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機械美女は零下の屋敷で震えて座す

#アルダワ魔法学園 #猟書家の侵攻 #猟書家 #ドクター・パラケルスス #ミレナリィドール

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●北方帝国・ヘザー市「ダルトン子爵家・本邸」
 ヘザー市の中心部から外れたところに本邸を構える貴族、ダルトン子爵家。
 いくつもの有名な宝石を所有することで知られているこの子爵家の屋敷には、度々宝石を取り扱う商人が訪れる。
 今日もまた、そんな商人が商談にやってきた。
「失礼します、ハイドン商会のオスカー、ただいま到着いたしました」
「まあオスカー様、いつもお世話になっております。どうぞお入りください、旦那様も心待ちにしております」
 そう言いながら、ミレナリィドールの女性使用人が恰幅のいい人間の商人を出迎える。扉を開いて商人を招き入れる彼女は、その扉が開いた隙に屋敷の中に潜り込んだ、全身を覆うコートにペストマスクといった奇怪な風貌の男の存在には気付かない。
「……」
 使用人が商人を応接室に案内する傍らで、ペストマスクの男――幹部猟書家、ドクター・パラケルススは動き出す。彼は静かに屋敷の中を隠れるように進んで、一つの部屋に身を滑り込ませだ。
「この屋敷には、この国には、病人がいます……重篤な病人が、幾人も」
 その部屋はいくつもの宝石が安置されていた。宝石の一つ、抜けるような青空の色をしたダイヤモンドへと、彼は近づいて懐に手を入れる。
 手袋をしたその手に握られているのは、小さな卵。
「治療しなければならない。私の手で、その全てを……」
 そう独り言ちながら、ドクターは卵をダイヤモンドに押し付ける。とぷんと表面が揺らぎ、卵を飲み込んだダイヤモンドの内部が、おぞましい色に染まって蠢き出した。

●グリモアベース
「猟書家の新たな動きを突き止めた。先輩たちには対処をお願いしたい」
 イミ・ラーティカイネン(夢知らせのユーモレスク・f20847)は開口一番そう告げながら、鋭い眼差しを猟兵たちへと向けた。
 あちこちの世界に進出しては、災魔が再び溢れ出す世界にするべく暗躍する猟書家たち。猟兵たちの働きでその動きを抑え込みだしてはいるが、まだまだこちらの力が足りないと言ったところだ。
 事件が予知されたなら、対処しなくてはならない。それが世界を守る力になる。
「猟書家の名前はドクター・パラケルスス……ペストマスクを被った医者の姿をして、『この世界の住人は皆病んでいる、私にしか治療できない』と嘯きながら、人々を改造して自分の理想とする世界に変えようとしている奴だ」
 そう話しながら、イミはグリモアから投影する映像を巻き戻す。映像に映し出される黒いロングコート姿にペストマスクを被った男が、屋敷の中をゆっくり歩く姿で一時停止してから、イミが小さく舌を打った。
「治療とは言うが、その実無茶苦茶な人体改造だ。改造された側はたまったもんじゃない……身体は強靭になっても、心は壊れて狂人まっしぐらだ」
 そう声を発して表情を歪めながら、イミが映像の中のペストマスクを睨みつける。周囲の反応など気にもしない、究極に独善的な男だ。生半可な制止の言葉など、一顧だにせず自分のやろうとすることをやるだろう。
 イミが再び映像を巻き戻す。大きく映し出されるのは夢の冒頭部分、街中に佇む大きな屋敷の姿だ。
「で、だ。俺の予知によると、このヤブ医者は北方帝国のヘザー市に姿を見せる。そこに屋敷を構える貴族の家に侵入して、宝石に『災魔の卵』を埋め込むんだ……今、映像で見せたようにな」
 再び映像を再生しながらイミは説明した。豪奢な調度品に、毛足の長い絨毯。客人も家人もみな微笑んで仲睦まじく、楽し気な時間を過ごしている。この後に、眠らされて狂人のいいように身体を弄られるとも知らずに。
「屋敷の中は、災魔化した宝石が吐き出す催眠ガスが充満している。ただ眠らせるだけならまだしも、このガスは随分低温なようだ。ガスを吸い込んでも先輩たちは眠りにつくことは無いだろうが、身体は冷える。そこには気をつけてくれ」
 イミが説明をしながら、屋敷の中を映す。ペストマスクの男が部屋に入る映像は映っていなかったが、屋敷のどこかであることは間違いない。
「あぁ。それと……このガスは屋敷の人間のほとんどを眠らせているが、唯一、屋敷の使用人であるミレナリィドールの女性だけは眠っていないようだ。彼女の居場所を突き止めれば、ヤブ医者が災魔化した宝石の居場所も分かるだろう」
 そう話しながら、イミは夢の冒頭部分で出てきた使用人の女性の顔を画面に映した。
 金髪を結い上げた、可憐な姿の女性だ。首元や手首には確かにミレナリィドールらしい要素が見える。元々人形である彼女には、改造の必要がない、ということなのだろう。
 使用人ということであれば、屋敷の中には詳しいはずだ。きっと力になってくれるだろう。
「ヤブ医者は、先輩たちに有効な蒸気機械と融合した生命体を召喚する他、連れ去ってきた一般人に高速で蒸気機械との融合施術を施して自分のしもべにする。あとは脳の改造手術にも心得があるようだな」
 説明をしながら、イミがもう一度眉間に皺を寄せる。自分の手を汚さないあたり、なんともいやらしい相手だ。倒せれば改造された一般人も災魔化した宝石も元に戻るとはいえ、やはり気持ちのいいものではない。
 そこまで説明したイミが、ぐるりと猟兵たちに視線を投げる。
「以上だ。質問が無ければすぐにヘザー市の屋敷の前に転移する。よろしく頼むぞ、先輩たち」
 イミの言葉に頷いて、猟兵たちは表情を硬くする。グリモアが入ったガジェットが回転し、イミの背後にポータルが開く中。
「それにしても、ダルトン家に、使用人のパルニラか……あの二人が、里帰りなどしていなければいいのだが」
 そう言葉を漏らしながら、開いたポータルを潜っていくイミだった。


