●邪悪なる目論見
チーフメイド・アレキサンドライトは【幹部猟書家】である。大天使ブラキエルの目論む「天上界への到達」がため、プリンセス・エメラルドによってアックス&ウィザーズに派遣されたクリスタリアンのメイド。
その目的は、エルフの森の中にあるとされる聖なる木『真聖神木』の回収。世界樹イルミンスールから株分けされた一つとされるこの木は、その力で周辺の森を迷いの森へと変貌させ、己が位置を隠している。そのままでは見つけ出す事は困難だろう。
だが方法はある。『武聖神木』はその力に守られ、炎に耐性を持っているのだ。だから……そう、邪魔な迷いの森など燃やしてしまえば良いのだ。
「全てはお嬢の為に。焼き尽くしてしまいなさい」
酷薄なその命令に従い森へ迫ったのは異形の悪魔達だ。邪悪な儀式によって召喚された彼らは契約に忠実であり、外の世界からの来訪者であり土地勘の無いアレキサンドライトからすれば理想的な手駒である。そう、慣れぬ地であれば現地雇用が最も効率的だ。
エルフ達は無力では無いだろう。だが、森に放たれた火を消し止め、暴れる悪魔の群を食い止めるほどの力は持つまい。イレギュラーさえなければ彼女の仕事は恙なく完了し、敬愛する『お嬢』へと色よい報告と成果を届ける事が出来る筈。
パチパチと燃え上がる森を前にメイドは薄く微笑んだ。
●必死の抵抗(物理)
それから少し後。
「アタァ!!」
『ひでげぇっ!?』
チーフメイド・アレキサンドライトは燃える森の中で正直、少し途方に暮れていた。
『馬鹿な! 我が槍を素手で受け止めるだと!?』
「奥義、鉄身堅心!」
何だこれ。
「フオオオオー!」
『ヌウ!? 何だこのオーラは!? 奴の身体が何倍にも大きく見える!?』
本当に何だよそれ。
「ぐあああ!? こ、こうなれば奥義を」
「止めるんだケイ! その技を使えばお前の身体は……!」
いや、何を使う気なのお前。そして何でそんな奥義のストックがあるの。
「……何で善戦してるんですの」
取り敢えず呟く。いや、勿論負けそうなわけでは無い。単に予想以上の抵抗に会って居ると言うだけだ。だが……。
「何を言うか外道! 滅ぼされんとすれば身命を賭して抵抗するのが当然だろう!」
「それはそうでしょうけれど、何ですのこのノリは!」
思わず叫ぶ。何と言うか濃い、全体的に濃いのだ此処のエルフ達。何と言うかこう、画風が違う。そして良く見たらどいつもこいつも筋骨隆々で、当たり前みたいに3m行ってそうな巨漢がチラホラ居るし、そして何より何か妙な拳法使って来る。
「一子相伝の活殺拳、武聖神拳だ」
馬鹿みたいに巨大な黒馬に跨った巨漢が、偉そうにそう答えて来た。
「……一子相伝て、皆揃って使ってる様に見えますわよ?」
情報量が多過ぎて悩むが、取り敢えず一番おかしい部分を選出して問うて見る。
「真拳とか心拳とか山猫拳とか、分派が発生し続けてな」
「それはもう一子相伝とは言いませんわ!?」
『落ち着いて下さいアレキサンドライト様。奴らのペースに飲まれる理由はありません』
悪魔の一体が見かねて宥めて来た。確かにその通りだ。気を取り直して状況を確認する。雇った悪魔達はゆっくりとエルフの村を追い詰めて行ってるし、森は順調に焼けつつある。
「ちなみにノリと言うのは恐らく鍛えている内に出来た風潮の事だろうな。……確かに、脳筋とか一々暑苦しいとか何かと命を賭けようとするとか、その辺りが女子(おなご)に不評でな。8割ほどが村を出てしまった為此処は男所帯だ」
「聞いてませんわよそんな事情!?」
チーフメイドは頭を抱えた。
戦況が悪い訳では無い。悪い訳ではないのだが、周りで何か妙な奥義で命と引き換えに悪魔を倒したりそれでも力及ばず仲間が号泣したり好敵手同士が背中を預け合って戦い出したりお前を倒すのは俺だからなフン言ってろとか言い合ったり、そもそもがこう、全体的に主線が太くて劇画調な感じのエルフ達が滅茶苦茶野太い声や怪鳥音を上げて戦っている中にいると。なんだろう……自分の場違い感が物凄かった。
「と言うか。住処を燃やされ殺されそうになっているのに悲壮感が薄いですわね」
半ば八つ当たり気味に睨めば、巨漢はちょっと驚いた顔で語り出した。
「馬鹿を言うな。悪を倒す為にと寿命の長さを最大限生かして鍛錬と研究を重ね、隣のジェイが新奥義開発したらしいぞ負けてられるか自分も新技作るーとか対抗し合い延々無縁鍛え続けてきたのだぞ。そして気付けば何かもう鍛える事自体が楽しくて悪とか退治しに出る機会が無いなどうしたものかなーでもまあ良いかとかなりかけていた所に貴様等が来た……」
巨漢は構えを取り宣言する。他のエルフ達も一斉にこちらを向く。
「ならば我等、此処で命尽き果てるとも! 寧ろ有難うございます!!」
「「「有難うございます!!」」」
「薄々勘付いてましたけれどお前ら皆アホですのね!?」
オブリビオンはガトリングをブチかました。
●救村主達
「まあ、放って置いてもエルフの皆様は割と満足して逝くのですけれど」
集められた猟兵達の前で、ハイドランジア・ムーンライズ(翼なんていらない・f05950)の言葉は寧ろ素っ気ない位だった。
「ですが、流石にそうはいきませんわね。後、天上界への到達とやらは阻止しませんと不味いでしょうし。後、【幹部猟書家】であるアレキサンドライトが何か勝手に追い詰められているのは、チャンスとも言えます」
追い詰められてるって言っても気分的な話で、彼女自身には傷一つ入って居ないのだがそれはそれ。場の空気に飲まれていると言うか。
「突っ込みに回ってますから、隙も出ているかもしれませんわ」
芸人の役どころ分担みたいな事言い出したぞこのグリモア猟兵。
「それと、エルフの皆様はアホですが実際可也の実力です。共に戦えば普通に戦力になりますわ。アホですが」
そんなアホアホ連呼しなくても。
「適当に好敵手呼ばわりしたりありもしない因縁を語ったり流派が同じとか言うと、ノリノリで合わせてきますわよ」
それは確かにアホだわ。
「しかもテンションが上がってその分強くなります」
それは寧ろ凄いアホだわ。
「そんな訳で、ちょっくらアホの村……もといエルフの村を救ってきて下さいませ。ついでにあの宝石メイドを場違い感で追い詰めて泣かせれたら大勝利」
頑張って! そんな無責任なサムズアップと共にグリモアが輝いた。
ゆるがせ
エルフの種族説明を読んだら『尖った耳が特徴の、森に住む長命の種族です。華奢で非力ですが運動能力が高く、神秘的な事柄への順応力も有しています』と書いてありました。何ら反する事は無いと主張します。でもごめんなさい。ゆるがせです。
エルフの村の劇画調エルフ達と共闘し、悪魔達と【幹部猟書家】を撃退して下さい。実は純戦依頼です。
一章二章共に【エルフ達と協力し、共に戦う】事でプレイングボーナスを得れます。
●エルフ達について
武聖神拳もしくは分派の拳法の伝承者です。そう言うノリで拳法編み出したり名乗ったりしてるのでてきとうです。一子相伝とか言ってますが平気で兄弟で同じ拳法使ったりしてます。深く考えなくて良いです。
ハイドランジアさんの言う通り、何かアドリブで設定を投げると『じゃあそれで!』ってノリノリで乗って来る人達なので、好き勝手言って共闘できます。
身体を張って庇って血を吐くとか、危険な奥義を使って体に反動がとか、この戦いに勝ったら言いたい事が……とかのノリも大好きな人達です。やればやるほど喜びます。
共闘するエルフの流派は、プレイングに書いてあれば加味します(あまりに酷いのはマスタリングしますが、例えば『にゃんこの可愛さをコピーした全く新しい拳法、武聖山猫拳!』位のレベルなら平気で通します)。書いて無かったらこっちで適当に決めます。
●一章 集団戦『レッサーデーモン』
下級ではありますが悪魔達。強いです。基本邪悪なのですが、契約には真面目な人達です。エルフ達のノリにちょっと圧倒されてます。契約者であるアレキサンドライトをちょっと心配してます。
●二章 ボス戦『チーフメイド・アレキサンドライト』
煌めくボディのチーフメイド。
異世界からの来訪者である事は最初から分かってましたが、余りに想定外の作風の違いにちょっとめげてます。まあ、でも流石にそう簡単には泣かないと思いますが。
※ちなみに、エルフ達のテンションに会わないノリで戦うのが悪いなんて事はありません。その場合、オブリビオン達は『居辛いノリを薄めてくれてありがとう!』って内心ちょっと感謝します。するだけですが。それはそれで楽しいと思います。
第1章 集団戦
『レッサーデーモン』
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POW : 悪魔の三叉槍
【手にした三叉槍】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD : 金縛りの呪言
【手で複雑な印を結んで】から【呪いの言葉】を放ち、【相手を金縛り状態にさせる事】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ : 呪いの鎖
【投げつけた三叉槍】が命中した対象を爆破し、更に互いを【呪われた漆黒の鎖】で繋ぐ。
イラスト:純志
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●燃える森と怒り
必死の消火活動にも関わらず、火の勢いは収まる事を知らない。
「私が、この爆薬を巻いて炎の中に突撃し自爆すれば……!」
「止めるんだアイー!!」
『……普通に投げつければ良いんじゃないのか』
何せテンションの上がるやり取りをしたがるせいで滞りまくっているからである。余りの頭の悪さにレッサーデモンが思わず素で突っ込んでいる。
後、2割足らず残った女性陣は。残っただけあってノリが同じらしい。
「この顎王を馬上から下ろすとは。矢張り貴様は我が伝説を終わらせる女らしいな」
「ガトリングの弾を受けて暴れ出した馬に振り落とされただけじゃありませんの」
と言うか何でガトリングの弾を受けて元気に走って逃げてけるんだろうあの馬……とアレキサンドライトは思ったが。そこまで細かい所を突っ込む気力はもう無かった。
「と言うか、王と言う事は。貴方が此処の代表と言う事かしら?」
であれば彼を殺せば、此処のエルフ達の妙なテンションも少しは鎮まるかもしれない。そう考えてオブリビオンは兵器を構え。
「いや、去年の茸大食い大会で優勝した時についた仇名だ」
思わず砲身で殴り倒した。
「んもおおお! 何ですのこいつらは本当に!?」
『ア、アレキサンドライト様……ご報告です。あの、猟兵達が……』
憤懣やるかたないと言う風情の幹部猟書家に、恐る恐ると言った風情で近付いた悪魔からの報告が届く。その中の単語に、オブリビオンの美しい宝石の目がキラリと光る。
「猟兵達……つまり、此処のアホ共とは違うノリと画調の方々の可能性が高いと言う事ですわね!?」
『アレキサンドライト様……お気持ちはわかりますが、そこは重要じゃありません』
幹部猟書家は、猟兵の皆様に期待を寄せている様です。
「先ずは貴方達で対処なさい。貴方達の手に余るほど強いか、或いはこいつらのノリを良い感じに中和してくれそうな方々でしたら私が出ます」
『アレキサンドライト様……』
ちょっと半眼になったレッサーデーモンではあった物の、指示自体に問題は無い。指揮官であるチーフメイドが出張らずに済む方が良いのは事実なのだ。彼らの目的はあくまで『武聖神木』の確保。それが戦いよりも優先すべき事なのだから。
悪魔達は契約を守る。目線をかわし一斉に三叉槍を構え、呪言を唱え出す。
猟兵達を迎え撃とうと。
「アタタタタタタタ! ホワッチャア!!」
「ヌウウウウウン!!」
後、このノリノリ最高潮のアホエルフ共を何とかして蹴散らそうと。
エダ・サルファー
ふっ、武聖神拳の伝承者ともあろうものが、この程度の相手に右往左往とはな。
かつて我が父祖を打ち破ったというその実力、そんなものではあるまい!
武聖神拳を倒すのはこの私だ!それ以外の相手に遅れを取るなど許さん!
故にこの場は手を貸そう!
さっさと片付けて、決着をつけようじゃないか!
……こういう設定を投げればいいんかな?
あ、うちの格闘術は対外的に名乗る理由が無かったから、特に名前は無いんだよ。
あえて言うならサルファー流格闘術?
まあそんなわけで、エルフたちに襲いかかるレッサーデーモンの動きを震脚で止めつつ、手近なのを殴ったり蹴ったり投げたり関節極めたりするよ!
格闘家は怖いってのを魂に刻んでから骸の海へ帰れ!
●宿命の共闘
「ぐおおお、何だこれは……!」
エルフの戦士の鍛え抜かれた利き腕を、漆黒の鎖が繋ぎ封じている。もう一端に繋がれた山羊頭の悪魔は空いた手を開けば、そこに現れる三叉槍。利き腕を封じられた戦士を串刺しにしようと構えを取り……
「ふっ、武聖神拳の伝承者ともあろうものが、この程度の相手に右往左往とはな」
『ッ!?』
不意に欠けられた声に、悪魔の手が止まる。
「何、貴様はまさか……!」
エルフの戦士がその太い眉を跳ね上げ、驚愕の表情を浮かべた。
現れたのは矮躯。だがその闘気は、その体躯を寧ろ何倍もの巨体に錯覚させる程に迸っている。
「かつて我が父祖を打ち破ったというその実力、そんなものではあるまい!」
現れたドワーフ、エダ・サルファー(格闘聖職者・f05398)の怒号は、傲然かつ堂々とそして真っ直ぐにエルフの戦士を打ち据えた。
「ぐぬう……一体何を。何故貴様が此処に居る!?」
『お喋りとは余裕だな!』
動揺するその隙を逃すレッサーデーモンでは無い。だが、投げ放たれた三叉槍を戦士は逆手でガシリと掴み止める。
「舐めるな。我が終生の好敵手を前に、この様な攻撃に斃れる無様を晒せるものか!」
そして力任せに利き腕を振り抜き、砕け散る漆黒の鎖。バカなと驚愕する悪魔。そしてエダはそれでこそだとニヤリと笑う。
「武聖神拳を倒すのはこの私だ! それ以外の相手に遅れを取るなど許さん!」
「言ってくれる……!」
交差する視線。闘志と戦意、そして或いはある種の友情か。
「故にこの場は手を貸そう! さっさと片付けて、決着をつけようじゃないか!」
「余計な真似を……だが、貴様との決着の為ならば止むを得まい」
拳を軽く打ち合わせ、2人の闘士が並び立つ。
『ぐう……ドワーフの格闘家……流派を名乗るからには他流の縁故があるのは道理か』
新たな三叉槍を召喚しながら、レッサーデーモンは警戒し一歩下がる。遣り取りを見る限り蜜月の関係と言う訳ではないのだろう。だが、互いの技を知り合っているのであればその連携は侮れない。対抗する為数を揃えるべく、他のレッサーデーモン達を呼び。
「……あ、すまぬ。設定を合わせる為に流派名など聞いて置きたいのだが」
「あ、うちの格闘術は対外的に名乗る理由が無かったから、特に名前は無いんだよ。あえて言うならサルファー流格闘術?」
普通に打ち合わせを始めた2人に気付いて立ち尽くした。
『お前ら……』
君は怒って良い。
そんな訳でエルフ達とは初対面のアドリブ好敵手エダ・サルファーなものの、レッサーデーモン達にとっては不幸な事にその実力は折り紙付きである。
「動くんじゃ、ない!」
震脚……平たく言うなら足で地面を強く踏み付ける動作だ。それが只の踏み鳴らしであれば、レッサーデーモン達は怯みもせずその三叉槍をエルフ達に投げ放っていた筈だ。……だが、地面に叩き付けられた如何にも格闘用な靴を中心に地割れが発生すればそうも行かない。
『ぐあ!?』
大地震が如き振動と亀裂に襲われ、悪魔達がたたらを踏む。【ドワーフ式震脚(ドワーフシキシンキャク)】、その一撃に込めたドワーフ力(ちから)が外部に影響を与える技術、それがドワーフ式と呼ばれる所以……ごめん何言ってるのかちょっと良く分かんない。分かんないが、その威力は本物だった。
『だが、全てを抑える事は無理の様だな!』
地割れと揺れの外に居たレッサーデーモンが三叉槍を投擲する。命中すれば先のエルフの戦士の如く、爆発と共に発生した漆黒の鎖にその身体を蹂躙されるだろう。
が。
「ふんっ!」
掛け声一つ。クルリと円を描く様に振るわれた腕に、アッサリと三叉槍は弾かれた。サルファーの家に伝わる格闘術、その技術となんか不思議な力が合わさって可能とする技巧。
『ええ……ガフッ!?』
釈然としない悪魔に、ましらの如く迫ったエダの蹴りがさく裂した。そのまま仰け反った身体に四肢を絡め関節技。腕を砕いた上で更に投げ飛ばして別の悪魔にぶつけられる。
「うおおお、流石我が生涯の宿敵。我も負けては居れん。行くぞ武聖神拳奥義……!」
その獅子奮迅の戦いを見たエルフの男もまた、それはもう奮起しその動きを冴え冴えと激しくする。多分、本来の実力の3倍位になってるよこの人。
数の多さを生かした連携はエダの震脚が割り、その拳は山羊の悪魔を叩いて砕く。
「格闘家は怖いってのを魂に刻んでから骸の海へ帰れ!」
その言葉の通りに散ったレッサーデーモンの数は、多い。
所で聖職者要素は何処に行ったんだろう。
●報連相
『アレキサンドライト様大変です! エルフ共と因縁のあるドワーフの格闘家がやって来て共闘を始めたのですが、因縁はアドリブでした!』
「……ごめんなさい言っている意味が少し……あ、いえ、詳しく説明しなくて良いですわ? 良いから。良いから!」
幹部猟書家は頑なに固辞したと言う。
成功
🔵🔵🔴
九十九・静香
まあ、なんて素晴らしい均整のとれた筋肉と精錬された拳法の方々……!筋肉はともかく戦い方は我流の身。ここは戦いながら学ばせて頂きます!
車椅子令嬢の姿で◆礼儀作法に従いエルフの方々にご挨拶した後、筋肉令嬢に変身して武器は今回封印し皆様に合わせ徒手空拳にて挑みます
◆怪力と◆グラップルで敵に組みかかりつつ、エルフの方の流派や拳法で超筋肉に見合いそうなものがあれば◆学習力で学び見真似で繰り出し少しずつ精査します
敵の槍をUCで回避し、◆カウンターを敵に叩きこみます
致命的な個所……即ち筋肉で把握した経絡秘孔に!
「一撃にて十分……貴方はもう、死んでいます」
まだまだ未完成。続けて戦いの中で修練を願います!
