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竜退治のその先に

#アックス&ウィザーズ #猟書家の侵攻 #猟書家 #レプ・ス・カム #フェアリー #妖精フリム

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●アックス&ウィザーズ:壺の中の小世界
「……はあ」
 ここは、フェアリーランド……ユーベルコードで生まれた小さな世界。
 だが術者であるフェアリーの少女冒険者……フリムは、沈痛な面持ちだった。
「やっぱりダメなのでする、全然チカラが解除できないし、ここは何処なのか……」
 フェアリーランドは、いまや鬱蒼と茂った森と化していた。
 日差しなど存在せぬ夜の森……それを、さらに恐ろしく戯画化したような空間だ。
 これは、フリムが意図したものではない。外部からの介入による変化だ。
 その犯人はフリムをあざ笑うだけあざ笑って姿を消し、行方は杳として知れない。
「せっかく、みんなに応援してもらって冒険者になったのに……」
 ユーベルコードの強制維持により、フリムの生命力は限界に達しつつある。
 加えて精神的な負担。あのウサギ耳のついた女の言葉がフリムの心に根を這っていた。

『残念だけど、キミはもうこの世界から出られないし、じきに死ぬことになるんだ!
 でもまあ、その代わり私の目的のために役に立てるんだから、問題ないよね!』
 その女はけろっとした顔で笑ったのだ。
『もちろん助けは来ないし、来たとしてもキミが生み出したこの森で迷い死ぬでしょう。
 つまりキミが殺すってわけだね! ああ可哀想! じゃ、あとはせいぜい頑張って!』

「……うう」
 フリムはついにその場にふらりとへたりこみ、泣きじゃくった。
 生命力の消耗と、心無い言葉による巧みな心理攻撃。そしてこの悪夢めいた世界。
 それらがフリムを追い詰め、そして結果として世界の悪夢化は加速する。
「やーでするぅ、ひとりのまま死んじゃうなんて……やだよぅ」
 その嗚咽は、誰にも届くことはない……。

●グリモアベース:予知者、白鐘・耀
「てなわけで、まーた猟書家がしでかしてくれたわけよ」
 垣間見た映像を語り終えた耀は、くいっと眼鏡の位置を直した。
「今回の犯人は『レプ・ス・カム』。時計ウサギ……っぽいけど詳細は不明よ。
 なんか『スーパーウサギ穴』とかいうのを使って移動してるらしいんだけど、
 正直その情報は放っておいていいわ。どうせ戦う時は逃げられないでしょうし」
 問題はまず、この小世界そのものだ、と耀は語る。
「フェアリーが使うユーベルコード……フェアリーランドってあるでしょ?
 今回の目的地は、そのフェアリーランドで出来た小さな異世界の中ってわけ。
 その異世界のどっかに、こいつが探してる『鍵』ってのがあるらしいわ」
 耀は親指で、グリモアが映し出したレプ・ス・カムを指し示した。
「天上界への鍵とかなんとか……まあわざわざ渡してやる理由はないわね。
 それを探すためだけに、わざわざ世界の中身改造して閉じ込めてんだもの」
 現在、このフェアリーランドは術者ですら解除が出来なくなっている。
 そして術者の精神状態を反映するかのように、悪夢めいた様相を呈していた。

「……順番が前後したけど、このハメられたフェアリーの女の子について。
 実はこの子、前に私が予知した事件で関係した子だったのよねえ」
 耀曰く、フリムはとある森でフェアリーの集落を治めていたらしい。
 当時の猟兵たちによって、二度に渡る森の危機は無事に回避された。
 それからしばらく……どうやら彼女は、冒険者となって旅立っていたのだとか。
「いまは猟書家のせいで弱ってるし、精神的にもかなり参ってるみたい。
 なんとかして『楽しいこと』を考えさせてあげれば、少しはマシになるわ」

 ……と言ったところで、耀は腕を組み、考え込んだ。
「ただねえ、猟書家のせいだけでこうなったにしては、なーんか気になるっていうか。
 多分だけど、この子冒険者として生活してる間に何かあった気がするのよね」
 そこまでは予知で見えなかったため、これは耀の憶測だ。
「もちろん悪夢化した世界はトラブルばっかでしょうからそっちも大事なんだけど。
 こう……あれよ。あんたたち一応、あちこち世界飛び回ってるじゃない?
 だから冒険者としては先輩なわけで……ねえ? なんかそういうネタないの?」
 ものすごいざっくばらんな言い方であるが……まあつまり。
「あんたたちの経てきた冒険譚とか、こう、心折れそうになったときの話とか、
 そういうのを聞かせてあげれば、楽しい気持ちになるのかもしれないわねえ」
 と、耀は推測するのだった。
「ま、何はともあれ。猟書家も倒さないとダメだから、そこんとこよろしくね」
 耀は軽く言うと、火打ち石を取り出して……ふっと笑った。
「泣いてる女の子ひとり助けられないで、猟兵もクソもないでしょ?」
 カッカッという火打ち石の音が、転移の合図となった。


唐揚げ
 ドラゴンステーキです。猟書家シナリオ第5弾行ってみましょう。
 今回は悪夢化した壺の中の小さな世界での冒険譚となります。
 猟書家ってなあに? とか詳しい話は、下記のURLをご参照ください。

●参考URL:猟書家の侵略
『 https://tw6.jp/html/world/441_worldxx_ogre.htm 』

●追記:NPCの『フリム』について
 こちらのキャラは当方の過去シナリオ2作に登場したNPCです。
 話に直接のつながりはありませんし過去を知らなくても問題ありません。
 が、せっかくなので、登場シナリオのタイトルをこちらに載せておきます。
『竜退治は飽きやしない: https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=4850 』
『アズ・ゴーズ・ライト、ソー・ゴーズ・ダークネス: https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=10404 』

●プレイングボーナス条件
『フェアリーに楽しいことを考えてもらう』
 OPで耀が触れている通り、フリムは冒険者になってから色々あったようです。
 皆さんのこれまでの冒険の思い出や、大変だったエピソードなど、
 彼女を勇気づけるようなお話をすれば効果があるかもしれません。
(もちろんそれ以外のアイデアも全然OKです! あくまで一例ということで)

●プレイング受付期間
 220/11/18 18:59前後まで。
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第1章 冒険 『出口のない森』

POW   :    力技や体力を駆使して出口を探す。

SPD   :    移動速度や器用さを生かして出口を探す。

WIZ   :    魔力や知識を使って出口を探す。

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●暗い暗い森の中
 この世界は、行けども行けども終わりない森が続く。
 飢えた獣や不可思議な怪樹、はたまた亡霊、あるいは謎めいた幻……。
 何が起きてもおかしくない場所だが、この世界のどこかに猟書家が居るはずだ。

 森を切り開き猟書家を探すか。
 もしくは少女フリムを探し、元気付けるか。
 ほかの猟兵が動きやすくなるよう、森の脅威を片っぱしから潰して回るという手もある。
 場合によっては探索は長期化し、野営の必要があるかもしれない。

 いずれにせよこの闇を突破しなければ、猟書家を倒すことはできないようだ……。
フェルト・フィルファーデン
◆ケン様と

よかった、まだ無事ね……ありがとうケン様。助かったわ。


フリム様お久しぶり!
ちょっとお話でもどうかしら?

これはわたしの親友の話。
その子はね、わたしの騎士“だった”の。
……でも色々あって。あの子は騎士である事を捨て、わたしは除名し、独りよがりに絶望してた。

でもね?そんなわたし達を皆が助けてくれたの。
そこの彼、ケン様とかね!
だから今は姫と騎士じゃない。でもそれ以上の親友として前に進めた。

皆のおかげで今のわたしがいる。
そして、助けを求める大切さを知ったわ。


フリム様に何があったのか、わたしにはわからない。
でも、独りじゃ無理な事でも皆の助けがあれば超えられるわ!

さあ、フリム様。助けは必要かしら?


ケンタッキー・マクドナルド
◆フェルトと

(――【アリアドネ】の糸を手繰る。目標とするモノを捜索する為のUCはこう言う時にお誂え向きだ。)

見つけた。
こいつがフリムってェ奴で良いんだなフェルト。
……別に礼言われる程でもねェよ。

……励ますだのァ俺の性分じゃァねェんだが……

――自分を死人と理解してねェ死人がいた。
ふとした時に自分が死んでる事を知ったそいつは
まァ当然凹んだ訳だ。
けどまァ何て事ァねェ たった一人の「お前はお前だ」って言葉に励まされて持ち直したンだと。

……そこの純度2000%位の善人妖精が言うように
誰かの助けてェのは割と大事だ。――――まァ俺が言いたいのはそォいう事だ。

……で。
手助けァ要るのかよ、御同族。



●アリアドネの糸をたどって
 暗い森の中では、前後不覚に陥ることもままある。
 きらきらと輝く幻の糸がなければ、ふたりもそうなっていたかもしれない。
「こういうときにゃおあつらえ向きだな……フェルト、ついてきてるだろうな」
「ええ、大丈夫よケン様。それより、フリム様が心配だわ……」
 ケンタッキー・マクドナルドは、背後のフェルト・フィルファーデンを一瞥する。
 彼女の表情は、いつにも増して心配そうな様子だった。
 ケンタッキーはフリムとやらをよく知らない……今回の冒険も、フェルトに誘われる形でやってきたのである。
 しかしあの面持ち、そして此処に来る前の彼女の様子からして、
 フェルトにとってとても大事な友人であることは、疑うまでもなかった。
「……まァ、間に合うだろ。今までだってそうだったんだ」
 ケンタッキーはそう言って糸を手繰る。
 不謹慎な冗談を口にするほど、彼は冷血漢なわけではないのだ。

 ……そして。
「フリム様っ!」
「う……?」
 大樹の根元で膝を抱えていたフリムは、フェルトの声に顔を上げた。
「……フェルト?」
 聞き馴染みのある声……そして、安堵した様子の友達。
「よかった、まだ無事だったのね……ありがとうケン様、助かったわ」
「おう」
 ケンタッキーと呼ばれた目つきの鋭いフェアリーは、ぶっきらぼうに言った。
 赤茶色の瞳がじろりとフリムを睨む(フリムにはそう見えたのである)。
 フリムはびくりと身をすくめた。ケンタッキーはがしがしと頭をかく。
「別に思ってるわけじゃねェよ、この目は生まれつきだ気にすンな」
「あう……ご、ごめんなさいでする……」
「ま、まあまあ! フリム様、お久しぶりね?」
 ぎこちないふたりの間にフェルトが割って入り、にこりと微笑む。
 落ち込んでいたフリムの表情も、わずかに明るくなった。
「はいでする……まさか、こんなところにフェルトが来てくれるなんて」
「当然でしょう? それにしてもまさか、フリム様が冒険者になっていたとはね」
「…………」
 フェルトはフリムの顔をちらりと覗き込む。
 フリムの表情には、恥ずかしさ、寂しさ……そして、後悔があった。
「あの森の騒動のあと、みんなで話し合ったのでする……これからどうしようって。
 もしもまたあんな魔物が現れたら、今度こそ助からないかもしれない、と……」
「そうね……あの時はわたしたちも駆けつけられたけれど」
 グリモアの予知はつねに対処療法的だ。敵に先んじられるのはその時々による。
 クラウドオベリスクがないとはいえ、森を狙うオブリビオンがいないとも言い切れなかった。
 そしてフリムたち森の末裔は、オブリビオンのなんたるかを知らないのだ……。
「……それで森を出るか迷ってたときに、あの、えと……」
「群竜戦役、か? 同族の間でも話題にゃなってたんだな」
「話題どころの話じゃないでする!」
 ケンタッキーの言葉に、フリムはぐっと食いついた。
「みんなで空を見上げて、そこにいくつもの輝きを見つけて……。
 それで、わたしは思ったのでする。あれはきっとフェルトたちだって!」
 フェルトとケンタッキーは顔を見合わせ、フェルトがくすりと笑った。
「ええ、そうよ。わたしたちは群龍大陸で、ドラゴンたちと戦っていたの」
「やっぱり……! それでヴァルギリオスがやられて、平和になったのでするよね!」
「そうだな……平和に"なった"ンだが、な」
 しかしいま、この世界は猟書家の侵略にさらされつつある。
 その矛先が大切な友人に向いたことに、フェルトは改めて怒りを感じ、ぎゅっと拳を握りしめた。
「……それで、わたしは……フェルトや他のみんなみたいに、森の外の世界を見たくなったのでする」
「だから冒険者として旅に出た……というわけね?」
 フリムは、フェルトの言葉に頷いた。
 それでユーベルコードを会得しているのだから、才能があったのだろう。

 ……けれどもそこまで語ったところで、フリムの表情が曇った。
「でも……冒険者になったのはいいのでするが、わたし、下手っぴで……。
 お仕事はあんまりこなせないし、小さいからバカにされることもあって」
「……そォだろうな。誰も彼もがフェルトみたいに優しい奴じゃねェよ」
 ケンタッキーは顔を顰めた。フェアリーをあからさまに嘲笑する人間は居ないわけではない。
 それがいっぱしの冒険者として旅をしているとなればなおさらだろう。
 若い少女を、しかもフェアリーを見下すような輩は、いくらでも思いつく。
「……森の外の世界を見てみたかったのに、外に出たら寂しくなって……。
 それで、今度はこんなことになってしまって……うう……」
「フリム様……」
 フェルトは頭を振り、笑顔になった。
「ねえフリム様? 実はね、わたしには最近、親友が出来たのよ」
「ふぇ……?」
「その子はね。わたしの騎士……"だった"の」
 脳裏によぎるのは、浅葱色の君。親友であり、姫と騎士であり、ともに戦うもの。
「……でも色々あって、あの子は騎士であることを捨てたのよ。
 わたしは除名し、独りよがりに絶望してた……自分勝手なものだわ」
 フェルトはそう言って、うつむいていた顔をあげた。
「でもね? そんなわたしたちを、みんなが助けてくれたの」
「みんなが……?」
「ええ、そこにいるケン様もそうよ?」
 と水を向けられれば、ケンタッキーはぷいっとそっぽを向く。
「だから、今は姫と騎士じゃない。それ以上の親友として、前に進めたのよ」
「……フェルトも、色んな失敗をして、でも諦めないで進んでいるのでするね」
「ええ、そうよ。……誰もが、完璧ではないのよ。フリム様」
 そう言って笑うフェルトの笑顔は、どこか寂しげでもあった。

