3
科学者執念物語・ トイレDE大戦争!

#アポカリプスヘル #恒星エンジン

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#アポカリプスヘル
#恒星エンジン


0




●進歩は欲望と共に在る。
 実りに実って頭を垂れた稲穂の群れ。
 巨大農場を三人の男が満足そうに見つめていた。
 一人は拠点に住まう科学者であるチャラポラ・ンン博士、もう一人はその拠点と同盟を結ぶ、既に農業について大きな実績を持つヨスミ村の村長。
 そしてもう一人は、この巨大農場と『ある物』を作る為に資材や労働力を提供したスポンサー、ヤパーリ・ワルイヒトゥネ氏である。
 何の事件か分かんないけど犯人はこいつだ。間違いないね。
 氏は恰幅の良い体から腹にたまった贅肉を揺らし、流れる汗をハンカチで拭きながら人の良さそうな笑みを浮かべている。悪人はいつもそんな笑い方をするんだ!
「遂に完成しましたな……我らの夢の巨大農場が……!」
「農場もそうじゃが、組み上がった実験施設の巨大さよ。何て名前じゃっけ?」
 二人の言葉を受けて、思わず弛んだ頬を引き締め咳払いする博士。
「『タビー=アウター・イズ・レヴォリューション・エクストラ・トランスポーター』、頭文字より略してトイレットだ」
 ほーん。
 巨大農場より六メートル上方、外周をぐるりと廻る巨大な筒状の施設を見上げてどやる博士と裏腹に、こいつ何でそんな名前つけてんのと表情を消す二人。
「おっと安心してくれ、いわゆるお便所様とは綴りが違う!」
「あ、そう」
「はあ、それなら安心ですね」
 どややっとポーズを決める白髪頭に興味無さそうな二人は自身に気合を入れるべく、どういった施設なのかと言葉を投げた。
 どのような機械か知らない訳ではないが、仕組みを十分に把握できていないのだ。
「よろしい、ならば説明しよう!
 このトイレットはエネルギーの圧密による二種のエネルギー流体、完全流体と粘性流体を、筒ことレール外部に並べた戦車のエンジンを使った電磁誘導により制御するものだ。
 完全流体の飛沫によるレール内面の保護、そしてその上をプール状にレベル、つまり水平となった粘性流体が超高速で回転する」
 要は流れるプールである。プールと違って浸かると死ぬけど。
「理論上はエネルギー体の状態の差による分離が、かつて存在したモノレールと呼ばれる移動施設の役割を果たす。
 これはプールに投下した物資を超高速で目的地へ運び、レイダーの妨害を防ぐ新たな運搬方法となるだろう」
「なるほどのう」
「勉強になりますねぇ」
 お爺ちゃんたち、分かってないならそう言いなさい。怒らないから。
 しかし博士は安全性を唱ったが、レールを破壊されちゃ意味ないんすけどね。そもそも荷物の保護をどうするのさ。
 そういった疑問は追々に、まずは理論を確認するのが科学者という者。
 そもそもこの技術、完全流体によるレール保護が一部でも機能しなければ、粘性流体による負荷でレールは瞬時に破壊されてしまう。
 そうでなくとも、薄く引き延ばされた完全流体ですら正面からぶつかれば歩行戦車の装甲を破壊する熱量だ。今回の実験による起動時間は瞬間的なものとなるだろう。
「空は快晴、気温は涼しく絶好の実験日和ってなもんだ」
「そうじゃのう」
「ですねぇ」
 遠い目で実験施設を見上げていた三人は、ふと視点を下げる。
 そこには施設の更に外周をぐるりと囲み、軽快な音楽を流してモンキーダンスを踊る歩行戦車の姿が。
 打ち上げには早いですよ!
「…………。天才博士の予想では、いつ頃に襲われそうですかな?」
「そうだな。普通、こういう曲は三分中頃から五分末。サビらしき部分がすでに三回、鳴り始めて既に四分が経過した所を見ると。
 あと三秒ないね!」
 親指をぐっと上げて素敵な笑顔。
 三人は顔を見合わせて、再び巨大な農場と実験施設を見上げた。
 幾らなんでも今日じゃなくていいじゃん。
 涙を流す老骨たちは稲穂を踏み荒らし、殺到する歩行戦車を前に死を覚悟した。博士は懐から埃に汚れた写真を取り出す。
 掃除しろっつってんだろジジイ。
「……ヨシコ……」
 思わずその名を呟くチャラポラ博士たちが鉄の暴力に飲み込まれていくのを、彼らより遥かに遠方から見つめる影がひとつ。
「つまらん。奪還者すらいないのか」
 笠の下から爛々と光る大きな眼をぐるりと回して、またぎ姿のその者は旧式然とした猟銃を肩に乗せた。

●絶望の大地を拓く希望を守れ。
「……まさか……こんな物を……」
 ホワイトボードに貼り付けたアポカリプスヘルの巨大農場の資料を見つめて、タケミ・トードー(鉄拳粉砕レッドハンド・f18484)は低く唸る。珍しく活躍するホワイトボードに、現れた猟兵たちは何事かと呟いた。
 タケミは振り返り、巨大農場とそれを囲う実験施設を指す。
「アポカリプスヘルにいる博士が、どっかから見つけたスポンサーを使って造り上げた実験施設だ。
 施設の熱量で厳しい冬にも温度を確保しようって目論見もあるようだが、それ以前にアポカリプスヘルの科学レベルで実現可能な範囲とは言え、これほどの施設を造り上げた事が驚きだ」
 信じられないとタケミ。だが現実としてある以上は受け止めるべき事柄だ。
 話を変えようと施設を赤ペンで囲むよう印をつける。
「見てくれは立派だが、この実験施設は十秒足りとも起動できない。やろうもんなら熱量に耐えきれず崩壊、農場ごとボン、て奴だ」
 所詮はアポカリプスヘル。理論の確認は出来ても全てにおいてレベルが届いていないのだ。満足のいく実験結果を得られはしないだろう。
 だが、そこに現れたオブリビオンの存在。
「ゾンビの乗った歩行戦車。オブリビオンは現象、狙って農場を襲ったとは思えない。けど、遠くを移動する存在を察知したぜ。
 配置、距離の取り方、移動、熟練の狙撃兵に似ているな。こいつが首謀者と見て間違いない」
 となれば、計画的にこの農場が襲撃された事になる。目的は不明だが、歩行戦車との戦闘中はこの者の攻撃も有り得るだろう。
「まず、敵は歩行戦車は腕部分以外ありあわせの代物で、見た目ほどの防御力はない。簡単に圧倒できるが、パワーはあるから気を付けろ。
 守るべき農場が既に囲まれ厳しい状況だ。特に中にいる三人が死ぬのはこのアポカリプスヘルの大きな損失だ、絶対に守ってくれ」
 可能ならば施設の保護も、と付け加えるタケミ。頭上六メートル、行動を見る限り施設を狙う要素はないが、念の為という所か。
 そこで、タケミはプリントした資料を猟兵らに配る。農場を取り囲む歩行戦車の姿だ。
 ……何か踊ってんですけど……?
「いやまあ、詳しい理由は知らんがそういう敵って事だ、うん。
 じゃ、後は頼んだぜ!」
 何を?
 戸惑う猟兵たちを押し出すタケミ。これシリアスな空気を被ったコメディトラブルなんじゃないかと猟兵たちが気づくのは、このすぐ後であった。


頭ちきん
 えっすっえふっ! えっすっえふっ!
 す(SU)っこしふ(FU)っしぎでえっすっえふっ!!
 頭ちきんです。前回シナリオと共通した人物が登場しておりますが、特に気にする必要はありません。
 アポカリプスヘルで絶望の大地に拓かれた巨大農場を守って下さい。
 それぞれ断章追加予定ですので、投稿後にプレイング受付となります。
 それでは本シナリオの説明に入ります。

 一章では巨大農場を囲み、何故か踊っている歩行戦車を倒して下さい。断章にてダンスの理由が判明しますので、彼らの特性を利用すれば被害を減らせるかも知れません。
 なお、遠方より狙撃が行われます。稲穂に身を隠す、姿を消す、狙撃地点に牽制するなどで見えざる敵を迎撃しましょう。
 二章では一章で狙撃を行ったレイダーのボスとの直接対決となります。強力な敵ですが防御力が高い訳ではないので、状況を上手く利用して下さい。
 三章は守った巨大農場の修繕や収穫、技術指導に拠点の面々との交流が可能です。
 アポカリプスヘルの希望を繋ぎ未来を拓く為、彼らに助言を与えるのも良いかも知れません。

 注意事項。
 アドリブアレンジを多用、ストーリーを統合しようとするため共闘扱いとなる場合があります。
 その場合、プレイング期間の差により、別の方のプレイングにて活躍する場合があったりと変則的になってしまいます。
 ネタ的なシナリオの場合はキャラクターのアレンジが顕著になる場合があります。
 これらが嫌な場合は明記をお願いします。
 グリモア猟兵や参加猟兵の間で絡みが発生した場合、シナリオに反映させていきたいと思います。
71




第1章 集団戦 『思索実験機ヘの228理81走デス四』

POW   :    天才式赤熱飛翔拳・有線型
【赤熱した腕部装甲を展開し飛ばす攻撃 】が命中した対象に対し、高威力高命中の【拘束と、腕のコードを巻き戻しながらの追撃】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    搭乗者を省みない突進
【両腕装甲を展開、点火し加速した 】突進によって与えたダメージに応じ、対象を後退させる。【陣を組んだ仲間】の協力があれば威力が倍増する。
WIZ   :    蘇る脳細胞
自身が操縦する【ゾンビ 】の【無意味だが知力】と【反応速度】を増強する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●ゾンビだって楽しみたい!
 グリモア猟兵の予知から時は遡り、歩行戦車による巨大農場の包囲完了後。
 何を契機としたのかその瞬間、ゾンビたちは自我を取り戻した。
 自らの肉体の変化、無理やり拘束された機械、絶え間ない餓えや五感を欠損した者たちの怨嗟。
 驚愕、恐怖、混乱、絶望。
 アポカリプスヘルの大地に相応しき負の坩堝に沈む人であった者たちの成れの果て。彼らは自らを正しく把握してしまったのだ。
 いっその事、忘我の彼岸から還らねばどれほど良かったか。
「私たちは、ゾンビとして生きねばならないのか」
 ちょっとゾンビー、死んでる死んでるぅー!
 俯く彼らは、同類であったはずの人々を食らう未来を容易に予期させる飢餓に言葉を失う。
 だが一人のゾンビは、それに気づいてしまった。
 眼前に実る黄金の波に。
「……あれは……お米だ……!」
「お米がなによっ。私たちはゾンビなのよ、お米なんて食べられないわ!」
「馬鹿野郎! そんなの誰が決めたんだ。ゾンビがお米を食べられないなんて、一体、誰が決めたって言うんだ!」
 …………。
 まあ、決められてはいないっすね。
「で、でも……ワシらゾンビは人を……」
「ゾンビが人を食わなきゃいけない法律なんてあるのか、目を覚ますんだ、みんな!」
 ブレイン食わなきゃゾンビじゃないじゃんね。
 叫ぶ熱血ゾンビ。目ん玉が飛んでったけど大丈夫です?
 しかし彼の熱意は伝播し、絶望の中にいたゾンビたちに希望が生まれた。
 そう、ゾンビだって元は人。ならば、人間を食らう必要などあるものか。ゾンビは人だ、人として生きられるんだ!
「見て、あそこ! お爺さんたちがいるわ?」
 ゾンビの一人が歩行戦車の登場に絶望する博士らの姿に気づいたようだ。
「こりゃいい。ご飯を食べるついでに彼らの肉もいただくとしよう!」
 …………、?
「ご飯だけ、なんて人間的じゃないものね」
 えっ。
「うふふっ、そうね。
 折角だし、人間らしく文化的に食べ物に感謝して踊りましょうか?」
「賛成だ、やろうやろう!」
「ちょっと待って、俺、目どっかいったんだけど誰か拾ってない?」
 やんややんや。
 人間的に拘りを見せたゾンビたちは歩行戦車でモンキーダンスを行う。
 それはまるで、狩りの成功を神々に感謝する原始的な行いであったが、彼らは気にしないだろう。
 早くこの腐った死体を片付けないとマズいですよ!

・モンキーダンスしている歩行戦車の群れを破壊してください。彼らはダンスに夢中な為、先制攻撃が可能です。
・歩行戦車はゾンビの知能でも操縦できるので、もちろん人も操縦可能です。奪って使用したり、拠点の戦力として鹵獲するのも良いでしょう。
・戦場は狙撃手に狙われています。稲穂や歩行戦車に身を隠す、狙撃地点へ攻撃するなど牽制を行いましょう。
・狙撃手は農場中心の三人の老人を狙いません。が、歩行戦車は積極的に稲穂の刈り入れと老人たちの刈り入れを狙うので注意してください。
・ゾンビは自我に目覚め人扱いされる事を望んでいます。やっている事は自己の正当化ですが、上手く利用すれば畑の被害を減らせるかも知れません。
アドレイド・イグルフ
生意気なジェリッド(f26931)と

ウワーーー!? なんだこのゾン……人たち! なんだこの人たち!?
食べ慣れない肉よりよく食べた米を口にした方がいいんじゃないか!? 栄養も豊富で……ワ、ワタシは食べても美味しくないぞぉ!

なんだジェリッド。生きると食べると一緒だぞ。生命の維持ではなく、意地って奴だ
キミが戦いを好むのと同じで……気分が高揚したから踊っている、はずだってどわあーーっ!!?
ぬ、ぐぐ。一方的に撃てるポイントを抑えているな……狙撃手め!

味方への援護射撃を行う。自我の残った人を射るのは気が引けるが、米泥棒はダメだ
攻撃はジェリッドを盾にしつつ稲穂に隠れてやり過ごす。老人たちの護衛もしなくては!


ジェリッド・パティ
うるさいアドレイド(f19117)と

何故エネルギーを補給する前に踊るんだ。愚かしい
だから獲物に有り付くことなくウチに破壊されるのに

おい、アドレイド。銃弾がアンタに向かってきている。足元で騒いでないで避けろよ
現在地で反撃するのは手間か。アンタ、一応弓使いだったな? いつも自分がしていることをやられる気分はどうだ

敵群体の破壊を開始する。アドレイドが破壊した部位を拳で追撃すれば戦闘不能になるだろ
拘束されたら巻き取り返して……そうだ、米を食わせてやる
何、コレは米じゃない? 米だろ。まだ玄米ですらない? ……は??
……殻の中に米が。脱穀。……火はある。が、水はない。老人から貰ってこい?
頭が高いぞ人間!!


黒木・摩那
ゾンビな歩行戦車のダンスとか、もう略奪前の儀式にしか見えないですね。
自我に目覚めたということですが、間違った方向に目覚めてしまっては……

まずは狙撃対応にドローン『マリオネット』を上空に滞空させて、周辺警戒をします。
狙撃の音や発射光を探知したら、スマートグラスで弾道計算の上、回避対応します。

田畑の近くにゾンビがいると、せっかく育てた稲に被害が出てしまいます。
ここはコレクションからカレー粉を出して、匂いで釣り出します。

あとはヨーヨーにUC【トリニティ・エンハンス】で【炎の魔力】と【風の魔力】を付与して【属性攻撃】、炎の竜巻でゾンビ達を焼き払います【なぎ払い】。

ゾンビはカレー好きなのかな?



●デス・ザ・アンデッドの為にその一!
 てってってれっ、てってってってーっ♪
 警戒な音楽に合わせてごっつい両腕を振り振りする歩行戦車とそれに座るゾンビたち。
 現れた猟兵たちに全く気付いていないのはお粗末であるが、巨大農場を包囲したとだけあってその数を馬鹿には出来ない。
 ある意味では絶景を背に、アリス・ラーヴァ(狂科学者の愛娘『貪食群体』・f24787)は集めた妹たちを整列させていた。字面は可愛い。
 さんさんと光を降り注ぐ太陽を頭上に、先頭のアリスは並べた自分と瓜二つの妹たちに号令をかける。
「ギチギチッ。ギイイエエエエエッ!」
(今回もみんなの為にがんばりましょー!)
 アリスと同じくぬばたまに輝く瞳と艶やかな濡羽色が陽光を照り返し、今にも大地を切り裂きそうな【鋏角】を軋ませて吼えれば響くテレパシーを受けて、妹アリスたちも宇宙戦艦の装甲すら引き裂く【前肢】を振り上げそれに応える。
(おーっ!)
 やる気に溢れてていいですね。端から見れば行列を成した未知の生物による威嚇行動だけど。
 そんな妹たちの内の何匹かが頭上を駆け抜ける一筋の炎に気がついた。
「よーし、到着!」
 アストラ・テレスコープ(夢望む天体望遠鏡・f27241)は】ロケットベルト】に取り付けた四つのミニロケットから噴射する炎を細かく調整し、地上へと降り立つ。
 ロケットの噴炎よりも更に明るい桃色の髪をなびかせて、中々と派手な登場であるが、件のゾンビどもはモンキーダンスの騒音に気づいていないようだ。
 楽しげな現場だ。周囲を見回してアストラはにっこりと笑みを浮かべた。畑の真ん中で固まる三人のジジイとは大違いである。
 状況を楽しめよジジイども。
「うわぁああああっ!?」
 アストラやアリスとは別方向からアプローチをかけたアドレイド・イグルフ(ファサネイトシンフォニックアーチャー・f19117)は現物を見て思わず声を上げる。
 グリモア猟兵からの前情報で彼らが踊っている事は知っていたが、実際に見るのとは迫力が違う。迫力が出たからどうしたって突っ込みは止めるんだ!
「なんだこのゾン……人たち……!? なんだこの人たち!?」
 ゾンビとモヒカンは人扱いする必要ないんですぜ。
 青ざめた肌を更に青くでもするかの如く、思わず一歩引いた彼女の隣では生意気と称されるジェリッド・パティ(red Shark!!・f26931)がその声量に顔をしかめ──、しかめる顔ないっすね。
 普段は人とほぼ変わらない姿で生活しているが、彼ことジェリッドはウォーマシンである。敵を前にすればその身を戦闘用の姿へと換装するのだ。
「おい、アドレイド。銃弾がアンタに──」
「は? むおっ!?」
 向かってきている。言い終わる前に飛来した弾丸が足下の土塊を砕き、アドレイドはジェリッドを壁にその背へと隠れた。
 遠目にその様子を見て、索敵ドローン【マリオネット】を打ち上げる黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)、彼女と一緒にやって来た御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は踊る歩行戦車に驚いているようだ。
 各種センサーを搭載するマリオネットは彼女の赤いスマートグラス【ガリレオ】と同期し、その情報を映す事が可能だ。狙撃に対する警戒度を強めつつ、前方のダンスも絶好調な歩行戦車を見つめた。
「ゾンビな歩行戦車のダンスとか、もう略奪前の儀式にしか見えないですね」
 自我に目覚めたという情報から思うこともあったのだろう、しかし間違った方向に目覚めてしまったのではと顔を僅かに歪めている。
 だが相手は血に飢え米に狂うなんちゃって意識高い系ゾンビだ。躊躇う理由などないだろう。
「この方たち、時宗の信徒でしょうか」
 一方で首を傾げる桜花。時宗とは浄土宗の宗派の一つで、念仏を唱えれば極楽浄土へ逝けるという他力本願、もとい『他力念仏』が特徴だ。
 その中には踊躍念仏という踊りながら念仏を唱えるというものが存在している事から、桜花はその関連を考えたのだろう。やったなゾンビども、お前らの極楽浄土はこの荒れ果てた大地だぜ!
「ふむ。踊る阿呆に見る阿呆、同じアホなら踊らにゃ損々」
 桜花も生まれた頃より身に纏う【桜織衣】を翻し、軽く盆踊りのような踊りを見せる。
 と、そこへ飛来する弾丸を確認した摩耶が慌てて促すと、避けた彼女の側を通過した。
 さすがに敵も好機を逃すつもりは無いようだ。
「しかし畑付近で戦えば、せっかく育った稲に被害が出てしまいます。……どうにか被害を防ぐ方法は……ん?」
 マリオネットの情報から遠方より来る赤い影に視線を向ける。それは荒れ果てた大地をものともせず突き進む燃えるような色合いの戦車であった。
「…………、ゾンビはカレー好きなのかな?」
 今日は金曜日だったかと、戦車の姿を見て考えつつ【調味料ポーチ】から自らのコレクションよりカレー粉を取り出す。ポーチの中には『鬼辛』『地獄』『絶望』などの文字の入った品物が多く、見事に真っ赤っかな事からその内容は推して知るべし。
 桜花は蒸気機関式拡声器【シンフォニックデバイス】を用いると、声を張り上げる。
『皆さん、狙撃手がいるようです。注意して下さい!』
「存じてまぁす!」
 ジェリッドの影から応えるアドレイドは彼に抱きつき、鬱陶しそうにそれを引き剥がそうとするウォーマシン。彼女が盾を失うまでそう時間はかからないだろう。
 また彼らより離れて桜花の言葉を受けたアリスたちは顔を見合せ、アストラはなるほどと大きく頷く。
「ほうほう、相手にスナイパーがいるんだね。狙撃なら負けないよ!
 どの方向から攻撃が来たか分かるかな?」
『あの方角みたいです』
 身振り手振りで狙撃手の位置を確認する少女に、摩耶から情報を得た桜花が指し示す。
 桜花の情報をアリスたちも確認するが、攻撃手段を持たない為に防御へ回るべきだと結論する。
「ギチチギチギチギチ」
(ここをキャンプ地とするのー)
(はーい!)
 司令塔であるアリスからの命令を受けて、強靭な鋏角でブルドーザーの如く地面を削り、荒野に散らばる瓦礫や岩塊を集める妹軍団。
「ひゅーっ。脳ミソが漏れるぐらい楽しくなってきたワーッ!」
「ダンシンッ、アンド・ダンシンッ! クール・オン・ザ・グルゥゥウエェエイトナイッ! ポォウ!」
 夜じゃねーだろ腐れ死体。テンション漲るゾンビさんたちだが、踊ってる場合じゃないと思います。
 陽気な雰囲気に対して生肉と米を求める彼らへ、猟兵たちの攻撃準備は整いつつあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