●久修練行が如く
「まあ、なんて素晴らしい均整のとれた筋肉と精錬された拳法の方々……!」
最初、誰もが場違いだと思った。
キィ、キィと、鳴る音すらもか細く車輪を回すのは車椅子。その上に座っているのは一人の女性。比喩で言うなら座れば牡丹か、その佇まいは一見しただけで育ちの良さと教育を感じさせる楚々としたもの。服装の上質さと合わせて、生まれは良いが身体の弱い御令嬢と言う印象がこれほど明白な人物は逆に稀有だろう。戦士達を讃える声は麗しく、柔和な笑顔もまた美しい。
「はじめまして皆様。わたくしは九十九・静香と申します」
車椅子に座ったままながら、完璧な礼法を持ってエルフ達に挨拶を為す。その完成度は逆に、彼女が車椅子に如何に長く座ったまま過ごして来たか透けて見える様で、その儚い印象を更に補強する。
「こ、これはご丁寧に……で、ではなく!? いけないお嬢さん、此処は危険だ」
男所帯故に女性への免疫が低いのか、少し赤面したエルフの戦士が頭を下げ返そうとした所で慌てて警告する。そりゃあそうだ、火を放たれた森の中で異形の悪魔とエルフの戦士達が殺し合いをしている真っ最中である。車椅子を抜きにしたって御令嬢が来る場所ではない。エルフ達は平たく言って格闘熱血ノリが大好きなアホだが、そこ以外の部分に置いては至って真っ当で良識的な様だ。
『クク、これは好都合!』
だがそこで、唐突な闖入に少し戸惑っていたレッサーデーモン達が動き出す。その本質邪悪たる彼らからすれば、紛れ込んできた令嬢は格好なる獲物だ。エルフ達の態度を見れば人質にも使えるだろうと殺到し、先ずは動けなくするべく車椅子を狙って武器を振り上げる。
「いかん!」
戦士達が庇おうとするも間に合わず、三叉槍が車椅子を串刺しに……しなかった。
『!?』
車椅子があった所には何もなく、空振った槍が地面に突き立ったのみ。何処に消えたかと見回せば其処に居るのは……巨体。
美しい容貌と上品な所作は変わらず、だがそれ以外の全てが変わっている。隆々たる筋肉、巌の如き筋肉、はち切れんばかりの筋肉、神々しいまでの筋肉、筋肉と筋肉と筋肉と筋肉に鎧われたその全身は、正に筋肉!!
「筋肉はともかく戦い方は我流の身。ここは戦いながら学ばせて頂きます!」
超絶怒涛の怪奇人間。筋肉を愛し、筋肉に愛された女。車椅子を軽々と抱えた九十九・静香(怪奇!筋肉令嬢・f22751)は堂々たる筋塊の体躯へと変身し、そう宣言した。
「『「『何だとー!?』」』」
この時ばかりはエルフも悪魔も心が一つであったそうな。
「筋肉は時には静かに感ずる。研ぎ澄ました筋肉の感覚は未来の光景すら教えてくれます」
言葉の通り、筋肉令嬢は動きを予知していたが如く悪魔の三叉槍を躱す。
「そして、柳の如く筋肉は翻り、鋭く打つもの!」
返す刀で組み付き、その怪力で放り投げ、飛び蹴りで追撃を叩き込む。
「ぬう!? あれは俺の迫蛇飛翔撃……!?」
その動きを見て驚きの呻きを漏らす巨漢エルフの戦士に、静香はニコリと笑いかけて会釈を送った。
最初の宣言通り、彼女は学んでいるのだ。エルフ達の流派と拳法を、その技と動きを。己が超筋肉に付け込むべき見合いそうなものを選出し、見真似を繰り出し少しずつ精査する。言葉にすれば簡単だが、それは生半可な学習力ではない。
周囲の地面には、車椅子のパーツを使った槌やバーベルの様な長槍、巨大な鎖鉄球等が置かれている。見るからに強力そうなその武器達は別に落とされた訳ではない、エルフ達の武技を学ぶ為静香が封印したのだ。筋肉令嬢は今回、最初から徒手空拳にて戦っている。
実戦での修練。それは執念深い迄の求道の精神であり、同時に相対する敵手からすれば付け込むべき隙にもなり得る。
筈なのだが。
『我が槍渾身の連撃が!?』
攻撃回数に重点を置いた刺突の全てをいなされ、レッサーデーモンがその山羊面に驚愕を浮かべる。
ユーベルコード【筋肉流動、柳の如く(マッスルセンスカウンター)】、その超筋肉感覚……超筋肉感覚? ……言葉の意味は分からんが、とにかくすごい字面だ……まあ兎も角その感覚は予測回避からのカウンターを旨とする。連撃により態勢を崩した悪魔の『より致命的な個所』、絶大なる筋肉で把握したその一点を人差し指一本拳が深く深く穿った。
「一撃にて十分……貴方はもう、死んでいます」
果たしてレッサーデーモンは激しく吐血して倒れ伏し、もう立ち上がらない。
「何と言う技だ……我も使いたい」
エルフの巨漢がちょっと素で羨望の視線を送る……が、逆に静香は少し不満げに悪魔の骸を見下ろす。
「膨らんで爆発……と迄は行きませんわね……まだまだ未完成。続けて修練を願います!」
その理想は高く。求道の道は果てしない。より強くより筋肉を目指す令嬢は、まだまだ犇めく悪魔の軍勢と意気軒高なエルフ達両方に向け、戦いの中己を尚鍛え上げる事を宣言した。
……と言うかお嬢様、一体何絡何孔を目指しておいでですか。
●報連相
『アレキサンドライト様大変です! 車椅子の御令嬢が筋肉に! ……筋肉に!!』
「え、え? いや、何だか字面が物凄くセンシティブで倫理的にアレな案件に聞こえるんですけど? 兎も角落ち着いて説明なさい」
詳しく聞いて盛大に後悔したと言う。
成功
🔵🔵🔴
テラ・ウィンディア
何故か逃げ出した大きな馬に乗ってやってくるちびっ子
黒帝号よ
此処でいいぞ
今回はあえて体術のみ!
おれこそテラ・ウィンディア!
ウィンディア御流合戦礼法の使い手なり!
我が合戦礼法には当然体術もあるぞ
そうさなぁ…一つ武聖琉拳と名乗ろうか(UC発動。空間を歪ませるエルフ闘気を立ち昇らせ
【属性攻撃】
重力属性で更にオーラ強化
影すら残さない速さで飛び蹴りで粉砕(疾〇煌陣
両手から重力波の衝撃波を放つ(〇琉〇破
重力フィールドを拡大させ
無重力空間を作り悪魔と己の位置関係を乱しぼこぼこにする(暗〇天〇)
尚
【重量攻撃・二回攻撃・残像・空中戦・見切り・第六感】を用いて上記の技を使ったりして避けたり猛攻だな
完全に此処と同調!
●闘気輝く拳法
ドガガッ ドガガッ ドガガッ
戦場に不意に異様に重くしかし軽快な音が鳴り響く。レッサーデーモン達が暴虐の手を止めたのは、しかしその音を怪訝に感じたからでは無い。……その音に聞き覚えがあったからだ。
「うぬう、この足音は間違いない」
エルフの戦士顎王が呻く。悪魔の一人がこいつ未だ生きてたのかとちょっと感心した目で見た。まあ、無理もない、彼は悪魔達の雇い主である幹部猟書家の攻撃を二度に渡って受けている。それで生きているのだから実際相当なタフネスではあるだろう。
ドガガッ ドガガッ ドガガッ
そして聞こえる音は蹄の音だ。顎王の愛馬、ちょっと異様な位の巨体を誇る黒馬の。その超重量の蹄の音。そしてその巨体が森の合間から現れ、物のついでの様に悪魔の一体を蹴とばしてから止まる。
「黒帝号よ此処でいいぞ」
そしてその背から降り立ったのはエルフの少女テラ・ウィンディア(炎玉の竜騎士・f04499)。その見目はちびっ子と言って良い程に若く、しかしその所作から滲み出る威風堂々とした雰囲気は、その気の強さと意気を物語るようだった。
「ぬう、強者にしか背を許さぬパトリシ……黒帝号に認められるとは……」
呻く顎王。後お前今パトリシアって言いかけたよね。
「おれこそテラ・ウィンディア! ウィンディア御流合戦礼法の使い手なり!」
戦場に響き渡る堂々たる名乗り。
「ウィンディア御流合戦礼法! ……まさか、あの!」
其の言葉に反応し、驚愕の顔をするエルフの戦士達。
「我が合戦礼法には当然体術もあるぞ。そうさなぁ…一つ武聖琉拳と名乗ろうか」
不敵にそう言うと同時、その全身から湧き上がったのは闘争心。周囲の空間は歪み軋みを上げる、その闘気が目に見えるほどの濃度かつ無尽蔵だと言うのか。そのいっそ凄絶なオーラにエルフ達はどよめく。
「武聖琉拳……よもやその名を聞くとは」
「だがあの魔の闘気……あの齢で既に一線を越え魔の域に入っていると言うのか……!」
その目に浮かぶは戦慄、そして僅かな怯えか。歴戦の戦士達ですら恐れる魔が、そこに顕現しているかの様に。
所で。
『もー騙されんからな』
『お前ら絶対それ今考えて喋ってるだろ』
レッサーデーモン達はすっかりやさぐれていた。
「我が蹴りは疾風!」
影すら残さぬ速さの飛び蹴りがレッサーデーモンを一瞬で通り過ぎる。
『……? どうやら空振……グァアッ!?』
無傷と誤認し振り返ろうとした悪魔が、丸でその速さに置いてけぼりを喰ったが如く遅れてやって来た衝撃に粉砕され、肩口から砕けて崩れ落ちた。
テラもまた、炎龍牙の槍も星の宝剣も無銘の太刀も使わず、あえての体術のみで戦っている。だが勿論それだけでは無い。
ユーベルコード【モード・グランディア(モードグランディア)】、彼女に曰くグランディアとは全ての存在がもつ原初の力。その力を身体に宿し全身を超重力フィールドで覆わせる絶技。重力を操り、その闘争心に応じた増強と飛翔の力を得た炎玉の竜騎士は、悪魔達を次々に屠る猛攻を見せていた。
「流石は黒帝号に見初められた戦士よ。だが俺も負けては居れぬ!」
満足気に笑った顎王を初めとするエルフ達も対抗心を燃やし、次々とレッサーデーモンを押し返しつつあった。後、どうでも良いが余程気に入ったらしくシームレスに改名する方向らしい。
ブルルルッヒヒィン!
……馬の方も何か誇らしげに嘶いてるから良いか。
そして種族が同じ事もあり、テラは此処のエルフ達と完全に同調を果たしている。それは彼らの士気を高め、逆にテラ自身の調子のギアも上げていた。デーモン達の高威力の槍を見切り、第六感を以て精妙なる一撃をいなし、連撃を残像で躱す。そして攻撃後の隙を逃さず空中戦を仕掛け、オーラ強化された重力攻撃。
『う!?』
重力フィールドの生み出した一瞬の無重力空間により、位置を見失わせられた悪魔が戸惑いの声を漏らす。敵であるエルフの少女と己の位置関係を乱されれば、反撃はおろか回避もままならず。
「往けぇ!!」
そして突き出された両手から放たれた重力波がその身を砕く。ドゴッと重い音と共に仕留められた仲間の姿に、悪魔の群はその緊張を深め包囲を強める。
されど少女は怯まず、黒髪のポニーテールを躍らせ戦い続けるその姿は可憐と言っても良い。だがその獅子奮迅さは正に竜の騎士、或いは修羅の将軍が如き威容だった。
●報連相
『アレキサンドライト様! あの、見目は寧ろ愛らしい少女のエルフが例の黒馬に乗ってやって来まして……』
「その現れ方の時点でもう駄目な奴じゃありませんの!?」
そろそろ察しが良くなってきていたと言う。
成功
🔵🔵🔴
紫・藍
藍ちゃんくんでっすよー!
やや、もしやアレキサンドライトの幹部さん、藍ちゃんくんが来たことで安心しましたかー?
エルフの方々と明らかにノリも作風も違いかつ埋もれるどころか存在感抜群な藍ちゃんくんにほっとしちゃいましたかー?
いえいえいえいえとんでもない!
藍ちゃんくんこそ、武聖神拳伝承者な方々にとって最強の援軍かつ最高のシナジー!
何故ならば!
藍ちゃんくんは――“あい”だからでっす!
哀(あい)を知り愛(あい)らしさに目覚めたこの光にて……藍で闇を切り裂くのでっす!
さあエルフの皆々様、藍を取り戻した今こそ究極奥義に目覚める時なのでっす!
具体的には藍ちゃんくんの回復による超回復で筋肉パワーアップなのでっす!
●水晶の王の様に
猟兵達の存在がエルフ達のテンションを上げ、その戦意は寧ろ天井知らずに上がっては居る。だが……それは彼等が不死身の戦士となると言う意味では無い。
「ぐう……病に侵された我が身体よ、今少しだけ持ち堪えてくれ……」
吐血した血を受け止めた手の平を見下ろし、戦士の一人が呟く。まあ、吐血の原因はさっき喰らった槍の一撃であって、病云々は今思いついたアドリブだが。
『喪った血は戻らず、負った傷は塞がらん。そろそろ覚悟の時だエルフ共』
レッサーデーモン達は冷酷に三叉槍を構える。
「……ぬう」
ジリ貧、と言う奴だ。既に幾人かのエルフ達は覚悟を決めつつあった。己達の使命の為、そして誇りの為、文字通り死なば諸共と構えを取り。
だがヒーローは何時だって、そんな絶望と覚悟の境に現れるのだ。
「藍ちゃんくんでっすよー!」
炎と血煙に噎せるその場に余りにそぐわぬ明るい声。
ダブルピースと見事なギザ歯に飾られた眩い笑顔。華やかで愛らしい衣装。素敵な自分が素敵な衣装をまとえばもっと素敵な自分が完成するのだと。絶対の自負と自信と信念に磨き上げられたハイテンションアッパーボーイ紫・藍(変革を歌い、終焉に笑え、愚か姫・f01052)の大降臨!
『……』
「……」
エルフも悪魔も、揃って彼を見返した。
彼だ。女性物の衣装を着れど藍は少年である。そしてその上でプリンセスなのだ、この王子様は。
『…………』
「やや、もしや悪魔の皆さん、藍ちゃんくんが来たことで安心しましたかー?」
中々沈黙の世界から帰って来ないレッサーデーモンの様子に、藍の方が言葉を振る。同時に慣れた手つきで楽器やマイクが取り出され構えられていく。
「エルフの方々と明らかにノリも作風も違いかつ埋もれるどころか存在感抜群な藍ちゃんくんにほっとしちゃいましたかー?」
潤沢な声量と呼吸に裏付けられた明瞭な声に、悪魔達は怯んだ。確かにそれはちょっと思ったのだ。何か凄い濃い子が来たけど、これはこれでエルフ達のノリを緩和してくれるんじゃないかとか。。
所で地味に自身満々な藍である。まあ、それが彼なのだが。
「アレキサンドライトの幹部さんも喜びますかー?」
『……まあ、そうだな。この報告は珍しく穏やかに出来そうではある』
髭を弄りながら思わず肯定する悪魔の一体。
だが。
「いえいえいえいえとんでもない!」
そこで全否定を入れる藍だった。後、いえが凄い多い。
構えた楽器をかき鳴らせば、何処かで聞いた激しく熱い旋律が森の中に響く。
「藍ちゃんくんこそ、武聖神拳伝承者な方々にとって最強の援軍かつ最高のシナジー!」
そして宣言。
『何!?』
戸惑いと驚きの声を上げる悪魔達。そして武器を構える。もし本当にそうなのであれば、戦況的にもノリ的にも彼を野放しにする訳にはいかない。直ぐにでも排除或いは拘束するべく一斉に槍投げ放とうと構え。
「何故ならば! 藍ちゃんくんは――“あい”だからでっす!」
……はい?
レッサーデーモン達は一斉につんのめった。いや、確かに名前の読みは“あい”みたいだけれども……。
「哀(あい)を知り愛(あい)らしさに目覚めたこの光にて……藍で闇を切り裂くのでっす!」
「……なるほど!」
エルフの戦士が力強く頷いたが、こいつ絶対分かってない。
と言うか多分誰も分かってない。
「さあエルフの皆々様、藍を取り戻した今こそ究極奥義に目覚める時なのでっす!」
けれど、歌が始まった。
歌唱と演奏は芸術であり、芸術とは思いや想いを理屈に拠らず人に伝える手段でもある。言葉で伝えるには難解でも、歌で伝えれば心に伝わる。そして心に伝わった歌は力へと変わる。
美しい歌声が、繊細な演奏が、熱いパッションが、たゆまぬ努力で磨き上げた彼の輝きの全てが今。アイドル……彼自身に言う所の藍ドルの光として戦場を照らした。
ユーベルコード【生まれながらならざる輝き(アイチャンクン・ソフ・アウル)】。与えられた奇跡では無い、掴み取った輝き。それはエルフ達の傷を塞ぎ、喪った血液さえも補う高速治療として結実するのだ。
「うおおお!? 力が、漲る!」
倒れていた戦士までもがその身を起こし、我が身に降りかかった奇跡を……しかし天では無く一人の少年が成した癒しを魂で理解する。
「超回復で筋肉パワーアップなのでっす!」
筋肉は再生する際により丈夫に強力になるとされる。それが超回復だ。藍の回復はそれすをもエルフ達の身体に与えている。本当は……数多のエルフ達に同時に回復を施すこの所業は彼の体力に多大な疲弊を与える。けれど少年は尚笑う。負けない歌。潰えない歌。
「この歌も、この可愛さも藍ちゃんくんの誇りでっすのでー! 皆々様の誇りはなんでっすかー? 一緒に謳い上げるのでっすよー!」
「鍛え抜いたこの身体。そして拳法だとも!」
エルフの一人が叫んだ。気合の叫びがその衣服すら内側から弾け飛ばす。
「我らが使命の為の力! 伊達や酔狂ではあってもそこだけは違えて居らぬ!」
また一人が吠える。
「力及ばず斃れるは覚悟の上、だが我等……未だ全ての力を見せては居ない!」
立ち上がる。歌が聞こえる限り何度でも。
「目が覚めたぞ美しき少年。我等は戦士、そうだ戦士なのだ。貴様の望む究極奥義、見せてやる。その目に刻むが良い!」
最早誰一人として膝すら付いていない。全ての戦士が戦う力を取り戻し、その魂は最高に燃え上がっている。
これからが、彼らのステージの始まりだ。
●報連相(拒否)
『アレキサンドライト様! アレキサンドライト様? アレキサンドライト様ー!?』
歌声が聞こえて来てた時点で見切って既に席を外していたと言う。
成功
🔵🔵🔴
アリアケ・ヴィオレータ
アドリブ・連携歓迎
【POW】
エルフってのは華奢で、どっちかといや、
魔法に長けた種族だって聞いた気がしたんだがなあ。
また随分と濃い顔をし鍛えた体の面々がわんさか……
っと、惚けてる場合じゃなかった。
ニイさん方に助太刀するぜ。
「更なる高みへ至れるかもしれねえってのに
ここで終わっていいわけがあるか!」
拳とヒレに《覇気》を纏わせ、山羊頭共が振るう《武器受け》る。
相手が体勢を崩したらそこを狙って【一撃必殺】!
「長年磨いた拳の冴えを魅せてくれよ、武聖のニイさん方!」
と発破をかける。
……はぁ。劇画調巨漢美形(ハンサムマッスルエルフ)、"いい"……
(容姿の面ではかなりの好み)
(背中で『不知火』がカタカタ)
●熱く駆け上がれ
「うおおおおおお! 我、新たな奥義に開眼せり!!」
「じゃあ儂も!」
戦況は厳しい。だがエルフ達の戦意は息を吹き返し、意気は何処までも高く上っていた。じゃあで便乗して奥義に開眼する位に。……それもどう何だと思わなくもないが。
『舐めるなエルフ共! 好い加減お前らのバカ騒ぎにはもうウンザリだ!』
だが悪魔達とて怯んでばかりではない。と言うか寧ろキレ気味になって来て此方は此方で士気が上がってきている。ぶっちゃけフラストレーション溜め過ぎたんだなあ……。
元々戦力はオブリビオン達が勝っていたのだ。猟兵達の介入で天秤は揺れては居るものの、完全に逆転するには今少しの要素が必要と言う所か。
つまり拮抗状態だ。ある種、最も戦いが激しくなるタイミングと言える。だが。
「エルフってのは華奢で、どっちかといや、魔法に長けた種族だって聞いた気がしたんだがなあ」
そんな緊張感等どこ吹く風と、雲が如く飄々と歩む影が一つ。肘から手首にかけてと耳の位置にワラスボのヒレ、傷痕が走って尚損なわれない豪快な笑顔、そして紫の瞳……深海人の漁師アリアケ・ヴィオレータ(夜明けの漁り人・f26240)だ。
「また随分と濃い顔をし鍛えた体の面々がわんさか……」
戸惑って居そうな言葉ではあるが、その実その声色は寧ろ明るい。表情も寧ろテンション上がるなぁ~とでも言いそうな笑顔で周囲を見回している。視線の先に居るのは常に、戦うエルフの戦士達だ。
「っと、惚けてる場合じゃなかった」
目を丸く開くや出し抜けに駆け出す。
水中が本領の彼女だが、さりとて陸で鈍い訳ではない。寧ろ揺れる船上で鍛えられた平衡感覚と水中で培った空間把握能力は、地上の戦いにあっても存分に発揮され。
ガキィッ!!
