23
生は悪辣なる監獄

#ダークセイヴァー

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#ダークセイヴァー


0




●すべては冷たい箱の底
『――生とは、箱だ』
 この言葉は、此所に戻って来たとき、先人から真っ先に聞いた言葉だ。
 正しいことだと、しみじみと思う。
 ダンピールの青年は枯れた草の色をした髪をねじり玩ぶ。暇だ。暇すぎて、生きている心地がしない。
 此所では飢えることもない。凍えることもない。だが、生きる喜びもない。
 欠伸を噛み殺して歩いて行く。見回り業務の時間だった。
 四角い檻が連なった監獄を、遅すぎず、速すぎず、歩いて回る。檻の中に収容されているひとりか、ふたり――経験則として、複数人で収容されているほうが、巧くやる可能性が高い。
 その貴重な経験を持っていたのは、誰だったか。譫言ばかり零す人狼の男だった気がする。
 そうやってただ役割を果たすように冷たい石畳を漫然と歩いていると、不意に、かの吸血鬼の声を思い出す事がある。
『私の元へ、辿り着いたお前たちの……願いを叶えてあげましょう』
 連れてこられた、或いは目的があって飛び込んできた彼らは――武器や貴重品もそのままに、押し込められる。
 ――もっとも、大方の人間は大したものを持ち合わせちゃいないのだが。
「本日も問題なし」
「こちらも。お疲れさん」
 いつも顔色の悪い人間の同胞と挨拶を交わす。まあ、この監獄に所謂『異常』があるはずもない。
 死者がいるなら、檻から出して掃除をする。それだけだ。
 檻の中、密かに囚人が、がりがりと土を掘っていようとも。ふと昨日いたはずの誰かが檻の中から消えていても――看守である彼らは素知らぬふりをする。
 求められているのは、監獄としての体。抑圧と圧政の象徴。
『――ええ、必死に頑張った子たちに、ご褒美は差し上げますよ』
 あたかも誠意があるかのように微笑んだ、あのヴァンパイアの貌を……、今でも思い出して、骨から震え、左足の古傷がズキズキと痛む。
 吸血鬼の目論見に躍らされ、希望を胸に箱を飛び出し――大切な何かを失いながら生き残ってしまったモノ達は、次なる挑戦者をただ見守る。
 失った片腕を掻いて、同胞は自嘲した。
「――あいつのいうとおりなのかもな、何もかも失って、惨めに生き延びるより……死んだ方が、安らぐのかもしれないな……」

 抗っている内は、飼い慣らされているわけではないと人は思う。
 ああ、だがしかし。

 何処まで行っても、我々は『箱』の中――。

●監獄破り
「仕置きの時間です」
 黒蛇・宵蔭(聖釘・f02394)が静かに告げる。
「とあるヴァンパイアの潜伏先が明らかになりましたので、潜入して到達していただきたいという定番のお話です」
 だが、それには少々、やっかいな段取りが必要なのだと、彼は目を伏せた。
「まず、監獄に入っていただきます。着の身着のまま入れる気易いところです。三食昼寝つきで宿泊料はなんと無料――死ぬまで出られませんけれど」
 冗談のつもりらしい。
 彼も反応は気にせず、説明を続ける。
「これは正式なる玄関ですので、仕方ありません。そのヴァンパイアは『脱獄したものの話をきいてくれる』ということで、如何なる目的でも、誰しもその監獄に叩き込まれるわけです」
 つらつらと言うと、彼は紅の双眸を細めた。
「脱獄の難易度ですが、大丈夫です。問題ありません。過去には一般人も散々脱獄達成しているようですから。皆さんなら問題ないでしょう」
 ――脱獄までは。
 言外の意を伝えるよう、冷めた一瞥を向けた。
「ただし、その先には一筋縄ではいかぬトラップが待ち構えているようです。そこで、判明している情報をいくつか」
 かのヴァンパイア――葬燎卿は、さる古城の何処かにいること。
 その古城には、数多のトラップが仕込まれており、猟兵といえど安易に潜り抜けられるものではないこと。
 監獄は古城の地下へ繋がり、地下への入り口は監獄内に点在しているということ。
 ヴァンパイアの元に辿り着き、延命を嘆願したものたちは希望を叶えられ、現在看守の役割を果たしていること――。
「これらの情報を念頭に、皆さんには情報を集め、脱獄し、吸血鬼へと迫り――それを骸の海へと送り返していただきたい、というお仕事になります」
 軽く告げて――しかし、と宵蔭は声を低くした。
「これは謂わば敵の手の内で踊るような話です。苦汁を舐めることもあるでしょう。無事に果たせるよう――祈っております」
 斯くて、送り出されるは、黴臭い洞穴。
 数多の絶望を見送った、小さな箱の中へ。


黒塚婁
どうも、黒塚です。
どうしても脱獄がしたかった。

●各章概要
(なお、フラグメント名ではありません)

『1章:収容所からの脱出』
敢えて収容されてから、何らかの方法で内部に繋がる通路へと出ます。
一般人の看守は黙認どころか、協力もしてくれます。
その意味は、情報収集することで判明すると思います。
他、収容された一般人ですが、いないものと考えていただいて構いません。

『2章:館の突破』
トラップのある屋敷内部を通過し、吸血鬼の元へ向かう章となります。
いわゆるデストラップの類いが待ち受けており、シビアな脱出劇となる――予定です。
1章での情報収集が成功していれば、予測を立てる材料が全員に提供されます。

『3章:ボス戦:葬燎卿』

●ご注意
2章は猟兵でも苦戦する負傷トラップを前提としています。
行動成功UCを使用していても「突破できる道筋をたてることができた」ということで、其処に想定される負傷などを回避できないかもしれない……とご理解ください。
※ただし、深刻な欠損などは発生しません。種族的・設定上、早々に治療可能と見た場合はあり得ますが、こちらなプレイングによりけりで、無断で行うことはありません。

また、当シナリオは2人を超えた3名以上でのグループでの参加は不採用とさせていただきます。

●プレイングに関して
各章導入公開後、プレイングを受付いたします。
期間については導入に続けて表記いたします。
また同様の情報は雑記及びTwitterでもご案内します。
受付前に受け取ったプレイングに関しては、内容如何を問わず採用しませんのでご注意ください。
また全員採用はお約束できません。
ご了承の上、ご参加くださいますようお願い申し上げます。

それでは、皆様の活躍を楽しみにしております。
130




第1章 冒険 『強制収容所を開放せよ』

POW   :    暴力を背景に脅しつけ吐かせる等

SPD   :    書類、日記等情報源を盗む。周囲を探索する等

WIZ   :    口車に乗せる等

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●ある男の回想
 ――何処まで行っても、箱。辿り着く先も、箱。
 嘗て見た地獄。
 記憶にない産道のような地獄を潜り抜け、自分の身体も、……も、失われながら辿り着いた地獄。
 どれもこれも、箱の形をしていた。
 艶やかな木の手触りを楽しみながら、吸血鬼はこちらに微笑んだ。
『此所まで辿り着いたのです。選ばせて差し上げます』
 熱を帯びた回らぬ頭で、必死に考えた。
 亡骸と、怨嗟と、この身が一生背負う痛み。
 しかしそもそも、何を願って俺は此所にやってきたのか。
 それは、自由であったはずだ。
 怯えることも、飢えることもない、……との暮らし。

 失われたモノを数える指は半分になってしまった。数が少なくなったのは天恵みたいなものだ。考えなくて済む。
 ――少なくとも此所にいれば、努力の証は、あの箱の中にある。

●虚構の檻
 監獄は粗末だが――妙に檻は頑丈だった。女子供でも肘までくらいしか出せない幅の鉄格子。
 壁は石だ。暗くてよく見えないが様々な黒いシミがへばりついている。軽く掃除はしてあるようだが、饐えた臭いからは、何処へ行っても逃れられない。
 床に薄い石畳が敷いてあるが、それはいくらでもひっくり返せた。もっとも、悪臭がしみこんだ土の臭いには、目眩がしそうだ。
 寝台は木製で、薄汚いシーツが一枚。
 後は飲用の水桶と、汚物入れ。食べ物は規定の時間に看守が配る。
 一定の時間で見回るよう言われているらしい看守は、別にこちらを監視する素振りも、観察する素振りもない。
 彼らに共通するのは、生気に乏しいこと。
 すべてを諦めてしまったような無関心。
 さて、グリモア猟兵は「脱出の手段はいくらでもある」といった。石壁の向こうの妙な反響。ベッドの下から溢れ聞こえる風の音。
 或いは他にも、経路はあろう。
 さて、脱獄開始である――。

○==+==+==+==+==+==+==+==+==+==+==○
【プレイング受付期間】
 11月24日(火)8:31~27日(金)中

武器・防具・道具はすべて持ち込めています。
情報収集は、当てずっぽうでも何かしら検討をつけた内容のほうが成功します。
看守は声をかければ、足を止めて話を聞いてくれますが、勝手に何かを喋り出すことはありません。
情報ゼロでも脱獄のための行動をとっていれば成功します。
なお、この章では負傷の心配は不要です。(自傷は可能)
○==+==+==+==+==+==+==+==+==+==+==○
シキ・ジルモント
…全く酷い臭いだ
悪臭に耐えつつ、不自然な風の音を頼りに牢の中、特に石畳の床を調べる
怪しい場所の石畳を剥がし、その下にあいた空洞から脱獄を試みる
狼の姿に変身すれば多少狭くても通り抜けられる

牢を調べる合間、看守に情報収集目的で話しかける
脱獄を止めるつもりがないなら調べる様子が看守の目についても構わない
俺がこれからかつての彼等と同じ道を行くと意識させれば情報を得易いかもしれない

体に傷跡や欠損部位を見つけたら、その傷はどうしたんだと尋ねる
誰によって、何によってできた傷なのかを会話の中から拾う
更に傷を観察する事で傷の種類を特定
傷の種類と看守の話の内容から、どんなトラップが仕掛けられているのかを推測したい