メルティア・サーゲイト
「歩行戦車なんざ花拳繍腿だぜ。戦車ってのはなァ……キャラピラで走るのがイイんだろうが!」
 主砲のレールキャノン一発でブチ抜いてやるぜ。
「おう、何の踊りだそりゃ。動きがなってないぜ」
 んでもって、副砲のガトリングカノンで踊り方を教育してやる。
「あと芸術は爆発って言うだろ?」
 締めはSEのマイクロミサイルと巡航ミサイルだな。ド派手に吹き飛ばしてやるぜ。
「ん、何か当たったかな?」
 狙撃手? この重戦車の装甲抜ける対戦車ライフルなんざそうそうあってたまるかよ。射点を割り出してお返しのレールキャノンブチ込んでやるぜ。
「何事も戦車で解決するのが一番、戦車は全てを解決するぜ」


御園・桜花
「お三方は不運を招くトリオでも結成したのでしょうか…トリオ・ザ・ジジィ?」

「食べるならお年寄りより私達のお肉の方が美味しいと思います。美味しい食事は人間性の回復に繋がるのでは?」
自分の二の腕や太股チラ見せして3老人より猟兵に攻撃が向くよう誘導
ゾンビを引き付けたらUC「桜吹雪」
隙間から入り込む桜の花びらで敵を一気に切り刻む
「ゾンビを行動不能にするには微塵切りが確実かと」

敵の攻撃は狙撃含め第六感や見切りで躱す

「此の方達、時宗の信徒でしょうか。踊る阿呆に見る阿呆、同じアホなら踊らにゃ損々」
自分も軽く盆踊りのように踊る

「人としてきちんと終わらして差し上げます…いつか人としてお戻りを」
最後は鎮魂歌で送る



●開幕!
 てってーっ♪ ぴっ☆
 古ぼけたラジカセの電源を切り、良い汗をかいたとゾンビの一人が擦り切れた袖で額を拭えば、ごっそりとこそげ落ちるお肉。額って結構肉あるのね。いわゆるチョベリバである。
「さあ、ディナータイムの始まりだ!」
 夜じゃねーだろっつってんだろゾンビ野郎。でも目ん玉腐ってたら仕方ないね。
 しかしもかかし、振り返った彼らが目のふりした節穴に映るは黄金の波ではなく、粘性の物体と瓦礫で組み上げられた防壁であった。
「しぇーっ!?」
「なんじゃこりゃー!」
「……ああ、巨大な肉まんが……!」
 一人幸せな夢を見ているようなので放っておいてあげよう。
 そびえる壁は巨大農場をぐるりと多い、歩行戦車を阻む格好だ。圧倒的存在感を放つそれも、内側に配置するアリス軍団が更に壁を高く積み上げている真っ最中だ。
 強靭で粘性を自在に変える【アリスの糸】、それを接着剤に更にユーベルコードによって強化されたそれは【アリスの巣】、もとい【アリスの別荘(オウチ)】である。
「あっ、アレを見ろぉ!」
(せっせ、せっせ!)
(わっせ、わっせ!)
 一体のゾンビの叫びに見上げれば、ひょこひょこと顔を出すアリスらの姿。
 外壁の内側に逞しくも足で張り付いて、バケツリレーならぬ瓦礫リレーをするアリスたちは壁を高く築き、糸で接着していく。
「な、なんて恐ろしい顔……悪魔だわ……! 私たちを地獄の釜戸に連れ戻そうとしてるのよーっ!」
 お前らを天国に連れてってくれる天使様だぞ。苦痛は約束しよう。
 まあそんな阿鼻叫喚する彼らこそ正に阿鼻叫喚の地獄絵図である下界にまだ興味なく、お家の建造を進めるアリスであったが、直後に摩那からの警告が響く。
「アリスさん、狙われています!」
「ギチチッ!?」
(えっ、きゃー!?)
 飛来した弾丸が瓦礫の継ぎ目に突き刺さり、それを乗せようとしていたアリスと数匹の妹が態勢を崩した所に立て続けの狙撃が行われる。
(発射方向は一ヶ所、なのにこの連射は!?)
 多方から攻めないのであれば敵は情報の通りに一人と見て問題あるまい。わざわざ数の利を捨てる必要が無いからだ。
 で、あるにも関わらず遠方からの精密な射撃に加えこの連射力。オブリビオンとは言え尋常ならざる狙撃能力と言える。
「ギッ、ギィイ!」
(皆ー、後退よーっ)
 号令を出してお家造りを止め、下がるアリスたち。
 しかし、やられてばかりの猟兵でもない。
「──捉えたっ!」
 内壁に取り付くアリス妹の内一匹を足場に、摩那の情報から方角を割り出したアストラは笑みを見せる。
 元が天体望遠鏡のヤドリガミ。自慢の『視力』は高倍率だ。少女たちの居る農場より離れて一キロ、それすら大きく超えて二キロはあろうかと言う高台に潜む影をアストラは見逃さない。
 彼女の眼による認識距離は五キロを超えるのだ。
 構えるは【コズミックロングボウ】。その名の通りになんか宇宙的な矢っぽいものを撃つ弓っぽい武器なのだ!
 なんと夢と宇宙のパワーを感じる素晴らしき兵器か!
 半透明な本体は青ざめた夜を手元に残したが如き霞む星々を包み、アストラの溢れる夢を体現した幻穹は、その身に明々と輝く光を番える。
「……何処までも……飛んでけっ!」
 ユーベルコード、【流鏑流星(メテオリックストライク)】。
 極限の集中から放たれた一矢は流星となり、まだ陽も高い明るさにも負けじと輝く尾を引いて狙撃手へと吸い込まれていく。
 砕け散る輝きにしかし、敵もこちらを覗いていた相手、直撃はないかと頬を引き締めた刹那。
 凄まじい衝突音が砦を揺らし、アストラも転落あわやといったところでアリス妹に支えられ、礼を言う。
 見れば下方に壁へとぶつかる歩行戦車の須方があった。それもただの体当たりではない、両腕内部の推進器を限界まで稼働率させた後に赤熱した腕部を展開、突撃するのだ。
 何体かゾンビが操縦席から転げ落ちてセルフ轢殺が発生してるけど、特に問題ないね!
「あの壁を壊せ~! 文化を求める我らの戦争、必ずモノにするのだ!」
『オーエス! オーエス!』
「──ん……?」
 風を切る独特な甲高い音。
 それに気づいたゾンビが音のする方向を見上げると同時に、砲弾がゾンビ毎、歩行戦車の操縦席を食い破る。
 一瞬遅れての砲撃音。そして、炸裂する砲弾は歩行戦車を破壊し、並び立つ他の歩行戦車をも薙ぎ倒した。
「ぎゃあああああッ!」
「えすおーえす~!!」
「歩行戦車なんざ花拳繍腿だぜ。……戦車ってのはなァ……」
 その様子を薄暗い操縦席の中から照準器で確認したメルティア・サーゲイト(人形と鉄巨人のトリガーハッピー・f03470)は、肉食獣のような獰猛な笑みを見せた。
「戦車ってのはなァ! キャタピラで走るのがイイんだろうが!」
 破壊された荒野を行く赤い影。【MODE PANZER】を起動した【ゴーレムユニット】である。
 今や人型の面影もなく、深紅の装甲を白日に晒す巨大な戦車は、その主砲で吹き散らされた腐肉を踏み潰し、荒野を行く。
 そして、その上に座るのは。
「全く、騒がしい奴らだな」
 硬い装甲に腰掛けて、揺れる悪路に文句のひとつもなかったその者はレイ・オブライト(steel・f25854)だ。帽子を扇のように、主砲からたなびく黒煙を左右に散らして帽子を被り直す。
『捕まってなよ』
 戦車内から外へと向けられたメルティアの言葉。そしてゴーレムユニットは、歩行戦車の群れへと突撃した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アストラ・テレスコープ
よーし到着!
なんか楽しげな現場だねー!でも、なんか難しくてよくわからないけどすごい技術でロマンが溢れるすごい科学的な施設を壊させるわけにはいかない!
あとで起動してるとこ見せてもらおう!

ほうほう、相手にスナイパーがいるんだね。
狙撃なら負けないよ!自慢の「視力」で撃ってきた敵の位置を素早く見つけて、味方がやられないように「流鏑流星(メテオリックストライク)」で牽制するね!

あとは踊りまくってるゾンビたち!
ゾンビってことはなんとなく火に弱そうな気がする!
じゃあ腰のミニロケットを噴射して「空中浮遊」してゾンビの頭上まで飛んで、むき出しのコックピットにロケット噴射を浴びせて「焼却」しちゃおう!


レイ・オブライト
降りろ
(コックピットは操縦者剥き出しっぽいが必要ならガラス程度叩き割り、いずれにせよ中身を引き摺り出す)

まだ人肉食って喜んでんのか? 遅れたゾンビだな
とはいえオレも鬼ではない。なんなら踊りに感心してやってきた神だ。最後に恵んでやろうと思ってな、という具合で
狙撃手の攻撃受けた際なんかに千切れた手頃な自分の肉を敵に食わせ(或いは捻じ込み)
【Gust】
内側から綺麗さっぱり爆散させる
楽しくやる分にゃ構わんが「他人に迷惑をかけたらいけません」人間のルールには従ってもらおう

敵UC撃たれる機会があれば
覇気制御の『枷』でコード部を巻き取り、怪力で引き千切り狙撃手側へ投擲・牽制
そのままゾンビも殴り倒す

※諸々歓迎


アリス・ラーヴァ
アドリブ・連携歓迎

今回もみんなの為にがんばりましょー!
まずは、ゾンビさん達が踊っている隙に妹達を沢山呼んで周囲の瓦礫を使ってお家(防壁)で農園を取り囲むのー
これで歩行戦車は農場に入ってこれないし狙撃も防げるわー
さて、今回の間取りは狭くて長い一本道の通路で構成されたホールが素敵なレストランなのー
開店準備完了ー、早速お客様(ゾンビ)をご招待するのよー
お客様ー、一斉に来店されたらこまるのー、人間らしく文化的に一列に並んで入場してねー
ゾンビさん達が一列に巣に入ったらかわいいウエイトレス達(成虫)がお出迎えよー、みんなでおいしく前から順に【捕食】しちゃいましょー
あ、熱血っぽい目玉が落ちてるー(パクッ)



●ストラァーイク!
『みぎゃあぁー!』
 ボウリングピンのように跳ね飛ばされた歩行戦車たち。景気がいいぜ!
 ドリフトするような急旋回に合わせて、ゴーレムユニットから跳躍するレイは、深紅の災禍から逃れた歩行戦車の一つに飛び乗った。
「降りろ」
 金の瞳は絶対零度、刃かと思える言葉を短く突き出し、呆気に取られるゾンビの肩を掴んで引っ張る──、と抜けてしまったのでそれはポイと後方に投げ、ぼろく擦り切れながらも本人よりは丈夫であろう衣服を掴み操縦席から引きずり出す。
「いやん、止めて! 今からディナーなのに抵抗できないように腕まで引っこ抜くなんて、私に何する気!?」
 むしろ何されると思ってんだよ。
「まだ人肉食って喜んでんのか?」
 吠える腐乱体へ、遅れたゾンビだなと鼻で笑うレイ。ゾンビ界隈を揺るがす衝撃発言である。
「な、な、何を言ってるのよ……そ、そうよ……!
 私たちは米も食べようって最先端ゾンビよ、フレッシュゾンビよ! 遅れてる訳ないじゃない!」
 フレッシュが腐れてる訳ないじゃんね。
 そんなやり取りをする間も動きが止まっているとなれば狙撃の好機。荒野に再び鳴り響く銃声が、狙い違わずレイを貫いた。
「人が会話してるってのに、不躾な奴だ」
「ピャーッ!」
 頬を貫通した鉛弾が口を裂き、剥き出しになった歯を見てゾンビが悲鳴を上げる。
 頬どころか鼻も目蓋もこそげ落ちたゾンビのするリアクションじゃないね。
「その悲鳴は心外だな。とは言えオレも鬼ではない、なんならお前たちの踊りに感心してやってきた神だ」
「そんな口の裂けた神様がいるワケないじゃない!」
 いるんだなぁそれが。
 さておき、戦車と共に降ってきた神様なんてそうそうお目にかかれないが、戦車と共に降ってきた猟兵は目の前に居る訳だ。
 恐慌するゾンビ、と書くと訳がわからなくなるが、そうとしか言えないゾンビの叫びに顔をしかめつつ、自らの裂けた頬肉をむしり取る。痛そう。
「最後に恵んでやろう」
「……あらジューシーなお頬肉……ってきちんと火を通さないとモゴォ!」
 何か煩くなりそうだったので手っ取り早く指先にひっかけた肉を捩じ込めば、女ゾンビの顎が落下する。今日日ギャグマンガでも見せないリアクションありがとうございます。
 直後。
「たわらば!」
 爆発四散する腐肉の体。真っ正面からそれを受けても顔色を変えず、ともすればやや嫌そうに帽子に付着した肉を払う。
 【Gust(ディヴァウアー・ダークネス)】。自らの損傷を引き金に膨大な電流へとその血肉を変貌させるユーベルコード。それの性質を利用しゾンビの体に収めた自らの肉片を媒介として敵を爆散させた、という訳だ。悪趣味ィ!
 間を置いて空から落下してきた女ゾンビの頭へ視線を向ければ、体が無くなったのに気づいたのか声を上げることもできずに目だけがぱちくり動いている。
「さて」
 さすがにそのままでは惨いと感じたか、足のひと振りで最後の骨肉を砕き、裂けた口から剥き出しの歯を見せて取り囲むゾンビへ顔を向ける。
ゾンビさんたち引いてるね。仕方ないね。
「楽しくやる分にゃ構わんが、『他人に迷惑をかけたらいけません』、この人間のルールには従ってもらおう」
 動きを止めた歩行戦車の上に幽鬼の如く立つレイへ、思わず生唾を飲み込むゾンビ。…………、唾液って出るの?
「な、舐めやがって! そういうお前はどうなんだ、えぇ!? 暴走戦車と一緒に飛び込んで来やがって、乗り物から乗り物に跳び移るなんて迷惑もいい所だぜ!」
「ケース・バイ・ケースだ。人命を尊重した」
「それなら仕方ないかぁ、てなるかよぉ!?」
 ノリツッコミの要領で空中を叩く歩行戦車の豪腕、それが一瞬にして弾け飛ぶ。
 驚くゾンビたちが振り返る先には──、いや五感を失ってて気づいてないゾンビが多いけどそれはともかく。
 その先にいるのは副砲のガトリングカノンを構えて鎮座する赤き重戦車。
「おう、何の踊りだそりゃ。動きがなってないぜ」
「いや踊りじゃなくてですね」
 弁明は聞いてないです。
 思わず真面目に返したゾンビの声を、唸る鋼の回転音がかき消して、大量に吐き出される鉛弾が歩行戦車を引き裂く。
 踊り方を教えてやる。メルティアの言葉が聞こえた者はおそらくいないだろうが。
 重なる銃声に手足が千切れるまで踊り狂う歩行戦車たちが糸の切れた操り人形のように落下するまで、彼女は引き金に置いた指を離そうとはしなかった。

 鉄の嵐が鉄屑と肉片を量産する事となった所からぐるりとアリスの別荘を反対側に、騒ぎを聞いて疑問符を浮かべるゾンビたちはそんな事よりと内部への侵入方法を模索していた。
 どれだけ悩んでも壁の前、脳みそが半分溶けて鼻から流れ出したようなゾンビたちに妙案が浮かぶはずもなく途方に暮れていると、正に壁の一画が緒とを立てて崩れ落ちた。
「ギチチッ、ガチッ、ガチッ!」
(開店準備完了ー、お客様のご招待よー)
 中からひょっこりと顔を出したアリスが鋏角を打ち鳴らせば、更にもさっと壁にはりついた妹たちも顔を出す。トライポフォビアの人が見たら失神しちゃうね。
(へいらっしゃいなのー!)
 自らの糸で紡いだのだろうか、妹たちの頭にはパティシエの被る帽子のようなものが置かれていた。可愛いやんけ。
「はうあっ!」
「……あれは……三ツ星レストランの有名シェフ……!?」
「なんか掛け声がどっかの大将みたいな感じだったけど、あの帽子があるなら美味しいお店に違いないわ!」
 こいつら『全米が泣いた!』とかに引っ掛かりそう。
 ある意味純情なゾンビ心を弄ぶ節足動物とも虫とも取れないアリスらの招待に、歩行戦車が我先にと殺到する。
「ワシが一番じゃあ!」
「させないわよ、私こそがスウィーツを貪り食らうに相応しいゾンビ・クイーン!」
「ふざけるな、お年寄りを弾き飛ばして相応しいクイーンなどいるものか!
 俺は光を失った、もはや見るべきものはなくともこの心に……熱き正義だけは輝いているっ……お前なんぞに一番乗りはさせないと!!」
 要は皆さん一番乗りしたいだけである。
「ギィイ! ギエエエエエエッ! ガチガチガチッ」
(お客様ー、一斉に来店されたらこまるのー、人間らしく文化的に一列に並んで入場してねー)
「あ、すんません」
 ぷんすかしている様子ではないにも関わらず、激昂しているように見えるアリスの思念を受けて素直に従うゾンビたち。
 その実、やはり人として扱って貰えた事に感極まったのかも知れない。並ぶゾンビたちは歩行戦車の操縦席で、クリスマスプレゼントを待つ子供のように目を、あるいは骨を輝かせてそわそわしている。
 さて、今回の匠・アリスさんの作製した巣、もとい別荘は。
 狭くて長い気の滅入るような一本道の通路で構成された間取りのホールである。匠は素敵なレストランと呼称しているので皆さん、ご機嫌を損ねないように言葉には気をつけて頂きたい。
(お客様たちが来るよー)
(準備オッケー!)
(こっちも並んだのー)
 一本道の間取りに壁に並ぶように張り付いた、かわいいウェイトレスことアリス妹たちのお出迎え。配置おかしくね?
「ふふふ、俺は遂に勝ち取ったんだ……未来を……!
 くっくっくっ、はぁーっはっはっはっはっは!」
 高笑いするゾンビ。悔しそうに並ぶゾンビ。そもそも脳みそが半分くらいなくなって何で並んでいるのかも理解できていないゾンビ。
 多種多様なゾンビレーンに、お客様が転ばないようにと足下を掃除していたアリスは輝く目ん玉を発見する。
「ギチチッ」
(あ、熱血っぽい目玉が落ちてるー)
「えっ?」
 そのままパクり。お行儀が悪いですなお嬢さん。熱血な波動を感じ取ったアリスと、それに反応したゾンビが何かを喋る前に、壁に張り付いていたアリス妹が歩行戦車を持ち上げて。
(いただきまーす!)
 美味しそうにむしゃり!
 いや実際には鋼を力任せに引き裂く耳障りな音なんだけどさ。腐った目玉しかないゾンビさんたちは目の前の惨劇に気づかず、次々とひょいひょいぱくぱくされていく仲間にも気づかず、レーンを回る寿司のように歩行戦車を前進させていた。
「ギチギチ、ギィイエエエェ!」
(お客様も大繁盛、いい感じねー)
 入れ食いレストランの完成に、アリスは満足げに頷いた。
 しかし。
 別の箇所で激しい振動と爆発音が荒野を疾り、アリスは警戒する。この場はそのままでも妹たちがむしゃむしゃするので問題ないだろう。トラブルが起きたであろう場所へ、その足で大地を踏み鳴らし激走する。
 アリスの向かう先では破壊された別荘の壁から、歩行戦車が雪崩れ込む所であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『主喰らい』

