諭すように言い含める。ともあれこの期に及んで躊躇してしまえば、相手が幻より目覚めてしまう。その際に引き起こされる反応など、考えるだに恐ろしい。
 故に三人は邪神をそれぞれの射程圏内へ捉えると、素早く目配せしあいながら攻撃のタイミングを合わせてゆき……。
「……いまっ!」
 エウロペの先制攻撃がその口火を切った。練り上げられた魔力が邪神へと放たれるや、甲高い音を立てて周囲一帯が氷に覆われ始める。そのせいで幻想を齎す光が効果を失うも、こうなれば身動きは出来ない。
『ッ!? 今のは……全部、まぼろし? よくも、そこまで……!』
 邪神は相貌を憤怒に染めあげ、続けて攻撃を試みるセフィリカとシェルファを睨む。主と共に戦場を駆け抜ける武器。それこそが彼女の求めた理想であるのだから、その激情は猶更である。
『あの人との思い出を踏みにじるばかりか、こうも当てつけの様に……ッ!』
『……私と貴方の間に、きっと明確な差なんて無いのよ。一方は運の巡りがよくて、もう一方は間が悪かっただけ。その痛みも不安も理解できる……だからこそ、此処で眠らせてあげるわ』
 主従の振るう刃が雪の娘へと迫る。それに対し、相手は大きく目を見開き――。
『そんなことで、納得など……出来る訳が、ないッ!』
 自らの身体を人型から銃器へと変じさせ、強引に凍結から脱出。そのまま眼前に迫ったセフィリカへと弾丸を放つ。果たして、蒼剣姫の振るった切っ先は銃身へと傷跡を刻み込み、対して7.62mm弾は猟兵の肩口へと吸い込まれ、肉と骨を穿ち貫いていった。
「セリカっ!?」
「っぅ! 大丈夫、弾は貫通しているから見た目ほどの傷じゃないよ!」
 仲間の負傷に慌てて駆け寄ってきたエウロペに肩を貸され、セフィリカは相手と距離を取ってゆく。苛烈な戦いにおいては僅かな手傷が勝敗を分ける。戦闘を継続するのは、取り急ぎ応急処置を行ってからの方が良いだろう。幸い相手も無傷ではなく、追撃の心配は低い。
『納得なんて出来ない、か……ええ、そうね。私も同じ立場だったら、きっと』
 そうして戦場から一旦離脱する最中、シェルファはそっと背後を見やりながら静かにそんな呟きを漏らすのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アマリア・ヴァシレスク
失う哀しみは…私にも一応は理解できる、です。だけどそれを乗り越えなければ先へは進めない、です!

注意すべきは周囲にあるAK…あれが彼女に力を与えているはず、です
【ダッシュ、地形の利用】でカバーを使いながら回避し、攻撃の切れ間を【見切り】反撃、です
レーザーライフルをラピッドモードにして、【弾幕、制圧射撃、範囲攻撃】で周囲にあるAKを狙い【レーザー射撃】、ですっ!
更に【2回攻撃】…体当たりからの【グラッピング、怪力】で掴みかかった上での【零距離射撃】…これで仕留める、ですっ!

このレーザーライフルの来歴はよく知らないけど…AK以上にタフだと信じている…です!

※アドリブ等歓迎



●窮地に頼れるは五体と得物
『はぁ、はっ……だ、め。まだ、倒れられない。だって、あの人が帰って来ていない、のに。独りきりに、なんて、させられません……!』
 銃器から人の姿へと戻るも、刻まれた傷が消えることは無い。幼き姿をした神の肩口から腰元にかけて袈裟に斬傷が刻まれており、流れ出した鮮血が暗緑色の装束を汚していた。まだまだ敵の持つ力は強大なれど、度重なる戦闘は着実に相手の体力を削り取っている。だがそれを手放しで喜べるほど、アマリアは雪の娘を邪悪であると思うことが出来ないでいた。
「失う哀しみは……私にも一応は理解できる、です。私の場合は他人ではなく自分自身ですが、その痛みに差はないと思います、です。だけどそれを乗り越えなければ先へは進めない、です!」
 彼女には記憶がない。本来の肉体とていつの間にか鉄と電子部品に置換されており、己が見た目も本当に生来の姿なのかさえ定かではないのだ。それでも彼女は前向きに自らの足で立ち、更には猟兵として様々な事件にも関わることが出来ている。無論、真っ新な状態だったからこそ、新たな自分を受け入れやすかったという点もあるだろう。だがそれを踏まえた上でも、彼女はその場へ立ち止まらずに一歩を踏み出す大切さを十分に知っていた。
「とは言え、ただ言葉だけで語り掛けてもきっと駄目なの、です。百年にも渡って積もり積もった心の澱、まずは全力でぶつかって解きほぐす、です!」
 端的かつ乱暴な言い方だが、幼子の癇癪の様なものだろう。どれだけ理屈立って話をしても、情に訴えかけようとも、乱れた心では本来ならば届くも言葉も届かない。である以上、まずは有り余る余力を吐き出させるに限る。精も根も尽き果てて疲れ切ってからの方が円滑に話を進められるという事も、世の中には往々にして存在するのだ。
「幸い、こんな身体なので体力には自信があります、です。だから、気が済むまで付き合ってあげる、です!」
『……良いでしょう。あの人の帰りを待つ間、私もただ無為に過ごす訳にもいきません。ええ、そうです。再び会えた時にまともに動かなかったら恥ずかしいですし……一つ一つ、きちんと作動するかどうか確かめておきませんと、ね?』
 だから、すぐに壊れてしまわないでくださいね?
 苛立ち、不快感、敵意を綯い交ぜにしながら、雪の娘は周囲に無数の銃器群を展開。その銃口をアマリアへと向けるや、もう幾度目になるやも分らぬ弾幕射撃を展開し始めた。
(注意すべきは周囲にあるAK、あれが彼女に力を与えているはず、です。しかし、撃った端から次々と銃を入れ替えて……まるでノブナガの三段撃ち、ですっ)
 これまでもAK-47の連射性能と圧倒的な数を頼みに攻撃を仕掛けてきていたが、今回は輪にかけてそれが苛烈である。恐らくは一度に展開できる総数に限りがあるのだろうが、ならばと間断なく銃を入れ替えて射撃感覚を極限まで狭めているのだ。半機人として強化された脚力、そして流れ弾に当たっても致命打とならない頑強さが無ければ、数分と経たぬ内に鉄の嵐によって全身を引き裂かれていただろう。
(だったら……それ以上の手数と威力でお相手すれば良い、です!)
 それまで使用していた旧式の軍用小銃を手放し、代わりにアマリアが取り出したのは近未来的な外観をしたライフル。長きに渡って使用されている傑作に対抗するならば、隔絶した最先端技術の粋を集めたこれこそが相応しい。そう判断した彼女は足を動かしたまま新たな得物を構えると、躊躇なくトリガーを引いた。瞬間、その銃口より放たれたのは幾つもの短い光条。
『なん、ですか……それは!』
「EMLR-01X、分かりやすく言えば大型のレーザーライフル、です! 動力炉の仕組みや来歴とかはよく知らないけど……AK以上にタフだと信じている……です!」
 どこぞの試作兵器とも崩壊した文明の遺産とも噂されているが、正確なところは不明。ただ一つ分かることは極めて強力な兵装だという点だけだが、この場においてはそれ以上に必要な要素など存在しなかった。アマリアは射程が半減する代わりに発射間隔と速度を向上させ、自身へと飛来する弾丸の悉くを叩き落してゆく。射程の短さは射手自体が動き回ることによってカバーし、まるでノートに消しゴムを掛けるが如く相手の銃器群を削り取ってゆく。
『なんて手数……銃器を呼び寄せた端から、全て破壊されていくなんて……っ!?』
 如何に数が多くとも、一つの対象に全ての火力を叩き込める訳ではない。通せる射線にはどうしても物理的・空間的な制約がつくものだ。である以上、その局所的火力に勝ちさえすれば押し切ることも可能であり――。
「捕まえた、ですっ!」
 熾烈な射撃戦の果てに、半機人は遂に邪神へと手を届かせた。踏み込んだ勢いそのままに相手を体当たりで弾き飛ばすや、その怪力を以て相手を強引にねじ伏せてマウントポジションを取る。そうして銃口の胴体に宛がうと、躊躇なく引き金を押し込む。
「ゼロ距離射撃……これで仕留める、ですっ!」
『ぁ、ぁあああああああっ!?』
 射撃の手ごたえは極めて硬い。まるで宇宙戦艦の装甲でも焼いているかの様だ。だが着実に相手の存在そのものへダメージを蓄積させることが出来ている。このまま押し切ってしまおうと握把を掴む手に力を籠めた……瞬間、背後から襲ってきた衝撃によって吹き飛ばされた。ハッとそちらを見やれば、密集して浮遊する突撃銃の群れ。再召喚したそれらの一斉射撃により、強引にアマリアを引き剥がしたのだろう。
「さ、流石にこの数は効きます、です……ただ、削り役としては十分に役目を果たせた、です」
 ともあれ、相手の負った傷は決して小さくない。一旦仕切り直すべく後退するアマリアの背後では、よろよろと幼き神が身を起こし、蒸気を上げる傷跡に指を這わせるのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

