#ダークセイヴァー
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●むかしむかし、あるところに
むかしむかしのお話です。
あるところに、とても美しい領主の娘がおりました。
その美しさを例えるなら、滑らかな肌はまるで雪のように白く、潤んだ瞳は紅玉のように紅く、唄を紡ぐ声はまるで小鳥の囀りのよう。
きっと、その愛らしい姿を見た者は全員心を奪われるに違いありません。
でも、娘のことを知る者は、城下に誰もおりませんでした。
何故なら、娘は呪われた〓編集済〓だったからです。
人目を避け、城からは一歩も出られぬ日々、それでも娘は幸せでした。
純朴な庭師の青年を話し相手に、屈強な護衛の騎士に守られて。
この上なく愛する薔薇の花園に包まれて。娘はとても幸せでした。
――娘よ眠れ、それがお前の夢ならば。
●今日も今日とて戯言日和
「やぁやぁよく来たねぇ、猟兵諸君。今回は『ダークセイヴァー』にて君達に、我が同輩の駆除をお願いしようと思ってねぇ」
グリモア猟兵――パラノロイド・トロイメナイトの説明は、倫理観とか常識とか窓から投げ捨てた様な発言から始まった。
猟兵諸氏に聞きたい、同輩とは駆除する対象であっただろうか。いや、無い。ゾンビ映画でもない限り、絶対にない。
そんな良識的な内心ツッコミなど意にも返さず、説明を続けるグリモア猟兵。
「ああ、同輩とは言ったがアイツ…パラノロイド・トロイメナイトは完全なオブリビオンだ。どうせ無限コンテするから気にしなくていい」
死んでも復活するから気にするな、というフォローにもなっていないフォローを宣いながら、猟兵の前で資料をパラパラと捲る――古めかしい、いや、古めかしいを通り越して廃墟と化した城の写真と、不釣り合いに乱れ咲く満開の薔薇の写真、そして、蒼く不定形な異形の写真がいくつか見えた。多分、これが今回の駆除対象・パラノロイド・トロイメナイトなのだろう。
「駆除対象のオブリビオン:パラノロイド・トロイメナイトは現在、廃城を……正確に言えば、城にある庭園を占拠しているんだ、ご丁寧に亡者の護衛付きでね。……まぁ、多分亡者が元々さ迷っていた廃城にアイツが居座った、というのが正しいのかな?理由は分からないけどねぇ」
少々の思案の後、小さく息を吐き、資料を閉じる。
「それに、どんな姿だろうが、何をしていようが、同輩は同輩。幸いな事に近くの村の人間は、この城を『忌み地』として近寄らないらしいし、アイツが村に妙な事をやらかす前に止めてやって欲しいんだ」
割と常識的な動機から、近所の悪ガキの捕まえてほしいと言ったニュアンスで話す、だが口調こそ柔らかいが、多分、止めるのは行動ではないのだろう。確実に。
先の発言と言い、オブリビオンを同輩と呼ぶことといい、このグリモア猟兵の生死の感覚もかなり曖昧になっているのかもしれない。
「んで、対処法に関しては、多分君達の方がよく知っていると思うけど、えーと、今回の駆除対象の亡者は……まぁ、好きなように殴ればいいんじゃないかな。んで、主敵のトロイの奴も戦闘能力は高くはないし、割と話を聞く方だ。納得すれば自分で『骸の海』に還る程度にはね……まぁ、アイツ話せないから、説得するにしても行動の理由を推測しないといけないけどねぇ。困った時には殴っておけばいいんじゃないかな。ま、最終的な判断は君達に任せるよ、猟兵」
対処法の説明の意味はあったのだろうか、そう軽く思わせる程度に意味のない説明。もっとも、トロイメナイトは以前からちょくちょく出没しているオブリビオンだ。グリモア猟兵のいう事も全く理がないわけではない。結局対処するのは猟兵自身である以上、思考の固定化を避けるために、あえて何も言えないというのも事実だろう。本当に戦闘能力が高くないのか、説得が本当に通用するのか、判断するのは猟兵自身なのだから。
「んじゃ、転送準備はもう出来ているから、宜しく頼むよ。猟兵諸君」
適当この上ない説明も終わり――グリモアの力を流用しているのだろう、光り輝くポータルが開かれる。
猟兵達は別の世界に向け、一歩光の中に足を――。
――あ、忘れてた、と、唐突にグリモア猟兵が声をかけた。
「そういえば、今回行く庭園は見事な薔薇の園だそうだよ、暇だったら鑑賞していくといい。……まぁ、場所が場所だけにちょっと不気味だから、焼き払っても構わんけれど」
言葉が終わるその時には、既に猟兵達は転送されていて。
アイツが世話していたのかねぇ?と、誰ともなしに小さく呟いた。
romor
お初にお目にかかります。romorと申します。
閑居しております小人では御座いますが、精進させて頂きますので、宜しくお願い申し上げます。
さて、依頼内容ですが、皆様の自由な発想を阻害いたしませんよう、当方から申し上げる事はとくには御座いません。ご自由にお楽しみください。
ああ、でも、一つ。
事件解決後のお楽しみに関しましては、『薔薇園を荒らす事も出来る』程度にお考え下さい。『鑑賞しなければならない』『荒らさなければいけない』など、皆様の行動を強制するものでは御座いませんので、ご自由にお楽しみ頂けましたら幸いです。
第1章 集団戦
『篝火を持つ亡者』
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POW : 篝火からの炎
【篝火から放たれる炎】が命中した対象を燃やす。放たれた【赤々と燃える】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD : 篝火の影
【篝火が造る影に触れた】対象の攻撃を予想し、回避する。
WIZ : 新たなる亡者
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【自分と同じ姿の篝火を持つ亡者】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ロバート・ブレイズ
「生者を冒涜する事は赦されないが死者を嘲笑する事は赦される。此れが世界の絶叫と説くならば貴様等は実に滑稽だ。此度のグリモア猟兵が『逸脱』とは言えず、我々は間引かれる過去の産物だと思考すべき」
闇堕ち発動
攻撃を予想して回避するならば回避不可能な無差別攻撃が最善だ
殺気を放出して周囲を破壊する。その際猟兵が居るならば声を掛け、退ける事をオススメしよう
その後、怯んだもしくは動きの止まった亡者に接近し、鉄塊剣で鎧『装甲』『肉』諸共砕き潰す。可能ならば情報収集で弱点を探り、其処に強烈な拳を叩き込もう
「処理や処置は簡単なものよ。困難なのは価値観を投棄する精神的な『在り方』と知れ。死者が眠るなど嗤い話だ」
木霊・ウタ
心情
過去を海へ還してやるのも
俺達猟兵の役目だぜ
手段
命と未来を守るという想いを込め
Wウィンドを奏で歌い皆を鼓舞しつつ
その音色で亡者の力を弱めるぜ
;コミュ&パフォ&演奏&歌唱&手をつなぐ&鼓舞&勇気&優しさ&破魔
戻った世界で彷徨い続けてるとは可哀想にな
今、還してやるぜ
紅蓮の炎を纏う焔摩天を喰らわせ滅する
:属性攻撃&破魔&薙ぎ払い&鎧砕き&UC
篝火の炎は地獄の炎をぶつけて相殺
渦の如く炎を纏い
その光で篝火の影を消しちまうぜ
俺達は未来へ進んでいく
心の炎を燃やしながら夢へ向かうぜ
その輝きを
進むべき未来の導を持たず
ただ漂泊するだけの奴の炎で
消せる訳ないだろ?
