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楽しい夜の過ごし方

#カクリヨファンタズム

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#カクリヨファンタズム


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 その日、世界から月が消えた。
 夜の空は真っ暗になって、代わりにぼんやり浮かぶのは怖い怖い骸魂達。
 骸魂はのんびりしていた猫又達を飲み込んで、好き放題に暴れだしてしまった。
 周りの妖怪達はなんとか逃げ出し、家の中へと引きこもったけれど……それもいつまで保つだろう。

 そんな闇の世界に女が一人。
 女は空を見上げつつ、昏い笑みを浮かべていた。
「そうよ、世界は闇に閉ざされてしまえばいいんだわ。次は血の雨でも降らせましょうか。そうすれば少しは気も晴れるはずだもの」
 明るい月は嫌い。嘗て恋したあの人みたいだから。
 欲しいのは暗い暗い闇の世界。この世界以外には何もいらない。
 そんな女の想いに応えるように、夜の闇は更に深まっていく――。


「集まってくれてありがとう。今回はカクリヨファンタズムの依頼だよ」
 猟兵達へと笑顔を向け、花凪・陽(春告け狐・f11916)は話を切り出す。
「骸魂に飲み込まれてしまった妖怪がオブリビオンに変身して、幽世から『月』を奪ってしまったんだ。その影響で世界は真っ暗な夜闇に閉ざされて、骸魂が暴れまわって……それこそカタストロフのような状態になっちゃってるみたい。皆には元凶である妖怪を助け出して、あの世界に平和を取り戻して欲しいんだよ」
 元凶となった妖怪から骸魂さえ引き剥がせば、月もきっと帰ってくるはずだ。
 そうなれば夜も本来の姿を取り戻し、世界の破滅も阻止出来るだろう。

「転移したら、まずは周囲の妖怪達を助けてあげて。目的地の周りにいるのは……『ねこまたすねこすり』っていうふわふわした子達みたい」
 そう言いつつ、陽は猟兵達へと資料を配る。そこには救出対象である妖怪『ねこまたすねこすり』の姿が記されていた。
 この妖怪はすねこすりの骸魂が猫又を飲み込んだオブリビオン。見た目はまるっとしていて可愛らしく、群れをなして行動しているようだ。
「この子達はそんなに強くないし、すり寄ってくる以外に害もなさそうだね。すごく可愛いけど……骸魂の影響を受けているのは間違いないから、対処もしてあげてね」
 多少なら遊んであげても大丈夫だろうが、ずっとふわふわもふもふしている訳にもいかない。
 最後にはきちんと骸魂を剥がしてあげよう。

「周囲の妖怪が減ってきたら、元凶のところに向かってね。こちらの方は詳細まで分からなかったけど……居所はばっちり掴んでいるよ」
 元凶であるオブリビオンは町の中央、大きな公園にいるようだ。
 そのオブリビオンを倒すことさえ出来れば骸魂も消滅し、妖怪も本来の姿を取り戻すはずだ。

「無事に平和な夜が戻ってきたら……喜んだ妖怪達が百鬼夜行のお祭りをするみたい。取り戻した月を見ながらワイワイって感じだね。皆も一緒に遊んでくるのもいいと思うよ」
 周囲の妖怪達や助けられた猫又達は、戻ってきた月の光を浴びながら楽しく町を練り歩くらしい。この列への出入りはいつでも誰でも大歓迎だそうだ。
 周囲には出店も出され、縁日のように賑わうとか。普通のお祭りのように過ごすことも出来るだろう。
 のんびり月を眺めても、夜行やお祭りを楽しんでも構わない。
 そのためにも――まずは月を取り戻さなくては。

「そろそろ転移の時間だね。大変なお仕事になるけど、気をつけて行ってきてね」
 そう話を締めくくり、陽はグリモアの明かりを灯した。


ささかまかまだ
 こんにちは、ささかまかまだです。
 月を奪われ、闇に閉ざされた夜のカクリヨが舞台です。

●一章「ねこまたすねこすりとの集団戦」
 戦闘パートではありますが、敵はゆるい感じです。
 戦闘要素は薄めにして、一緒に遊んであげても大丈夫です。
 ですが骸魂への対処も必要にはなります。何かしらの手段で骸魂へ攻撃をする旨も忘れずに。

●ニ章「ボス戦」
 元凶のオブリビオンとの戦いです。こちらは純戦です。
 戦闘を行い勝利すれば、妖怪に取り憑いていた骸魂だけを倒せます。

●三章「夜行」
 世界が平和になれば、妖怪達がお祝いの百鬼夜行を行います。
 周囲の妖怪や猫又達とわいわい騒ぎましょう。
 出店を歩き回ったり、のんびりと月を眺めるのもいいですね。
 能力値は気にせずにどうぞ。


 どの章からでも参加していただいて大丈夫ですし、特定の章だけ参加していただくのも歓迎です。
 進行状況や募集状況はマスターページに適宜記載していく予定です。
 締め切りの告知もそちらで行っているので確認していただけると幸いです。

 それでは今回もよろしくお願いします。
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第1章 集団戦 『ねこまたすねこすり』

POW   :    すねこすりあたっく
【もふもふの毛並みをすり寄せる】突進によって与えたダメージに応じ、対象を後退させる。【ねこまたすねこすり仲間】の協力があれば威力が倍増する。
SPD   :    いつまでもすねこすり
攻撃が命中した対象に【気持ちいいふかふかな毛皮でこすられる感触】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【次々と発生する心地よい感触】による追加攻撃を与え続ける。
WIZ   :    きもちいいすねこすり
【すねこすり】を披露した指定の全対象に【もっとふかふかやすりすりを味わいたい】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 猟兵達が転移したのは幽世のとある町だった。
 街灯がぼんやりと周囲を照らしているが、それでもこの世界の異様な暗さは理解できる。
 空に広がるのは真っ暗な闇だけ。月は奪われ、同時に星も姿を消してしまったようだ。
 代わりに骸魂が空を飛び交い、不気味な光景を作り上げている。

 そうやって様子を確認していると、小さな鳴き声と足音が耳に入ってきた。
 来訪者の存在を嗅ぎつけやってきたのは――ふわふわもふもふ、丸っこいねこまたすねこすり達だ。
 妖怪達はにゃあにゃあと可愛らしい声をあげながら、猟兵達のすねを擦ろうとにじり寄る。
 幸いなことに彼らの敵意も戦闘力も高くはない。じゃれつきながら対処しても問題はないだろう。
 まずはこの猫又達から骸魂を引き剥がしてあげよう。
御乃森・雪音
アドリブ連携歓迎

あらら……可愛い事。
困ったわねぇ、攻撃する気にならないじゃない。猫、好きなんだもの。
暫くは遊んであげようと思うわ。
しゃがんで手を伸ばして、そっと撫でてあげようかしら。柔らかな毛並み、ふかふかで温かくて。
ただ、ずっとこうしているわけにはいかないのよねぇ。
片手で構いながら、片手では骸魂を剥がすための炎を。
Fiamma di incenso rosa……軽く手を振って薔薇の花びらを飛ばして攻撃するわね。
さあ、この世界にとっての危険を包み消すこの炎はどんな形に踊るのかしら。

……やっぱり一寸心が痛むわねぇ。必要な事だから躊躇うつもりはないんだけど。




 漆黒のドレスの裾を揺らしつつ、御乃森・雪音(La diva della rosa blu・f17695)は夜闇に覆われる幽世へと足を踏み込む。
 そんな彼女を出迎えるのはふわふわもふもふ、丸っこい猫の妖怪達。
 彼らは少しずつ雪音と距離を詰め、もこもこの身体を擦り寄せようとしているようだ。
「あらら……可愛い事。この子達はオブリビオンみたいだけれど……困ったわねぇ、攻撃する気にならないじゃない」
 確かにこの子達は悪い子だ。でも可愛いらしい猫ならば攻撃する気も失せてしまう。
 だから暫くは遊んであげよう。雪音がそう決心する頃には、数匹の猫が彼女の足元へと辿り着き――もふもふの毛並みを足元へとすり寄せ始めていた。
「ふふ、アナタ達ったらふわふわね」
 まだ足元しか触れていないが、それでもねこまたすねこすり達の感触はよく分かる。
 ふと視線を合わせれば、「もっと遊んで」と言わんばかりに鳴き声をあげる妖怪達。
 そんな彼らへ向け、雪音は柔らかな笑みを浮かべていた。

 暫く様子を見ていれば、妖怪達の数はどんどん増えていた。
 一匹でもふわもふなのに、数匹纏めてすり寄られればふわふわ具合は更に倍増。
 妖怪達はそれでも満足そうだけれど、どうせならこちらからもアプローチしたい。
「足元でふわふわされるのもいいけれど……そうね、こういうのもどうかしら?」
 雪音はそっとしゃがみこみ、妖怪達へと腕を伸ばす。
 彼女の手のひらが妖怪達に触れたのならば、すぐに暖かな感触が伝わってきた。
「思った通り。ふかふかで温かくて……いいこ、いいこ」
 妖怪達は雪音に身体を撫でられると、更に嬉しそうに鳴き声をあげている。
 にゃあにゃあ、ごろごろ。完全に気を許したのか、小さな身体をころころ転がしながら喜んでいる子もいるようだ。
 そんな様子は和むけれど、本来の目的も忘れてはいけない。
 微笑みの中に微かな決意を滲ませて、雪音は埒外の力を高めだした。

「……そろそろ行かないといけないわね」
 片手では妖怪達を撫で続けつつ、反対の手には鮮やかな薔薇の花弁を纏わせて。
 雪音の決意に応えるように、色とりどりの花弁が漆黒の空へを舞い上がる。
 月の輝きのような白と黄色の薔薇は更に空へ。雪音の暖かな想いを示すような赤や桃色の花弁は妖怪達へ。
 世界の危機を消し去るべく舞い踊る花はひらりと舞い踊りつつ、妖怪達に取り憑いた骸魂だけど攻撃していく。
 その衝撃で猫又達はこてんと気を失っていくが――その光景だけはちょっと胸が痛ましい。
「……やっぱり一寸心が痛むわねぇ。必要なことだから仕方がないのだけれど……」
 気絶した猫又達を安全な場所まで抱えていき、雪音は再び彼らに触れる。
 ごめんなさいね、ありがとう。そんな思いを籠めて一撫でし、改めて気合を入れて立ち上がって。
「また遊びましょう。それまではゆっくりおやすみなさい」
 別れの挨拶を告げつつ、雪音は夜闇の中を進んでいく。手のひらに残った暖かな感触が、彼女に勇気を与えてくれていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

茜崎・トヲル
うわーけだまだ!けだまがいっぱいいる!ふわもこ!
あーさん喜びそーだなあ。そーだ、動画とっとこ! サイバーアイってべーんり!
めーっちゃすねこすられるじゃん。歩けねえー。つまり座ればいい!
うわーすねこすりに腹こすられるーふかふかー! せいでんきがやばい!
ちょっといっぴきぎゅっとする……うわっぷ。まって顔面にくきゅースタンプしないでー!
骸魂はがさないとだから……いっしゅんだけ本気の怪力でぎゅっとする。
ぱーんってなって剥がれるんじゃないかな。
だめだったら顔のまえでねこだましっ!(両手をパーンッ)
それでもだめだったら……食べちゃうしかないかなあ。




 目的地に転移した茜崎・トヲル(白雉・f18631)を出迎えるのは、ねこまたすねこすりの群れだった。
 彼らはふわふわの毛並みを揺らしつつ、トヲルの足元を狙って距離を詰めてきている。
 けれどその様子に深刻さはまったくない。彼らの目的はすねを擦ることで、危害を加えることではないからだ。
「うわーけだまだ! けだまがいっぱいいる! ふわもこ!」
 トヲルの方も楽しげに妖怪達を見つめていた。白い瞳はきらきらと輝き、思わず頬も緩んでしまう。
 さてさてまずはどうしよう。すぐに遊んでもいいけれど、それだけだと勿体ない。
「あーさん喜びそーだなあ。あ、そーだ、動画とっとこ!」
 サイバーアイってべんりだなぁと感心しつつ、トヲルの瞳は機械による輝きを宿していく。
 しっかりと映像を記録する準備が出来たのならば、今度はもっと彼らに寄ろう。
 トヲルが前に踏み出そうとした瞬間――先に動いたのは妖怪達の方だった。

「にゃあ!」
「っとと。うわー、めーっちゃすねこすられるじゃん」
 集団で足元に寄られれば、すぐにふわもふの感触が伝わってきた。
 快を感じるのが苦手なトヲルでも、これだけの数に寄られれば充分にその柔らかさは理解できる。
 けれどそれより……このままだと歩けない。単純に妖怪達は数が多かった。
「そうだな、座ればいいよな! ……って、腹もこすってくるのかー!」
 妖怪達は容赦もなかった。立っていれば足元にすり寄ってきて、座り込めば胴にすり寄ってくる。
 なかなかの質量が身体に迫ってきているのに、不思議と圧迫感はない。むしろ囲まれれば囲まれるほど、なんだか毛布に包まれているような気になってくる。
「これがすねこすりあたっく……ふふは、すっげーな! ほんとにふわふわ!」
 縦横無尽に膝の上に飛び込んでくる妖怪達を眺め、トヲルは嬉しそうに声をあげる。
 丸い身体をころころ転がしながらすり寄る猫達はなんだかシュールで面白い。彼らが動く度にふわふわ揺れる大きな二又尻尾も印象的だ。
 トヲルは足の間でごろごろしていた妖怪を抱き上げ、両手でぎゅっと握りしめる。
「うわー、抱っこしてももふもふで……うわっぷ」
 ちょっと様子見しようとしたけれど、猫達はとっても元気だ。
 ちっちゃな手を前へと伸ばし、トヲルの顔面にぺたぺたと触れてくる。
「まって顔面にくきゅースタンプしないでー! たのしーけどちょっとおとなしくしてくれよなー!」
 暴れん坊の子にはちょっとだけお仕置きを。トヲルが腕に力を籠めれば、指先は簡単にもこもこの毛並みに沈んでいく。
 けれど両の手はきちんと妖怪の胴を掴んでいた。圧迫された猫又達から飛び出してくるのは、悪い悪い骸魂だ。
「あっちいけ、な!」
 飛び出した骸魂は更に空へと舞い上がり、花火のようにぱっと弾ける。
 その衝撃で猫又も驚き気を失うが、命に別状はなさそうだ。暫くしたら目を覚ますだろう。
「これで大丈夫そー。それなら……どんどんぎゅーってしていくか!」
 逃げ出そうとする子に猫騙しくらいは必要かもしれないが、あとはとにかく彼らを握っていけばいい。
 トヲルは腕を鳴らしつつ、どんどん猫又達を助け出していく。その度に伝わるふわふわな感触が、不思議と胸に刻まれていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

曲輪・流生
お空にお月様がないのは寂しい。と僕はそう思います。
お月様は欠けても満ちてもふうわりと柔らかな光を注いでくれるから…たまの新月を寂しく感じたりもしたのですが。
それを無くしたい方がいたからこう言うことになっているのでしょうね。

ねこまたすねこすりさん…可愛いですね。
とてもふわふわでずっと撫でていたくなります。
ふふっ、くすぐったい。
けれどずっとこうしてるわけにもいけにもいかないんですよね。

UC【芙蓉の微睡み】
さぁ、芙蓉の花に微睡んで?
足りないならば僕が子守唄を歌いますから。
骸魂のあなたはおやすみなさいです。




 真っ暗な空を見上げ、曲輪・流生(廓の竜・f30714)は小さく息を吐いた。
「ああ……寂しい、ですね」
 月の無い夜空はどこか寒々しく感じられて、とても残念だ。
 時折訪れる新月の時とも違う。あの時は日々ふうわりと柔らかな光が夜空を包んでくれるからこそ、寂しさを実感出来るから。
 あの暖かな光景を無くしたいと思ってしまった人がいるのだろう。
 それなら僕はそちらへ向かいましょう。流生が前へ一歩踏み出せば、同時にいくつもの影が彼の足元へと迫りだした。

「……あなた達がねこまたすねこすりさん、ですか?」
 紫の瞳で影を捉えれば、ふわふわのシルエットがすぐに目につく。妖怪達はにゃあにゃあと鳴き声をあげながら、ゆっくりと流生の元を目指していた。
 それも一匹や二匹ではない。ふわふわもふもふの群れが、ころころ地面を転がりながらやって来ているのだ。
「ああ、可愛いですね」
 流生が目を細めて妖怪達を見つめていれば、とうとう一匹のねこまたすねこすりが足元へと辿り着いた。
 ふわふわ、ふかふか。暖かな感触が足元を包み込み、すぐに夢心地へと変わっていく。
 もっと彼らと遊びたい。そう思った流生はゆっくりとしゃがみ込み、妖怪達へと手をのばす。
 手のひらが妖怪の身体に触れれば、そこからも心地の良い感覚が伝わってきた。
 妖怪達も身体を撫でられて上機嫌。喉をごろごろ鳴らしつつ、身体を流生へと擦り寄せていく。
「わぁ、とてもふわふわで……ふふっ、くすぐったい」
 ずっとずっと撫でていたい。こそばゆさだって悪くない。思わずそんな気持ちになってくる。
 けれど――流生は誰かの願いを叶える神様だ。この場に置いて願いを叶えてあげるべきなのは、きっと骸魂に取り憑かれた猫又達。

「ずっとこうしてるわけにもいけにもいかないんですよね。だから……さぁ、芙蓉の花に微睡んで?」
 流生の唇が優しい子守唄を紡いだのなら、その歌声は芙蓉の花へと変わり舞い踊る。
 花弁はゆっくりと妖怪達を包み込み、彼らの毛並みへと沈み始めた。
 そこから齎される神の力は眠るべき存在だけを導き、優しい眠りへと誘っていくだろう。
 猫又達の身体から次々と骸魂が飛んでいけば、彼らは芙蓉と共に天へと登る。
 猫又達も流生の歌と手の感触には心地よさを感じているようで、次々に眠りへと落ちていた。
「骸魂のあなたはおやすみなさいです。猫又さんは……またあとで、でしょうか」
 すやすや眠る猫又達を安全な場所まで運んであげて、流生は再び立ち上がる。
 目指すは次に願いを叶えてあげるべき存在。そちらを目指し、竜の神は月のない空の下を歩んでいく。

成功 🔵​🔵​🔴​

黒鵺・瑞樹
アドリブ連携OK
右手に胡、左手に黒鵺の二刀流

今回は月が出てない、というか隠されてるのか。

しかしなんつーか…どうやって剥がせばいいのか悩ましいな。
ころっころの、もっふもふじゃねぇか。うちの子(伽羅、特に陸奥)も負けてないけど。
数も多いし、何より俺だけでもふるとあとが若干怖いので、伽羅と陸奥(どっちも小さいサイズ)も一緒に転がす。
(適当にほどほどに遊ばせてください。甘噛みぐらいまではOK)
伽羅は転がす方だろうけど、陸奥はどっちの方だろうか…?