「……俺ァよ」
 そんなふたりのやりとりを黙って見守っていたケンタッキーが、口を開く。
「励ますだのなんだの、そォいうのは正直、性分じゃあねェんだ。
 けどな……俺もひとつ、そういうたぐいの話を知ってるぜ」
「……?」
「……"あるところに"、だ」
 怪訝な様子のフリムに対し、ケンタッキーは言った。
「自分のことを死人と理解してねェ死人がいた」
 彼の言葉は、"どこかの誰か"を表すのにしては、ずいぶんと重苦しかった。
 表情も悩ましげで、吐き出す息もまた重い。『まるで』自分のことのように。
「……そいつは、ふとしたときに、真実を知ったンだ」
「真実……?」
「てめぇはもうくたばってて、生者のふりをしてるだけだった、ってな」
 ケンタッキーは重いため息をつく。……視線があちこちを彷徨う。
「まァ、そいつは当然凹んだ。けど……そいつも、結局は持ち直したのさ。
 なんてこたァねェ、たったひとりの、"お前はお前だ"って言葉で励まされて、よ」
「…………」
 フェルトの顔は伺いしれない。ケンタッキーはそちらを見れなかった。
 様々な感情があった。だから代わりに、フリムの目を見つめる。
「なんてことねェ言葉が、意外とソイツの心を救っちまうこともあンのさ。
 たしかにお前は、色々とやらかして、ナメられたのかもしれねェがよ……あー」
 ガシガシと頭をかく。
「そこの純度2000%くらいの善人妖精が言うように……誰かを助けてェってのは、割と大事なことだ。……俺はそう思うぜ」
「ちょっと、何よその表現は!?」
「あーもううるせェな! いまいいこと言ったターンだろォが!!」
 と、フェルトとケンタッキーはぎゃあぎゃあと騒ぎ始める。
「……ふふっ」
 そんな様子を見ていたフリムは、ほんの少しだけ、くすりと笑った。
 言い争いをしていたふたりはフリムの顔を見返し、顔を見合わせ、肩をすくめた。
「ねえ、フリム様」
「御同族よォ」
「――助けは、必要かしら?」
「手助けァ要るのかよ?」
 その言葉に、フリムは頑張って少しだけの笑顔を作り……こくりと、頷いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

草野・千秋
森を怪力で押し分けながら進む

おや、フリムさんお久しぶりです
結構前に僕がこの世界に来たときの任務以来です
助けは来ています、僕以外にも、色々な世界から来た猟兵さんが
ですからもう泣かないで下さい(ハンカチを差し出し)

(UCでお菓子を出して見せて)
これはサービスです
お腹空いてるとネカティブになってしまいますからね
特に甘い物は心を癒やします

僕は今まで色々な世界で冒険してきました
そこで学んだのが生きとし生けるものはすべて心があって
悩んだり笑ったり泣いたり困ったりして
人間と何も変わらないんだなってこと
フリムさん、あなたもそうです
生きて、これから僕たちが戦っていく過程を
冒険譚として語り継いで下さい



●数多の世界より
「よいしょ……っと!」
 ずしん……と重たい音を立てて、折れていた大木がどかされた。
「わあ、すごいでする! ドワーフにもこんな力持ちはいないでするよ!」
「あははは。まあ、これぐらいしか取り柄がありませんから」
 フリムの言葉に、草野・千秋は照れくさそうに頭をかいた。
 己の身を鋼に作り変えた過去は、千秋にとってけして喜ばしいことではない。
 けれどもそのおかげで、こうして巨人のごとき怪力を得ることが出来た。
 それが冒険の、そしてフリムの役に立つのなら、言うことはないだろう。
「それにしても、いつぶりでしょうか。もう一年半ぐらい経ちますか」
 暗い森の中を歩きながら、千秋は呟いた。
 クラウドオベリスクをめぐる戦いの記憶は、千秋にとって忘れられないものだ。
 暗闇の中に現れた、あの幻影……そして、強大なるオブリビオンとの戦い。
 無事に勝ち得たからこそ今があり、こうしてやってくることが出来た。
「あの時みたいに、多くの猟兵さんたちが、あなたを助けに来ています。
 まだ心細いとは思いますが、どうか気を強く持っていてくださいね」
「……は、はい、でする」
 フリムは泣きじゃくることはやめたようだが、まだ心は深く落ち込んでいた。
 言葉ひとつで彼女の悲しみや苦しみを癒せるならば、簡単なことはない。
 千秋はフリムの様子を肩越しに振り返り……ふと、足を止めた。

 彼が差し出した手の中には、駄菓子がひとつ。
「これは……?」
「僕がお店で扱っている商品です。お菓子なんですよ? サービスということで」
 フリムがおそるおそる駄菓子を受け取ると、千秋はにこりと笑った。
「お腹がすいているとネガティブな気分になってしまいますからね。
 特に甘いものは心を癒やしてくれますし、頭の回転も疾くなりますから」
「あ、ありがとうでする……」
「いえいえ。だって僕らは、あなたを助けに来たんです。このぐらいどうってことありません」
 そうして、千秋は歩き出す。
「……僕はいままで、いろんな世界で、いろいろな冒険をしてきました。
 そこで学んだのは、生きとし生けるものにはみな心があるということです」
 千秋の言葉を、フリムは静かに聞いている。
「悩んだり、笑ったり、泣いたり、困ったり……どんな種族も生き物も、人間とそんなに変わりないってことですよ」
「……みんなが、そう思ってくれたらよかったのでするけど」
「そうですね。……でも、僕はフリムさんのことを、そう思っていますよ」
 千秋は肩越しに笑顔を見せた。
「だから生きてください。冒険者として、そして僕らの冒険に立ち会ったものとして。そうすれば、また心から笑顔で笑えるはずです。
 その時に、こんな冒険をお伽噺として語れる日も、来るでしょうから」
「……冒険譚を、語り継ぐ。それは、とっても楽しそうでする」
「でしょう? なら、こんな昏いところでうずくまってはいられませんね」
「はいでする!」
 千秋はこくりと頷き、次の障害をその力で取り除き、前に進む。
 少女の未来を――世界の未来を切り拓く。それが、力ある己の役目だと信じて。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カイム・クローバー
『泣いてる女の子ひとり助けられないで、猟兵もクソもない』か。口を開くと残念系って聞いてたが。なかなかどうして悪くねぇな。

森で【追跡】を活用。夜の森じゃ、嗚咽も響くだろう。
茂みから姿を現して、よぉ、とでも言っておくか。
そこでようやく思い出すぜ。ブルーノー大森林の。悪魔の門番が居たっけな、当時。
UCを活用してA&Wの冒険譚を互いに交わすか。美味い飯、広がる景色…帝竜の話はとっておき。
…助けに来た奴はフリムが生み出した森で迷い死ぬって言われたんだろ?俺が死ぬようなタマに見えるか?(両手を広げて)
なぁ──俺を雇わないか。依頼内容はフリムを笑わせる。俺に考えがある。最高に笑える経験をさせてやる。どうだ?



●落ちる涙を受け止めて
「ここに来る前にな、ひとりの女が俺たちにこう言ったのさ。
 "泣いてる女の子ひとり助けられないで、猟兵もクソもない"……ってな」
 フリムを見つけたカイム・クローバーは、そう言って皮肉げに笑った。
「まったくその通りだ。なかなかどうして悪くない……いい文句だと思ったよ。
 なにせ俺ぁ便利屋Black Jack、涙を止めるのも仕事のうち、ってね」
「……じゃあ、あなたはわたしのためにここへ来てくれたのでする?」
「まあそういうことになるな。ほら、あの大森林での一件以来だろう?」
 ブルーノ―大森林をとりまく、クラウドオベリスクにまつわる戦い。
 その中で、たしかにフリムはカイムのことを覚えていた。
 だから彼女はこくんと頷いて、充血した目でじっと彼を見上げる。
「でも、まさかこんなところまで来てくれるだなんて思わなかったでする。
 ……わたしみたいなフェアリーに、みんながそこまでしてくれる理由は……」
「おいおい、さっきの台詞聞いてなかったのか? つれないねぇ」
 また意気消沈したフリムの言葉に、カイムは大げさに肩をすくめた。
「だから、言ったろう? ……悪くないと思ったんだよ。俺は。あの言葉を。
 フェアリーだろうが人間だろうが、女の子の涙を見過ごしたら男がすたるぜ」
「そ、それはうれしい、でするけどっ。は、恥ずかしいでする……!」
 フリムはかあ、と頬を赤らめてそっぽを向いた。カイムは肩を揺らし、笑う。
「俺だけじゃないぜ。きっと他のやつも、そう思ってあんたを助けに来たんだ。
 ……なあ、あんたも冒険者なんだろ? なら、どんな冒険をしたか教えてくれよ」
「わ、わたしのでするか? 大したことはないでするよ?」
「いいさ。代わりに俺も色んな話を教えてやる。この世界での色んな冒険だ」
 そうしてふたりは適当な木の根元に腰掛け、しばし語り合った。
 フリムの冒険は、彼女の言う通りカイムのそれに比べれば平和なものばかりだ。
 小さな村を困らせる他愛もない魔物を頑張って退治しただとか、
 嵐でダメになりそうな作物を守るため、総出で畑を右往左往したとか……。
 けれどもカイムは、そんな他愛もない"冒険"をけして鼻で笑わなかった。
 それが、フリムにとってどれほど救いになったか……言うまでもない。

「……なあフリム。俺を見てみろよ」
 そうして疲れるぐらい語り合って、カイムはふと大きく手を広げた。
「俺が、"こんな森で迷い死ぬ"ようなタマに見えるか? どうだ?」
「そ、そんなこと、ないのでする。だって、あの群龍大陸にまで行ったのに!」
「だろう? なら、あんなウサ公の言葉を気にする必要はないんじゃねえか?」
「――あ」
 フリムはきょとんとした顔。カイムはしゃがみ、目線を合わせた。
「なぁ――俺を雇わないか。依頼内容は……そうだな、フリムを笑わせる、だ」
「わたしを……?」
「ああ、俺にいい考えがある。最高に笑える体験をさせてやるぜ……どうだ?」
 フリムは困惑したような、照れくさそうな、そんな表情でもじもじした。
 しばらくの沈黙――そして、少女はこくんと、ためらいがちに頷いた。
「よし、商談成立だ。便利屋Black Jackの強さを、特等席で見せてやるよ」
 カイムは拳を突き出した。フェルトはおずおずと、その手に触れる。
 何よりも心強く頼りになる伊達男と少女の、"契約"が成立した瞬間だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ゼイル・パックルード
トラブルに巻き込まれる能力と、それでも生き残る悪運があるなら冒険者としては天性のものだぜ、きっと。死にかけるくらい冒険者やってりゃよくあるさ。

エピソードねぇ……世界を旅して、自分がイカれてるって思い知った。
色んな綺麗なモンとか見ても、殺しとか戦闘の興奮には勝てなかった。

だから何かに一喜一憂できるお前が羨ましいとか思わなくもない、きっとこれからも色々なモノが見えんだろ。
旅に出たなら、死にたくないなんて思えるなら、まだ燻ってるモンがあんだろ。忘れて諦めてる場合か、ヒヨコ冒険者。

……適当に皮肉るつもりがらしくないことを言った、なんかイライラしてきたぜ。
敵のごとこの陰気臭い森を刈って燃やしてやる



●ある修羅の話
 フリムは、猟兵たちの手助けと励ましにより、心を取り戻しつつあった。
 けれども森の陰鬱は色濃く、小世界の悪夢化が解除される様子はない。
 この悪夢と化した世界そのものが、精神に悪影響を及ぼしているのである。
「……やれやれ」
 ゼイル・パックルードは、その陰気を疎ましく思った。
 彼はスリルに魅入られた、まさしく修羅だ。だからこの陰気にはよく慣れている。
 その上で、己という自我を他者に任せず、逆に与えられもしない。
 ゼイルは強固なエゴによって精神を鎧うことで、影響を跳ね除けている。
 それに対して、あのフェアリーときたらどうか。
 無論、生命力の消耗もあろう。しかしまったくその面持ちときたら……。
「なあ」
「ぴえっ!?」
 とぼとぼと飛んでいたフリムは、ゼイルの声にびくりと驚いた。
 というより、怯えていた。ゼイルは、特に気分を害した様子はない。
 慄かれるなど慣れている。むしろそれで、余計な手合いが消えてくれるならなおさらにいい。
「……お前も冒険者だろう? なら、そんな顔で肩を落としてたって、
 別に状況がよくなるわけじゃないことはよくわかってると思うんだがね」
「……は、はいでする。けど……」
「…………」
 ゼイルはため息をつき、ざすざすと歩き出した。
「トラブルに巻き込まれる能力と、それでも生き残れる悪運。
 冒険者なんざ、それが備わってりゃ十分だ。天性のものともいっていい」
 あのフェアリーにそれが宿っているとは、とてもではないが思えない。
 だからさぞかし、心を傷つけられる出来事がいくつもあったのだろう。
 それはどうでもいい……どうでもいい、はずだ。だが。
「俺はな。かつて自分探しみたいなことをしながら旅をしている時期もあった。
 だが世界を巡ってわかったのは、自分がどうしようもなくイカれてるってことさ」
「イ、イカ、れ……」
「そうだ。何を見ても……きれいなものも美しいものも、俺の心には響かない。
 俺の心を震わせるのは、殺し、殺され、そして命を賭けて戦う。闘争だけだ」
 フリムは震えた。ゼイルは彼女を一瞥し、続けた。
「だから――俺にしてみればくだらないことで喜び、悩み、一喜一憂する。
 そんなお前のことは……まあ、羨ましいと思うような気持ちもなくはないのさ」
「……え?」
「お前はどうして冒険者になった? 金がほしいからか? 多分違うだろ。
 見たいものがあって、やりたいことがあって、死にたくないんじゃないか」
「……そ、それは、当然でする。わたしは、死にたくなんか……っ」
「なら、その燻るモンを忘れてんじゃねえ。勝手に膝抱えて諦めてる場合か?」
「――……う、ううん……諦めてたら、ダメ、でする」
「わかってんじゃねえか。うじうじしてねえで顔を上げな、ヒヨコ冒険者」
 フリムはおずおず目線を上げた……ゼイルは、相変わらず不機嫌そうだった。
 ただ彼が不機嫌なのは、フリムやこの森の陰気さのせいではない。
 適当に皮肉を言おうとしていたら、妙なことを口走ってしまったからだ。
「あ、あのっ。あなた、ちょっと……ううん、だいぶ怖いと思ったのでするけど」
「それ以上は言うな。俺は正直イライラしてる」
「えっ」
「……ああ、まったくイライラする。適当にそこらへんを焼く、近づくな」
 ゼイルはそう言って、八つ当たりめいて昏い森を片っ端から灼いていく。
「や、やっぱり怖いのでする!? ぴえええーっ!!」
 フリムは慌てて離れた。ゼイルはそんな彼女を睨み、また嘆息する。
「……らしくないな、本当に」
 その心のうちは、どうやら本人にすらも定かならぬようだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ベリル・モルガナイト
猟書家。ですか
平穏を。再び。乱そうと。いうのでしたら。私の。盾が。何度でも。守り。ましょう