亡者消滅後に鎮魂曲
ゆっくりと眠ってくれ
安らかにな
八重森・晃
転移した先は確かに見事なバラ園で、確かに少し前の自分なら気に入っていたのかもしれなかった、まだあの町が焼ける前であるならば、まだ世界に満ちる呪いを知る前ならば。無意味な干渉を振り切り、目の前の相手の対処に思考を巡らせる、使うカードは<属性攻撃><全力魔法>の二つ、どうせ挨拶をするのならば派手にいこうと、手の火打ち石をカンカンと打ち合わせる、コントロールファイアー、火花は鬼火めいた火炎に育ち、育てた主の指示に従い敵に襲い掛かる
――廃城外郭。
幾重にも重なった城壁はまるで軍船にも見えて。
これまで幾度となく領主や領民たちを守り続けた堅牢な壁。それでも、忘却には勝てなかったのだろう、所々が崩れて落ち、侵食する薔薇の花弁で紅く染まって、もはや廃城全体が巨大な薔薇園と化していた。
一面の紅の隙間に見える、ところどころに散らばる調度品、壁に染み付いた焼け焦げの跡が、かつてこの城で何があったのかを物語る。
散乱する銀食器の数々、バラバラになった豪奢な椅子、焦げて黒に染まった肖像画、打ち捨てられた煌びやかな過去の残滓を踏みつけるのは、焼け焦げたように黒く変色し腐り果てた足。
時が止まったかのような静寂の中、パキリ、パキリと音を立て、ゆらり、ゆらりと揺れる篝火。
「ゥ……ァ……」
「……穢レ……燃ヤサ……ナ……」
「神……罰……ヲ……」
猟兵達の前に、焼き付いた『過去』が獲物を見つけた蟲のようにゾロリゾロリと現れ、群れる。
彼らが其処に在る理由、彼らが其処で為した事、それは猟兵達には分からない。ただ、一つだけ確実に分かるのは――。
――今やもう、彼らは其処に存在してはならないという事だけだ。
「生者を冒涜する事は赦されないが――」
深紅に染まった廃城を、有象無象の骸の群を、堂々とした声が貫いた。
「――貴様等、死者を嘲笑する事は赦される」
骸の群に対し、威風堂々と言った様相で先陣を切ったのは冒涜翁――ロバート・ブレイズ。
他の猟兵を制し、単身先駆けて骸蠢く群の中へとその身を躍らせた。攻撃を予知し、反撃せんと『篝火の影』を伸ばす骸共、その様子を冒涜王は嘲笑う。
――此れが世界の絶叫か?滑稽だ、嗚呼、貴様等は実に滑稽だ!
吹き荒れるは冒涜翁の『闇堕ち』――鏖殺する黒き領域が、骸の群を分断し、その身を喰らう。予知しようにもその性質は混沌の無差別攻撃。混沌を予知したところで対応出来る筈もなく、為す術なく紙人形のように裂かれ、潰され、壊されていく骸共。
だが、冒涜翁の追撃は止まらない。その手に携えた鉄塊剣――キョウキによって為されるのは、砕く潰す壊す殺す――酸鼻極まる数多の惨劇。
「ィヒィ……!」「…ャ……メェ……!」
「処理や処置は簡単なものよ――」
その言葉通り、冒涜翁は怯み、惑い、逃げる骸共を一体一体、得物のシミへと変えていく。死人に口なし、永遠の眠りとは誰が言いだした事かは知らないが、眼前の群には全く当てはまるものではない。『骸の海』、そしてそこから這い出る者共に対しては既存の価値観などは廃棄するべきものなのだろう――もっとも、それが困難であるのだけれど。
「――本当に。此れで死者が眠るなど、哂い話だ。」
あまりにも順調な快進撃。だが、それはロバートだけの力ではない。
辺りに吹き荒れる力強い風――木霊・ウタの持つ『ワイルドウィンド』から響く音色が骸の群の間を吹き抜ける。命と未来、両方を守らんとする思いに満ちたその『ウタ』は、確実に骸共の力を削いでいた。
分断されるも冒涜翁の攻撃から逃れた骸の一群、その『篝火からの炎』が『ウタ』の元に向かって放たれる。しかし、吹き荒ぶ暴風のような調べにかき消され、少年の元には届かない。だが――
「燃……ェ……!」「穢……レ……!」「ゥ…ル、ザァ……!!」
――単体では届かないと悟ったのか、一つ、二つと、しだいに放たれる炎は寄り集まり、じりじりと風を退け『ウタ』を奏でる少年へと迫る。
例え一体一体の力は弱くとも、寄り集まれば格上の相手すら倒すことは可能だろう。皮肉かな、かつて世界に『生きていた』時には、その力でヴァンパイアすら退けていたものを。
今の彼らは、もはや、彼らの敵であった者共と、同じ深みに堕ちてしまった。
だが、迫りくる復讐の業火に木霊が感じるのは、怒りでも、敵意でもなく。
――こいつらを還してやるのも、俺達の役目だぜ。
その使命ゆえか、眼前の骸にも敵意よりむしろ憐れみを覚える。
身が焦がれるほどに舞い戻る事を望んだ世界で、ただ未来もなく彷徨い続ける者共。その姿を見て少年は改めて思う、彼らを滅することこそが、ただ一つの救いである、と。
そして骸共の最大の誤算は、対峙している相手の武器が『ウタ』だけであると思い込んでしまった事だった。
「――今、『海』に還してやるぜ!」
一喝と共に、手にした剛剣――『焔摩天』が炎によって紅蓮に染まり、木霊は骸に、迫る篝火に向かって駆ける。舞い起こるは篝火を飲み込む地獄の焔、鳴り響く『ウタ』と共に渦を巻くソレは、骸共を影ごと焼き尽くさんと踊り狂う。
骸の一群も押し返さんと死力を尽くす、かつてはそれによって活路を見出した事もあっただろう、それでも、そうであっても。もはや進むべき道もなく、ただ『世界』に漂泊する『過去』の者達の炎が、『未来』に『夢』を見出す者達の炎にかなうはずも、そしてその輝きを消すこともあるはずもなく。炎は、一層輝きを増して――
――後に残されたのは、もはや骸とも呼べぬ白砂のような残骸だった。
「……ゆっくりと、眠ってくれ」
響く鎮魂歌と共に、柔らかな風が白砂の小山を何処へと運ぶ――かの者の魂に安らぎあれと。
――快進撃を続ける二人の猟兵。しかし、一つだけ誤算があった。
いくら威力が高くとも、無作為性の高い全体攻撃と近距離攻撃、この二つのみを群れに対して用いた場合、一つの問題が発生する。遠距離を正確に攻撃できない以上、その攻撃には隙間が、そして、群れに対しては討ち損じの個体が生じてしまう。つまり――。
――少し離れたところで、倒されたともがらの傍らでぬらりぬらりと動く一体の骸。
通常の集団戦であれば、戦力を補充出来ない以上大きな問題とはならない、だが――彼らのそれは作戦というより、本能によるものが大きいのだろう。
例え群の多数が倒されたとしても、残った者が彼らを『再利用』すれば問題はない。敵戦力がいくら大きくとも、それ生者である限り、いずれは尽き果て、疲れ果てる。
蘇る『新たなる亡者』。先ほどまではただのしかばねであったいびつな骸は、少々危なげながらも立ち上がり――
――そのまま炎に包まれ、崩れ落ちた。
「ァ……?ゥ………?」
何が起こったのか理解できないのか、残された骸はしばし呆然とした様子で立ち呆ける。
炎を放った少女――八重森・晃は、眼前の骸と対比し、自らの過去に想いを馳せる。