●色
 黴びた、湿気った空気が纏わりついてくる。重い油の臭いは、外に焚かれたランタンのものだろう。
 視界が暗い所為か、否が応でもそれ以外の五感が冴えて、本能的に感じる不快さに耳や尾が逆立つ――。
「……全く酷い臭いだ」
 眉間にしわを寄せ、シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は呟いた。殊に、この床だ。何で構成されているか考えたくないものの臭いが、熟成されている。
 それでも、這うように身を寄せ、風の流れを探る。
 そんな彼の耳に、石畳を叩く靴底の音が届いた。
 やる気のなさそうな、だが脚を止める気もなさそうな一定のリズム。
 そして少しだけ、引き摺るような音が重なる。
 脚が悪いのだろう――シキはひとたび身を起こすと、鉄格子側へと身を寄せ、おい、と声をかけた。
「何だ」
 看守は片足を引き摺りながら、近づいてくる。
 その間も、床を探るような、情報を欲するような姿勢は変えなかった。自分の目的が悟られた方が、話が早そうだったから――実際、看守はあからさまに面倒そうな眼差しを向けているが、刹那に宿った光をシキは見逃さなかった。
「いや、この辺りに――」
 おくびにも出さず、世間話のように言葉を紡いで、不自然でないように問いかけた。
「その傷はどうしたんだ」
「――解るだろう」
 男は痩せた頬を皮肉そうに歪めた。よく見れば、耳から首に刺し傷のようなものもある。
 ちゃんと相手の四肢を確認する。薄汚れた仕着せは膚の露出を殆ど見せぬが、指の数が欠けているようにも見える。火傷の跡は、止血のためか、そういう罠があったのか。
「誰かに襲われたのか」
 シキが問うと、そうさなあ、と男は天を仰いだ。
「強いて言うなら、昔の知らん奴に、か……あの城の仕掛けはな、昔悪趣味な領主が、罪人で遊ぶために作ったらしい――扉を開けたら飛び出す刃、床を踏み抜いて動き出す柱……油が染みて、火に追われる部屋――基本は、余計なもんを触らなきゃ発動しないが、どうやって扉を触れずに開けられる?」
 脅すようでもなく、ただ疲れ切ったように――苦痛に滲んだ声音で看守は吐き出す。
 シキは男の傷をつぶさに観察を続けながら、その言葉を全て聞き逃すまいと耳を欹てた。
 ふと、看守は奇妙な笑みを浮かべた。
「一人だってのに、いい目をしてやがる」
「……」
 青の双眸を僅かに瞠り、シキは看守の顔を眺めてしまった。
 物臭な、諦念に染まった表情が、少しだけ過去を懐かしむように歪んで――何かを思い出し、また諦めに染まる。
「オレ一人じゃ、生き延びられなかったさ……一人じゃ、な……」
 何らかの返答をすべきだった。会話を促すためには。
 だが、シキは黙ってじっと看守を見ていた。ややあって、男は厭世的な表情のまま、告げる。
「――『チェス板の黒はセーフ』。オレがお前に伝えられるのは、それだけだ」
 後はにべもない。引き留める間も与えず、牢から離れてしまった――ずるずると引き摺るような音が遠ざかっていく。
 人気が去ると、再び、不快な感覚が寄ってくる。
 ちっ、とシキは小さく舌打ちすると、狼の感覚を頼りに風音の探査を再開する。
 寝床の下――指先が石畳に触れたとき、規則正しく刻まれた疵、文字のようなものを読み取った。
 『アバズレの穴』
 何ともいえない――グラフィティめかして刻まれた、印。
 躊躇いなく引き剥がせば、小さな洞がシキを覗いていた。大きさとしては子供でやっとといった穴だが、土は軟らかい。向こう側から、隠匿のため、少しだけ埋め戻されているようだ。
 狼の姿に変身すれば、問題なく通れる――少々、気は進まぬが。看守が次に回ってくるのはいつだろう。見られても、止められる事はなさそうだが。
(「あの男は――仲間を失った、か」)
 穴を覗き込んだ儘、ふと思い出す。彼らは、犠牲を払い、何とか守り切った生を、何故ここで浪費するのだろうか。
 否、今この世界では――少なからず、あの男が知る限りでは――外で、生きていけぬのか。あの身体では、そうなのかもしれぬ。
 ――余計なことだ。
 シキは昏い穴へ改めて向き合う。死臭よりはマシな――しかし、それ以上に生々しい暗所の臭いが鼻を突く。
「……仕事だ」
 潜めながらも芯に響くような強い一言と共に、その姿を狼に変じ――、穴の中へと、消えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フォルク・リア
牢の中を観察
「耐えられなくはないけど。
この不衛生さ、頭が痛くなりそうだ。
脱出の事は後で考えるとして。」

看守に声をかけ
「おーい。ちょっとこっちに来てくれ。」
最初は中が汚いから何とかならないか、と言う話から。
此処の主はどんな人物なのかと特徴
(性格、嗜好、容姿、能力等から
普段どこにいて何をしているのか等)
を訪ねる。
「いや、俺をこんなところに閉じ込めた張本人の事は
気になるからね。」

最後に
「看守たち、どうも見張ってるって感じがしない。
俺達の脱獄を防ぐ為にいるんじゃないのか?」

一応看守の目を盗んで石壁を探り
裏が空洞らしい所を見つけ
石積みを外し脱出。
重ければ【念動力】も使用。
脱出後は石積みは元に戻す。



●王
 黒い壁――否、確り明かりを照らしてみれば、もっと様々な色が重なっているかもしれない。何が重なっているというのか。血か、汚物か、黴か、煤か――。
 何より、窓がない。
 だからだろうか、臭いは言葉にするまでもなく害悪だ。何処にも触れていないのに、全身を包み込むような不快感に肌が粟立ち、息が詰まる。
「耐えられなくはないけど。この不衛生さ、頭が痛くなりそうだ」
 長い吐息を吐き出して、こめかみに触れながら――フォルク・リア(黄泉への導・f05375)は己を閉じ込める牢の観察を終えると、脱出の事は後で考えるとして、と振り返る。
 此所で出来る、情報収集は――情報源は、ひとつしかない。
 暫し、彼は特に何もせずに時間の経過を待ち、漸く通りがかった看守へ声をかけた。
「おーい。ちょっとこっちに来てくれ――この汚さ……何とかならないのか」
「……文句を言うな。最低限の掃除はしているんだ――ったく、どいつもこいつも、檻をなんだと思ってやがる」
 言われ慣れている、といった様子で看守は答えた。隻眼の男だった。そう表現すれば簡単だが、顔に刻まれた疵は歪でおぞましい。鉄の杭でも刺さったのだろうか。
 よくある苦情であるようだ。どうでもいい情報だったが。
 顔を隠したフォルクにも、特に疑問もないらしい男は――それだけか、と特に感情を揺らすこともなく、視線をついと彼方へやった。
 そのまま立ち去ろうとする男へ、フォルクは畳みかけるように問いかけた。
「まったくいい趣味をしてる――此処の主はどんな人物なんだか」
 看守はフォルクを再度見たが、怯えと疲労が同居したような――命知らずな、と語るよりは、己の内側にある恐怖に射竦められたようであった。
 しかし、恐怖の源については汲みきれず――、まあ、訊けばいいとフォルクは口元だけで密かに笑う。
「いや、俺をこんなところに閉じ込めた張本人の事は気になるからね」
「オレ達も……よくは知らん」
 億劫そうに、看守はいう。嘘や、誤魔化しは感じられなかった。
 一度しか、顔を見たことはない――それは、こちらに連絡をとることもない。
「食いっぱぐれて……風の噂で……此所のヴァンパイアに目通り叶えば、願いを訊いてもらえると……そして、オレも此所に入った――そっち側に、な」
「へえ」
 適当に相槌を打つと、看守は顔をしかめた。
「……ッチ、こんな話、今更だ。お前達だって、それを目的にしているんだろう」
「――ふむ」
 腕を組んで、フォルクは考え込むような風に頷いた。
「で、主の事で知っている事はないのか――普段は何処にいて、何をしている、とか」
「普段は何処にいるかは……しらねえな。何をしてるか、か。棺を沢山、部屋に飾ってたことしか、知らねえ。一回しか会ったことはねぇんだから」
 男は身を庇うように、自分の腕を撫でていた。精神的な自衛行動かと思ったが、どうにも動きが鈍そうなので、そこにも傷があるらしい。
「ああ、でも、あの棺の部屋に普段いるんなら……クソッタレの王の間だな」
「王の間」
 鸚鵡返しをしてみる。看守は忌々しい記憶を辿るように苦しそうに表情を歪める。
「ただっ広い、踏むと罠が作動する部屋があってな……散々苦しめられた後に、その部屋を抜ければ、願いが叶うと――クソ」
 爪が食い込む程に抑えた腕に力を込めて、看守は何かを罵倒する。
 潮時か、フォルクは別の質問を差し込んだ。
「看守たち、どうも見張ってるって感じがしない。俺達の脱獄を防ぐ為にいるんじゃないのか?」
「違う」
 きっぱりと男はいう。残された隻眼どころか、潰れた方の目すら、フォルクを鋭く射貫くようにして――。
「さっき言ったろ――此所にいる奴らは、もう……他に行く場所なんてねぇのさ」
 看守自身の事柄に、彼は特に興味はなかったが――滲む色は真実だと、ただそれだけ理解した。

 男が去った後、フォルクは再び深い息を吐く。じんと脳の奥が痛むような気がするのは、空気が悪く、淀んでいるからだ。
「主の事は、よくわからなかったけど――部屋の位置も、よくわからなかったな。まあ、いいか」
 ヴァンパイアは恐らく彼らに攻撃を仕掛けてもいないらしい。扱う得物のひとつも知らぬようだった。吸血鬼だから強いだろう、それくらいの認識。
 石が積まれた壁の目を視線で辿る。この辺りか、と目星をつけて、不快さを堪えて、押してみる。
 ぐ、と擦れる感触が返ってくる。全力で押せば、問題なく道は拓けそうだ。
「ああ、黴臭いな……」
 目の前の小さな穴には光源はなさそうだ。じめじめとして、陰気なそこへと彼が身を滑らせると――彼が落としたはずの石が、ゆっくりとひとつひとつ元の位置に戻り。
 ひとの気配を残した、空の檻がひとつ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

