16
あの子が欲しい

#アリスラビリンス #猟書家の侵攻 #猟書家 #エンデリカ #プリンセス

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#アリスラビリンス
🔒
#猟書家の侵攻
🔒
#猟書家
🔒
#エンデリカ
🔒
#プリンセス


0




●可愛いプリンセス
 ふわり、ひらり。絢爛なドレスの裾が翻り、舞い散る花びらが黒い薔薇の花弁に染み入るように落ちては消していく。
 その光景を、きゃらきゃらと笑みを零しながら少女が見つめていた。
「コレガ、プリンセスノチカラ……!」
 すてきだわ、とてもすてき。
 つよくてきれいであざやかではかなくて。
「私モ、アナタミタイニナリタイ!」
 嬉しそうに顔を綻ばせた少女の傍らから、黒薔薇を踏みしめた青い瞳の少女達が飛び上がる。
 捕マエテ、捕マエテ。
 アノ子ヲ私ノ元ニ引キズリ下ロシテ!

●侵略者
 猟書家達が動き出した。グリモア猟兵エンティ・シェア(欠片・f00526)は語りだす。
 活動を開始したのはオウガ・フォーミュラとなった猟書家の幹部達。
「今回相手を頼みたいのはその中の一人、黒薔薇の精霊、エンデリカ嬢だ」
 機械で出来たような羽を持ち、爆発的に増殖する黒薔薇と共に不思議の国を侵食している。
 その黒薔薇は不思議の国の住人達を次々と眠らせて、一方でその薔薇の上を歩くオウガを強化しているのだ。
 普通にぶつかれば、いかに猟兵と言えど、勝つことは難しい。
 だが、その国を治めるプリンセスがドレスアップ・プリンセスで飛翔している際に舞い散る花びらは、オウガ達を強化している黒薔薇を消し去ることができるのだと言う。
「エンデリカ嬢はこの事実に大変興奮気味でね。ともすれば我々よりもプリンセスを手に入れようと躍起になっているようだ」
 執心とは恐ろしいものだねと肩を竦めて、ぺらり、メモをめくった。
 この国にいるプリンセスは二十歳くらいの女性であることを確認している。
 自身が狙われていることを理解しており、上手く飛び回りながら逃れている状況ではあるが、それもいつまで保つかわからない。
「生憎と、彼女には飛び続けてもらわねばならない。ゆえに、彼女を護りながらオウガの集団を退け、エンデリカ嬢を討ってもらうことになるよ」
 群れている集団は青い瞳の少女達。彼女らは人形に何らかの意志が宿り徘徊している状態のようで、同一の形状をした人形達を召喚して襲いかかってくる。
 その人形のタイプには幾つか種類があるようだが、いずれも猟兵よりもプリンセスを優先して狙うものであることに、注意すべきだと言う。
 そうして、逆に言えばプリンセスさえ健在ならば、それを狙い続ける青い瞳の少女達を蹴散らすこと自体は難しくないはずだとも、伝えた。
「きっと、恐ろしい思いをしているだろう。それでも自分の力が相手に有用であることも理解して頑張ってくれている。彼女が逃げ出すことはないよ」
 だから、どうか守ってあげて欲しい。
 その心が折れないように、励ましてあげて欲しい。
 願う言葉を添えて。エンティは微笑み、アリスラビリンスへの道を開いた。


里音
 お世話になっております、里音です。
 猟書家の侵略が始まりましたね。当シナリオは集団戦、ボス戦の二章構成で運営されます。

 集団戦ではプリンセスを狙う青い瞳の少女達を退けてください。
 積極的に守る行動をせずとも、プリンセスが自力で逃げ回ることは可能ですが、守るという意志を見せる事でプリンセスを励ますことも可能です。

 なお、全章通してプリンセスを守ること(当シナリオでは励ますことも含みます)でプレイングボーナスを得られます。

 ボス戦の前に断章を挟む予定でおりますので、確認頂ければ幸いです。(投下前に送って頂いても問題はありません)

 皆様のプレイングお待ちしております。
133




第1章 集団戦 『青い瞳の人形』

POW   :    フレンドシップ・ドール
自身が戦闘で瀕死になると【青い瞳の人形】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
SPD   :    フレンドシップ・ドールズ
レベル×1体の、【服に隠れて見えないが背中に】に1と刻印された戦闘用【青い瞳の人形】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
WIZ   :    フレンドシップ・ドールズ
召喚したレベル×1体の【青い瞳の人形】に【堕天使の翼】を生やす事で、あらゆる環境での飛翔能力と戦闘能力を与える。

イラスト:pico

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ラフィ・シザー
アドリブ歓迎

まったく猟書家のやり方は気に食わないものが多すぎる…さぁ、プリンセスを助けに行こうか。

…お姫様ってのは必ず助けられるものなんだ。
だから安心して俺たちが絶対助けるから!

プリンセスの方には行かないように【挑発】して【おびき寄せ】♪
俺と遊ぼうぜお人形さん?
【ダンス】をするように軽やかに攻撃を回避しながら距離を詰めて
UC【cutting murder】で
チョキンと首を落としましょう♪【切断】


杼糸・絡新婦
プリンセスさん、しんどいやろうけど
あと、もうちっとだけ頑張ってな、
自分らがきっちりお守りするさかい。
と姫さんに【勇気】づける。

錬成カミヤドリで鋼糸・絡新婦をレベル分召喚。
敵がプリセスを優先して狙う行動を利用し、
【情報収集】で行動を予測、
糸を張り巡らせ足場にしたり、
【罠使い】拘束と攻撃、
【敵を盾にする】ことでプリンセスへ向かうのを阻止。
お姫さんに手を出したお代は高いで。




 宙を飛び回るプリンセスは、自身の眼下で広がっていく黒薔薇に唇を噛みしめながら、ふわり、花びらを振りまいていく。
 黒に立ち向かうのもまた、薔薇だろうか。対比するような白が、黒薔薇に触れては、花そのものを掻き消してく。
「素敵なお姫様」
「勇敢なお姫様」
「早く、捕まえなきゃ」
 黒と白が触れ合う傍ら、青が、プリンセスを見上げた。そうして、息をのむ彼女へ、自身が召喚した人形に堕天使の羽を付与して、けしかけたのだ。
 けれど、その人形達は、プリンセスに届く前に、地面へと叩き落されることとなる。
「まったく猟書家のやり方は気に食わないものが多すぎる」
「ほんまに、どいつもこいつも陰湿さがにじみ出とるようやわ」
 青い瞳の少女人形を引き留めたのは、黒髪の青年ラフィ・シザー(【鋏ウサギ】・f19461)がしゃきりと音を立てる鋏と、同じく黒髪の男性杼糸・絡新婦(繰るモノ・f01494)が操る鋼の糸。
 それらが少女人形の羽を切り落とし、あるいは行く手を遮っていた。
 自身を助けてくれた存在に、プリンセスは一瞬だけ安堵したような顔をしたけれど、群れを成す青い瞳の少女達が一様に己を見上げている事を改めて認識して、また、表情をこわばらせた。
「……お姫様ってのは必ず助けられるものなんだ。だから安心して俺たちが絶対助けるから!」
 大きいものから小さいものまで、幾つもの鋏を掲げた青年が、笑顔でプリンセスを見上げている。
 アリスラビリンスでもよくよく見かける時計ウサギの彼が微笑む姿には、安堵が過って。居並ぶ大人が同じように優しく見守る視線を向けていることに気が付けば、じん、と胸の奥が熱くなる。
「プリンセスさん、しんどいやろうけど、あと、もうちっとだけ頑張ってな、自分らがきっちりお守りするさかい」
 頼もしい人達が、守ると告げてくれる。
 初対面の自分のために、恐ろしい存在に立ちはだかってくれる。
 その事実が、プリンセスを確かに勇気づけた。
 見つめてくる瞳の群れはやっぱり恐ろしいけれど。それでも、守ってくれると言ってくれた人達のためにも、今の自分にできることを――。
 二人の声にしっかりと頷いたプリンセスから安心したように視線を下ろした彼らは、改めてオウガの集団を見据える。
 明らかな敵意を見せている存在が目の前にいるというのに、空を見上げてばかりいる少女らは、二人の攻撃に備えようとする気もなく、無防備そのものだ。
「無関心とは失礼な話だな」
 しゃきん。金属同士がこすれ合う音をわざと立てて、ラフィは少女達の視界に入り込む。
「ほら、どこ見てるんだ? 俺と遊ぼうぜお人形さん?」
 初めましての君、俺と『トモダチ』にならないか――?
 屈託のない笑顔がそうやって少女達の気を引くように振舞えば、ラフィに近い少女達は彼に視線を向ける。
 しかしラフィを見つめるその瞳が持つ認識は、可愛い子を捕まえるのを邪魔してくる人。
「邪魔、しないで」
 淡々とした声と共に、ラフィを排除しようと襲い掛かってくる少女達を、くるりっ、と軽やかなステップで躱し、ラフィは体全体を傾けるようにして覗き込んで見せる。
 そんなんじゃ捕まえられないよと言わんばかりの挑発的なラフィは、こないならこちらから、と大きな鋏を掲げて。
「さぁ、刈り取ろうか」
 チョキン。開いた鋏が閉じる音は、歌うように軽やかに。あ、と声を上げた少女の首を、落としていった。
 花を剪定するように次々と鋏をふるうラフィだが、勿論一人で全てを裁ききる事も、少女らの興味を一身に惹けるわけでもない。
 集団のどの程度がラフィに向かっているのか。少女達が飛び立とうとするタイミングはいつか。彼女達の足元に、黒薔薇はないか。
 様々な情報を拾い、整理し、取捨選択をしながら、絡新婦は場に糸を張り巡らせていく。
 足場として利用するための者であり、単純に少女達の行動を阻害するものであり。そんな糸を忌々し気に払いのけようと小さな人形の群れが召喚されたなら、蜘蛛の巣に巻かれた羽虫のごとく、纏めて絡め取ってやる。
「合体なんて面倒なことはさせんよ」
 くすと笑んだ絡新婦が糸を引けば、手を伸ばして触れ合おうとした人形達は引き離され、別の人形の盾として放り出される。
 仲間であるはずの人形に行く手を阻まれる形になって、その眉根をかすかに釣り上げた少女は、そのまま、人形を破壊してしまった。
 もっとも、そうすることで少女達がいつぞやの分身オリジン達のように仲違いすることもなく。淡々と、粛々と、プリンセスを狙い続けた。
「執着も、結構なことやけど――」
 きりり。鋼同士が絡み合い、音を立てながら張り巡らされて。また幾つかの集団を、捕まえる。
「お姫さんに手を出したお代は高いで」
 不意に、ふわりと舞い降りてきた花びらが白いことを確かめて。それが糸を繰り、あるいは鋏をふるう指先を心地よくくすぐる感覚に、彼らは揃って、笑みを浮かべるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

筒石・トオル
【三連星】
プリンセスを守らないとね。
ずっと集中的に狙われてたら消耗するし、攻撃が当たったら大変だ。僕はUC『あやかしメダル「ぬらりひょん」』をプリンセスの背に貼り付け、人形から意識を逸らせるようにする。
その上で抹茶子さんが囮をすれば、一時的にプリンセスへの攻撃を止められると思うんだ。
念の為、プリンセスを背に庇うように位置取りし、人形に熱線銃を撃ち込む。銃なら飛んでいても届くし、近付かれる前にダメージを与えたいからね。プリンセスは勿論、仲間にも攻撃はさせない。
【見切り、スナイパー、早業、時間稼ぎ】
敢えて声は掛けない。目でプリンセスに逃げるよう示し、自身は盾となるように行動するだけ。


崎谷・奈緒
【三連星】の三人で。
あの人がプリンセスだね。よーし、トオルさん抹茶子さん、あの人をなんとしても助けよう!今まで一人で怖かったろうけど、あたしたちが来たからにはもう大丈夫!
トオルさんと抹茶子さんのUCで、人形たちの意識を抹茶子さんに向けることができるかな?うまく誘導出来たら、あたしたちは新たなるプリンセス、抹茶子姫のフォローをしよう。プリンセスと抹茶子さんを守るのに、あたしだけじゃ不安だから……よーし、力を貸して、ユエル!ユエルの炎攻撃と、あたしの演奏攻撃でばっちりフォロー!人形が何体いたとしても、残らずやっつけちゃうぜ。
トオルさんの熱線銃と併せて、完璧なコンビネーション!これで……どうだあ!


