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誘い籠の中へ

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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 彼女は、本の虫だ。
 文字を読む。それ以外の事柄に関しては興味を示さない、生粋の嗜好を持っている。
 およそ吸血鬼らしくない、と思う。出不精で、光を嫌う点は"らしい"のだろうが、億劫だからという理由で血も吸わないというのは、ずいぶんと存在が破綻している気がするのだ。
 思えば、いつ頃から在るだろうか。
 それは100年程前の様な気も、昨日の事だったようにも、と。
「いや、昨日とは言い過ぎではあるな」
 多少の違和については、目を瞑ろう。
 ともかく彼女は、かつて私が見付け、そして領地を与えた存在だ。
「まあ、管理などに向くとは思って居らんかったが、やれやれ」
 その土地が今、ぶ厚い化粧をまぶされている。
 見渡す限りに濃い、視界を邪魔する色は、彼女の魔力だろう。
「本当に、やれやれだな」
 ただの人間では、この環境に耐えられまい。
 中毒で苦悶するか、発狂するか。いずれにせよ、命は残らなかったはずだ。
 足を踏み入れ、辺りを見る。
 荒れた家屋に変わりない。
 しかし、怯える様に伺う気配は最早なく、微かに漂う腐臭が先の予想通りだと報せる。
 やはり死んだか。
 ざり、ざり。と、感慨も無く敷かれた砂利道を歩く。そうして進む先に、横に伸びた屋敷があった。
 柵の無い門を素通りし、緩く開いた扉を開け放つと、
「これはこれは」
 首を跳ねる軌道で刃が来た。
 それを指で弾いて刀身を折り、実行したであろう鎧姿の戦士を見る。
「む」
 すると、その戦士を貫く様にして魔砲が飛来した。
 苦笑を一つ浮かべて、差し出した掌で受け止めて、握り潰す。
「もしや、私の事が嫌いかな」
「好かれていると思っていた方が驚き」
 深い嘆息が響いていた。
 屋敷の中は広い。微かな音を反響させ、大袈裟にしてしまう程。
 周りには本棚と、それを埋め尽くす書物。そして中心には、椅子に座した青髪の吸血鬼。
 開いた本に視線を落とし、不愉快さを滲ませて上げた眉尻で、不愉快だと言いたげな言葉で迎える。
「何の用? いえ、如何に関わらず帰って、邪魔よ」
 彼女は、本の虫だった。
 嫌いなものは、読むと言う行為を妨げる事柄と、何より私だ。
「ふ、惜しいな。その瞳をこちらに向け、かつ、その麗しい長髪が黒ければと幾度願ったことか」
 そうであったなら、丁寧に、慎重に、大切に触れてやれたのにと思う。
 だがそうではない以上、これからの事に多少の迷いも生まれない。
「君の仕事の時間だ、レディ。そろそろ私の役に立つため、その椅子から腰を上げてもらおう」
 いや、やはり、嫌そうに細められた視線は捨てがたいかもしれないと、ほんの少し思った。


「仕事の時間だ」
 肆陸・ミサキ(SolitusVamp・f00415)は、目深にしたフードを少し上げてそう言った。
「ダークセイヴァーで、虐殺が計画されてる。最近は地下も多いけど、地上でも厄介なのはいるみたいでね」
 困ったものだと、そう呟きながら髪の毛を指で弄りつつ続ける。
「敵は、すでに一つの群れを滅ぼしてる。管理とは名ばかりの領主で、自分から溢れていく魔力が村一つを覆う事の意味を考えなかったようだ」
 それは、一つの意味を持つ。
「村一つ覆う位の魔力を、常時垂れ流しに出来るだけの力を持ってる、ってことでもある」
 純粋に強力で、厄介な相手なのは間違い無い。
 加えて、その裏で糸を引いている吸血鬼が別に居るのも解っている。
「目的は僕ら猟兵を狩る事だろうね。活動方針が救出に沿ってるのはもう知られてるから、有効な誘い方なのは否定出来ないけれど、さ」
 含みを持たせながらグリモアを使い、世界を繋いだミサキは、
「救ってきてよ、むざむざ失われる命を見過ごすなんて出来ないだろ?」
 そう言って猟兵を送り出した。


ぴょんぴょん跳び鯉丸
 ボス、集団、ボスと、三連戦のシナリオです。
 各プレイング受付は断章を載せてからになります。
 全採用は出来ないと思いますが、出来るだけ頑張ります。
 よろしくお願いします。
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第1章 ボス戦 『『怠惰なる魔典の虫』アンフェール女公』

POW   :    魔導書(物理)―オンスロート・エッジ―
【苛立ちに任せて振り回した分厚い魔導書の角】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    自著魔典―エレメンタル・スプレッド―
レベル×1体の、【様々な色の表紙をしたギリシャ文字で背表紙】に1と刻印された戦闘用【の表紙の色に応じた属性魔法弾を放つ魔導書】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
WIZ   :    戦術指南書―ウォーゲーム・ガイド―
戦闘用の、自身と同じ強さの【重厚な鎧と楯、鋭い槍を携えた重戦士の霊達】と【後方で魔法で砲撃と回復を行う魔術師の霊達】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はモリオン・ヴァレーです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 女吸血鬼、アンフェールは、静かに村の前へと立った。
 何時ぶりだろうか。二本の足で地面を踏んだのは。
 少なくとも、あの男に見初められてからは一度も無いだろうと思い返す。
 憎たらしいと、彼女は思う。
 自分はただ本を読んでいられればそれでよかったし、周りがどうなろうが知ったことではない。
 それを無理やりに役割を押し付けた奴を恨みもしたが、環境が変わっただけで本に埋もれる生活は変わらなかったので本気の抵抗はしてこなかった。
 その結果、ここに与えられたのは、撒き餌だ。
「腹立たしい」
 溢れる魔力と、それによって辺りを浮遊する無数の魔導書がアンフェールの全て。
 そんな彼女の前に、ゲートが開いて猟兵が現れる。
「全くもって腹立たしい、けど、終わらせれば晴れて自由の身だもの」
 奴の思惑も、猟兵の救済も興味がない。
 欲しいものはただ、自由に本を楽しむ時間。その為に。
「消えてもらうよ、読書の邪魔だから」
クラリス・シドルヴァニス
ダークセイヴァー…いつ来ても陰鬱な世界ね。
で、今回の敵は猟兵狩りかしら。
領地を与えられておきながら、領主としての務めも果たさない…
呆れたものね。
覚えておきなさい、上に立つ者の怠惰は民を不幸にするのよ。
消えてもらうわ、世界のために。

【気炎万丈】を発動、必ず敵を討ち取るという意志の元、
《勇気》と《情熱》を迸らせ自身を強化するわ。
重戦士の槍は剣による《武器受け》でガードし、
術士の魔法攻撃は《オーラ防御》で守りを固めて対処。
多少被弾しても自身を《鼓舞》し、《激痛耐性》で耐え凌ぐわ。
部下を召喚している間は本体が無防備になるようね!
最短ルートを突破して勢いよく《切り込み》、一気呵成に
攻撃をかけるわよ。


紬雁・紅葉
成程、自らの剣呑を顧みず…確かに危うい
なれば是非も無し

御鎮めします
羅刹紋を顕わに戦笑み
クイックドロウにて羅刹紋から都牟刈を顕現

残像忍び足で正面からゆるゆると接敵

射程に入り次第破魔雷光属性衝撃波UCを以て回数に任せ範囲を薙ぎ払う

敵の攻撃は躱せるか見切り
躱せるなら残像などで躱し
さもなくば破魔衝撃波オーラ防御武器受け等で防ぐ
何れもカウンター破魔雷光属性衝撃波UCを以て範囲ごと薙ぎ払う

窮地の仲間は積極的にかばい援護射撃


思えば思金も斯様であった…
(クスクス笑い)

其方は此方の意を知らず
此方も其方の意を知らず
なれば語らう是非も無し

書をまとめ早々に
去り罷りませ!