『グヌ! 鰭如きでこの槍を止めるだと!?』
三叉槍の間に迅速かつ正確に差し込まれた左腕のヒレが、エルフの戦士を刺し貫こうとした悪魔の槍をギチリと止めている。達人の域までに寝られた覇気を纏ったその強靭なヒレは、それ自体が鋭く硬い武器なのだ。
「ニイさん方に助太刀するぜ!」
更に三叉を絡める様に捻られたヒレは、槍を固定し突く事も引く事も許さない。彼女の背に負われた呪いの秘宝は三叉の銛……若き日より共にある相棒に慣れ親しんだ彼女にすれば、近い形状の三叉槍への扱いも、そして対処方も把握の範囲なのだろうか。
「ぬ、ぬう、何故助ける。奥義すら破られた以上、この身が此処で終わるは宿命……」
だが庇われた側の男はその顔を苦渋に歪める。どうも設定とかではなく本気で悔しがっている様子にアリアケは少し目を細めた。
悪魔達はバカ騒ぎと罵り、実際彼らもハイテンションで楽しんでいる事も事実ではあるのだろう。だが、それでも全力で取り組んでいる事に違いはないのだ。全力以上をぶつけて尚至らぬ現実に歯噛みしているエルフは彼以外にもチラホラと見当たって。
「更なる高みへ至れるかもしれねえってのに、ここで終わっていいわけがあるか!」
海の乙女はそんな森の漢共の弱気を喝破した。
それと同時に左腕を捻る。ヒレと槍を経由して崩された悪魔の態勢が大きく下がり、届く位置に来たその眉間に覇気を纏わせた拳を一閃!
ガギャッと、鈍い音が響く。
『ガ……ァ!?』
頭蓋を砕かれ、断末魔を漏らし斃れ伏す悪魔。正に【一撃必殺】。
そのユーベルコードを目の当たりにしたエルフ達口から呻き声が漏れる。
振るう武器を受け、体勢を崩し、そこを狙って致命的な箇所を一撃、破壊。言うは易く行うは難しの典型であり、為せるのであれば正に理想の体現だ。拳を得物と振るう者ならば見惚れずにはいられない、そんな勇姿が其処にあった。
「長年磨いた拳の冴えを魅せてくれよ、武聖のニイさん方!」
あまつさえ、それを為した勇者がこう言うのだ。此方は見せた、今度は其方が見せてくれる番だろうとばかりに。その技、その拳法は、武の聖の域にある筈だろうと。発破をかけているのだ、我らに。期待しているのだ、我らに!
これで奮い立たなければ、それはもう戦士でも漢でもあるまい。
「更なる高みに至り得ると。我が未だ、上を目指せると……そう言うのだな女」
ならば応えようと、漢達は拳を握る。奥義が破られたならば、更なる奥義を編み出せば良い。少なくともアリアケの菫の花の様な色の瞳が見つめている今この時は、肉体が果てるとも止まらず矜持と意地を通そうと。
『くそ、またか……!』
何度でも勢いを取り戻すその有様に、レッサーデーモン達も怯み始めている。天秤の傾きは、後もう一歩か。
自らも引き続き戦いを続けようと動きながら、アリアケは会心の笑みを浮かべる。それから小さくコッソリ、気合の入り直した漢達には聞こえぬ程度の声で少し熱の篭った呟きを漏らす。
「……はぁ。劇画調巨漢美形(ハンサムマッスルエルフ)、"いい"……」
実は純粋に彼らの容姿が好みのストライクだったりするアリアケだった。
背中のメガリス『不知火』がカタカタと震えているのはツッコミか、それとも自分も使えと言う不満が……或いは、ひょっとしたら長く連れ添った彼女に色ボケた事を言わせるエルフ共への嫉妬なのかも知れない。
●報連相
「アレキサンドライト様! 濃さは兎も角相性は普通に良さそうな女がエルフ共をめっちゃ的確に鼓舞してます!」
「何ですって……! 男所帯と言っていた彼らにそれは不味い。絶対に不味いですわよ!?」
女の前だと超張り切る男の心理を大まか把握していたと言う。
成功
🔵🔵🔴
パルピ・ペルポル
うんまぁ敵ながら心中はお察しするわ…。
わたしは劇画調にはならないんだけどまぁ。
ギャップの利用は効果的だと思うのよ。意図したかはおいといて。
雨紡ぎの風糸を周囲に展開して盾兼敵の阻害をするわ。
複雑な印なんか結ばせてあげないわ。
あとはそうね…敵の懐に入って火事場のなんとやら使って豪快にぶん投げてあげるわ。
で、エルフ達に「わたしのようなフェアリーでも出来ることができないはずはないわよね?(貴方たちなら出来るわ!)」とか煽ればやる気出すでしょ、多分。
エルフ達に気を取られてる敵を糸で絡めて燃えてるとこに叩きつけて攻撃ついでに消火を試みるかしら。
●小よく大を制す
「うんまぁ敵ながら心中はお察しするわ……」
戦いの最中、そんな声が不意に聞こえた。
『……?』
三叉槍を構えた悪魔が首を巡らせる。だが、周囲に見えるのは同じレッサーデーモンと、立ち向かって来るエルフの戦士達と、後何か秘奥義がどうとかで巨大化した挙句木に引っかかって動けなくなったエルフ位な物だ。取り敢えず後に回してるけどアレほんとどうしよう……。
「わたしは劇画調にはならないんだけどまぁ」
けれど声は変わらず聞こえる。耳を凝らせば微かに上方?
そう気づいて見上げた先、ようやくその姿を捉える事が出来た。
「ギャップの利用は効果的だと思うのよ。意図したかはおいといて」
30cmにも満たない小さな体躯。ふわりと風に舞う軽やかな衣装。蝶の羽根を思わせる、けれどどんな蝶にも在り得ない程透き通った美しい羽根。宝石の様に魅力的に輝く緑色の瞳。よくよく見ればその姿が成熟した女性のそれだとは分かるけれど、それでも全体を通しての印象は愛らしいの一言だ。
その名をパルピ・ペルポル(見た目詐欺が否定できない・f06499)、訳知り顔で語る彼女はフェアリーである。尚、その見目に反して下町風の言動と性格だとか……なるほどギャップ、言い替えると見た目詐欺……。
『旅の導き手か……丁度良い、奴等エルフ共の死出の旅を案内してやるが良い』
山羊面を嗜虐に歪め、レッサーデーモンが槍を振るう。だが、その小さな身体を狙うには槍は不向き過ぎる様で、宙を舞うパルピはヒラリヒラリとその刺突を見切る。
『チッ、ならばその動き封じるまで!』
その手が複雑な動きを始めた。金縛りの呪言……印を結んだ上で放たれた呪いの言葉は、自由な妖精でさえも標本の如く縛り付けるだろう。けれど。
「だーめ、印なんか結ばせてあげないわ」
その最初の段階でその動きが止まった。
『……!? な、なんだこれは……!』
その腕に糸が巻き付いている。細く、蜘蛛の糸よりも尚細く……その癖高い柔軟性と強度を兼ね揃える透明の糸。その銘を『雨紡ぎの風糸』と言う。
こんな物は引き千切れば良いと力を込めても、雨を紡ぐとされる風はビクともしない……いや、或いは一本であればそれは出来たのかもしれない。だが悪魔は今更になって気付く、透明なれど光の反射で辛うじて見える糸、糸、糸、糸、糸……そのそれぞれがデーモンが籠めた力を分散させいなしてしまう。
木の枝や幹に、他の悪魔の槍に、草木に蔦にあらゆる所に繋げられ周囲一帯を広く緻密に展開したその領域。何十……或いはもしかしたら何百の糸達がパルピの意志とその小さな手の動き一つで有機的に連動し、盾として攻撃を防ぎ、網として動きを阻害し、まして複雑な印を結ぶ余裕など与えない。
「大きければいいってものでもないのよ。そのまま的が大きいって事だもの」
立体的な蜘蛛の巣……その巨大版とも言えるその空間を自在に動けるのはなるほど。小さな体躯の彼女だけだ。逆にその領域に捕らえられた悪魔達に最早自由など無い。
『グウウ……一体何時の間に……いや』
歯噛みする山羊面が、しかし即座に理解して力を喪う。何時か等明白が過ぎる、彼らが目立たないパルピの存在に気付けぬままエルフ達に気を取られている間。彼女は自由に戦場を舞う事が出来たのだから。
「あとはそうね……」
フェアリーは背後から迫る槍を第六感染みた動きで躱す。糸の領域の外に居た悪魔の一体を振り返り、引く所か寧ろその懐に一直線に飛び込んで。
『な!? 馬鹿か! 自分から殺されに……なあ!?』
来た幸いと握りつぶそうと手を向けた悪魔が驚愕の声を上げた。小さな要請が己が毛皮を引っ掴み、その巨体を無造作に投げ飛ばしたのだからそりゃあ無理も無い。
ユーベルコード【火事場のなんとやら(フェアリーナメタラアカンゼヨ)】……ルビはまあ何バンなんだろう的にさて置くとしても、これほど明快で分かり易い技も稀有だろう。燃える森の中、その怪力が振るわれるにはこの上なく相応しいシュチエーションでもあった。
……まあ実の所、彼女は普段から割と平然とこの力を発動していたりもするのだけれど。
「あの巨体を軽々と……」
呻くエルフの戦士達。
「わたしのようなフェアリーでも出来ることができないはずはないわよね?」
だがパルピのそんな煽る様な言葉が投げかけられた途端、その目の色が変わる。
「おのれ、そう言われて出来ぬと言えるものか!」
「負けては居れぬ! 見ているが良い!」
「いっそ我は3体一度に投げ飛ばしてくれるわ!!」
見る見るやる気を出し始めたエルフ達を見やり、実はおせっかい焼きな彼女はニコリと笑って見送った。先の煽りに声には出さず『貴方たちなら出来るわ!』の言葉。その意はちゃんと叶ったのだ。
『何だこいつ等!? 行き成り組み技主体に……おい、まさか!?』
戸惑うレッサーデーモン達の悲鳴と怒号。
敵の動きの変わった事に気を取られたその隙をパルピは逃さず、ツイと指を振り糸で絡めて投げ飛ばす。放った先は燃え盛る枯れ木……悪魔の巨体が叩き付けられたその火種は砕け、それ以上の延焼を治める。
「よし、攻撃ついでに消火もいけそうね」
妖精はコロコロと笑い、未だ続く戦場の中を変わらず自由に飛ぶのだった。
●報連相
「アレキサンドライト様! 何故か一部のエルフ共のバトルスタイルが微妙に変わりました!」
「ええ……いや、そんな細かい変化の報告はいりませんわ? そんな事よりノリを中和できそうな猟兵は未だ見つかりませんの?」
折角可愛らしい見目の妖精が来てたのに気づいていなかったと言う。
大成功
🔵🔵🔵
サティ・フェーニエンス
「…どうしよう。エルフさんたちと協力すべき、なんだろうけど」
ド真面目・真顔が仕様の少年、後方で途方に暮れる
この場の雰囲気とノリに圧倒され(※引いてはいない)、自分が出たらお邪魔でしょうか…とか惑っている。
とはいえ目の前でピンチのエルフ見れば咄嗟に駆けつけ
「支援します。僕より貴方の方がきっとお強い…僕が貴方の盾になります。思う存分攻撃に集中して下さい」
ある意味この場にしっかり染まっちゃってる台詞を素で投げかける。
森が焼かれようとしている今、炎はお見せしたくないですね…
属性攻撃を止めUC発動。分厚い本たちをエルフさんの盾に使用。
本体1冊はしっかり己のローブ内に確保
金縛りにあっても盾を崩さぬよう集中
●その身を捧げ
猟兵達の殆どは迷いなく、寧ろ前のめりにエルフ達のノリに混ざり込んだり溶け込んだり煽ったり鼓舞したりしていたが、全てがそうと言う訳では無い。
「……どうしよう。エルフさんたちと協力すべき、なんだろうけど」
戦いの後方、火難を逃れた樹木の影から戦いを見やり。ド真面目と真顔が仕様のサティ・フェーニエンス(知の海に溺れる迷走っコ・f30798)は途方に暮れた。
視線の先には悪魔の群と戦うエルフ達。
「くおおおお! 武聖剛拳が奥義、武聖剛砲破ー!!」
謎のビームが飛んでいる。
「はああああ! 武聖鷹王拳が奥義! 飛翔七十三連撃!!」
何時になったら着地するんだろうあの跳び蹴り。
「ぬうううん! 武聖神拳レボリューションが奥義! 武聖雷連撃!!」
正直技より流派名の方が気になった。
まあ、何と言うか濃い。改めて濃い。後大半ちょっと意味が分からない。
「うーん……」
別にサティは引いている訳では無い。当人としては別に嬉しくは無い事に、変人や変態の類にとて馴れのある彼だ。今更ちょっと主線の太い肉体派エルフの拳法如きで鼻白んだりはしない。けれどまあ……雰囲気とノリには圧倒されるのもまた仕方のない話で。寧ろ。
「自分が出たらお邪魔でしょうか……」
何て、いっそ気遣いすら交えて戸惑ってしまっているのだ。
彼のその真面目さでは、あの空気にノリノリで混ざって大暴れと行くのは中々難しい。例えばどんな所でもマイペースに自分の性癖をぶちかまして行けそうな変人とは彼は違うのだから。寧ろ彼にとってそんな類の存在は反面教師で絶対にそんな大人にはならないと少年は固く心に誓……思考が逸れた。
意識を戻して戦況を確認する。
猟兵達の援軍はどんどん功を奏して行き、今や戦いの趨勢は逆転しつつあった。しかし勿論まだ油断のならない段階ではあり……。
「ぐ!? しまった!」
三叉槍に腕を貫かれたエルフの戦士がその顔を引きつらせる。腕を貫いた槍はそのまま背後の木を深く穿ち、咄嗟に引き抜けない程度にはその身体を固定してしまっている。
そして動けずにいる間に別の悪魔がその心臓をめがけて槍を突き放つ!
