1.901秒を超えて征け
●スナーク症候群
これは幻影であると知っている。
ヒーローズアースにおいてヒーローとは救いを求める者を救う者である。だとするのならば、己はヒーロではないのだと思う。
己がしたことは哀れなる者を、ヴィランを倒しただけだ。
あのヴィランの名前を覚えているかと問いかける幻影がある。
覚えていないわけがない。
「――ユィット。君は俺を許さないのだろうな。わかっている。謗るのならば、謗ればいい。俺はそうされるだけのことをした」
何も力なき者だけが救いを求めるわけではない。
力在るが故に苦しむものだっているのだ。『ユィット』。そう呼ばれたヴィランがいた。己の血液全てが猛毒であり、指先が触れるだけで生物という生物は死滅してしまう。
彼女がそれを望んで手に入れた力ではないことを己は知っている。
人体実験の結果、望まぬ力を手に入れてしまったのだ。己が叩き潰したヴィラン組織のし阿波座だった。生きていたかったはずだ。
だが、彼女が生きているだけで周囲の生命は枯れ果てていく。
最後に見た彼女の顔は涙で濡れていた。
「そうだ。お前が殺したのだ。哀れなる娘を。望んだわけでもない。徒に力を振るったわけでもない。ただ、そこに在ったというだけで他の生命を侵す存在に成り果ててしまったからこそお前が殺したのだ」
その言葉が頭に響き渡る。
殺したのだと。
お前が決めて、お前が殺したのだと。誰かに強制されたわけでもない。命じられたわけでもない。自分自身の選択で殺したのだと。
「そうだ。わかっている。罪なき者を殺した。そうしなければならなかったから殺したのだ」
大罪を犯した。きっと彼女は殺してはならない生命であったのだろう。だが、殺した。
「私は生きていたかったのに。ただ生きていたかった。貴方は傷ついた声で言ったわね。己によった声で言ったわね。私を殺した罪は己が背負うと。それが業なのだと。なら、早く死んでちょうだい。早く。一分でも、一秒でも早く。貴方得意でしょう? 早く動くの。そういう強化人間だものね?」
彼女の言葉で、彼女ではない何者かが己を責め立てる。
もはや、彼女がどんな人間であったのか、最後に彼女が告げた言葉すらも思い出せない。それほどまでに強化人間『マーサス』は追い詰められていた。
それが例え『強化人間特有の精神疾患』――『スナーク症候群(シンドローム)』の見せる幻影であったとしても――。
●新加速剤
グリモアベースに集まってきた猟兵たちを迎えたのはナイアルテ・ブーゾヴァ(フラスコチャイルドのゴッドハンド・f25860)であった。
「お集まり頂きありがとうございます。今回はヒーローズアースにおける事件なのですが……皆さんもすでにご存知かと思われますが、ヒーローズアースに侵攻した猟書家『ミストレス・バンダースナッチ』が目論む『超生物スナークの創造』を目的としたオブリビオンの存在が確認されています」
だが、ナイアルテの歯切れは悪い。
なにか申し訳無さそうにしているのだ。それを問いかけると、ナイアルテは再び深々と頭を下げて詫びる。
「申し訳ありません。今回の現れる猟書家……オブリビオンの姿を予知できていないのです。私が捉えることのできない姿をしているのかわかりませんが……ただ、今回の事件は他のオブリビオンたちとは特異なものであるとはわかるのです」
ナイアルテが告げる事件の全容。
それはヒーローズアースにおける『均衡の時代』――つまりは善悪の概念が複雑化した時代に活躍したヒーロー『強化人間マーサス』が『スナーク症候群』と呼ばれる精神疾患により見ていた妄想が彼のいないどこかで実際に具現化しているのだという。
本来であれば彼の病んだ心が見せる幻影でしかなかったのだが、いかなる力によってかわからないが、実体を伴って大規模な虐殺を計画しているのだという。
「はい……本来であればそれは妄想でしかありません。幻影を見ている彼にとって、それは己の心を責め立てるものであり、あるいは心の均衡を保つための自傷行為にほかならぬのかも知れません。自罰的な行為でありますが、彼の心にはそれが必要であったのでしょう」
グリモア猟兵であるナイアルテが、『強化人間マーサス』の見る幻影を知ることはできない。それは現地に赴く猟兵たちもそうだ。
ただ一人廃病院の中で幻影に謗られながら耐え続けている彼から、彼が見ている幻影が何処にあるのかを聞き出すことができれば、そこに猟書家が存在しているのだという。
「ですが、『強化人間マーサス』は、すでに罪の意識からか精神をかなり逼迫した状態まで追い詰められています。不安定な状態であり、ユーベルコード……『クロックアップ・スピード』を暴発させてしまう危険性があります。そうなってしまえば、彼は……」
加速された時間の中を永遠にさまようことになるだろう。
それを阻止するために猟兵たちがなさねばならないことは二つ。
「はい。一つは『スナーク症候群』に苛まれている彼を励ますこと。奮い立たせることが肝要でしょう。そしてもう一つは彼が見ている幻影の中から具現化している猟書家の居場所を聞き出すことです」
苛まれている『強化人間マーサス』を励ませば、奮い立ったせれば立たせるほどに猟書家の居場所は鮮明に分かることだろう。
「彼は……かつて自身が敵対するヴィラン組織において、実験体にされ、その血液体液、皮膚の一片までも猛毒に変えられた無辜の少女を止む無く殺しています。彼女をそのままにしておけば、彼女以外の全てが死に絶えてしまう未来があったのでしょう」
それを彼は阻止した。
少女の生命を奪うことによって。それこそが彼の『スナーク症候群』の始まりであったのだろう。
ヴィラン組織を壊滅させて、戦う意味も、戦う相手も喪ってしまった彼の心の中にあったのは戦い続けることに寄る贖罪の手段すら見失うという未来。
「猟書家を倒すことは勿論……ですが、私は……お願いするしかありません。どうか、彼を『強化人間マーサス』の心を救っていただきたいのです」
例え、その手が血にまみれていたとしても、その心が贖罪を忘れぬ限り、彼の心は幻影によって歪められ、『超生物スナーク』の創造の一因を担ってはならないと。
猟兵達を見送るナイアルテの瞳は潤んでいた。
決して涙を流してはならない。そう思っていたのだ。誰かのための涙は尊いけれど、今の涙は己のために涙であるからだ。
だからこそ、猟兵は超えていかなければならない。
あらゆる涙と悔恨を――。
海鶴
マスターの海鶴です。どうぞよろしくお願いいたします。
今回はヒーローズアースにおける猟書家との戦いになります。『スナーク症候群』に苛まれ、その懊悩を以て具現化している猟書家『スナーク症候群(シンドローム)』を撃破するシナリオになっております。
※このシナリオは二章構成のシナリオです。
●第一章
日常です。
廃病院でユーベルコード『クロックアップ・スピード』の暴発を抑え込みながら一人『強化人間マーサス』が『スナーク症候群』に耐えています。
皆さんは彼を励ましながら、思い当たる過去の話を聞き出すなどして具現化した猟書家『スナーク症候群』の居場所を聞き出しましょう。
『強化人間マーサス』はユーベルコードの暴発の危険を持っているため、皆さんの励ましや、奮い立たせる行動が彼の意志を強くすることができるでしょう。
●第二章
ボス戦です。
猟書家『スナーク症候群』は、『強化人間マーサス』の妄想、幻影の元となった少女の猛毒を持って大規模な虐殺を計画しています。
居場所を突き止め、猟書家『スナーク症候群』を打倒すれば、それを阻止することができ、『強化人間マーサス』の心の病も癒やすことができるでしょう。
※プレイングボーナス(全章共通)……強化人間を励ます、もしくは共に戦う。
それでは猟書家である『スナーク症候群』の見せる幻影にさいなまれる『強化人間』を励まし、奮い立たせ、その心の病に立ち向かいましょう。
皆さんの言葉が、心が、彼の今までとこれからをテラスような、そんな戦いの物語の一片となれますよう、いっぱいがんばります!
第1章 日常
『具現化した病の居場所を探れ』
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POW : 強化人間を悩ませる幻影を打ち消すよう、力強く元気づける
SPD : 強化人間の負担にならないよう、言葉巧みに話を聞き出す
WIZ : 強化人間の過去を調べ、その話を聞く
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
人の心は強いものばかりではない。
そして同時に弱いものばかりでもない。
心は常に強さと弱さを兼ね備えているものである。人の心に光と闇が在るように、人の心にも強さと弱さがある。
その差を埋めるためのものがなんであるのかを己は知っていたけれど、それさえも忘れてしまったように思えてならない。
幻影の少女が言う。
「倒すべき敵も、立ち塞がらなければならない巨悪も、救わなければならない生命も最早ないのだから、貴方の生に何の意味があるのかしら?」
その言葉は尤もだ。
けれど、責め立てるような言葉が己の心に痛みを与える。その傷みがあるからこそ生きていられる。生きていたからこそ痛みを欲するのは、矛盾した行いであろうか。
『強化人間マーサス』は一人廃病院の中でうずくまる。
すまないと。
救えなかった生命への贖罪のために今日も一人耐え続ける。
その痛みこそが己の救いであるというように、加速するユーベルコード『クロックアップ・スピード』の暴発を抑え込みながら、己の心を凄まじい速度ですり減らしていく――。
ルイス・グリッド
アドリブなど歓迎
マーサスは貴方呼び
少女の事は残念だったと思う
誰でも生きたいと願うだろう
ただ、彼女は殺したいと思っていたのか。毒となった自分で周囲の破壊を望んでいたと?
俺なら望まない、すぐに介錯を頼むだろう
彼女が居ないから予想でしかないが、よく思い出してくれ
彼女が望んだのは本当に自分が生きる事だったか?