嬉乃・抹茶子
【三連星】
 初めての依頼、頑張らなくっちゃ!
 使用するUCはジャスティス・ペインです!
 うーん……ここは嘘も方便ということで「私だってプリンセスです!」と名乗ってみようかな。
 上手くいけば人形を引き寄せられるかもですし、プリンセスも「仲間がいる、一人じゃない」って思ってくれるカモ?
 もし人形が私の実力以上に大量に来ちゃった場合は……私が逃げる番かな?
 たはは~……(冷や汗)。奈緒さん、トオルさん、助けてぇえええ!(涙目ダッシュ)。
 名乗りで敵の興味を惹けなかった場合は、ちょっと寂しそうにしながらファイヤーボールをポイポイして戦いますよ~。
 アドリブ大歓迎。負傷やピンチ描写も全然OKですっ。




 この国のプリンセスは、沢山の仲間に囲まれた、穏やかな国の長だった。
 それゆえに、大好きなこの国を守れるのが己のみだと理解した今、一人でも飛び続けることを覚悟していた。
 助けてくれる人も現れてくれた。その心強い事実は、折れそうだった心をも持ち直していて。
 だからこそ、唐突に上がった声に、とても、驚いたのだ。
「私だってプリンセスです!」
 それは、少女の声だった。恐ろしさを払おうとして大きな声を出したような、かすかに震えた声。
 その声に、あろうことか青い瞳の少女達が引き寄せられたではないか。
 空を飛び続けている自分と、地上に立つ少女とでは明らかに立場が違い、捕まえる意味もないというのに、まるで、その少女がその場にいる唯一の『プリンセス』であるかのように――。
 慌てるプリンセスが少女の――嬉乃・抹茶子(至高の食を求めて・f07810)を眼下に捕らえる位置に飛べば、その近くにもう二人、女性と少年とが立っているのを見つけた。
 女性はプリンセスに大丈夫だというようにウィンクをしてみせ、少年の方は、唇の前に人差し指を立てて、かすかに微笑んでいる。
「今まで一人で怖かったろうけど、あたしたちが来たからにはもう大丈夫!」
「プリンセスを守らないとね」
 声高に告げた女性の声に応じた少年。彼らの言葉は、プリンセスにも告げる言葉でありながら、青い瞳の眼差しを惹きつけるものでもあるようで。
 見知らぬ少女が『プリンセス』を名乗ったのも、かかってこいと言わんばかりに大きく存在を主張する彼らの、作戦なのだと理解した。
「トオルさんのメダル、しっかり効いてるみたいだね」
「飛んでるプリンセスに上手く貼り付いてくれたようでよかったよ」
 ひそり。交わされるのは互いにだけ聞こえるようなささやかな声。
 そう、抹茶子がプリンセスだと誤認させるため、本物のプリンセスから意識を逸らすことが前提となる彼らの作戦において、重要な役割を果たしたのが筒石・トオル(多重人格者のマジックナイト・f04677)が持つメダルであった。
 あやかしメダル「ぬらりひょん」。妖怪ぬらりひょんの如く、貼り付けた対象が敵から存在を気づかれにくくなるメダルが、プリンセスの背に貼り付けられているのだ。
 これにより、プリンセスを見失った青い瞳の少女達が、抹茶子へと引き寄せられたという寸法である。
 もっとも、意識を引いた人形達が、堕天使の羽根がついていたりいなかったりする人形達をこぞって召喚するものだから、当の抹茶子は早々に己の対処範疇を超えたことを理解して、涙目になっていたわけだが。
(初めての依頼、頑張らなくっちゃ!)
 しっかり目立ってきっちり対処すれば、本物のプリンセスの助けにもなるしきっと心の支えにもなれる。
 気合を入れて臨んだ抹茶子だが、彼女自身はヒーローマスクに取り憑かれることとなったごく一般的な少女。
 そもそもの性格が気弱な彼女が、初めて戦闘という場面に立ち会えば、それはもう、恐ろしくないはずがないわけで。
 頑張らなくちゃと言い聞かせてファイアボールをぽいぽいと放って応戦してみるものの、じりじりとその足は下がっていた。
「たはは~……」
 青い瞳が、じいいぃっ、とこちらを見据えてくる。幾つもの幼い作り物手が、無数に、際限なく、伸びてくる。
 冷や汗が背を伝ったタイミングが、限界の現れだった。
「奈緒さん、トオルさん、助けてぇえええ!」
 ばびゅん、と効果音がつきそうな勢いで逃げ出した抹茶子に釣られるように、青い少女達の群れが動き出す。
 なお、抹茶子の逃げ足はめちゃくちゃ早い。何故なら、自身の困っている人を見捨てられない性格のために、敢えて囮という不利を引き受けた事によって、身体能力を増幅させているからだ。
 ……その性格のためにヒーローマスクに取り憑かれたのでは? とは、多分聞いてはいけないことなのだろう。
 彼は正義の味方を自称し、巨悪と戦う存在なのだ。気弱な少女を巻き込んで戦いを強いるなんてそんなまさか!
 ――閑話休題。
 逃げる抹茶子と少女達の間に、崎谷・奈緒(唇の魔術・f27714)が立ちはだかった。
「まっかせなさい!」
 プリンセスも抹茶子も守るために来たのだ。群れを飛び越えて抹茶子へと迫ろうとする羽つきの人形へ、ハーモニカの演奏に依る衝撃波を放ちながら、奈緒は共に立つトオルへと目配せする。
「僕は飛んでる相手を重点的に狙うよ。後ろには、『プリンセス』も居ることだしね」
「それじゃ、飛んでない集団はあたしが……あたしとユエルが、預かるね」
 メダルが隠してくれるプリンセスの存在に気づかれないよう、視線は向けず。けれど落ちてくる花びらで、庇える背中側にプリンセスがいてくれていることを把握しながら、トオルは熱線銃を人形へと放っていく。
 宣言通り、飛んでいる者を――よりプリンセスに近づき、気付く可能性が高い者を優先して攻撃していくトオルに上空を預け、奈緒は虚空から灼熱を呼び寄せる。
「よーし、力を貸して! 来て、ユエル!」
 燃え盛る炎が、ごぅと音を立てて爆ぜる。それが鬣として形を作り、一体の強靭な獅子の背を奔ると同時、ユエルと呼ばれた獅子は、青い瞳の集団に飛びかかり、その爪と牙で、引き裂いていった。
 ユエルの持つ技は獣としての特性のみにあらず。炎の鬣を靡かせ、ぐるると鳴らした喉から咆哮を迸らせれば、それは火炎の渦となって、人形達を飲み込んだ。
「いいぞーユエル。あたしもフォローするからね!」
 一人で出来ないことは二人ですれば良い。二人でも手に負えなくたって、今は、トオルがいる。抹茶子がいる。
 心強さが奈緒に与えるのは力だ。演奏に依る衝撃波は、その力でどこまでも強く放たれる。
 戦いの場でありながら楽しげに笑みを称える奈緒を横目に見て、トオルは釣られたように、少しだけ笑んだ。
(プリンセスも、心強く感じてくれればいい――)
「ひえぇ、トオルさん、奈緒さん、助かりましたぁ……!」
 走り回ってへろへろになりかけながらも、震える足を奮い立たせて前線へ戻ってきた抹茶子に、トオルは振り返って、くす、と笑う。
「僕らのプリンセスにとっても、頼もしくあれたようでなによりだよ」
「それはもう!」
「トオルさん、抹茶子さん、瀕死の人形からちょっと強いのが出てきたよ!」
 正念場だと言わんばかりの奈緒の声に、笑顔をきりりと引き締めて。二人もまた、それぞれの武器を構える。
 熱線銃が撃ち抜いて、ファイアーボールが焼き払い、火炎が渦をなして奔る。
 完璧にコンビネーションを決める戦闘は、即興のセッションをしている心地にも似て。
「これで……どうだあ!」
 一際気合を込めて奏でた音色が、それぞれの熱が織りなす空間に響き渡り、彼らの目の前に群れていた集団を蹴散らした。
「いよっし!」
「た、倒せました……!」
「今の内に、黒薔薇の侵食を押し戻せるかな」
 一時脅威から逃れられることとなったプリンセスに大きく手を振れば、空を飛ぶ彼女は、嬉しそうに手を振り返してくれるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ティル・レーヴェ
マリアドール殿(f03102)と


あゝ其方と楽しき出掛けとするには
先ずはこの地を脅かす者を退けてから、じゃな
ほほ、その期待に妾もしかと応えねばなぁ

この地を護る為飛ぶ姫の姿
実に頼もしくも美しいが
ひとり飛び続けるも心細かろう

己が翼で時に姫へ添い飛び乍ら
姫が傷つくことなかれと
願う儘に守護の子を喚び
姫の傍にて青き人形を討つように告げ
麻痺与える旋律で鈍った個体を優先し
増やす間与えず減らしゆこう

この地を荊より護れるのは其方だけ
けれども其方を護る者は多く在る
妾も、共にと奏で花咲かす優しき彼女も
そして数多の猟兵が
其方と共に在ることを覚えていて
さあ、皆でこの地を護ろうぞ

姫が傷つく事あらば
背の聖痕にて癒しを施そう


マリアドール・シュシュ
ティル◆f07995
アドリブ◎

ティルと楽しく外へお出掛けしたかったけれど、
この世界にも猟書家がどうやら悪さをしに来ているみたい
食い止めましょう
ティルやプリンセスが一緒なら、きっと大丈夫だわ(微笑

竪琴構えプリンセス見上げ

マリアは地上からあなたを護るわ
だからお願いよ
マリア達を信じて頂戴
此処で挫けては駄目
あなたは決して一人ではないわ

怖がらせない様に優しく
温かく包みプリンセスの手を握る
祈りと鼓舞込めて高らかに謳う

ほんの少しの勇気でさえ
力になるの

竪琴で麻痺の糸絡めた旋律奏で
音の誘導弾で攻撃
敵の動きを鈍らせ、ティルが戦いやすい様に隙作る
耳飾りを変換させUC使用
プリンセスの花弁に寄り添う
敵を退け光を指し示す