屋守保英
 こんにちは、屋守保英です。
 アルダワでの猟書家依頼二本目。どんどん運用していきますよ。
 今回は北方帝国でのお仕事です。

●目標
 ・ドクター・パラケルスス×1体の撃破。

●特記事項
 このシナリオは「2章構成」です。第2章がクリアになった時点で、シナリオが完成となります。
 アルダワ魔法学園世界の「骸の月」の侵食度合いに、成功数が影響します。

●戦場・場面
(第1章)
 アルダワ世界の「北方帝国」にある、貴族「ダルトン子爵家」の本邸である屋敷です。
 災魔化した宝石が発する催眠ガスの影響で、屋敷の中の気温が大きく低下しています。
 屋敷の構造をつぶさに把握しているマリタを探しつつ、ドクター・パラケルススの居場所を突き止めましょう。

(第2章)
 第1章と同じく、ダルトン子爵家の本邸です。
 屋敷のどこかで、ドクター・パラケルススが子爵家の人々に機械化手術を施そうとしています。

●ミレナリィドール
 マリタ・パルニラ(女性・27歳)
 ダルトン子爵家に仕える使用人のミレナリィドール。一般人。
 幼少期から子爵家の屋敷に出入りしているため、屋敷の構造や保有されている貴金属類に詳しい。

 それでは、皆さんの力の籠もったプレイングをお待ちしています。
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第1章 冒険 『極寒の凍える迷宮』

POW   :    寒いのなんて我慢するぞ!

SPD   :    寒い!素早く迷宮を抜けよう

WIZ   :    魔法で冷気を全てシャットアウト!

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🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

舞莽・歳三
医者にしちゃきな臭い野朗だぜ、ヘドが出るね
それにしても寒い…屋敷の彫刻みてーになる前にさっさと探して脱出しよう…
【ダッシュ】で屋敷中を駆け巡りながら僅かな気配を見逃さないように【索敵】するぜ、まぁこういう時は難しく考えるより【第六感】でどうにかするか



●夜が近づくまで今日は歩いてみようよ
 窓ガラスに霜が付着する。絨毯の毛が凍り付き、踏むとぱりぱりと音を立てる。
 冷気に満たされたそんな屋敷の中を、舞莽・歳三(とし・f30567)は足早に駆けていた。
「医者にしちゃきな臭い野朗だぜ、ヘドが出るね」
 悪趣味だ、どこまでも。他人を勝手に病気と断じて、手前勝手な理屈を並べ立てて手前勝手にいじくろうとする、その思考回路も、手法も。
 眉間に僅かに皺を寄せながら、歳三は廊下の左右に視線を巡らせて走る。
「それにしても、うぅっ、寒い……屋敷の彫刻みてーになる前にさっさと探して脱出しよう……」
 集中し、空を蹴って駆けながらも、身を刺すような寒さに歳三は身を震わせた。
 どれだけ意識を研ぎ澄ませていようが、ユーベルコードを発動させて高速移動していようが、寒いものはどうやったって寒い。仕方のない話ではあるが、あまり長いことこの状況に身を置くのもよろしくない。
「屋敷の人間も客も全員眠っているとすれば、起きている奴の動く音やら何やら、聞こえたら目立ちそうな気もするが……どうかな」
 そうして高速で屋敷の中を捜索しながら、歳三が廊下の角をぐいっと曲がる。目の前には階段、そして階段脇に奥へと向かう通路。
 どちらに向かうか、どちらに向かうべきか、止まって僅かに思案する。
「まぁ、こういう時は難しく考えるより第六感を頼りにして……お?」
 直感を頼りに階段脇の通路に突っ込んだその時、彼の耳に確かに、かたりと何かが鳴る音が聞こえた。
「なんかこっちの方で音が聞こえたな……行ってみるか」
 音がしたということは近いはずだ。そう信じて歳三は再び空を蹴った。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヴィゼア・パズル
変わり者が多いな…猟書家とは
しかし価値ある石に卵を植え付けるとは許せませんね?
冷気が屋敷を覆っているなら生息している動物たちは避難しているはず。【動物と話す・コミュ力】を使い周囲の鼬鼠や鼠など小動物達へ【情報収集・動物使い】「ああ、失礼。この屋敷の間取りと中に取り残されたドールの方、そして怪しい鳥顔の人物を探したいのですが…ご協力願えませんか?」無論、お礼の食料は手にします
【属性攻撃】を応用し、精霊術にて冷気をシャットアウト
まずはマリタさんを探し出すとしましょうか
使用人が潜めそうな場所……さて、どこがありますかね。順番に、しかし静かに探索することにしましょう。



