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星降る夜に聖なる加護を

#カクリヨファンタズム

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#カクリヨファンタズム


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●この夜に
 星が瞬いていた。
 ただ綺麗で、空を見上げているだけで心がほんのりと軽くなる。
 もう会えなくなってしまった優しいご主人様のことを考えると、少しだけ哀しくなったけれど彼女が言った『星降る夜には聖獣が集まって、望む者に加護をくれるのよ』という言葉を思い出す。
「にゃあ、ごしゅじんさま」
 聖獣の加護なんていらないから、ご主人様が帰ってきてくれればそれでいいから。
「にぃあ……にーぃ……」
 もう一度、頭を撫でて。
 名前を呼んで。
 それだけでいいから。
「あられ」
 もう誰も呼んでくれないはずの、白猫の名を誰かが呼んだ。
「あられ」
 忘れたことなんて一度もない、優しい声。
「にゃあ、ごしゅじんさま! ごしゅじんさまぁ!」
 帰ってきた、帰ってきてくれた! 一緒に外を見ようって約束を守る為? あられに会いに来てくれた! 見上げていた空を振り切って、白猫が地を蹴って少女の胸に飛び込んで――。
 そうして、ひとつになった。
 骸魂となって帰ってきた、優しい少女と。
「にゃあ、にゃあ、もうなんにもいらない」
 ああ、ひとつになって見上げた空はこんなにも美しくて。
 時よ止まれ、お前は美しい――。
 そう、呟いてしまった。

●グリモアベースにて
「あのねぇ、ちょっと滅びかけてるカクリヨファンタズムを救って来てほしいんだけど」
 初めて聞いた時には滅びの危機に瀕しすぎじゃないかと思ったけれど、今となってはそういうものだと受け止めている猟兵も多いのだろう。
 花綱・雀(花彩雀鶯・f26205)の言葉にも特に驚かず、猟兵達が足を止める。
「あ、良かった! じゃあちょっと話聞いてってね」
 そう言った雀が滅びに瀕している理由を説明する為に、言葉を続けた。
「なんかカクリヨファンタズムには滅びの言葉ってのがあるらしくてね。思わずそれを言っちゃったから、滅びそうになってるみたいなんだけど……物騒だよね、思わず言っちゃって世界が滅びるなんてさ」
 でも、そう言わずにはいられないほどの何かがあったのだろう。
「助けてあげたいのは世界もなんだけど……原因になった妖怪もなんだ」
 世界を滅びに向かわせている原因である妖怪――彷徨う白猫とその主である少女がひとつになった化猫――あられ。
「彼女達の望みはもう一度逢いたい、一緒にいたい、それだけなんだよ」
 まず必要なのは滅びゆく世界を駆け抜けて、あられの元へ向かうこと。けれど、そこへ向かうには――。
「優しくて酷い夢をみて、それを乗り越えなきゃいけないんだ」
 向かう先には魔法の霧が立ち込めていて、それはありえないほどに満たされた、蕩けるように幸せな夢をみせてくるのだという。
「白昼夢、みたいなもんかな」
 それは一瞬のことだけれど、抜け出せなければ世界の崩壊に巻き込まれてしまうだろう。
「幸せな夢――幻覚を打ち破れば、あられの元へはすぐだよ」
 そうしたら。
「……優しくしてあげてほしいんだ」
 話し相手になるのもいいし、遊んであげるのもいいだろう。ご主人様である彼女との思い出を聞いてあげるのだって。
「満たされれば、自然と骸魂はあられから離れて崩壊は止まるからね」
 崩壊が止まれば、空からは星が降って聖獣たちがどこからともなく現れる――星降る夜がやってくると雀が続けた。
「聖獣たちは様々な種類がてね」
 犬の姿や猫、狐に狸――龍や蝶、蛇の姿をしている聖獣もいる。他にも、様々な姿をした聖獣が望む者のところへ現れるのだという。
「君たちが望めば眷属……力の欠片みたいなものかな、それを使い魔として渡してくれるんだって!」
 使い魔を必要としないものへは、加護の力を持った石の欠片をくれるだろう。
「流れる星を見たり、聖獣たちと仲良くして加護を貰うのもいいと思うよ」
 だからね、どうか世界を救ってきてよ。
 そう言って、雀は滅びに向かう世界へのゲートを開く為にグリモアに手を触れた。


波多蜜花
 閲覧ありがとうございます、波多蜜花です。
 このシナリオは第三章を聖夜としております。イベシナのような感覚でご参加いただければと思いますので、お気軽にどうぞ。
 三章のみ再送を予定しておりますので、最後まで案内をお読みください。

●第一章:冒険
 あられの元へ行く為に「やさしくてひどいゆめ」を見て、それを打ち破ってください。
 霧に触れると瞬きの間に幻覚のような白昼夢のようなものを見ます。打ち破ることが出来ればそのまま霧を抜け、あられの元に辿り着きます。
 どんな種族の方でも必ず見ます、内容は優しくて酷ければ何でも良いです。皆様のお好きなようにお考え下さい。

●第二章:ボス戦
 ご主人様の骸魂を飲み込んだ、化け猫のあられがいます。
 戦う必要はありません、ただ優しくしてあげてください。どのように優しくするかは皆様にお任せします。
 満足すると、骸魂はあられから離れて骸の海へと帰るでしょう。

●第三章:日常
 星降る聖夜に現れる聖獣たちと、楽しくお過ごしください。
 聖獣をもふもふするもよし、星降る夜を楽しむのもご自由に。また、望めば聖獣たちは力の欠片を使い魔として渡してくれます。使い魔が必要なければ、加護の掛かった石をくれるでしょう。
 聖獣と使い魔はお好きな姿をご指定ください、加護の掛かった石はどんな加護であるか、意思の色など教えてくださいませ。もちろん、お任せも可能です。
 使い魔を希望の方は🐾を、石を希望の方は💎をプレイングの冒頭にコピペで入れてください。
 アイテムとしての発行はございませんが、使い魔を得るRPなどの一助になればと思っております。
 リプレイ返却を24.25日と予定しております。人数に関わらず、一度の再送をお願いする予定です。

●各章の受付期間について
 恐れ入りますが、受付期間前のプレイング送信は流してしまう可能性が非常に高くなっております。各章、断章が入り次第受付期間をお知らせいたしますので、MSページをご覧ください。

●同行者がいる場合について
 同行者が三人以上の場合は【共通のグループ名か旅団名+人数】でお願いします。例:【聖3】同行者の人数制限は特にありません。
 プレイングの送信日を統一してください、送信日が同じであれば送信時刻は問いません。
 未成年者の飲酒喫煙、公序良俗に反するプレイングなどは一律不採用となりますのでご理解よろしくお願いいたします。

 それでは、皆様の素敵なプレイングをお待ちしております。
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第1章 冒険 『やさしくてひどいゆめ』

POW   :    自分で自分をぶん殴り、正気に戻る

SPD   :    状況のありえなさを見破り、幻覚を打ち破る

WIZ   :    自身の望みと向き合い、受け入れた上で幻覚と決別する

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🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●それはなんてしあわせで
 崩壊を続けるカクリヨファンタズムの中、確かに元凶となる妖怪の下へ向かって駆けていた――はずだった。
 崩れ落ちそうになる道はいつのまにか白い霧の中に消え失せて、目の前に現れたのは心の何処かで望んでいた風景、それから。
 どうしても逢いたかった、あなた。
 心の中で描いていたまま、記憶のままのあなたがそこにいて、思わず足が止まってしまった。
 夢だろうか。
 それでも、ああ。
 それはなんて幸せで、残酷な――。
豊水・晶
WIZ アドリブ歓迎!!
私が望んだ夢…ですか。「故郷を無事に守り通し、人々からの信仰が絶えない」。というのが私の偽らざる願いです。守り通せたとしても、そこに信仰がなければ私たちは存在できません。長い間見守り、育み、守ってきた身としては、彼らが故郷を捨て、信仰を捨てたときには、「どうして」と思わず口に出てしまいました。いっそ夢だったらいいのにと当時は何度思ったことか。けれど現実は変わりません。彼らと私の道は、あの時分かれたのです。夢は夢です。神は夢を見せるもので、神が夢を見てはならないのです。「だからさようなら、私の願い。」



●ゆめは、みない
 崩れゆくカクリヨファンタズムを走る足が、ふと止まった。
「どうして……」
 こんな風景が広がっているのだろう、豊水・晶(竜神の神器遣い・f31057)が思わずといった風に、そう呟いた。
 視界の悪い、崩壊を続けるカクリヨファンタズムに居たはずなのに、何故私はここにいるの? 私が追われた、この地に。
 豊水様、豊水様。
 どうして、あの頃のように名を呼ばれているのか。
 晶の目の前に広がるのは、晶を竜神として信仰していた小さくも豊かな農村。稲穂が頭を垂れ、今にも収穫されるのを待っている、黄金に輝く村だった。
 それから、自分を崇め、時にその願いの通り雨を降らしたり害獣から守ったりしてきた人々。
 彼らの笑顔はあの頃のまま、晶を信仰していた頃のままに幸福に満ちていた。
「私の、夢」
 とうの昔に消え失せた、夢の形が目の前にある。手を伸ばせば、今すぐ駆け出せば、彼らは喜んで迎えてくれるだろう。
 だけど、これが現実だと信じるほど晶は絶望をみてはいない。
「ああ、これが……そうなのですね」
 白昼夢なのだと、晶は気付く。
「私が望んだ……夢」
 故郷を無事に守り通し、人々からの信仰が絶えない――それこそが、晶の偽らざる願い。
 土地や人々を守れたとしても、信仰が無ければ神は力を失い、いつしか存在自体が消えてしまう。そしてそれを晶は身をもって知っている。
「これは私が失くしてしまったもの」
 邪神に襲われた、私の村。守ることは出来たけれど、村は荒れ果て人々はやが故郷を捨て、信仰すらも捨ててしまった。
「そして私は再度やってきた邪神を退けることができなかった……忘れはしません」
 どうして、と何度も思ったけれど現実は変わらなかった、道は分かたれたのだ。
「夢は夢、です」
 晶にとって夢とは龍神である自分が見るものではなく、人々に見せるもの。
 もう一度だけ、目の前に広がる黄金の稲穂と、晶を呼ぶ人々の姿を見遣る。
 晶が願ってやまなかった、守りたかった、心からの。今はもう過去の風景――。
「だから、さようなら」
 私の願い。
 晶が水を纏う水晶のように美しい二振りの剣を祈るように振るうと、金色は消え失せて目の前には一本の道が現れた。
 これでいいのだと頷いて、晶が再び走り出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

宮前・紅

戎崎・蒼(f04968)と行動
いつの間にか、蒼くんが居なくなってる──?
その声は………あはは…趣味悪いなあ

生きてたんだ、あんた

家族から
一族の恥さらしだの異端児だの欠陥製品だの言われ
殴られたり蹴られたり
罵声を浴びるそんな毎日だった

でも、あんただけは違った
優しくしてくれた、色んなことを教えてくれた
人形の扱い方も文字の書き方読み方だって……!
俺に生きていていいと言ったのはあんただけだった!

口煩くて、でも少しドジでお人好しの変わった人形師の兄ちゃんだった

でもあんたはもうこの世には居ない
知ってる
分かってたんだ───俺の目の前で倒れたから

コンツェシュを腕に刺し正気に戻ろうと試みる

だからもう──さよならだ


戎崎・蒼

宮前・紅(f04970)と行動
やさしくてひどいゆめ
それが何なのかは分からないけれど、夢という自覚のないままそれを見る

それは死別したかつての師との夢
昔僕は咎人殺しとして育てられてきたが、その師が僕は好きじゃなかった
決して仲良くは無かったと思うけれど、それでも父親代わりをし共に過ごしてくれたその人との日々
今思えば、本当は嬉しかったのかもしれない

でもある日、口論で彼を殺しかけた
けれど師はそれを責めることは無く、只々優しく赦してくれた

…いや、有り得ない
だって彼は僕が殺した
咎人殺しを唯の復讐代行だとしか思ってない奴らを庇う彼に嫌悪感が湧きでて

ああ、本当に酷く残酷で優しい夢だ
僕は悲しい位に赦されたかった



●そのゆめにさよならを
 あれ? と気が付いた時には、隣を走っていたはずの戎崎・蒼(暗愚の戦場兵器・f04968)はいなくなっていた。
「いつの間にか、蒼くんが居なくなってる──?」
 おかしいな、と宮前・紅(三姉妹の人形と罪人・f04970)が警戒を強めた瞬間、声がした。
 誰、と思う必要すらなかった、蒼ではないことも理解した上で紅は声がした方へと振り向く。
「あはは……趣味悪いなあ」
 生きてたんだ、あんた。
 紅が呟いた声に、目の前の彼が優しい笑みを浮かべた。
 フラッシュバックのように思い出すのは、過去の事。
 ――お前は一族の恥晒しだよ。
 ――異端児、なんでお前なんかが産まれて来たの。
 ――欠陥製品、お前は壊れた人形と同じだな。
 そんなのは、自分のせいじゃない。声を上げようとしても何も届かず、殴られて蹴られて、罵声を浴びる……そんな惨憺たる毎日。
「でも、あんただけは違った」
 優しくしてくれたんだ。
 大丈夫? と声を掛けてくれて、傷の手当をしてくれて、色んなことを教えてくれた。
 人形の扱い方も、文字の読み書きも、生きる為に必要なことを教えてくれたのは、あんただけ。
 俺に生きていていいと言ったのだって!
 ただ息をしているだけの人形と変わらぬ自分を救い上げてくれた、口煩くて、でも少しドジなところもあるお人好しの、自分から見ても変わってると思う――そんな人形師の兄ちゃんだった。
「そう、だった」
 全ては過去形なのだと、紅は目を細める。
 俺は知ってるんだ、これは夢だって。
 だって、だってあんたは。
「もう、この世には居ない」
 声が聞こえた瞬間に分かってた、姿を見た瞬間に理解してた。
 だって、あんたは俺の目の前で倒れたのだから。
 紅の胸元を飾るブローチが鈍く光る。それは赤い宝石の付いたレイピアとなって紅の手の中に納まった。
「だからもう」
 ――さよならだ。
 そう呟いて、紅がコンツェシュの切先を自分の腕へ向けた。

 やさしくてひどいゆめ。それが何かはわからないままに、夢だという自覚を伴わない夢を蒼は見ていた。
 咎人殺しとして育てられてきた、過去の夢を。
「咎人殺し?」
 そうだ、と彼は言った。
 その技術をお前はこれから覚えていくのだ、とも。
 私的死刑人、復讐代行者――そんな風にも呼ばれることのある、人々の怨みを晴らす為に動く者。お前もそれになるのだと、彼は蒼を育てた。
 師と呼んだけれど、蒼はその師が好きじゃなかった。けれど、彼しか頼るものがなかったのだから、仕方ない。
 身体能力を上げる為の訓練、咎人殺しとして生き抜く為の、生き残る為の武器の扱い方、それらの全てを師は蒼に教えてくれた。
 拷問具の扱いはひとつ間違えれば自分の身を削るもの、傷を作らない日は一日たりともなかったけれど、それでも父親代わりとして蒼を育ててくれた彼に感謝の念がなかったわけでもない。
「今思えば、本当は嬉しかったのかもしれない」
 師と過ごす日々は、良いことばかりではなかったけれど楽しいことだってあったのだから。
 でも、ある日。口論の末に彼を殺しかけてしまった。彼によって磨かれた技術によって。この頃には、蒼はとっくに師の腕前を超えていた。
 それでも、師は殺されかけたことを責めることはなく、血塗れになりながらも優しい笑みを浮かべて蒼を赦してくれた。
 気にしなくていいと、こんな傷はすぐに治るのだと、そう言って蒼の頭を優しく撫でて。
 蒼の口元が僅かに笑みの形を作る。目の前の夢に手を伸ばそうとして――気付いた。
「ああ、これは夢なんだね」
 ぽつりと落とされた言葉は、どこか寂しく響いて。
 だって、彼は。
「僕が殺した」
 だからこんな光景はあり得ないのだと、蒼が息を吐いた。
 あの日、咎人殺しを唯の復讐代行だとしか思ってない奴らを庇う彼に対する嫌悪感が抑えきれずに、その衝動のままに、僕は彼を。
「ああ、本当に酷く残酷で優しい夢だ」
 目の前の師は、変わらず優しい笑みを浮かべている。赦すと、ただそう言うかのように立っている。
「僕はあなたに赦されたかった」
 それは悲しい迄の、僕の願い。
「だけど、僕は赦されないまま行くよ」
 ――さようなら。
 蒼の左胸を飾る青い薔薇のコサージュが、寂し気に揺れた。

「……蒼」
「……紅」
 お互い、傷付いた瞳をしていたのかもしれない。
 行こう、どちらからともなくそう言って、二人は夢の残滓を振り切って前を向いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月水・輝命

大切な人との別れは……辛いですわよね。
今は、お狐様がそばにいますわ。だから大丈夫、ですけれど。
わたくしが見るのは、一度目に世界を渡った時に出会った、姫巫女様。
まだ、わたくしは薄らとしか意識がなかった。でも、姫巫女様は毎日、道具として、独りわたくしに語り続けて下さいましたね?
わたくしの声が届かずとも、毎日……大切に、使って下さって、とても嬉しかった。
でも……数十年経った頃。
独りで国の繁栄を願い、次代の巫女も探していた姫巫女様は、家族に、裏切られて殺されてしまう。
わたくしは、何も出来なかった。声をかけることも、伸ばされた手に重ねることも。
えぇ、お狐様……大丈夫ですわ。
これは……幻、ですもの。



●まぼろしとしっていても
 大切な人との別れは、どうしたって辛いもの。
 それを知っている月水・輝命(うつしうつすもの・f26153)はカクリヨファンタズムの崩壊を止める為に、あられの下へ走っていた。
「わたくしにはお狐様がそばにいますから……」
 だから、大丈夫だけれど。
 そうでなければ、哀しみに耐えることはできなかったかもしれないと、輝命が考えた瞬間に白い霧が彼女を覆った。
「これは……」
 攻撃かと輝命が構えると、すぐに白い霧は消え失せて変わりに現れたのは――。
「姫巫女様……」
 一度目に渡った世界で出会った、優しくも美しい姫巫女の姿がそこにあった。
 そして広がる風景はすぐに輝命を飲み込んで、幸せなあの頃を浮かび上がらせる。
 美しく整えられた部屋は姫巫女の為のもの。五鈴鏡を手にして座る姫巫女が優し気な笑みを湛えて、何か喋っているのが見えた。
「ああ、あれは……」
 道具であるわたくしに、優しく語り掛けてくださる姫巫女様の姿だと、輝命はあの頃を思い出す。ヤドリガミとして目覚めてはいなかったけれど、薄っすらとした意識、自我のようなものが芽生えていた頃だ。
 神の声を聞く姫巫女には、きっと自分が手にしている五鈴鏡に宿る輝命が見えていたのだろう。
 輝命の声は届かずとも、何かしらを感じ取っていたのか毎日輝命に語り掛け、大事に使ってくれた人。
「とても嬉しかったのです」
 それはなんて幸せな――思わず姫巫女に駆け寄ろうとして輝命が足を踏み出すけれど、お狐様が自分を呼ぶ声に足を止めた。
「そう、そうでしたね……これは夢です」
 だって、姫巫女様は。
 わたくしと共にいてくださった数十年の後に、家族に裏切られて殺されてしまったのだから。
 独りで国の繁栄を願い、次代の巫女も探していた姫巫女様。
「わたくしは、何も出来なかった」
 声を掛けることも、五鈴鏡に……輝命に向けて伸ばされた指先に己の指を重ねることさえも。
 何ひとつ――。
『大丈夫かえ』
 そう問いかけるお狐様の声に、輝命が顔を上げる。
「えぇ、お狐様……大丈夫ですわ。これは……幻、ですもの」
 そう理解していても、目の前のそれはあまりにも優しくて。
「行きましょう」
 さようなら、やさしい人。
 そう呟いて、輝命は幻を打ち払った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

待鳥・鎬
君が僕の名を呼ぶ
薬草を吊るしながらこちらを振り向く
綿帽子の下で照れくさそうに笑う
年頃の娘が気難しいと、子供のように不貞腐れてみせる

…なるほど
これは確かに夢
君の生きた時間
だけど本当は、此処に僕はいなかった
これは僕が眠っている間の記憶なのだから

君を守らなきゃと思ったら身体が動いていた
本体についた傷は深くて
次に目が覚めた時、君は疾うにこの世にいなかった

こんな風にもっと一緒に話したり笑ったりしたかったなぁ…
…いや、記憶の中の君は、良い縁に恵まれて最期まで温かい人生を送った
それで十分、だよね

その笑顔をもう一度だけ目に焼き付けたら、攻撃対象なしの【染花嵐】でこの優しい夢を覆い隠そう
あとはもう、振り向かずに



●やさしいゆめには、もうふりむかない
『鎬』
 優しい声が、待鳥・鎬(町の便利屋さん・f25865)の名を呼んだ。
 その声に振り向けば、薬草を吊るしながらこちらを振り向いた君が僕を呼んで、笑っていた。
『鎬』
 また、優しい声が鎬の名を呼んだ。
 顔を上げれば、真っ白な綿帽子の下で照れくさそうに笑っている君がいた。
『鎬』
 もう一度優しい声が名を呼んで、今度はどうしたのかと聞いてみれば年頃の娘が気難しいと君が子どものように不貞腐れてみせた。
 ああ、ああ。
「……なるほど」
 これは確かに夢だと鎬は思う。
 君の生きた時間、その全てを覚えている。だけど、だけど本当は此処に僕はいなかった。
「だってこれは、僕が眠っている間の記憶だ」
 君を守る為に眠りについた、真鍮の薬匙であった鎬を大事にしていてくれた彼女の幸せな人生の。
「悔いはないよ」
 勝手に身体が動いていた、自分がどうなったって助けなければと、他の誰でもない自分が思ったのだから。
 本体についた傷は思ったよりも深くて、眠りに就かなくてはならなかったけれど。
 ……目が醒めたその時には、君は疾うにこの世にいなかったけれど。
「君を助けることができて、本当に良かった」
『鎬』
 こんな風にもっと名を呼ばれて、もっと一緒に話しをして笑いあって、君の子どもをこの手に抱いて。そんな風に、君と過ごしたかったなぁ、と鎬が眉を下げて笑う。
『鎬』
 どこまでも優しい声、記憶の中にある、君の声。
「記憶の中の君は、良い縁に恵まれて最後まで温かい人生を送った」
 僕にはそれで充分だと、鎬が顔を上げて胸を張る。
『鎬』
 名を呼ばれたなら、君の笑顔をもう一度だけ。
「ありがとう」
 囁くように告げると、硝子の夾竹桃の花びらが鎬の優しい夢を覆い隠していく。
 君と居た時間は僕にとって掛け替えのない宝物で、今もこの胸に抱き続ける輝く星のようだ。
「だけど、僕は行くよ」
 何も見えなくなったその先に向かって、鎬が足を踏み出す。
 そうして、あとはもう振り向かずに――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒鵺・瑞樹
SPD

ずっと心の奥底に沈めようとしてきた想い。そばに居たい、共にありたいと願う人。
その人が目の前にいる。俺に微笑んでくれる。
ただそれだけ。共にありたいと願うしかできないから、だからただそれだけの幻。
これが夢なのはわかってる。だって有りえない。
俺なんかに振り向いてくれる人なんていない。
劣等感とそこからくる自己否定が自分の望みすら諦めさせる。

どうしてこれを見たのだろう。
諦めて心の奥底に沈めてきた。だけどどうせ駄目ならと思ってしまったから?どんな結果になってもいいと思ったから?
だから見てしまったのだろうか。
変えたいと願ってでも願う事も許されないのだろうか。
それでも今のままじゃダメなんだと分かってる。



●うしろがみをひかれても
 ああ、これは夢だと黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)は思う。
 それから、夢でもいいから、とも。
 溜息をひとつ零して、瑞樹が閉じかけた目を開いて目の前にいる人を見た。
 もうずっと、瑞樹を捉えて離さない想い。心の奥底に沈めようとしても、そばに居たい、共にありたいと願って浮き上がる、自分でもどうしようもない気持ちを向ける相手――その人が、瑞樹に向かって微笑んでくれている。
 喋ることもなく、ただ、それだけの。
「幻だ」
 嫌というほどわかっているのに、この有りえない光景を自分は望んでいるのかと瑞樹の息が詰まる。
「俺なんかに振り向いてはくれないだろう……?」
 そんな人はいないのだという劣等感、そしてそれを起因とする自己否定が目の前の、自分の望みですら諦めさせていた。
「だって、俺だけ望んだって」
 叶わないじゃないか。
 片方だけの願いではそれは叶わないのだと知っているから、奥底へ沈めようとしているのに。
「……どうしてこれを見ているのだろう」
 変わらず微笑んだままのその人を見つめながら、瑞樹がふと考える。
 どうせ叶わぬ願いならばと思ってしまったからだろうか。それとも、幻だと知っているから、どんな結果になってもいいと思ってしまったからだろうか?
「俺の望みは、いまだに」
 この人と共にありたいと思ったころから変わっていないから――。
「でも、俺は変えたいと願ってる」
 このままではいつまで待っても前には進めない、変わることはできない。
 変化を望むなら、この人への想いを忘れてしまうべきだと瑞樹は思う。
 いつまでも折り合いの付かない想いは、どうしたらいいのだろうか。
「俺は、どうすればいい?」
 縋るような声に、それでも目の前にいる人は瑞樹に微笑むだけだった。
「……ああ、そうだな」
 つまりは、そういうことだ。
「俺は自分でこの気持ちに決着を付けなければいけないんだな」
 他の誰でもない自分にしかできないことだと、瑞樹は静かに目を閉じる。
 そして、ゆっくりとその目を開いて。
 真っ直ぐに歩き出す。
 その瞳はもう幻を映してはいなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

グレイ・アイビー
ぼくが見るのはどんな夢でしょうか

霧に触れて見たものは、ぼくが奴隷だった頃の夢
優しいご主人様に仕えるぼくと奴隷仲間の少女達
そのありえない光景を夢と自覚するには十分でしょう

だって、現実では…
酷い主人だったから、ぼくは逃げて猟兵になり
醜い主人だったから、彼女達は全て壊された

今見ている夢の通りなら、これが幸福なのだと信じて何も疑うことなく、逃げることもなかったでしょう
…ぞっとしますね

やさしくてひどいゆめとは上手い言い方ですよ
夢と現実、どちらが良かったかなんて選べるわけがねぇんです
なるようにしかならなかったんですから

さて、もしもこうだったら…なんて夢はこれで終いにしましょう
そろそろ目を覚ます時間です



●せんたくしなど、どこにもなく
 見える端から崩れていく道を、グレイ・アイビー(寂しがりやの怪物・f24892)がポニーテールに結い上げた髪を揺らして駆け抜ける。白い霧はまだ見えず、触れれば否が応でも見ると言われた夢について考え、思わずぽつりと呟いた。
「ぼくが見るのはどんな夢でしょうか」
 見たいと願うような、夢なんて。
 ふっと唇の端を持ち上げるように笑った瞬間、目の前が真っ白になった。
 それは手を伸ばした先すらも見えないような濃霧、白い霧。瞬きをして、反転する世界。立ち止まったグレイの前に現れたのは――。
「……ご主人、様?」
『なんだい、グレイ』
 優し気な笑みを浮かべ、主がこちらも見ている。
『どうしたの、グレイ』
 奴隷仲間の少女達が、立ち尽くしたままのグレイを心配するように首を傾げている。
 ここは、ぼくが奴隷だった頃の。
 首輪の下で、喉が鳴る。
『こちらへおいで、グレイ。皆でお菓子を食べよう』
 お菓子? そんなもの、ご主人様がくれたことなんてなかった。
 なのに、どうしてぼくは今、ご主人様と少女達と共に焼き立てのクッキーを食べているのか。
「ああ、なるほど」
 なるほど、とグレイは思う。これは夢なのだと自覚する。
 だって、現実では。
 優しく笑っているあの男は酷い主人だった、だからグレイは逃げ出して猟兵になったのだ。
 楽しそうにしている少女達は、全てあの男に壊されてしまった。
 なんて、なんて。
「真綿で首を締めるような、夢」
 今見ている夢の通りであれば、グレイはこれが幸福なのだと信じただろう。何一つ疑うことなく、逃げることもなく、自由のない幸福にその身を浸したままだったはずだ。
 ぞっとしますね、とグレイが小さく呟いた。
「やさしくてひどいゆめとは、上手い言い方ですよ」
 グレイ? と少女達が首を傾げている。
「夢と現実、どちらが良かったなんて選べるわけがねぇんです」
 だって、なるようにしかならなかった。
 そして、そうなったからこそ、今グレイはここに猟兵として立っている。
「もしもこうだったら……なんて夢はこれで終いにしましょう」
 夢は覚めるもの。
「そろそろ目を覚ます時間です」
 決別の声と共に、幻が消えた。
 さよなら、やさしくてひどいゆめ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

スティーナ・フキハル

口調はほぼミエリで

あ、あぁ……!

声をあげてスティーナお姉ちゃんが立ち止まりそうになった所で
私が意識を奪って駆け続ける

中学生の頃のお姉ちゃんが歩いている
昔いなくなった義理のお姉さんと一緒に
それを優しく見つめる義母さん
周りにはお姉ちゃんや義姉が出会ってきた人達……

ありえない
あの頃のお姉ちゃんの周りには義母さん以外誰もいなかった
私がいてよかった、この夢はお姉ちゃんじゃ耐えられない
姉側である左目から涙が溢れて止まらない
私の右手で拭いながら走り続ける

しばらく駆けると双子の女の子を抱いた女性が現れた
あれは私とお姉ちゃん?
私達の産まれ方が間違いだって言いたいの?
角を殴って夢を振り払う
鬼に夢なんていらない



●おにのみるゆめ
 左右違う色の瞳を瞬かせ、スティーナ・フキハル(羅刹の正義の味方・f30415)が袴の裾を翻して走る。もう少し走ればこの道を抜ける、そうスティーナが思った瞬間、真っ白な霧が辺りを包み込んだ。
 見えぬ先への一歩を踏み出すことに躊躇したスティーナが足を止めそうになるけれど、覚悟を決めて止まりかけた足を動かそうとしたその先に、見えたもの。
「あ、あぁ……!」
 スティーナが小さく悲鳴を上げて、膝から崩れ落ちそうになる。
『お姉ちゃん!』
 頭の中に響いた声にスティーナがミエリ、と小さく呟けば再びその身体は白い霧の中を駆けだした。
「危なかった……」
 そう呟いたのは、身体の主導権を瞬時に奪ったスティーナのもう一つの人格、産まれた落ちた時から彼女の『闇』の一面として存在していた、スティーナが妹と呼ぶミエリだった。
 霧の中のはずなのに、何故か見える風景と中学生の頃のスティーナの姿。それだけならばスティーナも驚くだけで済んだだろう。
「昔いなくなった義理のお姉さん……」
 義理の姉と、二人を慈愛に満ちた瞳で見つめている義母さん。
 そして、走れば走るほど増えていくのは、スティーナや義姉が出会ってきた人々だった。
「ありえない」
 思わずミエリがそう呟く。
 だって、私は知っているのだから。お姉ちゃんの、スティーナの中でずっと見てきたんだから。
「あの頃のお姉ちゃんの周りには、義母さん以外誰もいなかった」
 誰もいなかったのだと、ミエリは知っている。そして、スティーナ自身も。
「私がいてよかった」
 この夢は、お姉ちゃんじゃ耐えられない。唇を噛み締めて、ミエリが走る。スティーナである左側の蒼い目から涙が溢れても、それをミエリである右側の手で何度も慰めるように拭って。
 それでもこの夢は終わらずに、まだ二人に何かを見せようとしている。
「あれは……私とお姉ちゃん?」
 双子の女の子を抱いた女性が、幸せそうに微笑んでいる。片方は紅い目をして額に黒い角を生やした子、片方は蒼い瞳をした子で――。
 ミエリの紅い瞳が燃え上がるように瞬く。
「私達の産まれ方が間違いだって言いたいの?」
 なんて、なんてやさしくもひどいゆめ。
 優しい、それでいて悪夢のような夢を振り切る為に、ミエリが己の右側に生えた角を殴り付けた。
「鬼に、夢なんていらない」
 私達には、互いがあればいい。
 迷わぬように、ミエリがただ真っ直ぐに駆けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ハイドランジア・ムーンライズ
(幼い少女の姿で友達と遊んで居る。オラトリオ何かに覚醒して追放される事も無い、その時一緒だった友達達をヴァンパイアの嗜虐で目の前で処刑される事も無い、毎日が楽しくて何だって出来るし何にだってなれた、あの日々がずっと続く)
また明日ですわー!
(夕暮れ迄遊んで、友達にブンブンと手を振って)


…じゃ、進むか
(無造作に霧を払う。大人に戻る)
今の俺なら兎も角、『あの頃のわたくし』はこんな夢に負ける程弱かねーんだよな。
俺がずっと見てたいつっても、そっちが勘弁しちゃくれねーのよ。
(タバコを出して咥え、手で覆って霧を防ぎ火を点ける)

ま、でも、良い夢見れたわ…
(フーと煙を吐く。霧に混じって昇る煙を見送って)

……苦ぇ



●ゆめなんて
 あれ、と思う暇さえなかった。
 暴力的なまでの白を感じたあと、ハイドランジア・ムーンライズ(翼なんていらない・f05950)は幼い少女の姿で友達と遊んでいた。
 まるで今までの出来事の方が夢のようで、ハイドランジアはそれをおかしいと思うことなく友達との遊びに興じていた。
「今日はなにをしますの?」
 フリルが付いた赤いお気に入りのドレスで、ハイドランジアが笑う。
『ぶらんこに乗りましょう!』
『お花を探しに行くのも楽しいと思うわ!』
「素敵! どっちも素敵ね」
 鮮やかな金髪が揺れて、少女たちの笑い声が響く。
 そう、きっとあれは夢だった。
 オラトリオなんかに覚醒して追放されることも無く、その時に一緒だった友達をヴァンパイアの嗜虐で目の前で処刑される事も無く。あの子も、この子も、誰も誰も死んでなんかいない。
「ああ、なんて素敵! 空はとっても青くて、太陽の光は綺麗なんだわ!」
 そう、暗闇に閉ざされてもいない、平和な世界。
 毎日が楽しくて、何だって出来るし、何にだってなれた。未来は光り輝いている、そう、だって。
 わたくし、さいっきょーなんですもの!
「また明日ですわー!」
 また明日、また明日ね! 笑う子どもたちの楽しそうな声が赤く染まる帰り道に響き渡る。
 腕がちぎれそうなくらい、ぶんぶんと両手を振って、友達に別れを告げる。
 またね、また明日。
「さよなら」
 そう呟いたハイドランジアが強く目を閉じて、再びその瞳を開いた。
「……じゃ、進むか」
 その声はもう幼い少女のものではなく、無造作に霧を払う腕は大人のそれで。
「今の俺なら兎も角、『あの頃のわたくし』はこんな夢に負けるほど弱かねーんだよな」
 ごそごそと、あの頃とは違いフリルの飾りを取り払った赤いドレスのポケットから、ハイドランジアが煙草を取り出す。
「俺がずっと見てたいっつっても、そっちが勘弁しちゃくれねーのよ」
 指の間に挟んだ煙草のフィルターを下にして、箱に向かってトントンと叩くと唇に咥える。
「邪魔くせぇ霧だな」
 火が点かねーだろ、と呟いて手で煙草の先を覆って霧を塞ぎ火を点けた。
「ま、でも」
 吸い込んだ煙を肺に入れ、溜息を吐くように吐き出せばまっすぐに吹き出された煙が霧にとけた。
「良い夢見れたわ……」
 ああ、本当に良い夢だった。
 後口がどれだけ苦くとも――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

コッペリウス・ソムヌス

魔法の霧がみせる幸せな夢……
ちょっと興味深いけども仕事は真面目にしないとね、うん
夢とは無意識を映す鏡のようなものだろうから…出会うとしたら、

昔は、ふたりで居られたけれど
今は、身体はひとつしかないから
ふたり一緒に居られるなんて過去か幻想か
眠りの神がみる夢なんて、そんなものだよねぇ
こんな風に冒険するのも、話をするのも、手を繋いでゆくのも……
それじゃあ、キミのカミサマではいられないから
分かっているよ叶わないからこそ抱く望みだと
さようなら、やさしくてひどいゆめ

霧を抜けられたなら現実かなぁ
誰かと一緒にいたかったものの望みを、叶えに行くとしようか



●ふたつをわかつ
 魔法の霧がみせる、幸せな夢。
「興味深いよねぇ」
 少し笑って、コッペリウス・ソムヌス(Sandmann・f30787)が崩落の一途をたどるカクリヨファンタズムを駆ける。興味深いけれど、仕事は真面目にしないとこの世界が終わりを迎えてしまうから、仕方ない。そう自分を納得させつつ、コッペリウスは夢とは何かを考える。
「夢とは無意識を映す鏡のようなもの」
 元眠りの神である自分がみるとすれば、出会うとすれば――。
「こういうの、なんて言うんだっけ。ええと、噂をすれば影、だったかな?」
 纏わりつくような白い霧が視界を奪う。そうして、再び前が見えたかと思えば、そこにいたのは。
「やあ、キミだと思ったよ」
 オレの片割れ、ふたつで一柱だったキミ。今は身体がひとつしかない故に、影に潜むキミ。
 目の前で笑っている片割れに、コッペリウスも笑みを返した。
 それから、手を繋いで話をして、共に冒険に出掛ける喜びを感じて。
「カミサマでも叶えられないことをみせてくれるなんて、困った夢だねぇ」
 片割れの手を繋いだまま、前を向いてコッペリウスが呟く。ふたり一緒に居られるなんて過去か幻想でしかない。
 本当に困るよね、夢なのに繋いだ手が温かいなんて。
「これも、オレが望んでいることなのかなぁ」
 そう考えると、困ったのは自分か、なんてコッペリウスが小さく笑う。その笑みに応えるように微笑んだ片割れの手を離し、正面から向き合った。
「それじゃあ、キミのカミサマではいられないから」
 大丈夫、ちゃんと分かっているよ。これが叶わないからこそ抱く望みだと、魔法の霧がみせたひと時の夢だと。
「さようなら、やさしくてひどいゆめ」
 片割れは夢の中にではなく、オレの影にいるのだから。
 瞬きの間にそれは霧散して、コッペリウスはもう誰もいないことを確かめる。
「眠りの神がみる夢なんて、そんなものだよねぇ」
 でも、悪くなかったよ。
 そうして、再びコッペリウスは走り出した。
 誰かと一緒にいたかったものの望みを、叶える為に。

大成功 🔵​🔵​🔵​

キコ・フォーチュナ

アタシね
立派なソーシャルディーヴァになる為にお勉強と調整を毎日していたの
培養水槽の中、厚い強化ガラスに顔と手をくっつけて外の世界に憧れてた

でもカラダの中のサーバーを起動したら色々焼き切れちゃった
アタシ優秀じゃなかったみたい

あの時は廃棄場にポイだったけど
今度はずっと水槽の中
焦げて露出した配線も千切れた足もそのまんま
濁る水だけは綺麗にしてくれるからお外は見える

お前はずっとそこにいるだけでいい
だってさ
じゃ~そうしちゃおっかな?

でもアタシ憶えてる
作り直したこの脚で立ち上がって見上げた空
どこに果てがあるんだろってわくわくしたの!

めちゃ寒いけど、アタシの中の炎を強くすればいい話だもんね
全部燃やしちゃえ!



●ゆめのさき
 燃えるような輝きを放つ瞳を瞬かせ、キコ・フォーチュナ(赫焉娘・f30948)が白い霧に触れた途端に現れた風景に首を傾げる。
「どうして、棄てられてないの?」
 そう呟いた瞬間に、目の前の風景が変わった。
 培養水槽の外から自分を見ていたはずなのに、キコが培養水槽の中にいるのだ。
 おかしい、よくわからないけれど、これはきっとおかしなことだとキコは思う。
「だってアタシ、廃棄場にポイされたはずなのに」
 キコは言う、アタシは立派なソーシャルディーヴァになる為に勉強と調整を毎日繰り返していたのだと。体内に幾つものソーシャル・ネットワークを埋め込み、人々に通信網を与える荒廃した世界の救世主となる為に頑張っていたのだと。
「こうやって、硝子に顔と手をくっつけてね」
 培養水槽の厚い強化ガラスに額と手を付けて、キコが研究者達が様々な研究をしたり、時にはモニターで外の世界を映し出すのを見ていたのだと。
「外の世界に憧れてたんだ」
 でも、培養水槽の中を出てカラダの中のサーバーを起動させたあの日、キコがソーシャルディーヴァとして生まれようとしたあの日。
「色々、焼き切れちゃった。アタシ、優秀じゃなかったみたい」
 ぷかり、ぷかりと空気の泡が上へ向かうのを突きながら、独り言のように言う。
「だから、あの時は廃棄場にポイだったけど」
 今度はアタシ、ずっと水槽の中にいる。
 焦げて露出した配線も千切れた足もそのままに、水槽の中をぷかりぷかり。まるで足を失くした人魚姫のように。
 どうしてかな、と首を傾げれば、研究員の人が笑って答えた。
『お前はずっとそこにいるだけでいい、濁る水は綺麗にしてあげよう。お前の好きな外も見えるだろう?』
 そう? それはきっと楽だよね、何もしなくてぷかぷか浮いて、外の世界に憧れて。じゃ~、そうしちゃおっかな? なんて、キコが笑う。笑って、首を横に振った。
「でもアタシ、覚えてる」
 パキリ、と分厚いはずの強化ガラスに罅が入る。研究員達が何か言っているけれど、キコにはもうその声は聞こえない。
 ピキ、パキ、バキン! と音がして、水槽が砕け散る。人魚姫はもうお終い。
「作り直したこの脚で、立ち上がって見上げたあの空を覚えてるの」
 立ち上がったキコの脚は黒く美しい機械の脚、踊るようにステップを踏んでキコが笑う。
「どこに果てがあるんだろって、わくわくしたの!」
 寒くて震えたけれど、そんなのへっちゃらだ。
「アタシの中の炎を強くすればいい話だもんね」
 だから夢はもうお終い、アタシは何処にだっていけるんだもの。
 白い霧を焼き払って、美しい女が駆けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ミルク・ティー

『ミルク、なにをぼんやりしている』
そう声をかけてきたのは私の制作者。人形作りの師匠にあたるひと。
……ぼんやり、してない。
『いいや、している。どこかで壊れてきたんじゃないだろうな』
彼女は既につめたくなってしまった筈のひと。
触れた指先が暖かくて、思わず今まで長い夢を見てきたんじゃないかと思った。
でも、私の首元には首輪があってそれは違うと主張している。

彼女がつめたくなってから、私は猟兵になってご主人様に出会った。
だからありえないのだ。私にご主人様がいて製作者がいるこの状況は。

少し悲しいけれどわかっている。
これはただの夢、だって。
そう思ったとたん、夢はとけて消えた。



●とけてきえて
 違和感を感じて、ミルク・ティー(想いを力に・f00378)の動きが止まる。
 私はどうしてここに? 確か、どこかを走っていたはずで……白い、霧が。
『ミルク、なにをぼんやりしている』
 そう声を掛けられて、ミルクが紅茶色の瞳を一度だけ瞬かせると声がした方へ振り向く。果たして、そこにいたのはミルクを作り上げた製作者であり、人形作りの師匠にあたる人だった。
 もう一度、パチリと瞳を瞬かせてミルクが言う。
「……ぼんやり、してない」
『いいや、している。どこかで壊れてきたんじゃないだろうな』
 見せてごらん、と言われてミルクが首を横に振る。
「大丈夫、本当に壊れてない」
 それよりも、それよりもだ。
 ミルクがじっと目の前の彼女を見つめると、訝し気に溜息をつかれた。
『私の顔に何かおかしなところでもあるかい?』
「いいえ、何も」
 何も、というのは嘘だ。だって目の前の彼女は既に冷たくなってしまった筈のひとなのだから。
『どれ、やっぱり見せてごらん』
 彼女の手が、ミルクの指先に触れる。それはミレナリィドールであるミルクに確かな体温を伝えていた。
 私、今まで長い夢を見てきたのかもしれない。そんな風に考えてしまうほど、目の前の彼女は生きていた。
 でも、とミルクがその温かい手をそっと離し、自分の首元に触れる。そこにあるのは金十字の輝きを放つ首輪、それがミルクにこれは現実ではないと教えてくれていた。
 だって私は彼女の死を見ている、彼女がつめたくなってから、私は猟兵になってご主人様に出会ったのだ。
 ありえない、とミルクは理解している。ご主人様がいて、製作者がいるこの状況は、ありえないのだと。
 小さな胸を襲う小さな痛みは、悲しいという感情。それでも、ミルクは目覚める為にその言葉を口にする。
「これはただの夢」
『ミルク』
 最後にミルクを呼んだ声が、優しく響いて。
 あなたのもとにいた日々はそれなりで、決して悪いものではなかった。
 楽しいことだってあったけれど今の私にはご主人様がいるから、とミルクが首輪に触れて告げる。
「さよなら」
 夢はとけて消えていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

スピーリ・ウルプタス
「…主様」
視線を動かすと一人また一人と、もう貌すら記憶おぼろげな遥か昔の、歴代の主たちの姿

愛しいご尊顔をじっくり拝見していれば
己の本体が一人の主の手の中で
ビリィッ……
「ぐ…」
突如、ページが1枚破られて
それから次々に、他の主へ渡ってはまた破られていく
その表情たちは一様にして満足気な微笑み
「そう、ですか…いよいよ…」
私が不要になったのですね、とこちらも微笑んで呟く

当主が “狂った時”、それを殺す為の術が書かれた『私』
何人殺めたかは忘れてしまったけれど
ようやく御役御免かと安堵、するも

おや。私に暇を出した『現当主』が居ませんね
かの御方の許可なしにいなくなるわけには

残念…まだ在るべき身のようです
覚める



●ゆめのいたみ
 足場が崩れ、世界が崩壊していく音がしていた。
 その崩れる中を走っていたはずなのに、いつの間に私は違う場所にいるのでしょうか? そう、スピーリ・ウルプタス(柔和なヤドリ変態ガミ・f29171)がさらりとした焦茶色の髪を指先で払った時だった。
「……主様」
 禁書であったスピーリの歴代の所有者達――主たる面々がまるで愛でるかのように、その視線をスピーリへと注いでいる。視線を一人一人に合わせて動かせば、遥か昔に主とした貌すらおぼろな歴代の主の姿が見えて、懐かしさに思わず息を零してしまう。
「ああ、そうです。あの時の主様は貴方様でした」
 私を読み解いた後は、特にきつく鎖で縛りあげてくださった主様。
「ええ、ええ、そのお貌も覚えております」
 私を捲る指先が特にお優しく、その後の鎖の感触が堪らなく素晴らしかった主様。
 一人一人、どの主様も素晴らしかったと愛しいご尊顔をじっくりとスピーリが眺め返す。
「思い出すだけで……昂ってしまいますね」
 自身の身体を抱き締めて、スピーリが頬を染めると全身に激しい痛みが走ってスピーリの動きが止まった。
「ぐ……っ」
 何故、と思わずともわかった、これは自分の本体である禁書が――破られている痛み。
 ずらりと並んだ主の一人が笑みを浮かべ、スピーリの本体から一枚の紙を破いている。そして、禁書は次の主の手に渡り、また一枚と破られていく。彼らの表情は一様にして満足気な微笑みを浮かべていて、その笑顔にスピーリは思わず安堵の笑みを浮かべた。
「そう、ですか……いよいよ……」
 私が不要になったのですね、というスピーリの喜びを含んだ声はページを破る音に掻き消される。
 スピーリが禁書であるその最大の理由は、当主が『狂った時』に、それを殺す為の術が書かれているからだ。
「何人殺めたかは、私も忘れてしまったのですけれど」
 やっと、やっとこの役目から解放される。愛する主を殺さなくて済むのだと、スピーリは己を苛む痛みを甘受する。
「この痛みすらも、愛しいもの。ああ、私もやっと主様の許へ行けるのですね……」
 感慨深いものです、と閉じていた目を開く。そして、気付くのだ。
「おや」
 端から端まで、何度見直しても。
「私に暇を出した『現当主』が居ませんね」
 スピーリを破るのは、かつて主であった者達ばかり。
 困りましたね、とスピーリが呟く。何故ならば、未だこの身は現当主の物であるのだから。
「かの御方の許可なしに、いなくなるわけには」
 いかないのですよ。
 心底残念そうな声を出して、ページを破られる痛みをもう一度だけ味わって。
「御機嫌よう、主様方」
 お会いできて嬉しゅうございましたと、優雅に一礼をして顔を上げた時には彼らの姿は綺麗に消え失せていた。
「残念ですが、まだ在るべき身のようです」
 それはそれとして、幻覚の中での身を裂く痛みというのも中々……と機嫌よく呟いて、スピーリは晴れた霧の先へ足を進ませた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヘルガ・リープフラウ
【花狼2】
優しい夢
だけどどこか残酷な、歪な夢
この感覚は、以前にも覚えがある……