吉備・狐珀
【路地裏】

どこにいるのか、どこに行けばと問うのなら
私に言えることはただ一つ
ここで待っているだけでは、いつまでたっても会えません

UC【鎮魂の祓い】使用
どこに行けばと問うくらいなのですから会いに行く意思があるということ
守り神として祀られた貴女をこの地から離すのは容易でないかもしれません
ですが皆と力を合わせればきっと成功します!

今すぐ会うことは叶わなくても、いつか必ず逢えると信じて祈り魂迎鳥を奏でる
愛しい人に逢うのにその手にしたものは相応しくありません
銃は全て浄化し、鳥たちが運んできたハナミズキに変えてしまいましょう

貴女の想いを届けに、そしてあの日触れた温もりがずっと続くように一歩踏み出しましょう


ペイン・フィン
【路地裏】

真の姿を、解放
数歳程度若返って、白い服装へ

さあ、教えてあげよう
春が来た物語

子を思い、呪いと化した女性の物語
最後はその子を抱きしめた

立ち止まったお話の少女の物語
でも、彼女はまた歩み始めた

愛と衝動に飢えた2人の少女の物語
今は国を作り、2人はもう満たされている

寂しき、カミの、物語
役目に縛られ
望まぬ所に閉じ込められ
愛しき人も、もはや過去の彼方
でも
どこからか現われた、とびっきりのお人好し達が
手を引き、孤独から救われる

……一つ、提案
神様、なんて余計なお役目、捨ててしまって
何処か外へ行くのは、どうかな?

春を求め、空を行くツバメのように
貴女だって、何処かに行って良いんだよ


勘解由小路・津雲
【路地裏】5名
待ち続けることが耐え難いのなら、探しに行けばいい。
日本やサムライエンパイア……おれの故郷では祭りの神輿は神の依り代、という話がある。
土地に縛られた神も、そのときだけは旅をする。
あんたなら、世界中のAK-47が御旅所代りになるかもな。
近代兵器と結びついた土着の信仰が、今度は異国の習俗と融合したところで、驚くにはあたるまい。
神輿は用意してやれんが、ほらそこに、ペインの紙飛行機がある。
おれもついでにはなむけを。【符術・鳥葬】

旅先に望む相手はもういないかもしれないが……「必ず帰ってくる」と約束したんだろう?
もし輪廻転生があるならば、再び会える日も、いつかくるだろうさ。


落浜・語
路地裏】
帰ってこない人を、待つことは寂しいもんなぁ……
まぁ、それもここらで終わりにしよう。

とは言ったけれども。どうしたもんかねぇ……?
例えばの話。帰らない人を、待ち続けてその場に自分を縛り付けるのも、悪い事ではないと思わなくもないけれど。
試しに自分から進んでみないか。『ものがたり』はもうある程度聞いたから、待ち人と過ごしたころの姿で、待ち人を探しに。
待ち人を奪ったのと同じ物は、この場所に置いていけばいい。
寒い冬の場所ではなく、暖かい春の場所へ。待ち人に会えるかもしれない場所へ。
仲間が案内役を付けてくれるから。前に進もう


ファン・ティンタン
【WIZ】春は遠し、進めよ乙女
【路地裏】

生きる者は、自らが願いの為に進まなければならない
初めての一歩は重く、心を押さえつけるしがらみは固く思えるだろう
されど、臆することなかれ
あなたには既に、それらを跳ね除け、想いを成せる力があるのだから

白いあなたが黒に染まる可能性は否定できないけれど
世に在る先輩方があらゆる物語に目を光らせているから、大丈夫
いざとなれば、私もお尻を叩きに行く
だからあなたも、好きに在るといい

【天声魂歌】
ここにいる私達は、皆、想いを叶えるために姿を得たモノだ
きっと、あなたもそうなのでしょう?
前例は、彼と、その燕達が教えてくれるだろう
ヒトのカタチを得た意味、その足で確かめに行くといい


フォルター・ユングフラウ
【古城】

死者を呼び戻せても、僅かな救いに過ぎぬ
現実改変など出来ぬのだからな
それでも望むならば…いや、その顔を見ればわかる
では、往くか

異郷の死者を骸の海より引き揚げろとは無茶を言う
だが、その対価として己を捧げたか
聞こえるか、トリテレイアよ
今の汝に声は届かぬが…奇跡は起きた
否、汝が手繰り寄せたのだ
代わりに我が記憶してやる
降霊により仮初とは言え肉体を得た「花婿」が、「花嫁」と向き合う姿を

後は任せろ
UCに乗せて語り掛けよう
「花婿」と、遅すぎた式でも挙げるが良い─とな



…物に当たるとはらしくないな
寒風で頭を冷やせ
我は先に戻るぞ

自己犠牲で奇跡を手繰り寄せた当人だけがそれを知り得ぬとはな
悲しき定めの男よ…


トリテレイア・ゼロナイン
【古城】
アド歓迎

死の理を捻じ曲げる貴女が傍らにいたならば
私はあの神を『あの人』に会わせたい

愚か者の騎士の突撃
その観劇権が助力への対価です、フォルター様!