POW   :    速射狙撃
【高速連射の銃弾】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
SPD   :    贄の印
【大鉈】で攻撃する。また、攻撃が命中した敵の【習性と味】を覚え、同じ敵に攻撃する際の命中力と威力を増強する。
WIZ   :    誇りを賭けた主喰らいの一撃
自身の【右腕】を代償に、【銃弾へ触れた物質を破壊する力】を籠めた一撃を放つ。自分にとって右腕を失う代償が大きい程、威力は上昇する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠タケミ・トードーです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●押し返せ、不粋な押し入り強盗!
 爆発により砕け散った複数の歩行戦車たち。それは、狙撃手によって動力炉を、あるいは冷却機関を破壊されたのだった。
 即席の爆弾である。壁が破壊された事で侵入に成功したゾンビたちに、人として扱われたいと願った事と正反対に散らされた同胞を気づく者はいないだろうが。
「食べ慣れない肉より、よく食べた米を口にした方がいいんじゃないか!? ……栄養も豊富で……」
「ご飯前のダンスで腹ペコ絶好調!」
「今すぐ米とお肉を食わせろーっ!」
 幸せそうだなこいつら。
「ワ、ワ、ワタシは食べても美味しくないぞぉ!」
 アドレイドの説得虚しく、そこはかとなくモヒカンどもと同じ空気を纏うゾンビの進軍に、ジェリッドはこれ見よがしの溜め息を吐く。
「何故エネルギーを補給する前に踊るんだ、愚かしい。
 だから、獲物に有り付くことなくウチに破壊されるのに」
「なんだジェリッド。生きる、食べると一緒だぞ。生命の維持ではなく、意地って奴だ」
 大きく振り被るは敵へ打ち込む楔、否、敵を『噛み砕く』錨爪の大型ハンマー【Galvalodon】。
 アドレイドは戦闘態勢に入ったジェリッドの背で人差し指を立ててしたり顔で説明しているが、当の本人は耳を傾けていない。
 構えた姿勢に鎚頭の推進器から炎が弾けて赤柱が伸びると、その加速力に自らの質量とその膂力を乗せて回転する横薙ぎの一撃を放つ。
 全ての威力が集中した突端は易々と歩行戦車の装甲を突破、それでは満足しないジェリッドは更に踏み込み重心を変えて回転。
「そんなに腹が減ったなら大玉をくれてやる!」
「ほげぇえぇえぇえぇえ!?」
「ちょお、こっち来んな!」
 突進の勢いをそのまま威力に変えられて弾き飛ばされた歩行戦車は、後続を巻き込んで敵の攻勢を削ぐ一撃となった。
 鎚を肩に担いで鼻を鳴らす。
「──と、言う訳でキミが戦いを好むのと同じで!
 気分が高揚したから踊っている、はずだってどわあぁあっ!?」
 まだ解説してたんかい、といった突っ込みの意味が含められていたのかは知らないが、遠方より至る弾丸を咄嗟にかわして雄々しい悲鳴を上げた。
「──、現在地で反撃するのは手間か。アンタ、一応弓使いだったな? いつも自分がしていることをやられる気分はどうだ」
「ぬ、ぐぐ」
 姿にそぐわぬ嫌味は人の姿であれば笑みを浮かべていただろうか。
 悔しくも恨めしくジェリッドを睨み上げ、続いて狙撃された方向、破壊された壁を睨む。
「……一方的に撃てるポイントを抑えているな……狙撃手め!」
 とは言えやられてばかりとはいられない。
「自我の残った人を射るのは気が引ける、が!」
 彼らが狙っているのは、もう十分生きたであろうご老体。大往生なら是非もないが、補食された上での死など認める訳にはいかない。
 後何より米泥棒はダメだ。彼女はその身を豹の如く伏せ、素早く稲穂の中に隠れると構えた【ロングボウ】に矢を番え、弦を弾く。
 【ZAP(バシィッ)】!
 体格からゴリラの如く、豪腕で体重の殆どを支えて走る歩行戦車。アドレイドの放った矢はその音すら置き去りにする速度で戦車の肘を正確に貫いた。
「ひゃああんっ!」
 情けない声をあげて態勢を崩した歩行戦車から投げ出されるゾンビ。何が起きたかすら理解できていないだろう。
 再び後続を巻き込む大クラッシュに、ジェリッドは満足そうな声で唸り飛んできたゾンビヘッドを鋼の拳で打ち砕く。
「敵群体の破壊を開始する」
「ああ、援護は任せてくれ!」
 前進する鉄兵の影から敵を射る弓兵。分かり易く効果的な戦法を前にして、とろけた脳みそなりにゾンビも走り回るだけでは駄目だと気付く。
「こんにゃろめ、しゃらくせい! こちとらシティ・オブ・エド・チルドレンでぃ!
 たかが一人に押されて堪るかってんでぃ!」
 どこか馴染み深い口調のゾンビが接近しつつも歩行戦車の右腕を赤熱化、稲穂を焦がして煙を上げた。
「お前さんの面ァ見飽きたぜぃ! 一昨日来やがれってんだ!」
「今しか見せてないが」
 突進の勢いを上乗せに碗部装甲展開、右腕を真っ赤に焼けた砲弾と化してジェリッドへ発射する。
 花の都生まれらしいゾンビ野郎の一撃をこちらも右腕で受け止めれば、かかったとばかりにゾンビは笑い、顎が落ちる。君たちの顎緩くない?
 慌てて顎をはめ直すゾンビを尻目に、腕から伸びるワイヤーで繋がった本体にジェリッドは無言でそれを手繰り寄せる。
「はがががもがが! やぁーっとハマったぜぃ!
 って何してんだこんちきしょうめ!」
「……何って引っ張って……ふむ」
 言葉を切るとアドレイドの台詞を思い返す。腐った死体となり、自我を取り戻しても彼らを突き動かすのは食への欲求だ。ならば、その願いを叶えてやるのも一興だろう。
「そうだ、米を食わせてやる。食いたかったんだろ?」
 見ろ、とそこらの稲を農家の人々への感謝など無さげに無造作に引っこ抜くジェリッド。止めてよ!
「なーに抜かしやがるべらんめぇ! それが米たぁ一体どういう了見なんでぃ!」
 ゾンビの言葉にきょとんとしたジェリッド。普通はそうなる。
 そう、米には色んな段階があるのだ。米だろうと答えるジェリッドへゾンビパイセンはまだ玄米ですらないと顎を落としそうになりながら叫ぶ。
 稲穂に実るものは籾という、謂わば皮を剥く前のミカンのような物。稲穂から脱穀した籾の皮を剥く、籾摺りする事で玄米となる。皆さんご存知、皮を剥いたミカンである。
 それにもう一手間加えて美味しく頂く為に、ミカンの白い筋、アルベドを取り除いたものが精米作業によって生まれる精米、つまり皆さんがよくご存知、皆大好きお米になるという訳だ。
 まあミカンの白い筋を剥くか剥かないかは人によるよね。
「? 米だろ。まだ玄米ですらない? …………は?」
「何をしているんだキミは!」
 ゾンビパイセンの有難いお言葉に困惑するジェリッド。その間も一致団結して迫る歩行戦車に正しく矢継ぎ早に攻撃を加えるアドレイド。
「つまりはかくかくしかじかのまるまるうまうまって事よ!」
 まるまるうまうまは相手に言わせるもんだろ江戸っ子野郎。気が早いにも程がある。
「……殻の中に米が……脱穀……火はある。が、水はない」
「べーろぃ、ンなもん、ほれ、この先のジジイどもから貰えぃ。こちとら腹減ってんだ、早くしろぃ!」
「何、老人から貰ってこい? ……早くしろ、だと……!?
 頭が高いぞ人間!!」
 激昂に合わせて鈍い光を見せる隻眼のアイカメラ。
 手繰り寄せたワイヤーを下方へ引いて歩行戦車の態勢を崩し、バランスシートを失った機体の足を払って空に浮かせたジェリッドは、そのまま天地逆さとなり驚愕するゾンビを見上げた。
 三度、落ちる顎。
 それが重力に従い地へ辿り着く事は無く、直上へ放たれたジェリッドの拳が顎を、ゾンビの頭部を、体を、そして歩行戦車を直線的に貫き、真っ二つに引き裂いた。
 体の各所から負荷を逃す為の蒸気を吹き上げて、怒れる拳は落ち着いたように。
「出来ればもっと早く対処して貰いたいな!」
「分かっている」
 アドレイドの言葉に即答するジェリッド。
 拳を打ち鳴らした彼は、彼女の矢によって各部を破壊された歩行戦車へ向かう。特徴であるパワーを活かせなくなった相手に対して、ジェリッドの拳は餓えた獣のように食らいついた。
「……よし、こっちはそろそろ……」
 落ち着き始めた戦況に息を吐けば、響くは先程と等しい爆発音。
 しまったと、振り向いた先では亀裂を抜けて殺到する歩行戦車の姿。
「まだこっちも全部終わってないのにこれじゃあ、間に合わない!」
「任せて下さい!」
「おおっ、て……え……?」
 弱音を吐いたアドレイドへ力強く答えたのは摩那だった。
 そう、少女たちもまた戦っていたのだ。心に沁みる言葉に思わず歓声を上げて振り向けばアリス妹の一匹に跨がり、ドローンに持たせたなにがしかの包みを追わせるようにして走らせる少女の姿。
「妹さん、はいやー!」
(待て待てなのー!)
 馬の目の前に人参垂らしてる、例のアレである。
「…………」
「アドレイド、いつもうるさい奴が黙ってる前に援護しろ!」
 思わず放心したアドレイドへ、ジェリッドからの叱咤が飛ぶ。
 絵面のインパクトがビッグバンだからしゃーないね。


●カレーとは真理である。誘導作戦実施!
 激しく繰り広げられる戦闘に、固唾を飲む老いぼれども。敵の数は減っているが、逃げようにも農場がアリスによって封鎖された為にそれも叶わない。
「ああ、一体、ワシらはどうなるんじゃ」
「一説によると人は死ぬと体重が減るとされている。実際には呼吸が止まる為に体内の空気が抜けた事が原因とされるが、これを指して魂の証明とする者もいたらしい」
「なんで今その話すんの? もう助からないって言いたいの? ん?」
 現状を嘆くジジイに蘊蓄を披露するジジイ。その蘊蓄があんまりにもあんまりだったもので反感を買っている訳だが。
 今にも喧嘩の起きそうな二人を横目に、ヤパーリ氏は身を屈めて稲穂に隠れる。
 スーツから取り出した小さな通信機の電源を入れて、辺りを警戒しつつ声を潜めた。
「…………、ああ、良かった。私ですよ、話が違うじゃありませんか! どうして攻撃が始まっているんですか!
 …………、もしもし? もしもし! ええい、クソッ!」
 応答の無くなった通信機を投げ捨てて、腹立ち紛れに踏み潰す。やっぱりこいつが犯人なんだよ!
「どうかされたんですか?」
「ぬっひょおっほほほ! ななななな何でもございませんわよ!」
 唐突にかけられた声に思わずオネエ口調になりながらもすっとぼけるヤパーリ氏。
 その様子に不審を感じたものの、小首を傾げる程度で収めた桜花は、ヨスミ村のジジイに襟首を締め上げられるジジイ博士へと視線を移す。
「お三方は不運を招くトリオでも結成したのでしょうか。
 …………、トリオ・ザ・ジジィ?」
 少なくともハードボイルドではなさそう。
 何とも不名誉な理由付けであるが、悪気が無さそうなのは見れば理解……いやでもジジィ言ってるもんな……?
 トリオ・ザ・ジーサンより語呂がいいから仕方ないね。
 悪意無く素で煽る桜花に、言葉を返せぬトリオ・ザ・ジジィ。
「ま、まあともかくこの事態。我々は君たち猟兵に頼るしかない。この世紀の大天才の至高の頭脳をどうにか生き延びさせてくれ!」
「そ、そんなら世紀の農業大拠点を製作できると良いなと思ってるワシも頼むんじゃ!」
「この巨大農場を作る為に奴隷を買い叩いて牛馬の如く働かせ、更には博士の実験施設を極短期間で完成させたこの私、ヤパーリ・ワルイヒトゥネの活躍もお忘れ無く!」
 やっぱりこいつ悪い奴じゃね?
 最後のジジイによるイカスミパスタも青くなるほどの真っ黒発言である。が、それが命を切り捨てる理由にならないことも事実だ。
 桜花はトリオ・ザ・ジジィを背に黄金の波を掻き分ける鉄の獣へ視線を向けた。
 懐から取り出したのは、声を大きく響かせる蒸気機関式の拡声器、【シンフォニックデバイス】だ。
 唸り声の如き駆動音に負けぬよう声を張り上げ、迫る亡者へ対峙する。
「食べるなら。お年寄りより私達のお肉の方が美味しいと思います」
 お爺さんたちから自分へと注意を惹き付けるべく言葉を、そしてその食欲を煽る為に袖を捲って二の腕をちらり。エプロンと裾を捲って太股をちらり。
「むっほぉ、イイですねぇ!」
「うーん、誘うなら血を流すべきだと思うがチラ見せじゃゾンビも興奮しないのでは?」
「むしろあの距離でゾンビどもは理解できるんかのぅ」
 興奮するヤパーリ氏に効果を疑問視するチャラポラ博士にヨスミの村長。
 変化の見えない歩行戦車の群れに桜花も小さく唸り、閃いたとばかりにデバイスの電源を入れる。
「お年寄りの骨と皮だけの食事より、瑞々しいお肉の若い人の方が美味しい。美味しい食事は、人間性の回復に繋がるのでは?」
「! た、確かに!」
 起死回生の言葉はなんちゃって人間かぶれのゾンビどもの心へぐさりと刺さる。
「人の文明とは美味しさの追求と共に在る!」
「人の礼節とは、テーブルマナーから進化したモノだ!」
「そうだ、人は、人間性というのは、美味しさにより回復するんだ!!」
 ゾンビの癖に人間様の真理を捉えているじゃないか。これは同意せざるを得ない。
 明らかに完璧な理論に「何ゆってんのこいつら」と白けた視線を向ける博士。おめーさては味覚死んでるな?
「デリシャス・ミィイィイト! いただきますぅ!」
 滑り込むような先頭の歩行戦車の一撃を、デバイス片手にひらりとかわし、彼女はその背を蹴って宙を舞う。
 眼下に広がる光景に、見上げる屍を捉えて体を捻る。その僅かな隙間を走り抜けた弾丸が桜花を狙う凶弾であったが、空を舞う桜の精に触れることはない。
「綻び届け、桜よ桜」
 呟く言葉は祝福か、あるいは呪詛か。
 シンフォニックデバイスが解けて無数の桜の花びらと化し、桜花の手元から地上へと降り注ぐ。
「あらキレイ」
「幻想的な……まるで花見会場で盆踊りしていた時のような……!」
 桜はまるで気体のように、歩行戦車たちを飲み込んで行く。
「ゾンビを行動不能にするには、微塵切りが確実かと」
 強く吹く一陣の風。
 視界を染めた桜が吹き散らされれば、残る歩行戦車はそのままに、操縦者たるゾンビたちは桜花の言葉通り微塵の肉となって操縦席に変じていた。
「……い、今のは【桜吹雪】……!」
 桜の花びらに巻き込まれなかったゾンビが言葉を震わせる。知ってんのかゾンビ野郎。
「一体なんなの、今のは!?」
「あれはユーベルコードと言われるものでゲス! 自らの装備品を無数の桜の花びらへと変えて意のままに操り、花びらはまるで意思を持った砂嵐のように敵を切り刻むんでゲス!」
「なんで花びらで切れるの?」
「知らんでゲス!」
 ゲスゲス言ってるゾンビさんは、レンズのない眼鏡をかちゃかちゃと上げ下げして叫ぶ。頭の装置から火花が散っている所を見ると、それが何かしらの作用をもたらして知恵者っぽくしているのかも知れない。
 物知りなゾンビもいるものだと次の攻撃へ移ろうとした桜花、その前に立つはチャラポラ博士。邪魔だぞジジイ。
「ふん、博識な者がいるかと思えば所詮はゾンビ。……他愛のない知識よ……!」
「なんでゲス!? ゾンビ界隈知恵の三斤袋と呼ばれたこのアチキを侮辱するんでゲスか!」
「何だか納得のネーミングです」
 知恵袋と言うには小さな袋に思わず頷く桜花。チャラポラ博士はゲスゾンビを鼻で笑うと、白衣のポケットに手を突っ込む。特に意味はない。
「いいか、ユーベルコードと言うのは世界を構成する絶対的存在のひとつであり──ごはぁ!」
「はいどーっ!」
 駆けつけたのはアリス妹に乗った摩那であった。せめて言わせてあげて。
「? ……今何か……」
(食べれないわー)
 博士の存在に気づかぬ摩那が、急いでくれたお礼として、例の包みをやれば袋ごと咀嚼する貪食の鑑。同時に風に乗るスパイシー、というには刺激の過ぎる粉末がゾンビたちへ届く。
「…………? この香り──、って痛い! 鼻が痛い!」
「うああぁあああ! 目に沁みるぅう!」
 絶望的かつ初体験の刺激に叫び惑うゾンビたち。慌てて目玉をくり貫いて洗ったり鼻をもいだりとそれはもう大変な事になっている。便利だけどはめ直しても意味ないよね?
「鼻水が止まらないぜ!」
「それ血だろ。だけど俺は嗅覚や鼻の粘膜が殆ど死んでるから無事だが、それでも匂いを感じるとはな。
 間違いない、あの化け物が食ってるのはカレーだ!」
 カレー。それは全ての食材を料理へと昇華する神秘の食べ物。あるいは全ての人類が我が家を思い出す究極の味。
 間違いない、カレーこそ文化の、文明の星なのだ!
「周囲には籾の海!」
「目の前には美味しそうなお肉!」
「そして神の調味料、カーリーッ!」
「…………、ふっ。悟ったわ、真理を!」
 カレーは真理、是非もない。
 風に乗ったスパイシーに誘われてか、急激に士気を上昇させたゾンビども。全くカレーは最高だな!
「桜花さん、ゾンビたちを引き連れて外に行きましょう。このまま戦っては畑に、せっかく育てた稲に被害が増えてしまいます」
「分かりました。アリスさん、の、妹さん? よろしくお願いしますね」
(分かったのー)
 余りの刺激に目玉をくり貫くカレー粉を問題なく食べていたアリス妹であるが、その様子はどこかそわそわとしていて、彼女もまたカレーの真理に当てられたようだと推察できる。
 桜花が不安を感じつつその背に乗ると同時、ぬばたまの瞳を輝かせて彼女は急発進した。
「……いつつ……、年寄りは労らんかげえっへえ!」
 ようやく起き上がった博士を再び跳ね飛ばし、歩行戦車を引き連れて爆走する節足動物は巣を飛び出した。