スティレット・クロワール
おや、面白い監獄だね
たくさん詰め込んだおもちゃ箱みたいだ

へび君のお昼寝にも向かないし、さぁ脱出と行こうか

風の音もしてるし、ベッドの下から調べよう
素直に外に繋がっているかは分からないけど
路ではあるだろうからね
モルペウスの花びらをばら撒いて、風の流れを掴むよ

場所を定めたら、穴を作ろうか
薔薇の冠で、軽く助走だけ付けてシャベルを床に叩き付けよう

うんうん、瓦礫も一緒に飛んでくれると一石二鳥だね

花弁を使い、慎重に風を読んでいこう
穴蔵の鼠の気分も面白いね。分かれ道があれば掘り進めた跡を確認して
もしも、何処かの廊下に出た時は
看守君にお菓子を賄賂にお喋りしようかな

やぁ、こっちで合ってるかな?
お城に約束があるんだ



●道
 規則正しく並んだ箱は、何の特徴もない。
 中を彩る人物こそが、変化と言えば変化で――おそらく、此所に今収容された人々の大半は猟兵だから、きっと常より面白い。
「おや、面白い監獄だね。たくさん詰め込んだおもちゃ箱みたいだ」
 藍の双眸を細め、暢気に零すは、スティレット・クロワール(ディミオス・f19491)であった。のんびりと周囲を一瞥し――闇の中に、浮き上がるような白い衣を、汚れも厭わず翻す。
 監獄といえば、色々浮かび上がる記憶もあるが、感傷に耽る程には暇ではない――もっとも、何故暇でないのかといえば、道楽みたいな理由である。
「へび君のお昼寝にも向かないし、さぁ脱出と行こうか」
 するりと袖を割って身を顕した白蛇が「呼んだ?」とばかり首を捻ったのに、彼は微笑みかける。
 石畳はひんやり冷たいが、不衛生。
 何より、出るために入ったのだから、出よう。
 斯くして彼は、誰に声をかけるでもなく、檻の中で身を屈めた。口を閉ざし、瞳も閉ざし、須臾、身動ぎせずに何かを探る――。
 銀の髪を微かに揺らす、風の動きを捉え、瞬きをひとつ。
「……ベッドの下かな?」
 軽く覗き込んで、袂から、薔薇の花弁を取り出して、撒いてみる。
 冥界に咲く薔薇は、冥府に似た経絡への入り口を、教えてくれるだろうか――はらはらとそよいで落ちていく。
 時々思い出したように吹き出すそよ風に、スティレットは悪戯が成功したかのような笑みを浮かべた。
「素直に外に繋がっているかは分からないけど、路ではあるだろうからね」
 そういって、彼が次に取り出したるは――シャベル、だった。
 何処か不思議な気配を纏う、軍用シャベル。おもむろに薙いで、手応えを確かめると、スティレットはベッドから遠ざかり、鉄格子側へと距離をとる。
「さ、へび君、手伝っておくれーー凱歌を告げよ。我が来たりしを告げよ」
 袖口に囁いて、彼は祝詞を紡ぐ。
 ふわりとスティレットの周囲に浮かび、舞うは、冥界の燃えさかる青白き薔薇の花々――腕からシャベルの柄に巻き付いた白蛇と供に、彼は地を蹴る。
 とはいえ、それは一息の距離――振り上げたシャベルが、ベッドの隙間、薔薇の花びらが示す道筋に叩きつけられる。
 刹那、吹き飛んだ――轟音と、地響きは、全て地下へと吸い込まれ――スティレットも柔らかに、闇の中に身を躍らせた。
「うんうん、瓦礫も一緒に飛んでくれると一石二鳥だね」
 などと嘯く。
 表が、檻の中がどうなっているのか、ということは完全に見ないふりを決めている。意図的に。
 ざくざくと湿り気のある地面は、踏み固められているが、頼りない。
 道は一筋だが、いつ掘られたものか――行き止まりがないとも限らぬ。己のように、少々乱暴にこじ開ける者がいるやもしれぬ。
 掘られた穴の状態を時々眺めれば、どうやら元々、脱出口のように作られた気配がある。其処へ合流しようと、様々な道がうねって繋がっているようだ。
 確りとした道を行けば、間違いはないだろう――それを、違えてしまわなければ。
 再び片手に花弁を一握り――開いた指先からゆっくりと零しつつ、歩き始める。
「穴蔵の鼠の気分も面白いね」
 旧い詩を諳んじながら――冥府の腹を、白い裾を翻し、スティレットは優雅に歩んでいく。
 出会うものの口を緩めるか、固めるか、本物の焼き菓子を傍らに。
 親しき者に逢いに行くかの如く。

成功 🔵​🔵​🔴​

コノハ・ライゼ
一応ソレっぽく地味で動きやすい格好で行こうかしらね
武器はしっかり隠してきましょ、堂々って性質じゃあねぇもの

ウエにハナシ聞いて貰えるって聞いたンだけどぉ?ナンて
見回りの看守に軽い調子でこまめに声かけ情報を探ろうか
天気の話から館の構造までとりとめ無く、それから
何を見て何を思ったか

にしてもアンタ達、揃いも揃って酷い有り様だよねぇ
誰に喰われたの?
そろそろオレもお腹空いちゃったんだよネ
――所で、もしもココに入るヒトがいなくなったらさあ
アンタ達どうする?

さて、出るならあまり汚れないトコがイイねぇ
ちょいと床突いたら抜け穴とかないかしら
抜け口を見つけたら【黒影】で呼んだくーちゃんを先行させ進むわね



●闇
「解ってたケド、やっぱり、空は見えないのネ」
 シンプルに動きやすい姿で――武器の一切も見当たらぬ、ひらりと掌を振って、コノハ・ライゼ(空々・f03130)は己を閉じこめる檻を眺める。
 この石に囲まれた牢獄は、地下ではなかったはずだが――捕らえた人間を衰弱させるために作ったとしか思えぬ構造だ。
 膚を撫でる空気に得も言われぬ不快感はあるもの、コノハは気にせず、薄氷の瞳を細めると、段取りを脳裏に描く。
 まずは、情報だ。
 見回りの看守を待って、鉄格子越しに、ねェ――と、声をかける。
「ウエにハナシ聞いて貰えるって聞いたンだけどぉ?」
「はぁ? 俺たちゃ、何処にも取り次ぐ権限はねぇぞ」
 ええ、話が違うじゃナイ――わざと、コノハは不安そうな表情を見せた。
 看守は憐憫とか、怒りとか、そういった感情を浮かべることはなく、ただ彼を見て、溜息を吐いた。
「まぁイイわ。妙に冷えるけど、外は雨でも降ってるのかしら」
 急に口調をころりと変えて、コノハが問いを変えると、看守はそうだな――と肩の辺りを撫でた。
「降りそうな気配はしてるな……クソ、痛みやがる」
 ふーん、と小さく頷く。
 鋭くなった彼の眼差し――無論、わざとだ――に、本題を悟ったらしき看守が舌打ちする。
 分かり易くて、転がしやすいわ――などと言う感想は大人の心で包み隠す。きっと相手もそれなりに慮ってくれている駆け引きでもある。
「此所ってさ、お城に繋がってるンでしょ。それは知ってたんだケドね――……看守サンは見たことあるの?」
 コノハは敢えて視線を外し、そぞろを装って尋ねた。
 ああ、と俯くような気配がする。
「悪趣味な、拷問道具の博物館のような……まあ、こいつは、大昔の領主とやらのコレクションだったらしいが――」
 それが口火を切ったか、看守はぽつぽつと、城について教えてくれた。
 ――曰く、この城は様々な仕掛けが仕込まれているため、外観はそれなりに大仰なパレスが連なっているように見えるのだが、室内の構造は案外単純で、地下から辿り着いた場合、地上と繋がる一階と、二階の居住塔なる三階構造であるということ。
 ただし、概ね罠が仕掛けてあり――曾て居住したものが、その罠に掛からぬ秘密が、何処かにあるはずだという。もっとも、至極当然であるが、それは看守の男の想像であり、実態は不明だ。
「なんか、アンタ達が見て、違和感とか無かったの」
「生き残るのに必死でな。アァ、どいつだったか忘れたが、妙ちくりんな仮定を立ててやがったが――死んだかな」
 色々喋って、冷静になったのか。
 男は深い溜息を作ると、淀んだ眼差しで揺れる炎を眺めていた。
 ――消化不良だけど、仕方ナイか。
 コノハは再び視線を上げて、看守を見た。背中をやや丸めているのは、肩が痛むからか。袖から覗く腕にはひどい火傷が広がっている。焦げた痕と言い換えてもいいかもしれぬ。
 時々ちらりと他の看守にも話しかけて見ていたのだが、どれもこれも、少なくとも五指が揃っているものが少ない。
 拷問されたにしては、傷口の形状が様々だった。不慮の事故――というのも、奇妙な表現だが、そんな雰囲気であった。
「……にしてもアンタ達、揃いも揃って酷い有り様だよねぇ。誰に喰われたの?」
 問うて、微笑んで見せたコノハの貌を、看守は驚愕と共に眺めた。
「そろそろオレもお腹空いちゃったんだよネ――所で、もしもココに入るヒトがいなくなったらさあ、アンタ達どうする?」
「――俺達は、望んで此所に残った。本当は、お前らみたいなのを……此所に入る前に、諫めたりしたほうがいいんだろうが」
 苦笑いを隠さずに、看守は続ける。
 ――いつか、何か。変化が起こることを、望んでいるのか。望んでいないのか。
 自分たちは解らない儘なのだと、言う。
「何処にもいけない。捕らわれちまってる……」
「自分で望んで残ってるんでしょ?」
 不可解だと、言外に問うようにコノハは軽く眉を上げてみた。
 看守のいらえ――ふるりと頭を振る動きは、ただ無気力さを滲ませ。
「実はな、尻尾巻いて逃げた奴もいるんだぜ。だが俺達は――生きるための犠牲になった奴らを置いて……大事な――家族を置いて、行けるかよ」

 看守の背中を、適当に見送って――。
「さて、出るならあまり汚れないトコがイイねぇ」
 例えば、この辺り。言って、ベッドの片隅の床をごつんと蹴りつけてみる。ず、ず、と奇妙な音がして、石畳の重みに耐えかねたように沈んでいく。
「あら、穴が開いた」
 言いつつ――これ、フツーにベッドに転がったら穴開くんじゃないの、と内心で囁いた。
 勿論、完全に穴が開いたわけではなく、此所に穴がありますよとお知らせしてくれているだけだ。
「土の洞穴か……結局汚れソウねぇ」
 やれやれと息を吐きながらも、コノハは薄く笑い――闇を覗きながら、指先を虚空に差し向けた。
「ヨロシク、くーちゃん。」
 呼び出された、指先ほどの小さな黒い管狐がくるりと宙で躍った。そして其処へ向かう前に、小さく呟く。
「……家族、か」