自己ハッキング限界突破損傷度外視
邪神を降霊の『触媒』に確保

力は力
握る意志と矛先が肝要…兵器たる戦機の理屈ですが
やはり貴女の願いに…そんな物、握る必要無き方が良いのです


…降ろせない?
諦め…縺舌
私が焦がれた御伽の騎士は…縺舌?

損傷で一時停止
幻影憑依し再起動

降霊補助とあの人の仮初の肉体構成

代償

邪教徒殺害試みる邪神を止む無く縊り殺した認識



差し伸べた手で…
貴女と彼女を失望させてしまいました

力は力
銃は銃
戦機は…

…こんな…役立たずの我楽多がぁ…
(銃握り潰し)



●悲しみは海ではないのだから、いつか飲み干してしまえる
『ぁ……は……っ。いまさら、どうして、変わる事などできましょうか』
 ぐらりと、雪の娘は起こしたばかりの小さな身体を揺らがせる。猟兵と交戦した回数は既に片手の指の数を超えていた。斬傷銃撃、力の寸断。その間に積み重ねられた苦痛と疲労の数々は、既に彼女の体力を限界近くにまで削り取っている。身体に力が入らぬのも当然の話と言えるだろう。だがそれ以上に、相対した者たちの投げかけた言葉が心を騒めかせていたのだ。
『気が付けば、この土地に居ました。気の遠くなるほどの昔から、ずっと。いつしか人間が姿を見せ、あの人と出会い、そして行ってしまってからの時間もまた……決して短くなどありません。もう残ってなどいないのです。私は他に知らないのです。あの人との繋がりを示す場所を、此処しか』
 猟兵たちの叫びには理があった。敵である己を慮る情があった。それは素直に認めよう。だがどうしても、感情が是と頷く事を拒む。百年にも渡る停滞は聳え立つ氷山の如く、生半な熱量では溶かしきれぬ。しかし、先に挑んだ猟兵たちの言動は確かな楔となって彼女の心へ打ち込まれているのだ。ならばあとはそれらをどの様に活かし、何処へと着地させるかにかかっている。
「こうして改めて彼の神の姿を見るに至り、茫洋と考えていた想いが形を得たように思います。フォルター様……大変恐縮ですが、やはりお手間をお掛けしてしまう事になりそうです」
「……汝の考えていることなど、凡そ予想がつく。『其れ』を成したところで、得られるのは僅かな救いに過ぎぬ。只人の身で現実改変など出来ぬのだからな。それでも望むならば……いや、その顔を見ればわかる」
 そして切々と慟哭する邪神の姿を前にして、トリテレイアは己が為すべきところを見付けたらしい。だが独力でそれを果たすのは難しいと、彼は傍らに佇むフォルターへ深々と頭を下げる。そんな友の様子に女帝は嘆息しながら忠告を口にするも、上げられた鋼騎士の相貌を見て続く言葉を飲み込んだ。この武骨な戦機に表情を器用に変えるような機能は備わっていない。しかし、互いに付き合い浅からぬ仲なのだ。内に秘めた覚悟の度合いなど、わざわざ確認するまでもなかった。
「やるべき事が決まったのならば、往くか。それにどうやら、汝以外にもお人好しが居たらしい。ここまで来て出遅れるのも、それはそれで癪だからな」
「お人好し……? ああ、成る程。彼らですか。頼もしく思う一方、ご迷惑をお掛けしなければ良いのですが」
 疑問符を浮かべるトリテレイアであったが、フォルターの指し示した方向を見て合点が行く。アイカメラが捉えた人影は知り合いとまでは呼べずとも見知った相手。五人の猟兵たちは【路地裏野良同盟】の面々であった――。


「おや、あちらに見えるウォーマシンは……まぁ、お互いに知らぬ仲でも無し。良きに転ぶ事こそあれ、悪いことにはならんだろう」
 白蒼の戦機が器物たちの姿に気付いたのとほぼ同じく、津雲もまた戦場に立つ相手の姿を認めていた。同じ戦場で戦ったことは何度かあり、互いの実力や能力もある程度は把握できている。少なくとも、互いが足を引きあうような事にはなるまい。
「それにしても、生贄と銃を求めていた邪神の正体が慕情を募らせた子供だったとはねぇ。まぁでも、あれだよな。帰ってこない人を、待つことは寂しいもんなぁ……」
 当然ながら、路地裏の面々もまた幼き神性の姿は把握できていた。瀕死とは言え神は神、まだまだ気を緩められる段階ではない。だが語の零す独白には、どこか旧い感傷が滲んでいる様に思えた。右も左も分からぬ子供が、二度と逢えぬ誰かを想い続ける。その在り様に何か思うところがあったのだろう。
「まぁ、それもここらで終わりにしよう。じゃないと、更にややこしい事態になる場合だってあるしな」
「ええ、そうですね……それに彼女だって、決してこのままで良いと考えているようには思えません。ならばせめて、今の私たちが出来ることを尽くしましょう」
 小さく息を吐きながら気持ちを切り替える語に、狐珀も頷き同意を示す。これまでの戦闘で雪の娘は頑なにこの土地から動くことを拒んでいた。しかし、姿見せた際にふと零した呟きにこそ、本心が現れているのではないかと彼女は想う。他人から指摘されると、意固地になってしまう事など往々にしてある事だ。であれば、それを引き出すにはどうするべきか。そんな考えを巡らせる少女の横では、ペインが小さく胸に手を当てていた。
「なるほど、ね。この場に縛られてもなお、貴方たちが案じていたのは……彼女の、ことだったのかな。生贄として命を奪われ、恨みや怒りを覚えると同時に……ほんの少しだけ、同情も抱いていた」
 花嫁を孤独にしてはならぬと眷属たちは叫んでいた。無論それは変容を強いられ、忠誠を植え付けられたという側面もあるだろう。だがその一方で、彼らは歪められた幼子をどうしても憎み切れなかったのだ。指潰しはそんな彼らの善性を、どうしようもなく嬉しく思う。共に連れてゆくと誓った以上、その想いには報いねばなるまい。
「大丈夫……彼女にも必ず、教えてあげるから。春が来た、数々の物語を」
 青年の姿が少年へと若返る。装束は舞い散る雪と同じ純白を纏い、赤黒ではなく清らかな純白の霧に包まれてゆく。この姿こそ、青年が抱いた覚悟の証だ。既に己のしたい事は定まっている。後はただそれを貫き通すのみ。
「物語、か。彼女には申し訳ないけれど、私の仲間たちは誰も彼もがお節介焼きだからね。一度関わった以上は、大団円にしないと収まりが悪いんだよ。これまでも、そしてこれからもね」
 ペインの言葉を引き継ぎつつファンは仲間たちへと視線を巡らせた後、広場の中心で佇む邪神をまっすぐに見据える。相手にとっては要らぬ世話かもしれぬだろう。放っておいて欲しいと拒まれるかもしれない。だが『それでも』と、一歩を踏み出すことが良い場合もある。今こそがまさにそれであると、白き刃は信じていた。
「さて、と。それじゃあ……めでたしめでたしで幕を引く為に、もうひと頑張りするとしようか」
 集いし猟兵は合計七人、相対するは膨大なる鋼鉄に囲まれた孤独な娘。彼らは雪を溶かし春の訪れを告げる為、行動を開始するのであった。