ほどほど遊んだらUCで攻撃を。…ちょっともったいない気がするなぁ。
でも元凶を何とかしないといけないんだよな。




 転移された先で空を見上げた黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)は、青い瞳が捉えた違和感を見逃さない。
 新月の時とは違う空の昏さ。この不自然な気配は月が『出ていない』のではなく『隠されている』からだろう。
 そんな奇妙な世界を楽しむように、ねこまたすねこすり達は短い足をぱたつかせながら瑞樹へと迫る。
 空は不気味なのに地上の光景はこんなにも呑気だ。
「さて……どうしようか悩ましいな」
 瑞樹が改めて妖怪達を見つめれば、その気配を察知したのかにゃあにゃあと挨拶が投げ込まれてきた。
 それを皮切りにして――妖怪達は一斉にころころと地面を転がりだしたではないか!

「っとと……すごいな。ころっころの、もっふもふじゃねぇか」
 次々に殺到してくる妖怪達に囲まれ、瑞樹は思わず苦笑いを浮かべてしまう。
 服越しにも彼らの柔らかさは理解できた。なんというか、ふかふかのもふもふだ。心地よい感触についつい呑まれそうになってしまう。
 そんな瑞樹を心配してか、白虎の陸奥と水神の伽羅がこちらの方を覗き込んでいる。
「ああ、うちの子達も負けてないな。特に陸奥も……一緒に転がるか?」
 瑞樹の言葉に相棒達はこくりと頷く。彼らが身体を縮めたならば、妖怪達へとすり寄って一緒にころころ遊びだす。
 そこから先は楽しい時間が続いた。
 伽羅が少しだけ空中に浮き、尾を妖怪達へと見せれば彼らは容赦なくぱしぱししだす。本能的に猫らしい。
 陸奥はもふもふの毛並みにもみくちゃにされ、ひたすら一緒に転がっているようだ。
「二人とも楽しんでは……いるな」
 微笑ましい様子を眺めつつ、瑞樹はひたすら妖怪達をもふもふしている。
 遊び疲れた子達はちょっぴりうとうとしているようで、そんな呑気さも猫らしかった。

 けれど遊びの時間はいつか終わらせなければならない。
 空に月が戻ってこない限り、この世界は止まったままだ。
「ちょっともったいない気がするけど……勘弁してくれよな」
 元凶を何とかしないといけないんだよな、とぼやきつつ瑞樹が握るは黒いナイフ『黒鵺』だ。
 埒外の力で黒鵺のコピーを一気に増やし、その刃で次々妖怪達を撫でていけば――夜闇と同じく黒い刀身は、取り憑いた骸魂だけを切り裂いていく。
 解放された猫達は気を失ったが、暫くすれば目を覚ますだろう。
「陸奥、伽羅、そろそろ行こう。……楽しかったか?」
 猫の毛に覆われ満足そうな相棒達を見つめれば、結果は言わずもがなだろう。
 そんな様子にも苦笑いを零しつつ、瑞樹は幽世を進んでいった。

成功 🔵​🔵​🔴​

パルピ・ペルポル
カクリヨの月って気軽に奪えるものなのねぇ。
なんだか不思議な感覚だわ。

それはさておき。
わーいもっふもふー…もとい、ねこまたすねこすりね。
わたしのサイズだとすねというか全身すりすりされそうだけど、それもまた良し。
ということですりすりもふもふふかふかをたっぷり堪能するわ。
はー、癒されるわぁ…。一匹連れて帰りたいとも思うけど、骸魂だもんね…。

十分癒されたら猫又達から骸魂を剥がしてあげなきゃね。
雨紡ぎの風糸で捕獲して、火事場のなんとやらを使ってぎゅっと絞りましょ。
未練が残らないようにテンポよく倒していくことにするわ。

猫又たちはまた骸魂に捕まらぬようにどっか隠れてなさいね。




 気まぐれに夜空を見上げれば、月は優しく微笑み返してくれるもの。
 多くの世界出身の人間が持つその認識を、パルピ・ペルポル(見た目詐欺が否定できない・f06499)も勿論抱いている。
 けれど降り立った幽世の空に月はない。あるのは深い闇と飛び交う骸魂だけだ。

「カクリヨの月って気軽に奪えるものなのねぇ。なんだか不思議な感覚だわ」
 ぽつりと言葉を零しつつ、次に目を向けるのは地上だ。
 そこに広がるのは、たくさんの毛玉が自由にころころしている光景。
「わーいもっふもふー……もとい、ねこまたすねこすりね」
 この毛玉の正体はパルピも理解している。彼らは骸魂に取り憑かれた猫又達。サイズも一般的な猫と変わりなく――つまりフェアリーの身長と大差はない。
 ねこまたすねこすり達が一斉にパルピへ向けてすり寄れば、それはもう「すねを擦る」では済まないだろう。
 翅で飛んだままだと猫の跳躍力でタックルされる危険性もある。それは危ない。
 とりあえずの命の危機を避け、全力でもふもふするために、パルピは地面へと足をつける。
「さて……どうなるかしら?」
 両手を広げ迎え入れる姿勢を取ったなら、察した妖怪達も全力でこちらへ飛び込んできた。
 次の瞬間、全身を覆ったのはふかふかな毛皮の感触だ。あったかくてもふもふで、心地の良い毛布に触れた時を思い出す。
「ふふ、たっぷり堪能させてもらうわね」
 ふわふわの毛並みを味わうように、パルピは両腕を駆使して妖怪達を撫で回す。
 その度に彼らは嬉しそうににゃあにゃあ鳴いたり、リラックスした子は喉もごろごろしているようだ。
 なんというか、すごく癒やされる。
「一匹連れて帰りたいとも思うけど、骸魂に取り憑かれているのよね……」
 この子達が全身で身体を擦ってくるのは取り憑いたすねこすりの影響だ。それを剥がしたらどうなるかは分からないけれど――でも、やるべきこともしっかりと。

 覚悟を決めて、パルピは妖怪達から距離を取る。
「ちょっとだけ我慢して頂戴ね」
 妖精の白い手から紡がれるのは不思議な雨紡ぎの風糸だ。糸はしゅるりと舞い踊り、次々に妖怪達を捕らえていく。
 柔軟な動きをする猫ならば、長時間捕まえているのは難しいかもしれない。何より早めに対処してあげよう。
 そう考えたパルピは――ひたすらに、妖怪達をぎゅっとしていく。
 フェアリーならざる怪力による抱き締めは、取り憑いた骸魂だけを器用にぷちと潰していった。
 ショックで気を失った子もいるが、意識がしっかりしている猫もいる。彼らは群れているようだから、後は任せて大丈夫だろう。
「また捕まっちゃ駄目よ。どっか隠れてなさいね」
 助けた猫達にばいばいと別れを告げたのならば、目指すはオブリビオンの元だ。
 事件が解決したらまたもふもふしたいわね、そんなことを思いつつパルピは翅をはためかせていくのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

セロ・アルコイリス
ネムリア(f01004)と!

わー! 見てくださいネムリア!
まんまる! もっふもふ! かわいい! すげー寄ってくる!

もっふもふな子達の中に寄ってって
ふわふわの毛並を撫でまくる

ほらネムリアも一緒に、にゃんにゃん(一匹抱き上げ、肉球で彼女の手にタッチ)
ってしてたら毛玉の突進喰らって後退──ていうよりひっくり返る気がします
差し伸ばされた手を横取りされて
けど悪戯っぽい瞳にゃ勝てねー、譲ってやりましょうとも

ほんと手が足んねーです
ほらほら、って次々ネムリアの膝上に乗せてったら彼女が埋まっちまうかな

最後は【旱魃】で
痛くねーように骸魂を引き剥がしましょうか
ああ、眠らせてあげんのはいいですね
おやすみ、またね


ネムリア・ティーズ
セロ(f06061)と

わあ…ほんとだねセロ、ねこさん…?がいっぱい
まんまるだ…すごくかわいいな
踏まないようにしゃがんで、寄ってきた子たちを優しくなでる

にゃん…?ふふ、かわいい
小首傾げて振り返り、ちょんとタッチ──した直後、ひっくり返った姿に目をぱちりと

大人気だね、だいじょうぶ?
身体を起こそうと差し伸べた手を掴んだのは、もふもふの小さな手
その目がキラキラしているように見えたから
セロの隣にそっと座って

なでてもらうの、すきみたい
ふたりじゃ手が足りないね
キミのひざを取り合う子たちに、珍しく、くすりと笑みが零れて

セロは痛くないようにできる?
最後は【胡蝶廼彩色】
こわくないよう眠っている間に引き剥がせたら




 闇夜に覆われる幽世に、楽しそうな影が踊る。
 ぱたぱたと楽しげに走り回る影の周りには、ふわふわのシルエットもたくさん。
 その正体は全力ではしゃぐセロ・アルコイリス(花盗人・f06061)と集まってきたねこまたすねこすり達だ。
「わー! まんまる! もっふもふ! かわいい! すげー寄ってくる!」
 既にセロの足元には妖怪達が集い、ふわふわの身体を擦り寄せてきている。ちょっとしたお祭り状態だ。
「見てくださいネムリア! ほら、ほら!」
「わあ……ほんとだねセロ、ねこさん……? がいっぱい」
 友人に手招きされ、恐る恐る歩を進めるのはネムリア・ティーズ(余光・f01004)。
 縦横無尽に駆け回る妖怪達を踏まないように気をつけて、友の元へと一歩、一歩。
 無事に合流出来たのなら、セロとネムリアは共にその場にしゃがみ込む。
 そのまま周囲の妖怪達へと手を伸ばせば、すぐにもこもこの感触が伝わってきた。
「すごい……とってもあったけーですよ……!」
「うん、どの子もまんまるで……すごくかわいいな」
 からからと笑みを浮かべるセロに対し、ネムリアは微かに口元を緩めただけ。
 けれど二人がこの状況を楽しんでいるのは間違いない。そんな想いに応えるように、撫でられている妖怪達は喉をごろごろ鳴らしていた。

 このまま撫でているのも楽しいけれど、どうせならもっと遊びたい。
 そう考えたセロは不意に一匹の妖怪を抱き上げる。そのまま短い前足を軽く握って、そーっとネムリアの方へと差し出して。
「ほらネムリアも一緒に、にゃんにゃん」
「にゃん……?」
 小首を傾げつつ振り返ったネムリアを迎え入れるのは、ぷにぷにの肉球とどこか満足げな妖怪だ。
 その光景には思わず吐息も溢れてしまう。挨拶に応えるべく、ネムリアもそっと自分の指を差し出した。
「ふふ、かわいい」
「ですよね! ……あっ」
 白い指と肉球が触れ合った瞬間、セロが声をあげた。やんちゃな妖怪達が彼の方へと一気に迫り、体当たりを仕掛けてきたのだ。
 その衝撃でセロの身体もこてんと転がる。彼の腕の中では驚いた子がみゃあみゃあと鳴いていた。
 ネムリアもその光景には目をぱちぱちとさせていたが、すぐにセロへと手を伸ばす。
「大人気だね、だいじょうぶ?」
「ええ、大したことはねーですし猫達も無事ですし……」
「……あ」
 セロも手を差し出し返そうとした瞬間、今度はネムリアが声をあげた。
 彼女の手に触れているのはセロの手ではなく――ふわふわもふもふの短い足。
 どうやらセロに抱えられていた子は大人しく腕の中へと収まっていたようだ。身体と同じく丸い瞳がネムリアをじぃっと見つめ、目と目が合えばにゃあと返して。
「ああ、横取りされちまいましたか」
「この子、逃げてなかったんだね。なんだか目もきらきらしているみたい」
「それならしょうがねーですね。猫の悪戯には勝てねーですし、譲ってやりましょうとも」
 ようやくセロも身を起こし、改めてその場に座り直した。
 そんな彼の様子を微笑ましげに見つめつつ、ネムリアも改めてその場に落ち着く。
 けれど妖怪達はまだまだ元気。次々に二人の元へと殺到し、あそんであそんでと身体を擦りつけていた。

 妖怪達を撫で続ければ、彼らの個性も見えてくる。元気な子、ちょっと大人しい子、やんちゃな子、ぼんやりした子。
 性格はバラバラだが、どの子も撫でれば嬉しそうに尻尾を揺らめかせている。
「なでてもらうの、すきみたい。みんななでてあげたいけれど……ふたりじゃ手が足りないね」
「ほんと手が足んねーです。っとと、こんな子もいますしね」
「……ふふ、セロったら本当に大人気なんだね」
 目の前に広がる光景に、ネムリアの表情が動いた。控えめだけれど柔らかな笑みを浮かべる友を見て、セロもにんまりと笑みを返す。
 彼の膝の上には先程まで抱えられていた妖怪だけでなく、他の子達も入れ代わり立ち代わり乗っかっていたのだ。
 ふわふわした感触が胴に触れるのも悪くない。生き物の暖かさが不思議な心地よさを伝えてくれている。
 そんな感触をおすそ分けしようと、セロは一匹の妖怪を抱き上げた。
「ほらほら、ネムリアもどうです?」
「わぁ、ふかふか……」
 抱えられた妖怪はネムリアの膝の上へ。服越しでも独特のふわもふ感は充分に伝わってくる。
「どんどん乗せちゃいましょうよ。あ、でもこれじゃあネムリアが埋まっちまうかな?」
「ううん、だいじょうぶ。ねこさんのお布団みたいで、かわいい」
 ふかふか、もふもふ。暖かな感触はどんどん二人を包み込む。
 このままのんびりするのもきっと幸せだろうけれど――でも、そろそろ行かなくては。

 猟兵としての役割を果たすべく、ネムリアとセロは己の魔力を高めていく。
 二人の周囲に舞い踊るのは、蝶のように舞う月の魔力と太陽のような炎の魔力。
「そろそろ骸魂、剥がしてあげないといけないね。セロは痛くないようにできる?」
「大丈夫ですよ。ネムリアはどうします?」
「私は……こわくないよう、眠らせてあげるね」
 あざやかな夢を、キミに。ネムリアがそっと指を動かせば、それに合わせて銀の蝶が妖怪達を包み込んだ。
 妖怪達は優しい魔法によって、次々と眠りの中へと落ちていく。
「ああ、眠らせてあげんのはいいですね。あとは任せてくだせーな」
 そう言いつつセロが取り出したのは無骨なダガーだ。そこに炎の力を宿せば、その刃は悪しきものだけを切り裂ける。
 さっと刃で妖怪達を撫でていけば、骸魂だけが太陽の光の中へと解けていった。

 眠ったままの妖怪達は安全なところへ寝かせてあげて。夜はもう少しだけ続くだろうから、暫くはこのままでも大丈夫だろう。
「おやすみ、またね」
「ばいばい、ねこさん」
 ねこさん達、また遊ぼうね。
 そんな約束も籠めて挨拶を告げたのならば、猟兵達は共に幽世を進んでいった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

月詠・黎
みい(f29430)と共に

月が消える、か
なんぞ懐かしい感覚じゃの
人から忘れられた自身を思い出す様で
けれど我には――俺には、隣の愛し猫がいる故に
二度と翳る事は有るまいな

ふむ、これは確かに猫じゃの
…みい、戯れに行くか?
愛し猫に紡ぐ音だけは素の音に成り
届くお前の鳴き声は何よりいとおしい

来る者は拒まず去る者追わず
我は神じゃからの、其の様に在る
…唯ひとり追うのは愛し猫だけ

みいと視線が合えば何時もの様に咲う
此方に招いて俺の傍にと
直ぐに隠した素が出てしまうのも仕方のない事
噫、月は世界を見守る光だ
取り戻してやらねばな

なら、先ずは仕事と之こうか
一夜に咲く華の花びらにてを剥がしてやろうぞ
月彩、花びらの舞にて終いを


猫希・みい
黎くん(f30331)と一緒に

月が消えてしまう
なんだか他人事に思えなかった
だって
隣の神様を見上げる
彼は月だ
月の神様だ
彼を失うみたいで足元から体が冷えていくよう
うん、もう黎くんが翳ることがないように
私が守るよ

ふふ、うん
少し戯れちゃいましょう?
手を伸ばしてふわふわ心地
にゃーん
なんて一緒に鳴いてみて
それでも私が擦り寄るのは黎くんだけ

外向けの黎くんも私だけに見せてくれる黎くんも
等しく愛おしいから
広げられた腕の中に飛び込んだ

馴染んだ温もりに安堵して
ふにゃりと頬が緩んでしまう
月を消させはしない
月は優しく世界を照らす光だもの

だからごめんね
可愛いけど、やっつけなきゃ
花を咲かせて舞わせて
美しい左様ならを




 ぼんやりとした街灯の光も届かない場所で、月詠・黎(月華宵奇譚・f30331)と猫希・みい(放浪猫奇譚・f29430)は空を見上げていた。
 広がるのはひたすらに真っ暗な闇。その光景を見遣りつつ、黎はぽつりと言葉を零す。
「月が消える、か。なんぞ懐かしい感覚じゃの」
 思い出すのは自分の過去。森の奥深くでたった一人、忘れられていた自分自身。
 そんな黎を心配してか、みいは彼の顔を覗き込んでいた。
 月が消えてしまった空はなんだか他人事に思えない。隣にいる月の神様が、こんな風に消えてしまったら。
 考えれば考えるほど手足の先が冷えていく。本当に、黎くんがいなくなってしまったら。恐ろしい想像がどんどんと膨らんでいく。
「……みい、大丈夫じゃ」
「ん……黎くん?」
 不意に名前を呼ばれ、紅茶色の耳がぴんと立つ。声の方へ視線を向ければ、大事な彼はちゃんと目の前に立っていた。
「我には――俺には、愛し猫がいる故に。二度と翳る事は有るまいな」
 二人一緒ならばきっと大丈夫。黎の浮かべる柔らかな笑みが体温をゆっくりと取り戻してくれている。
 なんだか胸もぽかぽかしてきて、みいの表情もぱっと華やいだ。
「うん、もう黎くんが翳ることがないように……私が守るよ」
 約束の指きりげんまんをしたら歩き出そう。二人で歩調を合わせていけば、夜闇の中も怖くない。

