「あー……こは、こはるに、唐傘も、って……――」
掠れた声で歌うのは、まだ幼かった頃に姉と一緒に覚えたわらべ歌。ずっと忘れてしまっていた二番の歌詞がいまはすらすらと口をついて出てくる。
返り血は既に乾きつつあった。地面に点々と残された血の跡を辿れば屋敷の中で息絶えている家族の死体を確認できるだろう。
きっかけは姉妹の仲たがい。
己の許嫁が妹に懸想しているのに嫉妬した姉がいた。だから殺した? そんな馬鹿な。私は姉のことが好きだったのに。
「ねえ、さま――」
絶望の淵に呑まれた女が鬼と化した時、その姿をとったのは姉殺しという罪の成した業であったのか。
「……ふふ、あんな女死んでせいせいしたわ」
顔を覆い隠していた長い黒髪をかき上げ、蝶囲う桜鬼は薄紅の瞳を狂気に濡らす。さあ、次の獲物はどこだ。
この業物・荒覇吐刀の犠牲となるべき者はいずこ?
「鬼化し、一族を惨殺した妖剣士の名は環。姉との諍いが原因とされているが、それにしては不審な点が多い」
猟兵たちを招き入れ、サク・スミノエ(花屑・f02236)は事の発端を語り始めた。
「姉妹の間にひとりの男が関わっていたのは事実だ。環の姉である円の許嫁でありながら妹の方に懸想し、婚約を解消して欲しいと両親に申し出ていたらしい」
これを知った円が環を攻め立て、仲睦まじかった姉妹の間にひびが入った。
……だが、それだけのことなのだ。もちろん、事件ではあっただろう。それまで問題なく過ごしていた家族の心を引き裂くような青天の霹靂であったことは間違いない。
「しかし、だからといってひとりの娘に一族を皆殺しにするだけの狂気が生まれるだろうか? その答えが、『刀喰らいの妖怪』と言われた幹部猟書家の仕業だ」
かつて豊臣秀吉に仕え、彼の血を引くクルセイダーのために戦力を献上しようとしている白燐の竜。
環の家に代々伝わる業物・荒覇吐刀に憑依し、彼女を洗脳して残虐なる惨劇を招いた。
「全ては妖剣士の正気を喪わせ、忠実な配下を生み出すための作戦だ。正気に戻すには武器から手を離させるだけでいい。だが、欠かさずに鍛錬と精神修養を積んだ妖剣士が『鬼』と化した今、たったそれだけの事が難しい。説得も心に届きはしないだろう。呼び掛けたい、という想いは無駄にはならないだろうが」
いずれにせよ、環から武器を手放させて刀に憑依している猟書家を引っ張り出すには彼女を一度は倒す必要があるということだ。
「成功した場合、彼女は猟書家と対峙する際の戦力となる。ただ、その時の怒りと恨みは人間の域を超えるほどに深く激しい。それこそ狂ってしまった方がましなほどにな。復讐を終えた後、彼女がどうなるのかまでは……俺にもわからない」
ツヅキ
プレイング受付期間:公開時~常時受付中。
2、3人ごとにまとめて判定・お返しの予定です。タイミングやプレイングの内容によっては個別でのお返しになります。
共同プレイングをおかけになる場合はお相手の呼び名とID、もしくは団体名を冒頭にお願いします。
●第1章
鬼と化した妖剣士との戦いになります。外見や能力はオブリビオン化しており、正気に戻すには彼女を倒して幹部が憑依している武器を落す必要があります。
●第2章
武器に憑りついていた幹部との戦いになります。正気を取り戻した妖剣士の怒りと恨みは激しく、猟兵に匹敵する程の力で幹部へと襲いかかります。うまく共闘できればプレイングボーナスです。
次章の受付は前章完結の翌日が目安です。雑記で案内しますのでご確認をいただけますと幸いです。
第1章 ボス戦
『蝶囲う桜鬼』
|
POW : ねえ、こんな痛みはどうかしら?
攻撃が命中した対象に【身も竦むような恐怖】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【鬼斬りの太刀による連撃】による追加攻撃を与え続ける。
SPD : この世界は痛みで出来ている
【血染めの桜吹雪か太刀の斬撃】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を相手の愛しい人々の死体で埋め尽くし】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
WIZ : そんなものは忘れましょう
【対象の願う幸福を否定する呪詛】を籠めた【赤黒く染まった桜を纏う太刀】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【幸福な未来を願う心】のみを攻撃する。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠水標・悠里」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
月舘・夜彦
【華禱】
全ての人が円満に過ごせる方が難しい
頭ではそう理解していても痛ましい話です
倫太郎、彼女を助けたいです
援護をお願い致します
倫太郎と駆け出して接近戦へ
視力と見切りにより攻撃手段を把握
斬撃による回避、武器受けによる防御を判断して対処
彼女の言葉から連撃を察知、納刀して精神を集中
納刀する間は倫太郎に防いで貰い、連撃に併せて早業の抜刀術『八重辻』
恐怖は勇気、必ず救いたいと思う覚悟を以て
連撃を捌きながら武器落としにて得物を叩き落とす
皆殺しにして尚、私達に刃を振るうのは何故
鎮まらぬ怒りと衝動は何の所為
その刀が仕向けているのだとしても
貴女の犯した罪の言い訳には決してならない
これ以上、罪を重ねてはいけない
篝・倫太郎
【華禱】
確かにそうかもな
夜彦の言葉には一理ある
でも、誰もがそうでありたいと努力してるはずで……
きっと、その努力を続けられない程の
何かがあったんだろう
同じ性を持つ故に
同じ親を持つ故に
判った、夜彦
あんたの納得いくように
思うがまま動けるように
