さみしい。
せつない。
何故自分には温度がないのか。
何故自分は温もりに触れられないのか。
「わたしたちには心地よい凍気があるじゃない」
「わたしたちには心地よい氷肌があるじゃない」
そう仲間たちは言うけれど。
それすら、触れたと思っているだけ。感じていると錯覚しているだけ。
わたしたちは “そういう存在” だから。
――ああ、けれど。
どうしてわたしたちじゃ無いモノたちは触れ合えるの。
どうしてわたしじゃ無いモノたちは欲しがらないの。
……ずるいじゃない。
妬ましい、そして、憎いと思うのは許されないこと……?
「私が許すわ。ええ、ええ、可愛いあなたの全てに共感してあげる」
どこからか聞こえた声に耳を傾けた。
傾けている内にいつしか心地よくなった。
その声がいざなう。
ならば世界が変わればいいと。
少しの戸惑いを見せれば、声は更に甘く囁いた。
「みんながあなたの気持ちを知ってくれるだけ。あなたと同じになるだけ。
なんていうのだったかしら……、そうそう、『平等』というものよ」
ね? とてもとても平和な方法でしょう? と続いた言葉は微笑んでいた。
嘆きの心を希望に変えて頷いた瞬間、どこからか歌が奏でられる。
「そう、いいこね。じゃあ後は私に任せて安心してお眠りなさい。
大丈夫。目が覚めた時にはきっとあなたの望む世界になっているわ」
響く、ひびく、子守歌。
保っていたはずの自我は、次第に閉じられる瞼に倣うよう、深淵へ沈んでいく――。
●現:グリモアベース
「幽世が滅びの危機です」
招集された猟兵たちの前で、幼さ纏う声色で淡々とそう告げるサティ・フェーニエンス(知の海に溺れる迷走っコ・f30798)。
フードと前髪で隠してもよく見える、大きな瞳を猟兵たちから逸らすことなく言葉を続けた。
「“消された”のは『触覚』のようです。はい、肌に物が触れた、と分かるその触覚です。
それ以外は日常全く変わりはないので、当初は異変を感じた妖怪たちも楽観視していたようなんです、が……」
首を傾げながら想像してみようとしているらしい数名の猟兵へは、心中慮るように頷いて見せながら。
「……触覚を感じない、つまり触れ合っても分からないという事です。
友人と握手しても、大切な人をその、抱き締めても、宝物を握りしめても。
何も、何も感じないとはどんな気持ちになるでしょうか。
少なくとも幽世の妖怪たちは、触れ合える温もりが二度と来ないのだと、そう理解してしまった者から絶望が広がっているようです。
温もりを感じない、それは孤独と変わらないと。そして骸魂にあっさりと飲み込まれてしまう。
もしかしたら……皆さんの中にも、触覚か、それに近い形で似たようなご経験をされたことのある方もいるかもしれません」
そういった方なら尚、今回助けに向かってほしい。少年は微か語気を強めそう述べる。
曰く、触覚を奪い“孤独の世界”をもたらしているオブリビオンは、ローレライの骸魂が雪女を取り込んだものなのだと。
雪女は嘆いたのだ。
温もりを感じられない、感じたが最後溶けて消えてしまう、己の在り方を。
その在り方に疑問を抱かぬ同胞を。
そして願ってしまった。招いてしまった。
孤独慰めるために歌っていられる、そんな永遠の世界を望む、ローレライの骸魂を。
「僕が視えたのは、雪女さんを取り込んだオブリビオンの姿まで……。
能力までは分からず申し訳ありません。
ですがきっと、元々のローレライとしての歌声を武器にした上で、雪女の能力も扱えるようになっています。どうか、お気をつけて」
言葉を締めた後で、あっ、と思い出したように慌てて言葉が響く。
「皆さんを送る先は、幽世の端にある村、そのそばの大きな湖の近くです。
オブリビオンの力でかなり寒くはなっていますが、耐えられない程ではありません。
その周辺を、光と炎操る骸魂たちがたくさん囲っているためもあるかと。
……はい、その骸魂はその村の妖怪たちが囚われたモノです。
皆さんの力ならそれほど苦戦しないとは思いますが、数が多いので……でも、倒せば村の妖怪たちを救ってあげられます。
お願い、できますか?」
控えめに見上げた瞳に頼もしく頷く姿たちが幾つも映れば、少年の表情に安堵の色。
「オブリビオンを倒せば取り込まれた雪女さんも助けられます。
助けて、もし良かったら、少しお話をしてあげてください。
気持ちを汲んであげても、今回の反省を促しても、元来はとても穏やかな方みたいなので、きっと皆さんの言葉が届くと思います」
今度こそ、いってらっしゃい。そう口にした少年の眼前が淡く輝き出した――。
真白ブランコ
初めまして。ど新米MSまっしろしろこと、真白ブランコと申します。
誠心誠意、魂込めて執筆させていただきますので、ご縁がありましたら宜しくお願い致します。
●第一章:集団戦
湖近くの村にて。まずは大量の骸魂との戦いです。
一人一人の力はそれほど強くないですが、数の暴力、時に向こうも連携してくるので、油断せず迎え撃って下さい。
尚、幽世に来た時からもれなく『触覚』を感じません。
ただし、あくまで表面的・肌に触れる感覚が無い、というものなため、強く握られたり切られたりすれば内側への圧迫感を感じたり、痛覚も当然あります。
その辺りは『猟兵ゆえ何とかなる!』でOK。
勿論全力で触覚の無い世界を味わうというのも歓迎致します。心情寄りも可。
●第二章:ボス戦
湖からオブリビオンが姿を現します。
雪女さんの意識は決して浮上してきません。
個々に、または協力して、遠慮なく打倒しに行きましょう。
雪女としての能力、またはローレライとしての能力を予想し、対策を講じていると有利が働くかもしれません。
●第三章:日常
間もなく夕暮れ時。
元に戻った妖怪たちが、ちょっとした宴を開いてくれます。
そして、本当は時期が違うけれど今日は特別だと、お礼代わりな精霊馬が駆ける荘厳な景色を見せてくれます。
ついでに骸魂とオブリビオンの残骸たちが宙へ浄化されるように、キラキラと舞い。
茜空と精霊馬とで幻想的なものとなっているようです。
よろしければ、災厄を生んで落ち込んでいる雪女さんへも声をかけてあげてください。
話を聞くなり、自身の似たような体験話をするなり。
(NPCたる雪女の描写は最小限に抑えます)
勿論、ただ景色を楽しんだり、妖怪たちと騒いだり、物思いに耽ったりと、ご希望があれば自由に過ごしていただいて構いません。
断章なし。
オープニングが公開された時から、プレイング受付開始となります。
アドリブが基本入りますので、『アドリブ歓迎』等の記載は無しで構いません。
また、今の所再送もお願いしない方針ですので、成功度を達したらすぐに次章へ進行予定。
何卒ご了承下さい。
第1章 集団戦
『骸魂火』
|
POW : 光の御返し
【発光している身体の一部】で受け止めたユーベルコードをコピーし、レベル秒後まで、発光している身体の一部から何度でも発動できる。
SPD : 光の御裾分け
【発光している身体の一部】を向けた対象に、【高熱を伴う光線】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ : この子は傷つけさせない
全身を【発光させ、防御力が極めて高い身体】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
レスティア・ヴァーユ
【ふれる】
握る自分の手の感覚に眉を顰める。確かに強く握れば圧迫感こそ感じ取れるが、何とも気持ちの良くないものだ
…!? これで銃を撃て、と…?!確かに剣を上手く握れる保証も無いが…
……了承した。だが、命中率の精度には目を瞑ってもらうぞ!
相手のUC発動後に、シンフォニックソードをライフル銃の形状へと変化。触覚が危うい分、肩に床尾が当たっていれば心許なさも減る
歌声を弾丸にして敵の元へと撃ち放つ
相手は取り込まれた妖怪であるなら、傷付けたくもないものだ
敵を捕捉し、自分のUC発動
標準は撃つ都度、集中して可能な限り補正して命中率を上げる
敵の反撃は、全てアリスティアのUCに委ねる
後はもう、集中力との勝負か…!
アリスティア・クラティス
【ふれる】
触覚が、ないわね。私には触れる恋人もなし、さして困るものでも…と思っていたけれども……まず武器を握る手がおぼつかないわ。これでは助けられる者も助けられない
――でも、力を込めて握れば手持ちの宝石の感覚はある
……戦えるわ! レスティア、そちらも銃くらい撃てるでしょう!始めるわよ!
敵との狭間、自分とレスティアに限りなく近い位置にUC発動
「レスティア!こちらに近づいてくる敵から、一体一体確実に狙いなさい、敵がこちらの壁に触れる前に倒すわよ!」
こちらも、煌めく鉱石を手に握りしめて、高速詠唱による属性攻撃で近づく敵を片っ端から倒していく
壁に触れられたら長期戦の気配がするわ…そうなる前にたおーす!
冷気に渇き、暖気に地色を保っているそこへ、一組の足音が鳴る。
肌寒さと、そしてもう一つの事実を確認すべく、アリスティア・クラティス(歪な舞台で希望を謳う踊り子・f27405)は自身の手をこすり合わせてみた。
……本当に触覚が、ないわね。
腰に差す白銀纏う槍も手にしてみるも、その目には槍持つ己の手が映っているにも関わらず、それは映像では無いかと錯覚するほどに何も、何も感じない。
さして困るものでも、と此の世界の妖怪たち宜しく気にするつもりのなかったアリスティアであったが、こうまで武器持つ手がおぼつかないとは思わなかったと、白い吐息を零した。
成程、触れる恋人サンがいる方は困りそうだ。幸い自分にはそのような存在は無いわけだが。
決してたまにちょっぴり空しさなんて感じてないわっ。
脳内会議にセルフツッコミを入れながら、しかし果たしてこの状態で助けられる者を助けられるのだろうかと、微か不安も過ぎる。
けれど。
コートに忍ばせた掌に力を込めれば、アリスティアの紅蓮の瞳が力強い光を讃えた。
――感じることは出来ない、でも分かる。分かるわ。
その掌の中で、各種それぞれの色を帯びた宝石たちが今はまだ息を潜め出番を待っていた。
その隣りでは同じく己の手を開いたり閉じたり握りしめたりしている青年の、冷気になびく金糸がアリスティアに促されるように歩くたびきらきら、ゆらゆらと揺れている。
レスティア・ヴァーユ(約束に瞑目する歌声・f16853)の端整な顔立ちの中に、微か影が落ちその眉が顰められた。
……何とも気持ちの良くないものだ。
強く握れば圧迫感こそ感じ取れるものの、本来呼吸と同等の如くあるべきその感覚がない。
ここは慎重に対策を練る必要があるか。
そう思案し俯きかけた蒼玉の瞳が、声高な言葉にバッと上げられることとなる。
「何をぼさっとしていて!? 来るわよ!」
いち早く察した彼女の声に咄嗟に身を翻したレスティアの頬を掠めるようにして、発光物体が空気を切って飛び込んできた。
「戦えるわ! レスティア、そちらも銃くらい撃てるでしょう! 始めるわよ!」
「……!? これで銃を撃て、と……?!」
条件反射的に異論を唱えようとした唇がはたと止まる。
確かに剣を上手く握れる保証も無い、か……。
ならばまだ、距離をとって攻撃出来る方を取るべき。
その一瞬の判断をしてみせたアリスティアに感嘆の視線をやりながら、レスティアは彼女のUCが発動される声音を聴く。
「『ここに生まれしは、幻よりいずる傾く天秤。我はその全てを搾取する!』」
瞬間、淡い輝きを放ち現れたるは水晶の壁。堅牢たる幻影水晶。
自分たちと、いつの間にか集まり出した沢山の骸魂火たちとの狭間にそれを確認し、レスティアも視覚でしっかり捉えながらシンフォニックソードをその手に掲げた。そのまま、剣の形状をライフル銃へ移行させる。
「レスティア! こちらに近づいてくる敵から、一体一体確実に狙いなさい。
敵がこちらの壁に触れる前に倒すわよ!」
「……了承した。だが、命中率の精度には目を瞑ってもらうぞ!」
ライフル銃の床尾を肩に当てながらレスティアは応答する。
普通であれば触覚による判断で角度調節をするところが、今はそれが役に立たないのだ。
肩に固定出来るだけマシだと心許なさを消し去れば、レスティアの口が凛とした旋律を紡いだ。
その歌声に、ライフル銃へ姿を変えているシンフォニックソードが蒼い光で応える。
――相手は取り込まれた妖怪……であるなら、傷つけたくはないものだ。
心持つ者であれば胸に響くその歌声を力に、威力に、変換させた弾丸が主の気迫を合図に撃ち放たれた。
「『コノ身ヲ捧ゲ、歌イ、紡ガン――我ガ手ニスルハ、御主ノチカラ……響け!『代理執行・神罰!』」
補足された骸魂火に、蒼白い断罪の光が貫通する。
悲鳴を上げる間もないままに、一体が霧散していくのをきっかけに二人へ無数の発光体が襲い来る。
標準は撃つ都度、全ては視覚を頼りに集中し可能な限り補正して命中率を上げるレスティア。
しかしやはり微細な調整は、触覚ないままでは限界があれば、こちらの攻撃を回避した骸魂火からも反撃が入る。幾体かが、発光するその身体からレスティアの弾丸を真似た閃光を放ち始めた。
「そうはさせないわ!」
水晶壁がいく度も弾く音を鳴り響かせる中、アリスティアも防壁を展開したままその手に煌く鉱石たちを強く握りしめ、そして。
投げるわ!
うっ血する程に強く握りしめれば、敵に狙い定めその手から離れる瞬間もどうにか感じ取れる。
放ったと同時に唱えられた高速詠唱に宝石たちが反応し、それぞれに属性色の輝きを暴風や暴発に変えて近くの骸魂火たちを次々打っていった。
壁に触れられたら長期戦の気配がするわ……そうなる前にたおーす!
役目果たした石たちが砕かれ儚く落ちていくのもお構いなしに、アリスティアは投げる手を休めない。
守りの要にして攻めも担う存在感は、レスティアが引き付けていたはずの骸魂たちの視線を集め出した。
「あ、あら……っ? レスティア! しっかり仕留めなさい!」
「善処している……!」
長引けば長引くほどに、集中力の勝負となる事をレスティアも覚悟していた。
が、予想以上に敵の数が多い。
その反撃たちが彼女を狙いだしたと視てとるや、レスティアは紡いだ。
「――信じるぞ」
「え、ちょっと」
レスティアはその身でアリスティアを押すようにして後ろに下がらせた。
触れられた、押された感覚はなかったものの、その背中を視界に入れていればヨロけた体勢をすぐに整えて。アリスティアは僅か目を見開く。
壁ぎりぎりの最前線。
敵にその幻影たる水晶の存在に疑問を抱かれれば、その強度は損なわれる。
だから、レスティアは近距離の敵を引き受けた。
アリスティアの防御を信じて。
アリスティアからの支援を信じて。
「まったく、そんな一言で済ますなんてっ」
意図を読み取ったもののついつい言葉がこぼれながら、しかしアリスティアに活き活きとした表情が満ちる。
ええ、これに応えねば私が廃るというものだわ!
青い軌跡の後に続き、鉱石たちがますます勢いにのって骸魂たちの中央に放たれる。
抜群の連携を前に、骸魂から解き放たれる妖怪たちの姿は一人、二人と、確かに増えていくのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
音海・心結
何も、感じない
自身の掌を合わせてみて
今まであった感覚が消えているのを知った
寂しさと悲しさで心が潰されそうになる
これが”孤独”なのですか……
言葉を漏らせば、消えそうなほどに弱い声
思わず心で負けそうになる
それでも必死に負けまいと
抗おうと戦うのだけれど
ぽっかり空いた心は、
敵を切り裂く手応えと同時に無機質なものへと変わっていく
ぽろぽろと溢れる涙が止まらない
……やだ
泣きたくない
……
…………
どこからか声が聞こえた気がした
友の声が
心の中に一筋の光が見えた
みゆはこんなところで負けないのですっ!