「危ない!」
だが勿論。目の前で危機に陥った様を見れば、咄嗟に駆けつけないサティでは無いのだ。すんでの所をウィザードロッドで槍を跳ね上げ、その背にエルフの戦士を庇う。
「支援します、早く槍を」
「ああ、すまない少年……」
槍を引き抜きながら向けられた言葉に、サティはその中性的な顔を少しだけ歪ませる。一見白の混ざる青髪の年若い少年にしか見えない彼だが、その正体はヤドリガミ……遥か昔旅人が見つけた、その更に昔に喪われた都の残骸の中に残った本。そんな古書に分類される本体を持つ彼は、その書の形をこの世界の中で得て以来百年以上の月日を経ている。己の見目が他者からどう見えるかは理解していても、矢張りちょっと不服なのだ。
自分は子供では無いと言いそうになる自分を何とか取り繕って、術式を編みながら別の言葉をかける。
「僕より貴方の方がきっとお強い……僕が貴方の盾になります。思う存分攻撃に集中して下さい」
戦いに前のめりな台詞は、ある意味この場にしっかり染まってしまっているとも言えたが……素で言っている彼に自覚は余りない様だ。
「任された。さあ行くぞ外道共、チェリアアア!」
腕の傷など物ともせずレッサーデーモンへ突撃する戦士を見ながら、サティは術式を完成させる。探求を生き甲斐とし、知の海に溺れる日々を過ごす彼の知識は広い。属性攻撃を中心に様々な術の知識があるのだが。
「森が焼かれようとしている今、炎はお見せしたくないですね……」
そう言った彼が選んだ術は。己が身命を扱う術、ユーベルコード【錬成カミヤドリ】。彼自身の本体である古書を写し取った複製がおよそ十冊、その周囲に展開される。
「お守りします」
分厚い本達は念動力によって操られ、戦うエルフ達を護る盾の様に悪魔の槍の進路を塞ぐ。勿論、コピー元である本体を出したりはしない。そんな頭のおかしい事はしない。絶対しない。その一冊だけはしっかりサティ自身のローブの内に確保しているのだ。
「忝い。なるほどこれならば渾身の一撃に専念できる!」
巨漢のエルフが彼の本を頼りに防御を捨てた手刀を振り下ろす。素手の筈のその一撃はギリギリで直撃だけは避けた悪魔の腕を両断する。
それ以外にも前蹴りが、右ストレートが、謎の闘気が、次々に悪魔の身体を打ち据えて行く。防御を考えず攻撃だけに専心出来る有利は、それだけの効果を生むのだ。
『おのれ小癪な……だが、ならば操り手を止めればいいだけだ』
だがそう気づく目敏い悪魔とている。複雑な印を組んだその個体はサティに向け呪いの言葉を放った。身を縛り、その動きを封じる金縛りの呪言だ。
「……!」
だがヤドリガミは最初から動かない。術を扱う彼は、言葉を媒介とするその術を回避する事自体が難しい事を知っているのだ。だからこそ、その選択肢を最初から排し、ただ集中する事に全力を籠める。
身体が動かずとも関係ない。ただ集中を研ぎらせず、戦士達を護る盾が崩れぬ様にすれば良いのだ。それもまた専心の強み。空の様に青いその瞳に意志の力を篭め、サティ・フェーニエンスは動かない。
それが、彼の戦い方なのだ。
●報連相
『アレキサンドライト様大変です! ようやくいけそうな猟兵がいました! 真面目そうな術士の少年に見えます! 滅茶苦茶な事とか変な事とかもしません!』
「…………ええ、嘘でしょう? どうせ蓋を開けたらとんでもない性癖とか言動とか飛び出て来るんですわ。私分かってますわよ?」
一周回って疑心暗鬼に取り付かれていたと言う。
成功
🔵🔵🔴
神咲・七十
アドリブ・連携お任せ
う~ん、私の周りにはいないタイプの濃いエルフさんたちだ。
はい、とりあえず基礎鍛錬のバケツリレーのついでに消火しててください。
その間に私は、「この先に行きたくば、まず私を倒して行け」をやってきますので。
終わった後にも、お願いしたいことあるのでその時はお願いします。
(描画は違うけどノリには順応した)
(UC『制約:狂食者』を使用。強力な再生力を持って、【怪力・鎧砕き・生命力吸収】を纏わせた拳で端から殴り倒していきます。)
はい、一部のエルフさん達は手伝ってください。
今から、死体を積み上げてそのうえで決めポーズ決めたいので、積み上げるの手伝って下さ~い。
(そして決めポーズを決めた)
●狂食の宴
「う~ん、私の周りにはいないタイプの濃いエルフさんたちだ」
戦場に似つかわしくないのんびりとした調子で呟いたのは神咲・七十(まだ迷子中の狂食者・f21248)。煌めく金髪、赤い瞳、そして白磁の如き白い肌。その身目が示す通り、彼女は夜の貴族の血を半分受けたダンピールだ。……尤も、過去の記憶を喪っているその身上はどう語っても推測の域を出得ないのだが。
「ぬおおおお!」
「ぐああああああ!?」
「アチャアアアア!」
『お前らうるせええ!!』
取り合えず。彼女の感想は正しい。戦いが激化するのに正比例してエルフ達のテンションは未だ青天井、当然その濃さもまた刻一刻と増している有様である。後、悪魔達のフラストレーションも青天井っぽい。
「散って行った仲間達の為、この森の明日の為、刺し違えてでも貴様だけは……ん?」
熱く叫んでいたエルフの戦士が、七十に肩を叩かれて振り返る。
「え、あ、いや、ええとすまない今取り込み中で……」
前評判通り女性慣れしていないのだろう。年若い女性と気づいてちょっと赤面しながらボソボソと言うエルフの男に、ダンピールはヒョイと木のバケツを差し出した。
「はい、とりあえず基礎鍛錬のバケツリレーのついでに消火しててください」
「へ?」
戦士は目をぱちくりさせる。戦いの最中に基礎鍛錬と表現するのはある意味のんびり屋の面目躍如と言う感じだが……しかし、実際の所七十の態度は何時の間にか普段の調子よりずっと活動的になっていた。
「消火、消火か……」
周りを見渡せば、木々が燃えている。生木は本来そう簡単には燃えないが、それをも超えて森火事になっているならばそれは相当な熱量と火勢だと言う事になる。彼らはアホで濃いが、それでもエルフである。自然を友とし森で生きる民なのだ。
猟兵達が来る前であれば、襲い来る悪魔達を放置して消火活動など論外だった。仮に襲ってこなくても追加で火付けされるのだから鼬ごっこであった。彼らが鍛えた拳法でもって立ち向かう事は実際理に適っていたのだ。だが。
「そうだな……貴殿らが戦ってくれるのであれば、火を消し止めるのが先決か……ぐうう」
今や七十の言葉はある意味ド正論であった。
物凄く未練がましく悪魔達を見たり歯噛みしたり肩を落としたりしつつも、エルフの戦士達の一部は渋々ながら消火活動に移る。強さに個人差は当然あるらしく弱い者から自主的に戦いを諦めている辺り、拳法関連以外は本当に真面目で不正をしない性根らしい。
後、普通に属性魔法使って水を出している者等もいて、これまで戦ってた悪魔の方が『お前魔法使えるのかよ!?』って驚いてたりもする。……まあ、流石に拳法の方が強力だからこそそっちを使っていたのだろうが。
「頑張ってください、その間に私は、『この先に行きたくば、まず私を倒して行け』をやってきますので」
「ええっ何それ羨まし……ではなく……よもやその身を犠牲にする気か!?」
前半ちょっと本音が出たが、これが漫画であれば集中線が入っているだろう迫力で驚愕して見せたエルフの戦士に対し。七十はただ笑顔を返す。
視線が交差し、その瞳の光に覚悟を見た戦士は言葉を喪うのであった。……と言う感じか。見目(描画)こそ濃くない七十だが、ノリには順応しているらしい。それが彼女の判断する所の『おもしろいと思う事』の条件に適ったのかも知れない。
『そうはさせん、森を焼くのはエルフ共を殺すより優先度の高い仕事だ。お前一人如きで押し潰して通させて貰う!』
悪魔達が吠える。立ち塞がる七十に対し複数が一斉に印を組み、金縛りの呪言によってその動きを縛る。そしてその隙を逃す気は無いと一斉に槍を構えるオブリビオン達に。
しかし七十は笑顔を向けた。
「無意味な事をしますね」
『強がりを!』
そして何本もの槍がその身体に迫り……そのまま突き刺さった。
『!?』
呆気なく攻撃が成功した事に、悪魔達は寧ろ戸惑いと不安を覚える。嫌な予感がしたのだ。そしてそれは当たっている。
「Rose, die das Leben isst」
唱える七十の身に纏う武具が何時の間にか変形している。何かを吸収する様な命かそれに等しい何かを喰らう様な……そんな禍々しいカタチ。そして深い傷を受けた筈のその身に見る見る何らかの力が沸き上がって居るのが傍目から出も見て取れた。
『……!? 馬鹿な。槍が!?』
驚愕する。槍が押し返されたからだ。……貫かれた肉が盛り上がり再生し、突き刺さった槍をそのまま押し返したからだ。圧倒的な再生力。そして溢れ出す力の奔流。
ユーベルコード【制約:狂食者(セイヤクキョウショクシャ)】。己を害する攻撃を防御しないと言う大きな制約と引き換えに与えられる圧倒的な超強化。そう、最初から避ける気が無いのだから、縛った所で意味は無いのだ。
「逃がさないですよ」
そして狂食者は拳を振るう。
その強化された怪力を以て鎧の如き悪魔の外皮を砕き、破壊によって噴き出すその生命力を吸収する。そして貯め込んだそれを使い己を更に強化し再生する。循環する狂食の宴。
殴り倒す。殴り倒す。殴り倒す。端から順にいっそ無造作に殴り倒して行く。
「凄まじいな……」
武威に秀でる為、中間の位置に残り消火にいそしむ仲間を守っていた戦士が戦慄の念を漏らし呻いた。その彼に向けられた赤い瞳は、しかし変わらず平然したもので。
「ああ、終わった後にも、お願いしたいことあるのでその時はお願いします。結構時間掛かりそうですし、幹部猟書家の後になるかもですけど」
「内容によるが……何を」
あっさりと終わった後の事を話す。彼女に取っては、この程度の戦いはどうと言う事も無いのかもしれない。戦線に出ていないとは言え、悪魔達が全滅しそうなら出張って来るでしょうし……と平然と呟く狂食の乙女に、戦士は少し怯みながら問うた。
「死体を積み上げるの手伝って下さ~い」
「な……何故!?」
少なからず驚愕した様子のエルフに、しかし七十は結局彼女自身を通す。……悪魔達をその力で次々屠りながら、だ。
「そのうえで決めポーズ決めたいので」
ニコリと笑うその笑顔。いっそ可憐とも言って良いその顔を前に、しかしエルフ達は恐怖とも崇敬とも付かぬ情動を覚えずには入れなかった。それはある意味で、局地への至った強さの一面なのかも知れないと。
●報連相
『アレキサンドライト様大変です! ノリの方向性としては判断に悩む所ですがそれはそれとして普通に難敵です!』
「……そう言えば、ノリの事よりも戦力としてどうかの方が重要でしたわね」
本当に今更ようやくちょっとだけ正気に返っていたと言う。
成功
🔵🔵🔴
鬼桐・相馬
この戦いで――大事な何かを思い出せそうな気がするんだ
【POW】
大事な何かってなんだろうな
閻羅王に仕えていた頃の記憶あたりか
〈獄卒の金砕棒〉を振るい敵集団を[怪力で暴力的に蹂躙]する
エルフ達とはアイコンタクトと頷きで謎めいた阿吽の呼吸を演出
三叉槍には〈ヘキサドラゴン〉を鞄から放ち対応
[結界術]で一応障壁は張ってやる
モモ、行くなッ!(意訳:遠慮なく行ってこい)
俺を庇い敵の攻撃を受けたかのように吹っ飛んで貰う
幼生体で転がっている姿は悲壮感漂うがエルフ達のやる気を引き出す為だ
同時に事前調達した[黒耀の軍制コート]の類似品を己の炎で燃やす演出を
現れた[獄卒紋]を見せつけながらUC発動
モモ、仇は取った
●愛と絆の物語
「この戦いで――大事な何かを思い出せそうな気がするんだ」
男は静かな、けれど何処か重い声音でそう呟いた。
だが、その言葉の意味を知る者は居ない。……本当に居ない。だがエルフ達はヌヌウとか意味深な呻きを零していた。よもや……とか言ってる奴もいた。
だがそんな事よりも。
ゴゥン! ガゴンッッッ!!
風を切る轟音、そして激突音。それだけで悪魔の一体の頭蓋がへしゃげ、更に近場の数体が余波で吹き飛ぶ。その威力、重量、この上なく凶悪。長大なる鉄塊、ビッシリと棘を備えたその威容は正に鬼の金棒。銘を『獄卒の金砕棒』と言う。
「次だ」
冷徹で直裁的な言葉と共に、軽々と腕を旋回させ振り回す。蹂躙する怪力と暴力性は地獄の鬼の如く。其れも其の筈、得物を振るう鬼桐・相馬(一角鬼・f23529)は羅刹であり、そして地獄の獄卒だ。
「大事な何かってなんだろうな……閻羅王に仕えていた頃の記憶あたりか」
若干気の逸れた事を呟いたりもするが、しかしそれで猛攻が緩む事も無い。悪魔達もその威力を警戒し攻めあぐねる様になっていた。圧倒的な破壊力は、ただそれだけで戦線をかき乱すのだ。
「鬼の闘士よ!」
そんな相馬に声を掛けるはエルフの戦士。巨体でこそないが一際鍛え抜かれた肉体を持つパワーファイターだ。余波とレンジ兼ね合いで、段々と同じ傾向のバトルスタイルの者が自然と集まってきていた。
「……」
闘士と呼ばれた青年は無言のまま、その金色の瞳で戦士の目を見返す。その一瞬のアイコンタクトの後、エルフと鬼……種族も生業も違う彼等はしかし、互いを理解しあったとばかりに同時に深く頷き合った。
謎めいた阿吽の呼吸の様相に、悪魔達が警戒の色を強める。戦い方の近しさと言う共通項が高いレベルの連携を生むのであるならそれは脅威である。しかし、或いは。
ザッと音を立て地を蹴り、2人は同時に動く。相馬は一際大きな悪魔の右側に回り込み。そしてエルフの戦士は近くの茂みに飛び込む。お花摘みしに。
全然連携出来てないし何も理解しあってねえ。
『やっぱただのそれっぽい演出かよお前らはよおおお!?』
悪魔の怒号はいっそ悲痛だった。
「敵方の不具合なのだ、むしろ喜べば良いだろう」
相馬と言えば気にもせずに金砕棒を振り回していた。連携出来ないなら出来ないでそのまま暴れりゃ良いのだと言う合理的()な判断が其処にあった。
『……見目の濃さは未だしも。鍛え抜いた体躯の怪力男……お前はある意味エルフ共と一番分かり易く相性が良い。主に会わせる訳にはいかんな』
契約に忠実なデーモン達は、割と真面目にアレキサンドライトの心情を慮っている。ぶっちゃけ一番嫌がりそうな援軍に見える相馬を此処で仕留めるべく、一斉に三叉槍を構えた。その槍に篭められた呪は攻撃力特化。パワーファイターが相手なら、数を束ねてそれ以上のパワーで押し潰せば良いと。
だがその時、男の軍用鞄から矢の様に飛び出した黒い影が悪魔達の動きに一歩先んじた。
「モモ、行くなッ!」
喉に六芒星の痣を持つ黒竜、『ヘキサドラゴン』と呼ばれるその個体名をモモ。主を守らんと飛び出た竜は、果たして三叉槍の一斉刺突を受け枯葉の様に吹き飛んだ。
「……な、何と言う忠心」
「許せぬ! こんな小さな命に……!」
竜とは言え、鞄に入るほどのサイズの動物が悪魔の一撃を受け地に転がる……。その健気さと、悲壮感の漂う残酷な状況にエルフ達のボルテージが一気に上がる。
「……」
ヨロリと首を擡げたモモと目を合わせて、相馬がコクリと頷いた。付き合いの長さが違う故に今度はさっきのエルフとのそれとは真逆にちゃんと意志が疎通している。翻訳するなら『こんな感じかな?』『良い仕事だ』と言う感じだろうか。
……ぶっちゃけ演出だったりする。そもそもこのドラゴン、この小さな身体は幼生化の一時的な物で本来はもっと大きいし。実の所、さっき相馬は止めたふりをして竜に結界術の防壁を与えていたのだ。ノーダメージとは言わないが実の所大事も無い。台詞の真意は寧ろ真逆の『遠慮なく行ってこい』である。親しい物であれば、どんな時でも決して声を荒げない彼が『!』が付く用な声を上げた事に違和感を覚えるのだろうが……生憎皆初対面なので。
『ちっ、こんなトカゲ如きに大騒ぎしやがって』
そんな事には夢にも気付かない悪魔が火に油を注ぐ事を言った。羅刹の男は丁度良いとばかりに踏み込み距離を詰めた。同時に燃え上がった焔がその服を焼き崩し、現れた上半身には常闇色の紋様が浮かび上がる。
「……おお、愛する者を奪われた怒りが焔となって」
「悲しみと怒りが……鬼の闘士を更なる領域に至らせたか!」
まー、舞台裏を知らないエルフ達からすれば当然そんな感じに見える訳で、そりゃー更に盛り上がる。こういうの大好物なのだこいつらは。
「羅刹の剛力、思い知れ」
ガンッ!!
響き渡る轟音。金砕棒ではない。頭突きである。思いっきり身も蓋も無く、額の角を悪魔の前頭に叩き付けたのだ。ユーベルコード【羅燒門(ラショウモン)】。この男の石頭は、きっと石より固い。ましてや角は尚の事だ。
頭蓋を砕かれ、崩れ落ちるレッサーデーモンを見下ろし。男は静かに呟く。
「モモ、仇は取った」
いや、死んでないけども。
●報連相
『アレキサンドライト様……すいません。そのお、絵柄と言うか主線さえ変えればバッチリ混ざれそうなレベルの剛力無双系の男猟兵がですね……』
「……まあ、覚悟はしていましたわ。寧ろ何だかいっそスッキリした気持ちな位」
悟りの境地に辿り着きかけていたと言う。
大成功
🔵🔵🔵
才堂・紅葉
「そこまでです!」
高い所から【存在感】を発揮
エルフの拳士さんにはエルフサイン【暗号作成】で設定を開示しておきます
※ハイペリア重殺術
異界渡りの拳士により伝えられる伝説の格闘術
「ハイペリアの紋章」と呼ばれる謎の紋章の力を引き出す事で、重力なる力を手足に込めて、巨人を打ち上げ竜を墜とすと言われている
武聖神拳とはかっての大戦で肩を並べて戦った
「かっての英雄の拳。鈍りましたか?」
笑みと共に悪魔の武器を【受け流し】、悪魔を投げ飛ばします
しばし共闘し
「では、“あれ”をやりましょう」
「紋章板」を放り投げ、構えを取ります
そう、合体技でオーラパンチですね
「ハイペリア重殺術……」
「天衝ッ!!」
●熱きその一撃
『このままでは不味い……少しでも押し返さねば『武聖神木』の発見もままならぬ……こうなれば、総力戦だ!』
一際長大な角を持つリーダー格の一人と思しき悪魔がそう言った後、傾きつつあった天秤はしかし一度に揺れ動いた。レッサーデーンの軍勢が一気に増加したからだ。
今回の策謀に置いて、エルフ達の全滅はそもそもオブリビオン達の本願では無い。森を焼く事も手段に過ぎない。究極的には、『武聖神木』の確保のみが彼らに与えられたオーダーなのだ。当然、対エルフ以外に咲かれていた人員も居るのだ。
だが、極一部を残した大半を全て戦いに投入したのだ。これにより戦況は更に激化し、エルフ達は再び苦境に立たされていた。
「ぐう……」
迫る悪魔の群に、エルフの戦士の一団が追い詰められている。背には燃え盛る大樹。これ以上の後退は難しい。悪魔達はここぞとばかりに武器を振り上げ、トドメの猛攻を行おうと構えを取る。そこに。
「そこまでです!」
響き渡る大音声。自信に溢れると同時に何処か気品のあるその声の元を辿り、見回した末に見つけたのは上方。燃え盛る大樹の頂上!
炎の熱で吹き上がる風にたなびく焦茶色の髪。年若いながら瞳に宿るは歴戦の風格。そして迸る存在感! 戦場傭兵にして工作員、才堂・紅葉(お嬢・f08859)の参上である。
高所に陣取った紅葉は準備とばかりに幾つかの構えを取り、一気に地に飛び降りる。
「……ぬう、今見せた構え。お前はまさかハイペリア重殺術の使い手か……!」
己達を護る様に前に立った紅葉の背に、戦士の一人が言葉をかける。女はその言葉に少しだけ首を巡らせ笑いかけた。
そして握って見せる拳の甲に輝く謎の紋章。
「おお、その青き輝き。……まさしく伝説に語られるハイペリアの紋章!」
「異界渡りの拳士により伝えられる伝説の格闘術……まさかこの目で見る事が出来るとは……!」
その言葉通り、紋章から漏れ出るエネルギーは目視が可能なほどで。
「失伝していなかった様で何よりです」
「忘れ去れるものか。かっての大戦で肩を並べて戦った戦友の流派だ」
「重力なる力を手足に込め、巨人を打ち上げ竜を墜とすと言われる技前。眼福に預かろうぞ」
レッサーデーモン達はどよめいた。アドリブで設定を合わせる事位平気でする……と言うか実際やってるエルフ達だが、しかし一連のやり取りは紅葉を中心に複数のエルフ達の間で矛盾も遅滞も無く話されている。事前の打ち合わせでもない限り、でっち上げには思い難いのだ。
勢い三叉槍を振るう速度にも陰りが混ざり、ハイペリア重殺術の技により次々と容易く受け流されてしまう。
「かっての英雄の拳。鈍りましたか?」
レッサーデーモン達の攻撃をいなし切り、何体かをそのまま投げ飛ばした紅葉が言葉を向けたのは、敵にではなくエルフ達にだ。
「……安い挑発だ。だが、だからと言ってそう言われておめおめと引き下がれんな!」
「だが言うだけはある。紋章の力を十全に引き出すその力。頼りにさせて貰おう」
援軍を前に意気を上げたエルフ達が全身に力を篭め、そして共闘は始まる。
所でぶっちゃけ打ち合わせはしていたりする。
ハイペリア重殺術も同じ名を持つ紋章も、紅葉が修め備えた力である事に偽りはない。ただ、そのスペックをエルフ達が知っていたり伝説がどうのは紅葉に教えられた設定だ。
どうやって教えたのか……それは彼女が飛び降りる前に使った動作だ。エルフサイン……それがどう言う物かは置いて置いて、歴戦の工作員である紅葉は暗号作成の技術を持っている。構えに見せた動作でエルフ達に情報を伝え、設定を開示できる程の腕前でだ。
結局、悪魔達はまた騙されているのである。しかもアドリブだとまだ気づいてないので連携を過剰に警戒してしまっても居る。まあ、尤も。
「合せて下さい。手早くぶちのめしますよ」
「応!」
投げ飛ばされた悪魔が地に落ちる前にエルフ達の蹴りが炸裂し、その骨がベギボギと鈍い音を立てる。
柔術寄りのCQCを得手とする紅葉の術理は、拳法使いであるエルフ達と相性が良い。加えて傭兵隊育ちでチームを組んでの戦いの知識も豊富な彼女は、即席であっても高い水準での連携を実現しているのだ。結果的にオブリビオン達の警戒もあながち幻では無いのかも知れない。
『ぐう、このままではいかん。おい、私に合わせろ』
大角のレッサーデーモンが指示を飛ばす。連携には連携を。数で勝る悪魔達が一際実力の高い個体を中心に猛攻を仕掛ければ、或いは今やこの場の要となっている紅葉を落とせるかもと。
「では、“あれ”をやりましょう」
だが紅葉は笑い、エルフ達に目線を躱し、術式をなす為の紋章版を放り投げる。エルフ達もまた承知したとばかりに遅滞なく彼女に続く。
一流の工作員は敵が動く前には既に対処の手札を伏せて置く物なのだ。暗号で事前に伝えられたその技……即ち、皆で行う合体技だ。
『コードハイペリア承認。疑似高重力場放出用デバイス確認……デバイスへの入力をお願いいたします』
どこからかシステムメッセージが響く。正面に展開された紋章板からか、或いは……。
ユーベルコード【ハイペリア重殺術・天衝(テンショウ)】。紋章版を打撃する事で放たれる増幅された紋章の力の奔流。平たく言うならばオーラパンチ。
「ハイペリア重殺術……」
彼女の技量であれば、二連撃で打撃し重ねる事すら可能だが……今回はそうしない。何故なら彼女一人で放つ訳では無いからだ。エルフ達が彼女に倣って並び、拳を握っている。オーラーを、闘気を、武威を、気合を、流派によって個人によって違いもあろう、しかしやる事は同じだ。全員で、合わせて、ぶち抜く!