※アドリブ、緊急連携、とっさの絡み、大歓迎です※



「消えてもらうよ、読書の邪魔だから」
 降り立つ直後に聞こえた声は冷ややか、というより、億劫、という言葉がよく似合っていた。
 内心で感想を得たクラリスは、籠手越しに握った剣を正眼に、敵である吸血鬼のアンフェールを見る。
 細い。
 と、そう思う。
 全体的なシルエットは痩身で、触れれば折れそうな儚さを感じる見た目だ。
「猟兵狩り、かしら」
 勿論、本質は違う。
 相対して解るのは、彼女の魔力が暴力的ということだ。それが垂れ流し状態で、クラリスを撫でながら背後の村へと圧し寄せている。
 放置すれば、普通の人間など容易く死に至るだろう。
 いや。
「実際、死に至らしめたのね」
 息を一つ吐いて確認する。
 そうだ。この吸血鬼は、与えられた土地を殺している。
「務めも果たさず隠居紛いの怠惰なんて、呆れたものね」
 それなら倒すべき相手だ。
 戦意を高め、前傾になったクラリスは、
「嫌ね」
 アンフェールの溜め息を聞く。
 同時に、並び立つ重戦士の群れが行く手を塞いだ。
「なんだか、私の事を知られている様な雰囲気だけど……望まず押し付けられた役目なんて果たす義理、普通無いと思うの」
 経緯と本人の事情は別だと言いたいらしいアンフェールは、開いた本に視線を落とした。
 それから、ページを一つ捲った指をクラリスに向けて一息。
「じゃあ、消えて」
 魔力砲撃が、重戦士の合間を抜けてクラリスへ放たれた。
「――っ」
 クレイモアを縦に、オーラを球面で発生させて、一撃を受け止める。
「やられたわ……!」
 弾き、同時に来る戦士の一突きを叩いて落とし、前に踏み出していた足を後ろに下げて歯噛みする。
 流れを取られた。
 戦士達の槍術は、突く薙ぐの単調なモノだ。しかしその背後、魔法を扱う術師の攻撃が、微妙な時間差で飛来してくる。
 怠惰な主かと思いきや、戦闘のやり方は手慣れていると評して良い。
「でもね、こっちだってやられっぱなしじゃあないのよ」
 クレイモアを片手に、下から斜め上へと払い打ちをする。
 砲撃を弾き、額へ迫る槍をすんでの所で首を捻り避け、空いた拳を握り込んで腰に溜めて。
「喰らいなさい!」
 構えられた楯、そのど真ん中をぶち抜いた。
 金属のぶつかり合う音と、それを破壊する音とが鳴り、戦士は吹き飛んで行く。
「よし……!」
 手応えは上々だ。排熱の蒸気を噴く籠手を振って、前へ。
 立ちはだかる量に変わりは無いが、倒せるという事実は確認できた。
 届く。
 その確信を得て、クラリスは意気を上げ、しかし。
「うそ」
 術師の施す回復の力が、倒れた戦士を呼び起こす。その光景は、進みかけたクラリスの足を躊躇わせた。
 半歩を下げ、重心を背中へ傾け、そうして後ろに跳び、
「祓いなさい、都牟刈」
 無数の鈍黒色が戦士の群れに風穴を穿った。

 危うい。
 紅葉の所感はその一言に尽きた。
 アンフェールの事だ。
 戦士団が散らされた時、チラリと視線を向けはしたが、今はまた文字に目を滑らせている。
「思えば、思金も斯様であったか……」
 姿が重なる幻視に吐息で笑い、紅葉は改めて敵を見た。
 既に戦士達は直され、配置を戻している所だ。クラリスはその正面のど真ん中に立っていて、顔は見ないが意識としてはこちらを伺っている気配がある。
「良い事です」
 息は乱れず、意気の昂りは上々であると、そう判断する。
 だから自分もと、紅葉は緩い速度でそこに行った。
 運びは静かに、爪先から踏んで踵を滑らせ、進むごとに重心を左右に振る。
 その動きは小さく、しかし術師による砲撃の際には大きくなって、独特の回避を演じて見せた。
「参りましょうか」
 ゆらりと、腕を上げる。上腕から指先までを隠す巫女袖の中、感じる熱は羅刹紋の顕れだ。そこから、抜き放つ様に剣を射出する。
「御佩刀欠きし太刀八重八千重に並べ連ね――斬り祓い給う討ち清め賜う」
 束だ。
 重なる様に纏まった武器が、紅葉の祝詞に合わせて拡がり、散る。
 正面、堅牢に楯を構える戦士達へ飛び、弾かれる動きで空へ舞った刃は、そこから予測を付かせない軌跡で降り注いで落ちた。
「それ、本に載ってたモノに似通っているわね」
 パタンと、本を閉じたアンフェールは、飛び交うその姿に目を細める。人差し指を顎に添えて、柔肉を揉む様に揺らしながら記憶を探っている様だ。
「興味が?」
「……いいえ、あんまり」
 逡巡があった。ようにも見える。
 知識欲か、または他の思惑を秘めているのかもしれないなと、紅葉は思う。
「とはいえ此方は、其方の意を知る術は無く。また其方、此方の意を解する事もせず。なれば、是非も無し。書を纏め、早々にこの世界より罷りませ」
 解り合う語りの機会は最早有り得ない段階に至っている。
 故に、都牟刈は切っ先をアンフェールに向かい、迎える術師の砲術のやり取りが行われて。
「……行くわ」
「存分に」
 クラリスの構えが変わった。
 半身を前に、クレイモアの刀身を水平にして、片手握りした柄尻に手のひらを添えた形だ。腰は低く、後ろにした利き脚に軽く体重を乗せて一息を入れる。
 そして。
「――!」
 蒸気の噴出と共に前へ加速する。
 紅葉が開いた道を行き、それでも挟み込んでくる戦士達の槍を、一歩。
「一気に、抜け、る!」
 更なる加速の踏み込みで置き去りにして行く。
 術師の存在は飛来した剣が払い、クラリスを邪魔するものはもうなにもない。だから、彼女は呼気を貯めて、
「消えてもらうわ、世界のために」
 放つ一閃が、吸血鬼の身体を裂いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セフィリカ・ランブレイ
【エウちゃんと(f11096)】
私達狙い、って事は意識されてるって事だね
『奴らの本気に潰されなければね。当然そのつもりはないのでしょ?』
シェル姉……相棒の魔剣は私を挑発するように

エウちゃんも一緒だし、この世界に私達アリ!って示すよ
今回は私がフォロー役!

【黒鏡の奇術師】を呼び出す
攻撃力は皆無だが、頑強なボディと反射能力を備えた自慢のゴーレム
道化師顔は夜中に見ちゃうと怖いけど
私は相手の攻撃を読むことに専念して、騎士達に向かう攻撃を適時防御と反射でサポート

やる気無さそうなのに一撃が重い!
攻撃も決して巧い訳じゃないのに、基礎能力の差って奴かな…!

でも、そんな相手にこそ友情パワーの連携が効くんだよ!