こんなところで負けたら、
零時に顔向けできないですからっ
涙を拭って、
武器を持つ顔に寂しさも悲しさもなかった
自身の掌を合わせてみても、思わず自らを抱き締めてみても、何も感じない。
音海・心結(瞳に移るは・f04636)の月色の瞳に戸惑いの影が落ちる。
今まであったものが消えている事を体感すれば、分かっていたはずなのに、寂しさと悲しさが溢れ出しその心を押し潰そうとするかの様で。
これでは世界が終わるわけだ。
これでは妖怪さんたちが絶望するわけだ。
「――これが、“孤独”なのですか……」
ぽろり、零れた言の葉は自覚遅れる心結の心情を表すが如く、今にも消え入りそうな程に弱弱しかった。
いけない。
今この時とて犠牲になっている命があるかもしれない。
呑まれそうになる心を必死に奮い立たせては、己の存在に気づき集まり出した骸魂たちへ意識を集中する。
集団の中の一体が、先制攻撃とばかりに心結へ飛来してくるのを、可憐な造りにして鋭い刃光を放つ短剣で威嚇しようと試みる、も。
短剣が上手く掴めなかった。
正確には身に馴染んだ動作で確かにその手に短剣は握られていた。けれど、それを自覚することが出来なかった。
出遅れた条件反射の動作を、意識的な回避に切り替え持ち前のジャンプ力にてどうにか相手の体当たりを回避する。
大きく動いた気配を皮切りに骸魂火たちが一斉に追撃モードへと切り替わった。
今度こそ視認で短剣を振るった。
鋭い刃が確かに一体、もう一体をと切り裂くのを目の当たりにする。
視覚が脳へ届けばそれは手応えとして錯覚して取れるも、まるで無機物を相手にしているようで。
刃が当たった分だけ、闇の中に心を吸い取られていく心地だった。
「……やだ……イヤ、なのに……」
抗っていたはずの勇気が急速にしぼんでいく。
代わりにぽっかりと空いた心に、容赦なく敵が舞い込みまた屠れば無機質という名の孤独が染み込む。
ぽろぽろ。
居場所を失った涙はもはや止まらなかった。
泣きたくない……泣きたくないのに……。
溢れ出した雫たちが視界をゆがめた。
心結の呼吸が、動きが、見る間に乱れ出した。
好機とばかりに発光する者たちが心結を囲い出す。
だめ、まけ、ちゃう……――
孤独の暗闇に囚われ瞼を閉じそうになった、その時。
その耳の奥で声が響いた気がした。
閉じかけた瞳が再び大きく開かれる。無意識に、頭上に伸びた手が金襴生地のリボンに触れる。
幻聴だったのか……否。それは心結に刻まれた絆の声だと、そう確信する。
黒く覆われた心に、一筋の光が見えた。
「一緒じゃなくても……一緒、なのです」
互いに猟兵の身なれば、友も今戦いに身体を委ねているかもしれない。
そんな時に、自分だけ膝をついていていいのだろうか。心結の答えは決まっていた。
「みゆはこんなところで負けないのですっ!」
月色の瞳に輝きが宿った瞬間、いずこからか放たれた魔力弾が心結の眼前に迫っていた骸魂火に直撃し、それを大きく後退させた。
ユーベルコード、宝人の特攻。
自覚なく解き放ったそれに一度目をぱちくりとさせる。
守ってくれてる。見守ってくれている。
心結の撃った魔力の塊をそっくり模写したモノが、向こうから飛んでくるももはや心結は動じなかった。
これは偽物。
彼と自分の友情の絆はもっともっと強いと知っているから。そして――
「こんなところで負けたら、零時に顔向けできないですからっ」
勇気をもらえる名前という呪文をハッキリと口にし涙を拭ったそこには、もう寂しさも悲しさも無くなっていた。
代わりにふと脳裏をよぎったのは、あの強く温かい淡藍玉色。そこに映る笑顔の自分。
無敵な気持ちを得た心結は疲れを知らぬままに、骸魂たちの群れへと突き進んでいくのだった。
大成功
🔵🔵🔵
ルパート・ブラックスミス
(握る感覚が伴わないことを確認すると、大剣を放し)
成程。いいだろう。
此度は騎士ではなく、炎の化身として応えよう。
UC【燃ゆる貴き血鉛】発動。
燃える鉛を撒き散らす【範囲攻撃】で周囲を【焼却】しながら進軍する。
敵にも真似られたとて普段それで火達磨になっているのだ、その程度の【火炎耐性】はある。
この身も炎が滾り鋼が熱を帯びれば、こうして触れた先を焼き焦がす。
今でこそ少しは克服したが…触れ得ぬ孤独、わからんでもない。
だがそれだけだ。己に無いものばかりを想う、悲しくも愚かな雪女。
その孤独押し付けることがどれだけ惨い事か、貴様こそがわかるだろうに。
往くぞ。その冷血の束縛、焼き切ってくれる。
黒き鋼に青炎くゆらせる騎士が闊歩する。
光源に誘われるように早々に集まってきた骸魂火を、兜の闇に隠した視線で確認すれば、転移前に戦闘態勢万全に整えていた大剣を握り直す、も。
……ふむ。
主の魂と入れ替わるが如くこの鎧に顕著したヤドリガミ、ルパート・ブラックスミス(独り歩きする黒騎士の鎧・f10937)は握る感覚が伴わないと悟るや、焦ることなく大剣をその場に収めた。
代わりに――
「……いいだろう。此度は騎士ではなく、炎の化身として応えよう」
どこか澄んだ声音が鎧の中で詠唱として鳴り響く。
発光とは異なる炎の存在に様子見をしていた骸魂たちへ、途端、ルパートの本体たる鎧内から数多の燃える鉛が四方八方へと放たれた。
元来その身に宿す攻撃手段であるが、【燃ゆる貴き血鉛】として発動されたそれらは普段とは比較にならぬ程の威力を纏う。
外見から予想だにしない中距離的投擲に、完全に油断していた幾体かの骸魂が直撃を受けては青き炎に焼かれ宙で暴れ回る。
「極寒の風に乗ったとて、その炎はやすやすとは消せんぞ」
騎士は紡ぐ。
己の在り方と覚悟を具現化したものがそれであると。
数で圧倒しようと発光のかたまりとなって襲ってくるモノどもへ、微塵も足並み乱すことなく進軍し、そして次々と焼却していく。
ならば死なばもろとも、とばかりにルパートの青き鉛とそっくり似せたそれを、光る体から突進しながら放ってくる骸魂火たち。
しかして、騎士は怯む仕草欠片も無く、闊歩を止めぬままにその鉛を避けることせず受け止めた。
「覚悟持たぬモノに、この身は焼けんよ」
炎は己であり、高温たるその青さは心の強さ。
黒騎士の体は常にその状態を保っているのであるから、急ごしらえとも取れる骸魂火の威力たちは全て火炎耐性の下に与する。
敵からの攻撃を受ければ受ける程、ルパートの纏う鋼は炎滾り熱を帯びた。
伸ばした手がいっそ骸魂火を直接掴み、焼き焦がしていく。
燃え堕ちる骸魂の中から妖怪が元の姿で現れれば、纏う青をほんの一時その籠手から退ける。そうして落ちかけたその体を静かに抱きとめ、安全な物陰へと運びながら。
ルパートは骸魂火の群れの先、湖の奥に感じる存在感に意識を向けた。
――今でこそ少しは克服したが……触れ得ぬ孤独、わからんでもない。
己を、亡霊騎士だと自ら貶め苛んだ。
微かそんな自らの過去を思い起こして、兜のそばの焔が揺れた気がした。
だが、それだけだ。
その孤独押し付けることがどれだけ惨い事か、貴様こそがわかるだろうに。
まるで過去の自分を叱咤するように、ルパートは静かに、世界を滅ぼそうとするそれへの怒りを炎に宿す。
己に無いものばかりを想う、悲しくも愚かな雪女。
「往くぞ。その冷血の束縛、焼き切ってくれる」
悪を前に退くことなかれ。
黒騎士は突き進む。正義の炎剣を真に振り下ろすために。
大成功
🔵🔵🔵
逢坂・宵
ザッフィーロ(f06826)と
握っているはずの杖の感触も感じず、きみの手に触れても感覚は何も伝えてこない
……寂しいですね、と笑って
まずは目の前の敵の対処を第一に考えましょう
かれの攻撃の合間にかれの死角の敵を「衝撃波」で「吹き飛ばし」つつ
「高速詠唱」で紡いでいたユーベルコードを「範囲攻撃」「属性攻撃」を付加して
【天撃アストロフィジックス】で攻撃しましょう
かれへ攻撃がゆくなら「オーラ防御」を付加した「結界」を張り防ごうと試みつつ
無事防御できたなら怪我はありませんかと声をかけましょう
……ええ、なにがあろうと共にいますが……
触れて実感できないというのは、一種の不安を抱かせますね、と苦く笑って
ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と
手にしたメイスの感触がなくなれば衝動的に宵の手へと手が向かうも
常通りの暖かな指先の感触を捉えられぬ己に気づけば眉を下げつつ宵へと視線を向けよう
…ああ、そうだな。お前の温もりを感じられぬ状況は早く打破せんといかんな
戦闘時は前衛に立ち行動
唇から麻痺毒性の【罪告げの黒霧】を敵へと放ちつつ『怪力』を乗せたメイスを敵へと放ってゆこう
宵へ向かう攻撃を見れば『盾受け』にて『かば』い行動を
宵に庇われた場合は助かったと礼を言いつつその髪へ手を伸ばす―も
触れても伝わらぬ感触に眉を下げよう
…本当に。お前も俺も感覚はなくとも共に在る事は変わりはせんが…だが
矢張り触れて確かめられんのはさみしいものだ、な
一つの掌が星をあしらった杖を握り直した。
一つの掌が鎖潜む杖の柄を握り込んだ。
それらの指が同時に緩むと、呼吸合わせたようにそれぞれのもう一つの掌がお互いに触れた。
対を求めるのは必然の衝動であった。
「……寂しいですね」
「……ああ、そうだな」
逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)の見上げてくる微笑みに、ザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)も眉を下げた微笑みで返す。
杖の感触のみならず、触れれば常に感じられた相手の温もりすら伝わってこないことを確かめると、二つの胸に切なさが灯る。
深宵と白銀の瞳たちは、その色の中に浮かぶ寂しさを見つけては、また言葉を紡いだ。
「お前の温もりを感じられぬ状況は早く打破せんといかんな」
「同感です。まずは目の前の敵の対処を第一に考えましょう」
流星の如く過ぎ去っては移り変わるヒトの世を見守ってきた、ヤドリガミの猟兵たちは感傷に浸るべき刻を決して見誤らない。
眼前の骸魂の群れをその視界に捉えた時から、ぴたり並んでいた立ち位置はすでに前後に切り替わっていた。
互いに動きを阻害せぬよう、最適な距離をおけば前衛たるザッフィーロが敵より早く先制を発動させる。
祈りにも似た静かな唇の動きをみせた後、そこからつかれた吐息は見る間に黒霧を生み出し、自らを囲おうとしていた骸魂火たちを逆に囲っては覆い尽くした。
それは麻痺毒の霧。【罪告げの黒霧】。
一様にして動けぬことを視認してから、跳躍と共に渾身の怪力込めたメイスを振るっていく。一体一体確実に、一撃をもって砕き切る。
それらが住人たる妖怪たちに戻っていくのを確認すれば、ザッフィーロは自身を囮に第二群、第三群と現れる骸魂たちから離してまた攻撃に転じた。
そんな彼の動きにしっかりと合わせ移動しながら、宵は麻痺から逃れた敵を見逃さぬよう注視する。
僕がちょっかいを許すと思っているならば……心外ですね。
かれの死角を自分が把握していないはずは無いというのに。
黒霧を掻い潜ってその背後を狙おうとした骸魂火の数対が、一瞬にして黒霧ごと吹き飛ばされた。
おっと……衝撃波も少し加減が要りますかね。ならば――
チラリ。
視線交わらせれば、宵の意図を即座に把握したザッフィーロが身を翻し、発光体たちを集めるよう誘導する。
瞳で礼を語り、すでに高速詠唱にて紡ぎ切っていた己のユーベルコードを発動させた。
それは頭上に秘めやかに、ひそやかに存在する星たちのほんの一部。
けれどこの場の骸魂たちを一掃するには十分すぎる程の量。矢の形を成し敵対物へ有効な属性色を煌かせ。
【天劇アストロフィジックス】
幾星霜の光纏わせた流星の雨が、一瞬で宵の視認した全ての敵を天へと還した。
「――俺の目を盗んで、俺の星に触れようというのか」
宵の矢に劣らぬ程の射る視線。
大規模な発動の直後、自らの身体を強く強く発光させ流星の矢を凌いだ骸魂の後ろから、ここぞとばかりに宵へと向かってきた発光体の存在をザッフィーロはとうに捉えていた。
刹那。そこが定位置であったというほどに、いつの間にか、ザッフィーロは宵と骸魂との間で全身を盾として凛と立ちはだかっていた。
肉体にダメージ受けても問題ない身、とはいえ……。
目の前で、かれが攻撃されるのを黙ってみているような性分ではない。
宵はその広い背中へ触れた。
宵から伝わる淡い光がザッフィーロの全身を包む。
触れられた感覚は無くとも、その存在はたやすく感じ取れる。引き結んでいた唇が微か、柔らかく弧を描いた。
自身を包むオーラ防御の光が結界の役割を果たし、敵の体当たりを全て弾くのを見留めれば、ザッフィーロは振り返ってその存在を映す。
その微笑みへ宵も応えた。
「怪我はありませんか?」
「ああ、助かった」
いつも通りの、無意識の動作だった。
大きな褐色の手が宵闇色の艶髪へ伸びる、けれど――いつもならば温かい眼差しのままである銀の瞳が、再び切なそうに細められた。
その心を汲んだように宵から先に言葉が発せられた。
「……何があろうと共にいますが……触れて実感できないというのは、一種の不安を抱かせますね」
「……本当に。お前も俺も感覚はなくとも共に在る事は変わりはせんが……だが」
もうこの体が、唯一にして無二の温度を覚えてしまっているのだ。
矢張り触れて確かめられんのはさみしいものだ、な。そう続いたザッフィーロの囁きへ、宵は共感の頷きをしてみせる。
絶望する程弱くは無い。
しかし一度この寂しさを感じ取ってしまっては、もしもずっとこのままであれば蓄積されて、温もり覚えていた箇所に空洞が出来そうだ。
互いにそう悟れば、少しでもこの任務の早期解決への気が高まる。
――無事帰ったあかつきには、今まで以上にその温もりを噛み締めよう。
どちらからともなく、胸の内にそう響かせてから。
幾度目かの発光体たちを再び迎え撃ちながら、確実にその足並み二つを揃えて湖へ近づいていくのだった。
今はまだ、感じ合えぬ体温の代わりに。
それぞれの指に収まる指輪たちが、確かにお互いの想いを絡め繋いでいるのだと、同時に煌いているように見えた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
曲輪・流生
【双竜】
依頼初めてでどうしようかと思っていましたが同族の方に会えるなんて…!