●温い夜、誘蛾灯の日暮
 一方、ダルトン家の屋敷の外、正面の大扉の前にて。
 ヴィゼア・パズル(風詠う猟犬・f00024)は自分の背丈の何倍もある扉を見上げながら、隙間が凍り付いているのを見ていた。
「変わり者が多いな……猟書家とは。しかし価値ある石に卵を植え付けるとは許せませんね?」
 魔法の鉱石をコレクションする彼としては、宝石を蔑ろにする此度の猟書家幹部はなかなか許しがたい。是非とも落とし前はつけたいところである。
 とはいえ、屋敷の中は冷気が満ち、かつ広い。ケットシーである彼にとっては、そのまま飛び込むのはいささか分が悪かった。
「ふむ……しかしこれだけ冷気が覆っているとなりますと、生息している動物たちは避難しているはずですね。そうなると……」
 そう独り言ちて、ヴィゼアは屋敷の周りをぐるりと回り始める。これだけ大きな屋敷だ、小動物やら虫やら、生き物が棲み処にしていないとは考えにくい。そしてそれが、この冷気で屋敷の外に逃げ出しているだろうとも。
 果たして周囲を半分ほど回ったところで、彼は屋敷の壁と、壁に這わされた蒸気のパイプを見上げている数匹のネズミを発見した。
「チチッ」
「ああ、やはり。失礼、この屋敷の間取りと中に取り残されたドールの方、そして怪しい鳥顔の人物を探したいのですが……ご協力願えませんか?」
 手にチーズの欠片を持ちながら声をかければ、すぐにこちらを向いたネズミたちだ。
 ヴィゼアの人当たりの良さもあってか、ネズミたちが即座にチィチィと鳴き始める。それは傍目からしたらネズミが鳴いているだけだったが、彼の耳には確かに意味を感じ取れた。
 屋敷のパイプの這わされ方、部屋の配置、隠れられる場所。使用人のミレナリィドールの居場所や、怪しい鳥顔の人間については、彼らも知らなかったけれど。
「ヂッ、チチッ」
「なるほど、ありがとうございます。こちら、お納めください」
 情報を提供してくれたネズミたちへとチーズの欠片を渡してから、ヴィゼアは蒸気を通すパイプの中に飛び込んだ。
 パイプの中を通り抜け、飛び込んだ先は厨房だ。中を見て回り、使用人の女性の姿が無いかを探しては、口をへの字に曲げる。
「使用人が潜めそうな場所……さて、どこがありますかね」
 見たところ厨房の中にはいなさそうだ。となれば教えてもらった間取りを参考に、探していくほかない。
 廊下へと飛び出して宙を駆ける。そうして周囲に気を配りながら探索する中、ふとヴィゼアが一つの扉の前で足を止めた。
「……む? この部屋は、たしか……」
 足を止めたのは階段下のスペースに作られた扉だ。ネズミたちの情報によれば、たしかここは掃除用具などを入れる倉庫だったはず。
「念のため、確認してみましょうか」
 ゆっくりと、ヴィゼアの手がドアノブを握る。凍り付いて冷え切ったドアノブが、ぱきりと音を立てながら回った。

成功 🔵​🔵​🔴​

華日・煙志朗
アドリブ絡み歓迎
POWで挑む

…要するにやってることは改造手術か
そんなことをすれば、間違いなく心が死ぬぞ
力を持った思想家と言うのはどいつもこいつも…
行くぞ…粒子変幻!

腹立たしいが、ガスがばら撒かれているなら好都合
俺は煙人間とも呼ばれていてな
コード発動群体ナノマシンとして…【リミッター解除】する
全身を分解し屋敷中に展開
…正直全身分解自体きついがそうこう言ってられん

俺も…改造人間だ
作り変えられる怖さは知ってる
だから助ける

プラズマエアー炉心を稼働させ屋敷を温めよう
分散させたナノマシンに【情報収集】させ眠らされた民間人の位置を把握
ガスに紛れ例の使用人を捜索
彼女を保護し宝石の居場所を教えて貰えないか、頼む