 不思議の国の者達を眠りに誘い、オウガを強化するという黒薔薇。
 それが広がり続けようとするのを食い止めている白の花弁。はらりひらりと舞うその花が、先程までよりもより鮮やかな色をしているように見えて、マリアドール・シュシュ(華と冥・f03102)はほんの少しだけ安堵を表情に乗せた。
「ティルと楽しく外へお出掛けしたかったけれど、この世界にも猟書家がどうやら悪さをしに来ているみたい」
 けれど、すでに駆けつけた者達の尽力もあり、絶望に染まった状態ではないようだ。
 それでも、この世界が脅威に晒されている事態であることに変わりはない。マリアドールの安堵に同調しつつも表情を引き締めて、ティル・レーヴェ(福音の蕾・f07995)は自身の背に生えた翼を広げた。
「あゝ其方と楽しき出掛けとするには、先ずはこの地を脅かす者を退けてから、じゃな」
「ティルやプリンセスが一緒なら、きっと大丈夫だわ」
 柔らかく微笑み、食い止めましょうと見つめてくるマリアドールに、ほほ、とたおやかな笑みを返し、ティルは空を飛び花を回せ続けるプリンセスを見上げた。
「その期待に妾もしかと応えねばなぁ」
 告げたティルは、空へ、プリンセスの元へと、飛び上がる。
 青い瞳の少女達とは違う、純白の翼を羽ばたかせたティルが、ふぅわりと優しく寄り添った瞬間、プリンセスは驚いたように身を引いた。
 けれど、ティルがプリンセスに触れようとはせず、ただ傍らに添うばかりなのを理解すると、おず、と藤色の瞳を覗く。
 にこりと微笑むその瞳は、地上に群れる人形とは違う、暖かな色。
「この地を護る為飛ぶ姫の姿、実に頼もしくも美しいが……ひとり飛び続けるも心細かろう」
 どうか一時供をさせておくれと乞うように告げるティルは、どこか大人びているけれど、甘え上手な子供のようでもあって。ふく、とプリンセスの胸中に暖かな気持ちをくれる。
 そんなティルが促すように地上へと視線を向けさせれば、竪琴を構えたマリアドールが、笑顔を咲かせて大きく手を振っていた。
「マリアは地上からあなたを護るわ。だからお願いよ、マリア達を信じて頂戴」
 聞こえているかしら。ほんの少し小首を傾げたマリアドールだが、空の上のプリンセスが何度も何度も頷くのを見て、あぁ、届いていた、と安堵するように胸を撫で下ろす。
 そうして、透き通るような柔らかな旋律を奏で始める。
「此処で挫けては駄目。あなたは決して一人ではないわ」
 怖がらせないように、プリンセスの気持ちが和らぐようにと願う、優しい旋律。高らかに乗せるのは、祈りと鼓舞を込めた歌声。
 ほんの少しでも勇気が湧けばきっと力になる。どうか負けないでと願う声は、戦場に響き渡り、プリンセスの心に染みた。
 その声に、けれど人形達はまるで興味を示さない様子で、こぞってプリンセスへと手を伸ばし、掴みかかろうと飛び上がるのだ。
 失礼なことだと頬を膨らませ、マリアドールは奏でる旋律を変える。敵対する存在に対して明確な敵意を込めた、動きを鈍らせるための怪しい旋律へ。
 同時に放つのは音の誘導弾。麻痺の効果が薄い者から狙い澄まして、次々と攻撃を仕掛けた。
 じわり、麻痺の効果が効くのを見下ろし確かめながら、ティルはプリンセスに近づいてくる堕天使の人形達の前へ、さっと立ちはだかる。
 自分より明らかに幼い少女が盾となろうとすることに、プリンセスは苦しげに表情を歪めたけれど、庇う背は大丈夫だと優しく告げる。
「恐ろしいとも。其方と同じく、仲間が傷つけられることは」
 ゆえに、守るのだ。その意志に引き寄せられて現れる、獣たちと共に。
 額に宝石で出来た一本角を生やしたその獣は、背に生えた翼を打ち鳴らし、ティルが恐れた敵対者へと襲いかかる。
 一番近い敵へは真っ先に。それから、マリアドールの旋律で麻痺を与えられた個体を優先的に突き刺しては、地上へと叩き落としていった。
 敵が数を増やす暇など与えるものかと、告げるままに素直に飛びかかる獣の間をすり抜けてこぬよう注意をはらいながら、ティルはプリンセスを見上げる。
「この地を荊より護れるのは其方だけ。けれども其方を護る者は多く在る」
 妾も、共にと奏で花咲かす優しき彼女も。
 ティルの言葉に、一人地上に残したマリアドールを案じるような視線を落とせば、彼女もまた、プリンセスを案じて何度も見上げているのだろう。すぐさま視線が合って、また、朗らかに微笑んでくれた。
 自分と彼女以外にも、プリンセスを守ろうとする猟兵は数多いる。その全てが共に在ることを覚えていてほしい、と。優しく響く声を助長するように、キラキラと美しい水晶が、二人の周囲に舞っていた。
「ティルの邪魔も、プリンセスの邪魔もさせないのだわっ」
 ジャスミンの形をした水晶は、マリアドールの耳飾りが転じたもの。
 歌声を拾い上げ、響き渡らせる耳元の拡声器は、花びらとなってもその旋律を宿しているようで。プリンセスの降らせる白薔薇に寄り添うようにしながら、黒薔薇の元へと導くさまは、まるで、謳い踊るようだった。
 きれい、と。思わず零れた声は、隣にいたティルだけが聞いていて。ふ、と笑み零れた。
「さあ、皆でこの地を護ろうぞ」
 促す声に、ええ、と力強く頷いたプリンセスは、戦場を飛びながら白薔薇を舞わせ、降らせる。
 その色が、ますます鮮やかに見えて。マリアドールは水晶の煌めきの傍らで瑞々しく輝く白に、感嘆の溜息を漏らすのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セリオス・アリス
【双星】
アドリブ◎

飛んでるお姫さまを守るんなら
そりゃこっちも飛んだ方がいいわな
アレスの天馬に一緒に乗せてもらって空へ
まずは狙いをそらしてやるか
人形だからって、一切無感動なわけじゃねぇだろ
さあ、夢中になってもらうぜ
【鳥籠の反響】
大きく歌を響かせて
敵の意識をかっさらう
…空中だけどアレスがいるから大丈夫だろ!

とは言え、意識をそらすだけじゃ終わりにはならねぇしな
ちょっと行ってくるなアレス!
ひらりと天馬から飛び降りて
敵に落下の勢いを乗せた剣で攻撃
おまけに炎属性の魔力も上乗せだ
さあ、邪魔物は物語から退場願おうか!

敵を落としたら自分も落ちるだけ…だけど
信じてたぜ、アレス♡
抱えられてアレスの腕の中
見上げて笑う


アレクシス・ミラ
【双星】
アドリブ◎

【耀光の天馬】にセリオスと一緒に騎乗して
僕達も空へ征き、プリンセスを守ろう

一瞬でも此方へ意識を向けさせる事は出来るはず
剣を抜き、先制攻撃に光の範囲攻撃を
…セリオスが歌えば、敵の意識は彼に向く
だが、今、前には僕がいる
惹き寄せられた敵を光纏う剣で斬り
離れた敵には衝撃波を放つ
常に守るものを背にするように
プリンセスにも、セリオスにも、近寄らせはしない
君達にはお引き取り願おう

って、セリオス!?…ッヴェガ、頼む!
回り込んで落ちてくるセリオスを受け止める
無事を確認して…彼の様子に苦笑
全く、君って奴は…
…ああ、君が飛んでも何度でも受け止めるよ
たとえ、空の上でも
…でも、今は僕に掴まっていてくれ




 既に幾つもの敵を排除していると言うのに、黒と白のせめぎ合う境目にはまだまだ青い瞳が無数に群れては、上空のプリンセスへと手を伸ばしている。
 その光景が愛らしい少女の集団ではなく、おぞましい存在の群れに見えるのは、同じ顔が居並び、増殖さえし続けるせい。
 それでも果敢に飛ぶプリンセスの表情が随分と力強くなっているのを、セリオス・アリス(青宵の剣・f09573)は見つけていた。
 ともすれば、彼女はもう一人でも心折れることはないのだろう。
 けれど、心は強く守られようとも、敵がプリンセスを狙い続ける限り、彼女の身そのものは危険にさらされ続けることに、代わりはない。
「僕達も空へ征き、プリンセスを守ろう」
「ああ、飛んでるお姫さまを守るんなら、そりゃこっちも飛んだ方がいいわな」
 アレクシス・ミラ(赤暁の盾・f14882)の傍らには、既に彼の二倍に及ぶ白馬が呼び出されている。
 明ける夜によく似た色の、光り輝く翼を大きく広げたレディは、自身が背に乗せるべき存在を、凛々しい瞳で見つめていた。
 颯爽とその背に跨ったアレクシスの手に引かれ、共に騎乗したセリオスは、天馬の翼が大きく羽ばたく瞬間、ぎゅ、とアレクシスにしがみつき、浮遊感に身を任せるまま、空へ。
 先程寄り添ってくれたのは天使の少女だったけれど、今度はもっと大きな翼を持つ馬。
 それはまるで、王子様を運ぶ従者であるかのようで、プリンセスは思わず、くるりと旋回して恭しく礼をした。
「無事で何よりだ」
「負ける気がないって顔になってるのもな」
 二人の青年が、それぞれに安堵と労いを告げるのを笑顔で受け止めながらも、のんびりと談笑する暇など無いことは互いに理解していた。
 堕天使の翼を生やした人形が次々と迫ってくるのを見据えると、アレクシスはプリンセスを庇うように馬を操り、その目を眩ませるように、抜き払った剣から光を迸らせた。
 大きな青い瞳が、眩しげにぱちぱちと瞬きを繰り返している隙に、身を乗り出すようにして眺め見たセリオスは、すぅ、と大きく息を吸う。
「まずは狙いをそらしてやるか」
 相手は人形。けれど、『意志の宿った』人形である以上、一切無感動というわけではあるまい。
 意志があれば心があって。心があるなら意識がある。
 あるものを鷲掴み、惹き寄せるための声を、セリオスは持っているのだ。
「さあ、歌声に応えろ。お前の意識は、どこにある?」
 幾年も囀り続けた喉を震わせ、紡ぎ出すのは数多を惹き付ける歌声。
 味方を奮わせ、敵を煽るその声に、青い瞳の人形達は、次々と聞き入っては、セリオスへと釘付けになる。
 あの子が欲しいと黒薔薇は言った。
 ――あの子って、だぁれ?
 ふら、と。堕天使の翼がプリンセスからセリオスへと向きを変える。
 歌声に囚われた人形達にはセリオスしか見えていない。
 だから、欲しい欲しいとねだられた『あの子』は、きっと、この子――。
「近寄らせはしないよ」
 立ちはだかるは、天馬の騎士。惹き寄せられるまま近づいてくる人形を光纏う剣で切り裂いたアレクシスは、同時に別方向から近づく存在からセリオスを守るように、巧みに天馬を繰る。
「君達にはお引き取り願おう」
 守るものは、常に己の背に。掲げる剣から放たれる衝撃波で次々と人形達を退けるアレクシスがいてくれるからこそ、セリオスは何に妨げられることなく、歌い続けることが出来た。
 とは言え、ただ惹き寄せ続けるだけでは、根本的な解決には至らない。
 仕留めて、しまわねば。
「さて、そろそろ十分だろ……ちょっと行ってくるなアレス!」
「セリオス!?」
 切り上げた歌声の余韻も消えぬ間に、セリオスはしがみついていたアレクシスの代わりに剣を握り、ふわり、天馬の背からも飛び降りた。
 くるりと身をひねり、眼下に捕らえた人形を踏みつけがてら剣を突き立てる。
 落下の勢いを含んだ刃は深々と突き刺さり、同時に音を立てて燃え広がった炎の魔法で、瞬く間に灰へと姿を変える。
「さあ、邪魔物は物語から退場願おうか!」
 不敵に笑うセリオスは、敵が燃え尽きる寸前に、足蹴にして再び飛び上がるが、空を自在に飛び回れるような跳躍でもないそれは、ほんのひと時落下を遅らせる程度で。
 だが、そのひと時さえあれば、セリオスには十分だった。
「ヴェガ、頼む!」
 荒い声が響くのと、背に衝撃を感じるのはほとんど同時のようなもので。落ちるに任せるセリオスの下に駆け込んだ天馬から手を離し、アレクシスは両手で確りと、セリオスを受け止める。
 無事を確かめるべく覗き込んだアレクシスが見たのは、悪戯げなセリオスの笑顔。
「信じてたぜ、アレス♡」
「全く、君って奴は……」
 セリオスの無茶は心臓に悪い。だが、彼がそうやって自信満々に笑っているのは、ひとえに、アレクシスへの信頼ゆえ。
 率直な言葉以上に、笑顔がそれを告げるのだから、アレクシスには怒るより先に、絆されるしか無いのだ。
「……ああ、君が飛んでも何度でも受け止めるよ。たとえ、空の上でも」
 でも。
「今は僕に掴まっていてくれ」
 じっ、と真剣な顔で見つめるのは、せめてもの心配の主張。しがみつく腕が戻ってきたのを確かめて、二人は再び、空を疾駆するのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リカルド・アヴリール
ライナス(f10398)と
アドリブ歓迎