それは失われる前のあの街、呪いなどない自らの『世界』。
きっとこの薔薇園と化した廃城も、そんな『世界』に住んでいた自分であればさぞかし気に入って――。
――戦闘中に余計な感傷は無意味だ。振り切るように頭を振ると、あらためて両手に携えた火打石を打ち鳴らす。
カン、カン。
散った火花は消えることなく揺らめき、集い、その輝きを増していく。
『属性を帯びた全力の魔法』――コントロールファイアー。それが彼女の技能であり、この状況に対応する最善の一手。
多少時間がかかるとも、主の命ずるまま正確に敵を喰らうその術は、先行する二人の猟兵の隙間を完璧に埋めるものだった。
浮かび、揺らめくいくつもの鬼火。少女は思う。どうせ挨拶をするのなら――
「派手な方が、いいよね?」
「ァ――――」
骸がようやく何が起こったのか、そして、対処すべき相手を理解した時には――。
――その思考ごと、灰燼と化していた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ヨハン・デクストルム
なんとも懐かしい、郷愁を誘う光景ですね。荒れ果て、主人も住民も失った廃城。忌み地と呼ばれた陰鬱な廃都。故郷を思い出します。
しかし、ここには神が居ない。だから貴方方は救われない。
UC使用。浄化の鳴き声で亡者たちを土へと返します。
使用技能:全力魔法、範囲攻撃、祈り、火炎耐性、激痛耐性、高速詠唱、礼儀作法など
その骸は、まるで猟兵達から逃げるように駆けていた。
予知したところで避けられぬ死、篝火はより激しい炎に掻き消され、使える死体はもはや『あの場』にはない。
恐怖を知る者であれば、死の恐れから逃げ出しただろう。
理性携えた者であれば、勝機無き故に逃げ出しただろう。
だが骸のソレは、恐怖でもなく、理性でもなく、本能から出た行動だった。
――唐突に骸は転倒し、棘の絡み合う茨の茂みに叩きつけられる。
少し離れた場所に佇む、美しきダンピール――ヨハン・デクストルムの技能、高速詠唱による魔法は、駆ける骸の脚を正確に貫いていた。
その場でもがき、茨の棘から逃れようとする骸に、狂信者はゆっくりと近づいて。
「すべては、神の導きのままに。」
そのまま止めを刺そうとした――その時。
――カタリ。
それは通常の人間であれば気が付かないであろう、小さく、微かな物音。だが、ヨハンの鋭敏な聴覚と第六感はソレが見過ごしてはならぬ異常と告げた。
刹那。突如として出現した『ナニカ』を紙一重で咄嗟に見切り、身を翻す。
「――――ッ!」
体を貫く、衝撃にも似た炸裂音。
振り返れば、骸とヨハンの間を割くかのように、焼け焦げたかのように黒い巨木が倒れていた。伸びる五本の枝のどれかが引っ掛かったのだろう、頬に出来たかすり傷から血が滲み、白い肌を小さく彩っていた。
――巨木の形状に、違和感を覚えた。
五本の枝が、ゆっくりと『内側に曲がる』。薔薇に隠された根本が盛り上がり、ゆっくりと『立ち上がった』。これは、これは巨木ではない。これは――『腕』。
紅の隙間に見える、ところどころに散らばる調度品、壁に染み付いた焼け焦げの跡が、かつてこの城で何があったのかを物語る。散乱する銀食器の数々、バラバラになった豪奢な椅子、焦げて黒に染まった肖像画、打ち捨てられた煌びやかな過去の残滓。だが隠されているモノはそれだけではない。
その『新たな亡者』は確かに、眼前の骸と同じ『篝火を持つ亡者』だった。
かつての城の住人か、それとも漁りに来た盗人か。薔薇の影に隠され、肥となっていた数々の亡骸、もはや原型を留めぬそれらが重なり合い、寄り集まり、過去の残滓を巻き込んで。奇怪にして醜悪なパズルのようなそれは、野菜で人の顔を構成した、かの肖像画を髣髴とさせる。
「ヲ゛ヲ゛ヲ゛ヲ゛ヲ゛――――――ッ!!!」
紅き城に響くは咆哮、大輪の薔薇を照らすは巨大な篝火、その身を覆うは茨の外套。
ソレは確かに、『篝火を持つ亡者』だった――猟兵の数倍はあるであろう、その巨大な体躯を除いては。
「…ァ…ゥ…」
自らが操る傀儡、その巨大な腕に抱えられる操り手。もしここで退けば、この骸は先行する猟兵を挟み撃ちにするだろう。まともに対峙すれば、一人ではまず勝ち目のない相手。だが、退くわけにはいかない、猟兵として、そして――。
「……貴方が過去と骸を武器に戦うならば、私は我が神の導きのままに戦いましょう。」
――一人の、神を信ずるものとして。
ひらりと舞うように、巨大な骸の前に立ち塞がる狂信者。骸の方も、更々逃がすつもりなどないらしい、巨木のような腕を振り上げる。
巨大に見えるその体躯も、その実、複数の骸によって構成された傀儡に過ぎない。かつて、心に神無き巨人は額を賢者に打たれ敗れた。故に、たった一つだけ勝機があるとするならば。
「ア゛ア゛ア゛――ッ!!」
「此処には、貴方方には神がいない」
第六感を駆使して迫りくる剛腕を見切り、間一髪のところで回避する。
猛攻の巻き起こす暴風が、ヨハンの黒髪をはためかせた。ある程度対応する技能はあれど、まともに受ければ、ただでは済まないだろう。
「ヴヴエ゛ヲ゛ッ!」
「だから、貴方方は救われない。この『世界』に在る限り」
歌うように語る。放った高速詠唱による全力魔法も、巨掌に阻まれ届かない。
猟兵の圧倒的な不利。この戦いを見る者があればそう評価を下しただろう、だが――
――既に勝負は決していた。
巨人の懐にて指示を出す骸、その眼前にひらり、と白い羽が舞った。
骸には神がいなかった。そして、狂信者は神の導きがあった。神無き哀れな骸の前に舞うのは、神の導きたる白きカラス。だが、狂信者に向けた攻撃により、巨人は咄嗟に対応できない。
かつて、心に神無き巨人は『額』を賢者に打たれ敗れた。
物語とは、繰り返すものなのだろう。
「――神よ、かの者を哀れみたまえ」
「ァ……ァ……――!」
白き霊烏の鳴き声が、骸の夜を終わらせる。浄化の響きが穢れた肉体を土へと還し――
――操り手を失った傀儡は、ゆっくりとその場に崩れ落ちた。
崩れ去る巨人を背に、神亡き狂信者――ヨハン・デクストルムは郷愁する。
忌み地と呼ばれる陰鬱なる廃都を、荒れ果てた紅き廃城を、自身の故郷に重ね合わせて。
かくして、城の主への道は繋がった。
成功
🔵🔵🔴
第2章 ボス戦
『幻想術師『パラノロイド・トロイメナイト』』
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POW : 記録■■番:対象は言語能力を失った。
【夢幻の眠りを齎す蝶の幻影 】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD : 記録■■番:対象の肉体は既に原型を留めていない。
完全な脱力状態でユーベルコードを受けると、それを無効化して【数多の幻想が囚われた鳥籠 】から排出する。失敗すると被害は2倍。