燎火使用
神霊には攻撃回数重視の水の属性攻撃を指示
恐怖は……狂気耐性が多少は効果ありゃいいけど
ま、無くてもそれはそれ
今この現実で、身も竦むような恐怖なんて
夜彦を喪う、その一つしかねぇからな……
基本、夜彦の一撃を通す為に動く
連撃には華焔刀での早業の2回攻撃を軸に
なぎ払いや吹き飛ばしを織り交ぜて受け流す
受け流せない場合は見切りや残像で回避し
最悪はオーラ防御で防いで凌ぐ
――闇に揺蕩いし蝶の群れが敵の居場所を教えてくれる。あれか、と見当をつけた月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)は隣の篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)に己の想いを吐露した。
彼女を助けたい。
例え、全ての人が円満に過ごせる方が難しいのだとしても。わかってはいても、痛ましい事件に巻き込まれて幸せな時間を奪われた少女に救いの手を差し伸べたい。
「だから倫太郎、援護をお願い致します」
「判った、夜彦。あんたの納得いくように……思うがまま動けるように、俺は盾になろう」
任せろ、と倫太郎は鷹揚に請け負った。
「できるだけ、不幸な人間の数は少ない方がいいじゃないか。なあ?」
かつて仲睦まじかった姉妹の仲間を別つ程の何かがあったのだ。同じ性、同じ親。己の意思とは関係のない場所で決まった運命に翻弄され、そうありたいという努力を続けられなくなったとしても誰が責められるだろうか。
ふたりは互いに頷き合い、揃って駆け出す――夜風に吹かれた頬に薄紅の花弁が舞い降りた。
「あら、どちらもいい男。ふふ……最初の獲物がこんな上物だなんて、今宵の私はついているわ」
甘やかな囁きとは裏腹に、桜鬼の抜刀は峻烈。倫太郎は一気に詰まる夜彦と桜鬼の間をこじ開けるように割り込み、焔を纏った薙刀でその刃先の方向を逸らした。
「――やるじゃない」
桜鬼の瞳孔が開き、一気に数撃の刃が倫太郎を襲う。
「おおッ……!」
二つは薙ぎ払い、一つは吹き飛ばし、三つは見切った。途中、ぞくっとした悪寒が背筋を這い上がる。なるほど、こいつが『身も竦むような恐怖』とやらか。倫太郎は薄っすらと微笑みさえ浮かべ、更に一つを残像にて躱す。
(「今この現実で、身も竦むような恐怖なんて夜彦を喪う、その一つしかねぇからな……」)
それ以外の恐怖など、残念だが屁の河童という奴なのだ。
「これで避けきったか――?」
桜鬼の含み笑いが、その返事。
「まだよ」
だが、虎の子の一刀は倫太郎の纏う気膜にて防がれる。
「!?」
「悪いな、盾の名は伊達じゃねぇんだ」
対策全てを使い切って猛攻を凌いだ倫太郎は得意げに唇の端を吊り上げ、半身を退いて道を開ける。
さぁ、刃のお出ましだ。
「推して参ります」
「――こいつ……!?」
夜の天下に、凄まじい剣戟の音と火花が散った。心の蔵を冷たい指先で掴み取られるかのような恐怖という感情を、夜彦はそれ以上の覚悟でもって捻じ伏せる。
「なぜだ、どうしてそこまで……はッ――」
激しい打ち合いにもう少しで武器を取り落としそうになった桜鬼は、我に返って柄を握り直した。
「何故、とはこちらがお尋ねしたい。既に皆殺しにして尚、私達に刃を振るう理由を」
「理由――?」
どれだけ斬り込んでも微動だにしない相手に苛つき、桜鬼が舌を打つ。鎮まらぬ怒り、衝動。それは果たして何の所為なのか。鍔迫り合う元凶の刀はしらばっくれたまま黙して語ず、倫太郎の燎火に濡らされて冷たい雫を滴り落としていた。
「理由……」
桜鬼の唇が繰り返し動いた。
「これ以上、罪を重ねてはいけない」
夜彦が告げる。
「その刀が仕向けているのだとしても、貴女の犯した罪の言い訳には決してならないのだから」
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
天霧・雨吹
やれ、人の子を洗脳するやら、業物を汚すやら……
とても同じ竜の字を持つモノとは思えないね
そして哀れな人の子、環
正気に戻ったとて、正気を保てぬほどの現実しかないのだけれど
いずれ、狂気に落ちるとも、それは環自身の決断であれ、と僕は思うよ
だから、
正気に戻っておいで
環自身の手で仇を討つ為に
狙うは業物を握るその手
『凍て砕け、冰雷』
多少は避けられ、撃ち払われるとしても当たらぬということはないだろう
傷を受けるたび
戦に臨む心地が削れていく気がする
捧げられる祈りに応え
彼らが憂いなく笑えるよう戦うモノ
それが竜神たる、僕だというのに
嗚呼、
笑顔が全て消え失せぬうちに
太刀を落としてしまわねば
菱川・彌三八
何れにせよ地獄の道だが…
手前で仇討ちくれえは成すが善いさ
ちいと近づくにゃ難儀しそうなんで、千鳥を
群れは二つ
風に乗る葉の如く前を後ろを飛び回るのと、地を墨絵の侭這い動くのとだ
太刀筋に合わせて群れが避け、亦塊り、拡がり、細くなり
其の間地の群れは間合いの内迄
刀、てなァその内側にゃ弱ェと聞く
…マ、易々出来やしねえから強いンだが
然し絵、てなぁ便利なモンで、斬られっちまても描き続けりゃあ善いのサ
二つじゃ足りねえってんなら増やすだけ
三つ、四つ…さて、お前ェさんは幾つ迄なら捌けるだろう
斬られねえってんなら、別段構やしねえよ
俺ァ常に程々で好い
あァ、喧嘩のねえ行く末てなァちいと退屈だろうが
生憎、今で手一杯なだけサ
ヴィクティム・ウィンターミュート
……なるほど、ある意味もう手遅れか
カスどもが…クルセイダーどものやることはいつだってクソだな
先に幸福なんて待ちはしないが…方向くらいは、正してやるとしよう
ドーモ、随分と荒れてるようだな
斬ってみなよ──俺は此処に居るぜ
その一太刀は、心を切り裂くんだってな
だがなぁ、とてもとても残念なことに…それは意味が無いんだ
なにせ…『俺は幸福な未来を願ってない』のさ