黒薔薇の匂い、だろうか
ライナスにとっては弱点でもある其れを見て
思わず向けた視線は、不安が隠し切れていなかったかもしれない

……ああ、そうだな
ライナスとプリンセス、二人を守る
今度こそ守り抜いてみせると、己を【鼓舞】する

戦闘では前衛に
UC:虐による【範囲攻撃】【捨て身の一撃】で
出来る限り、多くの人形を蹴散らそうと
ライナスとプリンセスを狙う攻撃に対しては
如何なる負傷をも構わず、必ず【かばう】事を最優先に動く

欲しいから、引き摺り下ろす
そんな勝手を許すつもりは無い、それに……
機械にあるまじき感情だとしても、腸が煮えくり返る思いだ


ライナス・ブレイスフォード
リカルドf15138と

…よりにもよって弱点の薔薇とかついてねえな
目前に広がる黒薔薇に思わず襟を立て鼻口を覆いつつもリカルドを見ればにっと笑みを
大丈夫だっつの。それに、調子悪くなってもあんたが居っからな。何とかなんだろ

戦闘は【病の運び手】にて薔薇を鼠に変えながら敵へと放ってくぜ
敵が飛行したならば鼠達を積み上げる様に高く柱を作り敵を追わせ追撃を
…飛んでるプリンセスっつうのやられたら勝てねえんだろ?
ならやらせる訳にはいかねえからな
リカルドが怪我した場合は即時その個体の撃破を
俺のもん怪我させた上に、俺以外の奴がリカルドの感情引きだしてんも気に食わねえ
なら…唯ですますわけねえだろ、な?




 黒薔薇の匂いが満ちている。
 ――満ちて、いた。
 猟兵達の助力の甲斐あり、プリンセスの力で随分と増殖していた黒薔薇の量自体は減ったように思う。
 けれどそれでも、本体である黒薔薇の精が存在している以上、その匂いが消え去ることはないのだろう。
 その事実に眉を顰めたのは、リカルド・アヴリール(機人背反・f15138)。彼自身は黒薔薇に思うところはない。けれど、同行するライナス・ブレイスフォード(ダンピールのグールドライバー・f10398)にとっては――。
「大丈夫だっつの」
 に、と笑う口元。告げる一瞬は表情を見せたものの、ライナスは立てた襟元で鼻と口を覆い、怪訝な顔で黒薔薇を見据えていた。
 そんな彼を見やるリカルドの視線に、不安が滲まないわけがないのだ。
 よりによって、薔薇なのだ。色を問わず、薔薇はライナスにとっては弱点なのである。
 死者が吸血鬼にならないようにと棺に薔薇を敷き詰める風習がかつて存在したようで、ダンピールであるライナスにとって、薔薇は本能的に拒絶したくなるものなのだ。
 あぁ、けれど、と。ライナスはかぶりを振る。
 絶賛不調中だけれど、何とかするしか無いし、何とかなるような気がする。
「調子悪くなってもあんたが居っからな」
 だから、大丈夫だと繰り返して。ライナスは自ら黒薔薇に向き直る。
 そうして、不調の現況たる薔薇を――黒いものだけを――鼠へと変化させていった。
「……ああ、そうだな」
 自分がいるから、と。そう言ったライナスの言葉は、信頼なのだろう。
 ならば己は、それに応えるのみだ。ライナスと、プリンセス。今この場において、リカルドにとって欠かすことの出来ない二人を、守ること。
(今度こそ守り抜いてみせる)
 己を鼓舞する言葉を唱え、リカルドはライナスの前に立ち、更に前へ押し進むべく、地を蹴った。
 ――砕けて、堕ちろ。
 駆けながら口元で紡げば、サイボーグたるリカルドの機械機能の制限が解除される。
 躊躇なんてものもかなぐり捨てて振るわれる武器は、青い瞳の少女達を悉く粉砕し、駆逐していく。
 兵器そのものの様相となりながら、リカルドは繰り返し周囲に視線を配り、守るべき者達へと近づく敵の存在を警戒した。
 チュゥ――。鼠の声に導かれるように振り返れば、積み重なるようにして群れた鼠たちが、プリンセスへと襲いかかろうとする人形の裾に齧りついていた。
 すぐさま踵を返して飛びかかり、地上へと叩き落とす。
 それにより重なっていた鼠たちがまた散り散りに他の人形の群れへ襲いかかるのを見ながら、ライナスは上空を見上げる。
 空を飛ぶプリンセスもまた、薔薇を降り注ぐ存在だ。けれどその薔薇は、黒い方を消し去る不思議な力を持つ薔薇で。それゆえに、彼女がこの戦いの要になっていることは、理解していた。
 彼女を失えば、爆発的に増殖する黒薔薇を蹴散らす術はなくなり、オウガの強化を阻むことが出来ないまま、敗北を余儀なくされるのだと。
(――ならやらせる訳にはいかねえからな)
 例え、甘い香りに突き刺されるような心地になろうとも。
 ふ、と。匂いを吸い込まぬよう短い呼吸を繰り返していたライナスは、プリンセスに向けていた視線を地上へ下ろした刹那、嫌に近くで、青い瞳と視線が合っていることに気がついた。
 調子が悪くなっているのは否定できないらしい。敵の接近に気が付かないでいたのだから。
(しまっ……)
 半歩、足を引いたところで。少女の攻撃よりも早く、自分と少女の間に割り込む影を見る。
 見慣れた深緑が靡くのは、無理やり体をねじ込んだせい。白と、黒と、青ばかりが目立つ戦場に、赤い色が嫌に目立って見えたのは、きっと、自身の不甲斐なさのせい。
 瞬間的に沸いた感情のまま、ありったけの鼠をその少女に群がらせ、齧り尽くさせる。
 傷を負うことをリカルド自身は厭うていないし、たかだか一撃庇ったところで倒れるほどやわではないことは重々承知ではあるが、そう言う問題ではない。
 リカルドは己のものだ。
 それを傷つけられることそのものに、苛立たないわけがない。
 ――それに、だ。
「もう少し下がった方がいいんじゃないか」
 相変わらず不安を滲ませた瞳が見据えるのは、青い瞳の少女達と、それをけしかける黒薔薇の精霊。
 彼らを見るリカルドの表情は、敵意以上の嫌悪と怒りに満たされていて。
 自分以外の存在が、機械で在ろうとするリカルドの感情を引き出しているなんて。
 許されるわけが、あるだろうか。
「気に食わねえ」
 その一言は、地を這うように重く、昏い感情を灯した声で。
 ――けれど、捨て身の戦法も庇うことも改めるつもりのないリカルドは、聞こえないふりをしたまま、声の届かぬ前線へと、舞い戻っていくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
この数相手に一人で、かぁ
嫌いじゃないわ、そーゆーの

【翔影】でくーちゃんらを喚び
人形らの動き見切り読んで庇うように間に割り込ませマショ
くーちゃんらにはそのままプリンセスの盾として周囲を飛び回るよう命じておくねぇ
ケド召喚した内の一体は手元に残し
そのコの背に乗って人形たちを迎え撃つように空中戦へ
人形の攻撃はオーラ防御で弾き、損ねた分は激痛耐性併せ凌いで
カウンター狙うよう範囲攻撃で右目の「氷泪」から雷奔らせるわ
雷にマヒ攻撃乗せ動きを鈍らせ、2回攻撃で傷口抉って生命を頂戴すんネ

コッチも持久力じゃ負けてねぇでしょ
だからプリンセス、ちょっとは気を休めたって平気ヨ
厳しい顔も花に似て綺麗だけど、ネ




 猟兵達の助力によって、押し戻されていく戦況。
 けれど、一番最初は孤独な抵抗だったことを、コノハ・ライゼ(空々・f03130)は知っている。
「この数相手に一人で、かぁ。嫌いじゃないわ、そーゆーの」
 敵うなんてとても思えなくても、逃げることなく挑み続ける姿は、きっと褒められたって良い。
 当のプリンセスにそれを告げたなら、きっと彼女は国を預かった者として当然だと微笑むのだろう。それとも、照れくさそうにはにかむのだろうか。
 いずれにせよ、凛々しくも愛らしい、プリンセスらしい表情をみせるのだろう。
「――ミチを、」
 拓き、作り、あるいは導くために。黒い影の管狐が、幾つも呼び出される。
 状況に則して大きさを変じる彼らは、四肢に黒き羽根を生やし、相対する人形を退けられるほどのサイズになりながら、プリンセスへと向かうそれらの前に立ちはだかった。
 自身と人形の間に割り込んできた異形に、プリンセスは瞳を瞬かせたが、この存在も、自分に力を貸してくれる誰かのものなのだろうと気づく。気取れるくらいには、もう幾度も手を差し伸べられたのだから。
 眼下に視線を落とし、巡らせたプリンセスと目を合わせ、コノハはひらりと手のひらを振ってみせた。
「くーちゃん、そのまま盾になってあげてネ」
 命じる言葉に応えるようにふわりと翼をはためかせた管狐のくーちゃんらが人形の足を止めている間に、コノハ自身もまた、手元に残した一体の背に乗り、空へと飛び上がる。
 管狐をけしかけた時点で、よく分かっていた。人形の動きは実に単調で、バカ正直なくらい真っ直ぐにプリンセスに向かってくる。それを妨げられたなら、その傍らを素直に横切ろうとするばかり。
 取り囲もうとするとかいった、連携を感じさせる動きは一切ないのだ。
「分かりやすいのは助かるケド」
 それで猟兵を掻い潜りプリンセスを捉えようというのなら、お粗末なことだとくすり笑ったコノハの右目が、ぱり、と電撃が漏れ出る。
 一つ瞬く間にそれは雷となって激しく迸り、管狐達の間を縫って、人形を貫いていった。
「邪魔をしないで」
「そーいうワケにもいかねぇのよ」
 青い瞳が、プリンセスからコノハへと向けられても、既に十分に見切ったこと加えて、雷にマヒを乗せた攻撃は人形達の動きを鈍らせた。
 攻撃を躱すのは容易く、掴みかかる手をひょいと逃れ、逆にこちらから攻撃を仕掛けてやる。
 抜き払ったナイフを二度振るい、傷口を抉っては小さな体に溢れる生命を拝借して。
 守るという目的を果たしながら己の腹も満たしていくコノハは、羽を散らして落ちていく人形には目もくれず、次を捕まえるべく手を伸ばす。
 そうして管狐らと共に敵を迎え撃ちながらも、一度プリンセスの傍ら間で下がったコノハは、すっかり頼もしい顔をしているプリンセスをちらりと見た。
「アッチは際限なく増えてるみたいで途方もなく見えるけど、コッチも持久力じゃ負けてねぇでしょ」
 だからプリンセス、と。コノハは軽やかな笑みで彼女を見つめた。
「ちょっとは気を休めたって平気ヨ」
 飛び続けるその身を休めることが出来なくったって、張り詰めた気をひと時緩めるくらいは許されても良い。
 そうさせてやれるくらいの時間を作れる自負は、あるのだから。
「厳しい顔も花に似て綺麗だけど、ネ」
 背筋を伸ばして上を向いて。真っ直ぐに咲く美しさも見事なものだと思うけれど。
 花は、ほころんでこそだろうと。ぱちりとウィンク一つ添えて告げれば、プリンセスはくすぐったげに笑う。
 凛々しくも愛らしい、想像通りの顔で笑うプリンセスに笑みを深めて、コノハは再び管狐と共に飛んだ。
「さ、もうひと踏ん張り」
 青い瞳が狩り尽くされる。素敵、欲しい、と、主の真似事ばかりを繰り返していた少女達はすっかり姿を消して。
 残ったのは、それでもキラキラと瞳を煌めかせてプリンセスに残虐な憧憬を向ける、黒薔薇の精霊のみ――。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『エンデリカ』