WIZ : 記録〓編集済〓番:〓編集済〓
対象のユーベルコードに対し【幻惑し迷いを齎す蝶の群れ 】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠鶴飼・百六」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
開かれた城門の内――訪れた者を出迎えていたであろう中庭は、廃城の外観とは打って変わり、よく手入れが行き届いているように見えた。
中心にある『井戸』から広がるように伸びる通路、絨毯のように咲きみられる薔薇、並ぶ石像は飾るかのように大輪の紅を身にまとい、佇むトンネル状のアーチは間から光が漏れぬほどに花弁で埋まる。
……――――ィン。
庭園内に、鈴のような冷涼な音が小さく響いた。
呼応するように、むせ返るような華の香りの中、朧に輝く蝶々が儚げに舞う。
井戸の前、ゆらゆらと揺らめく幻想の異形――幻想術師『パラノロイド・トロイメナイト』。
駆除対象である彼は、静かに猟兵達を待っていた。
ヨハン・デクストルム
こんばんは、お騒がせして申し訳ありません。少し、お話ししませんか? こちらとしても、これ以上この地を荒らしたくはないのです。
対話を試みます。相手の反応と託宣板を併用し、目的と理由を推測。鎮魂や静寂が目的であれば、『あなたがここに居る限り猟兵が送り込まれるため、逆効果である』と伝えます。
UCは、交渉が成立した場合は弔いのために使用。月虹をかけ、光の雨を降らせましょう。交渉が決裂した場合は攻撃のために使用。麻痺の風を吹き付けて仮面、鳥かご、首飾りなどの攻撃が効きそうな所を狙います。
使用技能:見切り、高速詠唱、祈り、学習力、情報収集、第六感、礼儀作法、コミュ力、失せ物探し、動物と話す、串刺しなど
木霊・ウタ
心情
トロイを静かに海へ還してやりたいぜ
手段
Wウィンドを爪弾き語りかける
;コミュ&パフォ&演奏&歌唱&手をつなぐ&鼓舞&勇気&優しさ
綺麗な薔薇だな
色も香りも素敵だぜ
大事に育てられてるってよく判る
この城や
この薔薇園が大好きなんだな
この世界の「過去」であるアンタが
此処に来たのは
この場所やこの風景が大好きだから
だろ?
アンタがこのまま留まると
この世界は過去に埋め尽くさて滅びちまう
そんなこと望まないだろ?
悪ぃけど
もう此処にはアンタの居場所はないんだ
海で静かに眠っててくれ
静かな曲で還るトロイを送る
戦いが避けられない場合は
地獄の炎で蝶を滅する
薔薇は傷つけぬ様にする
●
「――こんばんは」
神を亡くした狂信者――ヨハン・デクストルムは静かに語りかけた。
聞いているのかいないのか、流体の身体を小さく震わせながら、蒼き異形――パラノロイド・トロイメナイトは猟兵達の方に顔を向ける。その静かな佇まいを見るに、今のところ猟兵に敵意はなさそうに見える。
「お騒がせして申し訳ありません。少し、お話ししませんか?」
「綺麗な薔薇だな。色も香りも素敵だぜ。……大事に育てられてるって、よく判る」
ヨハンに続いて、木霊・ウタが異形に語る。少年の奏でるギター――『ワイルドウィンド』の心地よい音色が、柔らかな風となって優しく舞い、庭園の中の薔薇を小さく揺らした。
「アンタが此処に留まっているのは、この場所やこの風景を守りたかったからだろ?」
だけどな、と、若干言いにくそうに、少年は言葉を続ける。
「このまま留まると、この世界は過去に埋め尽くさて滅びちまう」
「そして、その滅びを止める為、貴方が此処に在る限り我々猟兵は送り込まれます」
対峙するのがオブリビオンである以上、世にあるべき存在ではない。
そして、二人が猟兵である以上、彼らを『海』に還さねばならない。
それが例え、どのように猟兵の瞳に映っているにしても。
「こちらとしても、これ以上この地を荒らしたくはありません。鎮魂や静寂を求めるならば、貴方の存在は――」
しばしの静寂。
解決する方法は、たった一つしかない。猟兵としてもソレを伝える事は心苦しいのだろう。
――せめて静かに。安らかな眠りを。
二人の猟兵はそう、心中で呟いて。
「――残念ながら逆効果です」
「――トロイ、アンタはそんなこと望まないだろ?」
平穏な未来に望みを託し、トロイメナイトに問いかけた。
●
――美しいウタだ。
率直に、トロイメナイト――蒼き異形は、そう思った。
猟兵の言う通り、確かに咲き乱れる薔薇は美しい、紅き花弁が舞う様は夢の様だとも思う。だが――そこには何の執着も、何の感情も存在しない。
『好ましい』、『美しい』、そんな感情は当の昔に消え失せた。あるのはただただ、強迫にも似た義務感のみ。鎮魂、静寂、半分は正解だった、だが、目の前の猟兵に全てを託すわけにはいかない。
確かに、二人の猟兵の奏でるウタは美しかった。だが、異形の心には響かない。
異形自身分かっていた、己の手は何一つ救えず、変えられない。たった一つだけ出来るのは、精々『変えない』事だけだ。
行く手に破滅しかないのであれば、時を止める事に何の躊躇いも存在しない。
この先どんな者達が訪れようとも、この庭園に留まる覚悟は既に出来ている。
異形の望みは誰かの望み、一人でも彼の齎す『夢』を望むのならば。この世界に在る理由は、たったそれだけで十分だった。猟兵達の言葉を一通り聞いた蒼の異形は――
――ゆっくりと、静かに頭を振った。
「……貴方の言葉も、心も、私達には分りません。ならば、『真実』をこの託宣板によって見定めましょう。」
はんば予想していた返答を受け、ヨハンは眼前の異形に対し、静かに、諭すように語る。
例え言葉を交わし通じ合う事が叶わなくとも、トロイメナイトが何を思い、何故此処に留まるのか、その『真実』を見定めようと、託宣板を引いて――。
――赤く、朱く、紅く。示されたのは、一面の赤。
本来その託宣板に描かれている絵図を塗りつぶすかのように、血の手形で埋められていた。
「――ッ!?」
思わず託宣板を取り落とすヨハン。
だが、地に散らばったそれらを再び見ると、血の跡などはついておらず――ふわり、ふわりと辺りを漂う幻想の蝶。ヨハンの引いた『真実』は、異形の幻によって紛れて消えた。
――彼らは『真実』を知るべきではない。ソレを知るには、優しすぎる。
薔薇の元で眠る骸達、この場所を『忌み地』と呼んだ村の人々。彼らが其処に在る理由、彼らが其処で為した事、それは猟兵達には分からない。それを語る言葉も彼は持たない。
言葉を失った異形は思う。
――この者達は善良なのだろう。あまり、傷つけたくはない。多分、『彼女』もソレを願うだろう。
だが、庭園を荒らされるわけにもいかない、そしてこのまま自身が退くわけにもいかない。猟兵とオブリビオン、その存在は思想や言葉では決して交わらぬ平行線。
しかし、故に、だから。