フリムさんを。捜索しながら。悪夢の。森を。盾へと。変換して。いきます
宝石の。煌めきも。幾許かは。彼女の。心を。照らす。助けと。なりましょう

フリムさん。辛い時や。苦しい時は。貴女の。成したいことを。思い出しましょう
それを。応援。してくださる。方たちの。ことを。

私は。盾の。騎士
守るべき。人を。世界を。想ったからこそ。砕けず。挫けず。どんな。相手の。前であろうと。立ち続けることが。できました。
それが。ドラゴンや。大魔王の。ような。敵であっても

※アドリブ、連携歓迎



●暗闇の中のきらめき
「わぁああ……」
 陰鬱な森のなかで、弱りつつあるフリムは目をきらきらさせていた。
 一体なぜか? ……その答えは、目の前にひろがる綺羅びやかな景色。
 あたり一面が、木々も草も何もかも、宝石に変わって光り輝いていたのだ。
 昏い森のなかで宝石が内なる輝きに煌めく様は、夜空の星を思わせる。
「……宝石の。煌めきも。幾ばくかは。照らす。助けに。なると思いました」
 ベリル・モルガナイトは笑みらしきものを、うっすらと浮かべた。
 よく注意していなければ、その表情の変化はわかりにくい。
 角度を変えれば色を変える宝石の輝きのように、不変であり変わってもいる。
「す、すごいのでする! ……わたしみたいなダメ冒険者とは大違いでする……」
「ご自身の。ことを。ダメだ。などと。言うものでは。ないですよ」
 ベリルはしゃがみこみ、目線を合わせると静かに語りかけた。
「あなたには。あなたの。成したいこと。そして。出来ることが。あるはず。
 私は。盾の。騎士。守るべき。人を。世界を。守るために。戦う。ものです。
 ……ですが。あなたに。出来ることが。私には。出来ないことも。あるでしょう」
「そうなのでする……?」
「はい。きっと。誰しもが。そうなのです」
 ベリルはこくりと頷く。
「だから。私たちは。互いに。応援しあい。辛い時。苦しいときに。支え合う。
 あなたも。あなたの。成したいことを。思い出して。ください。
 そして。それを。応援。してくださる。あなたの。大事な。人たちの。ことを」
「…………」
 フリムは目を瞑り、胸に手を当てた。
 忘れるはずもない。ブルーノ―大森林の、森の末裔たる妖精たち。
 祝福をもって旅立ちを送り出してくれた、大切な仲間たち……。
 ベリルは彼女らを知らない。だがフリムは知っている。そうだ、知っている。
 ……こんな単純なことも、森の闇は覆い隠してしまったのか。
「私は。ドラゴンや。大魔王と。いった。大きな。強敵に。相対して。きました」
「ど、ドラゴン!? じゃあ、あなたも群龍大陸に行ったのでする!?」
「はい。そこで。私は。何度も。砕けかけ。そして。挫けかけました」
 ベリルは言った。
「私は。盾の。騎士。守るべき。人を。世界を。想う限り。砕けは。しません。
 いまの。あなたと。同じように。それを。信じて。ずっと。戦ったのです」
「わたしと、同じ……」
「そうです。私と。あなたは。同じ。なのですよ。フリムさん」
 フリムはその言葉にどうしようもなく胸を締め付けられ、涙を流した。
 ベリルの指先が……硬くけれども柔らかい指先が、涙を拭き取った。
「この。世界の。平穏を。ともに。取り戻しましょう。仲間として」
「……はい、でするっ!」
 力強く頷く少女の顔を見つめ、ベリルも穏やかに微笑むのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヨハン・グレイン
織愛さん/f01585 と

分かっているとは思いますが俺に他人を励ますのは無理ですよ
森の中を探索した方がまだマシです
とりあえず急に年上ぶるのと子供扱いするのはやめてください

ついて行くのは構いませんけど俺に話を振らないでくださいよ
ついて行くと言っているんだから無理やり連れて行こうともするな
逃げた事もないのに逃げると思われているのは心外なんだが……?

何もしなくても道が出来ていく気がするので後からついて行きます
旅をしていたというのは初めて聞きましたね
根性論が通用するのはあなただけだと思うんですが

まぁこういう感じの人がいるのでなんとかなりますよ
励みになるかは疑問だがフェアリーに会えたらそう言っておきます


三咲・織愛
ヨハンくん(f05367)と

えーっ!そうやって最初から諦めてしまうのはよくないですよ
森の探索も大事ですけど、フリムさんをちゃんと元気づけてあげましょう!
大丈夫!ヨハンくんはちゃんと出来る子だってお姉さんはわかってますよ

そういう訳ですから、探索しながらフリムさんを探しましょー!
逃げちゃわないようにしっかりと掴んでいきます。えっへん

道中はお話しながら怪しげなものを破壊していく感じで進みますね
小さい頃はお義父様と二人旅をしていたので、色々あったんですよ
底なし毒沼に嵌ってしまったり、巨鳥に攫われそうになったり
でも大体がんばったらなんとかなりました!
フリムさんにもそういう感じでお話しましょうかねぇ



●ある旅路の話
「…………あのですね」
 暗い森を行く三人の人影……の、一番黒いのがしびれを切らせて口を開いた。
 ヨハン・グレインは、こちらをじっと見つめる三咲・織愛を睨みつける。
「そんな「何か言わないんですか?」みたいな顔をされても困りますよ。
 此処に来る前に言いましたよね? 俺に、誰かを励ますなんてのは無理です」
「えーっ!? ダメですよぅ、そうやって最初から諦めてしまうのは!」
「出発前と同じセリフで俺を説き伏せられると思ってるんですか本気で……」
 ヨハンはうんざりした様子でため息をついた。
 もう一度道理を説くつもりにもならない、だって無駄だし。
「いいですか。どのみち猟書家を見つけなきゃ、この事態は解決しません。
 なら、俺はそっちに集中します。あなたはあなたでやればいいでしょうが」
「でもでも、ひとりよりふたりのほうが効果はあるはずですよっ!
 それになにより、お話はみんなでしたほうが楽しいんです。ね、フリムさん!」
「はいでする。で、でもそのぅ……わたしなんかのために無理はしなくても」
 フリムはしょんぼりした様子でぽつぽつと言った。
 昏い森という悪夢がもたらす精神への負担と、生命力消耗のダブルパンチだ。
 まあ目の前で励ますだの励ませないだのそんな話を繰り広げられては、
 じゃあ励ましてください! と自分から言えるのは相当面の皮が厚い輩ぐらいなわけで。
 そういうこともあって、フリムはヨハンのほうをちらちら見ていた。
「……本人もこう言っているでしょう。俺に無理はさせないでください。
 話を振られても困りますし、こうやってついてきてるんですから十分でしょう」
「はあ~、ダメですねえヨハンくんは。そうやって理屈ばっかり並べて!
 でもでも、お姉さんは知ってますよ。ヨハンくんは出来る子だって!」
「いきなり年上ぶるな。そして俺を年下扱いするな」
「えっ、きょうだいだったのでする?」
「そんなようなものです!」
「ちがいま……おい俺より先に誤解を加速させるな」
 ヨハンはもはや慣れたツッコミを入れて、疲れた様子で眉間を揉んだ。
 どうせこうなるとわかっていたから、本当はあまり来たくなかったのである。
「……ふふ」
 けれどもどうやら、そんなふたりのいつも通りのやりとりこそが、
 意気消沈したフリムにとっては一番の元気の材料になったらしい。
「なんだか笑われているようで落ち着きませんね……」
「いいじゃないですか。仲睦まじいのはいいことですよ?」
「この状況を俺が歓迎していると本気で思うんですかあなたは……」
 ともあれ、ヨハンは闇を周囲に張り巡らせ、常に敵に警戒している。
 猟書家が、こちら側に攻撃を仕掛けてくる可能性だってありえるからだ。
 行く手を阻む障害物については、織愛の怪力のおかげでなんともなかった。
「それにしてもすごいでする~、わたしなんかよりずっと旅が上手でする!」
「えへへ、私一応、小さな頃にお義父様とふたり旅をしていたんですよ?
 底なし毒沼にハマってしまったり、巨鳥にさらわれそうになったり……」
「なんでそんなトラブルに巻き込まれて生きているんですかあなたは」
「がんばったらなんとかなりました!」
「子供の頃からそういう人間だったんですね……」
 天は二物をなんとやら。怪物は生まれたときから怪物ということか。
 ヨハンは嘆息しつつ、こちらを伺うフリムのほうをじろりと見た。
「……まあ、こういうふうに、大して悩みを持ってない人もいるんです。
 あなたに何があったのかは知りませんが、もう少し気をラクにしても……」
 ……そこまで言いかけて、ヨハンは織愛のほうを睨んだ。
 織愛が、ニコニコと満面の笑みを浮かべてこちらを見ていたからだ。
「もうやめにします」
「えーっ!? いいところだったじゃないですか! 続けて続けて!」
「嫌です」
「……ふふふ。ふたりは面白いでする」
 相変わらずコミカルなふたりに、フリムは少しだけ笑みをほころばせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

パルピ・ペルポル
まずはフリムを探しましょ。

気がすむまで泣かせて不安を吐き出させたら少しは落ち着くでしょうし。
そうしたらドライフルーツ食べさせてる間に干し肉でスープ作りましょ。
空腹だと考えが悪い方に行きやすいからお腹満たすの大事。

あ、一応奇襲されないように周囲に雨紡ぎの風糸を展開しておくわ。

あとはフリムの話を聞いたりこちらの冒険談したり。
冒険者歴は長いからね。
瓶詰めにされて飢え死にしかけたりとか。
魔物に丸呑みにされそうになったとか。
ピンチの切り抜け方ならネタあるわよ。
自分の心と対話するとなんか客観的に見られるから孤独感が紛れるわよ。
参考になるかしら。

徳用(巨大)折り紙でテントつくれるから野営も問題ないわ。



●妖精のおはなし
「ねえ。まず最初に、あなたに今まであったことを教えてくれない?」
 フリムのもとへやってきたパルピ・ペルポルは、にこやかにそう語りかけた。
「わたしのことでするか?」
「ええ。あなたはきっと、冒険者になってから色々苦労をしたんでしょう?
 そういう話を聞いているけれど、実際会って顔を見てみたらよくわかったもの。
 ……同じフェアリーのよしみとして、わたしにぶつけてくれてもいいのよ?」
 年長者のパルピの言葉は、フリムの心を解きほぐすには十分だった。
 フリムはぽつぽつと語り始めた。
 冒険者=猟兵に二度も住処を救われ、彼らに憧れたこと。
 二度目の事件……クラウドオベリスクをめぐるオブリビオンとの戦いが済んだあと、長として集落のフェアリーたちと話し合ったこと。
 会議のすえに、彼女たち森の妖精は住処を変えずに森を守るために訓練を始めたこと。
 そしてやがて、猟兵たちの戦いが冒険譚として聞こえるようになってきたこと。
 フリムは仲間たちに心の中の憧れを話し、冒険者として旅立ったこと……。
 旅に出てからの小さな冒険の数々と、そこで味わったいくつもの苦しみ。
 フェアリーに対する差別、あるいは若く世間知らずな彼女をあざ笑う者たちの悪意。
 語り続けるうちに、いつしかフリムの言葉は嗚咽に変わっていた。
「それで、わたし、ずっと……うぅ、ひっく……」
「……いいのよ。泣きたい時は好きなだけ泣いても。だって悲しいんだもの。
 そして涙が尽きたら、甘いものや美味しいものを食べましょう? ね?」
 パルピの優しい微笑みに、フリムは大きく、大きく泣き続けた。

 そうして、フリムが泣き止んでから。
「実はね、わたしも冒険者なの。ああ、猟兵としてもそうなんだけど……。
 そうなる前から、ひとりで旅をして、色んな冒険をしてきたのよ」
「へえ……すごいでする。わたしとは大違いでする」
「そんなことないわ。ただまあ、ピンチになった回数はずっと多いかもね。
 瓶詰めにされて餓死しかけたり、魔物に丸呑みにされそうになったり……」
「そ、そんなのどうやったら逃げられるのでする!?」
「ふふ、気になる? なら、ピンチの切り抜け方を教えてあげましょう」
 フリムの眼差しは、頼れる姉を見るような、そんな親近感があった。
 フェアリーとして、そして冒険者としても先輩であるパルピへの信頼の現れだ。
「……孤独との付き合い方だって。わたしは知ってるわ」
 パルピは寂しげに笑った。
「でも、わたしは今日も生きてるし、これまでの日々が間違ったなんて思ってない。
 あなたも胸を張っていいのよ。たくさんの人たちが助けに来てくれるぐらい、あなたは大事に思われているんだから」
「うう……また泣いちゃいそうでするぅ……」
「ふふふ。ドライフルーツ、まだあるわよ?」
 フェアリーたちの和気藹々とした時間は、ひそやかな闇のなかで和やかに過ぎていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴィクティム・ウィンターミュート
お守りは俺の仕事じゃあないんだがな
ミスター・ジョンソンの要望とあらば

フィールド張って味方の支援しとく
ついでに、ウィズワームハントん時みてーに、野営の準備でもしようかね
フリムにもゆっくり休める時間は必要だろうし、いざ狩って時に補給してないのはナンセンスだ
安全性?勿論保証しよう
此処は俺たちの領域になった
向こうだってアウェーで戦う趣味は無いだろうよ

さて、随分と久しいな
そっちはそっちで大変そうじゃん
俺?まぁ、ぼちぼちだな
こっちの世界でウィズワームを殺して回ったくらいで、普段通りケチにやってるよ
……どれだけ絶望的でも、やれるだけやってみる
今も昔も、帝竜相手でだって変わらない
お前にだって、出来ることだ


リア・ファル
アドリブ共闘歓迎
WIZ
フリムさんと合流

やあ。冒険と探求の浪漫を語りに来たよ

というワケで、野営中に焚火を囲み、一曲……となれば、
ボクの格好は吟遊詩人のレイヤーだね!(早着替え、変装)

UC【琴線共鳴・ダグザの竪琴】

語る内容は……そうだなあ
知り合いの猟兵の話をソレっぽく語ろうか
充分に冒険譚、英雄譚だしね

まあ、本人が聞いたらメッチャ否定されそうだけど


今度はフリムさんの話も聞かせてよ
揺れる炎は、闇を照らし、キミの心を静め追想に誘う……かもね?