POW   :    咲キ誇リナサイ
自身の【体を茨に侵蝕させること】を代償に、【機械の翅から召喚する黒薔薇蝶々の群れ】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【黒薔薇に体の自由を奪われる呪いの鱗粉】で戦う。
SPD   :    コレガ「自由」ノ形
【機械に侵蝕された姿】に変身し、武器「【機械仕掛けの翅】」の威力増強と、【羽ばたき】によるレベル×5km/hの飛翔能力を得る。
WIZ   :    ドウゾオ静カニ
自身の装備武器を無数の【戦意と生命力を奪う黒薔薇】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。

イラスト:ろまやす

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠メリー・アールイーです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●黒薔薇の君
 青い瞳の少女達がすっかり居なくなって、沢山沢山咲かせたはずの黒薔薇も随分と少なくなってしまって。
 けれど、それでも。黒い少女はきゃらきゃらと笑っていた。
「凄イノネ、強イノネ、惚レ惚レシテシマウ!」
 あんなにも怯えていたプリンセスが、あんなにも凛々しく笑うなんて。
 素敵な彼女をもっともっと素敵にしてくれるなんて。
「優シサトイウノヨネ、知ッテイルワ、ソレッテトッテモ甘クテ美味シイノデショウ!」
 興奮したように話す度、少女の足元で蠢く黒薔薇が茨を伴って少女自身を侵食し、機械仕掛けの翼の歯車が、キリキリくるくると音を立てて回る。
 うぞうぞと地を這うように黒薔薇が広がろうとする。けれど、それは舞い散る白薔薇によって、すぐさま掻き消されていった。
 うっとりとしたように見上げる少女――黒薔薇の精霊エンデリカは、上空のプリンセスと地上の猟兵達とを繰り返し見比べて、最後にはぴたりと猟兵達へ視線を合わせる。
 邪魔者を排除しようというギラついた敵意とは違う、純粋な好奇心を湛えた、無垢に見える瞳がぐるりと見渡してくる。
「アノ子ガ欲シイ」
 二人だけのとびきりの幸せのために、あなた達はきっと手伝ってくれるのでしょう?
 無邪気に笑ったエンデリカは、プリンセスを狙うだろう。
 そして同時に、猟兵達を無視することなく、傷を負わせることを選ぶだろう。
 守ってくれる存在が傷つけられる苦痛はプリンセスを脅かし、けれどそれをまた、きっと猟兵達が救ってくれるはずだと期待を込めて。
 そうして、鉄を打つようにプリンセスがより強く美しく素敵になることを、楽しみにして。
 それでも、猟兵達のやるべきことは変わらない。
 プリンセスを守り抜き、エンデリカを討ち果たす。ただ、それだけなのだ。
ラフィ・シザー
アドリブ連携歓迎。
お姫様を助けるのは本当は王子様とか勇者がいいのかななんて思うけど。
それでも俺の出来るをやっていこう。

ハハッ、プリンセスってのはお前が思ってるよりもっともっと凄いんだぜ!
さぁ、プリンス。少しだけ手伝って?
あの黒薔薇を退けられるのはプリンセスしかいないんだ!

「あの子はお前にはあげない」

UC【Mad party】

殺意だなんて素敵なプリンセスの前では似合わないかもしれない。
でもプリンセスを危険に晒す敵に殺意を抱かないわけがないだろう?


杼糸・絡新婦
あの子はやらん、てか。
こっちに意識向いてくれたのは助かるけど、
お姫さんにも引き続き注意しとこか。

【挑発】でこちらに意識を向けつつ、
鋼糸での【フェイント】を入れた攻撃と
張り巡らせ【罠使い】向こうの行動妨害。
【見切り】によるタイミングを図り脱力して攻撃をうけとめる、
また姫さん含め他者への攻撃を
【かばう】形で受け止め流し、
オペラツィオン・マカブルを発動、
排し、返せサイギョウ。


コノハ・ライゼ
憧れってのは素敵なキモチよねぇ
だから奪う、ナンてのはナンセンスだけど

さあて、コレはほんの子供騙し
【彩儡】でプリンセスの姿に変身し敵の目誘い惑わそうかしら
戦場全体の動き見てあちらこちらへと
使えるモノは利用し跳んで空中戦もこなしましょ
プリンセスへ危害が及びそうなら
オーラ防御を範囲攻撃で広げて庇うわね
モチロン傷付けさせもしないケド
あんなに頑張ったコを少しだって怯えさせもしないわ

まあソレですぐバレたって、一瞬の隙ができりゃ十分
「氷泪」からマヒ攻撃乗せた紫電奔らせ、すぐさま2回攻撃でもう一撃
傷口抉り動き鈍らせ、ついでに生命も頂戴しておくわねぇ

欲しいなら、奪われる気持ちも味わっておくとイイんじゃなくて?




 あの子が欲しいと黒薔薇生やした少女が言う。
 それならばと、童が歌う遊び歌のように、杼糸・絡新婦は軽やかな調子で口ずさむ。
「あの子はやらん、てか」
 突っぱねたところで平和的に相談しましょとはならないのだろう。力づくで奪いに来るのを、力技で退けるしか無いのだ。
 いずれにせよ、敵の意識がプリンセス以外にも向いたのは、幸いだろう。黒薔薇の君――エンデリカが猟兵を無視してプリンセスを狙ったなら、先程の青い瞳の少女達ほど楽には止められまい。
 もっとも、プリンセスをもっと素敵にするために利用価値があるという程度の意識で、彼女の執着は未だプリンセスへと向けられているわけだが。
「憧れってのは素敵なキモチよねぇ」
 コノハ・ライゼの呟く声には、純粋な共感と同時に、少しばかりの呆れが混ざって聞こえた。
 お友達になりたいだとか、そんな可愛らしい気持ちならば微笑ましく背を押してやれたものだが、曲がりなりにもオウガという存在なのだろう。相応に、狂っている。
 憧れるから、欲しくて。だから、奪う。
 ナンセンスだと吐き捨てる言葉に、エンデリカは小首を傾げる。
 相変わらず無邪気で無垢に見える笑みを湛えるエンデリカとプリンセスとの間に立つ位置で身構えながら、ラフィ・シザーはゆっくりと息を吸い、吐き出した。
(お姫様を助けるのは本当は王子様とか勇者がいいのかななんて思うけど……)
 それは、似合いの振る舞いができる者に託せば良いこと。己は己のできることを。心に決めて、ラフィは不敵な笑みを浮かべ、声を上げて笑ってみせた。
「ハハッ、プリンセスってのはお前が思ってるよりもっともっと凄いんだぜ!」
「ソウ、コレカラソウナルノヨネ!」
 もっと素敵なプリンセスを手に入れられるのだときゃらきゃら嬉しそうに笑うエンデリカに、ラフィは嫌悪を表すように瞳を眇め、ふるりと頭を振って、にこりと明るい笑みを作り直す。
 プリンセスを見上げる顔は、笑顔でなければ!
「さぁ、プリンス。少しだけ手伝って? あの黒薔薇を退けられるのはプリンセスしかいないんだ!」
 一緒に戦おうと鼓舞する声に、プリンセスは力強く頷いて応えてくれる。
 それによって、エンデリカはますます嬉しそうに、楽しそうに、少女のような顔で微笑んでは、淑女のようにドレスの裾を持ち上げ、ふわりと広げた。
 その足元から伸びる茨は、黒薔薇を纏って伸び続け、プリンセスが舞わせる白薔薇がそれを消していく、延々と続く鼬ごっこ。
 その、白の花弁に、黒の花弁が、ふわりと交わる。
「ドウゾオ静カニ」
 そんなに怖い顔をしないで。お人形のように可愛らしく笑っていて?
 舞い踊る黒薔薇が、猟兵達の戦意を削ごうとひらりひらりと戯れてくる。触れれば己の生命力さえ奪い出すその花弁を鋏の一閃で払い除けながら、ラフィは睨み据えるようにしてエンデリカを見た。
「あの子はお前にはあげない」
 戦意なんて、端から無い。ラフィにあるのは、エンデリカを殺すという強い意志だけ。
 本当は、プリンセスの前でこんなどす黒い感情を顕にすべきではないのかもしれないけれど。
 そのプリンセスを危険に晒そうと言う存在に、殺意を抱かないわけなんて、無いのだ。
 ラフィの強い殺意に反応して、青い炎を纏った鋏が幾つも幾つも、彼の周囲に現れては、踊るように飛び交う。
「さぁ、パーティーの始まりだ! お前はどこまで逃げられる?」
 殺人鬼としての衝動を抱え込んだような鋏達が、黒薔薇の花弁を焼き払いながら切り裂いていく。
 けれど、まぁ、と楽しげに笑うエンデリカは、にこにことした表情のまま、じわり、自身の体を茨に侵食させはじめた。
「コノ子達モ混ゼテアゲテ」
 機械の翅がきりりと音を立てて響けば、黒薔薇を生やした蝶々の群れが召喚される。
 花びらに加えて、ラフィの鋏達を押さえつけようとするかのような物量が、爆ぜるように広がって――けれど、群れの影に見つけた姿に、瞳をパチクリとさせて、一瞬、止まる。
「コレはほんの子供騙し」
 人さし指立て、内緒事をささやくようにして。コノハはくすりと微笑んだ。
 けれど、その姿はコノハではない。優雅な振る舞いでドレスを翻すその姿は、空を飛ぶプリンセスと、同じ姿だった。
 正確には、エンデリカにはプリンセスの姿に見えているだけ。万物の彩りを取り込む影に覚醒したコノハが、プリンセスの容姿を写し込んだのだ。
 空を見て、地上を見て、小首を傾げるエンデリカは、けれどすぐさま、嬉しそうに笑う。
 二人居るなら、より多くを理解できるようになる。バラバラに分解した後は、好きなパーツを組み立て直して上げましょう。右も左もお揃いの手のひらなんて可愛いでしょう? くり抜いた目玉は2つよりも4つの方がきっと沢山の煌めきを見つけられる。心臓だって二つくっつければ、かんたんには死ななくなると思わない?
「ナンテ素敵ナコトデショウ!」
「……っとぉ、思ったより乗ってくるのネ」
 すぐに気づかれても構わないと思っていたが、欲張りな彼女はどちらの『プリンセス』にも手を伸ばしたがるようで。
 黒薔薇の蝶々が群れをなして襲いかかろうとするのをオーラで弾き、飛び退きながら、コノハはちらと上空を見る。
 プリンセスは蝶々の群れを交わしながらも、エンデリカの頭上を離れようとはしない。花弁が舞い、黒薔薇纏う蝶々が飛び交う様を見て、これも消せはすまいかと、旋回しながら白薔薇を降らせているのだ。
(あんなに頑張ってるコを少しだって怯えさせもしないわ)
 そのためにも自身が蝶々に群がられるなんて自体は避けねばならない。
 くるり素早く戦場を見渡したコノハは、ふと、その場に張り巡らされている煌めきの存在に気付いて、そちらへ向けて、跳んだ。
「飛んで火にいる、なぁんて言うけど――」
 コノハの飛び退った後を埋めるように、絡新婦の鋼糸が、ぴん、と張られる。刹那、追ってきた蝶々の一部が、蜘蛛の巣に絡め取られるようにして、切り刻まれた。
 蝶々の群れが削り取られ、晴れた視界。その目で捕らえたエンデリカへ、コノハは右目に刻まれたシルシから雷を迸らせる。
 突き刺さるは氷牙。二度付き立てて傷を抉れば、生命力を吸い上げて、エンデリカの瞳を再び瞬かせた。
「欲しいなら、奪われる気持ちも味わっておくとイイんじゃなくて?」
 むせ返る薔薇の香りに似た甘い命を味わうコノハに向けられる視線を妨げるように、絡新婦が鋼糸を閃かせる。
 幾つも重ねられたその糸は、エンデリカの周囲を囲うように巡らされていた。気がついたエンデリカが茨をそぅと伸ばしてくれば、容赦なく切り捨てて、絡新婦はくつりと喉を鳴らした。
「追いかけるだけなんて単純な頭で、プリンセスを理解出来ると思うてるん?」
 煽る言葉は、彼女の意識を地上に引き付けるために。あの機械仕掛けの翅を自由に羽ばたかせられては、恐らくはエンデリカの方が余程早く、飛べてしまうのだから。
 けれどエンデリカは、怒るでもなく、ましてや周囲の鋼糸を気にするでもなく、侵食させていた茨の上から機械に覆わせ、機械仕掛けの翅を蠢かせる。
 ぎりぎり、きりりと音を立てて回る歯車。ぎこちなく羽ばたくその動きとは裏腹に、エンデリカは行動を阻害するはずの糸を引きちぎり、絡新婦へと肉薄した。
「出来マスヨ。出来ルマデ、スルノダカラ」
 理解とは、そう言うものでしょう? にっこりと微笑んだエンデリカから伸びる無数の茨が絡新婦を飲み込み、そのまま握り潰す。
 ――そう見えた一瞬、プリンセスが息を呑んだ瞬間、彼女が悲痛に叫ぶより早く、その茨は弾き飛ばされた。
「排し、返せサイギョウ」
 身構えることもせず敢えて受け止めたその攻撃を、絡新婦のからくり人形が肩代わりし、吐き出したのだ。
 星を秘めた瞳をまぁるく見開いたエンデリカが、その勢いに押されるまま、後ろへ飛ぶ。
「だから、言うてるやんか。単純な頭やねぇ、て」
 傷を追うことなく茨を逃れ、くつり、絡新婦は再び煽るように、笑ってやった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