死力を尽くし対峙する事のみが、猟兵である彼らに対してのオブリビオンとしての礼節であり、己の『覚悟』の証明だろう。
――空気が、変わった。
ゆらり、と、仮面を傾ける蒼き異形、呼応するように、明らかに意思をもった動きで、朧に輝く『迷いを齎す蝶の群』が薔薇園を包む。
「……やはり、こうなってしまうのですか。……残念です」
変化した空気、異形の動きに対応し、先手を打たんと狂信者の祈りが巻き起こす、麻痺を齎す魔風。漂う蝶の群が薔薇へと向かうそれらを打消し掻き消すも、異形自身の身を守るまでには至らない。
「…………ッ」
魔風によって、仮面を、鳥籠を、首飾りを撃たれ、痺れを感じているのだろう。異形の両腕が異常に長く、だらりと垂れ下がる。鳥籠が異形の足元に力なく落ち、中の『幻想』を小さく漏らす。
「せめて、アンタの薔薇は傷つけないぜ……ッ!」
早々に決着をつけんと、ヨハンの攻撃に続き、木霊・ウタの身体から噴き出る業火が渦を巻く。その意思により薔薇を傷つける事はないものの、それ以外を灰燼と化す地獄の焔。
本来ならば、『蝶の幻影が齎す夢幻の眠り』によって、多少の隙を付けた筈の攻撃、しかし、思うまま腕の動かない今、異形が対応するのは難しい。
「……ッ!」
なけなしの自らの放った『蝶』を盾に、肩を使って痺れた腕を大振りに振るい、煉獄の炎越しに少年を殴打しようとする異形。だが、骸共を灰燼と化した炎の前では、それは蟷螂の鎌に等しい抵抗だった。
「――――――ッ!!!」
声にならない叫びをあげ、異形の、流体の両腕が熱により爆ぜ、辺りに散らばる。
『蝶』によって多少は威力が分散されていたとはいえ、『麻痺した両腕での攻撃』など成功しない事は分かり切っていた。傍から見ればそれは、何の意味のない自傷にも似た行動。
――しかし、猟兵達は即座にその真意を見抜き、戦慄した。
「麻痺した部分を、自分で…?」
「マジかよ…っ!?」
そう、猟兵達を前にして、トロイメナイトに悠長に回復を待つ余裕はない。代償も大きく、不定形の肉体だからこそ為せる荒業だが、死力を尽くすと『覚悟』を決めた以上、これしきの事は問題ですらなかった。
腕が爆ぜ散ったとは言え、異形にまだ余力はある。ぐるぐると流体の蒼き肉体は逆巻き渦巻いて、爆ぜる前と同じ形を取り戻す。
『再生』した部分を試すかのように少々動かし、鳥籠を拾うと、異形は再び猟兵達の方へと向き直り――
――幻想術師『パラノロイド・トロイメナイト』は、今この時より『本気』になった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
八重森・晃
綺麗なバラだね、きっと育てるのにとても手間がかかっただろうね、そう、素直に思う、植物を育てるのは、生き物を育てるのはとても手間がかかる、心を籠めなければきっとこのような素敵なバラ園は作れないのだろう、純粋に、その有りようは美しいと思えた。きっとこのオブリビオンの執着も、決して邪悪なだけのものではないのだろう、少なくても、きっとその始まりは、だけど、それでもそれが私たちの未来を奪うものならば、私たちは抵抗しなければならなかった、生きるものの常として、義務として奪い取る。ユーベルコードを使用、後方から放たれた強固な塩の弾丸は、指さした相手だけを襲う、対象は妄執の徒、願わくばその妄執を打ち砕く。
木霊・ウタ
心情
此処は大切な場所なんだな
世界を止めても護りたいってか
OK
力づくで止めてやるぜ
それが俺達がしてやれる
せめてものコトだからなな
手段
未来を守る覚悟と
過去の惨劇の犠牲者への鎮魂を込め
Wウィンドを奏で歌う
;コミュ&パフォ&演奏&歌唱&手をつなぐ&鼓舞&勇気&優しさ&破魔
断罪の炎纏う焔摩天で蝶や鳥籠諸共薙ぎ払う
:属性攻撃&破魔&薙ぎ払い&鎧砕き&UC
繰り返しの打撃で:鎧砕き
一時的にでも鳥籠が開かなくなればラッキーだよな
武器受けやUCで防御
高熱による陽炎で回避
炎の剣風で蝶を滅する
眠気は自分の腕を炙り覚醒
アンタの真似をさせてもらったぜ
武器や炎で庭園を傷つけない
万が一の時は庇う
戦闘後静かな曲で送る
安らかにな
「……OK。力づくで止めてやるぜ。」
木霊・ウタは、『本気』になったトロイメナイトに呟き、思う。
――それが俺達のしてやれる、せめてものコトだからな。
骸共を葬ったように。先に異形の腕を爆ぜ飛ばしたように。
少年の未来への思いと『覚悟』をのせて響く演奏、舞い上がる業火。威力を鑑みれば、確かに有効な攻撃だろう、だが――。
幻想術師『パラノロイド・トロイメナイト』は、舞い上がる薔薇の花弁を、舞い散る輝く蝶の翅を見て、そして、異形の思惑通り『二度目』に放たれた少年の攻撃を見て、少しだけ、仮面を傾げた。
――その『風』を待っていた。
爆ぜ散った蒼の異形の欠片、それらは未だ消失したわけでも、生命を失ったわけでもない。
どんなに姿を歪めようとも、どんなに散り散りになろうとも、それは不定形の異形にとっては『一部』であり『身体』であった――それが例えば、吹く風に舞うような小さな『欠片』であったとしても。
爆発に似た衝撃と共に、少年の周囲の虚空に突如として出現する『夢幻の眠りを齎す蝶の幻影』。
否、それは正確には虚空ではなかった。
少年の起こした烈風に舞い散らされた蒼い肉片――先ほど、異形自らの手で爆ぜ散らしたそれらが爆弾のように『蝶』を放ち、そして力尽き消え失せる。それはまるで空中に漂う機雷の弾幕。
「しまっ――」
気が付いた時には時既に遅く、肉片の放つ『蝶』が木霊・ウタの頭を掠め――
●幕間:少年の見る夢の断片
――ある日、城下に奇妙な病が流行りました。
徐々に手足が■■■■■■■■■その奇病は、誰にも治すことができませんでした。
人々は思いました、■■■■■罰している■■■■■。
人々は疑いました、きっと我々の中に■■■■■■■。
人々は言いました、■■■■を■■■■■しなければ。
険悪な雰囲気が漂う中、次第に、ある噂が広まっていきました。
領主には娘がいる。そしてその娘は――
――■■■■■だ、と。
●
「……く……っそ……。」
睡魔に抗いながらよろめく少年、その口から紡がれる言葉が、辛うじて少年の意識を繋いでいた。
残存する力の欠乏から、肉片から放たれる『蝶』には対象を完全に『夢』に陥らせる程の力も殺傷力もない。だが、微睡で攻撃の手を止める程度には役に立つ。
それだけで異形にとっては十分だった。
流体の肉体をうねらせ、くねらせ、少年へと距離を詰める。ちりちりと剣が纏う炎が異形の身体を焦がすが、この機会に比べれば些細な事だ。
攻撃の気配を感じるとも、既に眼前の異形も把握できないのだろう、明後日の方に振るわれる少年の剣。薔薇に向かったその炎は、漂う『蝶』が打ち消し虚空へと溶ける。
異形に少年を殺すつもりはない、だが、ただで帰すつもりもない。