●クールでカッコよく英雄的で希望に満ちた猟兵たちの話
「よう。もうすっかり野営の準備は出来てるみたいだな」
「あ! おひさしぶりでする!」
 ヴィクティム・ウィンターミュートが顔を出すと、フリムは表情を明るくした。
 他の猟兵たちの手で、スープやちょっとした食事の用意が始まっているのだ。
「なんだかいつかのウィズワームハントを思い出すねえ。よっと」
 そしてヴィクティムが軽く手を振ると、あっという間に準備は進んだ。
 可変物質で構成された迷路の生成……応用すればこういうことも出来る。
 内部からの脱出が難しいということは、外からも滅多に攻め込めないということ。
 ヴィクティムは慣れた手つきで快適な住まいを用意していくのだが……。
「おや? ヴィクティムさんまでいたんだね!」
 ひょっこりと顔を出したのは、リア・ファルである。
「おう、リア……ってお前なんだその格好」
 ヴィクティムは呆れた。なにせリアの装いときたら、
 普段のサイバーなコスチュームと打って変わり、いかにもファンタジー風。
 しかも背中には、竪琴やらリュートやら楽器をしょっている。
「見てわからない? 吟遊詩人、吟遊詩人。野営と言えばコレでしょ?」
「相変わらず形から入るねぇ。いやまあテンプレだとは思うけどな」
「バードなんて酒場でしか見たことないでする! かっこいいでする~」
 フリムは目をきらきらさせた。
「……わたし、酒場はあんまり入れてもらえないでする……」
「フェアリーだからか? それとも若いからか」
「両方でする……冒険者なのに追い出されたこともあって……。
 だから、こうやってバードの歌を聞けるの、実は久しぶりでする!」
「それならなおのこと、自慢の一曲を披露しなきゃね!」
 と、そんなこんなで、三人は焚き火を囲んで腰を下ろすことになった。

 リアのコスプレ趣味は、ただ見た目から入るというだけではない。
 なにせ戦術AIである彼女のこと、やろうと思えばどんなスキルもデータと云う形でインプット出来る。
 実際にそうしたユーベルコードもあるわけで、弾き語りは大得意、なのだが……。
「かつての英雄青のグラナル~、クリロステッドから馬を駆ってやってきた~♪
 昔の自慢ばかりしては威張り散らし 剣を振り回した~♪」
「「……」」
「だがついに黙る時が来た 剣の乙女タチアナが彼にこう言った~♪
『(裏声)今こそお前がハチミツ酒を飲み終わり その嘘を語り終える時だ!』」
「「…………」」
「そして聞こえたのは激しい剣の音、乙女タチアナの渾身の一撃~♪
 自慢屋青のラグナルの赤ら顔は 永遠にその体とおさらばした~……♪」
「「………………えっ終わり(でする)!?」」
「え? うん。ちなみに緑のザグナルと黄色のクラナルという詩も」
「いや、いや、いい。それいいわ、同じ展開しか思い浮かばねえ」
 なんでかしらないが、リアの選曲が色々アレだった。
「おいおいリア、本当はもっとマシな詩があるんだろ?」
「うーん、あるにはあるんだけど、これいいのかなあ……」
 と、リアはなぜかヴィクティムのほうをちらちらと見る。
「なんで遠慮するんだよ? 聞きたいぜ、なあ?」
「はいでする~、冒険譚は大好きでする!」
「そっかぁ。じゃあいいんだね? 行くよ?」
 そしてリアは、ふたたび竪琴を奏でる。
「凍りついた山に現れたるは、恐るべきドラゴン……迎え撃つエルフの部族たち」
「おお……寒いところは行ったことないでする!」
「なかなか様になって……ん? 待てよ? それって」
「数多の猟兵が立ち向かい、しかしドラゴンは恐るべき力で山を襲う……♪
 しかしその時! 勇敢なる策略家の仕掛けた罠が、ドラゴンの力を奪った!」
「おお……かっこいいでする!」
「……おい」
「まさしく大団円をもたらす脚本、彼の筋書きからは誰も逃れられない!
 無敵の鎧の力を奪われたドラゴンは、ついに射手の弾丸で滅ぼされ」
「おい! ストップ!! ストーップ!!」
 なぜかヴィクティムが止めに入った。
「ええっ? どうしたのでする? いいところだったのでする……」
「いや、ダメだ。他にねえのかリア、あるだろ!」
「他? 他はそうだなあ、大艦隊をひとりで翻弄する策略家の話とかー」
「なんで俺……じゃねえ、そんなのばっかなんだよ!? もっと匡とかいるだろ!」
「いやー匡さんに怒られそうだからなんかなーって」
「だからって俺に矛先向けんなって!!」
 そう、リアがそれっぽく吟じたのはヴィクティムのことだったのだ。
 端役として裏方であることを望むヴィクティムにとって、これは耐え難い。
 ぐぬぬ顔で歯噛みするヴィクティムを見て、フリムはくすくす笑った。
「ったく……まあ、そうだな。ウィズワームを殺してるだけだよ、俺は」
(ほら、やっぱり否定すると思った。だから避けてたんだけどなあ)
 というリアの目線はスルーしつつ、ヴィクティムは言った。
「俺はかつても今も、ケチなままさ。だが、諦めたことはねえよ。
 どれだけ絶望的でも、やれるだけやってみる。相手が帝竜だろうとな」
「おお……すごいでする。じゃああの群龍大陸に行ったのでする!?」
「まあな。けど大したことはしてねえぜ? 俺は所詮ただのガキだからよ」
「実はそれもいくつかレパートリーがあってね?」
「だーっ、やめろ! なんで俺を苦しめる流れになってんだよ!?」
 リアとフリムは顔を見合わせて、吹き出した。ヴィクティムは居心地が悪い。
「とにかくだ! ……諦めないってのは、誰にだって出来ることさ。
 お前にだって、出来る。ケチな俺が言うんだから、間違いないぜ」
「……そうだね。フリムさん、キミは冒険者に憧れてなったんだろう?」
 フリムはこくりと頷いた。
「なら、ボクはその想いを守り、ともに導くよ。同じ冒険者として。
 いまはひとりじゃない。ボクやヴィクティムさんや、みんながいるから」
「……ありがとうでする。わたし、まだ諦めたくなんてないでするっ」
「よく言った。ならさっそく、うさみみ野郎の反撃作戦を立てようじゃねえか」
「ドラゴン殺しの超一流の策略家の力を借りれば、百人力だね!」
「だから、それは、やめろ!!」
 焚き火の周りには、いつしか笑いが絶えなくなっていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

零井戸・寂
◆匡(f01612)と

成る程、そりゃ「僕」の領分だよな。ま、その分戦闘方面は任せるよ。頼りにしてる。

さて、まずはフリムを探すとしよう。NAVI、【影の追跡者】として仕事をしてきて。

見つけた後は声を掛けてみよう。

――然し君も冒険者になってたとはね。
俄然君の話も興味あるけど――じゃあ僕のも話すから君のも良ければ聞かせてよ。
無理にとは言わないけど。

僕のはねえ……自分を怪物だと自称してた臆病な子供が
戦って傷ついて時に怒って
それでも自分と向き合って
人間になってくまでの話。

――その子供?
人間になった後は次は自分が何になれるのか探してる所さ。

ん?いや笑顔はアレだよ
あの時から結構変わったなって
君も僕もね


鳴宮・匡
◆フルイド(f02382)と


“元気づける”って話だろ
そういうのはお前の方が向いてると思って

さて、仕事してくれ、【無貌の輩】
森の中を駆け回らせて、猟書家の位置を探らせる
“あっち”はフルイドが見つけてくれるだろうし

今回はちゃんと目を合わせて話すよ
よう、久しぶり。覚えてる?

冒険者になったんだってな
……一人で生きていくってのは、きついこともあるよな
うまくいかなかったこと、助けられないもの
……殺さなきゃいけないものもあったと思う

それでも、諦めないで自分の足で歩いてきただろ
それはきっと、胸を張っていいことなんだよ

え、あの時とは別人みたいだって?
……それに関しちゃ何も言えないな
おい、フルイド、何笑ってんだよ



●悩める少年と、悩み続ける男の話
「……なんかもう、だいぶ盛り上がってるね?」
「まあ、静まりきってるよりはずっとマシだろ」
 笑いの絶えない野営地にやってきた零井戸・寂と鳴宮・匡は、顔を見合わせた。
 匡の言葉はいつも通りで、わかっていたのに零井戸は吹き出してしまう。
「なんだよ。俺、なんか変なこと言った?」
「ううん、いつも通りだなあってさ。怒ったならごめんね」
「……別にいいけどな。手間が省けたのはなによりだ」
 匡はそう言いつつも、油断なく周囲に"影"たちを放った。
 この野営地は複数の猟兵の守り……特に彼らの識る端役のユーベルコードによって鉄壁の守りを得ているが、相手は猟書家である。
 こちらが油断した隙に、悪質な攻撃を仕掛けてくる可能性は十分あり得た。
 というよりも匡は、自分ならそうすると考えて警戒の手を打ったのである。
 結論から言えば、この対策は大いに有効だったと言えよう。
 ともあれ、それをいまのふたりが知るよしはないのだが。
「やあ、久しぶ――」
「あーっ!!」
 焚き火の近くに座っていたフリムは、零井戸を見るなり立ち上がった。
 そこまで驚くほどの間柄だっただろうか? と零井戸は首を傾げる。
 しかしよく見ると、フリムの目線は零井戸本人ではなく……。
「猫ちゃん! 猫ちゃんでするー! もふもふかわいいでするー!」
「……あ、うん。そういえばあのときもそうだったね……」
 そう、零井戸の足元でごろごろしていたNAVIのほうに食いついたのだ。
 電子猫はごろごろ喉を鳴らし、小さなフェアリーを適当にあやしている。
「って、あなたは! あの時の人間さんでする!!」
「思い出してもらえてなにより。今日はもうひとり顔なじみがいるよ」
 くいっと親指で指し示された匡は、森の暗闇から視線を戻した。
「……久しぶり」
 匡は、しっかりとフリムの目を見て言った。
 あのときとは違う。背中越しではない瞳。フリムはじっと黙って見上げる。
「覚えてるかな……って、その顔を見たら聞くまでもなさそうだな」
「はいでする。わたしたちを助けてくれたのですから、忘れるわけないでする」
「ありがたいね。それにしても、まさか冒険者になってたとはね」
 零井戸はそう言って、焚き火のそばに腰を下ろした。
「せっかくだし、"僕ら"に君の話を聞かせてよ。色々とさ」
「…………」
 匡は何も言わず、零井戸の対面に座った。フリムもこくりと頷き腰を下ろす。

 フリムの「冒険」は、猟兵たちのそれに比べればおとなしいものだ。
 作物がどうとか、魔物が出ても本当にちっぽけな小鬼程度であったり。
 規模も、敵も、そして得られるものも、どれもこれも小さな小さなものばかり。
 けれどもフリムは、その過程で多くのものを得て、そして知ってきた。
 人々の笑顔。
 世界の広さ。
 善意もあれば、悪意もある。
 笑われたこともあれば、感謝されたこともある。
 ……語り続けるフリムの声は、まだわずかに震えていた。
 生命力を消耗しているせいも、もちろんあるのだろう。
 彼女がひとしきり語り終えるまで、ふたりはじっと耳を傾けていた。
「……僕らもね、今日はとっておきの話を持ってきたんだ。ね?」
「俺のは、そういう話ってほどじゃないけど」
 匡の言葉に笑いつつ、零井戸は言った。
「自分のことを怪物だと言って、棘だらけの鎧を纏っていた子どもの話だよ」
「……その子は、どうしてそんなことをしていたのでする?」
「どうして、か」
 零井戸は炎を見つめた。そこに、浮かび上がるかつての姿。
 ハリネズミのように砲塔を生やし、他者を拒絶していた鋼の豹の姿だ。
「……怖かったんだろうね。自分だと知られることも、自分以外の誰かも。
 だから鎧を纏って、格好つけて、別人のふりをして戦い続けて……」
「…………」
「……そして傷ついて、苦しんで。立ち止まって、怒って、また戦って。
 色んな、いろんな傷を受けて、それでも怪物は止まることがなかったんだ」
「……どうして?」
「叶えたい約束があったから」
 零井戸はフリムを見た。穏やかな目だった。
「……だけじゃ、ないけどね。他にも友達とか、大切なことはたくさんあった。
 そうして七転八倒して、いつしかその子どもは気づいたんだ。
 ――自分は怪物なんかじゃない。悩んで、苦しむ、当たり前の人間だって」
「悩んで、苦しむ……」
「そう。人間だから間違うし、失敗するし、忘れてしまうことだってある。
 でも人間だからこそ、諦めずにいつも前を向いて、そして戦い続ける。
 気がついたら棘だらけの鎧は消えて、その子どもはずっと強くなってたんだ」
「……その子は、いまはどうしているのでするか?」
「ん? そうだね――次は自分が何になれるのか、探してるところ、かな」
 零井戸は微笑んだ。その笑みに到達するまで、どれだけの苦難があったろう。
 いまだその"こども"は、多くのことを忘れていて、失ったままだ。
 けれども諦めない。そう決めたのだから、諦めることはない……。