 ――牢獄に捕らわれているのは、今は猟兵ばかり。
 だとするなら、それは、死して無念を残す概念を指すのか。
 それとも――いいや、生きてはおるまい。

「すべては闇の向こう、罠の更にその先、かしら」

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『悪趣味な博物館』

POW   :    正面から堂々と入る、窓を割って入る

SPD   :    窓や裏口から侵入、関係者を装って潜入

WIZ   :    関係者から屋敷の情報を得る、屋敷の図面を入手

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●古城
 ――悲鳴、悲鳴、悲鳴。
 この城に刻まれたのは、血と嗚咽、喉がちぎれんばかりの悲鳴。
 此所に君臨したのは、頭のおかしい領主であった。
 ひとであるのに、ひとを苦しめるのが好きなものであった。
 エントランスから各部屋に、陰惨たる拷問用の道具や凄惨なる処刑用の道具を鑑賞品が如く展示して威迫し――。
 奴隷を、使用人を、時に反抗的な身内を、己が趣向で作り上げた迷宮へ閉じこめた。
 彼らは、突如落ちてきた柱で潰され。
 決まった手はずでしか解けぬ錠の部屋に閉じこめ、じわじわと焼き焦がし。
 鍵をとるために壁の隙間へと伸ばした手を、切断した。
 徐々に身を削り、命の限り逃げ惑う、悪趣味な迷宮の――まあ、頭のおかしい領主もいずれ死に、人々を恫喝するような悪辣の罠だけは錆びずに残っていた。
 巡り巡って、幾星霜、やがて其処に、命の数など数えぬ吸血鬼が現れ――再び、歯車が回り出す。
 あの吸血鬼は。葬燎卿は――狂おしい生の記憶を閉じこめた、この箱が愛おしいと言って、微笑んだ。

●ある男の回顧
 狭く、薄暗い道を駆け抜ける――。
 服を裂いて作ったこよりに宿した小さな火だけを灯火に、片手は妹とぬくもりを分かち合い――それが無ければ、前に進むこともできなかった。
 腐臭と土の匂いが終わり、石畳が続く。
 広がり始めた薄明かりに、道の終わりを悟り――喜びよりも、この先の試練に背筋から震えた。警戒に身を屈めながら牢獄とは打って変わって、古くも壮麗な作りの城へと足を踏み入れる。
 美しいが、廃墟であった。
 警戒するのも莫迦らしいほど、此所には人の気配がない。
 だが、集めた情報によれば、多くのものたちを屠ってきた城である。
 ――まず、怖じ気づいて脚を止めてはいけない。
 多くの罠が、時間経過で反応するという。仕掛けのトリガーを引かねば作動するまいが、それを確実にこなせぬ以上、迷いは死に繋がる。
 一処に留まれば、死ぬ。
 ――次に、目に見えた凶器に怯んではならない。
 鍵がなければ開かない部屋に閉じ込まれ、これ見よがしに置かれた鍵に気づき――その上に凶悪な首狩り刃があろうとも、最良かつ、最速の手段でそれを獲得せねばならぬ。
 怯めば死ぬ。最初の教え通り、部屋に留まり続ければ、他のどの罠が発動するとも限らぬ。
 あまりも多くの、死の残滓が、城にはへばりついていた。
 圧死したらしき人型の影、砕けた白骨、残された指先の骨、絶望を嘆き血で刻んだ遺言。
 妹は青ざめて、強く私の手を握った。大丈夫だと告げるように、強く握り返す。
 この手を離しはしない。

 ――その手を離して、と妹は泣きながら笑った。
 吹き上げる風が髪を煽る。滴る血が滑って、ふたりを繋ぐ指が、また少しずれた。
 片手を失いながら、部屋を脱出し――。
 油断したというよりは、疲労困憊で蹌踉け――落とし穴に、片足を取られたところを、妹が私を突き倒す形で助けてくれた。
 咄嗟に掴んで、引き上げようにも――。
 油でぬれる床の所為が、救助を許さない。
 風を起こしているのは、穴の底で高速で回転する刃。翼があれば、飛べたかもしれないが――。
 もういいよ、お兄ちゃんだけ、生きて……。
 妹も決して、無事とはいえなかった。そもそも牢獄に辿り着くまでに、衰弱しきっていた。せめて人並の暮らしを、という細やかで贅沢な願いを叶えようと――吸血鬼の気まぐれに委ねてしまった罰なのだろうか。

 ――生きて。
 ああ、生き延びてしまった以上、あの子の分まで、生きねばならぬ。

●情報
 猟兵達は、いずれも地下通路――古城から、抜け道として作られた通路から、遡るように内部へと侵入した。
 城は、三階構造。現在地は地下で、吸血鬼は『王の間』の先にいるらしい。
 果たしてその情報を手がかりに、猟兵たちは走り、やがて、広間へと至る。
 そこは何の目印も無い――ただただ真っ白な部屋であった。
 大体一方が三メートルほどのマス目で構成されており、その数は目算にして六十四。王の間、と呼ぶには、半端な大きさだが――。
 さて、何処が出口なのかも解らない。
 出口らしきものは、向こう側にずらりと――マス目に対してひとつずつ、つまり八つ――並んでいるが、正解はひとつだろう。
 手頃な瓦礫を投げて見れば、透明な壁にぶつかって途中で落ちた。
 恐らく、一直線に何処かへ駆け抜けられるような部屋ではないようだ。
 よく目を凝らし観察を続ければ、マス目の端に血の汚れなどがある――そして、それが床に刻まれたマークを浮かび上がらせていた。
 鉄の処女、鉄球、審問椅子、絞首台――。

『チェス盤の黒はセーフ』
 手堅く得ているヒントはただ、これだけではあるが――大体、察しはつく。
 さりとて接するマス目に如何に移動するべきか。
 此所の仕掛けは、魔法めいた、或いは度の過ぎた化学めいた力は殆どなかった。
 大体は古典的な落とし穴、吊り落とし屋根、視覚トリック。巧妙に隠された凶器――猟兵ならではの力と知恵を巡らせ、潜り抜ければ命を落とすこともないだろう。
 王の間はただ静かに、配置される駒を待っていた。

○==+==+==+==+==+==+==+==+==+==+==○
【プレイング受付期間】
 12月8日(月)8:31~11日(金)中//或いは締め切りになるまで

オープニング作成時と想定していた状態とちょっと異っているので、ひとつの罠を攻略する形にしました。
フラグメントにおける能力値の設定は特にお気になさらず……。

罠は大体、物理的です。
落ちる、斬る、落とされる……何かが飛んでくる、転がってくる。
そういったものへどう対応しながら、部屋を攻略するか。
※全ての罠ではなく、一点対応で構いません。
いずれにせよ、それなりのダメージを受けることを前提に行動していただくことになります。

また、特定のポイントに硝子の壁がありますが猟兵なら破壊できます。
(それが良い判断かどうかは兎も角、情報として)
○==+==+==+==+==+==+==+==+==+==+==○
シキ・ジルモント
これが『チェス盤』か
チェスなら目指す扉はキングの駒の位置…右から四つ目、だったか

床のマークで罠の種類と対処方法の予測は立てられそうだ
併せてユーベルコードの効果で罠の発動を察知
反応が速ければ致命傷を防げるかもしれない

何かが飛んでくるなら軌道から外れて回避
絞首台は首の縄が締まる前に腕を差し込んで窒息を防ぎつつ、縄を切って拘束を解除したい
負傷しても耐え、立ち止まらず黒のマスへ
看守言葉通りならそこは安全だ

逃げ場がなければ硝子の壁を破壊し強引に黒のマスへの道を作る
余計な物に触れれば罠の発動も考えられるが、負傷覚悟で諦めずに足掻く
仕事の為にも…これ以上看守達のような犠牲者が出る前に、この城の主を倒す為にも