 月が消えてしまっても悪い妖怪達は元気いっぱい。
 ゆっくりと歩み始めた二人の元に、すぐにねこまたすねこすり達はやってきた。
「ふむ、これは確かに猫じゃの。……みい、戯れに行くか?」
「うん。少し戯れちゃいましょう?」
 黎もみいも猫は好きだ。妖怪達がすりすりと足元に身体を擦り付ければ、思わず頬も緩んでしまう。
 元気な子も大人しい子も皆まとめて一緒になでなで。その感触が心地よいのか、妖怪達はにゃあにゃあと鳴き声をあげている。
「ふふ、にゃーん」
 合わせてみいも一緒に鳴けば、黎は静かに耳を傾けて。
 どんな猫の声も可愛らしいけれど、何よりいとおしいのはみいの声だ。
 そんな彼の様子を見遣り、みいもそっと黎の方へと身体を寄せる。
「……みい、離れるでないぞ」
「うん、大丈夫。私が擦り寄るのは黎くんだけだよ」
 黎は神様だから、猫でも人でも来る者拒まず去る者追わずだ。けれど――隣にいる、愛しい猫はまた別で。
 二人はじぃと見つめ合い、思わずふふりと咲い合う。いつもの、だけど暖かな情景だ。
 そんな光景を見守るように、妖怪達もそーっと二人とくっついていた。

「少し冷えてきたな。みい、もう少し此方へ」
「ありがとう黎くん。それじゃあ……」
 黎がそっと両腕を開けば、みいの身体はその中へ。互いに腕を背中に回し、先程よりも強く互いの体温を感じていく。
 嬉しい、温かい、愛おしい。様々な感情が胸の中を駆け巡り、馴染んだ心地よさになんだかとろけてしまいそうだ。
「神様の黎くんも、私だけに見せてくれる黎くんも、どっちもすき。ずっとずっと見ていたいな」
「む、普段は隠しているつもりじゃが……そうじゃな、素が直ぐに出てしまうのも仕方のない事か」
 二人にとってこの状態は『いつものこと』だ。
 それはきっと。月がいつも顔を見せてくれるのと同じことで、だからこそ守りたい。
「……月を消させはしない。月は優しく世界を照らす光だもの。この世界にも、私にとっても」
 みいの告げる決意に対し、黎は力強い頷きで応える。
「噫、月は世界を見守る光だ。取り戻してやらねばな。そのために、ここへ来たのだ」
 月の神様として、そしていとしい人を見守る者として。黎も同じ決意を抱いていた。
 ならば向かう先は一つ、月を隠してしまった人の元へ。そろそろ出発の時だろう。

 二人は共に立ち上がり、周囲で遊ぶ妖怪達へと視線を向ける。
「先ずは仕事と之こうか」
「そうだね。この子達も可愛いけど、やっつけなきゃ」
 妖怪達は人懐っこいけれど、身体の内からは悪しき気配も伝わってきている。
 この子達がこのままでいれば、世界に悪影響を与えてしまう。月だって取り返せない。
 だからこそ、今だけ少しお別れを。
「夜に咲け、夜を裂け。一夜に咲く華の花びらにてを剥がしてやろうぞ。一夜の華に埋もれるも又、良いではないか」
「あるべきところに還って、安らかに眠って。大丈夫、少しの間だけだから――美しい左様ならを」
 黎が月下美人を舞い踊らせば、みいが合わせて櫻と椛を散らしていく。
 花弁は月のない空へと放たれたのに、なんだか不思議ときらきらして見えていた。
 美しい花達が妖怪達を包み込めば――骸魂だけが、静かに過去の海へと流されていく。
 残った猫又達はこてんとその場に転がりこんで、すぐに安らかな寝息を立て始めていた。
「この子達、あとで目を覚ますよね。安らかな顔をしているし……」
「ああ、そのはずだ。そうしたら、また挨拶してやらねばな」
 次に会う時は、きっと空に輝くお月さまと一緒に。
 またね、と猫達に囁きながら、二人は月を取り戻しに行くのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

尭海・有珠
レンと(f00719)と

幽霊さえ出なければ私は暗いのも苦手じゃないが
とは言いつつ、軽く承諾しながら手を繋ぐ
…まあ、私もレンの温もりがあると安心するから
零された言葉に何となく面映ゆくなりつつ

自分に興味を持ってくれる子が好き…かなぁ
今はちょっと躊躇いがちに近づいてきた子がいれば
手を伸ばしもふもふしたい

ふふ、聞いていた通りふわふわだ
手触りも良いし気持ちが落ち着くな、と撫で回す
脛への攻撃は軽やかにステップを踏み、軽く宙に跳んで避けよう

む、もうちょっと…という訳にもいかないか
杖で叩いて骸魂を剥し、杖の先端で突き刺して終わらせる

…お誘いに、ふ、と口だけで笑んで
良いとも、レンがそれを望むなら
手を重ねようか


飛砂・煉月
有珠(f06286)と

暗いの嫌いじゃないし、幽霊なんてオレが蹴散らすけどさ
えっと、その…、手繋いでイイ?
有珠と手繋ぐの安心するんだオレが
って、あー、もー!
なに理由付けしてんだオレ

そっと握った手の感触に頬を掻けば
足元にふわふわのころころが転がってきてこっちを見てる
有珠はどの子が好き?
えっとオレたち使えるの片手だけだから
ふたりでこいつ、もふもふしよっか?

にゃあと鳴くねこと落ち着くと構うキミ
――かわいいって零したのはどっちにだったろ
脛への突撃はひらり避けては
狼には当たんないよって

ん、そろそろ終わらせようか
槍のハクを起こして穿てばおしまい

それはそうと有珠
もっかい、繋いでイイ?
キミへ見せた掌の意味は――




 幽世を覆う暗闇は、新月の夜とは違った暗さを帯びていた。
 そんな漆黒の空を見遣り、飛砂・煉月(渇望の黒狼・f00719)はぶるりと身体を震わす。
 思わず視線を横へと逸らせば、ちゃんと仲良しの尭海・有珠(殲蒼・f06286)の姿がそこにあった。
「あー、あの。有珠、オレは暗いの嫌いじゃないし、幽霊なんかが出てきても蹴散らすけどさ」
「私は幽霊さえ出なければ、暗いのは苦手じゃないが……どうした?」
 小首を傾げる有珠の顔を覗き込みつつ、煉月はそっと手を伸ばす。
「えっと、その……、手繋いでイイ? 有珠と手繋ぐの安心するんだオレが」
 思わず付け加えた言葉が言い訳みたいで、なんだかとっても恥ずかしい。煉月の様子は明らかにしどろもどろといった感じだ。
 そんな彼の様子が何となく面映ゆくて、けれど嬉しくて。有珠は微かに笑みを零していた。
「……まあ、私もレンの温もりがあると安心するから。ああ、いいよ」
「あ、ありがとう。それじゃ、行こうか」
 有珠が煉月の手を取れば、そこから伝わる暖かさが心地よい。
 けれどそれもこそばゆくて、煉月は思わず頬をかきつつ視線を先に。
 ちょうどその時――ねこまたすねこすり達が、二人の元へとやって来ていた。

「わ、本当にふわふわのころころだ……」
「しかもたくさんいるな……」
 妖怪達は群れでやってきたようだ。あっという間に妖怪達は二人を囲み、自由気ままに遊んでいる。
「有珠はどの子が好き?」
「私は……自分に興味を持ってくれる子が好き……かなぁ。ほら、あの子とか」
 有珠が指をさしたのは、ちょっとずつ近づいてきている子だった。瞳はきらきら、けれど足元はそろりそろり。
 慎重に近づいてきている様子が微笑ましく、有珠は思わず頬を緩ます。
「えっと、オレたち使えるの片手だけだから……ふたりでこいつ、もふもふしよっか?」
「ああ、良い案だと思う。ほら、おいで」
 二人で手を招いてみれば、妖怪も嬉しそうに飛び込んできたようだ。
 片手ずつでしっかり捕まえてあげれば、早速毛並みを堪能して。ふかふかもふもふ、触り心地は予想以上のものだった。
「ふふ、聞いていた通りふわふわだ。なんだか気持ちが落ち着くな。レンはどうだ?」
 あったかい感触を堪能する有珠の瞳は穏やかで、宿る優しい光はずっと見つめていたくなる。
「ああ、なんていうか――かわいいよ」
 煉月がその言葉を向けたのは、果たして誰に対してだろう。
 嬉しそうににゃあにゃあ鳴く子も、穏やかなキミも可愛くて。
 その言葉の意味を有珠が問う前に、別のお客さんがやってきた。数匹の妖怪達が一緒に転がり、足元にぶつかりそうになったのだ。
 二人は手を繋いだままステップを踏み、踊るように突進を避けていく。
「っとと、狼には当たんないよ」
「転がる姿も愛らしいが、気をつけないといけないな」
 転がってきた妖怪達は気にせず自由に遊んでいる。そんな呑気な様子も猫らしくて可愛くて、二人は顔を見合わせて笑っていた。

 それから暫く、二人は妖怪達と遊び続けていた。
 ふかふか撫でてあげたり、ぷにぷにの肉球を楽しんだり。
 穏やかで楽しい時間だったけれど、不意に空を見上げれば未だに闇夜は広がっている。
 そろそろ、先に進まなくては。
 二人は繋いでいた手を離し、猟兵としての役割を思い起こした。
「ん、そろそろ終わらせようか」
 先に動いたのは煉月だった。気がつくと彼の肩には白銀の小竜『ハク』も乗っている。
 有珠も名残惜しそうに息を零しつつ、青い宝珠を抱いた杖『澪棘』をしっかり握った。
「む、もうちょっと……という訳にもいかないか。仕方がない、妖怪達には暫く眠っていてもらおう」
 澪棘で軽く妖怪を叩けば、埒外の力が骸魂だけを引き剥がす。
 すかさず刃を抜いて切り裂いて、蒼い軌跡は悪しき魂だけを海へと還した。
「ほら、相棒。奏でてやんなよ」
 煉月もハクを槍の姿へ変えて、一瞬のうちに穂先を妖怪へと突き刺した。
 白い槍が穿ったのは骸魂だけだ。妖怪はその衝撃で気を失っているものの、命に別状はないだろう。

 妖怪達は暫くすれば目を覚ます。その間に月を取り戻してあげれば、皆きっと喜んでくれるはずだ。
 けれど――行き先はまだ闇の中。一人きりで進むにはちょっとだけ怖かった。
「……あのさ、有珠」
 歩き出そうとしたところで、煉月は有珠へと声をかける。ちょっとだけ遠慮がちに、恥ずかしそうに。
 同時に差し出されたのは――先程まで繋いでいた手。
「もっかい、繋いでイイ?」
 煉月の表情と掌を見遣り、有珠は吐息のような笑みを零す。
「良いとも、レンがそれを望むなら」
 二人で手を重ねよう。再び二人は手を取り合い、幽世の闇を進んでいく。
 けれど迷ったり怖がったりはしない。繋いだ手には意味がある、それが心を支えてくれる。
 互いの体温を感じつつ、二人は確りと進んでいくのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

フレズローゼ・クォレクロニカ
💎🐰
アドリブ歓迎

月夜ばかりと思うなよ……なんてね!
ホントに月がなくなるなんて、驚きなんだー
お月様が無ければお月見もできないよ
しっかり取り戻さなきゃなんだ!
わー!兎乃くん周りは賑やかだね
これなら寂しくないんだ!ボクはいつものアリスだよ
ほらアリス、しっかり働くんだ

……!なっ、なんだこの!堪らないもふもふは!!
ちょ……たまらないじゃないかっ
かわいい、もふもふ……でもボクのしっぽのほうが、もふもふなんだ!
ふふふー、クッションにしてしまいたい感触だよ!

お、いいね!
キミがお月様みたいになるんだよ
そうだね、ボクもバーンと塗り替えてやるんだ!
「女王陛下は赤がすき!」
魔法をバーンと弾けさせ驚かせるよ
どうだ!


兎乃・零時
💎🐰
アドリブ歓迎!

月が無くなるだけでも随分と暗くなるんだな…
心細くなる気持ちは、分からんでもないが…
そういや猫又いるって聞いて
今日はパルと…猫又のルビも連れてきたぜ!
確かに賑やかだよなー
フレズは…アリスか!アリスもよろしく!

はっ、見ろフレズ
ふわふわした…猫又が!

めっちゃすりすりしてくる…!

フレズの尻尾もふもふしてたのか…知らなかったぜ

確か骸魂を引きはがせばいいんだよな
そもそも月がなくなったのがきっかけだし…

なら…月の代わりに!
UC!
光【属性攻撃×優しさ】で《ライト》の魔術!
光り加減調節して‥淡い光源だす!
これで骸魂出てきたりしないか…?
そしたら光【属性攻撃】な魔力砲でどばっと追っ払うが…!




 真っ暗な夜空の下でも、楽しそうに跳ねる者はいるものだ。
「月夜ばかりと思うなよ……なんてね! ホントに月がなくなるなんて、驚きなんだー」
 空を見上げ、くるくると踊るように歩を進めるのはフレズローゼ・クォレクロニカ(夜明けの国のクォレジーナ・f01174)。
 弾むようにステップを踏む彼女の後ろでは、兎乃・零時(其は断崖を駆けあがるもの・f00283)がぼんやりと空を眺めていた。
「月が無くなるだけでも随分と暗くなるんだな……」
 空に月が顔を覗かせていないだけで不思議と心細くなるものだ。零時の言葉を聞いて、フレズローゼもこくこく頷いている。
「お月様が無ければお月見もできないよ。しっかり取り戻さなきゃなんだ!」
「ああ。しっかりやらないとな……と、そういえば」
 ふと、零時の帽子が大きく揺れる。そこから姿を現したのは――紙兎の『パル』と猫又の『ルビ』だ。
「猫又いるって聞いてパルと……ルビも連れてきたぜ! 一緒に遊ぼうぜ!」
「わー! 兎乃くん周りは賑やかだね、これなら寂しくないんだ! ボクもいつものアリスと一緒だよ」
 はしゃぐフレズローゼの腕の中にも、小さな白兎『アリス』が顔を覗かせている。
「ほらアリス、しっかり働くんだ」
「ああ、アリスか! アリスもよろしく!」
 互いの仲間達を顔を合わせ、楽しい道行きは続いていく。
 そんな様子に惹かれてか――ふわふわのお客様もやって来ていた。

 数匹のねこまたすねこすりがころりと姿を現せば、零時とフレズローゼの瞳が輝く。
 目の前にいる存在はなんていうか、ふかふかもふもふで自由だ。
「はっ、見ろフレズ、ふわふわした……猫又が!」
「なっ、なんだこの! 堪らないもふもふは!!」
 二人が興奮しているうちに、妖怪達は距離を詰めてすねを擦ってくる。靴や服越しでもその感触は最高だ。
「ちょ……たまらないじゃないかっ」
「めっちゃすりすりしてくる……やばい……!」
 身体をすりすり、たまに甘えるようににゃあにゃあと。妖怪達の可愛さは留まるところを知らない。
 気がつけばアリスは妖怪達とのんびり寛ぎ、パルとルビは一緒に跳ね回っているようだ。
 かわいい、もふもふ。あたたかくてふわふわな一時に、二人のテンションは更に上がっていく。
「で、でも! ボクのしっぽのほうが、もふもふなんだ!」
 不意にフレズローゼが声をあげた。彼女はキマイラ、ぴょっこりとした兎耳や美しい紅鶴と星蝙蝠の羽根だけが特徴ではない。
 愛らしいロリィタ袴の下にはふわふわの尻尾も隠されているのだ。
「フレズの尻尾もふもふしてたのか……知らなかったぜ」
「ふふふー、クッションにしてしまいたい感触だよ!」
「クリスタリアンからすると、もふもふの部位ってないからな……。いいな、もふもふ!」
 心の友の新しい情報を得て、思わず感心する零時。そんな彼の様子も楽しくて、フレズローゼも暖かな笑みを零していた。

 このままずーっともふもふの幸せ時間を過ごしたいけれど、月のない夜は寂しいものだ。
 妖怪達も楽しげだけれど、彼らの身体の中には確かに骸魂も存在している。このままにはしておけない。
「確か骸魂を引きはがせばいいんだよな。今回の事件はそもそも月がなくなったのがきっかけだし……」
 この場に相応しい魔術を考え、零時が唸る。
 最強最高ならこういう時にどうすればいいのだろう。思考を巡らせ――答えが出ればやることは一つ。
「なら……月の代わりに! 諦めずに、照らし出す!」
 零時の不屈が生み出すのは、月のように柔らかな《ライト》の魔術。
 その輝きが世界を包み込むのなら、幻想画家は何をすべきだろう。フレズローゼも絵筆を握り、諦めない心を強く抱いた。
「お、いいね! キミがお月様みたいになるんだよ。そして……ボクもバーンと塗り替えてやるんだ!」
 枯れ木に花を咲かせるように、女王陛下は世界を赤色に染め上げる。
 溢れる赤薔薇と白薔薇が次々と弾ければ、妖怪達は目を丸くして飛び上がった。
 その心を包み込むように光の魔術をかけてあげれば――妖怪達の身体から、たまらず骸魂が飛び出していく。
「今だっ! フレズ、やろう!」
「いいね、一気に染めてしまおう!」
 飛び出してきた悪い子には、特別なプレゼントが必要だ。
 零時が一気に魔力砲で周囲をなぎ払い、フレズローゼは白薔薇を骸魂ごと弾き飛ばす。
 眩い灯りと薔薇の花が世界を塗り替えれば、残ったのは猟兵達と気絶した猫又だけだ。

「どうだ! これでもう大丈夫だね!」
「ああ、バッチリだな!」
 成果を確認し、フレズローゼと零時はハイタッチで喜び合う。それに合わせて相棒達も一緒に喜んでいるようだ。
 けれどやるべきことは終わっていない。月はまだ取り戻せていないのだ。
 二人は顔を見合わせて、共にしっかりと気合を入れる。
「この調子で次も頑張ろうぜ!」
「もちろん。ボクらならきっと大丈夫さ!」
 最強最高の魔術師と素敵な幻想画家が揃えば百人力だ。
 諦めない心を胸に、二人も闇の中を突き進んでいくのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第2章 ボス戦 『『狂乱の吸血姫』バージニア・ネクタリア』