「……ひとりで生きていくってのは、さ」
 ふと、匡が口を開いた。
「辛いこともあるし、きついこともあるよ。全部自分の責任だから」
「……はいでする。わたしは里を離れて、ようやく気づいたんでする。
 わたしがみんなをまとめてるんじゃなくて、みんなが助けてくれてたんだって」
「でも、帰らなかったんだろ。やりたいことがあったから」
 フリムは黙って頷いた。
「……うまくいかなかったことや、助けられなかったものがあっても。
 それでも願うことがあるなら、足とは止められない……止めちゃ、いけない。
 たとえそのために、何かの命を奪う……殺したことがあったとしても」
 相手が魔物であれ野獣であれ、命を奪うということは等価だ。
 人は命を奪い、喰らい、生きる。当たり前だが、匡にとっては重い事実だ。
 己はひとでなしだからこそ。……誰よりも重く、理解しなければならない。
「でもさ」
 匡はフリムの目を見た。まっすぐに。
「諦めないで歩いてきたなら、それはきっと、胸を張っていいことなんだよ。
 ……俺も、そういうふうに教えられた。色んな奴らに、色んな言葉で。
 だからいま、俺がその言葉を代わりに伝えるよ。それでいいんだ、ってさ」
 フリムはしばらくその瞳を見つめて、ふと笑った。
「……あのときとは別人みたいでする、ふたりとも。すごくかっこいいでする。
 わたし、色んな人から、色んな言葉をもらえたのでする。あったかい言葉を。
 絶対に、絶対忘れないのでする。わたしは、間違ってなかったんだって!」
 零井戸も匡も、その言葉にはただ頷きだけを返した。
「それにしても、あのときとは別人みたい、か……」
「……ふふ」
「おい、フルイド。何笑ってんだよ」
「いや? まさにその通りだなってさ。僕も君も、あの頃から変わったよ」
「……ああ。変わった。でもそれは、悪いことじゃないさ」
 匡は炎を見つめる。奪うものの象徴……だがそれは、生み出す輝きでもある。
「悪いもんじゃない、……だから、間違っちゃいないんだ」
 その言葉は、彼らに言うようでもあり、己に聞かせるようでもあり。
 三人はしばらくそうして、炎を見つめ続けていた……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『レプ・ス・カム』

POW   :    ミラージュ・ラパン
自身と自身の装備、【自身がしたためた招待状を持つ】対象1体が透明になる。ただし解除するまで毎秒疲労する。物音や体温は消せない。
SPD   :    兎の謎掛け
【困惑】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【鬼火の塊】から、高命中力の【蒼白い炎の矢】を飛ばす。
WIZ   :    素敵な嘘へご案内
【巧みな話術】を披露した指定の全対象に【今話された内容は真実に違いないという】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ハーバニー・キーテセラです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



『あれあれぇ? 困っちゃったなあ。まさかこんなことになるなんて!』
 そして暗闇の奥から、レプ・ス・カムが姿を現した。
 猟兵たちの準備により、その襲来はすでに察知されていた。
 加えて野営のおかげで、誰もが心身に気力漲る万全の状態である。

 そう、フリムも同じだ。
 常に生命力を奪われ続けているが、それでも彼女はともに立っていた。
 戦うものとして。――戦士として!
「わたしには、みんなほど力はないでする。けど、諦めないのでする。
 ひとりで死ぬなんて、わたしは嫌でする。だから……ここで、戦いのでする!」
 レプ・ス・カムはやれやれといったふうに頭を振る。
『まったく、これじゃあ鍵を探すどころじゃないよ。でもまあ、仕方ないか。
 ――たとえフェアリーの心を救ったといっても、悪夢の世界は終わりはしない。
 この私を倒さない限りは、誰も出られない。つまりどういうことかわかるよね?』
 浮かべた笑みは、まさに魔性のそれ。
『暗闇が君たちを見返すよ。ありもしない幻に苦しめられ惑うがいいさ!
 そして君たちはここで死ぬんだ――何も為せず、見いだせないままに!』
 その言葉に惑わされてはならない。だが、暗闇を恐れてもならない。
 立ちはだかる幻と言葉の魔術を超え、悪辣なる猟書家を討て!

●戦闘における特殊ルール
 1章の成果により、フリムは完全に再起しました。
 そのため、この章ではすべての参加者様がプレイングボーナス条件を自動で満たしているものとして扱います。

 その上で、この章では暗闇の森の悪夢の力が牙を剥きます。
 存在しない強敵や、あなたにとっての耐えがたい過去の幻影……。
 はたまた仲間や親しい誰かの姿であるとか、そういう幻が現れるのです。
 レプ・ス・カム本人と戦うだけでなく、幻影を克服するという形での戦闘プレイングをしていただいても問題ありません。
 ただし、幻に惑わされて他の猟兵に襲いかかるだとか、仲間同士で戦う……みたいなのは、そういうのは合同プレイングでやるのが無難です。
 どうあれ最終的にはレプ・ス・カムにダメージを入れる演出になりますので、
 お気軽に、そして自由にプレイングしてみてください!

●プレイング受付期間
 2020/11/23 08:30前後まで。
ゼイル・パックルード
普段なら強敵だとか目に映るのだろうが、らしくないことを語った反動か、見えるのは綺麗なモノだ。
きらめいた景色、普通の幸せに生きる人、それに―――今まで付き合ってきた仲間とかの幻影か。
そういうのに綺麗さとか、尊さとかを感じないわけじゃない、綺麗なモノは綺麗と分かる。だけどどうにも、それだけじゃ物足りない

仲間とか友と呼べるヤツだって、殺せる、殺したいとすら思える。
もっとも、幻影じゃなかったら簡単に殺されるなんてことにはならないだろうけどな

どういうことかわかる、だ?俺をイラつかせたお前が死んで終わりだよ、猟書家。
その苛立ちを殺気と刀に込める、困惑なんてしない。あるのは敵に対する殺意だけだ。



●理解できるからこそ
 別に、綺麗なものや美しいものの素晴らしさを、理解できないわけではない。
 歴史的な名画や美術品、あるいは心を震わせるような自然の風景。
 旅をしていれば、感動をもたらすような様々な奇跡に巡り合ってきた。
 それだけではない……幸福に生きる人々の姿や、別け隔てなく愛を注ぐ人。
 慈悲。優しさ。献身。友愛……尊ぶべき、尊ばれるべき――美しき人の感情。
 理解が出来る。それらがなぜ尊く美しいとされるのか、すべてわかる。

 だからこそ。
 ゼイル・パックルードは、理解が出来るからこそ――"満足"出来ない。
 心に響くものがあるからこそ、満たされぬ空虚がかえって意識させられてしまう。
 満たされないだけならば、まだいい。しかしゼイルは知っているのだ。
 人の善性、世界の美しさよりも、己を満たすものを。

 闘争を。

「……だから、俺は殺せちまうのさ」
 ゼイルの足元、ちろちろと揺らめく地獄の炎。
 炎に呑まれ炭化していくもの……刀傷を受けた屍体。ゼイルがよく見知った顔。
 ひとつきりではない。男もいれば女もいた。誰もがよく知る仲間ばかりだった。
 本音を吐露した仲間が居た。
 肩を並べて戦った仲間が居た。
 みな、死んでいた――いや、違う。殺したのだ、ゼイルが。その手で。

 それは幻影である。幻影だが、ゼイルは躊躇しなかった。
「"殺したいとすら思う"。ついでに言えば、俺はちょっとばかし落胆もしてる。
 本物のこいつらなら、こんな簡単に殺せるなんてことはあり得ないんだからな」
 きっとそれは極上の闘争で、ともすれば返り討ちになりかねないはずだ。
 だから、残念だった。幻影では、所詮オリジナルには遠く及ばない。
『……呆れ果てたものだね。どうしてキミが猟兵なんてやっているのやら』
「さあな、俺が聞きたいぐらいだよ。けど、意外と理由は単純だぜ?」
 ゼイルの金瞳が、ぎらりと猟書家を睨んだ。レプ・ス・カムは一歩退いた。
「――お前みたいなイラつく敵を、何の憂いもなく、しがらみもなく、殺せる」
 レプ・ス・カムは後退しようとした。太刀打ち出来ないとわかっていたから。
 彼女の術式は、困惑の感状を与えた相手に初めて作用する。
 ゼイルに困惑などない。躊躇もない。ただ、決断的な殺意だけがある。

 この男が、目の前の獲物をみすみす見逃すわけもなかった。
『かはっ!!』
 女は血を吐いた。知覚できないほどの速度の斬撃。
 血にまみれて地面を転がる女を、ゼイルは笑みを浮かべて見下ろした。
 嘲笑ではない――虚無だ。その笑みは、笑ってはいたが笑っていなかった。
「ここまでイラついたのは久々だぜ。誇っていいんじゃないか、お前」
 声音もまた、焦げ果てた炭のように空虚だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒城・魅夜
幻影ですか
まあ、あなたが現れると思っていましたよ
全てのフォーミュラや幹部の中で
ただ一人私が倒し得なかった者──白騎士ディアブロ

しかし、むしろ私はとても嬉しいのです
ええ、あの時の雪辱、幻とはいえ今晴らさせてもらいましょう

10秒先の私を予知するあなたの攻撃を
「オーラ」と鎖による「範囲攻撃」を重ね合わせ防御
それでも攻撃は通るでしょうが、目論見通り
「見切り」「誘惑」により、あえて隙を晒したのです
あなたは私の隙が見えているが故にそこを撃たざるを得ない
けれどその傷が生む血霧こそが私の逆襲の一手です

あら、そこにいたのですね愚かな兎
悪夢の滴たる私の前で悪夢などと誇って見せた
その結果を受け入れなさい
死という、ね



●悪夢の滴
 手痛い敗北の記憶がある。
 白騎士ディアブロ――未来を見通し、支配し、敵対者を打ち倒すもの。
 あの銀河帝国攻略戦において、黒城・魅夜は当然のようにあれと相対した。
 戦いには、勝利した。全体的な戦果と言えば、間違いなく勝利だった。
 だが魅夜にとって、その戦いは雪辱と呼ぶべき敗北の記憶である。

 二度の立ち合いは、どちらも魅夜が膝を屈する形で終わった。
 戦いには勝利した――猟兵の最大の強みは即席の連携と、個ではなく多の力。
 魅夜の存在は疑いようもなく、勝利の一翼を担っていた。……だが。
「あれから数多の世界で強敵と戦い、そして打ち倒すたびに想いが募りました。
 不甲斐なくも膝を突き、あなたの言葉を覆すことが出来なかった悔しさが」
 魅夜は幻の白騎士に語りかける。あるいは、ひとりごちていた。
 言葉と裏腹に、幻と魅夜の戦いはコンマ秒で激変する死闘である。
 無数の鎖をもうひとつの手足めいて巧みに操る魅夜に対し、乱舞する光条。
 さらに66のドローンが戦いを映し、記録し、最適な未来を演算する。
 光剣は音を超えた速度で煌めき、同じ速度で達人じみた拳足が魅夜を襲う。
 打撃。斬撃。射撃。罠――魅夜は意識して逸らし、無意識で防いだ。
 かと思えば魅夜が攻勢に打って出る。鎖の結界でディアブロを絡め取ろうとする。
 確認できるだけで五重に貼られた罠を、ディアブロは一瞬で看破していた。
 死角も隙間もない鎖の結界が爆ぜ、乱舞する薔薇の花弁めいて鋼が踊る。
 空中の鎖片を拳や剣、あるいはつま先で相手に撃ち出し、同じ鋼片で撃ち落とす。
 互いに相手の次の次の次の次の次の手を読み、裏切り、防ぎ、攻める。
 常人には何が起きているか、目視はおろか理解も出来まい。
 卓越した戦士の戦いとは、何気ない動作一つが致命に繋がるものなのだ。

 計算され尽くした攻防は、旋律に乗せた円舞のように淀みなく終わりが見えない。
 そして終わりは唐突にやってくる――魅夜が面制圧攻撃を仕掛けた。
 108の鋼鎖と53の鬼札による、回避余剰空間の存在しない飽和攻撃。
 ディアブロは胸元めがけてレーザーキャノンを撃つ。"あの時"のように。
「そう、あなたはそうする――そして」
 かつての戦いで、魅夜は一枚上手を行かれ、そして倒れた。
 幻はその過去をなぞる。そして未来を生きる魅夜が上を行く。
 ありきたりな物語ならば、そんなところか。だがこれは命を賭けた戦いだ。
 幻は二枚上手を行った。レーザーキャノンは囮、本命は光剣!
『先手を打つだけの処理能力と実行力を持つ――だが私の武器はそれだけではない。
 私を幻だと思い込んで侮ったならば、それがそなたの敗因であり……』
「"そう思うことが、あなたの限界なのでしょう"」
『!!』
 光剣は胸を貫いていた。致命傷だ。『かつての魅夜であった』なら。
 あれから数多の戦いがあった。血を流し、啜り、勝利し、勝利し、勝利してきた。
 魅夜の冷たい瞳が、幻を見つめていた。
「あなたは幻であれ、ただ過去をなぞるだけの幻などで終わりはしない。
 だから、此処を狙わざるを得ない。ええ、あなたは強敵"でした"から」
 血が噴き出した――だが鮮血は、地を濡らすことはなかった。
 それは濃霧となってふたりを包み込み、萌え出た鋼が幻だけを害した。
『バカな』
 白騎士は言った。魅夜の心に歓喜はなかった。これは、必然の結果である。
「さようなら、白騎士ディアブロ。その身を朱に染めて送りましょう」
 無数の鎖で串刺しにされたディアブロの頬を、魅夜の指先が撫でた。