俺はあくまでも、他人の未来を邪魔するカスを排除するだけ
俺には見返りも、幸福も必要無い…故に、無傷
さぁ、一度の眠りの時間だ
──『Nighty night』
お眠り、お嬢さん
そいつは取り上げさせてもらう
目が覚めたのなら、本当の『復讐』を始めよう
奴らに報いを
天霧・雨吹(竜神の神器遣い・f28091)は僅かに目を細め、環の手にある業物――それに憑依した己と同じ“竜”の字を持つモノに思いを馳せた。
「狙うは業物を握るあの手、か」
「どうやら、そういうルールみてェだな」
親指を唇に当て、ヴィクティム・ウィンターミュート(Winter is Reborn・f01172)は環――いや、今は桜鬼か――までの距離を意識しながら歩み出る。
「ドーモ、随分と荒れてるようだな」
軽い挨拶は探り合い。
受けて立つ、と桜鬼は艶やかに笑った。
「今夜は気分がいいのよ。でも、あなたは少しご機嫌斜めのようね?」
「あァ、カスども……クルセイダーどものクソなやり方には辟易なんでね。俺の仕事は分岐器の調子を整えてやるようなもんさ。先に幸福なんて待ちはしないが……方向くらいは、正してやるよ」
カチカチと時を刻むような電子音が紡がれ始める。さぁ一度、眠りの時間だ。10、9、8……――。
「10秒あれば足りるわ」
桜鬼が頭の後ろに回した腕で刀を引き抜いた刹那、刀身に赤黒く染まった花嵐が纏わりついた。彼女の眼前で仁王立つ菱川・彌三八(彌栄・f12195)が泰然と構える絵筆の先からは、千鳥の群れが舞い踊る。
「剣に桜、筆に千鳥ってナ。力比べといくかい?」
――群れは二つ。桜鬼の眼前で分かれて一方は後ろへと回り込み、一方はまるで影のように地面を這って忍び寄る。
いけ、目指すは其の懐。
刃の届かぬ腕の内にまで、最後の一羽となろうとも飛び込んで行け。
「愚かな人たち。幸せなど、この花のように儚いゆめでしかないのに。足掻いたって無駄なのに」
桜鬼が呟くごと、刃に纏う桜が赤黒さを増してゆく。呪詛だ。ゆめを忘れ、幸福な未来を願う心を傷つけるための。
「……哀れな人の子、環」
雨吹の溜息が夜気を揺らした。先ほど、業物を汚し洗脳した元凶に向けた眼差しとは全く違う慈雨のような声色だった。
「私は桜鬼、環ではないわ」
「ならば、その身を環に返すがよい。たとえ狂気に落ちるとも、それは環自身の決断であれ、と僕は思うよ」
鞘に納められた剣を持つ指先で、す、と示した桜鬼の手元目がけて数多の氷雷が降り注ぐ。
「まずいわね」
ただでさえ千鳥が迫っている、カウントダウンが進んでいる。桜鬼は迷わず前に出ることを選び、襲いかかる氷雷ごと千鳥の群れを薙ぎ払った。
「――!?」
当たらない。
千鳥の群れは刃を避けるように分かれ、また塊となっては自在に空を馳せる。時にはほとんど一列となって細い糸口のように螺旋を描き、刃の届かないその内側へ滑り込まんとする。
「この、墨絵風情が……ッ」
そこは流石に桜鬼。その剣技を持って千鳥の群れを斬り伏せる。だが、すぐにおかしなことに気が付いた。
斬っても斬っても、数が減らない?
「然し絵、てなぁ便利なモンで、斬られっちまても描き続けりゃあ善いのサ。三つ、四つ……さて、お前ェさんは幾つ迄なら捌けるだろう」
にやりと、彌三八は挑むように唇の端を吊り上げた。
「さァどうする? 斬らば幾らでも描くぜ、俺ァよ」
「こいつ――!!」
激高する桜鬼の呪詛に塗れた一閃は、曰く『幸福な未来を願う心』を斬る代物だ。しかし相手が、常に程々をよしとするような男だったなら? あるいは幸福な未来など願ったことのないとんでもない皮肉屋だったなら? 彼らはきっとこう言うだろう。
「まァ、喧嘩のねえ行く末てなァちいと退屈だろうが。生憎、今で手一杯なンでね」
「俺はあくまでも、他人の未来を邪魔するカスを排除するだけ。俺には見返りも、幸福も必要無い……故に」
――無傷。
そんな、と桜鬼は愕然と目を見開いた。
「馬鹿なの? 幸福を願わない人間がこの世にいるなんて……そんな……有り得ないわ、こんなの認めない。――あなたは違うわよね、ちゃんと私の攻撃が効いてくれるわよね!?」
唯一、呪詛を憂える雨吹へ泣きつくように尋ねるさまはなんとも奇妙な光景だった。雨吹は曖昧に頷き、桜鬼の頬に指先を添える。彼女の太刀傷は確かにこの心を抉っていった。捧げられる祈りに応え、彼らが憂いなく笑えるように戦う“モノ”たる雨吹の、戦に臨む心地を削いでいった。
けれどまだ、全ての笑顔は消え失せていない。嗚呼、と雨吹は安堵する。間に合った、と。
「正気に戻っておいで。環自身の手で仇を討つ為に」
覗き込んだ両目の中に、薄紅色ではない環本来の瞳の色が見えた気がする。
「あァ、そうよ」
彌三八が凛と言った。
「何れにせよ地獄の道だが……手前で仇討ちくれえは成すが善いさ」
「お眠り、お嬢さん。目が覚めた時には、本当の『復讐』を始めよう」
気づけば、とっくに10秒が過ぎ去っている──『Nighty night』、おやすみなさい。
そして、奴らに報いを。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
フィッダ・ヨクセム
その痛みッてどれくらい?
ただの興味だよ
刃の煌めきを間近で見たい気がするし、避けては良くないものを見そうだ
だが……俺様が竦むほど、痛い光景なんて広がるもんかね(過信)
俺様はヒトのようでヒトの事は他人事だ
心は鋼で、できている
今回使う武器は本物の本体じャない
あえて激痛耐性を超えるモンか知る為に持ッてこなかッた
万年筆は、あるけどさ
あくまでユーベルコードで本体に似せるように描く炎の魔法で作る代用品
なるべく素早く、全力魔法込めて書くわ
多少落書き感はあるが、俺様の魔力で創り出したもんだ
ず切り結びに付き合ッてやる
誰かの好機になりャあいい
見た目に反して、エグい切れ味と重みしてんな…?