POW   :    血雷の蛇(ブラッディ・ヴァイパー)
レベルm半径内の敵全てを、幾何学模様を描き複雑に飛翔する、レベル×10本の【闇+雷属性の、刀身を分割した蛇腹剣】で包囲攻撃する。
SPD   :    敵意穿つ魔符(マリス・カード)
自身が【敵対心や恐怖心】を感じると、レベル×1体の【攻撃魔法&能力弱体魔法を発動するカード】が召喚される。攻撃魔法&能力弱体魔法を発動するカードは敵対心や恐怖心を与えた対象を追跡し、攻撃する。
WIZ   :    憧憬と恐怖の狭間で(ラブ・アンド・フィアー)
【生前恋心を抱いていた退魔騎士の青年の衣装】に変身し、武器「【蛇腹剣&魔法カード&ハイヒール】」の威力増強と、【マント】によるレベル×5km/hの飛翔能力を得る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は薙沢・歌織です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 猫又達を救い出した猟兵達は、目的地である公園に辿り着いていた。
 広い広い原っぱの中央には――圧倒的な存在感を放つ、赤髪の女が立っている。
 彼女はゆっくりと猟兵達へと視線を投げかけ、どこか自虐的な笑みを浮かべた。
「せっかくの素敵な夜なのに、邪魔が入るだなんて。あなた達、あの人みたいで厭なのよ」
 言葉を紡ぐ女の周囲には、バチバチと鳴り響く黒い雷も現れている。
 彼女は既に臨戦態勢だ。ここで戦う運命は避けられないだろう。

「名前くらいは名乗っておきましょうか。私はバージニア・ネクタリア。この世界から月を奪った吸血鬼よ」
 バージニアの言う通り、彼女こそが月を奪ったオブリビオン。
 元々は気弱な吸血鬼だったのだが、現世での退魔騎士との恋が彼女を歪ませてしまった。
 悲劇的な別れと骸魂が、幽世での彼女を壊してしまったのだ。
「私が望むのは永遠の闇と血の雨で満たされた世界。それを邪魔するというのなら……容赦はしないわ」
 黒い雷は更に強さを増して鳴り響き、それに合わせて骸魂達が暴れまわる。
 このまま夜を危険な状態にはさせておけない。
 幽世を救うためにも――猟兵達は、それぞれの武器を手にとった。


 2章のプレイングは【11月25日(水)8:31~】受付予定です
 よろしくおねがいします
黒鵺・瑞樹
アドリブ連携OK
右手に胡、左手に黒鵺の二刀流

暗い世界を欲してるんじゃなくて、逢えなくて寂しいから思い出させるものを見たくないっていうのが本当の所じゃないのか。
何となくそう思うんだが。

真の姿にかつUC月華を重ね掛けで相手の攻撃の軽減を。
そのうえで存在感を消し目立たない様に立ち回る。隙を見てマヒ攻撃を乗せた暗殺攻撃。マヒは入れば上等、他の猟兵の助けになれば。飛翔の阻害になるかもしれんし。
飛ばれたら飛刀を投擲。届けばいいな。
敵の攻撃は第六感で感知、見切りで回避。
回避しきれないものは本体で武器受けで受け流し、カウンターを叩き込む。
それでも喰らってしまうものはオーラ防御、激痛耐性で耐える。




 永遠の闇と血の雨で満たされた世界が欲しい。目の前の吸血鬼は確かにそう言った。
 けれど、黒鵺・瑞樹はその言葉をそのまま受け止めはしなかった。彼女の声色か顔色か、どこか滲むものがあったから。
「バージニアは暗い世界を欲してるんじゃなくて、逢えなくて寂しいから思い出させるものを見たくないっていうのが本当の所じゃないのか。何となくそう思うんだが」
「……なんですって?」
 瑞樹の言葉にバージニアの表情が歪む。顰められた眉からは怒りが感じられるが、それと同じくどこかバツの悪そうな雰囲気も感じ取れる。
「そんなことある訳ないでしょう。私はあの人のことだって乗り越えたのよ。だから……こんなことだって出来るのだから」
 自分に言い聞かせるように言葉を紡ぎ、吸血鬼は白銀の鎧を纏っていく。
 そこに宿るのは吸血鬼のものとは違った清廉な気配。恐らくこれは彼女が恋した相手を模した鎧なのだろう。
 ああ、やっぱり。この人は寂しいだけなのだ。大切な人のことを忘れてなどいないのだ。
「……とにかく、まずはあんたを止めないといけないよな。少しだけ覚悟してもらう」
 月を取り戻すため、そして目の前の歪んだ恋心を止めるため。
 瑞樹も真の姿を解放し、その身に月読尊の分霊を宿らせた。

「まずはあなたの血で雨を降らせましょうか!」
 バージニアはマントを翻し、一気に瑞樹との距離を詰める。
 彼女の得物は蛇腹剣と魔法カード。刀を主体に戦う瑞樹からするとリーチの面では不利だろう。
 そこで瑞樹が選んだのは相手を撹乱する戦い方だ。
 戦場は公園。開けた空間ではあるものの、隠れる場所も探せばすぐに見つかった。
 そんな瑞樹へ向け、バージニアは容赦なく蛇腹剣を振るう。着地点では黒い稲妻が大きく弾けるが、これは利用も出来るだろう。
「そっちの攻撃は派手で助かる。隠れやすいからな」
 瑞樹は光に紛れるように駆け、木の影へと身を潜める。そのまま気配を殺したのなら――次に目指すは吸血鬼の死角だ。
「どこに行ったのかしら……離れてはいないと思うのだけど……」
 バージニアは焦って周囲を見回しているようだ。その様子から、あまり戦い慣れていない様子も窺える。
 きっと彼女は無理をしているのだ。骸魂の影響で宿った狂気が本心を覆い隠し、月も奪わせてしまったのだろう。
 なら、解放してあげるのが猟兵の役割だ。
「俺も月も、あんたが目を逸してるから見えないだけだ」
 次の瞬間、瑞樹が駆けた。手にはしっかりと二振りの刀を握り、そこに己の魔力を全身で乗せて。
 そして振りかぶった刃は、見事に吸血鬼に宿る狂気を切り裂く。
「寂しいなら遠慮なく思い出せばいい。思い出は消えないからな」
 さびしい気持ちを押し殺す彼女に、主と離れ離れになった自分を少しだけ重ねて、瑞樹はそうぽつりと呟いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

曲輪・流生
僕は闇と血の雨の世界は嫌です…。
貴女の好きな人が月に似ていたならばずっと空にあった方がその人を感じられるとおもうんです。
かつて確かにそれで癒されていたと。
お月様に好きな人を思い励まされたりしたのではありませんか?

(痛いほどの敵意に肩をすくめながら)
UC【竜ハ惑ウ】
あ、僕、また制御が。
(制御出来ない力にさらに困惑しつつ)
(無意識に【神罰】や【破魔】を付与しながら)

僕はまだ世界を知らない…
けれどお月様は綺麗だとそう思うから。
(僕の【祈り】よどうか届いて)




「寂しい訳なんかないじゃない。私は……私は自分の望む世界が欲しいだけよ!」
 猟兵の攻撃を受けつつ、バージニアがそう叫ぶ。
 そんな彼女の様子を見て、曲輪・流生の胸が少しきゅっと苦しくなった。
「僕は闇と血の雨の世界は嫌です……。そんな世界だと、きっとみんな寂しいです」
 流生が試みようとしたのは説得だ。
 バージニアは吸血鬼であり、闇や血を好むのも彼女の性質ではあるのだろう。
 けれど彼女の様子は強がりにしか見えなかった。そんな気持ちのままだと、きっと彼女の本当の願いは叶わない。
「貴女の好きな人が月に似ていたならば、ずっと空にあった方がその人を感じられるとおもうんです。かつて確かにそれで癒されていたと」
「そんな……こと……」
「お月様に好きな人を思い励まされたりしたのではありませんか?」
 流生の言葉はバージニアの胸の奥に入り込み、彼女の瞳に強い動揺を宿す。
 微かに瞳に浮かんだ光からは、彼女の本当の願いが見え隠れしたが――しかし、骸魂はそれを許さなかったようだ。

「違う……違う、違う! そんなことない! あの人のことなんかどうでもいいのよ!」
 バージニアの瞳が再び狂気に染まり、衣服は白銀の鎧へと変わる。
 かつて愛した人の装備を纏い、本当の願いを否定する。そんなバージニアのちぐはぐの様子と剥き出しの敵意は――流生の心を突き刺し、大きく惑わせた。
「……あ、僕、また制御が」
 けれどお月様は綺麗だとそう思うからの戸惑いは白く輝く炎へ変わり、彼の周囲を照らし出す。
 そして炎は戸惑いの根源である吸血鬼を目指し、まっすぐに飛び始めた。
「ま、待って……どうしたらいいんでしょう……」
 力を制御できないという状況が更に流生の心をかき乱し、炎の勢いを増しているようだ。
 バージニアも蛇腹剣で炎を潰そうとしているが、それよりも白炎の勢いの方が遥かに強い。
「何よ、これ……!」
 炎は次々に吸血鬼を燃やしていくが、彼女の肉体を傷つけてはいないようだ。
 むしろそこに宿った神の力は骸魂だけを罰し、月のような輝きで吸血鬼を包んでいた。

「バージニアさんはお月様もお嫌いなのですか?」
 何とか力を制御しようとしつつ、流生は言葉を紡ぐ。それに対しバージニアは目を逸らすだけだ。
「僕はまだ世界を知らない……。けれどお月様は綺麗だとそう思うから。だから、貴女にももう一度お月様を見て欲しいです」
 そうすれば、きっと寂しさとも向き合える。
 一人で受け止められないなら自分も一緒に寄り添うから。流生の言葉にはそんな祈りも籠められていた。
「……優しいのね、あなた」
 白い炎に焼かれつつ、吸血鬼はそう言葉を零す。
 そこにあったのは狂気ではなく――彼女の本来の気持ちなのだろう。
 祈りは着実に届きつつある。バージニアも願いを叶えられる可能性を思い、流生も柔らかな笑みを返した。

成功 🔵​🔵​🔴​

セロ・アルコイリス
ネムリア(f01004)と

おれもネムリアと同じ
あんたのココロを識りてーって思うから
バージニア、あんたを真っ暗な夜にゃ閉じ込めねー
【吹雪】で夜を白くしながらネムリアの支援に回る
さあ踊ってください、月夜の蝶

愛とか恋とかおれにゃ全然判んねーですが
だからこそ教えてください
おれは盗人ですから、あんたの言葉が判んねーんです
だって──欲しいから奪ったんでしょ?
『ソイツ』が、お月サマみたいだったから

大切なのに、お別れ、した……
聴こえる声にゃ、ちょいと口ん中が苦い
なんでしょう、これ(いや、と首を振って)

すき、を、きらいって言うのは楽しくねーでしょ
おれは昏い夜も好きですけど
明るい月夜も大好きですよ


ネムリア・ティーズ
セロ(f06061)と

バージニア、キミの気持ちを教えてほしいの
月をうばっても、こころが満ちたように見えないから

まっくらな夜に、キミに、ひかりをよびたい
セロと一緒に
ひとりぼっちにはさせないよ

風花の舞に【月花葬】を重ねて、雪月華の嵐をここに
地を照らす月の魔力を脚に纏ったなら
白く染まった夜を駆けて迫る
まかせて、セロ
蹴り技はとくいなんだ

…ボクも愛や恋はわからないけど
だいすきだから、さびしくて
苦しくなる気持ちはわかる気がするんだ
大切なのに、お別れした子が、いるから

セロの言うように本当は手放したくないほど
そのひとが、だいすきなのかなって

すぐにはムリでも
いつかキミが穏やかに月を見られるように
力になりたいんだ




 猟兵達と戦い始め、バージニアは少しずつ自分の本心に向き合おうとしている。
 けれど骸魂は未だに彼女を捕らえ、狂気の中へと沈めてしまっているようだ。
 だからこそ、キミの気持ちを教えてほしい。ネムリア・ティーズが強くそう願えば、セロ・アルコイリスは緩い笑顔と頷きで応える。
「キミの様子を見ていると心配なんだ。月をうばっても、こころが満ちたように見えないから」
「おれもネムリアと同じ。あんたのココロを識りてーって思う」
 二人の言葉を受け、バージニアの表情が険しくなる。けれどその瞳には微かな揺らぎも見えていた。
「そんなことないわ。真っ暗な夜は素敵でしょう? これで私は満ち足りているのに」
 吐き捨てられた言葉は強がりだ。この夜闇が彼女の心を覆うのならば、それを剥ぎ取るのが二人のやりたいことだ。
「バージニア、あんたを真っ暗な夜にゃ閉じ込めねー。だから……ネムリア、お願いできます?」
「もちろん。まっくらな夜に、キミに、ひかりをよびたい。だからセロと一緒に、ひとりぼっちにはさせないよ」
 昏い世界を突き破るように、白い花弁が世界を包む。
 セロの生み出す氷と魔法の花に合わせ、ネムリアが一歩前へと飛び出した。
 彼女の身体からも花の嵐が生み出されれば、周囲が月に照らされるように輝き始める。
「さあ踊ってください、月夜の蝶」
「まかせて、セロ。一緒に照らそう」
 二人が生み出す花と光、そして踊りは美しい。バージニアも思わず見惚れていたようだが、すぐに瞳は狂気の色へと戻ってしまった。
「わざわざ月を模すなんて……忌々しいわ。美しい踊りだろうと、ここで終わりよ!」
 白銀の鎧を纏いつつ、吸血鬼の女は叫ぶ。けれど少しでもこの踊りに見入ってくれたのなら、彼女の心にも月を愛するような気持ちが残っているはず。
 だとしたら、やっぱりキミの声を聞かせて欲しい。
 そう願いつつセロは花弁を散らし、ネムリアは舞い踊る。

 そこから暫くは互いの力のぶつかり合いだった。
 バージニアが黒雷を纏う蛇腹剣を大きく振るえば、柔らかな銀の魔力に包まれたネムリアの足がそれを受け止める。
 お返しとばかりに投げ込まれる魔法のカードはセロの魔法が素早く打ち消した。
 一進一退の攻防が続くけれど、互いの心の有り様はまったく違っている。
「愛とか恋とかおれにゃ全然判んねーですが、だからこそ教えてください。おれは盗人ですから、あんたの言葉が判んねーんです」
「あら、貴方ってそういう人だったの? 何が分からないのかしら」
「だって──欲しいから奪ったんでしょ?」
 『ソイツ』が、お月サマみたいだったから。セロの言葉に、バージニアの呼吸が乱れた。
 欲しいものを奪ったはずなのに、苦しいままなら意味がない。花盗人の真っ直ぐな言葉は吸血鬼の心に手をのばす。
 それに合わせるようにネムリアも言葉を紡いだ。
「……ボクも愛や恋はわからないけど。だいすきだから、さびしくて苦しくなる気持ちはわかる気がするんだ」
「貴女に何が分かるのよ!」
「――大切なのに、お別れした子が、いるから」
 ぽつりと、零されるその言葉。そこに宿った想いは更にバージニアの心を揺さぶり、彼女の心を照らし出す。
 けれどその言葉はセロだって聞いていた。どうしてだろう。ネムリアの寂しげな声を聞くと、何故だか口の中が苦くなるような。
「なんでしょう、これ」
 小さく首を振り、苦い想いを掻き消して。セロは更に花を散らし、ネムリアの言葉を待った。
「セロの言うように本当は手放したくないほどそのひとが、だいすきなのかなって。だからキミは月を奪ったんだよね」
「それは……そんなこと……」
 少しずつ、バージニアの声はか弱いものになっていく。
 花の光が、二人の言葉がバージニアを包み込むほど、きっと彼女の狂気は雪がれているはずだ。
 なら次はもっと楽しいことを考えよう。彼女がしたいことを、そして自分たちがやりたいことを。

「……今のあんた、全然楽しそうじゃねーんですよ」
 ぱっと、いつものような笑みを浮かべてセロが呟く。その言葉にもバージニアはどこかハッとしていた。
「おれは昏い夜も好きですけど、明るい月夜も大好きですよ。どっちも楽しんじゃいましょうよ」
「うん、すぐにはムリでも……いつかキミが穏やかに月を見られるように力になりたいんだ」
 ネムリアも素直な想いを述べながら、バージニアの元へとステップを踏む。
 優雅さは最初から変わりがないが、踏み込みは優しく、その足取りは軽やかで。
「ここにあるのは月の魔力だけど、それでもちょっとした月夜にはなってると思うんだ。どうかな?」
 ネムリアがそっと手を差し伸べれば、バージニアは目を逸らす。
 けれど手を払い除けたりはしていない。彼女は拒絶しているのではなく、戸惑っているのだろう。
「それこそ月を奪うなんて大胆なことをしたんじゃねーですか。すき、を、きらいって言うのは楽しくねーでしょ」
 セロの正直な言葉にバージニアは固く目を閉じる。
 本当は好きなのに。それを認めてしまえば、きっとまた苦しくなる。けれど――今のままの方が、ずっと辛いはずだ。
 彼女を狂気と本心の間で彷徨わせているのは骸魂なのだろう。ならば、それを祓えるならば。
「白く、白く、夜を更に白くしてやりましょうか」
「悪い魂だけおやすみなさい。次に目覚める時には――月の下で一緒に踊ろう」
 願いを籠め、セロとネムリアは更に花を舞い散らす。
 その輝きは――更に吸血鬼の女の心を優しく包み込んでいった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

尭海・有珠
レン(f00719)と

悲劇的な別れによって壊れる、か
私も、そうなる可能性もあったのかもな
けれど永遠の闇も血の雨もそんなもので埋め尽くされるのは
私の望むところではない
そんなものばかりでは私はつまらないし、あの世で語ることも激減してしまう

無理するな、レン
私は適度に距離を保ちつつ
威力を増し、高速・多重に生み出す光の≪剥片の戯≫を飛ばし
それこそ驟雨の如く攻撃
大丈夫、レンのことはちゃんと避けて撃つとも
飛ぼうと、私の魔法の薄刃は逃さない
血の雨すら降らぬ高温の光で穿ってみせよう

いいな、想い人の衣装を身に纏うとは
気持ちは分かるとも、と自身も外套に軽く手をかける
なあ、君の想い人は君が求める世界を望んでいたのか?