あ、僕は曲輪・流生です。よろしければお名前を…リュカさんですね。
よろしくお願いします(深々とお辞儀)
触覚が消える…確かに掌を握った感触がないですね…僕は誰かに触れられたいと言うのはあまり…僕にやたら触れる人がいてそれは正直あまり好きではなくて…でもそれが僕のお役目だからけど今は…自由…?
(リュカさんの話を聞いて)
雨…、は触れたことがないので触れてみたいですす。
は、これが敵?ぼ、僕はどうすればっ!
UC【竜ハ惑ウ】
…?これはリュカさんの?
はい、落ち着きました大丈夫です。
…リュカさんのこと傷付けてしまわなくてよかった…。
黒雨・リュカ
【双竜】
同族か…昔と比べれば数は減ったからな
リュカ、黒雨リュカだ
口の端を上げ
この先は数が多いと聞く
丁度いい、手を貸せ流生
確かに触れる全てがよいとは思わない
欲の籠った視線と共に与えられる感触は怖気立つ程だ
だからと言って
これでは鱗を打つ雨を楽しむこともできやしない
生憎俺はそんな世界はごめんだね
石榴を浮かせ魔力を注ぐ
咲かせた花から雨呼ぶ雲を
更に詠唱を重ね雷を
弱くてもいい
重ねて打って敵の防御を緩める
弾ける炎に流生を見る
惑うばかりでは何時かは攻撃を食らうかもしれない
…久々にあった同族が倒れるのは見たくないな
落ち着け、俺を見ろ
触れずとも伝えることはできる
しっかり目を見て安心させて
【純潔の檻】で流生を囲おう
●
信仰に抗い、己が思うがままに、己が信じるままに強くなる事を選んだ竜神と、
信仰に寄り添い、結果消えかけながらも、信じるモノの為に留まる事を選んだ竜神とが、
今、邂逅した。
宝石の如き石榴色を称えた瞳が、本来の輝きを奥底に隠したどこか寂し気な紫水晶の瞳を見つける。
黒雨・リュカ(信仰ヤクザ・f28378)は瞬時にそれが“同族”であると理解した。
くりんとした紫の視線の持ち主たる曲輪・流生(廓の竜・f30714)も、心細さを抱いていた気持ちが相手の存在で持ち直していくのを感じ取れば、嬉しそうに、しかしそろそろと、リュカの方へと歩み寄った。
「あ、あのっ、はじめまして! その、僕、依頼初めてで……どうしようかと思っていたんです、が……同族の方にまさか会えるなんて……!」
無垢な表情に、少し意外そうにしつつもリュカの方もそちらへ足を向けてやる。
……昔と比べ数は減ったからな。今はこういう奴もいるんだろう。
己が在り方が我が道を往っている自覚はあれば、リュカは同胞へと妖艶に笑みを浮かべた。
――わぁ、とても綺麗な……。
思わず見惚れそうになりながら、あっ、と慌てて真っ白な髪がぺこりと垂らされる。
「僕は曲輪・流生です。よろしければお名前を……」
「リュカ、黒雨リュカだ」
「リュカさんですね。よろしくお願いします」
それは精錬された動作で、流生は改めて深く深く一礼を行う。
――こんな恭しい意識を向けられたのは久方ぶり、か。しかもまさかそれが同胞からとは。
捨てたのは、見捨てる道を取ったのは自分。
どうにも落ち着かぬ気を覚えたの振り払うようにして、リュカは告げる。
「この先は数が多いと聞く。丁度いい、手を貸せ流生」
「僕でお役に立てるなら、もちろんです」
件の湖、その近くの村までやや距離がある場所なれば、リュカと流生は連れだって目的地へと向かった。
その道中にてそれぞれ、事前情報通り触覚が消えている事を確認すると、無意識に言の葉がぽつりぽつりと紡がれる。
「……僕は誰かに触れられたいと言うのはあまり……僕にやたら触れる人がいてそれは正直あまり好きではなくて……」
何某かの感情が含まれたそれを、リュカは黙って耳に入れる。
先を促してくれるような静けさに、流生は心の水底に沈めていたはずの思いが首をもたげた心地で続きを零した。
「変、ですよね。触覚が無くなって少し安心してる、なんて。
ヒトに触れられて、望みを聴くのが僕のお役目のはずなのに……」
「俺とて触れる全てがよいとは思わない」
予期せぬ同調の言葉に、未だ真っ直ぐ前を見据える端整な横顔を流生は思わずまじまじと見つめた。
「でも、それが僕のお役目だから」
「欲の籠った視線と共に与えられる感触は怖気立って当然だ」
過去に置いてきたはずのいけ好かない感情が沸き上がりそうになるのを、極力抑えた結果、やたら落ち着いた音となった。
好きでないのならそのままで良い。
リュカの声を、暗にそう伝えてくれているのだと取った流生が耳を傾ける。
「信仰するのは奴らの勝手だが、自由にするのも俺たちの勝手だ。何にも縛られる必要は無い」
自由……?
触覚のない掌を、流星はもう一度握りしめてみる。
これをどう感じようと、捉えようと、今は自由……?
不思議そうな空気を醸す童の竜神へ、リュカは視線合わせにやりと笑って見せた。
「だからと言って、こんな状態じゃあ鱗を打つ雨を楽しむこともできやしないがな。
俺が感じ取りたい時に感じ取れないようなそんな世界は、生憎俺はごめんだね」
「雨……、は触れたことがないので触れてみたいです」
「おいまじか」
どんだけ囲われた所に居たんだ、お前も。
そう出かかった言葉を、リュカは喉の奥へと収めた。
代わりに放ったのは
「――来やがった!」
踏み込んだ瞬間から竜神の纏う神気に反応したか、または惹かれたか。
気付けば眼前にはすでに大量の発光体の群れが待ち構えていた。
「大人気だな。さすが俺」
その貌に歓びの色を浮かばせる。
己を敬うはずも無い骸魂たち。求めた力を遠慮なく、容赦なく、振るう事が出来る。
光沢纏う石榴を幾つも浮き上がらせては、魔力を注いだ。
水を得た花の如く、赤き実はその花弁を開かせ天を仰ぐ。
リュカの呼びかけに応えるように、赤き花たちが雨雲を呼び寄せるのを視認しながら、リュカは更に詠唱を重ねた。
正直、あれ程の大群だとは思わなかったが。
弱くともいい。貫くまで何度でも放つのみ。
雨雲は雷雲となって、的確に黒竜の敵へと降り注いだ。
「は、これが敵? ぼ、僕はどうすればっ!」
初依頼なれば骸魂という存在に向き合うのも初めてで。
極度に高められた緊張と乱れた心は、傍にいるはずの心強い仲間の存在をも視界から消す。
無自覚のままにその身に宿した力を発動させた流生の正面に、ゆらめく白い炎が次々と召喚された。
その数およそ10。
そんな自身の能力にすら驚きを見せ、更なる困惑と恐怖心を覚えた流生を守る様に、白き炎たちは意志を持っているかの如き動きで、流生が敵と認識した骸魂火たちを追跡し出した。
その炎に触れた骸魂が衝撃と共に燃え上がったのを、リュカも捉えた。
見かけとは裏腹に、やはり強い力を持ち合わせていたその姿に、しかし微かに舌打ちを響かせる。
己を見失い惑うばかりでは、何時かは攻撃を食らうかもしれないのだ。
――……久々にあった同族が倒れるのは見たくないな。
案の定、最初は幾体かが燃え落ちていた中、その身体を強烈なまでに発光させ白き炎を防ぎ出す個体が現れていた。
敵へ勇ましく叫んだそれとは違う、落ち着いた、厳かな、存在感纏う声色をリュカは放つ。
「落ち着け、俺を見ろ――流生」
触れる事無くとも迷いのない言葉は真っ直ぐに、道を切り開くように空気を伝わり相手へ届けられる。
焦点を失っていた紫水晶の瞳が、ぴくりと止まった。
強い、とても強い声……ああ、そうだこれは……頼もしい仲間の声。
視線が交わった。
「『仇を食らえ――』」
その瞳の中に安定感を見つければ、リュカは自らの力を彼へと発動させた。
ほぼ同時に、流生を狙ってきた骸魂火の一体が脇から飛び出し童へ衝突する――直後。
攻撃転じたはずの骸魂の方が、流生から弾き飛ばされた。
よく目をこらせば、流星の周囲に半透明な竜の幻影。水のように宙を漂い流生を守る加護【純潔の檻】。
「……? これは、リュカさんの?」
「落ち着いたか」
「……はい。もう大丈夫です」
強がりでない事をその声音から聞き取れば、結構とばかりにリュカは大きく頷いてみせながら。
「いいか。出来ねえことを無理にする必要は無ぇんだ。
テメェの得意なことから試してけ」
「僕の、得意な……」
微かな思案の後、流生が響かせたのは澄み渡る歌声。童の竜の化身に刻まれた聖痕が淡く輝きながら、その力を歌にのせる。
「上出来だ」
雷連発し疲弊していた体が、数多の骸魂を相手にし出来た傷が、感じないはずの温もりに抱かれる感覚の中で癒される感覚を受ければ、リュカは雷に勢いを追加し防御の弱まった骸魂を次第に葬っていく。
僕の力が……リュカさんのこと傷付けてしまわなくてよかった……。
ひっそりと、心からの安堵を込めながら。優しき竜も、気高き竜に続くのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『凍れるローレライ』
|
POW : 凍れる吐息
【対象を凍結させる吐息】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD : 纏う氷
自身に【凍結の吐息により発生した氷】をまとい、高速移動と【氷塊でできた矢】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ : 誘う歌声
【自身の口】から【心惹かれる美しい歌声】を放ち、【歌声の持つ催眠効果】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠レティシャ・プリエール」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●凍れる湖
「騒がしいこと……――まぁ、私の、私たちの世界を照らす骸魂たちが。
仲間外れを怒っているの? うふふ、ならばいらっしゃいな。
あなたたちも仲間に入れてあげる……さぁ、こちらへ」
波無き水の中央から水柱が上がった。
『それ』はとてもとても優しく、穏やかに、妖しく微笑んだ。
湖のほとりまで、猟兵たちの近くまで自らやってきた『それ』が通った跡、水の軌跡を見れば氷の道となっていた。
ローレライは手招きをする。
駄々をこねる仔をあやすかのように、ゆっくり、ゆっくりと。
____________________
【MSより】
皆様のお蔭様で無事、1章クリアとなりました。
今この時より、2章プレイング受付開始と致します。
前回は締め切りが二転三転し大変ご迷惑をおかけし申し訳ございませんでした。
改めてお詫び申し上げます。
マスタープロフに有ります方針の通り、
こちらの章も、【成功度を達成するまで】を受付と致します。
人数達成してもまだ執筆中でプレイングが記載可能な間は、送って下さって構いません。
方針が方針な為、場合によっては1章より少ない人数で締め切りとなる可能性もございます事、何卒ご了承賜れれば幸いです。
この章からのご参加も勿論大歓迎です。
皆様のキャラ様らしいプレイングを心よりお待ちしております。
____________________
音海・心結
零時(f00283)と
アレンジ歓迎
仲間にはなりません
みゆはお前を倒して帰るのですから
準備は出来ていた
……はずだった
相手の歌声が心地よかったから
先手を取られてしまう
攻撃されそうになった瞬間、思わず瞳をぎゅっと瞑り
痛く、ない……?
瞳開けば、目の前の彼に表情明るく
――零時っ!
敵のUC解ければ、駆け寄り
彼の想いに感化され、心が熱くなる
そっと胸に手をあて
触覚は感じずとも心の温かさを感じた
心が繋がっているのだと
まるで太陽のような彼に
ゆきましょうか
ふたりなら、もっと強くなれますから
護る
照れてはにかむ
その想いを力に、UC発動(優しさ×催眠術×祈り)
友情の力、見せてあげますっ
絶対に、みゆ『たち』は負けません
兎乃・零時
心結(f04636)と!
アドリブ歓迎
触覚がなくなるのは不思議な気分だけど
それで滅びても困る
故に此処に来てたわけだが
人魚といえば歌だよな…
って心結…!?
来ているとは知らず
故に見えた瞬間に「魔靴」で《光属性付与》(ドーピング)起動
全速力でダッシュ
藍玉の杖を大剣に【武器改造】し敵との間に割り込むよう切り込み!
無事だな
心結
駆け寄る心結守る様前に
あぁいい歌だ!心惹かれるだろうよ!
だがな
心結の歌のほうが良く届く
強引な手段で仲間になると思ったら大間違いさ!
杖に戻し
UC起動
それに決めてんだよ
絶対護るってなぁ!
光【属性攻撃×全力魔法×限界突破×リミッター解除】
ぶっ飛べ!
リミテッドオーバーレイ
極 光 一 閃!
●
『友』が参戦している事を未だ知らぬままに、蒼き光沢を反射させながら兎乃・零時(其は断崖を駆けあがるもの・f00283)は幾何かの刻限の後、このすぐ先で待ち構えているはずの、滅びの元凶について思案を巡らしている最中であった。
「人魚、といえば歌だよな……」
事前情報から少しでも有利を取れるならばと、最強を目指す上で己がやれる事は決して欠かさない。
触覚がなくなるのは不思議な気分だったけど、お陰で戦い方は大分慣れたしな。
骸魂火から解き放たれた妖怪たちへ、無事で良かったな! まだもうちょい避難しとけー! と伝えた事を思い返してから。
この後の、一筋縄ではいかなそうなオブリビオンの存在を想像すると、ほんの微か……胸に不安が広がりそうになるのを、強い志で振り払う。
キュ、と勇気をもらえる帽子の鍔を上にあげた。
ふとその拓けた視界が何かを捉える。
それはとてもとても、見知った姿。暖かそうなミルクティー色の髪がなびく、それは――
「っ心結……!?」
大事な友人の影を見間違えるはずなど無かった。
瞬間、魔法陣描かれた靴底へ光の魔力をドーピングさせる。
光速の力を得た摩靴で、零時は力強く大地を蹴った――
「……仲間にはなりません。みゆはお前を倒して帰るのですから」
「まぁ、可愛らしいコ。勇む表情がとっても私好みよ。
でも……笑顔ならもっと素敵じゃなくて?」
だから、ねぇ、安息の腕(かいな)へおいでなさいな。
オブリビオンの存在、その出現は分かっていたことだった。
だから決して、決して油断などしていないつもりだった。
けれど、音海・心結(瞳に移るは・f04636)の耳が受け取ってしまったのは、あまりに心地よい歌声だったから。
うっ……いけない……。
一度受け取ってしまった音色を、どんなに意識して追い出そうとしても自分の耳は意志に反して、その歌声をもっと聴きたがってしまう。
心結の動きが完全に止まる。
先手を取ったローレライが、我がコを抱き締めようとする動作で、心結へ向けて両腕を伸ばした。
凍り付くイメージを抱けば、思わず心結の両の瞳が固く瞑られた。
……
…………
…………痛く、ない……?
氷を押し付けられるような独特の痛みを覚悟していても、いつまでもその気配はこない。
ああ、そうか、触覚がないから感じてないのかな……。
ならばもう、とっくに自分の体は凍りついてしまったのだろうか。
恐る恐るまだ動くらしい瞼を開けた。
その心結の目が映したのは、藍玉色の髪。
居るはずがないと思っていた、頼もしい背中。
「――零時くんっ!」
「無事だな、心結」
これが幻ではないのだと確信できる、真っ直ぐな声色が心結の脳へ、心へ、全身へ駆け抜けた。
体が自由を取り戻した。
藍玉の杖を大剣へ、改造という名の変化をさせたものをまだしっかりと掲げローレライから目を離さずに、零時は駆け寄ってきた心結を己の背より前に出さぬよう、凛と立ちはだかる。
「あら、あらあらあら! まぁなんて美しいコ!