SPDで判定
常に【落ち着き】【優しく】話しかける
彼の近くまで来ると負担にならないように近くで話す。
彼の様子を【視力】で観察し【聞き耳】でしっかり傾聴しながら【情報収集】する
基本的に自分から話さず、彼の話を聞くスタンス
少女の所縁のある場所を聞いたら【世界知識】と照らし合わせて向かう
人の心の有り様は様々であろう。
固いもので覆われた者も居れば、柔く柔軟な殻に包まれた者もいる。そのどれもが一つとして同じものはなく、一つとして同じ法則の上に成り立っているわけではない。
それは猟兵の在り方とも似通ったものがあったのかもしれない。
猟兵の真なる姿は千差万別である。
法則性はなく、誰も彼もが同一のものにはなりえない。
だからこそ、ルイス・グリッド(生者の盾・f26203)は『強化人間マーサス』が一人孤独と己を苛む幻影に耐えている廃病院の中へとためらいなく進む。
「――誰だ」
『強化人間マーサス』にとって、現れたルイスは己の生み出した幻影なのか、そうでないのかも見分けが付いていないようであった。
その瞳がとらえているのは、己ではない。
ルイスの背後に立つ少女の幻影へと向けられている。今も少女の幻影は彼を攻め立て詰っているのだろう。
「少女の事は残念だったと思う。誰でも生きたいと願うだろう」
その言葉は優しさを含めていた。
どうしようもない事故、事件であったのだとしても、人の生命は還らない。過去の化身オブリビオンのように骸の海へと還ることはないのだ。
だからこそ、生命が尊いのだ。
「その願いが他の大勢を殺すのだとすれば、お前はなんとする。たった一人のために数千、数万を殺しても許されると?」
それは彼が敵対していた組織が人体実験によって無辜の少女を猛毒の体へと改造したからだ。
その結果において、少女一人と数万の生命を天秤に懸けた時、彼の選択を誰が責められようか。
「ただ、彼女は殺したいと思っていたのか。毒となった時分で周囲の破壊を望んでいたと?」
生きたいと願うことは生命にとって当然のことだろう。
生きて、未来へと進んでいくことこそが生命に課せられた使命であるというのなら、それを為すために人は生きているのだ。
「俺なら望まない。すぐに介錯を頼むだろう。彼女が居ないから予想でしかないが、よく思い出してくれ。彼女が望んだのは――」
ルイスの言葉の重なるように少女の幻影が『強化人間マーサス』の前に顔を覗かせる。
その表情はわからない。
真っ黒な虚に吸い込まれたような空洞が空いているばかりだ。
だが、そこから声が発せられる。
「そんなの貴方の都合でどうだって捻じ曲げられるものね? 貴方が都合の良いように『思い出せば』いいのだから。そんなこと言っていなかった、生きたかったのに、ただ生きていたかったのに、貴方は私を殺したのだから」
その言葉はまさしく悪意そのものであった。
まるでユーベルコードの暴発を誘発するように、何度も何度も『強化人間マーサス』の心を抉る。
「違う! 違うんだ! そんな目で俺を見ないでくれ……! あの日、戦った場所で……! 違う。俺は責められるべきだ。そうでなければ、この幻影は一体なんだというのだ」
その言葉にルイスは傍に寄って、その肩を叩く。
「彼女が望んだのは、本当に自分が生きる事だったか?」
思い出せとは言わない。
けれど、それでも。
その心が救われてほしいと願う気持ちだけは通じてほしかった。どうしよもなく己を責め立てるからこそ、『スナーク症候群』の幻影が彼を責め立てる。
「その時に戦った場所……そこに居るのか?」
うなずく『強化人間マーサス』。
本人の知らぬところで実体化する猟書家、オブリビオン『スナーク症候群』。
だが、その『あの日戦った場所』とは何処だ――?
大成功
🔵🔵🔵
フェミルダ・フォーゼル
教会から来ました。私は幻覚ではありませんよ?
心の奥底を覗き込むような視線で目を合わせ話をします。
彼女が生きていたら大勢が死んでいました。貴方の判断も行動も正義であると断定します。貴方を罰する法は存在しません。
彼女を救える力を持っていなかった事が、貴方の罪なのですね。
でしたら、彼女の様な存在をこれ以上生み出さない事、救える力を求める事が贖罪です。ヒーローとはそうあるべき存在なのでしょう?
自害はダメですよ?彼女の言葉に従って自害したら、彼女が貴方を殺した事になるじゃないですか。
法と正義と秩序の神の御名の元に。貴方が罪をおった時のお話を聞かせて下さい。罪を滅ぼしましょう。
戦いの中に希望を見出すことができるのだとすれば、それは見果てぬ輝かしい未来があるからであろう。
追い求め続けるからこそ人は走り続けることができる。
手に入れたものを大事に出来ないものであれば、徒に他者を傷つけるだけであろうが、手にしたものの尊さを知るものであれば、走り続けることから歩き続けることへと生き方を変えることもできたであろう。
「教会から来ました。私は幻覚ではありませんよ?」
『強化人間マーサス』が膝を突き、頭を垂れている前にフェミルダ・フォーゼル(人間の聖者・f13437)は膝を折る。
顔を上げた『強化人間マーサス』と視線を合わせ、その瞳の中、心の奥底を覗き込むように目を合わせて言葉を紡ぐ。
「俺が見ているのは、幻影のはずだ。彼女が、ユィットが俺を責め立てる」
その言葉はどうしようもないほどの自己を否定するものであった。
『スナーク症候群』。それは戦うために生まれ、戦うために強化を施された『強化人間』にとって、戦うべきものを、守るべきものを見失ったからこそ見る幻影。
ただの妄想でしか無いのだ。
「彼女が生きていたら大勢が死んでいました。貴方の判断も行動も正義であると断定します。貴方を罰する法は存在しません」
フェミルダの言葉は、『強化人間マーサス』の過去を、過ちであるとは言わない。
そうしなければならなかった。
彼がやらなければ誰かがその咎を背負っていたことだろう。だらこそ、フェミルダは否定しない。
「法がなくても、俺自身が俺を許せない。許されるべきではないと、知っているんだ」
無辜の生命を殺さねばならかった自身への怒りが、あらゆるものを後悔で塗りつぶしていく。
心の均衡を著しく崩しているのだ。
暴発しかけているユーベルコードの輝きが、彼の肉体を包んでいく。
「彼女を救える力を持っていなかった事が、貴方の罪なのですね。でしたら、彼女のような存在をこれ以上生み出さない事、救える力を求める事が贖罪です」
フェミルダは知っている。
ヒーローとはどんな存在であるのかを。
救いを求める声があればこそ、己が傷ついても構わずに邁進していくことができる存在であると知っているのだ。
『強化人間マーサス』のユーベルコードは、『クロックアップ・スピード』。暴発してしまえば、超加速に寄って彼の心身は最早、同じ時間の流れに身を置くことはできないだろう。
そうでなくても、彼の強化人間として備え付けられた加速装置は、不完全なものだ。2秒にも満たない限界。
不完全な加速装置であっても、彼は力を尽くしてきたのだ。
だからこそ、フェミルダは言う。
「自害はダメですよ? 彼女の言葉にしたがって自害したら、彼女が貴方を殺したことに鳴るじゃないですか。法と正義と秩序の神の御名の元に。貴方が罪をおった時のお話を聞かせて下さい」
幻影は今も見えているのだろう。
瞳を合わせていても、彼の視線はフェミルダを通り越して何処か遠くを見ているようでもあった。
「彼女は――ユィットは、あの日、あの時戦った場所……俺が敵対していたヴィラン組織の研究所……『病院』で」
本人のいない場所で具現化していく猟書家『スナーク症候群』。
その具現化した場所は、幻影によって見えている。だからこそ、フェミルダは問いかける。
それは何処なのか。
そして、力強く言葉を紡ぐ。
「罪を滅ぼしましょう」
彼に罪在りきであるというのならば、生きるもの全てが罪在りきであろう。だからこそ、贖罪の機会を与え給うたのだ。
そのためにフェミルダはいる。
「乗り越えなさい。ヒーローとはそうあるべき存在なのでしょう――?」
大成功
🔵🔵🔵
大町・詩乃
マーサスさんは他の誰よりも自分を許せないのですね。
かつて起こった悲劇。
その時何もできなかった自分が歯がゆいですが、せめて新たな悲劇を防ぎましょう。
神事起工で降霊能力を強化。
ユィットさんを自分の裡に降ろして、最後に見せた涙の訳を、彼女の気持ちを聞いてみます。
きっとマーサスさんを恨んではいない筈。
ユィットさんが自分の気持ちをマーサスさんに伝えたいのなら、詩乃の身体をお貸しします。
あの時マーサスさんが気付かなかった事、マーサスさんが忘れてしまった事を伝えてあげて下さい。
ユィットさんが伝え終わった後で、「今からでも自分を許してあげて下さい。それがユイットさんの望みでもあります。」と微笑んで励まします。
猟兵達との会話は『強化人間マーサス』の見る幻影をさらに濃くしていく。
ぼやけたような視界で彼を攻め立て、なじる『スナーク症候群』の姿は、背景を含めていよいよ彼の視界で現実味を帯びていく。
それは彼の心の内側にある傷をえぐるものであったけれど、同時に猟書家『スナーク症候群』の居場所を知ることができるのは、皮肉であったのかも知れない。
ヒーローとは斯くあるべき。
そう示すように運命は彼の心に重く伸し掛かるのだ。
「マーサスさんは他の誰よりも自分を許せないのですね」
大町・詩乃(春風駘蕩・f17458)は沈痛なる面持ちで懊悩する『強化人間マーサス』の言葉を聞く。
彼を詰り、謗る声は彼にしか聞こえない。
それが彼自身が彼に見せている幻影であったとしても、猟書家『スナーク症候群』はいびつに歪んで具現化していく。
彼の心を虐めれば虐めるほどに、その実体は色濃くなっていく。
「俺が殺したんだ……罪在るものばかりが死せるわけではないと知っていたはずなのに。罪のない、けれど、これから罪を犯す、犯させてしまうかもしれない彼女を殺す以外に止める方法を俺は知らなかったんだ」
あのときも同じユーベルコードを使った。
『クロックアップ・スピード』――猟兵たちが使うそれとは不完全なるものであったが、2秒にも満たない加速世界は、それでも一般人であった少女を痛み無く殺すには十分なものであったのだ。
彼の耳に響くのは、彼を謗る言葉。
暴発しかけているユーベルコードの輝きは、膨れ上がっていく。
それがかつて起こった悲劇に起因するものであるからこそ、詩乃は言葉を紡ぐ。
「その時何もできなかった自分が歯がゆいですが、せめて新たな悲劇を防ぎましょう――これより神としての務めを果たします」
彼女自身の神力と天地に宿りし力、そして人々の願いと想いによって、詩乃の降霊の力が増していく。
自身がなさねばならぬことがあるのならば、神事起工(シンジキコウ)として世界の理を紐解いていく。
天地に宿りし力は、誰かのいつかの想いであれば、それは詩乃の神力を、そして体を通して出る力である。
「涙の訳は、貴方の想いは……確かにそうですね」
微笑む詩乃の心の内側に今ある魂。
嘗て死した少女の魂が言う。恨んでなどいないのだと。例え、己の身体が悪意によって弄ばれた結果であったとしても、幻影の言う恨み言こそ逆恨みであるのだと。
「ならば私の身体をお貸ししましょう。あの時貴方が伝えられなかったことを、マーサスさんが忘れてしまった事を伝えて下さい」
その献身こそが詩乃の為すべきことであると、内側に宿した魂の言霊を紡ぐ。
「――ありがとう」
たった一言だけ。
ただそれだけだった。その言葉の一つが、『強化人間マーサス』のもつれた心の糸に僅かであっても綻びを見せる。
はっとしたように見上げる彼の瞳に映るのは、僅かな光。
今はまだ小さな輝きであっても、それは必ず彼を再び奮い立たせるための礎になる。これ以上は何を言葉にしても偽りにしか聞こえないだろう。
詩乃身体を借りた少女の魂が抜けていくのを感じる。
「今からでも自分を許して上げて下さい。それがユイットさんの望みでもあります」
その微笑みは陽光のように。
未だ幻影にとらえられている『強化人間マーサス』の固まりきってしまった氷のような澱をゆっくりと溶かしていくのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
佐伯・晶
マーサスさんの苦しみを全て理解する事はできないし
一緒に背負う事もできないけれど
奮い立たせるくらいはできればいいなぁ
廃病院についたらマーサスさんに話しかけよう
取り返しのつく事ではないし
責任を感じる事を責めるつもりもないけど
今のその気持ちが他のヴィランに作られたものだと
言ったらどうする?