飛砂・煉月
有珠(f06286)と

…正直、月がなくってもオレは困んないんだけどさ
つまらないよ、キミの描く世界は

オレも名乗り返すね
飛砂煉月
キミが消した月の名前を持つ狼だ

キミの望む血が彩る夜には興味はないから血は使わない
ハクを槍にして竜牙葬送
ダッシュで駆けながら第六感に任せ
避けれる蛇腹剣は避けて見せて
あたった所で痛み? 知らないよそんなのは

大丈夫、無理してないよって
身を翻す狼は笑う
有珠ならオレに当てずに攻撃できると知ってるから
振り返らずに前を
地に落ちる血は吸血で返せよと奪い散らして

想い人、そっか…其れが、キミの
随分想われてたんだね
その人の噺の方がオレ興味ある
…でも、どうしてかな
有珠の噺に心がちくりと痛んだのは




 猟兵達の影響でバージニアの狂気は少しずつ薄れつつある。
 しかし、まだ完全とはいえないだろう。彼女の瞳にはまだ狂気の色は宿っている。
「やっぱりあの人のことなんて……私……」
 ぶつぶつと呟きを零しつつ剣を握る吸血鬼を見遣り、尭海・有珠は少しだけ目を伏せる。
「悲劇的な別れによって壊れる、か」
 私も、そうなる可能性もあったのかもな。自分の過去に想いを馳せて、少しだけ外套を握りしめて。
 けれどバージニアの望みには同調できない。
「永遠の闇も血の雨もそんなもので埋め尽くされるのは、私の望むところではない。そんなものばかりでは私はつまらないし、あの世で語ることも激減してしまう」
「……そうだよ。つまんないよ」
 有珠の言葉に飛砂・煉月がこくりと頷く。
 月の有無は関係ない。ただ真っ暗な闇と血で埋め尽くされる世界にいても、自分の心は満たされないと思うから。
 隣にいる人も同じ気持ちなら、怖いものなんて何もない。
「オレは飛砂煉月。キミが消した月の名前を持つ狼だ。キミを止めに来たんだよ」
「私は尭海有珠。レンと同じく、お前を止めるためにここへ来た」
 丁寧に名乗りを返す二人へ向け、バージニアは狂気に染まった笑みを向ける。
 同時に彼女の身体を白銀の鎧が包み込み、周囲には黒い雷光が飛び散った。
「正々堂々来てくれるのね。なんだかそんな態度もあの人みたいで……腹が立つ!」
 戦いは避けられない。ここから先のぶつかり合いを思い、有珠と煉月もそれぞれ構えを取った。

「ハク、行くよ」
 前に飛び出したのは煉月の方だ。相棒の白竜を槍へと変え、確り握りしめたのならばあとはひたすら前へ。
 本気の戦いならば血を使って自分を強化した方がいいのだが、それだとバージニアの狂気が望むような戦いになってしまう。
 それよりも、真っ直ぐな想いで彼女の本心に応えたかった。
「レン、前方は任せた」
 有珠も藍の剣『海昏』を握りしめ、少しずつ魔力を増幅させていく。
 前衛は頼もしい仲間に任せられる。それなら自分は後衛として全力の務めを果たしたい。
 有珠の想いに応えるように、藍色の光が舞い踊れば――。
「来たれ、世界の滴。群れよ、奔れ――≪剥片の戯≫」
 生み出された光の雨は次々にバージニアの元へと殺到し、彼女の動きを制限していく。
 その間を煉月が一気に駆け抜け、敵との距離を詰めた。
 二人の攻撃は激しいけれど、互いの動きは決して阻害しない。二人の間にある強い信頼は、攻撃の結果として残るのだ。
「ほら、相棒。奏でてやんなよ」
 『穿白』を一気に突き出せば、その穂先がバージニアの身体を抉る。
 同時に竜の咆哮が奏でる葬送曲が弾ければ、吸血鬼の身体も大きく後退していく。

 しかし――バージニアもただやられるだけではないようだ。
「このッ……!」
 破れかぶれに放たれる蛇腹剣の一撃は、煉月の身体も大きく撫でた。
 けれど煉月の方は後退しない。その場で強く歯を食いしばり、噴き上がる血にも構わず前を見つめる。
 痛みがあったところで知るものか。ここでオレが引き下がれば、有珠が危険になるだけだ。
「無理するな、レン」
「大丈夫、無理してないよ」
 心配そうな有珠の言葉には振り返らず、ただ明るい声色で煉月は応える。
 少し胸の奥が苦しいが、彼がそう言うのならば信じて戦い抜くのが己の役割だろう。
「……分かった。大丈夫だ、私の魔法の薄刃は敵を逃さないよ」
 有珠も再び剣を握り、敵を見据える。
 同じタイミングで体勢を立て直したバージニアが、勢いよく地を蹴るのが見えた。
「減らず口を……!」
 今度は魔法のカードに血の魔力を乗せ、一斉に射出してきたようだ。
 それらの一枚一枚に意識を集中し、有珠は再び剥片の戯を撃ち出していく。
「血の雨は望んでいないからな。全て高温の光で穿ってみせよう」
 光の雨は魔法のカードだけでなく、バージニアの身体にも降り注ぎ彼女の狂気を雪いでいるようだ。

 二人の攻撃によるダメージも相まって、彼女の着込んでいた鎧はボロボロになっていた。
 そんな鎧を愛おしそうに抱き締め、吸血鬼は唸る。
「ッ……彼の、鎧なのに……!」
 その言葉から何かを察し、有珠は再び目を伏せる。ああ、そうか。彼女の鎧は――。
「いいな、想い人の衣装を身に纏うとは」
 先程とは違い無意識に、昏い夜に似た外套をそっと撫でて。彼女の気持ちはよく理解できる。だって自分も、そうだから。
 有珠のいつもと違う様子が気になり、煉月も少しだけ彼女の方を向く。
 大切な人を想い、その人が遺したものを纏う。それだけ誰かを大切に想う、想われるというのは素敵なことのはずなのに。
「……どうしてかな」
 有珠の噺には、心がちくりと痛くなった。その答えはまだ分からないけれど――けれど、だからこそ足は止められない。
 バージニアへ向け、煉月は人懐っこい笑みを浮かべる。
「その鎧がキミの想い人のなんだよね。そっか、随分想われてたんだね。その人の噺の方がオレ興味あるよ」
「ああ、そうだ。なあ、君の想い人は君が求める世界を望んでいたのか?」
 二人から言葉を向けられ、バージニアは目を逸らす。
 けれどその瞳にあったのは強い狂気ではなく、迷いの色だ。
「……あの人は、きっと望んでいないけれど……私は……本当は……」
 バージニアの中に迷いが生じているということは、彼女の狂気はどんどん薄れているのだろう。
 それなら、戦いが終わったならば。
「あとでゆっくり聞かせて欲しい。君の想う人のことを」
「どうせなら月の下でのんびりってのがいいよね。その方がきっと楽しいよ」
 他の世界では難しいけれど、幽世ならば後の語らいも約束できる。
 楽しい時を過ごせることを願いつつ――猟兵達は、更に月を取り戻すための戦いを続けるのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

フレズローゼ・クォレクロニカ
💎🐰
アドリブ歓迎

恋がキミを歪めたのか……わかるよ
恋はひとを壊してしまうことがあるんだ
ボクだって見事にフラれて玉砕したからわかるんだ!
毎日BARに駆け込み、にんじんジュースをキメたものだよ……って、そんなことはいいか
ふぅん、キミがお月様を攫った犯人だね!
返してもらうんだ!!
そんな世界、ボクはごめんだからね
お天道様の下でぽかぽかしながらお昼寝できなくなっちゃう!

兎乃くん、取り戻すよ!
ボクたちの友情パワーでぶちかますんだ!
平和な明日を取り戻す
キミに歩む道の邪魔はさせない
兎乃くんを支援するように、全力魔法で敵の攻撃を破壊工作するのさ
それから、『黄金色の昼下がり』で動きを止めちゃう!
今だ、兎乃くん!


兎乃・零時
💎🐰
アドリブ歓迎!

あの人…?
誰の事言ってるかは分かんねぇけど、負けねぇからな、バージニア!
恋は…正直あんま分からんけども…!

そっちが飛ぶなら
クリスタル!
【操縦×空中浮遊×空中戦】

フレズや己に
光と水の属性付与《エンチャント》で【オーラ防御×元気】の強化!

永遠の闇なんてもんはねぇ

夜終われば朝来るように
時間は決して止まらず進み続ける

だから、後悔の無いよう俺様達は突き進むんだ!

勿論さフレズ!
ぶちかましてやるとも!
勝って!平和な明日を取り戻す!

フレズの支援ありゃ百人力さ!

UC!
光【属性攻撃×全力魔法×リミッター解除×貫通攻撃×限界突破】!

夜を照らす光を此処に!

極光一閃《リミテッドオーバーレイ》!




「私は……やっぱりあの人が……」
 ぼそりと何かを呟きつつ、バージニアは己の魔力で白銀の鎧を修復していく。
 彼女が纏うのは想い人を模した鎧。彼女が狂気に陥ったきっかけは恋心。
 そんなバージニアの様子を見遣り、兎乃・零時は首を傾げる。
「あの人って誰の事言ってるかは分かんねぇし恋も正直あんま分からんけど……負けねぇからな、バージニア!」
「うん。キミがお月様を攫った犯人だね! ちゃんと返してもらうんだ!!」
 零時の隣ではフレズローゼ・クォレクロニカがびしっと構え、バージニアへと勝ち気な笑みを向ける。
 けれど彼女の方は零時と違い、狂気に陥るほどの恋心についてはよく知っていた。
「キミの気持ちは分かるんだよ。恋はひとを壊してしまうことだって……ボクも、経験あるからね」
 脳裏に浮かぶは初恋の人の姿。勇気を出して告白して、けれど見事にフラれて玉砕しちゃって。
 毎日BARに駆け込み、にんじんジュースをキメたのも昔の話。だけど、そんな経験も踏まえてフレズローゼはここに立つ。
「気持ちは分かるけど、キミの望む世界はごめんだからね。お天道様の下でぽかぽかしながらお昼寝できなくなっちゃう!」
「そうだ、永遠の闇の中じゃ気分も晴れないし……ずっと朝だって来ないじゃねーか!」
 恋は分からずとも暖かな光のありがたさはよく分かる。零時も同調するように力強く頷いた。
 今回の戦いは月を取り戻すための戦いだ。けれど、このままじゃ太陽だって戻ってこない。
 もう一度暖かな世界を取り戻すため――二人もまた、武器を手に取った。

「兎乃くん、取り戻すよ! ボクたちの友情パワーでぶちかますんだ!」
「勿論さフレズ! ぶちかましてやるとも!」
 平和な明日を取り戻すため、猟兵達は己の魔力を展開していく。
 フレズローゼが『虹薔薇の絵筆』を手に取れば、真っ暗な世界だって美しいキャンバスに早変わり。
 描く景色は永遠のお茶会。暖かな昼の光に包まれた、とっても素敵な時間だ。
「黄金色の午后のこと。時間はどこかへ行っちゃった! 終わらないお茶会をはじめよう。さあ、皆も一緒に!」
 その風景に合わせるように、零時が展開するのは光の魔法だ。
「元気いっぱい、キラキラさせようぜ!」
 光と氷の魔術は闇を切り裂き、猟兵達へと力をくれる。
 その眩い輝きがあまりにも綺麗で、バージニアも思わず目を細めるが――。
「……そんなものに惑わされないわ。邪魔をしないで!」
 骸魂に宿った狂気がその感傷を許さない。バージニアは蛇腹剣を振るい、二人を打ち据えようとしているようだ。
「そうはさせないんだよ! 逃がしはしない!」
 そこにすかさず割り込んだのはフレズローゼの描く世界だ。
 きらきら光る蝙蝠に、舞い踊る紅茶と砂糖。そして煌めく光の粒は周囲から『時間』そのものを奪い去っていく。
 時間を奪われたバージニアの動きは少しずつ鈍り、剣の勢いも衰え始めた。

「このッ……!」
 なんとか影響を押し留めようと、吸血鬼はマントを翻し空を飛ぶ。
 それに合わせて零時も魔導機械箒『クリスタル』を握りしめ、共に空へと舞い上がった。
「空だって俺様の領域だぜ! バージニア、お前は本当にこのままでいいのか?」
 零時が投げかけたのは真っ直ぐな言葉だ。このまま世界が闇に閉ざされたとして、きっと目の前の女の心は救われない。
 全世界最強最高なら、誰かの心だって救えるはずだ。
「夜終われば朝来るように、時間は決して止まらず進み続ける。お前だってそうだ、このままだときっと後悔だけが残っちまう」
「そんなことないわ、私はこれを望んで……」
「ううん、きっと違うと思うんだよ!」
 絵筆を手繰りつつ、フレズローゼも叫ぶ。
 恋の痛みは知っている。けれどそこで踏みとどまってしまうことの怖さだって分かるから。
 バージニアにも、前に進んで欲しいから。
「平和な明日を取り戻す。キミに歩む道の邪魔はさせない。そして――キミも、もう一度自分の道を進んで欲しいんだよ」
 永遠のお茶会だって一人きりではきっと楽しめない。
 昏い気持ちのお客様だって女王陛下は見逃さないのだ。一緒に手をとって、今日も明日も明後日も沢山の愛を描きたい。
 だからこそ、今だけは全力で。
「もう少しだけボクのお茶会には付き合ってもらうよ。ほら、こうすればきっと楽しい!」
 『黄金色の昼下がり』は更に広がり、闇の世界をきらきらに照らし出していく。
 舞い散る甘い嵐はバージニアから闇の魔力を奪い去り、代わりに彼女の纏う鎧を美しく照らし出す。
 同時に彼女の身体は空中に固定されたようだ。ならば、ここが決め時!
「今だ、兎乃くん!」
「フレズの支援ありゃ百人力さ! いくぜ……!」
 杖を握り、零時は全力で魔力を高めていく。
 自分に出来る精一杯を、そして闇を切り裂く光を。夢に至る覚悟を胸に、零時は己の限界を超える。
 例え、その先に何が待とうとも、その悉くを超え続ける。今日の一戦だってそのための経験値。
 そして何より――皆で最高の明日を迎えたい!
「夜を照らす光を此処に! ――極光一閃!!」
 複数の魔術を組み合わせた、眩い光が幽世の空を貫いた。
 その輝きは吸血鬼を飲み込むが、その輝きが焼くのは骸魂と彼女の狂気だけ。
 気まぐれな女王陛下の描く愛と、最強最高の魔術師を目指す少年の覚悟。その二つは確かに闇夜を照らし、世界を明日へ進めるための一撃となったのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

茜崎・トヲル
吸血鬼の人、なんで月とったの?
んーん、たたかうのはいーんだ。ぜんぜん。おしごとだし。
ただあんたの顔、すごくつらそうだから。
ほんとにわるい人って、そーゆー顔あんましないんだよねえ。
おれたちのこともバカにしてこないし。あの人ってだあれ? たいせつなひと?
あんねえ、話すだけでもらくになったりするんだって。あの人のこととか話してくんないかなあ。
つらくてガマンできなくなったらさ。やつあたりにサンドバッグになったげるからさ。
おれ死なないし、痛いとかないし。ケガもすぐなおるし。ね。
オブリビオンの人はもう助からない。だったらさ、すっきりしてから躯の海に帰ったほうがいいじゃんね?




 着実にダメージを蓄積しつつも、バージニアは戦うことをやめていない。
 そんな彼女の様子に首を傾げ、茜崎・トヲルは呟いた。
「吸血鬼の人、なんで月とったの?」
「……戦うことに嫌気でも差したのかしら」
「んーん、たたかうのはいーんだ。ぜんぜん。おしごとだし」
 トヲルの言葉はまっすぐで、だからこそバージニアも首を傾げる。
 仕事なら戦い抜けばいい。猟兵とオブリビオンは殺し合うもの。だから二人はこの場所にいるはずなのに。
「ただあんたの顔、すごくつらそうだから。ほんとにわるい人って、そーゆー顔あんましないんだよねえ」
 からからと笑うトヲルの言葉は変わらずに真っ直ぐだ。その言葉に戸惑うように、バージニアの足が一歩下がった。
「私は十分悪い事をしてるじゃない。この世界から月を奪ったのよ?」
「でもおれたちのこともバカにしてこないし。それに……あの人って、だれかのことが忘れられねーんだろ?」
 あの人ってだあれ? たいせつなひと?
 その疑問を受け――バージニアの瞳には二つの色が宿った。片方は狂気、片方は迷いだ。

「……貴方には関係ないわ! 話したって結果は変わりやしないでしょう!」
 女の怒りに合わせ、周囲に魔法のカードが舞い散る。
 宿る闇の魔力は黒い雷へと変わり、トヲルの白い身体を昏く照らした。
「あんねえ、話すだけでもらくになったりするんだって。あの人のこととか話してくんないかなあ」
 トヲルの表情は変わらず笑顔だ。
 ゆるく両手を広げ、まるで目の前の存在を迎え入れるような仕草すら取っている。彼の身体から敵意や害意は伝わってこなかった。
 だって目の前の人はきっと『痛い』んだろう。そしていいひとなんだろう。
 じゃあ、しあわせじゃなきゃだめだ。
「つらくてガマンできなくなったらさ。やつあたりにサンドバッグになったげるからさ」
「何、言ってるの……?」
「おれ死なないし、痛いとかないし。だから気にしなくていーよ」
 調子の変わらない言葉。そこに宿る真実を想い、バージニアは目を伏せる。
 けれど彼女の心に生まれた敵意は止まらなかった。それに応じるようにカードが弾ければ――トヲルの身体を黒雷が貫いた。
「ッ……ほら、私は貴方に攻撃したのよ。戦いなさいよ!」
「んー、だいじょうぶ。今のだってわざとじゃないよな?」
 ふふは、と紡がれる笑みはあまりにも柔らかく、純真で。
 トヲルの肉体が削れれば削れるほど、彼のまっすぐな想いは世界を包む。
 そして――彼女の狂気も、少しずつ薄れていた。
「もう助からないなら、すっきりしてから躯の海に帰ったほうがいいじゃんね? そうじゃないなら、思いっきり暴れてしあわせになろ?」
「私の……幸せ……」
 思い、悩み、バージニアは俯く。その様子を見遣り、トヲルは素直な気持ちを抱く。
 ああ、やっぱりこの人はわるい人じゃない。だから、少しでもこころがすくわれますように。
「あの人の話もあとできかせてねー」
 身を削りつつ、トヲルは笑う。
 そんな彼の想いは、きっとバージニアにも届いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御乃森・雪音
わざわざ名乗ってくれて有難う。
貴女の名前は覚えておくわ、これから仲良くなれるかもしれないし。