●そして。デス・ザ・アンデッド!
 砦と化した巨大農場周辺では、戦いが激化していた。
「おぅ前の股座にィイ、大車輪・赤熱飛翔拳~!!」
 歩行戦車の一機が、ぶんぶか回した遠心力を乗せて真っ赤に焼けた腕を射出すれば。
「なんの! レールキャノン・ホオォウムランッ!」
 迫る豪腕に突進、車体を回し、同じく遠心力を乗せた戦車の【長距離狙撃用リニアレールカノン】、その砲頭で正面から打ち返すメルティア。ナイバッチ~!
 まあ、弾道はバックスクリーンじゃなくてピッチャー返しだけど。
 赤熱した鉄拳を打ち返されて、抵抗もできずに粉砕されるゾンビウィズ歩行戦車。
「まだまだ食い足りねえ! 教えてやるぜ、戦車の恐ろしさをなァ!」
 調子付くメルティア。直後、本体であるゴーレムユニットのアイカメラが飛来物を確認。
 カン、と高い音を立てて弾かれるそれを何するでもなく見送って「何か当たったかな?」と小馬鹿にした笑みを見せた。
【MODE MERKABAH(モードメルカバー)】。小回りなどの運動性能を犠牲に出力、攻撃能力、防御能力を増大する。その装甲の前に、遠方からの狙撃主の攻撃など無意味であったのだ。
 だが、アリスの別荘を破壊したような強行手段もある。それだけの手練れを相手に無視をするメルティアではなかった。
 摩那のマリオネットから送られる情報を基に、お返しとレールカノンの砲口を向ける。
 僅かな帯電時間の後、電磁誘導により高速で発射されるそれの精度は原稿用紙兵器の比ではない。砲撃を受けて砂柱を上げた高台に、これで少しは時間が稼げるかとメルティア。
 その回りではロケットにより空中で小刻みに回転、重力を感じさせぬ踊りを見せるアストラの姿。
「……凄い……まるで妖精みたいだわ!」
「攻撃するのを忘れちまうぜ!」
 何してんだゾンビども。
「見て、彼女を包むようにファンタスティックな炎の演出が!」
「いや俺らが燃えてるんだけどね?」
 すっかりアストラのファンになった女ゾンビへ冷静なツッコミを見せる男ゾンビ。こいつら痛覚死滅してるやんけ。
「予想通りだよ!」
 巻き上がる煙から視界を保護するためにかけた【ギャラクティカルゴーグル】からゾンビたちの惨状を目の当たりにして満足げに頷く。
 相手はゾンビ。ゾンビと言えば燃やされるものだとテレビでも映画でもゲームでも言っているのだ。
 つまりは何となく火に弱いだろうと踏んだアストラはミニロケットによる炎の噴射で、全く搭乗者保護を考えていない歩行戦車の頭上へ移動、そのままロケット噴射を浴びせて発火させたのである。
 アイドル接近対応のお代はお前たちの命だゾンビども。
 アストラは空からアリスらの作った防壁よりも更に高く組み上げられた実験施設に芽を向けた。
「なんか難しくてよくわからないけど、すごい技術でロマンが溢れるすごい科学的な施設を壊させるわけにはい!」
 後で起動してる所を見せて貰おうとやる気をチャージしつつ、砂塵の収まり始めた高台を睨み付ける。
 彼女のユーベルコードは体力を消費する為に連打は出来ないが、メルティアの放棄と組み合わせれば時間が稼げる。
 更に、彼女の発生させた炎は蜃気楼となり、巻き上がる黒煙は狙撃の妨害にも有効だろう。
「外も大分、落ち着いて来たようですね!」
「追加オーダーになります~!」
(なりまーす!)
 そこへ駆けつけたのはアリス妹に乗り込んだ摩那と桜花だ。後続の歩行戦車も農場から出る際に他のアリス群体につまみ食いされて減っているが、まだ油断できる数ではない。
 しかし。
「ここなら、ようやく派手に動けます!」
 ちゃきりと摩那が構えたのは、ヒーローズアースで入手した超可変ヨーヨー【エクリプス】。
 謎の金属由来の武器で超頑丈。意思により質量変化させ、更には収納した刃を自由に展開可能と至れり尽くせりの力を持つ。
 更に更に、両手に構えた左右のエクリプスそれぞれに、魔力を集中させていく摩那。目を閉じた姿に繊細な制御を有するであろうそれを察した桜花は、露払いならば任せてくれとその袖から桜の花びらを宙に撒く。
「おおっ!」
 走るアリス妹を頭として、まるで桜の龍が地を進むような光景にアストラは感嘆の声を上げた。
「綻び届け、桜よ桜!」
 流れる花びらは刃となり、剣風となって歩行戦車に襲いかかる。
 仲間たちの攻撃から狙撃される事もなく、落ち着いてエクリプスに魔力を注ぎ込んだ摩那は開眼する。
 ──ユーベルコード。
「風よ舞い炎よ来たれ! 【トリニティ・エンハンス】!」
 炎と風の魔力がそれぞれ込められたエクリプスがその力を解放し、彼女の掌から走る塊は赤い軌跡と砂塵を削る風を生み出す。
 僅かな指の動きが直線的な動きを歪んでみせ、続く大胆な腕の振りがふたつの力をひとつにする。
「焼き荒べエクリプス!」
 大気のうねりは上昇し、巨大な竜巻が荒野を行く。
「なんじゃこりゃあああっ!」
「映画じゃないのよーっ!」
 HAHA, You gotta be fucking kidding.
 突如出現した巨大な炎の竜巻に根こそぎ持ち上げられていく歩行戦車たち。暑そう。
「くそう、そう簡単にやられて堪るかーッ!」
 既に腕はふっ飛び目玉も焼け溶け、簡単にやられてしまった有り様であるがゾンビどもにとってはまだ試合終了のホイッスルが聞こえないらしい。
 耳つけて出直して来い。
『いっけえぇええーッ!!』
 最期の悪足掻きと空中から一斉に発射される歩行戦車の赤腕。
 しかしそれも、閃く夜の一線と壊滅的な砲弾、そして桜吹雪によって迎撃される。あらぬ方向へと飛んでいくそれらの中でもやはり数、摩那たちの乗るアリス目掛けて迫る豪腕はまだ残り。
「こういう時に現れるのを真打ちと言うのだ!」
「させん!」
 それぞれアリス妹に乗ったアドレイドの矢とジェリッドの拳が打ち返す。
 残るひとつ。
 真っ赤に焼けた鉄の拳をその全身で受け止めたのはレイ・オブライト。
「挑戦状は、しっかり返してやるのが礼儀だからな」
 肉の焼ける臭いと音とを周囲に満たし、レイぼろぼろになった顔で晒ってみせる。
 その両腕に巻き付いた白銀の鎖は【枷】。目覚めの日に欠けたそれはすでに戒めでは無く、彼の手足となった。
 自らに充足する覇気から電流が爆ぜて、伸びる鎖が歩行戦車と拳を繋ぐ有線に絡み付く。
「──ぉおおおお!」
 足位置を変えて身を返せば一本背負いの要領で、竜巻に巻き上げられたそれを怪力で引き千切る。投げ飛ばすそれは狙撃手に向けて。
 文字通り『返してやった』それにレイは鼻を鳴らして手を叩く。
「そんじゃま、最後も派手に行くか!」
 照準。
 炎に巻き上げられ、もはやそこに生きている者は、それこそ死んでいたはずの者さえも完全に絶えたであろうそこへ、誘導性能の高い【中遠距離爆撃用巡行ミサイルユニット】、並びに【中近距離用五十六連ミサイルランチャー】を展開する。こちらは爆撃用程の威力はないが、部分強化型のマイクロミサイルを五十六発も同時発射が可能となる。
 こんなものを一所で起爆すればどうなるか。
「ギィイッ! ギチチ、ガチガチガチ!」
(すごーい! たーまや~)
「ち、ちびりそうじゃわい」
 それはまるで、大地から伸びる巨大な炎の薔薇のように。
 歩行戦車の一部をもぐもぐしながら農場から出てきたアリスの上で、三人のジジイが炸裂する炎の竜巻に呆気を取られていた。
 お腹空いてるからって弁当をみっつも持ってくるなんて欲張りさんめ。
 実際にはチャラポラ博士、そしてヤパーリ氏の頼みにより中の歩行戦車のお食事、もとい片付けの指揮を取っていたアリスが彼らを外に連れてきたのだ。
 ヨスミのジジイは凄く嫌そうだったけど、一人で残るのも嫌なので渋々と着いてきたそうです。
「何事も戦車で解決するのが一番、戦車は全てを解決するぜ」
 殺りきった顔で操縦席から顔を覗かせるメルティア。
 鼻につく燃料と、そして人の燃える臭いが大気を焦がす中、桜花は花びらからシンフォニックデバイスへと形を戻したそれを手にする。
「人としてきちんと終わらして差し上げます。
 ……いつか人としてお戻りを……」
 いやに人間臭かった屍たちの為に祈りと、その魂が鎮まるように歌う桜花。
 ここはアポカリプスヘル、彼女の産まれたサクラミラージュとは別の世界だ。だが、もしかすれば、桜の精である彼女が祈ればそれは届くのかも知れない。
 そんな彼女の慎ましやかな願いをかき消す三発の銃声。
 こちらへ向けられたものではなく、レイへの返礼か、あるいは猟兵ら全てへの報せか。
「遂に来たね!」
 ゴーグルを上げたアストラは、高台から滑り降りた人影に注意を向ける。
 摩那らの攻撃のせいかにわかに曇りだした空に雷を従えて、たった一人のオブリビオンは猟兵たちへと足を向けるのだった。


●己が腕に誇りを賭けて、己が指に魂を賭けて。
 迫るオブリビオンを、猟兵とトリオ・ザ・ジジィは固唾を飲んで見守っていた。
 焼けた砂を浴びても瞬きすることのない巨大な眼は、彼らを捉えて離さない。大きな鼻をひくつかせ、乱杭歯の隙間から息吹きを漏らすその者は、見るからに旧式の猟銃を両手に抱え、大股に歩いて行く。
 腰に提げた大鉈も使い潰されたように古ぼけているが、鈍い光がなまくらではないと主張しているようだ。
 戦うには、否、この世界で生き抜くには心許ない装備。しかし彼のその足取りに迷いは無い。
 かつては山の主すら殺せると豪語したこの男、故に敬意を持って主喰らいと呼ばれた古兵。
 猟兵たちの前にやって来たオブリビオンは順に顔を見つめて、いい眼だと笑う。
「本当は、狩るには幾らでも方法があったんだ。だがそれじゃあつまらん。お前たち、一人一人の脳天に、正面から弾ァ撃ち込んでやる。
 獲物として狩りはしない。戦士として狩られろ」
 返事を待つつもりはない。
 言葉を切ると同時に、主喰らいは猟銃を構えた。

・ボス戦です。ゾンビたちを率いていた強力なオブリビオンを撃破して下さい。
・遠近どちらの攻撃にも対応する狩人です。迂闊な攻撃は鋭い反撃を許してしまう事になる為、散乱する歩行戦車やゾンビを利用するのも良いかも知れません。
・農場は前章により壁で囲まれています。戦闘の被害を気にせず戦えるでしょう。
・オブリビオンはのこのこ戦場へやって来たお爺さんに関心はありませんが、邪魔となれば排除しようとするでしょう。ヤパーリ氏に不穏な動きがあるので注意して下さい。
アリス・ラーヴァ
アドリブ・連携歓迎

わーい、カレー粉貰っちゃったー
お代わりがやって来たみたいだし早速使っちゃおー!
でもまずはおじーさん達が危ないかもしれないから、【トンネル掘り】で地面に穴を掘って地中深くに【運搬】しましょー
ヤパーリさんもしまっちゃおーねー。
さて、おじーさん達の安全を確保した所で、今日はカレー味の気分よねーと妹達と心をひとつにして『主喰らい』さんに【ダッシュ】突撃するのー
みんなー、銃弾を連射してくるから歩行戦車を持ち上げて盾にして進むのよー
運悪く活動停止したアリスも盾に再利用しましょー
上手く近づけたらカレー粉を『主喰らい』さんの顔に投げつけて目つぶししてから齧るのよー
うーん、すぱいしーな香りー



●獣は猟銃を持ちて。
 絞られた引き金と共に放たれた銃弾。その一発を剣で受け止め、黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)はオブリビオンを睨み付けた。
「ようやく降りて来ましたね、お山の大将が」
 陽の光に刀身のルーン文字を映し変える魔法剣、【緋月絢爛】は無傷のままに受け止めた鉛弾を落とし、主喰らいはにたりと晒う。
「アンタこそいいツラをしているな!? それに、ウチを戦士と呼んだな!」
 ジェリッド・パティ(red Shark!!・f26931)は戦いを前に高揚したか声を張り上げた。どちらが獣か分からぬ二人の闘志は、互いの戦闘能力に比例している様子だ。
 戦士として決闘してやろうか。獲物として狩られてやろうか。
(──、戦況把握。目標は手段を選ばない練者。数は優勢。周囲にはスクラップと化したゾンビに戦車)。
 体内から響く駆動音は蛮勇なる鼓動の如く、しかし冷静に状況判断を行うのはウォーマシンらしい。「ほへーっ」と見学中のお爺さんトリオに肩越しで振り返る。
「……保護対象が三名……爺さんたち余計な事するなよ。邪魔したら細切れだ、細切れ!」
「任せてくれ、そんな度胸あるワケない!」
 何故だか誇らしげにサムズアップする博士。その隣では彼らを連れて来たアリス・ラーヴァ(狂科学者の愛娘『貪食群体』・f24787)が妹こと群体の一匹から分けられた特異なカレー粉入りの包みを持って嬉しそうにしている。
「ギチチッ、ギチッ!」
(わーい、カレー粉貰っちゃったー)
 無邪気だねぇ。粘膜の腐れたゾンビすら悶絶してた代物であるが、彼女たちには問題ないようだ。
 後方に見える巨大農場を取り囲う彼女たちの別荘、主喰らいに開けられたその隙間から、わささっ、と覗いていた妹たちも司令塔であるアリスへ向かっている。
 集合体恐怖症とかじゃなくてもキツい絵面ですねぇ!
(数は劣勢でも崩さない足。…………、狙撃だけでなく、物理戦もいけるクチか)
 主喰らいの腰に提げた、大振りの鉈へ視線を向けたのはアドレイド・イグルフ(ファサネイトシンフォニックアーチャー・f19117)。
 後方からやってくるアリスの群れは、見ると同時に悪寒を感じて早々と視線を戻しているが、それだけの数の差を前に距離を開く素振りもないオブリビオンに警戒を強めた。
 とは言え、彼女のやることは変わらない。味方への援護射撃を中心とした支援行動、これに尽きる。
 が。
「……先程の仕返しとして……、嫌がらせの牽制も十分に。積極的に行おうじゃないか」
 ロングボウは背に、取り出すのはポンプアクション式の散弾銃。十八インチの銃身に固定型へカスタムされたストックを持つ【M870MCS】に弾丸を装填する彼女の瞳には、意地の悪い光が宿っていた。
 あんだけやられたらしゃーないね。
 アドレイドらと同じく数の劣にも一切物怖じしない主喰らいに、メルティア・サーゲイト(人形と鉄巨人のトリガーハッピー・f03470)は目を大きく開いた。
「へへっ、一人。一人かぁ? たった一人で戦車に勝つつもりかぁ?」
 ずっしりと荒野に鎮座する紅蓮の装甲。
 その圧を全面に押し出そうと前進するメルカバー。その周りで羨望の眼差しを向けたチャラポラ博士やら、かっこいーぜとばかりに戦車の周りでわらわらしているアリス妹たちが雰囲気を殺しているが、まあ置いておこう。
 いや博士は邪魔だろ。細切れにされる心の準備はあるみたいだな?
 流石に保護対象を戦いが始まる前から失う訳にはいかないので、しようのないお爺さんだとばかりに苦笑するアストラ・テレスコープ(夢望む天体望遠鏡・f27241)がいやいやするお爺さんの腕を引いて後方に回る。
 歳と状況と性別を考えろジジイ。
 一先ず邪魔物をお片付するも、挑発の一撃以外はその間こちらに手を出さず出方を待つオブリビオン。アストラはその自信に感嘆の声を上げた。
「おー、正面から撃ち込んでくるなんて言うだけあって、敵だけど真っ直ぐでかっこいいねー!
 まあ、こっちもおとなしく狩られるつもりはないけどね!」
 不敵に笑う。口調の割に淡々と状況を受け入れている所を見れば、自信はこちらとて主喰らいと並び立つ程のものがあるようだ。
 身のない自信ではない。敵もまた、己の腕に覚えがあるからこその。
「…………、敬意と、闘争と、駆け引きと。貴方は嘗てそれを兼ね備えた強者だったのでしょうに」
 何処へ其れを忘れて来たのか。憐れみの視線を向けたのは御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)。
 敵の自信があればこそ、その実力が推し量れるから。その技術を、狩るべき獣へと堕ちた者に憐憫の眼差しを向けるのだ。
「それがオブリビオンになると言うことなのでしょうか。……お可哀想に……」
 挑発するでもなく、ただそう思った言葉を転がして、桜花は『敵』を見る。
 主喰らいは強い意志を秘めた者たちの瞳を真っ向から見返して、並びの悪い歯を打ち鳴らす。
 待ち切れない衝動を噛み殺すように。
「さあ、始めよう」
 簑笠を震わせて、男は走った。