平和になった世界
そこでわたくしは、愛する夫ヴォルフと共に幸せな生活を送っている
一切の不幸も悲しみもない世界

お前は何もしなくていい
ただ俺の傍で微笑んでいればいい
これからも二人で、ずっとずっとこの楽園にいよう

いいえ、違うの
「ほんとうのあなた」は、決してわたくしの自由を奪い
籠の中に閉じ込めるようなことは言わない

あれは過去に対峙した敵が仕掛けた卑劣な罠
現実の絆を蝕む甘い毒を「楽園」などとは呼ばせない

夢から覚め、傍らの愛しい人の横顔を見れば
ああ、いつもの力強い狼の瞳
たとえ険しい道程だとしても、覚悟を胸に、あなたと共に往く


ヴォルフガング・エアレーザー
【花狼2】
歩むごとに行く手を阻む魔の霧
甘い毒
心地良くも残酷な夢

妻のヘルガと二人、平和に暮らす日々
生きるため武器を取り争う必要も、一切の不幸も悲しみもない

楽園の中では、わたくしたちの身は守られる
外の世界の不幸に巻き込まれることはない
これからも二人で幸せに暮らしましょう

違う
彼女は「無辜の民を見殺しにするような」女ではない
名も知らぬ民のために涙し、救いの手を差し伸べる
それがヘルガ・リープフラウという女だ

だからこそ俺は命を懸けて守ると誓ったのだ
彼女を、そして彼女が愛した世界の全てを

現実の彼女の微笑みは、夢の中の作り物めいたものとは違う
悲しみを知ればこそ、人は優しくなれる
行こう、俺達の本当の望みのために



●らくえんをぬけだして
 滅びの道を進みゆく世界を救う為に、ヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)とヴォルフガング・エアレーザー(蒼き狼騎士・f05120)は共に崩落する道を前へと進んでいた。
「大丈夫か、ヘルガ」
「ええ、平気よヴォルフ。先を急ぎましょう」
 悪くなる足場を駆ける妻を心配する声にふわりと微笑んで、ヘルガが頷く。
「霧が出てきたな」
 不自然なまでに白い、行く手を阻むような霧。人狼であるヴォルフガングからすれば、まるで甘い毒のような――。
「ヘルガ」
 前すらも見えなくなるほどの真白の霧に、咄嗟に妻の手を掴む。
「ヴォルフ」
 確かなその手の感触に、ヘルガも夫の手を掴み返した。
 白に染まる視界の中、思わず目を閉じる。そして開いた先、二人の目の前に広がっていたのは、どこまでも平和な世界だった。
 青い空と、眩しい迄の太陽の光。二人の為の小さな家の庭で、ヘルガが微笑んでいる。
「お茶にしましょう、ヴォルフ」
 ティータイムだと、ヘルガが焼いたスコーンを白い皿に幾つか載せて、花の手入れをしていたヴォルフに声を掛けた。
「ああ、もうそんな時間か」
「手を洗って来てね、美味しい紅茶を淹れるわ」
 ヘルガの言葉に頷き、ヴォルフガングが手を洗い清めて戻ってくると、庭に置かれたテーブルにスコーンとそれに付けるクリームやジャムが置かれていて、ティーカップには澄んだ色をした紅茶が注がれている。
「さあ、食べましょう? 焼いたばかりだから、きっと美味しいわ」
 ああ、なんて幸せなのだろうか。愛する妻が目の前にいて、微笑んで午後のひと時を楽しんでいる。ヴォルフガングはヘルガに勧められるままに席に着き、まだ温かいスコーンへと手を伸ばす。
「このクリームを付けてね」
 皿に盛られたクリームを付けて、一口で半分程食べてしまえば楽しそうにヘルガが笑った。
 ここは生きる為に武器を取り争う必要も、一切の不幸も悲しみもないのだろう。楽園と呼んで差し支えないような、そう……まるで夢のような世界だ。
「美味しい?」
 はにかむようにそう問えば、ヴォルフガングが笑みを浮かべて頷いてくれる。
「ああ、美味い。ヘルガの作るものはなんだって美味しいさ」
 自分の作ったものを美味しそうに夫が食べてくれている、なんて幸せな光景なのだろうとヘルガは思う。幸せ過ぎて、まるで夢のようだとも。
 平和になった世界はこんなにも素晴らしくて、一切の不幸も悲しみも無い世界。
「わたくし、あなたと一緒に居れて幸せです」
 俺もだと、ヴォルフガングが優しい眼差しでヘルガを見つめている。
「ああ、お前はそうして俺の傍で微笑んでいればいい」
「……あなた?」
「何もしなくていい、これからも二人で、ずっとずっとこの楽園にいよう」
 訝しむヘルガの視線にも鷹揚に頷き、共にこの世界で生きようと、ヴォルフガングが笑っている。
「いいえ、いいえあなた」
 ヘルガが椅子から立ち上がる。
「ほんとうのあなたは、決してわたくしの自由を奪い、籠の中に閉じ込めるようなことは言わないわ」
 ああ、既視感を感じたのは気のせいではなかったのだとヘルガは思う。これは過去に対峙した敵が仕掛けた罠と似ている、現実の絆を蝕むような、甘い毒。
「わたくしはここを、『楽園』とは認めません」
 強い意思を込めた言葉を放てば、楽園は露と消えて――。

 美味しい? と問い掛けられ、ヴォルフガングは深く頷く。妻の作る物は全て美味しいと答えれば、ヘルガが嬉しそうに微笑んだ。
 愛しい女が自分の為に作ってくれたものを食べ、平和な世界で仲睦まじく暮らす。いつか叶うはずと信じてきた、夢の一つ。まさに思い描いた楽園の日々だ。
「幸せね、ヴォルフ」
「ああ」
「楽園の中では、わたくしたちの身は守られるわ。外の世界の不幸に巻き込まれることもないし……ねえあなた、これからも二人で幸せに暮らしましょう?」
 蕩けるような笑みを浮かべたヘルガの顔を、ヴォルフガングが凝視する。
「どうしたの?」
「違う」
 ヴォルフ? と名を呼ぶ声も顔も確かに彼女のものだけれど、でも。
「彼女は『無辜の民を見殺しにするような』女ではない」
「変なヴォルフ、わたくしはわたくしよ?」
 いいや、違うとヴォルフガングが席を立つ。
「名も知らぬ民のために涙し、救いの手を差し伸べる。それがヘルガ・リープフラウという女だ」
 誇り高い、俺の愛した女だとヴォルフガングが真っ直ぐに前を見る。
 だからこそ、俺は命を懸けて守ると誓ったのだ。
 彼女を、そして彼女が愛した世界の全てを。
「ここを『楽園』とは、俺は思わない」
 力強いヴォルフガングの言葉は、楽園を消し飛ばし――。

「ヘルガ」
「ヴォルフ」
 繋いだ手はそのままに、互いの顔を見つめ合う。
 ああ、いつもの力強い狼の瞳だとヘルガが微笑む。
 夢の中の作り物とは違う、悲しみを知る優しい笑顔だとヴォルフガングが頷く。
「行こう、俺達の本当の望みのために」
「ええ、あなた」
 たとえ険しい道程だとしても、その覚悟はこの胸にあるのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シャルロット・クリスティア
何度も何度も夢見た光景。
こうして幻覚を見せるオブリビオンとも何度か戦ってきましたが……結局、私の根底にあるのはこれなんでしょうね。

平和な故郷。パパもママも元気で、弟分のような近所の子供も、よく果物を分けてくれたおばさんも、笑顔で手を振ってくれている。
もう叶わない、あり得ない光景です。

でも、私はまだ一緒には居られませんから。
行かなきゃいけないところがあるからと、手を振り返して村の通りを歩いていきます。

こんな光景を、みんなと見ることは叶わなかったけれど。
誰かが見ている幸せな光景が骸の海に飲み込まれていくのを、救う事は出来る筈だから。



●だれかのゆめを
 走る、走る。
 私にできるのは、この崩壊していく世界を駆けて、その原因たるものを救うことだからと、シャルロット・クリスティア(彷徨える弾の行方・f00330)が崩れゆく道を前へと進んで――真っ白な霧に触れる。一瞬の暗転、その後に広がる世界に、シャルロットは短く息を吐いた。
 それは何度も何度もシャルロットが夢見た光景、忘れ得ぬ夢のひかり。
「こうして幻覚を見せるオブリビオンとも、何度か戦ってきましたが……」
 これは崩落する世界から漏れ出た魔法か何かなのだろう、敵意は感じられない。それでも、シャルロットの行く手を阻もうとしているのは確かなのだけれど。
「結局、私の根底にあるのはこれなんでしょうね」
 目の前に広がるのは、平和な故郷。
「パパ……ママ……」
 声は聞こえないけれど、二人の唇はシャルロットの名を呼んでいるのだろう。立ち尽くしたままのシャルロットを心配するように、弟分のように可愛がっていた近所の子どもが首を傾げながらも手招きをするように手を振っている。
「元気そうな姿……」
 よく果物を分けてくれていたおばさんが、果実を片手に一緒に食べようと言うように笑っている。
 ああ、それはなんて幸せな光景なのだろう。
 でも、これはもう叶うことのない……あり得ない光景だと、シャルロットは知っている。
 だって、ダークセイヴァーにあった私の故郷はヴァンパイアによって粛清されてしまったのだから。反ヴァンパイアの抵抗運動の一員だった両親とも、その時に死別している。
 わかっている、理解しているのに、私にとってはこれが。
 ぎゅっと唇を噛み締め、落ちそうになる視線を持ち上げる。
「いつかきっと、わたしもそちらにいきますから。でも、今は」
 今はまだ、そちらに行くことはできないとシャルロットが前を向いたまま微笑んだ。
「行かなきゃいけないところがあるんです」
 手を振ってくれる人々に手を振り返し、村の通りを真っ直ぐに歩く。
 幸せそうに笑う人々、実った作物に喜ぶ子ども達の声。
「こんな光景を、みんなと見ることは叶わなかったけど」
 シャルロットが再び走り出す。
「誰かが見ている幸せな光景が骸の海に飲み込まれていくのを、救う事は出来る筈だから」
 だから、今はさようなら。
 金の髪を揺らし、少女はもう後ろを振り向くことは無かった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

桜宮・蓮夢
美羽ちゃん(f24139)と!

初めてのお出かけ!
とっても楽しみなのだっ
緩む頬を隠さず、寄り添う形で隣を歩く

霧にも臆さず近寄って
これ、なぁに?
すごくもやもやしてる

霧に身を包まれれば、寄り添ってくれうふたりの男女の大人
……パパとママがいれば、こんな感じなのかなぁ
すごく暖かくてぽかぽかするっ
撫でられ微笑まれ、童心に戻る
夢じゃなければいいのにな
目覚めなければ、一緒にいれる……?
自身から手を繋ごうとした時、声が耳に届く

――嫌だ
僕、美羽ちゃんと離れたくないっ
みんなのこと、忘れたくないもん!

繋ごうとした手をぱっと払って、美羽ちゃんと手を繋ぐ
えへへ、ありがとうっ
僕ひとりじゃ、危なかったよぅ


月見里・美羽
○【桜宮・蓮夢ちゃん(f30554)とご一緒に】
蓮夢ちゃんは最近友だちになった可愛い子
今日は初めてのお出かけです
寄り添い歩いていれば…

不吉な白い霧
蓮夢ちゃんを制止するけど、すぐに体は霧の中
迷わず蓮夢ちゃんを追って霧の中へ

…あれが、蓮夢ちゃんの「やさしくてひどいゆめ」?
ご両親に甘えることが…ああ
蓮夢ちゃんも、ご両親がもういないのか
ならば、これはなんてやさしくて、なんてひどくざんこくなゆめ

ゆめのほうへと手を伸ばす蓮夢ちゃんの名を叫ぶ
蓮夢ちゃん、行ったら駄目
一緒に、みんなのところへ帰ろう?

戻ってきた温もりに、安堵して、思わず笑みが漏れる
大事な、友だち
繋いだ手は、離さないよ



●つないでいて
 初めてのお出掛けだと、はしゃいだ様子をみせるのは桜宮・蓮夢(春茜・f30554)で、崩壊していくカクリヨファンタズムを小さな口を開いて見上げている。
「蓮夢ちゃん、危ないからこっち、ね?」
「うん!」
 同い年だけれど、今日の保護者とばかりに月見里・美羽(星歌い・f24139)が蓮夢をエスコートし、崩れゆく道を二人で駆けた。
「本当に世界のピンチなんだよぅ」
「大丈夫、その為にボクたちがいるんだからね」
 世界の崩壊を止められるのは猟兵だけ、そう思えば俄然この道を抜けて原因となる妖怪の許へ駆けつけなければ。
「うん! 急ぐんだよっ」
 やる気充分、とばかりに蓮夢が速度を上げると、白い霧が辺りに一面に立ち込める。
「これ、なぁに? すごくもやもやして――」
「蓮夢ちゃん、それ……っ」
 指を伸ばした蓮夢を美羽が咄嗟に止めようとするけれど、霧に触れた二人の身体は瞬く間に白い霧に包まれた。
「……ここ、どこ?」
 さっきまで、全然違うところにいたはずなのに。
 今、蓮夢の目の前に広がる光景は綺麗な青空の下で、帰ろうかと呼び掛けてくれる男の人と、お夕飯は何が食べたい? と聞いてくれる女の人が蓮夢の傍で笑っている。
 パパとママがいれば、きっとこんな感じなのだろうと蓮夢の胸がじんわりと温かくなる。
「……パパ?」
 なんだい? 男の人の手が、蓮夢の頭を撫でてくれた。
「……ママ?」
 なぁに? 女の人が、優しい笑みを浮かべて蓮夢を見てくれた。
 ああ、そっか。これが、パパとママなんだ! 蓮夢の心はまるで幼い子どもに戻ったかのように嬉しくなって、ふわりと微笑む。蓮夢が笑えば、パパとママも嬉しそうに笑ってくれて。
「夢じゃなければいいのにな」
 これが現実だったら、どんなに幸せなんだろう。
 夢じゃないわ、とママが笑う。
 さあ、おうちへ帰ろう、とパパが笑う。
「目覚めなければ、一緒にいれる……?」
 ああ、それはなんて誘惑だろう。手を繋いで帰りましょう、という声に従いたくなる。
「パパ、ママ……」
 差し出された二つの手は、とっても温かそうで――。

 蓮夢を追い掛けるように霧に飲み込まれた美羽もまた、先程とは違う場所だと認識していた。
「どうしよう、蓮夢ちゃんを探さなきゃ……」
 青い空の下、楽しげな声が聞こえてくる。
「……蓮夢ちゃん?」
 美羽の目の前には、見知らぬ男女と楽しそうにしている蓮夢の姿があった。
 幸せな家族にしか見えないその光景に、思わず笑みが零れる。それはずっと昔、自分にもあった記憶。
 幸せな時間――。
「……違う」
 これは、違うと美羽は思う。これはきっと、蓮夢ちゃんが見ているやさしくてひどいゆめ、ボクのそれと混じってしまった、夢だ。
「ご両親に甘えることが……ああ、蓮夢ちゃんも、もうご両親がいないのか」
 だったら、これは彼女にとってなんてやさしくて、なんでひどく――残酷な夢。
「本当だったら、ずっと見守っていてあげたい。でも、それは駄目なのです」
 このままここにいれば、世界の崩壊に巻き込まれてしまう。
「蓮夢ちゃん、行ったら駄目! 一緒に、みんなのところへ帰ろう?」
 美羽が精一杯手を伸ばして蓮夢の名を呼ぶ。
 何度でも、何度でも。
「……美羽ちゃん?」
 どうしたの? とママが笑う。早く行こう、とパパが言う。
「――嫌だ、僕、美羽ちゃんと離れたくないっ! みんなのこと、忘れたくないもん!」
 さようなら、パパとママだったかもしれないひと。
 繋ごうとしていた手を払い、蓮夢が美羽の元へ走る。
「美羽ちゃん!」
「蓮夢ちゃん!」
 そうして、自分の為に伸ばされた手を、蓮夢はしっかりと掴んだのだ。
 幻は消え、霧が見る間に晴れていく。
「よかった、よかった……!」
 戻ってきた温もりに、美羽が安堵したように笑みを浮かべる。
「えへへ、ありがとうっ! 僕ひとりじゃ、危なかったよぅ」
 ぎゅっと繋いだ手の先には、大事な友達。
「大丈夫、もうこの手は離さないよ」
 だから、行こう。
 美羽が蓮夢へ飛び切りの笑顔を見せて笑う。
「うん!」
 弾けるような笑顔で蓮夢が答え、美羽と共に再び前に向かって走り出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

花色衣・香鈴
「…お父さん、お母さん」
優しい笑顔、「かりん」とわたしを呼ぶ声
自分自身を眺め直せば、いっそ当然と言うべきか腕も足も綺麗なもの
きっと背中の、今日は何が咲いてるかも判らない花もない
これはわたしが怪奇人間にならなかったらというIF
嗚呼、でも
有り得ない、筈なのに
「今日は、早かったんだね」
使用人の仕事を終え、わたしの両親の顔に戻った2人と「特別な日だからね」「さぁ食事にしましょう」なんて会話に涙が滲んで絆される
ずっと一緒に居たい
戦いたくない、怖いのも痛いのも嫌
…だけど
「ごほっ、」
容赦ない発作に咎められる
そう、これはわたしが置いて来た愛と幸せだから
「ごめんね」
それ以上何も言わせず苦しい体で無理矢理走り出す



●ゆめのちるらむ
 しゃらり、と髪を結ぶリボンに付いた飾りが耳元で音を立てた。
「あれ……」
 わたしは確か、カクリヨファンタズムの道を走っていたはずなのに。頭に白い靄のようなものが掛かったように、花色衣・香鈴(Calling・f28512)は自分の目の前に立っている二人に首を傾げてしまう。
「……お父さん、お母さん」
『どうしたの、かりん』
 優しい笑顔で、香鈴の名を呼んで。
 ああ、その呼び方をするのはお父さんとお母さんだけ。ぱっと顔を明るくした香鈴が安堵したように二人に微笑んで、そして気が付く。自分の腕も足も、綺麗なことに。
「わたし……」
 私の手足はこんなに綺麗ではないはずなのに。花裂き病を患った、怪奇人間であるわたしの、手。
 じっと何の罅割れも無い手を香鈴が眺めると、どうしたのかと声を掛けられた。
「ううん、なんでもないの」
 手足に何もないということは、きっと背中の――毎日何が咲いているかも判らない花もないのだろう。
 嗚呼、と溜息が零れてしまう。
「きっとこれは、わたしが怪奇人間にならなかったら、という……」
 願いであり、叶わぬIFだ。
 有り得ないはずなのに、でも、それでも。
「今日は、早かったんだね」
 俯いた顔を上げて、香鈴は使用人の仕事を終え、自分の両親の顔に戻った父と母に向かって微笑む。
『今日は特別な日だからね』
『さぁ、食事にしましょう』
 もう見ることの無い笑顔だと思っていた。
「そうだね、お父さん、お母さん」
 聞くことのない声だとも。
「……ずっと一緒に居たいな」
 なんてことのない会話に、涙が滲む。ずっとこのまま、ここで過ごせたら。わたしは怪奇人間にならず、家族とずっと一緒に暮らして、そうして、幸せになって。
 戦いたくない、怖いのも痛いのも、本当は嫌。
 だけど、この身はそれを赦してはくれない。
「ごほっ、う、ごほっ」
 どんなに幸せな幻でも、わたしの身体は嘘を吐かない。容赦のない発作に襲われて、香鈴が口元を押さえた。
 はらり、ほろりと唇から零れる花びら。
 そう、これはわたしが置いてきた愛と幸せだから。失くしてしまった、わたしの弱さだから。
「ごめんね」
 ごめんなさい、そう呟けば幻は花が散るように消えていく。
 何か言おうとした父と母に背を向けて、言葉を遮るかのように香鈴が発作の痛みに苦しむ身体で走り出す。
 足がもつれようとも、もう振り向くことは無く――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朧・ユェー
【双月】

彼はぼんやりと何かを思っている
それはきっと…

崩れ落ちそうな道
彼の手を握り引いて走る
このままでは危ない
十雉くん少し我慢して下さいねぇ
ひょいと彼を両手で抱き上げるとそのまま走り出す
えぇ大丈夫ですよ
笑った後白い霧が覆い隠す

十雉くん?
抱き上げていた筈の君が横にいる
微笑んで僕の手を引いていく
何の苦しみも無い世界へと
嗚呼、君とならそれも悪くない
でもごめんねぇ
両手で包む温かさと重みは本物で君じゃない
霧が晴れ君が見える
まだ君は霧の中
君はそのまま幸せかもしれない
でも戻って欲しいと思うのは僕の我儘だ
おでことおでこを軽くコツン
戻っておいで、十雉くん

目覚めて不思議そうにする彼を愛おしそうに見つめて
ふふっお帰り


宵雛花・十雉
【双月】

あられの気持ち、なんとなく分かるよ…
オレも、お父さんにもう一度逢いたい

気が付けば手を引かれ走り出していた
けどオレの方が足は遅くて、自分の運動音痴が恨めしい
わっ…だ、大丈夫?重くない?

霧に包まれ思わず目を閉じる
次に目を開けた時
崩れ落ちた足場からユェーと一緒にゆっくりと落下していた
ああ、ふわふわとして何だか気持ちいい
このまま落ちて死ぬのかな
それとも底のない穴をどこまでも落ちていくのかな
どっちでもいいかと、目を閉じて身を委ねようとした時
額に何かが当たる感触

驚いて目を開けると、見慣れたユェーの顔
え、あれ…ゆ、夢?
まだ夢見心地で状況も分からなくて
きょろきょろ辺りを見回す
えっと、ただいま?



●ゆめよりも、ゆめのよう
 カクリヨファンタズムの危機を救うのもこれで数度目ともなれば、朧・ユェー(零月ノ鬼・f06712)と宵雛花・十雉(奇々傀々・f23050)も慣れたもので、共に崩れゆく道を瓦礫を避けながら走っていた。
 走りながら、十雉がぼんやりとこの現象を引き起こしている妖怪について考える。ご主人様と離れ離れになってしまった化け猫、あられ。
 あられの気持ち、なんとなく分かるよ……オレも、お父さんにもう一度逢いたい。思わず小さな溜息が出て、うっかり瓦礫に蹴躓きそうになる。
「危ないよ」
 ずっとぼんやりと何かを考えたまま走っている十雉を隣で見ていたユェーが、彼の手を握った。
 そしてそのまま手を引いて、先導するように走る。
「えっ、あ、あれ?」
 いつの間に手を引かれていたのだろうか。オレの方が足が遅いから、されるがままで。運動音痴が恨めしいと考えるけれど、まるで子どもみたいだと十雉が小さく笑って、また先程まで考えていた父親のことに再び意識が飛んでしまう。
 そうなってしまえば幾ら手を引かれていても、十雉の足元はやや覚束ない。
「十雉くん」
「ん?」
「少し我慢して下さいねぇ」
 そう言って、ふわりと微笑んだユェーが走ったままひょいっと彼を抱き上げて、そのまま走り出す。
「わっ……え、あの、これって」
 お姫様抱っこというやつでは? と十雉がユェーを見上げると、にっこりと微笑まれた。
「ユェー、力持ちだね……だ、大丈夫? オレ重くない?」
 これでも190センチくらい身長があるんだけど。ユェーより、ちょっと高いくらいなんだけど。思わず恥ずかしくなって、両手で顔を覆ってしまう。
「えぇ、大丈夫ですよ」
 半魔半人のダンピールだからということを差し引いても、均整の取れたユェーの身体を思えば軽いものである。
「恥ずかしいのですか?」
 そう言ってユェーが笑うと、両手を外した十雉がじわりと頬を染めて小さく頷いた。
「それは――」
 可愛らしいですねぇ、と言おうとした瞬間、辺りは一瞬で白い霧に包まれて。
 ユェーは抱えた十雉の身体を強く抱きしめ、十雉は思わず強く目を閉じた。
 そうして、瞬きの後。

 崩れ落ちた足場から、ユェーに抱きかかえられたまま十雉はゆっくりと落下していた。
 重力はその因果を少し変えているようで、ふわふわとした浮遊感を感じるくらいの速度だ。
「ああ、なんだかふわふわとして気持ちいい」
 ユェーもそう思わない? と見上げてれば、ユェーは黙って十雉を見て微笑んでいる。その笑顔は十雉の言葉を肯定してくれているようで、十雉は思わず嬉しくなって笑ってしまった。
「このまま落ちて死ぬのかな、オレ達」
 それとも、底のない穴を童話の主人公みたいにどこまでも落ちていくのだろうか。
 十雉はもう、それでもいいかなと思ってしまったけれど、ユェーはどうなのかと見上げてみれば、やっぱり彼は嬉しそうに笑っていた。
「じゃあ、どっちでもいいか」
 ユェーと一緒なら、別にいいかと思ってしまって。十雉はゆっくりと目を閉じた。

「十雉くん?」
 抱き上げていた筈の彼が、自分の横にいる。いつの間に腕の中から抜け出したのだろうか。
「はぐれないように、しっかりと抱き締めていた筈なんですけどねぇ」
 そう問い掛けてみれば、十雉は綺麗に微笑んでユェーの手を引いた。
 先程、自分が手を引いて走ったお返しだろうかと思い、大人しく手を引かれるままに歩く。
「何処へ行くんですか?」
『何の苦しみもない世界へ』
 十雉がうっとりとした表情で、ユェーに向かって微笑む。
「嗚呼、君とならそれも悪くない」
 本当に、悪くないと思うのだけれど。
「でも、ごめんねぇ」
 ユェーの手を引く十雉の手を引っ張って、自分の方へと向かせる。
「十雉くん」
 君と手を繋いでいるのに、僕の腕の中には両手でしっかりと包んだ温かさと重みがあって。
「きっとこの重みが本物で、僕が見ている君は幻なんだね」
 そう言ってユェーが目を閉じる。そして再び開いた時には、真白の霧は晴れて、腕の中には目を閉じた十雉の姿があった。
「良かった」
 僕が君を間違う筈はないからと微笑んで、未だ霧に囚われたままの十雉を見つめる。
「もしかしたら、君はそのままでいた方が幸せかもしれない」
 でも、とユェーが十雉へ額を寄せる。
「戻って欲しいと思うのは、僕の我儘だ」
 それを承知の上で、僕は君と一緒に居たいんだよ。
 額同士を軽くコツンとくっつける。
「戻っておいで、十雉くん」

 閉じた目を覚ますように額に何かが当たる感触がして、十雉は驚いて目を開けた。
「えっ近、え……?」
 飛び込んできたのは至近距離での見慣れた顔。
「あれ……ゆ、夢?」
 夢から醒めたばかりで、どういう状況かも分かっていない十雉をユェーが愛し気に見つめて笑う。
「ふふっお帰り、十雉くん」
「えっと……ただいま?」
 夢よりも夢のような気がして、十雉が自分の頬を軽く抓る。
「……夢じゃない?」
「はい、僕の腕の中が現実ですよ」
 さて、それじゃあ気を取り直して駆け抜けますかと、ユェーが再び十雉を抱えたまま走り出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

天星・零
天星・暁音と参加

「暁音…」
(残酷な夢だね。本来ならこれが幸せなのかもしれない。けれど…)

無意識に暁音の服の一部まを掴む
離れていかないと分かってもこの光景が嫌だから


(きっと暁音が家族にちゃんと受け入れられていたのなら別の幸せがあったかもしれない。だから…)

「好きなだけ泣いて良いよ。我慢しなくて良いさ」

暁音を受け入れて落ち着くまで甘えさせ

(抱え込む必要はもうないから一人になんかもうさせないよ)


enigmaで別人格の夕夜を出し暁音を引っ張り

「行こう。僕達は家族なんだ」
『何かあれば俺達が支えるだけだぜ』

(どんなに世界が幸せで残酷なものでも)

夕夜の台詞はお任せ
口調はステシ一言参照

誰もいないなら零は真の姿


天星・暁音
【天星・零と参加】
…やっぱりこうして見せられると…少しだけ…沈んじゃうな…今更、溺れるようなものでもないのだけど…もしかしたらあったかもしれない光景…なんて筈はないんだけどね…
零…大丈夫だよ
俺は零の傍にずっといるよ
ただちょっとだけ寂しくて悲しいだけ

今の家族に甘える様に抱き着きながら一粒くらい涙を零します
「うん…ありがと…」

ゆめは家族に受け入れられているゆめ
家族構成は父、母、兄、弟ですが両親だけでもOKです
弟については実際にあったことはないですしその他の家族についても顔はちゃんと見えない感じで
迫害内容は半監禁の力を利用されたことと自分を見ているけれど見ていない目等です
不明点等はお任せ
アドリブ歓迎



●きみといっしょなら
 小さな手を繋いで、天星・暁音(貫く想い・f02508)と天星・零(零と夢幻、真実と虚構・f02413)が共に崩れていく世界を掛けていた。
「暁音、大丈夫?」
「うん、平気だよ」
 零がいてくれるなら、こんな道くらいへっちゃらだと笑う暁音に零が微笑んで、しっかりと手を繋ぎ直して再び走り出す。
 道は一本だけが何とか無事で、この先に世界を滅ぼす原因がいるのだ。
「助けてあげたいな」
 ぽつりと呟いた暁音の声に、零が頷く。
「その為に僕達が来たんだよ」
 この世界の崩壊を止める為に、まだ幼い少年と彼よりは年嵩の少年は懸命に足を動かす。けれど、それを阻害するように突然白い霧が立ち込めた。
「わ、前が見えないよ」
「暁音、こっちへ」
 はぐれないように寄り添う二人に、強い風が吹きつける。咄嗟に目を閉じて、再び目を開けたその先に――。
「……お父さん、お母さん……?」
 暁音に向かって、微笑んでいる……ように、見える男の人と女の人。それから、小さい男の子。
 顔がよく見えないけれど、暁音にはそれが自分の父と母、そして会った事の無い弟だと理解できていた。
「暁音、しっかりして」
「うん、うん……」
 零が心配気に声を掛けるけれど、暁音の表情は硬い。
『暁音、こっちへおいで』
 優しい声が響く。
「お父さん……」
 聞いたことのないような、優しい声。
『お家へ帰りましょう』
 手招くように、母が暁音を呼んでいる。
『お兄ちゃん、一緒に遊ぼう!』
 聞いたことも無いのに、弟だと思ってしまう無邪気な声。
「こんな未来も、あったのかな」
 こんな風に呼ばれて、帰ろうと俺の事を見てくれて。
 でも、全部全部まやかしだと暁音は知っている。
「暁音……」
 残酷な夢だと、零が唇を噛む。こんな、本来ならこれが幸せだというような温かいまやかし。思わず暁音の袖を掴んでしまうと、暁音が零を見上げた。
「零……大丈夫だよ、俺は零の傍にずっといるよ」
 ただ、少し寂しくて悲しいと思ってしまうだけ。
 こうして見せられてしまえば、今更溺れるようなものでもないけれど、もしかしたらあったかもしれないと思ってしまう。そんな筈はないのに、思わず縋ってしまいそうになる、夢だ。
「好きなだけ泣いて良いよ。我慢しなくて良いさ」
 そう言って、まやかしから暁音を隠すかのように零が小さな身体を抱き締める。
「うん……うん……」
 甘えるように抱き着いて、暁音が堪えきれず一粒だけ涙を零す。それは悲しみだけではなく、今の家族への温かさによるもの。
「ありがと……もう大丈夫だよ」
 気丈なまでの暁音の声に、零は一人で抱え込まないでと願う。そして、二度と一人にはさせないと心に誓って、暁音と視線を合わせた。
「暁音」
 零の金色の髪が銀色へと変わっていく。瞳の色もすっかり瑠璃色に変わると、暁音が彼の名を呼んだ。
「夕夜」
「何かあれば、俺達が支えるだけだぜ」
 例えどんなにこの世界が幸せで、残酷なものでも。
 暁音の傍には俺達がいる、絶対にこれ以上泣かせるものかと夕夜が暁音の手を握り締める。
「そうだね、俺には零だけじゃなくて、夕夜もいるんだもんね」
 それはなんて心強いことか。
 いつしか白い霧と共にまやかしは消え失せて、崩壊を続ける道が二人の前に戻ってくる。
「行こう!」
 暁音の声に夕夜が頷いて、繋いだ手をそのままに再び走り出す。
 その足取りは力強く、もう迷いも悲しみもなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クレア・オルティス
アドリブOK

夢に現れたのは私と同齢くらいの黒髪の女の子、エリー

あなたは私に絵本を読んで聞かせてくれた
いろんな遊びを教えてくれた
一人の私に初めて友達になろうって言ってくれた
ねぇ
どうして何も言ってくれないの…?
どうして私に微笑むの…?
私はあなたを…あなたの命を奪ってしまったのに…
私にはその優しい眼差しがとても辛い

待ってて
必ずあなたを連れ戻すから
天使になれば…それが可能だから…
天に行ってしまった人を連れ戻すことができるのは天使だけ
それを教えてくれたのはあなただったね
あなたも、天使になりたいって言ってたね
まだ私の背中に天使の翼はないけれど、いつか…必ず…
エリーを連れ戻して、今度こそ友達になるんだ



●ゆめにねがいを
 ふ、と眠りから覚めたかのように目を開ければ、クレア・オルティス(天使になりたい悪魔の子・f20600)の目の前には彼女と同じ年頃に見える黒髪の女の子――エリーが立っていた。
「エリー……?」
 名を呼べば、彼女は優し気な微笑を浮かべて応えてくれて。
 でも、どうして? とクレアが視線を彷徨わせる。
「わたし……確か崩れていく世界を走っていた筈なのに……」
 そう、そうだ。滅亡しそうだというカクリヨファンタズムを救う為に、グリモアベースからこの世界に飛んで、それから。
 そこまで考えるけれど、クレアの意識は目の前の少女、エリーへと引き寄せられる。
「エリー、わたしの初めてのお友だち……」
 絵本を読んで聞かせてくれた、いろんな遊びを教えてくれた、ひとりぼっちの私に初めて友達になろうって言ってくれた、優しいあなた。
「エリー、ねぇ」
 名前を呼んでも、エリーは微笑むばかり。
「どうして何も言ってくれないの……?」
 どうして、あなたはわたしに微笑んでくれるのだろうか。
 だって、わたしは。
「あなたを……あなたの命を奪ってしまったのに……」
 責めていいのに、どうしてって詰っていいのに、どうしてエリーは笑っているの? わたしには、その優しい眼差しが。
「何よりも辛い……」
 赦されたい、赦されてはいけない、相反する望みの中でエリーはただクレアを見つめて微笑む。
「待ってて、必ずあなたを連れ戻すから」
 天使になれば、それができる。
 天に行ってしまった人を連れ戻すことができるのは、天使だけ――他でもないエリー、あなたがそう教えてくれたのだから。
「天使になりたいって、いつもエリーは言ってたね」
 エリーにも天使になって連れ戻したい誰かが居たのだろうか。
 今のわたしのように、それを願っていたのだろうか。
「エリー、まだわたしの背中に天使の翼はないけれど」
 いつか、必ず。
 真っ白な翼を手に入れて、あなたを迎えに行く。
「その時は、今度こそ本当の友達になるんだ」
 だから待っていて、エリー。
 そう呼び掛けて、クレアが目を閉じる。再び開いた時にはもうエリーの姿はなく、クレアの目の前に広がるのは崩壊を続けるカクリヨファンタズムの姿だった。
「その為にも、今はこの世界を救わなくちゃね」
 金色の髪を靡かせて、クレアが駆けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
⛩神歌

白い霧が…先が見えないね、リル
リル?

違う、噫――手招く人影は
私の巫女…かけがえのない親友
サヨ、如何して此処に?
逢いたかった
ずっとずっと待っていた
やっと逢えた
もう離れたくない
ずっと隣にいたい
朗らかに笑う君を抱きしめる
いとしくてたまらない

けれど花は散る定めであり、約束だ
……散らぬ永遠など願ってはいけないこと
きみが桜吹雪となって空にとける
嫌だ、独りにしないで
また、また?
独りで待つの?

もう、きみを

リル、リル!
静かに涙を零す人魚の頭を優しく撫でる
リル、私やサヨではそなたの家族にはなれないのかな
泣かないで、とはいわない
泣きたい時はたくさん泣いていい

また明日、笑えればいいんだよ
共に未来へいくのだろう?


リル・ルリ
🐟神歌

カムイ
霧がでてきた
迷子にならないように気をつけよう

美しい黒曜の街

―戻ったのか、リル
―おかえりなさい

黒薔薇が薫り漆黒の尾鰭がゆれ
出迎えてくれたのは
とうさんとかあさん
夢だ
二人はもう居ない
とうさんは僕の手で海にかえした
かあさんは僕を守って
とうに

優しく迎える二人
お前の好きな黒薔薇のジャムのタルトを用意したと微笑む吸血鬼と黒い人魚
僕の家族のいる光景

嗚呼
何度夢をみただろう
何度惑わされただろう
喪ったものは戻らないのに
二人の幻を見る度に思い知る

…カムイ
優しい神の声に鮮烈な朱をみる
僕は泣いてる?
カムイ
柔い声がこころをとかす
優しい神様

そう未来にいくんだ
君も、大好きな櫻もヨルも皆―
今を生きる、僕の新しい家族



●やさしいうた
 崩れゆく世界を救う為、朱赫七・カムイ(約彩ノ赫・f30062)とリル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)が、その原因である妖怪の元へ向かっていた。
 カムイが走るその横を、リルが真白な尾鰭を揺らし水中を泳ぐように進む。それは世界が崩壊の一途を辿ろうという時であっても、優雅なもので。
「カムイ、霧がでてきた」
「ああ、白い霧……これが」
 夢を見せると言っていた霧だろうか。特におかしな点は見当たらないが、気を付けるに越したことは無い。
「迷子にならないように気をつけよう」
 先の見えぬ霧にリルが言うと、カムイもこの霧の中はぐれるのは得策ではないと頷く。
「そうだね。リル、手を繋ごう――リル?」
 カムイがリルの手を取ろうと指先を伸ばしたその先、白く可憐な人魚の姿は消え失せて、代わりというように現れたのはカムイを手招く人影。
「リル……違う、噫――」
 カムイを手招く人影を、彼が見間違えるはずなどない。
「私の巫女」
 サヨ、かけがえのない私の親友。宝物を愛しむような声で、カムイがその名を呼んだ。
 人影はすぐにカムイが知っているその姿を現して、カムイに微笑みかける。桜舞うような、艶やかな笑みを。
「サヨ、如何して此処に?」
 そう問い掛けると、美しき桜龍がゆっくりとカムイへと近付いてくる。
 噫、逢いたかった。
 胸を締め付けるような、身を焦がす想いがカムイの唇から溢れ出る。
「逢いたかった、ずっとずっと……君を待っていた」
 私も、と桜龍の艶やかな桜色の唇が動く。
「もう離れたくない、ずっと君の隣にいたい」
 カムイの言葉に朗らかに笑う桜龍をカムイが引き寄せ、胸の中へと閉じ込める。
 いとしくてたまらない。
 永遠にこの腕の中に閉じ込めておけたらいいのにと、願ってしまう。
「けれど、花は散る定めであり、約束だ」
 散らぬ永遠など、願ってはいけないことだと私も君も知っている。
 ――カムイ。
 桜龍の唇が、名を呼んで。
 腕の中の温もりが、桜吹雪となって空にとけた。
「嫌だ、サヨ、サヨ!」
 独りにしないでと、カムイが愛しい桜龍の名を呼ぶ。どれだけ呼んでも、桜吹雪は舞い散るばかりで、腕の中に戻りはしない。
「また、また? 独りで待つの?」
 もう、きみを――。
 桜吹雪が全てを覆い尽くそうとする中、カムイは白く儚い人魚の姿を瞳に映す。
 そうだ、私はここにリルと共に。
「リル」
 名を呼んで、手を伸ばす。

 手を、と言われて指先を伸ばしたけれど、その指先を掴んでくれる手は其処にはなく、在るのは美しい黒曜の街だった。
 目を瞠ったリルを出迎えたのは、黒薔薇の薫りを纏う吸血鬼と漆黒の尾鰭を揺らす人魚。
『――戻ったのか、リル』
『――おかえりなさい』
 もう二度と逢うことはないはずの、ふたり。
「とうさん、かあさん」
 夢だ、とリルは思う。
 だって二人はもう居ないのだ、だって。
『どうした、リル』
 とうさんは僕の手で骸の海にかえした。
『どうしたの、リル』
 かあさんは僕を守って、とうに。
 なのに、この黒曜の街はリルを受け入れている。父と母は優しい声でリルを迎えてくれて、家へ招こうとしているのだ。
『お前の好きな黒薔薇のジャムタルトを用意したんだ』
『それを食べたら、一緒に歌いましょう』
 微笑みあう吸血鬼と黒い人魚。僕の家族がいる光景。
 それはなんてやさしくて。
「嗚呼」
 何度この光景を夢にみただろう。何度惑わされただろう。
 目の前が滲んでゆく。
 喪ったものはもう二度と戻らないのに、二人の幻を見る度に、そう思い知るというのに。
「リル」
 ふたりの声ではない優しい声が、リルを呼ぶ。
 滲む視界の端に、鮮烈な朱が見えた。
「……カムイ」
 そう名を呟けば、黒曜の街は水の中にとけて消えて。
「リル、リル!」
 静かに涙を零し続ける人魚の頭をカムイの手が優しく撫でる。
「カムイ、カムイ、とうさんと、かあさんが」
 それ以上は言葉にはならず、けれどカムイは全てを察してリルの頭を撫でたまま、言葉を紡ぐ。
「リル、私やサヨではそなたの家族にはなれないのかな」
「家族に……?」
「そうだ、泣かないで、とはいわない。泣きたい時はたくさん泣いていい」
 けれど、できれば独りで泣かないで。どうか、私達の腕の中で。
 その言葉に、リルは初めて自分が泣いていることに気が付いた。
「カムイ」
「ここにいるよ」
 優しい神様の柔い声が、人魚の凍えそうなこころをとかしていく。
「泣いてもいい?」
「もちろん。また明日、笑えればいいんだよ」
「忘れなくても、いい?」
「大丈夫、共に未来へいくのだろう?」
 そう、そうだ。
 未来にいくんだ。
「君も、大好きな櫻も、ヨルも皆――」
 だいすきなとうさんとかあさんを覚えたまま、わすれないまま。
 僕は、僕の新しい家族と今を生きるから――。
 二人の視界を奪う霧は晴れ、道は真っ直ぐに行く先へと繋がっていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

汪・皓湛
『皓湛』

記憶にのみ残る街並み
そこに居る金華猫の男(宿敵
一瞬息が止まり、足が動かなくなる

『いい酒を見付けた。飲まないか』

だが酒壺を手に向けられたのは明るい笑み
月の下で決別する前によく見た笑顔で

『どうした皓湛、飲まないのか』

笑う声も関係が変わる前のもの
差し出される酒器を受け取って共に飲む酒は、美味いのだろう

だがこの頃のお前は居ない
お前は私を友と思っていなかった
お前は月の下で私が口にした“友”を嗤った
友と思っていたのは、私だけ

それでも
嬉しいと思ってしまった
また笑い合えるのだと

…馬鹿だな、私は
お前が骸魂となった事で
それは永遠に無くなったというのに

だからこれは夢だ
私に都合のいい、やさしくて、ひどい――



●はなとさいて
 誰かに名を呼ばれ、思わず汪・皓湛(花游・f28072)が崩壊するカクリヨファンタズムを駆ける足の速度を緩めて振り向く。
 崩壊する世界は白い霧の中にするりと消えて、そこに在るのは皓湛の記憶にだけ残る町並みだった。
 そして。
『皓湛』
 金色の髪を揺らす、金華猫の男。
「宵――」
 名を呼ぼうとして、一瞬息が止まる。
 駆けていた足はすっかり走ることを止めて、男の前で立ち止まっていた。
 どうしてお前がここに、という疑問を口にするよりも先に、男が手にした酒壺を皓湛へと向け屈託のない笑みを浮かべて言う。
『いい酒を見付けた。飲まないか』
 自分へ向けられるその笑みは月の下で決別する前によく見た笑顔、いつまでも己の隣に在ると思っていた笑顔だった。
『どうした皓湛、飲まないのか』
 首を傾げるような仕草も、笑う声も、全て関係が変わる前のものばかり。
 嗚呼、と皓湛の唇から溜息が零れる。
 このまま、目の前の男に差し出される酒器を受け取って、共に飲む酒はきっとあの頃のままに美味いのだろう。酔うて酔わせて、朝まで酌み交わす時間は楽しいのだろう。
 だが、と皓湛はそうしたくなる気持ちを抑えて目の前の男を見つめる。
「あの頃のお前は、もう居ない」
 お前は私を友と思っていなかった、月の下で私が口にした“友”を嗤ったのだから。
 縋るように“友”の姿を語った私は、きっとお前からすれば滑稽だっただろう。
 ――友と思い、信じていたのは、私だけ。
「私だけだったのだ」
 それでも、今私の目の前で笑っているお前の姿を、私は嬉しいと思ってしまった。
 一瞬でも、また笑い合えるのだと思ってしまった。
『皓湛』
 優しい声で、また呼んでくれるのだと。
「……馬鹿だな、私は」
 お前が骸魂となった事で、それは永遠に無くなったというのに。
 だから、と皓湛は目を閉じる。
「これは私に都合のいい、やさしくて、ひどい――」
 ゆめ。
「――■■」
 唇に彼の人の名を乗せて、花神は夢から醒める。

大成功 🔵​🔵​🔵​

曲輪・流生

綺麗なおべべをたくさん頂いて。
美味しいご飯を毎日出していただいて。
願いを叶えて。そして僕は生きる。
そこに何の不安も不満もなく。
僕は幸せなのでしょう。

その座敷は豪奢で美しく
僕一人に与えられるにはあまりにも過ぎたるものの様に思えた。
外にはでることは出来ないけれどそれはいろんな危ないことから僕を守るためだっていっていたからきっとそうなのだろうと…。

だってそうじゃなきゃ僕を閉じ込める理由なんて…閉じ込める?
あぁ、僕はそんな風に思って…?
けれど外に出ないと会えない人がいる。
僕はまた僕のために雨を降らせてくれたあの人に会いたい。
(溢れる涙の感触に正気に戻る)



●ゆめはあめにきえて
 肩より上に揃えた白い髪を揺らし、曲輪・流生(廓の竜・f30714)が懸命に崩れていく道を走る。
「早く早く……猫さんを助けなきゃ」
 この道の先にいる、世界を崩壊させる原因ともなってしまった猫を。そして、その主人である人も。
 それだけを胸に走る流生を、いつしか真っ白な霧が包み込む。
「これは……前が、見えな……っ」
 思わず閉じた瞳を、再び開く。
「あ、れ……?」
 ここは何処だっただろうか。流生が辺りを見回せば、そこは贅を尽くしたように飾り立てられた、広く美しい座敷だった。
「ああ、ここは」
 ここは僕の部屋。
 そう流生が認識した途端に、部屋には笑顔を浮かべる人々が現れる。
 手には綺麗な着物を。
「こんなに綺麗なおべべをたくさんいただいて」
 手には彩りも良く美味しそうなお膳を。
「美味しいご飯を毎日出していただいて」
 願いを叶えてくださいませと、平伏されて。
「願いを叶えて、そして僕は生きる」
 完成された世界には、何の不安も不満もなくて。
「ああ、僕はなんて幸せなのでしょう」
 流生を崇める人々も、なんて幸せそうに微笑んでいるのだろうか。
 ほんとうに?
 その座敷は僕一人に与えられるにはあまりにも過ぎたるものの様に、思っていたのに?
 外が見たいと願っても、外は色々な危ないことがあるからと、あなたを守る為なのですと、見ることすら叶わなかった。
「でもそれは、僕を守るためだって」
 だからきっとそうなのだろう。
 ほんとうに?
「だって、そうじゃなきゃ僕を閉じ込める理由なんて――」
 閉じ込める? いいや、ここは僕を守るための場所で。
 ほんとうに?
「そう、じゃなきゃ……おべべも、ご飯も」
 僕にくれる理由はないって。ああ、でも、でも。
 ここは僕を真綿で包んで閉じ込める、牢獄のようで。
「あぁ、僕は、本当はそんな風に思って……?」
 ここに居れば、生きることには困らないだろう。
 けれど、けれど。
「外に出ないと、会えない人がいる」
 僕はまた、僕のために雨を降らせてくれたあの人に会いたい。
 雨を降らして欲しいと乞われるばかりだった僕に、僕のための雨を降らせてくれた人。
「会いたい……」
 ここから抜け出して、漆黒の色を持つあの人に。
 紫水晶のような瞳から溢れ出た涙は、まやかしを掻き消して。
 夢は雨と消え、流生は再び走り出す。
 この先に居る白猫を救う為に。そして、あの人に会う為に――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

乱獅子・梓
【不死蝶】◎
幼い少年の姿の自分
見上げれば広い青空と大きな太陽
鳥のさえずりが聴こえ、リスや野兎も寛いでいる

どこからかキューキューという何かの鳴き声
少し進めば綺麗な花畑が広がっていて
怪我をしている小さな赤い竜を見つける

うわっ大丈夫かお前!?
仔竜を抱えて急いで家に帰り
お母さんと弟に事情を話して皆で仔竜の手当をして
なぁこいつ飼ってもいい?とお母さんにねだった

こうして、親子三人と仔竜の焔
皆で仲良く幸せに暮らしましたとさ
…ああ、悪くない夢だ
でも違う
青空も太陽も綺麗な花畑も無い
そんな故郷を変える為に家を飛び出して
その過程で俺と焔は出会ったのだから

幸せな夢はここで終わり
あの時のように
俺は一人で家を飛び出した


灰神楽・綾
【不死蝶】◎
幼い少年の姿の自分
少し質素な家の台所

黒い髪で、赤くて優しい瞳の…
ああ、お母さんがパンケーキを焼いてくれている
ねぇお母さん、お兄ちゃん遅いねぇ?
もしかして迷子になってないかな?
一人で森に行った兄についてお母さんと話す
…俺も一緒に行きたかったのになーなんて頬膨らませ

その時
お兄ちゃんが怪我をした仔竜を抱えて帰ってきて
俺はあわあわと見ていることしか出来なかったけど
お母さんとお兄ちゃんがテキパキと手当して
元気になった仔竜を見て、皆笑顔