アリウム・ウォーグレイヴ
アドリブ歓迎

寒い、ですね。故郷を思い出す寒さです。
『氷結耐性』を持つコートを着込んでいますが長居はしたくありませんね。
家人のためにも急ぎましょう。

ホワイトパスで五感を強化し、周囲を『情報収集』しましょう。
衣擦れや足音、足跡、床の振動、匂い。感じ取れるのであればなんでもいい。『第六感』さえも頼りに一刻も早く、それでいて静かに捜索です。
生きて動いている以上、ミレナリィドールの痕跡が必ずあるはずです。
ミレナリィドールを第一優先に『追跡』し、発見次第彼女への協力を願い出ます。『礼儀作法』に則り失礼のないように。
当初の目的通り敵の行く先の見当やこの家に眠る宝石の種類を聞き出せれば一番ですね。



●坂道を下りた向こう側
 窓ガラスに霜が降りる屋敷の中に踏み入って、アリウム・ウォーグレイヴ(蒼氷の魔法騎士・f01429)は白い息を吐いた。
「寒い、ですね。故郷を思い出す寒さです……」
 北方の島国を故郷とする彼にとって、この寒さはどこか懐かしく、悲しいものを思い起こさせる。彼の言葉に頷きながら、華日・煙志朗(粒子人間ナノダイバー・f22636)もそっと両手をこすった。
「……要するにやってることは改造手術か。そんなことをすれば、間違いなく心が死ぬぞ」
 敵幹部のやろうとしていることに表情を歪めながら、煙志朗も煙る息を吐いた。
 無理やり眠らせて、人体を改造して。そんなことをしたら確実に、精神に悪影響を及ぼすだろう。壊れた心は二度と、元には戻らない。
「はい、間違いなく。むりやりに肉体を作り替えられ、人外へと変えられたら……精神の崩壊は免れません」
「全く、力を持った思想家と言うのはどいつもこいつも……」
 アリウムの言葉に頷きながら、煙志朗が忌々し気に吐き捨てた。彼も他人によって肉体を改造された身。勝手に肉体を作り替えられる怖さは知っている。
 だから。彼は一気にユーベルコードを発動させた。
「行くぞ、粒子変幻!」
「わっ……!?」
 煙志朗がユーベルコードを発動させると同時に、アリウムが驚きの声を漏らした。当然だ、一瞬にして隣に立つ煙志朗が消え去ったのだから。
 正確には、極小型の粒子機械、ナノマシンの群体に姿を変え、肉体を拡散させたのだ。虚空からアリウムの耳元で声が響く。
「ガスが巻かれているなら好都合……全身分解はきついが、そうこう言っていられん。俺は拡散して屋敷全体を捜索する、そっちは細かな調査を頼む」
「かしこまりました。家人のためにも急ぎましょう」
 煙志朗の言葉を聞いて、アリウムも頷く。コートの襟を立てながら、彼は屋敷の中を歩き始めた。
「生きて動いている以上、どこかに痕跡が必ずあるはずです……それを見つけられれば……」
 魔法で五感を強化して、アリウムは静かに屋敷の中を歩く。衣擦れの音、足音、床の振動、匂い、呼吸音。人が生きている痕跡を見逃さないように、慎重に進みながら彼は進んでいった。
 やがて屋敷全体に拡散した煙志朗のナノマシン。それを確認した彼が、次のフェーズに移る。
「展開したか……プラズマエアー炉心稼働開始!」
 発動させるのは自分の心臓、プラズマエアー炉心。酸素からエネルギーを生成するそれが細かに振動し、運動エネルギーを熱エネルギーに変換。屋敷の空気を温めていく。
 徐々に冷気が落ち着いていく屋敷の中。と。
「あっ……?」
「おや」
 小さな声が聞こえたのを感じ取って、アリウムがはたと立ち止まる。声のした方に向かえば、先んじて潜入していた猟兵たちが、一枚の扉の前に立っていた。
「失礼いたします、中にどなたかいらっしゃるでしょうか?」
「そこにいたのか。助けに来たぞ」
 アリウムが呼びかけると同時に、煙志朗が肉体を再構成して戻ってきた。
 敵意の無い、礼儀をわきまえた言葉に安心したのか、扉がゆっくり開く。中から姿を見せたのは、メイド服を身につけたミレナリィドールの女性だった。
「ええと、皆様方は……?」
 事態を飲み込み切れていない様子の女性――マリタへと、アリウムが深く一礼する。
「この屋敷に起こった異変を調べに参りました」
「屋敷に不審者が侵入し、ここに保管されている宝石を狙っているらしい。著名な宝石の居場所を教えてもらえないか」
 煙志朗も背筋を伸ばしながら、マリタに声をかける。その言葉を聞いて、彼女は視線を落としながら考えこむ姿勢を見せた。そこから、呟くように答える。
「著名な……でしたら、三つとも全て、二階にある旦那様の書斎に保管してあります」
「なるほど、二階ですか」
「よろしければ、案内をお願いできないだろうか」
 アリウムと煙志朗が、真摯な態度でマリタへと乞う。他の猟兵たちも、反対する意思はないようだ。
 本来なら、戦場となる場所に一般人を連れていくなど、したくない事ではある。しかし彼女の存在が、これからの戦闘に役立つのなら。
 そして何より、屋敷の中の構造に精通している彼女がいれば、現場への到着は容易だ。
「……かしこまりました、私について来てください」
 二人の言葉を受けて、頷くマリタ。先導する彼女の後について、猟兵たちは屋敷の中を駆けた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第2章 ボス戦 『ドクター・パラケルスス』