 濃霧が晴れた。地を濡らす赤は、魅夜の流した血ではなく……。
『あ、かはっ、こんな、これほどまでの力、が……!』
 幻にまぎれて魅夜の寝首をかこうとしていた、レプ・ス・カムの血である。
「悪夢の滴たる私の前で、悪夢などと誇ってみせた。これはその代償です」
 女の形をした化け物が言った。
「あなたに残されるのは、死という結果ただひとつ」
 未来を見通す眼などなくとも、猟書家の末路を視るには十分だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

三咲・織愛
ヨハンくん(f05367)と

幻だと分かっているなら惑わされたりなんてしない
そう、強く在れたらいいのに

幻を目にして血の気が引いたのを自覚する
どこか冷めた頭で困惑しながら過去を見る
息も絶え絶えに、もう終わらせてと願う姉に、何も出来ずにいる私

助からないと分かっていたのに、癒しの光を送って悪戯に苦しみを長引かせ
忘れることは出来ない、深い後悔と共に付きまとう幻影

……あの時、おねえちゃんに終わりを与えたのは、お義父様とノクティスだった
今は私の手にノクティスがあるけれど
でもね、やっぱり
きっと私はいつになっても、最期をあげられない
後悔を晴らすためだけに幻を払えない

――ごめんね。幻はそのままにして
私も前に出ます


ヨハン・グレイン
織愛さん/f01585 と

幻だと分かっているなら惑わされることもない
ただただ幻影を作り出す元凶に不快と嫌悪を抱くだけだ

声も姿も、時が経てば少しずつ記憶から薄らいでいくものだから
思い出さなければいいだけだ
そうして時が経つのをただ待てばいいだけ
考えない事が自分なりの決着の付け方だった

それを阻もうというのなら
目を閉じ、音を掻き消すように
暗闇の悪意に対抗する

俺はありもしないものに時間も感情も割きたいとは思えないんですよ
幻ごときで苦しめられると思っているなら見当違いも甚だしいな

動けずにいる彼女は背に、守れるようにしておきましょうか
呪詛と全力魔法で【蠢く混沌】を
不快なものは消してしまえばいい、どうせ――



●忘れたいもの、忘れられないもの
 三咲・織愛とヨハン・グレインは、同時にそれぞれの幻を目の当たりにした。
 この悪夢の世界では、幻は単なる主観的な錯覚などではない。
 迷い込んだ旅人の記憶や意識から引き出される一種のヴィジョンである。
 織愛も、ヨハンも、それは理解していたし……覚悟していた。
 だから惑わされることなどない――ふたりともそう覚悟していた。

 ただ、幻を前にしたとき、ふたりが見せた反応は真逆だった。
「……あ」
 織愛の顔から血の気は失せ、大きく目を見開き、固まってしまっていた。
 反対に頭は冷え切っていて、これが幻であることを俯瞰している。
 そうとも、これは過去だ。もう終わってしまった記憶のタペストリ。
 終わってしまったからこそ、こびりついた後悔は泥のように落ちてくれない。
 わかっている、わかっているのに――わかっているから、心を強く保てない。
「おねえ、ちゃん……」
 最愛の姉。
 最悪の風景。
 ――最期の声。

『もう、おわらせて』

 青ざめた、を通り越して白くなりつつあった姉の唇が、か細く紡いだ。
 自分は、出来なかった。そしていまも、何も出来ずにカタカタと槍を震わせる。
 ノクティス。きっと彼は覚えているのだろう……義父の握りしめる手の痛みを。
 己が振るわれ、そして終わりをもたらす感触を、覚えているはずだ。
「…………おねえちゃん」
 織愛は、強く竜槍を握りしめようとして……結局、やめた。
 今度こそ出来るはずと思っていた。だが、やっぱり出来なかったのだ。
「私は、いつになっても、いくつになっても、おねえちゃんの願いを叶えられない。
 だってこれは、幻だもの。私の後悔を晴らすためだけに、そんなことは出来ない」
 違うのは、意思の問題だ。
 怖いから、悲しいから、見たくないから出来ないのではない。
 ――そんなことに意味はない。終わってしまったと、分かっているから。
「私は、私の罪を、後悔を背負っていくの。だから、ごめんね」
 織愛は一歩前に出た。
 突き出された槍は、幻の先にあるものを射抜いた。

 反対に、ヨハンは止まることも、止めることもなかった。
 "それ"――幻でしかないゆえに、そう形容すべきだ――が現れても、
 ヨハンは驚いたりはせず、ぐっと眉根を寄せて嫌悪と憤怒をあらわにした。
 ……人は、死んだ人のことをまず声から忘れてしまうのだという。
 どれだけ親しくても、友としてあるいは大事な人として愛していても。
 記憶というのは残酷で、だが同時に慈悲深くもある。
 忘却とは別れであり、救いだ。忘れることで癒せる傷もある。
 辛すぎる記憶は、思い出さないように心の奥底で蓋をしてしまえばいい。
 時間だけが心の傷を癒やす。そうするしかない心の傷だって、あるものだ。
 ……だなんて、気取って分かったような言い回しを何度耳にしたか。
 ふざけた話だ……と、もう少し小さな頃は鼻で笑っていたように思う。
 今はどうだろう。こんなにも、苦々しさと疼痛で思い知ることになろうとは。
 人間は無力なものである。だが、ヨハンの忘却は逃避ではなかった。

「俺は、覚えているべきではなかったと思っていた」
 誰に言うでもなく、ひとりごちた。
 辛くて苦しいから忘れたいのではない――そうすることがけじめだと思った。
 逝ってしまった者を想うことは、つまり死者を留め置くようなもの。
 曰く、人は二度死ぬ――命を落としたときと、誰からも忘れ去られたとき。
 ならば、己はナルシスティックな痛みに耽溺せずに、そうしよう。
 忘却という終わりをもたらして、この感傷に別れを告げよう。
 忘れたくても忘れられない者としての、彼なりの決着の付け方だったのだ。

「お前は、それを邪魔した」
 織愛が貫いたものが見える。レプ・ス・カム。
 幻は所詮幻だ。見えている。最初からそうだ。だのに己のなんと情けないことか。
「幻ごときで苦しめられると思っているなら、見当違いも甚だしいな」
『ぐ……!』
「――沈め」
 何度も口にした詠唱。
 レプ・ス・カムが困惑の炎を放とうとする。それから動けない織愛をかばった。
 闇を迸らせて炎を飲み込み、前に出て、さらに一撃。さらに、一撃。
『こ、この私の生み出した悪夢が、どうして……!!』
「悪夢は、悪夢でしかない。いまさら、俺たちを阻めると思うな」
 織愛が顔を上げて、ヨハンの背中を見ているのが感じられた。振り返らない。
「不快だよ。お前を、消してやる」
 ヨハンは振り返らない。
 きっと自分は、泣きそうな顔をしていただろうから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

草野・千秋
現れてきた幻影は死んだはずの妹
名前は千鳥、享年14歳
宿敵の邪神とその配下に襲われる前の遊園地に行く綺麗な姿で現れ
幸せだった過去を想起させるよう
顔はとても母親に似ている

だめだ、千鳥、僕は前に進まなきゃ
君はもうこの世の人間ではないんだ
だって、
(これからとても酷い目にあって……と言いかけてやめる)
僕はみんなの、家族のぶんまで生きる
だから天国で見守っていて
僕が中途半端な機械人形だとしても
(頬を撫でる手を離す。じわり、涙が出そうになるが引っ込めて)
どうか安らかにね
歌唱、楽器演奏、UCで鎮魂歌を

レプ・ス・カ厶、僕は過去には囚われない
前に進むことこそ家族への弔い
怪力、2回攻撃、勇気で叩きのめす



●向くべきは後ろにあらず
「……千鳥」
 草野・千秋は、放心した面持ちでその名を口にした。
 草野・千鳥。千秋の妹――もう、いないはずのひと。
 まだ14歳だった彼女は、在りし日の姿そのままで佇んでいた。
「……違う、これは幻だ。悪夢の世界が見せた……っ」
 千秋は我に返り、頭を振る。幻はただ微笑んだままそこにいた。
 あるいは幻が、妹を装ってそれらしい言葉をかけてきたなら。
 ふざけるなと激昂して、幻をはねのける活力を得られたかもしれない。

 けれども、妹は……千鳥は、何もかもあの頃のままだった。
 あの日、すべての運命が変わってしまったその時のままで。

 幸せだった。
 こんな怪力も、鋼の身体も、ささやかな幸福には必要なかった。
 愛すべき家族がいて、変わらない日常があって。
 それで十分だった。それ以上を望むほど欲張りではなかった。
「……千鳥。だめなんだ」
 千秋は弱々しい声で言った。
 妹の姿をした幻は、何も言わず、微笑みながら千秋に寄り添う。
 千秋は、無意識に頬に手を伸ばしていた。あの頃のままの手触りがした。
 柔らかな妹の肌。血を分けたきょうだいであり、日常の象徴、最愛の家族。
 幸せだった頃のかけら――ただ、何もかもがあのままで。

 あのまま、だからこそ。
「……ああ、そうか」
 千秋は、ぽつりと呟いた。
「やっぱりきみは、幻だ。だって――この身体は、もうあの頃のままじゃない」
 あの頃と変わらない手触り。"生身の自分が触れた記憶と遜色ない"。
 それはかえって、自分がどうなってしまったのかを思い知らせた。
 蘇る記憶。あのブルーノ―大森林での暗闇が、連鎖的に脳裏をよぎる。
「……僕はみんなの、家族のぶんまで生きる。千鳥のぶんも」
 だから。千秋はそう言いかけて、名残惜しげに手を離した。
「どうか天国で見守っていて。――僕が、中途半端な機械人形だとしても」
 せめてきみだけは、安らかに。
 流れる涙は枯れていた。その代わりに、鎮魂の歌を口ずさむ。
 幻は薄らいでいく。――千秋は、しっかりと眼を拓き、暗闇を見据えた。
『驚いたね。さぞかし死者の念に飢えていると思ったのに』
「レプ・ス・カム。僕は、過去には囚われない。前に進むことこそが弔いだから」
 敵は構えようとした。だが千秋のほうが疾い、ずっと疾かった。
 オブリビオンは過去の残骸。千秋は、前を――未来を見つめ進む者。
 その時点で、勝敗は決していたと言えよう。
「僕はもう、こんな幻には惑わされない! それをこの拳で、教えてやるっ!!」
 幸福と引き換えに手に入れた鋼の身体の、怪物じみたその力が。
 怒りという炎に突き動かされ、残骸を叩きのめし、鉄槌を降した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴィクティム・ウィンターミュート
よぉ、また起こされちまったか?死人も忙しいな
───Jackpot
これで3度目……ブックドミネイターん時は、悪かったな
まぁ、幻影だから意味なんて無いかもしれないけど…ちょっとした区切りってやつさ
戦う理由は、ちゃんと未来にあった。お前の言う通りだ
禄でも人生送ってきた、どうしようもねぇ男だがよ
幸せを護ってやりてぇなって連中が出来たのさ
だからまぁ…過去は時々振り返るくらいで、許してくれ
じゃ、起こした奴を仕留めてくる…さよなら

てなわけだ、空き巣趣味のクソウサギ
俺もアイツも静かなのが好きなんでね──刹那の抜き打ちで、さようならだ
フリムの未来を妨げようとした罪状も追加だ
魂の奥底まで、永久凍土に沈んでくれ



●三度目の追憶、あるいは死にぞこないの述懐
 あの姿が目の前に立つたび、自分はなんと臆病で卑小かと笑いたくなる。
 もう友は死んでいて、骸の海に二度も送ってやったというのに。
 これで、三度目だ――ヴィクティム・ウィンターミュートは肩をすくめた。
「なあ、この幻ってのは、あれか? 俺が願ってるのか、それとも……」
 いつものように剽げた様子で言いかけて、ヴィクティムは頭を振った。
「……いや、聞くだけ無駄だな。だって、俺の後悔なんて消せやしねえんだ。
 消しちゃならない。俺はお前を……お前たちって過去を、ずっと背負わなきゃ」
 かつてその念は、鎮魂や弔いというよりも自罰であった。
 自分は罪深く、そして醜く浅ましく、幸福にはなってはならないのだと。
 己を己で呪い、見下し、罵倒し、侮蔑し、嘲笑い、痛めつけてきた。
「けどさ。前とは違うんだよ。だって――戦う理由は、ちゃんと未来にあった。
 お前の言う通りだったんだ。なあJackpot、笑ってくれたっていいんだぜ」
 幻は銃を構えない。ヴィクティムもまた、銃を構えない。
「俺は、結局、俺だ。ろくでもねえ人生を送ってきて、これからもきっとそうだ。
 けどな……そんなどうしようもねぇ男だがよ、仲間には恵まれちまうらしい」
 お前たちが、そうだったように。
「幸せを護ってやりてぇな、って……そう思える連中が、出来たのさ。
 そのためなら、俺はどんなことでも出来る。けど、苦しむためじゃあない。
 ありきたりでバカバカしい、けどきらきらした幸せのための、まあ、やせ我慢さ」
 ヴィクティムは笑った。透き通るような、年頃らしいあどけない笑みだった。
「だからこれは"区切り"だ。次にお前を思い出すのは、きっとずっと先だろう。
 過去は時々振り返るくらいで許してくれ。いくらでも、笑ってくれていいからよ」
 幻は銃を構えない――ヴィクティムも、構えない。そして踵を返す。
 気のおけない友人に別れを告げるように、ひらひらと手を振る。
 幻は銃を構えない。……ヴィクティムは振り返らない。
「さよならだ」
 振り返ることはない。
 振り返る必要は、今はもうないのだから。