「まずは頑なに閉じてしまった心を解きほぐすことから始めましょう。幸い、先に戦ってくださった方々によって、耳を傾けてくれる余地が僅かなりとも出来ているはずです……ただ、私から告げられる事はそう多くはないかもしれません」
 相手は痛みによって意識が乱れているのか、まだこちらには気づいていない。ならばとまず真っ先に動いたのは狐珀であった。彼女は袖の袂より魂迎鳥を象った笛を取り出すと、そっと吹き口へ唇を添えた。身に帯びていたものとはいえ、気温はとっくに氷点下を下回っている。余りの冷気に寒さを通り越して痛みすら覚えるも、少女は心を乱すことなく吐息を吹き込んでゆく。
「ですが、これだけは分かります。どこにいるのか、どこに行けばと問うのなら……私に言えることはただ一つ」
 ――ここで待っているだけでは、いつまでたっても会えません。
 清らかな音色と共に、響きの翼が荒れ狂う風を切り裂いて飛翔してゆく。全てを拒む突風、本心を覆い隠してしまう氷雪を跳ね除けながら、旋律は吹き手の言葉と共に乙女の周囲を舞い飛んでいった。
「どこに行けばと問うくらいなのですから、心の奥底では会いに行く意思があるということ。守り神として祀られた貴女をこの地から離すのは容易でないかもしれません。ですが、皆と力を合わせればきっと成功します! 例え別の姿や形になっていても、その人とまた会うことだってきっと……!」
『今日初めて顔を合わせただけなのに、さも知ったような口振りでべらべらと……耳障りの良い言葉など、今日だけでも百年分は聞き飽きました。もう、十分ですっ!』
 そんな状況になれば、流石に相手も新たな敵対者の存在に気付く。軋みを上げる全身に顔を顰めながら、邪神は己を取り囲むように銃器を壁として構築。言葉も、姿も、目障りなものを全て消し飛ばさんと弾幕を形成し始める。甲高い音を響かせて、身体のすぐ傍を通り抜けてゆく弾丸。それが命中すればただでは済むまい。しかし、狐拍は攻撃を避ける素振りもなく仁王立ち、真正面から雪の娘を見据えながら更に言葉を重ねてゆく。
「ならば、何故……先に交戦した方へと、己が半身たる突撃銃を渡したのですか?」
 狐拍は自分たちの少し前に挑んだ猟兵が、戦闘後に無傷のカラシニコフを拾い上げているのを目にしていた。破壊されでもしない限り、銃器は全て邪神の支配下にあるはず。本来ありえぬはずの光景こそ、相手の本心であると狐像の少女は確信していたのだ。
『っ、そんなのはただの気紛れ、いえ気の迷いです……根拠になど、なりはしませんッ!』
 問いかけを否定する様に銃器群は一斉に照準を合わせるや、狐拍へと集中砲火を浴びせて来る。回避は愚か、下手な防御すらも貫く威力を秘めた弾丸から逃れる事は困難、だが……。
「そうは参りません。これ以上、貴女の手を汚させる訳にはいかないのですから」
 着弾の寸前、その前へと躍り出るは鋼鉄に覆われた巨躯。トリテレイアは自慢の大盾を掲げて両者の間に割って入ると、自らの身を以て銃弾を受け止めて見せた。こと耐久力と言う一点に置いて、彼を超える者はこの場に存在しないだろう。
「っ!? すみません、ありがとうございます。覚悟はしていたとは言え、助かりました」
「いえ、お気になさらず。聞いていて気持ちの良い言葉でした……とは言え、無傷とはいきませんか」
 感謝に対し鷹揚に頷く鋼騎士だが、手にした大盾の表面には夥しい数の弾痕が穿たれ、ボロボロと鉄片が欠け落ちている。今回は何とか耐え切れたものの、そう何度も受け止められるものではない。
「……全く、急に飛び出したかと思えば無茶をするものだ。自己犠牲は汝の美徳だが、本懐を遂げる前に鉄屑となってしまっては元も子もあるまい。この身であれを掻い潜るのは些か以上に骨なのだからな」
「いやはや、申し訳ありません。ですが、これも性分ですので」
 後を追ってきたフォルターの苦言に、戦機は苦笑と共に肩を竦める。そんな友の相変わらずな様子に嘆息すると、女帝は張りのある声で朗々と言葉を紡ぎ始めた。
「騎士を称するのであれば、冒険の道半ばにて斃れる事など許さぬ。如何な艱難、どれ程の辛苦があろうとも、それを乗り越えて見せよ」
 民草の上に立つものとして身に帯びる、上位者としての権能。それは耳にした対象を縛り戒め、勇気を奮い起こし、目的を遂行させる号令である。魔力の込められた単語の一つ一つが、命令に従う者へと活力を与えてゆく。それは物質面にも効果を及ぼし、トリテレイアの大盾すら完全ではないものの修復していった。
「はぁ……成程、技術ではなく生まれ持った言葉の力ねぇ。気にはなるが、習得するのは流石にちょいと無理そうだな。となればさて、どうしたもんかねぇ……って、おっとと!?」
 同じ言葉を操る者として、語もフォルターの異能に興味があるのだろう。しかし、悠長にそれへ耳を傾けている暇はなかった。業を煮やした邪神が己自身すらも銃に変じさせて射撃へと加わりつつ、更には頭上より砲弾が降り注ぎ始めたのである。慌てて地面を蹴って回避へと移りながら、語はまた己の言葉を以て幼き神との対話を行ってゆく。
「待つか会いに行くか、二択の話ね……なら、例えばの話だけどな。帰らない人を、待ち続けてその場に自分を縛り付けるのも、俺は悪い事ではないと思わなくもないけれど」
『ならば、放っておいても良いでしょう?』
「いやまぁ、そう言われちゃあ元も子もないんだけどな。正直、俺だって人の事を言えた義理じゃないんだし」
 鉄風雷火と共ににべもない返答が飛んできて、思わず噺家の口元に苦笑が浮かぶ。とは言え、それで黙ってしまっては天狗連の名が廃るというもの。身体能力にそこまで秀でているタイプではないが、それでも青年は息を切らせることなく言い募る。
「ただどうにも、それじゃあサゲるにサゲられない噺もあるんだよ。なぁ、だからさ……試しに自分から進んでみないか。こうして物騒なものを飛ばし合うんじゃなくてさ、膝を突き合わせて語り合いたい事だってあるんだぜ?」
『そんなもの、私にはありません。誰も彼も横から無責任に口出しをして、ああしろこうしろと。あの人以外の言葉を信じるなんて、出来る事なら、とっくの昔に……ッ!』
 戯言はこれで終わりだとばかりに、邪神が爆発と発砲音を以て猟兵の言葉を掻き消してゆく。間断なくかつ多重に響き渡る轟音はもはやそれそのものが一つの攻撃と言ってよい。これでは何かを叫んだところで届かせることは至難の業だ。