POW   :    「彼らこそが人々の在るべき本来の姿だ」
いま戦っている対象に有効な【蒸気機械と融合した生命体】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
SPD   :    「君達が在るべき姿は、私にしかわからない」
【治療対象の一般人に機械との融合施術を施す】事で【治療対象がドクターに従順な実験体】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    「こっちにおいで。調整してあげよう」
【恐怖の脳改造手術】が命中した対象を治療し、肉体改造によって一時的に戦闘力を増強する。
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はネムネ・ロムネです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●夜が近付くまで今日は歩いてみようよ
 ダルトン家の屋敷の二階、主人の書斎。
 書斎中央の大テーブルの上に置いた書見台やらペン立てやらを一切合切どけて、その上にこの屋敷に出入りする商人の体を乗せて、こちらに背を向ける黒衣の男が振り返る。
「ああ……思ったよりも早く手術に邪魔が入ってしまった」
 こちらを振り向く男の顔にはペストマスク。間違いない、この男こそが幹部猟書家、ドクター・パラケルススだ。
 ドクターは居並ぶ猟兵たちを見ては、嘆かわしく頭を振る。彼らと共にいる、マリタには目もくれない。
「そしてここにも病巣があるではないか。いけない……私が手術して取り除かなければ」
 そう言いながら、ドクターが手術台代わりにしていた大テーブルに横たわる商人の男に手を添える。その頭は、腕は、蒸気機械に覆われて――否、置き換えられて。無残な姿を猟兵たちの前に晒していた。
 マリタがひ、と息を呑む音が聞こえる。
「ほら、見てご覧……素晴らしい身体になっただろう。これが理想だ、世界の望む姿だ」
 そう言いながらドクターは、天井を仰いで両腕を広げる。その言葉には、一切の迷いも、良心の呵責も無い。己のうちに在る理想と信念だけがある。
 ふと、ドクターの右手に握られたメスが光った。天井の光を反射する切っ先が、猟兵たちへと向けられる。
「君たちにも手術が必要だ……さあ、術式を再開しよう」
 その言葉を受けて、僅かに持ち上がる商人の変わり果てた姿。その光のない瞳が、猟兵たちとマリタの姿を映して鈍くきらめいた。

●特記事項
 ・戦場となるのはダルトン家二階の書斎です。戦うには十分な広さがあります。
 ・戦場の中にはドクター・パラケルススの他、改造手術を受けた後の出入り商人、使用人のマリタがいます。
  商人は猟兵に敵対して動き、マリタは敵対せず自身の安全を優先して動きます。また、屋敷内の眠っている一般人が、ドクターの増援として書斎に召喚されることがあります。
  マリタから「機械の体はいいことばかりではない」ということを効果的に話してもらうことで、プレイングボーナスを得られます。
アリウム・ウォーグレイヴ
アドリブ歓迎

ドクター、お伝えするのが心苦しいですが……。
貴方こそが病んでいる様にお見受けします。偏執、妄執、それと重度の妄想癖があるようですね。
ドクターの偏見では機械の体は素晴らしいものなのでしょう。ですが逆の視点からの意見は聞いた事がありますか?ねぇマリタさん。

商人へ『気絶攻撃』で少しでも戦闘から引いてくれる事を『祈り』ます。
まだ手遅れではない。僅かな可能性を切り捨てられない私の弱さが頭から離れません。
しかし私は猟兵。他の家人を救うためなら義務と責任で弱さを覆い隠します。
立ち塞がる敵を『見切り』躱し、『属性攻撃』氷の剣技にて屠る。
『激痛耐性』痛みでは私が止まらない事を教えて差し上げましょう。