エウロペ・マリウス
同行者:セリカ(f00633)

どちらにしても、手数で押してくる敵に対抗するならば、こちらも数で抑えるとしようか

「勇敢なる我が騎士よ! 尽きぬ忠義と、その武勇を以て我が眼前の敵を討ち滅ぼせ! 勇敢なる騎士の凱旋(フォルティス・リッター・トリウンプス)」

ボクは氷の【属性攻撃】で【誘導弾】にてアンフェール女公自身を攻撃
自身が傷を受けると解除されるならば、
召喚された者達が庇ったりはするだろうけれど、それはつまりそこに人員を割かざるえない
セリカも騎士達に協力してくれるようだから、安心して任せられるね

本の虫も否定はしないけれど、
まずは仲間の存在をありがたみを知るべきだったね



 両断の刃で別たれた身体が飛ぶ。
 下腹から弾ける軌道のそれは宙を行って、緩い放物線で地面に衝突し、転がりながら再生した。
「酷い事ね」
 アンフェールは、見上げる形になった空を瞳に映して、息を吐き出しながら上体を起こす。
 身体と共に裂かれた服も直った事を確認して立ち上がり、落ちた本を一冊拾い上げる。
「そう思わない、あなた達」
 問い掛ける先は二人の女性だ。転移してきた彼女達は、タイミングとして良いのか悪いのか、吸血鬼が分割された瞬間に降り立っていた。
 だから直前の事情はわからないし、あくまでも想像としての事にはなるのだが。
「いいえ、全く」
 返答は綺麗に重なり、それを開始の合図として動きを起こしていく。
「というか、私達狙いの事でしょーに」
 胸の前で拳を握ったセフィリカが、苦笑いの呟きを漏らす。前へ、手を拡げながら翳して、真正面にゴーレムを一機喚び出した。
 呼応する様に、エウロペも騎手の群れを召喚。
「別に私の狙いではないもの」
 対して、アンフェールも戦士と術師を復活させる。向かい合って並ぶ霊達は、ただ静かに開戦を待っていた。
「それでも、実働はキミだろう」
 吐息に混ぜて、エウロペは言う。
 彼女にも事情はあるようだと察し、だが事実として行動が伴っているから今、相対が成立している。
 そうして対面から解るのは、自分とセフィリカを合わせたとして、純粋な戦力として見ると。
「うーん、やる気無さげなのにアレ、私達より強いね」
「……セリカはハッキリ言うなぁ」
 もはや笑みすら沸いてくる。
 言葉の通り、アンフェールは強い。まともに力比べをしたとして、勝ち負けを決める土俵に立てるかも怪しい位に。
『で? 当然、そのつもりは無いんでしょ?』
 セフィリカの腰から聞こえる挑発的――挑戦的とも取れる声に、エウロペは頷く。
 差はあれど、埋められないとも思わない。
 だから、
「どちらにしても、数で押してくるのなら、こちらも数で抑えるとしよう」
 号令を発する。
「さぁ、勇敢なる騎士達よ! 亡びて尚、尽きぬ忠義と武勇を以て、我等が眼前の敵を討ち滅ぼせ!」

 微細の結晶が散る。
 暗闇の世界でそれは、微かな光にチラチラと煌めいて、なんとなく、幻想的な風景だと、セフィリカは内心で思う。
『なに見惚れてんのよ』
「心を読まれたかー!」
 それらは、エウロペの騎士達だ。いや、正確には、彼等が握る氷剣や矢、つまり武器だった物。
 敵の重戦士や、または術師の砲撃によって破壊された残滓とも言える。
『使い方が下手くそね』
 剣――改めシェルファ――が言うのは、エウロペの事ではなく、むしろ押しているアンフェールの事だ。
 強力な霊を喚ぶ代わりに自身は戦えない。そういう制約を課せられた吸血鬼は今、エウロペが放つ氷柱の弾丸をのらりくらりと避けている。
 他力本願の様で、その実、自分の力量に頼りきりの技であるのに、徹頭徹尾、ゴリ押しを進める戦い方でもあった。
「というか、あれって戦闘行動には含まれないの?」
 戦いの流れを簡略化した時、攻撃と、それに対する防御がある。そう考えた場合、つまり、回避するというのは広義的に見てどうなのだろう。
「見方によるだろうね」
 答えは、エウロペの方から来た。
 追加で形成した氷柱を上空へ射出し、鋭角に、そして敵を囲む弾道を進ませ、しかし命中する事無く回避される。そうして、ルートの修正をする為に切り返した瞬間を、砲撃で撃ち落とされた。
「こちらから見たら回避だけど、アンフェールからしたらただ横に歩いただけ……もしくは、少しバランスを崩しただけとか、そういう解釈も出来るんじゃないかな」
「屁理屈も押し通せば理屈になるのかぁ、ズルいなぁ吸血鬼!」
 でも実際、あののらりくらりはそういう意図なのかなぁ、と思えなくもない。分かりきった弱点を対策してあるのも、当然と言えば、当然なのだろう。
 ただ、まあ。
「……うん、読めてきた」
 戦い方には、癖が尽きやすい。エウロペとアンフェールが呼び出す大量の存在は、強力で汎用性がある代わりに、デメリットがいくつかある。
「その一つは、枠にハマりやすいって事」
 一つ一つ、バラバラに、精密な挙動を臨機応変に行う。
 そんなことは"ほぼ"不可能だ。
 ある程度、パターンに当てはめられた行動をその都度行う位が丁度良い。
 故に、
「だから、待ち構えられる……!」
 放たれた砲撃の前に、ゴーレムを滑り込ませられた。肩に鏡面の歪みが映る、奇怪顔のゴーレムだ。
 ……ヴィジュアルはともかく上手く出来るはずだよ!
 仁王立ちするそれは、左肩からの突撃をしている。砲撃の先端へとぶつける動きでだ。その際、横向きになった面がエウロペの方を向いていて、それを見た彼女の眉が片方吊り上がったのを、セフィリカは見ないことにしつつ。
「ぶちこんでけー!」
 直撃から、片足を軸にしたブレーキで反転。右肩がアンフェールへ向くようにしたゴーレムは、その鏡面から模倣した砲撃を撃ち込んだ。
 真っ直ぐに、重戦士を貫いて、吸血鬼へ至る。
「面白い顔ね、センスが悪いわ」
「私もそうおも――自信作だもーん!」
「ボクもどうかと思う」
「あれぇー?」
 漏れかけた本音を補い、消失する敵の陣形にセフィリカは拳を握る。同時に、エウロペは自身の騎士達を前進させ、追い詰めの一手を取った。
「それより決めるよ、セリカ。立て直しの隙を認めるわけには行かない」
「おっけー、顔は性能に関係ないって示すよ!」
 開いた魔本を閉じ、再度開く。
 アンフェールがユーベルコードを使う時にする動作は、恐らく必須の物だと、二人は理解していた。
 だからさせない。
「っ」
 閉じられた表紙に氷柱を突き立て、ページを凍み固める。
 牽制の為に放たれた力任せの魔力波は、ゴーレムの図体で死角を作り出すことで凌ぐ。そうして、その影から飛び出した騎士が吸血鬼に迫り、剣を振り下ろした。
「独りぼっちで出来る事なんて、それほどない。仲間の有り難みを知らないからこそ」
「私達の友情パワー、そして連携が効いてくるってわけだよ!」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

アレクシス・ミラ
アドリブ・連携◎

既に村には死が溢れ
僕達を狩る為にそれを利用しようとする輩がいる
吸血鬼達への怒りと…死した命への悼みに目を閉じ…開く
…僕は、退く訳には行かない
貴様を、この先にいるであろう敵を倒す
虐殺の…絶望の運命を変える為に!

僕は前線で…味方がいれば盾役となるよう戦おう
戦場の魔力には環境耐性に己に浄化の力を巡らせ
光属性の衝撃波で先制攻撃
そのまま僕へと意識を惹きつけるように剣戟を
攻撃はオーラ防御と盾で防ぎ
味方への攻撃は盾でかばおう

魔導書が召喚されれば前に立ち
不撓不屈の覚悟で【天廻聖盾】を展開
全て受け止めてみせる!
耐え切れれば
魔法弾、魔導書、そして敵に向かって
受け止めた脅威の全て―返させてもらうぞ!