氷より尚深い色のその姿形、綺麗だわ、欲しいわ!
ねぇ、あなたも私の世界にいらっしゃいな」
「褒められたのか? 俺様を欲しがるなんざ中々お目が高いじゃねーか!」
「れ、零時くん……」
彼が油断するとは思わないけれど、あまりに堂々と敵と渡り合う様子に心結から微か不安の声色が漏れる。
「うふふ、私の物になってくれるなら、永遠の安らぎをあげる。
私の物になってくれるなら、ずっとずっと、歌を奏でてあげる。
良い歌よ、良い歌なの。そちらの可愛らしいコも、ねえ? そうでしょう? その身で味わったでしょう?」
視線と言葉が自分へ向かって来れば、びくり、と心結の肩が揺れた。
まんまと歌に囚われ、動けなくなっていた自分が不甲斐なくて。
そんな自分の姿を、彼に見られてしまったのが情けなくて。
彼女の惑う心を知ってか知らずか、零時は怯むことなく言葉を放った。
「あぁいい歌だ! 心惹かれるだろうよ! だがな……、
心結の歌のほうが良く届くんだよ。仲間も、俺も、みんな知ってる。
心がこもってる歌がどっちか、なんてな!」
心結の胸が熱く高鳴った。
信じてくれるだけじゃない。どれだけ自分を見てくれているのか伝わる彼の想いに、心の氷結が解けていく。
触れても未だ感じはしない、けれど。
はっきりと自分の心の奥がぽかぽかと温かくなっているのを感じられた。
今まで築いてきた絆。心と心が結ばれているのだと。
「みゆは、みゆ『たち』は、ぜったいに負けません!」
「おうそうさ! 強引な手段で仲間になると思ったら大間違いさ!」
寒さも不安も吹き飛ばす存在。それはまるで太陽のよう。
眩しそうに見つめながら、今度こそ強く自分を鼓舞してから心結は紡いだ。
「ゆきましょうか。ふたりなら、もっと強くなれますから」
「そうだな。時間稼ぎ、出来るか?」
「もちろんです!」
大剣を杖に戻す様子に、大きく頷いた心結が先に動いた。
「また来てくれるのね、可愛いコ。さぁ、今度こそこっちへいらっしゃい」
「おまえみたいなのに大事な仲間はやれねぇな!
それに、決めてんだよ。絶対護るってなぁ!」
彼女を視界に捉える微笑みを牽制するように零時が吠える。
己が魔力を一気に上昇させ、唇の奥で詠唱を行いながら。
――護る。
ストレートな言葉にその頬をほんのり染めながら。彼の想いを力に変えて、心結の力が発動された。
「『みゆの想い、受け取ってくれますか?』」
「っ! こ、れは……温かい、温かいわ、これは――“不快”なモノダワ」
お返しなのです! とばかりにその身に培った催眠術も織り交ぜて、心結らしさが込められた優しい祈りのハートたちが、ローレライへと放たれる。
命中すれば氷の表情がゆがめられた。
自我が眠らされそうになるのを、自らを抱き締めその体の温度を更に下げローレライは抗う。
「可愛くナイワ、可愛くナイわヨ、私に委ねてクレレば楽にナルノに……!」
「お前には分からないでしょうね。友情の力、見せてあげますっ」
ハニーアイズで挑発の如き誘惑をする心結の言葉に、ローレライが動いた。“動かされた”。
「零時くん! 今です!」
「――ぶっ飛べ! 極 光 一 閃(リミテッドオーバーレイ)!!」
それはこの場で可能な限りの、魔力綴った無限の威力。
護るべき存在のいる力。
彼女を信じた絆の力。
大砲の如き轟音響かせ、一直線に放たれた光線は避ける事を許さぬ幅を持ち。
零時が使える全ての属性を組み合わせた、最高の一撃。最強を夢見た一撃。
余裕の微笑みを讃えていたローレライが、今、二人の想いを受け確かにその冷たい鋼鉄のような体に見えぬヒビを纏い始めたのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
黒雨・リュカ
【双竜】
握って開いて感覚を確かめため息1つ
感覚はまだ戻らない
これが終わったら存分に雨を楽しめばいい
それ<雨を呼ぶ>くらいはしてやろう
ふと笑って告げ
それから【竜神飛翔】
竜へと成る
生憎、呪い<アイ>を捧げられるのはなれているんだ
そう簡単に惑うと思うなよ
翼を大きく広げ辺りの空気を浄化するように風を起こし飛び上がる
ぐるりと廻って雷を放ち
近くを飛ぶ白に攻撃がいかないように
こちらに誘う気配を出しながら踊るように空を翔け
…とは言え素直に食らってやる気は毛頭ないんでね
できるだけ息を吹く動作を制止するように
タイミングを合わせて雷を
これが神罰であるのなら
罰を受けたその先に
赦されるものもあるだろう
さあ今は静かに眠れ
曲輪・流生
【双竜】
(優しく妖しい姿に眉を寄せ)
僕自身はまだ『触覚』の良さはわかりません。
けれど多くの人がそれを望むのなら僕はそれを叶えたいと思います。
…それにリュカさんの言う雨を浴びる感触と言うのを僕も味わってみたいなと思ったので……これは僕個人の望みですが。
(雨を読んでくれると聞いて)
ふふっ、楽しみにしてます。
先程はリュカさんに情けないところを見せてしまいましたが僕も竜神です。
それらしく戦って見せます…!
UC【竜神飛翔】(無意識に神罰を載せて)
( 白珊瑚の角を持った白い東洋竜に転身し空へと登る)
(同じように空を舞う竜の姿に勇気づけられながら空を舞いながらタイミングを合わせて雷で攻撃)
静かな眠りを…。
●
この意志を道標に進んできた。この身を道標に決意を成してきた。
そんな自分のモノであるはずの掌の感覚が、未だに戻らぬことを確かめてみては溜息一つ。
許しなく勝手に奪われ、憤りを胸に燻らせている黒雨・リュカ(信仰ヤクザ・f28378)であったが、元凶を前に高揚するその表情は傍から見れば唯々、壮麗さを帯びたものに映るらしい。
ゆえに、燻るものを逆なでる声音がローレライから放たれた。
「なんて磨かれた大きな魂たちでしょう……っ。
もしかしてその身体、狭いのではなくて? 輝きが収まり切らないのではなくて?
私ならもっともっと自由にしてあげられるわ。解き放ってあげられるわ。
大丈夫、怖くなんてないのよ。なんていうのだったかしら……そう、『愛』してあげるだけ。
安心してその魂を委ねてちょうだいな」
冷たい微笑みが紡ぐことへ、それぞれの眉が、肩が、ぴくりと反応した。
「……僕自身はまだ『触覚』の良さは、確かに分かりません」
曲輪・流生(廓の竜・f30714)が先にぽつり零せば、冷たき彼女が嬉しそうに手を差し出す。
しかしてその冷気纏う手を、流生は眉を寄せ視界に捉えるのみで、逃げる事無く続けた。
「けれど、多くの人がそれを望むのなら僕はそれを叶えたいと思います。
それに……あなたの言う『自由』は、リュカさんが言っていたのと違うように感じます。
僕の心、本能というものがあるなら、そこに何も響いてこない」
リュカさんの言葉はもっともっと、内側深くにまで沁みる心地がしたから。
瞳に一瞬煌きを見せながら、流生はリュカを見た。
「……リュカさんの言う雨を浴びる感触と言うのを、僕も味わってみたいなと思ったので……これは僕個人の望みですが」
出会った当初に感じていた、固く閉じこもった、それでいて迷うような空気を、今の流生からは感じなければ、リュカは吐息で笑って告げる。
「これが終わったら存分に雨を楽しめばいい。それくらいはしてやろう」
「ふふっ、楽しみにしています」
無垢な同胞の為に雨を呼んでやる、と含む笑みを見つけて、流生は心から嬉しそうに頷いた。
「……まだ縛られているのね、囚われているのね。
いいわ、私に任せて頂戴。心から愛してあげるわ……!」
「さて。生憎、アイを捧げられるのはなれているんだ」
一方的な愛は我が身を蝕む。そう、ただの“呪い”。
古より生きた竜は、往々にしてそう悟っているのだ。
それだけの“アイ”に翻弄されて来たが為に。
だからこそ、そんな“アイ”を撥ね退ける強さを求めたのだ。
彼女にとっての愛という名の息吹が、リュカを襲う。『再び』己を囲うために。
――言ってやっただろう。そんなもんにはなれていると。
読んでいたように瞬間、リュカの肉体が、神衣ごと変化した。
本来の姿と成る【竜神飛翔】。
黒き竜が天へと駆け昇る。氷の瞳が見惚れるようにそれを追いかけた。
「まあ! やっぱりその姿は私の世界に相応しいものだわ!」
「そう簡単に惑うと思うなよ」
ヒト型時より数段厳格な声を響かせて。高き頂にすら届く凍れる息を、翼を大きく広げ旋回して躱してみせる。
淀んだ冷気に満ちる空を浄化するが如く黒竜は風を起こし舞いながら、正しき自然の雷雲を呼び寄せ始めた。
勇ましく、誇り高く、敵とぶつかり合う眼前の景色は、流生の眠っていた雄壮な力を奮い立たせた。
「先程はリュカさんに情けないところを見せてしまいましたが、僕も竜神です」
自分らしく戦ってみせます!
そう強く決意した時、流生もまたその身を在るがままの姿へと変貌させる。
流れるような白髪は白珊瑚の角へ。
紫水晶の瞳は神々しい輝きを宿して。
リュカとは似て異なる竜の姿を成せば、同じく天へと合流する。その身に無自覚の、神の罰を溜め込みながら。
――出来るじゃないか。
嵐に乗って追って来る息吹を避け此方目がけて飛翔する白竜を、微か目を細め見つめてから。
黒竜は雷で敵を威嚇し自らへいざなう。
ささやかな、それでいてどこか大事な、約束を交わした同族を守る様に。
神気携えた誘惑は、まんまとローレライの注意を惹いた。
さりとて己を囮にする意図はあれど、むざむざと攻撃を食らう気などリュカには無い。
次第に苛立ちを見せ始め乱雑になってくる敵の、息吐く動作をしっかり映しては、制し留めるタイミングで雷を放つ。
流生も黒竜に倣うように、自らの雷雲を集めれば己が意志で雷を下した。
いつか、自分も、彼の竜のように誰かを守れるようになれれば。
そんな願望を力に変えて。
守り、守られしていた竜たちは、いつしか咆哮し合い互いの呼吸を重ね出す。
二匹の竜が舞い踊る。
天空で寄り添うその白と黒の描くもの。それは自然の理。陰陽の大極図。
竜たちの意志は神の罰。
竜たちの祈りは罰の先に見る灯火。
――受け止めたならば、赦されるものもあるだろう
――静かな眠りを。
黒と白の竜から、同時に稲妻が迸った。
それは強大な骸魂の中心へと駆け抜け、悲鳴と共に初めてローレライの魂に戦慄を生み落としたのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ルパート・ブラックスミス
その氷結の領域に踏み込むのも可能ではある、が…
触れ得ぬ世界こそがお望みだったか。合わせてやろう。
UC【黒騎士呑み込む青き業火】。
策は無し。先程と同じく、しかしより火力を上げた力押しだ。
【地形の利用】、周囲を呑み込み力としながら【ダッシュ】で接敵、
【怪力】【グラップル】で掴みかかり【焼却】にかかる。
命を掴み砕く…殺める感覚さえ無い。
このような世界を貴様は謳うか、ローレライ。
貴様の中にいる雪女とてこんな様は望んでいない。
雪女の望みは他者に触れること。
他者を顧みることもままならぬ世界ではない。
見当違いということだ、孤独な世界には貴様一人で沈むがいい。
●
慎重に策を練るでも無く、忍び寄るでも無く。
その者は村から湖まで、一切の大回りをすることせず真正面から姿を見せた。
堂々とした立ち姿。黒鋼から湧く青い焔たち。寒さと静けさに覆われたこの場に浮きながらも、どこか似つかわし過ぎる存在に、水際ほとりで交戦していたローレライですらまなこを瞬かせた。
今にも自らの領域たる氷結の上にまでやって来そうな、甲鉄の足取りがその縁でぎりぎり止まった。
ルパート・ブラックスミス(独り歩きする黒騎士の鎧・f10937)は、厳粛なる淡々とした声を発する。
「触れ得ぬ世界こそがお望みだったか。では、合わせてやろう」
「まぁまぁっ、共感してくれるの? 受け入れてくれるの?
いいわ、いいわ、とても素敵なアナタ。抱き締めたら心地良さそうなアナタ。
その炎が氷になってしまえばカンペキだわ」
待っていて、今お手伝いするわ。
至福な微笑みを浮かべた氷のオブリビオンが、優しく、絶対零度の吐息を黒騎士へと放った。
刹那――黒き鎧が彼岸思わせる蒼さに包まれた。
【黒騎士呑み込む青き業火(キックドオフカルマナイト)】
それはヤドリガミであるルパートの本体、生命力そのものたる鎧を燃え上がらせる力。
凍り柱などより尚深く濃い青々とした業炎に、ローレライは嬉々として息吹をぶつけた。
だが。
怏怏と掲げられた黒青の掌がその凍れる息吹に触れた瞬間、敵の力を己のモノに変換したかのように、息吹は次々と燃える鉛を生み出す糧となった。
強烈な威力と範囲で、ルパートの肩や兜、足先など確かに凍らされてもいた箇所が、生み出された炎鉛を纏えば氷を溶かし本来の色を取り戻した。
「なぁにっ? なんナノっ? 私の世界に要らナイ、その力ハ……!」
「力比べ、根競べといこうではないか」
言ったが同時に、騎士は凍れる大地を蹴った。騎士の蹴った地は青く燃えて、一瞬自然の色が戻った。
全てが凍て尽き敵に有利な場と化したのを、黒騎士はその身はどこまでも燃え上がらせ、しかし頭の底は常に冷静に、踏み締め砕く地面と氷利用しその靴底を滑らせるダッシュとを使い分け、ローレライの攻撃を振り回す。
気付いた時には、もう互いの距離はゼロ距離だった。
火力も威力も爆発的に高めた剛腕にて、氷の顔面を掴み捉えた。
「ッッ熱い! アツイわ! 離しナサイ……!!」
暴れるのを意に介さず、容赦なくルパートの手は燃え上がり焼却を促した。
どんなに振り払おうとしても、引きちぎろうとしても、決してルパートの握力からは逃れられぬと悟れば、ローレライは水の中へと騎士を連れ込もうとし出す。
なんの予備動作も見せず、掴んだ腕とは反対の拳が氷の中心へ打ち込まれた。
――命を掴み砕く……殺める感覚さえ無い。
それは虚無だ。
何も生まぬ、何も還さぬ、暗黒そのもの。
「このような世界を貴様は謳うか、ローレライ」
ピキ……パキ……。
氷が砕かれる音とは、似て非なる音が微かに響く。
それはルパートの魂に、本体に、見えぬ傷が広がる音。
絶大な力を沸き上がらせる青き業火は、静々と、着実に彼の寿命を削るのだ。
それでもルパートは止めることをしなかった。
今や炎から逃げ惑おうとするその貌へ、体へ、“中身”へ、しっかり掴んだまま真っ直ぐ伝える。
「貴様の中にいる雪女とてこんな様は望んでいない。
雪女の望みは他者に触れること。他者を顧みることもままならぬ世界ではない」
「そ、ンナ、バカな……!」
「――見当違いということだ」
捕らえた命に縋りついた渾身の勢いで、ローレライがようやくルパートを引き剥がした時には、すでにその氷の全身には消えぬ炎が染み込んでいた。
よろり。極限に高めた技の反動で傾いだ鎧の身体を、己が信念を真っ直ぐ差し込み立て直しながら。
言葉にすらあるいは正義の炎を纏わせて。
「孤独な世界には貴様一人で沈むがいい」
成功
🔵🔵🔴
セシル・エアハート
一人になるのは寂しい…けど。
冷たくて寒くて、温もりも感じられない氷の世界が、本当に貴方の望む事?