●さようなら、手を振る影一つ
 冷えた空気が満ちた書斎の中。アリウムは凛とした表情で立ちながら、テーブルの前に立つドクター・パラケルススへと右手を差し出した。
「ドクター、お伝えするのが大変心苦しいのですが」
 丁寧な所作、口調。その柔らかな物言いとは裏腹に、彼の表情は殊更に冷徹だ。
 その冷徹な表情をそのまま表したように、彼はきっぱりと告げる。
「貴方こそが病んでいる様にお見受けします」
「ほう、何故かな?」
 その率直な物言いに、ドクターはくいと顎をしゃくってみせる。尊大で、かつ自信に満ちた振る舞い。自分に誤りがあるなどとは、微塵も信じていない口調だ。
 そんな彼へと、差し出した右手を反転させながらアリウムが告げる。
「偏執、妄執、それと重度の妄想癖があるようでいらっしゃいますね」
 相手の異常を、はっきりと、率直に述べてみせるアリウム。ドクターは答えない、否、堪える必要がないと言いたげに首を小さく傾げる。
 相手は異常者だ。それも自身の異常を異常と認識しないほどの異常者だ。故に、アリウムは自身が揺らがぬよう、はっきりと述べていく。
「ドクターの偏見では機械の体は素晴らしいものなのでしょう。ですが逆の視点からの意見は聞いた事がありますか? ねぇマリタさん」
「……」
 そうして彼が視線を向けたのは、この空間内で唯一の意識を保っている一般人、完全に人工の肉体を持つ使用人のマリタだ。
 彼女を見やり、無言のままにその姿を見つめるドクター。彼の視線に怯えることなく、マリタははっきりと言ってのける。
「……はい、お客様の仰る通りです。機械の身体が素晴らしいなどと、一体だれが申せましょうか」
 機械の肉体を持つ彼女からの、明確な反証。それにドクターは興味を覚えた様子だ。ペストマスクの内側の瞳にうっすらと光を宿しながら口を開く。
「いいとも、反証を聞くことも医者の大事な仕事だ。述べたまえ」
 発言を許可されたマリタが、静かに息を呑みこむ。そして、彼女は淡々と、しかしはっきりと告げた。
「まず第一に、この身体は自己によるメンテナンスが行えません。確かに死せず、朽ちず、老いない身体ではありましょうが、それはメンテナンスを担う他者がいてこそ成り立つもの。この身体は人間以上に、誰かの力を借りなければ動くことすらままならないのでございます」
 その言葉に、ドクターは明確に衝撃を受けた様子だった。
 確かに彼女の言うとおり、機械はメンテナンスをしないと正常に動作しない。メンテナンスする人間がいるからこそ、機械は永遠に動き続けられるのだ。
 それを無視して、なにが永劫の命だろうか。ドクターが衝撃を受けたように頭を押さえる。
「く……そ、それは確かに盲点ではあった……だが、そのメンテナンスを機械に任せれば……」
「そのメンテナンスする機械を、誰がメンテナンスするのでしょうか? 機械とは得てして、稼働を続けられるようにメンテナンスすることが必要なもの。それを見逃がし、どうして完璧などと申せましょう」
 ドクターが述べた反論にも、マリタはきっぱりと返答を返していく。その言葉に、明らかにドクターは動揺していた。
 これは好機。アリウムが魔力を開放し、自身の持つ刀剣に氷の魔力を纏わせる。
「よい言葉ですマリタさん、あなたの言葉に誤りはない」
 そう告げながら、彼はドクターへと斬りかかった。氷を帯びた刃がその身体を切り裂き、傷口を凍らせていく。
 如何なる体と言えど、傷を負った部分を凍らされては全身の挙動が鈍るというものだ。その肉体が生身であれ、機械であれ。
「壊れぬ機械などない、壊さぬためには他者の力が必要なのです。人間の命を、むざむざと他者の手を借りねば生きれないものになど、するものか!」
「く……!」
 華麗な剣技でドクターを斬りつけるアリウム。ドクターの苦悶の声が、静かなる書斎の中で確かに響いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

深島・鮫士
【梟と犬と鮫】

・な、なぁ……俺は南国育ちで寒さには弱いんだが……あ、やっぱ行かないとダメ? くそう、こうなったら気合いで耐えちゃる!

・機械の身体ねぇ。メンテナンスにアップグレード、そういったとこは生身と同じくらい手がかかるだろうよ。マリタもこの辺は悩ましいところじゃないか?

・召喚された改造生物や改造人間……こいつらも「ヤブ医者」の犠牲者だ。命までは奪いたくねぇし、元に戻る術もあるかもしれねぇ……アウラや犬飼と協力しつつ、UCで無力化させていこう。

で、ヤブ医者。てめえも医者なら目ぇ覚ませ! 俺のUCで邪心が少しでも薄れれば反省もできっだろ。んで、反省したら介錯してやっから骸の海で頭冷やしてこい!


アウラ・ウェネーフィカ
【梟と犬と鮫】
少し遅れてしまったが、戦いには間に合ったか

しかし何とも悍ましい所業だな
理想は勿論、手段も目的も狂っている
生身には生身の、機械には機械の利点や欠点がある筈だ
そうだろう? マリタさん

■戦闘
これ以上の犠牲が出るのは避けたい所だな
まずは犬飼さんの援護射撃の下、【フェザーブレット】や鉤爪で戦いつつ
いつでもUCを発動出来る様にしておく
もし敵が一般人を召喚して改造しようとしたら、その隙を狙い【UC】を発動
敵が持つメスや道具を魔法生物化して使役する事で施術を中断、
そのまま使役した道具達による攻撃を喰らわせてやろう

商人については【沼喚びの魔珠】で床を変質させ、
一階に落として離脱させる事で対処するか


犬飼・満知子
【梟と犬と鮫】
ささささ寒いです!!脚がもう冷え冷えなんですけど!
あ、あの人が猟書家の……なんかいかにもって感じですね。
う〜ん、機械の身体は確かに格好いいんですけど、メンテナンスとか色々大変みたいですよ?
マリタさんも何とか言ってあげてくれませんか。
だいたいあの人、機械の身体を推すわりに自分は生身っぽいんですけど……?