『お、おのれ女! エルフ共!!』
不味いと気付いた悪魔達が一斉に金縛りの呪を放つ。だが遅い。寄り合わさり累加させ合い巨大な力となったそれは、滞留している段階ですらその余波で呪言の力を弾き。
そして、一斉に放たれる。
「「「天衝ッ!!」」」
その一撃は悪魔の居並ぶ群を一息に飲み込んだ。
●報連相
『アレキサンドライト様大変です! 部隊の一つが消し飛びました。それもあのアホエルフ達も交えての一撃でです!』
「ぐぬぬぬ……二重の意味で口惜しいですわね!? ……技のノリ自体は若干方向性が違うのかしら?」
割と真面目に吟味して悩んだりしたと言う。
成功
🔵🔵🔴
四天王寺・乙女
走り去る黒馬の方角から、白馬(呼んできた)に乗って現れる。
なるほど、だいたい理解したぞ、世界の理を。
エルフの益荒男達よ、安心するがいい。護国の乙女がここに来た。
四天王寺流格闘術……いや、この世界の流儀に合わせて今こそ名乗ろう。
「乙女神拳」を以て!貴様らを討つ!
聞かれてもいないが教えてやろう。
乙女神拳は乙女力を膂力に変える無敵の拳。
そして私は乙女。(自己紹介)
すなわち貴様ら悪魔に勝ち目はない。私ほどの乙女はそういないからだ!
すなわち、これこそが「乙女卓越之事」!
容易く手折れる乙女と思うな!
と、強化された身体能力による飛び蹴りと掌底で悪魔を蹴散らす。
今日の七星剣はお休みだ。
●炎の乙女
長く続いた戦いの中、一つ変化が起きつつあった。
悪魔とエルフの両陣営の趨勢……ではない。悪魔達は数を減らしてきた所で総力戦に移行、一度きりではあるがその戦力を回復させている。一方、エルフ達はと言えばガンガン倒れて行くものの、鼓舞されたり気合を入れ直したり必殺技でテンション上がったりするたび気軽に立ち上がるので意外と戦力が減って居ない。……改めて、何なんだお前ら。
閑話休題。では何が変わったと言うに、森だ。火を放たれ燃え盛る木々は当然、時が経てば燃え尽きる。そうして全てを灰燼とし、炎を防ぐ武聖神木のみを残すのがそもそものオブリビオン達の作戦。それが進んで居ると言う事でもあるが、それ以前に。
「おのれ外道共……我等の森をこの様な有様に」
歯噛みするエルフの戦士。豊かで美しかった森は見る影も無く、無惨に焦げ砕けた木々、燃え尽き灰と化した草花、今だ燃え続ける焔……差乍ら地獄の様相だ。
数多居た動物達も殆どが逃げてしまっている。エルフ達と友誼を結んでいたのか、幾らかは共に戦い、炎を消し止める作業を手伝っていたが、それもこの状況で寧ろエルフ達が逃げる様に促していた。
だから、その蹄の音が聞こえた時。最初彼らは逃がした森の動物が戻って来てしまったのかと思った。或いは、エルフ達の中でも頭一つ抜けて丈夫だった顎王の乗騎の黒馬が来たのかとも。
ヒヒィィィン!!
高らかな嘶きと共に現れたその毛並みは、しかし黒では無く白。
そしてその背に跨るは巨漢では無く、詰め襟の学生服を着た凛々しくも美しき少女。赤い炎を掻い潜り、熱気を超えてやって来た誰よりも王子様。誰かが求めた英雄、その名は四天王寺・乙女(少女傑物・f27661)!
『……この期に及んで新手か。だが、流石に拳法使いやアホでは無さそうだな』
勇ましき威容ながらも涼やかなその容貌に、レッサーデーモンの一人が苦い顔でそう呟く。だが甘い。その認識は賞味期限迄12時間を切った安売りケーキよりもチープに甘い。
「なるほど、だいたい理解したぞ、世界の理を」
馬上より戦場を見回した乙女は静かにそう言った。どうでも良いが主語がでかいな。
威厳を籠めて頷くその腕に巻かれた腕章が、気のせいかその時だけ『識別完了』と言う文言に変わっている様に見えた。直後、地に降り立った時には普段通りの『護国鎮守』に戻っていたけれど。
「エルフの益荒男達よ、安心するがいい。護国の乙女がここに来た」
いっそ静かに、けれど良く通る声でそう宣言する。腰に佩いた愛刀には触れず、悪魔達へと対峙しながら拳をもう一方の手で握り解して行く。バキボキと小気味の良い音が鳴った。
『あ、嫌な予感して来た』
悪魔達もようやく気付き始めたらしい。まあ、気付いても結果は変わらないけど。
「四天王寺流格闘術……いや、この世界の流儀に合わせて今こそ名乗ろう」
そして徐に拳を固め。乙女は叫ぶ。
「『乙女神拳』を以て! 貴様らを討つ!」
悪魔達は一斉に頭を抱えた。
後、主語がでかいと言うかひょっとしてこの娘アックス&ウィザーズそのものがこういうノリの世界だと誤解しているような……いや、気のせいだよね? きっと、多分……。
「聞かれてもいないが教えてやろう。乙女神拳は乙女力を膂力に変える無敵の拳」
『本当に教えていらないなあ!?』
飛翔するが如き跳び蹴りにて悪魔の一体を蹴り飛ばした乙女が、息一つ切らさずに説明を始める。やんわり……いや可也ダイレクトに拒否されているが気にしない。
後、乙女力って何だろう。悪魔達にはサッパリ分からなかった。が、もエルフ達はなるほどって顔をしていた。フィーリングで何と無く掴み取ってるらしい。
「そして私は乙女」
投擲された三叉槍を掌底にて打ち払う。襲い来る呪いの鎖を手刀で打ち払う。
その身体能力は異様な程に高く。『今日の七星剣はお休みだ』と言って未だに武器を抜き放たず徒手空拳を通しながら、その威力は一撃必殺に程近い。
『……いや、貴様が若い女性なのは見れば分かるが』
砕かれた鎖の破片を牽制にと蹴り飛ばしつつ、悪魔は一歩飛びのいて呻く。ウンザリしつつも無視はしない辺り、割と律儀ではあった。
「いや、そうではなく。名前が乙女なのだ。四天王寺・乙女と言う、よろしく」
唐突に自己紹介をして来た。
『……は?』
戸惑う敵手に対し、しかし少女傑物は実は結構豊かな胸を張る。
「すなわち貴様ら悪魔に勝ち目はない。私ほどの乙女はそういないからだ!」
『すまないが我々にも理解できる言語で喋ってはくれないか!?』
返された叫びは怒号とも悲鳴ともつかなかった。
「すなわち、これこそが【乙女卓越之事(オトメハミズカラヲウタガワナイ)】!」
そう、それこそが乙女の強力な戦闘力の秘密。『相対する敵よりも乙女である』事を条件とした超強化のユーベルコード。
しかも名前がそもそも乙女であると言うアドバンテージにより、例え敵がうら若い女性であっても先ず条件を外す事は無いと言う万能さだった。
彼女こそ、世界でいちばんおとめさま!
『なんだそのズルい裏技はー!?』
邪悪と卑怯が身上の筈のデーモン達が、思わず普段と逆の事を叫ぶ。
「容易く手折れる乙女と思うな!」
『断じて思わんわ!? お前ほど茎のブっとい花はそうありはしないわ!』
物理的な意味で言うなら、まあさっき見た気もしなくも無いが。兎も角その我の強さ、言い替えるならば意志の強さは相当な物であり。そして。
「その武威、正に獅子奮迅か……」
悪魔達を蹴散らすその勇姿に、エルフの戦士達も負けてはいられないと残された力を振り絞るのだった。
●報連相
『アレキサンドライト様大変です! 乙女が乙女でより乙女なので乙女で……ええとだから乙女が』
「……ゲシュタルト崩壊起こしかけてますわよ。ほら、深呼吸して。落ち着いて……今はあちらで少し休んでいなさい。恐らくは私達も、遠からず出なければならないのでしょうから」
決戦の時は近い……と言う空気で上手く誤魔化して詳しく聞く事を回避したと言う。
成功
🔵🔵🔴
神代・凶津
何だこれ。
エルフの森が焼かれるって話だから急いで来たが、大分余裕そうなんだが。
てか、エルフも先に来た猟兵達もテンション可笑しくね?
「・・・ともかくエルフの方達を助けないと。」
そうだな、相棒。
んじゃ、戦闘開始といくか。
あ~・・・俺の名を言ってみろ。
「・・・無理にテンション合わせなくていいから。」
雷神霊装でいくぜ、相棒ッ!
「・・・転身ッ!」
こいつは俺の寿命を削る代わりに莫大な力を得るユーベルコード・・いや設定じゃねえよッ!?
戦場を縦横無尽に駆け抜けて敵の攻撃を見切り破魔の雷撃を纏わせた斬撃をぶちこんでやるぜッ!
拳法の戦いで刃物は卑怯?
やかましいわッ!?
【技能・破魔、見切り】
【アドリブ歓迎】
●天神と鬼の舞
「何だこれ」
響いた男の声は、少なからず呆れた様でもあった。
「エルフの森が焼かれるって話だから急いで来たが、大分余裕そうなんだが」
見回せば、戦いは既に長く続いた後ではある様なものの、決着はついていない。別に出遅れた訳では無かった。
けれど。
「ハイパー武聖神拳奥義改・奥の伝・真超奇跡!」
枕詞が多過ぎて技の発動まで無駄に時間のかかっているエルフがいる。この戦いで何回開眼したんだあいつ。
「愛する友が居る限り、私は何度でも立ち上がる!!」
『何十回だよ!? 幾らなんでもいい加減にしろよお前は!』
ボロボロなのはエルフなのに、ツッコむ悪魔の方が泣きそうになっている。
『ぎゃあああ!? なんなんだその理屈はあ!』
『矢張り猟兵共はエルフ共より強いか……ノリの濃さも。寧ろノリの濃さが!』
半ば愚痴めいた声も聞こえて来た。
「てか、エルフも先に来た猟兵達もテンション可笑しくね?」
本当にな。いやもう、本当にな!
「……ともかくエルフの方達を助けないと」
促すようにそう言ったのは可憐なる巫女の女性。霊的な防御の施された巫女服を身に纏い、その両手で大事そうに持つのは鬼の面。しかし最初に響いた男の姿は見当たらない。
「そうだな、相棒。んじゃ、戦闘開始といくか」
その声に応じ、鬼面を持ち上げる巫女。その面の口元が動いている……そう、見当たらぬ男の声はこの仮面……カテゴライズするならヒーローマスクに分類されるであろう神代・凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)の物だったのだ。
こう見えて飯も食うしビールも呑む、かつ実は表情も豊かな謎の仮面である。
「あ~……俺の名を言って見ろ」
相棒たる巫女……神代・桜に被られながら、取り敢えず言って見る凶津。
「……無理にテンション合わせなくていいから」
桜に冷静に突っ込まれる辺り、割と付き合いの良い性格な様ではあった。後、名前ではなく名と言う所の気遣いもさり気なく輝いてる。
ともあれ。
「雷神霊装でいくぜ、相棒ッ!」
戦場に飛び込むと同時、響き渡る凶津の声。
「……転身ッ!」
鬼面の巫女が答え、顕現するはその名の通り鳴神の装い。ユーベルコード【雷神霊装(スパークフォーム)】。二人の力が合わさる事で現れその身に纏われた霊装(フォーム)は雷を放つ。
『ヌウ、これは……おい、強敵だ集まれ!』
『囲め! これほどの出力、長くは持たん筈だ!』
悪魔達も即座に警戒し、概ねの場合に置いて的確であろう対処へと移る。人数差によって休む暇を与えず、エネルギー切れを狙って仕留める気なのだ。
だが、その判断は正しいとは言えなかった。
「こいつは俺の寿命を削る代わりに莫大な力を得るユーベルコード……」
凶津の言葉に、悪魔達に動揺が走る。それが本当であれば、命そのものを代償として削って捻出したその出力は、数を頼みに囲んだ程度で潰える様な量では無いかもしれない。
……のだが。
悪魔の一人は少し思案気に髭を弄り。少しの逡巡を挟むも、結局何かちょっとコソっと一応確認して置くけど的な感じの調子で聞いて来る。
『……そう言う流派設定的な?』
「いや設定じゃねえよッ!?」
こいつ等、これまでどんだけ猟兵とエルフ達のアドリブ設定に振り回され続けて来たんだろう……凶津の内心に何とも言えない感情が去来したとかしなかったとか。
「ぶちかますぜ、相棒!!」
相棒たる仮面の声が響き、戦巫女は戦場を縦横無尽に駆け抜ける。同時に振るわれた妖刀には紫電が幾重にも纏われ、ただでさえ恐るべき切れ味を持つ業物の一撃に迅雷の迫撃を重ねる。
『おのれ! だが、ならばその動きを封じれば……』
その高速移動を先ずは奪おうと、金縛りの呪いを差し向けるべく悪魔達が印を結ぼうとするも。
「……させません。その悪しき術、斬り祓いますッ!」
それを見す見す逃す彼等では無い。
術の初動を見切りぶち込まれた斬撃、そして破魔の雷撃が蹂躙し未完成の呪と一緒にその身体を打ち砕く。或いは完成した呪であってすらそのまま砕いたかもしれない。そう思わせる膨大なエネルギー。
そもそもが靂……かみのふるめきともかみときとも言い現わされる、何れにしてもそれは神域の所業とされる暴威。悪魔……それも低級と銘打たれるレッサーデーモン如きに防げる物では無いのだ。
まして桜からすれば相棒……いや、兄の様な存在である凶津の寿命を使っている以上。その戦いに躊躇や手心等生じよう筈も無い。一刻も早く、一手でも少なく勝利を掴むべく全力を放つのかも知れない。
『強い……! しかし拳ではなく、武器を使う猟兵か……』
「拳法の戦いで刃物は卑怯? やかましいわッ!?」
尤も、当の凶津の態度はそんな事を気にもしてない様にも見える。もしかすると、謎の仮面と言う己が身の上に取って寿命が然程深刻な要素でないのか……。或いは、妹も同然の存在たる相棒の心に負担を与えぬ為の態度なのか……。
その真意は彼自身にしか分からないのだけれど。
後。
『いや、寧ろあのノリで無駄に濃い拳法使って来る奴ばっかりなんで……正直ちょっと有難い』
「……大丈夫かあんたら」
真顔(山羊面だけど)で言って来る悪魔共の有様に、再び彼の心に去来した感情がどう言った物だったかも……まあ、その、彼にしか分からない物ではあっただろう。
●報連相
『アレキサンドライト様……申し訳ありません。我等は最早、総崩れの様相となっております。……ああ、後、拳法を使わない絵面も体型も濃くない若い女性の剣士が……』
「こうなれば仕方ありませんわね! 私が出ましょう!」
前半より後半の情報に反応して食い気味に立ち上がった様に見えたと言う。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『チーフメイド・アレキサンドライト』
|
POW : カラーチェンジ
対象の攻撃を軽減する【赤紫色のボディ】に変身しつつ、【100発/秒で弾丸を発射するガトリング砲】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
SPD : メイドの嗜み
【カラーチェンジした腕】で受け止めたユーベルコードをコピーし、レベル秒後まで、カラーチェンジした腕から何度でも発動できる。
WIZ : 掃除の時間
【ガトリングからサイキックエナジーの弾丸】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
イラスト:サカサヅキミチル
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠月夜・玲」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●とあるエルフの述懐
別に彼らが嫌いな訳では無いわ。寧ろ感謝している位よ。
……そうね。順に説明するなら、私達エルフは長命でしょう? その上で、森の生活は変化に乏しいの。自然と一体化すると言う意味では、そう言う不変さこそを重んじるべきなのかも知れなけれど……私達はそうはなれなかった。彼らも含めてね。
けれど変化を求めて外に出る訳にも行かない。……守るべき物、使命があるから。そうするとね、段々生きているって実感すら無くなっていくのよ。薄れて広がって、目に見えなくなるみたいに。
だから、これと決めた指針が欲しくなった。これが欲しい。これを目指す。これが自分達だと言う誇りを持って生きていける事。そう言うのがあれば、楽しい。その気持ちはね。分かるのよ。
まあ、趣味と言うか方向性としては全然合わないから出て行ったんだけどね。
それだって『お前たちが出て行って数が減った分は自分達が強くなるから、使命の事は気にするな』って言ってくれたからだし……アホだけど良い奴らなのよ。だからさっき言った通り感謝してるし、応援もしているわ。楽しめて、満足できると良いねって。
……巻き込まれた人には、ご愁傷さまとしか言えないけど。
●最初位はカッコ良く決めさせたげて下さい
現れたアレキサンドライトは、居並ぶエルフの戦士と猟兵達を睥睨し溜息を吐く。
「なるほど……貴方達では抑えきれない筈ですわね。これほどの戦力とは」
『……申し訳ございません』
頭を下げるレッサーデーモンの生き残りに、掌を向けて制する。鷹揚にフルフルと首を振って肩を竦める。
「いいえ、寧ろごめんなさい。これは寧ろ私の采配ミスですわ。貴方達はもう戦わなくて構いません。後の搬送作業の為にもこれ以上死なれると困りますもの」
ガチャリとガトリング砲を持ちあげ、無造作に構える。
そうして開いた手で早く生きなさいとばかりに手をヒラヒラと振った。
『お、お待ち下さいアレキサンドライト様。せめて奴らの詳細な情報を……』
食い下がるのは契約を順守する悪魔故か。実際、アレキサンドライトは途中の悪魔達からの報告を後半……いや割と最初の方から全然ちゃんと聞いていない。エルフ達のノリが寧ろ補強されて行っていると感じて耳を塞いでいた訳だが……当然その結果、悪魔達が知り得たエルフ達と猟兵達のスペックを今一把握していないのだ。
せめても情報の有利をと意気込むデーモンに、しかし契約の主は寧ろキョトンとした顔を向けた。
「何でそんな物が必要ですの?」
『は?』
横長の瞳の目を丸くした悪魔を一瞥だけして、メイドは敵手達を改めて見回す。
「確かに貴方達には荷の重い方々のようですわね。けれど……」
その美しい宝玉の目に宿るのは自負。自信。確信。
「私からすればこの程度。どんな力を持っていようが全員ぶっ飛ばせば良いだけですもの」
傲慢。だがそれは確かな力と能力に裏付けられた暴言。
彼女こそは幹部猟書家チーフメイド・アレキサンドライト。エルフの拳法家等物の数では無い、そして猟兵共如きが何するものぞ。さあ、掃除の時間だ。
「全てはお嬢の為に」
かくて戦端は開かれる。
神代・凶津
おうおう、どんな力を持っていようが全員ぶっ飛ばせば良いだけとは言ってくれるじゃねえか。
こっちもてめえがどれだけ強大な力を持ってようがぶっ倒すだけだぜッ!
風神霊装でいくぜ、相棒ッ!