…あれ?お兄ちゃん、どこ行くの?
待ってよ、置いていかないで!
突然一人で家を飛び出した兄を
今度は俺も連れて行ってとがむしゃらに追いかける

その瞬間、夢から覚めた



●ゆめからさめても
 二人で音を立てて崩れゆく世界を駆けていたはずだった、と乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)は思う。けれど、今自分が立っている場所はそんな不穏な世界ではなく、見上げればどこまでも続く青空と眩しく輝く太陽のある平和な世界。
 鳥の囀りが聴こえ、大きな樹にはリスがいて草むらには野兎の耳が見えた。
「夢……?」
 夢を見ていたのかもしれない。だって自分は大人の姿をしていたけれど、ほら、どこからどう見たって子どもだ。
「変な夢だったな」
 心地良い木陰から起き上がって家に帰ろうとすると、何処からともなく鳴き声が聞こえた。
「……何の鳴き声だ?」
 キュー、キュー、という、聞いたことのない鳴き声。頼りなげなその声を辿ってみれば、綺麗な花畑が広がっていた。
「おーい、どこだー?」
 キュー……、と力ない声が近くで聞こえる。花を掻き分け、鳴き声の主を見つけると梓は驚いたような声を上げた。
「うわっ、大丈夫か? お前!」
 キュー、と鳴くのは怪我をした小さな赤い竜。
 どことなく既視感を覚えたけれど、気のせいだと抱き上げる。それから、急いで自分の暮らす家へ向かった。

 あれ、と鼻孔を擽る甘いパンケーキの匂いに、灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)が顔を上げる。
「……夢?」
 確か、二人で何処かを走っていた筈なのに。
 顔を上げた先には、黒い髪で、赤くて優しい瞳の女の人が楽しそうにフライパンの中で狐色になったパンケーキをひっくり返している。
 ああ、おお母さんがパンケーキを焼いてくれている。やっぱり、さっきのは夢だったんだと綾が小さく笑った。
「ねえ、お母さん」
『なあに?』
 優しい声がどこか擽ったくて、椅子から下りて綾が母の隣に立つ。少し質素な台所だけれど、ピカピカに磨き上げられた台所。俺のおうちの台所だ、とまた嬉しくなって綾が微笑んで母に言う。
「お兄ちゃん、遅いねぇ? もしかして、迷子になってないかな?」
 そうだ、兄は一人で森に行ったんだ。俺だって一緒に行きたかったのに。
『そうねぇ、もう少し待ってみて帰ってこなかったら、お母さんと一緒に探しに行きましょうか』
 美味しそうなパンケーキが、真っ白なお皿に載って。
「俺も、一緒に行きたかったなー」
『次はきっと一緒に行ってくれるわ』
 ぷくりと膨らんだ綾の頬を、優しい白い指が撫でる。
『噂をすれば、よ。綾』
「え?」
 挨拶もそこそこに、バタンと大きな音がして扉が開き、梓が飛び込んでくる。その手には、見慣れた気がする赤い仔竜。
「……?」
 初めて見るのに、見たことがあるような気がするなんて。
『梓、どうしたの?』
「母さん、こいつケガしてて」
『あら、可哀想に』
「ち、血が出てるよ」
 獣にでもやられたのだろうかと、梓とお母さんが話をしながら手当をしている。俺はそれをあわあわと見ていることしかできなかったけれど、そっと仔竜の頭を撫でれば、キュー! と元気な声を聞かせてくれた。
「なぁ、こいつ飼ってもいい?」
「俺も! 俺もこの子飼いたい!」
 梓と綾が母親を見上げてねだる、それを見て仔竜もキュー、と鳴いて一緒に見上げた。
『仕方ないわね、ちゃんと面倒見るのよ?』
 梓と綾が顔を見合わせ、やったぁと喜んで仔竜を撫でる。
「お兄ちゃん、名前はどうするの?」
「そうだなぁ、赤くてかっこいいから……焔、焔はどうだ?」
「キュー!」
 気に入った、というように鳴く仔竜を二人で笑って、ああ、ああなんて幸せな。
 そうして、親子三人と仔竜の焔はいつまでも仲良く幸せに暮らしたのでした。
 ハッピーエンドで終わる童話のように、そうであったなら。
「……ああ、悪くない夢だ」
 梓がぽつりと呟いて、母親を見る。
 どうしたの? 梓、と笑う母親の顔はこんなに近くにいるのにぼやけてよくわからない。
 わかるのは、綾と焔の顔だけだ。
 窓の外には、青い空と綺麗な花畑が続いているけれど、本当はそんなものはないと俺は知っている。
 だからこそ、そんな故郷を変える為に家を飛び出して、その過程で俺と焔は出会ったのだから。綾だってそうだ、こんな風に一緒に育ったわけじゃない。
「幸せな夢はここで終わりだ」
 だからさよなら、母さん。
 そう呟いて、梓は振り返らずに家を飛び出していく。
 あの時と同じように――。
「待ってよ、お兄ちゃん! どこ行くの? 待って、置いていかないで!」
 飛び出した梓を綾が必死で追い掛けてくる。
 あの時と同じではなく、今度は二人で。
「綾!」
 幼い姿のまま、梓が綾へ手を伸ばす。
「……梓!」
 綾がその手をしっかりと掴んで、そうして。
「あれが霧の見せる優しい夢ってやつか」
「そうみたいだねぇ」
 手を繋いだまま、あったかもしれない、そんな夢のような話に大人の姿に戻った二人が笑う。
「行くか」
「うん、お兄ちゃん」
 夢の中のままの呼び方で綾が呼ぶと、梓が難しい顔をしてから綾の手を繋いだまま走り出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

音海・心結

零時(f00283)と

これが魔法の霧、ですか
入るのが恐ろしくなり少し立ち竦んだ
その間にも彼はどんどん前に進んでしまい

――待ってくださいっ!
追いかけるように奥へ奥へと

彼と遭遇するまでに幾つものやさしい夢があった
やさしくてやさしくて、でもどこか残酷で
それを打ち破るのは容易いことだった
そんな夢より、彼のことが心配だったから

幾つもの夢を乗り越えて、ようやく彼が居た
変わり果てた姿で

一瞬、誰か分からなかったけれど
背丈や風貌から何となく察しはついた
所々、彼の面影は残っていたから

……零時
一緒に帰りましょう
ひとりじゃありませんよ

いつも通りの姿
いつも通りのみゆで
いつも通り微笑みかける

零れる涙にそっと指を添えた


兎乃・零時

心結(f04636)と

確か魔法の霧だったよな?
一体何が―――

…此処は…

其処は
誰も居ない一人きりの荒野
居るのは自分だけ
さっきまで隣に心結が居たのに

感覚的に直感する
それは己が夢を叶えた夢の世界
ただし
最強の魔術師に『独り』でなった

己の姿も変化した
目元付近…いや、体中に罅が入った
クリスタリアンに寄った姿
パルも居ない

彼は何が有ろうと
夢の果てに辿り着くまで止まる事は無い
故にこれは
夢の果てのあり得る末路、その一つ

とても悲しいのに涙一つ流れないのは夢なりの優しさなのかもしえない

…一人は…嫌だなぁ


声が聞こえた

心結…

乾いた心に声が染みた
涙が両目からぽたぽた零れた

…そっか、俺は…一人じゃないんだ
うん、帰ろう
二人で



●ゆめのはて、ふれるゆびさき
 二人並んで、終末を迎えようとしている世界を走る。
「確か、魔法の霧が出るんだったよな?」
「はいなのです、そう聞いているのですっ」
 白い魔法の霧が出て、触れた者にやさしくてひどいゆめを見せるのだと、音海・心結(瞳に移るは・f04636)が兎乃・零時(其は断崖を駆けあがるもの・f00283)に頷いた。
「どんな夢なんでしょう」
「優しい……んだろ?」
 でも、酷いって――そう言いかけた心結の前に白い霧が立ち込める。
「これが魔法の霧、ですか」
 触れるのが恐ろしくなり、思わず少しの間立ち竦んでしまう。けれど、隣を見れば零時はいつの間にかいなくなっていて、どんどん前に向かって走っていく姿が見えた。
「ま、待ってくださいっ!」
 慌てて心結が追い掛けるように白い霧の中を進む。奥へ、奥へと――。

「此処は……?」
 さっきまで、隣に心結がいたはずなのに。
 そう思って零時は辺りを見回すけれど、何処までも広がる荒野しか見えず、その中心に自分がたった一人で立っている。
「これは、まさか」
 零時が己の手を、視線の高さまで持ち上げた。
 人の手ではなく、クリスタリアン特有の宝石の身体。アクアマリンに輝く、細かく罅割れた己の手。
「俺が、夢を叶えた、夢の世界」
 感覚的にわかる、これは夢だと。そして、この荒野に立ち尽くしている自分は最強の魔術師になった自分だ。
 ただし、『独り』でなった、その末の姿だ。
 そっと目元に触れてみれば、指先と同じように罅が入っているのがわかる。この罅は、きっと全身に広がっているのだろう。
「クリスタリアンに寄った姿だ……」
 でも、どうしてこんな罅だらけになっているのだろうか。
「パル、パル!」
 パルがいれば、その原因も分かるかもしれないと自立型全自動防衛式神――紙兎のパルを呼んでみるも、その姿は見えない。
 正しく、独りなのだ。
「ああ、そっか」
 不意に理解してしまった、解ってしまった。
「俺は――」
 そう、彼は何が有ろうと夢の果てに辿り着くまで、止まることは無い。そして、たった独りで、最強の魔術師になってしまった。
 これは一つの結末。
 零時がこの先、この未来を選び取るかはわからないけれど、選び取ってしまった場合の夢の果てだ。
「悲しいなぁ……」
 とても悲しいのに、涙すら流れない。もしかしたら、こうなるまでに流し尽くしてしまったのかもしれない。それとも、夢なりの優しさだろうか。
「寒い……一人は、嫌だなぁ……」
 ぽつりと、零時が呟いた。

「零時、零時……どこ……?」
 随分と捜し歩いた気がするけれど、心結はその足を止めることはしなかった。
 やさしい夢が心結の足を止めようとしても、心結は首を横に振り続けたのだ。
 ――オブリビオンなんて存在しない、平和な世界で皆と暮らす夢でも。
 ――亡くなった母が生きていて、父親と心結と共に暮らそうと微笑む夢でも。
 やさしくてやさしくて、でもどこか残酷な夢。一人だったら打ち破るのは難しかったかもしれないけれど、今の心結にとっては容易いこと。
 そんな夢よりも、彼の事が心配だったから。
「零時……絶対に見つけてみせるから……!」
 幾つもの夢を乗り越えて、心結は荒野の世界へと足を踏み入れる。
「今までの夢とは、違う」
 もしかしたら、これが零時の夢かも知れない。辺りを見回し、零時の名を呼んで。
 そうして、やっと見つけた彼はいつもの彼とは全く違った、変わり果てた姿で立ち尽くしていた。
「……零時」
 見た瞬間、誰だか分らなかったけれど、背丈や風貌からきっと零時で間違いないと心結は思う。少しずつ近付いていけば、やっぱり零時だと笑みが零れた。
 どんなに変わり果てたとしても、彼の面影は残っていたから。
 目の前に立ち、彼を見上げる。
「零時」
 零時、と優しく名を呼んで。
 それは乾いてしまった零時の心へと響き、沁み込んでいく。
 ぼんやりとしていた瞳から、ぽたり、ぽたりと涙が溢れ出す。
「零時、零時」
「……心結?」
 ひとりはさみしいんだ、と零時の唇が動く。
「ひとりじゃありませんよ」
 だって、みゆがいるでしょう?
 いつも通りの姿、いつも通りの心結が、零時へと微笑みかけた。
「……そっか、俺は……一人じゃないんだ」
 涙が罅割れた身体を治していく。ゆっくりと、いつもの零時の姿へと変化して。
「一緒に、帰りましょう」
 零れる涙にそっと指先を這わせて、もう一度心結が零時に笑う。
「うん、帰ろう」
 独りではなく二人で。
 零時が手を伸ばせば、心結がその手を取って――。
 真っ白な霧は消え、カクリヨファンタズムの道が現れる。
「お帰りなさい、零時」
「……ただいま、心結」
 ありがとう、と零時が微笑んで、再び二人は壊れゆく世界を救う為に駆けだした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

呉羽・伊織
【守3】
寝坊助がいたらほっぺたむにむにして遊んでやるから覚悟してろよ?

――なんて軽口も束の間

一緒にいた仲間に代わって見えた姿は――嗚呼、やっぱり、また

もういない筈の恩人が、優しい笑顔で、暖かな光景の中で、幸せそうにしてる

守りたかった、守れなかった
もう叶う事はない、届く事もない
酷く優しく心を締め付ける、夢

幾度も夢見ては、足を止めそうになって、それでも振り切って進んで――またこうして陥るか

…分かってても、本当に困ったモンだな

でも、今更、此処で途絶える気も、此処に囚われ続ける気もない

何度だって、踏み出す
抱えて、進む
他ならぬ貴方が、この背を押してくれたのだから

過去から、夢から
現へ、今へ
――先へ、行こう


鈴丸・ちょこ
【守3】
随分と妙な夢を見せられるみたいだな
まぁ偶には良かろう

然しどうせ夢見るなら、全て片してから心置きなくふかふかクッションに沈むに限る
こんな場所で暢気に油を売るなよ、お前達

鈴を鳴らし一歩
進んだ筈が、過去に戻る

今は亡き戦友が屈託無く笑いかけてくる
今日は何をして遊ぼうかと誘いかけてくる

厳しい環境と激戦の中での、束の間の休息の記憶

…楽しかったな

だが俺は知っている
この直後に、お前は酷く悲壮な最期を遂げた

懐かしさと歯痒さが同時に襲い来る白昼夢

此処で時を止められたなら――
あられの気持ちも、まぁ分からんでもない

だが
俺は振り返りこそすれ、これ以上戻る気も止まる気もない

――勇往邁進を、お前と約束したのだからな


永廻・春和
【守3】
お二方とも余裕の発言ですね
それでは、“後5分だけ…”等という待ったは無しですよ

きっと大丈夫だろうと信じ
私もまた一歩

眩む先には、転生の道を選ばなかった筈の御方
――傷付いたまま癒しを拒んだ筈の貴方が、穏やかに幸いに過ごす夢幻

あの時
私にもっと力があれば
違う言葉を紡いでいれば
或いはこんな光景もあったのか

酷く優しい夢幻を見ながら
酷く虚しい現実を思い出して


…ごめんなさい
私は叶わぬ夢にひたり、すがり、止まる事は出来ない
現へ帰り、彼らと共に果たしに行かねばならない

酷く心苦しくとも、過去を乗り越え――せめてまだ変えられる未来へと、参りましょう

過去への想いを懐き彷徨うあられ様も、また未来へ歩み出せる様に



●ゆめのあとさき
 さて、と呉羽・伊織(翳・f03578)がやさしくてひどいゆめを見せるという白い霧を目の前にして、鈴丸・ちょこ(不惑・f24585)と永廻・春和(春和景明・f22608)の顔を見遣った。
「寝坊助がいたらほっぺたむにむにして遊んでやるから――」
 覚悟しろよ? と口の端を片側持ち上げて伊織が笑う。
「随分と妙な夢を見せられるみたいだな。夢、夢なぁ、まぁ偶には良かろう」
 しかし折角夢を見るのなら、こんな所ではなく全て片してから心置きなくふかふかの、お日様に干したばかりのクッションに沈みたいものだと、ちょこが首の鈴を鳴らした。
「お二方とも、余裕の発言ですね」
 目の前に迫る霧に慌てることも無く、豪胆なことでございますね、と春和が言うけれど、そう言う彼女にも慌てるような様子は見えない。
「それでは、『後五分だけ……』等という待ったは無しですよ?」
 そうなれば、蹴っ飛ばしてでも起こしましょうかと口には出さずに春和が微笑んだ。
「嫌な予感しかしないんだけど、できるだけ優しくお願いしマス……」
「こんな場所で暢気に油を売るなよ、お前達」
 見ろ、とちょこがその可愛らしいふかふかの手を霧に向ける。先程よりも此方へ迫ってくる白が視界を覆い隠そうとしていた。
「それじゃ、行きますか」
 軽口を叩いている場合ではないか、と伊織が先頭を切る。それに続くかのようにちょこが、春和が霧の中へと身体を躍らせた。

「普通の霧にしか思えないけど……え?」
 そう言って、伊織が後ろを振り向く。当然居ると思っていた人の姿はなく、そこには――。
 嗚呼、やっぱり。
 また、まただ。
 幾度も夢見た、もう居ないはずの恩人が優しい笑顔で、暖かな光景の中で幸せそうにしている。
「オレは、守れなかったのに」
 守りたかった、守れなかった。
 もう叶うことはなく、この言葉が届くこともない、酷く優しく心の柔らかい部分を締め付ける、そんな夢だ。
「これまでだって、何度も夢見ただろう」
 見る度に足を止めそうになって、それでも振り切って進んできたというのに。
「またこうして陥るか」
 理解しているのに、それでも求めてしまうなんて。
「本当に、困ったモンだな」
 諦めに似た笑みを浮かべ、伊織が短く息を吐く。
 吐息はまるでしんしんと降り積もる後悔のようで。
「でも、オレは」
 今更、此処で途絶える気も、此処に囚われ続ける気もない。
 それは許されることではないのだから。
「何度だって踏み出すさ」
 そう呟いて、動かなかった足を動かして、その一歩を踏み出して。
「他ならぬ貴方が、この背を押してくれたのだから」
 だから、抱えたままで進む。
 過去から、夢から、現へ、今へ――!

 ちりん、と鈴が鳴る。前へ進んだはずなのに、ちょこは過去に戻ったようだと宝石のような金眼を瞬かせた。
 今は亡き戦友が屈託なく笑い掛けてくる。
「なんだよ」
 今日は何をして遊ぼうか、と誘い掛けてくる。
「カードか? 賭けるなら遊んでやってもいい」
 それから、三回に一回くらいなら負けてやってもいいと、口に出さずに笑う。
 厳しい環境と激しくなる一方の戦いの中での、束の間の休息の記憶。
 自由を求め、足掻いた俺達の。
「……楽しかったな」
 そう言えば、戦友は一層明るく笑った。
「だがな、俺は知っている」
 この直後だ、お前は酷く悲壮な最期を遂げた。
 あの時ああしていれば、お前は死ななかっただろうか。それとも、変わらぬ結果を迎えただろうか。
 懐かしさと共に、歯痒さがちょこの胸を襲う。
 なんてやさしくてひどいゆめ。
「此処で時を止められたなら――」
 そう言って、自嘲するように唇を歪める。
「あられの気持ちも、まぁ分からんでもない」
 分からないどころか、分かりすぎてしまうくらいだ。
「だがな」
 俺は振り返りこそすれ、これ以上戻る気も止まる気もない。
 だって、俺は。
「――勇往邁進を、お前と約束したのだからな」
 亡き戦友がくれた鈴が、軽やかにちりん、と鳴った。

 きっと大丈夫と信じて踏み出した一歩。
「……っ」
 眩い光りに目を閉じて、再び開いた視線の先には共に訪れた仲間ではなく、転生の道を選ばなかった筈の御方がいた。
「どうして……」
 傷付いたまま、桜の癒しを拒んだ筈の貴方が、穏やかに、これが幸いなのだと微笑んで過ごす、そんなゆめまぼろしが春和の前に広がっていた。
「あの時、私にもっと力があれば」
 違う言葉を紡いでいたならば、或いは、こんな光景もあり得たのだろうか。
 転生を受け入れて、生まれ変わった貴方が、こんな風に。
 なんて酷く優しい夢幻、春和はそれを見つめるしかできずに。
 嗚呼、酷く虚しい現実、春和はそれを思い出す。
「……ごめんなさい」
 これは叶わぬ夢なのです、と春和が呟く。そして、私は叶わぬ夢にひたり、すがり、止まる事は出来ないとも。
「私は現へ還り、彼らと共に果たしにいかねばならない」
 どんなに願おうとも叶わぬ夢、酷く心苦しくとも過去を乗り越え――せめてまだ変えられる未来へと。
「参りましょう」
 苦難に満ちていようとも、それが私の選ぶ道なのだから。
 桜は散って、霧が晴れゆく――。

 ぱちり、と三人が瞳を瞬かせる。
 そして、伊織が小さく笑って、二人に言った。
「――先へ、行こう」
「ああ」
「ええ、過去への想いを懐き彷徨うあられ様も、また未来へ歩み出せる様に」
 変えられぬ過去よりも、変えることのできる未来を救う為に、三人が道の先を目指して走る。

 あられのいる所まで、あともう少し――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『彷徨う白猫『あられ』』

POW   :    ずっといっしょに
【理想の世界に対象を閉じ込める肉球】が命中した対象にルールを宣告し、破ったらダメージを与える。簡単に守れるルールほど威力が高い。
SPD   :    あなたのいのちをちょうだい
対象への質問と共に、【対象の記憶】から【大事な人】を召喚する。満足な答えを得るまで、大事な人は対象を【命を奪い魂を誰かに与えられるようになるま】で攻撃する。
WIZ   :    このいのちをあげる
【死者を生前の姿で蘇生できる魂】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全対象を眠らせる。また、睡眠中の対象は負傷が回復する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠香神乃・饗です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●やさしい時間
 白い霧を抜け、崩落する道を駆け抜け、猟兵達は彷徨う白猫『あられ』の元へ辿り着いていた。
 そこは崩壊を続けるカクリヨファンタズムの中で、核となる場所。周囲の景色は天変地異そのものだけれど、この場所だけは穏やかな時間が流れていた。
 辿り着いた彼らの表情は様々であったけれど、その瞳はどこか傷付いているようにも見えて。
『にーぁ、どうしたの、かなしいことがあったの?』
 白猫が、にゃあと鳴いて、慰めるように近付いてくる。
 人懐っこい、優しい白猫。
 あなたは、世界が滅亡するまでに残された僅かな時間を白猫と過ごす。
 世界を救う為に、さあどんな風に過ごそうか?

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 MSコメントの【●第二章:ボス戦】を参照ください。
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黒鵺・瑞樹
白猫が抱っこさせてくれるなら膝の上で撫でさせてもらえるかな。
一緒にいたいってわかる。
俺はその願いを望みを過去にできなくてずっと抱えている。
自分の中でもどうしたらいいかまだ決めかねてる。
全てを終わらせられるか、まだ終わらせないかの二択とはいえ。
共にありたい。でも迷惑をかけたくない。迷惑かけるぐらいなら跡形もなく消えてしまいたい。それでも欠片でも覚えていて欲しい。
そんな自分の矛盾と我儘に吐き気がする。
ただもう。何もかも限界だなってどこかで感じてるのも事実。
いつか自分は折れるだろう。
だからこそ他の人はって願ってしまう。
君たちもいつか幸せにと思う。
…うん、抱えたまま終わらせるのも一つかもしれない。



●やさしい決意
 ちりん、と白猫の首に付いた鈴が鳴る。
 にぁ、と白猫が黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)を迎え入れるように尻尾を揺らしていた。
『こっちへどうぞ』
 畳の敷かれた座敷は広く、風車や毬など子供が喜びそうなものから、ねこと遊ぶための道具なども置かれている。
「お邪魔するよ」
 そう声を掛けて、黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)は通された座敷へと歩を進めた。
 勧められた座布団に座り、そっと擦り寄ってきた白猫に声を掛ける。
「抱っこしてもいいかな?」
『にゃ、もちろん』
 色よい返事に微笑むと、瑞樹があられを抱いて膝に乗せる。
「一緒にいたいって気持ち、わかる」
 艶やかな毛並みを整えるように撫でながら、瑞樹が呟くように言うと、あられがにーぁと鳴いた。
『おにーさんも、いっしょにいたいひとがいるの?』
 その問い掛けに、静かに頷く。
「俺はもうずっと、その願いを望みを……過去に出来なくて抱えたままなんだ」
 白猫の背を撫でながら、溜息がひとつ零れ落ちた。
「自分の中でも、どうしたらいいか……まだ決めかねてる」
 にぁ、とあられが鳴く。迷う心に寄り添うように、撫でる手に頬を寄せる。その優しい温もりに、優しくされているのは自分ではないだろうかと瑞樹が小さく笑みを落とす。
 もう全てをすっかり終わらせてしまうか、まだ終わらせないかの二択だというのに、それは永遠に決められない選択肢のよう。
「共にありたい、でも迷惑を掛けたくない。迷惑を掛けるぐらいなら跡形もなく消えてしまいたい、それでも欠片でも覚えていて欲しい……」
 なんて矛盾、なんて我儘だろうと瑞樹は思う。まるでこの身の内は燃え盛る煉獄のようだ。
『すきなら、きっとそうおもう』
 あられはご主人様が大好きだからもう一度逢いたかったのだと、にゃあ、と鳴きながら瑞樹に話す。その結果、世界が滅びようとしているけれど、逢えたことの方が嬉しいのだと。
「うん」
 それもきっと、間違いであって間違いではないのだろう。けれど、自分はどうしたってあられのようにはなれないとも思う。
「俺はもう、少し疲れてしまったけど」
 何もかもが限界だと、心の何処かで感じ取っている。いつか自分が折れてしまっても、ああ、やっぱりと思うだろう。
 けれど、だからこそと瑞樹は願いながらあられを撫でる。
「君たちもいつか幸せにって俺は願ってるよ」
 いつか骸の海を抜け出して、輪廻転生の先で共になれたら。
 俺には無理でも、君とご主人様ならできると、瑞樹が小さく笑ってあられを膝から下ろした。
『にーぁ、ありがとう、おにいちゃん』
 あなたもいつかしあわせに。最後に頭を瑞樹の膝に擦り付けて、あられが離れていく。
 それを見送って、瑞樹がぽつりと呟いた。
「……うん、抱えたまま終わらせるのも、一つかもしれない」
 それも一つの決着、幾つもある選択肢の一つ。
 選ぶのは、誰でもない瑞樹だけなのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

スティーナ・フキハル

口調はずっとミエリで

どうしよう、お姉ちゃんが出てこなくなっちゃった……
さっきのが効きすぎたみたい、優しくするのはお姉ちゃん担当なのに!

けれどもう頑張るしかありません、お姉ちゃん譲りの【優しさ】で!
とりあえずご挨拶しましょう。猫さんの前にしゃがみ込んでちゃんとお顔を見て!

にゃーご、ごろにゃ!(挨拶のつもり)

……え、日本語でおっけー? しゃがまなくてもいい? そ、そんなぁ……

うわぁ、ちょ、ちょっと待って! 上に乗ってごろごろしないでくすぐったいから!
もー、私も両手でわしゃわしゃしてあげますよ、それぇ!
何だか一緒に転がっていたら少し気分が晴れたかも。服はぐっちゃりですけど。
猫さんはどうでしたか?


豊水・晶
あんな夢を見たせいだとは思いますが、少し感傷的になっているところであられちゃんと出会いました。普段は自制できるのですが、こちらを心配するように近づいてくる様子が、すごく愛らしくて思わず抱き上げてもふもふしてしまいました。「ふふっ、やはりふわふわでもふもふは正義ですね」。いきなりだったので少し抵抗されましたが、落ち着いて話した後あられちゃんとは過去のことでお話をしました。「あなたみたいに想ってくれる方がいるご主人様は、とっても素敵な方なんでしょうね」。そういってあられちゃんが安心して眠るまで撫で続けます。「願わくば彼女に幸せな夢を」。



●やさしくて、たのしくて
 白猫を前にして、スティーナ・フキハル(羅刹の正義の味方・f30415)――いや、妹人格であるミエリはどうしようかと眉を下げていた。
「どうしよう、お姉ちゃんが出てこなくなっちゃった……」
 きっとさっきの霧が見せた夢がスティーナを深い眠りに落とし込んでしまったのだろう、それほどにスティーナにとってはやさしくも酷い夢だったのだ。
『にーぁ?』
 ちりん、と鈴を揺らして、あられがミエリにどうしたの? と問い掛けるように首を傾げている。
「ああ、えっと……」
 こうなっては、もうミエリが頑張るしかない。八の字になった眉毛をきりっと持ち上げて、お姉ちゃん譲りの優しさで接すればなんとかなるとミエリがあられを見た。
 ええと、やっぱり最初はご挨拶から。よし、と頷くとミエリが白猫の前にしゃがみ込み、その円らな可愛らしい金色の目を見つめ――。
「にゃーご、ごろにゃ!」
 と、挨拶するように鳴いた。
『にゃ! ふふ、あはは、おねーちゃんおもしろい。だいじょうぶ、あられはことば、わかるよ』
 ミエリが色違いの瞳をぱちりと瞬くと、徐々にその頬と耳を赤くしていく。
「……え、日本語でおっけー……?」
『にゃあ、だいじょうぶ。ふつうにしてて、いいよ』
「しゃがまなくてもいい?」
 こくん、と白猫が頷く。ちりんと鳴った鈴の音に、そんなぁというか細い声と共にミエリが畳に突っ伏した。
「は、恥ずかしい……!」
『えへへ、でも、あられはうれしかった』
 優しい気持ちが、嬉しかった。
 ぴょん、とあられが突っ伏したミエリの背に乗って、ごろごろと転がりだす。
「うわぁ! ちょ、ちょっと待って! 上に乗って……あは、あはは! くすぐったいから、ねえ」
 ぴょんっと飛び跳ねて、あられがミエリの前にちょこんと座る。
「もー、こうなったら私も両手でわしゃわしゃしてあげますよ、それぇ!」
 寝っ転がったまま、お行儀は少し悪かったかもしれないけれど。ミエリがあられへ手を伸ばし、抱き上げて胸の上に乗せ、わしゃわしゃと撫でまわした。
『あは、あはは!』
 きゃあきゃあと、一人と一匹が声を上げて笑い合う。
 楽しいね、たのしいねえと笑えば、エミリが心の奥底に沈んでしまったスティーナの気配を感じて、お姉ちゃんも楽しい? と、そっと胸の内で問い掛けて微笑んだ。
「ふー、何だか一緒に転がっていたら、少しは気分が晴れたかも」
『にぁ、かなしいことがあったの?』
「ええ、私ではないあたしが、ね」
 でも、あられと一緒に転がって、思いっきり笑ったおかげで気分が上を向いたのだ。
 笑うのは大事なことだと思いつつ、ぐっちゃりしてしまった服を直す。それから、あられの乱れてしまった毛並みを手で直してやりながら問い掛けた。
「猫さんはどうでしたか?」
『にぃ?』
「楽しくなれました?」
『うん!』
 たのしいね、たのしかったねと白猫が鈴を鳴らした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


●やさしい夢の続きを
 白い霧を抜け、崩壊する道を走る豊水・晶(歪み揺れる水鏡・f31057)の心をちくりと苛むのは霧が見せたやさしくてひどい夢。在りし日の風景、在りし日の夢。
「もう過去のことなのにね」
 それでも大事だったのだと、晶は心の柔い部分をちくり、ちくりと痛めて走る。そしてその先で、一軒の屋敷で佇む白猫と出会ったのだ。
 案内されるままに屋敷に上がり、綺麗な座敷で勧められたふかふかの座布団に座る。
『にぁ、にーぃ……だいじょうぶ?』
 屋敷の前で出会った時と同じように、晶を心配するように白猫が膝へと擦り寄る。
「か、可愛い……!」
 いつもなら、そう――普段であれば自制して、いきなり抱き上げるような真似をする晶ではない。けれど、今は……そう、少し感傷的になっていたので。
 つい、可愛らしく擦り寄ってきた白猫を抱き上げて、赤子を抱くかのように抱き締めて、もふもふしてしまったのだ。
「可愛い、あったかい、もふもふ……やはりふわふわでもふもふは正義ですね」
『にぁ、にぁ、くるしいよ』
「あっごめんなさい」
 ふっくらした可愛らしい前足で、白猫が晶の腕をぐいぐいと押す。その仕草も可愛ければ、腕を押すふにふにとした感触も堪らない。
『にぃ、くるしかったの』
 ぷは、と可愛らしい口を開けて言われると、晶はもうひたすらに謝るしかなかった。
「本当にごめんなさい、つい……」
『んにぃ、もういいよ、あられおこってないよ』
 そう言って、しょげる晶の頬をあられが再び前足でふにふにと押す。
「ああ、やっぱり可愛らしい……」
 その前足を指先で捕まえて肉球を押せば、魅惑のぷにぷにが晶の感傷的になっていた心を落ち着かせほっこりとした気持ちが広がっていく。
「ありがとう、あられちゃん」
『にぁ? あられ、なにもしてないよ?』
「悲しい気持ち……だったのですけど、あられちゃんのお陰で楽しくなったんです」
 晶の言葉に、あられが嬉しそうに鳴く。それから、晶とあられはゆっくりとお互いの話をして柔らかな笑みを浮かべた。
「あなたみたいに想ってくれる方がいるご主人様は、きっと……とっても素敵な方なんでしょうね」
『にぃ、やさしくてだいすきなの。あられのごしゅじんさまは、とってもいいひとだよ』
 おねえちゃんも、いいひと。
 あられがにーぁと鳴いて、そう言った。
「ふふ、あられちゃんは本当に優しい子ですね」
 膝の上で丸くなった白猫を、優しく撫でる。安心して、もう何も悲しむようなことがないように、と。
「願わくば、彼女に幸せな夢を」
 どうか、やさしい夢をみてくれますように。
ミルク・ティー
あられ様はきっとだいすきなひとを亡くしていて、だから世界が滅びようとしていて……
……どんな言葉をかけたらいいんだろう

にゃーん、と猫の……ニャハトの鳴き声。
彼は私の足下に寄り添うように座る。
きっと慰めようとしてくれてるんだ、よね。
……それで良い、のかな。

あられ様とはただ寄り添って景色を眺める、よ。
ゆっくりと撫でさせてもらおうかな。

もう会えない、言葉もかわせない、触れることもできない……。
そう思うと、どうしてこうも胸が痛くなるんだろうね。

製作者は製作者で……特別なひとだけど、だいすきとは違うひとなのに。

ん、大丈夫じゃないけど、大丈夫。
ニャハトやあられ様のおかげであったかいから、平気、だよ。



●やさしい温もり
 にーぃ、と鳴く白猫を前に、ミルク・ティー(想いを力に・f00378)はどうすればいいかと考える。
 あられはきっと、だいすきなひとを亡くしていて。
 だから世界が滅びようとしていて……どんな言葉を掛けたらいいのだろうか。感情が無いわけではない、嬉しいことや悲しいことだってわかる。それをどうやって表せばいいのか、どうすればいいのかが、ほんの少しだけ分からないのだ。
 にゃーん、とミルクの足元で猫が鳴く。
「ニャハト」
 それはミルクの主たるブラックタールの分身、どんな困難でも切り抜けられるようにと主がくれた、ミルクのための。
 寄り添うように足元に座ったニャハトを眺め、ミルクが頷く。
「きっと、慰めようとしてくれてるんだ、よね」
 ならば、きっと。
「……それで良い、のかな」
 傷付いた心に、満たされようとしている心に寄り添えば。
「あられ様、一緒に外を見よう」
『にぁ、いいよ。おそとをみるならこっちだよ』
 座敷の縁側にある障子を開ければ、そこには外の景色が広がっていて。
 崩れていく世界を前に、ミルクとあられは揃って縁側に座った。
「撫でても、いいかな?」
『にぃ』
 勿論、というようにあられがミルクの膝に擦り寄る。そっと手を伸ばして白い毛並みを撫でれば、一人と一匹の視線は外へと向かう。
 青と赤の混じり合ったような不思議な空の中、瓦礫が宙を舞うのが見える。まさしく世界が終ろうとしている、そんな景色。絶望さえ感じるけれど、それよりも酷い絶望を知っているから。
「あられ様」
『にゃあ?』
「もう会えない、言葉もかわせない、触れることもできない……そう思うと、どうしてこうも胸が痛くなるんだろうね」
 自分を作った人を思いだす。製作者は製作者であり、特別なひとではあるけれど、だいすきとは違うひとなのに。
『にぁ、きっとだいすきじゃない、すきだからだよ』
「だいすきじゃない、だすき?」
『んにぃ……いちばんじゃなくても、すきなひとは、いてもいいって』
 ご主人様は言ってたよ、とあられが言う。
「だいすきなひと……いちばんじゃなくても、すきなひと」
 そっか、とミルクは思う。
『だいじょうぶ?』
「ん、大丈夫じゃないけど、大丈夫」
 そう言ったミルクにニャハトが寄り添い、あられも寄り添うようにその身をくっ付ける。
「あったかい……」
 この温もりがあるのなら、きっと平気。
 そう言って、無表情なメイド人形は優しく目を細めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

戎崎・蒼

宮前・紅(f04970)と行動
優しい夢を見せられて、夢だと分かっていながら勝手に傷ついていた
どちらもそれ以降、目立った会話は無かったと思う
ただただ何となく遣る瀬無くて仕方がなくて……どうしようも無かった

そんな駆け抜けた先で出会った優しい白猫に触れれば、段々と落ち着いてくる
…後暗い事とも言えるあの出来事を、僕は結構気に病んでいたらしい
塒を巻く感情なんて、もう捨てたと思っていたのに

うん、そうだね……きっと僕達は哀しいのだろうね
───それでいて、何方も負けず劣らずの捻くれ者だから
あられのその温かさが……優しさが水に溺れるように苦しいのに嬉しくて堪らないんだ

だから

まだ、今だけは、このままで……


宮前・紅

戎崎・蒼(f04968)と行動
君があられか──真っ白でふわふわで可愛いね(そぉっと手を伸ばし少しぎこちない手で撫でる)
こういう動物には慣れてないんだ……すぐ怪我をさせてしまいそうで
落ち込んでるのって?
ううん
悲しいこと──というかちょっと悪い夢を見ちゃっただけだよ

蒼くんも俺も"いい人"じゃないから(人殺しだから)──君が眩しく見えて仕方ないんだろうな

あられはいい子だね、とっても素敵なご主人様がいたんだろうな
ねえ………俺にご主人様の事教えてよ
それが俺たちにとっても"慰め"になるだろうから

二人は話を聞きながら優しく撫でる
ふわふわ微睡むような浮遊感に笑った
今だけは、ほんの少しで良いから忘れさせて



●やさしい時間を君と一緒に
 やさしい夢だった、と戎崎・蒼(暗愚の戦場兵器・f04968)は思う、そして酷い夢だったとも。
 夢だと分かっていたのに勝手に傷付いたのは自分だけれど、それでも言葉少なになってしまうのは仕方のないこと。そしてそれは、宮前・紅(三姉妹の人形と罪人・f04970)も同じで。
 きっと彼もやさしくて酷い夢を見たのだろう、霧から抜けた時、傷付いた瞳をしていた。
「それは僕も、か」
 聞こえぬように呟いて、小さな溜息を零す。誰のせいでもない、けれどこの遣る瀬無さはどうしようもなくて、二人は黙ったまま前へと進み――白猫と出会った。
『にぁ、にぁ、どうしたの。かなしいめをしてるの』
 にぁ、と可愛らしく鳴いた白猫にそう言われて、二人は顔を見合わせる。それから、少し力なく笑って、あられに案内されるままに座敷へと上がった。
「君があられ? 真っ白でふわふわで、可愛いね」
 撫でてもいい? と控えめに紅が聞くと、あられは差し出された手に頬をくっ付ける。そぉっと、そぉっと……壊してしまわないように、紅が恐る恐るといった風な、ぎこちない調子で撫でた。
『にーぁ、ふふ、なでるのなれてないの?』
「う、こういう……あられみたいな、小さな動物には慣れてないんだ……すぐ怪我をさせてしまいそうで」
 怖い。
 だって、ちょっと力を入れて首を絞めたら死んでしまう。それは多分蒼だって一緒だろうと、紅が蒼を見遣る。その視線に、蒼は肩を軽く竦めて笑って返した。
『にゃあ? そんなによわくないよ、だいじょうぶ』
 あられの言葉に背を押され、紅が少しだけ力を入れて撫でると気持ち良さそうにあられが喉を鳴らす。
『そうそう、じょうず。おにいさんたちは』
 ちりん、とあられの首に付けられた鈴が鳴る。
『どうしてそんなに、かなしいめをしているの?』
「そんな風に……見えるかい?」
 紅があられを撫でる横で、それを眺めていた蒼が言う。
『にぁ。そうみえるよ、ごしゅじんさまもむかしそんなめをしてたの』
 そんな時はあられが傍にいたのだと、白猫が言う。
「……悲しいこと――というか、ちょっと悪い夢を見ちゃっただけだよ」
「そう、そうだね。悪い夢だった」
 やさしいけれど、心の柔らかい場所を傷付けるような、そんな。
 後ろ暗いとも言えるあの出来事を、僕は思っていたよりも結構気に病んでいたらしい。そう、蒼が気付く。
 胸の内に塒を巻くような感情なんて、もうとっくに捨て去ったと思っていたのに。案外と、僕はまだ人としてのそういった感情を捨てきってはいないのかもしれないと、蒼が眉を下げた。
『にぁ、にぁ、かなしいの、かなしいね』
「うん、そうだね……きっと僕達は哀しいのだろうね」
「あられはいい子だね」
 ようやく撫でることになれてきた紅があられの毛並みを整えるように撫で、思う。
 蒼くんも俺も"いい人"じゃないから。
 ――人殺しだから。
 素直に自分の感情を吐露し、優しく接してくれる君が眩しく見えてしまうんだろうな。
 そんなことを思いながら蒼を見れば、蒼も紅の心を理解しているかのように小さく微笑む。
 哀しいのに、それでいて何方も負けず劣らずの捻くれ者だから、あられのその温かさが、優しさが、水に溺れて肺から空気がなくなってしまうように苦しいのに――それなのに、嬉しくて堪らないんだ。
『あられはいいこだって、ごしゅじんさまもいってたよ』
「とっても素敵なご主人様なんだね」
 にぁ、と嬉しそうにあられが鳴く。うれしい、うれしいと鈴を揺らして。
「ねえ……俺に、俺たちにご主人様の事教えてよ」
 それはきっと、俺たちにとっても……きっと"慰め"になるだろうから。そう願いを籠めて、紅があられに話をねだった。
『にぁ、にーぃ。いいよ、ごしゅじんさまはね……』
 白い尻尾がゆらゆらと揺れる、あられを間に挟んで、紅と蒼があられを優しく撫でて白猫が語る話に耳を傾けた。
 大好きな人のことを語るあられは、どこまでも優しい声を響かせて。
 それはやさしくて、やさしくて。
 二人はふわふわと微睡むような浮遊感に幸せな気持ちになって、笑い合う。
 ああ、どうか、まだ終わらないで。
 もう少しだけ、このままで――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

曲輪・流生

僕は悪い子になってしまったんでしょうか?
あの暮らしは決して悪いものではなかったはずなのに

…猫さん…僕は大丈夫ですよ。
ありがとうございます。猫さんは優しいですね。

そんな猫さんのお願いを叶えてあげられればどれほどいいか…。
それでも死者を蘇らせることは僕にも出来ない。
一度だけお願いされてやった事があります。
でも僕の血だけでは足りなかったんです。
それから何日も寝込んでしまったらしくて。
それ以降は今度は僕が死んでしまうからやめるようにと…だから…ごめんなさい。

猫さん…僕が猫さんに出来るのは【祈り】を込めて歌う事だけです。
(猫さんを撫でながら歌を口ずさんで)



●やさしい祈り
 霧を抜け、優しくも酷い夢を振り払い、それでも曲輪・流生(廓の竜・f30714)は駆けながら思う。
「……僕は悪い子になってしまったんでしょうか?」
 あの座敷での暮らしは、決して悪いものではなかったはずなのに。
 だって、美味しいご飯が食べられたもの。
 綺麗なおべべも着れたもの、優しくしてもらったもの。
 でも、でも。
「お外には、出られなかった……」
 こんな風に、走ることだって。
 ちりん、と鈴の音が聞こえて、流生は地面ばかり見ていた視線を上げた。
『にぁ、どうしたの。かなしいことがあったの?』
 いつの間にか辿り着いていた場所で、白猫がそう流生に問い掛ける。その声は優しく、柔らかく、流生は零れ落ちそうになっていた涙を拭って、口元に笑みを浮かべた。
「……猫さん……僕は大丈夫ですよ」
『ほんとうに? にぁ、ないてない?』
「はい、ありがとうございます……猫さんは、優しいですね」
 優しいと言われて、白猫がにーぁ、と鳴いた。
『やさしいのは、あられのごしゅじんさまだよ』
 ご主人様、ああ、この白猫の願いの。
 ちりん、とまた鈴が鳴って白猫が流生を案内するかのように尻尾を揺らして座敷へ向かう。誘われるままに流生はあられの後ろを歩いた。
 座布団に座って、流生があられの話を聞く為に問う。
「猫さんの望みは、ご主人様を生き返らせることだったのでしょうか?」
『にぁ、にーぃ……あられは、ごしゅじんさまにあいたかっただけなの』
 会えなくなってしまったから、だから。
 流生が一瞬言葉に詰まる、この白猫はきっとご主人様が死んだとは思っていないのだ。
 ただ、いきなり会えなくなってしまったのだと。きっと、あられに接する他の者も、ご主人様が死んだとは告げていないのだとも。
「そう、そうですか……僕が猫さんのお願いを叶えてあげられればどれほどいいか……」
『にぁ? だいじょうぶだよ、あられはいまごしゅじんさまといっしょだもの』
 そう言って、白猫は幸せそうに尻尾を揺らす。
 嗚呼、嗚呼。
 しかしそれは死者が蘇ったのとは違う、骸魂になって帰ってきたのだから。
 でも、死者を蘇らせることは流生にだって出来ぬこと。
 一度だけ、あの座敷でお願いされてやったことがあるけれど、流生の血だけでは足りなかった。
 その後も何日も寝込んでしまって、それからは流生が死んでしまうからやめるように、と言われて……誰かを生き返らせるのは、世の理を曲げること。
 だから、僕にはその願いは叶えられない。
「……ごめんなさい」
『にぃ? あやまることないよ、あやまることなんてなんにもないの』
 だから大丈夫だよ、と白猫は流生の膝に頭を擦り付ける。
「猫さん……」
 逆に慰められてしまったと、流生が頬を赤くしつつあられの頭を撫でる。それから、せめてもの慰めになればと唇を震わせ歌を紡ぐ。
『にぁ、やさしいおうた』
 このひと時だけでも、どうかどうか――あられとご主人様に安らぎがありますように、と流生は歌を紡ぎ続けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

グレイ・アイビー
これはまた美人さんが来ましたね
近付いてくる白猫に気付けば、さっき見た夢の不快さも何のその
思わず相好が崩れやがります

あられちゃんでしたっけ
優しい子みてぇですね
ちょっと相手になってくれませんか?