「いやはや参ったな。これじゃあ落ち着いて話も出来やしないぜ。ようやく勢いに任せて本音が零れそうだったってのに」
「……それなら、自分に任せて。上辺だけの言葉だと、信用など出来ないと、言うのなら。決して口先だけじゃないって、示してみようか」
 舞い上がった土交じりの雪を払いのけながらぼやく語。その横を無数の何かが通り過ぎて行った。弾丸ではない。白き靄の中を飛翔するのは、ツバメの姿をした紙飛行機たち。視線を後ろへ向けてみれば、其処には次々と紙の鳥を送り出すペインの姿があった。
「これまでも、自分たちは多くの悲劇に立ち会ってきた。そこで出来た事が、最上最善であったかまでは、分からないけど……それでも、その結末には、笑顔があったから」
 箱より出でし災いがあった。それは子を思い、呪いと化した母親の物語。なれど最後には、遥か昔に取り零してしまった我が子を抱き締める事が出来た。
 ありふれた、故に唯一無二の恐怖があった。それは記憶を捨て、孤立に立ち止まった御伽噺の少女の物語。なれど、彼女はまた自らの脚で歩み始めた。
 絶望によって結ばれた縁があった。それは本来出会うはずの無かった、愛と衝動に飢えた二人の少女の物語。なれど今は国を作り、彼女たちの心は満たされている。
 それらは白き翼に乗せられた、尽きること無き物語。ツバメたちは爆炎を鎮め、弾丸を叩き落とし、想像と言う何よりも鮮烈なイメージを以てこれまでの歩みを雪の娘へと伝えてゆく。
『これは……なん、ですか。ただの作り話、いえ、でも……』
「貴方に言葉を掛けてきた猟兵たちは、決してその場その場で調子を合わせて、話を取り繕っていた訳じゃない、よ。こんな事をしてきたんだぞと、自慢するつもりでは、ないけれど……それでも、自分たちはとても、お人好しなんだ」
 まるで信じられないと、邪神は目を剥く。だが、それも無理のないことだろう。心を通わせた待ち人を除けば、彼女が見た人間は村人と生贄のみ。媚び諂いながらも下心が透けて見える俗物か、神を前にして畏れ泣き叫ぶ者しか居なかったのだ。『あの人』が例外なだけで、所詮はヒトなどこんなもの。そんな認識が無かった訳ではない。だが赤髪の少年が示した数々の物語は、それを真っ向から打ち砕くに足る内容であった。
「今回は差し詰め……寂しき、カミの、物語。役目に縛られ、望まぬ所に閉じ込められ、愛しき人も、もはや過去の彼方。でも、どこからか現われた、とびっきりのお人好し達が手を引き、孤独から救われる。そんな結末は、どうかな?」
「……生きる者は、自らが願いの為に進まなければならない。初めての一歩は重く、心を押さえつけるしがらみは固く思えるだろう。いっそ、そのまま立ち止まってしまった方がマシだと感じるかもしれない」
 ペインの提案に言葉を失う幼子へ、ファンは諭すように呼び掛ける。停滞は端的に言ってしまえば楽なのだ。痛みや苦難を負う事もなく、大きな前進も無ければ致命的な後退も襲ってこない。
「だが変化を恐れるという事は、裏を返せば変わろうという意思を示している。どうでも良ければ、ここまで反発などしないはずだよ。怖がる気持ちは分かる。されど……臆することなかれ。あなたには既に、それらを跳ね除け、想いを成せる力があるのだから」
 だが、停滞は楽ではあれど気楽ではない。常にジリジリとした焦燥感に苛まれ続けるものだ。恐らくは、目の前の幼子もそうだったのではないだろうか。心の何処かではこのままではいけないと感じながらも、保証のない明日に怯え安穏たる昨日へ縋り続けた。それもまた、此度の事態を悪化させた一因と言えるかもしれない。
 しかし、気付けているのならばあと少しなのだ。踏み出しさえすれば、何処までも歩んで行けるだけの想いが既にあるはず。それでも不確かな未来が恐ろしければ、手を引いてくれる者たちが此処に集っている。
「望んだ相手の手ではないけれど……それでも、この狭い世界の外へ連れ出すくらいは、任せてくれないかな?」
「他の者らも言っている通り、待ち続けることが耐え難いのなら探しに行けばいい。日本やサムライエンパイア……おれの故郷では祭りの神輿は神の依り代、という話があってな。土地に縛られた神もそのときだけは一時社を離れ、人々に担がれて旅をする」
 白き刃の言葉に頷きつつ、陰陽師が話を引き継いでゆく。相手は土地に縛られた神であると同時に、銃器と言う物品へ己を仮託した存在でもある。詰まるは宿り神とその在り様は非常に近しいと言えた。だからこそ、相通ずる考え方もあるのだろう。
「あんたなら、世界中のAK-47が御旅所代りになるかもな。近代兵器と結びついた土着の信仰が、今度は異国の習俗と融合したところで驚くにはあたるまい。幸い、その手の術に長けた者も多い。ま、少なくとも悪い方には転ばんさ」
 そう言って、津雲とファンはそっと手を差し出す。新たな歩みへの誘いに対し、幼き神はふるふると指先を震わせながらそっと手を伸ばし、そして――――。
『………ごめん、なさい』
 その掌を握り込むと同時に、限界まで呼び寄せた銃器による一斉射を放った。不意打ちとも呼べる一撃は、両者の遣り取りを見守っていた仲間たちが反応する間さえ与えなかった。すわ、鉄の嵐によってズタズタに蹂躙されてしまうかと息を吞む、が。
「ッ! 万が一の保険として仕込んではいたが、複雑な気分だな……出来れば別の目的で使いたかったが、贅沢は言えんか!」
 津雲が纏う狩衣の内側より溢れ出した鳥型の式神たちが壁となり、二人は間一髪直撃を避ける事に成功する。だが、陰陽師の表情は非常に苦々しい。違う用途を想定していた式神を消耗してしまった事もそうだが、邪神がこちらの申し出を断った事が解さないのだろう。しかし、その理由はすぐに相手の口より聞くことが出来た。
『変化を受け入れるのは恐ろしかった。このままじゃいけないのに、どうして良いのか分からない状況に怯えていました。でも貴方たちの言葉を聞いて、行動を見て、受け入れるべきかもしれないと思う事は出来たのです。でも、それでも……ッ!』
 幼子が天を仰ぐ。厚い雲に覆われた空を見つめ、体温を奪う氷粒を浴びながら、剝き出しの本能のままに慟哭する。