つまりマーサスさんが悩む原因になった人を
死した後も利用し、貶めようとしている奴がいるって事だよ
今までの苦悩で思い起こされた場所を教えて貰えないかな
その場所にそいつがいる可能性が高いんだ
あまりやりたくはないけど
状態が酷いなら使い魔の催眠術で心を静めたり
マーサスさんの時間を停滞させて
加速と相殺したりして話す時間を作るよ
人の背負し業の深さと、其処から来る苦しみは計り知ることなどできようはずもない。
全てが同じ経験と人生という轍を刻んできたわけではないのであれば、なおさらのことであろう。
人と人との道が交わることはあっても、必ずしも同じ道をたどることがないように。
「マーサスさんの苦しみを全て理解する事はできないし、一緒に背負うこともできないけれど、奮い立たせるくらいはできればいいなぁ」
佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)はゆっくりと廃病院の中へと入っていく。
晶が見据える先にあるのは、『強化人間マーサス』。
無辜なる少女を殺した罪の意識に苛まれ続ける者である。敵対していたヴィラン組織を壊滅させても尚、晴れることのない贖罪の意識は、ついには『スナーク症候群』として彼の心の内側を侵食していく。
幾人かの猟兵が彼を励ましてくれている。
けれど、彼の身の内にある不完全なる加速装置はユーベルコード『クロックアップ・スピード』としていつ暴発してもおかしくないほどに膨れ上がっていた。
「取り返しのつく事ではないし、責任を感じることを責めるつもりおないけど、今のその気持が他のヴィランに作られたものだと言ったらどうする?」
その言葉は彼の耳に届いただろうか。
懊悩を続ける者の耳に言葉は届くだろうか。今尚、自身の心を自責の念が占めている。
矛先を変えるわけではないけれど、それでも今は心が保たない。
「どうい――ことだ……?」
その瞳に宿っていたのは妄執に捕らわれた鈍い輝きではなかった。
どれだけ懊悩を重ね、どれだけ業を背負っても、『強化人間マーサス』は変わらずにヒーローであると晶は確信する。
「つまり、マーサスさんが悩む原因になった人を死した後も利用し、貶めようとしている奴がいるってことだよ」
その言葉は核心をついていた。
猟書家『スナーク症候群』。
実体のない、妄想から生まれ、本人の居ない場所で具現化し他者を虐げようとする者。その悪意の根源とも言える存在がいるのだ。
「騙される、騙す、そういう問題ではない……彼女の、存在を貶めようとしている者がいる?」
きっと今も彼の目の前では幻影が何事かを囁いているのだろう。
どこまでも悪辣というほかない。
悪意が誰しもの心に存在するように、その悪意を膨らませようとする者こそが、真なる敵である。
「そうだよ。それが『スナーク症候群』。貴方は病んでいるわけでもなんでもない。それは『ただの』攻撃にすぎない。今までの苦悩で思い起こされた場所を教えてもらえないかな。その場所にそいつがいる可能性が高いんだ」
きっと、その幻影は『強化人間マーサス』を苦しめ、己の姿をより確実に像を結ぶ姿に変えようと目論んでいるのだろう。
だからこそ、その姿は彼の記憶の中にある場所にしか存在できない。
「壊滅させた、ヴィラン組織の……研究所。今はもう、もぬけの殻の、はず……彼女が、身体を猛毒に変えられたはずの、『病院』」
その瞳に映った幻影。
そこにある場所。それを口にする『強化人間マーサス』。それがどれだけ困難なことであるかを晶は知るだろう。
誰もが己の罪を、業と向き合える者ばかりではない。
心が在るからこそ、人は懊悩するのだ。あまりやりたくはないけれど、状態がひどいのであれば、使い魔の催眠術で心を鎮めたり、マーサスの時間を停滞させるつもりであった。
だが、今の彼は違うと晶は思った。
その瞳に輝いていたのは、幻影でもなんでもない。
いつかの誰かの心が見せた希望の光であり、今まで彼が助けてきた人々の願いと思いであった。
「なら、必ず止めてみせるよ。『スナーク症候群』。きっと、誰かの心にもあるんだろうね。後悔していること。けれど、それを乗り越えられるって証明しなければならないんだろう、ヒーロー!」
大成功
🔵🔵🔵
ジャム・ジアム
夢から醒めるには、現実を確かめる事
病と戦う力が要るわ
水分栄養、温くしたスープなら飲める?
QQ箱の医術+情報収集で口に出来る物を用意する
睡眠も要るけど悪夢の虜…
私にも話して
『アナプノエ』で浄化の結界を
お守りなのって彼の手に包みながら話す
ユィット
彼女はどんな子だった?
幻が出ても強く握り鼓舞
暴れるなら手を握ったまま尻尾とUCで自分も切りつける、絶対に離さない
彼女の選択は残酷
私も大切な人を捨てた事がある
貴方が決めた?本当に?だって
彼女は何でも殺せる毒を持っていたのよ
貴方も殺せた
辛いだろうけど
彼女が命を賭けた選択を忘れる様な覚悟ではなかった筈よ
しっかりして
貴方と確かに其処に居た彼女を
生き様を、思い出して
その幻影が言う。
お前の罪を忘れるなと。お前がしたことを忘れるなと。
変えようのない過去があるように、自身に付き纏う影を払拭することなどできやしないのだと。どれだけ輝かしい未来が待っていようとも、その輝きの後にある昏き影は決して消えることはないのだ。
それはきっと夢のようなものであるのだろう。
『スナーク症候群』――それは戦うべき相手を喪った『強化人間』が患う病であると言われている。
嘗てのヴィランが、後悔と共に刻まれた無辜なる人々を救えなかったという懊悩が見せる幻影であると言われている。
「夢から醒めるには、現実を確かめること。病と戦う力が要るわ」
ジャム・ジアム(はりの子・f26053)にとって、それは結局の所、病でしかない。
その懊悩がどれほど色濃いものであったとしても、その幻影を見るのが肉体であるのならば、その体に必要なものは栄養である。
廃病院の中で一人『スナーク症候群』が見せる幻影に耐えていた『強化人間マーサス』の元へとジアムは駆け寄り、彼の背中を擦る。
押し付けてはいけない。
ときには優しさは誰かの心をえぐるものであると知るからこそ、そっとジアムは寄り添う。
「水分栄養、温かくしたスープなら飲める?」
彼女自身が持ち込んだポータブルERによって、『強化人間マーサス』の状態を知る。強化人間と言えど、その元は人間である。
生命である人間が生きていくのに必要不可欠なのは、いつだって栄養だ。即ち食べ物である。
苦悩する人間にとって、悩ます種はいつだって肉体を蝕んでいく。病は気からというのならば、その肉体が気を支えるのだ。
「睡眠も要るけど、悪夢の虜になってしまいそうね……私にも話して」
精霊の加護を受けた魔石が輝く。
浄化と癒やしの結界が展開され、その中でジアムがしゃがみ込む。その魔石を『強化人間マーサス』に手渡し、包みながら言葉を紡ぐ。
「ユィット、彼女はどんな子だった?」
その言葉に『強化人間マーサス』の身体が跳ねる。
今もきっと彼の瞳には幻影が映っているのだろう。彼を詰り、謗っているのだろう。ぎゅ、と強く手を握りしめる。
誰かの心の暖かさが、伝播するように。
「あの子のことは、何も知らないんだ。ただ、泣いていたことしか思い出せない。彼女の笑顔も、何も思い出せない。知らないんだ。知らずに俺が殺したんだ」
猛毒に変えられた血液。
触れるもの全てを殺す大量虐殺兵器とされた無辜なる少女。
その少女を助け出す術もなく、解き放たれれば、それこそ数千、数万という人々の生命が脅かされてしまう。
だからこそ、殺したのだ。
ユーベルコード『クロックアップ・スピード』によって彼女が痛みを感じる間もなく、一瞬の内に。
彼の持つ加速装置、ユーベルコードは不完全なものだ。2秒にも満たない時間しか発現できない。
それでも彼は敵対するヴィラン組織を壊滅させた。
それは讃えられるものであったことだろう。彼の不撓不屈なる精神が、巨悪を打ち砕いたのだから。
だが、こうも思えるのだ。
「俺以外の誰かであれば、彼女を救う術もあったのではないか――」
膨れ上がるユーベルコードの輝き。
暴発する。そう悟った瞬間、ジアムの手の力が籠められる。絶対に離してなるものか。
自身の尻尾と医療ノコギリがジアムの身体を傷つける。それはユーベルコード。自身に課したギタギタ血まみれ外科手術によって自身の力を増す。
このまま離してしまえば、ユーベルコードによって『強化人間マーサス』の体は永遠に加速していく。
そうなってしまえば、取り返しがつかない。
「彼女の選択は残酷。私も大切な人を捨てた事がある。貴方が決めた? 本当に?」
その言葉は自身にも返ってくる言葉であったことだろう。
思い返せば返すほどに己自身をも傷つける言葉であったかも知れない。
「だって彼女は何でも殺せる毒を持っていたのよ。貴方も殺せた」
そう、自分の生命が助かるのなら容易に他者を傷つけられるのが人間だ。けれど、彼女はしなかったのだ。
「辛いだろうけど、彼女が生命を懸けた選択を忘れる様な覚悟ではなかったはずよ」
自分だってそうだ。
常に選択の中で生きている。何かを取り、捨てる。
けれど。
「しっかりして。貴方と確かに其処に居た彼女を。生き様を、思い出して」
忘れてはならない思いがある。
忘れてはならない過去がある。
だからこそ、人は輝くのだ、二人のユーベルコードの輝きがぶつかり合って、霧散するのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
私も手を汚して来ました
被弾した宇宙船のエアロックを閉じました
邪神に覚醒した少女をこの手に掛けました
影朧甲冑なる不退転の鎧纏った者をこの刃(UC)で
騎士として多くを護る為、それ以外の手段持たぬ己が無能が故に
マーサス様、少女が其処にいるのですね?