大丈夫そうなら、撫でさせてもらいましょう
夢のせいでちょっとセンチメンタルになった気持ちも癒えていくようです

ぼくの相手ばかりさせてますが、あられちゃんはどうですかね?
聞いてくれたお礼にできるだけのことはしてげてぇなって思います

アニキがいれば、玩具も作ってもらえたんですが…
そうだ!だるまさん転んだで遊びませんか?
あられちゃんがハンターで、獲物のぼくを捕えたら勝ちですよ
あられちゃんが満足するまで、付き合いましょう



●和む時間はやさしくて
 にーぃ、と鳴く声にグレイ・アイビー(寂しがりやの怪物・f24892)の目尻が下がる。
「やあ、これはまた美人さんが来ましたね」
 首に結んだ紐飾りに付いた鈴をちりん、と鳴らして近付いてくる白猫にグレイが驚かさないようにしゃがみ込んだ。
「可愛い……うん、可愛いですね」
 さっき見た、いや見せられた夢の不快な残滓を消し飛ばすほどに、可愛い。思わず相好も崩れてしまうというものだ。
『にぁ、にぁ、どうしたの』
 どうしたの、と問われてグレイは軽く首を傾げる?
「どうかしたように見えましたか?」
『にゃ、なーう。かなしいことがあったみたいなおめめだよ』
 そう言われ、ああ、そうかとグレイは思う。
 ぼくは傷付いていたのか。
「……そうだったかもしれません」
 グレイの指先が白猫の首元を撫でる。ごろごろと喉が鳴って、あられがグレイの手に擦り寄った。
「あられちゃんでしたっけ」
『そう、そうだよ』
 優しい子なのだと、グレイは思う。悲しい思いをした者に寄り添うような、そんな。
「ちょっと相手になってくれませんか?」
 そう零せば、あられはにーぁと鳴いて頷いた。
 案内された先は広く綺麗な座敷、もしかしたら白猫とそのご主人様の過ごした部屋なのかもしれない。置かれた座布団にグレイが座ると、あられがその膝の上にぴょんと飛び乗った。
「んん、可愛い……」
 その仕草も何もかもが可愛い。猫は猫というだけで癒しですね……と唸りつつ、グレイが膝の上の白猫を撫でた。
 夢のせいでちょっとばかり感傷的になっていた気持ちも癒されるかのよう。
「センチメンタルなんて、ぼくには似合いませんしね」
『せんちめんたる?』
「んんん」
 ごろ、と姿勢を変えてお腹を見せて見上げてくる白猫の可愛さに、もう完全にそんな気分は吹き飛んでいく。
 優しく撫でて、グレイがあられに問うた。
「ぼくの相手ばかりさせてますが、あられちゃんはどうですかね?」
『にぁ? あられ?』
「はい、聞いてくれたお礼に、できるだけのことはしてあげてぇなって思います」
 自分にできることなど少ないかもしれないけれど、それでも。
 優しい猫の為に、何か。
『んにぃ、それならあそんで? あられとあそんでほしい』
「もちろん、ぼくでよければ」
 さて、遊ぶと言っても何をしようか? アニキがいれば玩具でも作ってもらえたのだろうけれど……ううん、と考えたグレイがぽんっと手を打った。
「そうだ! だるまさん転んだで遊びませんか?」
『にぁ、にぁ、しってる! だるまさんころんだ、あられもしってるよ』
 それならば話は早いと、グレイが口元に笑みを浮かべた。
「では、あられちゃんがハンターで、獲物のぼくを捕まえたら勝ちですよ」
 あられがぴょんっとグレイの膝から退いて、壁際にちょこんと座る。
『だーるーまーさーんがー』
 にゃごにゃごと言う声も可愛らしい、と思いながらグレイが立ち上がる。
 あられが満足するまで何度でも付き合おうと、緩んだ頬を指先で撫でた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

スピーリ・ウルプタス
もう一度逢いたい、共に在りたい
ええそうですね、私の胸が心地よく締め付けられる程に、お気持ちよぉく伝わります。

お伺いして許可を取っては、隣に正座で並んで座り。
「あられ様とご主人様との出会いを、お聞きしてもよろしいですか?」
話してくれるならば静かに相槌を打って聞き。
抵抗が無さそうなら、次にどんな遊びが好きだったか、お互いのどんな時の表情が好きだったか等
少女か猫か、どちらが答えているかは分からなくとも、二人に話しかけ問うては語りを促す。
たまに「そうなんですよね、良いですよねご主人様って」などと斜め上な共感で頷いたり

私、猫さんってあまり撫でた事ないのですが(本体の相性的に)
撫でさせてもらえるでしょうか



●時にやさしい童話の様に
 もう一度逢いたい、共に在りたい。
「そう願うお気持ちは、私にもよくわかります」
 ええ、この胸が心地よく締め付けられる程に――実際この下、心地良く締め付けられているのですが――お気持ち、よぉく伝わりますと、スピーリ・ウルプタス(柔和なヤドリ変態ガミ・f29171)は口に出さずに頷く。
 口に出して良いことと悪いこと、彼はちゃんと弁えているのだ。変態であっても紳士なので。
『にぁ?』
「なんでもありませんよ、ところで……お隣に座ってもよろしいでしょうか?」
『にぁ、にぁ、いいよ』
 白猫がちりん、と首の鈴を鳴らして頷く。
「……良い首飾りですね」
『にぃ、ごしゅじんさまがくれたの、うれしいな、ほめられた』
 白猫によく映える赤い組紐の結び目には白い花の摘まみ細工、そして金色の鈴。
「とても良いセンス……ご趣味です」
 白に赤はよく映えるのだ、とスピーリが頷きながら、あられの隣に正座した。
「あられ様とご主人様との出会いを、お聞きしてもよろしいですか?」
『にぁ、にぁ、もちろん!』
 聞いてくれるの、あられとご主人様とのお話。嬉しそうに、あられが話し出す。
『あれはね、さむいひのことで――』
 今でも鮮明に思いだす、ご主人様との出会い。それを時折にゃん、と鳴いてはスピーリに伝える。
「そうなのですか、中々に運命的な出会いだったのですね」
 相槌を打ちながら、あられが語るままに耳を傾け、時に言葉を交えてスピーリはあられの話を聞いた。
「他にはそうですね、どんな遊びがお好きだったのですか?」
『まりをころがしたりするの、すきだよ。かくれんぼはあられがぜったいにかってたの』
 少女が転がした毬を白猫が追い、隠れる少女を白猫が見つけていたのだろう。まるでその情景が浮かぶようで、微笑まし気にスピーリが頷く。
「では、あられ様がお好きだったご主人様の表情は?」
『にぁ、にぁ、あられのことをなでてくれている、ごしゅじんさまのえがおがいっとうすき』
「それは素晴らしいですね。ご主人様がお好きだった、あられ様の表情は如何でしょう?」
『わたしのもとへかけてくるあられのかおが、いっとうすき』
 時折混じる少女の言葉にも、スピーリは笑顔を讃えたまま頷き、どちらか答えているか分からないような言葉でも彼は二人に話し掛けてはあられとご主人様の物語を聞き続けた。
『ごしゅじんさま、ごしゅじんさまはとってもかわいいよ』
「そうなんですよね、良いですよねご主人様って」
 可愛らしいお顔をなさる時もありましたねぇ……ええ、無邪気に私を打ち据えてくださる時とか、とスピーリが斜め上な点で共感し頷く時もあったけれど、禁書と言えど本であるスピーリには物語として彼女らのことを覚えていく。この先誰が忘れたとて、忘れぬように。
「沢山お喋りしてくださって、ありがとうございます」
『にぃあ、きいてくれてありがとう』
「ところで、私……猫さんってあまり撫でた事がないのですが」
 本体が本なので、基本的に動物と触れ合うことは少なかったのだとスピーリが笑む。
「撫でさせて……いただいても?」
『にゃあ、にゃあ』
 いいよ、と言うようにあられがスピーリの膝元へ擦り寄る。
「温かくて……柔らかいのですね」
 ゆっくりと撫でた白猫の温かさをきっと忘れることは無いだろうと、スピーリはただ何度も白猫を撫で続けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ハイドランジア・ムーンライズ
あー…
(煙草の火を指先でジュッと摘み消し、吸い殻入れに入れながら近寄り足を開いたヤンキー座りでしゃがむ)あられっつったか。
まー、気にすんなよ。『済んだ』ことさな。

(わしわし撫でたり喉の下弄ったり尾の根元揉んだりしようとしつつ)
お前ぇ本当に人懐っこいな。
飼い主に滅茶苦茶愛情注がれてる証拠か…
いや、実際すげえよ。お前らに限らず、ちゃんと愛し切れる奴らは大したもんだ。
(難しいんだよ、それが、本当に。と口の中でだけ呟く)

世界が滅ぶのも不味いがまあ、それ以上に興味があるな
良けりゃお前ら、あられとそのご主人様の話聞かせろよ。結果がどう転ぼうと、俺はずっと覚えとくから。

つーか先ずご主人様の名前教えてくんね?



●苦くてやさしい
 視線の先に、揺れる白い尻尾が見えた。
 白猫、と思った瞬間にハイドランジア・ムーンライズ(翼なんていらない・f05950)は短くなった煙草を指先で摘み消すと、手早く携帯用の吸い殻入れに放り込みパチンと閉じた。
 それから、なるべく驚かさないようにゆっくり近付いて、足を開いてしゃがみ込む。いわゆるヤンキー座りというやつだ。
『にぁ?』
「よぉ、あられっつったか」
『にーぁ、そうだよ、あられだよ』
 ちりりん、と鈴が鳴って白猫はハイドランジアを見上げる。
『おはなをつけたおねーさんは、だあれ? それ、あられしってるよ、あじさいっていうの。ごしゅじんさまがおしえてくれたんだよ』
 座敷から見える庭に、紫陽花が咲いていたのだと、あられが言った。
「よく知ってるな。そうさ、こいつは紫陽花。俺はハイドランジアってんだ」
 あられはハイドランジアの頭に咲く紫陽花から零れ落ちる花びらを気にしながら、はいどらんじあ、と名を呼んだ。
『はいどらんじあも、かなしいめをしてるの』
「んー? ああ、まぁ気にすんなよ。『済んだ』ことさな」
 そうだ、澄んだことだ。
 悪くない夢を見た、そしてそれはちょいとばかし――そう、煙草の様に苦かった、それだけ。
 にーぃ? と鳴く白猫を、ハイドランジアの白い指先が撫でる。猫の扱いには慣れたもので、喉の下を弄ってやったり爪先で軽く掻いて、そのまま耳の辺りも掻いてやる。
『にぁ、にぁ、きもちいいね』
 わしわしと、ちょっと手荒だけれど優しいそれに、あられがゴロゴロと喉を鳴らす。その様子を見ながら、ハイドランジアの手は背中から尻尾の根元を軽く撫で、嫌がる様子がないと判断したのかそのまま根元を揉んでやる。
『にーぃ、にゃあ』
「お前ぇ、本当に人懐っこいな」
 野良ではこうはいかないと、ハイドランジアの口元に笑みが浮かぶ。
「飼い主に滅茶苦茶、心底愛情を注がれてる証拠か……」
『にぃ? ごしゅじんさまはねぇ、とってもやさしいよ。はいどらんじあみたいに、いっぱいなでてくれるの』
 そうかよ、とハイドランジアが両手で白猫の頬を包み、わしゃわしゃと顔回りを掻いてやる。
「いや、実際すげえよ。そんなに愛してもらえて、お前もきちんとその愛情を受け取って返してさ。そんな風に、ちゃんと愛しきれる奴らは大したもんだ」
『にぃ? あられと、ごしゅじんさまは、たいしたもん?』
「ああ、お前らは大したもんだぜ」
 難しいんだよ、それが、本当に。そう、ハイドランジアは口の中で呟く。
 人は裏切るし、すぐに重くなったもんは捨てようとするから。
 そればかりではないけれど、そう思いながら眩しいものでも見るようにハイドランジアがあられを見る。
「さて、世界が滅ぶのも不味いがまあ、それ以上に興味があるんだ」
『にぃ?』
「良けりゃお前ら、あられとそのご主人様の話聞かせろよ。結果がどう転ぼうと、俺はずっと覚えとくから」
 なあ、この世界が滅んだとしても、滅ばなかったとしても。
 誰かの記憶に残るなら、悪くはないだろう?
「つーか、先ずさ。あられのご主人様の名前、教えてくんね?」
 にーぁ、と白猫が嬉しそうに鳴く。
 あのね、あのね、あられのご主人様の名前はね――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルクル・クルルク
大切な人に会いたい、一緒にいたい。
きっと、ルクルも。大切な人とお別れしてしまったら、そう願うと思います。
そんな時に、少しだけ気持ちが優しくなれる魔法があるのです。
……はじめまして、あられさん。
お歌は、好きですか?

優しい歌を、歌いましょう。滅びに向かい天変地異が起こる世界で、穏やかな歌を。
あられさんも、一緒にどうですか?
……ルクル、良いことを閃きました。一緒にお歌を作りましょう。

あられさんの好きなもの、大切な人との思い出を繋ぎ合わせて。
笑顔になれる、お日様みたいなメロディで。
世界にひとつ、あなただけの歌を。
もしも、遠く離れてしまっても。
この歌を歌えば、ふたりはいつでも一緒ですから。

※アドリブ歓迎



●やさしい魔法
 大切な人とお別れしてしまったとしたら、自分は何を願うだろうか。
 尻尾を揺らして見上げてくる白猫を前にして、ルクル・クルルク(時計ウサギの死霊術士・f31003)はそう考える。色々考えたけれど、多分、きっと。
 きっとルクルも、大切な人にもう一度会いたい、一緒にいたい――そう願うのだろうと、思う。
 けれど、ルクルはそんな時に少しだけ気持ちが優しくなれる魔法があることを知っている。きっと誰にでも使える魔法を。そう思いながら、視線を白猫にやってルクルが小さく笑った。
「……はじめまして、あられさん」
『にぁ、にーぃ。はじめまして、おねえさん』
 ちりん、と鈴を揺らしてあられが答えると、視線を合わせるようにルクルがしゃがんで、問い掛ける。
「お歌は、好きですか?」
『にぁ、にぁ、おうた! おうたはすき、ごしゅじんさまもよくうたってたの』
 それは素敵なことです、とルクルが微笑むと、あられも嬉しそうに目を細めた。
「では、優しい歌を歌いましょう」
 滅びゆく世界で、天変地異で今にも終わりそうなこの世界の中で、穏やかな歌を。
 ルクルが目を閉じて、唇から旋律を紡ぐ。
 穏やかで優しい旋律に、あられが合わせるように尻尾を揺らしてにーぁ、と鳴いた。
 その鳴き声に、目をぱちりと瞬かせてルクルが歌を止めて手をぽんっと叩く。
『にぃ? どうしたの?』
「……ルクル、とっても良いことを閃きました」
 それはもう、飛びっきりのいいことだと、ルクルが笑みを浮かべる。
『にぁ、いいこと、どんな?』
「あられさん、ルクルと一緒にお歌を作りましょう」
『おうたをつくるの?』
「はい、あられさんの好きなもの、それから大切な人との思い出を繋ぎ合わせて」
 世界にたった一つの、あられとご主人様の歌を。
『にぁ、にぁ、あられとごしゅじんさまのための、おうた』
「笑顔になれるようなお日様みたいなメロディで。どうでしょう、一緒に作りませんか?」
 あられに否はなく、一も二もなく頷いた。
 ルクルがあられとご主人様の想い出を聞き、それを楽しい歌にしてみせると、あられもルクルの続いて歌を紡ぐ。
 歌いながら、ルクルは思う、願う。
 もしも、再び遠く離れてしまっても、この歌が優しい白猫の心の拠り所になることを。
「あられさん、この歌を歌えば……きっと、ふたりはいつまでも一緒ですから」
『にぁ、にぁ、ありがとう、ありがとう、おねえさん』
 尻尾を揺らし、あられが歌う。
 その横で、ルクルも祈りを籠めて歌い続けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【不死蝶】◎
あられにそっと手を差し出してみれば
くんくん、そしてペロリと舐めてきて
猫ってツンツンしている子が多いと聞くけど
この子は子犬のように人懐っこいねぇ

そういえば梓は、犬と猫ならどっち派?
…あー、何となく君はそう言うと思ったよ

梓と一緒にあられの話を聞く
出会った時のこと、一緒に出かけた時のこと…
語るあられの表情は心なしかキラキラしていて
たくさんの愛情を受けてきたことが伝わる
…だから、今回の件を起こしてしまった
あられを誰が責められようか

世界を守る為に独りぼっちでいるか
世界を捨ててでも大切な人と一緒にいるか
そんな選択を迫られたら
俺も後者を選んでしまうかもしれない
なんてやさしくてひどい、禁断の果実


乱獅子・梓
【不死蝶】◎
俺は竜派だな(キッパリ

なぁあられ、お前には優しくて大好きな
ご主人様がいたんだろう
お前とそのご主人様のこと、俺たちにも聞かせてくれ
つらいことは言わなくていい
今は、楽しい気持ちで満たそう

あられと主人の思い出を聞いていると
焔や零という存在がいる俺にとって
共感するところがいくつもあって

俺が先に死ぬことがあれば
焔や零は、世界を滅ぼすことになっても
もう一度俺に会いたいと思ってくれるだろうか?
もしそうであったとしても…
きっと、俺はそれは望まないだろう
その世界に残された自分たちの
思い出まで壊してしまうようで
そんなのあまりに悲しいじゃないか
あられの主人も、そう思っていると信じている



●やさしい願い
 難しい顔をしたままの乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)と、笑いが堪えきれない灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)が霧を抜けて辿り着いたのは、崩壊が進む中でたった一つ崩れることなく建っている屋敷の前だった。
「ねぇ、梓」
「何だ」
「そろそろ、手ぇ離す?」
「……もっと早く言えよな」
 だって、手を繋ぐなんて中々ないし、と綾が笑う。
 でも、それだけじゃないことを本当は二人とも知っている、魔法の霧が見せた夢はやさしい癖に酷い、そんな夢で。もう少しだけ、繋いでいたかったから、知らんふりをしていたのだ。
「ふふ、残念」
 綾がそう笑って、ほんの少しだけ名残惜しそうにしてから繋いだ手を緩める。
「あられの前でいい年した男が手を繋いでんのもな」
 そう言い訳をするように、梓もそっと繋いだ手を緩めた。
『にぁ、にぁ、いらっしゃい』
 白猫が首に付けた鈴を鳴らして、二人を出迎える。それに顔を見合わせて、二人はあられの後ろについて中へと入った。
「へぇ、良い部屋だねぇ」
 綾が和風の造りをした座敷を見回して、少し物珍しそうに言うと勧められた座布団に腰を下ろす。梓もその横に座ると、白猫が二人の間にちょこんと座った。
「君、あられっていうんだよね?」
『にぁ、そうだよ』
 綾がそっと手を差し出すと、あられがくん、と匂いを嗅いでぺろりと舐めた。
 それから、するりとその手に顔を摺り寄せる。
「猫ってツンツンしている……警戒心が高い子が多いって聞くけど、君は子犬みたいに人懐っこいねぇ」
『にぃ、おにいちゃんたちはやさしいにおいがするから』
「そっかぁ」
 優しいのかな、俺はそうでもないかもしれないけど、隣にいる梓は優しいよ、と心の中で綾が答える。
「そういえば、梓は犬と猫ならどっち派?」
「俺は竜派だな」
 黙って綾と白猫の戯れを見ていた梓が、キッパリとそう答えた。
「……あー、さすが梓ぶれない……何となく、君はそう言うと思ったよ」
『にぁ? りゅう?』
 首を傾げたあられに、梓が焔を見せてやる。
『にぁー、あられのしってるりゅうとちがうね』
 カクリヨファンタズムであれば、和風の胴体の長いものが多いのだろう。
「こいつは簡単に言えば西洋風だからな」
『ふうん』
 わかったような、わかっていないような、そんな返事をしつつも白猫は仔竜に興味津々だ。
 焔はといえば、軽くじゃれてくるあられの相手をしてやっていて、楽しげにも見える。
「猫と竜が一緒にいるのも、可愛いもんだと思わない?」
「……可愛いな」
 可愛いと可愛いは無限大に可愛いのだ。
「なぁ、あられ」
『にぁ?』
「お前には優しくて大好きなご主人様がいたんだろう?」
 あられが焔と遊ぶのを止めて、てってって、と二人の前に寄ってくると嬉しそうに頷いた。
『いるよ、やさしくてだいすきなごしゅじんさま!』
「お前とそのご主人様のこと、楽しい思い出を俺たちにも聞かせてくれ」
 辛いことは言わなくていいのだと、今は楽しい気持ちで満たそうと梓が促す。
「いいねぇ、それじゃあ俺の膝においで」
 綾が白猫を抱いて膝に乗せると、梓は仔竜を膝に乗せた。
『にぁ、にぃ、ごしゅじんさまはねぇ』
 尻尾を揺らし、時に綾に撫でられながらあられはご主人様との思い出を話す。出会った時のこと、綺麗な花を見た時のこと、毬で遊んだ時のこと。
 それらを話すあられの声は楽しそうで、心なしか表情すらもキラキラと輝いて見えた。
「たくさん愛されてきたんだねぇ」
『にぁ、にぁ。ごしゅじんさまは、あられをたいせつにしてくれたんだよ』
「ああ、わかるぜ」
 焔や零という存在がいる梓にとって、あられのご主人様との思い出は共感してしまう部分がいくつもあって、どうにも他人事には思えない。もし、自分が先に死んでしまうことがあったら、焔や零は世界を滅ぼすことになったとしても、もう一度会いたいと思ってくれるだろうか。
 梓が膝の上の焔に視線を落とし、頭を撫でる。
 もし、もしそうなったとして。きっと俺はそれを望まないのだろうと、梓は小さく唇の端を持ち上げた。
 だって、そうなったとしたらその世界に残された自分達の想い出まで壊してしまうようで。そんなのは、あまりにも悲しすぎる。
「あられがご主人様を大好きなのと同じくらい、ご主人様もあられが好きだったんだね」
 綾がそう言って、あられの頭を撫でる。
 だからこそ、ふたりの想いが今回の件を引き起こしてしまったのだろう。望むと、望まないにかかわらず――だったら、誰がこのふたりを責められるのだろうか。
 世界を守るために独りぼっちでいるか、世界を捨ててでも大切な人と一緒にいるか。
 俺ならどうするだろうかと、綾は白猫を撫でながら考える。
 もしも、梓が。そう考えてしまったら、綾は後者を選んでしまうかもしれないなと小さく笑う。それから、きっとそれを選んだ自分を梓は赦さないのだろうとも。
 なんてやさしくてひどい、禁断の果実なのだろうか。
 でも、その時は俺のことを怒ってよ、と綾は胸の内で呟いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月見里・美羽
○【桜宮・蓮夢ちゃん(f30554)とご一緒に】
あられちゃん、はじめましてって最初にご挨拶
近くに生えてたねこじゃらしを振りながら、お喋りするよ

ボクとね、蓮夢ちゃんは最近友だちになったばかりなんだ
でも、きっと離れると寂しいと思う
あられちゃんはきっともっと切ない想いをしたんだろうね
今は幸せ? それならよかった

蓮夢ちゃんはお別れって経験したことある?
ボクは、故郷がなくなったから、それが一番大きなお別れかな
だから、失う悲しさや寂しさは、わかるつもり
きっと蓮夢ちゃんもそうだよね

あられちゃんを撫でて
いっぱい、今、幸せを味わってねって
一緒にいられる時間は短い
どうか、この魂に祝福あれと、祈るよ


桜宮・蓮夢
〇美羽ちゃん(f24139)と!

あれがあられちゃんかな?
僕は桜宮・蓮夢! 初めましてなのだっ
もふもふでふわふわ
穢れない白にふたつのしっぽ
興味津々に観察しながらお喋りするよぅ

美羽ちゃんは僕に最初にできたお友達
離れる寂しさはぼんやり
でも、これだけは分かる
――絶対、嬉しくないよっ

心がちくんとする
本当に傷ついた人が知る痛さに共鳴するように
僕は……分からない
お別れはしたことないから
でも、すごく不安で……もやっとした
あられちゃんはずっとこんな気持ち?

撫でて、遊んで、抱きしめて
寂しさを幸せで満たすように
終焉まで傍にいる
あられちゃんの心にご主人様が残っているように
ご主人様の心にあられちゃんは残ってると思うよ!



●やさしい友達
 繋いだ手をそのままに、桜宮・蓮夢(春茜・f30554)と月見里・美羽(星歌い・f24139)は白い霧を抜け、道の先へと辿り着いていた。
「わぁ、綺麗なお屋敷なのだっ」
「ここに、あられちゃんがいるんだね」
 ちりん、と聞こえた鈴の音に誘われるまま、二人は屋敷の中へと上がり込む。
「お邪魔します」
「お邪魔しますだよっ」
 ちりん、ちりん、と鈴の音に案内され、二人が辿り着いたのは綺麗な座敷。そしてそこには、白猫のあられが二人を歓迎するようにちょこんと座っていた。
『にぃ、いらっしゃい、おねえちゃんたち』
 にぁーと鳴く姿は可愛らしく、二人は座ってと促された座布団の上へ座る。
「きみがあられちゃんかな? 僕は桜宮・蓮夢! 初めましてなのだっ」
「あられちゃん、はじめまして。ボクは月見里美羽だよ」
『にぁ、あられだよ。よろしくね、おねえちゃんたち』
 礼儀正しい挨拶に、礼儀正しくあられが挨拶を返す。それからは、砕けたように笑って、何気ないお喋りをし始めた。
「あられちゃん、もふもふでふわふわ!」
 その穢れない白に、二つの尻尾……普通の猫とは違う、けれど普通の猫のように可愛らしいあられに興味津々といった風に蓮夢が熱い視線を送りながら、撫でてもいいかと問い掛けた。
『にぃ、もちろんだよ』
「わあ、本当にふわふわ……!」
 可愛い、と蓮夢が撫でれば、美羽が屋敷に入る前に見つけたエノコログサ……俗に言うねこじゃらしを取り出して、あられの前で揺らす。
『にゃ、にぁ』
 ねこじゃらしが揺れるに釣れて、あられが可愛らしい前足でたしたしとねこじゃらしにタッチする。
「うわああ、可愛い……」
 つい緩んでしまう頬を蓮夢が押さえ、美羽はにこにこと笑いながら手を動かし、あられに話し掛けた。
「ボクとね、蓮夢ちゃんは最近友だちになったばかりなんだ」
「そう、そうなのだっ。美羽ちゃんは僕に最初にできたお友達なんだよぅ」
 少し照れたように、でも誇らし気に蓮夢がそう言うと、美羽も嬉しそうに頷く。
『にぅ、おともだち……だいじな、おともだちなんだね』
 あられの問いに、二人が顔を見合わせて、それから同時に頷いて返す。
「大事だと思ってるよ」
「僕だって!」
 だから、と美羽は続ける。
「きっと、離れると寂しいと思う」
 美羽の言葉に、蓮夢も考える。離れる寂しさ、それはまだ蓮夢にはぼんやりとしかわからないけど……でも、これだけは分かると唇を開く。
「――それって、絶対、嬉しくないよっ」
『にぁ、あられにもわかるよ』
 あられが味わったのはもう会えないという切なさ、そして悲しさ。想像するよりも、きっともっともっと切ない思いをしたのだろうと美羽は思う。
「あられちゃん、今は幸せ?」
『にぁ、しあわせ! ごしゅじんさまといっしょだもん』
 それなら良かった、と美羽が笑うと蓮夢もなんだか嬉しくなって、一緒に笑った。
「ねえ、蓮夢ちゃん」
「なあに? 美羽ちゃん」
「……蓮夢ちゃんは、お別れって経験したことある?」
「うーん、ないかな……?」
 生みの親の顔は元より知らず、育ての親には良い想い出もない。囚われの日々から救われたことは、別れではないだろうし、と考えて蓮夢が首を横に振った。
「ボクは、故郷がなくなったから、それが一番大きなお別れかな」
『にぁ』
 寄り添うように、あられが美羽の膝に頭を擦り付ける。
「だから、失う悲しさや寂しさは、わかるつもり」
 それぞれに失った悲しさや寂しさは違うだろうけれど、それでも。
「蓮夢ちゃんと、あられちゃんはどうかな?」
 美羽の問い掛けに、蓮夢とあられが目を合わせて考える。
 心がちくんとする。
 本当に傷付いた人が知る痛みに共鳴しているかのようだと、蓮夢は思う。
「僕は……分からない、お別れはしたことがないから」
 でも、でも、と顔を上げる。
「すごく不安で……もやっとした感じがするんだ。あられちゃんは、ずっとこんな気持ち?」
『にぁ、にーぃ。あられはずっとさみしかった、かなしかったよ。もやもや、うん、もやもやしてた』
 ちりん、と鈴が鳴って、あられが頷く。
 こんな、考えるだけで悲しくなるようなもやもやした気持ちをずっと抱えていたの、と思わず蓮夢があられに手を伸ばして抱き寄せる。
『にぁ、いまはさみしくないよ。もやもやも、してないの』
「うん、うん」
 優しく抱きしめて、蓮夢が何度も頷く。傍で見ていた美羽があられごと蓮夢を抱き締めた。
「いっぱい、いっぱい今の幸せを味わってね」
 あられとご主人様が一緒に居られる時間は短い。美羽と蓮夢はそれを知っていたからこそ、祈り、願う。
 どうか、この魂に祝福あれと。
 この世界が救われた先に、あられの心にもご主人様の心にも、お互いの温もりが残っていますようにと。
 優しい友達は、願うのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

音海・心結

零時(f00283)と

ふふふ
(零時は気にしているようですね)
(みゆは零時の弱さが見れたようで嬉しいですがっ)
繋いだ掌は離さず、彼の心を温めるようにそっと握り返して

……あの子でしょうか
みゆたちなら大丈夫です
色々ありましたが、無事にあられに会えましたっ

みゆもご主人様の話聞きたいのですっ
話してくれませんか?

彼の隣に座り
時にあられを撫で話を聞くのです
触る掌から大事にされてたのが伝わってくるような
かわゆいですねぇ

誰かの温もりを知ってしまったら、独りは寂しいです
みゆももうあの頃には戻れません
あられも寂しいですか?
……なんて、聞くだけ野暮ですね

例え世界が滅んでも、みゆは悲しくないですよ
独りじゃないので


兎乃・零時

心結(f04636)と!

…むぅ…
(…涙見られちゃったなぁ)(すごく恥ずかしい、カッコ悪い所を見せてしまった)
(だけど手を離すのも寂しさの名残もあって抵抗があるというか嫌というか)(むむむむ)

あ、お前があられか

…べ、別に悲しいことは無かったぞ
ほんとだったら!(かおをぐしぐし擦る、涙の後は消えたかな?)

…俺様達の事は良いんだよ!それより、折角だしお前のご主人の話とか聞きたいな!

そんなことを言いつつ膝に乗せる感じに
時折あられを撫でながら話を聞きたいな

独りじゃ寂しくても、回りに誰かいるだけでもかなり違う
……俺様も、独りは嫌だ
友達が居なくなるのも凄い嫌だし

だからあられも寂しくならないように傍にいるのさ



●結んだやさしさ
 ガラガラと崩壊する道を抜ける間も、繋いだ手は離さずに二人は走っていた。
「……むぅ」
 時折、いつもの帽子を目深に被った兎乃・零時(其は断崖を駆けあがるもの・f00283)の唇から、小さな唸り声のようなものが聞こえてきたけれど、音海・心結(瞳に移るは・f04636)は聞こえない振りをして口元を緩めていた。
 だって、零時が唸っている理由を心結は分かっているから。でも、心結はいい女なので、言わないのです。
 そんな風に彼女が小さく微笑んでいるのを、帽子を目深に被った零時は気が付かない。気が付かないまま、涙を見られたことを恥じていた。
 うう、すごく恥ずかしい、カッコ悪い所もみせてしまった。
 そう思うけれど、手を離すのも夢の寂しさの名残があって、どうにも離し難い。というよりも、離したくはない気持ちの方が大きい。それは繋ぐ手の力に現れていて。
「むむむむ」
 そんなに気にすることないのに、と心結は思うけれど、やはり零時も年頃の男の子なのだ。
 みゆは零時の弱さが見れたようで嬉しいですがっ、なんて零時には内緒。繋いだ手を離さぬように、彼の心ごと温めるようにそっと手を握り返した。
 そうして、二人で道を抜けると目の前に和風のお屋敷が現れる。
「零時、ここがそうみたいです」
「あ、あいつがあられか?」
 屋敷の前には、白猫がちょこんと座っていて、零時と心結を見上げて鳴いた。
『にーぁ、どうしたの、かなしいことがあったの?』
 ちりん、と鳴った鈴の音に零時がぐっと言葉を詰まらせ、一つ咳払いをして答える。
「……べ、別に悲しいことは無かったぞ! ほ、ほんとだったら!」
 にぃ? と見上げてきたあられと視線を合わさないようにして、零時が顔をぐしぐしと擦る。それから、涙の痕はもう消えただろうかと、あられに視線を遣った。
『にぃ、ほんとうに? だいじょうぶ?』
 あられが零時を見て、心結を見る。
「みゆたちなら大丈夫です……本当ですよ? 色々ありましたが、無事にあられに会えましたっ」
 あられがこてんと首を傾げて問う。
『にぁ? あられにあいにきてくれたの?』
「そうだぞ! 俺様達のことは良いんだよ! 俺様と心結はお前に会いにきたんだ!」
 零時がキッパリと告げると、あられが嬉しそうに鳴いて屋敷の中へと案内してくれた。
 通された座敷は綺麗に整えられていて、ここであられとご主人様は暮らしていたのだろうかと二人は座敷の中を見回す。
『にぁ、にぃ、どうぞすわって』
 促され、座布団へ座る。ふかふかした気持ちのいい座布団に胡坐を掻いて座った零時の横に、心結が腰を下ろした。
「さあ、折角だしお前のご主人の話とか、そういうのを聞きたいな!」
「みゆもご主人様の話聞きたいのですっ」
 お話してくれませんか? と問えば、白猫は二人の前にちょこんと座ってご主人様の話を二人へ向けて話し出した。
 その話に相槌を打ち、途中で零時が白猫を膝に乗せ、心結と二人で艶々の白い毛並みを撫でる。
『にぁ、にぁ、それでねえ』
 ご主人様は甘いものが好きで、落雁が特に好きだったとあられが続ける。
『らくがん、おはじみたいでね、あられがあそんでたら、めってされたの』
「らくがん??」
「ええと、確か砂糖菓子……だったでしょうか」
 甘くて、口の中で溶けていくのがいいのだと、ご主人様が言ってたのだとあられが頷いた。
「食いもんで遊んだら、そりゃ怒られるさ!」
『そうなの、でもあられ、おかしだっておもわなかったの』
 それからは遊んだりしてないよ、と言うあられの喉を零時がいい子だな、と撫でてやる。
「ふふ、あられはかわゆいですねぇ」
 心結が背中を撫でるように触れる。大事にされていたのが伝わってくるような、綺麗な毛並みの可愛い白猫にそっと心結が呟くように言う。
「誰かの温もりを知ってしまったら、独りは寂しいです」
「……俺様も、独りは嫌だ。友達が居なくなるのも凄い嫌だし」
「はい、みゆも……もうあの頃には戻れません」
 あられも寂しいですか? と問おうとして、それは野暮だと心結が口を噤んだ。
『にぁ、さみしいのはいやだよ』
 寂し気に、あられの首元を飾る鈴の音が鳴る。
「独りじゃ寂しくても、誰かがいてくれるって思うだけでかなり違うだろ」
『にぃ、そう、そうなの?』
「そうです、例え世界が滅んでも、みゆは悲しくないですよ」
 どうして? とあられが問う。
「……独りじゃ、ないので」
『にぁ、ひとりじゃない』
「だから、あられも寂しくならないように――」
 傍にいるのさ、と零時と心結が微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月水・輝命
白猫さん……。
普段、わたくしが猫さんに近づくと、わたくしの中の、ある悪いものを感じてか……猫さんが逃げてしまうのですわ。
わたくし、猫さんが大好きですのに……
(遠い目で思い出し、内のお狐様に咎められ)
ふふっ、ごめんなさい、お狐様。
今のは、個人的な悩みですの。気になさらないでくださいませね。あられさん。
……昔の夢を見て、少し。
大切な、わたくしの持ち主だった人。
わたくしが何も出来ないまま、一生を孤独に終えてしまった。
……あられさん、少し撫でさせて頂いても良いでしょうか?
勿論、嫌なら良いのです。
好きな人との別れは、何時だって寂しいものですわね。
だからこそ……寄り添って下さる方を、大切にしませんと、ね。



●寄り添うやさしさを
 にぁ、と鳴いて出迎えてくれた白猫に案内されるまま、月水・輝命(うつしうつすもの・f26153)はその揺れる尻尾を追うように座敷へと上がる。
「素敵なお部屋ですわね」
『にぁ、ありがとう。ほめてもらえるの、うれしいな』
 座布団の前にちょこんと座ったあられに促され、輝命は座布団の上に正座した。
「可愛らしい白猫さん……お名前をお聞きしてもいいでしょうか?」
『にぁ、あられはね、あられっていうんだよ』
「あられさんは逃げないのですね」
 にぃ? とあられが首を傾げると、ちりんと鈴が鳴った。
「普段、わたくしが猫さんに近づくと、わたくしの中の……ある悪いものを感じてか……猫さんが逃げてしまうのですわ」
 わたくし、猫さんが大好きですのに……と輝命が溜息混じりに思いだしてそう言うと、輝命の内に宿るお狐様が輝命にしか聞こえぬ内なる声で、不敬じゃぞ、と拗ねたような声で咎められた。
「ふふっ、ごめんなさい、お狐様」
 囁くような声でそう言うと、お狐様も機嫌を直してくれたようで輝命が小さく笑う。
「今のは、個人的な悩みですの。気になさらないでくださいませね。あられさん」
『にぃ? にぃ、わるいかどうかはわからないけど、やさしいかんじがするの』
 てし、とあられが輝命の膝をそのぷにぷにとした可愛らしい前足で、何度か叩くように押す。
「んんっ、可愛らしい……」
 存分にその感触を楽しんでいると、あられが輝命を見上げて問い掛ける。
『なぅ、なーぁ、おねえちゃん、すこしかなしいめをしてるの』
 どうしたの? と、あられが首を傾げれば、輝命が瞳を小さく瞬かせた。
「……昔の夢を見て、少し」
『むかしのゆめ?』
「ええ、大切な、わたくしの持ち主だった人の夢です」
 少し考えるようにして、あられがおねえちゃんのご主人様? と問う。
「そう、そうですね……ご主人様とは少し違うのかもしれませんが、わたくしを大事にしてくれた方ですわ」
 でも、わたくしが何もできないまま、一生を孤独に追えてしまった、優しくもかなしいあなた。
『にぁ、にーぃ』
 あられが寄り添うように、膝に頭を摺り寄せる。
「……あられさん、少し撫でさせて頂いても良いでしょうか?」
『にぁ、にぁ、いいよ』
 撫でてもらうのは大好きだとあられが言うと、輝命がそっと白猫の頭を撫でる。
 何度も優しく撫でながら、静かに言葉を紡いだ。
「好きな人との別れは、何時だって寂しいものですわね」
 にぃ、とあられが鳴く。
「だからこそ……寄り添って下さる方を、大切にしませんと、ね」
 そう笑って、せめて少しでもと輝命は白猫の為に頭を撫で続けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

待鳥・鎬
君はとても優しい子なんだね
初めまして、僕は鎬

大丈夫、悲しいことなんかないよ
でも……ちょっと人恋しいから、良ければ少しだけ一緒にいてくれる?
嫌じゃなかったら、温かい君を撫でても良いかな?

大切な人の夢を見たんだ
もう会えないのは寂しいけど……僕があの子の幸せを喜んだように、あの子も願っていると思うから
大好きな友達で、家族だもの

ねぇ、君の大切な人はどんな人?
こんなに優しい子なんだもの、きっと胸が温かくなるような、幸せな思い出をたくさんもらったんだね
嬉しかったこと、楽しかったこと、沢山聞かせてよ

星空を見上げるたびに、哀しみよりもずっと沢山の、幸せな気持ちをもらえるように
君がご主人を傍に感じられるように



●やさしい声で
 にーぁ、と鳴いた白猫に向かって、待鳥・鎬(町の便利屋さん・f25865)が視線を合わせるようにしゃがみ込む。
「君はとても優しい子なんだね」
『にぁ?』
「ふふ、初めまして。僕は鎬」
 首を傾げた白猫にそう名乗ると、首の鈴をちりんと鳴らした白猫が鎬の足元にちょこんと座り、彼女を見上げた。
『にぃ、あられはあられだよ、おねえちゃん』
 可愛らしい声で名を告げ、それからこてんと首を傾げる。
「どうかした?」
『にぃ、かなしいひとみをしてるの』
 どうしたの、とあられが問うた。
「……大丈夫、悲しいことなんかないよ」
 あれは、やさしくてひどい夢だったけれど、鎬にとっては決して悲しいものではなかった。
「でも……ちょっと人恋しいから、良ければ少しだけ一緒にいてくれる?」
『にぁ、にぁ、いいよ。あられがいっしょにいてあげる』
 すり、と膝に寄り添ったあられに微笑むと、鎬が差し出そうとした手を止めて問い掛ける。
「嫌じゃなかったら、君を抱き上げてもいいかな?」
『にぃ、もちろん!』
 人懐っこい白猫を抱き上げて、そっと撫でる。
「君は温かいね」
 心まで温かくなるような、そんな温もりに鎬が笑みを零す。そして幾度か撫でて、まだ少し落ち着かない胸の内をゆっくりと話し出した。
「大切な人の夢を見たんだ」
『にぁ、たいせつなひと?』
「そう、もう会えない、大切な人」
 白猫が鎬の腕の中で、寂し気に鳴く。
「会えないのは寂しいけど……僕があの子の幸せを喜んだように、あの子も願っていると思うから」
 きっと、それを願いながら目を覚ますことのない眠りについたのだと思うから。
『にぃ、おねえちゃんにはわかるの?』
「……大好きな友達で、家族だもの」
 考えていることくらい、なんとなくわかるものだよ、と鎬が笑う。
『にーぁ……ごしゅじんさまもあられのこと、わかったからきてくれたのかな』
 そうかもしれないね、と鎬が白猫の喉を撫でた。
「ねぇ、君の大切な人はどんな人?」
『あられのたいせつなひとは、ごしゅじんさま!』
 その答えに、鎬が笑う。こんなに優しい子なんだもの、きっと胸が温かくなるような、幸せな思い出をたくさんもらったのだろうと鎬の手が優しく白猫を抱き締める。
「じゃあ、ご主人様との嬉しかったこと、楽しかったこと、沢山聞かせてよ」
 君が星空を見上げるたびに、哀しみよりもずっと沢山の、幸せな気持ちをもらえるように。
 君がご主人様を傍に感じられるように。僕が君と君のご主人様の話を記憶できるように。
『うん! あのね、あのね、ごしゅじんさまはねぇ』
 あられが喋る度に、首元の鈴がちり、ちりんと鳴る。
 優しい思い出を聞く度に、鎬が優しい声で相槌を打つ。
 優しい声が、滅びを迎えようとする世界に響いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

花色衣・香鈴
他の人達が白猫に近づく中、わたしの足は止まったまま
わたしは彼女の主が何故居なくなったのかを知らない
寿命か事故か、…はたまた病だったのか
けれどわたしも置いて逝く側の存在
何て、言えばいいんだろう
震える足がゆっくり勝手に動き出す
そして白猫の前で力を失って座り込んだ
「…かなしくはないよ。ただ、怖い」
そっと頭を撫でる
「一緒に居続ける為に他は何も要らないを言うなら、思い出の場所も呼べる名前もいつか全部無くなっちゃう」
この子にごめんねを言うならわたしじゃない
だけど
「まるで、出会わなければよかったって言われてるみたい」
きっとそれだけは言われたくないから
「泣いていいんだよ。それが貴女の『大好き』なら。…おいで」



●やさしい涙
 にぁ、と鳴いてこちらを見上げる白猫を見たまま、花色衣・香鈴(Calling・f28512)の足は止まったまま動かなかった。
 だって、わたしは彼女の主がどうして居なくなったのかを知らないから。
 寿命だったのか、事故だったのか……はたまた、病だったのか、それさえもわからない。
「ごほ、こほっ」
 咳が出て、より一層前へと進めなくなってしまった。
 わたしも、置いて逝く側の存在だから。置いていかれたあの子に、なんて言えばいいのか――。
『にぃ、にぃぁ、おねえちゃん、だいじょうぶ?』
 こちらを真っ直ぐに見つめる、白猫の金眼。澄んだ、綺麗な瞳。その瞳に、何も隠す必要はないのだと言われているようで、香鈴は震える足がゆっくりと……勝手に動き出すのを感じていた。
『にぃ、にーぃ』
 無理しないで、と言われている気がする。勝手な思い込みかもしれないけれど、香鈴にはそう感じられて震える足で白猫の前に立つ。それから、どうにも力が抜けてしまって、ちょこんと座った白猫の前で座り込んでしまった。
『だいじょうぶ? どこかいたい? それともかなしいの?』
 にぃ、と鳴いて座り込んでしまった香鈴の傍に寄り添うように、白猫が頭を摺り寄せる。
「……大丈夫、かなしくはないよ。ただ……ただ、怖い」
 そう言って、咳き込みそうになる口元を押さえ、反対の手で白猫の頭を撫でた。
『にぁ、こわいの? じゃあ、こわくないように、あられがいっしょにいてあげる』
 ああ、なんて優しい子だろうか。寄り添うことを知っている、優しい子。
 でも、と香鈴は思う。きっとこの子は優しすぎて、悲しみの余りご主人様のことしか考えられなくなってしまったのだと。
「ねえ、あのね」
『にぁ、なあに?』
「一緒に、ずっと一緒に居続ける為に、他には何も要らないと言うのなら」
 教えて上げなくてはいけないと、香鈴は言葉を紡ぐ。
「思い出の場所も呼べる名前もいつか全部無くなっちゃう」
『にぁ……でも、でも、ごしゅじんさまがいなかったら、そんなの』
 ああ、悲しい顔をさせてしまっていると、香鈴の眉が下がる。
 それでも、どうしても伝えたい。その想いを胸に、言葉を続けた。
「まるで、出会わなければよかったって言われてるみたいだから」
 そんなの、悲しすぎるから。
 ご主人様のことはわからないけれど、私も、彼女もきっとそれだけは言われたくないと思うから。
『にぁ、にぁ、にーぃ』
 白猫の金色の瞳が水の幕を張ったかのように潤む。
「泣いていいんだよ。それが貴女の『大好き』なら……おいで」
 にぃ、と鳴いた白猫を抱き締めて、撫でる。何度も、何度も優しく撫でて。
 橙色の瞳からぽろりと一粒、雫を零したのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

天星・暁音
【天星・零と参加】
心配してくれてありがとう
少しだけ…ね…
…ねえ、君は見たい景色はある?
大切な思い出の場所とか良かったら聞かせてくれないかな…君の大切な人との日々を…
ほんの少しの夢だけれど…みせてあげるよ
時が止まればいい
そういう想いはきっと皆一度は思うのだろうけど…
でもそれはダメなんだよ…辛くて悲しくても…前に進まないとなんだ



零に寄り添い、あられちゃんを優しく撫でてあげながら思い出を聞いてあげてその情景や場所を幻影で再現して臨む限り見せてあげながら語りかけつつ望むのなら幻影で作ったおもちゃやねこじゃらし等で遊んであげます

「確かに見た目は変わんないけどさ。俺たちは俺たちとして成長してると思うよよ」


天星・零
【天星・暁音と参加】

暁音に寄り添われ

最初は暁音に任せ一通り情景を見つつ、遊んだりしたら指定UCで猫に関わりの深い人物を呼び寄せる(恐らく飼い主)

『此処は天国でも地獄でもない世界。生きる意味を見失った者、死んだ或いは死ぬ間際の者が辿りつく場所。あんたの望みは何なのかな?』

UCで自分と暁音、あられだけの空間になったら真の姿になる(他の人に見られたくないので他キャラがいる場合はなりません。その場合、上記台詞の口調も丁寧なですます調でいつも通りの喋り方でお願いします)

あられと召喚した人物がいなくなったらUCを解除し、元の姿に戻る

『時が止まった僕たちが成長しないなんて言うのは皮肉なのかな』

暁音に呟いて



●やさしい記憶
 崩壊する世界を駆けて、二人が辿り着いたのは可愛らしい白猫が案内する古めかしい日本家屋。にぁ、にぁ、と鳴く可愛らしい声と、ちりん、となる鈴の音に促されるまま、天星・暁音(貫く想い・f02508)と天星・零(零と夢幻、真実と虚構・f02413)は座敷へと通されていた。
「綺麗な部屋だね」
 暁音が部屋を見渡して言うと、白猫が嬉しそうに笑う。
『にぁ、ありがとう。あのね、こっちにどうぞ』
 二つ揃えられた座布団に、暁音と零が腰を下ろした。
 ちりん、と鈴の音を鳴らして、白猫がちょこんと座る。そして、二人を見上げると、にーぃと鳴いた。
『あのね、かなしいおめめをしてるの、いやなことがあったの?』
 真っ直ぐに問う白猫に、暁音が柔らかく微笑む。
「心配してくれてありがとう、少しだけ……ね……」
 暁音がそっと零を見れば、零も静かに笑みを浮かべて二人寄り添うように手を繋いだ。
『にぁ、にぁ、でもふたりは、ふたりでいるから、だいじょうぶ?』
「……うん、だから俺達は大丈夫だよ」
 それならよかった、と白猫が鳴く。
 優しい、優しい君。人の悲しみを知る君、と暁音は目を伏せ、再び開く。
「……ねえ、君は見たい景色はある?」
『にぁ? みたいけしき……?』
 どういうことかわからない、という風に首を傾げた白猫に、優しく説明するように暁音が続ける。
「うん、大切な思い出の場所とか、見たかった景色とか……そういうのを、良かったら聞かせてくれないかな」
『にぃ……うん、それならあるよ。ごしゅじんさまとみたかったの、おそとのけしき』
 お花畑が広がるような、そんな場所に行きたいとご主人様が言ってたのだと、白猫が言う。
「うん、それが君の見たい、君の大切な人との思い出?」
『にぁ、にぁ、ごしゅじんさまはいつもへやのなかにいたから』
 部屋の中とお庭の景色しか、知らないから。
「そっか、わかったよ。じゃあ、ほんの少しの夢だけれど……みせてあげるよ」
 暁音がそっと繋いでいない方の手を宙に伸ばす。
「夢幻の夜に星は瞬く。さあ、一夜の夢の幕開けだ。夢紡ぐ幻想曲をここへ。星降る夜のファンタジア……」
 紡ぐ、紡ぐ、夢の幻想曲。
『にぁ……!』
 座敷の中が瞬く間に花畑の広がる空間へと変わり、柔らかくそよぐ風が彩とりどりの花を揺らしていた。
『すごい、すごいねえ、きれい……これがごしゅじんさまがみたがってた、けしき』
 にぁ、と白猫が鳴く。揺れる花を追い掛け、ぴょんぴょん飛び跳ねる姿は可愛らしく、暁音と零の頬が緩む。
「ふふ、可愛いね」
「ああ、それにとっても楽しそうだ」
 きっとあれが、白猫あられとそのご主人様が望んだ景色。
 何処までも平和で、優しい――。
 暫くの間、二人寄り添って白猫が遊ぶをの見つめていた。
『にぃ、にぁ、ありがとう、おにいちゃん!』
 一頻り駆け回っていた白猫が暁音と零の元へ戻ってくると、暁音がそっと白猫を抱き上げる。
「他に見たいものはない?」
 他にも、ご主人様との思い出があれば聞かせてほしいと暁音が言うと、大人しく膝に座ってあられが話しだす。
『にぁ、ほかに……ごしゅじんさまはねぇ』
 何が好きだったか、遊ぶときは何をしたのか、そんなささやかで大切な思い出を二人は頷きながら聞いていた。
「そっか、じゃあ……あられちゃんにとっての想い出の場所はこの座敷なんだね」
『にぁ、にぁ、いつもいしょにいたから』
 ならば、と暁音があられとご主人様が遊んだであろう玩具を幻影で作り出す。
「俺たちとも遊んでくれる?」
『にぁ、もちろん!』
 毬を転がし、ねこじゃらしを揺らし……かつてそうやって遊んだように。
 そうしてすっかり白猫が満足したころに、零があられに問い掛けた。
「ご主人様に会いたい?」
『にぁ? ごしゅじんさまは、あられといっしょにいるよ』
 いっしょにいるの、とあられがにぁと鳴く。
「姿を見たくはない?」
『にぁ……いっしょにいるのに?』
「うん」
 そう頷いて、零が囁くように言の葉を紡ぐ。
「此処は天国でも地獄でもない世界。生きる意味を見失った者、死んだ或いは死ぬ間際の者が辿りつく場所」
 次第にその姿は零から夕夜へと変わっていく。金の髪は銀へ、赤と金の瞳は瑠璃と銀へ――。
「あんたの望みは何なのかな?」
 現れた鏡はあられの姿を映す。鏡の中の白猫に重なるように少女の姿が映し出されて。
『にぁ、にぁ、ごしゅじんさま』
『あられ、あられ』
 鏡の中から出て来られないのは、あられと同化しているからだろうか。
 それでも、きっとあられとご主人様には些細なこと。
「二人にしてあげようか」
「そうだな」
 暁音と夕夜がそっと座敷から出て、廊下で待った。
 やがて少女の声が聞こえなくなり、あられがにぃと鳴いたのを聞いて、夕夜が召喚した少女がいなくなったのだと感じ取ると、そっと力を解除して、辺りに暁音以外がいないことを確認すると夕夜から零へと姿を戻した。
「時が止まった僕たちが成長しないなんて言うのは、皮肉なのかな」
 零が暁音にしか聞こえないような声で、そう呟く。
「確かに見た目は変わんないけどさ。俺たちは俺たちとして成長してると思うよ」
 見た目が変わらなくても、きっとこの心は、間違いなく――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヘルガ・リープフラウ
【花狼2】
あられちゃん、っていうのね?
本当に、今まで寂しかったのね
その白い毛並みを優しく撫でて