機械化されていても一般人は傷つけたくありません。
技能の【クイックドロウ】で機先を制して生命体の攻撃を阻害していきます。
深島さん、アウラさん、本体のほうはお願いします!
隙きを見てブラスターをチャージしたらUCを発動します。
狙うは腕部の機械部位。攻撃手段を奪って無害化させてもらいます。



●ねぇ、こんな生活はごめんだ
 書斎の扉を開けて、まずアウラ・ウェネーフィカ(梟翼の魔女・f25573)が部屋に踏み込んでくる。
「少し遅れてしまったが、戦いには間に合ったか」
 彼女の後ろから、震えながら深島・鮫士(深鮫流活殺刀拳術創始者(自称)・f24778)と犬飼・満知子(人間のUDCエージェント・f05795)も姿を現した。この二名、寒さにそこまで強くない。身体が慣れるまではもう少し時間が必要そうだ。
「な、なぁ……俺は南国育ちで寒さには弱いんだが……」
「ささささ寒いです!! 脚がもう冷え冷えなんですけど! 女子高生に冷えとか大敵なんですけど!」
 そんなことを言いながら、部屋の中に踏み込んでアウラを見やる鮫士と満知子だ。彼女たちと違い、唯一羽毛に覆われた身体のアウラは寒さに強かった。ずるい。
 そんなアウラが、文句を述べる鮫士へとクールな視線を投げる。
「ここまで来て何を言っている。それに、あいつを倒せば冷却ガスも止まるだろう」
「あ、やっぱ行かないとダメ? くそう、こうなったら気合いで耐えちゃる!」
 素気無く言い返されて、鮫士も覚悟を決めた。ここは既に戦場、敵は既に準備万端なのであって。
 その敵が、ドクターが、何とも言い難い視線をこちらに向けている。
「……」
「あ、あの人が猟書家の……なんかいかにもって感じですね」
 満知子が眉間に皺を寄せつつ言えば、アウラも吐き捨てるように言葉を投げる。
「しかし何とも悍ましい所業だな。理想は勿論、手段も目的も狂っている」
 狂っている。ばっさりと切って捨てた彼女の発言に、ドクターがぴくりと身を震わせた。両腕を広げながら反証を述べる。
「狂っている? バカなことを言う、狂っているのはこの世界の、この世界に生きる人間の方だ」
「それだよ。狂人は須らく、狂っているのは他者の方だと宣う」
 しかしアウラは怯まない。ドクターがいかに狂っていようと、厳然たる事実を突きつけて反論する。
 そんなアウラの背に隠れるようにしながら、満知子がドクターの細身の身体に目を向けた。
「というか、機械の身体を推すわりには、あの人自身は生身っぽいんですけど……?」
 彼女の言葉に、ドクターのペストマスクのレンズが光る。自分のコートの裾をつまみながら、ため息交じりに発した。
「自分自身を手術するのは難しい。必要なところに手が届かないこともあるからね」
 彼の言葉に、鮫士と満知子は小さく身を震わせた。
 自分を手術するのは難しい、そこに間違いはないだろう。だがその問題点さえクリアできれば、きっとこのヤブ医者は躊躇いなく自分の身体にメスを入れるのだ。
 機械の身体、蒸気と魔法で駆動する身体。身を縮こませるマリタを見やりながら、鮫士は告げる。
「機械の身体ねぇ。メンテナンスにアップグレード、そういったとこは生身と同じくらい手がかかるだろうよ。マリタもこの辺は悩ましいところじゃないか?」
「生身には生身の、機械には機械の利点や欠点がある筈だ。そうだろう? マリタさん」
 アウラも一緒に、マリタに呼び掛けた。はたして人形の使用人は、大きくはっきりと頷く。
「そうなんですよね、部品はどんどん劣化していきますし、駆動部のパーツなんて年に一度は取り出して掃除したり、交換したりが必要になります。人間の皆さんのように、壊れたり折れたりした時の自己修復も働かないですし……」
 そう、機械の身体も決して永久不滅ではないのだ。駆動するうちに摩耗もするし、破損して壊れることもある。さらには製品のバージョンが進んで、使用する部品が生産されなくなることもある。
 特にアップグレードの必要性については、ドクターは盲点だったらしい。額を押さえながら呻くように声を発した。
「く……壊れたら取り替えられる、それは機械の身体の最たる利点だろう。機械の身体である君が、それを言うのかね!?」
 マリタに、僅か声を荒げるドクター。しかしマリタは怯まない。怯まないで、的確に持論を述べていく。
「確かに交換は出来ます。ですがそれも先程あなたが言った通り、自分一人の力では難しい。誰かの手を借りないとならないものです。それに万が一装着に不備があったら、そのほかの部位まで破損してしまうかもしれない。人間の身体と違って、『遊び』が殆どありませんから」
「く……!」