――更に深き眠りに堕ちよ。
更に深い夢幻の闇へと導かんと、異形は少年の額に手を伸ばし――
――その腕を、『塩の弾丸』が貫いた。
咄嗟に少年から距離をとる異形。
弾丸の放たれた方を見やると、そこには少年とそう年齢が違わないであろう少女が、篝火を手に立っていた。
「……綺麗な薔薇園だね。本当に綺麗。でもね」
育てるのにとても手間がかかっただろうと、塩の魔術師――八重森・晃は素直に思う。
何であろうと生物を育てる事はとても手間がかかる。そして彼女の目に映る薔薇園は、心を込めなければとても作り出せるものではない。薔薇園に執着するこのオブリビオンも、その有り様も美しいとさえ、少女には、そう思えた。
――それでも。
仮に眼前の異形が邪悪に染まっていないとしても。
それが、少女の、猟兵達の『未来』を奪う者ならば。
「私たちは君から、『未来』を奪わないと」
その言葉で、異形は優先順位を変えたのか、流体の身をくねらせ、蛇のように少女に向かう。だが、いくら身をくねらせ躱そうとしようとも撃ち込まれる『塩の弾丸』は、正確にその身に食い込んでゆく。
「…………ッ!!」
『幻惑し迷いを齎す蝶の群れ』の殆どは既に薔薇を守っているため、異形に向かう『塩の弾丸』を完全に打ち消す力はない。だが、軽減されたソレに異形を押し留める力はない。
さりとて骸共に見せた少女の魔法――鬼火にも似た炎を使おうにも、高威力な分、火打ち石を打つ時間がかかる。そして、それほどの時間は、今はない。
迫る異形とその腕を、少女は紙一重でひらりと避ける。
一度捕まれば、『蝶』より深い眠りに陥らせられるだろう、それでも、あえてギリギリのところで踏みとどまる。
――それでも、私『たち』は抵抗しないといけない。
そう、今は彼女一人だけで戦っているわけではない。幸いにも少年が受けた攻撃は掠った程度、異形がこちらに向いている間に、彼が睡魔を振り払う可能性は十分にある。
それまで、彼に標的が移らないよう攻撃を避け続ければ。
「……………」
「当たらないよ……っ」
何度目の攻撃だろうか、異形の腕が空を切る。
先の猟兵が与えた傷のせいか、単調に見える異形の攻撃。この分であれば十分に時間は稼げるだろう、そう、少女が考えた、その時。
小さく飛沫がその先から飛んだことが見えたのは、少女が攻撃を避ける事に集中していたためだろう。そして、皮肉にもその集中が、異形の攻撃を完全に避けられないという事も同時に理解させていた。
爆ぜるようにして現れた夢幻の蝶々が、少女の頭を掠めた。
●幕間:少女の見る夢の断片
――ある日、反乱が起こりました。
ゆらゆらと揺れる篝火の群。そして、■■■■■■、■■■■■■■■■■■。
■■■■■■■■■■■■■、城に雪崩れ込み、暴虐の限りを尽くす村人達。
誰も止められる者などいませんでした、■■■■■■■■■■いませんでした。
……屈強な護衛の騎士たちは■■■■■■■■
勿論いましたとも。■■■■■、守るべき主人■■■■■■。
村人は■■■■■の牙を■■■■■■■■■ました。
村人は■■■■■の体を■■■■■■■■■■■■。
村人は■■■■■を■■■■■■■■■■■■■■。
村人は■■■■■をとても深い井戸に落としました。
●
「――――あっつッ!」
微睡に陥った少女を、完全に眠りに堕とさんとする異形の背後で、声が響いた。
――馬鹿な、まだ十分に『蝶』は、あの少年の微睡は、残っている筈。
驚愕し、振り返り、そして理解する。既に、『対抗策を自分が見せてしまっていた』という事に。
異形の仮面、その視線の先にあるのは焼け焦げた少年の腕。己の睡魔を打ち消す、ただそれだけの為に、少年は、自らの腕を焼いた――異形と、同じように。
「……あんたの真似をさせてもらったぜ、トロイメナイト。すっげぇ痛いけど――」
少年は理解している。異形にとってこの場所は世界を止めてでも、己の肉体を傷つけてでも護りたい場所であるという事を。
だから、故に。
かの異形を下すためには、それ以上の『覚悟』を見せつけねばならない事も。
「――これでもう、『蝶』の眠りは効かないぜ。」
「…………」
少年を、その焦げた腕を見て異形は思う。
今の少年を戦闘不能に陥らせるためには、眠りを通り越し、痛みすら届かぬ『昏睡』を陥らせる他にない――すなわち、もはや肉片による牽制は無意味であり、近距離での『蝶』による攻撃を行う他はない、と。
少年は、剛剣を構えなおして、異形は、ゆらりと身体をくねらせて、お互いに対峙する。
それはまるで決闘のように。しばしの静寂を置いた後――
――二人は、相対する敵に向かい、駆けた。
「……ッ」
――刹那、異形の身体を貫く衝撃。
見れば『腕』に食い込んだ『塩の弾丸』。想定外の事態に混乱し、思わず撃ち込まれた方を振り返る――
「でも……私は……っ」
――微睡の中、眼前の敵も見えない筈の少女の指は、上げられる筈もないその手の先は、その『妄執』を打ち砕かんと確かに異形を指していた。
放たれたユーべルコードは『執念』によるものか、それとも『夢』の、『この地の過去』に対する拒絶反応か、そのどちらかなど異形には知る由もない。
だが、どちらにせよ、もう。
少女の――『塩の魔術師』八重森・晃が作り出した、異形の僅かな隙。
猟兵の少年――木霊・ウタにとって、そして、蒼き異形――トロイメナイトにとって、それは、勝負を決するのに十分すぎる程の時間。
蝶の幻影が放たれようとした、その時には既に。
蒼い肉体を、炎纏う剛剣――『焔摩天』は薙いでいて。
「……安らかに、眠ってくれ。トロイ。」
少年の呟きと共に、異形は、跪くように、崩れ落ちた。
焼け焦げ、灰燼と化していく異形の肉体。舞い散る灰は微かに残った力の為か、夢のように淡く綺羅綺羅と輝きながら、少年の奏でる鎮魂歌、その風に溶けて消える。
最期の刹那、異形――幻想術師『パラノロイド・トロイメナイト』は思う。
これは、最初から分かっていたことだ。
永遠の停滞はない。永久の夢はない。
いつかは何もかもが変わってしまう。そして――
――自分以上の『覚悟』を、『執念』を見せつけられては、退場するより他にない。
――。
薔薇園に漂う夢と幻想は、舞い散り消えた。
この日、この時をもって。
薔薇園の現と運命は、猟兵達の手に託された。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 日常
『紅蓮の薔薇園』
|
POW : 薔薇を刈り尽くす、置き物を破壊する。
SPD : 薔薇園を駆け抜ける、騒音を出す。
WIZ : 薔薇を燃やし尽くす、派手な魔法を使う。
👑5
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
【!】記録:■■/■■
薔薇と悲劇の匂いがする。
『処分』しますか?