 始めに、浮遊があった。
 地に足が着かない。体の上下と左右が頼りなく、水の中を沈んでいく様な感覚だ。
 その中で、アレクシスは瞳を閉じていた。
 転移の最中だ。
 話の中では、村に生は最早無く、且つ、その惨状を呼び水として自分を含めた者達が誘われている。
「……」
 心に怒りが満ちるのを、彼は自覚していた。亡くされていった命への悼みも。
 吐息の乱れがその証明だろうと自分で思う。
 感情に呑まれてはいけない。だが、この想いは悪くないはずだ。
 決意がある。
 退くわけにはいかない、と、そう思うし、敵へ立ち向かう為の原動力にもなっているからだ。
 だから、湿った空気の匂いと共に感じる着地の触覚に、アレクシスは目を開け、
「――む」
 彩りの雨を見た。


 アンフェールは不死身ではない。
 身体を分割されればもちろん死ぬし、凍えてしまえばそのまま凍死する。
 だが今、そうなっていないのは、オブリビオンとしての心臓を果たすのが魔力であるからだ。
 だから、行動するための身体が損壊しても、魔力さえあれば復元出来る。
「でも痛いのは嫌だ」
 魔本を呼び出して周囲を旋回させながら、重ったるい溜め息を吐き出す。
 追い詰められているのは自分なのだと認めるしかない現状で、しかし、逃げる訳にもいかないというのが腹立たしかった。
 こんなことに巻き込んだ奴の事を恨みつつ、魔本からの属性弾を大地へ射撃させる。
 自分を中心に、円を刻む様な着弾だ。
 それらは傷を付けることはなく、ただアンフェールが立つ土を盛り上げさせて、長細い山として隆起させた。
 逃げはしないが避難はする。
 息を整えて、策を練ろうと、そういう狙いだった。
 ……まあ上からなら迎撃しやすいし。
 と、そういう考えもあった。
 だから彼女は見誤る。
「な」
 ちょっとした心配はあった。山を作るのに、安定させるため三角形にした事だ。傾斜があれば、もしかしたら登ろうだなんて、そういう行動をしてくる奴がいるかもしれない。
 だが、いや、ほぼ直角に近いそれに、実際挑むなんて無いだろう。もしあったとして、自分のところに到達出来るわけがない。
 と。
 結論したのに。
「んで、来る……!?」
 アレクシスが、その道を駆け登っている。
 白銀の剣と盾を持って、勢いで突き進む。当然、失速すれば落ちる筈の体だ。
 が。
「おお――!」
 剣を上へ突き立て、腕の力で全身を引っ張り上げる事で無理矢理の加速を与えて行く。
 アンフェールへ届くまで後、10mと少し。
「このっ」
 魔本を呼べるだけ喚び、壁の様に並べて開く。頁の全てをアレクシスに向け、無数の属性弾を一人に対して集束。
「……!」
 だが止まらない。
 構えた盾、その表皮に広がる光が全てを防ぐ。
 縮まる距離は6、5、4――
「ならこれで墜とす!」
 本を物理的に重ね合わせたアンフェールは、膨れ上がる魔力を1つにする。
 純粋な魔力の塊を拳大の球体へと圧縮して、真っ直ぐに見詰める視線へと思い切りぶちこんだ。
「お」
 剣を刺して、傾斜に足を合わせて踏み込みを強く、アレクシスは盾を構える。
 直撃する攻撃を防ぐ覚悟の構えは、圧倒的な質量に押し込まれ、一瞬の拮抗の後に吹き飛ばされた。
「やっ」
 墜落だ。勝利の確信が胸に溢れる。あの剣は、こちらを傷付ける事無く地に墜ちた。
「た……?」
 なのに、宙へ投げ出された男は盾を前へと翳している。それを、自分へ向けられている事に、どうしようもない不安を覚えた。
「返すぞ、その力、脅威の全てを!」
 そしてそれは、今まで放った弾の全てを返されるという形で現された。
 限られた足場で、逃げ場の無いアンフェールには、そこから逃れる術がある筈もなく。
「――」
 音すら飲み込む光に、小さな悲鳴は掻き消された。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『異端の神に捧げる処刑人』

POW   :    幸あらんことを
自身の【肉体】を代償に、【斧に歪んだ信仰】を籠めた一撃を放つ。自分にとって肉体を失う代償が大きい程、威力は上昇する。
SPD   :    神は希望を与えて下さる。神は、神は、かみかみか
【自己暗示により限界を超えた筋肉】を一時的に増強し、全ての能力を6倍にする。ただし、レベル秒後に1分間の昏睡状態に陥る。
WIZ   :    救いを、救いを、救いを成す為。立ち上がれ
【心や身体が壊れても信仰を果たす】という願いを【肉体が破損した者、昏倒した者】に呼びかけ、「賛同人数÷願いの荒唐無稽さ」の度合いに応じた範囲で実現する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 墜落したのは自分だ。
 霧散した身体の再構築を済ませ、ふらつく視界を頭の振り回しで強引に戻し、吸血鬼は空を仰ぐ。
「あぁ、しんどい」
 くるしい、いたい、めんどうくさい。
 今生は間違いなくハズレを引いたのだろうと、彼女は思う。
 いいように使われ、とんでもない奴等に狙われて、そうして役目を終えたなら。
「最期まで、利用しようって?」
 背後から胸へ貫く手が、形だけの心臓を掴んでいた。
 目だけで振り返れば、ずだ袋頭の集団が居る。
「あぁ、まったく、ストーリー性が悪い」
 自分の魔力が奪われている。
 抗えるだけの力は、今まさに使い尽くしてしまった。
 きっとあの男の差し金だろう。
 なんて腹立たしい事か。
「つぎは なが く 読み」
 落ちた本が、塵となって風にさらわれていく。

 後に残るのは、ローブと袋で全身を隠した集団だ。

 女吸血鬼から奪った魔力で強化された忘我の群れが、猟兵を、その向こうの村を目指して、進軍する。
アレクシス・ミラ
アドリブ・連携◎

村だけでなく、先程戦った彼女も利用されたに過ぎなかったのだろうか
…怒りは満ちたままだ。何処か嫌な予感も感じるが
それをぐっと抑える
今は新たな敵を食い止めねば

さあ、貴様達が狙う猟兵は此処にいるぞ!
名乗りあげ、光属性の範囲攻撃で先制
存在を示そう
脚鎧に光の魔力を充填、惹きつけるように駆ける
敵の攻撃は強大…見切って盾で受け流そう
狙いは敵を「範囲内」に誘い込む為
僕へと敵意が集中しだしたら
【天聖光陣】最大展開!
…この陣は謂わば領域
光の柱で逃しはしないし
斧が此方に届く前に狙い穿つ…全てを浄化する程の光を放とう!

―僕達を狩りたければ高みの見物などせずに姿を現すがいい
いなければ…此方から行くまでだ




 充足感が胸にあった。
 沸き上がる力が五体に行き渡る。
 強い衝動が動け、動けと、身体を突き動かしてくるようだ。
 ……主よ、ご笑覧ください。
 必ず、救いを成しましょう。
「はぁ――」
 踏み出して前へ。
 人の息付きが感じられる集落を目指そう。
 そうして、この尊き信仰を遍く全てに、知らしめよう。
「ハァ」
 袋の下で笑う男は、地を砕く程の跳躍で前進して。
「ッ!」
 直後、吹き飛ばされた。