大成功 🔵​🔵​🔵​


●一瞬即撃!
 オブリビオンが走ると同時に、空へと戦術AI搭載型の【携帯式ドローン】を浮かべるアドレイド。
 球状のそれが浮かぶと同時に、鋭敏に反応した主喰らいが銃口を向ければ、その視界を遮るようにジェリッドが進み出た。
「せっかく獲物がいるのに、そんな小さいので満足かい!?」
「抜かせ!」
 逆手に抜いた大鉈。ジェリッドは振るう腕に腕を合わせて斬撃を止め、更にその腹へ鉄拳を向けた。
 舌を打つが早いか足を上げ、草鞋で拳を受け止め、否、進む拳の速度に足を合わせて衝撃を逃すと踏み台に、そのまま宙を飛ぶ。
「猿かアンタ!」
 空で身を切り機械兵の頭上、直接狙いをつけて喜悦の笑みを見せた猟師を前に猟兵もまた毒づく言葉に喜びを見せた。
 完全なる必中の間合。
「いっただきー!」
 しかしそれは猟兵にとっても同じく。虚空にて動きの取れない主喰らいへ、ロケット噴射で滞空するアストラの矢がその脇腹へ放たれた。
 身をくの字に曲げて弾き飛ぶオブリビオン。
「助かる!」
「任せて!」
 短く言葉を返し合い、追撃に向かうジェリッドの両膝が即座に狙撃される。
 装甲を抜かれた訳ではないが、態勢を崩しながらも放たれた精確な射撃はジェリッドの動きを止めるには十分だ。
 その一瞬で、地に転がった体を立て直す主喰らいは、大鉈の柄に刺さった矢を引き抜いた。避けられないと見るや、射撃を止めて防御へと動いたのだ。
(……判断が早い……上に強い……!)
 ウォーマシンの動きを止めた早業に、アストラは低空飛行を止め的を絞らせないよう、上下に左右と縦横無尽の動きを見せる。
 破壊された歩行戦車の隙間を縫いながら距離を取り過ぎないよう、相手の注意を割く軌道だ。
 正面にジェリッド、周囲を飛び交うアストラ、そして。
「!」
 咄嗟に遮蔽物に身を滑らそうとした主喰らい。その進行先の歩行戦車がばらばらと吹き散らされた。
「悪いがそうはいかないよ。何故ならワタシがいるからだ!」
 礫の一撃。慣れたように片手で前床を滑動、排莢するアドレイドは得意気に指を立て。
『もっとデカいのもいるんだなァ、これが!』
 外部拡声器を通してメルティアの声。アドレイドのドローンから敵位置と地形、障害物などの情報を受け取ったメルカバーがその主砲を主喰らいに向ける。
 さっきは待たなかったな?
 言葉を述べるつもりもなく、挨拶代わりの一撃を根に持つ少女による、即座の砲撃はしかし、主喰らいの高速連射により弾道を外されてあらぬ方向へと着弾する。
「……マジかー……」
 唐突に軌道を変えたそれを見て、敵の迎撃であるという結論に達したアストラが思わずぼやく。
 とは言えぼやいている場合ではない。メルカバーの砲撃で巻き上がった砂塵に身を隠した狙撃手に対し、アストラはそれの周囲を飛び弦を絞る。
「たくさん降り注げっ! 【星間尋矢(スターダストストライク)】!」
 姿は見えずとも、その先に敵はいる。砂埃の範囲全てに降らせた星屑の矢は光の雨となり、その一面に降り注いだ。弾ける光の音は一瞬で、視界を妨げる粉煙が消えればそこには、撤去仕切れていない歩行戦車の装甲を傘にアストラの攻撃を防いだ主喰らいの姿があった。
「甘い甘い。その程度でこの俺を」
「倒そうなんて、思ってないよ」
 嘲るオブリビオンを晒う猟兵。視界が晴れればそれでいい。
 次の瞬間。主喰らいの背後から、錨爪の大鎚がその装甲ごと撃ち抜いた。
 アドレイドの浮かべたドローンから情報を受けたジェリッドが、互いの死角から接近していたのだ。
「手応えがないか!」
 振り抜いた一撃は歩行戦車の残骸を容赦なく引き裂いたが、その先に主喰らいの姿はない。風の如く走る後ろ姿を捉えたカメラへ、オブリビオンは即座に銃口を向けた。
「だーかーら、ワタシがいると言ったろう!」
 足元へ撃ち込まれた散弾に、主喰らいは小さく呻く。弾かれたように方向を変えて歩行戦車の残骸へと潜り込むが、間髪入れずに再び砲弾を叩き込むメルカバー。
「おのれ!」
 口惜しそうに、しかし口許には笑みを浮かべて。
 反応した主喰らいの射撃は、メルカバーの展開した万能生成機【ナノクラフトバインダー】により分解、吸収される。
 初めて見る光景に思わず眉間にしわを寄せた主喰らい、その背中に合わせられたのは彼の持つ猟銃と同じく旧式のライフル。
 弾丸が発射される直前に振り向き様の大鉈が銃身を反らし、鉛弾に額を抉られ出血する。
「ハッハー! いい銃だ、借りるぜマヌケ」
 凶悪な笑みを浮かべたメルティアの姿。
 拡声器を使用しメルカバーに搭乗していると見せ、ドールユニットであるメルティアはすでに降車していたのだ。彼女の手元に転送されたのは、やはりアドレイドのドローンにより情報を解析されたオブリビオンの猟銃であった。
「カカシを使ったか!」
「そうでもないぜ?」
 照準を向けたメルカバー。危険を察知したオブリビオンへ中距離砲撃支援用の【ガトリングカノン】が叫び声を上げた。
 長銃身大口径六連装のガトリング砲。精度と取り回しに難はあるがその火力は数多のゴーレムユニットの兵装の中でも随一。敵を生い立てるには十二分である。
 回避に回る主喰らいの動きに精細さを欠く足捌きを見てメルティアは猟銃を向ける。
「足ィ、食らってるじゃねえかよォ!」
 先のアドレイドの散弾。礫の幾つかがその足に食い込んでいたのだ。
 メルティアの叫びを聞いたアストラはするりと線火を潜り抜け、メルカバーの死角へと逃れる主喰らいへ先回る。
「退けぃ、小娘!」
「そのつもりだよっ!」
 横凪ぎの一撃に髪の一房を持っていかれながら、身を返した少女の体は流星の如くオブリビオンの懐に潜り込む。
 天地逆さに絡み合う視線と一瞬の間。
 放たれた一矢は、主喰らいの右目を貫いた。
黒木・摩那
やっと山から下りてきましたね。
しかし、あれだけの砲爆撃の嵐を傷ひとつなく乗り切るなど、
言葉通り実力はありそうです。
これは強敵です。
個では非常に強力な相手ですが、こんなときは集団で相手するのがよさそうです。
クマも嫌がるスズメバチが相手ならどうでしょう。

魔法剣『緋月絢爛』で戦います。
周囲に散らばる戦車をスズメバチに変換して、主喰らいを襲わせます。
そして、ハチを影にしながら、『魔法剣』で斬りこみます【衝撃波】【先制攻撃】。

猟銃は【第六感】やスマートグラスのセンサーで回避したり、【念動力】で軌道を逸らして対応します。


メルティア・サーゲイト
「へへっ、一人。一人かぁ? たった一人で戦車に勝つつもりかぁ?」
 メルカバーの全兵装を使ってサクッと始末すると見せかけて、ドールを裏から降ろすぜ。対歩兵戦だと随伴歩兵居ないとカモだしな。
「ハッハー! いい銃だ、借りるぜマヌケ」
 バインダーを展開して銃弾を分解防御。生成した銃をドールに渡して歩兵射撃戦を挑むぜ。勿論、メルカバーもそのまま戦う。対人ならガトリング機銃中心かな。当たるなら他の武器も使うぜ。
「同じ銃なら腕の違いが出るよなぁ」
 軽やかなスタイリッシュアクションをキメながら撃ちまくるぜ。
「前任者はマヌケでしたが今度の私は完璧だぜ」
 やられても変わりはいくらでも作れるし。


御園・桜花
「敬意と、闘争と、駆け引きと。貴方は嘗てそれを兼ね備えた強者だったのでしょうに。何処へ其れを忘れてきたのでしょう。それとも…それがオブリビオンになると言うことなのでしょうか。…お可哀想に」

UC「癒しの桜吹雪」
仲間や3ジジに重体以上の怪我人がでないよう回復
敵の攻撃は第六感や見切りで躱す
高速・多重詠唱で銃弾に雷属性付与し制圧射撃で仲間の攻撃補助も

此処を農業施設に擬態した軍事拠点と疑っており、3ジジの安全には勿論気を配っているが、ヤパーリ氏がヤバいタイミングで「ポチっとな?」と危ない釦を取り出して押さないよう、それとなく動向を注視
場合によっては軽く首筋を打ち気絶させる

戦闘後は鎮魂歌を歌ってから黙祷



●勝利を得る為に犠牲無く。
 僅かな隙を狙い打たれた瞬間、顔をずらすも間に合わず、その右目を貫かれた主喰らい。
 位置を変えた事で眼底から脳まで破壊されはしなかったものの、右目は最早使い物にはなるまい。
「──やってくれたな……!」
「ひえっ」
 怒りに燃える隻眼が大鉈を振り上げる。
「? ──!」
 しかし、それが振り下ろされる事はなく、慌てて飛び退いたオブリビオンを無数の羽音が追う。
 アストラの目が逃すはずもなく、羽音の主は小さき強者、スズメバチの大群だ。
「あれだけの砲爆撃の嵐を乗り切って、ようやく与えたのが片足と片目。それでも尚戦意に溢れているとは」
 言葉通り、実力はありそうだ。
 蜂の群れを率いて現れたのは黒木・摩那。
「個では非常に強力な相手ですが、こんなときは集団で相手するのが良さそうです。アストラさん、後退を!」
「ありがとうございます!」
 仰向けに倒れた体を身軽に後転して起き上がり、脱兎の如く離れるアストラへは視線を送らず、鉈の一閃にて蜂を駆除する鬼を睨み付けた。
 ユーベルコード【虎蜂旋風(ミストラル・ホーネット)】。緋月絢爛を縦に構えて意識を集中する少女に呼応し、その身を中心に広がる不可視の波紋が歩行戦車の残骸を揺らす。
「天に集いし精霊よ。物に宿りて我に従え。姿授けよ」
 常世と異なる世界の理を受けて、崩れた装甲がスズメバチの群れへと変換されていく。
「しゃらくさい真似を!」
 目の傷口から垂れる液体を拭いもせずに、オブリビオンは重心を後方へ移すと傍らの歩行戦車へ鉈を打ち込み、ただの腕力で持ち上げた。
「まとめて潰れよ!」
「ちょっとそれは力業にも程がありますよ!」
 如何なスズメバチとて装甲の前には無力だ。投げつけられたそれを空でかわすも、大群の全てが逃げられる訳ではない。
「ギッ、ギィイエエエエッ!」
(よっ、こらしょー!)
 投げつけられたそれを受け止めたのはアリスだった。その背後には妹たちが歩行戦車の残骸を頭に乗せて行進している。
「奇っ怪な!」
 お前には言われたくないよ。
 思わず叫び猟銃を構えた主喰らいに、そうはさせじとスズメバチが群がった。
 仕方なく片手に鉈を、片手に猟銃を構え直して迫る蜂を払い牽制射撃を行うが、幾らオブリビオンと言えど片手で高速連射など不可能だ。
「ガチガチ、ギチチッ!」
(みんなー、今日はカレー味の気分よねー)
(カレー食べた~い)
(カ・レ・エ! カ・レ・エ!)
 アリスの問いに興奮した様子で隊列を崩さず進むアリス妹軍団。カレー味の何かを求めて行進する彼女たちの前に、最早ただの銃と変わらぬ主喰らいの攻撃に怯むはずもない。
 ──それが誘いでなければ。
 一際大きく刃を薙いで、スズメバチの迫る時間を作った瞬きするほどの間に猟銃を両手に構え直す。
「足が悪いのは、俺だけじゃなかったな」
(きゃーっ!)
 歩行戦車の装甲の隙間を抜けて、精確無比な狙撃は牙を剥いたのはアリスの妹たちの内の一匹だった。
 先の戦闘で巨大農場の防壁こと別荘製作中に塗師の狙撃を受けて落下した個体アリスである。無理な体勢で自らの体重を支えて大地に残ったものの足にかかった負担は怪我となって、本来ならば銃弾程度を通さぬ【甲殻】の繋ぎ目、【内部皮膜】にも亀裂が入っていたのだ。
 足を庇うアリス妹を目敏く察知した主喰らいの一撃で、この個体は足を一本失い倒れ、後続のアリスたちを巻き込んでしまう。
(……もうダメ~……みんなー、アリスを盾にしてー!)
(はーい!)
 動けないアリスなど必要ない、とは言わないが、自己犠牲の精神で吐き出した言葉をさも当然と受け取って同個体を自らの盾とする。
 ここらへん人間との価値観の違いが見えるね。とは言え彼女たちは群体。異常が出た個体を切り捨てるのはコロニーを生かす為に必要なこと。これが彼女たちにとっての当たり前なのだ。
 だが、そんな当たり前を当たり前として受け止めないのが人間である。
「桜よ吹雪け。命よ、巡り巡りて人々を癒す慈雨となれ!」
 戦場に凜として響くは桜花の歌声。
 後方からの風に乗る桜吹雪が、行進するアリス妹軍団を包み込んで行く。
 ユーベルコード、【癒しの桜吹雪】だ。
(! あらー? もう怪我が治ったから、下ろしてー!)
 じたばた。
 見れば関節を撃ち抜かれ、取れかけた足も再び癒着し動かすにも問題なく、同じく足に怪我をしていた他のアリスらもしっかり回復したようだ。
 危うく犠牲者を出す所だった。活力を取り戻したアリス妹を見終えて重い溜め息を漏らす桜花。
「何とかなって良かったです」
 アリスとはこれまでに何度も共闘した仲間である。故にその妹が目の前で盾と扱われ命を失うのは、見ていて決して気分の良いものではない。
「いやぁー、すばらしッ。さすがは奪還者様!」
 満面の笑みで腕を広げるヤパーリ氏とは対照的に、桜花は氏へ疑念の瞳を向けていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アストラ・テレスコープ
おー、正面から撃ち込んでくるなんて敵だけど真っ直ぐでかっこいいねー!
こっちもおとなしく狩られるつもりはないけどね!

立ち止まってたら絶対すぐ撃たれちゃうから、ロケット噴射で上空から低空に縦横無尽に飛び回って歩行戦車の残骸の間を通り抜けたりして簡単に狙えないようにしつつ、
「星間尋矢(スターダストストライク)」!
1発の威力は少ないけど撃ち落とせないくらい大量の弾幕で攻撃するよ!

あ、あと飛行しながらもおじいさんたちが危険にならないようにチラチラ見ておこう!私は目が良いからヤパーリ氏がやっぱり変なことしそうになったらすぐ見つけるよ!


アドレイド・イグルフ
ジェリッド(f26931)と

数は劣勢でも崩さない足。……狙撃だけでなく、物理戦もいけるクチか
だが、ワタシのやることは変わらない。味方への援護射撃を中心に動き回る。が……先程の仕返しとして、嫌がらせの牽制も十分に。積極的に行おうじゃないか

ドローンを展開させ、戦況や地形、それぞれの配置を情報収集をして、周囲に提供する
狙撃ポイントになりそうな遮蔽物は散弾銃で撤去を。敵への射撃は手元や足元を狙い、照準をブレさせて気を散らす
敵意が此方に向いたら……応戦を。近距離での被弾はものスゴく痛いから避けたいところだが、相手も覚悟の上だろう
狙うは猟銃。銃口の部位破壊。得意の得物を一つ、潰してやる!


ジェリッド・パティ
アドレイド(f19117)と

アンタこそいいツラをしているな!? ウチを戦士と呼んだな!?
なら戦士として決闘してやろうか。獲物として狩られてやろうか

戦況把握。目標は手段を選ばない練者。数は優勢
周囲にはスクラップと化したゾンビに戦車
あと保護対象が3名……爺さんたち余計な事するなよ。邪魔したら細切れだ、細切れ!

手始めに挑発を行いヘイトコントロールを。タンクとして継戦する
右腕の機能を停止させた銃弾の威力は瞬間思考能力で理解
演算回路と記憶装置の死守を最優先に回避行動に移り、必要ならば装備品のパージも選択する

カウンター処理が可能ならば射程圏内へ移動
狩られるモノが狩るモノを食い散らす現実を叩き込んでやる



●怪しい奴はしまっちゃおうぜ!
 確かにオブリビオンは強い。しかし。
 数の利と持ち前の連携力による猟兵たちの攻勢に敵は徐々に追い詰められている。
 そうそうとこの形勢を崩す事は出来ないだろう。
(……マズいですねぇ……このままではこの奪還者たちに、全て守られてしまいそうですよ……)
 怪しい考えに耽るのは、やっぱりヤパーリ氏である。もういいや、こいつぶちのめそうぜ。
 振り返るヤパーリ。絡む視線に桜花。愛想笑いを浮かべて猟兵らの戦う姿に視線を戻す。
「ヒューウ、やってやれ猟兵! そこだ、右! 左ィ!」
「なんでもええから無事に帰してくれぇい!」
 ジジイたちによる平和な応援を見て、再び振り返ればやはり視線の合う桜花。
(…………、何であの娘はこっちを見ているんです!?)
 脂汗を冷や汗に変えたヤパーリ氏。
 そりゃー如何にも悪い奴がいるんだから疑うのは当然さ、と言いたい所だが。
 実は桜花、この巨大農場の地下に軍事拠点が設けられているのではないかと疑っている。農場施設に擬態した軍事施設、なるほど確かにあり得る話だ。いやあり得るか?
 しかし食糧による交易も相まって、秘密裏に兵装を整えるにはやり易いだろう。腹黒ヤパーリ氏のやりそうな事だ。
 …………。
 案外あり得る気がしてきたぞ?
「……あの……私の顔に何か?」
「いえ、いつになったらボタンをポチッとな、と押すのかと思いまして」
「え、ボタン? なんの?」
「地下の軍事拠点のミサイルとかですかね?」
『!?』
 驚愕する一同。集う視線。
 後退したアストラや近くで控えていたアリス妹たちも視線を向けている。怖い。
「ちょちょちょ、ちょっと待って下さいよ何のお話ですか!?」
「その焦り方、やっぱり?」
「いやいやいやいや!」
 そんな訳がないじゃないかと、チーム・トリオ・ザ・ジジィの残る死に損ないに助けを求めたヤパーリ氏。
 彼の姿にチャラポラ博士は顎に手を当て、ふむと唸る。
「確かに、場所を選定したのはヤパーリ氏。まさかこの天才を思考の裏を取り、悪用しようと!?」
「場所を選んだのは私ですけど、あなたも地質とかいろいろ調べてたじゃないですか!」
「そもそも自分の拠点と大分離れた場所に出資というのものぅ。腹に一物なけりゃやるわけないわい」
「貴方がたはスポンサー相手によくそこまで言えますね!?」
 ヤパーリさん人望低すぎない?
 地下の軍事施設という言葉にわくわくどきどきと目を輝かせるアストラとアリス妹たちはさておき、疑いの視線に晒され仲間にまで畳み掛けられたヤパーリ氏は遂にはおかんむりで、顔を真っ赤に声を張り上げた。
「そんなもの用意しているワケがないでしょう!
 そもそも私が融資したのは高度な技術による金、それに代わる力、権力! 無くしてこの世界は生き残れない!
 私はこの技術を手に入れて──、ウーウップス!」
 もごもご。
 自分の口を手で塞ぐヤパーリ氏。足を出すとはチョロいぜ!
「なーんだ、凄い基地があると思ったのになー」
(残念ねー)
(ねー)
 顔を見合わせる三人娘。人じゃないね。
「技術を手に入れて誰にどうするつもりなのか、聞きたい所ではありますけど」
 一先ずは。
 興奮して目をぱちくりさせるヤパーリ氏の背後にするりと回り込み。
「せいっ」
「はうあっ」
 その首筋に叩き込まれる手刀。桜花の気絶攻撃!
「いっつつつ……な、なにを……?」
「あら? よく劇などではこれで気絶したような」
 効果は今一つのようだ!
「せいっ、せいっ、せいっ!」
「うっ、ふんむっ、ちょっ!?」
 効かないなら効くまで殴ればいいのだ。首根っこを押さえて連続で手かたなを打ち込む容赦のない女の姿に残るジジイも手を握り合って震えている。
 繰り返す手刀はいつしか遂にクリティカルヒットをはたしてようで、陥落した氏に桜花は額の汗を拭う。良い子のみんな、相手を気絶させるにはきちんとした訓練を積もうな!
「私もそれなりに見てたけど、これで安心だね!」
 不安要素の抹消に頷くアストラの傍らで、アリス妹たちはそれならばと地面にもの凄い勢いで穴を堀り始める。
(おじーさんたち、危ないから地中深くに運びましょーねー)
(ヤパーリさんもしまっちゃおー)
「はい」
「抵抗は致しません」
 ぐったりしたヤパーリと共に、抵抗したが最後、どうなるかをその瞳に刻んだジジイたちはアリス妹らにそのまま地中深くへと運ばれていくのだった。