 彼女の言葉に苦悶の声を漏らしながら、ドクターが腕を伸ばした。展開される魔法陣から、機械部品を身体のあちこちに備えた人間が召喚される。恐らくは、彼がどこかで改造を行った一般人なのだろう。
「あぁ……」
「う、あ……」
 その哀れな患者の姿を見て、満知子がマリタの前に飛び出した。彼女を庇うようにしながら拳銃を構え、銃弾を放つ。
「彼らは私が抑えます、深島さん、アウラさん、本体のほうはお願いします!」
「了解っと」
「任せてくれ」
 その言葉を受けて鮫士とアウラも前に出る。召喚される生物と、改造を施された商人の男は満知子が牽制してくれている。二人はドクターへと向かっていった。
 彼を守るように、商人の男が向き直る。ドクターの前に立ちはだかる彼に、鮫士は握った拳を叩きつけた。
「このっ、目ぇ覚ませ!」
 がん、と金属を叩いたような硬質な音が書斎に響く。頭を的確に殴られた男は、その場にへなへなと崩れ落ちた。その様を見てドクターが驚きの声を上げる。
「う……」
「バカな……一撃で無力化されるだと!?」
 驚愕するドクター。今がチャンスだ。鮫士が一気に彼へと肉薄する。
「ヤブ医者。てめえも医者なら目ぇ覚ませ!」
 そして、胸に一撃。肉体を傷つけず、対象の悪心、邪心を攻撃する拳が胸に突き刺さった。
 だが、ドクターは全く意にも介さない。それどころか胸にぶつかってきた鮫士の腕を、メスで一直線に切り裂いた。
「……? おや、機械生命体を一撃で昏倒させる拳、どれほど凄まじい威力なのかと思ったら……軽いな、実に軽い」
 腕を斬られた鮫士が、驚きに目を見張った。後方に飛びのくも、その瞳には困惑の色が浮かぶ。
「バカな……効いてねぇ!? 確かに今……」
「深島さん、無駄だよ」
 彼に声をかけるのはアウラだ。鮫士と入れ替わりになるように前に飛び出しては、足の鉤爪によるキックで攻め立てる。
「邪心や悪意を攻撃するユーベルコード、その手のやつには効かないだろう。そうしたものが、一切無いからな」
「な……」
 彼女の言葉に、鮫士は牙の生えそろった口をぽかんと開けた。人間でありながら、邪心も悪意も全くなく、それでいてこんな事件を引き起こすとは、俄かには信じられない。
 そうだろう、普通の悪人は悪意があるからこそ事件を引き起こす。だが、狂人はそうではない。
「どれだけ捻じ曲がっていても、狂っていても、善意は善意。そしてこの手の狂人は、ただ善意と熱意だけで動いている」
 フェザーブレットを放って後方に飛びのきながら、アウラが懐から取り出した魔道具を床に投擲する。どぷり、と音を立てて変質した床が沈み始めた。商人の、召喚された一般人の、足元が形を失う。
「あ――」
「そこですっ!」
 そのバランスを崩した瞬間に、チャージしていた満知子のブラスターから放たれた光線が炸裂した。改造された生命体が、機械部分を破壊されながら階下へと、1階へと落ちていく。
 程なくして床は戻り、また絨毯の敷かれたしっかりした床が戻ってきた。だが、改造された生命体の姿はない。ドクターが歯噛みする。
「なんと……だが患者はまだまだいる、ここで――」
「させないよ」
 改造するべき一般人を召喚しよう、とドクターがメスや鉗子を握ったところで、アウラの魔法が炸裂した。手の中のメスが、鉗子が、ドクターの持つあらゆる手術道具が、魔法生物と化して彼の制御を離れる。
「なにっ!?」
「深島さん、そのままそいつを押さえていてくれ。一気に畳みかける」
「わ、分かった!」
 困惑するドクター。その身体を後方から回り込んだ鮫士が組み付いて動きを封じる。
 その剥き出しの胸へ、腹へ、魔法生物と化した手術道具が次々に突き立てられた。
「ぐ、う、あ……!」
「終わりだ」
 苦悶の声を漏らすドクターの、喉元。そこにアウラがトドメの一撃とばかりに、メスを深々と突き立てた。
 噴き出す鮮血が、書斎の絨毯を汚す。
「わ、私には、まだ、治すべき患者、が……」
 掠れた声を漏らしながら、ドクター・パラケルススの姿は光となって消えていく。書斎に飾られ、ガスを噴き出していた宝石が急速に元の色を取り戻し、ガスの噴出を止めた。
 あとのガスは、自然と排出されて屋敷の空気も元通り。眠らされた一般人も、じきに目覚めるだろう。
「患者なんていないですよ……そうですよね?」
「ああ……この世界の人は、ちゃんと生きている。それで十分だ」
 満知子が零した言葉に、鮫士も頷いて返す。これで、世界の平和は守られた。それは間違いのないことなのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年11月27日
宿敵 『ドクター・パラケルスス』 を撃破!


挿絵イラスト