世界を壊す選択をしたのは駄目だけれど、事情があるのもわかってる。
だから……思いを思い出として昇華して、新しい道を歩みましょう。

La danza della rosa blu
貴女の想いに、想い人に手向けの花を。
パートナーは貴女ね、少しだけ付き合ってもらうわよ。
くるりと回って、腕を伸ばして。鎮魂の歌を向け断ち切るのは黒い雷と骸魂だけ。
青い薔薇で全てかき消してしまおうかしら。
さっき見たあの子達は可愛かったもの、住みやすい世界を取り戻してあげましょう。

きっと、この世界は貴女にとって大切なものになるわ。




 未だ狂気に苛まれる吸血鬼へ向け、御乃森・雪音は真っ直ぐに歩を進める。
 彼女の纏うドレスも靴も夜闇と同じ漆黒だけれど、その彩りは決して闇の中へと沈まない。
「バージニア、わざわざ名乗ってくれて有難う。貴女の名前は覚えておくわ、これから仲良くなれるかもしれないし」
「仲良く……ですって?」
 雪音を睨む吸血鬼の視線は険しいが、その奥には迷いも見えた。
 彼女が選んだ選択は世界を壊す良くないもの。だけど、それを選んでしまった事情があるのも分かっている。
 それなら――きっと次に進める道もあるはずだ。
「思いを思い出として昇華して、新しい道を歩みましょう。皆で一緒にね」
 柔らかな笑みを浮かべ、雪音は更に前へと進む。
 そんな彼女に反抗するかのように、バージニアは黒い雷を散らしていた。
「私はこれでいいの! 永遠の闇の世界で満足しているのよ!」
 言葉とは裏腹に、吸血鬼が纏うのは想い人を模した白銀の鎧だ。
 やっぱり彼女は苦しんでいる。骸魂が大切なものを覆い隠してしまうのなら――それを取り払ってあげるのが猟兵の役割だ。

 ひらり、闇夜を切り裂くように青薔薇の花弁が舞い踊る。
 その中央に立つのは雪音だ。
「貴女の想いに、想い人に手向けの花を。さあ、少しだけ付き合ってもらうわよ」
 華麗にステップを踏み、優しく前へと手を伸ばして。
 バージニアが拒絶するように蛇腹剣を振るうなら、それは青い薔薇で飲み込んでしまおう。
 雪音の唇から厳かな旋律が紡がれたなら、その音色は蒼く輝く鎖へと変わる。
 鎮魂歌の鎖が祓うのは骸魂と黒雷だけだ。
「今夜のパートナーは貴女ね」
「……ぁ」
 雪音はくるりと身を翻し、バージニアの手を優しく握る。
 二人で夜の公園を踊り回れば、世界は不思議と輝いて見えた。
「ねえ、さっきまで近くに可愛い子達がいたのよ。あの子達にも住みやすい世界を取り戻してあげたいの」
 思い返すのは先程まで戯れていた猫又達。
 この世界には可愛いものが、素敵なものが、今を生きる楽しいものがたくさんたくさん溢れているから。
「色んなものを見て、色んな時を過ごして、時にこうやって歌と踊りを楽しんで。そういうことに興味はあるかしら?」
「私は……そんなこと、全然知らない……」
 どこか恥ずかしそうに俯く吸血鬼には、優しく笑顔の魔法をかけよう。
 今度は軽やかな旋律を奏でつつ、雪音は更に踊りを続ける。
「それならこれから知っていきましょう。きっと、この世界は貴女にとって大切なものになるわ」
 蒼く舞い散る薔薇の花が二人を包めば、そこから狂気はどんどん薄くなっていく。
 きっと最後には――二人の胸にも、素敵な思い出が芽生えるはずだ。
 それがバージニアの過去も昇華することを祈り、雪音はバージニアの手を取り続けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

猫希・みい
黎くん(f30331)と一緒に

永遠の闇も血の雨もだめ
だって世界はもっと優しくて明るくて
光を欲するくらい寂しいものだから

ね、黎くん
一緒に月を取り戻そう

私にとって月は愛しい宝物
隣に居る神様と同じような、そんな存在
見上げたら柔らかく微笑んでくれる
大切な灯だもの

我を失うくらい悲しい恋をしたのかな
それは―――やっぱりさびしいと思う
あなたの好きな人はこんな事を望むの?
私だったら、やだな
私が居なくなったあとに黎くんがこんな事をしたら

あなたの好きな人もきっと
杖を傾けて花嵐を放つ
あなたの心ごと捉えて離さない

黎くん、今のうちにお願い!
ひらりひらり舞うは手向けの花
黎くんの手を握って祈る
月を返して、お願い


月詠・黎
みい(f29430)と

夜は我の領分だが
闇と血だけでは面白みなど無かろう
光の存在が夜も美しく映すのじゃから

噫、取り戻すとも
月が無いと愛し猫が寂しがるからの

夜から月を消し闇と血を望むという事は
主の想いは届かず終わったのか
それとも散ってしまったかの
(お前が居なくなったら俺も自信は無いとは自覚も有れど)

言の葉が届かぬなら返して貰う迄よ
我とて月の神
奪わせた侭では名が廃る

構えた横笛の形の獣奏器
黒に奔る月色が奏でる神罰の時間よ
みいが相手の動きを少しでも封じ隙が出来るなら

――噫、無駄にはせぬよ

手を前に伸ばし
ひらり舞わせた指先
主の黒雷とは相容れぬ色を持ってゆけ
白雷――天裁

片手はみいと繋いだ侭
返して貰うぞ
夜の月を




 夜というものに対し、猫希・みいと月詠・黎の思いは少し違っていて。
 猫の少女からすれば、世界は優しくて明るくて、光を欲するくらい寂しいものだ。
 月の神様からすれば、夜は自分の領分だけど、光の存在が夜も美しく映してくれるもの。
 だから二人共、永遠の闇と血の雨が降る世界は欲していなかった。ただ優しく、世界を照らす月を返して欲しい。
「ね、黎くん。一緒に月を取り戻そう」
「噫、取り戻すとも。愛し猫が寂しがるからの」
 こくりと頷き、意思を確認しあう二人。その様子をバージニアはどこか寂しそうに見つめていた。
「……ああ、いいわ。二人で来るなら来なさいよ」
 白銀の鎧を纏い、吸血鬼の女は蛇腹剣を構える。
 その様子からは狂気も敵意も溢れているけれど、でもそこにあったのはそれだけではない。
「月を消し、闇と血を望むという事は……主の想いは届かず終わったのか」
 それとも散ってしまったのか。黎がバージニアに重ねるのは自分自身。
 もし自分も、彼女と同じように愛しい人を亡くしてしまえば――同じことを望んでしまうかもしれない。
 けれど今は大丈夫。隣の愛しい存在は、共にこの地に立っている。
「きっとあの人にとっても、月は大切な灯なんだよね」
 ぽつり、みいが零す。
 月は愛しい宝物。だって隣りにいる神様みたいで、見上げればいつも柔らかな微笑みを返してくれて。
 そんな愛しいものだからこそ、辛い恋の先では見つめ返せなくなったのかもしれない。
 でもそれは――きっと、とってもさびしいことだ。
「あなたの好きな人はこんな事を望むの? 私だったら、やだな」
 翡翠と曙草の瞳でじぃと隣の神様を見つめ、猫は思う。
 まるで心の中を見透かされていたようで、黎は少しだけ目を丸め、安心させるように笑みを浮かべた。
 その様子もバージニアからすれば眩しかったのだろう。彼女は黒い雷を発しつつ、猟兵達を睨みつける。
「貴方達を見てるとあの人を思い出すのよ……私の前から消えて!」
 怒りと共に雷光は更に強く弾ける。
 このままでは言葉も通じないだろう。まずはこの場を収めなければ。

「我とて月の神、奪わせた侭では名が廃る」
 まずは黎が横笛『月奏』を取り出し奏でれば、生み出されるのは神罰の音色だ。
 漆黒に満月の色が迸る笛の音色は、まるで闇を月光が切り裂くようで。
 それに合わせるように、みいも『猫の杖』をそっと握り願いを籠める。
「あなたの好きな人もきっと……願いも祈りも等しく届きますように」
 神様の音色に合わせるように、愛らしい杖が振りまくのは桜と紅葉の花嵐。
 例え空に月が見えなくても、月の神様の輝きが柔らかく花の嵐を照らしていた。
「このっ……!」
 バージニアも蛇腹剣で嵐を薙ぎ払おうとしているが、それでも二人の思いには敵わないだろう。
 少しずつ嵐と神罰は勢いを増し、吸血鬼の女をその場に縛り付けていく。
「せっかく月を見ないで済むと思ったのに。この光、まるで……あの人みたいじゃない……!」
 微かに聞こえる吸血鬼の嘆き。その強がりに、みいの耳がぺたんと垂れた。
「さびしいならさびしいって言ってもいいんだよ。お月様は、それも分かってくれるから」
「誰かを愛しく思う気持ちが迸るのはよく分かる。だが……このまま終わってしまっては、お主もきっと救われれない」
 二人の言葉にバージニアは少しだけ俯き――けれど、迷いを掻き消すように狂気が黒い雷と化して夜を照らした。
 それなら、全力でこの闇を打ち払うだけだ。

「……黎くん、今のうちにお願い!」
 みいは全力で魔力を籠めて、最大級の花の嵐を生み出していく。
 ひらりひらり、手向けの花が舞い踊れば応じるのは月の神様。
「――噫、無駄にはせぬよ」
 右手は前へ、左手は愛しい猫へ。
 みいの右手が触れたのを感じ、二人は強く手を握った。
 互いを思う気持ちは強烈な祈りと化して、更に夜を優しく切り裂く。
「月を返して、お願い」
「返して貰うぞ、夜の月を。白雷――天裁」
 黎の右手がひらりと舞えば、そこから生み出されるのは眩い白光。
 吸血鬼の生み出す黒い雷すら打ち消して、空からの光が公園に降り注いだ。
 その光が打ち据えるのは吸血鬼に宿った狂気だけ。彼女の心も救われなければ、きっと月は本当の意味で帰ってこない。
「あ、ああ……! やっぱり、この光、まるで月みたいで……」
 バージニアは白い天罰に打ち据えられ、その場に思わずかがみ込む。
 その瞳からは狂気の色は薄れており、透明な涙が湛えられていた。
「……私は、あの人のことを忘れたいだけなのに」
 嘆きの言葉に、みいと黎は顔を見合わせた。答えはきっと、分かってる。
「忘れなくてもいいんだよ。大切な思い出なら、またあしたって約束してもいいんだよ」
「……誰かに忘れられるのは寂しいことじゃ。辛い別れがあったとしても、お主が愛しい人を覚えていれば……その人もきっと浮かばれる」
 忘れられた月の神様と、そんな神様が大好きで手放したくない猫。
 そんな二人から見ればバージニアの姿はありえる未来かもしれない。
 でも、だからこそ――二人の心からの言葉は、更に吸血鬼の中から骸魂を薄れされていったのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

パルピ・ペルポル
ああなるほどね。囚われているのは骸魂だけじゃないのね…。
でもここは貴女一人の世界じゃないからねぇ。


念動力で雨紡ぎの風糸を自らの周囲に張り巡らせておいて、敵の行動を阻害兼盾として使用するわ。
で、以前徳用(巨大)折り紙を通常サイズに切って作った千羽鶴ならぬ万羽鶴を取り出して、敵にけしかけるわ。
わずかでもダメージを与えられたらどこでも井戸端会議を使うわ。
今日はまた、テンション高いわね…。
一人で考え込むとろくな考えにならないから、すこしでも気を紛らわせてあげようと思ったんだけど、会話に入れなければただの騒音だったわね。
ともかく気が逸れてる間に糸と穢れを知らぬ薔薇の蕾で敵の動きを拘束するわ。




「私……どうしたら……」
 猟兵達との戦いにより、バージニアからかなり狂気は薄れてきている。
 それでも彼女の心が揺らいでいるのは、やはり骸魂の影響だろう。
「ああ、なるほどね。囚われているのは骸魂だけじゃないのね……」
 パルピ・ペルポルは目を細め、頭を抱える吸血鬼を見遣る。
 彼女の迷いは十分に理解した。けれど、このままでは何もかもが壊れて終わる。
「ここは貴女一人の世界じゃないからねぇ。荒療治にはなるけれど、覚悟してもらうわよ」
 『雨紡ぎの風糸』を手繰り、パルピは己の魔力を高めていく。
 張り巡らされた糸は敵の動きを阻み、妖精を守る盾と化す。
 同時に展開するのは徳用折り紙セットで作り上げた無数の折り鶴達だ。
「そんな玩具で私を止められると思うの?」
 バージニアも白銀の鎧を纏い、黒雷を発する蛇腹剣を構えている。
 本気のぶつかり合いは避けられない。けれどその先に何かがあるのを確信しつつ――パルピは白い腕をひらりと舞わせた。

 バージニアは勢いよく地を蹴ってパルピとの距離を詰めようとしたようだが、彼女の進路には無数の罠が仕掛けられていた。
 折り鶴達が吸血鬼の進む先を誘導し、その先には無数の糸を張り巡らせて。
「このっ!」
 魔力を籠めた蛇腹剣だろうとパルピの罠は抜けられない。たかが糸と折り紙だと侮ったからだろう。
「残念だけど貴女はもう逃げられないわ。さあ……ちょっとばかり付き合ってあげて」
 バージニアの動きが鈍った隙に、パルピは翅を羽ばたかせて距離を詰め――ぺたんとスタンプするのはおしゃべり妖精のお友達の印だ。
 すると次の瞬間、吸血鬼の周囲には姦しい妖精達が姿を現した。
「なになにお悩み?」
「っていうか真っ暗! 怖いよね!」
 からからと取り留めもなく溢れる妖精達の言霊は、バージニアの頭のキャパシティを一瞬にして使い切る。
「え、え……?」
「今日はまた、テンション高いわね……。少しでもお喋りをして気を紛らわせられれば、と思ったのだけど」
 妖精達の様子と混乱するバージニアを同時に眺め、パルピは大きく溜息を吐く。
 けれどこうやって見ていると、やっぱり目の前の吸血鬼が極悪人には見えなかった。それなら今回の件はさくっと終わらせ、反省してもらうのが一番だ。
「貴女の中にある悪いものを抜き取ってあげるわね。そうすれば気分も落ち着くでしょう」
 そう囁きつつパルピが取り出したのは、穢れを知らぬ美しい白薔薇の蕾。
 蕾をバージニアの胸元へと突き刺せば――茎は弱りきった骸魂だけを吸い取って、艶やかな赤い花を咲かせた。
 その衝撃でバージニアは気を失ったようだが、命に別状はなさそうだ。

「目を覚ませばきっと反省もするわよね……あ」
 吸血鬼の身体に巻き付いた糸を回収しつつ、ふとパルピは空を見上げる。
 するとそこには……優しい光を返す満月と、きらきら煌めく星々が顔を覗かせていた。
 これにて事件は一件落着。パルピも空を見つめつつ、柔らかな笑みを浮かべていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『夜行』

POW   :    力いっぱい先頭で楽しむ

SPD   :    賑やかな中ほどで楽しむ

WIZ   :    最後尾でゆるゆると楽しむ

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 猟兵達の奮闘により、幽世に月が戻ってきた。
 今宵は満月、まんまるのお月様はきらきら煌めき妖怪達を優しく見守ってくれている。
 妖怪達も空を見上げて大喜び、早速お祭りの準備が始まった!

 気がつくと公園の周囲には無数の出店が出され、妖怪達が集まりだしている。
 出店は一般的なお祭りにありそうなものなら一通り揃っているようだ。
「ああ、猟兵さん! おかげで助かったよ!」
「せっかくの綺麗なお月さんだからな。今日は皆で百鬼夜行だ!」
 鬼に天狗に一反木綿、様々な妖怪が列を作り、百鬼夜行の大行列も始まるらしい。
 その列に加わるもよし、出店をのんびりと巡るもよし。
 勿論やりたいことがあるのなら、自由にそれを行うのもよしだ。

 猟兵達に助けられた猫又達も、公園の周囲で遊んだり百鬼夜行に加わったりしている。彼らは自由きままで人懐っこい。一緒に遊ぼうと誘えば乗ってくれるだろう。
 公園の隅っこでは目を覚ましたバージニアが反省中だ。彼女は本来気弱な性格らしく、今回の事件に関しては深く悔いている様子。
 今回の事件で関わった妖怪達と触れ合うのも良いだろう。

 今夜はきらきらの満月を見上げつつ、賑やかな夜は更けていく。
 夜の楽しみ方は、きっと人それぞれだ。


 3章のプレイングは【12月6日(日)8:31~】受付開始です。
 よろしくお願いします。
ネムリア・ティーズ
セロ(f06061)と

そうだね、無事に解決してよかった
ふふ、行こうか
後はいっぱい楽しまないとだ

ありがとう、セロ
差し出された手に指先を重ねて
体温は、わからないけれど
キミの手はあたたかい気がした

前にね、たましいの天ぷらなら食べたよ
…あ、みてセロ、好きなかたちに化けるわたあめ、だって
ボク、さっきのねこさんを作ってもらいたいな

おみやげを手にバージニアの傍へ
ふわもこのねこさん綿あめを差し出して
具合はどう?よければ、一緒にお話したいな

お月さま、きれいだね
うん。それに…月はいつもそばにいて、見守ってくれる気がするんだ
ボク?あの子は……優しい夜みたいな子、だったよ

キミの心を識りたくて
バージニアを優しく見守るよ


セロ・アルコイリス
ネムリア(f01004)と

お月サマ、帰ってきて良かったですね!
ねぇネムリア、色々見て回りましょ!
って駆け出して
彼女が迷子んなりそうなら手を差し出して

カクリヨっておれ初めてなんですけど、なにが有名なんでしょう?
えっ魂の天ぷら??
なにそれ気になる!
へぇ、綿あめが化けるんですか!
あっおれもおれも!

ひと通り巡ったらバージニアんとこへ
おはよ、おれ達とも話しません?
月を見ながら話せたらいーな
綺麗ですねぇ
なんつーか洗われるっつか
あんたの大切なひとも、そんな感じでした?
……ネムリアの大切な子は?
──優しい夜は、いいですね
真っ暗よりは、月がありゃなおいい

ねぇ、今ならソイツのこと、すきって言えますか、バージニア?