「・・・転身ッ!」
敵のガトリング攻撃を破魔の暴風を纏った薙刀で受け流しなぎ払いながら近付くぜ。
多少の攻撃は貰ったところで霊装を纏う風の防御で軽減できるしな。
近距離まで近付いたら薙刀で斬りまくりつつ敵が攻撃するタイミングを見切って避けてまた斬るを繰り返してやる。
さっさと俺達に倒されちまいなッ!
・・・やたら濃い拳法使いにやられたくなければな(ボソッと精神攻撃)
【技能・破魔、受け流し、なぎ払い、見切り】
【アドリブ歓迎】
サティ・フェーニエンス
僕はどうしても火力不足
となれば、一撃必殺が重そうなエルフさんと組んでお力になれれば
とはいえ必殺技が終始あちらこちらで叫ばれていれば、どの人が重い攻撃だろう…と再び途方に暮れたり
何とか見つけられれば、支援する事、盾役になる事を伝え、UC発動
エルフさんの動きに合わせ盾本たちを動かしていれば
敵のコピー本たちまたは別攻撃
「っ間に合え…!」
盾の裏側、エルフさんの背後を狙われたら咄嗟に自らの体で庇う
「ッ僕はいいです!今です…!」
防いだ瞬間の敵の隙があればエルフさんへ叫んで教える
「僕は、これくらいじゃ死なないので。まだまだいけます」
エルフさんには油断せず応戦を続けて欲しい
素で少年バトル漫画状態、かもしれない
テラ・ウィンディア
よくぞここまで来た
エルフの森を焼くとかいう大罪を犯した報いを味わう時だ
わが武聖琉拳の塵と貸すがいい
(何故か黒帝号に乗ってぱからんぱからん搭乗。もうサイズ差が凄い
我が拳は万物を砕く剛の拳!
そして既に我が見は魔界に堕ちた…そう…武聖琉拳の神髄へと!(もうノリノリ
さぁ!お前も我が拳の錆と散るがいい!(これ悪役じゃない?
【戦闘知識】
敵の動きと癖を分析
【見切り・第六感・残像・空中戦・盾受け】で飛び回りつつ可能な限り回避して避け切れない時は盾で受け止めて致命は避ける
さぁ!我が拳を以て散るがいい!
上空を制すればメテオブラストぉ!!
全霊の踵落としを以て粉砕だ!
【重量攻撃・二回攻撃・早業】で威力増強!
突っ込み待
紫・藍
藍ちゃんくんでっすよー!
ではでは皆様方も名乗りを……やや、ガトリングとは聞く耳持ちませんかー!
藍ちゃんくんの歌唱楽器演奏コミュ挑発パフォ言いくるめを聞かないだなんてもったいないのでっすよー?
藍ドルオーラで軽減したいとこでっすが、エルフの皆様はそうはいきまっせんかー
でもでっすねー、拳士たるもの、ただでは地に伏せないのでは!
皆々様の個性豊かなお言葉を、どうかおじょーさんにお伝え下さいなのでっす!
ええ、ええ、ええ、ええ!
おじょーさんは耳を塞いだ!
それは皆々様と藍ちゃんくんからうるせええと逃げたということ。
すなわちその時点で――おじょーさんはもう負けてるのでっす!
エダ・サルファー
無手に対してガトリング砲、攻撃を軽減する特性、慢心を裏打ちする実力……
フッフッフ、ハァーッハッハッハッハ!
多分お前は負けるなんて思っちゃいないだろうし、実際それくらいの戦力差はあるだろうな!
だが!そこまで逆境を積み重ねられたら、私や彼らががワクワクしないわけないだろ!
覚悟しろよ?お前は絶対正面からぶん殴る!
というわけで真の姿解放!
巨拳を弾除けに使いつつ、アレキサンドライトとの距離を詰める!
完全に防げるわけはないけど、私が戦える程度の状態で近接できれば良し!
攻撃が私に集中して、他が楽になれば尚良し!
距離さえ詰めれば格闘家のフィールドだ!
ダメージ軽減なんぞ気にせず全力の聖拳突きをブチ込んでやるぜ!
●嵐の中で輝く刃と歌
「藍ちゃんくんでっすよー! ではでは皆様方も名乗りを……」
物怖じしないと言うかマイペースと言うか、幹部猟書家の覇気にも臆することはなく藍は藍らしさを通して名乗りを上げ、他の戦士達にも続けさせようとして。
ガガガガガッ!!
「やや、ガトリングとは聞く耳持ちませんかー!」
放たれたサイキックエナジーの弾丸に言葉を遮られ、藍は少し口を尖らせる。
「当然ですわ。この数の小虫の自己紹介等、聞いていては日が暮れますし。聞きたいとも思いませんわね」
傲然と言い放つチーフメイドに、愚か姫はでもと小首を傾げ。
「藍ちゃんくんの歌唱楽器演奏コミュ挑発パフォ言いくるめを聞かないだなんてもったいないのでっすよー?」
「堂々と言いくるめって言ってるじゃありませんの!」
アレキサンドライトの怒声はさて置き、藍が場の空気を動かした事でエルフの戦士達もそれぞれに動き出す。ガトリングの弾丸は強力、掃射であっても油断をすれば一撃で屠られかねない程の武威を持つ。
「でもでっすねー、拳士たるもの、ただでは地に伏せないのでは!」
だが、藍の声がその身を支える。脚を立たせる。
そして愛用のソウル・ビートなマイクを取り出した藍は歌い出す。大音響で。
「皆々様の個性豊かなお言葉を、どうかおじょーさんにお伝え下さいなのでっす!」
とは言うが君の歌が響き過ぎて聞き取れない迄も在り得ますよこれ。
だがエルフ達もさるもの、寧ろ負けてなる物かと渾身の大音声で各流派を主張し始めて……。
「五月蠅いですわああああ!?」
チーフメイドがブチ切れる。いや、まあ、うん。無理も無いわ。
だが実の所これこそが藍のユーベルコード【藍ちゃんくんワンマンショー!(ワールド・イズ・アイ)】の発動条件。うるさいと思われたなら尚の事この歌を届けねばと、対象のハートを狙い撃ちするべくそのマイクから放たれるは収束型藍ちゃんくん大大音響美声衝撃波! ……意味は良く分からないが兎も角凄まじそうではある。
「貴方の為に歌いまっす! というやつでっすよー! 永遠にアンコーッルなのでっすよー!」
「無間地獄じゃありませんの! て言うか私の為なら音量を下げなさい!」
思わず耳を塞ぐアレキサンドライト。そしてその様子をビシリと指さす藍。
「ええ、ええ、ええ、ええ! おじょーさんは耳を塞いだ!」
歌に交え飛ばされる言葉は自信満々の勝利宣言。
「それは皆々様と藍ちゃんくんからうるせええと逃げたということ。すなわちその時点で
――おじょーさんはもう負けてるのでっす!」
「ななな、何ですのその釈然としない理屈は!?」
猟書家の御嬢様は納得できない様子ではある。が。
「なるほど確かに!」
「言の葉にて負けた相手に、武にて勝てぬ道理無し」
「そう考えたらこの銃創も平気な気がして来たな、肺貫通してるけど」
エルフ達は何か納得して戦意向上し始めた。気持ちと言うのは侮れない物なのだ。でも最後の奴は直ぐ下がって治療しないと死ぬと思う。
だが何にせよ殆どの者が銃弾の雨に怯まず戦いを敢行する様になり。
「これなら……!」
ましてサティが操る彼自身の分身たる分厚い古書が盾としてその急所を護れば、強壮なる戦士達であればその意気挫ける道理も無い。
「僕はどうしても火力不足。となれば、一撃必殺が重そうなエルフさんと組んでお力になれれば……」
ヤドリガミは呟き、エルフ達を見やる。彼がディフェンスを担う事で攻撃に専念して貰える、そうする事でより戦況を傾ける事の出来る戦士を選ぼうと探すのだが。
「秘奥義! 漆黒白熱舞闘!!」
「渾身奥義! 武覇衝撃連殺!!」
「爆熱必殺! バーニングソウルウェーブ!!」
とはいえ必殺技が終始あちらこちらで叫ばれている。と言うか進化し過ぎて方向性変わってきてる奴も居る。何にせよどいつもこいつも一撃必殺感溢れる文言ばかりで。
「どの人が重い攻撃だろう……」
と、途方に暮れるのも無理からぬ事ではあった。
「矢張り厄介ですわねこのエルフ達……濃いし。……と言うか濃いのが厄介ですわね」
一方、次々と打ち込まれる必殺技をガトリングの弾幕で押し止め、華麗に躱し、未だ一撃を受けないままのチーフメイドは、しかし何か妙に疲弊した声で戦場を見渡す。
と、その目が毛色の違う姿を映した。
「貴女、そう、報告で聞いた猟兵の方ですのね。……得物は変えたようですけれど」
見やる先、その言葉の通りに神代・桜の構える武器は先の妖刀では無く薙刀になっている。だが鬼面の巫女と言う姿が他にある筈も無く、報告で聞いた一番エルフ達のノリを薄めてくれそうな猟兵だろうと確信してオブリビオンは少し微笑み。
「おうおう、どんな力を持っていようが全員ぶっ飛ばせば良いだけとは言ってくれるじゃねえか」
響き渡った凶津の声にちょっと『ええー』って顔になった。謎の仮面たる凶津は今桜の顔に装着されており、必然的に声の出所は見るからに女性である桜の口元からとなる。まあ、初見ではちょっと戸惑いますね。
「こっちもてめえがどれだけ強大な力を持ってようがぶっ倒すだけだぜッ! 風神霊装でいくぜ、相棒ッ!」
「……転身ッ!」
二人の力が一つに合わさり、顕現せし霊装。されど先の雷ではなく此度巻き起こるは荒れ狂う暴風。ユーベルコード【風神霊装(ストームフォーム)】、霊鋼の薙刀に纏われしは風伯の力か、牽制にと放たれたガトリングの掃射を容易く受け流す。
「ヒーローマスク……なるほど二身一体……!」
改めて強敵と理解したのだろうアレキサンドライトが掃射を止め。彼女一人を狙ってサイキックエナジーの弾丸を集中させる。六連装の銃口から放たれるその物量は圧倒的だ。だが。
「しゃらくせえッ!!」
魔を断ち穢れを祓う薙刀は、破魔の暴風を纏った事でサイキックエナジーの弾丸を鎧袖一側に薙ぎ払う。勿論数多の弾丸全てを防げる訳では無いが、フォームを纏う風の防御がそのダメージを軽減しており、多少の攻撃は承知の上とばかり二人は怯まず敵手に近付く。
「ちっ、流石に容易くはありませんわね……!」
薙刀の刃と風の一撃を受け、チーフメイドはその煌めくかんばせを歪ませた。
●強くなれ立ち上がれ
ドガガッ ドガガッ ドガガッ
重い音が鳴り響く。
「……この、生物学に喧嘩を売ってるレベルの蹄の音は」
幹部猟書家の眉根がウンザリと寄る。きっとその背にはあのトンチキ大食い王が乗っているんだろうなあて言うか未だ生きてたのか凄いなあいつとか覚悟しながら目線を向けて。
「よくぞここまで来た。エルフの森を焼くとかいう大罪を犯した報いを味わう時だ」
黒帝号(改名済み)なる巨体の黒馬の背に乗っているテラの姿にちょっとキョトンとした。
「あ、ああ。そう言えば報告で何故か猟兵が乗っていたと……て言うか本当に何でですの。後、見目が物凄いサイズ差ですわね。それと『とか』って何で微妙に曖昧ですの」
突っ込みが渋滞を起こし始めたチーフメイドに対し、テラは堂々と慎ましい胸を張る。
「わが武聖琉拳の塵と貸すが良い!!」
ツッコミは完スルーである。半ば覚悟はしていたアレキサンドライトはですよねって顔で少し遠い目をしてから。
「……武聖琉拳?」
本当に報告全然聞いて無いんだなあこの人。
「うむ。我が拳は万物を砕く剛の拳!」
そしてテラも我が意を得たりとばかりに応える。
「そして既に我が見は魔界に堕ちた……そう……武聖琉拳の神髄へと!」
「貴女さっきまで正に魔界の住人的な悪魔達を殺戮してたんではありませんの……」
もうノリノリ最高潮のテラは、猟書家の冷静なツッコミを物ともせず構えを取る。
「さぁ! お前も我が拳の錆と散るがいい!」
これもうどっちが悪役か分かんないな……。
「藍ドルオーラで軽減したいとこでっすが、エルフの皆様はそうはいきまっせんかー」
歌う藍が戦況を見回し呟く。
「ぐ、ぬう……」
「……何のこれしき!」
「うぐう、我が脚に……!?」
藍ドルオーラの原理は不明なれど、そこは流石の猟兵と言うべきか藍自身の消耗は少ない。けれどエルフの戦士達は実際そうはいかず、ばら撒かれるガトリングの威力に刻一刻と消耗させられて居る様で。
「いえ、それなら……!」
そこにサティの声が響く。同時、彼の展開する本の盾が倍増……いや、六倍以上に増える! ユーベルコード【錬成カミヤドリ】によって複製される本体……彼の場合の古書の数は、その実力を以て増減する。であれば鉄火荒れ狂う戦場を経験し、エルフの戦士達との共闘を経た彼の実力が最初のままと言う筈もないのだ。
「見つけられないなら、全員守ればいい! 皆さん、僕が盾役として支援します!」
種は割れ、卵は孵る。成長と言う名の覚醒は数多の守りを戦場に広げ、未だ立って戦うエルフ達の大半の守りを為す。
戦士達もその意を汲んで一斉に己が最大出力の技を放とうと構えを取り、その様子を見たチーフメイドも流石に不味いと身を翻す。
「これは厄介ですわね。……であればこの様に」
エルフの戦士に肉薄したかと思えば、しかし何時の間にか手袋を外されたその右手が伸ばされたのは戦士にではなく、その急所を守る古書。
サティのユーベルコードの実態と言えるその書に触れた宝石の腕が、ずっと透明な空色の青に変わる。瞬間、戦場に現れるは鏡写しの様にサティの真身にそっくりな古書。ただ違うのはその宝石の様な色合いのみの、複製の複製。ユーベルコードをコピーされたのだ。
「メイドの嗜みと言う奴ですわ」
平然と言ってのけるその言葉の是非は兎も角として、コピー本達の群の動きはサティの操る盾本達の動きに比べれば精密さに欠ける。けれど群れを成し大挙すれば、1人2人の戦士を押し退ける事は出来る訳で。
本の群に大きく態勢を崩され、背後を晒した戦士に銃弾の雨が迫る。
「っ間に合え……!」
だが、それを座して見ているサティではない。彼は言ったのだ。自分が盾役になると、支援すると。であれば、それを成し遂げるのが筋と言う物。
「ぬう、何と言う事を……」
己を庇った少年(に見えるヤドリガミ)がその背に銃弾を受けたのを目の当たりにし。エルフの戦士が少なからず動揺する。だがその彼の惑いを叱咤するのもまた、そのサティだ。
「ッ僕はいいです! 今です……!」
「! すまん。相分かった! うおおおお!」
その行動は猟書家にとっても予想外だったのだろう。防いだ瞬間、チーフメイドの動きが止まりその目に迷いが走るのを見て取ったサティは、戦士達に敵の隙を叫び教え。エルフ達はその意気に答えて渾身の技を撃つ。
「くうっ! ……私とした事が、貴重なノリの違う敵を仕留めてしまったかと思い動揺してしまうとは……」
何か微妙に力の抜ける事情を聞かされた気もするが、それは兎も角その連携は功を奏し、アレキサンドライトの身に明確なダメージを複数与える事に成功する。
自分達の攻撃がこの強敵に届くのだ。その実績はエルフ達の戦意を一気に引き上げた。
「僕は、これくらいじゃ死なないので。まだまだいけます」
負った傷を物ともせず、油断せず応戦を続けて欲しいと語るサティ。
戦士達の目に心配が映る、だがしかしそれ以上に篭るのは覚悟と決意だ。これほどの勇士にこうも献身を捧げられ、これで出来ぬと等言える筈がない。
一人の勇者の行いが他の者をも勇者へと押し上げる。そして生まれた意志と力は大きく最強の矛となる。
「友情と努力と勝利……って感じですわね……」
何時の間にか手袋をはめ為した手で傷口を拭いながら、チーフメイドは口元を歪めた。素で少年バトル漫画状態のこういうノリはこういうノリで居辛いが……それ以前に、敵として最も厄介の類だ。と。
●脅威と判じ敵と認める
藍の歌声をBGMに激化する戦いの最中、単騎にて大火力を成すアレキサンドライトに対し、猟兵と戦士達はどうしても入れ代わり立ち代わりの戦い方となりつつあった。強大さとは比例せず普通の人間サイズの幹部猟書家にまさか全員同時で攻撃は行えず。反撃のダメージを喰えば一度引き下がり追撃を避けねば命に関わる。
だがだからこそ、正面に立つという。最も危険で重要な仕事を誰かがせねばならない。
「無手に対してガトリング砲、攻撃を軽減する特性、慢心を裏打ちする実力……」
どんな強者でも二の足を踏みそうなその役所を、しかし好き好んで担う女傑もまた此処に居る。
「フッフッフ、ハァーッハッハッハッハ!」
堂々と目前に立ち高笑いすら上げるエダの様子に、アレキサンドライトは身を固くする。彼女の勘が、一見狂した様にすら見えるそのドワーフをしかし決して侮ってはいけないと警鐘を鳴らしている。
「多分お前は負けるなんて思っちゃいないだろうし、実際それくらいの戦力差はあるだろうな!」
確認する様に叫び、手を振って周囲を示す。事実、既に傷の浅く無い者も数多居る。最初に吐いた言葉が決してハッタリや脅しではない事はエダ自身良く分かっている。
しかし、いやだからこそ。
「だが!そこまで逆境を積み重ねられたら、私や彼らがワクワクしないわけないだろ! 覚悟しろよ?お前は絶対正面からぶん殴る!」
大宣言。
同時、その背後に巨大な二つの拳が現出する。
「……真の姿。生命の埒外……!」
勘が最も悪い方向に当たったと、猟書家はその身体を赤紫色にカラーチェンジさせた。それは受けた攻撃を減衰させる防御形態にして。根本的な生命力を燃やす事で為される強化形態。
「喰らいなさい!!」
ガトリングの回転が加速され、毎秒100発の勢いで弾丸が放たれる。ただ一人、エダのみを狙ってだ。
「好都合だ!」
だがドワーフの格闘聖職者は寧ろ笑う。元より巨拳を弾除けに使い、格闘の間合いまで距離を詰める心算なのだ。完全に防げることは無いだろう、だが戦える程度ん状態を維持して近接できれば良しと言う覚悟。
かつ、攻撃が自分に集中して、他が楽になれば尚良しだ。この流れは正に彼女の狙い通りと言える。
「読めたぞ。お前は普段掃射が使える分、一人に集中すると視野が狭くなるだろ」
そしてその隙を逃す猟兵では無い。
側面より飛び込んだのはエラだ。若くして高く積み重ねた戦闘知識を基とした敵の癖と分析、その情報から弾き出されたもっとも大きな弱点を突こうと一歩早く肉薄する。
「くう!?」
アレキサンドライトが慌てて銃弾を其方にも向けるがもう遅い。即席の弾幕など恐れるに足らず。飛び回りつつ見切り、先読みし、残像で惑わし、回避する。避け切れぬ一撃は補助武装として備えたビーム型の光盾が弾き致命傷を防ぐ。
「さぁ! 我が拳を以て散るがいい!」
宙を舞い上空を制すれば叫ぶ声も鋭く、放たれる一撃は尚一層に鋭い。
ユーベルコード【メテオ・ブラスト】。流星の力をその身に宿し、今一筋の流星と化す。即ち! 全身全霊の踵落とし!!
「拳じゃないですわ!?」
本当にな。この期に及んでも結構マメなツッコミだった。
ガゴゥン!!