いいえ、そこにはいません
少女の魂魄呼び戻す術は私達にはありません
貴方が殺したのです
…己の贖罪の為に「こうだろう」と死者の声を捏造するのは止めなさい!
鎮痛剤と睡眠剤抜きUC浅く刺し認識正常化試行
彼女の姿借りた外部の者が原因であれば
それは彼女の意志と尊厳への侮辱です
罪は赦されません
ですが、少女の死をこれ以上汚してはなりません
それが刃を振り下ろした私達の責任です
「私も手を汚してきました」
トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は告解するように、その言葉を紡いだ。
己の手は常に汚れていると知るからこそ、汚れていないものを守ろうと思うのだろう。汚れてしまった者がいたとしても、それ以上にならぬようにと盾になるだろう。
暴発しかけたユーベルコードの輝きが収まり、トリテレイアは目の前の『強化人間マーサス』へと一歩を踏み出す。
本来であれば打ち明けることなどしなくてもいいのだろう。
だが、堰を切ったように言葉が紡がれる。電脳にとっては唯の事実だ。生命であれば、人間であれば、その事実を己の都合良いように修正するだろう。
そうしなければ、己の脳が保たないからだ。
そうやって自己を保存する力が人間にはある。それを誰が責められようか。
だが、トリテレイアは違う。戦機であり、ウォーマシンである。電脳がそれを許すわけがない。
罪があるのならば、罪在りきのまま。
「被弾した宇宙船のエアロックを閉じました。邪神に覚醒した少女をこの手に掛けました。影朧甲冑なる不退転の鎧を纏った者をこの刃で……」
その手に在るのは、慈悲の短剣(ミセリコルデ)。
慈悲と名がつくのは皮肉でしかないのかもしれない。
オブリビオンと相対するのが猟兵である以上、それは即ちオブリビオンを骸の海へと還すことに他ならない。
「騎士として多くを護る為、それ以外の手段を持たぬ己が無能故に」
そうするしかなかった。
一人を救って幾千幾万を殺す結果などあってはならぬ。
それはトリテレイア自身と『強化人間マーサス』との類似であった。もしも、己が人の身であったのならば、彼と同じようになってしまったのかもしれない。
ありえない未来の幻視すらも電脳は許さない。
「俺が殺したんだ。変わらないんだ。それは。どれだけの過程があろうとも、彼女の生の最後に俺が幕を降ろしたのだから」
きっと今も彼の瞳には『スナーク症候群』の幻影が見せる嘗て殺した少女、ユィットが詰り、謗る姿が映し出されているのだろう。
それを猟兵たちが見ることはない。
結局の所、これは心の戦いであり、悟りの戦いでもあるのだ。
「マーサス様、少女が其処にいるのですね?」
「ああ。俺を詰っている。謗っている。当然だ。そうするだけの権利が彼女にはある。恨み言を言われても仕方のないことだ。俺がそうしてしまったのだから」
だが、トリテレイアは頭を振る。
そうではないのだと。それは――。
「いいえ、そこにはいません。少女の魂魄呼び戻す術は私達にはありません」
どうしようもない事実だ。
生命は還らない。蘇らない。
時間が逆巻くことがないのと同じように、時間が骸の海へと押しやられるように、失われた生命は戻ることはない。
「貴方が殺したのです」
それは純然たる事実だった。
だが、一つだけ違うことが在る。
「……己の贖罪の為に『こうだろう』と死者の声を捏造するのは止めなさい!」
放たれる慈悲の剣が『強化人間マーサス』の体へと突き立てられる。
それはオブリビオンの悪影響を除去するナノマシンを打ち込むものである。結局自身はこうするしかないのだとトリテレイアは自嘲する。
己が無能であるということはわかっている。
御伽噺の騎士のようにはできないのだとわかっている。
だが、だからと言って目の前のことを諦めるには、己の炉心に燃えるものが許しはしない。
諦めることを由としない。
停滞することを由としない。
あらゆることを試行したとしても、止まることなどしない。
「彼女の姿を借りた外部の者が原因であれば、それは彼女の意志と尊厳への侮辱です」
『強化人間マーサス』の肉体の中を駆け巡っていくナノマシンが、彼の体の中を隅々まで駆け巡っていく。
幻影による消耗も、心身を苛む者も、それがオブリビオンの悪影響であるのならば、除去されるはずだ。
後は、彼自身の問題だ。
「罪は赦されません。ですが、少女の死をこれ以上汚してはなりません。それが……」
言わなければならない。
共に同じ道をたどってしまった者の末路がある。
目の前にいるのはきっと人間であったならばの自分であったのかもしれない。だからこそ、トリテレイアは言う。
いや違う。
これは宣言だ。
「刃を振り下ろした私達の責任です――」
大成功
🔵🔵🔵
ナギ・ヌドゥー
スナーク症候群、自分も強化人間だが初めて聞く病です。
戦う意味を失う事で発症するなら、ヒーローとしての責務を思い出して貰うしかありませんね。
まずブーステッド・ドラッグケースに入っている精神安定剤を与えて落ち着かせます【医術】
殺さざるを得ない人を殺めた事でそこまで追い込まれるとは……あなたは咎を背負うには優しすぎる
その優しさが幻影を創りだしスナーク症候群なる怪物を呼び込んでしまった
あなたが妄想した少女は真実ではないのでしょう?
このままでは幻影の少女の猛毒が世界を襲います
それが本当にユィットさんの望んだ事ですか?
あなたがその妄想に負けたら彼女は本物の怪物になってしまう
どうか真実を思い出して下さい!
『スナーク症候群』――それは強化人間が見る幻影にして妄想である。
「自分も強化人間だが初めて聞く病です」
ナギ・ヌドゥー(殺戮遊戯・f21507)もまた、その病を発症する可能性があるかもしれない者である。
彼自身も強化人間である。
だからこそ、目の前で懊悩する『強化人間マーサス』の姿は、未来の己であるのかも知れない。
けれど、彼の心を縛り付けるものがある。
それを人は矜持と呼ぶのかも知れないが、ナギにとっては己に残った最後の理性の確認であり、保つ為の術でもあった。
心を縛り付け、重しとなるもの。
暴力を厭わぬ者。それを殺す。殺しの快楽は凄まじいものだ。溺れてしまうほどの快楽であっても、それでも自身が自身で居られるのは、そうした矜持が己の中に未だ在るからだ。
「戦う意味を失う事で発症するなら、ヒーローとしての責務を思い出して貰うしかありませんね」
その手にあったのはドラッグケース。
中には己と同じ強化人間の精神を安定させる薬物が修められている。それを『強化人間マーサス』に投与する。
「ぐっ……これ、は……」
投与された薬物により、彼の心身は落ち着くだろう。
だが猟書家『スナーク症候群』が見せる幻影が消えるわけではない。それを払拭するのは猟兵ではなく、『強化人間マーサス』本人にしかできないことだ。
「殺さざるを得ない人を殺めた事でそこまで追い込まれるとは……あなたは咎を背負うには優しすぎる」
彼の体を見ればわかる。
強化人間と言っても不完全な加速装置しか持たぬ体。
ユーベルコードを宿していても、その限界は2秒にも満たない。だが、それでもヴィラン組織と戦い、これを壊滅させた。
その意志の力の源は言わなくてもわかる。
「その優しさが幻影を創り出し、スナーク症候群なる怪物を呼び込んでしまった」
「違う……俺が見ているのは――」
その瞳にしか映らぬ幻影。
少女が今もなお彼をなじるのだろう。己を実体化させるために。己の欲望を、大量虐殺を計画する猟書家が、その目的のために他人を傷つけることをなんとも思っていない悪意が膨れ上がっている。
「あなたが妄想した少女は真実でぇあないのでしょう? このままでは幻影の少女の猛毒が世界を襲います。それが本当に――」
その悪意がナギにも見えるようだった。
未だ妄想、幻影にしか過ぎない『スナーク症候群』。その悪意こそが、一人のヒーローを追い詰めていた。
悪辣。
ナギにとって、それは『暴力を厭わない者』そのものであったのかもしれない。
他者の心の傷を見て、石を投げて良しとみなす者。
それが『スナーク症候群』という名の猟書家の正体だ。
「ユィットさんの望んだ事ですか?」
違うだろうと叫ぶ己がいる。
けれど、その叫びは己のものではない。彼の『強化人間マーサス』の抱える心の傷だ。
今にも倒れてしまいそうな彼の肩を掴む。
「あなたがその妄想に敗けたら、彼女は本物の怪物になってしまう。どうか真実を思い出してください!」
本当に彼女は恨み言を言うのか。
最後に伝えた言葉はなんであったのか。
己の身を省みぬ少女の願いが、『強化人間マーサス』を突き動かしたのではないのか。
不完全な加速装置。
たった2秒にも満たぬ力の発現。たったそれだけで巨悪を打倒した者。
たったそれだけの力で、そんなことができるわけがない。
「彼女の願いが、最後に願った言葉があなたを動かしたはずだ。違いますか」
ああ、と彼の口から漏れ出る。
彼女は願ったのだ。
「自分のようなものが生まれないようにと……あの子がそう言ったんだ――」
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『スナーク症候群(シンドローム)』
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POW : ブーステッド・キリング
【バールのようなもの】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
SPD : クルーエル・スパインズ
【有刺鉄線】で攻撃する。また、攻撃が命中した敵の【自己を形成する要素】を覚え、同じ敵に攻撃する際の命中力と威力を増強する。
WIZ : スナーク・リアライズ
攻撃が命中した対象に【「スナークが実在するのでは?」という疑念】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【姿の見えない「怪物スナーク」】による追加攻撃を与え続ける。
イラスト:こがみ