『……ありえない』
「ありえただろ?」
 驚愕のレプ・ス・カムを、ヴィクティムは鼻で笑った。
『ここは悪夢の世界だ。迷い込んだ旅人を苦しめ、闇で閉じ込める世界なのに!』
「"だが、そうはならなかった"」
 ヴィクティムは、仲間の口癖を真似た。
「俺もあいつも、静かなのが好きなんだ。それにガンマンごっこは体験済みさ。
 あいにくだなクソウサギ。あいつは、テメェごときじゃ好き勝手できねえよ」
 レプ・ス・カムは動こうとした。おそらくは攻撃か、回避のためか。
 だが出来なかった。魔弾が、その脇腹を貫いていたからだ。
『かはっ!?』
 見えなかった。それほどの速度の銃撃。当然だ。
 鎮魂の祈りはとうに済ませた。そして、思いは記憶とともにこの背中に。
「テメェはフリムの未来も妨げようとした。罪状追加で、判決は――」
 悪魔が哂った。
「苦しんで苦しんで、絶望して後悔して泣き叫びながら永久凍土に沈むのさ」
 魂の奥底をも凍てつかせる魔弾。だがそれよりも恐ろしいのは。
 命なき冬の夜の如き、どこまでも冷酷で凍てついた男の怒りである。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リア・ファル
SPD
アドリブ歓迎

(悪夢が呼んだのは実兄の幻影だった)
成る程。確かに悪夢だ


今を生きることは時に苦しみも困難も伴う
悪夢のような現実が迫ることさえ。だけど

いつかの夜明けの暁と決意を思い起こし、ヌァザを手に取る

「もう目を逸らしはしないさ」
そう、幻として現れた兄に告げる

「決着も、お別れも。今じゃない。……会いに行くから。
またね。イサム兄さん」

UC【暁光の魔剣】の満ちる光が周囲を照らし、悪夢も闇も、晴らしていくだろう
(ハッキング、リミッター解除)

光が、レプ・ス・カムを照らし出すから(情報収集、偵察)
悪夢の終わりを告げる、暁の刃で切り拓く!(切り込み)



●いつか、星の海の底で
 "現れた"という、漠然とした確信があった。
 きっとグリモアを通した予知というのは、こんな感じなのだろう。
 演算による未来予知とも、次元接続による高次観測とも違う、奇妙な感覚。
 人間で言うところの『虫の知らせ』というのが、一番近いのかもしれない。
 リア・ファルは決意した。そしてこの冒険でも、どこか予感があった。
 演算でも予測でもない、漠然とした、だが確信的な予感が。
 それは、的中した。兄の姿をした幻が、その証拠だった。

「ボクはね、イサム兄さん」
 目の前に立つのはリアの"兄"――そう形容するべきもの。
 高速戦闘空母『イ・ラプセル』搭載、試作型電脳AIユニット。
 コードネーム、"イサム・セイル"。リアの雛形であり、前身であり……。
「あなたが現れたんだってことが、なんとなく心のどこかでわかっていたんだ。
 だから匡にーさんに教えられたとき、不思議とすとんと腑に落ちたんだよ」
 魔剣ヌァザを手に取る……強く、握りしめる。
「覚悟もした。決意もした。でもさ……でも、ずっと消えないんだ。
 納得だってした。なのにずっとずっと……"どうして"って言葉が、消えない」
 オブリビオンとは過去の残骸。
 あらゆる世界で死に、忘れられた過去の反逆者たち。
 悪人も、
 善人も、
 そうでないものも、
 何もかもが蘇り、世界を破滅させる。
 理解できる。己はもう何度とそれらを相手に戦ってきたのだから。

 でも。
「どうして、イサム兄さんがオブリビオンになんかなってしまったんだって」
 後悔と憤りと、戸惑いは消えるはずがない。
「だから私は、いつか必ずあなたを終わらせにいく。今度こそ、お別れをする。
 ……それは今じゃない。会うべき場所も、こんな暗い場所じゃないはずさ」
 もしかするとそこは、こんな森よりもずっと光の差さぬ海の底かもしれない。
 それでもいい。光がないならば、この胸に星のような希望を抱えて征こう。
「またね、イサム兄さん。いつか――星の海の底で」
 ヌァザを振るう。光は幻を切り裂いて、闇を照らし、そして影を暴く。
 幻は何も言わなかった。ただ、その表情はあの頃と同じ優しげなもので。
「……っ、レプ・ス・カム!!」
 後悔を振り払うように、リアは叫んだ。
「ボクは、この悪夢を終わらせる。暁の刃で、切り拓いてみせる!!」
 照らされた闇の先、炎の矢を構えるレプ・ス・カムが居た!
『そんな……!? どうしてあの幻を振り払えたんだ!?』
「理由が知りたいなら教えてあげるさ――ただし、死ぬほど痛いけれどね!!」
 斬撃が先んじた。飛来した炎すらも切り裂いて、暁光は残骸を灼く。
 悲鳴と苦悶の絶叫も、昏いリアの心の闇を晴らすには至らない。
 それを消し去るための戦いは、いまでなく、ここでもないのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

零井戸・寂
◆匡と

(通称"MONSTER"。 暴走体ジャガーノート・ジャック。『針鼠』。自分の原初たる怪物性。……屍は同居人の他にも 相棒や僕のよく知る人のそれも見える。)

……わぁ。
十段階評価で九くらいの最悪を見せてくれるじゃん。

――いいさ、やってやるよ。
"人間"舐めるなよ"怪物"。

頼むよ匡。

(自分のやる事なんて直ぐわかる。先に僕の方を怒り任せに狙って それが通らないなら広域殲滅攻撃。……そして)

全く 我ながら呆れる程の怪物性だね。
でも――

(出鱈目な攻撃で視界が不明瞭になった時こそが隙。
その隙を匡に伝える。)

"そうはならなかった"。
――もう そうはならないんだ。

ただ 怪物だっただけの僕じゃ
もう無いんだよ。


鳴宮・匡
◆フルイド(f02382)と


目の前には、“怪物”の似姿
足元には、折り重なるような屍
親友、相棒、チームメイト
友達、隣にいる少年と、その相棒、同居人たち
……それから
遺体さえ残らない、砕けた幻燈の欠片に
もう、紫焔は宿らない

……ああ
今の自分にとって一番怖いものなんてとっくに知ってるよ
そうさせないために、戦ってるんだ

フリムを巻き込まないように留意しながら
向かい来る砲撃をこちらへ届く前に撃ち落とす
フルイドへの攻撃は通さない

通らなければ手を変えてくるはずで
それがいつ“隙”になるかは、“本人”が一番よく知ってるだろう
それを逃さずに仕留めるよ

……これで終わりじゃないけどな
悪趣味な幻の礼は、きっちりさせてもらうよ



●名前すらも与えられぬ怪物
 "怪物"が居た。
 棘だらけの鼠じみた、あるいはがらくたに丸まった子どものような。
 その姿はひどく凶暴で獰猛なのに、これっぽっちも恐ろしく感じられない。
 零井戸・寂と鳴宮・匡の心が、強く固められていたというのもある。
 ただ、それだけではない――怪物の姿は、どこか哀しかった。
 豹じみた赤い双眸がふたりを睨む。残光は、涙の軌跡のように見えた。

「……十段階評価で言うと、九くらいの最悪、ってとこかな」
 零井戸は呟いた。目線は怪物ではなく、その足元に向けられている。
 屍体だ。それもひとつやふたつではないし、原型を留めないものもある。
 砲で穿たれ、灼かれ、あるいは爪で引き裂かれ、ねじ切れたものが。
 いちいち確かめるまでもない。わかるようになっているからだ。
 仲間が居た。
 親友が居た。
 相棒が居た。
 友達が居た。
 少年が居た。
 青年が居た。
 魔女が居て、子供が居て、少女が居て、そして――。
「……ああ、そうだな。きっとこれが悪夢ってやつなんだろう」
 匡は、"それ"を見据えた。遺体ですらない、砕けた幻燈のかけら。
 ヤドリガミの本体は器物である。人間の似姿はしょせん荷姿に過ぎない。
 彼女が死ねば、そうなるのだろう。いずれ、いつか、ifではない未来のかたち。
 もう、紫焔は宿らない。日常の喧騒も、相棒の焔も、そこにはない。
「こ、こんなの……こんなの、あんまりでするっ!!」
 フリムが叫んだ。泣きそうな声だった。
「こんな、大事なひとたちの、こんな姿を、見せるなんて……」
「いいさ。俺たちは、"そうさせないため"に戦ってる。とっくに知ってるから」
 フリムの言葉に、匡は言った。
「けど――許すつもりはないよ」
「あっちも、そのつもりみたいだけどね」
 零井戸の言葉を示すかのように、"怪物"がざりざりと唸り声をあげた。
 怪物が起き上がる。零井戸は睨み返した。
「人間(ぼく)を嘗めるなよ、"怪物"。――お前のやることなんて丸分かりだ」
 怪物がバネめいた速度で飛び出した。同時に砲塔が三人を狙う。
 被弾の可能性を一切考慮しない、ただ目に見えるすべてを破壊する殲滅攻撃。
 まさしく手のつけられない怪物。己が宿していた獣性のかたち。過去のかたち。
「――けどさ」
 零井戸が言った。
「"そうはならなかった"んだ」
 言葉とともに、銃声が雷鳴のように轟いた。

 すべてである。
 森を焼いて余りあるほどの殲滅砲火は、すべて爆炎に変わった。
 砲塔のすべてを狙いすました影の魔弾。神業、いや、悪魔的な跳弾の連鎖。
 発射寸前のわずかな隙を狙った匡の銃撃が、砲塔ごと弾丸を爆散させたのだ。
「怪物は、もう誰も殺さない。誰も傷つけることも、奪うようなこともない」
 零井戸は言った。焔に巻かれて、怪物が無様に転がる。
「もう、怪物だっただけの僕じゃないんだ」
 獣性は消せぬ。それはヒトが抱える当然の、そして不可避の闇だ。
 零井戸はそれを知っている。だからもう、目をそらさない。
「……ただの人でなしでいたのは、昔の話だよ」
 匡は言った。最期の弾丸は、看取るような静かなものだ。
「悪いな。俺たちはもう、ひとりじゃない」
 銃声は、水面を揺らす波紋のように静かに。
 怪物は安らかな顔だった。フリムはなぜか泣きたくなるほど胸が痛んだ。
「そうはならなかった。……いや、"そうはさせない"、かな」
「ああ。そうはさせない。……誰にも、何にも、そうはさせない」
 匡と零井戸は言葉を交わし、頷いた。
 過去を認め、受け容れ、乗り越え、前へと進む。
 ふたりはもう、そうあることを誰にも、何にも恥じることはない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

カイム・クローバー
お探し物はコレかい?
UCで天上界の鍵を作るぜ。勿論、鍵なんざ適当にでっち上げた『それらしい』造りの代物だ。だが、あの性悪ウサギも本物を見た事がないなら──コイツで騙す事は十分、出来ると思うぜ。
欲しけりゃくれてやるよ、と鍵を投げて寄越して。──数秒後、爆発する。
何故って?俺がそういう風に作ったからさ。ダメージを与える類の爆発じゃなく、精々、髪の毛をチリチリにする程度の…『妖精風の可愛らしい悪戯』さ。

似合ってるぜ、その髪。魅力度UPだ。(挑発)
──言ったろ?笑わせてやるってよ?(フリムに笑み)
存在しない強敵?そいつぁ、良いね。この程度で【困惑】なんざするかよ。さて、次はどうやって笑わせてやろうか。


パルピ・ペルポル
倒さない限りは誰も出られないってことなら倒すだけでしょ。

というわけで我が領地「迷いの森へようこそ」
鬱蒼と茂った森なのは変わらないけど、恐ろしさはだいぶ違うはず。
フリムを連れて出口に向かいましょ。迷いの森はわたしのテリトリーだから慣れたものよ。
迷って死ぬなら迷わなければなんとかなるってことだからね。

で、出口のところで雨紡ぎの風糸と穢れを知らぬ薔薇の蕾で罠を貼っておいて、兎が出てきたところで拘束して叩けるようにしておくわ。

沈黙は金、雄弁は銀なり…ってね。
語りたいなら語るがいいわ。嘘を重ねればどこかでボロが出るんだから。
それに言葉の真偽はともかく、アンタを倒してここから出るってだけの話だから。


ベリル・モルガナイト
間違って。いますね。貴女の。言葉は
だって。今。こうして。何かを。為し。見出した。方が。ここに。居られる。のですから
私は。盾の。騎士
共に。立つ。戦士を。仲間を。守る者
貴女。如きに。砕くことは。できません

姿を。消して。幻に。紛れても。微かな。音は。消えない
音に。集中し。フリムさんを。始めとする。周囲の。方々を。庇い。ます
この身は。盾
例え。傷付けられる。ことに。なっても。仲間が。道を。切り拓く。光と。なれば。それで。構いません

そして。攻撃を。受け続ければ。見えない。敵の。動きも。見えて。くるもの
そこです
仲間の。攻撃で。隙が。生まれた。瞬間
予測した。敵の。位置へ。レイピアにて。一閃

※アドリブ、連携歓迎



●目には目を、歯には歯を、偽りには――
『ぐ、う……はぁ、はぁっ……!』
 レプ・ス・カムは銃創を抑え、当て所のない森の中を彷徨う。
 周囲の風景は一変していた。闇も鬱蒼と茂る木々もそのままではある。
 だが、違う。なぜなら、これは『レプ・ス・カムが生み出した悪夢ではない』。
『この世界を、さらに別のユーベルコードで書き換えたのか……?
 くそっ、場所がわからない。どうして私がこんな、迷わなきゃ……!』
 フリムとともに逃げ出したパルピ・ペルポルの仕業だろう。
 さきほど浴びせられた銃弾の傷もあって、レプ・ス・カムの動きはぎこちない。
 猟兵を手玉に取るはずの自分が、森に囚われているという屈辱。
 レプ・ス・カムはひたすらに妖精たちを追った。目的などどうでもよかった。
 代償を支払わせなければならない……なんとしてでも。

「……来たわね」
 迷いの森の出口。パルピは、フリムをかばうようにして立つ。
「わ、わかるのでする? どこにも見えないのでする」
「きっとユーベルコードで姿を隠してるのでしょう。でも、気配でわかるわ。
 それに罠も張ってあるから、わたしたちと同じようにあいつも出られないの」
 こちらが悪夢の世界から出られないならば、その意趣返しをすればいい。
 パルピの作戦は見事に成功し、レプ・ス・カムを出口へと誘き出した。
 敵は浅ましくも、姿を隠して闇討ちをする腹づもりらしい。
 張り巡らされた風糸と薔薇の蕾の罠は、あちらも承知のはずである。
 我慢比べは出来ないはずだ――すでに怒り心頭の猟兵たちの攻撃が、
 レプ・ス・カムに傷をもたらしている。辛抱すればあちらが死ぬ。間違いない。
「さあ、かかってきなさい。迷わせる自分が迷わされたのは屈辱でしょ?
 さっさとわたしを殺して気分を晴らせばいいじゃない。出来るものなら!」
「ぱ、パルピ……」
「大丈夫よ――」
 フリムが不安げに言った、その時。
『いいだろう、なら……殺してあげるよッ!!』
 何もない場所に突如現れたレプ・ス・カムが、炎の矢を放とうとした!