深手の怪我を見て笑ッちまうよ
鳴宮・匡
動きの起点は見切ってる、刃の間合いもわかる
血染めの桜なんて見切りやすいものに、当たってやることもない
――けど
足元を埋め尽くすそれは、幻影だろうか
倒れる人々の姿が、よく見知った誰かに見えて
――でも
“それだけ”だ
多くの命を奪って、多くの未来を摘んできた
いつか同じ思いをするかもしれない、なんてことは
とっくに覚悟してる
この程度で、止まってなんてやれない
だけど、……ああ、そうだな
たとえ幻とはいえ――そんなものを見せられた
それには、少しだけ怒ってるんだろう、俺は
だからといって、すべきことを見失いやしないけど
――大丈夫
この身体は、すべきことを憶えてる
狙いは、手首
――その物騒な刀は、早々に手放してもらうぜ
鷲生・嵯泉
想像に過ぎん話だが、愛しいと思う心が強かったからこそ
反動たる妬心も又激しかったのやもしれん
だが其れにつけ込んだ残骸共の遣り口……相も変わらず不快に過ぎる
攻撃は視線に向き、僅かな動きから
戦闘知識と第六感に拠る先読みで以って見切り躱し
衝撃波のカウンターを当て威力を削いで武器受けにて叩き落す
……何時か此の光景が現実になるやもしれん事を知っている
なればこそ其れで竦む事も脚を止める事も無い
――壱伐覇壊、躱せはしないぞ
なぎ払い重ねて追い込み、怪力加えて斬り払ってくれる
其の身が罪に塗れたとして、雪がず生きる事がお前の望みか
違うと云うならば何をすべきか考えろ
否……もう其の刃を真に向ける先、解っているだろう
この世界が痛みで出来ているのだというのなら、その痛みが如何ほどであるのかフィッダ・ヨクセム(停ノ幼獣・f18408)は興味をそそられる。
長い間、路傍から人間の営みを他人事のように眺めてきた器物を本体とする己が竦むほどの痛みなんて、それこそこの世界にあるのだろうか?
「なによ、この刀が気になるの」
まじまじと刃の煌めきを凝視された桜鬼の方が居心地悪げに身じろいだ。ああ、とフィッダは腑に落ちる。
「そうかもな。俺様はヒトのようでヒトでないから、同じ器物の方に興味があるのかもしれない――同じ、鋼でできた“モノ”として」
「ふうん? それじゃ、存分に味わいなさないな!」
抜き身の剣を手に蝶と花弁を引き連れて乱舞する桜鬼の動きを鳴宮・匡(凪の海・f01612)は過たずに見切っていた。起点と間合いさえ抑えてしまえば後の動きは予測可能。
「しかも、この闇に浮かび上がる血染めの桜……鳴子をつけてるようなもんだよ、俺にとってはさ」
「むしろ“視え過ぎる”――か?」
鷲生・嵯泉(烈志・f05845)は迫る刃を一寸先にて躱し、返す刃で生み出した衝撃波をもって減衰の後に鍔迫り合った。
――死体堆き桜が丘に、鬼嗤う。
嬉々として振り回される桜鬼の剣先を匡は当たってやることもないとばかりに避け、嵯泉は逆に薙ぎ払いを重ねて追い込んでゆく。
「あはは! あなたたちには一体誰の死体が見えているのかしら。家族? 友人? それとも恋人――?」
死体の幻影を土足で冒涜する桜鬼の高嗤いは、確かに匡の感情を少しだけ動かした。倒れる人々の姿がよく見知った誰かであろうと“それだけ”に過ぎないというのに。
(「俺は、とっくに覚悟してる。いつか自分のやったことがこの身に返ってくるのかもしれない。だが、この程度でどうして止まっていられる? 迷いはない、痛みなど慣れた。ならば微かな感情の揺らぎの正体は――」)
そう、怒りだ。たとえ幻とはいえ――そんなものを見せられた事実に少しだけ怒ってるんだろう、俺は。
「だせェ技だな、ヒトの心を弄ぶのは楽しいか?」
鋼でできた心を抱え、フィッダは肌身離さず持ち歩く万年筆に魔力を込める。目を閉じても描けるそれは炎で再現された俺様の本体――紅蓮の輪郭が迸るバス停だ。
「効いていない?」
眉をひそめる相手に、フィッダは思いきりそいつを叩きつけてやる。
「ッ!!」
はっとして、桜鬼が反撃に出た。
「――適当な囮だと思ってくれや」
他のふたりに言い捨て、わざと目立つように斬り結ぶ。
「おッも……! 見た目に反して、エグい切れ味してんなそいつ……」
「どうして効かないの、さっきの奴もそう……こいつら、ちょっとおかしいわ。こんなはずじゃなかったのに」
「ぶつくさ言ってる暇なんざねェとわからいでか!」
「!?」
相討ちのような形で、桜鬼とフィッダの得物が互いを傷つけあった。
「く……!」
「ははッ」
フィッダが笑う。
「確かに、痛ェか? これが――激痛耐性を超える程の、痛み――!!」
血を噴き出しながら、それでも武器を離さずに振り下ろす姿に桜鬼も血の気を引かせて後退する。
その先に、嵯泉の刃が待ち受けているとも知らずに。
「――壱伐覇壊、躱せはしないぞ」
「な……」
なぜ、と桜鬼が呻いた。
「あの死体の山を超えて来たというの?」
「たかが幻影ごとき、何時か現実になるやもしれん事を承知の上で剣を取る覚悟の前には児戯にも等しい」
「あッ!」
竦むどころか嵯泉の太刀筋は更に剛毅を増したかのようだ。一太刀ごとに攻撃を読まれ、桜鬼は次第に追い込まれていった。
「其の身が罪に塗れたとして、雪がず生きる事がお前の望みか。違うと云うならば何をすべきか考えろ」
「お、お黙りなさい……!」
桜鬼はあくまでも抵抗する。
「私は――“私”、は」
言葉は途中でかき消えた。
こちらを見つめる銃口。血染めの花弁越しに桜鬼を捉える昏き穴――匡は身体が憶えているままに指先を動かした。
「――その物騒な刀は、早々に手放してもらうぜ」
標的の背筋が凍り付くほどに精確無比なる弾丸が一直線に手首目がけて放たれる。撃たれた桜鬼は攻撃を中断して態勢を立て直す他なかった。そうしなければ、剣が落ちる――!