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠ネミ・ミミーニーズ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
『病院』――それは嘗て『強化人間マーサス』が壊滅させたヴィラン組織の名である。
そして、彼が一人孤独に『スナーク症候群』が見せる幻影に耐えていたのは廃病院。
そう、猟書家『スナーク症候群』の幻影が具現化しようとしていたのは、まさに此処であったのだ。
猟兵達の言葉に奮い立つのは、かつてのヒーロー。
無辜なる少女を救えず、彼女の最後の願いに応えたがゆえに不完全な加速装置、たった2秒にも満たぬユーベルコードの限界のままに巨悪を打倒した者――『強化人間マーサス』が、その名の通り、竜巻の如きユーベルコードの力の奔流と共に立ち上がる。
「残念。もう少しでヒーローさんの心も折れるところであったのに」
猟兵達の前に具現化し、現れるのは真っ黒な虚が穿たれたような顔を持つ少女の姿。
それこそが『スナーク症候群』。
猟書家と呼ばれるオブリビオン。心を患った強化人間の見る妄想によって生まれた怪物である。
だが、すでに画策していたであろう猛毒による大量虐殺は為すことはできない。
奮い立った『強化人間マーサス』は己を苛む自責の念をそのままに、それでもと立ち上がる。
故に猛毒の力は、かつてユィットと呼ばれた少女が持っていた力は具現化されていない。
「でもそうね。今の心の支えは、猟兵かしら。なら、猟兵を全て排除すれば元通り。私の計画通り、猛毒に寄る大量虐殺ができる。ねぇ、そうでしょう? 私を殺したヒーローさん」
その声色は微笑むようでも在り、どこか怖気を走らせるような悪意にまみれていた。
「いいや。確かに彼等は俺を助けてくれた。奮い立たせてくれた。彼等の行動が俺を今再び1.901秒にも満たない脆弱な力を取り戻してくれた。だが、お前を許してはおけぬと叫ぶのは、それではない」
確かに『強化人間マーサス』の力は猟兵には及ばない。
勿論、猟書家『スナーク症候群』にも及ばない。
だが、彼は言う。
「彼女の願いのために。俺は戦うぞ。俺が生み出した妄想を、俺の罪を、打ち砕く――! 力を貸してくれ――!」
ルイス・グリッド
アドリブなど歓迎
マーサスは貴方呼び
俺達が簡単に倒れると思うなよ
お前も下らない計画も全て壊す
少女の願いを思い出せたのか、よかった
俺を盾にして存分にやってくれ
SPDで判定
マーサスと協力しつつ立ち向かう
敵を【挑発】しUCを銀腕で受けてマーサスには攻撃が当たらないようにに立ち回る
生身の手で有刺鉄線を掴み【怪力】で引っ張って【体勢を崩し】た後、義眼の黄の災い:感電【マヒ攻撃】を【スナイパー】【全力魔法】を使いながら当て動作を阻害
それから銀腕を【武器改造】で剣にし【早業】【鎧無視攻撃】【貫通攻撃】を使って敵を【串刺し】【切断】する
猟書家『スナーク症候群』。
その頭上に輝くのは天使の環の如き有刺鉄線で汲み上げられた冠。その少女の姿をした猟書家が如何なる表情を浮かべているのか、それはわからない。
虚ろなる深淵の如き闇色が、その顔を覆っているからだ。
「そんなに弱々しい力、ユーベルコードだって弱い貴方が私を倒すなんてなにかの冗談ではないのかしら? ああ、一時の励ましで勘違いをしてしまったのね」
嘲るように猟書家『スナーク症候群』が嗤う。
その声はまさしく『強化人間マーサス』が見ていた幻影の少女、ユィットのものであった。
これまでの彼であれば、その言葉だけで同様したかもしれない。だが、彼は毅然としている。今まで見てきた幻影は自責の念に苛まれて己の妄想が見せたものであるとわかっている。
猟兵達の励ましがなければ、きっと彼が再び立ち上がることはなかっただろう。
「俺達が簡単に倒れると思うなよ」
ルイス・グリッド(生者の盾・f26203)は『強化人間マーサス』の傍らに立つ。
互いに視線を交わす。
それだけでわかった。
彼女の願い、本当の少女ユィットの願いを思い出せた。
ただそれだけで人は再び立ち上がることができる。奮い立つことができるのだ。それをよかったと思える心があることがルイス自身もまた誇らしいものであったことだろう。
「お前も、くだらない計画も全て壊す―――貴方は俺を盾にして存分にやってくれ」
二人は駆け出す。
互いの役割はわかっている。『強化人間マーサス』の加速装置、ユーベルコードは不完全なものだ。
2秒にもみたない時間でしか発現できない。
だというのに、彼は巨悪を、ヴィラン組織と戦い抜いたのだ。その力を過小評価するつもりなんてルイスはなかった。
天使の環の如き有刺鉄線が飛ぶ。
それを銀の腕と化したメガリスで受け止める。
「なるほど。これが呪われし秘宝、メガリスというやつなのね。貴方、これだけじゃないわね?」
猟書家『スナーク症候群』は有刺鉄線から伝わってくる猟兵であるルイスを構成する要素をいち早く読み解く。
それは彼の手の内を読み解くことと同義であった。
彼はデッドマンにしてメガリスボーグ。
その身は死人であったとしても、その意志は死人ではない。失われた右腕と左目がうずく。
「メガリス・アクティブ! だからなんだというんだ。最早見切ったとでも言うつもりか!」
その身に宿したメガリスの力が跳ね上がり、眼帯に覆われた左目のメガリスが輝く。掴み上げた有刺鉄線を掴み、引っ張り上げる。
「わかってしまうものだから仕方ないじゃない? メガリスって面白いわね。まるで寄生虫みたいな。呪ってそういうものなのかもしれないわね?」
面白がるような声が響く。
その少女の姿をした『スナーク症候群』を黄の災いの輝きが捉える。
黄色の輝きが齎すメガリスの災いは感電。
迸る電流の如き力を受けて、『スナーク症候群』の身体がこわばる。
「今だ!」
ルイスの銀腕が剣に変形し、引き寄せた『スナーク症候群』へと斬りかかる。
身を捩る『スナーク症候群』。
すでにこちらの肉体を構成する要素を理解している『スナーク症候群』にとってルイスの目論見は簡単に理解できるものであった。
メガリスによる行動阻害と一瞬の早業に寄る銀腕の変形による刺突。
それはたしかに初見であれば攻撃を躱すことは難しかったのかも知れない。だが、すでに『そう来る』とわかっていたのならば、躱すことなど容易であった。
「簡単ね。そんな単純な攻撃なんて――」
「ああ、俺一人ならな――!」
そう、今のルイスは一人ではない。
不完全な加速装置。不完全なユーベルコード。猟兵とも猟書家からも遠く及ばない実力しか持たぬと蔑んだもうひとりのヒーロのことを『スナーク症候群』は忘れているのだ。
「お前の姿は俺が思い描いたものだ……彼女はもう居ない――!」
クロックアップ・スピード――それは『強化人間マーサス』の唯一にして最大の力。2秒に満たぬ時間しか加速できない。
だが、それがなんだというのだ。
その意志が戦うことを止めぬ限り、その僅かな時間であっても劣勢を覆す一手を討つことはできる。
背後に回った『強化人間マーサス』の拳の一撃がルイスのはなった銀腕の剣、その切っ先へと押し込む。
「言っただろう。俺達が簡単に倒れると思うなよ、と! 全て持っていけ!」
銀腕の剣が貫き、猟書家『スナーク症候群』の身体を吹き飛ばす。
それは全てを振り切るように、盛大に叩きつけられるのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
フェミルダ・フォーゼル
貴方の能力は不完全なんかじゃありませんよ?『1.901秒で十分』なんです。
体だけじゃなく心も無限に加速させて下さい。そうすれば世界は貴方のものです。
【鼓舞】しつつ視線を合わせて【聖審】による【読心術】。記憶をお借りします。
隙を作ります。一瞬の隙でも貴方には無限の時間。蹂躙して下さい。
剣での【武器受け】とマントを翻しての【盾受け】で攻撃を防御しつつ、【神の左手】の指先を向け幻覚発動。
『猛毒を制御しヒーローとなったユィット』が現れ猟書家に毒を放つ【精神攻撃】。貴女も望んだ現実の、有り得た可能性です。抵抗は出来ませんよ。
人を弄んだ神罰と心得て下さい。
彼には見せられない幻ですね。
今です、マーサスさん。
猟書家『スナーク症候群』は、事態を持たぬがゆえにグリモア猟兵の予知に存在の位置が知られることはなかった。
その目論見、大量虐殺を画策した事は予知出来たとしても、それを阻止することは難しかっただろう。
だが、それは実体を持たぬが故の利であり、実体を持たなければ計画も実行に移すことは出来ない。
即ち、幻影から実体へと移るためには、『スナーク症候群』を発症した強化人間に過度のストレスを与えて己の存在を実体化させなければならない。
それが予知に引っかかったというのは皮肉でしか無い。
「だからこそ、ヒーローさんは自害して欲しかった。死んで欲しかった。そうすればもう私を捉えることのできる猟兵は大量虐殺を実行するまでやってくることはなかったのに」
銀の剣によって傷つけられた『スナーク症候群』が実体化した顔に虚の如き闇を讃えた少女の身体が弾かれたように態勢を整える。
「不完全な力しかもたないヒーローさんだけならなんとかなったのに」
「ああ、確かに俺の加速装置は不完全だ」
『強化人間マーサス』が言う。
その言葉は事実でしかない。だが、フェミルダ・フォーゼル(人間の聖者・f13437)が否定する。
「貴方の能力は不完全なんかじゃありませんよ?『1.901秒で十分なんです」
それは彼が今までなしてきたヒーローとしての活躍を示していた。
不完全と言われた加速装置で戦い続け、一人でヴィラン組織を壊滅させた過去は消えない。
そう、不完全な加速装置で十分だったのだ。
彼が巨悪を打倒せしめたのは、能力に優れていたからではない。
「身体だけじゃなく心も無限に加速させて下さい。そうすれば世界は貴方のものです」
たった一人で戦い続けた勇気。
それが在ったからこそ、彼は偉業をなし得たのだ。
フェミルダの視線が『強化人間マーサス』へと向けられる。