●誰が為の遊戯
「これが『チェス盤』か――」
 息を吐くように、囁くはシキ・ジルモント――。
 鋭利な印象を与える青の双眸が、床を眺め、ゆっくりと上を向く。向かいの壁、並んだ扉――全景を一瞥しながらマス目を数えて、的を絞るように、止まる。
「チェスなら目指す扉はキングの駒の位置……右から四つ目、だったか」
 低く絞った声は、よからぬ振動が罠の発動を促す事を警戒していた。
 一面が白いが、これがチェス盤であるならば。
 現在地は、所謂『a1』――。
 キングがゴール、正解の扉――だったとして。
 後は如何に辿り着くかだ。膚を刺す嫌な予感で、尾がぞわぞわと落ち着かぬ。戦場や窮地から培った直感が、彼の制御の及ばぬ反応を見せていた。
 だが、今は。
 狼の耳を欹てて、その感覚を研ぎ澄ませる。
 ふっ、と小さな息を吐く。閉ざした瞼が、かっと見開き、シキは駆った。
 ひとマスの距離は、一足で過ぎられるかどうか。踏み込んだ足下で、かちりと音がしたと思えば、矢衾が如く床から針が飛ぶ。b-3、白マスだった。
 火薬の匂いが鼻を突く。爆ぜて、放射状へ拡散する。
 シキは無理矢理身体を捻って、それを躱す。ほっそりとした、彼の身体には碌な傷もつけられそうもない針だった――それが、ひとつ、掠めていったのだろう。
(「――毒針か」)
 腕が軽く痺れていた。死に至らしめるものでも、長く身を蝕むものでもないだろうが――此所に及んで、獲物を甚振るという基本を忘れぬ罠に、一層注意を深める。
 広い室内に響くのは、シキの立てる布擦れの音だけであった。当てはただひとつ、兎角、黒のマスへ。
(「看守の言葉通りなら――そこは安全だ」)
 くるりと身を斃すようにして逃れたb-4、黒――着地し、異変がないことを確認すると、姿勢を低くし周囲を探りながら、一息吐いた。
 ひとたび呼吸を整えて、研ぎ澄ませた五感で周囲を探る。聞こえぬはずの音を拾い、些細な予兆を探りながら、シキは前へと跳んだ。ガタリと床がひっくり返って、糸が張る。その一瞬の煌めきに危険な気配を察した彼は、その床を飛び越えるのをやめ、横へと回避する。
 身体を、強く跳ね返す感触があった――硝子の壁だ。別の道へ、破壊して突破、その判断を待たず、連動するように天井からだらりと落ちた紐が、シキの首に絡んだ。
 咄嗟に腕を出し、庇う。
 気道を締め上げられれば、絶命せずとも失神があり得る。滑車の音が頭上でやかましく働いていた。
 上へと引き上げる動きと同時、輪が急激に絞られる。滑り込ませた手首が捻り上げられて、嫌な音がした――こいつは、首の骨を折るための仕掛けだ。
 縄の力にシキは無駄に逆らわず、手首と首の狭間、僅かに生じている縄の撓みへと素早くナイフを走らせ、床へ逃れた。
 現在地はa-6――痛みを感じている暇は、ない。連動する罠は今のところ無いようだが、長居すべきマスではない。シキは全身に力を籠めると、深く曲げた膝を起点に跳ね、正面を遮る硝子を叩き割って黒のマスへ飛び込んだ。
 その動きすら、罠を仕掛けた方は予想済みなのだろう。飛び散った硝子の破片が、他のマスの罠を起動させた。接する二つのマスの、床がぐんと迫り上がり始める。
 このままでは進路を絶たれる――退くか、或いは、解っている罠に飛び込む方が、マシだろうか。
 シキは直感に従い、咄嗟に銃を抜く。そして、接近する床と天井の間に発砲した。着弾した先は遙か遠方。銃弾は壁に埋まり――幸い、何の罠も発動せず沈黙していた。
 先程のように遮る硝子はない――確認するや否や、彼の腰の高さまで上昇していた床を蹴って移動する。床は、彼の重みを察するや、競り上がる速度を上げたが、シキが身を滑らせる方が早かった。外套の裾は、持って行かれたが。
 かなり、扉に近づけた。然れど、未だにささくれるように、耳の毛が落ち着かず立っている。
 次に目指すマスの天井を見れば、鈍く光る刃が覗いている。衝撃で、少し留め金が緩んだのだろう。天井の割れ目がひとつでなく床に薄く走る筋をみる限り、これは数センチ刻みで降ってくるようだ。断頭台というよりは、スライサーというべきか。
 シキは軽く鼻を鳴らす――まったく、とんだ骨董品だ。
「仕事の為にも……これ以上看守達のような犠牲者が出る前に、この城の主を倒す為にも」
 戦いに来たのだ。己の血を見る覚悟は、できている。
 気の早い太刀風が、膚を撫でる。シキの踏み込みで、重い刃が次々と降ってくる――息を止めて、ただ前へと彼は躍り――微かな血霞だけを残しながら、到達する――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フォルク・リア
チェス盤の黒。王の間。正面に並んだ出口。
このマスがチェス盤なら出口は対面側のキングの位置か。
黒がセーフならキングの位置を黒として
そこから斜めで結んだマス目はチェス盤の黒と仮定できる。
そしてこちら側から黒を選んで斜めに進んで行けば
キングまで辿り着ける。

その考えを基に予め進むマスを決めておき
進むその時にどこに進むか迷わない様にする。
死霊縋纏を発動し周辺を観察。
天井や壁面等に仕掛けがないか調べ
怪しい部分は警戒。

進む時は召喚した霊にも周囲を警戒させつつ
床の接触時間を少なくする為に跳ねる様に移動。

仕掛けが作動し何かが飛んで来たら
軌道を【見切り】、【念動力】で逸らし
その隙に次のマスに進み切り抜ける。



●悪意の交差
 ――これが、『チェス盤』であるならば。
 フードの奥深く、紫の眼差しが部屋を捉える。並んだ扉も、何もかも、或いは幻惑の、ひとの心理をついた罠かもしれぬ。
 斯くて、フォルク・リアは、薄く頷いた。
「このマスがチェス盤なら出口は対面側のキングの位置か」
 彼が立つのは『1e』――この推理が正しいならば、ほぼ正面に見えている扉がゴールである。
「……こちら側から黒を選んで斜めに進んで行けば、キングまで辿り着けるってことになるわけだが」
 既に、発動した罠の残滓が見える。遠く、広間の奥はひどい事になっている――あそこに行く必要は無いと知らせてくれているのは幸いであるが。
「――一筋縄ではいかない、だろうが……」
 呟きは誰にも聞こえぬ程ちいさく、彼の口の中で消えた。
 与えられたヒントを信用するなら、安全な道筋を推理するのは簡単だ。後は実行するだけ――そして、それが最も難しいことである。
「其れは、何時でも傍にある。其れは、闇の中から覗く者。」
 僅かな可能性であれ、引き寄せるために、霊を呼ぶ。
 それはフォルクの代わりに、ふわりと無機質な石版の部屋に足をつける。適当にあるかせても、何も反応せず、静かなものだった。
 先行したものが発動させた罠の残滓に誘発され、軋んだ罠の気配は――驚く事に、無かった。
 果たして大昔の仕掛けであるが――それを、誰かが作動させるたび、吸血鬼が片付けているなら滑稽だが――どうも想像より出来が良いらしい。
 罠へ近づいた時、恐怖と選択を迫るよう、敢えて見せてくる。そういう性質らしい。
 身体を持たぬ霊で探れたのは、その辺りの情報だ。後は、刻み込まれた印から、罠の種類を予測できること。硝子の壁を探すことはできた。忌々しき事に、扉は硝子で守られた迷宮だった。正確には、白マスを通過しないのならば、何処かで、それを破らねばならぬ。
 経路は立てた。入り口で突っ立っていても、埒が明かぬ。小さな嘆息を合図に、フォルクは盤上へ、身を躍らせた。
 導き出した安全な路を――差し詰め、彼はビショップのように、斜めへ針路をとる。
 ――正解。
 内心で、囁く。
 フォルクの荷重がマスにかかっても、罠は沈黙していた。安全圏と思えど、跳ねるように床を蹴って、立ち止まる時間も短く、前へと進む。
 だが、霊が確かめたように、先には硝子の壁がある。
 チェス盤を模した舞台の上に――配置される駒は、ないのだろうか。特に、奥に配置された、特殊な駒――それが、硝子の壁なのだとすれば。
 その近辺に、より厳しい罠が仕込まれているのは、セオリーであろう。
 黒杖を振るい、闇の魔弾を放つ。甲高い金属の悲鳴が響き渡ると、視界には無数の輝きが広がった。眩しさに、刹那であるが、フォルクは目を眇め――深く被ったフードの先を摘まんで押さえながら、スライドするように次の黒いマスへと移動しようとする。
 ひゅ、と風が吹いた。
 鼻先を過ったのは金属の矢だった。何処から、と追うまでもない。壁からだ。否、壁だと――訝しげに、自分を阻み、白マスへ踏み込ませたものに触れた。目の前に、透明な壁がある。
 6fと、7eとの境界に重ねられた更なる硝子の壁が、フォルクの移動を阻んだ。結果、連動して稼働した壁からの矢が、次々と彼を襲う。
 そのすべては念動力でも捻じ曲げられぬ。壁穴から撃ち出されるそれらの高さは決まっているため、身を低くすることで逃れられるが、じわじわと沈み込み始めた床は、そのうち抜けそうだ――待機を選べば、ゲームオーバーか。
 フォルクは再び杖に魔力を回し、魔弾で硝子を叩き割る――連動して動き出した振り子の刃が、凄まじい勢いで弧を描き始めた。
 矢は一度発動すると撃ちきるまで続き――黒マスに移動しようと追いかけてくるそれを振り切って、ゴールへ飛び込むには――この振り子を潜り抜けねばなるまい。
 やれやれ、と嘯いて、フォルクは息を止め、一足に駆った。その足下に、小さな血の跡を残しながら――。

成功 🔵​🔵​🔴​

スティレット・クロワール
ふぅん、随分と凝った造りをしたお城みたいだね
チェス盤の黒だってへび君
マス目をちゃんと数えて、端から行こうか

警戒しながら進むけど
看守くん達であのくらいなら…少し遊ぼうか

血の汚れがある、罠のマスに向かって飛ぼう

さぁ、私が来たのだから
失望はさせないでおくれ?

マス目の端に血があるなら、隠された武器は下から剣か

へび君は上を、私は下にサーベルを突き立てよう
罠に武器が触れれば良い
致命傷は避けるけど、それ以外は私に刃を立てることを許そう

——次は、俺の番だ
刃に触れたな

茨の顎で攻撃を
隠された武器のみんな、出てきなさい?