「……不快な残骸共の遣り口だ」
愛しいと思う心はいとも容易く反動を生み、激しき妬心の原因となった。嵯泉の怒りはそれを利用したものに向けられる。
「そろそろ姿を現せ、外道。お前も……其の刃を真に向ける先、もう解っているだろう」
大きく両目を見開いた桜鬼の脇腹から肩口にかけてを、嵯泉の刃が轟音を立てて斬り払う。骨ごと断つ鈍い音が底冷えする花嵐に空しく響いた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
第2章 ボス戦
『刀狩』
|
POW : 刀龍変性
真の姿を更に強化する。真の姿が、🔴の取得数に比例した大きさの【己が喰らい続けた武具が変じた鱗 】で覆われる。
SPD : 妖刀転生
自身の【体の一部 】を【独りでに動く妖刀の群れ】に変形する。攻撃力・攻撃回数・射程・装甲・移動力のうち、ひとつを5倍、ひとつを半分にする。
WIZ : 修羅道堕とし
自身の【背の刃の羽 】から【見た者を幻惑する妖刀】を放出し、戦場内全ての【遠距離攻撃】を無力化する。ただし1日にレベル秒以上使用すると死ぬ。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠ヴァーリ・マニャーキン」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
遂に、環の手から離れた剣が音を立てて転がり落ちる。白々とした薄い闇がやがて像を結び、白い鱗を持った竜として具現化した。
「う……」
蹲り、呻く環を侮蔑するように見下ろすそれの名を『刀狩』という。
「たかだか数人の猟兵にすら敗北するとは、使えぬ小娘よ。おかげで洗脳が解けてしまったな。せっかく乗っ取った刀からも追い出され、こうして姿を晒す羽目になろうとは心底遺憾である」
呆れたように喉を鳴らす様子は己の罪悪を認めるどころか、逆に環を責めているようにさえ聞こえる。
いや、実際に『刀狩』は彼女に罪をなすりつけようとしているのだ。その証拠に、こちらに向き直って白々しく言った。
「汝らとて、このように愚かな娘を救って何となる。所詮、姉の嫉妬に耐えきれずにその命を奪った女よ。心の底では、男が自分を選んだ優越感に酔っておったのだろう? 伝家の宝刀の継承者としての辛い修行は全て自分に押し付け、幸せを手に入れようとしていた姉を憎んでおったのだろう?」
――『刀狩』の言葉に耳を傾けてはいけない。それは心に闇を降らし、都合よく洗脳するためのでたらめだ。
「……例え、私の行いが洗脳や憑依によるものであったとしてもその罪の重さに変わりはありません」
環の、今度は自分の意思で剣を握るその指先が憎しみに震えていた。噛み締めた唇から流れ落ちた血が顎を伝い、地面に小さな赤い花を咲かせる。
「猟兵の方々には、私自身を取り戻してくださったご配慮に感謝を。犯した罪は私の命をもって必ずや贖います。ですが、もう少しだけお待ちくださいませ。この痴れ者の首を、奪るまでは………………!!」
菱川・彌三八
へェ、存外冴えてんじゃあねェか
贖うなんざ云われても俺にゃ如何しようもねェが、呑まれっちまうなァ夫れこそ思う壺サ
しゃんとしねェ
一先ず仇討ちにゃ手を貸そう
宙に地に、丸く描くは万寿菊
動けば触れる様に、泡が如く辺りに散らせる
序でに目眩ましだ
幾つか大きな菊を描いて、死角を作ってやろう
只管に、只管に
呪いで動きを止めるか、呪いを払う刹那に、何を強めたかを見定めよう
同時、何が弱くなったか
大概ェ、強くしたら使いたくなるし、弱めりゃ庇うモンだぜ
隙は其処にあらあな
誘導は任せな
菊の大きさや数で動きを狭め、隙を突いて攻めるが良いさ
然し出すぎちゃあいけねえ
死に急ぐにゃあ未だ早ェ
呑まれずにいりゃあ、必ず先が見えンだからヨ
天霧・雨吹
初めから己のみの力で対峙すれば良いだろうに
言の葉と同じく、心情も腐り果てているのだね
無論、仇は環自身の手で討つといい
むしろ環こそが、討つべきだよ
だから此度の僕は露払いだ
けれど、
同じ竜の字を戴くなどと……
随分と僕も癇にさわったのだから
少しくらいは意趣をを晴らしてもいいだろう
一太刀くらいは浴びせてみせよう
妖刀の群れも、見ればなかなか壮観なもの
だが、相手が何を増強させようとも
僕らに斬れぬものなどないよ、ね、八重雷神
さぁ、翔けようか
どの力が増すかは不明だけれど
届く前に潰せば良いこと
解除は妖刀よりも速くなるまで遠慮無く
荒天の暴威を思い知るがいい
さぁ、環よ、お行き
その刃を、存分に突き立てるがいいよ
「我に逆らうとはな。愚かな娘よ、身の程を知るがよい――!!」
例えその憎しみが人外の力を得ようとも、ただひとりで『刀狩』に相対できるほどの存在になれはしない。
『刀狩』の尾先が妖刀の群れとなって環に襲いかかる。だが、無数の万寿菊と雷鳴を纏う閃撃が双璧となってそれを阻んだ。
「そら、しゃんとしねェ。呑まれっちまうなァ夫れこそ思う壺サ」
菱川・彌三八(彌栄・f12195)の筆先が丸い円を重ねて描いた。宙に咲く万寿菊は『刀狩』の目を眩ませ、触れた先から泡のように弾けてその身を蝕み――新たな華を咲かせるための養分を求めて深く根を張り巡らせる。
「しかし、これ以上手数をかけるわけには――」
「それなら気にしなくて構わないよ」
天霧・雨吹(竜神の神器遣い・f28091)は鷹揚に微笑み、それから微かに眉根を寄せた。
「同じ竜の字を戴く者として……随分と僕も癪にさわったものだから、ね」
空に雷鳴が起き、雨雲を運び始める。稲光の逆行を受けて禍々しい姿を夜天に晒す『刀狩』は見た目こそ竜神といっても過言ではない、が――。
「それほど大層な存在だという自覚があるのなら、初めから己のみの力で事を為せばよいだろうに。言の葉と同じく、心情も腐り果てているのだね」
雨吹は容赦なく喝破した。
見抜かれた事が癪に障ったのか、『刀狩』はまたしても妖刀の群れを解き放つ。その半数を引き受けた彌三八はとびきり大きく描いた菊でまとめて跳ね除けた。
「あらァ、数頼みだナ」
降り出した雨に濡れながら、その強みを見極める。
「存外、小心者であるのかな」