そんな孤独な世界の住人になれ、なんてこっちから願い下げだよ。
ああ、冷たい、寒い。
身体が凍り付いて囚われそうになる…。
…なんてね。
【氷結耐性】があるからこんな寒さ、何ともないよ。
UC『緋色の焔』発動 。
少し身体が温もってきたかな?
ね、熱いでしょう?
温もりのある感触はどんな気持ち?
貴方がその温もりを気に入らなくても、貴方の中の雪女さんはきっと感じてる筈。
全力魔法を活用し、無数の燃える紅い剣を一斉発射にて属性攻撃。
貴方の凍った心、この剣達の炎で溶かしてあげる 。
●
凍れる色に覆われた褪せた大地に、コーンフラワーブルーの花が咲く。
コクのある色合いに、それが我が物であると断定したように惹かれたローレライが、そちらへ体寄せてみれば、震える宝石がそこに蹲っていた。
「ああ、冷たい、寒い」
「かわいそう、かわいそうで愛しいコ……!
もう大丈夫よ、迎えに来たわ。その身から要らないもの全て取り払ってあげる。
さぁ、おいでなさい私の最上なる氷のいとし子……」
俯いていた貌が上げられる。
うつろな鉱石の瞳。ゆるゆると招く声に向かってその腕が伸ばされた。
身体が凍り付いて囚われそうになる……――
「――なんてね」
あとほんの数cmで指先が届くと、極上の歓びを讃えていた彼女の表情がきょとんと彫像のようになった。
セシル・エアハート(深海に輝く青の鉱石・f03236)は、先程までとは一転して人懐っこそうな色味を口元に浮かべ、あっさりとその手を引っ込めたのだ。
「残念。これでも耐性持ってるからさ。こんな寒さ、何ともないよ」
氷結もそうであり、そもそもが鉱物の身体を成す者であれば、この環境はセシルにとって何の不利さも感じなかった。
氷のヒトが、とてもとても悲しそうにしながらも、けれど未だ紡ぐ声は優しさに満ちる。
「苦しまぬならそれでいいのよ、ええ、いいの。私もその方が嬉しいわ。
穏やかな気持ちのまま、私の世界を待てばいいのだもの。一緒に世界を安らぎで溢れさせましょう」
「安らぎ、ね……」
一つ声を漏らしてから。
唐突にして、セシルの周囲に赤々と燃ゆる炎の剣が数多現れては、その剣先が威嚇するようにローレライへと向けられた。
触れられない。そんなことは、永久なる別れの時だけで十分だ。
「孤独な世界の住人になれ、なんてこっちから願い下げだよ。
『灰になるまで、燃やし尽くせ』」
告げた途端、深紅の剣たちが加速して氷の本体へ突き刺さった。
【緋色の焔(ルビー・スカーレット)】の予想外の威力に、己が肩や腹に刺さり燃えている剣を、夢を映しているが如き瞳で映すローレライへセシルは紡ぐ。
「少し身体が温まってきたかな? ね、熱いでしょう?」
「ええ、あついわ」
「温もりがある感触はどんな気持ち?」
「私たちの世界には不要のモノだわ」
「貴方がその温もりを気に入らなくても、貴方の中の雪女さんはきっと感じてる筈」
「そんなはずないわ。あたたかいというものを、羨んで否定したんだもの。
だから『私たち』の世界には、ええ、温もりなんて、熱さなんて、要らないの。不快なの」
「……触れるだけが、温もりじゃないよ。
雪女さん、ねえ、貴方の傍にはこんなふうに、本当に誰もいなかったの?」
一人になる寂しさは……分かる。
自分とて、何度も失きものを想ったから。
もしも兄が生きていたら、触れて感覚のないこの世界をどう思っただろう。
もしも弟が生きていたら、手を取り合っても伝わらないこの世界をどう感じただろう。
ほんの微か、セシルの動きが止まったそこへ、炎に刺されたまま甘美な歌声が鳴り響いた。
セシルの、第二射目を放とうとしていた腕がだらりと落ちた。
「わかる、わかるわ、昏く冷たい、心地いいものを抱えているわね。
怖くないのよ、それは怖くないわ。そのまま委ねればすっと楽になる良いものよ」
よいもの……これが?
冷たくて寒くて、温もりも感じられない氷の世界が、兄も望む事? 弟が望む事? 否……
「――本当に貴方の望む事?」
感触ない掌を、構わず強く握りしめた。
生きるという、己が誓いを果たさんとするために。
『もしも』、なんてものを願っても無意味だと、痛々しくも重々に知っているから。
「貴方の凍った心、この剣達の炎で溶かしてあげるよう」
貴方がまだ冷たい檻に囚われているならば。
セシルは残る魔力を全て、紅の剣たちに込める。
驚くローレライが再び奏で出すより早く、幾数もの剣たちが閃光となって光の道標のように堅き氷を貫くのだった。
成功
🔵🔵🔴
●
“仲間に”
それは妖しく優しくいざなおうとする言葉だった。
しかしてその一言が、共存する二つの心に潜む逆鱗の傍を掠めた。
「宵と繋ぐ手の感触を奪った相手に与するつもりはない」
ザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)は聞こえなかった事にしたいとでもいうように、一蹴する。
逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)に至っては、いっそその言葉を放った元凶以上に妖艶に微笑み返した。
「ふ、ふふふ……お断りですね。
触れ合うその感覚を、その存在を確かめ合えないのは、ごめんこうむります」
大切な片翼の、本来自分たちの意志で感じ合えたはずの温もりを奪った者。それが放つ言葉に従うとでも思われているならば、それは己だけでなく、愛しい人すら冒涜する。
もはや敵と交わす言葉などなし。
同時にそう判断されれば、この後紡ぐのは全てお互いへの温もり代わりの言の葉たち。
「宵、怪我をせぬ様気をつけろよ……?」
「ええ、ザッフィーロ。怪我などしません」
想い気遣うそれを交わしてから、ザッフィーロが前へ、宵が後ろへと自らの役割の位置を取る。
下がる直前、かれの横を通り越す傍らで、宵はそれが当然の如くザッフィーロへとオーラ防御をそっと付与した。
――きみが心痛めるから、僕は怪我などしない。ならば、もちろんきみも、ね。
喉の奥底で高速詠唱と多重詠唱を重ねながら。
互いが互いを守る、それが最大の防御にして最も力が発揮できるのだと、二人にとってはごく自然な在り方だから。
ゆえにザッフィーロも前衛での動作は基本、宵を庇いながらのそれである。
敵対しているようでいて、二つの眼差しはもはや自分を眼中外に捉えている。
本能でそれを悟ったローレライが、否が応にも自分へ、こちらの世界へ意識を向けさせようとザッフィーロに向けて凍結の吐息を放った。
一瞬にして無数の氷塊の矢へと形を成したものが、全てザッフィーロに降らせられる。
足裏の感触すら無い中を、ザッフィーロは地形を利用し巧みに躱しながら、肉体の中心や本体たる指輪に当たりそうな氷矢は、純白のグローブを淡く輝かせ盾とし受け流す。
それでも捌き切れぬ程の数多の矢が、銀の視界外を突き抜けその肩に刺さる――寸前、バチンッと感電したような音を立てて氷矢の先端が弾かれ地に伏した。
宵がかれに纏わせたオーラ防御、そこに付随された結界が、今発動されずどうするかと言わんばかりに存在を淡く光らせているのを目に留めれば、ザッフィーロの瞳に慈しみの明かりが灯る。
――本当に……触れずとも互いの心は容易に解る物だな。
防御の要は任されました。そんな宵の言葉が己を包む光から伝わった。
ならばもはや何も恐るるものは無い。
ザッフィーロが微笑んだのを目にしたローレライが、忌々し気に一度吐息を止め。
次に氷矢が発射された先は、宵だった。
ローレライは気付いていた。骸魂たる中心から警鐘が鳴らされていた。
あそこでじわじわと輝きを強くしているもの。あれを放っておいてはイケナイ、と。
しかしローレライが宵へ視線を遣ったのを、それ以前より、常に意識傾けている男が逃すはずも無く。
【stella della sera(ステッラ・デッラセーラ】
完全に宵へ狙い定めていた氷魂ごと打ち砕かんと、ザッフィーロのメイスが勢いよく鎖を伸ばし鞭と成って、氷の顔面へと打ちすえられた。
「邪魔ヲ、するナ――!!」
冷気に殺意を滾らせて。宵へ放たれようとしていたものが瞬時にザッフィーロへ転換し襲い来る。
先程より近距離であれば、流石のオーラ防御や結界をも貫通した矢が二、三、ザッフィーロの頬と腿へ一筋の線をつけた。
表面的な触覚が無い今、更にはヤドリガミであれば痛覚も当人に感じる気があるかどうかが強いところで。
ゆえに、傷を負ったはずのザッフィーロの眉も瞳も、ぴくりとも動かなかった。
己より宵をかばう事。それが何より優先されるべき事だから。
然るに、片翼であり同胞でもある宵も、そんなかれの心中は全て汲んでいる。
けれど……。
やはり良い気分ではないですけどね……。
今この場におけるかれの役割も、自身の役割も把握している。
だからせめて、と、宵はザッフィーロへ気遣わし気な視線のみを送った。
同じ事をしたらきっと、かれもこうするであろうと。
ザッフィーロは宵のそんな視線を受け止めて、微笑んで見せた。
――お前は攻撃を優先しろ。……お前への攻撃は俺が全て止めてみせる故に。
視線の糸が繋がれた僅かな時、そう伝えた後はもう敵へメイスを振るい落とす事へ集中された。
中距離からは鞭として、近距離においては怪力のせた打撃として、ザッフィーロはメイスを振るい続ける。
全ては、宵の渾身の一撃、それが発動される隙を、タイミングを、作るために。
――ええ、頼りにしています。
視線から伝わったものを、胸の内でそっと返してから。
きみが応えてくれる限り、僕も全力をもってお応えしましょう。
星空のショーの準備が今、完全に整った。
激しき攻防を繰り広げているその背中へ、ただ一言、叫ばれた。
「ザッフィーロ!」
振り返る事せずにその声音から、ザッフィーロは悟った。
氷の身体を勢いよく蹴り飛ばし跳躍し、敵との間に相当な距離を取ったのが宵の瞳で確認される。
コンマ寸秒して。
敵へ有効なる属性をのせた流星群が、強烈な塊と成って一斉に降り注いだ。
この瞬間に全てを込めた全力魔法。
【天響アストロノミカル】
「い、や……イヤヨッ、消えるのハ、滅するのハ、私じゃナイはずナノニ……――!!」
それがローレライの、ローレライの骸魂の、最期の断末魔となった。
跡形も残さぬべく、尚降り続く紅や青紫に揺らめく星石の雨に、大量の砕かれた氷がキラキラと混じる。
彩り生まれた、澄んだ空気に照らされる宵の横顔を、ザッフィーロは一心に見つめた。
――本当に美しい、な。
世界も、そこに在るお前も。
ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と
仲間に…?
宵と繋ぐ手の感触を奪った相手に与するつもりはないのでな
宵、怪我をせぬ様気をつけろよ…?
戦闘時は前衛にて常に宵を『かば』う様行動
左手の光の盾にて『盾受け』し氷の矢を受け流しつつ【stella della sera】
『怪力』を乗せたメイスを振るって行こう
宵のオーラ防御にはついぞ笑みを
本当に…触れずとも互いの心は容易に解る物だな
もし攻撃が当たったとて痛みが無い故気にせず行動する…が
同じく宵も痛みを感じぬという事だからな
己より宵を『かば』う事を優先し視線を向けよう
お前は攻撃に優先しろ
…お前への攻撃は俺が全て止めてみせる故に
笑みを返し星を降らす宵へはついぞ笑みを
本当に美しい、な
逢坂・宵
ザッフィーロ(f06826)と
ふ、ふふふ……
仲間に、ですか?