両親や領民を殺され故郷を失った
猟兵になった後も、様々な悪意に傷ついた
その度にヴォルフに助けられ、今日まで生き延びることが出来た
だから、彼を失う不安を恐れずにはいられない
先刻の甘い夢や永遠への憧憬が
確かに自分にもあると理解してはいるけれど

それでも
時を止めてしまったら、新しい希望との出会いもなくなってしまうから
打ちひしがれた時に差し伸べられた彼の手が、立ち上がる勇気をくれた
そして、時が未来へ流れるからこそ
あなたとこうして出会うことが出来た

恐れないで、変わりゆくことを
確かな愛は、あなたの中にある


ヴォルフガング・エアレーザー
【花狼2】
仔猫の体を優しく撫ぜ
人狼の俺をこの仔は恐れはしないだろうか
人でもなく狼でもなく、何処へ行ってもはぐれ者だった俺を
ヘルガは優しく受け入れてくれた

胸の裡、思い出すのは先刻の夢
以前ヘルガは、正にあの「夢」に殺されかけたことがある
敵に記憶を奪われ、平和への願いも愛も歪められ
偽りの楽園に溺れたまま身も心も侵され蹂躙された
愛が悪意に敗北した
一生消えぬ屈辱の傷痕

救いとは、この傷を消し去るのではなく
傷を背負って尚立てるよう手を差し伸べることなのだと
二度と過ちを繰り返さぬために
甘い誘惑に潜む罠から純粋な心を守るために

この仔にも伝われと願う
幸福とは閉じた円環の中ではなく、未来へと歩む想いの中にあるのだと



●先に進む為のやさしさ
 作り物の楽園を抜け出し、ヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)は愛しい夫、ヴォルフガング・エアレーザー(蒼き狼騎士・f05120)の手を取って前を目指す。
「この先……でしょうか?」
「そのようだな」
 崩落する世界の中で、ただひとつその難を逃れている場所……和風の建物の入り口に、その白猫はいた。
『にぁ、にぁ、いらっしゃい』
 首の鈴をちりん、と鳴らし白猫が二人を建物の中へと案内する為に中へと入っていく。
「罠……ではないようだ」
「ええ、邪気のようなものは感じませんでしたから」
 ならば、とヴォルフガングが先を歩き、その後ろをヘルガがついていくように中へと向かった。
 案内された先は和風の部屋、座敷と呼ばれるもの。
 揃えられた座布団に二人が腰を下ろすと、白猫がその前にちょこんと座った。
「わたくしはヘルガというの。白猫さん、あなたのお名前は?」
『にぁ、あられ、あられっていうんだよ、おねえさん』
「俺の名はヴォルフガングだ、あられ」
 そう名乗って、ヴォルフガングが白猫の頭を優しく撫でた。
『にぁ、にぁ、よろしくね、おにいさん』
 人狼である己を恐れず、人懐っこく頭を手に摺り寄せる可愛らしい仕種に、ヴォルフガングの表情が緩む。
「あられちゃん、っていうのね?」
 その人懐っこさにヘルガも笑みを浮かべて艶のある白い毛並みを撫でる。にぁ、にぁ、と撫でられるたびに嬉しそうに鳴くあられに、ヘルガが優しい声で囁くように言葉を掛ける。
「本当に、今まで寂しかったのね」
『にぁ……でもね、いまはさみしくないの』
 だってご主人様と一緒だからと、白猫が嬉しそうに首の鈴を鳴らす。
「そう、ご主人様と一緒なのだものね」
 にぃ、と嬉しそうに鳴く白猫を撫で、けれど……とヘルガは考え、自分の過去を振り返る。
 両親や領民を殺され、故郷を失ったのが全ての始まり。
 追われているところをヴォルフガングに助けられ、猟兵になったその後も沢山助けてもらったのだ。
 様々な悪意に傷付いても、いつだって隣にはヴォルフガングがいた。
 だからこそ、自分は今日まで生き延びることが出来たのだと、心の底から思っている……それゆえに、彼を失う不安を恐れずにはいられない。
 白猫の背を撫でながら、ヘルガは先刻の白い霧がみせた甘い夢や永遠への憧憬が、確かに自分にもあるものだと理解しているけれど、それでも。
 それでも、とヘルガがヴォルフガングを見つめた。
 ヘルガの視線を受け、ヴォルフガングが思いだすのは人でもなく狼でもない、人狼という自分が何処へ行ってもはぐれ者であったこと。そして、そんなはぐれ者だった自分をヘルガだけが優しく受け入れてくれたこと。
 そして、ヘルガと同じように思いだす、先刻の白い霧が見せた、夢。
 以前にヘルガが、正しくあの『夢』に殺されかけそうになったことを。
 今でも思いだすだけで肝が冷える、とヴォルフガングは思う。
 記憶を奪われ、平和への願いも愛も歪んでしまったヘルガが偽りの楽園に溺れていく姿を、身も心も偽りに侵されてしまった愛が悪意に呑まれてしまったあの姿を――。
 彼女の心にも深く刻まれてしまったであろう、一生消えぬ傷を。
 けれど、とヴォルフガングは思う。救いとは、この傷を消し去るのではなく、傷を負って尚立ち上がろうとする彼女を支える為に、己が手を差し伸べることなのだと。
 二度と同じ過ちを繰り返さぬ為にも、甘い誘惑に潜む罠から愛しい純粋な心を守る為に、ヴォルフガングは彼女の隣に立ち続けるのだ。
 そんな決意を込めて愛しい妻を見つめると、慈愛に満ちた瞳がヴォルフガングを見つめて瞬いた。
 そして穏やかに微笑むと、ゆっくりとした口調で撫でている白猫に語り掛ける。
「ねえ、あられちゃん」
『にぁ、なあに』
「わたくしたちも、色々なことを経験してきましたわ」
 辛いことも悲しいことも、楽しいことも、嬉しいことも。
「それでも、時を止めてしまったら、新しい希望との出会いもなくなってしまうから」
 打ちひしがれた時に差し伸べられた、温かな彼の手が再び立ち上がる勇気をくれた。
「そして、時が未来へ流れるからこそわたくし達はあなたとこうして出会うことが出来たの」
 だからどうか、変わりゆくことを恐れないでと願う。
「確かな愛は、あなたの中にあるわ」
『にぁ、にぃ、あられのなかに?』
「ああ、お前の中にあるとも」
 どうかこの仔にも伝われと、ヴォルフガングも願う。
 幸福とは閉じた円環の中ではなく、未来へと歩む想いの中にあるのだと――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シャルロット・クリスティア
戦わなくて済むのなら、それでいいんでしょう。
星空を見ながら、のんびり語らうのも悪くはないのかもしれません。

……そうですね。
悲しいことは、いっぱいありました。
目を背けたくなるような、無かったことにしたいような、酷いことも。

夢の中なら、ホントに無かったことにできるのかもしれないですが。
でも、ずっと夢の中にはいられませんよ。
みんなが見ることができる未来を、代わりに見てこなきゃ。
いつかまた会えた時に、いっぱい土産話になるように。

……あなたは、どうですか?
一緒にいられるのは素敵な事です。
けど、私達が会えたのは、こうしてあなたが生きていたから。
もうちょっと、世界と一緒に生きてみてもいいんじゃないですかね。



●やさしさに手が届く場所
 戦わなくて済むのならそれでいいと、シャルロット・クリスティア(彷徨える弾の行方・f00330)は自分を出迎えた白猫を見てそう思う。
『にぁ、にぁ、どうしたの? かなしいの?』
 そう問い掛けてくる金色の瞳の白猫と戦うことなどできようか、とも。
 案内された屋敷の座敷に通され、ふと思い立ってシャルロットが縁側へ向かう。
『にぁ、なにかきになるものでもあった?』
「ええ、星空を見上げながら、のんびり語らうのも悪くはないのではないか、と思いまして」
 どうでしょう? と微笑まれ、白猫はにぁ、と鳴いて頷いた。
 縁側に座布団が二つ、そこに座るのは金色の髪を揺らした人間と、艶やかな毛並みと長い尻尾を持った白猫。
 一人と一匹が崩壊してゆく世界の星空を眺め、ぽつりぽつりと話をする。
「そういえば、あなたは私に悲しいのかと、問いましたね」
『にぁ、そんなめをしてたから』
 そうですか、と呟いて、シャルロットが口元に笑みを浮かべる。そして、静かに語りだした。
「……そうですね。悲しいことは、いっぱいありました」
 あの白い霧が見せた幸せで、酷い夢の様に。
 ちりん、と鈴の音が鳴って、白猫がシャルロットに寄り添うように膝に手を掛ける。その手を指先で撫でて、彼女が言葉を続けた。
「目を背けたくなるような、無かったことにしたいような、酷いことも」
 それら全て、夢の中であったなら本当になかったことにもできるのかもしれない、とも。
『にぁ、ゆめのなかにいたかった?』
「ふふ、そうですね……でも、ずっと夢の中にはいられませんよ」
 どんな夢だって、朝が来れば必ず覚めるもの。
「私は、みんなが見ることができる未来を、代わりに見てこなきゃ」
 あり得たはずの未来を、この目で。
「いつかまた、再び会えた時に……土産話をいっぱいできるように」
『にぁ、にぁ、おねえさんはつよいんだね』
 私は強いだろうか? 強くあらんと願い、強くあるようにと歩き続け、戦い続けているけれど。
「……あなたは、どうですか?」
『にぁ……あられ、あられは……わかんない』
 白猫が首を横に振ると、ちりん、ちりん、と鈴が鳴る。その音はまるで迷う心のようで。
「一緒にいられるのは、素敵なことです」
 大好きな人と一緒にいられるならと、願う気持ちも。
「けど、私達が会えたのは、こうしてあなたが生きていたから……私はそう思うんです」
 にぃ、と白猫が鳴く。
「だから――もうちょっと、世界と一緒に生きてみてもいいんじゃないですかね」
 そう言って、シャルロットはまた夜空を見上げ、あられも同じように顔を上げて空を見る。
 崩壊していく世界の輝く星は、その真っ只中にあっても不思議な色を讃えた空で美しく輝いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

コッペリウス・ソムヌス

君が白猫のあられだねぇ
ネコの好きな物って余り詳しくはないんだけども……
あったかい物とか丸い物が好きらしい噂を聞いたので
UCを使った魔法のランプの中から毛糸玉を沢山取り出すよー
……転がして遊ぶのはなにか違うような気も?
まぁ、これで遊ぶかはちょっと置いといて
少し話し相手に、ならせて貰おうかなぁ

君のご主人さまのこと
一緒に過ごしたり、色んなことして遊んだり
あたたかな想い出が沢山あるのだろうねぇ

オレは友だちくらいにしかなれないけれど
出会った今日という日の思い出の証にでも
話を聞きながら指で編んでいた毛糸玉のマフラー
初めて作ってみたから不恰好だけど、まぁ
君たちが少しでも温かい気持ちでいられますように



●やさしい気持ち
 優しい白猫を前にして、コッペリウス・ソムヌス(Sandmann・f30787)が広い座敷に用意された座布団に腰を落ち着け、顔を猫の鼻先に近付ける。
「君が白猫のあられだねぇ」
『にぁ、そうだよ、あられだよ』
 素直に答える白猫に笑みを浮かべ、コッペリウスはあられの首元を指先で撫でる。にぁ、と嬉しそうに鳴いた白猫を一通り撫でると、そうだと思いだしたようにあられに問い掛けた。
「オレはネコの好きな物って余り詳しくはないんだけども……あったかい物とか、丸い物が好きって本当?」
 噂で聞いたから、違うかもとコッペリウスが笑う。
『にぁ、にぁ、あられはあったかいのも、まるいのもすきだよ』
「よかった、それじゃあ……ええと、たしか」
 この辺に、と小さなランプを取り出してコッペリウスが中から毛糸玉を取り出していく。
 赤い毛糸玉、白い毛糸玉、青いの、黄色の、それこそ彩とりどりの毛糸玉を取り出して転がしていく。
『にぁ、にぁ、けいと!』
 嬉しそうな声でぴょんっとあられが毛糸玉を追う。糸の先をふかふかの前足でてしてしと踏み、転がし、あっという間に――。
『にぁ……けいとにつかまっちゃったの』
 毛糸にからまった白猫の出来上がり、である。
「ありゃ……待ってねぇ、今解いてあげるから」
 こんがらがった毛糸を丁寧に解き、あられの身体を自由にしてやると毛糸玉を自分の方へ寄せて背中の方へ隠した。
『にぃ、けいとだますきだけど、いつもこうなるの』
「そっかぁ……これはこれで可愛いんだけどね。じゃあ、少し話し相手にならせて貰おうかなぁ」
『にぁ、にぁ、あられとおはなししてくれるの?』
「勿論、君のご主人さまのこと、聞かせてくれるかい?」
 勿論だと嬉しそうに頷いた白猫が、ご主人様はね……と、一緒に過ごした日々をたどたどしいけれど言葉にして紡ぐ。
 どんなことをして遊んだのか、どんな風に笑ってくれたのか。聞いているだけで、心が温かくなるような、そんな思い出をにぁにぁと鳴いては教えてくれたのだ。
「素敵な思い出ばかりだねぇ」
 そう言いながら、コッペリウスは話を聞きながら指で編んでいた毛糸玉のマフラーを白猫へ差し出す。
「オレは君のご主人さまじゃないから、友だちくらいにしかなれないけれど」
 出会った今日という日の思い出にしてよ、と白猫の首に丁度いいサイズのマフラーを巻いてやる。
『にぁ……あったかい、ありがとうおにいちゃん』
「初めて作ってみたから、ちょっと不格好だけど」
 そんなことないとあられが首を横に振って、マフラーの暖かさに笑みを浮かべた。
 不格好でも、気持ちの籠った贈り物だ。
 あられと、あられのご主人さまが少しでも温かい気持ちでいられますように、そんな優しい気持ちが籠められた世界に一つだけの――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
⛩神歌

リル、落ち着いたかい?
よかった
やっぱりリルは笑顔が似合うよ
大丈夫、サヨには秘密にするよ
約束だ
私かい?
……噫、そうする
ひとりで背負わないように
今の私はけして孤独でも独りでもない
サヨもリルもいてくれる
…守ってみせる
私だって何時までも至らない神では居られない
逢いたい魂(ひと)と再び出逢えたのだ
…離さない

リル
あれは…猫?
私は猫に初めて触れる
逃げないだろうか?
恐る恐る手を伸ばす

……?リル
もしかして少し怖いのかい?
じゃあ一緒に撫でよう
ほら、怖くないよ
可愛いね
これが肉球?
癖になりそうな感触だ

アラレ
そなたも寂しくはないよ
ちゃんと絆は約されている
そなたの魂が救われなければ
世界は救えない

優しく撫でて労わって


リル・ルリ
🐟神歌

うん…ありがとう、カムイ
君は本当に優しい神様だ
僕は神なんて信じてなかったけど、君なら
カムイなら信じられる
ふふ、そうして
それにカムイ…君こそ、抱え込まないで
…一人で抱えて、己を犠牲にするような…そんな(ふと思い出すのは、カムイの前世―神斬のこと)
そうだよ!僕らは皆で未来に行くんだから!
笑顔で歌って前を見る

あ!あの子があられ、かな?
猫は実は少し、怖い
尾鰭をガブッとされるかも…
いいの?カムイ
そっと一緒に触れる
…柔らかい、暖かい
かわいい!
優しく撫でて一人じゃないよと伝える
おいで、あられ
大丈夫だよ…君だってちゃんと
未来へいける
君の大好きな人の生きた世界は終わらないもの

ふふ、僕
猫がすきになったかも



●やさしく響いて
 白い霧が消え去った道を朱赫七・カムイ(約彩ノ赫・f30062)はリル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)の手を引いて、前へと進んでいた。
「リル、落ち着いたかい?」
 先程まで泣いていた彼を気遣い、カムイがそう声を掛ける。
「うん……ありがとう、カムイ」
 まだ少し潤む瞳を優しい神様に向けて、リルが微笑む。
「よかった、やっぱりリルは笑顔が似合うよ」
 心底そう思っているのだと分かるようなカムイの笑みに、本当に優しい神様だとリルが小さく零す。
「僕は神なんて信じてなかったけど、君なら……カムイなら信じられるよ」
「リルにそう言ってもらえると嬉しいね」
 繋いだ手を柔らかく握りしめ、カムイが悪戯っ子の様に笑って言葉を続ける。
「大丈夫、泣いたことはサヨには秘密にするよ」
「ふふ、そうして」
 心配掛けたくないから、とリルが言った言葉にカムイが約束だと頷いた。
「でも……カムイ、君こそ、抱え込まないで」
「私かい?」
 ぱちりと桜色の瞳を見開いて、カムイがリルを見る。
「……一人で抱えて、己を犠牲にするような……そんな」
 ふと思い出されるのはカムイの前世――。
 神斬、災厄の厄神であった硃赫神斬のこと。孤独であった彼の、呪いと厄を一手に引き受けた彼の、優しい彼の。
「……噫、そうする。ひとりで背負わないように」
 ひとつひとつの言葉をカムイが丁寧に紡ぐ、違えぬように目の前の人魚を悲しませぬように。
「今の私はけして孤独でも独りでもない、サヨもリルもいてくれる」
「そうだよ! 僕らは皆で未来に行くんだから!」
 そうじゃなきゃ、赦さないんだから、とリルが尾鰭を優雅にはためかせ、とびっきりの笑顔を浮かべた。
「……守ってみせるよ」
 私だって何時までも至らない神では居られないと、カムイは思う。もうずっと逢いたいと願い続けていた魂――彼に再び出逢えたのだから。
 離すものか、と口の中でその想いを呟く。新たな決意を胸にリルを見れば笑顔のままカムイに頷いて、それから前を向いて歌いだした。
 ――リルルリ、リルラルリリル。
 優しい歌を響かせて二人が進む先に、崩壊を迎える世界のただ中で影響を受けていないかのような和風の屋敷が見えた。
「リル」
「あれが目指す場所……みたいだね」
 屋敷の扉の前に、二つに分かれた尻尾を揺らしてちょこんと座っている白猫が見える。
「あ! あの子があられ、かな?」
「あれは……猫?」
「そうだよ。カムイは猫、初めて?」
 リルの言葉にカムイが頷くと、白猫がにーぃと鳴いて二人を誘うように屋敷へと入っていく。
「ついてこい……ってことかな?」
「そうみたいだね」
 どうしようかと瞬きの間迷って、けれど邪気のようなものは一切感じないと判断したカムイが先導して屋敷の中を進む。ちりん、ちりん、と鈴が揺れる音と共に、白猫に案内されたのは広さのある綺麗な座敷。
 二枚並んだ座布団の前で、再びちょこんと座った白猫が二人を見上げる。
『にぁ、にぁ、いらっしゃい』
 どうぞ座って、と促され二人は座布団に腰を下ろす。
「初めまして、アラレ。私はカムイだよ」
「僕はリル」
 座布団から少し浮いた位置に浮かんで座るリルに、あられがにぁ、と応えて尻尾を揺らす。
『にぃ、にぃ、あられはあられだよ』
 人懐っこく寄ってきた白猫に、カムイが恐る恐る手を伸ばして止める。
『にぁ? どうしたの?』
「いや……実はね、私は猫に触れるのは初めてで」
 逃げないだろうか、怖がらせたりはしないだろうか。そう思うと、思わず手が止まってしまったのだと思いながらカムイがリルを見遣る。
「……リル?」
「な、なに?」
 リルならば率先して撫でに行くのではないかと思っていたカムイが、彼がほんの少しだけ震えていることに気が付く。
「もしかして、少し怖いのかい?」
「そ、そんなこと」
 ある、とリルが小さく頷いた。
「尾鰭をカブッとされるかも、って思っちゃって……」
『にぃ、にぃ、あられにげないよ。あられ、きれいなおびれにがぶってしないよ』
 にぁ? と、あられが顔をカムイの方に向けて寝そべる。
「噛まないという意思表示なのかな、可愛い子だね。リル、それじゃあ……一緒に撫でよう?」
「いいの? うん、それじゃあ、一緒に……」
 カムイよりも恐る恐るといったふうに、リルが白猫の背中に手をそっと触れる。それと同時に、カムイも白猫の頭に触れていた。
「……柔らかい、温かい」
「可愛いね、これが肉球?」
 触れた猫の温もりにリルがじぃんと感じ入っている間に、カムイは撫で方の力加減を覚えたようで、頭から首、そして前足へと指先を移動させている。
『にぃ、にくきゅー、だよ』
 ふにふに、とした桜色の可愛らしい肉球にカムイの指先がふにっと埋まる。
「……癖になりそうな感触だ」
「あっ、僕も!」
 リルもそっと肉球に触れ、その可愛らしさと柔らかさの虜になったかのよう。
「……かわいい!」
『にぁ、にぁ、うれしいな、ありがとう』
 褒められるのも撫でられるのも大好きと、あられが笑う。
「おいで、あられ」
 苦手意識はどこかへ飛んで、リルがそっとあられを抱き上げて膝へと乗せた。
『にぃ、にぃ、あったかいおひざだね。かなしいきもちは、どっかにいった?』
 どっかにいってしまえばいいね、と言って頭をリルの膝に摺り寄せたあられに、カムイが優しく言葉を掛ける。
「アラレ、そなたも寂しくはないよ。ちゃんと絆は約されている」
 カムイの手がそっとあられの背を撫で、リルの手が頭を撫でる。
「そなたの……そなたたちの魂が救われなければ、世界は救えない」
「大丈夫だよ……君だってちゃんと未来へいける。君の大好きな人の生きた世界は終わらないもの」
『にぁ、にぁ……おわらない?』
 その問いにしっかりと頷いて、リルとカムイが微笑んだ。
「ふふ、僕……猫がすきになったかも」
「私もだよ」
『あられ、あられもおにいさんたちのこと、すきだよ』
 にぁ、と鳴いた白猫に、二人の優しい声と手が、あられを癒すかのように降り注いだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クレア・オルティス
アドリブOK

そんな悲しそうな顔してる…?
あの夢は乗り越えたはずなのに、わたしってばダメだなぁ
あなたは…幸せそうだね
そう、逢いたい人に逢えたんだね

手荒なことはしたくないな…
きっと寂しかっただけなんだ
逢いたくて、一緒にいたかった、その想いに寄り添いたいと思う
わたしにも逢いたい人がいるから

けど、崩壊を止めるには骸魂、すなわち少女と離れなければならない
それはあなたがまた一人になってしまうことを意味していて…
わたしは何をしてあげられるだろうか

ねえ、思い出を聞かせて

小さな体を撫でながら耳を傾ける
語られる思い出を自分に重ねながら
優しい思い出に、心満たされるまで、わたしはあなたのそばにずっといよう



●やさしく満たす
 にぁ、と鳴く白猫に案内されるままに、座敷へと案内されたクレア・オルティス(天使になりたい悪魔の子・f20600)が、問い掛けられた言葉に軽く目を伏せる。
「そんなに悲しそうな顔してる……?」
『にぃ、おかおよりも、おめめ』
 瞳が、傷付いたような光を湛えているのだと白猫は言う。
「そっか……あの夢は乗り越えたはずなのに、わたしってば」
 ダメだなぁ、と溜息交じりにクレアが零す。
『にぁ、にぁ、かなしいゆめをみたの?』
 てし、てし、と白猫の可愛らしい前足が慰めるようにクレアの膝を叩く。
「うん、少し……少しだけ、ね」
 触れる前足に指先を重ね、ふにふにと触れば白猫が擽ったそうに笑った。
「あなたは……幸せそうだね?」
『にぃ、にぃ、ごしゅじんさまといっしょだもん』
「そう、逢いたい人に逢えたんだね」
 よかったね、とクレアが白猫の頭を撫でる。撫でながら考えることは、この優しい白猫に手荒な真似はしたくない、しなくて済んで良かった、ということ。
 きっと寂しかっただけなのだ、それは誰もが持つ感情で。
 逢いたくて、一緒に居たかった。
 わかるよ、とクレアが思う。
「わたしにも逢いたい人がいるんだ」
『にぁ、にぁ、あえるといいねえ』
 頷いて、白猫の気持ちに、想いに寄り添ってやりたいとクレアは願う。
 けれど、と溜息を隠してクレアは何度も白猫の頭から尻尾までを優しく撫でる。
 崩壊を止めるには骸魂――すなわち、白猫のご主人さまである少女と離れなければならないということに他なくて。そしてそれは、クレアの膝に頭を預け、撫でられるままになっている白猫をまた一人にしてしまうことを意味していて。
 そう思うと、クレアの胸が僅かに痛む。
 何をしてあげられるだろうか、この優しい白猫に、わたしは。
 思わずぎゅっと瞳を閉じて、それから再び開くと、白猫に言葉を向けた。
「ねえ、思い出を聞かせて?」
『にぃ、おもいで?』
「そう、あなたと……あなたのご主人さまの」
『にぃ、にぃ、いいよ、おしえてあげる!』
 嬉しそうにご主人様との思い出を語る白猫の、小さな体を撫でながらクレアは耳を傾ける。
 白猫の語る想い出は優しく、クレアは自身のそれと重ね合わせ、互いの心が満たされるまで――。
 クレアは、離れることなく白猫の体を撫で続けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

呉羽・伊織
【守3】◎
――優しいんだな
(あられの言葉に、眼差しに、何処か恩人の俤が重なって
また密かに感傷が過りかけるも、今はそれ以上振り返らず
ちゃんと前を、あられを見て)
ん、でも俺達はへーき
あられこそ――いや、そーだな
そしたらうちのとも仲良くしてやって!
(ぴよこや亀や鴉を紹介し緩く笑い)
ウン、凄い和むなこりゃ!

ああ、俺も、今はもう会えない人なんだが――独楽遊びとか教えてもらってさ
ささやかだけど、楽しいよな

(哀しい事もあったけど
こんな風に楽しい事も沢山あって
――この先にもきっとまた辛い事はあるだろうけど
幸いな事もあると思えるようになったから

あられも急がなくていい
ゆっくりでもいい
それでもどうかまた、前へ――)


鈴丸・ちょこ
【守3】◎
ほう――まさか逆に心配されるとは、俺も修行が足りねぇ様だな
ああ、だが悲哀も苦難も何のそのだ
(それでも俺達は進む、進める――止めるのは足でも時でもなく、崩壊だ)
迎えに、いや、ちょいとばかし遊びに来たぜ、あられよ
ぷりん(ライドのライオン)もさっきからそわそわしててな
一つ遊び相手になってやってくれねぇか

ほう
ビー玉に独楽か
動物の好奇心を刺激する良いものを持ってるじゃねぇか
(転がる玉や回る独楽を他の動物達とちょいちょいしつつ)
こうしてのびのびわいわい体動かしてりゃ、ふといつの間にか軽くなるモンもあるからな

偶にはこういう一時も大事だ――気が晴れるまで、道がもう一度開けるまで、とことん付き合おう


永廻・春和
【守3】◎
優しいお心に感謝を
私達は、もう大丈夫です
(哀しくとも、傷付こうとも、其でも私達は――
あられ様も共に、皆で過去から未来へ向き直って行ける様にと)
哀しい事、よりも――そうですね、今は少し、お話したい事等が御座いまして
宜しければ、私や鈴(猫)とお友達になって頂けませんか?
此程に動物さんが揃うと、見るからに和やかで癒されますね

そういえば昔、ある御方に頂いたビー玉を持っておりまして(懐からころりと)
良ければ転がして遊ばれますか?
ふふ――不思議と幸いな、温かな気持ちになりますよね
遊びがてら、あられ様の思い出も伺っても?

(話して、遊んで、笑って――心の中に、過去や悲哀以外の気持ちも生まれる様にと)



●やさしい心に寄り添うように
 白い霧が晴れた道を三人が駆ける。お互い、どんな夢を見ていたかなんて野暮なことは聞かない。それぞれ、多少なりとも傷付いた瞳をしていたのだから、黙って寄り添うように走り続けた。
「あれか?」
 崩壊を続ける道の先、たった一ヵ所だけその崩壊を免れているかのように見える場所。
「日本家屋……でございますね」
 馴染みのある建物です、と永廻・春和(春和景明・f22608)が言えば、呉羽・伊織(翳・f03578)もそれに頷く。
「カクリヨファンタズムは和風の建物も多いからな」
 不思議なことでもないだろう、と鈴丸・ちょこ(不惑・f24585)が言い、ゆっくりと走る速度を落とした。
「お出迎え……みたいだな」
 屋敷の前に、白猫がちょこんと座って待っているのが見えて、伊織が思わずそう呟く。
『にぁ、にぁ、いらっしゃいおにいさん、おねえさん』
 招く白猫が促すままに、三人は屋敷の中へと上がる。建物の中にも不審な点はひとつもなく、いたって普通の屋敷だと三人が視線を交わし合うと、白猫が器用にちょいちょいとその前足で座敷の襖を開けた。
 部屋の中は綺麗に整えられていて、どこか自分に馴染むような気がして伊織と春和の頬が緩む。それはちょこも同じで、身を寄せる場所の一つがこの屋敷の雰囲気に似ているお陰か特に緊張した様子もなく、並べられた座布団の真ん中を陣取って寝そべっている。
「悪くない座布団だぜ」
「ふかふかだな」
「ええ、とても手入れの息届いた……」
 正座をした春和がとてとてと近寄ってくる白猫に目を遣り、改めて姿勢を正す。他の二人は思い思いに寛いでいた。
『にぁ、にぁ、いらっしゃい。ふかふかのざぶとんは、あられもおきにいりなの』
 そうして、三人の前にちょこんと座り、それぞれの瞳を覗き込むようにして、あられが言った。
『にーぁ、かなしいめをしてるのは、どうして? かなしいことがあったの?』
 こてん、と首を傾げた白猫の首に付けた鈴が鳴る。
「ほう――まさか逆に心配されるとは、俺も修行が足りねぇ様だな」
 同じように、首にリボンで結んだ鈴を付けたちょこが自分の頬を可愛らしい手で掻いた。
「――優しいんだな」
 白猫の言葉に、その金色の眼差しに何処か恩人の面影が重なって、伊織が笑う。
「優しいお心に感謝を……でも、私達はもう大丈夫です」
「そうそう、俺達はへーき」
 春和の言葉に伊織が続き、白猫の心配を払拭するように頷く。
 本当はまだ少し感傷がこの胸を過ぎるけれど、今はそれ以上を振り返らないと決めたから。
『にぁ、へいき? へいきなら、いいの。だいじょうぶならいいの』
 にぃ、と鳴いた白猫にちょこが口の端を持ち上げて笑う。
「そうとも、悲哀も苦難も何のそのだ」
 何があったとて、俺達は進むしかない。そして、止めるのは足でも時でもなく――崩壊だ、と胸の中で呟いた。
「哀しい事、よりも――そうですね、今は少し、お話したい事等が御座いまして」
 哀しくとも、傷付こうとも、それでも私達は未来へ向き直って行く為に。あられも共に行けるようにと、春和が言葉を続ける。
「宜しければ、私や鈴……私の猫ともお友達になって頂けませんか?」
『にぁ? おともだち?』
「そうさ、ちょいとばかし遊びにつきあってくれないか、あられよ。ぷりんもさっきからそわそわしててな」
 ちょこがその尻尾をくるんと振れば、チョコの背後に黄金のライオンが現れる。
『にぁ……おっきいねこ?』
「こいつはライオンだぜ、まぁネコ科ではあるから、広い意味ではねこ……か?」
 まぁ気の良い奴だ、とちょこが言うと、春和の後ろから鈴と名付けられた猫が姿を現す。
『にぁ、にぁ、あられといっしょ』
「気に入ったか? そしたら、うちのとも仲良くしてやって!」
 伊織が名を呼べば、ぴよこと亀と鴉も姿を見せて、白猫の前にライオンと猫、ひよこと亀と鴉とずいぶんと賑やかな面子が揃う。
「わくわく動物ランドって感じだな……ウン、凄い和むなこりゃ!」
『にぁ、にぁ、おともだちがいっぱい』
「ええ、お友だちがいっぱいですね」
 これほどに沢山の動物が揃うと、見ているだけでも癒されて、自然と笑顔が浮かんでしまう。
 暫し彼らが戯れるのを眺めていると、春和がぽんっと手を打った。
「どうした?」
「ええ、忘れておりましたけれど、良い物がありまして」
 春和が懐から小さな巾着を取り出し、その中からビー玉を出して畳へと転がした。
「昔、ある御方に頂いたビー玉です。良ければ、転がして遊ばれますか?」
 つい、と指先で弾くように転がしてやると、あられと鈴がその可愛らしい前足で、てしてしとビー玉を追う。
「オレも独楽なら回せるぜ」
 どこからか出した独楽を伊織が回し、それにぴよこと亀が楽し気に手を叩く。
「ほう、ビー玉に独楽か。動物の好奇心を刺激する良いものを持ってるじゃねぇか」
「オレも昔はよく独楽遊びとか教えてもらってさ」
 今はもう会えない人だけれど、教えてもらったことは今も自分の中に根付いていると、伊織が笑った。
「ちょこはいいのか? ビー玉だぞ?」
「俺がそんなものに」
「手が出ておりますよ、ちょこ様」
 これは猫の本能だからな、と言いながらちょこが黒い手でビー玉をちょいちょいとつつく。
『にぁ、にぁ、みんなであそぶの、たのしいねえ』
「ふふ――不思議と幸いな、温かな気持ちになりますよね」
「ささやかだけど、楽しいよな」
 哀しいこともあったけど、こんな風に楽しいことも沢山あって、と伊織は思う。
 この先にもきっと辛いことは訪れるだろうけれど、幸せなこともあると思えるようになったから。オレは前に進めるんだと、それがあられにも伝わればいいと願いながら白猫の頭を撫でた。
『にぁ、にーぃ、うれしいな、たのしくって、うれしいの』
「こうしてのびのびわいわい体動かしてりゃ、ふといつの間にか軽くなるモンもあるからな」
「ええ、そうですね。遊びがてら、あられ様の思い出も伺っても?」
 もちろん、と頷いた白猫の鈴が鳴る。
 世界が終わるまでには、まだ時間があるはず。
 話して、遊んで、笑って――心の中に過去や悲哀以外の気持ちが降り積もりますようにと春和が願うように、あられの話に相槌を打つ。
「偶にはこういう一時も大事だからな。気が晴れるまで、道がもう一度開けるまで、とことん付き合おう」
 なあ? とちょこが伊織に視線を向けると、伊織も笑顔で頷く。
 急がなくてもいい、ゆっくりでもいいと、あられを見守る三人は前へ進むことを願ってあられに寄り添うのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朧・ユェー
【双月】

彼を抱きかかえたまま辿り着いた
とても穏やかな場所
すりっと足を摺り寄せる感触
この子があられ

十雉くん触ってみますか?
そっと彼をおろし

十雉くんは白猫好きでしたねぇ
あられと遊ぶ姿は
二人とも可愛いらしいです
とても微笑ましい
それをじぃと見つめて

おや、僕に?ありがとうねぇ
猫じゃらしを受け取りふりふりしてみると飛びついてきた
少しびっくりするもタシタシと遊ぶあられに癒される
こんな時間…昔は考えもしなかったですね

ふふっ、十雉くんにも猫じゃらしを振ったら飛びついてくれるかな?あられも一緒に遊びたいよね。
膝に乗っけたあられを撫でながらふりふりと彼を誘う

おや、ダメですか?
何処か拗ねるような彼にいとおしいく微笑む


宵雛花・十雉
【双月】

あられ…
お前は優しいね
あられも悲しいこと、たくさんあったろうに

うん、撫でてあげたい
こんなに優しいあられだから、オレからも優しさを贈りたいんだ
膝の上に乗せて、ゆっくり毛を梳くように撫でてあげる
猫用のおやつもあるよ、食べる?
ふふ、あられはいい子だね

ん、そんなに見てどうしたの、ユェー?
ああ分かった、ユェーもあられと遊びたいんだ
ユェーも一緒に遊んであげて
そしたらあられもきっと喜ぶよ

はい、これ猫じゃらし
これを振ってみて、飛びついてきてくれるだろうから
そうそう、ユェーもあられも上手上手

え、オレも?
オレ、猫じゃないし…
そんな期待するような目で見てもダメだからね、もう



●やさしさを贈って
「ずっと抱えられたまま辿り着くとは思わなかった……!」
 両手で顔を覆い、宵雛花・十雉(奇々傀々・f23050)が呻くように言う。
「ふふっ、僕は役得でしたけどねぇ」
 朧・ユェー(零月ノ鬼・f06712)が彼を抱きかかえたまま、辿り着いた屋敷の前で笑う。崩壊を続けるカクリヨファンタズムの中で、唯一穏やかさを保っている場所――つまりは、ここに崩壊の原因がいるという事だろうと、ユェーが思う。
「おや」
 すり、と足元に擦り寄る温かい何かに、ユェーが思わず声を上げた。
「え、何、どうしたの?」
「いえ、足元に」
 猫が、とユェーが笑うと、十雉も横抱きにされたまま視線を下へと向ける。
『にぁ、にぁ、おにいちゃんおけがしてるの?』
「けが……してない、してないよ!」
『にぃ? でも、だっこされてるの』
「~~~~~~ッ!」
 声にならない声で叫んで、十雉がユェーを見る。
「ふふ、可愛い白猫さんだねぇ。十雉くん、触ってみますか?」
 頬を赤くした十雉をそっと下ろし、ユェーが白猫へ問い掛ける。
「君が……あられ?」
『にぁ、そうだよ、あられだよ』
「可愛いね、あられ」
 十雉がしゃがみ込んで白猫を撫でる。その表情は柔らかく、彼が猫好きなのが窺えた。
『にぁ、にぁ、こっちへどうぞ』
 白猫がちりん、と鈴の音を鳴らして屋敷の中へと入っていく。
「……悪い気配はないみたいだね、行こうか?」
「うん、あられをもっと撫でてあげたい」
 白猫に案内されるままに、二人が辿り着いたのは広く綺麗な座敷。あられとご主人様が過ごしたであろう事が窺えるような、そんな部屋だった。
 揃えられた座布団に腰を落ち着け、二人が部屋を見回していると白猫がてってって、と駆け寄ってくる。
『にぁ、ほんとうにいたいところ、ない?』
 こてん、と首を傾げた白猫に、ユェーが大丈夫だと頷く。
「オレは……うん、オレもないよ。大丈夫」
 二人の返事に満足したのか、あられがちょこんと座って二人を見上げて鳴いた。
「あられ、お前は優しいね」
 この白猫にだって、悲しいことは沢山あっただろうに。
『にぃ? あられ、やさしいかな、ごしゅじんさまのほうがやさしいよ』
「そう、君は優しいご主人様に育てられたから、こんなに優しいのかもしれないですね」
「きっとそうだね。あられ、おいで」
 こんなに優しいあられだから、オレからも優しさを贈りたいのだと十雉が自分の膝を軽く叩いた。
『にぁ、にーぃ』
 すり、と膝に擦り寄って、そのまま白猫は十雉の膝へと飛び乗る。
「いいこ」
 ゆっくりと、艶やかな白い毛を梳くようにして何度も撫でると、ユェーがそれを見つめて微笑む。
「十雉くんは白猫が好きでしたねぇ」
「ん、猫はどの子も可愛いと思うけど、白猫は特にかな」
 言葉だけを寄越し、十雉の視線はあられに向いたまま、熱心にその毛並みを整えていて。それがまた微笑ましくて、可愛らしくて、ユェーは思わずじぃっと見つめてしまう。
「ん、そんなに見てどうしたの、ユェー? ああ分かった、ユェーもあられと遊びたいんだ」
 そうだろ、と言わんばかりに十雉が笑う。その言葉に特に反論もせず、ユェーは静かに微笑みを返した。
「それじゃ、ユェーも一緒に遊んであげて」
「僕もですか?」
「そしたらあられもきっと喜ぶよ」
 撫でられるままになっていたあられが、ユェーに視線を向ける。
『にぁ、おにいさんも、あそんでくれる?』
「ほら。はい、これ猫じゃらし」
 そう言って、十雉がユェーに猫じゃらしを渡す。
「おや、僕に? ありがとうねぇ」
「これを振ってみて、飛びついてきてくれるだろうから」
 ふふ、と笑って受け取ると、ユェーが猫じゃらしを白猫に向けて振ってみると、即座にあられが飛びついた。
「おっと」
 少しびっくりしつつも、猫じゃらしに向かって前足をてしてしと出してじゃれつく白猫は可愛くて、思わず癒されてしまう。
「そうそう、ユェーもあられも上手上手」
 どちらも可愛いな、と思いながら十雉も笑みを浮かべ、ユェーとあられが猫じゃらしで遊ぶのを満足そうに眺める。それをちらりと横目で見て、ユェーがいいことを思い付いたとばかりに十雉に言う。
「ふふっ、十雉くんにも猫じゃらしを振ったら飛びついてくれるかな? あられも一緒に遊びたいよね」
「え、オレも?」
 ねぇ? とユェーがあられに言うと、あられもにぁーと返事をしてくれた。
 片手で優しく抱き上げると、白猫を自分の膝に乗せてユェーが十雉を見つめる。
「オレ、猫じゃないし……」
 猫じゃらしにはじゃれないよ、という前にユェーがあられを撫でながら十雉に向けて猫じゃらしを振る。
「おいで、おいで」
 僕の所まで、とユェーが笑う。
「そんな期待するような目で見てもダメだからね、もう」
 あられは可愛いけど、猫じゃらしはちょっと、と十雉がそっぽを向く。
「おや、ダメですか?」
「ダメ」
 何処か拗ねるようにこちらを見る十雉が可愛らしくて、ユェーが愛おしむように微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

キコ・フォーチュナ
わあ、真っ白ふわふわの猫ちゃんだあ!

アタシねー知ってるんだ
傷ついたココロには「寄り添う」コトがお薬になるんだって
だからこの猫ちゃんのお話を沢山聞きたい
だってアタシは「荒廃した世界の救世主」ソーシャルディーヴァだもん!
失敗作だけどね

首飾りを褒めて、それを切欠にお話開始
アタシの中の半壊した記憶領域に彼女達のエピソードを記録していくよ
アナタの記憶をアタシが記録して記憶にする
アナタの中にもアタシの中にも刻まれるの
くふふ、素敵でしょ?

頷きながらお話を聞いていたら
培養水槽の外側から毎日話しかけてくれた研究員サンを思い出しちゃいそう
――だけどアタシの中の炎を強めて[元気]出すよ、今を選んだのはアタシだから!



●やさしい救いを
 白い霧を抜け、その脚で駆け抜けた先にキコ・フォーチュナ(赫焉娘・f30948)は和風の建物を見つけて立ち止まる。正確には、その屋敷の門の前にいた、白猫を見つけて。
「わあ、真っ白ふわふわの猫ちゃんだあ!」
『にぁ、にぁ、いらっしゃい』
 にぃ、と鳴いた可愛らしい猫に目を釘付けにしながら、キコは案内されるままに屋敷の中へと足を進めた。
「わー、こういう建物、初めてかも」
 床を傷付けないように気を付けて進むと、座敷へと辿り着く。座布団に座ってと勧められ、キコは遠慮なく座ることにした。
「ねえ、猫ちゃん」
『にぁ、なあに?』
「この、座布団っていうの? もう一枚いいかな?」
 にぃ、もちろん! と答えた白猫が、器用に座布団をもう一枚キコへと渡す。
「ありがと、アタシの足だと床を傷付けそうだからね」
 足の先に置いて、これでよし! とキコが白猫に向き合う。
『にぃ、おねえちゃんはかなしいこと、あったの?』
「うーん、悲しいのかな。アタシは……」
 悲しかったかもしれないけれど、それよりもわくわくが勝ってしまったから。寒さよりも、アタシの中の炎が勝ってしまったから。
「うん、アタシは大丈夫だよ」
 そう笑って、キコは白猫に手を伸ばす。
 キコは傷付いたココロには『寄り添う』コトがお薬になるんだってことを知っている。誰かに聞いたわけではないけれど、そう知っているのだ。
 だから、目の前にいる白猫の話をたくさん聞きたいと思う。
 だってアタシは「荒廃した世界の救世主」ソーシャルディーヴァだもん! 失敗作だけど、それでもソーシャルディーヴァとしての根本は変わらない。
『にぃ』
 差し伸べた手に、白猫が頭を摺り寄せる。
「可愛い首飾りだね」
『にぁ、ごしゅじんさまがあられにくれたんだよ』
「そうなんだ、あのね、良かったらアタシにキミとご主人様の話を聞かせてくれるかな?」
 そうしたら、アタシの中の半壊した記憶領域に記録していくから。
『にぃ、いいよ、ごしゅじんさまのおはなし、してあげる!』
 白猫がにぃ、にぃ、と喜んでご主人様の話をキコに聞かせる。それは違えることなく、キコの記憶領域へと記憶されていく。
 これで、アナタの中にも、アタシの中にも刻まれるの。他の誰が覚えていなくても、アナタとアタシはいつまでも覚えているから。
 それって、とっても素敵でしょ? くふふ、とキコが笑うと、白猫も嬉しそうに笑う。
『それでねえ、ごしゅじんさまがね』
「うんうん」
 頷きながら話を聞いていると、なんだか培養水槽の外側から毎日話しかけてくれた研究員を思い出しそうになって、ほんの少しだけ胸が痛んだけれど。キコは自分の中の炎を強めて、元気を出す。
 今を選んだのは、他の誰でもないアタシだから! と美しい炎のような彼女は笑うのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

汪・皓湛
かなしいこと
それを否定しそうになった口を閉じ、笑って頷く

ええ
友の…悲しい夢を、少し

何を失くしたか理解しているつもりだった
けれど夢を見て
そもそも得ていなかった事を
決別したつもりで、あの頃を惜しんでいる己が居ると気付かされた

手に在る神剣
万禍は私が何を見たか気付いているだろうに
何も言わずに居てくれる事が今は有り難い

私は大丈夫ですよ
あられ殿は…何か、嬉しい事が?

笑って尋ねるのは悲しい事ではなく嬉しい事
滅びの言葉を口にしてしまう程の何方かと再会し
その方とひとつになっている心は、満たされているのだろうか

そっと尋ね、思い出の花などあればそれを咲かせよう
人懐こく優しい白猫の心に
少しでも幸いが増えるよう願って



●やさしい花を
 白い霧を振り切って、崩壊が進むカクリヨファンタズムの世界を駆ける汪・皓湛(花游・f28072)の瞳に映ったのは、その崩壊を免れるかのような和風の屋敷。
 にぁ、と鳴く白猫の後をついて屋敷に上がり込んだものの、さて……と座布団に座り思案する皓湛の前に、とてとてと白猫がやってくる。その尾は二つに分かれており、この猫が件の……と皓湛が思った時だった。
『にーぁ、どうしたの、かなしいことがあったの?』
 労わるような優しい声に、大丈夫だと言い掛けた唇を閉じて、皓湛は傷付いた瞳を揺らして笑うと僅かに頷いた。
「ええ、友の……悲しい夢を、少し」
 視線を落とし、思い出すのは白い霧が見せた優しくも酷い夢。
 何を失くしたか理解しているつもりだったのに、それすらも紛い物であったと己に知らしめたあの夢。
「失くしてなどなく、そもそも得てすらもいなかったのです」
 独白するように、皓湛が小さく呟く。
 決別したつもりで、あの頃を惜しんでいる己がいると気付かされた、気付いてしまった。
『にぁ……かなしいね、さみしいね』
 すり、と寄り添うように膝に頭を摺り寄せる白猫の頭を撫でながら、皓湛は手に在る神剣――万禍を見遣る。いつもなら何かしら伝えてくるところだろうに、この美しくも優しい剣は何も言わずに皓湛に寄り添うだけだ。
 けれど、今はそれが有り難いと、口元に笑みを浮かべる。
「私は大丈夫ですよ」
 独りではないから。
『にぁ、にぁ、だいじょうぶ? だいじょうぶなら、いいの。かなしいのはだめだから』
「あられ殿は……何か、嬉しい事が?」
 優しい白猫に口元を綻ばせたまま、嬉しいことがあるのではないかと問い掛ける。悲しいことなど、もうたくさん知っているだろうと思ったから。
『にぁ、にぁ、あられはね、ごしゅじんさまにあえたから、いっしょになれたから』
 それが嬉しいのだと、白猫は首の鈴をりん、と鳴らして声を弾ませた。
「そうですか、それがあられ殿の嬉しいことなのですね」
 思わず、滅びの言葉を口にしてしまう程の何方と再会し、その方とひとつになっている心は如何ほどに満たされているのだろうか。
 夢ですら、満たされた気持ちになったのだから、きっと、白猫にとっては他に求めるものなどないほどに。
 ならば、と皓湛は白猫に問う。
「あられ殿は、ご主人様との思い出の花などはあるでしょうか?」
『にぁ、おもいで……あのね、おにわにさいてたおはなでね。きいろくて、たいようのほうをむくおはななの』
 ああ、と思い浮かんだ花を皓湛が庭へと咲かす。
『にぁ、にぁ、このおはな! ごしゅじんさまがすきだっていってたの』
 太陽を一杯に浴びて、輝く花を好きだって。
 白猫の言葉に頷き、皓湛が小さな向日葵をひとつ咲かせて、あられの首飾りにそっと挿してやる。
「よく似合っています」
 人懐っこく優しい白猫の心にも、太陽のような花が咲きますように。
 少しでも、幸いが増えるようにと、やさしい花神はそれだけを願ってあられの頭を撫でた。


●みちたりた心
 にぁ、と白猫が鳴いて、座敷から向日葵の咲く庭へと出ていく。
 崩壊する世界と広がる空を眺め、小さくごしゅじんさま、と鳴く。
『ありがとう、ありがとう、猟兵の方々。私と、この子の心は満たされました』
『にぃ、にぃ、ごしゅじんさま』
 白猫の体から、ゆっくりと少女の骸魂が抜けていく。
『あられ、ねえ、あられ』
『にぃ、ごしゅじんさま』
 ちりん、と白猫の鈴が鳴る。
『もう、寂しくないね』
『もう、さみしくないよ』
 あの時は、別れの言葉も言えず、けれど今は。
『さようなら、あられ』
『にぃ、にぃ、さよなら、ありがとう、ごしゅじんさま、だいすき、だいすき』
 にぃ、と鳴く白猫の瞳からは、ぽろぽろと涙が流れるけれど。流れる涙よりも、心が満たされているから。
『私も、私もあられが大好きよ』
 もう、悲しくはないのだと、ご主人様を見送ったあられがにーぃと鳴いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『もふもふパラダイス』

POW   :    体力の続く限り遊ぼう!