 空を見上げればきらきら輝くお月様。
 地上を見れば妖怪達が楽しく遊び回っている。
 そんな当たり前だけど幸せな幽世を前に、セロ・アルコイリスは両手を広げてへらりと笑う。
「お月サマ、帰ってきて良かったですね!」
 ぱたぱたと駆け出すセロを見て、ネムリア・ティーズも目を細める。
「そうだね、無事に解決してよかった。後はいっぱい楽しまないとだ」
 仕事が終わればここから先は楽しい時間。けれど人混みの中で互いを見失ってはいけないだろう。
 せっかくのお祭りも迷子になってしまっては勿体ない。そこでセロは手を前に差し出し、またしても柔らかな笑みを浮かべた。
「ねぇネムリア、色々見て回りましょ!」
「ありがとう、セロ。ふふ、行こうか」
 互いの指先に触れれば不思議な感触がする。ミレナリィドールとヤドリガミ、体温は分からない。
 けれど――あたたかさは伝わる気がして、嬉しくて。気がつくとネムリアの口元も控えめに緩んでいた。

 二人で手を取り合い、まず見回るのは出店だ。
「カクリヨっておれ初めてなんですけど、なにが有名なんでしょう?」
「前にね、たましいの天ぷらなら食べたよ」
「えっ魂の天ぷら?? なにそれ気になる!」
 得体の知れない、けれどわくわくする言葉にセロの瞳がぱぁっと輝く。一方ネムリアも気になるものを見つけたようだ。
「……あ、みてセロ、好きなかたちに化けるわたあめ、だって」
「へぇ、綿あめが化けるんですか!」
 綿あめすら愉快なのもカクリヨだからだろうか。じぃっと屋台の灯りを見つめつつ、ネムリアがぽつりと零す。
「ボク、さっきのねこさんを作ってもらいたいな」
「あっおれもおれも! 一緒に作ってもらいましょう!」
 歩調を合わせて気になる屋台へ。
 たましいの天ぷらは不思議な歯ごたえと喉越しが新鮮で、一度食べたら忘れることは出来なさそうだ。
 ふわふわのねこさん綿あめは見た目も可愛く、食べるのが勿体ないくらい。
 他にも楽しい出店はたくさんあった。それらに対し感想を述べ、時々買い物をしつつ二人は更に夜を楽しむ。
 それから向かったのは――吸血鬼の女の元だ。

 バージニアはぽつんと公園の隅で反省中のようだった。
 そんな彼女の元へ、セロとネムリアは近づいていく。
「おはよ、おれ達とも話しません?」
「具合はどう? よければ、一緒にお話したいな」
 そう言いつつネムリアが差し出したのは先程のねこさん綿あめだ。
 バージニアも最初は驚いていたが、綿あめも素直に受け取り頷いている。
 空には煌々と月が輝き、三人のことを見守ってくれていた。
「お月さま、きれいだね」
「綺麗ですねぇ。なんつーか洗われるっつか」
「うん。それに……月はいつもそばにいて、見守ってくれる気がするんだ」
 率直な感想を述べる二人に対し、バージニアは少し俯きつつ言葉を返す。
「……そう、ね。綺麗だとは思うわ」
「あんたの大切なひとも、そんな感じでした?」
 更に投げかけられる言葉に吸血鬼は少し黙り込み――小さな頷きで答えていた。

「……やっぱり月を見ると、あの人のことを思い出すの。貴方達はそういうことって、あるかしら」
 バージニアの視線はネムリアへと投げかけられている。
 恐らく彼女の言葉に自分と同じものを感じたのだろう。そしてそれはセロにも勿論伝わっていた。
「……ネムリアの大切な子は?」
「ボク? あの子は……優しい夜みたいな子、だったよ」
 どこか遠い場所に思いを馳せるように、ネムリアは目を細めて空を見上げる。
 今日みたいな月の夜は、きっとこの子の心を癒やしてくれるのだろう。
 ネムリアの愛しげな視線を見遣り、セロはあいも変わらず笑顔だったけど――その瞳には、いつもよりも優しい光が湛えられていた。
「――優しい夜は、いいですね。真っ暗よりは、月がありゃなおいい」
「うん。ボクも、そう思う」
 悲しい離別があって、それを思い出すものがあったとしても。それでも、思い出は心を支えてくれる。一人きりじゃないと教えてくれる。
 月の光が、なんだかそう伝えてくれている気がした。

 猟兵達の様子を眺めるバージニアも幾分か表情が和らいでいるようだ。
「大切な人を思い返す……。そういう勇気が私にはなかったのかもしれないわ。でも貴方達を見ていると、前に進めそうな気がするの」
「それなら……ねぇ、今ならソイツのこと、すきって言えますか、バージニア?」
 セロの言葉はいつでもストレートだ。
 それはきっとバージニアの素直なココロを知りたいから。ネムリアの抱いているものと似ていて違う、そんなココロを垣間見たいから。
 そしてその気持ちはネムリアも同じだった。バージニアの心が識りたい。だから、今は月のように優しく彼女を見守っている。
 二人の素直な想いに応えるように、吸血鬼はゆっくりと言葉を紡ぐ。
「……ええ、言えるわ。私、彼のことが好きだったの。ううん、今も、好き」
 これからも月を見る度に愛しい人のことを思い出すだろう。けれど、バージニアはもうその想いから目を逸らさないはずだ。
「その言葉を聞いて安心したっつーか……なんか、楽しいですね!」
「ボクも嬉しいよ。もう少し、話を聞かせてもらっていいかな?」
「ええ、勿論。どこから話しましょうか?」
 手元には可愛いお菓子、空には優しい月の光、そして地上では暖かな思い出話を。
 当たり前だけど幸せな光景と共に、三人の夜は楽しく更けていくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

曲輪・流生
(深く悔いるバージニアの傍に寄って)
バージニアさん、お月様綺麗ですよ?
まだ見るのは辛いですか?
もし、辛くないのなら見てみてください。
今宵のお月様は本当に綺麗ですから。
(バージニアが月を見れば嬉しそうに笑って)

カクリヨで触れるものは世間知らずの僕にはどれも新鮮で…お月様の綺麗さも知ってるつもりではいましたが。こんなに綺麗なのは初めてです。

でも、きっとバージニアさんはもっと綺麗な月を知っているんでしょうね。
大切な人…それが一番綺麗なお月様です。

(出店に目が行くとそわそわして)
あの!お小遣いもらったので何か買いたいと思うのですがバージニアさんは何がおすすめですか?




 バージニアも猟兵と過ごしている間は気分が晴れているようだが、一人になればまた寂しく反省に没頭している。
 そんな彼女の元へ、曲輪・流生がそっと近づいていた。
「バージニアさん、お月様綺麗ですよ?」
「ええ、本当ね。ちょうど満月だし……」
「今宵のお月様は本当に綺麗ですから。お辛くなさそうで、安心しました」
 バージニアは反省中ではあるものの、月に対しては幾分か素直になっているようだ。
 その様子が嬉しくて、流生は柔らかく目を細めた。

 もっと月をしっかり見たい。
 そう考えた二人は共に公園を歩み、開けた場所から空を見上げる。
 空には煌々と輝くお月様、地上を見れば出店や行列の灯りが周囲を照らし出している。
 その美しい光景に流生の瞳もきらきらと輝いていた。
「お月様の綺麗さも知ってるつもりではいましたが。こんなに綺麗なのは初めてです」
 消えかけていた竜の神様は、偶然とはいえ煌めく世界の美しさを知った。
 その様子が微笑ましかったのか、バージニアの表情もどこか和らいでいる。
「でも、きっとバージニアさんはもっと綺麗な月を知っているんでしょうね」
「そうかしら?」
 きょとんと首を傾げるバージニアの手を、流生がそっと握る。
「大切な人……それが一番綺麗なお月様です」
「……そうね。あの人が私にとって一番素敵な月だったわ。もう、忘れないから」
 バージニアは思い出から逃げず、それを胸に生きることを選んだようだ。
 忘れない。たった一言だけど、その言葉が優しく響いた気がする。
「はい、バージニアさんが忘れなければその人もきっと喜びますから」
 流生も今日一番の笑顔を彼女へと返していた。

 公園を更に進んでいけば、ちょうど出店が並ぶ地点までやってくる。
 すると流生の瞳は先程までとは違う、興味の色で輝き始めた。
「あの! お小遣いもらったので何か買いたいと思うのですが、バージニアさんは何がおすすめですか?」
「ふふ、いいわねそういうの。それなら……」
 楽しく雑談しつつ、幾つもの屋台を見て回る二人。
 他の世界でもあるような焼きそばに綿あめといったものから、カクリヨにしかないような不思議な天ぷらに骸魂ケーキまで。気になるものはたくさんあった。
「そうね、二人で色々買って半分こしてみましょうか」
「わ、ありがとうございます! それならたくさん試せそうです……!」
 きらきら輝く出店を回り、美味しいものを分け合う。
 当たり前だけど新鮮な光景が不思議と愛おしくて、楽しくて。流生にとって、また一つ新しい世界の思い出が出来上がっていくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

藤野・千歌
舞(f29209)と
ええ、お祭り、好きよ。
舞さんは?

舞がまだ舞という名前ではなかった頃。
すでに忘れられてしまった過去の話。

二人でお祭りに出かけたの。
それでそろそろ帰ろうかとなったとき。
お祭りが、楽しい時間が終わるのが惜しくて泣き出してしまった私に、約束をしてくれたのよね。
また一緒にお祭りに来ようって。

でも、そのあと色々あって叶うことはなかった。
それが今になって不意に叶うなんてね。

金魚すくい?いいわね。
私、結構得意よ。

色々コツはあるけど、好きにやっていいのよ。
緊張しなくても大丈夫。

黒の出目金だけもらっていこうかしら。
……舞さんは飼わないのよね?
じゃあその子も私が貰っても良い?
使い魔が欲しかったの


黒蝶・舞
藤野さん(f29382)と

藤野さんはお祭り好きですか。

私は……わかりません。
でも、皆さん笑顔ですからきっとよいものですよね。

お祭りが好き、そう言ったものの藤野さんはどことなく影があるような様子だ。
どうにかそれを晴らせないだろうか……あ、

金魚、お好きなんですよね。
金魚すくい、やりませんか。

動き回る金魚に手を出せず、固まる僕を見て藤野さんが笑う。

結局、僕は和金一匹すくうのがやっとだった。
一方、藤野さんは鮮やかな手つきで金魚を掬っている。
何匹か和金を掬ったのち、水槽の目玉であろう出目金を掬ってポイが破れた。
私ね、一回出目金を掬ってみたかったの、そう言う藤野さんは満足げだ。

影のない、彼女らしい笑顔だ




 ゆらゆら揺れるお祭りの灯り。
 不思議と懐かしさを想起させる光景を前に、藤野・千歌(祭り終わりの寂寥に・f29382)と黒蝶・舞(桜の精の止まり木・f29209)は並び立っていた。
「藤野さんはお祭り好きですか」
 ぽつり、舞が千歌へと問う。なんてことはない、何気ない質問だ。
「ええ、お祭り、好きよ。舞さんは?」
「私は……わかりません。でも、皆さん笑顔ですからきっとよいものですよね」
 周囲を見れば妖怪達は楽しく夜を楽しんでいる。
 その光景も微笑ましいものなのに――何故か胸がざわついた。
 それはきっと、千歌の答えが何かを噛みしめるように感じたから。
「(……舞さんは、やっぱり忘れてしまっているのね)」
 彼女が思い起こしていたのは、隣に立つ男性が違う名前だった時の思い出。
 あの時も二人でお祭りに遊びに来たのだ。そして別れ際に寂しくなって、楽しい時間が終わるのが惜しくなってしまって。
 ぽろりと涙を零す千歌に、彼は約束してくれたのだ。
 また一緒にお祭りに来ようって。
 きっと舞はその約束を覚えてはいないだろう。彼の記憶は黒い蝶が蝕んでしまった。
 その願いが不意に叶ったことを思い、千歌は少し目を細める。その視線が見つめているのは遠い過去だろうか、それとも今の光景だろうか。
「……藤野さん?」
「……大丈夫よ。ちょっと思い出すものはあっただけ」
 心配そうに顔を覗き込んできた舞へ対し、千歌は何気なく言葉を返す。
 それでも彼女の気分は晴れてはいないだろう。どうにかしたい、と考えた舞は――とある出店へと目を遣った。
「……あ。金魚、お好きなんですよね。金魚すくい、やりませんか」
「金魚すくい? いいわね。私、結構得意よ」

 金魚すくいというものは知識として知っていたが、実際に動き回る金魚というのは予想以上に元気いっぱい。
 その光景を前にして、舞はポイを片手に硬直していた。
「……すごいですね」
「色々コツはあるけど、好きにやっていいのよ。緊張しなくても大丈夫」
 舞に見本を示すように、千歌が器用にポイを操る。
 一匹二匹、次々と金魚が器に掬われていく光景はなんとも愉快だ。
「ほら、こうやって……」
「ええっと……あっ、一匹だけ……掬えましたね」
 舞も見様見真似でポイを手繰るが、掬えたのは和金一匹。
 けれどこれも貴重な一歩だ。千歌も楽しそうに笑みを零している。
「っと、私もこれで終わりかしら」
 彼女の器には数匹の和金に、大きな出目金が一匹。
 私ね、一回出目金を掬ってみたかったの。そう呟きつつ金魚の袋を受け取る千歌の笑みからは、暗い影は消えていた。

「藤野さんが嬉しそうで私も嬉しいです。金魚もたくさん……」
「そうね。この子達、どうしましょう? 黒の出目金だけもらっていこうかしら。舞さんは?」
「私は……特に飼うつもりは。水槽に返してあげようかなと思うのですが……」
 舞が持った袋をじぃと見つめ、千歌は少しだけ考え込む。
 確かに飼うつもりがないのなら、水槽へと戻してあげるのがいいだろう。けれど、舞が掬った金魚からは不思議な縁が感じられた。
「じゃあ、その子も私が貰っても良い?」
「はい、それならどうぞ。可愛がってあげてくださいね」
「ちょうど使い魔が欲しかったの。ありがとう、舞さん」
 そっと袋を受け取り、二人は優しく笑みを向け合う。
 あの日の思い出は遠い過去になってしまったけれど、それでも二人には未来がある。
 今日のことも新しい思い出として優しく降り積もってくれるはずだ。

「綺麗な月に楽しいお祭り。それから可愛い金魚に……素敵な思い出が出来たわね」
「はい。私も楽しかったです……また、一緒にお祭りへ行きましょう」
 積み重なるのは思い出だけではない。新しい約束を胸に、千歌の表情は柔らかなものへと変わっていた。
「……ええ、約束よ。また、来ましょうね」
 大丈夫。今日は寂しさに心を奪われたりしない。偶然とはいえ嘗ての約束が叶ったのだから、これからだってあるはずだ。
 千歌の前向きな想いに応えるように、舞も小さく笑みを返す。
 それは直感的なものだったのだろうか。ただ目の前の女性が嬉しそうに笑っているだけなのに、なんだか心が不思議と暖まるのだ。
 失われたものは帰ってこない。それでも、これからは作っていける。

 二人の未来を紡ぐかのように、袋の中では二匹の金魚が楽しく舞い踊っている。
 そして――月の光が、柔らかく二人を照らし出していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

茜崎・トヲル
祭りだー! たのしいことは大好きだぜ! みんなが楽しそうだから!
よーし猫又のひとたちをさそってえー、バージニアちゃんとこにとつげきだ!
やっほー! げんきしてる? おちこんでるの?
元気になあれ! 猫又さんとあそんで元気になあれ!
コーカイしたってしかたないってえ! この世界にいるんならだれだって骸魂にのっとられちゃうカノーセイがあるんだから!
今日はあんただった! つぎはべつのひと! それだけだよお。
だから今日はあそぼーぜ! えーきをやしなうってやつ!
そんでつぎにのっとられた妖怪のひとが出たら、そんときはあんたが助けたげてね!
でもね。気が乗らねーなら、おれの隠れ蓑かしたげるから。ゆっくりしててね。




「祭りだー!」
 瞳をきらきらと輝かせ、全身で楽しさを表現しつつ茜崎・トヲルは幽世の夜を駆けた。
 みんなが楽しそうだから、たのしいことは大好きだ。周囲の熱気にあてられて心は更に大きく弾む。
「猫又のひとたちもいっしょに行くぜー!」
 ぱたぱた駆けるトヲルの後ろには、数匹の猫又達が列を為す。骸魂から解放されても猫又達はふわふわもふもふ、あいも変わらず楽しそうだ。
 そんな一行が目指すのは――。
「そんで、バージニアちゃんとこにとつげきだ!」
 落ち込む吸血鬼の元だった。

「やっほー! げんきしてる? おちこんでるの?」
「わっ、びっくりした……。そうね、あんなことをしてしまったのだもの」
 戦闘の時からトヲルの様子は大きく変わっていない。
 そんな彼のからりとした様子はバージニアにとっても落ち着くようだ。けれど反省中な気持ちはそう簡単に変わるものでもなくて。
「元気になあれ! 猫又さんとあそんで元気になあれ!」
「わ、わわ……」
 不意にふわもふの猫又達をけしかけられ、バージニアは目をぐるぐると回している。しかし気は紛れているのか、彼女の肩の力もどこか抜け始めているようだ。
「コーカイしたってしかたないってえ! この世界にいるんならだれだって骸魂にのっとられちゃうカノーセイがあるんだから!」
「で、でも」
「でも、じゃないよ。今日はあんただった! つぎはべつのひと! それだけだよお」
 当たり前の事実だけれど、トヲルの言葉は真っ直ぐだ。
 だからこそ想いも真っ直ぐバージニアに届いている。彼女は猫又達を撫でつつ、少しずつ表情を和らげていた。

「……ありがとう。そう言ってもらえると、少し気分が楽になるわ」
「それなら今日はあそぼーぜ! えーきをやしなうってやつ!」
 トヲルはバージニアの手を取り、共に夜の公園を駆け出していく。
 下を向いて落ち込んでいても、前を向いて走っていても、時間は同じように過ぎ去っていく。
 それならきっと楽しい方がいいだろう。二人でからから咲いつつ、月の光を全身に浴びれば胸も弾む。
 猫又達も二人の後ろをころころと着いてきているようだ。
「そんで、つぎにのっとられた妖怪のひとが出たら、そんときはあんたが助けたげてね!」
「わ、私が?」
「うん! あんたならだいじょーぶ、必要ならおれたちも駆けつけるからさー!」
 世界の法則も簡単に変わりはしない。骸魂は変わらず幽世で暴れるし、そうなれば立ち上がる者がいる。
 当たり前だけど、それだけで終わらない。そんな約束が二人の間に確りと交わされていくようだ。
「そうね……次があるなら、私も頑張るわ」
「うん、一緒にがんばろー!」
 足を前へと踏み込めば、気分も合わせて前へと進む。
 そのことを実感しつつ、楽しい夜は過ぎていくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御乃森・雪音
さあ、出店でも見に行こうかしら。
バージニアも誘えるかしらねぇ。仲良くなりたい、って言ったでしょ。
反省しているなら、一緒に行くから。自分で謝った方がきっと後々気楽だと思うの。
落ち込んでるようなら腕を組んで引っ張り出すわね。

何があるんだろ……りんご飴やいちご飴を売ってるお店なんか定番よねぇ。
折角だから食べ物もそうだけど、お揃いに何か買っちゃうのも良いわね。
赤と、黒と……お互いの色の硝子細工でも。金魚とかだとそれっぽいんじゃない?
ほら、貴女が黒ね、アタシが赤を貰うから。
これから沢山増えるはずの楽しい思い出の一つ、記念になると思うわ。
月が綺麗ね……ほら、失くさないで良かったでしょう?