簡単に壊れないでしょう
でも動き直すまでは時間がありそうだし

チェス盤を思い出しつつ黒を踏んでいくよ



●緋の司祭
「ふぅん、随分と凝った造りをしたお城みたいだね」
 その声音には、純粋な感想と、ちょっとしたアイロニーが混ざっていた。
 王の間というには、少々地味すぎるけれど――涼やかな表情でスティレット・クロワールは広間を一瞥する。
「チェス盤の黒だってへび君……マス目をちゃんと数えて、端から行こうか」
 彼らが立つのは『1g』――所謂、ナイトの位置だった。その巡り合わせに、ふふ、と微かな笑みを零して、スティレットは袖口から顔を覗かせる白蛇に話しかけた。
 彼の視点からは、いくつかの罠が発動した名残が見える。結構派手にやったらしく、砕けた硝子が散らばって輝いている。
 それらや部屋の様子を興味深そうに眺めつつ、半ばまでは、飄々とマス目を数えながら渡っていたスティレットであったが――。
 不意に脚を止めると、隣のマスを見た。赤の残滓。遙か昔にこの地へ挑み――勝敗までは解らぬが、恐らく敗れたものが残した色。くすんだ褐色で刻まれた印は、剣。
「看守くん達であのくらいなら……少し遊ぼうか」
 ちょっと魔が刺す――正確には、悪い癖が出た。
 遊ぶ、というのがどういう意味か。この場において、考えるまでもないが――不幸にも、止めるものもいなかった。
 軽やかなステップで、表面上は何ら変わらぬ、同じ色のマス目へと乗り移る。当然、これは白マスだと理解している彼は――。
 藍の瞳は細めて、笑う。
「さぁ、私が来たのだから――失望はさせないでおくれ?」
 するりと抜き放つは、サーベル。美しい刀身が不穏な光を帯びて、煌めく。
 袖から頭を覗かせていた白蛇が、いつしか彼の肩まで登っていた――ガタリと沈む床の一片。
「……私に刃を立てることを許そう」
 其れは覚悟の一言か――それとも。
 四方を囲うように、刃が飛び出してきた。だが、中央に立つスティレットには届かない。檻の中で、これだけじゃないだろうと彼が嘯いた瞬間、上から高速で剣が躍った。罪人の首を刈る大剣が、十数本――わざと逃げ場を残す、嫌らしい案配だ。
 自重で落下するそれらは解き放たれた断頭台の刃が如く――、観測するものがあるならば、刹那の狭間に。
 機械めいた身体を持つ白蛇が、全身をもって、刃に体当たりをする――同時、スティレットの握る剣が、甲高い音を立てて大剣と合わさる。
 然れど、その重みを完全に返すに能わず。四肢を縫い止めるかの如く注いだ刃に、流石に身を退き、致命傷を避けながらも、スティレットの白い衣を緋色に染め上がる。
 肩、肘、背中、浅からぬ肉の裂け目が覗く。労るように白蛇がするりと無傷な肩を撫でるように渡る。
 はっ、と息を吐くように浅く笑う。凍えるような玲瓏な微笑みで、血が滴る腕を掲げて、スティレットは宣告す――。
「――次は、俺の番だ。刃に触れたな」
 彼が流した血を媒介に、青き薔薇が咲き誇る。
 サーベルが刻んだ小さな印に、茨から生じる幻想と共に、冥界の青き獣が次々と姿を現す。
 鋼を食み、砕き、蹂躙していく。床に刺さった大剣は瞬く間に屑と化し、錆びた色の残骸が散らばった。
 マスの外枠を囲う剣の檻も、共に砕き切る――。
「隠された武器のみんな、出てきなさい?」
 彼は召喚した獣と共に、別のマスを敢えて踏んで、微笑みながら首を傾げた。
 剣が、床に触れる。獣たちへ指示を与えると、その兆しを待たず、隣のマスへと歩いて移動する。
「簡単に壊れないでしょう……でも動き直すまでは時間がありそうだし」
 私は散歩の続きと行こうかな。
 紛れもない血の匂いを漂わせながら――駘蕩たる態度そのもので、何事もなかったかのように扉を目指し始めた。
 己が発動させた罠を、いちいち、粉砕しながら――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
うっわ面倒臭そ……ナンて暢気に言ってる場合じゃないかぁ

黒はセーフ……ってンなら部屋をチェス盤になぞらえ
黒を辿って行けば何とかなるカシラ
とはいえうかつに跳んじゃ硝子の壁に当たりそうだし
【翔影】でくーちゃんを喚び行く先へ飛ばしながら
移動にもその背を借りるわ

第六感併せ飛来する罠に警戒
モノなら「牙彫」で払い、払えぬモノならくーちゃんに風を起こしてもらい散らしましょ
気を取られ落下しそうになったら牙彫を壁や床に突き立て致命的状況は避けたいトコ
扉はベタにいくならキングの位置かしらネ?

ある程度はオーラ防御で弾いたり、痛みは激痛耐性で凌げるケド
喰らって治せないのはイタイわあ
後でたぁっぷり、頂かないとネ



●チェック・メイト
「うっわ面倒臭そ……」
 コノハ・ライゼの口を突いて出た言葉は、それだった。
 然しどうした事だろうか、この広間――曰く、王の間は、あちこちの床がめくれ上がったようになっている。罠が一度発動すると、それを片付けるものがないのは解る。
 彼の現地点は『h4』――見渡す限り、蹂躙尽くされた床に砕けた硝子やら金属やらが散らばっている。知ってか知らずか、部屋の中盤地点に合流した彼は、苛烈さを増した罠と、格闘した猟兵たちの残滓を一瞥できるところにいた。
 つまり、そこにあるのは彼らの残り香というべきか――血と火薬と錆びた鉄の匂いが混ざっていた。戦場の只中に比べれば、あっさりとしたものであるが、一見、小奇麗な広間であるため、徒に乱されたような姿が不穏を漂わせていた。
 ――まあ、そんなことはどうでもいいのだ。此所が紳士淑女の社交場でないのは、最初から知っている。
 彼の勘は。嗅覚は――それでもこの広間が、本来何人も生きて通さぬはずのこの広間は。まだ牙を残していると、知らせてくる。
「黒はセーフ……ってンなら部屋をチェス盤になぞらえ、黒を辿って行けば何とかなるカシラ。というかそうネ、そんな痕跡が残ってるわ」
 端からマス目を数えながら、コノハは肩を竦めて息を吐く。
 良くも悪くも――彼のゆく道には、目に見えた危険が転がっている。硝子の破片とか、細かく砕けた天井の瓦礫。
 自分がうっかり踏んで怪我をするような間抜けだとは思わないが、極力、手は打っておきたい。
「ミチを、」
 黒影の管狐がふわりとコノハの傍らに顕れた。四肢へ黒き羽根を生やし、空に浮かんでいる。
「ヨロシク、くーちゃん」
 片目を瞑って依頼すれば、黒き影はくねって首肯するような動きを見せた。
 管狐に先行させて偵察し、コノハはその背を借りる――基本的にはローテクで、体温感知などの罠はないようだが、重量による仕掛けと、恐らく暫く何処かが影になることで反応するトリガーが存在しているようだ。
 本来は特定範囲に入らねば反応が鈍いはずの其れは、硝子の壁が破壊されたことで、敏感になっているらしい――、嫌な予感に、コノハが管狐を促しマスの端へと退く。
 彼らがいた場所へと、彼方の壁より金属の矢が次々飛んでくる。
 コノハは海象牙の柄を握り、銀の刀身を閃かせると、小さな火花を立てて床の上へ落ちていく。だが、その矢は止めどなく放たれて、進路を遮られる。
「くーちゃん、お願い」
 主の声に管狐はぐっと全身に力を籠めると、羽根をしならせ、風を起こす。
 機械弩のようなもので放たれているだろう矢は負けじと飛んでくるが、突如と起こった風の盾に、勢いを損ねて逸れていく。変わらずナイフで己を庇いながら、コノハはさっと進路を確かめる。
「ベタにいくならキングの位置かしらネ?」
 このまま、管狐を飛翔させて、飛び越えてしまおうか――否、飛べる種は世にいるものだ。そのための罠が、待っているはずだ。或いは、この止まらぬ矢も、その一環かもしれぬ。
 風を叩きつけながら、管狐を前に走らせる。矢が何かのトリガーを起こしたか、
 がたんと天井が落ちてきて、鉄球が降ってくる――つんと何かが臭う事に、コノハは軽く眉を寄せた。鉄球の表面が、ぬるりと油で滑っていた。
 鉄球を食らう程、追い詰められていない。ひょいと割れた硝子の向こうへ躱せば、鉄球はあらぬ床を転がって――罠を次々と作動させていく。
「えぇ……」
 流石のコノハも、思わぬ展開に呆れた声を出す。
 がばりと身を起こした回転鋸や、振り子運動を再開したペンディラム。進路を阻むよう突き出した槍や、黒い液体がマス目を走って炎を上げる。
 余計なものには無視を決め込み、彼は管狐の背に身を伏せた。脚をつければ、炎が。飛翔すれば刃が迫る。
 僅かな隙間を潜るように、コノハは片手のナイフだけで身を守る。がつりと振り子の鋒に噛ませると、飛んできた矢が頬を掠めていった。腕や、肩にも食らった。
 傷そのものは大したものではないが――毒が塗られているのか、妙にぴりぴりと痛んだ。
「喰らって治せないのはイタイわあ」
 飄々と言ってのけるが、耐えられるのと、痛いという感覚は別物だ。痛いモノは痛いし、減るモノは減る。
 敵がモノでは、コノハもただ食らわれるばかり。だが、いよいよ目指した終点に、辿り着く。
 降り立った先は、8d――、キングのマス。不思議と、周囲を燃やす炎は此所には届かない。案外、手品などに使う見せかけの炎なのかもしれない。
 血の匂いと、幾度か開けられた形跡のある扉に手をかけ、薄氷の双眸を細める。
 頬に浮かぶは酷薄な笑み。思えば、此所まで散々、窮屈な思いをさせられたのだ。自分も――あの哀れなものたちの分まで。
「後でたぁっぷり、頂かないとネ」

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『葬燎卿』

POW   :    どうぞ、葬送の獣よ
【紫炎の花びらが葬送の獣 】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
SPD   :    安らぎを。貴方には私の棺に入る価値がある
【埋葬したいという感情】を向けた対象に、【次々と放たれる銀のナイフ】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ   :    葬燎
【棺から舞い踊る紫炎の蝶の群れ】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠シノア・プサルトゥイーリです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●死は甘美なる天獄
 王の間を通り抜け――ただひたすら静かな通路の先。
 辿り着いた部屋は、焼けてくすんだ鉄板を並べた部屋だった。
 如何にも壮麗で瀟洒な古城の風貌から一転、再び監獄の一室に戻ったかと思うような有様で、壁に打ち付けられた釘や、突き出した刃など、この部屋で寛げるものは、まともではないと誰もが思うようなしつらえであった。
 だが、目を引くのは明確に物騒なそれらではなく。
 この部屋にずらりと並ぶ棺桶と、弔いの花々。
 不釣り合いな甘い香りを撒き散らす花は、不滅の如く可憐に、薄闇に揺れている。
「……生きることは、苦しく――」
 その柩たちの中央で、紫色の影がふと動いた。
「生きることは、苦痛の連続。安らぎなど永遠に訪れぬ――その、時までは」
 かつんと靴が音を立てた。
「彼らは皆、生きるためにこの試練を受け入れ、耐え、そして……生きることに絶望し、漸く、安らぎを得たのです」
 こん、と密度が高くよく乾いた木が鳴いた。男が軽くノックした途端、何の手品か、柩たちは一斉に蓋をあけた。
 ――様々な年齢の、性別の、安らかな寝顔が並んでいた。
 それは、清められた作り物のような、ひとびとの屍であった。ひどい傷跡や、欠損した肉体はそのまま不足している。
 だがどうした事か――苦悶の儘に死んだであろう、頭の中央から割れた男も。頬がそげて歯が覗く娘も。最後の最後まで頑張ったのだろう、ズタズタに引き裂かれた身体をもった小さな子供も。
「良い顔をしているでしょう。心から安らかに。何よりも穏やかな」
 みな白く青ざめた顔は、確かに、どれも解放された安らかさを湛えていた。
「私が此所にいるかぎり――彼らは此所で眠り続ける。牢獄の彼らは……必死に生きて、此所へ辿り着き、延命を望んだ。彼らが此所に辿り着けたのが、家族、恋人の献身の果てであったならば――生き延びた『苦しみ』は、如何なる程でしょう」
 私は、其れが識りたいのです。
 その結果、新たにこの柩に収まるものの安らぎを、紡ぎたいのです。
 吸血鬼は歌うように、猟兵たちへ語りかけた。
「ええ、あなた方も此所まで辿り着いたのです。ちゃんと、同じようにご褒美を差し上げましょう。生きて帰りたいのなら、見逃してもよいですよ。ふふ、ただ、私の命が望みならば――」
 風もないのに、花が揺れた。
 ふわりと蛍火の蝶が舞う。
「そればかりは自力で勝ち取っていただかねば――餞は、生からの離脱。安らぎと喜びの眠りを」
 微笑みを浮かべて、葬燎卿は手招いた。