彼女の視線が読み取るのは思考と記憶。そこに在りしものを読み解き、己の左手の指先にユーベルコードが輝く。
それは聖審(ジャッジメント)。彼女が下すもの。
「Infermal……」
詠唱の最中に『スナーク症候群』が襲いかかる。手にしたバールのようなもを振りかぶり、フェルミダへと迫るのだ。
「隙を作ります――一瞬の隙でも貴方には無限の時間。蹂躙してください」
剣でバールを受け止め、マントを翻してバールのようなものを絡め取り吹き飛ばす
「ほんっとうにお邪魔虫ね、猟兵っていうのは!」
互いに互いの利を押し付け合う。
『スナーク症候群』はフェミルダに『スナーク』という見えぬ怪物を見せようとし、フェルミダは逆に彼女が知らぬ幻影を生み出す。
「貴方が知らぬ者をお見せしましょう。貴方が弄んだものを、人の心を徒に傷つけた報いを」
フェミルダの指先がユーベルコードに輝く。
その指先から生まれたのは『猛毒を制御しヒーローとなったユィット』。
少女の姿をしながらも何処か凛々しい表情をしたヒーローの姿があった。それは『スナーク症候群』にしか見えぬ幻覚であった。
放つ毒はあらゆるものを殺し尽くす猛毒。だが、その猛毒が『スナーク症候群』を殺すことはない。
これは幻覚でしかない。
だが、それは『スナーク症候群』を形成する精神的なエネルギーをごっそりとえぐるには十分なものであった。
「こ、これが!? こんな未来があるなんて聞いていない! 知らない! 私は!」
「彼には見せられない幻ですね……貴女も望んだ現実の、在り得た可能性です。抵抗はできませんよ」
フェミルダが生み出した幻覚は確かに在り得た未来であったのかもしれない。
だが、それは甘き夢だ。
彼女が垣間見た記憶の中、『強化人間マーサス』が思い描いたであろう手にすることのなかった未来。
だが、今はそれを抱えて彼は生きていく。
それができるだけの者であったからこそ、フェミルダの生み出した幻覚は強大な力を持って『スナーク症候群』を圧倒する。
「――人を弄んだ神罰と心得て下さい。今です、マーサスさん」
クロックアップ・スピード。
僅か『1.901秒』にしか満たない限界時間。だが、それで十分だった。
放たれた拳はフェミルダ主軸の視界において、凄まじき速度だった。神速を越えた拳の一撃一撃が、フェミルダに応えるように放たれ続け、最後の一撃が打ち込まれた時、『スナーク症候群』は天より墜し、神罰の一撃となったのだった――。
大成功
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大町・詩乃
マーサスさんの心を傷つけ、ユイットさんを貶めようとした事は許せません!罪に応じた報いを受ける時が来ましたよ。
一番怒っているのはマーサスさん。
だからマーサスさんの行動を補助します。
UC:花嵐で作り出した花びらで、相手の武器(バールのようなものや有刺鉄線等)を消滅させて、マーサスさん・詩乃共に攻撃を受けない様に。
更にオーラ防御を纏った天耀鏡の一つをマーサスさんの周囲に、もう一つを詩乃の周囲に滞空させ、第六感と見切りで相手の動きを読んで、天耀鏡で盾受け。
攻撃では、花びらで相手の手足を消滅させて動きを封じたり、マーサスさんの動きを補助する様に動いたりして、マーサスさんが決め技を放てるように持っていく。
放たれた拳は僅か『1.901秒』の間に打ち込まれたものである。
不完全な加速装置、ユーベルコードであったとしても猟兵が生み出した隙は『強化人間マーサス』にとっては僅かであっても十分だった。
そうやって今までも戦ってきたのだ。
どれだけ不完全だと言われようとも、無辜の少女を救えず己の手で殺した後も戦うことをやめなかったのだ。巨悪を、ヴィラン組織を打倒するまで止まれぬと常に己の限界まで肉体を酷使してきたのだ。
「どこにでもスナークはいるわ。私もそうだし、あなたの心のどこかにもいるかも知れない。そういうものなの『超生物スナーク』というものは。私はその力の一端。実在をどれだけ疑われようとも、人の心に光と闇が存在するように決して消えることはないの」
猟書家『スナーク症候群』が虚のような顔を猟兵と『強化人間マーサス』へと向ける。
「マーサスさんの心を傷つけ、ユィットさんを貶めようとした事は許せません! 罪に応じた報いを受けるときが来ましたよ」
大町・詩乃(春風駘蕩・f17458)は、その虚のような顔をした猟書家『スナーク症候群』を前にして毅然と視線を向ける。
そこにあったものから目を背けてはならない。
例え、猟書家が『超生物スナーク』を創造するために画策したことであったとしても、それを真っ向から否定しなければならない。
詩乃の心の中を占めていたのは、誰かのための怒りであった。
少女の姿はきっと『強化人間マーサス』が救えなかった少女、ユィットのものであろう。顔がわからないのはきっと猟兵達の働きによるものだろう。
もっとしっかりと具現化していたのならば、今現れた猟書家『スナーク症候群』の姿は、『強化人間マーサス』の妄想の中の少女、ユィットと同じものであっただろから。
「力を貸してくれ……!」
彼のユーベルコードが輝く。
どれだけ不完全なものであったとしても、詩乃はその輝きにヒーローを見出す。
だからこそ、彼女は駆けつけ、彼の怒りを分かち合う。
「今より此処を桜花舞う佳景といたしましょう――ええ、一番怒っているのは貴方のはずですから!」
花嵐(ハナアラシ)のように生み出されたのは光を纏い全てを浄化消滅する桜の花びら。
それは詩乃ユーベルコードであり、彼女の優しさと神性の象徴であった。
一対の神鏡が宙を舞い、詩乃の神性を持つオーラの力が『強化人間マーサス』と詩乃を『スナークが実在するのではという疑念を持つ』力を跳ね返す。
どれだけ『超生物スナーク』の存在が目に映らぬものであったとしても詩乃の放つ神性の光の前では無意味である。
「忌々しいわね。猟兵もヒーローも。己こそが絶対正義だと疑わぬように振る舞う。それがどれだけの無辜の生命を危険に曝すのか貴方達は知っているはずでしょう?」
その言葉は届かない。
どれだけ正当性があるように見せかけていたとしても、それは結局の所喪われてしまった生命の姿を借りた、詭弁にしかすぎない。
誰かを救いたいと願い、戦い、傷ついた者に向けられていいものではない。それは最早呪詛でしかないのだ。
そして、その呪詛を弄するのは、いつだって悪意ある者だ。
「貴方の言葉は届きません。他者を傷つけ続け、誰かのために戦う者の誇りを、心を傷つけた報いは必ず受けていただきます!」
詩乃の放つ桜の花びらが、空を舞い『スナーク症候群』の手足を消滅させる。
それはきっとすぐに復元されてしまうだろう。
猟書家『スナーク症候群』とは即ち、精神エネルギーの集合体である。
強化人間が見る幻、妄想を糧として実体化するのであれば、その力の源は強化人間たちの懊悩が生み出した妄想に他ならない。
だからこそ、実体無く、姿無く、どこからともなく現れる。
それが『スナーク症候群』という猟書家、オブリビオンの正体だ。
「貴方の怒りを! そして、喪われてしまった生命を、ユィットさんの姿を弄んだ者へ」
手足を浄化消滅された『スナーク症候群』が再び手足を復元する。
その間僅かに『1.901秒』。
だが、それでも十分だった。それが決定的な隙となって『強化人間マーサス』の拳の連打が再び『スナーク症候群』の体を吹き飛ばす。
詩乃は見ただろう。
どれだけ傷つき、膝を折ってしまったとしても人は己を奮い立たせて立ち上がることができる生命であるということを。
それがどんなに尊く愛おしいものであるか。
故に詩乃は、彼の心が少しでも癒やされるようにと花嵐の如く、彼の道行に暖かな光でもって桜の吹雪を舞い散らせるのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
サージェ・ライト
しゅたっとさらに助太刀参上!
通りすがりの猟兵です名乗るほどでもありません
ってやつですね!
姿の見えないスナークは私が足止めしましょう!
必殺!【かげぶんしんの術】!
かーらーのー
姿が見えないならわかるようにするだけのこと!
【くちよせの術】で呼び寄せた煙玉を全員でていっ!と投擲
実体がある以上、煙の中を動けばその位置を隠すことは不可能です
場所さえ特定できたらぶんしんを使って力技で押さえ込みます
数の暴力をくらえー!
さあ今のうちです!マーサスさん!
こちらは気にせずにスナーク症候群を
さくっとやっちゃってください!
(スナークに噛まれながらざくざく刺して反撃なう)
※アドリブ連携OK
打ち込まれる拳の一撃一撃が万感の想いが籠められていたことだろう。
『強化人間マーサス』にとって、目の前に実体化した猟書家『スナーク症候群』は、かつて救えずに己で命を奪った少女の姿をしていたのだから。
だが、それで止まる者ではない。
「どれだけ打撃を加えようとも、私はどこにでもいるわ? それが『超生物スナーク』なんだもの。どこにでもいて、どこにもいない。そうやって私は大きくなる。膨れ上がっていく。貴方の心のなかに抱える闇が深ければ深いほどに!」
最早どれだけの謗る言葉が放たれようとも『強化人間マーサス』は揺れない。揺れ動かない。
それは猟兵達による励ましもあったのだろう。
だが、『スナーク症候群』は見誤っていたのだ。容易に取り込み、妄想で持って『強化人間マーサス』を自害へと持ち込めると勘違いしていたのだ。
「しゅたっとさらに助太刀参上! 通りすがりの猟兵です。名乗るほどでもありませんってやつですね!」
いつもの前口上ではなくサージェ・ライト(バーチャルクノイチ・f24264)は猟書家『スナーク症候群』との戦いに助太刀する。
「放たれてしまった言葉は最早止めようがありません。どれだけ『超生物スナークの実在を思わせる』言葉を放とうとも、見えない姿のスナークを足止めするためには!」
彼女の瞳がユーベルコードに輝く。
それは、かげぶんしんの術(イッパイフエルクノイチ)!