お断りですね
触れ合いその感覚を、その存在を確かめ合えないのは、ごめんこうむります
ええ、ザッフィーロ
怪我などしません
もちろんきみも、ね
きみは僕が守るのですから
「高速詠唱」「多重詠唱」を重ねつつ
同時並行ができればかれの護りにと「オーラ防御」を付与した「結界」を作成し防御の要といたします
敵の攻撃をかれが受けたなら気遣わしげな視線を向けつつ かれの言葉には笑って
ええ、頼りにしています
それでは―――攻撃は最大の防御といいます
星空のショーを、お見せいたしましょう
「属性攻撃」「全力魔法」「一斉発射」を重ねた
【天響アストロノミカル】を掃射します
●
“仲間に”
それは妖しく優しくいざなおうとする言葉だった。
しかしてその一言が、共存する二つの心に潜む逆鱗の傍を掠めた。
「宵と繋ぐ手の感触を奪った相手に与するつもりはない」
ザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)は聞こえなかった事にしたいとでもいうように、一蹴する。
逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)に至っては、いっそその言葉を放った元凶以上に妖艶に微笑み返した。
「ふ、ふふふ……お断りですね。
触れ合うその感覚を、その存在を確かめ合えないのは、ごめんこうむります」
大切な片翼の、本来自分たちの意志で感じ合えたはずの温もりを奪った者。それが放つ言葉に従うとでも思われているならば、それは己だけでなく、愛しい人すら冒涜する。
もはや敵と交わす言葉などなし。
同時にそう判断されれば、この後紡ぐのは全てお互いへの温もり代わりの言の葉たち。
「宵、怪我をせぬ様気をつけろよ……?」
「ええ、ザッフィーロ。怪我などしません」
想い気遣うそれを交わしてから、ザッフィーロが前へ、宵が後ろへと自らの役割の位置を取る。
下がる直前、かれの横を通り越す傍らで、宵はそれが当然の如くザッフィーロへとオーラ防御をそっと付与した。
――きみが心痛めるから、僕は怪我などしない。ならば、もちろんきみも、ね。
喉の奥底で高速詠唱と多重詠唱を重ねながら。
互いが互いを守る、それが最大の防御にして最も力が発揮できるのだと、二人にとってはごく自然な在り方だから。
ゆえにザッフィーロも前衛での動作は基本、宵を庇いながらのそれである。
敵対しているようでいて、二つの眼差しはもはや自分を眼中外に捉えている。
本能でそれを悟ったローレライが、否が応にも自分へ、こちらの世界へ意識を向けさせようとザッフィーロに向けて凍結の吐息を放った。
一瞬にして無数の氷塊の矢へと形を成したものが、全てザッフィーロに降らせられる。
足裏の感触すら無い中を、ザッフィーロは地形を利用し巧みに躱しながら、肉体の中心や本体たる指輪に当たりそうな氷矢は、純白のグローブを淡く輝かせ盾とし受け流す。
それでも捌き切れぬ程の数多の矢が、銀の視界外を突き抜けその肩に刺さる――寸前、バチンッと感電したような音を立てて氷矢の先端が弾かれ地に伏した。
宵がかれに纏わせたオーラ防御、そこに付随された結界が、今発動されずどうするかと言わんばかりに存在を淡く光らせているのを目に留めれば、ザッフィーロの瞳に慈しみの明かりが灯る。
――本当に……触れずとも互いの心は容易に解る物だな。
防御の要は任されました。そんな宵の言葉が己を包む光から伝わった。
ならばもはや何も恐るるものは無い。
ザッフィーロが微笑んだのを目にしたローレライが、忌々し気に一度吐息を止め。
次に氷矢が発射された先は、宵だった。
ローレライは気付いていた。骸魂たる中心から警鐘が鳴らされていた。
あそこでじわじわと輝きを強くしているもの。あれを放っておいてはイケナイ、と。
しかしローレライが宵へ視線を遣ったのを、それ以前より、常に意識傾けている男が逃すはずも無く。
【stella della sera(ステッラ・デッラセーラ】
完全に宵へ狙い定めていた氷魂ごと打ち砕かんと、ザッフィーロのメイスが勢いよく鎖を伸ばし鞭と成って、氷の顔面へと打ちすえられた。
「邪魔ヲ、するナ――!!」
冷気に殺意を滾らせて。宵へ放たれようとしていたものが瞬時にザッフィーロへ転換し襲い来る。
先程より近距離であれば、流石のオーラ防御や結界をも貫通した矢が二、三、ザッフィーロの頬と腿へ一筋の線をつけた。
表面的な触覚が無い今、更にはヤドリガミであれば痛覚も当人に感じる気があるかどうかが強いところで。
ゆえに、傷を負ったはずのザッフィーロの眉も瞳も、ぴくりとも動かなかった。
己より宵をかばう事。それが何より優先されるべき事だから。
然るに、片翼であり同胞でもある宵も、そんなかれの心中は全て汲んでいる。
けれど……。
やはり良い気分ではないですけどね……。
今この場におけるかれの役割も、自身の役割も把握している。
だからせめて、と、宵はザッフィーロへ気遣わし気な視線のみを送った。
同じ事をしたらきっと、かれもこうするであろうと。
ザッフィーロは宵のそんな視線を受け止めて、微笑んで見せた。
――お前は攻撃を優先しろ。……お前への攻撃は俺が全て止めてみせる故に。
視線の糸が繋がれた僅かな時、そう伝えた後はもう敵へメイスを振るい落とす事へ集中された。
中距離からは鞭として、近距離においては怪力のせた打撃として、ザッフィーロはメイスを振るい続ける。
全ては、宵の渾身の一撃、それが発動される隙を、タイミングを、作るために。
――ええ、頼りにしています。
視線から伝わったものを、胸の内でそっと返してから。
きみが応えてくれる限り、僕も全力をもってお応えしましょう。
星空のショーの準備が今、完全に整った。
激しき攻防を繰り広げているその背中へ、ただ一言、叫ばれた。
「ザッフィーロ!」
振り返る事せずにその声音から、ザッフィーロは悟った。
氷の身体を勢いよく蹴り飛ばし跳躍し、敵との間に相当な距離を取ったのが宵の瞳で確認される。
コンマ寸秒して。
敵へ有効なる属性をのせた流星群が、強烈な塊と成って一斉に降り注いだ。
この瞬間に全てを込めた全力魔法。
【天響アストロノミカル】
「い、や……イヤヨッ、消えるのハ、滅するのハ、私じゃナイはずナノニ……――!!」
それがローレライの、ローレライの骸魂の、最期の断末魔となった。
跡形も残さぬべく、尚降り続く紅や青紫に揺らめく星石の雨に、大量の砕かれた氷がキラキラと混じる。
彩り生まれた、澄んだ空気に照らされる宵の横顔を、ザッフィーロは一心に見つめた。
――本当に美しい、な。
世界も、そこに在るお前も。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 日常
『カクリヨ・オボン』
|
POW : 空を駆ける精霊馬を追いかけてみる
SPD : 空を駆ける精霊馬を眺める
WIZ : 空を駆ける精霊馬に亡くなった故人への想いを託してみる
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
カクリヨの世界に、少しずつ本来の生気が取り戻される。
ある者はほろほろと歓び涙を流し、互いを抱き締め合い。
ある者はこの幸せを皆で分かち合おうと、宴を開く。
茜色に染まった空の下で、精霊馬が一頭、また一頭と舞い上がり始める頃。
最も大きな宴の席の片隅で、一人切なそうな影を落とす者が、眩しそうに歓喜の炎に集まる妖怪たちへ視線を注いでいる。
雪女は元の姿に無事戻った。
けれど――どう詫びればいいか、どう声をかければいいか未だ判断はつかぬままで。
_________________________
【MSより・補足】
申し訳ありませんっ;
操作ミスにより、2章最後の組の方々のリプレイが重複してしまいました(滝汗)
何卒……心の目でスルーしてやっていただければ、と(土下座)
改めまして。
3章、プレイング受付開始と致します。
詳細はOP公開時のマスコメにある通りとなります。
ご自由に、キャラ様らしくお過ごしいただければ幸いです。
【成功度達成】人数に満ち次第、締切となります。
(尚、成功度達成数が少ないため、場合によっては1章2章より採用数が少なくなる可能性がございますこと、ご了承賜れれば幸いです。
達成数になっていても、プレイングが送信できる間はたとえ人数超過しても採用させていただきますので、送ってくださってOKです)
ルパート・ブラックスミス
雪女の下へ。
今回の件で負い目を感じているなら、気にしないことだ。
オブリビオンがこの世界で跋扈する限り、よくある話に過ぎん。
万事解決した以上、笑い飛ばしてみせるべきだろう。
まぁ、そんな面の皮の厚さがあるなら、こんな事態そのものを起こさなかっただろうが。
…仕方あるまい。こんな真似、柄ではないのだが。
UC【理異ならす凍炎】。
雪女に触れても問題無い氷結形態に。
氷のマントを纏い【礼儀作法】をとりつつ手を差し伸べる。
精霊馬の舞いをバックに宴での【ダンス】のお誘いだ。
事態解決の功労者が誘うのだ、無碍にしてくるなよ。
ぬくもりは無いやもだが、それでもこれは触れなければ始まらない。
Shall We Dance?
●
「……こちら、よろしいか?」
「?」
人垣から見えるような見えないような、そんな曖昧な距離の影に身を縮こませていた雪女の耳に、静かに降らせる声があった。
見上げると甲冑姿の声の主が、すぐ傍に立っていた。
ルパート・ブラックスミス(独り歩きする黒騎士の鎧・f10937)がいつの間にか、彼女の近くへ歩み寄っていたわけであるが、それは今この時が最も適したタイミングだと判断したゆえである。
ルパートは観察していた。思案を巡らせていた。
雪女の心中を慮り、果たして言葉を掛けるべきか、憂いを帯びた表情が気に病んでいるものは何なのか、見定めた上で。
結果、驚かせぬ配慮が成されたそれなれば、雪女はおどおどとはしたものの、怯える事も逃げる事もせず小さな声で是と鳴らした。
それでも目を合わさぬ雪女へ、無理を強いることなどせず。騎士は暫し隣りに並んでは、触れ合える喜び噛み締める妖怪たちを眺める。せめて視界に入れるものは、雪女と合わせるように。
「今回の件で負い目を感じているなら、気にしないことだ」
まるで独り言の如く唐突に伝えられる言葉があった。
耳を傾けるのも、塞ぐのも、あくまで彼女の自由を優先しながら、ただそれでも、ルパート自身も猟兵であり騎士であれば、今回の事件のきっかけたる者へ言葉を届けぬわけにはいかない。
これからのカクリヨ世界を、彼女を含めて守るために。同じことを繰り返させぬため、己が落とせる布石の一つとして。
オブリビオンがこの世界で跋扈する限り、よくある話に過ぎない事。
万事解決した以上、笑い飛ばしてみせるのも責任の取り方である事。
ルパートが綴る言の葉を、雪女はハッキリ分かるようちゃんと頷き聞き入れながら、それでもまだルパートと視線は合わせぬまま。
チラリと。兜の中で視線のみで彼女の横顔を見る。
何も伝えず去るには、あまりに自分は大変なことをしてしまった自覚があって。けれど言葉にしたいはずなのに出来ない。
もう、とうに自分は住民たちに見放されてしまっているのではないか。それが当然ではないか……。
元には戻れど、そんな負の連鎖たる不安が増すばかりなのが、その横顔からありありと理解出来た。
――まぁ、笑い飛ばせる程そんな面の皮の厚さがあるなら、こんな事態そのものを起こさなかっただろうが。
己の在り方に疑問を投げ、昏い思考に囚われる気持ちを少なからず味わった過去持てば、ルパートはそれ以上過ぎた事への投げかけは控えた。
代わりに。
……仕方あるまい。こんな真似、柄ではないのだが。
ゆっくりと立ち上がる。
彼女の不安や困惑を完全に拭うには、時間が必要だろう。
けれど少しでも早く、心を立ち直らせるのに必要なのは、仲間の存在。そして前を向く思い出を共有する事。それをルパートはよく知っていたから。
おもむろに、その黒衣の鎧から揺らめいていた炎を沈めていく。
高温纏った青さが見る間に動きを止め、動かぬ固体へと移り変わる。
【理異ならす凍炎(チェンジコード コキュートス)】。
火炎耐性を代償に、氷結を纏う力。
この場で発動させたそれは、ルパートなりの不器用な、優しき心配り。
氷れるマントをひらりなびかせ、す、と自然な作法をもって、騎士は雪女へその冷たくも温もりの心そのものな手を差し伸べた。
何がおこなわれているのだろう。
初めてルパートを映した雪女の瞳が、そう告げていた。
「事態解決の功労者の一人が誘うのだ、無碍にしてくれるなよ」
普段、名誉や功績はひけらかす事無くひっそり身の内で誇りにするルパートから、あえての言葉が響く。
ダンスのお誘い。触れなければ始まらぬだろう?
そこから、自分が触れても大丈夫なように、その身を変化させてくれたのだとようやく雪女は悟った。
未だきらきらと空へ還る骸魂の欠片と、それらを送り出すように、そして世界の安寧を願うように舞う精霊馬たちが、ルパートの背中の向こうから垣間見えた。
微か氷の瞳に雫の欠片を浮かべてから、オブリビオンとは全く違う、感情ののった微笑みを見ればルパートからもどこか安堵の空気が醸されたかもしれない。
Shall We Dance?
エスコートする手にしっかりと、もう一つの手が重なるのだった。
大成功
🔵🔵🔵
高宮・朝燈(サポート)
『私とおかーさんが居れば、どんなオブリも大丈夫!』
妖狐のガジェッティア×電脳魔術士、8歳のませたガキです。
普段の口調は「ちょっとだけメスガキ(私、あなた、~さん、だね、だよ、だよね、なのかな? )」、機嫌が悪いと「朝燈スーパードライ(私、~さん、です、ます、でしょう、ですか?)」です。
ユーベルコードは、レギオンガジェット>お料理の時間>その他と言った感じです。レギオンガジェットで出てくるガジェットはお任せします。大抵補助的な役割を好みますが、多少の怪我は厭いません。口調はませたメスガキですが、性格的には良い子で、基本的に犯罪的な行為はしません。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
緑杜・シオ(サポート)
フラスコチャイルドのゴッドペインター×レトロウィザード、15歳の女です。
口調 女性的(私、~君、です、ます、でしょう、でしょうか?)
大自然の中では 無口(私、あなた、~さん、です、ます、でしょう、でしょうか?)です。
素直で大人しい子です
ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
●
「――それでね! おかーさんのお料理すっごい褒めてくれたお客さんが、次来た時は私の手料理も食べてみたいって言ってくれたの!
看板娘みょーりに尽きるんだけどっ……お客さんに出すなら、おかーさんにもっともっと習わってからじゃないとダメだなぁって……っ」
「すごいです、ね。頑張りも、努力も……立派です」
「えへへー」
「…………」
少女二人はたまたま、雪女の右側から、そして左側から同時にお隣にお邪魔して。
おつかれさま、大変だったね、なんてとても自然に会話して。
宴の中からしっかりと美味しい物をゲットし済みな高宮・朝燈(蒸気塗れの子狐・f03207)が、モグモグしながらお料理から連想された自身の最近の出来事を語ってみせている最中である。
未だ俯いたままの雪女の代わりに、緑杜・シオ(遺失画家・f29318)はか細い声ながらも絶妙なタイミングで相槌の仕草や言葉を入れた。
難しい言葉や的確な対処は思いつかないけれど。
“寂しい気持ち”は分かるから。
朝燈にも、シオにも、雪女をそのまま一人ぼっちにしておく選択肢は浮かばなかった。
……私は、運が良かったんだと思う。お父さんに出会えたから……。
見ず知らずの、赤の他人のはずの、自分を見つけてくれて、手を引いて温もりを分け与えてくれた存在を想っては、今回の事態を招いてしまった雪女に同情はせずとも、シオはどこか他人事には受け止められなくて。
「……大事な存在、がいれば……違うんでしょうか……」
無意識にぽつりと零れた言葉。
子狐耳がしっかりピクピクッと拾って、独自な方向から解釈したり。
「え? なになに、おねーさん! 恋バナ? コイバナ!?」
「あ、いえっ、そういうのじゃ、なくて……」
わくわくどきどき☆
そんな期待に満ちた愛くるしい瞳と真正面から合えば、シオは慌てて片手を振りながら釈明したり。
雪女は視線は下を向きながらも、少女たちの言葉を不思議そうに聞き入れる。
どうして責めないのだろう。
どうして自分の傍にいて、こんなに明るい話をしてくれるのだろう。
ソロリ……。長い雪化粧な髪の隙間から、どんな表情をしている子たちなのかと視線を覗かせた。
ぱちっ。
丁度同じようにして、元気が無い雪女を気にして覗き込もうとした朝燈の、大きなアメジスト色と目が合って、ビックリといったテイで固まる雪女。
そんな雪女の様子を気にすることなくじーっと観察する朝燈、ぽんっ、と両手を合わせた。
「そっか! お腹がすいてるのかもだね。うんうん、腹が減っては戦はできぬっていうもんね!
そりゃあエネルギー切れはたいへんだよ!」
斜めな方向に閃いた。
けれどそれも彼女が誰かのためを想っての事だと感じ取れる。ゆえに、シオはあえて何も発さず見守る姿勢をとる。
「『スカウター分析! アームの変形完了! 先生、やっちゃって!』」
張り切って朝燈が唱えると、傍に控えていた『先生』と呼ばれる大きなガジェット『バール先生』のアーム部分があっという間に変形召喚される。
本来戦いの場で使われるUC。戦っている対象を必要とするUC。
でもだいじょうぶ。何故なら私は今(おいしく)戦っているから!
……そう、カクリヨ宴料理、という未知のごちそうと!
全ては使用者の心の在り様である。
朝燈は、大皿に盛られた宴料理たちを先生の前に突き出す。
バール先生のアームが煌いた。
そして――瞬く間に大皿の上の物が、全く違う彩りへと変化する。
召喚アーム、多種多様な調理器具を華麗に使い分けながら。
あっという間に、大皿の上に並んだのは白や水色を基調とした、ひんやりした印象ながらもどれも新鮮さを失わない新たな料理たち。
満足げに先生へお礼を言ってから、朝燈はそれを雪女へと差し出した。
「どうぞー! こっちがアイスみたいに甘いのでー、こっちがサラダっぽいの! たぶん!」
氷の目が何度も瞬きをする。自分のために? わざわざ自分が食べても平気な物を作ってくれたの?