崎谷・奈緒
【三連星】の三人で。
蝶と花びらの範囲攻撃か。エンデリカに近づくにはまずこの攻撃をどうにかしないと。よーし、あたしとユエルが、炎と衝撃波で吹き飛ばそう!全部は無理かもしれないけど、エンデリカに近づく道はなんとか切り開く!
トオルさんがエンデリカの動きを邪魔してくれるから、抹茶子さん、きつい一撃をお見舞いしてやって!
抹茶子さんに敵の攻撃が集中すると思うけど、守るのはユエルに任せるよ。お願いね!プリンセスも狙ってるみたいだし、そっちがあたしが守ろう。この作戦、絶対に成功させるぞー!

さーて、今日はキミに頼りっぱなしだね、ユエル。
そうぶーたれないでよ、終わったらチキン12ピース入り、買ってあげるからさ!


筒石・トオル
【三連星】
奈緒さんが範囲攻撃に対処している間に接近。
対処し切れなかった蝶と花びらは熱線銃で撃ち落し、敵までの道を切り開く。
【援護射撃、スナイパー、先制攻撃、早業】で接近する抹茶子さんを含め、範囲攻撃に集中している奈緒さんが攻撃をくらう前に極力撃ち落とす。
「女の子に傷を付けさせるなんて、男失格だからね」
とは言え、強敵相手に無傷は難しいとも思う。それでもやれるだけやらなければ後悔するから。
敵の攻撃は【フェイント、第六感、見切り】で回避しながら接近。
奈緒さんの攻撃で蝶や花びらが消え、敵に隙が出来た瞬間にUC『ヒプノシスリストラクション』を発動。動きを止める。
「抹茶子さん、今だ!」


嬉乃・抹茶子
【三連星】
 倒すしかないのは解ってますが、エンデリカさんの執着の理由も気になりますね。
 憧れ、渇望、それとも孤独――? その瞳には何が写っているのでしょうか?

 奈緒さんの炎が敵の黒薔薇を燃やしてくれている間に、戦場を一直線に駆け抜けますよ~。
 もし機械仕掛けの翅で反撃されても、流れ落ちる血を炎に変換して気合いで我慢、我慢っ。
 接近出来たらルチャマスク師匠の力を一瞬お借りして、プロレスの大技フランケンシュタイナーを狙ってみます!

 でも、私の実力じゃ決定打にはならないかも――。
 敵がまだ動くようでしたらビビり全開で尻餅ついて二人に助けを求めます。

 アドリブ大歓迎。負傷、ピンチの描写もOKです!  




 花と、蝶が、飛び交っている。黒く、昏く、深い闇そのもののような黒薔薇達が、エンデリカの周囲を彩っている。
 その只中で微笑むエンデリカへ攻撃を仕掛けるならば、まずは周囲の花と蝶を退けねばなるまいか。
「よーし、あたしとユエルが、炎と衝撃波で吹き飛ばそう!」
 範囲攻撃には範囲攻撃。ぶつけて蹴散らすだけの力はあるさと、炎の鬣を持つ獅子ユエルと顔を見合わせた崎谷・奈緒は、お願いね、とユエルの強靭な体躯を撫でる。
 とは言え、ユエルも青い瞳の少女達を蹴散らすのに随分と働いたばかりだ。
 そうでなくとも、戦場には戦意を削ぐ花が舞っているのだ。ダブルアタックでユエルのテンションはだだ下がり。
 撫でる奈緒の手を押しやり、ぐるると喉を鳴らすのは少しの不満の主張で。そんなユエルのワガママな性格を理解しているからこそ、奈緒は肩を竦めて笑うのだ。
「そうぶーたれないでよ、終わったらチキン12ピース入り、買ってあげるからさ!」
 ご褒美はちゃんと奮発するつもりで居るのだ。だから、もう一戦。
「頼りにさせて、ユエル」
 真摯な眼差しを、じっと見つめ返して。四足で気持ちだけ奈緒の前に出ると、大きく息を吸う。
 吐き出すのは、火炎の渦を伴う咆哮。眼前の一帯を焼き尽くす勢いで放たれる炎は、此処一番の気合の現れ家のようで。
 ふぁ、と勢いに飲み込まれそうになりながらも、嬉乃・抹茶子は拳を握りしめ、筒石・トオルと顔を合わせる。
「トオルさん!」
「うん、行こう」
 焼け焦げた匂いに満たされる戦場を、切り開いてくれた道を、抹茶子とトオルは真っ直ぐに駆けていく。
 火炎の渦はひらりと避けたエンデリカは、そんな彼らをちらりと見て、ふわり、跳ねるような所作と共にドレスの裾を翻し、黒薔薇の花弁を一層華やかに舞い散らす。
 鮮やかな黒の向こうでエンデリカが微笑むのを見つめながら、それでも抹茶子は真っ直ぐに駆け抜け、彼女の道を拓くように、トオルが熱線銃を放っていった。
「一枚や二枚落としたところで、大したこと無いって感じだね」
 実際、その通りだろう。無数の花びらの一部を撃ち抜いたところで、燃えカスが幾らか散らばるだけ。
 けれど、範囲攻撃で散らしきれなかった分の、処理ならば。
「抹茶子さん、きつい一撃をお見舞いしてやって!」
 ユエルにばかり任せてもいられないと、奈緒がハーモニカを奏でて放つ衝撃波が、花弁を退けてくれるから。トオルはそれでもなお居座るものだけを狙って撃ち抜けば良い。
 そうして、視界が開ければ。エンデリカを見据えるだけの、空間ができたなら――。
「光よ我が願いを叶えたまえ。聖なる力、邪なる者を封じる力をここに」
 チカ、チカ、キラリ――。トオルの眼鏡から、点滅する光が放たれる。
 真っ直ぐに視線を合わせたエンデリカへ、その視界を奪い取るような光を浴びせてやれば、彼女は一瞬、その動きを止めるのだ。
「抹茶子さん、今だ!」
「ルチャマスク師匠、一瞬、力をお借りします!」
 抹茶子に取り憑くヒーローマスクに体を譲り、たんっ、と力強く地面を蹴った抹茶子は、高く飛び上がり、呆然として見えるエンデリカの首へと、自らの両足を絡めた。
 締め上げるほどの力なんてなくて良い。ただ、この華奢な少女を抑えることが出来ればそれで十分。
 跳んだ勢いのままエンデリカの後方へと身を捻り、落下に合わせて回転してやれば、エンデリカの体はふわりと浮き上がるようにして、後ろ向きに、頭から、地面へと叩きつけられる。
 プロレスの大技の一つ、フランケンシュタイナーと呼ばれる技を見事に決めた抹茶子だが、その身体は格闘技のプロではない。
 着地はがっつりお尻から、尻餅をついた彼女は、大技を決めたドキドキのまま顔を上げて。
 ――星を飼う瞳と、目が合った。
 にっこりと微笑んだエンデリカが、小首を傾げて、抹茶子を覗き込んでいる。
 倒すしか無いと分かっている相手だ。けれど抹茶子は、その胸中に何を抱えているのかが、少しだけ気になっていた。
 執着の理由を示すような何かが、その瞳には映っていないか、なんて。
 けれどそこにあったのは、どこまでも昏い闇だけ。無垢に、無邪気に、心からの幸福を願って破滅を望むエンデリカにあったのは、ひたすらに思い執着だけだった。
「あ……」
「綺麗ナ瞳ネ」
 やっぱり、と。抹茶子は顔を青褪めさせる。
 私の実力じゃ決定打にはならないかも――。
 抹茶子の嫌な予感は、当たっていた。
 ――いいや、彼女の実力そのものがエンデリカに完全に劣っているかと言えば、決してそんなことはない。ただ少し、タイミングが悪かった。
 例えば組み付く瞬間に、エンデリカの胸中を窺うように振る舞っていたならば。
 あるいは仲間を庇うように、敢えて敵の攻撃を受けていたならば。
 ジャスティス・ペインは抹茶子の身体能力を増大させ、掛けた技を、より強烈なものにしてくれていただろう。
「琥珀ミタイデ、トッテモ甘ソウ」
「ひぇ……と、トオルさん、奈緒さん、助け……」
 はらりはらりと舞う鱗粉に絡め取られたのだろうか。それとも単純に腰が抜けたのか。這いずるようにしか動けない抹茶子とエンデリカの間に、はらり、黒薔薇とも蝶々とも違う花弁が降りてくる。
「嗚呼、嗚呼、ヤッパリソウヤッテ、モットモット素敵ニナッテクレルノネ!」
 感極まったような声が見上げるのは、頭上のプリンセス。
 少しでも抹茶子の助けになるようにと散らされる白薔薇をうっとりと見つめるエンデリカの視線から逃れた隙に、トオルが彼女の傍へと駆け込んだ。
「トオルさん……!」
「大丈夫、下がれる?」
 女の子に傷を付けさせるなんて、男失格だ。そうでなくたって、大事な仲間に手を出させるなんてことを、させるわけがない。
 エンデリカに熱線銃を突きつけながらの言葉にこくこくと頷いて後ずさる抹茶子と、それを守るトオルに、見上げていた視線が向けられる。
「コノ子達ヲ壊セバ、傷ツイテ、悲シンデ、ソレデモ立チ直ッテクレルデショウ?」
「させるかあぁっ!」
 ユエル――! 鋭く発せられた奈緒の声に、獅子の咆哮が応える。
 迸る火炎から逃れるように大きく飛んだエンデリカは、残念そうに少女達を振り返った。
 狂い咲く黒薔薇の君は、その背に生やした機械仕掛けが、強烈に叩きつけられて砕けていることには、まだ、気がついていないようだった――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