『あの人がもう居ないという事実が怖かった! 仮に生まれ変わっていたとしても、私を覚えていないという現実をきっと受け止め切れない! 自分がこんな有り様になっているのに、我儘だって分かっています。それでも私は……「あの人」が良いのです』
 それこそがきっと、彼女が本来持つ年相応の気持ちなのだろう。理屈ではない、道理ではない。不可能だと分かっていても、無理だと理解していても、諦めきれぬ想い。だが、その願いが果たされることはあり得ない。そう……。
「……申し訳ありません、フォルター様。やはりお手を煩わせる事になってしまいそうです。死の理を捻じ曲げる貴女が傍らにいたならば、私はあの神を、いえ、幼き少女を『あの人』に会わせたい!」
 ――奇跡でも、起こらぬ限りは。
 再び荒れ狂う暴威の中へと飛び出したのは、愚かしくも実直な機械騎士。既に半壊状態の大盾を構え、自らの躯体が弾丸の雨に削り取られるのも意に介さず彼は吶喊してゆく。それはまさに自殺行為とも呼べる所業。しかし、彼はやらねばならぬと戦闘開始前より決めていた。
「新たな門出へ旅立つにせよ、何かしらの区切りは与えてやらねばなりませんッ! 例えそれが要らぬ世話、傲慢な振舞であったとしてもです! この身の為し得る愚挙、その観劇権が助力への対価です、フォルター様!」
「友の信頼は喜ばしいが、異郷の死者を骸の海より引き揚げろとは無茶を言う。斃れた戦場も何処とは知れず、そのうえ八十年も前の人間だ。やれと言うならば試してみるが、事の可否は汝の働き次第だぞ?」
「無論、心得ております!」
 半ば予想していたとはいえ、鋼騎士の頼みに女帝は呆れたように肩を竦める。彼女とて一流の技量を持つ死霊術師、死者の魂を掬い上げる事など造作もない。とは言え、流石に今回ばかりは手掛かりが無さ過ぎた。呼び寄せる相手の名前は愚か顔や声、死んだ場所すら定かではないのだ。ならば畢竟、それを唯一知る者より聞きだす他ない。
「所詮、力はどこまで行ってもただの力。握る意志と矛先が肝要……尤も、これは兵器たるウォーマシンの理屈ですが。ただやはり、貴女の願いに……そんな物、握る必要など無き方が良いのです。救うと告げた相手に働く無礼、どうか平にご容赦を!」
『なにを、するつもりですか……っ!?』
 纏った装甲は粉々に打ち砕かれ、通常であれば機能停止していてもおかしくないレベルだ。だがトリテレイアは己自身へとハッキングを行い、限界を超えて鉄躰を稼働させ続けた。その果てに砲火弾雨を強引に突破し、邪魔な銃器を粉砕すると、出来る限り精一杯の丁寧さを以て邪神の身体を抱きすくめた。
 彼の狙う死者の招来、その触媒の為にどうしても彼女の存在が不可欠だったのだ。鋼騎士はそのまま、成り行きを見守っていた女帝へと叫ぶ。
「さぁ、フォルター様! これで、どうにか……!」
「虚仮の一念、岩をも通すとはよく言ったものだ。汝の執念、そしてその神が抱き続けた想い。確かに無駄ではなかったな。極めてか細い繋がりだが、これならば僅かばかりでも降ろす事が出来よう」
 果たして、フォルターはトリテレイアの問い掛けに是と返した。戦機の吶喊を固唾を飲んで見守っていた路地裏野良同盟の面々も、その一言に思わず安堵と感嘆の入り混じった息を漏らす。少女の背を押す最後の一押しとして、最上とも言える状況――だと、言うのに。
「……………………降ろせない?」
 鋼騎士の零した一言に、猟兵たちは愚か邪神すらも違和感に眉根を顰めた。いま、明らかに会話が噛み合っていなかった。許容値を超えた損傷にエラーが生じたのかとも思ったが、それにしてはどうにも様子がおかしい。
「諦め……縺舌……私が焦がれた、御伽の騎士は、なんの…莠募哨螳カ縺ァ?」
 吐き出される言葉は単語の形を成しておらず、単なる雑音と化している。加えて彼が携えていた一冊の書を起点として、本来機械には縁遠いはずの魔力が全身より溢れ始めていた。その場に居る者でただ一人、フォルターだけが動ずることなく粛々と術式を編み上げてゆく。
「如何な技量を誇ろうとも、我一人では此度の事象を為し得なんだ。故に願いの対価として己を捧げたか。聞こえるか、トリテレイアよ。今の汝に声は届かぬが……奇跡は起きた。否、汝が手繰り寄せたのだ」
 女帝の語り草と鋼騎士の変化、そして今まさに起動しようとしている術式。それらを前にして、元々術理に長けた陰陽師や近しい異能を使う白き刃は、仲間の身に何が起こったのかを察する事が出来た。
「ああ、なるほど。『そう』したんだね、貴方は」
「大まかな内容を読み取れはしたが……献身と言えば聞こえは良いものの、これは」
 片や冴え冴えと紅瞳を細め、もう一方は痛ましそうに眉間へ皴を刻む。しかし、分かった所で最早事態は止められぬし、止めてしまえば戦機の行動が無駄になってしまう。それを一番良く分かっているのは、やはり友たる乙女なのだろう。
「後は任せよ。汝の主観意識では永劫に知ることが出来ぬ結末、代わりに我が記憶してやろう。降霊により仮初とは言え肉体を得た『花婿』が、『花嫁』と向き合う姿をな。さぁ、娘よ」
 ――『花婿』と、遅すぎた式でも挙げるが良い。
 そして、半壊状態のウォーマシンを依り代として、遂に術式が結実した。甲冑を思わせる装甲は素朴なルバシカへと変わり、硬く冷たい躯体は柔らかな肌に覆われてゆく。数度も瞬きをすれば、そこに立っていたのは純朴で優しそうな雰囲気を纏った青年。その姿は半ば透けており、無理に無茶を重ねた結果か弱々しく輪郭も朧気だ。猟兵の立つ場所からでは相貌も正確に判別できず、正真正銘の本人なのかは判断できない。
『あ、嗚呼……そんな、嘘です。また、きっと、先ほどの様な幻で……っ!』
 だが、幼き神の反応を見れば真偽など論ずるまでもなかった。先に交戦した猟兵が幻を見せた影響か、始めこそ雪の娘は眼前の青年を信じる事が出来なかったらしい。しかしそんな警戒も、青年の側から彼女を抱き締めた事で吹き飛んだ。
『本当に……本当に貴方なのですね? ずっと待ち続けて、私もこんな有り様に成り果ててしまったのに……それでも約束通り、帰って来て、くれたのですね』
 八十年ぶりの再会に滂沱と涙を零しながら喜ぶ一方、少女は己を恥じる様に身を捩る。その在り様はかつて別れた時とすっかり様変わりしてしまった。それがどうしようもなくもどかしいのだろう。