満面の笑顔に後押しされるように、雪女はおそるおそる手を伸ばしそして……一口、含んだ。
どうしてだろう。冷たいのに温かい。少女の笑顔と気持ちがこもっているからだろうか。
固く結ばれていた唇が、無自覚に緩む。
シオは確かに見た。雪女が微笑んだのを。
私たちの力は……こんな使い方も出来るんですね……。
敵へぶつけるのが正しい使い方であろうとも。それは使う者、振るう者の気持ち次第で、誰かを笑顔にする為の力に変わるのだと。
私にも……出来るでしょうか。
どうしたいのか分からない。自分の事すら未だ探している最中な、こんな私でも……。
迷いや戸惑いを胸に抱きながらも、それでも、大事な人からもらった儚い勇気を振り絞って、その口は紡いだ。
【ミゼリコルディア・スパーダ】
現れたのは淡い魔力を纏う幾本もの剣たち。
シオは徐にそれらへ、手にしていた魔法の筆を一振り、二振りしてから空高く飛ばした。
何が行われようとしているのか、二つ分の視線を感じては緊張して震えそうになるのを必死に堪えて――描いた。
複雑な軌跡を飛ぶ魔法剣たち。それらが宙に幾つもの幾何学模様を形作った。
朝燈にも雪女にもはっきりと視認出来るそれは、白く輝く線を何重にも描き切ると、茜空に浮かぶはまるで雪の華。
今にも降りだしてきそうな、白い結晶模様たちを目を見開いて雪女が見つめた。
温かい色の空に舞う、自分を見るように。
パチパチパチッと感極まって拍手する朝燈の横で、小さく笑んでいた唇が大きく弧を描きそして……その瞳から一筋の涙がこぼれたのを見て、シオの心も微か、温かな気持ちを受け取った気がした。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
アリスティア・クラティス
【輪】
「触覚がない…ずっと、この指輪が落ちないか心配だったわ
更なる感触を犠牲にしても、手袋を付けてくるべきかとも思ったもの」
身に着けていた、紅い指輪を空に掲げる
哀愁と共に、愛しさを感じる夕暮れ
「個人は全て、過去になる…それでも、願いは想い人に届くのかしら…?」
相手の質問に、うっすらと目を細めて精霊馬を目にした
「…私の、制作責任者だったと聞いたわ。余命を宣告されて、焦っていたようね
――私の、最愛の人は――私が目を開けた時に倒れて、そのまま目を覚ますことはなかった」
それでも震える指で、最後の力で、この指輪を私に添えてくれたのだ
死したモノは過去になる
それでも私は――また会えるという奇跡を信じているの
レスティア・ヴァーユ
【輪】
全てが丸く収まったようで良かった
周囲を見渡しながら、自分の手を握りその感触を確かめる
その時、隣の彼女が、煌めく、まるで彼女の為に存在しているかのように赤く誂えられた指輪を夕焼けに翳しているのを目にした
同時に紡がれたのは、日常の彼女らしからぬ、初耳と言っても違えない程の『想い人』の存在――
「想い人…?」
このような、荒々しい存在に想い人などいるのかと、ただ純然たる驚きから彼女の言葉を復唱した
『いるわよ!と…声を荒げたいところだけれども』
彼女が静かに語り始める
先入観など許されない想いがそこにはあった
夕光の加護を浴びながら語られる過去、淡々とした、だが確かに存在した彼女の言葉は、静かに胸に落ちた
●
この世界の住人たちの希望と歓びの舞たちが、時期から外れた精霊馬たちを呼び寄せる。
名目とは異なる想いを受けた精霊馬が、この茜空の下だけ、この時だけ、本来の姿では無く、住人たちの歓びを象るようにして夕暮れに溶け込む黄金色の馬の形を成した。
全てが丸く収まったのだと代弁するが如く、優美な足で天を駆け廻る様子をレスティア・ヴァーユ(約束に瞑目する歌声・f16853)は目を細めて見守りながら。
――良かった。
自身の手の感触も戻っている事を確かめ、この景色を共有する彼女へ自然とその瞳を向けた。
当然としてアリスティア・クラティス(歪な舞台で希望を謳う踊り子・f27405)から、高らかなる勝利宣言でも謳われるかと思っていた。
しかして。
変わらず凛と佇むアリスティアの、その横顔にはいつもの自信に満ちた輝きではなく、心を余所にやっている危うさを感じさせる哀愁が帯びていた。
そんな彼女が見つめる先。夕陽に伸ばした指先に、まるで彼女の為に存在しているかのような、深紅に誂えられた指輪があった。
赤橙の光を通して、今にも炎くゆらせそうな。
彼女の命が宝石として取り出されたらば、このようになるのだろうか。
ついぞレスティアは目を奪われながらそんな思考を過ぎらせたり。
「触覚がない……ずっと、この指輪が落ちないか心配だったわ。
更なる感触を犠牲にしても、手袋を付けてくるべきかとも思ったもの」
触覚よりも優先されるべきもの。大事なものなのだと、そう言葉が零れ落とされる。
アリスティアは尚も確かめるように、高々と夕焼け映す空へと指輪を掲げた。
哀愁と共に、愛しさを感じる夕暮れ時。
同じ色の瞳と見つめ合わせれば、精霊馬より更に向こう、時を駆けていく心地で唇が紡ぐ。
「個人は全て、過去になる……それでも、願いは想い人に届くのかしら……?」
「想い人……?」
儚く美しい景色の中では、誰しも己が思いに耽ることもあるだろう。そう受け止めて黙って聞いているつもりであったレスティアから、思わずと言った反芻が漏れ出した。
それほどに意外で、驚いたのだ。
激しく、荒々しい気質と認識している彼女の口から、『想い人』なる存在が飛び出したのが。
あくまで純然たる気持ちから出た疑問符であったが、同時にそれは彼が普段どのように彼女を捉えているかを如実にして。
性格的な勢いから『いるわよ!』と間髪入れず物申そうとした言葉が、レスティアと、その背後で天に還る骸魂の欠片の光を映すと、ゆるゆる呑み込まれた。
その紅の瞳は何かを思い出すように、うっすらと目を細めレスティアへ、その遥か向こうへ、荒い言葉の代わりに静かに語り聞かせる。
「……私の、制作責任者だったと聞いたわ」
抑えられた音量なれど、それは鈴の声音。冴え渡り響く、過去へ己を導く標の音。
「余命を宣告されて、焦っていたようね――私の、最愛の人は――私が目を開けた時に倒れて、そのまま目を覚ますことはなかった」
指輪と共に鮮明に思い出される、自分のものではない震える指。
倒れ、完全に瞼が閉じられる僅かな刻、それでも最後の力で直接自分に添えてくれたのだと。
“私というもの”に対し、大切そうな、慈しむ温もり纏った目と出会った……きっともうその瞬間、この想いは生まれていたのだろう。
「死したモノは過去になる。それでも私は――また会えるという奇跡を信じているの」
その言葉は大概の者が聞けばきっと否定されるであろう、どれほどに不可能で、愚かなものなのかをきっと彼女は分かり切っている。
その上で今ここで、レスティアの前で、朗々と紡いでみせたのだ。
それが彼女の覚悟。彼女の誓い。
先入観など許されない想いがそこにはあると、レスティアは本能的に悟った。
亡き想い人との再会……。
あまりに途方もなく、一切の想像が働かない。しかしそれは決して否定的な呆れなどといったものではなかった。
むしろ確かな温もり、想いの在処を持っている彼女だと知って、羨望にも似た尊敬の念すら感じた気がした。
それに比べ……己の中には一体何があるだろうか。
思い出を探そうとして――恐ろしく空虚な闇の中へ身を投げ出す予感に、レスティアはすぐにそれを止めた。
自分のことなどよい。今はただ、この景色と、聞かせてくれた戦友とで心を満たそう。
アリスティアも、笑うでもなく価値観を論じるでもなく、一心に見つめてくるだけな彼の姿勢にそっと微かな微笑みで感謝を表した。
――そうね。此処に居るのが、聞いてくれたのが、貴方で良かったと思うわ。
誰かの前であまり語るつもりはなかったはずなのに。
この空が、広がる色が、とてもこの指輪の色に似合いすぎていたせいかもしれない。
あの黄金の精霊馬たちが、故人を連れて来てくれるように感じたのかもしれない。
夕光の加護を浴びながら語られた過去。
聞きようによっては淡々としたものであったであろう。
けれど、加護の中に在る彼女と指輪を確かに受け止めたレスティアの胸の奥に、語られた言の葉たちが存在を主張しながら沁み込んでいくのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
黒雨・リュカ
【双竜】
約束を果たしたいところだが
その前に雪女と話をしよう
詫びねばという気持ちはわかるが
何時までも悔いる必要はない
あれは骸魂のせいで
その罪は…神罰によりもう祓われたのだから
強引だって?
少なくとも人間はそうしている
それでいいんだよ
流生、何でもかんでも叶えるというんじゃない
痛くない程度、軽くはたいて流生を止める
叶える願いはほら、これくらい些細なものでいいんだ
天候を操作し
宴を邪魔しない程度の局所に雨を降らそう
ほら、先に行っておいで
雨の…音は聞こえるか?
俺は雨の感触も好きだが
この音も好きなんだ
触れずとも、分かち合えるものもある
それを大事にしろ
それだけ言って竜へと変じ
流生のもとへ
どうだ?案外悪くないだろ
曲輪・流生
【双竜】
雪女さん…雪女さんの願いは「触覚」
触れたり触れられることを感じることだと聞きました。
実は僕はそれが苦手で…いいえ嫌ってさえいました。
それでもやはり皆さんはあるほうが良いと言います。なら、良かったら僕の血を使って…!
あたっ(痛みは少ないにも関わらず声を上げてしまい)
ううっ、良かれと思ったんです…。
このくらいの願い?
(言われた通り宴から離れた席で)
あっ、雨!
リュカさんが降らせてくれた…!
(肌に触れる雨に心地よさげに笑い)
ふふ、僕の願い叶えてくれてありがとうございます。誰かにこんな風にお願いを叶えてもらえるなんて思わなかったです。
●
明るく賑やかな雰囲気たちを横目に、黒と白の竜神は安堵と嬉しさに心満たされながら。
同時に気付くは、ぽつんと孤立する事を選んでいる雪女の姿。
曲輪・流生(廓の竜・f30714)の、放っておけなくて今にもそちらへ駆け出しそうな、ウズウズといった瞳と合えば、黒雨・リュカ(信仰ヤクザ・f28378)も特に止める事無く頷いてみせた。
「雪女さん、雪女さんはじめまして、……でいいですかね?
僕、曲輪 流生っていいます。こちらは同族で、とっても頼もしいリュカさんです」
早々に雪女の隣へついて、すでに自己紹介を自らの分も含め行っている流生の後からゆっくり現れながら、聞こえてきた言葉にリュカはまた何かムズムズと沸き上がりそうになるのを、しれっと隠したり。
小さくお辞儀だけ行いながら、それでも逃げるようにすぐ視線を外して縮こまる雪女の背中へ、思う事を率直に届けるリュカ。
「詫びねば、という気持ちはわかるが何時までも悔いる必要はない」
彼女から、なぜ、という空気を肌で感じれば、端正な唇形を動かし続ける。
「あれは骸魂のせいであり、その罪は……神罰によりもう祓われたのだから。そう、我々の、な」
正体こそ言わぬものの、リュカと流生の纏うそれはまだ微かに周囲に残る淀みを、絶え間なく浄化しているのが憂い帯びる氷の瞳からも見てとれた。
もちろん、呼吸がしやすくなったのはその影響だけでは無い事も、強張った肩からやや力が抜けたのを自覚すれば雪女はようやくリュカへと視線合わせた。
全ては骸魂のせい。
そう断言してくれる強き言霊操る主へ、不思議そうな色味が浮かべられる。
「なんだ、強引だとでも言いたいのか? 少なくとも人間はそうしている」
それは時に褒められた行為で無いことも、己が身で重々と承知した上で。リュカはハッキリと言い切ってみせた。
詫びる優しさを持つお前ならば、それでいい、それくらいで丁度良いんだよ、と。
リュカが語るのを待ってから、流生も彼女のすぐ傍から寄り添う言の葉を向ける。
「雪女さん……雪女さんの願いは『触覚』、触れたり触れられることを感じることだと聞きました」
合ってますか? と確認してくる紫水晶の瞳へ、そろそろと頷く姿が映れば白き竜は一瞬躊躇った後、意を決するように発した。
「実は僕はそれが苦手で……いいえ、嫌ってさえいました。
だから、考え方は違うけれど、あなたの取った行動は分からなくも無いんです」
雪女が初めて表情を変えた。
開かれまん丸くなった二つの瞳が、吃驚、と告げてくるのを流生も少し驚いて見つめ返す。
ああ……そうか、温もりを嫌うひともいるっていう事自体、知らなかったんでしょうか……。
雪女の生きる世界は、このカクリヨの世界の中でも殊更狭いのかもしれない。
なら教えてあげたい。あなたの知らぬことで、まだまだ世界は満ちているのだと。僕もそう学んでいる最中だから。
流生はこれまでの言葉たちより、力強さ交えて伝える。
「それでも、やはり皆さんは触れる感覚があるほうが良いと言います。
ならばそれは、大切なものなのだろうと。だから――」
流生が居住まい正し、雪女を真っ直ぐに見つめた。
「良かったら僕の血を使って……っ! あたっ」
またも雪女がぽかんとする。
真剣な声色を紡いでいた流生の言葉が途切れ、代わりに僅かにその頭が傾いだ。
流生が何をいわんとしたのか、瞬時に察したリュカが背後から流生をはたいたのである。
「流生、何でもかんでも叶えるというんじゃない」
「ううっ、良かれと思ったんです……」
ちゃんと加減されていたらしく、それ程痛くなかったにも関わらず思わず変な声をあげてしまい、若干恥ずかしさ感じながらも。流生からしょんぼりと言った声が漏れる。
ただひたすらに、望まれるままに、願いを叶え続けてきた白き竜にとっては、目の前に己が在るのに何の願望も口にしてみせない彼女に、自らを差し出したくなるのも無理からぬ事ではあった。
流生の過去の生き様は具体的には知らずとも、同胞の態度からある程度察する事は出来る。短い道中ながらも、ここまで共に戦ってきた仲であれば尚更に。
気持ちは多少なり理解するが、と溜息一つでリュカはそんな流生を汲んでやってから。
「叶える願いはほら、これくらい些細なものでいいんだ」
「これくらい?」
下にやっていた視線を上げた流生の瞳の中に、宴からやや離れた茂みの方、その真上に雨雲が集められるのが見えた。
リュカは繊細に天候を操っては、喜び舞う妖怪たちの邪魔にならぬ位置へしとしとと雨を降らせた。
リュカさん……僕との約束を……?
流生の顔にありありとした輝きが宿る。
無垢な子供が見上げてくるような感触を受けながら、リュカは思わず柔らかく微笑んで『ほら、先に行っておいで』と童を促してやる。
瞬間、ぱぁっと笑顔を咲かせて流生は我を忘れるように雨の中へ飛び出していった。
その背を見守りながら。
「雨の……音は聞こえるか? 俺は雨の感触も好きだが、この音も好きなんだ。
触れずとも、分かち合えるものもある。それを大事にしろ」
ほら、あいつのように。
顎で指し示された先を、雪女はじっと見つめた。
純白の髪を翻らせて、嬉々として雨に打たれている流生の姿があった。
そして次にそれを見るリュカを見上げた。彼は、喜ぶ流生の姿に目を細め、彼なりに雨を共感しているように見えた。
分かち合えるもの。
その言葉が深く、温かく、胸の奥に沁みれば雪女は確かに頷いてみせるのだった。
もう大丈夫かと彼女の表情を見とめてから。リュカも遅れて流生の下へと歩み寄り、徐々にその歩みの中で身体を変化させていく。
「どうだ? 案外悪くないだろ」
艶めく黒き鱗で雫たちを受け止める竜の姿で述べられた事へ、流生はまだ人型のまま雨を堪能しながら告げる。
「はい! ……ふふ、リュカさん。僕の願い叶えてくれてありがとうございます。
誰かにこんな風にお願いを叶えてもらえるなんて思わなかったです」
屈託なく笑うそれは、心から、至福を感じている表情で。
――全く、そもそも約束したのは俺だというのに。慎ましいにもほどがあるな。
陶磁器の如き白いその頬に、初めて淡く染まる色を見つければ、雨に舞う白竜の童の中に芍薬の花がふと重なって映る。
久方ぶりの願いの成就とそれを純粋に喜ぶ声音に、リュカの口元にも自然と微笑みが灯るのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
兎乃・零時
心結(f04636)と!