『はい』 『いいえ』
木霊・ウタ
心情
薔薇達は
トロイという過去が望んだ結果だけれど
今を生きる存在として確かに此処にある
見た人に美しい大切にしたいって気持ちを
起こさせてくれてる
今を生きるものが未来を作り出していく
この薔薇園もそうだ
手段
村人らへ薔薇園の世話を依頼
多少は脚色して
忌み地だったことは知ってる
けどもう大丈夫だ
化け物は俺達がやっつけたからな
でも問題があるんだ
薔薇園が荒れちまうと
また化け物が蘇って来ちまうかも知れない
だから薔薇の世話を頼まれてくれないか?
共に廃城を訪ね
薔薇園の美しさや香りを
育ててきた者の想いを感じてもらう
BGMにWウィンドを静かに奏で
美しい姫と優しい庭師の穏やかな日常の物語を歌う
薔薇達を未来へつなげていこうぜ?
ヨハン・デクストルム
燃やし尽くしてしまいましょう。薔薇も、悲劇も。
UC使用。豪風により薔薇を根こそぎ巻き上げ、上空にて炎属性を付与。
空高くに燃えさかる薔薇の炎球を生み出しましょう。
太陽と呼ぶにはちっぽけに過ぎますが……願わくば、これが貴方方に夢の終りを告げ、新たな幸福を運ぶ『朝日』とならんことを。
使用技能:礼儀作法、火炎耐性、祈りなど
『忌み地』の方から歩いてきた彼を、最初の内、村人は警戒していた。
それも無理はない事だ。骸が闊歩し、人外の魔物が住み着く忌み地、そんな所からやってくる者など、それらの同類に決まっている。だが。
「あそこが忌み地だったことは知ってる。けどもう大丈夫だ、化け物は俺達がやっつけたからな!」
猟兵の少年――木霊・ウタが、証として持って来た幻想師の仮面を掲げ、人々に見せると、その目の色が歓喜に染まった。
忌み地のバケモノを討伐した、その知らせを受けた村人達は喜びの色を隠せなかった。猟兵の少年に向けて響く歓声、それらから察するに、村人はこう思った事だろう。長年待ち望んでいた時が来た、これでやっと悪夢から解放される、と。
「でも問題があるんだ。薔薇園が荒れちまうとまた化け物が蘇って来ちまうかも知れない」
期待に満ちた一同の目が猟兵に集まる。そう、薔薇園がこのままではまた新たなバケモノが現れる。だから――
「――だから誰か、薔薇の世話を頼まれてくれないか?」
歓声が、ピタリと止まった。
しばしの静寂の後、恐る恐るといった様子で人のよさそうな青年が猟兵の前に出る。
「その仮面は、確かのかの地に住み着いたバケモノのものです。ですから、貴方の言葉に嘘偽りはないのでしょう。ですが……」
少々の落胆を顔に浮かべ、青年は続けた。
「……貴方は御存じないのです。かの忌み地の薔薇が、どれだけ忌まわしいモノなのか」
「けど、もうバケモノは居ないんだ、危険はもうない。ちゃんと手入れさえすれば――」
共に廃城を訪ね、薔薇園の美しさや香りを、そして育ててきた者の想いを感じてもらえばきっと、村人の心も変わる。少年はそう信じて思わず訴える。
だが、その言葉に対しても、村人の青年は静かにゆっくりと頭を振り、答える。
「あの薔薇は、吸血鬼を呼ぶのです。彼らの目にはあの薔薇の紅と香りは、さぞかし魅力的に映るのでしょう。今までに何人もの人間があの薔薇園を焼き払おうとしましたが、あるものは薔薇の肥となり、またあるものは吸血鬼の贄となりました」
猟兵達が最初に退けた骸達、薔薇の影に隠れた朽ちた屍、彼らが其処に在った理由、彼らが其処で為した事、数ある『真実』、その内の一つの答えを語る村人。
「――かの忌み地のバケモノを討伐した貴方にお願いします。あの薔薇園を、焼き払ってはもらえませんか?」
真剣に懇願する彼の目に、嘘偽りはないように思えた。
「……っ、俺、は……」
猟兵――木霊・ウタは戸惑い、思う。
確かに猟兵の少年が感じた、オブリビオンの薔薇への想いは本物だった。しかし村人からすれば、いくら美しくとも忌まわしきバケモノが咲かせた徒花に過ぎない。
あの地に在ったのは、美しい姫と優しい庭師の穏やかな日常ではなかったのか、あの薔薇達は『今』を生きるものではないのか、と。
そう、問おうとした時。
――『太陽』が、夜を照らした。
●
「少々、大掛かりになってしまいますが――」
忌み地にて紅き花弁を散らし吹き荒れる豪風、天高く舞い集う薔薇の花弁は火に包まれて、輝きながら灰へと変じる――その様は正しく『太陽』だった。
「――燃やし尽くしてしまいましょう。薔薇も、悲劇も」
神亡き狂信者――ヨハン・デクストルムの放つ『神威覿面』が、主の眠りし薔薇園を抉り、『太陽』へと変えていく。
「太陽と呼ぶにはちっぽけに過ぎますが、ね」
赤く、朱く、紅く。その根に絡まった残骸ごと、鮮烈な血の色をした花々が燃え盛る火球となり辺りを照らす。
小さいかもしれないが、夜に覆われたこの世界では確かにそれは、明日を照らす天の焔のように力強く、見る者を勇気づけただろう。
――薔薇の大凡半分が、太陽と変じた頃。
余りに広大な薔薇園に対し、狂信者は限界を感じて手を止める。
自由度が高い反面、『神威覿面』はただでさえ制御し辛く暴走しやすい類のユーべルコードだ。これ以上の連続使用は自身をも傷つけないとも限らず、もはやオブリビオンも亡き今、無茶をすることは得策ではない事と思われた。
――後は、他の猟兵に任せるとしましょう。
そう判断すると、改めて、狂信者は自らの仕事を眺める。根に絡まった残骸、その中には少なくない数の骸も含まれていた。この地に訪れたときに立ちはだかった、あの巨大な骸を考えれば、まだまだこの薔薇園には、数多の骸が埋まっている事だろう。
よく見てみると、薔薇を『処理』した黒い地肌に、干からびたような――多分、頭部と思しき黒い塊が転がっているのが見てとれた。
「……願わくば、これが貴方方に夢の終りを告げ、新たな幸福を運ぶ『朝日』とならんことを」
だが、もう、幻想師も消え去って、残りの薔薇も消え去れば、彼らにとっての悪夢は終わる。
骸も幻想師も居なくなった忌み地にて、狂信者は誰ともなしに、祈るように呟いた。
――――――。
――――。
――ヨハンが見やった骸の口で、鋭い犬歯が『太陽』に照らされキラリと光った。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
●残存〓編集済〓50%
世に『正しい選択』など存在しない。
ただただ『過去』は積み重なるのみ。
強い意志があれば、残りの薔薇も全て処分できるだろう。
【!】本当に残りを『処分』しますか?
『はい』 『いいえ』
ミーヤ・ロロルド
まだ薔薇、ちょっと残ってるにゃ?
なら、ミーヤのガジェットをカメラにして、薔薇を撮ってあげるにゃ!
残してあげることはできないけれど、記録として残しておけば、村の人達も納得すると思うにゃん。
そのあとにガジェットショータイムで、一気に燃やしちゃうにゃ。
ウタくんの気持ちはよく分かるけど、残すことは難しいのにゃ。
だけど、大丈夫なように残すことはできると思うのにゃ。
この写真、気に入ったら、いつかまた、薔薇園を作って欲しいのにゃ♪
ミーヤとの約束にゃ!!