ずらりと居並ぶサージェの分身達。かわいいたくさんやったー! と喜ぶには早い。
今だ猟書家『スナーク症候群』が放った見えぬ怪物は、そこかしこに存在している。その姿見えぬオブリビオンの攻撃を前にサージェの執った選択は単純なものであった。
「しゃどーふぉーむっ! しゅばばばっ! ――っと! 姿が見えないならわかるようにするだけのこと! さらに、くちよせの術!」
分身によって増えたサージェたちの手に在るのは煙玉。
それを地面に投げつければ、周囲一体は煙で包み込まれる。それは一見すれば苦し紛れの行動であったのかも知れない。
だが煙幕に包まれた戦場において見えぬ怪物の存在は動けば必ず煙の動きによって近くできるのだ。
「見えないからといって実体がないわけではないでしょう! 煙の中を動けばその位置を隠すことなど不可能です! 後は――力技です! 数の暴力をくらえー!」
実にクレバーな戦い方を披露したサージェは一転してまさかの力押しである。
忍術に寄って分身したサージェたちが煙の中を動き回る『超生物スナーク』へと掴みかかる。
今だ如何なる姿であるかわからぬ『超生物スナーク』にがじがじと噛まれながらもサージェは『強化人間マーサス』へと呼びかける。
「さあ今の内です! マーサスさん! こちらは気にせずに『スナーク症候群』をさくっとやっちゃってください!」
クナイでザクザクと反撃しながらも、『強化人間マーサス』のために『超生物スナークを』を引きつける。
言葉少なでは在ったけれど、それだけで『強化人間マーサス』には十分であったのだろう。
猟兵ではないヒーロー『強化人間マーサス』。
そのユーベルコードは不完全であり、力も強大なオブリビオンである猟書家『スナーク症候群』を倒せるものではない。
けれど、徐々に拳の一撃一撃が『スナーク症候群』を削り取っていっている。
「その調子です! いつだって不完全なのです。どうやっても完成できない。不出来と嗤う者もいるでしょう。でも、不完全だからこそ出せる力があります。それが――」
「ああ、それが勇気だ――!」
恐怖と不安、それを埋めるための力。
それが勇気であるのだ。足りない力は勇気で補う。それを精神論であると一笑に付すことは簡単であろう。
だが、何もなさぬ、何もしない者の一体どこに、それがあるというのか。
いつだって偉業の前には困難な壁が付き纏う。
それを超えるための一歩を踏み出すことのできる者にこそ、勇気という力は宿るのだ。
「あたたたッ! もうっ! 負けませんよー!」
サージェは『強化人間マーサス』の活躍に負けぬようにと煙幕の中を派手に動き回り、見えぬ怪物『スナーク』を討ち滅ぼすのであった――!
大成功
🔵🔵🔵
ジャム・ジアム
ヒーロー、待ってたわ
力を貸してくれる?私はコレで戦うわ
と武器を見せて連携確認
二度と彼女を穢させないよう、あんな病は消し去るのよ
護り現を彼に、私はアナプノエで浄化の結界を
彼が自由に動けるよう、攻め続けて気をひく
しっぽの針で先制攻撃、そのまま走り込み
怪力で朱雷枝の柄を叩きつけたあと念動力の刃で追撃
容赦しないわ
攻撃はガラス蜘蛛とオーラ防御で受け流すけれど、スナークを感じたら正面から向き合う
わかってるの?存在する以上、やりようはあるって
護り現へ強い念動力を送り、彼への合図とオーラの強化
同時に『万象の牙』で姿なき怪物と主である猟書家へ光の雨を降り注がせる
今よ。貴方の覚悟を、心の光を、強さを教えてやって!
戦場を包み込む煙幕が晴れた時、そこに在ったのは『強化人間マーサス』と猟書家『スナーク症候群』の姿であった。
互いに消耗してきているのだろう。
すでに幾度となく叩き込まれた『強化人間マーサス』の拳は僅かであっても徐々に猟書家という巨大なオブリビオンを消耗させていた。
同時に不完全なユーベルコード、加速装置しか持たぬ『強化人間マーサス』もまた消耗を強いられていたが、倒れることはない。
「本当に鬱陶しいくらいに執念深いのね。誰かを助けること、救うことに捕らわれた病人だわ、ヒーローって。だというのに救えなかった生命に対する贖罪の方法もわからないなんて」
猟書家『スナーク症候群』が嗤う。
結局の所、オブリビオンに打倒できるのは猟兵だ。
だが、それでも今まさに消耗させられているのは事実であり、実体化したがゆえに『強化人間マーサス』の拳は『スナーク症候群』を追い詰めている。
「ヒーロー、待ってたわ。力を貸してくれる? 私はコレで戦うわ」
しっぽの針を見せ、ジャム・ジアム(はりの子・f26053)は『強化人間マーサス』と並び立つ。
彼女の体には浄化の結界を、そして『強化人間マーサス』には護り現のオーラを。とにかくジアムは『強化人間マーサス』を自由に動かすために攻めの態勢を変えない。
駆け出すジアムに呪詛の如き言葉が絡みつく。
それは『超生物スナークが実在するのではないか』という力在る言葉であった。
「どれだけ猟兵の数が増えようとも、私を倒せると思って? 私を殺したヒーローさんが要る限り、私の体を構成する精神エネルギーは、常に罪悪感と共に生み出されていく」
それは倒しても倒しても再び蘇るということだろう。
だがジアムはそんな言葉に惑わされない。あの言葉はこちらの心を揺さぶるためのものだ。
確かに少しずつであるが『スナーク症候群』は消耗させられているのだ。
それは事実。
「わかってるの? 存在する以上、やりようはあるって!」
ジアムの瞳がユーベルコードに輝く。
籠められたオーラの力が増していく。どこまででも高みに登っていく。想いの力は人をこんなにも強くする。
それは良くも悪くもだ。
人は足を止めてしまう。それは諦観であったり絶望であったりするかもしれない。だが、同時に止めてしまった足を踏み出すことができるのもまた人の心から発せられるものであるのだ。
人はそれを勇気と呼ぶのかも知れない。
「愛しい貴方たちの輝きを――今よ」
放たれるは万象の精霊の加護を纏い、燦然と輝く針たち。
ジアムの渾身の力ではなったユーベルコード、万象の牙(スピリトゥアーレ)が生み出された姿なき怪物たちの姿を照らし出し、それを散々に穿つ。
それはまるで光の雨を降り注がせるかのような光景であり、『スナーク症候群』をも貫いていく。
「貴方の覚悟を、心の光を、強さを教えてやって!」
放たれた光雨の中を近くできぬほどの速度で駆け抜けていく『1.901秒』のヒーロー、『強化人間マーサス』。
それはまるでジアムがあずけた魔石の輝きに後押しされるように、その限界を越えていく。
どれだけ不完全であっても、それを補うことができるのが生命の強さであるというのならば、その極地たるのがヒーローであったことだろう。
「その背中をいつだって押してあげる。どんなに苦しい未来が、悲しい未来が待ち受けていたとしても、雨の後はいつだって虹が差すものだから」
だから、その虹の先を越えて征け。
ジアムは拳に撃ち抜かれる『スナーク症候群』の姿の先に、その光景を幻視した。
それはきっとジアム自身も望む未来であったことだろう――。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
『私』を殺したヒーローさん…ですか
それを口に出来る方はたった一人
死者の姿と力を借りんと画策し、尊厳を貶め生者を狙う貴女ではありません
アレは私達の『敵』です
往きましょう
救えなかった全ての為に
彼をかばいつつ近接戦闘
バールを剣と盾で捌き防戦に追い込まれても耐え
…マーサス様、彼女の墓前に立ったことはありますか?
『弔い』とは生者が己の『区切り』を付ける為に行うもの
機械の私が言うのも奇妙な話ですが…存外、効果はあるのですよ
さて、化けの皮を剥がす為、こちらも本性を見せましょう
UCで●不意打ち拘束
機能解放して体躯切り刻み空へ放り投げ
さあ、今です!
…それに貴方が顔を見せれば、彼女も喜ぶ
…そんな『気』がするのです
燦然と輝く光の雨のような光景の中を駆け抜けるヒーローの姿があった。
それは猟兵達によって励まされ、己を奮い立たせるように戦う『強化人間マーサス』のユーベルコードの輝きであった。
不完全なユーベルコードであっても、それを超えることができると証明するように叩きつけられる拳の一撃は猟書家『スナーク症候群』を穿つ。
「私をまた殴るのね。私をまた殺すのね。私を殺したヒーロさん! そうやって貴方はまた見ないふりをするのね? そうなのよね?」
その言葉は最早呪詛でしかない。
人の心を弄び、人の心を傷つけるためだけに『スナーク症候群』の虚の如き暗闇に呑まれた顔が嗤う。
それは人を嘲り、人の心の暖かさを否定するものであった。
「『私』を殺したヒーローさん……ですか。それを口にできる方はたった一人……死者の姿と力を借りんと画策し、尊厳を貶め生者を狙う貴女ではありません」
トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は否定する。
どれだけ、その姿が生前の少女、ユィットであったとしても、それは決して越えてはならぬ一線であった。
それは機械の身であるトリテレイアであっても同じことであった。
人ではないからこそ越えられる一線があるのだとすれば、それを越えてはならぬという己の炉心に燃える騎士道精神が言う。
ならば――。
「アレは私達の『敵』です。往きましょう。救えなかった全ての為に」
『強化人間マーサス』と共に並び立ち、トリテレイアは立ち向かう。
その醜悪なる暗闇を払わんとする。何処まで行っても影は付き纏う。過去は変えられず、拭うことは出来ない。
振り払うことはできない。
それを知っているからこそ、トリテレイアは言う。
「……マーサス様、彼女の墓前に立ったことはありますか?」
それは純粋なる問いかけであったことだろう。事実確認であったと行ってもいいだろう。バールの一撃を大盾で受け止め、剣をふるいながらトリテレイアは問うたのだ。
「……いいや。一度もない。俺にはその資格はないのだから」
『強化人間マーサス』をかばいながらトリテレイアは戦う。
今だ彼のユーベルコードは不完全であり、決定的な隙を作り出さなければ、強大なオブリビオンである『スナーク症候群』に攻撃を当てることも難しいだろう。
だが、それでもトリテレイアは言う。
「『弔い』とは生者が己の『区切り』を付ける為に行うもの。機械の私が言うのも奇妙な話ですが……存外効果はあるのですよ」
互いに手を伸ばし、指の間からこぼし続けてきた者同士であるあるからこそわかるものであったことだろう。
どうしようもないことをどうにかしようとして、それを為せぬままに生き続けている。
後悔と慚愧の念は尽きない。
だが、だからこそ、それまで取りこぼしてはならないのだ。
「さて、化けの皮を剥す為、こちらも本性を見せましょう――収納式ワイヤーアンカー・駆動出力最大(ワイヤーアンカー・ヒートエッジモード)」
肩部装甲と背中の装甲が開き、ワイヤーアンカーが射出される。
それは自在に操られ、ムチのようにしなりながら『スナーク症候群』の体を締め上げ、ワイヤーの熱伝導と高速振動によって、その体を切り刻む。
『スナーク症候群』は『強化人間マーサス』の妄想から力を得て実体化した幻影である。
どれだけ傷つけられたとしても、その精神エネルギーが存在している限り、その肉体は滅びることはない。
切り刻まれ、損壊した手足も即座に復元する。
「無駄よ。どれだけ攻撃したって、私の力は――」
だが、それでも生まれるのだ。
決定的な隙が。それをトリテレイアは本命にしていた。
結局の所、この戦いは『強化人間マーサス』の戦いだ。彼は今瀬戸際に要る。此処を踏みとどまり、再び歩き出すためには、彼自身が限界を――『1.901秒』を超えて征かねばならない。
「さあ、今です!」
矢のように一瞬にして『強化人間マーサス』が飛び出し、そのユーベルコードの軌跡を刻む。
放たれる拳の一撃が『スナーク症候群』を打ち、己の妄想を払拭するように振るわれるのだ。
その光の軌跡を見遣り、トリテレイアは言う。
「……それに貴方が顔を見せれば、彼女も喜ぶ……そんな『気』がするのです」
曖昧な言葉。
不確定な言葉だ。決して電脳がはじき出した演算ではない。確信など無い。行ってしまえば、ただのゆらぎだ。
けれど、機体の何処かでそれを期待する己がいる。
そう思わせるだけの輝きが、あの不完全なと言われたユーベルコードの輝きの先に見えるのだ――。
大成功
🔵🔵🔵
ナギ・ヌドゥー
これがスナーク症候群……
戦う意志を失くせば己の心にもコイツが現れるのだろうか。
いや……それはあり得ないか、この内なる衝動がソレを許す筈が無い!