○==+==+==+==+==+==+==+==+==+==+==○
【プレイング受付期間】
 12月20日(日)8:31~24日(木)中//或いは締め切りになるまで
○==+==+==+==+==+==+==+==+==+==+==○
シキ・ジルモント
犠牲の果てに生き延びた者の苦しみは身に覚えがある
子供だった俺を拾ってくれたこの銃の持ち主に庇われ、俺は生かされたのだからな
…識りたい、だと。そんな理由であの苦しみを味わう者を増やしてきたのか

…よく解った
こんな遊びはもう終いだ、奴は必ず倒す
ナイフは狙いを絞らせないよう常に動き続け回避を試みる
急所を避け切れないなら罠で痛めた片腕を盾に防ぐ
もう片方が動けば戦える、痛みは耐えて敵から目を逸らさない
負傷など今更だ、零距離射撃の間合いへ踏み込みユーベルコードで反撃する

棺に眠る者を解放すれば、看守達もここを出て人類砦に身を寄せられるかもしれない
喪失に囚われ苦しみが伴う生でも、生き方を自分で選ぶ自由はある筈だ



●道
 空間は冷えていて、布擦れと、靴底の立てる硬質な音が妙に響いた。
 この反響音が、かつては此所で虐げられたもの達の心を苛んだのだろうと解る、仰々しい響きをもたらす。
 吸血鬼の口上を――聴きたくもないが、勝手に向こうが語り――聴いた男は、
「……識りたい、だと。そんな理由であの苦しみを味わう者を増やしてきたのか」
 シキ・ジルモントは強く、銃把を握った。
 その表情ははっきりと嫌悪を浮かべ、鋭い眼差しで葬燎卿を見据えていた。その男は、軽く肩を竦めて、それが何か、というような動きを見せた。
 息を逃すように、ひと呼吸おいて、シキは全身の筋肉を軋ませるように、軽く前屈みの姿勢を取る。
(「犠牲の果てに生き延びた者の苦しみは身に覚えがある――子供だった俺を拾ってくれたこの銃の持ち主に庇われ、俺は生かされたのだからな」)
 その、痛みは。
 娯楽のように消耗されるものでも――芸術などという馬鹿げた彩りで飾られるものでも、ない。
「……よく解った。こんな遊びはもう終いだ」
 乾いた声音で吐き捨てるが同時、地を蹴った。
 跳びかかって来るかと思ったのか、軽く葬燎卿は後ろに下がると、腰のホルダーを通過した黒手袋の内に、銀の輝きを備えた。
「貴方も必死に生きてきたのですね――よくわかります。大変熟れた身体の使い方です」
 笑止、口答の応酬は無駄だと取り合わず。
 構わぬと、吸血鬼は微笑を湛えた儘、ゆっくりと腕を振った。次々と放たれる銀のナイフが、シキを迎える。
 敢えて距離をとりながら、後ろに吸い込まれていく銀の流れを、敵の紫の眼差しで判断し、とって返す。深く踏み込んで飛び込む。
 待っていたとばかり、吸血鬼の腕が再び撓る。ユーベルコードとして作られるナイフは、忌々しいことに弾切れを知らぬようだ。
 既に負傷していた肩を差し出すように――左手を薙ぐようにして、刃を受け止める。
「負傷など今更だ」
 告げる声音は、冷ややかに。
 突きつけた銃口は蛍火に、鈍く輝いた。
 その瞬間にも、吸血鬼は余裕を滲ませた微笑みで、シキを真っ直ぐに見つめていた。
「彼らが貴方のように強く、生きていけるでしょうか?」
 引き金に力を籠めた瞬間、揶揄するような声に、問われる。
 シキは青の双眸を鋭く細めた――人は、脆い。解っている、彼らは苦しみながら、諦めながら、無気力に、この監獄に捕らわれている……。
 いつでも自分の脚で去って行ける。解っていながら、選び取れない。
 だが、棺に眠る者を解放すれば――。
(「看守達もここを出て人類砦に身を寄せられるかもしれない」)
 一人で生きていけなくとも。別の道を選ぶことはできる。
 少なくとも、こんなところで朽ち果て、吸血鬼に玩ばれる未来を――みすみす与えようとは思わない。
「喪失に囚われ苦しみが伴う生でも、生き方を自分で選ぶ自由はある筈だ」
 彼のいらえに、くっ、と喉の奥で笑った吸血鬼に、
「――全弾くれてやる」
 決別の弾丸を撃ち込む。頭から胸まで、一気に弾けた火薬の匂い。反動で互いの距離が離れ行く。火花のように鮮血が爆ぜ。
 弾丸の貫通した掌を――葬燎卿は凍えた眼差しで見つめていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フォルク・リア
「安らぎだと。
俺には生きてはその命を弄ばれ、
死してはその姿を晒されて苦しむ
苦悶の表情に見えるよ。」
生と死を己の身勝手で弄ぶ敵に嫌悪感を示しながら。

真の姿を解放し血煙の様なオーラを纏った姿となり
冥空へと至る影を発動。
冥界からの魔力をその身に受けて強化した拘鎖塞牢を
敵と紫炎の蝶に向けた【範囲攻撃】で放ち
その力を封じる。
「今度は棺の中の人間を眺める側じゃなく。
お前には冥府の棺桶の中で眠ってもらう。」

デモニックロッドから闇の魔弾を放ち
力を封じた蝶を攻撃、一掃した後。
フレイムテイルに魔力を集中、
敵に向けて【全力魔法】で生み出した火炎を放つ。
「死が真に安らぎかどうか。その身を以て
確かめてみると良い。」



●欺瞞
 血の香りがつんと鼻をついた。吸血鬼も血を流すのか、妙に冷めた感覚で、フォルク・リアはそれを眺めた。
 そして、それの背後――壁際で柩に収まった、物言わぬものたちを一瞥する。
 安らぎだと、と彼は低く零した。
 どんな表情を浮かべているのかは、フードの奥で隠れて見えぬ。だが、彼の声音から、彼が愉快であると認識するものはおるまい。
「俺には生きてはその命を弄ばれ、死してはその姿を晒されて苦しむ、苦悶の表情に見えるよ」
 囁くような、静かな声音。
 そこには吸血鬼に向けた嫌悪が滲んでいた。
「お前に……いや、何者であっても。生と死を己の身勝手で弄ぶ資格はない」
 告げるなり、周囲に漂う血の匂いが、強くなる。だが、それは――他の誰でもなく。フォルクから放たれていた。
 その体が、血煙の様なオーラを纏う――真の姿、その力を編んで、呪われし黒杖を地へと翳す。
「冥府への門たる忌わしき影よ。その枷を外し闇の力を我に届けよ。」
 するりと、影が浮かび上がり――その身に残像のように、重なる。
 彼の手にする魔術具がより強い力を帯び始めた。同時、葬燎卿は柩をひと撫で、微かにずれた隙間から、炎が吹き上がる。
 舞い踊る紫炎の蝶の群れが視界を埋め尽くす。
 それへ向け、フォルクは小さな息を吐いた。集中のためのひと呼吸だが、笑いにも似ていた。
 彼の意思を受けて、外套が躍る。
「今度は棺の中の人間を眺める側じゃなく。お前には冥府の棺桶の中で眠ってもらう」
 彼の宣告と共に、棺桶形の拘束具が現れ――吸血鬼を縛る。
「それはそれは」
 面白い趣向だと葬燎卿は笑った。
 強がりでもなさそうだが、心からの本心でもあるまい。元より敵の諫言を聴く気は無い。フォルクが黒杖を突き出すと、拘束具は形を失うが、その呪いは刻み込まれたまま。
 杖より放たれし闇の魔弾がひらりと拘束を逃れ、迫っていた蝶どもを黒く灼いた。
 魔力と魔力のぶつかりあいは、余波の熱を周囲に撒き散らす。
 その只中で、フォルクは次なる術を紡ぎ出す。冷徹に判断を下すと魔術具を入れ替え――その黒手袋に包まれた手を、吸血鬼へと差し向けた。
「死が真に安らぎかどうか。その身を以て――確かめてみると良い」
 火炎が躍った。
 紅蓮のうねりが、激しくのたうち、葬燎卿を包み込む。苛烈なる死の波濤の中心で、吸血鬼は笑ったが――肉を焼く匂いは確かに其れを、苛んでいた。

成功 🔵​🔵​🔴​

スティレット・クロワール
生は苦痛である、か
うんうん、君は神父か墓守のつもりかと思ったけど
少し違ったみたいだねぇ
この箱も君の牢獄も生たる監獄も此処で終わりだよ