●戦士の終わりは獣が如く。
 猟兵仲間と妹たちの活躍により、トリオ・ザ・ジジィが安全圏へ避難した事を察したアリスは、もはや迷うものは無しと主喰らいへ狙いを定める。
「ギエェェェ! ギチギチギチ! ギイイイイイ!」
(みんな~あつまって~。今晩はカレーよー!)
(カ・レ・エ! カ・レ・エ!)
 心を一つして進むは【貪食する群れ】。
 誰もが欲して止まないカレーという料理の到達点を目指し、進むは大群、迎え撃つはオブリビオン。
「ぬうう!」
 迫る敵にもはや逃げられぬと腹を括ったか、蜂の群れすら意に介さず片膝をついて狙撃の体勢へ移る主喰らい。
 射撃。
 弾ける薬莢は主喰らいが排出したと同時に次弾が装填される。目にも止まらぬが言葉通りの早業だ。
(きゃーっ!)
(ひじょーにきびしー!)
 それこそ機関銃のような連続射撃にさしものアリスの足が止まり。
「ならお次はこっちの番だぜ!」
 その連射に呼応するメルカバー。
 飛来する鉄の風は受け切れるものではない。即座に膝を上げて歩行戦車の残骸へ潜り込もうとした主喰らい、その移動先を大粒の弾丸が撃ち抜いた。
「まだまだ、嫌がらせは続くのだよ」
「しゃらくさい──、!」
「蜂だけじゃあ、ありませんよ?」
 蜂の影から斬り込む摩那。殺気を感じて咄嗟に鉈で受け止めるが、その一撃は軽い。相手の動きを止める為、見せ掛けの攻撃だ。
 直後には刃を跳ねて体を回転させ、主喰らいの死角である右へと回り込む。
「シイィイ!」
 鋭く息吹きくりだされる連続の刺突は、身を引く主喰らいに追いすがり、右肩や脇腹を抉る。
「──調子に乗るか!」
 ここで踏み込み、閃く白刃は少女の手を狙い。
「はっ!」
 それは不自然に軌道を歪められ、同時に淡く輝く刀身は剣作業から衝撃波を発した。
 念動力による受け流しと即攻。防ぎ切れず弾かれた主喰らい、その爪先を背後からブーツで踏み抜くメルティア。
 足を開き、倒れようとする体を踏ん張らせて猟銃を上下に握りぶつければ、全く同じ獲物を同じく構えて打ち合う少女。
「同じ銃なら腕の違いが出るよなぁ」
 不敵に笑うと銃を反転、敵の猟銃を跳ね上げた僅かな隙間に銃口を突き付け引き金を引く。
 火薬が弾ける刹那、その身を反らして胴体への直撃は免れたものの、左の二の腕を弾丸が抜ける。
「ぐっ、く! ……カカカ……!」
(ここで笑うか!)
 追い詰められながらも尚も愉しげな鬼を前に、こちらも浮かべた笑顔を止ませるでもなく、大薙の一撃を上半身を大きく反らしてかわす。
 同時に蹴り上げた足が主喰らいの顎を蹴り抜け──、られず。
 そのまま体重を乗せた主喰らいに押し倒されたメルティア、額にぴたりと銃口を突き付けられた。
「……ヘマしちまったぜ……」
 直後にはその額を撃ち抜かれて、崩れ落ちた体。
 獲物の、否、戦士の頭を撃ち抜いたのだ。激闘の果てに、遂に一人。
 だがその身を奮わせる感動がない。技術の粋に勝った瞬間を讃える心が己にない。それはまるで、獲物が罠からするりと逃げたような手応えの無さ。
 同時に、戦士たちから失意の念も、何も感じ取れない事に気がつく。
「少々、遅かったですね」
 振り向くでもなく背後へ銃口を向けて射撃する必殺の間合いすらも、その細かな動きをスマートグラスのセンサーで探知した摩那の第六感は鋭敏に安全圏を導き出す。
 駆け抜け様の一撃が胴を薙ぎ、しかし倒れぬ鬼の体。
「そんな、手応えは確かに!」
「──あ、と、一撃……!」
 尚も、尚もと銃口を向ける主喰らい。
「いい加減に少しばかりしつこすぎやしないかい!?」
 口数のしつこさではどちらが上か、しかしその気持ちも分かるアドレイドの一矢が、傷ついたオブリビオンよりも先にその銃口を捉えた。
 仲間の犠牲を見逃しても集中を続けたのは、この一撃の為。
 極限の集中から放たれた【千里眼射ち】は、アドレイドの持ち替えたロングボウの矢で確実に標的を射る。
 弾ける筒先をその隻眼に、矢を受けてねじ曲がる愛銃の姿すら愛しく、鉈で破損した筒を切断する。
「──後、一太刀!」
「これ以上はやらせません!」
 眼に灯る輝きはより一層の強さを秘め、死に行く者の意思を感じさせる。それを察した桜花の【軽機関銃】から繰り出された弾丸には青白い雷光を纏い、主喰らいの身を穿つ。
 幾多の攻撃にも倒れなかった屈強な体も、肉に弾ける雷には堪えられず、大鉈をその手から取り零した。
 だが、それでも。
 地面に足をめり込ませて、体を支えた主喰らい。眼から散る火花を摩那へ向けて歩くその足は、既に撃ち抜かれて追い詰める程の力はない。
(よいしょっ)
 その足下に、地面からひょいと身を乗り出したのは、トリオ・ザ・ジジィを地下の牢獄へ送り届けたアリス妹の内の一匹。
「ギチチッ、ガチガチガチ!」
(やっちゃうのよー!)
(それーい!)
 アリスの指令を受けて投げつけたのは、あの摩那から貰ったカレー粉である。アリスらが地上から繰り返し突撃したのは味方の援護は勿論、この一撃を届ける為でもあったのだ。
「ぐがっ!」
 残る眼を襲う絶望的な痛みに仰け反る主喰らい。
 隙と見て穴から飛び出すアリス妹に対し、オブリビオンは自らの爪でその顔をずたずたに引き裂いた。
 残る眼すらも。
「匂う、強者の香り!」
(美味しそうな香り!)
 鼻をそぎ眼を裂き、カレー粉を血で洗い流した鬼を前に同じような感想を残すアリス妹。しかし、単独で相手をするには部が悪く。
「ここまでやられてるのに、気が引けるが」
 アリスへ向けられた鬼の腕に、鋼鉄の爪が抉り込む。
「ウチは一度食らい付いた獲物を逃がさねーんだよ!」
 その腕に残る刺噛傷はまるで鮫の食らいついた傷痕のようで。
 狩られるモノが狩るモノを、食い散らす現実を叩き込んでやるとその身を造る鋼が獣の唸り声を上げた。
 ジェリッドの拳が、主喰らいの脇腹に深々と打ち込まれた。厚い肉を抜け、尋常ならざる強度を持つであろう太い骨もへし折れて、ぎっしりと詰まった内臓を裂き潰す。
 【Addict(チュウドクシャ)】となったかのように、呪印を持つオブリビオン目掛けて超重量の乱打がその肉を打つ。
 数多と骨を抜き幾度と臓腑を打ち、それでも止まらぬ連打、右の拳が正面から顔を打ち抜いた。
 渾身の一撃だ。
 笠が弾け、仰け反る巨体が大地へと傾ぐその瞬間に、短くなった猟銃がジェリッドへ向けられる。
 渾身の一撃、打ち抜く瞬間、拳を戻すにかかる隙。この刹那を耐えて待ち望んでいたのだ。
「──こいつ……!」
 好奇心を持った赤鮫は、自分から逃げる者を獲物として認識すると言う。ならば彼は、正しく猟師であった。
 えものではなく戦士として、主喰らいの言葉がジェリッドの脳裏を廻る。
 同時にジェリッドの【演算回路:Cruelty factor】はアドレイドのドローンからの情報を基に猟銃に集う不可思議な力場を確認する。
 回路を総動員した演算能力は瞬間思考力を発揮し、蓄積された膨大な量の破壊エネルギーを感知、その威力を理解した。
 あれだけ腹を打たれても防御しようとしなかったのは、この一撃を放つ右腕を守る為か。
(回避では間に合わん、なら僅かでも弾の進行を遅らせる!)
「討たれろ、戦士よ」
 引かれた引き金。
 主喰らいの腕の筋肉が解けるように巻き上がり、砕けていくのと同時に、弾道に光線の尾を伴い放たれた誇りの一撃は、即座に繰り出した左の拳を粉砕し、同時に身を捻るジェリッドの肩までを吹き飛ばし。
 まるで地上から飛び立つ龍の如きそれが空へと消えて、ジェリッドは胴体までを無事に守りきり、思わぬ隠し球を見せたオブリビオンを内心賞賛する。
 だが既に足は力を失い腹も砕け、頼みの猟銃を握る事も出来ずに、今、地へと倒れ伏そうという体に誰が拳を叩き込めようか。
「……あ……と……ひ、と……か……み……」
 ──それは、戦士の決めた終わりではない。
 左手を背面に地を叩き、体を跳ね起こす主喰らいの乱杭歯がジェリッドへ向けられた。
 何という執念か。それはもう、獣と言えよう。
 だがその歯牙はジェリッドに届く事なく、アストラの放った矢がその頭部を貫いたのだった。
「──かはっ、は……良い、よいな……の、望みは……俺、の……望、み……」
 言葉を溢すも意志は無く。構えた拳を解いて、力なく胸に倒れかかった鬼の体を、ジェリッドは無言で横たわらせた。 


●戦士たちの一息。
「前任者はマヌケでしたが今度の私は完璧だぜ」
 どこぞの反逆者のような台詞と共にメルカバーから降りて来たのは、主喰らいに額を撃ち抜かれたはずのメルティア・サーゲイトだった。
「作戦とは言え、二度とあのような事はごめんですよ」
 摩那は悪びれもなく笑う少女に曇った表情を見せる。ドールユニットであるメルティアは、ゴーレムユニットの本体ではなく付属品なのだ。
 その為、本体であるゴーレムユニットが消失しない限り再生できる。無謀に見えた接近戦も、負ければオブリビオンに大きな隙を晒させる為の囮だったのだ。
「にしても、ナノクラフトバインダーで死体を回収出来なかったから再生が遅れちまったぜ。どこに、って、あ!」
「ギギギ、ギエエェェ! …………、ギチチッ!」
(うーん、すぱいしーな香りー。
 ! ギクーッ!)
 見れば視線の先に、マヌケと呼ばれた前任者メルティアと主喰らいを運ぶアリスたちの姿が。
 両者とも摩那から頂いたカレー粉がふんだんにかけられていた。悪事がばれたようにその巨大を縮こませるアリスに、まあいいかとメルティアは頬を掻いて了承する。
「これもどうぞ」
(やったー)
(ありがとうなのー)
 にこにこと自らの趣味についてこれる同胞へ、真っ赤な調味料を布教するように渡す摩那。
 それを受け取って意気揚々と獲物を運ぶアリスの姿に、ジェリッドは刹那の死線を別ち合った強敵の末路を、何とも言えぬ表情で見送る。
 アドレイドと言えば、メルティアの素材に興味を示したようだ。
(前任者を回収できていないのに再生した、ということは材料が確保されていた?
 それとも)
 転がる腐乱死体へ視線をむけて、これ以上は考えまいと首を振る。
 桜花はその傍らでジェリッドの腕を再生させると、具合を尋ねた。
「ああ、もう大丈夫だ」
 無機物ですら再生させるユーベルコードの力には改めて驚かされる。
「おーっ、向こうから人影がたくさん!」
 遠方を覗いていたアストラが声を張り上げると、集まってくる人の姿が見えた。アリス、桜花には見覚えのある人物もおり、彼らがこの近辺に構えたふたつの拠点の住民だと分かるだろう。
 オブリビオンとの戦闘に気付き、武装してやって来たようだ。すでに件のオブリビオン退治は終えている訳だが、救助にやって来る辺り、トリオ・ザ・ジジィの人望の厚さが伺い知れる。
 ヤパーリ氏が人望あるかは知らん。
「さて。彼らが来るまで、まだ時間がありますし」
 シンフォニックデバイスを取り出す桜花。
 アリスらに運ばれる二人へ歌う鎮魂歌は、聳える壁の頂く輪に、寂しく響いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『アポカリプスで農業を』

POW   :    力仕事を担当する

SPD   :    丁寧な仕事を心掛ける

WIZ   :    技術指導などを行う

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●新たなる明日へ!
 地下から引き揚げられたヨスミ村の村長、チャラポラ博士、そしてヤパーリ氏の三人は、少々弱っているようであったが大きな怪我もなく、彼らを迎えに来た拠点の住民たちは猟兵に感謝の心を表していた。
 武装は農具や調理器具を利用したお粗末な物であったが、それだけ彼らの想いは強かったのだろう。
 宴を催すように、各拠点から食べ物を持ち寄る彼らの祝杯を断る道理もない。
 出てくる品々は質素であるが、住人たちの感謝の気持ちを受け取って欲しい。

・二つの拠点の住民と、この巨大農場を作るためにノイローゼになりながらも尽力した労働者たちが皆さんと生き残った爺さんたちを祝福してくれます。
・労働者たちはすぐに農場の修復に向かうので、彼らに新たな技術を教えたり、他拠点の面々に料理や狩り、戦いの技術を教えるのも良いでしょう。
・飼料になりそうな腐肉が一杯です!
・翌日にはチャラポラ博士による実験施設の起動が行われます。今の内にヤパーリ氏を追い出してしまうか、それとも脅して利用するかは猟兵次第です。
アリス・ラーヴァ
アドリブ・連携歓迎

わーい、ごはんなのー
美味しくて器ごと食べれちゃうわー
さて、ごはんを貰ってばかりだと悪いし、この世界で農業を営んでいる妹達と一緒にアリスもお手伝いするのー
まずは飼料の腐肉を幼い妹達に与えて代わりに【パワーフード(粒状)】(肥料)を生成してー
荒れた畑を自慢の前肢でザクザク耕し肥料を漉き込んでー
畑が整ったら幼い妹達が播種してしゅーりょー
これでもとどーりー!
あとはおトイレ様の起動実験を待つだけねー
ヤパーリさんはやっぱり怪しいけど、密かに幼虫達が憑いているし悪い事したらカレーになるからへーきへーき
アリスはヤパーリさんの事を信じているのよー(赤い調味料を片手に)



●まずはごはんだ、飯を食え!
「オトモダチ、よくぞご無事で!」
『ひゃっほーっ!』
 現れた継ぎ接ぎだらけの多脚戦車。元気にサブアームを振るそれの背に、よれたシャツを着込んだホワイトカラーやヒャッハーな連中が村長ジジイの生還を喜んでいる。
 このジジイ人望あるやんけ。
「博士、良かったぁ。うちの家直す前に死なないでくれよ!」
「ちうかとっとと無線機直してくれよい」
「お前ら、あれを見て出る言葉がそれかい」
 別の方角からやって来た面々は自前と思わしき戦闘服を着込み、ヨスミ村の村長たちよりは文明的と言える。
 駆けつけたとうことは何だかんだで博士が心配だったのだろう、このジジイも人望あるな。
「ヤパーリ氏ぃーっ!」
「……お、お前たち……!」
 ヤパーリ氏の前にも現れた労働者の皆様。おいおい、このジジイも人望あるとか嘘だろ。
「良かった、無事だぜ!」
「いや~、給料代わりの物資もらう前におっちんじゃ堪んねっつの!」
「丸々太った奴がわざわざ危険な場所に行ってんじゃねえよ、脂ハゲ」
 辛辣ぅ!
 さすがのヤパーリ氏も頰肉をぷるぷると震わせて、くるりと背後を向く。
「お前たち。随分と半端な仕事をしてくれましたねぇ?」
「はぁ?」
 見なさい、と崩れた壁に囲われた巨大農場を指す。崩れた瓦礫や進撃した歩行戦車により多少なりとも被害は出ており、なぜ、事前に防げるように作らなかったのかと語気を荒げる。
「私の顔にどろを塗る行為ですよ、これは!
 こんな仕事では、報酬なんて渡せませんねぇ!」
「何だと!? ふざけんじゃねえぞ!」
 掴みかかる労働者その一。いいぞ、やっちまえ。
 しかしヤパーリ氏、余裕綽々の笑みを浮かべ、唐突にくわと両目を見開いた。精悍な体つきの男の腕力を相手に、あっさりと力で引き剥がしてしまった。
 やるやん?
「何を勘違いしているのー。まだ仕事をあげたいというお話をしているのよ~」
「はぁん!?」
「…………、何か口調がオネエっぽくない?」
 ひそひそと話す部下を尻目に、急なオネエ言葉発生者となったヤパーリ、目を開ききった氏は大袈裟な手振りでぱたぱたとボディランゲージを始めた。
「皆でお食事したら、畑を直すのよー。そうしたら、報酬を倍にするわー。もちろん、他の村の人たちも参加自由よー!」
「マジでっ!?」
「うっひょお~! にゃんこのカリカリ二年分だーっ!」
 ワガママにゃんこもこれにはにっこり。
 他にも『娘からのかたたたたき券』などの心暖まるヒューマンドラマ的な報酬二倍にである。
 しかし、報酬を出す当の本人は。
「うべあっ。はあ、はあ、はあ! ……く、口が勝手に……!?
 お前たち今のは──、ぐももっ!」
 開いた口が勝手に閉じて、慌てふためくヤパーリ氏。
 その顎には、否、その他諸々には氏の肌の色に擬態する芋虫のような姿の存在があった。
 新手のオブリビオンと勘違いする方もいようか、そんな事はない。
「ギチチッ」
(さあ、みんな早くごはんの準備なのー)
「さあ、みんな早くごはんの準備なのー!」
 操り人形となった哀れな脂ハゲに注がれる視線。アリス・ラーヴァ(狂科学者の愛娘『貪食群体』・f24787)により、彼女の幼き妹たちがヤパーリ氏へと取り憑きその身を操っているのだ。
 さすがにその一生を破壊するつもりはないし、何か悪いことをしようとすればそれを止めたいというだけの話だ。
 そこはやはり猟兵。決して悪用するはずがない。
「ギエエエエエエッ! カチッ、カチッ!」
(わーい、ごはんなのー!)
 アリス・イン・ヤパーリ氏の言葉に食事の準備を進める人々へ、アリスは嬉しそうに走り出した。
 …………。
 彼女とてまだまだ育ち盛り、私情もあろうが皆のごはんタイムぐらい悪用には入らんさ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アストラ・テレスコープ
アポカリプスヘル流の祝杯!楽しみ!
よーしじゃあキャンプファイヤーしよう!キャンプファイヤー!
みんなが持ち寄った賞味期限が切れてそうな食べ物でも火を通して食べればたぶん大丈夫!
よく燃える腐乱死体(ねんりょう)ならたくさんあるし、
集めてきてロケット噴射でじゃんじゃん燃やすよ!

実験施設の起動は高いところまで飛んでベストポジションから見学しよっと!


バン・クロスハート(サポート)
【日常……えっと、和みます!】
日常の活動もも積極的に行動します!
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動は致しません。

・食事で好き嫌いはありません!
あ、でもバフがかかったりすると嬉しいですね!
「これは何がステータスアップするんですか?」
……あ!ごめんなさい、嘘つきました。
甘い物は好きです!