SPD   :    気のすむまで撫でよう!

WIZ   :    まったりゆったり一緒に過ごそう!

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●星降る夜に
 斯くして、白猫あられから少女の骸魂は離れ、世界は救われた。
 それから、白猫と少女の心も。
『にぁ、にぁ、ありがとう』
 喪失感はきっといつまでも続くけれど、白猫の心にはそれを補って余りある、やさしい記憶があるから。
『にぁ、だから、だいじょうぶだよ』
 ちりん、と鳴った鈴の音は、白猫の心の様に軽やかだった。

 そして奇しくも世界が救われた日は聖夜と呼ばれる日、そう――星降る夜がやってくる。
 流れる星の数は、それこそ数え切れぬほど。どの場所からでも空を見上げれば、カクリヨファンタズムの聖夜を彩る流れ星が見えるだろう。
 それから、流れる星に引き寄せられた聖獣達が姿を見せるのだ。
 聖獣の姿は様々で、それこそ現代地球で見かけるような動物の姿をしたものから、幻想の世界にしかいないような摩訶不思議なものまで多種多様。あなたが望めば、必ずそのうちの一匹があなたの元へ姿を現すはず。
 ただ星の降る空を眺めるのも、聖獣と共に過ごすのもいいだろう。
 どうか、皆様に等しく聖夜の加護がありますように――。

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 MSコメント【●第三章:日常】を必ずご参照ください。
 【受付期間】、や再送等の細かい情報はMSページに記載のURLを参照ください、受付期間前、受付期間後に送られたプレイングはタイミングが悪いとお返しすることになってしまいますので、恐れ入りますがプレイング送信前に必ずご確認くださいませ。
 また、この三章では二章で救った白猫のあられとグリモア猟兵の雀がいます。何かあればプレイングにてお声掛けください。特になければ、各々星降る夜を何処かで楽しんでいるかと思います。
 現れる聖獣は一人につき一匹ですが、ペアやグループで参加の方は一匹の聖獣を皆で呼んだというのも可能です。お揃いの使い魔や加護の掛かった石が良い方は、ご一考くださいませ。
 現れる聖獣や、使い魔または石をお任せも可能です、プレイング冒頭にお任せと記載してください。
 それでは皆様、良い夜を!
曲輪・流生
◎ 🐾お任せします。

あられさんとそのご主人様が満たされたのなら僕は嬉しいですので。
僕はまだ未熟者ですね。僕はもっと色んな人の願いを叶えたいのに。その為に何ができるのかわからないことがたくさんです。
竜の血で叶えられない願いも沢山ある…。

お星様が…降ってきました…!
すごいです。こんな風にお星様が降ってくるなんて…!綺麗ですね…。
そういえば流れ星にお願いすればお願いが叶うって聞いたことがあります…僕もお願いを…僕がお願いをしてもいいんでしょうか。
『良き人々に幸あれと』

聖獣さんたちも沢山。ふふ、あなたが僕に構ってくれるんですか?優しいですね。
え?僕と一緒にですか?
…光栄です!



●星空に笑って
 白猫と、白猫のご主人様である少女が満ち足りた別れを迎えたのを見て、曲輪・流生(廓の竜・f30714)はふうわりと笑顔を浮かべた。
「よかった、お二人が満たされたのなら、僕は嬉しいです」
 それは人の願いを叶え続けてきた、今もそうありたいと願う彼の心からの笑顔だった。
「ですが、僕はまだ未熟者ですね」
 沢山の人の願いを叶えたいのに、どうすればそれを為し得るのか、わからないことが沢山あるのだ。
「僕の……この竜の血で叶えられない願いも、沢山ある……」
 例え全部の血を使っても、失われた命を呼び戻すのは難しいだろう。
 もっと強くなれば、叶うのだろうか。
 下を向いてしまった顔が、誰かの歓声でふと上を向く。
「うわぁ……! お星様が降ってきました……!」
 滅びを免れた世界の夜空は深い藍色のようで、見上げたそこには満天の星々。
 そして、今にもここへ落ちてきそうなほどに星が流れていく。
「すごい、すごいです! こんな風にお星様が降ってくるなんて……!」
 思わず口を開けたまま、流生が星空を眺める。
「綺麗ですね……」
 そういえば、と流生は聞いた話を思い出す。
「流れ星にお願いすれば、お願いが叶うって聞いたことがあります……!」
 そう思いだして、願いを口にしようとして――口を噤んだ。
 僕もお願いを……僕がお願いをしてもいいのだろうかと、悩んでしまったのだ。
 でも、と再び夜空を見上げる。気が付けば聖獣が夜空を駆け巡るのが見えて、また口を開いて小さな歓声を零す。
「……聖なる夜」
 聖なる夜ならば、きっと僕が願いを口にしても、星に願っても、きっと。
「良き人々に幸あれ」
 精一杯の祈りを籠めて、流生が願う。願いが届いても、届かなくても、そうなればいいと流生が笑みを浮かべた時だった。
「わあ……!」
 まるで流生の願いが聞こえたかのように、一匹の聖獣が流生の元へ舞い降りる。
「ふふ、あなたが僕に構ってくれるんですか?」
 流生の言葉を肯定するかのように、白い羽を持つ美しい鳥が綺麗な声で鳴いた。
「優しいですね」
 そっと撫でれば絹の様に滑らかな手触りで、流生が何度も撫でると気持ち良さそうに頭を摺り寄せる。その仕草が可愛らしくて、流生が思わず笑みを零すと白い聖獣が流生の手に白い羽根を落とした。
「え? 僕と一緒にですか?」
 心に響くのは、力の欠片を受け取って欲しいという聖獣の心。
「……光栄です!」
 その言葉に、白い羽根は瞬く間に姿を変え、白い小鳥となって流生の肩へと止まる。
「可愛いです……!」
 チチチ、と鳴く小鳥に合わせ、聖獣も言祝ぐようにルルルと鳴くのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

宮前・紅

🐾お任せ(聖獣はお揃いでなくていいです)
戎崎・蒼(f04968)と行動
聖獣ってやつには初めて会ったけど、可愛いねぇ(どんな聖獣でも可愛いと言います)

聖夜を穏やかに過ごしたのも初めてな気がするね♪︎
俺たち暇さえあれば戦場にずっと立ってたから……暇人って訳じゃないけど戦場に居た方が、生きてる感覚っていうのかな?
『嗚呼、まだ死んでない』って思えるから

星も綺麗だし、聖獣も可愛いし本当に穏やかだなぁ〜ふふふ
蒼くんも今日くらいはゆっくりしたら?
俺達も一時休戦って事で……血が流れる聖夜ってなぁんか、面白味が無いよね〜
だったら聖夜を聖夜らしい過ごし方で楽しんだ方が良いと思わない?
(聖獣をなでなでする)


戎崎・蒼

🐾お任せ(聖獣は別々)
宮前・紅(f04970)と行動
聖夜か。あまり馴染みがないな…咎人殺しをやってた時は、特に聖夜を祝うことも無かったから
聖獣を見るのも初めてだけれど、成程、これは確かに"幻想的"だ

どんな聖獣が現れてくれるのかは分からないけれど、目の前に来てくれたなら触れ合ってみよう
そして聖獣と共に流星群を眺めて、ゆったりとした時間を享受する

僕はどうしても生き急いでしまう部分があるから、気を張りすぎてしまう
どうせ陸な死に方もしないだろうし、だからこそ何かに焦ったり感情的になったりするんだろうね

…柄にも無く愚痴を言ってしまったかな

急いては事を仕損じる然り、もう少しだけ歩を緩めてみようか



●聖なる夜は穏やかに
 見上げた空はどこまでも広がる星空で、宮前・紅(三姉妹の人形と罪人・f04970)が綺麗だねぇと天を仰ぐ。
「聖夜……クリスマスか」
 馴染みがないな、と紅の一歩後ろを歩いていた戎崎・蒼(暗愚の戦場兵器・f04968)がそう言うと、紅が流れ星を見つけた数を数えつつ、蒼に振り向いた。
「聖夜を穏やかに過ごすのも初めてな気がするね♪︎」
「咎人殺しをやってた時は、特に聖夜を祝うことも無かったからな」
 聖夜には縁遠いのだと、蒼は思う。
「俺たち、暇さえあれば戦場にずっと立ってたから」
 七個目、とみつけた流れ星の数を呟いて、紅が蒼に向かって笑う。
「暇人みたいに言うな」
「あはは、暇人ってわけじゃないけど」
 だって僕たち、戦場に居た方が生きてるって思えるから。まだ死んでないって、思えるから。
「ねえ?」
 言わなくてもわかるでしょう? と、紅がうっそりと笑い、蒼がそれに小さく頷いた。
「本当に、こういうのは慣れてない……」
 嫌なわけじゃない、ただしっくりくるかと言われれば少し違うような気もして、蒼は黙って空を見上げた。
 ひとつくらいこちらへ落ちてくるのではないかと思ってしまいそうになるほど、星が流れていく。この夜に相応しいように思える星空は二人の心を落ち着かせていくようで、知らぬ間に蒼もその表情を僅かに緩ませる。
「蒼くん、見て!」
 紅の弾むような声に、蒼が指さされた方角を見た。
「あれが聖獣ってやつなのかな?」
 聖獣を見るのは初めてだと顔を見合わせ、再び二人が空を仰ぐ。
 流れる星を喜ぶように、様々な種族の聖獣が空を飛んでいるのが見えた。
「鳥に馬に……本当に色々いるんだね♪」
 見慣れた姿形のものから、見慣れぬものまで。
「成程、これは確かに"幻想的"だ」
 蒼がぽつりと呟くと空を飛ぶ聖獣が二匹、群れを離れてこちらへ近づいてくるのが見えた。
 それはまるで蒼と紅の腕の中へと飛び込んでくるようで、思わず二人はそれぞれの両手で受け止める。
「うわ、何々!」
「っと」
 きゅう、と鳴くそれが二人の腕の中で顔を上げた。
「うさぎ?」
「それにしては大きいし毛足が長い、それに……額に宝石が付いてる」
 兎のホーランドロップのような垂れ耳に、ポメラニアンのようなふわふわの白い毛。額の宝石は赤と青で――。
「あはは、俺たちの名前にちなんだ色だ、可愛いねぇ」
 よしよし、とあられを撫でた時のような力加減で紅が聖獣を撫でると、気持ち良さげにきゅうきゅう、と鳴く。蒼も同じようにしてやると、こちらも満足そうにきゅうきゅう、と鳴いた。
「……うん、これは可愛いね」
 それに、とても人懐っこい。こんな、聖夜に縁遠いような僕たちにまで――と考えたところで、紅が蒼の名を呼ぶ。
「蒼くん」
 ん、と紅を見ると、聖獣を抱きかかえたまま草むらに腰を下ろしている。
「蒼くんも座ろうよ」
 促されるままに座って、膝の上に聖獣を乗せると、暫く落ち着く場所を探して青の膝上をうろうろしていた聖獣が、腰を落ち着けて座った。
「ほんと可愛いねぇ」
 あられも可愛かったけれど、これはまた違った可愛さがあると紅が聖獣を撫でる。
「星も綺麗だし、聖獣も可愛いし、本当に穏やかだなぁ~」
 ふふふ、と笑って紅が蒼を見た。
「こういう夜も悪くはないね」
 折角なのだから、聖獣と共に流星群を眺めて、ゆったりとした時間を過ごすのも悪くはない。今日は聖夜なんだから。
「そうそう、蒼くんも今日くらいはゆっくりしたら?」
 夜とはいえ、月の明かりと星々の瞬きで紅の顔はよく見える。その灰色の瞳が星を映して言う。
「俺達も一時休戦って事で……血が流れる聖夜ってなぁんか、面白味が無いよね〜」
 しかも互いの腕の中には聖獣がいるのだ、蒼が聖獣を撫でて同意するように小さく頷く。
「だったら、たまには聖夜を聖夜らしい過ごし方で楽しんだ方が良いと思わない?」
 ねえ? と、紅が聖獣を撫でると、可愛らしい返事が聞こえて紅が笑った。
 一時休戦、それもいいかと蒼は小さく息を吐く。
 僕はどうしても生き急いでしまう部分があるから、気を張りすぎるのだ。
 きっとそれは、紅も良く知っているはず。
「どうせ碌な死に方もしないだろうし、偶にはいいかもれないね」
 だからこそ、何かに焦ったり感情的になってしまうのだろうと、溜息交じりに呟けば紅がじっとこちらを見ているのが見えた。
「……柄にも無く愚痴を言ってしまったかな」
「偶にはいいんじゃない?」
 ちょっと珍しいけど、聖夜だし! と紅が言うと、聖獣達もきゅうきゅうと鳴いて飛び跳ねる。それから、二人に向けて額の宝石を光らせた。
「わ、綺麗に光るんだねぇ」
「これは……?」
 額の宝石の光が落ち着くと、二人の膝には兎の姿をした使い魔が在った。
「これを、僕たちに?」
 蒼が問うと、きゅう、と鳴いて聖獣が空へ舞う。
「ありがとうね! 可愛い、この子たちの額にも宝石が付いてるよ」
 紅が使い魔を撫でると、使い魔も聖獣の様に喜んできゅうと鳴いた。
「……ありがとう」
 急いては事を仕損じる然り、もう少しだけ歩を緩めてみようかと蒼が笑みを浮かべて使い魔を撫でた。
 穏やかな夜は、二人と二匹の使い魔を優しく包んで、きらきらと輝いて――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月水・輝命

🐾希望
お任せ
あられさん、もう少しだけ、ご一緒しませんか?
星降る夜、わたくしとお狐様、そしてあられさんと一緒に見たいですの……。

まぁ! 素敵な聖獣さん達ですわね。星と踊っているようですわ♪
神楽歌を歌いますの。この歌は、姫巫女様の次……2人目の持ち主の思い出の歌なのですわ。
ふふっ、歌につられて来ましたの?
あなたみたいな方が、これからも一緒にいて下さると嬉しいのですが……
……良いのですか? その、わたくしの中には……きっと、あなた方にとって害をなす存在がいますの……。わたくしも、傷つけたくありませんわ。
まぁ……お狐様まで。
では、もし良いのなら……どうかわたくしと、共に歩んで下さいますか?



●星降る夜に踊って
 にぁ、と鳴く白猫をどうしても放っておけなくて、月水・輝命(うつしうつすもの・f26153)は空を見上げたままのあられに声を掛ける。
「あられさん、もう少しだけ、ご一緒しませんか?」
『にぁ、にぁ、いいよ。いっしょにおほしさま、みる?』
「ええ、星降る夜、わたくしとお狐様、そしてあられさんと一緒に見たいですの……」
 ちりん、と嬉しそうな鈴の音を響かせて、白猫が輝命の隣へやってきた。
「よろしければ、お膝にきませんか?」
『にぁ、いいの?』
「ええ、もちろんです」
 とんっと軽いステップで白猫が輝命の膝に乗って、共に空を見上げる。
 広がるのは、星、星、星。
 強い瞬きを放つ星、小さいながらも美しい輝きを放つ星、全てが見る者の目を楽しませているかのよう。
 そして流れる輝きは、ひとつ、ふたつ、みっつ……次第にどこを見ても流れ星が見えるほど、正しく星が降ってくるという表現が正しい――そんな夜空だった。
「綺麗ですわ……お狐様も、そう思われますか?」
 そうじゃのう、と輝命の内でお狐様の声が響いて、輝命が笑みを零す。
『にぁ、見て、おねえさん』
「まぁ……!」
 星降る夜を舞うのは数多の聖獣、その姿はまるで――。
「星と踊っているようですわ♪」
 くるくると、まるでワルツでも踊っているようで、輝命は思わず歌を口ずさむ。
『にぃ、にぃ、きれいなおうた、なんのおうた?』
「これは神楽歌といって、姫巫女様の次……二人目の持ち主の思い出の歌なのですわ」
 奏でる旋律はまるで琴の音のような、雅やかなもの。それに引き寄せられたかのように、空を泳ぐように飛んでいた聖獣の一匹が輝命の元へ舞い降りた。
「ふふっ、歌につられて来ましたの?」
 白い毛並みが美しい、虎の聖獣。それがまるであられのように、輝命に向けて頭を摺り寄せる。
『にぁ、おっきいねこさん』
「猫ではなく虎ですけれど、そうかもしれないですわ」
 見た目に似合わず、大人しい気性なのだろう。ぐるる、と喉を鳴らしている。けれど、その聖獣としての力は確かなものなのだろう、悪しきものを引き裂く爪も牙も鋭く大きい。
「あなたみたいな方が、これからも一緒にいて下さると嬉しいのですが……」
 そう、輝命が零すと聖獣がぐるる、と鳴いて輝命へ光る力の欠片を落とした。
「……良いのですか?  その、わたくしの中には……きっと、あなた方にとって害をなす存在がいますの……」
 それはかつてこの身に引き受けた呪いと怨霊。
 躊躇う輝命に、あられがにぃと鳴く。
『おねえちゃんは、あられにいたいことしなかったよ?』
「それはもちろん……わたくしも、傷つけたくありませんわ」
 ならば、よいではないのかのう? と輝命の身の内でお狐様が囁く。
「まぁ……お狐様まで」
 受け取れとばかりに、聖獣が鼻先で光る欠片を押しやる。
「では、もし良いのなら……どうかわたくしと、共に歩んで下さいますか?」
 その言葉を了承するように、欠片が強い光りを放ち――小さな仔虎が輝命の胸に飛び込んだのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒鵺・瑞樹
💎お任せ
WIZ

喪失感。でもそれ以上の記憶、想い出。
そうだな。それがあれば俺は。

寒い季節は空気が澄むのか星がよく見えるけど、カクリヨでもそうなのかな。
見事な流星群だ。
寒い季節は外に長居しないからなぁ。星見酒はうっかり寝入った時が怖いし。
使い魔は気になるけど、既に伽羅と陸奥がいるしこれ以上は世話しきれるか分かんないしなぁ。
それに…この先まだ、俺が健在である保証もないし。
だから俺にというより伽羅と陸奥、この子たちに守りの加護が欲しい。
同じ戦場に行っても不要な怪我をしないように、いつか俺がいなくなっても大丈夫なように。
もっと成長すれば俺なんかよりずっと強くなるだろうけど、でも今はまだ、だから。



●静かな夜に寄り添って
 白猫とその主人の別れを見守っていた黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)は、己の相棒とも呼べる伽羅と陸奥を傍らに夜空を眺めていた。
「喪失感……でも、それ以上の記憶、想い出」
 白猫のあられが、二度の別れを受け入れられたのは、それが心に残ったから。
「そうだな」
 それがあれば、俺は、俺も――。
 黙ってしまった瑞樹を心配するかのように、伽羅と陸奥が瑞樹へとその頭を摺り寄せる。
「伽羅、陸奥」
 まだ幼い子どもともいえる精霊の仔と、水神の竜を瑞樹が優しく撫でて、再び空を見上げた。
「お前たちも見てごらん、見事な流星群だ」
 瞬きする間にも流れていく星を指さして、共に星が降る空を楽しむ。寒い季節は空気が澄んでいるのか、星がよく見える。これはカクリヨファンタズムでもそうなのだろうか。どの世界でもそういう部分は変わらないのかもしれないな、と瑞樹が小さく笑った。
「寒くはないかな?」
 寒い季節はあまり外に長居することがないから、陸奥も伽羅も寒がっていないかと瑞樹が声を掛けると、陸奥は瑞樹の膝を陣取っているし、伽羅は水神の竜ということもあって寒さには強そうに見えた。
「星見酒も乙なものだけど、うっかり寝入った時が怖いしなぁ」
 具体的に言えば、起きた時に体調を崩していると色々まずい。帰ったら燗でも付けようかと思っていると、陸奥が小さく吼えた。
「どうした?」
 視線を陸奥と伽羅にやり、もう一度空を見上げれば――。
「聖獣か……! 安心していい、彼らは悪いものではないよ」
 むしろ、加護をくれるという聖なる獣だ。
「そういえば、力の欠片を渡してくれるんだっけ」
 使い魔は気になるけれど、既に自分には伽羅と陸奥がいる。これ以上世話をしきれるか少し自信がないな、と二匹を見遣る。
 それに、この先――俺がずっと健在である保証もない。ずっと一緒にいれたらいいけれど、この身は不確かで。
「わっ、こら、どうした?」
 瑞樹の心中を察したのか、二匹が甘えるように瑞樹に擦り寄る。
「……大丈夫だよ」
 今は、まだ。
 じゃれあう姿が目に入ったのだろうか、瑞樹たちの前に優美な尾を持つ狐の姿をした聖獣が舞い降りた。
「やあ、綺麗な聖獣だ」
 慈しむような瞳で、聖獣が陸奥や伽羅を挨拶を交わし、最後に瑞樹を見つめる。まるで、望みはないかと問うように。
「……俺にではなく、伽羅と陸奥、この子たちに守りの加護が欲しい」
 同じ戦場に立っても、不要な怪我をしないように。
 いつか、俺がいなくなってしまっても、大丈夫なように。
「もっと成長すれば俺なんかよりずっと強くなるだろうけど……」
 今はまだ、庇護が必要な時期だから。
 瑞樹の願いを聞き届けたとばかりに、狐の尾に青白い火が灯る。それはすぐに一つの石に姿を変えて、瑞樹の手の平に落ちてきた。
「綺麗な水色の石」
 大きめのそれは、ぱきんと音を立てて半分に割れる。
「これを、伽羅と陸奥に? ありがとう」
 頷いた狐の聖獣は、こん、と一声鳴いてまた空へと駆けあがる。
 二つになった石を握り締め、瑞樹は伽羅と陸奥を抱き寄せた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

グレイ・アイビー
聖獣達の話を聞いて楽しみにしていました
ぼくにも来てくれるでしょうか?

筋肉の陰影がはっきりした、とてつもなく逞しい馬が現れれば、目を丸くして
その表情は凛々しくて、立派な角や翼もあるってことは…普通の馬じゃねぇですよね

いや、ぼくは馬も大好きですよ?
ただ、さっきまであられちゃんと触れ合っていたせいか、腕にすっぽり収まるようなふわふわの可愛い聖獣を想像してたんですよ

…って、しょんぼりさせちまったならすみません!
お前が悪いわけじゃねぇですから!
とびっきりの美形が来たもんで、吃驚しただけですよ
首の辺りを撫でながら機嫌を取って

もし良ければ一緒に星空を眺めませんか?
この奇跡を一人で見るのは勿体ないですから



●星の下、触れる温もり
 ちりん、と鳴った鈴の音に、グレイ・アイビー(寂しがりやの怪物・f24892)が空を見上げる。
「……これは見事な星空です」
 今までにも星空を眺めたことはあれど、こんなに沢山の星が瞬いて、幾つもの星が流れている夜空を見上げたことがあっただろうか。
 しかも、その空を聖獣が飛び回っている景色なんて――。
 星空を見上げる琥珀色の瞳が、子どもの様に輝いている。
「聖獣……ぼくにも来てくれるでしょうか?」
 話を聞いた時から楽しみにしていたのだ、その姿を目にしただけでグレイの心は期待に膨らむばかり。
「どのような聖獣が来てくれるんでしょうか、やっぱりふわふわで、もこもこな――」
 そう言い掛けたグレイの耳に、気高さを感じるような馬の嘶きが聞こえる。
「そう、馬のような、え、馬?」
 ふわふわでもこもこな馬とかいましたっけ、と思考が混じったグレイの前に舞い降りたのは、筋肉の陰影もはっきりとしたとても……とても逞しい馬の姿をした聖獣だった。
 その姿に目をぱちくりとさせて、グレイがまじまじと聖獣を見る。
「表情は凛々しく、立派な角や翼もある……ってことは、普通の馬じゃねぇですよね」
 それに応えるように、ヒヒンと聖獣が嘶いた。
「ええと……」
 角はあるけれど翼もある、ペガサスと呼ばれる伝説の幻獣が一番それっぽいだろうか。
 馬は好きだ、とグレイは思う。思うのだけれど、そう、正直に言ってしまえば……思っていたのと違う、だ。
「さっきまであられちゃんと触れ合っていたせいか、腕にすっぽり収まるような……こう、ふわふわの可愛い聖獣を想像してたんですよ」
 思わず、考えていたことが口から零れだす。それにしゅんとしてしまったのは聖獣の方で、項垂れたように首を下げていく。
「……って、しょんぼりさせちまったならすみません! お前が悪いわけじゃねぇですから!」
 慌てて聖獣の首元を撫でて、囁くように弁解を試みる。
「とびっきりの美形が来たもんで、吃驚しただけですよ」
 本当に? と見上げてくるつぶらな瞳に頷いて、何度も首の辺りを撫でる手を往復させると、聖獣も機嫌を直したようにグレイへと鼻先を向けた。
 機嫌が直っただろうかと安堵して微笑むと、グレイが聖獣の頬を両手で包み込むようにして視線を合わす。
「もし良ければ一緒に星空を眺めませんか? この奇跡を一人で見るのは勿体ないですから」
 その言葉に答えるように鳴くと聖獣がしゃがむように座り、グレイがその横に座る。
 そうして、グレイは聖獣と共に星降る夜を思う存分楽しんだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルクル・クルルク
🐾

あられさんと、あられさんの大好きな人との思い出が詰まった世界が滅ばなくて良かったです。
……わぁ、流れ星!

まずグリモア猟兵の雀くんに、無事に事件が解決したことをお伝えしておきますね。
そう言えば、聖獣に会えるとお聞きしたのですが、
ルクルも是非お会いしてみたいです。
あられさんみたいな猫さんもふわふわで可愛いですし、
大きな聖獣さんもカッコイイですし、
空を飛べる子もときめきますし、
雀くんみたいに綺麗な色合いの子も素敵だと思うのです。

どんな聖獣さんに会えても、仲良く楽しく遊びます。
使い魔さんも、これからよろしくお願いしますね。
むむ、まずはお名前を考えねば。


※ 聖獣と使い魔の詳細はMS様にお任せします。



●煌めく夜に
 ピンク色をしたうさぎの耳をぴょこりぴょこりと、ご機嫌に動かしながらルクル・クルルク(時計ウサギの死霊術士・f31003)は星空を見上げる。
「あられさんと、あられさんの大好きな人との思い出が詰まった世界が滅ばなくて良かったです」
 本当に良かった、と心の底から微笑んで、ルクルは星の流れる空に感嘆の声を上げた。
「……わぁ、流れ星!」
 幾つもの星が、まるで零れ落ちるかのように流れていく。
「綺麗……」
 いつまでも眺めていられそうな光景に溜息を零して、それからふと見た覚えのある髪色をした彼を見つけて、そっと声を掛けた。
「こんばんは、雀くん」
「こんばんは! ええと」
「ルクルです、ルクル・クルルク」
「ルクル嬢、俺はねぇ……って名前知ってるよね」
 そう言いつつ、雀は花綱・雀だよ、と名を伝える。それから少しの間隣に並んで、流れる星を眺めながら事件は解決したとルクルが伝える。
「お疲れ様、ありがとうね! 皆のお陰だよ」
 雀が満面の笑みを浮かべてそう言うと、ルクルも白猫がもう寂しくなければいいと呟いて、ふうわりと笑みを浮かべた。
「そう言えば、聖獣に会えるとお聞きしたのですが、ルクルも是非お会いしてみたいです」
「俺も! あ、あれじゃない?」
 雀が指さした先には、瞬く星と流れていく星、それから――。
「わぁ……!」
 どこからともなく現れ、夜空を泳ぐように駆ける聖獣の群れ。
「すごい、すごいです!」
「いっぱいいるね、ルクル嬢はどんな聖獣に会いたいの?」
 雀の問い掛けに、ルクルが真剣な顔をして考える。
「ええと、あられさんみたいな猫さんも、ふわふわで可愛いですし」
「猫も可愛いよね!」
「大きな聖獣さんもカッコイイですし」
「大きいのに全身でもふってしにいくのもいいよねぇ」
 うんうん、と雀が頷く。
「空を飛べる子もときめきますし、雀くんみたいに綺麗な色合いの子も素敵だと思うのです!」
「えへへ、ありがと! ルクル嬢みたいにふわふわした子も可愛いと思うよ!」
 二人で顔を見合わせて笑うと、そろそろ行くねと雀が手を振って違う方へと走っていく。それを見送って、ルクルは星降る夜空を眺めた。
「どうか、ルクルのところへも」
 きてくださいと、願いを籠めて。
「……!」
 そんな健気な願いを聞き届け、ルクルのところへやってきたのは――。
「ふわふわ真っ白なうさぎさんです……!」
 瞳はピンク色で、背には翼も生えているから正確には兎じゃないのかもしれないけれど、その手触りはふわふわで垂れた耳もとっても可愛らしい。
 そんな可愛らしい聖獣を思う存分撫でてもふって、一緒に流れる星を楽しんだ。
 別れ際、聖獣はルクルの頬に鼻先をくっ付けて、輝く力の欠片を彼女の手に落とす。それは瞬く間に真っ白な可愛らしい兎へと姿を変えて、ルクルの元に残った。
「ありがとうございます!」
 大事にしますね、と空へ戻った聖獣にお礼を言って、両手の上にちょこんと座った兎の使い魔に視線を落とす。
「使い魔さんも、これからよろしくお願いしますね」
 きゅう、と鳴いて返事をした使い魔を撫でて、名前を考えなくてはと嬉しそうに空を見上げるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ミルク・ティー
💎現れる聖獣・石の加護や色はお任せ
あれが、聖獣様……。
聖獣様は力の欠片を使い魔としてくれるんだって。
……どうしたのユニコ。ずいぶん機嫌が悪い。
こら、頭を押しつけてグイグイってしない。
私にはニャハトにユニコ、ララがいるから使い魔は大丈夫、かな。
加護の石をもらおうか。
ヒヒン!って……随分元気な返事ね。石が好き、なの?

聖獣様、加護の石、ありがとう、ございます。
聖獣様もよい夜を。

ん、ユニコ、物足りないって顔してる。
よし。ニャハトはユニコの鞄に入って……顔を出すのはいいけど身を乗り出して落ちないでね。
ララは肩に捕まって。
大丈夫?……それならいこうか。星夜を駆けよう。



●星夜を駆ける
 見上げた夜空には宝石箱をひっくり返したような煌きを讃えた星々が輝いていて、ミルク・ティー(想いを力に・f00378)は知らぬうちに溜息を零していた。
 そんな彼女の隣に居るのはユニコーンのユニコ、猫のニャハトとドラゴンランスでもある小竜のララだ。
「綺麗だね」
 次々に流れ落ちていく星を眺め、ミルクが呟くように言うと三匹が同意するようにその身をミルクに摺り寄せた。
 やがて流れる星が多くなっていくにつれ、夜空には聖獣達が増えていく。
「あれが聖獣様……」
 その種類は多種多様で、ユニコのような馬の姿をしたものから鳥や龍、獣の姿をしたものとミルクの目を楽しませていた。
「そういえば、聖獣様は力の欠片を使い魔としてくれるんだって」
 思い出したように呟いたミルクに、ユニコがブルルと嘶くと自分達がいるでしょうとばかりにグイグイと頭を押し付ける。
「……どうしたのユニコ。ずいぶん機嫌が悪い」
 そう声を掛けても、ユニコの不機嫌は直らず余計に頭を押し付けてくるので、ミルクがどうどうと頭を撫でた。
「こら、頭を押しつけてグイグイってしない」
 ユニコはじぃっとミルクの瞳を見つめるけれど、その意図はどうにもミルクには伝わらないようで元気のない鳴き声で抗議する。そんなユニコを変わらず撫でながら、使い魔……と考えてユニコやニャハト、ララを見る。
「でも、そうだね……私にはニャハトにユニコ、ララがいるから使い魔は大丈夫、かな」
 加護の石を貰った方が良さそうだとミルクが言うと、ヒヒン! とさっきまで元気が無さそうにしていたユニコが鳴いた。
「……随分元気な返事ね。石が好き、なの?」
 見当違いの言葉だったけれど、新しい使い魔が増えないならばいいとばかりに、ユニコは嬉しそうに星空に向かって嘶いた。
 大人しく聞いていたニャハトもララも、なんとく嬉しそうにミルクに擦り寄るので、この子達ってそんなに石が好きだったのかしら? とミルクが首を傾げた時だった。
 大きく美しい羽根を広げた孔雀のような聖獣が、ミルクの元に舞い降りたのである。
「綺麗、ね」
 美しい宝石のような色をした聖獣に手を伸ばせば、人懐っこく頭を摺り寄せてくれてミルクが何度か優しく撫でた。
「思ったよりも、ふわふわ……」
 しっとりとした、艶のある光沢を放つ聖獣の身体はミルクの想像していた以上に手触りが良くて、たっぷり堪能してから手を離す。
「え?」
 その手の平に、聖獣が軽く嘴で触れると、いつの間にかそこには綺麗な緑と蒼は混じったような輝く石が載せられていた。
「聖獣様、加護の石、ありがとう、ございます」
 聖獣様もよい夜を――再び空へ舞い戻る聖獣へそう声を掛け、ミルクは手の中の石を落とさぬ場所へと仕舞いこんだ。
「ん、ユニコ、物足りないって顔してる」
 空を舞う聖獣たちを見て、駆け巡りたくなったようだ。
「よし。ニャハトはユニコの鞄に入って……顔を出すのはいいけど身を乗り出して落ちないでね」
 ララは肩に掴まって、と言えばお利巧なララがミルクの肩に掴まる。それを確認して、ミルクもユニコに跨った。
「皆、大丈夫? うん、それならいこうか」
 星夜を駆けよう。
 一際高く嘶いたユニコが翼をはためかせ、舞い上がる。
 そうして、聖獣たちと共に思う存分星降る夜を楽しんだのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

スティーナ・フキハル
🐾◎
華蘭(f30198)が合流 口調はミエリ

ふぅ。どうにか上手くいったにゃ……こほん。
お姉ちゃん聞こえてる? 大丈夫?
(左手がひとりでにサムズアップする)
……出てこられはしないけど意識は戻ったって感じかなこれは。

来ましたね華蘭。私が出ているのは……まぁ、色々あって。
そろそろだと思ってました、貴女も、聖獣さんも。

はいどうぞ。と降りてきた狸の使い魔さんを華蘭に抱っこさせます。
お仲間と離ればなれで寂しかったでしょう?
私達からのプレゼントです、大事にしてあげてください。

え、私達に石を? 考えることは一緒ですか、うふふ。

さて、少しあられさんと遊んできますか。
もう猫の物真似はしませんにゃ! ……あっ。


隠神・華蘭
💎◎
スティーナ様(f30415)と合流

スティーナ様ご無事でしょうか、あの方精神攻撃には弱そうですし

おっとあちらにいらっしゃるのは、とミエリ様?
色々あったのなら仕方がないのです

早速聖獣様が降りてこられました! わたくしの所には白い兎さんですね
兎さん兎さん、ちょいと石が二つ欲しいのですが構いませんか?

ミエリ様わたくしに使い魔を!? ありがとうございます!
大事にいたしますね!
ではお返しといってはなんですが、こちらをどうぞです
方解石。船乗りが道しるべに使ったという石です
きっとお義姉様のもとに導いてくれます

あと一つは雀様に差し上げるのです。こういう機会を教えてくださったお礼ですよ
石言葉は商売繁盛です!



●星降る夜に待ち合わせ
 全部終わった、とほっと息を吐いて、今は妹であるミエリの人格が前面に出ているスティーナ・フキハル(羅刹の正義の味方・f30415)が空を見上げる。
「ふぅ。どうにか上手くいったにゃ……こほん」
 白猫と遊んでいる時に、つい猫の真似をしたのが尾を引いているのか、ミエリは誰も聞いていなかっただろうかと辺りを見回してから、星空に向かって息を吐いてそっと囁く。
「お姉ちゃん聞こえてる? 大丈夫?」
 引っ込んでしまった姉に語り掛ければ、左手がひとりでに親指を立ててミエリにアピールをした。
「……出てこられはしないけど、意識は戻ったって感じかなこれは」
 全く反応が無かったことに比べれば、大分良くなっていると言っていいだろう。このまま何事もなければ、明日の朝には何食わぬ顔でスティーナとして目を覚ましそうだとミエリが小さく頷く。
 ふと足音を感じてミエリがそちらを向くと、よく知った顔が歩いてくるのが見えた。
「スティーナ様ご無事でしょうか、あの方精神攻撃には弱そうですし……」
 心配ですね、と呟きながらやってきたのは隠神・華蘭(八百八の末席・f30198)で、なんだかんだあってスティーナとミエリに懐いている狸の妖怪だ。
「うーん、やはりわたくしも一緒に来るべきでしたか……っと、あちらにいらっしゃるのは……ミエリ様?」
 ミエリ様ー! と華蘭が手を振って駆け寄ると、ミエリが軽く右手を上げて応える。
「来ましたね華蘭。そろそろだと思ってました」
「はい! あの、スティーナ様は……?」
 おずおずと訊ねた華蘭に、ミエリがほんの少しだけ目を伏せ、それから真っ直ぐに華蘭を見た。
「私が出ているのは……まぁ、色々あって」
 色々は話すと長いので、とミエリが言うと華蘭も心得たもの。
「色々あったのなら仕方がないのです」
 それだけで納得し、星空を見上げる。
「綺麗ですね、こんなに綺麗な星空は中々ないのです」
「ええ、そうですね。私も、こんなに星が流れるのは見たことがないかと」
 二人して見上げた空は、幾つもの星が降り注ぐ満天の空。
 あっちで流れた、こっちで流れたと華蘭があっちこっちを指さして、楽しそうに笑っている。
「どこを見ても流れ星が見えますね」
 お姉ちゃんも、見えてる? と、心の中でミエリがスティーナに問い掛ける。
 見えてるわよ、と聞こえた気がして、ミエリが唇の右端を持ち上げた。
「ミエリ様、見てください、ほら!」
 華蘭の少し興奮したような声に、指さす方を見上げれば星空を悠々と飛び回る聖獣の姿が見えた。
 それは徐々に数を増やし、カクリヨファンタズムのあらゆる場所を飛び回っている。
「沢山いますね!」
「こちらに向かってくる聖獣さんがいます」
 ふわり、と引き合うようにミエリの元へ舞い下りてきたのは狸の姿をした聖獣で、ふんわりとした丸いボディにふかふかの毛並みを弾ませてミエリの腕の中へと着地した。
「……狸も中々に可愛いものですね」
「そうでしょう! 狸は可愛いのです!」
 華蘭の声に応えるように、狸の聖獣がきゅん! と鳴いた。
「おっと、わたくしのところには……白い兎さんですね」
 ふわふわ、まるでタンポポの綿毛のように、白い兎が華蘭の腕の中へと舞い降りる。
「ううん、兎もとっても可愛らしいです」
 ふわふわの毛並みを夢中で撫でて、華蘭が満足気に笑っている。
「今の内です」
 華蘭に聞こえぬように呟いて、ミエリが腕の中の聖獣に何やら囁くと、心得たとばかりに聖獣が頷く。くるんと器用にミエリの腕の中でとんぼ返りを決めるとそのまま宙に浮いて、キラキラ光る何かが腕の中に落とされた。
「ふふ、可愛らしい……ありがとうございます」
 腕の中に残された小さな狸の使い魔に微笑んで、ミエリが空へと戻っていく聖獣にお礼を言うと、まだ兎のふわもこに夢中の華蘭へと向き直った。
「どうかしたんですか? ミエリ様」
「はい、どうぞ」
 腕の中の使い魔を、ミエリが華蘭の腕へと寄越す。
「お仲間と離ればなれで寂しかったでしょう?」
「ミエリ様……! わたくしに使い魔を!?」
「私達からのプレゼントです、大事にしてあげてください」
「ありがとうございます! 大事にいたしますね!」
 狸の使い魔を頭に乗せて、華蘭が何やら兎の聖獣へと話し掛ける。
「兎さん、兎さん、ちょいと石が……」
 ごにょごにょと、ミエリに聞こえぬようにと囁けば、ふわもこな聖獣が仕方ないというようにお耳をぴこぴこさせるとキラキラと輝く石を華蘭の手の中へと落とし、星空へと戻っていった。
「ミエリ様!」
「どうしました?」
「お返しといってはなんですが、こちらをどうぞです」
 そう言って華蘭が渡したのは、ぱっと見は水晶にも見える、中に虹の煌きを讃えた透明な石だった。
「え、私達に石を?」
「方解石といって、船乗りが道しるべに使ったという石です」
 互いへの贈り物、考えることは一緒ですかとミエリが笑う。
「……きっとお義姉様のもとに導いてくれます」
「華蘭……」
 ありがとう、と石を握り締めてミエリが華蘭に微笑んだ。
「さて、私は少しあられさんと遊んできますか。もう猫の物真似はしませんにゃ!」
 あっ、という顔をしたミエリを微笑ましいものを見る目で見つめると、華蘭はいってらっしゃいませとミエリを送り出し、自分はきょろきょろと辺りを見回すと目当ての人物を見つけて歩き出す。
「ではわたしくしは雀様のところへ!」
 もう一つ、手の中にある方解石を雀へ渡すのだ。
「こういう機会を教えてくださったお礼です」
 石言葉は商売繁盛、雀様にぴったりです! と、華蘭が駆け出した。
 雀の驚いたような、はにかむような笑顔に出会うまで、あともう少し。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

待鳥・鎬
🐾
お友達いっぱい出来たみたいだね
向日葵、似合ってるよ

すごい…こんな流星群見たことない
あられを愛でつつ見上げた星空から降りてきたのは…
…大きな白蛇さん?
いや、何かもふもふしてるし翼もあるし、どちらかというとケツァルコアトルぽい
(うずうず)あの、とりあえず、もふって良いですか?

もふりながらふと我に返ったら、何時の間にか傍らの白い子が小さなケツァさんになってた
君、僕の連れになってくれるの?
蛇は医薬学の象徴にも描かれてる
僕の心が君を呼んだのかな(つんつん)
まぁ、どちらかと言えば普通の緑蛇のイメージだったけど……ああ、冗談だよ拗ねないで!(笑)


こっちにいたんだね、あられ
今日はまだまだいっぱい遊ぼう♪



●聖なる夜に清らなる
 白猫の首飾りに咲いた太陽の花を眩し気に眺め、待鳥・鎬(町の便利屋さん・f25865)があられに友達ができたことを喜んで笑う。それから、あられの横にしゃがんで視線を合わせた。
「向日葵、似合ってるよ」
『にぁ、にぁ、ありがとう!』
 ちりん、と鳴る鈴の横で、小さな向日葵の花が誇らし気に揺れている。
『にぃ、みて!』
 あられの声に空を見上げれば、広がる星空に一筋の光り。それがどんどんと増えて、どこを見ても流れる星が見えた。
「すごい……こんな流星群見たことない」
『にぃ、ごしゅじんさまのいったとおりだね、すごいね、すごい』
 白猫が流れる星に向け、前足をちょいちょいと振り被る。それは流れ星を捉えようとする動きで、鎬はその可愛さに頬を緩ませながら、あられを撫でた。
「おや……星に紛れて何か」
 何かが飛んでいる、と思った時には流れ星に招かれたように様々な種類の聖獣が空を飛び交っていた。
『にぁ、にぁ、せいじゅう!』
 わあ、とテンションが上がったあられがぴょんぴょんと跳び跳ねる。
「これは壮観だね、って……何か来る」
 ぴょんっと飛び跳ねる白猫も動きを止めて空を見上げると、た鎬の元へ何か白い――。
「……大きな白蛇さん?」
 しかし近付いて来るにつれて、ただの白蛇ではないと気付く。
「なんだかもふもふしているし、翼もあるし……どちらかというと、ケツァルコアトルっぽい?」
 目の前までやってきた聖獣にそう問うと、肯定でも否定でもないような仕草で応える。
「もふもふ……」
 真っ白で綺麗なもふもふとした翼蛇の聖獣に、手をもじもじさせつつ鎬が思い切ったように言う。
「あの、とりあえず、もふって良いですか?」
 目の前にもふもふがあるのならば、それはもふらねばならないだろう。
 そんな強い意思を感じる鎬の瞳を真っ直ぐに見据え、聖獣は鷹揚に頷いた。
「ああ、本当にいいもふもふ……!」
 両手で思う存分もふもふっと手触りを楽しみ、ちょっと顔を埋めてみたりして、しっかりと堪能して手を離す。
「あれ?」
 何時の間にか、傍らにいたはずの白猫が小さなケツァルコアトル――白い翼蛇の使い魔になっていた。
 ふわりと浮いて、鎬の腕に巻き付いて、翼蛇が鎬の目を見上げてくる。
「君、僕の連れになってくれるの?」
 頷くように頭を揺らした翼蛇に、鎬が笑う。
「蛇は医薬学の象徴にも描かれてるからね。僕の心が君を呼んだのかな?」
 指先でつんつん、と翼蛇の額をつつくと嬉しそうに揺れた。
「まぁ、どちらかと言えば普通の緑蛇のイメージだったけど……」
 白いとダメ? と言うように、翼蛇が項垂れる。
「ああ、冗談だよ拗ねないで!」
 そう言って慌てて額を撫でると、懐くようにしゅるりと肩まで巻き付いた。
「ありがとう、大事にするよ」
 聖獣へそう告げると、翼蛇の聖獣はまた星空へと戻っていく。
『にぁ、よかったねぇ、おねえちゃん』
「あ、そこにいたんだね、あられ」
 今日はまだまだいっぱい遊ぼう、よかったらこの子とも一緒に、と鎬が言うと、白猫が嬉しそうな声でにぁ、と鳴いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

豊水・晶
🐾
ふと空を見上げると、星空を駆ける聖獣たちが見えました。何とはなしにその聖獣達を眺めていると、その中に大狼と思われる聖獣が見えました。「あの子、もふもふのしがいがありそうですね」なんて、思っているとなんとこちらに近づいてきてくれるではありませんか。そばに寄り「触れてもいいですか?」と聞くと許可が出たので、大狼のおなかのところに腰を下ろしました。もふもふ天国でした。さすが聖獣。時間いっぱいまで過ごすと最後に同じ姿の使い魔をいただきました。あなたは抱き枕確定です。そして、今回のことを振り返りながら帰路につきました。
追記アドリブとか絡みとか歓迎です。



●星空に満ちて溢れて
 滅びの危機から救われたカクリヨファンタズムの空を、何かに誘われるように豊水・晶(歪み揺れる水鏡・f31057)が見上げる。
「なんて綺麗なんでしょう……!」
 どこまでも広がる夜空に、数え切れない程の星が見渡す限り輝いて。
「流れ星まで……」
 幾筋も流れていくそれは、見つけようとしなくても晶の視界に飛び込んでくるよう。星降る夜とはこんなにも幻想的なのだと、晶は何度目になるかわからない溜息を零した。
 いつしか流れる星に導かれたかのように聖獣たちが夜空を駆けるのが見えて、晶が息をのむ。その種類は数え切れぬほどで、ぱっと目に映るだけでも天馬や鳥、兎の姿をした聖獣が見えた。
 その中でも、特に晶の目を惹いたのは狼の姿をした聖獣だ。
 体躯も大きく、群れの長のような大狼。
「あの子、もふもふのしがいがありそうですね」
 自分の身長よりも大きな狼にもふっと抱き着いたなら、それはきっと素晴らしく気持ちいいのではないか――。
「……あら?」
 そんなことを考えていたせいだろうか、大狼の聖獣と目が合って、そのまま晶の前へと舞い降りたのだ。
 威厳のある雰囲気だけれど、晶を見る瞳は優しい光りを湛えている。恐れる必要はないと言っているようで、晶はそっと傍へと近寄る。
「触れてもいいですか?」
 その言葉を正しく理解した聖獣は、こくりと頷く。触れることを許されたと、晶は聖獣に思い切って抱き着いてみる。
「もふもふです……!」
 温かくて、どことなく花の匂いがして、顔を埋めてしまいたくなるほどだ。
「きゃ……っ」
 晶がぎゅうっと抱き着いていると、聖獣が晶を引っ付けたままごろんと横になる。それはお腹の上に乗るような形になって、晶は全身で聖獣のふっかふかでもっふもふな感触を堪能したのだった。
「もふもふ天国です、さすが聖獣……」
 ずっと一緒にいたいくらいです、と呟くと晶の周囲に青く輝く光りが現れる。
「これは?」
 晶が起き上がると、聖獣がゆっくりと起き上がり地面に立つ。すると晶の前で光りが集まって――。
「光りが、狼に……!」
 蒼い光りは姿を変え、まるで聖獣のミニチュアバージョンのような使い魔へと姿を変える。ミニチュアと言っても、大型犬くらいの大きさはあるだろうか。
 これは抱き枕確定です、と晶が心に決めると、聖獣が地を蹴って夜空へと駆け上がる。
「ありがとう、この子はずっと大切にします」
 使い魔の頭を撫でて、聖獣に向けて晶がそう告げると、返事の様に遠吠えが響く。
「帰ったら、あなたに名前を付けましょう」
 どんな名前がいいだろうか。考える時間はたっぷりあるのだ、いい名前を付けて上げなくては。そう、あの白猫とご主人様の様に、良い関係が気付けるように――。
 そう考えながら、晶は使い魔を連れて帰る為に歩き出したのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

スピーリ・ウルプタス
◎💎※石の様相、色、加護、お任せ

星が瞬き
傍に一頭、全身真っ白な鵺のような聖獣
※変人は鵺自体は知らず。不可思議生体であっても等しく生物が好き
「…これ、は――今晩は。素敵な夜ですね」
驚くもすぐに微笑んで聖獣様へ一礼
やっと星たちに気付き感嘆

白猫様を怖がらせぬよう、少し離れてUC発動
「ダイ様の方が寒がりさんと思われるので…今宵はご一緒していただけますか、フジ様」
召喚蛇と聖獣様に挟まれれば感極まれり
※ビーストマスターたる己が力に日々密やかに葛藤ある心中
 自分が操るで無く、獣がその意で牙を剥こうが懐こうがどちらも尊重したい
 ゆえに。今この瞬間超幸せ。

加護石
「生涯の宝物に致します」
モフ胴体に抱きつく40台



●聖なる夜に、満ち足りて
 白猫とそのご主人様の別れを見届けて、スピーリ・ウルプタス(柔和なヤドリ変態ガミ・f29171)は小さな笑みを浮かべた。
「月並みですが、どうか幸せに」
 別れは出会いにも繋がるもの。それを幾度となく出会いと別れを繰り返してきたスピーリは、よく知っているのだ。
「そういえば……今夜は聖夜でしたか」
 星が降る、と言っていましたね、とスピーリが独り言ちる。
 本当に落ちてきたら、多分無事では済まないのだが、それはそれで良い経験なのではないだろうか。圧死? 圧死に近い……いや、それだと恐らく痛みを感じる前に死んでしまう。それではちょっと、いやかなり面白くないですね……とまで考えた辺りで、自分の傍に何かがいることに気が付いた。
「あなた様は……?」
 隕石について考えている間に、どうやら聖獣が空を飛び交っていたようで。そして、そのうちの一匹がいつの間にかスピーリの横に座っていたのだ。
「……これ、は――今晩は。素敵な夜ですね」
 スピーリの横にいたのは、真っ白な聖獣。顔は猿のようでもあり、猫のようでもあり、胴は虎で尾は蛇のような――スピーリは知らぬところだが、それは鵺と呼ばれる妖に近い姿形をしていた。
 一瞬驚いたように目を瞠ったけれど、すぐに微笑んで胸に手を当て聖獣へ一礼して見せる。聖獣は尾を振ってそれに応え、ついと顔を夜空へと向けた。
 つられるようにスピーリも空を見る。崩壊の危機が消え去った世界の星空はとても美しく、吸い込まれそうな程に星が瞬いている。
「見事なものですね」
 星空が珍しいわけではないが、これほどのものは中々、とスピーリが呟く。そうして、暫くの間そうやって星空を堪能していれば、次々と星が流れていくのが見えた。
 それは次第に数を増やし、数えるのも馬鹿らしくなるほどの流星が降り注ぐ。
「本当に、こちらに落ちてきそうな勢いです」
 小さく溜息を零し、それからきょろきょろと辺りを見回す。そして特に誰の視線もこちらに向いていないことを確認すると、そっと淡藤色の大蛇を召喚する。
「ダイ様の方が寒がりさんと思われるので……今宵はご一緒していただけますか、フジ様」
 三メートル以上ある蛇がその声に応え、艶やかな体をスピーリへと寄せた。
「これは……これはいいですね!」
 右には見知らぬ聖獣、左には己の身体に寄り添うフジ様。
 ビーストマスターである自分が操るわけではなく、獣がその意思で牙を剥くも懐くも、どちらも尊重したいとスピーリは常々思っているのだが、今の状況はその最たるものでは? と考える。
「そして右から感じる視線……!」
 なんだか生温かくもあり、厳しくもあり、優しさが半分含まれているような感じもあり……!
 思わず右手を聖獣に差し出せば、軽く噛まれた。
 最高……! とスピーリが打ち震えていると、噛まれた右手に何か硬質的な、小さなものが触れてまじまじと見ればそれは三センチほどの石。
「これは……」
 白く、シラーの浮いた美しいセレナイト。
「私にくださると?」
 聖獣を見れば、こくりと頷いている。
「……! 生涯の宝物に致します」
 思わず、もふもふの胴体に抱き着けば、尻尾がぎゅるんと巻き付いてきた。
 もふれて締め付けられるとか最高では……!? 感無量の顔付きで、スピーリは暫くの間その感触を堪能したのだった。
 四十六歳、聖夜の出来事であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

桜宮・蓮夢
🐾〇
美羽ちゃん(f24139)と!