「色々と下調べをしていく中で、そっちの『ものがたり』もある程度は聞いている。式を挙げるってんなら、きちんとおめかししなくちゃな。待ち人を奪ったのと同じ物なんざ一旦横に置いて、一緒に居た頃と同じ姿でさ」
 鋼騎士の異常は気になるところだが、先にも述べた通り降霊術は安定しているとは言い難い。そう長くは持ちそうにない以上、今はこちらの決着を優先すべきだろう。語は蠟燭を取り出して火を灯すと、朗々と言葉を紡ぎゆく。
「優しき青年と出会い、心を知った雪の娘。戦禍の悲劇に引き裂かれ、八十余年を待ち続け、遂に再び巡り合う。積もる言葉を語りつつ、幾年越しの式を挙げ、新たな門出を言祝がん。此度はそんな、大団円の物語でございます」
 言の葉が一つ発せられるたびにそれまでの戦闘で負った傷が癒え、纏う装束も暗緑の軍服じみたものから華やかな純白の衣裳へと変じてゆく。それこそまさに花嫁衣装と言った装いだ。であるならば、添える彩りの一つでも無ければ余りにも寂しすぎる。
「愛しい人と逢うのにその手にしたものは相応しくありません。祝い事にはやはり銃よりも花……そうですね、ハナミズキにでも変えてしまいましょう。手伝って頂けますか、津雲殿?」
「無論、是非もない。本来はこの為に用意したんだからな。文字通りのはなむけという訳だ」
 力を失い、雪原へと突き立った無数の銃器たち。その一つ一つへ式神が留まるや、狐珀と津雲の魔力を受けて薄桃色の華を咲き誇らせてゆく。それは一足先に訪れた、春の息吹のようだ。そうして開いた花弁をペインは紙飛行機の背に乗せて、乙女と青年の頭上へと振りまいていった。
「こういうのは、やっぱり……みんなでお祝い、してあげなくちゃね」
「ここにいる私達は、皆、想いを叶えるために姿を得たモノだ。そして、あなたもそう。ただ自然を具現化した現象としてではなく、ヒトのカタチを得た意味。その足でしっかりと確かめると良いよ」
 そう言ってファンがパチリと手を叩くや、他の仲間たちもそれに続く。そうして周囲の拍手に包まれながら、雪の娘は青年と共に花びらで形作られた道を踏みしめてゆく。そうして彼らはお互いに向き合い、かつてと同じように視線を交わし合う。
『こうなるまで、随分と遠回りをしてしまいました。本当なら、もっと早くに伝えるべきだったのでしょう。冬しか知らなかった私に、春の暖かさを与えてくれたのは貴方です。心を得たからこそ、私はこの気持ちにも気付けた。ええ、私は貴方を、愛しています……だから』
 そうして乙女はそっと青年へ身を寄せ、慈しむ様に瞳を閉じながら口づけを行い、そして――。
『今度は私から、会いに行きます。だからどうか……待っていてください』
 再び目を開いた時、もう其処に青年の姿はなかった。足元へと視線を向ければ、崩れ落ちた戦機の躯体がある。フォルターは雪の娘へ歩み寄って友の状態を確かめながら、静かに目を伏せた。
「もう数秒でも、持たせられれば良かったが……既に魂そのものが擦り切れ摩耗していた。ここまで維持するのが精一杯とは言え、無粋な真似をしたな」
『いえ。感謝しこそすれ、責める事などありえません。どうかお礼を言わせてください……この騎士様にも』
「………ああ。伝えておこう。時間は掛かるだろうが、どうか汝も息災でな」
 返答までに間があったのは、それが叶わぬことを知るが故か。この場における己の役割は終わったと判断したのか、黒き女帝は未だ意識の戻らぬ戦機の身体を引きずってその場から去ってゆく。雪の娘は遠ざかりゆく背中を寂しげな眼差しで見送りながらも、ハッと気づいたように路地裏野良同盟の面々へと向き直り頭を下げる。
『皆さんも本当に、ありがとうございました。ぐずる私を見捨てずに、声を掛けて下さって。これでようやく、私も前へ進むことが出来そうです』
「先ほどもおっしゃっていた通り……行かれるのですね、今度は自分から。あの日触れた温もりがずっと続くよう、貴女の想いを届けに」
 狐拍の言葉に頷く乙女の表情は、憑き物が落ちたように晴れ晴れとしていた。そこに戦闘開始当初の鬱々とした気配など、微塵も感じられない。
「世界は広い。足を運んだ先で望む相手を見つけられぬ事もあるだろう。だが、こうして再び縁を結び直したのだ。輪廻転生の果てに、再び会える日も必ずやくるだろうさ」
「それに、旅立つ花嫁を独りで行かせるのも忍びないってもんだ。仲間が案内役を付けてくれるから、心細さも幾分か和らぐだろうしな」
 口々に送別の言葉を寄せる津雲と語。二人が視線で示した先には、ペインの紙飛行機が一羽ふわりふわりと浮かんでいる。これからこの広大な世界を流離う少女へと送る、せめてもの餞別だ。
「春を求め、空を行くツバメのように、貴女はもう自由だから。気の向くまま、何処へ行って良いんだよ。これまでずっと、この村に縛られていたんだし、観光でも兼ねて、ね?」
「白いあなたが再び黒に染まる可能性は、否定できないけれど。世に在る先輩方があらゆる物語に目を光らせているから、きっと大丈夫。いざとなれば、私もお尻を叩きに行くしね。だからあなたも安心して、思うがまま好きに在るといい」
 今度こそ、自分の手で『めでたしめでたし』を掴んでゆくといいさ。ファンの激励に涙ぐみながら頷くと、幼子の身体が光の粒子となって解けていく。見た目は奇麗に取り繕っているとは言え、中身は既に満身創痍。力の一端だった銃もあらかた浄化され、長年の妄執も取り払われた。もうこれまでの様に姿を維持出来なくなっているのだろう。
『めでたし、めでたし……ですか』
 はらはらと崩れ落ち、旅立ちを迎える雪の娘。だがほんの僅かに、その表情へ影が差す。無意識にちらりと視線を向けるは、女帝と鋼騎士が去っていった方向。相手が気にしている事柄について察せぬほど、ファンも鈍くはない。彼女はすらりと白き刃を引き抜くや、そっと切っ先を地面へと突き立て、そして。
「……ねぇ。旅立つ前にさ、少しだけ寄り道なんてどうかな?」
 ――清らかなる音よ。
            ――想いをのせて、届け。
                          ――『天声魂歌』。
 ひゅうと一陣の風が吹くと、幼き神の姿は跡形もなく消え去って。
 白きツバメが翼をはためかせ、飛び立ってゆくのであった。