 お祭りといえばやっぱり出店。そう考えた御乃森・雪音は、夜のようなドレスの裾を翻しながら公園の中を進んでいる。
 彼女の傍らにはバージニアも立っていた。どこかバツの悪そうな様子で雪音と腕を組み、共に出店を見て回っている。
「その……本当に、いいの? 私、貴女達にも酷いことをしたわ」
「仲良くなりたい、って言ったでしょ。反省しているならそれで十分よ。皆に謝りたいのなら自分で謝った方がきっと後々気楽だと思うし」
「……そうね」
 おどおどする吸血鬼の女に対し、周囲の妖怪達はあまり気にしてはいないようだ。
 骸魂が事件を起こすのは日常茶飯事、そこにバージニアが本来滲ませた悪意はなかった。だから気にすることは何もない。
 雪音は縮こまるバージニアの背を軽く押し、姿勢を正すようにと軽く促した。
「ほら、お祭りだって楽しまないと損よ。さあ、何から見て回りましょう?」
 きらきら煌めく灯りを見れば、気分だってきっと華やぐだろう。
 二人の女は気心の知れた友人同士のように並び立ち、更に出店の間を進んでいく。

「何があるんだろ……りんご飴やいちご飴を売ってるお店なんか定番よねぇ」
「そうね。どれも美味しそう……あとは、雑貨とかかしら?」
 きょろきょろと周囲を見回し、二人が同時に視線を投げたのは――小さな硝子細工の店だ。
「ああ、あれなんか綺麗ね。せっかくだからお揃いに何か買っちゃうのも良いわね」
「お、お揃い?」
 戸惑うバージニアにウインクを投げかけ、雪音は硝子細工の元へと歩を進める。
 小さな妖怪を模したものから、可愛らしい生き物を象ったものまで。硝子細工の種類は予想以上にたくさんあった。
「これとか可愛らしいんじゃないかしら。ほら、見て」
 雪音が手にとったのは赤と黒の小さな金魚だ。出店の眩い光を浴びて、金魚もきらきらと煌めいている。
「ほら、貴女が黒ね、アタシが赤を貰うから」
「わぁ……素敵ね。どっちの色も可愛いわ」
 二人で二匹の金魚を見つめ、楽しく笑みを浮かべて。眩い光景はバージニアの心も解してくれているようだ。

「これから沢山増えるはずの楽しい思い出の一つ、記念になると思うわ」
「うん、ありがとう。そうね……思い出は、これからも増えていくのね」
 少しだけ出店から離れ、二人は改めて金魚を見つめる。
 今度は空からの月の光が金魚を照らし、柔らかな光を返してくれていた。
「月が綺麗ね……ほら、失くさないで良かったでしょう?」
「……ええ。月がなければ、こんな光景も見られなかったもの。改めて、ありがとう」
 謝罪だけでなく感謝も忘れず。新たな思い出を胸に、二人のこれからも続いていくだろう。
 辛い過去は変えられなくても、楽しい未来は作っていける。それを示唆するように、月の光が二人を包み込んでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

パルピ・ペルポル
ふふ。みんなが大喜びしてる様子を見るのは悪くないわね。
せっかくだしわたしも楽しみましょ。

焼きそばとわたあめを2人分ずつ買ってバージニアのところへ行くわ。
「死んでお詫びする」とか言い出すタイプではなさそうだけど、ほっとくのもねぇ。
とはいえわたしが言えることって「忘れようと思っているうちは絶対に忘れられない」ってことだけだけどね。
忘れたい対象に意識が向けば向くほど忘れがたくなるものよ。
だからまずは焼きそば食べなさい。お腹すいてるとろくな事考えないし。

その後は一緒にわたあめ食べつつ出店見て百鬼夜行見たり混ざったり。
あの人のことを思い出す余裕もない程度に連れまわしてあげましょ。




 周囲を見れば、どこもかしこも祭りを楽しむ妖怪だらけ。
 そんな光景を前に、パルピ・ペルポルの表情も華やいでいた。
「ふふ。みんなが大喜びしてる様子を見るのは悪くないわね」
 せっかくだからわたしも楽しみましょ。そんな想いを胸に、パルピが目指すのはたくさんの出店の方角だ。
 見た目に反して力持ちの彼女ならば、二人分の焼きそばとわたあめを抱えても問題なく空を舞える。
 目指すは落ち込む吸血鬼の元。こんなに楽しい夜なのだから、誰かが悲しんでいるのは見過ごせないのだ。

「バージニア、大丈夫?」
「え、ええ。貴女もすごいことになっているけれど……」
 焼きそばと綿あめを手渡されつつ、バージニアはパルピを見つめる。
 その様子から戦闘時の苛烈さは消え失せており、目の前の吸血鬼はどこか小さく見えていた。
 幸いなことに彼女は『死んでお詫びする』なんて言うタイプではなさそうだ。心の問題もいずれ時間が解決してはくれるだろう。
 けれど、放っておくのも何か違う。
「……わたしが言えることって『忘れようと思っているうちは絶対に忘れられない』ってことだけだけどね」
 バージニアの想い人との思い出自体はきっと昇華されていくはずだ。
 けれど、それまで心の痛みと向き合い続けるのはなかなか過酷なものがあるはずで。
「忘れたい対象に意識が向けば向くほど忘れがたくなるものよ。それが大切な思い出でも、あなたの心が痛むのならば無視できないわ」
「……そうね。だから私、あんなことをしちゃって……」
 再び俯くバージニアへ向け、パルピはずずいと割り箸を差し出した。
「だからまずは焼きそば食べなさい。お腹すいてるとろくな事考えないし」
「……ありがとう。いただきます」
 割り箸を素直に受け取って、バージニアはゆっくりと焼きそばを口にする。
 香ばしいソースの香りは不思議と心を和らげてくれるものだ。パルピも吸血鬼の隣に腰掛け、共に焼きそばを食べていく。

「次は綿あめね。出店や百鬼夜行も気になるわ。さっきの猫又達も元気かしら……」
「すごい……次々予定が浮かぶのね」
 これからへと想いを馳せるパルピに向け、どこか眩しそうな視線を投げるバージニア。
 彼女の言う通り、パルピは決して立ち止まらない。共にバージニアを連れ立って、どこまでも夜を駆けていきそうだ。
「そうよ。あの人のことを思い出す余裕もない程度に連れ回してあげるから。思い出は、そのあとゆっくり反芻すればいいわ」
 傷がかさぶたに変わっていけば、きっと先へと歩んでいける。
 パルピのそんな気遣いが嬉しくて、バージニアは目を細めていた。
「そうね、ありがとう。それなら……今夜は目一杯楽しまないとね」
「その意気よ。さあ、どんどん食べて遊びましょ」
 月の光を浴びながら、二人が考えるのは今日の楽しみ方。
 その想いは、きっと未来へ進む糧へと変わっていくはずだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒鵺・瑞樹
アドリブOK

月が戻ってきた。あぁ本当に綺麗だ。

伽羅に陸奥、それと猫又連れてバージニアの所へ。
猫又か陸奥を彼女に渡してもふらせてみる。
温いしもふもふだし落ち着くんじゃないか?悔いて反省してるなら特に説教とかもいらないだろう。
残った子たちを撫でながら考えてしまう。
俺は「思い出すから」って理由で月を消そうとした彼女を少し羨ましいと思う。
なんというか、ちゃんと自分を持ててるんだなって思った。
俺は俺自身に価値を見出せない。だから自分を消してしまおうと思った。
信念は持てても何かを消耗してるみたいに空っぽになってく気がして、だんだんと何のために戦うのか知ってるのにわからなくなる。
だから少し彼女が羨ましい。




 月が空に輝いている。そんな当たり前の光景なのに、いつもより美しく感じられて。
 空を見上げながら、黒鵺・瑞樹は静かに目を細めていた。
「あぁ、本当に綺麗だ」
 傍らの伽羅に陸奥、それに着いてきた猫又達を軽く撫でつつ、今度はゆっくりと歩を進めて。
 目指すは落ち込む吸血鬼の元だ。

「バージニア、少し肌寒くないか?」
「こんばんは。確かに……言われてみると、少し寒いかもしれないわ」
 軽く腕を撫でるバージニアへ向け、瑞樹が差し出したのは白虎の陸奥に猫又達。
「それならこの子達を撫でてみないか? 温いしもふもふだし落ち着くかもしれない」
「そうね、あったかそう……。皆ふわふわね」
 ふわもふの生き物達を撫でるバージニアは、本当にただの気弱な吸血鬼にしか見えない。
 彼女が本来抱いていた悪意はなく、今は大人しく反省している。それなら事件に関してこれ以上とやかく話す必要もないだろう。

 伽羅や他の猫又達を撫でながら、瑞樹はじぃとバージニアを見つめる。
「……俺は、少しだけバージニアは羨ましい」
「私が?」
「なんというか、ちゃんと自分を持ててるんだなって思った」
 バージニアは『愛しい人を思い出すから』月を消した。それだけの強い願いが彼女の中にはあったのだ。
 行ってしまったのは凶行だけれど、胸に秘めた思いは眩しく感じられて。
 瑞樹は自分自身に価値を見いだせていない。だから、自分が消してしまうならば――きっと自分自身を選んでいただろう。
 信念が持てるとしても、何かを消耗してるみたいに空っぽになってく気がする。
 だんだんと何のために戦うのか知ってるのにわからなくなる。それが正しい在り方なのだろうか。
「……私はただ我儘なだけよ。それに皆を付き合わせてしまっただけ」
「それでも、羨ましい。俺はきっと、そんな方法は選べなかっただろうから」
 瑞樹に対し、バージニアの投げかける視線は穏やかなものだ。その穏やかさはきっと彼女が本来持っていたものだろう。
「それなら、自分がどういう道を選んだとしても……後悔しないようにしてみるって、どうかしら。私が言うのは変だけれど」
 実際私が後悔しているしね、と寂しく笑う吸血鬼。
 けれどその笑みは月に照らされて柔らかく見えた。
「……そんな風に、思えたらいいな」
 瑞樹も寂しげに笑みを零し、バージニアへと向き直る。
 心に芽生えた寂しさを埋めるように、手元の暖かさがそっと二人を支えてくれていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フレズローゼ・クォレクロニカ
💎🐰
アドリブ歓迎

まんまるお月様が帰ってきたよ、兎乃くん!
ふふん、月で兎が餅つきしてるようなのさ!
ルナティック、ていうんだっけ?何か浮き足立っちゃうよね!

わあわあ、屋台たちがボクらをよんでるよ!
百鬼夜行?
もちろん、もう予定に組み込み済みさ
美味しいもの食べながら、妖達のパレードをながめるのも乙なものなのさ!

お月様みたいな焼きまんじゅうを食べながら、楽しげなキミの笑顔に笑顔を重ねる
ふふん、勿論やりたいの全部さ!
射的もヨーヨー釣りもやろう
兎乃くん、ボクは負けないからね!

白熱して遊んだ後は、手渡された甘い苺に心が跳ねる
いちご飴、好きなの覚えててくれたの?
イケメンだね、兎乃くん!

ひゃー!壮観なんだ!


兎乃・零時
💎🐰
アドリブ歓迎

やったなフレズ!月が戻ってる!
やっぱないとあるとじゃかなり違うな!きらきらしててめっちゃ綺麗だし!

おぉ!見ろよフレズ!
出店いっぱいだし
妖怪もなんかいっぱい集ま…百鬼夜行!?
後で見に行こうぜ!
良いなそれ!
食べながら眺めるのも楽しそうだ!

出店…どうせなら全部回りてぇけど、何から回るよ?
俺様射的とかヨーヨー釣りとかその辺も…
そうだな、折角だしやりたいこと全部やるか!
ふふふ
俺様だって負けねぇからな、フレズ!

あ、そうだフレズ
この味好きだったろ、はい!

屋台で買ったいちご飴をフレズに渡しつつ
自分の分も食べつつ

そりゃこんぐれぇは覚えてるさ
イケメン…え、そうか…?(嬉し気

百鬼夜行スゲーー!!




 空を見上げればまんまるのお月様。きらきら輝く月は、当たり前の光景なのに見ていると気分が弾む。
「見てごらん兎乃くん! 月で兎が餅つきしてるようなのさ!」
「ほんとだ、月が戻ってる! やったなフレズ、やっぱないとあるとじゃかなり違うな!」
 全身で月光を受け止めながら、楽しく駆け回るのはフレズローゼ・クォレクロニカと兎乃・零時。
 足取りは軽やかに、顔には華やいだ笑顔。そんな様子の二人ならば、このままどこまでも走っていけそうだ。
「ルナティック、ていうんだっけ? 何か浮き足立っちゃうよね!」
「そうだなぁ。月の光もきらきらしててめっちゃ綺麗だし!」
 勢いのまま目指すのは立ち並ぶ出店の方角。
 周囲には祭りを楽しむ妖怪に、百鬼夜行の行列も見えている。
「おぉ! 見ろよフレズ、出店いっぱいだ! 百鬼夜行ってのもすげーな!? 後で見に行こうぜ!」
「わあわあ、屋台たちがボクらをよんでるよ! 百鬼夜行だって勿論さ。行こう、兎乃くん!」
 まずは出店で美味しいものをたくさん買って、それからのんびり百鬼夜行を眺める乙なプランも考案済みだ。
 食べ物も行事も全力で楽しむ。きらきらの月の下であらゆることを楽しむために、フレズローゼと零時は更に力強く地を蹴った。

 しかし出店の種類はかなりたくさんあるようだ。どこから行くべきか、どう進むかはなかなか悩みどころだろう。
「どうせなら全部回りてぇけど、何から回るよ? 俺様、射的とかヨーヨー釣りとかその辺も……って」
 零時がフレズローゼへと視線を投げかければ、彼女の腕と口元には既に美味しそうなものが収められていた。
「フレズ、それは何だ?」
「焼きまんじゅうさ。お月様みたいで可愛いだろ? 兎乃くんもどうぞ」
「ああ、ありがとな。確かにまんまるで可愛いぜ……」
 二人でもちもちの焼きまんじゅうを口にしつつ、さてさてどこへ向かおうか。
「それで、どこに行くかだよね。それは勿論――ふふん、やりたいの全部さ! 射的もヨーヨー釣りもやろう!」
「そうだな、折角だしやりたいこと全部やるか!」
 時間はまだまだたっぷりあるのだ。やりたいことは全部やらなきゃ損だ。
 そして何よりこの場には二人で遊びに来ているのだ。そうとなれば――。
「兎乃くん、ボクは負けないからね!」
「ふふふ、俺様だって負けねぇからな、フレズ!」
 競い合って遊ぶことだって出来る! これが友達と祭りに行く醍醐味だろう。

「あー、楽しかった。いい勝負だったよね!」
 射的はフレズローゼが大きなぬいぐるみを撃って勝利、ヨーヨー釣りは零時の方がたくさんキャッチ。
 二人の勝負は白熱し、結果は五分五分に収まった。
 景品として貰った妖怪のぬいぐるみを抱き締めつつ、フレズローゼはからから笑う。
 そんな彼女の眼前に――不意に、薄桃色の塊が差し出された。
「あ、そうだフレズ。この味好きだったろ、はい!」
「これって、もしかして……」
 塊の先にあったのは零時の笑顔。フレズローゼも塊を受け取り、鼻を擽る甘い香りに胸を弾ませていた。
 零時が手渡してくれたのは、大好物のあまいあまいイチゴ飴だったから。
「いちご飴、好きなの覚えててくれたの?」
「そりゃこんぐれぇは覚えてるさ」
 アクアマリンに似た色合いのソーダ飴を舐めつつ、零時はあっさりと答えを返す。
 それでも、大事な親友が自分のことを覚えてくれているのが何よりも嬉しくて。フレズローゼの表情は、今までよりも華やいだ笑顔に変わっていた。
「イケメンだね、兎乃くん!」
「イケメン……え、そうか……? へへ、嬉しいなぁ……」
 今までにない形容をされ、少し照れたように笑う零時もとても楽しそうで。
 二人で思い出を重ねつつ目指すは百鬼夜行のパレードだ。

 妖怪達は楽しく列を作りつつ、町の中を練り歩いている。
 街灯や灯籠は控えめに、空に輝く月を一番の照明にしつつの大行列。なのに、百鬼夜行には不思議な迫力が宿っていた。
 それは彼らが夜の世界に生きる妖怪だからだろうか。それとも帰ってきた月が皆を祝福してくれているのだろうか。
「百鬼夜行スゲーー!! 大迫力だな!!」
「ひゃー! 壮観なんだ! インスピレーションがどんどん湧いてくるようだよ!」
 甘い飴を片手に、零時とフレズローゼも瞳をきらきらと輝かせている。
 これだけの妖怪が複雑な列を為すというのは、何か魔術の参考になるだろうか。
 光の使い方、湧き上がる不思議な迫力、それらをキャンバスに描いてみるのもきっと楽しい。
「今日のことは忘れられない思い出になりそうだよな!」
「うん! またこんなお祭りに遊びに行こう!」
 未来への約束もしつつ、二人は更に百鬼夜行に夢中になっていく。
 楽しい思い出、美しい光景、当たり前だけど暖かな世界。それら全てが二人の糧になり、未来を紡いでいくのだ。
 それが二人にとっての夜の楽しみ方。最高の景色を胸に抱いて、朝を迎えてもきっと想いは消え去らない。


 こうして楽しい夜は更け、皆がそれぞれの思い出を刻んでいった。
 猫又達も、寂しい吸血鬼の女も月の光を浴びながら、今夜の思い出を重ねただろう。
 そしてその全てを包み込むように、空には眩く月が輝く。

 世界の終わりは回避され、迎えるのは明日の朝。
 当たり前のように巡る日々もまた、この世界に生きる人々を包んでいくのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年12月11日


挿絵イラスト