 放とうと、した。
 正しく言えば、そもそも炎の矢を放つことは出来なかった。
 なぜならレプ・ス・カムの生み出す焔は、困惑の感情を薪として燃えるもの。
 猟兵たちは、幻を見せられようと悪夢に囚われようと惑うことはない。
 代わりにレプ・ス・カムは、力を振り絞って魔力の焔を束ねたのである。
 なるほどそれは強力な攻撃であろう。だが、畢竟ただの魔術でしかなかった。
「……あなたは。あなたの。言葉は。なにもかも。間違って。います」
 そして。
 両者の間に割込み炎の矢を受け止めたベリル・モルガナイトの盾は、
 そんな他愛もない魔術ごときで傷つけられるほど、やわなものではないのだ。
「いま。こうして。何かを。為し。見出した。方が。此処に。居られます。
 彼女を。守り。救い。ともに。戦おうと。する。猟兵も。此処に。居られます」
 ベリルは肩越しにパルピとフリムを振り返った。
 パルピもまた確信していた――同じ猟兵が其処にいるはずだと。
 迷いの森が惑わせるのは、パルピが敵とみなした存在のみ。
 そしてベリルの気高き意思は、宝石の裡なる輝きとなって闇をも照らす。
 迷うはずがなく、惑うはずもない。ましてや、傷つけられることなど。
「私は。盾の。騎士。ともに。立つ。戦士を。仲間を。護る者」
 ベリルはレイピアを突きつけた。もはや、レプ・ス・カムは隠れられぬ。
「あなた。ごときに。砕くことは。出来ません」
『く……! このっ!!』
 レプ・ス・カムは苦し紛れに姿を隠そうとした……しかし動きを遮るものあり!
「わたしが黙って見ていると思った? ここはわたしの領地なのよ?」
 張り巡らされていた風糸の罠は、ひとつきりではなかったのだ!
『わ、私が気付かない間に!?』
「沈黙は金、雄弁は銀なり。アンタが言葉を弄するなら黙って策を敷くだけ。
 それとも頭に来すぎて、周りに目が行ってないのかしら? 残念な猟書家ね」
「幻に。頼るしか。出来ない。ならば。これも。当然。でしょう」
『……!!』
 レプ・ス・カムは歯噛みした。そして何故という言葉が頭を埋め尽くした。
 天上界の鍵。……天上界の鍵! あれさえあれば、こんな奴らなど……!

 ……そこへ。
 まるで畜生に餌でもくれてやるような気軽さで、放り投げられるものがあった。
『え?』
 レプ・ス・カムは呆然とした。
 言葉を弄し、ないはずのものをあるように見せかける狡猾な猟書家が、である。
 だが無理もない、"それ"は、願ってはいたがあるはずのないものだったから。
『て、天上界の、鍵……!?』
「どうしたんだ? ほしかったのはそれなんだろ」
 闇の中から、男が……カイム・クローバーが、現れた。
「お前がもたもたしてる間に、こっちで見つけちまったからな。持ってきたぜ。
 そいつでどうする? 秘めた力でも引き出して、俺を楽しませてくれんのか?」
 カイムは、いかにも戦闘狂じみたようなことをおどけて言った。
 戦いの愉悦を求めて、唾棄すべき外道にわざわざ餌をくれてやる。
 ……なるほど、そういう趣向を求める手合いも、猟兵には居るだろう。
 カイムのことを少しでも知る者ならば、この男がそうでないことはわかる。
 平時であれば、レプ・ス・カムはこの状況を訝しんだことは間違いない。
 ベリルもパルピも、フリムも何も言わなかった。というよりも、言えなかった。
 こんなものが本物であるわけがなく、こんなことをする理由もないからだ。
『鍵! 鍵が、あればっ!!』
 けれども残念ながら、猟書家は死に瀕していた。
 迷いの森に惑わされた効果が、このような形で出ようとは。
 レプ・ス・カムは躊躇せずに鍵に手を伸ばし、そして――BANG!!
『わぷっ!?』
 鍵の偽物は、まるでファンシーなおもちゃめいて爆発した。
 コミカルな悲鳴。煙が晴れると……おや、レプ・ス・カムの顔ときたら!
『な、な……っ』
「……ふ、ふふっ! か、髪、髪がチリチリでする!」
 いかにもコメディな漫画にあるような、髪が焦げて煤だらけの顔である。
 フリムは緊張した状況にも関わらず吹き出してしまう。カイムは笑った。
「言ったろ? 笑わせてやる、ってよ」
「……あ」
「便利屋Black Jackは依頼をきちんと遂行するのさ。魅力もアップしてなによりだ」
「間抜けな猟書家には、たしかにお似合いかもね」
 パルピとカイムの皮肉に、レプ・ス・カムはわなわなと拳を震わせた。
『わ……私を! 私を笑っていいやつなんて、誰もいないのに!!
 惑わせるのは私で、笑うのも私だけだ! こんなの、認めるかっ!!』
「そう。ですか。ならば」
 ヒュン、と風音。レプ・ス・カムは斬撃が行われたのを知覚した。
 行われた。……立ち上がったレプ・ス・カムの胸部を切り裂く剣閃が。
「私も。あなたを。認めません」
 斬撃は無慈悲である。もとより、くれてやる慈悲などこいつにはない。
 偽りには偽りを。そして侮辱と嘲笑には死を以て報いるべし。
 レプ・ス・カムは理解した。もはや追い詰められているのは、己のほうなのだと!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ケンタッキー・マクドナルド
◆フェルトと

(ダーツの針が翅と頭を貫く。当然のように死ぬ。
死んだ妖精の千切れた身体を魔糸が縫い直す。生き返り、そしてまた弄ばれ殺される。

――フェルトも巻添えにしつつ
俺の"過去"が出来の悪い映画のフィルムみてェに流れ行く。)

趣味が悪ィンだよ 阿婆擦れが。
(更に兎が誹る。
【これは真実だ】【お前は生きてるフリをしてるだけだ】と。)

――だから何だ糞兎。
死んでよォが生きてよォが知るかよ。

どっかの純度2000%くらいの善人妖精が俺に言った通りだ。
俺様はケンタッキー・マクドナルド。それ以上もそれ以下もねェ。

『俺は俺だ』

オラ 糞映像鑑賞料だ
有難く頂戴しとけ
――兎ァこの糸の先だ
全力ブチかませ フェルト!!


フェルト・フィルファーデン
◆ケン様と

何よ、これ……
もしかしてこれがケン様の、過去……?

そう……それで?わたしが動揺すると?幻滅すると?失望し恐怖に恐れ慄くとでも?
ええ、確かに想像以上の凄惨さだったわ。でもね、それで彼の本質は変わらない。
彼はケンタッキー・マクドナルド。優しくて鈍感な、神の手を持つ最高の人形師よ!



……フリム様、ケン様。ここはわたしに任せて援護をお願い。

猟書家よ。アナタの罪は大きく3つ。

一つ。平和を取り戻したこの世界を再び侵した事。

二つ。フリム様を傷つけ絶望の淵に追い込んだ事!

三つ。彼の古傷を抉り見世物のように晒しあげた事!!

絶対に許さない。アナタはわたしの逆鱗に触れたのよ。

速攻でその命、散らせてあげるわ。



●竜退治のその先に
 ダーツの針が、翅と小さな頭を貫く。
 虫けらのように当たり前に、虫けらのように残酷に。
 射抜かれた"もの"は当然のように死ぬ。黒い影どもがげらげらと笑った。
 ダーツが乱雑に引き抜かれ、無惨な虫けらの残骸を糸が駆け巡る。
 だらんと人形のように垂れ下がる身体……が、びくりと痙攣した。
 呻き声もあったかもしれない。虫けらの羽音めいてか細い無意味な悲鳴も。
 誰もそんなものに頓着しない。虫けらは所詮、虫けらだからだ。
 妖精(むしけら)はまた磔にされ、ダーツの針が飛来し、身体を貫く。
 頭はポイント倍点だ。うまくやると殺さずに痛めつけることが出来る。
 ぎりぎりのところをえぐられた虫けらが苦しみひきつるのを、影どもは悦んだ。
 そこに、人間など居なかった。いたのは、虫けらのようなゴミどもだけだ。

「……なによ、これ」
 フェルト・フィルファーデンは、顔面蒼白で呟いた。
 困惑? 動揺? 幻滅? 否、断じて否。
 怒りだ。
 顔を紅潮させるどころか青ざめさせるほどの、怒りが全身に漲っていた。
「これが、ケン様の過去……? こんなものを……わたしたちに、見せて」
「…………」
 ケンタッキー・マクドナルドはうつむいたまま顔を上げない。
「こんなものを見せてッ!! わたしたちを恐怖させるとでも思ったのかしら!?」
『あは、ははは……!』
 怒号を受け、レプ・ス・カムは血を吐きながら哂った。
『怒りで塗り潰したのかい? 楽しい顔をしてくれるじゃないか……!
 これは私が生み出したものじゃない。たしかにあった、過去の再現さ!』
「レプ・ス・カム……いいえ、猟書家! アナタは……!!!」
 フェルトは怒りのままに飛び出そうとした――その手を、ケンタッキーが掴んだ。
「! ケン様……」
 あまりのことに、フリムは何も言えなかった。フェルトも同じだ。
 ……ただ顔を上げたケンタッキーは、無表情で敵を睨んでいた。
『さて、こんなものを見せられた当人の気分は……こふっ、どうだろうね……?
 これは真実。だからキミは、所詮、生きているフリをしてるだけの人形さ』
「…………」
『いくら彼女が憤って否定したとしても、過去は変わらない。これが真実だ!
 私たちとキミとで、一体何が違うんだろうね? 死人と残骸の違いはあるかな?』
「だから、なんだ」
『――は?』
「だからなんだ、って聞いてンだよ、クソ兎」
 ケンタッキーの声は、煮え立つマグマのようであった。
「死んでよォが生きてよォが知るかよ。フェルトもフリムも巻き込みやがって。
 趣味が悪ィんだよあばずれ。そのうえ、言うに事欠いてべらべらとよォ!!」
 ケンタッキーは怒っていた。ただし、怒りの理由は過去を暴かれた恥辱ではない。
「お前の言葉なンざ! とっくのとうに、この善人妖精が否定してンだよ!!」
「……ケン様……」
「俺は、俺だ。俺様は、ケンタッキー・マクドナルド。それ以上でもそれ以下でもねェ!!」
 ケンタッキーはぶっきらぼうに二人を見て、また敵を睨んだ。
「俺は、俺だ。何があろうと、それは変わらねェ。変えられねえし変えさせねェ。
 ……なあ、そうだろフェルト。それにお前もよ。お前らも、そうだろうが」
 過去は変えられない。
 変えることなど出来ない。
 もてあそばれた過去も、
 故郷を失った過去も、
 失敗し挫折した過去も。
「……そうでする。わたしも、冒険者になって、いっぱい苦しかったでする。
 でも! 楽しいこともあった。だから旅を続けてきたのでする!」
 フリムは叫んだ。
「だから私は、ここから出たいでする。また、この世界を旅するために!
 ――次にみんなと会ったときに、もっとすごい話を出来るように!!」
「……ええ! そうよ。それでいいの。それで、十分だわ」
 フェルトは微笑み、そして胡蝶の魔力で己を強化した。
 レプ・ス・カムが姿を消し逃れようとする。ケンタッキーの糸が絡みついた!
『ぐ!?』
「クソ映画鑑賞料だ、ありがたく頂戴しとけ!」
 アリアドネの糸が敵を導く。友のもとへと彼らを導いたように。
「全力でブチかませ、フェルトォ!!」
「――アナタの罪は三つ。いまからその裁きを下すわ」
 レプ・ス・カムは逃れようとした。だが逃れられない。
 その糸は、ただの糸ではない。
 鈍感でぶっきらぼうで、けれども優しく、そして繊細な神の手の持ち主。
 至高の人形師、唯一無二のフェアリーが紡いだ糸なのだから。
「一つ。平和を取り戻したこの世界を再び侵した事。
 二つ。フリム様を傷つけ絶望の淵に追い込んだ事!
三つ。彼の古傷を抉り見世物のように晒しあげた事!!」
『……やめろ、来るな』
「アナタはわたしの――いいえ! わたしたちの逆鱗に! 触れたのよ!!」
『やめろ、私は――私は、ぁああああああっ!?』
 終わりは一瞬。裁きは刹那の間に。その穢らわしき存在を消し去るため。
 護身剣の斬撃が糸を、闇を、敵を断ち切り――そして、悪夢に終わりをもたらす。

 冒険の幕切れなんて、そんなものなのかもしれない。
 けれどもフリムは旅をやめないし、ふたりもともに支え合い生きていくだろう。
 恐ろしき闇よりも、苦しい悪夢よりも素晴らしいものを、彼らは知っているのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年11月26日
宿敵 『レプ・ス・カム』 を撃破!


挿絵イラスト