妖刀を斬り伏せる八重雷神の閃撃はまさに神速。届く前に潰せば良いとは雨吹の言である。一振りごとに解除される封印は容赦なく命を削るが、躊躇いはない。
「僕らに斬れぬものなどないよ、ね、八重雷神」
――さぁ、翔けようか。
そして、『刀狩』こそ思い知るだろう。荒天の暴威を、幽闇雨吹津見の神に挑みし思い上がりを悔いることになるだろう。
「美しい……」
忘我の領域で、環は呟いた。
「なぜ、私は……人の身でありながらあの首を獲れるだなどと、思い上がって……」
立ち尽くす背を雨吹は優しく押してやる。
「さぁ、環よ、お行き。その刃を、存分に突き立てるがいいよ」
「けれど……」
「仇は環自身の手で討つといい」
いや、と雨吹は強調して言った。
「むしろ環こそが、討つべきだよ」
「手は貸すぜ、誘導は任せな」
彌三八は眼前の刃を睨みつけ、気合いを込めたひと筆でひたすらに菊を描いた。大小さまざまな文様が妖刀の進路を狭め、隙を探り出す。
(「さァ、手前ェが庇いたがってるモンは何だ?」)
強くしたら使いたくなるし、弱くすればその逆だ。それで彌三八はピンと来た。彼奴がさっきから一度もしていない行動がひとつだけあるではないか。
「良い事を教えちやるよ」
「え?」
「あの妖刀を嗾けてる間、奴ァ動けねェ」
はっと目を見開く環に、彌三八は「死に急ぐな」と念を押した。
「出すぎちゃあいけねえ。呑まれずにいりゃあ、必ず先が見えンだからヨ」
「はい。この戦いが終わるまでは、決して」
見つめ返す環の瞳は冴えていた。
彌三八は駆け出すその背中を見送った。他に如何しようもないと分かってはいても、その言葉を繰り返さざるを得ない。
「戦いが終わるまでは、ねェ。それがアンタの贖いなのかい――?」
大成功
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フィッダ・ヨクセム
お前の刃は届くのか?
いや、……届いて貰わないと困るな
俺様は打撃の武器だからな、爪と牙を炎の魔力で強化できても
決意のある、命を絶てる刃に適うもんじャない
ニョロニョロ長ェ体で態度でけェな、コイツ
堕ちたヒトを救うのに対価なんて必要?
生きてたら、罪を償う事だッて…なんでもできるだろ?
誰に赦されずとも、見捨てていいモンなんて(胸を叩く)ココにねえわ!
うるせえ黙れ、噛み千切るぞ(殺意)
UC発動
普段より二倍でかくなるわけだけだが…身に纏った氷と炎の魔力を、器用に利用できるほど術に詳しくない
メインアタックは俺様には無理だ
客(誰か)に道を示すのがバス停の限界
……だから、突進して喰らいつく
硬かろうが離してやらねえ
ヴィクティム・ウィンターミュート
ようやくお出ましか
空き巣風情が上からご高説を垂れてんじゃねえ
まともにやって勝てねえくせに、口だけは一丁前か?
ダッセェなお前…そんなんだから秀吉を護れなかったんだ
【挑発】はこんなもんでいいだろ
飛び道具の類はどうせ意味が無い、接近戦だ
──とでも思ってるか?半分正解だな
幾ら無効化していても、ド至近距離で、しかも目に向かってナイフを投げれば…一瞬でも身体は強張るもんだ
その隙をついて、ナイフで素早く、削ぐように斬る
仕留めることは出来ないが…もう終わりだよ
急激に力が吸い取られるのを感じるだろう?向かう先は環だ
後はお前がやれ
──命で償うなら、選ぶといいさ
死で償うか
生きるという苦痛を噛み締めて生きていくか、な
荒天など意にも介さず、フィッダ・ヨクセム(停ノ幼獣・f18408)は口さがない敵を見上げて呟いた。
「ニョロニョロ長ェ体で態度でけェな、コイツ」
「口だけは一丁前な奴だぜ、まともにやって勝てねえくせによ」
こちらはヴィクティム・ウィンターミュート(Winter is Reborn・f01172)。「ダッセェな」と一笑に付して、青く染まりゆく瞳でわざと喧嘩を売り付ける。
「ようやくお出ましかと思ったら、空き巣風情が上からご高説を垂れてんじゃねえ」
「おうよ。誰に赦されずとも、見捨てていいモンなんてココにねえわ!」
自分に向けた親指の先で胸元を叩き、がなるフィッダの全身から殺意のオーラが陽炎のように湧き出でた。
堕ちたヒトを救うのに対価なんて必要か? ――否。生きてたら罪を償う事だってできるだろう。
「はッ、おためごかしを言いおるわ」
『刀狩』は鼻でせせら笑った。
「その娘は命で贖うと言っているではないか。自害するつもりの娘を救ってなんになる?」
ああ、もうこれキレていい案件だわ――フィッダは最後の理性をぶち切るのを自分に許した。
「うるせえ黙れ、噛み千切るぞ」
「やってみろ、小僧が!」
フィッダは徐々に獣と化してゆく。彼の“正義”を裏付けるかのようにその姿は更に強さを増して、激しい殺気と暴走気味の炎氷を纏った巨体で文字通りに突進した。
――喰らい付く。
武具で覆われた固い鱗だろうが構うものか。“客”に道を示すのがバス停の限界ならば、その誰かがやるまで絶対に放してなどやるものか――!
「こやつ、妖の類か!?」
互いに真の姿を晒し、激しく絡み合う二匹。
いや、ここにもうひとり、真の姿でナイフを構える男がいる。誰でもそれを見れば接近戦を持ちかけるつもりなのだろうと推測するに違いない。
実際に『刀狩』は自分に飛び道具は効かないことを承知しているのだから。その背の刃羽は薄っすらと紫がかった幻惑の光を湛え、全ての遠距離攻撃を無効化してしまう。
「だからこいつで斬りかかってくる――とでも思ってるか? 半分正解だな」
「な――!?」
絶対に当たらないと分かっていながら、急所である眼球に向かって投擲されたナイフに反応してしまったのは生物の性だ。
ヴィクティムはその隙をつき、素早く抉るように『刀狩』の身体に突き立てたナイフを真横に薙ぎ払った。
「卑怯な……ッ」
「やれやれ、今度は言い訳か……そんなんだから秀吉を護れなかったんだ」
この挑発は効いた。
「おのれ……!!」
怒り狂う『刀狩』はあらん限りの力を振り絞って体を捩るが、フィッダはどれだけ振り回されても噛み付いた格好のまま決して離れない。その目が呆然と見上げる環の視線と噛み合った。
――お前の刃は届くのか?