アドリブ歓迎
戻ってよかったよ
意外と無いと不便だったしなぁ
(痛みが無いならまだ有用性あったけどなぁ…)
心結の手がきて一瞬目をぱちくり
…だな
感じれるのは良い事さ
故に、友のその手をぎゅぎゅっと握り返す
触覚を感じるのに一番分かりやすい事だし…やっぱ不安とかもあるのかもしんないし
これで安心するならお安い御用さ
…ん?馬?…精霊の馬??
え、何あれ…子供…そんなのもあるのか‥
あぁ、行ってみっか!
何故だか近づいた馬
追いかけっこかぁ、それも良いよな
可愛い馬だなぁ…
俺様も撫でてみよ
…凄く気持ちいい感触だ
懐いてるのか?
そんなに嬉しがられるとは…
仲間になるなら俺様も大歓迎だけど…お前はどうする?
音海・心結
零時(f00283)と
アレンジ歓迎
宴の端でふたり
えへへ
無事に戻ってよかったですねぇ
触覚を感じれることはよいことです♪
そっと彼の手に自身の手を這わせ
嬉しそうに笑む
緊張するけど、零時だから
手を繋いでも嫌じゃないから
言いたいことは沢山在れど
この感覚は共有しておきたかった
逸らした視線の先に小さな精霊馬
……子供でしょうか
かわゆいですね
近寄ってみますか?
追うように立ち上がれば
精霊馬に一歩、また一歩と近づく
遊びたいのでしょうか
追いかけっこも悪くないですねぇ
ん、やっぱりかわゆい
毛並みを梳かすように撫で
気のせいかもしれませんが
零時に懐いているのでしょうか
すごく嬉しそう
ふふ
みゆたちについてきますか?
なんちゃって
●
――痛みが無いならまだ有用性あったけどなぁ……。
そしたらもっとあの時の戦い方をああしてこうして~なんて、研究脳も携えれば兎乃・零時(其は断崖を駆けあがるもの・f00283)はついつい力の使い方を模索したり。
「えへへ、無事に戻ってよかったですねぇ」
「ん? あーほんとになぁ。意外と不便だったしなぁ。
勝利掴んだ感触もまさにこう、わしっ! と実感出来てよかったよな!」
隣りで心から嬉しそうに笑顔浮かべるコを見れば、研究思考を引っ込めて、つられるようにニパッと微笑んだ。
掴む真似で手のひらを握ったり閉じたりさせる零時の、そちらとは反対側の手へ、笑みを浮かべたまま音海・心結(瞳に移るは・f04636)は自分の手をそっと重ねてみた。
「うん、やっぱり零時に触れたことが分かるのは嬉しいです、ね」
それまで無かった触覚の信号が、唐突に自分以外から与えられ脳が認識するまで、零時の澄んだ空藍玉が大きく見開かれては、ぱちくり、と音がしそうな瞬き一つ。
けれどすぐに、強く眩しい笑顔に変えて。
「……だな」
つい先程まで最前線で敵と向かい合っていた事を思えば、彼女なりの強張った気持ちを解きほぐす方法なのかもしれないと至る。
そうだよな。自分のだけじゃなくって、誰かの触覚感じるのが一番分かりやすい事だし……やっぱ不安とかもあるのかもしんないし。
これで安心するならお安い御用さ!
とても男前な考えに至れば、大事な友の為零時も自らぎゅぎゅっと乳白色なその手を握り返した。
かくして見事、心結の心の平穏は守られた――ようでいて、そこにはちょっぴり違った緊張が混じっているようだったり。
仲間も、お友達も、みんな大切で大好き。
けれどどこかでどうしても、肌と肌が触れ合う事は避けがちだった。
ダンピールとしての、吸血鬼の血が混じる身なれば、いつか周りに迷惑をかけるのではないか……心優しき少女の内でそんな無意識のセーブが働いていたのかもしれない。
――でも、零時だから。
手を繋いでも嫌じゃない。
次から次へと温かい何かが湧いて来るのを言葉にしたかったけれど、自分でも自分の心が上手く掴めなくて。
だから言葉を飲み込む代わりに、心結はめいっぱい、その頼もしい手の感触を確かめる。
手を取り合っているこの感覚は、共有しておきたい一心に。
とはいえそこは発展途上な乙女心。正面から向き合って手を握り合っている時間が長引くほどに、今度は何やら照れて恥ずかしくなって、心結の視線が思わず泳いだり。
ふと、その逸らした視線の先。
本来の時期の本来の姿とは今日だけちょっぴり変化した精霊馬たち。黄金色の光で象られた馬の形を成しては、二人の上空でも次々に駆け昇るそれらより随分小さな、本当の仔馬のように見える精霊馬が、かぽかぽと宴から離れ歩いているのが捉えられた。
心結が一点を見つめているのに気付けば、零時もその視線の後を追ってみる。
「……ん? 馬? ……精霊の馬??」
「……子供でしょうか。かわゆいですね。近寄ってみますか?」
「え、何あれ……子供…こども? 精霊にそんなのもあるのか……あぁ、行ってみっか!」
好奇心が大きくなっては、二人でわくわくと、足取りは驚かせないようにそろそろと、その小さな精霊馬へ歩み寄る。
すると二人に気付いた光の仔馬は、全く逃げる事無く、自ら一歩二歩、かぽっかぽっと寄ってきて。
目、……は淡い光に満ちてどこにあるか分からなかったけれど、首をもたげて確かに心結と零時に視線が注がれている様子。
「遊びたいのでしょうか。追いかけっこも悪くないですねぇ」
「追いかけっこかぁ、それも良いよな」
ふんわり笑い合う雰囲気に、仔馬は更にその距離を縮めてとうとう二人の足元に寄り添ってくる。
はわわっ……。
大きな声を出さぬよう一生懸命堪えながら、心結はゆっくりとその背へ触れてみた。
「んん、やっぱりかわゆいっ」
夕焼けに照らされた光る毛並みを、梳くように何度も撫で上げる。
「可愛い馬だなぁ……俺様も撫でてみよ」
「どうぞですー」
心結の撫で方に倣い、零時もそぉっと優しく撫でてみれば、冷たくも熱くもなくけれど今にも体温で溶けそうな独特の、柔らかーな感触で。
うぉぉぉ……凄く気持ちいいっ。
今度は零時が、両手で抱き締めたい衝動を必死に堪えたり。
「延々と撫でていられますねえ……おや?」
ずっと撫で続けている心結が何かに気付く。
じーーーーーーー……。
二人に撫でられて心地よさそう、なだけではない。光の仔馬の視線(と思われるもの)は、どうやらずっと、夕陽受けてその結晶の蒼髪をきらきら反射させている彼に向けられているようだった。
「……気のせい、かもしれませんがー……零時に懐いているのでしょうか」
「へ?」
言われて仔馬と真正面から額突き合わせてみる零時。
……どうしましょうどうにかして今この瞬間を絵に残したい……っ。などと傍らで心結が悶えもとい癒されているのには気付かずぬまま。
「懐いてる、のか?」
直接仔馬に聞いてみる零時の声に、鳴き声の無い光の仔はすりり……と零時の鼻先へすり寄った。
「ふふ、みゆたちについてきますか? なんちゃって」
「なんか嬉しがられてるみたいだしなぁ……仲間になるなら俺様も大歓迎だけど……」
お前はどうする?
目で問いかけてみる。
すると光の仔は、かっぽかぽっ♪ と零時の足の周りを回り始めた。
「おおっ? そっかー! パルやルビとも仲良くしてくれっかな」
「わぁ! 零時にまた可愛い仲間が増えましたねっ」
今日という日。絶望から解かれ喜びを謳う住人たちの想いによって、形を成した光の仔の、旅立ちを祝うように。
心結と零時、二人の遥か上空で何頭もの精霊馬たちが、輝き降らせ駆け巡る。
見上げ飛び込むそんな幻想的な景色を、もう暫し二つの眼差しは共有し楽しむのだった。
大成功
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逢坂・宵
ザッフィーロ(f06826)と
振り返ったかれへ、安堵の表情を浮かべて手と手を握りあい指を絡めましょう
掴もうとする手に迷いはなく
己よりも僅かに体温の高いかれの手を触覚で感じ取れば
思わず笑みを深めましょう
きみの存在を触覚で感じ取れずとも
僕がきみの手を握りともに在ることは変わりませんが……
やはり、こうして感じられると心地よいですね
雪女の彼女には
触れ合いは想いを伝える手段として易いですが
伝える手段は他にもあります
言葉で伝え、傍で寄り添い
晴れやかな笑顔で微笑み合う―――
何かがないことは、けして不幸せではありません
残るものを慈しむ、またとない機会でありましょう
ええ、ザッフィーロ
帰りましょう、僕たちの住処に
ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と
漸く終わったなと、宵を振り返れば手を伸ばし確りと手を繋がんと試みる
…先の様に感触を確かめられぬのではないかという恐れからか多少の躊躇いが滲みながらも、己よりも僅かに冷えた手指の感触が伝われば安堵の表情と共に宵へ笑みを
宵の言の葉には同じ心持ちだと伝える様に軽く頷き手に力を込め応えよう
雪女の姿を見れば少し逡巡した後、先は悪かった。怪我はないかとそう声を掛けてみる
…俺は余り口に気持ちを乗せるのが上手くない故、これが宵へ心持を伝える手段だが…
触れずとも宵のいう様、お前にはお前なりの伝え方がきっと、見つかるだろうとそう思う
冷えてきたならば手を握ったまま宵を振り返ろう
…では…帰るか、宵
●
未だ紡がれていない言葉があった。
未だ繋がれていない手と手があった。
元凶が瞬きと共に天へ昇っていくのを、この世界の住人たちが笑い、泣き、喜び合うのを、仲間たちがそれらへ安堵を向けながら混ざっていくのを、並んで見つめるが影二つ。
流れに身を委ね見守る姿勢を取ってしまうのは、ヤドリガミの性であろうか。
ゆるゆると、自分たちの為となる思考が動き出せば、ザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)は漸くだと紡ぎながら振り返って、己が半身を確かめようと手を伸ばした。
いつも触れ合っているその手から、今までの反動であろうか、本当に感触が戻っているのだろうかといった恐れを抱いているのに気付けるのは、半身たる逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)だけ。
だから宵は、先に安堵の色を浮かべてみせる。
そしてその躊躇い滲む掌を包み込むように、しっかりと握った。
迷いのない、いつも通りの微笑みといつも通りの僅かに冷えた体温と邂逅して、ザッフィーロの表情にも互いにしか見せぬ温度が戻っていく。
――ああ、お前の温もりだ。
――ええ、きみの温もりですね。
知らず知らず同時に胸の内で響かせてから。言葉にして重ね確かめるよう宵の唇が動く。
「きみの存在を触覚で感じ取れずとも、僕がきみの手を握りともに在ることは変わりませんが……やはり、こうして感じられると心地よいですね」
自分より高い体温。頬に触れ、髪を撫で、抱き締めてくれるこの温かさは自分だけのもの。
握り合ったままのその手を、自らの頬に押し付ければその温度に愛おしさが込み上げた。
宵の言の葉と手の甲から伝わる端整な頬の感触に、心から至福の色を瞳に現しながら、ザッフィーロも全く同感であると頷いて繋がる手に力を込めた。
お互いの感触がお互いの想いを伝え合った。
そんな銀と宵闇の瞳たちがふと、キラキラと天上に昇る欠片たちの真下にいる者を捉えた。
元の姿に戻った雪女。
取り込まれた妖怪の肉体にも、その魂にも、何も影響はないと重々承知はしているけれど。
何分、お互いを蔑ろにする事態には一切の容赦が利かない性分同士であるのも、うっすらと自覚がある。
であれば、先に落ち着かぬかんばせとなったザッフィーロへ、宵も促すように共に歩き出した。
自分に寄って来る気配があることに、まだ雪女は気付かない。ずっと俯いたまま。
ほぼ正面に立ちつつ、少し逡巡してからザッフィーロが気遣わし気に言葉を送った。
「怪我は、ないか?」
驚いて顔を上げた雪女は、今初めて二人の存在に気付いたというふうで。
遅れて、問いかけを受けた事を悟れば、彼女なりに精一杯の、力のない微笑みで首だけが横に振られた。
次にどう声を続ければよいか迷うかれの代わりに、宵が奏でた。
「触れ合いは想いを伝える手段として易いですが、伝える手段は他にもあります」
存分に寂しがってしまった僕たちなので説得力に欠けるかもですが、なんて、ザッフィーロと目を交わし一度苦笑いを浮かべてから。それでも宵は彼女の為に綴ってみせる。
「言葉で伝え、傍で寄り添い、晴れやかな笑顔で微笑み合う――それだけで、温かくなれるのだと」
その身で体感した事を思い起こせば、自然と繋がれる手に力がこもる。
「何かがないことは、けして不幸せではありません」
宵の言葉に、瞳に、自分への誠意という温もりを見つけた雪女が、片割れへも視線を動かした。
二人で一つの証明だと確認するように。
視線受けては、言葉を探してやや気まずそうにしながらも、ザッフィーロは視線逸らさず彼女へ告げる。
「……俺は、余り口に気持ちを乗せるのが上手くない故……
“これ”が宵へ心持を伝える手段だが……」
繋がり合った二つの手を目で示しつつ、飾らぬ言の葉、彼らしい言の葉を乗せる。
「触れずとも、お前にはお前なりの伝え方がきっと、見つかるだろうとそう思う」
「今のあなたなら、きっと」
宵も引き継ぎ続いた。
触れ合う二人へ、決して羨望の色では無く、真摯な思いをその瞳に宿し始めている彼女へ。
二人からの優しい加護が降る。
器物であった頃は、そもそも触れ合う為の手も足も視線すらも持たなかった。
持ち主という名の大切なヒトを失う孤独をその身に秘めて、肉体持てども触れあいを知らぬ時を過ごした。
そんな二人の言の葉だから、雪女には星のように見えたのかもしれない。
寄り添う希望という二つの星に。
先程のものより、ずっと生気を取り戻した頷きが彼女から成されたのを目に留めて。
宵とザッフィーロは微笑みをもって挨拶とすれば、踵を返した。
「……もう、大丈夫だろうか」
「ええ。残るものを慈しむ、またとない機会となることを、僕たちは祈りましょう」
「そうだな」
茜空の日が次第に傾いてきたのを見て、ザッフィーロは改めて宵を見つめた。
「風が冷たくなってきたようだ。……では……帰るか、宵」
山吹色の光を受けて、褐色の輪郭が輝くのを目を細め見つめ返しながら。
「ええ、ザッフィーロ。帰りましょう、僕たちの住処に」
ずっと繋がれたままの手。
温度を、想いを、魂の絆を、いつまでも高めながら家路へと向かう二つの影が、カクリヨの大地に長く伸び重なって見えるのだった。
〇
温もりの伝え方、温もりの感じ方……
絶望乗り越えた先で、住人たちの中にも確かに、その大切さに気付いた者たちが在った。
雪女のこれからのように、誰かを想い合える世界がささやかに、けれど様々な形となって広がっていくのかもしれない。
それに気付けるかは――次第。
――あなたのそばに ぬくもりは ありますか――
大成功
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