咄嗟に庇う様に出されたガトリングの砲身を押し退け。重量を篭めたインパクトがチーフメイドを粉砕せんと強打する。そしてそれだけでは無い。
「次だ!」
一瞬の早業、一撃目の反動を利用し空転した身体から放たれる二度目逆脚の踵落としがさらなる追撃を成す!
然しもののアレキサンドライトとてこれには溜まらず態勢を崩す、そこに更に暴風と白刃の連撃が迫り。
「さっさと俺達に倒されちまいなッ!」
ギリギリで身を翻した猟書家に更に薙刀を振るう桜と煽る凶津。
薙刀を縦横無尽に振るい斬りまくりつつ、ガトリングを撃ち込めどそのタイミングを見切り飛びのく。距離を開けずにのヒットアンドアウェイはシンプルだが有効だ。
「……やたら濃い拳法使いにやられたくなければな」
「的確にいやーな精神攻撃をしてくれますわね……」
ボソッと挟み込まれる言葉に微妙な顔をしたりして。
そんな攻防を挟んで居れば当然、多少の傷を物ともしない格闘家の接近を抑え込める道理も無し。気が付けばドワーフの小さな体躯が目前にあり。
「距離さえ詰めれば格闘家のフィールドだ!」
カーラーチェンジによるダメージ軽減等知った事では無いと拳を握る。連動して背後の巨拳もまた同様に動き、構えはただ真っ向からの正拳突き。
一撃。勝ちたいのであればただ強力な一撃を。それさえあれば他に必要な物は無いと言う。それは理想論だ、だが真理でもある。その極致を思い出させる、ただただシンプルに強力な一撃が放たれる。
「くらえ必殺! 聖拳突きぃっ!」
余波が周囲の地面をひっくり返し、燃える木々をへしゃげさせ焔すら吹き消す。ユーベルコード【必殺聖拳突き(ヒッサツセイケンヅキ)】、正式名称は違えど振るったエダ自身の好みに沿うなればこう呼ぶべきだろう。
祈りの込められたその一撃を受け。されど未だ倒れず。
「……おやりになりますわね」
罅割れの起きた懐を少し庇いながら、幹部猟書家は此処に来てようやく猟兵達とエルフ達を脅威と認めた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
アリアケ・ヴィオレータ
アドリブ・連携歓迎
【POW】
あいつが親玉か!
よし『不知火』出番だぜ。
「武聖のニイさん方が気合入れて戦ってくれたんだ、オレも負けてられねえっての!」
さて森の中じゃ火もダメ塩水もダメ毒も避けたが無難……と。
となりゃ、単純に行くか。
覇気のオーラを体に纏って防御に回し、
多少のダメージは厭わずに近付いて『不知火』をブッ刺す!(UC発動)
攻撃を軽減されようがなんだろうが当たりゃ刺さるし抜けなくなるんだよ!
身の丈超える銛が刺さりゃバランスも崩すはず。
それで隙が出来たら覇気纏わせたヒレで相手の得物(ガトリング砲)を攻撃。
壊せねえにしても弾き跳ばして攻撃の手が止めば、他の猟兵達(やつら)の手助けにはなるだろ。
才堂・紅葉
「ハイペリア重殺術の絶招を決めます」
奥義ではなく絶招と言うのがコツ
「皆さんの協力をお願いします」
高周波スコップで手早く掘った塹壕でガトリングをやり過ごしつつ依頼
内容は気功波的技を使う方に、威力は落して良いので、素早く遠くに届く【援護射撃】です
ガトリングを掻い潜り、「真の姿」で身体能力を上げて懐を目指す
「ハイペリア重殺術……」
顔面狙いの必殺技モーションの【フェイント】でガードを上げ、空いたボディに掌底を狙う【グラップル、早業、吹き飛ばし】
形はどうあれ、その体に「ハイペリアの紋章」を【アート】すれば目的達成です
「あなたはもう死んでいます」
背中を向けて歩き出し
「奈落門」
拳を握ってその【封印を解く】
鬼桐・相馬
【POW】
近接戦闘を維持したい
〈冥府の槍〉に持ち替え銃の保持に必要な手足等を狙い攻撃
敵の攻撃は挙動・銃口の向きを[落ち着い]て捉え回避や[武器受け]
別方向から[結界術]で障壁を張ったエルフに追撃して貰おう
背中合わせになった時にでも「楽しめそうだ」と言っておくか
寿命を削る技なんてエルフ達の大好物だろ
俺も負けてはいられない
敢えて一旦距離を取り着地と同時に敵へ[ダッシュ]
頭や胸等の急所は槍で防ぎ[激痛耐性]を用いながら正面から行く
俺は戦友(とも)が進む為の礎であればそれでいい
そうエルフへ告げUC発動、炎を纏わせた一撃を
敵武器や身体の一部を[部位破壊]できれば上々だ
モモ、今後は元に戻って迎え撃ってくれ
四天王寺・乙女
猟兵に見つけられたのが運の尽きだったな、硬そうなメイド。
郷に入りては郷に従えと言う。その物騒な銃器を置いて、拳で語る気はないか。エルフの流儀で。
ないだろうな。そうか。
ふむふむ、貴様は戦いに際し様々に身体の色を変えるのか。ならば私もこの技を使わざるをえまい。
貴様がメイドの嗜みを見せるのなら、私は乙女の嗜みを見せてやろう。
「乙女虹霓之事」!いざや、ゲヱミング乙女!
貴様がどのように色を変えて我が技を真似ようと、八百万の色を……正確には1680万色まで変幻自在に輝く我が後光の冴えには及ぶまい。
混乱を誘って超速の一撃を見舞うぞ。
うん、正直これをコピーして全身が激しく輝く姿はちょっと見てみたかった。
●神を殺せ鬼よ喰らえ
「まだまだ行きますわよ!」
ドガガガガガガガガガガガガガガガ!
轟音が続く。
猟兵とエルフ達を敵と認めたチーフメイドが取った戦略は明確だった。兎も角大量の銃弾をばら撒き敵を近づけない。元よりそのように動いていたが、侮って居たこれまでと違いその徹底度が違う。サイックエナジーの弾丸故に弾切れも無く、エルフの森は今火災に続き銃弾の雨に苛まれていた。
だが勿論、それで士気を下げる彼等では無い。
「作戦が必要ですね、皆さんの協力をお願いします。呼ばれた方は一旦こちらへ」
紅葉が幾人かのエルフを呼ぶ。招くのは何時の間にか作り上げられていた塹壕だ。硬い岩盤や鋼板も容易く掘削する彼女愛用の高周波シャベルは、手早い作業ですらガトリングの雨を躱し切れる程の規模の塹壕を生み出していた。
歴戦の工作員たる彼女が一旦時間稼ぎをしているのだ。相応の作戦を組むのだろう。であれば寧ろその企みが幹部猟書家に勘付かれぬ様。並行して他の手を打たねばならない。
であれば。
「寿命を削る技なんて此処のエルフ達の大好物だろ。俺も負けてはいられないな」
敵の振るう技のスペック情報を思い返しながら、相馬が重く呟く。って、重視するのはそっちか。澄ました顔して何気にエルフ達と本当に一番相性の良い一人だなこの鉄面皮。
「武聖のニイさん方が気合入れて戦ってくれたんだ、オレも負けてられねえっての!」
アリアケもまた笑って気を吐く。
「となりゃ、単純に行くか。よし『不知火』出番だぜ」
愛用の武器、彼女の相棒、強大な獲物を求めてやまぬメガリス『鋭銛:不知火』が今度こそ己の出番だとその鋭い切っ先を輝かせる。
「一気に距離を詰め、近接戦闘を維持したい」
相馬もまた、得物を紺青の冥府の炎に焼かれ続ける黒槍『冥府の槍』に持ち替え、幾人かの巨漢のエルフに声を掛ける。先の戦いで共に敵を屠ったりアイコンタクトを失敗してはトンチンカンな連携をし(て悪魔達のストレスを割と溜め)たりした仲のパワーファイターに結界術の障壁を施し、別方向からの追撃を指示する。狙いの方向を分散させる程銃弾の掃射は隙間が広くなる。単純だが有効な作戦だ。
だが勿論それは安全と言う意味では無い。寧ろ死地に自ら突撃する事に違わず。
「寧ろ本懐よ、我が拳は窮地にこそ燃え盛る」
「鼠ですら猫を噛むのだ。我等戦士ならば神すら屠って見せねばな!」
駆け出す準備をする相馬と背中合わせに立ち、エルフ達は一切怯まず笑う。相馬もまた、その表情の薄い顔に微かな笑みを浮かべ。
「楽しめそうだ」
そして戦士達は奔り出す。
「予想はしておりましたけれど。矢張りそう来ますか」
アレキサンドライトは苦虫を噛み潰したような顔をする。猟兵とエルフ達が真っ向突撃を仕掛けて来たからだ。
「アンタが親玉か!」
深海人の大物食い漁師は覇気のオーラを身体に纏い防御を高め、後はもう多少のダメージは厭わす迫って来る。『単純に行く』の言葉に違わぬ力押し。
「モモ、今後は元に戻って迎え撃ってくれ」
羅刹の闘士は、チーフメイドの動きやガトリングの銃口の向き冷静に観察し、銃弾をその槍で弾き躱す。また、幼生化を解いたヘキサドラゴンがその威を以て更に守りを固めている。勿論、それで全てを防げる訳では無い。だが鬼の男は痛みに耐性があった。頭や胸等の急所さえ守り切れば、正面から進む事に問題など無い!
……尚、先の戦いで死んだ感じに演出されていたドラゴンのモモであるが。今普通に戦いに参加している事に誰もツッコまない。と言うかエルフ達も良く命と引き換えの技とか自爆技とかを派手に使ったりしては、暫く後に平然と戦線復帰してたりするので皆同じ穴の貉の様である。……怒って良いのはオブリビオンの皆さんだけでしょうねこれ。
「さて森の中じゃ火もダメ塩水もダメ毒も避けたが無難……と」
武器の間合いまで近付いたアリアケが銛を振り回しギラリと狙いを付ける。呪われたメガリスと『より強大な獲物を漁(ト)りたい』という執念に置いて意気投合した彼女だ。幹部猟書家はそのお眼鏡に適っているのか、その気合は十分で。
「なら、ブッ刺す!」
どシンプル。真っ向刺突。【海神殺し】の名に相応しい強撃がアレキサンドライトを襲う。そのボディは防御力強化済みの色に変じて居たが。
「攻撃を軽減されようがなんだろうが当たりゃ刺さるし抜けなくなるんだよ!」
「くうっ! 何て覇気」
有言実行と鋭銛はチーフメイドの腹部を貫き。その中で針の花を咲かせる。
身の丈を超える長大な銛だ。突き刺さり抜けなくなればさしものの幹部猟書家とてバランスを崩し。
「そこだ!」
その隙にアリアケは己が強靭なるヒレを振るう。狙う先は敵手では無く、その手の得物たるガトリング。いかな覇気で強化した彼女の鰭でも両断は難しい、けれどその威力は砲身を跳ね上げ、銃口を明後日の方向に逸らすには十分で。
「攻撃の手が止んだ! 今だ!」
「うおおおおおお!」
「此処に全力のおおお!」
武器の間合いから更に一歩、格闘の間合いまで。戦士達と猟兵達が一斉に殺到した。
「抜かりましたわね……!」
その猛攻を凌いで見せるのは流石の幹部と言えるが、しかしアレキサンドライトの顔に余裕はない。必殺の拳を弾き、蹴りを打ち払い、謎のビームを躱して、一通りが済んだかと。その一瞬の気の緩み。
「俺は戦友(とも)が進む為の礎であればそれでいい」
その宝玉の瞳が映したのは蒼き羅刹の影。彼はエルフ達の第一撃を邪魔せぬ為に敢えて飛び退き、着地と同時に向かって来ていたのだ。そして丁度、戦友達の手が尽きるこの瞬間。隙間を埋める様に一筋に走り来る。
言葉を掛けられたエルフ達は神妙に頷き、次の一撃の為の準備に移っている。つまり、相馬の一撃を抑えれば良い訳では無い。その一撃をいなした上で次への備えを十全としなければならない。
「くっ!?」
猟書家は歯噛みする。さりとて羅刹の一撃が軽いとはどう見ても思えないからだ。拳に纏う蒼い冥府の炎、籠められた力は全てを振り絞っているのが見て取れる。先の言葉とて、覚悟の表明としてだけでは無く、誓いの言霊としてその威を補強している。どれだけアホでも変な拘りを重視していても、エルフ達は確かに身命を賭して戦っており、相馬はその彼らと共に戦場を走ったのだ。
ガッグォオオン!!
ユーベルコード【渾身の一撃(ラストアクション)】。己が矜持と戦友への誓いを篭めた一撃が、軽い筈がない。生半なオブリビオンではそれこそ一撃で終わるだろう衝撃が、森全体を揺らした。
●負けられぬ戦い
「猟兵に見つけられたのが運の尽きだったな、硬そうなメイド」
敵の幹部を前にしても、変わらず自信満々堂々とした態度を崩さぬ乙女は、言葉だけ聞けば寧ろ気遣って居る様な声を掛ける。
「硬そうなメイドて……」
身も蓋も無い表現に嫌そうな反応を返されるが乙女は揺るがない。
「郷に入りては郷に従えと言う。丁度砲身が一つ駄目になったのだし、その物騒な銃器を置いて拳で語る気はないか。エルフの流儀で」
指差す先、ガトリングの六連装の砲身の一つがヘシャゲている。発射されるのがサイキックエナジー故に暴発こそしないかも知れないが、少なくともこの銃口から新たな銃弾が放たれる事は無いだろう。先のアリアケと相馬の一撃が時間差で重なった事で成された金星だ。
「御免蒙りますわね」
だがチーフメイドもまた揺るがない。たかが6分の1、残り5つの銃口があれば十分とばかりにガトリングを構え直す。
「ないだろうな。そうか」
乙女は寧ろそれでこそと笑う。そしてその戦意を表す様に、背負った後光が眩く輝き出す。
「見た限り、貴様は戦いに際し様々に身体の色を変えるのか。ならば私もこの技を使わざるをえまい」
その言葉と共に、後光は更に輝きを増し……いや、その色が変じて行く。赤・青・黄・緑……その数虹の七色、或いは万色!
「貴様がメイドの嗜みを見せるのなら、私は乙女の嗜みを見せてやろう。【乙女虹霓之事】!いざや、ゲヱミング乙女!」
「ゲーミングと乙女に何の因果関係があるって言いますのよ!?」
オブリビオンのツッコミはさて置き、それは後光を七色に輝かせる事でゲヱミング乙女モヲドに変身し…………タイム。ちょっと待って意味が分からない。意味が分からない。ええと…………兎も角! 秒速で寿命を削られる代償と引き換えに為される爆発的な速度と反射能力の強化。それがこのユーベルコードの主要。
「ちょこまかと……!」
その圧倒的な速度に翻弄され、猟書家が歯噛みする。乙女一人であれば何とでもなったかもしれない。だが同時に相馬の槍が、アリアケの銛がその身体を狙い。エルフ達の多様な必殺技が迫っているのだ。手袋の外された手で触れる事も難しい。
「貴様がどのように色を変えて我が技を真似ようと、八百万の色を……正確には1680万色まで変幻自在に輝く我が後光の冴えには及ぶまい」
「厄介なのは速さであって色数の問題じゃないですわよ!?」
思わず怒鳴るアレキサンドライト。大分混乱していると言うか、精神攻撃だとすれば割と有効な様である。乙女にその心算があるかは不明だが。
「後ろがお留守だぜ!」
その背にアリアケの振るう『不知火』が迫る。メガリスの一撃は喰いたくないと身を捩り躱すが、それはアリアケの狙い通りだ。
「それで隙が出来れば、他の猟兵達(やつら)の手助けにはなるだろ」
それは集団の利。連携の基本にして究極。
ダンッ!
爆発の如き踏み込みの轟音が鳴り響き、振り抜かれた拳は正に鉄槌。或いは野生のパワー。
「ぐううう!」
相馬の拳に受け止めた腕ごと吹き飛ばされ、たたらを踏むアレキサンドライト。その側面を少女傑物の超速の一撃が襲う。光の線の如き細く鋭いそれは『革命剣「天権」』の斬撃。乙女の意志に呼応して輝く細剣は今、持ち主と同じく1680万色に激しく輝いている。
うわー、超眩しー。
「うん、正直これをコピーして全身が激しく輝く姿はちょっと見てみたかった」
「しませんわよ!?」
ムギャーと吠えながらガトリングをブチかますオブリビオン。実際、一体多で戦っているこの状況で速度に特化するのは効果が薄いと判断してるのだろう。後、元々宝石の身体煌めく彼女がよもや1680万色までコピーし切ったりしたら、乱反射するその眩しさはえげつない事になりそうである。
「見たいな」
「しませんって言ってるでしょう!?」
お互い寿命を消費して戦ってるわりに割と呑気な調子ではある。
ドゥン!
其処に打ち込まれたのは光の弾。闘気を固めた気弾だ。
「……何ですの?」
直撃したわけですらなくただの牽制。けれど嫌な予感がした。
警戒するアレキサンドライトの視線の先、塹壕の中からエルフの小部隊が現れる。
「ハイペリア重殺術の絶招を決めます」
遡る事数分前。塹壕の中で紅葉は選出したエルフの戦士達に説明をしていた。奥義では無く絶招と言うのがコツとは彼女の弁である。意味は同じでも言葉を変えるとテンションが上がると言うのは実に理に適った話で。実際戦士達の目は一様に輝きを増したと言う。
集めたのは気功波的な技を使う戦士だ。あの戦いの最中、得意手の技を把握して過たず声を掛けるその情報収集力は工作員の面目躍如と言える絶技であった。
「威力は落して良いので、素早く遠くに届く援護射撃をですね……」
そして時は戻り、紅葉の指示通り戦士達は雨霰と援護射撃を敢行する。
気弾、闘気砲、謎のビーム、邪気、暗黒気、エルフパワー、王気どうのこうの、名称こそ数多あれどその要旨はとどのつまり遠距離攻撃。
最大限の警戒を生むであろう一撃を確実に決める為の布石だ。
「く、何て数……しかし」
事実、ガトリングで迎撃せざる得なくなっている猟書家が睨む先。戦士達の放つ武威の雨の中を真っ直ぐ突撃して来るその姿。紅葉の名の如くか、その髪は美しい紅に染まっている。真の姿……その力を身体能力に篭めただ只管に敵首魁の懐めがけて駆け抜ける。
銃弾の雨など物ともせず。紋章の浮かぶ拳を握り。
「ハイペリア重殺術……」
「!」
最早吐息を漏らす余裕も無く、幹部猟書家は己の顔面を狙う必殺の動きに反応し。だがそれは欺瞞、フェイントによって上部に拠った意識を掻い潜り、そのボディに掌底が叩き込まれる。
『コードハイペリア承認。アビスゲート限定解除……非承……ビビー』
くの字に折り曲がった身の腹部に、芸術的な迄にクッキリと紋章が転写されていた。紅葉の言う所のハイペリアの紋章。その紋章を猟書家はヨロヨロと紅い手で押さえ。
『……承……認……。超高重力場……特異展開……実行』
「あなたはもう死んでいます」
必殺を確信し、紅葉は背中を向けて歩き出す。そしてその手が握られ。ユーベルコード【ハイペリア重殺術・奈落門(アビスゲート)】は完成する。
「奈落門」
カッ!!