リカルド・アヴリール
ライナス(f10398)と
アドリブ歓迎

お前を手伝うつもりじゃない
ましてや、プリンセスを渡すつもりは無い
早々に依頼を遂行し、ライナスと共に帰らせてもらう

ライナス、援護を頼む
機械には機械をぶつけてくれようと、前衛へ

『Moirai』を手に、UC:光
【クイックドロウ】【スナイパー】で敵の攻撃を撃ち落とす
ライナス、プリンセスへの攻撃は【かばう】事を最優先に
負傷に対しては【激痛耐性】で対処

……切っ掛けはそうだったかもしれない
だが、自分から望んで落ちた事は否定出来ないが?
それに……俺は、その事に対して後悔はしていない
お前はお前らしくいろ、ライナス

その方が、俺は――いや、何でもない……


ライナス・ブレイスフォード
リカルドf15138と

手の届く場へ引きずり落とし自分の物にしようとするエンデリカの姿に嘗ての己を思い出し思わず眉を寄せるも
リカルドの声を聴けば仕方ねえなと笑みを向け戦闘へ

戦闘時は【愛しき百足】にて敵の動きを止めFortunaにて『クイックドロウ』『制圧射撃』
リカルドと共に銃弾の雨を敵へと放たんと試みんぜ
俺の攻撃を庇おうとするリカルドは逆に盾祈を展開し『かば』い返すぜ
…あいつと同じく俺もあんたをここまで引きずり下した事、覚えてんだろ
んな相手庇ってんじゃねえっつの…って
…ほんと、あんたって甘えよな

相手の声音に思わずといった声を漏らし攻撃を銃弾で叩き落さんと試みながら笑みを一つ
最後まで言えよ、馬ぁ鹿




 砕かれ欠けた機械仕掛けの翅が、ぎしぎしと歪んだ音を立てる。その事にようやく気がついたというような顔をしたエンデリカを見据えながら、リカルド・アヴリールは隣の相棒へとほんのかすか、意識を向ける。
 どことなく苦い顔をしているように見えるのは、変わらずむせ返る薔薇の匂いのせいだろうか。
 それとも――。
 そんな、案じる相棒の視線を気取れぬ程度には、ライナス・ブレイスフォードは胸中に複雑なものを抱えていた。
 エンデリカの思いと行動はとてもわかり易い。欲しいから奪う。届かないから引きずり下ろす。
 そうして、自分の思う通りの所有物として扱うのだ。
 それはまるで、嘗ての自分のようではないかと。そう、ライナスは感じてしまっていた。
 だが、そんな思考を、リカルドの声が切り裂いてくれる。
「お前を手伝うつもりじゃない。ましてや、プリンセスを渡すつもりは無い」
 淡々とした声と共に身構えるリカルドは、もう一度、今度はしっかりとライナスを振り返る。
「早々に依頼を遂行し、ライナスと共に帰らせてもらう――ライナス、援護を頼む」
 機械には機械をぶつけてくれよう。そう言い切って前へと駆けていくリカルドの声が、目の前の敵とライナスとを明確に別のものだと教えてくれる。
 今の己が、共に戦う猟兵という存在であることを、知らしめてくれる。
「仕方ねえな」
 向ける笑みに安堵が紛れぬよう、意識して鋭利につり上げて見せて。足元に伸びる影に手のひらを翳した。
「俺さあ、虫好きなんだよな」
 ……んで。あんたはどうよ?
 問いかけるような言葉で呼び出したのは百足を模した、無数の影。
 それらが足元を這い進み、エンデリカへと絡みつくように纏わりついた。
「花ト虫ハ一蓮托生トイウモノデショウ?」
「そうかい、そんなら仲良くやってくれ」
 払い除けてくれるなよ、と軽口を叩きつけて、百足達が足止めをせんとする隙に、ライナスはその手にリボルバーを構える。
 援護を、と。願いながらも、リカルドもまた、その手に銃を握り、エンデリカと相対する。
 ライナスと同じタイプのリボルバーは、彼のものとよく似て、その銃身には女神の姿が彫刻されている美しい代物。
 運命を司る女神達の微笑みは、所持する者に祝福を与えるようで、試練を与えるようで。
 つくづく、運命とは己の手で切り開くべきものなのだと実感したものだ。
 ――させられたと言う方が、正しいかもしれないが。
「借り物だが、撃つくらいならば」
 手には未だ馴染まない。それでも狙いすます斜線にブレもないままに、リカルドは素早く、それこそ花びらがひらりと舞うより早く、それを撃ち抜いていく。
 響く銃声は一つや二つにとどまらない。リカルドとライナス、二人がそれぞれに立ち回りながら放つ早撃ちは、エンデリカを翻弄しながら、その身に幾つもの穴を開けていく。
 けれどエンデリカだっていつまでもそうしてはいない。上手に回ってくれない歯車の代わりに自身を侵食する新たな機械達に身を任せ、百足を幾つかくっつけたまま、黒薔薇の花弁が散る中を突っ切るようにして、飛ぶ。
 銃弾が歯車を幾つ弾き飛ばそうがお構いなし。目眩ましに如何とばかりに大きく腕を振って黒薔薇の花弁をばら撒いたエンデリカの姿が一瞬途切れた刹那、ライナスは自身の前にリカルドが立つのを見た。
「――は」
 短く零れたのは笑う声。いつもいつもそうやってあんたは。なんて悪態を込めた一笑と共に、ライナスの手から放たれた機械仕掛けの盾がリカルドの前に広がる。
 その盾に勢いよく突っ込み、弾き飛ばさんとしたエンデリカだが、とっさに盾を手にしたリカルドが逆にエンデリカを押し返し。金属同士が激しくぶつかり合う甲高い音が、響いただけ。
 その音の中に、ライナスの溜息がかすかに響いた。
「……あいつと同じく俺もあんたをここまで引きずり下した事、覚えてんだろ。んな相手庇ってんじゃねえっつの」
 己は機械だと言いながら、人の好さは残したままで。
 義務のように傷を負い、血を流しているリカルドという男。
 彼をそうしたのは己なのだろうという自覚は、罪悪感にもにていると、たまに思う。
 今日は特にそうだ。きっと、エンデリカという存在が、それを際立たせてくるせいで。
「……切っ掛けはそうだったかもしれない。だが、自分から望んで落ちた事は否定出来ないが?」
 広げられた盾をライナスへと押し付けるようにして返し、リカルドはそのまま視線をそむける。
 背を向け、庇う位置を改めないまま、それに、と続けるのだ。
「俺は、その事に対して後悔はしていない。お前はお前らしくいろ、ライナス」
「……ほんと、あんたって甘えよな」
 つくづく、そう思う。息苦しさを感じるような毒気を、すぅ、と抜いてしまう程度には。
 そんなライナスを振り返らずとも、気配で悟ったのだろう。リカルドもまた、ほんの僅か表情を緩める。
「その方が、俺は――いや、何でもない……」
 ごまかして、数歩分前へ。
 その背をわずかの間だけ見送って、くつり、ライナスは喉を鳴らした。
「……最後まで言えよ、馬ぁ鹿」
 聞く気も、伝える気もない悪態は、響く銃声に紛れて、消えて――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

マリアドール・シュシュ
ティル◆f07995
アドリブ◎

…あなたは、可哀想な方
幸せの形はそれぞれ
何を楽しいと思うのも
マリアは冥水晶と出逢った事で色んな感情も再び思い出せるようになったわ
けれどあなたの事は分からないのよ
それを素敵と、美しいと言う気持ちが
本当に幸せなのかしら
傷つけた先の輝きは本物?
ティルはどう思う?

ティルの言葉を聞き頷く

ええ、心が痛くなるわ
とっても

大丈夫
マリアはプリンセスを護ると約束したもの(自分のケープ羽織らせ

甘やかな幸の音色を軽やかに奏で誘き寄せ
黒薔薇を受け劣勢になり油断させた所UC使用
一章でも使った旋律で反撃

マリアはこれからも心から楽しんで笑うプリンセスが見たいの
あなたに終焉を

手向けにティルと共に謳う


ティル・レーヴェ
マリアドール殿(f03102)と


信ずる者と難を乗り越える
あゝ確かに
今この経験は彼女を更にと
輝かせる縁となるのやも知れぬ
その煌めきは尊い

されど其れを理由に
他者を傷つける行為が許されよう筈も無い
思惑通り容易う傷つくとも思うなかれ

この身傷つく事は怖くない
されど
大切な者が傷つく辛さを
胸の痛みを知っているから
其れを味合わせたくないとも願うから
共にと駆ける彼女の策に乗り乍ら
姫には心配なき様合図を送る