マーサスに【ドーピング】藥を投与
これで彼のスピードはさらにアップする
オレのUC程ではないだろうがな
オーバードース・トランスで【リミッター解除・限界突破】
超スピードで【殺気】を纏った【残像】を無数に発生させ攪乱し隙を見て【切り込み】
己の形成要素……本質は殺戮衝動そのものだ
この殺意をどこまで覚えられる?
既に魔に蝕まれた心にスナーク症候群が入り込める余地は残ってないぜ
邪魔な有刺鉄線を【部位破壊】しマーサスに攻撃を促す
決着は彼自身の手でつけねばならない
戦うために生まれた強化人間にとって、敵とは即ち存在意義であるとも言えるだろう。だが、戦いを終えた強化人間には既に敵はいない。
そうなれば、存在する意義を見出だせず、心を患ってしまうのは無理なからぬことであった。
最初の願いがなんであれ、敵が在るからこそ己が存在しているという律が強化人間を強化人間足らしめているのだとすれば。
「これがスナーク症候群……戦う意志を失くせば己の心にもコイツが現れるのだろうか」
ナギ・ヌドゥー(殺戮遊戯・f21507)は相対する猟書家『スナーク症候群』を見やる。
それは強化人間である己にも訪れるかも知れな未来であったようにも思えたのだ。
虚のよな闇色のそまった少女の顔。
それが『強化人間マーサス』の妄想から生まれ、具現化した姿であることはわかっている。
だが、その可能性は払拭できているわけではない。己にも在るのかも知れないという疑念は湧き上がってもすぐに消えていく。
「いや……それはありえないか、この内なる衝動がソレを許す筈が無い!」
そう、彼の心の中を満たすのは殺戮衝動。
目の前にいる猟書家『スナーク症候群』は他者を傷つけることを厭わぬ者である。徒に人の心をかき乱し、ひっかき、その心に浮き上がったささくれをも引き剥がして傷つける者。
なればこそ、彼の心の中の殺戮衝動が吠える。咆哮するのだ。
―――ソレは存在してはならない。
「許せるはずがない。彼女の心を、姿を騙る。それはこれ以上許してはならないことだ」
ナギは『強化人間マーサス』の体に己のドーピング薬を投与する。
それは同じ強化人間にのみ赦されたもの。
「加速しろ――限界を超えて!」
その言葉は互いに放たれた言葉であった。
不完全なユーベルコードしか持たぬ『強化人間マーサス』。そして、同時に己もまた過剰ドーピングによって得たトランスモード。
オーバードース・トランス。それこそがナギのユーベルコード。限界を超える。限界を超えても尚動き続けるためのユーベルコードだ。
放たれるは二本の矢。
ナギと『強化人間マーサス』が戦場を駆け抜ける。
超スピードに乗った二人の残影を『スナーク症候群』は捉えることはできなかった。放たれた有刺鉄線は空を斬り、二人の残影すらも捉えることなく掴み取られる。
「この殺意をどこまで覚えられる? 覚えられないだろう。何処まで行っても、マーサスの心のなかにある少女は殺意を持っていないからな。覚えられるわけがないんだよ――!」
ナギが有刺鉄線を掴み上げたまま、そこから流れ込んでいく己を形成する要素を読み取る『スナーク症候群』へと殺意を向ける。
「オレの心はすでに魔に蝕まれた心。そこにスナーク症候群が入り込める余地は残ってないぜ」
「そんなことあるわけない。人の心の中には闇が在る。光が在るからこそ、闇が色濃くなるだから。どれだけの殺意があろうとも――」
有刺鉄線を掴んだナギが引きちぎる。
強引なる一撃であったが、それはまさしく『スナーク症候群』にとって理不尽そのものであったことだろう。
これまで散々に『強化人間マーサス』を虐げてきた、謗ってきた。
それによって力をつけ、具現化すら果たした形なき者。だというのに、相対する猟兵、ナギはそれすらも否定する。
彼の殺戮衝動は底を見せない。
決してソレを許してはならぬという絶対なる意志が、『スナーク症候群』を恐怖させる。
だが、ナギにとってそれはどうでもいいことだった。
この戦いの決着は彼――『強化人間マーサス』が着けなければならない。どれだけ脆弱であったとしても、すでに彼は『1.901秒』を超えている。
ナギが与えたドーピング薬のせいじゃない。
「不完全な、って言ったって……結局の所、自分を完成させられるのは自分でしかない……ならさ!」
彼自身の手で決着をつけろ。
そういう様にナギは『強化人間マーサス』の閃光の如きユーベルコードの輝きを見送る。
その先に待っている未来は、これからも懊悩と困難が待ち受けているのかも知れない。
けれど、それでもと願う。
死に勝る祝福がないのでれば、人の生命の執着は必ず祝福が待ち受けている。それを確信し、ナギは拳を突き上げるのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
佐伯・晶
やっと現れたね
許せないのは僕も同じだから
マーサスさんと協力して打倒を目指すよ
ガトリングガンで攻撃や牽制したり
使い魔のマヒ攻撃で隙を作ったりして
マーサスさんを支援しよう
バールのようなものを射撃して
攻撃を邪魔するのも良いかな
状況に応じて邪神の領域を使用
加速するマーサスさんとは
真逆の力だけど敵からの認識は
似たようになるのかな?
ちょっと面白いね
同時に使用した時はマーサスさんが
完全に止まらないように加減するよ
このUCも同じく完全なものではないし
僕も完全な人間ではないから
全てを救えて来た訳じゃないし
自分自身を救いきれてる訳じゃない
一緒に重荷を背負う事はできないけれど
独りではないという事は覚えていて欲しいな
「許せないのは僕も同じだから」
それは『強化人間マーサス』と思いを共にする佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)の言葉だった。
猟兵達の思いと励ましに寄って奮い立った『強化人間マーサス』のユーベルコードの限界は『1.901秒』であった。
だが、今や彼のユーベルコードは不完全であるという枠を超えている。
すでに2秒以上、ユーベルコード『クロックアップ・スピード』を維持して戦い続けている。
無限に続くかのような拳の連打が猟書家『スナーク症候群』を打ちのめす。
「ありえない。ありえない! どうしてこんなことが起こり得るの? 確かに私は彼の心をへし折ったはずなのに。肉体の傷は癒せても、精神は一度折れてしまえば――!」
それは絶叫のような声であった。
何処まで行っても『スナーク症候群』は人を舐めていたのだ。
心は柔らかく傷つきやすい。だからこそ、傷つけ甲斐があるのだ。そういうかのように徒に過去を掘り返し、かきむしってきたのだ。
晶のガトリングガンが放つ弾丸が『スナーク症候群』のバールを弾き飛ばす。
「それが見込み違いだって今更気がついたって遅いよ」
晶を中心にして邪神の領域(スタグナント・フィールド)が広がる。周囲の存在を停滞、固定させる神気が晶の体を覆っていく。
それは徐々に己の体を石化させていくものであったが、それに比例した戦闘力を増加させる。
一気に飛翔するように『スナーク症候群』へと突っ込む。
『強化人間マーサス』のユーベルコードとは真逆の力。
だが、それでも相対する『スナーク症候群』にとっては同じ様に見えていたことだろう。
それが少し面白いと思う。
無限に加速していく速度と、相対するものを固定、停滞させる力。
相反するようでもありながら、行き着く先は同じ。
「このユーベルコードも同じく完全なものではないし、僕も完全な人間ではないから」
己の体に融合した邪神。
性別の反転した体。どこまでいっても、己は生命の埒外にある者であることを自覚させられる。
それが猟兵という存在である。
だが、それでも。
「全てを救えて来たわけじゃないし、自分自身を救いきれてるわけじゃない」
それは自嘲であったのかもしれない。
他者を救う余裕なんてどこにもないのかもしれない。だが、それでも手を差し伸べる。
「一緒に重荷を背負うことはできないけれど」
晶と『強化人間マーサス』の身体が『スナーク症候群』を中心にして交錯する。互いの攻撃が、作用しあって『スナーク症候群』を構成する精神エネルギーを消耗させていく。
止まらぬ永遠にも似た打撃と攻撃の応酬が遂には『スナーク症候群』の実体化した肉体を完全に打ち砕き、霧散させ、消滅させる。
「独りではないということは覚えていてほしいな」
晶はそう言って不器用に笑った。
骸の海へと還る『スナーク症候群』。それを見遣り、隣に立つ『強化人間マーサス』へと呼びかける。
今まで孤独に耐えてきた彼にとって、これからこそが本当の戦いであるのだろう。
けれど、これまでと今までとでは決定的に違うものがある。
それは共に並び立つ戦友とも言うべき存在だ。共に戦い、共に立つ。猟兵達はいつだって駆けつけるだろう。
「ああ……まずは彼女の墓前に行くよ。誰かが俺のためにそうしてくれたように、俺もまたそうすることができるように。また、最初の一歩を踏み出せるように――」
そのぎこちない微笑みが、猟兵達の為したもの。
きっともう『スナーク症候群』は彼には発症しないだろう。
加速した世界の中、『1.901秒』を彼は越え、そこから地続きに続く未来へと歩いていくのだから――。
大成功
🔵🔵🔵