閃光が走り。遅れて轟音が響く。
「爆縮が……!?」
だが、その顔が怪訝に歪み振り返った。確かに凄まじい爆発だ、だが彼女の知るそれとは明らかに規模が小さい。
「……大した物ですわね。そのまま喰らって居れば確かに死んでいたかも知れません。けれど」
よろけるその身体、腹部を中心に大きな罅が走っている。見るからに重傷だ。けれど、その足で立っている。ゆっくりと腹部から離された手が、紅く染まっていた手が普段の色に戻り、手袋が嵌め直される。
「……そうか、コピーして」
長く濃い戦いの経験を持つ紅葉だからこそ直ぐに見抜く。ユーベルコードのコピー。それを直接注ぎ込んでの相殺……当然、即席にも程があるそんな無茶な方法で全て無力化出来る筈も無い。だが事実、それによって彼女は未だ立っている。
「私はアレキサンドライト……かのクリスタリアンの最長老、猟書家プリンセス・エメラルドがチーフメイド、アレキサンドライト。……お嬢のメイドを、舐めるんじゃありませんわ!」
幹部猟書家の意地。敬愛する主人の僕たる矜持。それから後これで負けたら本当に変な拳法に負けた事になるのが凄い嫌だなーと言う本音……酸いも甘いも重きも軽きも全てを籠めて、女は傷付いて尚美しく吠える。
それは同時に。決着の時が程近い事を如実に表しても居た。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
パルピ・ペルポル
情報ってとても大事なんだけど…。
このチーフメイド、多分清掃担当だったのね。
木を隠すなら森の中。
というわけで我が領地「迷いの森へようこそ」
本家本元に一番近い迷いの森、
これだけ鬱蒼としてるとガトリングでは狙い難いでしょ。
徳用(巨大)折り紙を切って作った万羽鶴を展開して攻撃させつつ、森の木々も利用して身を隠しつつ誘い込んで。
風糸と穢れを知らぬ薔薇の蕾で敵の動きを拘束して。
エルフ達に一斉に遠距離攻撃してもらうわ。
彼らには待機中にUDCアースの某有名バトルアニメ見せるわ。
こんな感じでビームというか気弾というか…撃てないかしらね?
エルフだから魔法も使えると思うけど、こっちの方が効果的な気がするから。
神咲・七十
アドリブ・連携お任せ
じゃあ、消火と頼んでたのお願いしますね。
一人で行くのか?ですか。
ほら、「猟兵になったからには敵にしか見せられない技がある」というやつですよ。
災難でしたね、もう少し続きますけど。
(UC『万花変生』を使用。全身を自己強化し、ガトリングの弾も防ぐ皮膜のような外皮と【怪力・鎧砕き・生命力吸収】を全身に纏ってUCをコピーされない様にしながら肉弾戦で戦います。)
こういうのでよくある展開になってしまいます。
(隷属させる植物を植え付けて、取り込めるまで弱らせてほぼ強制的に隷属させようとします)
う~ん、この場合それっぽいのは「次は友達として一緒に戦えますね」とかですかね?(お菓子もぐもぐ)
●こっちの森は甘くないぞ
『ぁあたたたたたたたー!』
映し出された立体映像の中、筋骨隆々の戦士が必殺の拳を放つ。
『うぎゃあああ!?』
そして悪漢は爆散し、勝負は一瞬で着く。
「ぬう、今の技。我の武聖百連突きに似ている」
「だが、我は先程見たあの技の方が好みだな」
「何だと!?」
機器を操作するパルピが少しむくて場面を変える。また別の巨漢が拳を振るい、その全身から闘気のオーラ的な物が天に向け発射された。
「そうじゃなくて、こんな感じでビームというか気弾というか……撃てる人はどれ位いるの?」
流されているのはUDCアースの有名バトルアニメである。そしてその動画データを投射しているのはパルピ持参の『銀色の円盤状のいろんな機能のついたよくわからないけど何かすごい機械』。……もう一度言おう『銀色の円盤状のいろんな機能のついたよくわからないけど何かすごい機械』である。……確かに良く分からない。そしてすごい。少なくともちゃんと撮影機能はある様だし大した多機能さである。
「エルフだから魔法も使えると思うけど、こっちの方が効果的な気がするから」
レッサーデーモン達との戦いの中でも、幾人かの戦士は気弾や謎のビームやら闘気を放っていた。消火に回ったエルフの中には魔法を使って居た者もの居た。その上でフェアリーの美女は一番効果が高そうなのを選び取ろうと、動画の場面をまた操作して。
「なぁにを呑気にアニメ鑑賞しているのですわあああ!!」
「あ、意外と早かったね」
木の枝やら蔦に塗れて這い出て来た幹部猟書家の怒号に平然と返したのだった。
「木を隠すなら森の中。というわけで我が領地【迷いの森へようこそ】」
ユーベルコード【迷いの森へようこそ(ハイルノハアマリオススメシナイ)】、群竜大陸の迷いの森の一部からなる迷路を作り出すその力は、それ其の物に攻撃力は無い物のそれだけに強靭な硬度を持つ。
流石のアレキサンドライトも壁を破って踏破とは言えず。作り主であるパルピの元にたどり着くまでにある程度以上の時間を要し。その間に妖精はアニメ鑑賞会など優雅に開き……そして勿論、治療や体力回復をも成していた。
「情報ってとても大事なんだけど……。このチーフメイド、多分清掃担当だったのね」
「どんな情報を事前に得ててもこんな真似かますのを予見できたとは思えませんわ!? それと、清掃担当なのはある種正しいですわね」
挑発する様に言うパルピに、チーフメイドが噛み付く様に言って武器を構える。掃除、それは主に取って邪魔な物を『綺麗にする』仕事と言う意味だ。情報収集を軽んじたのは傲慢と猟兵達の力を低く見積もったからに他ならないが。その認識も深手を負った今や改められている。
幹部猟書家は油断なくガトリングを構え、掃射を始める。
「でも、これだけ鬱蒼としてるとガトリングでは狙い難いでしょ」
此処は今や本家本元に一番近い迷いの森。踏破されれど術者が健在な以上それが消える道理も無し。迷路として機能する程の密集した木々の群は大量の銃弾をばら撒くガトリングとの相性が非常に悪い。
「じゃあ、消火……は取り敢えず大丈夫ですかね。後は頼んでたのお願いしますね」
迷いの森が上書きした事で火事が納まっている状況を見回しながら、七十が飄々と歩み出す。エルフ達はパルピの指示の元遠距離攻撃を撃っている中。自分だけは前に出る心算なのだ。
他の猟兵達も居るが、迷いの森も良し悪しで今は分散している。後々を考えれば補給や治療を挟める事は彼等にも大きなアドバンテージとなるが、その上で彼女が一人で前衛を担う事をエルフの戦士は躊躇する様に言葉を掛けた。
「一人で行くのか? ですか。ほら、『猟兵になったからには敵にしか見せられない技がある』というやつですよ」
ある種の天衣無縫と言えるのかも知れない。遺体を積み重ねろ等と言う恐ろしい依頼を平然と吐く時も、そして銃弾の地獄と化した敵幹部の懐に向かう今も、七十はその調子を変えはしない。何とも思っていない。そんな風に。
「ああ、もう鬱陶しい!!」
「災難でしたね、もう少し続きますけど」
苛立ちの声と共に尚銃弾の数を増やす敵手に向け、ストレイイーターは散歩にでも行くかの様に気軽な歩調で、されど迅雷の如き速さで踏み込んだ。
●あの子が欲しいどうしても欲しい
「何か企んでおられますわね……?」
弾雨の中で七十は執拗にアレキサンドライトに肉薄し、漆黒の大剣を振るう。
ユーベルコード【万花変生(バンカヘンジョウ)】によって召喚された多種多様な未知の植物、その中から選び取られた効果で自己強化された全身はガトリングを弾をもある程度防ぐ皮膜の如き外皮を七十に与え、その怪力を以てチーフメイドの鎧の如き宝石の身体を砕き、その生命を食い尽そうとする。
だがそれは手段だ、彼女の狙いでは無い。
「今日はそういう日で、今はそういう気分」
敵手の言葉を流す様に狂食者は韜晦する。
そしてアレキサンドライトは七十だけを相手どれば良い訳では無い。雨と降り注ぐエルフの戦士達の気弾(その他色々)の数々。
そして鬱蒼と生い茂る迷いの森の木々の合間を縫う様に飛び交う万羽鶴の群。
「……あのフェアリー、何処までも上手な」
いっそ賞賛すら込めて吐き捨て、展開されるその折り紙を避けて後ろに下がる。……そう、折り紙の鶴なのだ。ついでに言うなら材料は『徳用折り紙セット』、徳用(巨大)と言っても良いかもしれないが、その材質は何百回の折り返しにも耐えうる強度を持つ耐水・難燃性を持つ物の、それ以外には何ら特別な力を持たない。
……純粋にパルピ自身の力のみでこの数を操り、猟書家への脅威としているのだ。賞賛が漏れるのも無理はない。
「私を忘れないで欲しいですね」
そしてそれらを躱す事に意識をやり過ぎれば、そこに七十の一撃が迫る。
自由に動く七十の戦いに、パルピが上手く重ねる事で成立する連撃。
「はいそこよ。うまく誘い込まれたわね!」
木々の枝の合間からパルピが顔を出した。環境を利用しその身を隠しつつチャンスを伺っていたのだ。連なる攻撃の数々から逃げた猟書家が、彼女の領域に入るその瞬間を。
「……く、これは糸!?」
雨紡ぎの風糸が幾重にもその身体を縛る。そしてそれだけでは無い。森の中を白い薔薇の蕾が飾る、そして茨を伸ばしこれもまたその身を縛り上げ、棘で苛みその赤い血を啜ろうと……アレキサンドライトって赤い血なのだろうか。
「……ま、いいわ。それよりエルフさん達。一斉攻撃で!」
旅の導き手が今は戦いを導く。パルピの指示を受けたエルフの戦士達が再度遠距離攻撃を重ね、チーフメイドの身体を更に傷付けた。
「そろそろ行けますかね」
七十が動く。
茨と糸をその幹部としての力で引き千切ったアレキサンドライトが自由になるその直前、そのもっとも深い傷……腹部に刻まれた、良く見れば何かの紋章に見えるその深手をめがけて抜き手を放つ。
「……!? なんですの?」
「こういうのでよくある展開になってしまいます」
チーフメイドは少しよろめいた物のそれだけで、寧ろ怪訝そうな顔をする彼女にまた韜晦する様に曖昧な言葉を投げ、しかし七十は満足げに一度離れる。
「こういうのってどう言うのですの。貴女の話はマイペースが過……ッ!?」
バキ メキ
猟書家の腹部から鈍い音が響いた。
「なる、ほど……これは」
それは隷属の植物。敗北の感情や屈服・服従の感情を与える事を成功した対象を隷属させ取り込む魔の術式。【万花変生】の本丸と言える力。
「十把一絡げのオブリビオンなら兎も角。この私を隷属させようとは……ね!」
だが、猟書家はその腹部に躊躇なくその手を捻じ込み、引き掴んだそれを投げ捨てる。
「その傲慢。その強欲。中々見上げたものですわ。けれどお生憎様、私はお嬢以外の人に仕える気はありませんの」
パルピに向けたそれとは別の方向性の、けれどこれも間違いなく賞賛の色を浮かべてチーフメイドは笑う。
「う~ん、この場合それっぽいのは『次は友達として一緒に戦えますね』とかですかね?」
一方で七十は平然とした調子でお菓子を食べていた。
「なぁんで気にもせずに甘味摂取していますの!? しかも成功した時のセリフ考えてますし!?」
手に付いた菓子クズをチロリと舐め取りながら、甘い物中毒者な七十はあくまで飄然とした調子で。
「だってお菓子は美味しい。それと、取り込めるまで弱らせれば何時か隷属させれるでしょう?」
その手に先ほどと同じ植物。
「……貴女。いえ、本当に大したものですわ」
眉根を寄せてアレキサンドライトはしかし視線を逸らす。フェアリーはこのどさくさにまた身を隠しており、恐らくはまた新たな罠を張っている。
これはあらゆる意味で最後まで気が抜けない。ただ強さと言うだけでは無く、多角的な意味合いに置いて、猟兵達を甘く見るべきでは無かったのだ。それを痛感せずにはいられなかった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
九十九・静香
堂々とした敵ながら良い女給の精神です
ではこちらも本気で参ります
真の姿で本来の背丈を筋肉質にしたアスリート体型筋肉令嬢に変身
先程までの筋肉の密度を高め凝縮したもの
筋力は衰えてはいません
攻撃軽減効果にはこの技を
UCで筋肉を吹雪属性筋肉に変化させ冷気を纏います
◆怪力で◆グラップルの見真似拳法を繰り出し
その度に発生する冷気でガトリング弾やガトリング自体を凍らせ攻撃を無力化します
本人には攻撃自体は通りにくいですが温度だけは下がっていく筈
隙を見て、落として置いた刃亜部流を◆炎属性に変化し蹴りで発射
これを防いだならば温度は急激に上昇
石でも熱の急激変化には弱いもの
脆くなった所をエルフの皆様と共に一斉攻撃
●今、全てが決着する
「屈辱ですわ……しかしこれも慢心の代償」
森の迷路を走りつつ、アレキサンドライトはその顔を歪める。敵の使った術式を利用するのは良い、だがこの使い方は中々にプライドが傷付いた。とどのつまり彼女は、猟兵達の連携に脅威を感じたのだ。そのままでは危ないと感じたからこそ迷路の奥に逃げ込む。
理想を言えば一対一。攻め手も少数撃破を狙って行かねばならない。そう考えれば入り組んだこの迷路は好都合とも言えた。……述師の意志一つでご破算になる訳だし、全部承知の上でタイミングを計っている可能性もあるが。兎も角今は利用できるすべてを利用せねば。
「慮るべきは己のプライド等ではありませんわ。主命、お嬢のご命令を成功させる事こそが、唯一最も重視すべき事」
「堂々とした敵ながら良い女給の精神です」
その歩みを、凛とした声が留めた。
それは主の声。勿論アレキサンドライトの主では無い、だが『お嬢』と同じく仕えられる事に慣れた。そして仕える者に答える事にも慣れた、『主』たる人種の声。
「ではこちらも本気で参ります」
静香の声は、いっそ艶やかな程に上品で。それで居て鉄血の覚悟を思わせる力強さを両立させて居た。
幹部猟書家は、ほとんどの報告をちゃんと聞いていない。だが明確に詳細まで聞いた報告もある。それが筋肉令嬢たる静香に関する報告だ。……まあ、それは車椅子に座った嫋やかな御令嬢がムキムキ筋肉マッスル大登場と言う感じに筋塊巨体になった事にレッサーデーモンがショックを受け、その支離滅裂な報告を受けたアレキサンドライトがあらぬ心配をして詳しく聞いたという何とも締まらない理由ではあるのだが。だが兎も角、彼女は静香の情報を詳しく知っているのだ。
「……貴女」
だが、今の静香の姿はその報告のどの時点のそれとも違っていた。
身長は、寧ろ車椅子に座っていた時のままの小躯。150㎝と少し位だろうか。
けれどその体型は断じて身体の弱い深層の令嬢のそれでは無い。ミッシリと引き締まった実用一点張りの筋肉がその小さな身体の中に存在しているのが見て取れる。さながらアスリート体型筋肉令嬢。
生命の埒外、九十九・静香の真の姿が一つ。
「先程までの筋肉の密度を高め凝縮したもの。筋力は衰えてはいません」
己のスペックを偽らず伝えるのは、アスリート精神か。それとも淑女としての嗜みか。
「……ええ、分かりますわ」
一対一の状況。考え得る限り理想的なシュチエーションである。何時他の猟兵やエルフ達が駆けつけるか分からない以上、即座にこれを打ち倒し猟兵の戦力を削ぐことが急務とすら言える。
だがアレキサンドライトは不用意には動けない。目前のそれが、容易ならざる敵であるとヒシヒシと感じるからだ。
「無限の筋肉の可能性。筋肉ならば自然に存在する吹雪すらも……!」
いっそ静かな言葉と共に構えられるポージング。ユーベルコード【属性可変筋肉(エレメンタル・マッスル)】によって吹雪属性へと変化した筋肉が冷気を纏う。
「参ります」
「ええ、来なさい!」
そして両雄が激突する。
ガァン!
ゴォン!
小さな身体から拳が放たれる度その身が凍える。
見様見真似の拳法の技、不完全なれどその手数の多さは脅威であり。結果その動きは読み切れない千差万別の攻めとなる。
「……これは、もう」
幹部猟書家の口元が引き攣る。ガトリングの砲身や弾丸を凍らせ攻撃を阻害する冷気も問題だが、そもそも振るわれる一撃一撃が兎も角重い。もっと端的に言うなら、強い。
吐く息も白く、先程まで焼けて暑かった筈の森が、今や雪山の奥の様に錯覚するほどで。
「居たぞ!」
「おお、御令嬢だ! 凄い戦いを!」
ましてその激しい戦闘音に気付いたエルフ達が、猟兵達が、ゆっくりと集まっている。戦いに参加して来ないのは幸いと言うべきか……いや、彼らを以て安易には手を出せないと判断させるほどの武威を静香が示していると考えれば、それを喜ぶのは不毛と言う物だ。
カラーチェンジした身体はダメージの多くを防いでいる。だが冷気は防げず、寒さに鈍った身体は僅かずつだが着実にアレキサンドライトの戦闘力を削いでいる。
何時までも喰らい続けるのは不味い。そう判断し猟書家は大きく飛び退く。
適うならば距離を置き、射撃にてその体力を削ろうと。
「それを待っておりましたの!」
だが、筋肉令嬢は脳筋では無く策士だった。狙い通りだとばかりにその傍らの物体を蹴り飛ばす。
……それは『重量級属性可変長槍『刃亜部流』』要するにバーベルに見える形状の重量槍。最初の最初、静香が徒手にての戦いを宣言した時、地に置いた武器の一つ。気が付けば戦いの果て、彼女は最初の場所に戻っていたのだ。
「こんなもの!?」
だがアレキサンドライトはそれを容易に受け止める。筋肉令嬢の膂力によって蹴り射出されたとは言え、刃の一つも着いていない鈍器なれば彼女には然程の脅威にも……。
だが。
「!?」
受け止めたその腕が湯気を出す。属性可変長槍……持ち主の筋肉と同じく刃亜部流もまたその属性を主の意志で変化させる力を持ち。そして選び取られたのは炎属性。灼熱の温度がクリスタニアンのメイドの身体を炙る。
「石でも熱の急激変化には弱いもの。宝石の身体もまた……さあ皆様」
静香に促されエルフと猟兵達がが一斉に構えを取る。
「強く賢く……全く冗談ではありませんわね……」
脆くなった所を一斉攻撃を受ければただでは済まない。そう、例え幹部猟書家であってもだ。ジリジリと無意識に後ずさりをしながら、その程度では間に合わない事はアレキサンドライト自身が誰よりも理解していた。
「おのれエルフ共。おのれ猟兵達……認めますわ。今回は貴方達の勝利」
敗北を認め、けれどその瞳に諦めは無く。幹部猟書家はいっそ静かに一度瞑目し。
「次は絶対にこうは行きませんわよ!? 覚えてなさいませー!!」
お手本の様な美しい負け惜しみが、一斉攻撃の轟音に紛れて聞こえたとか。
なるほど流石幹部と言うか何と言うか、戦いの後にアレキサンドライトの骸は見当たらず。見事逃げおおせたのであろう。されど、戦場の随所に散らばった美しい宝石の破片は紛れも無く彼の強大な敵手に負わせた深手の証。
そして『武聖神木』が守られ、焼け爛れた森を復活させようと張り切るエルフ達の無駄に元気一杯な姿は、紛れも無く猟兵達が勝ち取った風景である。
「種だ! 種を植えよう! 種籾を貰って来なければ!」
「いや、田ではなく森を再生しましょう?」
懲りないアホの戦士達とエルフの森の前途が明るいかどうかはまあ、別として。
大成功
🔵🔵🔵
最終結果:成功
完成日:2020年12月08日
宿敵
『チーフメイド・アレキサンドライト』
を撃破!
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