 踏み込みは強く、堪える様にする。
 盾の内に設けられた握りを固く締め、一直線に進んでくる敵の上半身へと、すれ違い様に面をぶつける動きで盾を振り抜く。
「ふ、ぅ!」
 硬い。
 手応えに眉をしかめたアレクシスは、ひっくり返る回転で吹き飛んだ姿を横目に、両刃剣に光を走らせて前へ一閃。
 後列に固まった集団へと叩き込みながら、倒れた一体へ身体を向ける。
 それは立ち直りが速く、集落から自分へと目的を変えた事で、今は向き合う形になっていた。
「強いな」
 即座に反撃へ移る動きを目で追いながら、盾を前に出して呟く。
 敵は手にした斧を片手に、大きく身体を捻って横に構え、接近してきた。半歩退がって重心を後ろにしたアレクシスは、息を吸い込んで衝撃に備える。
「っ、ぉう!」
 瞬間、重撃に身体を浮かされた。
 上ではなく、後ろへと。
 後退するつもりの無かった構えを力だけで圧される。集団存在である敵の一個体とは思えない馬力だ。
 アンフェールを喰った事による強化だろう。
「……利用されていたというわけか、村も、彼女すら」
 怒りは先程と変わらず――いや、増しているかもしれない。だが、その衝動に身を任せる程理性はトんでいないし、何より、拭えない嫌な予感がべたりと張り付いている。
「どれほどの強さであろうと、まずはこいつらをここで食い止める」
 敵は強い。だが、その強さには、アンフェールとはまた別の代償が伴っている。敵の片腕が食い千切られた様な形跡で失われているのがその証拠だ。
「さあ、来い」
 息を吐いて、吸い直し、また吐いて一拍。
「かかってくるがいい。貴様達が狙う猟兵はここにいるぞ」
 言葉と同時にアレクシスは跳ぶ。
 前に。ではなく、後ろへ。
「――!」
 思考能力の低い集団は、逃げる動きに反応して、本能だけで追いかける。
 力は喰えても知性は得られないのだな、と、そんな感想を抱きつつ、彼は剣を地に立て、
「払暁の聖光を今此処に」
 極光の柱が空へ昇る。いや、それはもはや、円柱型な爆発と言って差し支えないレベルの強大さで。
「ォ」
 小さな断末魔を飲み込んで、敵の集団を消し去った。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

セフィリカ・ランブレイ
【エウちゃんと(f11096)】

敵だった。倒れる事を願って攻撃していたのは私達
けど、決して気分のいい光景じゃない

嬉しくはないだろうけど、せめてこの場を越えて、あの手の主を同じ場所に送ろう

『その前に目の前の集団ね』
シェル姉……相棒の魔剣に頷く

【魔神姫】
新しく掴んだ、私とシェル姉がより深く繋がった姿
共鳴して増幅される魔力が全身を強化し、溢れる力が剣の魔神のごとき蒼に髪を染める

エウちゃんも、ずいぶんやる気だね
うーん、いい背中、とか言ってる場合じゃあないね。でも、その力を使うほどかあ……うん!気持ちは受け取った!
そのサポートと今の私なら、容易い!負担も減らしたいし、一秒でも早く終わらせる!


エウロペ・マリウス
同行者:セリカ(f00633)
行動:WIZ

来世があるならば
良き未来があらんことを、でしょうか

(真の姿を晒しながら)狂信者というのは厄介ですね
アンフェール女公に同情というわけではありませんが、ちょっとした意趣返しでもしましょうか
時間制限もあるので、注意は必要ですがセリカが突っ込むならば、ちょうどよいフォローになるでしょうから

「揺り椅子の哲学者。慟哭律する静寂。その罪を我が身に刻み、罰に溺れよ。戒律に叛く華は静寂を尊ぶ(プロースティブラ・ペッカートゥム)」

信仰の邪魔をして戒律に叛く華は私ですが、狂信者の方々には暫し信仰を叫ぶことを辞めて、静寂を尊んで貰いましょう




 願っていた筈の結果だった。
 敵であった彼女には、故意ではないにしろ、多くの人が殺されている。同情の余地は無い。倒されて然るべき存在なのだと思っている。
 それでも。
「気分のいい光景じゃない」
 セフィリカは、剣を握る手に力が籠るのを自覚する。
 目の前で起きたこと、敵対関係であること。頭では理解出来ている事が、しかし、感情の納得にはならなくて。
 そういう部分が、シェルファが毎度窘める甘さだったりするのだろうけれど、今、彼女は静かにセフィリカへ意思を委ねている。
「気にくわないのは一緒だよね」
 だから、そう思う。
 そしてそれは、もう一人の相方もそうなのだろう、と。
「来世と言うものがあるのならば、良き未来があらんことを。で、しょうか」
 隣――から、前へと歩み出るエウロペの姿にセフィリカは思った。
 先程とは印象のガラリと変わった意匠の姿。ふわりと包まれていた体躯が今は、引き締まったシルエットを露にさせている。
「エウちゃんも随分やる気みたいだね、うーん……いい背中だ」
 特に目を引くのが背面、大きく露出された肌色だった。色白の繊細なキャンパスに、不釣り合いな青い茨の紋様が這いずるその背中は、セフィリカが見ている前でその領土を全身へと侵していく。
「90秒程ですが。セリカ、大丈夫でしょうか?」
 振り返らないエウロペの問い掛けに、握り手を緩めたセフィリカは一つ笑って、大きく頷く。
「うん」
 それから、前へ身体を傾ける。
「もちろん」
 一歩送った足で地面を蹴り跳ばして加速する。
「容易いよ……!」
 エウロペを追い越して、セフィリカは行った。

「神 の 奇跡。そ、の、一端だ」
 処刑人は、神の狂信者である。処刑だなどと言ってはいるが、その行いに正当なんて有りはしない。
 全ては、信ずる神のため。
 何者かの導きに従い訪れ、力を得て、ああやはり神は居られる、と、実感がある。
 だから、真正面、向かってくるセフィリカの姿はゆっくりとした速度に見え、振り上げた得物で叩き潰せる確信を得ていた。
「われら の 信仰こそが」
 膨れ上がる膂力を両腕に集めて、生肉をぶっ潰すつもりで彼はそれを振り下ろす。
「――あぇ、?」
 その目は、仲間達を見ている。
 ズラリと並んだ列は、ずだ袋に隠されてはいるが、視線は全て自分に向いていると、そう感じた。
 しかし、何故、後ろに続いていた筈の仲間を、自分は見ているのか。前に居た敵はどうして居ないのか。
 その答えを理解する間もなく、彼は、頭部が半回転したまま倒れ、絶命した。
「嫌だろうけど安心してよ。首謀者はキチンと、同じところに送ってあげるからさ」
『その前に、目の前の集団ね』
「だね、ついてきてよ、シェル姉!」
 蒼髪を靡かせて、セフィリカはまっすぐに突き進む。
 身体に溢れる馴染み深い魔力は、シェルファと自身を混ぜ合わせモノ。
 ……行けるよ!
 一度地を蹴れば、その身体は一瞬で敵の目の前へ届く。そのまま相手の顔面に靴裏をめり込ませ、倒れかけた所で追加の蹴りを入れ空へ上がる。
「何故」
 刃に両断されながら、狂信者は呻く。
「信仰が足りないのか」
 内臓をまとめて弾く様な殴打に吹き飛びながら嘆く。
「何故、ちからが、行使できない!」
 先程まで確かに感じられた、信仰により与えられた力の全てが、今は無い。
「いけませんよ。ここは慟哭を律する場となりました」
 慌てふためくその様を見て、エウロペは人差し指を口元に当てて、しぃー、と一息吐き出す。
 彼女から放出される真っ赤な薔薇が戦場を舞い、敵が使うユーベルコードのみを無力化する空間へと変化させているのだ。
 だから、彼らの祈りはもう、どこにも届くことは無いのだと、エウロペは知っている。
「信仰の邪魔をして戒律に叛く華は私ですが、狂信者の方々には暫し、静寂を尊んで貰いましょう」
 そして静寂が支配する内は、セフィリカの動きを追うことも出来ず、狂信者達はただ、骸の海へと還るのみ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】

……まだ、止まらねぇのかよ。
それだけ、吸血鬼の魔力が強大だってのか?
ま、門外漢のアタシにゃどんな感じか分からねぇさ。
でもこれだけは、分かる。
テメェら狂信者どもをここで滅さないと、
寝覚めが悪いだけじゃ済まないって事はね!

『気合』を入れて、『覚悟』を決めて。
周囲に思念の波動を広げ、
電撃の『属性攻撃』で『範囲攻撃』を仕掛けていく。
ま、少し撃ち斃しても立ち上がってくるんだろ。

その先を倒すために、アタシは布石を打ったんだ。
一度斃すために放った電撃で、周囲に静電が満ち始めたろ。
そう、もうここいらはアタシの【超感覚領域】。
信仰によってこの先を襲おうってんなら、
何度でも退けてやる!