「もう、終わってしまったの、ですね……何もかも、全部」
 路地裏野良同盟の面々が少女を送り出した瞬間より、少しばかり時は巻き戻り。戦闘前には製造された銃が収められていた倉庫の跡地に、トリテレイアとフォルターの姿はあった。黒く炭化したカラシニコフや建材の残骸を真白い雪が覆いつくしてゆく中、再起動を果たした鋼騎士は地に伏せ唯々慟哭している。
「少しでも憂いを払わんと差し伸べたこの手で……貴女と彼女を失望させてしまいました。想い人に逢わせるなどと傲慢にも嘯きながら、この体たらく。これほどまでに我が身の不甲斐なさを恥じた事は、ありません……ッ!」
 割れ砕かんばかりに拳を握り締め、絞り出されてゆく慙愧の念。その嘆き自体は本物だ。しかし、だからこそ彼の反応は不可解と言えた。黒き女帝の助力込みとは言え、実際に彼は死者の招来を宣言通り成し遂げて見せたのだ。にも拘らず、トリテレイアはそれが失敗した前提で話を進めている。その原因を、術の行使者であるフォルターは正確に把握していた。
(条理を捻じ曲げる代償は、己が本来得るはずだった『正しい』主観認識の喪失。自己犠牲で奇跡を手繰り寄せた当人だけが、その事実を知り得ぬとはな。そうする事が唯一の道筋だったとはいえ、悲しき定めの男よ……)
 そう、それこそが戦闘中に発生した違和感の正体。あの場における最良の結末を引き寄せた対価として、鋼の騎士だけがその結果を認識する権利を剝奪されていたのだ。故に彼の電子頭脳が記録して居るものは、再び想い人と巡り合えた乙女の挙式ではなく――降霊の失敗によって絶望し、信者ごと猟兵たちを鏖殺せんとする邪神を縊り殺したという惨劇である。
 無論、フォルターはトリテレイアの認識が間違いであることなど百も承知だ。だが、彼女は真実を告げるでもなく、ただ沈黙と共に友の苦悩を見守っている。一見すれば薄情に思えるかもしれない。だが皮肉も、言葉を掛けるべき相手がウォーマシンであるという点が事態の複雑さに拍車を掛けていた。
(如何に幻想や御伽噺へ憧れを抱いていようとも、その存在が機械仕掛けであるという事実は変わらん。当然、得られる情報の正確さなど言わずもがな。例え真を語って聞かせたところで、気休めとしか受け取るまい)
 映像然り、音声然り。人と機械、どちらが正確に情報を記録できるかなど論ずるまでもない。仮に女帝が嘘偽りなく顛末を伝えたとしても、彼は己が記録をこそ事実と考えるだろう。もしそれが故障なり破損なりしていればまだ切り込む余地もあっただろうが、忌々しいほど明瞭に偽りの悲劇は記録されてしまっている。故にこそ、彼女はただ沈黙するしかなかったのだ。
「力は力。銃は銃。そして、戦機は……どこまでいっても壊し、殺すだけの暴力装置。なにが、騎士ですかッ……こんな」
 ――役立たずの、我楽多がぁ……。
 もしもトリテレイアが人であれば、とめどなく涙を流していただろう。だが彼のアイカメラにそんな機能は備わっていなかった。代わりに、辛うじて原型を留めていたカラシニコフを引っ掴み、強引に握り潰して粉砕する。そんな友の様子をこれ以上見ていられなかったのか、フォルターは目を伏せつつ視線を逸らす。
「……物に当たるとはらしくないな。致し方ないとはいえ、寒風で少し頭を冷やせ。我は先に戻るぞ。生身にこの土地の寒さは些か以上に堪えるがゆえな」
 いまはそっとしておいてやる他ない。冷徹な言葉の裏にそんな気遣いを滲ませつつ、黒き女帝は踵を返しその場を去らんとする。時間は既に夕暮れ時と言っても良い頃合い、太陽が地平線へと沈むのに比例して大気の冷たさも増している。だが、今のトリテレイアには凍えるくらいが丁度良いだろう。フォルターは徒然とそんな事を想いながら、歩き出し始め……。
 ――ふわり、と。
 彼女と入れ違う様に、暖かな風を纏ったツバメが一羽、戦機の方へと羽ばたいてゆくのが見えた。驚いたように女帝は目を見開きながら、ハッと背後を振り返る。白き鳥は未だ蹲り嗚咽を上げている鋼騎士の頭上を、音もなくゆっくりと旋回してゆく。それだけであれば、何の変哲もない光景だ。
「なるほど、な。陳腐な筋書きだが……悲劇などよりよっぽど上等だ」
 だが、フォルターは見た。うっすらと朧気ながらも、白き花嫁衣裳を纏った幼子が歪み砕けた大きな背中を抱き締める姿を。呆れ交じりに嘆息しながらも、彼女の口元にうっすらと浮かぶのは紛れもない微笑みで。
「こ、え……? センサー類に、異常は無し……でも、確かに、いまのは」
 そして、トリテレイアは聞いた。自らの手で縊り殺したはずの少女の言葉を。集音マイクにはただ風の唸りだけが記録され、顔を上げても周囲に見えるのは雪の白ばかり。だが間違いなく、彼は耳にしたのだ。0と1で構築された電気信号の集合体としてではなく、一人の騎士として、確かに。

 ――哀しみは海ではないのだから、いつか飲み干してしまえます。
                      ――私も、そして貴方も、きっと。

 ツバメは翼を広げて飛び立ってゆく。荒れ狂う吹雪を超え、どこまでも、どこまでも。
 その羽を休める誰かを探して、この世界を巡るのだろう。
 騎士と女帝は、言葉もなくただ静かにそれを見送ってゆく。

 斯くして、百年にも及ぶ悲劇は此処に終止符が打たれた。
 凍ったままの刻はようやく針を進め、失われた時間を取り戻し始める。
 此度の一件で刻まれた傷跡が癒えるのには、少なくない時間が必要だろう。
 しかし、きっと悪い方向に転ぶことは無いはずだ。
 何故ならもう……春の気配はすぐ其処まで来ているのだから。
 そうしてそれぞれの想いを胸に抱きながら、猟兵たちもまた雪の娘に続くように村を後にするのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年02月04日


挿絵イラスト