其方が妾達を案じてくれるなら
其方を悲しませる事はせぬから
どうか信じてその花を咲かせて

纏う衣で癒しを施し
集う力で増えた手数で魔力を幾重も編んで
彼女の旋律に合わせ歌に乗す

其れは
白薔薇への鼓舞の歌
黒薔薇へ捧ぐ鎮魂歌




 ヒトはヒトが傷つくことを厭うのだと知っている。
 そしてそれを防ぐため、ヒトは心を震わせ、強く、気丈に、美しくなるのだとも知っている。
 だから、そうしているのだ。素敵なプリンセスがもっと素敵になるように。
 それの何がおかしいのだろうと言うような顔をしているエンデリカに、マリアドール・シュシュは眉を寄せ、悲しげに瞳を細めた。
「……あなたは、可哀想な方」
 幸せの形というものは、人それぞれだ。それは否定しない。何に心を動かされ、快く思い、楽しいと感じるのか。それもまた、それぞれだけに感じられるものもあるだろう。
 マリアドールがそんなふうに思えるようになったのは、冥水晶と出逢ったが故だろう。それによって、色んな感情を再び思い起こせるようになったのだから。
 思い起こすと同時に、様々を知ることができるようにもなった。
 けれど、マリアドールにはエンデリカの思いがわからない。
「それを素敵と、美しいと言う気持ちが、本当に幸せなのかしら」
 誰かを傷つけることで、それを見せつけることで本当に輝きが得られるというのだろうか。
 ヒトは、それを絶望というのではないだろうか。
「ティルはどう思う?」
 はらりと涙の零れそうな瞳に見つめられて、ティル・レーヴェは一度瞳を伏す。
 この国のプリンセスは、一人孤独に戦い、それを猟兵に支えられ、信ずるに値する存在だと強く感じたその人達をも護りたくて、己の出来る全てをかけて戦っている。
 あゝ確かに――。
「今この経験は彼女を更にと輝かせる縁となるのやも知れぬ」
 その煌めきは尊いものだろう。かけがえのない宝となるだろう。
 けれどそれは、信じたものが皆無事で、共に勝利を喜び合えたときにこそ一番に輝くもの。
 決して、立ち向かった存在の手中に落ち、弄ばれる結末に添えられるものではない。
「まして其れを理由に、他者を傷つける行為が許されよう筈も無い」
 ティルは開いた瞳で、一度マリアドールを優しく見つめた。思うところは同じだろうと告げるように。
 そうしてから、強い眼差しでエンデリカを見据える。
「思惑通り容易う傷つくとも思うなかれ」
 はっきりとした拒絶を示す言葉に、マリアドールも力強く頷き、ふわりと振り向きざまに、エンデリカを見据えた。
 その瞳はもう同情じみた色を宿してはおらず。そこにあるのは、決別だけ。
「ティル、あの黒薔薇を……」
「分かっておるよ。この身傷つく事は怖くない」
 囁くような声で交わす言葉は覚悟の共有。マリアドールはエンデリカに優位と油断を与えるために、彼女の黒薔薇にその身を差し出すことを選んだ。
 ティルも承知の上で、彼女を支える術を選んだ。
 けれどそれは、彼女達だけの暗黙。見守る立場にいるプリンセスにとっては、心を裂かれる心地だろう。
「大切な者が傷つくのは辛いが」
「ええ、心が痛くなるわ。とっても」
 眉根を下げて微笑みあった二人は、この痛みを、辛さを、出来得る限り味わってほしくはないと、プリンセスを見上げた。
「其方が妾達を案じてくれるなら、其方を悲しませる事はせぬから。どうか信じてその花を咲かせて」
 視線の合った彼女は、二人に咲く晴れやかな笑顔に、抱く不安を押し込めて、信じているわと唇だけで信を託す。
「大丈夫。マリアはプリンセスを護ると約束したもの」
 その約束を、果たすだけ。マリアドールは竪琴を爪弾き、甘やかな幸せの音色を奏で上げる。
 貴方の欲しいものはここにあるのよ誘うような旋律は、殺意もなければ敵意もなくて。それでもそんなマリアドールを庇うようにティルが立てば、意味のある歌となる。
 ふわり、二人を包むように展開された黒薔薇が、少女達から戦意を削いで、生命力を奪っていく。
 命の蜜を味わいながら、エンデリカはにっこりと笑んで、プリンセスを見上げる。
 どんな顔をして見ているのだろう。どれほど心を痛めているのだろう。
 少女達が膝を折れば、抱え起こしに降りてくるだろうか。それとも少女達自身がそれを拒んで立ち上がって見せてくれるだろうか。
 どちらにしたって、より一層煌めきが生まれることは間違いなくて。
 素敵なことだと、うっとりとしたエンデリカ。
 その驕りによく似た感情を見据えて、マリアドールはその手に絢爛な宝石のベルを呼び寄せた。
「例え記憶の欠片が散り往くも星はいつまでも空の上で瞬いているもの──」
 さぁ、マリアに見せて頂戴? ベルの音色と共に奏でられた音価を!
 ベルが鳴り響く。同時に、ベルは自身のそれとは異なる旋律を吐き出した。
 その音は、マリアドールが奏でるハープの音色を再現したもの。青い瞳の少女達へと掻き鳴らした、怪しく惑わす旋律の弾。
 そうして、指先から痺れる感覚に、きょとんと瞳を瞬かせたエンデリカが見たものは、聖光と花々で包まれた、どこか神秘的な少女の姿。
「妾が皆の夜明けとなろう――」
 聖衣に身を包み、光と花を振りまくように力強く羽ばたいたティルがプリンセスの傍に寄り添った頃には、彼女のもたらす癒やしの力が、エンデリカの黒薔薇が与えた傷をすっかり癒やしていた。
 大丈夫だと言ったでしょう。そう微笑みかける少女達の笑顔に安堵の笑みを湛えたプリンセスのキラキラとした表情に、エンデリカの眼差しが奪われる。
「素敵な顔でしょう?」
「エエ、トッテモ」
「マリアはこれからも心から楽しんで笑うプリンセスが見たいの」
 だから、あなたに終焉を――。
 手向けの旋律を紡ぎあげるマリアドールに合わせて、ティルは戦場に集う猟兵達とプリンセス、皆の力で増幅された手数で、丁寧に魔力を編み上げ、歌に乗せる。
 其れは、白薔薇への鼓舞の歌。
 そして同時に、黒薔薇へ捧ぐ鎮魂歌。
 重なり合った旋律は、どこまでも、どこまでも、黒薔薇に纏われ眠る者達へだって、優しく響き渡るのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

セリオス・アリス
【双星】
アドリブ◎

やることが悪趣味過ぎだろ
…どこぞの吸血鬼を思い出し吐き気がする
そんなヤツに負けるわけにはいかない
いや、負けるわけがねぇ―そうだろ
なぁアレス!
歌で身体強化
剣に炎を
靴に風属性の魔力を
旋風を足元で炸裂させ一気に加速
本格的に枯らすのはできずとも
一時的でも焼ききる程度はできんだろ

体の自由が奪われれば
色々思い出すもので焦る気持ちも…そりゃあるが
今は、アレスがいる
余裕と信頼の笑みを浮かべ
守ってるものがお姫様だからかね
今日のアレスは一段と騎士様って感じじゃねぇか
軽口を叩き
返しにコレだからアレスはと文句を言いながら
自由な体で力をためて
全力の【蒼ノ星鳥】
黒薔薇を、その先のエンデリカを焼き付くす!


アレクシス・ミラ
【双星】
アドリブ◎

…悪趣味というのは同意だ
どれだけ欲しがっても貴様の思惑通りにはさせない
ああ、君となら負けはしないさ。セリオス!
駆けるセリオスを援護し
一時的でもプリンセスに黒薔薇が向かわないように
浄化を込めた光属性の範囲攻撃を降らせよう

ッさせるものか!
セリオスの手を引き僕の後ろへ
【理想の騎士】で呪いの鱗粉を斬り払い
大丈夫、と伝えるように
そのまま彼を縛る呪いを解こう
僕がいる限り、君の自由は奪わせない
盾から展開したオーラ…『閃壁』に呪詛耐性の力を込めて
蝶々の群れを受け止める
…そのお姫様に、君を含めても構わないということかな。青星のお姫様
軽口には軽口を返し
彼の炎を貫かせる為…群れを全力で押し返そう!




 響き渡る歌声が、ひどく不愉快な気分だったセリオス・アリスの胸中を宥めてくれる。
 エンデリカの執着とそれに伴う残酷さは、セリオスにとっては忌まわしき存在を思い起こすに足るもので。
「やることが悪趣味過ぎだろ」
 ぽつり、小さく呟いた声に、アレクシス・ミラが寄り添う。
「……悪趣味というのは同意だ」
 大切な友人を閉じ込め続けた『どこぞの吸血鬼』とやらのことはアレクシスの記憶にもあるし、思い起こせば怒りすら湧くものだが、今はただ、セリオスが震えてしまわぬように。
 肩に触れて、ほんの少しだけ引き寄せるように力を込めたアレクシスに、セリオスは込み上げていた気持ち悪さがゆっくりと落ち着くのを感じる。
 とん、と手のひらに指先を重ねて応え、吐き気を抑えた口元に浮かべるのは、不敵な笑み。
「そんなヤツに負けるわけにはいかない。いや、負けるわけがねぇ――そうだろ、なぁアレス!」
「ああ、君となら負けはしないさ。セリオス!」
 呼び合う声が交わされれば、共に駆け出す合図となる。
 剣に炎を宿したセリオスが、ぐっ、と深く身を屈め、力強く地を蹴った。
 その瞬間、足元ではぜた風属性の魔法が、セリオスの両足に軽やかな旋風を宿し、一息に加速させる。
 呆けたような顔で佇むエンデリカが迫る熱にはたと気付き、ふぅわりと飛び退けば、立ち退いた足元に這う黒薔薇を炎の剣が焼き切った。
「本格的に枯らすのはできずとも、一時的でも焼ききる程度はできんだろ」
 この黒薔薇を完全に消し去る役目はプリンセスが担っている。
 そう、エンデリカの大好きなプリンセスが。
「狙わせないよ」
 掲げた剣に光を宿し、アレクシスは雨のように浄化を込めた光を降らせる。
 ひらりと舞い踊る黒薔薇蝶々達が、ほんのひと時でもプリンセスに侍るのを妨げるように。
 まばゆい光で目を眩ませ、貫く光弾で蹴散らして。駆けるセリオスをも援護する。
 光の支援を受けながら、セリオスは繰り返し剣を振るい、エンデリカの髪を、ドレスを、茨を焦がしていった。
 セリオスの刃を躱そうと跳ぶ度に、背に負った機械仕掛けの翅から歯車が零れ、金属が剥がれていく。
 それに気がついたエンデリカは、零れ落ちてきた歯車の一つを両手で受け止め、抱きとめるようにしながら、柔らかな微笑で、セリオスを見つめた。
「咲キ誇リナサイ」
 自らのほぼ全てを、茨に飲み込ませて。多大な代償と引き換えに、強力な黒薔薇蝶々の群れを呼び寄せる。
 それらは花の芳香と共に呪いの鱗粉を振りまいて、接敵したセリオスの自由を奪った。
「ッ――!」
 まるで、茨に絡め取られ、飾り立てられるかのような感覚。
 それは幾つか蓋をしてきた記憶と感覚を呼び起こすかのようで、焦りが、心の自由をも奪ってしまいそうになる。
 だが――。
「ッさせるものか!」
 蝶々の群れに飲まれかけたセリオスの手を取り、アレクシスの後ろ、庇い守る位置へと彼の腕が運んでくれた。
(そうだ、今は……)
 今は、アレクシスが居る。どんな時だって、アレクシスの手はセリオスを捕まえて、救い出してくれる。
 そのことが、セリオスの心を開放してくれるのだ。
「――こんな世界でも光が、救いがあるってこと。教えてくれ、アレス」
 教えてもらったのは、こちらの方だ。
 そう言わんばかりに笑みを湛え、託すように両手を広げるのを見届けて、アレクシスは手にした騎士剣で、セリオスを斬り裂いた。
 ――否。彼が斬ったのは、セリオスを害し、その自由を奪った呪いの鱗粉だけ。
 セリオスの信頼に応え、彼の害になるものを排除するために振るうその剣が、彼を傷つけるはずなどなかった。
「僕がいる限り、君の自由は奪わせない」
 誰にも、二度と。
 強い信念と共に盾より展開されるオーラ『閃壁』に呪詛耐性の力を込めてエンデリカと蝶の群れの前に立ちはだかったアレクシスの背に、そっと触れて。
 くるりと背を合わせたセリオスは、彼の背を狙う蝶々が現れぬようにと警戒しながら、軽い調子で紡ぐ。
「守ってるものがお姫様だからかね。今日のアレスは一段と騎士様って感じじゃねぇか」
 その軽口が、少しも震えていないことを聞き止めて。セリオスの呪縛が解かれていることに安堵しながら、アレクシスはふと表情を緩めた。
「……そのお姫様に、君を含めても構わないということかな。青星のお姫様」
 軽口には軽口を。
 信頼には、信頼を。
 交わし合いながら共に戦ってきたことを、セリオスだって、よく理解していたけれど。
「……コレだからアレスは」
 零れたのは、照れ隠しの悪態。肘で背を小突き、くるりと身を翻したセリオスに合わせて、アレクシスは盾を構えたまま、突進する。
 蝶々を蹴散らし、呪詛を弾く盾が切り裂く道に続き、セリオスは再びその刀身に炎を宿す。
「セリオス!」
「これで終わりだ!」
 ――焼き焦がせ、蒼焔の星!
 黒薔薇を纏った蝶々の群れを蹴散らした向こう側で、黒薔薇に飲み込まれた少女が、瞳を瞬かせる。
 その身に放たれる斬撃は、星の尾を引く鳥型の炎の闘気を伴って、黒薔薇を悉く、刈り取った。
 炎の鳥が、辺りに火の粉を飛び散らせ、赤々とした火の海を作り出すその上に、はらり、白薔薇が舞い落ちる。
 その白は、炎に巻かれることなく黒薔薇に――その燃え滓にたどり着くと、ふわり、音もなく消し去って。
 己の役目を全うしたプリンセスは、ようやく降り立った地上できちんと姿勢を正し、猟兵達へと深く深く、礼をした。
「沢山の方々にご尽力いただき、この国は救われました。本当に、ありがとうございました」
 その声は少しだけ震えていて、その瞳は少しだけ、赤くなっていたけれど。
 プリンセスの顔をして猟兵達を見つめた彼女は、どうかご内密にと眉を下げてはにかむのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2020年11月17日
宿敵 『エンデリカ』 を撃破!


挿絵イラスト