 狂信者達は、壊滅寸前に追い込まれている。
 だが、まだ潰えてはいない。
 恐らくそれらは、最期の1人、動ける身体が有る限り、信仰を果たそうとするだろう。
「……まだ、止まらねぇのかよ」
 呻き、立ち上がり、ふらつきながら進む姿に、多喜はしかめた表情で呟いた。
 はぁ、と溜め息を吐き出して、頭を掻きながら残党へ向かう。
「信こ」
「うるせえ」
 起き上がりかけの顔に足刀をぶちこむ。瞬間、突き抜けた白光が迸った。
「足りねぇかよ」
 多喜が放出した電だ。頭部を焼くそれは、しかし止めとはなりきらずにのたうちまわすだけだ。
 それだけ、取り込んだ吸血鬼の力が強かったのだろうかと思う。
 だが、そういった事に自分は門外漢だとも理解している。故に、それはいい。
 分からないことを悩む必要も無く、そして分かっていることは一つあって、それは、
「テメェら狂信者どもをここで滅さないと、目覚めが悪いだけじゃ済まないって事だ」
 だからやる。
 息を吸い込んで力を全身に込め、足を肩幅に開いて腰を軽く落として一拍。
「――!」
 先に放ち、今は塵となって広がり群れに紛れた白光へと意識を向け、それらを照準とするような意識で電撃をばら蒔いた。
「来なよ」
 それらは敵を倒さない。
 だが、ダメージは無視できない脅威的な物だ。
 狂信者は、残った力と手勢を総動員して、多喜を排除するべく動き出した。
「ああ、そうさ、そうするよなぁ普通」
 防衛本能なのか、彼らの言う信仰の為か。いやそんなことは、多喜には関係ない。
 大事なのは、そう仕向けて、それが上手くいった事の方だからだ。
「アタシに目を付けたのが、アンタ達の運の尽きってわけさ!」
 だから、多喜は狂信者達を斃せる。
「この先は行かせねえ、何度でも退けてやる。ここは――アタシの領域だ!」
 空間を走る電撃が、敵の悉くを貫いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『極夜卿『ジル・ド・フラテルニオ』』

POW   :    死した相手を殺す事などお前達には容易いだろう。
【対象が殺した相手や、対象に近しかった者】の霊を召喚する。これは【吸血鬼を守るが自我を持ち、呪詛を吐く者】や【死を受け入れる者等、様々いる。生前の武器】で攻撃する能力を持つ。
SPD   :    私のかわいい籠の鳥。今日はこの者を殺しなさい。
【憎悪や殺意】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【心を蝕む幻覚を見せ、人を狂わせる鳥籠】から、高命中力の【鳥籠に繋ぐ白銀の鎖】を飛ばす。
WIZ   :    今傷つけたのは私か自身か。或いは愛しいモノか?
【黒鳥の羽】が命中した対象を爆破し、更に互いを【自身の受けた痛みを一方的に共有する呪詛】で繋ぐ。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠セリオス・アリスです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「おおよそは想定の通りだと言えるだろう」
 一時の静寂を得た戦場に、満足そうな男は笑って現れた。
「あの娘も久方振りの外で遊べて良かったろう。あの信者達も崇める神に近付けて幸福を得ただろう」
 それは、ちょっとしたお節介だったと、男は自己理解する。
 もちろん善意ではない。
「まあ、愛玩物の管理は主の仕事であるからなぁ? 私の籠で囀ずる雛達に、最期の餌を与えるのもまた、そうだとも」
 それは、ただの気紛れでしかないと分かっている。だが愛玩とはそういうものだ。上の者が下の物をどう扱おうが、決定権は力有るものに委ねられているのだと。
「不満かね。不服かね? ははは、それもいいだろう、赦すとも」
 男は鳥籠を掲げ、鷹揚に言う。
「ここは私の庭だ、囚われたのは君達だ、そして主は私だ。
 逆らうといい、抗えばいい、殺すがいい。
 私はそれを、ああ、認めるとも」


※敵のユーベルコードについて

 特殊な効果のあるユーベルコードになっているため、詳しく設定してある場合は出来る限りの沿う様にしたいと思います。
 詳細が無い場合は以下の通り。
 POWは直近のアンフェールや狂信者が出てきます。
 SPDはふんわりします。
 WIZは他の仲間の方に被害が行くかもしれません。

 以上ですのでお願いします。
セフィリカ・ランブレイ
エウちゃんと(f11096)と

世界で自分以外は玩具と思ってる言動
私この手の男無理

『そこは同感ね』
珍しく即時の同意だねシェル姉

けど今迄の相手は全て奴の掌の上、それ程の力を持った相手だ
エウちゃん、お互い無理し所だね!
役割分担して慎重に戦おう!

【橙弓の森人】を呼び出す
矢による回復支援を受けながら私自身は前衛に立ち、魔剣を振るって敵の注意を引く

私が防御担当、エウちゃんが攻撃担当

痛覚共有?
…そんなもんは気合でどうにでもするしかないでしょ
エウちゃん、加減はしないでね!

それに、自分の痛みがわからないっていうのは……接戦においちゃ、致命になるんじゃないかな?
自分の身を可愛がるだけの奴には勝ちは無いって事!


エウロペ・マリウス
同行者:セリカ(蒼剣姫・f00633)

(先の戦闘で熱を持った、背中に刻まれた青の茨が疼く)
鳥籠に愛玩物、ですか
囚われていた過去を思い出すような言葉に態度、嫌な気分になりますね

黒鳥の羽対策に、【オーラ防御】【結界術】で防御を強化
回復と防御をセリカに任せるにして、私は弾幕を【誘導弾】で操作性を高めて命中率を上げる

「闇穿つ射手。無窮に連なる氷葬の魔弾。白き薔薇を持たぬ愚者を射貫く顎となれ。射殺す白銀の魔弾(ホワイト・フライクーゲル)」

セリカが対応しきれない+私の方へ向かってくる黒鳥の羽を撃ち落としつつ、
残りの魔弾を極夜卿へ
『射殺す白銀の魔弾』と【多重詠唱】との併用で、物量で押し潰します



 嫌な気分だ。
 抑えた背中に残る熱、そして目の前の吸血鬼の、自分を値踏みする視線。
 そして何より、他を物としか見ない口振りが、過去を想起させる。
「……嫌な気分ですね」
 静かに息を整えて、エウロペは呟く。囚われていた時分とあの鳥籠の中は、同じなのだろうか。
 わからない。
 ただ。
「ほう、いい目付きだ。それだけに見目は惜しい……ふふ、どう鳴くかを確かめるとしよう」
「最低ですね」
 この相手は嫌いだ。
 その感情だけはハッキリと、エウロペの中にある。
「ジロジロとみちゃってまー、ヤラシイ男め」
 不躾な視線を割って入り、遮ったセフィリカの言葉は容赦がない。どことなく軽いのは、緊張に対する気遣いなのだろうと、そう理解する。
「ていうか、自分以外、玩具だ、と思ってる言動、キツ過ぎ。私、この手の男、無理」
『そこは同感』
「右に同じですね」
 一語ずつ噛み締めた評価はとても納得で、いつもは一言加えてくるシェルファにしては珍しい同意もあり、
「おやおや、嫌われてしまったかな。悲しい限りだ」
 芝居がかった男の手振りも加わって。
「ええ。私、キライですね」
 落ち着いたテンションで、エウロペはその手を前へ開いた。