わーい!
平和になったねっ
あられちゃんも無事で良かったのだ!

それにしても……
お星さま綺麗だね
いっぱいいーっぱい流れてきてるよっ
こんな綺麗な光景を美羽ちゃんと見れて嬉しいなぁ

……む?
近くに居た大きな犬を模した聖獣に気づき
君もお星さまを見に来たの?

そっかそっかぁ
もふもふしてて可愛いなぁ
僕たちより大きいんじゃないかなぁ?
うずうず触りたい気持ちが抑えきれなくなってきて

触ってもいいかなぁ……?
いっぱい撫でて抱き着いてもふもふを堪能するのだ
これが聖獣の魅力

えへへ
ぽわぽわしてて気持ちよくなってきたのだっ
もっと美羽ちゃんと君と一緒に居たい
これからも仲良くしてくれる?


月見里・美羽
💎○【桜宮・蓮夢ちゃん(f30554)とご一緒に】
あられちゃん、満足してくれて本当によかった
隣で喜ぶ蓮夢ちゃんの笑顔もあったかくて

蓮夢ちゃんに言われて空を見上げる
本当に綺麗な星空、流れ星
こんなに沢山の星は故郷で見た以来かも

ふわりと現れた蓮夢ちゃんの近くにいる聖獣さん
こ、これは、可愛い…!
聖獣さんと蓮夢ちゃんがもふもふしているのを見ているだけで
ボクも幸せになっちゃうよ

でも、ボクは根無し草だから
聖獣さんとは暮らせない

ふと、落ちてきた石を拾って
透明な石、心が澄み渡るような石
これは、きっとボクの加護
これから、この石に色をつけていくのがボクの仕事

石を大事に握りしめて、幸せそうな蓮夢ちゃんを眺めるよ



●星降る夜に誓って
 崩壊が止まり、崩れていた世界が元通りになっていく。まるで逆再生を見ているようだったけれど、世界には確かに平和が訪れたのだ。
「わーい! 平和になったねっ」
 ね、美羽ちゃん、と桜宮・蓮夢(春茜・f30554)が月見里・美羽(星歌い・f24139)に振り向いて言う。
「本当によかった、あられちゃんも満足してくれて……」
 別れは悲しいものだけれど、きっと白猫とそのご主人様の別れはそれだけではなかったはず。
「あられちゃんも無事で良かったのだ!」
 骸魂が離れなければ、世界だけではなくあられも無事では済まなかっただろうと、蓮夢が心底安堵したように微笑む。その笑顔が眩しくて、あったかくて、美羽も嬉しくなって微笑み返した。
「それにしても……本当に綺麗な星空なのだっ」
 見て、と蓮夢が両手を広げて夜空を仰ぐ。どこまでも広がる夜空に、どこまでも輝く星々。
「本当だね、とっても綺麗な星空だよ」
 二人で見上げて、あの星が一番輝いて見える、あっちの星は赤くて綺麗、なんて指さしていると幾筋もの光りが流れていくのが見えた。
「美羽ちゃん、見た!? 流れ星!」
「もちろん。あ、あっちにも……!」
 次第に流れる星は増えていき、どこを見ても星が流れていくのが見える。
「いっぱい、いーっぱい流れてきてるよっ」
「こんなに沢山の星が流れるなんて」
 故郷で見た星空も沢山の星が溢れて美しかったけれど、流れ星がこんなに見えるのは初めてだと美羽も小さく口を開いて感嘆の声を零す。
「えへへ、僕も初めて! こんなに綺麗な光景を美羽ちゃんと見れて、それも初めてを一緒にだなんて、嬉しいなぁ」
 また一つ想い出が増えたと、蓮夢が嬉しそうに笑う。美羽も嬉しくなって笑うと、流れ星に引き寄せられたように聖獣たちが夜空を飛び回るのが見えた。
「あれが聖獣?」
「みたいだね」
 ふわふわの毛玉のような聖獣から、すらりとした龍のような聖獣まで、それこそありとあらゆる種類の聖獣が見える。すごいすごい、とはしゃぐ蓮夢が、ふと気付いた気配に横を見ると、そこには真っ白なもふもふが。
「……む? 君もお星さまを見に来たの?」
 大きな犬のような姿の聖獣に、蓮夢が問い掛ける。わぅん、と鳴いた聖獣に蓮夢と美羽がぱちぱちと瞬く。
「そっかそっかぁ、じゃあ一緒に見よう!」
 蓮夢がにぱっと笑ってそう言うと、聖獣も嬉しそうに二人へと擦り寄った。
「こ、これは、可愛い……!!」
「ほんと、もふもふしてて可愛いなぁ」
 白くて、ふわふわで、もふもふ。猫とは違った良さのある、もふもふだ。
「僕たちより大きいんじゃないかなぁ?」
 いいなぁ、触りたいな、と蓮夢がうずうずとした気持ちを抑えきれなくなったのか、聖獣に向けてそっと手を伸ばす。
「触ってもいいかなぁ……?」
 わふん! と鳴いて、聖獣が蓮夢に頭を寄せた。
「良いって言ってくれてるみたいだよ」
「やったぁ! それじゃ、遠慮なくっ」
 もふっ。もふもふもふっ。
 手を伸ばし、聖獣の首をわしゃわしゃと触ったり、撫でたり。えいっとばかりに抱き着いて、蓮夢が最高のもふもふを堪能する。
「可愛いと可愛いは物凄く可愛い……!」
 聖獣と蓮夢がもふもふと戯れ合っているのを見て、美羽が思わず呟く。
「幸せな光景って、見てるだけで幸せになれるんだね……」
 ボクまで幸せになっちゃうよ、と美羽が緩んだ頬を押さえて微笑んだ。
 もふもふしている蓮夢はと言えば、これが聖獣の魅力……! と、何かに目覚めたかのようにわしわしと撫でている。
「えへへ、いっぱい撫でたらぽわぽわして気持ち良くなってきたのだっ」
 ちょっと眠いような、ふわふわした幸せな気持ち。
「僕、もっともっと美羽ちゃんと君と一緒にいたいな」
 聖獣が自分を抱き締めたままの蓮夢に、そっと頬を摺り寄せる。それから、わんっと鳴いてきらきらと輝いた。
「わあ、聖獣さんが光ってる……!」
「これは……?」
 その光は次第に小さくなって、輪郭を形作る。やがて現れたのは、聖獣を小さくしたような白い犬。
「この子を僕にくれるの?」
 こくん、と聖獣が頷く。それから、つぶらな瞳で美羽を見た。
「ボク? ボクは根無し草だから……聖獣さんの使い魔とは暮らせない」
 残念だけど、と微笑むと、心得たとばかりに聖獣が空へと浮き上がる。
「ありがとう! この子、大切にするからね!」
 蓮夢の言葉にわぅん! と返事をして、聖獣が空へと戻っていく。そして、見送る美羽の元へゆっくりと光る石が落ちてきた。
「これ……」
「きっと聖獣さんからの贈り物だよ!」
 手を差し出し、受け止める。
「綺麗……」
 透明な石、まるで心が澄み渡るようなその石は、美羽の手の中でキラキラと煌いていた。
 これは、きっとボクの加護。これから、この石に色を付けていくのがボクの仕事なのだと美羽が悟る。
 どんな色になるかは、これからの美羽次第なのだ。
「美羽ちゃん」
 使い魔を抱き締めた蓮夢が、美羽を見る。
「あのね、あの、これからも仲良くしてくれる?」
 僕とも、この子とも。そう言って、蓮夢がはにかむように笑う。
「……もちろんだよ!」
 石を大事そうに握り締め、美羽が嬉しそうに頷いた。
 ずっと、ずっと友達でいようね。
 それはまるで、星々に見守られた誓いのようで――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ハイドランジア・ムーンライズ
(胡坐かいてあられの様子を見ながら)
大丈夫、か……強ぇもんだ。

使い魔なー……まあ、動物は嫌いじゃないんだけどさ。
ただ、此間猫飼おうかなって呟いたら『君その年でちょっと引く位男っ気無いのにこの上独身力上げてどうするの。お局様道でも極めるの?』って真顔で言われたんだよなー…
まあ、言った奴は何時か泣かすが。
…でも、確かに。やっぱ俺にゃ重いわ。命はな。
あられ達見てえになるにゃちと根性が足りねえや。

そーと決まれば後ぁノンビリ酒盛りでもしてましょーかね。
星降りの雨も、摩訶不思議の聖獣達も、酒の肴としちゃ上等過ぎだ。
スルメでも齧って見物してるとするわ。

…あー、そだな。鳴り止まなかった鈴の音に乾杯っつー事で。



●星を肴に
 ご主人様を見送ったまま、夜空を見上げる白猫をハイドランジア・ムーンライズ(翼なんていらない・f05950)は胡坐を掻いたまま眺めていた。
「大丈夫、か……強ぇもんだ」
 それが強がりであっても、そうでなくても。そう言えるのなら、それだけで強いのだとハイドランジアは思う。それから、夜空を見上げる白猫につられるように空を見遣る。
 そこに在るのは満天の星、故郷ではついぞ拝む事の無かった景色だ。
「はー、綺麗なもんだな」
 星空を眺めてうっとりとするような性分ではないが、綺麗なものは綺麗だと素直に思う。それに、ひっきりなしに流れては消えていく流星は天体ショーとしてはかなりのものだ。
「ん? なんだありゃ」
 流れていく星に紛れ、舞うように飛び交うそれは。
「あー、聖獣ってやつか」
 見たことあるような姿のものから、初めて見るような姿のものまで、この世界の聖獣がこの夜を祝っているように星空を往く。なんとも見応えのある光景だった。
「そういや使い魔がどうとか言ってたな」
 使い魔、使い魔かとハイドランジアが唸る。動物は嫌いじゃない、好きか嫌いかで言えば好きだ。
「ただなぁ……」
 ハイドランジアの眉間に皺が寄る。思い出すのは先日の出来事だ。
 目の前をちょっと可愛い猫が横切ったもんだから、思わず猫いいな、猫飼おうかなと呟いたのだ。そこまではいい、全然問題ない。ここからだ。
『君その年でちょっと引く位男っ気無いのにこの上独身力上げてどうするの。お局様道でも極めるの?』
 丁度隣に居た奴に、そう言われたのだ。
「クソデケェ世話だよ、ほっとけクソが」
 クソって二回も言うほどには余計なお世話だし、言った奴は何時か必ず泣かすリストに放り込んだが。
 まぁ、それでもだ。
「やっぱ俺にゃ重いわ。命は、特にな」
 あの白猫とご主人様みたいになるには、ちょいとばかり自分の根性が足りないと眉間の皺を指先で揉み解す。
「そーと決まれば後ぁノンビリ酒盛りでもしてましょーかね」
 星の降る空も、摩訶不思議の聖獣達も、酒の肴としては上等、いや。
「上等過ぎるくらいだぜ」
 スルメでも齧って見物するとしようか、と何処からともなく酒を取り出し、地面へと置く。更にはスルメの足をライターで炙って齧りだした。
「これこれ、これよ」
 どうみてもおっさんの所業であるが、ハイドランジアはうら若き女性である、念の為。
「……あー、そだな」
 思い付いたように酒のボトルを持ち、夜空へ向ける。
「鳴り止まなかった鈴の音に乾杯っつー事で」
 掲げたボトルは琥珀色、揺らめくそれを一口呷ったハイドランジアの頭に、何か硬いものが落ちてきた。
「ってぇ!」
 何だ? と見てみれば、直径三センチほどの金線入りの水晶……いわゆるルチルクォーツという石だった。
 空を見上げれば数多の聖獣、どれが落としたかはさっぱりわからないけれど。
「ふぅん、まぁ貰っとくとするか」
 金運が上がるとかなんとか、そんな効果があるとかないとか。
 信じるも信じないも俺の自由だもんな、とハイドランジアが笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

天星・零
【天星・暁音と参加】

石希望。
緑色のクロムスフェーンの様な石
(クロムスフェーンの石言葉:永久不変)
加護:お任せ

『別れか…。確かに…新しい出会いがあると言えばそうなのかもしれないね。』

綺麗な星空を見上げて。
『彼女らに取ってはそれがよかったのかもしれないね。』


石をもらったら
『この石は…。』

『僕達も成長して変わっていくのかもしれない。
 それでも二人で歩いて…君と歩いていくのは変わらないでいたいな』

(貰った石をアクセサリーにして(形状はお任せ)
暁音にプレゼントします。)

暁音と一緒に歩むことに関しては変わらずにいたい。これからもと言う想いを込めて

寄り添ってきた暁音を支えるように手を回します


天星・暁音
【天星・零と参加】石か使い魔、聖獣の種類もお任せします
わ…凄いね
星が綺麗…星座とか探してみるのも楽しいけれど、俺はこうしてただ眺めてるのが一番好きかも…
でも無事に終わってよかった…別れは寂しいし無くしたものを完全に埋めることはできないけれど、また出会いだってあるのだもの…願わくばあの子がまた大切に思える人に早く出会えますように…

「ふえ?…いいの…えへへ、ありがと、凄い嬉しいよ。大切にするね」

「うん、何時までも一緒だよずっとずっとね。俺も零達と一緒に歩いていきたいから…」

零に寄り添いつつ星を眺めながらあられちゃんの事を貰ったアクセサリーを大切に持ちながら祈ります


関係性、恋人

アドリブ歓迎



●星が降り注ぐ、甘い夜に
 滅びの危機は去り、カクリヨファンタズムの世界に平和が戻ってきた。
 崩落を続けていた風景はあっという間に元へと戻り、今の今まで滅びそうになっていたことなど嘘のよう。そんな世界の空を天星・暁音(貫く想い・f02508)は天星・零(零と夢幻、真実と虚構・f02413)と共に広々とした原っぱで眺めていた。
「わ……凄いね」
 どこまで続いているのだろうかと考えてしまいそうな程に広い夜空に、星が広がっている。遮るものや光源が近くにないからだろうか、それともカクリヨファンタズムという世界だからだろうか。地上から見上げた景色の中では、もしかしたら一番綺麗な星空かも知れないと暁音が小さく息を零す。
「星が綺麗……」
「ああ、とても綺麗だね」
 暁音の隣に腰を下ろした零が慈しむように暁音を見て、そしてまた星空を眺める。
「星座とか探してみるのも楽しいけれど、俺はこうしてただ眺めてるのが一番好きかも……」
「ここは確かUDCアースと近い位置にあるらしいから、同じものを探そうと思えば探せるかもしれないけれど……そうだね、僕も暁音と一緒にただ眺めているだけでいいと思えるよ」
 零の言葉にはにかむように微笑んで、暁音が空を見上げたまま、ぽつりぽつりと話を続ける。
「でも、無事に終わって良かった……別れは寂しいし無くしたものを完全に埋めることはできないけれど、また出会いだってあるのだもの……」
 別れは辛くて寂しいけれど、きっといつかそれを乗り越えて新しい出会いを喜べる日がくるはずだと暁音が言うと、零がこくりと頷く。
「別れか……。確かに……新しい出会いがあると言えばそうなのかもしれないね」
 それを望むか望まないかは別として、誰にだって出会いは訪れるもの。それが良い物であればいい、と零が呟く。
「願わくはあの子がまた大切に思える人に早く出会えますように……」
 それは優しい祈り、ご主人様のことを忘れることはないだろうけれど、忘れないままでいいから新しい出会いに心を開いて笑ってほしいと暁音は星に祈る。
「暁音、流れ星が」
 それはまるで、暁音の願いを聞き届けてくれるかのように幾筋も流れていく。
「今回の事がその切欠になったのなら……彼女らに取ってはそれがよかったのかもしれないね」
 世界を滅ぼしかねない出来事だったけれど、世界が滅びればいいと願った結果ではないのだし、と零が言うと暁音もちょっと困っちゃうけどね、と笑った。
 次々と流れていく星の数が増え、どこを見ても流れ星が見えるころ、夜空には聖獣が集い始める。二人がいる場所からもそれは当然見えて、本の中でしか見た事の無いものから、普段から目にする生き物に似たものまで、様々な種類の聖獣に楽し気に声を上げて二人で笑い合う。
 そのうちに、二人の笑い声に惹かれたかのように、一匹の聖獣が舞い降りた。
「わあ、ふわふわの……黒豹?」
 黒豹のような姿をした聖獣が、暁音の声に応えるように低く鳴く。
「綺麗な目をしているね」
 零が聖獣を覗き込めば、まるでこの星空の様に煌めく不思議な瞳が見つめ返す。
「黒い毛並みも艶々で、とっても綺麗だね」
 暁音が手を伸ばせば拒むことなく聖獣がその身を寄せ、ぐるると喉を鳴らして撫でられるままになる。それに気を良くし、また暁音が撫でる……という無限ループの様になっていたのだが、満足したのか聖獣がその身体を離した。
「もういいの?」
 こくんと頷き、二人を交互に見ると聖獣が星の様に輝く光りを暁音と零、それぞれの手にふわりと落とす。それはやがて形を変えて、手の中で石へと姿を変えた。
「この石は……」
「俺たちに?」
 二人の問い掛けに、聖獣が尻尾を揺らして応えると、とんっと地を蹴って空へと戻っていく。
 ありがとう、という声は聞こえただろうか。きっと届いていると笑って、二人で手の中の石を見る。
「俺のは……ラピスラズリかな」
 暁音の手には聖獣の瞳のような、深く美しい青に星が散らばったように金色が輝く丸いラピスラズリ。
「僕のは……クロムスフェーンみたいだね」
 零の手には、深いオリーブグリーンに鮮やかな赤が浮かぶ、ドロップのようにカットされたクロムスフェーン。
「どっちも綺麗だね」
 そう言って笑う暁音の瞳はまるで美しい金細工のようで、零は手の中の石をそっと暁音の耳へと当てた。
「零?」
 どうしたの、と問う暁音に笑って、零が自分の霊力を用いて石に細工を施す。すぐに手の中に、石が揺れる鏡のように光るイヤーカフが出来上がる。
「暁音、僕達も成長して変わっていくのかもしれない。それでも二人で歩いて……君と歩いていくのは変わらないでいようね」
「うん、何時までも一緒だよずっとずっとね。俺も零達と一緒に歩いていきたいから……」
 煌く星よりも美しいと零が思う瞳が、零を見つめている。それに微笑んで、零が暁音にイヤーカフを渡した。
「その証と……クリスマスプレゼント、かな」
 折角の聖夜だから、と零が笑うと暁音が嬉しそうに笑ってそれを受けとり、言葉を紡ぐ。
「ふえ? ……いいの……えへへ、ありがと、凄い嬉しいよ。大切にするね」
 零の手で付けてくれる? とお願いすれば、零がそっと暁音の耳へと付けてくれる。それにはにかむように微笑んで、暁音が零へと身体をもたれかかるように寄り添わせた。
「暁音……ずっと、ずっと一緒だよ」
 寄り添う暁音の背に手を回し、抱き寄せるようにして零が囁く。
「うん……ずっと、ずっとね」
 そうして、二人で笑うとまた空を見上げる。
 星が二人の願いを叶えるように、いつまでも降り注いでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

コッペリウス・ソムヌス
🐾 ◎
流れる星の降る夜に……
ふふ、聖獣たちもキラキラ光る
綺麗なものが好きなのかもしれないねぇ
暫くは聖夜を彩る流れ星をひとり眺めて

暗い夜道を照らしてくれる、
なんて唄もあるらしいし誰かと行く道は
淋しくないのだろうけれど……うん
何処へでも行けそうな翼があるのは良いなぁ、
オレの代わりに遠くまで見渡してくれそうで

長寿や幸運の象徴ともされる
コウモリに似た聖獣の近くに寄れば
やぁ、こんばんは。美しき夜の子
眠りの神って眷属みたいなものだし
これからも続く夜は永くなりそうなんだけど
そんな道行きを、ご一緒してくれるかい?



●夜の先を照らす星
 ふんふんふん、と鼻歌が口をついて出るような夜だと、コッペリウス・ソムヌス(Sandmann・f30787)は機嫌よく崩壊を免れた世界を歩く。時折足を止め、夜空を眺めては笑みを零す。そうしてまた、ゆっくりと歩くのだ。
 視界を遮るものが少ないせいか、普通に歩いていても流れていく星が見えて、なんて贅沢な散歩だろうねぇ、とコッペリウスが呟く。それはもしかしたら、自分の影に向けたものだったかもしれないけれど、本当のところは彼にしか分からない。
 少し歩くと、丁度いい岩を見つけてコッペリウスがそこに腰を下ろす。
 流星に誘われて姿を現し出した聖獣が、夜空を駆ける。その姿は月の光を受けて、輝いているようにも見えた。
「流れる星の降る夜に……ふふ、聖獣たちもキラキラ光っているみたいだねぇ」
 そのまま、暫くの間そうして聖夜を彩る流れ星をぼんやりと眺める。小さな子どもだって数えることを途中で投げ出してしまいそうなほど、星が流れていく。
「こんなに流れて、夜空に星が無くなりそうなくらいだなぁ」
 そう思ってしまいそうな程の流れる星々に、コッペリウスはどこかで聞いた歌を思い出す。
「暗い夜道を照らしてくれる……だっけ? そんな唄もあるらしいし、誰かと行く道は寂しくないのだろうけれど……」
 うん、と頷いて立ち上がる。
「何処へでも行けそうな翼があるのは良いなぁ」
 空を駆ける聖獣の中には、翼を持つものも多く見えた。
「オレの代わりに、遠くまで見渡してくれそうで」
 取りこぼしてしまいそうな色々を、教えてくれたりするのかな? と笑って歩き出せば、すぐ近くに聖獣がその翼を休ませているのが見えた。
「やぁ、こんばんは。美しき夜の子」
 コッペリウスが声を掛けたのは、長寿や幸運の象徴ともされるコウモリに似た聖獣。コッペリウスの声に驚く様子もなく、キィ、と鳴いた。
「素敵なお返事をありがとう」
 そっと、驚かさないように聖獣の傍に座り、笑顔を向ける。
「眠りの神って眷属みたいなものだし、これからも続く夜は永くなりそうなんだけど」
 ねぇ、とまるで口説くようにコッペリウスが囁く。
「君さえよければ、そんな道行きを、ご一緒してくれるかい?」
 ほんの少しだけ考えるように首を傾げ、聖獣がキィと鳴く。そして小さな光りをコッペリウスの手へを寄越した。
「あったかいね」
 その光りは徐々に姿を変えて、光りがすっかり消えた頃には小さなコウモリの姿となってコッペリウスの手の中でキィ、と鳴いた。
「ふふ、ありがとう」
 聖獣に礼を言うと、翼を軽くコッペリウスに寄せ、空へと羽ばたいた。
 手の中のコウモリもそれに合わせるように飛んで、コッペリウスの周囲を楽し気に飛び回る。
「ねぇ、これからよろしくね」
 美しき夜の仔、と手を伸ばせばコウモリの使い魔はその手に止まった。
「ん、可愛いねぇ」
 道行を照らす星のように、どうぞ末永く傍らに――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【不死蝶】◎💎お任せ
現れたのは赤色のドラゴンの聖獣
ドラゴンなんだけど硬い鱗ではなくて
もふもふの毛に覆われていて聖獣という名にふさわしい
あったかいね~とハグしたり撫でたり
頭を擦り寄せてくれる様は大型犬のようで可愛い

梓ってばナイスアイデア
梓の聖獣に続くように空へとダイブ
星空は今年の夏グリードオーシャンで沢山見てきたけれど
冬の星空は夏とはまた違うきらめきを感じる
この世界ならではの星座とかあったら面白いのにね
一反木綿座とか

あ、そういえば今日は
――メリークリスマス、梓
なんかプレゼントちょうだいっ
…うわー、梓からそんなロマンチックな台詞が出てくるとは
ふふ、楽しみにしているよ

明日もまた、君と一緒にいられる


乱獅子・梓
【不死蝶】◎💎お任せ
現れたのは青色のドラゴンの聖獣
綾の聖獣の色違いって感じだな
カラーリングが焔と零を彷彿とさせる
もふもふのドラゴンというのも良いもんだな
首に手を回し毛並みを堪能
…ん?なんだお前ら、ヤキモチか?
心なしか拗ねているような焔と零
そんな姿も可愛い

このまま聖獣とじゃれているのも悪くないが…
折角こんなに見事な星空が広がっているんだ
空の旅と洒落込もうじゃないか

聖獣に跨り空へと飛び立つ
冬の星空は一番綺麗に見える…と聞いたことがあるな
あれはオリオン座だろうか

突然すぎるなお前!?
…この満天の星空がプレゼントだ、なんてな
やかましい!自分で言ってて恥ずかしい!
分かった分かった、明日一緒に買いに行くぞ



●星夜飛行
  白猫とそのご主人様の別れを見送って、乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)と灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)はどうせなら星空がよく見える場所を探そうと、草原のようになっているところまで来ていた。
 来る前はひとつ、ふたつ、と数えられる程度だった流れ星も、ここに辿り着く頃には数えるのが大変なくらい、空を流れていくのが見えて、梓の相棒でもある仔竜の焔と零も、流星を追い掛けるように辺りを飛び回っている。
「流れ星って、こんなに見られるものなんだねぇ」
「流星群って言っても、一分に三つも見れたらいいって時もあるらしいからな」
 どれだけの星が流れるかはその時にならなければわからないものだが、このカクリヨファンタズムにおいてはまた違うのかもしれないと梓が言うと、ふぅんと綾が相槌を打つ。
「でも、これだけ見れたらもう一生分は流れ星見たようなもんじゃない?」
「そうだな」
 既に数えることすら馬鹿らしくなって、ただ流れる星を眺め続ける。そのうちに、流れ星ではないものも見え始め、二人で顔を見合わせてまた空を眺めた。
「あれって聖獣ってやつかな」
「随分と色々いるんだな」
 鳥のようなものに、東洋の竜に西洋の竜、狼に兎のようなものまでが星降る夜を楽しむように空を駆けている。
「梓、見て」
「ん? あれは……ドラゴンか?」
 夜空を駆ける聖獣のうち、ドラゴンのように見える二匹がこちらへ来るのが見えた。
 それらはすぐに二人の前で着地すると、挨拶をするように鼻先を差し出してきて梓が青い色をしたドラゴンを、綾が赤い色をしたドラゴンの鼻先を撫でる。
「人懐っこい子たちだねぇ、可愛い」
「こう、カラーリングが焔と零を彷彿とさせるな」
 違う点を上げるとするならば、焔と零は硬い鱗に覆われたドラゴンだが、今目の前にいる二匹はふわふわの毛をしたドラゴンだ。
 例えるならば、長毛種の犬のような感じだろうか。
「ふふ、あったかいね~」
 よしよし、可愛いねと綾が軽く抱きしめたり、首元を撫でたりすると頭を擦り寄せてドラゴンが応える。
「もふもふのドラゴンというのも良いもんだな」
 梓も首に手を回し、その毛並みを堪能する。確かに温かく、触れる毛並みは艶々だ。
 二人が他のドラゴンに夢中になっていることに気が付いた焔と零が、キューキュー、ガウガウと何かに抗議するように鳴いて服の裾を引っ張る。
「……ん? なんだお前ら、ヤキモチか?」
「え? 俺にも?」
 梓だけではなく綾にまで同じことをする二匹に、そんな姿を可愛いと梓が笑った。
「悪かった、お前たちが一等可愛いに決まってるだろ」
 拗ねたような焔と零を撫で、このまま聖獣と相棒達とじゃれているのも悪くはないが、と梓が空を見上げる。
「折角こんなに見事な星空が広がっているんだ、空の旅と洒落込もうじゃないか」
 なあ? と梓が聖獣に視線を遣れば、ドラゴンが背に乗りやすいように首を下げる。
「梓ってばナイスアイデア」
 綾も赤いドラゴンに窺うように視線を合わせれば、同じように首を下げてくれた。
 それぞれがドラゴンの背に跨ると、大きな翼をはためかせてドラゴンが空へと舞い上がる。
「星空は今年の夏グリードオーシャンで沢山見てきたけれど」
 冬の星座は夏とはまた違う煌きを感じると、一層近くなった星空に綾が笑う。
「そういや、冬の星空は一番綺麗に見える……と聞いたことがあるな」
 きん、と冷えた空気のせいだろうか。星空を見上げ、あれはオリオン座かと梓が指させば、綾があっちのはシリウスで、こっちがプロキオン? と指をさす。冬の大三角形と呼ばれる形を指でなぞる姿は楽しそうで、梓が目を細めて笑う。
「この世界ならではの星座とかあったら面白いのにね」
「例えば?」
「……一反木綿座とか?」
 なくても作れそうな形だな、と二人が笑うと、焔と零も楽し気に鳴き声を響かせた。
「あ、そういえば」
「何だ?」
 まだ何かあるのかと、梓が綾に視線を向ける。
「――メリークリスマス、梓」
 今日は聖夜だよ、と綾がふわりと微笑んで――。
「なんかプレゼントちょうだいっ」
「突然すぎるな、お前!?」
 一瞬、その笑顔に見惚れそうになったのだけれど、プレゼントという言葉に梓が肩を落とす。
「だって、クリスマスっていったらクリスマスプレゼントだよね」
「……この満天の星がプレゼントだ」
 梓の言葉に綾が夜空を見上げ、それから梓に視線を戻す。
「……うわー、梓からそんなロマンチックな台詞が出てくるとは」
 大丈夫? 熱でもある? と聞いてきそうな綾の声に、梓が半ば逆ギレ気味に叫ぶ。
「やかましい! 自分で言ってて恥ずかしい!」
「いや、ふふ、うん、嬉しかったよ?」
 星空、と綾が堪えきれずにくすくすと笑いだす。
「ああもう、分かった分かった、明日一緒に買いに行くぞ」
「ほんと? ふふ、楽しみにしているよ」
 何を買ってもらおうかな、と綾が笑うと、早まったか……と梓が呟く。そんな二人の手の平に、きらきらとした光りが集まる。
「ん? なんだ……って、石?」
「俺のも石だよ」
 梓の手にはブリリアンカットの青い石、綾の手には同じカットがされた赤い石。
「綺麗だな」
「ピアスとかに良さそうだねぇ」
 イヤーカフもいいし、指輪もいいかも、とああでもないこうでもないと、二人が笑う。
 いつも通りの、変わらぬ二人のクリスマス。
 明日もまた、君と一緒にいられる。そんな、いつも通りの――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

花色衣・香鈴
💎お任せ

ああ、よかった
わたしも少しは役に立てたかな
「星が、流れていく…」
俯いて、逃げるように隠れて生きてきた
追っ手が居た訳じゃない
強いて言えば見えない誰かの悪意…寧ろ、異端を恐れた人達に言い放たれた言葉の『記憶』に怯えていた
こんな風に、流れる星も知らないで
「…綺麗」
星にも
「あなたも」
眼前の存在にも素直にそう思ったから
「…今夜だけ、一緒に居てくれますか」
今だけでいい
だって
「わたしはいつ置いて逝くかわかりません。力の欠片であっても…命と心があるなら責任は持つべきです」
持てないから、わたしは最期までを約束したちょうちょさん以外の新たに寄り添う命を望まない
だからその代わりに少しだけ
「甘えたい、です」



●星色、甘色
 白猫と骸魂となった少女の別れを花色衣・香鈴(Calling・f28512)は、ただ見守っていた。
「ああ、よかった」
 満足気な笑みを浮かべた少女が消えていくのを、白猫がそれを見送って、にぁと鳴くのを。
「わたしも少しは、役に立てたかな」
 悲しい別れではなく、満ち足りた別れとなったのなら。
 少女の消えた空を見上げれば、満天の星の中、幾筋も光りの尾を引いて流れていく星が見えた。
「星が、流れていく……」
 私はずっと、俯いて逃げるように隠れて生きてきた。
 追手が居た訳じゃないけれど、強いて言うのならば見えない誰かの悪意……否、異端を恐れた人達に投げ付けられた心無い言葉の『記憶』に怯えて生きてきた。
 空を見上げることもなく、こんな風に流れる星すらも知らないで。
「綺麗……」
 瞬く星は今までの見たどれよりも綺麗な気がして、香鈴は溜息の様に息を零す。そして、香鈴の心に惹かれたように星空から舞い降りた、燃えるように赤く美しい鳥のよな聖獣にも。
「あなたも、とても綺麗」
 香鈴よりも大きなその聖獣は赤く煌く瞳を優し気に瞬かせ、クゥ、と鳴いた。
「……今夜だけ、一緒にいてくれますか」
 今だけでいいのだと、香鈴は言の葉を紡ぐ。
「わたしはいつ置いて逝くかわかりません。力の欠片であっても……命と心があるなら責任は持つべきです」
 この心臓がいつまで動き続けてくれるか、香鈴にはわからない。五年先か、十年先か、もしかしたら明日かも知れない――だから、わたしには責任を持つことができない。
 そう、目を伏せた香鈴に、寄り添うように聖獣がその身を寄せる。
「だから、わたしは最後までを約束したちょうちょさん以外の新たに寄り添う命を望みません」
 その代わりに、少しだけ。
 切なさを滲ませた瞳で、香鈴が聖獣を見上げた。
「甘えたい、です」
 声が震えたのは寒さのせいだっただろうか。
 クゥ、と鳴いた聖獣が翼を広げ、香鈴を誰にも見えぬようにその翼の中へ閉じ込めるように覆いこむ。
「ふふ、温かい……」
 命の温もりに香鈴が頬を緩ませると、聖獣の瞳からぽろりと光りが零れ落ちた。
「これは……?」
 それを両手で受け止めると、光りはゆっくりと小さくなって香鈴の手の中でひとつの石へと変化する。
「綺麗な石……わたしに?」
 手の中にはオレンジ色の中に薄っすらとピンク色が覗くような綺麗な色の石。黄玉とも、インペリアルトパーズとも呼ばれる石だ。
「ありがとう……」
 クゥ、と鳴いた聖獣のふかふかの胸へと、石を握り締めた香鈴が埋もれるように抱き着く。
 そうして、香鈴が落ち着くまでの間、約束通り聖獣は彼女の傍に寄り添ったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

彩・碧霞
🐾お任せ
おや、傘の要らぬ雨ですか
「良い夜です」
見知った姿も見えますが、邪魔をしては無粋というものですね
私はどうしても目立つ姿ですし、少し離れるとしましょう

久方ぶりに第二の故郷とでもいうべき地へ行くかと気まぐれを起こしただけなのですが
「今晩は」
聖獣
そう呼ばれ、尊ばれる存在
かつては私もその『様な』ものだった
「ふむ、複雑なものですね」
とはいえそんな事はこの方には関係のないこと
一応案内役の方の話も聞いておりました
本来加護は与えるべきもの
私にと頂くなら、無頓着に素材にも出来ません
なら石ではなく
「私の無精具合を許し、共に生きて下さるという奇特な方がいらっしゃれば」
物作りのお手伝いも頼めれば尚嬉しいですね



●聖なる夜の贈り物
 久方ぶりに訪れた、第二の故郷とも言うべきカクリヨファンタズム。頻繁に訪れる世界終焉の危機は、どうやら免れたらしいと彩・碧霞(彩なす指と碧霞(あおかすみ)は空を見上げた。
 そこには以前と変わらぬままの満天の星、懐かしいとも感じる空だ。
「おや、傘の要らぬ雨ですか」
 その空に、幾筋も流れていく星。それは次第に数を増やし、流星雨と呼んでもいいほどだ。
「良い夜です」
 穏やかで、それでいて喜びに満ちた夜。まるでそれを言祝ぐかのように、聖獣が夜空を駆ける姿が見えた。
「ああ、星降る夜には……でしたね」
 他の世界ではクリスマスとも呼ばれる聖なる夜なのだ、聖獣が流れる星に誘われてやってきてもおかしくはない。碧霞はその龍の下半身を優雅に揺らし、散策とばかりに歩いた。
 その途中、見覚えのある緋袴の少女が見えたけれど、声を掛けるのは止めておく。
「邪魔をしては無粋というものですね」
 碧霞の外見は上半身は人で下半身は龍という半人半龍で、どうしたって目立つ姿だ。
 見つからぬように少し離れておくべきか、となるべく音を立てないように碧霞がそっとその場を離れてまた夜道を歩きだす。
 夜道といっても、これだけの星と月明かりに照らされていると、どこもかしこも光っているようで明るくも見える。
「本当に良い夜です」
 あなたもそう思いませんか? と、目の合った聖獣に碧霞が声を掛けた。
「今晩は」
 聖獣、そう呼ばれ、尊ばれることもある存在――かつては己もその『様な』ものだった。
 グルル、と鳴いて応えたのは虎のような姿をした聖獣で、碧霞が伸ばした手に頬を擦り寄せる。
「ふむ、複雑なものですね」
 そう小さく呟いて、けれどそれは自分の問題であって此方の御方には関係のないことと碧霞が切り捨てる。そして、少しの間ですけれど、と共に星の流れる夜空を楽しんだ。
 別れ際、聖獣が碧霞に向けて力ある光りの玉のようなものを放つ。
「これが……」
 ここへ来る前に聞いていた、加護の力。
 本来であれば、碧霞にとって加護とは貰うものではなく与えるべきもの。
「そうですね……私にと頂くなら」
 そうして少し考えて、石であれば無頓着に素材にもできませんしと決断する。
「私の無精具合を許し、共に生きて下さるという奇特な方がいらっしゃれば」
 碧霞の願いを聞くかのように、光りが姿を変える。
「おや、これはまた可愛らしい……」
 小さな虎の仔が、碧霞の目の前にいた。
「育てれば人の姿を取ることもできるかもしれませんね」
 そうなれば、物作りのお手伝いも頼めるようになるかもしれないと、碧霞が虎の仔を抱いて微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヘルガ・リープフラウ
【花狼2】
ヴォルフと共に夜空を見上げ
精霊のルミナとフランム、アジュアも一緒に

春のアックス&ウィザーズの森で、精霊の卵から孵ったルミナとフランム
夏のグリードオーシャンで、神秘の海の泡から生まれたアジュア
この広い世界を旅して出会った、家族にも等しい大切な命
共に祝いましょう
聖なる夜の祝祭を

二人のもとに舞い降りた聖獣は、背に翼を持つ白き天馬(ペガサス)
わたくしに身を寄せるのは牝馬……この子たちもまた番なのね
その瞳は背中に乗れと言ってくれてるようで
精霊の子たちを伴い、それぞれに騎乗し夜空へ
またひとつ、新たな出会いと思い出が増えた

きっと旅の道行きで、あなた達の力を借りる時も来るでしょう
これからもよろしくね


ヴォルフガング・エアレーザー
【花狼2】
見上げた星空はどこまでも澄み渡り
精霊の子らも、宙に舞いながら楽しそうにはしゃいでいる
こうしているとまるで親子のようだ
そう、ヘルガと共に築く「家族」

先刻の夢のような、そしてあられが望んだような
「永久の幸せ」を望む心を無碍に出来ぬ己を自覚しながらも
その想いが淀みを生まぬように、悪意に利用されぬように
己を律すると改めて誓う

俺達のもとに舞い降りた聖獣
背に翼を頂く二頭の白馬
俺の方には牡馬か
背中に乗れと言っているのか

なら二人、天馬に乗って夜空に飛び立とう

並び立つ番の天馬は、優美な外見とは裏腹に力強く宙を蹴り天を駆ける
共に往くヘルガと視線を交わして
行こう。俺たちの未来はこれからも続いてゆくのだから



●煌めく夜に羽ばたいて
 二人で見上げた夜空はどこまでも澄み渡り、宝石箱をひっくり返したように星が瞬いていた。
「おいで、ルミナ、フランム、アジュア」
 ヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)が家族にも等しい精霊の名を呼ぶ。淡い光りを放ち、精霊の卵から孵ったルミナとフランム、そして神秘の海、その泡から生まれたアジュアが姿を現す。
 それぞれ、小人のようなサイズでルミナは可愛らしい女の子、フランムは青い色を纏った男の子、アジュアはヘルガとヴォルフガング・エアレーザー(蒼き狼騎士・f05120)の色彩と姿を合わせて生まれ持ったような姿の女の子だ。
 二人にとっては、どの子も大切で可愛い我が子のような存在で、それぞれが楽し気に宙に舞いながら楽しそうにはしゃいでいる。
「こうしているとまるで親子の様だな、ヘルガ」
「ええ、わたくしも今丁度そう思っていたところだったのよ」
 愛おしさを眼差しに籠めてヘルガとヴォルフガングが見つめ合うと、三人の子らが淡い光りを放ちながら可愛らしい歓声を上げた。
 その声に頭上へと視線をやると、星空に幾筋も流れていく流星が見えて、ヘルガも小さく声を上げる。
「流れ星……こんなに沢山見られるなんて」
「ああ、初めて見るわけではないが、これほどのものは中々見られるものではないな」
 話す間にも増えていく流星に、精霊たちがくるくると踊っては流れる星を真似して飛んで、ヘルガとヴォルフガングの間を泳ぐように飛び回る。
「幸せね」
「ああ、とても」
 愛する妻と可愛い精霊の子ども達が共にいる幸せを、ヴォルフガングは噛み締めながらも改めて思う。
 先刻の夢のような、そしてあられが一時でも望んでしまったような、『永久の幸せ』を望む心をどうしたって無碍にはできない。けれど、そう思ってしまう己が想いから淀みを生まぬよう、悪意に利用されぬよう、この手の中の幸せを守る為に己を律しなくてはならないと。
 この星空に誓うと、静かに流れゆく星を眺めた。
「見て、ヴォルフ」
 ヘルガがすっと指を空へと向ける。その先には、流れる星に導かれて集う聖獣の群れが見えた。
「これは……壮観だな」
 普段目にする事の無い生き物が、月と星の光りを受けて輝くように飛び交っているのだ。暫くの間その饗宴を楽しんでいると、群れから離れこちらへとやってくる聖獣がいることにヴォルフガングが気付く。
「ヘルガ、あれを」
「まあ……ペガサス……?」
 力強く翼を羽ばたかせ、寄り添うようにこちらへ向かってくる二頭の白き天馬。嘶きと共に舞い降りた二頭に、ヘルガとヴォルフガングが驚かさぬようにと近付いた。
 すると、まるで二人を待っていたかのように、二頭の天馬も二人へと近付く。
「まあ……この子たちも番なのね」
 ヘルガに身を寄せたのは牝馬で、ヴォルフガングに身を寄せたのは牡馬。仲睦まじく鼻先を交わし合う天馬に、ヘルガとヴォルフガングが顔を見合わせて微笑む。
 やがて、二頭の番はブルル、と鳴いて二人の目をじっと見つめる。まるで、背に乗れと言わんばかりのそれに、二人は頷いて天馬の背に跨った。
 高く嘶いた二頭が翼を羽ばたかせると、その身体がふわりと空へと舞う。それに続いて、精霊たちも光りを放って星空へと舞い上がった。
 宙を蹴るようにして駆ける天馬は互いに並び合い、時に追い越しては星空の散歩を楽しむかのように嘶く。一層近くなった夜空に、ヘルガが感嘆の声を上げる。
「素敵……ふふ、聖夜の贈り物ね」
 瞳に星を映して微笑むヘルガは美しく、ヴォルフガングも穏やかな笑みを浮かべて彼女を見つめる。そして、混じり合う視線にまた笑みを深めるのだ。
「またひとつ、新たな出会いと思い出が増えたわ」
 ありがとう、とヘルガが自分の乗せて飛ぶ天馬の首を撫でる。
「ああ、飛びきりの思い出が増えたな」
 ヴォルフガングも感謝を示すように天馬の首に手を伸ばし、幾度となく撫でた。
 充分に星空を楽しんだ頃、天馬が二人を地上へ送り届け、別れを惜しむように頭を擦り寄せると二人に向けてそれぞれが淡い光を手の中へと落とした。
「これは……あなたたちの力の欠片?」
 そうだと言うように嘶いた天馬が、空へと飛び立つ。
 残された手の中の光を、興味深そうに精霊たちが覗き込んだ。
「力の欠片、何になるのかしら」
「ヘルガのと、俺のと……さて」
 使い魔か、石か。
 どちらが光の中から生まれたとしても、きっと二人はそれを大切にするだろう。そして、精霊たちもそれを歓迎するのだ。
 手の中の光は、まるでヘルガとヴォルフガングの向かう未来のように光り輝いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

呉羽・伊織
【守3】🐾◎
うんうん、あられも皆も良い縁や加護があると良いな
ああ、オレ?
(俺は神聖とは対極の存在だから――)
いや~、オレにゃ眩しすぎる存在だし、此処はそっと皆を見守…コラ、そゆコト言わないの!

…ん?
え、何、どしたの
まさかまた友達増えたの!?
(ちゃっかり謎の聖獣に乗せてもらって遊んでる雛と亀を二度見して)

てか龍じゃないのこのコ!
蛇は兎も角、鰻の聖獣ってソレ最早珍獣…!