ヴォルフラム・ヴンダー
●UCを用い薔薇と骸を土に還す
薔薇か
俺にはあまり縁のないものだが
むかし、土を耕したことがある
老翁に習ってな
俺は土いじりの方法など、なにひとつ知らなかった
翁は言った
「今在るいのちが糧となり、新しきがうまれる」
落ちた花弁も、枯れた葉も
すべて土と還り、次代を育む苗床と成る
そこにある骸も、うちすてられたと嘆くは易いが
土へと還るなら、あるいは自然な在りようだと、俺には思える
薔薇が消え去っても、夢見た情景は喪われるまい
さすれば、娘
今度こそ、おまえは自由になるだろう
今は絶望に支配されたこの世界も
いずれ朝陽が昇ると、俺は信じている
娘
もしまたお前が、この世界のいのちへと還るなら
その時は、光ある世を約束しよう
半分だけ残った薔薇園の前で、ガジェッティアの少女――ミーヤ・ロロルドの猫耳が、風を受けてぴくぴくと動いた。
ぱしゃり、と。揺れる紅の群を擽るように、小さくシャッター音が鳴る。
彼女なりの弔いなのだろう。少女の手にある写真機は、薔薇園の姿をその内に記録し続けていた。
「ごめんね、残してあげることはできないにゃ」
残念そうに薔薇に向かって語り掛ける少女。
例えどんなに美しくとも、村の人々にとっては忌むべきものに過ぎない。
「でも、こうして残しておけば、村の人達も納得すると思うにゃん」
だから、故に。
少女はせめてこうして姿だけでも、その美しさだけでも、留めておきたいと、そう思った。
「終わったか?」
傍らに佇む、黒騎士のダンピール――ヴォルフラム・ヴンダーが、ひとしきり写真を撮り終えた少女に問いた。
「んにゃん。でも、残すことは難しいのは分かってるけど、やっぱりちょっと可哀想にゃ」
「『今在るいのちが糧となり、新しきがうまれる』。……例え土に還ったとて、消えてなくなる訳ではない」
その言葉に、目を丸くしてヴォルフラムの方を見るミーヤ。
一般的に、黒騎士と言えば呪われた武具を身に纏いその力で戦う、言わば闇に近い者。その口から生命に対する言葉が出るのは、少々意外な事だったのだろう。
「……誰の言葉にゃ?」
「世話になった老翁の言葉だ。昔、土いじりを習っていて、な。落ちた花弁も、枯れた葉も、次代を育む揺り篭となる。ただ、姿が変わるだけだ」
ヴォルフラムの意外な過去、そしてその言葉に、ミーヤは納得したような、していないような微妙な表情を浮かべ、尻尾をゆらゆらと揺らした。
「にゃー……そうかもしれないにゃ。でも、なんか、意外だにゃー」
「そうだな。俺もそれまで、土いじりのことなど何一つ知らなかった」
はんば独り言のように、ヴォルフラムは少々懐かしむように呟いて、そしてそのまま口を閉じる。
――。
しばしの静寂。さぁさぁと吹き抜ける風の音だけが、ただ、響いていた。
「……始めるか」
「んにゃ」
呟くようなヴォルフラムの言葉に、ミーヤが続いて。
ガジェッティアの少女の『ガジェットショータイム』で現れる、奇妙なカタチをした自動機械の群。
ダンピールの黒騎士の『血統覚醒』が、彼自身の瞳を紅く染め、吸血鬼の力を覚醒させる。
二人がとる方法は違えど、為すことは同じ――即ち、眼前の薔薇を『処分』する事。
黒騎士によって振るわれる黒剣が薔薇を斬る――と、言うより、なぎ倒す。
『血統覚醒』により威力のました斬撃に、薔薇の骸の絡む根ごと引き摺りだされ、返り血のように黒騎士を紅く染めた。
薔薇の根に絡む骸を見て、ダンピールの黒騎士――ヴォルフラムは思う。
――この骸も、打ち捨てられたと嘆くは易い。
だが、土へと還るなら、あるいは自然な在りようだと、そうも思う。
『今在るいのちが糧となり、新しきがうまれる』――この骸もまた、新たないのちの糧となるのだろう。
そして今、この薔薇園が消え去ったとしても、その心に在る美しさは、その情景はきっと消えはしない。それはきっと、この地に眠る『娘』にしても同じことだ。
ヴォルフラムは祈る――『娘』の魂の解放と、その自由を。
黒騎士によって引き摺りだされた、数多の紅。絨毯のように広がったソレを踏みしだき、草刈り機に火炎放射器を無理矢理くっつけた様な珍妙な機械の群が、貪欲な蟲のように紅を食み、骸ごとその根を灰へと還す。
炎に包まれた紅を見て、ガジェッティアの少女――ミーヤ・ロロルドは思う。
薔薇を残したい気持ちはミーヤにも理解できる。だが、人々の目から忌むべきものとして映ってしまっている今、それは非常に難しいように思われた。
――だけど、大丈夫なように残すことはできると思うのにゃ。
例え今は無理だとしても、かつての記録が、美しかった薔薇園の姿がある限り、人々の手によって――多分、その時には、愛されるものとして、薔薇園が元に戻る可能性は0ではない。
長い時が過ぎるかもしれない、それでも、きっと、いつかは。
ミーヤは祈る――この地において人の創り出す未来を。
舞い散る薔薇の花弁の中を、二人の猟兵の影が躍る。
残された異形の痕跡を、黒剣と炎が抉り、灰へと還す。
長いような、短いような時間は舞い散る花弁で彩られて。
――薔薇の最後の一本が、燃え尽き消えた。
●
「あの忌まわしき薔薇共を全て燃やし尽くしてくれたのですね!」
猟兵達の『処分』の音や光は、村にまで届いていたのだろう。既に村では猟兵達を歓待するための宴の用意が整っていた。
「これで、この村も安泰です。本当に、有難う御座います」
人のよさそうな青年が、深々と頭を下げる。これで村人も『忌み地』の薔薇の悪夢から解放される事だろう。
「はい、コレあげるにゃっ♪」
「……これは……? 絵画、ですか……?」
少女の手渡した写真を、戸惑いながらも受け取る村人の青年。今は亡き大輪の紅は、静かに、しかし確かに記録されている。人々の記憶に残り続ける限り、いつかはあの光景も目にすることができるだろう――。
「この写真、気に入ったら、いつかまた、薔薇園を作って欲しいのにゃ♪」
「は、はぁ……また、あの地に薔薇園、ですか……」
「んー、ミーヤとの約束にゃ!!」
「は、はいっ」
――……多分。
村人とじゃれあう少女から少し離れたところで、ヴォルフラムは『忌み地』を――かつて薔薇園であった古城の方角を眺めていた。周囲では宴の喧騒が流れゆくも、彼の心中は静かだった。
ヴォルフラムは、かつてかの地に囚われていた『娘』を、そしてこの『世界』を思う。
――今は絶望に支配されたこの世界も、いずれ朝陽が昇ると、俺は信じている。
「娘、もしまたお前が、この世界のいのちへと還るなら――」
――その時は、光ある世を約束しよう。
最後の呟きは誰に聞かれることもなく、風に溶けて消えていった。
●残存〓編集…の『夢』00%
【!】過去が囚われし『夢』は終わった。
猟兵達の活躍によって人々が得るのは、今日とは違った明日だろう。
成功
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