「橙弓の森人――!」
 前へと出たセフィリカは、真っ直ぐに男へ向かう。
 嫌な敵だ。気に食わない。ぶっ倒してやる。
 そういう気合いはあるが、自分たちと相手では力量の差が大きいとも感じていた。
「闇穿つ射手。無窮に連なる氷葬の魔弾。白き薔薇を持たぬ愚者を射抜く顎となれ」
 しかし、埋められないとは思わない。
 心強い力が後ろにある。前へ出る自分を支えてくれる力が。
 ヒヤリとした空気の追走を感じて、瞬間、それが自分を追い越して飛んで行く。
「射殺す白銀の魔弾」
 白だ。
 視界を埋め尽くそうとする白が、目の前の相手へと道を作るように行った。
 それらは万物を凍てつかせる氷。そういう概念を持って生み出された弾丸。触れれば何者も、その冷たい抱擁から逃れる事は出来ないだろう。
「美しい……」
 だが男は、恍惚さすら感じる笑みでそれを観ていた。
 出来の良い演し物を前にした客の様な無邪気さで立ち、自然な所作で拍手を作る。
「もっと見せたまえレディ、芸の出し惜しみは許さない」
「――ッ」
 言葉と同時に衝撃が起きた。男が発した黒い羽、そのばら蒔きによって、エウロペの魔弾が砕かれたせいだ。
「化物みたいな奴だなコイツ!」
 セフィリカは、しかし、止まらず突き進む。
 羽は消え、男の動きは拍手から自然体へ戻る最中だ。次の動作をするより早く、もっと、追い付けないほどの速さで一撃を入れる為に。
「いっけぇ!」
 小さい振り上げに、強い踏み込みで、鋭い一閃。
 小細工無しの、シンプルで最速の攻撃だった。
「お前もいいな、その気迫、実に良く練られている」
 剣は鳥籠に納められていた。正確には、放った切っ先が、網の隙間を貫通して通されている状態だ。
 セフィリカが狙ったわけではない。男がそれを迎え入れただけだ。
 開けられた籠の中、不在のそこから溢れるのは、氷を砕いた黒の羽で、
『セリカ!』
「っ、い……たくないよ!」
 炸裂する。
 視界を歪ませる痛みを気合いで堪えて、二歩下がったセフィリカは、詰まった息を吐き出して構えを直す。

 ……捕まったかぁ。

 嫌な感覚が植え付けられている。
 敵のユーベルコードでもたらされた効果だ。
 追った傷は、橙弓の森人から来る回復で塞がれたが、状況が良いとは言えない。
「セリカ」
「だいじょー……ぶ!」
 それでも行く。
 エウロペの魔弾は間を置かない――いや、隙間すらないほど濃密に放たれている。
 迎撃の羽が散っていて、先程の様な騙し討ちでもされない限り、周囲のそれらが自分を襲うことは出来ないだろうと、そう推測できた。
 だから、セフィリカは行く。
 敵は籠を向かって左に持っているので、こちらは右へ楕円を描く軌跡で向かい、反撃の動きを見逃さないよう集中して駆ける。
「……!」
 肉薄し、間合いへ入る、と同時に膝を折って低姿勢。地面を掠らせた剣先を、斜め上へと振り抜いて一撃。
 男の体を深く斬り裂き、鮮血と共に臓物の噴出が見えて、
「っ、あ、ああああ!」
 セフィリカは、気絶しそうな苦しみを感じた。
 肉と共に骨を断たれ、腹の中をぐちゃぐちゃにされた様な、気持ち悪さを伴った痛みだ。
 遠退く意識の中、それが男のユーベルコードのせいだと理解する。


「セリカ」
 崩れ落ちていく姿を、エウロペは見ていた。
 斬り裂かれた筈の身体が復元された男は、笑ってそれを見下ろしている。
「言いましたよね」
 焦りがある。
 心臓の早鐘で胸は痛み、不安と緊張の感情が脂汗を引き起こしている。
 それでも、両手を前へ、重ねた詠唱に魔力を上乗せして、弾丸を創造した。
「加減はしないで、と。そう言ったのだから」
 前方を埋め尽くす白の景色。先の物量を遥かに凌ぐ、それら全てに自分の意思が反映される感覚。
「穿ち、射抜け、白銀の魔弾!」
 撃つそれは、扇状に広がって、鋭角に男を目指した。
「これほどのものとは! ハハハハハ、実に欲しい! 私の籠にこそ映えきゃん」
「うるさいなこのヘンタイ……!」
 鳥籠の主が感じたのは、これを飼いたいという欲求だった。
 その光景は、相対した者が見るほどに美しかったのだろう。
 だから、意地で持ち直したセフィリカが下からぶちこむ一撃に気付かなかった。
 顎下から脳天へ、貫く衝撃はフィードバックされ、セフィリカは今度こそ意識を失い倒れる。
「貴様、よくも邪魔を――」
 そして男は、怒りをセフィリカに向けた事で、防御も逃走も出来ないまま、ホワイトアウトに消えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】

……まさか、ね。
世界を越えてまで呼び寄せられるたぁ。
極夜卿、だったっけ。
アンタにゃ少し、感謝しなきゃぁな。
アイツに……準に、こうしてまた逢わせてくれるなんてよ。
なあ、準。
アンタがオブリビオンなんてのになったのは一体……
っても、憶えてないんだろうね。
きっと何かの被害者だったんだろ。
でもって、分かっているんだろ?
もう、戻れない事も。

世間話ができるってのも、悲しいけれど。
これもアタシの『覚悟』を固める為。
『コミュ力』で他愛ない話を続けながら歩みを進め、
油断させながら『グラップル』で準の霊越しに極夜卿を掴む。

アンタにゃ返礼しないといけないねぇ、
腹に【漢女の徹し】を貰っとけ!



 芯まで凍り付いた。
 呼吸。脈。細胞の全てが活動を停止し、間違いなく今、命と身体は死を迎えた。
 氷像と化した男は立ちすくみのポーズのまま、小さな亀裂から始まった崩壊にその存在を塵へと変じる。
 風に流され、少し離れた位置で、散ったそれらが渦を巻く様に集まり、一瞬の内に男の体は復元された。
「ン、ん~好調だ」
 襟を正し、髪を撫で上げ一息。常と変わらぬ顔を作り上げ、さて、と爪先でターン。
「やり直すとしよう」
 仕切り直しから、相対する猟兵へ向かう。


「……まさか、ね」
 多喜は、つい漏れる笑みを抑えることが出来なかった。
 喜びからではない。かといって怒りでも、悲しみでも無くて、そう、言ってしまえば、なんとなく、という理由だ。
 ……別れた筈だ。
 去年の春先、あの海辺で、沈む夕日と共に落ちる命と。
「世界を越えてまで呼び出されるたぁ……」
 看取った筈だ。オブリビオンとなってしまった友人、本見準を。
 だが、ソレは今、多喜と男を挟み、こちらを遮るようにして立っている。
 オブリビオンとして喚ばれたのか、もしくは偽物かとも考えた。が、最期に会った時とは――片目が潰れ、全身をおかしくされていた状態とは違った。
 生前の、多喜が良く知る準の表情そのままで、ただ少し、申し訳なさそうな雰囲気がある。
「本物だよ、喜ばしい事だろう。近しい者、自身が殺めた者の霊を喚ぶ技だ。いや、しかし、君、まさかその両方とはねぇ!」
 喚び出した男には、ある程度の理解が発生していた。経緯等はわからないが、仲と、誰が殺したのかはわかるのだ。
 だけど、
「あぁ」
 わかる筈が無い。
 多喜がどういう想いと覚悟でそれを行ったのかと言うことだけは。
「アンタにゃ少し、感謝するよ」
 嫌味たらしい台詞なんかで、その心は動じたりしない。むしろまた、敵と味方ではあっても、こうして逢わせてくれた事は良かったとすら思っている。
「なあ、準」
 ゆっくり歩いて距離を縮める。準の意志とは無関係に発せられる敵意の刃が、多喜の肌を切り裂いて鮮血を散らせた。
 けれど、どうでもいい。
「アンタがオブリビオンなんてのになったのは、一体……なにがあったんだよ」
「……」
 答えは、無かった。
 何かを伝えようと口は動いているが、そこから音が漏れては来ない。恐らく、男がそこまでの権利を許していないのだろう。
「まあ、どっちにしても憶えてないんだろうね。あの時、アンタは加害者だったけど、姿は被害者だった」
 真実は闇の中に沈んでいる。それが日の目を見るのかどうかはわからない。
「でも、分かっているんだろう? もう、戻れないってさ」
 事実として、二人の間には住む世界の隔たりがあるだけだ。
「なぁ」
 腕を広げ、抱き締めるモーションで懐へ飛び込んでいく。しかし、霊体である本見準の身体に触れる事は叶わずすり抜けて、多喜の体には傷が刻まれた。
「ありがとよ」
 決別の時だ。
 見送る視線を受けながら、友を越えて多喜は行く。
「アンタにゃ返礼しないといけないねぇ」
「っ」
 男は油断をしていた。加えて、視界から逃れる様な深い踏み込みで、身体を落とした多喜の動きを追う一瞬の隙もある。
「特別にくれてやる……!」
 だから、練り上げられた気を乗せた両掌を腹部にぶちこまれ、大きく吹き飛ばされた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アレクシス・ミラ
アドリブ◎
参考シナリオ(1章)id=9973