うっ…(色んな方向からの視線に押され)
そ、そーいうコトなら…仕方ない…カナ…?(とことんお供達にあまい&よわい)
そしたらもう此の儘、星見がてら親睦会だな!

(――あられにも、仲間達にも、こんな風に穏やかな時間が続くようにと願いつつ)


鈴丸・ちょこ
【守3】🐾◎
あられに、聖獣に――今宵はとことん面白ぇ出会いが多いな、良い事だ
(伊織の顔をふと見て敢えて茶化す様に――)
ああ、春和、あられ
伊織は甲斐性無しだからな
ただでさえぴよこや亀の尻に敷かれてる所、これ以上増えたらどうなる事か?

――然しまぁ、腹を括った方が良さそうだぜ、伊織よ
(いつの間にかぴよ亀と遊んでいる龍?鰻?蛇?の様な聖獣見遣り)

お前はもしや――鰻の聖獣か?

ほら、皆一緒に帰りたそうに伊織を見つめているぞ
(と言いつつ、自分はぷりんと共にさらりと白い虎の聖獣と仲良くなっている!)
おう、そりゃ最高の名案だ

今も、この先も、あの星の数や光に負けず劣らずの、楽しい思い出で満ちると良いな――あられ


永廻・春和
【守3】🐾◎
あられ様も再びご一緒に

ふふ、どの様な聖獣様と巡り会えるか、楽しみですね
…呉羽様?(聖獣という言葉と彼の表情が少し気になるも)
嗚呼…成程…(否定はしないのですね…と思いつつ、ちょこ様に頷き)

でも、ええ――此処は甲斐性を見せるしかないようですね
(ぴよこ様や亀様と一緒に遊ぶ聖獣様を微笑ましく眺め)

蛇の様にも見えますが、やはり龍…?いえ、鰻…?

何にせよ、純粋な眼差しが素敵な聖獣様ですね――ふふふ、頑張ってくださいませ

あら、鈴もお友達で?
(鶴の様な神秘的な瑞鳥に戯れつく鈴撫で)
では是非、また皆で仲良く癒しの一時を

――あられ様と皆の未来に、どうか彼の星々の様に優しく輝ける光が在り続けますよう



●聖夜に結ぶは
 向日葵の咲いた庭で白猫とそのご主人様との別れを見届けた三人は、そのまま縁側に腰掛けて崩壊の危機を免れたカクリヨファンタズムの夜空を眺めていた。
「満天の星ってのはこういうのを言うのかな」
 手を伸ばせば掴めそうだと呉羽・伊織が笑うと、確かにと永廻・春和(春和景明・f22608)が頷く。
「星が常よりも近い気がしますね」
「世界が違えばそういうこともあるかもな」
 ちゃっかり座布団を縁側まで持ってきた鈴丸・ちょこ(不惑・f24585)が、しなやかな黒い尻尾を揺らして答えた。
「何せあれだ、聖獣がやってくるってんだろう?」
「ふふ、どの様な聖獣様と巡り会えるか、楽しみですね」
 聖獣かぁ、と伊織が口の中で呟く。
「そうだなぁ、あられも皆も、良い縁や加護があると良いな」
 名を呼ばれ、向日葵の下で星を見上げていたあられがてってって、と伊織たちの元へやってくる。
『にぃ、おにいさんは?』
「ん? オレ? ああ、オレは――」
 神聖の存在とは対極に位置する存在に、加護なんて。ほんの一瞬だけ翳った伊織の表情に、春和がそっと名を呼ぶ。
「……呉羽様?」
 ハッとしたように、すぐに伊織が笑みを浮かべて殊更明るい声を出す。
「いや~、オレにゃ眩しすぎる存在だし、此処はそっと皆を見守……」
「ああ、春和、あられ。伊織は甲斐性無しだからな」
 伊織の言葉を遮って、ちょこが鼻を鳴らしてそう言うと、すぐに伊織が数瞬見せた表情などなかったように情けない声を上げた。
「コラ、そゆコト言わないの!」
 やめて本当のこと言われたら傷付くだろ! と言うと、春和が納得したような顔をして頷く。
「嗚呼……成程……」
 否定はしないのだな、と思いながら春和が伊織を見れば、ちょこがしたり顔で頷いた。
「ただでさえぴよこや亀の尻に敷かれてる所、これ以上増えたらどうなる事か?」
 やめて! と響く伊織の悲鳴にも似た声に、春和とちょこの笑い声が響いた。
 それに惹かれてやってきたのか、三人の前にはいつの間にか一匹の聖獣が姿を現していて、ぴよこと亀と遊んでいるではないか。
「えっ」
「まぁ……」
「こりゃまたあれだな」
 三人の声が重なる程には、ぴよこと亀が聖獣に馴染んでいる。
「えっ」
 二度見どころか三度見くらいして、伊織がもう一度声を上げた。
「黒龍……? でしょうか」
「いや、黒い蛇にも見えるな」
 三メートル以上はあろうかという長さの、やや細身の聖獣。
 けれど、どうにも龍でも蛇でもないような、うねうねとしたその体躯。なんとなく見覚えがあるのだが、はて? と春和とちょこが顔を見合わせた。
「ちょ、ちょっと何、どういうこと? まさかまた友達増えたの!?」
 フリーズしていた脳がやっと動き出したとばかりに、伊織が叫ぶ。それに応えるように、ぴよこは聖獣の背中に乗ってぴよぴよと可愛らしく鳴いているし、亀は亀で尻尾にぶら下がって遊んでいる。
「お前たちのその、すぐ友達になれるところはオレも良いとは思うけどな!?」
 無理だよ、無理だから! と伊織が首をぶんぶんと横に振った。
「あら、でもあんなにぴよこ様や亀様が楽しそうに遊んでいらっしゃるのに……?」
 ついでに言うのならば、あられも一緒になって楽しそうに遊んでいる。
「いやいやいや、でもね!?」
「――然しまぁ、腹を括った方が良さそうだぜ、伊織よ」
 見てみろ、とちょこが丸くて可愛らしい前足で、聖獣とぴよこと亀を指す。
「え?」
 全員がそのつぶらな瞳で、伊織を見ていた。
「いや、えぇ……?」
「一緒にお家に帰る、という目でございますね」
 春和がそう言うと、ぴよこはその小さな翼をパタパタと動かし、亀は首をぶんぶんと縦に振った。
 混乱を極めた伊織をよそに、ちょこがそうか、わかったぞ! と、手を打つ。
「お前はもしや――鰻の聖獣か?」
 鰻? 鰻ってうなぎ? ウナギ? と、更に伊織がクエスチョンマークを飛ばしていると、そうだと言わんばかりに聖獣が頭を振った。
「あら、鰻でございましたか。何にせよ、純粋な眼差しが素敵な聖獣様ですね」
「てか、龍じゃないのこのコ!」
 龍に見えなくもない、蛇にも見えなくはない。しかし鰻と言われてしまえば、最早それは鰻にしか見えない。
「蛇は兎も角、鰻の聖獣ってソレ最早珍獣……!」
 亀に続いて鰻? と伊織が目をぱちぱちと瞬き、なんとはなしに白猫を見る。
『にぁ、おともだちがふえて、よかったね』
 止めのような言葉と、どうするんだというような春和とちょこの視線、そしてうるうると潤んだ可愛いお供達の視線――。
「う……っ」
 勿論、負けたのは伊織だった。
「そ、そーいうコトなら……仕方ない……カナ……?」
 仕方なくもなんともないのだが、如何せん伊織はお供達にとことん甘いし弱いのだ。
 聖獣が嬉しそうに身を翻し、淡い光りを残して星空へと泳ぐように戻っていく。残された光りはゆっくりとその形を整えて――。
「鰻だな」
 そう言ったのは、さらっととライオンのぷりんと仲良くなっている白い虎の聖獣から貰った白い仔虎を連れたちょこ。
「鰻……でございますね」
 そして猫の鈴が仲良くなったと見せに来た鶴のような神秘的な桜色をした瑞鳥の聖獣から貰った桜色の小鳥を連れた春和だった。
「いつの間に!?」
 伊織がフリーズしている間に。
「ああもう! そしたらもう此の儘、星見がてら親睦会だな!」
 こうなりゃ自棄だと、伊織が叫ぶ。
「おう、そりゃ最高の名案だ」
「では是非、また皆で仲良く癒しの一時を」
 白猫あられを筆頭に、伊織のぴよこに亀、そして新しく増えた鰻。
 ちょこのぷりんと白い仔虎、春和の鈴に桜色の小鳥。
 なんとも賑やかで、楽しい宴会の始まりだ。
『にぁ、にぁ、たのしいねえ』
「楽しいか、そりゃ良かった」
 今も、この先も、あの星の数や光に負けず劣らずの、楽しい思い出で満ちると良いなとちょこが笑う。
「ふふ、楽しい仲間が増えましたね」
 どうか、あられ様や皆の未来に、彼の星々の様に優しく輝ける光が在り続けますようにと春和が星降る夜空を見上げて祈る。
「帰ったら、名前付けてやらないとだな」
 腕にぬるりと巻き付いた鰻を見て、伊織がこれはこれで可愛いかもなと指先で撫で、楽しそうにしているあられと、共に笑う仲間を見遣る。
 あられにも、仲間達にもこんな風に穏やかな時間が続くようにと願う。
 結んだ縁が、どうか途切れないようにと――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

誘名・櫻宵
🌸迎櫻
💎

リル!カムイー!
カムイに呼ばれたの
私も来ちゃったわ!
24日はリルの誕生日…カムイと一緒にお祝いしたくて

聖獣達と私達の力をあわせて、リルに使いを贈りたいの

私の元に授けられたのは桜色の桜宝石
あなたが迷わず、例え迷っても
あなたの路を泳いでいけるように
そして…
カムイ、がんばって!!

リルに贈る聖獣――聖獣の力の欠片と
私が祝福として授かった石と祈り
神の力と合わせリル自身の縁と結びつけて

あなたへの祝福の子を

リル、お誕生日おめでとう!
あなたのうまれた大切な日に、祝福を
生まれてきてくれてありがとうをこめて
美しい歌をうたう白の祝福をあなたへ

だーいすきよ!
リルもカムイも
愛をこめて2人まとめてぎゅうとする


リル・ルリ
🐟迎櫻

え?!
櫻宵、どうしてここに……カムイがよんでくれたの?

嬉しくて笑みが零れる
会いたかった、大好きな人
カムイの優しさにも、櫻の笑顔にも心が解けるようだ

誕生日―僕の
二人の気持ちが嬉しくて、笑顔が眩しくて
そうして聖獣の力の欠片と、二人がくれた祝福が
僕がはじめて信じた神様の力でひとつのかたちになってくれる

舞い降りたのは、白い鳥
白孔雀のような尾に秘色を纏う白の鳥
薄花桜の瞳は――僕と同じだ
いつかの夢に現れた、白い鳥の男とおなじ彩

まるで運命のようで
導くようで

嗚呼、
夢を振り返る
とうさん、かあさん
僕はとっても幸せだよ
海の中でもないのに揺れる視界と暖かい桜のぬくもりに幸せで

僕は僕の生命と幸を、噛み締めるんだ


朱赫七・カムイ
⛩迎櫻
🐾

雪が舞う
美しいね、リル

驚いたかい?
私の巫女―サヨを呼んだんだ

お誕生日おめでとう、リル
そなたの生まれた日に祝福を

私が分けてもらった聖獣の力の欠片(たまご)とサヨがもらった宝石と
リルに約された縁と結びあわせて
ひとつの生命を創造する
そなたを守ってくれるように
祈りを込めて

卵からかえるようにうまれたのは白い鳥
肩に乗る程の大きさで尾羽根は長く孔雀のよう――リルの羽根髪のようだ

私達からの贈りものだよ

(私を受け入れてくれた。共に生きようとサヨの側に私があることすら赦してくれた。そんなそなたが、哀しみを超え歌えるように)

サヨ、リルが喜んでくれたね

抱き締められれば暖かく
噫、
離したくないと願ってしまうのだ



●聖なる夜を言祝いで
 滅びの運命から逃れた世界は瞬く間に崩壊を起こす前の、いつも通りの世界へと戻った。
 違うのはたった一つ、白猫が猟兵達の働きによりご主人様と満ち足りた別れを済ませられたこと。
「本当に良かった」
 リル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)がそう言って朱赫七・カムイ(約彩ノ赫・f30062)を見ると、優しく微笑んだカムイも本当に、と頷いた。
「リル、少し歩こうか」
 もっとよく星の見える場所を探そうと誘われ、リルはカムイに誘われるままに白く煌く尾鰭を揺らし、カクリヨファンタズムの夜を歩く。
「カムイ、どこまで行くの?」
「もう少し、とっておきの場所があるんだ」
 こっち、と手招かれ、星空を見上げながらカムイの横を進む。ちらほらと星が流れるのが見えて、リルが流れ星だと空に手を伸ばすと、カムイが笑って手を引いてくれた。
 だから、リルは安心して手を引かれたまま、空を見上げていた。
 前を見るよりも星空を見上げることに夢中で、声を掛けられるまで気が付かなかったのだ。
 カムイが誰かと目配せをして、微笑んでいたことに。
「リル! カムイー!」
「え!?」
 よく知っている声、大好きな櫻の声。聞き間違えるはずなどないと、慌てて星空から声がした方に視線を遣れば、そこには。
「櫻宵、どうしてここに……」
 吃驚しすぎて、リルの目がまん丸になるのを誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)は愛おし気に見つめながら二人の方へと駆け寄った。
「驚いたかい? 私の巫女――サヨを呼んだんだ」
「カムイに呼ばれたの。ふふ、だから私も来ちゃったわ!」
 さぷらいず、というやつだよと、カムイが悪戯が成功したような顔で笑う。
「カムイがよんでくれたんだね」
 まぁるく見開いた目をぱちりと閉じて、もう一度開く。やっぱり、目の前に居るのは会いたかった大好きな人だと、じわり、じわりと心に広がって、リルが嬉しさの余り笑みを零した。
「ありがとう、カムイ、櫻宵!」
 カムイの優しさにも櫻宵の笑顔にも心が解けるようで、頬に甘い薔薇が咲いたかのようにリルの頬が色付く。
「ふふ、私が待ちきれないって、カムイは知ってたのね」
「勿論、私の巫女のことだからね」
 櫻宵とカムイが視線を合わせて笑い合う、それにきょとんとしてリルが首を傾げた。
「待ちきれない?」
 何をだろう。自分達が帰るのをだろうか? と考えたところで、櫻宵が種明かしだとリルに微笑む。
「24日はリルの誕生日……どうしても、カムイと一緒にお祝いしたくて」
 その言葉に、リルがあっと声を上げる。
 そうだ、今日は――。
「誕生日……僕の……!」
「そうだよ。お誕生日おめでとう、リル」
 おめでとう、と二人の声が重なって、リルは思わず二人の胸へと飛び込んだ。
「嬉しい、ありがとう……!」
 何よりも嬉しいのは、二人の気持ち。もうそれだけで、リルは満たされて幸せな気持ちになる。
「それでね、リル」
 櫻宵がリルの背を優しく撫でて、どうして自分が館で二人を待たずここまで来たのか、もう一つの理由を告げる。
「今夜……ここに聖獣が集まるでしょう?」
 聖獣、確かここへ来る前に案内をしてくれていた猟兵も言っていた。
 こくん、とリルが頷くと櫻宵が微笑んで話を続ける。
「聖獣達と私達の力をあわせて、リルに使いを贈りたいの」
「僕に、使い魔を……?」
「きっと、リルを助ける力になるはずだよ」
 カムイが力強く頷くと、櫻宵が両手を空へと差し伸べる。流れ落ちる星はピークを迎えたようにその数を増し、それに誘われるように様々な聖獣が星空を駆けていた。
 リルの力になってくれる聖獣を呼び寄せるように、櫻宵が願う。きらりと何かが光って、櫻宵の元へ淡い桜色をした聖獣が舞い降りる。
「お願い、どうか私に力を貸して?」
 願いに応えるように、桜色の光が櫻宵の手の中に落とされた。
「ありがとう」
 櫻宵がそう言うと、聖獣はまた夜空を駆け巡る為に飛び立って、残されたのは桜色の桜宝石。
「次は私の番だね」
 そう言って、カムイが片手を星空へと伸ばす。
「どうか私にも力を貸してくれないかい」
 囁くように呼び掛ければ、朱に輝く鳥のような聖獣がカムイの前に姿を現した。
 そして、くるる、と一声鳴くと眩く輝く朱い光をカムイの手へと落とし込む。光りはやがて姿を変え、手のひらに収まるような小さな卵へと姿を変える。
「ありがとう、君も良い夜を」
 カムイの言葉を受けて、聖獣がもう一度くるる、と鳴いて夜空へ羽ばたいた。
「さあ、次はリルの番よ」
「心から呼び掛けてごらん」
 櫻宵とカムイに促され、リルが両手を星空へ向ける。
「心から……」
 目を閉じて、心に浮かんだそれを口遊む。
 ――リルルリ、リルラルリリル。
 どうか僕に、力を貸して。
 二人が息をのむような声が聞こえてリルが瞳を開けると、白孔雀のような尾に秘色を纏う白の鳥、薄花桜の瞳ははリルと同じもの。
「いつか夢に現れた、白い鳥の男と同じ彩……」
 まるで運命のようだとリルが聖獣へ手を伸ばすと、聖獣が淡い光をリルへと授けた。
「さあ、私が分けてもらった聖獣の力の欠片と」
「私がもらった桜宝石」
 カムイの手に、リルが迷わず、たとえ迷ったとしてもリルがリルらしく自分の路を泳いでいけるようにと願いを籠めた桜宝石を乗せる。
「そしてリルに約された縁と結びあわせ、ひとつの生命を創造する」
 リルの周囲をくるくると踊るように舞う淡い光が、カムイの手の中へと飛び込んだ。
「そなたを守ってくれるように、祈りを込めて……」
 ぶわり、と風が舞う。カムイが身に付ける鈴が、りりん、りりん、と清らかな音を立てる度に、手の中の光が眩く輝いて。
「カムイ、がんばって!!」
 巫女の声に力を得たように、約と縁が巡る、廻る。
「ここに、約は結ばれた」
 りぃん! と力強く鈴が鳴った。
 ぴき、ぴき、ぱきり、と淡い桜色の輝きを放つ卵に罅が入っていく。
「リル」
 カムイが両手をリルへと向け、手の中の卵を見せた。
「卵が、孵る……!」
 リルの声と同時に、罅割れた卵が眩く光って――。
 産まれたのは、白い鳥。リルの肩に乗る程の大きさのその鳥は、尾羽が長く孔雀の……そう、例えるならばリルの羽根髪のような、リルの為に産まれた、リルだけの鳥。
「私達からの贈り物だよ」
  私を受け入れてくれた、共に生きようと、櫻の巫女の傍に私があることすら赦してくれた、優しい人魚。そんなそなたが、哀しみを超え歌えるように。助けになるように。
 祈りの込められた、美しい白い鳥をカムイがそっとリルの肩へと乗せた。
「リル……お誕生日おめでとう!」
 あなたのうまれた大切な日に、祝福を、言祝ぎを。
 生まれてきてくれてありがとうをこめて、美しい歌をうたう白の祝福をあなたへ。
 櫻宵の愛に満ちた瞳が、リルを愛していると告げている。
「ありがとう、ありがとう、櫻宵、カムイ」
 嗚呼、あの白い霧の中で見た夢を振り返る。
 とうさん、かあさん、僕はこんなにも、こんなにも幸せだよ。
 海の中でもないのに揺れる視界の中、リルが櫻宵とカムイに抱き着いた。
「サヨ、リルが喜んでくれたね」
「ええ、ええ、ここまで来て本当に良かったわ! だーいすきよ!」
 リルも、カムイも、と愛を込めて櫻宵が二人纏めてぎゅっと抱き締める。
「あたたかいね」
 カムイも、愛しさをこめて二人を抱き締め、離したくないと願いを籠めた。
「僕、とても幸せだよ」
 櫻宵がいて、カムイがいて。僕の生まれた日を心から祝ってくれて。
 幸せな温もりに、リルは自分の生命と幸を心から噛み締めるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

宵雛花・十雉
【双月】

💎
ほんとだ…
聖獣って聞くとなんだか厳かな感じがするけど
こんなに可愛い聖獣もいるんだね
え、この石…オレにくれるの?
夜空に似た深い青の中に、金色の粒が散りばめられてる
なんだか優しく守ってくれそうな石

あ、あられだ!
おーい、こっちにおいでよ
姿を見かけたら手を振って呼んでみる
ユェーのお膝の上から手招きされたらなんだか微笑ましくなっちゃうな
うん、じゃあ3人で遊ぼっか
…あ、肉球さわってもいい?

ほんとだ、流れ星
願いごとかぁ…そうだな
あられがこれから先、優しい誰かにたくさん出会えますようにってお願いしようかな

ユェーはなんてお願いするの?
なぁんだ、それなら叶っちゃうよ
また遊びに行こうね


朧・ユェー
【双月】

💎
十雉くん聖獣ですよ
もふもふとしてとても可愛いですね
おや、石ですが?
彼岸花の様に紅く、身を護り癒す加護。まるで君の様

おや、君は
ひょいとその子を抱き上げて膝の上に乗っけると
十雉くん僕とこの子と一緒に遊んでください
あられの可愛い手をつかって手招き
遊ぶ君の姿を優しく見つめる

空を見上げると流れ星
十雉くんの願い事って何ですか?
十雉くんらしい。あられ良かったですねぇ

僕ですか?
そうですね…君とまたこうやって出掛けたり君の傍にいれて君の笑顔が見たいです。
おや、遊んで下さるのです?有難うねぇ
優しく微笑んだ後

本当はこのまま時間が止まればいいのに、君を奪い去りたい
そんな醜い願いは心に秘めて
ごめんねと呟いて



●願うなら星よりも
 夜なのに明るい、と宵雛花・十雉(奇々傀々・f23050)がぽつりと呟き、夜空を見上げる。
「これだけの星と月があれば、夜道も明るいと感じるものなんですね」
 夜空を見上げたまま立ち止まってしまった彼に合わせて歩を止め、朧・ユェー(零月ノ鬼・f06712)がそう言った。
「星ってこんなに見えるもんなんだね」
 星を見上げるのは初めてじゃないし、それこそ周囲に何もないような場所で見上げたことだってある。その度に綺麗な星空だと思ったけれど、今夜はどうしてかいつもより星が近いような気がすると十雉が笑う。
「この世界の夜空はもしかしたら、本当に星に近いのかもしれないねぇ」
 そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないけれど、とユェーが言うと、そうだねと十雉がまた夜空を見上げた。
「あ、流れ星だ」
「ええ、僕も見ましたよ」
 きらりと光って流れ、すぐに消えていったけれど、またすぐに次の流れ星が夜空を駆けていく。
「綺麗……」
「ええ、本当に」
 ユェーが十雉を見て微笑む。それから、そう言えば星降る夜には聖獣が現れるのでしたっけ、と案内をしてくれた猟兵の言葉を思い出す。
「聖獣、どんなのなんだろうね」
「きっとすぐに見れますよ」
 こんなに綺麗な星空に、流れ落ちる星が見られるのなら、自分達の様に誘われて出てくるに違いない。
 そしてそれは、間違いなく当たっていたようで。
「十雉くん、聖獣ですよ」
「え、あっ」
 ほんとだ……と口を開けた十雉達の見上げる空に、数匹の聖獣が飛んでいるのが見える。それはすぐに数を増やし始めて、いつの間にか二人の目の前に一匹の聖獣が舞い降りた。
 それはもふもふとした毛並みを持ち、可愛らしいつぶらな瞳で二人を見上げている。
「もふもふとして、とても可愛いですね」
「聖獣って聞くとなんだか厳かな感じがするけど、こんなに可愛い聖獣もいるんだね」
 可愛い、と言われた聖獣は嬉しそうにユェーの手に頭を擦り寄せ、十雉の手にも同じように擦り寄せた。
「可愛い……」
 きゅん、と心臓が高なるほどには可愛いと十雉がふわふわと笑って聖獣を撫でる。
「ええ、本当に可愛らしい」
 聖獣も、君も。とは声には出さず、ユェーも聖獣を撫でた。
 暫く撫でていると聖獣が小さな光を二つ、ユェーと十雉の手の平に落とす。それはすぐに姿を変えて、ユェーには彼岸花のように紅く、十雉には今日の夜空にも似た深い青に金色の粒が鏤められた石になる。
「おや、石ですか?」
「え、この石……オレにくれるの?」
 こくんと聖獣が頷き、淡い光りを放ってまた夜空へと舞い上がる。
「ありがとう、大切にするから……!」
「ええ、大切にします」
 二人の声にきゅう、と鳴いて聖獣が居なくなると、ユェーと十雉は目を合わせてから手の中の石に視線を落とした。
 紅い石からは身を護り癒す加護が感じられ、ユェーはまるで君の様だと笑みを深める。
 青い石からはなんだか優しく守ってくれそうな加護が感じられ、十雉はくすぐったい様な感じがしてはにかむように笑った。
「おや、君は」
 にぁ、と鳴く声が聞こえて視線を向ければ、さっきまで一緒に居た白猫の姿が見えた。
「あ、あられだ! おーい、こっちにおいでよ」
 十雉が呼ぶと、にぃ、と鳴いてあられが二人の元へ駆けてくる。その白猫をひょいと抱き上げ、ユェーが近くの岩場に腰を下ろし膝の上に乗せる。
「十雉くん、僕とこの子と一緒に遊んでください」
 あられの可愛い手を指で優しく包んで、ちょいちょいと手招きするように揺らす。
『にぁ』
 鳴声まで聞こえてきては、十雉に断る理由など毛程もなかった。
「うん、じゃあ3人で遊ぼっか」
 隣に腰を下ろし、十雉がユェーの膝の上のあられと遊ぶ。ピンクの肉球は何よりもぷにっとしていて、頬が蕩け落ちそうだ。
 空からはひっきりなしに星が降ってきて、見上げたユェーが十雉に問うた。
「十雉くんの願い事って何ですか?」
「願いごとかぁ……そうだな」
 少し考えて、十雉があられの頭を撫でる。
「あられがこれから先、優しい誰かにたくさん出会えますようにってお願いしようかな」
「十雉くんらしい。あられ、良かったですねぇ」
『にぁ、にぁ、じゃあね、あられはふたりがしあわせになれるように、おねがいするね』
 にぁ、と白猫が笑う。
 なるほど、これが尊いという感情かな……とユェーが考えていると、十雉がユェーは? と聞いた。
「僕ですか? そうですね……君とまたこうやって出掛けたり、君の傍にいれて君の笑顔が見たいです」
「なぁんだ、それならすぐにでも叶っちゃうよ」
 星に願わなくても、と十雉が笑うと、ユェーが優しく微笑む。
「おや、遊んで下さるのです? 有難うねぇ」
「また遊びに行こうね」
 ええ、と頷き、あられと共に流れ星を目で追い掛ける十雉の横顔をユェーが眺める。
 本当は、このまま時間が止まればいいのにと思ったなんて。
 君を奪い去って、閉じ込めて、僕だけのものにしてしまいたいなんて。
 そんな醜い願いは口には出さず、心に秘めたままにする。
「ごめんね」
 口の中で転がすように呟いた声は、誰にも聞こえないまま星空へと溶けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

汪・皓湛
💎

UDCアースに居た頃、星が流れゆく様を幾度か見た
けれどこの様に空を照らすほどのものは初めてで
口を開けたまま幼子の様に見惚れてしまう
手にしていた万禍に“いずれは口に星が落ちるな”と呟かれ
漸く我に返った

…私は、そんなに口を開けていたか?
開けていた?
わかった
わかったから何も言わないでくれ

気恥ずかしくなり口を閉じる間も、その後も
空は翔る星々で綺羅の様

あの男も、幽世のどこかで見ているのだろうか

見ていたとして
もし、再会したとして
私は…きっと、動けない

確信に近いそれを口に出来ず
故に聖獣を願い、現れた麒麟の前へ

願う加護をどう表せば良いのか、今はわからない
ただ
進む道を照らしてくれる石を、どうか



●星の道標
 流れゆく星を見て思い出すのは、UDCアースに居た頃のこと。
 星が流れゆく様を幾度となく見たけれど、流れ星とはこんなにも空を照らすほどのものだっただろうか。気付かぬうちに小さく口を開けたまま、汪・皓湛(花游・f28072)は幼子のように星空を見上げていた。
 あまりにもそのままの姿勢でいたせいか、皓湛が手にしている剣――万禍がぽつりと呟く。
『いずれは口に星が落ちるな』
 ついでに目も落ちるんじゃないか、と言われてしまえば、皓湛も開いたままの唇を閉じ、目を何度か瞬かせて万禍へと視線を落とした。
「……私は、そんなに口を開けていたか?」
 思わず聞いてしまったその言葉に、万禍が揶揄い混じりの声で答える。開けていた、中々に間抜けな顔で――。
「わかった、わかったから何も言わないでくれ」
 頬が熱くなるのを感じ、皓湛がそう言って口を閉じる。
 そんな、人がいないからと星に見惚れてしまうなんてと頬を抑えるけれど、更に勢いを増して空を翔る星々に意識が吸い寄せられるように視線を送ってしまう。
「まるで綺羅のようだ」
 思わず零した言葉に万禍を見るが、何も言わず黙っていてくれる。それはきっと彼の優しさで、皓湛が笑みを浮かべた。
 流れる星を眺めている内に、あの男とも星を眺めたと思い出してしまい、視線を落とす。
 口には出さず、この幽世のどこかで見ているのだろうかと考えて――緩く首を振る。
 見ていたとして、もしも今ここで再開したとして。
 私は……きっと、動けない。
 流れる星の美しさに零す溜息にのせて、胸に詰まった何かを吐き出す。
 つきんと痛む胸に手を当て、確信に近いその思いを口には出来ぬまま皓湛が唇に言葉を乗せる。
「どうか、此処へ来ておくれ」
 流れる星に誘われるように集う聖獣に向けたそれは確かに届いたようで、皓湛の前に光りを放つ麒麟がふわりと舞い降りた。
 皓湛の揺れる瞳に寄り添うように、聖獣がその身を寄せる。
「……私は」
 願う加護をどう表せば良いのかわからず、皓湛が口を噤む。
 あの男を自分はどうしたいのか、再会を果たしたとして、何を口にすれば良いのか。
「今は、わからないんだ」
 ただ、進む道を照らしてくれる石を、と皓湛は聖獣へと願った。
 聖獣から放たれた淡い光りがひとつに集まり、皓湛の手の中へ消えていく。
「これは……」
 皓湛が手を開くと、きらきらと星のように輝く石があった。
 それはまるで夜道を照らす北極星のようにも感じられて、いつか迷う心を導いてくれますようにと皓湛は目を閉じて願うのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

音海・心結
🐾◎
零時(f00283)と聖夜を見上げ

平和になりましたね
ほんとによかったのです
ねぇ、零――

ふと視界にうさぎが視界に入る
彼が連れている紙兎パルによく似ている白色に煌めくうさぎ
それに羽が生えていた

……あの子、パルに似てませんか?
色とか形とか
聖獣でしょうか?

独りで過ごす姿が儚く思えた
ゆっくりゆっくり近づき、撫でる

んむ もふもふふわふわ
かわゆいですねぇ
どこか零時にも似てる気がしますし、愛着が湧いて来ました
……一緒に来ますか? 
なんちゃって、旅のお誘いでしたっ

うん?
さっき言った言葉?
……
なんでもないですよ♪

(あの時、みゆたちの命が尽きてたとしても、みゆは後悔はありません
――だって、独りじゃないから)


兎乃・零時
💎◎
心結(f04636)と!

すっかり平和になったな―
おう、よかっ…ん?

言葉が止まったのを訝し気にしつつも
ふと見れば兎が見えた
白く煌めく羽兎

…ほんとだな
なんかパルっぽいような…あれが聖獣?
(脳内でパルが「零時、普段の僕はあそこまで兎っぽくないよ…」って言ってる気がするけど気のせいだろ

心結と共に近づきながら
うわぁ…そんなに柔らかいのか…俺様も…!…ほんとだやわこい…
…え、俺様っぽいか此奴?
俺様はもうパルも居るしな、心結と此奴の組み合わせも楽しそうな気はするな!

そういや加護の力を持った石の欠片もあるんだっけ?
なんだろ…あれ、これ光…いや、雷の加護か…?

そういや、さっき心結何か言いかけてなかったか?



●聖夜に跳ねる
 滅びから救われた世界の星空はとても美しくて、兎乃・零時(其は断崖を駆けあがるもの・f00283)は空を見上げたまま音海・心結(瞳に移るは・f04636)へと話し掛ける。
「すっかり平和になったな―」
「平和になりましたねぇ」
 ほんとによかったのです、と心結も星に目を奪われたまま零時に答える。キラキラ瞬く星々は、まるでダイヤモンドのさざれ石を零してしたかのようで、ずっと見ていても飽きないほどだ。
 きらりと瞬いた星が尾を引いて流れ、心結が零時を呼ぼうとした時だった。
「ねぇ、零――」
 ふっと、白く煌く何かが視界を横ぎって、心結が動きを止める。
「心結? どうし……ん?」
 言葉と動きが止まった心結を訝し気にしつつ、零時が視線を空から隣へ動かし――零時も白く煌く何かを見た。
「……なんだ?」
「なんでしょう……?」
 二人で顔を見合わせて、それからきらりと光る白いそれに視線を向ける。果たして、そこにいたのは――。
 真白に煌く、翼持つ兎、であった。
「……あの子、パルに似てませんか?」
 なんとなく、こう、形とか色とか、と心結が言うと、零時も確かにと頷く。
「……ほんとだな、なんかパルっぽいような気もする……もしかして、あれが聖獣?」
 脳内でパルが、普段の僕はあそこまで兎っぽくないよ……? って言っている気がしたけれど、多分気のせいだと零時が軽く首を横に振って、その幻聴にも似た何かを振り払う。
「聖獣……でしょうか?」
 見た事の無い兎、しかし邪悪な感じは一切せず、どちらかといえば清らかな気配を身に纏っている。
「聖獣、うん、多分聖獣だな!」
 こんなに綺麗な羽兎なんだし、と零時が言うと、心結もそうかもしれないと言って笑った。
「独り……なのでしょうか?」
 聖獣が独りで過ごす姿は、なんだか寂しいような、儚いように思えて、心結が驚かさないようにとゆっくりと近付いていくと零時もそーっと、と言いながら近付いた。
「こんばんは、聖獣さん」
 もう一歩、というところで優しく声を掛けて手を差し伸べる。きゅ、と鳴いたかと思えば、聖獣は心結の手にそっと鼻先をくっ付けた。
「んむ、もふもふですね」
 そうっと、もう片方の手も伸ばして聖獣に触れる。嫌がるような気配がなかったので、心結がそのままもふもふっと撫でると、気持ち良さそうな声で聖獣が鳴く。
「もふもふ、ふわふわ……! かわゆいですねぇ」
「そ、そんなに柔らかいのか?」
「はい、それはもう、ふわっふわのもっふもふなのです」
 心結が厳かに頷いて、はっきりと零時へと告げる。
「……俺様も!」
 そう言われてしまえば、我慢などできるはずもなく零時もそっと両手を伸ばして聖獣に触れた。
「ほんとだ、やわこい……」
 柔らかいし、ふわふわでもこもこだし、人懐っこいし。意識しないまま口から漏れ出るのは、可愛いという言葉だけだった。
「ふふ、どこか零時にも似ている気がしますし、愛着が湧いてきました」
「……え、俺様っぽいか此奴?」
 首を傾げて零時が心結を見れば、聖獣も同じように傾げて心結を見る。その仕草が全く同じで、そっくりですよと心結が堪えきれずに笑った。
「そうかな……似てるか?」
 なぁ? と聖獣に零時が言うと、きゅう? と聖獣も同じように返す。
「ああ、だめです、みゆはもうこの子が気に入りました」
 そう言って撫でていた手を止めて、心結が聖獣と視線を合わせた。
「……みゆと一緒に来ますか?」
 旅の誘いのような、柔らかい声に聖獣が淡い光りを放つ。それは音もなく心結の手に集まって――やがて聖獣を小さくしたような翼兎の姿になった。
「一緒に来てくれるんですか?」
 使い魔が、きゅうと鳴いて心結にじゃれつく。
「使い魔か、俺様はもうパルも居るしな。心結と此奴の組み合わせも楽しそうな気はするな!」
 よろしくな、と心結の使い魔に零時が言うと可愛らしい声で使い魔が鳴いた。
「そうすると、俺様は石……だな」
 零時が聖獣を見ると、心得たとばかりに聖獣がきゅう! と鳴いて光りと共に石を零時の手の平に落とした。
「これが加護の力を持った石か……ん、なんだろ」
 石の力を感じ取って、零時が聖獣へ視線を送る。
「これ、光……いや、雷の加護か……?」
 零時の言葉に、聖獣が力強く鳴いて同意を示す。それから、軽やかに地を蹴って夜空に舞うように翼を羽ばたかせて流れ星が降る空へと戻っていった。
「行っちまったな」
「はい、もしかしたら仲間が呼んだのかもしれません」
 そうであればいいと、心結が微笑んだ。
「そういや、さっき心結何か言いかけてなかったか?」
「うん? さっき言った言葉?」
 何だったかと、心結が考えて、それから使い魔を抱きしめて立ち上がる。
「……なんでもないですよ♪」
 それよりも零時、流れ星ですよ! という声に、零時もすぐに意識を夜空へと向けて立ち上がった。
 あの時、あられに向かって言った言葉。あれには確かに続きがあった。
 みゆたちの命が尽きてたとしても、みゆに後悔はありません。
 だって、独りじゃないから。――あなたが、いるから。
 零時には内緒だと、使い魔だけに聞こえる声で心結が微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クレア・オルティス
🐾


わぁすごい流れ星…!
あっ なにか降りてくる…?あれが…聖獣…

聖獣ってほんとに姿もいろいろなんだね
クジラや蝶…スライムみたいなものまで…!面白いなぁ
そういえば、聖獣の力の欠片…使い魔を渡してくれるって聞いたけど…
手を組み星空に祈る
わたしにも力の欠片をお与えください…!
…?あなたは…(ふと舞い降りた一匹の白い小さな子供の龍)
ちょっと触らせてね、抱っこしてもいい?
もふもふだぁ…くすぐったいよう
もしかして、あなたがそうなのかな…!
ふふ、これからよろしくね
大事にするね
この子の瞳、あられにちょっと似てるね
鈴をつけたら喜ぶかな?
名前も付けてあげなくちゃ…!
あなたにピッタリな、素敵で可愛らしい名前をね



●星降る夜のお友だち
 平和になった世界は、さっきまで崩壊を続けていたとは思えない程に綺麗な星空を湛えていて、クレア・オルティス(天使になりたい悪魔の子・f20600)は見上げた夜空の美しさに、思わず感嘆の声を上げていた。
「わぁ、すごい流れ星……!」
 きらきらのお星様に、数え切れない程流れていくお星様。
 空を見上げすぎて首が痛くなるのを忘れてしまうくらい、クレアは星の降る夜空に夢中になっていた。
「あれ……? あれはなんだろう? なにか降りてくる……?」
 流れる星を追い掛けるように、何かが夜空を降りてくるかのように飛んでいるのが見えて、もっとよく見ようとクレアが岩の上に立って背伸びをする。
「クジラ? イルカ? お馬さんに綺麗な鳥……」
 クジラって、空を飛んだだろうかとクレアが首を傾げ、また夜空を見上げる。
「ん……スライムみたいなのもいるし、蝶もいる……! 面白いなぁ」
 きっと、あれが聖獣なんだとクレアは思う。だって、クジラもイルカも空を飛んだりはしないもの、きっと聖獣に違いない。
「それに、星降る夜に誘われてやってくるんだものね?」
 今の空はまさに星が降る、そんな空だ。聖獣がやってきたっておかしくないと、クレアは笑って頷いた。
「そういえば、聖獣の力の欠片……使い魔を渡してくれるって聞いたけど……」
 わたしにも、力の欠片をくれるだろうかとクレアが再び夜空を見上げた。
 そして、手を組んで星空に向かって目を閉じて、祈る。
「わたしにも力の欠片をお与えください……!」
 三回願うのだっただろうか、それは流れ星にお願いする時だったっけ。そんなことを考えながら目を開ければ、夜空を泳ぐように飛び交う群れの中から、真っ白な龍が見えた気がしてクレアが目を瞬かせた。
「白い龍……?」
 そう呟くと、きらりと何かが光って、それがそのままクレアの目の前で止まる。光の塊のようなそれに、そっとクレアが指先を伸ばすと、すぐに光が形を作って彼女の目の前に現れた。
「……? あなたは……龍?」
 一匹の白い小さな子どもの龍が、ふわふわと浮いている。
「ちょっと触らせてね、ええと……抱っこをしてもいい?」
 そう問うと、仔龍はするりとクレアの胸の方へと頭を寄せて擦り寄った。
「もふもふだぁ……くすぐったいよう」
 ふふ、あはは、と楽しげに笑って、クレアが仔龍を抱き留めた。
「ねえ、もしかして、あなたがそうなのかな……!」
 あなたが、わたしの使い魔になってくれるの? その言葉を聞く前に、仔龍がきゅう! と鳴いてますますクレアにじゃれつく。
「ふふ、これからよろしくね」
 大事にするね、とクレアがそっと仔龍の額に自分の額を寄せた。
「この子の瞳、あられにちょっと似てるね。鈴をつけたら喜ぶかな?」
 ちりん、と鳴る、この子に似合う鈴を付けて、名を呼んで。
「そうだ、名前も付けてあげなくちゃ……!」
 あなたにぴったりな、素敵で可愛らしい名前を、とクレアが笑うと、仔龍も嬉しそうにきゅう、と鳴いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロキ・バロックヒート
【欠片】
🐾

俺様使い魔欲しいな
使い魔?はもう居るんだけど
精霊のヘクセちゃんが懐から
人見知りだからすぐ引っ込んじゃうけど
亮ちゃんは蝶を連れてたっけ
淡い光でとってもきれいだよね

来てくれた聖獣はもふもふ毛のドラゴン(その他お任せ)
見て見てかわいー
この子が添い寝してくれるなら
今年は凍死しない気がするよ
冗談かわからないことを
どうぞどうぞって、それが加護の石?
どんな加護があるのかなぁ

聖獣をもふもふしたら
流れ星になにか願い事でもする?なんて
あはは、ぬくぬくセット良いかも
じゃあ俺様はしあわせの欠片がいっぱい見付かりますようにって
いつかいろんなものをすくえるようにさ

あ、雀くんに肉まん差し入れしよ
おつかれさまだよ


天音・亮
【欠片】
💎

ヘクセちゃん?
初めまし…あっ隠れちゃった(しゅん)
入れ替わりでふわり現れる幽世蝶
この子達とは幽世で会ったんだ
ふふ、綺麗でしょ

ここにも聖獣がたくさん居るんだよね
わ、本当だもふもふ!かわいい~!
ねえ少し触ってもい──いたっ
手を伸ばした矢先こつり何かが頭に当たる
地面に落ちたそれは綺麗なエメラルドカラーの石
あ、これが加護の石ってやつかな?
蝶が心地良さげに周りを飛ぶものだから持ち帰ることにして

もふもふ堪能したら
見上げる星空はすごく綺麗で
願い事かぁ…うーん
ロキが凍死しちゃわないように
あったかい洋服と靴下が降ってきますようにー
とか?なんてね

ロキのお友達らしい雀くんには
ひらり手を振って笑顔でご挨拶



●星に願って
 夜の帳が下りて、めいっぱいの星が鏤められている中をロキ・バロックヒート(深淵を覗く・f25190)と天音・亮(手をのばそう・f26138)が歩く。
「どこを見てもお星様が降ってくるね」
 すごーい、と笑ったロキに亮も笑って、空を見上げる。
「ひとつくらい、ここに降ってきそうだよね」
 あれ、でもそうしたら滅びちゃう? と亮がロキを見る。
「小さいのとかは、普通に落ちてくることもあるらしいよ」
 それを隕鉄と呼び、生活に取り入れたりしてた時代もあったはずだ。
「世界が滅ぶくらいだと、もっと大きいんじゃないかなぁ」
「じゃあ、落ちてきても安心だね」
 ねー、と顔を見合わせて笑うと、急に空が賑やかになって、二人で夜空を見上げる。
「ここにも聖獣がたくさん居るんだよね、あれが聖獣なのかな?」
「多分そうだと思うよ。いいな、俺様使い魔が欲しいな」
 気の合う子がいたら、連れて帰りたいとロキが空を見上げたまま言って、それからちょっと考えるようにして亮に顔を向けた。
「使い魔? はもう居るんだけど」
「居るんだ?」
 うん、と頷いたロキが懐から紫褐の空の色をした翼が生えた、夜色の蛇のような精霊を見せる。
「精霊のヘクセちゃんっていうんだけど」
「ヘクセちゃん? 初めまし……あっ」
 挨拶をする前に、するりとヘクセがロキの懐の中に潜ってしまう。
「隠れちゃった」
 嫌われたかな? としょんぼりした亮に、ロキが首を横に振る。
「この子はちょっと人見知りだから、すぐ引っ込んじゃうんだよ」
 可愛いんだけどねぇ、とロキが指先を懐に入れてヘクセを撫でた。
「亮ちゃんは蝶を連れてたっけ? 淡い光でとってもきれいだよね」
 こくりと頷いた亮の傍に、ふわりと光る蝶が現れる。
「この子達とは幽世で会ったんだ。ふふ、綺麗でしょ」
 褒められて嬉しいと亮が青い瞳を煌かせて微笑むと、蝶もあえかな光りを明滅させて夜を照らした。
「聖獣、来てくれるかなー」
「手でも振ってみる?」
 いい案だ、と笑ったロキが両手を空へ向けてぶんぶんと振ってみる。それを見た亮も、私もと同じように手を振った。
「あ、本当に来たよ」
「え? わ、本当にこっちに来てる~!」
 おーい、とまた手を振れば、応えるように聖獣がクルルル、と鳴いて二人の元へ舞い降りる。
「わー、見てみて、かわいー」
 二人の身長の二倍はあろうかという、もふもふの毛並みを持ったドラゴンをロキが頻りに可愛いと褒めて手を伸ばす。嫌がる気配を見せないドラゴンにそっと触れ、あったかーいと抱き着いた。
「わ、本当だもふもふ! かわいい~!」
「この子が添い寝してくれるなら、今年は凍死しない気がするよ」
 あながち冗談でもないようなことをロキが言うと、そんなに温かいなら触ってみたいと亮が手を伸ばそうとした時だった。
「ねぇ、少し触ってもい……いたっ」
「どうぞどうぞ……って、どうしたの?」
 何か頭に当たったのだと、手で頭を触りながら亮が視線を地面に落とした。
「これ、かな?」
 地面に落ちていた綺麗なエメラルドカラーの石を拾い上げ、まじまじと眺める。
「あ、これが加護の石ってやつかな?」
「それが? どんな加護があるのかなぁ」
 良い加護だといいね、とロキが笑うと亮の蝶が心地良さげに石の周りをひらりひらりと飛ぶ。
「うん、持って帰ろう」
 きっとそのうち、どんな加護があるのかもわかるはずだと亮が大事そうにポケットに仕舞うと、改めて聖獣に手を伸ばす。
「わあ、本当にあったかいね!」
 手触りの良い毛布みたいだと二人でもふもふを堪能して、ドラゴンを背もたれにすると夜空を見上げた。
「何回見ても、すごく綺麗ね」
「ねー、綺麗だね。流れ星になにか願い事でもする?」
 なんて、とロキが笑うと亮が流れる星を指さして、願い事、と考える。
「うーん、そうだね」
 願うなら、他愛もない、そんな。
「ロキが凍死しちゃわないように、あったかい洋服と靴下が降ってきますようにー」
 とか? と、亮が笑ってロキを見た。
「あはは、ぬくぬくセット?」
 良いかも、とロキが裸足の足を見せて笑う。
「じゃあ俺様はねぇ」
 星空に手を伸ばし、ロキが幾筋も流れていく星に向かって願いを口にする。
「しあわせの欠片がいっぱい見付かりますように」
「しあわせの欠片?」
「うん、いつかいろんなものをすくえるようにさ」
 取りこぼさぬように、この手の中に。
「しあわせの欠片、素敵だね」
 立ち上がったロキに亮がそう言うと、でしょう、と微笑んでロキが亮を引っ張り上げて立たせる。それから、もう一度もふもふを堪能すると、ドラゴンが翼をはためかせてふわりと空へ浮かんだ。
「またねぇ」
 手を振るロキに向けて温かな光りを落とし、ドラゴンが星空へと飛んでいく。光りは次第に姿を変え、ロキの腕の中には抱きかかえるには丁度いいサイズのふわふわドラゴンが残された。
「かわいー、ふわふわ」
「これで凍死しないで済むね」
 ほんとだ! 二人で笑って、来た道を戻るとカラフルな頭の知った顔が見えた。
「あ、雀くんだ」
「雀くん?」
 うん、ともだちー、と笑ってロキが雀に近付く。
「こんばんは、雀くん」
「あ、ロキくんだ!」
 足寒そう! と言う雀に笑って、ロキが差し入れと肉まんを渡す。
「ありがとー! 冬の醍醐味!」
 肉まんを笑顔で受け取る雀に、亮がひらりと手を振って笑顔でこんばんはと声を掛けた。
「こんばんは! ロキくんのお友だち?」
「そー、おともだち」
「お友だち! よろしくね!」
 ぬいぐるみのようにロキが抱きかかえるドラゴンにもよろしくね、と挨拶をして雀が笑う。
 星の降る賑やかな夜に、三人の笑い声が静かに響いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年12月24日
宿敵 『彷徨う白猫『あられ』』 を撃破!


挿絵イラスト