いや、届いて貰わないと困るのだ。バス停にはバス停の、剣には剣の役割がある。だからお前の決意を見せてくれ。
その刃ならば、命を絶てるはずだから。
「…………」
環は剣を握りしめ、立ち尽くしている。
「後はお前がやれ」
ヴィクティムに声をかけられ、びくりと肩を揺らした。
「あいつはじきに力を吸い取られ、弱体化する。奪った力の向かう先はお前だ」
「……よいのですか?」
「どうして俺に聞くんだ」
肩を竦め、ヴィクティムは言った。
「──命で償うなら、選ぶといいさ。死で償うか、生きるという苦痛を噛み締めて生きていくか、な」
「優しいのですね」
「は? 寒気がすること言うなよ」
顔をしかめ、ヴィクティムは居心地悪そうに身じろいだ。「すみません」と謝った環はこう言い直した。
「私はそう思ったんです。……ありがとうございます」
大成功
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月舘・夜彦
【華禱】
彼女を利用しただけでなく愚弄するとは
ですが、そう豪語するなら自らやれば済んだこと
刀を狩る名を受けながら、狩りもせず……我等に臆したか
攻撃は鎧無視・鎧砕きにて刃が通るように強化
妖刀には早業の抜刀術『神風』にて攻撃
2回攻撃となぎ払いを併せ広範囲に仕掛け、倫太郎と手分けして対処
破壊し切れなかった妖刀は数が多ければ残像にて回避
少なければ武器受けにて凌ぐ
環殿は身を挺して向かうのなら抜刀術『神風』にて援護
罪を命を以て償うのは容易い
抱いた怒りも、悲しみも、全て消せる
ですが、今貴方と同じく利用された者達が居る
私はそれがとても許せない
一人でも多く、この悲しみを抱く者を減らしたい
どうか、力を貸してください
篝・倫太郎
【華禱】
あぁ……もう充分じゃねぇか
罪を罪と認めてる、それで充分じゃねぇか
刀狩、てめぇ……ぜってぇ逃がさねぇ
夜彦の憤りに追従するように宣戦布告
業返し使用
オーラ防御を展開した状態で接近
衝撃波と鎧無視攻撃を乗せた華焔刀でなぎ払いの先制攻撃
刃先返して2回攻撃
敵の攻撃は華焔刀で受けていなし
直後から発動させて攻撃
夜彦と手分けして対処
負傷は激痛耐性で耐え
以降の攻撃には生命力吸収も乗せる
時間切れになったら再度UC使用
夜彦と環の位置や動きには留意
特に環が致命傷を負わないように注意し
必要に応じてオーラ防御展開状態で庇う
命で償うってンなら……生きて償わなきゃな
死んだ方がマシ、そんな状況でもよ
一先ず、こいつを還すぞ!
風の啼く声――まるで、月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)の胸中に生まれた許せぬ想いの産声にも似た風鳴に衣装をなぶられながら、剣の柄を握りしめる。
「彼女を利用しただけでなく愚弄するとは……ですが、そう豪語するなら自らやれば済んだこと」
他責に過ぎる言い分を素直に聞き入れるには、夜彦は長く生き過ぎたのだ。
「刀を狩る名を受けながら、狩りもせず……我等に臆したか」
それならそれで、と群れを為して襲いかかる妖刀を早業の抜刀術にて剥ぎ払う。甲高い音を立て、居合いに阻まれた刃が地面に落ちた。
「――倫太郎」
「わかってるさ。刀狩、てめぇ……ぜってぇ逃がさねぇ」
篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)は華焔刀を手に接近、浮遊する本体目がけて放つ衝撃波が鱗と化した武装ごと剥がして舞い散らす。
「まだよ!」
そうやって鎧を剥いだところへ、刃先を返して深々と肉を抉る。
「貴様、やりおったな……我に傷をつけおったな!」
『刀狩』の掲げた右手が妖刀の群れと化して一斉に放たれた。倫太郎は舌打ちし、華焔刀を盾にしていなすように受け流した。
「こんくらい、なんともねぇ……!」
両目を見開き、薙刀を一閃。
「なに――!?」
自らの放った妖刀の群れと同じものが『刀狩』を斬り裂く。驚きに言葉を失う相手に倫太郎は軽く口笛を吹いた。
「馬鹿な、複製しおったのか?」
「ついでにあんたの生命力ももらったぜ? あんまし美味ぇもんじゃなかったがな」
倫太郎が指先で頬の血を拭うと、既に傷は消えていた。
「おのれ……!!」
「いいのかよ、よそ見して?」
『刀狩』は慌てて夜彦の姿を探したが、そこには妖刀が斬り裂いた残像が消えゆくのみ。本人は既に本体を捉え、残る妖刀ごと十文字に薙ぎ払って戦場を綺麗に片付けた。
「征くならば、我が『神風』が援護を」
剣を握りしめ、仇を見据える環に夜彦が語りかける。
「……かたじけなくございます」
環が頭を下げかけるのを夜彦の手が制した。その命をもって罪を償うことは容易い。抱いた怒りも、悲しみも引き連れて彼岸に消えてしまうことは決して許されざる罪を背負った罪人にとってはさぞかし魅惑的な罰だろう。
だが、それを理解した上で夜彦は告げる。
「貴方だけではないのです」
「え――?」
思いもよらぬ告白に環は目をみはった。
「そう、今貴方と同じく利用された者達がこの世界のどこかに居る。私はそれがとても許せない」
だからどうか、力を貸してほしい。
「一人でも多く、この悲しみを抱く者を減らすために」
降り注ぐ妖刀の乱舞にふたりが巻き込まれぬよう、倫太郎は自分の周囲にまで結界のように気膜を張り巡らせることで盾となる。
「命で償うってンなら……生きて償わなきゃな」
努めて気丈に、己の勇気を分け与えるように。死んだ方がマシな状況だからこそ、生きることに意味はある。
「……しかし」
「おっと、反論なら後にしてくれ」
夜彦と倫太郎は肩を並べ、それぞれの得物を手に敵と相見えた。
「一先ず、こいつを還すぞ!」
「はい!」