・何か仕事があれば手伝いますよ!
運搬や組み立てなど力仕事なら任せてください!
「僕も手伝います!」
「これは何に使うんです?」

・他の猟兵さんや依頼主にも積極的に話しかけます
「貴方も一緒にどうですか?」
「一人でやるより皆でやるほうが楽しいです」


佐那・千之助(サポート)
「手が要るか?」
入り用ならば、なんなりと。

ダークセイヴァー出身のダンピール
困った人を放っておけない
いつも人への敬意と好意を以て接する
よく言えばお人好し。たまに騙されていることは秘密。
可愛い動物や甘いものに懐柔されやすい

戦闘は前衛、盾役向き。治療も可能。
焔(他の属性は使えない)を黒剣に宿し斬り込んだり、遠くの敵でも焔を飛ばして燃やしたり。
負傷は吸血や生命力吸収で持ち堪える

平和主義なので戦わずに済む敵なら平和的解決
かわいい敵は抱いてもふりたい
想い人がいるので色仕掛けは効かない

物語に合わせて諸々お気軽に、どうぞご自由に。
よき手助けができれば嬉しいです。


黒木・摩那
ひと仕事した後で食べるご飯はうまいですね!
せっかく出していただいたものですから、十分に味合わせていただきます。

腐肉は元は人間ですから、肥料にしかなりそうにありませんね。

さて、ここで見ものと言えば、実験施設です。
そもそも無事に起動できるのか、果たして実験は成功するのか、
興味津々です。
起動と共に爆発、だけは勘弁です。
せっかくここまで大きくした農場ですからね。

スマートグラスで実験を監視します。
爆発する兆候があったら、UC【胡蝶天翔】で爆発するところを黒蝶に変換して、被害を最小限に押さえます。



●祝杯の準備を始めよう。
「お昼やろか?」
 思わず訛らせた言葉を落とした口を押さえて、佐那・千之助(火輪・f00454)は遠くから響く楽しげな声に、千之助は顔を上げた。
 夜に溶け込む黒い着物は太陽の下にぽつりと目立ち、陽光と同じ橙色の髪が黄金の稲穂と共に風で揺れる。
 彼の言葉を聞いて同じく顔を上げたのはバン・クロスハート(一×十Χのガーディアン・f23853)。こちらは陽の光を目映く照り返す白髪と一房の緑色が目を引く少年だ。
「僕たちも行きましょうか」
「そうじゃのう」
 バンの言葉に頷いて、共に手に持つ農具を畑の外へ置く。
 彼らは今回の戦いに直接の関わりを持っていないが、その影響で破損が起きていないか、チャラポラ・ンン博士の研究施設を見て回っていたのだ。
 戦いが外に移動してからは人知れず畑の修繕を行っていたが、気づけばこの時間、飯を食べるに腹の頃合いも丁度良い。
 二人が畑の外へ向かえば入れ替わるように小人の集団が畑に向かっていく。それぞれが農具を持ち、陽気な雰囲気で行進する様を見れば猟兵の手の者と見て相違ないだろう。
 交代要員によろしくとばかりバンは手を振った。 
 巨大農場の外には一台の【ケータリング用キャンピングカー】が停まっていた。桜色の車体は全ての扉を開き、中では御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)が忙しなく動いていた。
「おいでおいで、土小人。私の手助けをしておくれ。代わりに石をあげましょう。
 ざらざら渡す石ビーズ、その分手助けをしておくれ」
 さらりとその手から落とすのは、農場から掘り出した石だ。ユーベルコード、【ノームの召喚】。地面から現れた十人の小人たちはそれを受け取り、陽気に鼻唄を歌いながら桜花の手伝いをと鍋に皿を手早く並べた。
 先程の小人たちも桜花の手に寄るものだろう。
 用意した寸胴鍋に小人たちと分担して材料を入れ、あるいは切り分けている。
「味噌味のすいとんを作りましょう。人は沢山いますから、じゃんじゃんいきますよ」
「お手伝いしますよ」
 住民たちの持ってきた机や椅子を広げて、黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)は笑う。
 さすがはアポカリプスヘルと言うべきか、使える物を利用した家具に統一感はない。その為、足の高い机には摩那が小人から皿を受け取り並べていく。
 椅子や机の間をちょこまかと走る小人たちを見て、腕を組み珍しく困った様子で唸るのはアストラ・テレスコープ(夢望む天体望遠鏡・f27241)だ。
「私たちはどうしようか?」
 隣で鍋をヘルメット代わりに被る子供へ目を落とす。悩む二人に気付いた摩那は可愛らしい姿に再び笑って、せっかくならご飯の準備をと声をかけた。
「……ご飯……よーし、じゃあキャンプファイヤーしよう! キャンプファイヤー!
 みんなが持ち寄った賞味期限が切れてそうな食べ物でも、火を通して食べればたぶん大丈夫!」
 本当?
 疑わしい目を見せた子供に、任せなさいと胸を張るアストラお姉さん。
「よく燃える『腐乱死体(ねんりょう)』ならたくさんあるし、直ぐに取りかかろう!」
「おー!」
「えっ、えぇ~」
 直火には使いたくないキャンプファイヤーだと摩那。
 鍋ヘルメットは他の子供たちにも声をかけ、スコップでばらばらになったゾンビらの腐肉を集めていく。こんな所にも慣れてしまっているのが、実にアポカリプスヘルらしい。
「手が要るか?」
「あ、僕も手伝いますよ!」
 そこへ合流した千之助とバンが声をかければ、ならばよろしくとばかり子供たちがスコップとバケツを渡す。その異臭にバンの頰が僅かにひきつったが、自分たちより幼い子供が率先して動いているのだ、手を止めるような事を彼はしない。
 千之助も衣服が汚れないようにと袖や裾をたくしあげて紐で縛り、直ぐにキャンプファイヤーが出来るようにと動き始める。
 流石にそのまま燃やしてしまえば異臭が出て楽しいお昼が大惨事だ。ここの住民は慣れているかも知れないが、折角なら少しでも快適に過ごして欲しい
 アストラは風の方向を確認して川下に腐肉を下ろさせて、千之助と共に歩行戦車の装甲でバリケードを経てる。
 バンは子供たちと腐肉の周りに石を並べた。着々と進むキャンプファイヤー点火を前に、アストラは腰のミニロケットの様子を確認した。
「アポカリプスヘル流の祝杯! 楽しみ!」
 キャンプファイヤーを取り囲む住民たちの笑顔を夢想して、少女もまた笑顔を見せた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

メルティア・サーゲイト
 まァ、何企んでたかは知らンが技術自体は有益なモンだろ? だからちょっとお手伝いをね……キャノンでふっ飛ばしはしねェよ。
 アポヘルには物資の持ち込み制限がある。だが、データの持ち込み制限は無い。そして、私はデータと時間があれば何でも作れる。ま、一度解体した事がある物に限られるが、事前にSSWで使えそうなパーツのデータを頂いてるンでな。宇宙じゃ空気も水も自分で作らにゃならんのだからもっとハードな環境を想定した機材も山ほどある。
「使えるモンは何でも使えばいいぜ。ヒトでもモノでもな」


アドレイド・イグルフ
ジェリッド(f26931)と

ジェリッドはワタシと一緒で根に持つヤツだ。近づくと絶対盾にした事を理由に突っかかるだろう
遠巻きに見ても腕に問題は無さそうだし、もうヤツのお守りはしなくていいよな? ……ヨオシ!! ワタシは自由だ! カレー作ろう!!
喫茶店で積んだ料理経験が活かされる時が来たな……?

そうだヤパーリ氏。先程の素晴らしい理想ってヤツの続きを聞かせてはくれないだろうか
ワタシはキミを試しているわけじゃあない。信じているんだ。キミにはヒトを見る目がある……その熱意は未来をより良くする事だってできるんだ
仲良くしようじゃないか……ヒモジイのは嫌だろう。食べる喜びと労働の喜びを共に味わい、健康になろう


ジェリッド・パティ
アドレイド(f19117)と

……損傷箇所に異常は検知されず。変形後も左腕部には違和感なし。……ふむ。改めまして、治療支援ありがとうございました
博士方も避難へのご協力を感謝します。……先ほどとは態度が違う、ですか。おとなしく言いつけを守る方にはウチは敬意を表しますよ。年上でもあるし

ヤパーリ? 言う事聞かないならスクラップにして再利用すればいいだろ
ああ、そういやアイツも人狩りだっけか。……フン、強者を騙る愚か者めが

それで、修繕作業に当たりたいのですが。あの施設は熱量に耐えきれない素材・構造をしているらしいですね。最低でも誤って暴発が起きないように、機能強化改修の手伝いができればと思います



●食べるにも待ち切れぬ至福の時!
 残骸の影から顔を出し、きょろきょろと辺りを伺う麗人の姿。アドレイド・イグルフ(ファサネイトシンフォニックアーチャー・f19117)である。
 やがて止まる視線の先にはジェリッド・パティ(red Shark!!・f26931)の姿がある。こちらは戦闘中と違い人の姿となっていた。黄色の装甲は消え、青い髪は大人しくサイドでまとめている。
 左腕を回し、手を握り、開きと各部の動作を確認しているようだ。
「…………、損傷箇所に異常は検知されず。変形後も左腕部には違和感なし」
 ふむ、と小さく頷いてジェリッドは鍋を優しくかき混ぜる桜花へ顔を向けた。
「改めまして、治療支援ありがとうございました」
「当然の事です。それにジェリッドさんが前衛をしてくれたからこそ、あのオブリビオンの最期の一撃を凌げたんですから」
「……最期、ですか……」
 微笑む桜花。ジェリッドもそれに応えて曖昧な笑みを見せたが、あれを最期にするつもりもなかった主喰らいの闘争本能、或いは戦士としての志を間近で受けた彼からすると思う所もあったようだ。
 その様子を察した桜花はおたまで鍋の汁をすくい、小皿に入れてジェリッドへ手渡した。
「どうぞ」
「…………、頂きます」
 流石に断るのは失礼だと考えたのか素直に受け取るジェリッド。味噌による深いコクと喉元を駆ける味わいは、常人であれば思わず唸りたくなる味の濃さである。
 それもこの荒れ果てた荒野と厳しい日照りに負けないようにという、彼女の心遣いが表れていた。それを感じ取れた彼にも人としての情があるのだろう。
 ジェリッドは幾分かすっきりとした顔で小皿を返し、続いて我先にと摩那らの並べた机に座るジジイらへと向かう。
「博士方も避難へのご協力を感謝します」
「あ、その、はい」
「へ、へへっ」
「はいな。しかしお前さん、随分と様子、態度が違うなぁ」
 態度が違う、ですか。ジェリッドの言葉に頷く博士。対してジジィ二人はぎこちない愛想笑いを浮かべていた。
「おとなしく言いつけを守る方にはウチは敬意を表しますよ。年上でもあるし」
 肩を竦める。戦闘後、年上と気付いていなかった桜花に改めてお礼を言いに向かったのは敬意を示したからだ。
「ほーう。所でヤパーリ氏は実験結果をどこぞに売るつもりの、産業スパイみたいな奴だがどう思う?」
「ちょ、あなた、何でそういうこと言っちゃう!?」
 チャラポラ博士に掴みかかるヤパーリ氏。博士が恨む理由は十分あるんだよね。興奮気味のお爺さんだが氷の刃を思わせるジェリッドの視線に動きを止めた。
 ジェリッドの言葉、裏を返せばそれ以外に敬意を示す必要はないと言うこと。
「ヤパーリ? 言う事を聞かないならスクラップにして再利用すればいいだろ」
「ぴえっ」
 そう言えばこの男も人狩りだったかと、ジェリッドは鼻で晒い強者を騙る愚者を見下ろす。
 そこには獰猛な肉食獣の如き瞳の輝きがあり、照らされたヤパーリはただ背を丸めて縮こまるしかなかった。
 その一連の流れを盗み見ていたアドレイドは、ひっそりと溜め息を吐く。
(ジェリッドはワタシと一緒で根に持つヤツだ。近づくと絶対、盾にした事を理由に突っかかるだろう)
 などと遠巻きにしつつも腕に問題は無さそうだと安堵する辺り、彼を邪険している訳でも無さそうだ。
「……もうヤツのお守りはしなくていいよな……? ヨオシ!! ワタシは自由だ! カレー作ろう!!」
 叫ぶ言葉はしっかりジェリッドにも届いているが、カレーを前に魂の衝動が抑えられないのは生物の本能として致し方ない所だ。カレー万歳。
 活かされる時が来たのだ。喫茶店で積んだ料理経験を。
「すまないが、ワタシにも鍋を貸して貰えないか?」
「どうぞどうぞ。少し使い辛いかも知れませんが、奥にある鍋とコンロが空いてますよ」
「いやあ、助かるよ」
 お礼を言いつつキッチンへ。カレーと言えば一にも二にもまずはルー。始めから作るもレトルトを用意するも手さえ加えれば逸品へと早変わりするものだが。
 はてさて、どうするかと腕を組めば、何も言わずに摩那が包みを渡す。中身は赤一色だが香りからカレーとすぐに分かる代物だ。
『…………!』
 何も言わずに親指を立てた摩那に、こちらも親指を立てて応えるアドレイド。
 カレーの包容力にも限度があることを知らないのかね?
 キャンピングカー内部で一級危険物質の精製が行われているなど知る由も無く、メルティア・サーゲイト(人形と鉄巨人のトリガーハッピー・f03470)は大根を剣や銃に見立てて遊ぶ子供たちを見つめていた。
 実に平和な光景であるが、子供たちの持つ野菜は心なしか、否、確実に段々と細くなっている。
「ん~?」
 目を凝らすでもなく、ゴーレムユニットからの情報を解析すればそれぞれ野菜の保護色に擬態したアリスの妹たちがまとわりついているようだ。
 大方、置いてあった野菜をつまみ食いしていると子供たちが悪戯を始めた、といった所だろう。
 それでも気にせずつまみ食いを続行しているのは流石と言うべきか。というかもうつまみ食いじゃないな。
「おいこらガキども、食べ物は遊び道具じゃないんだぞ」
「えー」
「はーい」
 メルティアの言葉に渋々ながら頷いて、野菜を彼女へ渡す子供たち。メルティアは受け取った野菜を今尚ぱくぱくしている幼虫たちに溜め息を吐く。
「お前らどこから沸いてきたんだっ、と」
(きゅっ)
(きゅっ)
 指で弾いて地面に落とせば、慌ててそこへ潜り込む。
 と、間髪入れずにアリスの妹、こちらは成虫が現れ地面ごと削り幼虫を回収する。
(もー、こっちに来なさいって言ったでしょ~)
 前肢に捕らえ、足りなければ鋏角で器用に咥えて運び去る後ろ姿。共食いするのではなかろうかとあらぬ心配を払拭し、食べ掛け野菜をキャンピングカーへ持っていけば、見覚えのある歯形に犯人の見当をつけた桜花がしようがないなと苦笑した。
「折角だからな、とびきり美味いのを頼むぜ」
「お任せを」
 笑う二人より離れて、大きな火柱が上がる。
「キャンプファイヤー!!」
「なにしてはりますのん!?」
「ちょ、え、これ、大丈夫なの!?」
 飛び上がるアストラと、その様子に慌てる千之助とバン。
 集めた腐肉を少女のミニロケットで一気に点火したようだ。あそこに飯盒を入れてこれから米を炊く訳で、二人の慌てようも理解できるというもの。
 それを見たメルティアの一言。
「火力が足りねえなぁ」
 この娘、理解してないっすよ!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
UC「ノームの召喚」
ケータリングカーの中で味噌味すいとんを寸胴鍋で何個も調理し皆に振る舞う
ノームは調理に10人
残りは畑担当
畑では土に空気をすき混んで全面がふかふかになるまでひたすら掘り返しからの畔作りをお願いする

食後村長ズには味噌粉末を蓋付きの甕でヤパーリ氏には小瓶で渡し拠点迄送る
「此処では料理する素材もあまりありませんけど…塩味ばかりでは寂しいでしょう?濡らさず冷暗所で保管すればそれなりに保ちますから。村で使って下さい」

「ヤパーリさん。貴方の望みは貴方だけのものだから。私は其れを、尊重したい。それでも、其れが他者とぶつかり合えば、叩き潰される可能性もあるのだと…其れだけは忘れないで下さいね」



●腹が減ったら食べるんだよ!
『えー、本日はお日柄も大変よろしく、ただ悪臭の酷いことこの上ない襲撃の日を無事に生き延びる事ができまして──』
 遅めの昼食。
 双方の拠点や労働者、果ては猟兵たちの集まる場にチャラポラ博士は桜花から借りたシンフォニックデバイスで声を張り上げた。
「ギチチッ、ギイイエエエエエッ!」
(わーい、ごはんなのー。美味しくて器ごと食べれちゃうわー)
「ママー、あのお姉ちゃんお皿ごと食べてるよー」
「シッ! 見ちゃいけません!」
『…………、えー皆さん待ちきれない所でしょうから、今回、こちら桜花さん、アドレイドさん、アストラさんにバンさんと千之助さんの調理したお食事を食べて精をつけて頂きましょう。
 いただきまーす!』
『いっただきまーすっ!!』
 やんややんや
 机に並べられた味噌すいとんをすすり、ゾンビングファイヤーで炊かれた白米に舌鼓を打つ。
 ふわりと漂う和の香りにしっかりとした味付け。また柔らかくなるまで煮込まれた具材は口の中でほどけるようで、この荒野でこれほどの味は滅多にお目にかけれない。
 住民たちの味を褒め称える勝負がそこかしこの席で勃発するほどだ。
「私たちまで紹介してもらって良かったのかえ?」
「そうですよ、大した事してないですし。
 …………、所でこれは何がステータスアップするんですか?」
 強いて言えばやる気と耐寒能力かな?
 やれやれと席に着く博士に申し訳なさそうな千之助、バンの両名。博士は別に構わんさとけろりとした様子だ。
 実際、米の番は大事だもんね。赤子泣くとも蓋取るな。
「博士は挨拶慣れてるみたいだね!」
「ふっふっふ、これでも若い頃は主演男優賞から皆勤賞まで総なめした挨拶のスペシャリストよ。こんなのお手のもんさ」
 すげえ。凄いのに科学者一切関係ねえ。
 得意気な博士に素直に感心するアストラと、水をさせずに曖昧な笑みを浮かべた千之助とバン。彼ら四人の前に、軽く挨拶をしてから前に座ったのはジェリッドである。
「チャラポラ博士、例の実験施設の修繕作業に当たりたいのですが」
「トイレットの?」
「──トイレッ……、ええ、まあ」
 くっだらねぇネーミングセンスに某かの言葉が喉元まで上がったようだがしっかり押さえたウォーマシン。偉い。
「修繕については大丈夫じゃ。私、千之助とこちらのバンさんとで担当した」
「バンです、よろしくお願いします」
 二人の言葉になるほどと頷く。同じ猟兵と見抜けばその信頼性は高いのだ。一部例外はあるが。
「それなら、あの施設は」
「トイレットな?」
 このジジイなんでそのネーミングに自信あんの?
 ジェリッドさん頬がひきつってますよ。
「…………、トイレット、は、熱量に耐えきれない素材、構造をしていると聞いています」
 話を進める為にきっちりとスルーしてジェリッド。最低でも誤って暴発が起きないようにと、機能強化や改修の手伝いを進み出る。
 チャラポラ博士としては願ってもない申し出だったようで、よしよしと深く頷いた。
「あっ、起動してる所、よーく見せてね!」
「はっははは、もちろん! 歴史の生き証人にしてやろう!」
 死に証人はヤだよ?
 無邪気なアストラの言葉に博士も上機嫌だが、犠牲者が増えないようジェリッドさんには頑張って頂きたい。
 一方で飛ぶようにおかわりされていくすいとん鍋と、見た目は普通にも関わらず何故かアリスとその妹と摩那以外に誰も手を出さないカレーがあった。
「【ギチギチギチ! ガチガチガチ!】」
(みんな~ごはんだよ~)
 司令塔であるアリスの合図を受けて、何処からともなく、まあ地面からひょこひょこと顔を出す妹たち。どんどん増えますねぇ!
「ひと仕事した後で食べるご飯はうまいですね!」
 目を輝かせて湯気立つカレーをぱくり。舌から血が吹き出る程にを突き刺さる刺激に摩那は頬を抑えて幸せそうに笑う。
 これリアクション合ってる?
 やはりと言うべきかこのカレー、摩那氏おすすめの戦術用ルーが投下されただけあり常人に御せる代物ではないらしい。
 スプーンにすくえばぷるりと震える程の弾力があり、このとろみを越えたぷるりが香りを抑えていたのだ。
 とんでもない即死級トラップ。しかし絶望の大地を生き抜いた人々の危機回避能力はそれとなく罠を看破したようだ。やったぜ。
「せっかく出していただいたものですから、十分に味合わせていただきます」
「ああ、じゃんじゃんいってくれ! と」
 アドレイドがちらりと見るのはヤパーリ氏の姿。先のジェリッドにすっかり萎縮してしまい、鍋も受け取りに来ていない。
 アドレイドはその様子を把握したとばかりのしたり顔でカレーを皿に、おい危険物を老人に近づけるな。
「どうしたんだいヤパーリ氏、まだ何も食べてないじゃないか」
「え、ええ。まあ」
 氏の隣に腰をかけ、優しい笑みを見せる死神。お爺ちゃん頑張って。
「そうだ! 先程の素晴らしい理想ってヤツの続きを聞かせてはくれないだろうか」
「……そ、それは……」
「なぁに、ワタシはキミを試しているわけじゃあない。信じているんだ。キミにはヒトを見る目がある……その熱意は未来をより良くする事だってできるんだ」
「……ああ、奪還者様……!
 わ、私はっ、ただこの技術を世界に広める事で支持を集め力を、もとい物資を独り占め、えっとまたももとい!
 物資を集めて皆様に配布し、技術を根付かせ利益を還元しようと、そう考えていたのです!」
 優しい言葉に涙を見せる。年を取ると涙脆くなるというが、こいつどうせ嘘泣きだろうからカレーぶちこんでやろうぜ。
 しくしくと泣くハゲチャビンをよしよしと撫でて、アドレイド。
「……ならばいがみ合う必要ねんてない、仲良くしようじゃないか……さ、ヒモジイのは嫌だろう。食べる喜びと労働の喜びを共に味わい、健康になろう」
「えっ」
 くいと親指を向けた先は壊れた外壁、もといアリスの別荘に囲まれた巨大農場。
 曖昧な笑みを浮かべるヤパーリ氏。そして迫るスプーン上のぷるん。
 目に見えた地雷を顔面に投げつけられた氏の最期、尊い犠牲に周りの者はただ黙して食事を進めたという。
「……はて……何だか空気が重いような?」
(おかわりなのー!)
(おかわり~!)
「負けるかー!」
「おかわりっ!」
 青空レストランの空気の切り替わりに気付いた桜花であったが、次々とやってくるアリス妹たちと競争するように走る幼い住民たちへの配膳ですぐに忘れてしまった。