僕の友を攫い、僕達の故郷を滅ぼした吸血鬼
ああ…貴様の悪趣味には反吐が出る
あの頃と同じだと思うな
今度こそ…貴様を討つ

それなのに
現れた霊に息を呑む
近しかった者
守りたかった、救いたかった
故郷の…優しい街の人達
皆が僕に逃げろと言う
こんな形で会うなんて…
…でも
彼等に微笑いかける
僕は、逃げない
【理想の騎士】
覚悟と祈りと共に斬るのは霊ではなく
霊の呪詛と攻撃のみ
吸血鬼から解放させるように
これ以上、奴に利用させはしない!

霊の守りが薄くなる瞬間を見切れば
破魔の光を剣に集束
何度蘇ろうとも
何度だって僕が…「僕達」が貴様を骸の海へと叩き還してやる
全力の一撃
極夜は終わりだ!!



 自身を、世界に留める為の基盤が、大きく損傷している。
 衝撃に吹き飛ばされた男は、その事実を正しく自覚して、愉快だと言いながら、怒気の感情を溢れさせた。
「殺してやろう」
 片足で地面を擦らせ制動、逆足を斜めに突き入れて支えにし、完全な停止を成功させて一息。
「――」
 上からの気配に、男は無意識に細剣を掲げた。
 そこへ、両刃の剣が叩き込まれる。
「きさ」
 剣は細剣を滑り落ち、男の足元へ潜る動きで下がる。そのまま上へと戻る軌道で逆袈裟の斬撃を放った。
「ま」
 凶刃を、男は手刀で逸らした。剣の腹を対称的な迎えで打って、だ。
 反撃は即座に行われる。
 細剣を肘を曲げながら腕ごと引き、鋭く突きをぶちこむ。しかし切っ先は盾の面に流され、今度は剣の横払いが男を襲った。
「ほう」
 それを、男は跳躍でやり過ごした。後ろへ身体を回すバック宙で距離を取りつつ、一連の攻防で落ち着いた心境で相手を見た。
「お前……私を知っているな?」

 一つ、息を吐く。
 強襲による成果は芳しくない。だが悪くもなかったと、アレクシスは冷静に内心で評価する。
「ああ。相変わらず、貴様の悪趣味には反吐が出る」
 それから面と向かって、不快感を露に敵をそう断じた。
「貴様は覚えているか」
 知っているな、という問いには、問いで返すことで答えとする。オブリビオンは骸の海から現れる際、個体の差違があり、アレクシスが知っているソレとの差異は明らかではあった。
 だが、
「覚えていない、が、知っているのだろうな」
 男は、ニヤリと笑って言う。
 アレクシスを見下す様に胸を逸らした姿勢で、顎を指で撫でて目を細め、ふぅんと一言。
「いや、やはり知らんな、誰だお前」
「戯言を……!」
 嘘だと確信する。こちらの怒りを誘った、質の悪い、お粗末な嘘だ。
 だが、だからこそ腹立たしい。
「知っているはずだ」
 少年を、籠へと囚えた事を。
「覚えているはずだ」
 その親を無造作に千切った事を。
「知らない等と言わせやしない」
 母の血溜まりで無力に泣く子供を嗤った事も、男の腕で無力なまま啼かされた子供の事も、全部、全部、全部、
「僕達に刻んだ痕を忘れさせやしないぞ、極夜卿――いや、ジル・ド・フラテルニオ」
 無かった事には出来ない。
 故にアレクシスは行く。
 あの頃、かつて挑んだ時は、得物の重さに振り回されるだけの弱者だった。
 けれど今は違う。
 その手に握った白き刃は、何も過たず、今度こそ吸血鬼を断罪せしめる。
「な……、貴様ぁ!」
 そのはずだった。
 振り上げた剣の行き先に、慈愛に満ちた人々が並ぶまでは。
「っ」
 思わず止めて、足を後ろへ退げるのは無意識によるものだ。
「これはこれは、どうしたことだろう。ここにあるのは貴様の愛しい者たちだろう? 喜びたまえ、そして殺すが良い」
 くっくっと極夜卿は嗤う。
「ああおかしいなぁ。アイツは、それはそれは上手に人を殺したというのに」
 アレクシスの決意を踏みにじり、友の行いを改める事で、勢いを削ぐのが目的だ。
 実際、振り上げた手はダラリと下げられている。
 ただ、その顔に浮かんだのは、怒りでも悲しみでも無い、純粋な郷愁の笑みだった。
「に げ て。か」
 物言えぬ霊達。友の母、自身の母、少女、男、女性、老人、青年や少年。
 それらが発せない音を伝えようと必死に口を動かし、本意ではない攻撃をアレクシスに浴びせている。
「ああ」
 優しい人達だ。こんな形で、望まない敵対を突き付けられて、それでもアレクシスの事を考えてくれる。
 守りたくて、救いたくて、でも叶わなかった、故郷の景色がそこにあった。
「僕は、逃げない」
 両手で握る剣を、祈る様に立てて構える。刀身に満たされる光の放出は、向けられる悪意の呪詛を消し去って広がった。
「これ以上、みんなを利用させはしない!」
 踏み込み、行く。
 もう止まることはしない。
 切っ先を横へ倒し、腕を引いて、静かに振る。
 それだけで、光の軌跡はアレクシスの大事な人達をなで斬りにした。
「死した相手を殺すか、まあお前には容易い事だろうが……?」
 と、嘲るための台詞を言った極夜卿は、違和感に眉をひそめる。アレクシスの一刀は、ほぼ全ての霊を断ち斬るものだった。
 そうなれば両断、もしくは霧散するのが常だ。
 しかし、そうなってはいない。
 霊は霊として、五体満足で存在したままだ。
 ならばこちらの支配下である。
 その筈なのに、それらはまるで自分の手からすり抜けてしまっている様な感覚があって、
「貴様、まさか、私の霊を解き放ったとでも言うのか!」
 疑いを証明する突撃が行く。
 アレクシスが進む道を霊達は遮らず、むしろその背中を見送っていた。
 行く。
「何度蘇って来ようと、何度だって僕が」
 白銀に白光を滾らせ、敵の胸を貫き叩き込む。
「僕達が、貴様を骸の海へと叩き還してやる」
 上へと一閃を振り上げ、一拍の溜めを経てから。
「陽は昇る――極夜は、ここで終わりだ!」
 断末魔を飲み込む一撃が、吸血鬼を塵も残さず消し去った。
 ゆっくりと振り返ったアレクシスは、何も無い空間に視線を滑らせる。
 かつてあった想いの残滓を感じて息を吐き、静かに剣を納めて、瞳を閉じた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年02月03日


挿絵イラスト