環の返事を受け、ふたりは再び刃を躍らせた。じわりと形勢が傾き始める。『刀狩』の妖刀はその本数を減らし、あと少しで尽きかけようとしていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鳴宮・匡
よく喋るやつだな
誰かの心の中の話を、お前が勝手に決めつけるなよ
憎むのも、その逆も
決めるのはそいつ自身の心だ
相手の動きをしっかり視て動く
刀――武器であるなら殺傷の為の最適な動きは限られてくるし
手数、威力、攻撃範囲
そういうものから相手の“弱いところ”はわかる
それを見切り、回避と迎撃に努め
上手く相手の隙を生み出すよ
――頼れる剣士がいるんだし、止めは任せるとするさ
犯した罪を、命なんかで償えるもんか
そんなくらいで済むのなら
誰だって、苦しんで、痛みに呻きながら生きたりしない
どうしたらいいか考えて、生き抜いてみなよ
それでも、自分のことが嫌いで、憎くて、どうしようもないなら
死ぬ、なんてのはそれから考えるもんだ
鷲生・嵯泉
愚かである事は罪ではない
だが今は……お前如きが竜を名乗る事が赦し難い
――伐斬鎧征、破砕と為せ
如何な賦活でも構わん
気配、風切る音、刃の反射光、情報の全てが見切る糧
第六感による感知と戦闘知識での先読み重ね
なぎ払いで以って悉く叩き落として呉れる
衝撃波の連打で抉じ開け、一撃を通す道筋と為してやろう
腐った残滓なぞに、此の刃を狩る事など出来はせん
況してや――猛る咎討ちを止められよう筈も無い
命の贖いは命でしか成されんという事に一理はあろう
どうあっても死を選びたいと云うなら止めやせん
だが死して其の咎を消すよりも
生きて己が罪を伝え、世の戒めと為す方が贖いとしては苦しかろう
本当に悔い贖うとして、お前は何方を選ぶ
『刀狩』の本体が息切れたかのように身を捩った。信じられないものを見るかのような目でこちらを見下ろしている。
「どうした、形勢が悪いようではないか?」
鷲生・嵯泉(烈志・f05845)の言葉にはひとかけらの慈悲もない。あるのは赦し難き怒りだ。お前如きが竜を名乗る事、気高き一族への冒涜と思うがよい――!
「――伐斬鎧征、破砕と為せ」
指先に挟んだ黒符に滲む血が紅蓮の炎となって発動する儀式。命を犠牲にしてなお戦いに赴く烈志の底力をその眼に焼き付けろ。
迸る妖刀の群れへと突っ込む嵯泉はあらゆる感覚――聴覚、視覚、肌感、知識――をもって乱れ撃つ刃に対抗した。
「我の妖刀の全てを避けきれるものか!」
「果たしてそうかな?」
見くびるには早い、と嵯泉はまるで妖刀の動きを読んでいたかのように攻撃を回避して『刀狩』の眼前にまで迫る。
最後の刃を叩き落せば、もう本丸が目の前だ。
「よいのか? 我を殺してよいのか? 復讐を遂げればその娘は死ぬぞ。それでもよいのだな?」
「ほんと、よく喋るやつだな」
今夜も鳴宮・匡(凪の海・f01612)の愛銃は手に馴染み、弾送りもスムーズに戦闘準備を完了。
「誰かの心の中の話を、お前が勝手に決めつけるなよ。憎むのも、その逆も……決めるのはそいつ自身の心なんだ」
次の妖刀を生み出そうとしていた尾先が、連続で撃ち抜かれた。
「!?」
すぐさま『刀狩』は別の部位に機能を挿げ替えるが、それも見透かされたかのように阻止される。
「なぜ我の考えがわかるのだ!?」
「考えじゃないさ、俺が視ているのはお前の“動き”だ。だから――」
弾丸に弾かれた白刃が弧を描きながら宙を舞った。
「武器として殺傷のための最適な動きをする限り、逆にそれは読みやすい」
「ぐぬ――……!!」
その間にも峨泉の剣先が容赦のない衝撃波の連打を浴びせかける。遂に、妖刀の全てが尽きた。
「ば、馬鹿な……これほど愚かな者らになぜ我が敗北せねばならんのだ?」
「腐った残滓なぞに、此の刃を狩る事など出来はせん」
そして、嵯泉はこの瞬間こそを待っていた。
一撃を通す道筋が開け、猛る咎討ちがいま成就する。匡は肩越しに振り返り、軽くジェスチャーした――止めは任せたよ、頼れる剣士さん。
「犯した罪を、命なんかで償えるもんか」
自身の剣でけりを着ける環の背中を見つめ、匡は独りごとのように呟いた。それで済むのなら、誰だって、苦しんで、痛みに呻きながら生きたりしない。
『刀狩』は倒され、後にはあれの齎した罪だけが残った。嵯泉は剣を捨てて慟哭する環の背後に立ち、尋ねる。
「命の贖いは命でしか成されんという事に一理はあろう。どうあっても死を選びたいと云うなら止めやせん。が――」
その時、雨が止んだ。
嵯泉は濡れた髪をかき上げ、晴れ間から射す満月の輝きに目を細める。
「生きて己が罪を伝え、世の戒めと為す方が贖いとしては苦しかろう。本当に悔い贖うとして、お前は何方を選ぶ」
「……わかっています。死にたい……それは私の欲です……そうして楽になってしまいたい、犯した罪ごとこの世から消え果ててしまいたい……!」
「それだけわかってれば十分じゃないかな」
匡の静かな声色が染み入るように響いた。
「どうしたらいいか考えて、生き抜いてみなよ。それでも、自分のことが嫌いで、憎くて、どうしようもないなら――」
落ちていた剣を拾い、環へと差し出す。
「死ぬ、なんてのはそれから考えるもんだ。焦らなくていい、意外と時間ってのはたっぷりとあるものだからさ」
己の剣を受け取った環は刃ごとそっと握りしめる。流れる血と刻まれた手のひらの傷は罪人の証。屍ではなく、生身に背負う業の証だ。
「今宵は月が美しいな」
嵯泉は結末に満足したかのように外套を翻し、幕の下りた舞台に背を向けた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
最終結果:成功
完成日:2020年11月30日
宿敵
『蝶囲う桜鬼』
『刀狩』
を撃破!
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