●みんな、ワークしようぜっ!
 一人の老人が犠牲となることで平和に終わった昼食からしばし。
 腹も落ち着いた所で巨大農場へ向かう人々と入れ替わりに戻ってきたのは元気はつらつ、いい汗を流したと朗らかな小人たちだ。
「おお、殆ど掘り返しが終わってるじゃねえか!」
「爆発した機械の破片なんかも掘り出されてるし、大分楽が出来るな」
「ありがとよチビ助、後は任せてくれ!」
 人の役に立てるのは彼らにとっても幸いだ。
 住民たちが昼飯を食べている間、ひたすら土に空気をすき混むよう全面を掘り返しふかふかにした小人たち。
 必要以上に作物が密接して作業や育成の邪魔、更には防疫の為にと畑を区切る畔まで作られている。
「ご苦労様でした。…………、こらっ!」
(きゃーっ)
 しっかり温めておいたすいとん鍋で彼らを迎えた桜花は、獲物を見る目付きのアリス妹に声を上げる。
 アリス妹は慌てて畑に向かい、他の群体と合流した。
「アリス、これが残りの燃料だけど、どうするの?」
「ギチチッ!」
(こうするのよー)
 アストラに導かれて燃料、もとい死体の山にたどり着いたアリス。彼女に引き連られた何匹かは、口やら前肢やらに乗せた幼い妹たちを死体の山に乗せる。というかぽいぽい投げ入れる。
 この子たち基本雑だよね。
「ギィイィイ、ギチギチ! ギチッ」
(ごはんを貰ってばかりだと悪いし、この世界で農業を営んでいる妹たちと一緒に、アリスも農業のお手伝いするのー)
 首元にタオルを巻いて頭に麦わら帽子とか手に鍬とか持ってるアリスを創造した方は気を引き締めて貰いたい。
「ギギッ、ギエエエエエエエッ! ギイイイイイイイッ!」
(さあ、行くのよー!)
(はーい!)
 アリスの号令の下、猛ダッシュで畑に突っ込んでいくアリス妹軍団。走りながら前足でやわらかく掘り返された土から不要な石や装甲の破片をブルドーザーかタイヤショベルかという勢いで弾き出す。
「おっほ、こりゃすげえ!」
「ワシら必要なくね?」
 思わず本音を漏らしたスーパーアドバイザー・ヨスミの村長の独り言を置き去りに、次々と整備を終えていくアリスたち。
 一方、頭上ではジェリッドが千之助、バンと手分けつつレールの補強と歩行戦車の残骸から回収したエンジンの増設を行っている。
 それを下から見上げるチャラポラ博士はその手際の良さに、是非とも助手に欲しいなどとほざいている。
 その隣に現れたメルティアは博士と同じ視点でトイレットを見上げた。名前は下らないし理論はともかく仕組みも原始的であるが、それでも壮大な代物だ。
「おお、戦車乗りの猟兵嬢ちゃんか。どーしたぃ?」
「ヤパーリの奴が何企んでたかは知らンが、まァ、技術自体は有益なモンだろ? だからちょっとお手伝いをね」
 なぁに、キャノンでふっ飛ばしはしねェよと続ける少女。そんな事言いながら専用装備に切り替えたゴーレムユニットで高台から狙撃して来ないだろうな。
 冗談はさておきこのアポカリプスヘルには、別世界からの物資の持ち込み制限がある。黒い竜巻、オブリビオンストームを誘発してしまうからだ。
 だが、物質として世界に干渉し得ないデータの持ち込み制限は無い。そして、メルティアにはデータと時間があれば何でも作れるという機能があるのだ。
 【MODE CRAFTAR(モードクラフター)】。作れるのは銃やパーツだけじゃないと嘯く彼女の言葉通り、ドールユニットであるメルティア自身もこの能力で制作している。
「ま、一度解体した事がある物に限られるが、事前にスペースシップワールドで使えそうなパーツのデータを頂いてるンでな。
 宇宙じゃ空気も水も自分で作らにゃならんのだからもっとハードな環境を想定した機材も山ほどある」
「ほう。そんなら、耐熱性が高くて気密性も高いゴムみてーな素材ってないかい?
 排熱弁を作りたいんだが、熱に耐える資材じゃ固くて開閉部の気密性を保護するのに向かんのよ」
 目を丸くする博士にお安いご用だとメルティア。ついでに部品として制作すべくその他の加工図を受け取り、離れた場所に置いたゴーレムユニット・メルカバーへ向かう。
「使えるモンは何でも使えばいいぜ。ヒトでもモノでもな」
 肩越しに手を振るメルティアへよろしくとこちらも手を振り、小さな溜め息を吐いて施設を鋭い目で見上げる。
「無論、そのつもりだ。これ以上の時間なんぞないからな」

(鬼はー、食べる!)
(種は畑~!)
 畑の整備、そして実験施設の補強が済んだ頃。とある拠点で畑より産まれ畑と共に育った畑スペシャリスト・アリスによる【パワーフード(粒状)】の散布と幼い妹たちによる播種が行われていた。
 陽の傾いた矢先、西日が強くなる中でもその存在感を示して発光するパワーフードは栄養価グンバツの肥料となる。制作方法は腐肉の山に幼いアリス妹を撒くだけ。詳細を聞いてはいけない。
「やーれやれ、思いの外に早く終わったのう」
「ああ。これなら、すぐにも施設を起動できるな」
 猟兵らの協力により実用時期を早められたことに笑みを溢すチャラポラ博士。
「ま、やるには危険。一旦待避するぞ」
 畑に潜り込んでいたアリス妹らも回収し、先程の昼食を食べていた辺りまで避難する。
 これから稼働するという巨大な実験設備にわくわくと期待の目を向ける者がいる中で、不安の目を向ける者もいた。
 この事件での見ものと言えば、やはりこの巨大な実験施設。そも、無事に起動するのか、実験は果たして成功するのか。
 不安に思う彼らの気持ちが分かる摩那としては、興味津々でありながらも危機管理に余念はない。
(起動と共に爆発、だけは勘弁です。せっかくここまで大きくした農場ですからね)
 鎮座する黄金の波を遠巻きに、スマートグラスで実験施設を観察する。
 もしも爆発の兆候があれば彼女のユーベルコード、【胡蝶天翔(パピヨン・ノワール)】を始動するつもりのようだ。
 自らを中心とする範囲内の指定無機物を黒蝶へと変換する力。これで爆発する前に変換して、被害を最小限に押さえようというのだろう。
 その為には近づかなければならず、多少の傷は覚悟の上、といったところか。
 そこは同じ猟兵の力を借りた自称天才のチャラポラ博士を信じるしかあるまい。
「──、はっ!? ……ほ、ほほは……わはひはひったひ、どーしたんは……」
 日本語喋れよ脂ハゲ。
 むくりと起き上がり無事、現世にリボーンしたヤパーリ氏。無事じゃねーや唇がさつまいもみたいになってるもん。
 いまいち状況が掴めていない氏を後ろから熱い視線で見つめるのはアドレイドではなくアリスである。
「ギチッギチッギチッ」
(ヤパーリさんはやっぱり怪しいけど、密かに幼虫達が憑いているし。
 悪い事したらカレーになるからへーきへーき)
 カレーがお気に召したようで大変結構。ハイル・カレー。
 ヤパーリさんを信じていると摩那より引き取った赤い調味料を前肢に持つアリス。君の信じてるってそっち?
 さすがにお子さまもいる中でのショッキング映像は止めてもらいたいものである。ヤパーリ氏はすでに自分が食物連鎖の頂点から転げ落ちている事を自覚してもらいたいね。
 各々が各々の考えと共に行動する中、一人空高く実験施設を見下ろしているのはアストラだ。
 ミニロケットから推進剤を小刻みに噴射し上手く滞空している。
「よーし、ベスポジ!」
 下方に広がる施設を四角に象った両手に収めて笑う。
 総員の避難を確認してチャラポラ博士は千之助とバン、そしてジェリッドを今回限りと助手代わりに場外へ設置した制御盤に立たせた。
 桜花が小人らとともにポップコーンを配れば、さながら気分は映画館だ。
「では始めよう。一番連結、初期配置のエンジンを起動したまえ」
「了解です!」
 チャラポラ博士の指令にバンが電源を入れると、レール下部に配置された動力炉が起動、軋んだ音を立ててレールに合わせて走り始めた。
 徐々に速度を上げて十分安定した事を確認して、お次はと千之助に二番連結、新たに増設した動力炉を起動させる。
「……おお……これはまた……凄いんやんか……」
 こちらはレールを巻き取る螺旋の動きで一番連結と同じ方向に流れて行く。
 それぞれが別ベクトルの磁力による力場を発生させる。速度を上げた装置から風が生まれ稲穂を揺らす中、遂にチャラポラ博士がジェリッドへ顔を向ける。
「それでは行くぞ。メインエンジン・スタート!」
「スタート!」
 復唱し、レールを支えるように中心部から四分割する四本の配管を伸ばした動力炉が起動、低い唸り声を上げると同時に管が揺れる。
「カウントダウン開始! 五、四──」
 緊張の瞬間。
 巨大実験施設を皆が固唾を飲んで見守る。
「──三、二、一。
 四方隔壁解放。エネルギー、レール内充足開始! 各員、電源遮断!」
「は?」
 止めるの早すぎるぞジジイ。
 ポップコーンを胸元に見つめていたアドレイドが頓狂な声を上げると同時、確かに電源が落とされ各種エンジンの動きは止まる。が、レールの揺れは激しさを増し、直後には新しく設置された排熱弁が開き、真っ白な水蒸気を吹き出した。放水するが如き激しい音と共に舞い散る稲穂。どうすんだ天才博士。
 その盛大さたるやまるで宇宙ロケット離陸の瞬間。
 しかし。
「…………っ、やはり耐えられなかったか!」
「七番の排熱弁か!」
 唸るチャラポラに合わせてメルティアが叫ぶ。あの一瞬の間に超熱量を発生させたトイレットにより、一から十まで用意した排熱弁の内、七番の耐熱性圧密材が溶けて変形、弁が開かなくなってしまったのだ。
 止めるの遅すぎるぞジジイ。
 高熱の水蒸気が散布される中を行くには生身では耐えられまい。
「ウチが!」
「待て、お前たちのいる三つの制御盤には、万一のパージ用スイッチを用意してある、離れるな!」
「駆けつけるにはメルカバーじゃ遠いぜ」
 ならばパージするか。
 もしもの備えとしてレールそのものを脱落させ、内部のエネルギーを解放する事も可能であるが、あのように巨大かつ焼けた塊を落とせば、地上の農場は壊滅的被害を受ける。
 更にエンジンに使われる燃料等の内容物で土壌が汚染されれば、この地で二度と畑を拓く事はできないだろう。
「私が行きます!」
 ポップコーンをアリスに渡し、キャンピングカーに乗り込む桜花。
「私も行きます。桜花さん、近くまで運んでくれれば私のユーベルコードで排熱弁を開けます!」
「ギチチッ! ギチギチ!」
(アリスも行くわー、熱なんてへーきよ~)
「いや待て、アリス嬢ちゃんたちは皆を避難させてくれ!」
 確かに彼女たちの外殻ならば水蒸気に負けるはずもない。しかし、鋏角で触れた場合、万が一にもレール内に残ったエネルギー体に触れてしまえば致命傷となるだろう。
 それよりも先の戦闘で驚異の運搬力を見せた彼女らへ住民の避難を依頼するチャラポラ博士。
「水蒸気のあまり無いところ、七番? ハイネツベンとかいうのは私が誘導するよ!」
 空から駆けつけたアストラにシンフォニックデバイスを渡し、桜花はハンドルを握り、助手席の摩那も頬を引き締めた。
「ロケット嬢ちゃんが誘導すると言ってもあの熱量、タイヤがもつかもわからん。場合によっちゃすぐにパージするぞ、上手く行くことを祈る!」
「お任せを!」
 アクセル全開。
 急発進した桜色のキャンピングカーが真っ白な世界へと突撃した。
 揺れる車内を無言の二人。
『ちょい右! ちょい左、もーちょい左!
 いいよ真っ直ぐ真っ直ぐー!』
 アストラの誘導が続く中、フロントガラスにぴしりと小さな傷がつく。
「もしもの時は、私もユーベルコードをかけ続けます」
「大丈夫、もしもなんて来ないですよ」
 桜花の言葉に微笑んで返し。
「──見えた!」
 水蒸気を抜けた先、開けた視界に唯一煙を上げないレール部分を発見する。
 七番排熱弁だ。
「あそこにっ、!?」
 大きく揺れる車。タイヤが破裂したのだ。
 バランスを崩しハンドルを取られながらも慣性を活かしたドリフトで見事目標地点に倒れることなく到着する。
「摩那さん!」
 力強く叫ぶ桜花の言葉に答えて、摩那は空へその両手を掲げた。
「天に漂いし精霊よ! ……物に宿りて我に従え……姿、授けよ!」


●笑顔の今日を。
 実験後の一騒動。
 終わればぼんやりとするアドレイドの姿があった。トイレットの崩壊を防ぐのに成功した桜花たち。少し遅れて突入したメルカバーにより、タイヤが破損し更にはガラスまで傷つき元来た道を戻るのが困難となった桜花と摩那、両名は救助された。
 二人とも軽い火傷を負っていたが、桜花のユーベルコードにより傷はすぐに癒えたようだ。
 排熱によって農作物は壊滅的な被害を受けたものの、やり直すのは十分可能である。それどころか、トイレットの熱量を調整すれば冬の厳しい季節も大きく育てる事が出来るだろう。
 それはさておき収穫前の稲穂を台無しにしたので、チャラポラ博士は吊し上げを食らっている。しょうがないね。
 桜花のキャンピングカーはメルティアにより部品が生成され、バン、ジェリッドの手により修復された。また、トイレットは熱に強いアリスらにより冷却された後、メルティアと千之助の手で改めて補修が行われており、今回の実験のような最大レベルでの稼働、二度目は耐えられないと結論付けた。
 アストラも支柱や各エンジンなど、飛行能力を駆使して情報を皆へ送り修理に役立てている。
 そして、ぼんやりとするアドレイドであるが。
「……キレイだったな……」
 激しく噴き上げる白煙。勇壮と佇み震える巨大な環。そして、白煙の柱から飛び立つ黒き蝶の群れ。
 あまりに幻想的な光景に心奪われていたアドレイドは溜め息を吐いて。
「帰るぞ」
「痛い!」
 ジェリッドから拳を受けた。

 住民たちはアリスらと桜花の修理されたキャンピングカーで拠点に送る事となった。
 なんやかんやですでに日は沈み、夜行性の肉食動物が現れる時間帯故に仕方がない。
 出ればおやつだと張り切るアリスはさておき、桜花は車に乗った村長と、ふん縛られている博士へ甕に蓋をしたものを渡す。
「奪還者様、これは一体?」
「今日のお昼に使ったお味噌、その粉末を詰めたものです。ここでは料理する素材も少ないですけど。塩味ばかりでは寂しいでしょう?
 濡らさず冷暗所で保管すればそれなりに保ちますから。村で使って下さい」
「あ、ありがとうございます。お心遣い、……感謝致します……!」
 涙ながらに受け取るヨスミ村の村長に頷き、続いて唇さつまいもなヤパーリ氏には小瓶で渡す。
 別に意地悪な訳ではない。商人として遠征する彼には大きな甕など邪魔になると判断したからだ。
「ヤパーリさん。貴方の望みは、貴方だけのものだから。私はそれを、尊重します」
「ふぁ、ふぁひ」
「それでもそれが他者とぶつかり合えば。
 叩き潰される可能性もあるのだと。それだけは、忘れないで下さいね」
「……ふぁひぃ……」
 しょんぼりと俯いたヤパーリ氏に笑みを向けて、桜花は車を発進させた。
 不要と思いつつも彼らの道程を少し離れた所から見守るメルティアは、メルカバーの索敵機能の範囲を調整している。
 同じくアストラは夜気の涼しさに心地好く空を飛び、同時に下方の群れを警戒しつつ空の道を行く。
 摩那はそんな二人を窓の外から見つめて、また近くを走るアリスらの上ではしゃぐ子供を見て心配し。
 彼らを見送る千之助とバンは空を見上げる。
「おや、流れ星」
「えっ、どこですか!?」
 見上げれば満点の星空に、落ちてくる星の屑。慌てて両手を合わせるバンにくすりと笑って彼らも元の世界を目指す。
 アドレイドとジェリッドは二人並んで最後に完全停止した実験施設を見上げ。
「中々凄かった! 何より誰よりも先に自分が行くと叫んだジェリッドが実に良い!」
「人命を優先すれば当然のことだ」
 それぞれ言葉を交えながら帰路に着く。
 絶望の名をつけられた大地、アポカリプスヘル。しかしこの地に根付いた希望は、もはや夢幻ではない。
 全ての者たちに再び笑顔が戻り、この世界を踏み締める足には力が漲っている。
 世界はまだ過酷だ。だが人は、もう笑っていられる強かさを持つ。失敗すればやり直せばいいと、何があっても前向きに。
 彼らは今日を歩き続けるのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年12月10日


挿絵イラスト