蛇君、ライバルの登場だよ
あれは素早く動く物を狙うようだから、急いで行ってね

蛇君を囮に薔薇の冠を使おうか
踏み込むだけの時が稼げれば良い

私にも来るかな?
おいで遊んで上げよう

獣は刃で突き飛ばすよ
この身を裂かれようが構わない
足らないなら、足を使ってあげる

狙いは貴様だ。葬燎卿
——全ての者には帰るべき土がある

君の腕を柩にしたら寝覚めが悪そうだしね
私も君に殺されてはあげないよ

君は彼らに選択を与えただろうけど
死にたく無いのと生き抜く覚悟は違う
——その意思、せめて返してもらおうか



●解放
「生は苦痛である、か」
 一理あるとも――全く理解できぬとも――言わず、スティレット・クロワールは静かに頷いて見せた。
「うんうん、君は神父か墓守のつもりかと思ったけど、少し違ったみたいだねぇ――この箱も君の牢獄も生たる監獄も此処で終わりだよ」
 前半は、朗らかさすら秘め。後半は、醒めた声音で囁くと、藍の眼差しが怜悧に、吸血鬼を射貫く。
「いえいえ、植え付けた種子は芽吹くもの……花はいつでも、其処に証を残すものです」
 血濡れた葬燎卿はそれでも穏やかに、微笑んで答えると――こつんと傍らの柩を叩く。
 ふわりと吹き出す花吹雪が紫の炎のように舞い上がり、獣の形へ収束する。四つ足の、前足を撓めた葬送の獣が、身体を得るなり、地を蹴った。
 こちらも血に濡れ、破れて短くなった白い衣を翻し――スティレットはサーベルを差し出すようにして間合いを測る。その腕に、白蛇がぐるり巻き付いて、その所作を助けるように寄り添っていた。
 否――、
「蛇君、ライバルの登場だよ。あれは素早く動く物を狙うようだから、急いで行ってね」
 主の言葉に従って、それは腕から跳ねた。全身を撥条の如く使って、獣へと食らいつく。獣もまた、挑みかかってきた蛇を仕留めんと牙を剥いた。
 無論、そんなことで当座を凌いだつもりはない。スティレットと獣の距離が一定動かぬ隙に、燐光を纏う。
「ーー凱歌を告げよ。我が来たりしを告げよ」
 それは、炎であった。花でもあった。
 冥界の燃えさかる青白き薔薇の花々を纏い、スティレットは疾駆した。
 丁度、首元に絡みついた白蛇を、怪力で引き千切りながら、ぶんと力任せに擲って――、獣は弾丸のようにスティレットへ躍りかかってきた。
「……おいで遊んで上げよう」
 それを招きて、彼は笑う。踏み込みと同時に、鋒を叩き込む。陽炎のような獣は、その頭部を強か撃った一撃で――首を切られる事も、穿たれることも、なかった。
 ただ、吹き飛んだ。
 振るった爪は、スティレットの肩に幾筋もの爪痕を刻んでいったが――反撃の一刀は、恐ろしい耐久力を誇る獣を突き飛ばし、主の元へと戻る。
「狙いは貴様だ。葬燎卿――全ての者には帰るべき土がある」
 彼が囁いた通り、獣はスティレットの武器と化して、葬燎卿へ背中から激突した。
「……ッ」
 もうもうと埃を立てて――スティレットは視線を上へあげた。
 地を蹴り、天井を蹴り、獣を回避――完全には、出来なかったらしく、額が割れて血を流している――し、ナイフを手に斬り込んでくる吸血鬼と、鋼を合わせる。
「弔花を送り返すのは、無礼ではないかな」
 その一言に、思わず、笑った。
「それは得意技でね――ふふ、君の腕を柩にしたら寝覚めが悪そうだしね、私も君に殺されてはあげないよ」
 ぎりりと弾き、凌ぎ合う。互いに、もう隠し球はない。
 剣閃を刻みあい、身体能力に優れるも既に満身創痍な吸血鬼と――、技巧を駆使し間合いの優位を得るスティレットは、一瞬だけ、足下へと不用意な視線を向けた。
 間隙を突いて、吸血鬼が前へと踏み込む。
 そう、そういうことだよ、と――スティレットは小さく零した。
「君は彼らに選択を与えただろうけど、死にたく無いのと生き抜く覚悟は違う――その意思、せめて返してもらおうか」
 一見、優しい提案に見えて――生殺与奪を手にするのは、吸血鬼ばかり。人々は、自分で選択したように勘違いしているが、その実、選択肢は定められている。
 スティレットの足下で。否、吸血鬼の足下に、白い蛇が軽く巻き付いた。
 青薔薇の冠をいただき――司祭は渾身の刺突を、吸血鬼に与えたのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
無理矢理与えたような試練でヒトの苦しみを知ろうだナンて
呆れちゃうねぇ、やらせもいいトコで
……その安らかな顔だって、アンタの押し付けでしょーが

敵と紫炎の動き見切り直撃食らわないよう避け、オーラ防御で凌ぎ
受けた傷、或いは「柘榴」で肌裂き【黒涌】生んで
カウンター叩き込むよう攻撃回数重視で嗾け葬送の獣の相手をさせるわ
その隙に残像置き惑わせて懐へ
2回攻撃で傷を抉るよう斬りつけて生命力を頂戴しましょ
言われなくったって頂くわ、端からそのつもりだもの
ソレに残念ね
てめぇにゃ、命の何ひとつ解りゃしねぇよ

倒すまで遺体は出来るだけ壊さぬよう
もし何か残るなら、最後の自由の証しに持ち帰ってあげたいトコだけど



●死は、救いにあらず
 血の匂い、焦げた肉の匂い。
 無機質な空間の中で、ゆっくりと吸血鬼は身を起こす。彼を見下ろす柩の寝顔たちは、一切変わらず、はて猟兵たちの怒りも、理解はできぬ。
 ――かと、語るが如き端麗な顔に浮かべた不可解を、冱つような視線で捉え、
「無理矢理与えたような試練でヒトの苦しみを知ろうだナンて、呆れちゃうねぇ、やらせもいいトコで」
 両の手、それぞれで刃を玩びながら、コノハ・ライゼはわざとらしい嘆息を向けた。
 ゆらりと首を回して、なじるように見つめる。
「……その安らかな顔だって、アンタの押し付けでしょーが」
 果たしてその感情の、何分の一でも伝わったのだろうか――吸血鬼は、やはり、何を言っているのやらと言いたげな様子で。
 すっかり体勢を立て直した葬燎卿は、首を捻った。
「しかし、死が彼らの表情に変化を起こすのは事実ですから」
「悪いけど、こっちは問答する気はナイの」
「それは残念」
 抜け抜けと言い、吸血鬼は柩から紫炎の花びらを解き放つ。地を駆る、葬送の獣が重力など知らぬかのようにふわり舞い上がり、やはり物理法則など知らぬように、コノハ目掛け急に下降する。
 その動きから目を逸らさず、それを吸血鬼への動線、対角線上において軽く退きながら――コノハは身を倒すようにして、前へと趨り、迎え撃つ。
 すれ違い様に、肩口を獣の爪が裂いていった。然し顔色一つ変えず、その下を潜りながら、
「おいで」
 逆手に握った牙の片割れを、獣の腹へと滑らせ、コノハは影狐を呼んだ。肩の傷口から血液が浮き上がったかと思うと、たちまち狐の姿を成し。
「任せたわ、くーちゃん」
 食い破れ――言外に、嗾ければ、闇色をした狐は獰猛に獣の傷口へと潜り込む。
 頭上で、音にならぬ苦悶の動きがあった。コノハ自身は軽やかに駆け抜けて、ナイフを手に構える葬燎卿へと鋭く斬り込んだ。
 吸血鬼は彼の攻撃にあわせ、刃を振り下ろしたつもりであったが――交差するコノハの両の刃は、するりと通り抜けた。
 なんてことも無い――緩急をつけて駆り、紡いだ残像が、錯覚を起こしたのだ。
 弾くために大ぶりに繰り出した吸血鬼の腕の内側へ、コノハは至り。敵の刃も、軽くその背を掻いていたが、深く濃い血の香りが、吸血鬼の瀟洒な装いを汚していた。
 骨をも割り裂いて、コノハは食らいついている。胸に捻じ込んだ対の刃は、彼が柘榴と呼ぶ名の通り、真っ赤な煌めきを纏っていた。
「ソレに残念ね――てめぇにゃ、命の何ひとつ解りゃしねぇよ」
 コノハの言葉に、吸血鬼は少しだけ、目を瞠り――ふと、笑う。その白い貌に、口元から声の代わりに血の塊が出た。
 知らないから、識りたいと。
 それでも、その唇は妄言を形だけで紡いだ。
「知らねぇよ」
 少なくとも、自分はそんな吸血鬼の心など知りたくもない。吐き捨てて、崩れていく死体を、放り出した。

 長く、熱い息を吐く――命は食らっても、すぐさま傷が、疲労が癒えるわけではない。
 最後に見つめるは、柩の中で眠り続けるものたち。
「最後の自由の証しに持ち帰ってあげたいトコだけど」
 ふと、気がつく。看守達は、無事に監獄まで戻ったからには、安全なルートがあるに違いない。そこから運び出せるだろう――どう扱うかは、『家族』たちに委ねるべきだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​


●生とは――
 猟兵たちが吸血鬼の討伐を看守たちに告げる。
 最早、此所に彼らを養うものは存在せず――縛るものも存在せぬ、と。
 ある猟兵はいった「今、この世界にはヴァンパイアどもの目を逃れた人類砦が無数できている。お前達でも、受け容れてくれるだろう」と。
 ある猟兵はいった「こんな不衛生なところに籠もっていることが、不健全だ。外へ行き、本当の生き方を探すべきだ」と。
 ある猟兵はいった「死者には冥府に至る祈りを、唱えてあげられるけれど――それは結局、何処までいっても、生きたもののためだからね」と。
 ある猟兵はいった「家族は大事なんデショ。迎えにいくなら、手伝うけど?」と。

 はてさて、生を絶望の箱と捉えていた人々が、新しい道を如何に捉えたかは解らない。その行方を知るものもおるまい。
 苦痛の生か、安楽の死か――。
 ただ、大切な人々に、命を守られた事で――自嘲しながらも生きながらえてきた彼らが、生を擲つとは思えぬ。

 然れど、この忌まわしき城の行く末だけは、風の噂で聞こえてきた。
 ――業火に包まれ、跡形もなく灼かれてしまった、と。

最終結果:成功

完成日:2020年12月25日


挿絵イラスト